【2385】 ○ 石井 輝男 (原作:伊藤 一) 「網走番外地 〈シリーズ第1作〉 (1965/04 東映) ★★★★

「●あ行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3225】 石川 慶 「ある男
「●高倉 健 出演作品」の インデックッスへ 「●嵐 寛寿郎 出演作品」の インデックッスへ 「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ「●田中 邦衛 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

予算カットで白黒映画になったことで、却ってシリーズの中で際立っている。

網走番外地dvd.jpg 網走番外地 南原宏治 高倉健4.jpg 網走番外地 南原宏治 高倉健6.jpg
網走番外地 [DVD]」 南原宏治/高倉健

網走番外地g_1.jpg網走番外地 title.jpg 冬の網走駅で汽車を降ろされた男たちが、トラックに乗せられ網走刑務所へ護送される。受刑者の橘真一(高倉健)もその一人だった。入所後、雑居房に入網走番外地s.jpgれられた橘は、殺人鬼"鬼寅"の義兄弟と称して幅を利かせていた牢名主の依田(安部徹)や同じ新入りの権田(南原宏治)と衝突、喧嘩の責任をとって懲罰房に送られる。一人になった橘は、幼かった自分と妹を飢えさせないために母(風見章子)が不幸な再婚をしたこと、養父の横暴に耐え切れず母と妹(宗方奈美)を残して家を出たことを回想する。都会へ網走番外地acb.jpg出てやくざとなった彼は、渡世の義理で人を斬り3年の刑期を宣告され網走刑務所に送られたのだった。入所から半年が過ぎ、真面目に労役に汗を流す橘を囚人たちは点数稼網走番外地 丹波哲郎.pngぎとして冷ややかに見る。仲間への意地から騒動を起こし再び懲罰房へ行かされる橘に対し、保護司の妻木(丹波哲郎)だけは親身になって相談に乗る。故郷の妹からの手紙によると、母が死の床にあり早く戻ってほしいという内容網走番外地Q.jpgであり、同情した妻木は仮釈放の手続きを約束してくれる。一方、雑居房では依田、権田らが脱走計画を練っており、密告すれば渡世の仁義を踏みにじるイヌとされ、巻き込まれると仮釈放が消える橘は苦悩する。この脱走を直前になって失敗させたのは同じ雑居房にいた阿久田老人(嵐寛網走番外地  .jpg寿郎)であり、彼の正体こそ"鬼寅"であり、鬼寅は橘の苦境を見抜いて彼を救ったのだった。翌日、森林伐採の労役でトラックに乗せられた依田らは無蓋の荷台から飛び降りる。権田と手錠でつながれた橘も彼と一緒に飛び出して脱獄囚とされてしまう。報告を聞いた妻木は、やっともらった橘の仮釈放認可の書類を破り捨て二人を追う―。

石井輝男.jpg網走番外地_04.jpg 石井輝男(1924-2005/享年81)監督による作品で、'65年公開当初は小沢茂弘監督の任侠映画「関東流れ者」(鶴田浩二主演)の添え物映画という位置づけであり、映画業界でカラーフィルムによる「総天然色」が主流になりつつあった時代に、「主役が脱獄囚であり、ヒロインにあたる女優が登場せず、ラブロマンスもないため興収を見込めない(だから当たりそうもない)」という理由で、石井輝男監督らが北海道のロケハンより戻ってきた際に「予算はカット、添え物の白黒映画にする」と会社(東映)から言われたそうです。何とかカラーで撮らせてくれと執拗に迫った高倉健に対し、大川博社長(東映の事実上の創業者)は「文句があるなら主役を梅宮辰夫に変えるぞ」と言ったそうです。しかしながら映画はヒットし、高倉健は一躍スターダムへ。石井輝男=高倉健のコンビで、以下、シリーズ第10作まで作られました。

 主人公が長崎出身であるということもあり、シリーズの中で舞台を南国に移したりしていますが、さすがにシリーズ最後の方は勢いが落ちてきたでしょうか(石井輝男監督自身、シリーズの性格上観客のニーズにワンパターンで応えるような映画作りに飽きがきていたと言われる)。第4作「北海篇」や第7作「大雪原の対決」のように時に舞台を北海道に戻して原点回帰を図っていますが、質的にはやはり第1作を超えるまでには至らなかったのではないでしょうか。それでも、東映映画上映館の館主会からの強い要望により、監督を変えて「新網走番外地」シリーズ('68~'72年)8本が、同じく高倉健主演で作られています。

網走番外地 南原宏治 高倉健2s.jpg この第1作は、(高倉健はカラー映画を望んだわけだが望みが聞き入れられず)白黒映画になったことで、雪中シーンが多いことやシンプルなアクションシーンなどとの相乗効果で、却ってシリーズの中で際立つことになったように思網走番外地 南原宏治.pngいます(シリーズ第2作以降は全作品カラー)。また、第2作以降に出てくる(「男はつらいよ」シリーズのような)マドンナ的な女性がこの第1作では登場せず、「母子物」的要素と「義侠心」に近い男の'友情'が前面に押し出されています(「母子物」的要素は第5作「網走番外地 南国の対決」にもあるが、それは子供が当事者であって、一方、第1作は大人としての主人公が当事者である)。

網走番外地  高倉健.jpg網走番外地 高倉健.png ロケは大変だったろうなあと思わせる作品でした(特に高倉健と南原宏治)。大雪原の脱走、トロッコによる追跡劇、列車による手錠切断から大団円までを演じた高倉健網走番外地 安部徹.jpgは、まだこの頃みずみずしさがあって良く、若くして存在感がある一方で(このシリーズでの特徴だが)ちょっと剽軽一面も見せます(高倉健の実際の性格にも近いとも言われる)。南原宏治やいかつい顔の安部徹(若手時代は二枚目俳優だった)も悪くないですが、嵐寛寿郎演じる"八人殺しの鬼寅"の役回りも極めて良く、嵐寛寿郎は南原宏治、安部徹らを凌駕するどころか、準主役の丹波哲郎や主役の高倉健より良かったという人もいます。どういうわけか獄中59年、残り刑期が21年あったはずの"鬼寅"網走番外地 嵐寛寿郎.jpg網走番外地  嵐寛寿郎.pngが、以降のシリーズ作でも設定を変え、キャラクターのみ"鬼寅"のそれを継承して毎回出てきますが、やっぱりこの第1作の"鬼寅"が一番印象に残ります。
   
 網走刑務所から囚人が脱獄を企てる話を映画化することを最初に思いついたのはかつて東映の専属だった三國連太郎で、大島渚を監督に推したそうですが、東映上層部が大島渚の「天草四郎時貞」('62年/東映)の興業的失敗から忌避反応を示して頓挫、三國連太郎の原案も使えなくなったところへ、伊藤一の『網走番外地』という小説が見出され、これは傷害事件を起こし服役するやくざ者と医者の家の令嬢との道ならぬ純愛物語で、日活が既にそれをタイトルも中身も忠実に小高雄二、浅丘ルリ子主演で「網走番外地」('59年)として映画化していて、従って形としては本作はリメイク作品となりますが、石井輝男監督網走番外地 浅丘.jpg手錠のままの脱獄ド.jpgは、スタンリー・クレイマー監督、トニー・カーチス,シドニー・ポワチエ主演の「手錠のままの脱獄』('58年/米)を換骨奪胎した脚本を書き、女っ気の無い、男だけの脱獄映画、雪上アクション映画となったという経緯があります(こうなると伊藤一の小説は殆ど'原作'とは言えないのでは)。
「網走番外地」('59年/日活)   「手錠のままの脱獄」('58年/米)

網走番外地vhs.jpg 脱獄する気も無かったのに脱獄犯として追われるという不条理な状況に置かれた高倉健演じる主人公の橘が、最後の最後に嫌疑が晴れてスッキリというこのパターンは、映画会社が違っても高倉健が主演の「君よ憤怒の河を渉れ」('76年/松竹)などに引き継がれており、また、「幸福の黄色いハンカチ」('77年/松竹)なども、高倉健に「網走帰り」という役柄イメージが染み渡っているからこそ成り立っている部分が大きい作品であるという気が改めてします。

 それにしても、この頃の高倉健は年にいくつもの作品に出演していて、'65年には10本の作品に出ています。しかもその中に、「飢餓海峡」「網走番外地」「昭和残侠伝(シリーズ第1作)」が含まれているというのは、今思えばスゴイことです。

網走番外地 1965N.jpg「網走番外地」●制作年:1965年●監督・脚本:石井輝男●企画:大賀義文●撮影:山沢義一●音楽:八木正生●原作:伊藤一「網走番外地」●時間:92分●出演:高倉健/丹波哲郎/南原宏治/安部徹/嵐寛寿郎/田中邦網走番外地 丹波哲郎2.png衛/沢彰謙/風見章子/杉義一/潮健児/滝島孝二/三重街恒二/ジョージ吉村/佐藤晟也/関山耕司/菅沼正/北山達也/志摩栄/宗方奈美/河合絃司/小塚十紀雄/山之内修/日尾孝司/久保一/相馬剛三/久地明/沢田実/水城一狼/久保比佐志/山田甲一/沢田浩二/秋山敏/植田灯孝/最上逸馬/勝間典子/佐藤公明/石川えり子●公開:1965/04●配給:東映(評価:★★★★)

●「網走番外地」シリーズ(石井監督作品・全10作)一覧
1. 網走番外地 (1965年4月)
2. 続 網走番外地 (1965年7月)(1965年度興行収入ベスト10 : 6位)
3. 網走番外地 望郷篇 (1965年10月)(1965年度興行収入ベスト10 : 4位)
4. 網走番外地 北海篇 (1965年12月)(1965年度興行収入ベスト10 : 2位)
5. 網走番外地 荒野の対決 (1966年4月)(1966年度興行収入ベスト10 : 9位)
6. 網走番外地 南国の対決 (1966年8月)(1966年度興行収入ベスト10 : 3位)
7. 網走番外地 大雪原の対決 (1966年12月)(1966年度興行収入ベスト10 : 1位)
8. 網走番外地 決斗零下30度 (1967年4月)
9. 網走番外地 悪への挑戦 (1967年8月)
10.網走番外地 吹雪の斗争 (1967年12月)(高倉健と菅原文太が初共演)

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2016年3月 7日 23:32.

【2384】 ○ 杉江 敏男 (原作:松本清張/脚本:石井輝男) 「黒い画集 ある遭難」 (1961/06 東宝) ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【2386】 ○ 市川 崑 「黒い十人の女」 (1961/05 大映) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1