【1240】 ○ 関川 夏央 『新潮文庫 20世紀の100冊 (2009/04 新潮新書) ★★★☆

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 本を選んだのは新潮社。さらっと読める分物足りなさもありるが、個人的には楽しめた。

I『新潮文庫 20世紀の100冊』.jpg新潮文庫 20世紀の100冊.jpg 新潮文庫 20世紀の100冊 2.jpg
新潮文庫20世紀の100冊 (新潮新書)』 ['09年]

新潮文庫 20世紀の100冊     .jpg 新潮社が2000年に、20世紀を代表する作品を各年1冊ずつ合計100冊選んだキャンペーンで、著者がそれに「解説」をしたものとのことですが、著者の前書きによれば、「100冊の選択におおむね異論はなかった。しかし素直にはうなずきにくいものもないではなかったし、読むにあたって苦労した作品もあった」とのこと。

 1冊1冊の著者による解説は実質10行足らずであるため、さらっと読める分物足りなさを感じる面もありますが、全体としてはよく吟味された文章と言えるのではないかと思われ、十分に(そこそこに?)楽しめました。

 個人的には、三島由紀夫の『春の雪』(1970年)の「人生のすべてをパンクチュアルに生きた人が、最後に破った約束」などは、内容に呼応した見出しのつけ方が旨いなあと。

 但し、前半・中盤・後半に分けるならば、とりわけ、前半部分の20世紀初頭の近代文学作品の解説が、作品の書かれた背景や他の同時代の作家との相関において、その作品の歴史的位置付けを象徴するような要素をピンポイントで拾っていて、文学史の潮流を俯瞰でき、作家の個人史に纏わる薀蓄などもあって、より楽しめました(著者の得意な時代ジャンルということもあるのか)。

 また、著者自身、これら100冊を「鑑賞」しようとはせず、むしろ「歴史」を読み取ろうとしたと述べているように、こうして様々な作風の作家の作品を暦年で並べて時代背景と照らしながら見ていくことには、それなりの意義があるように思えました(時折、海外の作品が入るのも悪くない)。

 でも最後の方(特に最後の10年ぐらい)になると、例えば「1993年は『とかげ』(吉本ばなな)の年、そういうことにしよう」とあるように、ちょっと評し切れないと言うか(選んだのは著者ではなく新潮社、2000年1月から毎月10冊ずつこの100冊を刊行する上での商業的思惑もあった?)、「歴史」に"定位"するスタイルでは論じ切れなくなっている感じもし、著者のこの作業が2000年に行われたことを考えれば、その点は無理もないことかも。

 「100冊」と言うより「100人」とみて読んだ方がすんなり受け容れられる面もあるかと思われますが、亡くなって年月を経た作家は、彼(彼女)の生き方はこうだった、みたいに言い切れるけれど、生きている作家については、そうした言い切りがしくいというのもあるしなあ。

企画タイアップカバー例
新潮文庫 20世紀の100冊 miadregami.jpg 1927年 河童 芥川龍之介.jpg 1931年 夜間飛行 サン=テグジュペリ.jpg 新潮文庫 20世紀の100冊 tennyawannay.jpg 新潮文庫 異邦人.jpg

《読書MEMO》
●取り上げている本
1901年 みだれ髪 与謝野晶子
1902年 クオーレ エドモンド・デ・アミーチス
ヴェ二スに死す 文庫新潮.jpg1903年 トニオ・クレーゲル トーマス・マン
1904年 桜の園 アントン・チェーホフ
1905年 吾輩は猫である 夏目漱石
1906年 車輪の下 ヘルマン・ヘッセ
1907年 婦系図 泉鏡花
1908年 あめりか物語 永井荷風
1909年 ヰタ・セクスアリス 森鴎外
刺青・秘密 (新潮文庫).jpg1910年 刺青 谷崎潤一郎

1911年 お目出たき人 武者小路実篤
1912年 悲しき玩具 石川啄木
1913年 赤光 斎藤茂吉
1914年 道程 高村光太郎
1915年 あらくれ 徳田秋声
1916年 精神分析入門 ジークムント・フロイト
和解.bmp1917年 和解 志賀直哉
1918年 田園の憂鬱 佐藤春夫
『月と六ペンス』(中野 訳).jpg1919年 月と六ペンス サマセット・モーム
1920年 惜みなく愛は奪う 有島武郎

小川未明童話集.jpg1921年 赤いろうそくと人魚 小川未明
1922年 荒地 T・S・エリオット
1923年 山椒魚 井伏鱒二
1924年 注文の多い料理店 宮沢賢治
檸檬.jpg1925年 檸檬 梶井基次郎
日はまた昇る (新潮文庫).bmp1926年 日はまた昇る アーネスト・ヘミングウェイ
河童・或阿呆の一生.jpg1927年 河童 芥川龍之介
『新版 放浪記』.jpg1928年 放浪記 林芙美子
1929年 夜明け前 島崎藤村
1930年 測量船 三好達治

夜間飛行 文庫 新.jpg1931年 夜間飛行 サン=テグジュペリ
八月の光.jpg1932年 八月の光 ウィリアム・フォークナー
1933年 人生劇場 尾崎士郎
1934年 詩集 山羊の歌 中原中也
1935年 雪国 川端康成
風と共に去りぬ パンフⅠ2.JPG1936年 風と共に去りぬ マーガレット・ミッチェル
1937年 若い人 石坂洋次郎
1938年 麦と兵隊 火野葦平
怒りの葡萄 ポスター.jpg1939年 怒りの葡萄 ジョン・スタインベック
1940年 夫婦善哉 決定版 新潮文庫.jpg夫婦善哉 織田作之助

1941年 人生論ノート 三木清
1942年 無常という事 小林秀雄
李陵・山月記.jpg1943年 李陵 中島敦
1944年 津軽 太宰治
1945年 夏の花 原民喜
坂口 安吾 『堕落論』2.jpg1946年 堕落論 坂口安吾
1947年 ビルマの竪琴 竹山道雄
俘虜記.jpg1948年 俘虜記 大岡昇平
1949年 てんやわんや 獅子文六
1950年 チャタレイ夫人の恋人 D・H・ローレンス

異邦人 1984.jpg1951年 異邦人 アルベール・カミュ
二十四の瞳 dvd.jpg1952年 二十四の瞳 壺井栄
1953年 幽霊 北杜夫
1954年 樅ノ木は残った 山本周五郎
太陽の季節 (新潮文庫) (2).jpg1955年 太陽の季節 石原慎太郎
楢山節考 洋2.jpg1956年 楢山節考 深沢七郎
1957年 死者の奢り 大江健三郎
松本 清張 『点と線』 新潮文庫.jpg1958年 点と線 松本清張
1959年 海辺の光景 安岡章太郎
1960年 忍ぶ川 三浦哲郎

1961年 フラニーとゾーイー サリンジャー
砂の女(新潮文庫)2.jpg1962年 砂の女 安部公房
飢餓海峡(下) (新潮文庫).jpg飢餓海峡(上) (新潮文庫).jpg1963年 飢餓海峡 水上勉
1964年 沈黙の春 レイチェル・カーソン
1965年 国盗り物語 司馬遼太郎
沈黙 遠藤周作 新潮文庫.jpg1966年 沈黙 遠藤周作
アメリカひじき・火垂るの墓1.jpg1967年 火垂るの墓 野坂昭如
1968年 輝ける闇 開高健
1969年 孤高の人 新田次郎
奔馬.jpg春の雪.jpg1970年 豊饒の海 三島由紀夫

1971年 未来いそっぷ 星新一
1972年 恍惚の人 有吉佐和子
辻斬り.jpg1973年 剣客商売 池波正太郎
1974年 おれに関する噂 筒井康隆
1975年 火宅の人 檀一雄
1976年 戒厳令の夜 五木寛之
蛍川・泥の河 (新潮文庫) 0.jpg1977年 泥の河 宮本輝
1978年 ガープの世界 ジョン・アーヴィング
1979年 さらば国分寺書店のオババ 椎名誠
1980年 二つの祖国 山崎豊子

1981年 吉里吉里人 井上ひさし
1982年 スタンド・バイ・ミー スティーヴン・キング
破獄  吉村昭.jpg1983年 破獄 吉村昭
1984年 愛のごとく 渡辺淳一
1985年 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹
1986年 深夜特急 沢木耕太郎
1987年 本所しぐれ町物語 藤沢周平
1988年 ひざまずいて足をお舐め 山田詠美
1989年 孔子 井上靖
1990年 黄金を抱いて翔べ 高村薫

1991年 きらきらひかる 江國香織
火車.jpg1992年 火車 宮部みゆき
1993年 とかげ よしもとばなな
1994年 晏子 宮城谷昌光
1995年 黄落 佐江衆一
1996年 複雑系 M・ミッチェル・ワールドロップ
1997年 海峡の光 辻仁成
1998年 宿命 高沢皓司
1999年 ハンニバル トマス・ハリス
朗読者 新潮文庫.jpg2000年 朗読者 ベルンハント・シュリンク

 
 
 
  
       

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This page contains a single entry by wada published on 2009年9月19日 00:36.

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