【2542】 ○ 増村 保造 (原作:谷崎潤一郎/脚本:新藤兼人) 「 (1964/07 大映) ★★★☆

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岸田今日子、若尾文子、船越英二、川津祐介らの演技力でドタバタ喜劇にならずに済んだ。

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卍(まんじ) [DVD]」 岸田今日子/若尾文子

Manji01.jpg 弁護士の夫に不満のある妻・柿内園子(岸田今日子)は、美術学校で魅惑的な女性・徳光光子(若尾文子)と出会う。学校内で二人は同性愛ではないかとの噂が立ち、最初は深い関係ではなかった二人だが、次第に離れられない深い関係に陥っていく。二人の関係を訝しむ園子卍 1964 01.jpgの夫・孝太郎(船越英二)の非難を尻目に、すっかり光子の美しさに魅了された園子だったが、そこへ光子が妊娠したという話が持ち上がり、園子は光子に綿貫栄次郎(川津祐介)という婚約者がいたことを初めて知って憤る。綿貫は、園子に光子への愛を二人で分かち合おうと持ちかけて誓約書を作り、光子に押印させ、光子、園子、綿貫の三角関係が生れる。しかし、この関係は長くは続かず、園子は実は綿貫は性的不能者で、妊娠は狂言であったと言う。光子は、園Manji002.jpg子と綿貫との誓約関係を反故にさせようするが、その動きを知った綿貫は光子を脅迫する。切羽詰まった光子は園子と共に睡眠薬で狂言自殺をするが、意識朦朧のまま園子が見たのは、自殺未遂の知らせを聞いて駈けつけた園子の夫・孝太郎と光子の卍 1964 ド.jpg情事だった。今度は、光子の虜となった孝太郎と、光子、園子の間に新たな三角関係が生まれる。以前の園子と綿貫の間で交わした誓約書は、綿貫から孝太郎に戻されていたが、ある日、綿貫が密かに撮っておいた誓約書の写真が新聞に掲載されてスキャンダルとなる。光子、園子、孝太郎の三人は、三人とも自殺して全てを清算しようと考える―。

谷崎 卍 新潮文庫.jpg増村保造.jpg新藤兼人2.png 1964(昭和39)年公開の谷崎潤一郎原作『』の映画化作で、監督は増村保造(1924-1986)監督、脚本は新藤兼人(1912-2012)。以降、海外も含め4度ほど映画化されていて、全部観たわけではないですが、おそらくストーリーの流れとしては最も原作に近いのではないでしょうか。

増村保造(1924-1986)/新藤兼人(1912‐2012/享年100)

 時代設定が、原作で明治43(1910)年の出来事だったのが、映画では映画製作時の現在(昭和39(1964)年)になっていて、50年以上隔たりがありますが、不思議と原作との間に違和感がありませんでした。まあ、同性愛という刺激的なモチーフでもあるし、谷崎の原作そのものがモダンな雰囲気を持っているというのもあるかもしれません。

manji 1964  kishida.jpg卍 1964 0.jpg 岸田今日子(1930-2006/享年76)演じる園子が作家と思われる「先生」に自分の体験を語るという原作の枠組みも生かされています(先生を演じている三津田健は一言も発しない)。考えてみたら、原作はこの内容をすべて園子一人の"語り"で描いて、しかも飽きさせずに読ませるというのは、やはり原作はスゴイのではないかと思った次第です。映画でも時々、岸田今日子演じる園子の"語り"が入りますが、この人もやはり演技達者だなあと思いました。

卍 1964   .jpg 光子という女性に、園子、孝太郎、栄次郎の三人が振り回されっぱなしになるというストーリー展開で、"卍" にはこの四者の入り組んだ関係を象徴したものだと改めて思いましたが、演技は岸田今日子だけでなく、それぞれに良かったように思います。

Manji02.jpg 若尾文子(1933- )は当時30歳で、ファム・ファタールである光子の妖しい魅力を存分に発揮しており、船越英二(1923-2007/享年84)の演技も手堅かったです(船越英二は谷崎原作の「痴人の愛」('60年/大映)にも出ている)。予想以上に良かっ卍 1964.jpgたのmanji 1964    .jpg川津祐介(1935- )で、卑屈で小狡いが見ていてどこか哀しさもある男・綿貫栄次郎を演じて巧みでした。結局、岸田今日子も含め四人の演技力に支えられている作品だったように思います(勿論、増村保造監督の演出力もあると思うが)。

 途中、光子が自分で自らが仕組んだカラクリのネタばらしをしてしまう点などかが、ちょっとだけ原作と違ったかなあという程度です(かなり慌ただしいストーリー展開だから無理もないのか)。谷崎潤一郎作品って、『痴人の愛』も『鍵』もそうですが、映像化するに際して一歩間違えるとドタバタ喜劇にもなりかねないような要素があるように思われます。この作品は、四人の演技力によって何とかそれを免れているように思いました。

卍 1964 5.jpg卍 1964 manji.jpg 原作の細やかな情感まで描き切るのは難しかったのかもしれませんが、まずまずの出来だったと思います。原作の内容を実イメージとして把握する助けになる作品と言えるでしょう。この作品の7年前に谷崎の『』を映画化した市川昆監督は(「」('59年/大映))、結末を原作と全く変えてしまっていましたが、市川昆がこの作品を撮っていたらどうなっていたでしょうか。

「卍」●制作年:1964年●監督:増村保造●脚本:新藤兼人●撮影:小林節雄●音楽:山内(やまのうち)正●原作:谷崎潤一郎●時間:90分●出演:若尾文子/岸田今日子/川津祐介/船越英二/山茶花究/村田扶実子/南雲鏡子/響令子/三津田健●公開:1964/07●配給:大映(評価:★★★☆)

山内正.jpgザ・ガードマン.jpg 音楽は山内(やまのうち)正(1927-1980)。父親は弁士の山野一郎、長兄は俳優の山内明、次兄は脚本家の山内久という映画一家でしたが、53歳と比較的早くに亡くなっています。映画「大怪獣ガメラ」('65年/大映)やテレビドラマ「東京警備指令 ザ・ガードマン」('65年-'71年)などの音楽も手掛けていますが、管弦楽曲、バレイ音楽など純音楽作品も遺しました。ただ、やはり、宇津井健主演の「ザ・ガードマン」のテーマが一番印象に残っているでしょうか。「ザ・ガードマン」は最初モノクロで'69年ころからカラーになっていますが、個人的にはモノクロの印象の方が強いです。モデルは1962年設立の日本初の警備会社「日本警備保障」(現在のセコム)。最高視聴率40.5%(1967年9月22日)。

ザ・ガードマンc.jpg「東京警備指令 ザ・ガードマン」●監督:村山三男/井上芳夫/富本壮吉/崎山周/湯浅憲明/土井茂/弓削太郎/佐藤肇ほか●脚本:下飯坂菊馬/増村保造/安藤日出男/松木ひろし/加瀬高之ほか●プロデューサー:野添和子/春日千春/小森忠/柳田博美ほか●音楽:山内正/大塩潤→渡辺岳夫●撮影:浅井宏彦/山崎忠/森田富士郎/武田千吉郎●出演:宇津井健/藤巻潤/川津祐介/倉石功/稲葉義男/中条静夫/神山繁/清水将夫●放映:1965/04~1971/12(全350回)●放送局:TBS


「卍」撮影風景
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船越英二 in「黒い十人の女」('61年/大映)/「卍」('64年/大映)/「盲獣」('69年/大映)
黒い十人の女 03.jpg 卍 船越英二.jpg 盲獣19.jpg

山内(やまのうち)正 作曲・編曲「ザ・ガードマン」のテーマ

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This page contains a single entry by wada published on 2017年5月 4日 23:15.

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