「●さ 斎藤 美奈子」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【422】 斎藤 美奈子 『読者は踊る』
「●文学」の インデックッスへ 「●女性論」の インデックッスへ 「●まんが・アニメ」の インデックッスへ
切り口の斬新さと鋭いテキスト読解で飽きずに読めた『妊娠小説』。
斎藤 美奈子 氏
『妊娠小説』['94年]『紅一点論―アニメ・特撮・伝記のヒロイン像』['98年]
『妊娠小説 (ちくま文庫)』['97年]
著者の言う「妊娠小説」とは「望まない妊娠を登載した小説」とのことですが、そうして見ると名作と言われるものからベストセラーとなった小説まで、それらの中に「妊娠小説」と言えるものが随分あるものだなあと、着眼点に感心しました(巻末に本書でとり上げた約50冊のリストあり)。
第1章でとり上げている"典型例"は、森鴎外『舞姫』、石原慎太郎『太陽の季節』、吉行淳之介『闇の中の祝祭』、三田誠広『赤ん坊の生まれない日』、村上春樹『風の歌を聴け』...。
女が予期せぬ妊娠をすることで男が悩むという共通のプロットを通して、その描き方のベースにある精神的土壌をあぶり出していますが、受胎告知場面が「妊娠小説」としての"識別表示"であるといった切り口の斬新さと、鋭いテキスト読解で飽きずに読めました。
個人的には、『舞姫』は前からそういう見方をしていました。鴎外という人が大体(この辺のところに関しては)怪しい...。
吉行淳之介はその発言を含めコテンパですが、『闇の中の祝祭』はこうして見ると秀逸なラストを呈していて、やはり彼にし書けない傑作ではないかと...。
『風の歌を聴け』は、ある物語の時系列を並べ替えて何枚かカード抜きしたものということか...等々、また別な見方ができて楽しかったです。
著者の書き下ろし第2評論集『紅一点論-アニメ・特撮・伝記のヒロイン像』('98年/ビレッジセンター出版局)もなかなか面白かったですが、ストレートにフェミニズム批評的で、その分著者独特の"遊び感"のようなものが今ひとつ感じられなかったのが残念(評価★★★)。
『紅一点論』を読んで、本書の中にあるフェミニズム批評的なものを再認識した読者もいるかもしれませんが、個人的には批評の切り口や適度な"遊び感"を買いたい評論家で、「フェミニズムの人」というふうにレッテル貼りすることはお勧めしたくないです。
【1997年文庫化[ちくま文庫]】