【422】 ◎ 斎藤 美奈子 『読者は踊る (1998/10 マガジンハウス) ★★★★☆

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読者が何となく感じる胡散臭さや危うさの秘密を解き明かしている。

読者は踊る.jpg読者は踊る―タレント本から聖書まで。話題の本253冊の読み方・読まれ方』(マガジンハウス)

 著者の『趣味は読書。』('03年/平凡社)、『誤読日記』('05年/朝日新聞社)に先立つ書評集で、読者目線でタレント本からシロウト科学本、フェニミズム本まで様々なテーマごとに、更には学者本や国語辞典なども含め250冊以上を紹介し、背後にある社会やジャーナリズムの動向とともにそれらを読み解いています。
 読者が何となく感じる胡散臭さや危うさの秘密を解き明かしてみせていて、読書において盲点になりやすい様々な部分を的確に突いてくるという印象を持ちました。

 近年は「ミーハー書評」を自認し、ベストセラーをかなり辛辣(かつ軽妙)に"なで斬り"しているために、一部からは興醒まし感でもって見られているフシもある著者ですが、本書では、売れた本、話題になった本も多く取り上げている一方で、歴史教育関連の本や翻訳聖書などの堅い本も取り上げていて、権威に惑わされず、それらの"どこかおかしい"面への著者のこだわりを見せ、さらに専門文献を精査するなどして、その誤謬や偏向を指摘しています。

 「科学音頭に浮かれて」の章の『そんなバカな!』(竹内久美子著)における遺伝子の擬人化に対する批判には説得力あったし(竹内流の勝手なドーキンス解釈なのに「週刊文春」は相変わらず同著者によるくだらない連載を続けている)、『環境ホルモン入門』(立花隆著)も、考えてみれば、アトピー、アレルギーはいざ知らず、同性愛から少年犯罪まで環境ホルモンのせいだというのは確かにどう見てもおかしい。

 『趣味は読書。』、『誤読日記』に比べ、ジャンルの選び方に著者のこだわりが感じられ、それだけにそのジャンルにおける好著は好著として評価しており、かつ、柔らかい文章で楽しく読めました(この人の"一人突っ込み"もあまり気にならず、自分としては相性がいい文体なのかも)。

 取り上げている本が時間とともにやや古くなっているのは仕方ないですが、個人的には著者の書評に信を置くきっかけとなった本で、駄本を購入しないで済むための良い水先案内人を得た気がしました。

 【2001年文庫化[文春文庫]】

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