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「サーカス愛」に溢れるコメディ映画。大富豪シーンは圧巻。エンディングもいい。

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世界恐慌で破産した大富豪(ピエール・エテックス)は、元恋人であるサーカスの曲馬師と再会し、その存在を知らなかった幼い息子との3人での地方巡業の旅に出る。やがて成長した息子はヨーヨー(ピエール・エテックス二役)という人気クラウンになり、第2次世界大戦が終わると、かつて父が暮らしていた城を再建するべく奔走する。空中ブランコ乗りのイゾリーナ(クローディーヌ・オージェ)に恋したヨーヨーは、興行プロデューサーとして成功するが―。
世界恐慌までを字幕付きのサイレントで、その後をトーキーで描いています。エテックスの盟友で後に「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」などを手がける脚本家ジャン=クロード・カリエールが共同脚本を担当。日本では「ピエール・エテックス レトロスペクティブ」(2022年12月24日~2023年1月20日、東京・シアター・イメージフォーラム)で劇場初公開されました。
最初の方の大豪邸における大富豪の暮らしぶりから圧巻。就寝するだけのことに何人の執事らが関わるのか数えきれす、楽団が来てセレナーデか何か奏でたり、大勢の女性たちが体をほぐすに来たりと、一体この邸宅で何人雇っているのでしょうか。立派な岩風呂にこれから自分が入るのかと思ったら、飼い犬用だったというのには笑いました。でも、大富豪自身はどこか虚無的。曲馬師の娘に恋することで人生の喜びに目覚める―。
やがて世界恐慌。ビルの屋上から自殺者が降ってくるので気をつけなければならない。富豪も破産し、女性と再び出会うが、彼女の傍にいたのは自分の息子だった。そして3人でサーカスの旅へ。ライバルのサーカス一行が「ザンパノとジェルソミーナ」(フェデリコ・フェリーニの 「道」('54年)へのオマージュ)、時代の動きを表すカール・マルクスの肖像の後からなぜかグルーチョ・マルクス像が続き、ヒトラーは壁に向かって歩き、なにかもぞもぞしていると思ったら、振り向くとチャップリンに変身していた(チャップリンの「独裁者」('40年)へのオマージュ)―と、この辺りは映画愛満載でした。
やがて、主役は富豪からクラウンとして有名になった息子にバトンタッチされます(言ってもどちらもエテックスが演じているだが)。彼は子供時代に父の屋敷に入り込んで彷徨い(そのシーンはベルイマン映画のよう)、その時の憧れから父の屋敷を取り戻そうと頑張り、クラウンとして稼ぎをすべて屋敷の修復に費やします。その間、人気スターゆえの煩わしさや、製作者としての何かとままらない気持ちも描かれます(前年公開のフェリーニの「81/2」('63年)を想起させられる)。
そして、遂に屋敷を完全修復し、大勢を招いてお披露目パーティーを。離れて暮らす両親(画面に顔は出てこない)を呼び寄せ、屋敷の中を見るよう言いますが、両親は中には入らず去っていきます。そのことで、華やかだが空疎な豪邸を後に、ヨーヨー自身も象に乗って去っていく―やはり、ヨーヨーはサーカスの世界に帰っていくということでしょう。ちょっと寂しいけれど、いいエンディングでした。
トリュフォーが絶賛し、ゴダールがその年のベストテンに選んだという作品。日本公開まで半世紀以上もかかってしまいましたが、もっと注目されていい作品。キートンの「大列車強盗」('26年)からチャップリンの「独裁者」('40年)、フェデリコ・フェリーニの 「道」('54年)、イングマール・ベルイマン「沈黙」('63年)まで、さまざまな映画へのオマージュが見られます。
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さらに、そうした「映画愛」以上に「サーカス愛」に溢れるコメディ映画で、ピエール・エテックスもこの5年後、フェデリコ・フェリーニ監督の「フェリーニの道化師」('70年・伊)に出演します。かつての名道化師を追いかけていたフェリーニが、彼らの演技を収めたフィルムのある家を訪ねます。そのフィルムを持っていたのが、名
コメディアンで映画監督でもあったピエール・エテックス(「道化師」に関しては本邦ではピエール・エテの表記)だったと(部屋のバックに「ヨーヨー」のポスターが見える)。
ピエール・エテックス in「フェリーニの道化師」(本人役)[当時42歳]
この作品は
、フェリーニ監督がイタリア国営放送のために制作したドキュメンタリー風テレビ映画で、実際にはドキュメンタリーに見える部分も演出されているようです(実在の道化師たちの談話がフェリーニ率いる虚実混淆の"撮影隊"によってフィルムに収められる様子が描かれることで、映画は幻想と現実が幾重にも入り組んだ複雑な様相を呈している)。1970年の12月25日(クリスマスの日)にテレビ放映され、同月27日から劇場公開されていますが、傑作との評判に7年後の1976年12月に日本でも公開の運びとなっています。サーカスやピエロといった消えゆく文化への惜別の念と再興への希望という点で、「ヨーヨー」「道化師」の両作品は通底しているように思いました。
因みに、ピエール・エテックスはジャック・タチ(1907-1982)のもとで映画作りの方法を学び、そこからさまざまな要素を吸収しているのが、彼の映画から見て取れます。少ないセリフや立ち振る舞い、街の人々を巻き込みながら起こる不運や偶然に、ニヤリとしてしまうあの感覚は間違いなく見覚えがあるのですが、それだけではありません。ジャック・タチだけでなく、チャップリンやキートンといったコメディ映画の巨匠たち、フェリーニやブニュエルなど、その他さまざまな映画監督たちの作風をピエール・エテックス監督作は想起させます。日本語版Wikipediaによると、彼は、フェリーニ監督の「フェリーニの道化師」('70年/伊)のずっと前に、ジャック・タチ監督の「ぼくの伯父さん」('58年/仏)にも出演していたとあります(もちろん、この作品のユロ伯父さんを演じるのはジャック・タチであり、ピエール・エテックスはどこに出ていたか思い出せない。また、英語版Wikipediaでは
出演確認ができない)。まあ、ジャック・タチ監督の"弟子筋"といったとことろでしょうか。「ぼくの伯父さん」は、1958年・第11回「カンヌ国際映画祭 審査員特別賞」を受賞したほか、米国で1959年・第31回「アカデミー賞外国語映画賞」を受賞します。
ジャック・タチ in「ぼくの伯父さん」('58年/仏)
「ルアーヴルの靴みがき」(医師役)[当時82歳]/「皆さま、ごきげんよう」(ホームレス役)[当時86歳]

ピエール・エテックスはこのほかに自身の監督作以外に10数本の映画に出演していて、映画を撮ることは早くにやめてしまいましたが(1971製作のヴァカンスに出かけるフランス人たちを辛辣ともいえる視線で捉え(「ぼくの伯父さんの休暇」へのオマージュか)、ビュルレスク的に構成した初のドキュメンタリー「桃源郷」(Pays de cocagne(英題:Land of Milk and Honey))がそのキャリアに終止符を打つことになった問題作だったとされ(個人的には、意図が伝わりにくい作品だと思った)、また、その後、1986年にラ・ヴィレットのオムニマックスのための最初の作品(「私は宇宙で書く」(J'écris dans l'espace)の演出をオファーされるも、この作品の失敗により、エテックスは映画製作に対する情熱を完全に失ったとも言う)、一方で映画への出演の方は晩年にも見られ、アキ・カウリスマキ監督の「ルアーヴルの靴みがき」('11年/フィンランド・仏・独)などもその1つ。2016年10月14日(87歳没)に没する前年にも、タール・イオセリアーニ監督の「皆さま、ごきげんよう」('15年/仏・ジョージア)に出ています。
「桃源郷」(Pays de cocagne(英題:Land of Milk and Honey))1971



・THE SUITOR(「恋する男(女はコワイです)」1962)
・YOYO(「ヨーヨー」1964)
・AS LONG AS YOU'VE GOT YOUR HEALTH(「健康でさえあれば」1965)
・RUPTURE(「破局」1961)
・HAPPY ANNIVERSARY(「幸福な結婚記念日」1962)
・LE GRAND AMOUR(「大恋愛」1968)
・FEELING GOOD(「絶好調」1965)
・Land of Milk and Honey(「桃源郷」1971)
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⦅「フェリーニの道化師」あらすじ⦆
少年は寝室の窓から外を見ると巨大なテント小屋が張られていた。翌朝少年は母親に「あれは何」と聞くと母は「サーカスよ。悪い子は連れて行かれるよ」と答えた。そして夜になると母に連れられてサーカスを見に行った。爆弾を空に舞わせて背中で受ける芸、小さなシーソーに葉巻を乗せて飛ばし、口でくわえる芸、二人の道化師の一人が怒り一方の頭に斧を打ち込む芸、小人の丸焼きを模した芸、怪力女性の決闘、インド人の生きたままの埋葬、人魚やシャムの双生児などの見世物。そんな道化師たちの芸が始まる。道化師たちはみな目茶苦茶で不恰好な衣装と白塗りのふざけた化粧の顔で、躍動感と活気、猥雑と喧騒、度肝を抜くような奇抜な仕掛けで、見物人を驚かす。そんな道化師の芸を見ていた少年は、道化師に恐怖を感じて泣き出す。母は「何を泣いているの。家に帰ったらお灸だよ」と叱られた。少年は「判読しがたい無表情な白い顔。酔っ払いのゆがんだ顔。叫び声。異常な笑い。バカげた冗談。どこの田舎にもいる風変わりで落ち着きの無い人達を思い出させた」と回想する。助平で冗談好きのジョバンニ爺さん。また1.3メートルの身長の尼さんは、自分だけが聖人に信じられていると呟き、修道院と精神病院を往復する。怠け者の夫を罵る妻。ムッソリーニの演説を諳んじている傷痍軍人。喧嘩ばかりする駅馬車の御者。戦争映画を見て翌日壁に向かって突進した男、などなど。
現在、道化師はどうなったか。フェリーニ監督は「恐怖を誘う強烈な喜劇性と大騒ぎの楽しさ。彼らの属していた世界はない。サーカス小屋はグランドだ。観客に子どもらしい単純さはない」と現状を調べようと取材チームを組み各地を取材する。イタリアのオルフェイサーカスを訪ねた(サーカスではアニタ・エクバーグと偶然会う)。座長は「現代の道化師は、長いものは喜ばれない。笑いは10分でいい」「昔の道化師は終わった。今は扮装も変わった」と語る。オーギュストという道化師は、酒びたりで病院に入院したが、ヌーボーサーカスの道化を見るため病院を抜け出し、芸を見ながら亡くなった。パリの「冬」サーカス場は、全盛は終わり観客が子どもだけ、そこにいるバプティストやチャップリンの娘はフランス巡業を夢見ている。スペインの道化師リベルは道化師の学校を作れと主張。ピエール・エテ監督は道化師の記録映画を持っていたが、フイルムが焼けて見られない。ロリオ、バリオなどはアルバムを見せ過去を語るだけ。そしてクライマックスの道化師の死をテーマにした大掛かりな道化師を結集した圧巻の芸が展開される。やがて終演し、道化師たちは退場して消灯される。その中で一人の道化師はトランペットで「引き潮」を吹き鳴らし、死んだ仲間の存在を確かめまる。すると死んだ仲間が現れ、一緒に舞台で演奏し合い静かに楽屋へ去る。
Yoyo[評価 7.5]

「ヨーヨー」●原題:YOYO●制作年:1964年●制作国:フランス●監督:ピエール・エテックス●製作:ポール・クロードン●脚本:ピエール・エテックス/ジャン=クロード・カリエール●撮影:ジャン・ボフティ●時間:98分●出演:ピエール・エテックス/リュス・クランクローディーヌ・オージェ●日本公開:2022/12●配給:ザジフィルムズ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-08-06)(評価:★★★★)
「映画パンフレット 「フェリーニの道化師」 監督/出演 フェデリコ・フェリーニ 出演 アニタ・エクバーグ/ピエール・エテ/アニイ・フラッテリーニ/グスターブ・フラッテリーニ/リアナ/トリスタン・ルミイ/フランコ・ミグリオリーニ」

「フェリーニの道化師」●原題:FELLINI:I CROWNS●制作年:1970年●制作国:イタリア●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:エリオ・スカルダマーリャ/ウーゴ・グエッラ●脚本:フ
ェデリコ・フェリーニ/ベルナルディーノ・ザッポーニ●撮影:ダリオ・ディ・パルマ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:110分●出演:フェデリコ・フェリーニ/アニタ・エクバ
ーグ/ピエール・エテックス/ジョセフィン・チャップリン/グスターブ・フラッテリーニ/バティスト/アニイ・フラッテリーニ/リアナ/トリスタン・ルミイ/フランコ・ミグリオリーニ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-02-07)(評価:★★★★)●併映:「フェリーニのアマルコルド」(フェデリコ・フェリーニ)
「エキプ・ド・シネマ」3周年(1974.02-1976.12)記念カタログ(フェリーニ特集)

「桃源郷」●原題:PAYS DE COCAGNE(英題:Land of Milk and Honey)●制作年:1971年●制作国:フランス●監督:ピエール・エテックス●製作:ポール・クロードン●脚本:ピエール・エテックス●撮影:ジャン・ボフティ●音楽:ホセ・パディーヤ●時間:80分●ドキュメンタリー●日本公開:2022/12●配給:東京日仏学院[自主上映](「フレンチタッチ・コメディ!〜30年から現在までのフランス映画のコメディ特集」(15-11-20))(評価:★★★?)
