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「死」とどう向かい合うのか。尊厳死を選ぶ者とそれを看取る者を描く。

「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」[Prime Video]ティルダ・スウィントン/ジュリアン・ムーア
売れっ子作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)は、かつて若い頃に同じ雑誌社で働き疎遠になっていた、親友で元戦場ジャーナリストのマーサ(ティルダ・スウィントン)が末期ガンを患っている
ことを聞く。彼女はマーサと久しぶりに再会し、会っていない年月を埋めるように病室で語らう日々を過ごす。治療を拒み自らの意志で安楽死を望むマーサは、人
の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、"その日"が来る時に隣の部屋にいてほしいとイングリッドに頼む。悩んだ末に彼女に寄り添うことを決めたイングリッドは、マーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始める。そして、マーサは「ドアを開けて寝るけれど もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいない」と言い、最期を迎える彼女との短くかけがえのない日々が始まるのだった―。
2024年・第81回「ヴェネツィア国際映画祭」
審査員長のイザベル・ユペール & ペドロ・アルモドバル監督

「神経衰弱ぎりぎりの女たち」('87年/スペイン)、「オール・アバウト・マイ・マザー」('99年/スペイン)など、独特な映画をずっと発表してきた ペドロ・アルモドバル監督の2024年公開の監督初の英語長編映画作品で、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーア(世界三大映画祭のすべての女優賞を受賞した女優でもある)が主演し、2024年・第81回「ヴェネツィア国際映画祭」の「金獅子賞」を受賞しました。

原作『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、ニューヨーク生まれで、母親はドイツから、父親はパナマからの中国系移民という作家シーグリッド・ヌーネスが2020年に発表したもので、原題は"What Are You Going Through"(あなたはどんな思いをしているの)。「ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞」を受賞し、日本で映画公開されることになったのに合わせて訳出されたようです。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』['25年/早川書房]
人生で、避けて通ることはできない「死」とどう向かい合うのかという大変重いテーマの作品で、しかも、マーサは、僅かな命を延ばすのではなく、死を受け入れること(尊厳死)を望んでおり、つまり、延命治療の拒否だけではなくもっと踏み込んで、自ら死を選ぶ「安楽死」を望んでいるというのが、今日的なテーマのように思えました。同じく安楽死を扱ったフランソワ・オゾン監督の「すべてうまくいきますように」 ('21年/仏・ベルギー)を想起しましたが、こちらの方が、死に逝こうとする側の心情に入り込んでいるかもしれません。
ただし、原作及び映画における"主観"はあくまで看取る側である、映画ではジュリアン・ムーアが演じるイングリッドにあり、死を選ぶことを選んだマーサに寄り添うイングリッドの側の苦しさに焦点を置いているとも言えます。そう言えば、「週刊文春」の「シネマチャート」で、翻訳家の芝山幹郎氏や映画評論家の森直人氏が5つ星評価だったのに対し、作家の斎藤綾子氏が「友に欲望を押し付ける重病人の厚かましさに辟易」したとして星2つ評価でしたが、その気持ちも分からなくもないです(翻訳解説によると、原作者シーグリッド・ヌーネス自身もインタビューで「友人には不遜なユーモアが感じられる」と言っており(確信犯?)、「お前の冒険心はどこにいった?」と軽口をたたいたり、「できるだけ楽しい時間にするね」と約束したりする場面がある)。でも、個人的には、死に逝く人のエゴっていうのも分かる気がして、敢えて美化せずにそれを描いているのが、この原作並びに映画の良さではないかと思います。
ただし、緊張感こそありましたが、映画そのものは暗い感じはせず(原作もけっして暗くはないが、それは登場人たちのインテリジェンスによるところが大きいかも)、死への覚悟を決めているマーサにも、その部屋にも、どこかにはっとする鮮やかさがあり、そこに引き付けられます(つまり映画ではインテリジェンスの部分をデザインに置き換えているとも言え、全体として視覚的に美しく撮っている。ただし、マーサが分厚い本を手にして残された時間が無いことを嘆くなど、インテリとしての苦悩も描いている)。森の中の小さな家で死んでいくというのも、〈自然に還る〉ような感覚で良いです(最後、マーサは一人で死んで逝くことで、イングリッドにある種の優しさを見せたか)。
マーサが戦場ジャーナリストだったということも「死」をテーマにした作品として象徴的ですが(これ、原作に無い設定か?)、マーサが言わば「おひとり様」であるということも、物語の前提として大きいウェイトを占めると思います。ただし、マーサにはミシェルという娘がいて、その娘との確執を拭えなかったことを後悔していました(「たぶん ミシェルの人生で本当に欠けていたのは、母親の存在だったと思う」とマーサは言う)。
ただし、映画の物語は、原作小説の中の1エピソードに過ぎないとも言え、結末も少し異なります。ですから、原作の厳密な映画化ではありません。その映画オリジナルのシーンで、娘ミシェルがマーサの死後にイングリッドを訪ねてきて、母の話を聞くシーンは良かったです。イングリッドがマーサを段々受け入れて、いつの間にか他者を諭すほどに強くなっていたのが窺えました。ラストシーンの「死者と生者の間に降る雪」は、自分なりなり解釈すれば、死者が生者同士を結び付け、死者を共有せしめたということだったのではないかと思いました(ミシェルの顔がマーサに見えた)。ある意味、原作を超えていました。
「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」●原題:THE ROOM NEXT DOOR/LA HABITACION DE AL LADO●制作年:2024年●制作国:スペイン/アメリカ●監督・脚本:ペドロ・アルモドバル●製作:アグスティン・アルモドバル/エステル・ガルシア●撮影:エドゥアルド・グラウ●音楽:アルベルト・イグレシアス●時間:107分●出演:ティルダ・スウィントン/ジュリアン・ムーア/ジョン・タトゥーロ/アレッサンドロ・ニヴォラ/ラウール・アレバロ/ファン・ディエゴ・ボト●日本公開:2025/01●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(9F)(25-02-18)(評価:★★★★☆)
ペドロ・アルモドバル監督(中央)
