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小津安二郎へのオマージュ&旅日記。今やこの映画自体がレトロスペクティブとなった。

「東京画 デジタルニューマスター版」

1983年4月、東京で開催されたドイツ映画祭のために来日したヴィム・ヴェンダースは、小津安二郎(1903-1963、60歳没)の描いた"東京"を探して街を彷徨い歩く。撮影のエドワード・ラックマンと録音のヴェンダース二人だけの旅は、パチンコや食品サンプル工場、「竹の子族」など当時の"日本的"なる風景を写し、「東京物語」主演の笠智衆(1904-1993)、小津組のカメラマン厚田雄春(1905-1992)との対話を通して、小津の"東京"と、近代化した当時の東京を描き出す―。

かなり昔にビデオで観たのを、新文芸坐で2Kレストア版で再鑑賞。内容をほとんど忘れていたということもあって、新鮮な気持ちで愉しめました。小津安二郎の没後20周年を記念して、小津安二郎を敬愛するヴィム・ヴェンダースが、小津やそのスタッフと作品に捧げたオマージュ映像であり、同時に旅日記作品となっています(ソフィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・トランスレーション」('03年/米)と少し似た雰囲気も)。
小津安二郎作品に出てくる"東京"に憧れ(ただし、映画の冒頭とラストにフィーチャリングされる「東京物語」の映っているシーンは尾道)、街を行くヴェンダースが撮った「東京」は、高層ビルとネオンが林立する、小津の映画とは似ても似つかぬ東京であり、彼は小津の時代は遠くに過ぎ去り、日本的なものが失われたと感じたようです。
パチンコ店やゴルフ練習場、食品サンプル工場など"
現代"日本をある意味象徴するような場所を巡り、興味深いと思いながらも(かなりひとつひとつを丹念に撮っている)、当初の目的に照らすと、そうした場所を訪ねれば訪ねるほど失望を深めたのではないかと思われます(「東京物語」が撮影されたのは1953年だから、そこからだと30年経っていることになる。無理もないか)。
映画の中では、東京タワーで落ち合った友人のヴェルナー・ヘルツォーク監督(「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)、「フィツカラルド」 (82年/西独))も同様のことを述べていますが、ヘルツォークは、この混沌の中から純粋なものを掘り起こすべきだと言っているのに対し、ヴェンダースは、小津安二郎作品に出てくる"東京"はもう今は無いという諦めの感じでしょうか。
そんなヴェンダースですが、笠智衆を訪ねた時、その語りから、笠智衆そのものと、笠智衆への語る小津安二郎像に大いに感動したのではないでしょうか。ヴェンダースが笠智衆に対して最高の賛辞を贈ったものの、笠智衆は自分は演技がいかに下手だったかを語っているのが面白いです。
さらにラストの方では小津組のカメラマン厚田雄春を訪ね、小津映画における撮影手法を厚田雄春に実演してもらっています。これも、小津映画における演出・撮影技法が窺えて(世界最小のカメラ三脚!)興味深いです。厚田雄春は、本当に小津という一人の人の生き様を信じ、他の監督とろくに浮気することも出来なかったと語ります。
こうしたことから、ヴェンダースは、笠智衆と厚田雄春の二人の人柄がまさしく小津映画そのものであることを発見して満足したのではないかと、映画評論家の佐藤忠男 (1930-2022)も『映画の中の東京』('02年/平凡社ライブラリー)で書いていました。そのヴェンダースが40年後に、渋谷近辺の公演のトイレ清掃を舞台とした「PERFECT DAYS」(23年/日・独)を撮り、第76回「カンヌ国際映画祭」で日本人2人目の男優賞を受賞した役所広司を、「私の笠智衆」と称えることになります。
東京画[IMDb]
映画の後半の方では、出来たばかりの東京ディズニーランドに行こうと思ったけれど、日本に来てわざわざアメリカのコピーを観にいくこともないと引き返したところ、都内でもアメリカ人になりたがっている若者たちがいたと。それが「竹の子族」で(これもかなり丹念に撮っている)、そっか、あの頃なのかと。崔洋一(1949-2022)監督の「十階のモスキート」('83年/ATG)で、内田裕也(1939-2019)演じる主人公の警察官の娘(小泉今日子)が「竹の子族」だったのを思い出しました。
谷中霊園でスーツ姿で花見をする人たち、ホテルで観るテレビに流れる日本の番組やコマーシャル、工事中の有楽町マリオン(1984年完成)、(朝方?の)歌舞伎町のゴールデン街(今、ここ外国人が結構多いが、ヴェンダースもここで朝まで呑んだ?)、路地裏で三角ベースボールに興じる半ズボンの子どもたち―と懐かしい映像が流れ、そっか、小津安二郎の没後20年と言っても、そこから更に、その倍以上の年月がまた流れたのだなあと。


今の時代に改めて観ると、この映画自体が一時代の東京を表すレトロスペクティブとなっていて(今登るならば東京タワーではなくスカイツリーだろう)、そこから来る懐かしさや伝わってくる当時の活気が快く、それがこの映画を愉しめた大きな要因だったかもしれません。
[動画]東京タワーで語るヴェルナー・ヘルツォーク(「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)、「フィツカラルド」 ('82年/西独))/[写真]ヴィム・ヴェンダース(「パリ、テキサス」('84年/西独・仏)、「PERFECT DAYS」 (23年/日・独))とヴェルナー・ヘルツォークのスナップ写真(映画ではヴェンダースはナレーションのみで姿は映らない)

「東京画」●制作年:1985年●製作国:アメリカ・西ドイツ●監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース●製作:クリス・ジーヴァニッヒ●撮影:エド・ラッハマン●音楽:ローリー・ペッチガンド●時間:93分●出演:ヴィム・ヴェンダース(ナレーション)/笠智衆/ヴェルナー・ヘルツォーク/厚田雄春●公開:1989/06●配給:フランス映画社●最初に観た場所(再見):池袋・新文芸坐(25-02-13)(評価:★★★★)
