【1782】 ○ 江藤 努/中村 勝則 (編) 『映画イヤーブック 1996』 (1996/03 現代教養文庫) ★★★☆ (○ ロバート・ゼメキス 「フォレスト・ガンプ/一期一会」 (94年/米) (1995/03 UIP) ★★★★/○ ハル・アシュビー 「チャンス」 (79年/米) (1981/01 松竹=富士映画配給) ★★★★)

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'95年はトム・ハンクスが洋画界を牽引? 「フォレスト・ガンプ」の底にある「愛国心」。

『映画イヤーブック 1996』.JPGフォレスト・ガンプ 一期一会  ポスター.jpg フォレスト・ガンプ dvd.jpg  フォレスト・ガンプ 一期一会 スコア.jpg
映画イヤーブック〈1996〉 (現代教養文庫)』「フォレスト・ガンプ 一期一会」ポスター「フォレスト・ガンプ 一期一会 スペシャル・コレクターズ・エデション [DVD]」(2008)「フォレスト・ガンプ~一期一会 オリジナル・スコア集

 1995年に公開された洋画330本、邦画184本、計518本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「フォレスト・ガンプ/一期一会」「クイズ・ショウ」「レオン」「ショーシャンクの空に」「ブロードウェイと銃弾」「アポロ13」「恋する惑星」「エドワード・ヤンの恋愛時代」「エド・ウッド」「マディソン郡の橋」「スモーク」の11作品、一方邦画は、「東京兄妹」(市川準監督)、「ガメラ」(金子修介監督)、「Love Letter」(岩井俊二監督)、「KAMIKAZE TAXI」(原田眞人監督)、「午後の遺言状」(新藤兼人監督、)「幻の光」(是枝裕和監督)の6作品と、比較的邦画も頑張った年でしたが、編者の江藤努氏に言わせれば、邦画は洋画に比べて作品の質が興行成績に繋がらなかったとのことで、確かに、ややマイナー感はあるラインアップ。

Sally Field FORREST GUMP.jpg ロバート・ゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ/一期一会」('94年)はアカデミー賞6部門(作品・監督・主演男優・脚色・視覚効果・編集)独フォレスト・ガンプ 一期一会01.jpg占で、トム・ハンクスは「フィラデルフィア」('93年)に続いてアカデミー賞主演男優賞2年連続受賞、さらにこの年公開の「アポロ13」('95年)にも出演していて、当時は洋画界を一人で牽引しているような勢いがありましたが、アカデミー俳優トム・ハンクス主演ということで、これらの作品を観に映画館に足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。

フォレスト・ガンプ 一期一会02.jpg 「フォレスト・ガンプ」は50年代から80年代にかけてのアメリカ現代史を駆け抜けていったIQが人並みに至らない男ガンプの話ですが、彼は俊足を買われて大学で全米アメフト代表選手となってケネディ大統領に祝福され、ベトナム戦争では戦友の命を救ってジョンソン大統領から栄誉を授かる一方、全米卓球チームのメンバーになって「ピンポン外交」特使としてジョン・レノンとテレビ共演するほど有名になり、さらにエビの事業で成功して大金持ちになるといった具合に、アメリカン・ドリームを絵に描いたような道を歩みます。

フォレスト・ガンプ 一期一会03.jpg 但し、そうした"お目出度い"話ばかりでなく、彼の人生と交錯する人びとの挫折や苦悩も描いており、ガンプ自身も幼馴染みの恋人に何度か去られ、最後にやっと愛を成就できたかと思ったら、その彼女に死なれてしまうなどして人生の寂寥感を味わい、それでも彼女が遺した自分の息子に出会うことで未来への希望を抱くという、ラストシーンで空を舞う羽根のように、ふわ~っと心に滲み入る作品でした。

フォレスト・ガンプ 一期一会04.jpg 原作は、1985年にウィンストン・グルームが発表した小説 Forrest Gumpで、ガンプのモーレツぶりは、ジョン・アービング原作、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ロビン・ウィリアムズ主演の「ガープの世界」('82年)の登場人物らに通じるものを感じましたが、「ガープの世界」がアービングの自伝的小説であるのに対し、グルームの原作では、主人公のガンプは宇宙飛行士やプロレスラー、チェスのチャンピオンになるといったエピソードもあるとのことで、映画においても、「ガンプ」はシンボライズされたキャラクターと見るのがスジでしょう。

 では、アメリカ現代史を駆け抜けたガンプは何の象徴なのかと言うと、やはりアメリカ国民そのものの象徴であり、見方によってはアメリカという国そのものの象徴ということにもなるのかもしれません。

Forrest Gump (1994).bmp 映画ではアメリカ現代史の様々な映像が合成SFXでガンプの物語に織り込まれており(ゼメキス監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも見せたとおり、特撮が持ち味。ガンプがケネディ大統領と握手し、「おしっこしたい」と言うシーンは笑える)、それもこの作品の一つの見所ですが、個人的には、ウォーターゲート事件にしてもベトナム反戦運動にしても、ガンプの純粋さを媒介としてある種戯画化されて描かれているように思いました。

 この映画がアメリカで「ガンプ現象」と言われるほどのブームになったのは、アメリカ人のヒーローに対する愛着、純粋無垢なモーレツさへの憧憬だけでなく、いろんなことを乗り越えてもアメリカ人は前を向いて走り続けることができる国民なのだという「愛国心」(本書でこの作品の解説を担当している東敬一氏もこの言葉を用いているが)の裏返しのようなものが、作品の底にあるためであるように思いました(すごく自己肯定的だけど、所謂ナショナリズムとは少し違うんだよなあ)。

チャンス.jpg この作品を観て思い出すのは、ハル・アシュビー監督の「チャンス」('79年/米)で、知的障害がある庭師のチャンスが、余命いくばくも無い財界大物を夫に持つ美しい貴婦人が乗る高級車に轢かれ、屋敷に招かれることになったのをきっかけに、その言葉に実は深い意味があると周囲から勝手に解釈されて、世間の注目を集めテレビ出演までするようになり、国民的な人気を得ることになりますが、彼自身は全くそんなことには無頓着でいるというもの。この作品で、ピーター・セラーズ(1925-1980)が演じるチャンスは次期大統領候補にまでなる一方で、ラストはチャンスの死を暗示させて終わりますが、ピーター・セラーズ本人もこの映画の日本公開前に心臓発作で急逝、彼の遺作となった作品であるということでも知られています。

チャンス ラスト.jpg ジャージ・コジンスキーの脚本のベースになっているのはニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』であり、原題の"Being There"は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの未完の主著『存在と時間』からきているとのことで、「ただそこにある(もの)」という意味ですが、「チャンス」という主人公の名前を邦題にしてしまったため、「どんなハンディキャップがある人にもチャンスがある」という話と捉えられている向きがあるように思います。

 個人的には、そうした解釈でもいいと思うし、実際、「アメリカとはそういう(誰にでもチャンスのある)国だ」という意図のもとに作られた作品ととれなくもないですが、ちょっと違うような気がする。。。だからと言って、正しい解釈はこうだと言い切れるものが自分としてもイマイチ明確にないのですが。

Forrest Gump(1994).jpg 「フォレスト・ガンプ/一期一会」の「一期一会」は要らなかったように思いますが、内容的にはこちらの方がスンナリ受け止めることができました。「チャンス」は、コメディとしては秀逸であることは間違いないですが(シャーリー・マクレーン、メルヴィン・ダグラスなど一流の演技達者が"脇を固めている"というのがスゴイ)、原題通り「ビーイング・ゼア」としてくれた方がこの作品の象徴性について(自分も世間も)より深く考える契機になったような気がします。最近、かなり再評価されているようですが、当時としては、そんなタイトルでは観客受けしないと思われたのでしょうか。もともと、本国公開から日本公開までの間に1年以上もの間隔があった作品でした。

Forrest Gump(1994)[IMDbスコア 8.8]

サリー・フィールド(ミセス・ガンプ) 
フォレスト・ガンプes.jpgSally Field in FORREST GUMP.jpg「フォレスト・ガンプ/一期一会」●原題:FORREST GUMP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:ウェンディ・フィネルマン/スティーヴ・ティッシュ/スティーヴ・スターキー●脚本:エリッゲイリー・シニーズ Forrest_Gump.jpgク・ロス●撮影:アーサー・シュミット●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ウィンストン・グルーム●時間:142分●出演:トム・ハンクス/ロビン・ラフォレスト・ガンプ 一期一会 dvd.jpgイト/サリー・フィールドゲイリー・シニーズ/ミケルティ・ウィリアムソン/ハーレイ・ジョエル・オスメント/マイケル・コナー・ハンフリーズ/ハンナ・R・ホール●日本公開:1995/02●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(95-03-12)●配給:UIP(評価:★★★★)フォレスト・ガンプ 一期一会 ― スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]」(2001)
日劇1.jpg有楽町マリオン 阪急.jpg日本劇場 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側11階にオープン(1,008席)、2002年~「日劇1」(948席)、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(上写真:「日劇1」館内) 2018年2月4日閉館 (閉館時、都内最大席数の劇場だったが、閉館により「丸の内ピカデリー1」(802席)が都内最大席数に)
トム・ハンクス in「フォレスト・ガンプ 一期一会」('94年)/「アポロ13」('95年)
フォレスト・ガンプ  トム・ハンクス.jpg アポロ13 トム・ハンクスapollo13.jpg

BEING+THERE+1.jpgBillionaire Benjamin Rand (Melvyn Douglas) takes on Chance (Peter Sellers) as a trusted advisor.メルヴィン・ダグラス(億万長者ベンジャミン・ランド)アカデミー助演男優賞・ゴールデングローブ賞助演男優賞・ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞・ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞受賞

「チャンス」●原題:BEING THERE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ハル・アシュビー●製作:アンドチャンス_m.jpgリュー・ブラウンズバーグ●脚本:ジャチャンスes.jpgージ・コジンスキー●撮影:キャレブ・デシャネル●音楽:ジョニー・マンデル●原作:ジャージ・コジンスキー●時間:130分●出演:ピーター・セラーズ/シャーリー・マクレーン/メルヴィン・ダグラス/ジャック・ウォーデン/リチャード・ダイサート/リチャード・ベースハート/ルチャンス dvd.jpgス・アタウェイ/デイヴィッド・クレノン/フラン・ブリル●日本公開:1981/01●最初に観た旧丸の内ピカデリー  .jpg場所:有楽町・丸の内ピカデリー(81-02-09)●配給:松竹=富士映画配給(評価:★★★★)チャンス [DVD]」(2005)
丸の内松竹(初代).jpg旧・丸の内ピカデリー1・2 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手にオープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。 1984年10月1日閉館。1984年10月6日後継館「丸の内ピカデリー1・2」が有楽町センタービル(有楽町マリオン)西武側9階にオープン。
旧丸の内ピカデリー1・2/丸の内松竹 1984(昭和59年9月) Photo:「ぼくの近代建築コレクション
旧丸の内ピカデリー。.jpg

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