「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1081】マルコ・フェレーリ 「最後の晩餐」
「●ハーヴェイ・カイテル 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ
暴力と弱さの間で葛藤する人間。ハーベイ・カイテルが怪演。宗教的テーマか。

「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト 無修正 HDリマスター版」
1988年、ニューヨークのブロンクス。警部補LT(ハーヴェイ・カイテル)は今朝も車中から二人の息子を見送りながら、目覚めのコカインを吸う。今日最初の事件は被害者二名の殺人事件。現場を離れコーヒーを買いに行くと、駐車場泥棒を見かけるが無視。次の事件は薬物売人グループの追跡。LTは売人をアパートの上階に追い詰めるふりをして、別の事件で入手した薬物を与え、自分のために取っておいた薬物を吸う。売人は数日内に薬物を売却し、売上金の一部をLTに渡すことを約束する。その頃、修道女(フランキー・ソーン)が教会で二人の若い不良からレイプされる事件があり、犯人逮捕の賞金は5万ドルとされる。LTは病院で医師の診断を受ける修道女を覗き見るが、彼女は犯人を恨まないとし、事件により神のご加護を受ける機会を得たと語る。翌朝、LTはテレビでメッツvs.ドジャースのリーグチャンピオンシップシリ
ーズで、自分が賭けていたドジャースが負けたのを見てがっくりするが、次の試合で掛金を倍にして取り戻そうとする。メッツは最初三連敗し、彼はドジャースの勝利を確信していのだ。今度の掛金は持ち金以上の3万ドル。彼の薬物使用および飲酒はさらにひどくなり、行動は制御不能に。他の事件現場で薬物を見つけてスーツのポケットに隠す。しかし注意力減退により薬物を路上に落とし、同僚は訝るが、彼は証拠として提出するつもりだったと嘘をつく。彼は掛金をさらに倍の6万ドルにする。ノミ屋は忠告するが、LTはこれまで三連敗したチームが優勝したことはないと言う。彼の犯罪行為は悪化し、親の車でクラブに行こうとした若い女性二人を路肩停車させ、猥褻行為を強要する。メッツが勝ち、彼は掛金をさらに倍にしようするが、ノミ屋はLTが胴元から殺害される恐れがあるとし、12万ドルの掛金は自殺行為だとして拒否、LTは胴元に掛金を告げる。飲酒運転をしながら試合結果を聴
くが、ドジャースが負け、カーラジオを銃で撃つ。やがて、売人から売上金のうち3万ドルを回収する。彼は修道女がレイプされた教会へ行くと、彼女が祭壇の前で跪いて祈っていた。彼は、もし彼女が犯人が誰か知っているのであれば、代わりに彼らを殺すと言うが、彼女はもう忘れたと繰り返し、祭壇の前に跪く、LTを残して去り、、LTは精神的に不安定になる。彼は祭壇の十字架に貼られたキリストを見て涙しながら罵声を浴びせ、最終的に自分の弱さを懺悔して罪の許しを請う。キリストの足元に這っていき、血まみれの足にキスをして顔を上げると、それはキリストではなく聖杯を持った近所の黒人女性だった。彼女は、LTに、夫の質店に二人のレイプ犯が聖杯を質入れしたのだと語る。LTはレイプ犯二人を追跡して発見し、二人を手錠で繋ぐ。彼らに銃口を向けつつ、メッツが歴史的大逆転をし優勝するところをテレビで見ながら三人で次々とコカインを吸う。そして、彼らをバスターミナルに連れて行き、二度とニューヨークに戻ってくるなと語り、3万ドルが入ったシガーボックスを持たせてバスに乗せる。二人をバスで逃がした後、泣きながら車を走らせ、道路で止まると、別の車が横づけし「おい、警官」と声を掛け、雑踏の中に銃声が二発響く。LTの車の周りに人が群がっていく―。
アメリカ・インディーズ映画界の鬼才と言われるアベル・フェラーラの1992年公開作で、ニューヨークを舞台に、暴力と弱さのあいだで葛藤する人間と都市の暗部を描いた人間ドラマです。1992年のカンヌ国際映画祭で上映されるも、ショッキングな描写や内容から賛否を呼んだそうです。2024年に本邦でリバイバル上映されました。
「ルーテナント(Lieutenant)」=「副官」「補佐官」はここでは警部補の意味であり、「バッド・ルーテナント」は悪徳刑事ということですが、そえを絵に描いたような堕落した主人公LTを、「ピアノ・レッスン」(墺・ニュージーランド・仏)、「スモーク」('95年/米)のハーベイ・カイテルが怪演しており、特に素っ裸でラリっているシーンは強烈な印象を残しました。
しかしながら、内容的には哲学的とも言える問い掛けがあるものになっています。ハーベイ・カイテル演じる主人公が、酒とドラッグの日常に溺れながらも、最後に信仰らしきものを持つ(犯罪者に"赦し"を与える)のは、それなりに説得力があったように思います(主人公は、自分がカトリックであることを認めており、子供たちもカトリック系の学校 に通わせていた。ただし、今は信仰とは程遠い生活ぶりだった)。主人公は存在となる最後の信仰に辿り着いたことでキリスト者になり得たのか。でも、あっさり殺されてしまう。それが、彼の贖罪だったのか。
公式リーフレットによると、そもそもこの映画は1982年にスパニッシュ・ハーレムで起きた尼僧強姦事件と、その事件解決のために教会だけでなく一般市民からも懸賞金の寄付が募られ、犯人がすぐ捕まったという出来事からインスパイアされたもので、共にカトリック教徒であるアベル・フェラーラ監督と女優のゾーイ・ルンドの共同脚本です(実質彼女が脚本の殆どを書き、撮影現場でもリライトをしながら出演していたようだ)。
アベル・フェラーラ監督はその後仏教徒になったそうですが、それを聞くと、親鸞の「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」という言葉がこの映画から思い出されます。

一方のゾーイ・ルンドは、ミュージシャン、モデル、女優、作家、脚本家、政治活動家、プロデューサーと多彩な活動をしながらも、1999年にパリで麻薬中毒による心不全で37歳で死去しています。この映画でハーベイ・カイテルがラリっているシーンが強烈な印象を残すのは、脚本家にそうしたバックグラウンドがあったからというのもあるかもしれません。

「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」●原題:BAD LIEUTENANT●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:アベル・フェラーラ●製作:エドワード・R・プレスマン/マリー・ケイン●脚本:ジゾーイ・ルンド/アベル・フェラーラ●撮影:ケン・ケルシュ●音楽:ジョー・デリア●時間:96分●出演:ハーヴェイ・カイテル/ゾーイ・ルンド/フランキー・ソーン/ヴィクター・アルゴ/ポール・カルデロン/ レナード・トーマス/ロビン・バロウズ /ヴィクトリア・バステル●日本公開:1994/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:早稲田松竹(24-05-28)((評価:★★★☆)併映:「レザボア・ドッグス」(クエンティン・タランティーノ)
