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最初は「取り引き」の関係だったのが、途中から本当の恋愛関係になっていく。

「ピアノ・レッスン DVD HDリマスター版」ホリー・ハンター/ハーヴェイ・カイテル
1800年代半ば、主人公エイダ(ホリー・ハンター)は娘フローラ(アンナ・パキン)とピアノを伴い、スコットランドから未開の地ニュージーランドへ旅立った。現地では彼女の結婚相手スチュアート(サム・ニール)が迎えたが、彼は重いピアノを自宅へ運ぶことを拒み、ピアノを浜辺に置き去りにした。話すことができないエイダにとって、ピアノはかけがえのないものであり、エイダは娘を連れて何度も浜辺にピアノを弾きに訪れた。その姿とピアノに惹きつけられ
たベインズ(ハーヴェイ・カイテル)はピアノをスチュアートから自分の土地と交換して手に入れる。エイダに「黒鍵の数だけ自分にレッスンをしてくれたら、ピアノを返す」と約束す
る。初めはベインズを嫌ったエイダだったが、レッスンを重ねるごとに気持ちが傾く。2人の秘密のレッスンを知ったスチュアートはエイダにベインズと会うことを禁じる。彼女は鍵盤にメッセージを書き、フローラにベインズへ届けるように託すが、情事を覗き見していたフローラは、スチュアートに鍵盤を渡して密告。スチュアートは逆上し、エイダの人指し指を切り落とす。だが、彼女の瞳にベインズへの思慕を読み取り、ベインズに2人で島を去るがいいと言う―。


1993年に公開されたジェーン・カンピオン監督作で(原題:The Piano)、ジェーン・カンピオン監督のオリジナル脚本であり、ノベライズ版が新潮文庫にもあります(ノーベル文学賞作家のアリス・マンローに「ピアノ・レッスン」という短編があるが(原題:Dance of the Happy Shades(幸せな木陰たちのダンス?))、あれはまったくの別作品)。「ピアノ・レッスン」は個人的には90年代のレンタルビデオ全盛期にビデオで観て、ああ、これ劇場で観てもよかったかなと思った作品の1本でしたが、「TOHOシネマズシャンテ」で4K版でリバイバル上映されることになり、最近そうした昔の作品を劇場で4K版で観る機会がよくあるのはありがたいです。

ハーヴェイ・カイテル演じるマオリ族の男ベインズとホリー・ハンター演じる女エイダの関係は、最初は「取り引き」の関係であったのが、途中から本当の恋愛関係になっていく、その描き方が巧みです。果たしてエイダの行為は、純粋にピアノを取り戻すためだけのものだったのか。おそらく最初はそうだっただろうが...。今回観直してみて、エイダがベインズとの愛と官能の炎を燃え上がらせていく、そこに至るまでの過程を再確認するような感覚がありました。
女性監督として初、またニュージーランド出身の映画監督として初となる「カンヌ国際映画祭パルム・ドール」を受賞した作品で、米アカデミー賞でも主演女優賞(ジェーン・カンピオン)、助演女優賞(アンナ・パキン)などを受賞しています(因みに、「オーストラリア映画協会賞」では、作品賞、監督賞、主演女優賞、主演男優賞、撮影賞、衣装デザイン賞、編集賞、作曲賞、美術賞、脚本賞、音響賞の11部門を受賞)。
「アカデミー主演女優賞」のホリー・ハンターは(「カンヌ国際映画祭女優賞」「ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)」なども受賞)、エイダ役に惚れこんでジェーン・カンピオン監督に熱心に売り込み、当初シガニー・ウィーバーをイメージしていたカンピオン監督を翻意させ、エイダ役を得たとのこと。ピアノ演奏の重要なシーンは本人が演奏しています。
また、エイダの娘フローラを演じて「アカデミー助演女優賞」を受賞したアンナ・パキンは、当時11歳での受賞で、これは「ペーパー・ムーン」('73年)でのテータム・オニール(当時10歳)に次ぐ史上2番目の若さだとのことです。スチュアートが海岸に置き去りにしたピアノをエイダが弾き、フローラがバレイを踊るシーンは有名になりましたが、ニュージーランド北島の西海岸、ムリワイビーチ(カツオドリの群生地として有名)でロケされたそうです(ロジャー・ドナルドソン監督、アンソニー・ホプキンス主演の「世界最速のインディアン」('05年/ニュージーランド・米)もこのビーチをロケ地にしている)。
マオリ族の男ベインズを演じたハーヴェイ・カイテルは、ギャング役などのイメージがある俳優ですが、マーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」('76年)で売春宿のポン引き役を演じて注目され、フランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年)の主役ウィラード大尉役に抜擢されましたが、監督のフランシス・フォード・コッポラとの意見の相違と契約書の文面を巡って撮影開始わずか2週間後に降板(代役はマーティン・シーン)し、これが映画会社との間で「俳優の都合による契約違反」とされたためにハリウッドにおいて敬遠されるようになり、以後徐々に端役しか与えられなくなりました。そのため、活動の拠点をヨーロッパの映画に移し、リドリー・スコット監督らの作品に出演を重ねて復活のチャンスを地道に待ち(この頃もギャング役が多かったようだ)、同監督の「テルマ&ルイーズ」('91年)で義理人情に厚い刑事を演じて復活、同年公開の「バグジー」でアカデミー助演男優賞にノミネートされています。「ピアノ・レッスン」は完全復活を証明しただけでなく、演技の幅を見せた作品でもあったように思います。
19世紀の半ば、英国は開拓者として1万人以上の労働者をニュージーランドに送り込みましたが、その時代は入植者とマオリ族間で土地問題や人種差別問題で争いが絶えなかったようです。この作品にも入植者とマオリ族の諍いは描かれており、ヨーロッパ女性とマオリ男性との道ならぬ恋は、いといろな意味で話題となる背景だったのだろうと思われます。
因みに、マオリ族はタヒチ島周辺を父祖とするポリネシア系民族で「ハワイキ」(マオリ語で故郷)からカヌーで来たとの伝説があり「ハワイ」を含む単語が物語るように、ハワイ原住民と同民族になります(ポリネシアンは数千キロをカヌーで移動している)。一方、古代の木造住居や入れ墨、お歯黒などの習慣は日本との共通性もある民族です。
「ピアノ・レッスン」●原題:THE PIANO●制作年:1993年●制作国:オーストラリア/ニュージーランド/仏●監督・脚本:ジェーン・カンピオン●製作:ジェーン・チャップマン●撮影:スチュアート・ドライバーグ●音楽:マイケル・ナイマン●時間:121分●出演:ホリー・ハンター/ハーヴェイ・カイテル/サム・ニール/アンナ・パキン/ケリー・ウォーカー/ジュヌヴィエーヴ・レモン/トゥンギア・ベイカー/イアン・ミューン●日本公開:1994/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所(再見):TOHOシネマズシャンテ(24-04-08)((評価:★★★★)
