【3682】 ○ クリストファー・ノーラン 「オッペンハイマー」 (23年/米) (2024/03 ビターズ・エンド) ★★★★

「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●は行の外国映画の監督」【1094】ヒュー・ハドソン 「炎のランナー
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○映像の世紀バタフライエフェクト(「"マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」)

知らないよりは知るべき。米国の開発手法は今も変わらず。

オッペンハイマー 2023.jpgオッペンハイマー00.jpg 
オッペンハイマー [DVD]
オッペンハイマー01.jpg 第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加した J・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーは飲まれていく―。

オッペンハイマーノーラン.jpg クリストファー・ノーラン監督が〝原爆の父〟と称される天才物理学者の半生を描いた作品で、第二次世界大戦末期、広島、長崎に投下された原爆開発の舞台裏と天才科学者の葛藤を描き、 アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など7部門を制覇しています。米国では'23年7月21日公開でしたが、日本ではアカデミー賞発表後の'24年3月公開。米国と同時公開にすると、日本では原爆が投下された日に近くなってしまうため公開をずらしたとの見方もありますが、米国で製作された映画は北米公開から数か月遅れて公開されるのはよくあることとの指摘もあるようです(個人的には、前者が本当のところで、後者が弁明に思える)。

オッペンハイマー02.jpg 日本の原爆開発を背景に時代に翻弄された若者たちの姿を描いた作品「太陽の子」のテレビ版('20年/NHK)・映画版('21年/イオンエンターテイメント)を撮った黒崎博監督は、「批判的な意見もあるが、知らないよりは知るべきだ」としています。原爆開発における、ナチに先んじるという大義名分がナチの降伏で消えたにもかかわらず、開発を止められなかった、そこを避けずに描いていることを評価していました(「日本が降伏しないから」との説明も入れているが、"広島"で思い知らしめ、"長崎"で諦めさせる―という発想であったことも作品の中で示されている)。
 
 また、物理学者の野村泰紀氏は、米国の開発手法 今も変わらず、今は量子技術の分野で、同じような各国のせめぎ合いが繰り広げられていて、量子コンピュータを使った情報の改ざんや漏洩を防ぐ暗号の解読ができるようになれば、現在のセキュリティなどは無効になり、社会的な「死」が訪れると。オッペンハイマーに見られる開発者の苦悩はあるが、最後に決めるのは政治家だとしています(この映画でも、後半はほぼ政治劇と言っていいのでは)。

 この映画の評価すべきは、原爆開発を愛国心や正義感でもって単純に正当化していないことにあり、今の米国には、トランプ前大統領の政治的発言を支持し喝采を贈る人々が多くいる一方、それに対し警戒や反発を抱く人々もいて、米国内に愛国心に対する懐疑心が芽生えてきているのが、この作品がアカデミー賞などを獲った背景にあるとの見方もあるようです(ハリウッドは民主党支持者が多いようだ)。

 日本では、原爆が投下されたされた際の様子や被曝の惨状が描かれなかったことが批判の対象にもなっていますが、核兵器廃絶に向けて活動をする日本のNGOなどの人で、そのことを批判している人はほぼいなかったようです。個人的には、CGとか使って変に再現すると却っていろいろ言われたのではないかと思います。

オッペンハイマー03.jpg 因みに、NHK「映像の世紀バタフライエフェクト」の「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」('24年2月19日放送)は、原爆を開発した天才科学者オッペンハイマーの葛藤、水爆開発への反対、そして赤狩りによる公職追放という激動の人生を描いた回であり、映画「オッペンハイマー」への理解を深めることができるドキュメンタリーでした。この番組と映画を観て、映画についてやや不満に思ったのは、先にも述べたように映画の後半はほぼ政治劇なのですが、オッペンハイマーが当局の尋問を受けるのは、妻が共産主義者であり、また、彼が水爆開発に協力しなオッペンハイマー04.jpgいということだけが原因のように見えてしまうことです。それもありますが、聴聞会でスパイ容疑をかけられたのは、オッペンハイマーの下、原子爆弾の研究・開発に最年少の18歳で参加した(18歳でハーバード大学を卒業した)天才物理学者テッド・ホールのように、マンハッタン計画で米国の原子爆弾開発に貢献しながら、その傍らスパイとして核情報をソ連へ流出させていた人物が実際に複数いたためであり、そうした背景があまり説明的には描かれていなかったような気がしました(ただ、セオドア・ホールセオドアホール.jpgに関しては、1951年にFBIによる尋問を受けているが、その時は証拠不十分で告発されることはなかったため、原爆開発計画に関する情報のほとんどはクラウス・フックスやローゼンバーグ夫妻によって流出したと考えられてきた)。

セオドア・ホール

『オッペンハイマー』.jpg 因みに、オッペンハイマーに関しては、映画化に合わせて刊行された評伝『オッペンハイマー(上・中・下)』(カイ・バード&マーティン・J・シャーウィン、河邉俊彦訳、山崎詩郎監訳、ハヤカワ文庫)があり(2006年ピュリッツァー賞受賞作品『オッペンハ山崎詩郎.jpgイマーー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇(上・下)』('07年/PHPP研究所)の文庫化)、監訳者の山崎詩郎氏は、NHK・Eテレの「すイエんサー」や「天才てれびくん」などでもお馴染みの気鋭の若手物理学者です。

映画秘宝 2024年 03 月号.jpg「オッペンハイマー」●原題:OPPENHEIMER●制作年:2023年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クリストファー・ノーラン●製作:エマ・トーマス/チャールズ・ローヴェン/クリストファー・ノーラン●撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ●音楽:ルドウィグ・ゴランソン●原作:カイ・バード/マーティン・J・シャーウィン『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』●時間:180分●出演:キリアン・マーフィー/エミリー・ブラント/マット・デイモン/ロバート・ダウニー・Jr. /フローレンス・ピュー/ジョシュ・ハートネット/ケイシー・アフレック/ラミ・マレック/ジャック・クエイド/トム・ジェンキンス/トム・コンティ/ゲイリー・オールドマン/ケネス・ブラナー●日本公開:2024/03●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:TOHOシネマズ日比谷(IMAXレーザー)(24-04-08)((評価:★★★★)

映画秘宝 2024年3月号 [雑誌] 』(秘宝新社)

《読書MEMO》
●NHK 総合 2024/02/19「映像の世紀バタフライエフェクト#61―"マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」
オッペンハイマーマンハッタン計画.jpg
アメリカの原爆開発「マンハッタン計画」を指揮した天才科学者オッペンハイマーの生涯を描く。ニューヨークのユダヤ人家庭に生まれ、ハーバード大学を飛び級しながら首席で卒業、「原爆の父」と呼ばれるオッペンハイマーは、アメリカ国内で「戦争を終わらせた英雄」と称えられたが、自分自身は深い罪の意識に苦しんでいた。戦後は、一転してアメリカの水爆開発に異議を唱える。そして赤狩りの対象となり、公職から追放された。(語り:糸井羊司)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1