【673】 ○ ジョン・グリシャム (白石 朗:訳) 『法律事務所』 (1992/07 新潮社) ★★★★ (△ シドニー・ポラック 「ザ・ファーム/法律事務所」 (93年/米) (1993/07 UIP) ★★★/△ ジョエル・シュマッカー 「依頼人」 (94年/米) (1994/10 ワーナー・ブラザーズ) ★★★)

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ラストは、トム・クルーズの映画より原作の方がスカッとした。

法律事務所 - THE FIRM.jpg    法律事務所 上下.jpg  法律事務所2.jpg  ザ・ファーム / 法律事務所 1993.jpg
法律事務所』 単行本〔'92年〕/『法律事務所〈上〉〈下〉』 新潮文庫〔'94年〕/『法律事務所 (小学館文庫)』全1冊〔'03年〕/「ザ・ファーム 法律事務所 [DVD]」ジーン・ハックマン/トム・クルーズ
"The Firm"ペーパーバック(1992)
the firm john grisham.jpg 1991年発表のジョン・グリシャム(John Grisham)『法律事務所』(The Firm)は、アメリカの法律事務所を舞台にしたリーガル・サスペンスですが、ロー・ファームについてあまり知らなかったこともあり、興味深く読めました。
 アソシエイトとパートナーの違いとか付与される非金銭的報酬の種類、弁護士費用の計算方法と多分にリアリティのある水増し請求の方法、タックス・ヘイブンに持株会社を作る節税方法(主人公は言わば節税部門に配属されている)まで、具体的に書かれています。そして事件の核心となる事務所の裏稼業の実態が―。

 名門大学を優等で卒業した野心家が、そんな無名の事務所に招かれて、報酬だけに釣られて行くかなという気もしましたが、主人公は充分に裕福であると言えるような家庭の出身ではなく、しかも結婚して扶養家族がいるという設定なので、そうした条件下での"イソ弁"暮らしはどこの国も同じように結構キツイものなのかなと思いました。
 
 小説の前半の、ファーム内の"なんだか不自然な"人や出来事、雰囲気というのに引き込まれますし、パートナーになって金銭的報酬、非金銭的報酬の両面で充足し生活を拡げてしまったら、もう悪事から身を引けないというのは、人間心理としてはリアリティがありました。後半の、不正を暴こうとする主人公と追っ手たちとの知恵比べでもいいです。

「ザ・ファーム/法律事務所」.jpg この作品は「ザ・ファーム/法律事務所」('93年/米)としてシドニー・ポラック監督、トム・クルーズ主演で映画化され、グリシャム作品は『ペリカン文書』(The Pelican Brief '92年発表)、『依頼人』(The Client '93年発表)、そして処女作の『評決のとき』(A Time to Kill '89年発表)も映画になりました。

 シドニー・ポラック監督の「ザ・ファーム/法律事務所」('93年/米)について言えば、"知恵比べ"の妙味が薄まりアクション映画みたいになってしまったのもさることながら、原作では主人公が法を犯してでも組織への〈リベンジ〉と〈実利獲得〉の両方を果たすのに、映画では法を守る兄思いのいい子になってしまっています(映画の方がより大衆向けなので、違法行為を肯定するような表現はマズイのか?)。原作の方がスカッとする結末でした。
      
ペリカン文書1.jpg アラン・J・パクラ監督の「ペリカン文書」('93年/米)は、のジュリア・ロバーツ演じる法学部の学生とデンゼル・ワシントン演じるワシントン・ヘラルド紙の敏腕記者という取り合わせでありながら、今一つ、印象が弱かったような感じもしました(この作品はデンゼル・ワシントンの出世作の1つとなるが、以来、デンゼル・ワシントンが出てくると、もう予定調和が見えてしまうような...)。

 複雑な原作の中核の部分だけ取り出して、テンポ良く描こうとするやり方は、「大統領の陰謀」('76年/米)からのアラン・J・パクラ監督のスタイルで、スコット・トゥロー原作の「推定無罪」('90年/米)でも同じことをやり、この作品でもそうなのですが、そのことによって、リーガル・サスペンスの「サスペンス」の部分は生きるけれども「リーガル」の部分が弱くなってしまっているような気がし、そのことが、印象の弱さに繋がっているのかも(原作をしっかり読んだ人にはかなり不満足な映画では?)。

「依頼人」'94年1.jpg ジョエル・シュマッカー監督の「依頼人」('94年/米)の方は、スーザン・サランドンが夫の裏切りにより家族を失うという傷を抱えた中年女性弁護士役で、自分が1ドルで依頼人を引き受けた子供を守るため、トミー・リー・ジョーンズ演じる野心家の検事ロイ・フォルトリッグと対決するもので、女性弁護士のアルコール中毒からの再起という点では、バリー・リード原作でポール・ニューマンが同じくアル中からの復活を遂げる弁護士を演じた「評決」('92年/米)とダブりました(アル中弁護士が男性から女性になっているところが時代の変化か)。

 これも、2時間に収めるために原作を相当改変していますが、芸達者スーザン・サランドンの演技が効いていて、ジョン・グリシャムもこの映画の出来に大いに満足したらしく、「評決のとき」('96年/米)もジョエル・シュマッカーに撮らせています。

 スーザン・サランドンはこの作品で、アカデミー主演女優賞にノミネートされ、但し、受賞は翌年の「デッドマン・ウォーキング」まで持ち越し。この作品でアカデミー賞を獲っていたら、「評決」のポール・ニューマンがなぜ獲れなかったのかという話になってしまうからではないかと思うのは穿ち過ぎた見方かなあ。


The Firm.jpgザ・ファーム/法律事務所.jpg「ザ・ファーム/法律事務所」4.jpg「ザ・ファーム/法律事務所」●原題:THE FIRM●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●製作:シドニー・ポラック/ジョン・デイヴィス/スコット・ルーディン●脚本:デヴィッド・レイフィール/ロバート・タウン●撮影:ジョン・シール●音楽:デーブ・グルーシン●原作: ジョン・グリシャム 「法律事務所」●時間:155分●出演:トム・クルーズ/ジーン・ハックマン/エド・ハリス/ジーン・トリプルホーン/ジョン・ビール/ウィルフォード・ブリム丸の内ピカデリー1・2.jpg丸の内ピカデリー     .jpgリー/ゲイリー・ビジー/ジェリー・ハーディン/エド・ハリス/ホル・ブルック/ホリー・ハンター/テリー・キニー/デイヴィッド・ストラザーン●日本公開:1993/07●配給:UIP(ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ)●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(93-09-12) (評価★★★)
丸の内ピカデリー1・2 1984年10月6日「有楽町マリオン」西武(現ルミネ)側9階にオープン(1957年オープン、1984年閉館の旧「丸の内ピカデリー」の後継館) 

丸の内ピカデリー1・2(2019.10.7撮影)「丸の内ピカデリー1」(席数802)は、2014年12月の「新宿ミラノ1」(1,064席)閉館、2018年2月の「TOHOシネマズ日劇(スクリーン1)」(948席)閉館により、2019年時点で単一のスクリーンとしては国内最多の座席数を持つ映画館となった(その後、623席に)。
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2021年11月26日リニューアルオープン(623席)
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ペリカン文書 dvd.jpg「ペリカン文書」●原題:THE PELICAN BRIEF●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督・脚本:アラン・J・パクラ●製作:ピーター・ヤン・ブルッジ/アラン・J・パクラ●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作: ジョン・グリシャム●時間:141分●出演:ジュリア・ロバーツ,/デンゼル・ワシントン/サム・シェパード/ジョン・ハード/トニー・ゴールドウィン●日本公開:1994/04●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価★★☆)
ペリカン文書 [DVD]


「依頼人」'94年 dvd.jpg「依頼人」●原題:THE CLIENT●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・シュマッカー●製作:アーノン・ミルチャン/スティーヴン・ルーサー●脚本:アキヴァ・ゴールズマン/ロバート・ゲッチェル●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:ハワード・ショア●原作: ジョン・グリシャム●時間:119分●出演:スーザン・サランドン/トミー・リー・ジョーンズ/ブラッド・レンフロ/メアリー・ルイーズ・パーカー●日本公開:1994/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価★★★)
ザ・クライアント 依頼人 [DVD]

 【1994年文庫化[新潮文庫(上・下)]/2003年再文庫化[小学館文庫(全1巻)]】

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シドニー・ポラック(米映画監督)2008年5月26日、癌のため米ロサンゼルス郊外の自宅で死去(73歳)

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