【672】 ○ トム・クランシー (井坂 清:訳) 『レッド・オクトーバーを追え (上・下)』 (1985/12 文春文庫) ★★★★ (△ ジョン・マクティアナン 「レッド・オクトーバーを追え!」 (90年/米) (1990/07 UIP) ★★★)

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映画では割愛されてしまった素晴らしい"潜水艦"トリック。

レッド・オクトーバーを追え 上.jpg レッド・オクトーバーを追え下.jpg レッド・オクトーバーを追え!2.jpg レッド・オクトーバーを追え!.jpg Tom Clancy.jpg Tom Clancy
レッド・オクトーバーを追え (上) (文春文庫)』『レッド・オクトーバーを追え (下) (文春文庫)』〔'85年〕映画「レッド・オクトーバーを追え!」

THE HUNT FOR RED OCTOBER0.jpgTHE HUNT FOR RED OCTOBER1.jpg 1984年に発表されたトム・クランシー(Tom Clancy)のデビュー作で、'90年の映画化作品でも御馴染みですが、スケールの大きい海洋軍事小説であり、また、米ソ冷戦の軍事的背景や、原潜レッド・オクトーバー号のラミウス艦長を初めとする人物の描写などがしっかりしているのではないかと思います。

 しかし何よりもリアリティに寄与しているのが、潜水艦を初めとする軍事兵器に関する詳細な専門的記述で、何だかメルヴィルの『白鯨』とちょっと似ているかもしれないという気になりました(『白鯨』も捕鯨に関する百科事典的ウンチクが矢鱈スゴく、「世界一退屈な小説」とも言われている)。             

 トム・クランシーは保険代理業をやっていた人で、何でそんな一介の保険セールスマンがここまで書けるのか、不思議な気もします(アメリカ海軍については、リクルーティング目的でかなりの情報をサイト等で公開しているし、一般にもマニアが多くいるようですが...)。仕事をしながらおおよそ9年の歳月をかけて書き上げたそうですが、単なるオタクの領域を超えています。正直、『白鯨』のときと同じく、いささか食傷しました。でも、それを"乗り越えて"至る結末は、満足のいくものでした。

 映画化作品(監督は「ダイ・ハード」('88年/米)のジョン・マクティアナン)の方は、原作と細部において異なり、軍事や兵器に詳しい人たちの間で326103.jpgは、どっちがいいとかどっちがおかしいとか議論があるみたいです。映画での海中シーンの殆どは、水中での撮影ではなく、スモークを焚いて撮ってるとのこと、海中をいく潜水艦の感じをうまく出していたし、音響にもシズル感がありました。ショーン・コネリーら役者陣の演技もいいと思いました。

Sean Connery as Captain Ramius inside the Red October

 ところが、原作で最も感心させられた、囮の潜水艦を使ってソ連側の乗組員を錯覚させるという巧妙かつ大掛かりなトリックが、映画ではスッポリ抜け落ちていて、最後にガックリきたというか、唖然としました。映画だけ観ればまあまあだったのかもしれませんが、原作を読んだ上でだと、原作の白眉とも言える一番のアイデアが生かされていないというのは、やはりいかがなものかと。THE HUNT FOR RED OCTOBER movie.jpg従って、この映画に対する個人的評価はあまり高くはないのですが、スモークで本当に海の中のように見せる技術的な工夫だけは評価できます。

「レッド・オクトーバーを追え!」●原題:THE HUNT FOR RED OCTOBER●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●音楽:バジル・ポールドゥリス●原作:トム・クランシー 「レッド・オクトーバーを追え」●時間:135分●出演:ショーン・コネリー/アレック・ボールドウィン/スコット・グレン/ジェームズ・アール・ジョーンズ/ティム・カリー/コートニー・B・ヴァンス/ステラン・スカルスガルド/ジェフリー・ジョーンズ/リチャード・ジョーダン/ジョス・アックランド/ゲイツ・マクファーデン/トマス・アラナ/ティモシー・カーハート●日本公開:1990/07●配給:UIP (評価★★★)

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トム・クランシー 2013年10月1日、ボルティモアの病院で死去。66歳。

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