【1458】 ○ ジョン・グリシャム (白石 朗:訳) 『陪審評決 (1997/10 新潮社) ★★★★ (○ ゲイリー・フレダー (原作:ジョン・グリシャム) 「ニューオーリンズ・トライアル」 (03年/米) (2004/01 東宝東和) ★★★☆)

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一気に読ませるエンタテインメント性と、陪審制度の脆弱性批判を兼ね添えた佳作。

陪審評決 単行本.jpg 陪審評決 文庫 上.jpg 陪審評決 文庫下.jpg  ニューオーリンズ・トライアル dvd.jpg ジ―ン・ハックマン.jpg
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The Runaway Jury.jpg 夫が肺癌で死んだのは、長年の喫煙が原因だとして、タバコ会社を相手どって未亡人が訴訟を起すが、結果次第では同様の訴訟が続発する可能性もあり、原告・被告双方の陪審コンサルタントによる各陪審員へのアプローチが開始される。そうした中、選任手続きを巧みにすり抜け、陪審団に入り込んだ青年がいた―

 1996年発表のジョン・グリシャムのリーガル・サスペンスで、この"陪審団に入り込んだ青年"の意図はある程度読み進む内に明らかになりますが、いかにもエンタテイナーの作者らしい設定―但し、現実にこうしたことがあるかと言うとやや疑問で、ただ可能性として、やろうと思えば出来なくもないという意味での、陪審制度の脆弱性の批判になっているように思えました。

 但し、陪審制度への批判の眼目はむしろ、陪審員の選任に関与する陪審コンサルタントの暗躍に対して向けられているように思われ、こちらもかなりサスペンスフルな味付けはされていますが、実際問題として、大企業が陪審コンサルを雇って企業訴訟を有利に導いたり(タバコが肺癌の原因になったという製造物責任訴訟では、タバコ会社側が多額の裁判費用をつぎ込んで敗訴を免れているとの批判が米国法曹界にある)、或いはO・J・シンプソン裁判ではないですが、資力のある被告が自らに同情的な考えを持つであろうと思われる陪審員を揃えることがあったりするようです(シンプソン事件の刑事裁判では"ドリームチーム"と呼ばれた弁護団が結成され、陪審員12人のうち9人が黒人だった)。

 振り返ってわが国の裁判員制度を見れば、裁判員の除外要件は限定列挙的にあるものの、最終的にどういった人を適任としてスクリーニングしているのかよく分からず、なぜ裁判の当事者や一般の国民がそのあたりを突っ込まないのか不思議な気もします(陪審コンサルが暗躍するよりはいいと思うが)。

 結末が『法律事務所』(映画ではなく原作の方)とやや似てはいますが、グリシャムらしい一気に読ませるエンタテインメント性と、制度の脆弱性批判を兼ね添えた佳作だと思います。

 グリシャム作品は、デビュー作の『評決のとき(A Time to Kill)』 ('89年発表) から『ザ・ファーム/法律事務所(The Firm)』 ('91年発表)、『ペリカン文書 (The Pelican Brief)』('92年発表)、『依頼人(The Client)』 ('93年発表)あたりまでは、原題・邦題と映画化作品の原題・邦題がほぼ同じですが、『処刑室(The Chamber)』 ('94年発表) や『原告側弁護人(The Rainmaker)』 ('95年発表)は、映画化作品の邦題は小説の原題をそのまま使用しており、この『陪審評決(The Runaway Jury)』は、映画化作品の原題が"The Runaway Jury"と小説の原題通りであるのに対し、邦題は「ニューオーリンズ・トライアル」となっています。

ニューオーリンズ・トライアル(はっくまん).bmp トライアルは日本における刑事事件の公判に近いものですが、米国では刑事事件・民事事件共通の手続きであり、陪審トライアルだけでなく、陪審無しの裁判官によるトライアルもあり、そもそも刑事・民事ともそこに進む前に司法取引がなされたり和解が成立したりすることが多いため、トライアルにまでいく裁判は少ないとのこと―従って、陪審制(陪審トライアル)の下で行われる事件は実は全体のほんの一部に限られているということですが、映画邦題にこの言葉を選んだのは、リーガル・サスペンスの邦訳タイトルに似たものが多く、とは言え、原題の"The Runaway Jury"(「暴走した陪審員」と「楽勝の陪審員」の二重の意味?)を邦題にしても、日本人にはぴんと来にくいためでしょうか(映画が公開された時、原作がグリシャムとは気付かなかった自分としては「陪審評決」のままでも良かったと思う。「トライアル」でもぴんと来にくいことには変わりない)。

ニューオーリンズ・トライアル(ホフマン).bmp 映画化作品は(タバコ訴訟ではなく、銃乱射事件の被害者が銃器製造会社を訴えるという設定に改変されている)、陪審員に潜り込んだ男にジョン・キューザック、陪審コンサルにジーン・ハックマン、正義を貫こうとする原告側弁護士にダスティン・ホフマンという取り合わせで、映レイチェル・ワイズ ニューオーリンズ・トライアル.jpg画だと三者の細かい遣り取りはどうしても端折りがちにならざるを得ず、むしろ陪審員のプロファイリングに際してFBI顔負けのハイテク機器をも駆使するジーン・ハックマンのやり手ぶりが強調されていたように思います。

評決の値段を"交渉"する2人。ジーン・ハックマンとレイチェル・ワイズ
     
ニューオーリンズ・トライアル(トイレシーン).bmp ダスティン・ホフマンはやや脇に回った感がありますが、ジーン・ハックマンとはお互いの無名時代に、ホフマン夫妻がハックマン夫妻のアパートに転がり込み居候していた時期があったという古い友人同士で、この作品が初共演。一旦クランクアップした後に、そのことに思い当たったゲイリー・フレダー監督が2人を再度召喚し、裁判所のトイレで2人が本音でやり合うシーンを撮ったとのことですが、2人がサシで言葉を交わすのはこの場面しかなく、迫力ある2人の衝突はまさに"共演"と言うより"競演"、レイチェル・ワイズ、ジョアンナ・ゴーイングといった個性派美女も出演している作品ですが、やはりこの二大俳優の激突シーンの迫力が一番印象に残りました(この場面、原作には無いわけだが)。

レイチェル・ワイズ/ジョアンナ・ゴーイング
レイチェル・ワイズ.jpgジョアンナ・ゴーイング.jpg「ニューオーリンズ・トライアル」●原題:THE RUNAWAY JURY●制作年:2003年●制作国:アメリカ●監督:ゲイリー・フレダー●製作:ゲイリー・フレダー/クリストファー・マンキウィッツ/アーノン・ミルチャン/スティーヴン・ブラウン●脚本:ブライアン・コッペルマン/デヴィッド・レヴィーン/マシュー・チャップマン/リック・クリーヴランド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:クリストファー・ヤング●原作:ジョン・グリシャム「陪審評決」●時間:128分●出演:ジョン・キューザック/ジーン・ハックマン/ダスティン・ホフマン/レイチェル・ワイズ/ブルース・デイヴィソン/ジェレミー・ピヴェン/ブルース・マッギル/ジョアンナ・ゴーイング/ヘンリー・ジャンクル/ニック・サーシー/セリア・ウェストン/ディラン・マクダーモット●日本公開:2004/01●配給:東宝東和)(評価:★★★☆)

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