【3674】 ○ アキ・カウリスマキ 「浮き雲」 (96年/フィンランド) (1997/07 ユーロスペース) ★★★★

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「ヘルシンキ3部作」第1作。会話がすべてではないところに夫婦のリアルを感じ、一方で、寓話的でもあった。
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【映画チラシ】浮き雲 アキ・カウリスマキ カティ・オウティネン」 カリ・ヴァーナネン
カティ・オウティネン/サカリ・クオスマネン
浮き雲01.jpg浮き雲012」.jpg 伝統的スタイルのレストラン"ドゥブロヴニク"で給仕長を務めるイロナ(カティ・オウティネン)は、市電の運転士である夫ラウリ(カリ・ヴァーナネン)とつましく幸せに暮らしていた。しかし不況の影響でラウリは整理解雇、"ドゥブロヴニク"も大手チェーンに買収されイロナたち従業員は失職してしまう。働き盛りを過ぎた中年の夫婦は職探しに苦労する。イロナは場末の安食堂のコック兼給仕の仕事に就くが、税務調査のゴタゴタで給料がうやむやに。妻の給料を食堂経営者に請求しに行ったラウリは浮き雲02.jpg、袋叩きにされ港に放り出される。安宿でしばらく静養したラウリが帰宅すると、家財は差し押さえられており、イロナはラウリの妹のもとに身を寄せていた。イロナの元同僚で"ドゥブロヴニク"のドアマンだったメラルティン(サカリ・クオスマネン)の紹介で仕事にありついたラウリは、彼にレストランの開業を提案される。夫婦は決意して事業計画を立てるが、資金を借してくれる銀行がない。ラウリはクルマを売った金をカジノで増やそうとするが浮き雲03.jpg、全額スッてしまう。途方に暮れるイロナだったが、求職に訪れた美容院で偶然、"ドゥブロヴニク"の元経営者スヨホルム夫人(エリナ・サロ)と再会する。引退して生きがいを失っていた夫人は、イロナの計画を聞いて出資を申し出る。ラウリとメラルティンは、"ドゥブロヴニク"の元シェフでアルコール依存症のラユネン(マルク・ペルトラ)を探し出し、治療施設に送り込んで更生させる。"ドゥブロヴニク"の元従業員たちが揃い、イロナとラウリのレストラン"ワーク"が開店した。ランチタイムになっても客が入らず不安になるが―。

 1996年公開の、アキ・カウリスマキ監督の「ヘルシンキ3部作」(社会の底辺で生きる「敗者」たちの姿を独特のユーモアと哀愁を交えて描いた作品群で、「敗者3部作」とも呼ばれている)の第1作。

 妻が勤めるのはなかなかいい感じのレストランでしたが、いきなりリストラをし、加えて夫も失業。失業補償なんていらない!と、夫は積極的に運転関連の職を探し、長距離バス運転士に内定するが健康診断で不適とされ運転資格まで失い、妻はレストランを回るも、「38歳は高年齢」と前職経験も評価されない―というように失業による不幸が怒涛のように主人公の夫婦を襲ってきますが、それでいてこの夫婦、どこかユーモラスで間の抜けたところがあり、クスリと笑ってしまう場面もあるのはこの監督ならではでしょうか。

こんな映画が、.jpg この作品、漫画家の吉野朔美(1950-2016/57歳没)の『こんな映画が、―吉野朔実のシネマガイド』('01年/PARCO)にも取り上げれていましたが、吉野朔美氏は、この監督は「間」を作るのが上手い人で、「......」の部分ばかりで出来上がっていてセリフが極めて少ないのが特徴であると。ナルホド(そう言えば、「孤高のグルメ」の俳優・松重豊がアキ・カウリスマキ監督の作品が大好きだという)。

 妻の給料がうやむやになったことに怒り、食堂経営者の所に行き、逆にぼこぼこににされて血だらけの顔を妻にみせられず何日も家に帰らない夫。帰ってこないことに怒った妻は家を出ていってしまいます。事情を説明してもなかなか許さない妻。でも、一緒に家に帰ったということは、許したということでしょう(吉野朔美氏によれば、妻は夫が帰らなかったことは許していないが、夫の怒りには感謝しているのだと)。会話がすべてではないところに夫婦のリアルを感じます。

浮き雲04.jpg 一方で、元経営者に偶然出会い、彼女が引退して生きがいを失い、金の使い道を持て余していた(いつの間に蓄財した? 店を売却した金か)というのはややご都合主義とみる向きもあるかもしれません。この部分は寓話的と言うか、大人のメルヘンのようにも感じました。監督インタビューによると、結末はハッピーエンドにするしかなかったが、本当は結末をもっと非情なものにしたいと思っていたので、自身でも納得がいかないという気持ちもあったとのことです(これに対し、前作「マッチ工場の少女」('90年)は悲劇的、非情な終り方で突っ切ったと言える)。

浮き雲05.jpg ラスㇳ、店を開店しランチタイムになっても客が入らず不安がる夫婦ですが、しばらくすると1人入り2人入り、やがて満員となった上、ディナーの団体予約まで入る―。喜びを噛みしめて店の前で一服し、空を見上げる夫婦の表情がいいです。吉野朔美氏は、「見終わった時、少し上向きな気分になっている気持ちの良い映画です。こうゆうのは作ろうと思ってもなかなかできない」と。何気ない小さなエピソードの積み重ねなのだなあ。吉野朔美はこの監督の上手さをよく見ていたと改めて思いました。偶然も重要だが、その機会を掴める心構え・準備が必要であるということ。『その幸運は偶然ではないんです!』のJ・D・クランボルツの「プランドハプンスタンス理論」を想起させる作品でもありました。

愛しのタチアナ浮き雲 HD.jpg真夜中の虹 浮き雲dvd.jpg「浮き雲」●原題:KAUAS PILVET KARKAAVAT(英語:DRIFTING CLOUDS)●制作年:1996年●制作国:フィンランド●監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ●撮影・音楽:ティモ・サルミネン●時間:98分●出演:カティ・オウティネン/カリ・ヴァーナネン/エリナ・サロ/サカリ・クオスマネン/マルク・ペルトラ/マッティ・オンニスマー/ピエタリ(犬)●日本公開:1997/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-12-07)(評価:★★★★)

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《読書MEMO》
■監督のインタビューからの抜粋
「わたしが「浮き雲」を作ろうとしていたとき、フィンランドでは失業率が22%にも達し、友人たちも破産の憂き目にあっていました。それほどたくさんの人たちが仕事を失い、 国中が絶望に覆われている状況のなかで、わたしはこの問題を見つめる映画を作りたいと思ったのです。結末については、ハッピーエンドにするしかありませんでした。 これはわたしが作った唯一のソーシャル・セラピー的な映画です。ただ本当は結末をもっと非情なものにしたいと思っていたので、納得がいかないという気持ちもありますが...」

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