【1994】 ◎ ジェフリー・ディーヴァー (飛田野裕子 :訳) 『静寂の叫び (1997/06 ハヤカワ・ノヴェルズ) ★★★★☆

「●て ジェフリー・ディーヴァー」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1383】 ジェフリー・ディーヴァー 『ボーン・コレクター
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●ハヤカワ・ノヴェルズ」の インデックッスへ(『静寂の叫び』)

『ボーン・コレクター』に匹敵するか、心理描写の部分ではそれ以上。結局これが一番の傑作。

『静寂の叫び』hn.jpg『静寂の叫び』.jpg 『静寂の叫び』上.jpg『静寂の叫び』下.jpg 『静寂の叫び』文庫.jpg
静寂の叫び (Hayakawa novels)』『静寂の叫び〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『静寂の叫び〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 
『静寂の叫び』新.jpg カンザス州で聾学校の生徒と教員を乗せたスクールバスを3人の脱獄囚が乗っ取り、閉鎖された食肉加工場に生徒たちを監禁して立て籠もるという事件が発生、FBI危機管理チームのアーサー・ポターは犯人側との人質解放交渉に臨むが、聡明な女生徒が凶弾に倒れ犠牲となる。一方、工場内では教育実習生のメラニーが生徒たちを救うために独力で反撃に出るが―。

A Maiden's Grave.jpg 1995年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:A Maiden's Grave(乙女の墓))、『ボーン・コレクター』('97年)の一つ前の作品ということになりますが、この作品でコアなミステリ・ファンの間でディーヴァーの名が認知されるようになったとのことです(「このミステリーがすごい!」第5位、「週刊文春ミステリーベスト10」第8位)。そして『ボーン・コレクター』で一気に世界的メジャーのサスペンス作家になったわけですが、この作品も『ボーン・コレクター』に匹敵するぐらいの力作で、むしろある部分では超えているくらいの出来ではなかったかと思います。

 『ボーン・コレクター』ほどの人気でないのは、主人公の交渉人ポターが妻を亡くした寡男で腹の出た中年で、しかも人質交渉において必ずしも完璧ではなく、一時は相手に完全に裏をかかれてしまうなど、ハリウッド映画的ヒーローの基準からやや外れているからでしょうか。ジェフリー・ディーヴァーの『ボーン・コレクター』以降の作品は、映画的ヒーロー及び犯人、映画的展開をかなり意識しているように思います。

 最初の方で聡明な女生徒が犠牲になってしまうというのも、ハッピーエンドを望む読者には沿わないものだったかもしれません。こうした人質交渉において人質の生命の安全を第一に考える日本の警察の絶対価値基準に対し、向こうは人質をテロリストであると見做し、彼らに絶対に屈服することなく、"最小限の犠牲のもと"事件を解決することが第一優先のようです。この違いを受け容れたうえで読めば、或いは受け容れられないまでも日米の考え方の違いを念頭に置いて読めば、この作品に対する興味は深まるのではないでしょうか。

 個人的には、交渉の詳細な過程や犯人・人質・交渉人の心理の描写、FBI・州警察の現場での主導権争い等々、十分に堪能できました。『ボーン・コレクター』のような"ジェット・コースター"的展開が好みの読者にはこのあたりが冗長感をもって受け止められるのかもしれませんが、こうした交渉人と犯人の心理戦を克明に描いた作品も悪くないと思いました。面白さや緊迫感という点では、この作者の作品の中で一番かも。

デッドサイレンス.jpg 但し、残酷な場面も多く、映画化はされにくい作品との印象を持っていましたが、ダニエル・ペトリー・ジュニア監督、ジェームズ・ガーナー、マーリー・マトリン(「愛は静けさの中に」('86年)でアカデミー主演女優賞受賞。彼女自身、難聴者)主演でテレビ映画「デッドサイレンス(Dead Silence)」('96年製作、1997年放映/米)として映像化されています(日本では劇場公開されたようだが、前半部分で少女が射殺される場面や、後半部分で中年の女教師がレイプされる場面などは改変されているのではないか)。

 因みに、原題の"A Maiden's Grave"(乙女の墓)は、メラニーが8歳の頃、コンサートで聴いた曲のタイトルを兄に訊ねたところ、兄が「アメイジング・グレイス」だと答えたのを「ア・メイデンズ・グレイヴ」と聞き間違えた―つまり、その頃から聴力が急激に落ち始めていた―エピソードに由来していますが、人質交渉の冒頭で殺害されてしまった少女に懸けているのではないでしょうか。
 
【2000年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(上・下)]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1