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後の怪物のイメージとかなり違う話。終盤、加速的に面白くなる。
『フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)』『フランケンシュタイン(新潮文庫)』『新訳 フランケンシュタイン (角川文庫)』「幻の城/バイロンとシェリー」ヒュー・グラント
小説は、イギリス人の北極探検隊の隊長ロバート・ウォルトンが姉マーガレットに向けて書いた手紙という形式になっている。ウォルトンはロシアのアルハンゲリスクから北極点に向かう途中、北極海で衰弱した男性を見つけ、彼を助ける。彼こそがヴィクター・フランケンシュタインであり、彼がウォルトンに自らの体験を語り始める枠物語である。
スイスの名家出身でナポリ生まれの青年フランケンシュタインは、父母と弟ウィリアムとジュネーヴに住む。父母はイタリア旅行中に貧しい家で養女のエリザベスを見て自分たちの養女にし、ヴィクターたちと一緒に育てる。科学者を志し、故郷を離れてドイツ・バイエルンの名門のインゴルシュタット大学で自然科学を学んでいた。だが、ある時を境にフランケンシュタインは、生命の謎を解き明かし自在に操ろうという野心にとりつかれる。そして、狂気すらはらんだ研究の末、「理想の人間」の設計図を完成させ、それが神に背く行為であると自覚しながらも計画を実行に移す。自ら墓を暴き人間の死体を手に入れ、それをつなぎ合わせることで11月のわびしい夜に怪物の創造に成功した。
誕生した怪物は、優れた体力と人間の心、そして知性を持ち合わせていたが、細部までには再生できておらずに、筆舌に尽くしがたいほど容貌が醜いものとなった。そのあまりのおぞましさにフランケンシュタインは絶望し、怪物を残したまま故郷のジュネーヴへと逃亡する。しかし、怪物は強靭な肉体のために生き延び、野山を越え、途中「神の業(Godlike science)」 である言語も習得して雄弁になる。やがて遠く離れたフランケンシュタインの元へたどり着くが、自分の醜さゆえ人間たちからは忌み嫌われ迫害されたので、ついに弟のウィリアムを怪物が殺し、その殺人犯として家政婦のジュスティーヌも絞首刑になる。
孤独のなか自己の存在に悩む怪物は、フランケンシュタインに対して、自分の伴侶となり得る異性の怪物を一人造るように要求する。怪物はこの願いを叶えてくれれば二度と人前に現れないと約束する。フランケンシュタインはストラスブルクやマインツを経て、友人のクラ―ヴァルに付き添われてイギリスを旅行し、ロンドンを経てスコットランドのオークニー諸島の人里離れた小屋で、もうひとりの人造人間を作る機器を備えて作り出す作業に取りかかる。
しかし、さらなる怪物の増加を恐れたフランケンシュタインはもう一人作るのを辞めて、怪物の要求を拒否し(フランケンシュタイン・コンプレックス)、機器を海へ投げ出す。怪物は同伴者の友人クラーヴァルを殺し、海からアイルランド人の村に漂着したフランケンシュタインはその殺人犯と間違われて、牢獄に入れられる。
この殺人罪が晴れて、彼は故郷のジュネーヴに戻り、父の配慮で養女として一緒に育てられたエリザベスと結婚するが、その夜、怪物が現れて彼女は殺される。創造主たる人間に絶望した怪物は、復讐のためフランケンシュタインの友人や妻を次々と殺害したことになる。憎悪に駆られるフランケンシュタインは怪物を追跡し、北極海まで到達するが行く手を阻まれ、そこでウォルトンの船に拾われたのだった。
全てを語り終えたフランケンシュタインは、怪物を殺すようにとウォルトンに頼み、船上で息を引き取る。また、ウォルトンは船員たちの安全を考慮し、北極点到達を諦め、帰路につく。そして、創造主から名も与えられなかった怪物は、創造主の遺体の前に現れ、フランケンシュタインの死を嘆く。そこに現れたウォルトンに自分の心情を語った後、北極点で自らを焼いて死ぬために北極海へと消える。怪物のその後は誰も知らない―。(Wikipediaより)
イギリスの詩人パーシー・ビッシュ・シェリーの夫人メアリー・シェリー(1797-1851)原作の『フランケンシュタイン』(1816年頃に執筆開始、1818年3月に匿名で出版した)は、文学史上でも最もよく知られた作品でありながら、原作は殆ど読まれていないということでも有名な作品ですが、以上見てきたように、「フランケンシュタイン」は怪物(クリーチャー)の名前ではなく、怪物を生み出した人物の名前です(怪物には名がない)。
『フランケンシュタイン』の文庫で主なものは以下の通り。
森下 弓子:訳『フランケンシュタイン』 (1984 創元推理文庫)
山本 政喜:訳『フランケンシュタイン』 (1994 角川文庫)
小林 章夫:訳『フランケンシュタイン』 (2010 光文社古典新訳文庫)
芹澤 恵:訳 『フランケンシュタイン』 (2014 新潮文庫)
田内 志文:訳『新訳 フランケンシュタイン』(2015 角川文庫)
このうち何冊か当たりましたが、光文社古典新訳文庫(小林章夫:訳)が読み易そうだったので、それで読みました。新潮文庫版なども同様ですが、作者メアリーと夫シェリーの序文があり、本書が書かれた経緯がわかります。
1816年5月、メアリーは後に夫となるシェリーと駆け落ちし、バイロンやその専属医のジョン・ポリドリらと、スイス・ジュネーヴ近郊のレマン湖畔にあるディオダティ荘に滞在していて、長く降り続く雨のため屋内に閉じこめられていた折、バイロンが「皆でひとつずつ怪奇譚を書こうと提案したのが、この物語の誕生のきっかけであることは、後に取り上げる映画「幻の城/バイロンとシェリー」('88年/スペイン)でも描かれています。
小説の枠組みは〈三重構造〉になっていて、ウォルトン隊長が姉に宛てた手紙が最も外側の円を成し、その中にフランケンシュタインの回想が組み込まれ、さらにその内側に怪物の告白があるというもので、冒頭はウォルトンの手紙が50ページほ続きます。その部分はプロローグ的位置づけで、本文に入ってからフランケンシュタインの回想になりますが、23章から成る本文の内、第11章から第16章までの6章は、怪物自身の語りになります。そして、フランケンシュタインの回想に戻って第23章でそれが終わり、その後またウォルトン隊長が姉に宛てた手紙になるという構成です。読み始めた時は、この構成がまどろっこしかったですが、怪物自身の語りに入ってから面白くなり、あとはエンタメ活劇(笑)みたいになっていくので引き込まれます。
何よりも世間の怪物のイメージと異なるのは、怪物の語りに入ってから、怪物が『失楽園』『プルターク英雄伝』そして『若きウェルテルの悩み』を論評するなどしていることです。つまり、知識ゼロからスタートして人間の言葉を短時間で覚え、あっという間に高度の知性を身につけてしまった、いわばSF的天才のような存在となっています。
また、自らの醜悪な容貌のため、生みの親であるビクター・フランケンシュタインからも見放され、彼のことを憎むようになりますが、それは、創造主としての彼への敬愛の気持ちのアンビバレントとともとれ、人間全体を憎みながら、人間からの愛情と理解を常に求めているというような、たいへん複雑な心性を有する存在でもあります。
その醜いと言う容貌については、継ぎはぎ状であることが示唆されていますが、具体的な描写は無く、また、どうやって誕生したかについても、電気(雷?)が関与していることは示唆されていますが、ビクター・フランケンシュタインの研究室の様子や怪物誕生の具体的な描写はありません。
やはり、今の怪物(こっちがフランケンシュタインと呼ばれるようになった)のイメージを作ったのは、ボリス・カーロフが怪物を演じたジェイムズ・ホエール監督の「フランケンシュタイン」('31年/米)でしょう(石田一著『図説 ホラー・シネマ―銀幕の怪奇と幻想 (ふくろうの本)』('01年/河出書房新社)でも、一番最初に紹介されているフランケンシュタイン映画はコレ)。だから、墓地から盗み出した死体を接合し、恩師である教授の研究室から人間の脳を盗んだけれども、それが狂人の脳だったというのも、原作にはない、映画のオリジナルということになります。フランケンシュタインのパロディ映画で、メル・ブルックス監督の「ヤング・フランケンシュタイン」('74年/米)なども、通好みのコメディですが、この古典映画がベースになっています。
その他にも多くのフランケンシュタイン映画が作られていますが、フランシス・フォード・コッポラが製作し、ケネス・ブラナー監督が撮った「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)などもあり、ロバート・デ・ニーロが演じたクリーチャー(被造物)は、見かけは醜怪だけれど心性的には子どものようであるという設定でした。
ケネス・ブラナー監督「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)ロバート・デ・ニーロ
ケヴィン・コナー監督「フランケンシュタイン」('04年/米・スロバキア)は、スロバキアのテレビ・ミニシリーズ。後にテレビ映画として再編もので、個人的に未見ですが、ドナルド・サザーランドやウィリアム・ハートなど俳優陣が豪華。予告を観ると、怪物が自分で自分の"花嫁"を創ろうとする場面があったような。
ケヴィン・コナー監督「フランケンシュタイン」('04年/米・スロバキア)
原作は、怪物の哀しみが伝わってくるものとなっているように思いますが、自らが怪物であったり人工物であったりしたために人間世界から物理的に迫害されたり、精神的に疎外されるというモチーフは、フランケンシュタイン映画に限らず、その後の多くのSF作品、SF映画に影響を与えたように思います。「ブレードランナー」('82年/米)が)そうであるし、「ターミネーター2」('91年/米)のラストもそうだと言う人もいます。この辺りは、小野俊太郎著『フランケンシュタインの精神史: シェリーから『屍者の帝国』へ (フィギュール彩)』に詳しいです。
そう言えば、「フランケンシュタイン・コンプレックス」という言葉もあります。創造主に成り代わって人造人間やロボットといった被造物(=生命)を創造することへの憧れと、さらにはその被造物によって創造主である人間が滅ぼされるのではないかという恐れが入り混じった複雑な感情・心理のことで、SF作家アイザック・アシモフが名付けたものです。
また、作者メアリーを軸に、シェリーとバイロンの関係を描いた「幻の城/バイロンとシェリー」('88年/スペイン・英)という映画もありました(メアリーをリジー・マキナニー、バイロンをヒュー・グラント、その恋人クレアをエリザベス・ハーレイが演じている。ヒュー・グラントとエリザベス・ハーレイはこの共演がロマンスのきっかけとなり13年間にわたって交際したが、結局別れた)。途中までは『フランケンシュタイン』誕生のエピソードが描かれていますが、途中から、彼女の想像が生み出した怪物が一人歩きし始め、彼女の周囲の人々が次々死ぬ度に姿を現すことになり、シェリーはヨットの遭難で水死し、時を経ずしてバイロンもギリシア独立戦争に身を投じようとして死んだ後、メアリーは、北極の海で怪物(怪人)と訣別する―という、メアリーがビクター・フランケンシュタインに置き換わったようなゴチック・ホラーっぽい作りになっていました(「伝記映画」と呼ぶには飛躍しすぎ)。
エリザベス・ハーレイと元恋人のヒュー・グラント
ハイファ・アル=マンスール監督「メアリーの総て」(2018)作者の伝記映画
メアリーの伝記映画としては、サウジアラビア初の女性監督で「少女は自転車にのって」 ('12年/サウジアラビア・独)などの作品により「女性映画の旗手」とされるハイファ・アル=マンスールが監督した「メアリーの総て」('18年/アイルランド・ルクセンブルク・米)がありますが、個人的には未見です(主演は「バベル」('06念/米)でリチャードとジョーンズ(ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット)の娘デビーを演じたエル・ファニング)。
「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:アーサー・エジソン●音楽:バーンハルド・カウン●原作:メアリー・シェリー●時間:71分●出演:コリン・クライヴ/ボリス・カーロフ/メイ・クラーク/エドワード・ヴァン・スローン/ドワイト・フライ/ジョン・ポールズ/フレデリック・カー/ライオネル・ベルモア●日本公開:1932/04●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★☆)●併映:「フランケンシュタインの花嫁」(ジェイムズ・ホエール)
「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/マデリーン・カーン/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)
「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1994年●制作国:イギリス・日本・アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ジェームズ・V・ハート/ジョン・ヴィーチ/ケネス・ブラナー/デビッド・パーフィット●脚本:ステフ・レイディ/フランク・ダラボン●撮影:ロジャー・プラット●音楽パトリック・ドイル●原作:メアリー・シェリー●時間:123分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ケネス・ブラナー/トム・ハルス/ヘレナ・ボナム=カーター/エイダン・クイン/イアン・ホルム/ジョン・クリーズ/シェリー・ルンギ/リチャード・ブライアーズ/アレックス・ロー●日本公開:1995/01●配給:トライスター・ピクチャーズ(評価:★★★)
「幻の城/バイロンとシェリー」●原題:ROWING WITH THE WIND(REMANDO AL VIENTO)●制作年:1988年●制作国:スペイン・イギリス●監督・脚本:ゴンザロ・スアレス●撮影:カルロス・スアレス●音楽:アレハンドロ・マッソ●時間:96分●出演:ヒュー・グラント(バイロン)/リジー・マキナニー/ヴァレンタイン・ペルカ/エリザベス・ハーレイ(バイロンの恋人・クレア)/ホセ・ルイス・ゴメス/ヴァージニア・マタイス//ホセ・カルロス・リヴァス●日本公開:1989/07●配給:俳優座シネマテン●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(89-09-14)(評価:★★★)
エリザベス・ハーレイ(2020年・55歳)
《読書MEMO》
●舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」
2022年1月7日(金)~1月16日(日) 東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
演出:錦織一清 脚本:岡本貴也
出演:七海ひろき 岐洲匠 彩凪翔/蒼木陣 佐藤信長 横山結衣(AKB48) 北村由海/永田耕一