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主人公は変われどパターンは同じ? リアリティ面での疑問も残るが、そこそこ楽しめた。
大晦日の午前9時、大勢の人々が行き交うワシントンの地下鉄の駅で乱射事件が発生し、多数の死傷者が出る。まもなく犯人から市長あてに脅迫状が届く。正午までに二千万ドル用意しなければ、午後4時から4時間おきに無差別殺人を繰り返すという内容だった。刻一刻と迫る期限。しかし思いもかけないアクシデントが。犯人を追うための唯一の手がかりは、手書きの脅迫状のみ。FBIは数年前に引退した筆跡鑑定の第一人者、パーカー・キンケイドの出動を要請する―。
1999年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:The Devil's Teardrop)、『ボーン・コレクター』('97年)、『コフィン・ダンサー』('98年)とリンカーン・ライム・シリーズを発表した後、ちょっと目先を変えてと言うか、この作品の主人公は、文書検査士のパーカー・キンケイド。彼はリンカーン・ライムと知己ということで、リンカーン・ライムもちょこっと電話で登場します。
"The Devil's Teardrop: A Novel Of The Last Night Of The Century (English Edition)"
パーカー・キンケイドは離婚した後に、2人の子どもと暮らしていますが、子供を危険に晒したくないという思いもあり、また、いいかげんな母親に子供の監護権を奪われたくないという気持ちもあって、最初はFBIの要請を拒みますが、結局、プロ魂の成せる業というか、捜査にずっぽりハマっていきます。
お話は1日の出来事を追っていて、その1日で完結するものの、僅か1日の中に様々な展開があって、最後はこの作者お約束のドンデン返し。しかもそれが一度ならず二度、三度あって...。
パーカー・キンケイドが定型的な筆跡鑑定というものを否定し独自の「文書鑑定」という手法を用いているのは、リンカーン・ライムが犯人捜査のための定型的なプロファイリングを否定し、独自の手法を採るのとパラレルになっている感じで、その他にも、実行犯にサイコパスのきらいがあったり、捜査陣の身内に犠牲者が出たり、キンケイドの家族に危険が及んだりと、リンカーン・ライム・シリーズとの相似形が多々見られましたが、結局この作者、このパターンで書くのが一番面白く、また、テンポ良く書けるのかな。
キンケイドのキャラクターはリンカーン・ライムほど気難しくなく、私生活で子どもの養育権を守るための元妻との争いに苦労しているなど、何となく親しみを覚え、最後のFBI女性捜査官マーガレット・ルーカスとの事の成り行きも、良かったねと言うか、まあ、こうなるだろうなあと(この男女関係もリンカーン・ライム・シリーズとパラレル)。
やはり予測がつかなかったのは、立て続けのドンデン返しで、特に犯人側に関わる大きなのが2つ。但し、プロットが凝り過ぎて(特に実行犯の方)、リアリティ面でどうかなあという印象も―。実行犯はある種"被催眠状態"のような感じで犯行を繰り返しているわけで、そんな実行犯にそこまでのことが出来るかなあという思いもありました。
でも、まあ、そこそこ楽しめました。文庫本で1冊に収まっているのもいいです(と言っても570頁あるが)。