Recently in 外国映画 80年代 Category

「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3282】 フリッツ・ラング 「死滅の谷
「●外国のアニメーション映画」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

70年代のアニメーションだが、しっかり"SF"していた("通俗SF"ではなく"本格SF")。

「ファンタスティック・プラネット」1973.jpg「ファンタスティック・プラネット」00.jpg
ファンタスティック・プラネット [DVD]

「ファンタスティック・プラネット」01.png 宇宙のどこかにある惑星イガムには、ドラーグ族とオム族が暮らしている。ドラーグ族は、オム族の十倍以上の身長、青い皮膚、魚のヒレの様な耳、真っ赤な目を持ち、その惑星の生態系の頂点に立つ存在である。一方のオム族は原始的な生活を営んでおり、ドラーグ族はオム族をペット、おもちゃ、そして奴隷にしてその命を弄んでいた。また、ドラーグ族は、オム族が高度な知能を持っている可能性を懸念しており、自分たちの優位を守るために、「害虫駆除」感覚で定期的にオム族大量虐殺していた。そんな中、オム族のテールという少年は、母を殺されたのちに、ドラーグ族の少女ティバに拾われてペットになるが、ある日、彼らが知能を高めるために用いている「学習器」を持って逃亡する。この「学習器」によって、オム族はこれまで持っていなかった知能を手にすることになり、そうして生き残りをかけたドラーグ族とオム族の闘いが始まる―。

「ファンタスティック・プラネット」cb.jpg シネマブルースタジオの2022年「異世界へようこそ vol.2」特集のテリー・ギリアム監督の「Dr.パルナサスの鏡」に続く2作目、ルネ・ラルー監督が1973年に映画化したもので、原作は、フランスのSF作家ステファン・ウルの小説「オム族がいっぱい」。映画の方は70年代のアニメーションですが(原題 仏: La Planète sauvage、「未開の惑星」の意)、しっかり"SF"していたという感じ。スペースファンタジー的な"通俗SF"ではなく、人間の根源的イマジネーションンに訴えかける"本格SF"でした。

「ファンタスティック・プラネット」 (73年.jpg 本作は第26回カンヌ国際映画祭で特別賞を受賞し(アニメ作品としては初)、「ハリウッド・リポーター」誌の映画批評家ジョン・デフォー選出の「大人向けアニメ映画ベスト10」(2016年)において10位にランクイン、日本でも1985年の劇場初公開以来カルト的な人気を誇り、『世界と日本のアニメーションベスト150』('03年/ ふゅーじょんぷろだくと)で27位にランクインしています。2020年12月に東京・渋谷で行われた1週間限定上映でも満席回が続出したとのことで、作品誕生から半世紀を迎える今なお人気があるようです。

「ファンタスティック・プラネット」03.jpg ネタバレになりますが、イガムの近くには「野性の惑星」と呼ばれる未開の惑星があり、オム族の隠れ都市はドラーグ族の偵察機械に発見され、自動駆除装置の襲撃を受けますが、テールたちは「学習器」により開発したロケットで脱出に成功し、「野性の惑星」に到達、そこは、男女一対の首のない巨大な像が無数にあるだけの荒野で、像の首の上に、瞑想したドラーグ族の「意識」が頭部があり、これこそがドラーグ族にとっての生命維持活動であり、生殖でもあったため、ロケットからビームを発射して像を破壊すると、惑星イガムにいるドラーグ族本体が次々と死ぬことに。ドラーグ族の議会は紛糾し、知事が「このままでは二つの種族はお互いを破壊し尽くし全滅する。和平を結び、ドラーグ族とオム族が共存する方法を見つけよう」と提案、戦いは終結し、オム族はドラーグ族が用意した新しい人工衛星に移住することに。その星は「テール(地球)」と名づけられた―。

「ファンタスティック・プラネット」es.jpg 「猿の惑星」のラストと似た印象もあるストーリーもなかなかですが、アニメーションも今まで見たことのないようなそれで、奇妙な巨大生物やマシーンの描写などは、宮崎駿の漫画・アニメ『風の谷のナウシカ』に影響を与えたと指摘されているようです。当人は、本作を鑑賞した際「ヒエロニムス・ボッシュの絵みたいな」「美しくもおぞましい」キリスト教ベースの美術に辟易しつつも「面白い」と思い、翻って風土を念頭におかない作品を描く通俗的な日本のアニメの現状を、「美術が不在」という表現で反省したとのこと(風土を反映させたのが「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」ということか)。個人的にも、正直、地球人に相当するオム族も含め、そのタッチに"気色悪さ"を覚えたのは確かです(確かにヒエロニムス・ボスに代表されるルネサンス期風の描画とも言える)。

「ファンタスティック・プラネット」04.jpg たまたま「学習器」の恩恵を受けたオム族のテールが、支配者であるドラーグ族のティバより早く学習器によって惑星イガムの地理や文化を吸収することができたのは、ドラーグ族の1週間はオム族の1年に相当するためであり、テールに感化され、「墓場」にあった学習器で学習したオム族が、ドラーグ族時間で僅か3季でドラーグ族に劣らない高い科学技術を有するに文明都市を築けたのは、ドラーグ族の3季がオム族時間で15年にあたるためです。このあたりは一応チェックしておいた方がいいかも。

 好みはありますが(個人的にはやはり「絵」がちょっと苦手)、それでも、観ておいて損はない作品。そう言えば、2020年の再上映の際には、アニメ映画監督の湯浅政明氏とイラストレーターのみうらじゅん氏が絶賛コメントを寄せていました。

「ファンタスティック・プラネット」ges.jpg「ファンタスティック・プラネット」●原題:LA PLANETE SAUVAGE●制作年: 1973年●制作国:フランス・チェコスロバキア●監督:ルネ・ラルー●製作:サイモン・ダミアーニ/アンドレ・ヴァロ=カヴァグリオーネ●脚本:ローラン・トポール/ルネ・ラルー/スティーヴ・ヘイズ●撮影:ハポミル・レイタール/ボリス・パロミキン●音楽:アラン・ゴラゲール●原作:ステファン・ウル「オム族がいっぱい」●時間:72分●日本公開:1985/06●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-23)(評価:★★★☆)

「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2040】 K・タヒミック 「悪夢の香り
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

ディストピア設定でソビエト社会を揶揄。「脱力的人情SFコメディ」とも。

不思議惑星キン・ザ・ザ4.jpg
不思議惑星キン・ザ・ザ [DVD]」「不思議惑星キン・ザ・ザ≪デジタル・リマスター版≫ [DVD]

「不思議惑星キン・ザ・ザ」1.jpg ある日、建築技師のマシコフ(スタニスラフ・リュブシン)は、「あそこに自分は異星人だという男たちがいる」と困った様子の学生ゲデバン(レヴァン・ガブリアゼ)に助けを求められる。異星人など信じられないマシコフが、その男たちが持っていた空間移動装置のボタンを押すと、次の瞬間、マシコフとゲデバンは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープしていた。星の「不思議惑星キン・ザ・ザ」2.gif住民は地球人と同じ姿をしており、見かけによらぬハイテクとな野蛮な文化を併せ持っていた。彼らはテレパシーを使うことができ、話し言葉は「キュー」と「クー」のみで、前者は罵倒語、後者がそれ以外を表す。しかし、高い知能を持つ彼らはすぐにロシア語を理解し話すことができた。この星の社会はチャトル人とパッツ人という二つの人種に分かれており、支配者であるチャトル人に対して被支配者であるパッツ人は儀礼に従「不思議惑星キン・ザ・ザ」3.jpgわなければならない。両者の違いは肉眼では判別できず、識別器を使って区別する。この星を支配しているのは、「エツィロップ」と呼ばれる警官たちである。プリュクの名目上の為政者は「PJ様」と呼ばれ、人々は彼を熱烈に崇拝している。プリュクにおける燃料は水から作られたルツというもので、自然の水は取り尽くされ、飲み水は貴重品となっており、ルツから戻すことでしか手に入らない。プリュクでは地球のマッチ棒(の化学物質)が非常に高価なものであり、カツェと呼ばれて事実上の通貨となっており、所有者は特典が受けられる。マシコフとゲデバンの二人は、マッチの価値を利用してなんとか地球へ帰ろうとするのだが―。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」4.jpg 1886年公開のソ連のゲオルギー・ダネリヤ監督(グルジア共和国出身)によるコメディーSF映画()。ディストピアな設定はソビエト社会の寓意的描写ではないかと言われるそうで、「言われている」と言うのは、検閲を通り抜けるためにほとんどすべて比喩的な表現になっているためで、ウィキペディアにも「作中では解説が若干省かれているので解りにくく、理解するには前後の伏線を注意深く頭に留めておく必要がある」とあるぐらいです。

 だから、何も考えないで観て、「変わった映画」で終わってしまう可能性もありますが(誰かが「気が抜けた良い映画」と言っていた。ダラダラ観るのも悪くないと)、一方で、予備知識無しでも、体制に対する風刺だなあというのは何となく感じられます。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」5.jpg 実際、ソ連全土で1570万人という驚異的な観客を動員したそうで(ソ連の人は、どの部分が何の風刺か凡そ解ったんだろなあ)、その後も世界中でカルト的人気を博し、日本でも1991年に公開され('89年の池袋文芸坐の「ソビエトSFファンタジー映画祭」で上映されたとの話もある)、2001年にはニュープリントで再公開、2016年にはデジタル・リマスター版が公開されました。また、監督自身の手になるアニメ版「クー!キン・ザ・ザ」が、2013年に公開されていますが、こちらは、舞台が21世紀はじめに移すなど、多少内容を変えているようです。

 冒頭、主人公のウラジミール氏は奥さんから買い物を頼まれ街に出るところから始まり、街でヴァイオリン弾きの青年ゲデバンを介して、拾いものの外套を羽織る小汚い裸足の男に出会い、男がウラジミール氏に「この星のクロス番号を教えてくれ。スパイラル番号でもいい。番号設定が乱れて帰れんのだ。見てくれ。私の星はベータ星雲のUZM247だ。そしてこれが空間移動装置」と尋ねるところから一気にSFモードとなります。

 こうしてウラジミール氏と青年ゲデバンひょんなことから「空間移動」し、辺りは一面の砂漠となりますが、その時ののリアクションは秀逸。さらに釣り鐘みたいな形の宇宙船が現れ、、中から2人の男が現れ、男たちは「クー!、クー!」と叫ぶばかり。このシュールな展開についていくのは結構しんどいかも(笑)。

 でも、どんな困難にも屈せず、地球への帰還を模索するウラジミール氏は、結構ヒロイックでした。青年を励まし、最後は、自分たちを苦境に陥れた宇宙人の男たちさえも救ってやるという、一本筋の通った意志の力とリーダーシップ、寛容さが、この奇妙な映画の中でやけに真っ当に思えました(民衆の希望を体現しているということか)。

 無事、地球に戻ってきた二人が、全部記憶が消されているはずなのに、街角で偶然出会って、しばらく見つめ合って、ウラジミール氏から「よう」とばかり手を挙げると青年もそれに応えるというラストが心地よかったです。ぶっ飛んだ印象もあるSFですが、意外とヒューマンなところはヒューマンに作っていました(誰かが「脱力的人情SFコメディ」と言っていた)。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」16.jpg この作品は根強いファンがいゲオルギー・ニコラーエヴィチ・ダネリヤ.jpgるのか、或いは毎年新たにファンになる人がいるのか、'18年にデジタル・リマスター版が発売されて以降、今年['22年]まで毎年DVD&Blu-rayがリリーズされています。また、ゲオルギー・ダネリヤ監督自身による「クー! キン・ザ・ザ」(Ku! Kin-dza-dza)('13年)というアニメ化作品も作られています(ゲオルギー・ダネリヤ監督は本2019年に88歳で逝去し、これが遺作となった)。

ゲオルギー・ダネリヤ(1930-2019)

「不思議惑星キン・ザ・ザ」●原題:KIN-DZA-DZA-KUU●制作年:1986年●制作国:ソ連●監督:ゲオルギー・ダネリヤ●脚本:ゲオルギー・ダネリヤ/レヴァズ・ガ不思議惑星キン・ザ・ザ ブルースタジオ.jpgブリアゼ●撮影:パーヴェル・レベシェフ●音楽:ギヤ・カンチェリ●時間:135分●出演:スタニスラフ・リュブシン/レヴァン・ガブリアゼ/ エヴゲーニー・レオノフ/ ユーリー・ヤコヴレフ●日本公開:1991/01●配給:マウントライト●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-11-23)(評価:★★★☆)

「●ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●ダニエル・シュミット監督作品」【1428】 ダニエル・シュミット 「ヘカテ
「○外国映画 【制作年順】」のインデックッスへ

娼婦が巻き起こす結婚騒動。強烈な社会風刺で、ある種、艶笑コメディ的要素も。

「ローラ」1981.jpg ローラ ファスビンダー 00.jpg ローラ ファスビンダー 01.jpg
ローラ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督 Blu-ray」バルバラ・スコヴァ

「ローラ」1.jpg 1950年代の西ドイツ、バイエルン州の小さな町。ここでは地元の土建屋シュッケルト(マリオ・アドルフ)が幅をきかせ、不正な利権を享受している。娼婦ローラ(バルバラ・スコヴァ)は、夜な夜な娼館に入り浸る彼に愛人とし「ローラ」12.jpgて囲われながら、奔放な生活をしている。この町にある日、清廉潔白な建築省の役人フォン・ボーム(アーミン・ミューラー=スタール)が赴任してくることになり、彼はシュッケルトらとともに町の再開発に着手する。フォン・ボームはその傍ら、淑女のふりをしたローラと恋「ローラ」13.jpgに落ち、結婚を申し込むようになる。しかしある夜彼は、ローラがシュッケルトの情婦であることを知ってしまう。そこでフォン・ボームは、シュッケルトの不正を新聞に告発し彼を破滅させようとするが、町の誰も不正の告発など望んでいないことに気づく―。

「ローラ」14.jpg ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1945-1982)監督の'81年公開の映画で、日本ではファスビンダー監督の没後30年となる2012年、特集「ファスビンダーと美しきヒロインたち」で上映されました。70年代後半から80年代前半にかけてファスビンダーが撮った「マリア・ブラウンの結婚」('79年)、「ベロニカ・フォスのあこがれ」('82年)と並ぶ「西ドイツ三部作」の一作で、バイエルン州のとある田舎町が舞台となっています。

 映画では、急速な経済的成長を遂げ、外的(見た目)は豊かになっていきながら、過去やその責任について充分な反省せず、内面(本性)は不道徳に陥っていた50年代西ドイツの在り方を、ある娼婦が巻き起こす結婚騒動を通して皮肉を込めて描いています。テンポや映像構成もよく、けばけばしいライトや服飾が動き回る娼館でのシーンは、それ自体なかなか見応えがあり、ある種、艶笑コメディ的要素もあって面白かったです。

「ローラ」5.jpg ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の「嘆きの天使」('30年/独)のモチーフを引き継ぎつつ、それを戦後の西ドイツを舞台に翻案していて、古めかしい道徳観をもつ真面目な中年男性がローラに入れあげ結婚を申し込むという筋立ては、マレーネ・ディートリヒ演じる放浪のキャバレー歌手ローラ・ローラに権威的な堅物教授が恋焦がれて破滅していくという「嘆きの天使」に似ており、そう言えば見た目も、バルバラ・スコヴァ演じるローラは、ディートリヒ演じるローラ・ローラに似ています(敢えてそういう撮り方をしているのだろう)。

「ローラ」6.jpg ローラは町の最大の権力者である土建屋シュッケルトの情婦という立場に飽き足らず、町にやって来た真面目な建築省の役人フォン・ボームにも自ら接近、娼婦としての姿を隠し、教養ある清楚な淑女を装って、ただただ現実の利害の追求のもとに生きていきます。

「ローラ」7.jpg その結果、「嘆きの天使」のキャバレー歌手がアウトサイダーとして体制の外側から魅惑し続けるのに対し、この映画のローラは、インサイダ―に"成り上がり"ます。そうなれる土壌として、社会秩序を担う権力者たちが娼館に入り浸り、ヒューマニズムを標榜する共産主義者も同じていたらくで、〈退廃〉が〈社会〉秩序を侵食すると言うより、むしろ〈退廃〉が〈社会〉と親和関係を構築してしまっているという状況があります。

「ローラ」11.jpg ローラ自身は、教会での彼女の祈りの表情から、本心では道徳的な誠実さや自らの浄化を希求しているのかなとも思わせますが、結局、フォン・ボームに娼婦であることがバレたら、自棄になったように開放的に歌い踊り狂い、そこには、彼女の中に誠実と退廃が対を成して同居しているかのようにも見えます。

 でも、彼女は精神分裂に陥ったりすることなく、まんまと勝ち組となり、上流階級の一員となります。ただ、その辺りが微妙で、彼女を「汚れた」場所から救い出そうと尽力するフォン・ボームの試みも無為に終わっているようだし、最後はローラを妻にしたいがためだけに画策し、何とか結婚したけれど、ローラの方は結婚式で新妻でありながら前の情婦シュッケルトといちゃついているという、これで本当にまともな夫婦としてやっていけるのかといった感じです。

 ローラ自身も、上流階級には入り込めたけれども、「汚れた」場所から来たというレッテルは剥がれないだろうなあ。そんな目で見られながら上流階級にいて楽しいのかなとも思うけれど、現代社会にだって日本にだってこういうタイプの"偽セレブ"はいるかもしれないなあと思ったりしました。社会風刺映画なのですが、週刊誌記者風の視線になってしまいました(笑)。

ローラ ファスビンダー 1981.jpg「ローラ」cb.jpg「ローラ」●原題:LOLA●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●製作:ホルスト・ベントラント●脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ペア・フレーリッヒ/ペーター・メルテシャイマー●撮影:ザビエ・シュワルツェンベルガー●音楽:ペール・ラーベン/フレディ・クイン●時間:115分●出演:バルバラ・スコヴァ/アーミン・ミューラー=スタール/マリオ・アドルフ●日本公開:2012/12●配給:マーメイドフィルム●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-07-09)(評価:★★★☆)

「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1098】マイケル・カーティス「汚れた顔の天使
「●ミシェル・ルグラン音楽作品」の インデックッスへ(「ネバーセイ・ネバーアゲイン」) 「●ショーン・コネリー 出演作品」の インデックッスへ(「ネバーセイ・ネバーアゲイン」)「●マックス・フォン・シドー 出演作品」の インデックッスへ(「ネバーセイ・ネバーアゲイン」) 「●さ行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●「カンヌ国際映画祭 脚本賞」受賞作」の インデックッスへ(「メフィスト」イシュトバン・サボー)「●「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「メフィスト」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「メフィスト」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿ローヤル劇場) インデックッスへ(シネマスクウェアとうきゅう)

復活したショーン・コネリーほか俳優陣だけ見ていてもまずます愉しめる。レトロ感も。

ネバーセイ・ネバーアゲイン.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン b1.jpg メフィスト vhs.jpg ナインハーフ.jpg
ネバーセイ・ネバーアゲイン [DVD]」(バーニー・ケイシー/ショーン・コネリー/キム・ベイシンガー)/「メフィスト」VHS(クラウス・マリア・ブランダウアー)/「ナインハーフ [DVD]」(ミッキー・ローク/キム・ベイシンガー)
ネバーセイ・ネバーアゲイン  c.jpg 時は冷戦最中、元英国秘密情報部MI6の諜報員ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)は、スパイ活動を一時引退していが、新たな上司のM(エドワード・フォックス)から新たに命令を受ける。国際的犯罪組織"スペクター"のNo.1メンバー、マキシミリアン・ラルゴ(クラウス・マリア・ブランダウアー)が、2つの核弾頭を強奪したのだ。これは、スペクターの首領で、No.2のブロフェルド(マックス・フォン・シドー)の新ネバーセイ・ネバーアゲイン  12c.jpgたな作戦「アラーの涙」の一環だった。核弾頭を取り戻す命令を受けたボンドは、ラルゴを追ってバハマへ向かうことに。バハマに到着したボンドは、ラルゴの部下で殺し屋ファティマ(バーバラ・カレラ)に殺されそうになる。しかし、2度の暗殺の危機を切り抜けて、なんとか生き残る。さらに、ニースのカジノでドミノ(キム・ベイシンガー)という女性に出会ったボンドは、ドミノの兄ジャック(ギャヴァン・オハーリー)が、核弾頭を手に入れるためにラルゴに殺されたことを明かす。その後、ミサイルの一つがワシントンの大統領のもとにあると知ったボンドは本部に通報、引き続きもう一つのミサイルの行方を追うが―。

ネバーセイ・ネバーアゲイン b0.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン b3.png 1983年公開のアーヴィン・カーシュナー監督作で、ジェームズ・ボンドの映画の制作会社イーオン・プロダクションズとは別の会社の制作であるため。007シリーズとしては番外編になります。初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリー(1930 - 2020/90歳没)が「007 ダイヤモンドは永遠に」('71年/英・米)から12年ぶりの復活、7回目にして最後のボンド役を演じました(原題の意味は「ボンド、やめるなんて言わないで」ということらしい)。内容は1965年に公開された4作目「007 サンダーボール作戦」のリメイクですが、使用権の問題のためか、いつものシリーズとオープニングが違ったり(ガンバレル(銃口)のシークエンスが無い)、音楽がミシェル・ルグラン(1932 - 2019/86歳没)だったりして、少しだけ雰囲気が違います。でも、53歳のショーン・コネリーがアクションも含め頑張っていて(後ろから見ると髪が薄いのが分かるが)悪くなかったと思います。階段を軽快に上り下りするところがややわざとらしかったが(笑)、上半身裸になって落ちない肉体美を見せたりしています。

ネバーセイ・ネバーアゲイン f1.jpgクラウス・マリア・ブランダウアー2.jpg 敵のラルゴ役のクラウス・マリア・ブランダウアは、主演作であるイシュトバーン・サボー監督の「メフィスト」('81年/西独・ハンガリー)を新宿のシネマスクウェア東急で'82年に観ました。ナチス政権下で権力に翻弄される実在した「ファウスト」の名優グリュントゲンスをモデルにしたクラウスクラウス・マリア・ブランダウアー メフィスト.jpg・マンの小説の映画化作品(第34回カンヌ国際映画祭「脚本賞」受賞作)でしたが、そうした芸術色の強い映画(個人的評価は★★★☆)に出ていた俳優が、まさかその後すぐジェームズ・ボンド映画に出るとは思ってもみませんでした(言語も違ったし)。ただし、この作品では、彼、クラウス・マリア・ブランダウアーとショーン・コネリーとの心理戦的演技が、当時の典型的なボンド映画よりも感情に訴えかけるものがあると評価されて好評を博し、映画の商業的な成功にも繋がっています。クラウス・マリア・ブランダウアーはその後も活躍を続け、シドニー・ポラック監督の「愛と哀しみの果て」('85年/米)で双子の役を1人で演じてゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞するなど、ハリウッドで成功を収めた数少ないオーストリア人俳優とされています。

ネバーセイ・ネバーアゲイン sd.jpgマックス・フォン・シドー 2.jpg スペクターの首領ブロフェルドにマックス・フォン・シドー(1929 - 2020/90歳没)で、ドナルド・プレザンス(「007は二度死ぬ」('67年))、テリー・007ブロフェルド.jpgサバラス(「女王陛下の007」)('69年))、チャールズ・グレイ(「ダイヤモンドは永遠に」('71年))に続いての配役。マックス・フォンシドーも「第七の封印」('57年)などイングマール・ベルイマン監督の映画で常連だった名優ですが、この頃は既に「フラッシュ・ゴードン」('80年/米)の「悪の帝王」ミン皇帝を演じていたりしました。以降もハリウッド映画でのこの手の役が多くなり、ジョン・ミリアス監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「コナン・ザ・グレート」('82年/米)では邪フォンシドー.jpg教の王と対峙する善の王オズリック王の役でしたが、スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」('02年/米)では、主人公の上司にあたる犯罪予防局の局長でありながら、実は陰謀の"黒幕"だったという役でした。ショーン・コネリーが亡くなったのが昨年['20年]10月にでしたが、マックス・フォンシドーも昨年3月に、ショーン・コネリーと同じく90歳で亡くなっています。

ネバーセイ・ネバーアゲイン  かれら.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン c1.jpg ボンドガールの一人は、スペクターの女殺し屋(スペクターNo.12)ファティマを演じたバーバラ・カレラ(1951年生まれ)。ファティマは最後までボンドを追い回して危機に落とし入れるネバーセイ・ネバーアゲイン c2.jpgも、Q(アレック・マッコーエン)が開発した万年筆型ロケットで爆殺されます。ボンドを追いつめた際に、自分が最高の女だったとボンドに書き付けを要求すエンブリヨ.jpgドクター・モローの島7.jpgるシーンが見せ場でしたが、結局それが仇となった(笑)。バーバラ・カレラはこの「ネバーセイ・ネバーアゲイン」の出演が一番のキャリアとされていますが、「エンブリヨ」('76年)、「ドクター・モローの島」('77年)といった作品の彼女に思い入れがある人もいるかと思います。
エンブリヨ [DVD]」('76年)、「ドクター・モローの島」('77年)

ネバーセイ・ネバーアゲイン k1.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン k22.jpg もう一人は、ラルゴの愛人でどうやらラルゴに殺害されたジャックの妹ドミノを演じたキム・ベイシンガ(1953年生まれ)で、こちらは敵側からボンド側に寝返る(これはシリーズのいつものお約束通り)言わlaコンフィデンシャル.jpgばヒロイン役です。当時はバーバラ・カレラに比べれば小娘みたいな感じですが、その後、「ナインハーフ」('85年)で大胆な演技が話題を呼んでスターの仲間入りを果たし、「バットマン」('89年)でヒロイン役に抜擢され、「L.A.コンフィデンシャル」('97年)で往年の女優ヴェロニカ・レイクを彷彿とさせる役柄でアカデミー助演女優賞受賞と著しい活躍ぶりを見せました。
L.A.コンフィデンシャル [AmazonDVDコレクション]」('97年)

「ナインハーフ.jpgナインハーフes.jpg 個人的には「ナインハーフ」はイマイチだったかも。原題は「9週間半」。監督は「フラッシュダンス」('83年)のエイドリアン・ラインで、相変わらず映像には凝っていて、哲学的な語り口を装っていますが、本質はエンターテイメントではなかったかなあ(キム・ベイシンガーのボディにばかり目が行く。この頃のミッキー・ロークってなぜか好きになれない)。

あの日、欲望の大地で dvd.jpgあの日、欲望の大地で 574_01.jpg キム・ベイシンガーはその25年後、ギジェルモ・アリアガ監督の「あの日、欲望の大地で」('08年/米)でも、ジェニファー・ローレンス演じるマリアーナの母親役で、隣町に住むメキシコ人との不倫に溺れる女性を演じてスレンダーな背中&お尻を見せていますが、当時55歳でスクリーンでヌードを見せることができたというのはたいしたものかも。

アカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg そう言えばキム・ベイシンガーは、アカデミー賞の授賞式でのプレゼンターとして舞台に立った際に(その年の作品賞は「ドライビング・ミス・デイジー」('89年)だった)、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年)を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング・ミス・デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

ネバーせい え」.jpgジャッカルの日 73米.jpg この「ネバーセイ・ネバーアゲイン」では、これら準主役級のほかに、Mの役が「ジャッカルの日」('73年)の"ジャッカル"ことエドワード・フォックスであったり、ボンドの同僚スパイ(と言っても事務方か)のナイジェル・スモール=フォーセット役で"ミスタービーン"ことローワン・アトキンソン2012年ロンドン・オリンピック開会式の「炎のランナー」のパロディは最高だった)が登場していたりと(アトキンソンはこの時が映画初出演、ラストでボンドにプールに投げ込まれるというオチがある)、俳優陣だけ見ていてもまずます愉しめる作品でした(評価★★★★は、レトロ感も含めて星半分おまけしての評価)。
ネバーセイ・ネバーアゲイン la1.jpg ネバーセイ・ネバーアゲイン la2.jpg

「ネバーセイ・ネバーアゲイン」 g.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン  tj.jpg「ネバーセイ・ネバーアゲイン」●原題:NEVER SAY NEVER AGAIN●制作年:1983年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:アーヴィン・カーシュナー●製作:ジャック・シュワルツマン●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ミシェル・ルグラン●原作:イアン・フレミング●時間:134分●出演:ショーン・コネリー/クラウス・マリア・ブランダウアー/マックス・フォン・シドー/バーバラ・カレラ/キム・ベイシンガー/バーニー・ケイシー/アレック・マッコーエン/エドワード・フォックス/ギャヴァン・オハーリー/ローワン・アトキンソン/ロナルド・ピックアップ/ヴァレリー・レオン/ミロス・キレク/パット・ローチ/アンソニー・シャープ/プルネラ・ジー●日本公開:1983/12●配給:松竹富士=ヘラルド●最初に観た場新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg所:新宿ローヤル(84-09-04)(評価:★★★★)
新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)/カラー写真:「フォト蔵」より]

メフィスト 2.jpgメフィスト3.jpg「メフィスト」●原題:MEPHISTO●制作年:1981年●制作国:西独・ハンガリー●監督:イシュトバン・サボー●脚本:イシュトバン・サボー/ペーテル・ドバイ●撮影:ラホス・コルタイ●音楽:ゼンコ・タルナシ●原作:クラウス・マン●「メフィスト」09.jpg時間:145 分●出演:クラウス・マリア・ブランダウアー/クリスティナ・ヤンダ/イルディコ・バンシャーギィ/カーリン・ボイド/ロルフ・ホッペ/ペーター・アンドライ/クリスティーネ・ハルボルト●日本公開:1982/04●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:新宿・シネマスクウェア東急(82-05-01)(評価:★★★☆)
シネマスクエアとうきゅうMILANO2L.jpgシネマスクエアとうきゆう.jpgシネマスクウエアとうきゅう 内部.jpgシネマスクエアとうきゅう 1981年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン。2014年12月31日閉館。
 
ナインハーフ 3.jpgナインハーフ2.jpg「ナインハーフ」●原題:NINE 1/2 WEEKS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:アンソニー・ルーファス・アイザック/キース・バリッシュ●脚本:パトリシア・ノップ/ザルマン・キング●撮影:ピーター・ビジウ●音楽:ジャック・ニッチェ●原作:エリザベス・マクニール●時間:117分●出演:ミッキー・ロー/キム・ベイシンガー/マーガレット・ホイットンン/ドワイト・ワイスト/クリスティーン・バランスキー/カレン・ヤング/ロン・ウッド●日本公開:1986/04●配給:日本ヘラルド(評価:★★★)

Charlize Theron/Kim Basinger/Jennifer Lawrence
あの日、欲望の大地で 8.jpgキム・ベイシンガー欲望の大地.jpg「あの日、欲望の大地で」●原題:THE BURNING PLAIN●制作年:2008年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ●製作:ウォルター・パークス/ローリー・マクドナルド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:ハンス・ジマー/オマール・ロドリゲス=ロペス●時間:106分●出演:シャーリーズ・セロン/キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス/ホセ・マリア・ヤスピク/ジョン・コーベット/ダニー・ピノ/テッサ・イア/ジョアキム・デ・アルメイダ/J・D・パルド/ブレット・カレン●日本公開:2009/09●配給:東北新社●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-07)(評価:★★★★)
 

「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2517】 オリヴァー・ヒルシュビーゲル 「ヒトラー~最期の12日間~
「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ルイ・マル監督作品」の インデックッスへ「●スーザン・サランドン 出演作品」の インデックッスへ(「プリティ・ベビー」)「●さ行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(サンシャイン劇場)

フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた「ラ・ブーム」。少女が大人になるのは早い。

「ラ・ブーム」 dvd.jpg デサント・オ・ザンファー3.jpg デサント・オ・ザンファー5.jpg 「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」1999.jpg THE WORLD IS NOT ENOUGH2.jpg
ソフィー・マルソー 「ラ・ブーム」 [DVD]」「ソフィー・マルソー 地獄に堕ちて ヘア無修正版【レンタル落ち】」「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ アルティメット・エディション [DVD]

ラ・ブーム マルソー dvd.jpgラ・ブーム マルソー2.jpg 「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。

「ラ・ブーム」1.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpg 「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「禁じられた遊び」('52年/仏)に出ていたブリジッド・フォッセー(1946年生まれ)の大人になった姿と相まみえることができました。「禁じられた遊び」のラストが切ないだけに、何となく良かったというか、ほっとした感じでした。この作品は当時13歳のソフィー・マルソー「ラ・ブーム ブリジット・フォッセー」.jpg(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。

LA BOUM 1980 ed.jpg 娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を襟川クロ.jpgも描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論ラ・ブーム 1982a20.jpg家の小藤田千栄子(1939-2018/79歳没)が、「何を着て行こうかと、あれこれ迷う若いヒロインの、カット重ねによるファッションの見せ方は、こちらも心がはずむ」「(ヒロインの曾祖母が)いかにもフランスらしい人生の練達者に見える。この人が、影に日向に、若いヒロインの先導者となるのである。この豊かさは、他の国の映画では、ちょっと見あたらない」「両親が、娘の初めてのブームの、送りむかえをするところなど、気の使い方がしのばれて、描写はユーモラスにも細かい。別居から、離婚寸前までいく(中略)親のいざこざに遭遇する、現代の子供という、世界共通のテーマを提示してくる」と褒めています。ソフィー・マルソー自身は後年、「とりたててどうということもないリセエンヌの淡い初恋物語だったり、友情物語だったり。社会現象をともなったあのヒットぶりは、一体何だったのか」と半自伝的小説『うそをつく女』(2000年/草思社)の中で振り返っていますが、個人的には、映画がヒットしたベースには、ブリジッド・フォッセーやその夫役を演じたクロード・ブラッスール(1936-2020/84歳没)の演技力があったように思います。

「スクリーン 」'83(昭和58)年10月号表紙/'84(昭和59)年7月号付録
sukur-n.jpg この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の「パラダイス」.jpgデビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人「プリティ・ベイビー」.jpgと同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)(評価★★☆)や「グレムリン」('84年/米)(評価★★★)も観ました。

フィービー・ケイツ/ソフィー・マルソー/ブルック・シールズ
アイドル3人.jpg 結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。

『デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて』★.jpgデサント・オ・ザンファー2.jpg 「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」.jpg さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。

 「禁じられた遊び」の少女ブリジッド・フォッセーがソフィー・マルソーの母親役になり、そのソフィー・マルソーがボンドガールに。そして今や映画監督として活躍―。子役(少女)が大人になるのは早い。でも、それは他人事ではなく、自分もその間に歳をとったということなのだろうなあ。
 

禁じられた遊び  .jpg禁じられた遊び3.jpg「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

「ラ・ブーム」ポスター/「ラ・ブーム & ラ・ブーム2 Blu-ray セット」「ラ・ブーム 2Kレストア版 Blu-ray
「ラ・ブーム」1980.jpg「ラ・ブーム」2.jpg「ラ・ブーム」3.jpg「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)

「パラダイス」1.gif「パラダイス」2.jpg「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)

「プリティ・ベビー」1.jpg「プリティ・ベビー」2.jpg「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)
        
DESCENTE AUX ENFERS3.jpgデサント・オ・ザンファー4.jpg「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ池袋 文化会館.jpgサンシャイン劇場.jpgレア /ジェラール・リナルディ/シディキ・バカダ/マリー・デュボア/ユスタシュ/イポリット・ジラルド●日本公開:1986/11●配給:TAMT●最初に観た場所:池袋:サンシャイン劇場(88-07-17)(評価:★★☆)

池袋:サンシャイン劇場(1978年10月、池袋文化会館4Fに開館)
         
「007 ソフィー・マルソー2.jpg「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
ソフィー・マルソー
「007 ソフィー・マルソー1.jpg


すべてうまくいきますように●原題:TOUT S'EST BIEN PASSÉ (英:EVERYTHING WENT FINE)●制作年: 2021年●制作国:フランス/ベルギー●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製「すべてうまくいきますように」1.jpg作:エリッ「すべてうまくいきますように」2021.jpgク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー「すべてうまくいきますように」2.jpg/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2399】 オーソン・ウェルズ 「黒い罠
「●「香港電影金像奨 最優秀作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●レスリー・チャン(張國榮) 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

「香港ノワール」の記念碑的作品。何よりも全体を通してテンポがいい"娯楽作"。

男たちの挽歌 dvd.jpg男たちの挽歌 1986 人物.jpg
ティ・ロン(狄龍)/レスリー・チャン(張國榮)/チョウ・ユンファ(周潤發)/レイ・チーホン(李子雄)
男たちの挽歌 <日本語吹替収録版> [DVD]
男たちの挽歌 1.jpg 香港・三合会の幹部ホー(ティ・ロン)は闘病中の父と学生の弟キット(レスリー・チャン)の面倒を見ていたが、弟が警官になる希望を持っていることで病床の父から足を洗うよう頼まれる。了解したホーは、次回の台湾への贋札の取り引きを最後に、闇社会から足を洗おうと決意する。しかし、取り引きは密告によって警察に知られており、同行した後輩シン(レイ・チーホン)を逃し、ホーは自首することに。その間、香港では父が陰謀によって殺され、そのことでキットは尊敬する兄が三合会の組員と知る。一男たちの挽歌4.jpg方、ホーの親友マーク(チョウ・ユンファ)は報復のために乗り込んだレストランで裏切者を皆殺しにしたものの、足を撃たれ負傷する。数年後、ホーは出所するが、今では警察官になり結婚もしているキットから、父親の死の責任とマフィアの兄を持つことから出世の出来ない不満をぶつけられた上に追い出され、親友マークは負傷で自由の利かない体になったことから雑用以下の扱いを受けるほど落ちぶれていた。そして元は後男たちの挽歌3.jpg輩だったシンが三合会で権力を握るようになっていた。ホーは弟と和解するためにも堅気となり、穏やかに暮らそうとするが、周りはそんな彼を放ってはおかなかった。男として失った誇りを取り戻したいマークは旧友に協力を求め、シンも自分に力を貸すよう強要する。しかしシンは自分の敵となる人物たちの粛清を始め、手始めに組長のユー(シー・イェンズ)が殺された。現状を知ったホーは弟との絆、親友との友情のためにマークと共に銃を手に取る―。

男たちの挽歌039.jpg ジョン・ウー監督の1986年作品で、「香港ノワール」とも呼ばれる新しい流れを作った記念碑的な作品です(因みに、この作品をはじめ、ジョン・ウーなどが監督・製作した香港製犯罪映画は、アクションではハリウッド製アクション映画との親和性があるが、ギャング映画としての基本的傾向は「フレンチ・フィルム・ノワール」に近いとされている)。第6回「香港電影金像奨」の最優秀作品賞・最優秀主演男優賞(チョウ・ユンファ)受賞作で、第23回「金馬奨」の最優秀監督賞・最優秀主演男優賞受賞(ティ・ロン)も受賞しています。興行的にも成功し、「男たちの挽歌Ⅱ」('87年)、「アゲイン/明日への誓い」('89年)とシリーズは計3作製作されています(チョウ・ユンファは第2作「男たちの挽歌Ⅱ」ではマークの双子の弟のケンの役で出ているが、「アゲイン/明日への誓い」(タイトルに3と付けられていることがあるが、時間的には第1作目よりも前にあたる作品)では再びマーク役で出ている)。

 この映画の製作のきかっけは、香港映画界で独自の路線を貫き通したことでジョン・ウーとティ・ロンが台湾に追われることになり不遇の生活を送っていたところ、友人であるツイ・ハークが「もう一度、香港で映画を作ろう」と台湾に出向いて香港映画界に復活させたことにあるとのことです。

「マトリックス」図1.jpgチョウユンファ 男たちの挽歌.jpg スローモーションを多用した銃撃戦は、サム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」('69年/米)の影響を強く受けたと言われており(さらにセルジオ・レオーネや深作欣二からも多大な影響を受けているとのこと)、また、逆にこの作品が後世の映像作家に与えた影響も大きく、「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟もジョン・ウーのファンであることを公言しています。そう言えば、チョウ・ユンファがロングコートとサングラスのスタイルで、二丁拳銃を構えて敵陣に斬りこむ姿は、「マトリックス」('99年/米)でのキアヌ・リーブス演じる主人公の姿と重なります。

「マトリックス」('99年/米)

 何よりも全体を通してテンポがいいです。友情や兄弟愛がモチーフとなっていますが、「情」を描くシーンを長々と引き延ばさず、さっと次のシーンに移ります。それでいて、その「情」の部分が描けていないかというとそんなことはなく、アクションシーンと拮抗する重みをもって描けています。この監督、ハリウッドから声が掛かったのも分かる気がします。
      チョウ・ユンファ(周潤發)       レスリー・チャン(張國榮)
英雄本色 周潤發.jpg英雄本色 張國榮.jpg この作品は、チョウ・ユンファ(周潤發)の出世作とされていますが、レスリー・チャン(張國榮)もよく知られるようになったのはこのあたりからで、その後二人とも、有名監督の作品に次々と出演するようになります。さらに、演技力とアクションにより武侠映画のトップスターとして活躍するも、一時低迷していたティ・ロン(狄龍)が復活を遂げた作品でもあります。

男たちの挽歌 1986 8.jpg英雄本色 狄龍.jpg 「香港電影金像奨」の最優秀主演男優賞を受賞したチョウ・ユンファと、「金馬奨」の最優秀主演男優賞受賞を受賞したティ・ロンと、どちらが良かったかというと微妙ですが、個人的にはティ・ロンに軍配を上げたいと思います。すっかり卓越した演技派俳優になったように思いますが、弟役のレスリー・チャンとカンフーでじゃれ合うシーンに、かつて武侠映画で見せたアクションの片鱗を窺わせます。
ティ・ロン(狄龍)

ツイ・ハーク(徐克)/レスリー・チャン(張國榮)
英雄本色 徐克.jpg ジョン・ウー監督が台湾警察の警部役で出ているほか、製作総指揮のツイ・ハーク(「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」シリーズなどの監督でもある)が、キットの恋人が実技試験を受ける音楽学院の審査員役で出ていて(まあ、ツイ・ハークはもともと俳優としてのカメオ出演も多い監督だが)、オーバーアクション気味の演技をしているのに遊び心を感じました。凄絶なマフィア社会を描いた作品ですが、基本的にはエンタテインメント作であると思います。


チョウ・ユンファ(周潤發)in メイベル・チャン監督「誰かがあなたを愛してる」('87年)/アン・リー監督「グリーン・デスティニー」('00年)
秋天的童話1.jpg グリーン・デスティニー 02.jpg
レスリー・チャン(張國榮)in ウォン・カーウァイ監督「欲望の翼」('90年)/チェン・カイコー監督「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年)
欲望の翼01.jpg 覇王別姫 張國榮.jpg


男たちの挽歌 pos.jpg英雄本色 2.jpg「男たちの挽歌」●原題:英雄本色(英:A BETTER TOMORROW)●制作年:1986年●制作国:香港●監督・脚本:ジョン・ウー(呉宇森)●製作総指揮:ツイ・ハーク●製作:ウォン・カーマン●撮影:ウォン・ウィンハン●音楽:ジョセフ・クー●時間:97分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/ティ・ロン(狄龍)/レスリーエミリー・チュウ.jpg・チャン(張國榮)/レイ・チーホン(李子雄)/ケネス・ツァン(曾江)/エミリー・チュウ/ティエン・ファン/シー・イェンズ/カム・ヒン・イン/シン・フイオン/レウ・ミン/ジョン・ウー(呉宇森) /ツイ・ハーク(徐克)●日本公開:1987/04●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★★)


「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2830】 忠田 友幸 『下水道映画を探検する
「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ(「ジョニーは戦場に行った」)「●ドナルド・サザーランド 出演作品」の インデックッスへ(「ジョニーは戦場に行った」)「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「未来世紀ブラジル」)「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ(「未来世紀ブラジル」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

絶望シネマの「映画の定石」の破り方の多様性を感じた。ビジュアルもいい。

観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88201.jpg IMG_7877.JPG
観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』カバー写真「炎628」('85年/ソ連)

 鉄人社「観ずに死ねるか !」シリーズの「韓国映画 この容赦なき人生」('11年)、「観ずに死ねるか ! 傑作ドキュメンタリー88」('13年)、「観ずに死ねるか ! 傑作青春シネマ邦画編」('14年)、に続くシリーズの第4弾で、畳み掛ける不幸や理不尽な狂気、負の連鎖や死にまっしぐらの生き様など、救われない中身と結末の、いわば"絶望"を描いた映画を、文筆家ら70人がそれぞれの個人的視点で語り尽くした1冊です(カバーには、第二次世界大戦下でのナチスの掃討部隊アインザッツグルッペンによるウクライナでの大量虐殺行為を描いた「炎628」('85年/ソ連)がきている)。

「地下水道」 dvd.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpgジョニーは戦場に行った  pos.jpg 第1章「悲劇」では、「禁じられた遊び」(立川志らく)、「誰も知らない」(川本三郎)、「地下水道」(荒井晴彦)、「ジョニーは戦場に行った」(森達也)など13本が取り上げられています。アンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/ポーーランド)は『下水道映画を探検する』('16年/星海社新書)でも取り上げられていて「下水道映画」(下水道が出てくる映画)では個人的にはナンバー1ですが、絶望度で言うと「ジョニーは戦場にdalton trumbo 2.jpg行った」('71年/米)も相当なもの。カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ受賞作でありながら、殆どホラー映画に近い戦慄を覚えましたが、選者の森達也氏が、映画を通して主人公の苦痛を一度は体験すべきだと述べているのには賛同します。監督は「ローマの休日」('53年/米)の脚本家ドルトン・トランボで(原作もドルトン・トランボで発表は1938年)、第二次世界大戦後に「赤狩り」の標的とされ投獄された経験もあり(そう言えば「パピヨン」('73年/米)の脚本家でもある)、朝鮮戦争とベトナム戦争も経験しています(選者は、目も鼻もない兵士は大量に生産されているとも言っている)。

未来世紀ブラジ_7878.JPG 第2章「戦慄」では、「未来世紀ブラジル」(高橋ヨシキ)、「ミスト」(松﨑健夫)、最後の晩餐/2.jpg復讐するは我にあり」(二階堂ふみ)、「めまい(ヒッチコック)」(松崎まこと)、「炎628」(橋口亮輔、スチールが表紙に使われている)、「最後の晩餐復讐するは我にあり_7880.JPG」(伊藤彰彦)など20本が取り上げられています。テリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」('85年/英)は、「1984」のような"ディストピアSF"に見えますが(ロバート・デ・ニーロが謎の電気修理人役でいきなり登場したのは可笑しかったが)、特権階級の不気味な非人間性を描いていると選者の高橋ヨシキ氏は述べていて、ナルホドと。今村昌平監督の「復讐するは我にあり」('79年/松竹)のラストの三國連太郎と倍賞美津子の散骨シーンを、選者の女優・二階堂ふみが、「緒形さんが、まるで、俺はまだ生きていると叫んでいるような」骨のストップシーンと表現しているのにも共感しました、

 第3章「破壊」では、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(みうらじゅん)、「黒い画集 第二話 寒流」(西IMG_7881.JPG村賢さらば愛しき大地 poster.jpg太)、「ポーラX」(安藤尋)、「気狂いピエロ」(末井昭)、「さらば愛しき大地」(佐々木俊尚)など16本が取り上げられています。松本清張原作の「黒い画集」シリーズから2本入っているのが興味深いですが、「黒い画集 第二話 寒流」の選者の芥川賞作家・西村賢太氏が、「清張の原作に付け加えられたカタルシスなき結末」に着眼しており、原作と読み比べてみるのもいいと思います(原作はスッキリさせられる逆転劇、映画は...)。

 第4章「哀切」では、「ミリオンダラー・ベイビー」(渚ようこ)、「真夜中のカーボーイ」(大槻ケンヂ)、「ミッドナイトクロス」(松崎まIMG_7884.JPGこと)、「東京暮色」(真魚八重子)など16本が取り上げられていて、第5章「狂気」では、「少女ムシェット」(坪内祐三)、「ゴーン・ガール」(大根仁)、「時計しかけのオレンジ」(水道橋博士)、「追悼のざわめき」(森下くるみ)など11本が取り上げられています。スタンリー・キューブリック監督の「時計しかけのオレンジ」は、主人公が拷問的洗脳IMG_7885.JPGを受けるという点で「未来世紀ブラジル」と少し似ている部分もあったように思います。

 70人の選者が1人1作思いを込めて作品を論じていて、いろいろ気付きを与えてくれます。70人の中には、作家、映画監督や映画評論家などに混じって男優、女優、歌手なども何人かいて、例えば女優では、先に取り上げた二階堂ふみや、成海璃子、武田梨奈など結構若手もおり、彼女らなりに映画をしっかり捉えているのが興味深かったです。

 ハッピーエンドと正反対の(バッドエンドの)映画、本書で言う「絶望シネマ」というのはまだ沢山あると思いますが、いずれも言わば「映画の定石」なるものをを破っているわけであって、その破り方が極めて多様であることが窺え(こうしてみると、ハッピーエンドの映画はどれも同じように見えてきてしまう)、本書を通して改めて「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」ことが浮き彫りになったように思います。ビジュアル面でも、映画の見どころシーンが多く織り込まれていて、まだ観たことのない作品も観てみたくなるほどに楽しめる1冊です。

ジョニーは戦場へ行った [DVD]
ジョニーは戦場へ行った [DVD].jpgジョニーは戦場に行ったード.jpg「ジョニーは戦場に行った」●原題:JOHNNY GOT HIS GUN●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ダルトン・トランボ●製作ブルース・キャンベル●脚本:ダルトン・トランボ●撮影: ジュールス・ブレンナー●音楽:ジェリー・フィールデジョニーは戦場に行った サザーランド2.jpgィング●原作:ダルトン・トランボ●時間:112分●出演:ティモシー・ボトムズ/キャシー・フィールズ/ドナルド・サザーランド/ジェイソン・ロバーズ/マーシャ・ハント/ チャールズ・マッグロー/ダイアン・ヴァーシ/エドワード・フランツ/ ケリー・マクレーン●日本公開:1973/04●配給:ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ(79-02-24)(評価:★★★★)

未来世紀ブラジル [DVD]
未来世紀ブラジル [DVD].jpg未来世紀ブラジル 111.jpg「未来世紀ブラジル」●原題:BRAZIL●制作年:1985年●制作国:イギリス●監督:テリー・ギリアム●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:テリー・ギリアム/チャールズ・マッケオン/トム・ストッパード●撮影:ロジャー・プラット●音楽:マイケル・ケイメン●時間:142分●出演:ジョナサン・プライス/ロバート・デ・ニーロ/キ未来世紀ブラジル ロバートデニーロ.jpgム・グライスト/マイケル・ペイリン/キャサリン・ヘルモンド/ボブ・ホスキンス/デリック・オコナー/イアン・ホルム/イアン・リチャードソン/ピーター・ヴォーン/ジム・ブロードベント●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘(87-07-19)(評価:★★★★)●併映:「ザ・フライ」(デビッド・クローネンバーグ)

復讐するは我にあり_7889.JPG「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ復讐するは我にあり 骨.jpg蝶々/倍賞美津子/小川真由美/清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

IMG_7883.JPG「最後の晩餐」●原題:LA GRANDE BOUFFE●制作年:1973年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:マルコ・フェレーリ●製作:ヴァンサン・マル/ジャ「最後の晩餐」2.jpgン=ピエール・ラッサム●撮影:マリオ・ヴルピアーニ●音楽:フィリップ・サルド●時間:130分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ウーゴ・トニャッツィ/フィリップ・ノワレ/ミシェル・ピッコリ/アンドレア・フェレオル●日本公開:1974/11●最初に観た場所:大塚名画座 (78-11-07) (評価★★★★☆)●併映:「糧なき土地」(ルイス・ブニュエル)/「自由の幻想」(ルイス・ブニュエル)

さらば愛しき大地 7892.JPG「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三/松山政路/奥村公延/草薙幸二郎/小林稔侍/中島葵/白川和子/佐々木すみ江/岡本麗/志方亜紀子/日高澄子●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウエアとうきゅう(82-07-10)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★★☆)●併映(2回目):「(ゴッド・スピード・ユー! ブラック・エンペラー」(柳町光男)

時計じかけのオレンジ [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]
IMG_7882.JPG時計じかけのオレンジ dvd.jpg「時計じかけのオレンジ」●原題:A CLOCKWORK ORANGE●制作年:1971年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ウォルター・カーロス●原作:アンソニー・バージェス●時間:137分●出演:マルコム・マクダウェル/ウォーレン・クラーク/ジェームズ・マーカス/ポール・ファレル/リチャード・コンノート/パトリック・マギー/エイドリアン・コリ/ミリアム・カーリン/オーブリー・モリス/スティーヴン・バーコフ/イケル・ベイツ/ゴッドフリー・クイグリー/マッジ・ライアン/フィリップ・ストーン/アンソニー・シャープ/ポーリーン・テイラー●日本公開:1972/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-02-09)●2回目:吉祥寺セントラル(83-12-04)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「非情の罠」(スタンリー・キューブリック)

《読書MEMO》
●「観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88」 (鉄人社)出版記念上映会 @テアトル新宿(2015年)
観ずに死ねるか!出版記念上映会.jpg

観ずに死ねるか! 出版記念上映会2.jpg

「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1093】F・ロダム 「さらば青春の光
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 

ジャック・ロジエの初期作は、瑞々(みずみず)しさ、演技の自然さが光る。

アデュー・フィリピーヌ dvd.jpg アデュー・フィリピーヌ 01.jpg オルエットの方へ .jpg メーヌ・オセアン dvd.jpg メーヌ・オセアン 01.jpg
アデュー・フィリピーヌ [DVD]」/「オルエットの方へ」(海外版DVD)/「メーヌ・オセアン」(海外版DVD)

アデュー・フィリピーヌ 02.jpg 1960年、兵役を数カ月後に控えたミッシェル(ジャン=クロード・エミニ)は、勤め先のテレビ局でリリアーヌ(イヴリーヌ・セリ)とジュリエット(ステファニア・サバティーニ)という女の子と知り合う。2人の娘はミシェルに恋心を抱く。ミシェルは生中継中にヘマをして放送局を辞め、コルシカ島で早めのヴァカンスを楽しんでいた。そんな彼のところに、リリアーヌとジュリエットがやって来る。双子のように仲良しだった2人の仲は、嫉妬が原因でぎくしゃくし始めて―。

アデュー・フィリピーヌ 03.jpg 「アデュー・フィリピーヌ」('62年/伊・仏)は、ヌーヴェルヴァーグの代表監督の一人ジャック・ロジエの長編モノクロ処女作。日本では70年代に東京日仏学院で自主上映されていて、2004年と2006年には紀伊国屋書店がDVDを発売されていますが、入手困難で1万円位のプレミア価格になっていました。2010年1月のユーロスペースでの特集上映「ジャック・ロジエのヴァカンス」での上映が日本初の劇場公開で、2016年にはシアター・イメージフォーラムの同特集で再上映されながらも、DVDは2018年現在再リリースされておらず、価格は依然高値のようです。

アデュー・フィリピーヌ 05.jpg 「さよならフィリピン娘」という意味のタイトルは、劇中に出てくるフランス式の遊びからとったもので、アーモンドの双子の実を見つけた者同士が次に顔を合わせた時に、先に「さよならフィリピン娘」と言った方に幸運が訪れる、という他愛ないものですが、それがこの映画の内容を象徴しているとも言えるし、また、リリアーヌとジュリエットがただふざけて口にする、大した意味が無い言葉ともとれます。

アデュー・フィリピーヌs.jpg 前半の舞台はパリ、主人公ミッシェルはマスコミで働く(といってもカメラのケーブルマン)青年で、録画装置の無かった生放送時代のテレビ局の舞台裏や、華やかな業界に群がる浮薄な連中などを絡めながら、ナンパした2人の娘を手玉に取る様子がテンポ良く描かれます。

 後半は舞台をヴァカンスのコルシカ島に移し、場面の切り替えと共に次々に流れる軽快な音楽のリズムに乗って、ますます調子の良い色恋沙汰が進展するかと思いきや、そこまでは行かず、主人公の心のどこかに常にあった徴兵までのモラトリアムという影が、一見浮かれた青春物語に陰影を与えていきます。

アデュー・フィリピーヌ  ホーキー.jpg ヌーヴェルヴァーグ繋がりとして、ゴダールがプロデューサーにジャック・ロジエ監督を推薦して、この長編デビューの契機を与えたということがあるようです。随所にイタリア的な要素が表出していますが、ジャック・ロジエ監督のイタリアン・ネオリアリスモへの傾倒ぶりを端的に示しているのが、主演に素人を起用している点でしょう。俳優たちにとっても、この作品はほとんどワン・アンド・オンリーなものになったようで、刹那的な魅力を強調しているように思えます。箒のCM(ホーキー?)や冷蔵庫のCM(エスキモーに氷を売る)の制作風景が戯画的に描かれているのは、商業主義への風刺でしょうか? ただし、全体としては、メッセージ性を極力排除しているように思えました。

オルエットの方へ 01.jpgオルエットの方へ ド.jpg ジャック・ロジエ監督の長編第2作は「オルエットの方へ」('69年/仏)で、これも、2010年1月のユーロスペースでの「ジャック・ロジエのヴァカンス」で日本初上映、'16年10月にシアター・イメージフォーラムで再上映された作品。今度はカラー作品ですが、ヴァカンス、男女の三角関係(今度は五角関係?)、ドキュメンタリー風乃至プライベートフィルムタッチなところ、主役に素人の俳優を使っている点など、「アデュー・フィリピーヌ」の要素を多く引き継いでいます。あらすじは―、

オルエットの方へ 3.jpg キャロリーヌ(キャロリーヌ・カルチエ)は、ヴァンデ県の海岸沿いにある家族の別荘に友だちのカリーヌ(フランソワーズ・ゲガン)、ジョエル(ダニエル・クロワジ)と共にヴァカンスを過ごしに来る。最初のうち3人は女だけの気ままな時間を楽しんでいたが、そこへ、ジョエルの上司で密かに彼女にオルエットの方へ 06.jpg思いを寄せるジルベール(ベルナール・メネズ)が現れる。ジルベールは別荘の庭にテントを張らせてもらうことになるが、3人から軽く扱われるばかり。そんな中、3人は海からの帰りにパトリック(パトリック・ヴェルデ)というヨットマンの青年と出会い、ジルベールはパトリックと親しくなっていく―。

オルエットの方へ_11.jpg と、書きましたが、これまたそれほどストーリー性は前面に出されておらず、9月1日から20日までの3人のヴァカンスの過ごし方が映像日記のよう描かれ、3人が都会生活を離れた開放感から日常の何でもないことに可笑しみを見い出しては燥(はしゃ)ぐ姿が自然に生き生きと語られています。彼女たちが別荘の近くの農場やカジノのあるオルエットという村へ行こうとして、その地名を口にするだけで意味なく笑いこけ、これが作品のタイトルの一部になっている点で、タイトルの付け方も「アデュー・フィリピーヌ」と少し似ています。

オルエットの方へ   .jpg 3人に体よく馬鹿にされ続けた上司ジルベールがパリに帰ってしまい、次にはパトリックの粗雑な一面に腹を立てたカリーヌがパリに帰ってしまって、残った2人も興覚めして騒々しいパリに戻ってくる―という結末ですが、ストーリーよりも、うなぎを床にぶちまけるシーン、ヨットで海面を走行するシーン、海岸を馬で駆けるシーンなど、個々の断片的なシーンの方が印象に残ります(特にヨットに乗るシーンは、昔、夏にティンギーヨットに乗ったことがあったので、個人的に懐かしさを覚えた)。
 
 両作品とも、ストーリーよりも、"瑞々しさ"の光る感性が味わえる作品と言っていいかと思います。特に、出演者たちが演技しているのか地なのか分からないくらい自然に振る舞っている印象であり、観ていて自然と彼らの世界に入り込んでしまいます(唯一の職業俳優と言っていい「オルエットの方へ」のジルベール役のベルナール・メネズだけが、"演技している"っぽかったか)。こうした自然な効果を、作品の初めから終わりまで通して保持し続けているというのは、考えていればスゴイことであり、当然のことながら、その背後に計算された技巧があるのだろうなあと思いました。

メーヌ・オセアン poster.jpg 寡作で知られるジャック・ロジエ監督が長編第3作「トルチュ島の遭難者」('74年/仏)に続いて撮った長編第4作は「メーヌ・オセアン」('86年/仏)で、前第3作に続くコメディですが、ジャック・ロジエ監督はこの作品で、本来は新人若手監督に贈られるジャン・ヴィゴ賞を当時60歳で受賞しています。この作品も、2010年1月のユーロスペースでの特集「ジャック・ロジエのヴァカンス」での上映が日本発上映でした。

メーヌ・オセアン 011.jpg フランス西部ナント行きの列車メーヌ・オセアン号で、ブラジル人ダンサーのデジャニラ(ロザ=マリア・ゴメス)は検札係のル・ガレック(ベルナール・メネズ)とリュシアン(ルイス・レゴ)との間でトラブルになるが、女弁護士ミミ(リディア・フェルド)に救われる。漁師プチガ(イヴ・アフォンソ)の弁護のためアンジェで降りる予定のミミは、意気投合したデジャニラと海に行く計画を立て、2人一緒にアンジェで下車する。プチガの裁判はプチガの態度の悪さとミミの意味不明の抗弁のため、あっさりメーヌ・オセアン 05.jpgと敗訴する。ミミとデジャニラは列車内で再会したリュシアンの勧めで、プチガの住むユー島に3人で行くことに。リュシアンはユー島への旅に上司のル・ガレックも誘う。ユー島でリュシアンとル・ガレックは、ミミとデジャニラと合流、そこにプチガが居合わせ、ミミとデジャニラからメーヌ・オセアン号でのル・ガレックの態度について悪口を聞かされていたプチガはル・ガレックに喧嘩をふっかけ、止めに入ったリュシアンがケガを負う。冷静になったプチガは反省し、酔った勢いもあり、逆にル・ガレックを気に入ってしまう。そこにニューヨークからデジャニラの雇い主である興行主ペドロ・マコーラ(ペドロ・アルメンダリス・Jr)が現れ、ふとしたことから市民会館でどんちゃん騒ぎをすることになる―。

メーヌ・オセアン 02.jpg ダンサーと弁護士という全く異質な職業の2人の女性の偶然の出会いを介して、漁師、列車の検札係、興行主という、これまた全く異質の職業の男たちが一堂に会してどんちゃん騒ぎをする―という、コメディだけに初期2作よりはストリー性があり、観ていて楽しい映画です。「ヴァカンス」というモチーフは前3作に通じ、「海辺」や「島」といった背景についても同じことが言えます。

メーヌ・オセアン 03.jpg ただし、映画の終盤は、興行主に「現代のモーリス・シュヴァリエ」とおだて上げられたものの実は単にからかわれていただけだったことに気付いた検札係の上司が(演じるベルナール・メネズは17年前の「オルエットの方へ」でも、ヴァカンス先で部下の女性らに軽んじられ、途中で帰る上司という役柄だった)、ナントに戻るため漁師に頼み込んで船で送ってもらい、何度か船を乗り継ぎ、ようやく海岸に辿り着くまでを延々と描いており、ストーリーもさることながら、ベルナール・メネズがズボンの裾を濡らしながら浅瀬を道路が走っている側に向かって行くシーンなどが印象に残ります。

アデュー・フィリピーヌード.jpg ストーリー性を前面に出さず(或いはストーリーがあってもさほど意味はなく)、個々の出来事を単に個々の事象として背景の中に塗り込んでしまうとでもいうか、そのため、背景が前景にも増して印象に残るのがジャック・ロジエ作品の特徴かもしれません。その意味では、比較的ストーリー性が感じられる「メーヌ・オセアン」よりも、「アデュー・フィリピーヌ」「オルエットの方へ」の2作の方が、よりジャック・ロジエらしいユニークさがあったように思います。特に「アデュー・フィリピーヌ」が実際に撮影されたのは公開の2年前、アルジェリア戦争最中の1960年(昭和35)年の物語と同時期の夏ですが、主人公の兵役の話が出てきてやっと時代に気づくくらいのモダンなセンスには驚かされます。

Adieu Philippine (1962)
Adieu Philippine (1962).jpg
アデュー・フィリピーヌド.jpg「アデュー・フィリピーヌ」●原題:ADIEU PHILIPPINE●制作年:1960年(撮影)・1962年(公開)●制作国:フランス・イタリア●監督:ジャック・ロジエ●脚アデュー・フィリピーヌ es.jpg本:ジャック・ロジエ/ミシェル・オグロール●時間:106分●出演:ジャン=クロード・エミニ/ダニエル・デカン/ステファニア・サバティニ/イヴリーヌ・セリ/ヴィットーリオ・カプリオリ/ダヴィド・トネリ/アンヌ・マルカン/アンドレ・タルー/クリスチャン・ロンゲ/ミシェル・ソワイエ/アルレット・ジルベール/モーリス・ガレル//ジャンヌ・ペレス/シャルル・ラヴィアル●日本公開:2010/01●配給:アウラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-06-12)(評価:★★★★)

Du côté d'Orouët (1971)
Du côté d'Orouët (1971).jpg
オルエットの方へ dvd .jpg「オルエットの方へ」●原題:DU COTE D'OROUET●制オルエットの方へ 02.jpg作年:1971年(撮影)・1973年(公開)●制作国:フランス●監督:ジャック・ロジエ●脚本:ジャック・ロジエ/アラン・レゴ●撮影:コラン・ムニエ●時間:106分●出演:フランソワーズ・ゲガン/ダニエル・クロワジ/ キャロリーヌ・カルチエ/ベルナール・メネズル●日本公開:2010/01●配給:アウラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-06-26)(評価:★★★★)
ジャック・ロジエ DVD-BOX」(「オルエットの方へ」「メーヌ・オセアン」「短篇集」(「ブルー・ジーンズ」「パパラッツィ」「バルドー・ゴダール」)を収録)

Maine Ocean (1986)
Maine Ocean (1986).jpg
Maine océan.jpgメーヌ・オセアン 9s.jpg「メーヌ・オセアン」●原題:MAINE-OCEAN●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:ジャック・ロジエ●製作:パウロ・ブランコ●脚本:ジャック・ロジエ/リディア・フェルド●撮影:アカシオ・デ・アルメイダ●音楽:シコ・ブアルキ/フランシス・ハイミ/ユベール・ドジェクス/アンヌ・フレメーヌ・オセアン_04.jpgデリック●時間:130分●出演:ベルナール・メネズ/ルイス・レゴ/イヴ・アフォンソ/リディア・フェルド/ロザ=マリア・ゴメス/ペドロ・アルメンダリス・Jr●日本公開:2010/01●配給:アウラ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-07-04)(評価:★★★☆)

ジャック・ロジエ シネマブルー.jpg

ジャック・ロジエ(仏映画監督)2023年6月2日死去、96歳。
 仏ヌーベルバーグの監督の一人。代表作は「アデュー・フィリピーヌ」(62年)など。

「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1092】 P・ルコント「仕立て屋の恋
「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●フランシス・フォード・コッポラ監督作品」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール」受賞作」の インデックッスへ(「パリ、テキサス」) 「●「フランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)」受賞作」の インデックッスへ(「パリ、テキサス」) 「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「パリ、テキサス」)「●「サターンSF映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「エイリアン」「エイリアン2」)「●ナスターシャ・キンスキー 出演作品」の インデックッスへ(「パリ、テキサス」「ワン・フロム・ザ・ハート」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

精神的"終活映画"「ラッキー」。ハリー・ディーン・スタントンへのオマージュ。

ラッキー 映画 2017.jpgラッキー 映画s.jpg パリ、テキサス dvd.jpg エイリアン DVD.jpg
「ラッキー」ハリー・ディーン・スタントン(撮影時90歳)/「パリ、テキサス デジタルニューマスター版 [DVD]」「エイリアン [AmazonDVDコレクション]

ラッキー 映画.jpg 90歳の通称"ラッキー"(ハリー・ディーン・スタントン)は、今日も一人で住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガをこなしたあと、テンガロンハットを被って行きつけのダイナーに行き、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)と無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)が注いだミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解く。夜はバーでブラッディ・マリーを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中で、ある朝突然気を失ったラッキーは、人生の終わりが近いことを思い知らされ、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、逃げた100歳の亀、"生餌"として売られるコオロギ―小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく―。

ジョン・キャロル・リンチ監督.jpgファウンダーe s.jpg 昨年[2017年]9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン主演のジョン・キャロル・リンチ監督作品で、ハリー・ディーン・スタントンの遺作となりました。ジョン・キャロル・リンチは本来は俳優で(最近では「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」('16年/米)で「マクドナルドラッキー 映画02.jpg」の創始者マクドナルド兄弟の兄モーリスを演じていた)、この「ラッキー」が初監督作品になります。一方、2017年のTV版「ツイン・ピークス」でハリー・ディーン・スタントンを使ったデヴィッド・リンチ監督が、主人公ラッキーの友人で、逃げてしまったペットの100歳の陸ガメ"ルーズベルト"に遺産相続させようとしとする変な男ハワード役で出演しています(役者として目いっぱい演技している)。

デヴィッド・リンチ(ペットの陸ガメ"ルーズベルト"の失踪を嘆く白い帽子の男)/ハリー・ディーン・スタントン(ブラッディ・マリーを手にする男)

 主人公のラッキーは、ハリー・ディーン・スタントン自身を擬えたと思われますが(存命中だったが、彼へのオマージュになっている? スタラッキー 映画01.jpgントンは太平洋戦争時に、映画の中でダイナーの客が語る沖縄戦に実際に従軍している)、映画では少々偏屈で気難しいところのあるキャラクターとして描かれています。自分の言いたいことを言い、そのため周囲の人々と小さな衝突をすることもありますが、でも、ラッキーは周囲の人々から気に掛けられ、愛されていて、彼を受け容れる友人・知人・コミニュティもあるといったラッキー 映画03.jpg具合で、むしろこれって"ラッキー"な老人の話なのかもと思いました。但し、彼自身はウェット感はなく、どうやら無神論者らしいですが、そう遠くないであろう自らの死に、自らの信念である"リアリズム"(ニヒリズムとも言える)を保ちつつ向き合おうしています。ある意味、精神的"終活映画"と言えるでしょうか。その姿が、ハリー・ディーン・スタントン自身と重なるのですが、孤独でドライな生き方や考え方と、それでも他者と関わりを持ち続ける態度の、その両者のバランスがなかなか微妙と言うか絶妙かと思いました。

ラッキー .jpg ハリー・ディーン・スタントンはこの映画撮影時は90歳で、「八月の鯨」('87年/米)で主演したリリアン・ギッシュ(1893-1993)が撮影当時93歳であったのには及びませんが、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のクリストファー・プラマーが「手紙は憶えている」('15年/カナダ・ドイツ)で主演した際の年齢85歳を5歳上回っています(クリストファー・プラマーはその後「ゲティ家の身代金」('17年/米)で第90回アカデミー賞助演男優賞に88歳でノミネートされ、アカデミー賞の演技部門でのノミネート最高齢記録を更新した)。

ラッキー 映画p.jpg ハリー・ディーン・スタントンがこれまでの出演した作品と言えば、SF映画の傑作「エイリアン」や、準主役の「レポマン」、主役を演じた「パリ、テキサス」など多数ありますが、第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」が特に印象深いでしょうか。この「ラッキー」のエンディング・ロールで流れる彼に捧げる歌の歌詞に「レポマン」「パリ、テキサス」と出てきます。また、米国中西部らしい舞台背景は「パリ、テキサス」を想起させます(ジョン・キャロル・リンチ監督はジョン・フォードの作品なども参考にしたと言っているが、確かにそう思えるシーンもある)。

パリ,テキサス コレクターズ・エディション_.jpgパリ、テキサス01.jpgパリ、テキサス03.jpgパリ、テキサス02.jpg 「パリ、テキサス」('84年/独・仏)は、失踪した妻を探し求めテキサス州の町パリをめざす男(スタントン)が、4年間置き去りにしていた幼い息子と再会して親子の情を取り戻し、やがて巡り会った妻(ナスターシャ・キンスキー)に愛するがゆえの苦悩を打ち明ける―というロード・ムービーであり、当時まだアイドルっぽいイメージの残っていたナスターシャ・キンスキーに、「のぞき部屋」で働いている生活疲れした人妻を演じさせ新境地を開拓させたヴィム・ヴェンダース監督もさることながら、ハリー・ディーン・スタントンの静かな存在感も作品を根底で支えていたように思いまワン・フロム・ザ・ハート nキンスキー.jpgす。ヴィム・ヴェンダース監督は、ロマン・ポランスキー監督が文豪トマス・ハーディの文芸大作を忠実に映画化した作品「テス」('79年/英)でナスターシャ・キンスキーの演技力を引き出したのに匹敵する演出力で、フランシス・フォード・コッポラがオール・セットで撮影した「ワン・フロム・ザ・ハート」('82年/米)で彼女を"お人形さん"のように撮って失敗した(少なくとも個人的には成功作に思えない)のと対照的でした(まあ、ナスターシャ・キンスキーが主役の映画ではなく、彼女は準主役なのだが。因みに、この「ワン・フロム・ザ・ハート」には、ハリー・ディーン・スタントンも準主役で出演している)。

エイリアン スタントン.jpg ハリー・ディーン・スタントンは、主役だった「パリ、テキサス」に比べると、リドリー・スコット監督の「エイリアン」('79年/米)では、"怪物"に「繭」にされてしまい、最後は味方に火炎放射器で焼かれてエイリアン ジョンハート.jpgしまう役だったからなあ(それもディレクターズ・カット版の話で、劇場公開版ではその部分さえカットされている)。ただ、あの映画は、英国の名優ジョン・ハートでさえも、エイリアンの幼生(チェスト・バスター)に胸を食い破られるというエグい役でした。最初に観た時はストレートに怖かったですが、最後に生き残るのはシガニー・ウィーバー演じるリプリーのみという、振り返ればある意味「女性映画」だったかも。シリーズ第1作では男性に置き換えられていますが、チェスト・バスターが躰を食い破って出て来るというのは、哲学者・内田樹氏の「街場の映画論」等での指摘もありましたが、女性の出産に対する不安(恐怖、拒絶感)を表象しているのでしょうか。

エイリアン2s.jpgエイリアン2ド.jpg この恐れは、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが完全に主人公となったシリーズ第2作以降、リプリー自身の見る「悪夢」として継承されていきます。「エイリアン2」('86年/米)の監督は、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン。ラストでエイリアンと戦うリプリーが突如「機動戦士ガンダム」風に変身する場面に象徴されるように、SF映画というよりは戦争アクション映エイリアン3ド.jpg画風で、「1」に比べ大味になったように思います(海兵隊のバスケスという男まさりの女兵士は良かった)。デヴィッド・フィンチャー監督の「エイリアン3」('92年/米)になると、リドリー・スコット監督がシンプルな怖さを前面に押し出した第1作に比べてそう恐ろしくもないし(馴れた?)、ジェームズ・キャメロン監督がエイリアンを次々と繰り出した第2作に較べても出てくるエイリアンは1匹で物足りないし、ラストの宗教的結末も、このシリーズに似合わない感じがしました(「エイリアン」「エイリアン2」は共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF映画賞」を受賞している)。

ジョン・ハート(31歳当時)/in 「エレファント・マン」('80年/英・仏)
ジョンハート.jpgエレファントマン ジョンハート.jpg チェスト・バスターの出現がシリーズを象徴する場面として印象に残るという意味では、「エイリアン」でのジョン・ハートの役は、エグいけれどもオイシイ役だったかも。この人、「エレファント・マン」('80年/英・仏)で"エレファント・マン"ことジョゼフ・メリック役もやってるしなあ。あれも、普通の二枚目出身俳優なら受けない役だったかも。

ジョン・ハート .jpgハリーディーンスタントン.jpg そのジョン・ハートも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」('17年/英)のチェンバレン役を降板したと思ったら、昨年['17年]1月に膵臓ガンで77歳で亡くなっています。「ウィンストン・チャーチル」ではゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優層を受賞していますが、そのゲイリー・オールドマンと、第22回「サテライト・アワード」(エンターテインメント記者が所属する国際プレス・アカデミが選ぶ映画賞)の主演男優賞を分け合ったのがハリー・ディーン・スタントンです。但し、スタントンは"死後受賞"でした。遅ればせながらこれを機に、ジョン・ハートとハリー・ディーン・スタントンに追悼の意を捧げます(「冥福を祈る」と言うと、"ラッキー"から「冥土なんて存在しない」と言われそう)。

20170918211045e91s.jpg そう言えば、ハリー・ディーン・スタントンは生前、"The Harry Dean Stanton Band"というバンドで歌とギターも担当していて、2016年に第1回「ハリー・ディーン・スタントン・アウォード」というイベントが開催され、ホストが今回の作品にも出ているデヴィッド・リンチで、ゲストが「沈黙の断崖」('97年)でハリー・ディーン・スタントンと共演したクリス・クリストファーソンや、「ラスベガスをやっつけろ」('98年)などで共演経験のあるジョニー・デップでしたが(ジョニー・デップの登場はハリー・ディーン・スタントンにとってはサプラズ演出だったようだ)、この「ハリー・ディーン・スタントン賞」って誰か"受賞者"いたのかなあ。
 
Harry Dean Stanton performs 'Everybody's Talkin' with Johnny Depp & Kris Kristofferson.('Everybody's Talkin'は映画「真夜中のカーボーイ」の主題歌」)

Lucky (2017)
Lucky (2017).jpg
「ラッキー」●原題:LUCKY●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・キャロル・リンチ●製作:ダニエル・レンフルー・ベアレンズ/アイラ・スティーブン・ベール/リチャード・カーハン/ローガン・スパークス●脚本:ローガン・スパークス/ドラゴ・スモンジャ●撮影:ティム・サーステッド●音楽:エルビス・キーン●時間:88分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/デヴィッド・リンチ/ロン・リヴィングストン/エド・ベグリー・Jr/トム・スケリット/ジェームズ・ダーレン/バリー・シャバカ・ヘンリー/ベス・グラント/イヴォンヌ・ハフ・リー/ヒューゴ・アームストロングス●日本ヒューマントラストシネマ有楽町.jpgヒューマントラストシネマ有楽町 sinema2.jpg公開:2018/03●配給:アップリンク●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(18-04-13)(評価:★★★★)
ヒューマントラストシネマ有楽町(2007年10月13日「シネカノン有楽町2丁目」が有楽町マリオン裏・イトシアプラザ4Fにオープン。経営がシネカノンから東京テアトルに変わり、2009年12月4日現在の館名に改称)[シアター1(162席)・シアター2(63席)]

Pari, Tekisasu (1984)
Pari, Tekisasu (1984).jpg
「パリ、テキサス」●原題:PARIS,TEXAS●制作年:1984年●制作国:西ドイツ・フランス●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作: クリス・ジーヴァニッヒ/ドン・ゲスト●脚本:L・M・キット・カーソン/サム・シェパード●撮影:ロビー・ミューラー●音楽:ライ・クーダー●時間:147分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/サム・ベリー/ベルンハルト・ヴィッキ/ディーン・ストックウェル/オーロール・クレマン/クラッシー・モビリー /ハンター・カーソン/ヴィヴァ/ソコロ・ヴァンデス/エドワード・フェイトン/ジャスティン・ホッグ/ナスターシャ・キンスキー/トム・ファレル/ジョン・ルーリー/ジェニ・ヴィシ●日本公開:1985/09●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(86-03-30)(評価:★★★★)●併映:「田舎の日曜日」(ベルトラン・タヴェルニエ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
ワン・フロム・ザ・ハート dvd.jpgワン・フロム・ザ・ハート ちらし.jpg「ワン・フロム・ザ・ハート」●原題:ONE FROM THE Heart●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:アーミアン・バーンスタイン/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ロナルド・V・ガーシア/ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:トム・ウェイツ●時間:107分●出演:フレデリック・フォレスト/テリー・ガー/ラウル・ジュリア/ナスターシャ・キンスキー/レイニー・カザン/ハリー・ディーン・スタントン /アレン・ガーフィールド/カーマイン・コッポラ/イタリア・コッポラ/レベッカ・デモーネイ●日本公開:1982/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★)●併映:「ひまわり」(ビットリオ・デ・シーカ)

エイリアン 1979.jpgエイリアン スタントン.jpg「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)

エイリアン2.jpgエイリアン2 .jpgエイリアン2 DVD.jpg「エイリアン2」●原題:ALIENS●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間: 137分(劇場公開版)/154分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/マイケル・ビーン/ポール・ライザー/ランス・ヘンリクセン/シンシア・デイル・スコット/ビル・パクストン/ウィリアム・ホープ/リッコ・ロス/キャリー・ヘン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1986/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:日本劇場(86-10-05)(評価:★★★)
エイリアン2 (完全版) [AmazonDVDコレクション]

エイリアン3.jpgエイリアン3 DVD.jpg「エイリアン3」●原題:ALIENS³●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・フィンチャー●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル/ラリー・ファーガソン●撮影:アレックス・トムソン●音楽:エリオット・ゴールデンサール●時間:114分(劇場公開版)/145分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/チャールズ・S・ダットン/チャールズ・ダンス/ポール・マッギャン/ブライアン・グローバー/ラルフ・ブラウン/ダニー・ウェブ/クリストファー・ジョン・フィールズ/ホルト・マッキャラニー/ランス・ヘンリクセン/ピート・ポスルスウェイト●日本公開:1992/08●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
エイリアン3 [DVD]

エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)

「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2580】 スティーブン・ダルドリー 「愛を読むひと
「●アンドレイ・タルコフスキー監督作品」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「ベルリン国際映画祭 銀熊賞(審査員グランプリ)」受賞作」の インデックッスへ(「ニーチェの馬」)「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ(「サクリファイス」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

静かに訪れる世界の終り。タルコフスキーの「サクリファイス」より骨太で重かった。

ニーチェの馬 dvd.jpgニーチェの馬es.jpg  サクリファイス タルコフスキー dvd.jpg
「ニーチェの馬」デルジ・ヤーノシュ/ボーク・エリカ  「サクリファイス [DVD]
ニーチェの馬 [DVD]

ニーチェの馬_04.jpg 1日目・・・農夫(デルジ・ヤーノシュ)は馬車に乗り、風の中人里離れた家に戻る。娘(ボーク・エリカ)は彼を出迎え、農夫は馬と車を小屋に戻す。娘は農夫の服を着替えさせ、2人で茹でたジャガイモ1個の食事を貪る。寝る段になって、農夫は58年鳴き続けた木食い虫が鳴いていないことに気付く。外は暴風が吹き荒れている。2日目・・・娘は井戸に水を汲みに行く。パーリンカ(焼酎)を飲んだ後、農夫はいつもの通り、馬車に乗って外へ出ようとするが、馬は動こうとしない。諦めた農夫は家に戻って薪を割り、娘は洗濯をする。ジャガイモを貪ったところへ男(ミハーイ・コルモス)が現れ、パーリンカを分けてくれるように頼む。町は風で駄目になったという男は、世界についてのニヒリズム的持論を延々述べるが、農夫はくだらないと一蹴、男はパーリンカを受け取って出て行く。3日目・・・娘は井戸で水を汲む。パーリンカを飲み、農夫と娘は馬小屋の掃除をする。新たな飼い葉を与えても馬は食べない。ジャガイモニーチェの馬 nagare.jpgを食べていた時外を見ると、馬車に乗った数人の流れ者が現れ、勝手に井戸を使い出す。2人は外へ飛び出して流れ者を追い払い、流れ者は2人を罵って去る。食器を片付けた後、娘は流れ者の一人が水の礼として渡した本を読むと、教会における悪徳について書かれていた。未だ風は激しく吹き続けている。4日目・・・娘が水を汲みに行くと、井戸が干上がっていた。馬は相変わらず飼い葉を食べず、水ニーチェの馬ド.jpgも飲まない。農夫はここにはもう住めないと、家を引き払う決心をする。荷物を纏めて馬を連れ、今度は自分らで車を引いて農夫と娘は家を出るが、丘を越えたところで戻ってくる。娘は窓から外を何も言わず見続ける。5日目・・・娘は農夫を着替えさせ、農夫は小屋に行き馬の縄を外してやる。2人はジャガイモを貪るも力なく、農夫は殆どを残してしまう。夜になったが、ランプに火が付かなくなり、火種も尽きる。嵐は去っていた。6日目・・・農夫と娘が食卓についている。農夫はジャガイモを生のまま口にするが、すぐ諦める。2人を沈黙が支配する―。

ニーチェの馬 uma2.jpg ハンガリーのタル・ベーラ監督(1955年生まれ)の2011年の作品で、第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞61st Berlin Film Festival - 'A Torinoi Lo' Premiere.jpg(審査員グランプリ)、国際批評家連盟賞(コンペティション部門)を受賞した作品ですが、タル・ベーラ監督はこの作品を監督としての最後の作品と表明しています。それぞれ農夫と娘を演じたデルジ・ヤーノシュ、ボーク・エリカ,ミハーイ・コルモス共、前作「倫敦から来た男」('07年/ハンガリー)に続いての出演で、音楽、撮影、編集も同じスタッフです。
Actor Mihaly Kormos, actress Erika Bok, actor Janos Derzsi and director Bela Tarr in 61st Berlin Film Festival

ニーチェの馬 uma.jpg 強烈な印象を残す馬は、本当に働かなくてその日に売り手がつかなかったらソーセージになるところだった馬を、タル・ベーラ監督がこれだと思って"スカウト"したそうです。冒頭に「1889年1月3日。哲学者ニーチェはトリノの広場で鞭打たれる馬に出会うと、駆け寄り、その首をかき抱いて涙した。そのまま精神は崩壊し、彼は最期の10年間を看取られて穏やかに過ごしたという。 馬のその後は誰も知らない」とナレーションが流れます。この馬は、そのニーチェの馬を象徴的に指しているのでしょうか(原題は「トリノの馬」)。

ニーチェの馬 te.jpg 農夫と娘が強風の中家に閉じ込められ、2日目にはその馬は動かなくなり、4日目には水を失い、5日目には火を失うといった具合に生きていく上で欠かせないものを順番に失っていくわけで、旧約聖書における神が6日間で世界を作った「天地創造」とは逆に、6日で世界が静かに崩壊していく様が、農夫と娘の生活の変化を通して間接的に描かれているとも言えます(タル・ベーラ監督はこの作品について、「本当の終末というのはもっと静かな物であると思う。死に近い沈黙、孤独をもって終わっていくことを伝えたかった」と語っている)。

サクリファイス タルコフスキーga.bmpサクリファイス4.jpg 長回しという点で、アンドレイ・タルコフスキー監督やテオ・アンゲロプロス監督の作品と似ているように思われ、また、世界の終わりを間接的に描いたのであるならば、タルコフスキー監督が第39回カンヌ国際映画祭で、カンヌ映画祭史上初の4賞(審査員特別グランプリ、国際映画批評家賞、エキュメニック賞、芸術特別貢献賞)を受賞した「サクリファイス」('86年/スウェーデン・英・仏)を思い出させます。「サクリファイス」はタルコフスキー監督の遺作で、この監督は晩年になればなるほど作品の哲学的な色合いが濃くなっていったように思いますが、但し「サクリファイス」では、世界の終りの危機が核戦争勃発によってもたらされたことが、登場人物がテレビでそのニュースを聴く場面があることから具体的に示されているのに対し、この「ニーチェの馬」では、2日にパーリンカを分けて欲しいと立ち寄った男が、「町は風で駄目になった」と言うだけです。

ニーチェの馬 po.jpg ほぼ全編に渡って吹きすさぶ風(人工の風だそうだが)―この風によって世界が滅ぶという抽象性がある意味この映画の"重み"になっているように思います。加えて、農夫を演じたデルジ・ヤーノシュの哲学者のような顔つき。殆どセリフがないのも"重さ"に繋がっているし、モノクロ映画であることも効果を増しているように感じられ、個人的には「サクリファイス」より骨太感があるように思いました。長回しが多く、観るのにある程度覚悟のいる作品ですが、他にあまり類を見ない作品であると思います(ジャガイモがこれほど印象に残る映画も無い)。

 因みにハンガリー語圏では名前を「姓・名」の順で表記するため、タル・ベーラ監督は「タル」が姓で「ベーラ」が名前です(女優ボーク・エリカは「エリカ」が名前と言えば分かりやすいか)。印欧語族風にベーラ・タルと表記することもあり(テニスプレーヤーのモニカ・セレシュなども「名・姓」の順)、同じハンガリーの映画監督で、「密告の砦」('65年/密告の砦 0.jpg密告の砦 01.jpgハンガリー)の監督ヤンチョー・ミクローシュ(1921-2014)なども「ミクローシュ・ヤンチョー」と「名・姓」の順で長年通ってしまっているのでややこしいです。1869年、オーストリアとハンガリーの二重帝国治下に入って3年目のハンガリーの、農民と義賊の群れが狩りこまれた荒野の砦を舞台にした「密告の砦」は、ハンガリー人将校たちが仕組んだ"密告"の罠にはまり、次々と倒れていく義賊集団のゲリラたちが悲惨でした。農民が義賊ゲリラ狩りに駆り出されるというのは皮肉ですが、コレ、すべて史実とのことです(1966年度ハンガリー批評家選出最優秀映画賞、1967年度英国批評家協会優秀外国映画賞受賞作品)。「密告の砦」と「ニーチェの馬」の2本だけで、ハンガリー映画って"重い"なあという印象になってしまいがちですが、とりあえず「ヤンチョー」と「タル」が姓であることを憶えておきましょう。

ニーチェの馬 ges.jpg「ニーチェの馬」●原題:A TORINOI LO/THE TURIN HORSE●制作年:2011年●制作国:ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ●監督:タル・ベーラ(苗字・名前順、以下同じ)●製作:テーニ・ガーボル●脚本:タル・ベーラ/クラスナホルカイ・ラースロー●撮影:フレッド・ケレメン●音楽:ヴィーグ・ミハーイ●時間:154分●出演:デルジ・ヤーノシュ/ボーク・エリカ/コルモス・ミハリー●日本公開:2012/02●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-25)(評価:★★★★)

サクリファイス タルコフスキー 00.jpgサクリファイス 000.jpg「サクリファイス」●原題:OFFRET●制作年:1986年●制作国:スウェーデン・イギリス・フランス●監督・脚本:アンドレイ・タルコフスキー●製作:カティンカ・ファラゴ●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ●時間:149分●出演:エルランド・ヨセフソン/スーザン・フリートウッド/オットーアラン・エドヴァル/グドルン・ギスラドッティル/スヴェン・ヴォルテル/ヴァレリー・メレッス/フィリッパ・フランセーン/トミー・チェルクヴィスト●日本公開:1987/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(87-10-17)(評価:★★★☆)

密告の砦 00.jpg密告の砦 02.jpg「密告の砦」●原題:SZEGENYLEGENYEK●制作年:1965年●制作国:ハンガリー●監督:ミクローシュ・ヤンチョー(名前・苗字順、以下同じ)●脚本:ジュラ・ヘルナーディ●撮影:タマーシュ・ショムロー●時間:149分●出演:ヤーノシュ・ゲルベ/ティボル・モルナール/アンドラーシュ・コザーク/ガーボル・アガールディ/ゾルタン・ラティノヴィッチ●日本公開:1977/06●配給:フランス映画社●最初に観た場所:千石・三百人劇場(80-01-23)(評価:★★★★)●併映:「オーソン・ウェルズのフェイク」(オーソン・ウェルズ)

「●ウォン・カーウァイ(王家衛)監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2624】 ウォン・カーウァイ 「恋する惑星
「●「香港電影金像奨 最優秀作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●レスリー・チャン(張國榮) 出演作品」の インデックッスへ 「●マギー・チャン(張曼玉) 出演作品」の インデックッスへ 「●トニー・レオン(梁朝偉) 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ
ウォン・カーウァイ監督がそのスタイルを確立した作品。且つ、主要出演者が全員トップスターになった作品。
欲望の翼 vhs_.jpg欲望の翼0.jpg 欲望の翼 dvd.jpg
欲望の翼【字幕版】 [VHS]」「欲望の翼 [DVD]

欲望の翼00.jpg 欲望の翼 title.jpg サッカー競技場の売り子スー・リーチェン(マギー・チャン(張曼玉))は、ある日突然遊び人風の客ヨディ(レスリー・チャン(張國榮))に交際を迫られ断るが、1分間だけ時計を見ているように言われる。1960年4月16日午後3時。やがてスーはヨデ欲望の翼01.jpgィを愛し始める。ヨディはナイトクラブを経営する養母(レベッカ・パン(藩迪華))と暮らしていたが、彼女が部屋に連れ込んだ男を叩き出し、男から取り返した養母のイヤリングの片方を、居合わせたクラブ欲望の翼03.jpgのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ(劉嘉玲))にやる。翌朝、ヨディと一夜を過ごしたミミが部屋を出ると、昨夜彼女と部屋で出会い、一目惚れしたヨディ欲望の翼 (aka A FEI JING JUEN), Carina Lau.jpgの親友サブ(ジャッキー・チュン(張学友))が階段で待っていた。一方、ミミの存在を知って放心状態で夜の町を彷徨うスーを、巡回中欲望の翼es.jpgの若い警官タイド(アンディ・ラウ(劉徳華))が見つけ、心配し彼女を慰める。彼はスーに恋心を抱き、巡回路の公衆電話に電話するように言うが、彼女からの電話は無かった。養母から恋人とのアメリカ移住を告げられたヨディは、実の欲望の翼mages01.jpg母親の住むフィリピンへと旅立つ。残されて悲しむミミのために、サブはヨディに貰った車を売り、彼の後を追うようにとその金を渡す。ヨディが初めて訪ねた母親はフィリピン貴族の娘で、不義の息子である彼とは会おうとしなかった。自暴自棄になった欲望の翼  tony01.jpgヨディは酔いつぶれ、船乗りに介抱されるが、その船乗りはかつてスーを慰めた元警官タイドだった。ヨディは偽造パスポートで渡米しようとしてギャングを殺してしまい、2人は南へと向かう列車に逃げ込むが、車中でヨディがギャングの報復で撃たれ、息を引き取る。その頃ミミはマニラに降り立ち、香港では誰もいない公衆電話のベルが夜に街角に響いていた。そして九龍のアパートの一室では、ギャンブラー(トニー・レオン(梁朝偉))が身支度を整えていた―。

欲望の翼384.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の監督デビュー作「いますぐ抱きしめたい」('88年)に続く監督第2作の1990年香港映画で、第10回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)、第28回金馬奨で最優秀監督賞を受賞した作品。同監督の浮遊感と疾走感の入り混じる語り口と映像美独特のスタイルが確立された原点と言われている作品ですが、2005年以降日本での上映権が消失していて、その間DVDが再リリーズされたりはしていますが、スクリーンでの上映は今回が13年ぶりでした。

レスリー・チャン/カリーナ・ラウ

欲望の翼Maggie Chueng and Leslie Chueng in Days Of Being Wild (1990).jpg 最後にいきなりトニー・レオンが出て来るのは、続編を想定していたためということですが、当時"アイドルスター"だった主要出演者6人が全員"トップスター"になってしまったため予算的に再結集不可能ということで、続編を作ることができなかったとのこと。後に作られた「花様年華」('00年)、「2046」('04年)に役名や設定が一部受け継がれており、この両作品が実質的な続編とされていますが、話そのものは繋がっていません。個人的には、この作品の雰囲気を色濃く継承しているのは、ゲイ・ムービーですが、「ブエノスアイレス」('97年)であるように思います。
マギー・チャン/レスリー・チャン

欲望の翼ages.jpg 脚本もウォン・カーウァイで、フィリピンでヨディとタイドが偶然出会い、「1960年4月16日午後3時」というキーワードで同じ女性(スー)を介した経験があることに互いに気づくところなどは面白かったです。ヨディを巡るスー(マギー・チャン)とミミ(カリーナ・ラウ)のバトルの激しさもなかなかのものでした。こうして男性同士が偶然出会ったり、女性同士が最悪の状況で鉢合わせするのに、男女は行き違ってばかりいる感じだったなあ。

マギー・チャン/カリーナ・ラウ

欲望の翼 days-of-being-wild.jpg ウォン・カーウァイの作風を愉しむと共に、後のスター俳優たちの若き日の演技が楽しめる作品でもあると思います(レスリー・チャンは2003年に自殺。一方、カリーナ・ラウは2008年にトニー・レオンと結婚した)。レスリー・チャンは、同じ破滅型の人間を演じた後の「ブエノスアイレス」に匹敵するか、その上を行く演技で、彼が演じるヨディは、警官から船乗りに転じたタイドが言うように"カス人間"なのでが、それでも女性たちが惚れる―彼の演技はそのことに説得力を持たせているように思いました(演技力と言うより演技センスがいいという感じ)。

トニー・レオン(梁朝偉)・アンディ・ラウ(劉徳華)2005年来日(「インファナルアフェア3 終極無間」のプロモーション)/ジャッキー・チュン(張學友)2008年来日(コンサート)
劉徳華(アンディ・ラウ)梁朝偉(トニー・レオン).jpg ジャッキー・チュン(張學友).jpg

「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」2023年7月10日
ルシネマ渋谷宮下.jpg「マギー・チャン レトロスペクティブ」.jpg(●2023年7月10日、「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」(2022年12月4日閉館した「渋谷TOEI」のあった渋谷東映プラザ7F・9Fに、Bunkamuraの再開発に伴って2023年4月10日より長期休館に入った「Bunkamuraル・シネマ」が移転して2023年6月16日「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」としてオープン)の杮落とし特集「マギー・チャン レトロスペクティブ」で再見した。マギー・チャン出演作9作が組まれた特集だが、チラシの表紙にはこの「欲望の翼」での彼女が使われている。

 この映画のラストで、トニー・レオン演じるカジノディーラーが、天井の狭い部屋の中で身支度をしている様子「欲望の翼」レオン.jpgだけ描かれ、映画が唐突に終わるのはなぜかについては諸説あるようだ。元々はトニー・レオン演じるディーラーが主要なキャラクターとして考えられていて、実際、ウォン・カーウァイは当時、香港で最も危ないエリアと言われた九龍城砦「欲望の翼」欠片.jpgのアパートで何か月も撮影をしたため、トニー・レオンの実質的な降板によってカットされたフィルムは多かったようだ。その一部はYouTubeにアップされていて、トニー・レオン演じるディーラーの部屋にマギー・チャン演じるスーが会いに階段を登って行く場面や、狭い室内で二人が会話をする場面などがある。

 また、1990年4月、主要キャストであるカリーナ・ラウが、黒社会が出資する映画に強制的に出演させられそうになり、彼女が断固として拒絶したところ、報復として拉致されるという事件が起きた。この事件は彼女にとって大きなトラウマとなったが、この時、毅然と対応をしたのが当時カリーナと恋人の関係にあったトニー・レオンであり、後になってカリーナは、彼が自分を守るためにウォン・カーウァイのこの映画を降板したと告白している。一時期、自殺まで考えたというカリーナの精神的な支えとなるたカリーナ・ラウ.jpgめの決意であり、彼は二人で俳優を辞めることも提案したという。ウォン・カーウァイ自身、当時、香港映画界を取り巻く状況に嫌気をさし、黒社会の資金に依存しない映画作りを模索していた。「ここではないどこかへ」―それはトニー・レオンやウォン・カーウァイが痛切に願ったことであり、トニー・レオンの降板と入れ替えにこの映画の主人公となったレスリー・チャンに委ねられることになったのかもしれない。一方、レスリー・チャン演じる、実の母親に面会を拒絶されてフィリピンのジャングル沿いの道を歩くヨディの姿に被るロス・インディオス・タバハラスの「Always in My Heart」の曲には切ない情感があるが、この映画のヨディ像が、母親が事業に忙しく祖母の家に預けられ乳母に育てられたレスリー・チャンの実人生に重なるという人もいる。確かにそうした見方も成り立つかもしれない。)

カリーナ・ラウ/トニー・レオン夫妻

張國榮(レスリー・チャン)/張曼玉(マギー・チャン)/劉嘉玲(カリーナ・ラウ)/劉徳華(アンディ・ラウ)
「欲望の翼」4 .jpg

Los Indios Trabajaras "Always in my heart"
「欲望の翼」●原題:阿飛正傳/DAYS OF BEING WILD●制作年:1990年●制作国:香欲望の翼371c.jpg港●監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル●音楽:ロス・インディオス・タバハラスザビア・クガート●時間:97分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/マギー・チャン(張曼玉)/カリーナ欲望の翼ド.jpg・ラウ(劉嘉玲)/アンディ・ラウ(劉徳華)/ジャッキー・チュン(張学友)/レベッカ・パン(藩迪華)/トニー・レオン(梁朝偉)●日本公開:1992/03●配給:プレノン・アッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(18-03-15)●2回目:渋谷・Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★)

Xavier Cugat "Perfidia"

「欲望の翼」[VHS]
欲望の翼【字幕ワイド版】.jpg

「●侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2627】 侯孝賢 「珈琲時光
「●「ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞」受賞作」の インデックッスへ 「●トニー・レオン(梁朝偉) 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

歴史に翻弄される家族の愛と哀しみ。〈二・二八事件〉を世に知らしめた一大叙事詩。。

悲情城市 1989-2.jpg 悲情城市  1989-1.jpg 悲情城市76.jpg
悲情城市 [DVD]」「悲情城市 [DVD]」 辛樹芬(シン・シューフェン)/梁朝偉(トニー・レオン)

悲情城市 陳松勇2.jpg 1945年8月15日、日本統治からの台湾解放の日、港町基隆で酒家を営む林家では、長男・文雄(ウンヨン)(陳松勇(チェン・ソンヨン))の妾宅で男児が生まれる。の林家の主は75歳の林阿祿(リン・アルー)(李天祿(リー・ティエンルー))で、次男は軍医として南洋に、三男は通訳として上海に日本人として徴用され戻らない。耳が聞こえず話せない四男の文清(ウンセイ)(梁朝偉(トニー・レオン))は、郊外で写真館を営んでいた。文清は、写真館に同居している教師の呉寛榮(ヒロエ)(呉義芳(ウー・イーファン))の妹で、看護婦として病院に働きに来悲情城市024.jpgた寛美(ヒロミ)(辛樹芬(シン・シューフェン))を迎えに出る。寛榮は、小川校長(長谷川太郎)の娘で、台湾生まれの静子(中村育代)と秘かに愛しあっていたが、日本人であるため故国に帰らねばならなくなった静子は、寛美に寛榮への思いを託して台湾を去る。ある日、精神錯乱状態で生還してきた三男悲情城市 陳松勇.jpgの文良(アリヨン)(高捷(カオ・ジエ))のもとに、文雄の妾妻の兄・阿嘉(アカ)(張嘉年(ケニー・チャン))が、上海ボス(雷鳴レイ・ミン))を連れて来て阿片の密輸を唆すが、それが文雄にばれ、彼の幼なじみの阿城(林照雄(リン・ジャオション))との間の争いに発展、事件は一応決着するが、何者かの密告によって漢奸の疑いで文良が逮捕され、文雄は阿嘉を連れて上海ボスと対面、文良の釈放を頼むが、文良は大量の血を吐いて帰宅する。

悲情城市44.jpg 1947年2月27日、台北でヤミ煙草取締りの騒動を発端に本省人と外省人が争う〈二・二八事件〉が勃発、寛榮と文清は臨時戒厳令下の台北へ向うが、文清が無事帰宅した悲情城市77.jpg数日後、寛榮が足を折って戻る。台湾省行政長官として赴任した国民党の陳儀将軍は弾圧を命じ、やがて文清が逮捕される。口がきけずに釈放された文清は、次悲情城市65.jpg々処刑された仲間の遺品を遺族に届ける旅に出、山奥でゲリラとなって身悲情城市029.jpgを潜める寛榮と再会する。その頃文雄は、賭場で阿嘉の喧嘩に巻き込まれ、上海ボスの拳銃に命を落とす。数日後、文清と寛美の結婚式が行われ、やがて二人の間に男の子が生まれる。そんなある日、山からの使者が、軍隊が山に踏み込み寛榮たちが銃殺されたことを伝え、文清にも逃げるように言うが、彼らに行く場所は無かった―。

悲情城市88.jpg 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の1989年公開作で、第46回ヴェネツィア国際映画祭「金獅子賞」受賞作品。終戦直後の台湾北部の基隆・九份を舞台に〈二・二八事件〉を取り扱っていますが、そもそも当時は〈二・二八事件〉そのものをタブー視する雰囲気も強く、公開自体が危ぶまれたのこと。幸いにしてノーカットで公開されるや台湾でも大ヒットしています。〈二・二八事件〉を直接的に描いた初めての劇映画であり、この映画がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したこことで初めて、〈二・二八事件〉が世界的に知られる事となった(日本も含め)とのです。

 外省人が内省人を政治弾圧したわけで、とりわけ国民党は知識分子や左翼分子を徹底的に弾圧したため(白色テロ)、80年代終わりくらいまで、この事件に触れることはタブーとされていたようです(今世紀に入って、事件の最大の責任者は蒋介石だとする研究結果が発表されている)。1947年に敷かれた戒厳令が解除されたのが1987年であったことを思うと、当時まだそうした雰囲気が根強く残っていたのかもしれません。

 そうしたことは個人的には、1980年頃に始めて台湾に観光で行った時はよく分からなかったのですが(あちこちに麻薬撲滅の標語があったのと、写真を撮ることが禁じられてる場所が多くあったのが印象に残っている)、当時から現地の人々は日本人旅行者に親切で、当時は40代以上の人は皆日本語が話せたということもありますが、今思うと、日本人に親切なのもある意味、日本統治が終了した後の悲惨な歴史の反動と取れなくもない気がします。この映画が公開された後90年代にも台湾に行きましたが、その時点でもまだこの映画を観ていなかったことが悔やまれます(今だったらネットですぐに「台湾旅行に行く人が観ている」的な情報が入ったかも)。

悲情城市33.jpg悲情城市es.jpg トニー・レオンが若いです(役柄上、ややもっさい感じ)。台湾語が話せなかったため聴覚障害者の役(文清)になったと言われていますが、物語は主に、自らは筆談によってしか言葉を発することができないこの文清の視点で進行していきます。周囲の人が議論したり激昂したりしているのを、耳が聞こえないにしろその傍にいることで、間接的に"語り部"の役割を果たしていることになり、複雑な政治背景等がある程度分り易くなっているように思いました(因みに、この作品の日本語字幕を手掛けた台湾生まれの田村志津枝氏の著書『悲情城市の人びと―台湾と日本のうた』('92年/晶文社)によれば、映画では俳優達が日本語を知らないため台湾語が多用されているが、知識人達が当時使っていたのは日本語であったとのこと)。

悲情城市86.jpg それにしても重かったです。この映画の四兄弟も、軍医として南洋に行った次男は結局行方知れずのままであるし(おそらく戦死したということだろう)、三男は精神を病んで帰還、一人頑張っていた長男も(家長である父を継いでゴッドファーザー的な役割を担っていた)、入りびたっていた賭場で喧嘩に巻き込まれて撃たれて亡くなり(現地の闇社会を描いていて日本のヤクザ映画みたいな場面が何度かあった)、文清と一緒に思想犯として捉われた人たちは処刑され、文清の親友で寛美の兄である寛榮も、山に籠って妻帯し新たな生活を始めるも軍隊に踏み込まれて銃殺されます。兄弟でただ一人残った文清が寛美と結婚し、子供が生まれ新たな家庭を築いたことが唯一の救いかと思ったら、その文清も―。「歴史に翻弄される家族の愛と哀しみを描いた年代記」「侯孝賢畢生の一大叙事詩」という謳い文句に偽りは無い作品でした。

悲情城市99.jpg「悲情城市」●原題:悲情城市/A CITY OF SADNESS●制作年:1989年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:邱復生●脚本:呉念真/朱天文(チュー・ティエンウェン)●音楽:立川直樹/張弘毅/S.E.N.S.●撮影:陳懐恩●時間:159分●出演:李天禄(リー・ティエンルー)/陳松勇(チェン・ソンヨン)/高捷(カオ・ジエ)/梁朝偉(トニー・レオン)/辛樹芬(シン・シューフェン)/呉義芳(ウー・イーファン)/陳淑芳(チェン・シューファン)/黄倩如(ホアン・チンルー)/柯素雲(クー・スーユン)/林麗卿(リン・リー悲情城市 77.jpgチン)/何璦雲(フー・アイユン)/張嘉年(ケニー・チャン)/林揚(リン・ヤン)/詹宏志(ヂャン・ホンジー)/呉念眞(ウー・ニエンジェン)/謝材俊(シエ・ツァイジュン)/張大春(ジャン・ダーチュン)/中村育代/長谷川太郎/頼徳南(ライ・ドゥーナン)/雷鳴(レイ・ミン)/文帥(ウェン・シュアイ)/比利(ビリー)/矮仔塗(アイ・ツートゥ)/陳郁蓉(チェン・ユーロン)/林照雄(リン・ジャオション)/林鉅(リン・ジュイ)/阿匹婆(ア・ピポ)/鷺青(ルー・チン)/梅芳(メイ・ファン)●日本公開:1990/04●配給:フランス映画社=ぴあ(評価:★★★★☆)

《読書MEMO》
●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

「●た ロアルド・ダール」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2568】 ロアルド・ダール 『キス・キス
「●「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」受賞作」の インデックッスへ 「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●TV-M (ロアルド・ダール原作)」の インデックッスへ「●アルフレッド・ヒッチコック監督作品」の インデックッスへ(「兇器」「賭」「毒蛇」)「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●スティーブ・マックイーン 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」「ヒッチコック劇場」「新・ヒッチコック劇場」)

個人的ベスト3は、①「南から来た男」、②「おとなしい凶器」、③「プールでひと泳ぎ」。

あなたに似た人Ⅰ .jpg あなたに似た人Ⅱ .jpg あなたに似た人hpm(57).jpg あなたに似た人hm(76)文庫.jpgあなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg
あなたに似た人〔新訳版〕 I 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕』『あなたに似た人〔新訳版〕 II 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕』『あなたに似た人 (1957年) (Hayakawa Pocket Mystery 371)』『あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))』(カバーイラスト・和田誠)
南から来た男 指.jpg「ヒッチコック劇場(第136話)/指」('60年)スティーブ・マックイーン/ニール・アダムス/ピーター・ローレ
「新・ヒッチコック劇場(第15話)/小指切断ゲーム」('85年)スティーヴン・バウアー/メラニー・グリフィス/ジョン・ヒューストン/ティッピ・ヘドレン
New York: Alfred A. Knopf(1953)
Alfred A. Knopf 1st edition.jpgRoald Dahl2.jpg 『あなたに似た人(Someone Like You)』はロアルド・ダール(Roald Dahl、1916-1990/享年74)の1953年刊行の第二短編集で、1954年の「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」受賞作です(短編賞)。因みに第一短編集は1946年刊行の『飛行士たちの話』('81年/ハヤカワ・ミステリ文庫)、第三短編集は1960年刊行の『キス・キス』('74年/早川書房)になります(『キス・キス』所収の「女主人」で再度「エドガー賞」(短編賞)を獲っている)。また、この作家は、1964年に発表され映画化もされた『チョコレート工場の秘密』('05年/評論社)など児童小説でも知られています。

ハヤカワミステリ文庫創刊 あなたに似た人.png 『あなたに似た人』は、田村隆一訳で1957年にハヤカワ・ポケットミステリで刊行され、その後1976年にハヤカワ・ミステリ文庫で刊行(創刊ラインアップの一冊)されましたが、その際には、「味」「おとなしい兇器」「南から来た男」「兵隊」「わがいとしき妻よ、わが鳩よ」「海の中へ」「韋駄天のフォックスリイ」「皮膚」「毒」「お願い」「首」「音響捕獲機」「告別」「偉大なる自動文章製造機」「クロウドの犬」の15編を所収していました。そして、この田口俊樹氏による〔新訳版〕は、「Ⅰ」に「味」「おとなしい凶器」「南から来た男」「兵士」「わが愛しき妻、可愛あなたに似た人Ⅰ.jpgあなたに似た人Ⅱ.jpgい人よ」「プールでひと泳ぎ」「ギャロッピング・フォックスリー」「皮膚」「毒」「願い」「首」の11篇、「Ⅱ」に「サウンドマシン」「満たされた人生に最後の別れを」「偉大なる自動文章製造機」「クロードの犬」の4編と、更に〈特別収録〉として「ああ生命の妙なる神秘よ」「廃墟にて」の2篇を収めています。

  
「Ⅰ」所収分
「味」 "Taste"
 私はある晩餐会に妻を連れて参加していた。客の1人は有名な美食家リチャード・プラットで、招いた側のマイク・スコウフィールドは、銘柄を見せずにワインを出し、いつどこで作られたワインか当てられるか、プラットに尋ねる。君にも絶対わからないと自信満々のマイクに対し、プラットは絶対に当てると余裕の表情。そこで、2人は賭けをすることにし、賭けの対象となったのはマイクの娘。プラットが勝てば娘を嫁にもらい、逆にマイクが勝てば、プラットから家と別荘をもらうという約束が取り交わされる。プラットは、ワインの入ったグラスをゆっくりと持ち上げて―。面白かったですが、わりかしオーソドックスにあるパターンではないかなあ。

Tales of the Unexpected  1979.jpgTales of the Unexpected.jpg この作品は、BBCで1979年から1988年に放映された、ロアルド・ダール自身がシリーズ番組で毎回案内役を務める「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(Tales of the Unexpected)」の中では、全9シリーズ・112話の内の、第2シリーズ第16話(全シーズン通し番号。以下、同じ。)「ワインの味」(1980)(日本での放映時またはソフト化時の邦題。以下、同じ。)としてドラマ化されています。「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」は日本では1980年、東京12チャンネル(現テレビ東京)で土曜夜10時30分の時間帯に28作品が初放送されていますが、「ワインの味」はそのラインアップには無く、後にCS放送(ミステリチャンネル)で放映されたりTales of the Unexpected - Taste(1979).jpgDVD化されたりしています(このように当時放映されず後にDVD化されたエピソードや、今も本邦未ソフト化のエピソードもあるため、ロアルド・ダール劇場の「話数」は原則通り本国のものを採用。ドラマ版は原作をどう表現しているかを観る楽しみもあり、この原作のドラマ化作品「ワインの味」に関して言えば、まずまず楽しめました(緊迫感のあとのスッキリした気分は、ドラマの方が効果大だったかも)。
Tales of the Unexpected -Roald Dahl、Season 2 #16."Taste"(1980)(「ワインの味」)

「おとなしい凶器」"Lamb to the Slaughter"
松本清張11.jpg 料理の支度をしながら愛する夫の帰りを待っている妻メアリ。しかし、帰ってきた夫からもたらされたのは別れの言葉だった。彼女は絶望して、とっさに夫を殺害するが、凶器の仔羊の冷凍腿肉を解凍して調理し、それを刑事たちにふるまう。刑事たちは何も知らずに殺人の凶器となった証拠を食べてしまう―。松本清張の短編集『黒い画集』('60年/カッパ・ノベルズ)の中に「凶器」という作品があって、殺人の容疑者は同じく女性で、結局、警察は犯人を挙げることは出来ず、女性からぜんざいをふるまわれて帰ってしまうのですが、実は凶器はカチンカチンの「なまこ餅」で、それを刑事たちが女性からぜんざいをふるまわれて食べてしまったという話があり、松本清張自身が「ダールの短篇などに感心し、あの味を日本的なものにヒッチコック劇場傑作選「兇器 vhs.jpgAlfred Hitchcock Presents - Lamb to the Slaughter.jpgAlfred Hitchcock Presents Lamb to the Slaughter 兇器.jpg移せないかと考えた」(渡辺剣次編『13の凶器―推理ベスト・コレクション』('76年/講談社))と創作の動機を明かしています。この作品は次に述べる「南から来た男」と同じく、CBSで1955年から1962年に放映された「ヒッチコック劇場(Alfred Hitchcock Presents)」で第84話「兇器」(1958)ヒッチコック劇場の「話数」は邦順を採用として映像化されています。映像化してどれくらいリアリティがあるかと思われるプロットですが、そこはさすがにヒッチコックでした。作品の核であるユーモアは、リアティによって支えられているのだなあと。ラストの主人公の笑みは、2年後に撮られる「サイコ」('60年)を想起させます。
Alfred Hitchcock Presents - Season 3 Episode 28 #106."Lamb to the Slaughter"(1958)(「兇器」)

Lamb to the Slaughter 1979 2.jpglamb to the slaughter 1979.jpg 因みに、「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第1シリーズ第4話でドラマ化(「おとなしい凶器」(1979))されていますが(主演は「わらの犬」('71年)のスーザン・ジョージ)、最初に実際に外部の者の犯行であったような映像を見せていて、観る者に対するある種"叙述トリック"的な造作になっています。好みはあると思いますが、個人的には、実際に無かったことを映像化するのはどうかなと思いました。
Tales of the Unexpected: Lamb to the Slaughter(1979)(「おとなしい凶器」)Susan George

「南から来た男」 "Man from the South"
ダール 南から来た男 ド.jpgダール 南から来た男.jpg プールそばのデッキチェアでのんびりしている私は、パナマ帽をかぶった小柄な老人が、やって来たのに気づく。アメリカ人の青年が、老人の葉巻に火をつけてやる。いつでも必ずライターに火がつくと知って、老人は賭けを申し出、あなたが、そのライターで続けて十回、一度もミスしないで火がつけzippo.gifられるかどうか、自分はできない方に賭けると。十回連続でライターに火がついたら、青年はキャデラックがもらえ、その代り、一度でも失敗したら、小指を切り落とすと言う。青年は迷うが―。この作品は、金原瑞人氏の訳で『南から来た男 ホラー短編集2』('12年/岩波少年文庫)にも所収されています。
 
●ヒッチコック劇場(第136話)「指」(1960)スティーブ・マックイーン/ピーター・ローレ(老人)/ニール・アダムス Alfred Hitchcock Presents - Season 5 Episode 15 #168."The Man from the South"(1959)
南から来た男.JPGダール 南から来た男es.jpg この「南から来た男」は「ヒッチコック劇場」で1960年にスティーブ・マックイーンニール・アダムス(当時のマックイーンの妻)によって演じられ((第136話「指」)、監督はノーマン・ロイド(ヒッチコックの「逃走迷路」('42年)で自由の女神から落っこちる犯人を演じた俳優でもあり、「ヒッチコック劇場」で19エピソード、「ヒッチコック・サスペンス」で3エピソードを監督している)、"南から来た男"を演じたのはジョン・ヒューストン監督の「マルタの鷹」('41年)でカイロという奇妙な男を演じたピーター・ローレでした。更に1985年に「新・ヒッチコック劇場」スティーヴン・バウアーメラニー・グリフィス主演でリメイクされ(第15話「小指切断ゲーム」)新・ヒッチコック劇場の話数は邦順を採用。「小指切断ゲーム」は本国ではパイロット版として放映された)、メラニー・グリフィスの母親ティッピ・ヘドレンも特別出演しています。"南から来た男"を演じたのは「マルタの鷹」の監督ジョン・ヒューストン、最後に出てくる"女"を演じたのは「めまい」('58年)のム・ノヴァクでした。共に舞台はカジノに改変されていますが、出来としてはマックイーン版がかなり良いと思いました。スティーブ・マックイーンはテレビシリーズ「拳銃無宿」('58-'61年)で人気が出始めた頃で、この年「荒野の七人」('60年)でブレイクしますが、この作品はアクションは無く、マックイーンは怪優ピーター・ローレを相手に純粋に演技で勝負しています。但し、マックイーンが演じるとどこかアクション映画っぽい緊迫感が「小指切断ゲーム」(1985)0.jpg「小指切断ゲーム」(1985).jpg出るのが興味深く、緊迫感においてスティーヴン・バウアー版を上回っているように思います(IMDbのスコアもマックイーン版は8.7とかなりのハイスコア)。
●新・ヒッチコック劇場(第15話)「小指切断ゲーム」(1985)メラニー・グリフィス/キム・ノヴァク/スティーヴン・バウアー/ジョン・ヒューストン(老人)/ティッピ・ヘドレン
●ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第1話)「南から来た男」ホセ・フェラー(老人)/マイケル・オントキーンTales of the Unexpected - Season 1 #1."The Man from the South"(1979)
The Man from the South 1979.jpgTales of the Unexpected - The Man from the South.jpg 「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では第1シリーズ第1話として1975年に、ホセ・フェラー(老人)、マイケル・オントキーン(青年)主演でドラマ化(邦題も「南から来た男」)されています。舞台は原作通りリゾートになっていて、老人はちゃんとパナマ帽を被っています。派手さは無いけれど原作にほぼ忠実です(IMDbのスコアは7.3)。映画化作品では、オムニバス映画「フォー・ルームス」('95年/米)の第4話「ペントハウス ハリウッドから来た男」(クエンティン・タランティーノ監督、ティム・ロス主演、ブルース・ウィリス共演)があります(内容はかなり翻案されている)。

吉行 淳之介.jpg 吉行淳之介はこの短編の初訳者である田村隆一との対談で、あのラストで不気味なのは「老人」ではなく「妻」の方であり、夫の狂気に付き合う妻の狂気がより強く出ていると指摘しています。そう考えると、結構"深い"作品と言えるかと思います。


「兵士」 "The Soldier"
 戦争で精神を病んでしまい、何もかもが無感覚になってしまった男。足を怪我しても気がつかず、物に触っても触っている感触が無い。女と暮らしているが、その女が誰なのかも分からなくなってしまう―。ホラー・ミステリですが、ミステリとしての部分は、女が妻であることはかなり明確であり、ホラーの方の色合いが濃いかもしれません。

「わが愛しき妻、可愛い人よ」 "My Lady Love, My Dove"(旧訳「わがいとしき妻よ、わが鳩よ」)
Tales of the Unexpected - My Lady Love, My Dove.jpg 私と妻はブリッジをやるためにスネープ夫妻が来るのを待っている。私も妻も夫妻のことはあまり好きではないが、ブリッジのために我慢する。妻はふと、いったい、スネープ夫妻が2人きりの時はどんな様子をしているのか、マイクを取り付けて聞いてみようと言う。そいて、それを実行に移し、聞こえてきた2人の会話は、ブリッジにおけるインチキの打ち合わせだった。それを聞いた妻は―。夫婦そろって悪事に身を染める場合、妻主導で、夫は妻の尻に敷かれていたという状況もあり得るのだなあ(「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第2シリーズ第17話でドラマ化(1980)されているが、日本でDVD化はされていない)。
Tales of the Unexpected - My Lady Love, My Dove (1980)

「プールでひと泳ぎ」 "Dip in the Pool"(旧訳「海の中へ」)
 船旅中のミスター・ウィリアム・ボディボルは、ある時間帯までに船がどのくらいの距離を進むか賭ける懸賞Dip In The Pool 01.jpg(オークション・プール)に参加する。嵐が来ているので、ミスター・ボディボルは有り金全部を短い距離につぎ込むが、朝起きると嵐は収まり、船は快走していて、彼は大いに嘆く。しかし、ある作戦を思いつき、それは、船から人が落ちれば船は救助のため遅れるはずだというもので、自分が落ちた現場を目撃するのに最適な人を探し始める―。ブラックでコミカルと言うか、悲喜劇といった感じ。他人を突き落とすことを考えないで、自分で飛びこんだ分、悪い人ではないのでしょうが。この作品も「ヒッチコック劇場」で第103話「賭」(1958)として映像化されていて、「兇器」と同じく、ヒッチコックDip In The Pool 02o.jpg自身が監督しています。クルDip in the Pool.jpgーズ船は借り切ったのかなあ。主役の俳優は、この体形で海に飛び込んで大丈夫かな思ったけれど、見事な飛込みぶりでした。スタントだとは思いますが、「落ちる」のではなく「飛び込み」をしていました。老婦人が見ていない隙に落ちるのだから、これでもいいのかも(でも、アスリートぽかった)。
Alfred Hitchcock Presents - Season 3 Episode 35 #113."A Dip in the Pool"(1958)(「賭」)

ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事/海の中へ01.jpg この作品は「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第1シリーズ第8話「海の中へ」(1979)としてドラマ化されていて、やはり主人公は太っていますが、こちらは「落ちて」いました。こちらも立派なクルーズ船を使っていましたが、ヒッチコック版の方がモノクロフィルムの強みと言うか、重厚感がロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事/海の中へ03.pngあったように思います。この映像化作品単独で観ても面白いのですが、それは原作の面白さに依るものであり、ヒッチコック版と比べると、同じ短編でありながら、ヒッチコック自身が演出したことで醸されている重厚感には及ばないでしょうか。繰り返しになりますが、コメディ映画は、リアルかつシリアスに作り込めが作り込むほど、ユーモアが映えるように思います(因みに原題が "Dip in the Sea"でなく"Dip in the Pool"となっているのは、"Dip in the Sea"だと「海水浴」になってしまうのと、"Dip"とすることで「賭場(Pool)に浸る」という意味に懸けたのではないか)。
Tales of the Unexpected - Dip in the Pool(1979)(「海の中へ」)
   
「ギャロッピング・フォックスリー」 "Galloping Foxley"(旧訳「韋駄天のフォックスリイ」)
 ある日私は、電車に乗ろうとした時、ホームに知った顔を見つける。"ギャロッピング・フォックスリー"と呼ばれ少年の頃に私を苛めていた相手ブルース・でフォックスリーだった。私は彼が自分にした仕打ちを一つ一つ思い出していき、彼にどんな復讐をしてやろうかと考える―。子どもの頃に苛められた記憶って大人になっても消えないのだろうなあ。苛められたことが無い人でも、主人公の気持ちは分かるのでは。それにしても、名乗り合ったら、相手の方がより名門校(イートン校)の出身で、しかも9つも年下だったというのが可笑しいです。こGalloping Foxley.jpgれもドラマシリーズ「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出01見知らぬ乗客.jpg来事」の中で第2シリーズ第12話「見知らぬ乗客」(1980)として映像化されています。主演のジョン・ミルズ(「ライアンの娘」('70年/英・米)のオスカー俳優でサーの称号が与えられている)はさすがの演技達者ぶりで、若き日のフォックスリーを演じたジョナサン・スコット=テイラー(前年に「オーメン2」('79年/米)でダミアン少年を演じている)のいじめっ子ぶりも強烈でした。
Tales of the Unexpected - Galloping Foxley (1980)(「見知らぬ乗客」)

「皮膚」"Skin"
 ドリオリという老人は、ある画廊でシャイム・スーチンの絵が飾られているのを見つける。それは自分がかつて可愛がっていた少年の描いた絵だった。画廊にいる人々かTales of the Unexpected' - Skin(1980)1.jpgら追い払われそうになったドリオリは、自分はこの絵描きの描いたものを持っていると叫ぶ―。タイトルから何となくどういうことか分かりましたが、さすがにラストはブラックで、ちょっと気持ち悪かったです。とは言え、同時に、主人公の哀れさも滲みます。これも「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中で第2シリーズ第11話「永遠の名作」(1980)として映像化されています。カンヌには画商が老人を住まわせると言っていたホテルは存在しないというところまではよく分からなかったですが、ラストの額縁に入った一枚の絵を見せられれば、それだけで充分でした。
Tales of the Unexpected - Skin(1980)(「永遠の名作」)

「毒」"Poison"
 真夜中のベンガル。私がバンガローに戻って来ると、ベッドで寝ていたハリーの様子が変で、「音をたてないでくれ」と言い、汗びっしょり。本を読んでいたら毒蛇がやってきて、今も腹の上に乗っていると言うので、私は医者のガンデルバイを呼び、どう刺激しないように毒蛇を毒 alfred hitchcock presents poison.jpg動かすか、万が一噛まれた時の処置はどうするか等々、様々な作戦を立てるが―。ハリーのインド人医師に対する人種差別意識と重なり、風刺っぽい皮肉が効いています。この作品もまた「ヒッチコック劇Alfred Hitchcock Presents - S 4 E 1 poison.jpg場」で第124話「毒蛇」として映像化されていますが、原作をいくつか変えています。大きなものとしては、ハリーと"ティンバー"(原作の「私」)の一人の女性をめぐる微妙な関係と、結末のドラマ独自のどんでん返しがあります。普通、原作をいじるとダメになることが多いですが(特に結末)、ヒッチコック自身が演出しているこの作品は原作とはまた違った"味"がありました。
Alfred Hitchcock Presents - Season 4 Episode 1 #118."Poison"(1958)(「毒蛇」)

Tales of the unexpected Poison 2.jpgTales of the unexpected Poison.jpg また、「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では第2シリーズ第14話「或る夜の事件」(1980)としてドラマ化されていて、こちらもハリーの妻と"ティンバー"の不倫などを織り込んで話を膨らませていますが、その部分をここまで"見える化"してしまったのはどうだったかなと思いました(同じく改変はしているが、ヒッチコック版の方がいいか)。
Tales of the Unexpected - Poison(1980)(「或る夜の事件」)

「願い」"The Wish"
 絨毯の上にいる少年は想像を膨らませる。絨毯の赤い所は石炭が燃えている固まりで、黒い所は毒蛇の固まり、黄色の所だけは歩いても大丈夫な所。焼かれもしないで、毒蛇に噛まれもしないで向こうへ渡れたら、明日の誕生日にはきっと仔犬がもらえるはず。少年はおそるおそる黄色の所だけを歩き始めて―。子供の他愛の無い空想遊びの話ですが、最後の一行で、本当に空想に過ぎなかったのか不安が残ります。

「首」 "Neck"
故ウィリアム・タートン卿所蔵の芸術品に興味のある私は、バシル・タートン卿の招待を受けて屋敷へ行く。執事の口ぶりから察するに、レディ・タートンとジャック・ハドック少佐はただならぬ関係らしい。庭園には様々な芸術品があるが、中でもヘンリイ・ムーアの木製の彫刻が素晴らしい。彫刻には穴がいつかあり、レディ・タートンがふく第6話「首」 .jpgざけて穴に頭を突っ込んで抜けなくなってしまう。バジル卿は、鋸と斧を持ってくるよう執事に命じるが、彼が手にしたのは斧だった―。芸術至上06 首 ジョン・ギールグッド.jpg主義の本分からして、実際、斧で妻の首を切落としかねない感じでしたが...。浮気妻への"心理的"復讐と言ったところだったでしょうか。「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第1シリーズ第6話でドラマ化(「首」(1979))されています。実際に広大な庭にムーアっぽい彫刻を幾つも据えていました。ラストは、斧を振り下ろすところでストップモーションになっています。
Tales of the Unexpected - Neck (1979)(「首」)John Gielgud Joan Collins


「Ⅱ」所収分 
「サウンドマシン」 "The Sound Machine"(旧訳「音響捕獲機」)
 クロースナーは人間の耳では聞くことの出来ない音をとらえる機械を作った。早速、イヤホンをしてダイヤルを回すと、ミセス・ソーンダースの庭から、茎が切られる時のばらの叫び声が聞こえてきて―。昔、サボテンが、傍でオキアミを第41話 サウンドマシン  The Sound Machine 1.jpg茹でたりすると電磁波を発信するという話がありましたが、最近は園芸店やホームセンターで、「電磁波を吸収する効果があるサボテン」というのが売られています。「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」の中では、第4シリーズ第41話でドラマ化(「音響捕獲機」(1981))されていますが、 ハリー・アンドリュースが演じるクロースナーは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」('85年/米)でクリストファー・ロイドが演じた"ドグ"っぽい感じのマッドサイエンティストぶり(でも、こっちの方が4年早い)。ただ、映像化したからと言って何か新たな発見があるような内容でもなかったです。
Tales of the Unexpected - The Sound Machine (1979)(「音響捕獲機」)Harry Andrews

「満たされた人生に最後の別れを」 "Nunc Dimittis"
 私はある婦人からジョン・ロイデンという画家の話を聞く。ロイデンは素晴らしい肖像画を描くのだが、まず裸の絵を描いて、その上に下着を描いて、さらにその上に服を重ねて描くという手法を使っているらしい。その婦人から、恋人のジャネット・デ・ペラージアが自分のことを影では嘲笑っていると聞き、ある復讐を思いつく。ロイデンにジャネットの肖像画を描かせた私は、脱脂綿に液体をつけて、少しずつドレスの絵の具をこすっていく―。旧訳のタイトルは「告別」で、原題の意はシメオンの賛歌から「今こそ主よ、僕を去らせたまわん」。陰険な独身男の主人公はキャビア大好き男でもあり、復讐相手から和解の印にキャビアを贈られて...。

「偉大なる自動文章製造機」 "The Great Automatic Grammatizator"
大型自動計算器を開発しているアドルフ・ナイプは、自分の好きな物語を作ることのできる機械を発明する。ちょっとしたアイディアだけで、素敵な文章の面白い小説を作ることができるのだ。ナイプはミスター・ボーレンと組んで小説を次々と作り、既存作家の代作まで始めることに。リストアップされた作家の7割が契約書にサインし、今も多くの作家たちがナイプと手を組もうとしている―。2016年に、AI(人工知能)が書いた小説が文学賞で選考通過というニュースがあり(「星新一文学賞」だったと思う)、まったくのSFと言うより、今や近未来小説に近い感じになっているかも。

「クロードの犬」 "Claud's Dog " 
 「ねずみ捕りの男」 "The Ratcatcher"
 私とクロードのいる給油所に保健所の依頼を受けたねずみ捕りの男がやって来る。彼は、ボンネットの上に年老いたドブネズミをくくりつけ、私たちに手を使わずにねずみを殺せるということについて賭けを持ちかける―。このねずみ捕りの男、何者じゃーって感じです。
 「ラミンズ」 "Rummins"
 ラミンズと息子のバードが草山を束に切っていると、ナイフの刃がなにか硬いものをこするようなガリガリいう音を立てる。ラミンズは「さあ、続けろ!そのまま切るのだ、バート!」と言う。それを見ていた私は、みんなで乾草の束を作っていた時のことを思い出す。これって、純粋に事故なのでしょうか。
 「ミスター・ホディ」 "Mr. Hoddy"
 クラリスと結婚することを決めたクロードは、クラリスの父親のミスター・ホディに会いに行きく。どうやって生計を立てて行くか聞かれたクロードは、自信満々に、蛆虫製造工場を始める計画を語る―。こりゃ、破談になるわ。
 「ミスター・フィージィ」 "Mr. Feasey"
私とクロードは、ドッグレースで儲ける作戦を思いつく。クロードは走るのが速いジャッキーという犬を飼っているが、そのジャッキーとそっくりの走るのが全然早くない犬をも飼っていた。そこで、参加するドッグレースに初めはその偽ジャッキーを出しておいて、レベルの低い犬として認定されるようにし、本番の大勝負では、本物のジャッキーを参加させれば大穴になり、大儲けができるという作戦だった。この作戦はうまく行ったかに見えたが―。やっぱりズルはいけないね、という感じしょうか。

 (追加収録)
「ああ生命の妙なる神秘よ」北を向いてすれは雌が生まれる? 人間にも応用できるのかあ(笑)。

「廃墟にて」食料も無くなった未来の廃墟で、自分の脚を切って食べる男。それを見つめていた少女にも分けてやるが―。何となく、どこかで読んだことがあるような気がします。

 因みに、最後の2篇は、邦訳短編集としては初収録ですが、「ああ生命の妙なる神秘よ」は「ミステリマガジン」1991年4月号、「廃墟にて」は同誌1967年3月号に掲載されたことがあるとのことです。

 個人的ベスト3は、①「南から来た男」、②「おとなしい凶器」、③「プールでひと泳ぎ」でしょうか。とりわけ「南から来た男」は、吉行淳之介の読み解きを知った影響もありますが◎(二重丸)です。「ギャロッピング・フォックスリー」「首」もまずまずでした。

「人喰いアメーバの恐怖」 [VHS]/「マックイーンの絶対の危機 デジタル・リマスター版 [DVD]
マックィーンの絶対の危機_9.jpg人喰いアメーバの恐怖 .jpgマックィーンの絶対の危機(ピンチ)dvd.jpg 因みに、スティーブ・マックイーンの初主演映画は、「ヒッチコック劇場」の「指」に出演した2年前のアービン・S・イヤワース・ジュニア監督の「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)」('58年)で、日本公開は'65年1月。日本での'72年のテレビ初放送時のタイトルは「SF人喰いアメーバの恐怖」で、'86年のビデオ発売時のタイトルも「スティーブ・マックィーンの人喰いアメーバの恐怖」だったので、「人喰いアメーバの恐怖」のタイトルの方が馴染みがある人が多いのではないでしょうか。宇宙生物マックィーンの絶対の危機_1.jpgが隕石と共にやって来たという定番SF怪物映画で、怪物は田舎町を襲い、人間を捕食して巨大化していきますが、これ、"アメーバ"と言うより"液体生物"でしょう(原題の"The Blob"はイメージ的には"スライム"に近い?)。この液体生物に立ち向かうのがマックイーン(当時、クレジットはスティーブン・マックイーンで、役名の方がスティーブになっている)らが演じるティーンエイジャーたちで、スティーブン・マックイーンは実年齢27歳で高校生を演マックィーンの絶対の危機_2.jpgじています(まあ、日本でもこうしたことは時々あるが)。CGが無い時代なので手作り感はありますが、そんなに凝った特撮ではなく、B級映画であるには違いないでしょう。ただそのキッチュな味わいが一部にカルト的人気を呼んでいるようです。スティーブ・マックイーン主演ということで後に注目されるようになったことも影響しているかと思いますが、「人喰いアメーバの恐怖2」(ビデオ邦題「悪魔のエイリアン」)('72年)という続編や「ブロブ/宇宙からの不明物体」('88年)というリメイク作品が作られています。
       


ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事 第四集.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第16話)/ワインの味●原題:Tales of the Unexpected -TASTE●制作年:1980年●制作ワインの味.jpg国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/04/12●監督:アラステア・リード●脚本:ロナルド・ハーウッド●原作:ロアルド・ダール「味」●時間:26分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ロン・ムーディー/アントニー・キャリック/Mercia Glossop/デビー・ファーリントン●DVD発売:2008/01●発売元:JVD(評価★★★☆)
ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事 第四集 BOX [DVD]」(「ワインの味 /Taste」「風景画 /Picture of a place」「盗み聴き /The Eavesdropper」 「動物と話す少年 /The Boy who talked with Animals」「 かも /There's One Born Every Minute」 「ブルー・マリーゴールド /Blue Marigold」 「確実な方法 /The Way to do it」「顔役 /The Man at tha Top」「クリスマスに帰る /Back for Christmas」)

Alfred Hitchcock Presents Lamb to the Slaughter. (1958) f.jpg「ヒッチコック劇場(第84話)/兇器●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 3 E 28-#106)LAMB TO THE SLAUGHTERヒッチコック劇場 第ニ集 バリューパック.jpg●制作年:1958年●制作国:アメリカ●本国放映:1958/04/13●監督:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:ロアルド・ダール●原作:ロアルド・ダール「やさしい凶器」●時間:30分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/バーバラ・デル・ゲデス/ハロルド・J・ストーン●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放映局:日本テレビ(評価★★★★)
ヒッチコック劇場 第ニ集 バリューパック [DVD]」【Disc1】「兇器」「亡霊の見える椅子」「女性専科第一課 中年不夫婦のために」所収

ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事 dvd.jpgLamb to the Slaughter 1979 1.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第4話)/おとなしい凶器●原題:Tales of the Unexpected -LAMB TO THE SLAUGHTER●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1979/04/14●監督:アラン・ピックフォード●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「おとなしい凶器」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/スーザン・ジョージ/マイケル・バーン/ブライアン・ブレスト●日本放映:1980/05/10●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★)
予期せぬ出来事 3枚組BOX [DVD] JVDD1157」(「南から来た男」「ヴィクスビー夫人と大佐のコート」「ウィリアムとメリー」「おとなしい凶器」「女主人」「首」「暴君エドワード」「海の中へ」「天国へのエレベーター」)

マっクィーン 指.jpg「ヒッチコック劇場(第136話)/●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 5 E 15-#168)MAN FROM THE SOUTH●制作年:1959年●制作国:アメリカ●本国放映:1960/01/03●監督:ヒッチコック劇場 第四集.jpgノーマン・ロイド●製作:ジョーン・ハリソン●脚本:ウィリアム・フェイ●音楽:ジョセフ・ロメロ●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:26分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/スティーブ・マックイーンニール・アダムス/ピーター・ローレ/キャサリン・スクワイア●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放ヒッチコック劇場 マックイーン版 南から来た男.jpgヒッチコック劇場 マックイーン版 南から来た男 2.jpg映局:日本テレビ(評価★★★★)
ヒッチコック劇場 第四集2 【ベスト・ライブラリー 1500円:第4弾】 [DVD]」(「脱税夫人(The avon emeralds)」「悪徳の町(The crooked road)」「指(Man from the south)」「ひき逃げを見た(I saw the whole thing)」)
      
スティーヴン・バウアー/ティッピ・ヘドレン/メラニー・グリフィス(背)/ジョン・ヒューストン
小指切断ゲーム2.jpg小指切断ゲーム3.jpg小指切断ゲーム4.jpg「新・ヒッチコック劇場(第15話)/小指切断ゲーム●原題:Alfred Hitchcock Presents -P-2.MAN FROM THE SOUTH●制作年:1985年●制作国:アメリカ●本国放映:1985/05/05●監督:スティーブ・デ・ジャネット●製作:レビュー・スタジオ●脚本:スティーブ・デ・ジャネット/ウィリアム・フェイ●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:24分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/スティーヴン・バウアー(青年)/メラニー・グリフィス(若い女)/ジョン・ヒューストン(カルロス老人)/キム・ノヴァク(女)/ティッピ・ヘドレン(ウェートレス)●日本放映:1988/01/0新・ヒッチコック劇場 5.jpg7●放映小指切断ゲーム1.jpg小指切断ゲーム5.jpg小指切断ゲーム6.jpg局:テレビ東京●日本放映(リバイバル):2007/07/08●放映局:NHK-BS2(評価★★★☆)

アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/キム・ノヴァク(特別ゲストスター)/メラニー・グリフィス 「新・ヒッチコック劇場 5 日本語吹替版 3話収録 AHP-6005 [DVD](「誕生日の劇物」「ビン詰めの魔物」「小指切断ゲーム」)

Man From The South (1985).jpg新・ヒッチコック劇場 小指切断ゲーム.jpg新・ヒッチコック劇場「南部から来た男」(1985)"Man From The South"(日本放送時のタイトル「小指切断ゲーム」)  
ALFRED HITCHCOCK PRESENTS, John Huston, Tippi Hedren, The Man From the South , 1985, Universal Television

The Man from the South


ロアルド・ダール劇場The Man from the South.jpg「The Man from the South」1.jpg「The Man from the South」2.jpg「The Man from the South」3.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第1話)/南から来た男●原題:Tales of the Unexpected -MAN FROM THE SOUTH●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1979/03/24●監督:マイケル・タクナー●脚本:ケビン・ゴールドスタイン・ジャクソン●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ホセ・フェラー/マイケル・オントキーン/パメラ・スティーヴンソン/シリル・ルッカム/ケティ・フラド●日本放映:1980/04/19●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)

Dip In The Pool 02.jpg「ヒッチコック劇場(第103話)/●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 3 E 35-#113)A DIP IN THE POOL●制作年:1958年●制作国:アメリカ●本国放映:1958/06/01●監督:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:フランシス・コックレル●原作:ロアヒッチコック劇場 第一集 バリューパック.jpgヒッチコック劇場1-25_.jpgルド・ダール「プールでひと泳ぎ」●時間:30分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/キーナン・ウィン/フィリップ・バーネフ/ルイーズ・プラット/フェイ・レイ/ドゥリーン・ラング●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放映局:日本テレビ(評価★★★★)
「ヒッチコック劇場 第一集 バリューパック」「生と死の間」「ペラム氏の事件」「酒蔵」「もうあと1マイル」「賭」「神よ許し給え」所収
        
ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事 dvd.jpgロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事/海の中へ02.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第8話)/海の中へ●原題:Tales of the Unexpected -A DIP IN THE POOL●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1979/05/19●監督:マイケル・タクナー●脚本:ロナルド・ハーウッド●原作:ロアルド・ダール「賭」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ジャック・ウェストン/グラディス・スペンサー/マイケル・トラウトン/ジャナ・シェルドン/ポーラ・ティルブルック●日本放映:1980/06●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★)
   
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第12話)/見知らぬ乗客●原題:Tales of the Unexpected -GALLOPING FOXLEY●制作年:1980年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/03/15●監督:クロード・ウィーサム●脚本:ロビ予期せぬ出来事 第二集 BOX.jpgン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「ギャ02見知らぬ乗客.jpgロッピング・フォックスリー」●時間:25分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ジョン・ミルズ/アンソニー・スティール/ポール・スパリアー/ジョナサン・スコット・テイラー●日本放映:1980/06●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)
      
予期せぬ出来事 第二集 BOX [DVD]」(「永遠の名作」「見知らぬ乗客」「ママの面影」「或る夜の事件」「新案育児法」「ヒッチハイク」「父親になる日」「男の夢」「疑惑」「ハエとり紙」「骨董屋の結婚」「太りすぎに注意」)
        
「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第11話)/永遠の名作●原題:Tales of the Unexpected -SKIN●制作年:1980年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:●1980/04/28●監督:ハーバート・ワイズ11 皮膚 Tales of the Unexpected - Skin(1980).jpg●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「首」●時間:24分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/デレク・ジャコビ/ルーシー・ガッテリッジ/ボリス・イザロフ/ドナルド・ピカリング/Teris Hebrew●日本放映:1980/06●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)
Derek Jacobi/Lucy Gutteridge/Boris Isarov/Donald Pickering/Teris Hebrew
Derek Jacobi.jpgLucy Gutteridge.jpgBoris Isarov.jpgDonald Pickering.jpgTeris Hebrew  Tales of the Unexpected'(1980).jpg                        


     
   
          
                      
       
ヒッチコック劇場 第二集 (2).jpgPoison_AL_.jpg「ヒッチコック劇場(第124話)/毒蛇●原題:Alfred Hitchcock Presents(S 4 E 1-#118)POISON●制作年:1958年●制作国:アメリカ●本国放映:1958/10/05●監督:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:ケイシー・ロビンソン●原作:ロアルド・ダール「毒」●時間:30分●出演:アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)/ウェンデル・コーリー/ジェームズ・ドナルド/アーノルド・モス/ドゥリーン・ラング●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放映局:日本テレビ(評価★★★★)
ヒッチコック劇場 第二集 (2) (ユニバーサル・セレクション2008年第5弾) 【初回生産限定】 [DVD]」【Disc2】「毒蛇」「殺人経験者」「バアン ! もう死んだ」
  
Tales of the Unexpected  poison 009.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第14話)/或る夜の事Tales of the Unexpected  poison 00.jpg●原題:Tales of the Unexpected -POISON●制作年:1980年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/04/28●監督:グレアム・エヴァンズ●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「毒」●時間:23分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/アンドリュー・レイ/アンソニー・スティール/ジュディ・ギーソン/サイード・ジャフリー●日本放映:1980/07●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★)
   
06首ジョン・ギールグッド01.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第6話)/●原題:Tales of the Unexpected -NECK●制作年:1979年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国放映:1980/04/28●監督:クリストファー・06首ジョン・ギールグッド02.jpgマイルズ●脚本:ロビン・チャップマン●原作:ロアルド・ダール「首」●時間:25分●出演:ロアルド・ダール(Self-Introduced)/ジョーン・コリンズ/マイケル・オルドリッジ/ピーター・ボウルズ/ジョン・ギールグッド●日本放映:1980/05●放映局:東京12チャンネル(現テレビ東京)(評価★★★☆)

第41話 音響捕獲機The Sound Machine.jpg第41話 サウンドマシン  The Sound Machine 2.jpg「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事(第41話)/音響捕獲機●原題:Tales of the Unexpected -THE SOUND MACHINE●制作年:1981年●制作国:イギリス●放映局:BBC●本国ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事 第三集.jpg放映:1981/05/17●監督:ジョン・ゴリエ●脚本:ロナルド・ハーウッド●原作:ロアルド・ダール「サウンドマシン」●時間:30分●出演:ハリー・アンドリュース/ジェームズ・ワーウィック●DVD発売:2006/09●発売元:JVD(評価★★★)
ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事 第三集 [DVD]」(「負け犬」「動かぬ証拠」「最高の同居人」「死者の悪口にご用心」「隠された悪意」「アンティークの家具」「音響捕獲機」「満ち潮」「望みすぎた女」「パーティ」「妻の遺産」「おとり捜査」)

The Blob
The Blob (1958).jpgマックィーンの絶対の危機_.jpg「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)(人喰いアメーバの恐怖)」●原題:THE BLOB●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:アービン・S・イヤワース・ジュニア●製作:ジャック・H・ハリス●脚本:ケイト・フィリップス/セオドア・シモンソン●撮影:トーマス・スパルディング●音楽:ラルフ・カーマイケル●原案:アービン・H・ミルゲート●時間:86分●出演:スティーブ・マックイーン/アニタ・コルシオ/アール・ロウ/ジョージ・カラス/ジョン・ベンソンTHE BLOB 1958es.jpgTHE BLOB 1958  .jpg/スティーヴン・チェイス/ロバート・フィールズ/アンソニー・フランク/ジェームズ・ボネット/オーリン・ハウリン●日本公開:1965/01●配給:アライド・アーティスツ(評価★★★)


Alfred Hitchcock Presents.jpgヒッチコック劇場00.jpgヒッチコック劇場01.jpgヒッチコック劇場_0.jpg■TVシリーズ「ヒッチコック劇場」Alfred Hitchcock Presents (CBS 1955.10.2~62.7.3)○日本での放映チャネル:日本テレビ(1957~63)声:熊倉一雄(アルフレッド・ヒッチコック)
Alfred Hitchcock Presents  

新・ヒッチコック劇場 dvd amazon.jpg新・ヒッチコック劇場 5.jpg新・ヒッチコック劇場 4.jpg■TVシリーズ「新・ヒッチコック劇場」Alfred Hitchcock Presents (NBC 1985.4.5~89.6.22)○日本での放映チャネル:テレビ東京(1985~87)声:熊倉一雄(アルフレッド・ヒッチコック)
           
Tales of the Unexpected  1979.jpgTales of the Unexpected.jpgロアルド ダール劇場 予期せぬ出来事 第二集 全4巻.jpg■TVシリーズ「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」Tales of the Unexpected (BBC 1979.3.24~88.5.13)○日本での放映チャネル:東京12チャンネル(現テレビ東京)(1980)/ミステリチャンネルなど

●「ロアルド ダール劇場 予期せぬ出来事」東京12チャンネルで1980年放映時のラインアップ(本国での全9シリーズ112作中)()内は放映時タイトル。
1 南から来た男 Man From the South [#1]
2 ヴィクスビー夫人と大佐のコート Mrs Bixby and the Colonel's Coat [#2]
3 ウィリアムとメリー(永遠の結婚) William and Mary [#3]
4 おとなしい凶器 Lamb to the Slaughter [#4]
5 女主人 The Land lady [#5]
6 首 Neck [#6]
7 暴君エドワード Edward the Conqueror [#7]
8 海の中へ(イチかバチか) A Dip in the Pool [#8]
9 天国へのエレベーター The Way Up to Heaven [#9]
10 永遠の名作 Skin [#11]
11 見知らぬ乗客 Galloping Foxley [#12]
12 ママの面影 Georgy Porgy [#18]
13 或る夜の事件 Poison [#14]
14 新案育児法 Royal Jelly [#10]
15 ヒッチハイク The Hitch-Hiker [#13]
16 父親になる日 Genisis and Catastorophe [#21]
17 男の夢 Mr Botibol's First Love [#22]
18 疑惑 The Umbrella Man [#20]
19 ハエとり紙 The Flypaper [#26]
20 骨董屋の結婚 The Ordery World of Mr. Appleby [#24]
21 太りすぎにご注意 Fat Chance [#15]
22 顔役 The Man at the Top [#25]
23 クリスマスに帰る Back for Christmas [#23]
24 風景画 A Picture of a Place [#27]
25 負け犬 The Stinker [#32]
26 動かぬ証拠 Shattorproof [#40]
27 最高の同居人 The Best of Everything [#38]
28 死者の悪口にご用心 Never Speak Ill of the Dead [#42]
       

 【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)]/1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/2013年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田口俊樹:訳)(Ⅰ・Ⅱ)]】

「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3073】 クロード・ピノトー 「ラ・ブーム
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(渋谷パレス座)インデックッスへ(渋谷シネパレス)「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「怪鳥人間バットマン」)

テンポが良いサクセス・ストーリー。成功の裏側も描いていて楽しめた。

ファウンダー tirasi.jpg 
「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」チラシ

ファウンダー01.jpgファウンダー02.jpg 1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)に8台もの注文が飛び込む。注文先はマック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟が経営するカファウンダー04.jpgリフォルニア州南部にあるバーガー・ショップ「マクドナルド」だった。合ファウンダー05.jpg理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう―。

マクドナルド セミナー資料.jpg ジョン・リー・ハンコック監督の2016年製作映画(本国公開2016年12月7日、日本公開2017年7月29日)で、「マクドナルド」の"創業者"(founder)"レイ・クロックの成功とその裏側を描いた実話風ビジネスドラマです。レイ・クロックの「マクドナルド」に纏わる話は、本で読んだり(自伝『成功はゴミ箱の中に』成功はゴミ箱の中に 01.jpgは有名)、或いは、マクドナルドで教育研修を担当していた人の講演セミナーを聴いたりすることがあり知っていましたが(元社員の人は大体セミナーの冒頭にレイ・クロックの話をする)、映画はテンポが良くて、しかも内容がサクセス・ストーリーなので(成功の裏側も描いていて)楽しめました。『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)

マクドナルド兄弟の店.jpg    マクドナルド兄弟の店 ファウンダ―.jpg
マクドナルド兄弟の店(1940年カリフォルニア州サンバーナーディノにオープン)実物/映画

マクドナルド フランチャイズ1号店.jpg 壮大なフランチャイズ・ビジネスで利益を追求しようとするレイ・クロックと、小規模でも堅実な道を歩もうとするマクドナルド兄弟との確執に焦点を当てていて、フェイスブックの創業者間の対立を描いた「ソーシャル・ネットワーク」('10年)と似ている部分もありますが、本国の批評家の間では2010年ゴールデングローブ賞の作品賞を獲得した「ソーシャル・ネットワーク」ほどには(今のところ)評価されていないようです。ただ、個人的には「ソーシャル・ネットワーク」より面白かったです。
マクドナルド フランチャイズ1号店(1955年4月シカゴ郊外にオープン、現在はMcDonald's Corporation Museum)

ファウンダー 09.jpg この映画の日本版のキャッチ・コピーの1つに「英雄か。怪物か。」というのがありますが、本国版のキャッチ・コピーは"He took someone else's idea and America ate it up."で、「他人のアイデア」とあるように、30秒以内に注文客に商品を渡すといったマクドナルドのコンセプト自体は、レイ・クロックの独創ではないことをより明確に打ち出しています。この映画はマクドナルド社の協力無しに作られているわけですが、それでもレイ・クロックという人物を、アクの強さがあるにせよ、進取の気性に富み、スモール・ビジネスをビッグ・ビジネスに変えた傑物として描いている部分が大きいように思いました。

ファウンダー09.jpg 中盤でレイ・クロックが、人から"創業"はいつか聞かれて答えに窮する場面があったのが印象に残りました(創業したのはマクドナルド兄弟だから)。それが、ビジネスが拡張すると、彼自身が"ファウンダ―(創業者)"を名乗るようになり、終いにはマクドナルド兄弟から経営権を全面的に買い取って、兄弟には「マクドナルド」という名を使わせないようにします。マクドナルド兄弟に「マクドナルド」という名を使わせないというのもスゴイですが、兄弟が交換条件として求めた「永続的に利益の1%」を支払うという件については、契約書には記さず"紳士協定"ということにして、必ず守ると言いながら反故にし、兄弟の店はやがて閉店することになったことを映画は最後に伝えています。

ファウンダー 08.jpg こうした「目的のためには手段を選ばず」的な面はあるものの、52歳のうだつの上がらないシェイクミキサーのセールスマンだった男が、あれよあれよという間に外食産業の帝国を築いてしまうというのは、まさにアメリカン・ドリームを象徴するような話であるには違いありません。成功の条件は、ひたすら「根気強く」ということでしょうか。但し、映画で描かれる彼は、人の能力(やる気と言うべきか)を見抜く才能があり、そうして得た人材を適材を適所に配置することに長け、また、いいタイミングで自身の右腕となる参謀的な人物と出会えたという運もあったようです。

 マクドナルド兄弟が革新的な"スピード・サービス・システム"を編み出したプロセスが描かれているのが興味深かったです。まさに、テーラーの"科学的管理法"であり、映画の中でも言われているように、ヘンリー・フォードの"フォード・システム"です。但し、外食産業で一番最初にフォード・システムを取り入れたのは1930年創業のKFC(ケンタッキーフライドチキン)であり、1940年に最初のマクドナルドを開いたマクドナルド兄弟が考えたようなことを、当時は既に組織的に導入していたのではないかと思われます。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 07.jpg KFCはフランチャイズ・ビジネスという点でもマクドナルドのずっと先輩格にあたるわけですが、マクドナルドもフランチャイズ・ビジネス抜きには考えられないわけで、そうした観点から見ればレイ・クロックも"ファウンダ―(創業者)"と言えなくはないと思います。彼は「マクドナルド」という商標にこだわったため、マクドナルド兄弟との対立が深まったという気もします。なぜ、「クロック」とせず「マクドナルド」にこだわったのかが、映画の中でも、また本物のレイ・クロックが登場する記録映像の中でも明かされていたのが興味深かったです(両親はチェコ系ユダヤ人であり、クロックという姓は当時の米国ではマイノリティ=被差別層を想起させる姓ということになる)。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡).jpgバードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)01.jpg 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」('14年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートンがレイ・クロックを好演しています。マイケル・キートン主演のビジネス・ムービーとガンホーdvd.jpg言えば、ロン・ハワード監督の米国に進出した日本の自動車メーカーを舞台とした「ガン・ホー」('86年)がありましたが、あれから30年経っているのかあ(髪の毛が薄くなるのも無理はない)。「バードマン」で、かつてのスーパーヒーロー、バードマン役で人気があったが今は落ち目の中年俳優を演じて、一気に"演技派"の評価を得ましたが("中年以降の人生の逆転劇"という点ではこの「ファウンダー」も同様)、マイケル・キートン自身もかつてはティム・バートン監督の「バットマン」('89年)と「バットマン・リターンズ」('89年)にバットマンことブルース・ウェイン役で出演していました。

バットマン BATMAN 1989.jpgバットマン マイケル・キートン.jpg 「バットマン」で彼が演じたバットマンはとにかく暗く、映画自体が暗かったです。ロビンも出てこないし、昔テレビでやっていた実写版の「怪鳥人間バットマン」('66‐'67年)とは随分違う感じがしました。映画は米国ではヒットしたようですが、日本では宣伝の割りにはイマイチだったように思います。"ジョーカー"を演じたジャック・ニコルソンのギャラの高さが話題になった記憶があります。

バットマン・リターンズ 02.jpgバットマン・リターンズ .jpg シリーズ第2作の「バットマン・リターンズ」は、ペンギン男にダニー・デヴィート、新登場のキャット・ウーマンにミシェル・ファイファーを配しましたが、共に主役のマイケル・キートンを完全に喰ってしまう怪演を見せ、第1作よりちょっとだけ面白かったかも。何れにせよ、マイケル・キートンは、主演であるのに第1作でジャック・ニコルソンに喰われ、第2作でダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファーに喰われるという損な役回りだったようにも思います。

 マイケル・キートンはシリーズ3作目で、ティム・バートンの監督降板と共にバットマン役(二代目)をヴァル・キルマー(「トゥームストーン」('93年))に譲っています。ただし、ヴァル・キルマーのバットマン役はシリーズ第3作「バットマン フォーエヴァー」('95年)だけで、バットマン役はその後、第4作「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」('97年)ではジョージ・クルーニー、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイトトリロジー三部作」と言われる第5作「バットマン ビギンズ」('05年)、第6作「ダークナイト」('08年)、第7作「ダークナイト ライジング」('12年)ではクリスチャン・ベール(「ザ・ファイター」('11年))、第8作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」('16年)、第9作「ジャスティス・リーグ」('17年)ではベン・アフレック(「アルゴ」('12年))と変遷していきます。ただし、第8作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」、第9作「ジャスティス・リーグ」は、DCコミックスの実写化映画作品を、同一の世界のクロスオーバー作品群として扱った「DCエクステンデッド・ユニバース」シリーズのそれぞれ第2作と第5作という位置づけにあり、純正なバットマン映画とは言い難い気もします。最初に演じたマイケル・キートンが最も嵌り役だった思いますが、次に挙げるとすれば、最多の3作出演のクリスチャン・ベールだったでしょうか。ただし、彼も、「ダークナイト」ではジョーカーを演じたヒース・レジャー(1979-2008(28歳没))( 「ブロークバック・マウンテン」('05年/米))に喰われ気味でした。


ファウンダー00.jpg「ファウンダー ハンバーファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ  .jpgガー帝国のヒミツ」●原題:THE FOUNDER●制作年:2016年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・リー・ハンコック●製作:ドン・ハンドフィールド/ジェレミー・レナー/アーロン・ライダー●脚本:ロバート・シーゲル●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:カーター・バーウェル●時間:115分●出演:マイケル・ファウンダーes.jpgキートン/ニック・オローラ・ダーン ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ.jpgファーマン/ジョン・キャロル・リンチ/リンダ・カーデリニ/パトリック・ウィルソン/B・J・ノバク/ローラ・ダーン/ジャスティン・ランデル・ブルック/ケイト・ニーランド●日本公開:2017/07●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷シネパレス(旧渋谷パレス座)(17-07-30)(評価★★★☆)

ジョン・キャロル・リンチ TV「ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言」('11年~'13年)/「ラッキー」('17年/米)監督
1ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言 (2).jpg  ラッキー 映画 2017.jpg ジョン・キャロル・リンチ監督.jpg

渋谷シネパレス3.jpg渋谷パレス座.jpg渋谷シネパレス.jpgシネパレス シネクイント.jpg渋谷パレス座 1948年渋谷パレス座オープン。1990年6月閉館。1992年3月14日「渋谷シネパレス」として改築オープン。2003年6月~2館体制(スクリーン1:182席/スクリーン2:115席)。上写真「ハイローリング」('77年/米)(1978/12 公開)/「恋人たちの予感」('89年/米)(1989/12 公開)2018年5月28日「渋谷シネパレス」閉館。2018年7月2日「シネクイント」(旧PARCO SPACE PART3)(2016年8月7日閉館)の後継館として再オープン(スクリーン1:162席、スクリーン2:115席)。

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:11ガン・ホー01.jpg1分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャース/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)

バットマン 1989.jpgバットマン 1989 dvd.jpg「バットマン」●原題:BATMAN●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:ジョン・ピータース/ピーター・グーバー●脚本:サム・ハム/ウォーレン・スカーレン●撮影:ロジャー・プラット●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:プリンス)●原作:サム・ハム●時間:127分●出演:マイケル・キートンジャック・ニコルソン/キム・ベイシンガー/ロバート・ウール/パット・ヒングル/ビリー・ディー・ウィリアムス/マイケル・ガウ/ジャック・パランス/リー・ウォーレス●日本公開:1989/12●配給:ワーナー・ブラザース(評価★★☆)
バットマン [DVD]

バットマン・リターンズ 1992 .jpgバットマン・リターンズ 1992 dvd.jpg「バットマン・リターンズ」●原題:BATMAN RETURNS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:デニーズ・ディ・ノヴィ/ティム・バートン●脚本:ダニエル・ウォーターズ●撮影:ステファン・チャプスキー●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:スージー・アンド・ザ・バンシーズ)●原作:ボブ・ケイン●時間:126分●出演:マイケル・キートンダニー・デヴィートミシェル・ファイファー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ガウ/パット・ヒングル/マイケル・マーフィー/ヴィンセント・スキャベリ●日本公開:1992/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価★★★)
バットマン リターンズ [DVD]

クリスチャン・ベール in「ダークナイト」('98年)
ダークナイト dvd.jpgダークナイト2.jpg「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジダークナイト ヒースレジャー.jpgョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベールヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)
怪鳥人間バットマン.jpg怪鳥人間バットマン dvd.jpg怪鳥人間バットマン3_0.jpg「怪鳥人間バットマン」(Batman) (ABC 1966~1968) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1966~1967)/WOWOW


《読書MEMO》
●「エスクァイア」編集部による歴代バットマン映画俳優ランキング(「バットマン」オリジナル・ムービー('66年)を含む)
第1位: マイケル・キートン/「バットマン」(1989年)、「バットマン リターンズ」(1992年)
第2位: クリスチャン・ベール/「バットマン ビギンズ」(2005年)、「ダークナイト」(2008年)、「ダークナイト ライジング」(2012年)
第3位: アダム・ウェスト/「バットマン」(1966年)
第4位: ヴァル・キルマー/「バットマン・フォーエヴァー」(1995年)
第5位: ジョージ・クルーニー/「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」(1997年)
第6位: ベン・アフレック/「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」(2016年)、「ジャスティス・リーグ」(2017年)
バットマン 歴代.jpg

「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3003】ヴェルナー・ヘルツォーク 「アギーレ/神の怒り
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(日劇プラザ(TOHOシネマズ日劇3))

海に対するリュック・ベッソン監督の思い入れが、美しい映像に結実。ラストが印象的。

グラン・ブルー オリジナル版.jpg  グレート・ブルー_01.jpg グラン・ブルー 完全版.jpg  グランブルー.jpg
オリジナル版/編集版/完全版 「グラン・ブルー オリジナル版 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]」「グレート・ブルー」「グラン・ブルー 完全版 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]」ジャン=マルク・バール

グラン・ブルーs.jpg ギリシャのキクラーデス諸島で1965年に8歳のジャック・マイヨールはエンゾと出会った。そこで二人は初めて素潜りを競うが、翌日にダイバーであるジャックの父の死を目撃し大きな衝撃を受ける。12年後グラン・ブルー 00.jpgの1987年、一流のダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)は、稼いだ金をつぎ込んでジャック(ジャン=マルク・バール)の行方を探していた。ジャックと共にダイビング選手権に出場して勝利することがエンゾの夢だった。別なところでニューヨークで働く保険調査員ジョアンナ(ロザンナ・アークエット)は、自動車事故の調査でペルー・アンデス山脈の高地にいた。そこで彼女は、氷結した湖に酸素ボンベもなしに数十分も潜水するジャックに出会う。彼こそがエンゾが捜していた少年ジャックの成長した姿であり、彼は水族館のイルカだけを友として静かに暮らグラン・ブルーes2.jpgしていた。ジョアンナは彼の不思議な魅力に惹かれ、ペルーから故郷へ帰ったジャックの後を追いかグラン・ブルー  04.jpgけるようにヨーロッパへ旅に出る。やがてエンゾはジャックをシチリアの競技会に連れ出すが、そこでのダイビングでジャックに敗れてしまう。ジャックへの対抗心に燃えるエンゾは、無謀な記録に挑んだ挙げ句に命を落としてしまう。その魂に引かれるかのように、ジャックも深夜の海に一人潜って行こうとする。彼を愛し子供を宿したジョアンナはジャックを引き留めようとするも、彼の海への想いを止めることは叶わなかった。やがて人間の限界を超える深海に達したジャックの目の前に一匹のイルカが現われ、彼を底知れぬ深淵へと誘って行った―。

グラン・ブルー 01.jpg リュック・ベッソン監督(1959年生まれ)の1988年 公開作で、ベッソン監督の両親はともにスキューバダイビングのインストラクターであり、ベッソン自身もダイバーとして過ごしましたが、17歳のときに潜水事故に遭いスキューバダイビングが出来なくなったそうです。映画ではスキューバダイビンググラン・ブルーes.jpgグラン・ブルー08.jpgではなくフリーダイダイビングを扱っていますが、海に対するベッソン監督の思い入れが、美しい映像に結実した作品ではないかと思われ、特にラストの主人公がイルカに誘われるように深海に身を委ねるグラン・ブルー bl.jpgグラン・ブルー_3.jpgシーンは印象に残りました(ロケは主にギリシャのキクラデス諸島アモルゴス島やシチリア島のリゾート地タオルミーナで行われた)。

グラン・ブルー02.jpg 世界的なフリーダイバーのジャック・マイヨール(フランス人)とエンゾ・マイオルカ(イタリア人)がモデルグラン。ブルーs.jpgとなっていますが、ジャック・マイヨールは「ジャック・マイヨール」のままの役名でクレジットされているのに対し、ジャン・レノが演じたエンゾは「エンゾ・モリナーリ」の名でクレジットされています。因みに、この作品はジャック・マイヨール自身の自伝を基グラン・ブルー 06.jpgにしているとのことですが、ジャックとエンゾの相互の友情が描かれているものの、ジャックが温厚で素直だが孤独でイルカを友とする青年として描かれているのに対し、エンゾの方はプライドが高くかなり癖のある人物として描かれており、これをジャン・レノが演じて、結果として当時日本ではあまり知られていなかったジャン・レノが、主役のジャン=マルク・バールや、知名度抜群のロザンナ・アークエットよりも印象に残るものとなっています。

ジャック・マイヨール.jpg 因みに、ジャック・マイヨール(1927-2001)は、1976年、49歳で人類史上初めて素潜りで100メートルを超える記録を作り、55歳の時には105メートルを記録していますが、映画では時代を少し後にして、逆に年齢の方は30年分若くしている感じでしょうか(映画でのジャックは1965年時点で8歳という設定になっている)。テレビでジャック・マイヨールがプールに潜って座禅を組んでいる間に脈拍数など体がどのように変化するかをやっていたのを見たことがありますが、その頃は気骨はあるが気のいい老人といった感じだったでしょうか。まさか、その何年か後に74歳で首吊り自殺を遂げるとは思ってみませんでしたが、うつ病を患っていたようです。

エンゾ・マイオルカ.jpg 一方のエンゾ・マイオルカ(1931-2016)は、映画の「エンゾ・モリナーリ」ように無理なダイビングをグラン・ブルー ジャック・マイヨール&エンゾ・マイオルカ.jpgして亡くなったわけではなく、実際には一命を取り留め、医師から潜水を禁じられて一線を退き、昨年['16年]11月85歳で亡くなっています。この映画については生前、「監督と同じフランス人であるジャック・マイヨールを主役にしているため、マイヨールは本人より美化され、自分は悪く描かれている」との発言をしています。実際マイヨールは、饒舌で自己主張が強く、怒りっぽい人物だったと言われています。

Jacques Mayol & Enzo Maiorca

1992年版VHS
グレート・ブルー vhs_.jpg この映画は、'88年公開時は「グレート・ブルー」というタイトルの120分英語版でした。有楽町の日劇プラザで公開日の1週間後に観ましたが、公開後2週間で打ち切りとなっています(新宿プラザ劇場は1週間で打ち切り)。フランスでも公開時は惨憺たる興行成績だったのが、その後じわじわとカルト的な人気が出てきたとのことです。それを受けて日本でも'89年にセルビデオが発売されると同じように人気が出て、'92年に「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」がシネセゾン渋谷で独占グラン・ブルー 日本人.jpg公開されています(同時にビデオも発売)。「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」は、個人的には'94年にビデオで観ましたが、「グレート・ブルー」が英語版だったのに対して、こちらは48分の未公開シーン(変な日本人ダイビング・チームとかも出てくる)を加えて再編集した168分のフランス語版でした。最近、132分のオリジナル版「グラン・ブルー」を劇場で観ましたが、これはフランス国内で最初に公開された版で、この映画は元々国際マーケットグレート・ブルー ビデオ.jpg向けに製作されたものでセリフはすべて英語だったものを、俳優本人たちがフランス語に吹替えたものです(変な日本人ダイビング・チームはやはり出てくる)。要するに、最初に観た「グレート・ブルー」(変な日本人ダイビング・チームは出てこない)は、国際マーケット向けに製作された132分英語版を12分縮めたものだったのだということを初めて知りました(カットされた12分の中に変な日本人ダイビング・チームの話があったことになる。やはり、日本公開に向けて配給会社側が配慮したのか)。

1998年版VHS

ギリシア・アモルゴス島 海岸、町の風景と難破船
グランブルー ロケ地 アモルゴス1.jpg グランブルー  アモルゴス島s.jpg グランブルー ロケ地 アモルゴス2.jpg
イタリア・シチリア島タオルミーナとホテルのテラスレストラン
グランブルー ロケ地 タオルミーナ.jpg グランブルー ロケ地 シチリア.jpg

ロザンナ・アークエット in「グラン・ブルー」(1988)/in「アフター・アワーズ」(1985) with グリフィン・ダン
グラン・ブルー ロザンナ・アークエット1.jpg グラン・ブルー ロザンナ.jpg  『アフターアワーズ』.jpg

LE GRAND BLEU 1988.jpgグラン・ブルー 90.jpg「グラン・ブルー(グレート・ブルー)」●原題:LE GRAND BLEU(BIG BLUE)●制作年:1988年●制作国:フランス・イタリア●監督:リュック・ベッソン●製作:パトリス・ルドゥー●脚本:リュック・ベッソン/ロバート・ガーグラン・ブルー  03.jpgランド●撮<影:カルロ・ヴァリーニ●音楽:エリック・セラ●時間:132分(オリジナル版(「グラン・ブルー」)/120分(編集版(「グレート・ブルー」)/168分(完全版(「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」)●出演:ロザンナ・アークエット/ジャン=マルク・バール/ジャン・レノ/ポール・シェナー/セルジオ・カステリット/マルク・デュレ/ジャン・ブイーズ/グリフィン・ダン●日本公開:1988/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所(「グレート・ブルー」編集版120分):有楽日劇プラザ・日劇東宝.jpg日劇プラザ   .jpg有楽町マリオン 阪急.jpg町・日劇プラザ(88-08-27)●2回目(「グラン・ブルー」オリジナル版132分):北千住・シネマブルースタジオ(17-06-12)(評価★★★★) 日劇プラザ 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側9階にオープン、2002年~「日劇3」、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇3」、2009年3月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン3」 2018年2月4日閉館


「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2604】 エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ 「最強のふたり
「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ 「●「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「アカデミー国際長編映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(シネスイッチ銀座)

疑似的父親にみる父性原理。主人公は今必ずしも幸せでない? 通常版(劇場公開版)で十分か。

Nyû shinema paradaisu (1988).jpgニュー・シネマ・パラダイス SUPER.jpg ニュー・シネマ・パラダイス10.jpg ジュゼッペ・トルナトーレ.jpg
ニュー・シネマ・パラダイス SUPER HI-BIT EDITION [DVD]」ジュゼッペ・トルナトーレ監督 Nyû shinema paradaisu (1988)

ニュー・シネマ・パラダイス23.jpg ローマに住む映画監督のサルヴァトーレ(中年期:ジャック・ペラン)は、アルフレード(フィリップ・ノワレ)という老人が死んだという知らせを受ける。アルフレードは、かつてシチリア島の小さな村にある映画館・パラダイス座で働く映写技師だった。「トト」という愛称で呼ばれていた少年時代のサルヴァトーレ(少年期:サルヴァトーレ・カシオ)は大の映画好きで、母マリア(中ニュー・シネマ・パラダイス25.jpg年期:アントネラ・アッティーリ)の目を盗んではパラダイス座に通いつめていた。「トト」はやがて映写技師のアルフレードと心を通わせるようになり、ますます映画に魅せられていった。アルフレードから映写技師の仕事も教わるニュー・シネマ・パラダイス26.jpgようになった「トト」だったが、フィルムの出火から火事になり、アルフレードは重い火傷を負って失明してしまう。その後、焼失したパラダイス座は「新パラダイス座」として再建され、父の戦死が伝えられた「トト」は、家計を支えるためにそこで映写技師として働くようになる。やがて思春期を迎えた「トト」ことサルヴァトーレ(青年期:マルコ・レオナルディ)は駅で見かけた美少女ニュー・シネマ・パラダイス62.jpgエレナ(アニェーゼ・ナーノ)との初恋を経験、それから兵役を経て成長し、今は映画監督として活躍するようになっている。成功を収めた彼のもとに母マリア(壮年期:プペラ・マッジオ)からアルフレードの訃報が届き、映画に夢中だった少年時代を思い出しながら、サルヴァトーレは故郷のシチリアに30年ぶりに帰って来たのだった―。

ニュー・シネマ・パラダイス200.jpg ジュゼッペ・トルナトーレ監督(1956年生まれ)の1988年公開作で、1989年カンヌ国際映画祭審査員グランプリを受賞したほか、イタリア映画としては15年ぶりにアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した作品です(ゴールデングローブ賞外国語映画賞も受賞)。日本でも'89年12月に公開され、「シネスイッチ銀座」での単館ロードながら40週というロングランを記録し、観客動員数約27万人、売上げ3億6900万円という数字は、単一映画館における興行成績としては未だ破られておらず、単館ロードそのものが減っているため、この記録は今後も破られないと言われています。

 124分の「劇場公開版(国際版)」の他に175分の「完全版(ディレクターズカット版)」があり、そちらもビデオやDVD化されています。「完全版」も劇場で観たいと思っていたらシネマブルースタジオでやることになり、観に行くと、当初「完全版」での上映を予定していたのが「通常版」(劇場公開版(国際版))の上映に変更となったとのことでした。それでも、27年ぶりぐらいに観て懐かしかったです(映画そのものが"ノスタルジー映画"であり、気分的に何だかダブった)。
音楽:エンニオ・モリコーネ

ニュー・シネマ・パラダイス31.jpg この映画について、母性(女性)原理への回帰という意味で日本人の気質に通じるものがあって、日本人に受け入れられやすいのではないかという見方をどこかで読んだ覚えがありますが、確かにシシリア人気質というのは家族の絆を非常に重んじるところがあるようです。但し、映画において「トト」ことサルヴァトーレにとって疑似的な父親の役割を果たすアルフレードは、サルヴァトーレに「この村から出て行け。ローマに行って、もう戻ってくるな」と諭すわけであって、これは完全な父性(男性)原理と言えるのではないかと思いました(「ノスタルジーに惑わされるな」と言っているのも同じことだろう。極論すれば、家族を犠牲にしてもわが道を行けと言っているともとれる)。

ニュー・シネマ・パラダイス80.jpg それがいいのか悪いのかというと、結局トトことサルヴァトーレは、映画監督としては成功したものの、アルフレードの教えを守ったばかりに母親は30年間息子に会えず、そして、成功しているはずのサルヴァトーレ自身も、実を結ばなかった初恋の思い出を引き摺っているのか、結婚もせずに付き合う女性をとっかえひっかえし、何となく虚無感を漂わせている感じです。但し、これをもってアルフレードの教えが誤っていたとかそんなことは言えないだろうなあ。アルフレードの教えを守ったからこそ映画人としての今の自分があるのかもしれないし、何かを得れば何かを失う、人生って大方そのようなものではないかなあと思いました。

 175分の「完全版」では主人公の人生に焦点が置かれており、青年期のエレナとの恋愛や壮年期の帰郷後の物語が描かれるため、同じラストシーンも、「通常版」では少年時代の映画を愛する心を取り戻す意味合いに近いものになっているのに対し、「完全版」では長い年月エレナに囚われていた心を慰められるという意味合いに近くなって、ニュアンスが異なってくるとのこと。従って、「完全版」を観ないと、この映画の本当の意味(例えばラストの編集されたキスシーンのオンパレードの意味など)は理解できないという人もいるようです。

 一方で、映画サイトallcinemaでは、「通常版」に「星4つ」という満点の評価を与え、「かなり印象を異にする3時間完全版もあるが、はっきりいってこちらだけで十二分である」とコメント。「完全版」に対する評価は「星1つ半」という低評価で、「"映画をこよなく愛する人たち"にとって、これほどまでの感動を与えてくれた映画は過去にあっただろうかと思えるほど、映画ファンにはたまらなかった秀作に、51分・約60カットも加えてしまった蛇足の完全版。初公開版と異なるところは、青年期のサルヴァトーレと恋人とのすれ違いの理由や、彼の"ストレートな"感情表現の描写などが追加された所だが、徹底的に違うのは、シチリア島に戻った中年サルヴァトーレが出会う人物とのその後のエピソード。ディレクターズカット版が登場すると、初公開版とのギャップから賛否両論となるが、これもそのひとつで、観終わった後の主人公に対するイメージはおろか、作品に対する評価までもが全く変わってしまうほど。初公開時に"この映画を見て泣けない人は、鬼と呼ばれても仕方ない!"などと言われていたが、完全版に関しては、その想いを半減させざるをえないとんでもない1本」とallcinemaにしてはかなり辛口のコメントがあります。

 完全版では、中年になったサルヴァトーレはエレナとも再会し、そのエレナをブリジット・フォッセーが演じているとのことで、ちょっと観たい気持ちもあったのですが、allcinemaのコメントを読むと、まあ観なくてもいいかなとも(実際に「完全版」を観た人がこのallcinemaのコメントを読んでどう思うかはまちまちだと思われるが)。「ニュー・シネマ・パラダイス」というタイトルからして"映画愛"がテーマの作品とみるべきでしょう。また、あまりリアリステッィクに何もかも描いてしまうと凡百の恋愛映画になってしまうということはあるのかもしれません。実際、この映画が一番最初、1988年にイタリアで劇場公開された際の「オリジナル版」の上映時間は155分だったそうですが、興行成績が振るわなかったため、ラブシーンやエレナとの後日談をカットして124分に短縮し(監督本人が編集)、それが映画祭などで国際的に公開され成功を収めたとのことです。と言うことで、今回も「通常版(劇場公開版=短縮版)」だけを観て、評価は星4つ半としました。

 この映画、主人公のもとに母親の訃報が届いたのを機に主人公が自らの少年時代を回想するという形をとっているため、今の主人公は憂いを帯びた表情をしているのは当然なわけですが、それだけでなく、主人公が今現在の生活において必ずしも幸福そうに見えないところが一つミソなのかもしれません(対比的に少年時代や青春時代がより輝いて見える)。ただ、主人公がなぜ今はそう幸せそうに見えないのかを映画の中で説明し始めると(それが最初の完全版にはあったと思われるが)、観る側のイマジネーション効果を減殺し、ダメな映画になってしまうということなのでしょう。

ニュー・シネマ・パラダイス poster.jpgニュー・シネマ・パラダイス22.jpg「ニュー・シネマ・パラダイス」●原題:NUOVO CINEMA PARADISO●制作年:1988年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ●製作:フランコ・クリスタルディ●撮影:ブラスコ・ジュラート●音楽:エンニオ・モリコーネ/アンドレア・モリコーネ●時間:155分(オリジナル版)/124分(国際版(劇場公開版))/175分(完全版(ディレクターズカット版))●出演:フィリップ・ノワレ/ジャック・ペラン/サルヴァトーレ・カシオ/マルコ・レオナルディ/アニェーゼ・ナーノ/アントネラ・アッティーリ/プペラ・マッジオ/レオポルド・トリエステ/エンツォ・カナヴェイル/レオ・グロッタ/イサ・ダニエ銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpgリ/タノ・チマローサ/ニコラ・ディ・ピント●日本公開:1989/12●配給:アスミック・エース●最初に観た場所:シネスイッチ銀座(90-02-11)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(17-05-27)(評価★★★★☆)
シネスイッチ銀座 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2644】 ラッセ・ハルストレム「ギルバート・グレイプ
「●ジェームズ・メイソン 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

リゾート感溢れるし、ラストはラストで楽しめたが、原作を超えるには至っていない。

地中海殺人事件  pannhu .jpg地中海殺人事件 1982 poster.jpg地中海殺人事件 DVD.jpg 地中海殺人事件-  Ustinov.jpg
地中海殺人事件 デジタル・リマスター版 [DVD]
映画パンフレット 「地中海殺人事件」監督 ガイ・ハミルトン 出演 ピーター・ユスチノフ」「【映画チラシ】地中海殺人事件 ガイ・ハミルトン ピーター・ユスティノフ [映画チラシ]
マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/シルヴィア・マイルズ/ジェームズ・メイソン
地中海殺人事件- smith mcdowell mason.jpg ロンドンの保険会社で、ポアロ(ピーター・ユスティノフ)が模造宝石に保険をかけようとしたホレス・ブラット(コリン・ブレークリー)の調査を依頼される。ポアロは彼に会い、「結婚の約束をした女優のアリーナ・マーシャル(ダイアナ・リグ)に20万ドルの宝石を与えたが、彼女が他の男と結婚したので、宝石を取り戻したところ模造品だった」と聞かされる。当のアリーナはアドレア海の孤島のホテルで休暇を過ごす予定であり、ポアロもそこへ赴く。ホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)はタイラニア国王の元愛人で、手切れ金代りにこのホテルを貰ったのだった。アリーナとは昔一緒に舞台に出たことがあり、二人は再会すると互いに笑いながら嫌味を言い合う。アリーナが新夫ケネス・マーシャル(デニス・クイリー)、ケネスと前妻との間の子リンダ(エミリー・ホーン)と共に着いたホテルには、彼女を再び舞台に復帰させようというプロデューサーのオーデル・ガードナ地中海殺人事件 - balloon.jpgー(ジェームズ・メイソン)と妻の地中海殺人事件- roddy.jpgEvil Under the Sun (1982)_AL_.jpgマイラ(シルヴィア・マイルズ)、彼女の伝記を執筆したジャーナリストのレックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)が待っていたが、彼女は女優業への復帰も伝記の出版も拒否する。そして、ホテル客のハンサムなラテン語教師パトリック・レッドファン(ニコラス・クレイ)と大っ地中海殺人事件276.jpgぴらにいちゃつき、人々の非難の目を浴びる。アリーナのことでパトリックが妻クリスティン(ジェーン・バーキン)と喧嘩しているのを、多くの人が聞きつける。ある日、ホテルを一人で出たアリーナは、ホテルと反対側の海岸の浜辺で日光浴をしていた。パトリックとマイラがボ地中海殺人事件s.jpgートでその浜辺へ。パトリックが横になっている彼女の所へ行くと彼女の死を発見。マイラの知らせを受けたダフネの依頼でポワロが捜査にあたる。皆それぞれに犯行動機があったが、ポアロは死亡推定時刻の11時半から12時までの全員のアリバイ地中海殺人事件b6.jpgを訊くと、誰にとってもアリーナ殺害は不可能だった。リンダとクリスティンは死体発見現場とは反対側の海辺で海水浴とスケッチをしていたし、ケネスは部屋でタイプを打っていたし、レックスはボートで別の海上にいて、ダフニネは従業員とミーティングをし、窓からオーデルが庭で読書しているのを目撃していた。皆がホテルを去る日、ポワロは皆を集めて犯人を指摘する―。

白昼の悪魔  cb.jpg白昼の悪魔 (ハヤカワ・ミステリ文庫2.jpg 1982年公開の昨年['16年]亡くなったガイ・ハミルトン(1922-2016/享年93)による監督、ピーター・ユスティノフ(1921-2004/享年82)の主演作で、原作はクリスティが1941年に発表した『白昼の悪魔』であり、映画の原題も"Evil Under the Sun"。ピーター・ユスティノフにとっては、同じくポワロを演じたジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年)とマイケル・ウィナー監督の「死海殺人事件」('88年)の間の作品であり、ガイ・ハミルトンにとっては、ミス・マープル物の『鏡は横にひび割れて』が原作である「クリスタル殺人事件」('80年)に続くクリスティ原作作品の監督作です(因みにこの「地中海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」とプロデューサー、脚本及びが同じであり、「クリスタル殺人事件」ともプロデューサをはじめ主要スタッフが同じである)。

地中海殺人事件 - smith mcdowell.jpg 原作の登場人物の内、ミリー・ブルースターが男性に変更され、レックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)になっているほか、ブルースターがパトリック・レッドファンと共にアリーナの遺体を発見する部分は、オーデル・ガードナーの妻マイラ(シルヴィア・マイルズ)にその役割を置き換えられています。更に、ケネス・マーシャルのことを心配する有名ドレスメーカーのロザモンド・ダーンリーは登場せず、その役割は一部、原作には無いホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)に置き換えられているといった感じです。
マギー・スミス/ロディ・マクドウォール

地中海殺人事件- sea.jpg 原作の舞台は英国内ですが、それをアドリア海にあるティラニア島(架空の島)に改変しています。実際のロケ地はスペインのマヨルカ島付近のドラゴネーラ島であり(ホテル内の壁にかかっている島の地図(文庫カバー図と同じ)と島の空撮映像で見る形とが一致していない(笑))、美しい風景をバックにコール・ポーターの名曲が地中海殺人事件 - island real.jpg流れ、陽光に満ちたリゾート感、優雅な贅沢感が溢れる作品になっています。一方、一部登場人物の改変はあるものの、プロットはほぼ原作に沿っています(原作が精緻なプロットであるため、基本的には殆どいじりようがないのだが)。

ロケ地のスペイン・ドラゴネーラ島

 映画「ナイル殺人事件」の時もそうでしたが、最後ややバタバタバタっとポワロが謎解きしてしまう感じで、観る者に推理する暇をあまり与えていないような印象があり、こうした点はデビッド・スーシェ主演のドラマ版である「名探偵ポワロ(第48話)/白昼の悪魔」('01年)の方が丁寧で分かり易いかもしれません。

地中海殺人事件e4.jpg そのことを意識してか、最後にポワロが犯人だと名指して推理を展開した容疑者が、話としては面白いが証拠がどこにもないと反駁し、悠々とその場を立ち去ろうとするという映画オリジナルの場面があって、それに対してポワロがどう対処したかという独自の"捻り"が加えられています。イギリス映画であって、多くの観客がクリスティの原作の結末を知っているため、敢えてこうしたシークエンスを加えたのではないかとも思われ、また、「タワーリング・インフェルノ」('74年)などアクションアドベンチャー大作が得意のジョン・ギラーミン監督と、「007死ぬのは奴らだ」('73年)などスパイ物やサスペンス物を多く手掛けたガイ・ハミルトン監督の作風の違いの表れでもあるかもしれません。ラストはラストで楽しめましたが、やはり原作を超えるには至っていないように思います。

地中海殺人事件 - last.jpg地中海殺人事件 - rigg smoth.jpg アリーナ・マーシャルを演じたダイアナ・リグ(Diana Rigg)は、「女王陛下の007」('69年)のボンドガールで、娘のレイチェル・スターリング('77年生まれ)も女優であり、「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」('03年)、「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)などに出演しています。

地中海殺人事件ジェーン・バーキン19.jpg地中海殺人事件a18.jpg パトリック・レッドファンの妻クリスティンを演じたジェーン・バーキン(Jane Birkin)は、「ジェーン・バーキン22.jpgナイル殺人事件」に続いての出演で、10代で既にミケランジェロ・アントニオーニ監督の「欲望」('66年/英・伊)などに出ていますが、エルメスのカゴバッグ"バーキン"誕生の契機となるエルメスの社長と航空機で乗り合わエルメスのバーキン.jpgジェーン・バーキン ファッション.jpgせたという出来事は'84年のこと。以降、女優業、歌手業をこなしながらカジュアル系のファッション・リーダーとしても今日まで活躍し続けていますが、この映画の頃はまだ"着せ替え人形"みたいな感じ。夫パトリック役のニコラス・クレイはシルビア・クリステル主演の「チャタレイ夫人の恋人」('81年/英・仏)で重要な役どころの森番役を演じるなどしましたが、残念ながら2000年に肝癌で亡くなっています。

ジェーン・バーキン

  
Evil Under the Sun (1982)
Evil Under the Sun (1982).jpg地中海殺人事件 - hercule swim.jpg「地中海殺人事件」●原題:EVIL UNDER THE SUN●制作年:1982年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:コール・ポーター●原作:アガサ・クリスティ「白昼の悪魔」●時間:117分●出演:ピーター・ユスティノフ/コリン・ブレイクリー/ジェーン・バーキン/ニコラス・クレイ/マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/ジェームズ・メイソン/ダイアナ・リグ/シルヴィア・マイルズ/デニス・クイリー/エミリー・ホーン●日本公開:1982/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:有楽座(82-12-28)(評価★★★☆)
ナイル殺人事件」('78年)   「地中海殺人事件」('82年)   「死海殺人事件」('88年)
ナイル殺人事件 スチール2.jpg 地中海殺人事件 es.jpg 死海殺人事件 w.jpg
《読書MEMO》
●原作の評価                
・『ナイルに死す』......★★★★
・『白昼の悪魔』......★★★★
・『死との約束』......★★★★
●映画化作品の評価
・「ナイル殺人事件」......★★★☆
・「地中海殺人事件」......★★★☆
・「死海殺人事件」......★★★

「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1939】 クリスティ 『殺人は容易だ
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●ローレン・バコール 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「死との約束」(野村萬斎主演))

映画「死海殺人事件」の原作。映画は?だが、原作は本格推理として楽しめる。

死との約束 1957.jpg死との約束HM.jpg 死との約束1978(1988) .jpg 死との約束 クリスティ文庫.jpg 死海殺人事件2.jpg
ハヤカワ・ミステリ(1957)/『死との約束 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-33)』/映画タイアップカバー/『死との約束 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「MGM HollyWood Classics 死海殺人事件 [DVD]

 ポアロは中東エルサレムで休暇を過ごすが、同じく同地を訪れていたのが、世界的に有名な精神科医のテオドール・ジェラール博士、イギリスの国会議員ウエストホルム卿夫人、新米女医サラ・キング、米国人のボイントン一家らだった。ボイントン夫人は、長男のレノックスとその妻ネイディーン、次男のレイモンド、長女のキャロル、次女のジネブラの5人を従えていた。夫人はかつて刑務所で女看守として働き、偶然に大金持ちのボイントン氏と結婚し、夫が亡くなって未亡人となったが、我儘で個性が強く家族全員を拘束していた。子供達の意見や要求は殆ど無視され、いつまで経っても子供としか扱われない。ある日ジェラール博士、サラ、ウエストホルム卿夫人とその取り巻きのアマベル・ピアス、ネイディーン・ボイントンの友人のジェファーソン・コープらはペトラ遺跡の観光ツアーに参加するが、ペトラに着くとボイントン一家もそこにいた。翌日の昼食時、ボイントン夫人は子供たちに自由に散歩することを許すが、これは彼女にしては希有なことだった。ボイントンの子供たちとサラたちの一行は思い思いに遺跡に向かい、崖の上からの景色を堪能して各々帰路に着くが、ジェラール博士だけはマラリアを発病し先にキャンプに帰っていた。ボイントン夫人は暑さの中で、外に出した椅子に座って身動き一つしなかったが、やがて夕食時に夫人が現れないので召使が呼びに行くと、夫人は亡くなっていた。新米医師サラの見立てでは死亡時刻は発見の1時間以上前で、夫人の手首には注射針の跡があった。さらにジェラール博士の注射器がなくなっており、多量のジギタリスも消えていた―。

ナイルに死す2.jpg死との約束 英初版Collins 1938年 .jpg 1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『ナイルに死す』(原題:Death on the Nile)と同じく中東を舞台にした本格派推理小説です。前々年発表の『メソポタミヤの殺人』も中東・イラクが舞台でした。因みにクリスティは最初の夫アーチボルド・クリスティ大尉(彼は薬剤師の助手として勤務していたため、クリスティは彼から毒薬の知識を得たという)に裏切られて傷心旅行で訪れたメソポタミヤで14歳年下の考古学者マックス・マローワンと知り合って、彼と1930年に再婚、その後に続く"中東モノ"は、おそらく考古学者である夫の研究調査に随伴した経験が素地になっていると考えられます(但し、この作品には『メソポタミヤの殺人』のような考古学的モチーフは出てこない)。

英初版Collins 1938年

死海殺人事件_0.jpg 『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「ナイル殺人事件」('78年/英)の原作として知られていますが、この作品が マイケル・ウィナー監督(「狼よさらば」「ロサンゼルス」)の映画「死海殺人事件」('88年/米)の原作であることはあまり知られていないかもしれません。そもそもエルサレムという異国の地を舞台にしながらも原作がやや地味ですが、ポワロが関係者一人一人に事情聴取していってロジックで犯人を突き止める過程は『オリエント急行の殺人』などにも通じるものがあり、本格推理としてはよく出来ていて、結構楽しめるように思います。

映画「死海殺人事件」チラシ

死海殺人事件w.jpg 映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「地中海殺人事件」('82年/英、原作はポアロ・シリーズ『白昼の悪魔』)に続いてピーター・ユスティノフがエルキュール・ポワロを死海殺人事件 9.jpg演じていますが(共演者に「オリエント急行殺人事件」('74年)のローレン・バコールがいるが、「オリエント急行殺人事件」でポワロを演じたのはアルバート・フィニーだった)、ピーター・ユスティノフにとっては最後のポワロ役でした。また彼は、「地中海殺人事件」と「死海殺人事件」の間にTVドラマのミニシリーズで「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」('85年/英)など3本でポワロを演じています(「エッジウェア卿殺人事件」では'89年からTⅤ版「名探偵ポアロ」でポワロを演じることになるデヴィッド・スーシェがジャップ警部を演じている)。

死海殺人事件lt.jpg死海殺人事件es.jpg 原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。

死海殺人事件48.jpg死海殺人事件_.jpg 実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った死海殺人事件(1988年5.jpgものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど死との約束 powaro .jpg(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」('09年/英)ではその辺りはどう描かれていたでしょうか。

「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」 (09年/英) (2010/09 NHK‐BS2) ★★★☆
名探偵ポワロ 死との約束(2009) 00.jpg 名探偵ポワロ 死との約束(2009) 05.jpg 名探偵ポワロ 死との約束Poirot.jpg

死との約束 ドラマ  t.jpg●2021年ドラマ化 【感想】フジテレビの「脚本・三谷幸喜×原作・アガサ・クリスティー×主演・野村萬斎」のSPドラマ・シリーズ第3弾「死との約束」としてドラマ化(第1弾は「オリエント急行殺人事件」(2015年)、第2弾は「黒井戸殺し」(2018年))。前2作と同じく、野村萬斎演じる名探偵・勝呂武尊(すぐろ・た死との約束 ドラマ s.jpgける)が事件解決に臨む。ストーリーは概ね原作通りで、原作に対するリスペクトが感じられる。ただし、時代設定を昭和30年に置き換え、舞台を"巡礼の道"として世界遺産にも登録されている熊野古道および和歌山県天狗村にある「黒門ホテル」にしているため、作品の雰囲気はかなり違ったも死との約束 ドラマ m.jpgのとなっている。熊野本宮大社は本物の現地ロケ、熊野古道ツアーのスタート地点「発心門王子」には浜松市にある「方広寺」が使われ(2018年に行った。参道が長い山道になっている)、黒門ホテルの外観死との約束 ドラマド.jpgの概観は「蒲郡クラシックホテル」が使われたが、内観はセット撮影であるとのこと。全体に三谷幸喜らしいコメディタッチで、殺害される金持ちの未亡人(松坂慶子)さえもユーモラスでどこか憎めない(松坂慶子はコメディ専門になったのか?)。映画でローレンン・バコールが演じた女性代議士(鈴木京香)が、勝呂と旧知であるというのはドラマのオリジナル。でも、プロットは原作をそのまま活かしていることもあって愉しめた。

Appointment with Death (1988)
Appointment with Death (1988).jpg死海殺人事件ド.jpg「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー死海殺人事件ges.jpgター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ死海殺人事件12.jpg死海殺人事件16.jpgイケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)

David SOUL- Appointment with death (1988)
   
    
    
死との約束 ドラマ k.jpg死との約束 ドラマ c.jpg「死との約束」●脚本:三谷幸喜●演出:城宝秀則●音楽:住友紀人●原作:アガサ・クリスティ●時間:160分●出演:野村萬斎/松坂慶子/山本耕史/シルビア・グラブ/市原隼人/堀田真由/原菜乃華/比嘉愛未/坪倉由幸(我が家)/長野里美/阿南健治/鈴木京香●放映:2018/03(全1回)●放送局:フジテレビ


死との約束 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-33)』/映画タイアップカバー
『死との約束』1.png『死との約束』2.png【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】

「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2635】 ジョン・キャロル・リンチ 「ラッキー
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

同じ屋根の下に夫が2人。劉暁慶、姜文らの演技力と凌子風の演出力が光る。

春桃 中文版.jpg春桃(1988) vhs  劉暁慶 姜文1.jpg 劉暁慶(1950-)61歳時.jpg  凌子風.jpg 
春桃【字幕版】 [VHS]」 劉暁慶(リウ・シャオチン、1950-)[61歳]/凌子風(リン・ツーフォン、1917-1999)
春桃01.jpg 1930年代の北京の街角。春桃(チュンタオ)(劉暁慶〈リウ・シャオチン〉)は毎日、大きな籠を背負って屑拾いに精を出していた。家では、売り物の絵を整理しながら、劉向高(リウ・シアンカオ)(姜文〈チアン・ウェン〉)が彼女の帰りを待っていた。春桃は、匪族に追われ、新婚の夫と離れ離れになって逃げてきたのだ。春桃と向高は愛し合っていたが、彼女は向高が妻と呼ぶことは許さなかった。3年後のある日、籠をChun Tao(1989).jpg背負って春桃が市場の前で、軍服を着た両足のない乞食男に呼び止められる。それは、婚礼の夜に生き別れとなった春桃の夫・李茂(リー・マオ)(曹前明〈ツァオ・チェンミン〉)だった。彼女は李茂を我が家に連れて帰り、戸惑う2人の"夫"に対し、"3人で生きていこう"と励まし慰めるのだが、この生活では当然様々な問題が噴出し、その結果、向高は家出をし、李茂は自殺を図る―。

Chun Tao(1989)

春桃04.jpg 昔の北京の下層の人々の暮らしを描くことにこだわった凌子風(リン・ツーフォン、1917-1999)監督の1988年作品で(英:A WOMAN FOR TWO)、主演の劉暁慶(リウ・シャオチン)と姜文(チアン・ウェン)は、謝晋(シエ・チン)監督の「芙蓉鎮」('86年)でも名コンビぶりを見せたほか、姜文は張姜文2.jpg藝謀(チャン・イーモウ)監督の「紅いコーリャン」('87年)での主演、劉暁慶は李翰祥(リー・ハンシャン)監督の「西太后」('84年)での主演でも知られます。因みに、劉暁慶は中国国内における最高レベルの国家第一級演員に認定されていますが、2002年に脱税容疑で逮捕され当局に日本円にして1億5000万円支払ったという過去があり、一方の姜文は、1994年に監督業に進出し、太平洋戦争中の中国の農村を舞台に村人と日本人兵士の触れ合いや過酷な運命を描いた作品「鬼が来た」('00年)でカンヌ国際映画祭のグランプリを受賞、しかしながら、当局の検閲を受けない無断出品であったことと、その後出された修正要求にも応じなかったことで、この作品は中国国内で上映禁止になった上、自身も7年間にわたる映画製作・出演禁止処分を受けたという、そんな経歴の持ち主です。

春桃 1988 o1.jpg春桃03.jpg このように、後にそれぞれかなり違った道を辿る女優と男優ですが、この作品での演技の息はぴったり合っていて、家事や仕事をしながらの淀みない流れるような掛け合いは見事です。とりわけ、2人の男たちを引っ張っていく春桃を演じる劉暁慶(リウ・シャオチン)の演技は上手いです。この作品での彼女は、後に"整形美人"とまで噂されるようになった美人スター・イメージでは無く、ちょうど鞏俐(コン・リー)が「紅いコーリャン」でデビューしたばかりの時のような素朴な逞しさと内面から来る輝きがあります。

春桃 1988 00.jpg ストーリーの方は、同じ家での女1人男2人の生活が始まるわけですが、何しろ1930年代の中国の話なので、周囲の覗き趣味的な関心や嘲りは尋常ではないものがあり、これに対し春桃ではなく男2人の方が参ってしまいます(2人ともいい人なんだけどねえ)。男2人も真剣に先のことを考えるのですが、相手を思い遣りながら且つメンツにもこだわってしまうため(相手のメンツにまで思い遣ってしまう)、結果、自己犠牲の精神と言えば美しいのかもしれませんが、実質的にはどんどんネガティブ思考になっていきます。

春桃(チュンタオ)02.jpg春桃(チュンタオ)01.jpg この辺りの、世間の目を気にせず、目の前のことだけを考えて生きている、それでいて、世間を恨むわけでもなく、困っている隣人を助けたりもする春桃の生き方と、既成の観念に囚われ、陋習的規範から抜け出せない男たちの対比が、この作品の見処ではないでしょうか。ラストに至るプロセスは重いですが、随所にユーモアも散りばめられていて、娯楽性も備えた作品であると言えます。そうしたこの作品の魅力の多くは、劉暁慶、姜文らの演技力と凌子風の演出力に支えられているのでしょう。

 最後に、「電影時報」に掲載された羅雪蛍(映画評論家)の「『春桃』について」より一部抜粋―
凌子風のキャスティングと演技への把握の確実な腕前は、中国映画界では良く知られているが、彼は俳優の才能と厳粛なる創作態度に非常な賞賛を送る。劉暁慶が10本の指の爪を真っ黒なほこりまみれにし、化粧もせず眉を描くこともせず、はじめから終わりまで白黒二通りの夷小で一言の文句を言わなかった事を賞賛する。姜文が聡明な上努力家で、全てのシ-ンの芝居を彼自身が創造した上、北京っぽい台詞まわしに非常な才能があったと賞賛する。俳優との協力関係がこのような暗黙の信頼にまで達しているのは、おそらく凌子風の、相手の身になって思いやる気配りの結果によるものだろう。

春桃02.jpg「春桃(チュンタオ)」●原題:春桃/A WOMAN FOR TWO●制作年:1988年●制作国:中国・香港●監督:凌子風(リン・ツーフォン)●脚本:韓蘭芳(シュイ・ティーシャン)●撮影:梁子勇(リャン・ツーヨン)●音楽:瞿希賢(チュイ・シーシエン)●原作:許地山●時間:94分●出演:劉暁慶(リウ・シャオチン)/姜文(チアン・ウェン)/曹前明(ツァオ・チェンミン)/馮漢元(フォン・ハンユアン)●日本公開:1994/12●配給:TJC東光徳間(評価:★★★★)

「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【1446】 アーサー・ペン「俺たちに明日はない
「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

やはりクライマックスは船の山越えか。文化人類学的な視点の入った映画だったかも。

フィツカラルド dvd.jpgフィツカラルド 山越え.jpg フィツカラルド 2.png
フィツカラルド [DVD]」 クラウス・キンスキー/クラウディア・カルディナーレ

フィツカラルド01.jpg 19世紀末のブラジル・マナウスのオペラハウス。オペラ歌手エンリコ・カルーソの公演を聴こうとペルー・イキトスからボートを漕いで来たフィツカラルド(クラウス・キンスキー)とモリー(クラウディア・カルディナーレ)。会場にもぐり込んだフィッカラルドは、カルーソのテノールに聞き入る。アイルランド出身の彼の本名はブラ『フィツカラルド』(1982).jpgイアン・スウィーニー・フィツジェラルドだが、インディオたちは彼をフィツカラルドと呼ぶ。今は製氷業だが、かつてアンデスに鉄道を敷設しようとして破産した経歴の持主で、白人らは彼を奇人とみなしていたが、娼家経営の愛人モリーは良き理解者であり、インディオの子らも彼を慕う。彼はイキトスにオペラ・ハウスを建てようと決意するが、それには莫大な資金が必要で、ゴム成金たちには相手にされない。そこで彼は、自らがジャングルを切り拓いてゴム園を作ることを計画、モリーが出してくれた金で成金の一人ドン・アキリノ(ホセ・レーゴイ)から中古の蒸気船フィツカラルド tikuonnki.jpgを買い、パウル船長(ポール・ヒッチャー)、料理人ウェレケケ(ウェレケケ・エンリケ・ボホルケス)、機関士チョロ(ミゲル・アンヘル・フェンテス)らを雇う。"モリー号"と命名された船は修理を終えてアマゾン川に船出、彼のゴム園用地は流れの激しい"ボンゴの瀬"のあるウカヤリ川上流にあったため、彼はフィツカラルド 02.png船をパテリア川に進める。途中、中断された鉄道駅に寄り、レールを外して船に積み込む。船が進んで首刈り族の土地に入ると、乗組員らの多くは逃亡してしまう。フィツカラルドは操舵室の屋根上に蓄音機を置いてレコードをかけ、密林にオペラが流れるとインディオたちが姿を現わす。彼らは続々と船に乗り込んで来フィツカラルド 01.jpgるが、フィツカラルド一行に手を出さない。フィツカラルドは、パテリア川とウカヤリ川が最も接近したところで、船を川から揚げて山越えしてウカヤリ川に降ろすという計画をインディオに伝えると、酋長(D・P・エスピノサ)は協力するという。目的地に着いてレールを降ろし、ジャングルを切り拓き、滑車で船を引っぱり揚げる。7ヵ月後、遂に船はウカヤリ川に浮かぶ。祝杯に酔ったフィツカラルドらが寝ている隙に、インディオたちは船を激流に放つ。彼らは激流の荒ぶる魂を静める儀式として協力したのだった。フィッカラルドらを乗せたモリー号は、木の葉の如く激流を流されていく―。
   
フィツカラルド 00.jpg ヴェルナー・ヘルツォーク監督による1982年作品で、同年のカンヌ国際映画祭「監督賞」受賞作。完成まで4年半を要し、苛酷なロケのためスターが次々と降板していった末にフィツカラルドの役をクラウス・キンスキーが得たことは知られていますが、結果として、オペラハウス建設への情熱に憑かれたフィツカラルドを演じたクラウス・キンスキーはハマリ役でした(思えば彼は、同監督の「アギーレ/神の怒り」('72年)で既に、エル・ドラドへの夢に憑かれアマゾン川を遡行するピサロの分遣隊の副隊長を演じていたのだが)。

ヴェルナー・ヘルツォーク監督/クラウス・キンスキー

 結局フィツカラルドは何とかイキトス(1900年代始めにゴムブームが起き、街はゴム産業で知られていた)に帰り着くが、彼の計画自体は水泡に帰し、彼はモリー号をドン・アキリノに売り、その金でオペラ一座を雇って一度だけの船上オペラを上演する―。

フィツカラルド ラスト.jpg ラストの、数日後には自分の所有から離れるモリー号の船上で、オペラを聴きながらフィツカラルドが見せる陶酔と誇りと狂気が入り交ざった表情はなかなかですが(ヘルツォーク作品の中ではかなり爽やかなエンディング?)、この映画のクライマックスはやはり、この映画を観たことがない人でもビデオやCDのジャケットでその場面は知っていると思われる、例の蒸気船の山越えでしょう。

フィツカラルド yamage2.jpg ヘルツォーク監督、ホントに船を山越えさせてしまったなあという感じで、実写でここまでやるというのは当時でもスゴイと思いましたが(完璧主義者だったフリッツ・フォン・シュトロハイム(「愚なる妻」「グリード」)の系譜か)、CG全盛の今ではもうこんな撮影はあり得ないか。"ボンゴの瀬"に船が突っ込むシーンはさすがにミニチュアを使っていますが、これまで本チャンでやったらそれこそ死者が出ていたかもしれません。「山越え」でスペクタクル的には充分満足でした(アマゾン支流をゆっくり遡上するシーンも含め、劇場で観たい作品ではある)。

フィツカラルド03.jpg アギーレと同様フィッツカラルドも実在の人物に改変を加えて描いてるようですが、最初観た時は西洋肉食系人種の凄まじい執念のようなものを感じました。また、異文化の出会いの物語でもあったなあと。最初は、西洋人の自らの文化への自信のようなものを感じましたが(「オペラで未開の地を啓蒙してやる」みたいな)、最近観直してみて、ラストの方でフィツカラルドが、初めてナイヤガラ瀑布を見つけた西洋人の言葉をぼそっと語る場面があったことに気づき、ああ、自分のことをなぞらえていたのだなあと。つまり、人に語っても信じてもらえないような不思議な体験をしたということであり、そこに彼の異文化への畏敬のようなものを感じました。結構、文化人類学的な視点の入った映画だったかもしれません。

Fitsukararudo(1982)
Fitsukararudo(1982).jpg
フィツカラルド      .jpg「フィツカラルド」●原題:FITZCARRALDO●制作年:1982年●制作国:西ドイツ●監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク●製作:ヴェルナー・ヘルツォーク/ルッキ・シュティペティック●撮影:トーマス・マウホ●音楽:ポポル・ヴー●時間:158分●出演:クラウス・キンスキー/クラウディア・カルディナーレ/ホセ・レーゴイ/ポール・ヒッチャー/フィツカラルド c.カルディナーレ.jpgウェレケケ・エンリケ・ボホルケス/ミゲル・アンヘル・フェンテス/グランデ・オセFITZCARRALDO Claudia Cardinale.jpgロ/ペーター・ベルリング/デイヴィッド・ペレス・エスピノサ/パウル・ヒットシェル●日本公開:1983/07●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:東急名画座(83-04-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-06-23)(評価:★★★★)
Claudia Cardinale in FITZCARRALDO
FITZCARRALDO Claudia Cardinale2.jpg

「●ルイ・マル監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●エリック・ロメール監督作品」 【3298】 エリック・ロメール 「緑の光線
「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作」の インデックッスへ(「美しき諍い女」) 「●「フランス映画批評家協会賞(ジョルジュ・メリエス賞)」受賞作」の インデックッスへ(「美しき諍い女」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●は オノレ・ド・バルザック」の インデックッスへ 「○海外文学・随筆など 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

五月革命に翻弄される田舎のブルジョワたちの人間模様。フランスの田舎を美しく撮っている。

五月のミル dvd.jpg 五月のミル MILOU EN MAI DVD.jpg 五月のミル ピクニック.jpg  美しき諍い女 _.jpg
「五月のミル」[DVD]「五月のミル【HDニューマスター版】 [DVD]」ミシェル・ピコリ主演「美しき諍い女 無修正版 [HDリマスター版] Blu-ray
五月のミル 母の死.jpg 1968年5月のパリ五月革命の最中、南五月のミル 0.jpg仏ジェール県の当主ヴューザック家夫人(ポーレット・デュボー)が突然の発作で死ぬ。長男のミル(ミシェル・ピコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝えようとするがストで電話が繋がらない。ようやく駆け付けたミルの娘カミーユ(ミュウミュウ)と五月のミル ザリガニ.jpgフランソワーズたち3人の子、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とそのレズビアン友達マリー=ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショーソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちの話題は革命と遺産分配のことばかり。立派な邸宅を売ったらゴルフ場にもできるというカミーユとジョルジュにミルは怒りを爆発させ、小川へザリガニ捕りに行く。カミーユと幼馴染みの公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、小間使いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知って一同は驚くが、気のあるミルだけは喜ぶ。パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール五月のミル milou-en-mai.jpg=アラン(ルノー・ダネール)が共産党嫌いのグリマルディ(ブルーノ・カレット)のトラックに乗せてもらって屋敷に現われる。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じる。その夜、屋敷に現われた村の工場主夫妻から、ド・ゴール大統領が姿を消していて、ブルジョワは殺されると知らされた一同は、森の洞窟へと逃げる。疲労と空腹で一夜を過ごした彼らのもとにアデルがやって来て、ストが終ったことを知らせる。いつしか彼らの心の中には、屋敷を売る考えはなくなっていた。無事に葬儀は終わり、人々も帰るべき場所へと帰って行き、屋敷には再びミルだけが残される―。

田舎の日曜日 1984 dvd.jpgお葬式 映画 dvd.jpg ルイ・マル監督の1989年作品(公開は1990年)。ミルが住む美しい田舎へ娘や孫たちがやって来てまた慌ただしく去っていくという設定は、ベルトラン・タヴェルニエ監督の「田舎の日曜日」('84年/仏)を想起させますが、ストのため埋葬できない遺体を差し置いて、遺産相続の話で親族同士が揉め、更に、久しぶりに、或いは新たに出会った男女が急速に接近するなどといった色恋も交えた展開は、伊丹十三監督の「お葬式」('84年/ATG)に近いかも。

田舎の日曜日[デジタルリマスター版] [DVD]」「伊丹十三DVDコレクション お葬式

五月のミル3.jpg ブルジョワ階級出身のルイ・マル監督が五月革命に翻弄されるブルジョワを風刺と皮肉を込めて描いた作品ととれますが、アイロニカルな部分がことさらに強調されているわけではなく、その点において自然であるとともにやや中途半端か。むしろ、政治的なことは抜きにして、単純に集団劇として見た場合に結構面白いのではないでしょうか(ルイ・マルの頭にはアントン・チェーホフの『桜の園』があったという。また、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」的な作りをも意識しているらしい)。

五月のミル pikori.jpg ミルは母親の死に一度慟哭しますが、その後は親族たちのドタバタに振り回され、そうした中で弟の後妻リリーと急速に接近(それまでも小間使いのアデルと恋人関係にあったようだが)、娘のカミーユは幼馴染みの公証人のダニエルとの関係が再燃したようで、レズビアンだったはずのマリー=ロールはピエール=アランと親密になり、それに対抗するようにクレールもトラック運転手のグリマルディと親しくなります(何だか、親戚と他人が入り混じった乱交状態みたいになってくるね)。

五月のミル ピクニック2.jpg こうした人同士の関係の化学変化が、ミルの突然思い立ったザリガニ捕りや(これも相続争い対する嫌気から逃れたい気持ちからの行動だと思うが)、関係者総出でのピクニックを通して描かれ、美しい自然の中で人々の気持ちが解放され、行動が大胆になっていく一方、屋敷を売ってどうのこうのといった考えは消えていき、また、それは同時に、屋敷を売りたくないミルの思惑に沿ったものになっているというのは、観ていてまずますスムーズな流れです。

五月のミル rasuto.jpg しかし、ミル自身は、屋敷は売らずに済んだものの、最後は小間使い兼恋人のアデルにも婚約者がいて彼女も去っていくという目に遭います(意外としたたかな女性だった)。リリーも去ってアデルも去り、残されたミルは、もう誰もいない屋敷で亡き母の幻影とダンスを踊る―ミルの老境の孤独を感じさせるエンディングで、初黒澤明が選んだ100本の映画 (文春新書).jpg黒澤明         .jpgめ「田舎の日曜日」→中ほど「お葬式」→ラスト再び「田舎の日曜日」といった感じの作品ですが、「田舎の日曜日」同様にフランスの田舎を美しく撮っている作品でもあります。黒澤明(1910-1998)監督の娘である黒澤和子氏によれば、黒澤明が生前評価していた作品でもあるようです(黒澤和子『黒澤明が選んだ100本の映画』('14年/文春新書))。

 この作品、オリジナルタイトルは Milou en mai(「5月のミル」) だけれども、英文タイトルだと May Fools(「5月の愚か者たち」) になっているなあ。

                               ミシェル・ピコリ/エマニュエル・ベアール
美しき諍い女 poster .jpgジャック・リヴェット.jpg美しい諍い女41.jpg ミシェル・ピコリ(1925-2020/享年94)は「最後の晩餐」('73年/伊・仏)や「自由の幻想」('74年/仏)にも出ていた俳優ですが、この映画の翌年、今年['16年]1月に亡くなったジャ美しい諍い女051.jpgック・リヴェット(1928-2016/享年87)監督(この人もヌーヴェルヴァーグの中心的人物である)の「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年)に出演しています。高名であるが世捨て人の画>家(ミシェル・ピコリ)が、もともとモデルだった妻(ジェーン・バーキン)とプロヴァンスの片田舎にある古城で静かに暮らしているところへ、一人の若い画家が恋人(エマニュエル・ベアール)を連れて彼のもとを訪れると、画家は彼女をモデルにする事で、自分が長い間打ち捨てていた作品「美しき諍い女」の制作を再開する気になるというものです。ノーカット版は3時間57分ですが、当時['93年]VHS版(1時間31分)で観てしまいました(ジャック・リヴェット監督が別撮りのフィルムでテレビ用にシー美しい諍い女03.jpgンを変更した2時間5分の別バージョン「美しき諍い女ディヴェルティメント」が1993年に劇場公開されているが、現在は約4時間のオリジナル完全版がEmmanuelle Béart Mission:Impossible (1).jpgDVD・Blu-ray化されている)。エマニュエル・ベアールは作中を通じてほとんど全裸であり、「ワイセツか芸術か」の物議をかもした問題作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています(エマニュエル・ベアールはブライアン・デ・パルマ監督の「ミッション:インポッシブル」('96年/米)でトム・クルーズの相手役に抜擢された)。個人的には、画家のアトリエのある古城の別荘がヨーロッパ的でいい感じでした(ウラヤマシイ)。

『知られざる傑作 他五編』.jpg知られざる傑作.JPG 原作は1831年発表のオノレ・ド・バルザック(1799-1850/51歳没)の代表的短編(バルザック自身は1932年2月と記しているがこれはおそらく誤り)とされる「知られざる傑作」であり、岩波文庫『知られざる傑作 他五編』に収められています。カバー(旧版だと帯)に結末が書いてあることからも窺えるように、あくまでも文学作品ですが、リヴェット監督は文庫で50ページ足らずのこの作品を4時間の映画にしたことになります。映画の個人的の評価は★★★★、原作の個人的評価も★★★★。岩波文庫収録の短編の中ではこれが一番よく、個人的には「抽象画の誕生」というタイトルを付けたい内容でした。
知られざる傑作―他5篇 (1948年) (岩波文庫)

知られざる傑作 他五編 (岩波文庫)
1928年11月初版
1965年1月第33刷改版
2015年4月第88刷
水野 亮:訳



ミシェル・ピコリ in「最後の晩餐」('73年/伊・仏) with マルチェロ・マストロヤンニ
「最後の晩餐」4.jpg 「最後の晩餐」2.jpg

五月のミル  .jpg五月のミル シネヴィヴァン 1990.jpgMay Fools (1990).jpg「五月のミル」●原題:MILOU EN MAI●制作年:1989年(公開年:1990年)●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:ルイ・マル/ヴィン・セントマル●脚五月のミル 06.jpg本:ジャン=クロード・カリエール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:ステファン・グラッペリ●時間:107分●出演:ミュウミュウ/ミシェル・ピコリ/ミシェル・デュショーソワ/ブルーノ・カレット/ポーレット・デュボー/ハリエット•ウォルター/マルティーヌ・ゴーティエ/ドミニク・ブラン/ロゼン・ル・タレク/フランソワ・ベルレアン/ルノー・ダネール●日本公開:1990/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(90-10-10)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-04-18)(評価:★★★☆)
「五月のミル」テーマ(ステファン・グラッペリ)


美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組).jpgミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン  「美しき諍い女(いさかいめ)」●原美しき諍い女  ジェーン・バーキン.jpg題:LA BELLE NOISEUSE(英:BEAUTIFUL TROUBLEMAKER)●制作年:1991年●制作国:フランス●監督:ジャック・リヴェット●製作:マルティーヌ・マリニャック●脚本:パスカル・ポニツェール/クリスティーヌ・ロラン/ジャック・リヴェット●撮影:ウィリアム・リュプチャンスキー●音楽:イゴール・ストラヴィンスキー●原作:「バルザック 知られざる傑作」●時間:91分(VHS版)・131分(2時間編集版)・237分(ノーカット版)●出演:ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ/マリー・ベリュック/マリー=クロード・ロジェ●日本公開:1992/05●配給:コムストック(評価:★★★★) 
美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組) [DVD]」[237分]

「●ロマン・ポランスキー監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒「●ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品」【3018】ダルデンヌ兄弟 「イゴールの約束
「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ「●ハリソン・フォード 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿ミラノ座)

当時としては新鮮だったハリソン・フォードの役作り。

フランティック ちらし.jpgフランティック dvd.jpgフランティック [DVD]「フランティック」1988年5.jpg
映画チラシ 「フランティック」監督 ロマン・ポランスキー 出演 ハリソン・フォード」エマニュエル・セニエ
フランティック05.jpg 米国人外科医リチャード・ウォーカー(ハリソン・フォード)は、学会で講演するために妻サンドラ(ベティ・バックリー)と共にパリを訪れていた。新婚旅行以来のパリに心を弾ませていた彼だったが、ホテルにチェックインした後、「フランティック」1988年 4.jpgスーツケースが空港で誰かのものと取り違えてしまったことに気づく。明日にでも取り替えてもらうよう妻に言ってシャワーを浴びるが、その間に妻はホテルの部屋から忽然と姿を消してしまう。幾つかの関係先に問い合わせるも本気で取り合ってもらえず、逆に妻の浮気を疑われるという不本意な状況の中、ある目撃情報から妻の装身具を路上で発見、彼は妻は誘拐されたと確信し単身で捜索に乗り出す―。

Frantic 1988.jpg ロマン・ポランスキー監督(左写真)の1988年作品で、タイトルの「フランティック」(frantic)とは、「気が狂ったような」という意味であり、妻の誘拐事件にパニックになる主人公の姿を指しています。ハリソン・フォードはプライベートで妊娠中の当時の妻メッリサ・マシスンとパリ旅行に行った際にポランスキー監督と出会い、その時にこの作品の企画を打ち明けられ、異郷のパリで主人公の心情に近い立場だったこともあって喜んで出演をOKしたという裏話があります(ポランスキー監督はこの映画にミシェル役で出演したエマニュエル・セニエと'89年に結婚した)。

「フランティック」1988年 ミシェル.jpg 主人公が誤って持ち帰ったスーツケースは、運び屋の女ミシェル(エマニュエル・セニエ)が米国から持ち込んだ核兵器の起爆装置が隠されたもので、彼女に行き着いた主人公は、その起爆装置の争奪に躍起になるアラブ人グループとそれを阻止せんとするイスラエル側の攻防の中、ミシェルを救ったりしながら自らも妻の捜索にあたる―。

フランティック07.jpg この映画は、公開時に結構評価が割れたような気がします。ロマン・ポランスキーにしてはクセが無いオーソドックスなサスペンスですが、ストレートにサスペンスとして見「フランティック」1988年 Hフォード.jpgるとやや盛り上がりに欠け、ヒッチコック作品ほどの完成度にも至っていないといのがマイナス評価の理由でしょうか。大掛かりな仕掛けが出てこないこともあって、TVのミステリードラマを見ているような印象もあります。しかしながら、パリの街の雰囲気を自らがエトランゼになった気分で味わえ、ハリソン・フォードの好演もあって、個人的評価としては「○」です。特にハリソン・フォードが、主人公の医師が不測の事態にキリキリ舞いさせられる様を見事に演じていたように思います。

Frantic 1988 06.jpg ハリソン・フォードは当時、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジを図っており、既に「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)に出演しアカデミー主演男優賞にノミネートされたりもしていましたが(ハリソン・フォード自身は「刑事ジョン・ブック 目撃者」を自身の"演技開眼作"と捉えているようだ)、対外的にはやはり、この「フランティック」が1つエポックになったのではないかと思われます。後の主演作品で、愛人殺害容疑をかけられた地方検事補ラスティ・サビッチを演じたスコット・トゥロー原作の「推定無罪」('90年)や、妻殺害容疑をかけられた医師チャード・キンブルを演じた「推定無罪」「逃亡者」「目撃者」.jpg古典的TVシリーズのリメイク「逃亡者」('93年)といった作品におけるキャラクター造型は、この「フランティック」の時の役作りがベースになっているように思います。「推定無罪」や「逃亡者」におけるハリソン・フォードの演技を知った上でこの作品における彼の演技に接すると、そう目新しい感じではないかも知れないけれど、リアルタイムで初めてこの作品を観た時の彼の演技は新鮮に映ったものでした(役者が自身の新境地を開拓した作品というのはやはり注目に値する)。

「フランティック」1988年.jpg「フランティック」●原題:FRANTIC●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロマン・ポランスキー●製作:ティム・ハンプトン/トム・マウント●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ロバート・タウン/ジェフ・グロスン●撮影:ヴィトルド・ソボチンスキ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:120分●出演:ハリソン・フォード/エマニュエル・セニエ/ベティ・バックリー/ジョン・マホーニー/ジミー・レイ・ウィークス/ジェラール・クライン/パトリス・メレネク/イヴ・レニエ/リシャール・デュー/ドミニク・ピノン/ジャック・シロン//パトリック・フラールシェン/新宿ミラノ座内2.jpg新宿ミラノ座 1959.jpgマルセル・ブリュワル/デヴィッド・ハドルストン/アレクサンドラ・スチュワート/トーマス・M・ポラード/アルトゥ・ドゥ・ペンゲルン●日本公開:1988/07●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場ミラノ座 1983年.jpg新宿ミラノ.jpg新宿ミラノ座 内部.jpg所:新宿ミラノ座(88-07-10)(評価:★★★★) [上写真:「新宿ミラノ座」オープン当初 (1959年)]
新宿ミラノ座 1956年12月、歌舞伎町「東急文化会館(後に「東急ミラノビル」)」1Fにオープン(1,288席)、2006年6月1日~「新宿ミラノ1」(1,064席)2014(平成26)年12月31日閉館。 (閉館時、都内最大席数の劇場だったが、閉館により「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(948席)が都内最大席数に)

新宿東急ミラノビル4館(シネマミラノ・ミラノ座・新宿東急・シネマスクエアとうきゅう)2005年8月
新宿ミラノ会館4館 20051.08.jpg

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2409】「名探偵ポワロ(第21話)/あなたの庭はどんな庭? 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

大味な政治物の典型(第18話)。話が見えにくい部分とミエミエ部分が混在(第19話)。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.10.jpgポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 title.png 名探偵ポワロDVDコレクション 42号 (首相誘拐事件).jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 43号 (西洋の星の盗難事件).jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.10 [DVD]」(「誘拐された総理大臣」「西洋の星の盗難事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 42号 (首相誘拐事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 43号 (西洋の星の盗難事件) [分冊百科] (DVD付)

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 01.png 何者かによる英国首相の襲撃事件があったが、首相は顔にかすり傷を負ったのみで難を逃れ、国際連盟の会議に出席するべく渡仏する。関係者がほっと安堵した矢先に今度は首相誘拐の報が入り、国家機密問題として外務省のサー・バーナードからジャップ警部の推薦を介してポワロに捜査要請が下る。会議までに残された時間は32時間と15分。差し迫った状況にも関わらず、ポワロは渡仏前の首相の英国での襲撃事件ばかりを調べて、一向にフランスへ渡る気配を見せない―(第18話「誘拐された総理大臣」)。

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣3.png 「名探偵ポワロ」の第18話(第2シーズン第8話)で本国放映は1990年2月25日、本邦初放映は1991年2月26日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「首相誘拐事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「誘拐された総理大臣」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「首相誘拐事件」)などに所収などに所収。

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣0.png ポワロはフランスで首相と共に襲撃されたというダニエルズ中佐が英国に帰って来ているというので会いに行きます(事件当時の運転手にも会いに行くがこちらは行方不明に)。なかなか渡仏しないポワロに対しサー・バーナードは苛立ちを露わにし(原作と異なり最後まで渡仏しない)、「(ポワロを推薦した)私の年金もパアかも」と嘆くジャップ警部に、ポワロは以前に中佐と派手に離婚争議をやったという元妻イモジャン(ミス・レモン、ここでもゴシップ通を発揮)のことを調べるよう依頼します。

名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣2967.jpg この辺りから何となく読めてしまう感じもします。ポワロ・シリーズで政治や外交を扱ったものは大味になりがちだという典型例かも(警察だけでなく軍隊まで登場)。分かり易く映像化されていますが、その分、替え玉工作の"無理さ加減"などが露呈した印象も。

 ジョーン・ヒクソン版「ミス・マープル」シリーズのスラック警部役のデヴィット・ホロヴィッチが、ダニエル中佐役で登場していますが、撮影時期は「第11話/魔術の殺人」('91年)の少し前でしょうか。生憎、ダニエル中佐の元妻役のリサ・ハーロウの方がキャラが立っていて(「主任警部モース(第13話)/ラドフォード家の遺産」('90年)にも出ていた)、その存在感はイマイチでしたが。


名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件01.png名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 1.jpg名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 2.jpg ベルギー出身の国際的映画スター、マリー・マーベルのもとに、満月の晩にダイヤ"西洋の星"を盗むという脅迫状が届いた。西洋の星には対になる宝石があり、それはレディー・ヤードリーの持つ"東洋の星"と呼ばれるダイヤだという。そして、ヤードリー家にも脅迫状が届いているらしい。レディー・ヤードリーがポワロとヘイスティングスにその宝石を披露した直後、"東洋の星"は盗まれてしまい、やがて"西洋の星"もマリー・マーベルも元から消えてしまう―(第19話「西洋の星の盗難事件」)。

名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 4.jpg名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 3.jpg 「名探偵ポワロ」の第19話(第2シーズン第9話)で本国放映は1990年3月4日、本邦初放映は1991年6月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「〈西洋の星〉盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「西洋の星の事件」)などに所収などに所収。
名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 location.jpg
名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 5.jpg いかにも悪そうな奴らの間に更に仲介人がいて話がややこしくなる一方で、「辮髪の男が...」といったところからして嘘臭く、何となく話が見えにくい一方で、何となくミエミエな面もあるという、観ていて落ち着かない印象でしょうか。

名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 飛行場.png レディー・ヤードリーは最後良かったね、という感じ。もとは言えば、海外で"色男"に靡いてしまったという身から出た錆でもあっただけに、ポワロにどれだけ感謝しても感謝し切れないだろうなあ。一方のマリー・マーベルの方は、ポワロは彼女に悲しい知らせを伝えなければならないと言っていましたが、へイスティングスに対しては、悪党男と切れて良かったと言っています。無理にそう思い込もうとしているのではなく、ポワロ自身の本音でしょうね。全然"いい男"そうでもないし、こんなのが、彼女だけでなく、レディー・ヤードリーまで巻き込んだのが不思議ですが、この部分にケチをつけても仕方がないのでしょう。事件が解決しているのに、"消えたもう一つのダイヤ"はどこにいったのかと案じるへイスティングスは、視聴者に優越感を与えるための存在か?

 大味になりがちな政治物の典型とも言える第18話「誘拐された総理大臣」と、話が見えにくい部分とミエミエ部分が混在する第19話「西洋の星の盗難事件」といったところでしょうか。

The Kidnapped Prime Minister .jpg「名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE KIDNAPPED PRIME MINISTER●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/26●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロナルド・ハインズ(サー・バーナード・ドッジ)/デイヴィッド・ホロヴィッチ(ダニエルズ中佐)●日本放映:1991/02/26●放映局:NHK(評価:★★★)

The Kidnapped Prime Minister

The Adventure of the Western Star.jpg「名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE WESTERN STAR●制作国:イギリス●本国放映:1990/03/04●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロザリンド・ベネット(マリー・マーベル)/キャロライン・グッドール(レディー・ヤードリー)●日本放映:1991/06/29●放映局:NHK(評価:★★★)

The Adventure of the Western Star

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2408】 「名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

2篇ともプロット的には面白かった。あの"書割り"(第17話)の意味は?

名探偵ポワロ完全版9.jpg Double Sin(22 Jan. 1991).jpg 名探偵ポワロ/二重の罪 dvdc.jpg The Adventure of the Cheap Flat(5 Feb. 1991).jpg 名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 dvdc.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.9 [DVD]」(「二重の罪」「安いマンションの事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 40号 (二重の罪) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 41号 (安いマンションの事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 03.jpg 暫く面白い事件もなく、ポワロは落ち込んで引退を口走り、へイスティングスを連れて北部の海辺の町ウィットコムに観光に赴く。町にはジャップ警部の講演ポスターが貼られ、本人も姿を見せるが何故かポワロは素っ気無い。ヘイスティングスはポワロ名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 04.pngを、湖の町ウインダミアへのバス旅行に誘う。二人はバスの中でメアリーという娘と知り合った。彼女は、骨董屋を営む叔母から、掘り出し物の画集を得意先に届けるように頼まれていた。ポワロが気に留めたもう一人のバス客は、貧弱な口髭の青年で、これは態度が失礼だったため。観光地でヘイスティングスがメアリーとランチをしている時、メアリーは突然走り出し、自分のスーツケースをその青年が盗ろうとしていると...。しかし、これは間違いで、よく似たスーツケースだったようだ。その夜、ヘイスティングスらと同宿のホテルでメアリーは、画集が盗まれたと言って騒ぎ出す。盗難届を出し、得意先にも行くと、既に絵は何者かによって得意先に売却されていた―(第16話「二重の罪」)。

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 アンチーク.jpg 「名探偵ポワロ」の第16話(第2シーズン第6話)で本国放映は1990年2月11日、本邦初放映は1991年1月22日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪02.jpg このプロットには誰でもまんまと引っ掛かるのではないでしょうか。前半部分が映像上の"叙述トリック"になっていないか、もう一度観直してみる必要はある気がしますが、プロット自体は原作にほぼ忠実に作られているようです。ポワロの謎解きが終わった後、共犯者がポワロに毒づき、そのことによって、ああ、共犯者もいたのかと思い出したくらいですから、自分もヘイスティングスと似たようなものか。

 ポワロが引退を仄めかし、ヘイスティングスが中心になって捜査するとというのは、映像版のオリジナルのようで(但し、ヘイスティングスは例によって"空振り"をする)、短編の場合、サイドストーリーを加えて話を膨らますというのはよくあります。ポワロがこの海辺の町を行先に選んだところ、偶然そこでジャップ警部が講演会に呼ばれていたかのように思われましたが、実はそうではなかったことがエピローグで明かされ、更にポワロが最初イラついていた理由まで分かるというのが上手いです。

 「二重の罪」とは、盗難品では原則として所有権は移動しないため、理論上は同じ手口で再犯が可能であることを指していると思われますが、法的には、占有権とのしのぎ合いでグレーゾーンも存するように思えます(英国の裁判所はどう判断するのか)。


名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 02.jpg ポアロは、あるパーティーで、若夫婦のロビンソン夫妻から自分たちが分不相応な高級マンションを格安で借りることが出来たという話を耳にし、この話の背後に何か事件が拘わっていると考え捜査に乗り出す。一方、スコットランドヤードでは、ジャップ警部が、アメリカからやって来たFBI捜査官たちと、国際的なスパイ事件に関する合同捜査を行っていた―(第17話「安いマンションの事件」)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 レモン.png  「名探偵ポワロ」の第17話(第2シーズン第7話)で本国放映は1990年2月18日、本邦初放映は1991年2月5日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「安アパート事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「(「安アパート事件」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「「安アパートの冒険」)などに所収。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 eiga.jpg 冒頭でポワロ達が観ている映画はジェームス・キャグニー主演の「Gメン」('35年)という作品だそうで、当エピソードも、雰囲気的にはアメリカの犯罪サスペンス映画の雰囲気を取り入れたものと言えるでしょうか。プロット的には面白かったです(アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』所収の「赤毛組合」に着想がやや似た印象も)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 set.jpg ただ、アメリカで起きた事件の屋外シーンが、見るからにバックが"書割り"風で(高層ビル街などは垂れ布に描いた風)、パリのナイトクラブのシーンが雰囲気があっただけに、ギャップが大きかったように思います(好意的に解釈すれば、パリのナイトクラブは今ポワロ達が見ている光景であるのに対し、アメリカでの事件は、ポワロが謎解きに際して想像したものを映像化したものであるから、わざと作り物風にしているのだと?)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件3.png FBIの態度のデカい捜査官が、最初はポワロのことを小馬鹿にしていたのが、最後は素直にその能力を認め、感謝と脱帽の意を表しているのが快く、ポワロもさることながら、ジャップ警部も溜飲を下げたのでは。

 2篇とも、プロット的には面白かったです。それと、ミス・レモンが、第16話「二重の罪」では夢の中でポワロの示唆を得て失くした鍵を見つけ出し、第17話「安いマンションの事件」では、ポワロの指示で単独潜入捜査をして成果を得るなど(ポワロも危ないことさせるなあ)、かなり彼女に焦点が当たっているように思いました。

Double Sin  .jpg「名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:DOUBLE SIN●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/11●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/キャロライン・ミルモー(メアリ・ダラント)/エルスペット・グレイ(エリザベス・ペン)/アダム・コッツ(ケイン)●日本放映:1991/01/22●放映局:NHK(評価:★★★☆)

Agatha Christie's Poirot (1989-2013) Double Sin


名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件9.png「名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件(安アパート事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/18●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン/ラッセル・The Adventure of the Cheap Flat.jpgマレイ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ミッチー(ジェームス・ロビンソン)/サマンサ・ボンド(ロビンソン夫人)●日本放映:1991/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)

The Adventure of the Cheap Flat

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2407】 「名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

ギャング映画っぽさとユーモアが楽しめる(第13話)。最後は警部に手柄を譲った?(第14話)。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑 dvdc.jpg 名探偵ポワロ13/消えた廃坑 01.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 36号 (コンウォールの毒殺事件).jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 35号 (消えた廃坑) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 36号 (コンウォールの毒殺事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ13/消えた廃坑6.jpg ポワロは残高の確認のため銀行へ行くが、引き出しオーバーで赤字と言われ激昂する。その深夜、ポワロの元にピアソン頭取が訪ねてきた。謝罪に来たのかと思ったポワロだが、事件の依頼である。銀行はウー・リンという中国人から、鉱山の場所を示す高価な地図を買う事になっていたのだが、約束の重役会にウー・リンは現れず、行方が分からないという。その翌日、ウー・リンの死体が発見されるが、地図は消えていた―(第13話「消えた廃坑」)。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑.jpg 「名探偵ポワロ」の第13話(第2シーズン第3話)で本国放映は1990年1月21日、本邦初放映は1990年7月25日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「消えた鉱山」)などに所収。

 米エドガー賞の1992年 TV エピソード部門賞受賞作。中篇の割には結構凝っていたなあと。冒頭のウー・リンが重役会に現れず、焦る頭取など、若干"叙述トリック"っぽい箇所もありますが、まあ、佳作と言えるのでは。名探偵ポワロ13/消えた廃坑 4.jpg中華街のカジノ(アヘン窟でもある)での捜査など、ギャング映画っぽい雰囲気もあったし、一方で、ロンドン警察の最新システムという、無線連絡に沿って3人の婦警が地図上でミニチュアのパトカーを動かす奇妙な捜査方法などが出てきて、"ハードボイルド風"と"ホントウかいな風"が混在し、最後は、ポワロがウー・リンのパスポートと見せかけて...と、色々楽しめました。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑 モノポリー.jpg 冒頭のポワロが銀行のピアソン頭取が来たのを、謝罪しに来たのと勘違いする場面も可笑しく(原作のピアソンはビルマ鉱業の重役)、さらに可笑しいのが、モノポリーに真剣にハマっているポワロとへースティングス。ポワロは最初劣勢で、「駅にはホテルは建てられないよ」と指摘され、「実際にはあるじゃないか」「でもルールだし...」「じゃあルールが間違ってるんですよ!」とここでも激昂。「スキルなんかは全然関係のないゲームだね」と言っていたのが、ジャップ警部が訪ねてきてもゲームに熱中。事件が解決する頃にはへースティングスに圧勝し、全く逆の発言に...。因みに、残高不足はポワロの入金し忘れが原因でした。

 第10話「夢」、第11話「エンドハウスの怪事件」、第12話「ベールをかけた女」の犯人は、皆ポワロに悩みを打ち明けたり相談を持ちかけたりするふりをしてポワロを騙そうとして、結局墓穴を掘ってしまった...。このエピソードの犯人も同じ轍を踏んだと言えます。


名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件02.png 雨の降る寒い日、ポワロの元に中年の女性が訪ねて来る。コーンワルのポルガーウイズに住む歯科医の妻ペンゲリー夫人である。夫人は胃の痛みを訴え、夫が助手のエドウィナといい仲になり、自分を殺すために毒を盛っているのではないかと話す。翌日、ポワロとヘイスティングスは夫人の住むコーンワルへ赴く。しかし、既に夫人は毒殺されていた―(第14話「コーンワルの毒殺事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第14話(第2シーズン第4話)で本国放映は1990年1月28日、本邦初放映は1990年8月1日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「コーンウォールの毒殺事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「コーンウォールの謎」)などに所収。

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件0.jpg ペンゲリー夫人への訪問を、彼女の方から訪ねて来た日の翌日ではなくその日にしていれば、夫人は殺害されずに済んだのではないかとの自責の念から、ポワロの事件捜査は夫人の弔い合戦の様相を呈し、また、おそらく裁判にかけられるであろう夫のペンゲリーを絞首台送りにしないためにも―と、結構最初から力が入っています。そして、ペンゲリーは実際に捕まり、裁判にかけられます(推理ドラマの"逆転のセオリー"からすれば、まず間違いなく無実だろうとの予測はつくが、その割には、当のペンゲリーは法廷でも無力化していたなあ。妻が亡くなったショックからか。毒殺事件において自らの無実を実証することの困難さというのもあるかも)。

 事件そのものは、犯人は登場した時から何となく犯人っぽかったし、ポワロにとってそう難しくなかったかなあ。最後に犯人に、自白書にサインすること(結局、状況証拠しか無かったから?)とバーターで24時間の逃げる猶予を与えたというのは、最初捜査に力が入っていた割にはあれっという感じでしたが、と思ったらその直後、すたすたと裁判所に行って自白書を見せ、今度はへースティングスの方が、24時間の猶予を与えたことに拘っている?

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件 last.jpg 最後、公判中のペンゲリーが犯人だと信じきって、のんびり立ち食いなんぞをしているジャップ警部に、ポワロが「勝算のない戦を続けるより、負けを認めるほうが利口です」と言って去っていったところへ、部下からの真犯人は別にいたとの報。ジャップ警部は「ポアロめぇっ!」と怒鳴りますが、ポワロが犯人を逃がす際に「2日以内に捕まる」と予言していることからすると、ジャップ警部に手柄を立てさせるための所為だったともとれます。因みに、それより前の事件直後に、ポワロはヘイスティングスに対し、警察はペンゲリーを逮捕し、彼が裁判にかけられることも予言しており、"ポワロの予言は的中する"ことの伏線になっているという構図が上手いと思いました。

 2篇とも星4つに限りなく近い星3つ半といったところでしょうか。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑splash.jpg「名探偵ポワロ(第13話)/消えた廃坑」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE LOST MINE●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネット●名探偵ポワロ[完全版]Vol.7.jpg脚本:マイケル・ベイカー/デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アンソニー・ベイト(ピアソン頭取)/ジェームズ・サクソン(レジー・ダイアー)●日本放映:1990/07/25●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.7 [DVD]」(「ベールをかけた女」「消えた廃坑」所収)

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件01.jpg「名探偵ポワロ(第14話)/コーンワルの毒殺事件(コーンウォールの毒殺事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE CORNISH MYSTERY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/28●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エク名探偵ポワロ[完全版]Vol.8.jpgストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジェローム・ウィリス(エドワード・ペンゲリー)/アマンダ・ウォーカー(ペンゲリー夫人)●日本放映:1990/08/01●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.8 [DVD]」(「コーンワルの毒殺事件」「ダベンハイム失そう事件」の2話収録)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1961】 「ミス・マープル(第10話)/カリブ海の秘密 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

まあまあ楽しめた2篇。○○していた犯人(第10話)、今度はポワロが○○?(第12話)。

名探偵ポワロ10夢 dvdc.jpg 名探偵ポワロ10 夢 01.png  名探偵ポワロ12ベールをかけた女 dvdc.png ポワロ ベールをかけた女 ポワロ.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 33号 (夢) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロDVDコレクション 34号 (ベールをかけた女) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ10 夢 9.jpg 創立50周年の式典を行っているパイ工場。そのパイ工場の経営者ファーリーから一通の手紙を受け取ったポワロは、工場内にある彼の家を訪ねる。毎晩繰り返し、自分が自殺する不可解な夢を見ると彼は言い、誰かが催眠術で自分を殺そうとしているのではと疑っているのだった。ポワロは、その態度や依頼ともつかない彼の話に釈然としないまま工場を後にした。後日ファーリーが、ポワロに話した夢と同じような方法で自殺をする。しかしポワロは、その死に疑問を持ち調査を始める―(第10話「夢」)。

AGATHA CHRISTIE'S POIROT  THE DREAM夢1.jpg 「名探偵ポワロ」の第10話(第1シーズン第10話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

名探偵ポワロ10夢7.jpg サイコ・ミステリと思わせておいて...というのは、クリスティ作品に結構あるパターンではないでしょうか。今回はポワロはかなり行き詰った様子を見せ、「若い頃の放蕩」が今になって祟ったのではないかと彼らしからぬことまで口にしますが(ヘイスティングスもこのポワロには似つかわしくない言葉にはさすがに唖然とする)、偶々ポワロに時刻を聞かれたミス・レモンが窓を開けて時計台を見て答えた、その何でもないような彼女の行動を見て一気に閃きます。

AGATHA CHRISTIE'S POIROT  THE DREAM夢2.jpg では、その前までは、どこまで判っていたのか。ファーリーに例の手紙を返してくれと言われて最初別の手紙を返したのは単純ミスだったのか。でも、何となくおかしい雰囲気は感じていたようでした(自分も感じたけれど、どこがおかしいかは全然分からなかった)。結局、ポワロは犯人が○○していたのを見破ったわけですが、それは、ミス・レモンの啓示より前か同時か、気になるところです。

 エピローグで、ポワロはミス・レモンに感謝のプレゼント。ミス・レモンは、タイプライターの調子が悪くて新しい物への買換えを以前からポワロに訴えており、今回も直訴したばかり。やっとボスに聞き入れられたかと思ったら、包みの中から出てきたのは...(笑)。ポワロは自分で自分を「従業員に理解がありすぎる(だから件の工場主のような富豪になれない)」と思ってるのが、これまた可笑しいです。


ベールをかけた女 .jpg ポワロたちが、最近起きた宝石泥棒の話をしていると、伯爵令嬢のミリセントがある捜査の依頼をしにやってくる。公爵と結婚することになっている彼女は、ラビントンという男に、昔の恋人に出した手紙をネタにゆすられており、その手紙を取り返してほしいというのだ。ポワロはラビントンと交渉するが、話はポワロ ベールをかけた女 01.jpg決裂する。やむなく、ポワロはヘイスティングスと共にラビントン家に押し入るが―(第12話「ベールをかけた女」)。

 「名探偵ポワロ」の第12話(第2シーズン第2話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「ヴェールをかけた女)」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「ヴェールをかけた貴婦人」)などに所収。

ポワロ ベールをかけた女 錠前屋.jpg 第10話「夢」では犯人が○○していましたが、今回はポワロが錠前屋を装ってラビントン家に単独入り込んで細工を施し、夜にまた、今度はヘイスティングスを伴って侵入、例の手紙は見つかりますが、通いだったはずの家政婦がいて警官に通報され、逃げ遅れたポワロのみ留置場に入れられてしまうという展開(但し、留置場に入れられるのはドラマのオリジナル)。

ポワロ ベールをかけた女 09.jpg 家政婦は最初から怪しいと思っていたということで(ということは「通い」というのがウソだったのか)、変装やアクションがイマイチなのがポワロらしいというか、先ずそれ以前に、スーパーマリオ・ブラザーズみたいな格好の"スイス人"錠前屋に扮したり、黒のニット帽を被って上下黒ずくめの出で立ちで不法侵入の危険を冒すところはポワロらしくないというか。やっぱり、結構ユニークなエピソードと言えるかも。

 結局、最初にあった宝石泥棒の話とリンクしていたわけかあ。まあ、箱を振ったら、中に何か入っているなって分かるだろうなあ。最後、貴婦人然とした美人が忽ちに豹変するところは、第11話「エンドハウスの怪事件」と重なりました。「名探偵ポワロ」の作品中で唯一、クレジットのゲストキャストに役名の表示が無い作品だそうで、まあ、律儀と言えば律儀です。

 2話とも、中篇としてはそこそこに楽しめました。

The Dream.jpg名探偵ポワロ夢11.jpg「名探偵ポワロ(第10話)/夢」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE DREAM●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アラン・ハワード(ベネディクト・ファーリー)、ジョエリー・リチャードソン(ジョアンナ・ファーリー)●日本放映:1990/07/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Dream

The Veiled Lady.jpg「名探偵ポワロ(第12話)/ベールをかけた女(ヴェールをかけた女)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ: THE VEILED LADY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネットポワロ ベールをかけた女09.jpg●脚本:クライブ・エクストン●時間:54分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/フランシス・バーバー(レディー・ミリセント)/キャロル・ヘイマン(ゴッドバー夫人)●日本放映:1990/07/18●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Veiled Lady

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2405】「名探偵ポワロ(第10話)/夢 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

犯人逮捕という場面がない2作。ちょっと凝り過ぎ?(第8話) ややご都合主義?(第9話)。

名探偵ポワロ 完全版4.jpg 名探偵ポワロ 謎の盗難事件 dvdc.jpg   名探偵ポワロ 完全版5.jpg 名探偵ポワロ クラブのキング DVDC.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.4 [DVD]」(「海上の悲劇」「なぞの盗難事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 31号 (なぞの盗難事件) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロ[完全版]Vol.5 [DVD]」(「クラブのキング」「夢」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 32号 (クラブのキング) [分冊百科] (DVD付)」   

なぞの盗難事件.jpgAgatha Christie's Poirot The Incredible Theft.jpg 新型戦闘機の開発設計を手がける夫メイフィールドがドイツのスパイとの噂のあるバンダリン夫人を屋敷に招待していると知ったメイフィールド夫人。悩んだすえ国家の一大事とポワロに依頼し、屋敷に招くことに。その夜、まんまと設計図が紛失し、バンダリン夫人が盗んだと思われたが―(第8話「なぞの盗難事件」)。

Agatha Christie's Poirot The Incredible Theft dvd.bmp 「名探偵ポワロ」の第8話(第1シーズン第8話)で本国放映は1989年2月26日、本邦初放映は1990年3月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)などに所収。

ポワロ第8話/なぞの盗難事件1.jpg 意外と凝っていたなあと。ポワロは、バンダリン夫人は犯人ではないと早々と宣言していましたが、ではシロかと言うとそうとも言えないのではないでしょうか。しかし、ドイツのスパイ組織と交渉したにしても、こんな面倒なトリックを使うかなあという気もしました(ポワロに見破られるための契機をわざわざ作ったことになる)。ちょっと凝り過ぎ?

ポワロ第8話/なぞの盗難事件3.jpg 最後、夫婦間の信頼が回復できて「めでたし、めでたし」、ポワロも表向き笑みを隠しながら、実は目を細めニッコリという感じですが、夫がかつて軍事秘密を敵国(日本)に売ったというのは、恐喝ネタになっていたということからすると本当だったということか。まあ、過去のことより、今のことの方が大事?

 ジャップ警部と同室の宿になってその寝言に悩まされウンザリしていたヘイスティングスが、終盤ではバンダリン夫人の車を追いかけるカーチェイスでドライビング技量を発揮して、水を得た魚のように活き活きした感じになっているのが微笑ましかったです。


ポワロ9/クラブのキング 02.jpgポワロ9/クラブのキング dvd.jpg ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督をしている撮影現場を見に行く。主演は人気絶頂の美人女優ヴァレリー、夫役はサイレント時代の大スター・ウォルトンだが、彼は酔っており台詞も満足に言えない。そして、現場で我もの顔にふるまっているプロデューサーのリードバーンがいた。ヴァレリーはある国の皇太子ポールと婚約しているが、リードバーンに何やら弱みを握られているらしい。その夜、ポワロの元に一本の電話がかかる。自宅にてリードバーンが殺され、第一発見者ヴァレリーの潔白を証明してほしいという依頼だった―(第9話「クラブのキング」)

ポワロ9/クラブのキング 01.jpg 「名探偵ポワロ」の第9話(第1シーズン第9話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年3月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「クラブのキング」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「クラブのキング」)などに所収。

ポワロ9/クラブのキング4.jpg これも結構凝っていました。原作の興行主とダンサーの関係がプロデューサーと女優に置き換わっていますが、事件当夜ボスの自宅玄関前に三人の男女が次々と現れ慌てて立ち去る姿が見られたというのは原作と同じ。最初、オグランダー家(ここへヴァレリーが逃げ込み匿われる)でその家の家族たちポーカーをしていたその痕跡にポワロがこだわっている意味が不明でしたが、後でナルホドねと。但し、家族として義絶しているのに、隣りなり(プロデューサーの家の隣りだが)近所なりに住んでいるというのはご都合主義的な印象も受けます。

The Adventure of the King of Clubs.jpg それと、やはり最後は「めでたし、めでたし」ですが(丁度嫌な奴もいなくなったことだし?―コレ、制作に口出しするプロデューサーを揶揄してる?)、事件そのものは「傷害致死」が成立しているとも言える状況でありながら、ポワロが意図的に迷宮入りにしてしまったとも言える結末で(これはドラマのオリジナルで、原作ではこの「傷害致死」に該当する部分が無かったのではないか)、この辺りが何となく素直に「めでたし、めでたし」とは言えない印象も。原作では、オグランダー家が家族を一徹なまでに守り切り、ポワロはそれに押されたという感じだったでしょうか(正確には未確認)。少なくともドラマでは、ポワロは積極的にオグランダー家に加担した印象を受けます(ポワロの台詞「家族万歳」!)。

ポワロ9/クラブのキング03.jpg ただ、死んだリードバーンから排斥され関係が険悪だったジプシー(ロマ)の中に犯人はいるのではないかとハナから疑ってかかって、真相からほど遠いところを漁っているジャップ警部からすれば、"ポワロにも解けない事件がある"というのは安心材料なのかも。

 「第4話/24羽の黒つぐみ 」で抽象絵画をバカにしていたかのように見えたヘイスティングスが、今度は前衛芸術を前にキュビズムの講釈をする変わりようですが、それをポワロは殆ど聞き流しているのが可笑しいです。

 共に「犯人逮捕」という場面がない2作。第8話「なぞの盗難事件」はやや凝り過ぎと言うか、こんな手の込んだことをするかという感じで、第9話「クラブのキング」はややご都合主義なのと、やはり「傷害致死」っぽいのが気になりました。

The Incredible Theft_.jpg第8話)/なぞの盗難事件.jpg「名探偵ポワロ(第8話)/なぞの盗難事件(謎の盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE INCREDIBLE THEFT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/26●監督:エドワード・ベネット●脚本:デビッド・リード●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ストライド(トミー・メイフィールド)/シアラン・マッデン(レディー・メイフィールド)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)

The Incredible Theft

ポワロ9/クラブのキング2.jpg「名探偵ポワロ(第9話)/クラブのキング」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE KING OF CLUBS●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:レニー・ライ●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ニーヴ・キューザック(バレリー・サンクレア)/ジャック・クラフ(ポール皇太子)/Jonathan Coy(バニー・ソーンダース監督)/David Swift(リードバーン)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2404】「名探偵ポワロ(第8話)/なぞの盗難事件(謎の盗難事件)
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

自宅マンションでの事件(第5話)とアレクサンドリアでの事件(第7話)。何れも"速攻"解決。

4階の部屋 ポワロ DVDブック.jpg 4階の部屋01.jpg 海上の悲劇 dvdbook.jpg 海上の悲劇 03.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 28号 (4階の部屋) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 30号 (海上の悲劇) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 4階の部屋 1.jpg ポアロが住むホワイトヘイブンマンションの自宅56Bの二階下36B号室に、裕福なグラント夫人が引っ越してくる。 ポアロはこのところ風邪をこじらせて自室に閉じこもったまま元気が無く、見かねたヘイスティングスがポアロを推理劇に誘う。観劇で二人は、ポアロの直ぐ階下46B号室の住人で 若い女性パトリシア・マシューズを見かける。劇が終わり、アパートに戻ったマシューズと友人達は部屋の鍵が無い事に気付き、友人のドノバンとジミーがゴミ用エレベーターから入ろうとするが、間違えて1つ下の36B号室に入ってしまう。そこで二人はグラントの夫人の死体を発見する―(第5話「4階の部屋」)。

ホワイトヘイブン・マンション.jpg 「名探偵ポワロ」の第5話(第1シーズン第5話)で本国放映は1989年2月5日、本邦初放映は1990年2月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』(「四階のフラット」)、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』(「四階の部屋」)などに所収。

 ジャップ警部の言うように、まさにポワロのお膝元で起きた事件で、お蔭でポワロがどんなマンションに住んでいるかが分かりましたが、実はマンションのポワロの部屋の外部の共有部分はいつもと別のマンションを使って撮影されたようです。イギリスでは日本の1階に当たる部分が "the ground floor"で、2階に当たる部分から1階、2階と数え始めますが、この「4階の部屋」というのは、事件があった36B号室があるフロアなのでしょう。原題では"The Third Floor Flat"となっています。

名探偵ポワロ 4階の部屋 0.jpg 原作を多少変えているようですが、引っ越して来たグラント夫人が、1つ上の階のパトリシア・マシューズが友人と音楽とダンスに興じ、下の自分の階に響いてウルサイため、手紙で苦情を伝えようとした―と思わせる所は上手いと思いました。ただ、お手伝いが、部屋に入って来て死体に気づかないまま寝てしまったというのはどうか。何れにせよ、犯人を推理するのは無理な"知られざる背後関係"設定であり、それでもポワロは推理してしまうわけですが(しかも"速攻"で解決!)、意外性は楽しめる作品ではないでしょうか。

 ヘイスティングスに推理劇の犯人当てで10ポンドを賭けて(推理劇ってインターミッションがあるわけか)、その取ってつけたようなオチに憤っていたポワロですが、ちゃんと10ポンドの小切手を切っていたのは律儀。ただ、本編も、見方によっては...。


海上の悲劇 02.jpg海上の悲劇 2.jpg ポワロとヘイスティングスが船で乗り合わせたクラパトン大佐夫妻。夫人は傍若無人な言動をくり返すが、大佐はそんな妻にも献身的だった。それには夫人の古い友人の将軍も憤ったり呆れたりしている。ところが、船がアレクサンドリア港に停泊中、大佐が船に戻ると、鍵のかかった船室で夫人は殺されていた。アレキサンドリアの警察に介入されたくないというと船長の意向でポワロは捜査に乗り出す―(第7話「海上の悲劇」)。

海上の悲劇 00.jpg 「名探偵ポワロ」の第7話(第1シーズン第7話)で本国放映は1989年2月19日、本邦初放映は1990年3月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』(「船上の怪事件」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角』(「海上の悲劇」)などに所収。

海上の悲劇 01.jpg 優雅の地中海クルーズとそれに参加している貴族趣味っぽい乗客たち。どういう訳か、その中におそらく休暇中と思われるポワロとヘイスティングも混ざっています(ジャップ警部とミス・レモンは"お休み")。乗客の中でもとりわけ皆から嫌われているのがクラパトン夫人で、大佐はよくあんな女性の夫でいるものだと陰口を叩かれる始末。殺され海上の悲劇 09.jpgるならこの夫人だろうと思って観ていましたが(そうすれば皆が容疑者になるから)、肝腎の事件はなかなか事件は起こらず、船はアレクサンドリア港に寄港。「地中海殺人事件」ではないですが、観光情緒はそこそこ味わえます。TV版としては結構贅沢な方かも。

 そして、ようやっと中盤で殺人事件が...。別に船長の意向でなくたっても、ポワロは捜査に乗り出したろうなあ―と思ったら、これまた"速攻"で解決(残り時間の関係で?)。皆の前で謎解きをしてみせる場面は小道具や子供まで使って芝居がかっていましたが、それなりの効果はありました。あんなのやられて、犯人は名指しされる前にギブアップでしたね。但し、これも、観ていてトリックを見破るのはほぼ無理("いっこく堂"かあ)。束の間の観光気分が味わえた分だけ、星半分オマケです。

The Third Floor Flat L_.jpg4階の部屋03.jpg「名探偵ポワロ(第5話)/4階の部屋」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE THIRD FLOOR FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/05●監督:エドワード・ベネット●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /スザンヌ・バーデン(パトリシア・マシューズ)/ジョシィ・ローレンス(グラント夫人)●日本放映:1990/02/17●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Third Floor Flat

Problem at Sea
Problem at Sea_.jpgPROBLEM AT SEA.jpgo海上の悲劇70.jpg「名探偵ポワロ(第7話)/海上の悲劇(船上の怪事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: PROBLEM AT SEA●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/19●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /ジョン・ノーミントン(クラパトン大佐)/シェリア・アレン(クラパトン夫人)/ベン・アリス(ファウラー船長)●日本放映:1990/03/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2403】「名探偵ポワロ(第5話)/4階の部屋 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

両作品とも犯人自体は雰囲気で判ってしまう。気負わずに気軽に楽しめる作品。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.2.jpgジョニー・ウェイバリー誘拐事件 dvdコレクション.jpg ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 00.jpg  二十四羽の黒つぐみ dvd.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション26号 (ジョニー・ウェイバリー誘拐事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション27号 (24羽の黒つぐみ) [分冊百科] (DVD付)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.2 [DVD]」(「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」「24羽の黒つぐみ」所収)

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 3.jpg 地方の大地主マーカス・ウェイバリーが、ポワロのところへ相談に訪れる。5万ポンドを支払わないと、翌日息子ジョニーを誘拐するという脅迫状を受け取ったと言うのだ。ヘイスティングスは、ウェイバリーの話を半信半疑で聞いていた。ポワロは、ウェイバリーを連れてジャップ警部を訪ねるが、ジャップ警部もまた事件としては扱ってくれない。事件を未然に防ぐことが重要だと考えるポワロは、ウェイバリー邸に赴き、やがてジャップ警部も部下を引き連れ警戒にあたるが、2人はジョニーを目の前で誘拐されてしまう―(第3話「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」)。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 2.jpg デヴィッド・スーシェ主演の英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第3話(第1シーズン第3話)で本国放映は1989年1月22日、本邦初放映は1990年1月27日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 syokuji.jpg 振り返ってみれば、この回のポワロは結構犯人に翻弄されて、現場を離れた隙に子供を誘拐されてしまうなど複数のミスしている感じがするのですが(時計が10分進められていたことにポワロもジャップ警部も気ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 屋敷.jpgづかなかったというのはちょとねえ)、その割には「足行水」などして若干のんびりした雰囲気がするのは、事件が誘拐であって殺人事件ではないためか、それとも翻弄されているように見えて実は早い段階でポワロには犯人の目星がついていたためか。

 ポワロならずとも、犯人は観ていて大体見当がつくのでは。後は共犯者と動機がポイントでしょうか。こちらはちょっと推理が難しい?
  「名門」と「お金持ち」の違いは夫婦の間でもあるのか。邸の増改築を巡る夫婦間の意見対立という伏線はありましたが、そんなことより、邸宅と庭園の美しさを楽しむ一作だったかも。


24羽の黒つぐみ3.jpg 友人の歯科医ボニントンとレストランで食事をしたポワロは、そこの常連客であるという老人が最近長年の習慣にないメニューを口にしたという話に興味を惹かれる。数日後、その老人は遺体で発見され、警察は階段からの転落事故死と判断したが、ポワロは老人が死の直前にレトランでとった行動の不自然さから不審を抱き、独自に調査に乗り出す―(第4話「24羽の黒つぐみ」)。

24羽の黒つぐみ0.jpg 英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第4話(第1シーズン第4話)で本国放映は1989年1月29日、本邦初放映は1990年2月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。

24羽の黒つぐみ1.png ミス・マープル物の長編『ポケットにライ麦を』と同じくマザーグースの"6ペンスの歌"がモチーフとして使われていますが、『ポケットにライ麦を』ほどには歌詞がプロットに絡んでいないように思いました。

 原作では亡くなった老人ヘンリー・ガスコインが売れない画家だったのに、この映像化作品では売れっ子画家に変更されていて、その遺作に価値があるとの設定に。そのため容疑者の幅が原作より若干は出ていますが、結局、連続殺人事件で容疑者の1人が亡くなってしまうため、ポワロ自身が言うように、自ずと容疑者が絞られる状態になったように思います。

24羽の黒つぐみ2.jpg ポワロが歯の治療中で肉料理が食べられず、自分で肉料理を作ってヘイスティングスに食べさせ、その味はどうかしきりに気にするという場面が可笑しかったし、抽象絵画を観てそのタイトルが「鳥に石を投げる男」だと聞いてヘイスティングスが「ほぅ。で、どっちが男?」と言ったり、ポワロがクリケットの試合に夢中で気も漫(そぞ)ろのヘイスティングスにイラついたり皮肉を言ったりしつつ、ラストで自ら試合結果を分析してみせヘイスティングスを唖然とさせる場面なども楽しいです。ただ、こうした場面ばかり印象に残って、ポワロの鋭さというのは意外と感じられなかったような気も。

 両作品とも短編がベースであり、犯人探し自体はそう難しくないと言うか、雰囲気で判ってしまうところがあります。でもその分、あまり気負わずに気軽に楽しめる作品ではあります。

The Adventure of Johnnie Waverly_.jpgジョニー・ウェイバリー誘拐事件01.jpg「名探偵ポワロ(第3話)/ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF JOHNNIE WAVERLY●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/22●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ジェフリー・ベイトマン(マーカス・ウェイバリー)/ジュリア・チャンバース/DOMINIC ROUGIER●日本放映:1990/01/27●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Adventure of Johnnie Waverly

Four and Twenty Blackbirds_.jpg24羽の黒つぐみ4.jpg「名探偵ポワロ(第4話)/24羽の黒つぐみ」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:FOUR AND TWENTY BLACKBIRDS●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/29●監督:レニー・ライ●脚本:ラッセル・マレー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /リチャード・ハワード(ジョージ・ロリマー)/トニー・エイトキン(トミー・ピナー)/CHARLES PEMBERTON/GEOFFREY LARDER/DENYS HAWTHORNE/HOLLY DE JONG●日本放映:1990/02/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)
Four and Twenty Blackbirds

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2402】 「名探偵ポワロ(第3話)/ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

記念すべき本国及び日本放映第1話。シーズンのスタートにしてはやや大人しい感じの滑り出し。

コックを捜せ dvd.jpg コックを捜せ ポワロ へニングス レモン.jpg ミューズ街の殺人 dvd.jpg ミューズ街の殺人1.jpg  
名探偵ポワロDVDコレクション 24号 (コックを捜せ) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロDVDコレクション 25号 (厩舎街の殺人) [分冊百科] (DVD付)

コックを捜せ 依頼.jpg ヘイスティングスが新聞に載っている面白そうな事件を読み上げてみても、国家的重大事件でなければ引き受けないと言うポワロ。そんな彼のもとへコックが失踪したから探してくれという夫人が現れる。依頼を拒否しようとするポワロだったが、夫人から、熟練したコックがいなくなるのは家宝の宝石を失うに等しい国家的事件だと言われて、これは失礼だったと依頼を受けることに。ポワロが話を聞いた下働きの女性は、彼女は奴隷商人に誘拐されたに違いないと言うが、荷造りしていたために、誘拐ではなく、自分から姿を消したのだとポワロは考える。家に下宿している銀行員にも事情を聞くが、何も知らないと言う。彼の勤める銀行では証券紛失事件があり、不審に思ったポワロだが、そうこうするうちに依頼主の夫人から、コックが勝手に出て行ったなら依頼は取り消しだと1ギニーが送られてきてまう―(第1話「コックを捜せ」)。

熊倉一雄 ポワロ.jpgTHE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK.jpg デヴィッド・スーシェの主演英国LWT(London Weekend Television)制作「名探偵ポワロ」(ポワロの声の吹き替えは、昨年['15年]10月に88歳で亡くなった熊倉一雄が最終シリーズまで務めた)の第1シーズン第1話で本国放映は1989年1月8日、本邦初放映は1990年1月20日(NHK)(記念すべき第1話だが、日本での放送は第2話の方が1週先だった)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「料理人の失踪」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「料理女を捜せ」)などに所収。

コックを捜せ 銀行家.jpgコックを捜せ 弁護士.jpg 結局、コック失踪事件は銀行の横領事件から殺人事件へと発展していき、プロットの密度は濃いですが、これでほぼ原作通りのようです。失踪したのはコックと言うより家付きの料理女といった感じでしたが、完全に犯人い騙されていたのだなあ。しかし、コックを捜せ 料理人.jpg殺人の犯行において死体を隠すというのは結構たいへんであるにしても、それ用のトランク1つのために、弁護士になりすますなどしてここまでやるかなあというのはあります(それで話が面白くなっているも確かだが)。ただ、同居人ということで、彼女がそういう話に乗ってくるタイプだということは読んでいたのでしょう(高齢者を狙った詐欺だね。金を奪うわけではないけれど)。

 ポワロが最初はコック捜しといった些細な仕事をしていることをジャップ警部に悟られまいとしているのが可笑しく、それが何か背後に怪しいものがあるとと思い始めたところへ夫人から依頼の取り消し連絡があって1ギニーが送られてきたことに珍しく激昂、タダでも捜査を続けると言い、さらにその後の事態の思わぬ展開に、最後はどんな依頼も軽んずべからずとして、1ギニーを額に入れて壁に飾る―という展開は巧み。因みに1ギニーは21シリング、1930年代半ばの貨幣価値で25,000円くらいだそうです(ホームズの時代とそう変わらない?)。


ミューズ街の殺人 現場.jpg ガイ・フォークス・デイの夜、こんな晩なら銃声が花火の音にまぎれてしまうので殺人にはもってこいだとヘイスティングスは言うが、その翌日、女性が自宅で射殺体で発見される。被害者は、若き美貌の未亡人バーバラ・アレンで、当初自殺と思われたが、状況に不審な点があり、警察はミューズ街の殺人 0.jpg他殺と断定する。第一発見者は、ルームシェアをしていた女性写真家のジェーン・ブレンダーリースで、彼女にはアリバイがあり、他に容疑者として、被害者のバーバラと婚約していた下院議員ミューズ街の殺人 gate.jpgチャールズ・レイバトン・ウェスと、ジェーンとバーバラの部屋をしばしば訪れていたユースタス少佐が浮上する。さらに、少佐は被害者との過去の愛人関係を理由にして、恐喝していたようだった―(第2話「ミューズ街の殺人」)。

MURDER IN THE MEWS.jpg 英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第2話(第1シーズン第2話)で本国放映は1989年1月15日、本邦初放映は1990年1月13日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)などに所収。"ミューズ"は"Muse"ではなく"Mews(厩舎)"で、転じて厩から通りまでの「路地」を言います。

ガイ・フォークス・デイ.jpg ガイ・フォークス・デイ(11月5日)は、1605年の「火薬陰謀事件」で国会爆破をもくろんだ実行犯のガイ・フォークスが捕らえられたガイ・フォークス お面.jpg記念日で、祭りでは篝火で人形を燃やします(但し、ガイ・フォークスは火刑ではなく絞首刑に処せられた)。英語で「男、奴」を意味する"Guy"は彼の名に由来し、また、ガイ・フォークス・デイに人々が着けるお面は、アノニマス、ウィキリークスのジュリア・アサンジが"抵抗と匿名"のシンボルとして用いています。

ミューズ街の殺人 2.jpg 話の方は、自殺だと思ったら他殺...と思ったら...と二転三転する展開に引き込まれますが、"犯人"はちゃんといましたね。"犯人"と言っていいのかどうか分かりませんが、ポワミューズ街の殺人 nazotoki.jpgロははっきり「殺人未遂」と言ってます。この辺りの厳格さはポワロらしいという気がします。それでも"犯人"の気持ちが分からないでもないですが。

 時代背景の割には、シェアしている部屋や下院議員が使っているスポーツクラブのプールなどがモダンで、その分、結構垢抜けて見える一篇でした。但し、第1話についても言えることですが、元が短編で時間も正味55分であることもありますが、シーズンのスタートにしてはやや大人しい感じの滑り出しであった印象を受けます。

「名探偵ポアロ」.jpg名探偵ポワロ.jpg2名探偵ポワロ.jpg「名探偵ポアロ」 Agatha Christie: Poirot (英国グラナダ(ITV)1989~2013) ○日本での放映チャネル:NHK→NHK-BS2→NHK-BSプレミアム(1990~2014)/ミステリチャンネル→AXNミステリー

名探偵ポワロ DVD 全52巻【上段】第1巻~31巻(第1話~第48話)【下段】第32巻~第52巻(第50話~第70話)
名探偵ポワロ [レンタル落ち] 全52巻.jpg

Agatha Christies Poirot The Adventure Of The.jpg「名探偵ポワロ(第1話)/コックを捜せ(炊事婦の失踪)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK●制コックを捜せG.jpg作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ブリジット・フォーサイスコックを捜せ dvd1.jpg(トッド夫人)/ダーモット・クロウリー(アーサー・シンプソン)/FREDA DOWIE/ANTONY CARRICK●日本放映:1990/01/20●放映局:NHK(評価:★★★☆)

名探偵ポワロ[完全版]Vol.1 [DVD]」(「コックを捜せ」「ミューズ街の殺人」所収)

「名探偵ポワロ(第2話)/ミューズ街の殺人(厩舎(ミューズ)街の殺人)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:MURDER IN THE MEWS●制作年:1988年●制作ミューズ街の殺人 ゴルフ.jpg国:イギリス●本国放映:1989/01/15●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・Murder in the Mews.jpgレモン) /ジュリエット・モール(ジェーン・プレンダーリース)/デイヴィッド・イェランド(チャールズ・レイバトン・ウェスト)/JAMES FAULKNER/GABRIELLE BLUNT●日本放映:1990/01/13●放映局:NHK(評価:★★★☆)

Agatha Christie's Poirot: Season 1, Episode 2 Murder in the Mews

「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【2584】ジョゼ・ジョヴァンニ「ル・ジタン
「●緒形 拳 出演作品」の インデックッスへ「●佐藤 浩市 出演作品」の インデックッスへ「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ「●池部 良 出演作品」の インデックッスへ「●永島 敏行 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」のインデックッスへ 「●み 三島 由紀夫」の インデックッスへ

ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なもの。

Mishima dvd.jpgMishima dvd  .jpg Mishimages.jpg 三島由紀夫と一九七〇年.jpg
MISHIMA : LIFE IN FOUR CHAPTERS」/緒形 拳/『三島由紀夫と一九七〇年
Mishima - A Life in Four Chapters

MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS .jpg  三島由紀夫の生涯を四つの章に分け、3つの章でその作品等を通して三島文学を描き、第4章で自決に至るまでを描くことで、三島の文学や生き方、そして死に方を探った作品で、監督と脚本は「ザ・ヤクザ」('74年/米)、「タクシードライバー」('76年/米)の脚本、「キャット・ピープル」('82年/米)の監督のポール・シュレイダー(「晩春」など小津安二郎監督作品の読み解きでも知られる)、製作総指揮はフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカス、公開に至らなかった日本版はロイ・シャイダーによる英語ナレーション付き、米国版は緒形拳による日本語ナレーション付きです(1985年度の第38回カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞作)。

Mishima 01 Ken Ogata Yukio Mishima.gif 「今現在」を「1970年11月25日」に置いて、三島(緒形拳)が自決した当日の起床からの経過を現在進行形でカラー・ドキュメンタリー風に描き、その「今現在」の時の流れをベースに、三島の幼少期から「楯の会」結成までの半生をモノクロームで描いた「フラッシュバック(回想)」シーンを交える一方、第1章「美(beauty)」で『金閣寺』、第2章「芸術(art)」で『鏡子の家(Kyoko's House)』、第3章「行動(action)」で『奔馬(Runaway Horses)』(『豊饒の海』第2部)の各作品をダMISHIMA1-1.jpgイジェストで映像化しており、最後の第4章「文武両道(harmony of pen and sword)」で、三石岡瑛子 mishima.jpg島が市ヶ谷駐屯地に到着した場面から自決に至るまでを描いています。こうなるとかなり複雑な印象を与石岡瑛子.jpgえますが、回想部分はモノクロで、作品部分は「劇中劇」として極めて演劇的に作られているため(石岡瑛子(1938-2012/73歳没)が美術担当)、観ていてたいへん分かり易いものとなっています。

Mishima 02 Naoko Otani.gif 冒頭で、三島が母(大谷直子)や祖母(加藤治子)との特異な幼少期を経て、思春期から同性愛的指向を自覚したことなどを紹介、第1章では簡略化された『金閣寺』が劇中劇として描かれ、ドモリでコンプレックスのMishima01 金閣寺.jpg塊のような学生(ある意味、三島のペルソナである)で金閣寺の住職になることを目指して修行する溝口(五代目 坂東八十助=十代目 坂東三津五郎)が、障害者でありながらをそれを逆手にとって高い階級の女を籠絡している柏木(佐藤浩市)と出会い、そのMishima 11 Yasosuke Bando Mizoguchi.gifMishima 12 Koichi Sato.gifMishima01 金閣寺s.jpg手ほどきで女性に接するも臆して何もできなかった後(ここでフラッシュバックで青年期の三島(利重剛)が病弱だったために戦争の徴兵を逃れ得たことなどが描かれる)、今度は老師(笠智衆)から施されたMISHIMA  ryu.jpg金で遊郭で遊女(萬田久子)を抱き、女に「どでかいことをする」と言うが、それは金閣寺を燃やすことだった―といMishima 13 Hisako Manda Mariko.gifうもの(ここで三島が自邸を出て「盾の会」のメンバーと市ヶ谷駐屯地へ向かうため車に乗り込む"現在"のシーンに切り替わり、更に今度は、モノクロで『潮騒』などの作品で作家として高い評価を得た頃の三島を描く)。

Mishima 21 Kenji Sawada Osamu.gifMishima 22 Setsuko Karasuma.gif 第2章では『鏡子の家』を演劇化しており、原作では鏡子というある種"巫女"的な女性を軸に、恵まれた結婚をし将来が嘱望されるエリート会社員「清一郎」、拳闘家でボクシングで王座を獲る「俊MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS sachiko hidari.jpg吉」、美貌の無名俳優でボディビルで鋼の肉体を得る「収」、天分豊かな童貞の日本画家で画壇での名声を博す「夏雄」の4人が登場しますが(それぞれが三島のペルソナと言える)、ここでは俳優の「収」(沢田研二)にフォーカスして、母親(左幸子)や恋人(烏丸せつこ)との関係を描いています(ここでまたモノクロのフラッシュバックになり、男とダMISHIMA:4X1.jpgンスし―ダンス相手のモデルは美輪明宏か―同性愛者として美醜にこだわり、ボディビルMISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS kurata.jpgMishima 23 Tadanori Yokoo Natsuo.gifによって肉体改造に励む三島の姿が描かれる)。次に、ラーメン屋台のような所に収、俊吉(倉田保昭)、夏雄(横尾忠則)がいて芸術談義をしていると思ったら、収は清美(李麗仙)という女社長に会って母親の負債を相殺するためのある種"奴隷契約"Mishima kyoko no ie2.jpgMishima kyoko no ie.jpgを結ばされ(その間、三島のセミヌード写真の撮影模様や出演した映画のポスターなどがフラッシュバックで入る)、母親にはいい役がついたと報告し、最後はピンク色の部屋でその清美に自分の肉体をマゾヒスティックに傷つけられている―(ここで市ヶ谷に向かう車中の三島と「盾の会」のメンバーのシーンに切り替わる)。

Mishima 31 Toshiyuki Nagashima Isao.gif 第3章は、『奔馬』の主人公・飯沼勲(永島敏行)を描いた劇中劇で、剣道3段の飯島青年が政界Mishima honmaU.jpgの黒幕を倒すべく陸軍中尉(勝野洋)や同志らとクーデターを謀るという二・二六事件をモチーフにした原作通りMISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS17.jpgの展開で(フラッシュバックで日本刀を振るって剣術に精進する三島が描かれる)、彼が首謀者となって同じ学生仲間らと決行を誓い合いますが(そこでまたフラッシュバックで「盾の会」の結成やその閲兵式の模様が描かれ、更に、'69年の東大全共闘との討論会の様子が描かれる)、事を起こす前に飯島らは逮捕され、飯島は聴取にあたった尋問官(池部良)に拷問してくれとミシマ ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ21.jpgMishima 32 Ryô Ikebe.gif頼むが叶わない。その後、飯島は脱獄に成功し、政界の黒幕・蔵原(根上淳)を暗殺Mishima honma2.jpgすると、海を見渡す断崖へと直行し、暁の太陽を背に割腹自殺を図る―(ここでいきなり、映画「憂国」の切腹シーンを撮影中の三島のモノクロ・フラッシュバックになる。そして、映画「憂国」の完成記者会見の模様が入る)。

MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS.jpg 第4章は、これまで「今現在」として描かれてきた「1970年11月25日」の部分の続きで、三島らが市ヶ谷駐屯地に到着してから自決に至るまでが描かれており(間にフラッシュバックで「盾の会」の自衛隊体験入隊の模様が描かれる)、自決前のバルコニーでの演説をはじめ、「三Mishima42.jpg島事件」を克明に描いています(更に間に、ロッキードF104戦闘機に試乗した際の模様が描かれる)。最後に三島が切腹して雄叫びする場面に続いて、第1部から第3部の小説のラストMishimaR.jpgシーンがワンカットずつ描かれ、『奔馬』の最後の一行のナレーションと共に、冒頭のタイトルバックにあった太陽が正面に昇っている風景でエンドロールとなります。なお、「フラッシュバック」で描かれる半生の挿話やナレーションには、自伝的小説『仮面の告白』や随筆『太陽と鉄』などからの引用が使用されています。

 ポール・シュレイダーの実兄の故レナード・シュレーダー(同じく脚本家で、同志社大学と京都大学で英文学の講師をしていた)が生前の三島由紀夫と親交があり、10年間の構想を経て弟と共に脚本を書き始めたのが契機のようですが、よく出来ていると思いました(ハリウッドの知性派女ジョディ・フォスターs.jpg優として知られ、2013年のゴールデングローブ賞授賞式において、自身が同性愛者であることをほぼ公表したジョディ・フォスターが絶賛している)。主人公の三島の役は、最初は高倉健にオファー高倉健G.jpgされていたらしいのですが(高倉健はポール・シュレイダー脚本、シドニー・ポラック監督の「ザ・ヤクザ」('74年/米)に出演している)、右翼などの妨害や誹謗が危惧されて、一度は受けたものの降りてしまい、緒形拳になったったとか。撮影直前までの脚本では、第4章に『天人五衰』(『豊饒の海』第4部)が含まれていたのが、構成が複雑になりすぎるとの理由で割愛されたそうです。更に、ポール・シュレイダー監督は第2章で『禁色』を使うことを希望していたのが、三島の遺族側の承諾が得られず、『鏡子の家』になったとのこと。結局、全体4章の内、作品を再現したのは第1~第3章であり、また、『鏡子の家』で4人の登場人物の内1人のみにフォーカスするという形にはなったMishima irie.jpgものの、ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なものだと思います(それが理解できるかどうかはまた別の問題として)。細かい点で事実と異なるとの指摘もあるようですが(第2章のフラッシュバックに写真集『薔薇刑』の撮影模様があるが、三島はこの映画のように撮影の際に自らカメラのアングルを指示するようなことはなく、完全に「被写体」に徹していたという当のカメラマン細江英公氏の指摘など)、そうした細かい指摘がされるというのは、逆に言えばドキュメンタリーとしても一定の水準を満たしているからであるように思います(ジョディ・フォスターは「作品部分の凝った構成と、生涯の部分のドキュメンタリー・タッチの対比が絶妙」だと評価している)。

三島由紀夫と一九七〇年  .jpg 結局、上映自体が遺族側の了解が得られず、作品は日本では劇場公開されなかったわけで、惜しいことです(同性愛を示唆する場面は結構あったが、それ以外に政治的な理由があったともされている)。長年ビデオ・DVD化されない「幻の作品」であっため、自分自身も、中身がよく分からないのでやや"色物"的な作品ではないかとの先入観が以前はありましたが、近年しばしばネットで見かけ、更に"ゲリラ・リリース"された『三島由紀夫と一九七〇年』('10年/鹿砦社)付録の米国版DVDを観直して観ると、映像も綺麗だし、演技陣も錚々たるメンバーであり、また、よく演出したものだと思いました。作家とその作品の関係性を描くという意味でも非常に大胆な試みであり、それは100%成功しているわけではないですが、分かり易いというだけでも評価できるのではないでしょうか。

Chishu Ryu, Paul Schrader, and Yasosuke Bando on the set of Mishima: A Life in Four Chapters. MISHIMA_500.jpg
「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」●制作年:1985年●制作国:アメリカ・日本●監督:ポール・シュレイダー●製作:山本又一朗/トム・ラディ●脚本:ポール・シュレイダー/レナード・シュレイダー/チエコ・シュレイダー●撮影:ジョン・ベイリー/栗田豊通●音楽:フィリップ・グラス●美術:石岡瑛子●原作:三島由紀夫●120分●出演:●[フラッシュバック(回想)]緒形拳/利重剛/大谷直子/加藤治子/小林久三/北詰友樹/新井康弘/細川俊夫/水野洋介/福原秀雄 [1970年11月25日]緒形拳/塩野谷正幸/三上博史/立原繁人(徳井優)/織本順吉/江角英明/穂高Mishima A Life in Four Chapters (1985).jpg坂東三津五郎.jpg稔 [第1章・金閣寺]坂東八十助/佐藤浩市/萬田久子/沖直美/高倉美貴/辻伊万里/笠智衆(米国版のみ) [第2章・鏡子の家]沢田研二/左幸子/烏丸せつこ/倉田保昭/横尾忠則/李麗仙/平田満 [第3章・奔馬]永島敏行/池部良/誠直也/勝野洋/根上淳/井田弘樹●米国公開:1985/10●DVD発売:2010/11●発売元:鹿砦社(『三島由紀夫と一九七〇年』附録)(評価:★★★★)
十代目 坂東三津五郎(五代目 坂東八十助)(1956-2015.2.21/享年59)

Mishima: A Life in Four Chapters (1985)

Kyoko's House.jpg
「第2章・鏡子の家」沢田研二/李麗仙(1942-2021.6.22/享年79

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2345】千葉 伸夫 『原節子―伝説の女優』
「●わ 和田 誠」の インデックッスへ 「●か 川本 三郎」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●山村 聰 出演作品」の インデックッスへ(「ガン・ホー」)「●ビリー・ワイルダー監督作品」の インデックッスへ「●「ヴェネツィア国際映画祭 女優賞」受賞作」の インデックッスへ(シャーリー・マクレーン)「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「アパートの鍵貸します」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○存続中の映画館」の インデックッスへ(銀座文化2(シネスイッチ銀座2))

A級、B級問わず映画を語る楽しくて充実した内容の鼎談。瀬戸川氏への哀悼の意が感じられる。

今日も映画日和 単行本2.jpg今日も映画日和 単行本.jpg  今日も映画日和 文庫.jpg
今日も映画日和』['99年] 『今日も映画日和 (文春文庫)』['02年]

 心から映画を愛する3人が、SF、法廷劇、スポーツものなど、12のテーマに沿って語り尽くした楽しい鼎談集です。「カピタン」1997年7月号から1998年6月号にかけて連載された際にページの都合で割愛された部分も、きちんと再録したロング・バージョンであるとのことで、脚注・写真も充実しています(文庫版は脚注のみ、写真無し)。

 単行本の刊行は、鼎談者の一人・瀬戸川猛資(1948 -1999/享年50)がその年の3月に肝臓がんで亡くなっていて氏の存命中に刊行を間に合わせられなかったのですが、脚注では話中に出てきた映画の情報の他に、川本三郎氏、和田誠氏が自らの発言内容に独自に補足するばかりでなく、瀬戸川氏の発言に関係するコメントを瀬戸川氏の著書の中から引用するなどしており、両人のこの鼎談集への思い入れと、瀬戸川氏への哀悼の意が感じられます。

 和田氏が1936年生まれ、川本氏が1944年生まれ、瀬戸川氏が1948年生まれで、和田氏によれば、川本氏は昭和の庶民を描く日本映画や映画のファッションに強く、瀬戸川氏はミステリに強いというようにお互いの守備範囲があるようですが、一方で、映画を、A級とかB級とか関係なく、分け隔てなく観てきたという点で共通するとのことで、それは本書を読めばよく分かります。

 取り上げているテーマは、まず「映画館」から始まって、SF、夏休み(ボーイズライフ)、サラリー★激しい季節(1959)2.jpgマン、野球、クリスマス、酒場、スポーツ、法廷、良妻・悪妻、あの町この町、大スターと続きますが、それらをモチーフとした映画がぽんぽん出てきて、もう誰が話しているのかあまり区別がつかないくらいです。

おもいでの夏 dvd.bmp 3人が若い頃に観た映画の話がかなりあって、「夏休み(ボーイズライフ)」のところで、川本三郎氏が、「激しい季節」('59年/伊)のエレオノラ・ロッシ・ドラゴがオッパイを見せていたのにショックを受けたとかあったりして、当時のアメリカ映画とイタリア映画の倫理コードの違いもあるのだろうなあ。「おもいでの夏」('71年/米)を瀬戸川氏はともかく和田氏も観ておらず(新しすぎるのか?)、川本氏の講釈を受けるという展開は意外でした。
ガン・ホー [DVD]
ガンホーdvd.jpg 「サラリーマン」の章のところで、瀬戸川氏がアメリカでヒットしたのに日本では未公開だった「ガン・ホー」('86年/米)について取り上げると、川本氏が「日本の企業をバカにしたやつですね」と言ったのに対し、「全然バカにしていないですよ。あの通りなんだから」と応えているのが興味深いです。アメリカ地方都市の日本資本の自動車会社("アッサン自動車"。漢字で「圧惨自動車」と表記する)の工場を舞台に、日米自動車経済摩擦を描いた作品ですが、アメリカ側のキャストに後に「バットマン」に出演することになるマイケル・キートンや、演技達者のジョン・タトゥーロまで出ているけれど、ケディ・ワタナベ演じる日本側主人公も好人物に描かれていて、最後、日系の自動車会社側の重役の山村聡が出てきて貫禄で問題を解決し、日米の企業人のカルチャーギャップを解消しているから、軽いノリの映画ではありますが、日本人をバカにした映画とまでは言えないでしょう。日本の企業経営を皮肉ったシーンガン・ホー1986 03.pngガン・ホー1986 01.jpgがあり、これを日本人をバカにしていると観客がとれば日本では受けないとして配給会社が配給を見送ったようですが、ちょっと世に出るのが早すぎたでしょうか。監督は後に「アポロ13」('95年)や「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)を監督することになるロン・ハワードです(観た時の評価は星3つだが、グローバル人材がどうのこうの言われる今日において観直すと面白いかも―という観点から星半分プラス)。

黒い画集 あるサラリーマンの証言[1].jpg サラリーマン映画では、「失楽園」も川本氏しか観てなかったなあ。その川本氏が堀川弘通監督の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝、原作:松本清張)を傑作としていますが、当時の方が今よりも不倫に対する風当たりは強かったというのが川本氏の見方のようです。確かに小林桂樹、電話で不倫相手の原知佐子に向かって「はい、承りました」ってやっていたけれど。また、瀬戸川氏が、ワイルダーってアメリカ映画の中で異色なくらい会社を舞台にした作品が多いと指摘していますが(和田誠氏でなく瀬戸川氏が指摘しているのが興味深い)、「アパートの鍵貸します」は勿論のこと、「麗しのサブリナ」('54年/米)なども、確かに言われてみればそうだなあと。
「アパートの鍵貸します」パンフレット
「アパートの鍵貸します」パンフ.jpgアパートの鍵貸します2.jpg 「アパートの鍵貸します」('60年/米)は、アカデミー賞の作品賞、監督賞など5部門受賞した作品で、和田誠氏が『お楽しみはこれからだ』シリーズなどで何度も取り上げている作品でもあります。出世の足掛かりにと、上役の情事のためにせっせと自分のアパートを貸している会社員バドことC・C・バクスター(ジャック・レモン)でしたが、人事部長のJ・D・シェルドレイク(アパートの鍵貸します3.jpgフレッド・マクマレイ)が自分の部屋に連れ込んで来たのが、何と自身の意中の人であるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だったというよく知られたApâto no kagi kashimasu (1960).jpgストーリーで、宮仕えのサラリーマンの哀愁を描く中で、ラストの急転は実に爽やかでした(こうした急展開は「麗しのサブリナ」などでも見られるが、こちらの方が洒落ている)。テニス・ラケットでパスタをすくったり、マテーニのオリーブを1つずつ時計のように並べたり、小道具をさりげなく使ったシーンにも旨さを感じられ、そもそも役者陣で下手な人は誰も出ていないような演出の見事さ。その中でもやはり、ジャック・レモンの演技が光ったし、シャーリー・マクレーンも良かったです(シャーリー・マクレーンはこの作品でヴェネツィア国際映画祭女優賞を獲得)。
Apâto no kagi kashimasu (1960)

野良犬 野球場.jpg 「野球」のところで、黒澤明の「野良犬」('49年/東宝)で後楽園球場が出てきて巨人の川上や青田がちゃんとプレーしているのが良かったと和田氏が言った野良犬 ビール.bmpのに対し、あの試合は巨人対南海線で、日本シリーズではなく1リーグ制の時の試合だと川本氏が指摘しているのがマニアックです。志村喬が野球監督を演じた「男ありて」('55年/東宝)を取り上げると、川本氏が「素晴らしい映画」だとすかさずフォローするのが嬉しいです。

「野良犬」の話は、続く「酒場」のところでも出てきて、川本氏が、志村喬が部下の三船敏郎を自分の家に連小津安二郎 秋刀魚の味 トリスバー.jpgれてきて飲ませるビールは"配給"だったとか(そう言えば、今日はたまたまビールが手に入ったようなことを志村喬が言ってたっけ)、一方、小津安二郎はサントリーと提携してい秋刀魚の味 東野2.jpgて、「秋刀魚の味」('62年/松竹)では、恩師の東野英治郎を教え子の笠智衆や中村伸郎たちが招待するシーンで、わざわざサントリー・オールドを映して「おいしいね、小津安二郎 秋刀魚の味 サッポロビール.jpgこのウィスキーは」と言わせているとか、岸田今日子がやっている店がトリスバーだとか。なるほどで。それでいて、冒頭の川崎球場の照明塔のシーンでサッポロビールとあるから、川本氏が言うように両方から金もらっていたのか(因みに、サントリーがビール事業に再進出したのは1963(昭和38)年で、この映画が公開された翌年)。小津映画では酒好きの中村伸郎のために、飲むシーンは実際に酒を飲ませ、肴もウニだったりしたというからスゴイね。笠智衆は下戸だったけれど、東野英治郎は本当に酔っぱらっていたわけかあ。

女競輪王00.jpg A級、B級問わずと言うことで、黒澤や小津といった巨匠ばかりでなく、前田葉子主演の「女競輪王」('56年/新東宝)なんて作品なんかも取り上げているのが何だか嬉しいです。

 鼎談の持ち味が出ていただけに、もう1冊分ぐらいやって欲しかった企画であり、瀬戸川氏の逝去が惜しまれます。

                   
Estate Violenta.jpgヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg「激しい季節」●原題:ESTATE VIOLENTA●制作年:1959年●制作国:イタリア●監督:ヴァレリオ・ズルリーニ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジョ・プロスペリ●撮影:ティノ・サントーニ●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:93分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャクリーヌ・ササール/ラフ・マッティオーリ/フェデリカ・ランキ/リラ・ブリナン●日本公開:1960/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(84-11-17)(評価:★★★★)

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:111分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャースガン・ホー02.jpgガン・ホー01.jpg/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)     
証言2.bmp黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif証言0.bmp「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)
黒い画集 あるサラリーマンの証言 [DVD]
                    「アパートの鍵貸します [DVD]
アパートの鍵貸します8.jpgアパートの鍵貸しますdvd.jpgアパートの鍵貸します1.bmp 「アパートの鍵貸します」●原題:THE APARTMENT●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:ビリー・ワイルダー●脚本:ビリー・ワイルダー/I・A・Lアパートの鍵貸します4.jpg・ダイアモンド●撮影:ジョセフ・ラシェル●音楽:アドルフ・ドイッチ●時間:120分●出演:ジャック・レモン/シャーリー・マクレーン/フレッド・マクマレイ/レイ・ウォルストン/ジャック・クラスチェン/デイビット・ホワイト/ホープ・ホリデイ/デイビット・ルイス/ジョアン・ショウリイ/エディ・アダムス/ナオミ・スティーブンス●日本公開:1960/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:銀座文化2(86-06-13) (評価:★★★★)
「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpg銀座文化2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」
                       
野良犬 1949  ポスター0.jpg野良犬 1949 0.jpg「野良犬」●制作年:1949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/淡路恵子/三好栄子/千石規子/本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋実/山本礼三郎●公開:1949/10●配給:東宝(評価:★★★★)

秋刀魚の味 チラシ.jpg秋刀魚の味 加東.jpg「秋刀魚の味」●制作年:1962年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:113分●出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子/中村伸郎/東野英治郎/北竜二/杉村春子/加東大介/吉田輝雄/三宅邦子/高橋とよ/牧紀子/環三千世/岸田今日子/浅茅しのぶ/須賀不二男/菅原通済●公開:1962/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★☆)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「彼岸花」(小津安二郎)

【2002年文庫化[文春文庫]】

「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1452】 ジム・ジャームッシュ 「ストレンジャー・ザン・パラダイス
「●スーザン・サランドン 出演作品」の インデックッスへ(「ロッキー・ホラー・ショー」) 「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(シネマライズ渋谷)

観客参加型ムービー「ロッキー・ホラー・ショー」。同じくアナーキーな雰囲気を醸す「ベルリンブルース」。

ロッキー・ホラー・ショー チラシ.jpg THE ROCKY HORROR SHOW 1975.jpg   ベルリンブルース 英字.jpg Stadt der Verlorenen Seelen 0.jpg
ロッキー・ホラー・ショー [DVD]」ティム・カリー(左)/スーザン・サランドン(右手前) 「ベルリンブルース」STAD DER VERLORENEN SEELEN, BERLIN BLUES(CITY OF LOST SOULS)

THE ROCKY HORROR SHOW 1975.jpg  恩師スコット博士に婚約の報告に出かけた恋人同士のブラッド(バリー・ボストウィック)とジャネット(スーザン・サランドン)は、嵐の中で道に迷った末に山中で車がパンクしてしまい、電話を借りようと近くの古城を訪ねるが、そこでは奇怪なパーティーが開かれていた。城主フランクン・フルター(ティム・カリー)は変わった人物で、彼自身が作った人造人間、ブロンドで筋肉質の美男子「ロッキー」を披露する。そしてフルターとロッキーは、結婚するような演出でベッドのある部屋へと向かうが、ジャネットがロッキーの虜になってしまう。さらに、バイセクシュアルのフルターは、ジャネットとブラッドの両方と関係を持ってしまう―。

ロッキー・ホラー・ショー.jpg ジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)は、最初に名画座で観た時はロック・オペラってこんなのもあるのかという感じで(元々はロンドンで初演された劇場ミュージカル)、併映のロマン・ポランスキーの「ファントム・オブ・パラダイス」('74年/米)の方がミュージカル調の場面は少ないにも関わらずそれらしく感じられ、この作品はよく分らんという印象でした。

シネマライズd.JPG それが2度目に渋谷のシネマライズ渋谷(当時、地下1階にあったスクリーン)で観た時には、米国からシネセゾンが招聘したと思われるコスプレ軍団が来日していて(日本でもパフォーマンス参加者を募集した)、映画館の最前列で映画に合わせて踊ったり、紙吹雪や米を撒いたり、雨のシーンでは如雨露で水を撒いたりして観客も大ノリでした。その時初めて、ああ、これ、こうやってパーティ形式で観るものなんだと初めて知りました。本国でも公開当初は不評だったのですが、深夜興行されるようになって「観客体験型」ムービーとしてカルト化したようです。日本でもシネマライズ渋谷での上映期間中に自発的にパフォーマンスに参加する人がどんどん増えていったとのことですが、それ以前から、英字新聞にパブなどでの深夜興行の広告が出ていた記憶があります(今はAmazonでコスプレ衣裳が買える)。

ベルリンブルース 1.gif ベルリンにあるハンバベルリンブルース03.jpgーガー・ショップ「バーガー・クイーン」は、NYのハーレム出身ダンサーでトランスベイター(性転換者)のアンジー・スターダストが経営する店であり、類が友を呼んで世間のはみ出し者の米国人たちの溜まり場になっている。"バーガー・クイーン・ブルース"を歌うライラは、売春街から東ドイツへ渡って成功したパンク・スター、エロチックな空中ブランコ・ショウを見せるためにやって来たジュディスとパートナーのトロンは、アンジーの"スターダスト・ペンション"に棲むことになるが、隣部屋の売れない黒人ダンサーのゲイリーが魔術や妖術に凝っていて、自室に火をつけてしまう。ストリッパーのタラもトランスベイター(日本流に言えばニューハーフ)で、夜毎、違う男をベッドに連れ込んで同居人のロレッタを困らせる。「バーガー・クイーン」の店員ヨアキンも、ショービジネスのスターをめざす両性具有者(アンドロギュヌス)である―。

ベルリンブルース 0.jpg 「ベルリンブルース」('83年/西独)は、公開された時に「ロッキー・ホラー・ショー」の再来と言われた、西ドイツの異色監督ローザ・フォン・ブラウンハイムの1986年作品で、ドイツらしいアナーキーな雰囲気に満ちたカルト・ムービーですが、不快感とかは無く最後まで楽しめました(むしろ最後の大合唱は、マイノリティの人たちが誇り高く生き続けることを宣言しているようで感動させられた)。ブラウンハイム監督自身もホモセクシュアルであることを公言し、同性愛者や性的倒錯をテーマに撮りまくっていて、出演者たちも実在のベルリン在住アメリカ人グループで、実名で出ていて現実の仕事と同じ役どころを演じています(つまり皆、本人役で出ているということ)。

BAGDAD CAFE 2.jpg 後にパーシー・アドロン監督の「バグダッド・カフェ」('87年/西独)を観た時、ドイツから米国に旅行に来た女性が、様々な人々がいる多国籍風カフェの周辺に棲み込んでしまうという点で、この米国人がドイツのバーガー・ショップ付近に棲みつく「ベルリンブルース」と丁度真逆だなあと思ったことがありますが、「バグダッド・カフェ」も「バーガー・クイーン」ほどお下劣ではないですが、そこに暮らす人たちがショーみたいなことをやっていて、それが無国籍風と言うか、ややアナーキーな雰囲気も醸していました。
BAGDAD CAFE

 この作品「ベルリンブルース」が公開された時は、ライザ・ミネリの「キャバレー」('72年/米)のベルリン版とも言われましたが、もっとキッチュな感じのパンク系ミュージカル(仕立て)と言うか、雰囲気的にやはり「ロッキー・ホラー・ショー」に近いように思われます。

ロッキー・ホラー・ショー_1.jpgロッキー・ホラー・ショーs.jpgロッキー・ホラー・ショー (1976).jpg「ロッキー・ホラー・ショー」●原題:THE ROCKY HORROR SHOW●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:ジム・シャーマン●製作:作 マイケル・ホワイト●脚本:ジム・シャーマン/リチャード・オブライエン●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:リチャード・ハートレイ●時間:99分●出演:ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/パトリシア・クイン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ●日本公開:1978/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)●2回目:シネマライズ渋谷(地下1階)(88-07-17)(評価:★★★?)●併映(1回目):「ファントム・オブ・パラダイス」(ブライアン・デ・パルマ)
『ロッキー・ホラー・ショー』 1988リバイバル.jpg

シネマライズ2.jpgシネマライズ.bmpシナマライズ 地図.jpgシネマライズ渋谷1986年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階に1スクリーン(220席)でオープン。1996年、2階の飲食店となっていた場所に2スクリーン目を増設。「シネマライズBF館」「シネマライズシアター1(後のシネマライズ(2シネマライズ BF.jpgF))(303席)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「(元)シネマライズ渋谷」2010年6月20日閉館、跡地はライブハウス「WWW」に(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館、地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館

シネマライズBF館(前・シネマライズ渋谷)
        
「ベルリンブルース」●原題:STAD DER VERLORENEN SEELEN, BERLIN BLUES(CITY OF LOST SOULS)●制ベルリンブルース vhs.jpgベルリンブルース 輸入.jpg作年:1983年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ローザ・フォン・ブラウンハイム●撮影:シュテファン・ケスター●音楽:ホルガー・ミュンツァー/アレクサンダー・クロート●美術:インゲ・スティボルスキー●時間:91分●出演:レアンジー・スターダスト/ジェイン・カウンティ/ジュディス・フレックス/ロン・フォン・ハリウッド●日本公開:1986/10●配給:ユーロスぺース●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(86-12-06)(評価:★★★★)ベルリン・ブルース [VHS]

《読書MEMO》
絶対に見たほうがいいカルト映画30選 コタク・ジャパン
1.『ロッキー・ホラー・ショー』
2.『ドニー・ダーコ』
3.『イレイザーヘッド』
4.『ゴーストハンターズ』
5.『ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたり』
6.『地球に落ちてきた男』
7.『裸のランチ』
8.『プライマー』
9.『ゼイリブ』
10.『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』
11.『レポマン』
12.『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』
13.『チェリー2000』
14.『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』
15.『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』
16.『死霊のはらわたll』
17.『バンデットQ』
18.『バカルー・バンザイの8次元ギャラクシー 』
19.『スリザー』
20.『ダーク・スター』
21.『プラン9・フロム・アウタースペース』
22.『ハンガー』
23.『デス・レース2000年』
24.『Tales from the Hood』
25.『シャークトパス』
26.『Born in Flames』
27.『ロストボーイ』
28.『ウォリアーズ』
29.『トレマーズ』
30.『未来惑星ザルドス』

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2130】 「主任警部モース(第15話)/魔笛〜メソニック・ミステリー~
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

モース、やや暴走気味で踏んだり蹴ったりだったが、女性捜査官との距離感の推移が楽しめた。

モース(第14話)/死を呼ぶドライブ dvd.jpg モース(第14話)/死を呼ぶドライブ vhs.jpg  モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 0.jpg
Inspector Morse: Driven to Distraction [VHS] [Import]」(死を呼ぶドライブ)
Inspector Morse: Driven to Distraction [DVD] [Import]

死を呼ぶドライブ.jpg 一人暮らしの若い女性が連続して殺害され、被害者2人の共通点を探したモースは、彼女らがクルマを何れもディーラーのボイントン(パトリック・マラハイド)から買っていること、ボイントンは被害者ソーン(ジュリア・レーン)とも接点があり、被害者の女友達アンジー(テッサ・ウォーツザック)を脅迫するなどしていたことから、物証はないもののボイントンを犯人と確信、自動車会社の隣の自動車教習所のベテラン教習官ウィテカー(デヴィッド・ライアル)のもとへ教習を受けるため定期的に通うことで、ボイントンにプレッシャーをかける。捜査に参入した犯罪心理学の専門家である女性捜査官メイトランド(メアリー・ジョー・ランドル)は、初めはモースの強引な捜査に違和感を覚えるが、次第にモースの被害者への同情や犯罪への怒り、そして捜査そのものに対する彼の姿勢に共感を覚えるようになっていく―。

死を呼ぶドライブ 1.jpg 「主任警部モース」シリーズの第14話で、1990年に本国で放映され、2000年に日本語字幕付きVHSが発売されています。「IMDb」のレーティングは8.1となっています。

 モースとメイトランドはコンピュータの記録から過去の類似事件を見つけますが、犯人が収監中であるのに、その事件で幸い助かった女性は引き続き脅迫電話を受けており、モースはこれ以上の犯行を阻止するためにボイントンを拘束、しかし、相変わらず物証が得られず上司の命令で釈放するも、ボイントンは脅迫した女性の恋人に襲われ負傷し入院、その間に3人目の犠牲者が出ます(入院中の彼には犯行は不可能ということになる)。

モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 2.jpg 時々、自らの思い込みから暴走することがあるモース。今回はその典型で、誤認逮捕の挙句、最後は包丁を持った真犯人と車内で格闘し、自分の命まで危機に晒される―という、事件的には踏んだり蹴ったりのエピソード、刑事ドラマの最後の方で、主役の刑事が誤認逮捕した相手に誤っている場面が来るというのも冴えない話ですが、モースと女性捜査官メイトランドとの心理的関係の推移が思いの外に楽しめました。

 メイランドはいわばプロファイラーであり、モースも捜査陣の前で彼女に講釈させますが、モース自身はハナから信頼していない様子。実地検証でも彼女の予想は外れ、モースもそれ見ろといった感じで、ここまでは、犯罪心理学とかプロファイリングなんて馬鹿にしているであろうモースらしい展開。しかし、ここからが意外な展開で、令状無しの強硬捜査で、ルイスら他の部下は、こんな違法行為は許されないと現場を去ったのに、彼女だけが「やりましょう」と残って、モースと共に徹夜で作業する―この辺りから2人の距離感は急速に狭まってきます。

モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 3.jpg ラスト、犯人との格闘で腕を負傷したモースがその腕を使って作業しているのを見て、メイトランドが医者に禁じられているのでは気遣ったところ、自分は天邪鬼だから人に言われたことと反対の事をすると言うモース。それに対して、「じゃ、私に電話しないでね」と言って去っていくメイトランド―この遣り取りが良かったです。

 犯人も意外だったけれど、モースと女性捜査官の関係の推移の方がもっと意外だったかな。原作者コリン・デクスターは、どういうわけかコインランドリーにいましたね(結構はっきり映っていた)。

Broadway Car Park, Old Hatfield, Hert, UK - Inspector Morse, Driven to Distraction
モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 4.jpg390e1006-ccee-4ec6-b61c-f544ee1537cf.jpg「主任警部モース(第14話)/死を呼ぶドライブ」●原題:INSPECTOR MORSE:DRIVEN TO DISTRACTION●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/17 ●監督:サンディ・ジョンソン●脚本:アンソニー・ミンゲラ●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/パトリック・マラハイド/メアリー・ジョー・ランドル/ジュリア・レーン/テッサ・ウォーツザック/デヴィッド・ライアル●ⅤHS発売:2000/12●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

MyTopDozen(海外サイト)
  List of Best Inspector Morse Episodes
Rank  Score       Item
  1.  133  Driven to Distraction (第14話/死を呼ぶドライヴ)
  2.  131  Last Bus to Woodstock (第7話/ウッドストック行き最終バス
  3.  126  Service of All the Dead (第3話/死者たちの礼拝)
  4.  123  Cherubim and Seraphim (第25話/ケルビムとセラフィム)
  5.  121   Who Killed Harry Field? (第18話/誰がハリー・フィールドを殺したのか?)
  6.  116  Twilight of the Gods (第28話/神々の黄昏)
  7.  113  Infernal Serpent (第12話/邪悪の蛇
  8.  110  Death Is Now My Neighbour (第31話/死は我が隣人)
  9.  103  Happy Families (第22話/ハッピー・ファミリー)
  10.  103  Absolute Conviction (第24話/有罪判決)
  11.  94  Second Time Around (第16話/メアリー・ラプスレイに起こったこと
  12.  94  Ghost in the Machine (第8話/ハンベリー・ハウスの殺人

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2144】 「主任警部モース(第16話)/メアリー・ラプスレイに起こったこと
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

モース vs. 天才詐欺師。面白かったが、犯人には犯罪哲学があるような無いような...。

モース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」dvd.jpg  INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES.jpg Inspector Morse・episode 15 (Masonic Mysteries).jpg
Inspector Morse: Masonic Mysteries [DVD] [Import]」(魔笛〜メソニック・ミステリー~)

モース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」2.jpg モースも一員である合唱団のオペラ公演「魔笛」のリハーサルに、彼は車で女友達のベリル(マデリーン・ニュートン)と駆けつけるが、運転の荒っぽさを彼女に詰られ、帰りは別行動でと言われてしまう。そのベリスが、一時稽古場を離れた隙に殺害された。悲鳴を聞き、第一発見者となったモースは、凶器の包丁を拾い上げて容疑者となってしまう。モースのことを良くは思っていないボトムリー警部(リチャード・ケイン)が捜査の指揮を執り、ルイスがその配下に付くが、次々とモースに不利な証拠が現れ、濡れ衣を晴らそうとするモースは、逆に追いつめられていく―。

Romeland Gardens, St Albans, Herts, UK - Inspector Morse, Masonic Mysteries (1990)

 英国ITVの「主任警部モース」シリーズモース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」vhs輸入版.jpgの第15話で、1990年に本国で放映され、2001年に日本語字幕付きVHSが発売されています(監督ダニー・ボイル、脚本ジュリアン・ミッチェル)。「IMDb」のレーティングは8.4という高さ。実際、面白かったですが、ややもやっとした印象も。

モース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」デクスター.jpg オペラ好きのモースは、オペラの合唱団にも入っていたわけか(モースの前列には、原作コリン・デクスター .jpg者のコリン・デクスターがいて、結構大映しになっているカットがある)。殺害されたべリルは、モースが好意を抱き、かなり積極的にアプローチしていた女性。モース自身も自宅で不審火に見舞われ、自慢のLP盤コレクションがかなりの被害に遭った模様です(トスカニーニの「魔笛」を最悪としているけれど、これ、演奏はBBC交響楽団のものか?)
Inspector Morse: Masonic Mysteries [VHS] [Import]

INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES 2.jpg かつて自分が捕まえた天才的詐欺師ド・フリースが怪しいと睨んだモースでしたが、彼は記録上は海外で獄死したことになっていて、但し、ルイスが調べてみると、コンピュータをハッキングしてデータを改竄していたらしい。時としてモースに反感を抱き、前話ではモースの強引な捜査に反発していたルイスですが、今回は最初から無能なボトムリー警部(フリーメーソン信者らしい)は相手にせず、モース一辺倒でした。しかも、得意なコンピュータでハッキングを突き止めるという、IT犯罪捜査官のような活躍ぶり(操っているのは、黒い画面にグリーンの文字が出るMS-DOSコンピュータみたいだが)。

INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES1.jpg 「機械オンチのモースに犯行は無理で、犯人はモースよりずっと頭がいい」というルイスの言い分は可笑しいですが、やはりド・フリースは生きていて(冒頭のオペラ・リハーサルの衣装係に注目)、モースをその命を奪えるところまで追い詰めるも、アッカンベーするみたいな感じで逃げていく。そして、意外な共犯者と合流。しかし、その途端に警察に包囲され、モースがちょっと前に見た幻視通りに―。

 見た目は気色悪いけれど、「魔笛」に準えて犯行を実行するなど犯罪哲学のようなものを持っているように思えた詐欺師ド・フリースについては、逃げ延びさせる手もあったのでないかなあとも。
 彼を崇拝する共犯者の女性(最初はモースの協力者を装っていた)の方がワルだったような気もするけれど、結局ド・フリースも実行犯だったのか? 「誰も殺さない」という犯罪哲学ではなく、復讐相手の愛している者を奪うことによってその相手に復讐するという、単なる方法論に過ぎなかったのかなあ。それにしても自分はあっさり死んじゃったなあ(そんなに監獄が嫌なのか)。終盤はそれなりに緊迫感はありましたが、その辺りのもやっとした感じが個人的にはちょっと引っ掛かったかも。

INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES 5.jpg モースはルイスに「魔笛」を知らないと事件の話が通じにくいと言い放ち、自分はもう(こんな事件があって)合唱隊は辞めるとしながらも、ルイスにはベリル追悼公演となった「魔笛」を半ば無理矢理聴きに行かせますが、ルイスは台詞がさっぱり聴き取れないと言って途中で夫婦で会場を抜け出してしまいました。「魔笛」は普通ドイツ語でやりますから、台詞が解らなくて当然なのですが、この辺りは労働者階級出身のルイスらしかったかな(映画「アマデウス」では映画観客層に合わせてモーツアルト歌劇を全部英語でやっていたけれど)。でも、ルイスがハッキングを突き止め、自分の疑いを晴らした時などは、モースは感謝の祝杯を挙げるという心遣いもみせています(これも、自分が久しぶりに呑みたかったという理由の方が大きいか)。
Fishpool St, St Albans, Herts, UK - Inspector Morse, Masonic Mysteries (1990)

 新米刑事時代のモースを描いた当シリーズの前日譚「新米刑事モース~オックスフォード事件簿~」(2012年1月からITVで放送)の脚本家ラッセル・ルイスがこのエピソードに影響を受けて、「Case3/殺しのフーガ」(2013年)というエピソードの脚本を書いているそうなので、機会があれば観てみたいと思います。

「主任警部モース(第15話)/魔笛〜メソニック・ミステリー~」●原題:INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/24 ●監督:ダニー・ボイル●脚本:ジュリアン・ミッチェル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/マデリーン・ニュートン/イーアン・マクディアミット/セレスティーン・ランダル/リチャード・ケイン●ⅤHS発売:2001/01●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2131】 「主任警部モース(第14話)/死を呼ぶドライブ
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

ラストまで飽きさせない展開である上に、諸々のもやもやが最後一度にスッキリする。

第13話/ラドフォード家の遺産 dvd.jpg 第13話/ラドフォード家の遺産 dvd.jpg 第13話/ラドフォード家の遺産.jpg
Inspector Morse: Sins of the Father [DVD] [Import]」(ラドフォード家の遺産)

第13話/ラドフォード家の遺産 01.jpg 150年もの歴史を誇るラドフォード醸造社の社長トレヴァー(アンディ・ブラッドフォード)が酒樽の中で死体で見つかる。ライバル企業からの買収問題に揺れるラドフォード家では、自立再建派の被害者と会社売却派の弟スティーブン(ポール・シェリー)との間に確執があり、更にスティーブンは、元秘書の妻を差し置いて、兄トレヴァーの妻ヘレン(キム・トンソン)と親密状態にある。兄の死によって新社長となり、会社を売却の方に舵を切るかに思えたスティーブンだったが、彼もまた殺害され、酒樽の中で見つかる。息子2人を亡くしたチャールズ(ライオネル・ジェフリーズ)とその妻イザベル(イザベル・ディーン)が、会社の自立再建か売却かを決める重役会議を召集する。一方、トレヴァーの秘書ゲイルは、鉄道オタクの薬剤師ブリースと交際しているが、モースが事件を探る中で、ブリースとその母親は、ラドフォード社の創業に纏わる秘密があるらしいことが判る。そして、その秘密を知っているらしい弁護士ネルソンも殺害されてしまう―。

第13話/ラドフォード家の遺産 vhs.jpg 英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第13話で、1990年に本国で放映され、2000年に日本語字幕付きVHSが発売されています。原題は「父親たちの罪」の意。監督は、「シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名」 ('78年/英)などのピーター・ハモンド。

Inspector Morse - Sins of the Father [VHS] [Import]

 関係者が揃って口をつぐむため、モースは皆何か隠していると訝しみ、やや不機嫌そう。事件解決には相当に難儀しましたが、第1・第2の犯行(兄弟の殺害)と、第3の弁護士の殺害が密接に関係しているとの見当をつけながらも、両事件の犯人を切り離して考えることで犯人逮捕に至り、事件は一件落着したかに―しかし、モースは何となく腑に落ちない...。

 一旦は事件が解決したように見えた後で、部下の部長刑事(ここではルイス)の何気ない言葉から真相に気づくというのは、「バーナビー警部(第47話)/消えないセピア色」('06Ye Olde Fighting Cocks, St Albans, Herts, UK - The Sins of the Fathers (1990).jpg年/英)にもあります。ルイスの言葉遣いは庶民派で、弁護士の事務所にかかってきた犯人からと思われる電話の言葉遣いは上流階級のものだったということなのでしょう(その違いから閃いた)。鉄道オタクの薬剤師(それにしてはモデルのような美人の黒人の恋人がいる)の母親の言葉遣いは"庶民派"であり、よって犯人ではなく、実は母親は、第3の犯行が息子の仕業だと思って彼を庇ったのでした。

Ye Olde Fighting Cocks, St Albans, Herts, UK - The Sins of the Fathers (1990) in Movie Location

 トレヴァーが持っていた「会社の評価額が高すぎる」という殺害される直前に3年前の日付で書かれた手紙の意味がずっと謎であり(売却反対派の彼ならば、その逆のことを言うのが自然である)、観ていて理解できなかったのが、最後にその謎が氷解する展開も見事で、ラストまで飽きさせない展開である上に、諸々のもやもやが一度にスッキリするという、「IMDb」のレーティングが7.8と、前作「邪悪の蛇」の8.0に続いてある程度高いのも頷けるエピソードでした。
Lisa Harrow
Lisa Harrow.gif スティーブンの妻(リサ・ハーロウ)が、夫とは躰だけの関係で結婚したと割り切って、ラドフォード家の人々には愛想をつかしながらも、自宅室内プールでオペラ「椿姫」を聴きながらスイミングに勤しみ、ナイスボディだけは維持しているというのがなかなか良かったです(義姉に自分の夫を「貸し出してもいいのよ」と言う発想がスゴイね。体力ありそうだし、一時、彼女が真犯人ではないかと...)。まあ、彼女にはラドフォード家の遺産相続人である2人の子供もいるわけだし、伝統を重んじ(カネへの執着もさることながら、それ以上に)不名誉を嫌うラドフォード家の人々の価値観の方に尋常ならざるものInspector Morse Sins of the Fathers [Audiobook].jpgがあるわけで、彼女が愛想をつかすのも無理はないといったところでしょうか(但し、彼女にとっても財産は魅力的であるが故に、こうした割り切り方になるわけか。納得)。

「主任警部モース(第13話)/ラドフォード家の遺産」●原題:INSPECTOR MORSE:THE SINS OF THE FATHERS●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/10 ●監督:ピーター・ハモンド●脚本:ジェレミー・バーナム●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アンディ・ブラッドフォード/イザベル・ディーン/サイモン・スレイター/リサ・ハーロウ/カミラ・エインズリー/キム・トンソン●VHS発売:2000/11●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

Inspector Morse: Sins of the Fathers [Audiobook] [Audio Cassette] (1993)

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2090】 「主任警部モース(第13話)/ラドフォード家の遺産
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

次々と入れ替わる「第一容疑者」。シリーズの中でも傑作の部類ではないか。

主任警部モース(第12話)/邪悪な蛇 dvd.jpgTHE INFERNAL SERPENT.jpg 主任警部モース(第12話)/邪悪な蛇 0.jpg
Inspector Morse Set Four - The Infernal Serpent [DVD] [Import]」/「Inspector Morse: Infernal Serpent Set [DVD] [Import]」(The Infernal Serpent(邪悪な蛇)/The Sins of the Fathers/Driven to Distraction/Masonic Mysteries/Second Time Around/Fat Chance)

THE INFERNAL SERPENT2.jpg ある雨の夜、ボーフォートの学内討論会「環境問題は党派政治を超えるか」に学寮長のマシュー(ジェフリー・パルマー)と参加しようとしていたディア博士(デヴィッド・ニール)が、忘れ物を取りに戻った際に何者かに襲われ死亡し、学寮長は現場から逃げ去った若者とぶつかって負傷する。博士の直接の死因は心臓発作だったが、討論会での問題発言を阻止しようとした何者かの仕業なのか? 学寮長は化学肥料会社に投資して利益をあげていたが、その会社は環境問題を引き起こして問題になっていた。その告発記事を書いた「日曜新聞」の記者シルヴィ(チェリル・キャンベル)は学寮長の養女であり、今度の事件後に公邸を訪れ、家族に煙たがられながらも取材のため滞在していた。学寮長夫妻の娘イモジェン(イレーネ・リチャード)はかつて心に傷を負って大学を中退し、今は結婚して夫と厩舎を営んでいたが、今も神経を病んでおり、その原因は定かでない。学寮長の妻ブランチ(バーバラ・リー=ハント)は元ピアニストで、以前は庭師フィルの娘アマンダも彼女にピアノを習いに来ていた。モースは、学寮長の公邸に何度か届いた嫌がらせの小包と事件との関連を疑う一方、学寮長が事件の際に目撃した若者ミックに辿り着いて身柄を確保するが、彼は、自分が博士の傍に行った時には彼は既に死んでいたと言う。ミックと同性愛関係にあり、彼を匿っていた数学者のジェイク(トム・ウィルキンソン)はアメリカに高飛びし、ミックの部屋は何者かによって放火される。モースが、末期がんで入院中のミックの母親を病院に訪ねた際に、逃げ去る不審者を見つけて追跡するが捕り逃がしてしまう―。

 英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第12話で、1990年に本国で放映され、2000年に日本語字幕付きVHSが発売されています。TV用のオリジナル脚本ですが、「IMDb」のレーティングは8.0という高ポイントとなっており、実際、よく出来ていたと思います。

主任警部モース(第12話)/邪悪な蛇 2.jpg 今回は「倒叙法」できたのかと思わせるぐらい、冒頭から不審な素振りを見せる人物が出てきて、実は博士は学寮長と間違えられて殺害されたのではないかとのモースの見方が出てきた以降は、「第一容疑者」が目まぐるしく入れ替わる展開。モースも事件の展開に振り回され放しという感じの中、当の学寮長までも殺害されてしまいます。

 最後に、過去の"邪悪"な出来事が、様々のヒントや当事者の証言から浮かび上がり、モースは学寮長殺害の真犯人にようやっと行き着いたようですが、この学寮長は、誰によって殺害されてもおかしくない人物だったなあと(モースはシルヴィとイモジェンの写った古写真から手掛かりを得るが、その後も、真犯人が誰だったかということについての意外性は十分あった)。

主任警部モース(第12話)/邪悪な蛇 パブ.jpg 一方のルイスは、現場に残された嘔吐物の分析に執心し、モースが相変わらずパブにちょくちょく立ち寄っては推理を纏めようとしているところへ、ビールを飲んでいるモースに向かってゲロの内容物の話ばかりするため、さすがにモースは嫌な顔をしますが、結局、このルイスの"ゲロへの執着"が、捜査が行き詰ったことに加え、上層部からの圧力もあって事件解明を諦めかけていたモースを、博士殺害の真犯人に導きます。

 しかし、学寮長殺害犯も博士殺害犯も、モースが真犯人に行き着く前に最後自ら犯行を認めた感じでもあり、ブランチがミルトンの『失楽園』の一節から引いた「家の中には邪悪な蛇がいた」という言葉は重く感じられ、一方、酔っぱらって復讐犯行に及ぶ際は、相手を間違えないように注意しなければネ、とも思ったりして...。結果として、別人物がその目的を果たしたことになりますが、主任警部モース(第12話)/邪悪な蛇 vhs.jpgそうしたこともあって、博士の死因は心臓発作にして、どのみち余命僅かだったことにしたわけか(高潔な人物だったという博士には気の毒だったが、殺人罪にはならないわけだ)。

 モースは不審者を追って走り回ったり、自殺しようとする犯人を説得したりと、シリーズとしてはやや珍しい側面も見せますが、パターンから外れ過ぎているという印象はさほど無く、むしろ結末はシリーズらしい余韻を残すものであり、「IMDb」のレーティング"8.0"は伊達ではなく、シリーズの中でも傑作の部類ではないかと思います。

 大学の構内で、考え事をしながら歩いているモースとすれ違ったのが、コリン・デクスターか。モースが、ふと振り返り気味に視線を遣って、「他人の空似か」みたいな表情をチラっと見せた後にまた思索に戻るのがご愛嬌でした。

Inspector Morse: Infernal Serpent [VHS] [Import]
 

Audio Book Colin Dexter Inspector Morse Infernal Serpent.jpg「主任警部モース(第12話)/邪悪の蛇」●原題:INSPECTOR MORSE:THE INFERNAL SERPENT●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/03●監督:ジョン・マッデン●脚本:アルマ・カレン●原案:コリン・デクスター●時間:109分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/ジェフリー・パーマー/デヴィッド・ニール/チェリル・キャンベル/イレーネ・リチャード/バーバラ・リー=ハント/トム・ウィルキンソン●VHS発売:2000/10●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)
Inspector Morse: Infernal Serpent (Mci Talk Tapes)」(Audiobook [カセット] 1998)

「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【3243】 マーティン・マクドナー 「イニシェリン島の精霊
「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(渋谷東宝[渋谷東宝会館])インデックッスへ(三軒茶屋映画劇場) インデックッスへ(新宿オデヲン座[第一東亜会館]) インデックッスへ(東急レックス[東急文化会館])

このシリーズ第1作が一番面白く、その後はどんどん大味になっていく。

ダイハード 1988 ちらし.jpg ダイハード 1988 02.jpg ダイハード 1988 05.jpg
「ダイ・ハード」チラシ
ダイハード 1988 01.pngダイハード dvd.jpgダイハード 1988 04.jpg 「ダイ・ハード シリーズ」の中で一番面白かったのはやはり第1作の「ダイ・ハード」('88年)であり、「テロ集団に襲われたロサンゼルスの高層ビル」という設定を生かして、縦のアクションに徹したのが成功した1つの要因だったと思います。
ダイ・ハード [DVD]

ダイ・ハード-04.jpgダイハード 1988 03.jpg ブルース・ウィリス演じるニューヨーク市警マックレーン刑事は、これまでに無かった新たなヒーロー像を産み出した言えるし(その"嘆き節"も受けた)、マックレーンが高層ビル内で孤軍奮闘する状況の中、外部から無線の声だけでサポートする黒人刑官(レジナルド・ヴェルジョンソン)との男同士の見えない絆なども、観客を熱くさせるものがあったと思います。

ダイハード 1988 アラン・リックマン.jpgダイハード 1988 リックマン.jpg また、英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のアラン・リックマン(1946-2016/享年69)演じるテロリストも良かったです。アラン・リックマンは「ロビン・フッド」('91年)でもケビン・コスナー演じるロビンの敵役の悪役を演じましたが、半ばコメディ仕立てということもあってか、「ダイ・ハード」で見せたほどの凄味や演技のキレはありませんでした(但し「ロビン・フッド」の演技で英国アカデミー賞助演男優賞を受賞している)。「ダイ・ハード」での好演は、リックマンの落下シーンで事前に打ち合わせていたタイミングより早く彼を落下させ、"素"の驚きの表情を撮るなどした、ジョン・マクティアナン監督の演出の妙にあるのでしょうか(撮影は、後に「スピード」('94年)を監督することになるヤン・デ・ボン)。

 その後「ダイ・ハード2」、「ダイ・ハード3」、「ダイ・ハード4.0」と作られましたが、だんだん質が落ちていったような...。

エルム街の悪夢4.jpg 「ダイハード2」('90年)は、スイス出身で、「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」('88年)を撮ったレニー・ハーリンの監督作です。「エルム街の悪夢」シリーズは'84年から'97年までの間に7作作られいて、ライバルシリーズであった「13日の金曜日」シリーズは'88年から'02年までの間に10作作られています('03年には「フレディ vs ジェイソン」が作られている)。「エルム街の悪夢4」は「フレディ対超能力少女」で、その前に観た「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」('86年)が、"ジェイソン"はコメディアンだったのか?と思えるほど怖くなかったのですが、「エルム街の悪夢4」ダイ・ハード2 1990.jpgにおけダイハード2   .jpgる"フレディ"のコメディアン化は、ジェイソンのそれを上回っているように思えました。そんなこともあって、「ダイハード2」も劇場に行くのをためらわれたのですが、劇場で観たらまあまあの出来だったでしょうか。但し、雪のワシントン・ダレス空港を舞台に(原作はウォルター・ウェイジャー『ケネディ空港/着陸不能』)、旅客機ダイハード2 03.jpgの爆発、滑走路の大火災とスペクタル・シーンが大掛かりになった分だけ主人公のマックレーン刑事がスーパーマン化し、「1」と比べると大味な印象を受けました。レニー・ハーリンは、この後、シルヴェスター・スタローン主演の「クリフハンガー」('93年)を撮っています(「ダイハード2」の終盤のクライマックスシーンでのマックレーン刑事が懐からライターを取り出すところから、彼がまだ喫煙者であったころが窺える)。
ダイ・ハード2 [DVD]」('90年)

ダイ・ハード3.jpg 「ダイハード3」('95年)で監督をマクティアナン、舞台をニューヨークに戻して原点回帰? ニューヨーク市内で突如爆弾テロが発生し、「サイモン」と名乗る犯人は警察に電話し、ジョン・マクレーンを指名する。嫌がらせの様に、黒人達が多く住むハーレムのど真ん中で、「黒ん坊は嫌いだ(I hate Niggers)」というカードを下げさせられたマクレーンは、自身が白人である事も災いし、当然それを見た黒人ギャング達に半殺しにされかける。しかし、その近くで店を経営する黒人の男・ゼウス(サミュエル・L・ジャクソン)に助けられ、それを知り、面白くなかったサイモンの指示によって、2人は行動を共にする事になるというあらすじ。
ダイ・ハード3 [DVD]」('95年)

ダイハード3 ジェレミー・アイアンズ.jpg マクレーンに協力する黒人ゼウスを演じたサミュエル・L・ジャクソン(前年の「パルプ・フィクション」('94年/米)で一気に知名度をアップさせていた)、敵役サイモンを演じたジェレミー・アイアンズと(個人的には「運命の逆転」('90年/米)以来だったなあ)、共に演技達者で、途中まではそれなりに楽しませてくれましたが、途中から主人公のスーパーマン化は前作より更に進行し、最終的には一層大味な作品になってしまいました。

ダイ・ハード4.0 01.jpg その12年後に作られた「ダイハード4.0(フォー)」('07年)では(いきなりマクレーンの娘が出てきた)、不正にネットワークへアクセスするハッカーを利用して、政府機関・公益企業・金融機関への侵入コードを入手したテロリストがライフラインから防衛システムまでを掌握し、サイバーテロによって全米を揺るがすという設定で、それでもテロリストとまともに戦っていダイ・ハード4.0 3.jpgるのは(若いハッカーを従えた)マクレーンただ1人という不思議な設定で、彼の娘は例のごとくテロリストの人質に。一部にサイバー合戦も見られますが、遂には国防省から最新鋭戦闘機F-35まで出てきてしまって、これが結構間抜けな役回りで、通信システムを掌握するテロリストのミスリードでマクレーンを攻撃(いくら命令とは言え、街中のハイウェイで戦闘機が機銃を乱射するかなあ)、これはもう、カネをかければいいものが出来ると勘違いしているのではないかと思わざるを得ません。マクレーンはトラックから戦闘機に飛び乗り、戦闘機からハイウェイに舞い降りと、殆ど人間ではあり得ない超絶アクションで、これまた更に大味に。まあ、自分の中では既に「3」でこのシリーズは終わったという印象ではありましたが...。

ダイ・ハード/ラスト・デイdvd.jpgダイ・ハード/ラスト・デイ1.jpg 最近作のシーリズ第5作となる「ダイ・ハード/ラスト・デイ」('13年)は、舞台をシリーズ初の海外であるロシアに移しての展開でしたが(今度はいきなりマクレーンの息子が出てきた)、周囲の迷惑を顧みない滅茶苦茶なカーチェイスから始まって(巻き添えの死傷者が何十人と出てもおかしくない)、ラストでは女性敵役がマックレーンに対する怨みからヘリコプターで突っ込んでくるという、殆ど盲目的自爆の様相。彼女イリーナ(ユーリヤ・スニギル)はそれまで何のためにマックレーンを欺こうとしていたのか。もう完全にリアリティとはサヨナラした上に、ストーリーまでも破綻気味―「3」以降「5(ラスト・デイ)」まであまり評価する気にならないのですが、「5」はこれまでの中で最も劣るように思いました。 「ダイ・ハード/ラスト・デイ [DVD]」('13年)

 これでホントに終わりにするのかと思ったら「6」を作る予定があるらしく、ブルース・ウィリスの当シリーズへの思い入れは解らなくもないけれど、どうなんだろうか。

ダイハード 1988 00.jpg「ダイ・ハード」●原題:DIE HARD●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ジェブ・スチュアート●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ロデリック・ソープ「ダイ・ハード」●時間:131分●出演:ブルース・ウィリス/アラン・リックマン/アレクサンダー・ゴドノフ/ボニー・ベデリア/レジナルド・ヴェルジョンソン/アート・エヴァンス/ウィリアム・サドラー●日本公開:1989/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷東宝(89-02-12)●2回目:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★★★)●併映(2回目):「レッド・スコルピオン」(ジョセフ・シドー)
渋谷 東横映画劇場(1936年).jpg渋谷東宝.jpg渋谷東宝 1936年「東横映画劇場」として開場(座席数1,401席)。1944年「渋谷東宝映画劇場」に改称、後に渋谷東宝(渋谷東宝会館1階)、渋谷スカラ座(同4階)、渋谷文化劇場(同地階)の3館体制に。1989(平成元)年2月26日閉館(閉館時座席数1,026席)。1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーが開館。(右写真:「渋谷東宝会館」(渋谷東宝劇場・渋谷スカラ座/地階・渋谷文化劇場)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(右写真中央)は1952年、世田谷通りの裏通り「なかみち街」にオープン。(「三軒茶屋中央劇場」も2013年2月14日閉館)  ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ) ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り) ③三軒茶屋中劇(中央劇場)

ダイ・ハード2-38.jpgダイ・ハード2.jpg「ダイ・ハード2」●原題:DIE HARD 2: DIE HARDER●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:レニー・ハーリン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー/チャールズ・ゴードン●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ダグ・リチャードソン●撮影:オリヴァー・ウッド●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ウォルター・ウェイジャー「ケネディ空港/着陸不能」●時間:124分●出演:ブルース・ウィリス/デニス・フランツ/ウィリアム・サドラー/フランコ・ネロ/ジョン・エイモス/ボニー・ベデリア/ウィリアム・アザートン/レジナルド・ヴェルジョンソン/フレッド・トンプソン●日本公開:1990/09●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)
ダイ・ハード2 [DVD]

スマイルBEST エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃 [DVD]
エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター.jpg「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」●原題:A NIGHTMARE OF ELM STREET 4 THE DREAM MASTER●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:レニー・ハーリン●製作:ロバート・シェイ/レイチェル・タラレイ●脚新宿オデヲン座0.jpg本:スコット・ピアース/ ブライアン・ヘルゲランド●撮影:スティーヴン・ファイアーバーグ●音楽:クレイグ・セイファン●時間:94分●出演:ロバート・イングランド/リサ・ウィルコックス/チューズデイ・ナイト/アンドラス・ジョーンズ/ダニー・ハッセル/ブルック・ゼイス/トイ・ニューカーク/ニコラス・メレ/ブルック・バンディ/ロドニー・イーストマン/ケン・サゴーズ●日本公開:1989/04●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿オデヲン座(89-04-30)(評価:★★)
新宿オデヲン座 1951(昭和26)年11月、現在の歌舞伎町「第二東亜会館」の場所に開館。1959年4月「グランドビル」(後の「第一東亜会館」)地下1階に移転。2009(平成21)年11月30日閉館。(写真:歌舞伎町「第一東亜会館」(左から新宿オスカー・新宿オデヲン座・新宿アカデミー)

13日の金曜日 PART6 ジェイソンは生きていた! [DVD]」/チラシ
13日の金曜日 PART6ジェイソンは生きていた.jpg13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた! tirasi.jpg「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」●原題:FRIDAY THE 13TH PART6:JASON LIVES●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:トム・マクローリン●製作:ドン・ビーンズ●撮影:ジョン・R・クランハウス●音楽:ハリー・マンフレディーニ●時間:87分●出演:トム・マシューズ/ジェニファー・クック/デヴィッド・ケーガン/トム・フリドリー/レネー・ジョーンズ/ケリー・ヌーナン/トニー・ゴールドウィン/ナンシー・マクローリン/ヴィンセント・ガスタフェッロ/ロン・パリロ●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:東急レックス(89-04-30)(評価:★★)東急レックス.jpg東急レックス2.jpg
東急レックス(渋谷東急3) 東急文化会館の地下1階(地下東急ストア隣り)。1956年12月1日オープン。当初はニュース映画館「東急ジャーナル」。1969年7月5日~封切館「東急レックス」(466席)。1990(平成2年)10月、「渋谷東急3」に改称。2003(平成15)年6月30日閉館。
(モノクロ写真:東急レックス(1977(昭和52)年)/カラー写真:「東急文化会館」(左から渋谷東急2(旧東急名画座)・渋谷東急・渋谷パンテオン・東急レックス(後の渋谷東急3)

ダイ・ハード3-47.jpgダイ・ハード3 ps.jpg「ダイ・ハード3」●原題:DIE HARD: WITH A VENGEANCE●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ジョン・マクティアナン/マイケル・タッドロス●脚本:ジョナサン・ヘンズリー●撮影:ピーター・メンジース・ジュニア●音楽:マイケル・ケイメン●時間:128分●出演:ブルース・ウィリス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェレミー・アイアンズ/グラハム・グリーン/コリーン・キャンプ/ラリー・ブリッグマン/アンソニー・ペック/ニック・ワイマン/サム・フィリップス/ケヴィン・チェンバーリン/シャロン・ワシントン/スティーヴン・パールマン/マイケル・アレクサンダー・ジャクソン/アルディス・ホッジ●日本公開:1995/07●配給:20世紀フォックス(評価:★★☆)
ダイ・ハード3 [DVD]

ダイ・ハード4.0 02.jpgダイ・ハード4.0 [DVD].jpg「ダイハード4.0(フォー)」●原題:DIE HARD 4.0: LIVE FREE OR DIE HARD●制作年:2007年●制作国:アメリカ●監督:レン・ワイズマン●製作:マイケル・フォトレル●脚本:マーク・ボンバック●原案:マーク・ボンバック/デヴィッド・マルコーニ●撮影:サイモン・ダガン●音楽:マルコ・ベルトラミ●時間:129分●出演:ブルース・ウィリス/ジャスティン・ロング/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ティモシー・オリファント/マギー・Q/シリル・ラファエリ/エドアルド・コスタ/ジョナサン・サドウスキー/クリフ・カーティス/ケヴィン・スミス/ヤンシー・アリアス●日本公開:2007/07●配給:20世紀フォックス(評価:★★☆)
ダイ・ハード4.0 [DVD]

ダイ・ハード/ラスト・デイw.jpg「ダイ・ハード/ラスA GOOD DAY TO DIE HARD 01.jpgト・デイ」●原題:A GOOD DAY TO DIE HARD●制作A GOOD DAY TO DIE HARD 02.jpg年:2013年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ムーア●製作:アレックス・ヤング●脚本:スキップ・ウッズ●撮影:ジョナサン・セラ●音楽:マルコ・ベルトラミ●キャラクター創造:ロデリック・ソープ●時間:98分(劇場公開版)・102分(最強無敵ロング・バージョン)●出演:ブルース・ウィリス/ ジェイ・コートニー/セバスチャン・コッホ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ユーリヤ・スニギル/ラシャ・ブコヴィッチ●日本公開:2013/02●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
Yuliya Snigir

「●スティーヴン・スピルバーグ監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3141】 スティーヴン・スピルバーグ 「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
「●ハリソン・フォード 出演作品」の インデックッスへ「●ショーン・コネリー 出演作品」の インデックッスへ 「●は行の外国映画の監督②」の インデックスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(飯田橋佳作座) インデックッスへ(新宿プラザ劇場)

シリーズの中で一番面白かった「魔宮の伝説」。この頃は"手作り"感があった。

インディージョーンズ 魔宮の伝説 dvd.jpg インディジョーンズ 魔宮の伝説 パンフレット.jpg インディジョーンズ魔球の伝説4298.JPG
インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 [DVD]」「映画パンフレット 「インディ・ジョーンズ-魔宮の伝説-」

インディジョーンズ魔球の伝説4299.JPG 「インディ・ジョーンズ シリーズ」の最初の3作のうち、個人的には最初の「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」('81年)は名画座に降りてくるのを待って観ましたが、この「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」('84年)はロード館で観ました。第3作「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年)もロードで観ましたが、結局、一番面白かったのは「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」だったように思います。

「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」パンフレット

 日本でも、前作を上回るヒットを記録しましたが、年間興業収入では「ゴーストバスターズ」の69.7億円に次いで2位でした。因みに'82年本邦公開の「レイダース」は年間5位で、その年のトップは同じくスピルバーグ監督の「E.T.」の163.5億円(これは15年興行収入.jpg後に「タイタニック」('97年公開)に抜かれるまで1位の記録だった)、'89年公開の「最後の聖戦」も、同年公開の「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2」の94.0億円に及ばず2位と、このシリーズ作は何れも年間トップを取ってはいなかったんだなあと、やや意外な思いもします。「最後の聖戦」公開時に「シリーズ最終作」と銘打っていたように思いますが、その後「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」('08年)が作られています(2008年の年間興業収入57.1億円で第3位。この年の第1位は「崖の上のポニョ」の155億円)。

 シリーズ全体の原案はジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグ、製作には何れもはジョージ・ルーカス(ルーカス・フィルム)が噛んでいて、第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の原作は、後に「ライト・スタッフ」「存在の耐えられない軽さ」「ライジング・サン」などを監督することになるフィリップ・カウフマン、脚本は「白いドレスの女」を監督することになるローレンス・カスダンと、第1作から才人が集まっていたことになります。

インディジョーンズ魔球の伝説4300.JPG 「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の3年後に作られた第2弾「魔宮の伝説」の時代設定は前作の1年前(1935年)ということになっていて、トロッコやつり橋の使い方が上手く、アニメをそのままのスピード感で実写化したという感じでした。今だったらCGに委ねるところをセットやミニチュア模型でやっている、この"手作り"感がいいのかもしれません。

 50年代、60年代のミュージカル映画のようなオープニングから始まって、物語の舞台が、上海 → メイアプール → パンコットとテンポよく移り変わり(メイアプールは実在するインドの小村、パンコットは架空の宮殿)、ピンチを脱したと思ったらまたピンチの連続で、何も考えずにただただ楽しめます。

インディジョーンズ魔球の伝説4301.JPG 冒頭のシーンは「ザッツ・エンターテインメント」('74年)へのオマージュでもあるのでしょうか。007映画やディズニーインディジョーンズ魔球の伝説4302.JPG映画、スピールバーグが好きな「フラッシュ・ゴードン」('36年)など様々な映画へのオマージュが随所込められており、ラストの大洪水シーンは、前作「レイダース」のパロディになっているなど、トリビアな見所も多いです。

 この作品を撮った時、ジョージ・ルーカス39歳、スティーブン・スピルバーグ37歳と、共に30代で、しかも、それでいてシリーズ2作目。二人とも若かったのだなあと改めて思います(シリーズ第1作の時は更にそれぞれ3歳若かったわけだが)。

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 dvd.jpg 5年後に作られた「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年)は、時代設定は1938年で第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」の2年後という設定。ジョーンズ博士の少年時代を演じたのはリバー・フェニックスで(当時19歳)、この作品の4年後に麻薬死しています。
インディ・ジョーンズ 最後の聖戦 [DVD]

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 husi2.jpg 物語は聖杯伝説をベースにしており、手に入れれば願いはすべて叶うという聖杯を巡ってのナチス連中とインディたちの争奪戦。ナチスに誘拐された考古学者である父親(ショーン・コネリー)を救出に向かったインディも捉えられ...と、本来ならばもっとハラハラドキドキさせられるような展開になるところが、ハリソン・フォード演じるインディのおとぼけぶりに輪をかけるようなショーン・コネリー演じる父親のおとぼけぶりで、コメディ映画みたいになっていました。

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 husi.jpg インディは馬に乗って軍用列車を追いかけたり、ナチスの一味と殴り合い、撃ち合いしたりと相変わらずアクション面でも頑張っていますが、前作に比べると派手さがなく、テンポもイマイチ。最後は、聖杯の守り主みたいな騎士が出てきiインディ・ジョーンズ/最後の聖戦.jpgてなかなかシュールに盛り上げてくれましたが(それにしてはその手前の仕掛けがやたらメカニックだったりもする)、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のラストと被ってしまい、結果的に「ショーン・コネリーがとぼけた父親役をやっている映画」という印象インディ・ジョーンズ/最後の聖戦s.jpgのみが強く残ってしまった気がします。但し、ショーン・コネリーはこの作品における「007シリーズ」のジェームズ・ボショーン・コネリー   .jpgンドのパロディ的要素を含む役どころを気に入っていたようで(敵か味方か途中までよく分からないボンドガール的な女性が出てくるのは007へのオマージュか)、2006年に俳優業を引退宣言していますが、もし映画界に戻ってくるとしたら「インディ・ジョーンズ」に出られるときだけとも語っています。
 
ザ・ロック s.jpgザ・ロック 1996.jpg 因みに、ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドのパロディ的要素を含む人物設定の役柄として出演している作品の代表的なものとしては、アメリカ海兵隊員の英雄率いるテロリストと、制圧する特殊部隊との攻防を描いたマイケル・ベイ監督によるアクション映画「ザ・ロック」('96年/米)があります。かつて敵に包囲された末に救援も得られずに部下を見殺しにされ、それに対して何の補償もない国に憤りを抱くハメル准将(エド・ハリス)が、14人の部下と共に化学兵器を奪取して、ザ・ロックと呼ザ・ロック アルカトラズ.JPEGばれるかつての刑務所島アルカトラズ島に観光客・ガイド計81人を人質にとって立て籠り、サンフランシスコを化学兵器の標的にして莫大な補償金を要求、化学兵器のスペシャリストであるグッドスピード(ニコラス・ケイザ・ロック ケイジ コネリー 2.jpgジ)がアメリカ海軍特殊部隊SEALsに同行して島に潜入することになりますが、潜入にあたってアルカトラズ島からの唯一の脱獄成功者で、現在は刑務所に幽閉中の元イギリス情報局秘密情報部(SIS)部員・兼SAS大尉のメイソン(ショーン・コネリー)の協力を得るというもの。結局、SEALsは敵の前に全滅し、残されたのは元脱獄囚メイソンと化学兵器オタクのグッドスピードのみという、まあアクション映画のパターナルな展開ですが、ショーン・コネリー演じるメイソンが元SIS(SISの中にMI6がある)ということで、ジェームズ・ボンドが意ザ・ロックL.jpgアリエール ジェルボール.jpg識されていることは明白でした。この映画公開の前年にサンフランシスコに行き、ゴールデン・ゲート・ブリッジからアルカトラズ島を観てきたところだったので懐かしかったですが、映画自体はやや大味でした。エド・ハリスの叛乱はかなり理不尽であるし(最後、自分でも作戦変更した)、FBIでありながら戦闘経験のない化学兵器オタクであるはずのニコラス・ケイジ(アクション映画の主役は初)が、カーチェイスをはじめ結構アクションしていました。化学兵器である毒ガスの溶剤が洗濯用の洗剤に見えてしまったのが難でした。

ザ・ロック 01.jpg 因みに、ショーン・コネリー演じるメイソンが刑務所から移送された後に滞在をリクエストし、その豪華なスウィートルームをしばし満喫するホテルは、サンフランシフェアモント サンフランシスコ めまい.jpgスコの「ザ フェアモント サンフランシスコ」で、ここは映画「めまい」('58年)や「タワーリング・インフェルノ」('74年)などの撮影にも使われたホテルであり(TVドラマ「アーサー・ヘイリーのホテル」にも使われた)、2010年に米国の世界最大級のオンライン旅行コミュニティサイト「トリップfairmontsf-location1.jpgアドバイザー」が映画の舞台となったり重要なシーンに登場したホテルの中で、ユーザーからの評価が高いものをランキfairmontsf-hero-overview2.jpgング化した「映画の舞台になった米国のホテル トップ10」を発表していますが、その中で第1位に選ばれています。
フェアモント サンフランシスコ

「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年) 
インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説es.jpg インディ・ジョーンズ シリーズ3作の個人的評価は、第1作「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」が★★★☆、第2作「魔宮の伝説」が★★★★、第3作「最後の聖戦」が★★★といったところです(第3作が星3つと厳しいのは、絶対評価と言うより、ややシリーズの中での相対評価になっているためで、普通の娯楽映画としてみれば十分楽しめる作品であると言える)。因みに「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」は、2000年代に入って、ソフト化作品のタイトルに"インディ・ジョーンズ"と付けるようになっており、これはこの作品がインディ・ジョーンズ シリーズの第1作であることを知らない年代層が増えてきたためでしょうか。   

レイダース/失われたアーク vhs.jpgレイダース/失われたアーク<聖櫃>(字幕 [VHS]」「インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク《聖櫃》 [DVD]
レイダース/失われたアーク dvd.jpg「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」●原題:RAIDERS OF THE LOST ARK●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグレイダース/失われたアーク《聖櫃》.jpg●製作:フランク・マーシャル●脚本:ローレンス・カスダン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス/フィリップ・カウフマン●時間:115分●出Reidâsu Ushinawareta âku (1981).jpg演:ハリソン・フォードカレン・アレン/ジョン・リス=デイヴィス/デ飯田橋佳作座.jpgンホルム・エリオット/ポール・フリーマン/ロナルド・レイシー/ヴォルフ・カーラー/ジョージ・ハリス/アルフレッド・モリーナ/ビック・タブリアン/アンソニー・ヒギンズ●日本公開:1981/12●配給:パラマウント映画/CIC●最初に観た場所:飯田橋佳作座(82-07-11)(評価:★★★☆)●併映:「スター・ウォーズ」(ジョージ・ルーカス)
飯田橋佳作座(神楽坂下外堀通り沿い)1957(昭和32)年10月1日オープン、1988(昭和63)年4月21日閉館
Reidâsu/Ushinawareta âku (1981)
Indi Jônzu - Makyû no densetsu (1984)
Indi Jônzu - Makyû no densetsu (1984).jpg
インディジョーンズ魔球の伝説4303.JPG「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」●原題:INDIAN JONES AND THE TEMPLE OF DOOM●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ロバート・ワッツ●脚本:ウィラード・ハイク/インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説2.jpgグロリア・カッツ●撮影:ダグラスインディ・ジョーンズ/魔宮の伝説ges.jpg・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原案:ジョージ・ルーカス●時間:118分●出演:ハリソン・フォード/ケイト・キャプショー/キー・ホイ・クァン/アムリッシュ・プリ/ロイ・チャオ/ロシャン・セス/リック・ヤン/デヴィッド・ヴィップ/チュア・カー・ジ「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」0.JPG「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」1.JPGョー/フィリップ・タン/ダン・エイクロイド/フィリップ・ストーン●日本公開:1984/07●配給:パラマウント・ピクチャーズ●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ劇場(84-07-08)(評価:★★★★)
  
新宿プラザ8.jpg新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg 新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、歌舞伎町・コマ劇場隣り(1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館
新宿プラザ劇場内.jpg
1981年「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」/1984年「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」/1989年「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦ド.jpg「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」●原題:INDIAN INDIANA JONES AND THELAST CRUSADE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・ボーム●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ジョン・ウィリアムズ●製作総指揮:ジョージ・ルーカス●時間:127分●出演:ハリソン・インディ・ジョーンズ/最後の聖戦e.jpgフォード/ショーン・コネリー デン/ホルム・エリオット/アリソン・ドゥーディ/ジョン・リス=デイヴィス/ジュリアン・グローヴァー/インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 リバー・フェニックス.jpgリヴァー・フェニックス/マイケル・バーン/ケヴォルク・マリキャン/リチャード・ヤング/ロバート・エディスン●日本公開:1989/07●配給:パラマウント・ピクチャーズ●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ劇場(89-07-30)(評価:★★★)
リヴァー・フェニックス(1970-1993)in 「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」

The Rock (1996)
ザ・ロック ケイジ コネリー34.jpgThe Rock (1996).jpg
「ザ・ロック」●原題:THE ROCK●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ベイ●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:デヴィッド・ウェイスバーグ、他●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:ハンス・ジマー、他●時間:135分●出演:ショーン・コネリー/ニコラス・ケイジ/エド・ハリス/ジョン・スペンサー/ウィザ・ロック ケイジ コネリー33s.jpg リアム・フォーサイス/デヴィッド・モース/マイケル・ビーン/ザンダー・バークレー/ラルフ・ペデュート/デヴィッド・ボウ/ヴァネッサ・マーシル/ジェームズ・カヴィーゼル/ドワイト・ヒックス/ジョン・C・マッギンリー/ジョン・ラフリン/アンソニー・クラーク/デヴィッド・グラント/トニー・トッド/ボキーム・ウッドバイン/ダニー・ヌッチ/ショーン・スケルトン/スティーヴ・ハリス/インゴ・ノイハウス/グレゴリー・スポールダー/ブレンダン・ケリー/レイモンド・クルス/マーシャル・R・ティーグ/フィリップ・ベイカー・ホール/スタンリー・アンダーソン/スチュアート・ウィルソン/ハワード・プラット/ハリー・ハンフリーズ/レオナルド・マクマハン/クレア・フォーラニ/トッド・ルイーゾサム・ホイップル●日本公開:1996/09●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★★)

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2089】 「主任警部モース(第12話)/邪悪な蛇
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

シリーズ"らしい"ほろ苦い結末。モースと美女のやり取りが見所?(トロイのクリケットも)

Vol.10「欺かれた過去」【字幕版】 [VHS].jpg主任警部モース 10 欺かれた過去 dvd.jpg 主任警部モース 10 欺かれた過去 クリケット.png
Inspector Morse: Deceived By Flight [DVD] [Import]
モース警部シリーズ Vol.10「欺かれた過去」【字幕版】 [VHS]

主任警部モース 10 欺かれた過去.jpg モースは、大学OBのクリケット・チームの試合のためにロンドンに来ていた、学友の弁護士ドンに呼び出されて久々の再会を果たす。彼はモースに何か相談したがっているようだが、モースが訊いても話さない。その後、彼の方からモースに連絡をしてくるが、モースは書店爆破事件の捜査で手が離せない。その翌日ドンはリード線をくわえて感電死死体となって発見される。モースは休暇中のルイスを説得し、ドンが所属していた、脚の不自由な事業家ローランドが率いるOBクリケットチームに、彼を代わりの選手として潜入させる。トニーの妻ケイト(シャロン・モーン)はラジオ局のDJで、トニーの隣室のフォスター夫婦(ジオフリー・ビーヴァーズ、ジェーン・ブッカー)の夫ピーター・フォスターは何やらクリケット・チームを探っているようだった。そんな中、OBチームのクリケットの試合中に選手控室でピーターが何者かに殺されてしまう―。

 英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第9話で、1989年に本国で放映され、1999年に日本語字幕付きVHSが発売されています。

第10話/欺かれた過去 3.jpg ドンの妻でラジオ局のDJのケイトは若くて美人で、モースは夫を亡くした彼女を慰めるうちに彼女に惚れてしまった感じですが、フォスター夫婦の妻フィリッパも美人で、モースはこちらにも接近、双方ともモースに悪からぬ印象を抱いているようで、モースがフィリッパとクリケットのOB試合を観戦しているところへケイトが現れ、女性同士がバッティングした感じ(ケイトはぷぃと去ってしまった)。更に、ピーターが殺害されたことで、モースは2人の「未亡人」の間に挟まった形になりましたが、まあ、原作においてもモースは不思議と女性にモテるキャラではあるので、これはアリかなと。

Morse & kate Donn

 モースは、フィリッパとクリケット試合を観ながら、変なユニフォーム来て不可思議なルールで行われるスポーツとこき下し、それでもクリケットが好きそうなフィリッパのために自分もこのスポーツを好きになろうかなと冗談を言いますが(これって彼女へのアプローチ?)、結局居眠りしてしまって、ルイスの折角のファインプレーも見逃した...。そこに起きたフィリッパの夫ピーターの殺害事件。

 実はピーターとフィリッパのフォスター夫婦は本物の夫婦ではなく、英国からのヘロイン密輸出の捜査に2年越しで当たっている所謂「麻薬Gメン」でした。OBクリケットチームが怪しいと、わざとモースを通して事件未解決の中での海外遠征を認めさせ、水際でヘロイン密輸輸出の現場を抑えようとしてドーバーに張り込んでいるところへ、モースも事件の真相を追って現れます。そこでモースが見たものは...(因みにドーバーは英国の都市であり、フランスでは「ドーバー海峡」を「カレー海峡」と呼ぶ)。

eceived By The Flight1.jpg 2件の殺人事件もヘロイン密輸出も解決を見ないまま船が出そうになる―その時モースに突然の閃きが訪れるという、結構ハリウッド映画的なスリルはありましたし、結末も意外でした。ヘロイン密輸出の犯人に対しては、モースも思わず「なぜだ」と問い詰めたくなるし、一方の旧友ドンの殺害事件につていても...。

主任警部モース 10 欺かれた過去 03.jpg このシリーズ"らしい"ほろ苦い結末でした。振り返ってみれば、2件の殺人事件に何か動機上の関連がありそうに思えたのがまず第一のミスリード要因だったでしょうか。モース独特の理詰めの推理は勿論ありましたが、最後は直観による解決だったような気もして、その辺りはややシリーズ"らしくない"真相への導き方だったようにも思います。むしろ、モースと美女2人の遣り取りが見所だったとも言えます。

eceived By The Flight2.jpg 警察官がクリケット・チームに潜入していきなり好プレーを連発することが可能かと言うのはありますが、ルイス巡査部長役のケヴィン・ウェイトリーは、一時プロのクリケット選手を目指していたということで、コリン・デクスターの原案がそもそもケヴィン・ウェイトリーの"クリケット愛"に捧げられたものであるとのことです。

Sharon Maughan2.jpgSharon Maughan.jpg 一方で、ネスカフェ・ゴールド・ブレンドのTVコマーシャルに出ていたシャロン・モーンが演じるケイトに、「コーヒーは嫌い。飲むと頭が痛くなる」と言わせているのは、脚本家のお遊びか。

Sharon Maughan pictured in the Nescafé Gold Blend instant coffee adverts which ran between 1987 to 1992

主任警部モース 10 欺かれた過去 vhs.jpgモース主任警部&ルイス巡査部長.jpg「主任警部モース(第10話)/欺かれた過去」●原題:INSPECTOR MORSE:DECEIVED BY FLIGHT●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/18●監督:アンソニー・シモンズ●脚本:アンソニー・ミンゲラ●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アマンダ・ヒルウッド/シャロン・モーン/ノーマン・ロッドウェイ/ジオフリー・ビーヴァーズ/ジェーン・ブッカー/ダニエル・マッセィ/ブライアン・プリングル/ニッキー・ヘンソン●VHS発売:1999/08●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)

"Inspector Morse: Deceived By Flight [VHS] [Import]"(輸入版VHS)

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2084】 「主任警部モース(第10話)/欺かれた過去
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

象牙の塔を巡る権力争いと、それに纏わる復讐劇。犯人がやや唐突に姿を現した印象も。

モース警部シリーズ Vol.9「最後の敵」v1.jpgモース第9話/最後の敵 dvd.jpg モース第9話/最後の敵 dvd2.jpg
モース警部シリーズ Vol.9「最後の敵」【字幕版】[VHS]」"Inspector Morse: Last Enemy [DVD] [Import]"(2002)"Inspector Morse: Last Enemy Set [DVD] [Import]"(2005) 右下:ルイス部長刑事(Kevin Whately)/モース主任警部(John Thaw)/ラッセル検視医(Amanda Hillwood)
Inspector Morse Last Enemy.jpgAmandy Hillwood 2.jpg 運河で首と両手脚が切断された死体が見つかる。時を同じくして、オックスフォード大学時代の同級生で同大学の学寮長を務める旧友アレックス・リース(バリー・フォスター)から、ケリッジ博士(テニエル・エヴァンス)が失踪していると相談を受けたモース。死体の状況から殺害されたのは博士だと思われたが...。一方、博士課程を修了したばかりのデボラ・バーンズ(ビーティ・エドニー)は、自分が特別研究員になれなかったのはケリッジ博士が反対票を投じたからだと思い込み博士に直接尋ねると、ケリッジは反対したのは自分ではなく、学寮長のリースだと言う。リースは彼女の博士論文の指導担当で、共著で本を出し、更には2人の間に肉体関係まであったのだが―。

"Inspector Morse: Last Enemy [VHS] [Import]"

モース第9話/最後の敵 dvd 2011.jpg 英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第9話で(TV用のオリジナルでコリン・デクスターは"原案"提供。但し、ベースとなっているデクスターによる原作あり(『謎まで三マイル(The Riddle of the Third Mile)』(1983)) 、1989年に本国で放映され、1999年に日本語字幕付きVHSが発売されています。

 1つ前の「ハンベリー・ハウスの殺人」が一見、学寮長候補同士の争いに起因する事件と思わせて実は夫婦の愛憎劇だったのに対し、こちらはストレートに象牙の塔を巡る権力争いと、それに纏わる復讐劇でした(「シェルドン講師」とはそれほど名誉ある地位なのか)。

"Inspector Morse Set Three: The Last Enemy [DVD] [Import]"(2011)
(Last Bus to Woodstock /Ghost in the Machine /The Last Enemy) 

 殺されたと思ったら実は生きていたケリッジ教授も結局は殺され、モースが疑いを抱いていた学寮長のリースまで殺されてしまう―そうなると残るはなかなか姿を見せないあの人物が犯人かなと、大方の予想はつきましたが、モースが街中を歩いていて見つかるぐらいなのに、それまで見つからなかったのがやや不自然なように思いました(ケリッジ博士だって、モースらが死んでいるのではないかと調べている間にニセ番組の出演交渉とかしているし。そのニセ番組を仕組んだのも犯人だったわけか)。

モース第9話/最後の敵 0.jpg リースまで殺されてしまったのは、実力の無い彼が"漁夫の利"を得たことに対する犯人の恨みでしょうか。女子大生の研究成果を自分のものとし、肉体関係まで持っておいて研究員には推さないというのは、まあ、殺されても仕方無いという感じでしたが。

 モース自身も、犯人の犯行に、単なる復讐ではなく、正義を正すという強い信念を見出しているようで、その犯人の「最後の敵」は病いだったわけかと。それにしても恩師が犯人とは...(モースが学生時代に優秀で、オックスフォードをトップで卒業できる頭脳を持っていながら学者の道を選ばなかったことが明かされる)。犯人は既に逮捕するまでもない状態だったけれど、こうした終わり方は『カインの娘たち』のドラマ版('96年)の方にもありました。

第9話/最後の敵 5.jpg第9話)/最後の敵 10.jpg それにしてもモースは、捜査中にビールを飲む回数がどんどん多くなるなあ。しかも、独身の気安さからか、リースの秘書キャロルに声掛けして彼女の行きつけのジャマイカ料理のレストランで歓談しています。

Morse & Carol Sharp

 その一方で、「お嬢さん」「ドクター」の呼び名で一悶着あった検視医のラッセル女医まで呑みに誘っている...。捜査の一環ということもあるでしょうが、モース自身、女性主任警部モース(第9話)/最後の敵 カメオ.jpgと呑みたがっているように見えました(上司のストレンジ警視正に罵倒され、歯医者にも苛められ、その上事件の解決が困難を極めれば、自宅でオペラを聴くだけではストレスは解消されないか)。

 恒例の原作者のカメオ出演、冒頭のシーンで運河の縁で釣り糸を垂れているオジさんがコリン・デクスターではないかなと思ったけれど、その川縁を散歩していてボートから降りてきた男と鉢合わせになる人がそうだったようです(途中のシーンでは釣り人の後ろを歩いているようですが、そんなシーンあった?)。

「主任警部モース(第9話)/最後の敵」●原題:INSPECTOR MORSE:THE LAST ENEMY●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/11●監督:ジェームス・スコット●脚本:ピーター・バックマン●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アマンダ・ヒルウッド/バリー・フォスター/テニエル・エヴァンス/ビーティ・エドニー/シーアン・トーマス/マイケル・アルドリッジ●VHS発売:1999/07●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2083】 「主任警部モース(第9話)/最後の敵
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

かなり無理のあるトリックだけど、パトリシア・ホッジが良かったのでまあいいか。

第8話/ハンベリー・ハウスの殺人 dvd.jpg  第8話/ハンベリー・ハウスの殺人 01.jpg GHOST IN THE MACHINE.jpg
"Inspector Morse: Ghost in Machine [DVD] [Import]"(ハンベリー・ハウスの殺人)
ミシェル(Irina Brook)/レディ・ハンベリー(Patricia Hodge)
Irina Brook.gifPatricia Hodge 2.gif オックスフォード大学の学寮長候補ハンベリー卿の大邸宅から、数点の絵画が盗まれ、モースはルイスと気乗りしない窃盗事件の捜査を開始するが、窃盗事件の後に失踪していた絵の所有者ハンベリー卿が、邸の敷地内で死体となっているのを発見する。更に、邸付近でブレーキに細工されたクルマの事故に遭遇、亡くなった男は、邸で子守に雇われていたフランス人のミシェル(イリーナ・ブルック)の恋人ロジャーで、ミシェルはレディ・ハンベリー(パトリシア・ホッジ)から突然の解雇を言い渡されていた。ロジャーの所持品から脅迫文が見つかり、ハンベリー卿を何らかのネタで脅迫していたらしい―。

第8話/ハンベリー・ハウスの殺人 04v.jpg 英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第8話で、以降第28話まで、「モース主任警部シリーズ」の原作者コリン・デクスターが原案を示して脚本家が仕上げるというスタイルが続きます。この第8話は1989年に本国で放映され、1999年に日本語字幕付きVHSが発売されています。

 学寮長の地位争いによる殺人かと思わせておいて実は愛憎劇でした。学寮長候補の夫は写実的な裸体画が好みであるばかりでなく、子守嬢をモデルにヌード写真を撮るという趣味もあったわけで、でも妻の躰には触れない―それでもって妻は庭師(わっくてイケメン、加えてハロー校出身のインテリ)と不倫し、結婚まで考えていたということか。

 パトリシア・ホッジ演じるレディ・ハンベリーは、荘厳な邸に住む貴婦人の風格がありました。それでいて愛情面で満たされていないという、そうした女性の内面も上手く表現していたように思います。

Inspector Morse: Ghost in the Machine [VHS] [Import]

 あちらの貴族って、地所内に一族の霊廟があるんだなあと(アガサ・クリスティの『パディントン発4時50分』のクラッケンソープ邸もそうだった)。死体を霊廟に置いたことで、強盗ではなく一族の誰かによる犯行だという疑いをモースに抱かせてしまったわけですが、それにしても、一旦「他殺」にみせかけて実は自殺だったという方向に導くとは、随分と凝った手を使ったものだなあ。自殺にしておいた方が名誉が守られ子どもへの教育上もその方が望ましいというのはかなり無理な理屈で、裏の裏をかいたつもりでもモースには通用しませんでした。

第8話/ハンベリー・ハウスの殺人 03.jpg ラストで実行犯が殺人容疑で逮捕され、手錠を掛けられて連行されますが(かなり惨め)、一方のレディは娘と別れの言葉を交わす(手錠を掛けられることもない)―でも、裁判が始まったら「殺人」と「殺人教唆」は同等の扱いであり、この場合むしろ「殺人教唆」の方が罪が重いんじゃないかな。

 ロンドンのコヴェント・ガーデンで歌劇「トスカ」を観劇していたというレディのアリバイ供述に対し、モースも偶々ロンドンからの帰路、「トスカ」のプログラムを見ていたというのはやや出来過ぎですが(モースはレディのマリア・カラスに対する低評価でややむっとしていた)、プラシド・ドミンゴも出ていたのに値打ちもののプログラムを買わなかったことに疑念を持つというのは、モースならではの推理でした(ルイスには無理)。そのドミンゴは、声の不調でその夜は舞台に立たなかったことが判明したところからアリバイは崩れていきます。

GHOST IN THE MACHINE house.jpgAmandy Hillwood 1.jpg 今回からこれまでの検死医マックスに代わって女医ラッセル(アマンダ・ヒルウッド)が登場、モースが「お嬢さん」と呼ぶと「ドクター」と呼んで欲しいと、早速2人はぶつかっています。

女医ラッセル(Amanda Hillwood)

 邸(馬鹿デカくて豪勢!)の玄関に立っていつも見張りをしている制服姿の警官がいつの間にか若い巡査から中年の巡査に変わっている場面があって、あれがコリン・デクスターではないかな(違っているかもしれないけれど)。

Patricia Hodge.jpg「主任警部モース(第8話)/ハンベリー・ハウスの殺人」●原題:INSPECTOR MORSE:GHOST IN THE MACHINE●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/04●監督:●脚本:ジュリアン・ミッチェル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アマンダ・ヒルウッド/マイケル・ゴドリー/パトリシア・ホッジ/クリフォード・ローズ/バーナード・ロイド●VHS発売:1999/06●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【2082】 「主任警部モース(第8話)/ハンベリー・ハウスの殺人
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

原作シリーズ第1作のドラマ化。映像化作品は映像化作品としてそこそこ楽しめたといった感じ。

モース(第5話)/ウッドストック行最終バス dvd.jpg モース(第5話)/ウッドストック行最終バス 01.jpg     ウッドストック行最終バス 文庫.jpg ウッドストック行最終バス hpm.jpg
Inspector Morse: Last Bus to Woodstock [DVD] [Import]」Terrence Hardiman As Clive Palmer 「ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫)」「ウッドストック行最終バス (1976年) (世界ミステリシリーズ)

モース(第5話)/ウッドストック行最終バス 原著.jpg 夕闇迫るオックスフォードで、なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、2人の娘がヒッチハイクをすることに。その晩、ウッドストックの酒場の中庭で、2人の娘の1人シルビアが死体で見つかる。シルビアはその日、もう1人の娘とバス停でバスを待っていたのを目撃されていたのだが、バスに乗った形跡はなく、彼女は赤いクルマの何者かの誘いに乗ったようだ。また、彼女が持っていた封筒の宛先は、勤務先の秘書部長ジェニファー・コールビーになっていた。もう1人の娘は誰でどこに消えたのか、なぜ名乗り出ないのか? テレズ・バレイ警察のモース主任警部は、ルイス部長刑事とともに事件捜査に当たる―。

 原作『ウッドストック行最終バス』(原題:Last Bus to Woodstock)は、コリン・デクスターが1975年に発表した「モース主任警部」シリーズの長編第1作。英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第7話として1988年に本国で放映され、日本では2001年5月にNHK-BS2で放映されていますが、その前に、1999年に日本語字幕付きVHSが発売されています。

 記念すべき原作シリーズの第1作ということもあってか、第5話の「キドリントンから消えた娘」のように原作と犯人を変えてしまうようなことはしてなかったようですが、真犯人が容疑者として浮かび上ってくるのは原作よりかなり後の方になっているのでは。原作を知っていれば、まだかまだかという感じですが、知らないと、第一発見者のジョンを皮切りに、さんざん怪しい人物が出てきて、モースがミスリードさせられた(と言うより犯人の見当がつかないまま)結構最後の方で突然新たな容疑者が浮かび上がってきたという感じではないでしょうか。でも、最終的にその人物が真犯人であると判るのが最後の最後になってというのは原作も同じだったように思います。

モース(第5話)/ウッドストック行最終バス 02.jpg 大学講師バーナードは大学の正教授を目指していて(その割には年齢を喰っている)、妻のマーガレットはその尻を叩いている感じでしたが、あまりに妻に言われ続けると、女子大生を誘惑して気晴らしをしたいという気になるのか(それとも単なるスケベ老人か)。夫がシルビアを轢き殺したと思い込んだマーガレットは、クルマのタイヤを破棄したりして(確かにシルビアをヒッチしたのはバーナードだったが、シルビアの事故死に殺人の疑念があることは報じられていなかったのか)懸命に証拠隠滅を図るけれども、これも夫のためと言うより、その地位を守るため。しかし、その頃には、最初の2人の娘の目撃者であるとともに、超人的記憶力を持つ推理好きお婆さんの証言で、クルマの持主は特定されていた...。

Inspector Morse:Last Bus to Woodstock [VHS].jpg 片や、シルビアが勤めていた会社の秘書部長ジェニファーは、若い女性たちを自宅に下宿させていて、大学教授に言い寄られた奥手の文学少女の悩みを聞いてあげたりもしながら、一方で自身は社長クライブ(テレンス・ハーディマン)と不倫関係にあり、社長に奥さんと別れるよう迫る様はやや強引だったなあ(もう、愛欲の権化という感じ)。原作ではジェニファーは、大学講師バーナードとその愛人の橋渡しもしていることになっています。なぜならば、その愛人というのが、やはりジェニファーのところに下宿している看護婦であり、その点は原作とこの映像化作品は同じ。犯人が誰かは知っていても、犯行動機がイマイチ記憶に無かったのは、ある種衝動的とも言える殺人だったからかもしれません。

 これも原作を読んでかなりの年月を経ているため、映像化作品は映像化作品としてそこそこ楽しめたといった感じでしょうか。このシリーズ、原作者コリン・デクスター自身が毎回登場しているそうですが、いつもどこに出ているのか不明なんだけど、今回はパブの客の一人(チェックのセーターを着ている)として出ていたのが判りました。
Inspector Morse: Last Bus to Woodstock [VHS] [Import]
    
モース第9話/最後の敵 dvd 2011.jpg「主任警部モース(第7話)/ウッドストック行最終バス」●原題:INSPECTOR MORSE:LAST BUS TO WOODSTOCK●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1988/03/22●監督:ピーター・デュフェル●脚本:マイケル・ウィッルコックス●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/アンソニー・ベイト/テレンス・ハーディマン/ファビア・ドレイク/ジル・ベイカー●VHS発売:1999/05●発売元:日本クラウン●日本放映:2001/05(NHK-BS2)(評価:★★★☆)

"Inspector Morse Set Three: The Last Enemy [DVD] [Import]"(2011)
(Last Bus to Woodstock /Ghost in the Machine /The Last Enemy)

《読書MEMO》
●モース警部シリーズ(原作発表順)
 ・ウッドストック行最終バス Last Bus To Woodstock
 ・キドリントンから消えた娘 Last Seen Wearing
 ・ニコラス・クインの静かな世界 The Silent World of Nicholas Quinn
 ・死者たちの礼拝 Service of all the Dead (1979年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・ジェリコ街の女 The Dead of Jericho (1981年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・謎まで三マイル The Riddle of the Third Mile
 ・別館三号室の男 The Secret of Annexe 3
 ・オックスフォード運河の殺人 The Wench is Dead (1989年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・消えた装身具 The Jewel That was Ours
 ・森を抜ける道 The Way Through the Woods(1992年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・カインの娘たち The Daughters of Cain
 ・死はわが隣人 Death is Now My Neighbour
 ・悔恨の日 The Remorseful Day

「●TV-M (主任警部モース)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2080】 「主任警部モース(第7話)/ウッドストック行最終バス
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●て コリン・デクスター」の インデックッスへ

第一容疑者がどんどん入れ替わる。原作改変に拘泥せず観れば、独立した作品として楽しめた。

INSPECTOR MORSE:LAST SEEN WEARING dvd.jpgキドリントンから消えた娘 01.jpg キドリントンから消えた娘 03.jpg
Inspector Morse: Last Seen Wearing [DVD] [Import]

 2年前に失踪して以来、行方の知れなかった裕福な家庭の女子校生の娘バレリーから両親に無事を知らせる手紙が届いた。彼女は生きているのか、だとしたら今はどこでどうしているのか。だが捜査を引き継いだ テレズ・バレイ警察のモース主任警部(ジョン・ソウ)は、ルイス部長刑事(ケヴィン・ウェイトリー)に「彼女は死んでいる」との自らの直感を述べる―。

LAST SEEN WEARING.jpgキドリントンから消えた娘 文庫.png 原作『キドリントンから消えた娘』(原題:Last Seen Wearing)は、コリン・デクスターが1976年に発表した「モース主任警部」シリーズの長編第2作で、第1作『ウッドストック行最終バス』(1975)と並んで評価の高い作品。1987年から始まった英国ITVの「主任警部モース」シリーズの第5話として1988年に本国で放映され、日本では2001年5月3日にNHK-BS2で放映、その後ミステリチャンネルでも放映されています(但し、それに先んじて1999年に日本語字幕付きVHSが発売されている)。
キドリントンから消えた娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
"Last Seen Wearing"
 失踪した娘バレリーは既に死んでいるとのモースの直観はあっさり外れ、その後、失踪事件の第一容疑者が次々と入れ替わるのは原作と同じです。モースがバレリーの交友関係を調べていくうちに、彼女の男友達の部屋でマリファナが見つかり、また、彼女が妊娠していたことが判ったりしますが、彼女の男関係が結構"乱脈"気味で、彼女に関わったと思われる疑わしい男が次々現れます。そうした中、女子校の副校長シェリル・ベインズが殺害されますが、こちらの事件も第一容疑者がどんどん入れ替わっていくという展開です。

 原作の重厚感も良かったように思いますが、モースの"妄想的"推理に多くのページを割いており、その点、テレビドラマ版はテンポが良くて楽しめました。原作を読んだのは随分前なので、犯人すら虚(うろ)覚えでしたが、これ、原作と犯人も結末も違えているんじゃないかな。バレリーの両親はこんな瀟洒な家に住んではおらず、彼女が通っていた学校も学費の高い私立のお嬢様学校ではなく、普通の庶民が行く学校だったのでは。殺害された副校長が女性になっているため(原作では男性)、その辺りから若干原作と雰囲気が違ってきた部分もありましたが、これはこれで楽しめました。

キドリントンから消えた娘 02.jpg バレリーは若いフランス語の補助教員ディヴィッド・エイカムとも、女子校の校長ドナルド・フィリップソンとも関係していたということなのでしょう。それを知った女性副校長(彼女は男性には関心が無い。つまりレズビアン?)は、そのことをネタに校長を脅して副校長の座を掴んだということのようです(フランス語教師はクビになって別の学校へ転職した?)。校長はバレリーの母親グレース(フランセス・トーメルティ)とも関係していて、グレースはバレリーがジョージの子供ではないことを仄めかしていますが、どうやらジョージも血の繋がりのない娘バレリーと関係していたみたいで、そのことに頭にきたグレースが校長との不倫に走り、その現場を見てしまった娘バレリーがショックを受けて家を出たというのが、2年前の彼女の失踪の原因だったようです。

 ラスト近くで、校長の妻が夫と不倫関係にあったバレリーの母親グレースと対峙し、そこで奇妙な連帯感が生まれ、そこへひょっこり現れたのが...と、かなりドロドロしたプロセスだったにも関わらず、最後は過度に後味が悪くならないように纏めた感じで、テレビ版らしい改変でしたが、個人的にはそう悪くないように思えました。

 原作を読んだ直後に観たら「え~っ」という感じだったかもしれないけれど、原作を読んでから年月を置いて映像化作品を観ると、改変に拘泥せず独立した作品として楽しめるというのはあるのかもしれません。
 エリザベス・ハーレー(Elizabeth Hurley)が女学生役で出ていますが、「幻の城/バイロンとシェリー」('88年/英)で劇場映画にデビューする前で、当時は無名だったと思われます。

エリザベス・ハーレイ(Elizabeth Hurley).jpgエリザベス・ハーレー.jpg「主任警部モース(第5話)/キドリントンから消えた娘」●原題:INSPECTOR MORSE:LAST SEEN WEARING●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1988/03/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:トーマス・エリス●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/ピーター・マッケリー/フランセス・トーメルティ/メリッサ・シモンズ/フィリップ・フレサートン/スザンヌ・ベルティシュ/グリーン・ヒューストン/ジュリア・サワルハ/エリザベス・ハーレー●VHS発売:1999/04●発売元:日本クラウン●日本放映:2001/05 (NHK-BS2)(評価:★★★★)

1-IMG_0390.JPG●本国個人サイト (Muffy Aldrich The Daily Prep

My Favorite Inspector Morse.jpg◎ Here are some favorite episodes (or characters or scenes or...):
Last Seen Wearing 第5話/キドリントンから消えた娘)- Morse's best line, "We ought to be able to arrest him for his taste", after surveying a suspect's flat. The headmaster gives a nearly-comedic dramatic performance (and in one scene in a very nice Irish Fisherman's sweater).
Last Bus to Woodstock 第7話/ウッドストック行き最終バス)- Oxford politics; pub murder; an old Volvo; and perhaps Morse's best withering glance.
Ghost in the Machine 第8話/ハンベリー・ハウスの殺人)- A supremely snobbish and delightful performance by Patricia Hodge; a discussion of appropriateness of school ties worn as belts; and Morse's commentary on the distastefulness of social envy. This might be a good "first episode" to watch.
Deceived by Flight 第10話/欺かれた過去)- Simply marvelous cricket scenes with equally marvelous cricket clothing.
Driven to Distraction第14話/死を呼ぶドライヴ)- A love of the Mark 2; creepy; Morse on the edge.
Happy Families (第22話/ハッピー・ファミリー)- Two dreadful grown sons (one of whom is played by Martin Clunes, Doc Martin) with the most enviable knitwear. And a moat.
The Day of the Devil (第27話/サタンが巣くう日)- By far the creepiest of all, complete with church pipe organs, vicars and the underground of Oxford.
Twilight of the Gods (第28話/神々の黄昏)- Sir John Gielgud using Oxford England and Oxford Mississippi in the same sentence; and the always wonderful Robert Hardy.
Death Is Now My Neighbour (第31話/死は我が隣人)- Richard Briers (Hector Naismith MacDonald from Monarch of the Glen), Roger Allam (who would later be in Endeavor), and Maggie Steed more than make up for Holley Chant's American accent. Oxford politics and the reveal of Morse's first name.

◎ And my honorable mentions are:
The Last Enemy 第9話/最後の敵)- Good Guernsey in the opening scene; impressive Master's quarters; and bespoke clues.
The Infernal Serpent 第12話/邪悪な蛇)- Terrible topic but stars the wonderful Geoffrey Palmer (Lionel from As Time Goes By).
The Sins of the Fathers 第13話/ラドフォード家の遺産)- Morse solving a crime at a brewery.

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3022】 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 「バベル
「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ「●ダスティン・ホフマン 出演作品」の インデックッスへ(「ジョンとメリー」「真夜中のカーボーイ」)「●ジョン・ヴォイト 出演作品」の インデックッスへ(「真夜中のカーボーイ」)「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ(「恋におちて」)「●メリル・ストリープ 出演作品」の インデックッスへ(「恋におちて」)「●トム・ハンクス 出演作品」の インデックッスへ(「ユー・ガット・メール」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(三鷹東映)

ニューヨークという大都会を舞台にしたダスティン・ホフマン主演'69年作品2作。

ジョンとメリー [VHS].jpgジョンとメリー [DVD].jpg 真夜中のカーボーイ dvd.jpg 卒業 [DVD] L.jpg
ジョンとメリー [DVD]」「真夜中のカーボーイ [DVD]」「卒業 [DVD]

ジョンとメリー 1.jpg マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。

 ピーター・イエーツ(1929-2011/享年81)監督の「ジョンとメリー」('69年)は、行きずりの一夜を共にした男女の翌朝からの1日を描いたもので、男女の出会いを描いた何とはない話であり、しかも基本的に密室劇なのですが、2人のそれぞれの回想と現在の気持ちを表す独白を挟みながらストーリーが巧みに展開していき、2人の関係はどうなるのだろうかと引き込まれて観てしまう作品でした。ピーター・イエーツは英国人で、映画監督になる前にプロのレーシング・ドライバーだったこともあり、この作品が監督第3作ですが、第1作が犯罪サスペンス映画「大列車強盗団」('67年/英)で、この作品でのアクション・シーンの手腕が買われ、ハリウッドで第2作、スティーブ・マックイーン主演のアクション映画「ブリット」('67年/米)を撮っていますが、今度はがらっと変って男女の出会いを描いた作品に。

ジョンとメリー 4.jpg 脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。

ジョンとメリー 2.jpg 最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。

真夜中のカーボーイ1.jpg そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの卒業 ダスティン・ホフマン .jpg主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。

卒業 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス.jpg 映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー卒業(1967).jpgファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ卒業 1967 2.jpg賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。

真夜中のカーボーイQ.jpg 3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ真夜中のカーボーイs.jpgリー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも(但し、原作者のジェームズ・レオ・ハーリヒー自身はゲイだったようだ)。

ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg 「ジョンとメリー」に出てくる"Singles Bar"(独身者専門バー)を舞台としたものでは、リチャード・ブルックス(1912-1992/享年72)監督・脚本、ダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」('77年)があり、こちらはジュディス・ロスナーが1975年に発表したベストセラー小説の映画化作品です。
ミスター・グッドバーを探して [VHS]

ミスター・グッドバーを探して1.jpg ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。

恋におちて 1984.jpg 何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」('84年)

ユー・ガット・メール 01.jpg 「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
「ユー・ガット・メール」('98年)

めぐり逢えたら 映画 1.jpg トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年)にヒントを得ている作品ですが(「めぐり逢い」そのものが同じくレオ・マッケリー監督、アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ主演の「邂逅」('39年)のリメイク作品)、エンパイア・ステート・ビルの展望台で再開を約するのは「めぐり逢い」と同じ。但し、「めぐり逢い」ではケーリー・グラント演じるテリーの事故のため2人の再会は果たせませんでしたが、「めぐり逢えたら」の2人は無事に再開出来るという、こちらもオリジナルをハッピーエンドに改変しています。
「めぐり逢えたら」('93年)

 最近のものになればなるほど、男女双方または何れかに家族や恋人がいたりして話がややこしくなったりもしていますが、それでもハッピーエンド系の方が主流かな。興業的に安定性が高いというのもあるのでしょう。「恋におちて」は、古典的ストーリーをデ・ニーロ、ストリープの演技力で引っぱっている感じですが、2人とも出演時点ですでに大物俳優であるだけに、逆にストーリーの凡庸さが目立ち、やや退屈?(もっと若い時に演じて欲しかった)。但し、「恋におちて」「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の何れも役者の演技はしっかりしていて、ストーリーに多分に偶然の要素がありながらも、ディテールの演出や表現においてのリアリティはありました。しかしながら、物語の構成としては"定番の踏襲"と言うか、「ジョンとメリー」を観て感じた時のような新鮮味は感じられませんでした。

 こうして見ると、ニューヨークという街は、「真夜中のカーボーイ」や「ミスター・グッドバーを探して」に出てくる人間の孤独を浮き彫りにするような暗部は内包してはいるものの、映画における男女の出会いや再会の舞台として昔も今もサマになる街でもあるとも言えるのかもしれません(ダスティン・ホフマンは同じ年に全く異なるキャラクターで、ニューヨークを舞台に孤独な男性の「明・暗」両面を演じてみせたわけだ。これぞ名優の証!)。

ジョンとメリー [VHS]
JOHN AND MARY 1969.jpgジョンとメリーdvd3.jpg「ジョンとメリー」●原題:JOHN AND MARY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:ベン・カディッシュ●脚本:ジョン・モーティマー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:クインシー・ジョーンズ●原作:マーヴィン・ジョーンズ「ジョンとメリー」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/ミア・ファロー/マイケル・トーラン/サニー・グリフィン/スタンリー・ベック/三鷹オスカー.jpgタイン・デイリー/アリックス・エリアス●日本ジョンとメリーe.jpg公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

Dustin Hoffman and Mia Farrow/Photo from John and Mary (1969)

「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113真夜中のカーボーイ2.jpg真夜中のカーボーイ 映画dvd.jpg分●出演:ジョン・ヴォイト/ダスティン・ホフマン/シルヴィア・マイルズ/ジョン・マクギヴァー/ブレンダ・ヴァッカロ/バーナード・ヒューズ/ルース・ホワイト/ジェニファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
真夜中のカーボーイ [DVD]

「卒業」●原題:THE GRADUATE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ローレンス・ター卒業 1967 pster.jpgマン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン卒業 1967 1.jpg/デイヴ・グルーシン●原作:チャールズ・ウェッブ「卒業」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダリチャr-ド・ドレイファス 卒業.jpgニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)
卒業 [DVD]

映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」監督リチャード・ブルックス 出演ダイアン・キートン

FALLING IN LOVE 1984.jpg恋におちて 1984 dvd.jpg「恋におちて」●原題:FALLING IN LOVE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ウール・グロスバード●製作:マーヴィン・ワース●脚本:マイケル・クリストファー●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)
恋におちて [DVD]

YOU'VE GOT MAIL.jpgユー・ガット・メール dvd.jpg「ユー・ガット・メール」●原題:YOU'VE GOT MAIL●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ノーラ・エフロン/ローレン・シュラー・ドナー●脚本:ノーラ・エフロン/デリア・エフロン●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジョージ・フェントン●原作:ミクロス・ラズロ●時間:119分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/グレッグ・キニア/パーカー・ポージー/ジーン・ステイプルトン/スティーヴ・ザーン/ヘザー・バーンズ/ダブニー・コールマン/ジョン・ランドルフ/ハリー・ハーシュ●日本公開:1999/02●配給:ワーナー・ブラザース映画配給(評価:★★★)ユー・ガット・メール [DVD]

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2440】 ビレ・アウグスト 「レ・ミゼラブル
「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ロッキー」)「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(旧・丸の内松竹/京王地下(京王2)/新宿ローヤル劇場) 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(三軒茶屋映画劇場)「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿ジョイシネマ/新宿プラザ劇場)

やはり感動させられる「ロッキー」のシリーズ第1作。スタローンは自分で監督しない方がいい?

ロッキー 1976 dvd.jpg ロッキー2 dvd.jpg ロッキー3 dvd.jpg ロッキー4 dvd.jpg ステイン・アライブ dvd.jpg ランボー dvd.jpg
ロッキー(特別編) [DVD]」「ロッキー2 [DVD]」「ロッキー3 [DVD]」「ロッキー4 [DVD]」「ステイン・アライブ [DVD]」「ランボー/怒りの脱出 [DVD]

ロッキー 1976 02.jpg 「ロッキー」('76年)は、シルヴェスター・スタローン(1946年生まれ)が当時、映画オーディションに50回以上落選し、ポルノ映画への出演や用心棒などをして日々の生活費を稼ぐ暮らしの中で、プロボクシングのヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリ対チャック・ウェプナー戦」をテレビで観てウェプナーの善戦に感激し、それに触発されて3日間で脚本を書き上げプロダクションに売り込んだもので、プロダクション側はその脚本に7万5千ドルという、当時としては破格の値をつけたということですから、脚本自体が良かったのでしょう(アカデミー賞作品賞・監督賞、ゴールデングローブ賞作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞などを受賞)。

ロッキー 1976 01.jpg プロダクション側は主演にポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、アル・パチーノなどの有名スターを想定していたのに対し(ジェームズ・カーンなども有力な主演候補だった)、スタローンはあくまで自分が主演することに固執したため、最終的に36万ドルまで高騰した脚本は、スタローンの主演と引き換え条件に2万ドルまで減額されたそうな。でも、結果的にスタローンは無名俳優から一躍スターダムに躍り出たわけで、主演に固執して良かった...(逆に言えば、窮乏生活に慣れていたので、カネには固執していなかった)。

ロッキー 03.jpg 日本でも公開当時、誰もがこの作品を観に映画館に押し掛ける状況で、アカデミー賞作品賞受賞、キネマ旬報でも年間1位と高評価。こうなると逆に事前に情報が入り過ぎてしまい、結局個人的にはロードでは観に行かなかったのですが、後で「ロッキー2」('78年)と併せて名画座に降りてきた頃になって遅ればせながら観て、筋書きは分かっていても、やはり感動させられました。

ロッキー4 01.jpg 但し、シルヴェスター・スタローン自身が監督した「ロッキー2」の方はイマイチ、更に、今度こそロードでと観に行った「ロッキー3」('82年)では、対戦相手クラバー(ミスター・T)が全然強そうに見えないのが難で、これもイマイチ。それに比べると、「ロッキー4 炎の友情」('85年)は、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の登場で、多少シリーズ最後を盛り上げたという印象で、個人的にはまあまあ許せるかなという感じでしたが、スタローン自身はこの「ロッキー4 炎の友情」で、ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞を受賞しています。

レッド・スコルピオン 1.jpg 一方、ロッキーより強そうに見えたドラゴを演じたドルフ・ラングレンは、その後「レッド・スコルピオン」('88年/米)に主演。アフリカ南部の共産主義国家に潜入したソ連の特殊部隊兵士の活躍を描くアクション映画でしたが、何だか動きが鈍くなったような...。空手家としての実績もあり、6か国語を話すインテリでもあるそうですが、シルヴェスター・スタローン同様に監督業に進出する傍ら併せて俳優業を続けているものの、B級映画ばかり出ている印象でしょうか。因みに、「レッド・スコルピオンRed Scorpion -  Dolph Lundgren.jpgレッド・スコルピオン dvd.jpg」のプロデューサーのジャック・エイブラモフはその後共和党保守派のロビイストとなり、汚職事件でFBIに拘束されていますが、この映画自体にも当初から南アの極右派(アパルトヘイト推進派)が資金提供しているとの噂が囁かれていたとのこと、但し、映画の中にとりたてて人種差別的表現はありません。 
レッド・スコルピオン [DVD]

 ドルフ・ラングレンはローランド・エメリッヒ監督の「ユニバーサル・ソルジャー」('92年)で、べトナム戦争で戦死したものの25年後に軍の秘密兵器として甦る特殊部隊兵ユニバーサル・ソルジャー ps.jpgユニバーサル・ソルジャー 1992.jpg士を演じていますが、ジャン=クロード・ヴァン・ダム演じる同じく甦ったもう一人の兵士の方が善玉なのに対し、ドルフ・ラングレンの方はヒール役(悪玉)というのが相変わらずでした(まあ、ドルフ・ラングレンの方が見た目が強そうだというのもあるかもしれないが、妥当な配役か)。観た時は可もなく不可もない娯楽作品という印象でしたがそこそこ人気があったのか、その後「ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン」('99年)、「ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション」('09年)が作られ、ジャン=クロード・ヴァン・ダムは両方に主演、ドルフ・ラングレンは'09年の方に出ています(2人とも中年にして頑張っている?)。

 シルヴェスター・スタローンについても、シリーズ最後と謳った「ロッキー4」でロッキー・シリーズは実際には終わらず、「ロッキー5 最後のドラマ」(Rocky V、'90年)、そして更に16年後の「ロッキー・ザ・ファイナル」(Rocky Balboa、'06年)と続いたわけで(「ロッキー5」はスタローン自身が失敗作であったことを認め、だから"ザ・ファイナル"を作ったとのこと)、最後60歳でボクサー役でリングに上がったシルヴェスター・スタローンはすごいと言えばすごいけれど、やはり無理があったと言わざるを得ないのではないでしょうか(ボクシング関係者の一部には、ボクシングを冒涜しているとの声もあった)。

スタローン&シュワルツェネッガー.jpg 「ロッキー2」以降はシルヴェスター・スタローン自身が監督しているのですが、ボディビルダーから俳優に転じ、更には州知事も務めたアーノルド・シュワルツェネッガー(1947年生まれ)と比べると、シルヴェスター・スタローンという人は根っから映画が好きなんだなあという気がします。二人が今年['13年]になって初めて本格共演を果たした「大脱出」('13年)のプレミアで、シルヴェスター・スタローンは アーノルド・シュワルツェネッガーについて「20年間、本当に互いを激しく嫌い合っていたんだ」と告白していますが、とはいえ、「それはいいライバルはなかなか見つからないということの証。次第にその存在に感謝するようになる。そうやって競い合ってきたから、こうして二人ここにいるのかも」と今は互いの存在を 認め合っていることを明かしています。個人的には、そもそも映画への関わり方が二人は違うのではないかと。アーノルド・シュワルツェネッガーが「俳優」であるのに対し、シルヴェスター・スタローンは「映画人」という印象であり、脚本を書くか書かないかの違いは大きいように思います。

ステイン・アライブ01.jpg 但し、シルヴェスター・スタローンの映画監督としての力量はどうなのかはやや疑問符も...。作品への思い入れが先行しているような感じもあり、ついていけない人もいるのではないでしょうか。「ロッキー」に関しては、シリーズを通しての熱烈なファンが多くいるようですが、「ロッキー3」と「ロッキー4」の間の時期に、「サタデー・ナイト・フィーバー」('77年)の続編としてシルヴェスター・スタローンが監督した「ステイン・アライブ」('83年、脚本もシルヴェスター・スタローン)は特に見るべきものの無い作品で、この映画に主演したジョン・トラボルタの長期低迷のきっかけになった作品とも言えるのではないかと思います。

ランボー ちらし.jpgランボー 01.jpg 因みに「ランボー」('82年)のシリーズ作も、全4作全てシルヴェスター・スタローンの脚本または彼が脚本参加しているものでしたが、第1作(「ロッキー3」と同じ年に作られている)の「ランボー1人 vs. 警官千人」に始まり、「ランボー/怒りの脱出」('85年)では「ランボー1人vs.ベトナム軍」、ランボー3/怒りのアフガン dvd.jpg「ランボー3/怒りのアフガン」('88年)では「ランボー1人vs.ソ連軍10万人」とスケール・アップするにつれて、当初のランボーのアウトローの孤独と哀しみは消え、すっかり超人ヒーローになってしまい、「ランボー3/怒りのアフガン」などは、見ていてちっともハラハラしない...。しかも、今思えば皮肉なことに、この作品は、ランボーがアフガン・ゲリラと協力してソ連軍と戦う内容になっていて、当時のアフガン・ゲリラの一派が後のタリバン内の過激武装勢力になっていくわけです。

 「ランボー3/怒りのアフガン」ではシルヴェスター・スタローン自身も'88年ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞に選ばれてしまったぐらいで(実は'85年にも「ランボー/怒りの脱出」と「ロッキー4 炎の友情」の"合わせ技"で同賞の最低主演男優賞を受賞している)、20年ぶりの続編「ランボー/最後の戦場」('08年)でその汚名返上を図ったのか、このシリーズで初めて自らメガホンをとりますが、こちらは個人的には未見。でも、この人、あんまり自分で監督しないほうが...。
   
  
タリア・シャイア in「ロッキー」第42回ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞受賞
ロッキー パンフ.jpgタリア・シャイア ロッキー.jpgrocky 1976 poster.jpg「ロッキー」●原題:ROCKY●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・G・アヴィルドセン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ジェームズ・グレイブ●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/バージェス・メレディス/カール・ウェザース●日本公開:1977/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★★★)●併映:「ロッキー2」(シルヴェスター・スタローン)
「ロッキー」パンフレット

ROCKY2 1979.jpg「ロッキー2」●原題:ROCKYⅡ●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/バージェス・メレディス●日本公開:1979/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★)●併映:「ロッキー」(シルヴェスター・スタローン)

ロッキー3 02.jpg「ロッキー3」●原題:ROCKYⅢ●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:99分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/ミスター・T/ハルク・ホーガン/バージェス・メレディス/トニー・バートン/イアン・フリード/ウォーリー・テイラー/ジム・ヒル/ドン・シャーマン●日本公開:1982/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:有楽町・丸の内松竹(82-10-22)(評価:★★)
marunouti syotiku.jpg旧丸の内松竹1.jpg旧丸の内松竹2.jpg丸の内松竹(初代).jpg1旧・丸の内松竹.jpg旧・丸の内松竹 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手に「丸の内ピカデリー」オープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。1984年10月2日閉館。1987年10月3日 有楽町マリオン新館5階に後継館として新生「丸の内松竹」(現:丸の内ピカデリー3)がオープン。 2018(平成26)年12月2日「丸の内ピカデリー3」休館。


ロッキー4 炎の友情 .jpg「ロッキー4 炎の友情」●原題:ROCKYⅣ●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:91分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア1977年8月6日 新宿京王 京王地下.jpg京王新宿ビル3.jpg京王三丁目ビル - 2.jpg/バート・ヤング/カール・ウェザース/ドルフ・ラングレン/ブリジット・ニールセン/ジェームス・ブラウン●日本公開:1986/06●配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー/UA=UIP●最初に観た場所:新宿・京王2(86-06-07)(評価:★★★)
新宿京王・京王地下(京王2)新宿3丁目伊勢丹はす向い京王新宿ビル(現・京王三丁目ビルの場所)。1980年代後半に閉館。


レッド・スコルピオン bl.jpgレッド・スコルピオン  映画前売半券.jpg「レッド・スコルピオン」●原題:RED SCORPION●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ジトー●製作:ジャック・エイブラモフ●脚本:アーン・オルセン●撮影:ホアオ・フェルナンデス●音楽:ジェイ・チャタウェイ●時間:106分●出演:ドルフ・ラングレン/M・エメット・ウォルシュ、アル・ホワイト/T・P・マッケンナ/カーメン・アルジェンツィアノ/ブライオン・ジェームズ/ジョセフ・ビッグウッド/ジェイ・チャタウエイ●日本公開:1989/01●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★)●併映:「ダイ・ハード」(ジョン・マクティアナン)レッド・スコルピオン HDマスター版(Blu-ray Disc)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(右写真中央)は1952年、世田谷通りの裏通り「なかみち街」にオープン。(「三軒茶屋中央劇場」も2013年2月14日閉館)  ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ) ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り) ③三軒茶屋中劇(中央劇場)

ユニバーサル・ソルジャー dvd 1992.jpgユニバーサル・ソルジャー1992 1.jpg「ユニバーサル・ソルジャー」●原題:UNIVERSAL SOLDIER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●製作:アレン・シャピロ/クレイグ・ボームガーテン/ジョエル・B・マイケルズ●脚本:リチャード・ロススタイン/クリストファー・レイッチ/ディーン・デヴリン●撮影:カール・W・リンデンローブ●音楽:クリストファー・フランケ●時間:102分●出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム/ドルフ・ラングレン/アリー・ウォーカー/ジョセフ・マローン/エド・オロス/ジーン・デイヴィス/レオン・リッピー/ランス・ハワード/リリアン・ショウバン/チコ・ウェルズ/ジェリー・オーバック●日本公開:1992/11●配給:東宝東和(評価:★★★)
ユニバーサル・ソルジャー [DVD]

ステイン・アライブ dvd.jpgSTAYING ALIVE.jpg「ステイン・アライブ」●原題:STAYING ALIVE●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:シルヴェスター・スタローン/ロバート・スティグウッド●脚本:シルヴェスター・スタローン/ノーマン・ウェクスラー●撮影:ニック・マクリーン●音楽:ビージーズ/フランク・スタローン●時間:96分●出演:ジョン・トラボルタ/シンシア・ローズ/フィノラ・ヒューズ/スティーヴ・新宿ジョイシネマ .jpgインウッド/ジュリー・ボヴァッソ/チャールズ・ウォード●日本公開:1983/12●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:新宿ジョイシネマ(84-04-07)(評価:★★★)
新宿ジョイシネマ さよならフェスティバル.jpg新宿ジョイシネマ.jpg新宿ジョイシネマ 1947年12月「新宿地球座」としてオープン。1958(昭和33)年12月「地球会館」新築・落成、「新宿座」オープン。1984年1月「新宿ジョイシネマ」と改称。1995年7月~「新宿ジョイシネマ1」。(新宿ジョイシネマ2 1958年12月「新宿地球座」→1983年~「歌舞伎町松竹」→1995年7月~「新宿ジョイシネマ2」) 2009年5月31日(新宿ジョイシネマ1・2(地球会館)・3(中台ビル))閉館。[中写真:新宿劇場(1970年閉館)]

ランボー 82.jpgランボー1982.jpg「ランボー」●原題:FIRST BLOOD●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コッチェフ●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:マイケル・コゾル/ウィリアム・サックハイム/シルヴェスター・スタローン●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル「一人だけの軍隊」●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/ブライアン・デネヒー/デビッド・カルーソ/ジャック・スターレット/マイケル・タルボット/デビッド・クロウレイ●日本公開:1982/10●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿ローヤル(84-09-24)(評価:★★★)一人だけの軍隊 ランボー (ハヤカワ文庫)
新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg
新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[カラー写真:「フォト蔵」より/モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)より]

rambo 3 1988 movie.jpgランボー3/怒りのアフガン チラシ.jpg「ランボー3/怒りのアフガン」●原題:RAMBO 3●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・マクドナルド●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:シルヴェスター・スタローン/シェルドン・レティック●撮影:ジョン・スタニアー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/カートウッド・スミス●日本公開:1988/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ(88-07-10)(評価:★★)
新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg新宿プラザ劇場内.jpg 新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、コマ劇場隣り (1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館

「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2631】 タル・ベーラ 「ニーチェの馬
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(ヤクルトホール)「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(シネセゾン渋谷)

有名MBA出身でありながら反商業主義を貫き、高い国際的評価を得ているのが興味深い。

タヒミック 悪夢の香り.jpg The Perfumed Nightmare 3.jpg  トゥルンバ祭り dvd.png  Kidlat Tahimik.jpg
"Perfumed Nightmare"(悪夢の香り,1977)    "Turumba"(トゥルンバ祭り,1983)  Kidlat Tahimik

The Perfumed Nightmare 橋.jpg 貧しいフィリピン青年の「僕」キドラット(キドラット・タヒミック)はジムニー(小型乗合バス)の運転手であるが、将来は宇宙飛行士を夢みている。僕のジプThe Perfumed Nightmare ジムニー.jpgニーがアメリカ人のビジネスマン(ハルムート・レルヒ、この作品の共同撮影カメラマン)の気に入り、ひとまずパリに赴くことになって、村をあげての大騒ぎの中、憧れの地へ発つが、日夜チューインガム自販機を詰め替える単純作業に追われ、夢は遠のく。巨大なスーパーの煙突の中に身を隠し、故郷を想う僕は、進歩という観念そのものに疑問を抱くようになる―。

キドラット・タヒミック2.jpg 1977年にフィリピンの映像作家キドラット・タヒミック監督(Kidlat Tahimik 、1942年生まれ)が発表した彼のデビュー作で、スペイン人が造った橋、アメリカの軍用車を改造したジプニー、月ロケットなどをモチーフに、フィリピン社会に染みついた植民地主義を、とぼけたユーモアや温かい詩情、ファンタジックで時にナンセンスな展開、ドキュメンタリー風の映像などを通して炙り出した作品です。

 '82年にヤクルトホールで行われた「国際交流基金映画祭~南アジアの名作をもとめて」(南アジア映画祭)にて上映され、監督本人も会場に来ていましたが、紹介されると突然一般観客席から立ち上がって挨拶するなど、実に剽軽な人でした(当時40歳くらいか。この作品を撮ったのはその5年前)。

 この作品は、'77年のベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞し、'81年にはフランシス・フォード・コッポラの配給によってアメリカでも公開されていますが、日本では、その後'96年にシネマトリックスの配給で、「BOX東中野」にて、特集上映「キドラット・タヒミックの世界」の1作として上映されています(昨年(2012年)には、アテネフランセ文化センターの特集「アジア映画の森」でも上映)。

 監督自身はその後もインディペンデント映画作家としての立場を貫いており、最近日本でも若手のインディペンデント系映像作家が海外の映画祭で賞を獲るなどしていますが、彼は、アジアにおける先駆的な個人映画作家として、2012年に「福岡アジア文化賞」を受賞しています。

 同監督による第2作は「月でヨーヨー」(1979)という、これもファンタジー的要素のある作品(フィリピンはヨーヨー発祥の地らしい)、第3作「トゥルンバ祭り」(1983)で、トゥルンバ祭り 02.jpgフィリピンの田舎町で行われる熱狂的な大祭を背景とした物語を描いて国際映画賞を受賞しています(マンハイム・ハイデルベルグ国際映画祭映画「新興国のための審査員賞」)。'87年に第2回東京国際映画祭(アジア秀作映画週間部門)にて上映されたのを観ましたが、馬や犬のマスコトゥルンバ祭り 01.jpgットを家族で作って祭りで売っていた祖母と少年が、ある日ドイツのデパートの女性バイヤー(カタリーナ・ミューラー)がたまたま通りかかって、大量注文をしたために家族は大騒動となるという、ちょっと「悪夢の香り」と似た展開。但し、"日記映画作家"と呼ばれるだけあって、祭りの準備をする人々や本番の祭りの模様を記録映画風に描いていて、ドキュメンタリータッチがより色濃く出ています。また、単に反商業主義・反植民地主義というだけでなく、土着的、アジア文化的なものへの回帰指向もより鮮明になっています。この辺りは、「悪夢の香り」の主人公である「僕」が、最後に文明批判に目覚め、先住民の友達の教えを思い出して帰国するという結末からの流れを汲んでるともとれます。

キドラット・タヒミック4.jpg 今やその風貌や語り口から仙人のような趣を醸す同監督ですが(50代になってからマニラを離れ、山間部に移り住んでいる)、元々は富裕知識階層の出身で、ペンシルバニア大学ウォ―トンスクール(米国でもトップクラスとされるMBA)で経営学の修士号を取得し、パリで経済協力開発機構(OECD)の研究員をしていたという、かつては自他共に認めるバリバリのエコノミストでした。その彼が、帰国してから経済人への道をではなく、自主制作映画作家としての道を歩み(MBAの卒業証書を破り捨たというから相当の覚悟だったのか)、反商業主義を貫いて、国際的に高く評価される映像作家になったというのが興味深いです(相変わらず祭り好きの、剽軽なオッサンである点は変わらないみたいだけど)。

2012tahimik.jpgキドラット・タヒミック3.jpg福岡アジア文化賞受賞スピーチ(2012)
 
 
 
  
 
 

タヒミック氏とカタリーナ・ミューラー夫人(美術担当、「悪夢の香り」「トゥルンバ祭り」両作品に出演)
   

The Perfumed Nightmare2.jpg悪夢の香り 1シーン.jpg「悪夢の香り」●原題:KIDLAT WORLD MABABANGONG BANGUNGOT(Perfumed Nightmare)●制作年:1977年●制作国:フィリピン●監督・製作・脚本・撮影:キドラット・タヒミック●共同撮影:ハルトムート・レルヒ●音楽:エフゲニー・グレボフ●時間:95分●出演:キドラット・タヒミック/ジェジェット・ボードリィ/マン・フェリィ/ハルムート・レルヒ/カタリーナ・ミューラー/ドロレヤクルトホール.jpgス・サンタマリア●日本公開:1982/10(劇場公開:1996/11)●配給:国際交流基金(劇場公開:シネマトリックス)●最初に観た場所:新橋・ヤクルトホール(82-10-16)(評価:★★★★)●併映:「田舎の教師」(スラスィー・パータム)/「ミュージカル女優」(シャーム・ベネガル)/「ふたりは18歳」(トグゥ・カルヤ) Mababangong bangungot (1977)

ヤクルトホール 1972年、東新橋・ヤクルト本社ビル内にオープン

「トゥルンバ祭り」●原題:TURUMBA●制作年:1983年●制作国:フィリピン●監督・脚本:キドラット・タヒミック●撮影:ロベルト・イニゲス●音楽:マンディ・アファング●時間:87分●出演:ホーマー・アビアド/イニゴ・ヴィト/マリア・ペヒポシネセゾン渋谷.jpgル/パティ・アバリ/カタリーナ・ミューラー●日本公開:1987/09●配給:シシネセゾン渋谷 チケット.jpgネセゾン●最初に観た場所:シネセゾン渋谷(87-09-26)(評価:★★★☆) シネセゾン渋谷 1985年11月6日、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン。2011年2月27日閉館。
シネセゾン渋谷closing.jpg

「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2062】 ジョン・ミリアス「ビッグ・ウェンズデー
「○存続中の映画館」の インデックッスへ(銀座文化1(シネスイッチ銀座1))

ミステリ風コメディ映画。ヴェネチア・カーニヴァルの幻想的雰囲気がストーリーによくマッチ。

ヌードの女.jpg NUDO DI DONNA 1981 011.jpg NUDO DI DONNA 1981lt.jpg
Nudo di donna [VHS] [Import]」 Eleonora Giorgi(エレオノーラ・ジョルジ)/Nino Manfredi(ニーノ・マンフレディ)
ヌードの女11.jpg 1971年・第24回カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞したニーノ・マンフレディ(1921‐2004)が監督・主演した、ヴェネチアのカーニヴァルを背景としたミステリ風コメディ映画で、日本では'84年の「イタリア映画祭」で上映された作品であり、その後、一般ロードでも公開されました。ニーノ・マンフレディは元々俳優であり、この作品の当初の監督アルベルト・ラットゥアーダ(「スキャンドール」('80年/伊)の監督)と意見が合わず、とうとう主演男優である彼自身が自分で監督してしまったというものです。

ヌードの女2.bmpヌードの女1.bmp 老舗の古書店の娘と結婚して十数年経つ夫(マンフレディ)は、自らもローマからヴェネチアに移り住んで古書店を営もうとするがうまくいかず、芸術家の間で顔が広い妻(エレオノーラ・ジョルジ)に対するコンプレックもあって2人の関係はやや冷え切り気味だが、そんなある日、芸術家達の集いの場となっている知人の屋敷で、妻にそっくりの女の大判ヌード写真を見つける―。

 やがてカフェで、派手なカラフルな娼婦の衣装を身につけたその写真のモデル、妻そっくりの女リリー(エレオノーラ・ジョルジが二役を演じている)を見つけ、男は彼女のところへ通いつめるようになるが、彼女がケガをした日に家に帰ると妻も同じところをケガしたりしていて、更に、カーニヴァルの夜、自宅からリリーの家まで屋根伝いで行ける近道を偶然に発見する―。

ヌードの女4.bmpヌードの女3.bmp カーニヴァルの翌朝、男はリリーと並んで焼きカボチャか何かを食べていますが、もう男にとってリリーが妻と同一人物であろうとなかろうとどうでもよく、目の前に愛する人がいるだけで満ち足りた気分になっているという、ミステリ的要素がありながら謎は最後まで明かされないという終わり方ですが(その方が却って洒落ていていい)、ある意味、女性に妻と娼婦の2役を求める男の願望を表した作品であるともいえます。

 夫婦は互いの全てを知ろうとはしない方がいいという教訓譚と解すことも出来て、大らかな艶笑コメディの伝統を有するイタリア映画ならではの作品ですが、ヴェネチア・カーニヴァルの幻想的な雰囲気が映画のストーリーによくマッチしていたように思います。

IMG_0739.jpg

NUDO DI DONNA.jpg「ヌードの女」●原題:NUDO DI DONNA(NU DE FEMME [仏])●制作年:1981年●制作国:イタリア・フランス●監督:ニーノ・マンフレディエレオノラ・ジョルジ1.jpg●脚本:ニーノ・マンフレデ/アージェ・スカルペッリ/ルッジェロ・マッカリ●撮影:ダニロ・デシデリ●音楽:ロベルト・ガットー/マウリッツィオ・ジアマルコ●時間:103分●出演:ニーノ・マンフレディ/エレオノーラ・ジョルジ/ジョルジュ・ウィルソン/ジャン=ピエール・カッセル/カルロ・バーノ●日本公開:1984/10●配給:イタリア会館●最初に観た場所:銀座文化1(84-10-04)(評価★★★☆)Nudo di donna [VHS] [Import]」 
Eleonora Giorgi
Eleonora Giorgi 2.jpg
                              

「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg シネスイッチ銀座.jpg銀座文化1 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

《読書MEMO》
●ヴェニス(ヴェネツィア)を舞台にした映画
エヴァの匂い」('62年/仏)ジョゼフ・ロージー監督
ベニスに死す」('71年/伊・仏)ルキノ・ヴィスコンティ監督
「ヌードの女」('81年/伊・仏)ニーノ・マンフレディ監督
007 ロシアより愛をこめて」('63年/英)テレンス・ヤング監督
イタリア・ベネチア●エヴァの匂いes.jpgイタリア・ベネチア ●ベニスに死すges.jpgイタリア。ヴェネチア●ヌードの女.jpg 007 ロシアより愛をこめて  ヴェネチア (2).jpg

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2032】 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて 
「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ  「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

ノン・シリーズものを「面白く」と言うより「複雑に」改変した、「スリークラウンの謎」と呼ぶべき別物の話。

シタフォードの謎 dvd.jpg第8話シタフォードの謎 01.jpg 第8話シタフォードの謎 title.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2

第8話シタフォードの謎 00.jpg プロローグで、エジプトの秘宝発掘現場で2人の男が王の墓から財宝を見つける。その25年後、「シタフォード荘」に住むトレヴェリアン大佐(ティモシー・ダルトンは、現首相チャーチルの後継と目されている。彼が後見人となっているジム・ピアソン(ローレンス・フォックス)は、素Zoe Telford.jpg行不良のため遺産相続人から外す旨の手紙を大佐から受け取ったとして怒っているが、大佐は、自分がその手紙を書いたことを否定する。酔い潰れたジムを、その婚約者エミリー(ゾーイ・テルフォードは、パーティーで偶然知り合った新聞記者チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー)とともに家に送り届けるが、翌日ジムは大佐に会うと言って、降りしきる雪の中、シタフォード荘に向かう。ミス・マープル(第8話シタフォードの謎 07.pngジェラルディン・マクイーワン)は甥で作家のレイモンドの別荘を訪ねてシタフォードに来たが、レイモンドは戻れず、彼女は、近くの「シタフォード荘」に泊めてもらうことになる。大佐の親友エンダービー(メル・スミスは、大佐の政務官であり「シタフォード荘」を管理している。大佐は、そのエンダービーにも行先を告げずに山荘を出るが、ミス・マープルは彼が、ホテル「スリークラウン館」に偽名で予約を入れるのを聞いていた。エンダービーは、山荘に送り届けられたゼリーを食べた飼い鷹が死んだのを見て、大佐の身を案じて吹雪の中「スリークラウン館」に向第8話シタフォードの謎 o6.jpgかうが、歩いて2時間はかかる。更にそれを案じたチャールズが後を追う。「スリークラウン館」は、カークウッド(ジェームズ・ウィルビー)が昨年ここを買い取ったもの第8話シタフォードの謎 04.jpgで、ミセス・ウィレット(パトリシア・ホッジ)と娘のヴァイオレット(キャリー・マリガン、ミス・パークハウス(リタ・トゥシンハム)ら何人かの客がいて、ウィレット夫人の提案で、ホテルの客たちを集めての心霊占いが始まるが、占いの結果「今夜トレヴェリアン大佐が死ぬ」という言葉が現れる。エンダービーが到着し、途中で彼に追いついたチャールズと共に大佐の部屋に行くと、彼は胸を刺されて死んでいた。大雪で警察が来られないため、エンダービーが捜査に当たる―。

シタフォードの秘密  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg第8話シタフォードの謎 06.jpg 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演のグラナダ版で、シーズン2の第4話(通算第8話)。日本ではNHK‐BS2で2008年6月26日に初放映。原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1931年に発表し作品で(原題:The Sittaford Mystery (米 Murder at Hazelmoor))で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものです。
エミリー(ゾーイ・テルフォード)/チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー

 原作は、結構、登場人物が多くて人物相関が複雑な割には、犯行に直結するプロットも動機も単純で、個人的にはクリスティ作品としては物足りなかった印象があり、「面白い方向」に改変してくれるならばいいかなと思いましたが、「面白い方向」と言うより「複雑な方向」に改変しただけの映像化作品でした。

第8話シタフォードの謎 シタンフォード荘.jpg 降霊会の行われるのが原作の「シタフォード荘」でではなく、「スリークラウン館」に改変されていて、「シタフォード荘」の降霊会で「大佐が死ぬ」というお告げがあったちょうどその頃、「スリークラウン館」で大佐は殺害されたらしい、というのが原作のミソであるのに対し、「スリークラウン館」で行われた降霊会に大佐自身が加わっていて、その後で殺害されるので、その分、ミステリアスな雰囲気は削がれてしまっています。

 ジム・ピアソンが第一容疑者として拘束されるのは原作と同じ。原作では、「シタフォード荘」のコテージに住む隣人たちが次に疑わしい容疑者になるわけですが、ここでは「スリークラウン館」の客らがそれに該当します(彼らの人物像は、ウィレット夫人と娘のヴァイオレット以外は全面改変されている)。原作での真犯人バーナビー少佐に該当するエンダービーが、なんと、いきなり刑事役を買って出ます(原作での素人探偵役は、ジム・ピアソンの婚約者エミリーと新聞記者のチャールズ・"エンダービー")。

Zoe Telford2.jpg 原作では、事件を解決したエミリーが、頼りない男である婚約者ジムと、事件を通して距離の狭まった新聞記者チャールズのどちらを選ぶかが1つの見所で、最終的にはやはり婚約者の方を選んで、出来る女性というのは意外と頼りない男の方を選んだりするものだなあと思わせる面がありましたが、この映像化作品に登場するジム・ピアソンは最初からどうしようもない男で、そもそもなぜエミリーはこんな男と婚約したのかと思わざるをえません(そのエミリーも、やや高慢ちきで、原作ほど魅力的な女性にはなっていないのだが)。 エミリー(ゾーイ・テルフォード

第8話シタフォードの謎 09.jpg 「この線でいくと、こっちは最後、チャールズの方を選ぶだろうなあ」と思わせるのが1つの引っ掛けだったわけかと。原作の真犯人バーナビー少佐がエンダービーに改名され、新聞記者のチャールズ・"エンダビー"の名前がチャールズ・"バーナビー" に改名されていることが「伏線」だったわけですが、凝り過ぎていて分かんないよ、そんな細かいところは...(因みに、ミセス・ウィレットの娘で原作のヴァイリットも"ヴァイオレット"に改変され、トレヴェリアン大佐がエジプト時代に愛した娘と同名という設定になっているが、こんな話は原作には元々は無い)。 トレヴェリアン(ティモシー・ダルトン)/ヴァイオレット(キャリー・マリガン

 第2の殺人となるドクターの殺害や、エジプトでの過去の殺人(大佐も殺人犯だったのか)、そして最後は、エメリーによるチャールズの○○(どうして、その後の女2人の南米行きに繋げることができるのだろうか。取り敢えず、身柄拘束されて警察の尋問を受けるのでは?)等々、原作に無い話がてんこ盛りで、脚本家がもう好き放題に造っている感じ。 「シタフォードの謎」ではなく、「スリークラウンの謎」とでも呼ぶべき、原作とは別物の話でした。

007 リビング・デイライツ ポスター.jpg007 リビング・デイライツ 洋物.jpg ティモシー・ダルトンは007シリーズの4代目ジェームズ・ボンド役で、シリーズ第15作、第16作に主演(原作は共にイアン・フレミングの短編、監督は共にジョン・グレン)。第15作「007 リビング・デイライツ」('87年)は、高齢ロジャー・ムーアからの大幅若返りということで、ハードアクションが多く、アンケートによっては、シリーズの中、ショーン・コネリーの「ロシアより愛をこめて」に次いで人気が高いという結果が出ているものもありましたが、ロケや仕掛けにお金がかかっている割には個人的にはイマイチでした。アクションも、最初の、久しぶりにシリーズで復活したアストン・マーチンで山から下っていくカーチェイスは迫力がありましたが、それ以外は...。

007 消されたライセンス チラシ.jpg007 消されたライセンス 1シーン.jpg 続く第16作「007 消されたライセンス」('89年)は、'89年11月にベルリンの壁が崩壊したこともあり、冷戦下で作られた最後の007シリーズ作品です。ストーリー的も冷戦の要素が組み込まれた最後の作品とされていますが、ボンドの実質的な敵役は既に、前作のKGBから麻薬王へと変わっています。「古い時代の名残を感じられる最後のボンド映画」との見方もありますが、個人的には、ティモシー・ダルトンになってアメリカのアクション映画とあまり変わらなくなってきた印象を受けました。麻薬王の役は前年に「ダイ・ハード」('88年)でFBI特別捜査官を演007 消されたライセンスes.jpgじたロバート・デヴィ、ボンド・ガールはキャリー・ローウェル(味方側)とタリサ・ソト(敵側)でこちらも共に米国出身、ティモシー・ダルトン"ボンド"は、この敵味方二人の女性に助けられてばかりだったなあ。

ティモシー・ダルトン2.jpg ティモシー・ダルトンは、'71年にショーン・コネリーの後任としてボンド役を依頼されていますが、ボンドを演じるには若すぎるという理由で辞退し、'79年にロジャー・ムーアが降板を考えていたために来た依頼も断っており、3度目の依頼でようやく引き受けたとのことです。但し、この2作でボンド役を降ろされてしまい、次回作からボンド役はピアース・ブロスナンになっています。もう何本かボンド役を演じていればまた違ったかもしれませんが、結果的には、ちょうどシリーズの転換期にボンドを演じた俳優であり、方向性試行錯誤の犠牲になったというイメージがあります。


Carey Mulligan.jpg第8話シタフォードの謎 2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第8話)/シタフォードの謎」●原題:THE SITTAFORD MYSTERY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:ポール・アンウィン●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ティモシー・ダルトン/マイケル・ブランドン/ローレンス・フォックス/ロバート・ハーディ/パトリシア・ホッジ/ポティモシー・ダルトン 007.jpgール・ケイ/マシュー・ケリー/ジェフリー・キッスーン/キャリー・マリガン/ジェームズ・マリー/メル・スミス/ゾーイ・テルフォード/リタ・トゥシンハム/ジェームズ・ウィルビー●日本放送:2008/06/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)

Carey Mulligan 


007 リビング・デイライツ  dvd2.jpg「007 リビング・デイライツ」●原題:JAMES BOND 007 THE LIVING DAYLIGHT●制作年:1987年●制作国:イギリス・アメリカ007 リビング・デイライツ  dvd1.jpg●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・ミルズ●音楽:ジョン・バリー●原作:イアン・フレミング●時間:130分●出演:ティモシー・ダルトン/マリアム・ダボ/ジェローン・クラッベ/ジョー・ドン・ベイカー/ジョン・リス=デイヴィス/アート・マリック/ジョン・テリー/アンドレアス・ウィズニュースキー/デスモンド・リュウェリン/ロバート・ブラウン/キャロライン・ブリス●日本公開:1987/12●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「007 リビング・デイライツ アルティメット・エディション [DVD]

007 消されたライセンス dvd.jpg「007007 消されたライセンス dvd2.jpg 消されたライセンス」●原題:JAMES BOND 007 LICENCE TO KILL●制作年:1989年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・マイルズ●音楽:マイケル・ケイメン●原作:イアン・フレミング●時間:133分●出演:ティモシー・ダルトン/キャリー・ローウェル/ロバート・ダヴィ/タリサ・ソトアンソニー・ザーブ/フランク・マクレイ/エヴェレット・マッギル/ウェイン・ニュートン/デスモンド・リュウェリン●日本公開:1989/09●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「消されたライセンス (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1955】「ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を 
「●フェイ・ダナウェイ 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

比較的原作に忠実。後のポワロことデビッド・スーシェ演じるジャップ警部に目が行ってしまう。

エッジウェア卿殺人事件 us.jpg     エッジウェア卿殺人事件 vhs2.jpg Thirteen at Dinner 1985 04.jpg
"Thirteen at Dinner"輸入盤DVD 「名探偵ポワロ エッジウェア卿殺人事件 [VHS]」 David Suchet/Peter Ustinov

Thirteen at Dinner 1985 フェイ・ダナウェイ2.jpg 偶然に女優のジェーン・ウィルキンソン(フェイ・ダナウェイ)と知り合ったポワロ(ピーター・ユスティノフ)は、彼女から離婚に応じない夫エッジウェア卿を説得して欲しいと頼まれる。ポワロはエッジウェア卿に会うが、卿からは半年も前に承諾の手紙を書いたことを聞かされ訝しがる。そしてその晩、エッジウェア卿は何者かに殺害され、現場ではジェーンの姿が目撃されたのだが、彼女には確かなアリバイがあり、どうやらそれは彼女そっくりの物真似タレント、カーロッタ(フェイ・ダナウェイが二役)だったらしい。しかし今度はそのカーロッタまで不自然な死を遂げる。エッジウェア卿の娘をはじめ、卿の死を望みそうな人間は多くいるが、その誰もにアリバイがあった―。

Thirteen at Dinner 1985 03.jpg 映画「ナイル殺人事件」('78年/英)、「地中海殺人事件」('82年/英)でポワロを演じたピーター・ユスティノフ(1921-2004)が、'85年にアメリカのTVドラマでポワロを演じたもので(原題:Thirteen at Dinner)、この翌年には「死者のあやまち」と「三幕の殺人」が作られていますが、ピーター・ユスティノフ主演のTVシリーズはこの3作で打ち止めで(ヘイスティングス役は3作ともジョナサン・セシル)、ユスティノフは2年後に映画「死海殺人事件」('88年/米)で彼自身最後のポワロ役を演じています。

晩餐会の13人 (創元推理文庫.jpgThirteen at Dinner 02.jpg 原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1933年に発表した名探偵ポワロシリーズの長編第7作(原題:Lord Edgware Dies)ですが、時代は、この映像化作品が作られた時代に置き換えられています。ポワロが有名人としてTV出演したり、男優がアクションシーンに何度もダメ出ししたりといった現代風の味付けがありますが、筋立てそのものは原作に比較的忠実に作られており、かなりストーリー的には複雑な作品ではありますが、謎解きも丁寧でした。

 但し、原作を比較的忠実になぞった分、テンポ的にはややゆったりしているかなという印象。一人二役のフェイ・ダナウェイは、さすが堂々たる演技ですが、登場人物が多いため、その中にやや埋没している印象も。

Thirteen at Dinner 1985 05.jpg そうした中、興味深いのは、お馴染みジャップ警部を、'89年からTⅤ版「名探偵ポアロ」でポワロを演じることになるデビッド・スーシェが演じている点で、ピーター・ユスティノフ演じるポワロに常に先行される役どころを彼が演じているというのが、なかなか面白かったです。

 "新旧ポアロ対決"と言いたいところですが、デビッド・スーシェ演じるジャップ警部はいつも食い意地が張っていて、犯行現場などに行ってもつまみ食いばかりしているといった、ややとぼけた人物造型となっており、その上、最初から犯人はアイツだと決めてかかかる石頭ぶりで、後のポワロ役の剃刀の如く研ぎ澄まされた名探偵ぶりとは雲泥の差です。

デビッド・スーシェ/フェイ・ダナウェイ

 ピーター・ユスティノフとデビッド・スーシェが並ぶと、ついついデビッド・スーシェの方に目が行ってしまいます(後に自分がポワロを演じることになるのを少しでもイメージしていたのかなあ、とか考えてしまう)。フェイ・ダナウェイと並んでもデビッド・スーシェの方に目が...。
 という訳で、ピーター・ユスティノフやフェイ・ダナウェイの演技よりも、デビッド・スーシェのダメ警部ぶりの方が、"お宝映像"的な価値があったかもしれない作品ですが、原作のストーリーを再度確認する上ではオーソドックスな作品と言えます。

エッジウェア卿殺人事件001.jpgThirteen at Dinner 1985 04.jpg「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」●原題:THIRTEEN AT DINNER●制作年:1985年●制作国:アメリカ●本国放映:1985/09/19●監督:ルー・アントニオ●脚本:ロッド・ブラウニングス●原作:アガサ・クリスティ●時間:95分●出演:ピーター・ユスティノフ/デヴィッド・スーシェ/フェイ・ダナウェイ/ジョナサン・セシル/リー・ホースリー/ビル・ナイ/ダイアン・キートン●ビデオ発売:1990/11 (ビクターエンタテインメント)(評価:★★★☆)

「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1996】 クリスティ 『エッジウェア卿の死
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「名探偵ポワロ」)

どんな状況においてもポアロは名探偵であるという思い込みがトラップになっているとも言える?

邪悪の家 1959 ハヤカワ 田村.jpg エンドハウスの怪事件 創元推理文庫.jpg 邪悪の家 クリスティー文庫 旧田村訳.jpg 邪悪の家 クリスティー文庫 新訳.jpg エンドハウスの怪事件 dvd.jpg
邪悪の家 (1959年) (世界ミステリーシリーズ)』(田村隆一:訳)『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['04年](厚木 淳:訳)『邪悪の家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['04年](田村隆一:訳)『邪悪の家(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['11年](真崎義博:訳、カバーイラスト:和田誠)「名探偵ポワロ[完全版]Vol.6 [DVD]
[下]『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['75年](厚木 淳:訳)『邪悪の家 (1984年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['84年](田村隆一:訳、カバーイラスト:真鍋博)『エンド・ハウス殺人事件 (新潮文庫)』['88年](中村妙子:訳)
エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫).JPG「邪悪の家」ハヤカワ・ミステリ文庫.jpgエンド・ハウス殺人事件.jpg 英国南部の牧歌的な漁村セント・ルーにバカンスで来ていたポワロとヘイスティングスは、滞在先のマジェスティックホテルで、近くにあるエンドハウスの女主人ニック・バックリーと知り合う。彼女は最近3日間に3回も命拾いをする経験をしたと話すが、ポワロとホテルのテラスで話している間にも、何者かから狙撃される。弾は逸れ、またも彼女の命は救われるが、ポワロは彼女に警告を発し、自ら警護を申し出てエンドハウスへと乗り込む。しかし、花火の夜に、偶然ニックのショールを羽織っていたニックの従妹のマギーが何者かによって射殺されてしまう―。

Peril At End House.jpg 1932年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポワロシリーズの長編第6作で(原題:Peril at End House)、『牧師館の殺人』(1930)、『シタフォードの秘密』(1931)に続く「館物」でもあり、タイトルの邦訳は、ハヤカワ・ミステリ文庫・クリスティー文庫(共に田村隆一:訳、クリスティー文庫新訳版は真崎義博:訳)では「邪悪の家」ですが、創元推理文庫(厚木淳:訳)では「エンド・ハウスの怪事件」、新潮文庫(中村妙子:訳)では「エンド・ハウス殺人事件」などとなっています。

First Edition Cover 1932(Collins Crime Club (London))

 クリスティの脂が乗り切った時の作品でありながら意外と評価が高くないのは、クリスティ自身が、「私の小説の中ではまるで印象が残っていないし、書いた記憶さえ思い出せない」と発言していることもありますが、ポワロが事件の謎に翻弄され続ける状況が続き、いつもの精彩を欠いているように見えるから、というのもあるのでしょう。ポワロのファンにはいただけない作品かも。

 確かに屋敷に出入りする関係者には一様に怪しい点があり、いつも通り容疑者の数には事欠かないのですが、その中に犯人がいるはずだと推理するポワロに対し、ある程度のミステリ通は、ポワロより先に犯人が判ってしまうのかも。但し、自分が初読の際は全く真犯人が判らず、その分、ドンデン返しも含んだ最後の謎解きはストレートに楽しめました。

PERIL AT END HOUSE f.jpg 犯人がポワロの謎解きをミスリードさせる張本人である作品ですが、ポワロに対する読者の、彼がどんな状況においても超人的な名探偵であるという思い込みがある種トラップになっている作品とも言え、そう言えばこの作品はポワロとヘイスティングスとの謎解きを巡る会話が多く、振り返ってみれば、2人して読者をミスリードする役割を果たしていた感じもします。

PERIL AT END HOUSE Fontana1975 (Cover illus.Tom Adams)

 2011年にクリスティー文庫が田村隆一(1923-1998)の旧訳を改版して真崎義博氏による新訳版を刊行しましたが、現代風で、それでいてジュニア版みたいな翻訳にはなっておらず、これはこれで良かったのでないでしょうか。

 田村隆一訳との違いの一つとして、ポワロがヘイスティングスと話す際に、例えば田村訳では「わが友(モナミ)、あなたのは受け売りですよ」となっているのが、真崎訳では「君の言っていることは受け売りだよ」というように、ポワロとヘイスティングスの距離感が近くなっているように思いました(特にこの作品は2人の会話が多いため、それを強く感じた)。

熊倉一雄 ポワロ.jpgエンドハウスの怪事件 0.jpg デヴィッド・スーシェ(David Suchet)の主演TⅤ版(London Weekend Television)「名探偵ポワロ」でも、吹替えの熊倉一雄(1917-2015)の独特の声の抑揚のもと、ポワロはヘイスティングスに対しても「です・ます調」で語りかけ、それが固定的イメージになっていますが、考えてみれば、ポワロがヘイスティングスに対して「です・ます調」で話すのは、あくまでも翻訳者の選択であると言えるのでないかと思います。

エンドハウスの怪事件00.jpg そのデヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」ですが、英国LWT(London Weekend Television)が主体となって制作、1989年1月放映分から2014年1月放映予定分まで70作品作られており、この『邪悪の家』は、第2シーズン第1話(通算第11話)「エンドハウスの怪事件」として、1990年1月にシリーズ初の拡大版(ロング・バージョン)で放映されました。日本でも1990年8月11日、NHKがこのシリーズの放映を始めた年に放映されており、このシリーズで最初に観たポワロ物がコレという人も多いのではないかと思われます。

エンドハウスの怪事件03.jpg ほぼ原作に忠実に作られていますが、田舎に来て、誰も自分が有名な探偵であることを知らないことに不満なポワロのご機嫌斜めぶりが強調されているのが可笑しいです。それと、原作には出てこないミス・レモンが登場し、謎解きのヒントはヘイスティングスと彼女の言葉遊び的な遣り取りから生まれることになっています。更に、ラストのポワロが仕組んだ降霊会で、無理やり霊能力者の役割を演じさせられるのは、原作ではヘイスティングスのところが、この映像化作品ではミス・レモンになっています。

 海岸沿いの丘の上にあるホテルが美しく、推理と併せてリゾートの雰囲気が楽しめるのがいいです(ポワロがホテルのレストランで注文した2つのゆで卵の大きさが違うから食べられないと駄々をこねるところは、まるで「名探偵モンク」みたい。こういう完璧主義が探偵に共通する気質なのか)。

Poirot Polly Walker1.jpgPoirot Polly Walker2.jpg「名探偵ポワロ(第11話)/エンドハウスの怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT II:PERIL AT END HOUSE●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/07●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ポリー・ウォーカー(ニック・バックリー) /ジョン・ハーディング/ジェレミー・ヤング/メアリー・カニンガム/ポール・ジェフリー/アリソン・スターリング/クリストファー・ベインズ/キャロル・マクレディ/エリザベス・ダウンズ●日本放映:1990/08/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)

名探偵ポワロ.jpg2名探偵ポワロ.jpg「名探偵ポアロ」 Agatha Christie: Poirot (英国グラナダ(ITV)1989~) ○日本での放映チャネル:NHK→NHK-BS2→NHK-BSプレミアム(1990~)/ミステリチャンネル→AXNミステリー

【1959年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)]/1975年文庫化[創元推理文庫(厚木淳:訳『エンド・ハウスの怪事件』)/1984年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/1988年再文庫化[新潮文庫エンド・ハウスの怪事件 カバー.JPG(中村妙子:訳『エンド・ハウス殺人事件』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳)]/2011年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(真崎義博:訳)]】

『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['75年]初版本

デヴォンシャーの自宅のクリスタル夫妻

「●TV-M (コナン・ドイル原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【3173】 「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「シャーロック・ホームズの冒険」) 「●と コナン・ドイル」の インデックッスへ 

ワトスンが婚約に至らないことを除き、原作に忠実。"モース"が出ていたことに後で気づいた。

シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名0.jpgシャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名1.jpg 四人の署名0.jpg
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.11 [DVD]
シャーロック・ホームズの冒険DVD BOOK vol.11 (宝島MOOK) (DVD付)」ジョン・ソウ(John Thaw)(上)、(左から)ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)、ジェニー・シーグローブ(Jenny Seagrove)、エドワード・ハードウィック(Edward Hardwicke)

The Sign of Four (1987) Poster.jpg ホームズの元にメアリー・モースタン(ジェニー・シーグローブ)という若い女性が相談に訪れ、彼女の父親はインド英国軍の大尉だったが、帰国した際に消息を絶ち、その数年後から謎の人物から彼女に贈り物が届くようになって、そして今度は、その相手から直接会いたいとの連絡があったという。ホームズとワトスンは、メアリーに付添って、彼女の父親とインドで一緒だったショルトー少佐の息子サディアス(ロナルド・レイシー)を訪れ、そこで父親の死と秘密の財宝についての話を聞かされる。それによれば、サディアスの父ショルトー少佐はインドにいた時期に、友人のモースタン大尉と共にアグラの財宝を発見し、ショルトーは先に財宝を持ってイギリス本国に戻っていたが、約束していた財宝の分け前を要求してインドからやってきたモースタン大尉と口論になり、心臓発作を引き起こさせてしまう。せめてもの罪滅ぼしに、財宝の一部を娘の元に送るようにというショルトー少佐の遺言を守っていたというのが事の真相で、ショルトーはその後持病を悪化させ、謎の侵入者の影に怯えながら急死、遺骸の胸に、侵入者が現れたことを示す「四人の署名」の文字と、シーク教を象徴する4の意味の赤い印付きの紙片が残されていたという。そして今回、父が生前に隠し場所を話さなかった財宝の隠し場所を発見して、メアリに分け与えるために手紙で呼び出したのだという。ホームズ一行はショルトーの兄が住むノーウッドの屋敷へと向かうが、鍵のかかった部屋の中で、双子の兄(ロナルド・レイシー二役)の死体が発見され、サディアスは兄殺しの容疑をかけられ逮捕される。ホームズが犬のトービィの嗅覚を頼りに真犯人を追ってテムズ河畔に辿り着くと、貸し船屋の女主人が義足の奇妙な男に船を貸したとを言う。ホームズは船を発見するため、ベーカー街イレギュラーズをロンドンの街に放った―。

 英国グラナダTV(ITV)製作、ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett、1933-1995)主演の「シャーロック・ホームズの冒険」(1984~1994、全41話)の第25話で、拡大スペシャル版として作られ、本国では1987年12月29日に放映、日本では第21話として1988年3月5日と12日に前後編に分けて放送されました。アーサー・コナン・ドイルの原作は、1890年に発表され、同年に単行本刊行されています(原題:The Sign of Four)。

 冒頭で、『緋色の研究』において事件の記録にロマンチックな要素を持ち込んだことをホームズに批判されるワトスン(エドワード・ハードウィック)など、細部において原作に忠実ですが、四人の署名1-2.jpg1点だけ大きな違いがあり、原作では最後ワトソンンはメアリーと婚約してめでたしめでたし、それをホームズが「絶対におめでとうとは言えないね」と皮肉るところ、この映像化作品では、彼女は事件解決後に去っていき、それを窓から見遣ったワトスンが「魅力的な女性だ」とポツリ漏らすと、ホームズは「気がつかなかったよ」と―(この遣り取りは、原作では、メアリーがベイカー街を最初に訪れ、帰った後にある)。以降、長編第2作にしてワトスンが婚約してしまった原作に対し、このシリーズでは、最後までワトスンはホームズの同居人でいます。

四人の署名1.jpg ジェニー・シーグローブ演じるメアリーは美しく、また、原作よりかなり気丈な印象。彼女の手に財宝が渡るかどうかがストーリーのカギとなりますが、ファッションから見て何だか原作よりも経済的に恵まれている生活を送っている印象もあり、これだったら、財宝がなくても大丈夫?

 最後、ボートによるチェイスがあって、アクション映画っぽい感じもありますが、これも原作通り。事件のカギを握シャーロックホームズ 長編「四人の署名」.jpgる義足の男ジョナサン・スモールが逮捕された後に事件の内容を自らホームズらへ語るのも原作と同じですが、このジョナサン・スモールを演じているのが、「主任警部モース」のジョン・ソウ(John Thaw、1942-2002)だとは、最初気づきませんでした。「主任警部モース」の第1話は、この年(1987年)の1月に英国で放映されています。
四人の署名 ジョン・ソウ.jpg
 ジェレミー・ブレットが心不全のため61歳で、ジョン・ソウが食道癌のため60歳でと、共に比較的早くに亡くなっているのが惜しまれます。因みに、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」は11年間(1984-94)で全41話、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」は13年間(1987-99)で全33話作られています。

シャーロック・ホームズの冒険.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE SIGN OF FOUR●制作年:1987年●制作国:イギリス●本国放映:1987/12/29●監督:ピーター・ハモンド●脚本:ジョン・ホークスワース●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:102分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ロザリー・ウィリアムズ/ジェニー・シーグローブ(メアリー・モースタン)/ロナルド・レイシー(サディアス&バーソロミュー・ショルトー)/エムリス・ジェームズ(アセルニー・ジョーンズ警部)/キラン・シャー(トンガ)/ジョン・ソウ(ジョナサン・スモール)●日本放映:1988/3/5 (NHK)(評価:★★★☆)
「シャーロック・ホームズの冒険」THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES(英国グラナダ(ITV) 1984~1994) ○日本での放映チャネル:NHK(1985~1995)/AXNミステリー

●「シャーロック・ホームズの冒険」サブタイトル一覧とNHKでのシリーズ作放映年月日

●「シャーロック・ホームズの冒険」サブタイトル一覧(日本での放映順に変化のあった場合は()内にて)(Wikipedia
第1シリーズ/The Adventures of Sherlock Holmes
 第1話 ボヘミアの醜聞/A Scandal In Bohemia
 第2話 踊る人形/The Dancing Men
 第3話 海軍条約事件/The Naval Treaty
 第4話 美しき自転車乗り/The Solitary Cyclist
 第5話 まがった男/The Crooked Man
 第6話 まだらの紐/The Speckled Band
 第7話 青い紅玉/The Blue Carbuncle
第2シリーズ/The Adventures of Sherlock Holmes
 第8話 ぶなの木屋敷の怪/The Copper Beeches
 第9話 ギリシャ語通訳/The Greek Interpreter
 第10話 ノーウッドの建築業者/The Norwood Builder
 第11話 入院患者/The Resident Patient
 第12話 赤髪連盟/The Red-Headed League
 第13話 最後の事件/The Final Problem
第3シリーズ/The Return of Sherlock Holmes
 第14話 空き家の怪事件/The Empty House
 第15(18)話 修道院屋敷/The Abbey Grange
 第16(17)話 マスグレーブ家の儀式書/The Musgrave Ritual
 第17(16)話 第二の血痕/The Second Stain
 第18(19)話 もう一つの顔/The Man with the Twisted Lip
 第19(15)話 プライオリ・スクール/The Priory School
 第20話 六つのナポレオン/The Six Napoleons
第4シリーズ/The Return of Sherlock Holmes
 第21(23)話 悪魔の足/The Devil's Foot
 第22話 銀星号事件/Silver Blaze
 第23(24)話 ウィステリア荘/Wisteria Lodge
 第24(25)話 ブルース・パーティントン設計書/The Bruce-Partington Plans
 第25(21)話 四人の署名/The Sign of Four(2時間スペシャル:日本初回放送時は放映枠の都合で前後編)
 第26話 バスカビル家の犬/The Hound of the Baskervilles(2時間スペシャル:日本初回放映時は放映枠の都合で前後編)
第5シリーズ/The Casebook of Sherlock Holmes
 第27話 レディ・フランシスの失踪/The Disappearance of Lady Frances Carfax
 第28(29)話 ソア橋のなぞ/The Problem of Thor Bridge
 第29(28)話 ボスコム渓谷の惨劇/The Boscombe Valley Mystery
 第30(31)話 高名の依頼人/The Illustrious Client
 第31(30)話 ショスコム荘/Shoscombe Old Place
 第32話 這う人/The Creeping Man
2時間スペシャルシリーズ
 第33(34)話 犯人は二人/The Master Blackmailer
 第34(33)話 サセックスの吸血鬼/The Last Vampyre
 第35話 未婚の貴族/The Eligible Bachelor
第6シリーズ/The Memoirs of Sherlock Holmes
 第36話 三破風館/The Three Gables
 第37話 瀕死の探偵/The Dying Detective
 第38(40)話 金縁の鼻眼鏡/The Golden Pince-Nez
 第39(38)話 赤い輪/The Red Circle
 第40(41)話 マザランの宝石/The Mazarin Stone (with The Three Garridebs)
 第41(39)話 ボール箱/The Cardboard Box

●NHKでのシリーズ作放映年月日(# は日本での放映順)(シャーロック・ホームズの冒険 - 番組データ
NHK総合:1985/04/13~1985/09/21 [#01~#13] 土:21:45-22:30
NHK総合:1988/01/09~1988/03/12 [#14~#22] 土:
NHK総合:1989/01/14~1989/02/18 [#23~#28] 土:
NHK総合:1991/08/28~1992/01/05 [#29~#34] 水:
NHK総合:1994/07/02~1995/02/11 [#35~#40] 土:20:00-20:45

NHK[再]:1997/03/03,04,05,24,25,27 [#01~#06] 月~木:17:15-17:59
NHK[再]:1997/11/25~1998/03/05 [#01~#34] 月~木:17:15-17:59
NHK[再]:1998/05/15,1998/05/22 [#41~#46](3話) 金:25:00-27:15
NHK[再]:2002/02/25,2002/03/04 [#29,#30] 15:10-15:55
NHK[再]:2002/04/11,12 [#31,#32] 14:05~14:50
NHK[再]:2002/12/26~2003/03/13 [#01~#28,#33~#40] 月~金:14:05-14:50

NHK-BS2:2000/09/05~2001/03/27 [#01~#26] 火:23:00-23:45
NHK-BS2:2001/04/03~2001/07/31 [#27~#40] 火:23:00-23:45
NHK-BS2:2001/08/02,09,16 [SP] 木:21:00-22:45

【英ITV:1984/04/24~1994/05/11 [1st~7th]】

「●TV-M (バーナビー警部)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1988】 「バーナビー警部(第4話)/誠実すぎた殺人
「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「アマデウス」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●音楽・ミュージシャン」の インデックッスへ

プロット的には物足りない。関係者ほぼ全員が劇団員であるのが最大のミソか。

バーナビー警部/劇的なる死 dvd 輸入盤.jpgバーナビー警部/劇的なる死 dvd.jpg 劇的なる死00.jpg  アマデウス dvd.jpg
バーナビー警部~劇的なる死~ [DVD]」 Death of a Hollow Man' 「アマデウス [DVD]
ハロルド・ウィンスタンリー(Bernard Hepton)/エスリン(Nicholas Le Prevost)
ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン).gifエスリン(ニコラス・レプレボ).gif ミッドサマー地区で中年女性アグネス・グレイ(デニーズ・アレクサンダー)が何者かに殺された。アグネスは不治の病に冒されており、「とてつもない過ちを犯したのでそれを正したい」と漏らし、意外なほどの大金を動物保護団体に寄付していた。一方、ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン)が舞台監督を務めるコーストン・アマチュア劇団による舞台劇「アマデウス」の初日が近づいていたが、バーナビー(ジョン・ネトルズ)の妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)も端役で出演する、サリエリ役で主演する会計士のエスリン(ニコラス・ラ・ブレボスト)はアグネスのいとこで唯一の親族だった。
バーナビー警部/劇的なる死01.jpgキティ(Debra Stephenson)/ローザ(Sarah Badel)
キティ(デブラ・スティーブンソン).gifローザ(サラ・バデル).gif エスリンの妻キティ(デブラ・スティーブンソン)は(舞台ではモーツァルトの恋人役)は不倫をしており、そのことを同じ劇団員のエスリンの元妻のローザ(サラ・バデル)がエスリンに示唆したことで、エスリンはローザに離婚話を切り出す。人々の愛憎が錯綜する中で初日の幕は上がるが、クライマックスでエスリンは、何者かによってテープが剥がされた剃刀で喉を切ってしまい死亡。バーナビーの調べで劇団員兼大道具係デービッド(イアン・フィッツギボン)の父で大道具係のコリン(ジェフリー・ハッチングス)が「自分が殺した」と自供するが、それは息子を庇ってのことで息子も無実が明らかになり、となると、アグネスとエスリンを殺した真犯人は別にいることになる―。

うつろな男の死.jpg この1998年3月本国イギリスでの放映の第3話「劇的なる死」(Death of a Hollow Man)は、日本初放映は2002年5月で、前後編(第7話・第8話)に分けて放映され、当時のタイトルは「開演ベルは死の予告」。キャロライン・グレアムによる原作は、1989年に発表されたバーナビー警部シリーズ第2作『うつろな男の死』(Death of a Hollow Man)であり、1993年に創元推理文庫で翻訳が刊行されています。
うつろな男の死 (創元推理文庫)

バーナビー警部/劇的なる死 03.jpg アマチュア劇団を舞台にした演出家と俳優の確執をモチーフにした作品ですが、ちゃんと原作者の著作がある作品で、しかも、今回は珍しく原作者本人が脚本を担当しているにしては、第1話「謎のアナベラ」、第2話「血ぬられた秀作」と比べると、人間関係の入り組み具合もさほどではなく、プロットも単純で、分かりやすけれど物足りないと言うか、ミステリとしてはややランク落ちの印象を受けます。

 ミッドサマー地区は、アマチュア作家のサークルとかアマチュア劇団とか、アマチュアの文化活動が盛んだなあと。しかし、芝居の小道具で、テープを張るにしろ本物の剃刀を使うかなあ。

デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー).gif プロットは物足りないけれども、今回も怪しい人物、奇妙な人々には事欠きません。エスリンの妻の不倫相手は、ゲイの書店主アベリーの本屋で働いていた"ゲイ友"の書店員ティムだったんだなあ(舞台では2人は舞台美術係と照明係)。ハロルドのお手伝い(舞台では進行係兼小道具係)デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー)が、ハロルドが劇の評判を聞くよう彼女に頼んだのに、彼女は事件のことを記者たちに話したくて仕方がない様子がおかしいです(でも、これが"マトモな感覚"なんだろなあ)。

バーナビー警部/劇的なる死02.jpg トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が初めて警部の娘カリー(ローラ・ハワード)に出会って一目惚れするのはこの回だったんだなあと。彼女は、役者の卵ニコラス(エド・ウォーターズ)の方と仲良くなってしまいましたが、このプロの役者を目指している青年も書店員。バーナビーも、舞台美術の手伝いで書割の絵をかいているし、今回は、関係者ほぼ全員が劇団員であるか何らかの形で舞台に関係しているという中で事件が起きるというのが、最大のミソと言えるのでしょう。

劇的なる死 劇場.jpg しかし、「アマデウス」とはねえ。田舎のアマチュア劇団にしては随分難しそうな演目を選んだものだと思いますが、わざとそうした設定にしたのでしょう。原作は、サリエリが喉を搔き切る場面で"血糊"を見せるかどうかを演出家らが議論している場面から始まり、シェークスピア劇をはじめ演劇に関する薀蓄がてんこ盛りです。

The Summer house used for an illicit affair in 'Death of a Stranger'

 「アマデウス」(Amadeus)は、チェコスロヴァキア出身のミロス・フォアマン監督の映画「アマデウス」('84年/米)が知られていますが、元々は英国の劇作家ピーター・シェーファー原作の戯曲で、初演もロンドン(1979年)。それが翌年に米国に渡り、ブロードウェイで上演され、1981年には戯曲部門でトニー賞を受賞したもので、日本でも舞台化されましたが、個人的には映画化作品しか観ていません(旧「新宿ピカデリー」で観たが、ここ、いつの間にか、館名は変えないまま「二番舘」から「ロード館」になっていた)。

アマデウス 1.jpg 映画の方は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門を獲得した作品で、双葉十三郎(1910-2009/享年99)の『ミュージカル洋画ぼくの500本』('07年/文春新書)をみると、年代別に見て85点(著者流に表せば☆☆☆☆★)以上の評点を付けている最後の作品が「アマデウス」で、それ以降はありません。

アマデウス モーツアルト.jpgアマデウス サリエリ.jpg 個人的にも大作であるとは思いましたが、モーツァルト像がややデフォルメされ過ぎている印象もありました。アカデミー賞の「主演男優賞」には、"ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト"を演じたトム・ハルスと、"サリエリ"を演じたF・マーリー・エイブラハムの両方がノミネートされましたが、F・マーリー・エイブラハムが受賞したのは順当と言えるかと思います(F・マーリー・エイブラハムはゴールデングローブ賞「主演男優賞」(ドラマ部門)、ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」も受賞)。モーツァルトのオペラは、少年少女合唱団レベルでもドイツ語で歌われているのに、映画の中では全て英語になっているのもやや気になりましたが、アメリカ映画ですからこれはまあ仕方がないか。

「バーナビー警部(第3話)/劇的なる死(開演ベルは死の予告)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A HOLLOW MAN●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/03/29●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:キャロライン・グラハム●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライン・グレアム●時間:101分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/バーナード・ヘプトン/デニース・アレクサンダー/ニコラス・ラ・ブレボスト/ジャンニ・ドュヴィッキ/イアン・フィッツギボン/サラ・バデル/エド・ウォーターズ●日本放映:2002/05●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

アマデウス 0.jpg「アマデウス」●原新宿ピカデリー.jpg題:AMADEUS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ミロス・フォアマン●製作:ソウル・ゼインツ●脚本:ピーター・シェーファー●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ジョン・ストラウス●原作:ピーター・シェーファー●時間:160分(ディレクターズカット180分)●原作:ピーター・シェーファー●出演:F・マーリー・エイブラハム/トム・ハルス/エリザベス・ベリッジ/サイモン・カロウ/ロイ・ドトリス/クリスティン・エバソール/ジェフリー・ジョーンズ/シンシア・ニクソン●日本公開:1985/02●配給:松竹富士●最初に観た場所:新宿ピカデリー(85-05-19)(評価:★★★☆)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2078】 「クリスティのフレンチ・ミステリー(第8話)/満潮に乗って 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ  「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ
「●TV-M (刑事コロンボ)」の インデックッスへ

意外と原作の持ち味を活かしたソフトな改変だった。分かりやすい。

第7話)/五匹の子豚 dvd.jpg 五匹の子豚01.jpg 五匹の子豚00.jpg 新・刑事コロンボDVDコレクション 05.jpg

五匹の子豚02.jpg ある日、ランピオン刑事(マリウス・コルッチ)が歩いていると怪しげな男が近づいてきて、男はルブランという浮気調査の探偵だった。君は出世の道をラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)に邪魔されているとランピオンに話すルブランは、ランピオンを探偵社にスカウト、常日頃のラロジエールの横暴に耐えかねていたランピオンは、警察を辞め、探偵社に転職する。その探偵社に一人の女性マリー(プリュンヌ・ブシャ)が訪ねてきて、死んだと聞かされていた母親が夫殺しの罪で獄中にあることを最近知り、画家である父親は心臓発作で亡くなったと聞かされていたのだが、その15年前の出来事の真相を知りたいと調査依頼する。元上司のラロジエールを見返すべく、ランピオンは調査に奔走、事件は、女性の母親が、愛人を同じ屋敷内に住まわせた夫に対して嫉妬し、毒入りのビールを飲ませたというものだったが、マリーは母親の無実を信じていた―。

五匹の子豚 文庫2.jpg フランス2で2009年から放映されている「クリスティのフレンチ・ミステリー」シリーズの、2011年放映の通算第7話で、原作は1943年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Murder in Retrospect)で、実質的に同じ頃に書かれ、作者の遺言により没後に発表された『スリーピング・マーダー』と同じ、所謂"回想の殺人"物です。

五匹の子豚10.jpg 原作では、16年前に画家である夫を殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母の無実を訴える遺書を読んだ若き娘が、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる―というものですが、この映像化作品では母親は獄中にて存命しています。

五匹の子豚04.jpg 加えて、本編冒頭からラロジエール警視の横暴に不満の募るランピオン刑事の探偵社への転職話があったりして、原作が非常に完成度の高い構成を備えた傑作であるため、あんまり極端な改変をしないで欲しいなあと思って観ていましたが、まあ、上司・部下の関係の展開はサブストーリーであって、観終わってみれば、本筋の部分では原作をそう外れておらず、むしろ、母親がなぜ自身の無実を娘に伝えながらも公には冤罪を主張することをしなかったのか、或いは、なぜ犯人は被害者に対して殺意を抱いたのか、などといったことが状況と併せてスンナリ分かるものとなっています。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑦五匹の子豚 04.jpg 原作では、事件当時の5人の関係者それぞれにポワロが会って、過去の事件の状況を訊いて回り、まるで童謡にある「五匹の子豚」のような行動をとった5人に"レポート"まで出させるわけですが、さすがに"レポート"提出まではないものの、最後に関係者を集めて謎解きをしてみせるのは原作と同じ。しかもそこへ、存命だった(であることにしてしまった)母親が疑い晴れて釈放されて現れるというハッピーエンドで、冒頭で母親が絞首刑になる場面を入れた改変を行っているデヴィッド・スーシェ版(第50話、2003年)の暗さの対極にある、このシリーズならではの明るさです。カタルシス効果もあって良かったのではないかと思います。

五匹の子豚09.jpg 原作では、母親が被害者の殺害現場にあったビール瓶の指五匹の子豚06.jpg紋を拭ったのを見たと言う元家庭教師の後からの証言から、それこそ彼女が犯人ではないことを証明するものだというポワロの洞察が導かれるわけですが、この映像化作品では、当時5歳くらいだった娘に、二十歳過ぎの今になって、母親のそうした所為を見た記憶が甦ってくるというふうに改変されていて、これは改変する必要があったのかなとも。

 妻と愛人が同居する生活に自らも翻弄されながらも、愛人をモデルに絵を描くことに没頭し、現実の問題を解決しようともしなければ、女性心理を見抜くことも出来なかった被害者の画家は、いかにも芸術家らしいエゴを体現していていました。

殺意のキャンパス011.jpg殺意のキャンパス TITLE.jpg そう言えば、「刑事コロンボ」の中にも、「殺意のキャンバス」(Murder, a Self Portrait、第50話、1989年)という、3人の女性(妻・前妻・愛人)と海辺のコテージで暮らす天才画家の話がありました。こうした状況設定のモデルはパブロ・ピカソ(1881-1973)だそうです。

Murder, a Self Portrait.jpg殺意のキャンパス022.png 「殺意のキャンパス」の方は、前妻は隣りのコテージに住んでいますが、今の妻と絵のモデルの愛人は自分のコテージに同居させていて、何れにせよ、妻妾同居はトラブルの元―といったところでしょうか。

 この画家マックス・バーシーニ(パトリック・ボーショー)は、実は過去に画商を殺害しており、前妻もその秘密を知っていて、精神分析治療の際に過去の出来事に関連する事柄を口走りはじめるようになった前妻を、画家が身の危険を感じて殺害するというもので、殺害のトリックは、酒場の店主ヴィト(ヴィト・スコッティ)に頼まれた絵を、昔その酒場の2階で自分がアトリエとして使っていた部屋に籠殺意のキャンパス01.jpgって描いていたとうことをアリバイに、実は既に出来上がっていいる絵を持ち込んで、その間にアトリエを抜け出して海辺で日光用中の前妻を殺害するというもの。3人の女性との暮らしがギクシャクして、前妻を殺したら多少は落ち着くかと思ったら、現在の妻も愛人も画家の自己チューぶりに愛想をつかして出て行ってしまうという展開も皮肉がよく効いていて、80年代終わりに始まった新・シリーズの中では、比較的よく出来ている方ではないでしょうか。

殺意のキャンパス021.jpg殺意のキャンパス ヴィと1.jpg このシリーズのコメディっぽいシーンに欠かせない俳優ヴィト・スコッティは、新旧シリーズ通して6話に登場していて、これが最後となりました。この作品以前は、第19話「別れのワイン」のレストラン支配人、第20話「野望の果て」のテーラーの主人、第24話「白鳥の歌」の葬儀屋、第27話「逆転の構図」の浮浪者、第34話「仮面の男」のぶどう輸入会社社長の役で出演しています。 
  
  
五匹の子豚05.jpg五匹の子豚08.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第7話)/五匹の子豚」」●原第7話)/五匹の子豚 dvd.jpg題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/CINQ PETITS COCHONS(Five Little Pigs)●制作年:2010年●制作国:フランス●本国上映:2011/4/8●監督:エリック・ウ ォレット●脚本:Sylvie Simon●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Julia Vaidis-Bogard /Vincent Winterhalter/Michel Muller/Prune Beuchat /Eglantine Rembauville/Gabrielle Atger/Marine Mendes/Lily-Rose Miot ●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

新・刑事コロンボDVDコレクション 05.jpg殺意のキャンパス00.jpg「刑事コロンボ(第50話)/殺意のキャンバス」●原題:MURDER, A SELF PORTRAIT●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・フローリー●製作:スタンリー・カリス●脚本:ロバート・シャーマン●音楽:パトリック・ウィリアムズ●時間:90分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・フォックスワース/パトリック・ボーショー/フィオヌラ・フラナガン/シーラ・ダニーズ/イザベル・ロルカ/ヴィト・スコッティ/ジョージ・コー/デヴィッド・バード●日本初放送:1994 /11●放送:NTV:★★★☆) 
隔週刊 新・刑事コロンボDVDコレクション 2013年 8/6号 [分冊百科]

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2406】「名探偵ポワロ(第13話)/消えた廃坑 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

映像化によりカリブ海リゾートのイメージが掴めた。ドナルド・プレザンスの老富豪役も嬉しい。

カリブ海の秘密 dvd1.jpg カリブ海の秘密 dvd2.jpg カリブ海の秘密 01.jpg カリブ海の秘密 011.jpg
ミス・マープル 第4巻 カリブ海の秘密 [DVD]」「ミス・マープル/カリブ海の秘密 [完全版]VOL.5 [DVD]」 
ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)/パルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)/ヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)
カリブ海の秘密 1989Joan Hickson.jpgカリブ海の秘密 1989Frank Middlemass.jpgカリブ海の秘密 1989Valerie Buchanan.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は、甥のレイモンドに持病の気管支炎の転地療養を勧められ、カリブ海のバルバドス島のホテルに滞在していた。ある日、宿泊客の一人で自慢話好きのパルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)から、2件の妻の自殺に関わった殺人容疑者だという人物の写真を見せられようとした時、彼がマープルの肩越しに誰かを見てそれをやめ、財布に写真をしまってしまうということがあった。その晩に酔っていた少佐は、翌朝自分の部屋で死んでいるのを部屋係のヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)に発見される。ヴィクトリアは少佐の部屋で死亡前には無かった不審な錠剤を見つける。
ティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)/モリー(ソフィー・ウォード)/グレアム医師(T・P・マッケンナ)
カリブ海の秘密 1989Adrian Lukis.jpgカリブ海の秘密 1989Sophie Ward.jpgカリブ海の秘密 1989 T.P. McKenna.jpg ホテルの経営者ティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)とヴィクトリアから報告を受けたティムの妻モリー(ソフィー・ウォード)は、グレアム医師(T・P・マッケンナ)に相談する。医師は大佐の死は高血圧によるものと判断するが、一応、ネピア総督(ショーガン・シーモア)に依頼してウェストン警部(ジョゼフ・マィデル)に埋葬した死体を再検査させる。
イヴリン(シェイラ・ラスキン)/エドワード(マイケル・フィースト)/ラッキー(スー・ロイド)
カリブ海の秘密 1989 Sheila Ruskin.jpgカリブ海の秘密 1989Michael Feast.jpgカリブ海の秘密 1989Sue Lloyd.jpg マープルはヴィクトリアから、彼女の叔母(イサベラ・ルーカス)が住む村へ招待され、その叔母からSophie Ward & Sheila Ruskin.jpgホテル経営者夫婦の来歴を聞く。ヴィクトリアは、錠剤を本来の持ち主グレッグ(ロバート・スワン)に返す。モリーは一時的に記憶を失うことがある不安を滞在客のイヴリン(シェイラ・ラスキン)に打ち明ける。イヴリンの夫でグレッグに雇われている蝶学者エドワーカリブ海の秘密 1989 Donald Pleasence.jpgド(マイケル・フィースト)は、最初の妻の看護婦で今はグレッグの妻であるラッキー(スー・ロイド)と関係しながらも、妻イヴリンとはとりあえず一緒にいる。カリブ海の秘密 Sue Lloyd .jpgそうした中、モリーが夕食時に、樹の傍で刺殺されているヴィクトリアを発見する。ホテルに滞在していた車椅子の大富豪ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレザンス)は、最初はミス・マープルのことを嫌っていたが、やがて彼女の観察眼の鋭さに気づき、マープルと共に連続殺人事件の推理を始める―。
ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレザンス)

A Caribbean Mystery.jpgカリブ海の秘密 クリスティー文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第10話(本国放映は1989年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第9作(原題:A Caribbean Mystery)。

 ミス・マープルとカリブ海のリゾートという取り合わせが興味深いですが、原作ではリゾート地の描写があまりされておらず、その分、映像的にどう作るかが一つの見所となり、また、作品のイメージをより身近に感じられるものでもありました。
 
 ストーリー的にも、牧師一行を宿泊客から割愛して登場人物を簡素化したり、マープルがヴィクトリアの実家を訪ねたり、或いはウェストン警部がミス・マープルの名を知っていたりとか一部改変はありますが、ほぼ原作に忠実で、宿泊客の2組の夫婦のドロドロな関係もよく描き分けている印象。犯人は、当初マープルも想定していなかった意外な人物ですが、原作ではその伏線があまり無く、最後まで誰が犯人か判らなかったけれど、この映像化作品では、大佐が殺害される夜に、犯人を示唆するシーンが一瞬あります。しかし、その後、宿泊客のそれぞれが不審な行動をはじめ、そちらの方へミスリードされるようになっていて、その"不審な行動"のそれぞれに理由があるという点で、原作の旨さを改めて認識した次第です。

刑事コロンボ 別れのワイン.jpg別れのワイン ラスト.jpg ミス・マープルと共に推理を展開することになる偏屈な金持ちの車椅子老人ラフィールを(この老人とミス・マープルとの当初険悪だった関係が、やがて共闘関係に転じていくところが本作の面白みの一つ)、映画「大脱走」('63年)でのバイプレーヤーぶりが光り、「刑事コロンボ/別れのワイン」('73年)ではシリーズ最高の犯人役を演じたと評されるドナルド・プレザンス(1919-1995)が演じているのが嬉しいです。

カリブ海の秘密 03.jpg 原作に対しては、やはり伏線が無かった分"掟破り"の印象を抱かざるを得ませんでしたが、この映像化作品ではそのヒントを与えているし、プロットが結構粗いところを、キャラクターをきちんと描き分けてドロドロした人物相関を浮かび上がらせることで補っている原作に倣って、この映像化作品も、ドラマ部分が丁寧に描かれているというか、説明的で分かりやすかったです(原作を先に読んでいるということもあるが)。

カリブ海の秘密 01.jpg 個人的には、原作が星3つ半の評価に対して、原作の魅力を忠実に再現しているという点、プラス、映像化によりカリブ海リゾートのイメージが掴めたり、ドナルド・プレザンスとジョーン・ヒクソンの演技競演が見られたりしたことを加味して星4つ。ミス・マープルがヴィクトリアの葬儀に参列するなども原作からの改変ですが、そのことによって「復讐の女神」というキータームの意味が明確化することに繋がっており、ここまできちんと作られてしまうと、後に来る映像化作品は、独自の改変を加え、"改変の妙"を狙ったものにならざるを得ないのかなあと。ストレートで勝負して、このジョーン・ヒクソン版を超えるのは難しいのでは。

A Caribbean Mystery 1989.jpg「ミス・マープル(第10話)/カリブ海の秘密」」●原題:A CARIBBEAN MYSTERY●制作年:1989年●制作国:イギリス●本国放映:1989/12/25●演出:クリストファー・ペティット●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ミドルマス/エイドリアン・ルーキス/ソフィー・ウォード/ドナルド・プレザンス/ロバート・スワン/シェイラ・ラスキン/ショーガン・シーモア/ジョゼフ・マィデル/マイケル・フィースト/スー・ロイド/バーバラ・バーンズ/スティーヴン・ベント/ヴァレリー・ブキャナン/イサベラ・ルーカス●日本放映:1996/04/09●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2401】 「名探偵ポワロ(第1話)/コックを捜せ 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

クラッケンソープ家の兄弟関係などは原作に忠実。スーパー家政婦のイメージも原作に近い。

パディントン発4時50分 dvd.jpg  パディントン発4時50分 1987.jpg  パディントン発4時50分 07.jpg  パディントン発4時50分 クリスティー文庫.jpg
ミス・マープル 第3巻 パディントン発4時50分 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.4 [DVD]

パディントン発4時50分 01.jpg セント・メアリー・ミードへ行くためにパディントン発4時50分の急行列車に乗ったマクギリカティ夫人(モナ・ブルース)は、平行して走る列車を追い越す際に窓越しに女性が絞殺される瞬間を目撃、その話を信じるミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はスラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)に捜査を依頼するが、警察は手掛かりを見つけられず、夫人の勘違いだろうと片づける。そこでミス・マープルは、同じ列車に乗って犯人が死体を遺棄した場所を推察パディントン発4時50分 05.jpgし、フリーのハウスキーパーのルーシー・アイレスバロウ(ジル・ミーガー)に調査を依頼し、付近にあるクラッケンソープ家の住むラザフォード邸に彼女を家政婦として送り込む。屋敷の当主ルーサー(モーリス・デパディントン発4時50分 04.jpgンハム)は、先代の遺言で屋敷や土地を勝手に処分することはできず、遺産は彼の子供らにいくことになっていて、年一回相続権のある人間が集まって会食を開くことも遺言により決まっている。父の世話をしている長女エマ(ジョアンナ・ディヴィッド)のほか、屋敷に集まってきたのは、次男の画家セドリック(ジョン・ハラム)、三パディントン発4時50分 06.jpg男の銀行家ハロルド(バーナード・ブラウン)、四男のディーラーのアルフレッド(ロバート・イースト)、亡くなった次女の夫で子連れの保険会社員ブライアン(ディヴィッド・ビームズ)と息子のアレクサンダー及びその寮友達、そしてクインパー医師(アンドリュー・バート)。見届け人は、弁護士のアーサー・ウィンボーン(ウィル・ティシー)。ルーシーは古い納屋の石棺で女性の死体を見つけ、警察がその身元を探るうちに、今度は事故に見せかけてハロルドが森で殺される―。

パディントン発4時50分 ハヤカワ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第9話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1957年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第7作(原題:4:50 From Paddington)。日本では1996年4月8日にテレビ東京「午後のロードショー」で放映され、1982年から放送が始まった同番組で最初に放映されたテレビシリーズがミス・マープルシリーズですが、そのミス・マープルシリーズの中で一番最初に放映されたのがこのエピソードです(以降、テレビ東京でのシリーズ作の放映が何作か続くが、結局放映されなかったエピソードもある)。

Miss Marple - 450 From Paddington.jpg 2004年に作られたジェラルディン・マキューアン主演のグラナダ版の同原作TVドラマ(左)が、クラッケンソープ家の男兄弟の順番を入れ替えたりしているのに対し、こちらは原作に忠実で、但し、原作でルーシー・アイレスバロウを巡って恋の鞘当をする画家セドリックと次女の夫ブライアンが、原作では結局ルーシーがどちらを選んだか明かしてしないのに対し、この映像化作品ではセドリックが最初から横柄なキャラクターとして描かれているため、彼がどれだけ強引にルーシーに言い寄ろうと、最終的にはルーシーがセドリックを選ぶことはまずないだろという大方の予想がつくようになっています。
David Horovitch
David Horovitch  'Miss Marple' (1987) 1.9.jpgミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分59.jpg その他にも、原作のクラドック警部(原作の『予告殺人』にも登場)ではなく、スラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)が登場、彼はこのシリーズで第5話「牧師館の殺人」事件でミス・マープルに面目を潰されたこともあってか、シリーズ中ほとんどずっとミス・マープルを疎ましく思っているという設定で、このシリーズの第3話「予告殺人」に登場のスコットランドヤードのダッカム警部(デイヴィッド・ウォラー)が積極的にミス・マープルの意見を参考にする(ミス・マープルは旧知の友?)という描かれ方と対照的であるのも興味深いです(スラック警部もシリーズの最後の方第11話「魔術の殺人」でミス・マープルと和解(?)し、第12話「鏡は横にひび割れて」では「警視」に昇進、クラドック警部にミス・マープルに相談するようアドバイスする)。

 兄弟関係を原作通りにしているため、セドリックが偽悪的に描かれているほかは、各キャラクター造型は大体しっくりくるものがあり、何よりもジル・ミーガー演じるスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが極めて原作に近い印象で、また、十分に魅力的、二人の男性に言い寄られて困惑する女性らしさも出ていました(グラナダ版で同役を演じたアマンダ・ホールデンは、今風と言うかアメリカ的なドライな感じ)。料理を作るシーンなどが無かったグラナダ版と比べると、ちゃんと料理もするし、最初から家族と同じ食卓につくようなこともありません。

 屋敷の作りなども本格的で、こんな大邸宅が舞台だったのかと。「納屋」と言ってもスケールが違う。ルーシーは広い庭園でゴルフの練習をするなど、家政婦にしてはハイブロウですが、彼女は元々オックスフォードを優秀な成績で卒業した才媛、但し、奉公先に高級クラシックカーで乗り付けたグラナダ版アマンダ・ホールデンのルーシーの過剰なセレブぶりよりは、これもしっくりきました(ゴルフ練習も実は行方不明の死体探しの方便)。

 セドリックの描き方の改変だけでなく、戦争の英雄でありながら今は一保険会社員に甘んじ屈折気味のブライアンが、ルーシーに感化されて前向きに行動するようになり、最後は犯人逮捕劇でヒロイックなアクションを演じるという、自信を回復してルーシーに相応しい男性へと変貌していく過程が織り込まれていることもあったりして、細部においては原作からの改変が幾つか見られますが、全体としては原作にほぼ忠実、原作のプロットや雰囲気を知る上ではぴったりの作品であり、また、原作の持ち味がよく出ているように思いました。

4:50 FROM PADDINGTON 87.jpg「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」」●原題:4:50 FROM PADDINGTON●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:マーティン・フレンド●脚本:T.R.ボウエン●時間:日本放映版110分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/モーリス・デンハム/デヴィッド・ボロヴィッチ/デヴィッド・ビームス/モナ・ブルース/ジル・ミーガー/ジョアンナ・デヴィッド/ アンドリュー・バート/ジョン・ハラン/ローダ・ルイス/バーナード・ブラウン/ロバート・イースト/イアン・ブリンブル/ウィル・ティシー●日本放映:1996/04/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


●テレビ東京「午後のロードショー」でのシリーズ作放映年月日()内「話数」は本国放映順。「午後のロードショー」放映時のタイトルはいずれも頭に「アガサ・クリスティ」とつき、"短縮版"が放映された。

・1996年4月8日(月)...「ミス・マープル・パディントン発4時50分」(第9話)日本放映版110分(完全版204分)
・1996年4月9日(火)...「ミス・マープル・カリブ海の秘密」(第10話)日本放映版108分(完全版203分)
・1996年4月10日(水)...「ミス・マープル・復讐の女神」(第8話)日本放映版106分(完全版204分)
・1996年5月7日(火)...「ミス・マープル・バートラム・ホテルにて」(第7話)日本放映版108分(完全版205分)
・1996年5月8日(水)...「ミス・マープル・スリーピング・マーダー」(第6話)日本放映版108分(完全版203分)
・1997年3月6日(木)...「ミス・マープル・ポケットにライ麦を」(第4話)日本放映版102分(完全版196分)
・1997年3月7日(金)...「ミス・マープル・牧師館の殺人」(第5話)日本放映版95分(完全版188分)
・1997年3月13日(木)...「ミス・マープル・動く指」(第2話)日本放映版95分(完全版189分)
・1997年3月19日(水)...「ミス・マープル・鏡は横にひび割れて」(第12話)日本放映版93分(完全版204分)
・1997年3月14日(金)...「ミス・マープル・魔術の殺人」(第11話)日本放映版93分(完全版204分)

※ 第1話「書斎の死体」(156分)と第3話「予告殺人」(155分)だけこの時放映されていない(2時間枠の番組に対し、この2作はテレビ放映用の"短縮版"が作られていない)。

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1960】 「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

概ね原作に忠実だが、元が過去の事件だからなあ。映像化しにくい原作?

復讐の女神 dvd1.jpg 復讐の女神 dvd.jpg  復讐の女神 主要登場人物.jpg   復讐の女神 ハヤカワ文庫.jpg
ミス・マープル 第7巻 復讐の女神 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.1 [DVD]

missmarple460.jpg 老富豪ラフィ-ル(フランク・ガットリフ)は、秘書(バーバラ・フランチェスキ)にミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)のことを"復讐の女神"だと言っていた。一方ミス・マープルは、妻に追い出された甥のライオネル(ピーター・ティルベリー)を同居させていたが、新聞記事でラフィールの死を知り、カリブ海の島で彼と共に殺人事件を解決したことを思い出した。彼女はラフィールの弁護士ブロードリッブ(ロジャー・ハモンド)とシャスター(パトリック・ゴッドフリー)から、彼が遺言でマープルを「館と庭園の史跡巡り」バス・ツアーに"正義に関心があるならば"と招待していたことを知らされ、礼金は2万ポンドだが調査目的は不明。マープルは、何を解決すべきか分からないながらも故人の期待に応えるべく、ライオネルと共にツアーに参加することに。ツアーがアビー・デューシスに着いた時、旧領主邸からラヴィニア(ヴァレリー・ラッシュ)が、マープルに邸に泊まるよう迎えにを来て、ラフィールの手配であるというこ復讐の女神 03.jpgの招待を彼女は受ける。邸には、彼女の姉クロチルド(マーガレット・ティザック)と妹アンセア(アンナ・クロッパー)がいたが、姉妹は、何年か前にラフィールの息子マイケル(ブルース・ペイン)との婚約後に殺されたヴェリティの親権者だった。マイケルは証拠不十分で釈放され、貧民街で暮らしていた。そんな中、ツアーのメンバーの一人で、かつてヴェリティの教師だったエリザベス・テンプル(ヘレン・チェリーが何者に博物館で石像を落とされて意識不明の重態に。テンプルは、マープルに「あの人たちにヴェリティの真実を聞いて」との言葉を遺して亡くなる。ツアーに参加していたクック(ジェイン・ブッカー)とバロー(アリソン・スキルベック)の女性二人組はマープルを見張っている。同じくツアーメンバーのワンステッド教授(ジョン・ホースリー)は、ラフィールが依頼した犯罪心理学者、これもまたラフィールに呼び寄せられたというブラヴァゾン大執事(ピ-ター・コプリー)は、マイケルとヴェリティは真に愛し合っていたと証言し、ヴェリティは行方不明後半年して水路で顔を潰された死体で発見されたと言う。教授は同時期に行方不明になった少女ノラ・ブレントの母(リズ・フレィサー)に会い、一方マープルは、殺人の動機は"強い愛情"だと断言する―。

復讐の女神 クリスティ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第8話(本国放映は1987年)。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1971年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第11作(原題:Nemesis)で、『カリブ海の秘密』の後日談であり、マープルものでは最後に書かれた長編(この後、続編が予定されていたが、作者の死により未完)。

復讐の女神 1984 01.jpg 『カリブ海の秘密』の「後日談」なのに、このジョーン・ヒクソン版のシリーズでは「カリブ海の秘密」の2年前に作られ放映されていて、そのこと自体が、原作が「続編」と言うより後日談としての「別事件」であることを物語ってはいますが、原作では、ラフィ-ルさんはああ言った、こう言ったという話は結構出てくるんだよなあ(後に作られた「カリブ海の秘密」('89年)では、大富豪ラフィ-ルは、「刑事コロンボ/別れのワイン」('73年)のドナルド・プレザンスが演じている)。

復讐の女神 ラフィ-ルの息子マイケル.jpg ストーリー自体は基本的には原作に忠実ですが、原作では、甥のライオネルがミス・マープルと共にツアーに参加するどころか登場もせず(マープルの単独参加)、エリザベス・テンプルは博物館で石像を落とされて重傷を負うのではなく、野外で岩石を落とされて重体に。また、ラフィ-ルの息子マイケルは、原作では釈放されず収監されているため、貧民窟で貧民救済活動をしているなどといったことはなく、事件解決後に初めて登場する―細かいことを言えばそれ以外にも幾つかありますが、トータルでは概ね原作通りで、このシリーズの基調を外れていません。

 但し、大元(おおもと)の事件が過去のものであるため、それを映像化しないところは原作に忠実ですが(映像化すると"映像のウソ"になってしまうというのもあるが)、その分、やや印象的に弱いような...。原作(マープル物としてはマープルが単身で積極的に謎の解明に関与するという特異な部類?)を大きく下回るものでもないが、原作を超えるものでもないという印象でしょうか。
 2004年以降に作られたグラナダ版のミス・マープルシリーズにおいて、この作品が"純正マープル物"でありながらも今のところ('13年現在)映像化されていないのも、その辺りに理由があるのではないかな。

Miss Marple Nemesis dvd.jpg「ミス・マープル(第8話)/復讐の女神」」●原題:NEMESIS●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・トッカー●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版106分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ガットリフ/ピーター・ティルバリー/ ブルース・ペイン/ ジェーン・プーカー/ヘレン・チェリー/ジョン・ホースリー/アリソン・スキルベック/ ピーター・コプリー/マーガレット・チザック/ヴァレリー・ラッシュ/ロジャー・ハモンド/パトリック・ゴッドフリー/リズ・フレィサー●日本放映:1996/04/10●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1959】 「ミス・マープル(第8話)/復讐の女神 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

原作自体に好き嫌いはあるかと思うが、少なくとも原作の持ち味は出し尽くされていた。

バートラム・ホテルにて dvd01.jpg バートラム・ホテルにて dvd02.jpg  バートラム・ホテルにて 02.jpg  バートラム・ホテルにて ハヤカワポケット.jpg
ミス・マープル 第5巻 バートラム・ホテルにて [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.2 [DVD]

バートラム・ホテルにてJoan Hickson 1987.gifバートラム・ホテルにて 1987Caroline Blakiston.gifバートラム・ホテルにて 01.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)が、甥のレイモンドの好意でしばらく滞在することになった古風な格式をが売りの「バートラム・ホテル」。そこに偶々、女性冒険家のベス・セジウィック(キャロライン・ブラキストンン)も投宿していた。ミス・マープルはべス・セジウィックが結婚・離婚を繰り返していることを友人のセリナ(ジョーン・グリーンウッド)から聞く。
バートラム・ホテルにて 1987James Cossins.gifバートラム・ホテルにて 1987Helena Michell.gifバートラム・ホテルにて 1987バートラム・ホテルにて 1987.gif 同ホテルには、ラスコム大佐(ジェイムズ・コッシンズ)が姪と称するエルヴィラ・ブレイク(ヘレナ・ミッチェル)と宿泊しているが、実はエルヴィラはべス・セジウィックの娘で、21歳になると莫大な資産を相続することになっていて、大佐は彼女の後見人であった。また彼女は、母親べス・セジウィックの若い愛人でレーサーのラディスラウス(ロバート・レイノルズ)と連絡を取り合っている。
バートラム・ホテルにて 1987George Baker.gifバートラムPreston Lockwood.gif ホテルが大規模な強盗事件と関係があると以前から睨んでいて、ホテルで張り込みを続けているフレッド警部(ジョージ・ベイカー)は、ミス・マープルに警部であることを見抜かれてしまう。そんな中、宿泊客の一人ペニファーザー牧師(プレストン・ロックウッド)が大事な会議の日を間違えて飛行機に乗れずホテルに戻ってきたところを何者かに襲われ、そのまま失踪するという事件が発生した。 
バートラム・ホテルにて 1987 Neville Phillips.gifバートラム・ホテルにて 1987Brian McGrath.gif フレッド警部は失踪事件を捜査する警部に同行し、ホテルの受付係りやボーイ長のヘンリー(ネヴィル・フィリップス)らに聞き込みをするが、強盗事件、失踪事件とも手掛かりが得られずにいた。そこへ、離れたところで交通事故にあったらしく記憶を失っている牧師が戻ってきて、彼は自分の部屋で"鏡"を見たという。そんな中、ベスの元夫でホテルのドアマンのマイケル・ゴーマン(ブライアン・マクダラス)がホテル前で射殺される。銃撃されたエルヴィラを庇って自分が撃たれたらしい。犯罪組織の黒幕は誰か。ゴーマンを射殺したのは誰か―。

バートラム・ホテルにて ハヤカワ文庫.jpgバートラム・ホテルにて クリスティー文庫2ー.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第7話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表された作品(原題:At Bertram's Hotel)。

 この映像化作品のプロローグでは、列車でロンドンのホテルに向かうミス・マープルと、航空機でホテルに向かうベス・セジウィックが交互に出てきますが、これ、ハヤカワ・ミステリ文庫の真鍋博(1932-2000)による表紙イラストのモチーフと同じです(真鍋博の発案の方が先か。重なったのは偶々だと思う)。

バートラム・ホテルにて 03.jpg 内容はほぼ忠実に原作をなぞっており、この作品の主人公は、表向きは由緒正しく、実は犯罪組織の大掛かりな犯罪のための「舞台装置」である「バートラム・ホテル」そのものであると言ってもよく、それだけにそのホテルをどう撮るかというのが一つの大きなポイントになるわけですが、雰囲気がよく出ているなあという印象(ミス・マープルは、あまりに昔のままであることに却って違和感を抱くわけだが)。原作でかなりの分量を割いているAT BERTRAM`S HOTEL 19871.jpgホテル内の描写や、そこで行われるお茶会の模様が、映像だと一発で分かるわけで、そこが映像の強みですが、逆にイメージと違ったりすると大きな引っ掛かりになるわけで、その点に関しては、この映像化作品は一定水準をクリアしているように思いました。

AT BERTRAM`S HOTEL 19872.jpg 更に、エルヴィラがベス・セジウィックの娘であることも原作よりも早くから明かされており、ますますテンポがいいと言うか、娘エルヴィラに冷たく接するベス・セジウィックの真意というのが作品の一つのテーマになっているため、ドンデン返しの結末の伏線として、早い段階に母娘の対面を持ってきたのも悪くないように思いました。

AT BERTRAM`S HOTEL 19874.jpg この作品、前半部分は、ホテルが何らかの秘密を抱えているらしいという、その謎がメインであって、一方、エルヴィラは、自分の相続関係を調べまくっています。原作を知らないで観ると、メイドが牧師の部屋に入っていったところでその死体を見つけるというのが、時間帯的にもそろそろといったタイミングであるように思われることから、「死体発見シーン」的な典型的な効果音につられて、ついそう思い込んでしまうでしょう。原作を知らない人向けの演出だったんだなあ、あれは(バックの音楽とは裏腹に何も起きないわけだが、このメイドも"一味"だったみたい)。行方不明になった牧師が戻ってきて、ミス・マープルが"鏡"を見たという彼の言葉を頼りに実地検分してみせる場面は、"適度に解説的"でいいのではないかなあ。

 そうこうしているうちに、ドアマンが射殺されるという殺人事件が起きるのですが、それは原作同様、やっとこさ終盤近くになってから。但し、終盤に畳み掛けるように事件の全貌を明かす原作に対し、この映像化作品の方は、途中で少しずつコトの経緯を明かしている印象です。

 それでも、フレッド警部(彼自身が"やり手"であるにも関わらず、次第にミス・マープルべったりになっていく様が愉快で、いい味出している)が"犯人"の自供につられ「組織の黒幕」=「射殺犯」と思い込むに対し、ミス・マープルの意外な謎解きがあって充分に楽しめ、エゴイスティックな犯人は、その場においては見逃されてしまった原作とは異なり(原作のままでは一般には後味悪かろうと考えたのか)しっかり逮捕連行されています。

 原作も好き嫌いはあるかと思いますが、少なくとも原作の持ち味は十分に出し尽くされていた映像化作品ではないでしょうか。ここまでしっかり作られると、後から再映像化する側が、原作にヒネリを加えたくなるのは分かります。2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版では原作を大胆に翻案していますが、それはそれで成功しているように思いました。
 
Agatha Christie's Miss Marple 1.jpg「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて」」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:メアリー・マクマーレイ●脚本:ジル・ハイエン●時間:日本放映版108分(完全版205分)●出演:ジョーン・ヒクソン/キャロライン・ブラキストン/ヘレナ・ミッチェ/ジェームス・コッシンズ/ジョアン・グリーンウッド/ジョージ・ベイカー/ プレストン・ロックウッド/ブライアン・マクダラス/ロバート・レイノルズ●日本放映:1996/05/07●放映局テレビ東京(評価:★★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1958】 「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

原作にほぼ忠実であり、原作同様に推理を堪能できるのではないか。

スリーピング・マーダー dvd00.jpg  スリーピング・マーダー dvd.jpg  スリーピング・マーダー 001.jpg  スリーピング・マーダー クリスティー文庫.jpg
ミス・マープル 第2巻 スリーピング・マーダー [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.3 [DVD]

Sleeping Murder, 1987 002.jpg ニュージーランドで育ったグエンダ・リード(ジェラルディン・アレクサンダー)は、夫ジャイルズ(ジョン・モルダー=ブラウン)と新居を購入したが、屋敷の持ち主に案内される前に寝室の場所が分かったり、庭師に頼んだ階段が既に柳の木の下にあったり、建築家に頼んだ扉が壁の裏側にあったりと、初めてのはずの家の中を隅々まで知っているような感覚を抱く。
スリーピング・マーダーDavid McAlister.gif 夫ジャイルズは、ロンドンに住む従弟のレイモンド・ウェスト(ディヴィッド・マカリスター)夫とその妻に会ってグエンダを紹介、レイモンドの叔母ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)と皆で観劇に行くが、劇中の夫が妻を絞殺する場面で、グエンダは恐怖に駆られ叫び出し、マープルはそれは彼女の過去の記憶のせいだと推理、過去は掘り返さない方がよいと助言しつつも調査したところ、グエンダの父はインドから英国へ帰航中にへレンと会って結婚したが、新妻は駆け落ちしていたことが分かる。
スリーピング・マーダー 1987 13.jpg グエンダがヘレンの情報を求める新聞広告を出すと、ヘレンの兄ジェイムズ・ケネディ医師(フレデリック・トレヴェス)が訪ねて来て、彼の話をもとに父の居たナトリウムを訪ね、父の死が、自分がヘレンを絞殺したという妄想に駆られての自殺だったことを知らされる。ヘレンには誰か他の男がいたらしく、グエンダはヘレンの恋人だった男を探し出し、弁護士ウォルター・フェーン(テレンス・ハーディマン)、退役少佐リチャード・アースキン(ジョン・ベネット)、観光会社経営ジャッキー・アフリック(ケネス・コープ)らと会うが、彼らは皆ヘレンに振られただけのようで、犯行証拠は得られない。
 しかし、元料理人イーディス・パジェット(ジーン・ヘイウッド)から、ヘレンの駆け落ち当夜、メイドのリリー(エリル・メイナード)が、旅行鞄の洋服の不自然さから、駆け落ちは見せかけで本当は旦那様に殺されたんだと言っていたことを聞き、リリーから話を聞こうとするが、リリ-は会いに来る途中で絞殺される。マープルが、屋敷の庭の不自然に植えられた柳の下を警察に依頼して掘らせると、そこにはヘレンの死体が埋まっていた―。

スリーピング・マーダー 1987 22.jpg スリーピング・マーダー 文庫.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第6話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、その遺言により没後の1976年に刊行された作品(原題:Sleeping Murder)。

 新居探しを夫婦でするなど原作と一部の違いはありますが(原作ではグエンダが単独で探す)、概ね原作に忠実に作られており、原作が充分に推理を堪能できるものであるだけに有難いなあと。これも、「原作を読んだ気」になりたければ、お薦めの映像化作品。

Sleeping Murder, 1987 003.jpg グエンダを演じるジェラルディン・アレクサンダーは、グラナダ版「スリーピング・マーダー」('06年/英)でグエンダを演じたソフィア・マイルズほどには今風の美女というわけではないけれど、本作においては新妻らしさが出ていて良く、ジョン・モルダー=ブラウン(かつて、マクシミリアン・シェル監督、ツルゲーネフ原作の映画「初恋(ファースト・ラブ)」('70年/西独)やイェジー・スコリモフスキー監督の「早春」('70年/英)に美少年俳優として主演)演じるジャイルズもいいです。すぐに仕事に就かなくてもいいという状況設定であるにしろ、根気強く妻の過去の探求に付き合って、いい旦那さんだなあと(まあ、新婚だからね)。

 ヘレンの元恋人たちの、弁護士がマザコンぽかったり、退役少佐が嫉妬深い妻の元であまり幸せそうでなかったり、観光会社経営者が破れた恋を忘れるかのように仕事と趣味に生きていたりする人物造型などもほぼ原作通りですが、主人公である若く希望に満ちたカップルとの対比で、恋愛や夫婦生活というものの様々な位相を上手く見せているように思いました。

 しいて言えば、犯人役が、出てくるなり怪しいという印象を受けなくもないですが、こっちが犯人だと分って観ているせいもあるのかも。原作同様、犯行動機が最後まで伏されているため、原作を未読の人には、推理の面でも楽しめると思います(DVDジャケットが、ミス・マープルがラストで珍しくアクションをすることを仄めかしていて、やや他のものと雰囲気が異なるなあ)。

Sleeping Murder, 1987 001.jpg「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」」●原題:SLEEPING MURDER●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:ジョン・デイビス●脚本:ケン・テイラー●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソ/ジェラルディン・アレクサンダー/ジョン・モルダー=ブラウン/フレデリック・トレーヴス/ジーン・アンダーソン/テレンス・ハーディマン/ジョーン・スコット/エイリル・メイナード/ケネス・コープ●日本放映:1996/05/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1957】「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

「原作を読んだ気」になりたければ押さえておくべき作品だが、犯行トリックが分かりにくい。

牧師館の殺人 dvd.jpg  牧師館の殺人 dvd2.jpg 牧師館の殺人 t2.jpg    牧師館の殺人 クリスティー文庫 新訳.jpg
ミス・マープル 第10巻 牧師館の殺人 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.8 [DVD]

牧師館の殺人010.jpg セント・メアリ・ミード村の牧師クレメント(ポール・エディントン)の若妻グリセルダ(チェリル・キャンベル)は料理が苦手なメイドに不満を抱いている。そのメイドのマリー(レィチェル・ウィーヴァー)は密猟で刑務所を出たばかりのアーチャー(ジャック・ギャロウェイ)と恋仲で、仕事の方はおざなり。クレメントが牧師館の離れを貸している画家レディング(ジェームス・ヘイゼルダイン)は、プロセロー大佐(ロバート・ラング)の妻アン(ポリー・アダムズ)と恋愛中で、前妻の娘レティス(タラ・マックゴーラン)の水着姿も描いている。副牧師ホゥズ(クリストファー・グッド)は情緒不安定であり、数日前から村に滞在している"謎の女"レストレンジ夫人(ノルマ・ウェスト)を、医師ヘィドック(マイケル・ブラウニング)は親身に思って診察している。そんな中、教会の募金が消えたことに疑いを持ち、帳簿を調べるために牧師館に来ていたプロセロー大佐が書斎で射殺体で見つかり、地元警察のスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)とレイク警部補(イアン・ブリンブル)が捜査に乗り出すが、画家のレディング自首し、誰もが事件は解決と思った。ところが彼にはアリバイがあって犯行不可能とされ、続いて、彼と恋仲にある大佐の妻アンが、自分が夫を殺害したと認めるが、これも筋が通らない―。

牧師館の殺人 マープル.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第5話(本国放映は1986年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1930年に刊行されたミス・マープルの長編初登場作品(原題:The Murder at the Vicarage)。ジョーン・ヒクソンはおおよそ80歳だったことになります(後に作られるジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)主演の「グラナダ版」は(「牧師館の殺人」は2004年制作)、マクイーワンは当時72歳ぐらいか)。

 ジョーン・ヒクソン版は、シリーズを通して時代設定を1950年代に統一しているため、この「牧師館の殺人」では、原作の戦前の話が戦後の話に置き換わっていますが(ジェラルディン・マクイーワン版もおそらくそう)、どちらかと言えば原作寄りに衣装や風俗、建物や自動車などを再現している感じで、ストーリー展開も原作に忠実です(但し、原作は牧師の手記の形をとっている)。

牧師館の殺人 01.jpg 例えば、この事件の犯人はわざとミス・マープルの目の前を通って行ったうえで犯行を犯し、彼女に捜査をミスリードする証言をさせるわけですが、事件後に捜査が始まってからの「マープル証言」の中での"振り返り"としてその場面が出てくるのに対し、グラナダ版ではリアルタイムでその場面を映しています。

 このように、BBCのこのシリーズは概ね原作に忠実に作られているため、映像化作品を通して「原作を読んだ気」「読み直した気」になりたければ、本作もやはり押さえておくべき作品でしょうか。

 グラナダ版の「牧師館の殺人」の方も、シリーズの中では改変が少ない方ですが(挙動不審の教授と助手のコンビをカットしていない点では、BBC版より原作に忠実?)、原作に無い人物が出てきたりするので、原作に忠実であることを求める人には好かれないのかも。但し、説明的に作られているという点では、このBBC版「牧師館の殺人」よりも犯行の時間差トリックが分かりよいので、BBC版を観てよく分からない部分があった人が、グラナダ版を観て腑に落ちるというこはありそうな気がします。

 画家がレティスの水着姿を描いていることになっているけれど、レティスの水着姿は映像としては出てこず(グラナダ版ではしっかりビキニ姿になっている)、但し、この作品のレティスそのものがあまり魅力的な女性に感じられず、むしろ、牧師の若妻グリセルダや、実はレティスの実の母親で不治の病にあるというレストレンジ夫人の方が、カメラアップに相応しい容貌かも。

牧師館の殺人 02.jpg これ観ると、スラック警部はミス・マープルとの出会いがしらから「事件のあるところにミス・マープルあり」とウンザリしている様子で、最後の最後までミス・マープルを疎ましく思っている印象を受けます。

 ラスト、メイドは恋人と一緒になれてハッピー、一方、マープルは若妻の妊娠を見抜いて、牧師にとってもハッピーエンドですが、レティスと実の母親である(これもマープルが見抜く)レストレンジ夫人が残り僅かながらも濃密な時間を持つことができたというモチーフが、やや脇に回っている印象も。

 ジョーン・ヒクソンの演技はこの作品でも定評通りで、派手さを抑えたちょっとくすんだトーンのセント・メアリ・ミードの描写も良かったですが、デジタル処理してもこのくすみは消えないのかという印象も。それと、オリジナルはもっと長尺(3時間強)であり、このシリーズのテレビ版は概ね上手く短縮編集されていますが、この作品についてはやはり、途中端折ったような印象を受けました。

 本当は関完全版を観て評価すべきなのでしょうが、この作品はテレビ放映でしか観ておらず、テレビでは今まで短縮版しか放映していないのではないかな。この「牧師館の殺人」について言えば、個人的には、グラナダ版の星4つに対してこのBBCの方は星3つぐらいかなあ、BBC版の評価がグラナダ版を下回るのは自分としては珍しいことだけれど、「短縮版としての評価」になってしまうため、その分BBC版にハンディがあるとも言えるかも。

牧師館の殺人.jpg「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人」」●原題:THE MURDER AT THE VICARAGE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ジュリアン・エイミーズ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版95分(完全版188分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ポール・エディントン/ロバート・ラング/シェリル・キャンベル/ポリー・アダムス/タラ・マクゴーラン/ジェームス・ヘイゼルダイン/デヴィッド・ホロヴィッチ●日本放映:1997/03/07●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1956】「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

美人が出てこないのが故レックスの周辺の暗さを物語っている感じ。原作にほぼ忠実。

ミス・マープル/ポケットにライ麦を dvd.jpg  A Pocketful of Rye title.gif Joan Hickson 1855.gif   ポケットにライ麦を クリスティー文庫2.jpg
ミス・マープル[完全版]VOL.7 [DVD]」 Joan Hickson in Agatha Christie's Miss Marple:A Pocketful of Rye
Rex Fortescue (Timothy West)
ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を timothy west.gif 投資会社社長レックス・フォーテスキュー(ティモシー・ウェスト)が事務所で、秘書のミミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を01.jpgス・グローブナー(スーザン・ギルモア)がお茶を運んだ直後に急死し、その上着のポケット一杯にライ麦が入っていた。ニール警部(トム・ウィルキンソン)とヘイ巡査部長(ジョン・グローヴァー)は数時間前に摂取されたアルカロイド系毒物が死因と鑑識医フレンチ(ルイス・マホニー)から聞き、朝食に毒を盛られたとみて、レックスの自宅であるイチイ邸に行く。
Mary Dove (Selina Cadell)Adele (Stacy Dorning) 
メリー・ダヴ(セリナ・ケイデル).gifStacy Dorning.jpg 家政婦メリー・ダヴ(セリナ・ケイデル)によれば、亡くなったレックスは皆に嫌われていた。若い後妻アディール(スティシー・ドーニング)はヴィヴィアン・デュボア(マーティン・スタンブリッジ)という男と浮気中であり、義理の姉エフィー・ヘンダーソン(ファビア・ドレイク)は階上の自室に籠り切り。邸には長男パーシヴァル(クライブ・メリン)とその妻ジェニファー(レイチェル・ベル)が同居し、他に執事クランプ(フランク・ミルズ)と料理人のクランプ夫人(メレリーナ・ケンドール)、メイドのエレン(ビュー・ダニエルズ)、マープルが躾けを教えたやや愚鈍な小間使いグラディス・マーティン(アネッテ・バッドランド)がいた。
Lance (Peter Davison)
ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を  ランス.jpg レックスにアフリカから呼ばれた次男のランス(ピーター・デビソン)が、貴族出身の未亡人での妻パトリシア(フランセス・ロウ)をホテルに置いて邸へ来た夜、アディールが飲み物で毒殺され、グラディスからの電話を受けたミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はマザー・グースの「6ペンスの唄」の歌詞を思い出す。彼女はイチイ邸にタクシーで駆けつけるが邸に入れてもらえず、ニール警部にメモを渡すも彼はそのメモを見ない。その夜、グラディスが洗濯物干し場で殺されているのが発見され、鼻には洗濯バサミが。マザー・グースの歌詞に沿えば、"つぐみ"が事件の背景にあるはずだとミス・マープルは警部に助言し、ランスはアフリカの"つぐみ"鉱山のことだろうと言う。レックスは昔その鉱山で鉱山技師のマッケンジーを見捨てて帰国しており、彼の子供がレックスへの恨みから犯行に及んだ可能性も。更には、犯行にあたって、男性と付き合いたいというグラディスの女心を巧みに利用した男がいるらしい―。

ポケットにライ麦を ハヤカワ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第4話(本国放映は1986年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)が1953年に発表したミス・マープルシリーズの長編第6作(原題:A Pocket Full of Rye)であり、マザー・グースの歌詞どおりに殺人が起きる所謂"見立て殺人"です。

 個人的には、原作を読んだ際には、最後の土壇場まで犯人が判らず(ニール警部も同様)、犯人に該当した人物は、『スリーピング・マーダー』の若夫婦や「トミー&タペンス」シリーズの"おしどり探偵"のように事件の真相を探る側に属していると思い込んでしまったために、その意外性が強く印象に残りましたが、それぐらい"好人物"っぽく描かれています(ある意味、"叙述トリック"気味(?)なくらい)。

Patricia Fortescue (Frances Low)
パトリシア(フランセス・ロウ).gif でも、この映像化作品では、ちょっと雰囲気違うなあと。原作を読み犯人が判っていて観ているというのもあったとは思いますが、この犯人、途中でかなりあからさまに怪しげな素振りもみせるし...。

 何よりもイメージが違ったのは、ランスの妻で貴族出身の未亡人パトリシアで、思ったほど美人ではないというか、ハナからこの女性は幸せになれそうな感じではないなあという雰囲気に満ちている...。

Miss Grovenor (Susan Gilmore)/Gladys Martin (Annette Badland)
ミス・グローブナー(スーザン・ギルモア).gifグラディス・マーティン.gif レックスの会社の秘書のミス・グローブナー(スーザン・ギルモア)もそんな美人ではないし、レックスの若い後妻アディールは軽薄そうだし、小間使いグラディスに至っては...。レックスの義姉エフィー・ヘンダーソン(原作ではラムズボトル姓)が一番イメージ通りだったけれど(何だか全てを見透かしている感じ)、これは酸いも甘いも知り尽くしたお婆さんであり、あまり美人が出てこないというのが、故レックスの周辺の暗さを物語っている感じでした。

ポケットにライ麦を 08.jpg 原作は、犯人の手の込んだ遣り口に対して評価が割れるようですが、個人的には面白く読めた作品であり(評価★★★★☆)、プロット的にも精緻だと思われる傑作。その傑作をほぼ忠実になぞっているから(被害者殺害直前の模様を再現シーンで構成しているのは親切)、いろいろ役者のイメージにケチはつけたものの、そう悪い作品にはなりようがないという感じでしょうか。ただ最後だけ、勝手に犯人にカーチェスをやらせて、原作には無い天罰を下してしまったけれど...。

 因みに、ラストシーンのカーチェイス。左右の道路標識(速度制限標識)は'50年代にはまだ無かったタイプのものらしい。

ミス・マープル 第10巻「ポケットにライ麦を.jpgポケットにライ麦を09.jpg「ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を」」●原題:A POCKETFULL OF RYE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ガイ・スレーター●脚本:T.R.ボウエン●時間:日本放映版102分(完全版196分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ティモシー・ウェスト/ファビア・ドレイク/クライブ・メリン/セリーナ・ケイデル/スティシー・ドーニング/トム・ウィルキンソン/ピーター・デビソン/レイチェル・ベル/スーザン・ギルモア/マーティン・スタンブリッジ/フランセス・ロウ●日本放映:1997/03/06●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)ミス・マープル 第10巻「ポケットにライ麦を」【字幕版】 [VHS]」 (101分)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2007】 「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

原作にたいへん忠実。箇所によっては原作より丁寧に謎解きしている。

A MURDER IS ANNOUNCED 1985.jpg予告殺人 dvd.jpg Miss Marple A Murder Is Announced (1985).jpg 予告殺人 クリスティー文庫.jpg
ミス・マープル[完全版]VOL.12 [DVD]」『予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
Miss Marple: A Murder Is Announced(1985)

マープル 予告殺人 レティシア・ブラックロック夫人.jpg 「リトル・パドックスで今晩7時に殺人があります」という広告が地元の新聞に出たことが村の人の間で話題になり、リトル・パドックスの邸の女主人レティシア・ブラックロック夫人(ウルスラ・ハウェルズ)がパーティの準備をするマープル 予告殺人 マーガトロイド.jpg中、好奇心の旺盛な村の住人たち―イースターブルック大佐(ラルフ・マイケル)とその夫人(シルヴィア・シムズ)、スウエッテナム夫人(メリー・ケリッジ)と息子で作家の卵であるエドマンド(マシュー・ソロン)、豚の世話をするヒンチクリフ(パオラ・ディオニソッティ)と気はいいが頭の弱い友人マーガトロイド(ジョーン・シムズ)、ハーモン牧師(ディヴィッド・コリングズ)とその夫人(ヴィヴィエンマープル 予告殺人 ハナ .jpgヌ・ムーア)―らが集まってくる。やがて7時丁度に居間の明かりが突然消えて銃声がし、見知らぬ男が倒れ絶命していた。銃弾はレティシアの耳をかすめたようで、夫人は耳朶から出血し、夫人の友人で同居人のドーラ・バンニー(レニー・アシャーソン)は気が動転し、難民の外人メイドであるハナ(エレーン・アイヴス・キャメロン)は自分の命が狙われているとヒステリニックに喚く。強盗に入って来た男はホテル従業員のルディ(ティム・チャリングトン)だったが、自殺なのか他殺なのかそれとも事故なのか杳として知れない。
マープル 予告殺人 クラドック警部.jpg 捜査はクラドック警部(ジョン・キャッスル)とフレッチャー巡査部長(ケヴィン・ウェイトリー)によって行われ、居間にいた客をはじめ、レティシアの遠戚であるというジュリア(サマンサ・ボンド)とパトリック(サイモン・シェファード)、夫を戦争で亡くしたという、何か秘密を抱えている様子の若い未亡人フィリッパ(ニコラ・キング)らの証言を探っていく。署長の推薦で意見を求められたマープルは、ルディに強盗をやらせた誰かが犯人だと示唆し、ルディの友達だった女給のマーナ(リズ・クロウサー)に重ねて聞くよう助言したところ、ルディは強盗の真似をして誰かから礼金を貰う約束だったことが判明する。事件には、大富豪ゲドラーの遺産が絡んでいるようで、ゲドラーは妻が死んだ場合は、かつ彼の秘書だったレティシアに遺産が行くようになっていた。そして、ドーラ・バンニーが誕生日パーティの後、毒殺死する―。

予告殺人 ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第3話(本国放映は1985年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1950年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第4作(原題:A Murder Is Announced)。「クリスティ自選のベストテン」にも「日本クリスティ・ファンクラブ員の投票によるクリスティ・ベストテン」にもランクインしている作品であり、また、江戸川乱歩は、クリスティ作品の中で「面白かったもの」のべスト8に挙げていて、それらの中でも『アクロイド殺し』と並んでこの作品を高く評価をしていますが、この映像化作品は、「書斎の死体」などと同じく3部構成ドラマになっており、原作にたいへん忠実で、会話なども原作をそのままなぞっている印象です。

 第3部では、ヒンチクリフとマーガトロイドがルディのやらせ強盗事件の独自の謎解きをして他殺説を裏付け(原作より丁寧に謎解きしている)、事件の夜に誰が居間にいなかったか(つまりその人物がルディの背後に廻ったことになる)をマーガトロイドが思い出したところでヒンチクリフが出かけてしまい、マーガトロイドは洗濯物を取り込んでいる最中に何者かに殺されてしまいます。

 そこでミス・マープルは、犯人を炙り出すための大胆な罠を仕掛けますが(彼女には既にこの時点で犯人の確証はあったということになるのだが)、ミス・マープルが犯人に仕掛けた罠がどういうものであったかが、事件解決の後でマープルが協力者に礼を言う場面などを入れることによって、たいへん分かり易くなっていて、このドラマ版、なかなかの優れものではないかなあと。

 クラドック警部が早くにミス・マープルの才能を見抜くところが、第1話「書斎の死体」のスラック警部と対照的。スラック警部は、第11話「魔術の殺人」で、事件を解決したミス・マープルに「ありがとう」とやっとこさ礼を言い、第一線を退いた第12話「鏡は横にひび割れて」でようやっと、クラドック警部とレイク警部補にミス・マープルの協力も得るようアドバイスするようになりますが、クラドック警部は既にこのエピソードの中で早々と、マープルの信奉者へと変身を遂げています。まあ、常識人であるクラドック警部よりも、ミス・マープルに何度も先を越されても対抗心を燃やし続けるスラック警部の方が、ドラマの構成的には面白いわけだけど...(「弁護士ペリー・メイスン」シリーズなどは、負ける方のライバル検事は一貫してハミルトン・バーガーで、最後はいつも苦虫を噛み潰したような顔していた。このシリーズでそれに該当するのがクラック警部)。

主任警部モース2.jpg クラドック警部を補佐するフレッチャー巡査部長役のケヴィン・ウェイトリーは、英ITVの「主任警部モース」シリーズではモースを補佐するルイス部長刑事役でずっと出ており、この時期、掛け持ちして「別の上司」に付いていたことになりますが、キャラクター的に全く同じに見えるのは、立場が同じだからか。

 このエピソードも「書斎の死体」と同じく、90年代にNHKやテレビ東京などで放映されないままビデオ化され、今でもAXNミステリーなどで放映されるのは完全版です(155分という長さは、「書斎の死体」と同じく完全版の中では一番「短い」類であるということもあるのだろうが)。

マープル 予告殺人 レティシア・ブラックロック夫人2.jpg「ミス・マープル(第3話)/予告殺人」」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/28●演出:デヴィッド・ジャイルズ●脚本:アラン・プレイター●時間:155分●出演:ジョーン・ヒクソン/シルヴィア・シムズ/パオラ・ダイオニソッティ/ メアリー・ケリッジ/ウルスラ・ハウエルス/ジョン・キャッスル/レネ・アシェーソン/ ジョーン・シムズ/ラルフ・マイケル/ケヴィン・ウォートリー/シルヴィア・シムズ/ジョン・キャッスル/マシュー・ソロン/ディヴィッド・コリングズ/ヴィヴィエンヌ・ムーア/エレーン・アイヴス・キャメロン/ティム・チャリングトン/サマンサ・ボンド●ビデオ発売:1998/01●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1954】 「ミス・マープル(第3話)/予告殺人 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

比較的早くにミス・マープルが登場するのは、いい味での"改変"と言えるのは。

動く指 dvd2.jpg動く指 1985 01.jpg ミス・マープル/動く指 dvd.jpg   動く指 クリスティ文庫.jpg
ミス・マープル[完全版]VOL.9 [DVD]」「ミス・マープル 第8巻 動く指 [DVD]
ジェリー(アンドリュー・ビックネル)/ジョアナ(サビーナ・フランクリン)
動く指 1985 Andrew Bicknell.jpg動く指 1985 Sabina Franklyn.jpg 戦争中の飛行機事故で負傷したジェリー・バートン(アンドリュー・ビックネル)とその妹ジョアナ(サビーナ・フランクリン)は、静養でリムストック村を訪ね、ファーズ荘を借りて一時滞在することになるが、やがて兄に妹を中傷する手紙が届き、どうやら中傷の手紙は村の誰彼問わずに送りつけられている模様である。
ガイ(ジョン・アーナット)/モード(ディリス・ハムレット)
動く指 1985John Arnatt.jpg動く指 19851985Dilys Hamlett.jpg 牧師ガイ(ジョン・アーナット)の妻モード(ディリス・ハムレット)は、手紙の主を探るべくミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)に相談する。そんな中、弁護士エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)の妻アンジェラ(エリザベス・カウンセル)が青酸カリを飲んで死亡し、遺体の傍には「次男の父親は違う」という中傷の手紙と「もうダメ」というメモがあっため検死審問では自殺とされたが、ミス・マープルはこれは殺人だと直感する。
マープル(ジョーン・ヒクソン)/エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)
動く指 1985 Joan Hickson.jpg動く指 1985 Michael Culver.jpg ファーズ荘の料理人パートリッジ(ペネロープ・リー)は、以前ファーズ荘で働いていたメイドのベアトリス(ジュリエット・ウェイリー)から、"自殺"事件の日に奇妙なことがあったので聞いて欲しいと言われ会う約束するが、そのベアトリスはシミントン家の衣装部屋で死体で見つかる。
ミーガン(デボラ・アップルビイ)/エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)
動く指 1985 Deborah Appleby.jpg動く指 1985 Imogen Bickford-Smith.jpg 村に勤めるよそ者の医師オーエン・グリフィス(マーティン・フィスク)はジョアナに恋し、その妹エリル(サンドラ・ペイン)はシミントン氏に思いを寄せる一方、ジェリーはシミントン家の厄介娘ミーガン(デボラ・アップルビイ)の秘めた魅力に気づき、ロンドン行きに同行させて彼女を美しく変身させる。ジョアナは2通目の中傷の手紙を受け取り警察に持参、更に、シミントン家の家庭教師エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)にも中傷の手紙が届き、手紙の指紋からグリフィス医師の妹エリルが逮捕されるが、医師は妹が犯人のはずはないと信じる。クロフォード警視(ロジャー・オスティミー)に依頼して、マープルは真犯人を罠にかける賭けに出る―。

動く指hpm.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第2話(本国放映は1985年)。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1943年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第3作(原題:The Moving Finger)で、『牧師館の殺人』(1930)、『書斎の死体』(1942)に次ぐもの。

 原作では、ミス・マープルは、話が全体の4分の3ほど進行して事件が混迷の度を深めた段階でやっと登場し、しかもすぐに引っ込んで、次に登場するラストでは事件を全て解決してしまっているという作りになっているので、クリスティが自作の自選ベストテンに入れている作品でありながらも、読む側としてはやや未消化感が残りましたが、この映像化作品では、そうしないと映像的に持たないというのものあってか比較的早くにミス・マープルが登場し、結構積極的に捜査に関わっており、これはいい意味での"改変"と言えるのでは。あとは概ね原作に忠実ではないでしょうか。

動く指 1985 02.jpg 原作が、田舎町でブラック・メールの飛び交うという陰湿な話のようでありながらそれほど暗くないのは、主人公の兄妹の気の置けない遣り取りと彼らを含む登場人物の恋愛模様を絡めることで毒が中和されているためであり、この映像化作品では、とりわけ妹ジョアナとグリフィス医師、兄ジェリーと二十歳の娘ミーガンとのボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーを丁寧に描くことで、更にその中和度を増している印象です。

THE MOVING FINGER 001.jpg 一方で、プロット的には犯人への手掛かりを原作以上に伏線として見せることはしていないので、最後のミス・マープルの謎解きは、原作同様に"ばたばたっ"という印象を受けざるを得ないかも。でもこれ、事件として振り返るとそう複雑なものではないため、下手にヒントを示すと犯人がすぐに解ってしまうというのもあるのかもしれません。

 第1話「書斎の死体」に続き、イギリスの田舎町ののんびりした感じがよく出ている一方(原作の戦中の話が戦後に置き変わっている)、ヒロインのジョアナを演じたサビーナ・フランクリンは、このシリーズとしては現代風のヒロイン像。但し、これだと村の噂では「化粧の濃い女」になってしまうのか。ナルホドね。家庭教師エルシー役のイモジェン・ビックフォード・スミスも美人でした。

動く指 title1.jpg「ミス・マープル(第2話)/動く指」」●原題:THE MOVING FINGER●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/21●演出:ロイ・ボールティング●脚本:ジュリア・ジョーンズ●時間:日本放映版95分(完全版189分)●出演:ジョーン・ヒクソン/アンドリュー・ビックネル / サビーナ・フランクリン/ジョン・アーナット/ディリス・ハムレット/マイケル・カルヴァー/エリザベス・カウンセル/ペネロープ・リー/ジュリエット・ウェイリー/マーティン・フィスク/サンドラ・ペイン/デボラ・アップルビイ/イモジェン・ビックフォード・スミス/ロジャー・オスティミー/リチャード・ピアソン/ヒラリー・メイソン●日本放映:1997/03/13●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1953】「ミス・マープル(第2話)/動く指 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ  「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

BBC版「第1話」。原作にほぼ忠実。スラック警部の"ご機嫌斜め"ぶりが可笑しい。

ミス・マープル 書斎の死体 vhs.jpg  ミス・マープル 第1巻 書斎の死体 dvd.jpg  ミス・マープル 書斎の死体 000.jpg
ミス・マープル 第1巻「書斎の死体」【字幕版】 [VHS]」/「ミス・マープル 第1巻 書斎の死体 [DVD]」ジョーン・ヒクソン
ミス・マープル 書斎の死体 vhs00.jpg セント・メアリー・ミード村の大佐の邸ゴシントン・ホールの書斎で家政婦が若い女性の死体を発見、バントリー大佐(モーレイ・ワトソン)と妻ドリー(グェン・ワットフォード)に知らせるとともに警察に連絡、ドリーは友人のマープル(ジョーン・ヒクソン)を車で呼び寄せて相談する。事件捜査の方は、大佐の友人メルチェット警察本部長(フレデリック・イエガー)が担当し、スラック警部(デヴィッド・ホロヴィッミス・マープル 書斎の死体 01.jpgチ)、レイク警部補(イアン・ブリンブル)が現場を受け持つことに。マジェスティック・ホテルから行方不明者の捜索願が出されていたが、死体はホテルダンサーのルビー・キーン(サリー・ジェイン・ジャクソン)だという証言が得られる。ルビーは足首を痛めたジョージー(トゥルディー・スタイラー)が代わりに雇った少女で、捜索願を出した大富豪コンウェイ・ジェファーソン(アンドリュー・クルイックシャンク)はルビーを養女にするつもりだったと言う。一方、村の男マルコム(コリン・ヒギンズ)が採石場で燃えた車と焼死体を発見するが...。

ミス・マープル 書斎の死体 00.jpg コンウェイは8年前の航空機事故で家族を失い、自らも車椅子でのホテル住まいであり、遺された義理の娘アデレード(シーラン・マッデン)と息子マーク・ギャスケル(キース・ドリンクル)の世話になっていた。スラック警部はダンサー兼テニスコーチのレイモンド(ジェス・コンラッド)らを事情聴取。一方、黒焦げの車はルビーと最後に踊ったバートレット(アーサー・ボストロム)のものであり、焼死体はリーヴ少佐(スティーブン・チャーチェット)の娘パメラ(アストラ・シェリダン)と思われた。普段素行が良くない映画制作者のベィジル・ブレイク(アンソニー・スメー)が事件の夜に外出しており、彼に強い容疑がかかる。

ミス・マープル 書斎の死体 vhs2.jpg マープルはジェファーソンの友人で警視庁の元警視総監のヘンリー・クリザリング卿(レイモンド・フランシス)に、ルビーを殺した人物はパメラ殺しと同一犯で、第三の殺人を計画していると話し、ヘンリー卿は本部長にマープル同席でパメラの友人の再尋問を依頼、本部長はスラック警部に指示、マープルはパメラの友人フローリー(カレン・シーコーム)から映画のカメラ・テストを受けるためホテルへ行くと言っていたとの証言を得る。彼女はベィジルの女ダィナ・リー(デビー・アーノルド)がベィジルと結婚していることを見抜き、夫の助けになるように忠告するが、直後にスラック警部は、ベィジルの車から見つかった敷物の繊維を物証としてベィジルを逮捕する―。
ミス・マープル[完全版]VOL.6 [DVD]

書斎の死体 クリスティー文庫.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第1話(本国放映は1984年)。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1942年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第2作(原題:The Body in the Library)。

 原作は傑作ですが、この映像化作品もしっかり作られています。登場人物が錯綜しているためか、挙動不審の教授と助手のコンビの存在が割愛されていたりしますが、でも、これ、元々あまり本筋には関係無かったかも。

ミス・マープル 書斎の死体 04.jpg 原作はプロット的にも「死体入れ替え・時間差」殺人とやや凝っていて複雑。書斎で見つかった死体が検分の結果"処女"だったとか、村の知恵遅れの男マルコムが採石場で比較的早いうちに車と焼死体を発見するが最初は警察に相手にされないとか、村人から疑いの目で見られ始めたバントリー大佐に対して、映画制作者(原作では実は道具係り)のベィジル・ブレイクが「お話したいことがあります」と申し出る場面とかは何れも原作には無く、これみんな、視聴者に対する犯人推理の"助け舟"かと思われます(ベィジル・ブレイクが庭で何かを燃やしているのをマルコムに何を燃やしているのか訊かれ、「うちのばあさんさ」と答えたのは、死体を運んだ際の絨毯を処分していたわけか)。

ミス・マープル 書斎の死体 03.jpg マープル物の長編第2作、BBC版第1作でありながら、元警視総監ヘンリー卿をしてミス・マープルのことを「イギリス一の犯罪学者。メアリー・ミード村の観察から世界を見ている」と言わしめているのは、先行する短編集『火曜クラブ』でミス・マープルの推理力の凄さを知ったことによるものでしょう。デヴィッド・ホロヴィッチ演じるスラック警部は、現場の捜査が忙しい割には進展が無い中で上司からマープルの意見を聴くよう言われて、「ばあさんと引退した警視総監の両方の面倒を見なければならない」とご機嫌斜めなわけです(この"ご機嫌斜め"ぶりが可笑しいのは、サラリーマンにとっては、会社の中でもこうしたことが時にあるからかもしれないからか)。

クラドック警部.jpg ミス・マープルとスラック警部は、原作では、『牧師館の殺人』でスラック警部がミス・マープルに事件解決の先を越されているためマープルに対してライバル心を燃やすという設定ですが、このBBC版は「第1話」であるため当然"初顔合わせ"となり、この後、第5話「牧師館の殺人」だけでなく、第9話「パディントン発4時50分」では原作のクラドック警部に代わって登場するなど、このTVシリーズで重要な位置を占めます。それだけに、この第1話は、スラック警部の、やり手ではあるが、それ以上に自らがやり手であるということへの自負心が強いというキャラクターを重点的に描いているように思いました。

 結局スラック警部は、自らのプライドの高さからマープルのことをなかなか認めようとしないのですが、第11話「魔術の殺人」では、事件を解決したミス・マープルに「ありがとう」としゃちほこばってぎこちない礼を言い、第12話「鏡は横にひび割れて」では、クラドック警部とレイク警部補に捜査を指示する際にマープルの協力も得るよう指示し、自らも積極的にマープルの助言を仰いで捜査を進めるようになるという、こうした両者の関係の変化もこのシリーズの見所です。

 この作品は90年代にテレビ東京やNHKでこのシリーズが放映された際の(何れも短縮版)ラインアップに入っておらず、先にVHSが販売され、その後も地上波では放映されなかったという経緯もあってか、近年AXNミステリーなどで放映される場合も常に完全版で放映されています。

ミス・マープル 完全版 DVD BOX .jpg
ミス・マープル 完全版 DVD BOX 1,2

【BOX1】収録内容

Disc.1『復讐の女神』(Nemesis)
Disc.2『バートラム・ホテルにて』(At Bertram's Hotel)
Disc.3『スリーピング・マーダー』(Sleeping Murder)
Disc.4『パディントン発4時50分』(4.50 from Paddington)
Disc.5『カリブ海の秘密』(A Caribbean Mystery)
Disc.6『書斎の死体』(The Body in the Library)


【BOX2】収録内容

Disc.7『ポケットにライ麦を』(A Pocketful of Rye)
Disc.8『牧師館の殺人』(The Murder at the Vicarage)
Disc.9『動く指』(The Moving Finger)
Disc.10『魔術の殺人』(They Do it with Mirrors)
Disc.11『鏡は横にひび割れて』(The Mirror crack'd from side to side)
Disc.12『予告殺人』(A Murder in Announced)
 
 
    
 
「ミス・マープル(第1話)/書斎の死体」」●原題:THE BODY IN THE LIBRARY●制作年:1984年●制作国:イギリス●演出:シルビオ・ナリッツァーノ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:156分●出演:ジョーン・ヒクソン/グエン・ワットフォード/モーリー・ワトソン/フレデリック・イエガー/デヴィッド・ホロヴィッチ/アンソニー・スメー/アンドリュー・クルイックシャンク/シーラン・マッデン/トゥルディー・スタイラー/イアン・ブリンブル●ビデオ発売:1997/05●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

「●TV-M (刑事コロンボ)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1540】「刑事コロンボ/忘れられたスター
「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「0011ナポレオン・ソロ」「華麗なるペテン師たち」) 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(銀座・東劇)

逆トリックに乗った犯人に疑問が残るが、船旅というシチュエーションは楽しめた。

歌声の消えた海 vhs.jpg 刑事コロンボ 歌声の消えた海 ヴォーン.jpg アドベンチャー・ファミリー 01.jpg スーパーマンIII 電子の要塞 [Blu-ray].jpg
特選 刑事コロンボ 完全版「歌声の消えた海」【日本語吹替版】 [VHS]」Robert Vaughn「アドベンチャー・ファミリー [DVD]」「スーパーマンIII 電子の要塞 [Blu-ray]

刑事コロンボ 歌声の消えた海 title.jpg メキシコ・アカプルコへ向かう豪華客船で、中古車ディーラーのヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン)は、不倫関係にあり、不倫をネタに恐喝されていた、船専属のショー歌手ロザンナ(プーピー・ボッカー)を殺害、ロザンナに言い寄っていPoupée Bocar.jpgDean Stockwell.jpgたピアニスト、ロイド(ディーン・ストックウェル)に容疑がかかるよう工作を行う。船長は、たまたま缶詰の懸賞に当選し、夫婦で観光で船に乗り込んでいたコロンボを呼び出し、非公式に捜査を依頼することにする―(結局、"カミさん"は映像上一度も出てこないのだが..)。
Poupée Bocar(プーピー・ボッカー)/ Dean Stockwell(ディーン・ストックウェル)

刑事コロンボ 歌声の消えた海 02.jpg 第29話であり、テレビシリーズ「0011/ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーン演じる犯人は、第24話「白鳥の歌」のジョニー・キャッシュが演じたカントリー&ウェスタン歌手、第25話「権力の墓穴」のリチャード・カイリーが演じたロス市警次長、第27話の「逆転の構図」のディック・バン・ダイクが演じた写真家に続く、「恐妻家」乃至「資産家の奥さんの尻に敷かれている旦那」といったところですが、こっちはこれまでの彼らのように奥さんを殺すのではなく、愛人の方を殺してしまいます。
刑事コロンボ 歌声の消えた海 01.jpg
 犯行現場となった船に最初からコロンボが乗り合わせていたというところからいつもと違って楽しく、大体このシリーズ、あまり定型パターンを外れると意外と面白くなくなるのですが(特に新シリーズにそういうのが多い)、この作品は船内のシチューションや小道具などが上手く謎解きに活かされていて楽しめました(コロンボがいつものよれよれのコートで登場するのは、出航の直前に職場から船に駆け付けたことが冒頭に示唆されている)。

刑事コロンボ 歌声の消えた海3.jpg 撮影には随分費用がかかっているのではないかなあと思いましたが、実際にメキシコのマサトラン経由でアカプルコに向かうクルーズ(出港地はサンフランシスコ)を利用して行なわれ、エキストラは本当の乗船客だったそうです。

 ロバート・ヴォーンの落ち着いた犯行ぶりは様になっていて、一方のコロンボは、船酔いに遭いながらも捜査のためvあちこち走り回っている感じで、船に鑑識係がいるでもなく、指紋、硝煙反応のチェックなども自分でやっている―しかし、意外と犯人は証拠を残していて、最後はコロンボの方が鼻歌を歌いつつ...。

 犯行に使われた使い捨てのゴム手袋さえ見つかればロイドを挙げることが出来るとダンジガーに意図的に漏らして、コロンボの方から犯人の次の行動を促す典型的な逆トリックですが、ゴム手袋の在庫数をコロンボが確認していたことをダンジガーも聞いていたはずではないかと、その一点のみが疑問として引っ掛かりました。

TROUBLED WATERS 1975 01.jpgTROUBLED WATERS 1975 02.jpg 患者として寝ていたはずのダンジガーに後ろをすり抜けられてしまう看護婦メリッサ役のスーザン・ダマンテは、この作品では脇役ですが、この頃、スチュワート・ラフィル監督の「アドベンチャー・ファミリー」('75年)にロバート・ローガンと共に主人公の夫婦役で出演していて、人柄の良さそうな典型的な70年代美女でした。
Susan Damante(スーザン・ダマンテ)
アドベンチャー・ファミリー 1.jpgアドベンチャー・ファミリー 2.jpg ロスの大都会からロッキーの山奥へ移住した家族を描いた「アドベンチャー・ファミリー」は実話がヒントになっているそうですが、佳作ではあるものの、ロッキーでの自給自足生活は、"グリズリー"の襲来などもあって大変そうだなあと(娘の健康を考えての移住なのに、万一子供が羆に襲われたりしたら元も子もない)。クマに襲われたところを家族が助けたクマに救われるという、今思うとちょっと作り話っぽかったかな。

倉本聰.bmp 因みに、脚本家の倉本聰氏は、テレビドラマ「北の国から」の脚本を書く際に制作サイドから、この「アドベンチャー・ファミリー」のようにしてくれと言われたそうです(あと一つ、参考にしてくれと言われたのが映画「キタキツネ物語」だった)(倉本聰『獨白 2011年3月』フラノ・クリエイティブ・シンジケート、2011年)。

0011ナポレオン・ソロ.jpg 一方、知的な悪役が似合うロバート・ヴォーンは、「荒野の七人」('60年)の時からお馴染みですが、グッと人気が出たのはアメリカNBC系列で1964年から1968年まで4シーズンにわたり放送されたTVシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」からではないでしょうか。ロバート・ヴォーン演じるナポレオン・ソロとデヴィッド・マッカラム演じるイリヤ・クリヤキンのコンビが活躍するスパイもので、日本では、1966年から1970年まで、日本テレビ系列で放送されました(当初モノクロで、途中からカラーになった。最近またAXNミステリーで再放映されたりしている)。

スーパーマンⅢ/電子の要塞 dvd2.jpgスーパーマンⅢ/電子の要塞 4.jpgRobert Vaughn superman3.jpg ロバート・ヴォーンはその後も渋い脇役や悪役として活躍し、80年代では個人的には「スーパーマンⅢ/電子の要塞」('83年/米)に出ていたのが印象に残っています。リチャード・プライヤー演じる"小物"のワルを背後から操る"大物"のワルといった役どころ。クリストファー・リーヴ演じるスーパーマンをスーパー・コンピュータで打ちのめそうとするコンピュータ会社の悪徳社長の役ですが、現場に送り込まれるのはいつもリチャード・プライヤーで、作品全体のトーンもコメディ調。リチャード・プライヤーって、日本ではマイナーだけど、アメリカではかなり有名なコメディアンだったんだなあ(2005年没)。この作品は、ロバート・ヴォーン自身にとっても、その後の相次ぐコメディ映画出演への転機となった作品でした。因みに、テレビシリーズ「スーパーマン」(1952‐1958年)は日本では1956年からTBSで放映が開始され、最高視聴率74.2%を記録したそうな。スゴイ数字!

華麗なるペテン師たち2.jpg華麗なるペテン師たち01.jpg 「荒野の七人」のメンバー"7人"の中でも、2013年時点で存命しているのはロバート・ヴォーンだけという状況であり、しかも、イギリスのTVドラマシリーズ「華麗なるペテン師たち」で今もバリバリに頑張っている...。AXNでシーズン3をやっているのを見ましたが(本国放映は2010年)、ドラマで見る限り、この人、きびきびしていて、78歳(1932年生まれ)にしてはホント若いなあ(2016年11月11日、急性白血病のため逝去。満83歳。これで「荒野の七人」にガンマン役で出演した7人の男優全員がこの世を去ったことになった)

Bernard Fox(バーナード・フォックス)
刑事コロンボ(第29話)/歌声の消えた海 .jpgBernard Fox.jpg「刑事コロンボ(第29話)/歌声の消えた海」●原題:TROUBLED WATERS●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ベン・ギャザラ●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ウィリアム・ドリスキル●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・ヴォーン/ジェーン・グリア/ディーン・ストックウェル/バーナード・フォックス/ロバート・ダグラス/パトリック・マクニー/プーピー・ボッカー/スーザン・ダマンテ/ピーター・マローニー●日本公開:1976/01●放送:NHK(評価:★★★★)
The Adventures of the Wilderness Family (1975)
The Adventures of the Wilderness Family (1975).jpg
「アドベンチャー・ファミリー」●原題:THE ADVENTURES OF THE WILDERNESS FAMILY●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・脚本:スチュワート・ラフィアドベンチャー・ファミリー 02.jpgル●製作:アーサー・R・ダブス●撮影:ジェラルド・アルカン●音楽:ジーン・カウアー/ダグラス・M・ラッキー●原作:アーサアドベンチャー・ファミリー sanntora.jpgー・R・ダブス●時間:99分●出演:ロバート・ローガン/スーザン・ダマンテ/ホリー・ホルムズ/ハム・ラーセン/ジョージ・"バック"・フラワー/スーザン・ダマンテ・ショウ●日本公開:1977/02●配給:東宝東和●最初に観た場所:中野武蔵野館 (78-01-12)(評価:★★★☆)●併映:「ベンジーの愛」(ジョー・キャンプ)
     「アドベンチャー・ファミリー [EPレコード 7inch]」サントラ盤カバー   
「ぴあ」1978年1月号
ぴあ 中野武蔵野館.jpg
 
0011ナポレオン・ソロ2.jpg0011ナポレオン・ソロ4.jpg0011ナポレオン・ソロ3.jpg「0011ナポレオン・ソロ」 The Man from U.N.C.L.E. (NBC 1964~1968) ○日本での放映チャネル:日本テレビ(1966-1970)/AXNミステリー
0011ナポレオン・ソロ(The Man From U.N.C.L.E )」(CD)  

スーパーマンIII 電子の要塞 [DVD]
スーパーマンⅢ/電子の要塞 dvd.jpgスーパーマンⅢ/電子の要塞5.jpg「スーパーマンⅢ/電子の要塞」●原題:SUPERMANⅢ●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督リチャード・レスター●製作:ピエール・スペングラー●脚本:デイヴィッド・ニューマン/レスリー・ニューマン ●撮影:ロバート・ペインター ●音楽:ケン・ソーン●時間:123分●出演: クリストファー・リーヴ/リチャード・プライアー/アネット・オトゥール/マーゴット・キダー/ジャッキー・クーパー/マーク・マクルーア/ロバート・ヴォーン/アニー・ロス/パメラ・スティーヴンソン/ギャヴァン・オハーリヒー●日本公開:1983/07●配給:ワーナー・ブラザーズ●最東京劇場(1940年).jpg銀座 東劇.jpg銀座・東劇2.jpg東劇 劇場内.jpg初に観た場所:銀座・東劇 (83-07-24)(評価:★★★) 
銀座・東劇 1930年4月、歌舞伎などの演劇の劇場として「東京劇場」オープン(左写真1940年「民族の祭典」公開時)。1950年ロードショー館として再オープン。1972(昭和47)年12月、老朽化につき閉館。1975(昭和50)年7月4日、東劇ビル落成。東劇開場。

華麗なるペテン師たち3.jpg「華麗なるペテン師たち」 Hustle (BBC 2004~2012) ○日本での放映チャネル:NHK‐BS2(2006-)/AXN
Hustle (BBC).jpg

「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2076】 吉田 修一 『愛に乱暴
「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ「●坂本 龍一 音楽作品」の インデックッスへ(「ラストエンペラー」)「●ショーン・コネリー 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(丸の内ルーブル)

ストーリーが巧みでテンポも良いい。敢えて通俗、通俗だから面白いのでは。

太陽は動かない 吉田修一.jpg吉田修一氏.jpg エントラップメント01.jpg ラストエンペラー02.jpg
 吉田 修一 氏  「エントラップメント [DVD]」ショーン・コネリー/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ 「ラストエンペラー ディレクターズ・カット (初回生産限定版) [DVD]」ジョン・ローン/ジョアン・チェン

太陽は動かない』(2012/04 幻冬舎)

『太陽は動かない』5.JPG 表向きはアジア各地のファッションやリゾート情報などを扱う小さなニュース通信社だが、裏では「産業スパイ」としての顔を持つAN(アジアネット)通信情報部の鷹野一彦は、油田開発利権にまつわる機密情報を入手し高値で売り飛ばすというミッションのもと、部下の田岡と共にアジア各国企業の新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件の背後関係を探っていた。鷹野は、企業間の提携交渉の妨害を意図したウイグル反政府組織による天津スタジアム爆破計画天津スタジアム.jpg情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

天津スタジアム

 スパイ小説ですが、その舞台が「ポスト原発」と呼べる状況にある国際的なエネルギー市場であるところが現代風で、油田開発の利権争いの一方で、日本の無名の技術者が、従来のものとは比較にならない高性能の太陽光発電のパネルを開発した―というのが、何となく夢があっていいなあと。

 お膳立てが揃ってしまえば、後は、政治家、日本企業、中国多国籍企業、CIAなどの様々な組織の利害関係が複雑に絡み合ってのノンストップ・アクション風―ということで、ストーリー・テイリングも巧みだし、実際にテンポも良くて428ページ一気に読めました。

 作者は文芸作家としてデビューし、芥川賞も受賞していますが、『パレード』にはミステリの要素もあったし、『悪人』もエンタテイメント要素はあったように思います。

 この作品に対しては、『悪人』など比べると人物の描き方に深みが無いとの批評も多くありますが、"純粋エンタテイメント"として読めば、それでいいのではないかと思いました。『悪人』とは根本的にテーマもモチーフも異なる作品。敢えて通俗、通俗だから面白いのではないかと。

 日本が"スパイ天国"であるとは、随分と以前から言われていることですが、「スパイ小説」となると、劇画に出てくるような怪しげな外国人が大勢登場して何となく胡散臭いものになりがちという気もし、この作品についてもそのことが言えなくもないけれど、筆の運びの上手さで(さすが芥川賞作家?)、あまりそうしたことに疑念を挟まずにどんどん読めてしまいました。

 最後まで日本人中心であるというのもよく、産業スパイという設定は、日本人を主人公とするのに適しているのかも―と思ったりもしました。

2020年映画化「太陽は動かない」(公開は2021年)
羽住 英一郎(原作:吉田修一)「太陽は動かない」 (2020/05 → 2021/03 ワーナー・ブラザース映画) ★★★☆
太陽は動かない  2021.jpg 太陽は動かない 2.jpg 


「エントラップメント」1.gifエントラップメント03.jpg アクション風ということで、「ミッション:インポッシブル」 ('96年/米)など想起させられる映画が幾つかありましたが、金だけのために敵になったり味方になったりし、それが鷹野とAYAKOという男女間で展開するところは、個人的にはジョン・アミエル監督の「エントラップメント」('99年/米)を想起しました(この系統は「泥棒成金」('55年/米)や「華麗なる賭け」('68年/米)以来、連綿とあるが)。

「エントラップメント」3.gif AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。

峰不二子.jpg キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。

 「金だけのために」とか言いつつ、主要な登場人物たちがそれぞれに"貸し借り"に律義で(反政府組織の女性指導者までもが)、ラストのデイビッド・キムの登場などには友情めいたものさえ感じられるという、何だか綺麗に出来過ぎた話ですが、カタルシス効果はあったように思います("カタルシス効果"と言うより"読後感の爽やかさ"か)。

 それにしても、作者に関しては、芸域、広いなあという感じ。普段からエスピオナージをよく読み、その分野を読みつけている人から見れば突っ込みどころの多い作品かも知れないし、従来の作者の作品の世界に馴染んだ人から見れば、人物の描き方がステレオタイプだとかいった評価になるのかも知れないけれど、個人的には、とにかく面白く読めたため、そのことを素直に認めてのほぼ5つ星評価―ミステリ界でどういった評価になるのか気になります(「文芸作家は自分たちの領域に立ち入らんでくれ」と言うほど閉鎖的ではないとは思うが)。

静園.jpg 因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅「静園」なども訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれていなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。

「静園」(天津市)

ラストエンペラー01.jpg ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。
 
『ラストエンペラー』(1987).jpg 2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。完全版を観れば評価が変わるかもしれません。

 同監督作品では、「1900年」('76年)の方が質的に上のように感じましたが、こちらは、5時間16分の完全版を観ることが出来たというのも影響しているかもしれません(普段は3本立の「三鷹オスカー」で1本のみ上映)。

エントラップメント dvd.jpg「エントラップメント」2.gif「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:ショーン・コネリーキャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ヴィング・レイムス/ウィル・ パットン/モーリー・チェイキン/ケヴィン・マクナリー/テリー・オニール/マッドハヴ・ シャーマ/デヴィッド・イップ/ティム・ポッター/エリック・メイヤーズ/アーロン・スウォーツ●日本公開:1999/08●配給:20世紀フォックス(評価★★★)

The Last Emperor(1987)
The Last Emperor(1987).jpg「ラストエンペラー 劇場公開版.jpg「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオラストエンペラーdvd.png・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
丸の内ルーブル.jpg丸の内ルーブル シャンデリア.jpg丸の内ピカデリー3の看板.jpg 丸の内ルーブル 1987年10月3日「有楽町サロンパスルーブル.jpgマリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) 

丸の内ピカデリー3.jpg「丸の内ルーブル」シャンデリア.jpg丸の内ルーブルの巨大シャンデリア

【2014年文庫化[幻冬舎文庫]】

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2846】 映画秘宝編集部 (編) 『鮮烈!アナーキー日本映画史1959-1979【愛蔵版】
「●まんが・アニメ」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●外国のアニメーション映画」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(渋谷スカラ座)

ディズニー・アニメ中心で、作品の選抜基準がかなり恣意的。内容の割には値段が高すぎる。
世界アニメーション歴史事典.jpg 1世界アニメーション歴史事典』.png 
世界アニメーション歴史事典』 (2012/09 ゆまに書房)(26.2 x 23.8 x 3.8 cm)

 100年にわたるアニメーションの歴史を、図版と解説とで紹介したアニメの歴史事典で、アニメ映画だけでなく、テレビ番組、ゲーム、インディペンデント系映画、インターネットのアニメにいたるまでフォローした、定価8,500円の豪華本です(重い!)

 年代順に整理されていて分かりやすく、何よりも図版の配置が贅沢。その分、400頁余というページ数の割には、取り上げられている作品数に制約があり、観て楽しむ分にはいいですが、「事典」としてはどうかなという思いも。

ファンタジア.JPG 掲載されているアニメ数は700余点とのことですが、芸術アニメからディズニーの大ヒットアニメまでカバーしている分、それぞれの分野で抜け落ちを多いような気もして、作品の選抜にやや恣意性を感じました。

 日本のアニメは、「白蛇伝」('58年)が片面で小さく図版が入っているのみなのに対し、「AKIRA」('88年)が見開き両面に図版を入れての紹介、映画「ファイナルファンタジー」が片面図版入りなのに対し、「鉄腕アトム」('63年)や「千と千尋の神隠し」('01年)が、まるで邦訳版のために後から加えたかのように、図版無しの簡単な文章のみの紹介となっています(これらも、"700余点"にカウントされているのか)。

ファンタジア01.png 「ファンタジア」('41年、日本公開'55年)の見開き4ページにわたる紹介を筆頭に(これ、確かに名作ではある。本書にも紹介されている「ネオ・ファンタジア」('76年/伊)の方が大人向きの芸術アニメで、「ファンタジア」1世界アニメーション歴史事典f.pngがレオポルド・ストコフスキーならば「ネオ・ファンタジア」の方はヘルベルト・フォン・カラヤンで迫るが、「ネオ・ファンタジア」は「ファンタジア」より35年も後に作られた作品にしては残念ながらはアニメーション部分がイマイチ)、本書全体としてかなりディズニー偏重ではないかと思われ、イギリス映画である「イエロー・サブマリン」('68年/英)なども制作の経緯が結構詳しく記されているけれども、それらも含め米国においてメジャーであるかどうかという視座が色濃いとも言えます。

1世界アニメーション歴史事典y.png 個人的には「イエロー・サブマリンン」は、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」('64年/英)、「ヘルプ!4人はアイドル」('65年/英)などとの併映で名画座で観ましたが、いつごろのことか記憶にありません。劇場(ロードショー)公開当初はそれほど話題にならなかったといいますが、今思えば、日本の70年代ポップカルチャーに与えた影響は大きかったかも。イラストレーターの伊坂芳太良なんて、影響を受けた一人では?(この人、1970年には亡くなっているが)。

 もちろんディズニー・アニメは歴史的にも先駆的であり、「白雪姫」('37年、日本公開'50年)はディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと思うし、個人的には自分の子供時代の弁当箱の図柄だった「ダンボ」('41年、日本公開'54年)にも思い入れはあるし(「ダンボ」は1947年・第2回カンヌ国際映画祭「アニメーション賞」受賞作)、「ファンタジア」のDVDなどは大型書店に行けば児童書のコナーで簡単に購入できるなど、今も世界的にもメジャーであることは間違いないのですが...。自分の子供時代に関して言えば、「ダンボ」は劇場で観たけれど、「ファンタジア」は観なかったなあ(リヴァイバルされる機会が少なかったのかも)。今観ても、「ファンタジア」はどこよなく"情操教育"っぽい雰囲気が無きにしもあらずで、個人的に懐かしい「ダンボ」の方がやや好みか。

 冒頭の地域別アニメ史の要約は「北米」「西欧」「ロシア・東欧」「アジア」という区分になっていますが、本文中ではアメリカがやはり圧倒的に多いです(著者のスティーヴン・キャヴァリアは、アニメ制作キャリア20年の英国人で、ディズニーの監督もしたことがあるとのことだが、何という作品を監督したのかよく分からない)。

雪の女王.jpg 芸術アニメに関して言えば、アレクサンドル・ペドロフの「老人と海」('99年/露・カナダ・日)は紹介されていますが、山村浩二監督の「頭山」('02年)は無く(加藤久仁生監督の「つみきのいえ」('08年)はある)、伝統的に芸術アニメの先進国であるチェコの作品などは、カレル・ゼーマンの「悪魔の発明」('58年)は入っていますが「水玉の幻想」('48年)などは入っておらず、ロシアの作品は、雪の女王 dvd.jpg「イワンと仔馬」('47年)は図版無しの文章のみの紹介で、「雪の女王」('57年)に至っては「イワンと仔馬」の解説文の中でその名が出てくるのみ、同じく、ユーリ・ノルシュテインの「霧の中のハリネズミ(霧につつまれたハリネズミ)」('75年)も、日本でも絵本にまでなっているくらい有名な作品ですが、「話の話」('79年)の解説文の中でその名が出てくるのみで、その「話の話」の図版さえもありません(「話の話」が「霧の中のハリネズミ」の"続編"として作られたと書いてあるが、それぞれ別作品ではないか)。これでは日本人だけでなく、東欧人やロシア人の自国のアニメを愛するファンも怒ってしまうのでは?

1ロジャー・ラビット.png ロバート・ゼメキス監督の「ロジャー・ラビット」('88年)のような「実写+アニメーション合成作品」も取り上げられていますが、確かにアカデミー視覚効果賞などを受賞していて、合成技術はなかなかののものと当時は思われたものの、合成を見せるためだけの映画になっている印象もあり、キャラクターが飛び跳ねてばかりいて観ていて落ち着かない...まあ、アメリカのトゥーン(アニメーションキャラクター)の典型的な動きなのだろうけれど、これもまたディズニー作品。但し、この作品以降、「リジー・マグワイア・ムービー」('03年)まで15年間、ディズニーは実写+アニメーション合成作品を作らなかったことになります(最も最近の実写+アニメーション合成作は「魔法にかけられて」('07年))。まあ、実写とアニメの合成は、作品全体のごく一部分としてならば、ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊る「錨を上げて」('45年/米)の頃からあるわけだけれど。

 結果的には、アメリカのアニメ史、特にディズニー・アニメに絞って追っていく分にはいい本かも(と思ったら、版元の口上にも、「ディズニー主要作品も網羅した本格的な初のアニメファン必備書」とあった)。個人的には、懐かしいアニメもありましたが、一つ一つの作品解説がそう詳しいわけでもなく(但し、制作の裏話などではトリビアなエピソードも多くあったりする)、むしろアメリカ・アニメ史の中でのそれら作品の位置づけを確認できる、といった程度でしょう。内容的に見て、事典と言うより個人の著書の色合いが濃く、買うには値段が高すぎる本でした。


FANTASIA 1941.jpgファンタジア dvd.jpg「ファンタジア」●原題:FANTASIA●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ベン・シャープスティーン●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:ジョー・グラント/ディック・ヒューマー●音楽:チャイコフスキー/ムソルグスキー/ストラヴィンスキー/ベートーヴェン/ポンキェッリ/バッハ/デュカース/シューベルト(レオポルド・ストコフスキー指揮、フィラデルフィア管弦楽団演奏)●時間:オリジナル125分/1942年リバイバル版81分/1990年リリース版115分●出演:ディームス・テーラー/レオポルド・ストコフスキー●日本公開:1955/09●配給:RKO=大映(評価:★★★☆)ファンタジア [DVD]

ネオ・ファンタジア dvd.jpg「ネオ・ファンタジア」●原題:ALLEGRO NON TROPPO●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督・製作:ブルーノ・ボツェット●脚本:ブルーノ・ボツェット/グイド・マヌリ/マウリツィオ・ニケッティ●アニメーション:アニメーション:ギゼップ・ラガナ/ウォルター・キャバゼッティ/ジョバンニ・フェラーリ/ジャンカルロ・セレダ/ジョルジョ・バレンティニ/グイド・マヌリ/パオロ・アルビコッコ/ジョルジョ・フォーランニ●実写撮影:マリオ・マシーニ●音楽:ドビュッシー/ドヴォルザーク/ラヴェル/シベリウス/ヴィヴァルディ/ストラヴィンスキー(ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、フィラデルフィアベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)●時間:85分●出演:マウリツィオ・ニケッティ/ネストール・ガレイ/マウリツィオ・ミケーリ/マリア・ルイーザ・ジョヴァンニーニ●日本公開:1980/01●配給:アート・フォーラム●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★★)●併映:「天井桟敷の人々」(マルセル・カルネ)ネオ・ファンタジア [DVD]

白雪姫 dvd.jpg「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)白雪姫 スペシャル・エディション [DVD]

ダンボ dvd.jpgダンボ 1941.jpg「ダンボ」●原題:DUMBO●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督:ベン・シャープスティーン●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:ジョー・グラント/ディック・ヒューマー/ビル・ピート/オーリー・バタグリア/ジョー・リナルディ/ジョージ・スターリング/ウェッブ・スミス/オットー・イングランダー●音楽:オリバー・ウォレス/フランク・チャーチル●撮影:ボブ・ブロートン●原作:ヘレン・アバーソン/ハロルド・パール●時間:64分●声の出演:エド・ブロフィ/ハーマン・ビング●日本公開:1954/03●配給:RKO=大映(評価:★★★★)ダンボ スペシャル・エディション [DVD]

イエロー・サブマリン dvd.jpgイエロー・サブマリン.jpg「イエロー・サブマリン」●原題:YELLOW SUBMARINE●制作年:1968年●制作国:イギリス●監督:ジョージ・ダニング/ジャック・ストークス●製作:アル・ブロダックス●撮影:ジョン・ウィリアムズ●編集:ブライアン・J・ビショップ●時間:90分●出演:(アニメ画像として)ザ・ビートルズ(ジョン・レノン/ポール・マッカートニー/ジョージ・ハリスン/リンゴ・スター)●日本公開:1969/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(07-08-28)(評価:★★★☆)
イエロー・サブマリン [DVD]

ロジャー・ラビット dvd.jpg「ロジャー・ラビット」●原題:WHO FRAMED ROGER RABBIT●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●アニメーション監督:リチャード・ウィリアムス●製作:フランク・マーシャル/ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・プライス/ピーター・シーマン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ゲイリー・K・ウルフ●時間:113分●出演:デボブ・ホスキンス/クリストファー・ロイド/ジョアンナ・キャシディ/スタッビー・ケイ/アラン・ティルバーン/リチャード・ルパーメンティア●日本公開:1988/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:渋谷スカラ座(88-12-04)(評価:★★)ロジャー・ラビット [DVD]
渋谷東宝会館2.jpg渋谷スカラ座 渋谷東宝会館4階(1階は渋谷東宝劇場)。1989年2月26日閉館。1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーが開館。


錨を上げて アニメ.jpg「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シド錨を上げて.jpgテアトル新宿.jpgニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター (99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション老人と海 [DVD]」('99年/ロシア/カナダ/日本)

雪の女王 dvd.jpg「雪の女王」●原題:Снежная королев(スニェージナヤ・カラリェバ)●制作年:1957年●制作国:ソ連●監督:レフ・アタマノフ●脚本:レフ・アタマノフ/G・グレブネル/N・エルドマン●音楽:A.アイヴァジャン●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:63分●声の出演:Y.ジェイモー/A.カマローワ/M.ババノーワ/G.コナーヒナ/V.グリプコーフ●公開:1960/01/1993/08 ●配給:NHK/日本海映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)

雪の女王 [DVD]」('57年/ソ連)


霧の中のハリネズミ.jpg「霧の中のハリネズミ(霧につつまれた霧の中のハリネズミ 1.jpgユーリ・ノルシュテイン作品集.jpgハリネズミ)」●原題:Ёжик в тумане / Yozhik v tumane●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:ユーリイ・ノルシュテイン●脚本:セルゲイ・コズロフ●音楽:ミハイール・メイェローヴィチ●撮影:ナジェージダ・トレシュチョーヴァ●原作:セルゲイ・コズロフ●時間:10分29秒●声の出演:アレクセーイ・バターロフ/マリヤ・ヴィノグラドヴァ/ヴャチェスラーフ・ネヴィーヌィイ●公開:2004/07(1988/10 ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント【VHS】)●配給:ふゅーじょんぷろだくと=ラピュタ阿佐ヶ谷(評価:★★★★)

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1783】 江藤 努/中村 勝則 『映画イヤーブック 1997
「●ロマン・ポランスキー監督作品」の インデックッスへ「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「テス」)「●フランシス・レイ音楽作品」の インデックッスへ(「レッスンC」)「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ(「遊星からの物体X」)「●ナスターシャ・キンスキー 出演作品」の インデックッスへ(「キャット・ピープル」「テス」「レッスンC」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「インベーダー」「ロズウェル/星の恋人たち」) 

見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG 1『怪奇SF映画大全』アマゾンの半魚人.jpg
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"
 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」('31年)ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター。原著の表紙はロバート・フローリー監督、ベラ・ルゴシ主演の「モルグ街の殺人」('32年))。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、最近のリメイクのようにすぐにコングが出てくるのではなく、結構ドラマ部分で引っ張っていて、コングが出てくるまでにかなり時間がかかったけれど、これはこれで良かったのでは。当のコングは、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ている不思議と慣れてきて、ティラノサウルスっぽい「暴君竜」との死闘はまるでプロレスを観ているよう(コマ撮りでよくここまでやるなあ)。比較的自然にコングに感情移入してしまいましたが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]

紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
     
one million years b.c. poster.jpg この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのにラクェル・ウェルチ   .jpgラクェル・ウェルチがバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしているのはある種"お約束ごと"か)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)や「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)、「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)各ポスター

「遊星よりの物体X」('51年)/「遊星からの物体X」('82年)
the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督によりカート・ラッセル主演で「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

「キャット・ピープル」('42年)/「キャット・ピープル」('81年)
cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者「キャット・ピープル」は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日テス 0.jpg「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、むしろ構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。ナスターシャ・キンスキー自身は、「テス」('79年)で"演技開眼"した後の作品であるため、「肌を出し過ぎた」発言に至っているのではないでしょうか。「テス」は、19世紀のイギリスの片田舎を舞台に2人の男の間で揺れ動きながらも愛を貫く女性を描いた、文豪トマス・ハーディの文芸大作をロマン・ポランスキーが忠実に映画化した作品で、ナスターシャ・キンスキーの演技が冴え短く感じた3時間でした(ナスターシャ・キンスキーはこの作品でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞)。一方、「テス」に出る前年にナスターシャ・キンスキーは、スイスの全寮制寄宿学校を舞台に、そこにやって来たアメリカ人少女というレッスンC  poster.jpg「レッスンc」.jpg設定の青春ラブ・コメディ「レッスンC」('78年)に出演していて、そこでは結構「しっかり肌を出して」いたように思います。「レッスンC」は音楽はフランシス・レイでありながらもB級というよりC級映画に近いですが(まあ、フランシス・レイは「続エマニュエル夫人」('75年)といった作品の音楽も手掛けているわけだが)、16歳のナスターシャ・キンスキーのキュートでお茶目なぶりがいやらしさを感じさせず、ある種ガーリームービーとして後にカルト的人気となった作品です。それにつられた訳ではないが、個人的評価も当初×(★★)だったのを△(★★☆)にしました(音楽も今聴くと懐かしい)。

 後者「遊星からの...」はカート・ラッセル主演で、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるでしょうか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかもしれません。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。エンニオ・モリコーネの音楽も効いていました。

インベーダー1st Season DVD-BOX
インベーダー1st Season DVD-BOX.jpg リメイク版「遊星からの物体X」がオリジナルの「遊星よりの物体X」と大きく異なるのは、あらゆる生物を同化する「物体」の姿を、ありふれたモンスター的なデザインとはせず、動物や人間の姿に置き換えるようにしていることで、「誰が人間ではないのか、自分が獲り込まれたのかすらも分からない緊迫した状況」を生み出している点です。そう言えば、エイリアンが人間に獲りついたり人間の姿を借りているため、一見して普通の人間と見分けがつかないというのは、米国のテレビドラマ「インベーダー」('67年~'68年)年の頃からありました。建築家デビッド・ビンセントは深夜に空飛ぶ円盤が着陸するのを目撃し、宇宙からの侵略者(=インベーダー)の存在を知るが、その事実を誰にも信じてもらえず、ビンセントはインベーダーの陰謀を追って全米各地を飛び回るというもので、テレビドラマ「逃亡者」('68年~'67年)と同じクイン・マーチン・プロダクションの制作。そのためか、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人を探し求めて全米を旅するという「逃亡者」とちょっと似ています。ロズウェル dvd.jpg「インベーダー」は日本でも一時ブームになりましたが、米国でのUFOブームに便乗した企画だったのが、ブームが下火になったため2シーズンで終了しています(インベーダーの本当の姿が分からないまま終わった)。インベーダーは外見は地球人と同じだが、手の小指が動かないという設定でした(これじゃ見分けつかないね)。その後、人間の姿をした宇宙人が出てくるドラマは、「ロズウェル/星の恋人たち」('99年~'02年)など幾つか作られました。「ロズウェル」は、普通の高校生たちが、自分たちの特殊な能力に気づき、実は自分たちは宇宙人だったということを知るというもので、恋あり友情ありの青春ドラマにSFの味付けをしたという感じ。NHKで放映されましたが、本国の方で視聴率が伸び悩み、こちらも3シーズンで終了しました(ラストでちらっと彼らの本当の姿が見られる)。

ロズウェル/星の恋人たち シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

「インベーダー」(The Invaders) (ABC 1967.01~1968.01) ○日本での放映チャネル:NETテレビ(現テレビ朝日)(1967.10~1970.07)
「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)


フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラング「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。

 因みに、ボブ・ラフェルソン(1933-2022/89歳没)監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg(●2017年に32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られた。シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)へのオマージュが見られる)。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などはアニメっぽかったように思えた(日本のアニメへのオマージュもキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加したジョーダン・ヴォート=ロバーツ、樋口真嗣。.jpgシン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと述べたが、モーション・キャプチャを使っているせいではないか。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のようなインパクトもなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い。)
「キングコング」('76年)/「キングコング:髑髏島の巨神」('17年)
キングコング 新旧.jpg


キング・コング [DVD]
キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★☆)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

恐竜100万年 [DVD]
恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作:レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

シモーヌ・シモン in 「快楽」('52年/仏)監督:マックス・オフュルス 原作:ギ・ド・モーパッサン「モデル」
LE PLAISIR 1952.jpg
        
「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
キャット・ピープル [DVD]」/チラシ

テス Blu-ray スペシャルエディション
テス  0.jpgテス   00.jpg「テス」●原題:TESS●制作年:1979年●制作国:フランス・イギリス●監督:ロマン・ポランスキー●製作:クロード・ベリ●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ジョン・ブラウンジョン●撮影:ギスラン・クロケ/ジェフリー・アンスワース●音楽:フィリップ・サルド●原作:トーマス・ハーディ「ダーバヴィル家のテス」●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ピーター・ファース/リー・ローソン/ジョン・コリン/デイヴィッド・マーカム/ローズマリー・マーティン/リチャード・ピアソン/キャロリン・ピックルズ/パスカル・ド・ボワッソン●日本公開:1980/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(81-03-18)(評価:★★★★)

レッスンC [DVD]」 音楽:フランシス・レイ
レッスンC dvd.jpg「レッスンC」●原題:LEIDENSCHAFTLICHE BLUMCHEN/PASSION FLOWER HOTEL●制作年:1977年●制作国:西ドイツ・フランス・アメリカ●監督:アンドレ・ファルワジ●製作:アルツール・ブラウナー●脚本:ポール・ニコラス●撮影:リチャード・スズキ●音楽:フランシス・レイ●原作:ロザリンド・アースキン●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ゲリー・サンドクイスト/キャロリン・オーナー/マリオン・クラット/ヴェロニク・デルバーグ●日本公開:1982/05●配給:ジョイパックフィルム●最初に観た場所:中野武蔵野館(82-10-03)(評価:★★☆)●併映:「グローイング・アップ3 恋のチューインガム」(ボアズ・デビッドソン)

遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
遊星よりの物体X [DVD]

遊星からの物体X.jpg遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)●2回目:三軒茶屋東映(84-12-22)(評価:★★★★)●併映(1回目):「エイリアン」(リドリー・スコット)●併映(2回目):「ブレードランナー」(リドリー・スコット) 
遊星からの物体X [DVD]
遊星からの物体X(復刻版)(初回限定生産) [DVD]

音楽:エンニオ・モリコーネ
    
King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

「●国際(海外)問題」の  インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【822】 田中 宇 『イラク
「●集英社新書」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ「●「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール」受賞作」の インデックッスへ(「路<みち>」) 「●「フランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)」受賞作」の インデックッスへ(「路<みち>」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

クルド人問題の入門書として定番的位置付け。映画「路」は重かった。

クルド人 もうひとつの中東問題es.jpg  1路.png  ギュネイ.jpg
クルド人 もうひとつの中東問題 (集英社新書)』「映画パンフレット「路(みち)」」ユルマズ・ギュネイ(Yilmaz Güney 1937-1984/享年47)

川上洋一.bmp 朝日新聞社の中東アフリカ総局長などを務めたベテラン記者の川上洋一氏(本書執筆時は既に新聞社を退職し大学教授)がクルド人問題について書いたもので、'02年の刊行ですが、その後最近まであまりこうしたクルド人にフォーカスした本がそう多く出されていなかったため、クルド人問題の入門書としては定番的位置付けになっているのではないでしょうか。

kurd-map.gif 本書によれば、「祖国なき最大の民」と言われるクルド人の居住地域(クルディスタン)は主にトルコ、イラン、イラクにまたがり、面積はフランス一国にも匹敵、人口は2500万人とも推定され、パレスチナ人約800万を大きく凌ぐとのことです。

地図出典:www.fuzita.org

 クルドの歴史を古代シュメールにまで遡り紹介していますが、クルド人の自治・独立活動が活発化したのは19世紀末以降であって、その後、第一次世界大戦によってオスマン・トルコ帝国が崩壊してから今日まで、国際政治のパワー・ゲームに翻弄されてきた経緯を特に詳しく書いており、この辺りは、根っからの大学教授(といってもどれぐらい研究者がいるのか)よりも、著者のような記者経験者の書くものの方が、より時事的な視点に沿った書き方になって、読む側としては良いのかも。

 オスマン・トルコ時代も「トルコ化」政策などの下で圧迫されていたわけですが、20世紀に入ってからの、トルコ、イラン、イラク三国による翻弄のされ方が哀しい―クルディスタンが紛争多発地域にまたがっているとうのが、ある意味、不幸の源なのでしょうが、それに大国の利権が絡んで、もうグジャグジャという感じ。

 但し、著者の視点は冷静で、幾多の自治・独立活動がの挫折をタ丹念に追うと共に、クルド人自身が、彼らの解放闘争の史上では部族主義になりがちで民族の統一が実現しない、外国依存に陥りやすい、というマイナス要因を持っているとしています。

 今後の見通しも示していますが、こうなると悲観的なものにならざるを得ない―トルコ、イラン、イラクの三国の何れにとってもクルド人国家の独立は脅威であって容認されざるものであり、強いて言えば、クルド寄りの政党、クルド人市長などがいるトルコに若干の光明が見えるといったところでしょうか(国会議員にも入り込んでいるが、これまで出自を明かしていないケースが殆ど。しかし、近年になって自らをクルド人と認める人が増えているようである)。

路(みち)05.JPG 本書を読んで思い出されるのは、クルド人であるユルマズ・ギュネイ(1937-1984)監督の映画「路<みち>」('82年/トルコ・スイス)でした(この人、元は二枚目俳優。反体制作家でもあり、獄中から代理監督を立てて映画を作っていた)。

 映画は、1980年秋、マルマラ海の小島の刑務所から5日間の仮出所を許された5人のクルド人の囚人を追っていますが、その内の一人は、故郷への帰途にある街で、軍による外出禁止令が出てしまっていて足止めを喰い、もう一人は仮出所許可証が見つからずに軍に拘留され、何れもなかなか故郷に辿りつけない。何とか故郷に辿りついた一人は、そこでクルド・ゲリラと憲兵隊との銃撃戦があり、兄が亡くなったこと知って、刑務所には戻らず自らゲリラとなって戦う道を選ぶ―。

 こうした政治的状況と併せて、クルド人の男女観や社会的因習などもが描かれており、フィアンセと再会した一人は、デートを親族から監視されることに嫌気がさして売春宿に駆け込みながら、フィアンセに対しては専制的に服従を要求し、また別の男は、妻の兄を死なせたのは自分に責任があると告白したばかりに村に居れなくなって、最後は妻の弟に射殺されてしまう―。

路(みち)06.JPG 最初の男がやっと故郷に戻ってみると、妻は彼が入獄中に売春した咎で実家に戻され鎖に繋がれていて、しかも、掟により家名を汚した妻を自ら殺さなければならず、彼は妻を背負って山中へ逃げるが、鎖で繋がれていた間パンと水しか与えられていなかった妻は、雪の中で衰弱死する―。

 兄を亡くしゲリラになることを決意した3番目の男には好きな娘がいたが、兄が死に独身の弟がいる場合は、弟は兄嫁と結婚しなければならないというクルドの因習を拒否できない―。

路(みち)07.JPG クルド人の圧政に対する不屈の精神と家族愛、男女愛を描く一方で、クルド人自らが、旧弊な因習により自らを縛っている面もあること如実に示した作品で、本国(クルド社会)内でも評価が割れたのではないかなあ。いや、そもそも、ギュネイ監督の作品は国内上映が禁止されているか(国際的にはカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞)。

 この作品も獄中から指揮して作ったもの。5人の顔が何となく似ているので(クルド人も皆トルコ髭を生やしている)、初めて観た時は途中で誰が誰だったか分からなくなったりもしたけれど、いろいろ考えさせられる重い映画には違いなく、監督の死が惜しまれます(撮影後、仮出所の際に脱走しフランスで映画を仕上げたが、その2年後に癌で死去)。

路 YOL 1982l5.jpgYol(1982).jpg「路<みち>」●原題:YOL●制作年:1982年●制作国:トルコ/スイス●監督・脚本:ユルマズ・ギュネイ●製作:エディ・ヒュプシュミット/K・L・プルディ●演出:シェリフ・ギョレン●撮影:エルドーアン・エンギン●音楽:セバスチャン・アルゴン/ケンダイ●時間:115分●出演:タルク・アカン/シェリフ・セゼル/ハリル・エルギュン/メラル・オルホンソイ/ネジュメッティン・チュバンオウル/セムラ・ウチャル/ヒクメット・チェリク●日本公開:1985/02●配給/フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(85-10-27) (評価★★★★)
Yol(1982)

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1779】 江藤 努 (編) 『映画イヤーブック 1993
「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「テルマ&ルイーズ」)「●「サターンSF映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「ターミネーター」「ターミネーター2」)「●スーザン・サランドン 出演作品」の インデックッスへ(「テルマ&ルイーズ」)「●ブラッド・ピット 出演作品」の インデックッスへ(「テルマ&ルイーズ」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ (「ツイン・ピークス」) 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(文化シネマ2)

'91年公開作品で個人的◎は「テルマ&ルイーズ」。この年は「ツイン・ピークス」の年だった。

映画イヤーブック 1992 1.JPG映画イヤーブック 1992.jpg  テルマ&ルイーズ dvd.jpg ターミネーター2 dvd.jpg ツイン・ピークス dvd.jpg映画イヤーブック〈1992〉 (現代教養文庫)』「テルマ&ルイーズ (スペシャル・エディション) [DVD]」「ターミネーター2 特別編 [DVD]」「ツイン・ピークス ファーストシーズン [DVD]

 現代教養文庫の『映画イヤーブック』の1992年版で、1991年に劇場公開された洋画413本、邦画151本。計564本のデータを収めるほか、映画祭、映画賞の記録、オリジナル・ビデオムービー、未公開ビデオデータなども網羅しています(付録の部分が充実して、前年版より約50ページ増の470ページに)。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「わが心のボルチモア」「ワイルド・アット・ハート」「ニキータ」「マッチ工場の少女」「ダンス・ウィズ・ウルブス」「羊たちの沈黙」「エンジェル・アット・マイ・テーブル」「ターミネーター2」「コルチャック先生」「テルマ&ルイーズ」「真実の瞬間(とき)」「ボイジャー」「髪結いの亭主」「トト・ザ・ヒーロー」など、一方、邦画で四つ星は、大林宣彦監督の「ふたり」、山田洋次監督の「息子」、北野武監督の「あの夏、いちばん静かな海」、竹中直人監督の「無能の人」の4本だけで、分母数が違うけれどこの頃は概ね「洋高邦低」が続いた時期だったのかもしれません。

テルマ&ルイーズ ジーナ・デイビス.jpgテルマ&ルイーズ1.bmp 個人的なイチオシは、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」('91年/米)で、専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)とレストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズ(スーザン・サランドン)の親友同士が週末旅行に出掛けた先で、自分たちをレイプしようとした男を射殺したことから、転じて逃走劇になるという話(ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」「女優賞(スーザン・サランドン)」受賞作)。

テルマ&ルイーズ2.bmp リドリー・スコットが女性映画を撮ったという意外性もありましたが、ジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンが、どんどん破局に向かいつつも、その過程においてこれまでの束縛や因習から解放され自由になっていく女性を好演し、彼女ら追いつつも彼女らの心情を理解し、何とか連れ戻したいとテルマ&ルイーズ ハーヴェイ・カイテル.jpgテルマ&ルイーズ ブラッド・ピット.jpg思う警部役のハーベイ・カイテルの演技も良かったです(まださほど知られていない頃のブラッド・ピットが、彼女らの金を持ち逃げするヒッチハイカー役で出ていたりもした)。
ハーヴェイ・カイテル(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)/ブラッド・ピット

 逃避行の背景となる西部の大自然を、映像に凝るリドリー・スコット監督らしく美しく撮っていて、最後は何台ものパトカーによりグランドキャニオンの絶壁に2人は追いつめられるのですが、こうなると結末は見えてしまうものの(「明日に向かって撃て!」の現代女性版だね)、からっとした爽快感があって、ある種、日常生活や夫の面倒にかまけ、生きることに飽いている女性の「夢」を描いた作品と言えるかも(アメリカの女性ってそんなに鬱々とした日常を生きているのか?―でも、ある層はそうかもしれないなあ)。


ターミネーター2 01.jpg 「ダンス・ウィズ・ウルブス」といったアカデミー賞受賞作品と並んで「羊たちの沈黙」や「ターミネーター2」が星4つの評価を得ているというのがこの年の特徴でしょうか。

ターミネーター2L.jpg ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」('91年/米)は、形状記憶疑似合金でできたT1000型ターミネーターが登場したものでしたが、この作品の前に「アビス」('89年)を撮り、ずっと後に「アバター」('09年)を撮ることになるターミネーター2 t1000.jpgジェームズ・キャメロン監督らしい特撮CGが冴えていたように思われ、T1000型を演じるロバート・パトリックも、華奢なところがかえって凄味がありました。一方、アーノルド・シュワルツネッガーが演じる旧タイプのT800型ターミネーターを善玉にまわしてヒューマンにした分、前作「ターミネーター」に比べ甘さがあるように思いました(これ、本書において山口猛氏が書いている批評とほぼ同じなのだが、山口氏の評価は最高評価になる星4つ)。IMDb評価は、「ターミネーター」が[8.1]、「ターミネーター2」が[8.6]で、「2」が上になっています。後からまとめて観た人は「2」の方がいいのかもしれないけれど、それぞれリルタイムで観た自分の場合、「1」のインパクトが大きかったです。

 「ターミネーター」('84年/米・英)はアーノルド・シュワルツネッガーを一気にスターダムに押し上げた作品でしたが、ジェームズ・キャメロン監督にとっても監ターミネーター14.png督デビュー作「殺人魚ターミネーター00.jpgフライング・キラー」(81年)に続く監督2作目であり、彼の出世作と言えます。ジェームズ・キャメロン監督はシュワルツネッガーと1度会食をしただけで、キャリアが浅く当初脇役で出演の予定だった彼をT800型ターミネーター役に抜擢することを決めたそうですが、シュワルツネッガーの全裸での登場シーンから始まって、そのストロングタイプのヒールぶりは今振り返ってもターミネーター    .jpg強烈なインパクトがあったように思います。ただ、この作品の後、「ターミネーター2」との間の7年間の間隔があり(ヒットしたB級映画にありがちだが、すぐにでも続編を撮りたいところが版権が複数社に跨っており、撮ろうにもなかなか撮れなかった)、その間にターミネーター01.pngシュワルツネッガーは「レッドソニア」「コマンドー」「ゴリラ」「プレデター」「バトルランナー」「レッドブル」「ツインズ」「トータル・リコール」「キンダガートン・コップ」といった作品に主演しており、こうなるともう悪役には戻れない...。特に「ツインズ」や「キンダガートン・コップ」といったコメディもそつなくこなしているのが大きいと思われ、人気面だけでなく演技面でも、「コナン・ザ・グレート」('82/米)でラジー賞の"最低男優賞"になってしまった人とは思えない成長ぶりでした(このことが「ターミネーター2」の"ヒューマンなターミネーター"役につながっていくわけか)。 

ツイン・ピークス1.jpg 因みに、91年は、これも映像表現に特徴のあるデイヴィッド・リンチ監督のテレビ・シリーズ「ツイン・ピークス」のビデオが日本でリリースされた年で、日本中のレンタルビデオ店が「ツイン・ピークス」入荷&予約待ち状態になるという大ブームになりましたが、この作品もある意味「脱日常」的な作品だったなあと(まあ、「Xファイル」にしろ「LOST」にしろ、どれもみんな「脱日常」なのだが)。

ツイン・ピークス2.jpg ビデオ14巻、全29話(パイロット版を含めると30話)、24時間強のサスペンス・ミステリーですが、毎回毎回いつもいいところで終わるので、続きを観るまで禁断症状になるという(あの村上春樹も米国でリアルタイムでハマったという)―ラストは腑に落ちなかったけれども(「えーっ、これが結末?」という感じか)、そのことを割り引いてもテレビ・ムービーの金字塔とツイン・ピークス3.jpg言えるのでは(デイヴィッド・リンチによると、このラストはあくまでも第2シーズンの最終話に過ぎず、「ツイン・ピークス」という物語そのものの結末ではないとのことだが、続編は未だ作られていない)。

 この作品のパイロット版は、もともとTVシリーズの第1話として作られたものですが、ヨーロッパへの輸出用に作られた、それ自体で映画として完結するインターナショナル・ヴァージョンが当時リリースされており、本編の「謎とき」とまではいかないですが、背景の説明としてガイド的役割を果たしています。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間.jpg また、'92年に「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」という劇場版が作られ、本編との矛盾もあるものの、こちらも本編の解説的役割を果たしています(と言っても、到底一筋縄で解るといったものではないけれど)。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間 [DVD]

 TV版の雰囲気をしっかり引き継いでいるし(むしろデイヴィッド・リンチ的な雰囲気はより前面に出ている)、"壊れゆくローラ"を演じたシェリル・リーの演技も悪くない。ある意味、TV版の結末よりも正統派的な展開なのかもしれないけれど、メタファーの大部分が理解不能だったなあ。《ツイン・ピークス・フリークス》と言われる人のサイトを見て、なるほどそういうことなのかと理解した次第(登場人物そのものがメタファーだったりしてるわけだ)。まあ、TVシリーズを最後まで観てから映画を観た方がいいに違いはありません(それでも、よく解らないところが多かったのだが)。

THELMA & LOUISE 2.jpgTHELMA & LOUISE.jpg「テルマ&ルイーズ」●原題:THELMA & LOUISE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク●脚本:カーリー・クーリ●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ハンス・ジマー●時間:129分●出演:スーザン・サランドン/ジーナ・デイヴィス/ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ブラッド・ピット●日本公開:1991/10●配給:松竹富士(評価:★★★★☆)

ターミネーター2-15.jpg「ターミネーター2」●原題:TERMINATOR2:JUDGMENT DAY●制作年:1991ターミネーター2 02.jpg年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジェームズ・キャメロン●脚本ジェームズ・キャメロン/ウィリアム・ウィッシャー●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:137分(公開版)/154分(完全版)●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/リンダ・ハミルトン/エドワード・ファーロング/ロバート・パトリック/アール・ボーエン/ジョー・モートン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1991/08●配給:東宝東和(評価:★★★)

ターミネーター ps.jpgターミネーター25.jpg「ターミネーター」●原題:THE TERMINATOR●制作年:1984年●制作国:アメリカ/イギリス●監督:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●脚本:ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハードターミネーター03.png●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:108分●出演:新宿文化シネマ2.jpgアーノルド・シュワルツェネッガー/マイケル・ビーン/リンダ・ハミルトン/ポール・ウィンフィールド/ランス・ヘンリクセン/リック・ロッソヴィッチ/ベス・マータ/ディック・ミラー●日本公開:1985/05●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿・文化シネマ2 (85-05-26) (評価:★★★☆)
新宿文化シネマ2 2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン

Twin Peaks (1990)
Twin Peaks (1990).jpg
Twin Peaks (ABC 1990).jpgツイン・ピークス.jpg「ツイン・ピークス」 Twin Peaks (ABC 1990/04~1991/06) ○日本での放映チャネル: WOWWOW(1991)
                                   
ツイン・ピークス4.bmp
カイル・マクラクラン
      
「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」●原題:TWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER(Twin Peaks:Fire Walk With Me)●制作年:1TWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER2.jpgTWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER.jpg992年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・リンチ●製作:グレッグ・ファインバーグ●脚本:デイヴィッド・リンチ/ロバート・エンゲルス●撮影:ロン・ガルシア●音楽:アンジェロ・バダラメンティ●時間:135分●出演:シェリル・リー/レイ・ワイズ/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/キーファー・サザーランド●日本公開:1992/05●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★?)

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【917】『大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150
「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●マーティン・スコセッシ監督作品」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●「ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞」受賞作」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ドライビング Miss デイジー」)「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ドゥ・ザ・ライト・シング」「グッドフェローズ」)「●モーガン・フリーマン 出演作品」の インデックッスへ(「ドライビング Miss デイジー」「ショーシャンクの空に」) 「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「サターンSF映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「トータル・リコール」「ロボコップ」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●ま行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●浅野 忠信 出演作品」の インデックッスへ(「バタアシ金魚」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

'90年公開作品で個人的◎は「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ドライビング Miss デイジー」。

映画イヤーブック 1991 3298.JPG映画イヤーブック1991 教養文庫.jpg  ドゥ・ザ・ライト・シング0.bmp DRIVING MISS DASIY.bmp
映画イヤーブック〈1991〉 (現代教養文庫)』「ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]」「ドライビングMissデイジー [DVD]
 
 90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』の1991年版で、1990年に劇場公開された洋画406本、邦画146本、計552本のデータを収めています。ストーリー紹介だけでなく、主だった作品は、映画評論家が分担して執筆し、それぞれ批評を織り込んでいて、後でDVDなどで観賞する際の参考になりました(本書評価は★★★★→必見、★★★→ぜひ見る価値アリ、★★→見て損はしない、★→ヒマつぶしにはなるかも)。本書における四つ星評価(「必見」)作品から幾つか拾うと―。

ドゥ・ザ・ライト・シング1.bmp '90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞しています。(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

ドライビング miss デイジー.bmp 続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部ジェシカ・タンディ アカデミー賞.jpg門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

「ショーシャンクの空に」03.jpg モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男「ショーシャンクの空に」02.jpg優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)でアカ「ショーシャンクの空に」1994.jpg「ショーシャンクの空に」モーガン.jpgデミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、IMDb Top 250 Moviesの第1位[スコア9.3])
ショーシャンクの空に (4K ULTRA HD & HDデジタル・リマスター ブルーレイセット)(2枚組) [4K ULTRA HD + Blu-ray]

 自分としては「ショーシャンクの空に」よりも「ドライビング Miss デイジー」に感動してしまったクチなのですが、アメリカの黒人コミュニティーの間では「ドライビング Miss デイジー」は白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、評判は良くないようです。確かにハリウッド映画の伝統的な黒人の描かれ方の枠を出ていないかも(でも、個人的には名作だと思う)。その対極にあるのが、「ドゥ・ザ・ライト・シング」でもあると言え、アカデミー賞授賞式のプレゼンターとして舞台に立ったキム・ベイシンガーは、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、「ドゥアカデミー賞 キム・ベイシンガー1.jpgアカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

Guddoferozu(1990).jpgグッドフェロー1.bmp マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
Guddoferozu(1990)

トータル・リコール 12.jpg 「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍シャロン・ストーン12.jpgります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。

フィリップ・K・ディック原作映画 「ブレードランナー」 ('82年/米)/「マイノリティ・リポート」('02年/米)
ブレードランナー チラシ.jpg ブレードランナー.jpg    マイノリティ・リポート01.jpg マイノリティ・リポート 02.jpg 


ロボコップ 警官.jpg 因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったとロボコップ 1987 pw.jpgか。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。

  
バタアシ金魚ド.jpgバタアシ金魚 dvd2.bmp 洋画ばかり挙げましたが、邦画では「バタアシ金魚」('90年/シネセゾン)なんてあったなあ。個人的には自主制作時代の作品も何本か観たことのある松岡錠司監督の劇場用映画デビュー作、主演の筒井道隆(坊主「バタアシ金魚」.bmp頭で出演)・高岡早紀にとっても共にデビュー作ということで、新鮮味はありました。コミックが原作ながらも、インディペンデント系の雰囲気を残してしてまあまあ面白かったけれど、ストーリーとしては中途半端だった印象も。過食症でブタのように太った主人公も高岡早紀が演じたのだろうか。顔があまり映っていなかったが...(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。 


ドゥ・ザ・ライト・シング 03.jpg

ドゥ・ザ・ライト・シング dvd.jpg「ドゥ・ザ・ライト・シング」●原題:DO THE RIGHT THING●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:スパイク・リー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:ビル・リー●時間:120分●出演:スパイク・リー/ダニー・アイエロ/ルビー・ディー/サミュエル・L・ジャクソン/オジー・デイヴィス/リチャード・エドソン/ジョン・タトゥーロ/ビル・ナン/ロージー・ペレス/ ジョイ・リー/ジャンカルロ・エスポジート/ジョン・サベージ/ロビン・ハリス●日本公開:1990/04●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★☆)ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]
ドライビング miss デイジー dvd.bmp
ドライビング miss デイジー ちらし.jpg「ドライビング Miss デイジー」●原題:DRIVING MISS DASIY●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ブルース・ベレスフォード●製作:リチャード・D・ザナック/リリ・フィニー・ザナック●原作・脚本:アルフレッド・ウーリー●撮影:ピーター・ジェームズ●音楽:ハンス・ジマー●時間:99分●出演:ジェシカ・タンディ/モーガン・フリーマン/ダン・エイクロイド/パティ・ルポーン/エスター・ローレ/ジョアン・ハヴリラ/ウィリアム・ホール・Jr.●日本公開:1990/05●配給:東宝東和(評価:★★★★☆)ドライビングMissデイジー [DVD]

「ショーシャンクの空に」d.jpg「ショーシャンクの空に」01.jpg「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)ショーシャンクの空に [DVD]

「グッドフェローズ」.jpg「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/グッドフェローズ dvd.jpgマイク・スター/フランク・ヴィンセント/チャック・ロー/フランク・ディレオ/サミュエル・L・ジャクソン/クリストファー・セロ/スザンヌ・シェパード/キャサリン・スコセッシ/チャールズ・スコセッシ●日本公開:1990/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★★)グッドフェローズ スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

トータル・リコール [DVD]
トータル・リコール003.jpgトータル・リコール dvd.jpg「トータル・リコール」●原題:TOTAL RECALL●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:バズ・フェイシャンズ/ロナルド・シュゼット●脚本:ロナルド・シュゼット/ダン・オバノン/ゲイリー・ゴールドマン●撮影:ヨスト・ヴァカーノ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:フィリップ・K・ディック「記憶売ります」●時間:113分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/レイチェル・ティコトータル・リコール シャロン・ストーン.jpgティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

ロボコップ 1987.jpgロボコップ pw.jpg「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)
ロボコップ/ディレクターズ・カット [DVD]

高岡早紀(17歳)(テレフォンカード)/「バタアシ金魚 [DVD]
バタアシ金魚 1990.jpg「バタアシ金魚」2.bmpバタアシ金魚 dvd.jpg「バタアシ金魚」●制作年:1990年●監督・脚本:松岡錠司●製作:日本ビクター●撮影:笠松則通●音楽:茂野雅道●原作:望月峯太郎●時間:95分●出演:高岡早紀/筒井道隆/白川和子/伊武雅刀/東幹久/土屋久美子/浅野忠信/大寶智子/橋本真由子/いしかわじゅん/桜金造/山村美智子/佐藤オリエ/安原麗子●公開:1990/06●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネパトス新宿 (90-06-16)(評価:★★★☆)

筒井道隆(19歳)・浅野忠信(16歳)共に映画デビュー作
「バタアシ金魚」筒井・浅野.jpg「バタアシ金魚」浅野.jpg  
 「バタアシ金魚」で、浅野忠信は丸刈りで牛川工業高校水泳部の主将ウシを演じた。 
 浅野忠信は、自身のSNSのプロフィールとコメントが書かれたページで、「バタアシ金魚」について「撮影の時はあまり楽しくなかったです。撮影以外の時も楽しくなかったです」とコメント。他の部員役は床屋でカットしたが、「僕だけ八王子まで行って、そこから車でちょっと行ったふつうの家に連れてかれ、牛のフンくさい太陽がギラギラ照っている外で、とても暑い思いをしてバリカンの試し刈りとしか思えない断髪式をやった事がとてもムカムカ」したとし、さらに「人の頭を刈るだけ刈って長さメチャクチャ」「あとはメイクさん、向こうで切ってと言って、端の方で頭刈られて、極めつけは、さっきまで僕が頭を刈られてた所でロケをやっているんですから、もうバクハツ寸前でした」と。しかし最後は「でも泳ぎがうまくなったし、世の中の厳しさが分かったし電車にも詳しくなったし、友達ができたのでよかったです。スタッフの人はいい人ばかりでした」としている(引用:「浅野忠信」インスタグラム(@tadanobu_asano))

「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2600】 デヴィッド・O・ラッセル 「ザ・ファイター
「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿ローヤル劇場) インデックッスへ(旧・日比谷スカラ座)

スティーヴ・マーティン、キャスリーン・ターナーが芸達者ぶりを発揮「2つの頭脳を持つ男」。

2つの頭脳を持つ男 dvd.jpg 02つの頭脳を持つ男5.jpg   ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 dvd.jpg  ローズ家の戦争 dvd.jpg
2つの頭脳を持つ男 [DVD]」Kathleen Turner & Steve Martin 「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 [DVD]」「ローズ家の戦争 [DVD]

The Man with Two Brains.jpg マイケル・ハフハール(スティーヴ・マーティン)は世界的に有名な脳外科医だが、亡き愛妻の思い出に胸締め付けられる日々を送っていた。ある日、車を運転中、目の前を横切ったドロレス(キャスリーン・ターナー)を跳ね飛ばしてしまうが、駆け寄って見た彼女の美しさに参ってしまう。美貌のドロレスは、実は遺産目当てで年老いた男に近寄り、結婚後に夫を死に追いやる悪女だったが、そうと知らずにドロレスの脳外科手術を買って2つの頭脳を持つ男4.jpg出たハフハールは、手術を成功させ、意識を取り戻したドロレスにアタックをかけ結婚へ。しかし、新婚生活を送るうちにドロレスの傲慢さが目につくようになり、その上夜の営みを拒み続けるドロレスに欲求不満気味、上司の勧めで仕事とハネムーンを兼ねてオーストリアへ行き、脳移植の権威ネセシスター博士(デビッド・ワーナー)に出会い、彼の研究室で、"アン・アールメヘイ"と名乗る頭脳(声:シシー・スペイセク)とテレパシーで意思疎通出来ることを知る。意思疎通を図るうちに、次第にアールメヘイの持つ優しさに惹かれて、挙句の果てには、横行していた"エレベーター・キラー"にかこつけて、彼女に見合う女性を殺害してその肉体を手に入れようとまでし始める―。

The Man with Two Brains2.jpg '85年の第1回「東京国際映画祭」の一環としての「ファンタスティック映画祭」で上映された、カール・ライナー監督、スティーヴ・マーティン(1945‐)主演のホラー・コメディで、"脳"に不倫心を抱いてしてしまう男という奇抜な設定。その流れで、その男は、"脳"のために肉体を探し、"脳移植"手術をしようとするという、ハチャメチャながらも、SF風のドタバタ喜劇であることを踏まえて観れば結構良く出来たストーリーであったように思え、意外と面白かったです。

2つの頭脳.JPG オチにも何となく人生の皮肉が込められていて、同じドタバタコメディでも、レスリー・ニールセン(1926-2010)の「裸の銃(ガン)を持つ男」('88年)などよりはこっちの方が個人的には好みです(日本人の感覚にも合っているような気がするが、実際のところは日本でも評価が割れているみたい。好みに左右される作品か)。 
2つの頭脳を持つ男.jpg スティーヴ・マーティンにしてもレスリー・ニールセンにしても、銀髪のダンディな男が途方も無くバカバカしいことをやるという点で似ているかも。両者共に日本にはあまりいないタイプの喜劇役者でしょうが、そもそも洋モノコメディ軽視の日本では、当時スティーヴ・マーティンの名は殆ど知られていなかったように思われ、自分自身この作品で初めて知り、なかなかの芸達者だと思いました。この作品も日本ではロードにかかっておらず(映画祭出品後にビデオ化はされた)、「愛しのロクサーヌ」('87年)などでやっと日本でも彼の名知られるようになりましたが、その後も出演作品数は多く、バイプレイヤーだったりシリアスな役もこなしたりしているようで、最近では、2010年に、自身3回目となるアカデミー賞授賞式の司会をしています。
Steve Martin and Kathleen Turner in "The Man with Two Brains"

 この作品について言えば、キャスリーン・ターナーの好演も見逃せず、ローレンス・カスダン監督の「白いドレスの女」('81年、原作はジェームズ・M・ケインの「倍額保険」)で男を破滅させる女"ファムファタール"を演じ、この作品でも妖婦的悪女を演じた彼女は、「白いドレスの女」公開の際の来日記者会見で"コミカルな役をやりたい"と言っていましたが、それがこれだったのだなあと(サスペンスからコメディへと、演じる"ファムファタール"のバリエーションが広い、こちらも芸達者)。

ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 dvd j.pngロマンシング・ストーン 秘宝の谷.jpg キャスリーン・ターナーはこの後、ロバート・ゼメキス監督の「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」('84年)にマイケル・ダグラスとの共演で出演しています。 「2つの頭脳...」がロードにかからなかったため、こちらを「東京国際映画祭」の1か月前に先に観ることになったのですが、ロマンス作家が否応なしに自分の書く小説張りの恋と冒険に巻き込まれていくという「インディ・ジョーンズ」と「ハーレクイン・ロマンス」を足して2で割り、それにコメディの味付けをしたような"盛り沢山"の作品でした。 "Romancing the Stone"DVDジャケットより

ナイルの宝石 マイケルダグラス/キャスリーンターナー.jpg「ナイルの宝石」1985.jpg この「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」は1984年のゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)で作品賞を受賞し、キャスリーン・ターナーは同賞主演女優賞のほかロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞も受賞しており(コメディでも演技賞を獲ってしまうというのはまさに演技力の証しか)、同じくマイケル・ダグラスとのコンビで続編「ナイルの宝石」('85年)という作品も作られています。

(左)映画パンフレット 「ナイルの宝石」 出演 マイケル・ダグラス/キャスリーン・ターナー


 これらとよく似た冒険活劇風娯楽映画で、「ナバロンの要塞」「恐怖の岬」「セント・アイブス」のJ・リー・トンプソン監督の「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」('85年)という、これもまた「インディ・ジョーンズ」の亜流色の強い作品キング・ソロモンの秘宝 ps.jpgキング・ソロモンの秘宝 ps2.jpgキング・ソロモンの秘宝 映画1.jpgもありました。「タワーリング・インフェルノ」「将軍 SHOGUN」のリチャード・チェンバレン主演で、お相手はまだそれほど有名でない頃のシャロン・ストーン...ということもあってか、一部でマニアックなファンがいるようですが、キング・ソロモンの秘宝_12.jpgコメディタッチでテンポはそう悪くなかったように思います。ただ、個人的にはそんなに熱くなるほどの映画かなあとも。配役がある種ノスタルジーを醸すのかなあ。リチャード・チェンバレンは同じく主役を演じた「将軍 SHOGUN」(ジェームズ・クラベルの小説『Shōgun』を原作としてテレビドラマとして5話放映されたものを再編集して映画化したもの)よりはずっと活き活きしていました。こちらも翌年に同じ主演コンビで続編(「キング・ソロモンの秘宝2/幻の黄金都市を求めて」)が作られています。

 この手の映画を何本か見ていると、ストーリーの区別がつかなくなるなあ。その点でも「インディ・ジョーンズ」シリーズや「ハーレクイン・ロマンス」に通じるかも。

 キャスリーン・ターナーとマイケル・ダグラスの2人はよほど相性が良かったのか、更に、「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」で二人と共演したダニー・デヴィート(「バットマン・リターンズ」('92年)で悪役のペンギン男を演じた人)が監督した、夫婦の離婚を巡るブラックコメディ映画「ローズ家の戦争」('89年)でも共演しています。

ローズ家の戦争2.jpg 結婚17年目を迎えたローズ夫妻の泥沼の離婚戦争をブラック・ユーモアで描いたコメディで(タイトルはイングランドの「バラ戦争」に準えている)、家庭間で領域を二分し、車をぶつけ合い、装飾品を投げ合って、生きるか死ぬかの闘いを繰り広げる様は、コメディというよりは恐怖映画に近く、寒気を覚えるくらい...。マイケル・ダグラスがシャンデリアにつかまっている場面が印象的でした。

マイケル・ダグラス キャサリン・ゼタ=ジョーンズ.bmp ちょっとやり過ぎの感もありましたが、マイケル・ダグラス自身はこの作品を気に入っているようで(グレン・クローズに苛められる「危険な情事」('87年)といいデミ・ムーアに苛められる「ディスクロージャー」('94年)といい、女性に苛められる役が好きなのか?)、リメイクして妻であるキャサリン・ゼタ=ジョーンズと共演しようと企画しているという話が何年か前にありましたが、どうなったのかな?

マイケル・ダグラス/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
 

2つの頭脳を持つ男3.jpg渋谷パンテオン.jpg「2つの頭脳を持つ男」●原題:THE MAN WITH TWO BRAINS●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:カール・ライナー●製作:デイヴィッド・V・ピッカー/ウィリアム・E・マッキューン●脚本:カール・ライナー/スティーヴ・マーティン/ジョージ・ガイプ●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:ジョエル・ゴールドスミス●時間:93分●出演:スティーヴ・マーティン/キャスリーン・ターナー/シシー・スペイセク(声の出演)/デビッド・ワーナー/リチャード・ブレストフ/ジェームズ・クロムウェル/ジェフリー・コムズ/ポール・ベネディクト/マーヴ・グリフィン:マーヴ・グリフィン●日本公開:1985/06●配給/ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:渋谷パンテオン(85-06-02) (評価★★★★)

ROMANCING THE STONE 4.jpg「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」●原題:ROMANCING THE STONE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:マイケル・ダグラス●脚本:ダイアン・トーマス●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:106分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/ザック・ノーマン/アルフォンソ・アラウ/マヌエル・オヘイダ/ホランド・テイラー/メアリー・エレン・トレイナー/エヴァ・スミス●日本公開:1984/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(85-05-06) (評価★★★)
新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[カラー写真:「フォト蔵」より/モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)より]
 
キング・ソロモンの秘宝 99.jpg「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」●原題:KING SOLOMON'S MINES●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン ●製作:メナヘム・ゴーラン/ヨーラム・グローブス●脚本:ジーン・クインターノ/ジェームズ・R・シルク●撮影:アレックスキング・ソロモンの秘宝dvd.jpgキング・ソロモンの秘宝 映画2.jpg・フィリップス●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:100分●出演:リチャード・チェンバレン/シャロン・ストーン/ハーバート・ロム/ジョン・ライス=デイヴィス/ケン・ガンプ/ジューン・ブゼレッジ●日本公開:1986/06●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-06-29) (評価★★★)キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー [DVD]
旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpg

旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

 

0blog_import_5c81472add086.jpeg「ローズ家の戦争」●原題:THE WAR OF THE ROSES●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:0ローズ家の戦争02.jpgダニー・デヴィート●製作:ジェームズ・L・ブルックス/アーノン・ミルチャン●脚本:マイケル・リースン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:デヴィッド・ニューマン●原作:ウォーレン・アドラー「ローズ家の戦争」●時間:116分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/マ新宿プラザ劇場200611.jpgリアンネ・ゼーゲブレヒト/ショーン・アスティン/ヘザー・フェアフィールド●日本公開:1990/05●配給/20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿プラザ(90-06-02) (評価★★★)

「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1448】J・スタージェス 「荒野の七人
「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ジョン・ヴォイト 出演作品」の インデックッスへ(「暴走機関車」)「●ジーン・ハックマン 出演作品」の インデックッスへ(「クリムゾン・タイド」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

アクション映画としてはよく出来ているが、列車が危険物を積んでいるという実感が無い。

アンストッパブル チラシ.jpg アンストッパブル dvd.jpg UNSTOPPABLE2.jpg 暴走機関車 poster.jpg
「アンストッパブル」チラシ「アンストッパブル[DVD]」クリス・パイン/デンゼル・ワシントン「暴走機関車」poster

アンストッパブル 09.jpg ペンシルバニア州のある操車場に停車中の最新式貨物列車が、整備士の人為的ミスによって無人のまま走り出してしまうが、積荷は大量の化学薬品とディーゼル燃料であることが判明、操車場長のコニー・フーパー(ロザリオ・ドーソン)は極めて深刻な事態が発生アンストッパブル10.jpgしたことを認識し、州警察に緊急配備を依頼する。フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)と職務経験4ヵ月のその頃、勤続28年のベテラン機関士車掌ウィル・コルソン(クリス・パイン)は、この日初めてコンビを組み、旧式機関車に乗り込み職務に就いていた―。
暴走機関車 [DVD]
暴走機関車 dvd2.jpg暴走機関車 .jpg暴走機関車03.jpg 列車の暴走を扱った映画ということで、アラスカの刑務所から脱獄した男たちが乗った機関車が運転手が心臓発作で亡くなったため暴走する、アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督、ジョン・ヴォイト主演の「暴走機関車」('85年/米)を想起しましたが(映画の原案は黒澤明だが黒澤は完成した映画を批判している)、こちらは2001年にオハイオ州で実際に発生した貨物列車暴走事故が下敷きになっています。但し、発生場所も含め変更が加えられており、そのため「事実に着想を得た」作品となっていますが、ハリウッド映画にありがちなテロリストやサイコパスの"悪意"による事故ではなく、純粋に人為的ミスの積み重ねで生じたトラブルをモチーフアンストッパブル 1.jpg『アンストッパブル』(2010)2.jpgにしているところに興味を惹かれました(「リスク管理」の教材?この作品の日本初試写会は鉄道高校として有名な東京・上野の岩倉高等学校の体育館で行われ、ゲストにAKB48のメンバーが登場した(2010年11月17日) )。
「アンストッパブル」
アンストッパブル 3.jpg デンゼル・ワシントンは、同じくトニー・スコット監督作品の「サブウェイ123 激突」('09年)でも鉄道員の役を演じていて、前回は運行司令官役でしたが、今回は運転士役。デンゼル・ワシントンが、妻と死別し2人の難しい年頃の娘がいる寡男で会社からは退職勧告を受けていて、クリス・パインの方は、妻の浮気疑惑で離婚争議中のため接近禁止命令が出ている男といった具合に、共に仕事や家庭生活に難点を抱える者同士の組み合わせですが、映画の主役は、劇薬を積んで市街地へ向かって暴走する800メートルの貨物列車でしょうか。

トニー・スコット 「アンストッパブル」.bmpアンストッパブル 2.jpg 鉄道会社の上層部の見通しの甘い事故対応が更に「アンストッパブル」●2.jpg事態を悪化させるといった社会批判も織り交ぜ、また、アクション映画としてもよく出来ているけれども、最初からデンゼル・ワシントン(観ていて安心感あり過ぎ)らが事態を収束するであろうことが見えていて、あまりドキドキしなかった感じも(むしろ、デンゼル・ワシントンは彼自身のアクション・シーンが危なっかしい感じだったけれど、勿論これは演技のうち?)。

恐怖の報酬3.jpg恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬1.bmp 街中のカーブで貨物列車が脱線する恐れがあるいうのは確かにスリリングかも知れませんが、列車が危険物を積んでいるという実感が無く、その点は、イヴ・モンタンがニトログリセリンを積んだトラックを運転するアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「恐怖の報酬」('53年/仏)などは上手かったなあ(ラストは「徒然草」の「高名の木登り」を想起した)。
恐怖の報酬
 油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間が積み荷であるニトロの一滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点! 一滴だけでもこれだけの威力があるものを、トラックに目一杯積んで、これから危険な山道を走るという...シズル感のあるスリルの演出―どうして、こうした先人たちのテクニックを活かさないのだろう。カメラワーク一つとっても半世紀以上前の作品の方が上であるというのは...。 

ロザリオドーソン.jpgUNSTOPPABLE.jpg 女性操車場長のロザリオ・ドーソンは、リー・ストラスバーグ演劇学校で学んだ演技派で、この作品でも好演(「メン・イン・ブラック2」('02年)の店員役の頃に比べると随分貫禄がついた?)。但し、事故の収束とともに2人の男がヒーローになるのは"予定調和"の内だけれど、それで両者の仕事や家庭問題まで一気に解決されてしまったとなると、"事故様様"みたいな感じもしてしまいました(1人犠牲者が出ている。「危機管理」の観点からももっと反省すべきケースではないか)。
ロザリオ・ドーソン

クリムゾン・タイド01.jpgクリムゾン・タイド02.jpg トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントンの組み合わせでは、米軍原子力潜水艦を舞台にした「クリムゾン・タイド」('95年)が傑作でしょうか。
 ロシア起きた超国家主義による反乱に備え出港した弾道ミサイル原子力潜水艦内で、ICBMを発射するかしないかを巡ってエリート艦長の白人と、現場たたき上げの黒人副官が対立するというもので、この映画の出来は、クエンティン・タランティーノ(ノンクレジット)がリライトしたという脚本と艦長役のジーン・ハックマンの好演に負うところが大きいと思うのですが、あの頃のデンゼル・ワシントン、まだ若かったなあ。いつまで「善い者」役ばかりやってるんだろう(シドニー・ポワチエの現代版か)。

「アンストッパブル」●ps.jpgUNSTOPPABLE 2010.jpg「アンストッパブル」●原題:UNSTOPPABLE●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ジュリー・ヨーン/トニー・スコット/ミミ・ロジャース/エリック・アンストッパブル 岩倉高校.jpgマクレオド/アレックス・ヤング●脚本:マーク・ボンバック●撮影:ベン・セレシン●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●時間:98分●出演:デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン/ケヴィン・ダン/イーサン・サプリー/T・J・ミラー/リュー・テンプル/ジェシー・シュラム/ケヴィン・チャップマン/ケヴィン・コリガン/デヴィッド・ウォーショフスキー●日本公開:2011/01●配給:20世紀フォックス(評価:★★★) 東京・上野の岩倉高等学校での公開記念イベント(AKB48高橋みなみ、渡辺麻友、宮澤佐江)
暴走機関車 [DVD]
暴走機関車 dvd1.jpg暴走機関車 02.jpg暴走機関車 01.jpg「暴走機関車」●原題:RUNAWAY TRAIN●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー●製暴走機関車 チラシ.jpg作:ヨーラン・グローバス/メナハム・ゴーラン●脚本:ジョルジェ・ミリチェヴィク/ポール・ジンデル/エドワード・バンカート●撮影:アラン・ヒューム●音楽:トレヴァー・ジョーンズ●原案:黒澤明/菊島隆三(ノンクレジット)/小國英雄(ノンクレジット)●時間:111分●出演:ジョン・ヴォイト/エリック・ロバーツ/レベッカ・デモーネイ/カイル・T・ヘフナー/ジョン・P・ライアン/ケネス・マクミラン/T・K・カーター/ステイシー・ビックレン/エドワード・バンカー/ダニー・トレホ●日本公開:1986/06●配給:松竹富士●最初に観た場所:有楽町・丸ノ内ピカデリー1(86-06-29)(評価:★★☆) 「暴走機関車」チラシ

LE SALAIRE DELA PEUR.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)(評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)  

クリムゾン・タイド dvd.jpg「クリムゾン・タイド」●原題:CRIMSON TIDE●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本マイケル・シファー(原案・脚色)/リチャード・P・ヘンリック(原案)/クエンティン・タランティーノ (リライト、クレCRIMSON TIDE.jpgジットなし)●撮影:ダリウス・ウォルスキー●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:デンゼル・ワシントン/ジーン・ハックマン/ジョージ・ズンザ/ヴィゴ・モーテンセン/ジェームズ・ガンドルフィーニ/リロ・ブランカート.Jr/ダニー・ヌッチ/スティーヴ・ザーン/リッキー・シュローダー/ロッキー・キャロル/ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ●日本公開:1995/10●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)
クリムゾン・タイド [DVD]

「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2433】 アンドリュー・デイヴィス 「逃亡者
「●「香港電影金像奨 最優秀作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

NYの街が美しい、しっとりとしたラブストーリー。日本語タイトルは何とかならなかったのか。
誰かがあなたを愛してる メイベル・チャン.jpg誰かがあなたを愛してる チョウ・ユンファ.jpg 誰かがあなたを愛してるs.jpg メイベル・チャン.jpg
チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅) メイベル・チャン(張婉婷)監督
誰かがあなたを愛してる デジタル・リマスター版 [DVD]

誰かがあなたを愛してる07.jpg 香港から恋人を追って演劇の勉強をしにニューヨークへやって来たジェニファー(チェリー・チェン)は、やくざな生活を送る遠縁の青年サミュエル(チョウ・ユンファ)のぼろアパートで暮らすことになり、早速恋人のビンセント(ダニー・チャン)との再会を果たすが、彼は別の女性と付き合っていた。ショックを受けたジェニファーをサミュエルが慰めるうちに、二人は惹かれ合っていく―。

秋天的童話1.jpg 後に「宋家の三姉妹」('97年)、「玻璃(ガラス)の城」('98年)などを撮るメイベル・チャン (張婉婷) の監督第2作で、1988年・第7回「香港電影金像奨」の最優秀作品賞受賞作。香港人の眼で見たニューヨークの街が美しく活き活きと描かれていて、この映画を観ているとNYに旅行に行きたい気分になりますが(一方で、そこで生活するとなると、なかなか大変であるようにも思った)、お上りさん的な"観光"気分を味わえただけでなく、登場人物の心象風景ともよくマッチしており、ストーリーや演出にも、女流監督らしい細やかな感性が行き届いていて、ホロリとさせるものがありました。当時売り出し中のチョウ・ユンファの演技が良く、チンピラのような役なのですが、「男たちの挽歌」('86年)の強面ぶりとはうって変わって、優しく気はいいがちょっと頼りないという男を旨く演じています(1987年・第24回「金馬奨」の最優秀主演男優賞受賞)。

秋天的童話3.jpg サミュエルとジェニファーはいい雰囲気になりながらも、いざとなるともう一歩のところで邪魔が入ったりアクシデントがあったりして、その一歩が踏み出せない―そうなってしまう背景には、想いを寄せる相手が失恋で落ち込んでいるところに突け入るような行為を善しとしないサミュエルの美意識のようなものも働いていて、実のところジェニファーの方はサミュエルのキスを待っているのに、彼にはそうする勇気がやや足りないともとれるのが微妙なところ(結局「いつか」「いつか」と思いながら機を失ってしまう...よくありそうな話)。

秋天的童話2.jpg 終盤の、O・ヘンリーの「賢者の贈物」に似たベタなエピソードにも、むしろガチガチの悲恋物語から解き放たれたような、観る側をほっとさせるユーモアを感じました。

 あの時キスをしていれば、その後の2人は...。そうした取り返せない"一瞬"を胸に抱えて、その後の人生を生きている人は結構いるのではないかと。何年か後にサミュエルが成功し、念願の海辺の店を持ったという後日譚(一応はハッピーエンド)は、昔の日活の青春映画みたいな終わり方でした。
Dare ka ga anata o aishiteru(1987)
Dare ka ga anata o aishiteru(1987).jpg しかし、それにしてもこのタイトルは何とかならなかったのかなあ(原題は「秋天的童話」、英題は"An Autumn's Tale")。同じく香港映画で中国人監督チェン・カイコー(陳凱歌)の「覇王別姫」('93年/香港)の日本公開時のタイ誰かがあなたを愛してる dvd.jpgトル「さらば、わが愛/覇王別姫」、台湾のホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の「童年往時」('85年/台湾)は「童年往時―時の流れ」と、原題の中国語を残していますが、そのことで表意文字の特性を生かしているように思います。

 「秋天的童話―誰かがあなたを愛してる」なら、しっとりとした情感が多少は伝わるけれど、「誰かがあなたを愛してる」だけでは、「覇王別姫」を「さらば、わが愛」、「童年往時」を「時の流れ」だけにしてしまったのと変わりません。おそらく「秋天的」の「的」が引っ掛かったのではないかと思いますが、タイトルにも監督の意図が込められているはずなので、「秋天童話」にするとか、工夫の仕様は無かったものか...。
 
チョウ・ユンファ(周潤發)in ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」('86年)/アン・リー監督「グリーン・デスティニー」('00年)
英雄本色 周潤發.jpg グリーン・デスティニー 02.jpg

AN AUTUMN'S TALE.jpg「誰かがあなたを愛してる」●原題:秋天的童話AN AUTUMN'S TALE●制作年:1987年●制作国:香港●監督:メイベル・チャン(張婉婷)●製作:ジョン・シャム(岑建勲)●脚本:アレックス・ロウ(羅啓鋭)●撮影:ジェームズ・ヘイマン/デイヴィッド・チャン●音楽:ローウェル・ロウ(盧冠廷)●時間:98分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅)/ダニー・チャン(陳百強)/ジジ・ウォン●日本公開:1989/09●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画●最初に観た場所:シネスイッチ銀座 (89-10-10)(評価:★★★★)
チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅)

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2000】 ベン・アフレック 「アルゴ
「●「フランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(シネマライズ渋谷(地階))

テーマ曲「コーリング・ユー」がよく、"情"の世界を描いているのにカラっと乾いている。

バグダッド・カフェ.jpg バグダッド・カフェ dvd.jpg  バグダッド・カフェ blueray.jpg    『バグダッド・カフェ』(1987).jpg
バグダッド・カフェ 完全版 [DVD]」「バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版 Blu-ray

バグダッド・カフェ1.jpg 独ローゼンハイムから米国に旅行に来ていた中年夫婦はラスベガス近郊でケンカとなり、夫(ハンス・シュタードルバウアー)は妻ジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)をハイウェイの途中に置いて行ってしまう。ジャスミンは大きなトランクを抱えて砂漠を歩き、寂れたモーテル兼カフェ兼ガソリンスタンド「バグダッド・カフェ」に辿り着くが、カフェの女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)も夫婦ゲンカをして夫を追い出したばかりで、息子や娘は勝手気ままで母親を手伝おうともしない。そこにステイすることにしたジャスミンは、勝手に店を掃除してしまうなどし、そうした彼女の振る舞いが気に入らないブレンダは最初の内は彼女を嫌うが―。

 '87年の西ドイツ映画ですが、'89年に渋谷のシネマライズで公開され、じわじわとヒット、'94年には完全版がリヴァイバル上映され、更に'08年に、パーシー・アドロン監督が全てのカットの色と構図を調整し直した「バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版」が製作され、日本でも'09年にユーロスペースなどで公開、'10年にはそのブルーレイ版が販売されるなど、根強い人気の作品です。

 先ず、ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」がよく、砂漠に佇むカフェという一見無機質に思えるような設定とマッチしていて、更に、その中で繰り拡げられる緩やかな流れの人間ドラマともマッチしています。

バグダッド・カフェ3.jpg 「バグダッド・カフェ」(奇妙な名前だが、ルート66沿いに実在するモーテルの名)には、女主人ブレンダ(CCH・パウンダーが好演。ギアナ出身の英国育ちで、今でこそ米国の映画やTVドラマなどでお馴染だが、当時はこれが映画での初の大役)のほかに、日々虚無的に夜遊びに明け暮れる娘、カウボーイ気取りの売れない画家、ピアノの弾けないピアニストなどが集い、そこはまるで社会の吹きだまりのような場所です(ローザ・フォン・プラウンハイムの「ベルリンブルース」('86年/西独)にも通じる"西ドイツ"映画っぽい雰囲気)。

「バグダッド・カフェ」.jpg そこにある時から滞在することになった太っちょの外国人女性ジャスミンによってそうした人々皆が癒されていく過程が、劇的な出来事を挿入しているわけでもないのに、旨く描かれています(ジャスミンを演じるマリアンネ・ゼーゲブレヒトはあまり喋らないが、存在感があってその印象は強烈)。そしてやがては、ジャスミンに皆の人気が集まるのを嫉妬していた女主人ブレンダも―。

バグダッド・カフェ2.jpg 労働許可証を持っていないため強制送還されたジャスミンが、再びこの地を訪れブレンダと再会する場面は感動的ですが、老画家ルディのジャスミンによせる恋心(「シェーン」の敵役、故ジャック・パランスが好演)もほのぼのとしたタッチで描かれていて、最後はロマンチックな方法で彼女の労働許可証の問題を解決します。

 "友情"や"愛情"など色々な意味での"情"の世界を描いたという点では日本的な雰囲気もあり、その辺りが日本でも大いに受けた理由かも知れませんが、バックグランドが、まさにこの映画に出てくる砂漠や突き抜けるような青空のようにカラッとしていて、この透明感がまたいいのでしょう(日本映画に通じるものがあっても、日本ではこういう作品は撮れないだろうなあ)。

BAGDAD CAFE 1.jpg『バグダッド・カフェ』(1987)2.jpg "ロード・ムービー"ならぬ"ロードサイド・ムービー"。その"ロードサイド"にあったのは、"血縁"に拠らない「心の家」「アナザー・マイホーム」だったといった感じでしょうか。癒されたい気分の時に観るのにお奨めです。

クリスティーネ・カウフマン in「バグダッド・カフェ」('87年)/「モルグ街の殺人」('71年)
クリスティーネ・カウフマン バグダッド・カフェ.jpg クリスティーネ・カウフマン モルグ街の殺人.jpg
Out of Rosenheim(1987)
Out of Rosenheim(1987).jpg
バグダッドカフェ.jpg「バグダッド・カフェ」●原題:BAGDAD CAFE(OUT OF ROSENHEIM)●制作年:1987年●制作国:西ドイツ●監督:パーシー・アドロン●製作・脚本:パーシー・アドロン/エレオノーレ・アドロン●撮影:ベルント・ハインル●音楽:ベルント・ハインル●時間:91分●出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー/ジャック・パランス/クリスティーネ・カウフマン/モニカ・カローン/ダロン・フラッグ/ジョージ・アキラー/G・スモーキー・キャンベル/ハンス・シュタードル●日本公開:1989/03●配給:KUZUIエンタープライズ●最初に観た場所:シネマライズ渋谷(地階) (89-03-05) ●2回目:シネマライズ 渋谷(地階)(89-03-12) (評価★★★★☆)
2009年ニュー・ディレクターズ・カット版を渋谷ユーロスペースなどで上映
「バグダッド・カフェ」3.jpg
シネマライズBF館(前・シネマライズ渋谷)
シネマライズ BF.jpgシネマライズ2.jpgシナマライズ 地図.jpgシネマライズ渋谷1986年6月、渋谷スペイン坂上「ライズビル」地下1階に1スクリーン(220席)でオープン。1996年、2階の飲食店となっていた場所に2スクリーン目を増設。「シネマライズBF館」「シネマライズシアター1(後のシネマライズ(2F))(303席)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「(元)シネマライズ渋谷」2010年6月20日閉館、跡地はライブハウス「WWW」に(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館、地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【3027】 トーマス・アルフレッドソン 「裏切りのサーカス
「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ(「ベルリン・天使の詩」) 「●「フランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)」受賞作」の インデックッスへ(「ベルリン・天使の詩」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」のインデックッスへ(日比谷シャンテ・ シネ) ○ノーベル文学賞受賞者(ペーター・ハントケ)

B級っぽい単純明快さ、血沸き肉躍り、かつホロリとさせる「カリフォルニア・ドールズ」。

「カリフォルニア・ドールズ」.jpgTHE CALIFORNIA DOLLS.jpg  カリフォルニア・ドールス.jpg   ベルリン・天使の詩.png
「カリフォルニア・ドールズ」[VHS](廃版)/チラシ「ベルリン・天使の詩【字幕ワイド版】[VHS]

ピーター・フォーク.jpg ピーター・フォークが今月('11年6月)23日、ロサンゼルス近郊ビバリーヒルズの自宅で亡くなったという報に接しました。83歳だったとのことですが、以前からアルツハイマー症であることが伝えられており、心配していたのですが...。

ピーター・フォーク2.jpgカリフォルニア・ドールズ 00.jpg ピーター・フォークと言えば、70年代と90年代の2期にわたっての「刑事コロンボ」のTVシリーズが代表作でしょうが、一部の新聞の訃報で、代表的な出演映画にロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)とヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン/天使の詩」('87年/西独・仏)が並んで紹介されていました。 「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)

カリフォルニア・ドールズ4.jpg 「カリフォルニア・ドールズ」(原題:...All the Marbles)は、アメリカの女子プロレスの世界を描いた作品で、さえない女子プロレスのタッグである、黒髪のアイリス(ヴィッキー・フレデリック)と金髪のモリー(ローレン・ランドン)の「カリフォルニア・ドールズ」のプロモーター、エディ役をピーター・フォークが好演。「ドールズ」はアウェイでの負けが仕組まれた試合で勝ってしまい、世間からも興行界からも批判に晒されるが、そこへ一発逆転をもたらすようなチャンスが巡って来る―。

カルフォルニア・ドールズ1.jpgカリフォルニア・ドールズ」.jpg ピーター・フォーク演じるプロモーターと「ドールズ」との心の通い合いが結構泣けて、こてこてのアメリカ映画でありながら、どことなく日本の人情噺的な雰囲気もある作品です。

 因みに、ラストミミ萩原2.jpgのクライマックスで使われる大技ローリング・クラッチ・ホールド(回転エビ固め)は、2人が日本人ミミ萩原 カリフォルニア・ドールズ.jpgレスラーとの対戦で、ミミ萩原(女子レスラー役で出演、当時の女子プロレス界のアイドルスター的存在だった)の得意技を倣って自分らの決め技にしたものです(実際の日本での試合のテレビ中継では、ミミ萩原がこの技を繰り出すと、アナウンサーの志生野温夫が「ミミの十八番!!」と叫びながら実況していた)。

ミミ萩原 in「カリフォルニア・ドールズ」

 ピーター・フォーク演じるプロモーターのエディも、レフェリーを買収していたりとか、ドールズの応援歌を作ってオルガン奏者を買収して演奏させたりとか、何でもありの世界なのですが、ラストの大一番に敗れた敵役の相手方のタッグもドールズの勝利を讃えるなど、基本的に根っからの悪い人は主要登場人物の中にはいなかったという印象で、後味は爽やかでした。

 この作品がアルドリッチの遺作になってしまいましたが、「ロンゲスト・ヤード」('74年/米)などで男臭い世界を描いて定評のあったアルドリッチ監督の遺作が、若い女子プロレスラーたちが主人公の作品であるというのも、意外と言えば意外かもしれないし、スポ根っぽい点がアルドリッチらしいと言えばらしいかもしれません。。

ピーター・フォーク ベルリン・天使.jpgベルリン・天使の詩1.jpg ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン/天使の詩」は、人間になりたがっている天使ダミエル(ブルーノ・ガンツ)がサーカスの舞姫に恋をするというファンタジックなストーリーでしたが、映画俳優のピーター・フォーク(本人役を演じている)がベルリンに撮影のためやって来ていて、子供にしか見えないはずの天使が、どういうわけか彼には見えるらしい―。

東京画toukyouga 04.jpgヴィム・ヴェンダース.jpg 映画は、「全てのかつての天使、特に小津安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」というクレジットで締め括られており(ヴェンダースは'85年に小津安二郎へのオマージュとも言えるドキュメンタリー映画「東京画」を撮っている。また、'07年のインタビューで「今ならロベール・ブレッソンとサタジット・レイを必ず加える」と述べている)、日比谷シャンテ・シネの興業記録をうちたてたほどブームになった映画でしたが、ヴェンダースのファンが日本にそんなにいたのかと、当時はやや不思議に思いました。ピーター・フォークという親しみのある俳優が出ていて、ユーモアと芸術映画っぽい雰囲気を兼ね備えた作品であることに加えて、映画公開の半年前の'87年10月にオープンした日比谷シャンテが、デート・スポットとして新鮮かつ手頃だったという要因もあったのではないかと思います。

パリ、テキサス  .jpg 「ベルリンの壁」崩壊の数年前に作られた作品で、「壁」がロケ地にも使われ、映画の中でも象徴的な役割を果たしていますが、やや高踏的かなあ。個人的には、ナスターシャ・キンスキーを使った「パリ、テキサス」('84年/仏・西独)の方が好みでした。「パリ、テキサス」が1984年のカンヌ国際映画祭で最高賞の「パルム・ドール」を受賞したのに対し、「ベルリン/天使の詩」も1987年のカンヌ国際映画祭で「監督賞」を受賞するなど芸術作品として国際的評価も高かったですが、「パリ、テキサス」のナスターシャ・キンスキー以上に、この作品のピーター・フォークは、"客演"という感じがあり、彼の"正体"にもやや唐突感を覚えました。

 ピーター・フォークの代表的出演作として「ベルリン・天使の詩」を紹介していて、「カリフォルニア・ドールズ」を紹介していない新聞もありましたが、追悼作品として観るのであれば、B級作品っぽい単純明快さ、カリフォルニア・ドールズ シアターN.jpg血沸き肉躍り、かつホロリとさせる場面もある「カリフォルニア・ドールズ」の方が、自分としてはお薦め。但し、本邦においては楽曲の著作権関係によりDVD化されていないのが難でしょうか(2012年に吉祥寺バウスシアター、渋谷シアターNでリバイバル上映され(シアターNはクロージング上映)、2015年にDVD化された)

「カリフォルニア・ドールズ」予告

...All the Marbles(1981)
All the Marbles(1981).jpgカリフォルニア・ドールズ 00.jpgカリフォルニア・ドールズ 07.jpg「カリフォルニア・ドールズ」●原題:...All THE MARBLES a.k.a. THE CALIFORNIA DOLLS●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:バート・ヤング カリフォルニア・ドールズ.jpgウィリアム・アルドリッチ●脚本:メル・フローマン●撮影:ジョセフ・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォール●時間:113分●出演:ピ中野武蔵野ホール.jpgーター・フォーク/ヴィッキー・フレデリック/ローレン・ランドン/バート・ヤング/クライド・クサツ/ミミ萩原●日本公開:1982/06●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(83-02-06)(評価:★★★★)●併映「ベストフレンズ」(ジョージ・キューカー)

TOHOシネマズ・シャンテ.jpg日比谷シャンテ・ シネ.jpg 「ベルリン/天使の詩」●原題:DER HIMMEL UBER BERLIN●制作年:1987年●制作国:西ドイツ/フランス●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作:ヴィム・ヴェンダース/アナトール・ドーマン●脚本:ヴィム・ヴェンダース/ペーター・ハントケ●撮影:アンリ・アルカン●音楽:ユルゲン・クニーパー●時間:127分●出演:ブルーノ・ガンツ/ソルヴェーグ・ドマルタン/オットー・サンダー/クルト・ボイス/ピーター・フォーク●日本公開:1988/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:日比谷シャンテ・ シネ2(88-05-05)(評価:★★★)
日比谷シャンテ・シネ 1987年10月3日、日比谷映画跡地に2スクリーンで開館。1995年~3スクリーン。2009年2月~「TOHOシネマズ シャンテ」に館名変更。

日比谷映画劇場5.jpg日比谷シャンテ03.jpg日比谷映画劇場(日比谷映劇)(1984年10月31日閉館)と日比谷シャンテ入口(日比谷映劇のデザインを一部模している)

  
《読書MEMO》
ペーター・ハントケ.jpgペーター・ハントケ(1942 - )
2019年ノーベル文学賞受賞
オーストリア出身の現代作家。小説、戯曲、詩から放送劇、フランス文学の翻訳まで幅広く活動。現在フランスのシャヴィーユ在住。

「●海外サスペンス・読み物」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2351】 ルメートル 『その女アレックス
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●ハヤカワ・ノヴェルズ」の インデックッスへ(『決断』)「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●ポール・ニューマン 出演作品」の インデックッスへ 「●シャーロット・ランプリング 出演作品」の インデックッスへ 「●ジェームズ・メイソン 出演作品」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿ロマン劇場)

『評決』の続編。本格リーガル・サスペンスだが、エンタメ要素もふんだんに。

決断 バリー・リード.jpg  評決 dvd.jpg 評決 ニューマン チラシ.jpg 『評決』(1982)3.jpg
決断 (ハヤカワ文庫NV)』['97年]/「評決 [DVD]」/映画「評決」チラシ/「評決」の1シーン
"The Choice" Barry C. Reed (Paperback 1992)『決断 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』['94年]
『決断』ハヤカワ・ノヴェルズ.jpg アル中から立ち直った弁護士フランク・ギャルヴィンは、今や一流法律事務所で出世街道をひた走っていたが、ある日、若い女性弁護士ティナから巨大製薬会社の薬害訴訟の被害者側の弁護を依頼される。しかし、その訴訟は勝目が無い上に、その製薬会社はギャルヴィンの所属事務所の大手顧客であったため、彼は弁護を断わり、代わりに恩師の老弁護士モウ・カッツを紹介する。訴訟は提訴され、ギャルヴィンは図らずも製薬会社側の弁護を命じられ、恩師と女性弁護士、更には事務所を辞めたかつての部下らと対峙することになる―。

 1980年にデビュー作『評決』(原題:The Verdict、'83年/ハヤカワ・ミステリ文庫)を発表したバリー・リード(Barry C. Reed 1927-2002)が、11年後の1991年に発表した、『評決』の続編で(原題:The Choice)、医療ミスに関する訴訟を扱った前作の『評決』は、「十二人の怒れる男」のシドニー・ルメット監督、「明日に向かって撃て!」のポール・ニューマン(1925-2008)主演で映画化('82年/米)され、アル中のため人生のどん底にあった中年弁護士ギャルヴィンの、甦った使命感と自らの再起を賭けた法廷での闘いが描かれていました。

 本作『決断』では、弁護士として功名を成したギャルヴィンは、専ら大企業の弁護をするボストンの一流法律事務所のパートナー弁護士になっていて、その分刻みでのビジネスライクな仕事ぶりに、最初はすっかり人が変わってしまったみたいな印象を受けますが、やはりギャルヴィンはあくまでギャルヴィンであり、最後どうなるか大方の予想がつかなくもありませんでした。

 中盤までは、法律事務所の仕事ぶりや裁判の経緯がこと細かく描かれていて、バリー・リード自身が医療ミス事件としては史上最高額の評決を勝ち取ったことがある法律事務所に属していた辣腕弁護士であっただけに、本格的なリーガル・サスペンスという感じで、同じ弁護士出身の作家でも、『法律事務所』(1991年発表、'92年/文藝春秋)のジョン・グリシャムのよりも、弁護士としての実績では遥かにそれを上回る『推定無罪』(1987年発表、'88年/文藝春秋)のスコット・トゥローの作風に近い感じがしました。

 結末の方向性は大体見えているし、審理の過程を楽しむ"通好み"のタイプの作品かなと思って読んでいたら、『評決』同様乃至はそれ以上に終盤は緊迫したドンデン返しの連続で、一時は法廷を飛び出してスパイ・ミステリみたいになってきて、相変わらず女性との絡みもあり、大いに楽しませてくれました。

 映画化されたら「評決」と同じかそれ以上に面白い作品になるのではないかとも思いましたが、やはり、主人公がどん底から這い上がって来て、人生の逆転劇を演じるような作品の方がウケルのかなあ(『決断』は映画化されていない)。

 但し、こうした作品が映画化される場合、「評決」の時もカルテの書き換えとそれに関する偽証に焦点が当てられていたように、細かい箇所は端折って、どこか一点に絞ってクローズアップされる傾向にあり、リーガル・サスペンスとしての醍醐味は、やはり原作の方が味わえるのではないかと思います。

 振り返れば、女性の使われ方が『評決』とやや似かよっていて、また、証人の証言に比重がかかり過ぎているようにも思えましたが、後半からラストまでは息つく間もなく一気に読める作品でした(読んでいて、どうしてもギャルヴィンにポール・ニューマンを重ねてイメージしてしまう。映画化されていないのは、続編が出るのが遅すぎて、ポール・ニューマンが歳をとりすぎてしまっていたこともあるのか?)。

評決 ペーパーバック.jpg評決 ポール・ニューマン.jpg 映画「評決」は、当初アーサー・ヒラー監督、ロバート・レッドフォード主演で制作が予定されていたのが、アーサー・ヒラーが創作上の意見不一致を理由に降板、ロバート・レッドフォードもアル中の役は彼のイメージにそぐわないとの理由で見送られ、企画は頓挫し、脚本も途中で何回も書き直されることになったそうです。

 結局、監督はシドニー・ルメットに(彼が選んだ脚本は一番最初に没になったものだった)、主演は「明日に向かって撃て!」でレッドフォードと共演した評決 新宿ロマン1.jpg評決 新宿ロマン2.jpgポール・ニューマンになり、そのポール・ニューマン自身、「自分の長いキャリアの中で初めてポール・ニューマン以外の人物を演じた」と述べたそうですが、そうした彼の熱演もあって、リーガル・サスペンスと言うより人間ドラマに近い感じに仕上がっているように思いました。

評決 ニューマン.jpg ちょうどアカデミー賞の受賞式を日本のテレビ局で放映するようになった頃で、ポール・ニューマンの初受賞は堅いと思われていましたが、「ガンジー」のベン・キングズレーにさらわれ、4年後の「ハスラー2」での受賞まで持ち越しになりました。映画の内容の方は、より一般向けに原作をやや改変している部分もありますが、ポール・ニューマンの演技そのものにはアカデミー賞をあげてもよかったのではないかと思いました。

The Verdict (1982).jpgThe Verdict (1982)
評決」●原題:THE VERDICT●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:リチャード・D・ザナック/デイヴィッド・ブラウン●脚本:デイヴィッド・マメット●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●時間:129分●出演:ポール・ニューマン/シャーロット・ランプリング/ジャック・ウォーデン/「評決」 シャーロット・ランプリング.jpg評決 ジェームズ・メイソン.jpg評決 ブルース・ウィリス2.jpgジェームズ・メイスン/ミロ・オシア/エドワード・ビンズ/ジュリー・ボヴァッソ/リンゼイ・クルーズ/ロクサン・ハート/ルイス・J・スタドレン/ウェズリー・アディ/ジェームズ・ハンディ/ジョー・セネカケント・ブロードハースト/コリン・スティントン/バート・ハリス/ブルース・ウィリス(ノンクレジット)(傍聴人)●日本公開:1983/03●配給:20世紀フォックス●最初に観新宿ロマン.png新宿ロマン劇場2.jpgた場所:新宿ロマン劇場(83-05-03)(評価:★★★☆) 
    
新宿ロマン劇場 明治通り・伊勢丹向かい。1924(大正13)年「新宿松竹館」→1948(昭和23)年「新宿大映」→1971(昭和46)年「新宿ロマン劇場」 1989(平成元)年1月16日閉館

「新宿ロマン劇場閉館―FNNスーパータイム」1989(平成元)年1月17日放送(アンカーマン 逸見政孝・安藤優子)
新宿ロマン劇場閉館.jpg

【1997年文庫化[ハヤカワ文庫NV]】

「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1447】F・J・シャフナー 「パピヨン
「●「カンヌ国際映画祭 カメラ・ドール」受賞作」の インデックッスへ(「ストレンジャー・ザン・パラダイス」)「●「ロカルノ国際映画祭 金豹賞」受賞作」の インデックッスへ(「ストレンジャー・ザン・パラダイス」)「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ストレンジャー・ザン・パラダイス」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(文化シネマ2)

乾いた演出と映像詩のようなトーンが新鮮な「スト・パラ」。ラストが爽やかな「ダウン・バイ・ロー」。
ストレンジャー・ザン・パラダイスdvd.jpg 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)2.jpg ダウン・バイ・ローdvd.jpg DOWN BY LAW01.jpg
ストレンジャー・ザン・パラダイス [DVD]」 「ダウン・バイ・ロー コレクターズ・エディション [DVD]

ストレンジャー・ザン・パラダイス1.jpg ニューヨークに住むウィリー(ジョン・ルーリー)は、クリーブランドに住む叔母が入院する間、ハンガリー出身の16歳の従妹エヴァ(エスター・バリント)を預かることになり、エヴァ、ウィリー、ウィリーの賭博友達エディ(リチャード・エドソン)の3人の奇妙な生活が始まる―。
 最初、ニューヨークを舞台にする「The New World」が短編作品として制作され、ヴィム・ヴェンダースに才能を認められたジム・ジャームッシュが彼から生フィルムを譲り受け、ジョン・ルーリーとの共同脚本で、続くクリーブランドを舞台とする「One Year Later」、フロリダを舞台とする「Paradise」を撮影したという、3部作で1つの作品になって、カンヌ国際映画祭で新人監督賞に該当する「カメラ・ドール」、ロカルノ国際映画祭でグランプリに該当する「金豹賞」を受賞しています。

ストレンジャー・ザン・パラダイス2.jpg ジム・ジャームッシュ監督の前作「パーマネント・バケーション」('80年)もそうですが、自主制作フィルムの雰囲気を保っていて、それを3本繋ぎ合せたという感もあり、ストーリーはあって無いようなシンプルなものです。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984).jpg 一応はロード・ムビーのような体裁をとっていて(途中からか)、ウィリーとエディがエヴァを誘って雪のエリー湖に行ったり、南国フロリダに行ったりしていますが、ストーリーよりも3人の、ぎこちないようで自然体でもあるように見える不思議な関係を、淡々としたモノクロームのカメラワークで描いており(殆どワンシーン・ワンショットで撮られている)、その演出と映像のトーンそのものが新鮮でした(時に映像詩のような印象も)。

 映画データベースで「コメディ」に分類されていましたが、確かにドッグレースや競馬などに入れあげる男2人は浮いたり沈んだりで、一方で、エトランゼであるエヴァの下にひょんなことから大金が入るというのは確かに可笑しい。でも、最初からストーリーで見せようという作品ではなく、3人の演技しているのか演技していなのかよく分からないような遣り取りの細部においてクスッと笑わせるような作品であり、何とも言えない不思議な仕上がりです。それでいて、ウィリーのエヴァに寄せる仄かな想い(妹を想いやるような感情)が伝わって来て、観終わった後の余韻もいいです。

 次作「ダウン・バイ・ロー」('86年)もモノクロでしたが、3人の刑務所仲間の男の脱獄劇をユーモラスに描いていて、こちらの方がストーリー性は前面に出ている分(映画らしくなった分?)、原石の魅力はやや減少しましたが、これはこれでファンキーな味わいがあります。

ダウン・バイ・ロー1.jpg タイトルは「はみ出し者仲間」の意。刑務所仲間の超ノン気な脱獄道中で、今回も音楽も担当のジョン・ルーリーが演技でも相変わらず良く、そのジョン・ルーリーと、映画初出演のシンガーソングライター、トム・ウェイツのクールな2人に、後に「ライフ・イズ・ビューティフル」('98年)を監督・脚本・主演し、アカデミー賞主演男優賞・外国映画作品賞を受賞する、ロベルト・ベニーニが陽気に絡みます。

ダウン・バイ・ロー2.bmp 登場人物の行動が行き当たりばったりだったり、予期せぬ偶然に流されたりするのと、登場人物相互の関わり合いがカラッと乾いた感じで描かれているのは「スト・パラ」と同じで、最後に男達が、ごく当たり前のようにそれぞれの道へ別れていくのは、日本映画ではちょっと考えられないようなドライ且つ爽やかなエンディングでした。

ジョン・ルーリー.jpg ジョン・ルーリー(イイ男にも見えるし、ハ虫類系の顔にも見える)も、本職は役者ではなくサックス奏者で、両作品の音楽も担当していますが、多才な人だなあと。90年代にライム病という難病を発症して生死の境を彷徨い、音楽活動からは身を引きましたが、画家としての活動に創作意欲の捌け口を見出し、昨年('10年)には日本でも個展が開かれています(作品は夢の世界を描いたような水彩画が多く、画風は子供の描いた絵のように見えるものもあれば、幽玄な水墨画に近いものもある。やはり、大病したためただろうか)

Stranger Than Paradise(1984).jpg「ストレンジャー・ザン・パラダイス」●原題:STRANGER THAN PARADISE●制作年:1984年●制作国:アメリカ・西ドイツ●監督:ジム・ジャームッシュ●製作:サラ・ドライヴァー●脚本:ジム・ジャームッシ/ジョン・ルーリー●撮影:トム・ディチロ●音楽:ジョン・ルーリー●時間:90分●出演:ジョン・ルーリー/エスター・バリント/リチャード・エドソン/セシリア・スターク/ダニー・ローゼン/ラメルジー/トム・ディチロ/リチャード・ボーズ/ロケッツ・レッドグレア/ハーヴェイ・パー/ブライ新宿文化シネマ2.jpgアン・J.バーチル/サラ・ドライヴァー/ポール・スローン●日本公開:1986/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:新宿文化シネマ2(86-08-23)(評価:★★★★☆)●併映「真夏の夜のジャズ」(バート・スターン) Stranger Than Paradise(1984)
新宿文化シネマ2 2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン
シネマート新宿 .jpg

スバル座.jpgDOWN BY LAW02.jpg「ダウン・バイ・ロー」●原題:DOWN BY LAW●制作年:1986年●制作国:アメリカ・西ドイツ●監督・脚本:ジム・ジャームッシュ●製作:アラン・クラインバーグ●撮影:ロビー・ミューラー●音楽:ジョン・ルーリー●時間:107分●出演:トム・ウェイツ/ジョン・ルーリー/ロベルト・ベニーニ/ニコレッタ・ブラスキ/エレン・バーキン●日本公開:1986/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町・スバル座(86-12-14)(評価:★★★★)
「ダウン・バイ・ロー」ジョン・ルーリー/ロベルト・ベニーニ/トム・ウェイツ
『ダウン・バイ・ロー』.jpg

「●張藝謀(チャン・イーモウ)監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2616】 張藝謀 「あの子を探して
「●「ベルリン国際映画祭 金熊賞」受賞作」の インデックッスへ(「紅いコーリャン」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(旧ユーロスペース・シアターN渋谷) インデックッスへ(有楽町スバル座) ○ノーベル文学賞受賞者(莫言(モー・イェン))  

"赤"を基調としたダイナミックな映像美の張藝謀(チャン・イーモウ)初期作品2作がいい。

紅高梁 (中国版DVD).jpg RED SORGHUM1.jpg RED SORGHUM2.jpg 紅高梁
紅高梁 (中国版DVD)   コン・リー(鞏俐)(中央)
紅いコーリャン .jpg紅いコーリャン.jpg 1920年代末の中国山東省。私(語り手)の祖母・九児(チウアル)(鞏俐(コン・リー))は、ロバ一頭と引き換えに父に売られるように、親子ほども年の離れた病気持ち(ハンセン病)の造り酒屋の男に嫁ぐことになるが、御輿で嫁入りに向かう途中、強盗たちに襲われ、御輿の担ぎ手・余占鰲(ユイチャンアオ)(姜文(チアン・ウェン))に救われる。実家への里帰りの帰路でも、再び強盗が彼女を襲うが、強盗は余占鰲であり、互いに惹かれ合っていた2人は、コーリャン畑で結ばれる。やがて夫が行方不明となり、造り酒屋を継いだ九児は余と結婚、子供も生まれ、幸せな日々が続くのだが、やがてそこに日本軍が侵攻する―。「紅いコーリャン [DVD]

「紅いコーリャン」 チャン・イーモウ.jpgコン・リー(鞏俐)/チャン・イーモウ(張藝謀)
コン・リー.jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 1988年・第38回ベルリン国際映画祭のグランプリ金熊賞を受賞し、チャン・イーモウ(張藝謀)の名を世界に知らしめた作品で、神話的な雰囲気をも携えた骨太のストーリー、この作品がデビュー作でもあるコン・リー(鞏俐)をはじめとする役者陣の演技、"赤"を基調とした映像美等々の何れをとっても一級品であり、「中国映画にしては」といった上から目線での評価が入り込む余地がありません。"神話的"である一方で、日本軍の侵攻が始まってからの悲劇はリアルに描かれていて、抗日運動をしていた造り酒屋の番頭さんが、見せしめのため生きたまま頭皮を剥がされ、それを九児らは黙って見ているしかないという残酷なシーンもあり(江戸時代の刑罰より酷いなあ)、その際に強盗の頭目も並んで同様のやり方で処刑されるという、もう日本軍のやることは無茶苦茶という感じ。そうした日本軍を倒すために余らも立ち上がるが―。

「紅いコーリャン」 (87年/中国)1.jpg「紅いコーリャン」 (87年/中国)2.jpg プロパガンダ的と言うよりも人間そのものをしっかり描いている感じで、度重なる悲劇に屈せず前向きに生きようとする主人公が、「風と共に去りぬ」のスカーレットみたいであり(たまたまこれも"赤系統"の名前だが)、赤を主体とした強烈な色彩美が印象的。ダイナミックなカメラワークも含め、この監督が将来、「HERO」('02年)のような娯楽映画を撮る予兆が、既にこの作品にもあったかも(ワイヤーアクションを駆使するところまでいくとは思わなかったが、実は「紅いコーリャン」もワイヤーにカメラを吊るして撮っているシーンが幾つもある)。

菊豆(チュイトウ) .jpg菊豆 dvd.jpg菊豆 dvd us版.bmpJUDOU.jpg
コン・リー(鞏俐)「菊豆 [DVD]」/輸入版DVD Ju Dou(1990)
      
菊豆1.bmp菊豆2.jpg 「紅いコーリャン」では、それまでの中国現代映画にはないくらい大胆に"性"を描いていますが、「菊豆<チュイトウ>」('90年)はそれ以上であり、更には、現代に近い時代を扱った作品ではタブーとされてきた"不倫"を描いています(第43回カンヌ国際映画祭「ルイス・ブニュエル賞」受賞)。

菊豆3.jpg これも「紅いコーリャン」と同じように金で買われて旧家の染物屋に嫁入りした菊豆(チュイトウ)(鞏俐(コン・リー)が主人公で、彼女は夫のDV(性的サディズム)に苛まれた末に、同居の使用人の若い男を引き込んでその男と結ばれ、病に倒れ身体の自由がきかなくなった夫に代わって次第に家庭内での実権を握っていきますが、男との間に生まれた子供が実の子でないことを知った父親(菊豆の夫は実は不能だった)は子供を邪険にする―。

Ju Dou (1990).jpg 子供がダミアンみたいな悪魔っ子で、かなり怖いです。当初辛くあたっていた父親がやがて愛情をかけるようになったにも関わらず、誤って染料の壺に落っこちて今まさに溺死しようとしている父を見て、この子は助けようともせず不気味な笑みを浮かべています(殆どホラー・ムービーの世界)。

 この後、更にこの子の悪魔っ子ぶりはエスカレートし、実の父親をも―といった具合に"不倫"をしたことに対する「因果応報」的なストーリーになっているのがやや気になりましたが、原作は農家が舞台だそうで、それを染物屋に置き換えることで、「紅いコーリャン」以上に強烈に"赤"を前面に押し出している作品であり、そうした"映像"を見せることが主眼であり、ストーリーはそのためのモチーフに過ぎないという感じがしなくもない作品でした(それぐらい強烈な映像美)。

 かつて中国本土では、チャン・イーモウのこれらの初期作品は度々上映禁止になっていたそうですが、その知名度が世界的に広まったこともあって、'08年の「北京オリンピック開会式」や'09年の「建国60周年記念パレード」の演出を任されるなど、今や"国家的"なディレクターになってしまっている(体制にとり込まれた?)―それに伴って、初期の頃の斬新さは弱まり、ハリウッド映画のような作品を撮るようになってしまったという印象はします。

Hong gao liang(1987)   コン・リー(鞏俐)
Hong gao liang(1987).jpgコン・リー(鞏俐).jpgHONG GAO LIANG 2.jpg「紅いコーリャン」●原題:紅高梁(HONG GAO LIANG) /RED SORGHUM●制作年:1987年●制作国:中国●監督:張藝謀(チャン・イーモウ)●製作:呉天明(ウー・ティエンミン)●脚本:陳剣雨(チェン・チェンユイ)/朱偉(チュー・ウェイ)/莫言(モー・イェン)●撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)●音楽:趙季平(ヂャオ・チーピン)●原作:莫言(モー・イェン)「紅高梁」「高梁酒」●時間:91分●出演:鞏俐(コン・リー)/姜文(チアン・ウェン)/滕汝駿(トン・ ルーチュン)/劉継(リウ・チー)/錢明(チェン・ミン)/計春華(チー・チュンホア)●公開:1989/01●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(89-02-18)(評価:★★★★☆)
シアターN渋谷.jpg旧・渋谷ユーロスペースシアターN渋谷 1982(昭和57)年渋谷駅南ユーロスペース1・2.jpg渋谷ユーロスペース.jpgシアターN.jpg口桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月移転のため閉館。2006(平成18)年1月から渋谷円山町「Q-AXビル」に再オープン。旧ユーロスペース跡地には2005年12月3日「シアターN渋谷」がオープン(2012年12月2日閉館)

菊豆<チュイトウ> .jpg「菊豆<チュイトウ>」●原題:菊豆 JUDOU●制作年:1990年●制作国:中国・日本●監督:張藝謀(チャン・イーモウ)●製作:徳間康快●脚本:劉恒(リュウ・ホン)●撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)●音楽:郭峰(クオ・フォン)●原作:劉恒(リュウ・ホン)「羲、伏羲」 ●時間:94分●出演:鞏俐(コン・リー)/李保田(リー・パオティエン)/李スバル座_2.jpg有楽町 スバル座内.jpg緯(リー・ウェイ)/張毅(チャン・イー)●日本公開:1990/04●配給:大映●最初に観た場所:有楽町スバル座(90-05-26)(評価:★★★★)
有楽町スバル座 1946年12月31日オープン後1953年火災により閉館、1966年有楽町ビル2Fに再オープン(2019年10月20日閉館)
スバル座閉館.jpg有楽町スバル座閉館2.jpg
有楽町スバル座閉館_DVQ.jpg
 
莫言1.jpg莫言2.jpg《読書MEMO》
莫言(ばく げん、モー・イエン、1955 - )
2012年ノーベル文学賞受賞

雑誌「環球人物」/WEB NEWS「新华视点」

「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2442】 ガイ・リッチ― 「シャーロック・ホームズ
「●ジョン・ヴォイト 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(旧イイノホール)

「チャンプ」に比べリアリティがある分、カタルシス効果は弱い。佳作だが地味か。

TABLE FOR FIVE 1982 5人のテーブル.jpg5人のテーブル チラシ.png 5人のテーブル ビデオ.jpg    飯野ビル.jpg
「5人のテーブル」輸入版VHS・チラシ/「5人のテーブル [VHS]」/内幸町・旧飯野ビル(手前中央)

Table For Five movie poster2.jpg5人のテーブル 輸入版dvd.jpg もとプロゴルファーで現在は不動産屋のタネン(ジョン・ヴォイト)は、別れた妻(ミリー・パーキンス)のもとで育てられている3人の子供たちと年に一度過ごす期間に、夏の地中海を豪華客船で旅をするというプランを立てる。それは子供達の愛情を取り戻し、妻との復縁の為に無理をして実行した旅行だったが―。

 父親と息子の絆を描いた「チャンプ」('79年)で父親のプロボクサー役を演じたジョン・ヴォイトが、3年後のこの作品でもまた、自堕落により離婚し、今は何とか家族との絆を回復したいと考えている父親を演じています(この映画の製作も兼ねたジョン・ヴォイトの実生活における父親もプロゴルファーだった。娘は女優のアンジェリーナ・ジョリー)。

 主人公の父親が、酒などで身を持ち崩した離婚男であるのは「チャンプ」のボクサーと同じですが、いきなりエジプト旅行とかを思い立ったりして、性格的にもやや破綻気味なのが「チャンプ」とは異なる点で、"性格俳優"のジョン・ヴォイトが演じるにより相応しいキャラクターだったかも知れません。

 3人の子供(内1人はベトナム系養子)を連れての旅の最中にも、元妻以外の新たな相手女性を探し求めたりしていて、レストランでの食事で"5人席"を予約した腹の内を子供達に見透かされるなど、子供の方も「チャンプ」よりスレてきていていますが、そうしたことも含め、脚本にはリアリティがあったのでは。

5人のテーブル 1.jpg 別れた妻の再婚相手は弁護士であり、普通にエンタメ系ならば、こうした社会的地位のある強力なライバルとダメ男だった主人公が競い合って、最後は主人公が再び家族を取り戻すという風になりがちなのですが、この作品は必ずしもそうはなりません。

 「チャンプ」のような"大円団"的な終わり方にはならないので、「チャンプ」と同じくらい"泣ける映画"との触れ込みでロードにかかりましたが、カタルシス効果は弱いと思います。

TABLE FOR FIVE3.jpg 「父親とは何か」を考えさせる映画であり、但し、ここで求められている父親像は、ハリウッド映画の伝統的な「強い父親」像ともやや異なり、アメリカ映画というよりヨーロッパ映画を観ているみたいな感じでした("新たな相手女性?"役でマリー・クリスチーヌ・バローとか出てくるし)。

 70年代後半から80年代にかけては、日本の経済は安定成長期でしたが(その後、バブル経済に突入する)、片やアメリカは、景気が低迷して企業の生産性は落ち込み、リストラが横行して多くの労働者が失業に喘いでいました。

5人のテーブル2.jpg 「チャンプ」('79年)と「5人のテーブル」('82年)の2作品だけの比較で見るのは乱暴かもしれませんが、不況の時は「一発逆転」的なドリーミィな作品がウケるかも知れないけれども、あまりに不況が長引くと、そんな"夢物語"のような話は次第に受け容れられにくくなり、こうしたリアルな脚本になったのではないかとも。

 豪華客船での地中海クルーズという見た目の派手さとは逆に、作品そのものの印象が、"佳作"ではあるが地味ということになるのはそのせいでしょう。世の景気は映画の作風に影響するのかも(ビデオ化はされているが、DVDは見当たらない。"バブル直前の日本"向きの作品ではなかった?)。

 霞が関(内幸町)・飯野ビル内「イイノホール」での試写会で鑑賞しました(試写会で映画を観るというのは個人的には滅多にないことなのだが、たまたま勤め先の近くだったので)。霞が関のど真ん中、地下鉄「霞が関」駅の真上に、これだけの敷地を使って9階建とは勿体ないと常々思っていたら(隣の日比谷中日ビルも10階建とそう高くはないが)、この度、約半世紀ぶりに建て替えられることになりました(新ビルは27階建、ホールの席数は600超→500席に減る)。

「5人のテーブル」●原題:TABLE FOR FIVE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・リーバーマン●製作: ロバート・シャッフェル/ジョン・ヴォイト●脚本:デイヴィッド・セルツァー●撮影:ヴィルモス・ ジグモンド●音楽:ジョン・モリス●時間:122分●出演:ジョン・ヴォイト/リチャード・クレンナ/ミリー・パーキンス/マリー・クリスチーヌ・バロー/ロクサーナ・ザル/ロビー・カイガー/ソン・ホアン・ブイ/ケヴィン・コスナー●日本公開:1983/03●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:霞が関・イイノホール(83-03-01)(評価:★★★☆)

新イイノホール.jpg飯野ビル3.jpgイイノホール地図.jpg旧イイノホール 1960年10月霞が関・飯野ビル内に、試写会、舞踊・演劇・落語公演、会議・セミナー用多目的ホールとしてオープン。2007(平成19)年10月30日閉館。2011(平成23)年11月再オープン予定。

「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2566】 ジョン・リー・ハンコック 「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ
「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●トム・クルーズ 出演作品」の インデックッスへ(「遥かなる大地へ」「トップガン」「カクテル」「トップガン マーヴェリック」「●ハリソン・フォード 出演作品」の インデックッスへ(「刑事ジョン・ブック 目撃者」)「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●クリント・イーストウッド 出演・監督作品」の インデックッスへ(「ファイヤーフォックス」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(旧日比谷スカラ座・二子東急)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「トップガン マーヴェリック」

トム・クルーズとニコール・キッドマンが夫婦だった頃。「オクラホマ・ランドラッシュ」が印象深かった「遥かなる大地へ」。

遥かなる大地へ チラシ1.jpg遥かなる大地へ チラシ2.jpg遥かなる大地へ dvd.jpg トップガン dvd.jpg 刑事ジョン・ブック 目撃者 dvd.jpg
遥かなる大地へ [DVD]」「トップガン [DVD]」「刑事ジョン・ブック 目撃者 スペシャル・コレクターズ・エディ [DVD]

遥かなる大地へ 4.jpg 農民が地主の横暴に苦し遥かなる大地へ3.jpgめられた19世紀末のアイルランド、農夫ジョセフ(トム・クルーズ)の父も、厳しい地代の取立ての混乱で事故死する。更に地主の配下に家を焼かれ、怒ったジョセフは地主を射殺しようと地主邸に向かうが失敗、銃の暴発のため負傷し、復ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」2.jpg讐相手の邸で介抱を受けるという間抜けな結果となる。そこには、放火の張本人で地主令嬢と結婚を図るスティーブン(トーマス・ギブソン)がいて、ジョセフは彼を襲うも再度失敗し、彼と決闘させられることに。そこへ、実はスティーブンのお高くとまった性格が嫌いで、堅苦しい生活を捨てアメリカ行きを望む地主令嬢のシャノン(ニコール・キッドマン)が現れ、ジョセフを攫うように連れ去り、二人のアメリカ行きの旅が始まる―。

1889年のランドラッシュ
オクラホマ・ランドラッシュ.jpg アイルランド系移民の苦労を描いたロン・ハワード監督の'92年作品で、トム・クルーズとニコール・キッドマンが仲良かった頃、と言うか、結婚したての頃の作品ですが、映画の中に出てくる「オクラホマ・ランドラッシュ」というのが印象深かったです。ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」.jpg1889年4月22日の正午を境にオクラホマへの白人の入植が認められた。同年同月日には15ドルの入植手続き料を支払った人々がオクラホマとの境界に集まり、正午を告げる号砲が鳴ると一斉にオクラホマへと乗り込んでいった。彼らは一人当たり160エーカー(65ヘクタール)の土地を手に入れることができた――これは、新大陸のフロンティア時代の入植者に土地を無料で配るというもので、移民たちが白線に並んで「用意ドン!」で駆けっこして、ここからここまでは自分の土地だと主張した範囲の土地が与えられるというスゴイものなのですが(当然、そこで醜い争いも生じる)、お嬢さんだが気が強いシャノンと、自分の土地を得るにはこの方法しかないと考えるジョセフは、このレースに参加する―。

遥かなる大地へ 2.jpg ロン・ハワードにはアイルランド人の血が流れていて、祖先にはこのオクラホマのランド・ラッシュに実際に参加した人もいたとのことで、随分前からこの映画の構想は練っていたそうです。ニコール・キッドマンをヒロインに想定していたところに、トム・クルーズが出演の名乗りを上げたそうですが、ロン・ハワードは当時二人が交際していることを知らなかったそうです。因みに、トム・クルーズ自身にもアイルランド人の血が流れています。

ニコール・キッドマン.jpg 2人ともいい演技をしています。特に、上流意識を持ち、気位が高いながらも、ボディガード代わりに連れてきたトム・クルーズに内心では惹かれていくニコール・キッドマンの演技がいい(トム・クルーズはこの映画の随所で、状況の急な変化に振り回される、三枚目的な味を出している)。

 フランク・キャップラの「或る夜の出来事」の、寝室で男女がロープにシーツを吊るして「こちらへ先は入ってこないように」というルールを作る「ジェリコの壁」のエピソードなどがパロディ的に織り込まれているなど、細かいところでも楽しめました。

ニコール・キッドマン

ロン・ハワード.jpg 移民たちが駆けっこして奪い合っている土地は、元々は北米原住民のものであるはずという批判的な見方も出来ますが、この映画が日本でも本国でもあまりヒットしなかったことを思うと、もう少し注目されても良かったのでないかと。ロン・ハワードは両親とも俳優だったので、子役の頃から多くのテレビドラマや映画に出演していましたが(「アメリカン・グラフィティ」('73年)などに出ていた)、その後映画監督に転身し、この作品の後「アポロ13」('95年)から「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)まで多くのヒット作を飛ばし、その間「ビューティフル・マインド」('01年)でアカデミー賞監督賞を受賞したりしもして、監督として成功したと言えます。アカデミー賞に関しては、ニコール・キッドマンも「めぐりあう時間たち」('02年)で主演女優賞を獲っています。
ロン・ハワード

トップガン チラシ.jpgトップガン クルーズ.jpgトップガンR.jpg 一方のトム・クルーズは、それ以前に「トップガン」('86年)で一躍世界的なスターになっていたわけで、日本でもこの映画は大ヒットしました。まあ、米海軍が協力を惜しまない "USネイビィのリクルート戦略"の一環のような映画でした。「ハンガー」(′83年/英)のトニー・スコット監督(「エイリアン」(′79年/米)のリドリー・スコット監督の弟)はハリウッドに渡って から「スパイ・ゲーム」('01年)、「アンストッパブル」('10年)など娯楽指向にがらっと作風が変わったみたいですが、この映画に関する個人的印象としては、パターン化されたストーリーで、F-14トムキャットのみが唯々美しかった...。

アンソニー・エドワーズ.jpg ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら若手俳優の出世作としても知られ、「ER 緊急救命室」の"グリーン先生"ことアンソニー・エドワーズがトム・クルーズの同僚パイロット役で出てましたが、出ていた記憶が薄いのはまだ髪の毛が濃かったせいでしょうか。ともかく、トム・クルーズ人気を一気に高めた作品であって、その分だけ相対的に他の俳優の影が薄い? 後になって、あの人も出ていた、この人も出ていたと言われる映画です(当時まだ皆さほど名が知れてなかったということもあるが)。

 「トップガン」は日比谷スカラ座('98年に閉館)で観たのですが、この劇場は旧「東京宝塚劇場」内にあって、観に行った時はちょうど宝塚の公演がはねた後の「お見送り」で、女性ファンが劇場前に溢れていました。その合間をぬって映画館のフロアに行くと、今度はトム・クルーズのファンだと思われる女性達で一杯...。

ケリー・マクギリス7.jpg トム・クルーズの当時の人気はすさまじく、その勢いで「トップガン」と同年にマーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」('86年)に出演、翌々年にはロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」('88年)、バリー・レヴィンソン監督の「レインマン」('88年)に出演、「ハスラー2」はポール・ニカクテル01.jpgューマンに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、ダスティン・ホフマンと共演した「レインマン」は第61回アカデミー賞と第46回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、さらに第39回ベルリン国際映画祭においてそれぞれ作品賞を受賞しました。一方、トム・クルーズのスマイルと、フレアバーテンディングによるカクテル作りの派手なパフォーマンスでヒットを博した「カクテル」は、(一応"原作"はあるようだが)完全なトム・クルーズ・ファンのためのアイドル映画でした。これ、ビデオパーティで観た(90-04-01)のですが(自分で選んではいない)、当時の日本のバブリーな雰囲気にマッチしていた面もあったかも。
ケリー・マクギリス2.jpgケリー・マクギリス1.jpg  
 「トップガン」でトム・クルーズの相手役の女性教官を演じたのはケリー・マクギリスですが、トム・クルーズの身長は170cmであるのに対し、ケリー・マクギリスは身長178cmあります。このケリー・マクギリスには二度の離婚歴があり、二人の娘がいますが、2009年に自らがレズビアンであることをカミングアウトし、昨年(2010年)同性婚をしています。


刑事ジョン・ブック 目撃者  v.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス3.jpg ケリー・マクギリスは1982年に映画デビューしていますが、彼女を一躍有名にしたのは、ハリソン・フォードと共演し、アーミッシュの女性を演じた「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)でしょう(これも知人宅でのビデオパーティで観た(89-05-03))。ハリソン・フォード演じる警察の不正を知ったために警察に追われること刑事ジョン・ブック 目撃者 1.jpgになった刑事が主人公で、警察を舞台にした犯罪サスペンスかと思ったら、そのジョン・ブック刑事が匿われたアーミッシュの村の暮らしぶり(と言うより、アーミッシュの人々の考え方)が描かれていて、ある種カルチャーショック映画のようになっていました。ハリソン・フォードはアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、来日した時に、今まで出演した中で一番印象に残っている作品として、この「刑事ジョン・ブック 目撃者」を挙げていました。この作品でのハリソン・フォードの演技の延長上に、後の「フランティック」('90年)や「推定無罪」('90年)、「逃亡者」('93年)などにおける彼の演技があるともとれます。

 主人公のジョン・ブック刑事は最後、ケリー・マクギリス演じるアーミッシュの子持ち未亡人女性と互いに想い合うようになりながらも、住む世界が違うため村を去っていきますが、女性の子ども(彼が事件の「目撃者」)もジョン・ブックに馴染んでいて、ラストはちょっと「シェーン」('53年)と似ているなあと思い刑事ジョン・ブック 目撃者 4.jpgました。女性がアレクサンドル・ゴドゥノフ演じる許嫁候補(?)と仮に結婚したとしても、ずっとジョン・ブックのことを思い続けるのでしょう(「シェーン」にも同じことが言えるが、旦那または許刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス.jpg嫁は"立場ない"なあ)。それにしてもケリー・マクギリス、最初の主演作がハリソン・フォードの相手役で、次がトム・クルーズの相手役であったわけで、当時の圧倒的な美貌のせいもあってか、キャリアの最初の方がとりわけ華々しかったです。

ケリー・マクギリス

「トップガン マーベリック」2022.jpg(●2022年にジョセフ・コジンスキー監督による「トップガン マーヴェリック」('22年/米)が公開され「トップガン マーベリック」2.jpgた。「トップガン」から36年ぶりの続編で、トム・クルーズが前回同様マーヴェリック役を演じ、米海軍パイロットのエリート養成学校、通称"トップガン"に教官として戻ってくることになるも、結局、自らチームを率いて敵地へウラン濃縮施設撃破のために飛ぶことになるというもの。トム・クルーズは60歳で頑張っているなあという感じで、映画もヒットしているようだ。日本でも世代を問わず絶賛する声が多い。ただ、前作と異なり、映画評論家までが褒めていたりするのには違和感を感じる。俳優のミッキー・ロークが、トム・クルーズが「トップガン マーヴェリック」で米国「トップガン マーヴェリック」コネリー.jpgで興行収入1位になったことについてどう思うかとの質問に、「あいつは35年間あんな同じ役を演じてるんだ。尊敬に値しないね」と言っており、そちらの方がまともなマトモな見方とも言える。ヒロイン役はジェニファー・コネリー(51歳)。ケリー・マクギリスは、自分のところには出演オファーが無かったと言っている(笑)。気になったのはストーリーで、教官が部下を救い、今度は部下が教官を救うという話は美しいが、敵地に不時着して、"たまたま近くあった"敵の戦闘機を強奪して帰還するというのはあまりに話が出来過ぎているように思った。かつて、クリント・イーストウッドが監督・主演した「ファイヤーフォックス」('82年)で、イーストウ「ファイヤーフォックス」1982.jpg「ファイヤーフォックス」2.jpg「ファイヤーフォックス」3.jpgッド演じる元米空軍パイロットがNATOの秘密ミッションでソ連に潜入し、最新鋭戦闘機「MiG-31 ファイヤーフォックス」を盗み出すという映画があったが、あれは最初から周到な計画のもとに敵地に潜入しているわけであって、しかも、「ファイヤ―フォックス」 イースト.jpg当時の〈東西冷戦〉状況を背景としているとはいえ戦闘機自体はパイロットの意志を感知してオートマチックに敵を攻撃する機能を搭載しているといった半ばSF仕立てでもあった(この機能は実際に研究されているが、まだ実現していない)。苦心惨憺の末に敵戦闘機に辿り着いたイーストウッドとの比較でみると、トム・クルーズの、不時着した付近にたまたま敵の戦闘機があったというのは、あまりにご都合主義的な話だったように思う。


ヴァル・キルマー (右写真は自身のインスタグラムに投稿したもの。映画より元気そう)
『トップガン マーヴェリック』ヴァル・キルマー.jpg 「トップガン マーヴェリック」には、トム・クルーズが前作と同じ"マーヴェリック"役で出ているほかに、ヴァル・キルマーが前作と同じ"アイスマン"役で出ていて、個人的には「トゥームストーン」('93年)でドク・ホリデイ役をやって、「ワイアット・アープ リベンジー荒野の追跡―」('12年)でワイアット・アープ役をやっていたのが印象にあるが、2015年からはずっと喉頭がんの闘病生活と俳優業を並行してやっていることになる。)


FAR AND AWAY 2.jpg「遥かなる大地へ」●原題:FAR AND AWAY●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ロン・ハワード●脚本:ボブ・ドルマン●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:140分●出演:トム・クルーズ/ニコール・キッドマン/トーマス・ギブソン/バーバラ・バブコック/シリル・キューザック/ロバート・プロスキー/コルム・ミーニー/アイリーン・ポロック/ミシェル・ジョンソン/ダグラス・ジリソン/ウェイン・グレイス/バリー・マクガヴァン●日本公開:1992/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★☆)

トップガン3.jpg「トップガン」●原題:TOP GUN●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr●撮影:ジェフリー・キンボール●音楽:ハロルド・ファルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/トム・スケリット/マイケル・ アイアンサイド/ジョン・ストックウェル/リック・ロソビ旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpgッチ/メグ・ライアン/ティム・ロビンス●日本公開:1986/12●配給:UIP●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-12-14)(評価:★★)
旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

カクテル 1988.jpgカクテル02.jpg「カクテル」●原題:COCKTALEN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロジャー・ドナルドソン●製作:テッド・フィールド/ロバート・W・コート●脚本:ヘイウッド・グールド●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ピーター・ロビンソン(主題歌:ザ・ビーチ・ボーイズ「ココモ」)●原作:ヘイウッド・グールド●時間:104分●出演:トム・クルーズ/ブライアン・ブラウン/エリザベス・シュー/ケリー・リンチ●日本公開:1989/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)
カクテル [DVD]

刑事ジョン・ブック 目撃者 [DVD]
刑事ジョン・ブック 目撃者 poter.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 dvd2.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者ード.jpg「刑事ジョン・ブック 目撃者」●原題:WITNESS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・ウィアー●製作:エドワード・S・フェルドマン●脚本:ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス●撮影:ジョン・シール●音楽:モーリス・ジャール●時間:113分●出演:ハリソン・フォード/ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ジョセフ・ソマー/ダニー・グローヴァー/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/パティ・ルポーン/ブレント・ジェニングス/アンガス・マッキネス/フレデリック・ロルフ/ヴィゴ・モーテンセン●日本公開:1985/06●配給:UIP(評価:★★★☆)


「トップガン マーヴェリック」3.jpg「トップガン マーヴェリック」●原題:TOP GUN: MAVERICK●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフtoho上野 ウルトラマン・トップガン.jpg・コシンスキー●製作:ジェリー・ブラッカイマー/トム・クルーズ/クリストファー・マッカリ「トップガン マーヴェリック」2.jpgー/デヴィッド・エリソン●脚本:アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー●撮影:クラウディオ・ミランダ●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー/レディー・ガガ/ハンス・ジマー●時間:131分●出演:トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/エド・ハリス/ヴァル・キルマー●日本公開:2022/05●配給:東和ピクチャーズ●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン2)(22-07-12)(評価:★★☆)

「トップガン マーヴェリック」プロモーション用オリジナルポスター 
    
ファイヤーフォックス 特別版 [DVD]
「ファイヤーフォックス」ち.jpg「ファイヤーフォックス 特別版.jpg「ファイヤーフォックス」●原題:FIREFOX●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/ウォーレン・クラーク●脚本:アレックス・ラスカー/ウェンデル・ウェルマン●撮影:ブルース・サーティース●音楽:モーリス・ジャール●原作:クレイグ・トーマス●時間:136分●出演:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/デイヴィッド・ハフマン/ウォーレン・クラーク/ロナルド・レイシー/ケネス・コリー/クラウス・ロウシュ/ナイジェル・ホーソーン/ステファン・シュナーベル/ヴォルフ・二子東急 1990.jpgカーラー/トーマス・ヒル/クライヴ・メリソン/カイ・ウルフ/ディミトラ・アーリス/オースティン・ウィリス/マイケル・カリー/二子東急.gifジェームス・ステイリー/ウォード・コステロ/アラン・ティルヴァー●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-25)(評価:★★★)●併映:「ポルターガイスト」(トビー・フーパー)

二子東急のミニチラシ.bmp二子東急 場所.jpg二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館

 
   
 
1985年3月31日 二子玉川園最終営業日(写真:フォートラベル)
二子玉川園.jpg


《読書MEMO》
MSN産経ニュース
トニースコットor.jpg

「●ふ ケン・フォレットス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●ふ 藤沢 周平」【3147】 藤沢 周平 『隠し剣 秋風抄
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●TV-M (その他)」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ「●バート・ランカスター 出演作品」の インデックッスへ(「鷲の翼に乗って」)「●ジーン・ハックマン 出演作品」の インデックッスへ(「地獄の7人」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

私設部隊による人質奪回。原作も映画も大いに楽しめたのは、"ノンフィクション"だからか。

鷲の翼に乗って (Playboy books).jpg鷲の翼に乗って 集英社文庫 上.jpg 鷲の翼に乗って 集英社文庫 下.jpg 「鷲の翼に乗って」 (86年/米).jpg
鷲の翼に乗って(上) (集英社文庫)』『鷲の翼に乗って(下) (集英社文庫)』 TV-M「鷲の翼に乗って」('86年)
鷲の翼に乗って (Playboy books)

 1978年、イランではパーレヴィ王朝の独裁に対し民衆の怒りが昂り、テヘランでは軍と市民の衝突が繰り返されていたが、そうした中、米テキサス州ダラスに本社を置くコンピュータ関連会社EDSの重役2人が不当逮捕され、EDS会長ロス・ペローは在イラン米大使館やキッシンジャー前国務長官に働きかけて救出を依頼するが失敗、遂に自力での人質救出をすべく、社員による救出チームを組織し、元グリーンベレーのアーサー・D・"ブル"・サイモンズ大佐に協力を依頼する―。

On Wings of Eagles (VHS, 1991).jpg鷲の翼に乗って On Wings of Eagles .jpg 1983年に英国の作家ケン・フォレットが発表した小説で(原題:On Wings of Eagles)、実際にあった事件を取材して作品化したものであり(単行本帯には「ケン・フォレット初のノンフィクション」とあるが、"ノンフィクション小説"という感じか)、本書に登場するEDS会長ロス・ペローという人物は、1992年の大統領選に民主・共和両党とは別に第3政党を立ち上げ立候補したあのロス・ペロー氏です(小柄だが気骨ありそうな老人という印象)。

ロス・ペロー 大統領選.jpg この選挙は、一般投票率が、ビル・クリントン43%、ジョージ・ブッシュ37%、ペロー19%という結果で、彼の善戦は、パパ・ブッシュの票を獲り込んだため、クリントン大統領誕生の副次的要因となったと言われていますが、自分で傭兵部隊を作って直接行動に出るというのは、一部のアメリカ人にはいかにも受けそうだなあと思います。
On Wings of Eagles [VHS] [Import]

 ストーリーは、複雑な政治背景の部分以外は冒険小説風で、比較的すらすら読めてしまうのですが、実話がベースになっていることを思って読めば、それなりの重みも感じられ、但し、どの程度の脚色がされているのかは測りかねるといったところでしょうか(大統領やホワイトハウスはかなり無能・無力な存在として描かれている)。

 そうした憶測は抜きにして、サイモンズ大佐らによる計画立案から必要物資や人員の調達、拠点確保から行動実施までの流れは、ビジネス書によくある「Plan(計画)→Do(実行)→See(統制)」の所謂「PDSサイクル」の実践版のようでもあり、「リーダーシップとは何か」ということのケーススタディのようでもあります。

鷲の翼に乗って 輸入版DVD.jpg鷲の翼に乗って 輸入版VHS.jpg '86年にアンドリュー・V・マクラグレン監督によってTⅤ映画化されており、サイモンズ大佐を演じたバート・ランカスターは貫禄の演技で、ああ、この人なら部下はついてくるなあと。

On Wings of Eagles [VHS] [Import]
On Wings of Eagles [VHS] [Import]
 輸入版VHS(英語・ペルシャ語)

鷲の翼に乗って  ON WING OF EAGLES 1986.jpg 慎重なサイモンズは、社員たちに様々な事態を想定した訓練を施しますが、イランに入ってからの交渉は難航し、革命に乗じて何とか刑務所から2人を脱獄させた後も、トルコへの脱出行の最中に不測の事態が次々発生し、そうした際にそれらの訓練が役立つ―では、サイモンズは超人的な予言者のような人物なのかというとそうではなく、結果的に実行されることの無かった作戦の訓練も数多くこなしていたわけで、要するに、あらゆる不測の事態を想定して、入念に計画し、備えたということことなのでしょう。

 TV版のためか、特別凝った演出がされているわけでもなく、原作を忠実に追うことを主眼としているようで、爆弾を作ったり、暗号を作成したりするといった細部まで映像化されており、そのために約4時間の長尺にはなっていますが、起伏に富んだストーリーを、原作同様に飽きさせず一気に見せます。

地獄の7人.jpg地獄の7人 ちらし.jpg そう言えば、テッド・コチェフ監督の「地獄の7人」(′83年/米)という、ベトナム戦争終結後10年経っても戻らない息子の生存を信じ、息子のかつての戦友を集めて現地へ救出に向かう大佐(「鷲の翼に乗って」 のサイモンズ大佐と同じく退役軍人)の話の映画があって(主演はジーン・ハックマン)、同じ「私設部隊」でも、「地獄の7人」の方はどちらかというと"傭兵"というより"OB会"という感じが色濃かったでしょうか。

地獄の7人 [DVD]

地獄の7人 ジーン・ハックマンs.jpg 「地獄の7人」では、男たちの友情や親子の愛情がテーマとなっていましたが、年寄りにアクションはキツいんじゃないかとつい余計な心配してしまったりするのは、元になっているのがフィクションだからでしょう。そうした意味では、「鷲の翼に乗って」のような「事実に立脚した」とか「実話に基づく」という謳い文句は強みだなあと(それさえ信じ込ませれば怖いもの無し?)。原作も映画も共に大いに楽しめたのは、自分がその"ノンフィクション効果"を、大いに受けたからかも。
ジーン・ハックマン in「地獄の7人」

"On Wings of Eagles" (1986)
鷲の翼に乗ってON WING OF EAGLES 1986.jpgON WING OF EAGLE 1986.jpg「鷲の翼に乗って」●原題:ON WING OF EAGLES●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・V・マクラグレン●音楽:ローレンス・ローゼンタール●原作:ケン・フォレット●時間:235分●出演:バート・ランカスター/リチャード・クレンナ/ポール・ル・マット/ジム・メッツラー/イーサイ・モラレス/ジェームズ・ストリウス/ローレンス・プレスマン/コンスタンス・タワーズ/カレン・カールソン/シリル・オライリー●テレビ映画:1990/10 テレビ東京(評価:★★★★)

地獄の7人 ジーン・ハックマンl.jpg「地獄の7人」●原題:UNCOMMON VALOR●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コッチェフ●製作:ジョン・ミリアス/バズ・フェイトシャンズ●脚本:ジョー・ゲイトン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間:105分●出演:ジーン・ハックマン/ロバート・スタック/フレッド・ウォード/レブ・ブラウン,/パトリック・スウェイジ●日本公開:1984/06●配給/パラマウント映画●最初に観た場所:三軒茶屋映劇(85-05-25)(評価★★★)●併映:「ゴールド・パピヨン」(ジュスト・ジャキャン)

 【1986年文庫化[集英社文庫(上・下)]】 

「●ふ ケン・フォレットス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【1435】K・フォレット『鷲の翼に乗って
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●TV-M (その他)」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

ドイツのスパイが主人公で英国将校が副主人公。美女の活躍など、エンタテインメント色が強い。

レベッカへの鍵 集英社.jpg  『レベッカへの鍵』集英社文庫.jpg レベッカへの鍵 新潮文庫.jpg    レベッカへの鍵 vhs.jpg  針の眼 ケン・フォレット.jpg Ken Follett
レベッカへの鍵 (1982年) (Playboy books)』『レベッカへの鍵 (集英社文庫)』『レベッカへの鍵 (新潮文庫)』「レベッカへの鍵 [VHS]

レベッカへの鍵 洋書.jpg 第2次世界大戦下、当時は英国が支配していたリビア、エジプトに、連合軍から"砂漠の狐"と恐れられるロンメル将軍が送りこんだスパイ、アレックス・ヴォルフは、英国占領下のカイロで英国軍の軍事作戦をスパイし、ロンメル将軍に情報を送ろうとするが、それに気付いた英国軍のウィリアム・ヴァンダム少佐は、地元の女性を協力者とし、スパイを暴き出す作戦に出る―。

 1980年に英国の作家ケン・フォレットが、『針の眼』('78年)、『トリプル』('79年)に続いて発表したスパイ小説(原題:The Key to Rebecca)。
1940年の北アフリカ戦線で、劣勢だった独ロンメル軍団が連戦連勝して優勢の英アフリカ軍を追い詰めていき、英国の生命線であるカイロが陥落寸前となった背景には、ロンメル将軍のスパイ戦術による情報収集力があったというのは事実のようです。

 主人公が「独」スパイで、副主人公が「英」陸軍情報部の将校であるという位置づけがこの作家らしいですが、独スパイ・アレックスがベリーダンサーのソーニャを抱き込んでその魅惑の力を利用し、英国将校ウィリアムは、自身に想いを寄せるユダヤ人女性エレーネに危険な使命を与え、スパイを暴き出す作戦に出るという、共に女性絡みになっていて、この辺りはサービス精神旺盛。

レベッカへの鍵 サントラ.jpg ただ、ちょっと"サービス過剰"という感じもして、その分「レベッカ」という実際に北アフリカ戦線で使われた暗号の謎解きというモチーフは後退し、デュ・モーリア小説「レベッカ」が暗号コード名として利用されたというだけの意味付けに止まっていて、テーマが拡散した印象も受けました(それでも、終盤の両者の攻防の畳み掛けは流石だが)。

レベッカへの鍵 洋書3.jpg 読み易い一方で、やや通俗に流れるキライもある作家かなあと思いましたが、TV映画化作品(監督は俳優のデヴィッド・ヘミングスで、本人も出演している)を観て、ああ、最初から映像化を意識していたのかなあとも(要するに、"エスピオナージュ通"受けよりも"一般大衆"受けを狙った?)。

THE KEY TO REBECCA 1985.jpg 自分は"一般"側なので、原作のみならず、3時間超に及ぶ映像化作品の方も、「セクシーなベリーダンス」シーンとかだけでなく、プロット的にも良くできたエンタテインメントとして、それなりに(むしろ大いに)楽しみましたが、TV映画であるためか、人物像がパターン化していて演出的に特筆するようなものがある作品ではなく、ただ面白いだけという感じ。それはそれで面白ければ良しとすべきなのかも知れませんが(評価自体は素直に★4つ)、やはり、その面白さは原作に負うところが大きいか。

THE KEY TO REBECCA 2.jpgTHE KEY TO REBECCA 1.jpg THE KEY TO REBECCA 3.jpg
DAVID SOUL/CLIFF ROBERTSON

LINA RAYMOND

The Key to Rebecca (1985)
The Key to Rebecca (1985).jpg
「レベッカへの鍵」●原題:THE KEY TO REBECCA●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・ヘミングス●脚本:サミュエル・ハリ●撮影:マリオ・ヴルピアーニ●音楽:J・A・C・ベッドフォード●時間:198分●出演:デヴィッド・ソウル/クリフ・ロバートソン/シーズン・ヒューブリー/リナ・レイモンド/アンソニー・クエイル/デヴィッド・ヘミングス/ロバート・カルプ●テレビ映画:1986/08 NHK(評価:★★★★)

 【1983年文庫化[集英社文庫(矢野浩三郎:訳)]/1997年再文庫化[新潮文庫(矢野浩三郎:訳)]】

「●ふ ケン・フォレットス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1434】フォレット『レベッカへの鍵
「●「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」受賞作」の インデックッスへ(『針の眼』)「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●ハヤカワ・ノヴェルズ」の インデックッスへ(『針の目』『鷲は舞いおりた』『鷲は舞いおりた 完全版』) 「●フェデリコ・フェリーニ監督作品」の インデックッスへ「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●ま行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ニーノ・ロータ音楽作品」の インデックッスへ(「カサノバ」) 「●ドナルド・サザーランド 出演作品」の インデックッスへ(「針の眼鷲」「カサノバ」「は舞いおりた」「ダーティ・セクシー・マネー」)「●マイケル・ケイン 出演作品」の インデックッスへ (「鷲は舞いおりた」)「●ロバート・デュヴァル 出演作品」の インデックッスへ(「鷲は舞いおりた」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外サスペンス・読み物」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「24-TWENTY FOUR-」「ダーティ・セクシー・マネー」) 「●デニス・ホッパー 出演作品」の インデックッスへ(「24-TWENTY FOUR-」)

非情さと人間臭さを併せ持ったスパイ像。ひと癖ありそうなドナルド・サザーランド向きだった?

針の眼.jpg 針の眼 創元推理文庫.jpg 針の眼 dvd.jpg 針の眼 映画チラシ.jpg  鷲は舞いおりた_.jpg
針の眼 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』['80年]『針の眼 (創元推理文庫)』['09年]「針の眼 [DVD]」/映画チラシ 「鷲は舞いおりた [DVD]

針の眼 新潮文庫.jpg 第2次世界大戦の最中、英国内で活動していたドイツの情報将校ヘンリー・フェイバー(コードネーム"針")は、連合軍のヨーロッパ進攻に関する重大機密を入手、直接アドルフ・ヒトラーに報告するため、英国陸軍情報部の追跡を振り切り、Uボートの待つ嵐の海へ船を出したが、暴風雨の影響で離れ小島に漂着してしまう―。

針の眼 (新潮文庫)』['96年]

針の眼 .jpg 1978年にイギリスの作家ケン・フォレット(Ken Follett)が発表したスパイ小説で(原題:The Eye of the Needle)、1979年「アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)」を受賞した作品。この人は『大聖堂』以来、歴史小説家の趣きがありますが、この作品でエドガー賞などを受賞し、『トリプル』(Triple)、『レベッカへの鍵』 (The Key to Rebecca)と相次いで発表していた頃は、米国のロバート・ラドラム(1927-2001)に続くエスピオナージュの旗手という印象でした。

 この作品には相変わらず根強いファンがいるようで、集英社文庫、新潮文庫にそれぞれ収められ、'09年には創元推理文庫からも新訳が出たり、 映画化作品がWOWOWでハイビジョン放送されるなどしていますが、もともと原文が読み易いのではないでしょうか。畳み掛けるようなテンポの良さがあります。

ジャッカルの日 73米.jpg スパイの行動を追っていくという点では、同じ英国の作家フレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』と似て無くもないし、『ジャッカルの日』を読む前からドゴールが暗殺されなかったのを知っているのと同じく、連合軍の欧州侵攻の上陸地点がカレーであるかのように見せかけて実はノルマンディだという"針"ことヘンリーが掴んだ"機密情報"が、結局ヒトラーにもたらされることは無かったという既知の事実から、彼が目的を果たすことは無かったということは事前に察せられます。

針の眼 映画eye-of-the-needle.jpg 但し、そのプロセスがやや異なり、マシーンのように非情に行動する"ジャッカル"に対し、ヘンリーは、同じく非情な人物ではあるものの、流れついた島の灯台守の夫婦に世話になるうちに、その妻と"本気"の恋に落ちてしまうという人間臭い設定になっています(夫針の眼 洋モノチラシ.jpgが下半身不随で、妻は欲求不満気味だった?)。そして、そのことが結局は、彼が任務を遂行し得なかった原因に―。

ドナルド・サザーランド in「針の眼」(1981)

 '81年にリチャード・マーカンド監督によって映画化され、ヘンリー役がドナルド・サザーランド(Donald Sutherland、1935‐)というのには当初は違和感がありましたが、実際に映画を観てみたら、結局は向いていたかもしれないと思いました。

 このひと癖もふた癖もありそうな人物を演じるのが上手いカナダ出身の俳優は、ロバート・アルトマン監督の「M★A★S★H」('70/米)からフェデリコ・フェリーニ監督の「カサノバ」('76年/伊)まで幅広い役柄をこなし、英国のジャク・ヒギンズ(1929-2022/92歳没)が1975年に発表したベストセラー小説『鷲は舞い降りた』('81年/ハヤカワ文庫NV)の映画化作品でジョン・スタージェス監督の遺作となった「鷲は舞いおりた」('76年/英)にも戦争スパイ役で出ていました(同じ年に「カサノバ」と「鷲は舞いおりた」というこのまったく毛色の異なる2本の作品に出ているというのもスゴイが)。

『鷲は舞い降りた (Hayakawa Novels)』.jpg『鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)』.jpg鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)_.jpg鷲は舞い降りた (Hayakawa Novels)』 ('76年)
鷲は舞い降りた 完全版 (Hayakawa Novels)』 ('92年)
鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)』('97年改版版)

 「鷲は舞いおりた」は、原作『鷲は舞い降りた』は、第二次世界大戦中の英国領内にある寒村を舞台に、保養地滞在中の英国首相相ウィンストン・チャーチルを拉致しようとするナチス親衛隊長ヒムラーによる「イーグル計画」(架空?)という特殊任務を受けたナチス・ドイツ落下傘部隊の冒険を描いたもので、英米において発売直後から約6か月もの間ベストセラーに留まり続け、当時の連続1位記録を塗り替えたという作品であり、発表の翌年に映画化されたことになります。鷲は舞いおりた 00.jpg鷲は舞いおりた_.jpg鷲は舞いおりた サザーランド.jpgドイツのパラシュート部隊の精鋭を率いるシュタイナーを演じたマイケル・ケインが主役で、ドナルド・サザーランドの役どころは、部隊に先んじて英国に潜入する元IRAのテロリストで現大学教授のリーアム・デヴリン。スパイである男性(デヴリン)が潜入先で地元の女性と恋に陥るところが「針の眼」と似ていますが、シュタイナーの部隊の人間がどんどん死んでいく(計画を指揮したラードル大佐(ロバート・デュヴァル)も失敗の責を取らされ銃殺される。但し、ヒトラーの命令によ鷲は舞いおりた 11.jpg鷲は舞いおりた .jpgる形をとっているが、元々からヒムラー(ドナルド・プレザンス、本物そっくり!)の独断的計画であったことが示唆されていて、ヒムラー自身は何ら責任を取らない)という状況の中で、愛に目覚めたデヴリンは最後に生き残ります(ドナルド・サザーランドについて言えば、「針の眼」とちょうど逆の結末と言えるかもしれない。ケン・フォレットとジャック・ヒギンズの作風の違いか?)。

「鷲は舞いおりた」(1976)出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル

カサノバ 1シーン.jpgカサノバ サザーランドs.jpg 「カサノバ」は全編スタジオ撮影で、巨大なセットがカサノバの人生の虚しさとだぶっていると言われているそうです(フェリーニ監督は彼の人生を演技的と捉えたのか)。カサノバ(ドナルド・サザーランド)が自らの強壮ぶりを誇示する"連続腕立て伏せ"シーンなどは凄かったというか、むしろ悲壮感、悲哀感があった...(ある精神分析家によれば、好色家には、"女性なら誰とでも"という「カサノバ型」と"高貴な女性を落とす"ことに喜びを感じる「ドンファン型」があるそうだが、何れもマザー・コンプレックスに起因するそうな)。

「カサノバ」.jpgカサノバ フェリーニ.jpg この映画のカサノバ役は、ロバート・レッドフォードをはじめ多くの自薦他薦の俳優が候補にあがったようですが、「最もそれらしくない風貌」をフェリーニ監督に買われてドナルド・サザーランドに決定したそうです。ただ、当のドナルド・サザーランドは、なぜ自分が起用されたのか分からず、自分がどういう映画に出ているのかさえも最後まで掴めなかったそうです。
ドナルド・サザーランド in「カサノバ」(1976)

Donald Sutherland and Kate Nelligan.jpg 「針の眼」の映画の方は、「カサノバ」及び「鷲は舞いおりた」の5年後に撮られた作品ですが、ここでのサザーランドは、冷徹非情ながらもやや"もっそり"した感じもあって、それでいて目付きは鋭く(こういう病的に鋭い目線は、後のロン・ハワード監督の「バックドラフト」('91年/米)の放火魔役に通じるものがある)、半身不随の灯台守の夫を自身の正体を知られたために殺害する場面などは、(相手を殺らなければ自分が殺られるという状況ではあるが)"卑怯者ぶり"丸出しで、普通のスパイ映画にある"スマートさ"の微塵も無く、それが却ってリアリティありました。

針の眼 シーン2.jpg ケイト・ネリガン(この人もカナダ出身で演技を学ぶためにイギリスに渡った点でドナルド・サザーランドと重なる)が演じる灯台守の妻がヘンリーの正体を知り、突然愛国心に目覚めたため?と言うよりは、ヘンリーの行為を愛情に対する裏切りととったのでしょう、「何もかも戦争のせいだ。解ってくれ」と弁解する彼に銃を向けるという、直前まで愛し合っていた男女が殺し合いの争いをする展開は、映像としてはキツイものがありましたが、それだけに反戦映画としての色合いを強く感じました。

ケイト・ネリガン in「針の眼」
       
ダーティ・セクシー・マネー.jpg 因みに、ドナルド・サザーランドの息子のキーファー・サザーランド(英ロンドン出身)も俳優で、今は映画よりもTVドラ24 -TWENTY FOUR-ド.jpgマ「24-TWENTY FOUR-」のジャック・バウアー役で活躍していますが(どの場面を観ても、いつも銃と携帯電話を持って、無能な大統領補佐官らに代わって大統領から直接指令を受け、毎日"全米を救うべく"駆け回っていた)、父親ドナルド・サザーランドの方も、「ダーティ・セクシー・マネー」の大富豪役などTVドラマで最近のその姿(相変わらず、どことなく不気味さを漂わせる容貌だが)を観ることができるのが嬉しいです(でも本国では2シーズンで打ち切りになってしまったようだ)。キーファーが自身の演じるジャック・バウアーの父親役とドナルド・サザーランド バンクーバー五輪.jpgして「24」への出演を依頼した際、ドナルドは「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年/米)におけるショーン・コネリーとハリソン・フォードのような親子関係ならOKだと答えましたが、息子を殺そうとする役だと聞いて断ったということです。

 因みに、ドナルド・サザーランドがカナダ人であることを思い出させるシーンとして、昨年['10年]のバンクーバーオリンピック(第21回オリンピック冬季競技大会)開会式で、オリンピック旗を運ぶ8人の旗手のひとりに彼がいました。

バンクーバーオリンピック開会式(2010年2月12日)五輪旗を掲揚台へと運ぶカナダ出身の著名人たち。右端がドナルド・サザーランド。
 
針の眼ード.jpg針の眼 ド.jpg「針の眼」●原題:EYE OF THE NEEDLE●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:リチャード・マーカンド●製作:スティーヴン・フリードマン●脚本:スタンリー・マン●撮影: アラン・ヒューム●音楽:ミクロス・ローザ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ケイト・ネリガン/イアン・バネン/クリストファー・カザノフ/フィリップ・マーティン・ブラウン/ビル・ナイン●日本公開:1981/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)

カサノバ <HDニューマスター版> [Blu-ray]
カサノバ HDニューマスター版.jpg「カサノバ」●原題:IL CASANOVA DI FEDERICO FELLINI●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督:フェデリコ・フェリーニ●製作:アルベルト・グリマルディ●脚本:フェデリコ・フェリーニ/ベルナルディーノ・ザッポーニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ニーノ・ロータ●時間:154分●出演:ドナルド・サザーランド/ティナ・オーモン/マルガレート・クレマンティ/サンドラ・エレーン・アレン/カルメン・スカルピッタ/シセリー・ブラウン/クラレッタ・アルグランティ/ハロルド・イノチェント/ダニエラ・ガッティ/クラリッサ・ロール●日本公開:1980/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽町スバル座(81-02-09)(評価:★★★☆)

鷲は舞いおりた [Blu-ray]
「鷲は舞いおりた」09.jpg鷲は舞いおりた b.jpg鷲は舞い降りた9_2.jpg「鷲は舞いおりた」●原題:THE EAGLE HAS LANDED●制作年:1976年●制作国:イギリス●監督:ジョン・スタージェス●製作:ジャック・ウィナー/デイヴィッド・ニーヴン・ジュニア●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ラロ・シフリン●原作:ジャック・ヒギンズ「鷲は舞いおりた」●時間:123分(劇場公開版)/135分(完全版)●出演:マイケル・ケイン/ドナルド・サザーランド/ロバート・デュヴァル/ジェニー・アガター/ドナルド・プレザンス/アンソニ鷲は舞いおりた ケイン サザーランド.jpg鷲は舞い降りた ロバート・デュヴァル.jpg鷲は舞い降りた D・プレザンス.jpgー・クエイル/ジーン・マーシュ/ジュディ・ギーソン/トリート・ウィリアムズ/ラリー・ハグマン/スヴェン=ベッティル・トーベ/ジョン・スタンディング●日本公開:1977/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋テアトルダイア (77-12-24)(評価:★★★☆)●併映:「ジャッカルの日」(フレッド・ジンネマン)/「ダラスの熱い日」(デビッド・ミラー)/「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)(オールナイト)

ロバート・デュヴァル(ラードル大佐)/ドナルド・プレザンス(ナチス親衛隊長ヒムラー)

24 (2001)
24 (2001).jpg24 TWENTY FOUR.jpg「24」ホッパー.jpg「24-TWENTY FOUR-」24 (FOX 2001/11~2009) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(2004~2010)/FOX
24 -TWENTY FOUR- ファイナル・シーズン DVDコレクターズBOX

デニス・ホッパー(シーズン1(2001-2002)ヴィクター・ドレーゼン役)


Dirty Sexy Money.jpg「ダーティ・セクシー・マネー」Dirty Sexy Money (ABC 2007/09~2009) ○日本での放映チャネル:スーパー!ドラマTV(2008~)
Dirty Sexy Money: Season One [DVD] [Import]

 

 【1983年文庫化[ハヤカワ文庫(鷺村達也:訳)]/1996年再文庫化[新潮文庫(戸田裕之:訳)]/2009年再文庫化[創元推理文庫(戸田裕之:訳)]】

「●ダニエル・シュミット」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3182】 ダニエル・シュミット 「書かれた顔
「○外国映画 【制作年順】」のインデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(俳優座シネマテン)

「女が愛しているのは快楽だけだという事実」を突き付け、「愛の行為の果て」を描いた映画。

Hécate(1982).jpgヘカテ/ダニエル・シュミット.jpg ヘカテ/エレンディラ.jpg
Hécate(1982) 輸入版DVDジャケット「ヘカテ [DVD]」ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/VHS「エレンディラ/ヘカテ」

 1942年、スイスのベルン。フランス大使館主催のパーティの人混みの中で、ある男がひとりもの想いに沈んでいた。その男ジュリアン・ロシェル(ベルナール・ジロドー)は10年前、フランスの植民地である北アフリカの地に赴任、熱い太陽の下で退屈な日々を送っていたが、あるパーティでテラスで風に吹かれていたクロチルドという女性(ローレン・ハットン)に出会い、その魔性の魅力に溺れていく。やがて、彼はクロチルドに大きな秘密があることを知る。それが秘密と呼んでいいものなのか、彼自身にもわからないのだが。彼は、ギリシャ神話に登場する女神ヘカテヘカテ パンフ.JPGを思い浮かべた。犬を従えて闇を歩く夜の魔女ヘカテ―。

エレンディラ サンリオ文庫.png かつてレンタルビデオで「エレンディラ」と「ヘカテ」の2本組みというのがありましたが、何だか凄い組み合わせだなあと(エレンディラの祖母とヘカテことクロチルドの"魔女"セットか)。「エレンディラ」はガルシア=マルケス原作、「ヘカテ」はポール・モラン(1888-1976/享年88)原作で、この作家は外交官としてアフリカに赴任していたこともあり、亡命先のスイスでの、ココ・シャネル(1883-1971/享年87)へのインタヴュー取材などでも知られています。

HECATE by  Daniel Schmid.jpgHecate.jpg 「ヘカテ」というのは、ギリシャ神話に出てくる、男を、子供を、更に世界をも支配する巨大な魔力を持つ、神秘的で残酷な女神のことだそうで、主人公の男にとってクロチルドはまさに「ヘカテ」であり、パンフレットにある批評の「恋とは永遠に不確か」(映画評論家・渡辺祥子)、「恋に乱れる男たちの愚かさよ」(画家・合田佐和子)と言うよりむしろ、「女が愛しているのは快楽だけだという事実」(翻訳家・小沢瑞穂)を突き付け、「愛の行為の果て」(作家・辻邦生)を描いた映画とも言えるかも。

Hécate(1982) 2.jpg クロチルド役のローレン・ハットン(Lauren Hutton、1943年生まれ)は、アローレン・ハットン.bmpメリカン・ヴォーグの専属モデル出身の女優で、特別にグラマーでも美人でもないですが、服の着こなしがいいのか、ダニエル・シュミット(1941-2006/享年64)のカメラ指示がいいのか、シュミットの映像美にマッチしており、この作品では、アンニュイなセクシーさを充満させています。
 後に、61歳でヌードになったことで話題になり、更に、'08年には、65歳にして、スペイン大手ファッションチェーン、マンゴのアルジェリアで新規ショップのオープンに際して、親善大使並びにイメージ・キャラクターに起用されています(やはり、この人も"魔女"か)。

マンゴの広告キャンペーンに登場したローレン・ハットン(2008年・65歳)

HECATE 1982.jpg この映画で、ベルナール・ジロドー演じる外交官が赴任した国は同じ北アフリカでもモロッコのようですが、いずれにせよ、辺境の地で無聊を託っている折に、目の前にこんな女性が現れ、その女性が、恋人、愛人、情婦、更には貴婦人としても完璧であれば、男はずぶずぶ深みに嵌っていくだろうなあと思わせるものがあり、実際、この映画の主人公の男は次第に嫉妬心のコントロールが出来なくなって、狂気に駆られていきます。

 後に狂気から覚めた男が、シベリアの地で今は世捨て人同様となった彼女の夫と見(まみ)え、「君も、僕と同類さ。あれに噛まれた犬なんだ」と言われる場面は、何とも怖いと言うか、しんみりさせられると言うか...(原作の原題は「ヘカテとその犬たち」)。

異邦人パンフレット.jpg 映画の、北アフリカの砂漠の町という舞台設定が、何と言ってもいいです。パンフレットにある、筈見有弘(1937-1997/享年59)の、映画における「文化果つる辺境のロマンチシズム」というのは、マレーネ・デートリッヒ主演の「モロッコ」('30年)、ジャン・ギャバン主演の「望郷」('37年)あたりから連綿とあって、マルチェロ・マストロヤンニ主演の「異邦人」('68年)などもそうであり、この作品も、その系譜にあるとの解説に頷かされました。
 

Hécate(1982) 1.jpg「ヘカテ」●原題:HECATE●制作年:1982年●制作国:フランス/スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ダニエル・シュミット/パスカル・ジャルダン●撮影:レナート・ベルタ●音楽:カルロス・ダレッシオ●原六本木駅付近.jpg俳優座劇場.jpg作:ポール・モラン「ヘカテとその犬たち」●時間:108分●出演:ベルナール・ジロドー/ローレン・ハットン/ジャン・ブイーズ/ジャン=ピエール・カルフォン/ジュリエット・ブラシュ●日本公開:1983/08●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(83-10-17)●2回目:自由が丘・自由劇場(84-09-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)
六本木・俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。

「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2445】 ジョゼフ・ロージー 「エヴァの匂い
「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●大島 渚 監督」の インデックッスへ 「●音楽・ミュージシャン」の インデックッスへ(「ジギー・スターダスト」)「●スーザン・サランドン 出演作品」の インデックッスへ(「ハンガー」) 「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「戦場のメリークリスマス」)「●坂本 龍一 音楽作品」の インデックッスへ(「戦場のメリークリスマス」)「●ビートたけし 出演作品」の インデックッスへ(「戦場のメリークリスマス」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(中野武蔵野館)「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(荻窪オデヲン座/松竹セントラル)

「仮に地球人の姿をしている宇宙人」を演じるデヴィッド・ボウイが、かなり宇宙人っぽい。

地球に落ちてきた男.jpg 地球に落ちてきた男 dvd.jpg THE MAN WHO FELL TO EARTH.jpg Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981) .jpg Senjô no merî Kurisumasu (1983) .jpg
「地球に落ちて来た男」パンフレット「地球に落ちて来た男 [DVD]Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981)  Senjô no merî Kurisumasu (1983)

 砂漠化した故郷の星に妻子を残し、地球にやってきたニュートン(デヴィッド・ボウイ)は、発明家として人知を超えた9つの特許を元に巨万の富を築き、アメリカのかつての大富豪、ハワード・ヒューズなどを思わせる、彼の奇妙な暮らしは全米の注目の的となる。ニュートンはロケットを建造して家族の待つ星に帰ろうとするが、地球で知り合って愛し合うようになったメリー・ルー(キャンディ・クラーク)を残して宇宙に飛び立とうとする直前、政府組織に捕らえらてしまい、拷問じみた人体実験と軟禁生活の中で数十年を過ごす―。

0「地球に落ちて来た男」.jpg 原作はウォルター・テヴィス。「ブレードランナー」の原作者であるフィリップ・K・ディックらに影響を与えたとされるSF映画ですが、特撮(と言えるほどのものでもない)部分は、ニュートンが回想する故郷の星の家族が"着ぐるみ"みいたいだったりして(しかも、お決まりの"キャット・アイ")、むしろ、地球人の姿を借りている主人公の宇宙人を演じているデヴィッド・ボウイ自身の方が、表情や立ち振る舞いがよほど宇宙人っぽく見えました。これって相当な集中力を要求される演技だと思います(デヴィッド・ボウイ自身もこの作品に思い入れがあったのか、2015年にオフブロードウェ1「地球に落ちて来た男」.jpgイで舞台化された際にはボウイ自身もプロデュースを担当した)

 世間がニュートンを忘れた頃、彼は拘禁状態を解かれ(依然、軟禁状態にはある)外界に戻りますが、もはや誰も彼を覚えておらず、メリー・ルーとの再会も、お互いの心の中に無力感を刻むだけのものとなり、故郷の星に戻ることもできず、巨万の富を抱えたままでひっそりと生きて行くしかない―(ラストでは、軟禁状態をも解かれ、ニュートンにとっての次なる世界が展開されるかのような終わり方になっているが...)。

2「地球に落ちて来た男」.jpg パンフレットの解説によれば、これはSFと言うよりも愛の物語であるとありましたが、メリー・ルーがニュートンとの数十年ぶりの再会で心を開くことが出来なかったのは、彼女が年齢を加えているのに、ニュートンの方は一向に年をとっていないという隔たりのためで、時を共有するというのは、一緒に年齢を重ねていくということなのだなあと思ったりもしました。「時間」というものも、この作品のテーマの1つであると言えるかもしれません。

地球に落ちて来た男 深夜の告白1.jpg 富を得れば得るほど孤独になり、自分が何のために地球に来たのかもだんだんわからなくなり地球に落ちて来た男 深夜の告白2.jpg、酒に溺れていく(宇宙人もアル中になる!)ニュートン―。人間の疎外というものを描いた作品でもあるように思いました。

アメリカン・グラフィティAmericani.jpg デヴィッド・ボウイの日本初公演は1973年ですが、映画「地球に落ちて来た男」では、「アメリカン・グラフィティ」('73年/米)でデヴィッド・ボウイより先に日本に"映画お目見え"したキャンディ・クラークも、本作メリー・ルー役で、カントリー・ガール風にいい味出しています(2人でピンポンをするシーンなんか、良かったなあ)。

デヴィッド・ボウイs.jpg デヴィッド・ボウイは、本作が映画では日本初お目見えでしたが、この作品の前後に「ジギー・スターダスト」('73年/英、ボウイのステージと素顔を追ったドキュメンタリー。日本での公開は'84年)、「ジャスト・ア・ジゴロ」('81年/西独、未見)に出ていて、その後「クリスチーネ・F」('83年/西独、ドイツの麻薬中毒少女をドキュメンタリー風に扱った映画)、「ハンガー」('83年/英、カトリーヌ・ドヌーヴが吸血鬼女、デヴィッド・ボウイがその伴侶という設定)、大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス」('83年/日・英)と続きます。因みに、「ジギー・スターダスト」は1972年にデヴィッド・ボウイがリリースしたアルバム名であり、異星からやってきた架空のスーパースター「ジギー」の成功からその没落までを描いたというそのコンセプトは、3年後に作られた「地球に落ちて来た男」にほぼ反映されたとみていいのではないでしょうか。
ジギー・スターダスト dvd.bmp  ジギー・スターダスト パンフ.gif ジギー・スターダスト パンフ3.jpg ジギー・スターダスト パンフ2.jpg ジギー・スターダスト アルバム.jpgジギー・スターダスト [DVD]」/「ジギー・スターダスト」パンフレット/「ジギー・スターダスト発売30周年記念アニヴァーサリー・エディション

クリスチーネ・F [DVD]
クリスチーネ・F dvd.jpg映画「クリスチーネF」.jpg 「クリスチーネ・F」は、西ベルリンの実在のヘ麻薬中毒の少女(当時14歳)の手記『かなしみのクリスチアーネ』(原題: "Wir Kinder vom Bahnhof Zoo", 「われらツォー駅の子供たち」)をベースに作られ映画ですが、主人公のクリスチーネも、同じ14歳の女友達も、共に薬代を稼ぐために売春していて(この女友達はヘロインの過剰摂取で死んでしまう)、更に、男友達も男娼として身体を売っているという結構すごい話で、クリスチーネをはじめ、素人を役者として使っていますが、演技も真に迫っていて、衝撃的でした(因みに、手記を書いたクリスチアーネ・フェルシェリノヴ(1962年生まれ)は、2010年現在生きていて、一旦は更生したものの、最近また麻薬に手を出しているという)。

CHRISTINE F.jpg この頃の「西ドイツ」映画には、日本に入ってくるものが所謂"芸術作品"っぽかったり(「ノスフェラトゥ」('78年)、「ブリキの太鼓」('79年)、「メフィスト」('81年))、歴史・社会派の作品だったり(「リリー・マルレーン」('81年)、「マリア・ブラウンの結婚」('79年))、重厚でやや暗めのものが多く、また、娯楽映画の中にもアナーキーな部分があったりして(「ベルリン・ブルース」('86年)、「ベルリン忠臣蔵」('85年))、共通して独特の暗さがありましたが、この作品は、テーマの暗さがそれに輪をかけているような感もあります。

 デヴィッド・ボウイは、クリスチーネが訪れるベルリンのコンサートシーンOriginal Soundtrack.jpgに出てくるだけですが、元々デヴィッド・ボウイとドイツの縁は深く、70年代半ばに長年の薬物使用による中毒で精神面での疲労が頂点に達し、更にドイツでのライブがナチズムを強く意識したステージ構成になっていたため世間のバッシングを浴びたりもした彼でしたが、ツアー終了後、薬物からの更生という目的も兼ねてそのままベルリンに移住し創作活動を行っていた時期があります。映画ではデヴィッド・ボウイが音楽でクリスチーネを元気づけ、立ち直りに向かわせるような位置づけになっていて、当時(80年代初め)はまだデヴィッド・ボウイに対してどことなく反社会的なイメージがあったために、やや意外な印象を受けました(実はいい人なんだあ、みたいな)。
Christine」Original Soundtrack CD (2001年)
 
「ハンガー」映画9_TheHunger-2.jpgハンガー 映画.bmp リドリー・スコット監督の弟トニー・スコットの初監督作品でもある「ハンガー」では、デヴィッド・ボウイは、「地球に落ちてきた男」で演じた「歳を取らない」宇宙人役とは真逆で、吸血鬼に若さを奪われ「急速に老いていく男」を演じています。

「ハンガー」00.jpg この他にも、スーザン・サランドンとカトリーヌ・ドヌーヴとのラヴシーンといったのもありましたが、個人的には、全体的にイマイチ入り込めなかった...。日本でもそんなにヒットしなかったように思いますが、ガラッと作風を変えた次回作「トップガン」('86年/米)がヒットして、もう、トニー・スコットがこのような映画を撮らなくなったということもあってか、この作品自体はカルト的な人気はあるようですトニー・スコットは2012年に病気を苦に橋から飛び降り自殺してしまった)

戦場のメリークリスマス ブルーレイ.jpg デヴィッド・ボウイが日本で再びブレイクすることになったのは、「ハンガー」より先に公開された大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」('83年/日・英)によってであって、音楽の方は、同じく役者として出演していた坂本龍一が担当していました。

 ヴァン・デル・ポストが日本軍俘虜収容所での体験を描いた小説がベースになっていて、日英の文化的相克のようなものが描かれている作品ですが(「戦場にかける橋」などとは違った意味で、それぞれの良いところ、悪いところが描かれているのには好感を持てた)、両者の溝を超えるものとしての人間と人間の繋がりが、ヒューマニズムと言うよりはホモ・セクシュアルを匂わせるようなものになっているところが大島監督らしいところ(役者名で言えば、トム・コンティとビートたけしの関係、デヴィッド・ボウイと坂本龍一との関係。ボウイが坂本龍一にキスするシーンが話題になったが、それは、映画の文脈の中でまた異なる意味を持つ)。但し、何か"日本的"と言うか"ウェット"な感じがするかなあと(大島渚監督は後の作品「御法度」(司馬遼太郎原作)でもホモ・セクシュアルを扱っている)。

 作家の小林信彦氏によれば、デヴィッド・ボウイの役は、はじめ大島監督は、ローバート・レッドフォードを考えていたのが、レッドフォードは「オーシマを尊敬している」が、脚本が自分向きでないとして断ったとこと、日本人側の俳優も、滝田栄と緒方拳でやるつもりだったが2人とも大河ドラマ出演のため出られず、勝新太郎、若山富三郎、菅原文太、三浦友和...と"口説いて"、結局、坂本龍一とビートたけしになったとのことです。坂本龍一は勿論、ビートたけしも当時は役者としてのキャリアは殆ど無く(監督としても、デビュー作「その男、凶暴につき」を撮るのは6年後)、大島渚監督の前で硬くなっている感さえあり、その点、デヴィッド・ボウイの演技面は貫禄充分でした(但し、個人的には、この作品にあまり合っているように思えない)。

 それにしてもデヴィッド・ボウイは、アメリカ、西ドイツ、イギリス、日本と、様々な国の監督のもとで映画に出演してるなあ。

ハンガー dvd.jpgハンガー パンフ.jpg    戦場のメリークリスマス dvd.jpg戦場のメリークリスマス パン.jpg 戦場のメリークリスマス 6.jpg 
ハンガー [DVD]」パンフレット 「戦場のメリークリスマス [DVD]」/パンフレット

デヴィッド・ボウイの『地球に落ちて来た男』82.jpg「地球に落ちて来た男」デヴィッド・ボウイ .jpg「地球に落ちて来た男」●原題:THE MAN WHO FELL TO EARTH●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・ローグ●製作:マイケル・ディーリー/バリー・スパイキングス●脚本:ポール・メイヤーズバーグ●撮影: アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ジョン・フィリップス●原作:ウォルター・テヴィス●時間:119分●出演:デヴィッド・ボウイ/キャンディ・クラーク/リップ・トーン/バック・ヘンリー/バーニー・ケイシー●日本公開:1977/02●配中野武蔵野ホール.jpg給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館 (78-02-24)●2回目:中野武蔵野館 (78-02-24)●3回目:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★★)●併映(1回目):「魚が出てきた日」(ミカエル・カコヤニス)併映(2回目):「ハンガー」(トニー・スコット)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー) 中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館 

david-bowie-1973.jpgZIGGY STARDUST movie.jpg「ジギー・スターダスト」●原題:ZIGGY STARDUST●制作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ドン・アラン・ペネベイカー●撮影:ジェームズ・デズモンド/マイク・デイヴィス/ニック・ドーブ/ランディ・フランケン/ドン・アラン・ペネベーカー●音楽:デヴィッド・ボウイ●衣装デザイン:フレディ・パレッティ/山本寛斎●時間:90分●出演:デヴィッド・ボウイ/リンゴ・スター(ノンクレジット)●日本公開:1984/12●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ハンガー」(トニー・スコット)

クリスチーネ・Fes.jpg「クリスチーネ・F」●原題:CHRISTINE F●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ウルリッヒ・エーデル●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ヘルマン・ヴァイゲル/カイ・ヘルマン/ホルスト・リーク●撮影:ユストゥス・パンカウ●音楽:ユルゲン・クニーパー/デヴィッド・ボウイ●原作:クリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴ「かなしみのクリスチアーネ(われらツォー駅の子供たち)」●時間:138分●出演:ウルリッヒ・エーデル/ナーチャ・ブルンクホルスト/トーマス・ハウシュタイン/イェンス・クーパル/ヘルマン・ヴァイゲル/デヴィッド・ボウイ●日本公開:1982/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:荻窪オデヲン座(82-12-11)(評価:★★★☆)●併映:「グローイング・アップ ラスト・バージン荻窪オデオン座 - 2.jpg荻窪駅付近.jpg荻窪オデヲン.jpg荻窪東亜会館.jpg」(ボアズ・デビッドソン)
荻窪オデヲン座・荻窪劇場 1972年7月、荻窪駅西口北「荻窪東亜会館」B1にオープン。1991(平成3)年4月7日閉館。(パンフレット「世にも怪奇な物語」)
菅野 正 写真展「平成ラストショー」HPより

「ハンガー」映画_TheHunger-31.jpg「ハンガー」●原題:THE HUNGER●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督:トニー・スコット●製作:リチャード・シェファード●脚本:ジェームズ・コスティガン/アイヴァン・デイヴィス/マイケル・トーマス●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:デニー・ジャガー/デヴィッド・ローソン/ミシェル・ルビーニ●時間:119分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴデヴィッド・ボウイスーザン・サランドン/クリフ・デ・ヤン「ハンガー」さランドン.jpgグ/三鷹オスカー  復活.jpg三鷹オスカー2.jpgダン・ヘダヤ/ウィレム・デフォー●日本公開:1984/04●配給:MGM●最初に観た場所:三鷹オスカー (86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー)
スーザン・サランドン 

戦場のメリークリスマスsen-mer2.jpg戦場のメリークリスマスド.jpg「戦場のメリークリスマス」●制作年:1983年●制作国:日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド●監督:大島渚●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:大島渚/ポール・メイヤーズバーグ●撮影:杉村博章●音楽:坂本龍一●原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影さす牢格子」「種子と蒔く者」●時間:123分●出演:デヴィッド・ボウイ/坂本龍一/ビートたけし/松竹セントラル123.jpg松竹セントラル123.jpg松竹セントラル.jpgトム・コンティ/ジャック・トンプソン/内田裕也/三上寛/ジョニー大倉/室田日出男/戸浦六宏/金田龍之介/内藤剛志/三上博史/本間優二/石倉民雄/飯島松竹セントトラル 銀座ロキシー.jpg松竹セントラル 閉館のお知らせ(1999年).jpg大介/アリステア・ブラウニング/ジェイムズ・マルコム●日本公開:1983/05●配給:松竹富士=日本ヘラルド●最初に観た場所:銀座・松竹セントラル(83-06-04)(評価:★★★)
松竹セントラル・銀座松竹・銀座ロキシ-(→松竹セントラル1・2・3) 1952年9月、築地・松竹会館にオープン。1999年2月11日松竹セントラル1・2・3閉館。

「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3202】 アラン・レネ 「薔薇のスタビスキー
「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ 「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(日本劇場)「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「SHARK~カリスマ敏腕検察官」)

デ・ニーロの演技もさることながら、ジェームズ・ウッズの剃刀の刃のような演技が鮮烈。

Once Upon a Time in America (1984)_.jpgワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ パンフレット.png ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ dvd.jpg ONCE UPON A TIME IN AMI.jpg
パンフレット/「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ [DVD]
Once Upon a Time in America (1984) ジェームズ・ウッズ/ロバート・デ・ニーロ

ワンス1.JPG 1920年代初頭、ニューヨークに住むユダヤ移民の子ヌードルスは、仲間を率いて貧困街で悪事を働く中、町に越して来たマックスと出会い、2人は禁酒法の隙間をぬって荒稼ぎ、大人になった頃にはギャング集団として伸し上がっていた。新たな仕事の計画を立てたマックス(ジェームズ・ウッズ)の無謀な考えに反発したヌードルス(デ・ニーロ)は、彼を裏切り警察に情報を流したため、マックスは殺されヌードルスは町を追われる。しかし30年後の今、年老いたヌードルスのもとへ―。 

 セルジオ・レオーネ(1924-1984)監督の遺作となった作品で、1984年10月に有楽町マリオンにオープンした「日本劇場」(現「日劇スクリーン1」)の杮(こけら)落としロードショー作品でした。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」01.jpg セットも役者(脇役陣含む)も音楽(エンニオ・モリコーネ)も豪勢で、時代の雰囲気を感じさせる重厚かつ哀愁に満ちた作品だと思いましたが、3時間半近い長尺の割にはやや唐突な終わり方のような気もしていました。但し、後年テレビで観直してみると、劇場のようにスケールの大きさは味わえないのですが、ストーリーは冷静に追えるというメリットもあって(勿論、2回目ということあって)、ちゃんと伏線はあったのだなあと思いました。

 時代背景は、ヌードルスがと出会った少年時代(1923年)と、刑務所出所後にマックスと再会し、仲間らと連邦準備銀行を襲う計画に加わった青年時代(1931年-1933年)、更にマックスと再々会した現在(1968年)を行き来しますが、既にネタばれになっているように、実はマックスは生きていて、ヌードルスが強盗計画の無謀さから仲間を救うべく密告に及ぶことも、全て彼の手の内にあった計画だったと―。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」02.jpg つまりヌードルスは自分が仲間を裏切ったと思っていたのが、実はマックスの方が最初から仲間を裏切っていたわけで、そのマックスが、今は実業界に君臨するも失脚の窮地にある―ラストシーンで、ヌードルスが道でマックスと思しき人影を認めるも、清掃車が通り過ぎた後にはその影は無かったことは、マックスの自殺を示唆しているのでしょう。

 マックスはヌードルスと再会した時点で、自分を殺してくれと頼んでいて、その報酬まで用意していた―にも関わらずそれを断ったヌードルスに対し、「これがお前の復讐なのか」と問い詰め、それに対し、「俺の話はもっと単純だ。昔、親友がいた。彼の命だけは助けたいと思い、仲間を裏切ったが、それでも彼を救うことができなかった」と答えるヌードルス。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」03.jpg 友情が悔恨に、更に復讐の念に転じるべきものが、ノスタルジーを通じてアンビバレントとして様々な感情が複雑に併存しているのが、今の老いたヌードルスなのでしょう。そして過去を引き摺って生きてきたという点では、マックスもヌードルスと同じであり、彼なりに落し前をつけようとしたともとれます。

 非情さと繊細さの混ざり合ったキャラを演じたロバート・デ・ニーロの演技もさることながら、当時まだ映画界では新進のジェームズ・ウッズの鋭い剃刀の刃のような演技が鮮烈です。ジェームズ・ウッズはその後もずっとバイプレーヤーして活躍していますが(この俳優を個人的に最初に知ったのは、デヴィッド・クローネンバーグ監督ヴィデオドローム5.jpg「ヴィデオドローム」('82年/カナダ)だと思っていたが、日本での公開は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の方が1年早い)、最近ではFOXチャンネルの「SHARK ~カリスマ敏腕検察官」(スパイク・リー製作)に主演しており、現在もその演技が観られるのが嬉しいです(本国では2シーズンで放送終了になってしまったようだが)。

David Cronenberg & James Woods

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」04.jpg「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」●原題:ONCE UPON A TIME IN AMERICA●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:セルジオ・レオーネ●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:セルジオ・レオーネ/レオナルド・ベンヴェヌーティ/ピエロ・デ・ベルナルディ/エンリコ・メディオーリ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:205分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ジェームズ・ウッズ/エリザベス・マクガヴァン/ジェニファー・コネリー/ダーラン・フリューゲル/トリート・ウィリアムズ/チューズデイ・ウェルド/バート・ヤング/ジョー・ペシ/ジェームズ・ヘイデン/ウィリアム・フォーサイス/ダニー・アイエロ/ジェラード・マーフィ/ラリー・ラップ/ダッチ・ミラー/ロバート・ハーパー/リチャード・ブライト/ポール・ハーマン●日本公開:1984/10●配給:東宝東和●最初日劇1.jpgに観た場所:有楽町・日本劇場(84-10-27)(評価:★★★★☆)
音楽:エンニオ・モリコーネ
有楽町マリオン 阪急.jpgさよなら日劇ラストショウ1.jpg日本劇場  .jpg日本劇場 (前身は「日本劇場」(1933年12月24日-1981年2月15日閉館)) 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側11階にオープン(1,008席)、2002年~「日劇1」(948席)、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン1」(上写真:「日劇1」館内) 2018年2月4日閉館 TOKYO MX (2018.2.2) (閉館時、都内最大席数の劇場だったが、閉館により「丸の内ピカデリー1」(802席)が都内最大席数に)

SHARK~カリスマ敏腕検察官.jpgSHARK~カリスマ敏腕検察官1.bmp「SHARK~カリスマ敏腕検察官」Shark (CBS 2006/09~2008) ○日本での放映チャネル:FOXチャンネル(2008~ )

「●マーティン・スコセッシ監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1099】マーティン・スコセッシ 「タクシードライバー
「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

「初体験/リッジモント・ハイ」 (82年/米)2.jpg 主役を食ったロバート・デ・ニーロ、映画を食ってしまったショーン・ペン。

ミーン・ストリート dvd.jpg Mean Streets.jpg 初体験リッジモント・ハイ dvd.jpg 初体験/リッジモント・ハイ dvd.jpg
ミーン・ストリート [DVD]」Harvey Keitel(ハーヴェイ・カイテル),Robert De Niro「初体験 リッジモント・ハイ [DVD]」/「初体験リッジモント・ハイ コレクターズ・エディション [DVD]」Phoebe Katz(フィービー・ケイツ)

「ミーン・ストリート」_1.jpgMEAN STREETS 2.jpg 「ミーン・ストリート」('73年/米)は、マーティン・スコセッシ 監督の初期の映画で、しがないヤクザ者のチャーリー(ハーヴェイ・カイテル)が、組織に対する忠誠心や自分の生き方に自信を持てないでいる一方、気分によって仕事をし、酒・博打・女による借金で首が回らなくなっている親友のジョニーボーイ(ロバート・デニーロ)をかばい続けるがばかりに、共に窮地に追い詰められていく―という話。

MEAN STREETS.jpg  本来の主役はハーヴェイ・カイテルであり、親友を巡って葛藤する青年を見事に演じているのですが、それを凌いでいるのが、ジョニーボーイという無頼のキャラクターを演じているロバート・デ・ニーロ(当時29歳)の演技で、そのハチャメチャぶりと破滅型人格の底に滲む哀感には、当時スゴい役者が現れたものだと思わせるものがあったのではないでしょうか。

 ロバート・デ・ニーロはその後、「ゴッドファーザーPARTII」('74年/米)に出演し、「タクシードライバー」('76年/米)では、ハーヴェイ・カイテルと主演・助演が入れ替わっていますが、「ミーン・ストリート」の時点で、すでに主役を食っていたなあと(「タクシードライバー」の3年前に作られたこの映画の日本での公開は、「タクシードライバー」公開の4年後だった)。

RIDGEMONT HIGH.jpgフィービー・ケイツ リッチモンドハイ.bmp 「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)は(故・伊藤計劃の『虐殺器官』('07年/早川書房)を読んでいたら、この映画のことがちらっと出imagesI35HWSBZ.jpgてきた)、アメリカの高校生達の恋と青春を描いた作品で、当時人気のフィービー・ケイツ(Phoebe Cates、中初体験/リッジモント・ハイ   .jpg学生のようなルックスと大学生のような肉体の持ち主である彼女には、ロシア系、中国系などの血が混ざっている)を中心に据えたアイドル映画ですが(ストーリー上の主人公はジェニファー・ジェイソン・リーJennifer Jason Leigh)、学生になりすまして母校リッジモント・ハイに潜入し若者たちの生態を観察したキャメロン・クロウの同名原作が元になっており、高校生の実態を世の大人たちに知らしめる啓蒙的意図を持った作品でもあったようです。

グレムリン 00.jpgPhoebe Cates in Gremlins.jpgフィービー・ケイツ ロードショー.jpg フィービー・ケイツはこの作品の2年後、ジョー・ダンテ監督の「グレムリン」('84年/米)に主演し、日本でもその年(昭和59年)のクリスマス映画として公開されましたが大ヒットし(そもそも"モグワイ"という珍獣は、クリスマス・プレゼントだった。どうしてグレムリン  dvd.jpgアメリカでは6月公開だったのか)、彼女の日本での人気も一気に高まりました。あの中で、彼女演じる少女がクリスマスが嫌いだと言って、その理由が、自分の父親がクリスマスにいなくなって、1年後に煙突掃除したらサンタクロースの格好をした父親が出てきた、途中で詰まって死んじゃったんだという話を、可愛い顔してさらっとしてみせるのにはややビックリしました(ジョー・ダン監督特有のブラックユーモアだったのだろなあ)。

グレムリン 特別版 [DVD]

RIDGEMONT HIGH 1.jpg フィービー・ケイツが日本でホントにブレイクしたのは、やはり「グレムリン」ではないでしょうか。個人的には、この「初体験/リッジモント・ハイ」を観て最も印象に残ったのは、教室内の不良少年の1人で、その悪ガキぶりは演技を超えて本物の不良に見え、しかも、本当に少しキレてしまっているような感じさえありました。この不良少年を演じたのがショーン・ペンで(Sean Penn、当時22歳と高校生役にしては結構老けていた)、ちょっと狂った若者を映画に出させたわけではなく、やはり類稀なる演技力の賜物だったのだと、後で思いました(前年の「タップス」('81年/米)にも出ていたらしいが、坊主頭のトム・クルーズ(当時19歳)の方が印象深い)。

Fast-Times-at-Ridgemont-High.jpg その後、ショーン・ペンの方は、デ・ニーロを超える2度のアカデミー主演男優賞を受賞するまでの俳優になっていますが、「リッジモント・ハイ」に関して言えば、こんなたわいもないアイドル映画(乃至は"啓蒙映画")の中に置くにはあまりに"規格外"な存在であり、作品そのものの予定調和を掻き乱し、結果として映画そのものを食ってしまったという印象があります。

FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH.jpg 映画公開時は準主役というより脇役に近かったと思いますが(ポスターの右上に小さく写真が出ているだけ)、最近のDVDカバーなどでは彼の写真が前面に使われていて、「無名時代のショーン・ペンを観ることが出来る作品」というのがウリになっているのかも(売り出し前のニコラス・ケイジフォレスト・ウィッテカー、後の「ER」のグリーン先生ことアンソニー・エドワーズなども高校生役で出ている)。

『ミーン・ストリート』(1973).jpg「ミーン・ストリート」●原題:MEAN STREETS●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マーティン・スコセッシ/ジョナサン・T・タプリン●脚本:マーティン・スコセッシ/マーディック・マーティン●撮影:ケント・ウェイクフォード●時三鷹オスカー.jpg間:115分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ハーヴェイ・カイテル/デヴィッド・プローヴァル/エイミー・ロビンソン/ロバート・キャラダイン/デヴィッド・キャラダイン/リチャード・ロマナス●日本公開:1980/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-18)(評価:★★★★)●併映「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)

初体験/リッジモント・ハイ2.jpg「初体験/リッジモント・ハイ」●原題:FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:エイミー・ヘッカーリング●製作:アート・リンソン/アーヴィング・エイゾフ●脚本:キャメロン・クロウ●撮影:マシュー・F・レオネッティ●音楽:アーヴィング・エイゾフ●原作:キャメロン・クロウ●時間:90分●出演:ジェニファー・ジェイソン・リー/フィービー・ケイツ/ショーン・ペン/ジャッジ・ラインホールド/ニコラス・コッポラ/ニコラス・ケイジ/フォレスト・ウィッテカー/ブライア初体験/リッジモント・ハイ ポスター.jpgン・ベッカー/ヴィンゼント・スキャベリ/アンソニー・エドワーズ/エリック・ストルツ●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:中中野武蔵野ホール.jpg野武蔵野館(83-07-02)(評価:★★☆)●併映「マイ・ライバル」(ロバート・タウン) 
[上左]「初体験/リッジモント・ハイ」映画公開時ポスター(ショーン・ペンの写真は右上丸囲み内)

「グレムリン」ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ
「グレムリン」ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ.jpgグレムリン000.jpg「グレムリン」●原題:GREMLINS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ジョー・ダンテ●製作:マイケル・フィネル●脚本:クリス・コロンバス●撮影:ジョン・ホラ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:106分●出演:ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ/ホイト・アクストン/フランシス・リー・マッケイン/ポリー・ホリデイ/コリー・フェルドマン●日本公開:1984/12●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(84-12-29)(評価:★★★)

「●ふ フレデリック・フォーサイス」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●ふ ケン・フォレット」【1433】ケン・フォレット『針の眼
「●「週刊文春ミステリー ベスト10」(第1位)」の インデックッスへ「○海外サスペンス・読み物【発表・刊行順】」の インデックッスへ「●TV-M (その他)」の インデックッスへ 「●マイケル・ケイン 出演作品」の インデックッスへ(「第四の核」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

KGB vs. MI-5の一匹狼同士の対決。TV映画版におけるポロニウムの扱い方は大丈夫?

M&Aタイパンと呼ばれた男 vhs.jpg第四の核 単行本2.jpg第四の核 単行本.jpg 第四の核 上.jpg第四の核 下.jpg 第四の核.jpg 
第四の核 (上) (下) 』/『第四の核(上) (角川文庫)』『 (下) (角川文庫)』/「第四の核【字幕版】 [VHS]」「M&A タイパンと呼ばれた男・第1部「宿命」 [VHS]

『第四の核 (上)』.JPGThe Fourth Protocol.jpg 1984(昭和59)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。

 時は1987年、ソ連書記長は英国労働党内部で共産主義者が勢力を得ていることを知り、来る総選挙で労働党を勝たせ、英国に共産主義政権を作るべく、英国の米軍基地で小型核爆弾を爆発させるという作戦を立て、KGBのエリート、ペトロフスキーを英国に潜入させるとともに、小型核爆弾の部品を次々と彼のもとへ送り込む。

 一方、MI-5のプレストンは、グラスゴーで死亡したロシア人船員の持ち物の中に、核爆弾の起爆装置の部品が含まれていたことから、ソ連の英国内での核テロ計画を察し、計画の実行役や部品の運び役の正体を暴くために、不審入国者の捜査にあたるが、ソ連側の巧みな偽装工作のため糸口を掴めないまま作戦は進行していく―。

 1984年に英国の作家フレデリック・フォーサイスが発表した、冷戦を背景にしたスパイ小説で(原題はThe Fourth Protocol(第四の議定書))、各国入り乱れてのかなり複雑なストーリーですが(なぜ英国内の米軍基地を狙うかというと、それによってNATOの分断を図ろうというもの)、しかしながら、KGBのペトロフスキー vs. MI-5のプレストンの対決という軸で、関心を切らすことなく読めました(プレストンは左遷されたエージェントであり、単独でペトロフスキーを追っている)。

 もう1つの焦点は、小型核爆弾は果たして完成するのかという点ですが、まあこれは、完成しても爆発させるところまでは至らないないだろうという気が、最初からしてしまうというのはありましたが...(書かれた時点では、3年後の話なのだが)。

The Fourth Protocol v.jpg第四の核THE FOURTH PROTOCOL.jpg 1986年にBBCでテレビ映画化されていて、ピアース・ブロスナンがKGBのスパイを演じていますが、これがなかなか渋い。後の「007シリーズ」を思わせるような女性との絡みやアクション・シーンもありますが(ピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンド役を射止めるのは、この作品の8年後)、アクションに関して言えば、いかにもテレビサイズのそれという感じで、むしろ敵役マイケル・ケインとの演技合戦の方が見どころかも。

 結局、ペトロフスキーは核爆弾を完成させるところまではいくのですが、最後は、「007」とは違って不死身とはいかなかった。但し、プレストンにやられるのではなく...。ペトロフスキーのキャラクターイメージは、『ジャッカルの日』の「ジャッカル」に近いでしょうか。非情なスパイ(エージェント)やスナイパーとして描きながらも、最後に彼らに対するシンパシーのようなものが滲むのも、作者の特徴かも知れません(ケン・フォレットの『針の眼』なども、そうした傾向があるが)。 
 
アレクサンドル・リトビネンコ.jpg この小説にある小型原子爆弾の起爆剤となる物質はポロニウムで、2006年に英国で発生した、元ロシア連邦保安庁情報部員アレクサンドル・リトビネンコの不審死事件は(事件そのものが、この小第四の核 映画.jpg説とかなり似ている部面があるようにも思えるが)、リトビネンコの死因はポロニウムによる毒殺だとされています(公開された病床のリトビネンコの、それまでとは変わり果てた写真は衝撃的だった)。

 マリ・キュリーが発見したことでも知られるポロニウムは極めて危険な放射性物質のはずですが(マリ・キュリーの死因もポロニウムの被曝による可能性が高いとされている)、映画の中では、小型核爆弾の組み立て作業で、女性物理学者が手袋をしただけの素手のまま円球ポロニウムを扱っていて(それをブロスナンが傍で見ていたり、出来あがったキットを一緒に素手で運んだりしている)、こんなんで大丈夫なのかなあ、2人とも被曝しないのかなあと心配になってしまいます。

NOBLE HOUSE 1988 0.jpg ピアーズ・ブロズナンの映画初出演作は、 アガサ・クリスティの『鏡は横にひび割れて』を原作とする「クリスタル殺人事件」('80年/英)で、劇中劇でエリザベス・テーラーの相手をするチョイ役(ノンクレジット)でした。ピアーズ・ブロズナンは、1995年に007/ジェームズ・ボンド役を得るまでは、むしろ劇場映画よりもこうしたTV映画に出演していて、「M&A/タイパンと呼ばれた男」('88年/英)というミニTVシリーズにも出ていました。

NOBLE HOUSE 1988 1.jpg 中国返還を10年後に控えた香港を舞台とするビジネスドラマで、原作は、あの「将軍」を書いたジェームズ・クラヴェル。「将軍」がイマイチだったのでこれもどうかと思ったのですが、ビデオ全3巻、6時間のNOBLE HOUSE 1988 03.jpg長尺でありながら、比較的飽きずに最後まで観ることが出来、ということは、それなりに面白かったということになるのでしょう。「タイパン(大班)」とは香港にある外資系企業のトップを指し、原題の「ノーブル・ハウス」はかつて東アジアで勢いを誇った実在の商社。ピアーズ・ブロズナンはそこの後継者として生まれた青年実業家役で、敵対的M&Aに対する攻防を繰り返していく様をミステリーを絡めて描いたものです。日本でもM&Aが珍しくなくなった今日、比較的馴染みやすい内容となっており、DVD化されるかなと思いましたが、現在のところ['10年]まだのようです。

THE FOURTH PROTOCOL 1986.jpg「第四の核」●原題:THE FOURTH PROTOCOL●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督:ジョン・マッケンジー●撮影:フィル・メヒュー●音楽:ラロ・シフリン●原作・脚本:フレデリック・フォーサイス●時間:116分●出演:ピアース・ブロスナン/マイケル・ケイン/ジョアンナ・キャシディ/ネッド・ビーティ/ジュリアン・グローヴァー/マイケル・ガフ/レイ・マカナリー/イアン・リチャードソン/アントン・ロジャース/キャロライン・ブラキストン/ジョセフ・ブラディ/ベッツィ・ブラントリー/ショーン・チャップマン/マット・フルーワー●日本公開:(劇場未公開)VHS/1997/10 東北新社(評価★★★)

NOBLE HOUSE 1988 00.jpg「M&A/タイパンと呼ばれた男」●原題:NOBLE HOUSE●制作年:1988年●制作国:イギリス●監督:ゲイリー・ネルソン●原作:ジェームズ・クラヴェル●時間:361分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョン・リスデイヴィーズ/ジュリア・ニクソン/デンホルム・エリオット/デボラ・ラフィン●日本公開:(劇場未公開)VHS(全3巻)/1989/10 アスミック・エース(評価★★★☆)

 【1986年文庫化[角川文庫(上・下)]】 

「●あ ジェフリー・アーチャー」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【669】アーチャー 『ケインとアベル 
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●TV-M (その他)」の インデックッスへ 「●ミシェル・ルグラン音楽作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

1ペニーの過不足なく、本人に気づかれずにという、仕返しの美意識がいい。

百万ドルをとり返せ!.jpg NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS.jpg  100万ドルをとり返せ!2[VHS].jpg 100万ドルをとり返せ4.jpg NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS2.bmp
百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)』/"Not a Penny More, Not a Penny Less"/「NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS」VHS

 1977(昭和42)年度の第1回の「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門・海外部門共通)第3位作品。

 証券詐欺を行うためだけに設立された架空の石油会社の株投資話に騙され、合わせて100万ドルの損害を被ったスティーヴン、エイドリアン、ジャン=ピエール、ジェームズの4人は、オクスフォード大学の数学教授であるスティーヴンの発案で、この偽投資話の黒幕である大物詐欺師メトカーフに罠を仕掛けて、彼からきっちり100万ドルを取り戻す作戦を練る―。

 1976年に発表されたジェフリー・アーチャーの処女作で、国会議員だった自分自身が北海油田の幽霊会社に100万ドルを投資して全財産を失い、政界を退かざるを得なかった経験が執筆動機になっており、彼はこの作品のヒットにより借金を完済して'85年に政界に復帰しますが、翌年にはスキャンダルで辞任するなど、その後もこの人の人生はジェットコースターのように浮沈が激しく、ただ、どんな逆境からも、その逆境を糧にして(直裁に言えば「ネタ」にして)這い上がってくるというのはスゴく、転んでもタダでは起きないアーチャー氏といったところ。

 本作は所謂コン・ゲーム小説ですが、自身の経験がベースになっているためか彼の作品の中でもとりわけ面白く、また「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」(原題は"Not a penny more, not a penny less")という合言葉を実践し、更にはメトカーフ自身が自分が騙されたことに気づかないようにするなど、仕返しするにも美意識があっていいです。

 画商のジャン=ピエールは、印象派の絵画に目が無いメトカーフにルノアールの贋作を買わせ(名画の贋作のモチーフは'05年発表の『ゴッホは欺く』でも使われている)、医師のエイドリアンは、偽薬を使ってメトカーフに多額の医療費を払わせ、スティーヴンは、オックスフォードの偽名誉学位を与えて多額の匿名寄付をせしめるが、貴族のジェームズだけは、特殊技能もアイデアも無く、そこで恋人のアンにも協力を仰ぐ―。

 それぞれに切れ者という感じですが、その中にジェームズという凡才が混じっていて、彼が皆の作戦をフイにしてしまうのではないかと読者の気を揉ませるところが旨く、アンのアイデアによる作戦の結末も鮮やか。自分がアーチャー作品を読み進むきかっけとなった作品ですが、ただ、ジェームズ-アン-メトカーフの関係は、今思えばやや御都合主義かなあと。

音楽:ミッシェル・ルグラン
100万ドルを取り返せ! TV映画.jpg '90年に英国BBCでドラマ版が制作され、'91年に日本でビデオ発売(邦題「100万ドルをとり返せ!」)、'92年にNHK教育テレビで放映され、最近でもCS放送などで放送されることがあります。自分はビデオで観ましたが、原作の各場面をあまり省かずに忠実に作られていて、その上ジェームズとアンのラブ・ストーリーを膨らませたりしているため、結果として3時間超の長尺となり、その分だけ原作のテンポの良さ、本Not a Penny More, Not a Penny Less (1990).jpg来の面白味がやや減じられたような気もしました。

Not a Penny More, Not a Penny Less (1990)

100万ドルをとり返せ1.jpg「100万ドルをとり返せ!」●原題:NOT A PENNY MORE,NOT A PENNY LESS●制作年:1990年●制作国:イギリス●監督:クライブ・ドナー●製作:ジャクリーン・デービス●脚本:シャーマン・イェレン●音楽:ミッシェル・ルグラン●時間:186分●原作:ジェフリー・アーチャー「百万ドルをとり返せ!」●出演:エド・ベグリー・ジュニア/エドワード・アスナー/ブライアン・プロザーロ/フランソワ・エリク・ジェンドロン/ニコラス・ジョーンズ/マリアン・ダボ/ジェニー・アガッター●日本公開:1991/09●配給:ビクターエンタテインメント(VHS)(評価:★★★☆)100万ドルをとり返せ5.jpg100万ドルをとり返せ6.jpg100万ドルをとり返せ3.jpg100万ドルをとり返せ2.jpg

「●ま行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2952】 森見 登美彦 『熱帯
「●「山本周五郎賞」受賞作」の インデックッスへ「●「本屋大賞」 (10位まで)」の インデックッスへ「●マーティン・スコセッシ監督作品」の インデックッスへ 「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「インディペンデント・スピリット賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○存続中の映画館」の インデックッスへ(下高井戸京王)「●や‐わ行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●日本のアニメーション映画」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

巻き込まれ型ワンナイト・ムービーみたいだったのが、次第にマンガみたいな感じになり...。

夜は短し歩けよ乙女2.jpg夜は短し歩けよ乙女.jpg  after-hours-martin-scorsese.jpg アフター・アワーズ.jpg 「アフター・アワーズ」00.jpg
夜は短し歩けよ乙女』['06年](カバー絵:中村佑介)「アフター・アワーズ 特別版 [DVD]」グリフィン・ダン/ロザンナ・アークェット カンヌ国際映画祭「監督賞」、インディペンデント・スピリット賞「作品賞」受賞作

 2007(平成19)年度・第20回「山本周五郎賞」受賞作。2010(平成22)年・第3回「大学読書人大賞」も受賞。

 「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めるが、先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する"偶然の出逢い"にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を、個性的な曲者たちと珍事件の数々が待ち受ける―。

 4つの連作から成る構成で、表題に呼応する第1章は、「黒髪の乙女」の後をつけた主人公が、予期せぬ展開でドタバタの一夜を送るという何だかシュールな展開が面白かったです。

Griffin Dunne & Rosanna Arquette in 'After Hours'
「アフター・アワーズ」01.jpgIアフター・アワーズ1.jpg これを読み、マーチン・スコセッシ監督の「アフター・アワーズ」('85年/米)という、若いサラリーマンが、ふとしたことから大都会ニューヨークで悪夢のような奇妙な一夜を体験する、言わば「巻き込まれ型」ブラック・コメディの傑作を思い出しました(スコセッシが大学生の書いた脚本を映画化したという。カンヌ国際映画祭「監督賞」、インディペンデント・スピリット賞「作品賞」受賞作)。 

アフター・アワーズ 1985.jpg グリフィン・ダン演じる主人公の青年がコーヒーショップでロザンナ・アークェット演じる美女に声を掛けられたきっかけが、彼が読んでいたヘンリー・『アフター・アワーズ』(1985).jpgミラーの『北回帰線』だったというのが、何となく洒落ているとともに、主人公のその後の災厄に被って象徴的でした(『北回帰線』の中にも、こうした奇怪な一夜の体験話が多く出てくる)。映画「アフター・アワーズ」の方は、そのハチャメチャに不条理な一夜が明け、主人公がボロボロになって会社に出社する(気がついたら会社の前にいたという)ところで終わる"ワンナイト・ムービー"です。

夜は短し歩けよ乙女 角川文庫.jpg 一方、この小説は、このハチャメチャな一夜の話が第1章で、第2章になると、主人公は訳の分らない闇鍋会のようなものに参加していて、これがまた第1章に輪をかけてシュール―なんだけれども、次第にマンガみたいな感じになってきて(実際、漫画化されているが)、う〜ん、どうなのかなあ。少しやり過ぎのような気も。

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 山本周五郎賞だけでなく、2007(平成19)年・第4回「本屋大賞」で2位に入っていて、読者受けも良かったようですが、プライドが高い割にはオクテの男子が、意中の女子を射止めようと苦悶・苦闘するのをユーモラスに描いた、所謂「童貞小説」の類かなと(こういう類の小説、昔の高校生向け学習雑誌によく"息抜き"的に掲載されていていた)。

 京都の町、学園祭、バンカラ気質というノスタルジックでレトロっぽい味付けが効いていて、古本マニアの奇妙な"生態"などの描き方も面白いし、文体にもちょっと変わった個性がありますが、この文体に関しては自分にはやや合わなかったかも。主人公の男子とヒロインの女子が交互に、同じ様に「私」という一人称で語っているため、しばしばシークエンスがわからなくなってしまい、今一つ話に身が入らないことがありましたが、自分の注意力の無さ故か?(他の読者は全く抵抗を感じなかったのかなあ)

(●2017年に「劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ」の湯浅政明監督によりアニメーション映画化された。登場人物は比較的原夜は短し歩けよ乙女 映画title.jpg作に忠実だが、より漫画チックにデフォルメされている。星野源吹き替えの男性主人公よりも、花澤香菜吹き替えのマドンナ役の"黒髪の乙女"の方が実質的な主人公になっている夜は短し歩けよ乙女 映画01.jpg。モダンでカ夜は短し歩けよ乙女 映画00.jpgラフルでダイナミックなアニメーションは観ていて飽きないが、アニメーションの世界を見せることの方が主となってしまった感じ。一応、〈ワン・ナイト・ムービー(ストーリー)〉のスタイルは原作を継承(第1章だけでなく全部を"一夜"に詰め込んでいる)しているが、ストーリーはなぜかあまり印象に残らないし、京風情など原作の独特の雰囲気も弱まった。映画の方が好きな人もいるようだが、コアな森見登美彦のファンにとっては、映画は原作とは"別もの"に思えるのではないか。因みに、この作品は、「オタワ国際アニメーション映画祭」にて長編アニメ部門グランプリを受賞している。)
 

「アフター・アワーズ」021.jpg 
グリフィン・ダン演じる主人公の青年がコーヒーショップでヘンリー・ミラーの『北回帰線』を読んでいると、ロザンナ・アークェット演じる美女に声を掛けられる...。(「アフター・アワーズ」)  
 
IMG_1158.jpgIアフター・アワーズ9.jpg「アフター・アワーズ」●原題:AFTER HOURS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:マーチン・スコセッシ●製作:エイミー・ロビンソン/グリフィン・ダン/ロバート・F・コールズベリー●脚本:ジョセフ・ミニオン●撮影:ミハエル・バルハウス●音楽:ハワード・ショア●時間:97分●出演:グリフィン・ダン/ロザンナ・アークェット/テリー・ガー/ヴァーナ・ブルーム/リンダ・フィオレンティ下高井戸京王2.jpgーノ/ジョン・ハード/キャサリン・オハラ/ロバート・プランケット/ウィル・パットン/ディック・ミラー●日本公開:1986下高井戸シネマ.jpg下高井戸東映.jpg/06●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:下高井戸京王(86-10-11)(評価:★★★★☆)●併映:「カイロの紫のバラ」(ウディ・アレン)

下高井戸京王 (京王下高井戸東映(東映系封切館)→1980年下高井戸京王(名画座)→1986年建物をリニューアル→1988年下高井戸シネマ) 


夜は短し歩けよ乙女 映画04.jpg夜は短し歩けよ乙女 映画ポスター.jpg「夜は短し歩けよ乙女」●●制作年:2017年●監督:湯浅政明●脚本:上田誠●キャラクター原案:中村佑介●音楽:大島ミチル(主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION「荒野を歩け」)●原作:森見登美彦●時間:93分●声の出演:星野源/花澤香菜/神谷浩史/秋山竜次(ロバート)/中井和哉/甲斐田裕子/吉野裕行/新妻聖子/諏訪部順一/悠木碧/檜山修之/山路和弘/麦人●公開:2017/04●配給:東宝映像事業部●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(17-04-13)(評価:★★★)
TOHOシネマズ西新井 2007年11月6日「アリオ西新井」内にオープン(10スクリーン 1,775+(20)席)。
TOHOシネマズ 西新井 ario.jpgSCREEN 1 106+(2) 3.5×8.3m デジタル5.1ch
SCREEN 2 111+(2) 3.4×8.2m デジタル5.1ch
SCREEN 3 111+(2) 3.4×8.2m デジタル5.1ch
SCREEN 4 135+(2) 3.5×8.5m デジタル5.1ch
SCREEN 5 410+(2) 7.0×16.9m デジタル5.1ch
SCREEN 6 146+(2) 3.7×9.0m デジタル5.1ch
SCREEN 7 148+(2) 3.7×8.9m デジタル5.1ch
SCREEN 8 80+(2) 4.1×9.9m MX4D® デジタル5.1ch
SCREEN 9 183+(2) 4.1×9.9m デジタル5.1ch
SCREEN 10 345+(2) 4.8×11.6m デジタル5.1ch

 【2008年文庫化[角川文庫]】

「●国際(海外)問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【314】 ボブ・ウッドワード 『司令官たち
「●中国史」の インデックッスへ 「●映画」の インデックッスへ 「●講談社現代新書」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール」受賞作」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●レスリー・チャン(張國榮) 出演作品」の インデックッスへ(「さらば、わが愛/覇王別姫」)「●張藝謀(チャン・イーモウ)監督作品の インデックッスへ 「●侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作品の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(シネヴィヴァン六本木) 「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(PARCO SPACE PART3)

イデオロギー至上主義が人間性を踏みにじる様が具体的に描かれている。

私の紅衛兵時代6.jpg私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春.jpg    さらばわが愛~覇王別姫.jpg 写真集さらば、わが愛/覇王別姫.jpg
私の紅衛兵時代 ある映画監督の青春 (講談社現代新書)』['90年/'06年復刻]/「さらば、わが愛覇王別姫」中国版ポスター/写真集『さらば、わが愛覇王別姫』より

陳凱歌(チェン・カイコー).jpg 中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。

紅衛兵.jpg 著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

 無知な少年少女が続々加入して拡大を続けた紅衛兵は、毛沢東思想を権威として暴走し、かつて恩師や親友だった人達を糾弾する、一方、党は、反国家分子の粛清を続け、"危険思想"を持つ作家を謀殺し、中には自ら命を絶った「烈士」もいたとのことです。

 そしてある日、著者の父親が護送されて自宅に戻りますが、著者は自分の父親を公衆の面前で糾弾せざるを得ない場面を迎え、父を「裏切り」ます。

 共産党ですら統制不可能となった青少年たちは、農村から学ぶ必要があるとして「下放」政策がとられ、著者自身も'69年から雲南省の山間で2年間農作業に従事しますが、ここも発狂者が出るくらい思想統制は過酷で、但し、著者自身は、様々の経験や自然の中での肉体労働を通して逞しく生きることを学びます。

 語られる数多くのエピソードは、それらが抑制されたトーンであるだけに、却って1つ1つが物語性を帯びていて、「回想」ということで"物語化"されている面もあるのではないかとも思ったりしましたが、う~ん、実際あったのだろなあ、この本に書かれているようなことが。

紅いコーリャン [DVD]」張藝謀(チャン・イーモウ)監督
紅いコーリャン .jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 結果的には「農民から学んだ」とも言える著者ですが、17年後に映画撮影のため同地を再訪し、その時撮られたのが監督デビュー作である「黄色い大地」('84年)で、撮影はチャン・イーモウ(張藝謀、1950年生まれ)だったとのこと。

 個人的には、チャン・イーモウ監督の作品は「紅いコーリャン」('87年/中国)を初めて観て('89年)、これは凄い映画であり監督だなあと思いました(この作品でデビューしたコン・リー(鞏俐)も良かった。その次の作品「菊豆<チュイトウ>」('90年/日本・中国)では、不倫の愛に燃える若妻をエロチックに演じているが、この作品も佳作)。 
               
童年往事 時の流れOX.jpg童年往事 時の流れ.png童年往時5.jpg その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(侯孝賢、1947年生まれ)監督の自伝的作品でしたが(この後の作品「恋恋風塵」('87年/台湾)で日本でも有名に)、中国本土への望郷の念を抱いたまま亡くなった祖母との最期の別れの場面など、切ないノスタルジーと独特の虚無感が漂う佳作でした(ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作)。
【映画チラシ】童年往時/「童年往事 時の流れ [DVD]」 (パンフレット)

坊やの人形.jpg ホウ監督の作品を観たのは、一般公開前にパルコスペースPART3で観た「坊やの人形」('83年/台湾)に続いて2本目で、「坊やの人形」は、サンドイッチマンという顔に化粧をする商売柄(チンドン屋に近い?)、家に帰ってくるや自分の赤ん坊を抱こうとするも、赤ん坊に父親だと認識されず、却って怖がられてしまう若い男の悲喜侯孝賢.jpg劇を描いたもので、台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。

坊やの人形 [DVD]」/侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督

 両監督作とも実力派ならではのものだと思いましたが、同じ中国(または台湾)系でもチャン・イーモウ(張藝謀)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)では、「黒澤」と「小津」の違いと言うか(侯孝賢は小津安二郎を尊敬している)、随分違うなあと。

陳凱歌監督 in 第46回カンヌ映画祭 「さらば、わが愛~覇王別姫 [DVD]」 /レスリー・チャン(「欲望の翼」「ブエノスアイレス」)
覇王別姫第46回カンヌ映画祭パルムドール.jpgさらば、わが愛/覇王別姫.jpg覇王別姫.jpg「さrあばわが愛」チェン.jpg 一方、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の、1993年・第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドール並びに国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞作「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)の公開('94年)以降でしょう。米国でも評価され、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞などをを受賞しています(これも良かった。妖しい魅力のレスリー・チャン、残念なことに自殺してしまったなあ)。
さらば、わが愛/覇王別姫 4K修復版Blu-ray [Blu-ray]」(2023)
「さらば、わが愛/覇王別姫」00.jpg(●2023年10月12日、シネマート新宿にて4K修復版を鑑賞(劇場で観るのは初)。張國榮(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が一人の男を巡って恋敵となるという、ある意味"空前絶後"的映画だったと改めて思った。)

 本書も刊行されたのは'90年ですが、その頃はチェン・カイコー監督の名があまり知られていなかったせいか、一旦絶版になり、「復刊ドットコム」などで復刊要望が集まっていたのが'06年に実際に復刻し、自分自身も復刻版(著者による「復刊のためのあとがき」と訳者によるフィルモグラフィー付)で読んだのが初めてでした。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」にも「紅いコーリャン」にも「文革」の影響は色濃く滲んでいますが、前者を監督したチェン・カイコー監督は早々と米国に移住し(本書はニューヨークで書かれた)、ハリウッドにも進出、後者を監督したチャン・イーモウ監督は、かつては中国本国ではその作品が度々上映禁止になっていたのが、'08年には北京五輪の開会式の演出を任されるなど、それぞれに華々しい活躍ぶりです(体制にとり込まれたとの見方もあるが...)。


「中国問題」の内幕.jpg中国、建国60周年記念式典.jpg 中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。

 中国人がイデオロギーやスローガンに殉じ易い気質であることを、著者が歴史的な宗教意識の希薄さの点から考察しているのが興味深かったです。
 
童年往来事ド.jpg「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェンシネヴィヴァン六本木.jpg)/朱天文(ジュー・ティエンウェン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●音楽:呉楚楚(ウー・チュチュ)●時間:138分●出演:游安順(ユーアンシュ)/辛樹芬(シン・シューフェン)/田豊(ティェン・フォン)/梅芳(メイ・フアン)●日本公開:1988/12●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(89-01-15)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館

坊やの人形 <HDデジタルリマスター版> [Blu-ray]
坊やの人形 00.jpg坊やの人形 00L.jpg「坊やの人形」(「シャオチの帽子」「りんごの味」)●原題:兒子的大玩具 THE SANDWICHMAN●制作年:1983年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/曹壮祥(ゾン・ジュアンシャン)/萬仁(ワン・レン)●製作:明驥(ミン・ジー)●脚本:呉念眞(ウー・ニェンジェン)●撮影:Chen Kun Hou●原作:ホワン・チュンミン●時間:138分●出演:陳博正(チェン・ボージョン)/楊麗音(ヤン・リーイン)/曽国峯(ゾン・グオフォン)/金鼎(ジン・ディン)/方定台(ファン・ディンタイ)/卓勝利(ジュオ・シャンリー)●日本公開:1984/10●配給:ぶな企画●最初に観た場所:渋パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpg谷・PARCO SPACE PART3(84-06-16)(評価:★★★★)●併映:「少女・少女たち」(カレル・スミーチェク)
PARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。

「さらば、わが愛/覇王別姫」(写真集より)/「さらば、わが愛/覇王別姫」中国版ビデオ
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993) 2.jpgさらばわが愛~覇王別姫.jpg「さらば、わが愛/覇王別姫」●原題:覇王別姫 FAREWELL TO MY シネマート新宿2 .jpgCONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)●最初に観た場所(再見)[4K版]:シネマート新宿(23-10-12)
「さらば、わが愛/覇王別姫」0.jpg

「さらば、わが愛/覇王別姫」図1.jpg

チャン・フォンイー、コン・リー、レスリー・チャン.jpgさらば、わが愛 覇王別姫 鞏俐 コン・リー.jpg鞏俐(コン・リー)in「さらば、わが愛 覇王別姫」(1993年・二ューヨーク映画批評家協会賞 助演女優賞受賞)
   
張豊毅(チャン・フォンイー)、鞏俐(コン・リー)、張國榮(レスリー・チャン)in 第46回カンヌ国際映画祭フォトセッション

レスリー・チャン in「欲望の翼('90年)」/「ブエノスアイレス」('97年)
欲望の翼01.jpg ブエノスアイレス 00.jpg

「●企業倫理・企業責任」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1172】 久新 大四郎 『あなたの会社の評判を守る法
「●集英社新書」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「ザ・ホワイトハウス」)

ワンマンの害悪より、「株式会社」とは何たるかを知る上で大いに勉強になった。

死に至る会社の病.jpg       『ウォール街』(1987) 2.jpg 映画「ウォール街」(1987)
法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)』 ['07年]

 タイトル及びサブタイトルから「ワンマン経営」が企業統治の上でいかに害悪をもたらすかを書いた本だと思ったのですが、趣意はその通りであるにしても、配分上はかなりのページ数を割いて、「株式会社」制度の今とその起源及び歴史を解説していて、加えて、アダム・スミス、マルクス、ウエーバーの「株式会社」観にまで言及されており、「株式会社」とは何たるかを知る上で大いに勉強になりました(あとがきに「ワンマン経営者」を横糸、「株式会社の過去、現在、未来」を縦糸にして、株式会社のどこに欠陥があり、その欠陥を克服できるのかを考察した本であると書いてあった)。

 米国や英国などの"企業統治先進国"が、現在のそうした統治体制に至るまでの経緯を、近現代に起こった企業不祥事や経済事件との関係において示しており、これはこれで各国の企業統治のあり方を、シズル感をもって理解することができ、また、読んでいても飽きさせないものだったと思います(著者は日本経済新聞社の記者だった人で、今は系列のシンクタンクに所属)。

 もちろん米国だって、全ての制度が旨く機能したわけではなく、本書にある通り、会長とCEOの兼務を認めていることにより権力が一個人に集中し、「独立取締役会」が形骸化してエンロン、ワールドコム事件のようなことが起きているわけだし(英国は会長とCEOの兼務が認められていない)、更にはアンダーセンといった監査法人もグルだったりした―そうした事件を契機に「独立取締役会」の成員条件や機能を強化し、SOX法などが定められ、企業に対する情報開示要請や内部監査機能は日本よりずっと厳格なものにはなっていることがわかります(こうして見ると日本の内部監査は遅れているというか迷走している)。

『ウォール街』(1987).jpg 本書で多く紹介されている敵対的企業買収の事例なども、企業の情報開示の弱い部分、株主の目の行き届かない部分を突いており、それでも、オリバー・ストーン監督の映画「ウォール街」('87年/米)のゲッコー氏のモデルとなった米国の投資家アイバン・ボウスキー(本書160ページに登場、「ジョニ黒」を作っている会社の買収争奪戦で、英国ギネス社の株価を釣り上げるためにギネス社と結託して暗躍した)のような人物は、この先も出てくるのだろうなあ(インサイダー取引で逮捕されたこの人について書かれたジェームズ・B・ステュアートの『ウォール街・悪の巣窟』はピューリッツァー賞を獲得している)。 

1987 Best Actor Oscar Winner Michael Douglas for Wall Street.jpgウォール街 パンフ.jpg 因みに、映画「ウォール街」の方は、ゲッコー氏を演じたマイケル・ダグラスにアカデミー主演男優賞をもたらしましたが、ストーリー的にもややご都合主義的かなとも思える部分はあったもののまあまあ面白く、個人的には、マーティン&チャーリー・シーンの親子共演が印象的でした。

1987 Best Actor Oscar Winner Michael Douglas for "Wall Street"

 チャーリー・シーンがゲッコーに憧れる駆け出しの証券マンを演じ、その父親役のマーティン・シーンは、今や買収されそうな飛行機工場に働く組会活動に熱心な労働者という役どころで(この映画は80年代日本がバブル景気で浮かれていた頃アメリカはどうだったかを知ることが出来る映画でもある)、マーティン・シーンは「地獄の黙示録」('79年/米)かザ・ホワイトハウス.jpgら8年、随分老けたなあという感じがしました。当時マーティン・シーンは出演作に恵まれておらず、それが何となく役柄と重なってしまうWALLSTREET 1987  MARTIN SHEEN, CHARLIE SHEEN.jpgのですが、後にテレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」('99年-'06年)の合衆国大統領役で復活し、エミー賞主演男優賞を獲得しています(「ザ・ホワイトハウス」は、シーズン1の第1話が一番面白い)。
WALLSTREET 1987 MARTIN SHEEN, CHARLIE SHEEN

「ウォール街」●原題:WALLSTREET●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:オリバー・ストーン●製作:エドワード・R・プレスマン●脚本:スタンリー・ワイザー/オリバー・ストーン●撮影:ロバート・リチャードソン●音楽:スチュワート・コープランド●時間:128分●出演:マイケル・ダグラス/チャーリー・シーン/ダリル・ハンナ/マーチン・シーン/ハル・ホルブルック/テレンス・スタンプ/ショーン・ヤング/ジェームズ・スペイダー●日本公開 二子東急.jpg:1988/04●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:二子東急(88-09-18)(評価:★★★☆)●併映:「ブロードキャスト・ニュース」(ジェイムズ・L・ブルックス)

ザ・ホワイトハウス1.jpgThe West Wing (NBC)ホワイトハウス.jpg「ザ・ホワイトハウス」The West Wing (NBC 1999/09~2006)○日本での放映チャネル:NHK-BS2(2002~2006 シーズン1~4)/スーパー!ドラマTV(2008~2009 シーズン5~7)

《読書MEMO》
映画に学ぶ経営管理論2.jpg●松山 一紀『映画に学ぶ経営管理論<第2版>』['17年/中央経済社]
目次
第1章 「ノーマ・レイ」と「スーパーの女」に学ぶ経営管理の原則
第2章 「モダン・タイムス」と「陽はまた昇る」に学ぶモチベーション論
第3章 「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」に学ぶリーダーシップ論
第4章 「生きる」に学ぶ経営組織論
第5章 「メッセンジャー」に学ぶ経営戦略論
第6章 「集団左遷」に学ぶフォロワーシップ論
第7章 「ウォール街」と「金融腐蝕列島"呪縛"」に学ぶ企業統治・倫理論

「●い 伊坂 幸太郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1334】 伊坂 幸太郎 『ゴールデンスランバー
「●「日本推理作家協会賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」 (10位まで)」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「デッド・ゾーン」)

1篇1篇は旨くまとめているなあという気がしたが...。「デッドゾーン」を思い出した。

死神の精度.jpg  死神の精度 文庫.jpg     デッドゾーン dvd.jpg ビデオドローム.jpg ザ・フライ dvd.jpg
死神の精度』 ['05年] 『死神の精度 (文春文庫)』 ['08年]/デヴィッド・クローネンバーグ「デッドゾーン デラックス版 [DVD]」「ビデオ・ドローム [DVD]」「ザ・フライ (特別編) [DVD]

 2004(平成16)年・第57回 「日本推理作家協会賞」(短編部門)受賞作(連作の第1部「死神の精度」に対する授賞)。

 人の死の1週間前に派遣され、その死について「可」または「見送り」の判断をすることを仕事とする死神の千葉は、クールでちょっとズレている雨男だが、その彼が、大手電機メーカーの苦情係の女性、兄貴分を守ろうとするヤクザ、吹雪でホテルに雪隠詰めになった宿泊客たち、近隣女性に恋するブティックの男性店員、逃走中の殺人犯、美容院店主の老婆の前にそれぞれ現れる連作。

 死という重いテーマを敢えて軽いタッチで扱っていて、最初は星新一のショートショートでも読んでいるような感じでしたが、千葉の冷静さを鏡として登場人物の心の機微もそれなりに描かれていて、結構突飛な(?)状況設定の割には、1篇1篇は旨く纏めているなあという気がしました。ゴダールの影響は引用フレーズなどでの面でのことであり、モチーフとしては、握手した相手の未来が見えるというスティーブン・キング『デッド・ゾーン』('87年/新潮文庫(上・下))に近いのでは...。

 作者が直木賞候補になったのは'03年『重力ピエロ』、'04年の『チルドレン』『グラスホッパー』に続き本作が4回目で、この時は東野圭吾氏の『容疑者χの献身』が受賞していますが、個人的には『死神の精度』の方がやや面白いかなあと(『グラスホッパー』の対抗馬が角田光代氏の『対岸の彼女』だったのはいたしかたないが)。この後'06年に『砂漠』でも直木賞候補となっていますが、'08年に『ゴールデンスランバー』が候補になったとき、ノミネート辞退をしています。

 ただ、この作品に関しても、「吹雪に死神」がいきなり本格推理調だったり(パロディなのか?)、最後の「死神対老女」が必ずしもそれまでの5話を収斂し切れているように思えなかったりし、全体構成において少し不満も残りました。

 直木賞の選考委員の何人かが、時には死神の精度が狂って失敗するケースも加えた方が良かったのではないかと言っていましたが(渡辺淳一、井上ひさし両氏)、仮にそうするならばそれはモチーフ自体の改変であり、かなり違った展開になってしまうような...。但し、タイトルはそうしたこともあるのかなあと思わせるタイトルなので紛らわしい気もしました(読んでみれば"精度100%"で、あとは死神が「可」の判断をするかどうかということだけではないか)。その最終判断にも、もう少し「見送り」の作品があってもよかったのではとの意見もありましたが(平岩弓枝氏)、それは言えているような気がします。

 「恋愛で死神」なども読後感は悪くなかったですが、ややメルヘンっぽい。阿刀田高氏さえ、「もっと深い思案があってよかったのではないか」と言っているぐらいで、この人が「△」では、他の直木賞選考委員も引いてしまうのではないかと個人的にも思ったりして...。― 殆ど、「選評」評になってしまいましたが。

 因みに、スティーブン・キングの『デッド・ゾーン』は、当時無名のデヴィッド・クローネンバーグ監督が「デッドゾーン」('83年/米・カナダ)として映画化し、'84年のアボリアッツ・ファンタスティック映画祭で批評家賞受賞、'85年6月の東京国際映画祭の"ファンタスティック映画祭"で観ましたが、キング原作の映画化作品の中ではいい方だったのではないかと。

ヴィデオドローム パンフ.jpgVideodrome [1982].jpg 当時の評判も良かったみたいで、同月には渋谷ユーロスペースで同監督の前作「ヴィデオドローム」('82年/カナダ)が上映され、ジェームズ・ウッズ主演のこの作品は見た人の性格を変える暴力SMビデオによって起きる殺人を描いたもので(鈴木光司原作の日本映画「リング」はこれのマネか?)、この2作でクローネンバーグの名は日本でも広く知られるようになりました(「ヴィデオドローム」は、ちょっと気持ち悪いシーンがあり、イマイチ)。
Videodrome [1982] /パンフレット

ヴィデオドローム01.jpg ヴィデオドローム02.jpg Videodrome
 
蠅.jpgザ・フライ.jpg その後、クローネンバーグは、ジョルジュ・ランジュラン原作、カート・ニューマン監督の「ハエ男の恐怖(The Fly)」('58年/米)のリメイク作品「ザ・フライ」('86年/米)を撮り(ホント、"気色悪い"系が好きだなあ)、ジェフ・ゴ「蝿男の恐怖」(1958).jpgールドブラムが変身してしまった「ハエ男」が最後の方では「カニ男」に見えてしまうのが難でしたが(と言うより、何が何だかよくわからない怪物になっていて、オリジナルの「ハエ男の恐怖」の方がスチールを見る限りではよほどリアルに「蠅」っぽい)、ただしストーリーはなかなかの感動もので、ラストはちょっと泣けました。

「ハエ男の恐怖」(1958)                   

デッドゾーン パンフ.jpgデッドゾーン 映画.jpg 「デッドゾーン」ではクリストファー・ウォーケンが演じる何の前触れもなく突然に予知能力を身につけてしまった主人公の男(スティーヴン・キングらしい設定!)は、将来大統領になって核ミサイルの発射ボタンを押すことになる男(演じているのは、後にテレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」で合衆国大統領役を演じることになるマーティン・シーン)に対して、彼の政治生命を絶つために犠牲を払って死んでしまうのですが(未来を変えたということか)、これならストーリー的にはいくらでも話が作れそうな気がして、これきりで終わらせてしまうのは勿体無いなあと思っていたら、約20年を経てTVドラマシリーズになりました(テレビドラマ版の邦題は「デッド・ゾーン」と中黒が入る)。
The Dead Zone [1983] /パンフレット

アンソニー・マイケル・ホール 「デッドゾーン」s.jpg「デッドゾーン」    ドラマ.jpg テレビドラマ版「デッド・ゾーン」で主役のアンソニー・マイケル・ホールを見て、雰囲気がクリストファー・ウォーケンに似ているなあと思ったのは自分だけでしょうか。意図的にクリストファー・ウォーケンと重なるイメージの俳優を主役に据えたようにも思えます。

                      
'85年東京国際映画祭"ファンタスティック映画祭"カタログより
コデッドゾーン20761.jpgデッドゾーン dvd.jpg「デッドゾーン」●原題:THE DEAD ZONE●制作年:1983年●制作国:アメリカ・カナダ●監督:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:デブラ・ヒル●脚本:ジェフリー・ボーム●撮影:マーク・アーウィン●音楽:マイケル・ケイメン●原作:スティーヴン・キング●時間:103分●出演:クリストファー・ウォーケン/マーティン・シーン/ブルック・アダムス/トム・スケリット/ハーバート・ロム/アンソニー・ザーブ●日本公開:1985/06●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:渋谷パンテオン (85-06-06)(評価★★★☆)

ビデオドローム.jpg「ヴィデオドローム」●原題:VIDEODROME●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:クロード・エロー●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア ●時間:87分●出演:ジェームズ・ウッズ/デボラ・ハリー/ソーニャ・スミッツ/レイ・カールソン/ピーター・ドゥヴォルスキー●日本公開:1985/06●配給:欧日協会(ユーロスペース)●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース (85-07-21)(評価★★★)
ヴィデオドローム5.jpgヴィデオドローム04.jpgヴィデオドローム03.jpg
David Cronenberg & James Woods

ザ・フライ dvd.jpgザ・フライges.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア ●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル/レス・カールソン/ジョージ・チュヴァロ/マイケル・コープマン●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)


デッド・ゾーン tv.jpgデッドゾーン」.jpg「デッド・ゾーン」The Dead Zone (USA 2002~2007) ○日本での放映チャネル:AXN(2005~2010)
デッド・ゾーン シーズン5 コンプリートBOX [DVD]


 【2008年文庫化[文春文庫]】

「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3285】マリヤム・トゥザニ 「青いカフタンの仕立て屋
「●アルフレッド・ヒッチコック監督作品」の インデックッスへ 「●マイケル・ケイン 出演作品」の インデックッスへ (「殺しのドレス」)「●ハリソン・フォード 出演作品」の インデックッスへ(「ワーキング・ガール」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(三軒茶屋映画劇場/歌舞伎町シネマ1)インデックッスへ(俳優座シネマテン)インデックッスへ(新宿アカデミー)

「裏窓」×「めまい」+α。B級と言う人も多いが、個人的には好きな「ボディ・ダブル」。

ボディ・ダブル2.jpg 『ボディ・ダブル』(1984)2.jpg  殺しのドレス.jpg めまい.jpg 
ブライアン・デ・パルマ「ボディ・ダブル [DVD]」「殺しのドレス スペシャル・エディション [DVD]」  アルフレッド・ヒッチコック「めまい (ユニバーサル・セレクション2008年第5弾) 【初回生産限定】 [DVD]

BODY DOUBLE.jpgBODY  DOUBLE.jpg B級映画俳優のジェイク(クレイグ・ワッソン)は、ドラキュラ映画の主演で棺に入るシーンで閉所恐怖症の発作を起こしてクビになり、失意のまま帰宅したところ、同棲中の恋人が男と情事にふけっているという散々な有様。家は彼女のものであり、意気消沈のまま家を出た彼は、あるオーディション会場で、サム(グレッグ・ヘンリー)という男と知り合い彼の家へ招かれる。そこはモBODY DOUBLE● 1984 3.jpgBODY DOUBLE● 1984 1.jpgダンな豪邸で、サムはジェイクに留守中の家の管理を頼むとともに、望遠鏡越しに見える魅惑的な隣人(デボラ・シェルトン)の存在を教える―。

 ヒッチコックの「裏窓」('54年)と「めまい」('58年)を足して2で割ったような作品ですが、そうしたこともあって評価の割れる作品かも。

「殺しのドレス」二重人格.jpg  ブライアン・デ・パルマ監督の同系統のサスペンス作品では「殺しのドレス」('80年)が知られてますが、確かに面白い作品で、美術館でのなめまわすようなカメラワークや、「サイコ」を意識したアDRESSED TO KILL Angie Dickinson.jpgンジー・ディキンソンのシャワーシーン(「サイコ」同様、ボディショットは代役らしい)などが印象的でしたが、但し、観ている間はすごくのめり込まされるのですが、その分、終わってみるとな〜んだみたいな面もややありました(評価は星4つ。映画全体としては決して悪くなく、むしろ佳作の部類)。
殺しのドレス スペシャル・エディション [DVD]

 ただ個人的には、「ボディ・ダブル」の方が、観終わったあとの印象も含めると「殺しのドレス」より良かったように思え、他の同監督の作品と比べても、最も自分の好みに近い作品です。意図的にあまり有名ではない俳優を使って撮っていて(メラニー・グリフィスMelanie Griffith.jpgも当時デビュー10年ながらいまだに"売り出し中"の身)、エロチックなシーンもふんだんにあり、この映画全体がB級の雰囲気を醸していますが、そのキッチュ感が却ってでいいです。内容的にも、ヒッチコックへのオマージュを込めながらも、ミステリとしてのオリジナリティは十分にあるように思われ、個人的には「裏窓」×「めまい」+アルファという評価ですが、観る人によっては、最後が"マイナス"になる人もいるかもしれません。

Melanie Griffith in「ボディ・ダブル」(全米批評家協会賞「助演女優賞」受賞)

ワーキング・ガール チラシ.jpgワーキング・ガール 86米.jpgメラニー・グリフィス in  ワーキング・ガール.jpg 映画後半に出てくるポルノ女優を演じたメラニー・グリフィスは、ヒッチコック監督作品「鳥」('63年)のヒロイン役を演じたティッピ・ヘドレンの娘であり(この作品の翌年にTV番組「新・ヒッチコック劇場」で親子共演したりしている)、この「ボディ・ダブル」で彼女は演技開眼し、マイク・ニコルズ監督の「ワーキング・ガール」('88年)では、シガニー・ウィーバー、ハリソン・フォードらに伍する演技で、アカデミー主演女優賞にノミネートされています。
ワーキング・ガール [DVD]

ワーキング・ガール 2.jpg 「ワーキング・ガール」は、ウォール街の投資銀行のM&A部門で働く秘書(メラニー・グリフィス)が、尊大な女性上司(シガニー・ウィーバー)がスキー休暇中に骨折し職場復帰するまでの間に、上司の愛人(ハリソン・フォード)と共に進行中の合併話を期せずして進行させることになるというサクセス・ストーリーですが(当時のアメリカではM&Aの嵐が吹き荒れていたようだ)、メラニー・グリフィス、シガニー・ウィーバー共にいい味出していて、映画自体もまあまあ楽しめました。冒頭にワールドトレードセンター(WTC)の空撮が出てきますが、この作品自体WTCで撮影されています。因みに、"ワーキング・ガール"というタイトルには「キャリア・ウーマン」の他に「娼婦」という意味もあります。

ヒチコック監督「めまい」より
『めまい』.jpgKim Novak2.jpg映画「めまい」1958 より.jpg 「ボディ・ダブル」の作品ベースとなっているヒッチコックの「裏窓」('54年)「めまい」('58年)のうち「めまい」「めまい」.jpg「めまい」では、カメラワークにおいてズームアウトしながらカメラを前方へ動かすことで被写体のサイズが変わらずに広角になる映し方(逆ズーム)で墜落感を表す手法や、カメラが被写体の周りを回る映し方(360°パン)でキスシーンなどの陶酔感を表す手法などが用いられていることでも有名で、デ・パルマ監督もこの作品でそうした技法をしっかり採り入れています。キム・ノヴァクの妖しげな魅力が印象に残った映画でもありました。 
 

BODY DOUBLE● 1984 F.jpgBODY DOUBLE.jpg「ボディ・ダブル」●原題:BODY DOUBLE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・製作:ブライアン・デ・パルマ●脚本:ロバート・J・アヴレッチ/ブライアン・デ・パルマ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ピノ・ドナッジオ●時間:114分●出演:クレイグ・ワッソン/グレッグ・ヘンリー/デボラ・シェルトン/メラニー・グリフィス/ガイ・ボイド/デヴィッド・ハスケル/デニス・フランツ/アル・イズラエル/レベッカ・ スタンリー/ダグラス・ワーヒット/B・J・ジョーンズ/ラス・マリン/レーン・デイヴィース●日本公開:1985/02●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:三軒茶屋映劇 (85-09-15)(評価:★★★★☆)●併映:「聖女アフロディーテ」(ロバート・フュースト)/「ブレスレス」(ジム・マクブライド)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真左)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(上右写真中央並びに下写真)は1952年、世田谷通りの裏通り「なか三軒茶屋中央劇場0.jpg三軒茶屋中央劇場入口s.jpgみち街」にオープン。 ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ)2014(平成26)年7月20日閉館 ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り)1992(平成4)年閉館 ③三軒茶屋中劇(中央劇場))2013(平成25)年2月14日閉館


三軒茶屋中央劇場入口:桑原甲子雄の写真集より

三軒茶屋中央劇場:「東京遺産な建物たち」より


『殺しのドレス』(1980) 2.jpg「殺しのドレス」●原題:DRESSED TO KILL●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ●製作:ジョージ・リットー●撮影:ラルフ・ボード●音楽:ピノ・ドナッジオ●時間:114分●出演:マイケル・ケイン/アンジー・ディキンソン/ナンシー・アレン/キース・ゴードン/デニス・フランツ/デヴィッド・ マーグリーズ/ブランドン・マガート●日本公開:1981/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(81-04-03)●2回目:テアトル吉祥寺 (86-02-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「デストラップ 死の罠」(シドニー・ルメット)/「日曜日が待六本木駅付近.jpg六本木・俳優座シネマテン2.jpg俳優座劇場.jpgち遠しい!」(フランソワ・トリュフォー)/「ハメット」(ヴィム・ヴェンダース)
俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。

  

ワーキング・ガール .jpg「ワーキング・ガール」●原題:WORKING GIRL●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ダグラス・ウィック●脚本:ケヴィン・ウェイド●撮影:ミハエル・バルハウス●米映画監督のマイク・ニコルズ氏.jpg音楽:カーリー・サイモン●時間:115分●出演:ハリソン・フォード/シガニー・ウィーバー/メラニー・グリフィス/アレック・ボールドウィン/オリバー・プラット/ケヴィン・スペーシー/ジョーン・キューザック/フィリップ・ボスコ/ノーラ・ダン/ジェームズ・ラリー●日本公開:1989/05●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿アカデミー (89-07-08)(評価:★★★☆) 

米映画監督のマイク・ニコルズ氏(左)=2012年6月(EPA=時事) 

新宿アカデミー 1975年12月「第一東亜会館」新装に伴い2Fにオープン。2009(平成21)年11月30日閉館。
「新宿アカデミー」.gif新宿アカデミー.jpg
  

「めまい」●vertigob.jpgキム・ノヴァク4.jpgめまい パンフ.jpg「めまい」●原題:VERTIGO●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:アレック・コペル/サミュエル・テイラー●撮影:ロバート・バークス●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ピエール・ボワロー/トマ・ナルスジャック「死者の中から」●時間:128分●出演:ジェイムズ・スチュアート/キム・ノヴァク(Kim Novak)/バーバラ・ベル・ゲデス/トム・ヘルモア/ヘンリー・ジョーンズ/レイモンド・ベイリー/エレン・コービイ/リー・パトリック●日本公開:1958/10●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:歌舞伎町シネマ1(84-03-31)(評価:★★★★) 

「めまい」ヒッチ.png

ヒューマックスパビリオン 新宿歌舞伎町.jpg「ジョイシネマ3:4」.gif歌舞伎町シネマ1・歌舞伎町シネマ2 1985年、コマ劇場左(グランドオヲデオンビル隣り)「新宿ジョイパックビル」(現「ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町」)2Fにオープン→1995年7月~新宿ジョイシネマ3・新宿ジョイシネマ4。1997(平成9)年11月閉館。



《読書MEMO》
"Sight & Sound"誌映画批評家によるオールタイム・ベスト50 (The Top 50 Greatest Films of All Time)(2012年版)[姉妹版:映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)の上位100作品)
めまい_m.jpg 1.『めまい』"Vertigo"(1958/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック 191票
 2.『市民ケーン』"Citizen Kane"(1941/米) 監督:オーソン・ウェルズ 157票
 3.『東京物語』"Tokyo Story"(1953/日) 監督:小津安二郎 107票
 4.『ゲームの規則』"La Règle du jeu"(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール 100票
 5.『サンライズ』"Sunrise: A Song of Two Humans"(1927/米) 監督:F・W・ムルナウ 93票
 6.『2001年宇宙の旅』"2001: A Space Odyssey"(1968/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック 90票
 7.『捜索者』"The Searchers"(1956/米) 監督:ジョン・フォード 78票
 8.『カメラを持った男』"Man with a Movie Camera"(1929/ソ連) 監督:ジガ・ヴェルトフ 68票
 9.『裁かるゝジャンヌ』"The Passion of Joan of Arc"(1927/仏)  監督:カール・ドライヤー 65票
 10.『8½』"8½"(1963/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ 64票
 11.『戦艦ポチョムキン』"Battleship Potemkin"(1925/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン 63票
 12.『アタラント号』"L'Atalante"(1934/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ 58票
 13.『勝手にしやがれ』"Breathless"(1960/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 57票
 14.『地獄の黙示録』"Apocalypse Now"(1979/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ 53票
 15.『晩春』"Late Spring"(1949/日) 監督:小津安二郎 50票
 16.『バルタザールどこへ行く』"Au hasard Balthazar"(1966/仏・スウェーデン)監督:ロベール・ブレッソン49票
 17.『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日) 監督:黒澤明 48票
 17.『仮面/ペルソナ』"Persona"(1966/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン 48票
 19.『鏡』"Mirror"(1974/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー 47票
 20.『雨に唄えば』"Singin'in the Rain"(1951/米) 監督:スタンリー・ドーネン & ジーン・ケリー 46票
 21.『情事』"L'avventura"(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ 43票
 21.『軽蔑』"Le Mépris"(1963/仏・伊・米) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 43票
 21.『ゴッドファーザー』"The Godfather"(1972/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ 43票
 24.『奇跡』"Ordet"(1955/ベルギー・デンマーク) 監督:カール・ドライヤー 42票
 24.『花様年華』"In the Mood for Love"(2000/香港) 監督:ウォン・カーウァイ 42票
 26.『羅生門』"Rashomon"(1950/日) 監督:黒澤明 41票
 26.『アンドレイ・ルブリョフ』"Andrei Rublev"(1966/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー 41票
 28.『マルホランド・ドライブ』"Mulholland Dr."(2001/米) 監督:デイヴィッド・リンチ 40票
 29.『ストーカー』"Stalker"(1979/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー 39票
 29.『SHOAH』"Shoah"(1985/仏) 監督:クロード・ランズマン 39票
 31.『ゴッドファーザー PartⅡ』"The Godfather Part II"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ 38票
 31.『タクシー・ドライバー』"Taxi Driver"(1976/米) 監督:マーティン・スコセッシ 38票
 33.『自転車泥棒』"Bicycle Thieves"(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 37票
 34.『キートンの大列車追跡』"The General"(1926/米) 監督:バスター・キートン&クライド・ブラックマン35票
 35.『メトロポリス』"Metropolis"(1927/独) 監督:フリッツ・ラング 34票
 35.『サイコ』"Psycho"(1960/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック 34票
 35."Jeanne Dielman, 23 quai du Commerce 1080 Bruxelles"(ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマン)(1975/ベルギー・仏) 監督:シャンタル・アケルマン 34票
 35.『サタンタンゴ』"Sátántangó"(1994/ハンガリー・独・スイス) 監督:タル・ベーラ 34票
 39.『大人は判ってくれない』"The 400 Blows"(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー 33票
 39.『甘い生活』"La dolce vita"(1960/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ 33票
 41.『イタリア旅行』"Journey to Italy"(1954/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ 32票
 42.『大地のうた』"Pather Panchali"(1955/印) 監督:サタジット・レイ 31票
 42.『お熱いのがお好き』"Some Like It Hot"(1959/米) 監督:ビリー・ワイルダー 31票
 42.『ガートルード』"Gertrud"(1964/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー 31票
 42.『気狂いピエロ』"Pierrot le fou"(1965/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 31票
 42.『プレイタイム』"Play Time"(1967/仏) 監督:ジャック・タチ 31票
 42.『クローズ・アップ』"Close-Up"(1990/イラン) 監督:アッバス・キアロスタミ 31票
 48.『アルジェの戦い』"The Battle of Algiers"(1966/伊・アルジェリア) 監督:ジッロ・ポンテコルヴォ 30票
 48.『映画史』"Histoire(s) du cinéma"(1998/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 30票
 50.『街の灯』"City Lights"(1931/米) 監督:チャーリー・チャップリン 29票
 50.『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日) 監督:溝口健二 29票
 50.『ラ・ジュテ』"La Jetée"(1962/仏) 監督:クリス・マルケル 29票

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
●52位以降250位(235位)まで
 52.『北北西に進路を取れ』"North By Northwest"(1959/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 53.『裏窓』"Rear Window"(1954/) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 53.『レイジング・ブル』"Raging Bull"(1980/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 56.『M』"M"(1931/独) 監督:フリッツ・ラング
 57.『山猫』"The Leopard"(1963/伊・仏) 監督:ルキノ・ヴィスコンティ
 57.『黒い罠』"Touch Of Evil"(1958/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 59.『キートンの探偵学入門』"Sherlock Jr"(1924/米) 監督:バスター・キートン
 59.『バリー・リンドン』"Barry Lyndon"(1975/英・米) 監督:スタンリー・キューブリック
 59.『ママと娼婦』"La Maman et la putain"(1973/仏) 監督:ジャン・ユスターシュ
 59.『山椒太夫』"Sansho Dayu"(1954/日) 監督:溝口健二
 63.『野いちご』"Wild Strawberries"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 63.『モダン・タイムス』"Modern Times"(1936/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 63.『サンセット大通り』"Sunset Blvd."(1950/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 63.『狩人の夜』"The Night of the Hunter"(1955/米) 監督:チャールズ・ロートン
 63.『スリ』"Pickpocket"(1959/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 63.『リオ・ブラボー』"Rio Bravo"(1958/米) 監督:ハワード・ホークス
 69.『ブレードランナー』"Blade Runner"(1982/米) 監督:リドリー・スコット
 69.『ブルー・ベルベット』"Blue Velvet"(1986/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 69.『サン・ソレイユ』"Sans Soleil"(1982/仏) 監督:クリス・マルケル
 69.『抵抗( レジスタンス)/死刑囚の手記より』"A Man Escaped"(1956/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 73.『第三の男』"The Third Man"(1949/英) 監督:キャロル・リード
 73.『太陽はひとりぼっち』"L'eclisse"(1962/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 73.『天井桟敷の人々』"Les enfants du paradis"(1945/仏) 監督:マルセル・カルネ
 73.『大いなる幻影』"La Grande Illusion"(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 73.『ナッシュビル』"Nashville"(1975/米) 監督:ロバート・アルトマン
 78.『チャイナタウン』"Chinatown"(1974/米) 監督:ロマン・ポランスキー
 78.『美しき仕事』"Beau Travail"(1998/仏) 監督:クレール・ドゥニ
 78.『ウエスタン』"Once Upon a Time in the West"(1968/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 81.『偉大なるアンバーソン家の人々』"The Magnificent Ambersons"(1942/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 81.『アラビアのロレンス』"Lawrence Of Arabia"(1962/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 81.『ミツバチのささやき』"The Spirit of the Beehive"(1973/西) 監督:ヴィクトル・エリセ
 84.『ファニーとアレクサンデル』"Fanny and Alexander"(1984/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 84.『カサブランカ』"Casablanca"(1942/米) 監督:マイケル・カーティス
 84.『ざくろの色』"The Colour of Pomegranates"(1968/ソ連) 監督:セルゲイ・パラジャーノフ
 84.『グリード』"Greed"(1925/米) 監督:エーリッヒ・フォン・シュトロハイム
 84.『クーリンチェ少年殺人事件』"A Brighter Summer Day"(1991/台湾) 監督:エドワード・ヤン
 84.『ワイルドバンチ』"The Wild Bunch"(1969/米) 監督:サム・ペキンパー
 90.『ピクニック』"Partie de campagne"(1936/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 90.『アギーレ 神の怒り』"Aguirre, Wrath of God"(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 90.『天国への階段』"A Matter of Life and Death"(1946/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 93.『第七の封印』"The Seventh Seal"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 93.『アンダルシアの犬』"Un chien andalou"(1928/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 93.『イントレランス』"Intolerance"(1916/米) 監督:D・W・グリフィス
 93.『ヤンヤン 夏の想い出』"A One and a Two"(1999/台湾・日) 監督:エドワード・ヤン
 93.『老兵は死なず』"The Life and Death of Colonel Blimp"(1943/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 93.『トゥキ・ブゥキ / ハイエナの旅』"Touki Bouki"(1973/セネガル) 監督:ジブリル・ジオップ・マンベティ(Djibril Diop Mambéty)
 93.『不安と魂』"Fear Eats the Soul"(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 93.『悲しみは空の彼方に』"Imitation of Life"(1959/米) 監督:ダグラス・サーク
 93.『たそがれの女心』"Madame de..."(1953/仏・伊) 監督:マックス・オフュルス
 102."Wavelength"(1967/カナダ・米) 監督:マイケル・スノウ(Michael Snow)
 102.『暗殺の森』"The Conformist"(1970/伊・仏・西独) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 102.『旅芸人の記録』"The Travelling Players"(1975/ギリシャ) 監督:テオ・アンゲロプロス
 102.『午後の網目』"Meshes of the Afternoon"(1943/米) 監督:マヤ・デレン、アレクサンダー・ハミッド
 102.『彼女について私が知っている二、三の事柄』"Two or Three Things I Know About Her..."(1967/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 102.『ツリー・オブ・ライフ』"The Tree of Life"(2010/米) 監督:テレンス・マリック
 102.『イワン雷帝』"Ivan the Terrible"(1945/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
 102.『去年マリエンバードで』"Last Year At Marienbad"(1961/仏・伊) 監督:アラン・レネ
 110.『レディ・イヴ』"The Lady Eve"(1941/米) 監督:プレストン・スタージェス
 110.『忘れられた人々』"Los Olvidados"(1950/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 110.『赤ちゃん教育』"Bringing Up Baby"(1938/米) 監督:ハワード・ホークス
 110.『パフォーマンス』"Performance"(1970/英) 監督:ドナルド・キャメル、ニコラス・ローグ
 110.『さすらいの二人』"The Passenger"(1974/米) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 110.『ビリディアナ』"Viridiana"(1961/西・メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 110.『黄金時代』"L' Age d'Or"(1930/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 117."A Canterbury Tale"(1944/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 117.『少女ムシェット』"Mouchette"(1966/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 117.『博士の異常な愛情』"Dr. Strangelove"(1964/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック
 117.『吸血鬼ノスフェラトゥ』"Nosferatu"(1922/独) 監督:F・W・ムルナウ
 117.『赤い靴』"The Red Shoes"(1948/英) 監督:マイケル・パウエル & エメリック・プレスバーガー
 117.『極楽特急』"Trouble in Paradise"(1932/米) 監督:エルンスト・ルビッチ
 117.『悲情城市』"A City Of Sadness"(1989/台湾) 監督:ホウ・シャオシェン
 117.『フェリーニのアマルコルド』"Amarcord"(1973/伊・仏) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 117.『リバティ・バランスを射った男』"The Man Who Shot Liberty Valance"(1962/米) 監督:ジョン・フォード
 117.『天国の日々』"Days of Heaven (1978/米) 監督:テレンス・マリック
 127.『小城之春』"Spring in a Small Town"(1948/中) 監督:費穆(Fei Mu)
 127.『ドゥ・ザ・ライト・シング』"Do The Right Thing"(1989/米) 監督:スパイク・リー
 127.『アウト・ワン』"Out 1"(1990/仏) 監督:ジャック・リヴェット
 127.『トロピカル・マラディ』"Tropical Malady"(2004/タイ・仏・伊・独) 監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
 127.『河』"The River"(1951/米) 監督:ジャン・ルノワール
 127.『突然炎のごとく』"Jules Et Jim"(1962/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 127.『パルプ・フィクション』"Pulp Fiction"(1994/米) 監督:クエンティン・タランティーノ
 127.『若草の頃』"Meet Me In St. Louis"(1944/米) 監督:ヴィンセント・ミネリ
 127.『ラルジャン』"L' argent"(1983/仏・スイス) 監督:ロベール・ブレッソン
 127.『生きる』"Ikiru"(1952/日) 監督:黒澤明
 127.『トリコロール/青の愛』"Three Colors Blue"(1993/仏・ポーランド) 監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
 127.『赤い影』"Don't Look Now"(1973/英・伊) 監督:ニコラス・ローグ
 127.『セリーヌとジュリーは舟で行く』"Celine and Julie Go Boating"(1974/仏) 監督:ジャック・リヴェット
 127.『アニー・ホール』"Annie Hall"(1977/米) 監督:ウディ・アレン
 127.『アパートの鍵貸します』"The Apartment"(1960/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 127.『最後の人』"The Last Laugh"(1924/独) 監督:F・W・ムルナウ
 127.『二十四時間の情事』"Hiroshima Mon Amour"(1959/日・仏) 監督:アラン・レネ
 144.『欲望』"Blow Up"(1966/英) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 144.『独裁者』"The Great Dictator"(1940/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 144.『低開発の記憶 -メモリアス-』"Memories of Underdevelopment"(1968/キューバ) 監督:トマス・グティエレス・アレア
 144.『田舎司祭の日記』"Diary of a Country Priest"(1951/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 144.『恋する惑星』"Chungking Express"(1994/香港) 監督:ウォン・カーウァイ
 144.『生きるべきか死ぬべきか』"To Be Or Not To Be"(1942/米) 監督:エルンスト・ルビッチ
 144.『こわれゆく女』"A Woman Under the Influence"(1974/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 144.『ナポレオン』"Napoleon"(1927/仏) 監督:アベル・ガンス
 144.『女と男のいる舗道』"Vivre sa vie"(1962/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 144.『オズの魔法使い』"The Wizard of Oz"(1939/米) 監督:ヴィクター・フレミング
 154.『マルケータ・ラザロヴァ』"Marketa Lazarová"(1967/チェコスロヴァキア) 監督:フランチシェク・ヴラーチル
 154.『隠された記憶』"Hidden"(2004/仏・オーストリア・伊・独) 監督:ミヒャエル・ハネケ
 154.『シャイニング』"The Shining"(1980/英) 監督:スタンリー・キューブリック
 154.『惑星ソラリス』"Solaris"(1972/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 154.『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』"Chimes at Midnight"(1966/西・スイス) 監督:オーソン・ウェルズ
 154.『黄金狂時代』"The Gold Rush"(1925/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 154.『忘れじの面影』"Letter From an Unknown Woman"(1948/米) 監督:マックス・オフュルス
 154.『逢びき』"Brief Encounter"(1945/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 154.『孤独な場所で』"In a Lonely Place"(1950/米) 監督:ニコラス・レイ
 154.『黒水仙』"Black Narcissus"(1947/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 154.『となりのトトロ』"My Neighbour Totoro"(1988/日) 監督:宮崎駿
 154.『コンドル』"Only Angels Have Wings"(1939/米) 監督:ハワード・ホークス
 154.『吸血鬼』"Vampyr"(1932/仏・独) 監督:カール・ドライヤー
 154.『炎628』"Come And See"(1985/ソ連) 監督:エレム・クリモフ
 154.『遠い声、静かな暮らし』"Distant Voices, Still Lives"(1988/英) 監督:テレンス・デイヴィス
 154.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』"Once Upon A Time In America"(1984/米) 監督:セルジオ・レオーネ
 154.『叫びとささやき』"Cries and Whispers"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 171.『キング・コング』"King Kong"(1933/米) 監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シェードザック
 171.『ヴェルクマイスター・ハーモニー』"The Werckmeister Harmonies"(2000/ハンガリー・独・仏) 監督:タル・ベーラ
 171.『スター・ウォーズ』"Star Wars"(1997/米) 監督:ジョージ・ルーカス
 171.『汚名』"Notorious"(1946/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 171.『ヒズ・ガール・フライデー』"His Girl Friday"(1940/米) 監督:ハワード・ホークス
 171.『グッドフェローズ』"Goodfellas"(1990/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 171.『シェルブールの雨傘』"The Umbrellas of Cherbourg"(1964/仏・西独) 監督:ジャック・ドゥミ
 171.『月世界旅行』"A Trip to the Moon"(1902/仏) 監督:ジョルジュ・メリエス
 171.『成功の甘き香り』"Sweet Smell of Success"(1957/米) 監督:アレクサンダー・マッケンドリック
 171.『カインド・ハート』"Kind Hearts and Coronets"(1949/英) 監督:ロバート・ハーメル
 171.『タブウ』"Tabu"(1931/米) 監督:F・W・ムルナウ
 171.『大地』"Earth"(1930/ソ連) 監督:アレクサンドル・ドヴジェンコ
 183.『奇跡の海』"Breaking the Waves"(1996/デンマーク) 監督:ラース・フォン・トリアー
 183.『怒りの葡萄』"The Grapes of Wrath"(1940/米) 監督:ジョン・フォード
 183.『パリ、テキサス』"Paris, Texas"(1984/西独・仏) 監督:ヴィム・ヴェンダース
 183.『E.T.』"E.T."(1982/米) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 183.『無防備都市』"Rome Open City"(1945/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 183.『フェイシズ』"Faces"(1968/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 183.『音楽サロン』"The Music Room"(1958/インド) 監督:サタジット・レイ
 183.『残菊物語』"The Story of the Late Chrysanthemums"(1939/日) 監督:溝口健二
 183.『侠女』"A Touch of Zen"(1969/台湾) 監督:キン・フー
 183.『英国に聞け』"Listen to Britain"(1942/英) 監督:ハンフリー・ジェニングス、Stewart McAllister
 183.『怒りの日』"Day of Wrath"(1943/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 183.『シン・レッド・ライン』"The Thin Red Line"(1998/米) 監督:テレンス・マリック
 183.『イレイザーヘッド』"Eraserhead"(1976/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 183.『悪魔のいけにえ』"The Texas Chainsaw Massacre"(1974/米) 監督:トビー・フーパー
 183.『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』"The Discreet Charm Of The Bourgeoisie"(1972/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 183.『カンバセーション...盗聴...』"The Conversation"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 183.『過去を逃れて』"Out of the Past"(1947/米) 監督:ジャック・ターナー
 183.『生まれてはみたけれど』"I Was Born, But..."(1932/日) 監督:小津安二郎
 183.『うずまき』"I Know Where I'm Going!"(1945/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 202."The Death of Mr Lazarescu"(2005/ルーマニア) 監督:Cristi Puiu
 202.『赤い砂漠』"Red Desert"(1964/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 202.『チェルシー・ガールズ』"Chelsea Girls"(1966/米) 監督:アンディー・ウォーホル、ポール・モリセイ
 202.『地獄の逃避行』"Badlands"(1973/米) 監督:テレンス・マリック
 202.『さすらい』"Kings of the Road"(1976/西独) 監督:ヴィム・ヴェンダース
 202.『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』"There Will Be Blood"(2007/米) 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
 202.『ウォーリー』"WALL-E"(2008/米) 監督:アンドリュー・スタントン
 202.『ベルリン・アレクサンダー広場』"Berlin Alexanderplatz"(1980/伊・西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 202.『ヴィデオドローム』"Videodrome"(1983/カナダ) 監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
 202.『ひなぎく』"Daisies"(1966/チェコスロヴァキア) 監督:ヴェラ・ヒティロヴァ
 202.『ブンミおじさんの森』"Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives"(2010/タイ・英・仏・独・西) 監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
 202.『マンハッタン』"Manhattan"(1979/米) 監督:ウディ・アレン
 202.『5時から7時までのクレオ』"Cleo from 5 to 7"(1962/仏) 監督:アニエス・ヴァルダ
 202.『鉄西区』"West of the Tracks"(2002/中・オランダ) 監督:ワン・ビン
 202.『エルミタージュ幻想』"Russian Ark"(2002/ロシア・独) 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
 202.『話の話』"A Tale of Tales"(1979/ソ連) 監督:ユーリ・ノルシュテイン
 202.『千と千尋の神隠し』"Spirited Away"(2001/日) 監督:宮崎駿
 202.『道』"La Strada"(1954/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 202.『戦火のかなた』"Paisà"(1946/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 202.『街角/桃色(ピンク)の店』"The Shop Around the Corner"(1940/米) 監督:エルンスト・ルビッチ
 202.『三つ数えろ』"The Big Sleep"(1946/米) 監督:ハワード・ホークス
 202."Killer of Sheep"(1977/米) 監督:チャールズ・バーネット
 202.『ワンダ』"Wanda"(1970/米) 監督:バーバラ・ローデン
 202.『ドイツ零年』"Germany Year Zero"(1948/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 202.『西鶴一代女』"The Life of Oharu"(1952/日) 監督:溝口健二
 202.『影の軍隊』"Army of Shadows"(1969/仏) 監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
 202.『ソドムの市』"Salo, or The 120 Days of Sodom"(1975/伊・仏) 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
 202.『我輩はカモである』"Duck Soup"(1933/米) 監督:レオ・マッケリー
 202.『たぶん悪魔が』"The Devil Probably"(1977/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 202.『ニーチェの馬』"The Turin Horse"(2011/ハンガリー・仏・スイス・独) 監督:タル・ベーラ
 202.『ラブ・ストリームス』"Love Streams"(1984/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 202.『皆殺しの天使』"The Exterminating Angel"(1962/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 202.『浮雲』"Floating Clouds"(1955/日) 監督:成瀬巳喜男
 235.『ピアノ・レッスン』"The Piano"(1992/オーストラリア) 監督:ジェーン・カンピオン
 235.『風と共に去りぬ』"Gone with the Wind"(1939/米) 監督:ヴィクター・フレミング
 235.『メランコリア』"Melancholia"(2011/デンマーク・スウェーデン・仏・独) 監督:ラース・フォン・トリアー
 235.『あの家は黒い』"The House is Black"(1962/イラン) 監督:フォルーグ・ファッロフザード(Forough Farrokhzad)
 235.『カリガリ博士』"The Cabinet of Dr Caligari"(1919/) 監督:ローベルト・ヴィーネ
 235.『赤い河』"Red River"(1947/米) 監督:ハワード・ホークス、アーサー・ロッスン
 235.『時計じかけのオレンジ』"A Clockwork Orange"(1971/米) 監督:スタンリー・キューブリック
 235.『断絶』"Two-Lane Blacktop"(1971/米) 監督:モンテ・ヘルマン
 235.『秋刀魚の味』"An Autumn Afternoon"(1962/日) 監督:小津安二郎
 235."The Thin Blue Line"(1989/米) 監督:エロール・モリス
 235.『大樹のうた』"The World of Apu"(1958/インド) 監督:サタジット・レイ
 235.『怪人マブゼ博士』"The Testament of Dr Mabuse"(1933/独) 監督:フリッツ・ラング
 235.『荒野の決闘』"My Darling Clementine"(1946/米) 監督:ジョン・フォード
 235.『ふたりのベロニカ』"The Double Life of Veronique"(1991/仏・ポーランド) 監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
 235.『ケス』"Kes"(1969/英) 監督:ケン・ローチ
 235.『トリコロール/赤の愛』"Three Colors Red"(1994/仏・ポーランド) 監督:クシシュトフ・キェシロフス

「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2620】 J・アイヴォリー 「日の名残り
「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「眺めのいい部屋」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「眺めのいい部屋」)「●「ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞」受賞作」の インデックッスへ(「モーリス」)「●「ヴェネツィア国際映画祭 男優賞」受賞作」の インデックッスへ(ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント「モーリス」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(池袋文芸坐2) 「●い カズオ・イシグロ」の インデックッスへ

イギリス映画らしい上品さを保ちつつ、階級間の価値観の対立を抉った「眺めのいい部屋」。

眺めのいい部屋 room_with_view.jpg眺めのいい部屋.jpg モーリス チラシ.jpg ジェームズ・アイヴォリー 「モーリス」.jpg  日の名残り.jpg
「眺めのいい部屋」('86年)チラシ/「眺めのいい部屋 完全版 [DVD]」/「モーリス」('87年)チラシ ヒュー・グラント/ジェームズ・ウィルビー/「日の名残り [DVD]

眺めのいい部屋 A Room with a View.jpg ヒロイン・ルーシー(ヘレナ・ボナム・カーター)は、年配の従姉(マギー・スミス)に付き添われイタリアを旅行する中、フィレンツェの宿で景色の良くない部屋に当たってしまうが、風変わりなエマソン父子と知り合い、眺めいい部屋と交換してもらうことになる。言葉数は少ないが自分の気持ちに正眺めのいい部屋2.jpg直な青年ジョージ・エマソン(ジュリアン・サンズ)はルーシーに恋をし、ピクニック先の草原でルーシーに情熱的なキスをする。従姉によって引き離されるように帰途についたルRoom with a View, A (1986).jpgーシーは、イギリスでの日常生活に戻ると上流階級のインテリのシシル(ダニエル・デイ・ルイス)と婚約をし、彼女にとってジョージとの出来事は旅の思い出に留まるはずだったのが、何とエマソン父子が近所に越してきてしまう―。

 「眺めのいい部屋」('86年/英)は、英国アカデミー賞で作品賞、主演女優(マギー・スミス)、助演女優(ジュディ・デンチ)、衣装デザイン賞、美術の5部門を獲得した作品(ロンドン映画批評家協会賞の作品賞も受賞)。イギリス映画らしい上品さに溢れた映画でありながら、中流に属する女性の恋と結婚を通して、階級間の価値観の対立という構図を抉ってみせています。主人公の婚約者が最上流ということになるのでしょうが、ダニエル・ディ・ルイスがそのスノッブぶりを好演していて、主人公の年配の従姉は上流を気取る中流といったところでしょうか。その年配の従姉を演じるマギー・スミスは、最近はハリー・ポッター・シリーズでお馴染みですが、この頃から今みたいな感じ。一方のヘレナ・ボナム・カーターは、こちらはハリー・ポッター・シリーズに出るようになって魔女づいてすっかりイメージ変わってしまいましたが、彼女の曾祖父は第一次世界大戦開戦時のイギリス首相というマギー・スミス 眺めのいい部屋.jpg「眺めのいい部屋」5.jpgヘレナ・ボナム=カーター ハリー・ポッター.jpg血筋あり、彼女自身ケンブリッジ大学に合格したインテリです。

マギー・スミス in 「眺めのいい部屋」/ヘレナ・ボナム・カーター in 「眺めのいい部屋」「ハリー・ポッターと死の秘宝」

 彼らの対極にいるのが、階級では彼らより下層の自由主義者のエマソン父子で、主人公が、父子の息子への恋を通して、自らを覆っていた欺瞞の皮を1枚ずつ剥いでいく様が、丹念に描かれているように思えました。そんなにストーリー的にインパクトがあるものではないのですが、格調高いセットや衣装と透明感あふれる映像はまさにイギリス映画を見たという感じ、但し、監督のジェームズ・アイヴォリーはアメリカ人、製作のイスマイール・マーチャントはインド人です(米アカデミー賞では脚色賞、衣装賞、美術賞の3部門を受賞)。 

「モーリス」('87年)
Film Stills from Maurice.bmp 原作はE・M・フォースター(1879-1970)の同名小説で、ジェームズ・アイヴォリー監督の作品では、「インドへの道」('84年)、「モーリス」('87年)、「ハワーズ・エンド」('92年)もフォースターの原作ですが、いかにもイギリス映画という感じでありながら、異文化要素が織り込まれており(「モーリス」は、地理的な異文化ではなく、ホモ・セクシュアルという異文化だが)、いずれの作品も複数の文化を相対化する視点のもと、貴族社会(即ち"世俗的なもの")に対する批判や皮肉が込められているように思います(因みに、E・M・フォースター自身ゲイだったそうで、「モーリス」を観ると彼自身がそのことで苦悩したことが窺える)。

 「モーリス」でヒュー・グラントが演じた、ジェームズ・ウィルビー演じる主人公とは対照的な生き方をする若者の演技は絶品でした。人を"その道"に引き摺り込んでおいて、自分は...(ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ヒュー・グラントはジェームズ・ウィルビーと共に同映画祭「男優賞」を受賞)。彼が演じた政治家が現実の誰かと重なったのかどうかは知りませんが、この作品は社会問題にもなったそうです。ヒュー・グラントが「フォー・ウェディング」('94年)のようなロマンティック・コメディに出ているのは、「モーリス」のイメージを払拭するためではないかと思ったぐらいです。 

「日の名残り」('93年)
村上春樹 09.jpgRemains of the Day.gif あの村上春樹も「カズオ・イシグロのような同時代作家を持つこと」を幸せだとインタビューで述べている、そのカズオ・イシグロが原作の「日の名残り」('93年)も含め、ジェームズ・アイヴォリー監督の撮る作品にあまりハズレがないように思われ、「眺めのいい部屋」でのダニエル・ディ・ルイスや「モーリス」でのヒュー・グラント、「日の名残り」でのアンソニー・ホプキンスなど、既に良く知られている役者の使い方も、この監督の手にかかるとまた別な味が出てくるという気がします。

 とりわけ、イギリスの名門家に仕えてきた老執事が自分の半生を回想し、仕事のために犠牲にしてしまった愛を確かめる様を描いた「日の名残り」においては、アンソニー・ホプキンスを老執事に配し、その演技の魅力を大いに引き出していたように思います(この執事を見ていると『葉隠』の"忍ぶ羊たちの沈黙 アンソニー・ホプキンスs.jpg恋"を想起させられる)。尤も、アンソニー・ホプキンス(「羊たちの沈黙」('91年/米)でハンニバル・レクターを演じアカデミー賞主演男優賞を受賞した)という俳優は、「台本至上主義」「台本絶対主義」で知られる役者で、撮影に入る前にはもう台本上の役の人物になり切っているそうですが。

アンソニー・ホプキンス in「羊たちの沈黙」('91年/米)

「眺めのいい部屋」.jpg「眺めのいい部屋」●原題:A ROOM WITH A VIEW●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・眺めのいい部屋 ダニエル・デイ=ルイス.jpgピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:114分●出演:ヘレナ・ボナム・カーター/ジュリアン・サンズ/マギー・スミス/ダニエル・ディ・ルイス/デナム・エリオット●日本公開:1987/07●配給:シネマテン●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「モーリス」(ジェームズ・アイヴォリー)
文芸坐2-1.jpg文芸坐2 (池袋文芸地下) 1988年に「文芸地下」を「文芸坐2」と名称変更。1997(平成9)年3月6日閉館

モーリス.jpg「モーリス」●原題:MAURICE●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚本:キット・ヘスケス・ハーヴェイ/ジェームズ・アイヴォリー●撮影:ピエール・ロム●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:140分●出演:ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント/ルパート・グレイヴス/デンホルム・エリオット/サイモン・カロウ●日本公開:1988/01●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「眺めのいい部屋」(ジェームズ・アイヴォリー)

日の名残り07.jpg「日の名残り」●原題:REMAINS OF THE DAY●制作年:1993年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:マイク・ニコルズ/ジョン・キャリー/イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンス●原作:カズオ・イシグロ 「日の名残り」●時間:134分●出演:アンソニー・ホプキンズ/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ヒュー・グラント●日本公開:1994/03●配給:コロムビア映画(評価:★★★★)

「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1449】 ジョン・フォード 「荒野の決闘
「●バート・ランカスター 出演作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(大井武蔵野館)

世に出るのが早過ぎた(?)エコロジー映画。
ローカル・ヒーロー/夢に生きた男3.jpgローカル・ヒーロー/LOCAL HERO .jpgローカル・ヒーロー夢に生きた男1.jpg ローカル・ヒーロー夢に生きた男2.jpg 
ローカル・ヒーロー 夢に生きた男 [DVD]」「ローカル・ヒーロー [DVD]
バート・ランカスター/ピーター・リガート

ローカル・ヒーローLOCAL HERO.jpg テキサスに本拠を置くアメリカ最大の石油会社のエリート社員マッキンタイヤ(ピーター・リガート)は、石油コンツェルンの会長(バート・ランカスター)から石油コンビナートの土地買収を命じられて、スコットランドの漁村へ派遣されるが、地元住民の反対に合うかと思われた土地買収は、村人の方が「金が入るなら」と意外と積極的で、ところがいよいよ契約という段階で、ベン(フルトン・マッケイ)という入江の小屋に住む老人が所有地を手放すことに強く抵抗していることが判り、交渉が難航し始める―.

local hero 1983 2.jpg 一応はビジネスドラマみたいな体裁で話は進みますが、まさかラストがこうなるとは―。エリート社員マッキンタイヤの趣味は天体観測で、石油コンツェルン会長からは土地買収の交渉状況と併せてスコットランドの星空の模様を電話で知らせることも命じられていたのですが、そしたら、偶然に大流星群を発見することになり、会長はそれを見るため現地へ飛びますが、その前にベン老人との交渉を片付けてしまおうと彼の小屋に寄ることになります。
バート・ランカスター
ビル・フォーサイス 「ローカル・ヒーロー/夢に生きた男」.jpg マッキンタイヤと村人の間で土地買収に向けて親和的基調で話が進むなか、老人との直接交渉のために出向いたバート・ランカスター演じる会長、いかにも強面(こわもて)の石油王と、村の頑固老人の、絶対に「他人の言いなりにはならなさそうな者」同士の一騎打ちの結末はどうなるのか、これは本編を観てのお楽しみといったところでしょうか。

LOCAL HERO3.jpg 英国風ユーモア、スコットランド美しい自然と純朴な人々、心地良い音楽―振り返ればどれもが旨く調和していて、しかも最後に観る側を満たされた気分にしてくれる作品だったと思うのですが、ロードの際もロード終了後も一部でしか評判にならなかったのは、ビジネスドラマなのか、ある種のメルヘンなのか、規定の仕様が無かったという面があるためではないでしょうか(誰をターゲットに告知してよいのかが難しい)。今ならば、「エコロジー映画」ということでドーンと打ち出せるのだろうけれども...。そうした意味では、ちょっと世に出るのが早過ぎた作品です。

「大井武蔵野館」ぼうすの小部屋 - おでかけ写真展より/大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館
大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館2.jpg大井武蔵野館.jpg「ローカル・ヒーロー/夢に生きた男」●原題:LOCAL HERO●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督・脚本:ビル・フォーサイス●製作:デイヴィッド・パトナム●撮影:クリス・メンゲス●音楽:マーク・ノップラー●時LOCAL HERO 1983.jpg間:112分●出演:バート・ランカスター/ピーター・リガート/デニス・ローソン/ピータ大井武蔵野館 閉館日.jpgー・キャパルディ/フルトン・マッケイ/ジェニー・シーグローヴ/ノーマン・チャンサー/クリス・ロジツキー●日本公開:1986/04●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:大井武蔵野館 (87-11-03)(評価:★★★★☆)●併映:注目すべき人々との出会い」(ピーター・ブルック)
大井武蔵野館 時代屋の女房.jpg大井武蔵野館 閉館日(1999(平成11)年1月31日)

大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)
大井武蔵野館・大井ロマン.jpg

「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2538】ガイ・ハミルトン 「地中海殺人事件
「●「トロント国際映画祭 観客賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(新宿プラザ劇場)

スティーブ・オベット、セバスチャン・コー、ジョナサン・エドワーズなどを想起させられた。

炎のランナー1.jpg 「炎のランナー[DVD]」 炎のランナー0.jpg

炎のランナー.jpg 裕福な家庭の出ではあるがユダヤの血をひくために差別と偏見を受け、走ることによって栄光を獲て真のイギリス人になろうとするハロルド・エイブラハムスと、スコットランド人宣教師の家に生まれ、自身も神のために走る宣教師であるエリック・リデルという、1924年のパリ・オリンピックで祖国イギリスに金メダルをもたらした2人の陸上短距離ランナーの友情を描く―。

『炎のランナー』(1981).jpg 米アカデミー賞と英国アカデミー賞の両方で作品賞を受賞した作品(トロント国際映画祭の最高賞である「観客賞」、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞「作品賞」、ゴールデングローブ賞外国映画賞、ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」なども受賞)。ヴァンゲリス・O・パパサナシュー(最近は"ヴァンゲリス"としか表記しないがギリシャ人)作曲の「タイトルズ(Chariots of Fire)」が陸上競技の美しい映像にマッチして耳にも心地良く、スポ根・ライバル物でもイギリス人が撮るとこんなに優雅なものになるのかと。

 冒頭のランナー達が浜辺を走るシーンなどは音楽効果も相俟って陶然とするほど美しく、さらにはまた、芝の庭に並べたハードル1台1台の上にシャンパンを満たしたグラスをいくつも並べてそれを飛び越えていく、そんな練習風景のシーンには、うっとりする前に唖然としてしまいまいましたが、でもやはり美しかった―。


     
Steve Ovett & Sebastian Coe in the 1980 Moscow Olympics.jpg 実在の2人の陸上選手がモデルになっているそうですが、映画公開当時は、70年代から80年代にかけて活躍したイギリスの陸上選手スティーブ・オベットセバスチャン・コーをすぐに想起しました。'80年のモスクワ五輪でオベットはコーの得意とする800mで、コーはオベットの得意とする1500mでそれぞれ金メダルを獲っていますが(コーは4年後のロス五輪でも金)、2種目でメダルをわけ合った点も似ているし、コーが優等生タイプでオベットがコーの敵役と見られていた点も似ています。
Steve Ovett & Sebastian Coe in the 1980 Moscow Olympics

ジョナサン・エドワーズ.jpg オリンピックの100m競技が日曜日に行われることになっていたのを、リデルが"安息日"であるためとして出場を拒否し、代わりに走ったエイブラハムスが出場し金メダルを獲得したというのは史実であり、このことは、より近年の話ですが、三段跳びの'00年シドニー五輪の金メダリストで、現世界記録保持者であるジョナサン・エドワーズ(彼も敬虔なクリスチャンだが)が、'91年の世界陸上東京大会で、競技日が日曜日だったため「神の定めた安息日に競技を行うことはできない」として欠場したことを想起させます(その後、彼は考えを変えたが)。アメリカの陸上選手は黒人ばかり。一方イギリスは、陸上スポーツの世界にも、こうしたエスタブリッシュな伝統が受け継がれているのだなあと。
Jonathan Edwards

 リデルは後に宣教師として家族とともに中国に渡り、満州事変の後も1人滞在しましたが、日本軍に拘留され、収容所で病のため亡くなっています(このことは映画の最後でもテロップ紹介されていて、彼の死に際してはイギリス全土が喪に服したとのこと)。スポーツの"中"の世界は同じでも、"外"の世界(時代背景)はやはり違う。

 因みに、この作品を観た「新宿プラザ劇場」は1,044席の大型劇場でしたが、昨年(´08年)11月に閉館し、それにより都内で座席数1,000以上の劇場は、同じ歌舞伎町の「新宿ミラノ1」だけとなりました。2014年閉館

【オープン順】
  旧「日本劇場」 1933年オープン時 2,063席 → 1981年閉館
 「日比谷映画劇場」1934年オープン時 1,680席 → 1984年閉館
 「渋谷東宝」(東横映画劇場)1936年オープン時 1,401席 → 1989年閉館(閉館時1,026席)
  旧「有楽座」  1949年~ロード館 1,572席 → 1984年閉館
 「松竹セントラル」1952年オープン時 1,156席 → 1999年閉館
 「テアトル東京」 1955年オープン時 1,248席 → 1981年閉館
 「日比谷スカラ座」1955年オープン時 1,197席 → 1998年閉館
 「新宿ミラノ座」 1956年オープン時 1,288席 → 2006年「新宿ミラノ1」に改修 1,064席 → 2014年閉館
 「渋谷パンテオン」1956年オープン時 1,119席 → 2003年閉館
 「新宿ピカデリー」1962年オープン時 1,044席 → 2001年「ピカデリー1」に改修 820席 → 2006年閉館
 「新宿プラザ劇場」1969年オープン時 1,119席 → 2008年閉館(閉館時1,044席)
 「日本劇場」   1984年オープン時 1,008席 → 2002年「日劇1」に改修 948席 → 2018年閉館

「炎のランナー」●原題:CHARIOTS OF FIRE●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:ヒュー・ハドソン●製作:デヴィッド・パットナム●製作指揮:ドディ・フェイド●脚本:コリン・ウェランド●撮影:デヴィッド・ワトキン●音楽:ヴァンゲリス●時間:123分●出演:ベン・クロス/イアン・チャールソン/イアン・ホルム/コリン・ウェランド/ナイジェル・ヘイバース/アリス・クリーグ/シェリル・キャンベル/ニコラス・ファレル/ナイジェル・ヘイヴァース /ジョン・ギールグッド●日本公開:1982/08●配新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場 タイタニック.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg新宿プラザ劇場内.jpg給:コロムビア映画●最初に観た場所:新宿プラザ(82-08-28)●2回目:新宿プラザ(82-08-28)(評価:★★★★)

歌舞伎町・新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、コマ劇場隣り (1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館

新宿コマ劇場前「シネシティMAP」
新宿「シネシティMAP」.jpg

2012年ロンドン・オリンピック開会式/「ミスター・ビーン」ことローワン・アトキンソンによるパロディ

「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3208】フレデリック・ワイズマン 「パリ・オペラ座のすべて
「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

60年代英国若者文化を描出。主人公は死んだのか(邦題に解釈が込められている?)

さらば青春の光2.jpg さらば青春の光 チラシ.jpg ポスター/パンフ さらば青春の光1.jpgさらば青春の光 [DVD]

QUADROPHENIA 2.gif QUADROPHENIA.bmp 細身のアイビー・スーツにネクタイを締め、米軍放出のロング・コートを無造作に羽織る"モッズ"ファッションに固執する若者グループ―広告代理店のメールボーイをしているジミーもその1人で、会社がひけると、"モッズ"の溜り場のクラブへスクーターで駆けつける日常だが、そこでは、"モッズ"の対立グループである、革ジャン・リーゼントで大型バイクを乗り回す"ロッカーズ"との間での決着をつけるべく、近々果し合いがあるとの話が―。

Quadrophenia, the definitive fashion guide for mod culture.jpg  "モッズ"とは、ロンドン近辺で60年代に流行した音楽やファッションをベースとした若者文化で、そのライフスタイルは、例えば、夜はファッションを決めて派手なデコレーションをしたスクーターで移動し、自家調合のドラッグを服用し、女の子と夜を徹してクラブで踊り明かすというようなもので、この映画のタイトル(QUADROPHENIA)は、ロックグループ"ザ・フー"が'73年に発表したアルバム「四重人格」からとっていますが(ザ・フーの曲がふんだんに使われている)、物語の背景には、'64年に実際に起きた「ブライトンの暴動」と呼ばれる、"モッズ"対"ロッカーズ"の大掛かりな言わば集団のケンカ騒ぎがモデルとしてあります。

Quadrophenia.net より1.jpgQUADROPHENIA sting.jpg 実際、この暴動騒ぎの場面はリテイクの効かない合戦シーンのようなシークエンスで撮られていてなかなかの迫力ですが、"モッズ"は主人公にしても「さやえんどう」みたいにひょろっとした感じの青年で、1対1だと"ロッカーズ"の方が強そうだけれども、集団で束になって相手に向かっていくという感じです。但し、そうした中にあって、スティング演じるリーダーのエースは別格の存在感があり、かなりカッコいい(スティングはこれが映画初出演)。

Quadrophenia3.gif 暴動騒ぎに加わったことが親に知れ、家族からも見離されてドラックに溺れる主人公は、後日偶然に、今日まで長く憧憬の対象であったエースを見つけますが、それは郷里のホテルのドアマンとしてポーターのユフォームを纏ったものだった―(ああ、ショック。ボーイ姿のスティング)。

Quadrophenia.net より.jpgさらば青春の光』(1979) 2.jpg エースの派手なスクーターを見つけ出したジミーは、それを駆ってブライトンの海岸を疾走し(この場面のカメラが美しい)、やがて岬の先端の絶壁へ。

さらば青春の光』(1979).jpg 空中に舞うヴェスパは、何を意味するのでしょうか。最初早とちりして、ああ、ジミー君よ、死んじゃったのかあ、と思ったけれども、そいうことではないらしいです。崖から落ちたのはスクーターのみでした。彼の心の中で、かつての憧憬の的であったエースを葬る儀式だったのでしょう。邦題にはちょっとクサさもありますが、その辺りの解釈も含んでのことなのかも。

ラストシーンに使われたイングランド南部イースト・サセックス州セブン・シスターズ(「ホワイト・クリフの断崖」)
ホワイトクリフ.jpg

QUADROPHENIA 1979.jpg 「さらば青春の光」●原題:QUADROPHENIA●制作年:1979年●制作国:イギリス●監督:フランク・ロダム●製作:ロイ・ベアード/ビル・カービシュリー●製作総指揮:デイヴィッド・ギデオン・トムソン●脚本:デイヴ・ハンフェリーズ/マーティン・スチルマン/フランク・ロダム●撮影:ブライアン・テュファノ●音楽:ザ・フー(ロジャー・ダルトリー/ジョン・エントウィッスル/ピート・タウンゼンド)●時間:111分●出演:フィル・ダニエルス/レスリー・アッシュ/スティング/フィリップ・デイヴィス/マーク・ウィンゲット●日本公開:1979/11●配給:松竹富パール座2.jpgパール座1.jpg士●最初に観た場所:高田馬場パール座(83-02-27)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(93-05-12)(評価:★★★☆)●併映:(1回目)「カリフォルニア・ドリーミング」(ジョン・ハンコック)

「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2438】 ジャン=ポール・ル・シャノワ 「レ・ミゼラブル
「●「フランス映画批評家協会賞(ジョルジュ・メリエス賞)」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

女を憎むことができない男の純情が切ない。

MONSIEUR HIRE.jpg仕立て屋の恋0.jpg 仕立て屋の恋.jpg Patrice Leconte.jpg Patrice Leconte
仕立て屋の恋 [DVD]」「仕立て屋の恋 [DVD]

仕立て屋の恋2.jpg ある青年が殺害される事件が起き、以前に強制わいせつ罪で捕まったことのある仕立て屋の中年男イール(ミシェル・ブラン)が疑われる。イールは極端に几帳面で人嫌いな性格だった。彼は、向かいに住むアリス(サンドリーヌ・ボネール)という美しい女性に恋い焦がれていたが、彼女にエミール(リュック・テュイリエ)という恋人がいることを知っていた。イールは、彼女に言い寄るわけでもなく、彼女の生活を夜毎、自分の部屋から覗き見するのを生きがいとしていた。そしてイールは、エミールが殺人事件の真犯人であり、アリスがその隠蔽工作をしたことも知っていた―。

Monsieur Hire(1989).jpg仕立て屋の恋35.jpg パトリス・ルコント監督が「髪結いの亭主」('90年/仏)の前年に撮った作品で、フランス映画批評家協会賞のジョルジュ・メリエス賞(その年の最高のフランス映画に贈られる賞)受賞作。日本での公開は「髪結いの亭主」の方が先でした。「メグレ警部シリーズ」のジョルジュ・シムノンが原作(「イール氏の犯罪」)ですが、推理モノというよりは恋愛モノという印象の方が強かったです。
Monsieur Hire(1989)

仕立て屋の恋3.bmp 最初のうちは、ハゲで根暗で孤独な独身中年男であるイール氏にあまり感情移入できなかったけれども、終わりの方ではかなり入り込んでしまって、最後、女を憎むことができない男の純情が何だか切なかったなあ。

 イール氏は元来、所謂"脳内恋愛"を至上とするタイプで、その行動は"ストーカー"的でもあったかとのですが、その対象物である"理想の彼女"の方から自分の所へ来てしまったわけです(彼女がイール氏を好いたわけではなく、自分が犯人であることを彼が知っているかどうか探りを入れにきたのだが)。

仕立て屋の恋1.jpg そこから彼の恋愛観は変わってしまい、"脳内恋愛"から本当の恋愛になってしまって、そのことが最終的に彼に悲劇をもたらすわけで、但し、彼はその体験を悔いておらず、その「潔さ」がいいです(常識的には"愚かしさ"ともとれるものだが)。

仕立て屋の恋2.jpg "オタク道"から見れば、仮想現実から一歩踏み出したところに彼の誤りがあったとも言えるのかも知れませんが、イール氏は本質的には"オタク"でも"ストーカー"でもなかったということになるのかも知れません。悲劇的な話の中にも、イール氏の自己発見と、それに基づく信念が貫かれている点での救いがありました。

 イール氏を演じるミシェル・ブランの演技もさることながら、ドニ・ルノワールのカメラ、マイケル・ナイマンのクラシックを織り込んだ音楽も良く、特に前半はフランス映画らしいフランス映画という感じ。

 フランス映画でも最近はアメリカのテレビドラマみたいな作品が多くなり、'80年代から'90年代にかけてはまだ、この作品や、ジャン=ジャック・ベネックス監督の「ディーバ」('81年)、リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」('88年)、レオス・カラックス監督の「ポンヌフの恋人」('91年)などもあったことはあったけれども、最近はこの類の映画はあっても映画祭での上映に止まり、あまりロードにかからないし、なかなかDVD化もされないような気がします。

サンドリーヌ・ボネール/ミシェル・ブラン in「仕立て屋の恋」

仕立て屋の恋02.jpg仕立て屋の恋 シネスク.jpg 「仕立て屋の恋」●原題:MONSIEUR HIRE●制作年:1989年●制作国:フランス●監督:パトリス・ルコント●製作:フィリップ・カルカッソンヌ/ルネ・クレトマン●脚本:パトリス・ルコント/パトリック・ドヴォルフ●撮影:ドニ・ルノワール●音楽:マイケル・ナイマン●原作:ジョルジュ・シムノン 「イール氏の犯罪」●時間:80分●出演:ミシェル・ブラン/サンドリーヌ・ボネール/リュック・テュイリエ/アンドレ・ウィルムス/フィリップ・ドルモワ●日本公開:1992/07●配給:デラ・コーポレーション(評価:★★★★)
「シネマスクエアマガジンNo.98」 

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the 外国映画 80年代 category.

外国映画 70年代 is the previous category.

外国映画 90年代 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1