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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「松本清張作家活動40年記念・迷走地図」)
国会議員秘書の生態を通して、駆け引きに没頭する永田町の「政界」を描く。


『迷走地図 上』『迷走地図 (1983年)』['83年]/『迷走地図 上 (新潮文庫 ま 1-52)』『迷走地図 下 (新潮文庫 ま 1-53) 』['86年]
映画「迷走地図」('83年/松竹)/ドラマ「迷走地図」('92年/TBS)

国会議員から院内紙記者に至るまで、多種多様な人種が、利権・利得を求めて蠢く永田町界隈。与党・政憲党内では、最大派閥の領袖で現総裁の桂重信から、第2派閥である寺西派の領袖・寺西正毅への政権禅譲が噂されていた。党内の政策集団「革新クラブ」のホープと目され、女性ファンも多い二世議員の川村正明は、パーティ中の演説で、「老害よ、即刻に去れ」と政権のたらい回しを痛烈に批判する。しかしスピーチの台本は、川村の私設秘書・鍋屋健三が、政治家の著書の代作屋の土井信行に注文して作らせたものであった。女性問題の発覚を切り抜けた川村は、パーティに顔を見せた高級クラブ「オリベ」のママ・織部佐登子に目をつけ、フランス製の高級ハンドバッグを餌に攻略を狙う。しかし、知られざる使命を帯びていた佐登子は、寺西正毅の邸宅で、寺西夫人・文子と秘書・外浦卓郎の介在する中、川村の贈ったハンドバッグを使い、大金を受領していた。その後、外浦は寺西の秘書を辞し、大学の後輩である土井に貸金庫のキーを託し、南米・チリへ去ったが―。
松本清張の「朝日新聞」に1982年2月から 1983年5月まで連載され長編小説(1983年8月に新潮社から単行本刊行)。貸金庫に隠された物の正体は何か?事件の背後にある政界関係者の思惑は? 議員秘書など主に裏方の視点から、永田町に棲む人々の生態を描いた"ポリティカル・フィクション"(Wikipedia)です。
作者自身は「いわゆる政治小説ではない」と朝日新聞('83年5月12日)で述べています。政治小説ではないからモデルもいないということで、登場する保守党のリーダーの名前が桂重信(桂太郎と大隈重信の合成)、板倉退助(板垣退助のもじり)などとなっています。描きたかったのは、国会議員の秘書の生態であるとのこと。ただし、読者に訴えたかったのは、政党間や政治家同士の駆け引きに没頭する永田町の「政界」は、いったい日本の政治をどこへ持っていこうとしているのかということであり、国民のためを思う真剣さがあるのかという問いがテーマであるとのことです。であるため、広い意味ではやはり政治小説ということになるのではないでしょうか。
ただし、政治ミステリーまでは言えず、結末も(匂わせてはいるが)それほどはっきりしていません。そのため、カタルシス効果は弱いかもしれませんが、作者は、話にオチをつけるよりは、こうしたことが延々と繰り返されていくということを言いたかったのではないかと思います。

野村芳太郎監督、勝新太郎主演で映画化されましたが(「迷走地図」('83年/松竹))、原作者の松本清張はこの映画を気に入らず、この作品に限っては、清張の原作と野村芳太郎の映画の「方向性」が、全く噛みあわなかったと言われ、以後、清張と野村芳太郎の関係は疎遠となったとのこと。このため、'92年に松本清張の作家活動40年記念としてTBSでテレビドラマ化されることになった際には、担当の市川哲夫プロデューサーは清張の意向を受け入れ、作家本人が納得する作品を仕上げたとのことです。
個人的には、映画もそれほど原作を外れているようには思いませんでしたが、テレビも同様でした(清張が気に入らなかったのは。あらすじ云々より映画における人物の描き方か?)。映画で渡瀬恒彦が演じた寺西の秘書・外浦を、TBSの元ニュースキャスターでラジオパーソナリティの森本毅郎が演じ、勝新太郎が演じた寺西を二谷英明が、岩下志麻が演じたその妻を若尾文子が、寺尾聡が演じた代作屋の土井を世良公則が、松坂慶子が演じた「オリベ」のママを小柳ルミ子が演じています(ドラマは若尾文子が主演のようだ)。
映画が寺西役の勝新太郎を主演に据えながらも、渡瀬恒彦演じる秘書・外浦に視点を置きつつ、全体としては群像劇の色合いが濃かったのに対し、ドラマの方は、クレジット上の主役は若尾文子ですが、実際の物語は映画同様、森本毅郎が演じるの秘書・外浦を中心に展開し、やはり群像劇の様相を呈しています(資金貸しの望月稲右衛門を演じた若山富三郎は、放送の3日後に62歳で亡くなり、本作が遺作となった)。
細かいことを言えば、原作における寺西夫人・文子のラブレターがドラマで画カセット録音に置き換えられているほか、その恋の相手である外浦卓郎はチリではなく経由地のロサンゼルスで事故死(現地ロケしている)、その遺志を継いだ土井信行を葬った黒幕が、原作では寺西派の手先ではなく、さらに上手の黒幕がいたことを匂わせていますが、ドラマではそこまでは捻っていません。
ドラマを観て、映画のどの部分を原作者が気に入らなかったのか分からなかったので、もう一度、映画を観直してみようと思いましたが、ドラマの方は、ビデオ化されたもののDVD化はされなかったのに対し、映画の方はソフト化さえされていない状況です。それが池袋の新文芸坐で掛かるということで観にいきました(次エントリー)。
「松本清張作家活動40年記念・迷走地図」●演出:坂崎彰●プロデュー:市川哲夫●脚本:重森孝子●音楽:大野克夫●原作:松本清張●出演:若尾文子/森本毅郎/木内みどり/内田朝雄/世良公則/久米明/小柳ルミ子/山内明/若山富三郎/有森也実/目黒祐樹/佐野浅夫/村上里佳子/戸浦六宏/上田耕一/井上昭文/角野卓造/島田正吾/石堂淑朗/二谷英明/(ナレーション)鈴木瑞穂●放映:1992/03/30(全1回)●放送局:TBS(「月曜ドラマスペシャル」枠)
若尾文子(寺西の妻)/木内みどり(外浦の妻)
⦅ドラマの詳しいあらすじ⦆
今から約10年前のこと、一人の元過激派の男が殺された。時を同じくして内閣改造が与党・政憲党の内部抗争を経て行われていた。その時点から遡ること3ヶ月。次期総理が有力視されている寺西正毅(二谷英明)の邸宅では早朝から派閥の有力代議士達が集まり、政権取りの秘策を錬っていた。現総理・桂重信(内田朝雄)を速やかにその座から引き下ろすために話し合い、その実行者は寺西の懐刀・外浦卓郎(森本毅郎)と決められた。外浦は東大卒の敏腕な新聞記者上がりのキレ者で、寺西夫人・文子(若尾文子)の信任も厚かった。その外浦の仕掛けた桂派の金権スキャンダル記事で、永田町は騒然となる。永田町のアダムスホテルには様々な政治業界の人間が集まっている。元東大全共闘出身で、政治家のゴースト・ライターをしている土井信行(世良公則)も、そこに事務所を構えていた。その彼と外浦は先輩後輩関にあり、政治家のパーティーで久しぶりに再会して心を通じ合う。外浦が桂派の罠に嵌って主人の寺西の不興を買い、チリに長期出張を命ぜられることになった時、土井は彼からある依頼を受ける。それは外浦所有の秘書貸金庫の管理であった。間もなく外浦はロサンゼルス経由でチリへ飛び立つが、ロスから外浦が交通事故で急死したという急報が飛び込む。土井は衝撃を受け、貸金庫の鍵を開ける。そこにあったものは、次期政権を狙う寺西正毅の夫人・文子との情事を記録した秘密録音テープであった。外浦は「それを君がどう利用しても良い」という遺言を残していた。その頃、政憲党内部の対立抗争はますます激化し、寺西派は京都の謎の高利貸し(若山富三郎)に20億の献金を依頼。その使者は財界の大物・石井庫造(久米明)とその愛人・銀座の高級クラブのママ佐登子(小柳ルミ子)であった。土井が抱え込んだ秘密テープの存在はやがて寺西派のNo.2で警察OBの政治家・三原伝六(山内明)の知るところとなり、土井は公安関係者の標的となる。そしてある夜、遂に権力の怒りの制裁が加えられる―。
【1986年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

東京のZ大学に勤務する考古学者・江村宗三は、愛媛県松山の洋品店主の妻である西田美奈子と不倫関係になっていた。14年前、美奈子は宗三の兄嫁であった。美奈子の現在の夫・慶太郎は不能な老人となって久しい。落ち合った宗三と美奈子は、広島県の尾道で宿泊したが、火の点いた美奈子は、自分が松山の家を出ることを主張し始める。スキャンダルで考古学会から葬られることを恐れる宗三。有馬温泉に移ると、美奈子は宗三に妊娠を告げる。「もう松山には戻れないわ。あなたなしには生きてゆかれなくなったわ」と、宗三の子を産むと宣言、それは宗三の学界からの追放を意味し、絶望に落ちた宗三は美奈子の殺害を計画するが―。(「内海の輪」)
'71年に斎藤耕一監督により映画化されており、主演の岩下志麻は、「お話があって早速読みましたが推理小説というより愛のドラマのように感じました。女のサガとでもいいましょうか、女の愛の一つのタイプのもので一生懸命演じてみたいと思います」と話したというから、自分と同じ印象を持ったということか。
映画の出来について淀川長治は、「岩下志麻はもはやカトリーヌ・ドヌーブ級のうまさ。問題は青年のエゴと弱さをさらけだす宗三役の中尾彬。これが弱さのかげをもっと深く見せねばならなかった。難役ゆえに惜しい」「しかし日本映画もこれほど上等になってきた」などと評しましたが、前半は個人的にも同意見です。
原作では場面的には登場しない、美奈子の不能夫を三國連太郎が演じており、冒頭から岩下志麻との濡れ場シーンがあったり(しかもその夫と女中の関係も描かれる)、倒叙型で先に女性の死体が見つかった場面があったりと(しかも原作のように白骨死体で見つかるのは別の事件の話になっている)、ところどころ部分的に原作を変えていますが、岩下志麻の演技力でぐいぐい引っ張っていく感じでした(そっか、物語の主人公役は中尾彬だが、主演は完全に岩下志麻だった)。
ところが、女が男の自分への殺意に気づき、最後は誤って自ら断崖から足を滑らせ...と、ここで原作と大きく異なってしまい、これって事故であり、原作の殺人事件にならないじゃないかと。男の殺意も実行に移さなければ女の思い込みともとれるし、逃げるのが得策ではなかったのにその場から逃げてしまった男は、「殺人」の嫌疑はかけられても仕方がないですが、実情は「死体遺棄」といったところでしょうか。男の出世にも関係する、原作の石器の発見の話も端折られていて、原作者は何も言わなかったのかなあ(脚本家はクレームをつけたらしい)。
これまで、'82年のTBS「ザ・サスペンス」の〈滝田栄・宇津宮雅代版〉と、2001年の日本テレビ「火曜サスペンス劇場」の〈中村雅俊・十朱幸代版〉の2度テレビドラマ化されていて、〈中村雅俊・十朱幸代版〉を観ましたが、こちらの方が映画よりずっと原作に忠実でした。女は不倫旅行のるんるん気分の内に殺害されるし、男には明確な殺意がありました(あくまで中村雅俊が主演)。死体は白骨死体で見つかり、その付近での石器の発見の話も活かされていました。ラストの犯行の決め手になる小道具だけが、ボタンからメガネに変更されていましたが、これなら、タクシー運転手の証言を借りずとも男が犯人であることが立証でき、完璧と言えるかと思います。


「内海の輪」●制作年:1971年●監督:斎藤耕一●製作:三嶋与四治●脚本:山田信夫/宮内婦貴子●撮影:竹村博●音楽:服部克久●原作:松本清張「内海の輪」●時間:103分●出演:岩下志麻/中尾彬/三國連太郎/滝沢修/富永美沙子/入川保則/水上竜子/加藤嘉/北城真記子/赤座美代子/夏八木勲/高木信夫/高原駿雄●公開:1971/02●配給:松竹●最初に観た場所:池袋・新文芸坐(24-07-23)(評価:★★☆)<.font>


子/
講談社学術文庫版の新版で、今年['25年]のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の主人公・蔦屋重三郎(1750-1797/47歳没)について、日本美術史と出版文化の研究者が解説したものです。'88年に日本経済新聞社から刊行され「サントリー学芸賞(芸術・文学部門)」を受賞(著者は当時、東京都美術館学芸員)、'02年に講談社学術文庫として刊行され、今回のドラマ化を機に、巻末に池田芙美氏(サントリー美術館学芸員)の解説を加えて「新版」として刊行されました。
当時の社会を背景に(江戸時代という平和なイメージがあるが、浅間山の噴火と大飢饉、田沼意次と松平定信の抗争など色々あった)、蔦屋重三郎と作家、画家、版元仲間らの様々の人間模様を描き、天明・寛政期に戯作文芸や浮世絵の黄金期を創出した奇才の波瀾の生涯を文化史的・社会史的に捉えた本であり、「単なる出版「業者」ではない「江戸芸術の演出者」としての蔦重の歴史的役割を明らかにしてみせた」(高階秀爾「サントリー学芸賞」選評)との評価を受け、今もって蔦屋重三郎を知るための「必読の定番書」とされている本です。
最初、新吉原大門(しんよしわらおおもん)前で書店「耕書堂(こうしょどう)」を創業しますが、"吉原外交"を駆使するなどして作家のパトロンとなり、事業拡大に合わせて当時有名版元が軒を連ねていた日本橋通油町(とおりあぶらちょう(現・日本橋大伝馬町))に進出、"黄表紙出版で興隆するも、政治風刺の筆禍事件で身上半減の処分を受けたりもしています。
それにしても、最初のベストセラーは、〈吉原ガイド〉だったわけだなあ。別冊太陽版の方は、なぜか当時の吉原についての解説にかなり重点が置かれて、詳しく解説されています(「遊女の一日」とか)。だだ、講談社学術文庫版では細かすぎる吉原細見などが大きな図版で見ることができるのは有難いです。
監修は、近世書籍文学史が専門で、講談社学術文庫版にもしばしばその著書からの引用のある中央大学の鈴木俊幸教授(大河ドラマ「べらぼう」の版元考証もしており、一般読者に分かりやすく各書き下ろした『蔦屋重三郎』('24年/平凡社新書)という入門書もある)、また、蔦屋重三郎の人的ネットワークについては、『別冊太陽 蔦屋重三郎の仕事』('95年)掲載の法政大学の田中優子教授(現総長)の原稿「蔦屋重三郎のネットワーク」が再掲載されています。それとは別に、蔦屋重三郎に関係する主要人物10名ほどの解説があり、巻末には歌麿、写楽の解説と大判の浮世絵作品もあって、これはこれで、吉原や蔦屋重三郎が関係した人物・作品について知ることができるものとなっています。

「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」●脚本:森下佳子●演出:大原拓/深川貴志/小谷高義/新田真三/大嶋慧介●時代考証:山村竜也●版元考証:鈴木俊幸●音楽:ジョン・グ
ラム●出演:横浜流星/高橋克実/飯島直子/中村蒼/六平直政/水沢林太郎/渡邉斗翔/小芝風花/正名僕蔵/水野美紀/小野花梨/久保田紗友/珠城りょう/安達祐実/山路和弘/伊藤淳史/山村紅葉/かたせ梨乃/愛希れいか/
中島瑠菜/東野絢香/里見浩太朗/片岡愛之助/三浦りょう太/徳井優/風間俊介/西村まさ彦/芹澤興人/安田顕/井之脇海/木村了/市原隼人/尾美としのり/前野朋哉/橋本淳/鉄拳/冨永愛/真島秀和/奥智哉/高梨臨/生田斗真/寺田心/花總まり/映美くらら/渡辺謙/宮沢氷魚/中村隼人/原田泰造/吉沢悠/石坂浩二/相島一之/矢本悠馬/綾瀬はるか●放映:2024/01~2024/12(全50回)●放送局:NHK






2012年・第10回「開高健ノンフィクション賞」受賞作。
●2024年ドラマ化【感想】脚本はエピソード的にはオリジナルで、フィリピンなどでの海外ロケも含め、かなりしっかり作られている感じ。やや、泣かせっぽい感じもあり、一方でコミカルな要素も加わっているが、
テレビドラマにするなら、こうした味付けも必要なのかも。米倉涼子が主演で、(エンバーミングの)施術シーンがあり、遠藤憲一まで出ているので、ついつい「ドクターX」を想起してしまい、米倉涼子の演技にも当初それっぽいものを感じた。ただ、「ドク
ターX」と異なるのは、米倉涼子が
泣く場面が多いことで、彼女自身の後日談によれば、脚本上泣かなくてもよいシーンでも涙が出てきたとのこと。それは他の俳優陣も同様のようで、それだけ脚本が上手くできていたということにもなるのだろう。反響が当初の予想以上に大きいことを受け、続編の製作が決まったと聞く。
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」●脚本:古沢良太/香坂隆史●監督:堀切園健太郎●音楽:遠藤浩二●原作:佐々涼子●時間:49分●出演:米倉涼子/松本穂香/城田優/矢本悠馬/野呂佳代/織山尚大(少年忍者・ジャニーズJr.)/鎌田英怜奈/徳井優/草刈民代/向井理/遠藤憲一●放映:2024/03~07(全6回)●放送局:NHK-BSプレミアム4K/NHK BS(2023年3月17日からAmazon Prime Videoで配信)
第1話「スラムに散った夢」(葉山奨之・麻生祐未)

佐々涼子(ささ・りょうこ)


本作は'96(平成8)年4月15日から 6月24日、テレビ朝日系「月曜ドラマ・イン」枠で「イグアナの娘」として菅野美穂主演で放送されました(全11話)。初回視聴率7.9%と低調だったのが、最終回には番組最高視聴率となった19.4%を記録しており、初回と最終回の視聴率の差が2.45倍と2倍以上を記録した20世紀最後のテレビドラマになったとのことです(一部で話題になっているから取り敢えず観てみたら、意外と面白かったということか)。
ドラマでは、青島ゆりこ(川島なお美)は実はイグアナ姫で、人間に恋して魔法使いに人間の姿にしてもらったというのは原作と同じですが、なぜ人間に恋したかというと、夫の正則(草刈正雄)がガラパゴス諸島に訪れた際に命を救ったウミイグアナが彼女だったという説明がされていました。原作にはその部分の説明が無く、イグアナ姫がいきなり魔法使いを訪ねて、「人間の王子様」に恋してしまったので人間の女の子にしてほしいとお願いするところから始まります。何故だろう。謎解き的要素を持たせたのか? それにしては、正則がガラパゴスに行ったり、ウミイグアナを救ったりする場面は原作マンがでは最後まで無かったなあ。






松本清張の、1959年2月刊行の短編集『危険な斜面』収録作6編を所収。もう少しで完全犯罪が成立しそうだったり、事件が迷宮入りになったままで終わりそうだったりしたのが、偶然の事実やある人物の洞察によって、その壁が崩れ、事実が見えてきたといった展開のものをはじめ(「急な斜面」「投影」)、6編とも「意外な結末」という意味では共通していて、さすがに上手いなあと思いました。
「危険な斜面」(1959.2 オール読物)
「男というものは、絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて、上にのぼっていくか、下に転落するかである」という一文が響く。秋場文作が用いたのは、超有名作「
「二階」(1958.1婦人朝日)
「婦人朝日」1958年1月号に掲載。坪川裕子という女性がこの家にやってきたのは偶然で、英二とどうだったかとうのも最後に明かされるが、二階で起きていることは何となく見当がつく。最後は妻のプライド、凄まじきかな、という感じ。'77年のTBS「東芝日曜劇場」のドラマ版は、若い妻が十朱幸代(1942年生まれ)なのに対して看護婦が10歳年上の渡辺美佐子(1932年生まれ)が演じて、その年齢差が逆にリアリティを醸していた。登場人物がほぼ3人きりの約45分のスタジオ収録ドラマだが、緊迫感があったように思う(視聴率21.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))。
「失敗」(1958 新春号・別冊週刊サンケイ)
「投影」(1957.7読売倶楽部)
この短篇集に収録されている作品はすべてテレビドラマ化されていますが、その中でも表題作の「危険な斜面」が8回と多く(「投影」もいい作品だと思うが、ドラマ化回数がそう多くないのは、トリックの再現が難しいからではないか)、個人的は、2012年フジテレビの「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」(出演・渡部篤郎・長谷川京子・溝端淳平)を観ました。
原作では最後に刑事が出てきますが、ドラマでは赤井英和演じる刑事が最初は溝端淳平演じる沼田仁一に嫌疑をかけたことから、頭にきた沼田仁一から示唆されて渡部篤郎演じる秋場文作に接近するようになり、一方で沼田仁一も秋場文作を心理的に追い込み最後の結末に至るという、警察と沼田仁一が実は"共闘戦線"を張っていたというのは原作通りですが、刑事役に赤井英和を配して主要人物の1人としたことでその伏線が描かれている点が、原作との大きな違いだったでしょうか。それ以外は、「点と線」のトリックも、報道写真にたまたま写り込んでいたことによるアリバイ崩壊も活かされていて、オーソドックスな作りになっていたように思います(禿げ頭のはずの会長は、中村敦夫演じるダンディな男性に改変されていたが、長谷川京子演じる会長秘書・野関利江の手引きで渡部篤郎演じる秋場文作がどんどん出世していくのは原作とほぼ同じ)。
「二階」●監督:柳井満●プロデューサー:石井ふく子●脚本:服部佳●原作:松本清張「二階」●出演:十朱幸代/山口崇/渡辺美佐子/松下達夫/岡本茉利/山崎猛/多賀徳四郎/東村佳代●放映:1977/02/06(全1回)●放送局:TBS(評価:★★★★)
「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」●監督:赤羽博●プロデュー:岩崎文(ユニオン映画)●脚本:当摩寿史●サウンドデザイン:石井和之●原作:松本清張「危険な斜面」●出演:渡部篤郎/長谷川京子/溝端淳平/萩尾みどり/大路恵美/品川徹/梨本謙次郎/伊藤栞穂/長谷川朝晴/五辻真吾/木下政治/松川荘八/加藤満/旭屋光太郎/高品剛/有山尚宏/赤井英和/中村敦夫●放映:2012/09/30(全1回)●放送局:フジテレビ
•1990年「松本清張スペシャル・危険な斜面(日本テレビ)」古谷一行・池上季実子・松本留美・薬丸裕英
•2021年「



中東での仕事を終えたポアロが連絡船で移動し、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行へ。新しい事件のために急遽帰途に就くことになったのだが、一等寝台
車は満室で、列車は混み合っていた。やがて、車内でアメリカ人の大富豪ラチェットが計12回刺されて殺害される。事件の容疑者は、1人の車掌と12人の一等客室の乗客たち。ユーゴスラビアで積雪により立ち往生する列車内で、ポアロは謎解きに乗り出す―。
デビッド・スーシェがポアロを演じる英ITV制作の「名探偵ポワロ」(1989~2013)の第64話(第12シリーズ第3話)で103分の長尺版。原作は、アガサ・クリスティが1934年に発表した、あまりに有名な作品です。原作出版から75年を記念して制作にとりかかり、本国放映は2010年12月25日、本邦初放映は2012年2月9日(NHK-BSプレミアム)です。
1974年のシドニー・ルメット監督による「
ート・フィニー(1936-2019)がポワロを演じ、チャード・ウィドマーク、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギールグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ウェンディ・ヒラー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエー
ル・カッセルら豪華俳優陣を配したものでしたが、ラストで皆が乾杯するシーンがあるなど(目出度し目出度しといったところか)、原作より明るい雰囲気でした。シドニー・ルメット監督自身が「スフレのような陽気な映画」を目指したと述べています(評価:★★★☆)。
その43年後に作られた、2017年のケネス・ブラナー監督・主演のリメイク作品「
その前に、2015年に三谷幸喜脚本で「オリエント急行殺人事件」('15年/フジテレビ)としてドラマ化されていて、野村萬斎がポアロに相当する名探偵・勝呂武尊を演じましたが、他の俳優陣が普通に演技している中で一人だけ狂言チックな演技をしています。ただ、これは彼の主演映画「
そしてこの2010年のデヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」の1話としてのドラマ化作品ですが、「罪と罰」―人は神に代わって人を裁けるかというテーマを前面に出していて、これが一番(ケネス・ブラナーの映画版などを超えて)重かったように思いました。
こうした前振りがあると、物語の結末を知った上で観ていて、最後どうなるのだろうと思いましたが、案の定、ポワロは自分の考えを曲げず、今回の事件を起こしたことについては、事に至った思いを訴える人たちに対し、「そんな権利はどこにもない」「何様のつもりか」といった具合です。そして、警察が現場に到着し、いよいよポワロが事件の説明をする場面がやってきます。もちろん、物語の結末は変わりません。ポワロは結局、「外部犯行」であったと説明します。その時のポワロの苦渋に満ちた表情―。「これほど誇らしいことはない」と言った三谷幸喜・野村萬斎版のドラマと真逆と言えます。日本版ドラマの明るさもいいですが、この本国版ドラマの暗さの方が本筋でしょう。本エピソードが「名探偵ポワロ」全70話の中でベストエピソードに選ばれることが多いというのも分かる気がします(評価:★★★★☆)。
「名探偵ポワロ(第64話)/オリエント急行の殺人」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅫ:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作国:イギリス●本国放映:2010/12/25●演出:フィリップ・マーティン●脚本:スチュワート・ハーコート●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/トビー・ジョーンズ(サミュエル・ラチェット)/バーバラ・ハーシー(ハバード夫人)/ブライアン・J・スミス(ヘクター・マックイーン)/ジェシカ・チャステイン(メアリー・デベナム)/セルジュ・アザナヴィシウス(ザビエル・ブーク)/アイリーン・アトキンス(ナターリア・ドラゴミノフ)/ヒュー・ボネヴィル/デヴィッド・モリッシー/ズザンネ・ロータ/マリ=ジョゼ・クローズ/スタンレイ・ウェーバー/エレナ・サチン/ジョゼフ・マウル/ドゥニ・メノーシェ/サミュエル・ウェスト●日本放映:2012/02/09●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★★☆)
「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:1974年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ポール・デーン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:リチャード・ロドニー・ベネット●原作:アガサ・ク
リスティ「オリエント急行の殺人」●時間:128分●出演:アルバート・フィニー/リチャード・ウィドマーク/アンソニー・パーキンス/ジョン・ギールグッド/ショーン・コネリ
ー/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ウェンディ・ヒラー/ローレン・バコール/イングリッド・バーグマン/マイケル・ヨーク/ジャクリーン・ビセット/ジャン=ピエール・カッセル●日本公開:1975/05●配給:パラマウント=CIC(評価:★★★☆)
「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:リドリー・スコット/マーク・ゴードン/サイモン・キンバーグ/ケネス・ブラナー/ジュディ・ホフランド/マイケル・シェイファー●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:リパトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:114分●出演:ケネス・ブラナー/ペネロペ・クルス/ウィレム・デフォー/ジュディ・デンチ/ジョニー・デップ/ジョシュ・ギャッド/デレク・ジャコビ/レスリー・オドム・Jr
/ミシェル・ファイファー/デイジー・リドリー/トム・ベイトマン/オリヴィア・コールマン/ルーシー・ボイントン/マーワン・ケンザリ/マ
ヌエル・ガルシア=ルルフォ/セルゲイ・ポルーニン/ミランダ・レーゾン●日本公開:2017/12●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)
「オリエント急行殺人事件」●脚本:三谷幸喜●監督:河野圭太●音楽:住友紀人●原作:アガサ・クリスティ●時間:333分●出演:野村萬斎/松嶋菜々子/二宮和也/杏/玉木宏/沢村一樹/吉瀬美智子/石丸幹二/池松壮亮/黒木華/八木亜希子/青木さやか/藤本隆宏/小林隆/高橋克実/笹野高史/富司純子/草笛光子/西田敏行/佐藤浩市●放映:2015/01(全2回)●放送局:フジテレビ
野村萬斎(名探偵・勝呂武尊(すぐろ たける))






この内、2011年にテレビ東京系列の「水曜ミステリー9」枠で放映された余貴美子版を観ました。中堅精密機械メーカーに30年勤める独身OLの上浜楢江を余貴美子が演じていますが、口うるさい性格で社内で疎まれているものの、原作のように社内で完全に孤立しているのではなく、泉ピン子が演じ社員食堂の従業員・岸田茂子とは比較的何でも話す間柄です。
実は、(原作には無い)この岸田茂子は、以前は社内で個人的に金を貸し、その利子で密かに金を稼いでいたのが、今は楢江がそれをやっている(つまり、茂子から客を奪った)ということで、この二人の微妙な関係の変化が、事件解決の鍵を握ることになり、ドラマ版では(ありがちだが)完全犯罪は成立せず、最後は茂子が楢江に、男性に恋心を抱いたのがその失敗の原因だったというような諭し方をするところで終わっていたのではないかと思います。
原作では、茂子がどうやって犯行後に死体を隠したのか推察させるつくりになっていて、最後の、彼女がアパートを建てる花壇の土には「動物性の脂が十分に滲みこんでいた」というのが不気味ですが、ドラマでは、土一杯のガス風呂の木桶が出てくるので何だかリアル。佐藤二朗演じる刑事が家宅捜索して、木桶の蓋を開けるところでヒヤッとさせますが、その時にはすでに死体は別所に移し終えていて...(木桶の内側が綺麗すぎるのが不自然だが)。




この作品は、野村芳太郎監督、橋本忍脚本、加藤剛(浜島幸雄)・岩下志麻(小磯泰子)・小川真由美(浜島啓子)主演で「影の車」('70 年/松竹)として映画化されているほか、これまでに以下3回ドラマ化されています。
ドラマ化作品のうち、2001年の風間杜夫版を観ました(脚本は、映画「影の車」の脚本を書いた橋本忍の娘・橋本綾)。原田美枝子が演じる小磯泰子は、保険の集金人から臨時雇いの看護師に変更されていて、風間杜夫が演じる主人公の浜島幸雄の方が、大手保険会社の管理職になっているほか、浅田美代子が演じる浜島の妻・啓子は、毎週土曜日に自宅で近所の主婦を集めてフラワーアレンジメントの教室を開いているという設定になっています(したがって、もともと土曜日は主人公は自宅から締め出される習慣があり、これが泰子との逢瀬には好都合になるいう設定は巧い)。
風間杜夫(1949年生まれ・当時51歳)はこうした役が似合っている俳優に思えましたが、それ以上に小磯泰子を演じた原田美枝子(1958年生まれ・当時42歳)が母として女としての情感を滲み出させていて流石です(原田美枝子はこの演技で第38回TBS「ギャラクシー賞奨励賞(テレビ部門)」受賞)。次女の石橋静河がちょうど6歳ころの出演作になるなあ。浅田美代子(1956年生まれ・当時44歳)の演技もまずまず。この人は大成しないかと思いましたが、結構息の長い女優になりました。


2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」、2021(令和3)年度・第12回「山田風太郎賞」受賞作。① 2021(令和3)年度「週刊文春ミステリー ベスト10(週刊文春2021年12月9日号)」(国内部門)第1位、② 2022(令和4)年「このミステリーがすごい!(宝島社)」(国内編)第1位、③「2022本格ミステリ・ベスト10(原書房)」国内ランキング第1位、④ 2022年「ミステリが読みたい!(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)」(国内編)第1位の、国内小説では初の「年末ミステリランキング4冠」達成。2022年・第19回「本屋大賞」第9位。そして先月['22年5月]、2022年・第22回「本格ミステリ大賞」も受賞(もろもろ併せて「9冠」になるとのこと(下記《読書MEMO》参照))。
作者のこれまでの警察物や海外ものとはがらっと変わった時代物で、しかも荒木村重という戦国武将の中では数奇な生涯を送った人物を取り上げたのも良かったと思います(NHKの大河ドラマでは、'14年の岡田准一主演の「軍師官兵衛」で、田中哲司の演じた荒木村重が印象深い)。
因みに、主要登場人物の一人、荒木村重の妻・千代保(荒木だし。村重の妻だが、正室か側室かは不明だそうだ)は「絶世の美女」と称されたそうですが(大河ドラマでは村重に隠れて囚われた官兵衛の世話をしていた)、有岡城落城後に捕えられるも城主の妻として潔くすべてを受け入れ、京の六条河原で一族の者とともに処刑されています。一方、荒木村重の方は、だし等一族が処刑されたことを知ると「信長に殺されず生き続けることで信長に勝つ」ことを誓って尼崎城から姿を消したとのこと。そうした村重の信長の逆を行くという思いは、この作品でも示唆されているように思われます。


「軍師官兵衛」●脚本:前川洋一●演出:田中健二ほか●プロデューサー:中村高志●時代考証:小和田哲男●音楽:菅野祐悟子●出演:岡田准一/(以下五十音順)東幹久/生田斗真/伊吹吾郎/伊武雅刀/宇梶剛士/内田有紀/江口洋介/大谷直子/大橋吾郎/忍成修吾/片岡鶴太郎/勝野洋/金子ノブアキ/上條恒彦/桐谷美玲/黒木瞳/近藤芳正/塩見三省/柴田恭兵/春風亭小朝/陣内孝則/高岡早紀/高橋一生/高畑充希/竹中直人/田中圭/田中哲司/谷原章介/塚本高史/鶴見辰吾/寺尾聰/永井大/中谷美紀/二階堂ふみ/濱田岳/速水もこみち/吹越満/別所哲也/堀内正美/眞島秀和/益岡徹/松坂桃李/的場浩司/村田雄浩/山路和弘/横内正/竜雷太(ナレーター)藤村志保 → 広瀬修子●放映:2014/01~12(全50回)●放送局:NHK




1962年にNHKでドラマ化されて以来ずっとドラマ化されていませんでしたが、2017年に村上弘明×剛力彩芽×陣内孝則の共演で55年ぶりに「松本清張没後25年特別企画 『誤差』」のタイトルでテレビ東京でドラマ化されました(メインキャスト3人は、2015年の「開局50周年特別企画 黒い画集―草―」、2016年の「松本清張特別企画 喪失の儀礼」に続いての共演)。
2017年の村上弘明版は、最初に安西澄子の絞殺体が見つかるところから始まって、関係者の証言を集めながら、事件4日前に澄子が来泊したところから振り返ってみるという作りになっていて、捜査は難航しますが(原作より複雑になっている)、原作のようにいったん事件が解決したかに見えた後で刑事の山岡が事の真相に気づくというものではなく、山岡は部下の女性刑事を従え、紆余曲折ありながら最後一気に犯人に辿り着きます。以下、あらすじは―
山梨県にある温泉宿「川田屋」で、ある夜、安西澄子(田中美奈子)の絞殺体が宿泊していた離れで発見される。山梨県警の山岡慶一郎(村上弘明)は、部下の伊崎美里(剛力彩芽)と共に現場へ急行する。身元がわかるものは一切残されていなかったが、金品は手つかずのまま。女将の川田沙織(水沢アキ)によると、澄子は4日前から夫の忠夫と一週間滞在する予定だったが、忠夫は仕事が入り昨日合流したばかり。今日は忠夫のみ一旦外出。戻ったあと「家内はよく眠ってるから、そっとしておいてほしい」と連絡を入れて再び外出してしまったという。なぜか担当仲居の鵜飼理沙子(齋藤めぐみ)の姿も見当たらない。一方、澄子を解剖した法医学教授・立花亮介(陣内孝則)は吉川線と呼ばれる傷を発見するが、その傷に気になる点を見つける。山岡と美里が湯治客全員を聴取すると、ファーコートを着た怪しい女性を目撃したとの情報が。また宿帳に書かれた〈安西夫妻〉の住所と氏名はデタラメだと判明。安西夫婦は、またファーコートの女性は、誰なのか? そして一連のニュースを東京の街角のモニターで見つめる謎の女(松下由樹)の正体は? そんな中、鵜飼理沙子の遺体が発見され事件はさらに混迷していく―。
以上のように、犯行現場を目撃したと思われる仲居も殺害されるため、原作より被害者が1人多いです。さらに、〈安西夫妻〉の片割れの竹田宗一と併せて、澄子に貢いでいた信金金庫の融資係の男性も疑われるなど、容疑者も増えています。また、竹田の本当の妻が澄子が殺害される前に、澄子を「川田屋」に訪ねて宗一と別れるよう直談判するという場面もあり、〈男女の微妙な愛の心理〉の部分もかなり拡大しています。さらに、病院医師と山岡が、最初はぶつかるが、最後は真実を求めて共闘するという、その部分のドラマ的要素もあります。
随分盛りだくさんですが、それらはそれらでまずまず面白く、観ていてシラける感じはありませんでした。それもこれも、原作のプロットが効いているからでしょう。意図せずに生まれた時間差トリックと言うか、だからこそ"誤差"であるわけですが、そこが良く出来ているから、そこから話を膨らますこともできるし、膨らましてもそのプロットさえ活かせば駄作にはならず、まずまずの作品に仕上がるということではないかと思います。



1959年にテレビドラマ化されて以来ずっとドラマ化されていなかったのが、2012年に53年ぶりに反町隆史の主演でテレビドラマ化され、それを観ました。
市議会議員の笠木公蔵(反町隆史)のもとに、伯父である市長の田山与太郎(イッセー尾形)が死んだとの連絡が母親から入る。真面目一辺倒の市長が公務中に突然姿を消し、数日後にある温泉で遺体となって発見されたのだった。市長はすでに無断で6日も議会を欠席しており、横川市庁舎にて行われていた定例市議会では市長に対する野次が飛び交い、市長の秘書・矢崎(春海四方)が責め立てられていた。矢崎は市長が視察をかねたクラシックコンサートの途中で、突然「急に用事を思い出したから、明日の議会は欠席にしてほしい」と言って姿を消したことを不思議に思っていた。さらには、向かった先の志摩川(シマカワ)温泉のことを"シマガワ"温泉と言ったことで、初めて行く町だったのではないかと不信感を募らせていた。堅物で通っていた伯父が私用で仕事を抜け出したことを不審に思った笠木は、市長のところに通っていた家政婦の手塚スミ子(倍賞美津子)の協力のもと、市長の部屋で遺品整理をする。そこで発見した伯父の日記によって、芳子(木村多江)という女に惚れ込んでいたという伯父の意外な一面を知る。この日記の内容は、伯父の失踪と関係があるのだろうか? 笠木はスミ子と共に、市長が遺体で発見された志摩川温泉に再び足を運ぶが...。笠木は市長の死の裏にある衝撃的な真実にたどり着く―。
時代が現代(2010年代)になっており、反町隆史演じる市議会議員の笠木はイッセー尾形演じる田山市長の甥という血縁関係になっていて、議員職の傍ら営むのは醤油店ではなく花屋経営になっていたりします。田山市長が死ぬ前に行ったのが観劇ではなく視察を兼ねたクラシックコンサートだったり、田山市長が市長になる前の過去に部下の不祥事の責任を負わされた事件が、戦時中の朝鮮での軍資金8万円横領事件から、彼の商社マン時代の機密費5億円横領事件になっていたり、彼が思慕することになる木村多江演じる芳子とは、戦地ではなく海外赴任先で知り合ったことになっています。さらに、倍賞美津子演じる田山市長に出入りしていた家政婦が積極的に協力したりと、幾つか改変がされていますが、短編を2時間超のドラマにしているだけに丁寧な作りで、プロット的にも本筋の部分は活かしています。
原作の最後の解題の部分が笠木の市会議長に宛てた手紙の形式になっているのに対し、ドラマではそれを映像的に丁寧に再現しているというのはありますが、短篇を2時間ドラマにしても十分見応えがあるというところに、松本清張の原作短編の密度の濃さを感じます。ただ、それに合わせて、主人公の笠木の正しいかどうか分からない推理も映像化しているため、その点は観る者をミスリードするかも(実際には無かったことを映像化したことをアンフェアと見る人もいるのでは)。
原作とのいちばん大きな違いはラストでしょう。田山市長の長年の想い人は、歩き方に特徴があり、それは過去に男性の問題で料理店の同僚に脚を出刃包丁で刺されたためで、その事件を機に海外店に勤務することになって商社マン時代の田山市長と出会ったという設定ですが、最後に犯人が逮捕された後、笠木に市長のことを好きだったかと訊かれて「気持ち悪い」と呟き、田山市長殺害の再現シーンでは現場にいたことになっていて、しかも笑っています(怖っ)。さらにさらに、ラストシーンではすたすたと歩いていて、今まで足を引きずるようにしていたのは"幸薄い女"と見せる演技だったのかと(随分手が込んでいる)。
「松本清張没後20年特別企画・市長死す」●演出:西浦正記●脚本:樫田正剛●プロデューサー:樋口徹/竹田浩子●原作:松本清張●出演:反町隆史/木村多江/イッセー尾形/倍賞美津子/石黒賢/白石美帆/春海四方/きたろう/京本政樹(友情出演)●放送日:2012/04/03●放送局:フジテレビ



成沢民子は、脊髄損傷のために動けなくなった夫・成沢寛次を養うため、割烹旅館・芳仙閣で住み込みの女中をしていた。しかし、寛次はそんな民子をいたわるどころか、日々、猜疑心を募らせ、民子が家に戻るたびに、執拗にいたぶるのだった。ある日、芳仙閣にニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎が訪れる。小滝は民子に、今の生活から抜け出し、もっと安楽な生活に導く手助けをするようなことをほのめかす。民子は小滝の誘いに乗ることを決意し、失火に見せかけて夫を焼き殺す。そして、民子は弁護士・秦野重武によって、政財界の黒幕・鬼頭洪太の邸宅に連れて行かれる。小滝の誘いとは、鬼頭の愛人になることだったのである。民子は鬼頭の相手を務める一方、小滝とも関係を持ち、鬼頭の後ろ盾を得て、奔放な生活を送るようになる。そのころ、寛次の焼死事件は、小滝が民子のアリバイを証言したこともあり、警察と消防によって失火と断定された。しかし、事件を担当した刑事・久恒義夫は、事件に不審を抱いて独自に捜査を進め、民子が夫を焼き殺したという結論に達する。民子の美貌に魅せられた久恒は、自分が集めた証拠を民子にちらつかせ、民子にたびたび関係を迫る。しかし、逆に久恒はささいな理由で警察官を免職される。自分を免職にした上司の背後に鬼頭の姿を見た久恒は、自分が調べ上げた鬼頭の闇の部分を手紙にしたため、新聞社に持ち込むが、鬼頭の力を恐れる新聞社は久恒のネタをどこも採用しなかった。改めて鬼頭の実力を知った久恒は、失踪した鬼頭家の女中頭・米子の殺害事件の証拠を集めて鬼頭を追い詰めようとする―。(Wikipediaより)



やはり、ドラマは複数回にわたりじっくり描いたものが人気のようで、今世紀に入ってからの米倉涼子版は、米倉涼子にとって「松本清張 黒革の手帖」('04年)、「黒革の手帖スペシャル〜
池内淳子の映画版は、ラストで民子が辿る運命は原作と同じで、ちょっと残酷ですが、これも夫殺しの原罪の報いということでしょうか。まあ、原作も民子ではなく小滝が主人公のピカレスク小説と解せないこともないですし。
「松本清張 けものみち」●演出:松田秀知/藤田明二/福本義人●プロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)/伊賀宣子(共同テレビ)●脚本:寺田敏雄●音楽:(エンディング)中島みゆき「帰れない者たちへ」●原作:松本清張●出演:米倉涼子/佐藤浩市/仲村トオル/若村麻由美/平幹二朗●放映:2006/01/12~03/09(全9回)●放送局:テレビ朝日





郊外の住宅地で暮らしている津留江利子(長山藍子)は、夫・良夫(井川比佐志)はサラリーマンで、一人息子の19歳の恭太(船越英一郎)は、東大を目指している一浪の受験生だが、その恭太が、最近何かにつけ反抗的な態度をとるのがいたたまれなかった。ただ、
江利
子には反抗的な恭太も、大学のエリート助教授・旗島信雄(山本學)に嫁いだ江利子の妹・素芽子(范文雀)に対しては素直になり、何でも相談しているようであり、そんな二人に江利子は嫉妬さえ覚える。その素芽子は時々家に来るが、夫の旗島信雄もその義母・織江(月丘夢路)も特に心配してないようだ。恭太が素芽子の
水着写真を隠し持っていたのを見つけ江利子は心配するが、夫・良夫に相談すると、夫はその世代の男にはよくあることと一笑に付す。そん
なある日、素芽子が突然自殺する。恭太は素芽子は旗島家に殺されたのだと、通夜の場で荒れ狂う。苛立ちが募って、挙句の果てには、予備校仲間のガールフレンド・亜子(小森みちこ)を襲う恭太。恭太の行動を止めさせるため、江利子は素芽子の死が自殺であることの証
拠を織江に求めるが、逆に、その年頃の子は想像もできないことをする
ので、その"歯止め"になってあげるのが母親の役割だと言われる。さらに、素芽子が通っていたという精神科の医師で、旗島信雄のことも知る竹田助手(橋爪功)を訪ねると、竹田は、旗島信雄にも恭太と同じような時期があって、それを乗り越えたのは母親の力があったからだと言うが、それ以上具体的なことは話さない。江利子は次第に信雄と織江の関係を訝しく思うようになる―。
そして何よりも、在京民放5局の2時間ドラマすべてに主演作品がある唯一の俳優と言われる「2時間ドラマの帝王」船越英一郎(1960年生まれ、当時22歳、芸名は'97年まで「船越栄一郎」だった)の「2時間ドラマ」デビュー作がこのドラマになります。まさに「火曜サスペンス劇場」などの成功などにより「2時間ドラマ」というものが隆盛に向かう、その最中(さなか)に登場した船越英一郎、といった感じでしょうか。
主演は長山藍子で、船越英一郎は、范文雀、山本學、井川比佐志らとともに共演という位置づけになりますが、それでも重要な役割を担っていて、最初に信雄と義母の近親相姦的関係を訝しんで、素芽子の死に纏わる"疑惑"を糾弾するのが船越英一郎が演じる恭太。一方で、自らも性の衝動に悶々とし、素芽子の水着写真をベッドに持ち込んで...("青姦"とは言えるのかどうか知らないが、河原でもズボン下ろしてやっていたなあ)。しかし、ラストは小森みちこ演じるガールフレンドとの関係も回復して、でも、ハナからもう1浪するするつもりでいるのか?
長山藍子(1941年生まれ)は、TBSの「クイズダービー」の2枠レギュラー(1979年10月~1981年9月)としても"お茶の間の顔"でしたが、このドラマではかなり"重い"役でした。彼女が演じる母・江利子は、最初は素芽子は自殺であることを恭太に納得させようとしますが、次第に彼女自身も恭太と同じ疑惑を抱くようになり、さらに、息子の性向を矯(た)めるために、母親が身をもってする"歯止め"が有効適切なのか悩むという、ストーリー的には二重構造的な近親相姦の心理劇となっています。
最後に范文雀(1948-2002/54歳没)について(このドラマに出た頃は34歳くらいか)。
22歳の時に「サインはV」(1969年-1970年/TBS)で ジュン・サンダース役(途中から登場)で人気を博し、後番組の「





「松本清張の歯止め」●演出:出目昌伸●脚本:重森孝子●音楽:佐藤允彦●プロデューサー:小杉義夫/高倉三郎●原作:松本清張●出演:長山藍子/井川比佐志/船越英一郎/范文雀/山本學/月丘夢路/小森みちこ/橋爪功/立石涼子●放送日:1983/04/05●放送局:日本テレビ(評価:★★★
☆) 


あまり売れない小説家・伊瀬忠隆は、天地社の雑誌「月刊 草枕」の依頼を受け、「僻地に伝説をさぐる旅」の連載を始めた。浦島太郎伝説の取材で、編集者の浜中と丹後半島の網野町を訪れるが、宿泊した木津温泉にて、警察が近くの山林を捜索しているところに遭遇する。人間の死体を埋めたという投書があったというが、のちに同じ場所からは「第二海竜丸」と記された木片が発見された。旅は網野神社から明石へと続くものの、以降、取材先の各地で、不可解な謎や奇怪な事件が立て続けに発生した。やがて浮上する奇妙な暗合。伊瀬を動かすプランの正体とは―。
これだけ複雑な展開の作品をドラマ化するとなるとたいへんなような気がしますが、これまで1度だけ、1993年にフジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」枠で「松本清張スペシャル Dの複合」としてドラマ化されています。
和代がかなり前面に出てきて伊瀬と一緒に謎解きをします。さすがに2時間ドラマにまとめるには登場人物が多すぎると思たのか、二宮健一と照千代が登場しないなど、原作と比べて人間関係は簡略化されています(脚本は金子成人)。
浜中役の野村宏伸は、津川雅彦と平幹二朗というベテラン大物俳優の間に挟まって、まずまず奮闘していたでしょうか。ただ、ラストはどうなるかと思ったら、楢林社長の最期は自殺に改変されていて、浜中は最後まで伊瀬のそばにいて、伊瀬に楢林社長を追い詰めたことをなじられるという終わり方になっています。
二宮健一と照千代が登場しないというのは、原作のラストでのこの二人が緊迫感があった(装画入り!)だけに、物足りない印象があります。心中というのはテレビ向けではないということで割愛したわけではなく、あくまでもは登場人物が多すぎるために"リストラ"されてしまったのだとは思いますが。


向井理が演じる記者の底井が務める出版社は「週刊ドドンゴ」となっていて(「週刊コウロン」を意識?)、一人ではなく比嘉愛未が演じる同僚記者と一緒に動いたりします。底井の上司で編集長の山崎治郎を演じる寺尾聰は、原作で犯人グループから金を強請り取ろうとする男にしては脂ぎったものが欠けているなあと思ったら、そうした欲得絡みではなく、最後までスクープ狙いの純粋な記者魂に燃えた人物像に改変されていました。従って、底井にとっての犯人追求は、記者としての自分を育ててくれた上司のための復讐の様相を呈しています。
その上司だった山崎がいつか語った「証拠」を守るために飲み込んだという武勇伝から、底井がボイスレコーダーのチップを見つけ出して事件の確証を得るというのは、完全にドラマのオリジナルです。でも、今回は山崎はすでに火葬されているので(わざわざそのシーンを入れている)、普通だった諦めるところを、馬草に潜ませたのではと着想し、それが当たったというのはやや出来過ぎの印象もあります(馬糞の中を探すシーンは割愛されている(笑))。
でも、全体としてはまずまずよく出来ていたドラマ化作品でした。向井理はセリフが多くてたいへんだったと後に述べていますが、確かに。でも、向いている役だったのでは。寺尾聰、大杉漣(立山代議士)、寺島進(西田調教師)といった安定した俳優陣に支えられていたのも大きいと思います。
「松本清張ドラマスペシャル・死の発送」●演出:国本雅広●脚本:扇澤延男●テーマ音楽:佐藤和郎●原作:松本清張●出演:向井理/比嘉愛未/寺尾聰/大杉漣/寺島進/伊藤裕子/矢柴俊博/山中崇/朝加真由美/松尾諭 /玉置孝匡/中村靖日/山崎画大/ベンガル/阪田マサノブ●放映:2014/05/30(全1回)●放送局:フジテレビ



山梨県内の断崖の下で、血まみれで死んでいる若い男が発見された。翌日、同県の湖畔の竹藪の中から三十すぎの女の絞殺死体が出てきた。男はトラック運転手で、女は興信所員だった。この二つの殺人と東京で起こったトラックの軽い接触事故。何の関係もなさそうな三つの事実の繋がりを追う―。

その他では、2012年のテレビ東京系列「水曜ミステリー9」枠で放映された「松本清張没後20年特別企画 事故〜黒い画集〜」を観ましたが、高橋克実が演じるトラック運送会社の社長を主人公とした展開で、大杉漣演じる刑事でもなく、トラック会社の事故担当でもなく(NHKドラマでは佐野浅夫が演じたこの役が探偵&恐喝者だった)、運送会社の社長(高橋克実)が殺された探偵社の女性社員(NHKドラマでは野際陽子が演じた)の妹(京野ことみ演じるこの役は原作には無いキャラクター)と一緒にに事件の謎を追跡する展開です。高橋克実はシリアスな展開の中にも何となくほのぼのとした感じがあって、可もなく不可もなくといった演技だったでしょうか。探偵所長は近藤芳正、トラックに突っ込まれた家の妻は野村真美で、NHKドラマではそれぞれ田村高廣、山本陽子が演じ、そちらが主役でした。

『
総務課事務官・山田喜一郎は、農林省食糧管理局長・岡村福夫のお供で視察先の札幌に来ていたが、同省の倉橋課長補佐が汚職の重要参考人になったことを受けて、岡村局長と共に東京に呼び戻された。当の倉橋は、警察からの聴取を終えた後、北海道に出張を命じられるが、札幌で不安に怯える倉橋に、農水省の幹部に顔の利く弁護士・西秀太郎から、仙台市の作並温泉のある宿に身を寄せるよう指示される。その宿へ西は愛人を連れてやって来るが、倉橋と二人きりになると、西は倉橋に自殺するよう示唆する。倉橋が反抗すると西はそれ以上言わなかったが、その夜に倉橋は、旅館近くの崖下に倒れているのを西に発見され、西の指示で旅館に運び込まれた後、医師が死亡を確認する。余計なことを聞いてはならぬのが保身の術という哲学の山田は、事態の成り行きを傍観者として眺めているが、その山田が、岡村局長の指示を受け、遺体引取りを命じられる。山田には、倉橋の死に政治的な匂いが感じられた―。
松本清張が「社会新報」の1965(昭和40)年10月号から翌 1966年11月号に連載した作品。1968年9月河出書房新社から単行本が刊行され、中公文庫で文庫化されましたが、2019年に、光文社文庫の「松本清張プレミアム・ミステリー」の第5弾の第8冊として加わりました(通算29作目)。このシリーズ、新潮文庫などとはまた違ったラインアップが楽しめます。
これまで3度ドラマ化されれいて、1度目は1975年にNHKの「土曜ドラマ」枠(70分)で「松本清張シリーズ・中央流沙」として放送。山田事務官が川崎敬三、倉橋課長補佐が内藤武敏、岡村局長が佐藤慶、新聞記者が角野卓造という配役で、原作の松本清張が遺体搬送係の役でカメオ出演していますが、個人的には未見です。
2度目は、1998年に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で「松本清張スペシャル・中央流沙」として放送。山田事務官が緒形拳、倉橋課長補佐が鶴田忍、その妻が藤真利子、岡村局長が石橋凌、西秀太郎が石橋蓮司という配役で、またもトカゲのシッポ切り―中央官庁の腐敗に下級官僚男が怒りの反乱」という口上があり、倉橋の死に疑念を持った緒形拳の山田が、自ら倉橋の遺体を引き取りに行くようです。山田が岡村に呼出され、特捜部に取調べを受ける際の予行演習をやらされるところまで原作を再現していて、結局 検察は岡村に手を出せず、岡村に島根県に転勤と言われた山田が辞表を出すところで終わるようですが、こちらも未見のため詳しくは分かりません(「怒りの反乱」はどうなった?)。
3度目は、2009年にTBSの「月曜ゴールデン」枠で「松本清張生誕100年スペシャル 中央流沙」として放映されたもので、倉橋の妻・節子を主人公として、元宝塚歌劇団宙組トップスター・和央ようかがそれを演じ(ドラマ初出演)、倉橋が石黒賢、岡村局長が西岡徳馬、川辺記者が髙嶋政宏、西秀太郎が六平直政、山田喜一郎が平田満という配役です。これは観ました!
原作と異なり、和央ようか演じる倉橋の妻が事件の真相を探る"探偵"役的位置づけで、原作では弁護士である西が建設会社の社長になっていて、原作で単に西の愛人としてしか登場しない堀田よし子(29)が、高級クラブのオーナー・堀田真紀子に改変されていて、岡村の元愛人で、二人の間には政治家秘書を務める賢一という息子がいることになっています。
この堀田真紀子をかたせ梨乃が演じ、原作では西が倉橋に自殺を唆すところ、ドラマではその役回りを堀田真紀子がやります。したがって、かたせ梨乃が石黒賢に自殺を唆すという構図ですが、コレ、もしかしたら六平直政がやるより怖かったかも(笑)。
のは解決されるので、原作よりカタルシスはあるかと思われ、ドラマはこれでもいいかなと。ただし、一応、原作の方は、巨悪は追及を免れてしまう、何とも言えないやるせなさの残る結末であることを知っておいた方がいいかとは思います。



本書解説の編集者・烏兎沼佳代氏によれば、向田邦子はもともと原作がある作品の脚色を嫌った脚本家で、実際に脚色した作品も少なく、原作となるこの「駅路」を手にした時は、すでに「だいこんの花」「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」で人気脚本家になっていて、それがなぜ敢えてこの作品を脚色したのか、推論できる理由はあるとのことです。
小塚夫妻役は石坂浩二と十朱幸代で、この辺りは改変がありませんが、役所広司演じる刑事が、彼も写真が趣味(所謂SLの"撮り鉄")という風になっていて、役所広司は向田邦子が脚本に仕掛けたコミカルな件(くだり)も卒なく演じており、上手いなあと。
ただ、やはり圧巻は女優で、福村慶子を演じた深津絵里は、さすがに情感たっぷりで上
手かったです。加えて、福村よし子を演じているのが木村多江で、彼女が演じることで同じ福村慶子の従姉であっても、福村よし子の位置づけが、観る者にシンパシーを引き起こすよう改変されているように思いました。
1977年のNHK版では、刑事の聞き込み先である福村慶子の下宿先の「小松便利堂」の主人で、隠居した恍惚老人の役で原作者・松本清張自身が出演しているのですが(この老人、ボケているけれども福村慶子に"男"(=貞一)がいたことだけは見抜いている)、この2009年のフジテレビ版では、松本清張が演じたこの役を唐十郎が演じており、今思うと、2009年版も結構豪勢な配役だったと言えるかもしれません。
「松本清張生誕100年記念作品・駅路」●演出・脚色:杉田成道●脚本:向田邦子●脚色:矢島正雄●プロデュース:喜多麗子●音楽:佐藤準●原作:松本清張●出演:



この内、「テレビ東京開局50周年特別企画」として制作された2014年の米倉涼子版を観ま
した(「水曜ミステリー9」の時間帯での放送だが、本作は「水曜ミステリー9」枠外で放送された)。米倉涼子が演じるヒロイン・伊佐子が「4人の男性を翻弄する」とのことで、そっか、4人とは沢田信弘(橋爪功)、弁護士・佐伯義雄(高嶋政伸)、食品会社副社長・塩月芳彦(宅麻伸)、伊佐子の不倫相手(石井寛二)のことかと改めて確認した次第です。
米倉涼子といえば、松本清張原作のドラマ3部作「黒革の手帖」「松本清張 けものみち」「松本清張 わるいやつら」(いずれもテレビ朝日系)で悪女役を演じ、女優として大きな飛躍を遂げたわけで、原作にある「ぽっちゃりとした小肥りで、色が白い」という伊佐子の描写とは少し異なりますが、悪女役はスンナリは嵌っているように思いました。沢田信弘を橋爪功が演じることで、観る側は何かありそうな気がするのではないでしょうか。
ただ、ドラマの途中で橋爪功演じる沢田信弘が、比嘉愛未演じる速記者・宮原素子に、妻が自分を殺そうとしていると言ってしまっている場面があるため、原作のラストの〈どんでん返し〉効果が薄れてしまいました。沢田信弘が宮原素子に遺書を預けたのは原作通りですが、伊佐子が素子に半分あげるから書き直された遺言書はもとから無かった事にして欲しいと頼むのはドラマのオリジナル。原作では、「伊佐子は一言も発しないでぶるぶる震えていた」とあります。ただ、これが、素子の供述書の中で語られているところが、(これはこれでダメとは言わないが)原作のやや弱いところかもしれません。かたせ梨乃演じる沢田家の家政婦の信弘に対する激情もドラマのオリジナル。元のお話が比較的単純なので、脚本家はいろいろやりたくなるのかなあ。
「松本清張 強き蟻」●演出:松田秀知●脚本:森下直●チーフプロデューサー:岡部紳二(テレビ東京)●音楽:佐藤準●原作:松本清張●出演:米倉涼子(沢田伊佐子〈36〉美貌の女性で沢田信弘の後妻)/高嶋政伸(佐伯義雄〈37〉佐伯法律事務所の弁護士)/比嘉愛未(宮原素子〈25〉速記者)/笛木優子(沢田妙子〈29〉信弘の前妻との娘)/かたせ梨乃(椿サキ〈58〉沢田家の家政婦)/矢島健一(川瀬卓郎〈51〉大日本工学の新社長)/要潤(石井寛二〈30〉Jリーグ選手)/宅麻伸(塩月芳彦〈57〉帝国食品の副社長)/橋爪功(沢田信弘〈67〉伊佐子の夫で大日本光学の役員)●放映:2014/07/02(全1回)●放送局:テレビ東京

バリバリのキャリアウーマンで生涯独身だった伯母が孤独死。黒いシミのような状態で発見された。衝撃を受けた山口鳴海(35歳独身)は婚活より終活にシフト。誰にも迷惑をかけず、ひとりでよりよく死ぬためにはよりよく生きるしかないと決意する―。
●2025年ドラマ化【感想】2025年6月21日からNHK総合の「土曜ドラマ」枠にて綾瀬はるか主演でドラマ放映された。脚本は、以前に観てそこそこ面白かった「
えないし)。W主演ではないが、美術館の同僚の那須田優弥を演じる佐野勇斗の方が、役との親和性が高く独自の存在感があったかも。
「ひとりでしにたい」●脚本:大森美香●演出:石井永二/小林直希)●音楽:パスカルズ(エンディング:椎名林檎「芒に月」)●原作:カレー沢薫●時間:45分●出演:綾瀬はるか/佐野勇斗/山口紗弥加/小関裕太/恒松祐里/満島真之介/麿赤兒/岸本鮎佳/藤間爽子/小南満佑子/コウメ太夫/國村隼/
![元禄忠臣蔵 前後編[VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%85%83%E7%A6%84%E5%BF%A0%E8%87%A3%E8%94%B5%E3%80%80%E5%89%8D%E5%BE%8C%E7%B7%A8%5BVHS%5D.jpg)

浅野内匠頭(五代目嵐芳三郎)は江戸城・松の廊下で吉良上野介(三桝萬豐)に斬りつけたかどにより切腹を命じられる。さらに浅野が藩主を務める赤穂藩はお家取り潰しとなってしまう。赤穂藩では国を守るために戦うか、あるいは主君に殉じて切腹をするか、意見が真っ二つに分かれた。家老の大石内蔵助(四代目河原崎長十郎)は、幕府に城を明け渡すことにする。上野介を討つため、内蔵助は主君の妻である瑶泉院に別れを告げる。その他の赤穂浪士も家族と別れ、続々と大石のもとに集まった。討ち入りを終え吉良の首を討ち取った大石は、泉岳寺にある浅野の墓を訪れる。その後、大石ら浪士たちに切腹の命が下る―。
1941年12月に前編が公開され、翌年2月に後篇が公開された溝口健二監督による3時間43分の大型時代劇。劇作家の真山青果(1878-1948)による新歌舞伎派の演目「元禄忠臣蔵」を、原健一郎と依田義賢が共同で脚色し、厳密な時代考証、実物大の松の廊下をはじめとする美術、ワンシーンワンカットの実験的手法を用いた流麗なカメラワークなどによって、それまでの「忠臣蔵もの」とは全く異なる作品に仕上げています。映画はいきなり江戸城内松の廊下で浅野内匠頭(嵐芳三郎)が吉良上野介(三桝萬豐)に斬かかる場面から始まります(まるで御所のようなセットのスケールの大きさ!)。事件後、上野介が沙汰無しで、内匠頭が切腹との御下知を伝える使者に対し、多門伝八郎(小杉勇)が、内匠頭が斬りつけようとした時に、吉良が損得のために脇差に手をかけなかったことを、侍として風上にも置けない人物だと批判しています(これは明らかに創作だろうなあ)。
また、内蔵助(河原崎長十郎)を幼馴染みの井関徳兵衛(板東春之助)が訪ね、一緒に籠城に加えてくれと申し出る話があります。内蔵助は思うところがあってその申し出を拒絶し、家臣たちに対し開城を宣言します。その夜、内蔵助は帰宅途中で息子と共に自害した徳兵衛を見つけ、徳兵衛の死に際に、内蔵助はその本心を打ち明けます。
内蔵助は浅野家再興が正式に潰えると、時機到来とばかりに吉良邸に乗り込む準備をして、浅野内匠頭の未亡人・瑶泉院(三浦光子)に別れの挨拶に行きますが、外部に情報が漏れるのを怖れ、瑶泉院に本心を打ち明けられず、彼女の怒りを買ってしまう。密偵に悟られないよう、自分の詠んだ歌と称し、服差包みを瑶泉院に仕えるお喜代(山路ふみ子)に渡して去る。昼間の内蔵助の態度が気に掛かり眠れずにいた瑶泉院が服差包みを開けると中に連判状が―と、この「南部坂雪の別れ」は通常の「忠臣蔵もの」と同じですが、すぐそこに吉良への討ち入り成功の知らせが届き、画面は、討ち入りを果たして、泉岳寺の亡き主君の墓へ報告に向かう内蔵助ら義士一行に切り替わるといった流れです。
討ち入り後、まだ45分くらい映画は続き、内蔵助が義士らが潔く切腹したのを見届けるところまでいきますが('99年のNHKの大河「元禄繚乱」(原作:船橋聖一/脚本:中島丈博)も中村勘九郎(五代目)演じる内蔵助が義士らの切腹を見届けるまでをやっていたなあ)、その間に最も時間を割いているエピソードが、磯貝十郎左衛門(五代目河原崎國太郎)とその許嫁おみの(高峰三枝子)の悲恋物語です。十郎左衛門への想いから吉良邸の情報を十郎左衛門に提供したおみのは、討ち入り後に蟄居を命じられている十郎左衛門に、その気持ち
が本心なのか吉良邸の情報が欲しかっただけなのかを確かめるため会おうと、身の回りを世話をする小姓に擬して接近しますが、内蔵助に女だと見抜かれます(高峰三枝子は誰が見ても女性にしか見えないが(笑))。それでも、十郎左衛門の懐におみのの琴の爪が忍ばせてあることを知った彼女は喜び、これから切腹の場に向かおうとする十郎左衛門と最期の面会を果たします(こんなことが可能とは思えないが、ここはお話)。
討ち入りの場面がなく、セリフも堅苦しくてあまり人気のある作品ではないですが、前半は忠とは何か?義とは何か? 武士とは何か? をとことん問う価値観の「論争劇」的な展開であり、内蔵助が、浅野大学頭を立ててのお家再興願いが叶えば、仇討ちの大義がなくなることに苦悩する場面があったりします。一方、討ち入りシーンが無いまま迎えた終盤は、高峰三枝子演じるおみのにフォーカスした、溝口健二お得意の「女性映画」であったように思いました。
また、この磯貝十郎左衛門と女性の悲恋物語は、諸田玲子が『四十八人目の忠臣』('11年/毎日新聞社)として小説に描いており、NHKの「土曜時代劇」枠で「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年・全

菅原文太(肥後国熊本藩藩主・細川越中守綱利(内蔵介らがお預けとなった細川家の当主))



「元禄忠臣蔵 前編・後編」●英題:The 47 Ronin●制作年:1941・42年●監督:溝口健二●製作総指揮・総監督:白井信太郎●脚本:原健一郎/依田義賢●撮影:杉山公平●音楽:深井史郎●原作:真山青果●時間:(前編)111分/(後編)112分●出演:(前進座)四代目河原崎長十郎/三代目中村翫右衛門/四代目中村鶴蔵/五代目河原崎國太郎/坂東調右衛門/助高屋助蔵/六代目瀬川菊之丞/市川笑太郎/橘小三郎/市川莚司(加東大介)/市川菊之助/中村進五郎/山崎進蔵/市川扇升/市川章次/市川岩五郎/坂東銀次郎/生島喜五郎/山本貞子/(松竹京都)海江田譲二/坪井哲/風間宗六/和田宗右衛門/竹内容一/征木欣之助/梅田菊蔵/大川六郎/村時三郎/大河内龍/松永博/大原英子/岡田和子/(第一協団)河津清三郎/浅田健三/(フリー)三桝萬豐/島田敬一/(新興キネマ)市川右太衛門/加藤精一/荒木忍/梅村蓉子/山路ふみ子/(松竹大船
)高峰三枝子/三浦光子/(その他)五代目嵐芳三郎/山岸しづ江/四代目中村梅之助/三井康子/市川進三郎/坂東春之助/中村公三郎/坂東みのる/六代目嵐德三郎/筒井德二郎/川浪良太郎/大内弘/羅門光三郎/京町みち代/小杉勇/清水将夫/山路義人/玉島愛造/南光明/井上晴夫/大友富右衛門/賀川清/粂譲/澤村千代太郎/嵐敏夫/市川勝一郎/滝見すが子●公開:(前編)1941/12/(後編)1942/02●配給:松竹(評価:★★★★)





これまで2回テレビドラマ化されていて、1つは1996年9月13日、フジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」枠にて放映された「松本清張スペシャル・火と汐」。
事件解明のプロセスとして、刑事たちが曽根からヒントをもら
ったりしているのは原作にはないことですが、最も違うのはラストであり、完全犯罪を成し遂げたと思って余裕の犯人に、刑事が密かに迫るという、映画「太陽がいっぱい」のようなラストになっていた点です。神田正輝はふてぶてしさがあってまずまずでしたが、このラストのお陰でアラン・ドロンと比べてしまったりしたら、ちょっと弱いでしょうか。
2度目のドラマ化は、TBS系列にて2009年12月21日(松本清張の生誕日)に放映された「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」。キャストは、芝村健介が渡部篤郎、芝村美弥子が西田尚美、曽根晋吉が遠藤憲一 (職業がでデザイナーになっている)、刑事役は寺尾聰と山本耕史です。
原作と異なり、前半から刑事側の視点を中心としたストーリー構成になっていて、ベテランと若手刑事が、警察の上層部から日限を設定されながらも、犯人のアリバイを根気よく崩し
ていくというもの。最後は、犯人の前でかなり長々と謎解きをやることになり、ケータイが犯行の決め手だったり、事件に関係する重要人物(美弥子の友人)がいたりと、多少原作をアレンジしていますが、これはこれで面白かったです。ただ、犯人役の渡部篤郎には旧作の神田正輝ほどのふてぶてしさはなく、「証拠がない」と繰り返し言っているのが、自分が犯人だと認めているようにも見えてしまいます。
「松本清張スペシャル・火と汐」(金曜エンタテイメント)●監督:松尾昭典●プロデューサー:名島徹/小坂一雄/林悦子●脚本:金子成
人●音楽:岩間南平●原作:松本清張●出演:神田正輝/南果歩/内藤剛志/竜雷太/勝野洋/布川敏和/大方斐紗子/浜田光夫/片岡五郎/剛たつひと/でんでん/水島涼太/菊地則江/沖恂一郎/浅沼晋平/山口嘉三/北山雅康●放映:1996/09/13(全1回)●放送局:フジテレビ
「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」●演出:竹之下寛次●プロデューサー:浅野敦也●脚本:金
子成人●音楽:田中晶子●原作:松本清張●出演:寺尾聰/山本耕史/遠藤憲一/西田尚美/佐藤仁美/東根作寿英/小木茂光/浅見れいな/石川小百合/丸岡奨詞/野間口徹/井上高志/浜田学/萬田久子(特別出演)/清水美沙/渡部篤郎●放映:2009/12/21(全1回)●放送局:TBS

弁護士の私は、同僚の楠田弁護士に頼まれ、ある事件の国選弁護を引き継ぐ。それは、新宿のバーのホステス・杉山千鶴子(23歳)が東京の西の外れの渓谷で殺害され、被害者のペンダントを所持していたことが決め手となり、死体発見現場から2キロほど離れた旅館「春秋荘」の番頭・阿仁連平(32歳)が逮捕・起訴されたという案件だった。事務所の助手・岡橋由基子から阿仁は無罪かもしれないと言われ、俄然やる気の出た私は、由基子とともに、阿仁の無罪証明に挑戦する。そして、努力の甲斐あり、晴れて阿仁被告は無罪となる。無罪となった阿仁は、これといった行き場もないため、私の弁護士事務所で働かせることにした。しかし、やがて私と由基子は、阿仁の人間性が芳しくないのに気づき、私は阿仁に対し素行を窘めた。すると阿仁は開き直って、とんでもない事実を口にする―。
「疑惑」は、野村芳太郎監督、岩下志麻主演でその年に「
このうちに、最も最近の船越英一郎版を観ましたがイマイチでした。弁護士役の船越英一郎は相変わらず暑苦しい演技で、星野真里の悪女ぶりがまあまあだったでしょうか(リ
アリティはないが)。犯人の時間トリックは、犯行後に川を渡って近道したということに改変されていますが(「奔流」というタイトルに懸けた?)、その日だけ川の水量が普段の半分だったというのも苦しい設定です。そしてラスト、追いつめられた犯人が弁護士を刺すという、その追いつめられて刺すというのが、映画での「刺す」こと意味合いとは逆の方向ではないかなあ(その結果、犯人が現行犯で捕まるという意味では、テレビ的結末にしたと言える)。


「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(水曜ミステリー9)●監督:村田忍●脚本:瀧川治水●原作:松本清張●出演:船越英一郎/星野真里/黒谷友香/賀来千香子/西村雅彦/阿部力/風間トオル/金山一彦/吉満涼太/鹿賀丈史/浅見小四郎/栗田よう子/ホリベン●放映:2009/03/04(全1回)●放送局:テレビ東京/BSジャパン



昭和30年代半ば、九州の片田舎で金貸しの老女の強盗殺人事件が起き、柳田桐子の兄で教師の正夫が容疑者として逮捕されて裁判にかけられる。正夫が第一発見者で、正夫は被害者から生前金を借りており、しかも殺害現場から借用証書を窃取する等、状況は正夫にとって圧倒的に不利だったが、それでも殺人に関しては無罪を主張する。思いあまった桐子は上京し、同郷出身の高名な弁護士の大塚に弁護の依頼を申し出る。だが、高額な弁護費用を工面できないのと、大塚自身の多忙を理由に断られ、失意の内に帰郷する。その後、一審で出た判決は死刑。そして、控訴中に正夫は無実を訴えながら獄中で非業の死を遂げた。桐子はその旨を大塚に葉書に書いて送る。殺人犯の妹の汚名を着せられた桐子は地元にいられなくなり、上京してホステスになる。一方、葉書を読んだ大塚は後味の悪さを感じ、独自に事件資料を集めて丹念に読み込んでいくうちに、真犯人は桐子の兄以外にいることを突きとめる。その頃、大塚の愛人・河野径子に、ふとしたことから殺人容疑がかかる。だが、たまたま殺人現場の近くに桐子が居合わせており、逃走する犯人の姿を見ていておまけに犯人のものと思われるライターまで拾っていた。径子の無実を証明できるのは桐子ただ一人。径子は桐子に現場近くで見たことをありのままに証言してくれるよう懇願するが―。 


このうち、日本テレビの相武紗季・市川海老蔵版を観ました。大塚弁護士は「新進気鋭の若手弁護士」ということになっていて、この市川海老蔵演じる大塚弁護士が最後は、雨の中、水溜りに額をつけて相武紗季演じる桐子に謝り倒すのですが、彼女は許さない...どころか、大塚弁護士を誘惑して、彼に犯されたとの告発状を検事局宛に送る―と、ここまでは一応はほぼ原作通りですが、最後の最後で、河野径子(戸田菜穂)の無実を証明する鍵となるライターを検事局の大塚の元上司(中井貴一)に送ってきて、結局、径子の無実は証明され、最後は妻と離婚した大塚と径子が二人仲睦まじくいるという終わり方になっていました(桐子側からすれば、自らの偽証も表明したことになるのだが、これでいいのか?)。
原作では、桐子の偽の告発状に大塚は抗弁することもなく、弁護士界のあらゆる役員を辞職したばかりでなく、弁護士という職業も辞しているので、それに比べるとドラマは甘いと言うか、テレビ的改変とでも言うべきものでしょう。
それにしても随分と大塚と径子に寄り添った作りになっているように思いました。市川海老蔵の演技は好悪が割れるところ。相武紗季が可愛すぎて、幼いころに両親を亡くし悲劇的環境を生きてきた女性には見えず、戸田菜穂が演技力でそれをフォローしているという印象だったでしょうか。西河克己監督の映画で三浦友和が演じた新聞記者役の東貴博(ドラマではフリーライター)や、海老蔵の部下役(事務所の大番頭?)の津川雅彦、大塚のキッチンドランカー気味の妻役の中澤裕子はまずまずといったところでした。





「証明」(オール読物、1969年)、「新開地の事件」(オール読物、1969年)、「蜜宗律仙教」(オール読物、1970年)、「留守宅の事件」(小説現代、1971年)の4編を所収。この中で、「密宗律仙教」は、印刷屋の渡り職人をしていた男が高野山で修行して新興宗教を起こす話で、宗教団体がどう生まれ、どう成長するか、そのプロセスが丁寧に描いていて面白かったです。最後の方に注射による犯罪行為が出てきますが、それは付け足しのようなもので、むしろノンフィクションタッチで描かれる教団および教祖誕生のプロセスが読み処であったように思います。他の3編は―。
この「証明」はこれまでに2度、1977年にTBS「東芝日曜劇場」で大原麗子・山本學主演で、1994年の同じくTBSの「月曜ドラマスペシャル」で風間杜夫・原田美枝子主演でドラマ化されていますが、いずれも個人的には未見です。
東京西部の北多摩郡、農地が開発されベッドタウン化しつつある地域で、長野直治は妻のヒサ・娘の富子と3人で暮らしていたが、ある時、九州から下田忠夫というゴツゴツした風貌の男が来て、間借人として直治の家に入ることになった。忠夫は菓子職人の見習いとして中央線沿線の有名菓子屋に通った。やがて職人となった忠夫は、富子と結婚することになり、長野家の養子に入る。やがて忠夫は直治の援助もあり、新宿の近くに洋菓子店を開業、店は繁盛した。1年後、直治は卒中で倒れ体が不自由になり、その2年目、直治は庭先で転倒し頭を打ったことが原因で死んだ。ヒサの身の振り方が問題となったが、土地を売って忠夫の店に同居するよう提案されるも、ヒサは頑なに拒否する。そうした中、ヒサの絞殺死体が発見される。忠夫の不審な行動に着目した警察は、行方不明となった忠夫を全国に指名手配、2週間後に逮捕された忠夫は、警察の推定した通りに犯行を自供する。しかし、その供述に検事は疑問を抱く―。
この「新開地の事件」は、1983年に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で藤真利子主演で「松本清張スペシャル・松本清張の知られざる動機」というタイトルで(まさにタイトル通りだが)ドラマ化されています。地主の一人娘・長野富子を藤真利子が、富子の結婚相手・下田忠夫を高岡建治が演じ、富子の母・長野ヒサは吉行和子、父・直治は内田朝雄が演じていますが、こちらも未見です。
この「留守宅の事件」は、1996年に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で古谷一行・内藤剛志主演で、2013年にテレビ東京の「水曜ミステリー9」枠で寺尾聰主演(刑事役)でそれぞれドラマ化されていますが、「火曜サスペンス劇場」版の古谷一行・内藤剛志主演の「松本清張スペシャル・留守宅の事件」を観ました。
容疑者にされてしまう萩野光治(古谷一行)は、原作と異なり、被害者の栗山宗子(洞口依子)と従兄妹関係にあり、かつて一度だけ肉体関係を持ったことがあるという設定となっていました。さらに、萩野は警察に逮捕されそうになる直前に逃れ、潜伏しながら妻(
金田一耕助役のイメージが強い古谷一行が、被疑者とされながらも自ら事件の真相を探る"探偵"の役割を演じているのはともかく、最近は刑事役が多い内藤剛志が犯人役を演じているのが興味深いですが、思い起こせばこの当時は結構犯人役や被害者役もやっていた記憶があります(1994年のTBS「月曜ドラマスペシャル」版の松本清張原作「証明」では、主人公に殺害される仏文学者の平井の役で出ている)。
「松本清張スペシャル・留守宅の事件」●監督:嶋村正敏●プロデューサー:佐光千尋(日本テレビ)/田中浩三(松竹)/林悦子(『霧』企画)●脚本:大野靖子●音楽:大谷和夫●原作:松本清張「留守宅の事件」●出演:古谷一行/内藤剛志/余貴美子/洞口依子/芳本美代子/平泉成/加地凌馬/内田大介/岡崎公彦/小畑二郎/米沢牛/佐竹努/西塔亜利夫/白鳥英一/阿倍正明/大橋ミツ/但木秋寿/木村理沙●放映:1996/01/09(全1回)●放送局:日本テレビ

産業スパイ組織・AN通信の諜報員・鷹野(藤原竜也)と、相棒の田岡竹内涼真)。彼らには、24時間ごとにAN通信へ定期連絡しなければ爆死する爆弾を埋め込まれている。彼らは今ある太陽光エネルギーの開発技術に関する国際的な争奪戦の最中にいた。他国のスパイや各国の権力者たちと対峙する中、鷹野の商売敵のデイビッド・キム(ピョン・ヨハン)や謎の女AYAKO(ハン・ヒョジュ)らが暗躍する―。
原作はスパイ合戦がかなり複雑に入り組んでいて、読んだのは8年くらい前なので、映画を観ながらストーリーの細部を思い出せるかなあと思ったけれども、結果的には、映画を観てもよく分からなかった部分が多かったという感じです。
ただ、映画というものはアクションだけでは成り立たず、ドラマ部分がしっかりしていてこそ印象に残るものとなるはずですが、ドラマ部分がやや弱かったでしょうか。と言うより、見始めてから、何か違うなあと思ったら、鷹野の生い立ちを巡るシリーズ第2作『森は知っている』も取り入れて2作を1本にまとめ、今起きていることと鷹野の過去の、高校時代や子ども時代のこととが交互に出てくる構成でした。
この構成自体が悪いとは思わないですが、本2冊分を1作に詰め込んだことで犠牲になったのが、プロット部分の描写だったように思います。説明的になり過ぎて全体のテンポが悪くなるのを避けるために敢えてそうしたのかもしれませんが、内容が飛び飛びになってサスペンス的な要素が抜けてしまったように思います。原作を読まずに観た人は、おそらく話の展開についけなかったのではないでしょうか。その分、鷹野の子ども時代や学校時代の描写がしっかりしていればまだいいのですが、どの演技シーンも何となく"作った"感があってイマイチでした(鷹野の学校時代の想い人・菊池詩織を演じた南沙良は、目下「演技修行中」といったところか)。
でも、大人の俳優陣が頑張った迫真のアクションシーンが思ったより良かったので、評価は「○」にしておきます。原作を読んだとき、鷹野やAYAKOの役を演じきれる役者はあまりいないように思いましたが、藤原竜也は意外と健闘したのではないかと思います("動"だけでなく"静"の演技もできるのが大きい)。この人は、以前にNHKのドラマ「海底の君へ」('16年)で演じた、中学の時に受けたいじめの後遺症に苦しみ、15年後に開かれた同窓会で爆弾を手に元いじめっ子へ復讐しようとする青年役のような、トラウマかな何かを負って、心に暗~い陰を持つ人間の役が似合うように思います。泳ぎが苦手な所謂"金槌"だったらしいけれど、あのドラマの時も今回も〈水〉と格闘していました(泳げるようになった?)。
一方、AYAKOの役は、原作が出たころ巷では「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞きましたが(いきなりアニメに行っちゃうのか)、誰が演じるのかと思ったら、日本人女優ではなく、映画「王になった男」('12年/韓国)でイ・ビョンホンと共演したハン・ヒョジュでした(日本人で見つからなかったのか、デイビッド・キムを演じたピョン・ヨハンとセット売りだったのか。それにしても、映画そものものに対してもそうだが、俳優の発掘・育成においても、今や韓国の方が日本より圧倒的にお金をかけている)。でも、ハン・ヒョジュの役名は原作通りAYAKOのままだったので、韓国語訛りの日本語が気になりました。
「海底の君へ」●演出:石塚嘉●作:櫻井剛●制作統括:中村高志●音楽:大友良英●出演:藤原竜也/成海璃子/水崎綾女/市瀬悠也/忍成修吾/淵上泰史/落合モトキ/近藤芳正/神戸浩/モロ師岡/麿赤兒●放映:2016/2/20(全1回)●放送局:NHK
「太陽は動かない」●制作年:2020年●監督:羽住英一郎●製作:武田吉孝/大瀧亮/森井輝/小出真佐樹/古屋厚●脚本:林民夫●撮影:江崎朋生●音楽:菅野祐悟(主題歌:King Gnu「泡」)●原作:吉田修一『太陽は動かない』『森は知っている』●時間:110分●出演:藤原竜也/竹内涼真/ハン・ヒョジュ/ピョン・ヨハン/市原隼人/南沙良/日向亘/加藤清史郎/横田栄司/翁華栄/八木アリサ/勝野洋/宮崎美子/鶴見辰吾/佐藤浩市●公開:20211/03●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン3)(21-03-06)(評価:★★★☆)

TOHOシネマズ上野


![疑惑 [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E7%96%91%E6%83%91%20%5BDVD%5D.jpg)

この事件も、当時ワイドショーなどで取り上げられ、逮捕前の本人インタビューなどが流れました。さらに、それにとどまらず、事件の翌月12月4日には、すでにすっかり"有名人"となっていた荒木虎美を、フジテレビがワイドショー「3時のあなた」のスタジオに招いて出演させたりもし、事件の"劇場化"のハシリだったかもしれません。当時ワイドショーに出ていた推理作家の戸川昌子(1931-2016)が、キャスターに感想を訊かれて「心証はクロ」と言っていたから、テレビではそれくらいのことは言っていい時代で、その辺りは割合ユルかったのかも(その後も「三浦和義事件(ロス疑惑)」(1981-82年)、「埼玉愛犬家連続殺人事件」(1993年)、和歌山毒物カレー事件」(1998年)などで似たような取り上げられ方が繰り返された)。
野村芳太郎監督、桃井かおり・岩下志麻主演の映画「疑惑」のほか、2019年までに4度ドラマ化されていて、1992年にフジテレビ系の「金曜ドラマシアター」で放送された「松本清張スペシャル・疑惑」(フジテレビ)を観ました。時代は現代(平成4年)になっていて、白河(鬼塚)球磨子がいしだあゆみ、弁護士・佐原卓吉が小林稔侍(映画「疑惑」では珠磨子を追及する検事役だった)、事件をスクープした新聞記者の秋谷茂一が石橋凌という配役。いしだあゆみは、映画版の桃井かおりとはまた違ったインパクトある毒々しさのが良かったように思います(この人はショーケンこと元夫の萩原健一の演技を崇拝していたが、本人の方が上手いと思うことがある)。
佐原卓吉役の小林稔侍は、岩下志麻と違って原作通り冴えないながらもピリッとしてる弁護士を演じていて、映画から原作に戻している印象。ただし、石橋凌が演じる秋谷記者は、原作のようにラストで佐原弁護士のもとへ凶器を持って忍び寄るといったことはなく、新聞社を退職して事件の真相をあくまで追い続けます。佐原弁護士が秋谷記者の間に接点があって互いに推理を展開し、佐原弁護士が秋谷記者に珠磨子が無実であることを直接説明するといった場面もあって、秋谷記者に予断や偏
見があったのではないかと諭し、実際に最終的には珠磨子は原作通り無罪となります。しかし、秋谷記者はやはり疑念が拭えないとのハガキを佐原弁護士に送り、それを読んでいるときに「球磨子釈放」のニュースを見ていた佐原弁護士の妻が、球磨子は「福太郎を追いつめれば自殺する」と計算していたのでないか、そうしたら「完全犯罪」だと言います。そして、それに応えるかのように、テレビ報道に映っている珠磨子が微かな笑みを浮かべたかのように見えます。この終わり方もありかなとは思いますが、でも、それは「未必の故意」以前の問題であり、球磨子も危ない目に遭っているには違いないから、やはり立証したりするのは難しいように思いました。
「松本清張スペシャル・疑惑」(TV)●監督:長尾啓司●制作:フジテレビ・レオナ・霧企画●脚本:金子成人●原作:松本清張●出演:いしだあゆみ/石橋凌/大場久美子/織本順吉/布川敏和/梅津栄/草薙幸二郎/清水章吾/小林稔侍●放映:1992/11(全1回)●放送局:フジテレビ



いしだ あゆみ



「声」は、文庫で80ページほどの短編で、「小説公園」1956(昭和31)年10月号・11月号に連載され、1957年2月に『森鴎外・松本清張集』(文芸評論社・文芸推理小説選集1)収録の一編として刊行されています。また、鈴木清順監督、二谷英明(石川汎)、南田洋子(朝子)主演で「影なき声」('58年/日活)として映画化されるとともに、1950年代から70年代にかけて5回テレビドラマ化されています。電話交換手という仕事が人々にとってまだ馴染みのあったころに集中していうように思います(今後ドラマなどで映像化される可能性は低いか)。
「影なき声」●制作年:1958年●監督:鈴木清順●脚本:佐治乾/秋元隆太●音楽:林光●撮影:永塚一栄●原作:松本清張「声」●時間:92分●出演:二谷英明/南田洋子/高原駿雄/宍戸錠/芦田伸介/金子信雄/高品格●劇場公開:1958/10●配給:日活
ドラマ化作品では、「声」のドラマ化作品で、'78年にテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠(2時間ドラマがまだ定着しておらず90分枠だった)で放送された音無美紀子主演の「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」がありました(4回目のドラマ化作品であり、その後ドラマ化されていまいのは、やはり「電話交換手」という職業設定のためか)。
「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」●監督:水川淳三●プロデューサー:佐々木孟●脚本:吉田剛●音楽:菅野光亮●原作:松本清張●出演:音無美紀子/秋野太作(津坂匡章)/米倉斉加年/泉ピン子/小松方正/柳生博/波多野憲/高橋征郎/寄山弘/土田桂司/加島潤/高杉和宏/小林悦子/本木紀子/沖秀一/山本譲二●放映:1978/03/11(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★☆)
小関信子(音無美紀子)は、不動産屋を経営する夫・精一(津川雅彦)姑の初子(賀原夏子)と三人で暮らしていた。精一は北海道の新規案件のためパンフレットのデザインを従兄弟の高瀬俊吉(速水亮)に依頼することになり俊吉が精一の家にやって来た。たたき上げで勢力旺盛な精一と違い俊吉は一流商社のデザイナーで性格も対照的だった。精一は俊吉が信子に心を寄せていることはわかっていた。それを信子も気が付いているだろうが、信子は自分を愛しているという自信があった。その晩、俊吉は精一夫婦の家に泊まることになった。俊吉が隣の部屋に寝ているのも気にせず、精一は信子を求めてきた。気配を察した俊吉は、精一の家を飛び出すと馴染みのバーへ行った。ホステスのユリ(池波志乃)がひとりいただけでそのままふたりはユリの家へ行く。ユリは同僚の田所常子(横山エリ)が俊吉と付き合っていたと思い、俊吉に自分は常子と違って結婚は求めないと迫っるが、俊吉はユリを振り切って帰ってきてしまう。精一は北海道へ出張に行くことになった。信子は妊娠したことがわかり早くそれを伝えようと空港まで急きょ精一を見送りに行くことにした。信子が精一に妊娠を告げると、性格的に大喜びしそうな精一だが複雑な表情だった。信子は早く帰ってくるように言って見送ったが、精一はいつまで経っても帰ってこなかった。不安に思った信子が北海道へ電話すると、そこはもう10日も前に発っていたという。信子は俊吉の会社へ行き、心当たりを聞くが、俊吉は自分は何も知らないという。羽田空港に到着した信子を俊吉が迎えに来ててくれた。俊吉は今度は自分が常子のところへ行ってみるという。心労が重なった信子は病院で流産してしまう。知らせを受けた初子が来て、俊吉から精一に女がいたことを聞かされた。俊吉は信子を飲みに誘い、酔った俊吉は信子の家へ行き二人はその晩関係を持ってしまう。警察から常子が死体で見つかったと連絡が入り、信子と俊吉は署まで出向く。刑事が言うのには十和田湖近くの林で見つかり死後約2か月ほどで、青酸系の毒物を飲んだらしい。依然として精一の行方はわからない。常子の兄で元宮城県警の刑事・白木淳一(下川辰平)も来ていて、長らく音信不通だった常子から1か月ほど前に手紙が来てアパートへ行ったものの10日前に家を出たきりだった。それから、ずっと妹を探し続けていたのだと話すー。
かなり原作を改変していますが、放映当時はこれはこれで面白いということで(視聴率23.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))'83年3月に同じ土曜ワイド劇場枠で再放送されています。ドラマ「太陽にほえろ!」('72年~'75年)で七曲署の「長さん」こと野崎太郎・巡査部長を演じた下川辰平(1924-2004/75歳没)を元宮城県警の刑事・白木淳一役で起用していて、原作を読んでいれば尚のことですが、ほとんどの人が引っかかったのではないでしょうか(「これはないよ」という気も若干したが)。音無美紀子はホームドラマのイメージですが、このほかにも同じく土曜ワイド劇場の「松本清張の山峡の章・みちのく偽装心中」('81年/ANB)にも出ていて(主演)、サスペンスでも安定した演技力を発揮していたことがわかります。
「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」●監督:野村孝●プロデューサー:吉津正/柳田博美/野木小四郎●脚本:柴英三郎●音楽:菅野光亮●原作:松本清張●出演:音無美紀子/津川雅彦/速水亮/賀原夏子/横山リエ/下川辰平/池波志乃/小野武彦●放映:1980/12/06(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★☆)
大竹しのぶ主演の「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件」あたりが、一番原作に忠実なのかも。時代が原作の昭和30年代から〈今〉に置き換えられているため、主人公の夫の職業は石炭商から魚のブローカーに換えられていますが、おおむね原作に忠実です。主人公がどこで犯人に気づくかが原作の一つのポイントですが、大竹しのぶが上手く演じていてさす
がです。この女優はときどき演技過剰になるような印象もありますが、この作品は適度な演技達者ぶりで良かったです。演技達者ぶりと言えば、旅館経営者の白木を演じた寺田農も良かったです(ちょっと怪しげなところが役にぴったり)。











渥美信一郎は療養中の妻の見舞いに訪れた湯河原で自動車事故に巻き込まれる。事故にあった青年・青木淳は腕時計を「瑠璃子に返してくれ」と言い残しノートを託して絶命する。青木の葬儀で見聞きした情報を基に、信一郎は妖艶な未亡人・壮田瑠璃子を訪ねる。瑠璃子は腕時計を見て動揺した様子を見せるが、それをごまかし腕時計を預かり、信一郎を音楽会に誘う。青木のノートには愛の印として貰った腕時計が他の男にも送られているのを知って自殺を決意したことが書かれていた―。数年前、貿易商・壮田勝平は自宅で催した園遊会で、子爵の息子・杉野直也と男爵の娘・唐沢瑠璃子から成金ぶりを侮辱され激怒、奸計を巡らす。貴族院議員・唐沢光徳の債権を全て買い取りさらに弱みを握り、瑠璃子に結婚を迫る。自殺を図った父に瑠璃子は「ユージットになろうと思う」と押しとどめ、直也には復讐のため結婚しても貞操を守ると手紙する。壮田と結婚した瑠璃子は、父の見舞いを理由に実家に帰ったり、壮田に「お父様になって」と言ったりして体を許さない。知的障害のある壮田の息子・勝彦も手懐け、寝室の見張りをさせる。壮田は瑠璃子を葉山の別荘に連れ出し、嵐の夜に関係を結ぼうとするが、瑠璃子を追ってきた勝彦が窓から飛び込んで荘田の襲いかかるのを見て驚き卒倒、壮田は我が子の将来を瑠璃子に託し亡くなる、豪奢な生活はその瑠璃子を、男の気持ちを弄ぶ妖婦へと変貌させていた―。
1916年に戯曲『屋上の狂人』『暴徒の子』、翌年『父帰る』、1918年には『無名作家の日記』『忠直卿行状記』『恩讐の彼方に』などを続々発表して作家としての地位を確立し、1919年、芥川龍之介とともに大阪毎日新聞杜の客員となり、『藤十郎の恋』、『友と友の間』などを書いています。
その菊池寛が1920(大正9年)年の6月9日から12月22日まで大阪毎日新聞、東京日日新聞に連載したのがこの小説『真珠夫人』で、菊池寛(当時31歳)にとって初の本格的な通俗小説であり、その人気は新聞の読者層を変え、後の婦人雑誌ブームに影響を与えたとも言われています。通俗小説の代表格として、紅葉の『金色夜叉』や徳富蘆花の『不如帰』を継ぐとも言われたそうですが、それらよりはずっとモダンであると思います(作中に『金色夜叉』を巡る通俗小説論争がある)。
2002年7月に単行本が刊行され、翌8月に新潮文庫と文春文庫で文庫化されていますが、同2002年4月1日から6月28日の毎月曜から金曜までフジテレビ系列で放送された東海テレビ製作の昼ドラ「真珠夫人」全65回の放映が終わって、その人気を受けてそれぞれ急遽刊行されたのではないでしょうか。それ以前にも、1927年に松竹キネマの池田善信監督・栗島すみ子主演で、1950年には大映が山本嘉次郎監督・高峰三枝子・池部良主演で映画化され、1974年にはTBSがこれも昼ドラの「花王・愛の劇場」で光本幸子(「男はつらいよ」の初代マドンナ)主演の全40回が放映されていますが、2002年の放送はとりわけ人気が高かったようです。放送時間が昼1時30分から2時までで、DVDレコーダーなど無い時代で、会社務めの人の中にはビデオテープを買い溜めて録画した人も多かったとか。
その2002年のフジテレビ版は、主演が横山めぐみ、脚本が中島丈博(「
直也が瑠璃子と会っているのを知った登美子のいる自宅へ直也が帰宅すると、登美子が夫に「おかず何もありません、冷めたコロッケで我慢してください」と言い、たわしと刻んだキャ
ベツを皿に載せて出すという「たわしコロッケ」シーンが当時話題になりましたが、とにかくエグさが前面にきていたでしょうか。一方の瑠璃子は、義理の娘や息子を守りながら、内には直也への愛を秘め、健気に純潔を守り通すというのは原作どおりですが、原作のように男たちの前でフェミニズム論を展開することはなく、視聴者受けを狙ったのかキャラの先鋭的な部分を改変したような印象も受けます。

「真珠夫人」●演出:西本淳一/藤木靖之/大垣一穂●脚本:中島丈博●音楽:寺嶋民哉●出演:横山めぐみ/葛山信吾/大和田伸也/森下涼子/松尾敏伸/奈美悦子/日高真弓/浜田晃/増田未亜/河原 さぶ●放映:2002/04~06(全65回)●放送局:フジテレビ


大和絵や浮世絵のようなタッチで、非常に緻密に人物や建築物などを描き込む画風で知られる山口晃(1969年生まれ)氏の大画面作品集です。'19年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の(題字の「回転する三本の脚」は横尾忠則氏によるものだが)タイトルバックの東京の俯瞰図のような緻密な絵の作者がこの人でした。また、近年パブリックアートに力を入れている成田空港では、第1ターミナルで、この人の成田空港をモチーフにした絵「成田国際空港 飛行機百珍圖」が見られます。
本書の巻頭にも、この「成田国際空港 飛行機百珍圖」図がきていて、部分拡大図と全体図があって、その緻密さや細かいところで施された"遊び"が堪能できるものとなっています。実物は、1枚が縦3.8m×横3.0mだそうですが、とにかく細部の描き込みがスゴイです。「いだてん」のタイトルバックはもう少しゆったりした感じで描いたのかなあと思ったら、あれは人物(中村勘九郎や阿部 サダヲ)を怪獣映画のゴジラか何かに見立てて、その想定サイズに合わせて絵の方も大映したそうで、それによってテレビでも絵の細部が楽しめるようになっていますが、原画のサイズは1.6m×横2.6mだそうで、小さくはないけれど、特別に巨大な絵でもないようです。
こうした細密画を専門とする画家は他にもいるし、鳥瞰図絵師としては、大胆なパノラマ地図を描き続けた吉田初三郎(1884-1955)から、最近では、港町神戸の"今"を描き続けている青山大介氏などもいますが、青山氏の絵なども素晴らしいと思います(自分の実家が神戸なので愛着がある)。青山氏の絵を観ていると、技法的には、かつてのイラストレーター真鍋博(1932-2000)の『
"遊び"が堪能できると言いましたが、その最大の遊びが、同じ絵の中に時空を超えて、江戸や明治の時代の人物や事物と現代の人物や事物を混在させていることで、現在が主となってその中に昔のものが混ざっているものもあれば、昔の時代が主で、その中に現代が混ざっているものもあります。後者の例で言えば、1枚の絵の中で、武家の厩に馬が羈がれているのに混ざってバイクが駐車されていたり、烏帽子頭の男と話している相手が脇にパソコン開いていたりして、くすっと笑いたくなります。
言葉について再考するとともに、「日本画、洋画なんて事は海の向こうの人から見ればとるにたらない事でしょう」と述べています。


「いだてん〜東京オリムピック噺〜」●脚本:宮藤官九郎●演出:井上剛/西村武五郎/一木正恵/大根仁/桑野智宏/林啓史/津田温子/松木健祐/渡辺直樹/北野隆志●時代考証:小和田哲男●音楽:ジョン・グラム●衣装デザイン:黒澤和子●題字:横尾忠則●出演:中村勘九郎/阿部サダヲ/(以下五十音順)浅野忠信/麻生久美子/綾瀬はるか/荒川良々/安藤サクラ/生田斗真/池波志乃/板尾創路/イッセー尾形/井上順/岩松了/柄本佑/柄本時生/大竹しのぶ/小澤征悦/勝地涼/加藤雅也/夏帆/神木隆之介/上白石萌歌/川栄李奈/桐谷健太/黒島結菜/小泉
今日子/斎藤工/シャーロット・ケイト・フォックス/
白石加代子/菅原小春/杉咲花/杉本哲太/大東駿介/田口トモロヲ/竹野内豊/寺島しのぶ/トータス松本/徳井義実/永島敏行/仲野太賀/中村獅童/永山絢斗/萩原健一/橋本愛/林遣都/古舘寛治/星野源/松尾スズキ/松坂桃李/松重豊/三浦貴大/満島真之介/皆川猿時/峯田和伸/三宅弘城/宮崎美子/森山未來/薬師丸ひろ子/役所広司/リリー・フランキー/ビートたけし(噺)/森山未來(語り)●放映:2019/01~2021/12(全47回)●放送局:NHK 中村勘九郎(第一部主人公:金栗四三)/阿部サダヲ(第二部主人公:田畑政治)











1996年から刊行されている小学館版の「学習まんが人物館」シリーズの1冊ですが(№66)、来年['20年の]のNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」が明智光秀の生涯を描いたものであるとのことに合わせての刊行と言えます。因みにこのシリーズでは、今年['19年の]のNHKの大河ドラマ「
監修は、大河ドラマ「麒麟がくる」の時代考証を担当している小和田哲男氏であり、同氏の『
とまれ、漫画同様いろいろと「絵的」に観る側を引き込むような話を(真偽のほどはともかく)ドラマでも織り込んでいくのでしょう。でも、漫画はこうして注釈をつけることで諸説あることが説明できるけれど、ドラマの場合はどうするのだろう? まあ、「大河」が歴史的にほぼあり得なかったようなことをしばしば"再現"してみせるのは、今に始まった話ではありませんが。それより、準主役級の帰蝶役の沢尻エリカが先月['19年11月]、麻薬取締法違反の容疑で逮捕され、川口春奈を代役として撮り直しているとのことで、こちらの方がむしろ前代未聞の事態であり、何かとたいへんそうです。 左端:沢尻エリカ(2019.3.8)


の撮影&放送休止を挟み、1~12月の暦年制としては史上初の越年放送となったが、当初予定の44回分を放映。平均視聴率は関東地区・関西地区とも14.4%で、大河ドラマ初の1桁台を記録し過去最低だった2019年の「いだてん」を大幅に上回わり、「本能寺の変」を扱った最終回の視聴率は関東18.4%、関西18.2%までいった。因みに、堺正章が「架空人物の会」という会を起ち上げ、門脇麦、岡村隆史に「我々は、いつだって消えてなくなっちゃう役なんだから頑張って爪痕を残さないとダメですよ」と言い含めたという楽屋ネタがあるが、堺正章が演じた医師・東庵には、曲直瀬道三(まなせ どうさん)という実在のモデルがいる。
【感想】 時代考証担当は小和田哲男氏であり、明智光秀の謀反の理由について、「信長非道阻止説」が展開されるこ
とは、明智光秀を主役とした初めての大河ドラマであることからも既定路線であったように思う。最近、光秀自身は本能寺には行かなかったという説が浮上しているが、この説はドラマではもちろん採用していない。また、光秀が山崎のに敗れたことも、その後落ち武者狩りで殺害されたことも映像化しておらず、本能寺の変のあと話はいきなり3年後に飛び、実は「明智光秀は生きながらえたのかもしれない」と思わせもする終わり方になっていた。
関心をひいたのは、光秀が信長に反旗を翻した要因として、この漫画版同様に「四国問題」における考え方の違いにも触れてはいるものの、本能寺の変の主たる原因は、信長が光秀に「将軍・足利義輝の殺害命令」を下したことにあるという解釈になっていた点で、いくつも説がある謀反の理由の一つに「将軍黒幕説(「鞆幕府推戴説」)」というのもあるが(
阻止説」をさらに具体化したものと言えるだろう(「信長非道阻止説」に沿ってドラマ作りするにしても、何か具体的な"非道行為"を示さないと訴求力が弱いとみてこうなったのではないか)。染谷将太演じる信長が、本能寺にいる自分を襲った相手が光秀であると知ったとき、やはりそうかと納得している風なのが、今回のドラマの特徴を象徴している。つまり、その時の信長は、「光秀は自分ではなく将軍の方を選んだのだ」と悟ったということ。全体として、そうした信長と光秀の関係を描いたドラマだったので、山崎の戦いなどは描かず、「信長が亡くなったところで終わり」ということになったのだろう。
もう一つドラマで特徴的だったのは、本能寺の変の二日前くらいに佐々木蔵之介演じる羽柴秀吉に届いた、眞島秀和演じる細川藤孝(本能寺の変の際、上役であり、親戚でもあった光秀の再三の参戦要請を断っている)の手紙によって「秀吉は事前に光秀の謀反を察知していた」とされている点で、そういう俗説はあるものの、事実として歴史には残る話ではなく、これは「明智光秀は生きながらえた」説と同じく、「遊び」のひとつではないか。秀吉が本能寺の変後、すさまじい勢いで京都へ戻り、光秀軍を破る所謂「中国大返し」の行程には無理があると推論されたりし、このような説が生まれやすくなっているが、「中国大返し」の行程は必ずしも非現実的なものではなかった―というのが近年の有力説である。

橋克典/滝藤賢一/谷原章介/檀れい/徳重聡/西村まさ彦/濱
田岳/坂東玉三郎/ベンガル/本郷奏多/眞島秀和/真野響子/間宮祥太朗/南果歩/向井理/村田雄浩/本木雅弘/山路和弘/ユースケ・サンタマリア/吉田鋼太郎/(ナレーター)市川海老蔵●放映:2020/01~2021/01(全44回)●放送局:NHK



章のウェイトとしては、一章の幸綱に46ページ、二章の信綱に16ぺージ、三勝の昌幸に122ぺージ、四章の信繁(幸村)に60ページ、五章の信之に22ページという配分になっていて、昌幸に信繁の倍以上の紙数を割いていることになりますが、2016年のNHK大河ドラマの方でも、1月から始まって9月25日の放送回で昌幸が没するまで、殆ど、かつてNHKの新大型時代劇「真田太平記」('85.04~'86.03)で真田幸村(信繁)を演じた草刈正雄が演じるところの昌幸が中心に描かれていたことと呼応し合っていうようにも思われます(当時、9月25日の放送回終了直後は「昌幸ロス」とまで言われた)。
2016年に信州・上田市に旅行に行き真田の郷なども巡ってきましたが、「信州上田・真田丸大河ドラマ館」が一番混んでいました。上田城跡公園内の上田市民会館を模様替えして1年間の期間限定で「大河ドラマ館」にしてしまったようだけれど。以前からある「真田氏歴史館」にも大河ドラマで使われた衣装などがあったりし
て、しっかりNHKとタイアップしていました。むしろ、真田氏本城跡(城跡も何も残ってないが真田の郷が一望できる)や真田氏館跡・御屋敷公園などの方が、落ち着いた雰囲気で、戦国武将になった気分、乃至は「強者どもが夢のあと」的な感慨を味わえたような気もします。





2018年「本屋大賞」の第1位が『かがみの孤城』(651.0点)、第2位が『盤上の向日葵』(283.5点)、第3位が『屍人荘の殺人』(255.0点)です。因みに、「週刊文春ミステリーベスト10」(2017年)では、『屍人荘の殺人』が第1位、『盤上の向日葵』が第2位、『かがみの孤城』が第10位、別冊宝島の「このミステリーがすごい!」では『屍人荘の殺人』が第1位、『かがみの孤城』が第8位、『盤上の向日葵』が第9位となっています。『屍人荘の殺人』は、第27回「鮎川哲也賞」受賞作で、探偵小説研究会の推理小説のランキング(以前は東京創元社主催だった)「本格ミステリ・ベスト10」(2018年)でも第1位であり、東野圭吾『

埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ―。(『盤上の向日葵』)
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった―。(『屍人荘の殺人』)
先にも紹介した通り、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」の"ミステリランキング3冠"作(加えて「本格ミステリ大賞」も受賞)ですが、殺人事件が起きた山荘がクローズド・サークルを形成する要因として、山荘の周辺がテロにより突如発生した大量のゾンビで覆われるというシュールな設定に、ちょっとついて行けなかった感じでしょうか。謎解きの部分だけ見ればまずまずで、本格ミステリで周辺状況がやや現実離れしたものであることは往々にしてあることであり、むしろ周辺の環境は"ラノベ"的な感覚で読まれ、ユニークだとして評価されているのかなあ。個人的には、ゾンビたちが、所謂ゾンビ映画に出てくるような典型的なゾンビの特質を有し、登場人物たちもそのことを最初から分かっていて、何らそのことに疑いを抱いていないという、そうした"お約束ごと"が最後まで引っ掛かりました。
(●『屍人荘の殺人』は2019年に木村ひさし監督、神木隆之介主演で映画化された。原作でゾンビたちが大勢出てくるところで肌に合わなかったが、後で考えれば、まあ、あれは推理物語の背景または道具に過ぎなかったのかと。映画はもう最初からそういうものだと思って観
ているので、そうした枠組み自体にはそれほど抵抗は無かった。その分ストーリーに集中できたせいか、原作でまあまあと思えた謎解きは、映画の方が分かりよくて、原作が多くの賞に輝いたのも多少腑に落ちた(原作の評価★★☆に対し、映画は取り敢えず星1つプラス)。但し、ゾンビについては、エキストラでボランティアを大勢使ったせいか、ひどくド素人な演技で、そのド素人演技のゾンビが原作よりも早々と出てくるので白けた(星半分マイナス。その結果、★★★という評価に)。)
「屍人荘の殺人」●制作年:2019年●監督:木村ひさし●製作:臼井真之介●脚本:蒔田光治●撮影:葛西誉仁●音楽:Tangerine House●原作:今村昌弘『屍人荘の殺人』●時間:119分●出演:神木隆之介/浜辺美波/葉山奨之/矢本悠馬/佐久間由衣/山田杏奈/大関れいか/福本莉子/塚地武雅/ふせえり/池田鉄洋/古川雄輝/柄本時生/中村倫也●公開:2019/12●配給
:東宝●最初に観た場所:新宿ピカデリー(19-12-16)(評価:★★★)●併映(同日上映):「

アニメ映画「かがみの孤城」('22年/松竹)監督:原恵一
●2019年ドラマ化(「盤上の向日葵」) 【感想】 2019年9月にNHK-BSプレミアムにおいてテレビドラマ化(全4回)。主演はNHK連続ドラマ初主演となる千葉雄大。原作で埼玉県警の新米刑事でかつて棋士を目指し奨励会に所属していた佐野が男性(佐野直也)であるのに対し、ドラマ
では蓮佛美沙子演じる女性(佐野直子)に変更されている。ただし、最近はNHKドラマでも原作から大きく改変されているケースが多いが、これは比較的原作に沿って
丁寧に作られているのではないか。原作通り諏訪温泉の片倉館でロケしたりしていたし(ここは映画「テルマエ・ロマエⅡ」('14年/東宝)でも使われた)。主人公の幼い頃の将棋の師・唐沢光一朗を柄本明が好演(子役も良かった)。竹中直人の東明重慶はややイメージが違ったか。「竜昇戦」の挑戦相手・壬生芳樹が羽生善治っぽいのは原作も同じ。加藤一二三は原作には無いドラマ用ゲスト出演か。
「盤上の向日葵」●演出:本田隆一●脚本:黒岩勉●音楽:佐久間奏(主題歌:鈴木雅之「ポラリス」(作詞・作曲:アンジェラ・アキ))●原作:柚月裕子●出演:千葉雄大/大江優成/
『かがみの孤城』...【2021年文庫化[ポプラ社文庫](上・下)】






1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『
『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「
映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「
演じていますが(共演者に「
原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。
実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った
ものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど
(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「


ける)が事件解決に臨む。ストーリーは概ね原作通りで、原作に対するリスペクトが感じられる。ただし、時代設定を昭和30年に置き換え、舞台を"巡礼の道"として世界遺産にも登録されている熊野古道および和歌山県天狗村にある「黒門ホテル」にしているため、作品の雰囲気はかなり違ったも
のとなっている。熊野本宮大社は本物の現地ロケ、熊野古道ツアーのスタート地点「発心門王子」には浜松市にある「方広寺」が使われ(2018年に行った。参道が長い山道になっている)、黒門ホテルの外観
の概観は「蒲郡クラシックホテル」が使われたが、内観はセット撮影であるとのこと。全体に三谷幸喜らしいコメディタッチで、殺害される金持ちの未亡人(松坂慶子)さえもユーモラスでどこか憎めない(松坂慶子はコメディ専門になったのか?)。映画でローレンン・バコールが演じた女性代議士(鈴木京香)が、勝呂と旧知であるというのはドラマのオリジナル。でも、プロットは原作をそのまま活かしていることもあって愉しめた。
「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー
ター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ
イケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)


【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】




、全体を通してその演技力で魅せていた。ドラマには脇役で出ることが多いが、こうして主役をやると改めてその力量を感じ取れる。ドラマというより演劇の舞台を観ている感じで、改めて原作がそうした性格のものだったかなあと思ったりした(柄本明が舞台出身であるというのもあるかも)。ミステリ風だが、原作を既に読んでいると、伏線がややはっきりしすぎていて、観ている人はすぐに分かってしまうのではないかと思った。ただ、最後まで、事実説明をしなかったのは良かった(これで説明的描写を入れるとくどくなる。結果的に、原作を読んでいない人は、ミステリの部分も愉しめたのではないか。



『
NHK土曜ドラマ「夏目漱石の妻」(出演:尾野真千子、長谷川博己)を偶々見て、結構面白く感じられ(尾野真千子はやはり演技が上手く、長谷川博己も舞台で蜷川幸雄に鍛えられただけのことはあった)、それに触発されてこの原作本を手にしました。
原作は、夏目漱石(1867-1916/享年49)の妻・夏目鏡子(1877-1963/享年85)が1928(昭和3)年に漱石との結婚生活を口述し、それを漱石の弟子で長女・筆子の夫の松岡譲(1891-1969/享年77)が筆録して雑誌「改造」に連載したもので、1928年11月に『漱石の思ひ出』として改造社から刊行され、その時は60点余りの写真入りであったのが、翌1929(昭和4)年10月に同じカバーデザインで写真を割愛し、代わりに付
それまでの漱石は「DV夫」であり、その暴力は子どもにまでも及び、それはドラマでも描かれていましたが(例えば火鉢の淵に五厘銭があっただけで、ロンドンでの経験と勝手に結びつけて自分が馬鹿にされていると思い込み、娘である筆子を殴ったりした)、「吾輩は猫である」を書き始めてからも、向いの下宿屋の書生に、「おい、探偵君。今日は何時に学校にいくのかね」と呼びかけたりして、書生が自分の事をスパイしていると思い込んだりしているなど(これもドラマで描かれていた)、"病気"が治っていたわけではないのだなあと。英国留学から戻って来て以降は、ずっとそうした"病気"と共存して生きる人生であったのだなあと思いました。
鏡子については悪妻説が根強くあるようですが、これを読むと、確かに言われているように鏡子が産後のヒステリーで精神不安定になった時期もあるようですが、やっぱりどうしょうも無く勝手なのは漱石の方で、それを大きく包み込んでいるのが鏡子であるというのが全体としての印象です。ドラマのラストで(おそらく善光寺への講演旅行に鏡子が同伴した際の一コマかと思われるが)、鏡子が漱石に「坊ちゃん」の中に出てくる"坊っちゃん"を小さい頃から可愛がってくれた下女・清(キヨ)のモデルは私でしょうと問う場面が
ありますが、これはドラマのオリジナルです。漱石の孫にあたる夏目房之介氏が、鏡子の本名がキヨであることに注目し
て、「坊っちゃん」という作品が漱石から鏡子に宛てたラブレターだったのではないか、と指摘しており、それをドラマに反映させたのではないかと思われます。


竹中直人(夏目金之助(漱石)の養父・塩原昌之助。かつては羽振りが良かったものの、いまは落ちぶれてたびたび金之助の元を訪れては、金銭的な援助を求める)




まかりあり候ところ、此の度不慮の儀これあり候ところ、われら職分怠たりの為と申訳なく存じ候。さるによって来る二十八日未の刻を期して切腹仕可」。建札の主は"槍の蔵人"の異名をもつ富田蔵人高定(大友柳太朗)。高定は死ぬまでの数日を心おきなく過すため、豪商・堺屋宗四郎(十朱久雄)の別荘に身を寄せ、贔屓の女歌舞伎太夫・左近(淡島千景)と妥女(花園ひろみ)を呼ぶ。建札を見て高定の心を知った妥女は一人残るが、一夜明けた朝「殿様は女というものの心がお分
りではございません」という言葉を残して迎えに来た左近と去る。千本松原には多くの見物人が集まったが、高定は乱酔のた
め切腹の定刻を過ごし、介錯人(南方英二)に合図したところで秀吉の使者に切腹を止められる。高定は西山の村里に妥女と住むことになる。慶長3年(1598)、秀吉が亡くなる。兄の知信(原健策)は高定に再び切腹を迫るが、高定は兄を追い返し、仕官を勧めて訪れる前田利長(片岡千恵蔵)の家臣・内藤茂十郎(徳大寺伸)の言にも取り合わない。秀吉の死により家康(小沢栄太郎)の野望は高まり、関ケ原で豊臣徳川両家が興亡を賭け対峙する。今度は
高定の庵に利長本人が訪れて再度仕官を促す。高定に忘れ去ったはずの
侍魂を呼び起したのは槍だった。子供が生れるとすがりつく妥女を残して、高定は利長の後を追うが、これは同時に左近との約束も破ることであった。関ケ原の本陣で、家康の本営に呼ばれた高定の
前に突き出されたのは、三成(山形勲)に内通したという兄・知信の首だった。利長のとりなしで陣営に帰った高定に、左近が迫る。女の一念
をこれで計れと高定を斬りつけ、返す刃でわが胸に懐剣を突き立てる。知信、左近の土饅頭を前に夜を明かした高定。家康の本陣から三成の陣へ。高定の目にはもう敵も味方も生も死もなかった―。
秀次の愛妾の中に家康の密偵として送り込まれた左近(淡島千景)の実の妹がいて、誰が密偵か分からない秀吉側は、秀次切腹後、冷酷な三成の進言により(山形勲かあ)妻妾38人全員を処刑しますが、同じく冷酷な家康の方も(小沢栄太郎かあ)そのことを特に何とも思わない―そうしたことに対する左近の怒りと悲しみというのも説明不足でしょうか。妥女と高定を張り合って、自ら降りて後見人的立場に引き下がっただけみたいな描かれ方をしています。
このようにいろいろケチはつけたくなりますが、豪放磊落な高定を演じる大友柳太朗を楽しめ、ラストの(滅茶苦茶な)戦場シーンも、馬上で槍を振り回すその豪快さは見所と言えるでしょう。しかも、馬を急旋回させながらそれをやっているからすごいです。これだけでもDVD化する価値はあると思うけれど、現在['16年]のところまだされていません。



「酒と女と槍」●制作年:1960年●監督:内田吐夢●製作:大川博●脚本:井出雅人●撮影:鷲尾元也●音楽:小杉太一郎●原作:海音寺潮五郎「酒と女と槍と」●時間:99分●出演:大友柳太朗/淡島千景/花園ひろみ/黒川弥
太郎/山形勲/東野英治郎/原健策/須賀不二夫/織田政雄/徳大寺伸/小沢栄太郎/片岡栄二郎/高松錦之助/松浦築枝/赤木春恵/水野浩/有馬宏治/十朱久雄/香川良介/楠本健二/浅野光男/舟橋圭子/近江雄二郎/大崎史郎/尾上華丈/石
丸勝也/村居京之輔/南方英二(後のチャンバラトリオ)/泉春子/片岡千恵蔵●公開:1960/05●配給:東映(評価:★★★☆)




川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作
った。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす
地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝ている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅
は残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り
にし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で
助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。
まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての
押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。
それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜
劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。
その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし(お梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するのを「よせよ」と遠巻きに言うだけで何もできない夫・宗吉に代わって毅然と赤ん坊を取り上げ、「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」と言うという、いい人のキャラだった)、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。
要する地方にあるS市という原作の設定から埼玉県の川越市に改変され、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、映画では同じ埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。
宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食
べさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。
原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが(脚本の井手雅人は「父親を拒否した」を意図したが、野村芳太郎監督が「父親を庇った」ととれる演出に変えたと言われている)、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。
(●2025年に池袋・新文芸坐で15年ぶりに再見(映画館で観るのは4回目)。父・宗吉は息子・利一を連れて東尋坊に行き、ただしそこでは決心がつかず、能登半島まで行って「福浦」の旅館に泊まり、今度はバスでその先の「関野鼻」のバス停で降り、ヤセの断崖に辿り着いたのだったことを思い出した。ラストで利一少年は父親を「拒否した」のか、或いは「庇った」のかという議論が、映画を何度か観直した人の間でもあるようだが、やはり「庇った」説をとりたい。
因みに、竹中宗吉が3人の子供と訪れる「川越ピープルランド」という遊園地は、川越の蓮馨寺境内にあった遊園地であることを、'25年3月刊の『砂の器 映画の魔性―監督野村芳太郎と松本清張映
画』刊行記念トークショーで登壇した著者の映画評論家の樋口尚文氏が、現地を取材し自ら撮った写真で説明してくれた。ただし、今は、更地になっていて、その痕跡も無い。また、冒頭シーンで小川真由美が子ども3人らと入ったラーメンを食べるシーンは、川越のラーメン屋「勝山」がロケ地だが、こちらは「
過去に1度だけテレビドラマ化されていて、'02年10月15日に日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場('81年~'95年)1000回突破記念作品」として「松本清張スペシャル・鬼畜」のタイトルで放送されています(監督は「
ぎて、映画の岩下志麻ほどの凄味もやつれ感も無かったように思います。映画では岩下志麻演じるお梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するところが、ドラマでは食事が美味しくないと言う子どもに腹を立てた黒木瞳演じる春江が玉子焼きを取り上げて捨てるぐらいで(テレビコードのせいもあるか)、後の方で保夫が長男を連れて行った上野動物園そばの不忍池で、長男に妻が毒を入れたおにぎりを無理やり食べさせようとするシーンなどがあり(前述の通り原作は最中(もなか)、映画はアンパン)、黒木瞳がやるはずの汚れ役の一部をビートたけしが肩代わりしている印象もありました。全体として、夫婦を突き放すのではなく、寄り添うような感じだったでしょうか。

「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:





「松本清張スペシャル・鬼畜」●監督:田中登●企画:酒井浩至●脚本:佐伯俊道●音楽:大谷和夫(エンディング:安全地帯「出逢い」)●原作:松本清張●時間:141分(放送分)●出演:ビートたけし/黒木瞳/室井滋/片岡涼/佐藤愛美/諸岡真尋/小野武彦/奥村公延/石倉三郎/日野陽仁/渡辺哲/波乃久里子/斉藤暁/大林丈史/津田三七子/井田國彦/斎藤歩/酒井敏也/水田啓太郎/斉藤実紀●放映:2002/10/15(全1回)●放送局:日本テレビ

【感想】脚本・竹山洋(「
を超えるのは難しいと思って観ているが、演出はまずまず手堅かったように思う。映画では、終盤で子どもが父親を庇ったのか拒絶したのか解釈が分かれるような作りだが、このドラマでは婦警が「この子は親を庇っている」と言ってしまっている。ラストは原作と異なり、妻に贖罪させたような感じで、男の方は刑務所に入り、刑期を終えて出てきて墓参り。モデルとなった人物は獄中で狂死したことを思うと、やや甘い。妻に贖罪させたことも含め、テレビ的な改変であったように思う。しかし、ネットでいちばん話題になっていたのは、なぜこれをクリスマスイブに放映するのか謎であるということだった(笑)。
「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」●監督:和泉聖治●プロデューサー:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:吉川清之●原作:松本清張●時間:138分(放送分)●出演:玉木宏/常盤貴子/木村多江/余貴美子/南岐佐(菊代の長男で7歳)/稲谷実恩(菊代の長女で4歳)/今中陸人(菊代の次男で2歳)/前田亜季/近藤芳正/羽場裕一/片桐竜次/河西健司/萩原悠/嘉門洋子/平泉成/柳葉敏郎/橋爪功●放映:2017/12/24(全1回)●放送局:テレビ朝日




警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に
会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。
原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。
因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「
•1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。
そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。
張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったかと思ってしまいます。
原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じでした(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。
ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S
Lファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)
野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。
「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大
木実/宮口精二/高峰秀子/田村
高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦
田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)








ドラマ版の方は、そもそも主役が倉田ではなく、相葉雅紀が演じる息子の健太が"ヒーロー"になっていて、それに合わせて沢尻エリカのような原作に無い役どころの女性が"ヒロイン"として出てきたりします。本来は倉田という個人において、会社の問題と家庭問題とで「内憂外患」状態のまま事態がダブル進行していくことがこの作品のミソであって、息子を主人公にしてしまったのでは...。ラストは謝る謝らないで、土下座までは行かなかったけれど、殆ど「半沢直樹」風の世界に改変されていました。






成島出監督、永作博美(希和子)、井上真央(恵理菜)主演で映画化され、第35回「日本アカデミー賞」の最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演女優賞(井上真央)・最優秀助演女優賞(永作博美)・最優秀脚本賞など「10冠」を獲得しました。さらに、「芸術選奨文部科学大臣賞」も受賞、第66回「日本放送映画藝術大賞」でも、最優秀作品賞・最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞(小池栄子=安藤千草役)など「7冠」を獲得しています。井上真央の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞は"ぶっちぎりの前評判通り"だったものと記憶し、永作博美と小池栄子はそれぞれ第85回「キネマ旬報ベスト・テン」主演女優賞と助演女優賞も受賞していて、「女性の映画」らしく女優陣が賞を総なめした感じでした。
原作のラストで、そうとは知らずに恵理菜と希和子の2人が偶然フェリー乗り場で居合わせるのは、ちょっと話が出来過ぎな気もしますが、映像化した場合の効果まで狙っているのかと思ったら、映画では「互いに相手を認識しない偶然のすれ違い」はカットされていました。全体として、[2章]が"現在"で、そこへ[1章]の"過去"の話をカットバック的に挟むという構成で、フェリー乗り場の"現在"と"過去"も、そういう重ね方をしています。
原作が[1章]の方が量的なウェイトが大きいのに対し、映画の方は[2章]のウェイトが大きくなっています。その分、小池栄子演じる安藤千草の存在の比重が大きくなっていて、恵理菜と2人で島に渡って過去を巡る(但し、エンジェルホームは廃墟になっている)といった原作にない展開がありますが、そもそも、最初の2人の出会いから最後のそこに至るまでの2人のやりとりは殆ど全て原作に無いオリジナルの脚本(セリフ)であり、結果的に、映画全体がオリジナル色が濃かったという印象です(登場人物によっては原作のままのセリフもあるが)。
」('10年)に続く4年連続4度目の映画主演とあって、安定した演技という感じでした。昨年['15年]のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」でも主役の杉文(吉田松陰(伊勢谷友介)の妹で久坂玄瑞(東出昌大)の妻、後に楫取素彦(大沢たかお)の妻)を演じていますが、歴史的にマイナーな人物だったためか、最終回の視聴率は「平清盛」('12年)と並ぶ12.0%という過去最低でした(個人的には、応援するような気持で観ていたのだが)。千草役の小池栄子(1980年生まれ)は頑張って演技していたという感じでしょうか(彼女も後にNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」('22年)で北条政子という準主役級の役を得ることになった)。
「八日目の蝉」●制作年:2011年●監督:成島出●製作総指揮:佐藤直樹●脚本:奥寺佐渡子●撮影:藤澤順一●音楽:安川午朗●時間:147分●原作:角田
光代「八日目の蝉」●出演:井上真央/永作博美/小池栄子/森口瑤子/田中哲司/渡邉このみ/吉本菜穂子/市川実和子/余貴美子/平田満/風吹ジュン/劇団ひとり/田中泯/相築あきこ/別府あゆみ/安藤玉恵/安澤千草/ぼくもとさきこ/畠山彩奈/宮田早苗/徳井優/吉田羊/瀬木一将/広澤草勲●公開:2011/04●配給:松竹(評価:★★★☆)

「花燃ゆ」●脚本:大島里美/宮村優子/金子ありさ/小松江里子●演出:渡邊良雄 ほか●音楽:川井憲次●出演:井上真央/(以下五十音順)相島一之/麻生祐未/井川遥/石原良純/石丸幹二/伊勢谷友介/板垣李光人/伊原剛志/上杉祥三/江口のりこ/江守徹/大野拓朗/尾上寛之/大沢たかお/奥田瑛二/音尾琢真/賀来賢人/かたせ梨乃/香音/要潤/
/銀粉蝶/劇団ひとり/黒島結菜/佐藤二朗/佐藤隆太/春風亭昇太/鈴木杏/瀬戸康史/大東駿介/高橋英樹/高橋由美子/高良健吾/宅間孝行/田中要次/田中麗奈/檀ふみ/津田寛治/内藤剛志/長塚京三/羽場裕一/浜田学/原田泰造/東出昌大/東山紀之/平田満/堀井新太/本田博太郎/



米澤 穂信 氏









終戦直後、カトリックの一派バジリオ会所属のグリエルモ教会のルネ・ビリエ神父は、聖書の翻訳作業を行う目的で、江原ヤス子のもとに通っていた。しかし深夜になると、彼女の寝室からすすり泣きや忍び笑いが洩れてくるのだった。ルノーで乗り付けるビリエ神父に加え、ヤス子の家では深夜にトラックが謎の荷物の積み下ろしを行っていて、ヤス子の生活は急速に派手になっていく。ある時、荷物の運搬に携わっていた日本人が警察に密告し、トラックから統制品の砂糖が押収された。刑事が教会を訪れたが、教会を統括するフェルディナン・マルタン管区長は、物資のヤミ商売は日本人が勝手にやったと言い、更に管区長は、ビリエ神父に日本政府の高官夫人を通じて"穏便に解決"するよう手配し、日本人の運搬責任者に"犠牲"になるよう指示する。その後7年が過ぎ、教会は以前にも増して発展、その間に、管区長のやり方に異議を唱えた神父は朝鮮半島の僻地に飛ばされ、代わりにシャルル・トルベックが神父となった。トルベックは純真な神学生であり女性を知らなかったが、日本人女性の信者の間で人気が出て、ビリエ神父と江原ヤス子が親しげに馴れ合う様子を目にしたことを契機に、彼もまた、信者の一人生田世津子と親密になっていく。そんなトルベックに、ビリエ神父から思わぬ指令が下る―。
1959(昭和34)年3月に起こったBOACスチュワーデス殺人事件をもとに、フィクションの形で推理を展開した長編小説で、中央公論社から刊行されていた「週刊コウロン」に1959(昭和34)年から翌年にかけて連載され(1959年11月3日号 - 1960年10月25日号)、1961年11月に同社から刊行されています。
この作品は1984年にTBSで宇津井健(1931-2014.3.14/享年82)主演でドラマ化されていますが、個人的には未見。先月(2013年1月)テレビ朝日で、ビートたけし、竹内結子主演で再ドラマ化されたものを見ました。
こちらは生田世津子が死体で見つかる場面、つまり、原作の推理編から始まり、推理を通して事件を遡っていくという展開となっており、ある意味、"正統派"の倒叙法と言えます。原作の通りにやろうとすると、半分以上が外国人であるトルベックが主人公になってしまうというのもあって、推理編からスタートして、警視庁捜査一課の刑事・藤沢六郎(ビートたけし)を主人公にもってきたといったところでしょう。
藤沢刑事は小説の中にも出てきて捜査の要となりますが、ドラマのように若い刑事を同行させたり、捜査陣と対立したりすることはありません。ドラマの方は、これもまた、「張込み」「点と線」などでこれまで清張作品のドラマ化作でビートたけしが演じた"ビートたけし流の刑事ドラマ"(乃至そうした刑事キャラ)になっているように感じました。役者としてのビートたけしの弱点は、何を演じてもビートたけし風になってしまうことでしょう(今回も、最初に出てきた時から"ビートたけし"で、最後まで"ビートたけし"だった)。

「松本清張 黒い福音~国際線スチュワーデス殺人事件~テレビ朝日開局55周年記念」●監
督:石橋冠●製作:(チーフプロデューサー)五十嵐文郎/(プロデューサー)藤本一彦/池田邦晃/里内英司/中山秀一●脚本:尾西兼一/吉本昌弘●原作:松本清張●出演:ビートたけし/瑛太/竹
内結子/木村文乃/佐野史郎/池内博之/小池栄子/川原和久/阿南健治/スティーブ・ワイリー/ニコラス・ペタス(格闘家)/風吹
ジュン/角野卓造/北大路欣也(特別出演)/國村隼/市原悦子/嶋田久作●放映:2014/01/17(全1回)●放送局:テレビ朝日
小池栄子(藤沢(ビートたけし)の娘・陽子)/
『黒い福音 (1961年)』(装本:


『

が仕事で北海道の小樽に行き、そこで取引先の業者と会っていた。東京から青森へ向かう特急列車や、北海道へ渡る青函連絡船でも、安田がいたことの証言や、乗車記録が残っている。2人が青酸カリを飲んだ夜に安田が九州にいることは物理的に不可能に思えたが、航空機を利用すれば、安田が業者に会う前に九州から北海道に着くことが可能なことに三原は気付く。しかし、安田は該当する便に乗っておらず、乗客全員を当たって偽名などがないか裏付けを取るが、全員がその便に乗っていたことが判明し、捜査は難航する―。
松本清張(1909‐1992)のあまりに有名な長編推理小説で、雑誌「旅」の1957(昭和32)年2月号から1958(昭和33)年1月号に連載され(挿絵は佐藤泰治)、加筆訂正の上、1958年2月に光文社から単行本刊行されていますが、連載当時は、同時期に「週刊読売」に連載されていた『眼の壁』に比べて反響は少なく、作者自身から「病気のため休載にしてほしい」との申し出が「旅」の編集者にあったのを、編集者が「休載するなら『眼の壁』など、他の全ての連載を休載にしてもらう」と迫ったため、結局休載することなく連載が続けられたとのことです。
東京から博多まで夜行列車で20時間ほどかかった時代の話であることを念頭に読む必要はありますが、安田が、自分が東京駅の13番線プラットフォームで料亭「小雪」の女中2人に見送られる際に、向かいの15番線プラットフォームにお時が男性と夜行特急列車
また、巻末には、昭和44年に行われた、この作品を巡る荒正人・尾崎秀樹の2人の対談があり、その中で、作家の五木寛之氏が、「松本清張氏はプロレタリアート・インテリゲンチャとして成熟した稀有な例」だとし、「その文学はプロレタリアートの怨念とインテレクチュアルな好奇心をバネとしている」と言っていることを取り上げています(五木寛之氏の"プロレタリアート・インテリゲンチャ"という表現に対して荒正人・尾崎秀樹両氏の間で距離感の違いはあるようだが)。それにしても、当時発行部数7000万部だったカッパ・ノベルズの内1000万部が松本清張作品だったというのはスゴイことだと思いました(荒正人は、夏目漱石の本が明治・大正・昭和の時代をかけて1000万部読まれてきたのに対し、松本清張はこの数字に僅か10年で到達してしまったことを取り上げ、大衆社会の中で"米の飯"のような必需品のような読まれ方をしてきたと指摘している)。
この作品は、『ゼロの焦点』や『砂の器』などの作者の他の代表作に比べると、「インテレクチュアルな好奇心」を満たすウェイトの方が高いように思われ、その点では無駄が少なく、一方、作者が昭和30年代に初めて「社会派推理というジャンルを築いた」という説明の流れの中で紹介される作品としては、"社会派"の部分はやや希薄な印象も受けます。但し、作中で殆ど姿を見せない安田の妻・亮子(最終的には自らの死も心中に見せかけたと推察され、自らも含む2度の"心中偽装"を行ったことになる)の人物造型は、抑圧された女性の怨念を描いて巧みな後の清張作品の、ある種「原点」的な位置づけにあると言えるかもしれません。
この作品は、「テレビ朝日」開局50周年記念ドラマスペシャルとして2007年11月24日と25日2夜連続で放送されていますが(2009年には「点と線~松本清張生誕100年記念特別バージョン」として再放映された)、ビートたけしが鳥飼重太郎を演じることで、高橋克典が演じる三原より鳥飼の方が事件解明の中心になっていて、原作では三原は鳥飼から幾つかの示唆を得ながらも自分で事件を解明するのに対し、ドラマでは鳥飼が独断で東京に行き三原と共に、あるいは単独で捜査するよう改変されており、かな
り原作とは異なった印象を受けました。これまで何度も映像化されているのであればこうした改変もあっていいのかもしれませんが、テレビドラマとしては初の映像化だったので、ストレートに原作をなぞって欲しかった気もします。上司からの捜査中止命令にその場では抵抗しない三原(高橋克典)に対して鳥飼(ビートたけし)が怒りをぶちまけ、両者が殴り合いになるのはやりすぎで(あまりに"ビートたけし"風)、終盤の鳥飼と安田の妻・亮子(夏川結衣)の"直接対決"もドラマのオリジナル。原作を読んでいない人は松本清張がそんな話を書いたのかと思ってしまうのではないかなあ(原作では、鳥飼が三原に捜査を諦めないよう手紙で激励するとともに捜査のヒントを与えるにとどまっているし、安田宅に出向いて安田の妻と直競対峙するといったこともない。完全に、ビートたけしを主役にするための改変である)。
小林恒夫監督による映画化作品('58年/東映)は、高峰三枝子、山形勲、志村喬といったベテランはともかく、三原刑事役の南廣が映画初出演ということもあり(元々はジャズドラマーだった)、演技がややパターン化したものであったのが、最初に観たときにイマイチだった印象に繋がっています(当
時40歳の高峰三枝子に28歳の役をやらせたのもきつかったか)。また、映像でトリックを解明するとやや複雑に感じられてしまい、原作が『ゼロの焦点』以上にトリックの占めるウェイトが高いものであったことを改めて認識させられるものでした。




2025年5月27日 神保町シアター
「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●企画:根津昇 ●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張「点と線」●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山形勲/加藤嘉/志村喬/



/小宮光江/月丘千秋/光岡早苗/楠トシエ/風見章子/織田政雄/曽根秀介/永田靖/成瀬昌彦/神田隆/小宮光江/増田順二/奈良あけみ/花沢徳衛●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★☆)●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「














●2020年ドラマ化(「半沢直樹(2020年版)」)【感想】
めるけれどプロセスは読めない」という意味でよかったのではないか。尾上松也、片岡愛之助とほかにも歌舞伎役者が出ているが、とりわけ香川照之、市川猿之助
の「顔芸」はこうした"劇画"調の「現代の時代劇」的ドラマと相性がいいのかもしれないと思った(片岡愛之助や進政党幹事長役の柄本明も含め「顔芸」合戦の様相を呈していた(笑))。





2009(平成21)年・第43回「吉川英治文学賞」受賞作。
原作では、東大大学院生の島崎国男、捜査一課刑事の落合昌夫、オリンピック警備本部幕僚長の息子でテレビ局勤務の須賀忠の3人が東大で学部の同級生ということになっていますが、テレビ版では、落合昌夫(竹野内豊)ではなく、(原作には全く登場しない)その妹の落合有美(黒木メイサ)が島崎(松山ケンイチ)、須賀(速水もこみち)と同級ということになっていて、しかも有美は国男に恋心を抱いてどこまでも彼に付いていこうとする設定になっているため、国男が村田(笹野高史)と一緒に爆破計画を練っている傍にちょこんと居るのが違和感ありました。男だけで逃亡するのと、恋人連れで逃亡するのでは、随分と物語の性質が変わってくるのでは...とやや気を揉みましたが、その外の部分は思った以上に原作に忠実に作られていて、ドラマの方も楽しめました。
原作では、国男がオリンピックの開催阻止を決意する前の時期と、決意して行動に移していく時期とをフラッシュバック手法で交互に見せ、しかも前半部は決意する前の普通の大学院生だった時期の方に比重を置いて書かれているため、この大人しそうな青年が本当に爆破犯に変貌していくのだろうかという関心からも読み進めることができましたが、ドラマにそこまで求めるのは無理だったか。
また、原作では、特に冒頭の方で、昭和39年という時代を感じさせるアイテムやグッズ、社会背景に関する話などがマニアックなくらい出てきてシズル感を高めていましたが、ドラマではその辺りが端折られていたのがやや残念でした(時代を感じさせるのはクルマと看板だけ。それだけでも結構苦労したため、他のところまで手が回らなかった?)。
2020年の東京オリンピックは、"大義なき五輪"と言われ、その分、開催立候補前は開催に対して"何となく反対"という雰囲気が優勢だったのが、開催決定後は、"何となく期待する"みたいな風に変わってきているような印象も受けますが、では、1964年の東京オリンピックの(ヤクザさえ抗争活動を休止するような)"大義"とは何であったのか、多かれ少なかれ、そうした当時における"大義"に思いを馳せることができる作品でもあるかと思います。

「オリンピックの身代金~テレビ朝日開局55周年記念」●監督:藤田明二●脚本:東本陽七/七橋斗志夫●原作:奥田英朗「オリンピックの身代金」●出演:竹野内豊/松山ケンイチ/黒木メイサ/天海祐希/沢村一樹/速水もこみち/斎藤工/吹石一恵/笹野高史/國村隼/岸部一徳●放映:2013/11/30~12/01(全2回)●放送局:テレビ朝日




大手総合電機会社ソニックの子会社である中堅電機メーカー東京建電で住宅関連商品を扱う営業4課の課長・原島万二(45)は、名前通りの万年二番手でたいした実績がない平凡なサラリーマンだったが、一方、原島と対照的に花形部署の営業1課に38歳という最年少で昇進しメキメキと業績を上げていた坂戸宣彦が、万年係長と揶揄される八角民夫(50)(通称ハカック)からパワハラを訴えられて突然更迭される。やる気のない八角に対し、10歳以上年下である坂戸は課員の面前で罵倒し続けたのだった。営業部のエースは失脚で、代わりに一課長に就任したのが原島だったが、坂戸がパワハラで訴えられたことには"裏"があったのだ。それは、東京建電にとって会社存続をかけた死活問題であり、親会社のソニックにしても子会社の不祥事と連結決算で受けるダメージは底知れない重大事件だった―。
ドラマでは、原作の最後にある調査委員会の聴取を冒頭に持ってきて、常にそこからの振り返りという形でストーリー展開しているせいもあって、このこと
がかなり全体のトーンを重苦しく暗いものにしている感じがしました。しかし、役者陣は、東山紀之(原島)の周りを、同時期にスタートしたTBS日曜劇場「
われます。「半沢直樹」のような派手さはないけれど、こちらの方を評価する人もいたみたいです(個人的には「半沢直樹」の方が面白かったが、反面、「半沢」には引っ掛かる部分もあった)。「半沢直樹」は個人に起因する不正融資を描いていますが、こちらは企業ぐるみのリコール隠しなわけで、民放でやってもスポンサーが嫌うかも。その意味ではNHKらしいと言えばNHKらしいドラマ。2つの内部告発が出てきますが、最初のカスタマー室長・佐野の社内での内部告発は、グループ企業内で秘密にされ、原島もその方針に従う―こうなるともう、八角(ハカック)のようなマスコミを使ったやり方しかないのか(「半沢」も同じ手を使っていたが)。

![七つの会議 通常版 [DVD] (1).jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E4%B8%83%E3%81%A4%E3%81%AE%E4%BC%9A%E8%AD%B0%20%E9%80%9A%E5%B8%B8%E7%89%88%20%5BDVD%5D%20%281%29.jpg)
(●2019年映画化。監督は「半沢直樹」「下町ロケット」などの演出を務めた福澤克雄であり、主演の八角役の野村萬斎は目新しいが、あとは香川照之、及川光博、片岡愛之助といった「半沢直樹」の顔ぶれが並ぶ。トーンも完全に娯楽性とテンポを重視した「半沢直樹」の作りと同じで、「半沢直樹」の再現みたいだ。NHKドラマのシリアスな作りもいいが、このような劇画調も、映画になっても愉しめることがわかった。野村萬斎の「八角」は、テレビで吉田鋼太郎が演じた「八角」とは違った味があった(映画「
における極端に狂言調の彼とも違う)。原作は「原島」から始まって「八角」で終わっている印象だが、ドラマは東山紀之演じる「原島」から始まって「原島」で終わっている印象を受けた。それに対し、映画は、野村萬斎演じる「八角」で始まって「八角」で終わっている印象で、及川光博演じる「原島」はやや後退している感じ。狂言師 vs.歌舞伎役者の"顔芸"対決になったが、なぜか立川談春、春風亭昇太といった落語家も参戦(笑)、オリラジの藤森慎吾まで出ていたなあ。
「七つの会議」●制作年:2019年●監督:福澤克雄●脚本:丑尾健太郎/李正美●音楽:服部隆之(主題歌:ボブ・ディラン「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」●原作:池井戸潤●時間:119分●出演:野村萬斎/香川照之/及川光博/片岡愛之助/音尾琢真/藤森慎吾/朝倉あき/岡田浩暉/木下ほうか/土屋太鳳/小泉孝太郎/溝端淳平/
春風亭昇太/立川談春/勝村政信/世良公則/鹿賀丈史/橋爪功/役所広司/北大路欣也●公開:20219/02●配給:東宝(評価:★★★★)



バブル期に入行し、大阪西支店の融資課長を勤める半沢直樹は、支店長の浅野の強引な指示で無担保でへの5億円の新規融資を実行したが、7ヵ月後に当の相手企業が不渡りを出し倒産、半沢は支店長から融資の責任を一手に負わされ、窮地に立たされる。雲隠れした倒産会社社長の東田を捕まえることはできるのか、果たして5億円を回収できるのか―。(『オレたちバブル入行組』)
ビデオリサーチ速報値での「最終回」の平均視聴率42.2%、瞬間最高視聴率 46.7%(何れも関東)を記録したTBS日曜劇場「半沢直樹」(関西は平均45.5%、瞬間最高50.4%)の原作で、ドラマの第1部の「西大阪スチール」の話が『オレたちバブル入行組』、第2部の「伊勢島ホテル」の話が『オレたち花のバブル組』に対応していますが、原作もドラマも面白かったように思います。
原作では主要な登場人物のそれぞれの出自などに踏み込んで描かれていて、但し、ネジ製造工場経営の半沢の父親が自殺したという話は原作にはありません(彼が学生時代に剣道をやっていて今も時々道場に足を運ぶ、という話も)。片岡愛之助(この人、実生活では歌舞伎とは無縁のスクリュー製造工場を営む家庭に生まれ、両親は20代の頃に相次いで他界している)が演じて、そのオネエキャラで話題となった国税庁の黒崎は、原作でもオネエキャラです。但し、本格的に登場するのは、大阪国税局就航中の『オレたちバブル入行組』よりも、金融庁に戻って主任検査官となった『オレたち花のバブル組』に入ってからで、しかもそう頻繁に登場するキャラクターでもなく、人気が出て、ドラマの方での出番が原作より多くなっているようです。
浅野支店長(石丸幹二)に株取引の失敗で重ねた5千万もの借金があり(原作では3千万円)、大和田常務(香川照之)の妻の会社は1億円以上の借金を抱えているという―2人とも不正を働く動機としては分かり易いけれど、銀行のお偉いさんってこういう人ばかりなのかなあ。バブルの夢よ、もう一度、か。



剛士/宮川一朗太/森田順平/緋田康人/石丸幹二/中島
裕翔/壇蜜/福田真夕/松本さやか/モロ師岡
/石丸雅理/大谷みつほ/相築あきこ/志垣太郎//三浦浩一/長谷川公彦/牧田哲也/岡山天音/小須田康人/吉永秀平/井上肇/加藤虎ノ介/松永博史/西沢仁太/山田純大/髙橋洋/倍賞美津子●放映:2013/07/07~09(全10回)●放送局:TBS







1939年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Ten Little Niggers (米 Ten Little Indians) (改題:And Then There Were None))で、1982年実施の日本クリスティ・ファンクラブ員の投票による「クリスティ・ベストテン」で第1位になっているほか、早川書房主催の作家・評論家・書店員などの識者へのアンケートによる「ミステリが読みたい!」の2010年オールタイムベスト100の第1位、2012年実施の推理作家や推理小説の愛好者ら約500名によるアンケート「
この作品がよく読まれる理由の一つとして、10人もの人間が亡くなる話なのに長さ的には他の作品と同じかやや短いくらいで、テンポよく読めるというのもあるのではないでしょうか(しかも、後半にいくほど殺人の間隔が短くなる)。その分、登場人物の性格の描写などは極力簡潔にとどめ、心理描写も他の作品に比べると抑制しているように思います。まあ、あまり"心理描写"してしまうと「叙述トリック」になってしまうからでしょう。
ところが、これは実は一部に訳者の清水俊二(1906-1988)の誤訳があって、正しく訳せば、例えば残り5名になった時の5人の心理描写の内の問題の1つは、当事者それなりのあることを警戒する心理を描いたと解することができるものであり、クリスティが巧妙に(アンフェアにはならないように)仕掛けた「叙述トリック」に訳者の清水俊二自身が嵌ってしまったとする見方があります(但し、清水俊二訳は誤訳には当たらないという見方もある)。
トリックを通り越して読者をミスリードするものになっているという指摘であり、後の清水俊二訳('03年・クリスティー文庫版)ではこの部分は「娘...」のみに修正されています(この時点で清水俊二は15年前に亡くなっているわけだが)。因みに、2010年に清水俊二訳と入れ替わりにクリスティー文庫に収められた青木久恵氏の訳(表紙はハヤカワ・ミステリ文庫の1976年4月初版の真鍋博のイラストを復刻)では、この部分は「あの娘だな...」となっています。何れにせよ、"娘"のことを「次は自分の命を奪うかもしれない犯人ではないか」と怪しんでいるのではなく、「自分の計画を失敗に終わらせる原因となるのではないか」と警戒を強めているといった解釈に変更されているのが最近の翻訳のようです。



(●2015年制作の英BBC版テレビドラマは、時代が現代に置き換えられていて、10人のうち数人の属性(過去に犯した殺人の方法や動機など)が微妙に改変されているが、ラストは「戯曲」に沿ったこれまでの映画化作品と違って、原作「小説」の通り全員が"いなくなる"ものだった。)


「アガサ・クリスティー そして誰もいなくなった」(全3回)●原
題:& Then There Were None●制作年:2015年●制作国:イギリス●本国放送:2015/12/26~28●演出:
クレイグ・ヴィヴェイロス●製作:ダミアン・ティマー/マシュー・リード/サラ・フェ
トビー・スティーヴンス/ダグラス・ブース/バーン・ゴーマン/ミランダ・リチャードソン/ノア・テイラー/アンナ・マックスウェル・マーティン●日本放送:2016/11/27●放送局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★☆)
去に犯した殺人の方法、動機も変更されているが、BBC版と同じく、最後は原作「小説」の通り全員が"いなくなる"。そうなると、上述の通り、謎解きをする人がいなくなり、この問題をクリアするため、最終盤で沢村一樹演じる警視庁捜査一課警部・相国寺竜也が登場、彼がリードして捜査し(この部分はややコミカルに描かれている)、犯人が残した手紙ならぬ映像メッセージに辿りついて事件の全容が明らかになるという流れ。

2017年3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、エンディングで「このドラマは2016年12月20日から2017年2月13日に掛けて撮影されました。渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」と流れる。クランクアップの1ヵ月後に亡くなった渡瀬恒彦は、実際に自らが末期がんの身でありながらドラマの中で末期がん患者を演じており、その演技には鬼気迫るものがあった。警部役の沢村一樹の演技をコミカルなものにしたのは、全体として"重く"なり過ぎないようにしたのではないかと思ってしまったほど。同じく和泉聖治監督により2018年には「





マクギリカディ夫人は、ミス・マープルに会いにいくため乗り込んだパディントン発4時50分の列車の窓から、たまたま並走する別の列車内で一人の男性が女性の首を絞めていた殺人現場を目撃する。マクギリカディ夫人はマープルの助言を得て警察に通報するが、警察は、犯人も被害者も発見することができない。マクギリカディ夫人の言葉を信じたミス・マープルは、犯人は車外に死体を放り投げたと確信し、その地点は列車が速度を緩めて走るカーブであろうと推理、才能豊かな女性ルーシー・アイレスバロウを雇って、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのラザフォード・ホールと言われるクラッケンソープ邸に、彼女を家政婦として送り込む―。
結局、事件の謎を解くのはミス・マープルですが、この作品では現場の捜査はルーシー・アイレスバロウに任せ、自分は安楽椅子探偵的な位置づけになっていて、プロット的に見て不満があるとすれば、マープルはマープルでその間いろいろ調べたのでしょうが、読者に示された情報だけでは犯人を探し当てることは難しいということでしょうか(犯行動機に至っては不可能)。
ミス・マープルの依頼をその旺盛な好奇心から請けたルーシー・アイルズバロウが、この作品の言わば"ヒロイン"でしょう。オックスフォード大学数学科を優秀な成績で卒業、将来を嘱望されながらも、家事労働の世界に入り、家政婦として英国中に名が知られるまでになり、3年くらい先まで予約を入れることも可能であるにも関わらず、余暇を楽しむために長期の予定は入れないでいる―という設定が興味深く、今で言えば、「カリスマ主婦マーサ・スチュワート」とか「スーパー主婦・栗原はるみ」みたいなものか?
「ミス・マープル/夜行特急の殺人」 (61年/英) ★★★
「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」 (87年/英) ★★★★


「アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜」 (08年/仏) ★★★☆


はミス・マープルの友人マクギリカディ夫人だが、それが草笛光子演じる天瞳子の母親が事件の目撃者ということになっている。意外と原作に沿って作られていたが、屋敷に送り込まれるスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが前田敦子演じる
中村彩になっていて、その前田敦子がスーパー家政婦に見えないのがやや難点か。草笛光子がミス・マープルに相当する役で、天海祐希が家政婦役だった方が、原作に近い雰囲気になったと思う(このシリーズの'18年版の第2夜放送は「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」、'19年には通算第4弾「



(●2013年に石井裕也監督、松田龍平主演で映画化され、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞をはじめ6部門の最優秀賞を受賞、石井裕也監督は芸術選奨新人賞も受賞したほか、主演の松田龍平をはじめとするキャストやスタッフも多くの個人賞を得た。原作では年代を特定していないが、映画では松田龍平演じる主人公・馬締が辞書編集部に配転になったのが1995年で、原作で後日譚として扱われている部分が

その12年後となっている。細部での改変はあるが、全体としては原作のストーリーを比較的忠実に追っている感じで、松田龍平、宮﨑あおい、オ
ダギリジョー、黒木華といった若手の俳優陣も頑張っているが、加藤剛、小林薫、伊佐山ひろ子、八千草薫といったベテランが脇を固めているのが大きく、特に、加藤剛の「先生」は印象的だった。そもそも、原作が、その後数多く世に出た"お仕事系"小説のどれと比べても優れているため、原作の良さに助けられている部分もあるが、少なくとも原作の持ち味を損なわずに活かしているという点で良かったと思う。)
「舟を編む」●制作年:2013年●監督:石井裕也●プロデューサー:土井智生/五箇公貴/池田史嗣/岩浪泰幸●脚本:渡辺謙作●撮影:藤澤順一●音楽:渡邊崇●時間:133分●出演:松田龍平/宮﨑あおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/鶴見辰吾/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛/宇野祥平/森岡龍/又吉直樹/斎藤嘉樹/波岡一喜/麻生久美子●公開:2013/04●配給:松竹=アスミック・エース(評価:★★★★)
●2024年ドラマ化 【感想】2024年2月18日から4月21日まで、NHK-BSプレミアム4Kの「プレミアムドラマ」枠で池田エライザと野田洋次郎の主演でドラマ化(この枠で前回は、篠田節子の2008年刊行の『
マ向きではないかも)。その馬締を演じてた野田洋次郎はロックバンド「RADWIMPS」のボーカル&ギターだが、まずまずの演技だった。






八重が本書で本格的に登場するのは、その会津城での最後の籠城戦からで、時局の流れからも会津藩にとってはそもそも絶望的な戦いでしたが、それでも著者をして「『百人の八重』がいたら、敵軍に大打撃を与え壊滅させることも不可能ではなかった」と言わしめるほどに八重は大活躍をし、また、他の会津の女性達も、城を守って、炊事や食料調達、負傷者の看護、戦闘に至るまで、男以上の働きをしたようです。
その端的な例が「白河の戦」で戦闘経験も戦略も無い西郷頼母(ドラマでは西田敏行が演じている)を総督に据えて未曾有の惨敗を喫したことであり、後に籠城戦で主導的役割を演じる容保側近の梶原平馬(ドラマでは池内博之が演じている)も以前から西郷頼母のことを好いてなかったというのに、誰が推挙してこういう人事になったのか―その辺りはよく分からないらしいけれど(著者は、人材不足から梶原平馬が敢えて逆手を打った可能性もあるとしているが)、参謀が誰も主君を諌めなかったのは確か(ちょうどその頃会津にいた新撰組の土方歳三を起用したら、また違った展開になったかもーというのが、歴史に「もし」は無いにしても、想像を掻き立てる)。
しかも、その惨敗を喫した西郷頼母への藩からの咎めは一切なく、松平容保(ドラマでは綾野剛が演じている)はドラマでは藩士ばかりでなく領民たちからも尊敬を集め、「至誠」を貫いた悲劇の人として描かれてる印象ですが、こうした信賞必罰の甘さ、優柔不断さが会津藩に悲劇をもたらしたと言えるかも―養子とは言え、藩主は藩主だろうに。旧弊な重役陣を御しきれない養子の殿様(企業小説で言えば経営者)といったところでしょうか。本書の方がドラマよりも歴史小説っぽい? いや、企業小説っぽいとも言えるかも。

「八重の桜」●演出:加藤拓/一木正恵●制作統括:内藤愼介●作:山本むつみ●テーマ音楽:
地涼/津嘉山正種/斎藤工/芦名星/佐藤B作/風間杜夫/中村獅童/六平直政/池内博之/宮下順子/黒木メイサ/剛力彩芽/小泉孝太郎/榎木孝明/生瀬勝久/吉川晃司/反町隆史/林与一/小栗旬/及川光博/須賀貴匡/加藤雅也/伊吹吾郎/村上弘明/長谷川博己/オダギリジョー/奥田瑛二/市川染五郎/神尾佑/村上淳/
「八重の桜」出演者発表会見

『
個人的なイチオシは、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」('91年/米)で、専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)とレストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズ(スーザン・サランドン)の親友同士が週末旅行に出掛けた先で、自分たちをレイプしようとした男を射殺したことから、転じて逃走劇になるという話(ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」「女優賞(スーザン・サランドン)」受賞作)。
リドリー・スコットが女性映画を撮ったという意外性もありましたが、ジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンが、どんどん破局に向かいつつも、その過程においてこれまでの束縛や因習から解放され自由になっていく女性を好演し、彼女ら追いつつも彼女らの心情を理解し、何とか連れ戻したいと
思う警部役のハーベイ・カイテルの演技も良かったです(まださほど知られていない頃のブラッド・ピットが、彼女らの金を持ち逃げするヒッチハイカー役で出ていたりもした)。
「ダンス・ウィズ・ウルブス」といったアカデミー賞受賞作品と並んで「羊たちの沈黙」や「ターミネーター2」が星4つの評価を得ているというのがこの年の特徴でしょうか。
ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」('91年/米)は、形状記憶疑似合金でできたT1000型ターミネーターが登場したものでしたが、この作品の前に「アビス」('89年)を撮り、ずっと後に「アバター」('09年)を撮ることになる
ジェームズ・キャメロン監督らしい特撮CGが冴えていたように思われ、T1000型を演じるロバート・パトリックも、華奢なところがかえって凄味がありました。一方、アーノルド・シュワルツネッガーが演じる旧タイプのT800型ターミネーターを善玉にまわしてヒューマンにした分、前作「ターミネーター」に比べ甘さがあるように思いました(これ、本書において山口猛氏が書いている批評とほぼ同じなのだが、山口氏の評価は最高評価になる星4つ)。IMDb評価は、「ターミネーター」が[8.1]、「ターミネーター2」が[8.6]で、「2」が上になっています。後からまとめて観た人は「2」の方がいいのかもしれないけれど、それぞれリルタイムで観た自分の場合、「1」のインパクトが大きかったです。
督デビュー作「殺人魚
フライング・キラー」(81年)に続く監督2作目であり、彼の出世作と言えます。ジェームズ・キャメロン監督はシュワルツネッガーと1度会食をしただけで、キャリアが浅く当初脇役で出演の予定だった彼をT800型ターミネーター役に抜擢することを決めたそうですが、シュワルツネッガーの全裸での登場シーンから始まって、そのストロングタイプのヒールぶりは今振り返っても
強烈なインパクトがあったように思います。ただ、この作品の後、「ターミネーター2」との間の7年間の間隔があり(ヒットしたB級映画にありがちだが、すぐにでも続編を撮りたいところが版権が複数社に跨っており、撮ろうにもなかなか撮れなかった)、その間に
シュワルツネッガーは「レッドソニア」「コマンドー」「ゴリラ」「プレデター」「バトルランナー」「レッドブル」「ツインズ」「
因みに、91年は、これも映像表現に特徴のあるデイヴィッド・リンチ監督のテレビ・シリーズ「ツイン・ピークス」が6月にWOWOWで日本で初公開、9月にビデオがリリースされており、日本中のレンタルビデオ店が「ツイン・ピークス」入荷&予約待ち状態になるという大ブームになりましたが、この作品もある意味「脱日常」的な作品だったなあと(まあ、「Xファイル」にしろ「LOST」にしろ、どれもみんな「脱日常」なのだが)。
ビデオ14巻、全29話(パイロット版(「序章」)を含めると30話)、25時間強のサスペンス・ミステリーですが、毎回毎回いつもいいところで終わるので、続きを観るまで禁断症状になるという(あの村上春樹も米国でリアルタイムでハマったという)―ラストは腑に落ちなかったけれども(「えーっ
、これが結末?」という感じか)、そのことを割り引いてもテレビ・ムービーの金字塔と言えるのでは(デイヴィッド・リンチによると、このラストはあくまでも第2シーズンの最終話に過ぎず、「ツイン・ピークス」という物語そのものの結末ではないとのことだが、続編は未だ作られていない)。(●その後、2017年に物語の25年後を描いた「リミテッド・イベント・シリーズ(全18話)」(邦題「ツイン・ピークス The Return」)が作られた。)

「テルマ&ルイーズ」●原題:THELMA & LOUISE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク●脚本:カーリー・クーリ●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ハンス・ジマー●時間:129分●出演:スーザン・サランドン/ジーナ・デイヴィス/ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ブラッド・ピット●日本公開:1991/10●配給:松竹富士(評価:★★★★☆)
「ターミネーター2」●原題:TERMINATOR2:JUDGMENT DAY●制作年:1991
年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジェームズ・キャメロン●脚本ジェームズ・キャメロン/ウィリアム・ウィッシャー●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:137分(公開版)/154分(完全版)●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/リンダ・ハミルトン/エドワード・ファーロング/ロバート・パトリック/アール・ボーエン/ジョー・モートン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1991/08●配給:東宝東和(評価:★★★)
「ターミネーター」●原題:THE TERMINATOR●制作年:1984年●制作国:アメリカ/イギリス●監督:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●脚本:ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハード
●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:108分●出演:



(1段目)デイル・クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)/ローラ・パーマー(シェリル・リー)/アルバート・ローゼンフィールド捜査官(ミゲル・フェラー)/ハリー・S・トルーマン保安官(マイケル・オントキーン)/ハリーの部下、アンディ・ブレナン(ハリー・ゴアズ)/(2段目)ホーク保安官補佐(マイケル・ホース)/署の受付嬢ルーシー(キミー・ロバートソン)/ローラの同級生ドナ・ヘイワード(ララ・フリン・ボイル)/ローラの同級生オードリー・ホーン(シェリリン・フェン)/シェリー・ジョンソン(メッチェン・アミック)/(3段目)製材所経営者の未亡人ジョスリン・パッカード(ジョアン・チェン)/ボビー・ブリッグス(ダナ・アッシュブルック)/マイク・ネルソン(ゲイリー・ハーシュバーガー)/ローラの同級生ジェームズ・ハーレイ(ジェームズ・マーシャル)/シェリーの夫レオ・ジョンソン(エリック・ダ・レー)/(4段目)小さな男(マイケル・アンダーソン)/片腕の男(アル・ストロベル)/丸太おばさん(キャサリーン・コウルソン)/ネィディーン・ハーレイ(ウェンディ・ロビー)/謎の男ボブ(フランク・シルバ)
ジョアン・チェン/ベルナルド・ベルトルッチ監督「
992年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・リンチ●製作:グレッグ・ファインバーグ●脚本:デイヴィッド・リンチ/ロバート・エンゲルス●撮影:ロン・ガルシア●音楽:アンジェロ・バダラメンティ●時間:135分●出演:シェリル・リー/レイ・ワイ
ズ/メッチェン・アミック/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/ミゲル・フェラー/キーファー・サザーランド/ダナ・アシュブルック/フィービー・オーガスティン●日本公開:1992/05●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★?)
デイヴィッド・リンチ(映画監督)2025年1月15日逝去。78歳。人気ドラマシリーズ「ツイン・ピークス」や、映画「マルホランド・ドライブ」など、カルト的人気を得た多くの作品で知られる。
「
●2025年ドラマ化【感想】2025年6月22日からNHKBSの「プレミアムドラマ」枠にて、直木賞作家での父である井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫を基に描いた『あちらにいる鬼』('19年/朝日新聞出版)が話題になった井上荒野の『照子と瑠衣』('23年/祥伝社)のドラマ化作品が風吹ジュン・夏木マリのW主演で放映されたが、井上荒野の原作はまさに映画「テルマ&ルイーズ」へのオマージュ的な小説であり、従ってドラマも「テルマ&ルイーズ」を原案としていると
見ていい。ただし、原作は主人公の二人の女性の年齢を70代に引き上げており、ドラマでも実際に共に1952年5月生まれで73歳の風吹ジュン、夏木マリが演じている(二人は初共演)。70歳の親友同士の照子と瑠衣がそれぞれ、照子はモラハラ気味の夫との生活に見切りをつけ、瑠衣は老人マンションでのトラブルから逃れるために、二人一緒に逃避行を始め、長野県・八ヶ岳の別荘地で素性を隠して暮らし始めるというストーリー(因みに、井上荒野も2019年より長野県八ヶ岳の麓に暮らす)。風吹ジュンは年齢を重ねるごとにいい役者になっていく。
「照子と瑠衣」●演出:大九明子●脚本:大九明子/フル
タジュン●音楽:侘美秀俊●原作:井上荒野『照子と瑠衣』●時間:49分●出演:


橋本忍脚本、野村芳太郎監督で映画化され('58年/モノクロ)、映画では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1対1にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノロ








●2015年再ドラマ化 【感想】 全10話の後半は、朝日新聞連載「下町ロケット2ガウディ計画」が原作(「下町ロケット2ガウディ計画」は朝日新聞の広告面に連載され、"連載"というより、単行本刊行直前の
メディアミックスといった印象だった)。ドラマは、主役の阿部寛はまずまずの演技か。新聞連載とドラマの同時進行で最終回の視聴率は22.3%と民放ドラマの年間最高視聴率を記録したから、メディアミックスとしては成功したと言える。但し、2013年に同じくTBSで放送された「半沢直樹」の最終回の42.2%には遥かに及ばない。

プロデューサー:伊與田英徳/川嶋龍太郎●脚本:八津弘幸/稲葉一広●音楽:兼松衆/田渕夏海/中村巴奈重●原作:池井戸潤「下町ロケット」「下町ロケット2ガウディ計
画」●出演:阿部寛/土屋太鳳/立川談春/安田顕/真矢ミキ/恵俊彰/倍賞美津子/吉川晃司/杉良太郎●放映:2015/10~12(全10回)●放送局:TBS



垣根涼介 氏





'10年7月にNHKの「土曜ドラマ」で全5話にわたってドラマ化されましたが、その際に監修協力を求められた郷原氏は、「原作が全くゼネコンの仕事と乖離し、リアリティの無さに議論に値しない」とし、ドラマについても、「談合を個別の企業、個人の意思によって回避できる問題のようにとらえる原作とは異なり、単純に善悪では割り切れない問題ととらえている点は評価できるが、談合構造の背景の話がないので、なぜ談合に同調するのかが一般人には理解できないのではないか」と、twitterでなかなか手厳しい評価をしていました。
原作は人物造形がステレオタイプと言えばステレオタイプで、但し、個人的には文芸的なものは期待せずに単純に「企業小説」として読んだため、山崎豊子クラスとはいかないまでもまあまあ面白く感じられました。ドラマも、同じ「土曜ドラマ」枠で'07年に放映された「ハゲタカ」などに比べるとやや地味ですが、「ハゲタカ」が『ハゲタカ(上・下)』、『バイアウト(ハゲタカⅡ)(上・下)』という2つの原作(単行本4巻!)を全6話の中に"無理矢理"組み入れたものであったのに対し、こちらは原作1冊に準拠しているようなので、一貫性という意味ではスッキリしたものになるのではないかと...。
しかも、殆ど新たに造ったキャラクターに近い志賀廣太郎の"長岡"が、検察の追及と会社の板挟みになって自殺するという原作には無い展開で(原作が直木賞の選評で「人物の描き方が浅い」という理由で落選したのを意識したのか?)、さすがにこれには原作者の池井戸潤氏も、「どんどん原作から離れていきますね。まさにNHK版『鉄の骨』です」と自らのブログで書いていましたが、「このテンションで最終回まで引っ張ってくれないかなあ。そしたら、すごくいいドラマになる予感がします」とのエールも送っています(でも、「ハゲタカ」ほどまでのテンションは上がらなかったような気がする)。





JR錦糸町駅前にある人形焼きの「山田家」の包装紙にある「本所七不思議」に材を得たとのことで、タイトル的には「七不思議」をそのままなぞっていて、物語自体は当然のことながら作者の創作ですが、「七不思議」のロマンを壊さないように仕上げているのが巧み。備忘録的に他の6篇の内容を記すと―。









この小説の最初の事件トリックは、クリスティが隣家を使わせてもらって実地検証したそうで、作品全体を通しても、論理的に精緻な構成であり、江戸川乱歩もこの点を高く評価したのではないかと思います(作中で話題となるダシ―ル・ハメットの作品にも、類似したトリックがあるが)。



●2018年ドラマ化 【感想】 2019年テレビ朝日でドラマ化(3年目のアガサ・クリスティシリーズで第4弾)。監督は「
列車の乗客としてカメオ出演)。因みに、オリジナルは『パディントン発4時50分』『鏡は横にひび割れて」ともこの『予告殺人』と同様ミス・マープルものなので、沢村一樹がミス・マープルの役どころを演じるのはこれが2回目となる(『パディントン発4時50分』は天海祐希がミス・マープルに該当の役)。大地真央は「アガサ・クリ
スティ そして誰もいなくなった」にも容疑者の一人として出演していたが、その時の主役級は渡瀬恒彦で、今回は彼女が主役級。「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」の容疑者の主役級が黒木瞳だったので、天海祐希(探偵役)、黒木瞳(容疑者役)、大地真央(同)と宝塚出身者が続いたことになる。沢村一樹の相国寺竜也警部役のコミカルな演技は板についた印象で、恋愛を絡ませた"お遊び"的要素も。但し、「そして誰もいなくなった」の時と同じく、本筋のストーリーは比較的原作に忠実であったのが良かった。難点は、複雑な登場人物相関を分かりやすくする狙いで容疑者全員にカタカナのにニックネームを付けたのだろうが、レーリィとかローリィとか観ていいる側までも混乱してしまいそうになったことか。









講談社の漫画雑誌「モーニング」に'99(平成11)年5月から'05(平成17)年まで連載されていた漫画作品。
『カバチタレ!』は'02年にTVドラマ化され、フジテレビで1クール放映されましたが、主人公の田村勝弘や栄田千春が女性(常盤貴子・深津絵里)に置き換えられていてどうかなあと思ったけれど、ほどほどに面白く、画面に「心裡留保」とか「供託」とか、解説がテロップ表示されるのが親切でした。.jpg)
ュースしたもので(美食家でお洒落で3回結婚していて、自殺なんてしそうもないキャラに見えたが)、妻の安井かずみ(1939-1994/55歳没)が作詞し(二人でDINKSライフを体現するカップルとか言われていた。バブル以前の話で、庶民には手に届かない世界に思えたが)、加藤和彦が曲を作り(北山修とのコンピで「あの素晴しい愛をもう一度」('71年)など多くの曲を作っているが、サディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」('74年)(作詞:松山猛)なども数多くのアーティストによってカバーされてい
る加藤和彦が作った曲の1つ)、岡崎有紀が歌った"Do you remember me(ドゥー・ユー・リメンバー・ミー)"('80年)でした(岡崎有紀は"歌える女優"だったなあ)。また、番組のエンディング・タイトルのシルエット・ダンサーは山田優で、ドラマ部分にも出演していて、彼女のドラマデビュー作でした。
因みに、岡崎友紀と言えば何と言っても「おくさまは18歳」('70年~'71年)でしょう。原作は本村三四子のラブコメディ漫画ですが、舞台はアメリカのカレッジ「スイートピー学園」。青年教師のリッキー・ネルソンと女学生のリンダ・ネルソンは結婚していることを隠して学園生活を送っているが、次々に事件に巻き込まれ、秘密がばれそうになるというもの。これを日本の普通の高校の男性教師と女子高校生に置き換えて、当時コメディ演技に関しては未知数だった岡崎友紀と石立鉄男(1942-2007/64歳没)を敢えて起用し、結果的に大ブレークしました
。脚本はウルトラマンシリーズの佐々木守他。台詞のメリハリとリズム感を強調して対話のスピードを通常よりも大幅にテンポアップし、30分ドラマに1時間ドラマに相当する分量の台詞を盛り込んだそうです(メインの監督は映画「

「カバチタレ!」●演出:武内英樹/水田成英●制作:山口雅俊●脚本:大森美香●原作:田島隆●出演:常盤貴子/深津絵里/山下智久/篠原涼子/陣内孝則/岡田義徳/香里奈/岡田浩暉/田窪一世/伊藤さおり(北陽)●放映:2001/01~03(全11回)●放送局:フジテレビ

「おくさまは18歳」●監督:湯浅憲明ほか●脚本:佐々木守他●原作:本村三四子●出演:岡崎友紀/石立鉄男/寺尾聰/冨士眞奈美/森川信/秋山ゆり/横山道代/うつみみどり(うつみ宮土理)/内田喜郎/北林谷栄/松坂慶子●放映:1970/09~1971/09(全53回)●放送局:TBS
松坂慶子(当時18歳)





昭和11年に青森刑務所を脱獄、昭和17年に秋田刑務所を脱獄、昭和19年に網走刑務所脱獄、昭和23年に札幌刑務所脱獄と、犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無期刑囚"佐久間清太郎"(仮名)を描いた「記録文学」。雑誌「世界」に1982(昭和57)年から1983(昭和58)年に連載、岩波書店より1983年11月24日に刊行されました。
脱獄を繰り返す男のモデルとなっているのは、"昭和の脱獄王"と言われた白鳥由栄(しらとり・よしえ、1907‐1979)で、作者は、刑務所で白鳥由栄と深く接した元看守らを綿密に取材しており、実質的には実在の超人的脱獄囚を描いた「記録文学」と言っていいのでは。
そうした看守らの中には、"佐久間"を1人の人間として扱った人もいて、"佐久間"はもともと情に厚い人柄であり、恩を受けた看守に対しては忠義の心を忘れなかったようです。身体能力も含めた怪物的な脱獄能力(湾曲した壁を這い登ることが出来た)、粘着気質的な脱獄意志の強さ(自分に辛く当たった看守が当番の日をわざわざ選んで脱獄した)と、こうした"律儀さ"との組み合わせが興味深いです。
白鳥由栄をモデルにした他の小説では、船山馨『破獄者』、八木義徳『脱獄者』どがあります。また、この吉村昭のほぼノンフィクションと言っていい作品は、
佐久間(緒形拳)が冒頭、鈴木(津川雅彦)から「肛門検査」を受けるというショッキングなシーンから始まるこのドラマは、第1回文化庁芸術作品賞受賞作品となりました。緒形拳と津川雅彦という盟友関係の二人のW主役という触れ込みでしたが、原作の主人公である佐久間を演じた緒形拳の演技がやはり良かったように思います(先に述べた、この作品のテーマの1つが「人間の尊厳」であることがよく分かる)。一昨年['08年]、緒形拳が亡くなった時も、NHKのニュースで出演作としてこのドラマが紹介されていました(2017年にテレビ東京で山田孝之(佐久間)、ビートたけし(鈴江)主演で再ドラマ化された)。




「破獄」●演出:佐藤幹夫●脚本:山内久●原作:吉村昭●出演:緒形拳/津川雅彦/中井貴恵/佐野浅夫/趙方豪/織本順吉/なべおさみ/玉川良一/田武謙三/綿引勝彦●放映:1985/04(全1回)●放送局:NHK


作:吉村昭●出演:ビートたけし/山田孝之/吉田羊/満島ひかり/橋爪功/寺島進/松重豊/勝村政信/渡辺いっけい/池内博之/中村蒼●放映:2017/04(全1回)●放送局:テレビ東京 










2009(平成21)年度・第22回「柴田錬三郎賞」受賞作。
本書を読んで高橋和巳の『
これ、意外と傑作でした(原作はビートたけし)。この映画にも、教団をビジネスと考える者(ビ
ートたけし、岸部一徳)とそこに真実を求める者(玉置浩二)が出てきますが、映画ではむしろ後者に対する揶揄が込められています(オウム真理教による松本サリン事件の約半年前、地下鉄サリン事件の1年半前に作られたという点では予見的作品でもある)。


ビートたけし/下絛正巳/国舞亜矢/山口美也子/もたいまさこ/南美江/津田寛治/寺島進●公開:1993/11●配給:東宝(評価:★★★★)
た。そしたら、最終回で一気に「それ」になったという感じで、視聴者からも演者の凄まじい熱量に感服する一方、「まさかの展開」的感想も多かったようだ。これはこれで、演出サイドの狙いだったのか。青柳翔と大東駿介はまずまずの嵌り役だった。
「仮想儀礼」●脚本:
港岳彦/江頭美智留●演出:岸善幸/石井永二/森義隆●音楽:岩代太郎●原作:篠田節子●時間:50分●出演:青柳翔/大東駿介/石野真子/美波/河井青葉/松井玲奈/川島鈴遥/奥野瑛太/齋藤潤/宮地真史/峯村リエ/尾美としのり/目黒祐樹/石橋蓮司●放映:2023/12~2024/02(全10回)●放送局:NHK-BSプレミアム4K/NHK BS






(●2011年、佐々部清(1958-2020/62歳没)監督により宮﨑あおい、堺雅人主演で映画化された。タイトルは同じ「ツレがうつになりまして。」だが、原作は「その後のツレがうつになりまして。」「イグアナの嫁」からもエピソードをとっている。宮﨑あおい、堺雅人とも、TV版の藤原紀香、原田泰造より演技は上手い。宮﨑あおいはNHK大河ドラマ「篤姫」('08年)で主人公の篤姫を演じており(放送開始時の年齢22歳1か月は、大河ドラマ
の主演としては歴代最年少)、堺雅人はTBS「
「ツレがうつになりまして。」●制作年:2011年●監督:佐々部清●脚本:青島武●撮影:浜田毅●音楽:加羽沢美濃(主題歌:矢沢洋子「アマノジャク」)●時間:121分●出演:宮﨑あおい/堺雅人/吹越満/津田寛治/犬塚弘/田村三郎/中野裕太/梅沢富美男/田山涼成/吉田羊/大杉漣/余貴美子●公開:2011/10●配給:東映●最初に観た場所:丸の内TOEI1(11-11-03)(評価:★★★☆)
余貴美子/大杉漣(ハルさん(宮﨑あおい)の実家・栗田家(栗田理髪店)の両親)











テレビドラマ「ドラゴン桜」



横町の法律事務所で居候弁護士として働いている新米弁護士・真野論平は、ビンボー劇団の役者でもあるが、与えられる役は着ぐるみを着た端役ばかり。そんな論平に舞い込んでくる仕事の相談は、名誉毀損、婚約不履行、遺産相続など様々であり、彼はハートでこれらの問題を解決する!
ライブドアとフジテレビのニッポン放送株を巡る経営権取得攻防(今思えば、ほとんど"騒動"と言っていいものだった)があったのが'05年のことであり、このマンガが描かれたのはその15年も前のこと。個人的には「ゴールデン・パラシュート」などというタームはこのマンガで知りましたが(学習マンガのように分かりやすい!)、実際に仕事でそうしたM&Aが絡む話に遭遇することは今や珍しいことではなく、その度にこのマンガのことを思い出しています(そう言えば、真山仁原作
のNHKの土曜ドラマ「ハゲタカ」('07年)(主演:大森南朋・柴田恭兵)にもこの言葉、出てきた)。(その後、2018年放送のテレビ朝日「ハゲタカ」(主演:綾野剛)にも第2話のタイトルとして登場。ドラマとしては綾野剛版よりかつての大森南朋版の方がいい。)


寛/菅原文太/田中泯/大杉漣●放映:2007/02~03(全6回)●放送局:NHK 「
●『総務部総務課 山口六平太』


![魂萌え! [DVD].jpg](/book-movie/archives/魂萌え! [DVD].jpg)


2005(平成17)年・第5回「婦人公論文芸賞」受賞作。







神奈川県・相模湖畔で運送業の業界紙の社長が、女性とカップルで旅館を訪れた後に死体で発見されるが、同伴の女性の行方は杳として知れず、容疑者であるタクシー会社の専務には、丁度その時刻、北九州・門司の和布刈神社で毎年旧正月深夜に行われる「和布刈神事」を参観し、その様子をカメラに収めているという完璧なアリバイがあった―。
『
と言いつつ、何十年ぶりかの再読で相当に中身を忘れてしまっていて、幸か不幸か殆ど初読のような感じで読めましたが、こうした「推理」主体のものは、時々読み返したり映画化されたりしたものを観たりしないと、結構どんな話だったか忘れるなあと思った次第です(この作品は映画化はされていないが、下記の通り2度ばかりドラマ化はされている)。











主演の天海祐希は、宝塚退団当初は宝塚時代のイメージから女優としての個性を確立するのに苦労したものの、後に女刑事や女弁護士などの役で生来の存在感を示すようになり、2004年以降は単独で単発及び連続ドラマの主演を務めることが多くなっていきますが、今思えばその足掛かりとなったドラマだったかもしれません。また、内藤剛志もこの年['00年]の10月-12月にテレビ朝日の「科捜研の女」シリーズSEASON2からプロファイラーの武藤要として初初登場しており(第5シリーズ('04年)より役を変え、京都府警捜査一課刑事の土門薫として再登場)、彼にとっても一つの契機となった作品かもしれません。











これを読むと、TVドラマ(母親役は篠原涼子)の方は途中から始まっていることになり(小学校入学の少し前から)、またかなり明るいシーンが多かったような気がします。作者は漫画にはいろいろ制約があるといったことを以前言っており、テレビの場合はなおさらそうでしょう。
わが子との心の繋がりを懸命に模索する母親。光君が初めて母親のことを「ママ」と呼ぶ場面や、さまざまな出来事を経て保育園の卒園式で新たな一歩を踏み出す場面は胸を打ちますが、いずれも作者が取材した事実に基づいているようです。
「光とともに~自閉症児を抱えて~」●演出:佐藤東弥/佐久間紀佳●制作:梅原幹●脚本:水橋文美江●音楽:溝口肇●原作:戸部けいこ●出演:篠原涼子/小林聡美/山口達也/武田真治/鈴木杏樹/井川遥/齋藤隆成/市川実日子/大倉孝二/大城紀代/高橋惠子/渡辺いっけい/金沢碧/福田麻由子/佐藤未来/池谷のぶえ●放映:2004/04~06(全11回)●放送局:日本テレビ

'02(平成14)年に第1巻が刊行され第6回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門」で優秀賞を受賞した(その後、'04(平成16)年・第33回「日本漫画家協会賞」大賞も受賞)このシリーズは、あの立花隆氏が絶賛、氏曰く―、「(この漫画は)いまやコミックを超え、ノンフィクションを超え、文学すら超えて、我々の時代が初めて持った、知・情・意のすべてを錬磨する新しい情報メディアとなった。これからの時代、『ブラックジャックによろしく』を読んで悩み苦しんだことがない医者にはかかるな、と言いたい」と、ものすごい褒めようで、東大での講義素材にも使ったりしていますが、確かに医療現場においてあるかもしれない問題を鋭く突いているなあという感じはします(実態とかけ離れているという現場の声もあったようですが)。
この第1巻では、研修医の劣悪な労働条件や治療よりも研究を優先する大学病院の内実を抉っていて、続く第2巻で主人公の研修医は、大学病院の面目を潰してまでも患者を市井の名医に診せたりしています(なかなかの行動力)。
第3巻、第4巻でダウン症の生前告知を通して新生児医療の問題を扱っていて(これは感動しました)、第5巻~第8巻のガン告知の問題を扱っているところまで読みましたが(この部分は'03年にTBS系でテレビドラマ化されたシリーズの中では取り上げられず、翌年の正月にスペシャル版としてドラマ化された)、その後も精神障害とマスコミ報道の問題を扱ったりしているようで、どちらかと言うとジャーナリスティックな(悪く言えばセンセーショナリスティックな)路線を感じます。








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「横山秀夫サスペンス・真相」●監督:榎戸耕史●プロデューサー:杉本明千世●脚本:加藤正人徹●原作:横山秀夫●時間:95分●出演:小林稔侍/中田喜子/岩崎加根子/酒井彩名/伊澤健/高橋長英/デビッド伊東/矢島健一●放映:2005/05/02(全1回)●放送局:TBS




和見的な業務推進部長・松岡を橋爪功がそれぞれ好演し、ラストで思わぬセリフを口にする副頭取は児玉清、女性初というMOF担は黒木瞳がやってましたが、それらもハマっていました(「MOF担」そのものは、官民癒着を助長するものとして廃止されたぐらいだから、ややキレイに描かれすぎている感じもあるが...)。

















山下智久/阿部サダヲ/坂口憲二/妻夫木聡/西島千博/高橋一生/須藤公一/矢沢心/小雪/きたろう/森下愛子/渡辺謙●放映:2000/04~06(全11回)●放送局:TBS




●2014年ドラマ化 【感想】 岸谷五朗はまずまずだが、久しぶりに見た松坂慶子って昔より演技が下手になってしまったのではないかと思った。でも、昔は演技してなかったけれど、今は頑張って演技しているともとれる。昔は映っているだけで絵になる美人だったので、あとは監督の言う通りにしていればよかったが、年季が行くとそうもいかない。好意的に解すれば、美人姐さん風からおばさん風に芸風をチェンジしたということか。これはこれで、女優としての生き残り戦略ととれなくもないが、映画「






'94年に"2時間ドラマ"化されていて、「火車 カード破産の女!」というタイトルで『土曜ワイド劇場』のテレビ朝日開局35周年特別企画として放映されていますが、主人公の新城喬子(関根彰子)役の財前直見は原作同様、ラストシーンを除いてほとんど出て来ず、それでいてドラマ全体を支配していました。原作の優れた点をよく生かしたドラマ化だったと思います。








智子/ゴリ(ガレッジセール)/渡辺大/鈴木浩介/高橋一生/井上和香/前田亜季/藤真利子/美保純/金田明夫/笹野高史/茅島成美/山崎竜太郎/ちすん/上間美緒/長谷川朝晴/谷口高史●放映:2011/11/05(全1回)●放送局:テレビ朝日










うやらその共犯の男につけ狙われているのを感じ、そこで探偵にその共犯者の調査を依頼する―という流れですが、ドラマでは犯人、共犯者、探
偵の3人の主要登場人物が全て女性に置き換えられていました。調べてみたら23年ぶり5度目のドラマ化ということで、今までと違った特色を出したかったのでしょう。賀来千香子、とよた真帆、室井滋の女優陣の演技は安定感がありました(ただし、室井滋の役の役回り(探偵事務所所長・若杉千香子)の原作からの改変は微妙なところか)。

•日本テレビ系「松本清張スペシャル・共犯者」2006年5月9日放送(賀来千香子・とよた真帆)
ェーン「TAKUMI」 の女性社長。36歳)/室井滋 (若杉千香子:探偵事務所所長。45歳)/とよた真帆 (町田夏
海:8年前、神戸で江梨子と同じ卸売市場で働いていた。36歳)/小橋賢児 (松本健:千香子の助手。30歳)/加藤治子 (内堀佳代子:江梨子の母。70歳)/細川茂樹(横山剛:江梨子の部下)/佐野史郎 (倭誠一:IT会社社長。38歳)/あいはら友子(お好み焼き屋のママ)●放映:2006/05(全1回)●放送局:日本テレビ
●'07年「地方紙を買う女」が「火曜ドラマゴールド」枠('06年9月に終了した「DRAMA COMPLEX(ドラマ・コンプレックス)」の後継枠)で「松本清張スペシャル・地方紙を買う女」としてドラマ化(脚本は橋本忍の娘・橋本綾)。
宮城県の山中で、男女2人を心中に見せかけて殺害した潮田芳子(内田有紀)は、地元で発行されている地方紙を東京で定期購読して、事件のその後を見守っていた。間もなく、死体を発見した警察が、事件性のない心中だと断定して安心した芳子だったが、今度は彼女が新たに働き始めた銀座のクラブに、問題の地方紙に小説を連載している杉本孝志(高嶋政伸)という作家が現れたことから、事件は思わぬ方向に転がり始める―。
件の裏側も分かって犯人の見当もついているみたいで、ちょっと「刑事コロンボ」みたなスタイルになっていた。ただし、犯人を逮捕に導くのではなく、「事件のことを小説にするためにそのことを調べている」という点が特徴的で、しかも、女に結婚を迫るという...。ラストは、原作の結末が高嶋政伸演じる小説家の書くドラマ内小説「地方紙を買う女」の結末になっていて、ドラマとしての結末は別のものが用意されていた。この結末って、"内田有紀向き"だったかもしれない。
『
サー:小林紀子(日本テレビ)/森雅弘/前田伸一郎(日本テレビ)●脚本:橋本綾●音楽:(エンディング)竹内まりや「告白」●原作:松本清張「地方紙を買う女」●出演:内田有紀/国分佐智子/千原ジュニア/井澤健/白川ゆり/温水洋一/あめくみちこ/左時枝/秋野暢子/高嶋政伸●放映:2007/01/30(全1回)●放送局:日本テレビ
•1960年「黒い断層~一年半待て(KR)」淡島千景・南原宏治・土屋嘉男
•1984年「一年半待て(NTV)」小柳ルミ子・勝野洋・樹木希林


•BS-TBS「松本清張特別企画~一年半待て」2010年12月8日放映(夏川結衣・清水美沙・市原悦子)第48回ギャラクシー賞奨励賞受賞作品
•1987年「地方紙を買う女(CX)」小柳ルミ子・篠田三郎・露口茂
•日本テレビ系「火曜ドラマゴールド〜地方紙を買う女」2007年1月30日放映(内田有紀・高嶋政伸)
•日本テレビ系「火曜サスペンス劇場〜書道教授」2010年3月23日放映(船越英一郎・杉本彩)
"映画化率・ドラマ化率"の高い短編集。映像と比べるのも面白い。
















こちらも、原作の後日譚を膨らませ、映画オリジナルの話が付け加わっています。「寒流」の映画化作品('61年映画化・鈴木英夫監督「黒い画集 第二話 寒流」)は池部良と新珠三千代の共演で、銀行員である主人公(池部良)が仕事上のきっかけで美人女将(新珠三千代)と知り合い、いい関係になったまではともかく、そこに主人公の上司である好色の常務(平田昭彦)が割り込んできて、主人公の仕事人生をも狂わせてしまうというものですが、主人公は原作と異なって、踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うだけ遭って、ただそれだけで終わってしまう結末になっています。
「寒流」の原作でも主人公は踏んだり蹴ったりの目に遭いますが、ラストで主人公を陥れた常務に対して主人公が逆転劇を演じるのに対し、映画ではその逆転劇が企図されたこと(結局うまくいかない)の続きがあって、そこから二転三転して最終的には主人公が更なる絶望的な状況
ではという気もします。銀行本店には昭和27年までGHQが総司令部を置いていた旧第一生命ビルが使われていて、いかにも大銀行の本店という感じがします。池部良演じる銀行員は原作
以上に真面目そうに描かれていて、新珠三千代演じる女将に対しても最初は銀行員らしくかなり慎重に接しています。2人に割って入る平田明彦演じる常務のほかに、その常務の行内でのライバルの副頭取に中村伸郎、主人公が常務と女将の密偵を依頼する探偵社の男に宮口精二、味方かと思ったらとんでもない食わせ者だった総会屋に志村喬、常務が自分を陥れようとする主人公を脅すため差し向けたヤクザの親分に丹波哲郎―、探偵に宮口精二といった配役も楽しめました。


上記のように「寒流」は映画だけでなく何度かテレビドラマ化もされていますが、同じく「証言」も何度かテレビドラマ化されていて、'84年にはテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」で柳生博主演で、'94年にはTBSの「月曜ドラマスペシャル」で渡瀬恒彦主演でドラマ化されており、'92年の渡瀬恒彦版の方を観ました。渡瀬恒彦は刑事ドラマにおける犯人を追いつめる「刑事」役のイメージが強いですが、こうしたドラマの追いつめられる側の「犯人」役をやらせてもうまいと思いました(その後、2020年にNHKで「黒い画集~証言~」として再度ドラマ化され、谷原章介演じる主人公の浮気相手が男性に改変されていた)。

が必ずあるように思う。'78年のNHK「土曜ドラマ」版(大谷直子、佐藤慶主演)はどうだったか知らないが)。映画では、刑事の尋問中にハナがトイレに行かせてもらえず失禁するシーンを、田中裕子が仕掛け無しでやることを自らの申し出たという逸話が知られており(実際にはやっていないと思うが)、それまで三村晴彦監督は田中裕子と演技面で意見が合わず対立していたのが、その申し出に田中裕子のプロの気概を感じて、そこから彼女の演技に全幅の信頼を寄せるようになったそうです。田中裕子はこの作品でモントリオール世界映画祭主演女優賞を受賞しています。
更に、'98 年の田中美佐子主演のNHKテレビ版では、少年(二宮和也)が大人(長塚京三)になってから大塚ハナと再会




「紐」は過去に、酒井和歌子、浅丘ルリ子、名取裕子などの主演でドラマ化されていますが、昨年['05年]テレビ東京で余貴美子主演のものが放映されました。絞殺死体を巡って保険金殺人の疑いがあるものの、容疑者には完璧なアリバイがあるという話で、「サスペンス劇場」とか「愛と女のミステリー」で今も清張作品をとりあげているというのは、「清張」というネームバリューだけでなく、面白さに時代を超えた普遍性があるということだと思います。

![黒い画集 坂道の家 [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E9%BB%92%E3%81%84%E7%94%BB%E9%9B%86%20%E5%9D%82%E9%81%93%E3%81%AE%E5%AE%B6%20%5BVHS%5D.jpg)






「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(映画)●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●
撮影:中井朝一●原作:松本清張
「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)

「黒い画集 ある遭難」(映画)●制作年:1961年●監督:杉江敏男●製作:永島一朗●脚本:石井輝男●撮影:黒田徳三●音楽:神津
善行●原作:松本清志「遭難」●時間:87分●出演:伊藤久哉/和田孝/児玉清/香川京子/土屋嘉男/松下砂稚子/天津敏/那智恵美子/塚田美子●公開:1961/06●配給:東宝(評価:★★★☆) 
「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(映画)●制作年:1961年●監督:鈴木英夫●製作:三輪礼二●脚本:若尾徳平●撮影:逢沢譲●音楽:斎藤一郎●原作:松本清志「寒流」●時間:96分●出演:池部良(沖野一郎)/荒木道子(沖野淳子)/吉岡恵子(沖野美佐子)/多田道男(沖野明
)/新珠三千代(前川奈美)/平田昭彦(桑山英己常務)/小川虎之助(安井銀行頭取)/中村伸郎(小西副頭取)/小栗一也(田島宇都宮支店長)/松本染升(渡辺重役)/宮口精二(伊牟田博助・探偵)/志村喬(福光喜太郎・総会屋)/北川町子(喜太郎の情婦)/丹波哲郎(山本甚造)/田島義文(久保田謙治)/中山豊(榎本正吉)/広瀬正一(鍛冶久一)/梅野公子(女中頭・お時)/池
田正二(宇都宮支店次長)/宇野
晃司(山崎池袋支店長代理)/西条康彦(探偵社事務員)/堤康久(比良野の板前)/加代キミ子(桑山の情婦A)/飛鳥みさ子(桑山の情婦B)/上村幸之(本店行員A)/浜村純(医師)/西條竜介(組幹部A)/坂本晴哉(桜井忠助)/岡部正(パトカーの警官)/草川直也(本店行員B)/大前亘(宇都宮支店行員A)/由起卓也(比良野の従業員)/山田圭介(銀行重役A)/吉頂寺晃(銀行重役B)/伊藤実(比良野の得意先)/勝本圭一郎/松本光男/加藤茂雄(宇都宮支店行員B)/細川隆一/大川秀子/山本青位●公開:1961/11●配給:東宝(評価:★★★☆)
「松本清張シリーズ・愛の断層」(TV)●演出:岡田勝●脚本:中島丈博●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張「寒流」●出演:平幹二朗/香山美子/中谷一郎/殿山泰司/高田敏江/森幹太/鈴木ヒロミツ/山崎亮一/松村彦次郎/鶴賀二郎/望月太郎/テレサ野田/桂木梨江/石黒正男/戸塚孝/小林テル/本田悠美子/風戸拳/西川洋子/松本清張(クレジット無し)●放送日:1975/11/01●放送局:NHK(評価:★★★)



田日出男/柳沢慎吾/余貴美子/斉藤洋介/寺島しのぶ/長塚京三/松金よね子/六平直政/遠藤憲一/不破万作/松蔭晴香/中丸新将/佐戸井けん太/温水洋一/河原さぶ/佐久間哲/都家歌六●放映:1998/1(全1回)●放送局:TBS







●2020年ドラマ化(「黒い画集~証言~」)【感想】 2020年5月にNHK-BSプレミアムにおいてテレビドラマ化(全1回)。主演は谷原章介。舞台を東京から金沢に変え、主人公の職業は医師で、3年前から妻(西田尚美)に隠れて密会を重ねている相手は、美大生の青年(浅香航大)になっている。放映前は、バイセクシャルや偽装結婚といった現代的世相を取り入れたことが話題になっていたが、実際に観てみると、終盤大きく原作を改変していた。調べてみると、番組ホームページに「ささやかな快楽を求め、思わず"偽証"をしてしまった男。その真実が明らかになる時、家族も仕事も失う恐怖から逃れようと、男はある決断をする。だが、その前に妻が夫に下した非情な審判とは?」とまで書かれていた。もう何回もドラマ化されているので、これまでとは違ったものにしたかったということか。ただ、この最後の改変部分はアガサ・クリスティの『鏡は横にひ




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カッパ・ノベルス『ゼロの焦点』昭和34年初版
板根禎子は、広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚、信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた。その7日後、東京へ転勤になったばかりだった憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言い前勤務地の金沢へ出張へ旅立つが、予定を過ぎても帰京しない―。やがて禎子のもとに、憲一が北陸で行方不明になったという勤務先からの知らせがある。禎子は単身捜査に乗り出すが、その過程で夫の知られざる過去が浮かび上がる―。
この『ゼロの焦点』が書かれた'58年時点では、まだ"社会派"推理小説というジャンル分けは確立していなかったと思いますが、この『ゼロの焦点』辺りがその始まりではないでしょうか(ただし、『ゼロの焦点』のカッパ・ノベルズ版の裏表紙の作者経歴紹介では、前年発表の『点と線』と『目の壁』の2作を、その嚆矢として挙げている)。この『ゼロの焦点』はミステリーとしては瑕疵が多いとの指摘もありますが、社会ドラマとしての人間がしっかり描かれて、これが松本清張というの作家の作品の大きな魅力でしょう。また、松本清張の推理小説作品の中でも、この『ゼロの焦点』は風景の描写などに文学的な細やかさがあり、『点と線』と並んで"旅情ミステリー"のハシリとも言えるのではないでしょうか。冒頭部分だったかが国語の試験問題に出されたのを覚えています。



多くのサスペンスドラマの典型モデルとなった、日本海の荒波を背に崖っぷちで犯人が告白するというラストシーンなど、橋本忍の脚本の運びを原作と比べてみるもの面白いかと思います。橋本忍脚本の犯人の長台詞は、込み入った原作の背景を1時
間半の映画に収めようとした結果の「苦肉の策」とだったともとれるのですが...(因みに、山田洋次監督も共同脚本として名を連ねている)。
この映画作品が発表された後、作品の舞台周辺への観光客が増加し、一方、能登金剛・ヤセの断崖(映画の舞台)での投身自殺が急増したとのことです。自分も行ったことがありますが、「早まるな」と書いた立て札があったように思います。金沢ロケで雪がかなり積もっているのは、昭和35年末から36年初めの北陸地方の豪雪によるもの。「昭和38年1月豪雪」はよく知られていますが、この時も結構積もったようです。
(●2020年にシネマブルースタジオの「戦争の傷跡」特集で再見した。原作の鵜原憲一が勤める「A広告社」は「博報社」になっていたのだなあ。ラストの謎解きは、主人公の推理と犯人の告白が交互に映像化されるスタイルになっていたことを改めて確認した。'91年にビデオで観たのが初
めてで、その時点で映画が作られてから30年で、今またそこから30年経とうとしているのかと思うと何か感慨深い。1931年生まれの久我美子も1932年生まれの有馬稲子も2020年時点で健在である。)

)、芦川よしみ(田沼久子)、増田恵子(室田佐知子)といった布陣ですが、原作者・松本清張の指名を受けた
の撮影に関しては新藤兼人の発案ではなく、原作者である松本清張の希望により脚本に導入され、むしろ新藤兼人は難色を示したものの、その方向で撮影が行われたとのこと(原作も一応そうなっているのだが)。おそらく松本清張は、このTV版のロケの時期が初夏になったことで、部分的に趣向を変えてみてもいいかなと考えたのではないでしょうか。すでに5回目のTVドラマ化であったというのもあるかと思います(和倉温泉「銀水閣」[左下写真]2007年の能登半島地震の風評被害、東日本大震災による予約キャンセルなどで経営が行き詰まり、2011年4月25日閉館)。
有馬稲子/南原宏治/西村晃/加藤嘉/穂積隆信/
野々浩介/十朱久雄/高橋とよ/沢村貞子/磯野秋雄/織田政雄/永井達郎/桜むつ
子/北龍二(本編では佐々木孝丸がキャストされている)/稲川善一/山田修吾/山本幸栄/高木信夫/今井健太郎/遠山文雄●劇場公開:1961/03●配給:松竹●最初に観た場所:銀座・東劇(野村芳太郎特集)(05-08-13)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(20-08-24)(評価★★★★)![[ゼロの焦点].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%5B%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%81%AE%E7%84%A6%E7%82%B9%5D.jpg)





「ゼロの焦点―松本清張作家活動40年記念スペシャル(松本清張スペシャル・ゼロの焦点)」●監督:鷹森立一● プロデュー
サー:嶋村正敏(日本テレビ)/赤司学文(近代映画協会)/坂梨港●脚本:新藤兼人●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:眞野あずさ/林隆三/増田恵子(元ピンク・レディー)/芦川よしみ/藤堂新二/並木史朗/











「松本清張一周忌特別企画・或る「小倉日記」伝」●演出:堀川とんこう●制作:堀川とんこう●脚本:金子成人●原作:松本清張●出演:松坂慶子/筒井道隆/蟹江敬三/国生さゆり/大森嘉之/佐戸井けん太/今福将雄/松村達雄/西村淳二●放映:1993/08(全1回)●放送局:TBS





カッパ・ノベルズの松本清張短編全集は'63(昭和38)年に刊行されましたが、'77年と'02年に改訂が行われていて、'02年改訂は「没後10周年企画」として行われました。全11巻あり、この第1巻には初期の作品が8作収められて、「くるま宿」「或る『小倉日記』伝」「火の記憶」などの名作が並び、「啾々吟」「戦国権謀」「白梅の香」といった歴史小説もあります。個人的には最後の、阿蘇で自殺しそこなった人を助けるという変わったことをしている親父から聞いた話を裏返して書いた「情死傍観」が拾い物でした。清張の短編集に手をつけてみたい人には最もオススメできる1冊です。

「西郷札」●演出:大岡進●制作:堀川とんこう●脚本:金子成人●音楽:奥慶一●原作:松本清張「西郷札」●出演:緒形直人/仙道敦子/
緒形直人(樋村雄吾・薩摩軍で「西郷札」に関わる)/仙道敦子(塚村季乃・樋村雄吾の義理の妹、雄吾の父の再婚相手の連れ子)/蟹江敬三(杉山卓二・新聞社勤務)/柳沢慎吾/大滝秀治(西蓮寺住職)/前田吟(幡生粂太郎・紙問屋主人。岩崎弥太郎を手本に「西郷札」を金儲けに利用しようとして破産の憂き目に遭う)/風間杜夫(塚村圭太郎・太政官権少書記、士族。上級官員。季乃の夫。季乃と義兄の雄吾を疑って嫉妬から樋村雄吾を陥れる。)







![密謀 上巻 [単行本].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%AF%86%E8%AC%80%20%E4%B8%8A%E5%B7%BB%20%5B%E5%8D%98%E8%A1%8C%E6%9C%AC%5D.jpg)

時代小説、時代推理作家というイメージが強い著者ですが、これは豊臣から徳川にかけての時代の転換期を描いた「歴史小説」です(と言っても時代小説と歴史小説を区別することに藤沢周平は疑念があったようですが)。





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「白夜行」●演出:小林俊一●制作:石丸彰彦●脚本:森下佳子●音楽:河野伸●原作:東野圭吾●出演:山田孝之/綾瀬はるか/渡部篤郎/柏原崇/西田尚美/田中幸太朗/小出恵介/八千草薫/武田鉄矢/余貴美子●放映:2006/01~03(全11回)●放送局:TBS



1981(昭和56)年4月から1986(昭和61)年12月まで「ビッグコミック」に掲載の、幕末を舞台に、蘭学医・手塚良仙の息子の良庵と、府中藩士の伊武谷万二郎の2人の生き方を描いた手塚治虫後期の作品で1983(昭和58)年・第29回「小学館漫画賞」(青年一般部門)受賞作。手塚良庵(後の良仙)は実在の人物で作者の曽祖父にあたる人、主人公の伊武谷万二郎は一応架空の人物とされているようです。
手塚治虫の歴史物の中では最高傑作の1つではないかと思います。しっかりした時代考証の上に生き生きとした創作を織り込むところは、司馬遼太郎の初期作品などを想起させます。
主人公「伊武谷万二郎」はこの実在の人物をモデルにしたのではないかと思われます。「伊佐新次郎」という人は実際に熱血肌の人だったようです。お吉がハリスに仕えたのは僅かの期間ですが、その後の彼女の運命に大きな影響を与えました(個人的にはその辺りの経緯を、下田の観光バスガイドの話で初めて知った)。
尚、この作品は2000年4月から9月まで日本テレビ系で連続アニメドラマとして放送され(全25話)、第4回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門(テレビシリーズ・長編)で優秀賞を受賞していますが、午前1時近くから始まる深夜放映だったためで、どれだけの人の目に触れたか(全編を通して観たわけではないが、安易にストーリーをいじらず、ほぼ原作通りだったのではないか)。(2012年にNHK・BS時代劇「陽だまりの樹」として実写版が4月6日(金)から放送された(全12話)。配役は伊武谷万二郎が市原隼人、手塚良庵が成宮寛貴。)






、'77年に歌手デビューしたばかりのホリプロの"新人"片平なぎさを売り出すためのプロモーション映画ともとれるものでした(「ブラック・ジャック」の実写版は加山雄三と本木雅弘がそれぞれブラック・ジャックを演じたものが知られているが、この作品でブラック・ジャックを演じたのは宍戸錠)。
映画チラシ/DVD「
劇場公開は1977年11月26日で、同時上映は「昌子・淳子・百恵 涙の卒業式〜出発(たびだち)〜」でしたが、僅か2週間で上映打ち切りになったとのこと。珍品というか、今では一種のカルトムービーのような評価になっているようです。原作と
の対比で見ると面白く、結構笑えます(原作の方がずっとマトモ)。3年後に鈴木清純監督の「
「瞳の中の訪問者」●制作年:1977年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:阪本善尚●音楽:宮崎尚志●原作:手塚治虫 「春一番(「ブラック・ジャック」)」●時間:100分●出演:片平
なぎさ/宍戸錠/山本伸吾/志穂美悦子/峰岸徹/和田浩治/月丘夢路(特別出演)/長門裕之(特別出演)/大林宣彦/(以下、友情出演)千葉真一/壇ふみ/藤田敏八●公開:1977/11●配給:ホリプロ=東宝(評価:★★★?)
大林宣彦(テニス審判)



「ブラック・ジャック」●演出:手塚眞●制作:諏訪道彦●音楽:松本晃彦●原作:手塚治虫●出演(声):大塚明夫/水谷優子/富田耕生/川瀬晶子/阪口大助/江川央生/渋谷茂/山田義晴/滝沢ロコ/渡辺美佐/小形満/後藤史彦/佐藤ゆうこ●放映:2004/10~2006/03(全63回)●放送局:読売テレビ












秋山小兵衛は歌舞伎役者でテレビの「鬼平犯科帳」にも時々出ていた2代目中村又五郎(1914-2009/94歳没)をイメージしたらしいですが、昔のテレビ版の山形勲(1915-1996)の方が最近の藤田まこと(1933-2010/76歳没)よりイメージ的には「粋」の部分で近かったかも(CX系では、加藤剛(1938-2018/80歳没)、山形勲コンビの「剣客商売」(70年代)と藤田まことの「剣客商売」(90年代以降)の間に、加藤剛、中村又五郎コンビの「剣客商売」(80年代)も単発で2度作られており、1つがこの「辻斬り」で('82年12月放映)、もう1つが「誘拐(かどわかし)」('83年3月放映))。




東 浩紀 氏






