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1945年から1980年の「カルトムービー」を紹介。単著なのでまとまりがあった。
「あの頃映画 誘惑 [DVD]」
『カルトムービー 本当に面白い日本映画 1945→1980 (メディアックスMOOK)』['13年]カバー「黒線地帯」('60年/新東宝)天知茂/三原葉子『カルトムービー 本当に面白い日本映画 1981→2013 (メディアックスMOOK)』['14年]
1945年から1980年に公開された、ベストテン映画ではないが面白い「カルトムービー」154作を紹介したもの。単著(一人の著者によるもの)なので、トーンが均一でまとまりがありました(著者は続編として『カルトムービー 本当に面白い日本映画 1981→2013』('14年)も上梓しているが、個人的にはこの"前編"の方が馴染みの作品が多かった)。
吉村公三郎監督の「象を喰った連中」('47年)は、確かに、冒頭の出演者のクレジットもわざわざ「象を喰った連中」と「象は喰はない連中」に分けて紹介するというユーモアがありました。本書によれば、宝塚の動物園で病死した象の肉を食べた連中がワクチンを探して大騒ぎになった、という記事を読んだ吉村公三郎監督の着想で生まれた作品とのことで、半分"実話"だった? 最後、著者は、ラストシーンで死を免れたことを喜び、阿部徹が妻と抱き合うシーンで手だけアップになるところが秀逸なのに、「下品だと書いたバカな評論家が当時一人いたことを付け加えておく」と(誰?)。
志村敏夫監督の「女真珠王の復讐」('56年)は、日本映画史上、女優が初めて大胆なオールヌードを見せた作品として知られ、そのほかにも、前田通子がビキニ姿で海中に潜ったり、手だけで胸を隠して逃げ回るシーンがあるため、単にセクシー映画と見られがちですが、著者は、スピード感溢れるドラマ展開の作りに驚嘆させられると。しかし、やっぱりこの映画は、漂流した一人の女性と32人の男性が南洋の小島で共同生活を送るうちに、女性を巡って殺し合いするまでに発展した、あの「アナタハン事件」がモデルだったのかあ。
小林恒夫監督の「点と線」('58年)は、犯人の妻役で登場した高峰三枝子は当時40歳で28歳の病弱な妻を演じていますが、著者の言うように、映画の中では年齢に触れられていないので、単に病弱な妻として見れば違和感はないかも。普通なら犯人役など引き受けない大女優がこの役を引き受けたことで、後の市川崑監督の「犬神家の一族」('76年)への出演に繋がり、ブルーリボン助演女優賞を受賞するまでになったと著者は述べています。時刻表のアップは、カラーのシネマスコープでは技術上撮れなかっため、10畳ほどの大きさの時刻表を作り、レールに載せたカメラで接写したとのこと。東京駅のプラットホームの撮影も、国鉄が協力し、列車が止まった深夜に行われたとのこと。本書によって、撮影の苦労の跡が窺えました。
本多猪四郎監督の「モスラ」('61年)は、個人的には生まれて初めて観た特撮怪獣映画であり、思い出深いのですが(記憶自体はあとで観直して補強された面もあるかと思うが)、日米合作映画として作られたのだなあ。契約でアメリカのシーンを入れることになっていたのに、予算の都合で日本のシーンだけで撮影を終わらせたところ、アメリカ側から抗議を受け(そりゅあ怒る)、ラストはロリシカ国(ロシアとアメリカの合成語?)に逃げた悪徳興行師(あの小美人を金儲けのために見世物にした)を追って成虫モスラがニューヨークの摩天楼やサンフランシスコの金門橋と思われる街並みを破壊するシーンを撮り直したそうです(観てみたい!)。
篠田正浩監督、石原慎太郎原作の「乾いた花」('64年)は、博打シーンを克明に映像化する篠田正浩監督に対し、脚本の馬場当は物語の骨子が見えにくくなったと不満であったとのことで、配給予定だった松竹も中身が難解だとして公開を見送って8カ月後にやっと封切り、しかも、加賀まりこはスタイリッシュだが裸シーンは本人もそれ以外も無く、人が殺されるシーンも池部良がヤクザの親分を刺すシーンのみで、それも効果音無しの荘厳なオペラでのBGM。それなのに映倫が成人映画に指定(著者は博打シーンのためではないかと推測)-だったにも関わらず、公開されると大ヒットだったとのことです(池部良の本作での演技が、「昭和残侠伝」('65年)での高倉健との共演に繋がった)。
そのほか、安田公義監督の「大魔神」('65年)(大魔神の身長を4.5メートルに設定し、それは人間の身長の2.5倍の高さが人間が見上げたときに一番恐怖を感じるからという理由からだったそうだ)、森一生監督、藤原審爾原作の「ある殺し屋」('67年)(市川雷蔵のカッコよさ。「歌手の小林幸子がまだ中学生で、小料理屋の女中を演じているのもご愛嬌」)や、増村保造監督、江戸川乱歩原作の「盲獣」('67年)(「登場人物たった三人」)など、二頁見開きで紹介されている作品と、そのほかに一頁紹介の作品がありますが、自分がちょっと気にかけている作品がどれも二頁見開き紹介なのが嬉しいです(それだけ、「カルトムービー」としては"メジャー"と言えるのかも)。
一頁紹介の作品の方がもしかしたら"カルト度"は高いのかなとも思ってしまいますが、そんな一頁紹介作品の中に、吉村公三郎監督の「誘惑」('48年)がありました。吉村公三郎監督としては「象を喰つた連中」「安城家の舞踏会」に次ぐ終戦後第三回作品で、原節子が女子医科大で医者を目指す女子大生役で、唯一の肉親であった父を亡くし、佐分利信が演じる、父の教え子だった妻子ある男性の家に、子どもたちの家庭教師として住み込むことなって、そこから当初無邪気に見えた彼女が次第に小悪魔的に見えるよう変貌し、杉村春子演じる病身の妻がそれに嫉妬するというもの。原節子には、以前から彼女のことが好きだったという男子大学生も現れて、いろいろあった末、最後は、死に行く杉村春子が原節子に夫と妻を託し、原節子は迷った末に佐分利信の下へ―(脚本は新藤兼人(1912‐2012/享年100))。ラスト、雪の中、窓辺に立って、「佐分利信へ抱っこをねだるように両手を差し出す原節子」を(実際に佐分利信はお姫様抱っこして彼女を部屋に迎え入れる)、著者は、その仕草が「彼女を再び純愛娘に変えてしまった」としていますが、これってある種"略奪婚"映画ではないかと。メロドラマらしく比較的丁寧に作られていますが、後に原節子が小津安二郎作品などで演じる女性像とあまりに違っているため、作っている側が意図しないところで「カルトムービー」になったような気がします。その意味では、原節子が19歳の時に仕事と恋の狭間で悩むキャリアウーマン(高級外車のセールスウーマン)を演じた丹羽文雄原作、伏水修監督の「東京の女性」('39年/東宝)なども「カルトムービー」と言えるかもしれません。
「東京の女性」('39年/東宝)
「黒線地帯」●制作年:1960年●監督:石井輝男●製作:大蔵貢●脚本:石井輝男/宮川一郎●撮影:吉田重業●音楽:渡辺宙明●時間:80分●出演:天知茂/三原葉子/三ツ矢歌子/細川俊夫/吉田昌代/魚住純子/ 守山竜次/鳴門洋二/宗方祐二/瀬戸麗子/南原洋子/菊川大二郎/鮎川浩/城実穂/浅見比呂志/板根正吾/山村邦子/桂京子/小高まさる/大谷友彦/水上恵子/国創典/倉橋宏明/宮浩一/晴海勇三/村山京司/原聖二●公開:1960/01●配給:新東宝(評価:★★★★)
「象を喰った連中」●制作年:1947年●監督:吉村公三郎●製作:小倉武志●脚本:斎藤良輔●撮影:生方敏夫●音楽:万城目正 /仁木他喜雄●時間:84分●出演:日守新一/笠智衆/原保美/神田隆/安部徹/村田知英子/空あけみ/朝霧鏡子/文谷千代子/岡村文子/若水絹子/植田曜子/奈良真養/高松栄子/志賀美彌子/中川健三/遠山文雄/西村青兒/永井達郎/横尾泥海男●公開:1947/02●配給:松竹大船(評価:★★★)
「女真珠王の復讐」●制作年:1956年●監督:志村敏夫●製作:星野和平●脚本:相良準/松木功●撮影:友成達雄●音楽:松井八郎●原作:青木義久「復讐は誰がやる」●時間:89分●出演:前田通子/宇津井健/藤田進/丹波哲郎/天知茂/三ツ矢歌子/遠山幸子/小倉繁/若月輝夫/芝田新/林寛/沢井三郎/光岡早苗(後に城山路子)/保坂光代/藤村昌子/石川冷/宮原徹/菊地双三郎/高村洋三/有馬新二/山田長正/国創典(後に邦創典)/伸夫英一/倉橋宏明/高松政雄/山川朔太郎/北一馬/村山京司/竹中弘直/小林猛/川部修詩/大谷友彦/草間喜代四/岡竜弘/池月正/三宅実/西一樹/東堂泰彦/三井瀧太郎/三村泰二/沢村勇/山口多賀志/万里昌子(後に昌代)/有田淳子/藤田博子/森悠子/ジャック・アルテンバイ●公開:1956/07●配給:新東宝(評価:★★★)
天知茂/丹波哲郎
「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●企画:根津昇 ●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張「点と線」●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山形勲/加藤嘉/志村喬/三島雅夫/堀雄二/河野秋武/奈良あけみ/小宮光江/月丘千秋/光岡早苗/楠トシエ/風見章子/織田政雄/曽根秀介/永田靖/成瀬昌彦/神田隆/小宮光江/増田順二/奈良あけみ/花沢徳衛/楠トシエ●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★☆)●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「黒い画集・あるサラリーマンの証言」(堀川弘通)
「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田善衛「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:フランキー堺/小泉博/香川京子/ジェリー伊藤/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙/志村喬/平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広瀬正一/桜井巨郎/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)
「乾いた花」●制作年:1964年●監督:篠田正浩●製作:白井昌夫/若槻繁●脚本:馬場当/篠田正浩●撮影:小杉正雄●音楽:武満徹/高橋悠治●原作:石原慎太郎●時間:99分●出演:池部良/加賀まりこ/藤木孝/原知佐子/中原功二/東野英治郎/三上真一郎/宮口精二/佐々木功/杉浦直樹/平田未喜三/山茶花究/倉田爽平/水島真哉/竹脇無我/水島弘/玉川伊佐男/斎藤知子/国景子/田中明夫●公開:1964/03●配給:松竹(評価:★★★★)
「大魔神」●制作年:1966年●監督:安田公義●製作総指揮:永田雅一●脚本:吉田哲郎●撮影:森田富士郎●音楽:伊福部昭●時間:84分●出演:高田美和/青山良彦/二宮秀樹/藤巻潤/五味龍太郎/島田竜三/遠藤辰雄/杉山昌三九/伊達三郎/月宮於登女/出口静宏/尾上栄五郎/伴勇太郎/黒木英男/香山恵子/木村玄/橋本力(大魔神)●公開:1966/04●配給:大映(評価:★★★☆)「大魔神 Blu-ray BOX」
市川雷蔵 in「ある殺し屋」
「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
「盲獣」●制作年:1969年●監督:増村保造●脚本:白坂依志夫●撮影:小林節雄●音楽:林光●原作:江戸川乱歩「盲獣」●時間:84分●出演:船越英二/緑魔子/千石規子>●公開:1969/01●配給:大映(評価:★★★)
「誘惑」●制<作年:1948年●監督:吉村公三郎●製作:小倉武志●脚本:新藤兼人●撮影:生方敏夫●時間:84分●出演:原節子/佐分利信/杉村春子/芳丘直美/河野祐一/山内明/殿山泰司/文谷千代子/神田隆/西村青児/高松栄子●公開:1948/02●配給:松竹大船(評価:★★★)
桂千穂(かつら・ちほ、本名・島内三秀=しまうち・みつひで)脚本家。8月13日、老衰で死去。90歳だった。
岐阜県出身。にっかつロマンポルノ作品をはじめ、「HOUSE ハウス」「花筐 HANAGATAMI」といった大林宣彦監督作品など、多くの脚本を手がけた。日本シナリオ作家協会の理事などを歴任。映画評論家としても活動した。