【2505】 ○ 荻原 浩 『海の見える理髪店 (2016/03 集英社) ★★★★

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6編中、「海の見える理髪店」が一歩抜けている。泣けるのは「成人式」。

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海の見える理髪店』 荻原浩氏と『コンビニ人間』で芥川賞受賞の村田沙耶香氏  2022年ドラマ化(NHKドラマスペシャル)出演:柄本明/藤原季節
海の見える理髪店 (集英社文庫)』['19年]
海の見える理髪店 (集英社文庫).jpg 2016(平成28)年上半期・第155回「直木賞」受賞作。

 「海の見える理髪店」...主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の理髪店。ある事情から初めてその理髪店を訪れた客の僕に、店主は髪を切りながら自らの過去を語り始める―。

 「いつか来た道」...何事にも厳しかった元美術教師で画家の母から必死に逃れて16年。わけあって懐かしい町に帰った娘の私は、年老いて認知症になった母との思いもよらない再会をする―。

 「遠くから来た手紙」...仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発し、娘を連れて実家に帰った祥子のスマートフォンに、その晩から時を超えたような不思議なメールが届き始める―。

 「空は今日もスカイ」...親の離婚で母の実家に連れられてきた小学3年生の佐藤茜は、海を目指してひとり家出をするが、途中で虐待痕のある少年・森島陽太と出会い、一緒に海を目指す―。

 「時のない時計」...父の形見の腕時計を修理するために足を運んだ時計屋で、私は時計屋の主の話を聞くうちに、忘れていた父との思い出の断片が次々に甦ってくるのだった―。

 「成人式」...数年前に中学生の娘が交通事故で亡くし、悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた私と妻の美恵子だが、妻がある日、亡くなった娘に代わり成人式に替え玉出席しよう言い出す―。

 2005(平成17)年に『明日の記憶』('04年/光文社)で山本周五郎賞を受賞しているベテラン作家の6回目の直木賞候補での受賞ということで、60歳での受賞(この作者の場合、小説家としてデビューしたのは39歳)というと高齢受賞という印象を受けますが、『つまをめとらば』('15年/文藝春秋)で2015年下半期(第154回)受賞の青山文平氏などは67歳での受賞だったし、結構これまでも高齢受賞はあって、そう珍しくもないようです(直木賞には芥川賞ほどではないが、新人賞というイメージも若干つきまとうため気にかけてみたが、そもそも60歳は世間的には高齢とは言わないか)。

 6編の中で、個人的には表題作「海の見える理髪店」が一歩抜けているという印象。そもそも「海の見える理髪店」を舞台にした連作だと思って読み始めたのですが(森沢明夫『虹の岬の喫茶店』('11年/幻冬舎)の影響?)、最初で最後の床屋予約だったわけか。泣ける作品と言えば、ラストの「成人式」でしょうか。ネットでも、「海の見える理髪店」と「成人式」を薦めているものがありました。

 どちらかと言うと、"感動"系乃至は"アイデア"系の作風なので、見方によっては話が出来過ぎているという印象もあり、直木賞の選評でも強く推した選考委員(◎)は1人もいなかったようですが、強く否定する委員もいなくて結局受賞しました(第154回「直木賞」の選考で宮下奈都氏の『羊と鋼の森』が強く推した選考委員(◎)が2名いて落選しているのと対照的)。

 選考委員の評言の中では、高村薫氏の「熟練の手で紡がれる物語はどれも少しあざとく、予定調和的ではあるが、私たちのさりげない日常は、こうして切り取られることによって初めて『人生』になるのだと気づかされる。これぞ小説の一つの典型ではあるだろう」というのが(これが9人の選考委員の中で評言としては一番短いのだが)、一番言い得ているように思いました。

【2019年文庫化[集英社文庫]】

《読書MEMO》
「海の見える理髪店」1.jpg●2022年ドラマ化 【感想】NHKスペシャルドラマで表題作「海の見える理髪店」のみをドラマ化。柄本明が理髪店の店主役で、若い頃の店主を尾上寛之が演じていたかと思ったら、途中から柄本明に代わって、結局、柄本明が店主の青年期・壮年期・老年期とほぼ通しで演じたことになる。さすがに30代の主人公はきついが「海の見える理髪店」柄本.jpg、全体を通してその演技力で魅せていた。ドラマには脇役で出ることが多いが、こうして主役をやると改めてその力量を感じ取れる。ドラマというより演劇の舞台を観ている感じで、改めて原作がそうした性格のものだったかなあと思ったりした(柄本明が舞台出身であるというのもあるかも)。ミステリ風だが、原作を既に読んでいると、伏線がややはっきりしすぎていて、観ている人はすぐに分かってしまうのではないかと思った。ただ、最後まで、事実説明をしなかったのは良かった(これで説明的描写を入れるとくどくなる。結果的に、原作を読んでいない人は、ミステリの部分も愉しめたのではないか)。

「海の見える理髪店」3.jpg「海の見える理髪店」●脚本:安達奈緒子●演出:森ガキ侑大●音楽:森優太●原作:荻原浩●時間:75分●出演:柄本明/藤原季節/玄理/尾上寛之/片岡礼子/中島歩/眞島秀和/水野美紀●放映:2022/05/09(全1回)●放送局:NHK

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【2506】 ○ 吉村 昭 『桜田門外ノ変』 (1990/08 新潮社) ★★★★ (○ 佐藤 純彌 (原作:吉村 昭) 「桜田門外ノ変」 (2010/10 東映) ★★★☆) is the next entry in this blog.

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