【3057】 ○ 松本 清張 「火と汐」―『火と汐』 (1968/07 ポケット文春) ★★★★

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「点と線」の海洋版。パターンが分かっていても面白い。ドラマ化2作品は...。

火と汐  文春文庫 新装.jpg火と汐  ポケット文春 1968.jpg  「火と汐」ドラマ1.jpg 「火と汐」ドラマ2.jpg
火と汐 (文春文庫)』['19年/新装版]/『火と汐 (1968年) (ポケット文春)』/「松本清張スペシャル・火と汐」['96年/フジテレビ]神田正輝・南果歩・内藤剛志/「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」['09年/TBS]寺尾聰・山本耕史・渡部篤郎
火と汐 (文春文庫)
『火と汐』9.jpg火と汐  文春文庫 旧.jpg 目黒在住の33歳の劇作家・曽根晋吉は、芝村美弥子と秘密で京都に宿泊していた。金属会社に勤める美弥子の夫は、神奈川県の油壺と三宅島を往復するヨットレースに参戦中であり、8月17日の夫の油壺への到着までに、美弥子は京都から油壺に戻る算段になっていた。8月16日の夜、晋吉は美弥子とホテルの屋上から大文字焼を見物していたが、その最中、晋吉の気づかぬ間に、人混みの中で美弥子が消失する。彼女のスーツケースは部屋に残されたままだった。秘密の旅行ゆえ事情を告げるわけにもいかず、困惑したまま晋吉は東京へ戻る。8月18日の新聞記事に晋吉は驚く。美弥子の夫・芝村の乗るヨットが、油壺に帰着する途中、三浦半島沖合でワイルドジャイブを起こし、同乗者の上田伍郎が死亡したという。美弥子のことを言えぬまま、入院した芝村に見舞いの電話をかける晋吉。ところが、美弥子の死体が晋吉の自宅近くで発見され、芝村と顔見知りだった晋吉は、警察に参考人として呼ばれてしまう―。

 松本清張の中編推理小説。「オール讀物」1967(昭和42)年11月号に掲載され、1968年7月に中短編集『火と汐』収録の表題作として、文藝春秋(ポケット文春)から刊行されています(その後、文春文庫で文庫化)。

 「点と線」の海洋版とでも言えるでしょうか。ミエミエのパターンだと思っていても面白く、引き込まれました。鉄道とかならともかく、ヨットと松本清張とはイメージ的に結びつかない気もしますが、ヨットのことをしっかり調べたのか、ディテールがしっかりしていて読ませます。

「松本清張スペシャル・火と汐」01.jpg これまで2回テレビドラマ化されていて、1つは1996年9月13日、フジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」枠にて放映された「松本清張スペシャル・火と汐」。

 キャストは、芝村健介が神田正輝、芝村美弥子が南果歩、曽根晋吉が内藤剛志で、刑事役は竜雷太と勝野洋といういう、いかにも刑事(デカ)という感じの2人。今思えば結構豪華な配役で、しかも比較的原作に忠実に作られていて良かったように思います。

「松本清張スペシャル・火と汐」02.jpg 事件解明のプロセスとして、刑事たちが曽根からヒントをもら「松本清張スペシャル・火と汐」kanda.jpgったりしているのは原作にはないことですが、最も違うのはラストであり、完全犯罪を成し遂げたと思って余裕の犯人に、刑事が密かに迫るという、映画「太陽がいっぱい」のようなラストになっていた点です。神田正輝はふてぶてしさがあってまずまずでしたが、このラストのお陰でアラン・ドロンと比べてしまったりしたら、ちょっと弱いでしょうか。
  
「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」01.png 2度目のドラマ化は、TBS系列にて2009年12月21日(松本清張の生誕日)に放映された「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」。キャストは、芝村健介が渡部篤郎、芝村美弥子が西田尚美、曽根晋吉が遠藤憲一 (職業がでデザイナーになっている)、刑事役は寺尾聰と山本耕史です。

「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」03.jpg 原作と異なり、前半から刑事側の視点を中心としたストーリー構成になっていて、ベテランと若手刑事が、警察の上層部から日限を設定されながらも、犯人のアリバイを根気よく崩し「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」02.jpgていくというもの。最後は、犯人の前でかなり長々と謎解きをやることになり、ケータイが犯行の決め手だったり、事件に関係する重要人物(美弥子の友人)がいたりと、多少原作をアレンジしていますが、これはこれで面白かったです。ただ、犯人役の渡部篤郎には旧作の神田正輝ほどのふてぶてしさはなく、「証拠がない」と繰り返し言っているのが、自分が犯人だと認めているようにも見えてしまいます。

 原作や旧作ドラマのようなヨットレースという舞台ではなく、単なるクルージングになっている点がややしょぼいか。また、原作や先のドラマでは、犯人が陸とヨットの間を泳いでいるのに(意外と泥臭い犯罪かも)、このドラマでは、ヨットが着岸してしまうので、何となく犯人が楽しているように見えてしまいます。

 アリバイ崩しの部分は丁寧に描かれていたでしょうか。結局、寺尾聰演じるベテラン刑事が主役のドラマであり、それにプラスして、山本耕史演じる若手刑事の成長物語や、渡部篤郎演じる芝村と遠藤憲一演じる曽根と確執などがサイドストーリーとしてあるといった感じでした。

 端的に言えば、最初の方のドラマはまずまずの豪華キャスト版、後の方のドラマは寺尾聰の独演会といった印象です。

「火と汐」0 1.jpg「松本清張スペシャル・火と汐」(金曜エンタテイメント)●監督:松尾昭典●プロデューサー:名島徹/小坂一雄/林悦子●脚本:金子成「火と汐」ドラマ21.jpg人●音楽:岩間南平●原作:松本清張●出演:神田正輝/南果歩/内藤剛志/竜雷太/勝野洋/布川敏和/大方斐紗子/浜田光夫/片岡五郎/剛たつひと/でんでん/水島涼太/菊地則江/沖恂一郎/浅沼晋平/山口嘉三/北山雅康●放映:1996/09/13(全1回)●放送局:フジテレビ

0松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐.jpg「松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ・火と汐」●演出:竹之下寛次●プロデューサー:浅野敦也●脚本:金「火と汐」図2.jpg子成人●音楽:田中晶子●原作:松本清張●出演:寺尾聰/山本耕史/遠藤憲一/西田尚美/佐藤仁美/東根作寿英/小木茂光/浅見れいな/石川小百合/丸岡奨詞/野間口徹/井上高志/浜田学/萬田久子(特別出演)/清水美沙/渡部篤郎●放映:2009/12/21(全1回)●放送局:TBS

  
【1976年文庫化・2019年新装版[文春文庫]】

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