【3257】 ○ 松本 清張 『波の塔 (1960/06 カッパ・ノベルス) ★★★★

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推理小説か、女性小説か。「若い女性向け」仕様? でも、面白く読めた。

『波の塔』ノベルズ.jpg『波の塔』文庫.jpg 「波の塔」1960.jpg
波の塔―長編小説 (カッパ・ノベルス (11-3))』『新装版 波の塔 上下巻 セット』 映画「波の塔

0松本 清張 『波の塔』2.jpg10松本 清張 『波の塔』.jpg 司法修習生の小野木喬夫は、観劇中に隣席の女性が気分を悪くしているのに気づき、医務室へ連れて行く。周囲にその女性の同伴者と思われているうちに、小野木は彼女をタクシーで送ることになり、そのまま縁が切れるのを惜しむ気持ちになる。一週間ほど経ち、小野木のもとに、名刺を渡した彼女―結城頼子から電話が来て、夕食の誘いを受ける。検事になった小野木は、その後も自分を誘ってくれた結城頼子を愛するようになるが、彼女からは自分の住所や生活は何も知らされないでいた。彼女の落ちついた動作や身につけている着物は贅沢な環境と人妻であることを推察させ、小野木は何度か頼子の境遇を聞こうとしたが果たせない。一方、小野木の所属する東京地検特捜部は密告からR省の汚職事件を掴んだ。内偵を進める小野木は、思わぬ場面で頼子の素性を知る―

 松本清張が週刊誌「女性自身」の1959年5月29日号から1960年6月15日号にかけて連載した長編小説で、1960年6月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行されています。政界推理小説でありながら、「ミステリ」的要素よりも「女性小説」的要素の方が濃くなっていて、ちゃんと読者ターゲットに合わせているなあという印象です。

 小野木喬夫と結城頼子の恋愛劇に絡めて、女子大を卒業して一人旅の最中、諏訪湖近くの古代遺跡で小野木に会い、以後小野木のことが気になってゆく田沢輪香子と、輪香子の親友の京橋の呉服屋の娘で、人見知りせず思いつくとすぐに行動する佐々木和子という二人組が登場し、この辺りも「若い女性向け」仕様といった感じです。

 本作の連載中、「女性自身」の部数は急上昇し、更には主人公と自分を同一視する読者まで出てきたのか、カッパ・ノベルス刊行後、青木ヶ原樹海に入って自殺する女性が増加し、そのたびに編集部と作者宅に警察から連絡が入ったとのこと、1974年には樹海内で本作を枕にした女性の白骨死体が発見され、自殺者はその後も相次いだそうです。

 結末に関しては、「頼子の自己満足ではないか」「小野木は社会的な指弾も受け職も投げ打ったのに、生きながらの骸ではないか」との批判もあったようですが、作者は「非情に描かなければだめなんだ」と答えたそうです。ただし、ミステリとしても面白く読め、文春文庫では、松本清張記念館監修「松本清張生誕百年記念・長編ミステリー傑作選」の全10作の1つとしてラインアップされています。

「波の塔」01.jpg 中村登監督により1960年に映画化され、結城頼子を有馬稲子、小野木喬夫を津川雅彦、田沢輪香子を桑野みゆきが演じています。

 また、テレビドラマとしては、2012年にテレビ朝日系で「松本清張没後20年特別企画 ドラマスペシャル 波の塔」として沢村一樹、羽田美智子主演で放映されましたが、それが8度目のドラマ化でした。90年代以降は単発2時間ドラマとして放映されていますが、それ以前に、60年代・70年代に連ドラとして4回ドラマ化されています(確かに「昼メロ」枠でやりそうな感じ)。

1961年版「波の塔」フジテレビ系列「スリラー劇場」1月9日 - 4月24日・全16回(主演:池内淳子・井上孝雄)
1964年版「波の塔」NETテレビ系列「ポーラ名作劇場」8月24日 - 11月2日・全13回(主演:村松英子・早川保)
1970年版「波の塔」TBS系列「花王 愛の劇場」8月31日 - 10月30日・全45回(主演:桜町弘子・明石勤)
1973年版「波の塔」NHK「銀河テレビ小説」4月2日 - 5月11日・全30回(主演:加賀まりこ・浜畑賢吉・山口いづみ)
1983年版「松本清張シリーズ 波の塔」NHK「土曜ドラマ」10月15日 - 10月29日・全3回(主演:佐久間良子・山﨑努)
1991年版「松本清張作家活動40年記念 波の塔」フジテレビ系列「金曜エンタテイメント」5月24日・全1回(主演:池上季実子・神田正輝)
2006年版「松本清張ドラマスペシャル 波の塔」TBS系列 12月27日・全1回(主演:麻生祐未・小泉孝太郎)
2012年版「松本清張没後20年特別企画 波の塔」テレビ朝日 6月23日・全1回(主演:沢村一樹・羽田美智子)
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「波の塔」tv2.jpg「波の塔」tv3.jpg

【1960年ノベルズ版[光文社カッパ・ノベルス]/2009年文庫化[文春文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2023年5月24日 04:16.

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