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「●「直木賞」受賞作」の インデックッスへ
大きなモチーフで連作とし纏め上げているのは力量だが、直木賞作品としては物足りない?
第147回「直木賞」「芥川賞」受賞の辻村深月・鹿島田真希両氏[共同]
『鍵のない夢を見る』(2012/05 文藝春秋)
2012(平成24)年上半期・第147回「直木賞」受賞作。
誰もが顔見知りの小さな町で盗みを繰り返す友達のお母さん(「仁志野町の泥棒」)、結婚をせっつく田舎体質にうんざりしている女の周囲で続くボヤ(「石蕗南地区の放火」)、出会い系サイトで知り合ったDV男との逃避行(「美弥谷団地の逃亡者」)―日常に倦んだ心にふと魔が差した瞬間に生まれる「犯罪」。現代の地方の閉塞感を背景に、ささやかな欲望が引き寄せる奈落を捉えた短編集。
推理小説ではない犯罪小説というか、文芸小説っぽい感じで、文章は上手いと思ったし、同じような切り口で、細部のモチーフに多様性を持たせつつ、大きなモチーフにおいては綺麗に5編を連作として仕上げているところは、第32回吉川英治文学新人賞を受賞し、映画化もされた『ツナグ』('10年/新潮社)の著者らしいなあと。
この人、綾辻行人のファンで、ゲーム好きでもあり、「女神転生」や「天外魔境」のファンでもあるとのことで、『ツナグ』はファンタジー系だけど(自分としてはあまり肌が合わない)、この『鍵のない夢を見る』は綾辻行人に倣った"本格推理"という風にはならならず、こうなるわけか。1つ1つの作品にリアリティがありながら、これが5つ並ぶ所がエンタメなのかも。
個人的には、「芹葉大学の夢と殺人」の、自分の夢に自らを浸食されてしまっている男の描き方が秀逸だと思われ、男女間の心の闇をリアルに描いてどろっとした展開もある中で、冒頭の「仁志野町の泥棒」と、ラストの赤ん坊の"失踪事件"を扱った「君本家の誘拐」で、それぞれの結末にちょっとほっとさせられるかなあという感じ。
但し、これが「直木賞」受賞作と言われると、選考委員の1人である桐野夏生氏が推したのはこのどろっとした雰囲気からも分かる気がしますが、全体的には若干インパクトに欠けるというか、何となく物足りない(?)感じもしました(桐野夏生氏自身の作品のどろっとした雰囲気ってこの程度じゃないだろうに)。
【2015年文庫化[文春文庫]】