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「葬送」ということについて、さらには「死」について色々考えさせられた。strong>
『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』['12年]『エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫)』['14年]ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還」タイアップカバー 佐々涼子氏
2024年ドラマ放映(主演:米倉涼子)
2012年・第10回「開高健ノンフィクション賞」受賞作。
異境の地で亡くなった人の遺体を、国境を越えて故国へ送り届ける「国際霊柩送還士」の姿を通し、死のあり方を見つめるノンフィクション作品。やっていることは「エンバーミング」なのですが、「葬送」ということについて、さらには「死」についていろいろ考えさせられる内容でした。
取材対象となった国際霊柩搬送業者エアハース・インターナショナルは、海外で亡くなった人の遺体の日本への帰国と、日本で亡くなった外国人の遺体を母国へ送還することを主に行っています。
タイトルでも使用されている「エンジェルフライト」は、天使が霊柩(棺)を運んでいる図柄のエアハース社のシンボルマークで、「国際霊柩送還士」という言葉(公的資格などの名称ではない)と併せて、登録商標だそうです。今はどうか分からないですが、取材当時、きちんとした会社としてこうした仕事をしているのは日本ではこの会社だけで、よく知られている海外の事件などの犠牲者の多くを、この社が扱っていたことが本書から窺えます。
著者は約1年かけて創業者や社員、遺族などへの取材を重ね、時には遺体搬送の現場に立ち会い、エアハース・インターナショナルが手がける国際霊柩送還士という仕事の本質に迫っています。ただし、最初は社長の木村利惠氏から「あなたに遺族の気持ちが分かるんですか。あなたに書けるんですか」と言われて断られ、取材の許可が下りたのは、取材を申し込んでから4年ぐらい経ってからだそうで、この粘りに感服します。
会社設立は'03年で、本書を読むと、現場はいつも緊急事態の連続のような感じで、当初はとても取材など受ける状況ではなかったのと、木村利惠氏のこの仕事への思い入れから、中途半端な取材はされたくないという思いがあったのではないでしょうか。
この著者の取材方法には、対象の中に自分自身が入っていくところがあって、自分自身の親の看取り体験などの話も出てきますが、著者自身も取材対象に入り込んでいくタイプだったのがこの場合良かったのかもしれません。
本書は「開高健ノンフィクション賞」を受賞し、「国際霊柩搬送士」という仕事が世に広く知られるようになるましたが、さらに'23年3月17日からAmazon Primeにて、本作を原作とし、米倉涼子を主演とした配信ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(全6話)が配信されました。そちらの方は今でも視聴可能なのですが、今月['24年6月]9日よりNHK BSプレミアム4KおよびNHK BS「プレミアムドラマ」枠でも放送されるので、テレビ版の方を観たいと思います(BSでの放送に際しては、プレミアムドラマの放送枠(50分)に合わせられるよう再編集されたとのこと)。
《読書MEMO》
●2024年ドラマ化(テレビ放映)【感想】脚本はエピソード的にはオリジナルで、フィリピンなどでの海外ロケも含め、かなりしっかり作られている感じ。やや、泣かせっぽい感じもあり、一方でコミカルな要素も加わっているが、テレビドラマにするなら、こうした味付けも必要なのかも。米倉涼子が主演で、(エンバーミングの)施術シーンがあり、遠藤憲一まで出ているので、ついつい「ドクターX」を想起してしまい、米倉涼子の演技にも当初それっぽいものを感じた。ただ、「ドクターX」と異なるのは、米倉涼子が泣く場面が多いことで、彼女自身の後日談によれば、脚本上泣かなくてもよいシーンでも涙が出てきたとのこと。それは他の俳優陣も同様のようで、それだけ脚本が上手くできていたということにもなるのだろう。反響が当初の予想以上に大きいことを受け、続編の製作が決まったと聞く。
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」●脚本:古沢良太/香坂隆史●監督:堀切園健太郎●音楽:遠藤浩二●原作:佐々涼子●時間:49分●出演:米倉涼子/松本穂香/城田優/矢本悠馬/野呂佳代/織山尚大(少年忍者 / ジャニーズJr.)/鎌田英怜奈/徳井優/草刈民代/向井理/遠藤憲一●放映:2024/03~07(全6回)●放送局:NHK-BSプレミアム4K/NHK BS
【2014年文庫化[集英社文庫]】
●文庫Wカバー版
佐々涼子(ささ・りょうこ)
2024年9月1日、悪性脳腫瘍のため死去。56歳。
「エンジェルフライト」や「エンド・オブ・ライフ」など生と死をテーマにした作品で知られる。