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吉田ルイ子のキャリアの原点的な写真集。
『ハーレム 黒い天使たち』['74年]吉田ルイ子(1934-2024)
先月['24年5月]31日に89歳で亡くなった写真家、ジャーナリストの
吉田ルイ子(1934-2024)の写真集で、ルポルタージュ『ハーレムの熱い日々』('72年/講談社)と並んで、初期の代表作です。(●没後2ヵ月して『ハーレムの熱い日々』はちくま文庫にて文庫化された。)
『ハーレムの熱い日々 (ちくま文庫 よ-35-1)』['24年8月9日]
北海道に生まれ、アイヌの差別を目の当たりにした幼少期がジャーナリストを志すきっかけとなり、慶應大学卒業後は、NHKそしてTBSのアナウンサーを経て渡米。コロンビア大学ではフォトジャーナリズムを専攻し、その頃から写真を撮り始め、ハーレムに居を構え(そう言えばコロンビア大学の東隣りがハーレムである)、愛らしい子供たちのスナップを皮切りに、差別・文化革命の真っ只中にあり、意識の変革にめざめていったハーレムの人々の日常や黒人運動を描写。その一連の記録をまとめた写真集が、1974年に初版が刊行された本書になります。
その後も、「人種差別」「子供」「女性」などを主なテーマとして、長年写真・テキストを織り交ぜた刊行物を発表してきた彼女でしたが、ニューヨーク在住中に、ハーレムで撮った写真が高く評価され、1968年に公共広告賞を受賞したのがフォトジャーナリストとしてのキャリアのスタートであり、やはりこの「ハーレム」という対象は、彼女の原点的なものと言えるでしょう。
もともと本人の自意識は「写真家」であり、文章の方は、編集者の強い勧めがあって刊行したようですが、この写真集に添えられた短いテキストは、詩人の木島始(1928-2004)のもののようです。また、アフリカ系アメリカ人の男性と日系人女性との間に生まれた少年"Zulu"との出会いに始まり、少年の視点を織り交ぜながら一冊の写真集に仕上げているのも成功していると思います(Zulu とは長年にわたって手紙などで交流を続け、30数年ぶりに再会し、2012年の写真展「吉田ルイ子の世界」では、お祝いのメッセージが届いたという)。
そう言えば、森村誠一原作の角川映画「人間の証明」('77年/東映)の中で、ハーレムで写真屋を営む三島雪子という女性(演・ジャネット八田)が登場しますが、モデルは吉田ルイ子で(ジャネット八田は身長167㎝だが、吉田ルイ子は150㎝ぐらいと小柄だった)、その吉田ルイ子の撮った写真が背景ほかイメージ画像として使われていました。
ジャネット八田 in「人間の証明」('77年/東映)
【2010年復刻版[サンクチュアリ出版]】