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面白かった。コミカルなトーンと登場人物の心の闇の兼ね合いが計算され尽くされている。
本書より
『まほろ駅前多田便利軒』 (2006/03 文藝春秋)
2006(平成18)年上半期・第135回「直木賞」受賞作。
東京のはずれに位置する"まほろ市"の駅前で便利屋を営む多田啓介は、正月の仕事帰りにバス停で、高校の同級生で極端に無口で変人だった行天春彦に出会い、その行天が多田のところに住みついて多田の便利屋稼業を手伝うようになってから、さまざまな事件に巻き込まれるようになる―。
29歳での直木賞受賞は、平岩弓枝(27歳)、山田詠美(27歳)に続く歴代3位の若さだそうですが、直木賞の選評では、平岩氏が「この作者の年齢の時、私はとてもこれだけの作品は書けなかった」と一番褒めていたように思います。
便利屋というのがハードボイルド小説における探偵事務所みたいな位置づけになっていて、ペットの世話や塾の送り迎えなどの雑事請負を通して窺える今時の世情や人と人との繋がりをうまく物語として取り込んでるところに惹き込まれ、多田と行天のやりとりなどもひたすら面白いのですが、一方で、章の扉ごとにある劇画調の挿画に感化されるまでもなく、コミック的な面白さに流れているという印象も抱きました(つまりリアリティがない。いちいち、既視感のある漫画の1カットが頭に浮かぶ)。
しかし、ギャグ的な面白さだけで成り立っているわけでなく、読み進むにつれて、なかなか愛嬌がある居候男・行天の心の闇のようなものがちらちら見えてきて、このコミカルなトーンの中で、その辺りの重い部分をどう落とし込むのか、多田と行天の関係がどうなるか、といった点で結構最後までぐいぐい引っぱられました。
平岩氏ではないですが、なぜ、こんなに器用に書けるのかホント不思議。計算され尽くされていると言っていい。
少女コミックの影響を受けているは間違いないと一般の読者なら誰もが思うところですが、直木賞選考委員の作家先生たちがどの程度そのことを思ったか(阿刀田高氏は作者は男性だと思っていたらしい)。
『まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)』 ['09年]
【2009年文庫化[文春文庫]】
映画「まほろ駅前多田便利軒」(2011年)
監督:大森立嗣 主演:瑛太/松田龍平