【1561】 △ 手塚 治虫 『ユフラテの樹 (1975/08 大都社・スターコミックス) ★★★

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普通の高校生が超能力を持ってしまったら...。作者自身も完成度にやや不満があった?

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ユフラテの樹 (スターコミックス)』['75年] /『ユフラテの樹 (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)』['96年]

 高校の生物研究会の鎌は、伯父・庄之助の所有物であり謎の島とされている「恵法場島」という小島を調査する目的で、夏休みを利用して同級生の大矢、シイ子と共に島を訪れるが、島の住民や動物達の妨害に遭う。3人は島で不思議な大木を見つけるが、死んだはずの鎌庄之助が「超人」として現れ、その「ユフラテの樹」の実にはドルベスチンという物質が含まれていて、食べると「大脳皮質を興奮させ眠っている部分を目覚めさせ知能を発達させる」ため、危険なので食べてはいけないと警告する。東京に帰って学校生活に戻った3人は、大矢が密かに持ち帰った実を、決して食べないという互いの誓いを破って食べてしまい、鎌は念力を持ち、大矢は天才科学者になり、シイ子は天才ピアニストになるが、鎌は念力で、テレビに出ていた犯罪者を殺し、さらに本気で世界征服の野望を抱くようになる―。

 学習研究社の「高1コース」の '73(昭和48)年4月から'74(昭和49)年3月号に連載された作品で、普通の高校生が、未熟な精神のまま突然超能力を身につけたとしたら...という話です。
 
『ユフラテの樹』.JPG 鎌が「ユフラテの実」を食べてしまった理由が超能力を持ちたいというものであるのに対し、大矢はテストでいい成績を取りたいというのが、シイ子は発表会でピアノを上手く弾きたいというのがその理由。共に、さし迫った課題に対して準備不足であるといった切羽詰まった状況によるものである点が、いかにも高校生の日常感覚に近いところで描かれていたように思います。

 でも、主人公の鎌の暴走で(彼は殺人も犯しているわけで)話はどんどん拡大し、この話、当時リアルタイムで読んだのですが、どう決着つけたのだったかなあと思ったら、そういうことだったのかと。
 まあ、夢オチよりはましだけれど、これでも鎌の犯した罪は清算されないだろなあ(でも、罰を下す意味も無くなっているわけだが)。

 一見、教訓的な結末に落ち着いた感もありますが、誰もが意識的・無意識的に持っている願望を衝いている点は、やはり上手いと言えるかも。

 作者自身は、この作品をあまり気に入っていなかったそうで、「全体の構想など全く無いままに連載を始めた」そうですが(並行して何本も連載を抱え、更に「ブッダ」や「ブラック・ジャック」などの大作にとりかかった頃でもあり、忙しかったのか)、自身でも完成度にやはり不満があったのでしょうか。

 但し、予め作品のテーマだけはしっかり定めているように思われ、プロットの鍵となる「超人・鎌庄之助の正体」なども事前に構想済みだったようには思えます。
 
【1975年単行本[大都社スターコミックス]/1983年文庫化[講談社・手塚治虫漫画全集]/1996年再文庫化[秋田文庫]/1999年単行本[秋田書店・サンデーコミックス]/2009年再文庫化[講談社・手塚治虫文庫全集BT]】

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