「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2016】 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第5話)/スリーピング・マーダー」
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ
登場人物を端折った分、テンポは良くなった? 気になった改変もあるが、ドラマ的にはまずまず成功。

「アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.4 予告殺人」(DVD)
チッピング・クレグホーンという村の新聞に「殺人のお知らせ」という広告が掲載され、興味をそそられた村人たちは、予告現場の下宿屋リトル・パドックスとへと集まってくる。この下宿屋には、女主人のレティシア(ゾーイ・ワナメイカー)と幼馴染みのドラ(エレーヌ・ペイジ)、はとこの子供パトリック(マシュー・グッド)とジュリア(シエンナ・ギロリー)のシモンズ兄妹と養蜂場で働く女フィリッパ(キーリー・ホーズ)、そしてメイドのヒンチ(フランシス・バーバー)が住んでいた。指定の時刻、突然電灯が消え、強盗が押し入り、銃声が鳴り響く。明かりがついた時、レティシアはケガをし、強盗に入った男は射殺されていた。男が働いていたホテルに宿泊していたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、新聞でこの事件を知る。レティシアは以前、億万長者の秘書をしており、彼の遺産を受け継いだ夫人が亡くなった後に相続人となることになっていた。明日をも知れない状態の夫人よりもレティシアが先に死ねば、ゲドラーの妹の子である双子が相続をすることになるが、双子の行方は分からない―。
2004年制作のジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られた4話の内の第4話(本国放映は2005年1月、1~3話は2004年12月)。原作『予告殺人』は、1950年発表のクリスティ60歳にしての第50作目の作品。1972年にクリスティ研究家数藤康
雄氏の質問に答えクリスティ自身が挙げた「自作ベスト10」に、ミス・マープルものでは『火曜クラブ』(短篇集)、『動く指』と共に入っています。日本語吹き替えの岸田今日子は、放送4日後の2006年12月17日に他界し、本作が遺作となりました(彼女の茶目っ気があって可愛らしい感じの吹替えをもっと聞きたかった気がする)。
女主人のレティシアを演じたゾーイ・ワナメイカーはユダヤ系米国人女優ですが、1950年代にハリウ
ッド・ブラックリストに載ったために英国に渡り、その後長く英国に住んでいたためキングスイングリッシュを話し、ハリー・ポッターシリーズ第1作「ハリー・ポッターと賢者の石」('01年/英)にもフーチ先生役で出演していました。
犯人が意外だった印象が強く残っている原作でしたが、トリッキーな作品でもあり、また、登場人物もかなり多くて錯綜しているため、映像化する際にどうするのか
なと思ったら、やはり若干登場人物を端折っているみたいです。
但し、その分テンポが良くなっていて、この原作に関しては、映像化する際にこれはこれでありかなとも思いました。それでも原作を読んでいないと、この"アップテンポ"につていくのは結構キツイかも知れません。因みに、原作に忠実なことで知られるジョーン・ヒクソン主演のBBC版は、この原作の映像化作品(1985年制作の)に関しては3部構成で155分という長さになっています(これでもこのシリーズでいちばん短い方なので、テレビ放映用の短縮版が作られなかった。端折ると話が分からなくなるというのもあったのではないか)。

人物構成もさることながら、イースターブルック大佐(ロバート・パフ)が奥さん連れでなく、飲酒癖のために妻に離婚され、過去から逃れるように村に来たことになっているなど(しかも、自分を気遣ってくれる女性に恋したり、その息子とやり合ったり、自ら事件の再現をしてみようと言い出したり、何だか忙しい?)、そうした幾つかのキャラクター改変がされているのがやや気になりました。
養蜂場で働くフィリッパ役のキーリー・ホーズ(Keely Hawes)も野生児というイメージとはちょっと違ったかな(最初から美人過ぎる?)。しかも、ミス・マープルの友人の娘エイミー(クレア・スキナー)と同性の恋人関係(同性愛者)というアレンジ。
Keeley Hawes(上)/Sienna Guillory(下)

このようにドロドロしている割には、田園風景などを明るく綺麗に撮っているせいか、全体にあまりウェットな感じはしませんでした。
レティシアのまた従兄妹の妹の方ジュリア・シモンズを演じたシエンナ・ギロリー(Sienna Guillory)なども含め、綺麗どころが何人か出ているというのもあったかも。
終わりの方で、メイドのヒンチがなぜレティシアに怒鳴り込んでいったのか分からないという声がありますが、ミス・マープルが犯人に仕掛けた罠であったはずです。その「罠」の範囲が、この映像化作品では分かりにくいかも。
シリーズ第3話「パディントン発4時50分」と同様、ミス・マープルは原作のように事件の解決の後に謎解きをするのではなく、謎解きと犯人への追及を自らが同時にしていますが、ドラマ的な盛り上がりを考えてのことでしょう。これはこれでまずまず成功しているように思います。BBCのヒクソン版支持者から見ればマープルらしくないということになるのかも(むしろポワロ的)。
ミス・マープルは犯人のことを悪人というよりは気の毒な人と思っているようで、一方で、これは犯人に対する絞首刑の宣告でもあるわけであって、謎解きをするジェラルディン・マクイーワンの目に涙を浮かべたような表情は、彼女の演技の見せ所だったかも(普段はどちらかというと茶目っ気あるミス・マープル像を演じている)。但し、こうしたマープル像もすべて、このシリーズにおける独自解釈の一つということになるかと思います。
因みに、『パディントン発4時50分』の犯人は2人殺害しているわけですが、原作が発表された1957年に英国で死刑判決を限定する法律が制定されているために、原作では「絞首刑に値する人間がいるとすれば彼だ」という表現によって死刑にならないことが示唆されています。
但し、このジェラルディン・マクイーワン主演のシリーズは、時代設定が1950年代前半を想定しているようで(第1話「書斎の死体」には映画「日の当たる場所」('51年/米)の話が出てきて、第2話「牧師館の殺人」ではミス・マープルの部屋のカレンダーが1951年になっている)、死刑制度は存置されているという前提のもとに作られているようです。「牧師館の殺人」には、犯人が絞首刑になるシーンがあるし、この「予告殺人」においても、「(犯人は)絞首刑になるでしょうね」とミス・マープルに言わせています(自分の秘密を知った人物を3人殺害しているわけだから、現在の日本の量刑相場でみても死刑になる公算は高いのだが、英国の場合、もしも何年か遅い時代設定だったら終身刑だったわけか)。
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第4話)/予告殺人」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年(本国放映2005年)●制作国:イギリス●演出:ジョン・ストリックランド●製作:マシュー・リード●脚本:スチュワート・ハーコート●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「予告殺人」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/クリスチャン・コウルソン/シェリー・ルンギ/ロバート・パフ/キーリー・ホーズ/ゾーイ・ワナメイカー/クレア・スキナー/フランシス・バーバー/エレーヌ・ペイジ/マシュー・グッド/シエンナ・ギロリー●日本放送:2006/12/13●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)



ミス・マクギリカディ(パム・フェリス)は、友人のミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に会いに行くために乗ったパディントン発4時50分の列車内で偶然、並走する別のロンドン発列車内で一人の男が女性の首を絞めているのを目撃、恐らく絞殺したに違いないと直感して客室係に通報したが、その列車から死体は見つからなかったとの連絡がある。ミス・マープルに会って彼女の助言で鉄道警察に届けるが、そこでも相手にされない。ミス・マープル
は、犯人は列車が速度を緩めるカーブで死体を車外に棄てたと推理し、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのクラッケンソープ邸ラザフォード・ホールを探るべく、知り合いの才能豊
かな美女ルーシー・アイレスバロウ(アマンダ・ホールデン)をクラッケンソープ家の家政婦として送り込む。ルーシーは敷地内の霊廟から女性の遺体を発見、ミス・マープルを自宅に滞在させていた地元警察のトム・キャンベル警部(ジョン・ハンナー)によるクラッケンソープ家の人々への事情聴取が始まった―。
兄弟構成などが一部改変されていて、例えば原作では、次男が画家のセドリックで、四男が詐欺師のアルフレッドとなっており、三男の職業は銀行家。このほかに、亡くなった次女の夫で戦争の英雄だったけれども今は一介の保険会社員となっているブライアンが登場し、また、原作では『予告殺人』でマープルとともに事件を解決したロンドン警察の「クラドック警部」に該当する人物が、ミス・マープルが彼の幼時から知るところの地元警察のトム・キャンベル警部となっています。

犯人は誰かと気を持たせながらも、結末はややとってつけたような真犯人及び動機ともとれ(元々読者に対する伏線があまり無い)、やはり原作そのものにプロットとしての弱点があることも否めません。それでも傑作ではありますが。
の魅力など、すべて「今風」と割り切って観ればかなり楽しめました(Amanda Holdenは、スーザン・ボイルを世に送った英国の人気オーディション番組「Britain's Got Talent」の審査員でもある)。 
原作では、そのルーシーを巡っての「亡くなった次女の夫で今は会社員のブライアン」と「画家である次男セドリック」の恋の鞘当があり、彼女が最後にどちらを選ぶかミス・マープルには見当が付いているものの読者には明かされないということになっていますが(「クラドック警部」も候補か)、この映像化作品では、「次男アルフレッド」のセクハラに遭いつつ、「三男ハロルド」と「四男セドリック」の両方から言い寄られるという展開。ハロルドが本命かと思われたが、彼女が最後に選んだのはやや意外なダークホース...。

Amanda Holden at Britain's Got Talent
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第3話)/パディントン発4時50分」●原題:4.50 FROM PADDINGTON, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/19●演出:アンディ・ウィルソン●製作:マシュー・リード●脚本:スティーブン・チャーチェット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「パディントン発4時50分」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/グリフ・リース・ジョーン/デビッド・ワーナー/ニア・キューザック/ベン・ダニエルス/アマンダ・ホールデン/チャーリー・クリード・マイルズ/シアラン・マクメナミン/パム・フェリス/ジョン・ハナー●日本放送:2006/12/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)
原作に比較的忠実に作られていて、"原作と同じように"楽しめる。


ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)の住むセント・メアリー・ミードのプロズロウ大佐(デレク・ジャコビ)は口煩く嫌味な性格で、村人達に嫌われていた。ある日、教区委員でもある大佐は、会計台帳を確かめるべく牧師館を訪ねるが、その日、彼は
牧師館の書斎で遺体となって発見された。
ミス・マープルの証言により、結局ロレンスとアンは無罪放免となる。逆に怪しい行動をしていたのは、レナード牧師の妻のグリゼルダ(レイチェル・スターリング)、プロズロウ家を取材しているデュフォス教授(ハーバート・ロム)とその秘書エレーヌ(エミリー・ブルーニ)、賭博に嵌っている副牧師ホーズ(マーク・ガティス)、プロズロウが密会していた女性ミセス・レスター(ジェーン・アッシャー)等々。果たして真犯人は誰か―。
ジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan)主演の英国グラナダ版で、この年に作られた第1シーズン4話の内の第2話。
セント・メアリー・ミード村の長閑な自然やミス・マープルの住まいの庭が美しく撮られていて、原作からの改変も比較的少なく(挙動不審の教授と助手のコンビをカットしていない点では、BBC版より原作に忠実?)、こっちを第1話にもってくるべきではなかったのかな。時間に余裕があったのか、原作には無い、若き日のマープル(ジュリー・コックス)と、その恋人の妻子ある男性(マーク・ウォレン)(出征で別れ戦死して不帰の人に)が、彼女の回想シーンの中で登場します。
ミス・マープルは、偶然、殺人事件の起きた現場付近にいたため(彼女は牧師館の隣に住んでいる)"目撃証言"をしますが、スラック警部(ステフェン・トンプキンソン)から捜査経過を聴くうちに、自分がアリバイ作りに利用されたことに気付く―(この時点までは、マープルより犯人の方がしたたか)。
原作では、先に大佐の殺人事件があって、後からミス・マープルの当時の状況説明があったり、いろんな村人たちが登場してきますが、この映像化作品では、大佐をはじめ村の人々を先にじっくり描いて、原作では終盤にある牧師の説教や副牧師の寄付金横領疑惑も全部前の方にもってきて、更にマープルが現場付近に居合わせた状況も描いて、その後で大佐が死んでいるのが見つかるという順になっているので、観ていて「なかなか殺人事件が起きないなあ」とは思いましたが、これも一つのテレビ的な描き方として悪くないように思いました(変に解説風になっていない。原作は牧師の手記の形をとっている)。
プロズロウ牧師とその若妻グリゼルダは、原作ではやや刺々しい関係でしたが、この作品ではそれほどでも、と言うより、むしろ蜜月状態。彼女も画家ロレンスに肖像を描いてもらっていましたが、プロズロウの娘レティス(クリスティーナ・コール)は水着姿で絵のモデルになっていて、これも原作通り(水着姿のクリスティーナ・コールをしっかり映像化しているのはサービス?)。突然村に来た謎の女性ミセス・レスターの正体も原作と同じです。
登場人物も容疑者の数も相変わらず多いけれど、犯人が施した時間トリックが少しややこしいぐらいで、あとはそれほど複雑なプロットでもないし、原作を読んでいなくても、"原作と同じように"楽しめるのではないでしょうか(ミス・マープルがどんな佇まいの家に住んでいるか分かっただけでも収穫)。但し、犯人の絞首刑の映像シーンは要らなかったように思います(何だか変に重くなってしまった)。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」●原題:MURDER AT THE VICARAGE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/19●演出:チャールズ・パーマー●製作:マシュー・リード●脚本:スティーヴン・チャーチェット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「牧師館の殺人」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/デレク・ジャコビ/ジャネット・マクティア/ジェイソン・フレミング/レイチェル・スターリング/ハーバート・ロム/エミリー・ブルーニ/マーク・ガティス/ジェーン・アッシャー/ステフェン・トンプキンソン/


セント・メアリー・ミードにあるバントリー大佐(ジェームズ・フォックス)の屋敷で、ブロンドの若い女性の死体が発見され、同じ頃、観光地のマジェスティック・ホテルでダンス・ホステスをしていたルビー(エマ・ウィリアムス)が失踪したとの情報が入る。ルビーの従姉ジョージーが遺体を確認したところ、殺されたのはルビーであることが判明。バントリー夫人のドリー(ジョアン
ナ・ラムレイ)に捜査を依頼されたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、ドリーと共にマジェスティック・ホテルに滞在することになる。捜査に当たるバントリー大佐の友人メルチェット本部長(サイモン・カロウ)と応援のハーパー警視(ジャック・ダヴェンポート)は、最初はマープルが捜査に口を挟むのを迷惑がるが、次第に彼女の推理に頼るようになる。調べてみると、ルビーは大富豪のジェファーソン(イアン・リチャードソン)に気に入られており、多額の信託財産を受け取ることになっていた。養女になる話まで進んでいたという。ルビーが死ぬことで得をするのは、ジェファーソン家の嫁アデレード(タラ・フィッツジェラルド)と娘婿のマーク(ジェイミー・シークストン)だが、どちらもアリバイがあった。ルビーの相手役ダンサーのレイモンド(アダム・ガルシア)や映画製作者バジル(ベン・ミラー)にも容疑がかる。捜査が難航する中、またもや若い女性の死体が発見される―。
2004年制作のジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan)主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシリーズ1全4話の内の第1話。グラナダ版は2013年までにシーズン6・全23話が制作され、ジェラルディン・マクイーワンがマープル役を演じたのは第3シーズン通算第12話まで。日本語版吹き替えは、第4話まで岸田今日子が担当しています(第5話から草笛光子)。
バントリー大佐を「
ディ」で知られるイアン・リチャードソン、ジェファーソンの義理の娘アデレードを、「ウェイキング・ザ・デッド 迷宮事件特捜班」で女性法医学者を演じたタラ・フィッツジェラルド、映画関係の仕事をしているということだったが実は下っぱの大道具係りだったというバジル・ブレイクを、「ミステリー in パラダイス」で警部補役を演じたベン・ミラーと、堅い役者らが脇を固めている印象。
マジェスティック・ホテルはクリスティの生まれ故郷トーキーにあるインペリアル・ホテルがモデルとされていますが、この映像化作品での美しい海岸線の白い崖は、映画「さらば青春の光」のラストシーンに出てきたイーストボーン郊外にあるビーチヘッドの崖ではないかと。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第1話)/書斎の死体」●原題:THE BODY IN THE LIBRARY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/12●演出:アンディ・ウィルソン●製作:マシュー・リード●脚本:ケビン・エリオット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「書斎の死体」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/イアン・リチャードスン/タラ・フィッツジェラルド/ジェイミー・シークストン/ジョアンナ・ラムレイ/ジェームズ・フォックス/ベン・ミラー/メアリー・ストックリー/エマ・ウィリアムス●日本放送:2006/12/07●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)


孤島の別荘に8人の男女が招待されてやって来るが、別荘には主人の姿が見えず、執事のロジャース夫婦がいるだけだった。彼らは皆、手紙で招かれたのだが、差出人のユー・エヌ・オーエン(U. N. Owen)氏を誰も知らず、執事夫婦も手紙で雇われ、つい先日島に来たばかりだった。本土との連絡は数日後に来るボートのみで、それ迄彼らは島に閉じ込められたことになる。ホールの10体のインディアンの置物を見てヴェラ(ジューン・デュプレ)は、10人のインディアンが最後は「誰もいなくなった」という古い子守唄を思い出す。彼らがくつろいでいる時、執事がかけたレコードから声がして、10人はいずれも過去に殺人を犯したと告発、全員がそれを否定する。判事(バリー・フィッツジェラルド)は U. N. Owen が Unknown(名無し者)と発音できることに気づく。一人が毒入る酒を飲んで咽喉をつまらせて死んだのを皮切りに、彼らは唄の文句通りに次々殺されてゆき、殺人の後は必ずインディアンの人形が1体壊されていた。殺人者は彼らの中にいることは明らかである。判事、アームストロング医師(ウォルター・ヒューストン)、ブロア、ロンバード(ルイス・ヘイワード)、ヴェラの5人が残る。4人は罪を認めるがヴェラは無実を主張する。更に3人が殺され、残りはヴェラとロンバードの2人となる―。

他の映画化作品と比べ、最も「戯曲」に忠実に作られているとのことですが、戯曲では、ヴェラとロンバードは実は無実だったということになっているのに対し、この映像化作品では、ヴェラに関して本当はどうだったのか明確ではなく、ロンバードに至っては、ロンバートという人物は既に自殺していて、彼の正体はロンバートの友人で彼に成りすましたチャーリー・モーレイという探偵であったとされています。その彼が、いわばその通り"探偵"となって犯人を炙り出すという構図になっていて、但し、そのこと自体は観終わった後に判るようになっています(彼がチャーリー・モーレイであることは、トランクのイニシャルで示唆されている。但し、これも最後の方で判ることだが)。









1939年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Ten Little Niggers (米 Ten Little Indians) (改題:And Then There Were None))で、1982年実施の日本クリスティ・ファンクラブ員の投票による「クリスティ・ベストテン」で第1位になっているほか、早川書房主催の作家・評論家・書店員などの識者へのアンケートによる「ミステリが読みたい!」の2010年オールタイムベスト100の第1位、2012年実施の推理作家や推理小説の愛好者ら約500名によるアンケート「
この作品がよく読まれる理由の一つとして、10人もの人間が亡くなる話なのに長さ的には他の作品と同じかやや短いくらいで、テンポよく読めるというのもあるのではないでしょうか(しかも、後半にいくほど殺人の間隔が短くなる)。その分、登場人物の性格の描写などは極力簡潔にとどめ、心理描写も他の作品に比べると抑制しているように思います。まあ、あまり"心理描写"してしまうと「叙述トリック」になってしまうからでしょう。
ところが、これは実は一部に訳者の清水俊二(1906-1988)の誤訳があって、正しく訳せば、例えば残り5名になった時の5人の心理描写の内の問題の1つは、当事者それなりのあることを警戒する心理を描いたと解することができるものであり、クリスティが巧妙に(アンフェアにはならないように)仕掛けた「叙述トリック」に訳者の清水俊二自身が嵌ってしまったとする見方があります(但し、清水俊二訳は誤訳には当たらないという見方もある)。
トリックを通り越して読者をミスリードするものになっているという指摘であり、後の清水俊二訳('03年・クリスティー文庫版)ではこの部分は「娘...」のみに修正されています(この時点で清水俊二は15年前に亡くなっているわけだが)。因みに、2010年に清水俊二訳と入れ替わりにクリスティー文庫に収められた青木久恵氏の訳(表紙はハヤカワ・ミステリ文庫の1976年4月初版の真鍋博のイラストを復刻)では、この部分は「あの娘だな...」となっています。何れにせよ、"娘"のことを「次は自分の命を奪うかもしれない犯人ではないか」と怪しんでいるのではなく、「自分の計画を失敗に終わらせる原因となるのではないか」と警戒を強めているといった解釈に変更されているのが最近の翻訳のようです。

(●2015年制作の英BBC版テレビドラマは、時代が現代に置き換えられていて、10人のうち数人の属性(過去に犯した殺人の方法や動機など)が微妙に改変されているが、ラストは「戯曲」に沿ったこれまでの映画化作品と違って、原作「小説」の通り全員が"いなくなる"ものだった。)


「アガサ・クリスティー そして誰もいなくなった」(全3回)●原
題:& Then There Were None●制作年:2015年●制作国:イギリス●本国放送:2015/12/26~28●演出:
クレイグ・ヴィヴェイロス●製作:ダミアン・ティマー/マシュー・リード/サラ・フェ
トビー・スティーヴンス/ダグラス・ブース/バーン・ゴーマン/ミランダ・リチャードソン/ノア・テイラー/アンナ・マックスウェル・マーティン●日本放送:2016/11/27●放送局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★☆)
去に犯した殺人の方法、動機も変更されているが、BBC版と同じく、最後は原作「小説」の通り全員が"いなくなる"。そうなると、上述の通り、謎解きをする人がいなくなり、この問題をクリアするため、最終盤で沢村一樹演じる警視庁捜査一課警部・相国寺竜也が登場、彼がリードして捜査し(この部分はややコミカルに描かれている)、犯人が残した手紙ならぬ映像メッセージに辿りついて事件の全容が明らかになるという流れ。

2017年3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、エンディングで「このドラマは2016年12月20日から2017年2月13日に掛けて撮影されました。渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」と流れる。クランクアップの1ヵ月後に亡くなった渡瀬恒彦は、実際に自らが末期がんの身でありながらドラマの中で末期がん患者を演じており、その演技には鬼気迫るものがあった。警部役の沢村一樹の演技をコミカルなものにしたのは、全体として"重く"なり過ぎないようにしたのではないかと思ってしまったほど。同じく和泉聖治監督により2018年には「






会社の技師ジュリアン・タベルニエ(モーリス・ロネ)と社長夫人フロランス・カララ(ジャンヌ・モロー)は愛し合っていて、社長のシモンを殺害する完全犯罪を計画する。実行の日、ジュリアンはバルコニーから錨付ロープをかけて上って社長室に入り、社長を射殺してその手に拳銃を握らせる。手摺から一階下の自屋に戻ってエレベーターで下に降り
て外に出る。手摺にロープを忘れて来たことに気付き、またエレベーターに乗るが、エレベーターは階の途中で止まってしまう(ビルの管理人が電源スイッチを切って帰ったため)。ジュリアンは脱出しょうとするが果たせず、フロランスとの約束の時間は過ぎていく。彼を待つフロランスは次第に不安にかられ、彼を求めて夜のパリを彷徨う。一方、花屋の売り子ベロニック(ヨリ・ベルダン)とチンピラのルイ(ジョルジュ・プージュリ
ー)は、ジュリアンの車を盗んで郊外に出る(車内には小型カメラ、拳銃がある)。前を走るスポーツカーの後についてあるモーテルに着くと、ジュリアン・タベルニエ夫婦と偽って投宿し、スポーツカーの持主のドイツ人夫婦と知り合ってパーティに呼ばれ、遊び半分にカメラで写真を撮った後、モーテルの現像屋へフィルムを出す。二人はスポーツカーを盗もうとして見つかり夫婦を射殺して逃げるが、アパートにも戻ってから怖くなり心中を図る―。
後から付いてくる理屈はともかく、観ている間は、リアリスティックな映像によってサスペンスフルな雰囲気にどっぷり浸れます。それと何と言っても、モーリス・ロネとジャンヌ・モローが演じる主人公2人の描き方が良く、熱愛という感じではなく2人共人生に倦んでいるような感じでしょうか。もう一組の若者たちも、主人公らと対比的に描かれていると言うよりはむしろ同類かも。
こうした緊迫感にアンニュイ感が入り交じったような映像世界にしっくり合っているのが、マイルス・デイヴィスのジャズトランペットで、特に、恋人モーリス・ロネからの連絡が無く、不安の裡にパリの街を彷徨うジャンヌ・モローの姿にマイルス・デイヴィスのトランペットが被るシーンは何とも言えないムードを醸していて素晴らしく、映像と音楽が旨く融合するとスゴイ訴求力になると改めて思いました。
この作品は超低予算映画ということでも知られていて、それにしては"帝王"マイルス・デイヴィスが演奏しているではないかと疑問に思われますが、マイルスがたまたまパリに演奏公演に来ていたのを、ルイ・マル監督が一晩借り受けて、ラッシュに合わせ即興で演奏してもらったということです。
(●2020年にシネマブルースタジオでニュープリント版で再見した。モーリス・ロネ演じる主人公ジュリアンが犯行に使ったロープを現場にそのままにしてしまうというミスは、犯行を終えたちょうどその時に自分の部屋の方の電話が鳴っていて、出ないと怪しまれると思って焦った結果、ロープの方が意識から飛んでしまったためだった。人間は緊張すると短期記憶が弱くなることがあるらしい。主人公は"密室殺人"を完成させたかに見えたが、元来は犯罪のプロではない素人であり、その意味では凡ミスだがリアリティがあったように思われた。そのようにして見ていくと、元々ミステリとして洗練されたものを目指しているのではなく、主人公らの計画が偶然により狂っていく過程をリアリティを重視しながら描いているように思えた。



作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:ジャン・スイリエール●脚本:ロジェ・ニミエ/ルイ・マル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:マイルス・デイヴィス●原作:ノエル・カレフ「死刑台のエレベーター」●時間:95分●出演:モーリス・ロネ/ジャンヌ・モロー/ジョルジュ・プージュリー/リノ・ヴァンチュラ/ヨリ・ヴェルタン/シャルル・デネ/ジャン=クロード・ブリアリ
(ノンクレジット)●日本公開:1958/09●配給:ユニオン●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)●2回目:新宿アート






集めて再び犯罪に手を染めようとしていた。それは、ダービーの行われる日に競馬場の売上金を強奪しようというもので、集まったのは、ジョニーの他に、軍資金を出すマーヴィン(ジェイ・C・フリッペン)、競馬場の馬券売場の現金係ジョージ(エライシャ・クック)、競馬場のバーのバーテンダーのマイク( ジョー・ソウヤー)、競馬場の整備を担当している悪徳警官ランディ(テッド・デコルシア)、元レスラーのモーリス(コーラ・クワリアーニ)の5人。ジョニーは更に射撃の名手ニッキを雇う。競馬場近くのモーテルの一室借りて犯行当日の根城とし、決行の前日、一味は最後の打合せをしたが、警官まで仲間に引き込んだ計画に隙はないように思われた。しかし、妻シェリー(マリー・ウィンザー)の尻に敷かれっぱなしのジョーが、妻から嘲りの言葉を浴びてプライドを踏みにじられ
、思わず計画のことを口にしてしまう。彼女からそれを聞いた彼女の不倫相手のヴァル(ヴィンス・エドワーズ)は、彼らが奪った金をさらに強奪する計画を立てる―。
決行の日、先ずモーリスがバーに来て飲物を注文、マイクの出した飲物に因縁をつけ暴れ始める。彼を押さえようとする警備員を大男のモーリスは次々と投げ飛ばして騒ぎは拡がり、競馬場の金庫室を見張っていた警官まで出てくる。一方、ニッキは競馬場の外側コースからレース中の馬を一発で倒してレースを混乱させるが、来合せた警官の銃弾に倒れる。競馬場の騒ぎの間にジョニーはジョージの合図で金庫室に入り、職員を機関銃で脅して200万ドルの紙幣を袋に詰込ませ、それを窓から投げて表へ出る。袋はランディが自分のパトカーに積んでモーテルの一室へ一旦放り込む。先に戻ったジョージら5人は別のホテルの一室で金を持って現れるはずのジョニーを待つが、そこへ現れたのは機関銃を構えたヴァルとその仲間で、その場で銃撃戦となり、重傷のジョージ以外は敵味方とも全員死んでしまう。ジョージは血まみれのまま車で自分のアパートへ戻り、ヴァルとの高跳びのための荷造りしていたシェリーを射殺、自身も息絶える。ジョージが血まみれになって車で行くのを、ホテルへ急ぐ途中で見つけたジョニーは、危険を覚ってフェイの待つ飛行場へ直行する―。
スタンリー・キューブリック(1928-1999/享年70)監督の劇場公開第1作で(原題:THE KILLING)、この時彼は28歳でしたが、自ら脚本も手掛けたこの作品の完成度の高さには目を瞠るものがあります。前年作で同じくフィルム・ノワール系の「非情の罠」('55年)も観ましたが、1年で格段の進歩という感じです(まあ、この「現金に体を張れ」は「非情の罠」より以前から彼が構想を暖めていたものだそうだが)。


「現金に体を張れ」の前年作の「非情の罠」('55年、原題:THE KILLER'S KISS)は、スタンリー・キューブリックの長編第2作で、商業映画では第1作に当たる作品で、キューブリックは撮影、編集なども兼ねています。絶頂期を過ぎたのボクサーのデイヴィー(ジャミー・スミス)が、向かい隣りのアパートに住むダンスホールで働くみじめな踊り子グロリア(アイリーン・ケイン)を彼女の情婦ヴィンセント・ラパロ(フランク・シルヴェラ)から救い出そうとするが、実は大物ギャングであったラパロに殺られてしまというだけのB級映画ですが(Wikipediaではデイヴィーはラパロ
を倒し、グロリアと結ばれるというストーリーになっているけれど、そうだったかなあ)、ストーリーはさることながら、凝った画面構成などにはキューブリックらしさが感じられます。特に、マネキン倉庫で迎えるクライマックスの格闘シーンなどは、マネキンの手足があちこちに転がって、異様な雰囲気を醸し出しています。44分に短縮されて'60年に劇場公開されたままだったのが、'93年にJSB日本衛星放送(WOWOWの前身)が全編を放映、67分の完全版としてはこれが日本初公開となりましたが、個人的にはまだ短縮版しか観ていません。1959年のロカルノ国際映画祭でグランプリを獲っている作品。個人的評価は△ですが、完全版を観れば○に変わるかもしれません。

「現金に体を張れ」●原題:THE KILLING●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・キューブリック●製作:ジェームス・B・ハリス●脚本:スタンリー・キューブリック/ジム・トンプスン●撮影:ルシエン・バラード●音楽:ジェラルド・フリード●原作:ライオネル・ホワイト「見事な結末」●時間:83分●出演:スターリング・ヘイドン/ジェイ・C・フリッペン/メアリ・ウィンザー/コリーン・グレイ/エライシャ・クック/マリー・ウィンザー/テッド・デコルシア/ ジョー・ソウヤー/コーラ・クワリアーニ/ヴィンス・エドワーズ●日本


「非情の罠」●原題:THE KILLER'S KISS●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・キューブリック●製作:スタンリー・キューブリック/モリス・ブーゼル●脚本:スタンリー・キューブリック/ハワード・サックラー●撮影:スタンリー・キューブリック●音楽:ジェラルド・フリード●編集:スタンリー・キューブリック●時間:67分(短縮版:44分)●出演:フランク・シルヴェラ/ジャミー・スミス/アイリーン・ケイン/ジェリー・ジャレット/ルース・ソボトゥカ●日本公開:1960/09●配給:ユナイト映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-02-09) (評価:★★★)●併映:「時計じかけのオレンジ」(スタンリー・キューブリック)「



大富豪でサッカーチームのオーナーのジョージ・バートン(ケネス・クラナム)は、チームが勝利した記念に祝賀パーティを開催するが、祝賀会の乾杯で、バートンの妻ローズマリー(レイチェル・シェリー)がグラスに口をつけた途端に倒れて命を落とす。パーティ客にチームの支持者でスポーツ省大臣のスティーヴン・ファラデー(ジェームズ・ウィルビー)とその妻アレクサンドラ(クレア・ホルマン)がいて、スキャンダルを避けたい首相補佐官の命令で、政府の秘密捜査官ジェフリー・リース大佐(オリヴァー・フォード・デイヴィス)とその妻キャサリン(ポーリーン・コリンズ)が捜査を開始することに。リースとキャサリンは、ローズマリーがファラデーと不倫関係にあったこと、さらに中絶をしていたことなどを突き止め、パーティに居合わせたローズマリーの妹アイリス(クロエ・ハウマン)や、姉妹の育ての親であるルシーラ・ドレイク(スーザン・ハンプシャー)、彼女が溺愛する息子のマーク・ドレイク(ジョナサン・ファース)、ジョージの秘書ルース・レシング(リア・ウィリアムズ)らに会い、夫婦間の様子や現場の状況などを聞き出すが、それぞれに容疑があり、真相を掴むことが出来なかった。そんな中、妻の死と不貞に悲しみ怒るとともに、彼女は殺害されたのではないかと疑うジョージは、祝賀パーティを再現することにするが、今度は自身が再現パーティの席上で毒殺される―。
原作で事件の捜査に当たる元陸軍情報部部長のジョニー・レイス大佐が、リース(オリヴァー・フォード・デイヴィス)とキャサリン(ポーリーン・コリンズ)の初老夫婦に置き換わっています。2人は表向きは軍の年金課員と学校教員となっていて、本職は実の娘にさえ秘密にしているという設定ですが、何だかトミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな感じで(「おしどり探偵」シリーズも最後の「運命の裏木戸」では二人とも75歳になっているのだが)、キャサリンの方が夫のルースの方にあれこれ指示しているコミカルなタッチも似ています(キャサリンの姓はケンドールで、夫婦別姓? それとも離婚した?)。
全体としては、冒頭にローズマリー(レイチェル・シェリー)の亡くなるパーティをもってきている分、登場人物の回想で綴る原作よりはテンポは良くなっていますが、原作では、最初のローズマリーの死が自殺なのか他殺なのか今一つはっきりしなかったのに対し、この映像化作品を見るとどうみても他殺という印象で、それでも検死審問で自殺とされてしまうのがやや不自然にも思えました。要するに、誰にも犯行を遂げようがないから(犯人の見当がつかないから)自殺扱いに―ということなのか。
思いや、不倫がばれた青年大臣スティーヴンの焦りなどが丁寧過ぎるぐらい丁寧に描かれている分、読者側からすれば彼らは早くから犯人候補から外れてしまうわけですが、この映像化作品では、物語がさほど進行しないうちは、彼らも"同等に"犯人候補として扱っている印象。カギとなる犯人男女の関係も、原作では早くから示唆されているのに対し、ここでは最後の方になって、監視カメラの密会映像からやっと分かるという、犯人当ての楽しみをより多く残している作りになっているように思いました。
結局、ルシーラは単身で犯人の家まで行ってしまい、そこで犯人は誰かを知るわけで、そこへ遅ればせに...という結末が、テレビの刑事ドラマの結末みたいで、やや安っぽかったかな。現代風への置き換えはまあまあ上手く味付けされていると思います。原作と比べて一長一短という感じでした。


ゴーマン神父(ジョフリー・ビーヴァーズ)が、臨終間際のデーヴィス夫人(トリシア・ソーンズ)から紙片を渡されたすぐ後に路上で撲殺され、偶然現場に駆け付けた彫刻家のマーク・イースターブルック(コリン・ブキャナン)は、容疑者にされてしまう。レジューン警視(トレヴァー・バイフィールド)はマークが犯人と決め付けるが、コリガン警部補(アンディ・サーキス)は他の犯人を探っている。マークは自らの無実を証明するため、神父の持っていた紙片に書かれた人物の名前の謎を探るべく、女友達ハーミア(ハミオネ・ノリス)の友人、金持ちのティリー(アンナ・リヴィア・ライアン)を訪ねるが、訪問の翌日に彼女は死ぬ。医師オズボーン(ティム・ポッター)は病死としたが、彼女の親友だったケイト・マーサ(ジェイン・アッシュボーン)は、ティリーは何かにおびえていたと言う。村の「蒼ざめた馬」という屋敷に住むチルザ(ジーン・マーシュ)・シビル(ルース・マドック)・ベラ(マギー・シェヴリン)の三老女は、『マクベス』の魔女さながらに悪魔を呼び出す黒魔術を行っているという噂であり、歩けない名画蒐集家ヴェナブルス(マイケル・バイアン)の用心棒リッキー(ブレッティ・ファンシー)は神父殺害事件の夜、マークが見かけた男だった。
紙片の名前の主はみな自然死として死んでいることが判明し、しかも遺産は全て1人か2人に贈られていることから、マークは人を呪い殺す請負業があることを察する。弁護士ブラッドリー(レスリー・フィリップス)を通して、蒼ざめた馬の魔女たちが呪術を行うのだが、本当に人を呪い殺すことが可能なのか。マークはケイトと相談し、ケイトを囮にして犯人を導き出す計画を実行する。ティリーの遺産を受け継いだ叔母フロレンス(ルイ・ジェイムソン)も溺死し、娘ポピー(キャサリン・ホルマン)はおびえる。そしてケイトも、友人ドナルド(リチャード・オーキャラハン)の厳重な見張りにも関わらず、消費者動向調査員(ウェンディ・ノッティンガム)やガス会社の点検員の訪問以降、髪の毛が抜けて弱っていく―。
原作でのマーク・イースターブルックはムガール建築の本を執筆中の歴史学者ですが、本作では建築家になっていて、神父の死体の第一発見者ということで、第一容疑者にされてしまいます。その彼の保釈金を払ってくれたのが、原作の女友達ハーミアで、この映像化作品では、ハーミアは大金持ちで、マークはその"ヒモ"的存在になっているなあ。

マークを演じたコリン・ブキャナンは、この作品の前年から、BBCのレジナルド・ヒル原作の「ダルジール警視」シリーズに、ウォーレン・クラーク演じるダルジール警視の配下のパスコー刑事役で出ています。




ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は女学校時代の友人ルース・ヴァン・ライドック夫人(フェイス・ブルーク)から、ルイス・セラコールド(ジョス・エイクランド)に嫁いだ妹キャロライン(キャリー)・ルイーズ(ジーン・シモンズ)のことが心配なので様子を見に行ってくれるよう頼まれる。ルイスは自邸の敷地内で私営の少年更正施設を運営している。ルイスの秘書のエドガー(ニート・スウェッテンハム)が駅にマープルを迎えに来るが、キャリーの養女ジーナ・ハッド(ホリー・エアド)がマープルを車に乗せて屋敷へ。ジーナは、アメリカ人のウォルター(トッド・ボイス)と結婚しており、キャリーの二番目の夫の次男スティーヴン・レスタリック(ジェイ・ヴィリアーズ)が、施設内で少年同士の喧嘩が起きた際に及び腰で止めようとしなかったのを、ウォルターが止めさせる。エドガーは孤
児で、自分は正当に評価されていないと思い込んでおり、自分の本当の父親はチャーチルだとマープルに真面目に言う。キャリーの最初の夫(故人)の連れ子で、ガルブランドセン財団の管理者であるクリスチャン・ガルブランドセン(ジョン・ボット)が急に屋敷を訪れ、ルイスと何やら話し合っている。ある晩、ルースが持参した女学校時代の16mmフィルムの映写会にエドガーが銃を持って乱入、ルイスとエドガーが書斎に籠ってルイスが書斎で宥めている間に銃声がし、映写会に顔を見せず別の部屋でタイプを打っていたクリスチャンが射殺体で発見される。ロンドン警察からスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッツ)やレイク警部補(イアン・ブリンブル)が乗り込んでくる。映写会の日に帰省したスティーヴンの兄アレックス・レスタリック(クリストファー・ヴィリアーズ)は、弟スティーヴンと共にジーナに気があり、二人ともウォルターの前で平気でジーナに言い寄る。施設の少年が事件当夜何かを目撃したと言う話をスティーヴンから聞いたアレックスは、刑事のふりをして少年から話を聞こうとするが―。

犯行が行われた際のフィルム上映会も原作には無く、但し、グラナダ版ではルイスが施設内でやる予定の演劇の練習発表会になっていて、ルイスが何とインディアンの酋長の恰好で出てくるので、まだこちらのジョーン・ヒクソン版の改変は穏やかな方だったか。
スラック警部がミス・マープルに一言だけあなたに言いたいことがあると言って、何を言うのかと思ったら、ぎこちなく「ありがとう」と。そうか、スラック警部の「手柄」になっているのかと思いつつも、このシーンは悪くなかったです(続く、シリーズ最終話となった
「ミス・マープル(第11話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/12/29●演出:ノーマン・ストーン●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ジーン・シモンズ/フェイス・ブルーク/ホリー・エアド/ジェイ・ヴィリアーズ/ニート・スウェッテンハム/ジェイ・ヴィリアーズ/ジョン・ボット/クリストファー・ヴィリアーズ/デビッド・ホロビッチ/イアン・ブリンブル/ギリアン・バージ●日本放映:1997/03/14●放映局:テレビ東京(評価:★★★)




ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は、甥のレイモンドに持病の気管支炎の転地療養を勧められ、カリブ海のバルバドス島のホテルに滞在していた。ある日、宿泊客の一人で自慢話好きのパルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)から、2件の妻の自殺に関わった殺人容疑者だという人物の写真を見せられようとした時、彼がマープルの肩越しに誰かを見てそれをやめ、財布に写真をしまってしまうということがあった。その晩に酔っていた少佐は、翌朝自分の部屋で死んでいるのを部屋係のヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)に発見される。ヴィクトリアは少佐の部屋で死亡前には無かった不審な錠剤を見つける。

ホテルの経営者ティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)とヴィクトリアから報告を受けたティムの妻モリー(ソフィー・ウォード)は、グレアム医師(T・P・マッケンナ)に相談する。医師は大佐の死は高血圧によるものと判断するが、一応、ネピア総督(ショーガン・シーモア)に依頼してウェストン警部(ジョゼフ・マィデル)に埋葬した死体を再検査させる。

マープルはヴィクトリアから、彼女の叔母(イサベラ・ルーカス)が住む村へ招待され、その叔母から
ホテル経営者夫婦の来歴を聞く。ヴィクトリアは、錠剤を本来の持ち主グレッグ(ロバート・スワン)に返す。モリーは一時的に記憶を失うことがある不安を滞在客のイヴリン(シェイラ・ラスキン)に打ち明ける。イヴリンの夫でグレッグに雇われている蝶学者エドワー
ド(マイケル・フィースト)は、最初の妻の看護婦で今はグレッグの妻であるラッキー(スー・ロイド)と関係しながらも、妻イヴリンとはとりあえず一緒にいる。
そうした中、モリーが夕食時に、樹の傍で刺殺されているヴィクトリアを発見する。ホテルに滞在していた車椅子の大富豪ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレザンス)は、最初はミス・マープルのことを嫌っていたが、やがて彼女の観察眼の鋭さに気づき、マープルと共に連続殺人事件の推理を始める―。



原作に対しては、やはり伏線が無かった分"掟破り"の印象を抱かざるを得ませんでしたが、この映像化作品ではそのヒントを与えているし、プロットが結構粗いところを、キャラクターをきちんと描き分けてドロドロした人物相関を浮かび上がらせることで補っている原作に倣って、この映像化作品も、ドラマ部分が丁寧に描かれているというか、説明的で分かりやすかったです(原作を先に読んでいるということもあるが)。
個人的には、原作が星3つ半の評価に対して、原作の魅力を忠実に再現しているという点、プラス、映像化によりカリブ海リゾートのイメージが掴めたり、ドナルド・プレザンスとジョーン・ヒクソンの演技競演が見られたりしたことを加味して星4つ。ミス・マープルがヴィクトリアの葬儀に参列するなども原作からの改変ですが、そのことによって「復讐の女神」というキータームの意味が明確化することに繋がっており、ここまできちんと作られてしまうと、後に来る映像化作品は、独自の改変を加え、"改変の妙"を狙ったものにならざるを得ないのかなあと。ストレートで勝負して、このジョーン・ヒクソン版を超えるのは難しいのでは。
「ミス・マープル(第10話)/カリブ海の秘密」」●原題:A CARIBBEAN MYSTERY●制作年:1989年●制作国:イギリス●本国放映:1989/12/25●演出:クリストファー・ペティット●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ミドルマス/エイドリアン・ルーキス/ソフィー・ウォード/ドナルド・プレザンス/ロバート・スワン/シェイラ・ラスキン/ショーガン・シーモア/ジョゼフ・マィデル/マイケル・フィースト/スー・ロイド/バーバラ・バーンズ/スティーヴン・ベント/ヴァレリー・ブキャナン/イサベラ・ルーカス●日本放映:1996/04/09●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


セント・メアリー・ミードへ行くためにパディントン発4時50分の急行列車に乗ったマクギリカティ夫人(モナ・ブルース)は、平行して走る列車を追い越す際に窓越しに女性が絞殺される瞬間を目撃、その話を信じるミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はスラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)に捜査を依頼するが、警察は手掛かりを見つけられず、夫人の勘違いだろうと片づける。そこでミス・マープルは、同じ列車に乗って犯人が死体を遺棄した場所を推察
し、フリーのハウスキーパーのルーシー・アイレスバロウ(ジル・ミーガー)に調査を依頼し、付近にあるクラッケンソープ家の住むラザフォード邸に彼女を家政婦として送り込む。屋敷の当主ルーサー(モーリス・デ
ンハム)は、先代の遺言で屋敷や土地を勝手に処分することはできず、遺産は彼の子供らにいくことになっていて、年一回相続権のある人間が集まって会食を開くことも遺言により決まっている。父の世話をしている長女エマ(ジョアンナ・ディヴィッド)のほか、屋敷に集まってきたのは、次男の画家セドリック(ジョン・ハラム)、三
男の銀行家ハロルド(バーナード・ブラウン)、四男のディーラーのアルフレッド(ロバート・イースト)、亡くなった次女の夫で子連れの保険会社員ブライアン(ディヴィッド・ビームズ)と息子のアレクサンダー及びその寮友達、そしてクインパー医師(アンドリュー・バート)。見届け人は、弁護士のアーサー・ウィンボーン(ウィル・ティシー)。ルーシーは古い納屋の石棺で女性の死体を見つけ、警察がその身元を探るうちに、今度は事故に見せかけてハロルドが森で殺される―。
その他にも、原作のクラドック警部(原作の『予告殺人』にも登場)ではなく、スラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)が登場、彼はこのシリーズで第5話「
「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」」●原題:4:50 FROM PADDINGTON●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:マーティン・フレンド●脚本:T.R.ボウエン●時間:日本放映版110分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/モーリス・デンハム/デヴィッド・ボロヴィッチ/デヴィッド・ビームス/モナ・ブルース/ジル・ミーガー/ジョアンナ・デヴィッド/ アンドリュー・バート/ジョン・ハラン/ローダ・ルイス/バーナード・ブラウン/ロバート・イースト/イアン・ブリンブル/ウィル・ティシー●日本放映:1996/04/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


老富豪ラフィ-ル(フランク・ガットリフ)は、秘書(バーバラ・フランチェスキ)にミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)のことを"復讐の女神"だと言っていた。一方ミス・マープルは、妻に追い出された甥のライオネル(ピーター・ティルベリー)を同居させていたが、新聞記事でラフィールの死を知り、カリブ海の島で彼と共に殺人事件を解決したことを思い出した。彼女はラフィールの弁護士ブロードリッブ(ロジャー・ハモンド)とシャスター(パトリック・ゴッドフリー)から、彼が遺言でマープルを「館と庭園の史跡巡り」バス・ツアーに"正義に関心があるならば"と招待していたことを知らされ、礼金は2万ポンドだが調査目的は不明。マープルは、何を解決すべきか分からないながらも故人の期待に応えるべく、ライオネルと共にツアーに参加することに。ツアーがアビー・デューシスに着いた時、旧領主邸からラヴィニア(ヴァレリー・ラッシュ)が、マープルに邸に泊まるよう迎えにを来て、ラフィールの手配であるというこ
の招待を彼女は受ける。邸には、彼女の姉クロチルド(マーガレット・ティザック)と妹アンセア(アンナ・クロッパー)がいたが、姉妹は、何年か前にラフィールの息子マイケル(ブルース・ペイン)との婚約後に殺されたヴェリティの親権者だった。マイケルは証拠不十分で釈放され、貧民街で暮らしていた。そんな中、ツアーのメンバーの一人で、かつてヴェリティの教師だったエリザベス・テンプル(ヘレン・チェリー)が何者に博物館で石像を落とされて意識不明の重態に。テンプルは、マープルに「あの人たちにヴェリティの真実を聞いて」との言葉を遺して亡くなる。ツアーに参加していたクック(ジェイン・ブッカー)とバロー(アリソン・スキルベック)の女性二人組はマープルを見張っている。同じくツアーメンバーのワンステッド教授(ジョン・ホースリー)は、ラフィールが依頼した犯罪心理学者、これもまたラフィールに呼び寄せられたというブラヴァゾン大執事(ピ-ター・コプリー)は、マイケルとヴェリティは真に愛し合っていたと証言し、ヴェリティは行方不明後半年して水路で顔を潰された死体で発見されたと言う。教授は同時期に行方不明になった少女ノラ・ブレントの母(リズ・フレィサー)に会い、一方マープルは、殺人の動機は"強い愛情"だと断言する―。
『カリブ海の秘密』の「後日談」なのに、このジョーン・ヒクソン版のシリーズでは「カリブ海の秘密」の2年前に作られ放映されていて、そのこと自体が、原作が「続編」と言うより後日談としての「別事件」であることを物語ってはいますが、原作では、ラフィ-ルさんはああ言った、こう言ったという話は結構出てくるんだよなあ(後に作られた「カリブ海の秘密」('89年)では、大富豪ラフィ-ルは、「刑事コロンボ/別れのワイン」('73年)のドナルド・プレザンスが演じている)。
ストーリー自体は基本的には原作に忠実ですが、原作では、甥のライオネルがミス・マープルと共にツアーに参加するどころか登場もせず(マープルの単独参加)、エリザベス・テンプルは博物館で石像を落とされて重傷を負うのではなく、野外で岩石を落とされて重体に。また、ラフィ-ルの息子マイケルは、原作では釈放されず収監されているため、貧民窟で貧民救済活動をしているなどといったことはなく、事件解決後に初めて登場する―細かいことを言えばそれ以外にも幾つかありますが、トータルでは概ね原作通りで、このシリーズの基調を外れていません。
「ミス・マープル(第8話)/復讐の女神」」●原題:NEMESIS●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・トッカー●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版106分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ガットリフ/ピーター・ティルバリー/ ブルース・ペイン/ ジェーン・プーカー/ヘレン・チェリー/ジョン・ホースリー/アリソン・スキルベック/ ピーター・コプリー/マーガレット・チザック/ヴァレリー・ラッシュ/ロジャー・ハモンド/パトリック・ゴッドフリー/リズ・フレィサー●日本放映:1996/04/10●放映局:テレビ東京(評価:★★★)




ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)が、甥のレイモンドの好意でしばらく滞在することになった古風な格式をが売りの「バートラム・ホテル」。そこに偶々、女性冒険家のベス・セジウィック(キャロライン・ブラキストンン)も投宿していた。ミス・マープルはべス・セジウィックが結婚・離婚を繰り返していることを友人のセリナ(ジョーン・グリーンウッド)から聞く。

同ホテルには、ラスコム大佐(ジェイムズ・コッシンズ)が姪と称するエルヴィラ・ブレイク(ヘレナ・ミッチェル)と宿泊しているが、実はエルヴィラはべス・セジウィックの娘で、21歳になると莫大な資産を相続することになっていて、大佐は彼女の後見人であった。また彼女は、母親べス・セジウィックの若い愛人でレーサーのラディスラウス(ロバート・レイノルズ)と連絡を取り合っている。
ホテルが大規模な強盗事件と関係があると以前から睨んでいて、ホテルで張り込みを続けているフレッド警部(ジョージ・ベイカー)は、ミス・マープルに警部であることを見抜かれてしまう。そんな中、宿泊客の一人ペニファーザー牧師(プレストン・ロックウッド)が大事な会議の日を間違えて飛行機に乗れずホテルに戻ってきたところを何者かに襲われ、そのまま失踪するという事件が発生した。 
フレッド警部は失踪事件を捜査する警部に同行し、ホテルの受付係りやボーイ長のヘンリー(ネヴィル・フィリップス)らに聞き込みをするが、強盗事件、失踪事件とも手掛かりが得られずにいた。そこへ、離れたところで交通事故にあったらしく記憶を失っている牧師が戻ってきて、彼は自分の部屋で"鏡"を見たという。そんな中、ベスの元夫でホテルのドアマンのマイケル・ゴーマン(ブライアン・マクダラス)がホテル前で射殺される。銃撃されたエルヴィラを庇って自分が撃たれたらしい。犯罪組織の黒幕は誰か。ゴーマンを射殺したのは誰か―。

内容はほぼ忠実に原作をなぞっており、この作品の主人公は、表向きは由緒正しく、実は犯罪組織の大掛かりな犯罪のための「舞台装置」である「バートラム・ホテル」そのものであると言ってもよく、それだけにそのホテルをどう撮るかというのが一つの大きなポイントになるわけですが、雰囲気がよく出ているなあという印象(ミス・マープルは、あまりに昔のままであることに却って違和感を抱くわけだが)。原作でかなりの分量を割いている
ホテル内の描写や、そこで行われるお茶会の模様が、映像だと一発で分かるわけで、そこが映像の強みですが、逆にイメージと違ったりすると大きな引っ掛かりになるわけで、その点に関しては、この映像化作品は一定水準をクリアしているように思いました。
更に、エルヴィラがベス・セジウィックの娘であることも原作よりも早くから明かされており、ますますテンポがいいと言うか、娘エルヴィラに冷たく接するベス・セジウィックの真意というのが作品の一つのテーマになっているため、ドンデン返しの結末の伏線として、早い段階に母娘の対面を持ってきたのも悪くないように思いました。
この作品、前半部分は、ホテルが何らかの秘密を抱えているらしいという、その謎がメインであって、一方、エルヴィラは、自分の相続関係を調べまくっています。原作を知らないで観ると、メイドが牧師の部屋に入っていったところでその死体を見つけるというのが、時間帯的にもそろそろといったタイミングであるように思われることから、「死体発見シーン」的な典型的な効果音につられて、ついそう思い込んでしまうでしょう。原作を知らない人向けの演出だったんだなあ、あれは(バックの音楽とは裏腹に何も起きないわけだが、このメイドも"一味"だったみたい)。行方不明になった牧師が戻ってきて、ミス・マープルが"鏡"を見たという彼の言葉を頼りに実地検分してみせる場面は、"適度に解説的"でいいのではないかなあ。
「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて」」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:メアリー・マクマーレイ●脚本:ジル・ハイエン●時間:日本放映版108分(完全版205分)●出演:ジョーン・ヒクソン/キャロライン・ブラキストン/ヘレナ・ミッチェ/ジェームス・コッシンズ/ジョアン・グリーンウッド/ジョージ・ベイカー/ プレストン・ロックウッド/ブライアン・マクダラス/ロバート・レイノルズ●日本放映:1996/05/07●放映局テレビ東京(評価:★★★★)


ニュージーランドで育ったグエンダ・リード(ジェラルディン・アレクサンダー)は、夫ジャイルズ(ジョン・モルダー=ブラウン)と新居を購入したが、屋敷の持ち主に案内される前に寝室の場所が分かったり、庭師に頼んだ階段が既に柳の木の下にあったり、建築家に頼んだ扉が壁の裏側にあったりと、初めてのはずの家の中を隅々まで知っているような感覚を抱く。
夫ジャイルズは、ロンドンに住む従弟のレイモンド・ウェスト(ディヴィッド・マカリスター)夫とその妻に会ってグエンダを紹介、レイモンドの叔母ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)と皆で観劇に行くが、劇中の夫が妻を絞殺する場面で、グエンダは恐怖に駆られ叫び出し、マープルはそれは彼女の過去の記憶のせいだと推理、過去は掘り返さない方がよいと助言しつつも調査したところ、グエンダの父はインドから英国へ帰航中にへレンと会って結婚したが、新妻は駆け落ちしていたことが分かる。
グエンダがヘレンの情報を求める新聞広告を出すと、ヘレンの兄ジェイムズ・ケネディ医師(フレデリック・トレヴェス)が訪ねて来て、彼の話をもとに父の居たナトリウムを訪ね、父の死が、自分がヘレンを絞殺したという妄想に駆られての自殺だったことを知らされる。ヘレンには誰か他の男がいたらしく、グエンダはヘレンの恋人だった男を探し出し、弁護士ウォルター・フェーン(テレンス・ハーディマン)、退役少佐リチャード・アースキン(ジョン・ベネット)、観光会社経営ジャッキー・アフリック(ケネス・コープ)らと会うが、彼らは皆ヘレンに振られただけのようで、犯行証拠は得られない。

グエンダを演じるジェラルディン・アレクサンダーは、
「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」」●原題:SLEEPING MURDER●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:ジョン・デイビス●脚本:ケン・テイラー●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソ/ジェラルディン・アレクサンダー/ジョン・モルダー=ブラウン/フレデリック・トレーヴス/ジーン・アンダーソン/テレンス・ハーディマン/ジョーン・スコット/エイリル・メイナード/ケネス・コープ●日本放映:1996/05/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


セント・メアリ・ミード村の牧師クレメント(ポール・エディントン)の若妻グリセルダ(チェリル・キャンベル)は料理が苦手なメイドに不満を抱いている。そのメイドのマリー(レィチェル・ウィーヴァー)は密猟で刑務所を出たばかりのアーチャー(ジャック・ギャロウェイ)と恋仲で、仕事の方はおざなり。クレメントが牧師館の離れを貸している画家レディング(ジェームス・ヘイゼルダイン)は、プロセロー大佐(ロバート・ラング)の妻アン(ポリー・アダムズ)と恋愛中で、前妻の娘レティス(タラ・マックゴーラン)の水着姿も描いている。副牧師ホゥズ(クリストファー・グッド)は情緒不安定であり、数日前から村に滞在している"謎の女"レストレンジ夫人(ノルマ・ウェスト)を、医師ヘィドック(マイケル・ブラウニング)は親身に思って診察している。そんな中、教会の募金が消えたことに疑いを持ち、帳簿を調べるために牧師館に来ていたプロセロー大佐が書斎で射殺体で見つかり、地元警察のスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)とレイク警部補(イアン・ブリンブル)が捜査に乗り出すが、画家のレディング自首し、誰もが事件は解決と思った。ところが彼にはアリバイがあって犯行不可能とされ、続いて、彼と恋仲にある大佐の妻アンが、自分が夫を殺害したと認めるが、これも筋が通らない―。
1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第5話(本国放映は1986年)で、
例えば、この事件の犯人はわざとミス・マープルの目の前を通って行ったうえで犯行を犯し、彼女に捜査をミスリードする証言をさせるわけですが、事件後に捜査が始まってからの「マープル証言」の中での"振り返り"としてその場面が出てくるのに対し、グラナダ版ではリアルタイムでその場面を映しています。
これ観ると、スラック警部はミス・マープルとの出会いがしらから「事件のあるところにミス・マープルあり」とウンザリしている様子で、最後の最後までミス・マープルを疎ましく思っている印象を受けます。
「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人」」●原題:THE MURDER AT THE VICARAGE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ジュリアン・エイミーズ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版95分(完全版188分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ポール・エディントン/ロバート・ラング/シェリル・キャンベル/ポリー・アダムス/タラ・マクゴーラン/ジェームス・ヘイゼルダイン/デヴィッド・ホロヴィッチ●日本放映:1997/03/07●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

投資会社社長レックス・フォーテスキュー(ティモシー・ウェスト)が事務所で、秘書のミ
ス・グローブナー(スーザン・ギルモア)がお茶を運んだ直後に急死し、その上着のポケット一杯にライ麦が入っていた。ニール警部(トム・ウィルキンソン)とヘイ巡査部長(ジョン・グローヴァー)は数時間前に摂取されたアルカロイド系毒物が死因と鑑識医フレンチ(ルイス・マホニー)から聞き、朝食に毒を盛られたとみて、レックスの自宅であるイチイ邸に行く。
家政婦メリー・ダヴ(セリナ・ケイデル)によれば、亡くなったレックスは皆に嫌われていた。若い後妻アディール(スティシー・ドーニング)はヴィヴィアン・デュボア(マーティン・スタンブリッジ)という男と浮気中であり、義理の姉エフィー・ヘンダーソン(ファビア・ドレイク)は階上の自室に籠り切り。邸には長男パーシヴァル(クライブ・メリン)とその妻ジェニファー(レイチェル・ベル)が同居し、他に執事クランプ(フランク・ミルズ)と料理人のクランプ夫人(メレリーナ・ケンドール)、メイドのエレン(ビュー・ダニエルズ)、マープルが躾けを教えたやや愚鈍な小間使いグラディス・マーティン(アネッテ・バッドランド)がいた。
レックスにアフリカから呼ばれた次男のランス(ピーター・デビソン)が、貴族出身の未亡人での妻パトリシア(フランセス・ロウ)をホテルに置いて邸へ来た夜、アディールが飲み物で毒殺され、グラディスからの電話を受けたミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はマザー・グースの「6ペンスの唄」の歌詞を思い出す。彼女はイチイ邸にタクシーで駆けつけるが邸に入れてもらえず、ニール警部にメモを渡すも彼はそのメモを見ない。その夜、グラディスが洗濯物干し場で殺されているのが発見され、鼻には洗濯バサミが。マザー・グースの歌詞に沿えば、"つぐみ"が事件の背景にあるはずだとミス・マープルは警部に助言し、ランスはアフリカの"つぐみ"鉱山のことだろうと言う。レックスは昔その鉱山で鉱山技師のマッケンジーを見捨てて帰国しており、彼の子供がレックスへの恨みから犯行に及んだ可能性も。更には、犯行にあたって、男性と付き合いたいというグラディスの女心を巧みに利用した男がいるらしい―。
でも、この映像化作品では、ちょっと雰囲気違うなあと。原作を読み犯人が判っていて観ているというのもあったとは思いますが、この犯人、途中でかなりあからさまに怪しげな素振りもみせるし...。
レックスの会社の秘書のミス・グローブナー(スーザン・ギルモア)もそんな美人ではないし、レックスの若い後妻アディールは軽薄そうだし、小間使いグラディスに至っては...。レックスの義姉エフィー・ヘンダーソン(原作ではラムズボトル姓)が一番イメージ通りだったけれど(何だか全てを見透かしている感じ)、これは酸いも甘いも知り尽くしたお婆さんであり、あまり美人が出てこないというのが、故レックスの周辺の暗さを物語っている感じでした。





「リトル・パドックスで今晩7時に殺人があります」という広告が地元の新聞に出たことが村の人の間で話題になり、リトル・パドックスの邸の女主人レティシア・ブラックロック夫人(ウルスラ・ハウェルズ)がパーティの準備をする
中、好奇心の旺盛な村の住人たち―イースターブルック大佐(ラルフ・マイケル)とその夫人(シルヴィア・シムズ)、スウエッテナム夫人(メリー・ケリッジ)と息子で作家の卵であるエドマンド(マシュー・ソロン)、豚の世話をするヒンチクリフ(パオラ・ディオニソッティ)と気はいいが頭の弱い友人マーガトロイド(ジョーン・シムズ)、ハーモン牧師(ディヴィッド・コリングズ)とその夫人(ヴィヴィエン
ヌ・ムーア)―らが集まってくる。やがて7時丁度に居間の明かりが突然消えて銃声がし、見知らぬ男が倒れ絶命していた。銃弾はレティシアの耳をかすめたようで、夫人は耳朶から出血し、夫人の友人で同居人のドーラ・バンニー(レニー・アシャーソン)は気が動転し、難民の外人メイドであるハナ(エレーン・アイヴス・キャメロン)は自分の命が狙われているとヒステリニックに喚く。強盗に入って来た男はホテル従業員のルディ(ティム・チャリングトン)だったが、自殺なのか他殺なのかそれとも事故なのか杳として知れない。
捜査はクラドック警部(ジョン・キャッスル)とフレッチャー巡査部長(ケヴィン・ウェイトリー)によって行われ、居間にいた客をはじめ、レティシアの遠戚であるというジュリア(サマンサ・ボンド)とパトリック(サイモン・シェファード)、夫を戦争で亡くしたという、何か秘密を抱えている様子の若い未亡人フィリッパ(ニコラ・キング)らの証言を探っていく。署長の推薦で意見を求められたマープルは、ルディに強盗をやらせた誰かが犯人だと示唆し、ルディの友達だった女給のマーナ(リズ・クロウサー)に重ねて聞くよう助言したところ、ルディは強盗の真似をして誰かから礼金を貰う約束だったことが判明する。事件には、大富豪ゲドラーの遺産が絡んでいるようで、ゲドラーは妻が死んだ場合は、かつ彼の秘書だったレティシアに遺産が行くようになっていた。そして、ドーラ・バンニーが誕生日パーティの後、毒殺死する―。
クラドック警部を補佐するフレッチャー巡査部長役のケヴィン・ウェイトリーは、英ITVの「主任警部モース」シリーズではモースを補佐するルイス部長刑事役でずっと出ており、この時期、掛け持ちして「別の上司」に付いていたことになりますが、キャラクター的に全く同じに見えるのは、立場が同じだからか。
「ミス・マープル(第3話)/予告殺人」」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/28●演出:デヴィッド・ジャイルズ●脚本:アラン・プレイター●時間:155分●出演:ジョーン・ヒクソン/シルヴィア・シムズ/パオラ・ダイオニソッティ/ メアリー・ケリッジ/ウルスラ・ハウエルス/ジョン・キャッスル/レネ・アシェーソン/ ジョーン・シムズ/ラルフ・マイケル/ケヴィン・ウォートリー/シルヴィア・シムズ/ジョン・キャッスル/マシュー・ソロン/ディヴィッド・コリングズ/ヴィヴィエンヌ・ムーア/エレーン・アイヴス・キャメロン/ティム・チャリングトン/サマンサ・ボンド●ビデオ発売:1998/01●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)



戦争中の飛行機事故で負傷したジェリー・バートン(アンドリュー・ビックネル)とその妹ジョアナ(サビーナ・フランクリン)は、静養でリムストック村を訪ね、ファーズ荘を借りて一時滞在することになるが、やがて兄に妹を中傷する手紙が届き、どうやら中傷の手紙は村の誰彼問わずに送りつけられている模様である。
牧師ガイ(ジョン・アーナット)の妻モード(ディリス・ハムレット)は、手紙の主を探るべくミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)に相談する。そんな中、弁護士エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)の妻アンジェラ(エリザベス・カウンセル)が青酸カリを飲んで死亡し、遺体の傍には「次男の父親は違う」という中傷の手紙と「もうダメ」というメモがあっため検死審問では自殺とされたが、ミス・マープルはこれは殺人だと直感する。
ファーズ荘の料理人パートリッジ(ペネロープ・リー)は、以前ファーズ荘で働いていたメイドのベアトリス(ジュリエット・ウェイリー)から、"自殺"事件の日に奇妙なことがあったので聞いて欲しいと言われ会う約束するが、そのベアトリスはシミントン家の衣装部屋で死体で見つかる。
村に勤めるよそ者の医師オーエン・グリフィス(マーティン・フィスク)はジョアナに恋し、その妹エリル(サンドラ・ペイン)はシミントン氏に思いを寄せる一方、ジェリーはシミントン家の厄介娘ミーガン(デボラ・アップルビイ)の秘めた魅力に気づき、ロンドン行きに同行させて彼女を美しく変身させる。ジョアナは2通目の中傷の手紙を受け取り警察に持参、更に、シミントン家の家庭教師エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)にも中傷の手紙が届き、手紙の指紋からグリフィス医師の妹エリルが逮捕されるが、医師は妹が犯人のはずはないと信じる。クロフォード警視(ロジャー・オスティミー)に依頼して、マープルは真犯人を罠にかける賭けに出る―。
原作が、田舎町でブラック・メールの飛び交うという陰湿な話のようでありながらそれほど暗くないのは、主人公の兄妹の気の置けない遣り取りと彼らを含む登場人物の恋愛模様を絡めることで毒が中和されているためであり、この映像化作品では、とりわけ妹ジョアナとグリフィス医師、兄ジェリーと二十歳の娘ミーガンとのボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーを丁寧に描くことで、更にその中和度を増している印象です。
一方で、プロット的には犯人への手掛かりを原作以上に伏線として見せることはしていないので、最後のミス・マープルの謎解きは、原作同様に"ばたばたっ"という印象を受けざるを得ないかも。でもこれ、事件として振り返るとそう複雑なものではないため、下手にヒントを示すと犯人がすぐに解ってしまうというのもあるのかもしれません。
「ミス・マープル(第2話)/動く指」」●原題:THE MOVING FINGER●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/21●演出:ロイ・ボールティング●脚本:ジュリア・ジョーンズ●時間:日本放映版95分(完全版189分)●出演:ジョーン・ヒクソン/アンドリュー・ビックネル / サビーナ・フランクリン/ジョン・アーナット/ディリス・ハムレット/マイケル・カルヴァー/エリザベス・カウンセル/ペネロープ・リー/ジュリエット・ウェイリー/マーティン・フィスク/サンドラ・ペイン/デボラ・アップルビイ/イモジェン・ビックフォード・スミス/ロジャー・オスティミー/リチャード・ピアソン/ヒラリー・メイソン●日本放映:1997/03/13●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


セント・メアリー・ミード村の大佐の邸ゴシントン・ホールの書斎で家政婦が若い女性の死体を発見、バントリー大佐(モーレイ・ワトソン)と妻ドリー(グェン・ワットフォード)に知らせるとともに警察に連絡、ドリーは友人のマープル(ジョーン・ヒクソン)を車で呼び寄せて相談する。事件捜査の方は、大佐の友人メルチェット警察本部長(フレデリック・イエガー)が担当し、スラック警部(デヴィッド・ホロヴィッ
チ)、レイク警部補(イアン・ブリンブル)が現場を受け持つことに。マジェスティック・ホテルから行方不明者の捜索願が出されていたが、死体はホテルダンサーのルビー・キーン(サリー・ジェイン・ジャクソン)だという証言が得られる。ルビーは足首を痛めたジョージー(トゥルディー・スタイラー)が代わりに雇った少女で、捜索願を出した大富豪コンウェイ・ジェファーソン(アンドリュー・クルイックシャンク)はルビーを養女にするつもりだったと言う。一方、村の男マルコム(コリン・ヒギンズ)が採石場で燃えた車と焼死体を発見するが...。
コンウェイは8年前の航空機事故で家族を失い、自らも車椅子でのホテル住まいであり、遺された義理の娘アデレード(シーラン・マッデン)と息子マーク・ギャスケル(キース・ドリンクル)の世話になっていた。スラック警部はダンサー兼テニスコーチのレイモンド(ジェス・コンラッド)らを事情聴取。一方、黒焦げの車はルビーと最後に踊ったバートレット(アーサー・ボストロム)のものであり、焼死体はリーヴ少佐(スティーブン・チャーチェット)の娘パメラ(アストラ・シェリダン)と思われた。普段素行が良くない映画制作者のベィジル・ブレイク(アンソニー・スメー)が事件の夜に外出しており、彼に強い容疑がかかる。

原作はプロット的にも「死体入れ替え・時間差」殺人とやや凝っていて複雑。書斎で見つかった死体が検分の結果"処女"だったとか、村の知恵遅れの男マルコムが採石場で比較的早いうちに車と焼死体を発見するが最初は警察に相手にされないとか、村人から疑いの目で見られ始めたバントリー大佐に対して、映画制作者(原作では実は道具係り)のベィジル・ブレイクが「お話したいことがあります」と申し出る場面とかは何れも原作には無く、これみんな、視聴者に対する犯人推理の"助け舟"かと思われます(ベィジル・ブレイクが庭で何かを燃やしているのをマルコムに何を燃やしているのか訊かれ、「うちのばあさんさ」と答えたのは、死体を運んだ際の絨毯を処分していたわけか)。
マープル物の長編第2作、BBC版第1作でありながら、元警視総監ヘンリー卿をしてミス・マープルのことを「イギリス一の犯罪学者。メアリー・ミード村の観察から世界を見ている」と言わしめているのは、先行する短編集『火曜クラブ』でミス・マープルの推理力の凄さを知ったことによるものでしょう。デヴィッド・ホロヴィッチ演じるスラック警部は、現場の捜査が忙しい割には進展が無い中で上司からマープルの意見を聴くよう言われて、「ばあさんと引退した警視総監の両方の面倒を見なければならない」とご機嫌斜めなわけです(この"ご機嫌斜め"ぶりが可笑しいのは、サラリーマンにとっては、会社の中でもこうしたことが時にあるからかもしれないからか)。
ミス・マープルとスラック警部は、原作では、『牧師館の殺人』でスラック警部がミス・マープルに事件解決の先を越されているためマープルに対してライバル心を燃やすという設定ですが、このBBC版は「第1話」であるため当然"初顔合わせ"となり、この後、第5話「



![Why Didn't They Ask Evans? [1980] [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/Why%20Didn%27t%20They%20Ask%20Evans%EF%BC%9F%20%5B1980%5D%20%5BVHS%5D.jpg)

フランキーは、南米行きの話があったり命を狙われたりしたのは謎の言葉のせいだとし、好奇心旺盛な彼女は、写真をすり替えたと思しきロジャー・バッシントン・フレンチの居る邸の前でジョージ医師(ロウランド・ディヴィズ)と組んで偽装クルマ事故を起こし、邸内に客として入り込む。邸の当主のヘンリー・バッシントン・フレンチ(ジェイムズ・コッシンズ)はロジャーの兄でありモルヒネ中毒者、邸内にはヘンリー夫人のシルヴィア(コニー・ブース)と息子トミーがいて、トミーはフレンチ家に出入りするニコルソン博士(エリック・ポーター)に馴染んでいた。フランキーが崖から落ちた男の新聞切り抜き写真を夫人に見せると、リヴィントン夫妻と一緒に来たカナダ人学者で冒険家のアラン・カーステーアズにそっくりだという。
それだけ、ボビー役のジェームズ・ワーウィックとフランキー役のフランセスカ・アニスの演技が好評だったということだと思いますが、特にフランセスカ・アニスは、好奇心旺盛な貴族令嬢フランキーの役が嵌っていて、ファッションや立ち振る舞いにおいて大人の女性の雰囲気を漂わせる一方で(オードリー・ヘプバーンをよりタフにした風)、ボビーとの軽快でコミカルな遣り取りが楽しく、前半部分はボビーを一方的にリードして謎解きを進め、ボビーに次々指示を出す―それが、後半、ボビーがモイラに惹かれているのを察すると、ボビーと共にモイラの救出にあたるもやや複雑な心境になるという、その心の移り変わりが上手く描けていたように思います(フランセスカ・アニスは「

モイラ役を演じたマデリーン・スミス(Madeline Smith)は、「ドラキュラ血の味」('70年/英)などのハマー・ホラーに何作か出ていたほか、「007/死ぬのは奴らだ」('73年/英)でジェーン・シーモアらと共にボンド・ガールとしてロジャー・ムーアの相手役も演じている女優です。このモイラ役は、
アラン・カーステーアズの情報を教えるリヴィントン夫人役で登場するジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)(最初の日本オンエア版ではカットされている)は、1984年から1992年にかけて英国で放映されたBBC版ミス・マープルシリーズ全12話でミス・マープルを演じることになるわけですが、この作品の中では顔つきも体型もややふっくらしたお金持ちの貴婦人といった風で、綺麗な服を着て贅を尽くした応接間に居るため、見た目は"ミス・マープル"とは随分差があり、彼女が出ていることを知らずに観ていると見落としてしまうかも。別に謎解きをするわけでもない、単なる話し好きの有閑婆さんという感じですが、それでも演技はやはりあの"ミス・マープル"でした。![どり探偵[完全版]DVD-BOXI.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%81%A9%E3%82%8A%E6%8E%A2%E5%81%B5%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DDVD-BOXI.jpg)
![おしどり探偵[完全版]DVD-BOXII.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%81%8A%E3%81%97%E3%81%A9%E3%82%8A%E6%8E%A2%E5%81%B5%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DDVD-BOXII.jpg)
「アガサ・クリスティ/なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」●原題:AGATHA CHRISTIE`S WHY DIDN'T THEY ASK EVANS?●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ハワード・デイヴィス/トニー・ワームビー●脚本:パット・サンダース●撮影:マイク・ハンフリーズ●時間:日本放映版147分(完全版189分)●出演:フランセスカ・アニス/ジェームズ・ワーウィック/ジョン・ギールグッド/バーナード・マイルズ/エリック・ポーター/ジェイムズ・コッシンズ/リー・ローソン/マデリーン・スミス/ロバート・ロンデン/コニー・ブース/リンダ・マーシャル/ジョーン・ヒクソン●日本放映:1981/??/??●放映局:NHK(評価:★★★★) 

007/死ぬのは奴らだ」('73年/英)





16年前に画家である夫エイミアス・クレイルを殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母キャロラインの無実を訴える遺書を読んだカーラ・ルマルションは、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる。彼女の話に興味を覚えたポアロは、あたかも「五匹の子豚」の如き5人の関係者との会話を手掛かりに過去へと遡る―。
1943年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Five Little Pigs(米:Murder in Retrospect))で、同じ頃に書かれ、作者の遺言により没後に発表された『スリーピング・マーダー』と同じ、所謂"回想の殺人"物です。また、この作品については1960年初演の戯曲版もあり(『殺人をもう一度』)、こちらは『ナイルに死す』の戯曲版などと同様、ポワロが登場しません。『五匹の子豚』は2010年に早川文庫の「クリスティー文庫」で山本やよい氏による新訳が出ましたが、活字も大きくなり読み易いものでした(「クリスティー
文庫」に所収の従来ものは、「ハヤカワ・ポケットミステリ」「ハヤカワ・ミステリ文庫」以来の桑原千恵子訳)。尚、「クリスティー文庫」新訳版のカバーイラストは、「ハヤカワ・ミステリ文庫」の真鍋博のものを復刻させています。
カーラがポアロを訪ねて父であるエイミアス・クレイルの死の真相の究明を依頼する前置きがあって、その後が3部構成になっていて、ポアロが、かつて事件が起きた際の関係者に一人ひとり会って話を聞き、更に当時の事を手記に書くよう依頼する第1部、その関係者5人からポアロのもとへ寄せられた当時の状況を回想した手記から成る第2部、ポアロが5人の関係者に一人ずつ最後の質問を行い、最後に全員を集めて謎を解く第3部―となっています。





















ロンドンにあるバートラム・ホテルは、今でもエドワード王朝時代の佇まいを保っていたが、ミス・マープルも少女時代に一度このホテルに宿泊した思い出があり、今また甥レイモンドの親切により一週間の予約で宿泊し、昔を懐かしんでいた。ホテルには老年の聖職者や引退した将軍や提督、老貴族の夫婦、判事や弁護士、海外からの本物の英国を求める観光客などが訪れ、贔屓客はいつも決まった部屋に泊まり、ロビーでは本物のお茶と本物のマフィンが給仕ヘンリーの完璧な指示で供されていた。ミス・マープルがホテルの宿泊客を観察するうちに、その中には、退役軍人のデリク・ラスコム大佐や、彼が後見人を務め21歳になったら莫大な財産を引き継ぐことになっているエルヴァイラ・ブレイク嬢、何度も結婚しているらしい女流冒険家のべス・セジウイックらがいることが分かり、更に、ホテルに出入りするレーサーのマリノスキーがエルヴァイラとセジウイックの両方と付き合っていることを見抜いたりする。彼女は何となくホテルに違和感を覚えるようになっていくが、そんな中、ホテルの宿泊客のベニファーザー牧師が失踪するという事件が発生、このところ頻発する強盗事件の捜査において事件とバートラム・ホテルの関係に目を付けていたフレッド・デイビー主任警部は、牧師失踪事件にかこつけて、強盗事件との関連を調べにバートラム・ホテルに乗り込んで来る―。



甥のレイモンドに勧められ西インド諸島に一人で療養に来たミス・マープル。そこには多種多様の人々がカリブ海でのリゾートを楽しみに来ていた。お喋り好きで会う人ごとに自慢話や体験談を吹聴していたパルグレイヴ少佐が、ある殺人の話をマープルにしていて、その犯人の顔写真を見せようとした瞬間、突然少佐の顔がこわばった。ミス・マープルの肩越しに誰かを見たらしいのだが、マープルにはそれが誰だか判らなかった。そして次の日、少佐が亡くなった。周囲の話から高血圧が原因の死と判断されたが、納得できないミス・マープルは、問題の写真が大佐の持ち物から消えていることを探り当て、次なる殺人の予兆に焦る。そんな中、第二の殺人が発生した―。
怪しい人物はいっぱいいますが、犯人は意外な人物でした。直接的な伏線が無いため、個人的には最後ぎりぎりまで誰が犯人か判らず、ある種"禁じ手"のようにも思われましたが、ミステリ通に言わせると、犯人から除外できる人を一人ずつ除いていくとちゃんと犯人に行きつけるとのこと。むしろ、最後にマープルが「最初からわかっていなければならなかったんです。こんな簡単なことなのに」と言っているように、先入観のトリックと言えるかも。



歴史学者のマーク・イースターブルックは、ムガール建築に関して本の執筆のためにチェルシーに部屋を借りていたが、ある日、執筆の息抜きに入ったカフェで女の子同士の喧嘩に遭遇し、喧嘩騒ぎの後に一方が他方の髪の毛をごっそり引き抜いた束が落ちていたのを見る。喧嘩の後に店員から彼女らの名を聞いていた彼は、その1週間後に髪の毛を引き抜かれた方の娘が死んだことを新聞で知る。彼は教会の募金活動への協力を依頼に推理作家のオリヴァ夫人のもとを訪れた折にこの話をする。
1961年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Pale Horse)、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズもの。謎解きそのものものさることながら、オカルトっぽい雰囲気が独特の
展開であるとは言え、この作品についてはあまりにそれが著しく、そこがどうかなとも。犯人の事件への絡み方も、やや説明不足のような感じがしました。




マクギリカディ夫人は、ミス・マープルに会いにいくため乗り込んだパディントン発4時50分の列車の窓から、たまたま並走する別の列車内で一人の男性が女性の首を絞めていた殺人現場を目撃する。マクギリカディ夫人はマープルの助言を得て警察に通報するが、警察は、犯人も被害者も発見することができない。マクギリカディ夫人の言葉を信じたミス・マープルは、犯人は車外に死体を放り投げたと確信し、その地点は列車が速度を緩めて走るカーブであろうと推理、才能豊かな女性ルーシー・アイレスバロウを雇って、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのラザフォード・ホールと言われるクラッケンソープ邸に、彼女を家政婦として送り込む―。
結局、事件の謎を解くのはミス・マープルですが、この作品では現場の捜査はルーシー・アイレスバロウに任せ、自分は安楽椅子探偵的な位置づけになっていて、プロット的に見て不満があるとすれば、マープルはマープルでその間いろいろ調べたのでしょうが、読者に示された情報だけでは犯人を探し当てることは難しいということでしょうか(犯行動機に至っては不可能)。
ミス・マープルの依頼をその旺盛な好奇心から請けたルーシー・アイルズバロウが、この作品の言わば"ヒロイン"でしょう。オックスフォード大学数学科を優秀な成績で卒業、将来を嘱望されながらも、家事労働の世界に入り、家政婦として英国中に名が知られるまでになり、3年くらい先まで予約を入れることも可能であるにも関わらず、余暇を楽しむために長期の予定は入れないでいる―という設定が興味深く、今で言えば、「カリスマ主婦マーサ・スチュワート」とか「スーパー主婦・栗原はるみ」みたいなものか?
「ミス・マープル/夜行特急の殺人」 (61年/英) ★★★
「アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜」 (08年/仏) ★★★☆


はミス・マープルの友人マクギリカディ夫人だが、それが草笛光子演じる天瞳子の母親が事件の目撃者ということになっている。意外と原作に沿って作られていたが、屋敷に送り込まれるスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが前田敦子演じる
中村彩になっていて、その前田敦子がスーパー家政婦に見えないのがやや難点か。草笛光子がミス・マープルに相当する役で、天海祐希が家政婦役だった方が、原作に近い雰囲気になったと思う(このシリーズの'18年版の第2夜放送は「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」、'19年には通算第4弾「




投資信託会社の社長レックス・フォーテスキューが、オフィスで紅茶を飲んだ後に苦しんで死ぬが、彼の上着のポケットにはなぜかライ麦の粒がたくさん入っていた。死因は自宅の庭に植えられているイチイの木から取れる毒による毒殺であり、捜査に当たったニール警部は、自宅での朝食時に毒物を盛られた可能性を調べる。やがて浮気をしていたレックスの若い後妻アデールが死体で見つかり、メイドのグラディスまでも殺される。グラディスを女中として教育したことのあるミス・マープルは、彼女の無念を晴らすために邸へ赴き、3人の殺害のされ方がマザー・グースの歌詞になぞらえられていることを警部に示唆する―。
Sing a Song of sixpence, (6ペンスの唄を歌おう)




ミス・マープルはロンドンで米国在住の旧友のルースと親交を温めていた。ルースとキャリイ(キャロライン)の姉妹は、ミス・マープルの女学校時代の親友であり、ルースは最近会った妹の周辺に、明確な根拠は無いが何か嫌な雰囲気を感じたとひどく心配していた。そしてミス・マープルに、彼女の所へ行って調べてほしいと依頼、ミス・マープルは、ルースの言い伝手でキャロラインの住む屋敷に招かれ、潜入捜査を開始する。
1952年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第5作で(原題:They Do It with Mirrors、米 Murder with Mirrors)、クリスティ作品の中で必ずしも評価の高い方ではない作品かもしれませんが、全体の人物関係の構図が掴めれば結構面白いのではないかと。
キャリイ・ルイズの命を狙っている人物がいるらしいという疑惑が浮かぶ中、クリスチャン・グルブランドセンが殺害され、殺された彼以外は全員、その殺害の容疑者になり得るという展開はやはり上手いと思われ、全体としては、ハウダニット(どうやって殺したか)がフーダニット(誰が犯人か)への手掛かりとなる展開。但し、ホワイダニット(なぜ殺したか)が最後に明かされるまで読めないため、ミス・マープルにお付き合いして読者もミスリードされる―といった感じでしょうか。




男を虜にせずにはおかない美女ローズマリー・バートンが、ロンドン市内にの高級レストランで催された自身の誕生パーティーの席上で、青酸が入ったシャンペンを飲んで死亡してから1年が経つ。その時に同席していたのは、ローズマリーの夫のジョージ・バートン、ローズマリーの妹のアイリス・マール、ジョージの有能な女性秘書ルース・レシング、バートン家の隣人で将来を嘱望された若手下院議員スティーヴン・ファラデーとその妻アレクサンドラ、ローズマリーの友人のアンソニー・ブラウンの6人。警察の捜査の結果、ローズマリーが誕生日前にインフルエンザに罹り、病み上がりでふさぎこんでいた事や、彼女のバックの中から青酸を包んでいた紙が発見されたことなどから、事件は自殺として処理された。だが夫のジョージは、彼女に自殺する動機もければその素振りもなかったことから、その死に疑惑を抱いていた。
ローズマリーの死から半年後、ジョージは彼女の死は自殺ではないと記された匿名の手紙を受け取った。その半年後、ローズマリーの死から1年になる万霊節の夜に、ジョージはローズマリーが死んだときにパーティーに参加していた人々を集め、同じレストランでパーティーを催すことにした。彼はこのパーティでローズマリーの死の真相を明らかにしようとしていた。席は1年前と同様に7つ用意されたが、余った席には当然誰も座っていない。参加者はまず主賓アイリスの誕生日と健康を祝って乾杯をし、フロアショーを見た後でダンスに興じるが、ダンスが終わりテーブルに戻った一同を前に、ジョージがローズマリーを偲んで乾杯をした直後、彼は倒れてそのまま死んでしまう。1年前のローズマリーと同じく青酸による中毒死だった―。
す。元が短編だったということもあってか、クリスティの長編にしては登場人物がそれほど多くない方ではないでしょうか。
でも、警察に協力する形で、『ナイルに死す』などにも登場する、元陸軍情報部部長のジョニー・レイス大佐が捜査に乗り出してからぐっとテンポが良くなり、若手下院議員、その妻などもやはり怪しかったけれど、ルシーラの不良息子ヴィクターがやはり一つのカギかと...。但しこれも、女性秘書ルース・レシングとの関係が早くから示されており、推理小説としては分かり易い方でしょう。

ある朝バントリー元大佐の書斎で若い女性の死体が発見され、バントリー夫人はミス・マープルに調査を依頼する。警察が行方不明者を調べたところ、ガール・ガイド団員のパメラ・リーヴスと、ホテル・ダンサーのルビー・キーンの2人の若い女性が浮上する。ルビーはホテル専属ホステスで、ホテルに滞在中の大金持ちコンウェイ・ジェファソンに実の娘のように気に入られていて、コンウェイの遺言状でルビーに多額の遺産が遺されることになっていた。警察はルビーのいとこのジョセフィン・ターナーに死体を確認してもらい、死体はルビーであると―。一方、ミス・マープルがバントリー夫人とともに当のホテルに滞在して事件の謎解き始める中、ホテルから数キロはなれた石切場で車が炎上する事件が発生、中にはパメラ・リーヴスと思われる黒焦げの死体が―。
警察の捜査で挙がった容疑者は、映画の仕事をして生活が派手で、いつも自宅で騒がしいパーティを開いているバジル・ブレイク、コンウェイの事故死した息子フランクの嫁アデレード・ジェファソン、同じ事故で死んだコンウェイの娘の婿でギャンブル好きで破産寸前のマーク・ギャスケル、ホテル・ダンサー兼テニスのコーチのハンサム男レイモンド・スター、マジェスティックホテルの客でルビーが行方不明になる直前に一緒にダンスを踊っていたジョージ・バートレット...(容疑者の人数に事欠かないね)。 





ークは状況を探るために、友人のいとこブリジェット・コンウェイが、村に住む週刊紙の経営者ホイットフィールド卿の秘書をしているのを頼りに、民族学者を装って村に調査に赴く。ピンカートン婦人の話にあった死んだ3人とは、飲んだくれの居酒屋亭主ハリー・カーター 、だらしないお手伝いエイミー・ギブズ、嫌われ者のいたずら小僧トミー・ピアスで、ハリーはある晩に橋で足を滑らせて川に落ち、エイミーは染料の壜と薬の壜を間違えて染料を飲んで死に、トミーは博物館の窓を拭いているときに墜死、これにピンカートン婦人の自動車事故死とハンブルビー医師の敗血症による死が加わる。ルークが調べていくと村のもう一人の開業医ジョフリー・トーマス、事務弁護士のアボット、退役軍人のホートン少佐、骨董屋の主人エルズワージーらが容疑者として浮かび、聡明なブリジェットと共に調査を続けるうちに、更に思いもかけない容疑者が―。
主人公は探偵役のルークですが、ブリジェットの方が聡明という印象もあり、ポアロやミス・マープルのような"スーパー探偵"でないことは確か。最後は"キレ"と言うより"閃き"で事件を解決したようでもあり、一方で、すでにホイットフィールド卿の婚約者となっているブリジェットへの恋の鞘当もあって、この2人のロマンスの行方がどうなるかという部分で読者を楽しませてくれるものとなっています。




村の牧師の息子ボビイ・ジョーンズは、トーマス医師と海沿いでゴルフのプレイ中に地面の割れ目に男が倒れているのを発見、トーマスが応援を求める間、男は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と言い遺して死ね。ボビイは男のポケットからハンカチを取り出し顔にかけてやるが、その際に美しい女性が写った写真が出てきて、すぐにその写真を元に戻す。牧師館に戻らねばならなかったボビイだが、そこにロジャー・パッシントン-フレンチと名乗る男が通りかり、事情を聞くとボビイの代わりに付き添うことを申し出てくれる。
フランキーはロジャーの住むパッシントン-フレンチの屋敷の傍で故意に自動車事故を起こし、怪我をして屋敷に担ぎ込まれることでパッシントン-フレンチ家の客となって事件を探るうちに、屋敷の当主ヘンリイがモルヒネ中毒であること、写真の女性が屋敷の近くで麻薬中毒患者の療養所を営んでいるニコルソン博士の妻のモイラであること、死んだ男はアレックス・プリチャードなどではなく探検家のアラン・カーステアズであったことなどが判ってきた。
犯人は誰か(フーダニット)ということと、犯行の動機は何か(ホワイダニット)ということの両方のバランスがとれていますが、よく読むと犯人が複数であることは早い段階で明かされており、また、犯行の目的もやっぱり遺産目当てかということで、むしろこの作品での白眉は、ハウダニット(どうやって犯行を成し遂げたか)にあるかもしれません。








小さな田舎村セント・メアリ・ミードにある牧師館の書斎で治安判事のプロズロー大佐が銃殺されているのが発見された。牧師館の住人であるレオナルドド・クレメント牧師とその妻グリゼルダが共に外出している時を狙って行われた犯行らしく、現場には被害者が6時20分に書いたと思われる手紙と、6時22分で止まった時計があった。しかしその時計は牧師が常日頃から15分進めていたもので、警察は犯行時間の特定に苦慮する。そうした中、プロズロー大佐の妻と恋仲に押し入っていた画家のローレンス・レディングが自首してくるが、らにその直後、今度は大佐の妻が自首してきた―。(First Edition Cover (1930)/Fontana (1961・1963))
1930年に刊行されたアガサ・クリスティ(1890‐1976)の作品で(原題:The Murder at the Vicarage)、ミス・マープルの長編初登場作品(短編では「火曜クラブ」(1928年)に先に登場。但し、『火曜クラブ』が短編集として刊行されたのは1932年)で本作の2年後)。





旅行会社の社員として南アフリカで旅行案内人を務めるアンソニー・ケイドは、再会した友人のジェイムズ・マグラスから「おいしい話」を持ちかけられる。ジェイムズは以前、町で見かけた喧嘩から老人を救い出したが、それが大変な富豪であったと判ったのだという。しかし、先ごろその老人
1925年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Secret of Chimneys)、クリスティの作品の中で『殺人は容易だ』(1939)、『ゼロ時間へ』(1944)など5作あるバトル警視ものの第1作であるとともに、おしどり探偵トミーとタペンスの『秘密機関』(1922)など8作ある冒険ミステリの内の1作。
主人公アンソニー・ケイドと共に事件に巻き込まれていくヴァージニア・レヴェルも、ヒロインとしての魅力を十分に備えているし、初登場のバトル警視のヤリ手ぶりもいいです。強いてこの作品の難点を挙げれば、アンソニー・ケイドの視点から物語が描かれているにも関わらず、彼自身が大きな秘密を有していることで、それが最後になって読者に明かされるという点では、善意に解釈すれば"叙述トリック"ですが、見方によっては"後出しジャンケン"の印象も受ける点です。
最初から"冒険ミステリ"と割り切って、あまり現代スミステリの基準でのリアリティを求めない方が、素直に作品を楽しめるかも。個人的にはクリスティ作品の中でも傑作だと思っています。




シャーロック・ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ)のもとに、ダートムアから依頼人ヘンリー(ラッセル・トヴェイ)がやってくる。ダートムアの荒野には政府の科学生物兵器研究施設「バスカヴィル」があり、極秘の実験が行われているという噂があった。ヘンリーは20年前、7歳のときに父親が悪魔のような巨大な犬「ハウンド」に殺されるのを目撃。ショックが生み出した妄想かと思ったが、昨夜、再びその現場で巨大な「ハウンド」の足跡を発見したという。ホームズらは怪物の正体探るためダートムアに向かう―。
「バスカヴィルの犬(ハウンド)("The Hounds of Baskerville")」は、「ベルグレービアの醜聞」に続く「SHERLOCK(シャーロック)」第2シーズン第2話(通算第5話)で、原作は当然のことながら「
この作品、ダートムアの荒涼としたイメージをどう描くかがポイントかと思って観ましたが、ダートムアが既に"魔犬が出る地"として心霊スポット的な観光地になっていて、ホームズとワトスンは、幼少期に自分の父親がダートムアの窪地で魔物に襲われて殺されるところを見たという青年に導かれて夜のダートムアを走り回るけれども、偽造IDカードで基地内にも潜入して実験施設内も探索するということで、原作のおどろおどろしさは半減しています。
一方で、基地内では怪しげな動物実験が行われていて、先にあった「発光ウサギ」が逃げ出したという、ホームズが一旦は調査の依頼を袖にした"珍事件"もこうした実験と関係があるらしい(下村脩氏が発見したオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を注入した発光ネズミというのは写真で見たなあ)―となると、いよいよ近未来型の「バスカヴィルの犬」の登場かと思ったら、結局は意外としょぼい仕掛けだったと言うか(まあ、怪獣映画になってもマズイわけだけれど)、結末だって怪しげな人物はやっぱり怪しかったし...。
前作「ベルグレービアの醜聞」が"エロス趣向"だとすれば、こちらは"サイエンス趣向"と言え、毎回趣向を変えてくる努力は買いますが、これは今一つノレなかった...。
この原作の映像化作品は、「犬」の登場の場面で90年代からCGが使われていますが、この作品でCGであれだけハッキリ見せる必要はなかったのではないかな。前半部分でモンタージュ的な手法を使って「犬」を見せないでいたのに、あそこで登場人物の主観に合わせて見せてしまったら、前後の整合が取れないのでは。
「SHERLOCK(シャーロック)(第5話)/バスカヴィルの犬(ハウンド)」●原題:SHERLOCK:THE HOUNDS OF BASKERVILLE●制作年:2011年●制作国:イギリス●本国放映:2012年1月8日●演出:ポール・マクギガン●脚本:マーク・ゲイティス●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ルパート・グレイヴス/ユナ・スタッブス/マーク・ゲイティス/ラッセル・トヴェイ●日本放映:2012/07●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★)

ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)主演の「SHERLOCK(シャーロック)」は、2010年から始まったBBC製作のドラマで(日本での放映は2011年8月から)、本作「ベルグレービアの醜聞("A Scandal in Belgravia")」は、第2シーズン第1話(通算第4話)にあたり、本国放映は2011年1月、日本ではNHK-BSプレミアムで2012年7月に放映されました。
タイトルからも分かるように、コナン・ドイルの短編集でも最も人気のある第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険」の中の第1作「ボヘミアの醜聞("A Scandal in Bohemia")」(1891年初出)がオリジナルですが、元が短編なので、このTVシリーズ独特の現代風アレンジに加え、話を膨らませるだけ膨らまして、その上で大幅な改変もしているという印象でしょうか。個人的にはそれなりに面白かったです。
原作の敵役であり実質ヒロインでもあるアイリーン・アドラーは、シャーロック・ホームズが「あの女性 (the woman)」と唯一定冠詞をつけて呼ぶ特別な存在になるほどの女性ですが、これがドラマでは、アイリーン(ララ・パルバー、Lara Pulver)の家に無理矢理入り込んだホームズ(原作では怪我して運び込まれたことになっている)の前にいきなり全裸で現れるという趣向で、しかも、両性を手玉に取る所謂"両刀使い"というのがスゴイね。
その他にもいっぱい"遊び"があるけれど、原作の、ホームズがワトスンに発煙筒を焚かせて、依頼主から奪還を要請されている写真(ドラマでは携帯電話に収められている)の在り処を「アイリーンの目線」から探り当てる場面など、細かいところはオリジナルを踏襲したりしているのが憎いなあと。
前半は殆どアイリーンにホームズが振り回されっ放しですが(原作でもホームズより能力的に優れていることになっている)、最後はホームズがアイリーンを死地から救ったように見えるね(そうなると、ホームズは殆ど"007"並みの行動をとったことになるが)。原作を巡っては、恋愛感情に縁が無いホームズが唯一恋愛感情を抱いた女性ではないかとか、いや、ワトスンが作中で述べているように、ホームズはアイリーンに恋愛感情を抱いたわけではないとか、いろいろ論議があるようですが、(アイリーンのイメージは随分違っているけれど)引き続きそうした論議の余韻を残すような終わり方はまずまず上手いのではないかと思いました。
「SHERLOCK(シャーロック)(第4話)/ベルグレービアの醜聞」」●原題:SHERLOCK:A SCANDAL IN BELGRAVIA●制
作年:2011年●制作国:イギリス●本国放映:2012年1月1日●演出:ポール・マクギガン●脚本:スティーブン・モファット●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ララ・パルバー/ルパート・グレイヴス/ウーナ・スタッブズ/マーク・ゲイティス/アンドリュー・スコット●日本放映:2012/07●放映局:NH
K-BSプレミアム(評価:★★★★)




「
ダートムアの荒野に響く獣の唸り声は、かつてバスカヴィル家の領主だったヒューゴーという男が妻の不倫に怒り沼地に逃げた妻を殺害、その際に妻が大事に飼っていた大きな犬がヒューゴーに飛びかかって殺され、そして今でもその犬の悪霊が沼地を彷徨って遠吠えしているという―そうした伝説が沼沢地の気味悪さを一層深めるこの地で、バスカヴィル家の領主・チャールズ卿が変死し、死体の側に彼のつま先だけの足跡と巨大な犬の足跡が残されていた。当家医師モーティマーの依頼により、ホームズはチャールズ卿の死に関する調査を始めるとともに、新たな当主となったヘンリー卿の身の安全と相続した莫大な財産を守るため、ワトスンが彼の護衛に当たる―。
1901年にコナン・ドイルが発表した、ホームズ物語の4つの長編中最長の作品
この作品、ホームズ物語で最も数多く映像化されていながら、原作通りに作られているものは一つもないそうで、そうした中では、前半の展開はかなり原作に忠実な方ではないでしょうか。
原作とやや異なるのは、イアン・ハート演じるワトスンが結構活躍する場面が多いことと、ホームズの良き友でありながらも、調査の秘密を明かさなかったホームズに対して強く詰め寄るなど、「助手」と言うより「対等」な関係であろうとしているのが窺える点で、その分、イアン・ハートの人間味溢れるワトソン像が前面に出ていて、これもいいです(対比的に、ロクスバーグのホームズ像はやや冷たい印象か)。
その他にも、原作に無いバスカヴィル家での降霊会や大掛かりなクリスマス・パーティなどがあって(この番組、クリスマスシーズンに放映された)、"膨らまし感"はあるものの"手抜き感"は無いため、これはこれで良しとしていいのではないかと。「犬」はCG(と模型?)を使っていますが、今から10年前のCGだから、まあこんなものかというレベルです。
「バーナビー警部」のジョン・ネトルズが、モーティマー医師役で登場。「バーナビー警部」のシリーズはもう始まって大いに人気を博していた頃だから、シーズンとシーズンの隙間をぬってのゲスト出演といった感じなのでしょうか。
「バスカヴィル家の獣犬」●原題:THE HOUND OF THE BASKERVILLES●制作年:2002年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・アットウッド●製作:リストファー・ホール●脚本:アラン・キュービット●撮影:ジェームズ・ウェランド●音楽:ロブ・レイン●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:100分●出演:リチャード・ロクスバーグ/イアン・ハート/マット・デイ/リチャード・E・グラント/ネイブ・マッキントッシュ/ジョン・ネトルズ/ジェラルディン・ジェームズ /ロン・クック●日本放映:2004/09/18●放送局:NHK‐BS2 (評価:★★★★)
レトロ・タッチの社会派コメディといったところか。ジャック・レモンの滑舌の良さは"演劇"風。

1929年のシカゴの刑事裁判所の記者クラブ。裁判所の庭では、翌朝行われる警官殺しの犯人として死刑を宣告されたアール・ウィリアムズ処刑のための絞首台が設けられていた。シカゴ・エグザミナー紙のデスク、ウォルター・バーンズ(ウォルター・マッソー)は、トップ記者ヒルディ・ジョンソン(ジャック・レモン)をその取材に当たらせようとしたが、彼は今日限りで辞職し、恋人ペギー(スーザン・サランドン)と結婚してシカゴを去ると言う。ウォルターが仕方なく後任に据えた新米記者ケップラー(ジョン・コークス)が記者クラブにいるところへ、モリー(キャロル・バーネット)が、自分のことを死刑囚ウィリアムズの情婦であるように書き立ている新聞記事に文句を言いに来る。モリーと入れ違いにヒルディが来て祝い酒が始まるが、ウィリアムズが脱走したとの知らせで記者たちは一斉に飛び出す。一人残されたヒルディの前にウィリアムズ(オースティン・ペンドルトン)が転がり込んできた。ヒルディは大急ぎでバーンズに電話すると、今度はモリーが来る。再会を喜ぶ2人だが、他社の記者らが戻ってきたため、ヒルディは咄嗟にウィリアムズをトリビューン紙の記者ベンジンガー(デイヴィッド・ウェイン)の大きなロールトップデスクの中に隠す―。
1974年のビリー・ワイルダー(1906-2002/享年95)監督67歳の時の作品。「フロント・ページ」とは、文字通り新聞の「第一面」の意で、先に取り上げた「
オリジナルはベン・ヘクト(ヒッチコックの「汚名」などの脚本家)、チャールズ・マッカーサー原作の1928年初演の戯曲であり、「犯罪都市」(1931年)、「ヒズ・ガール・フライデー」(1940年)に続く3度目の映画化作品だそうで、そう思って観ると殆ど場面転換がなく、「ああ、舞台劇だなあ」という印象であるし('88年にはキャスリーン・ターナー、バート・レイノルズ主演で「スイッチング・チャンネル」というタイトルで4度目の映画化)、ジャック・レモンの機関銃のように早口でまくしたてる職人芸のような喋りも(ウォルター・マッソーもそれによく伍している)、その滑舌の良さも"演劇"風であるならば、大机に隠れたウィリアムズが出てきそうになるのを必死で抑えようとするところなどは典型的なドタバタ・コント風と言えるかもしれません(笑いのツボをオーソドックスに押さえている感じ)。まあ、ジャック・レモンの昔の作品は大体みんなこんな感じなのですが。
スーザン・サランドンは
になるわけで、日本では殆ど無名だったのではないかな。昔からあのような容貌だったのだなあと。記者クラブに詰めている他紙記者の中に昨年['12年]12月に亡くなったチャールズ・ダーニング(享年89)がいたことに改めて気付きました。
「フロント・ページ」●原題:THE FRONT PAGE●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ビリー・ワイルダー●製作:ポール・モナシュ●脚本:ビリー・ワイルダー/I・A・L・ダイアモンド●撮影:オジョーダン・クローネンウェス●音楽:ビリー・メイ●原作:ベン・ヘクト/チャールズ・マッカーサー●時間:105分●出演:ジャック・レモン/ウォルター・マッソー/スーザン・サランドン/オースティン・ペンドルトン/キャロル・バーネット/デイヴィッド・ウェイン/チャールズ・ダーニング/ジョン・コークス●日本公開:1975/05●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「


最盛期に28%の視聴率を誇ったUBSのビール(ピーター・フィンチ)のイブニング・ニュースも今や12%とに低落、これが引金となり、ジェンセン(ネッド・ビーティ)率いるCCAがUBSを買収し傘下に収め、CCAより新社長が就任、報道部長マックス(
ウィリアム・ホールデン)はビールに番組降板を通告する。翌日、ビールは本番中に自分が辞めさせられる事を暴き、さらに自殺予告までするが、そのことで視聴率は27%に上がる。野心家のダイアナ(フェイ・ダナウェイ)は、ビールを現代の偽善と戦う予言者とし「再売り出し」し、雨の日の本番中にスタジオに闖入したビールの社会不満を告発する言動が大ヒットするなどして、「ビール・ショー」の視聴率は48%に。ダイアナのアイデアはエスカレートし、過激
派グループと契約して、ビールを絡めた衝撃シリーズを展開、これも成功し、彼女とマックスの社内での地位は逆転するが、過激化するビールが、親会社CCAを番組内で非難し始めたことで危機に陥る。ジェンセンはビールに強制暗示的に言動変更を迫り、感化されたビールは番組内でジェンセンの理論を滔々とぶつが視聴率は低下、ダイアナはジェンセンのロボットとなったビールを番組から降ろすために、上層部のハケット(ロバート・デュヴァル)らを説得して、ついにビールの暗殺を決定させ、テレビ局の走狗と化した過激派をスタジオの観客に紛れ込ませ、ビールを銃撃させる―。
シドニー・ルメット(1924-2011/享年86)監督作品。最初観たときは、こんなのありっこないという荒唐無稽さを覚えましたが興業的には成功し、風刺劇としての世間評価も高かった作品であり(シドニー・ルメットはこの映画は風刺劇ではなくテレビ業界の内実を暴露したルポルタージュであると言った)、アカデミー賞においても主演男優賞(ピーター・フィンチ)、主演女優賞(フェイ・ダナウェイ)、など4部門獲得しました(ノミネート直後に心不全で急死したピーター・フィンチは、アカデミー賞史上初の「死後の主演男優賞受賞者」となった)。
ウィリアム・ホールデン演じるマックスがダイアナとの関係をなかなか断ち切れないのは、ある種"保護者"感覚ではないかなあ。彼女、傍に誰かいないとどうなるか分からないという...。それでもって、自分の妻(ベアトリス・ストレイト)に別居を切り出すというのも、言われた方の妻の心境は察するに余りありますが、ベアトリス・ストレイトはこのヘビイな
状況に置かれた妻の哀しみを好演して、僅か5分間の登場でアカデミー賞の助演女優賞を獲っています。助演男優賞候補となったネッド・ビーティがもし受賞していれば(ネッド・ビーティがピーター・フィンチを緑色のシェードのライトが並んだ部屋で洗脳するシーンもスゴかったが)、アカデミー史上初の主演男優・主演女優・助演男優・助演女優の演技4賞独占となるところでしたが、「欲望という名の電車」('51年)に次ぐ史上2度目の演技賞3冠にとどまりました(因みに「欲望という名の電車」の時はマーロン・ブランドが主演男優賞を逃した)。
ダイアナの無茶苦茶な提案に躊躇するものの、最終的にはそれを是認してしまうテレビ局の上層部―というのは、経営陣が企業倫理を逸脱する際のパターンを描いており("殺人"まで認めてしまうというところが戯画的だが)、そもそもダイアナは、こんな"素晴らしいアイデア"になぜ上層部がすぐに同意を示さないかが解らず、逡巡する経営陣の様を見てきょとんとしている―この時のフェィ・ダナウェイの演技は絶妙です。
熾烈な視聴率競争を繰り広げるTV業界の中で「壊れていく」人々を描いた作品ですが、ピーター・フィンチ演じるニュースキャスターは「壊れている」と言うよりも「狂っている」のであって、「壊れている」という言葉が相応しいのはむしろフェィ・ダナウェイ演じるダイアナではないかなと思いました。最後はウィリアム・ホールデン演じるマックスも彼女を見切った感じですが、ダイアナの行く末がどうなったかまでは描かれていません。個人的には、再見して、この作品の主人公はダイアナではなかったかと思っただけに気になりました。
![ネットワーク [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%20%5BDVD%5D.jpg)
/ジョーダン・チャーニー/コンチャータ・フェレル/レイン・スミス/マーリーン・ウォーフィールド●日本公開:1977/01●配給:ユナイト映画●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-12-13)(評価:★★★★)●併映:「カプリコン・1」(ピーター・ハイアムズ)


「CNCテレビ」西部支局長のチーフ・アシスタント、ケイ(トリッシュ・バン・デバー)はプライベートでは支局長のマーク(ローレンス・ラッキンビル)と同棲関係にあった。彼女は有能かつ野心家で、マークのニューヨーク本社栄転に自分も一緒に行くものと思っていたところがマークから別れ話を持ち出され、更に次期支局長にも推薦しないと言われる。自分が切り捨てられたと分かった彼女は、社内でのTVムービーの試写で映写技師のウォルター(ジェームズ・マクイーチン)に、フィルムのリール交換は自分がするからと言って、別のフィルムを倉庫まで取りに行かせ、その4分間の僅かな時間の隙を利用し、社内の別の部屋にいたマークを射殺する―。
第43話「秒読みの殺人」は、第7シーズン第3作、旧シリーズの終わりから数えて3番目の作品で、第44話「攻撃命令」第45話「策謀の結末」と併せて'79年の正月休みにNHKで放映されました。
しかし、今回に見直してみると、そうしたプロットとは別に、追い詰められていく犯人の側に立ってその心理がよく描かれていて、加えて、犯人の上昇志向の背景に、小さな家で育って、視聴率競争が激しい(しかも男性社会の)TV業界に身を投じ、現場からの叩き上げで這い上がって勝ち抜きキャリアを築いてきた女性であることが窺え、最後に犯行を認めざるを得ない結末となっても、パターン的には「これで却ってほっとした」と言いそうなところを、「私負けないわ。必ず這い上がってみせる」と言うほどです。この頃のアメリカでは、「ガラスの天井(グラス・シーリング)=女性がぶつかる男性社会の壁」というのが社会テーマになり始めていたのだろうなあと。

「刑事コロンボ(第43話)/秒読みの殺人」●原題:MAKE ME A PERFECT MURDER●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・フローリー●製作:リチャード・アラン・シモンズ●脚本:ロバート・ブリーズ●音楽:パトリック・ウィリアムズ●時間:90分●出演:ピーター・フォーク/トリッシュ・バン・ディーバー/ローレンス・ラッキンビル/パトリック・オニール/レイニー・カザン/ジェームズ・マクイーチン/ロン・リフキン/ケネス・ギルマン/ブルース・カービイ●日本公開:1979 /01●放送:NHK:★★★☆) 


魔術師サンティーニ(ジャック・キャシディ)は、ジェローム(ネヘミア・パーソフ)が経営するクラブで「水槽の幻想」という脱出魔術を披露して人気を集めていたが、彼の本名はステファン・ミューラーで第二次大戦中はナチスの親衛隊員だった―彼はその過去を知るジェロームに収入の50%を巻き上げられており、サンティーニが今後は5%しか払うつもりはないとジェロームに伝えると、逆にジェロームに過去の秘密を公表すると脅される。クラブでの「水槽の幻想」マジックでサンティーニは箱の中に入れられ更に水槽に沈められてしまうが、その間の10分を利用してサンティーニは移民局宛の密告の手紙をタイプ中のジェロームを殺害、手紙を持ち出し、何食わぬ顔で舞台に戻って"魔術"を完成させる―。
「魔術師の幻想(Now You See Him)」(第36話)は第5シーズン第5話。ジャック・キャシディは、第1シーズンのスティーブン・スピルバーグ演出の「
サンティーニという名は希代の魔術師フーディーニのもじりか。脱出マジックの裏側を見せてくれ、「悪の温室」(第11話)の熱血刑事ウィルソン(ボブ・ディシー)の再登場、手品はしょぼいがプロポーションで見せるサンティーニの娘サラ(シンシア・シスク)など配役面でも楽しいけれど、タイプライターのリボンが決定的証拠になるというのがちょっと時代を感じさせるかな(ジャック・キャシディの演技で星半個オマケ)。
世間から「提督」と呼ばれているヨット造船会社所有者オーティス・スワンソン(ジョン・デナー)、今は娘のジョアナ(ダイアン・ベイカー)の夫チャーリー・クレイ(ロバート・ヴォーン)が社長になって経営実権を握っているが、チャーリーの儲け主義が気に入らず密かに会社を売ってしまおうと考えていたところを自邸で殺害され、その後始末をするチャーリーは、提督の服を着込みヨットで夜の海に出て死体を捨てると、潜水服に着替えて泳いで戻ってくる―。
続く第5シーズン第6話(日本ではこちらの方が先に放映された)「さらば提督(Last Salute To Commodore)」(第37話)は、当初、本作を以って「刑事コロンボ」シリーズは終了の予定であったため、そのことを考慮してか、カメラワークにおいてコロンボのアップなどが矢鱈多く、特に前半部分はコロンボが絡むギャグ・シーンが満載―と思ったら、いきなり中盤で、ロバート・ヴォーン演じるチャーリー・クレイに対して「あんたが犯人だ」的なことを早々と宣言してしまうという変則パターン。
チャーリー・クレイが「提督」の遺体を処理したのは、言わば、思い込みからくる"勘違い"によるもので、「カリフォルニア州では夫婦の財産は共有制」ということと、「相続人が被相続人を殺害した場合は相続権を失う」ということが関係しているわけね。妻が「殺人者」ではまずいわけで、別に、実は妻を愛していたということではなく、これはこれで金目当てだったわけか。
ロバート・ヴォーンは「
保守的な「刑事コロンボ」ファンには絶対受け入れがたい"掟破り"の作品だと思いますが、ラストの提督の時計の音を関係者全員に聞かせての犯人の炙り出しがややタルくてポアロほどの精緻さに欠くものの、全体としては、個人的にはまあまあ面白かったです(この方法論についても疑念を挟む人は多いと思うが)。
その他、コロンボのアシスタント、クレイマー刑事(ブルース・カービー)が4度目の登場で今回が一番出番が多く、さらに、
「ロンドンの傘」(第13話)で執事タナーを演じたウィルフリッド・ハイド=ホワイト(右写真)が弁護士役で、「毒のある花」(第18話)でマーチソン博士役を、「5時30分の目撃者」(第31話)で"目撃者"のモリス氏役を演じたフレッド・ドレイパーが被害者の甥役で、「白鳥の歌」(第24話)で調査官パングボーン氏を演じたジョン・デナーが「提督」役でといった具合に、3人のゲストスターも再登場で、「お別れ同窓会」的様相。
「刑事コロンボ(第36話)/魔術師の幻想」●原題:NOW YOU SEE HIM●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:マイケル・スローン●音楽:バーナード・セイガル●時間:92分●出演:ピーター・フォーク/ジャック・キャシディ/ネヘミア・パーソフ/ボブ・ディシー/ロバート・ロジア/シンシア・シスク/パトリック・カリントン/ロバート・ギボンズ/ヴィクター・イザイ/マイク・ラリー●日本公開:1977/12●放送:NHK(評価:★★★☆)
「刑事コロンボ(第37話)/さらば提督」●原題:LAST SALUTE TO THE COMMODORE●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:パトリック・マクグーハン●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ジャクソン・ギリス●音楽:デバーナード・セイガル●時間:93分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・ヴォーン/ダイアン・ベイカー/フレッド・ドレイパー/ウィルフリッド・ハイド=ホワイト/ジョン・デナー/デニス・デュガン/ブルース・カービー/スジョシュア・ブライアント/スーザン・フォスター●日本公開:1977/10●放送:NHK(評価:★★★☆)
![スーパーマンIII 電子の要塞 [Blu-ray].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3III%20%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%81%AE%E8%A6%81%E5%A1%9E%20%5BBlu-ray%5D.jpg)
メキシコ・アカプルコへ向かう豪華客船で、中古車ディーラーのヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン)は、不倫関係にあり、不倫をネタに恐喝されていた、船専属のショー歌手ロザンナ(プーピー・ボッカー)を殺害、ロザンナに言い寄ってい
たピアニスト、ロイド(ディーン・ストックウェル)に容疑がかかるよう工作を行う。船長は、たまたま缶詰の懸賞に当選し、夫婦で観光で船に乗り込んでいたコロンボを呼び出し、非公式に捜査を依頼することにする―(結局、"カミさん"は映像上一度も出てこないのだが..)。
第29話であり、テレビシリーズ「0011/ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーン演じる犯人は、第24話「白鳥の歌」のジョニー・キャッシュが演じたカントリー&ウェスタン歌手、第25話「権力の墓穴」のリチャード・カイリーが演じたロス市警次長、第27話の「逆転の構図」のディック・バン・ダイクが演じた写真家に続く、「恐妻家」乃至「資産家の奥さんの尻に敷かれている旦那」といったところですが、こっちはこれまでの彼らのように奥さんを殺すのではなく、愛人の方を殺してしまいます。
撮影には随分費用がかかっているのではないかなあと思いましたが、実際にメキシコのマサトラン経由でアカプルコに向かうクルーズ(出港地はサンフランシスコ)を利用して行なわれ、エキストラは本当の乗船客だったそうです。
患者として寝ていたはずのダンジガーに後ろをすり抜けられてしまう看護婦メリッサ役のスーザン・ダマンテは、この作品では脇役ですが、この頃、スチュワート・ラフィル監督の「アドベンチャー・ファミリー」('75年)にロバート・ローガンと共に主人公の夫婦役で出演していて、人柄の良さそうな典型的な70年代美女でした。
ロスの大都会からロッキーの山奥へ移住した家族を描いた「アドベンチャー・ファミリー」は実話がヒントになっているそうですが、佳作ではあるものの、ロッキーでの自給自足生活は、"グリズリー"の襲来などもあって大変そうだなあと(娘の健康を考えての移住なのに、万一子供が羆に襲われたりしたら元も子もない)。クマに襲われたところを家族が助けたクマに救われるという、今思うとちょっと作り話っぽかったかな。
因みに、脚本家の倉本聰氏は、テレビドラマ「北の国から」の脚本を書く際に制作サイドから、この「アドベンチャー・ファミリー」のようにしてくれと言われたそうです(あと一つ、参考にしてくれと言われたのが映画「キタキツネ物語」だった)(倉本聰『獨白 2011年3月』フラノ・クリエイティブ・シンジケート、2011年)。


ロバート・ヴォーンはその後も渋い脇役や悪役として活躍し、80年代では個人的には「スーパーマンⅢ/電子の要塞」('83年/米)に出ていたのが印象に残っています。リチャード・プライヤー演じる"小物"のワルを背後から操る"大物"のワルといった役どころ。クリストファー・リーヴ演じるスーパーマンをスーパー・コンピュータで打ちのめそうとするコンピュータ会社の悪徳社長の役ですが、現場に送り込まれるのはいつもリチャード・プライヤーで、作品全体のトーンもコメディ調。リチャード・プライヤーって、日本ではマイナーだけど、アメリカではかなり有名なコメディアンだったんだなあ(2005年没)。この作品は、ロバート・ヴォーン自身にとっても、その後の相次ぐコメディ映画出演への転機となった作品でしたが、映画全体としては、「スーパーマン」「スーパーマンⅡ」を超えるものではありませんでした。
因みに、テレビシリーズ(実写版)「スーパーマン」(1952‐1958年、1954年のシーズン3からカラー化)は、主人公のスーパーマン/クラーク・ケント役はジョージ・リーヴスでした(ジョージ・リーブスとも表記される。クリストファー・リーヴとは無関係)。日本では1956年からラジオ東京テレビ(KRテレビ、現TBS)で放映が開始され、最高視聴率74.2%を記録したそうで
す。当時テレビ局が3つ(NHK、NTV、KR)しかなかったことを考慮てもスゴイ数字! 古いドラマなのに記憶にあるのは、日本ではその後フジテレビ、東京12チャンネルTと局を変えて何度も再放送されたためです。米国での放送終了後、ジョージ・リーヴスはスーパーマンのイメージが強過ぎて他の役が得られずスランプに陥り、1959年6月16日、ロサンゼルス市内の自宅寝室で射殺死体となって発見されてい
ます(自分が観ていた頃にはもうこの世にいなかったということになる)。自殺説が有力ですが、ほかに他殺説もあります。クリストファー・リーヴの身の上に起こった有名な災厄やその他諸々と併せて、「
がヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞しています。


「刑事コロンボ(第29話)/歌声の消えた海」●原題:TROUBLED WATERS●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ベン・ギャザラ●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ウィリアム・ドリスキル●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・ヴォーン/ジェーン・グリア/ディーン・ストックウェル/バーナード・フォックス/ロバート・ダグラス/パトリック・マクニー/プーピー・ボッカー/スーザン・ダマンテ/ピーター・マローニー●日本公開:1976/01●放送:NHK(評価:★★★★)
ル●製作:アーサー・R・ダブス●撮影:ジェラルド・アルカン●音楽:ジーン・カウアー/ダグラス・M・ラッキー●原作:アーサ






ー・ニューマン ●撮影:ロバート・ペインター ●音楽:ケン・ソーン●時間:123分●出演:クリストファー・リーヴ/リチャード・プライアー/アネット・オトゥール/マーゴット・キダー/ジャッキー・クーパー/マーク・マクルーア/ロバート・ヴォーン/アニー・ロス/パメラ・スティーヴンソン/ギャヴァン・オハーリヒー●日本公開:1983/07●配給:ワーナー・ブラザーズ●最











口やかましい妻との生活に心底嫌気がさした著名な写真家ポール・ガレスコ(ディック・バン・ダイク)は、誘拐事件を偽装して妻フランセス(アントワネット・バウアー)を殺害し、以前から手なずけていた前科者のダシュラー(ドン・ゴードン)を廃車置き場に呼び出し、椅子に縛り付けた妻を写した写真と脅迫状に指紋を付けさせた後に彼を射殺、自分の足も撃ち抜き、身代金の受け渡しの際に犯人に撃たれたように装った―。
シリーズ第27話。犯人のポールは「この世からお前が消えてくれれば良いのと何度も願った」ほど、妻のフランシスを憎んでいたとのことで、元々のシナリオには、コロンボの聞き込みに対し、写真集出版社の社長が、「もともとポールは財産を彼女に半分渡していたんだが、数年前、彼は神経衰弱になってね、フランシスはそれを利用して裁判所に彼の管理能力の喪失を訴え、財産のすべてを自分の管理下に置いてしまったんだ。それにナイーブな彼には、フランシスと争うだけのガッツはない」とのセリフがあったそうです。
ナルホドね。助手のローナ(ジョアンナ・キャメロン)の美脚の魅力に駆られて犯行を決意したのかな。でも、かなり冷徹というか、完全犯罪に近い線、いっていたように思います。それが、コロンボに纏わりつかれているうちに、だんだん表情が曇ってくる...。
犯人役のディック・バン・ダイクは、「メリー・ポピンズ」('64年)よりも、主役だった「チキ・チキ・バン・バン」('68年、原作は007シリーズで知られるイアン・フレミングが唯一著した童話)の方が、学校の課外授業でリアルタイムで観たということもあって印象に残っています(当時、主題歌のソノシートを買って「チュリ・バンバン」とか英語で歌っていた。山本リンダのカバー・ヴァージョンもあったなあ)。
コロンボが救済所のシスター(ジョイス・バン・パタン、第39話「黄金のバックル」では犯人役を演じる)にホームレスと間違えられたり、たまたまポールの第二の犯行現場に居合わせた「貧乏は恥にあらず」とのたまう浮浪紳士トーマス(ヴィット・スコッティ、またまた登場。第19話「別れのワイン」のレストランの支配人役、第20話「野望の果て」でテーラーの主人役、第24話「白鳥の歌」の葬儀屋に続いて、今度はとうとう"職無し"に)との遣り取りがあったりと、鮮やかな結末だけでなく、その外の部分も楽しめます。
「刑事コロンボ(第27話)/逆転の構図」●原題:NEGATIVE REACTION●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:アルフ・ケリン●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/ディック・バン・ダイク/アントワネット・バウアー/ジョイス・バン・パタン/マイケル・ストロング/ドン・ゴードン/ジョアンナ・キャメロン/ヴィット・スコッティ●日本公開:1975/12●放送:NHK(評価:★★★★) 

「チキ・チキ・バン・バン」●原題:CHITTY CHITTY BANG BANG制作年:1968年●制作国:イギリス●監督:






大衆向けの官能小説で知られる出版社の社長グリンリーフ(ジャック・キャシディ)は、地方紙の記者として燻っていたアラン・マロリー(ミッキー・スピレーン)の作家としての才能を見出したが、その後はマロリーの意思に反して官能小説ばかり書かせていた。売れっ子作家になっていたマロリーはそのことにうんざりし、シリアスな小説を書くために大手の出版社に移籍しようとしていた。そこでグリンリーフはマロリーの新作「サイゴン
へ60マイル」と保険金を詐取するためにマロリーの殺害を計画。ベトナムからの復員兵で爆弾マニアのエディ・ケーン(ジョン・チャンドラー)を使ってマロリーを射殺。その後、エディも爆弾作成中に事故死したように見せかけて殺害する―。
殺人の被害者となるベストセラー作家マロリーを演じたのが、『裁くのは俺だ』など私立探偵マイク・ハマーが主役のハードボイルド小説の作家ミッキー・スピレーンその人であったり、コロンボがグリンリーフに、「うちの署にも本を書く奴がいましてね」と話すのが、当時、実際にロス市警に勤務しながら小説を発表していたジョセフ・ウォンボー(リチャード・フライシャー監督の映画「センチュリアン」('72年)の原作者)を指していたりと、小説ネタが遊び感覚で織り込まれています。
グリンリーフは、新作のネタに困っていたマロリーがエディの小説の構想を盗み、それを恨んだエディがマロリー殺害に及んで、本人は爆弾製造中に事故死―という筋書きを完成させますが、たまたまコロンボが、「サイゴンへ60マイル」がロック・ハドソン主演によって映画化されることになったため、主人公を死なせるわけに行かず、最近になって結末を変えたという話を関係者から聞き及んでいて、エディの死亡現場にあった以前にグリンリーフに持ち込んだとされる小説の梗概に、その変えられた結末が既に書かれていたことから、変えられた結末の方しか知らなかったグリンリーフが、エディに罪を被せるために偽造した梗概に最終稿の梗概を書いてしまっていたことが決め手に。
加えて、ジャック・キャシディの不敵な面構えと犯行の大胆さ(「構想の死角」でも、作家に加えて真相を知った雑貨屋の女主人を殺害している)、ジョン・チャンドラーの偏執的な爆弾マニアぶりも良かったです(吹替えは無名時代の橋爪功で、当時、小池朝雄の所属劇団の後輩)。
聞き込みで高級レストランを訪れたコロンボが、メニューに載っていない好物の「チリ」を注文し、更にケチャップやらクラッカーやらを持ってこさせて老ウェイター(モーリス・マルサック)を憮然とさせ、逆に支払いの時はその値段を見て驚くという、お約束のコミカル・シーンなども楽しめます(後で若い警官に「チリには気をつけた方がいい」と聞く側には訳の分からないアドバイスをしている)。


Robert Culp in "Columbo" Double Exposure (1973)

心理学の権威で博士号も持つケプル(ロバート・カルプ)は、宣伝・広告の心理学について多数の著書を持ち、わずか三年間で宣伝の進路を変えたと高い評価を受けている。意識調査研究所を主宰しており、企業からさまざまな販売促進戦略の立案を請け負っているが、その裏では研究所を拡大させるため、妻帯者の男性顧客をキャンペンガールに誘惑させて、その弱みにつけこんで恐喝を重
ねていくという美人局を行っていた。脅迫対象だったノリス社長(ロバート・ミドルトン)が逆に告発すると反撃に出たため、販売促進用の映画の試写中にサブリミナル効果のトリックを使いロビーにおびき出し銃殺した。すると、そのトリックに気づいた映写技師のホワイト(チャック・マッキャン)がケプルを脅迫し、口止めの金銭的対価を求めてくる―。
第3シーズンの第21話「意識の下の映像」は、第1シーズンの第4話「指輪の爪あと」、第2シーズンの第12話「アリバイのダイヤル」で犯人を演じたロバート・カルプ(1930-2010)が再々登板、旧シリーズでの3度の犯人役は、ジャック・キャシディ(1927-1976)と並ぶ最多で、また犯人と同じくロバート・カルプは実際に銃器収集家として有名だったそうです。
このエピソードの米国での放映が'73年12月で、丁度サブリミナル広告を巡る議論の真っ盛りの際に、こうしたモチーフを織り込んでいるわけであり、その時節の捉え方は抜群であり、興味深かったけれども、犯行に用いるにはやや不確実性が高いのではないなあ。
「刑事コロンボ(第21話)/意識の下の映像」●原題:DOUBLE EXPOSURE●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:リチャード・クワイン●製作:ローランド・キビー&ディーン・ハーグローブ●脚本:スティーブン・J・キャネル●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・カルプ/ロバート・ミドルトン/チャック・マッキャン/ルイーズ・ラサム/ピーター・ウォーカー/ハリー・ヒコックス●日本公開:1974 /08●放送:NHK(評価:★★★☆) 

チェスのチャンピオンであるエメット・クレイトン(ローレンス・ハーベイ)だが、かつてチャンピオンだったトムリン・デューディック(ジャック・クルッシェン)が復帰し、自分に挑戦して来たことに恐怖し、夢にうなされる有様。対決前夜にレストランで二人きりで勝負するが、あえなく敗北したクレイトンはデューデックの殺害を決意し、彼をゴミ処理機に突き落とす―。
第16話「断たれた音」は、途中のネタを明かすと、犯人による最初の犯行で被害者が瀕死の重傷を負うも死ななかったため、更に犯人は二度目の犯行に及ぶというもので、結果的に被害者が死亡するのが開始から1時間後という、ストレートな倒叙スタイルで描かれた作品中では最も遅い時間帯の作品であるとのことです(レナード・ニモイが犯人役の外科医を演じた第15話「溶ける糸」のように直接の殺害目的であった人物が死ななかった作品もあるけれど、あの時の犯人は関係者2人を殺害している)
被害者役ジャック・クルッシェンは、ビリー・ワイルダー監督の「アパートの鍵貸します」(1960)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた名バイプレイヤー、犯人役のローレンス・ハーベイは、本作に出演に際には進行した胃ガンを抱えていたと言われ、この作品の1973年3月の本国初放映から8ヵ月後に亡くなっているそうで、そう思って観ると、そうしたことが鬼気迫る演技に繋がっているようにも思えます。
続く第17話「二つの顔」は、若い女性と婚約した金持ちのおじ(ポール・スチュワート)を、料理研究家と銀行員である双子の兄弟(マーティン・ランドーが二役)のうちに料理研究家の方が殺害するというもので―と思ったら、そういうことだったのかと。
犯人役のマーティン・ランドーは、「スタートレック」に出ていたレナード・ニモイ同様、こちらも「スパイ大作戦」のレギュラー俳優で、今でもそうですが、TVドラマシリーズのレギュラーが、シーズンの合間に他のTVシリーズに出演することがよくあります。
推理小説で言うところの「叙述トリック」と言えるかな。アイデア的にはちょっと変わっていて面白いけけれど、双子のそれぞれがキャラがキャラ立ちしていないというか、一人二役がハンディとなっているような印象で、そのため、久しぶりに観た時、この肝心の「叙述トリック」のことを個人的にはすっかり忘れてしまっていた次第です。
「刑事コロンボ(第16話)/断たれた音」●原題:THE MOST DANGEROUS MATCH●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・M・エイブロムズ●製作:ディーン・ハーグローブ●脚本:ジャクソン・ギリス●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/ローレンス・ハーベイ/ジャック・クルッシェン/ハイディ・ブリュール/ロイド・ボックナー/マイケル・フォックス●日本公開:1973 /11●放送:NHK‐UHF(評価:★★★★)
「刑事コロンボ(第17話)/二つの顔」●原題:DOUBLE SHOCK●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・バトラー●製作:ディーン・ハーグローブ●脚本:スティーブン・ボッコ/ピーター・アラン・フィールズ●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/マーティン・ランドー/ジャネット・ノーラン/ティム・オーコナー/ジュリー・ニューマーン/ポール・スチュワート●日本公開:1973/12●放送:NHK‐UHF(評価:★★★)



交響楽団の指揮者アレックス・ベネディクト(ジョン・カサヴェテス)は楽団のピアニストのジェニファー(アンジャネット・カマー)と不倫関係にあり、彼女はアレックスに妻のジャニス(ブライス・ダナー)と離婚するように迫る。ジャニスの母は楽団の会長をしており、ジェニファーとの不倫がバレてジャニスと離婚することになればアレックスは追放され地位も名誉も失うことになる。そこでアレックスはジェニファーの殺害を計画、コンサート当日、楽屋に籠っていると見せて、こっそり抜け出し、ジェニファーの家で彼女の後頭部を殴って気絶させ、キッチンのガス栓を開いて自殺に見せかけて予めタイプしておいた遺書も残しておく―。
前年の大ヒットを受けて制作された第2シーズンの第1作(第10話)であり、"インディペンデント映画の父"と称されるジョン・カサヴェテスが犯人役ですが、ピーター・フォークと仲が良かったこともあっての出演だそうで、そのジョン・カサべテスの演技も悪くなく、クラシック音楽もいろいろ聴けるし、野外音楽ホール「ハリウッドボウル」を舞台背景に使うなど映像的にも綺麗。
一方、プロット的には、犯人がコンサート指揮の時に胸に付けるカーネーションを犯行現場に落としてしまい、演奏会の後でそれをまた取りにいくという―これがコロンボが犯人を追いつめる契機となるわけですが、分かり易くはあるけれど、犯人の大チョンボという感じで、犯行に使った車も、事前に修理工場に預けるというカムフラージュをしたばかっかりに逆に走行距離メーターからコロンボに怪しまれてしまうという...結構、穴だらけの犯人像ではあります。
そうしたことは、同シリーズ第3作(第12話)「アリバイのダイヤル」にも言えるのではないでしょうか。
フットボールチーム「ロケッツ」のゼネラルマネージャー、ポール・ハンロン(ロバート・カルプ)は無能な2代目オーナーのエリック(ディーン・ストックウェル)がまるで経営に興味がないのを歯痒く思い、彼を殺害して会社を自分のものにしようと計画、試合の日に専用観戦ボックスから抜け出して用意していたアイスクリーム販売車でエリックの自宅に向かい、途中、公衆電話からエリックに電話して彼がプールにいることを確認、試合中継のラジオをエリックに聞かせて自分はスタジアムにいると思わせ、エリックの自宅に着くと氷の塊でエリックを撲殺し、すぐにスタジアムに戻る―。
ロバート・カルプは第4話「
細かいことで難点を言えば、犯人の犯行動機にやや"読み"を要するのと(オーナーの妻との関係も絡んでいる?)、警察がエリックはプールへのダイビングに失敗しての事故死だと早々に結論を出してしまうのが不自然な点でしょうか(後頭部を打撲していたなら分からなくもないが)。こうした弱点はあるけれど、これもシリーズ全体の中ではまあまあ佳作と言えるのではないかと。
被害者エリック役のディーン・ストックウェルは第29話「歌声の消えた海」では、女性歌手殺害の濡れ衣を着せられたバンドのピアニスト役で登場、盗聴器を仕掛けた私立探偵ダブス役を演じたヴァル・アヴェリーは、第5話「ホリスター将軍のコレクション」の貸しボート屋の主人役に続く登場で、この後も、第25話「
「刑事コロンボ(第10話)/黒のエチュード」●原題:ETUDE IN BLACK●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・コラサント●製作:ディーン・ハーグローブ●脚本:スティーブン・ボッコ●ストーリー監修:ジャクソン・ギリス●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:95分(短縮版73分)
●出演:ピーター・フォーク/ジョン・カサヴェテス/ブライス・ダナー/マーナ・ロイ/ジェームズ・オルソン/アンジャネット・カマー/ドーン・フレイム/ジェームズ・マクイーチン/ウォレス・チャドウェル/マイケル・フォックス/パット・モリタ●日本公開:1973/09●放送:NHK-UHF(評価:★★★☆)
「刑事コロンボ(第12話)/アリバイのダイヤル」●原題:THE MOST CRUCIAL GAME●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ジェレミー・ケーガン●製作:ディーン・ハーグローブ●脚本:ジョン・T・デュガン●ストーリー監修:ジャクソン・ギリス●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・カルプ/ヴァル・アヴェリー/ジェームズ・グレゴリー/ディーン・ストックウェル/スーザン・ハワード/バレリー・ハーパー/ディーン・ジャガー/ドン・キーファー/リチャード・スタール/アイヴァン・ナランホ/クリフ・カーネル●日本公開:1973/06●放送:NHK-UHF(評価:★★★☆)


化学会社の先代社長の道楽息子ロジャー(ロディ・マクドウォール)は叔父で現社長のデビット(ジェームス・グレゴリー)に会社を追放されそうになり、葉巻ケースに仕掛けた爆弾で事故に見せかけ爆殺する。コロンボはロジャーを犯人とにらむが証拠が見つからなかった―。
巷の評価はイマイチみたいですが、個人的にはそう悪くないと思っている作品で、コロンボのラストのロープウェイという"密室"での犯人の追いつめ方はなかなか味があったし、それまでずっと調子づいていた犯人が最後で大もがきする、その落差の激しさもいいと思いました。
犯人が、若くて軽く、お調子者っぽい感じであるのも、あまり高い評価を得ていない理由の一つかもしれませんが、演じているのは「猿の惑

「刑事コロンボ」の第6話「
リーも「続・猿の惑星」に出ていたということで、「刑事コロンボ」シリーズ全体では7名の役者が「猿の惑星」シリーズ(全5作ある)の出演者であるとのことです。キム・ハンターは「猿の惑星」シリーズの第2作「続・猿の惑星」('70年)、第3作「新・猿の惑星」('71年)まで出演し、ロディ・マクドウォールとなると「猿の惑星・征服」('72年)、「最後の猿の惑星」('73年)までにも(つまり5作全部に)出演しています。
「猿の惑星」シリーズは、フランクリン・J・シャフナー(「
に書かれたと言われています。ただ、「猿の惑星」の場合、映像化されてみると、テイラーたちが降り立ったのはどうみても地球にしか見えないとか、原始的な生活を送る人類なのに女性(リンダ・ハリソン)がハリウッド的なメイクをしているとか(まあ、この点については「
その他にこの第8話には、「
シリーズ中、世間的にはややマイナーの部類のエピソードのようですが、こうしたクロスオーバーしている役者陣への関心と、ロープウェイ内でのラストシーンの面白さ(恒例の"逆トリック"の中でも秀逸)や野沢那智の吹替えがハマっていることなどもあって、個人的にはお薦めの一作です。
「猿の惑星」●原題:PLANET OF THE APES●制作年:1968年●制作国:アメリカ●監督:フランクリン・J・シャフナー●製作:アーサー・P・ジェイコブス●脚本: マイケル・ウィルソン/ロッド・サーリング●撮影:レオン・シャムロイ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ピエール・ブール●時間:112分●出演: チャールトン・ヘストン/ロディ・マクドウォール/キム・ハンター/モーリス・エヴァンス/ジェームズ・ホイットモア/ジェームズ・デイリー/リンダ・ハリソン●日本公開:1968/04●配給:20世紀フォックス(評価:★★★★)

本国で'71年3月に放映されたもので、日本では一応シリーズ第3話となっていますが、本国で'68年2月に放映された「殺人処方箋」と同じく、シリーズ化の前に作られたパイロッット版です。同'71年9月に次の第3話「
日本での放映は、'72年8月に「殺人処方箋」、'72年11月「構想の死角」、そして'73年4月にこの「死者の身代金」となっており、'73年2月に放映された第9話「
「殺人処方箋」でスーツもヘアスタイルもさっぱりしていたのが、ちゃんとよれよれのコートで、もじゃもじゃの髪型になっているし、いざという時に筆記用具を失くしたりなかなか出てこなかったりするのは「殺人処方箋」の時からですが、"バーニーの店"でチリソースを食べるシーンは今回が初めて。あとは、愛車プジョーはまだ出てきていません。
犯人は、リー・グラント演じる女性弁護士レスリーで、電話を使った偽装誘拐トリックなど、その後のシリーズの作品の同種の場面を彷彿させるシーンが幾つかありますが、何よりも、出だしは犯人に対しても、他の捜査員(FBI)に対してもぐっと控えめでありながらも、レスリーが"夫からの電話"に対し、「あなたご無事?」などと言って夫の安否を訪ねなかったことをまず不審に思うといったところから事件の真相に迫るところが、やはり"コロンボ"らしいなあと(FBI捜査官らはこれを看過してしまう)。
犯人に対しては、状況証拠がありながらも決定的な証拠がなくてお手上げだというフリをして、最後一気にに犯人から物証を引き出す―このやり方も、その後のシリーズの作品に同様のものがあったし、まさに本作において、シリーズ化以降の"コロンボ"のキャラクターや事件解決手口のパターンが出来上がっていたという感じ。
完全犯罪が破綻したのは、そうした自分の思い込みによるものだと、この辺りは「殺人処方箋」とも通じるものがありますが、それを犯人である彼女に説いてみせるのは、やや解説過剰かなあ(脚本家は、犯人の口から言わせたかったのだろうなあ)。
因みに、犯人役のリー・グラントは、ブロードウェイで評価を得た後、1951年にブロードウェイのヒット作の映画化である「探偵物語」('51年/米)で、舞台となる二十一分署に連行され、分署内の様々な人間模様を目撃する女スリ役で映画デビュー(主演はカーク・ダグラス)、本作は自身が舞台でも演じていた当り役であり、1952年・第5回「カンヌ国際映画祭女優賞」を受賞しています(この映画、原題の"Detective Story"を「探偵物語」と訳してしまったのはなぜか。刑事(Detective)しか出てこないのに)。しかし彼女は、当時吹き荒れた赤狩りのブラック・リストに載ったため、以後12年の間は映画の仕事がほとんどなくなってしまい、テレビに出演、1967年のノーマン・ジュイソン監督、シドニー・ポワチエ主演の「夜の大捜査線」('67年/米)で映画に復帰し、1975年のハル・アシュビー監督、ウォーレン・ベイティ主演の「シャンプー」('75年/米)に有閑マダム役で出演し、「アカデミー助演女優賞」を受賞しています。
「刑事コロンボ(第2話)/死者の身代金」●原題:RANSOM FOR A DEAD MAN●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:リ
チャード・アービング●脚本・製作:ディーン・ハーグローブ●音楽:ビリー・ゴールデンバーグ●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/リー・グラント/パトリシア・マティック/ハロルド・グールド/ハーラン・ウォード/ハンク・ブラント/ビル・ウォーカー/ジャドソン・モーガン/ジョン・フィンク/リサ・ムーア/ジーン・バイロン●日本公開:1973/04●放送:NHK-UHF(評価:★★★★)


「探偵物語」●原題:DITECTIVE STORY●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督・製作:ウィリアム・ワイラー●脚本:フィリップ・ヨーダン/ロバート・ワイラー●音楽:ヴィクター・ヤング●撮影:リー・ガームス●原作:シドニー・キングスレー●時間:103分●出演:カーク・ダグラス/エリノア・パーカー/ウィリアム・ベンディックス/ジョージ・マクレディ/ホレイス・マクマホン/グラディス・ジ
ョージ/ジョセフ・ワイズマン/リー・グラント/ジェラルド・モーア/フランク・フェイレン/ワーナー・アンダーソン/クレイグ・ヒル/マイケル・ストロング/ルイス・ヴァン・ロッテン/バート・フリード/ワーナー・アンダーソン/グランドン・ローデス/ウィリアム・フィリップス/ラッセル・エヴァンズ●日本公開:1953/02●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアターー(84-10-20)(評価:★★★★)

終戦直後の東京の動物園で、象のシロウが謎の病で死に瀕していが、病理学権威の博士はハワイへ新婚旅行中で、手当に当たっていたのは大学の助手達のみ。飼育係の山下(笠智衆)の願いも虚しくシロウは死に、旅先で報せを受けた博士は、その症状から、象の死因はバビゾ菌であろうと新妻に話して聞かせる。その頃、大学の研究室では、助手の和田(日守新一)や馬場(原保美)らが、好奇心から死んだシロウの肉を焼いて食べていて、知らずにそれを食べたのは、研究室に残っていた渡辺(神田隆)と新婚の野村(安倍徹)、それと、偶然、研究室を訪れ、無理矢理勧められた山下の5人だった。話を聞いた山下の妻は、シャムの地で、同じように死んだ象の肉を食べた地元民が死んだのではなかったかと夫に言い、山下はその事実を思い出し、慌てて研究室に戻って助手達に、自分達はあと30時間で死んでしまうのだと告げる。資料を調べた結果、山下の話が本当らしいと気付いた助手達も真っ青になる―。
「暖流」「安城家の舞踏会」の吉村公三郎(1911-2000/享年89)監督が、戦後タイから復員して発表した帰国第1作で、有毒の象肉を食べた人々のドタバタを描いたコメディですが、戦争が終わって間もない頃の作品であるためか、努めて明るいタッチで描こうしている意図が感じられます(吉村公三郎自身が陸軍将校だったこともあり、また戦中は国策映画も撮っていたという経歴が、逆に戦後こうしたノンポリ映画を撮ることに繋がっているのかも)。
どうやら残り30時間ばかりの命となったらしい5人は、集まって喧々諤々したり、家族や恋人と最後の出会いをしたりしますが、そうするうちに、何とか解毒用の血清を取り寄せることができる見通しに。ところが、5人分の血清の内1つが輸送中に容器が壊れ、誰か一人は犠牲にならざるを得ない―和田は、その犠牲者を籤引きで決めることを提案し、籤に細工を施し自らその一人となる―。自らの死を待つ和田だが、その時間になっても何にも起きず、あれっ?という感じ。
なぜ5人は病院に収容されないのかとか、4人分の血清を5人で分けることは考えられないのかといったストーリー上の突っ込み所は満載ですが、役者陣に関して言えば、笠智衆(1904-1993/享年88)の軽妙な演技は見ものであり(シロウを可愛がっていた山下が、今自分が食べたのがシロウの肉だったと知った際の反応は、まさにギャグコント風)、実質上の主役である日守新一(1907-1959/享年52)も知的でとぼけた味わいがありました(小日向文世にちょっと似ているなあ)。日守新一は、現役真っ盛りでの死が惜しまれます。
「象を喰った連中」●制作年:1947年●監督:吉村公三郎●製作:小倉武志●脚本:斎藤良輔●撮影:生方敏夫●音楽:万城目正 /仁木他喜雄●時間:84分●出演:日守新一/笠智衆/原保美/神田隆/安部徹/村田知英子/空あけみ/朝霧鏡子/文谷千代子/岡村文子/若水絹子/植田曜子/奈良真養/高松栄子/志賀美彌子/中川健三/遠山文雄/西村青兒/永井達郎/横尾泥海男●公開:1947/02●配給:松竹大船(評価:★★★) 


戦後間もない京都。新任教師の谷村清吉(堀雄二)は、精神薄弱児を集めた「特別学級」の担任になるが、想像以上に困難だと知り辞めたいと申し出る。しかし杉田校長(笠智衆)に説得され、 2年という期限付きの条件で引き受ける。はじめはどう教育していいのかわからない谷山は、絵ばかり書いて過ごすが、子供達と触れ合ううちに意識が変化する―。
「手をつなぐ子等」('48年/大映)に続く稲垣浩監督作品で、「手をつなぐ子等」は、知的障害児の研究家・田村一二の原作を故・伊丹万作が脚色した遺作シナリオを、稲垣浩が監督したもので、この「忘れられた子等」も田村一二が原作ですが、独立した一つの物語となっています。
最初のうちは、気の乗らないまま特別学級の担任となった谷山は、黒板の隅に校長との約束の2年間の残日数を書いて、とにかく早いとこ2年間過ぎてしまわないかなあという感じで、教室の窓から野外スケッチばかりして授業時間を過ごします。しかし、子供たちの顔を洗ってやったりしているうちに徐々に彼らに愛情を抱くようになります。
14,5人の特殊学級の生徒の中には、木登りの名人、歌の天才少女、算数の天才少年、自動車狂の少年、泣虫、理屈家、正義派と色々な能力・個性を持った子等がいて、彼らのそうした能力を社会に活かすことの難しさを知りながらも、谷村の心は、次第に子供等のことで占められていき、一人の男児が一週間近く欠席したのが、谷村の風邪が治るようにと金光詣を続けて発熱したためと知って、谷村の心は完全に教育に目覚めます。
約束の2年が経ったため、校長がその旨を告げようとすると、谷村の方から「まさか辞めさせるつもりではないでしょうね」と言い寄る場面は感動的で、谷村役の掘雄二(1922-1979/享年56)は、早稲田大学政経学部卒、'46年デビューの東宝ニューフェイスでしたが、この作品の教師役はハマっているなあと(この人は後にテレビドラマ「七人の刑事」('61 -'69年/TBS)で赤木係長を演じることになる)。一方、笠智衆(1904-1993/享年88)は


「忘れられた子等」●制作年:1949年●監督・製作・脚本:稲垣浩●撮影:安本淳●音楽:西梧郎●原作:田村一二●時間:86分●出演:掘雄二/笠智衆/泉田行夫/岩田直二/葛木香一/浅野光男/葉山富之輔/松浦築枝/滝沢静子/木下サヨ子/宮川喜美枝●公開:1949/10●配給:新東宝(評価:★★★☆) 




東海道名代の大井川金谷の宿、酒と喧嘩では人に遅れを取ったことがないという川越人足の張子の寅八(阪東妻三郎)、彼の好敵手は馬方の頭分丑五郎(光岡龍三郎)で、場所は看板娘おとき(橘公子)のいる居酒屋と定まっていた。ある日、街道筋に悪狐が出没するという噂を確かめに行った川越人足仲間の辰(羅門光三郎)が腰を抜かせて戻り、そこで武勇自慢の寅八が勢い込んで出馬したが、ほどなくしてスヤスヤ寝ている赤ン坊を抱いて帰ってくる。寅八にとって思わぬ厄介者の赤ん坊だったが、捨てることも出来ず、意地から「育ててみせる」と言い切ってしい、それから寅八は、酒も喧嘩もすっかりやめた―。
丸根賛太郎(1914-1994/享年80)監督の戦後初監督作品で、板東妻三郎(1901-1953/享年51)の戦後第1回主演作でもあり、原作は後の衆議院議員・谷口善太郎で、脚本は監督の丸根善太郎が書いています。
人足仲間の辰を演じる羅門光三郎(作家・中島らものペンネーム由来の役者)、寅八のライバルで寅八に一目置いている馬方の頭分・丑五郎役の光岡龍三郎、質屋大黒屋の主人で阿漕だが人情もある蜂左衛門役の見明凡太朗、巡業の度に善太に力士人形を届ける力士・賀太野山役の阿部九洲男など、脇役も活き活きしています。
![次郎物語 [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E6%AC%A1%E9%83%8E%E7%89%A9%E8%AA%9E%20%5BVHS%5D.jpg)


原作は下村湖人の同名長編小説で、この未完の教養小説(全7部作の構想で第5部まで。1941年から1954年刊行)の映画化作品は、この島耕二監督の作品('41年/日活)以降にも、清水宏監督の作品('55年/新東宝)、野崎正郎監督の作品('60年/松竹)、森川時久監督の作品('87年/東宝)がありますが、一般的評価はこの島耕二監督の作品が高いみたいで、子供の世界の描き方においては、清水宏監督の作品の評価も高いようです。
衛生劇場の「大林宣彦のいつか見た映画館」で'12年4月に放映され、大林監督自身この作品を、昔観てそんなに感じなかったけれど、今観直して、「名作」であると思ったと―。「映画に映っている日本の風景が、今は無い名作なんですよね。あの山、あの野原、あの川、そこに通る道、そこを歩く人々とのふれあい、語らい、そして交し合う情の深さ、美しさ...それは今より貧しくて、不便や我慢がいっぱいあった暮らしだとは思うんですが、今半世紀を過ぎて観直すと、あの頃の日本は、そこに暮らす人々は、それ自体が何と名作であったか...という事を実感させられるんですよね。非常に実直に淡々と当時の日本を丁寧に描いた映画なんです」と述べています。
長回しで映し出す原っぱや藪林と、そこを走る子供の撮り方などは、「風の又三郎」の時から上手かったなあ、この監督。それに加えて、夜の野外のシーンなども、丁度、昼間の世界を反転させたような感じで「光と影」がくっきりしているけれど、これ、まともに夜に撮影したら当時の技術ではこうはならないわけで、昼間に明かりを絞り込んで擬似夜景で撮っているそうです。
お浜役の杉村春子が、昔から演技が上手かったことが分かりますが(イ音を発音する際の口元に特徴がある)、少年期の次郎役の子役も悪くないし、作品全体としても、次郎の周囲の人々が次郎を見守っているという感じがよく出ていました。
でも、NHK版の「次郎物語」のイメージが個人的には強くあって、苛められないと"次郎"じゃない―というふうに、自分の中でイメージが出来上がってしまっているかも。NHKでドラマ化されたのは'64年から'66年にかけてで、池田秀一(この人、俳優歴より声優歴の方が長くなったのでは)演じる次郎が実家で祖母に苛められるエピソードが繰り返され、次郎が可哀そう過ぎるぐらいで(これはこれで、後の
同じく佐賀を舞台にした連続テレビドラマ「おしん」('83年から'84年)のような人気効果を生んでいたとも言えるが)、ペギー葉山が歌う主題歌も、「一人ぼっちの次郎はころぶ」なんて、ちょっと物悲しいものでした(でも、やっぱり名作ドラマと言えるのではないか)。
それ比べるとこの映画の方は、祖母の冷たい仕打ちは殆ど端折られていて、むしろ、母親と共に暮らす年月が少なくとも、誰かしらの愛情を受けることによって、次郎がまっすぐ生きていく様にウェイトが置かれていたように思われ、更に、終盤の母親との生活は、母子の絆の修復ともとれます(原作者自身が掲げた第1部のテーマは「教育と母性愛」)。
この時、次郎が言った「立派な人」というのを、下村湖人はどう構想していたのか。これ、現実の時代の進行と完全にはリアルタイムではないけれど、それと重なり合う部分もあったかもしれない大河物語だったんだなあと思いました。




村湖人●出演:池田秀一/久米明/日高ゆりゑ/浅野寿々子/加藤道子/渡辺文雄/折原啓子/二木てるみ/宮城熙松●放映:1964/04~1966/03(全9?回)●放送局:NHK
ペギー葉山



空風吹き荒ぶ上州・馬目の宿場町は、2つのやくざ勢力の対立によって墓場のように静まり返っていたが、そこへ流離の浪人(三船敏郎)が現れ、居酒屋の亭主の権爺(東野英治郎)から村を荒んだ状況にしている元凶である抗争話を聞きつけ、桑畑三十郎と名乗って両方の勢力に用心棒として売り込みつつ、巧みに相討ちを仕組んでいく。しかし、そこに伊達な雰囲気を漂わせた丑寅の弟、新田(しんでん)の卯之助(仲代達矢)が最新の短銃を手に帰郷して―。
馬目の名主(なぬし)絹問屋主人の多左衛門(藤原釜足)が肩入れしている女郎屋の清兵衛(河津清三郎)がこの町のやくざの親分で、清兵衛が倅の与一郎(太刀川寛)に縄張りを譲
ろうとしたため、一の子分の新田の丑寅(山茶花究)が怒って袂を分かち、それを次の名主の座を狙う造酒屋の徳右兵衛(志村喬)が後押しするという構図になっていて、表向きは「多左衛門vs. 丑寅」のやくざ抗争ですが、それ
ぞれバックに絹問屋と造酒屋が付いているということになり、『赤い収穫』ほど設定は複雑ではないものの、一応枠組みを早めに理解しておいた方が楽しめます(東野英治郎演じる権爺が手短に話してはいるが)。
でも、この包丁投げ、残る丑寅方を潰すには、卯之助さえ封じ込めれば後は何とかなり、但し、短銃を肌身離さず持っている彼を倒すには、こっちも飛び道具でいくしかないという三十郎の読みだったわけで(練習してたのかあ)、権爺が丑寅方に囚われたことを知った三十郎が単身で丑寅方へ乗り込み、「1対大勢」の決闘で三十郎が先ずやったことは―。
役者陣が豊富と言うか、丑寅の子分役でジェリー藤尾とか、清兵衛の子分役で天本英世とか、百姓の小倅役で夏木陽介とかも出ていたんだなあと。印象に残っている脇役は、丑寅の子分・閂(かんぬき)を演じた台湾出身の元力士新高山(1940年花籠部屋に入門)こと羅生門綱五郎かな。2メートルを超える大男で三十郎を軽く投げ飛ばしてしまいますが、セリフもちゃんとあって、しっかり演技もしています。
この映画を非公式に(東宝の許諾無しに)リメイクした作品では、クリント・イーストウッドの出世作「荒野の用心棒」('64年/伊)があり(東宝は「荒野の用心棒」の製作側を訴え、勝訴している)、東宝の許諾を得てリメイクしたものには、ブルース・ウィリス主演の「ラストマン・スタンディング」('96年/米)がありますが、「ラストマン・スタンディング」にも大男が出てたなあ。

どちらも傑作ですが、個人的には、最初にビデオで観てしまった「椿三十郎」よりも、名画座ながらも一応は劇場で観た「用心棒」の方がインパクトあったかなあ。「七人の侍」('54年)と同じく本来は劇場で観たい映画ですが、どちらもあまり劇場でのリヴァイバルにはかからない。ただ、最近は大画面テレビもが普及しているし、せっかく大画面テレビがウチにあるなら、こういう作品こそ観るべきではないかなと。作家・吉村昭は、完成度、面白さでこの作品をベストワンに挙げています(2位が「七人の侍」)。[『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)より]



三船敏郎(1961年、「用心棒」で日本人初のベネチア国際映画祭男優賞に選ばれる)
「用心棒」●制作年:1961年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:黒澤明/菊島隆三●撮影:宮川一夫●音楽:佐藤勝●剣道指導:杉野嘉男●時間:110分●出演:三船敏郎(桑畑三十郎)/仲代達矢(新田の卯之助)/東野英治郎(居酒屋の権爺)/河津清三郎(馬目の清兵衛)/山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)/太刀川寛(清兵衛の倅与一郎)/志村喬(造酒屋徳右衛門)/藤原釜足(名主左多衛門)/
夏
木陽介(丑寅の子分(元は百姓の小倅))/山茶花究(新田の丑寅)/加東大介(新田の亥之吉)/渡辺篤(桶屋)/土屋嘉男(百姓小平)/司葉子(小平の女房ぬい)/沢村いき雄(番屋の半助)/西村晃(無宿者・熊)/加藤武(無宿者・瘤八)/藤田進(用心棒・本間先生)/中谷一
郎(斬られる凶状持)/堺左千夫(八州周りの足軽)/谷晃(丑寅の子分・亀)/羅生門綱五郎(丑寅の子分・閂(かんぬき)/ジェリー藤尾(丑寅の子分・賽の目の六)/清水元(清兵衛の子分・孫太郎)/佐田豊(清兵衛の子分・孫吉)/天本英世(清兵衛の子分・弥八)/大木正司(清兵衛の子分・助十)●劇場公開:1961/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場パール座(81-03-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-12-25)(評価★★★★★) 







日本が戦争へと向かい始めていた昭和8年、京大教授の八木原(大河内伝次郎)の娘として何不自由無く活発に育った幸枝(原節子)と、父の教え子である、糸川(河野秋武)、野毛(藤田進)ら7人の学生達がいた。常識と立場を重んじる秀才型の糸川、正しいと信じた事は立場に関係なく主張する熱血型の野毛の2人は幸枝に好意を持っていた。幸枝も対照的な2人それぞれに惹かれるが、八木原教授への弾圧により湧き上がった学生運動を契機に、大学に残った糸川と左翼運動に邁進する野毛は生き方が別れていく。
幸枝は自らの満たされた生き方に疑問を感じ、時代が戦争へと流れていく中、自活の道を探って上京、そこで検事となった糸川、反戦運動をする野毛と再会し、野毛と同棲する道を選ぶが、間もなく野毛はスパイ容疑で検挙され、幸枝も特高警察から屈辱的な尋問を受ける。八木原は野毛の弁護のため上京するが、野毛事件の担任検事である糸川より野毛が獄死したことを知らされ、それを聞かされた幸枝は、スパイの汚名のもとに死んだ野毛の想いを胸に、田舎で百姓をしている野毛の両親の下に走った―。
黒澤明(1910-1998)監督作品ですが、GHQの奨励したいわゆる民主主義映画の一つであり、脚本も黒澤のものではなく、娯楽性もゼロ。一番の注目は、黒澤明が原節子を撮るとこうなるのかいうのが如実に見られる点で、それでも前半の原節子がお嬢さん演技をしている部分はあまり黒澤らしくもなく、黒澤自身、あまり気合いが入っていない印象も。
それが、幸枝が野毛の獄死を知ってすぐに野毛の両親の元へ行き、鋤を振るうところから急にアクション映画っぽい演出になり、折角植え終わった苗を野毛家を「スパイの家」として差別する村人にむしり撤かれ、それでもまた田植えをするシーンなどは撮り方が殆どアクション映画、野毛の墓参りに来た糸川を追い返すシーンまでは、ああ、これでこそ黒澤映画だなあという印象でした。
プロパガンダ映画でありながら、「キネマ旬報年間ベスト2位」は、やはり黒澤の演出力?―とは言え、プロパガンダ映画の宿命で、糸川などの人物造型があまりにパターン化しており、"卑怯者"の役を押し付けられた河野秋武が何だか気の毒になるぐらいですが、今井正監督が撮った、戦時中の工場での財閥
の横暴を描いた「民衆の敵」('46年4月公開)の方では、河野秋武は藤田進と共に反財閥の闘士の役を演じていて(これもプロパガンダ映画)、この作品では河野秋武の演じる工場長が憲兵に拘引されます(因みに、 「わが青春に悔なし」で幸枝を取調室でねちねち苛める「毒いちご」と呼ばれる特高警察を演じた志村喬は、「民衆の敵」では中小企業の合併を強行する財閥の理事長役と、どちらもの作品においても"悪役"を演じている)。
「わが青春に悔なし」●制作年:1946年●監督:黒澤明●製作:松崎啓次三●脚本:久板栄二郎●撮影:中井朝一●音楽:服部正●時間:110分●出演:原節子/藤田進/河野秋武/大河内傳次郎/三好栄子/高堂国典/杉村春子/清水将夫/田中春男/千葉一郎/米倉勇/高木昇/佐野宏/志村喬●劇場公開:1946/10●配給:東宝(評価:★★★)●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-10-01)



第147回「直木賞」「芥川賞」受賞の辻村深月・


情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

アクション風ということで、「
AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。
因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅「静園」なども訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれていなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。
ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。
2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。完全版を観れば評価が変わるかもしれません。
「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:
「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオ
・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
ジョアン・チェン/ベルナルド・ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」('87年/伊・中国・英)・デヴィッド・リンチ監督「


マリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」2018(平成30)年12月2日休館、2019(令和元)年10月4日~ドルビーシネマ専用劇場「丸の内ピカデリー ドルビーシネマ」として再オープン) 
丸の内ルーブルの巨大シャンデリア




(●2013年に石井裕也監督、松田龍平主演で映画化され、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞をはじめ6部門の最優秀賞を受賞、石井裕也監督は芸術選奨新人賞も受賞したほか、主演の松田龍平をはじめとするキャストやスタッフも多くの個人賞を得た。原作では年代を特定していないが、映画では松田龍平演じる主人公・馬締が辞書編集部に配転になったのが1995年で、原作で後日譚として扱われている部分が

その12年後となっている。細部での改変はあるが、全体としては原作のストーリーを比較的忠実に追っている感じで、松田龍平、宮﨑あおい、オ
ダギリジョー、黒木華といった若手の俳優陣も頑張っているが、加藤剛、小林薫、伊佐山ひろ子、八千草薫といったベテランが脇を固めているのが大きく、特に、加藤剛の「先生」は印象的だった。そもそも、原作が、その後数多く世に出た"お仕事系"小説のどれと比べても優れているため、原作の良さに助けられている部分もあるが、少なくとも原作の持ち味を損なわずに活かしているという点で良かったと思う。)
「舟を編む」●制作年:2013年●監督:石井裕也●プロデューサー:土井智生/五箇公貴/池田史嗣/岩浪泰幸●脚本:渡辺謙作●撮影:藤澤順一●音楽:渡邊崇●時間:133分●出演:松田龍平/宮﨑あおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/鶴見辰吾/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛/宇野祥平/森岡龍/又吉直樹/斎藤嘉樹/波岡一喜/麻生久美子●公開:2013/04●配給:松竹=アスミック・エース(評価:★★★★)
●2024年ドラマ化 【感想】2024年2月18日から4月21日まで、NHK-BSプレミアム4Kの「プレミアムドラマ」枠で池田エライザと野田洋次郎の主演でドラマ化(この枠で前回は、篠田節子の2008年刊行の『
マ向きではないかも)。その馬締を演じてた野田洋次郎はロックバンド「RADWIMPS」のボーカル&ギターだが、まずまずの演技だった。











以下、「夜更けにハーモニカを」「シビックで朝まで」「黙祷はビートルズで」「空の上から祈りを」と続き、『新参者』('09年/講談社)もそうでしたが、各章で独立した話をもってきながらも、章と章のストーリーや登場人物の関係のさせ方が上手いなあと思いました(その絡ませ方の妙は『新参者』以上かも)。
2017年映画化
単行本['89年] 

この「榎屋敷宵の春月」は、2008年の暮にNHKが「花の誇り」というタイトルでTVドラマとして映像化していますが(脚本:宮村優子、出演:瀬戸朝香/酒井美紀)、個人的には未見です。




幕末、雪深い越後長岡藩から江戸に出府した河井継之助(つぎのすけ)は、いくつかの塾に学びながら、歴史や世界の動きなど物事の原理を知ろうと努め、更に、江戸の学問に飽き足らなくなった継之助は、備中松山の藩財政を立て直した山田方谷のもとへ留学、長岡藩に戻ってからは藩の重職に就き、様式の銃器を購入して富国強兵に努めるなど藩政改革に乗り出すが、ちょうどその時、大政奉還の報せが届いた―。
因みに司馬遼太郎が日本近代兵制の創始者・大村益次郎(村田蔵六)の生涯を描いた『花神』(1969(昭和44)年10月から1971(昭和46)年11月まで朝日新聞夕刊に連載)が'77(昭和52)年のNHKの大河ドラマ「花神」として放映された際に、脚本を担当した大野靖子(1928-2011/享年82)は、ドラマの中に『花神』だけではなく、司馬遼太郎作品から『世に棲む日日』『十一番目の志士』、そして、この『峠』の要素も織り込んだため、ドラマ









労働基準監督官を主人公としたドラマは、連続ドラマとして1クール放映されたものはないみたいですが、'05年7月にフジテレビで「労働基準監督官 和倉真幸」というのが単発ドラマとして放映されています。東ちづるが女性監督官を演じたらしく、新聞のテレビ欄の見出しによれば「労災隠し」をモチーフにしたものだったようです。 (その後、日本テレビ系列で「ダンダリン 労働基準監督官」が、竹内結子主演で2013年10月から1クール(全11回)放映された。)