【435】 ◎ 司馬 遼太郎 『坂の上の雲 (全6巻)』 (1969/04 文芸春秋) ★★★★☆ (× 舛田 利雄「二百三高地 (1980/08 東映)★★)

「●し 司馬 遼太郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【436】 司馬 遼太郎 『項羽と劉邦
「●ま行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●三船 敏郎 出演作品」の インデックッスへ 「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ 「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ「●平田 昭彦 出演作品」の インデックッスへ「●永島 敏行 出演作品」の インデックッスへ「●山本 直純 音楽作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(司馬遼太郎)

"無能"将軍・乃木希典をなかなか解任できない軍部に見る官僚主義。

坂の上の雲1.jpg 坂の上の雲2.jpg 坂の上の雲3.jpg 坂の上の雲4.jpg 坂の上の雲5.jpg 坂の上の雲6.jpg 二百三高地 dvd.jpg
新装改訂版(全6巻)['04年](カバー画:風間 完) 『坂の上の雲 <新装版> 1』『坂の上の雲 <新装版> 2』『坂の上の雲〈3〉』『坂の上の雲〈4〉』『坂の上の雲 <新装版> 五』『坂の上の雲 <新装版> 六』「二百三高地 [DVD]

映画「二百三高地」(1980東映).jpg 1968(昭和43)年から1972(昭和47)年にかけて「産経新聞」に連された長編大河小説で、経営者に最も読まれている小説といえば、かつては『徳川家康』(山岡荘八)、今はこの『坂の上の雲』ということですが、この『坂の上の雲』は、'69年の単行本刊行以来、文庫も含め1400万部ぐらい売れているとのこと、'04年には単行本の新装版が出ました(読みやすいが、6巻とも文庫本新版の第1巻の表紙絵を流用しているのはなぜ?)。 
 
 松山出身の歌人正岡子規と軍人の秋山好古・真之兄弟の三人を軸に描いた作品というよりも、正岡子規が病死して早いうちに小 説の舞台から去ってしまうことでもわかるように、維新から日露戦争に至るまでの明治日本の人物群像を描いたものと見るべきで、登場人物は1000人を超えるそうで、"情報将校"明石元二郎などはかなり詳しく取り上げられていて、関係する本を読んでみたくなりました。

いずれも映画「二百三高地」(1980/東映)より
「二百三高地」1.jpg 物語のクライマックスは、二〇三高地で有名な旅順大戦と、ロシアのバルチック艦隊に勝利した日本海海戦ですが、間に様々な人物挿話が入り(ロシア側の人物もよく描けている)、バルチック艦隊がアフリカ東岸マダガスカルあたりでいつまでもグダグダしている(スエズ運河を支配していた大英帝国が日英同盟の名の下にロシアにスエズ運河の通過許可を出さなかったためにアフリカ大陸を迂回するハメになった)、その間にも、著者のウンチクは繰り広げられます。
 
「二百三高地」2.jpg これを面白いと見るか、冗長と見るか。著者の初期作品のような快活なテンポはないけれど、先述のスパイ活動をやった明石元二郎の秘話など随所に面白い話がありました。

 全体を振り返ると、やはり旅順攻防の凄惨さが印象的で、旅順陥落での開城の際に、日露の兵が抱き合い、共に酒場に繰り出した兵士もいたというのが、それを物語っています。陥落直前にはすでに両軍の兵に士気は無く、皆自分が生き残れるかを考えるようになっていたわけです。 
 
203.jpg この作品での乃木希典将軍の無能ぶりの描き方は徹底していて、乃木は、日本戦史上、最も多くの部下をむざむざと死地へ追いやった大将ということになるのではないでしょうか。 

 その描き方の賛否はともかく、彼をなかなか解任できないでいる軍中枢部(その間にも多くの将兵がどんどん犬死していく)に、いったんエリートとして位置づけた人物に対し、他の者を犠牲にしてもその人物のキャリアを守ろうとする官僚主義の非合理を見た思いがします。

「二百三高地」3.jpg それにしても、バルチック艦隊の大航海とその疲弊による敗北は、近代戦において最も時間と費用を要するのがロジスティックであることを端的に象徴していると思いました(湾岸戦争もイラク戦争も「輸送」に一番カネがかかっている)。
 
 兵器の能力などを戦争における"戦術"部分だとすれば、ロジスティックは"戦略"部分に当たり、"ランチェスターの2次法則"ではないが、近代戦において強国は"戦略"にふんだんにカネを注ぐ―ただし、その"戦略"そのものが戦局の読み違いのうえに立脚していたのでは相手に勝てないということを、この小説は教えてくれます。

「二百三高地」5.jpg 二〇三高地の攻防戦をメインに描いた舛田利雄監督の映画「二百三高地」('80年/東映)は3時間の大作、時折旅順大戦の戦況図なども画面に出てきて、大戦の模様を正確に描こうとしている姿勢は買えますが、これだけ乃木希典(仲代達矢)が自軍の兵士たちに強いた犠牲の大きさを描きながらも、彼を悲劇の英雄視するような姿勢が窺えて解せませんでした。さだまさしの音楽もとってつけたような感じで、(自分が司馬遼太郎のこの小説に感化された部分もあるかも知れないが)乃木希典の戦術的無能を情緒的な問題にすりかえてしまっている印象を受けました。

7二百三高地 丹波哲郎 dvdジャケット1.jpg「二百三高地」●制作年:1980年●監督:舛田利雄●脚本:笠原和夫●撮影:飯村雅彦●音楽:山本直純●主題曲:さだまさし●時間:181分●出演:仲代達矢/あおい輝彦/新沼謙治/湯原昌幸/佐藤允/永島敏行/長谷川明男/稲葉義男/新克利/矢吹二朗/船戸順/浜田寅彦/近藤宏/伊沢一郎/玉川伊佐男/名和宏/横森久/武藤章生/浜田晃/三南道郎/二百三高地 丹波哲郎.jpg北村晃一/木村四郎/中田博久/南廣/河原崎次郎/市川好朗/山田光一/磯村健治/相馬剛三/高月忠/亀山達也/清水照夫/桐原信介/原田力/久地明/秋山敏/金子吉延/森繁久彌/天知茂/神山繁/平田昭彦/若林豪/野口元夫/土山登士幸/川合伸旺/久遠利三/須藤健/吉原正皓/愛川欽也/夏目雅子/野際陽子/桑山正一/赤木春恵/原田清人/北林早苗/土方弘/小畠絹子/河合絃司/須賀良/石橋雅史/村井国夫/早川純一/尾形伸之介/青木義朗/三船敏郎/松尾嘉代/内藤武敏/丹波哲郎●公開:1980/08●配給:東二百三高地 三船敏郎.jpg二百三高地 丹波哲郎.jpg映●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★★)●併映:「将軍 SHOGUN」(ジェリー・ロンドン)
三船敏郎(明治天皇)/丹波哲郎(児玉源太郎)
「二百三高地」森繁.jpg「二百三高地」永島.jpg
森繁久彌(伊藤博文)
永島敏行(乃木希典次男・乃木保典)

 【1969年単行本・1972年改訂・2004年再改訂[文芸春秋(全6巻)]/1978年文庫化・1999年改訂[文春文庫(全8巻)]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年9月 9日 23:41.

【434】 ○ 司馬 遼太郎 『功名が辻 (上・下)』 (1965/06 文芸春秋) 《『功名が辻 (全4巻)』(1976/01 文春文庫)》 ★★★★ was the previous entry in this blog.

【436】 ○ 司馬 遼太郎 『項羽と劉邦 (上・中・下)』 (1980/01 新潮社) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1