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平面的なRPGゲームの世界から抜け出ておらず、テンポもあまり良くない。
『英雄の書 (カッパ・ノベルス)』/『英雄の書(上) (新潮文庫)』『英雄の書(下) (新潮文庫)』/単行本(上・下)
小学五年生の森崎友理子は、中学二年生の兄・大樹が同級生を殺傷して失踪するという事件に遭い、兄の身を心配する中、彼の部屋で、大叔父の別荘から兄が持ち出した赤い本が「ヒロキは『エルムの書』に触れたため、"英雄"に憑かれてしまった」と囁くのを聞く。兄を救い出すべく、"英雄"が封印されていた"無名の地"に足を踏み入れた彼女は、そこで、兄が"英雄"の負の側面「黄衣の王」に魅入られていたことを知る。無名の地、そして別の「領域(リージョン)」である「ヘイトランド」を行き来する彼女は、「印を戴く者(オルキャスト)」となり「ユーリ」を名乗って、やがて「黄衣の王」と対決する―。
'07年から'08年にかけて1年3ヵ月にわたり毎日新聞に連載されたファンタジー小説で、『ブレイブ・ストーリー(上・下)』('03年/角川書店)の続編とも言われていますが、ファンタジーの世界に入っていく際に"家族"が絡んでいるのは似ているけれども(『ブレイブ・ストーリー』の場合は両親)、基本的にはそれとは別の独立したストーリーです。
アニメ映画('06年公開)や漫画、RPGゲームにもなった『ブレイブ・ストーリー』の"陽"をとすれば、こちらは"陰"の世界であるとのことで、その分、大人の感性にも充分耐えるものかとの期待もありましたが、読んでみて、個人的には平面的なRPGゲームの世界から抜け出ていないように思いました。
前半を引っ張り過ぎているため、テンポがあまり良くない印象で、これは、作者の最近の、ファンタジーに限らないその他の"分厚い"小説にも見られる傾向ではないかと。
前半を引っ張り過ぎた原因は、この作品を書くにあたって幾つかの"底本"があったようですが、その影響を受け過ぎていることにあるのではないかと思われ、ここがあまり面白くない(単行本を購入し、途中で読むのを中断していたら文庫化されてしまった...)。
既に「サンデー毎日」で本書の続編「悲嘆の門」の連載が始まっていますが、今度は、自分の子供が無名僧にされてしまった母親がリージョンに子供を取り返しに行く話らしく、「親」「兄弟」の次は「子」ということか。
【2011年ノベルズ化[カッパ・ノベルズ]/2012年文庫化[新潮文庫(上・下)]】