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妻は夫に大きなものを遺したが、そうすることが彼女の最後の生きがいにもなったのでは。

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「青いカフタンの仕立て屋」

「青いカフタンの仕立て屋」01.jpg モロッコ海沿いの街サレ。旧市街の路地裏で、ミナ(ルブナ・アザバル)とハリム(サーレフ・バクリ)の夫婦は母から娘へと世代を超えて受け継がれる、カフタンドレスの仕立て屋を営んでいる。伝統を守る仕事を愛しながら、自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩するハリム。そんな夫を誰よりも理解し支えてきたミナは、病に侵され余命僅かである。そこにユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)という若い職人が現れ、誰にも言えない孤独を抱えていた3人は、青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。そして刻一刻とミナの最期の時が迫る―。

「青いカフタンの仕立て屋」02.jpgマリヤム・トゥザニ.jpg モロッコ出身の映画監督マリヤム・トゥザニの2022年作品。2022年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。本作のタイトルにもあるカフタンとはモロッコの民族衣装で、結婚式や宗教行事など、フォーマルな席で着用するドレスのこと。コードや飾りボタンなどで華やかに刺繍を施し、完成に数カ月を費やすオーダーメイドの高級品となるものです。

「青いカフタンの仕立て屋」03.jpg 妻ミナと夫ハリムの間に25年間の結婚生活で築かれた愛情がある一方、芸術家乃至職人肌のハリムには世間知らずの子どものようなところもあり、実務家で現実家肌のミナが、独り立ちできない息子を助ける過保護な母親のようにも見えます。そうした二人の関係を、言葉や事件ではなく、その仕事などをする日常を描くことで観る側に伝えているのが旨いと思いました。

 二人の間にユーセフという若者が現れることで、ハリムの心の内に隠していた本来的性向である男性に対する愛情は刺激され、ミナは危惧と嫌悪感を抱きます。一方で、ミナ自身は病(原発は乳がん)のため日々痩せていき、観ていて先どうなるのかと...。

「青いカフタンの仕立て屋」04.jpg しかし、このミナという女性が強かった! 自らが余命いくばくもないことを悟るや、今で経験していなかったことを夫といろいろ経験しようとし、一方で、仕事にこだわりを持っているくせに、無茶を言うお客には抗えないという夫の性格を矯正し、自分がいなくても一人で仕事や店をマネジメントしていけるよう教育しています。

 そして、彼女は最後に大きな決断をします。当然のことながら夫の性向に嫌悪感を抱いていた彼女が、最後に夫に伝えた言葉「愛することを恐れないで」が強烈に心に残ります。これにより、夫は性的自我の不一致を乗り越え、それまで分裂していたアイデンティを回復するのです。

「青いカフタンの仕立て屋」002.jpg ミナは夫にすごく大きなものを遺したと思います。自分が亡くなった後も夫が自立して生活できるようにすることが、彼女の最後の生きがいであり、自らの病を嘆いている間もなくそのことに没頭したという意味では、彼女にとっても充実した最期の時間だったかもしれません。そして、その延長線上に、夫のアイデンティを回復を後押しする言葉があったのだと思います。

 ミナの死後にハリムが、客に引き渡すはずだった最高傑作の青いカフタンを、生前、一度でいいからこういうのを着てみたかったと言っていた妻の亡骸に着せ、ユーセフと共に担いで埋葬に向かうシーンも良かったです(「弔い」ということもテーマの1つだった)。

マリヤム・トゥザニ ルブナ・アザバルは.jpg ミナを演じたルブナ・アザバルは、マリヤム・トゥザニ監督の長編デビュー作「モロッコ、彼女たちの朝」('19年/モロッコ・仏・ベルギー)に続く主演で、ドゥニ・ヴィルヌーヴ 監督 「灼熱の魂」 ('10年/カナダ・仏)にも主演していましたが、今回は、乳がんの進行に合わせて期迫るミナを体現するために大幅に減量し、熱演を見せています。日本の映画でもガンになった登場人物はよく見られますが、首から上だけメイクして躰は布団に覆われていることなどが多いのに対し、この映画では実際に痩せ細った躰を見せていて、痛々しさが伝わってきました。

 タイトルは原題のまま「青いカフタン」で良かったように思います。やはりり「仕立て屋の恋」に倣って「仕立て屋」と入れたかったのか。だとしたら、いつも青ばかりを織っているわけではないので、「カフタンの仕立て屋」になるのではないでしょうか。

 マリヤム・トゥザニ監督は、今年['23年]のカンヌ映画祭ではコンペティション部門の審査員に選出されています。この監督はいつかカンヌ映画祭の最高賞「パルム・ドール」を獲るのではないかなという気がします。
   
カフタンを着たマリヤム・トゥザニ監督と主演のルブナ・アザバル(2022年カンヌ国際映画祭/左はトゥザニ監督の夫で映画監督・プロデューサー・作家のナビール・アユーシュ。この作品でも製作・脚本を務めた)

「青いカフタンの仕立て屋」05.jpg「青いカフタンの仕立て屋」●原題:LE BLEU DU CAFTAN●制作年:2022年●制作国:フランス/モロッコ/ベルギー/デンマーク●監督:マリヤム・トゥザニ●製作:ナビール・アユーシュ●脚本:マリヤム・トゥザニ/ナビール・アユーシュ●撮影:ビルジニー・スルデー●音楽:ナシム・ムナビーヒ●時間:122分●出演:ルブナ・アザバル/サーレフ・バクリ/アイユーブ・ミシウィ●日本公開:2023/06●配給:ロングライド●最初に観た場所:新宿武蔵野館(23-07-20)((評価:★★★★☆)
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マギー・チャン出演2作。ラストがいい「ラヴソング」。勉強になった「宋家の三姉妹」。

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ラヴソング」マギー・チャン(張曼玉)/レオン・ライ(黎明)
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宋家の三姉妹」マギー・チャン(張曼玉)/ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)[左]

「ラヴソング」 01.jpg 1986年。故郷 天津に恋人シャオティン(小婷)(クリスティ・ヨン(楊恭如))を残し、シウクワン(小軍)(レオン・ライ(黎明))は香港へやって来る。シウクワンの夢は、香港で金を蓄えてシャオティンと結婚すること。しかし、広東語はチンプンカンプン、右も左も分からない香港では迷う事ばかり。そんなある日、初めて入ったハンバーガーショップで 店員のレイキウ(李翹)(マギー・チャン(張曼玉))に偶然助けられ、彼女と徐々に親しくなっていく。いくつも仕事を掛け持ちするシッカリ者のレイキウは、シウクワンにとって、香港で唯一頼れる友人に。ところが、何でも知っているように見えたレイキウもまた広州からやって来た大陸出身者であると判る。香港で孤独な二人はどんどん親密になり、1987年大晦日の晩、ついに一線を越えてしまう。それでも、お互いを"友人"と偽り続け、関係を続けるが、1990年、シウクワンは天津から呼び寄せたシャオティンと結婚、レイキウもまたパウ(豹哥)(エリック・ツァン(曾志偉))の援助で、実業家として成功していくのであった―(「ラヴソング」)。

 1996年(香港返還の前年)11月に公開されたピーター・チャン(陳可辛)監督作で、出演はマギー・チャン(張曼玉)、レオン・ライ(黎明)、エリック・ツァン(曾志偉)など。1998年・第16回「香港電影金像奨」で最優作品賞・最優秀主演女優賞・最優秀助演男優賞など9つの賞、「台湾映画金馬賞」最優秀脚本賞、米国の「シアトル国際映画祭」最優秀作品賞などを受賞し、「タイム」では同年度の世界での優秀な作品トップ10で2位に選ばれています。20世紀末で最も成功したラブストーリー映画とも称され、同作品のヒロイン、マギー・チャンは「ロアン・リンユィ 阮玲玉」('91年/香港)に続いて2回目の金像賞、金馬賞のダブル受賞を達成しています。

「ラヴソング」 11.jpg 1986年から始まり、1995年までの主人公二人の10年に及ぶ心温まるラブストーリーで、特にラストがいいですが、ラストがいいと感じられるということは、そこまでのストーリーの積み上げ方が上手いのでしょう。テレサ・テンの歌をモチーフにしており、「ラヴソング」 12.jpg原題にもなっている「甜蜜蜜(ティェンミミ/ 蜜のように甘く)」という曲もその1つ。当時香港ではテレサ・テンのファンであることは 大陸出身であることを意味し、それを隠すためテレサ・テンのカセットは密かに買われていたようですが、 それまでいかにも香港人らしく振る舞っていたレイキウも実は大陸出身であることを告白し、他に親しい人のいない寂しい二人の仲は一気に 深まっていきます。

「ラヴソング」 l.jpg 二人が自転車に乗って「甜蜜蜜」を歌うのが、恋愛の始まりの高揚感を現していて良かったです(まさに「ラヴソング」)。テレサ・テンの曲では、その他に、「再見!我的愛人」(アン・ルイスの「グッドバイ・マイ・ラブ」)、「涙的小雨」(クールファイブの「長崎は今日も雨だった」)といったカバー曲も流れます。テレサ・テンが亡くなったのは1995年5月8日ですが、そのニュースが流れる場面が最後にあり、この映画で重要な役割を果たします。この映画はテレサ・テンが亡くなった翌年に作られているため、ラストシーンはほぼリアルタイムということになります。

「我が心のテレサ・テン」.jpg テレサ・テンについては、昨年['22年]8月にNHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」で"我が心のテレサ・テン"として取り上げていましたが、日本人が一般に抱く「台湾からやって来た歌手テレサ・テン」のイメージとは大違いであり、彼女は当時すでにアジアの歌姫であって、天安門事件(1989年)などに苦しむ中国の若者たちにとっては、政治的メッセージを発する自分たちのシンボル的な存在であったようでです(ただし、この映画では天安門事件などは描かず、そうした政治的メッセージを伏せている)。

「ラヴソング」 つあん.jpg エリック・ツァン(曾志偉)演じる、レイキュウがその愛人になってしまうヤクザ者のパウ(豹哥)も、実は見かけに「ラヴソング」 ドイル.jpgよらず人間味のあるいい男でした(エリック・ツァンはこの演技で「香港電影金像奨最優秀助演男優賞」を受賞)。ウォン・カーウァイ監督作品の撮影監督で知られるクリストファー・ドイルが、英語学校の酔いどれ不良講師役で出ていますが(その授業というのが、海賊映画を見せてその台詞を覚えさせるものだった)、これもまた見かけによらず優しい男であり、この辺りもラブロマンス的には良かったです。


「宋家の三姉妹」1997.jpg 1900年代の初頭。中国の大財閥の総帥チャーリー宋(チアン・ウェン(姜文))は、三姉妹のわが子を米国留学させた。長女の宋靄齢は14歳。三女の美齢はまだ9歳の時に。当時の中国は清朝打倒運動が盛んで、宋も密かに革命家の孫文(ウィンストン・チャオ(趙文瑄))を支援していた。やがて辛亥革命で清朝は滅亡、孫文は中華民国大統領に選出される。1910年、帰国して孫文の秘書となる長女の靄齢(ミシェル・ヨー(楊紫瓊))。だが、靄齢は程なく富豪の孔祥熙(ニウ・チェンホワ(牛振華))と結婚。代わって孫文の秘書となる次女の慶齢(マギー・チャン(張曼玉))。政争に破れた孫文が日本に亡命すると慶齢も渡日し、親の反対を押し切って親「宋家の三姉妹」01.jpg子ほど歳の離れた孫文と結婚。1922年、広東に革命政府を樹立した孫文は、味方であるはずの軍閥に急襲され、軍事顧問の蔣介石(ウー・シングォ(呉興国))により救出される。だが、妻・慶齢は脱出に苦労し、妊娠中の子を失う。1924年、孫文の抜擢で蒋介石は黄捕士官学校の校長となる。学校設立には、財閥である靄齢の夫・孔祥熙が深く関わっていた。蒋介石の出世を見越して、妹の美齢(ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅))に結婚を勧める靄齢。1925年、「宋家の三姉妹」02.jpg孫文は総理在任中に「革命未だ成らず」と言い残して逝去。人々から孫文の思想の象徴と見なされる慶齢。政治的に孫文になり代わったのは総司令官の蒋介石だった。蒋家の権力、孔家の財力。孫家の名声が国を動かすと確信する靄齢。孫文が作り上げた中国国民党は彼の死後、権力争いで分裂。乱れた国民党を嫌って脱退する慶齢。混乱に乗じて権力拡大を画策する蒋介石。蒋介石を非難した慶齢は、美齢や靄齢と敵対する。美齢は既に蒋介石と婚約していたのだ。1927年、慶齢はソ連に渡り、美齢は国民革命軍の総司令官となった蒋介石と盛大な結婚式を挙げる。1931年。満洲事変が勃発するが、蒋介石の国民党は中国共産党の粛清を優先し、日本軍の侵攻を許す。ソ連から帰国し、蒋介石非難声明を発表する慶齢。慶齢が邪魔だが、義姉であり、英雄・孫文の妻である彼女を暗殺できない蒋介石。1936年、蒋介石が西安で張学良らに拉致・監禁される。国民党と共産党の内戦を停止し、対日戦線を開始せよと蒋介石に迫る張学良。蒋介石の救出に力を合わせる宗家の三姉妹。日本軍との戦いのために、共産党に働きかけて張学良らの暴走を止める慶齢。救い出された蒋介石は、挙国一致の抗日を宣言。兵士の慰問などで反日戦線の象徴となる三姉妹。だが、終戦を待たずに靄齢と夫は香港に、慶齢は上海に移住。中国では共産党が台頭し、蒋介石と美齢は国民党と共に台湾に去る。「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」と言われた三姉妹が再び揃うことは無かった―(「宋家の三姉妹」)。

 「誰かがあなたを愛してる」('87年/香港)のメイベル・チャン 監督の1997年5月公開作(この年の7月に香港は英国から中国に返還された)。「誰かがあなたを愛してる」とはまったく作風の異なる作品で(「ラヴソング」の方が「誰かがあなたを愛してる」に近い)、伝記映画であるとともに壮大な時代劇ロマンです。1998年・第17回「香港電影金像奨」の最優秀主演女優賞(マギー・チャン)、最優秀助演男優賞(チアン・ウェン)、最優秀撮影賞(アーサー・ウォン)、最優秀衣装賞(ワダ・エミ)、最優秀音楽賞(喜多郎/ランディ・ミラー)を受賞しています(マギー・チャンは前年の「ラヴソング」に続いて2年連続の受賞)。

 三姉妹とその配役を整理すると、

「宋家の三姉妹」3姉妹.jpg  長女・宋靄齢(孔祥熙と結婚)... ミシェル・ヨー(楊紫瓊)
  次女・宋慶齢(孫文と結婚)... マギー・チャン(張曼玉)
  三女・宋美齢(蔣介石と結婚)... ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)

「宋家の三姉妹」3姉妹本.jpg 「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」いうこの映画のキャッチから、「宋靄齢は金を愛し、宋美齢は権力を愛し、宋慶齢は国を愛した」と評されるようになったそうです。宋三姉妹については、これもまた昨年['22年]8月にNHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」で"中国 女たちの愛と野望"として取り上げていたので、まったく知らないわけではありませんでしたが、映画は意外と説明的に作られていて、これはこれで勉強になりました。この映画によれば「国共合作」が成り立ったのは宋三姉妹の尽力によるものであり、中国の歴史を変えた三姉妹ということになるでしょうか。

 渋谷のBunkamuraが今年['23年]4月10日から休館したことに伴い、渋谷東映プラザ内「渋谷TOEI」跡地に6月16日に開業した「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」のこけら落としを飾ったのが、このマギー・チャン(1964年生まれ)の回顧上映「マギー・チャン レトロスペクティブ」でした(マギー・チャンに着眼するところがBunkamuraらしい?)。ミシェル・ヨー(1962年生まれ、マレーシア出身)が「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」('22年/米)でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞にエントリーされ、受賞したことも影響しているのでしょうか。そのミシェル・ヨーとマギー・チャンを同時に観られるのが嬉しい作品です。

 ミシェル・ヨーはアカデミー賞受賞で、国際派女優としてこれまで以上に注目を集めるようになりましたが、マギー・チャンも1992年には「ロアン・リンユィ/阮玲玉」で香港女優初の「ベルリン映画祭主演女優賞」を獲得し、ベルリン国際映画祭(1997年)、ベネチア国際映画祭(1999年)、カンヌ国際映画祭(2007年)の審査員も務めるなどした香港を代表する国際派女優となりました。

「ラヴソング」 d.jpg「ラヴソング」●原題: 甜蜜蜜/(英)COMRADES, ALMOST A LOVE STORY●制作年:1996年●制作国:香港●監督:ピーター・チャン(陳可辛)●製作:ピーター・チャン/クローディ・チョン(製作総指揮:レイモンド・チョウ)●脚本:アイヴィ・ホー●撮影:ジングル・マー●音楽:チウ・ツァンヘイ(主題歌:テレサ・テン「甜蜜蜜」)●時間:118分●出演:マギー・チャン(張曼玉)/レオン・ライ(黎明)/エリック・ツァン(曾志偉)/クリストファー・ドイル(杜可風)/クリスティ・ヨン(楊恭如)/アイリーン・ツー●日本公開:1998/02●配給:BMGジャパン=ビターズ・エンド●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★☆)

「宋家の三姉妹」05.jpg「宋家の三姉妹」●原題:宋家皇朝/(英)THE SOONG SISTERS●制作年:1997年●制作国:香港・日本●監督:メイベル・チャン(張婉婷)●製作:ン・シーユエン●脚本:アレ「宋家の三姉妹」04.jpgックス・ロー●撮影:アーサー・ウォン(黄岳泰)●音楽:喜多郎/ランディ・ミラー●時間:145分●出演:マギー・「宋家の三姉妹」03.jpgチャン(張曼玉)/ミシェル・ヨー(楊紫瓊)/ヴィヴィアン・ウー(鄔君梅)/ウィンストン・チャオ(趙文瑄)/ウー・シングォ(呉興国)/チアン・ウェン(姜文)/エレイン・チン(金燕玲)/ニウ・チェンホワ(牛振華)●日本公開:1998/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-09)(評価:★★★★)

チアン・ウェン(姜文)in 「紅いコーリャン」('87年/中国)/「春桃(チュンタオ)」('88年/中国・香港)/「宋家の三姉妹」('97年/香港・日本)[「香港電影金像奨最優秀助演男優賞」受賞]
チアン・ウェン(姜文)1.jpg チアン・ウェン(姜文)3.jpg チアン・ウェン(姜文)2.jpg

《読書MEMO》
●NHK 総合 2022/05/30「映像の世紀バタフライエフェクト#8―我が心のテレサ・テン」
「わが心のテレサ・テン」.jpg
台湾出身のテレサ・テンの歌声は世界のチャイニーズの心を震わせ、テレサが一度も足を踏み入れたことのない中国本土にも彼女のカセットテープがあふれた。中国から台湾に亡命した空軍パイロットはテレサとの面会を真っ先に求め、台湾当局もテレサをプロパガンダに利用した。そして、テレサの歌声は天安門広場の民主化デモを支援し、香港の民主化運動でも歌われ続けている。歴史に翻弄されたアジアの歌姫の知られざる物語である。

●NHK 総合 2022/08/22「映像の世紀バタフライエフェクト#15―中国 女たちの愛と野望」
「中国 女たちの愛と野望」.jpg
中華人民共和国の建国式典に毛沢東と共に天安門に上る女性がいた。「革命の父」孫文の未亡人・宋慶齢である。中国の権力の攻防の陰にはいつも女性がいた。辛亥革命から権力者を支えてきた宋家の三姉妹、「一人は国を愛し、一人は権力を愛し、一人は富を愛した」と言われた。中国を恐怖に陥れた文化大革命を主導した江青、そのねらいはライバルの女性を失脚させることだった。権力の陰で繰り広げられた女性たちの愛と野望の物語。

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O・ヘンリーの代表的短編5編のオムニバスで映画化。安心して観られる。

「人生模様」1952.jpg「人生模様」00.jpg  「人生模様」01スタインベック.jpg
人生模様 [DVD]」O'Henry's Full House (1952) 進行役:ジョン・スタインベック

 「最後の一葉」「賢者の贈物」など、O・ヘンリーの代表的短編5編を原作とする、5人の監督による全5話のオムニバス映画で、進行役を作家のジョン・スタインベックが務めてます。

第1話「警官と聖歌」
「人生模様」10ロートン.jpg 紳士気取りで人の善いルンペン男ソーピイ(チャールズ・ロートン)は、夏は涼しいセントラル・パークで、冬は暖かい留置所で暮らすことにしていた。ある年の冬、彼は仲間のホレス(デイヴィッド・ウェイン)に、留置所に入る秘術を伝授しようとしたが、どうも「人生模様」11モンロー.jpgうまく警官に捕まらない。ソーピイは街の女(マリリン・モンロー)に声を掛けたが、かえって彼女に好意を寄せられ面喰らって逃げ出す始末。ある教会に入り、オルガンの響きに心打たれて、ルンペン渡世から足を洗おうと決心したが―。

 主演のチャールズ・ロートン(「情婦」('57年))がさすがに旨い。レストランでたらふく食べて、食後の葉巻のサービスに堂々と応えているところなどは、偽紳士役が似合う。マリリン・モンローはまだ「グラマーなだけの女優」というイメージしか持たれていなかった頃だが、こうして観るとその演技は悪くない。

第2話「クラリオン・コール新聞」
「人生模様」20.jpg 刑事のバーニイ(デール・ロバートソン)は、迷宮入り殺人事件の犯人をヤクザ者のジョニイ(リチャード・ウィドマーク)だと睨んだ。バーニイとジョニイは幼な友達で、2人は十数年ぶりで再会したのだ。バーニイはジョニイに証拠を突きつけ迫るが、ジョニイはバーニイに昔千ドル貸したことを持ち出した。バーニイはジョニイを一応見逃し、千ドルの工面を考えた。すると町の新聞「クラリオン・コール」が、犯人の名前を通告した者に千ドル出すという懸賞を―。

「人生模様」21.jpg 最後の格闘シーンは要らなかったが、新聞記事で見せる終わり方は旨かった。リチャード・ウィドマークのヤクザ者の役が嵌っている。晩年は大御所的存在だったが、若い頃は、冷やかな笑顔をトレードマークに、murder victims, Richard Widmark2.jpg〈スカンク草井〉.jpgギャング映画の非情な殺し屋、戦争映画の冷徹で人望のない指揮官役などで持ち味を発揮していた人だ。「オリエント急行殺人事件」('74年)で殺人事件の被害者役をやっていた(殺害されても致し方のない男の役なのだが)。手塚治虫の作品にしばしば登場する冷酷な悪役キャラクター〈スカンク草井〉のモデルでもある。

第3話「最後の一葉」
「人生模様」30.jpg 恋人に捨てられた若い女画学生ジョアンナ(アン・バクスター)は、失望し、寒いニューヨークの街を彷徨った末、姉スーザン(ジーンン・ピータース)と一緒に住むアパートに辿り着くと、そのまま病の床に伏す。医師は肺炎と診断し、ジョアンナが生きる希望を取り戻さなければ助からないと言った。彼女は自分の部屋の窓ぎわに生えている蔦にある21枚の葉が、その1枚ごとに彼女の1年間の生命を意味し、最後に残った葉が風に吹き落とされたら、自分は死ぬと思い込んでいる。容態は悪化し、ある朝、蔦も葉も最後の1枚になっ「人生模様」31.jpgた。途方にくれたスーザンは、バーマン(グレゴリー・ラトフ)という自分の才能に自信を失った画家に悩みを訴える―。

 何度も映像化されている話だが、このジーン・ネグレスコ監督作は美術が王女ネフレテリ(アン・バクスター).jpgアン・バクスター3.jpg評価されているようだ。他のカラー作品も観たが、「葉っぱ」がダメなものが多い。白黒が幸いしたかも。アン・バクスターと言えば「イブの総て」('50年)だが、「十戒」('56年)の王女ネフレテリ役や「刑事コロンボ/偶像のレクイエム」('73年)の犯人役も懐かしい。

第4話「酋長の身代金」
「人生模様」40.jpg「人生模様」41.jpg サム(フレッド・アレン)と相棒のビル(オスカー・レヴァント)は、金持ちの子を誘拐して身代金を稼ごうとアラバマの村へやって来た。2人はうまく少年を誘拐する「人生模様」42.jpgことに成功、身代金請求の手紙を少年の両親宛てに出した。ところが、この少年、インディアンの酋長気どりの腕白小僧で2人はほとほと手を焼く。そのうち、両親から手紙が来たが、それには身代金を払わないと言うばかりか、どうしても少年を返したいなら250ドルよこせと書いてあった―。

 元祖「ホーム・アローン」('90年/米)みたいなテイスト。監督はハンフリー・ボガート主演の「脱出」('44年)、「三つ数えろ」('46年)のハワード・ホークスなのだが、あんなハードボイルドを撮っている監督が、こんな喜劇も撮っているのかといういう感じ(でも、この作品の翌年にマリリン・モンローが主演してブレイクした「紳士は金髪がお好き」('53年)やロック・ハドソン主演「男性の好きなスポーツ」('64年)のようなコメディもあったか)。二人組が「ホーム・アローン」調のどたばた喜劇で(「ホーム・アローン」の方がこの作品からヒントを得た?)、これって、このオムニバス映画全体の流れの中でどうなのか(ただし、チャールズ・ロートン主演の第1話も喜劇調ではあった)。

第5話「賢者の贈物」
「人生模様」50.jpg 愛し合う若夫婦デラ(ジーン・クレイン)とジム(ファーリー・グレンジャー)は、貧乏なのでクリマス・イヴが来るのにお互いの贈物を買うことができなかった。デラは出勤するジムを送りながら一緒に街に出、途中で2人はある宝「人生模様」51.jpg石商のウィンドウの前に立ち止まる。ジムは素敵な櫛に目をつけ、これがデラのふさふさした金髪を飾ったらさぞ美くしかろうと考えた。一方デラはプラチナの時計入れを見て、これはジムの骨董的な金の懐中時計を入れるのにふさわしいと思った―。

 役者はそう有名ではないが、ヘンリー・キング監督の演出が旨くいっているのではないか。結末は分かっていても、ラストは泣かせる(ヘンリー・キングは「慕情」('55年/米)など情話ものを得意とする監督だった)。


 演出は多少ムラがあるものの、全体としてはまずますで、これは原作の良さに助けられている部分もあると思います。ただ、原作のテイストをよく伝えているのは役者のお陰かもしれず、昔の俳優は演技が旨かったなあとも思います。「最後の一葉」にしても「賢者の贈物」にしても、ちょっとでも下手な俳優が演じると逆に白けてしまうところ、個々の演技ではしっかり見せて(魅せて)いたように思います。5編とも楽しく、と言うか、原作を読んだ者としては安心して観られました。

「人生模様」ポSU.jpg「人生模様」DVD.jpg「人生模様」●原題:O. HENRY'S FULL HOUSE●制作年:1952年●制作国:アメリカ●監督:(第1話)ヘンリー・コスター/(第2話)ヘンリー・ハサウェイ/(第3話)ジーン・ネグレスコ/(第4話)/ハワード・ホークス/(第5話)ヘンリー・キング●脚本:(第1話)ラマー・トロッティ/(第2話)リチャード・L・ブリーン/(第3話)アイヴァン・ゴッフ/ベン・ロバーツ/(第4話)チャールズ・レデラー/ベン・ヘクト/ナナリー・ジョンソン/(第5話)ヘンリー・キング/ウォルター・バロック/フィリップ・ダン●撮影:(第1話)ロイド・エイハーン/(第2話)ルシアン・バラード/(第3話)ジョセフ・マクドナルド/(第4話)ミルトン・R・クラスナー/(第5話)ジョセフ・マクドナルド●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:原作:О・ヘンリー●時間:117分●出演:(第1話)チャールズ・ロートン/マリリン・モンロー/デヴィッド・ウェイン/(第2話)デイル・ロバートソン/リチャード・ウィドマーク/(第3話)アン・バクスター/ジーン・ピーターズ/グレゴリー・ラトフ/(第4話)フレッド・アレン/オスカー・レヴァント/リー・アーカー/(第5話)ジーン・クレイン/ファーリー・グレンジャー/(進行役)ジョン・スタインベック●日本公開:1953/06●配給:20世紀フォックス(評価:★★★★)

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アカデミー賞を総嘗め。今までアジア系を無視してきたことの反動ともとれるが。

「エブエブ」2022.jpg「エブエブ」08.jpg 「エブエブ」09.jpg
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 」(2022)ミシェル・ヨー
「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」7.jpg
「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(1997)舞台はホーチミン(サイゴン)、ロケ地はタイのバンコク

「エブエブ」03.jpg 中国系移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)は、自身が経営するコインランドリーが破産寸前で、しかも国税局から監査が入り、税金の申告をやり直さなければならなくなったという問題や、頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)、反抗的な娘ジョイ(ステファニー・スー)、老齢で車椅子が必要な上に最近ボケてきた父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)といった家族の問題など、数多くのトラブル「エブエブ」06.jpgを抱えていた。疲れ果てた彼女の前にある日、夫に乗り移った"別の宇宙(ユニバース)の夫"が現れ、「全宇宙にカオス「エブエブ」04.jpgをもたらそうとしている強大な悪ジョブ・トゥパキを倒せるには君だけだ」と彼から告げられて、世界の命運を託されてしまう。彼女は"無限の多元宇宙(マルチバース)"に飛び込み、カンフーの達人の"別の宇宙のエヴリン"の力を得て、マルチバースの脅威ジョブ・トゥパキと戦うこととなるが、ジョブ・トゥパキの正体は"別の宇宙の自分の娘"だった―。

「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」1997.jpg007 ミシェル・ヨー.jpg 2022年制作のダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)監督よる「異次元間アクション映画(通称「エブエブ」)。主演は香港アクシTRUE LIES movie.jpgョン映画の華として活躍し、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英・米)、「グリーン・デスティニー」('00年/中国・台湾・香港・米)でハリウッドに進出したミシェル・ヨー(59歳)で(脚本は当初ジャッキー・チェンが主演を務めることを想定して書かれていたものだった)、共演は「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で少年役だったキー・ホイ・クァン、「トゥルーライズ」('94年/米)のジェイミー・リー・カーティス(63歳)などです。

「エブエブ」オスカー.jpg どうして今このメンバー?とも思える組み合わせですが、先月['23年3月]発表の第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、編集賞の計7部門を受賞し、この3人ともが演技賞を受賞したことになります(主演男優賞は「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザ)。

 アカデミー賞の7部門独占は、今世紀に入って'04年の「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」('03年)の11部門、'09年の「スラムドッグ$ミリオネア」('08年)に次ぎますが、この2作は「エブエブ」のような演技賞の受賞はなく、演技部門における3冠達成は、1951年の「欲望という名の電車」と1976年の「ネットワーク」に次いで3度目、ほぼ半世紀ぶりのこととなります。さらに、編集賞を除く主要6部門制覇は、「或る夜の出来事」「地上(ここ)より永遠に」「カッコーの巣の上で」「クレイマー、クレイマー」「愛と追憶の日々」「羊たちの沈黙」などの持つ最多記録(主要5部門制覇)を抜いて史上初とのことです。

「エブエブ」12.jpg アカデミー賞受賞決定の直後に観ました。そんなスゴイ作品かなあというのはありましたが、話は強引ながらも勢いがあり、乗せられて観てしまいました(フツーに娯楽映画として観たということか)。ミシェル・ヨー演じるエヴリンの、現実生活の苦しさをぶっ飛ばすキレキレのアクションは「グリーン・デスティニー」での彼女を髣髴させ、キー・ホイ・クァンも、一時俳優業から武術指導のアシスタントに転じていただけに、なかなかのアクションでした。共にCGは使っていないそうです(ミシェル・ヨーの小指での腕立て伏せのシーンはCGだと思うが)。

ダニエルズ(.jpg 人生をカオスと捉え、マルチバースの世界にそれを反映させているといった感じでしょうか(監督のダニエルズは「湯浅政明や今敏、宮崎駿などといった、日本のアニメ監督からインスピレーションを受けて作った」とコメントしている)。例えばエヴリンには、カンフーマスターであったり女優として成功するなど別宇宙での彼女が沢山いるといった具合です(ミシェル・ヨーの過去に出演したカンフー映画や、国際的な映画祭での実際の映像などを使っている。映画自体は低予算映画で、2023年・第38回「インディペンデント・スピリット賞 作品賞」を受賞している)。SFのスタイルを借りつつ、女性とマイノリティを励ます映画にもなっています。

ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)

[エブエブ」.jpg 一方で、観終わってみれば、徹底した「現実逃避」映画ともとれ、要は、「母と娘」の関係の解(ほつ)れとその修復という古典的・感情的テーマを、大袈裟なマルチバースという枠組みの中で展開しただけに過ぎなかったという見方もできなくはないと思います(この点が「そんなスゴイ作品かなあ」という印象に繋がる)。

 アカデミー賞で多くの賞を受賞したのは、これまでアジア系の映画がアカデミーであまり評価されておらず、アジア系の俳優にも型通りの役しか与えられなかったことへの反省もあるでしょう。アカデミー賞はその時々で、過去のアンバランスを修正すべく反動形成された受賞がしばしば見られるように思います(偏向しているとの批判をかわし、賞の権威を維持するための調整が優先されがち)。

ミシェル・ヨー0.jpg この作品でアジア人女優として初めてアカデミー主演女優賞を受賞した(エントリーされること自体がアジア人女優初だった)ミシェル・ヨー(楊紫瓊・1962年生まれ)は、その前にゴールデングローブ賞(今年['23年]1月)でも主演女優賞を受賞していて、その時のスピーチで「昨年私は60歳を迎えた」「女性は年齢の数字が大きくなればなるほど、機会に恵まれることは少なくなる」と女性の年齢による機会損失について訴えていましたが、アカデミー賞の授賞式のスピーチでもオスカー像を掲げ、「これは希望と可能性の印です。夢が叶う証です。そして女性のみなさん、『あなたはもう盛りを過ぎた』なんて誰にも言わせてはなりません」と語ったことが、世界的に大きな反響を呼びました。

ミシェル・ヨー.jpg その彼女に、来月['23年5月]のカンヌ国際映画祭のオフィシャルディナーの場にて、「ウーマン・イン・モーション」アワードが授与されることが今月['23年4月]決定しました。2015年に発足した「ウーマン・イン・モーション」アワードは、女性に対するコミットメントや取り組みを称えるもので、アジア人では2019年のコン・リー以来2人目の授賞になります。

カンヌ国際映画祭オフィシャルディナーのフォトコールにて(2023.5.25)。左からフランソワ=アンリ・ピノー、ミシェル・ヨー、パートナーのジャン・トッド Vittorio Zunino Celotto


 彼女はインタビューで、「『グリーン・デスティニー』の頃は、ハリウッド業界はアジア人俳優を認める準備がまだできミシェル・ヨー2.jpgていなかったと思います。作品賞や監督賞はあっても、俳優だけはノミネートされなかった。ジョアン・チェンやコン・リーなど、私より先に活躍していた美しい女優たちは、本来ならアカデミー賞にノミネートされているべきでした。人種のせいなのか? 私はそうだと思います。しつ「グリーン・デスティニー」23.jpgこく言いたくはないですが、ただ『前に進みましょう』と言いたい。いまこそ前進するときです。素晴らしい映画の魅力とは、文化を超え、時代を超え、言語を超えるところにあると思います」と述べています。

ミシェル・ヨー in「グリーン・デスティニー」('00年)

 しつこく言いたくはないとしながらも、これまで偏向(人種差別)があったとはっきり言っている! さらに、自分より先にジョアン・チェン(陳冲・1961年生まれ、「ラストエンペラー」('87年)、「ラスト、コーション」('07年)など)やコン・リー(鞏俐・1965年生まれ、「紅いコーリャン」('87年)、「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年)など)らがアカデミー賞にノミネートされるべきだったと言っているところがエライです。

「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」2.jpg ミシェル・ヨーは1985年、初主演作「レディ・ハード 香港大捜査線」('85年/香港)でアクション映画に初挑戦、バレエ仕込みの身体表現で激しいカンフーアクションや危険なスタントシーンを演じ、レディ・アクションスターの先駆けとなって、「皇家戦士」('86年/香港)では真田広之と共演、「ポリス・ストーリー3」('92年/香港)でジャッキー・チェンと共演し「走行中の貨物列車の屋根にオートバイで飛び乗る」というスタントを代役なしで演じています(ジャッキー・チェンをして「自分の見せ場を奪われるから競演NG」と言わしめたとか)。「ジ「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」3.jpgェームズ・ボンド」シリーズ第18作「007トゥモロー・ネバー・ダイ」('97年/英米)(公開時タイトルは「トゥモロー・ネバー・ダイ」で35歳で「ミシェル・ヨー」(それまではミシェル・キングまたはミシェル・カーンだった)としてハリウッドへ進出したのは、"満を持して"といった感じだったでしょうか。中国国外安保隊「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」よー.jpg員ウェイ・リンという役柄で、ジェームズ・ボンド役のピアース・ブロスナンと対等に渡り合う「戦うボンドガール」として注目を浴びました。ボンドと一緒に手錠をかけられた「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」ば.jpg状態でビルからジャンプするシーンや、そのままバイクで市中を駆け抜けるシーンは派手で、格闘シーンもよく脚が上がっていてキレキレと言う感じでした。ストーリーは大したことなかったものの、優れたSF・ファンタジー・ホラー作品に送られる「サターン賞」で4つのノミネートを受け、ピアース・ブロスナンが「サターン主演男優賞」を受賞していますが、ミシェル・ヨーの貢献も大きかったのではないでしょうか。

「エブエブ」05.jpg  因みに、この「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で、ミシェル・ヨーより数多くの賞を受賞したのがキー・ホイ・クァンで、ゴールデングローブ賞助演男優賞、アカデミー助演男優賞のほかに、第88回「ニューヨーク映画批評家協会賞 助演男優賞」、第57回「全米批評家協会賞 助演男優賞」、第48回「ロサンゼルス映画批評家協会賞 助演男優賞」など多くの賞を受賞しています。「現実世界の頼りない夫」としてのハリウッド映画における従来のアジア人のパターナルな演技と、「"別の宇宙(ユニバース)の夫"」としてのヒロイックな演技(まるでブルース・リー(!?))の使い分けが際立っていたことが評価されたのでしょう。

ジェームズ・ホン br.jpgジェームズ・ホン.jpg さらに、ボケているのに頑固な父親ゴンゴンを演じたジェームズ・ホンは1929年生まれの今年94歳。ジェニファー・ジョーンズ、ウィリアム・ホールデン主演の香港を舞台とした映画「慕情」('55年)の頃からノンクレジットですが映画に出ており、「砲艦サンパブロ」('66年)のヴィクター・スー役などもありましたが、「ブレードランナー」('82年)のレプリカントの眼球を作っている遺伝子工学者ハンニバル・チュウの役などは、多くの人にとって懐かしいのではないでしょうか(あれから40年かあ)。と言うこキー・ホイ・クァン hフォード.jpgとは、ハリソン・フォードは、この映画に出ているキー・ホイ・クァンと「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」('84年/米)で共演したほかに、ジェームズ・ホンとも「ブレードランナー」で共演したことがあるということか。

ジェームズ・ホン in「ブレードランナー」('82年)


「エブエブ」02.jpg「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」●原題:EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONC●制作年: 2022年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)●撮影:ラーキン・サイプル●音楽:サン・ラックス●時間:140分●出演:ミシェル・ヨー/キー・ホイ・クァン/ステファニー・スー(許瑋倫)/ジェイミー・リー・カーティス/ジェームズ・ホン/タリー・メデル/ジェニー・スレイト/ハリー・シャム・Jr/ビフ・ウィフ/スニータ・マニ/アーロン・ラザール/オードリー・ヴァシレフスキ/ピーター・バニファズ●日本公開:2023/03●配給:ギャガ●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(シアター1)(23-03-15)(評価:★★★☆)
ジェイミー・リー・カーティス「トゥルーライズ」から28年
ジェイミー・リー・カーティス.jpg
 
11「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」.jpg「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」●原題:TOMORROW NEVER DIES●制作年:1997年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ロジャー・スポティスウッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ブルース・フィアスティン●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「トゥモロー・ネヴァー・「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」び.jpgダイ」シェリル・クロウ)●原作:イアン・フレミング●時間:119分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョナサン・プライス/ミシェル・ヨー/テリー・ハッチャー/ジョー・ドン・ベイカー/リッキー・ジェイ/ゲッツ・オットー/デスモンド・リュウェリン/ヴィンセント・スキャベリ/ジョフレー・パーマー/コリン・サーモン/サマンサ・ボンド/ジュディ・デンチ●日本公開:1998/03●配給:UIP(評価:★★★☆)

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「湿地帯小説」。世間から見捨てられながらも自分の人生を歩んだ少女の生きざま。

「ザリガニの鳴くところ」 1.jpg「ザリガニの鳴くところ」 2.jpg「ザリガニの鳴くところ」 3.jpg
【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ』 映画「ザリガニの鳴くところ」(2022)

「ザリガニの鳴くところ」 0.jpg 2021(令和3)年・第18回「本屋大賞」(翻訳小説部門)第1位作品。

「ザリガニの鳴くところ」 4.jpg ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく―。

 動物学者である作者が69歳で初めて執筆した小説で、2018年8月に原著刊行。2019年、2020年と2年連続で「アメリカで最も売れた本」となり、日本でも「本屋大賞」(翻訳小説部門)受賞となりました。年末ミステリランキングでは、3年連続4冠達成のアンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』の後塵を拝するも、「このミステリーがすごい!」(宝島社)海外篇・第2位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門・第2位、「2021本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第9位、「ミステリが読みたい!」(ハヤカワ・ミステリマガジン)第3位と、各ランンクインしています。

 キャッチは「みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ」。確かに過程のプロットより結末の意外性かと思いますが、ただし、このパターンは日本でも、大岡昇平の『事件』や松本清張原作の映画「黒の奔流」など、形は少し違いますが今までもあるにはありました。

 やはり、この作品の読みどころは、‟ザリガニが鳴く"と言われる(ホントはザリガニは鳴かないらしい)湿地帯の、まさに「湿地帯小説」と言っていいくらいの美しい自然描写と、その中で世間から見捨てられながらも自分の人生を歩んだ少女の(ホタルに喩えることできる動物的な側面もある)生きざま、ということになるのではないかと思います。「本屋大賞」受賞に異存なし、といったところです。

「ザリガニの鳴くところ」 5.gif オリヴィア・ニューマン監督の起用で昨年[2022年]に映画化され、女性監督だからやはり女性映画っぽくなるのだろうと思いましたが、予想どおりでした。原作は、幼いころから事件が起きるまでの少女の歩み(ドラマ部分とも言える)と、事件が起きた後の捜査の進捗や裁判の様子(ミステリ部分とも言える)が、あざなえる縄のように交互に描かれていますが、映画はほとんど少女の生きざまと成人するまでを中心に描いていて、特に、成人してから恋愛の方に重点が置かれています。ただ、それが何だか「学園ドラマ」を観ているような感じで、深まりがないまま話がだらだらと続く印象を受けました。

「ザリガニの鳴くところ」 6.jpg ミステリ部分ももっと描いてほしかったように思います。深夜でもバスは走っているのだなあ(高速バスみたいな路線バスか)。映像で再現する必要はなですが、省き過ぎです。この監督、ミステリには関心がないのかな。

「ザリガニの鳴くところ」 7.jpg 沼地の自然は美しく撮っていて、それはそれで良かったのですが、ドラマ部分含め全体に明るすぎる印象で、少女の沼地での生活や服装、身の回りなども小綺麗すぎて、原作の重くてダークなイメージとの間にギャップを感じました。Amazonプライムで有料視聴したのですが、原作の評価★★★★に対して、映画は評価★★★となりました。

「ザリガニの鳴くところ」8.jpg「ザリガニの鳴くところ」●原題:WHERE THE CRAWDADS SING●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:オリヴィア・ニューマン●製作:リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッタ●脚本:ルーシー・アリバー●撮影:ポリー・モーガン●音楽:マイケル・ダナ●原作:ディーリア・オーウェン●時間:126分●出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr/デヴィッド・ストラザーン/ジェイソン・ワーナー・スミス/ギャレット・ディラハント/アーナ・オライリー/エリック・ラディン●日本公開:2022/11●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(評価:★★★)

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ディストピア設定でソビエト社会を揶揄。「脱力的人情SFコメディ」とも。

不思議惑星キン・ザ・ザ4.jpg
不思議惑星キン・ザ・ザ [DVD]」「不思議惑星キン・ザ・ザ≪デジタル・リマスター版≫ [DVD]

「不思議惑星キン・ザ・ザ」1.jpg ある日、建築技師のマシコフ(スタニスラフ・リュブシン)は、「あそこに自分は異星人だという男たちがいる」と困った様子の学生ゲデバン(レヴァン・ガブリアゼ)に助けを求められる。異星人など信じられないマシコフが、その男たちが持っていた空間移動装置のボタンを押すと、次の瞬間、マシコフとゲデバンは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープしていた。星の「不思議惑星キン・ザ・ザ」2.gif住民は地球人と同じ姿をしており、見かけによらぬハイテクとな野蛮な文化を併せ持っていた。彼らはテレパシーを使うことができ、話し言葉は「キュー」と「クー」のみで、前者は罵倒語、後者がそれ以外を表す。しかし、高い知能を持つ彼らはすぐにロシア語を理解し話すことができた。この星の社会はチャトル人とパッツ人という二つの人種に分かれており、支配者であるチャトル人に対して被支配者であるパッツ人は儀礼に従「不思議惑星キン・ザ・ザ」3.jpgわなければならない。両者の違いは肉眼では判別できず、識別器を使って区別する。この星を支配しているのは、「エツィロップ」と呼ばれる警官たちである。プリュクの名目上の為政者は「PJ様」と呼ばれ、人々は彼を熱烈に崇拝している。プリュクにおける燃料は水から作られたルツというもので、自然の水は取り尽くされ、飲み水は貴重品となっており、ルツから戻すことでしか手に入らない。プリュクでは地球のマッチ棒(の化学物質)が非常に高価なものであり、カツェと呼ばれて事実上の通貨となっており、所有者は特典が受けられる。マシコフとゲデバンの二人は、マッチの価値を利用してなんとか地球へ帰ろうとするのだが―。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」4.jpg 1886年公開のソ連のゲオルギー・ダネリヤ監督(グルジア共和国出身)によるコメディーSF映画()。ディストピアな設定はソビエト社会の寓意的描写ではないかと言われるそうで、「言われている」と言うのは、検閲を通り抜けるためにほとんどすべて比喩的な表現になっているためで、ウィキペディアにも「作中では解説が若干省かれているので解りにくく、理解するには前後の伏線を注意深く頭に留めておく必要がある」とあるぐらいです。

 だから、何も考えないで観て、「変わった映画」で終わってしまう可能性もありますが(誰かが「気が抜けた良い映画」と言っていた。ダラダラ観るのも悪くないと)、一方で、予備知識無しでも、体制に対する風刺だなあというのは何となく感じられます。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」5.jpg 実際、ソ連全土で1570万人という驚異的な観客を動員したそうで(ソ連の人は、どの部分が何の風刺か凡そ解ったんだろなあ)、その後も世界中でカルト的人気を博し、日本でも1991年に公開され('89年の池袋文芸坐の「ソビエトSFファンタジー映画祭」で上映されたとの話もある)、2001年にはニュープリントで再公開、2016年にはデジタル・リマスター版が公開されました。また、監督自身の手になるアニメ版「クー!キン・ザ・ザ」が、2013年に公開されていますが、こちらは、舞台が21世紀はじめに移すなど、多少内容を変えているようです。

 冒頭、主人公のウラジミール氏は奥さんから買い物を頼まれ街に出るところから始まり、街でヴァイオリン弾きの青年ゲデバンを介して、拾いものの外套を羽織る小汚い裸足の男に出会い、男がウラジミール氏に「この星のクロス番号を教えてくれ。スパイラル番号でもいい。番号設定が乱れて帰れんのだ。見てくれ。私の星はベータ星雲のUZM247だ。そしてこれが空間移動装置」と尋ねるところから一気にSFモードとなります。

 こうしてウラジミール氏と青年ゲデバンひょんなことから「空間移動」し、辺りは一面の砂漠となりますが、その時ののリアクションは秀逸。さらに釣り鐘みたいな形の宇宙船が現れ、、中から2人の男が現れ、男たちは「クー!、クー!」と叫ぶばかり。このシュールな展開についていくのは結構しんどいかも(笑)。

 でも、どんな困難にも屈せず、地球への帰還を模索するウラジミール氏は、結構ヒロイックでした。青年を励まし、最後は、自分たちを苦境に陥れた宇宙人の男たちさえも救ってやるという、一本筋の通った意志の力とリーダーシップ、寛容さが、この奇妙な映画の中でやけに真っ当に思えました(民衆の希望を体現しているということか)。

 無事、地球に戻ってきた二人が、全部記憶が消されているはずなのに、街角で偶然出会って、しばらく見つめ合って、ウラジミール氏から「よう」とばかり手を挙げると青年もそれに応えるというラストが心地よかったです。ぶっ飛んだ印象もあるSFですが、意外とヒューマンなところはヒューマンに作っていました(誰かが「脱力的人情SFコメディ」と言っていた)。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」16.jpg この作品は根強いファンがいゲオルギー・ニコラーエヴィチ・ダネリヤ.jpgるのか、或いは毎年新たにファンになる人がいるのか、'18年にデジタル・リマスター版が発売されて以降、今年['22年]まで毎年DVD&Blu-rayがリリーズされています。また、ゲオルギー・ダネリヤ監督自身による「クー! キン・ザ・ザ」(Ku! Kin-dza-dza)('13年)というアニメ化作品も作られています(ゲオルギー・ダネリヤ監督は本2019年に88歳で逝去し、これが遺作となった)。

ゲオルギー・ダネリヤ(1930-2019)

「不思議惑星キン・ザ・ザ」●原題:KIN-DZA-DZA-KUU●制作年:1986年●制作国:ソ連●監督:ゲオルギー・ダネリヤ●脚本:ゲオルギー・ダネリヤ/レヴァズ・ガ不思議惑星キン・ザ・ザ ブルースタジオ.jpgブリアゼ●撮影:パーヴェル・レベシェフ●音楽:ギヤ・カンチェリ●時間:135分●出演:スタニスラフ・リュブシン/レヴァン・ガブリアゼ/ エヴゲーニー・レオノフ/ ユーリー・ヤコヴレフ●日本公開:1991/01●配給:マウントライト●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-11-23)(評価:★★★☆)

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俳優は素人ばかりだが雰囲気は出ていた。制作秘話に事欠かないみたい。

吸血鬼 (1932年画)dvd.jpg吸血鬼 [DVD]」['02年]
バンパイア ドライヤー.jpg 吸血鬼 (1932年画)dvd1.jpg吸血鬼 (1932年画)dvd2.jpg 吸血鬼 (1932年画)dvd5.jpg 女吸血鬼カーミラ.jpg
ヴァンパイア [DVD]」['06年]/「ヴァンパイア 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]」['11年]/「カール・Th・ドライヤーコレクション 吸血鬼 ボローニャ復元版 [DVD]」['11年]/シェリダン・レ・ファニュ 『女吸血鬼カーミラ
吸血鬼 (1932年画)1.jpg 主人公アラン・グレー(ジュリアン・ウェスト)は、ある夜遅くクルタンピエール村の寂れた旅館へやって来る。その周囲の凄惨な光景が彼に強い印象を与えた。宿では朝まで眠れなかった。それ以来アランは、説明のつかないような現象を目にするようになる。宿には義足の男と村医者(ジャン・ヒエロニムコ)と老婆(ヘンリエット・ジェラルド)がいた。宿主(モーリス・シュッツ)はアランに何かを託して、自分の死後に開けるよう書き遺す。アランが奇妙な影を追いかけると屋敷があり、主人が宿主で病に伏す長女レオーヌ(ジビレ・シュミッツ)と妹のジゼル(レナ・マンデル)、それに何人かの召使が暮らしていた。やがて主人は何者かに銃で撃たれて死ぬ。続いて、レオーヌが夜中に外に出てさ迷い歩くのを見たアランとジゼルは、レオーネを探して外に出るが、レオーネは闇の帝王に血を吸われてぐったりしているところを見つかって屋敷へ運び込まれる。ジゼルが介抱するが、自分は吸血鬼 姉.jpg呪われていると言い、嘆き悲しんだかと思うと突然不気味に笑う。それを見て慄(おのの)くジゼル。アランが主人の遺したものを開封すると、それは吸血鬼の存在とその魔力について書かれた古い本だった吸血鬼 (1932) jijyo.jpg。アランが本を読み進めると、「吸血鬼は人間に彼らの犯行を手伝わせることがあり、ハンガリーでは悪魔に魂を売った医者が吸血鬼の犯罪の手先になっていた」と書いてあった。村医者はレオーネは助からないが血を欲しがっていると言うので、アランは献血をする。アランが眠っている間、召使が置いてあったアランの本を読むと、「吸血鬼は犠牲者から精気を吸い尽くすと犠牲者を自殺に追い込む。自殺した者は来世も放棄するからで天国の扉が開かないからだ」と書いてある。そこには、「胸に鉄の杭を打ち込むと、本当の意味で死を迎える」とも書いてあった。真実は、老婆こそが吸血鬼であり、村医者とその助手の義足の男とを自分の忠実な下僕にし、義足の男に主人を殺害させ、村医者が主人の長女レオーヌをさらって吸血鬼の餌食にしたのだった。この吸血鬼はかつて世にありし時に犯した罪悪のために墓場に入っても静安を得ることの出来ない女亡者で、人間の生き血を吸わねば生きていられないのだ。その第一の犠牲者が、長女レオーヌだったのだ。乗り越えるべき困難を前に、ジゼルとアランとの間に強い愛情が生まれる。吸血鬼に侵された病めるレオーヌは、村医者の企みにより自殺させられそうになるがアランに気づかれ、毒薬の瓶は彼女の手からもぎとられる。その毒薬は、吸血鬼がレオーヌに飲ませるべく村医者に渡したものだった。アランは眠りに吸血鬼 (1932) 幽体.jpg襲われる。――眠っているアランから意識が抜け出して、建物に入る。中にはジゼルが捕らわれていた。さらにそこには棺があり、蓋を開けるとアラン自身が入っていた。驚くアランだが、村医者とその下僕がやってきて、棺の蓋を閉めると釘を打つ。アランは棺の中から外を、町の風景を見上げている。空が見え、建物が見え、鐘の音が聞こえて棺は運ばれていく――。眠っている本当のアランの横を棺が運ばれていき、アランは目を覚ますと召使が行くのが見える。召使が墓を暴くのをアランは手伝い、出てきた棺の蓋を開ける。中にはレオーネの血を吸っていた老女がいて、召使がその胸に鉄の杭を突き刺すとその姿はたちまち白骨に。その時、臥せっていたレオーネは起き上がり、元気になる。義足の男は崖から落ちて死に、村医者も逃げ込んだ製粉所で粉に埋もれてその命を落とそうとしていた。同じ頃、アランは愛するジゼルと共に、夜の恐怖の去った森で、輝かしい夏の朝を迎えていた―。

吸血鬼 (1932年画)dvd4.jpg デンマークノカール・テオドア・ドライヤー(「裁かるるジャンヌ」('28年)/「奇跡」('55年))が監督した1930年制作、1932年5月公開のフランス・ドイツ合同映画で、日本では「ヴァンパイア」という題名で呼ばれることもある作品です。

吸血鬼 (1932年画)9.jpg ドライヤーは超自然の存在を題材とした作品を書こうと思って30冊以上のミステリ小説を読み、「なぜかドアが開いたり、わけもなくドアノブが動く」といったいくつかの要素がよく出てくることに気づいて、「我々ならこういうのを楽しく作れそうだ」と思ったとのこと。ロンドンとニューヨークで1927年に舞台版「ドラキュラ」が大ヒットした折でもあり、吸血鬼物は時代の最先端を行くと考えていた彼は、脚本において、シェリダン・レ・ファニュの同性愛女吸血鬼カーミラ.jpg的要素のある吸血鬼小説『女吸血鬼カーミラ』(1872)(それで女性吸血鬼なんだ。カミーラのように若い姿に化けないで老女のままだが)と、生き埋めを題材とした短編「ドラゴン・ヴォランの部屋」(創元推理文庫に訳出されている)を基にしたとのことです。

吸血鬼 (1932年画)医師.jpg ドライヤーはキャスティングとスカウトを開始して貴族ニコラ・ド・ガンズビュールと知り合い、彼を主役にするという条件で作品の資金提供の約束を取り付け、俳優になることを許していなかった家族と揉めたガンズビュールは、ジュリアン・ウェストという芸名で出演することに。彼に限らず、この映画の出演者のほとんどは素人で、城主役のモーリス・シュッツとその長女レオーネ役のジビレ・シュミッツだけがプロの俳優で、あとは、村医師役のジャン・ヒエロニムコなどは、ドライヤーが深夜のパリの地下鉄でスカウトした人物だったとのこと。映画に出ないかと持ちかけられた時、ヒエロニムコはぽかんとドライヤーを見つめそのまま答えなかったが、後で出演の意向を伝えたとのことで、他の素人出演者も同様に店先やカフェで声をかけられたそうです。

吸血鬼 (1932年画)陰.jpg そのせいか、この作品を観ると、ドライヤーは俳優の演出よりも背景づくりに力を入れている印象があり、その部分については、前衛的なカメラワークを駆使するなどして雰囲気はよく出ていて、1930年に製作された作品としては上出来ではないでしょうか。ストーリー自体ははっきりしない部分も多く、ただただ全体を通して恐ろしい夢の中のような雰囲気に包まれていますが(全部を夢想家である主人公の夢であるとする見方もあるようだ)、ガーゼをカメラから90cm離れたところに置き、それを通じて撮影したりしたようです(わざとボカしたのか)。

吸血鬼 (1932年画)8根」.jpg吸血鬼 (1932年画)ミール1.jpg吸血鬼 (1932年画)ミール2.jpg 脚本の草稿では、村医師が村から逃げようとして沼地にとらわれるという展開だったそうですが、スタッフが沼地探しに行った途中で製粉場を見つけ、その製粉錠の窓やドアの周りに白い影が現れたのを目の当たりにして、村医者が製粉場で大量の小麦粉に押し潰されて死ぬというものに変更されたそうです。ドライヤーというと重々しい作品のイメージがありますが、何だか制作秘話に事欠かないみたいで楽しいです。

 映画の目的について尋ねられた際、ドライヤーは「特にこれといった意図はありません。他の映画と違ったものを撮りたかったと思っただけ。私は映画界に新たな風をもたらしたかったのです、あなたが望むのならば。それだけです。そしてこの意図はうまくいったかと思いますか? 私はそう思います」と答えたそうです。

吸血鬼 (1932年画)夢.jpg 当時、この作品をある評論家が、同時期のトッド・ブラウニング(「フリークス」('32年))が監督し、ベラ・ルゴシ(「モルグ街の殺人」('32年))が主演した吸血鬼映画「魔人ドラキュラ」('31年)の亜流というよりも、ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリによる、実験映画としての性格の強い「アンダルシアの犬」('28年)などの作品に近いと評したそうですが、ほとんどの人がそう思うのではないでしょうか(主人公が幽体離脱し、棺に入れられている自分を見る場面などはまさにそう)。ただ、「アンダルシアの犬」に比べればまだストーリー性がある方で、分かりやすい作品ではないでしょうか。

「ベロニカ・フォスのあこがれ」.jpg 因みに、吸血鬼に憑かれた長女レオーヌを演じたジビレ・シュミッツは、戦前のドイツ映画で活躍しましたが、戦後はキャリアを失いモルヒネ中毒に苦しんだ末、自殺を遂げています。このジビレ・シュミッツの伝記に着想を得て映画化したのがライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の「ベロニカ・フォスのあこがれ」('82年/西独)で、第32回「ベルリン国際映画祭」で金熊賞を受賞しており、1979年の「マリア・ブラウンの結婚」、1981年の「ローラ」とともにファスビンダーの「西ドイツ三部作(BRD Trilogy)」と称されています。

「ベロニカ・フォスのあこがれ」('82年/西独) ローゼル・ツュヒ
   
吸血鬼 (1932)04.jpg「吸血鬼(ヴァンパイア)」●原題:VAMPYR●制作年:1930年(公開年:1932年)●制作国:フランス・ドイツ●監督:カール・テオドア・ドライヤー●製作:カール・テオドア・ドライヤー/ジュリアン・ウェスト●脚本:カール・テオドア・ドライヤー/クリステン・ジュル●撮影:ルドルフ・マテ●音楽:ウォルフガング・ツェラー●原作:シェルダン・レ・ファニュ●時間:75分(82分)●出演:ジュリアン・ウェスト/レナ・マンデル/ジビレ・シュミッツ/ジャン・ヒエロニムコ/ヘンリエット・ジェラルド/ジェーン・モーラ/モーリス・シュッツ/アルバート・ブラス●日本公開:1932/11●配給:東和商事(評価:★★★★)

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アクションは楽しめるが、ドタバタ喜劇調のきらいも。「アジアの嵐」の俳優が出ていた。
「カトマンズの男」DVD.jpg カトマンズの男00.jpg リオの男dvd - コピー.jpg アジアの嵐 1928.jpg
カトマンズの男(1965) [DVD]」ジャン=ポール・ベルモンド「リオの男(1964)」「アジアの嵐(1928) [DVD]
「カトマンズの男」-.jpg 莫大な父の遺産があり、あらゆる快楽に飽き果てて、生きている意義も見出せないという30歳の男アルチュール・ランプルール(ジャン=ポール・ベルモンド)は退屈の余り自殺したがるが、その試みは全て失敗する。そこで、フィアンセのアリス(ヴァレリー・ラグランジュ)とその小姓のレオン(ジャン・ロシュフォール)、アリスの母親スージー(マリア・パコム)とその恋人コルネリウス(ジェス・ハーン)、元後見人でもあった古くからの中国人の友人ミスター・ゴーことゴー氏(ヴァレリー・インキジノフ)と船旅に出る。ランプルールの法定代理人ビスコトン(ダリー・コール)が香港までアルチュールを探しにやってきて、アルチュールの破産を知らせる。これで自殺の名目ができたと喜んだアルチュールは自殺の試みを続けカトマンズの男08.jpg、フィアンセの母親スージーは婚約解消を要求する。ゴー氏のアイデアで、スージーにアルチュールの生死を委ねることになる。アルチュールは婚約者アリスとゴー氏を受取人に有効期間1か月の生命保険に署名する。ゴー氏は殺し屋を手配し、そうなると自殺志願のアルテュールも生命の危険を感じて懸カトマンズの男07.jpg命に逃げまわるという奇妙な状況になる。港のバーに逃げこんだ時、ストリッパーのアレキサンドリーヌ(ウルスラ・アンドレス)に匿ってもらった。彼女は考古学者の卵で、アルバイトにストリッパーをしていたのだ。彼は一目で好意を抱くが、恋を語っている余裕はない。ゴー氏ともう一度話し合おうと、彼を追ってネパールへ行く。例によって二人の尾行者がついてくるが、実は彼らは保険会社がつけたボディ・ガードだった。ところが今度は、保険金の一部をもらう約束になっている香港ギャングのボス、フォリンスター(ジョー・セイド)の命を狙われることに―。

「カトマンズの男」01.jpg 「リオの男」('64年)のフィリップ・ド・ブロカ監督の1965年作(日本では'65年に初公開。今年['21年]、ベルモンド主演作をHDリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」(5月14日~、東京・新宿武蔵野館ほか)で公開)。「リオの男」のヒットを受けて作られたアクション映画ですが、ジャン=ポール・ベルモンド演じる主人公の名前はアドリアンからアルチュールになっています。ブラジルでロケした「リオの男」同様に異国趣味の路線であり、ネパールの首都カトマンズだけでなく、香港、マレーシアなどでも撮影されています。

「カトマンズの男」-poster.jpg ジュール・ヴェルヌの1879年刊行の小説『中国での中国人カトマンズの男03.jpgの苦難』(Les Tribulations d'un chinois en Chine)が原作とのことですが、大幅に翻案されているようです。自殺志願の男(原作では中国系)が自分に生命保険を懸けられたのを機に考え方が変わるというのは同$_1カトマンズの男.jpgじようですが、原作では主人公は最後、婚約者と結婚するようです(映画でもアリスは最後、結婚するのだが...)。ウルスラ・アンドレス演じるストリッパーは、映画のオリジナルかと思われます。

 殆どのスタントをベルモントが自分でこなしているのは「リオの男」「カトマンズの男」ges.jpgと同じで、むしろヒートアップした感じさえあります。なので、ベルモントのアクションは楽しめますが、ストーリーが「リオの男」以上にぶっ飛んでいて、アクションとの両方が相俟って、ややドタバタ喜劇調になったきらいもあります(同じ大金持ちの役でも、ベルモントのアクションが無いフィリップ・ラブロ監督の「相続人」('73年)よりは楽しめたが)。

カトマンズの男01.jpg 舞台出身のジャン・ロシュフォール(フィリップ・ド・ブロカ監督の「大盗賊」('62年)や「相続人」でもベルモントと共演しカトマンズの男09.jpgていた)が「小姓」(御屋敷付きの「執事」というよりは、どこでも主人に付いて行って面倒を見る「フットマン」という感じか)の役で脇を固めていて、いい味出していました(最後まで主人に付いて行くので出演場面が多い)。ただ、それよりも、ゴー氏を演じたヴァレリー・インキジノが、フセボロド・プドフキン監督の「カトマンズの男」ヴァレリー・インキジノフ.jpg「アジアの嵐」('28年/ソ連)で、主人公のモンゴル人を演じたあの俳優だったと後で知って少し驚きました。ヴァレリー・インキジノフはロシア・ブリヤート出身のフランス人俳優ですが、血統的にはモンゴル人のようです。「モンパルナスの夜」('33年/仏)に、金持ちに怨念を抱くチェコ人の挫折した元医学生という、まるで「天国と地獄」の山崎努を連想させるような役で出演していますが、60年代のこの「カトマンズの男」では好々爺の役でした。

ヴァレリー・インキジノフ(右)(ミスター・ゴーことゴー氏)

ヴァレリー・インキジノフ in 「アジアの嵐」(1928)/「モンパルナスの夜」('33年)
アジアの嵐 02.jpg『モンパルナスの夜』(1933).jpg 「アジアの嵐」は、1920年代、イギリス統治のモンゴルを舞台に、〈チンギス・ハーンの後裔〉に祭り上げられたモンゴルの青年(ワレリー・インキジノフ)が,やがて民族の自覚に燃えてイギリス帝国主義に闘いを挑むという、モンゴル解放闘争の黎明期を描いたものですが、その主人公を"覚醒"させ、英国の軛(くびき)からの解放を手助けしたのがソ連であるという、ロシア革命と「共産主義」運動を美化するプロパンガンダ映画でもあります。

Storm Over Asia.jpg それゆえに評価をするのは難しいのですが、エイゼンシテインと並ぶとされるフセヴォロド・プドフキン監督でさえ、ソ連の映画監督である限り、当時はそうした映画を撮らざるを得なかったのでしょう(「戦艦ポチョムキン」('25年/ソ連)にしても共産主義的プロパガンダ映画であり、日本でも終戦から22年が経った1967年にようやく一般公開された)。演出的には、主人公が自らが"傀儡"であることに気づいて驚愕する場面などは強く印象に残るものであり、技術的には、ラストの騎馬シーンはまさに「アジアの嵐」と呼ぶに相応しい、迫力ある出来栄えでした(この映画は1930年に日本で公開されている)。

Storm Over Asia (Potomok Chingis-Khana) (1928)


007 ドクター・ノオes.jpgウルスラ・アンドレス.jpg 出演者でもう一人の注目は、やはり007シリーズ第1作「007 ドクター・ノオ (007は殺しの番号)」('62年/英)で初代ボンドガールを務めたウルスラ・アンドレス(以カトマンズの男05.jpg前はアーシュラ・アンドレスと表記されていた)でしょうか。スイス出身で両親はドイツ人。「ドクター・ノオ」出演時は英語がおぼつかなく、彼女のセリフはすべて吹き替えでしたが、それでも「ゴールデングローブ賞」のカトマンズの男06.jpg新人賞を受賞しています。その後は、ドイツ語、イタリア語、フランス語、さらにはマスターした英語の4カ国を操る語学力を活かして、ハリウッド映画にもヨーロッパ映画にも多数出演しています(出演はB級娯楽映画が多いが)。因みに、この映画出演時にはジョン・デレクと結婚していましたが、ジャン=ポール・ベルモンドと恋仲になり、1966年にはジョン・デレクと離婚しています。その後もライアン・オニールらと浮名を流したりしましたが、1980年の「タイタンの戦い」で共演したハリー・ハムリンとの間に男児を生んだものの、再婚はしていません(この手の"肉食系"女優に結婚は似合わない?)。

2up to his ears.jpg ソ連映画「アジアの嵐」のモンゴル系俳優と、アメリカ映画「007 ドクター・ノオ」のドイツ系女優が同じフランス映画に出ているというのが何となく面白いです。それにしても、映画の原題が原作の原題と同じなのですが、一体この映画のどこが「中国での中国人(CHINOIS)の苦難(TRIBULATIONS)」なのでしょうか? (ジュール・ヴェルヌの原作に敬意を表したということか。英語タイトルは"Up to His Ears"で、「足元から耳のところまで」→「トラブルにどっぷり浸かって」という感じか)。
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ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2.jpgジャン=ポール・ベルモンド傑作選2 Blu-ray BOXI ド・ブロカ大活劇編(初回限定版)」(2022)

「リオの男」 原題:L' HOMME DE RIO
「カトマンズの男」 原題:LES TRIBULATIONS D' UN CHINOIS EN CHINE
「アマゾンの男」 原題:AMAZONE


 2021年05月25日 新宿武蔵野館.jpg

ベルモント特集2-2.jpg「カトマンズの男」ur.jpg「カトマンズの男」●原題:LES TRIBULATIONS D'UN CHINOIS EN CHINE(英:UP TO HIS EARS)●制「カトマンズの男」ps.jpg作年:1965年●制作国:フランス・イタリア●監督:フィリップ・ド・ブロカ●製作:アレクサンドル・ムヌーシュキン/ジョルジュ・ダンシジェール●脚本:ダニエル・ブーランジェ●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:ジュール・ヴェルヌ「中国での中国相続人 ベルモント.jpg人の苦難」●時間:110分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/ウルスラ・アンドレス/ヴァレリー・ラグランジュ/マリア・パコム/ジェス・ハーン/ヴァレリー・インキジノフ/マリオ・ダヴィッド/ポール・プレボワ/ダリー・コール/ジョー・セイド●日本公開:1966/05●配給:エデン●最初に観た場所:新宿武蔵野館(21-05-25)(評価:★★★)●併映(同日上映):「相続人」(フィリップ・ラブロ)
「相続人」('73年)

アジアの嵐 01.jpg「アジアの嵐」●原題:Потомок Чингис-хана(STORM OVER ASIA POTOMOK CHINGIS-KHANA)●制作年:1928年●制作国:ソ連●監督:フセ2019「アジアの嵐」.jpgヴォロド・プドフキン●脚本:オシップ・ブリーク/レフ・スラヴィン/ウラジーミル・ゴンチュコフ●撮影アナトーリー・ゴロヴニャ●音楽:セルゲイ・コズロフスキー/ M・アロンソン/(サウンド版音楽)ニコライ・クリューコフ●原作:イワン・ノヴォクショーノフ「ジンギス汗の末喬」●時間:87分●出演:ワレーリー(ヴァレリー)・インキジーノフ/アナトーリー・デジンツェフ/リュドミラ・ベリンスカヤ/アネリ・スダケーヴィチ/ボリス・バルネット●日本公開:1930/10●配給:三映社(評価:★★★☆)

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「レイダース」のヒントになったノンストップ冒険サスペンス。背景としてブラジリアも良かった。
リオの男dvd - コピー.jpg リオの男000.jpg リオの男001.jpg
リオの男 [DVD]」ジャン=ポール・ベルモンド/フランソワーズ・ドルレアック
リオの男01.jpg 見習航空兵のアドリアン(ジャン・ポール・ベルモンド)は、1週間の休暇で婚約者アニェス(フランソワーズ・ドルレアック)の住むパリに滞在することに。その頃パリでは博物館の守衛が殺害されてアマゾンの小像が盗まれ、考古学者カタラン教授(ジャン・セルヴェ)が呼びだされる。その小像は、カタラン教授、アニェスの父親であるヴィレルモリオの男02.jpgーザ教授、実業家アンドレ・ディ・カストロ(アドルフォ・チェリ)の3人がブラジルの奥地探検から持ち帰った3体セットのうちの1体だった。3人は3体の小像リオの男03.jpgをそれぞれ一体ずつ所持し、カタラン教授は自分の像を博物館に寄贈したのだった。またヴィレルモーザ教授は探検後に死亡し、現地リオのある場所に自分の像を隠していた。そして、その娘アニェスは、その隠し場所の秘密を知っていた。しかし、そんな折、カタラン教授が何者かに連れ去られ、さらにアニェスまでが誘拐されてしまう。ちょうど、そこに居合わせたアドリアンは、連れ去られるアニェスの姿を見つけ、必死に後を追う。アニェスを連れた男たちは旅客機に乗り、アドリアンも咄嗟の機転リオの男04.jpgでに乗り込むと、旅客機はブラジルのリオデジャネイロまで来てしまう。リオに着いたアドリアンは、土地の少年の助けを得て、アニェスを取り戻す。小像のありかを知るアニェスの手引でアドリアンは小像を見つけ出すが、それも束の間、例リオの男05.jpgの男たちが現れ小像を奪われる。残る一つは、カストロが持っているのだ。アニェスとアドリアンは、彼の居るブラジリアに向かう。そして途中2人は、"敵"に囲まれたカタラン教授を見つけ、救出に成功するが、しかし―。

リオの男06.jpg 1964年公開のフィリップ・ド・ブロカ監督作で、ジャン・ポール・ベルモンドのコンビによるアクション・コメディ映画作(日本では'64年に初公開。今年['21年]、ベルモンド主演作をHDリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」(5月14日~、東京・新宿武蔵野館ほか)で公リオの男07.jpg開)。追いつ追われつのサスペンスをノンストップで描いたもので、公開当時、歴代フランス映画の興行記録を更新する空前のヒットを記録したそうです。そうした娯楽映画であるとともに、1964年の「ニューヨーク映画批評家協会賞 外国語映画賞」を受賞しています(同賞をアクション娯楽映画が受賞することは珍しい。例えば、'61年、'63年、'65年とフェデリコ・フェリーニ監督作が受賞しており、前年受賞作は難解で知られる「フェリーニの8½」だった)。

スティーブン・スピルバーグ5Q.jpgルパン三世 TV第1シリーズ.jpg スティーブン・スピルバーグはこの映画を公開当時劇場で9回観たほどお気に入りで、「レイダース 失われたアーク」('81年/米)等の「お手本にした」と公言しています。また、モンキー・パンチの「ルパン三世」の元ネタとも言われています。この映画の日本公開は1964年、「ルパン三世」の連載スタートは1967年なので、あり得ない話ではないですが...(ベルモンドの日本語版吹き替えキャストは、'71年スタートのTVアニメ「ルパン三世」の山田康雄)。

リオの男 ブラジリア1.jpg テンポが良くて楽しめます。背景としてのリオの街の異国情緒もいいですが、新首都ブラジリアでの、無機質な建造物をバックにした追走劇もシュールで良かったです。まるで、イタリアの画家ジリオの男 ブラジリア2.jpgョルジョ・デ・キリコが描く絵のような背景に感じられました(建物だけ屹立していて人影がほとんど無い)。モダニズムの理念に基づいて建設された計画都市ブラジリアの当時の映像は、結構貴重ではないでしょうか。

レイダース/失われたアーク《聖櫃》.jpg 「レイダース」のヒントになったとのことですが、終盤、小像の奪い合いになり、洞窟を舞台に三体の小像が悪の手に落ちた、まさにその時、森林をゆさぶる大爆発が起きたので、「レイダース」のように巨岩が転がってくるのかと思いきや、最後はちょっとショボかったですが、それでも★4つはあげていい出来映えでした。

リオの男002.jpg ヒロイン役のフランソワーズ・ドルレアックは、1964年2月5日に封切られたこの「リオの男」と、同年4月20日に封切られた「柔らかい肌」でスターとなり、妹のカトリーヌ・ドヌーヴも1964年2月19日に封切られた「シェルブールの雨傘」でスターになったわけで、同じ年に一気に〈姉妹スター〉が誕生したことになります。

リオの男t.jpg この映画とフランソワ・トリュフォー監督の「柔らかい肌」で見せたフランソワーズ・ドルレアックの演技を比べれば、妹のカトリーヌ・ドヌーヴの当時より姉の方が演技力に幅があったことが窺えますが(「柔らかい肌」では男を不倫に引き込むCAを演じた)、1967年に妹と「ロシュフォールの恋人たち」で共演を果たした、まさにその年に、運転中に事故に遭い、25歳で亡くなっているのが惜しまれます。

L'HOMME DE RIO 1964 01.jpg L'HOMME DE RIO 1964 02.jpg

「リオの男」br.jpg

ベルモント特集2-2.jpgIベルモント特集2.jpg「リオの男」●原題:L'HOMME DE RIO(英:THAT MAN FROM RIO)●制作年:1964年●制作国:フランス・イタリア●監督:フィリップ・ド・ブロカ●製作:アレクサンドル・ムヌーシュキン/ジョルジュ・ダンシジェール●脚本:ジャン=ポール・ラプノー/アリアンヌ・ムヌーシュキン/フィリップ・ド・ブロカ/ダニエル・ブーランジャン=ポール・ベルモンド傑作選2.jpgジェ●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:110分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/フランソワーズ・ドルレアッ「リオの男92.jpgク/ジャン・セルヴェ/ロジェ・デュマ/ダニエル・チェカルディ/ミルトン・リベイロ/ウビラシ・デ・オリヴェイラ/アドルリオの男 ps.jpgフォ・チェリ/シモーヌ・ルナン●日本公開:1964/10●配給:東和●最初に観た場所:新宿武蔵野館(21-05-18)(評価:★★★★)
 
 
 
    
ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2.jpgジャン=ポール・ベルモンド傑作選2 Blu-ray BOXI ド・ブロカ大活劇編(初回限定版)」(2022)

「リオの男」 原題:L' HOMME DE RIO
「カトマンズの男」 原題:LES TRIBULATIONS D' UN CHINOIS EN CHINE
「アマゾンの男」 原題:AMAZONE

 

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面白かったが、原作を読んだ人からは原作の方がいいと言われ、読後にもう一度皆で鑑賞会を...。

パフューム ある人殺しの物語 2007.jpg パヒューム ある人殺しの物語01.jpg パヒューム ある人殺しの物語02.jpg
パフューム ある人殺しの物語 [DVD]」ベン・ウィショー/ダスティン・ホフマン
ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)
ある人殺しの物語 香水 (文春文庫).jpgパフューム 01.jpg 18世紀のフランス・パリ。悪臭漂う魚市場で、一人の赤子が産み落とされた。やがて孤児院で育てられたその男児の名はジャン=バティスト・グルヌイユといい、生まれながらにして数キロ先の匂いをも感じ取れるほどの超人的な嗅覚を持っていた。成長したグルヌイユ(ベン・ウィショー)はある日、街で素晴らしい香りに出合う。その香りを辿っていくとそこには一人の赤毛の少女がいた。少女の体臭パフューム ある人殺しの物語es.jpgにこの上ない心地よさを覚えるグルヌイユであったが、誤ってその少女を殺害してしまう。少女の香りは永遠に失われてしまった。しかしその香りを忘れられないグルヌイユは、少女の香りを再現しようと考え、橋の上に店を構えるイタリア人のかつて売れっ子だった調香師ジュゼッペ・パフューム 02.jpgバルディーニ(ダスティン・ホフマン)に弟子入りし、香水の製法を学ぶ。同時にその天才的な嗅覚を生かして新たな香水を考え、バルディーニの店に客を呼び戻す。さらなる調香技術を学ぶパフューム ある人殺しの物語 09.jpgため、香水の街・グラースへ旅に出るグルヌイユはその道中、なぜか自分だけ体臭が一切ないことに気づく。グラースで彼は、裕福な商人リシ(アラン・リックマン)の娘ローラ(レイチェル・ハード=ウッド)を見つける。以前街角で殺してしパフューム ある人殺しの物語08.jpgまった赤毛の少女にそっくりなローラから漂う体臭は、まさにあの運命的な香りそのものだった。これを香水にしたい、という究極の欲望に駆られたグルヌイユは、脂に匂いを移す高度な調香法である「冷浸法」を習得する。 そして時同じくして、若い美少女が次々と殺される事件が起こり、グラースの街を恐怖に陥れる。髪を短く刈り上げられ、全裸で見つかる美少女たち。グルヌイユは既に禁断の香水作りに着手していたのだった―。

香水 文庫.jpg 2006年公開のトム・ティクヴァ監督によるドイツ・フランス・スペイン合作映画で、原作は世界中で1500万部を売り上げているパトリック・ジュースキントの1985年発表の小説『パフューム ある人殺しの物語』(ジュースキントはスタンリー・キューブリックとミロス・フォアマンのみが正しく映画化できると考えており、他の者による映画化をを拒否していたという)。

 面白かったですが、原作を読んだ人からは原作の方がいいと言われて、原作を読んでみたら確かにそうでした。その後、4人くらいで新ためてPrime Videoで鑑賞会をしたのですが、原作を先に読んだ人が、映画の方はちょっともの足りないというのも分かったように思いました。

 この作品の翻訳者の池内紀氏が、文庫版の解説で(2003年に映画化の噂を聞いた段階で)「主役にあたる"匂い"をどうやって表現するのだろう。匂いをたどっていくのがおおかたの演技というのは、前代未聞のことではあるまいか。とどのつまりは、あとかたもなく消え失せる男。やはり映像よりも、活字を通してこそふさわしい」と述べていますが、この"予言"は的中したとも言えるかも。

パフューム 06.jpg そもそもスタンリー・キューブリックが映画化に意欲を示しながらも断念しているし、私財を投げ打って映画化権を得た映画プロデューサーのベルント・アイヒンガー(脚本も担当)も、最大の問題は「主人公は自分自身を表現していない。小説家はこれを補うために物語を使用することができる。それは映画ではできない」として苦心し、3人の脚本家による脚本は最終的な撮影台本となるまでに20以上の段階を経たとのことです。

 ただし、それだけの苦労もあり、また、元々ドラマ性を持つ話であるため、結果的には良く出来た(面白い)映画になっていたと思います。このストーリーは、ラスト近くで一気に寓話性を帯びてますが、そこに至るまでをリアリズムにこだわって作っている分、終盤の展開が効いているように思いました(個人的評価としては一応★★★★)。

パフューム ある人殺しの物語07.jpg 映画を観直してみて、ストーリー的にも概ね原作に忠実であったと思いました。それでは、原作との違い(違和感とも言っていい)をどこで感じたかというと、グルヌイユが少女に近づくとき、映画ではどうしても"香り"的なものと性的なものが混然としているように見えてしまう点です。原作ではその点がはっきり峻別されていました。

 結局、グルヌイユは、女性を性的な意味合いも含め人として愛することができない特殊な人物であるということなのでしょう。でも、映像化すると、若干"変態"性欲者っぽく(つまり普通のストーカーっぽく)見えてしまうのは、まさに「主人公は自分自身を表現していない」ことによるかと思います。

 全体を通して、ナレーションによる"ト書き"的表現が多いのも、また、そのナレーションにジョン・ハートという名優を起用しているのも、そうしたことと無関係ではないように思います。

パフューム ある人殺しの物語 ho.jpg ダスティン・ホフマンが調香師バルディーニ役で出演しています。そう言えば、昔から、ヨーロッパの監督の撮る文芸映画に、ハリウッドで活躍するスター俳優が出演するということがあったと思います。ルキノ・ヴィスコンティ(伊)監督の「家族の肖像」('74年/伊・仏)のバート・ランカスター、フェデリコ・フェリーニ(伊)監督の「カサノバ」('76年/伊・米)のドナルド・サザーランドなどがそう。もっと後では、マイケル・ラドフォード(英)監督の「ヴェニスの商人」('04年/米・伊・英)にアル・パチーノがシャイロック役で出ていました。当時、ダスティン・ホフマンのシャイロックを見たいと思ったのですが、ユダヤ系であるダスティン・ホフマンがシャイロックを演じるのは、何か差し障りがあったのでしょうか(調香師バルディーニの方が名前からイタリア系で、アル・パチーノ向きという気がしなくもないが)。

ベン・ウィショー/アラン・リックマン/レイチェル・ハード=ウッド
パフューム 05.gifパフューム 04.jpgパフューム 03.jpg「パフューム ある人殺しの物語」●原題:PERFUME: THE STORY OF A MURDERER●制作年:2006年●制作国:ドイツ・フランス・スペイン●監督:トム・ティクヴァ●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:トム・ティクヴァ/アンドリュー・バーキン/ベルント・アイヒンガー●撮影:フランク・グリーベ●音楽:アトム・ティクヴァ●原作:パトリック・ジュースキント『香水 ある人殺しの物語』●時間:147分●出演:ベン・ウィショー/ダスティン・ホフマン/アラン・リックマン/レイチェル・ハード=ウッド/(ナレーション)ジョン・ハート●日本公開:2007/03●配給:ギャガ・コミュニケーションズ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-04-09)(評価:★★★★)

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男2人女1人の関係を描き、無駄のない作りでスピード感がある。主人公はかなり"怖い"女性とも言える。
突然炎のごとく dvd.jpg 突然炎のごとく 01.jpg 突然炎のごとく 02.jpg
突然炎のごとく [DVD]」オスカー・ウェルナー/ジャンヌ・モロー
突然炎のごとく t.jpg オーストリアの青年ジュール(オスカー・ウェルナー)はモンパルナスでフランス青年のジム(アンリ・セラー)と知り合い、文学という共通の趣味を持つ二人はすぐに打ち解け、無二の親友となる。二人はある時、幻燈会に行き、アドリア海の島の写真に映った女の顔の彫像に魅了される。その後、二人はカトリーヌ(ジャンヌ・モロー)という女性と知り合い、同時に恋に落ちる。彼女は島の彫像の女と瓜ふたつだったからだ。カトリーヌは自由奔放そのものの女性で、男装して街に繰り出したり、ジュールとジムが街角で文学談義を始めると、突然セーヌ川に飛び込んで二人を慌てさせる。積極的だったのはジュールのほうで、彼はカトリーヌに求婚しパリのアパートで同棲を始め、ジムは出版社と契約ができて作家生活の第一歩を踏み出す。やがて第一次世界大戦が始まり、ジュールとジムはそれぞれの祖国の軍人として戦線へ行ったが、共に生きて祖国へ帰る。カトリーヌと結婚したジュールが住むライン河上流の山小屋に、ジムは招待された。その頃、ジュールとカトリーヌの間には六つになる娘もいたが、二人の間は冷えきっていた。ジュールはジムに彼女と結婚してくれと頼む。そうすれば彼女を繋ぎ留められると思ったからだ。しかも、自分も側に置いてもらうという条件で...。そうして、3人の奇妙な共同生活が始まる。危ういバランスを保った三角関係は、しかし、カトリーヌに愛人が別にいたことで崩れる。ジムは瞬間しか人を愛せない彼女に絶望し、パリへ帰る。数ヶ月後、映画館で3人は再会した。映画がはねた後、カトリーヌはふいにジムを車で連れ出した。怪訝な面持ちのジムとは対照的に、カトリーヌは穏やかな顔でハンドルを握るが―。

冒険者たち    LES AVENTURIERS.jpg明日に向って撃て   1シーン.jpg 1962年公開のフランソワ・トリュフォー監督の長編第3作(原題はJules et Jim(ジュールとジム))。男2人女1人の関係がベースになっていて、このパターンは後の多くの映画に影響を与えたとされています。代表的なものでは、ロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」('67年/仏)やジョージ・ロイ・ヒル監督の「明日に向かって撃て!」('69年/米)などがあるとされていますが、それらが必ずしもハッピーエンドとは言えないながらもプロセスにおいて"明るい"のに対し、この「突然炎のごとく」はプロセスにおいてもむしろ"暗い"と言え、さらに、「冒険者たち」のジョンア・シムカスや「明日に向かって撃て!」のキャサリン・ロスが演じたヒロインが、その明るさと純真さが魅力の女性像であったのに対し、この作品でジャンヌ・モローが演じた男性を破滅に追い込むような女性像は、魅力的かどうかはともかく、かなり"怖い"とも言えます。

Jules et Jim (突然炎のごとく).jpeg ただし、映画の公開が、今に比べてまだ女性が抑圧されていて、ちょうど女性解放運動が盛り上がってきた時期と重なったということもあって、英米においてフランス映画としては異例のヒット作となり、監督のトリュフォーの元にも、「カトリーヌは私です」という女性からの手紙が世界中から届いたとのことです。しかしながら、トリュフォー自身はこの映画が「女性映画」と呼ばれることを嫌い、また、主人公を自己と同一視するような女性たちの映画の見方にも否定的だったようです(カトリーヌにポリティカルなメッセージを込めようとしたわけでなく、また、カトリーヌは誰かの代弁者であるわけでもなく、「ただ、ある女性を描いたにすぎない」というスタンスだったようだ)。

突然炎のごとく1.jpg 後半で、ジュールがジムをカトリーヌや娘と居る山小屋に呼び寄せるのは、自分がカトリーヌとベッドを共にできなくなったからでしょう。そのくせ、カトリーヌの気まぐれで時にカトリーヌとジュールでベッドでじゃれ合ったりするから、今度はジムの方が嫉妬に苦しむことになるのだなあ。ラストも含め、ジムには本当に「お気の毒」と思わざるをえません。傍から見ればどうしてこんな悪女に惹かれてしまうのかと思ってしまいますが、当事者の立場になれば、魅せられている時は冷静な判断ができなくなるのでしょう。男性たちにとってカトリーヌは偶像であり、ゆえにファム・ファタール(運命の女)となるのでしょう。

突然炎のごとく_早稲田松竹.jpg 原作は、アンリ=ピエール・ロシェ(1879-1959)で、日本で発表されている小説は『突然炎のごとく』と『恋のエチュード』のみで、いずれもトリュフォーが映画化していることになります(トリュフォーは21歳の時に古本屋で偶然彼の作品に触れており、ある意味トリュフォーが発掘した作家と言えるかも)。自身の恋愛体験をもとにこの作品を書いており、登場人物的には「ジム」に当たりますが、本人は80歳近くまで生きており、また、カトリーヌのモデルとされた女性も、後に「私は死んでない」と言ったそうです。ジュールにもモデルがいるそうですが、映画においてオスカー・ウェルナーが演じる、文学オタクで女性にはあまりモテそうでないジュール像には、トリュフォー自身が反映されているようです(冒頭でジュールがマリー・デュボア演じる娘にさらっとフラれるエピソードがある)。どちらかと言うとずっとジルの視線で描かれているため、ラストはジュールが亡くなる側に回ってもよさそうな気がしましたが、カトリーヌとジムの死によって、ジュールは誰にも邪魔されずカトリーヌを永遠に自分のものとすることができた―という結末なのでしょう。

 個人的には、谷崎潤一郎の『痴人の愛』を想起したりもしました。日本映画で言えば、増村保造の(この監督、「痴人の愛」('67年)も撮っているが)浅丘ルリ子がインフォマニアを演じた「女体」('69年)でしょうか。ただし、増村保造×浅丘ルリ子とフランソワ・トリュフォー×ジャンヌ・モローでは、やはり後者に軍配が上がってしまいます。とにかくこの映画にはスピード感があるというか、無駄が無い気がします。
      
早稲田松竹(19-12-12)

 この映画に関するトリビアを3つ。

「突然炎のごとく」b6.jpg➀ カトリーヌがセーヌ川に飛び込むシーンは、スタントの女性がやりたがらなかったので、ジャンヌ・モロー自身が飛び込んだ。その結果、川の水の汚れがひどかったため、ジャンヌ・モローは喉を傷めた。

② ジムとカトリーヌがキスするシーンで、窓に張り付いていた虫がカトリーヌの口の中の入るが、これは撮影中の偶然で、トリュフォーは敢えてそのシーンをカットしなかった(トリュフォー自身がオタク気質の非モテ系であるため、このシーンの二人に嫉妬心を抱いた?との説も)。

女は女である  モロー.jpg③ ジャン=リュック・ゴダール監督の「女は女である」('61年/仏・伊)のなかに、ジャン=ポール・ベルモンドがバーで出会ったカメオ出演のジャンヌ=モローに、「ジュールとジムはどうしてる?」と訊くシーンがある。「突然炎のごとく」撮影期間中のことである。

「女は女である」('61年/仏・伊)

   
      
突然炎のごとく00.jpg突然炎のごとくド.jpg「突然炎のごとく」●原題:JULES ET JIM(英:JULES AND JIM)●制作年:1962年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●製作:ルキノ・ヴィスコンティ●脚本:フランソワ・トリュフォー/ジャン・グリュオー●撮影:ラウール・クタール●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:アンリ=ピエール・ロシェ●時間:107分●出演:ジャンヌ・モロー/オスカー・ウェルナー/アンリ・セール/マリー・デュボア/サビーヌ・オードパン/ヴァンナ・ウルビーノ/ボリス・バシアク/アニー・ネルセン●日本公開:1964/02●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所(再見):早稲田松竹(19-12-12)(評価:★★★★☆)●併映:「柔らかい肌」(フランソワ・トリュフォー)

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絶望シネマの「映画の定石」の破り方の多様性を感じた。ビジュアルもいい。

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観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』カバー写真「炎628」('85年/ソ連)

 鉄人社「観ずに死ねるか !」シリーズの「韓国映画 この容赦なき人生」('11年)、「観ずに死ねるか ! 傑作ドキュメンタリー88」('13年)、「観ずに死ねるか ! 傑作青春シネマ邦画編」('14年)、に続くシリーズの第4弾で、畳み掛ける不幸や理不尽な狂気、負の連鎖や死にまっしぐらの生き様など、救われない中身と結末の、いわば"絶望"を描いた映画を、文筆家ら70人がそれぞれの個人的視点で語り尽くした1冊です(カバーには、第二次世界大戦下でのナチスの掃討部隊アインザッツグルッペンによるウクライナでの大量虐殺行為を描いた「炎628」('85年/ソ連)がきている)。

「地下水道」 dvd.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpgジョニーは戦場に行った  pos.jpg 第1章「悲劇」では、「禁じられた遊び」(立川志らく)、「誰も知らない」(川本三郎)、「地下水道」(荒井晴彦)、「ジョニーは戦場に行った」(森達也)など13本が取り上げられています。アンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/ポーーランド)は『下水道映画を探検する』('16年/星海社新書)でも取り上げられていて「下水道映画」(下水道が出てくる映画)では個人的にはナンバー1ですが、絶望度で言うと「ジョニーは戦場にdalton trumbo 2.jpg行った」('71年/米)も相当なもの。カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ受賞作でありながら、殆どホラー映画に近い戦慄を覚えましたが、選者の森達也氏が、映画を通して主人公の苦痛を一度は体験すべきだと述べているのには賛同します。監督は「ローマの休日」('53年/米)の脚本家ドルトン・トランボで(原作もドルトン・トランボで発表は1938年)、第二次世界大戦後に「赤狩り」の標的とされ投獄された経験もあり(そう言えば「パピヨン」('73年/米)の脚本家でもある)、朝鮮戦争とベトナム戦争も経験しています(選者は、目も鼻もない兵士は大量に生産されているとも言っている)。

未来世紀ブラジ_7878.JPG 第2章「戦慄」では、「未来世紀ブラジル」(高橋ヨシキ)、「ミスト」(松﨑健夫)、最後の晩餐/2.jpg復讐するは我にあり」(二階堂ふみ)、「めまい(ヒッチコック)」(松崎まこと)、「炎628」(橋口亮輔、スチールが表紙に使われている)、「最後の晩餐復讐するは我にあり_7880.JPG」(伊藤彰彦)など20本が取り上げられています。テリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」('85年/英)は、「1984」のような"ディストピアSF"に見えますが(ロバート・デ・ニーロが謎の電気修理人役でいきなり登場したのは可笑しかったが)、特権階級の不気味な非人間性を描いていると選者の高橋ヨシキ氏は述べていて、ナルホドと。今村昌平監督の「復讐するは我にあり」('79年/松竹)のラストの三國連太郎と倍賞美津子の散骨シーンを、選者の女優・二階堂ふみが、「緒形さんが、まるで、俺はまだ生きていると叫んでいるような」骨のストップシーンと表現しているのにも共感しました、

 第3章「破壊」では、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(みうらじゅん)、「黒い画集 第二話 寒流」(西IMG_7881.JPG村賢さらば愛しき大地 poster.jpg太)、「ポーラX」(安藤尋)、「気狂いピエロ」(末井昭)、「さらば愛しき大地」(佐々木俊尚)など16本が取り上げられています。松本清張原作の「黒い画集」シリーズから2本入っているのが興味深いですが、「黒い画集 第二話 寒流」の選者の芥川賞作家・西村賢太氏が、「清張の原作に付け加えられたカタルシスなき結末」に着眼しており、原作と読み比べてみるのもいいと思います(原作はスッキリさせられる逆転劇、映画は...)。

 第4章「哀切」では、「ミリオンダラー・ベイビー」(渚ようこ)、「真夜中のカーボーイ」(大槻ケンヂ)、「ミッドナイトクロス」(松崎まIMG_7884.JPGこと)、「東京暮色」(真魚八重子)など16本が取り上げられていて、第5章「狂気」では、「少女ムシェット」(坪内祐三)、「ゴーン・ガール」(大根仁)、「時計しかけのオレンジ」(水道橋博士)、「追悼のざわめき」(森下くるみ)など11本が取り上げられています。スタンリー・キューブリック監督の「時計しかけのオレンジ」は、主人公が拷問的洗脳IMG_7885.JPGを受けるという点で「未来世紀ブラジル」と少し似ている部分もあったように思います。

 70人の選者が1人1作思いを込めて作品を論じていて、いろいろ気付きを与えてくれます。70人の中には、作家、映画監督や映画評論家などに混じって男優、女優、歌手なども何人かいて、例えば女優では、先に取り上げた二階堂ふみや、成海璃子、武田梨奈など結構若手もおり、彼女らなりに映画をしっかり捉えているのが興味深かったです。

 ハッピーエンドと正反対の(バッドエンドの)映画、本書で言う「絶望シネマ」というのはまだ沢山あると思いますが、いずれも言わば「映画の定石」なるものをを破っているわけであって、その破り方が極めて多様であることが窺え(こうしてみると、ハッピーエンドの映画はどれも同じように見えてきてしまう)、本書を通して改めて「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」ことが浮き彫りになったように思います。ビジュアル面でも、映画の見どころシーンが多く織り込まれていて、まだ観たことのない作品も観てみたくなるほどに楽しめる1冊です。

ジョニーは戦場へ行った [DVD]
ジョニーは戦場へ行った [DVD].jpgジョニーは戦場に行ったード.jpg「ジョニーは戦場に行った」●原題:JOHNNY GOT HIS GUN●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督:ダルトン・トランボ●製作ブルース・キャンベル●脚本:ダルトン・トランボ●撮影: ジュールス・ブレンナー●音楽:ジェリー・フィールデジョニーは戦場に行った サザーランド2.jpgィング●原作:ダルトン・トランボ●時間:112分●出演:ティモシー・ボトムズ/キャシー・フィールズ/ドナルド・サザーランド/ジェイソン・ロバーズ/マーシャ・ハント/ チャールズ・マッグロー/ダイアン・ヴァーシ/エドワード・フランツ/ ケリー・マクレーン●日本公開:1973/04●配給:ヘラルド映画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ(79-02-24)(評価:★★★★)

未来世紀ブラジル [DVD]
未来世紀ブラジル [DVD].jpg未来世紀ブラジル 111.jpg「未来世紀ブラジル」●原題:BRAZIL●制作年:1985年●制作国:イギリス●監督:テリー・ギリアム●製作:アーノン・ミルチャン●脚本:テリー・ギリアム/チャールズ・マッケオン/トム・ストッパード●撮影:ロジャー・プラット●音楽:マイケル・ケイメン●時間:142分●出演:ジョナサン・プライス/ロバート・デ・ニーロ/キ未来世紀ブラジル ロバートデニーロ.jpgム・グライスト/マイケル・ペイリン/キャサリン・ヘルモンド/ボブ・ホスキンス/デリック・オコナー/イアン・ホルム/イアン・リチャードソン/ピーター・ヴォーン/ジム・ブロードベント●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘(87-07-19)(評価:★★★★)●併映:「ザ・フライ」(デビッド・クローネンバーグ)

復讐するは我にあり_7889.JPG「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ復讐するは我にあり 骨.jpg蝶々/倍賞美津子/小川真由美/清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)

IMG_7883.JPG「最後の晩餐」●原題:LA GRANDE BOUFFE●制作年:1973年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:マルコ・フェレーリ●製作:ヴァンサン・マル/ジャ「最後の晩餐」2.jpgン=ピエール・ラッサム●撮影:マリオ・ヴルピアーニ●音楽:フィリップ・サルド●時間:130分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ウーゴ・トニャッツィ/フィリップ・ノワレ/ミシェル・ピッコリ/アンドレア・フェレオル●日本公開:1974/11●最初に観た場所:大塚名画座 (78-11-07) (評価★★★★☆)●併映:「糧なき土地」(ルイス・ブニュエル)/「自由の幻想」(ルイス・ブニュエル)

さらば愛しき大地 7892.JPG「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三/松山政路/奥村公延/草薙幸二郎/小林稔侍/中島葵/白川和子/佐々木すみ江/岡本麗/志方亜紀子/日高澄子●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウエアとうきゅう(82-07-10)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★★☆)●併映(2回目):「(ゴッド・スピード・ユー! ブラック・エンペラー」(柳町光男)

時計じかけのオレンジ [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]
IMG_7882.JPG時計じかけのオレンジ dvd.jpg「時計じかけのオレンジ」●原題:A CLOCKWORK ORANGE●制作年:1971年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ウォルター・カーロス●原作:アンソニー・バージェス●時間:137分●出演:マルコム・マクダウェル/ウォーレン・クラーク/ジェームズ・マーカス/ポール・ファレル/リチャード・コンノート/パトリック・マギー/エイドリアン・コリ/ミリアム・カーリン/オーブリー・モリス/スティーヴン・バーコフ/イケル・ベイツ/ゴッドフリー・クイグリー/マッジ・ライアン/フィリップ・ストーン/アンソニー・シャープ/ポーリーン・テイラー●日本公開:1972/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-02-09)●2回目:吉祥寺セントラル(83-12-04)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「非情の罠」(スタンリー・キューブリック)

《読書MEMO》
●「観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88」 (鉄人社)出版記念上映会 @テアトル新宿(2015年)
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アン・リー監督2度目の金獅子賞。原作短編を「長編に展開」し、女性映画として秀逸な「ラスト、コーション」。
ラスト、コーション チラシ.jpgラスト、コーション .jpg ラスト、コーション 集英社文庫.jpg ブロークバック・マウンテン dvd.jpg
ラスト、コーション [DVD]」(トニー・レオン(梁朝偉)/タン・ウェイ(湯唯))『ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫)』「ブロークバック・マウンテン [DVD]」(ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール)
ラスト、コーション 03.jpg 1938年、日中戦争の激化によって混乱する中国本土から香港に逃れていた女子大学生・王佳芝(ワン・チアチー)(タン・ウェイ)は、学ラスト、コーション04.jpg友・鄺祐民(クァン・ユイミン)(ワン・リーホン)の勧誘で抗日運動を掲げる学生劇団に入団し、やがて劇団は実践を伴う抗日活動へと傾斜していく。翌1939年、佳芝も抗ラスト、コーション09.jpg日地下工作員(スパイ)として活動することを決意し、特務機関の易(イー)(トニー・レオン)暗殺の機を窺うため麦(マイ)夫人として易夫人(ジョアン・チェン)に麻雀・買い物友達として接近、易を誘惑したが、学生工作員の未熟さと厳しい警戒でラスト、コーション37.jpg暗殺は未遂に終わる。3年後、日中戦争開戦から6年目の1942年、特務機関の中心人物に昇進していた易暗殺計画の工作員として上海の国民党抗日組織から再度抜擢された佳芝は、特訓を受けて易に接触したが、度々激しい性愛を交わすうち、特務機関員という職務から孤独の苦悩を抱える易にいつしか魅かれていく。工作員としての使命を持ちながら、暗殺対象の易に心を寄せてしまった佳芝は―。

ラスト、コーション99.jpg 「ブロークバック・マウンテン」('05年/米)で2005年・第62回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞や2005年度アカデミー監督賞を受賞したアン・リー(李安)監督の2007年公開作で、1942年日本軍占領下の中国・上海を舞台に、日本の傀儡政権である汪兆銘政権の下で、抗日組織の弾圧を任務とする特務機関員の暗殺計画を巡って、抗日運動の女性工作員ワン(タン・ウェイ)と、彼女が命を狙う日本軍傀儡政府の顔役イー(トニー・レオン)による死と隣り合わせの危険な逢瀬とその愛の顛末を描いたもので、2007年・第64回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と撮影賞をW受賞し、アン・リー監督はルイ・マルや張藝謀(チャン・イーモウ)と並んで、金獅子賞を2度獲った歴代4人目の監督となりました。

世界文学全集 第3集.jpgZhang_Ailing_1954.jpg 原作は、ドミニク・チャン南カリフォルニア大学教授によれば、「国民党と共産党の政治的分裂がなければノーベル賞を受賞していたはずだ」という作家・張愛玲(ちょう あいれい、アイリーン・チャン、1920-1995)による小説『惘然記』(1983)に収められた短編小説「色、戒」で、1939年に実際にあった暗殺事件にヒントを得て書かれたものです。1955年に作者は米国に移り住むことになりますが、その頃から既に構想されていたもののようです(1977年初出)。映画公開に併せて『ラスト、コーション 色・戒』('07年/集英社文庫)など訳書が刊行され、『短編コレクションⅠ(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅲ‐05)』('10年/河出書房新社)にも収められていますが、池澤夏樹氏は、「『色、戒』はぼくには圧縮された長編小説と読める」としています。
短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

ラスト、コーション 0.jpg 原作は女性工作員・王佳芝(ワン・チアチー)の数日を描いていますが(それは劇的な結末で終わる)、映画も、その形をきっちり踏襲した上で、回想の部分に肉付けして2時間38分の作品にしています。そして、その肉付けの仕方が、ぎゅっと詰まった高密度の原作を分かりやすく展開して"長編小説"に戻したような形になっています。ジェーン・オースティン原作の「いつか晴れた日に」('95年/米・英)のように英国小説が原作の映画を撮れば英国の監督が撮ったように撮り、「ブロークバック・マウンテン」のように米国小説が原作の映画を撮れば米国の監督が撮ったように撮るアン・リー監督ですが、やはりこの中国を舞台とした小説の映画化で一番力を発揮したように個人的には思います。

ラスト、コーション 99.jpg ヒロインの王佳芝を演じた湯唯(タン・ウェイ)は、オーディションで約1万人の中から主演に選ばれたそうですが、当時28歳ながら学生を演じれば学生らしく見え、男を誘惑する女スパイを演じればそれなりに魅力的な女性に見えました(タン・ウェイは第44回台湾金馬奨最優秀新人賞受賞)。原作とイメージが若干違うのは、原作では「ねずみ顔の中年の小男」とされている特務機関の易(イー)をトニー・レオンが演じているため、"いい男"過ぎる点でしょうか(笑)(トニー・レオンはアジア・フィルム・アワード主演男優賞、台湾金馬奨最優秀主演男優賞受賞)。

鄭蘋茹(Zheng Pingru)/丁黙邨(てい もくそん)
Zheng_Pingru_02.jpg丁黙邨.jpg 因みに、「色、戒」の王佳芝のモデルは、父親が中国人、母親が日本人の女スパイ・鄭蘋茹(テン・ピンルー、1918 -1940/享年22)で、易のモデルは、汪兆銘政権傘下の特工総部(ジェスフィールド76号)の指導者・丁黙邨(ていもくそん、1903-1947)です。鄭は丁に近づき、1939年12月、丁の暗殺計画を実行するも失敗、特工総部に出頭して捕らえられ、1940年2月に銃殺されますが、後に中華民国より殉職烈士に認定されています。一方の丁は、戦後も蒋介石の国民政府に再任用されるなどしましたが、結局は漢奸として逮捕され、1947年に死刑判決を受け、南京で処刑されています(享年45)。

ラストコーション8735_l.jpg この映画は所謂「漢奸問題」を引き起こしました。佳芝を演じたタン・ウェイは、トニー・レオンが演じる戦時中日本の協力者と見なされた漢奸を愛するようになる役柄であることから、漢奸を美化し「愛国烈士」を侮辱する象徴として中国国内のネット上では批判された時期があったようです。張愛玲の原作では愛欲描写は殆ど無いものの、佳芝が易を逃がすのは原作も同じです。原作者の張愛玲は人生半ばで渡米して今は故人、そうなるとこの作品を選んだアン・リー監督に矛先が行きそうですが、当のアン・リーは台湾出身で米国国籍も有し普段は中国にはいないので、トニー・レオンと大胆なラブシーンを演じたタン・ウェイに批判の矛先が向けられたのかもしれません(タン・ウェイは2008年に香港の市民権を得て、その後は主に香港映画に出演、ハリウッドにも進出した)。

ラスト、コーション92.jpg 原作では、佳芝が易にどのような理由で愛情を抱くようになったかは明確に描かれていません。また、佳芝が易を逃がしたことが、同時に彼女が仲間を裏切ったことになり、そのため彼女だけでなく仲間が皆捕まって処刑されたということも、原作ではさらっと触れているだけで、この佳芝の言わば"裏切り"行為は、原作よりも映画の方がより前面に押し出されていると言えます。敢えてそうした上で(つまり批判を見越した上で)、それでもヒロインとして観る者を惹きつける佳芝の描きっぷりに、アン・リー監督による"原作超え"を感じました。3年も経ってからやっと佳芝に口づけをしたかつての学友に、「3年前にしてくれていれば...」と佳芝が言う場面で、「ああ、これは"女性映画"なのだなあと」とも思いました(アン・リー監督は女性映画の名手として定評がある)。

51eLWoDzrkL._SL250_.jpgアニー・プルー.jpg この作品の2年前にヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲った「ブロークバック・マウンテン」は、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンの雄大な風景をバックに、2人のカウボーイの1963年から1983年までの20年間にわたる秘められた禁断の愛を綴った物語で、原作は『シッピング・ニュース』でピューリッツァー賞を受賞した女流作家E・アニー・プルーの同名中編で、1997年に雑誌「ニューヨーカー」に掲載され、1998年の全米雑誌賞とO・ヘンリー賞を受賞した作品です(これも佳作だった。彼女は「ブロークバック・マウンテン」がアカデミー作品賞にノミネートされるも受賞を逃したことで、代わりにアカデミー作品賞を受賞した「クラッシュ」を酷評した)。

"Brokeback Mountain"ペーパーバック

ブロークバック・マウンテンa5.jpg 1963年、ワイオミング。ブロークバック・マウンテンの農牧場に季節労働者として雇われ、運命の出逢いを果たした2人の青年、イニス・デル・マー(ヒース・レジャー)とジャック・ツイスト(ジェイク・ギレンホール)。彼らは山でキャンプをしながら羊の放牧の管理を任される。寡黙なイニスと天衣無縫なジャック。対照的な2人は大自然の中で一緒の時間を過ごすうちに深い友情を築いていく。そしていつしか2人の感情は、彼ら自身気づかぬうちに、友情を超えたものへと変わっていくのだったが―。

 2005年のアカデミー賞で8部門にノミネートされましたが、監督賞、脚色賞、作曲賞の3部門の受賞にとどまりました(保守的な傾向があるアカデミー賞では作品賞は難しいのではないかという事前予想はあった)。ただし、ゴールデングローブ賞作品賞、英国アカデミー賞作品賞、インディペンデント・スピリット賞作品賞ほか、ニューヨーク、ロサンゼルスブロークバック・マウンテン_c1.jpgブロークバック・マウンテン_c2.jpg、ロンドンなどの各映画批評家協会賞作品賞を受賞し、ゲイ・ムービーにはスティーヴン・フリアーズ監督の「マイ・ビューティフル・ランドレット」('85年)やウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」('97年)など先行する作品が結構ありましたが、多くの賞を受賞したという点では画期的な作品でした。2000年代中盤以降LGBT映画がますますその数を増していく契機にもなり、最近では、バリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」('16年)がアカデミー作品賞を受賞し、ルカ・グァダニーノ監督の「君の名前で僕を呼んで」('17年)がアカデミー脚色賞を受賞するなどしています(「君の名前で僕を呼んで」の脚本は「モーリス」('87年)のジェームズ・アイヴォリー監督)。

ブロークバック・マウンテンes.jpg この映画の場合、主人公の2人の男性は共に家庭も持っていて、しかも時代設定が60年代から80年代にかけてということで、ゲイに対する偏見が今よりもずっと強かった時代の話であり、それだけ"禁断の愛"的な色合いが強く出ブロークバック・マウンテン4.jpgているように思います。一方で、その"禁断の愛"をブロークバック・マウンテンの美しい自然を背景に描いており、山の焚火%E3%80%80チラシ.jpgドロドロした印象はさほどなく、自然の美しさが浄化作用のように効いているという点で、アルプスの自然を背景に姉弟の近親相姦を描いたフレディ・M・ムーラー監督のロカルノ国際映画祭「金豹賞」受賞作「山の焚火」('85年/スイス)を想起したりしました。
     
ブロークバック・マウンテン ヒース.jpg イニスとジャックを演じた、故ヒース・レジャー(1979-2008/享年28)とジェイク・ギレンホールの演技も良かったです。この作ヒース・レジャー.jpg品のイニス役でニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞などを受賞し、アカデミー主演男優賞にもノミネートされたヒース・レジャーは、映画の中でイニスと結婚したアルマを演じたミシェル・ウィリアムズと実生活において婚約しましたが、両者の間に女の子が産まれたものの婚約を解消しています。

ダークナイト.jpg その後ヒース・レジャーは、クリストファー・ノーラン監督のバットマン映画「ダークナイト」('08年/米・英)にバットマンの宿敵ジョーカ役で出演、バットマン役のクリスチャン・ベールを喰ってしまうほどの演技でジャック・ニコルソンのとはまた違ったジョーカー像を創造することに成功し、アカデミー助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞、英国アカデミー賞助演男優賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞など主要映画賞を総なめにしたものの、2008年1月に薬物摂取による急性中毒でニューヨークの自宅で亡くなっています。アカデミー助演男優賞の受賞は亡くなった後の決定であり、故人の受賞は「ネットワーク」('76年/米)のピーター・フィンチ以来32年ぶり2例目でした(因みに、共演のクリスチャン・ベールも2年後の「ザ・ファイター」('10年/米)でアカデミー助演男優賞を受賞している)。

ブロークバック・マウンテン 85.JPG 「ブロークバック・マウンテン」においてイニスがジャックの事故死を彼のジャックの妻ラリーン(アン・ハサウェイ)から聞かされた時に、リンチを受けるジャックの姿をイメージしたのは、単にイニスのトラウマからくる思い込みというより、実際にリンチ死だったということだったのでしょう。原作では、イニスは最初はジャックがリンチ死だったのか本当に事故死だったのか分からないでいますが、後になってジャックはリンチ死したと確信するようになります。

ブロークバック・マウンテン (集英社文庫(海外))

 「ブロークバック・マウンテン」「ラスト、コーション」とも傑作映画です。原作に比較的忠実に作られている「ブロークバック・マウンテン」もいいですが、個人的には、原作からの"展開度"という点で(しかも"正しく"肉付けされている)「ラスト、コーション」の方がやや上でしょうか。

ジョアン・チェン(易夫人)/ワン・リーホン(鄺祐民(クァン・ユイミン))
ラスト、コーション ジョアン・チェン.jpgラスト、コーション ワン・リーホン.jpg「ラスト、コーション」●原題:色,戒/LUST, CAUTION●制作年:2007年●制作国:アメリカ・中国・台湾・香港●監督:アン・リー(李安)●製作:アン・リー/ビル・コン/ジェームズ・シェイマス●脚本:ワン・ホイリン/ジェームズ・シェイマス●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:アレクサンドル・デスプラ●原作:張愛玲(ちょう あいれい、アイリーン・チャン)「色、戒」●時間:158分●出演:トニー・レラスト、コーション36.jpgオン(梁朝偉)/タン・ウェイ(湯唯)/ジョアン・チェン(陳冲)/ワン・リーホン(王力宏)/トゥオ・ツォンファ/チュウ・チーイン/ガァオ・インシュアン/クー・ユールン/ジョンソン・イェン/チェン・ガーロウ/スー・イエン/ホー・ツァイフェイ/ファン・グワンヤオ/アヌパム・カー●日本公開:2008/02●配給:ワイズポリシー)(評価:★★★★☆)

トニー・レオン(梁朝偉)/タン・ウェイ(湯唯)/アン・リー(李安)監督/ワン・リーホン(王力宏)/ジョアン・チェン(陳冲)〔2007年・第64回ヴェネツィア国際映画祭〕

アン・ハサウェイ(ジャックの妻ラリーン)/ミシェル・ウィリアムズ(イニスの妻アルマ)
ブロークバック・マウンテン アン・ハサウェイ.jpgブロークバック・マウンテン ミシェル・ウィリアムズ.jpg「ブロークバック・マウンテン」●原題:BROKEBACK MOUNTAIN●制作年:2005年●制作国:アメリカ●監督:アン・リー(李安)●製作:ブロークバック・マウンテンe2.jpgダイアナ・オサナ/ジェームズ・シェイマス●脚本:ワダイアナ・オサナ/ジェームズ・シェイマス●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:グスターボ・サンタオラヤ●原作:E・アニー・プルー「ブロークバック・マウンテン」●時間:134分●出演:ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール/アン・ハサウェイミシェル・ウィリアムズ/ランディ・クエイド/リンダ・カーデリーニ/アンナ・ファリス/ケイト・マーラ●日本公開:2006/03●配給:ワイズポリシー(評価:★★★★)

ダークナイト dvd.jpgダークナイト2.jpg「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジダークナイト ヒースレジャー.jpgョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベールヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

モーガン・フリーマン(バットマンのテクノロジーをサポートするルーシャス・フォックス)/マイケル・ケイン(ウェイン家の執事・アルフレッド・ペニーワース)
the dark knight 2008 morgan freeman michael caine.jpg

「ラスト、コーション」...【2007年文庫化[集英社文庫(『ラスト、コーション 色・戒』)]】
「ブロークバック・マウンテン」...【2006年文庫化[集英社文庫(『ブロークバック・マウンテン』)]】

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静かに訪れる世界の終り。タルコフスキーの「サクリファイス」より骨太で重かった。

ニーチェの馬 dvd.jpgニーチェの馬es.jpg  サクリファイス タルコフスキー dvd.jpg
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ニーチェの馬 [DVD]

ニーチェの馬_04.jpg 1日目・・・農夫(デルジ・ヤーノシュ)は馬車に乗り、風の中人里離れた家に戻る。娘(ボーク・エリカ)は彼を出迎え、農夫は馬と車を小屋に戻す。娘は農夫の服を着替えさせ、2人で茹でたジャガイモ1個の食事を貪る。寝る段になって、農夫は58年鳴き続けた木食い虫が鳴いていないことに気付く。外は暴風が吹き荒れている。2日目・・・娘は井戸に水を汲みに行く。パーリンカ(焼酎)を飲んだ後、農夫はいつもの通り、馬車に乗って外へ出ようとするが、馬は動こうとしない。諦めた農夫は家に戻って薪を割り、娘は洗濯をする。ジャガイモを貪ったところへ男(ミハーイ・コルモス)が現れ、パーリンカを分けてくれるように頼む。町は風で駄目になったという男は、世界についてのニヒリズム的持論を延々述べるが、農夫はくだらないと一蹴、男はパーリンカを受け取って出て行く。3日目・・・娘は井戸で水を汲む。パーリンカを飲み、農夫と娘は馬小屋の掃除をする。新たな飼い葉を与えても馬は食べない。ジャガイモニーチェの馬 nagare.jpgを食べていた時外を見ると、馬車に乗った数人の流れ者が現れ、勝手に井戸を使い出す。2人は外へ飛び出して流れ者を追い払い、流れ者は2人を罵って去る。食器を片付けた後、娘は流れ者の一人が水の礼として渡した本を読むと、教会における悪徳について書かれていた。未だ風は激しく吹き続けている。4日目・・・娘が水を汲みに行くと、井戸が干上がっていた。馬は相変わらず飼い葉を食べず、水ニーチェの馬ド.jpgも飲まない。農夫はここにはもう住めないと、家を引き払う決心をする。荷物を纏めて馬を連れ、今度は自分らで車を引いて農夫と娘は家を出るが、丘を越えたところで戻ってくる。娘は窓から外を何も言わず見続ける。5日目・・・娘は農夫を着替えさせ、農夫は小屋に行き馬の縄を外してやる。2人はジャガイモを貪るも力なく、農夫は殆どを残してしまう。夜になったが、ランプに火が付かなくなり、火種も尽きる。嵐は去っていた。6日目・・・農夫と娘が食卓についている。農夫はジャガイモを生のまま口にするが、すぐ諦める。2人を沈黙が支配する―。

ニーチェの馬 uma2.jpg ハンガリーのタル・ベーラ監督(1955年生まれ)の2011年の作品で、第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞61st Berlin Film Festival - 'A Torinoi Lo' Premiere.jpg(審査員グランプリ)、国際批評家連盟賞(コンペティション部門)を受賞した作品ですが、タル・ベーラ監督はこの作品を監督としての最後の作品と表明しています。それぞれ農夫と娘を演じたデルジ・ヤーノシュ、ボーク・エリカ,ミハーイ・コルモス共、前作「倫敦から来た男」('07年/ハンガリー)に続いての出演で、音楽、撮影、編集も同じスタッフです。
Actor Mihaly Kormos, actress Erika Bok, actor Janos Derzsi and director Bela Tarr in 61st Berlin Film Festival

ニーチェの馬 uma.jpg 強烈な印象を残す馬は、本当に働かなくてその日に売り手がつかなかったらソーセージになるところだった馬を、タル・ベーラ監督がこれだと思って"スカウト"したそうです。冒頭に「1889年1月3日。哲学者ニーチェはトリノの広場で鞭打たれる馬に出会うと、駆け寄り、その首をかき抱いて涙した。そのまま精神は崩壊し、彼は最期の10年間を看取られて穏やかに過ごしたという。 馬のその後は誰も知らない」とナレーションが流れます。この馬は、そのニーチェの馬を象徴的に指しているのでしょうか(原題は「トリノの馬」)。

ニーチェの馬 te.jpg 農夫と娘が強風の中家に閉じ込められ、2日目にはその馬は動かなくなり、4日目には水を失い、5日目には火を失うといった具合に生きていく上で欠かせないものを順番に失っていくわけで、旧約聖書における神が6日間で世界を作った「天地創造」とは逆に、6日で世界が静かに崩壊していく様が、農夫と娘の生活の変化を通して間接的に描かれているとも言えます(タル・ベーラ監督はこの作品について、「本当の終末というのはもっと静かな物であると思う。死に近い沈黙、孤独をもって終わっていくことを伝えたかった」と語っている)。

サクリファイス タルコフスキーga.bmpサクリファイス4.jpg 長回しという点で、アンドレイ・タルコフスキー監督やテオ・アンゲロプロス監督の作品と似ているように思われ、また、世界の終わりを間接的に描いたのであるならば、タルコフスキー監督が第39回カンヌ国際映画祭で、カンヌ映画祭史上初の4賞(審査員特別グランプリ、国際映画批評家賞、エキュメニック賞、芸術特別貢献賞)を受賞した「サクリファイス」('86年/スウェーデン・英・仏)を思い出させます。「サクリファイス」はタルコフスキー監督の遺作で、この監督は晩年になればなるほど作品の哲学的な色合いが濃くなっていったように思いますが、但し「サクリファイス」では、世界の終りの危機が核戦争勃発によってもたらされたことが、登場人物がテレビでそのニュースを聴く場面があることから具体的に示されているのに対し、この「ニーチェの馬」では、2日にパーリンカを分けて欲しいと立ち寄った男が、「町は風で駄目になった」と言うだけです。

ニーチェの馬 po.jpg ほぼ全編に渡って吹きすさぶ風(人工の風だそうだが)―この風によって世界が滅ぶという抽象性がある意味この映画の"重み"になっているように思います。加えて、農夫を演じたデルジ・ヤーノシュの哲学者のような顔つき。殆どセリフがないのも"重さ"に繋がっているし、モノクロ映画であることも効果を増しているように感じられ、個人的には「サクリファイス」より骨太感があるように思いました。長回しが多く、観るのにある程度覚悟のいる作品ですが、他にあまり類を見ない作品であると思います(ジャガイモがこれほど印象に残る映画も無い)。

 因みにハンガリー語圏では名前を「姓・名」の順で表記するため、タル・ベーラ監督は「タル」が姓で「ベーラ」が名前です(女優ボーク・エリカは「エリカ」が名前と言えば分かりやすいか)。印欧語族風にベーラ・タルと表記することもあり(テニスプレーヤーのモニカ・セレシュなども「名・姓」の順)、同じハンガリーの映画監督で、「密告の砦」('65年/密告の砦 0.jpg密告の砦 01.jpgハンガリー)の監督ヤンチョー・ミクローシュ(1921-2014)なども「ミクローシュ・ヤンチョー」と「名・姓」の順で長年通ってしまっているのでややこしいです。1869年、オーストリアとハンガリーの二重帝国治下に入って3年目のハンガリーの、農民と義賊の群れが狩りこまれた荒野の砦を舞台にした「密告の砦」は、ハンガリー人将校たちが仕組んだ"密告"の罠にはまり、次々と倒れていく義賊集団のゲリラたちが悲惨でした。農民が義賊ゲリラ狩りに駆り出されるというのは皮肉ですが、コレ、すべて史実とのことです(1966年度ハンガリー批評家選出最優秀映画賞、1967年度英国批評家協会優秀外国映画賞受賞作品)。「密告の砦」と「ニーチェの馬」の2本だけで、ハンガリー映画って"重い"なあという印象になってしまいがちですが、とりあえず「ヤンチョー」と「タル」が姓であることを憶えておきましょう。

ニーチェの馬 ges.jpg「ニーチェの馬」●原題:A TORINOI LO/THE TURIN HORSE●制作年:2011年●制作国:ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ●監督:タル・ベーラ(苗字・名前順、以下同じ)●製作:テーニ・ガーボル●脚本:タル・ベーラ/クラスナホルカイ・ラースロー●撮影:フレッド・ケレメン●音楽:ヴィーグ・ミハーイ●時間:154分●出演:デルジ・ヤーノシュ/ボーク・エリカ/コルモス・ミハリー●日本公開:2012/02●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-25)(評価:★★★★)

サクリファイス タルコフスキー 00.jpgサクリファイス 000.jpg「サクリファイス」●原題:OFFRET●制作年:1986年●制作国:スウェーデン・イギリス・フランス●監督・脚本:アンドレイ・タルコフスキー●製作:カティンカ・ファラゴ●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ●時間:149分●出演:エルランド・ヨセフソン/スーザン・フリートウッド/オットーアラン・エドヴァル/グドルン・ギスラドッティル/スヴェン・ヴォルテル/ヴァレリー・メレッス/フィリッパ・フランセーン/トミー・チェルクヴィスト●日本公開:1987/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(87-10-17)(評価:★★★☆)

密告の砦 00.jpg密告の砦 02.jpg「密告の砦」●原題:SZEGENYLEGENYEK●制作年:1965年●制作国:ハンガリー●監督:ミクローシュ・ヤンチョー(名前・苗字順、以下同じ)●脚本:ジュラ・ヘルナーディ●撮影:タマーシュ・ショムロー●時間:149分●出演:ヤーノシュ・ゲルベ/ティボル・モルナール/アンドラーシュ・コザーク/ガーボル・アガールディ/ゾルタン・ラティノヴィッチ●日本公開:1977/06●配給:フランス映画社●最初に観た場所:千石・三百人劇場(80-01-23)(評価:★★★★)●併映:「オーソン・ウェルズのフェイク」(オーソン・ウェルズ)

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「触れるはずのない2人」が出会って。異価値許容性と言うか、ある意味今日的なテーマを扱った作品。

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最強のふたり04.jpg パリに住む富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、頸髄損傷で首から下の感覚が無く、体を動かすこともできない。フィリップと秘書のマガリー(オドレイ・フルーロ)は、住み込みの新しい介護人を雇うため、候補者の面接をパリの邸宅でおこなっていた。ドリス(オマール・シー)は、職探しの面接を最強のふたりes.jpg紹介され、フィリップの邸宅へやって来る。ドリスは職に就く気はなく、給付期間が終了間際となった失業保険を引き続き貰えるようにするため、紹介された面接を受け、不合格最強のふたりmages.jpgになったことを証明する書類にサインが欲しいだけだった。気難しいところのあるフィリップは、他の候補者を気最強のふたりges.jpgに入らず、介護や看護の資格も経験もないドリスを、周囲の反対を押し切って雇うことにする。フィリップは、自分のことを障害者としてではなく、一人の人間として扱ってくれるドリスと次第に心を通じ合っていく―。

エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ監督 in「東京国際映画祭」(2011)
エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ .jpg 2011年11月本国公開のエリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督作で、第37回セザール賞で作品・監督・主演男優・助演女優・撮影・脚本・編集・音響賞にノミネートされ、オマール・シーが主演男優賞を受賞、フランスでの歴代観客動員数で3位(フランス映画のみの歴代観客動員数では2位)となる大ヒットとなりました。日本では、2011年10月に第24回東京国際映画祭のコンペティション部門にて上映され、最高賞のサクラグランプリ受賞と最優秀男優賞W受賞(ランソワ・クリュゼ、オマール・シー)という、史上初のトリプル受賞を達成し、翌年9月の一般公開後も、興行収入が日本で公開されたフランス語映画の中で歴代1位のヒット作となり、2013年第36回日本アカデミー賞の最優秀外国作品賞も受賞しています。

最強のふたり 映画 モデル.jpg 実在の富豪フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴとその介護人アブデル・ヤスミン・セローの実話を基にした作品であるということですが、映画では介護人ドリスはアフリカ系の黒人になっていますが、実際のアブデルはアルジェリア出身のアラブ系で、フィリップと1年程度で別れたのではなく、10年程度介護したとのこと。他にも事実と異なる点は多くあり、映画は映画として観た方がよいかもしれません。

 ドリスは黒人ゲットーに暮らし、家族が問題を抱える中、自身も職にありつけず最初から失業保険を目当てに面接を受けているような有様で、大金持ちだが身体的障害を持つフィリプに対して、ドリスの方は、身体は健康だが社会的にハンディキャップを負っているとも言えます。映画の原題は"Intouchables"であり、「toucher=触れる、コンタクトする(英語のtouch)」という動詞が元になっていて、「本来は触れるはずのない(出会うはずのない)2人」といった意味のようです。この異質の2人が、互いを受け容れ、強い絆を築いていくというのがテーマだと思います。

最強のふたりロード.jpg その点において、フィリップが多くの候補者の中からなぜドリスを自らの介護人として採用したのかということがひとつこの作品のカギとなりますが、他の候補者が障害を持つフィリップに同情を示す中、そうした他人の同情にウンザリしていたフィリップにとって、対等な人間として自分と接するドリスには偽善的なものが感じられず、"偽善者"に囲まれて暮らしてきたようなフィリップにとっては、彼がが唯一心を許せそうな相手であったということでしょう。

最強のふたりsaikyo-03-e1449553808662.jpg 2人が生活環境や趣味趣向の違い―クラシックとソウル、高級スーツとスウェット、文学的な会話と下ネタ―を超えて心を通い合うようになる様がコメディタッチで描かれていますが、異文化交流とでも言うか、異価値許容性とでも言うか、ある意味今日的なテーマを扱った作品とも言えます。また、その根底には、両者の間で通じ合う何かがあったということが言えるかと思います。フィリップは友人から「注意したまえ。ああいう輩は容赦ない」と言われ、「そこがいい...容赦ないところがね」と答えています。

最強のふたりages.jpg 一方で、白人の富豪と黒人の介護人という組み合わせになったことで、アメリカ映画「ドライビング Miss デイジー」('89年)の時にもあったような"白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画"との批判(●批判1)も受ける可能性はあるかもしれません。でも個人的にはいい映画だと思います。

 この映画では介護のリアルな様子が描かれておらず、介護の現場にいる人から見ればキレイに作られ過ぎている印象を受ける(●批判2)かもしれませんが、これは、そうした様子を映像化してしまうと、観客が面接に来たその他多くの介護人候補者と同じく、フィリップを同情の目で見てしまうことを避けるため、意図的に描かないようにしたのではないかと思います。

最強のふたりsaikyo-01.jpg また、介護事業者や介護に携わる家族などからすれば、介護問題のかなりの部分は経済的な問題であって、この映画の主人公のように大富豪であればそうした問題の殆どは解決可能であり、あとは介護人と被介護者の相性の問題だけになるので、現場にとってさほど参考になるものはない(●批判3)との見方もあるかもしれません。でも、本来がこの作品は、そうした介護の大変さを伝えることを趣旨としたものではなく、元々異質な他人同士だった2人が、お互い対等な立場で相手を認め合い、相手を思い遣る関係となった―"Intouchables"という原題からして―それがこの映画のテーマではなかったかと思います。

最強のふたりsaikyo-02.jpg ただ泣けるだけの映画にしようとすれば、もっとそうした効果も織り込むことができたかもしれませんが、むしろ、そうした方向よりも、"偽善"への抵抗や"人間性"とは何かといったことに力が注がれている印象を受けました。ドリスを演じたオマール・シーもいいですが、顔の表情だけで演技したフランソワ・クリュゼも良かったし、介護助手をイヴォンヌを演じたアンヌ・ル・ニ(セザール賞助演女優賞ノミネート)、秘書のマガリーを演じたオドレイ・フルーロなど脇役も悪くなかったように思います(マガリーは○○○○○だったのかあ。ある意味、"ダイバーシティ映画"でもあったなあ)。
 アンヌ・ル・ニ/オマール・シー        オドレイ・フルーロ
最強のふたり03.jpg最強のふたり00.jpg「最強のふたり」●原題:INTOUCHABLES●制作年:2011年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ●製作:ニコラ・デュヴァル・アダソフスキ/ヤン・ゼノウローラン・ゼイトゥン●撮影:マチュー・ヴァドピエ●音楽:ルドヴィコ・エイナウディ●時間:112分●出演:フランソワ・クリュゼ/オマール・シー/アンヌ・ル・ニ/オドレイ・フルーロ/最強のふたり02.jpg最強のふたり01.jpgクロティルド・モレ/アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ/トマ・ソリヴェレ/クリスティアン・アメリ/グレゴリー・オースターマン/アブサ・ダイヤトーン・トゥーレ/シリル・マンディ/ドロテ・ブリエール・メリット●日本公開:2012/09●配給:ギャガ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-12-14)(評価★★★★)

《読書MEMO》
●フランス映画歴代観客動員数ランキング (Liste des plus gros succès du box-office en France(wikipedia))
1位 『タイタニック』(米・1997年)       21774181人 
2位 『Bienvenue chez les Ch'tis』(仏・2008年) 20489303人
3位 『最強のふたり(intouchable)』(仏・2011年)  19440920人
4位 『白雪姫』(米・1966年)          18319651人
5位 『大進撃(La grande Vadrouille)』(仏・1966年) 17267607人

フランス映画のみに限った国内観客動員数ランキングTOP20
1位 Bienvenues chez les Ch'tis
2位 Intouchable(最強のふたり
3位 La Grande Vadrouille(大進撃)
4位 Astérix et Obélix:Mission Cléopâtre
5位 Les Visiteurs
6位 Le Petit Monde de don Camillo
7位 Le Corniaud
8位 Les Bronzés 3:Amis pour la vie
9位 Taxi 2(タクシー2)
10位 Trois hommes et un couffin
11位 Les Misérables(レ・ミゼラブル)
12位 La guerre des boutons
13位 Le Dîner de cons
14位 Le Grand Bleu(グラン・ブルー)
15位 L'Ours(子熊物語)
16位 Astérix et Obélix contre César
17位 Emmanuelle(エマニュエル夫人)
18位 La vache et le Prisonnier
19位 Le Bataillon du ciel
20位 Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain(アメリ)

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「この映画で最も描きたかったのは情熱のメカニズムだ」(ジャック・ドゥミ)。

天使の入江 dvd.jpg 天使の入江  dvd.jpg  天使の入江02.jpg
天使の入江 [DVD]」(2011)「天使の入江 ジャック・ドゥミ監督 Blu-ray」(2016)

天使の入江749.jpg パリの銀行で働くジャン・フルニエ(クロード・マン)は、同僚のキャロン(ポー天使の入江849.jpgル・ゲール)に連れられて行った市中のカジノで、一時間で給料の半年分を稼ぐ大当たりする。それを契機にギャンブルに取り憑かれた彼だったが、謹厳な時計修理職人の父親から「賭博師はごめんだ。出て行け」と勘当されると、ニースの安ホテルに居を移し、「天使の入江」のカジノ通いを始める。そんなある日、以前カジノで見かけたブロンド美女のジャッキー・ドメストル(天使の入江91.jpgジャンヌ・モロー)に偶然出会う。ジャンは彼女に惹かれると共に、意気投合した彼女とパートナーを組み、ますますギャンブルにのめり込んでいく。彼女は夫の懇願にもかかわらずギャンブルに熱中して離婚し、息子とは週に一回会えるだけだと言う。ボロ負けした日は「二度としない」と誓天使の入江9457580.jpgうが口だけで、「軽率な自分に腹がたつ」と言いながらやめられない。ホテル代もなく駅のベンチで寝るというジャッキーを、ジャンは自分のホテルに泊まらせる。翌朝二人は別れるが、午後天使の入江9457581.jpg海岸にいたジャンを探しに来たジャッキーは、女友だちに借金した金で賭天使の入江L.jpgけてくると言い、別れるつもりだったジャンはカジノまでジャッキーを追っていく。そして、カジノで二人は勝ちまくり、「崖っぷちのドンデン返しね。モンテカルロに行きましょう」というジャッキーの誘いに車を買い、ドレスにタキシードを用意し、豪華ホテルに横付けし、海が見えるバルコニー付きのスイートルームにチェックインする。しかし、二人はカジノで今度は大敗し、結局有り金を全部使い果たしてしまう―。

イメージフォーラム .JPG 1963年3月1日フランス公開のジャック・ドゥミ監督作で、妻アニエス・ヴァルダのカンヌ映画祭招待に帯同したジャック・ドゥミが、その時たまたま立ち寄ったニースのカジノでそこで賭け事に興じる人々の姿を目にして着想を得たシナリオだとのことです。本邦でも2009年に「ジャック・ドゥミ初期作品集DVD-BOX」としてDVD化されており、アンスティチュ・フランセ東京で2013年、2014年と上映されたりもしていますが、劇場公開は今年['17年]7月から8月にかけてのシアター・イメージフォーラムでのジャック・ドゥミ、アニエス・ヴァルダ両監督の地下室のメロディー カジノ.jpg作品を特集した「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」での上映が「初公開」だそうです。同じくニースのカジノを舞台にしたアンリ・ヴェルヌイユ監督の「地下室のメロディー」が1963年3月19日にフランスで公開されて、日本では同年8月に公開されています。フランスでの公開は「天使の入江」の方が18日だけ早いですが、日本での公開は「地下室のメロディー」の公開より半世紀以上遅かったことになります。そして、7月22日にロードショーが始まったと思ったら、そのすぐ後にジャンヌ・モローの訃報に接することになりました(7月31日老衰のため逝去。89歳)。

 ジャック・ドゥミ監督が「シェルブールの雨傘」('64年)で見せたカラフルでポップな世界観とはうって変って(「天死の入江」は「シェルブールの雨傘」の1つ前の作品なのだが)、こちらはモノクロで、途中ロマンチックな場面は殆ど無く、天国(大勝ち)と地獄(大負け)の間を目まぐるしく行き来する二人をカメラは冷静に追っているという感じです。ラストのラストで、ああ、恋愛映画だったのだなあと思わされ、ロマンチストであるジャック・ドゥミの本質がこういう救いある結末にさせたのかなあと思いました。但し、ジャンヌ・モロー演じるジャッキーはこれまでも何度も「二度としない」と誓ってはこうなってしまっているわけで、本当に二人でこのまま行って大丈夫なのかなあという気もしました。

天使の入江9457582.jpg すでに、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」('57年)やフランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく」('62年)、ジョゼフ・ロージー監督の「エヴァの匂い」('62年)などでファム・ファタールを演じていたジャンヌ・モローですが、この映画での女ギャンブラー役(ジャック・ドゥミの叔母がモデルだそうだ)は、また違った印象がありました。現代の眼で見れば、ギャンブル依存症という病いにしか見えないのですが、主人公もその辺りは解っていて、そこがまた、主人公が彼女を突き離せない1つの理由になっているように思います。

天使の入江18.gif ただ、ジャッキーはギャンブルに対する弱さだけでなく、ギャンブルについての哲学も持っていて、「贅沢できなくても平気よ。お金のために賭けをやるのじゃない。十分あってもやるわ。賭けの魅力は贅沢と貧困の両方が味わえること。それに数字や偶然の神秘がある。もし数字が神様の思し召しなら、私は信者よ。カジノに初めて入ったとき、教会と同じ感動を覚えた。私にとって賭けは宗教よ。お金とは関係ない」「この情熱のおかげで私は生きていられるの。誰にも奪う権利はないわ」と言っています。ギャンブラーとしての凄みを感じさせながらも、強がっている部分も感じられ、その辺りがジャンヌ・モローならではの演技の機微であり、同じファム・ファタールを演じても、監督が違えば違ったタイプのそれを見せる演技の幅であると思いました。

 ジャンヌ・モローのプラチナ・ブロンドに染めた髪と白いドレス(衣装デザインはジャンヌ・モローの当時の恋人ピエール・カルダン)が、モノクロ映画であるからこそニースの浜に映えて輝いて見えます。主人公はジャッキーというファム・ファタールに巻き込まれてしまうのか、或いはまた、依存症である彼女を愛の力で救い出せるのか―という二人の行方がどうなるかということももさることながら、むしろ、「私にとって賭けは宗教よ」と言い、主人公の「君にとって僕は机か椅子に見えるのか。心はどうでもいいのか」との問いに「ただの賭け仲間よ。なぜあなたを犬のように連れ回したかわかる? 幸運をもたらすからよ」と言い放ちつつも最後は主人公に寄り添うジャッキーの、情熱と愛のエネルギー自体がテーマとなっているような映画であるように思えました。ジャック・ドゥミ監督自身、「この映画で最も描きたかったのは情熱のメカニズムだ」と言っており、ミシェル・ルグランのきらめく音楽もそうしたテーマに呼応したものとなっているように思われました。


     
天使の入江 (1963)
天使の入江 (1963).jpgドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語.jpg「天使の入江」●原題:LA BAIE DES ANGES(英:BAY OF ANGELS)●制作年:1963年●制作国:フランス●監督・脚本: ジャック・ドゥミ●撮影:ジャン・ラビエ●音楽:ミシェル・ルグラン●時間:101分●出演:ジャンヌ・モシアター・イメージフォーラム2.jpgロー/クロード・マン/ポール・ゲール/アンナ・ナシエ●日本公開:2017/07●配給:ザジフィルムズ●最初に観た場所:渋谷・シアター・イメージフォーラム(特集「ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語」)(17-08-18)(評価★★★★)

シアター・イメージフォーラム 2000(平成12)年9月オープン(シアター1・64席/シアター2・100席)。表参道駅から徒歩7分。青山通り渋谷方向、青山学院を過ぎ、二本目の通り左入る。

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主人公が "彼女の秘密"に気づく場面はミステリの謎が明かされるようで白眉。

愛を読むひとdvd 2008.jpg 愛を読むひと .jpg 朗読者 新潮文庫.jpg タイタニック bvd.jpg
愛を読むひと<完全無修正版> [DVD]」ケイト・ウィンスレット ベルンハルト・シュリンク『朗読者 (新潮文庫)』「タイタニック(2枚組) [AmazonDVDコレクション]
愛を読むひと 01.jpg 第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケル(ダフィット・クロス)は、体調が優れず気分が悪かった自分を偶然助けてくれた21歳も年上の女性ハンナ(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。猩紅熱にかかったマイケルは、回復後に毎日のように彼女のアパートに通い、いつしか彼女と男女の関係になる。ハンナはマイケ愛を読むひと 03 2.jpgルが本を沢山読む子だと知り、本の朗読を頼むようになる。彼はハンナのために『オデュッセイア』や『犬を連れた奥さん』などを朗読する。ある日、ハンナは働いていた市鉄での働きぶりを評価され、事務職への昇進を言い渡されると、マイケルの前から姿を消愛を読むひと80.jpgしてしまう。理由がわからずにハンナに捨てられて8年が経ったある日、ハイデルベルク大学法学部生となったマイケルは、ロール教授(ブルーノ・ガンツ)のゼミ研究のためにナチスの戦犯を裁くアウシュビッツ裁判を傍聴し、被告席の一つにハンナの姿を見つける。彼女は第二次世界大戦中に強制収容所で看守をしていたのである。裁判はハンナに不利に進み、彼女は無期懲役の判決を受ける―。
 
Der Vorleser(ドイツ語paperback)/Bernhard Schlink
Der Vorleser.jpgベルンハルト・シュリンク.jpg 2008年のアメリカ・ドイツ合作映画で、監督は英国人のスティーブン・ダルドリー、原作は1995年に出版されたベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink)の長編小説『朗読者』('00年/新潮社、原題:Der Vorleser/The Reader)です。映画は(終盤に主人公がニューヨークへ行く場面を除き)ドイツで撮影されていますが、英語による製作であるため、主人公の名前も、原作のミヒャエルからマイケルになっています。但し、少年時代のマイケルを演じたダフィット・クロスはドイツの俳優、母親を演じたズザンネ・ロータもドイツ人女優、法学部のロール教授はスイス出身のブルーノ・ガンツが演じていてます。ハンナ役のケイト・ウィンスレットは英国人女優、成人してからのマイケルを演じたレイフ・ファインズも英国人俳優、アウシュヴィッツの生存者母子ローゼ・マーターとイラーナ・マーターの二役を演じたレナ・オリンはスウェーデン出身、若き日のイラーナを演じたアレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア人、成人したマイケルの娘を演じたハンナー・ヘルツシュプルングは、これまたドイツ人女優です(アメリカ人、いないね)。

愛を読むひとes.jpg 先に原作を読みましたが、かつて齋藤美奈子氏が「包茎小説」と呼んでいたのを思い出しました。15歳のミヒャエルと21歳年上のハンナが出会い、男女の関係を持って別れるまでを描いた第1章だけならば、確かに"筆おろし"小説と言えなくもなく、元判事で法学部教授である作者がこういうの書くのが興味深いと思いました。しかし、第2章の裁判の場面はまさにキャリアに裏打ちされたもので、作品に深みを与えることにも繋がっているように思いました。小説はこれに、裁判以降の主人公とハンナの話を描いた第3章を加えた3つの章から成ります。

レイフ・ファインズ(現在のマイケル)/ダフィット・クロス(少年時代のマイケル)
愛を読むひとralph_fiennes_in_the_reader.jpg愛を読むひと kurosu.jpg 一方の映画の方は、1995年の主人公マイケルの「現在」を軸に、1958年の15歳の時にハンナと出会った少年期、1966年のハンナの裁判を偶然傍聴することになった法学部生愛をよむ人 s.jpg時代、1976年のマイケルが本を朗読しテープに録音して、それを獄中のハンナに送ることを思いついた時期、1980年のハンナから届いた短い文章の礼状にマイケルが感動した出来事、1988年の20年の刑に減刑されたハンナが釈放されることが決まった時などとの愛を読むひと ブルーノ・ガンツ.jpg間を行き来する形をとっていますが、概ね原作に忠実であるといっていいでしょう(マイケルが離婚して娘となかなか会えないでいるといった現況は映画のオリジナル。あとは、ブルーノ・ガンツ演じる教授のウェイトが原作より大きくなって、主人公に精神的に導き支えるという点で、原作における主人公の父親である哲学教授の役割を一部代替していたりする)。

ブルーノ・ガンツ(後ろ)

愛を読む人aioyomu.jpg 原作でも言えるのは、ハンナが幾つか謎を抱えている女性であるという点であり、①なぜマイケルと交わるようになったのか?(単なる気まぐれ?)、②なぜ裁判で不利になることを承知で自らの"秘密"を明かさなかったのか?(主人公がその"秘密"に気づく場面は、ミステリの謎が明かされるようで、原作でも映画でも白眉)、③そして最後に彼女がとった行動の理由は?―等々。映画を観て、①の理由は、マイケルが彼女にとっての癒しとなる"朗読者"であり、自らを成長させるパートナーであったことが窺えましたが心と響き合う読書案内2.jpg新潮文庫 20世紀の100冊.jpg、②については、映画を観てもまだ解らない部分が残りました。小川洋子氏は、「彼女は疲れ切っていたに違いない。彼女は裁判で闘っていただけではなかった。彼女は常に闘っていたのだ。何ができるかを見せるためではなく、何ができないかを隠すために」としています(『心に響き合う読書案内』('09年/PHP新書)。この原作は、関川夏央氏の『新潮文庫20世紀の100冊』('09年/新潮新書)にも取り上げられている)。

愛を読む人 ウィンスレット.jpg こうした"秘密"を持つ女性を演じるのは難しいだろうなあと思いますが、それだけ魅力的でもあり、ケイト・ウィンスレット(1975年生まれ)はそこに上手く嵌ったように思います(ニコール・キッドマンが妊娠で降板し、当初の候補だったケイト・ウィンスレットが結局演じることになった)。ケイト・ウィンスレットは、この作品で「タイタニック」('97年)以来4度目のアカデミー賞主演女優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと6度目)にして、初の受賞を果たしています。「タイタニック」で共演したレオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)も、「レヴェナント:蘇えりし者」('15年)で4度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと5度目)にして初受賞していますが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりもケイト・ウィンスレットの方が受賞は7年早かったことになります。

タイタニック vhs.jpg 「タイタニック」の興行収入は、全米で6.6億ドル、日本で262.0億円(配給収入160.0億円)、全世界で21.9億ドルに達し、「ジュラシック・パーク」('93年)を抜いて当時の世界最高興行収入を記録し、この記録は同じジェームズ・キャメロン監督作品の「アバター」('09年)に抜かれるまで保持され、日本でも「もののけ姫」('97年)を抜いて日本歴代興行収入記録を更新し、「千と千尋の神隠し」('01年)に抜かれるまで記録を保持していました。逆に、これほどヒットすると劇場に観に行かなかったりして、結局ビデオで観てしまいましたが、「アビス」('89年)の監督によるCG映画だと思って軽く見ていてのが、結構ドラマ部分もしっかりしていて、事前の予想よりも良かったです。

 ケイト・ウィンスレット演じるローズは1等客室の客、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックは3等客室の客。「船」って階層社会の縮図だなあ。階級差を超えた恋という定番の設定ですが、意外と感情移入できたのは、振り返ってみれば二人の演技がしっかりしていたのかも。個人的には、昔、八戸と苫小牧間のフェリーで1等の個室部屋がとれなくて2等の部屋に雑魚寝部屋にいったん入ったのを思い出しました。すぐに1等のキャンセル待ちに並んで、窓ありの個室部屋に移りましたが、やはり天と地の差があったなあ(笑)。学生時代は、雑魚寝部屋で伊豆大島に行ったりしていましたが、その頃は全然抵抗なかったけれど...。

ケイト・ウィンスレット in「いつか晴れた日に」('95年)/「タイタニック」('97年)
いつか晴れた日に ケイト・ウィンスレット2.jpg 「タイタニック」デカプリオ・ウィンスレット.jpg
ブルーノ・ガンツ in「ヒトラー~最期の12日間~」('04年)
「ヒトラー」ガンツ.gif

愛を読むひig.jpg「愛を読むひと」●原題:THE READER●制作年:2008年●制作国:アメリカ・ドイツ●監督:スティーブン・ダルドリー●製作:アンソニー・ミンゲラ/シドニー・ポラック/ドナ・ジグリオッティ/レッドモンド・モリス●脚本:デヴィッド・ヘアー●撮影:クリス・メンゲス●音楽:ニコ・マーリー●原作:ベルンハルト・シュリンク「朗読者」●時間:124分●出演:ケイト・ウィンスレット/レイフ・ファインズ/ダフィット・クロス/ブルーノ・ガンツ/レナ・オリン/アレクサンドラ・マリア・ララ/ハンナー・ヘルツシュプルング/ズザンネ・ロータ●日本公開:2009/06●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-09-19)(評価★★★★)

タイタニック (1997年3.jpgタイタニック (1997年0.jpg「タイタニック」●原題:TITANIC●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:ラッセタイタニック (1997年2.jpgル・カーペンター●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:セリーヌ・ディオン「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」●時間:194分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/ビリー・ゼイン /デビッド・ワーナー/フランシス・フィッシャー/ダニー・ヌッチ/ジェイソン・ベリー/エイミー・ガイバ/ビル・パクストン/グロリア・スチュアート/スタイタニック (1997年1.jpgージー・エイミス/ルイス・アバナシー/キャシー・ベイツ/バーナード・ヒル /ジョナサン・ハイド/ヴィクター・ガーバー/マーク・リンゼイ・チャップマン/ヨアン・グリフィズ/エドワード・フレッチャー /エリック・ブレーデン/マイケル・エンサイン/バーナード・フォックス/●日本公開:1997/12●配給:20世紀フォックス(評価★★★★)

 

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疑似的父親にみる父性原理。主人公は今必ずしも幸せでない? 通常版(劇場公開版)で十分か。

Nyû shinema paradaisu (1988).jpgニュー・シネマ・パラダイス SUPER.jpg ニュー・シネマ・パラダイス10.jpg ジュゼッペ・トルナトーレ.jpg
ニュー・シネマ・パラダイス SUPER HI-BIT EDITION [DVD]」ジュゼッペ・トルナトーレ監督 Nyû shinema paradaisu (1988)

ニュー・シネマ・パラダイス23.jpg ローマに住む映画監督のサルヴァトーレ(中年期:ジャック・ペラン)は、アルフレード(フィリップ・ノワレ)という老人が死んだという知らせを受ける。アルフレードは、かつてシチリア島の小さな村にある映画館・パラダイス座で働く映写技師だった。「トト」という愛称で呼ばれていた少年時代のサルヴァトーレ(少年期:サルヴァトーレ・カシオ)は大の映画好きで、母マリア(中ニュー・シネマ・パラダイス25.jpg年期:アントネラ・アッティーリ)の目を盗んではパラダイス座に通いつめていた。「トト」はやがて映写技師のアルフレードと心を通わせるようになり、ますます映画に魅せられていった。アルフレードから映写技師の仕事も教わるニュー・シネマ・パラダイス26.jpgようになった「トト」だったが、フィルムの出火から火事になり、アルフレードは重い火傷を負って失明してしまう。その後、焼失したパラダイス座は「新パラダイス座」として再建され、父の戦死が伝えられた「トト」は、家計を支えるためにそこで映写技師として働くようになる。やがて思春期を迎えた「トト」ことサルヴァトーレ(青年期:マルコ・レオナルディ)は駅で見かけた美少女ニュー・シネマ・パラダイス62.jpgエレナ(アニェーゼ・ナーノ)との初恋を経験、それから兵役を経て成長し、今は映画監督として活躍するようになっている。成功を収めた彼のもとに母マリア(壮年期:プペラ・マッジオ)からアルフレードの訃報が届き、映画に夢中だった少年時代を思い出しながら、サルヴァトーレは故郷のシチリアに30年ぶりに帰って来たのだった―。

ニュー・シネマ・パラダイス200.jpg ジュゼッペ・トルナトーレ監督(1956年生まれ)の1988年公開作で、1989年カンヌ国際映画祭審査員グランプリを受賞したほか、イタリア映画としては15年ぶりにアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した作品です(ゴールデングローブ賞外国語映画賞も受賞)。日本でも'89年12月に公開され、「シネスイッチ銀座」での単館ロードながら40週というロングランを記録し、観客動員数約27万人、売上げ3億6900万円という数字は、単一映画館における興行成績としては未だ破られておらず、単館ロードそのものが減っているため、この記録は今後も破られないと言われています。

 124分の「劇場公開版(国際版)」の他に175分の「完全版(ディレクターズカット版)」があり、そちらもビデオやDVD化されています。「完全版」も劇場で観たいと思っていたらシネマブルースタジオでやることになり、観に行くと、当初「完全版」での上映を予定していたのが「通常版」(劇場公開版(国際版))の上映に変更となったとのことでした。それでも、27年ぶりぐらいに観て懐かしかったです(映画そのものが"ノスタルジー映画"であり、気分的に何だかダブった)。
音楽:エンニオ・モリコーネ

ニュー・シネマ・パラダイス31.jpg この映画について、母性(女性)原理への回帰という意味で日本人の気質に通じるものがあって、日本人に受け入れられやすいのではないかという見方をどこかで読んだ覚えがありますが、確かにシシリア人気質というのは家族の絆を非常に重んじるところがあるようです。但し、映画において「トト」ことサルヴァトーレにとって疑似的な父親の役割を果たすアルフレードは、サルヴァトーレに「この村から出て行け。ローマに行って、もう戻ってくるな」と諭すわけであって、これは完全な父性(男性)原理と言えるのではないかと思いました(「ノスタルジーに惑わされるな」と言っているのも同じことだろう。極論すれば、家族を犠牲にしてもわが道を行けと言っているともとれる)。

ニュー・シネマ・パラダイス80.jpg それがいいのか悪いのかというと、結局トトことサルヴァトーレは、映画監督としては成功したものの、アルフレードの教えを守ったばかりに母親は30年間息子に会えず、そして、成功しているはずのサルヴァトーレ自身も、実を結ばなかった初恋の思い出を引き摺っているのか、結婚もせずに付き合う女性をとっかえひっかえし、何となく虚無感を漂わせている感じです。但し、これをもってアルフレードの教えが誤っていたとかそんなことは言えないだろうなあ。アルフレードの教えを守ったからこそ映画人としての今の自分があるのかもしれないし、何かを得れば何かを失う、人生って大方そのようなものではないかなあと思いました。

 175分の「完全版」では主人公の人生に焦点が置かれており、青年期のエレナとの恋愛や壮年期の帰郷後の物語が描かれるため、同じラストシーンも、「通常版」では少年時代の映画を愛する心を取り戻す意味合いに近いものになっているのに対し、「完全版」では長い年月エレナに囚われていた心を慰められるという意味合いに近くなって、ニュアンスが異なってくるとのこと。従って、「完全版」を観ないと、この映画の本当の意味(例えばラストの編集されたキスシーンのオンパレードの意味など)は理解できないという人もいるようです。

 一方で、映画サイトallcinemaでは、「通常版」に「星4つ」という満点の評価を与え、「かなり印象を異にする3時間完全版もあるが、はっきりいってこちらだけで十二分である」とコメント。「完全版」に対する評価は「星1つ半」という低評価で、「"映画をこよなく愛する人たち"にとって、これほどまでの感動を与えてくれた映画は過去にあっただろうかと思えるほど、映画ファンにはたまらなかった秀作に、51分・約60カットも加えてしまった蛇足の完全版。初公開版と異なるところは、青年期のサルヴァトーレと恋人とのすれ違いの理由や、彼の"ストレートな"感情表現の描写などが追加された所だが、徹底的に違うのは、シチリア島に戻った中年サルヴァトーレが出会う人物とのその後のエピソード。ディレクターズカット版が登場すると、初公開版とのギャップから賛否両論となるが、これもそのひとつで、観終わった後の主人公に対するイメージはおろか、作品に対する評価までもが全く変わってしまうほど。初公開時に"この映画を見て泣けない人は、鬼と呼ばれても仕方ない!"などと言われていたが、完全版に関しては、その想いを半減させざるをえないとんでもない1本」とallcinemaにしてはかなり辛口のコメントがあります。

 完全版では、中年になったサルヴァトーレはエレナとも再会し、そのエレナをブリジット・フォッセーが演じているとのことで、ちょっと観たい気持ちもあったのですが、allcinemaのコメントを読むと、まあ観なくてもいいかなとも(実際に「完全版」を観た人がこのallcinemaのコメントを読んでどう思うかはまちまちだと思われるが)。「ニュー・シネマ・パラダイス」というタイトルからして"映画愛"がテーマの作品とみるべきでしょう。また、あまりリアリステッィクに何もかも描いてしまうと凡百の恋愛映画になってしまうということはあるのかもしれません。実際、この映画が一番最初、1988年にイタリアで劇場公開された際の「オリジナル版」の上映時間は155分だったそうですが、興行成績が振るわなかったため、ラブシーンやエレナとの後日談をカットして124分に短縮し(監督本人が編集)、それが映画祭などで国際的に公開され成功を収めたとのことです。と言うことで、今回も「通常版(劇場公開版=短縮版)」だけを観て、評価は星4つ半としました。

 この映画、主人公のもとに母親の訃報が届いたのを機に主人公が自らの少年時代を回想するという形をとっているため、今の主人公は憂いを帯びた表情をしているのは当然なわけですが、それだけでなく、主人公が今現在の生活において必ずしも幸福そうに見えないところが一つミソなのかもしれません(対比的に少年時代や青春時代がより輝いて見える)。ただ、主人公がなぜ今はそう幸せそうに見えないのかを映画の中で説明し始めると(それが最初の完全版にはあったと思われるが)、観る側のイマジネーション効果を減殺し、ダメな映画になってしまうということなのでしょう。

ニュー・シネマ・パラダイス poster.jpgニュー・シネマ・パラダイス22.jpg「ニュー・シネマ・パラダイス」●原題:NUOVO CINEMA PARADISO●制作年:1988年●制作国:イタリア・フランス●監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ●製作:フランコ・クリスタルディ●撮影:ブラスコ・ジュラート●音楽:エンニオ・モリコーネ/アンドレア・モリコーネ●時間:155分(オリジナル版)/124分(国際版(劇場公開版))/175分(完全版(ディレクターズカット版))●出演:フィリップ・ノワレ/ジャック・ペラン/サルヴァトーレ・カシオ/マルコ・レオナルディ/アニェーゼ・ナーノ/アントネラ・アッティーリ/プペラ・マッジオ/レオポルド・トリエステ/エンツォ・カナヴェイル/レオ・グロッタ/イサ・ダニエ銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpgリ/タノ・チマローサ/ニコラ・ディ・ピント●日本公開:1989/12●配給:アスミック・エース●最初に観た場所:シネスイッチ銀座(90-02-11)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(17-05-27)(評価★★★★☆)
シネスイッチ銀座 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

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孫娘が監督。ドキュメンタリーでありながら、ファミリー・ムービーっぽさがある作品。

パリが愛した写真家d.jpg パリが愛した写真家 ドルディル .jpg パリが愛した写真家 07.jpg パリが愛した写真家 rd.jpg
「パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>」 クレモンティーヌ・ドルディル  ロベール・ドアノー

パリが愛した写真家02.jpg フランスの国民的写真家ロベール・ドアノー(1912 -1994)の人生と創作に迫ったドキュメンタリーで、監督のクレモンティーヌ・ドルディルはドアノーの孫娘です。作品の撮影秘話や当時の資料映像、親交のあった著名人による証言や(「田舎の日曜日」('84年/仏)の主演女優サビーヌ・アゼマなどとパリが愛した写真家09.jpg親交があり、サビーヌ・アゼマは作品のモデルにもなっている)、作品蒐集家・ファンへのインタビューなどから成ります(作家の堀江敏幸氏がフランス語でコメントしている)。ドアノー自身は写真では殆ど登場せず、家族が映したと思われるカラー8ミリフィルムなどで多く登場するため、どことなくファミリー・ムービーっぽい感じがします。ドアノーという人が全く"大家"ぶっていなくて、冗談好きで人懐っこいキャラクターであることが分かり、こうした人柄が被写体となる人を安心させて、活き活きとした写真を撮ることが出来るのだなあと思いました。

パリが愛した写真家 02.jpg ドアノーは殆どパリで活動していたようです。海外にも行ってはいますが、世界中を飛び回っていたパリが愛した写真家   es.jpgという印象ではありません。今回、アメリカなど海外で撮った写真やカラーで撮った写真も見ることができて良かったですが(アメリカで撮ったカラー作品は、どこか無機質な感じのものが多い)、やはりパリを撮ったモノクロ写真が一番いいように思いました。映画全体を通しても、ドキュメンタリー部分もさることながら、そうした写真を紹介している部分の方が印象に残りました(ちょうど作品集を見ている感じか)。

パリが愛した写真家05.jpg この映画を観て知ったのですが、専らパリで活動していたこともあって、世界的にパリが愛した写真家s03.jpg有名になったのはかなり年齢がいってからのようです。あの有名な「パリ市庁舎前のキス」と呼ばれる作品は、1950年に「ライフ誌」に発表されていますが、この映画によると、その後長らく埋もれていて、ある日突然脚光を浴びた作品であるようです。

パリが愛した写真家01.jpg パリの若い恋人たちのシンボルとなったこの写真のカップルが誰なのかは1992年まで謎のままで、パリに住むラヴェーニュ夫妻は自分たちがこの写真のカップルだと思い込んでいました。夫妻は80年代にドアノーと会っていますが、ドアノーは真相を語らなかったため、夫妻は「無許可で写真を撮影した」としてドアノーを告訴し、裁判所はドアノーに事実を明らかにするよう要求しています。実は写真のカップルはフランソワとジャックという若い俳優の卵で、ドアノーが夫妻に真相を語らなかったのは、夫妻の夢を壊したくなかったからのようです。

「パリ市庁舎前のキス」

 写真の二人は恋人同士で、街角でキスをしているところをドアノーが見つけて近づき、もう一度キスしてくれるよう頼んで撮影したとのことです。しかし二人の関係は9か月しか続かず、ジャックは俳優を諦めてワイン職人になり、フランソワ・ボネは女優として活動を続けました。そして、今度はフランソワがドアノーを相手取り、肖像権料を要求して裁判を起こしますが、1955年の撮影日の数日後にドアノーが写真をプリントしてサインを入れ、謝礼としてフランソワに贈っていたことが判明したため、提訴は受理されませんでした。撮影の55年後の2005年、彼女はその写真をオークションに出品し、それは彼女が提訴によって得ようとした肖像権料を遥かに上回る高額で落札されたとのことです。

パリが愛した写真家08.jpg この映画でも、「パリ市庁舎前のキス」のモデルは恋人同士の俳優の卵であり、ドアノーは他にも多くのモデルを使ってこうした"スナップ"を演出したことはこの映画でも紹介されていますが、裁判のごたごたについては一切触れられていません。ある意味、ドアノーの他者への思いやりときっちりとした性格が窺えるエピソードだと思うのですが、アシスタントを務めていたドアノーの長女アネットによれば、裁判には勝ったもののの、裁判の過程で偽りと嘘に満ちた世界を見てしまったドアノーはひどくショックを受けたそうで、後にアネットは「あの写真は父の晩年を台無しにしてしまった」とまで述べています。

 ドアノーの孫娘であるドルディル監督が、この映画の中であの写真が演出であったことを改めて明かす一方で、あの写真を巡るごたごたに関しては映画の中では一切触れていないのは、やはり同じような思いがあったからではないかと思います(家族の思い出は美しきものであるべきか。まあ、できればそれにこしたことはない)。そうした意味でも、ドキュメンタリーでありながらも、ファミリー・ムービーっぽさがある作品と言えるかもしれません。  
  
   
パリが愛した写真家  s.jpg「パリが愛した写真家/ロベール・ドアノー<永遠の3秒>」●原題:ROBERT DOISNEAU, LE RÉBOLTÉ DU MERVEILLEUX●制作年:2016年●制作国:フランス●監督:クレモンティーヌ・ドルディル●製作:ジャン・ヴァサク●時間:80分●出演:ロベール・ドアノー/フランシーヌ・ドルディル/アネット・ドアノー/サビーヌ・ヴァイス/ダニエル・ペナック/フランソワ・モレル/フィリップ・ドレルム/サビーヌ・アゼマ/ジャン=クロード・カリエール/梶川芳友/佐藤正子/堀江敏幸/クレモンティーヌ・ドルディル/エリック・カラヴァカ●日本公開:2017/04●配給:ブロードメディア・スタジオ●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(17-04-28)(評価★★★☆)

ユーロスペース2.jpgユーロスペースtizu.jpgユーロスペース 2006(平成18)年1月、渋谷・円山町・KINOHAUSビル(当時は「Q-AXビル」)にオープン(1982(昭和57)年渋谷・桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月閉館した旧・渋谷ユーロスペースの後継館。旧ユーロスペース跡地には2005年12月「シアターN渋谷」がオープンしたが2012(平成24)年12月2日閉館)

サビーヌ・アゼマ_01.jpgパリ ロベール・ドアノー写真集.jpg【967】 ○ ロベール・ドアノー 『パリ―ドアノー写真集(1)』 (1992/09 リブロポート) ★★★★
【967】 ○ ロベール・ドアノー 『パリ遊歩―1932-1982』 (1998/02 岩波書店) ★★★☆
【1747】 ◎ ロベール・ドアノー 『パリ―ロベール・ドアノー写真集』 (2009/01 岩波書店) ★★★★★
【1748】 ○ ロベール・ドアノー 『芸術家たちの肖像―ロベール・ドアノー写真集』 (2010/01 岩波書店) ★★★★


「ボー・ド・プロヴァンスのサビーヌ・アゼマ」(1991)
「LES LEICAS DE DOISNEAU ロベール・ドアノー写真展」(ライカギャラリー東京,2016.02)

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通俗的モチーフであっても美しい作品に昇華してみせることが出来るのだという...。

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柔らかい肌 dvd_.jpg 柔らかい肌 dvd.jpg
柔らかい肌【字幕版】 [VHS]」/「柔らかい肌 [DVD]」/「柔らかい肌〔フランソワ・トリュフォー監督傑作選11〕 [DVD]

ジャン・ドサイ/フランソワーズ・ドルレアック
柔らかい肌6.jpg バルザックの評論も書いている著名な評論家ピエール・ラシュネー(ジャン・ドサイ)は、リスボンへの講演旅行の途中で、美しい客室乗務員のニコル・ショメット(フランソワーズ・ドルレアック)と出会う。ニコルもまたピエールに魅かれ、リスボンのホテルで二人は関係を持つ。その日から、ピエールのスリリングな二重生活が始まる。ピエールには長年連れ添った妻フランカ(ネリー・ベネデッティ)がいたが、ニコルとの恋は徐々に深みに嵌っていく―。
   
La peau douce (1964)
La peau douce (1964).jpg
柔らかい肌x.jpg柔らかい肌ge.jpg フランソワ・トリュフォー(1932-1984/享年52)監督の1964年公開作で、ストーリーは新聞の三面記事に載った実際の事件に基づいているとのことです。不倫と三角関係がテーマですが、ヒッチコックから学んだと思われる手法を巧みに織り込み(ついでに自らの脚フェチの嗜好も織り込んでいたなあ。女性にジーンズをスカートに履き替えさせたり)、流れるような音楽と映像がリアリスティックなサスペンス・ストーリーと見事に調和しています(音楽は「かくも長き不在」('61年)などのジョルジュ・ドルリュ−、カメラは「女と男のいる舗道」('62年)などのラウール・クタール)。

柔らかい肌 01.jpg かつてルイ・マルが「恋人たち」('58年)で、夫に不満をもつ若き人妻(ジャンヌ・モロー)が、ふと知り合った若者と情熱の一夜をすごし、夫も家もすてて若者とともに去るという単純なストーリーを美しい映画柔らかい肌 .jpgにしましたが(ある意味ハーレクインロマンスみたいな話)、この「柔らかい肌」は、トリュフォーにおける「恋人たち」のような位置づけの作品のように思いました(つまり、撮ろうと思えば、どんな通俗的モチーフであっても美しい作品に昇華してみせることが出来るのだという...いわば自らの力量アピール作品?)。

柔らかい肌s.jpg 主人公ピエールの不倫相手の客室乗務員つまりスチュワーデスを演じるのは、カトリーヌ・ドヌーヴの姉で自らが運転するクルマの事故で早逝したフランソワーズ・ドルレアック(1942-1967/享年25)。ホントは妹のカトリーヌ・ドヌーヴもコンプレックスを抱いたというくらいの美人なのですが、ここではやや抑え気味に自然な美しさを醸していて、彼女が演じるスチュワーデス相手の不倫で次第に深みに嵌っていく主人公の気持ちは分かります。しかし、ラストで彼はとんでもないしっぺ返しを喰うことに...。
ジャン・ドサイ/ネリー・ベネデッティ
柔らかい肌  .jpg柔らかい肌 ネリー・ベネデッティ3.jpg ラストに至るまでのプロセスが自然だっただけに、その分恐かったです。不倫相手と写真を撮るのはやめておいた方がいいとか、実践的に学んじゃった人もいるかも(そう言えば、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」('57年)でも、リノ・ヴァンチュラ演じる警部が、ジャン・モローにモーリス・ロネとの浮気を重ねていたことの証拠として突き付けたのが、携帯カメラで撮られた写真だった)。この映画、男性は概ね怖さを感じるかと思いますが、女性の中にはラストでスカッとしたという人も多いようで、男性と女性でかなり見方が異なってくる映画かもしれません。

柔らかい肌 トラム.jpgリスボン トラム.jpg オールロケで撮影していて、リスボンのトラムとか出てきますが、90年代に現地で走っているのを見ました。今もまだ走っているみたいです。ピエールの友人は藤田嗣治の絵画が好みのようです。日本に出張にいくみたいで、高輪プリンスに泊まるとか言っているなあ。ついでに東京オリンピックも観てくるつもりなのでしょうか。
       
      
                          
フランソワーズ・ドルレアック/フランソワ・トリュフォー
柔らかい肌ド.jpg柔らかい肌68.jpg「柔らかい肌」●原題:LA PEAU DOUCE●制作年:1964年●制作国:フランス●監督:フランソワ・トリュフォー●脚本:フランソワ・トリュフォー/ジャン=ルイ・リシャール●撮影:ラウール・クタール●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:113分(119分(フランス版ディレクターズ・カット))●出演:ジャン・ドサイ/フランソワーズ・ドルレアック/ネリー・ベネデッティン/ダニエル・セカルデ/ジャン・ラニエ/ポール・エマニュエル/サビーヌ・オードパン/ローランス・バディ/ジェラール・ポワロ●日本公開:1965/05●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(16-11-22)(評価:★★★☆)
フランソワーズ・ドルレアックリオの男」('64年)/「ロシュフォールの恋人たち」('67年)
「リオの男.jpg 「ロシュフォールの恋人たち.jpg

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細部は違うが大まかには原作通りか。俳優陣は好演しているがやや地味になった。

オデッサ・ファイル_1974.jpg The Odessa File (1974).jpg  オデッサ・ファイル (1974年) .jpg オデッサ・ファイル (角川文庫).jpg
映画チラシ/「オデッサ・ファイル [DVD]」『オデッサ・ファイル (1974年)』『オデッサ・ファイル (角川文庫)

オデッサ・ファイル図0.jpg 1963年11月22日、西独ハンブルグ。新聞記者あがりのルポライター、ペーター・ミラー(ジョン・ヴォイト)は母親(マリア・シェル)の家を訪ねた帰り道、カーラジオでケネディ大統領暗殺の臨時ニュースを聴く。その時一台の救急車が彼の車を追い越し、ミラーは反射的にその後を追う。事件は一老人のガス自殺だったが、翌日、知人の警部補から自殺した老人の日記を渡される。老人はドイツ系ユダヤ人で、日記はラトビアのリガにあったナチ収容所での地獄の生活を記録したものだった。老人は、リガ収容所長だったSS大尉ロシュマン(マクシミリアン・シェル)の非人道的な残虐さを呪い、復讐しようとしていたが果たさず、絶望のうちに自殺したのだ。ミラーは老人にオデッサ・ファイル図8.jpg代わってそのロシュマンを捜し出す決心をする。彼はまず、老人の仲間を捜し出し、"オデッサ"という、元ナチSS隊員で作った、ナチ狩りから逃れ身元を偽って社会にもぐり込んでいる元ナチSS隊員を法廷にかけさせないために様々な活動をしている秘密組織の存在を知る。数日後、ミラーが恋人のジギー(メアリー・タム)とXマスの買物のために地下鉄に乗ろうとしたとき、突然後から何者かに走ってくる電車に向かって突き落とされる。間一髪で命は助かるが、こうなるとミラーとしても意地があった。米資料センターでロシュマンの資料を発見したミラーは、帰りに3人組に捕まる。彼らは元SS隊員に復讐することを目的としたグループで、ミラーが"オデッサ"を追っているのを知り、彼に協力しようというオデッサ・ファイル図1.jpgのだ。ミラーを"オデッサ"に潜入させる工作が始まる。元ナチ隊員で病死した男コルブの出身証明書を盗み、彼に化けて元SS軍曹で警察に追われているという設定で"オデッサ"に接近、下級隊員の紹介で幹部に会うことになる。ミラーはファイルを盗み出し、ロシュマンの足跡を掴むことが出来た。ロシュマンを尾行し、彼の屋敷に潜入して彼と対峙する―。

 ロナルド・ニーム(1911-2010/享年99)監督が「ポセイドン・アドベンチャー」('72年/米)の次に監督した作品で、原作は英国の作家フレデリック・フォーサイスの1971年発表の彼の出世作『ジャッカルの日(The Day of the Jackal)』('73年・角川書店)に続く1972年オデッサ・ファイル図3.jpg発表の第2作『オデッサ・ファイル(The Odessa File)』('74年・角川書店)。1974年発表の『戦争の犬たち(The Dogs of War)』('75年・角川書店)と併せて初期3部作とされていて、『ジャッカルの日』はフレッド・ジンネマン監督によって映画化され('73年/米)、「戦争の犬たち』もジョン・アーヴィン監督によって映画化されていますが('80年/米)、共にアメリカ映画で、この「オデッサ・ファイル」だけ、製作国はイギリスと西ドイツです。

 映画「ジャッカルの日」は、原作の面白さに加え、"ジャッカル"を演じたエドワード・フォックスの好演もあって楽しめましたが(淀川長治がある本で、映画史上の悪役のベストに「ジャッカルの日」の"ジャッカル"を選んでいる)、一方、「戦争の犬たち」の方は、せっかくの原作をラストを勝手に変えてしまって、クリストファー・ウォオデッサ・ファイル図4.jpgーケンが演じた主人公がなぜ傭兵になったのか分からないまま終わってしまっていました。この「オデッサ・ファイル」でペーター・ミラーを演じたジョン・ボイドはどうかというと、原作の主人公(原作ではミューラー)のイメージと違っていたかもしれませんが、ジョン・ボイドが当時まだ若いながらも演技達者なのと、主人公が相手方に潜入してからオデッサ・ファイル08.jpgの危機の脱し方など部分的には原作を改変しているものの、大まかには原作に沿っていたため、個人的には楽しめました(原作の主人公の愛車がジャガーであるのに映画ではベンツになっていた一方、オデッサの殺し屋のクルマがジャガーだった。この辺りは意図的に変えている?)。評価として、「ジャッカルの日」「オデッサ・ファイル」「戦争の犬たち」の順で、やはり監督の知名度順になるのでしょうか)。

オデッサ・ファイル図5.jpg 「ジャッカルの日」の主人公はプロのスナイパーであり、「戦争の犬たち」の主人公はプロの傭兵、それに対してこの「オデッサ・ファイル」の主人公だけがある意味アマチュアであり、素人が元SS軍曹に化けて"オデッサ"に潜入することが出来るのかというリアリティの問題がありますが、"オデッサ"幹部将校が主人公の身許審査のためSSについて矢継ぎ早にした質問で、「収容所の真中に何が見えたか?」との問いに、答えに詰まって「空が見えました」と答えてしまい、将校の眼が鋭く光るといった場面など、逆に旨い具合に緊張感を生む効果にも繋がっていたかも。なぜジャーナリストとは言え、一市民に過ぎない主人公が元SS大尉ロシュマンにこだわるのか、作品の鍵となるその秘密の明かされ方は原作と同じで、但し、原作を読んでいると、映画の方はややあっけなくて、ちょっともの足りなかったでしょうか。

オデッサ・ファイル図7.jpg ラストで主人公に追い詰められて、身勝手な理論に基づく演説をぶつロシュマンを演じたマクシミリアン・シェル(1930-2014)も好演で、主人公の母親役のマリア・シェル(1926-2005)オデッサ・ファイル図6.jpgは彼の実姉になります(「居酒屋」('56年/仏)での彼女の演技は良かった)。主人公の恋人を演じたメアリー・タムは、この作品ぐらいしか代表作がありませんが美人で、演技もまあまあ。全体にちょっと地味な感じになったけれども、原作の良さと俳優陣の好演で、一応"及第点"の映画になっているように思いました。

オデッサ・ファイル09.jpg 因みに、マクシミリアン・シェルが演じたエドゥアルト・ロシュマンは実在の人物で、リガにあった強制収容所の歴代所長の一人で、"リガの屠殺人"と呼ばれ、1977年7月、アルゼンチン警察に逮捕されるも、4日後に国外退去を条件に釈放され、同年8月、パラグアイで心臓発作による死亡が確認されています(この作品の原作をフォーサイスが書いていた時はまだ逃亡・潜伏中だったということか)。

オデッサ・ファイル図9.jpg「オデッサ・ファイル」●原題:THE ODESSA FILE●制作年:1974年●制作国:イギリス・西ドイツ●監督:ロナルド・ニーム●製作:ジョン・ウルフ●脚本:ケネス・ロス/ジョージ・マークスタイン●撮影:オズワルド・モリス●音楽:アンドルー・ロイド・ウェバー●原作:フレデリック・フォーサイス●時間:130分●出演:ジョン・ヴォイト/マクシミリアン・シェル/マリア・シェル/メアリー・タム/デレク・ジャコビ/ハンネス・メッセマー/シュミュエル・ロデンスキ●日本公開:1975/03●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:新宿ローヤル(82-12-08)(評価★★★☆)

《読書MEMO》
●個人的評価
【原作】
『ジャッカルの日』............★★★★
『オデッサ・ファイル』......★★★★
『戦争の犬たち』...............★★★★

【映画】
「ジャッカルの日」............★★★★
「オデッサ・ファイル」......★★★☆
「戦争の犬たち」...............★★★

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一人の娼婦の儚い人生の中にも「詩と真実」があった。ミシェル・ルグランの音楽もいい。

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女と男のいる舗道 [DVD]」アンナ・カリーナ

女と男のいる舗道2.jpg 1960年代初頭のパリのとあるビストロで、ナナ・クランフランケンハイム(アンナ・カリーナ)は、別れた夫ポール(アンドレ・S・ラバルト)と近況の報告をし合い女と男のいる舗道1.jpg別れる。ナナは、女優を夢見て夫と別れ、パリに出てきたが、夢も希望もないままレコード店の店員を続けている。ある日、舗道で男(ジル・ケアン)に誘われるままに抱かれ、その代償を得た。ナナは昔からの友人のイヴェット(ギレーヌ・シュランベルジェ)と会う。イヴェットは売春の仲介をしてピンハネして生きている。ナナにはいつしか娼婦となり、ラウール(サディ・ルボット)というヒモがつく。ナナは無表情な女になっていた。バーでナナがダンスをしていると、視界に入っ女と男のいる舗道09.jpg女と男のいる舗道103.jpgてきた若い男(ペテ・カソヴィッツ)にナナの心は動き、彼を愛し始める。ナナの変化に気付いたラウールは、ナナを売春業者に売り渡そうとする。ナナが業者に引き渡される時、業者がラウールに渡した金が不足していた。ラウールはナナを連れて帰ろうとするが、相手は拳銃を放つ。銃弾はナナに直撃した。ラウールは逃走、撃ったギャングも逃走する。ナナは舗道に倒れ、「生きたい!」と叫んで絶命する―。
Vivre Sa Vie Dance Scene anna karina
女と男のいる舗道94.jpg 1962年製作・公開のジャン=リュック・ゴダール監督の社会風俗ドラマで、ゴダールの長篇劇映画第4作(ヴェネツィア国際映画祭「審査員特別賞」受賞作)。「女は女である」('61年)についでアンナ・カリーナが出演したゴダール作品の第3作で、アンナ・カリーナとの結婚後の第2作です。マルセル・サコット判事のドキュメント「売春婦のいる場所」からゴダール自身が脚色したもので、原題は「自分の人生を生きる、12のタブ女と男のいる舗道 12.jpgローに描かれた映画」の意(「タブロー」はフランス語で持ち運びの可能な絵画(=キャンパス画、板絵)のことで「章」とほぼ同じとみていいのでは)。時期的には「勝手にしやがれ」('59年)と「気狂いピエロ」('65年)の間に位置する作品で、ラストなどは「勝手にしやがれ」の女性版を思わせる部分もあり、また、主人公の名前から、エミール・ゾラの小説『ナナ』が娼婦から女優に成り上がった女性を描いた、その逆を描いているともとれます。原作(原案)がドキュメントであるためか、「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」より分かりやすい展開で、個人的には好きなゴダール作品です。

女と男のいる舗道 哲学者.jpg 第1章でナナが近況を交換する別れた夫ポールを演じるのは、ゴダールの批評家時代からの盟友でドキュメンタリー映画監督のアンドレ・S・ラバルトであり、終盤、ナナと哲学を論じあう碩学として登場するのは、アルベール・カミュやアンドレ・ブルトンと親交のあった哲学者ブリス・パランで、ゴダールの哲学の恩師であるそうです。最初観た時は、その「衝撃的」ラストに、むしろあっけないという印象を抱きましたが、ゴダールが説明的表現を排したドキュメンタリー・タッチで撮っているということもあったかもしれません。ゴダールがアンナ・カリーナの了解を取らずに隠し撮りのように撮ったシーンもあり(そのことをアンナ・カリーナはすごく怒ったらしい)、ナナと哲学者との対話における哲学者の受け答えも即興だそうです。

裁かるるジャンヌ 女と男のいる舗道2.jpg アンナ・カリーナ演じるナナは、生活のために娼婦に転じるわけですが、別に不真面目に生きているわけではなく、むしろ「自分の人生を生きる」という哲学を持っています。彼女は、「裁かるるジャンヌ」を観て涙したり(このシーンのアンナ・カリーナの表情がいい)、偶然に出会った哲学者と真理について語ったりします(第12章のタイトルは「シャトレ広場- 見知らぬ男 - ナナは知識をもたずに女と男のいる舗道 哲学者2.jpg哲学する」)。哲学者との会話のシーンなどは、最初に観た時は、言葉が映画の背景になっているような感じがしたのが、今回改めて観直してみると、結構深いことを言っているなあと(「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」なんて言葉を思い出した)。儚(はかな)くも散った一娼婦の人生においても、その中に確実に「詩と真実」はあったのだ―という見方は、あまりにロマンチックすぎるでしょうか。ミシェル・ルグランの音楽もいいです(この音楽がそんな気分にさせる)。

裁かるゝジャンヌ dvd.jpg 因みに、「女と男のいる舗道」でアンナ・カリーナ演じるナナが観て涙したカール・テオドア・ドライヤー監督映画「裁かるるジャンヌ」('28年/仏)は、火刑に処せられる直前のジャンヌ・ダルクの心情の揺らぎを描いたものですが、オリジナルネガフィルムが1928年にドイツ・ウーファ社の火災によって焼失したため、完全なフィルムは存在しないと言われてきました。更に、ドライヤーがオリジナルに使用しなかったフィルムで再編集した第2版のネガも焼失し、製作元も倒産。その後に観ることが出来た作品は、世の中に出回っていたポジフィルムをかき集めてかろうじて作品の体裁を成したもの、乃至はその海賊版のようですが、製作直後にデンマークでの公開のために送られていた完全オリジナルフィルムが1984年に偶然発見され、日本では1994年に初めて公開されました(2005年にDVD化。それ以前のハピネット版DVDは不完全版)。

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 自分が個人的にこの映画を観たのは、埋もれていたフィルムが再発見される3年前(「女と男のいる舗道」と併映だった)。小津安二郎の「大学は出たけれど」('29年)のように70分の内11分しか現存していなくても充分に堪能出来る作品もありますが、この不完全版「裁かるるジャンヌ」に関してはダメでした。ストーリー部分が後退して、画面もカットされているため、ルネ・ファルコネッティ演じるジャンヌの表情の大写しが前面に出すぎてモンタージュ効果が逆に生きていない印象を持ちました(完全版を観ていないので、きちんとした評価は不能か。但し、映画史的にも一般にも評価の高い作品[IMDbポイント8.3])。ナナが観たのは完全版なんだろうか?

アンナ・カリーナ in 「女と男のいる舗道」    音楽:ミシェル・ルグラン
アンナ・カリーナ 「女と男のいる舗道」.jpg「女と男のいる舗道」●原題:VIVRE SA VIE:FILM EN DOUZE TABLEAUX(英:MY LIFE TO LIVE(米)/IT'S MY LIFE(英))●制作年:1962年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール●製作:ピエール・ブロンベルジェ●撮影:ラウール・クタール●音楽:ミシェル・ルグラン●原作(原案):マルセル・サコット「売春婦のいる場所」(ドキュメ女と男のいる舗道27.jpgント)●時間:84分●出演:アンナ・カリーナ/サディ・ルボット /アンドレ・S・ラバル/ギレanna karina.jpgーヌ・シュランベルジェ/ジェラール・ホフマン/ペテ・カソヴィッツト/モニク・メシーヌ/ポール・パヴェル/ディミトリ・ディネフ/エリック・シュランベルジェ/ブリス・パラン/アンリ・アタル/ジル・ケアン●日本公開:1963/11●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会〔四谷公会堂〕 (81-09-12)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ (16-09-06)(評価★★★★☆)●併映(1回目):「裁かるるジャンヌ」(カール・テオドア・ドライヤー)  anna karina

Sabakaruru Jannu (1928).jpg裁かるるジャンヌ 女と男のいる舗道1.jpg「裁かるるジャンヌ (裁かるゝジャンヌ)」●原題:LA PASSION DE JANNE D'ARC●制作年:1927年(1928年4月デンマーク公開、同年10月フランス公開)●制作国:フランス●監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー●撮影:ルドルフ・マテ●時間:96分(短縮版80分)●出演:ルネ・ファルコネッティ/ウジェーヌ・シルヴァン/モーリス・シュッツ/アントナン・アルトー●日本公開:1929年10月25日●配給:ヤマニ洋行●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会〔四谷公会堂〕 (81-09-12) (評価★★★?)●併映:「女と男のいる舗道」(ジャン=リュック・ゴダール)
Sabakaruru Jannu (1928)

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'いい雰囲気'の中で撮影が行われたことを示唆する40周年記念の同窓会的イベント。

Fantomu obu Paradaisu (1974).jpgファントム・オブ・パラダイス dvds.jpgファントム・オブ・パラダイス [DVD.jpg
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ファントム・オブ・パラダイス05s.jpg 容姿は冴えないが天才的才能をもつ無名の青年音楽家ウィンスロー・リーチ(ウィリアム・フィンレイ)は、懸命に自分の曲を売り込もうとしていた最中に、無名で駆け出しの女性歌手フェニックス(ジェシカ・ハーパー)の才能を見出し、共に将来を夢見る。しかし、大手レコード会社「デス・レコード」社長のスワン(ポール・ウィリアムズ)に曲を奪われ、美しい彼女は身体を奪われかけ、自身は無実の罪で投獄される。獄中でスワンが自分の作ファントム・オブ・パラダイスs.jpg品に醜悪なアレンジをして売り出そうとすることを知ったウィンスローは激怒し、脱獄してレコード会社に乱入するが、警官に追われた際に誤ってプレス機に頭を挟まれ顔と声が潰れてしまう。復讐のため、スワンが建設した杮落とし前の大劇場「パラダイス」に現れたウィンスローは、リハーサルで自分の曲を歌うバンド「ビーチ・バムズ」の舞台セットに爆弾をしかけてスワンを襲ファントム・オブ・パラダイス02.pngうが、スワンは恐れるどころか逆にウィンスローに、「パラダイス」のオープニングをウィンスローの曲で飾る契約を持ちかける。それが悪魔との契約とは知らず、フェニックスを大劇場のオープニングにと夢見てウィンスローは作曲を続けるが、スワンはそれを裏切り、オカマロックシンガーのビーフ(ゲリット・グレアム)を舞台に立たせた。完成したスコアと愛するフェニックスもスワンに奪われていて、怒りに燃えたウィンスローは怪人ファントムと化す―。

ファントム・オブ・パラダイス08s.jpg '74年公開のブライアン・デ・パルマ監督によるロックンロール・ミュージカルで、元々ブロードウェイなどでの舞台が無い映画オリジナルの作品ですが、最初はジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)と二本立てで観て、こちらの方ががミュージカル調の場面は少ないにも関わらファントム・オブ・パラダイス73.jpgずロック・オペラっぽく感じられました。「オペラ座の怪人」「ファウスト」「ノートルダム・ド・パリ」「ドリアン・グレイの肖像」などがモチーフとして織り込まれていて、更にヒッチコック映画のパロディなどもあったりして盛り沢山、ある意味トラジディ(悲劇)ですが、テンポよく話が進むのと、今観ると70年代カルチャーが横溢しているのが窺え、意外と悲壮感は感じられませんでした。

ファントム・オブ・パラダイス03.jpg 主人公のウィンスロー(ファントム)を演じたウィリアム・フィンレイは、デ・パルマ監督の前作「悪魔のシスター」('73年)での変態ドクター役に続けての起用、歌姫役のジェシカ・ハーパーは、この映画を観たダリオ・アルジェントによって「サスペリア」('77年)に抜擢されることになりますが、この映画で一番目立っているのはやはりスワンを演じたポール・ウィリアムズで、本職のシンガーソングライターで、カーペンターズの「愛のプレリュード」「雨の日と月曜日は」などの作詞も手掛けている人ルパン三世 ルパンVS複製人間 11.jpgポール・ウィリアムズ.jpgです(2010年から「米国作曲家作詞家出版者協会」の会長を務めている)。日本では、アニメ「ルパン三世」の劇場版第1作「ルパン三世~ルパンVS複製人間」('78年)に登場したクローン人間マモーは、本作のスワンがモデルになっていると言われていますが、本当のところはどうなのでしょうか。

 '14年に映画公開40周年を記念するパネルディスカッションがハリウッドで催されており、ブライアン・デ・パルマほか、ポール・ウィリアムズ(スワン役)、ジェシカ・ハーパー(フェニックス役)、ゲリット・グレアム(ビーフ役)らが登壇して活発な遣り取りがあり(ウィリアム・フィンレイは残念ながら'12年に71歳で亡くなっている)、詰めかけたファンからも喝采を浴びています。こうした同窓会的なイベントが実現するということは、この作品に幅広い年代でコアなファンがいることを示す一方、当時の撮影が非常に楽しい雰囲気の中で行われたことも示唆しているように思われます。また、そのことが、この作品がベースはトラジディ(悲劇)でありながら、何となく楽Phantom Of The Paradise 40th Anniversary Panel 7-30-14.jpgしめてしまうことにも繋がっているのかもしれないと思った次第です。タイトルからして、ストーリーの中心には「オペラ座の怪人」がきていると思いますが、その割にはシャンデリアの落下シーンなどが無いのが今思うとやや残念だったかも。70年代の雰囲気のノスタルジー効果とプラスマイナスして、最初に観た時の評価(星4つ)としました。
Phantom Of The Paradise 40th Anniversary Panel 7-30-14

ファントム・オブ・パラダイス title.jpg「ファントム・オブ・パラダイス」●原題:PHANTOM OF THE PARADICE●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ●製作:エドワード・R・プファントム・オブ・パラダイス09.jpgレスマン●撮影:ラリー・パイザー●音楽:ポール・ウィリアムズ/ジョージ・アリソン・ティプトン●92分●出演:ウィリアム・フィンレイ/ポール・ウィリアムズ/ジェシカ・ハーパー/ゲリット・グレアム/ジョージ・メモリ●日本公開:1975/05●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)(評価:★★★★)●併映:「ロッキー・ホラー・ショー」(ジム・シャーマン)

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ハリソン・フォードよりトミー・リー・ジョーンズが印象的か。
逃亡者 1993   01.jpg逃亡者 1993_dvd.jpg 逃亡者 1993 00.jpg 逃亡者 THE FUGITIVE_19.jpg
逃亡者 [DVD]」ハリソン・フォード/TVドラマシリーズ「逃亡者」デビッド・ジャンセン

逃亡者 (1993年の映画)03.jpg シカゴ記念病院の有能な血管外科医リチャード・キンブル(ハリソン・フォード)がある夜帰宅すると、妻のヘレン(セーラ・ウォード)が家の中で何者かに襲われて死に瀕していた。キンブルは犯人と思しき「片腕が義手の男」を撃退するも、妻は既に致命傷を負っており手遅れであった。キンブルは自分が取り逃がした義手の男について捜査するよう警察に懇願するが、警察は死の間際のヘレンの通報内容を誤解し、キンブル本人が妻殺しの濡れ衣を着せられ逮捕されてしまう。キンブルは裁判で無実を証明することができず、死刑判決を受けて刑務所へと移送されることになるが、その最中に他の囚人たちが逃亡を企てたことにより、護送車が列車と衝突し爆発炎上するという事故が発生する。事故を間一髪で生き延びた逃亡者 (1993年の映画)01.jpgキンブルは混乱に乗じ、妻を殺害した真犯人を自らの手で見つけて汚名をすすぐため、事故現場から逃亡してシカゴへと向かう。一方、いち早く脱走した囚人がいることを突き止めた連邦保安官補サミュエル・ジェラード(トミー・リー・ジョーンズ)とその部下達はキンブルを追跡する。時には持ち前のヒューマニズムが仇となって窮地に陥りつつも、執拗なジェラードの追跡を振り切りながら、キンブルはシカゴに帰り着いて証拠を辿り、同僚であり親友でもあるチャールズ・ニコルズ(ジェローン・クラッベ)からの援助も受けながら、自分が目撃した「片腕が義手の男」の名前を突き止める―。

逃亡者  the fugitive 1963.jpg逃亡者 the fugitive 1963 .jpg オリジナルは1963年から1966年にかけて、デビッド・ジャンセン主演で放映され、アメリカ国内で平均視聴率45%という驚異的な数字を叩き出したTVドラマです。日本でも、1964(昭和39)年から1967(昭和42)年までTBS系列(関西地区は朝日放送)で放送されて人気を博し、最終話の放送時刻には銭湯が空になったと言われています(TVドラマ版は当初モノクロだったが、最後の方はカラーになった)。映画では、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、連邦保安官補サミュエル・ジェラードの追跡を逃れながら逃げまくるという枠組みは、TV版をそのまま逃亡者 1993 06.jpg踏襲しています。

 但し、元々120話あった話を2時間ちょっとの映画にしてしまうということは、やはり質的な変化も大きいかと思われ、TV版のデビッド・ジャンセン演じるリチャード・キンブルが際限なく全米を逃げまくっている印象があっただけに、逃亡劇が2時間強で決着してしまうというのは、映画だから仕方がないとは言え、何となくあっさりし過ぎる感じがしました。映画では、逃げているエリアはシカゴ市内及び近郊に限定されているし、病院で善意から治療(指示)をするのも1度きりだし...(TV版では結構あちこちで治療していたのではなかったか)。

Frantic/The Fugitive/Presumed Innocent.jpg逃亡者 1993ges.jpg ハリソン・フォードは、「フランティック」('88年)で妻を誘拐されたが誰にも信じてもらえない外科医役を演じ、また、「推定無罪」('90年)で妻殺しの容疑を着せられた検察官を演じており、サスペンスドラマ、それも追い詰められてパニックになりながらも独り(或いは女性に助けられながら)奮闘する役がすっかり板についた感じですが、この「逃亡者」での役柄は、考えてみれば「フランティック」と「推定無罪」を掛け合わせたような役でもあり、「フランティック」の頃は、それまでのタフガイのイメージを覆す印象があって目新しかったのですが、流石にこれだけ続くとややマンネリ感も。その分、ジェラード連邦保安官補を演じたトミー・リー・ジョーンズの方が新鮮だったでしょうか(オリジナルとキャラクターは若干違ってるが)。

逃亡者 1993es.jpg ハリソン・フォードより4つ年下のトミー・リー・ジョーンズ(当時46歳)は、この作品で'93年のアカデミー助演男優賞を受賞し、以降は「メン・イン・ブラック」('97年)、「逃亡者」のスピンオフ作「追跡者」('98年)などのlove story Tommy Lee Jones.jpg出演作に恵まれるようになります。高校卒業後、家計を助けるために働きながら独学で勉強して、奨学金でハーバード大学英米文学部に進学した苦労人で、「ある愛の詩」('70年)で映画デビューしますが、その後は顔つきのキツさから出演依頼が来ず、下積みがすごく長かったようです(ハリソン・フォードも「カンバセーション...盗聴...」('74年)に出てた頃は滅茶苦茶暗かったが、「スター・ウォーズ」('77年)で人気の出たため、トミー・リー・ジョーンズよりはずっと若くしてブレイクしたことになる。と言うより、トミー・リー・ジョーンズが遅咲きなのだが)。

メン・イン・ブラック0.jpg 「メン・イン・ブラック」のバリー・ソネンフェルド監督はトミー・リー・ジョーンズのことを、「彼は大真面目に演じていてもどこかコミカルだ」と評していますが、確かにそうかも(「逃亡者」におけるトミー・リー・ジョーンズの中にも「メン・イン・ブラック」に通じるコミカル要素があるともとれる)。'06年から続くサントリー缶コーヒーBOSSのCM「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」も、誰か慧眼の宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ01.jpg宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ02.jpg持ち主が彼のそうした特性に着眼して起用したのでしょう(因みにトミー・リー・ジョーンズは親日家であり、大の歌舞伎ファンであるとともに浮世絵の収集家でもある。「メン・イン・ブラック3」('12年/米)のキャンペーンでも、プロモーションワールドツアーで唯一日本ツアーにだけ参加した)。

逃亡者 (1993年の映画) 02.jpg トミー・リー・ジョーンズの"活躍"もあって、映画としては悪くはないのですが(初めて観た時の評価は星4つ)、改めて観直してみると、アクションのヤマ場が中盤のキンブルのダム底へのダイビングであり、あとはやや流れが緩慢な印象も受けます。電車内での「片腕が義手の男」との対決もある種お決まりのパターンであれば、最後に真犯人を追い詰めて銃撃戦になる展開もこれまたパターンであるように思えたため、星半個減の3つ半としました。

逃亡者 1993s.jpg 映画に出始めた頃のジュリアン・ムーア(左)が(前年に「ゆりかごを揺らす手」('92年)に出演しているが、その作品ではレベッカ・デモーネイが怖すぎて、彼女の印象は薄かった)、キンブルが「片腕が義手の男」が装着していた義手の手がかりを求め、清掃員に扮して病院に忍び込んだ際、彼に「男の子の患者を運んで!」と頼み、その後男の子にちゃんと独自の処置がされているのを不審に思って警察に通報する女医役で出ていますが、キネ旬をはじめ多くの映画データべースで、「元同僚のアン・イーストマン医師(ジュリアン・ムーア)の協力で、病院の中にある義手を持つ人のリストを調べあげ...」などJulianne Moore.jpgjane lynch the fugitive.jpgとあり、ジェーン・リンチ(右)が演じたキャシー・ワーランド医師の役との混同が見られます(キンブルに協力するのはキャシー・ワーランド医師)。これも、ジュリアン・ムーアが後に有名になったためでしょうか(最近では、2014年公開の「アリスのままで」でゴールデングローブ賞の主演女優賞(ドラマ部門)とアカデミー賞の主演女優賞を受賞している)。
Julianne Moore

ER 緊急救命室12.jpg 因みに、「片腕の男」の義手の資料を集めるためにキンブルが潜り込んだ病院は、本作の1年後に放送が開始されたTVドラマ「ER 緊急救命室」の舞台にもなっているシカゴのクック郡病院であり、ジュリアン・ムーアが演じたイーストマン医師のセリフやシカゴの聖パトリック祭の様子は「ER」の第1話でも使われたとか(共に配給元はワーナー・ブラザーズ)。


THE FUGITIVE s.jpg「逃亡者」●原題:THE FUGITIVE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・デイヴィス●製作:アーノルド・コペルソン●脚本:デヴィッド・トゥーヒー/ジェブ・スチュアート●撮影:マイ逃亡者 (1993年の映画) last.jpgケル・チャップマン●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ロイ・ハギンズ●130分●出演:ハリソン・フォード/トミー・リー・ジョーンズ/ジェローン・クラッベ/セーラ・ウォード/ジュリアン・ムーア/アンドレアス・カツーラス/ジョー・パントリアーノ/ダニエル・ローバック/L・スコット・カードウェル/トム・ウッド/ジェーン・リンチ●日本公開:1993/09●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

「逃亡者」(The Fugitive).jpgthe fugitive 1963 dvd.jpgTHE FUGITIVE_0.jpg逃亡者1963   .jpg「逃亡者」(The Fugitive) (ABC 1963~1967) ○日本での放映チャネル:TBS(関西地区は朝日放送)(1964.5~1967.9)/AXNミステリー

《読書MEMO》
逃亡者 (2020年ドラマ)1.jpg逃亡者 (2020年ドラマ)2.jpg●2020年テレビドラマ化「テレビ朝日開局60周年記念 2夜連続ドラマスペシャル・逃亡者」(テレビ朝日・2020年12月5日5・6日放送)
監督:和泉聖治/出演: 渡辺謙/豊川悦司/夏川結衣/稲森いずみ/杉本哲太/村田雄浩/余貴美子/宇梶剛士

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知識人目線、外国人目線は感じるが、ラストシーンは青春のノスタルジーに満ちていて秀逸。

Chisana chûgoku no ohariko(2002).jpg中国の小さなお針子 dvd 中文.jpg中国の小さなお針子 dvd.jpg
        
  ダイ・シージエ.jpg
戴思杰(ダイ・シージエ)

小さな中国のお針子 [DVD]
Chisana chûgoku no ohariko(2002)

中国の小さなお針子 マー・ルオ.jpg 1971年、文革の嵐が吹き荒れる中国。青年マー(馬剣鈴)(劉燁〈リウ・イエ〉)とルオ(羅明)(陳坤〈チェン・クン〉)は医者を親に持つことから、反革命分子の子として再教育のために奥深い山村へ送り込まれた。彼らはそこで過酷な肉体労働を強いられる。ある日二人は、美しい少女、お針子(周迅〈ジョウ・シュン〉)に出会う。ルオはお針子に一目惚れした。彼らは、同じ再教育で来ている若者が禁書である西洋の本を大量に隠し持っていることを知り、それ中国の小さなお針子 THE LITTLE CHINESE SEAMSTRESS 3.jpg中国の小さなお針子 THE LITTLE CHINESE SEAMSTRESS 2.jpgを盗み出す。そして、文盲のお針子に毎夜西洋の文学を読み聞かせてあげるのだった。許されない秘密を共有することで結びつきを強める三人。そして、お針子は西洋文学が語る自由に次第に目覚めていく―。

 戴思杰(ダイ・シージエ)監督・脚本による2002年製作のフランス・中国の合作映画で、原作は戴監督の自著『バルザックと小さな中国のお針子』(早川書房刊)。マーとルオが農村に行かされたのは、文化大革命当時の所謂「下放」運動の対象となったわけですが、戴思杰監督自身、この作品の主人公らと同じく10代の時に「下放」されており、原作及び映画にはその時に実際にあったことなども盛り込まれているとのことです(お針子の祖父の仕立て屋に9晩かけて「モンテクリスト伯」を物語るエピソードは実際にあった話らしい)。

中国の小さなお針子 THE LITTLE CHINESE SEAMSTRESS.png 「下放」に出された経験がある監督は、「第五世代監督」の旗手と言われる「紅いコーリャン」の張芸謀(チャン・イーモウ)、「さらば、わが愛/覇王別姫」の陳凱歌 (チェン・カイコー)を筆頭に数多くいて、「下放」そのものを扱った映画も、陳監督の「子供たちの王様」('87年/中国)や、「紅いコーリャン」に主演した姜文(チアン・ウェン)が監督した「太陽の少年」('94年/中国・香港)、陳冲(ジョアン・チェン)監督の「シュウシュウの季節」('98年/米)、池谷薫監督の「延安の娘」('02年/日)などがあります。

 但し、陳凱歌は2002年以降アメリカで活動しているし、姜文は00年代に中国当局より7年間映画製作・出演禁止処分を受けています。「シュウシュウの季節」はアメリカ映画、「延安の娘」は日本映画で、この「小さな中国のお針子」も、フランス・中国の合作映画ですが実質的にはフランス映画です。

 戴思杰監督自身は福建省で医師の両親のもとに生まれ、1971年から74年まで四川省の山岳地帯で「再教育」を受けたあとに1984年に政府給費留学生としてパリ映画高等学院に留学、そのままフランスに在住し、フランス語で書いた初の小説『バルザックと小さな中国のお針子』で作家デビュー、これがフランスで40万部のベストセラーとなり、フランス人プロデューサーにより映画化に至ったという経緯です(多くのプロデューサーから映画化権獲得の申し入れがあった)。

中国の小さなお針子s.jpg中国の小さなお針子 ルオ・お針子3.jpg そのように、実質フランス映画であるということもあってか、観ていてそれっぽい筋書きや演出、或いは撮り方をしていると感じれる部分がありました。主人公の二人、ヴァイオリン青年マー(より作者の分身に近いと言える)と歯科医を目指すルオが違った形でお針子に恋をするため、二人の青年とお針子の恋愛を描いた青春映画としての色合いも濃いように思います。革命思想に洗脳されたかのように見えた村長も実は人柄はそう悪くなく、後にマーが再訪した時は歓待してくれたという―いくら恋愛絡みにしても、みんな懐かしくていい思い出となり、苦楽ともにノスタルジーによって美化されてしまうというのはどうなのかという印象は若干あります。しかし、戴監督自身は、「下放」というのは映画の背景に過ぎず、描きたかったのは「文学の力が人を変えていく」様だったというようなことを、どこかのインタビューで答えていたように思います。

中国の小さなお針子 マー・お針子.jpg 個人的に印象に残った場面があり、それは、お針子がルオの子どもを身籠ってしまって違法ながらも中絶するしかなくなり、マーが町で何とか産科医に会い、自分の父親の名前を告げると、マーの父親の名も政治的不遇をも知っていたにも関わらずその産科医に身構えられてしまい(マーが「妹」に生理が無いので相談に乗って欲しいと切り出し「お前の父親に娘などいない」と嘘がバレれたということもあるが)、マーが最後に一縷の望みを賭けて、この窮状を救ってくれるならば「バルザックの本を一冊差し上げます」と言ってその本を見せると、産科医がその中の一文を読んで、「この翻訳は傅雷だな、文体で分かる。可哀そうに、お前のお父さんと同じ人民の敵だ」と言いい、こらえきれなくなって泣きじゃくるマーを慰め、お針子や青年たちのために危険を冒してひと肌脱ぐ決意をするという箇所で、ああ、これは当時弾圧を受けながらも内面の矜恃を保った多くの「知識人」に対するオマージュなのだなあと思いました。

中国の小さなお針子 G.jpg そうした「知識人目線」みたいなのは確かにあり、その辺りもこの映画に対する批判的な見方の要因としてあるようです。お針子の描き方は、川端康成の原作で何度も映画化された「伊豆の踊子」などにも通じるところがあるように思いました(あの作品には東大生から見た"上から目線"との批判もある)。あとはやはり「外国人目線」でしょうか(正確には"外国からの目線"か)。中国語タイトル「巴爾扎克与小裁縫」(バルザックと小さなお針子)に対し、フランス語タイトルは「Balzac Et La Petite Tailleuse Chinoise」(原著共)。原著の仏語タイトルに倣って日本語タイトルに「中国の」とわざわざ入れたことで一層「外国人目線」が意識させられるようになってしまいましたが、ある意味、この作品の微妙な本質というか性格を表しているようにも思います。

 とは言え、批判するのは簡単、中国に外国からスタッフが入って映画を作るのは大変、という事情もあったかと思います。まず、中国国内での撮影許可を得るために当局と交渉があって、原作で27年後に再会する主人公二人が、作者及び監督の分身であるマーの方はバイオリンの名手となってパリで友人と四重奏団を組んでいて、ルオの方はアメリカで歯科医になっているのに対し、「二人とも海外に行ってしまっているのはけしからん」という当局のクレームで、ルオは上海で歯科医となりその分野での国家的権威になっているという具合に改変されています。これも現地でロケを行う許可を得るためのバーター条件だったとのことでやむを得ないのかも。

張家界.jpg 中国で中国の俳優を使って中国の地で撮影出来たことはやはり大きかったように思います。ロケ地の張家界(湖南省)は幻想的に美しく今や中国の一大観光名所ですが、当時は60人の映画クルーが何日もかけてやっと辿り着き、そこには何も無かったと言います。撮影のために建てた主人公の青年らが寝起きした住居などは、後に休憩所として使えるように取り壊さないで残してきたとのことです。

 ストーリーの中では鳳凰山にあるこの美しい村が三峡ダムの工事で水没することになったため、マーは懐かしさに駆られて村を再訪するわけですが、村長など老人はいてもお針子がいないというのが辛いです(文学によって村以外の世界を知ったお針子は、マーやルオがいる時に村を出てしまっていたのだが、戻ってはいなかった)。二人がお針子に文学を読んで聞かせた部屋が水没するラストシーンのイメージ映像は、惜別の念と青春のノスタルジーとに満ちていて秀逸。やはりコレ、青春恋愛映画だなあ。思い出の土地が水没するというのは、痕跡は無くとも土地がそのままであるというのとはまた違った深い寂しさがあるだろうなあ、などと思いました。

周迅(ジョウ・シュン).png劉燁〈リウ・イエ〉.png陳坤〈チェン・クン〉.jpg 当局との中国でのロケ交渉と併せ、中国との共同製作作品とし中国の俳優を使うことを条件として作られた映画であるのに(何れも中国国内で上映できるようにとの仏側からの提案だった)、結局、中国では上映もされていなければ原作も刊行されていない状態が今も続いていますが、周迅(ジョウ・シュン)をはじめ主演俳優のその後の人気もあって、海賊版のビデオやインターネット動画などで結構多くの人が観ているのではないかという気もします。
周迅(ジョウ・シュン)/劉燁(リウ・イエ)/陳坤(チェン・クン)

中国の小さなお針子 wakare.jpg「小さな中国のお針子」●原題:巴爾扎克与小裁縫/BALZAC ET LA PETITE TAILLEUSE CHINOISE/BALZAC AND THE LITTLE CHINESE SEAMSTRESS●制作年:2000年●制作国:フランス・中国●監督:戴思杰(ダイ・シージエ)●脚本:戴思杰(ダイ・シージエ)/ナディーヌ・ペロン●撮影:ワン・プージャン●音楽:ジュン=マリー・ドリュージュ●原作:戴思杰(ダイ・シージエ)●時間:110分●出演:周迅(ジョウ・シュン)/陳坤(チェン・クン)/劉燁(リウ・イエ)/王双宝(ワン・シュアンパオ)/叢志軍(ツォン・チーチュン)/王宏偉(ワン・ホンウェイ))●日本公開:2003/01●配給:アルバトロス・フィルム(評価:★★★☆)

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パニック映画ブームの先駆け。CG全盛の今観ると、「実写」の"手作り"的な良さを感じる。

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映画パンフレット 「ポセイドンアドベンチャー」 監督 ロナルド・ニーム 出演 ジーン・ハックマン アーネスト・ボーグーナイン」「ポセイドン・アドベンチャー [DVD]

ポセイドン・アドベンチャー 12.jpg 81,000トンの豪華客船「ポセイドン号」は1,400名の乗客を乗せてニューヨークを出港、ギリシャ行の航海に出たが、船長(レスリー・ニールセン)は、船の重心が高くバラスト(底荷)をしていないため、大波に襲われて転覆することを恐れていた。ポセイドン・アドベンチャー t.jpg船内ホールでは大晦日の年越しパーティーが開かれていたが、折しもクレタ島沖で海底地震が発生して高さ32mの巨大津波が船を襲い、船体に問題があった船はあっという間に転覆、ホールの船客らは、それまでのポセイドン・アドベンチャー H5.jpg上部が足下に、足下が上部にひっくり返って、躰ごと投げ出されて落下、壁に叩き落されるなどし、船内は阿鼻叫喚の地獄図となる。180度横転したホールには、この時点ではまだ相当数が生存しており、その内の1人のパーサーは、この場に留まることが最善で、救援隊が来るまでここで待機しようと訴える。しかし牧師のフランク・スコット(ジーン・ハックポセイドン・アドベンチャー7.jpgマン)は、留まっていれば海面下に置かれているホールはやがて浸水して全員死ぬので、ひとまず上に上がって「船底」の竜骨付近に行ってそこで救援隊を待つ方がよいと主張、ホールに居た船客も意見が分かれるが、牧師に従って上に登る決意をしたのは僅か8名だった。スコット牧師らは、大きなクリスマスツリーをよじ登って、上にいたボーイのエイカーズ(ロディ・マクドウォール)と合流、その時、大爆発がし鉄砲水が残りの大勢の船客を押し流すが、牧師にはどうすることも出来ない。牧師にポセイドン・アドベンチャーes.jpg従ったのは、ニューヨークの刑事マイク・ロゴ(アーネスト・ボーグナイン)と リンダ・ロゴ(ステラ・スティーヴンス)の夫婦、気ままな旅をしていたマニー・ローゼン(ジャック・アルバートソン)とベル・ローゼン(シェリー・ウィンタース)の中年夫婦、雑貨商ジェームズ・マーティン(レッド・バトンズ)、ホールで演奏していた楽団メンバーを全て失った歌手ノニー・パリー(キャロル・リンレー)、欧州へ遊びに行く予定だったスーザン・シェルビー(パメラ・スー・マーティン)とロビン・シェルビー(エリック・シーア)の姉弟の8人であり、スコット牧師、エイカーズと合わせて10人でエンジンルームを目指す―。

Poseidon Adobenchâ (1972).jpgポセイドン・アドベンチャーs.jpg 1969年に発表されたポール・ギャリコの小説を原作として1972年に映画化された作品で監督はロナルド・ニーム(1911-2010/享年99)、製作は後に同じパニック映画「タワーリングインフェルノ」('74年)を製作するアーウィン・アレンです。'72年公開作では「ゴッドファーザー」('72年)に次ぐ全米興行収入を上げ、日本でも、'73年の興行収入第1位となり、パニック映画ブームの先駆けとなった作品とされていますが、個人的にはテレビで観たと思います(記録を調べると、1976年10月11日TBS「月曜ロードショー」で放送され、その後、2006年6月15日にテレビ東京「午後のロードショー」で放送されたりしている)。
Poseidon Adobenchâ (1972)

ポセイドン・アドベンチャー8.jpg まず、豪華客船が転覆して、全てが上下ひっくり返るというのが、原作通りではあるものの、映像にしてみるとなかなか面白く、「パニック映画、こうあるべし」みたいな感じで、それでいて、1回使ったらもうよそでは使えないみたいなユニークさがあったのではないでしょうか(結局、続編を含め「ポセイドン」というタイトルをそのまま使用して、この後3度映画化された(ウォルフガング・ペーターゼン監督「ポセイドン」('06年)など))。当時の製作費1,200万ドルは船のセット、転覆場面の撮影、1,135万リットルの水に大半が費されたとのことですが、大量の海水が勢いよく、或いはじわじわと浸水してくるシーンなども含め、CGなどが無い時代のことで全て実写でやっているわけです。公開当時は大規模なセットが話題になったかと思われますが、CG全盛の今日この映画を観ると、むしろ"手作り"的な良さが感じられます。

ポセイドン・アドベンチャー00.jpg パニック映画ではありますが、ヒューマンドラマ的な部分もしっかりしていました。とりあえず、船内ホールにいた100人ぐらいの船客以ポセイドン・アドベンチャーK.jpg外は"絶望"として生存者を絞り込んで、更に「船底」に退避するかその場に留まるかで、結局、留まった人々は全滅、退避した10名だけに早々に絞り込まれます。そのことによって、以降、演劇的な、丹念な人物像の描き方となっていたように思います。そして、その10人の中から更に犠牲者が1人、2人と出続ける―。

ポセイドン・アドベンチャー09.jpg 序盤の船内ホールには、居残り組にも牧師がいて、こちらはただ祈るのみ。一方のジーン・ハックマン演じる牧師は、とにかく生きるために前へ進もうとする、この対比のさせ方はかなり明確です。そして、その牧師が最後にとった自己犠牲的な行動―。やや典型的なヒロイズムになってしまった印象もあるし、その際に、牧師が"神"に向かって「邪魔しないでくれ」と言いますが、牧師がそんなこと言うかなあというものちょっと引っ掛かったけれど、穿った見方をすれば、この映画ではこの牧師が「モーゼ」のような神により近い存在ということなのかもしれません。
   
ポセイドン・アドベンチャー03.jpg ジーン・ハックマンは好演でした。他の俳優陣では、牧師と意見の衝突を繰り返す刑事役のアーネスト・ボーグナイン(1917-2012/享年95)ポセイドン・アドベンチャー20s.jpgの、ジーン・ハックマンとの演技合戦が見所でしょうか。ジーン・ハックマンは英国アカデミー賞の主演男優賞を受賞しましたが、アーネスト・ボーグナインの濃い演技もパニック映画向きで良かったように思います(元水泳選手ポセイドン・アドベンチャー 001.jpgPicture of The Poseidon Adventure.jpgで牧師を救うも自らは斃れる中年婦人ベル・ローゼンを演じたシェリー・ウィンタースがゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞している)。最近観直してみて、船長役が「裸の銃を持つ男」('88年)などコメディに転ずる前のレスリー・ニールセン、ボーイ役が「猿の惑星」シリーズのロディ・マクドウォールだったことに改めて気づきました。 

ポセイドン・アドベンチャー _b.jpg「ポセイドン・アドベンチャー」●原題:THE POSEIDON ADVENTURE●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ロナルド・ニーム●製作:アーウィン・アレン●脚本:スターリング・シリファント/ウェンデル・メイズ●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョン・ウィリアムズ/アル・カシャ/ジョエル・ハーシュホーン●原作:ポール・ギャリコ「ポセイドン・アドベンチャー」●時間:117分●出演:ジーン・ハックマン/アーネスト・ボーグナイン/レッド・バトンズ/キャロル・リンレー/ロディ・マクドウォール/ステラ・スティーヴンス/シェリー・ウィンタース/ジャック・アルバートソン/パメラ・スー・マーティン/エリック・シーア/レスリー・ニールセン/アーサー・オコンネル●日本公開:1973/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)

リンダ・ロゴ(ステラ・スティーヴンス)、スーザン・シェルビー(パメラ・スー・マーティン)、ノニー・パリー(キャロル・リンレー)の各フィギア
ポセイドン・アドベンチャー 53.jpg ポセイドン・アドベンチャー 50.jpg ポセイドン・アドベンチャー b5.jpg

《読書MEMO》
●70年代前半の主要パニック映画個人的評価
・「大空港」('71年/米)ジョージ・シートン監督(原作:アーサー・ヘイリー)★★★☆
・「激突!」('71年/米)スティーヴン・スピルバーグ(原作:リチャード・マシスン)★★★☆
・「ポセイドン・アドベンチャー」('72年/米)ロナルド・ニーム監督(原作:ポール・ギャリコ)★★★☆
・「タワーリング・インフェルノ」('74年/米)ジョン・ギラーミン監督(原作:リチャード・M・スターン)★★★☆
・「JAWS/ジョーズ」('75年/米)スティーヴン・スピルバーグ監督(原作:ピーター・ベンチュリー)★★★★

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エピローグの抑制の効いた展開。ラストの主人公の一言に感動させられた。

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善き人のためのソナタ 1.jpg 1984年、東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)局員のヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミュー善き人のためのソナタ 0.jpgエ)は、後進の若者たちに大学で尋問の手法を講義する教官をしている。ある日、ハムプフ文化相(トーマス・ティーメ)の意により、劇作家のドライマン(セバスチャン・コッホ)と舞台女優である恋人のクリスタ(マルティナ・ゲデック)が反体制的であるという証拠を掴むよう命じられる。国家を信じ忠実に仕えてきたヴィースラーだったが、かつての同期ヴォルヴィッツ(ウルリッヒ・トゥクル)が今は国家保安省の中佐として彼の上司となっている。但し、この盗聴作戦に成功すれば彼にも出世が待っていた。しかし、権力欲にまみれた大臣や、それに追従し自らの政界進出のために手段を選ばないヴォルヴィッツを見るにつけ、彼のこれまでの信念は揺らぐ。更に、盗聴器を通して知る劇作家のドライマンと恋人クリスタの、これまで彼が経験したことのなかった自由、愛、音楽、文学の世界に影響を受け、いつの間にか新しい価値観が彼の中に芽生えてくる―。

善き人のためのソナタ 4.jpg フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督33歳の時の初の長編作品であるとともに、ヨーロピアン・フィルム・アワード主要3部門制覇、アカデミー賞外国語映画賞受賞など多くの賞を受賞した出世作でもあり、映画監督ヴェルナー・ヘルツォークは「ドイツ映画史上、最も素晴らしい作品である」との賛辞を寄せています。記録文書のリサーチだけで4年を費やしたとのことで、人類史上最大の秘密組織と言われる"シュタージ"の内幕を正確に描いているそうです(撮影も当時の建物などが使われた)。ストーリーの本筋そのものは実話ではありませんが、断片的には当時の記録や証言をもとに多くの実話的要素を織り込んでいるようです。

善き人のためのソナタ 2.jpg ある意味、人は変われるかということをテーマにしている作品ともいえ、公開当時は"シュタージ"にヴィースラーのような人間はいなかったとの批判もあったようです。更には、作品の描かれ方としても、ヴィースラーの変化が一部には唐突感をもって受け止められたようですが、個人的には、ヴィースラーの変わっていく様子は、ウルリッヒ・ミューエの抑制の効いた演技によって説得力をもって伝わってきました。

善き人のためのソナタ 3.jpg スパイ映画的な緊迫感もあって、エンタテインメントとしても上手いと思いました。ただ、終盤に大きな悲劇があって、ここで終わりかと思ったら、ややもの足りない印象も。ところが話はやや長めのエピローグへと入っていきます。エピローグが長い映画でいい作品は少ないように思われ、どう落とし込むのかと思ったら、最後はいい意味で予想を裏切り、オリジナリティのある展開で大感動させてくれました。

善き人のためのソナタ 5.jpg ベルリンの壁崩壊後に自分達が盗聴されていたことを初めて知ったドライマン。では当時なぜ当局にすぐさま検挙されることが無かったのか、その謎を探るうちにある真実が浮かび上がり、その"当事者"に行き着く―。当のヴィースラーは、ベルリンの壁崩壊前は国家保安省で閑職に追いやられていましたが、ベルリンの壁崩壊後もチラシを投函する仕事をしていて、かつての大学教員の面影は無く落魄しています。しかし、ドライマンは彼を見つけても声を掛けないし、駆け寄って有難うと言って抱きついたりもしない―この抑制がいいです。でも、作品としてのカタルシスという面ではどうかなと思ったら...。

善き人のためのソナタ 6.jpg 最後、ヴィースラーは相変わらずチラシ配りをしています。そのヴィースラーが偶々ドライマンの新刊の広告を書店前で見かけて店に入り、その著作『善き人のためのソナタ』を手にしてページをめくった時に、もう何が出てくるか、さすがにここまでくれば観ていて分かってしまうのですが、やはり感動してしまいます。そして、ギフト用に包みましょうかと声をかける若い店員に、「私のための本だ」と言ったときのヴィースラーの表情といい、その表情のストップモーションで終わるエンディングといい、カタルシス全開でした(ラストで一番泣かせてくれるというのがニクイ)。

 この作品の中には、幾つもの相似形・相対系が見られたように思います。例えば、好色の文化相に蹂躙されボロボロになって帰って来たクリスタを責めることなく慰めるように受け入れるドライマンと、モダンで無機質な印象を受ける部屋にコールガールを呼ぶ孤独なヴィースラーとの対比、或いは、権力者に弄ばれるクリスタと、それを見ながら自分も同じように権力者に使役されていることを悟るヴィースラー(クリスタが当初は当局の協力者だったならば、その変化という意味でもヴィースラーと重なる)、ドライマンを天井裏から監視する善き人のためのソナタ9.jpgヴィースラーと、終盤のヴィースラーを発見するも観察するだけのドライマン、大学で尋問手法の講義で使われたヴィースラーが被尋問者の人格を否定するかのように番号で呼ぶ場面と、本の献辞の中にあったHGW XX/7というヴィースラー自身を指すコード(但し後者は、ドライマンにとっては自分を助けてくれた恩人の唯一の手掛かりとなり、ヴィースラーにとっては自らの人生の選択が正しかったことを再確認させるものとなった)、等々。

Yoki hito no tame no sonata (2006) .jpg ヴィースラーを演じたのウルリッヒ・ミューエの抑制の効いた演技が何と言っても素晴らしかったですが、彼自身も東ドイツ時代にシュタージの監視下に長年置かれていた経験の持ち主であるとのことです。この作品に出演した翌年の2007年7月に癌のため54歳で逝去しているのが惜しまれます。

「善き人のためのソナタ」●原題:DAS LEBEN DER ANDEREN(英題:THE LIVES OF OTHERS)●制作年:2006年●制作国:ドイツ●監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク●製作:クヴィリン・ベルク/マックス・ヴィーデマン●撮影:ハーゲン・ボグダンスキー●音楽:ガブリエル・ヤレド/ステファン・ムーシャ●時間:137分●出演:ウルリッヒ・ミューエ/マルティナ・ゲデック/セバスチャン・コッホ/ウルリッヒ・トゥクル/トーマス・ティーメ/ウーヴェ・バウアー/フォルクマー・クライネルト/マティアス・ブレンナー●日本公開:2007/02●配給:アルバトロス・フィルム●最初に観た場所:渋谷・シネマライズ(07-04-01)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-06-09)(評価:★★★★☆)
Yoki hito no tame no sonata (2006)
    
シネマライス31.JPGシネマライス9.JPGシナマライズ 地図.jpgシネマライズ 1986年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階に1スクリーン(220席)で「シネマライズ渋谷」オープン。1996年、2階の飲食店となっていた場所(1986年6月から1991年6月まで「渋谷ピカデリー」だった)に2スクリーン目を増設。「シネマライズシネマライズ220.jpgBF館」「シネマライズシアター1(2階)(303席)(後のシネマライズ)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「シネマライズBF館(旧シネマライズ渋谷)」2010年6月20日閉館(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館)。2011年、編成をパルコエンタテインメントに業務委託。地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館。[写真:2015年11月26日/ラストショー「黄金のアデーレ 名画の帰還」封切前日]

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ロイド主演作の中でベスト。中盤、後半と、"引き込まれ度"がステップアップしていく。

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ロイドの要心無用 00.jpg 周囲の期待を一身に集め、田舎から都会に出て来た青年がいた。残してきた恋人には主任を任され......なんて手紙を出すが、実のところ、ただのデパートの売り子。それも度重なるドジで、首さえも危ない状態だった。そこへ彼女がやってきて、なんとか取り繕おうとしてますますドツボにはまり、ついに解雇通告を受け取ってしまう。だが、壁登りが得意な友人をビルに登らせる販促キャンペーンに借り出すことで、何とか汚名返上を果たそうと画策。しかし宿敵の警官に友人は追われ、ついに彼自身がビルに挑むことに―(「allcinema ONLINE」より)

ロイドの要心無用 01.jpg ハロルド・ロイド(1893-1971)主演の1923年作品で、本邦公開は1923(大正12)年12月。淀川長治はこの作品をロイド主演作の中でベストとしていますが、大方の見方も同じでしょう。先に「ロイドの人気者」('25年)の方をとり上げましたが、ロイドと言えばやっぱりこの作品。デパートのビルの大時計からぶら下がるシーンは、この作品を観ていない人でも知っているくらい有名です。

 原題「SAFETY LAST」は、「SAFETY FIRST」、建設現場などにある標語の「安全第一」をもじったもので、直訳すれば「安全最後」、つまり「安全後回し」ということなのです。邦題の「要心無用」の「要心」は現在の「用心」と同義であり、それが「無用」であるというのは、直訳に近い邦題であるとも言えます。

ロイドの要心無用 02.jpg 前半の細かいギャグの連続がロイド作品の中でもテンポがいいというのもありますが、やはり後半の、ロイドが1階ずつビルの壁をよじ登っていく場面が見せます。どうやってこうした危険そうに見えるシーンを撮ることが出来たのか、タネを知ればナルホドで終わってしまうのですが、それにしてもカメラワークが巧みです。創意工夫によって、映像上のスリルと、撮影上の安全性の両方を成り立たせている点は、CG全盛の今日において、大いに参考にすべき映画の原点的な技と言えるのではないでしょうか。

ロイドの要心無用 05.jpg デパートに新入社員として入社し、洋服の生地売り場でのお客対応でこき使われているロイドからは宮仕えのツラサもたっぷり感じられますが、解雇通告を受けてもめげず、何百人も客をデパートに呼び寄せれば報奨金1000ドルを出すという支配人の発言を聞きつけ発奮するロイドからは、チャンスを生かせば誰もが恵まれた人生を手にすることが出来るという、アメリカ的な考え方、成功への上昇志向が窺えます(因みに、ハロルド・ロイドが作品中で「ハロルド・○○○」として登場した作品は多いが、ちゃんと「ハロルド・ロイド」として登場した作品はこの「ロイドの要心無用」のみ。但し、オープニングクレジットでは単に「The Boy」となっている)。

ロイドの要心無用 step by step.jpgロイドの要心無用 last.jpg 主人公は、最初は取り敢えず1階分だけ登って後は壁登りの得意な友人と交代する手筈だったわけで、それが結果として...。この1つ1つ目の前の"課題"に取り組むことで、意図せずして当初不可能と思われたことを独力で成し遂げていたという話の流れも上手いと思います。ビルの下に集まってくる群衆なども、非常に多くのエキストラを使っているように思われますが、それらが、実際にロイドがスタント無しでビル登りしているのを固唾を飲んで見守っているかのように撮られているのが絶妙です(実際にはビル登りするロイドは最初の下の方の階を除いては別撮りであり、スタントは使っていないが、先述の通り一定の安全は確保されていた)。

ロイドの要心無用 04.jpg 後半の壁登りに次ぐ見所は、その前の、恋人を安心させるために自分が会社で要職に就いていると偽っていたところ、その恋人が会社を訪ねて来てしまい、社内で新入社員のくせにあたかも支配人であるかのように振る舞ってみせる場面でしょうか。これもなかなか楽しめ、このことにより、中盤、後半と、"引き込まれ度"がステップアップしていく作品になっているように思います。

大学は出たけれど0.jpg このシチュエーションで思い出されるのが、小津安二郎監督の「大学は出たけれど」('29年)での、大学を卒業したものの就職が決まらないでいる主人公(高田稔)が、郷里の母親と許嫁(田中絹代)には一流企業に勤めているように偽っていたところ、母親と許嫁が上京して来てしまうという設定です。小津版は主人公がそもそも会社に勤めていないため、許嫁が上京してからの展開は全くのオリジナルとなりますが、アメリカ喜劇映画の熱心なファンだった小津安二郎が(「大学は出たけれど」には、主人公の部屋に「ロイドのスピーディー」('28年)のポスターがある)、ロイドのこの作品に着想を得た可能性は高いように思えます。

Safety Last! (1923).jpgロイドの要心無用~Safety Last~ [VHS].jpg「ロイドの要心無用」●原題:SAFETY LAST!●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:サム・テイラー/フレッド・ニューメイヤー●製作:ハル・ローチ●原作:サム・テイラー/ハル・ローチ/ティム・フェーラン●脚本:ハロルド・ロイド/ジャン・ハヴェズ●撮影:ウォルター・ランディン●時間:66分●出演:ハロルド・ロイド/ミルドレッド・デイヴィス/ビル・ストローザ―/ノア・ヤング/W・B・クラーク●日本公開:1923/12●配給:日活(評価:★★★★)ロイドの要心無用~Safety Last~ [VHS]
Safety Last! (1923)

HAROLD LLOYD COLLECTION [DVD].jpgHAROLD LLOYD COLLECTION [DVD]
【収録作品】
Disk.1 ・『ロイドのブロードウェイ』 ・『都会育ちの西部者』 ・『ロイドの大勝利』
Disk.2 ・『危険大歓迎』 ・『好機逸すべからず』 ・『俺がやる』
Disk.3 ・『豪勇ロイド』 ・『ドクター・ジャック』 ・『ロイドの要心無用』
Disk.4 ・『巨人征服』 ・猛進ロイド ・客に混って
Disk.5 ・『ロイドの初恋』 ・『ロイドの人気者』 ・『落胆無用』
Disk.6 ・『ロイドの福の神』 ・『田吾作ロイド一番槍』 ・『ロイドの父に聞いて』
Disk.7 ・『ロイドの化物屋敷』 ・『ロイドのスピーディ』 ・『ロイドの水平』 ・『其の日ぐらし』
Disk.8 ・『ロイドの活動狂』 ・『ロイドの神出鬼没』 ・『ロイドの何番々々』・『眼が廻る』・『ハート張り』
Disk.9 ・『ロイドの牛乳屋』 ・『足が第一』

ハロルド・ロイド COMEDY SELECTION DVD-BOX.jpgハロルド・ロイド COMEDY SELECTION DVD-BOX
【収録作品】
1.『豪勇ロイド』 Grandma's boy 1922年 48min
2.『ロイドの要心無用』Safty Last! 1923年 66min
3.『猛進ロイド』Girl Shy 1924年 63min
4.『ロイドの人気者』The Freshman 68min
5.『ロイドの活動狂』Movie Crazy 85min
6.『ロイドの牛乳屋』The Milky Way 88min

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安心して観ていられ、最後はほんわかした気分に。ヒネリが無い分、ややもの足りないか。

ロイドの人気者 yunyu.jpgロイドの人気者 dvd2.jpg  ロイドの人気者 dvd.jpg  ロイドの人気者 dvd  red.jpg
The Freshman (1925) 輸入版DVD/「ロイドの人気者 [DVD]」['99年]「ロイドの人気者 [DVD]」['04年]「ロイドの人気者 [DVD]」['14年6月]

ロイドの人気者 pa-teli.jpg 田舎から出てきて憧れの大学生となったハロルド(ハロルド・ロイド)は、学内の人気者になりたくて皆にアイスクリームを御馳走したりパーティを開いたりする。車中で知り合って意気投合した下宿屋の娘ペギー(ジョウビナ・ラルストン)の気を引こうとしたのだった。恋敵に触発されて今度はフットボール部に入り花形選手を目指すが、監督ロイドの人気者 01.jpgは彼を補欠として在籍させるものの、練習の時は選手のタックルの練習台として、試合の時はウォーターボーイ(水汲み)としてしか扱わない。そんな中、大事な試合でケガ人が続出し、やがてハロルドにも出場の機会が訪れる―。

 1925年公開のハロルド・ロイド(1893~1971)主演作で(原題:The Freshman)、ロイドはチャールズ・チャップリン、バスター・キートン共に"三大喜劇王"と言われる一方で、「The Third Genius(第三の天才)」と呼ばれ、その両者に次ぐ3番目の位置づけとされていますが、3人の中で一番興行的に稼いだのはロイドであるとされるくらい人気があったようです。

ロイドの人気者 04.jpg パントマイム系であるにも関わらず表情豊かでおとぼけぶりも際立つチャップリン、アクロバット系であるにも関わらずピンチでも無表情を崩さないシュールなキートン―個性が強烈で存在そのものがエキセントリックなこの両者に比べると、ロイドはその特徴的な眼鏡を除いてはごく普通の若者といった感じで、逆に眼鏡によって都会的な印象を醸しており、その辺りが当時の観客に親近感を与えたのではないでしょうか。

ロイドの人気者 06.jpg 「ロイドの要心無用」('23年)、「猛進ロイド」('24年)と並ぶ彼の代表作とされるこの作品で、その年の最大のヒット作だったそうですが、自分が人気者になったつもりでいた青二才が、実は皆からおもちゃにされていたことを知って落ち込むものの、恋人に「あるがままの自分になって、本当の人気者になって」と言われ、スポーツで奮起して最後は恋人の真の愛を得るというストーリーは、やや定番といった感じです。安心して観ていられるし、最後はほんわかした気分にさせられるものの、「要心無用」などと比べるとややもの足りないか。

ロイドの人気者 tokaihu.jpg この作品は「キートンのカレッジ・ライフ(大学生)」('27年)などにも影響を与えたとされ、その結果、「カレッジ・ライフ」の方がこの作品のパクリであると見なされてキートンの作品の中でも相対的にやや評価が低くなる傾向があるようですが、この作品でロイドが活躍するスポーツはフットボール、「カレッジ・ライフ」でキートンが活躍するのはボート競技であり(キートンがフットボールで活躍するのは「ロイドの人気者」の前々年公開の「キートンの恋愛三代記」('23年)だった)、キートンの「カレッジ・ライフ」の方が、ラストで苦手だったはずのあらゆるスポーツ競技の技を使って恋人の救出にいくなどヒネリが効いていて、"パクリ"と呼ばれる筋合いのものでもないように思います(個人的好みからのキートン擁護的な見方?)。

ロイドの人気者 05.jpg 但し、この作品も、終盤のフットボールシーンのロイドのアクションは愉しめるし、どちらかと言うとギャグ系のロイドが、ここでは体を張って頑張っています。随所にエスプリも効いていて、恋人の泣かせる励ましの言葉もあり、人によっては「要心無用」よりこちらが好みだという人がいてもおかしくないかもしれません(個人的にはやはり「要心無用」の方が上にきてしまうのだが)。

大学は出たけれど 5.jpg 因みに、ハロルド・ロイドが作品中で「ハロルド・ロイド」として登場した作品は「要心無用」のみで、この作品では「ハロルド・ラム(Harold Lamb)」、通称「スピーディー(Speedy)」となっています。このスピーディーという愛称はその後の作品に引き継がれ、「ロイドのスピーディー」('28年)などは、小津安二郎監督の「大学は出たけれど」('29年)の1シーンにそのポスターが出てくることでも知られています。
「大学は出たけれど」('29年)田中絹代/高田 稔

 チャップリンが下層階級を主に演じ、キートンが主に上流階級を演じたとすれば、ロイドはその中間あたりでしょうか。この作品でも、ちょっと周囲に大盤振る舞いしたばかりに、後のやり繰りが苦しくなってしまう主人公ハロルドであり、まあ、大学に行くということ自体が当時としては恵まれていた方なのかもしれないけれど、特別お金持ちというわけでもなさそう。学生同士のダンスパーティなどは都会的雰囲気に満ちていて、当時の大学生の風ロイドの人気者 siai.jpg俗を描いているという点では、映像的には貴重かも。同じく小津安二郎の「学生ロマンス 若き日」('29年)などと比べてみるもの面白いかもしれません(片やエール大学、片や早稲田大学がモデルか)。

The Freshman (1925).jpg「ロイドの人気者」●原題:THE FRESHMAN(THE FUNNY SIDE OF LIFE)●制作年:1925年●制作国:アメリカ●監督:サム・テイラー/フレッド・ニューメイヤー●製作:ハロルド・ロイド●脚本:ジョン・グレイ/サム・テイラー/フレッド・ニューメイヤー●撮影:ウォルター・ランディン●音楽:ウォルター・シャーフ●時間:100分●出演:ハロルド・ロイド/ジョビナ・ラルストン/ブルックス・ベネディクト/ジェームズ・アンダーソン/パット・ハーモン●日本公開:1963/11●配給:コロムビア映画(評価:★★★)
The Freshman (1925)

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キートンが監督した初長編作。3つの時代の恋愛奮闘劇。47分の中にギャグ満載で飽きさせない。

キートンの恋愛三代記 シネマ2 - コピー.jpgkeaton the three ages.jpgキートンの恋愛三代記 dvd.jpg The Three Ages (1923) yunyubann video.jpg
キートンの恋愛三代記 [DVD]」「Three Ages [VHS] [Import]
Theatrical poster for Three Ages (1923)

キートンの恋愛三代記 0.jpg 石器時代、ローマ時代、現代の3つの時代で繰り広げられる、美しい娘を手に入れるまでの男の恋愛騒動&奮闘劇で、キートンが監督した初長編作品(1923年9月公開、47分)ということになっていますが、長編への進出に不安のあったキートンが、従来に短編を組み合わせる形で制作し、上手くいかなかった場合はそれぞれ個別の作品として公開しようと考えていたという説もあるようです。日本公開は1925(大正14)年3月で、公開時邦題は「滑稽恋愛三代記」。'74年7月に「キートンの恋愛三代記」のタイトルで「ニュー東宝シネマ2」でリバイバル上映されました(併映短編「スケアクロウ」「マイホーム」)。

Three Ages (1923).jpg 各時代それぞれシチュエーションごとに区切って、47分の間に石器時代、ローマ時代、現代の3つの時代が繰り返し出てくる展開は、キートンならではのギャグ満載で観る者を飽きさせず、しかも前半の恋占いシーンや、中盤の女性をめぐる男達の決闘シーンなど、時代ごとのモチーフを揃えているところなどから、やはり最初からから長編としての公開を意識したものと思われます(キートンの相手役のヒロインも一貫してマーガレット・リーイー(Margaret Leahy)が演じているし)。

 その決闘シーンが、石器時代は単なる格闘だったのが、ローマ時代になると「ベン・ハー」さながらのチャリオット(馬車戦車)レース対決に(但し、キートンは前日の降雪を見越して犬ぞりで参戦)、現代になるとフットボール対決といった具合に進化していきます。このチャリオットレースのシーンは、当時最大の映画会社パラマウント社で大作主義に明け暮れるキートンの恋愛三代記 ローマ.jpgセシル・B・デビル監督を皮肉ったものとも言われていますが、このキートンの「恋愛三代記」の中でもセットなどに最もお金をかけている場面のように思われました。D・W・グリフィス監督の「イントレランス」('16年)のパロディとも言われていますが、確かにセットは「イントレランス」と似ています(大掛かりなだけに、大観衆の迎える中でキートンがしょぼい犬ぞりで登場するギャップが非常に効果的なのだが)。

The Three Ages (1923)4.jpg キートンは実際に映画「ベン・ハー」を参考したのでしょうか? ウィリアム・ワイラー監督、チャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」('59年/米)はアカデミー賞11部門を獲得した大作として知られていますが、その前にフレッド・ニブロ監督が撮ったラモン・ノヴァロ主演のMGM映画「ベン・ハー」('26年/米)があり、ウィリアム・ワイラーはこの作品で助監督を務めています。この作品は、「民衆」役でジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、マリオン・デイヴィス、ダグラス・フェアバンクス、リリアン・ギッシュ、ハロルド・ロイド、メアリー・ピックフォードなど多くのスターが出演していることでも知られています。但し、これはこの「恋愛恋愛三代記」の3年後の公開作品であり、キートンが真似ようにもそれは不可能です。

フレッド・ニブロ.jpg しかしながら、フレッド・ニブロはその18年前に作られたシドニー・オルコット監督のサイレント映画「ベン・ハー」('07年/米)を参考にしたと言われており、この作品は15分の短編ながら終盤が殆どチャリオット・レースのシーンになっていることから、キートンもこの作品を参照した可能性はかなり高いように思います。後にキートンがMGMに再移籍して最初に出演した作品「キートンのエキストラ」('30年)で、フレッド・ニブロはキートンの演技に再三ダメ出しする「ニブロ監督」役で登場しています。
Fred Niblo(1874-1948)
キートンの恋愛三代記 アフリカゾウ.jpg ローマ時代だけでなく、石キートンの恋愛三代記 アメフト.jpg器時代も現代も手抜きしておらず、石器時代ではマンモスの代わりに本物のアフリカゾウを使い(ローマ時代のキートンが爪を磨いてあげることで喰われずに済んだライオンは明らかに着ぐるみだが)、現代ではフットボールの試合をスポーツ大好き人間のキートンらしくかなり本格的に撮影しています。石1923-3Ages[animated].gif器時代の岩から岩へ飛び移ってのアクションが、現代のビルからビルへ飛び移るアクションと重なるのも上手いし(それにしてもスゴいアクション)、ラストはどの時代のキートンも目出度くヒロインと結ばれ、石器時代では凄い数の子どもに恵まれ、ローマ時代もそこそこ、それが現代では夫婦の間にペットの犬が一匹というのが見る側の予想を覆して可笑しいです(少子化時代を予測した?)。

キートンの恋愛三代記 ゴルフ.jpg 派手なアクションもありますが、細かいギャグや小道具も効いていたように思います。石器時代で言えば、キートンがしている"腕時計型の日時計"とか"ゴルフセット"とか。現代においては、ジョー・ロバーツ演じる恋敵(こちらも3時代を通しての)の見せる身分証(社員証)にFirst National Bank(国立一流銀行)であるのに対し、キートンのがLast National Bank(国立三流銀行)であるというのも可笑しいです。現代版キートンの恋愛三代記 現代 クルマ.jpgにおけるキートン帽にネクタイ、ワイシャツ、チョッキ、ダブダブのズボン、ドタ靴という組み合わせは、所謂「アーバックル時代」と言われるロスコー・アーバックルとの共演時代(1917-1920)の最後の名残りかと思われますが、キートン帽など以降の作品にも暫く引き継がれていくものもあります。

キートンの恋愛三代記 大女.jpg 石器時代にキートンがアプローチする女性の一人で岩の上に寝そべっている女性―立ち上がると実は大女だった―は、ブランシ・ペイソンという人で、ニューヨーク最初の婦人警官だったそうです。

キートンの恋愛三代記 ラスト.jpg「キートンの恋愛三代記(滑稽恋愛三代記)」●原題:THE THREE AGES●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●製作:バスター・キートン/ジョセフ・M・シェンク●脚本:バスター・キートン/クライド・ブラックマン/ジョゼフ・ミッチェル/ジャン・C・ハヴェズ●撮影:エルジン・レスレー/ウィリアム・C・マクガン●時間:47分●出演:バスター・キートン/ウォーレス・ビアリー/マーガレット・リーイー/ジョー・ロバーツ/ホラス・モーガン/リリアン・ローレンス●日本公開:1925/03●配給:イリス映画(評価:★★★★)

BEN-HUR A TALE OF THE CHRIST poster.pngBEN-HUR A TALE OF THE CHRIST 2.png「ベン・ハー」●原題:BEN-HUR:A TALE OF THE CHRIST●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督:フレド・ニブロ●脚本:ジューン・メイシス/ケイリー・ウィルソン/ベス・メレディス●撮影:クライド・デ・ヴィナ/ ルネ・ガイサート/ パーシー・ヒルバーン/カール・ストラッス●音楽:ウィリアム・アクスト●原作:ルー・ウォーレス●時間:141分●出演:ラモン・ノヴァロ/フランシス・X・ブッシュマン/メイ・マカヴォイ/ベティ・ブロンソン/クレア・マクドウェル/ベン・ハー 二ブロ dvd.jpgキャスリーン・キー/カーメル・マイヤーズ/ナイジェル・ド・ブルリエ/ミッチェル・ルイス/レオ・ホワイト/フランク・カリアー/チャールズ・ベルチャー/ベティ・ブロンソン/デイル・フラー/ウィンター・ホール/(以下、エキストラ出演)レジナルド・バーカー/ジョン・バリモア/ライオネル・バリモア/クラレンス・ブラウン/ジョーン・クロフォード/マリオン・デイヴィス/ダグラス・フェアバンクス/ジョージ・フィッツモーリス/シドニー・フランクリン/ジョン・ギルバート/ドロシー・ギッシュ/リリアン・ギッシュ/サミュエル・ゴールド/ウィンシド・グローマン/ルパート・ジュリアン/ヘンリー・キング/ハロルド・ロイド/コリーン・ムーア/メアリー・ピックフォード●日本公開:1928/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:杉本保男氏邸(80-12-02)(評価:★★★☆)ベン・ハー【淀川長治解説映像付き】 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

Ben Hur [VHS] [Import] (1907).jpgBEN-HUR1907.jpgBEN-HUR 1907.jpg「ベン・ハー」●原題:BEN-HUR●制作年:1907年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・オルコット●脚本:ジーン・ゴルチエ●原作:ルー・ウォーレス●時間:15分●出演:ハーマン・レトガー/ウィリアム・S・ハート●米国公開:1907/12●最初に観た場所:杉本保男氏邸(81-09-27)(評価:★★★?)Ben Hur [VHS] [Import]

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終盤のスぺクタルシーンからラストの畳み掛け感とエンディングがいい「キートンの蒸気船」。

Steamboat Bill, Jr.(1928).jpgキートンの蒸気船 新訳版 2007.jpg キートンの蒸気船 dvd.jpg  キートンの蒸気船 木.jpg
キートンの蒸気船 新訳版 [DVD]」「キートンの蒸気船 [DVD]

キートンの蒸気船 02.jpg ミシシッピー川で操業する蒸気船ストーンウォール・ジャクソン号のオーナー、ウィリアム・キンフィールド(アーネスト・トーレンス)は"スチームボート(蒸気船)ビル"と呼ばれる町の人気者。一人息子のスチームボート・ビル・ジュニア(バスター・キートン)は故郷を離れてボストンに遊学中だった。副船長のトム・カーター(トム・ルイス)と長閑な日々を送るビルだったが、強力なライバルが現われる。金持ちのジョン・ジェイムズ・キング(トム・マクガイアー)が新造船キング号で事業に乗りだしたのだ。そんな時、ボストンから息子が帰ってくる。都会風に妙に洗練された息子を見て、父は落胆。おまけに息子と、商売仇の娘メアリー(マリオン・バイロン)が恋仲になり、ますます面白くない。更ににジャクソン号が老朽化のため使用停止勧告を出されてしまう。警察にはむキートンの蒸気船 チラシ.jpgかったためビルは拘置所に入れられる。ジュニアは父親を助けようとするが、そこへ巨大な暴風雨がやってきて猛威を奮う。ミシシッピーの河川地帯は大パニックとなり、吹きすさぶ風の中、ジュニアは父親と恋人メアリー、そして命を落としかけたキングも救い出す―。

 1928年に本国で公開されたキートンの長編第10作目で、キートンが自身の撮影所で撮った最後の作品。監督にはチャールズ・F・ライスナーがクレジットされていますが、キートンの共同監督がライスナーであったとみていいのでは。日本公開は'28(昭和3)年8月。'73年から'74年にかけてのキートン作品のリバイバル上映で、「キートンのセブン・チャンス」('73年6月/併映短編「警官騒動」)、「海底王キートン」('73年7月/併映短編「白人酋長」)に次ぐ第3弾として'73年8月に上映(併映短編「鍛冶屋」)されています(以降、「キートンの探偵学入門」('73年12月/併映短編「船出」「化物屋敷」)、「キートンの恋愛三代記」('74年7月/併映短編「スケアクロウ」「マイホーム」)と続く)。

キートンの蒸気船 01 帽子.jpg 前半部分はマッチョ志向の父親が、赤ん坊の時以来久しぶりに会った息子の思いもよらなかった脆弱ぶりに幻滅しつつも、何とか一人前の蒸気船乗りに仕立て上げようと躍起になるも、なかなかそうはいかず、そのうSteamboat Bill Jr. ヒロイン.jpgち息子はライバルの蒸気船会社のオーナーの娘と恋仲になるは、自身は拘置所に入れられてしまうはの踏んだり蹴ったりというドラマ的な展開が主となりますが、父親役のアーネスト・トーレンスの演技がなかなかいいです(帽子を使ったギャグは、「荒武者キートン」「海底王キートン」にもあったことを思い出させる)。それと、キートンのことを慕って何かと面倒を見るヒロインの娘もなかなかきびきびしていて良かったですが、演じているマリオン・バイロン(1911-1985)は当時16歳であったとのこと。可愛らしいながらにも(キートン作品のヒロインの中では今風にカワイイ)、役柄のせいで随分しっかりして見えます。

キートンの蒸気船11.jpgキートンの蒸気船 15.jpg 物語が終盤に入って、残り15分のところで町は暴雨風に見舞われ、一気に映画はスぺクタルの様相を呈します。暴雨風の中、斜めになったまあ動けなかったり木に掴まって風に靡いたりするキートンの姿や、家屋が倒れてきて偶然にも窓枠の位置にいて奇跡的に助かるといったキートンの躰を張ったアクション・シークエンスは、キートン作品の中でもよく知られている場面です。

Steamboat Bill Jr. ラスト.jpg そして、ラスト5分、キートンが演じるビル・ジュニアは、これまでと打って変わって獅子奮迅の働きを見せることになりますが、ラスト15分に「起承転結」のうちの暴風雨による「転」とジュニアの活躍という「結」を集約させた作りが、前半から中盤にかけてその脆弱ぶりが繰り返し描かれていただけに効いています。暴風雨で危険な状態に晒された娘を救い、拘置所ごと漂流していた父親を救い、そして父親のライバルである彼女の父親キングをも救う―これらの神業を表情も変えず黙々とこなしていくのが小気味良く、ラストも両家の父親の和解という"感動的"な場面でありながら当人は感傷に浸ることなく、今度は漂流していた牧師を引っぱってきて、そこで"ジ・エンド"となる終わり方がいです。このラストは、同じく恋人の親同士が対立しているという「ロミオとジュリエット」風の状況設定であった「荒武者キートン」('23年)の、最後の主人公と彼を敵(かたき)にしてきた家族との和解シーンで、相手の家族が和解の印にそれぞれ拳銃を差し出したら、キートンが表情を一斎変えず、それまで服の下に隠していた何丁もの拳銃を差し出したところで終わるラストと並んで好みです。

キートンの蒸気船12.jpg この作品の「暴雨風」というモチーフは当初「大洪水」というモチーフだったそうで、「大洪水」で亡くなる人が多くいるのでコメディに相応しくないとの意見で「暴雨風」に変更されたそうですが、後で統計を調べてみたら「暴雨風」で亡くなる人の方が「大洪水」で亡くなる人より何倍も多いことが判ったとのことです。

 家屋の下隅に嵐に襲われた人が避難する場所としての地下室の入り口がありましたが、これは南部という土地柄からしておそらく「竜巻」避難用ではないでしょうか。「暴風雨」には使えるけれど、「大洪水」だと却って危ないかも。
                       
蒸気船ウィリー4-2.jpg この作品にヒントを得て作られたと言われているのが、同じ年に公開された世界初のトーキー・アニメ「蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)」('28年)で、正しくは世界初の「サウンドトラック方式」のトーキー・アニメ。それまでのBGMとして音楽が流れるだけの方式ではなく、登場人物(ミッキー)が台詞を喋ります。ミッキー・マウス作品としては3作目ですが、ミッキーの初主演作であるため、1928(昭和3)年ニューヨークのコロニーシアターで初公開された、その11月18日という日蒸気船ウィリーと愉快な仲間たち.jpg蒸気船ウィリー.jpgが「ミッキー・マウスの誕生日」とされています。但し、ディズニーがこの日をミッキーの誕生日として公式に定めたのは、生誕50周年を記念して大々的な回顧展が行われるのを機にしてのことでした(日本公開は1929年で、どの会社がいつ輸入し、どの映画館で最初に上映したのか明確ではないが、9月に新宿にあった武蔵野館でミッキー・マウス映画が公開された記録があり、この時が本邦初公開だったのではないか。因みに本国では大手配給会社に配給を断られ、セレブリティ・プロダクションという制作会社が配給した)。
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ウォルト・ディズニー (1901-1966).jpg 東京ディズニーリゾートの「ミート・ザ・ミッキー」で順番待ちの間にこの作品が流れていますが、基本的にはウォルト・ディズニーのオリジナルという感じでした。但し、原題(Steamboat Willie)などは確かに「キートンの蒸気船」(Steamboat Bill Jr.)のバロディっぽく、ミッキー・マウスの実質デビュー作がキートン作品から何らかの影響を受けているというのが興味深いです。因みに、1928年公開のこの作品から1947年までの約20年間、ミッキーの声優を務めたのはウォルト・ディズニー自身であり、自分の声を入れたのは予算の都合だったそうで、実は1作目からミニーの声も担当していたそうです(ミニーは4作目からディズニー社の女性社員に変更されたという)。

キートンの蒸気船 vhs vip.jpg「キートンの蒸気船(船長)」●原題:STEAMBOAT BILL JR.●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/チャールズ・F・ライスナー●製作:バスター・キートン●脚本:カール・ハルボー●撮影:デヴ・ジェニングズ/バート・ヘインズ●時間:59分●出演:バスター・キートン/アーネスト・トレンス/マリオン・バイロン/トム・ルイス/トム・マクガイア●日本公開:1928/08●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-16)(評価:★★★★)●併映:「キートンのセブンチャンス(栃面棒)」(バスター・キートン)


蒸気船ウィリー dvd1.jpgSteamboat Willie .jpg「蒸気船ウィリー」●原題:STEAMBOAT WILLIE●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督・製作:ウォルト・ディズニー●作画:アブ・アイワークス/レス・クラーク/ジョニー・キャノン/ウィルフレッド・ジャクソン●(声の)出演:ウォルト・ディズニー●時間:7分●日本公開:1929/09●配給:ユナイテッド・アーチスツ(評価:★★★☆)
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ニューヨークという大都会を舞台にしたダスティン・ホフマン主演'69年作品2作。

ジョンとメリー [VHS].jpgジョンとメリー [DVD].jpg 真夜中のカーボーイ dvd.jpg 卒業 [DVD] L.jpg
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ジョンとメリー 1.jpg マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。

 ピーター・イエーツ(1929-2011/享年81)監督の「ジョンとメリー」('69年)は、行きずりの一夜を共にした男女の翌朝からの1日を描いたもので、男女の出会いを描いた何とはない話であり、しかも基本的に密室劇なのですが、2人のそれぞれの回想と現在の気持ちを表す独白を挟みながらストーリーが巧みに展開していき、2人の関係はどうなるのだろうかと引き込まれて観てしまう作品でした。ピーター・イエーツは英国人で、映画監督になる前にプロのレーシング・ドライバーだったこともあり、この作品が監督第3作ですが、第1作が犯罪サスペンス映画「大列車強盗団」('67年/英)で、この作品でのアクション・シーンの手腕が買われ、ハリウッドで第2作、スティーブ・マックイーン主演のアクション映画「ブリット」('67年/米)を撮っていますが、今度はがらっと変って男女の出会いを描いた作品に。

ジョンとメリー 4.jpg 脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。

ジョンとメリー 2.jpg 最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。

真夜中のカーボーイ1.jpg そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの卒業 ダスティン・ホフマン .jpg主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。

卒業 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス.jpg 映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー卒業(1967).jpgファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ卒業 1967 2.jpg賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。

真夜中のカーボーイQ.jpg 3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ真夜中のカーボーイs.jpgリー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも(但し、原作者のジェームズ・レオ・ハーリヒー自身はゲイだったようだ)。

ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg 「ジョンとメリー」に出てくる"Singles Bar"(独身者専門バー)を舞台としたものでは、リチャード・ブルックス(1912-1992/享年72)監督・脚本、ダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」('77年)があり、こちらはジュディス・ロスナーが1975年に発表したベストセラー小説の映画化作品です。
ミスター・グッドバーを探して [VHS]

ミスター・グッドバーを探して1.jpg ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。

恋におちて 1984.jpg 何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」('84年)

ユー・ガット・メール 01.jpg 「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
「ユー・ガット・メール」('98年)

めぐり逢えたら 映画 1.jpg トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年)にヒントを得ている作品ですが(「めぐり逢い」そのものが同じくレオ・マッケリー監督、アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ主演の「邂逅」('39年)のリメイク作品)、エンパイア・ステート・ビルの展望台で再開を約するのは「めぐり逢い」と同じ。但し、「めぐり逢い」ではケーリー・グラント演じるテリーの事故のため2人の再会は果たせませんでしたが、「めぐり逢えたら」の2人は無事に再開出来るという、こちらもオリジナルをハッピーエンドに改変しています。
「めぐり逢えたら」('93年)

 最近のものになればなるほど、男女双方または何れかに家族や恋人がいたりして話がややこしくなったりもしていますが、それでもハッピーエンド系の方が主流かな。興業的に安定性が高いというのもあるのでしょう。「恋におちて」は、古典的ストーリーをデ・ニーロ、ストリープの演技力で引っぱっている感じですが、2人とも出演時点ですでに大物俳優であるだけに、逆にストーリーの凡庸さが目立ち、やや退屈?(もっと若い時に演じて欲しかった)。但し、「恋におちて」「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の何れも役者の演技はしっかりしていて、ストーリーに多分に偶然の要素がありながらも、ディテールの演出や表現においてのリアリティはありました。しかしながら、物語の構成としては"定番の踏襲"と言うか、「ジョンとメリー」を観て感じた時のような新鮮味は感じられませんでした。

 こうして見ると、ニューヨークという街は、「真夜中のカーボーイ」や「ミスター・グッドバーを探して」に出てくる人間の孤独を浮き彫りにするような暗部は内包してはいるものの、映画における男女の出会いや再会の舞台として昔も今もサマになる街でもあるとも言えるのかもしれません(ダスティン・ホフマンは同じ年に全く異なるキャラクターで、ニューヨークを舞台に孤独な男性の「明・暗」両面を演じてみせたわけだ。これぞ名優の証!)。

ジョンとメリー [VHS]
JOHN AND MARY 1969.jpgジョンとメリーdvd3.jpg「ジョンとメリー」●原題:JOHN AND MARY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:ベン・カディッシュ●脚本:ジョン・モーティマー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:クインシー・ジョーンズ●原作:マーヴィン・ジョーンズ「ジョンとメリー」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/ミア・ファロー/マイケル・トーラン/サニー・グリフィン/スタンリー・ベック/三鷹オスカー.jpgタイン・デイリー/アリックス・エリアス●日本ジョンとメリーe.jpg公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

Dustin Hoffman and Mia Farrow/Photo from John and Mary (1969)

「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113真夜中のカーボーイ2.jpg真夜中のカーボーイ 映画dvd.jpg分●出演:ジョン・ヴォイト/ダスティン・ホフマン/シルヴィア・マイルズ/ジョン・マクギヴァー/ブレンダ・ヴァッカロ/バーナード・ヒューズ/ルース・ホワイト/ジェニファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
真夜中のカーボーイ [DVD]

「卒業」●原題:THE GRADUATE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ローレンス・ター卒業 1967 pster.jpgマン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン卒業 1967 1.jpg/デイヴ・グルーシン●原作:チャールズ・ウェッブ「卒業」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダリチャr-ド・ドレイファス 卒業.jpgニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)
卒業 [DVD]

映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」監督リチャード・ブルックス 出演ダイアン・キートン

FALLING IN LOVE 1984.jpg恋におちて 1984 dvd.jpg「恋におちて」●原題:FALLING IN LOVE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ウール・グロスバード●製作:マーヴィン・ワース●脚本:マイケル・クリストファー●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)
恋におちて [DVD]

YOU'VE GOT MAIL.jpgユー・ガット・メール dvd.jpg「ユー・ガット・メール」●原題:YOU'VE GOT MAIL●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ノーラ・エフロン/ローレン・シュラー・ドナー●脚本:ノーラ・エフロン/デリア・エフロン●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジョージ・フェントン●原作:ミクロス・ラズロ●時間:119分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/グレッグ・キニア/パーカー・ポージー/ジーン・ステイプルトン/スティーヴ・ザーン/ヘザー・バーンズ/ダブニー・コールマン/ジョン・ランドルフ/ハリー・ハーシュ●日本公開:1999/02●配給:ワーナー・ブラザース映画配給(評価:★★★)ユー・ガット・メール [DVD]

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

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有名MBA出身でありながら反商業主義を貫き、高い国際的評価を得ているのが興味深い。

タヒミック 悪夢の香り.jpg The Perfumed Nightmare 3.jpg  トゥルンバ祭り dvd.png  Kidlat Tahimik.jpg
"Perfumed Nightmare"(悪夢の香り,1977)    "Turumba"(トゥルンバ祭り,1983)  Kidlat Tahimik

The Perfumed Nightmare 橋.jpg 貧しいフィリピン青年の「僕」キドラット(キドラット・タヒミック)はジムニー(小型乗合バス)の運転手であるが、将来は宇宙飛行士を夢みている。僕のジプThe Perfumed Nightmare ジムニー.jpgニーがアメリカ人のビジネスマン(ハルムート・レルヒ、この作品の共同撮影カメラマン)の気に入り、ひとまずパリに赴くことになって、村をあげての大騒ぎの中、憧れの地へ発つが、日夜チューインガム自販機を詰め替える単純作業に追われ、夢は遠のく。巨大なスーパーの煙突の中に身を隠し、故郷を想う僕は、進歩という観念そのものに疑問を抱くようになる―。

キドラット・タヒミック2.jpg 1977年にフィリピンの映像作家キドラット・タヒミック監督(Kidlat Tahimik 、1942年生まれ)が発表した彼のデビュー作で、スペイン人が造った橋、アメリカの軍用車を改造したジプニー、月ロケットなどをモチーフに、フィリピン社会に染みついた植民地主義を、とぼけたユーモアや温かい詩情、ファンタジックで時にナンセンスな展開、ドキュメンタリー風の映像などを通して炙り出した作品です。

 '82年にヤクルトホールで行われた「国際交流基金映画祭~南アジアの名作をもとめて」(南アジア映画祭)にて上映され、監督本人も会場に来ていましたが、紹介されると突然一般観客席から立ち上がって挨拶するなど、実に剽軽な人でした(当時40歳くらいか。この作品を撮ったのはその5年前)。

 この作品は、'77年のベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞し、'81年にはフランシス・フォード・コッポラの配給によってアメリカでも公開されていますが、日本では、その後'96年にシネマトリックスの配給で、「BOX東中野」にて、特集上映「キドラット・タヒミックの世界」の1作として上映されています(昨年(2012年)には、アテネフランセ文化センターの特集「アジア映画の森」でも上映)。

 監督自身はその後もインディペンデント映画作家としての立場を貫いており、最近日本でも若手のインディペンデント系映像作家が海外の映画祭で賞を獲るなどしていますが、彼は、アジアにおける先駆的な個人映画作家として、2012年に「福岡アジア文化賞」を受賞しています。

 同監督による第2作は「月でヨーヨー」(1979)という、これもファンタジー的要素のある作品(フィリピンはヨーヨー発祥の地らしい)、第3作「トゥルンバ祭り」(1983)で、トゥルンバ祭り 02.jpgフィリピンの田舎町で行われる熱狂的な大祭を背景とした物語を描いて国際映画賞を受賞しています(マンハイム・ハイデルベルグ国際映画祭映画「新興国のための審査員賞」)。'87年に第2回東京国際映画祭(アジア秀作映画週間部門)にて上映されたのを観ましたが、馬や犬のマスコトゥルンバ祭り 01.jpgットを家族で作って祭りで売っていた祖母と少年が、ある日ドイツのデパートの女性バイヤー(カタリーナ・ミューラー)がたまたま通りかかって、大量注文をしたために家族は大騒動となるという、ちょっと「悪夢の香り」と似た展開。但し、"日記映画作家"と呼ばれるだけあって、祭りの準備をする人々や本番の祭りの模様を記録映画風に描いていて、ドキュメンタリータッチがより色濃く出ています。また、単に反商業主義・反植民地主義というだけでなく、土着的、アジア文化的なものへの回帰指向もより鮮明になっています。この辺りは、「悪夢の香り」の主人公である「僕」が、最後に文明批判に目覚め、先住民の友達の教えを思い出して帰国するという結末からの流れを汲んでるともとれます。

キドラット・タヒミック4.jpg 今やその風貌や語り口から仙人のような趣を醸す同監督ですが(50代になってからマニラを離れ、山間部に移り住んでいる)、元々は富裕知識階層の出身で、ペンシルバニア大学ウォ―トンスクール(米国でもトップクラスとされるMBA)で経営学の修士号を取得し、パリで経済協力開発機構(OECD)の研究員をしていたという、かつては自他共に認めるバリバリのエコノミストでした。その彼が、帰国してから経済人への道をではなく、自主制作映画作家としての道を歩み(MBAの卒業証書を破り捨たというから相当の覚悟だったのか)、反商業主義を貫いて、国際的に高く評価される映像作家になったというのが興味深いです(相変わらず祭り好きの、剽軽なオッサンである点は変わらないみたいだけど)。

2012tahimik.jpgキドラット・タヒミック3.jpg福岡アジア文化賞受賞スピーチ(2012)
 
 
 
  
 
 

タヒミック氏とカタリーナ・ミューラー夫人(美術担当、「悪夢の香り」「トゥルンバ祭り」両作品に出演)
   

The Perfumed Nightmare2.jpg悪夢の香り 1シーン.jpg「悪夢の香り」●原題:KIDLAT WORLD MABABANGONG BANGUNGOT(Perfumed Nightmare)●制作年:1977年●制作国:フィリピン●監督・製作・脚本・撮影:キドラット・タヒミック●共同撮影:ハルトムート・レルヒ●音楽:エフゲニー・グレボフ●時間:95分●出演:キドラット・タヒミック/ジェジェット・ボードリィ/マン・フェリィ/ハルムート・レルヒ/カタリーナ・ミューラー/ドロレヤクルトホール.jpgス・サンタマリア●日本公開:1982/10(劇場公開:1996/11)●配給:国際交流基金(劇場公開:シネマトリックス)●最初に観た場所:新橋・ヤクルトホール(82-10-16)(評価:★★★★)●併映:「田舎の教師」(スラスィー・パータム)/「ミュージカル女優」(シャーム・ベネガル)/「ふたりは18歳」(トグゥ・カルヤ) Mababangong bangungot (1977)

ヤクルトホール 1972年、東新橋・ヤクルト本社ビル内にオープン

「トゥルンバ祭り」●原題:TURUMBA●制作年:1983年●制作国:フィリピン●監督・脚本:キドラット・タヒミック●撮影:ロベルト・イニゲス●音楽:マンディ・アファング●時間:87分●出演:ホーマー・アビアド/イニゴ・ヴィト/マリア・ペヒポシネセゾン渋谷.jpgル/パティ・アバリ/カタリーナ・ミューラー●日本公開:1987/09●配給:シシネセゾン渋谷 チケット.jpgネセゾン●最初に観た場所:シネセゾン渋谷(87-09-26)(評価:★★★☆) シネセゾン渋谷 1985年11月6日、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン。2011年2月27日閉館。
シネセゾン渋谷closing.jpg

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「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(テアトル新宿)

画家の老境をしみじみと描く。年齢がいってから観た方がより味わいがある作品かも。

田舎の日曜日 ちらし.jpg田舎の日曜日 1984 dvd.jpg 田舎の日曜日 01.jpg
チラシ/「田舎の日曜日[デジタルリマスター版] [DVD]」ルイ・デュクルー/サビーヌ・アゼマ

 1912年の秋のある日曜日のパリ郊外田舎。画家ラドミラル氏(ルイ・デュクルー)は、パリから訪ねてくる息子ゴンザグ(ミシェル・オーモン)一家を駅に出迎えるため出掛けるが、駅に向かう途中で一家を迎えることになり、70歳を越えた脚の衰えをまざまざと感じる。ゴンザグと嫁のマリー・テレーズ(ジュヌヴィエーヴ・ムニック)、孫娘で体の弱いミレイユ(カティア・ボストリコフ)と孫息子たちが訪れて賑やかになった氏の邸に、普段めったに訪ねて来ない娘のイレーヌ(サビーヌ・アゼマ)までが、最新型の自動車を運転してやって来る。パリでファッションブティックをオープンしたばかりで若く美しい彼女は、久しぶりの実家帰りでくつろぐが、恋人からかかってくるはずの電話を待っており、恋に悩んでいる様子でもある。ミレイユが木に登って降りれなくなるという騒ぎが起き、更に、恋人からの電話がないのに苛立ったイレーヌがパリに発つと言い出す。ラドミラール氏は娘を宥め、自分のアトリエに招くが、イレーヌはそこに父の絵に対する苦悩を見る。イレーヌに誘われてドライブに出たラドミラル氏は、森の中のレストランで妻の想い出を娘に語る。そんな父にイレーヌは一緒に踊ってと言い出す。二人が家に戻るとパリからの電話が彼女を待っていた。とりみだして去る娘を、そっと送り出すラドミラル氏。夕方、いつものようにゴンザク一家を見送った彼は、アトリエに入り新しい画布に向かう―。

田舎の日曜日 03.jpg ベルトラン・タヴェルニエ(Bertrand Tavernier、1941- )監督の初期作品で、第37回カンヌ国際映画祭監督賞作(原作は脚本家ピエール・ボストの遺作『ラドミラル氏はもうすぐ死んでしまう』)。ストーリー的にはただこれだけの話ですが、パリ郊外の田舎の風景の映像も美しく、何となくじわーっとくる作品です。こうした作品を飽きずに最後まで見せるのは、相当な力量ではないかと最初に観た当時思いましたが(途中で退屈になってしまう人もいておかしくない作品でもあるが)、この監督はその後も佳作を世に送り続けています。でも、自分が観たベルトラン・タヴェルニエの作品ではこれが一番かと。娘イレーヌ役のサビーヌ・アゼマは、1985年(第10回)セザール賞(フランスにおける映画賞で、同国における米アカデミー賞にあたる)の最優秀女優賞を受賞しています。

田舎の日曜日 05.jpg 邸での些細な出来事の殆どが、老境の画家ラドミラル氏の視点から描かれているように思えますが、彼が数年前までは風景画を描いていたのが、最近はアトリエの中の椅子等のオブジェを描くように変わっているのが興味深いです。更に、娘イレーヌは、父のアトリエの屋根裏部屋で、美しいレースのショールと情熱的な画を見つけて感動しますが、これらも、老画家のこれまでの内面の精神的歩みを物語っているように思えました。

 老画家は恋に悩む娘のことを気遣っていますが、年老いてから、周囲の全てが順調で何も心配することはないという状況よりも、多少の心配事があった方が、「生きている」という実感があるのかもしれないと思ったりもしました。

田舎の日曜日 1984 03.jpg 妻に先立たれたとはいえ、美しい田舎の邸に住まい、訪ねてきてくれる子どもも孫もいて、しかも自分には創作という"定年の無い仕事"があるという、ある意味、ラドミラル氏は充分に恵まれた老人なのかもしれません。それでも、全体として見れば、老いと人生の侘しさをしみじみと描いた作品であると言え(印象派絵画のように描かれる田舎の紅葉の光と影が主人公の老境にすごくマッチしている)、家族のこと(娘イレーヌの恋愛)が心配事に絡んでいる点など、小津安二郎の作品にも通じるものがあるように思いました。

田舎の日曜日 09.jpg しかし、最後に家族が去った後、新たな創作にとりかかろうとするラドミラル氏のその姿からは、非常に強い「個人」や「自我」というものが見て取れ、小津安二郎などの日本映画とはまた違った趣も感じられました。

 ある程度年齢がいってから観た方がより味わいがある作品かも。但し、当のタヴェルニエ監督はこの作品を40代前半で撮っているんだなあ。

田舎の日曜日 02.jpg田舎の日曜日 00.png「田舎の日曜日」●原題:UN DIMANCHE A LA CAMPAGHE●制作年:1984年●制作国:フランス●監督・製作・脚本:ベルトラン・タヴェルニエ●共同脚本:コロ・タヴェルニエ●撮影:ブルーノ・ド・ケイゼル●音楽:ガブリエル・フォーレ●原作:ピエール・ボスト「ラドミラル氏はもうすぐ死んでしまう」●時間:95分●出演:ルイ・デュクルー/サビーヌ・アゼマ/ミシェル・オーモン/ジュヌヴィエーヴ・ムニック/カティア・ボストリコフ●日本公開:1985/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(86-03-30)(評価:★★★★)●併映:「パリ、テキサス」(ヴィム・ヴェンダース)

テアトル新宿 tizu.jpgテアトル新宿.jpgテアトル新宿kannnai.jpgテアトル新宿 1957年12月5日靖国通り沿いに名画座としてオープン、1968年10月15日に新宿テアトルビルに建替え再オープン、1989年12月に封切り館としてニューアル・オープン(新宿伊勢丹メンズ館の隣、新宿テアトルビルの地下一階)2017年座席リニューアル

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コメディ風味付けの夫婦の"倦怠期脱出"物語。カトリーヌ・フロの演技達者ぶりが楽しませる。

奥さまは名探偵/パディントン発dvd.jpg 奥さまは名探偵/パディントン発 00.jpg 奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 03.jpg
アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵~パディトン発4時50分~ [DVD]

奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 01.jpg 引退後のベリゼール・べレスフォード大佐(アンドレ・デュソニエ)と妻のプリュダンス(カトリーヌ・フロ)は田舎でのんびり過ごしているが、プリュダンスは退屈を持て余し気味。そんな折、大佐の叔母のバベットが二人のもとを訪ねるために乗った夜行列車の車中で深夜、すれ違う列車内で女性が首を絞められているのを目撃、車掌に伝えるが寝ぼけていたのだと相手にされない。翌日、大佐夫妻に事件を伝えたが、新聞に事件の記事は載っていない。プリュダンスは、その列車がモルガン発4時50分の列車で、死体は犯行直後の急カーブで窓から外に投げ出されたと推理、線路近くの邸が怪しいと、夫に内緒で家政婦として単独その邸に入り込む。そこには、大富豪とその長女及び3人の息子たちがいた―。

奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 02.jpg パスカル・トマ監督による、トミーとタペンスのおしどり夫婦探偵シリーズの『親指のうずき』をフランス風に改変した「奥様は名探偵」('05年)、ノンシリーズ物の『ゼロ時間へ』の舞台をブルターニュ地方に改変した「ゼロ時間の謎」('07年)に続く、アガサ・クリスティのフランス映画化シリーズ第3弾で、原作はもちろんミス・マープルシリーズの『パディントン発4時50分』(原題:4:50 from Paddington)ですが、映画の原題(「 奥さまは名探偵」に呼応する部分)は「Le Crime est notre affaire(犯罪こそ私たちのビジネス)」で、英パディントン駅も仏モルガン駅となっています。

奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 03.jpg カトリーヌ・フロ、アンドレ・デュソリエ主演のおしどり夫婦探偵物としては第2弾で、他にもトミーとタペンスのおしどり夫婦探偵シリーズ物の原作はあるのに、なぜこの本来ミス・マープル物である『パディントン発4時50分』をおしどり夫婦探偵物に改変したのかということについては、前作「奥様は名探偵」の原作が一旦引退したトミーとタペンスのその後の活躍を描いたものであったために、それ以前の作品をもってこれなかったんだろうなあ。「おしどり探偵」シリーズも最後の『運命の裏木戸』では2人とも75歳と更に年齢がいっており、これはカトリーヌ・フロが演じるには原作の方が年齢が高すぎるという判断からではないでしょうか。

奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 01.jpg シリーズ3作の前2作は劇場公開されたのに対し、こちらは劇場未公開でしたが、比較的原作通りに作られた「奥様は名探偵」に対し、本来は「ミス・マープル物」であるところを「おしどり夫婦探偵風」のサスペンスコメディにアレンジした作品でありながらも結構愉しめ、劇場公開されなかったのがやや不思議。

 ストーリー的には、邸の4人兄弟が3人兄弟になっているなど原作がやや端折られていたりしますが、ミステリのプロットとしては概ね原作に忠実ではなかったでしょうか。但し、犯人が料理に砒素を混入させて兄のオーギュスタンを殺害し、弟のラファエルに毒薬を送りつけて窓から転落死させるのは、やや毒殺過剰か。これじゃあ、職業から犯人がすぐに判ってしまう...。

奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 00.jpg カトリーヌ・フロとアンドレ・デュソリエの遣り取りが楽しく、未亡人と偽って邸に乗り込んだところへ夫のべレスフォード大佐が捜査に乗り込んで来て、邸の人々の前では初対面をつくろいながら、裏では、夫が妻の冒険に苦言を呈し、妻がそれを宥めすかすという構図が愉快です。

 やや、こうしたコメディの方にウェイトがかかり過ぎてミステリの方は脇に追いやられた感じもしなくはないですが、まあ、ストーリーは既に周知のことという前提のもとに作られているのでしょう。特にカトリーヌ・フロは、原作の30代の"スーパー家政婦"ルーシー・アイルズバロウとはまた違った熟年の魅力で、演技達者ぶりを遺憾なく発揮、全体としても、べレスフォード夫婦のちょっと捻った"愛情再確認"("倦怠期脱出"?)物語のような作りで、この温かさがミステリ部分の弱さを補って余りある作品であるように思いました。

奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 スカート.jpg コメディ部分において、スコットランド系フランス人のべレスフォード大佐のキルトスカートが、ポーチのベルトがマンホールに引っ掛かった際にめくれるといった場面はややベタでクドかったかな。でも、叔母バベットが蛾の大家という設定で、べレスフォード大佐に頼まれて嫌々ながら乗り込んだ邸で蛾の講釈を垂れる場面など、素直に笑えるシーンの方が多かったように思います。

キアラ・マストロヤンニ.jpgクリスチャン・ヴァディム.jpg 大富豪の長女エンマ役のキアラ・マストロヤンニと次男で彫刻家(原作では画家)のフレデリク役のクリスチャン・ヴァディムカトリーヌ・ドヌーヴの娘と息子で、キアラ・マストロヤンニはクリスティ原作の主演作「ゼロ時間の謎」('07年/仏)に続く出演ですが、クリスチャン・バディムとはこの作品が姉弟の映画初共演でした(それぞれマルチェロ・マストロヤンニ、ロジェ・ヴァディムとの間の子という異父きょうだい。クリスチャン・ヴァディム、渋くなったね。ドヌーヴの子供って父親の方の血が強い気がする)。

C. Deneuve、Chiara Mastroianni/Christian Vadim
奥さまは名探偵 パディントン発4時50分 04.jpg「アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜」●原題:LE CRIME EST NOTRE AFFAIRE(Crime Is Our Business)●制作年:2008年●制作国:フランス●本国上映:2008/10/15●監督・脚本:パスカル・トマ●製作:ナタリー・ラフォリ●原作:アガサ・クリスティ●時間:119分●出演:カトリーヌ・フロ/アンドレ・デュソリエ/キアラ・マストロヤンニ/メルヴィル・プポー/クリスチャン・ヴァディム/クロード・リッシュ/アレクサンドル・ラフォーリ/イポリット・ジラルド/イヴ・アフォンソ/アニー・コルディ●DVD発売:2011/05●発売元:ファインフィルムズ(評価:★★★☆)

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ディズニー・アニメ中心で、作品の選抜基準がかなり恣意的。内容の割には値段が高すぎる。
世界アニメーション歴史事典.jpg 1世界アニメーション歴史事典』.png 
世界アニメーション歴史事典』 (2012/09 ゆまに書房)(26.2 x 23.8 x 3.8 cm)

 100年にわたるアニメーションの歴史を、図版と解説とで紹介したアニメの歴史事典で、アニメ映画だけでなく、テレビ番組、ゲーム、インディペンデント系映画、インターネットのアニメにいたるまでフォローした、定価8,500円の豪華本です(重い!)

 年代順に整理されていて分かりやすく、何よりも図版の配置が贅沢。その分、400頁余というページ数の割には、取り上げられている作品数に制約があり、観て楽しむ分にはいいですが、「事典」としてはどうかなという思いも。

ファンタジア.JPG 掲載されているアニメ数は700余点とのことですが、芸術アニメからディズニーの大ヒットアニメまでカバーしている分、それぞれの分野で抜け落ちを多いような気もして、作品の選抜にやや恣意性を感じました。

 日本のアニメは、「白蛇伝」('58年)が片面で小さく図版が入っているのみなのに対し、「AKIRA」('88年)が見開き両面に図版を入れての紹介、映画「ファイナルファンタジー」が片面図版入りなのに対し、「鉄腕アトム」('63年)や「千と千尋の神隠し」('01年)が、まるで邦訳版のために後から加えたかのように、図版無しの簡単な文章のみの紹介となっています(これらも、"700余点"にカウントされているのか)。

ファンタジア01.png 「ファンタジア」('41年、日本公開'55年)の見開き4ページにわたる紹介を筆頭に(これ、確かに名作ではある。本書にも紹介されている「ネオ・ファンタジア」('76年/伊)の方が大人向きの芸術アニメで、「ファンタジア」1世界アニメーション歴史事典f.pngがレオポルド・ストコフスキーならば「ネオ・ファンタジア」の方はヘルベルト・フォン・カラヤンで迫るが、「ネオ・ファンタジア」は「ファンタジア」より35年も後に作られた作品にしては残念ながらはアニメーション部分がイマイチ)、本書全体としてかなりディズニー偏重ではないかと思われ、イギリス映画である「イエロー・サブマリン」('68年/英)なども制作の経緯が結構詳しく記されているけれども、それらも含め米国においてメジャーであるかどうかという視座が色濃いとも言えます。

1世界アニメーション歴史事典y.png 個人的には「イエロー・サブマリンン」は、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」('64年/英)、「ヘルプ!4人はアイドル」('65年/英)などとの併映で名画座で観ましたが、いつごろのことか記憶にありません。劇場(ロードショー)公開当初はそれほど話題にならなかったといいますが、今思えば、日本の70年代ポップカルチャーに与えた影響は大きかったかも。イラストレーターの伊坂芳太良なんて、影響を受けた一人では?(この人、1970年には亡くなっているが)。

 もちろんディズニー・アニメは歴史的にも先駆的であり、「白雪姫」('37年、日本公開'50年)はディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと思うし、個人的には自分の子供時代の弁当箱の図柄だった「ダンボ」('41年、日本公開'54年)にも思い入れはあるし(「ダンボ」は1947年・第2回カンヌ国際映画祭「アニメーション賞」受賞作)、「ファンタジア」のDVDなどは大型書店に行けば児童書のコナーで簡単に購入できるなど、今も世界的にもメジャーであることは間違いないのですが...。自分の子供時代に関して言えば、「ダンボ」は劇場で観たけれど、「ファンタジア」は観なかったなあ(リヴァイバルされる機会が少なかったのかも)。今観ても、「ファンタジア」はどこよなく"情操教育"っぽい雰囲気が無きにしもあらずで、個人的に懐かしい「ダンボ」の方がやや好みか。

 冒頭の地域別アニメ史の要約は「北米」「西欧」「ロシア・東欧」「アジア」という区分になっていますが、本文中ではアメリカがやはり圧倒的に多いです(著者のスティーヴン・キャヴァリアは、アニメ制作キャリア20年の英国人で、ディズニーの監督もしたことがあるとのことだが、何という作品を監督したのかよく分からない)。

雪の女王.jpg 芸術アニメに関して言えば、アレクサンドル・ペドロフの「老人と海」('99年/露・カナダ・日)は紹介されていますが、山村浩二監督の「頭山」('02年)は無く(加藤久仁生監督の「つみきのいえ」('08年)はある)、伝統的に芸術アニメの先進国であるチェコの作品などは、カレル・ゼーマンの「悪魔の発明」('58年)は入っていますが「水玉の幻想」('48年)などは入っておらず、ロシアの作品は、雪の女王 dvd.jpg「イワンと仔馬」('47年)は図版無しの文章のみの紹介で、「雪の女王」('57年)に至っては「イワンと仔馬」の解説文の中でその名が出てくるのみ、同じく、ユーリ・ノルシュテインの「霧の中のハリネズミ(霧につつまれたハリネズミ)」('75年)も、日本でも絵本にまでなっているくらい有名な作品ですが、「話の話」('79年)の解説文の中でその名が出てくるのみで、その「話の話」の図版さえもありません(「話の話」が「霧の中のハリネズミ」の"続編"として作られたと書いてあるが、それぞれ別作品ではないか)。これでは日本人だけでなく、東欧人やロシア人の自国のアニメを愛するファンも怒ってしまうのでは?

1ロジャー・ラビット.png ロバート・ゼメキス監督の「ロジャー・ラビット」('88年)のような「実写+アニメーション合成作品」も取り上げられていますが、確かにアカデミー視覚効果賞などを受賞していて、合成技術はなかなかののものと当時は思われたものの、合成を見せるためだけの映画になっている印象もあり、キャラクターが飛び跳ねてばかりいて観ていて落ち着かない...まあ、アメリカのトゥーン(アニメーションキャラクター)の典型的な動きなのだろうけれど、これもまたディズニー作品。但し、この作品以降、「リジー・マグワイア・ムービー」('03年)まで15年間、ディズニーは実写+アニメーション合成作品を作らなかったことになります(最も最近の実写+アニメーション合成作は「魔法にかけられて」('07年))。まあ、実写とアニメの合成は、作品全体のごく一部分としてならば、ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊る「錨を上げて」('45年/米)の頃からあるわけだけれど。

 結果的には、アメリカのアニメ史、特にディズニー・アニメに絞って追っていく分にはいい本かも(と思ったら、版元の口上にも、「ディズニー主要作品も網羅した本格的な初のアニメファン必備書」とあった)。個人的には、懐かしいアニメもありましたが、一つ一つの作品解説がそう詳しいわけでもなく(但し、制作の裏話などではトリビアなエピソードも多くあったりする)、むしろアメリカ・アニメ史の中でのそれら作品の位置づけを確認できる、といった程度でしょう。内容的に見て、事典と言うより個人の著書の色合いが濃く、買うには値段が高すぎる本でした。


FANTASIA 1941.jpgファンタジア dvd.jpg「ファンタジア」●原題:FANTASIA●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ベン・シャープスティーン●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:ジョー・グラント/ディック・ヒューマー●音楽:チャイコフスキー/ムソルグスキー/ストラヴィンスキー/ベートーヴェン/ポンキェッリ/バッハ/デュカース/シューベルト(レオポルド・ストコフスキー指揮、フィラデルフィア管弦楽団演奏)●時間:オリジナル125分/1942年リバイバル版81分/1990年リリース版115分●出演:ディームス・テーラー/レオポルド・ストコフスキー●日本公開:1955/09●配給:RKO=大映(評価:★★★☆)ファンタジア [DVD]

ネオ・ファンタジア dvd.jpg「ネオ・ファンタジア」●原題:ALLEGRO NON TROPPO●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督・製作:ブルーノ・ボツェット●脚本:ブルーノ・ボツェット/グイド・マヌリ/マウリツィオ・ニケッティ●アニメーション:アニメーション:ギゼップ・ラガナ/ウォルター・キャバゼッティ/ジョバンニ・フェラーリ/ジャンカルロ・セレダ/ジョルジョ・バレンティニ/グイド・マヌリ/パオロ・アルビコッコ/ジョルジョ・フォーランニ●実写撮影:マリオ・マシーニ●音楽:ドビュッシー/ドヴォルザーク/ラヴェル/シベリウス/ヴィヴァルディ/ストラヴィンスキー(ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、フィラデルフィアベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)●時間:85分●出演:マウリツィオ・ニケッティ/ネストール・ガレイ/マウリツィオ・ミケーリ/マリア・ルイーザ・ジョヴァンニーニ●日本公開:1980/01●配給:アート・フォーラム●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★★)●併映:「天井桟敷の人々」(マルセル・カルネ)ネオ・ファンタジア [DVD]

白雪姫 dvd.jpg「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)白雪姫 スペシャル・エディション [DVD]

ダンボ dvd.jpgダンボ 1941.jpg「ダンボ」●原題:DUMBO●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督:ベン・シャープスティーン●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:ジョー・グラント/ディック・ヒューマー/ビル・ピート/オーリー・バタグリア/ジョー・リナルディ/ジョージ・スターリング/ウェッブ・スミス/オットー・イングランダー●音楽:オリバー・ウォレス/フランク・チャーチル●撮影:ボブ・ブロートン●原作:ヘレン・アバーソン/ハロルド・パール●時間:64分●声の出演:エド・ブロフィ/ハーマン・ビング●日本公開:1954/03●配給:RKO=大映(評価:★★★★)ダンボ スペシャル・エディション [DVD]

イエロー・サブマリン dvd.jpgイエロー・サブマリン.jpg「イエロー・サブマリン」●原題:YELLOW SUBMARINE●制作年:1968年●制作国:イギリス●監督:ジョージ・ダニング/ジャック・ストークス●製作:アル・ブロダックス●撮影:ジョン・ウィリアムズ●編集:ブライアン・J・ビショップ●時間:90分●出演:(アニメ画像として)ザ・ビートルズ(ジョン・レノン/ポール・マッカートニー/ジョージ・ハリスン/リンゴ・スター)●日本公開:1969/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(07-08-28)(評価:★★★☆)
イエロー・サブマリン [DVD]

ロジャー・ラビット dvd.jpg「ロジャー・ラビット」●原題:WHO FRAMED ROGER RABBIT●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●アニメーション監督:リチャード・ウィリアムス●製作:フランク・マーシャル/ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・プライス/ピーター・シーマン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ゲイリー・K・ウルフ●時間:113分●出演:デボブ・ホスキンス/クリストファー・ロイド/ジョアンナ・キャシディ/スタッビー・ケイ/アラン・ティルバーン/リチャード・ルパーメンティア●日本公開:1988/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:渋谷スカラ座(88-12-04)(評価:★★)ロジャー・ラビット [DVD]
渋谷東宝会館2.jpg渋谷スカラ座 渋谷東宝会館4階(1階は渋谷東宝劇場)。1989年2月26日閉館。1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーが開館。


錨を上げて アニメ.jpg「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シド錨を上げて.jpgテアトル新宿.jpgニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター (99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション老人と海 [DVD]」('99年/ロシア/カナダ/日本)

雪の女王 dvd.jpg「雪の女王」●原題:Снежная королев(スニェージナヤ・カラリェバ)●制作年:1957年●制作国:ソ連●監督:レフ・アタマノフ●脚本:レフ・アタマノフ/G・グレブネル/N・エルドマン●音楽:A.アイヴァジャン●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:63分●声の出演:Y.ジェイモー/A.カマローワ/M.ババノーワ/G.コナーヒナ/V.グリプコーフ●公開:1960/01/1993/08 ●配給:NHK/日本海映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)

雪の女王 [DVD]」('57年/ソ連)


霧の中のハリネズミ.jpg「霧の中のハリネズミ(霧につつまれた霧の中のハリネズミ 1.jpgユーリ・ノルシュテイン作品集.jpgハリネズミ)」●原題:Ёжик в тумане / Yozhik v tumane●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:ユーリイ・ノルシュテイン●脚本:セルゲイ・コズロフ●音楽:ミハイール・メイェローヴィチ●撮影:ナジェージダ・トレシュチョーヴァ●原作:セルゲイ・コズロフ●時間:10分29秒●声の出演:アレクセーイ・バターロフ/マリヤ・ヴィノグラドヴァ/ヴャチェスラーフ・ネヴィーヌィイ●公開:2004/07(1988/10 ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント【VHS】)●配給:ふゅーじょんぷろだくと=ラピュタ阿佐ヶ谷(評価:★★★★)

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

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ディズニーにおける「夢と愛の物語」「アメリカの新たな民話」の作り方が窺えた。

ディズニーの魔法.jpg     白雪姫 dvd.jpg  スノーホワイト マイケル・コーン.jpg   美女と野獣 DVD.jpg 
ディズニーの魔法 (新潮新書)』「白雪姫 [DVD]」「スノーホワイト [DVD]」「美女と野獣 スペシャル・エディション (期間限定) [DVD]

 メディア論が専門の著者が、ディズニーの名作アニメについて原作の物語とアニメとの違いを分析することで、ディズニー・アニメというものが、「本当は怖い」話をいかにして「夢と愛の物語」に変え、「アメリカの新たな民話」を作り上げていったかを探るとともに、その背後にあるディズニーの思想とでもいうべきものを探った本であり、面白い試みだと思いました。

 取り上げられているのは以下の長編アニメーション6作。
・「白雪姫(白雪姫と七人の小人」('37年)/原作:『グリム童話』収録「白雪姫」(1812)
・「ピノキオ」('40年)/原作:コッローディ作の童話『ピノッキオの冒険』(1883)
・「シンデレラ」('50年)/原作:シャルル・ペロー『過ぎし昔の物語ならびに教訓』収録「サンドリヨン」(1697)、『グリム童話』収録「灰かぶり姫」
・「眠れる森の美女」('59年)/原作:シャルル・ペロー『過ぎし昔の物語ならびに教訓』収録「眠れる森の美女」(1697)、『グリム童話』収録「いばら姫」
・「リトル・マーメイド」('89年)/原作:アンデルセン『お話と物語』収録「人魚姫」(1837年)
・「美女と野獣」('91年)/原作:ボーモン夫人『美女と野獣』(1758年)

 これらについて、まず原作のあらすじを紹介し、続いてディズニーはどのようにオリジナルを作り変えたかを解説する形式で統一されているため読み易く、改変点に関する、これまで知らなかった知識が得られること自体が楽しいです。

 原作となった古典童話は、桐生操氏の『本当は恐ろしいグリム童話』('98年/ベストセラーズ)シリーズで広く知られるようになったオリジナルのグリム童話をはじめ、残酷で暴力的で、しばしば猟奇的、倒錯的でもあり、例えば「白雪姫」は最後に継母に残酷な仕返しをするし、『ピノッキオの冒険』では「喋るコオロギ」はピノッキオに木槌で叩き殺され、グリムの「灰かぶり姫」では、意地悪な連れ子姉妹が「金の靴」を無理に足に押し込むため、それぞれ足先と踵を切り落として歩けなくなる―。

 ペローの「眠れる森の美女」では、美女は100年以上も眠っていたため年齢も100歳以上になっているはずであり(王子は生きた白雪姫ではなくその死体と恋に落ちている)、アンデルセンの「人魚姫」は人間との恋を実らせることが出来ずに海の泡になってしまい、ボーモン夫人の『美女と野獣』に登場する「野獣」は、こちらはむしろディズニー版のそれより思慮深く優しいとのこと。

 まあ、原作のままのストーリーではファミリー向けにならないものが殆どであり、改変はしかるべくして行われたようにも思いますが、さらに突っ込んで、その背景にある当時のアメリカ社会の状況やディズニー文化の指向性などを社会学・文化学的に考察しており、但し、あまり堅くなり過ぎず、制作や改変の経緯にまつわるエピソードなども織り交ぜ(その部分はビジネス・ストーリー風とも言える)、改変点に関するトリビアな知識と併せて、コンパクトな新書の中に裏話が満載といった感じの本でもあります。

 ディズニーは、原作を改変することでそこに愛と感動、夢と希望を込め、当時の観客に合ったものに作り変えていったわけで、それを、ドロドロした原作のキレイな上澄み液だけを掬って換骨脱胎したと批判しても仕方がない気がしますが、ディズニー作品を契機にそれらの原作に触れることで、原作の持つグロテスクな雰囲気を味わってみるのもいいのでは(実態としては原作もディズニー作品の内容そのものであると思われているフシがあるが)。

白雪姫 1937.jpg 個人的には、映画「白雪姫」を観て、これがディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと。白雪姫や継母である后の登場する場面は実際に俳優を使って撮影し、その動作を分解して絵を描くという手法はこの頃からやっていたわけです。因みに、7人の小人は、原作ではゴブリン(ドラクエのキャラにもある小鬼風悪魔)であるのに対し、ディズニーによって、サンタクロースのイメージに変えられたとのことです。

白雪姫 1937 2.jpg 原作では、王子が初めて白雪姫に合った時、姫は死んでいたため、本書では、王子はネクロフィリア(死体に性的興奮を感じる異常性欲)であるとしています(半分冗談を込めてか?)。ディズニー版では王子を最初から登場させることで純愛物語に変えていますが、原作の基調にあるのは、白雪姫の后に対する復讐物語であり(結婚式で、継母=魔女は真っ赤に焼けた鋼鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊り続けさせられた)、ヒロインが自分の婚礼の席で、自分を苛め続けてきた義姉妹の両眼を潰して復讐する「シンデレラ」の原作「灰かぶり姫」にも通じるものがあります。

 「この映画をディズニーが実写でリメイクするという話がある」と本書にあるのが、ルパート・サンダーズ監督によるシャーリーズ・セロンが継母の后を演じた「スノーホワイト」('12年)ですが、ダーク・ファンタジーを指向しながらも、やはりディズニー・アニメの枠内に収まっているのではないかな(評判がイマイチで観ていないけれど、白雪姫より継母の方が美女であるというのは、シャーリーズ・セロンの注文か?)。

snowwhite 1997 3.jpgsnowwhite 1997  1.jpg むしろ、本書にも紹介されている、シガーニー・ウィーヴァーが継母の后を演じたTV実写版「スノーホワイト」('97年)が比較的オリジナルに忠実に作られている分だけ、よりホラー仕立てであり、'99年の年末の深夜にテレビで何気なく見て、そのダークさについつい引き込まれて最後まで観てしまいました。これ、継母が完全に主人公っぽい。ホラー風だがそんなに怖くなく、但し、雰囲気的には完全に大人向きか(昨年('12年)テレビ東京「午後のロードショー」で再放映された)。

 著者は、「ビートルジュース」「バットマン」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のティム・バートン監督がディズニーで働いていたことがあるので、彼に頼めばいいものができるだろうと―(ティム・バートンは、本書刊行後に、ジョニー・デップ主演でロアルド・ダール原作の「チャーリーとチョコレート工場」('05年)を撮った。やや不気味な場面がありながらもコミカル調で、原作(続編を含めた)通りハッピーエンド)。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の脚本家キャロライン・トンプソンが監督したTV版「スノーホワイト/白雪姫」もあり('01年/米)、こちらもちょっと観てみたい気も。

ガストン.jpg美女と野獣 01.jpg 本書の最後に取り上げられている「美女と野獣」は、個人的には90年代のディズニー・アニメの頂点を成している作品だと思うのですが、原作では、ヒロインであるベルは妬み深い二人の姉に苛められていて、グリムの「灰かぶり姫」のような状況だったみたいです。ディズニー・アニメでは、この姉たちは出てこず、代わりに、強引にベルに言い寄るガストンなる自信過剰のマッチョ男が出てきますが、これは、グリムのオリジナルには全く無いディズニー独自のキャラクター。

美女と野獣 02.jpg 本書によれば、オリジナルは、ベルの成長物語であるのに対し、ディズニー版ではベースト(野獣)の成長物語になっているとのことで、「美女と野獣」ではなく「野獣と美女」であると。そう考えれば、「悔い改めたセクシスト」であるビスーストと対比させるための「悔い改めざるセクシスト」ガストンという配置は、確かにぴったり嵌る気もしました。

 ストーリー構成もさることながら、絵がキレイ。大広間でのダンスのシークエンスでは、台頭しつつあったピクサーが作ったCGを背景に使っています(ピクサーはディズニーとの関係を構築しようとしていた(『世界アニメーション歴史事典』('12年/ゆまに書房)より))。

 本書では触れられていませんが、ディズニーはこの作品以降、グローバル戦略乃至ダイバーシティ戦略と言うか、「アラジン」('92年)、「ポカホンタス」('95年)、「ムーラン」('98年)など非白人系主人公の作品も作ったりしていますが、90年代半ば以降はスティーブ・ジョブズのピクサー社のCGアニメに押され気味で、「ポカホンタス」は「トイ・ストーリー」('95年)に、「ムーラン」は「バグズ・ライフ」('98年)に興業面で完敗し、今世紀に入っても「アトランティス 失われた帝国」('01年)は「モンスターズ・インク」('01年)に、「ホーム・オン・ザ・レンジ」('04年)は「Mr.インクレディブル」('04年)に完敗、それぞれピクサー提供作品の3分の1程度の興業収入に止まりました(ピクサー制作の「トイ・ストーリー」から「Mr.インクレディブル」まで、劇場公開は何れもディズニーによる配給ではあるが)。

スティーブ・ジョブズ 2.jpg '05年にディズニーのアイズナー会長は経営責任をとって退任し、'06年にはディズニーとの交渉不調からディズニーへのピクサー作品提供を打ち切るかに思われていたスティーブ・ジョブズが一転してピクサーをディズニーに売却し、同社はディズニーの完全子会社となり、ジョブズはディズニーの筆頭株主に。「トイ・ストーリー」などを監督したピクサーのジョン・ラセターは、ディズニーに請われ、ピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオの両方のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼任することに。'06年にピクサー制作の「カーズ」('06年)を監督するなどしながらも、「ルイスと未来泥棒」('07年)などの以降のディズニー・アニメの制作総指揮にあたっています(ディズニー作品も3D化が進むと、ディズニー・アニメのピクサー・アニメ化が進むのではないかなあ)。

Snow white 1937.jpg白雪姫 dvd.jpg「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)

スノーホワイト 1997 vhs.jpg「スノーホワイト(グリム・ブラザーズ スノーホワイト)」snowwhite 1997.jpg●原題:SNOW WHITE: A TALE OF TERROR(THE GRIMM BROTHERS' SNOW WHITE)●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・コーン●製作:トム・エンゲルマン●脚本:トム・スゾロッシ/デボラ・セラズ●撮影:マイク・サウソン●音楽:ジョン・オットマン●原作:グリム兄弟●時間:100分●出演:シガーニー・ウィーヴァー/サム・ニール/モニカ・キーナ/ギル・ベローズ/デヴィッド・コンラッド/ジョアンナ・ロス/タリン・デイヴィス/ブライアン・プリングル●日本公開:1997/10●配給:ギャガ=ヒューマックス(評価:★★★)

「美女と野獣」03.jpg美女と野獣 dvd.jpg「美女と野獣」●原題:BEAUTY AND THE BEAST●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ゲーリー・トゥルースデイル/カーク・ワイズ●製作:ドン・ハーン●脚本:リンダ・ウールヴァートン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・メンケン●原作:ジャンヌ・マリー・ルプランス・ド・ボーモン●時間:84分●声の出演:ペイジ・オハラ/ロビー・ベンソン/リチャード・ホワイト/レックス・エヴァーハート/ジェリー・オーバック/アンジェラ・ランズベリー/デイヴィッド・オグデン・スティアーズ●日本公開:1992/09●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1783】 江藤 努/中村 勝則 『映画イヤーブック 1997
「●ロマン・ポランスキー監督作品」の インデックッスへ「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「テス」)「●フランシス・レイ音楽作品」の インデックッスへ(「レッスンC」)「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ(「遊星からの物体X」)「●ナスターシャ・キンスキー 出演作品」の インデックッスへ(「キャット・ピープル」「テス」「レッスンC」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「インベーダー」「ロズウェル/星の恋人たち」) 

見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG 1『怪奇SF映画大全』アマゾンの半魚人.jpg
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"
 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」('31年)ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター。原著の表紙はロバート・フローリー監督、ベラ・ルゴシ主演の「モルグ街の殺人」('32年))。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、最近のリメイクのようにすぐにコングが出てくるのではなく、結構ドラマ部分で引っ張っていて、コングが出てくるまでにかなり時間がかかったけれど、これはこれで良かったのでは。当のコングは、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ている不思議と慣れてきて、ティラノサウルスっぽい「暴君竜」との死闘はまるでプロレスを観ているよう(コマ撮りでよくここまでやるなあ)。比較的自然にコングに感情移入してしまいましたが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]

紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
     
one million years b.c. poster.jpg この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのにラクェル・ウェルチ   .jpgラクェル・ウェルチがバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしているのはある種"お約束ごと"か)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)や「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)、「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)各ポスター

「遊星よりの物体X」('51年)/「遊星からの物体X」('82年)
the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督によりカート・ラッセル主演で「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

「キャット・ピープル」('42年)/「キャット・ピープル」('81年)
cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者「キャット・ピープル」は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日テス 0.jpg「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、むしろ構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。ナスターシャ・キンスキー自身は、「テス」('79年)で"演技開眼"した後の作品であるため、「肌を出し過ぎた」発言に至っているのではないでしょうか。「テス」は、19世紀のイギリスの片田舎を舞台に2人の男の間で揺れ動きながらも愛を貫く女性を描いた、文豪トマス・ハーディの文芸大作をロマン・ポランスキーが忠実に映画化した作品で、ナスターシャ・キンスキーの演技が冴え短く感じた3時間でした(ナスターシャ・キンスキーはこの作品でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞)。一方、「テス」に出る前年にナスターシャ・キンスキーは、スイスの全寮制寄宿学校を舞台に、そこにやって来たアメリカ人少女というレッスンC  poster.jpg「レッスンc」.jpg設定の青春ラブ・コメディ「レッスンC」('78年)に出演していて、そこでは結構「しっかり肌を出して」いたように思います。「レッスンC」は音楽はフランシス・レイでありながらもB級というよりC級映画に近いですが(まあ、フランシス・レイは「続エマニュエル夫人」('75年)といった作品の音楽も手掛けているわけだが)、16歳のナスターシャ・キンスキーのキュートでお茶目なぶりがいやらしさを感じさせず、ある種ガーリームービーとして後にカルト的人気となった作品です。それにつられた訳ではないが、個人的評価も当初×(★★)だったのを△(★★☆)にしました(音楽も今聴くと懐かしい)。

 後者「遊星からの...」はカート・ラッセル主演で、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるでしょうか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかもしれません。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。エンニオ・モリコーネの音楽も効いていました。

インベーダー1st Season DVD-BOX
インベーダー1st Season DVD-BOX.jpg リメイク版「遊星からの物体X」がオリジナルの「遊星よりの物体X」と大きく異なるのは、あらゆる生物を同化する「物体」の姿を、ありふれたモンスター的なデザインとはせず、動物や人間の姿に置き換えるようにしていることで、「誰が人間ではないのか、自分が獲り込まれたのかすらも分からない緊迫した状況」を生み出している点です。そう言えば、エイリアンが人間に獲りついたり人間の姿を借りているため、一見して普通の人間と見分けがつかないというのは、米国のテレビドラマ「インベーダー」('67年~'68年)年の頃からありました。建築家デビッド・ビンセントは深夜に空飛ぶ円盤が着陸するのを目撃し、宇宙からの侵略者(=インベーダー)の存在を知るが、その事実を誰にも信じてもらえず、ビンセントはインベーダーの陰謀を追って全米各地を飛び回るというもので、テレビドラマ「逃亡者」('68年~'67年)と同じクイン・マーチン・プロダクションの制作。そのためか、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人を探し求めて全米を旅するという「逃亡者」とちょっと似ています。ロズウェル dvd.jpg「インベーダー」は日本でも一時ブームになりましたが、米国でのUFOブームに便乗した企画だったのが、ブームが下火になったため2シーズンで終了しています(インベーダーの本当の姿が分からないまま終わった)。インベーダーは外見は地球人と同じだが、手の小指が動かないという設定でした(これじゃ見分けつかないね)。その後、人間の姿をした宇宙人が出てくるドラマは、「ロズウェル/星の恋人たち」('99年~'02年)など幾つか作られました。「ロズウェル」は、普通の高校生たちが、自分たちの特殊な能力に気づき、実は自分たちは宇宙人だったということを知るというもので、恋あり友情ありの青春ドラマにSFの味付けをしたという感じ。NHKで放映されましたが、本国の方で視聴率が伸び悩み、こちらも3シーズンで終了しました(ラストでちらっと彼らの本当の姿が見られる)。

ロズウェル/星の恋人たち シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

「インベーダー」(The Invaders) (ABC 1967.01~1968.01) ○日本での放映チャネル:NETテレビ(現テレビ朝日)(1967.10~1970.07)
「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)


フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラング「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。

 因みに、ボブ・ラフェルソン(1933-2022/89歳没)監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg(●2017年に32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られた。シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)へのオマージュが見られる)。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などはアニメっぽかったように思えた(日本のアニメへのオマージュもキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加したジョーダン・ヴォート=ロバーツ、樋口真嗣。.jpgシン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと述べたが、モーション・キャプチャを使っているせいではないか。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のようなインパクトもなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い。)
「キングコング」('76年)/「キングコング:髑髏島の巨神」('17年)
キングコング 新旧.jpg


キング・コング [DVD]
キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★☆)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

恐竜100万年 [DVD]
恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作:レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

シモーヌ・シモン in 「快楽」('52年/仏)監督:マックス・オフュルス 原作:ギ・ド・モーパッサン「モデル」
LE PLAISIR 1952.jpg
        
「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
キャット・ピープル [DVD]」/チラシ

テス Blu-ray スペシャルエディション
テス  0.jpgテス   00.jpg「テス」●原題:TESS●制作年:1979年●制作国:フランス・イギリス●監督:ロマン・ポランスキー●製作:クロード・ベリ●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ジョン・ブラウンジョン●撮影:ギスラン・クロケ/ジェフリー・アンスワース●音楽:フィリップ・サルド●原作:トーマス・ハーディ「ダーバヴィル家のテス」●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ピーター・ファース/リー・ローソン/ジョン・コリン/デイヴィッド・マーカム/ローズマリー・マーティン/リチャード・ピアソン/キャロリン・ピックルズ/パスカル・ド・ボワッソン●日本公開:1980/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(81-03-18)(評価:★★★★)

レッスンC [DVD]」 音楽:フランシス・レイ
レッスンC dvd.jpg「レッスンC」●原題:LEIDENSCHAFTLICHE BLUMCHEN/PASSION FLOWER HOTEL●制作年:1977年●制作国:西ドイツ・フランス・アメリカ●監督:アンドレ・ファルワジ●製作:アルツール・ブラウナー●脚本:ポール・ニコラス●撮影:リチャード・スズキ●音楽:フランシス・レイ●原作:ロザリンド・アースキン●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ゲリー・サンドクイスト/キャロリン・オーナー/マリオン・クラット/ヴェロニク・デルバーグ●日本公開:1982/05●配給:ジョイパックフィルム●最初に観た場所:中野武蔵野館(82-10-03)(評価:★★☆)●併映:「グローイング・アップ3 恋のチューインガム」(ボアズ・デビッドソン)

遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
遊星よりの物体X [DVD]

遊星からの物体X.jpg遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)●2回目:三軒茶屋東映(84-12-22)(評価:★★★★)●併映(1回目):「エイリアン」(リドリー・スコット)●併映(2回目):「ブレードランナー」(リドリー・スコット) 
遊星からの物体X [DVD]
遊星からの物体X(復刻版)(初回限定生産) [DVD]

音楽:エンニオ・モリコーネ
    
King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

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見てるだけで楽しい。圧倒的に多いフランケンシュタイン物。パロディ映画にも楽しいものが。

図説ホラー・シネマ.jpg  図説 ホラー・シネマ2.jpg      怪奇SF映画大全.jpg
図説 ホラー・シネマ―銀幕の怪奇と幻想 (ふくろうの本)』('01年/河出書房新社、123ページ(21.4x16.4x1.2cm)) 『怪奇SF映画大全』('97年/国書刊行会、239ぺージ(30x23x2.4cm))
フランケンシュタイン dvd.jpg フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg ヤング・フランケンシュタイン.gif ノスフェラトゥ dvd.jpg ドラキュラ都へ行く dvd.jpg 5時30分の目撃者 vhs 5.jpg
フランケンシュタイン[DVD]」「フランケンシュタインの花嫁[DVD]」「ヤング・フランケンシュタイン〈特別編〉 [DVD]」「ノスフェラトゥ [DVD]」「ドラキュラ都へ行く[VHS]」「特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」
下右ページはトッド・ブラウニング 監督、ベラ・ルゴシ主演「魔人ドラキュラ」('31年/米)のポスター
IMG_20220204_052826.jpg 同著者による『図説 モンスター―映画の空想生物たち』('01年/河出書房新社)に続くシリーズ第2段で、草創期(サイレント時代~1930年代)、繁栄と低迷(1940~1950年代)、復興と世代交代(1960年代以降)という流れで、各時代の名作を紹介、製作にまつわる裏話やエピソードなども交え解説しています。

 何よりもポスターやスチール写真が豊富で、よくこれだけ揃えたなあと。見ているだけで楽しく、表紙には「狼男」がきていますが、圧倒的に多いのはフランケンシュタインもので、次にドラキュラものがきて、狼男は3番目といったところでしょうか。映画会社IMG_20220204_134630.jpgでみると、戦前はボリス・カーロフ、ベラ・ルゴシ(上右)をホラー・スターに育てたユニヴァーサル、戦後はピーター・カッシングとクリストファー・リー(右上)をホラー・キングに育てたハマー・プロが中心なっています。

 それにしても、こんなにも多くのフランケンシュタイン映画、ドラキュラ映画が作られてきたのかと改めて驚かされ、そうした数多くの作品群の中でも、フランケンシュタイン映画に占めるボリス・カーロフと、ドラキュラ映画に占めるクリストファー・リーの重みは、それぞれの活躍した時代は異なるものの、圧倒的であるように思いました。

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)2010.jpg イギリスの詩人シェリーの夫人メアリー・シェリー(1797-1851)原作の『フランケンシュタイン』は、文学史上でも最もよく知られた作品でありながら、原作は殆ど読まれていないということでも有名な作品ですが、「フランケンシュタイン」は怪物(クリーチャー)の名前ではなく、怪物を生み出したマッド・サイエンティストの名前です。

フランケンシュタイン 1931 ポスター.pngフランケンシュタイン 1931 01.jpg 現代のホラー映画をすっかり観慣れてしまうと、ジェームズ・ホエール(1889-1957)監督、ボリス・カーロフ主演の「フランケンシュタイン(FRANKENSTEIN)」('31年/米)に出てくる怪物も、漫画「怪物くん」のフランケンのようにどこか可愛いかったりもし、湖のほとりで少女と触れ合うシーンは、ビクトル・セリエ監督の「ミツバチのささやき」('73年/スペイン)でも、主人公の少年が観る映画の1シーンで使われました。

「フランケンシュタインの花嫁」.jpg   FRANKENSTEIN and old man.jpg フランケンシュタインの花嫁 1935 01.jpg
 本編で風車小屋に追い詰められて焼き殺された怪物を復活させて作った続編の「フランケンシュタインの花嫁」('35年)は、本編以上に面白くてBride of Frankenstein _.jpg笑えますが、但し、ラストは異性(と言っても、かなりキツイ感じの女フランケンシュタインなのだが)に愛されない男の悲哀を表していて、しんみりさせられます(これ、傑作)。因みに、監督のジェームズ・ホエールは、自らが同性愛者であることを早くから公表していました(女性嫌いだった?)。Bride of Frankenstein (1935)

 フランケンシュタイン映画では、フランシス・フォード・コッポラが「ドラキュラ」('92年/米、ドラキュラ伯爵役はゲイリー・オールドマン。石岡瑛子がこの作品でアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞)に続きフランケンシュタイン (1994年).jpg製作した、ケネス・ブラナー監督の「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)などもありましたが、フランケンシュタイン (1994年) dvd.jpgロバート・デ・ニーロが演じたクリーチャー(被造物)は、見かけは醜怪だけれど心性的には子どものようであるという設定でした(フランシス・フォード・コッポラは妖怪好きなのか? 一方のケネス・ブラナーの方は、この作品ではヴィクター・フランケンシュタイン博士役での主演も兼ねている)。クリーチャーが元々はセンシティブで知的な存在として描かれているなど、原作に忠実に作られているようですが、原作って結構混み入ったスト-リーだったのだなあと。2時間で収まりきらず、個人的には消化不良感あり。更にデ・ニーロのメイクに懲りすぎて、単なるホラー映画になってしまった印象も。「フランケンシュタイン Hi-Bit Edition [DVD]

YOUNG%20FRANKENSTEN2.jpgメル・ブルックス『ヤング・フランケンシュタイン』(1974).jpg フランケンシュタインのパロディ映画では、メル・ブルックス(1926- )監督のヤング・フランケンシュタイン」('74年/米)が通好みのコメディであり、ギョロ目の怪優マーティー・フェルドYOUNG FRANKENSTEIN.jpgマン(せむし男)やピーター・ボイル(怪物)など、脇役がいいです。オリジナルの「フランケンシュタインの花嫁」にも出てくる山小屋に住む盲目の老人役はジーン・ハックマン、ラストに小さくクレジットされていました。

「ヤング・フランケンシュタイン」マーティ・フェルドマン/ジーン・ワイルダー/テリー・ガー
  
ヘルツォーク「ノスフェラトゥ」1.jpgヘルツォーク「ノスフェラトゥ」2.jpg ドラキュラ映画の古典的作品で劇場で観たものは記憶にありませんが、70年代の作品でヴェルナー・ヘルツォーク監督の「ノスフェラトゥ」('79年/西独)は、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ監督の吸血鬼映画の古典的作品「吸血鬼ノスフェラトゥ(不死人)」('22年/独、無声映画)のリメイク作品であり、「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)などヘルツォーク作品でお馴染みの怪優クラウス・キンスキーが主人公のドラキュラ伯爵を演じていました。
ノスフェラトゥ [DVD]

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg ムルナウは、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』を原作に映画化するつもりが映画化権を得られず、それで「ドラキュラ伯爵」を「オルロック伯爵」に変えて19世紀初頭のドイツの小都市に吸血鬼が出現するという設定にし、その容貌も禿頭の特異なものとしたわけですが、イザベル・アジャーニ.jpgヘルツォーク/キンスキー版は、「ドラキュラ伯爵」に戻しながらも設定はムルナウ版を踏襲。全体として透明感のある映像で、ペストで住民が死滅した村の描写などは絶妙でしたが、それら以上に、クラウス・キンスキーの怪演ぶり、「キモさ」が際立っていた印象です(彼に噛まれる女性役は美貌のイザベル・アジャーニ。トリュフォーの「アデルの恋の物語」('75年/仏)で知られるフランスの人気女優だが、この作品でドイツ語で話しているのは、父親がアルジェリア人であるのに対し、母親はドイツ人であるため。「ノスフェラトゥ」の前年作のウォルター・ヒル監督のアクション映画「ザ・ドライバー」('78年/米)でみせたように英語も堪能)。

ドラキュラ都へ行く  映画宝庫.jpgドラキュラ都へ行く02.jpg ドラキュラのパロディでは(クリストファー・リーが「エアポート'77/バミューダからの脱出」('77年/米)で土左衛門姿で出てきた際に見せていた苦悶の表情も、ドラキュラのパロディと言えばパロディだったけれど)、たまたま「ノスフェラトゥ」と同じ年に作られたもので、本書にも紹介されている「ドラキュラ都へ行く」('79年/米、原題:Love at First Bite)という5時30分の目撃者.jpgジョージ・ハミルトンが主演し製作総指揮もした作品もありました(ジョージ・ハミルトンは「刑事コロンボ」の第31話「5時30分の目撃者」('75年)で犯人の精神分析医役を演じていた二枚目俳優で、ハリウッド社交界でもプレイボーイで鳴らした彼らしく、愛人が絡むエピソードだが、計画殺人ではなく衝動殺人になっているのがややプロット的には弱点か。ハミルトンは、「刑事コロンボ」の新シリーズ(通算第57話)「犯罪警報」('91年)でも人気テレビ番組のホストである犯人役を演じた)。
 「ドラキュラ都へ行く」という邦題タイトルは、フランク・キャップラの「スミス都へ行く」をもじったものですが、内容は無関係。楽屋ネタのギャグ満載の身内で楽しみながら作った感じの映画で、一緒に観に行った外国人女性にはすごく受けていましたが、字幕頼りの自分にとっては残念ながらさほどでも(映画字幕はセリフが相当端折られていたように思うが、DVD化はされていないようだ)。

 SFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」では、ロナルド・V・ボーストの怪奇SF映画大全('97年/国書刊行会)という大型本があり、こちらは本書よりも更にポスター中心であるため、これも見て楽しめます。


FRANKENSTEIN 1931 poster.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:アーサー・エジソン●音楽:バーンハルド・カウン●原作:メアリー・シェリーFRANKENSTEIN 1931.jpg●時間:71分●出演:コリン・クライヴ/ボリス・カーロフ/メイ・クラークメイ・クラーク.jpgエドワード・ヴァン・スローン/ドワイト・フライ/ジョン・ポールズ/フレデリック・カー/ライオネル・ベルモア●日本公開:1932/04●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★☆)●併映:「フランケンシュタインの花嫁」(ジェイムズ・ホエール)
メイ・クラーク

BRIDE OF FRANKENSTEIN2.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制フランケンシュタインの花嫁 1935 poster.jpg作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
「フランケンシュタインの花嫁」公開時ポスター。「カーロフ」の苗字が冠のように載っている。(本書より)

FRANKENSTEIN 1994 2.jpgFRANKENSTEIN 1994.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1994年●制作国:イギリス・日本・アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ジェームズ・V・ハート/ジョン・ヴィーチ/ケネス・ブラナー/デビッド・パーフィット●脚本:ステフ・レイディ/フランク・ダラボン●撮影:ロジャー・プラット●音楽パトリック・ドイル●原作:メアリー・シェリー●時間:123分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ケネス・ブラナー/トム・ハルス/ヘレナ・ボナム=カーター/エイダン・クイン/イアン・ホルム/ジョン・クリーズ/シェリー・ルンギ/リチャード・ブライアーズ/アレックス・ロー●日本公開:1995/01●配給:トライスター・ピクチャーズ(評価:★★★)

ジーン・ワイルダー/マデリン・カーン
「ヤング・フランケンシュタイン」マデリンカーン.jpg「ヤング・フランケンシュタイン」2.jpgヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/マデリーン・カーン/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)

「ノスフェラトゥ」2.jpg「ノスフェラトゥ」01.jpg「ノスフェラトゥ」●原題:NOSTERTU. PHANTOM DER NACHT●制作年:1979年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ヴェルナー・ヘルツォーク●撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァノスフェラトゥ(1978)[A4判].jpgイン●音楽:ポポル・ヴー●時間:107分●出演:クラウス・キンスキー/イザベル・アジャーニ/ブルーノ・ガンツ/ロラント・トーポー/ワルター・ラーデンガスト/ダン・ヴァン・ハッセン/ヤン・グロート/カールステン・ボディヌス●日本公開:1984/10●配給:ドイツ文化センター●最初に観た場ドイツ文化センター 青山.jpgドイツ文化センター 2.jpg所:青山・ドイツ文化センター(84-10-07)(評価:★★★☆)●併映:「ヴォイツェック」「カスパーハウザーの謎」(ヴェルナー・ヘルツォーク) 「映画パンフレット ノスフェラトゥ(1978作品) 発行:㈱パルコ(A4) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 出演:イザベル・アジャーニ

ドイツ文化センター 1962年、青山通り付近にオープン

ドラキュラ都へ行く01.jpg「ドラキュラ都へ行く」●原LOVE AT FIRST BITE.jpg題:LOVE AT FIRST BITE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:スタン・ドラゴッティ●製作・脚本:ロバート・カウフマン●撮影:エドワード・ロッソン●音楽チャールズ・バーンスタイン●時間:96分●出演:ジョージ・ハミルトン/スーザン・セント・ジェームズ/ディック・ショーン/アート・ジョンソン/リチャード・ベンジャミン/シャーマン・ヘムズリー●日本公開:1979/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(79-12-15)(評価:★★★)

5時30分の目撃者 vhs.jpg刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者.jpg「刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者」●原題:A DEADLY STATE OF MIND●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ジョージ・ハミルトン/レスリー・ウォーレン/スティーブン・エリオット/カレン・マックホン/ブルース・カービー/ライアン・マクドナルド/ジャック・マニング/フレッド・ドレイパー/ウィリアム・ウィンターソウル/ヴァンス・デイヴィス/レッドモンド・グリーソン/グローリー・カウフマン●日本公開:1976/12●放送:NHK(評価:★★★☆)特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」【日本語吹替版】 [VHS]

《読書MEMO》
是枝裕和監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●ラルジャン(ロベール・ブレッソン)
 ●恋恋風塵(ホウ・シャオシェン)
 ●浮雲(成瀬巳喜男)
 ●フランケンシュタイン(ジェームズ・ホエール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●旅芸人の記録(テオ・アンゲロプロス)
 ●カビリアの夜(フェデリコ・フェリーニ)
 ●シークレット・サンシャイン(イ・チャンドン)
 ●シェルブールの雨傘(ジャック・ドゥミ)
 ●こわれゆく女(ジョン・カサヴェテス)

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「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●トム・クルーズ 出演作品」の インデックッスへ(「ミッション:インポッシブル」「ミッション:インポッシブル3」)「●ジョン・ヴォイト 出演作品」の インデックッスへ(「ミッション:インポッシブル」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「スパイ大作戦」)

'96年は映画館入場者数最低年。「スパイ大作戦」とは別物の「ミッション:インポッシブル」。

『映画イヤーブック 1997』.JPGミッション:イン ポッシブル 1996 dvd.jpg ミッション:イン ポッシブル 1996 01.jpg  「スパイ大作戦」シーズン2 dvd.jpg
映画イヤーブック〈1997〉 (現代教養文庫)』「ミッション:インポッシブル [DVD]」「スパイ大作戦 シーズン2(日本語完全版) [DVD]

 1996年に公開された洋画379本、邦画175本、計554本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅しています。

過去.png '96年の映画館の入場者数は1億1,957万人とのことで1億2千万人を割り込みましたが、本書の編者・江藤努氏は編集後記において、レンタルビデオによる映画鑑賞が定着し、〈映画人口〉というより〈映画館人口〉が減少したとみるべきだろうが、やはり憂慮すべき事態であるとしています。また、シネマ・コンプレックス建設ブームで映画館自体の数は52館増えたので、小劇場化の流れが定着したところで、この凋落傾向の底が見えるのではないかともしています。

 この予想は長期的に見て概ね当たり、短期的には、翌年'97年には「もののけ姫」('97年7月公開)、更に'98年には「タイタニック」('97年12月日本公開)という、それぞれ興行収入(配給収入)100億円を超えるメガヒット作品があったりもして、過去20年間の映画館入場者数を振り返ってみれば、洋・邦画トータルではこの'96年という年が最低の入場者数だったことになります。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「セブン」「ビフォア・ザ・レイン」「アンダーグランド」「イル・ポスティーノ」「デッドマン・ウォーキング」「ザ・ロック」「ファーゴ」「秘密と嘘」の8作品、一方邦画は、「Shall We ダンス?」(周防正行監督)、「ガメラ2」(金子修介監督)、「キッズ・リターン」(北野武監督)、「学校Ⅱ」(山田洋次監督)などの6作品。

ミッション:イン ポッシブル 1996 00.jpgMission Impossible  01.jpg 個人的には、トム・クルーズがプロデューサーとしてブライアン・デ・パルマを監督に指名した「ミッション:インポッシブル」('96年)に注目しましたが、それなりに楽しめたけれども、オリジナルの「スパイ大作戦」とは随分違った作りになったなあと。

 リーダーのフェルペス以外は全て映画用のオリジナル・キャラクターで、しかもチームワークで事件に当たるというよりは、完全にトム・クルーズ演じるイーサン中心です。トム・クルーズは「ザ・ファーム/法律事務所」('93年)にしても、後の「マイノリティ・リポート」('02年)にしてもそうですが、組織内にいて、その組織に裏切られたり組織から追われたりするという脚本が好きなのかなあ。第1作でフェルプスが裏切り者になってしまったため、「スパイ大作戦」でフェル「スパイ大作戦」.jpgプスを演じたピーター・グレイブスは衝撃を受け、他のドラマ出演者からの評判も良くなかったようです。

「スパイ大作戦」ピーター・グレイブス(右端)

 鉄壁の組織内チームワークを誇った「スパイ大作戦」とはえらい違いですが、このパターンで「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」('11年)まで4作続けて、これはこれで「スパイ大作戦」とは別モノとしての一つの流れを完全に作ったなあと思いました。そうした意味では成功作なんだろうけれど、デ・パルマ監督が撮らなくとも、大体こんな映画になったのではないか。ジョン・ウー監督の「ミッション:インポッシブル2」('00年)の方が、監督の個性が出ていたかも(その分、さらにMIらしくない)。その後のシリーズ過程でチームワーク重視にトーン変更しており、J・J・エイブラムス監督の「ミッション:インポッシブル3」('06年)では、前2作よりMission Impossible III 02.jpg「スパイ大作戦」の映画化らしい出来にする、という前提条件があり、テレビシリーズの構図に近い出来となっていました。現場を引退して教Mission Impossible III 01.jpg官をしていたイーサンが、敵に拉致された教え子の女エージェントの救出プロジェクトに参加することになりますが、彼女は頭の中に仕掛けられていた小型爆弾により死亡し、逆にイーサン自身が彼女と同様の窮地に陥り、さらに婚約者も拉致されてしまう―イーサンを救い、さらにイーサンの婚約者を奪還するために仲間が協力するという"身内"色の強い内容でしたがそう悪くなく、この3作目をシリーズベストに挙げる人もいるようです。
     
「ミッション インポッシブル」dvd.jpgEmmanuelle Béart Mission:Impossible.jpg「ミッション:インポッシブル」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ブライアン・デ・パルマ●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:デヴィッド・コープ/ロバート・タウン/スティーヴン・ザイリアン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ダニー・エルフマン(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●原作:ウィンストン・グルーム●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ジョン・ヴォイトエマニュエル・ベアール/ジャン・レノ/ヘンリー・ツェーニー/ダニー・ エルフマン/クリスティン・スコット・トーマス/インゲボルガ・ダクネイト/ヴィジョン・ヴォイト ミッションインポッシブル.jpgミッション:インポッシブル2.jpgング・レイムス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ヘンリー・ツェニー/アンドリアス・ウイスニウスキー/ロルフ・サクソン/マーセル・ユーレス/デイル・ダイ●日本公開:1996/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)
ジョン・ヴォイト(ジム・フェルプス)/エマニュエル・ベアール(クレア・フェルプス)

スパイ大作戦 サウンドトラック 1967.jpg「スパイ大作戦」 Mission: Impossible (CBS 1966~1973) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1967~)/スーパーチャンネル(現Super! drama TV)(2011~) テーマスパイ大作戦 ピーター・グレイブス.jpg
曲:ラロ・シフリン

ピーター・グレイブス(ジム・フェルプス)


「ミッション インポッシブル3」2006.jpg「ミッション インポッシブル3」  2006.jpg「ミッション:インポッシブル3(M:i:III)」●原題:MISSION:IMPOSSIBLE III●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:J・J・エイブラムス●製作:トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー●脚本:アレックス・カーツマン/ロベルト・オーチー/J・J・エイブラムス●撮影:ダニエル・ミンデル●音楽:マイケル・ジアッキーノ(テーマ音楽:ラロ・シフリン)●時間:126分●出演:トム・クルーズ/フィリップ・シーモア・ホフマン/ヴィング・レイムス/ビリー・クラダップ/ミシェル・モナハン/サイモン・ペッグ/ジョナサン・リース=マイヤーズ/ケリー・ラッセル/マギー・Q/ローレンス・フィッシュバーン●日本公開:2006/07●配給:パラマウント=UIP(評価:★★★☆)

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'94年公開の個人的ラスト・アクション・ヒーロー・ムービー「トゥルーライズ」「スピード」。

『映画イヤーブック 1995』.JPGスピードdvd1.jpg トゥルーライズ dvd2.jpg TRUE LIES movie.jpg
映画イヤーブック〈1995〉 (現代教養文庫)』「スピード [DVD]」「トゥルーライズ [DVD]

 1994年劇場公開の全作品(洋画304本、邦画161本、計465本)にデータと解説を付して収録、ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しているほか、『映画イヤーブック』としては5冊目になるということで、全5冊の総索引も付きました。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「トゥルー・ロマンス」「シンドラーのリスト」「さらば、わが愛 覇王別姫」「ピアノ・レッスン」「青い凧」「ギルバート・グレイブ」「パルプ・フィクション」「ショート・カッツ」「スピード」の9作品、一方邦画は、「トカレフ」(阪本順治監督)、「全身小説家」(原一男監督)、「棒の哀しみ」(神代辰巳監督)、「忠臣蔵外伝・四谷怪談」(深作欣二監督)の4作品。

 '94年の映画館入場者数は1億2299万人で、それまでの史上最低だったそうで、前年の「ジュラシック・パーク」のような大ヒット作が無かったということもあるようですが、この頃には平成不況による停滞感が定着して、多くの人が、わざわざ映画館まで行かなくともビデオで観ればいいいという感覚になっていたのではないかなあ。

スピードdvd.jpg ハリウッド映画のアクション系で、「ダイ・ハード」('88年)、「氷の微笑」('92年)のカメラマンだったヤン・デ・ボン(「トータル・リコール」「氷の微笑」のポール・バーホーベン監督と同じくオランダ人)の初監督作品「スピード」('94年)が気を吐きました。

「スピード」('94年).jpg 時速を80キロ以下に落とすと爆発する爆弾を仕掛けたバスの疾走が迫力満点のノンストップアクションで、バスが街中を車をはじき飛ばしながら爆走したり、キアヌ・リーブスが爆弾を解除するために高速で走るバスの下にもぐりこむシーン、或いは、地下鉄の車両が工事現場を破壊しながら地上に突き抜けるシーンなどは実写中心であるため見応えはありました。

スピード01.jpg 脚本を書いたグレアム・ヨストは、 アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「暴走機関車」('86年/米)の原「スピード」ホッパー2.jpg案である黒澤明のオリジナル脚本を読んで着想を得たと述懐していますが、その脚本もまずまずではないでしょうか。但し、脚本を含めてよく出来ていた「ダイ・ハード」と比べるのと、トータルではやや落ちるか。キアヌ・リーブス、サンドラ・ブロック共に頑張っているけれど、爆弾魔のデニス・ホッパー(1936-2010)は、クイズ好きのオタクみたいで、それほど凄味がないような....。デニス・ホッパーということで、期待し過ぎてしまったのかもしれませんが(結局、大掛かりなアクションで見せる映画だった。元々の狙いも概ねそうだとは思うが)。

speed 2s.jpgスピード2  05.jpg ということで、個人的にはヤン・デ・ボン監督には次に期待、というところだったのですが、その続編「スピード2」('97年/米)であっさりコケてしまった感じでした(既に同年の「ツイスター」('97年/米)を観れば、この監督の力量の限度は窺い知れたのだが。因みに、竜巻パニックスピード2 dvd.jpg映画「ツィスター」はアメリカではそこそこヒットしたらしく、アメリカ人にとって竜巻は身近な恐怖なのでしょう(日本にもこうした映画のファンは多いらしく、Amazon.comのレビュー評価などもそう悪くないようだが、個人的には、竜巻をあまりに擬人化し過ぎているように思えた)。「スピード2」は舞台を大型客船に移したことで、看板の〈スピード〉感は無くなり、サンドラ・ブロック演じるヒロインは残りましたがキアヌ・リーブスは出演しておらず、代わりにジェイソン・パトリックが出演していましたが地味で、敵役のウィレム・デフォーの方がむしろ頑張ってはいましたが、それでもデニス・ホッパーに比べるとやはり格下感は否めなかったでしょうか。話の展開にも〈スピード〉感は感じられなかった...(いずれにせよ、キアヌ・リーブスとデニス・ホッパーがいないというのはロスト感が大きい)。
スピード2 [DVD]

トゥルーライズ dvd.jpg 「スピード」の「四つ星」評価に対し、本書で星3つの評価となっている「ターミネーター」シリーズのジェームズ・キャメロンが監督した「トゥルーライズ」('94年)の方が、ユーモアの要素があって個人的な評価はやや上になります。

トゥルーライズ1.jpg アガサ・クリスティの「おしどり探偵」シリーズの現代アクション版みたいで、アーノルド・シュワルツェネッガーはコメディも充分にこなすし、スタント無しのジェイミー・リー・カーティスも良かったです(アクションでもそれ以外でも身体を張った演技をしていたなあ)。

トゥルーライズ jlカーチス.jpg カーチェイスの場面で実際に橋を爆破したというのもスゴいですが、一方で、シュワちゃんがゴールデン・ゲート・ブリッジにしがみつくシーンやハリヤー・ジェット機上でのテロリストとの"生身"のバトルシーンなど、デジタル合成のSFXをふんだんに使っています。

 アクション・シーンをCGで撮るというのは「バットマン リターンズ」('92年)あたりがハシリだそうですが、米国の俳優協会ではその頃から、役者自身がアクションを演じる場面が無くなってしまうということで問題視され始めていたようです。「バットマン リターンズ」の中には、一旦CGで撮ったものを、俳優協会からの要請で俳優やスタントマンを使ったものに撮り直した場面があります(高い所から飛び降りたバットマンが地面に着地するシーンなど)。

トゥルーライズ2.jpg 「トゥルーライズ」ではそのほかに、ハリヤー・ジェット機の熱で空気が揺らぐシーンなどにもデジタル・ドメイン社が開発したCGが初めて使われていて、この技術は「アポロ13」('95年)のロケット発射シーンなどにも使われました(ジェームズ・キャメロンはデジタル・ドメイン社の初代共同経営者)。

 シュワルツェネッガーは、この作品の前年にジョン・マクティアナン監督の「ラスト・アクション・ヒーロー」('93年)を製作総指揮しており(主演もシュワルツェネッガー)、もう生身の肉体を使ってのアクションは終わりだなという意識はこの頃からあったのではないでしょうか。その前の作品が、それこそCGで描かれる敵と戦う「ターミネーター2」('91年)だったし(これもジェームズ・キャメロン監督)。

 個人的には、'94年の「トゥルーライズ」が(すでにCGがいっぱい使われてはいるけれども)自分の中での"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーという印象ですが、同じく'94年の「スピード」も、キアヌ・リーブスの次のヒット作「マトリックス」('99年)がアクションシーンをCG主体で構成していたことを考えると、キアヌ・リーブス的に言えばこれもまた"ラスト・アクション・ヒーロー"ムービーだったと言えるように思います。
 
SPEED-1994 -On set / Keanu Reeves|Sandra Bullock
SPEED 1994.jpgスピード02.jpg「スピード」●原題:SPEED●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:「スピード」ホッパー.jpgヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:ランダル・マコーミック/ジェフ・ナサンソン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:マーク・マンシーナ/ビリー・アイドル●時間:115分●出演:キアヌ・リーブス/デニス・ホッパサンドラ・ブロック/ジョー・モートン/ジェフ・ダニエルズ/アラン・ラック●日本公開:1994/12●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-12-17)(評価:★★★☆)

speed 2es.jpgスピード2 01.jpg「スピード2」●原題:SPEED:CRUISE CONTROL●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:マーク・ゴードン●脚本:グレアム・ヨスト●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:121分●出演:サンドラ・ブロック/ジェイソン・パトリック/ウィレム・デフォー/テムエラ・モリソン/ブライアン・マッカーディー/グレン・プラマー/コリーン・キャンプ/ロイス・チャイルズ/マイケル・G・ハガーティー/ボー・スヴェンソン/フランシス・ギナン/ジェレミー・ホッツ●日本公開:1997/08●配給:20世紀フォックス映画(評価:★★☆)

ツイスター.jpgツイスタード.jpg「ツイスター」●原題:TWISTER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ヤン・デ・ボン●製作:キャスリーン・ケネディ/イアン・ブライス/マイケル・クライトン●脚本:マイケル・クライトン/アン・マリー・マーティン●撮影:ジャック・N・グリーン●音楽:マーク・マンシーナ●時間:113分●出演:ヘレン・ハント/ビル・パクストン/ケイリー・エルウィス/ジェイミー・ガーツ/ロイス・スミス/アラン・ラック/フィリップ・シーモア・ホフマン/トッド・フィールド/ジョーイ・スロトニック/ジェレミー・デイビス/スコット・トマソン/ウェンデル・ジョセファー/ショーン・ウォーレン/ザック・グルニエ/ラスティ・シュウィマー●日本公開:1996/07●配給:UIP(評価:★★)
ツイスター [DVD]

「トゥルーライズ」.jpgトゥルーライズ01.jpg「トゥルーライズ」●原題:TRUE LIES●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ステファニー・オースティン●オリジナル脚本:クロード・ジディ/シモン・ミシェル/ディディエ・カミンカ●撮影:ラッセル・カーペンター●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:144分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェイミー・リー・カーティス/トム・アーノルド/ビル・パクストン/ティア・カレル/アート・マリックトゥルーライズ  ティア・カレル.jpgトゥルーライズ チャールトン・ヘストン.jpg/エリザ・ドゥシュク/グラント・ヘスロヴ/チャールトン・ヘストン●日本公開:1994/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(94-09-25)(評価:★★★★)
アーノルド・シュワルツェネッガー/ティア・カレル
チャールトン・ヘストン

ラスト・アクション・ヒーローs.jpgラスト・アクション・ヒーロー  vhs.jpg「ラスト・アクション・ヒーロー」●原題:LAST ACTION HERO●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:スティーヴ・ロス/ジョン・マクティアナン●脚本:デヴィッド・アーノット/シェーン・ブラック●撮影ディーン・セムラー●音楽:マイケル・ケイメン●時間:131分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/オースティン・オブライエン/チャールズ・ダンス/ロバート・プロスキー/トム・ヌーナン/フランク・マクレー/アンソニー・クイン/ブリジット・ウィルソン/F・マーリー・エイブラハム/マーセデス・ルール/アート・カーニー/イアン・マッケラン/プロフェッサー・トオル・タナカ/ジョーン・プロウライト/ノア・エメリッヒ●日本公開:1993/08●配給:コロンビア映画(評価:★★★)

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'90年公開作品で個人的◎は「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ドライビング Miss デイジー」。

映画イヤーブック 1991 3298.JPG映画イヤーブック1991 教養文庫.jpg  ドゥ・ザ・ライト・シング0.bmp DRIVING MISS DASIY.bmp
映画イヤーブック〈1991〉 (現代教養文庫)』「ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]」「ドライビングMissデイジー [DVD]
 
 90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』の1991年版で、1990年に劇場公開された洋画406本、邦画146本、計552本のデータを収めています。ストーリー紹介だけでなく、主だった作品は、映画評論家が分担して執筆し、それぞれ批評を織り込んでいて、後でDVDなどで観賞する際の参考になりました(本書評価は★★★★→必見、★★★→ぜひ見る価値アリ、★★→見て損はしない、★→ヒマつぶしにはなるかも)。本書における四つ星評価(「必見」)作品から幾つか拾うと―。

ドゥ・ザ・ライト・シング1.bmp '90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞しています。(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

ドライビング miss デイジー.bmp 続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部ジェシカ・タンディ アカデミー賞.jpg門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

「ショーシャンクの空に」03.jpg モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男「ショーシャンクの空に」02.jpg優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)でアカ「ショーシャンクの空に」1994.jpg「ショーシャンクの空に」モーガン.jpgデミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、IMDb Top 250 Moviesの第1位[スコア9.3])
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 自分としては「ショーシャンクの空に」よりも「ドライビング Miss デイジー」に感動してしまったクチなのですが、アメリカの黒人コミュニティーの間では「ドライビング Miss デイジー」は白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、評判は良くないようです。確かにハリウッド映画の伝統的な黒人の描かれ方の枠を出ていないかも(でも、個人的には名作だと思う)。その対極にあるのが、「ドゥ・ザ・ライト・シング」でもあると言え、アカデミー賞授賞式のプレゼンターとして舞台に立ったキム・ベイシンガーは、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、「ドゥアカデミー賞 キム・ベイシンガー1.jpgアカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

Guddoferozu(1990).jpgグッドフェロー1.bmp マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
Guddoferozu(1990)

トータル・リコール 12.jpg 「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍シャロン・ストーン12.jpgります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。

フィリップ・K・ディック原作映画 「ブレードランナー」 ('82年/米)/「マイノリティ・リポート」('02年/米)
ブレードランナー チラシ.jpg ブレードランナー.jpg    マイノリティ・リポート01.jpg マイノリティ・リポート 02.jpg 


ロボコップ 警官.jpg 因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったとロボコップ 1987 pw.jpgか。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。

  
バタアシ金魚ド.jpgバタアシ金魚 dvd2.bmp 洋画ばかり挙げましたが、邦画では「バタアシ金魚」('90年/シネセゾン)なんてあったなあ。個人的には自主制作時代の作品も何本か観たことのある松岡錠司監督の劇場用映画デビュー作、主演の筒井道隆(坊主「バタアシ金魚」.bmp頭で出演)・高岡早紀にとっても共にデビュー作ということで、新鮮味はありました。コミックが原作ながらも、インディペンデント系の雰囲気を残してしてまあまあ面白かったけれど、ストーリーとしては中途半端だった印象も。過食症でブタのように太った主人公も高岡早紀が演じたのだろうか。顔があまり映っていなかったが...(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。 


ドゥ・ザ・ライト・シング 03.jpg

ドゥ・ザ・ライト・シング dvd.jpg「ドゥ・ザ・ライト・シング」●原題:DO THE RIGHT THING●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:スパイク・リー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:ビル・リー●時間:120分●出演:スパイク・リー/ダニー・アイエロ/ルビー・ディー/サミュエル・L・ジャクソン/オジー・デイヴィス/リチャード・エドソン/ジョン・タトゥーロ/ビル・ナン/ロージー・ペレス/ ジョイ・リー/ジャンカルロ・エスポジート/ジョン・サベージ/ロビン・ハリス●日本公開:1990/04●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★☆)ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]
ドライビング miss デイジー dvd.bmp
ドライビング miss デイジー ちらし.jpg「ドライビング Miss デイジー」●原題:DRIVING MISS DASIY●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ブルース・ベレスフォード●製作:リチャード・D・ザナック/リリ・フィニー・ザナック●原作・脚本:アルフレッド・ウーリー●撮影:ピーター・ジェームズ●音楽:ハンス・ジマー●時間:99分●出演:ジェシカ・タンディ/モーガン・フリーマン/ダン・エイクロイド/パティ・ルポーン/エスター・ローレ/ジョアン・ハヴリラ/ウィリアム・ホール・Jr.●日本公開:1990/05●配給:東宝東和(評価:★★★★☆)ドライビングMissデイジー [DVD]

「ショーシャンクの空に」d.jpg「ショーシャンクの空に」01.jpg「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)ショーシャンクの空に [DVD]

「グッドフェローズ」.jpg「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/グッドフェローズ dvd.jpgマイク・スター/フランク・ヴィンセント/チャック・ロー/フランク・ディレオ/サミュエル・L・ジャクソン/クリストファー・セロ/スザンヌ・シェパード/キャサリン・スコセッシ/チャールズ・スコセッシ●日本公開:1990/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★★)グッドフェローズ スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

トータル・リコール [DVD]
トータル・リコール003.jpgトータル・リコール dvd.jpg「トータル・リコール」●原題:TOTAL RECALL●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:バズ・フェイシャンズ/ロナルド・シュゼット●脚本:ロナルド・シュゼット/ダン・オバノン/ゲイリー・ゴールドマン●撮影:ヨスト・ヴァカーノ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:フィリップ・K・ディック「記憶売ります」●時間:113分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/レイチェル・ティコトータル・リコール シャロン・ストーン.jpgティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

ロボコップ 1987.jpgロボコップ pw.jpg「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)
ロボコップ/ディレクターズ・カット [DVD]

高岡早紀(17歳)(テレフォンカード)/「バタアシ金魚 [DVD]
バタアシ金魚 1990.jpg「バタアシ金魚」2.bmpバタアシ金魚 dvd.jpg「バタアシ金魚」●制作年:1990年●監督・脚本:松岡錠司●製作:日本ビクター●撮影:笠松則通●音楽:茂野雅道●原作:望月峯太郎●時間:95分●出演:高岡早紀/筒井道隆/白川和子/伊武雅刀/東幹久/土屋久美子/浅野忠信/大寶智子/橋本真由子/いしかわじゅん/桜金造/山村美智子/佐藤オリエ/安原麗子●公開:1990/06●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネパトス新宿 (90-06-16)(評価:★★★☆)

筒井道隆(19歳)・浅野忠信(16歳)共に映画デビュー作
「バタアシ金魚」筒井・浅野.jpg「バタアシ金魚」浅野.jpg  
 「バタアシ金魚」で、浅野忠信は丸刈りで牛川工業高校水泳部の主将ウシを演じた。 
 浅野忠信は、自身のSNSのプロフィールとコメントが書かれたページで、「バタアシ金魚」について「撮影の時はあまり楽しくなかったです。撮影以外の時も楽しくなかったです」とコメント。他の部員役は床屋でカットしたが、「僕だけ八王子まで行って、そこから車でちょっと行ったふつうの家に連れてかれ、牛のフンくさい太陽がギラギラ照っている外で、とても暑い思いをしてバリカンの試し刈りとしか思えない断髪式をやった事がとてもムカムカ」したとし、さらに「人の頭を刈るだけ刈って長さメチャクチャ」「あとはメイクさん、向こうで切ってと言って、端の方で頭刈られて、極めつけは、さっきまで僕が頭を刈られてた所でロケをやっているんですから、もうバクハツ寸前でした」と。しかし最後は「でも泳ぎがうまくなったし、世の中の厳しさが分かったし電車にも詳しくなったし、友達ができたのでよかったです。スタッフの人はいい人ばかりでした」としている(引用:「浅野忠信」インスタグラム(@tadanobu_asano))

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スティーヴ・マーティン、キャスリーン・ターナーが芸達者ぶりを発揮「2つの頭脳を持つ男」。

2つの頭脳を持つ男 dvd.jpg 02つの頭脳を持つ男5.jpg   ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 dvd.jpg  ローズ家の戦争 dvd.jpg
2つの頭脳を持つ男 [DVD]」Kathleen Turner & Steve Martin 「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 [DVD]」「ローズ家の戦争 [DVD]

The Man with Two Brains.jpg マイケル・ハフハール(スティーヴ・マーティン)は世界的に有名な脳外科医だが、亡き愛妻の思い出に胸締め付けられる日々を送っていた。ある日、車を運転中、目の前を横切ったドロレス(キャスリーン・ターナー)を跳ね飛ばしてしまうが、駆け寄って見た彼女の美しさに参ってしまう。美貌のドロレスは、実は遺産目当てで年老いた男に近寄り、結婚後に夫を死に追いやる悪女だったが、そうと知らずにドロレスの脳外科手術を買って2つの頭脳を持つ男4.jpg出たハフハールは、手術を成功させ、意識を取り戻したドロレスにアタックをかけ結婚へ。しかし、新婚生活を送るうちにドロレスの傲慢さが目につくようになり、その上夜の営みを拒み続けるドロレスに欲求不満気味、上司の勧めで仕事とハネムーンを兼ねてオーストリアへ行き、脳移植の権威ネセシスター博士(デビッド・ワーナー)に出会い、彼の研究室で、"アン・アールメヘイ"と名乗る頭脳(声:シシー・スペイセク)とテレパシーで意思疎通出来ることを知る。意思疎通を図るうちに、次第にアールメヘイの持つ優しさに惹かれて、挙句の果てには、横行していた"エレベーター・キラー"にかこつけて、彼女に見合う女性を殺害してその肉体を手に入れようとまでし始める―。

The Man with Two Brains2.jpg '85年の第1回「東京国際映画祭」の一環としての「ファンタスティック映画祭」で上映された、カール・ライナー監督、スティーヴ・マーティン(1945‐)主演のホラー・コメディで、"脳"に不倫心を抱いてしてしまう男という奇抜な設定。その流れで、その男は、"脳"のために肉体を探し、"脳移植"手術をしようとするという、ハチャメチャながらも、SF風のドタバタ喜劇であることを踏まえて観れば結構良く出来たストーリーであったように思え、意外と面白かったです。

2つの頭脳.JPG オチにも何となく人生の皮肉が込められていて、同じドタバタコメディでも、レスリー・ニールセン(1926-2010)の「裸の銃(ガン)を持つ男」('88年)などよりはこっちの方が個人的には好みです(日本人の感覚にも合っているような気がするが、実際のところは日本でも評価が割れているみたい。好みに左右される作品か)。 
2つの頭脳を持つ男.jpg スティーヴ・マーティンにしてもレスリー・ニールセンにしても、銀髪のダンディな男が途方も無くバカバカしいことをやるという点で似ているかも。両者共に日本にはあまりいないタイプの喜劇役者でしょうが、そもそも洋モノコメディ軽視の日本では、当時スティーヴ・マーティンの名は殆ど知られていなかったように思われ、自分自身この作品で初めて知り、なかなかの芸達者だと思いました。この作品も日本ではロードにかかっておらず(映画祭出品後にビデオ化はされた)、「愛しのロクサーヌ」('87年)などでやっと日本でも彼の名知られるようになりましたが、その後も出演作品数は多く、バイプレイヤーだったりシリアスな役もこなしたりしているようで、最近では、2010年に、自身3回目となるアカデミー賞授賞式の司会をしています。
Steve Martin and Kathleen Turner in "The Man with Two Brains"

 この作品について言えば、キャスリーン・ターナーの好演も見逃せず、ローレンス・カスダン監督の「白いドレスの女」('81年、原作はジェームズ・M・ケインの「倍額保険」)で男を破滅させる女"ファムファタール"を演じ、この作品でも妖婦的悪女を演じた彼女は、「白いドレスの女」公開の際の来日記者会見で"コミカルな役をやりたい"と言っていましたが、それがこれだったのだなあと(サスペンスからコメディへと、演じる"ファムファタール"のバリエーションが広い、こちらも芸達者)。

ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 dvd j.pngロマンシング・ストーン 秘宝の谷.jpg キャスリーン・ターナーはこの後、ロバート・ゼメキス監督の「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」('84年)にマイケル・ダグラスとの共演で出演しています。 「2つの頭脳...」がロードにかからなかったため、こちらを「東京国際映画祭」の1か月前に先に観ることになったのですが、ロマンス作家が否応なしに自分の書く小説張りの恋と冒険に巻き込まれていくという「インディ・ジョーンズ」と「ハーレクイン・ロマンス」を足して2で割り、それにコメディの味付けをしたような"盛り沢山"の作品でした。 "Romancing the Stone"DVDジャケットより

ナイルの宝石 マイケルダグラス/キャスリーンターナー.jpg「ナイルの宝石」1985.jpg この「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」は1984年のゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)で作品賞を受賞し、キャスリーン・ターナーは同賞主演女優賞のほかロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞も受賞しており(コメディでも演技賞を獲ってしまうというのはまさに演技力の証しか)、同じくマイケル・ダグラスとのコンビで続編「ナイルの宝石」('85年)という作品も作られています。

(左)映画パンフレット 「ナイルの宝石」 出演 マイケル・ダグラス/キャスリーン・ターナー


 これらとよく似た冒険活劇風娯楽映画で、「ナバロンの要塞」「恐怖の岬」「セント・アイブス」のJ・リー・トンプソン監督の「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」('85年)という、これもまた「インディ・ジョーンズ」の亜流色の強い作品キング・ソロモンの秘宝 ps.jpgキング・ソロモンの秘宝 ps2.jpgキング・ソロモンの秘宝 映画1.jpgもありました。「タワーリング・インフェルノ」「将軍 SHOGUN」のリチャード・チェンバレン主演で、お相手はまだそれほど有名でない頃のシャロン・ストーン...ということもあってか、一部でマニアックなファンがいるようですが、キング・ソロモンの秘宝_12.jpgコメディタッチでテンポはそう悪くなかったように思います。ただ、個人的にはそんなに熱くなるほどの映画かなあとも。配役がある種ノスタルジーを醸すのかなあ。リチャード・チェンバレンは同じく主役を演じた「将軍 SHOGUN」(ジェームズ・クラベルの小説『Shōgun』を原作としてテレビドラマとして5話放映されたものを再編集して映画化したもの)よりはずっと活き活きしていました。こちらも翌年に同じ主演コンビで続編(「キング・ソロモンの秘宝2/幻の黄金都市を求めて」)が作られています。

 この手の映画を何本か見ていると、ストーリーの区別がつかなくなるなあ。その点でも「インディ・ジョーンズ」シリーズや「ハーレクイン・ロマンス」に通じるかも。

 キャスリーン・ターナーとマイケル・ダグラスの2人はよほど相性が良かったのか、更に、「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」で二人と共演したダニー・デヴィート(「バットマン・リターンズ」('92年)で悪役のペンギン男を演じた人)が監督した、夫婦の離婚を巡るブラックコメディ映画「ローズ家の戦争」('89年)でも共演しています。

ローズ家の戦争2.jpg 結婚17年目を迎えたローズ夫妻の泥沼の離婚戦争をブラック・ユーモアで描いたコメディで(タイトルはイングランドの「バラ戦争」に準えている)、家庭間で領域を二分し、車をぶつけ合い、装飾品を投げ合って、生きるか死ぬかの闘いを繰り広げる様は、コメディというよりは恐怖映画に近く、寒気を覚えるくらい...。マイケル・ダグラスがシャンデリアにつかまっている場面が印象的でした。

マイケル・ダグラス キャサリン・ゼタ=ジョーンズ.bmp ちょっとやり過ぎの感もありましたが、マイケル・ダグラス自身はこの作品を気に入っているようで(グレン・クローズに苛められる「危険な情事」('87年)といいデミ・ムーアに苛められる「ディスクロージャー」('94年)といい、女性に苛められる役が好きなのか?)、リメイクして妻であるキャサリン・ゼタ=ジョーンズと共演しようと企画しているという話が何年か前にありましたが、どうなったのかな?

マイケル・ダグラス/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
 

2つの頭脳を持つ男3.jpg渋谷パンテオン.jpg「2つの頭脳を持つ男」●原題:THE MAN WITH TWO BRAINS●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:カール・ライナー●製作:デイヴィッド・V・ピッカー/ウィリアム・E・マッキューン●脚本:カール・ライナー/スティーヴ・マーティン/ジョージ・ガイプ●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:ジョエル・ゴールドスミス●時間:93分●出演:スティーヴ・マーティン/キャスリーン・ターナー/シシー・スペイセク(声の出演)/デビッド・ワーナー/リチャード・ブレストフ/ジェームズ・クロムウェル/ジェフリー・コムズ/ポール・ベネディクト/マーヴ・グリフィン:マーヴ・グリフィン●日本公開:1985/06●配給/ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:渋谷パンテオン(85-06-02) (評価★★★★)

ROMANCING THE STONE 4.jpg「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」●原題:ROMANCING THE STONE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:マイケル・ダグラス●脚本:ダイアン・トーマス●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:106分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/ザック・ノーマン/アルフォンソ・アラウ/マヌエル・オヘイダ/ホランド・テイラー/メアリー・エレン・トレイナー/エヴァ・スミス●日本公開:1984/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(85-05-06) (評価★★★)
新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[カラー写真:「フォト蔵」より/モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)より]
 
キング・ソロモンの秘宝 99.jpg「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」●原題:KING SOLOMON'S MINES●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン ●製作:メナヘム・ゴーラン/ヨーラム・グローブス●脚本:ジーン・クインターノ/ジェームズ・R・シルク●撮影:アレックスキング・ソロモンの秘宝dvd.jpgキング・ソロモンの秘宝 映画2.jpg・フィリップス●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:100分●出演:リチャード・チェンバレン/シャロン・ストーン/ハーバート・ロム/ジョン・ライス=デイヴィス/ケン・ガンプ/ジューン・ブゼレッジ●日本公開:1986/06●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-06-29) (評価★★★)キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー [DVD]
旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpg

旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

 

0blog_import_5c81472add086.jpeg「ローズ家の戦争」●原題:THE WAR OF THE ROSES●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:0ローズ家の戦争02.jpgダニー・デヴィート●製作:ジェームズ・L・ブルックス/アーノン・ミルチャン●脚本:マイケル・リースン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:デヴィッド・ニューマン●原作:ウォーレン・アドラー「ローズ家の戦争」●時間:116分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/マ新宿プラザ劇場200611.jpgリアンネ・ゼーゲブレヒト/ショーン・アスティン/ヘザー・フェアフィールド●日本公開:1990/05●配給/20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿プラザ(90-06-02) (評価★★★)

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NYの街が美しい、しっとりとしたラブストーリー。日本語タイトルは何とかならなかったのか。
誰かがあなたを愛してる メイベル・チャン.jpg誰かがあなたを愛してる チョウ・ユンファ.jpg 誰かがあなたを愛してるs.jpg メイベル・チャン.jpg
チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅) メイベル・チャン(張婉婷)監督
誰かがあなたを愛してる デジタル・リマスター版 [DVD]

誰かがあなたを愛してる07.jpg 香港から恋人を追って演劇の勉強をしにニューヨークへやって来たジェニファー(チェリー・チェン)は、やくざな生活を送る遠縁の青年サミュエル(チョウ・ユンファ)のぼろアパートで暮らすことになり、早速恋人のビンセント(ダニー・チャン)との再会を果たすが、彼は別の女性と付き合っていた。ショックを受けたジェニファーをサミュエルが慰めるうちに、二人は惹かれ合っていく―。

秋天的童話1.jpg 後に「宋家の三姉妹」('97年)、「玻璃(ガラス)の城」('98年)などを撮るメイベル・チャン (張婉婷) の監督第2作で、1988年・第7回「香港電影金像奨」の最優秀作品賞受賞作。香港人の眼で見たニューヨークの街が美しく活き活きと描かれていて、この映画を観ているとNYに旅行に行きたい気分になりますが(一方で、そこで生活するとなると、なかなか大変であるようにも思った)、お上りさん的な"観光"気分を味わえただけでなく、登場人物の心象風景ともよくマッチしており、ストーリーや演出にも、女流監督らしい細やかな感性が行き届いていて、ホロリとさせるものがありました。当時売り出し中のチョウ・ユンファの演技が良く、チンピラのような役なのですが、「男たちの挽歌」('86年)の強面ぶりとはうって変わって、優しく気はいいがちょっと頼りないという男を旨く演じています(1987年・第24回「金馬奨」の最優秀主演男優賞受賞)。

秋天的童話3.jpg サミュエルとジェニファーはいい雰囲気になりながらも、いざとなるともう一歩のところで邪魔が入ったりアクシデントがあったりして、その一歩が踏み出せない―そうなってしまう背景には、想いを寄せる相手が失恋で落ち込んでいるところに突け入るような行為を善しとしないサミュエルの美意識のようなものも働いていて、実のところジェニファーの方はサミュエルのキスを待っているのに、彼にはそうする勇気がやや足りないともとれるのが微妙なところ(結局「いつか」「いつか」と思いながら機を失ってしまう...よくありそうな話)。

秋天的童話2.jpg 終盤の、O・ヘンリーの「賢者の贈物」に似たベタなエピソードにも、むしろガチガチの悲恋物語から解き放たれたような、観る側をほっとさせるユーモアを感じました。

 あの時キスをしていれば、その後の2人は...。そうした取り返せない"一瞬"を胸に抱えて、その後の人生を生きている人は結構いるのではないかと。何年か後にサミュエルが成功し、念願の海辺の店を持ったという後日譚(一応はハッピーエンド)は、昔の日活の青春映画みたいな終わり方でした。
Dare ka ga anata o aishiteru(1987)
Dare ka ga anata o aishiteru(1987).jpg しかし、それにしてもこのタイトルは何とかならなかったのかなあ(原題は「秋天的童話」、英題は"An Autumn's Tale")。同じく香港映画で中国人監督チェン・カイコー(陳凱歌)の「覇王別姫」('93年/香港)の日本公開時のタイ誰かがあなたを愛してる dvd.jpgトル「さらば、わが愛/覇王別姫」、台湾のホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の「童年往時」('85年/台湾)は「童年往時―時の流れ」と、原題の中国語を残していますが、そのことで表意文字の特性を生かしているように思います。

 「秋天的童話―誰かがあなたを愛してる」なら、しっとりとした情感が多少は伝わるけれど、「誰かがあなたを愛してる」だけでは、「覇王別姫」を「さらば、わが愛」、「童年往時」を「時の流れ」だけにしてしまったのと変わりません。おそらく「秋天的」の「的」が引っ掛かったのではないかと思いますが、タイトルにも監督の意図が込められているはずなので、「秋天童話」にするとか、工夫の仕様は無かったものか...。
 
チョウ・ユンファ(周潤發)in ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」('86年)/アン・リー監督「グリーン・デスティニー」('00年)
英雄本色 周潤發.jpg グリーン・デスティニー 02.jpg

AN AUTUMN'S TALE.jpg「誰かがあなたを愛してる」●原題:秋天的童話AN AUTUMN'S TALE●制作年:1987年●制作国:香港●監督:メイベル・チャン(張婉婷)●製作:ジョン・シャム(岑建勲)●脚本:アレックス・ロウ(羅啓鋭)●撮影:ジェームズ・ヘイマン/デイヴィッド・チャン●音楽:ローウェル・ロウ(盧冠廷)●時間:98分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅)/ダニー・チャン(陳百強)/ジジ・ウォン●日本公開:1989/09●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画●最初に観た場所:シネスイッチ銀座 (89-10-10)(評価:★★★★)
チョウ・ユンファ(周潤發)/チェリー・チェン(鐘楚紅)

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主人公の10歳の少女時代を描いた部分が優れていた(ベトナム版「おしん」?)。

青いパパイヤの香り dvd0.jpg 青いパパイヤの香り dvd.jpg 青いパパイヤの香り .jpg
青いパパイヤの香り [DVD]」「青いパパイヤの香り ニューマスター版 [DVD]

青いパパイヤの香り1.jpg 1951年のサイゴン、10歳になる娘ムイは田舎からとある家へ奉公にやって来て、食事の世話や家事手伝い、その他細々とした事を任され、毎日を過ごしていた。その家には何もせずただ楽器を楽しむだけの父親、衣地屋を営み家系を支える母親、嫁に辛くあたる祖母、社会人の長男と幼い弟という家族がいた。やがてムイは、家に遊びに来た長男の友人クェンに密かに恋心を抱くようになる。10年後、ムイは暇を出され、今度はクェンの家へ奉公に出される―。

「青いパパイヤの香り」.jpg 前半から中盤にかけては、ベトナム版「おしん」という感じですが、少女ムイを演じる子役の演技が旨く、子供ながらもこうしたしっとりした情感を出せるのは、監督の演出の成せる業(わざ)だろうと思いました(この作品の殆どの俳優がフランス在住のベトナム人で映画初出演であり、トラン・アン・ユン監督は、この作品でカンヌ映画祭のカンヌ国際映画祭で新人監督賞に該当する「カメラ・ドール」を受賞している)。

 少女が奉公に入った家は、かなり家庭の事情が複雑で、過去から現在にまで重いものを引き摺っている感じ(う~ん、彼女は料理の作り方だけでなく、人間についての様々な事をここで学んだのだろうなあ)。極力セリフを用いず、登場人物の想いを映像で表現しているところは、小津安二郎作品などの日本映画に通じるものを感じました。

青いパパイヤの香り2.jpg 二十歳になってからの話は、ちょっとシンデレラ・ストーリーっぽくって、しかも、結果として"略奪愛"的な展開になっているのですが、ひたすら相手に尽くすムイの姿勢には、クェンならずとも惹かれるのかも。但し、前半の少女時代の話に比べると、ストーリー的にはやや平板な感じもしました。

青いパパイヤの香り75.jpg トラン・アン・ユン監督はベトナムで生まれ、パリ育ち、またパリで映像芸術について学んだ人で、デビュー作にあたるこの作品は、すべてフランスでセットを組んで撮られたそうですが、昆虫や魚、野菜や果物、料理などの映像を合間ごとに挟むことにより、アジア的雰囲気を巧みに醸しているように思えました(パパイヤはベトナム人にとっては"野菜"であることがよく分かる)。

 映像的にもカラフルで綺麗。但し、監督のベトナムへの想いが美化され過ぎているのか、"綺麗すぎる"感じも。日本で公開された時もヒットしましたが、特に女性に受けたとのことで、エスニック・ブームとの相乗効果もあったのではないでしょうか(シンデレラ・ストーリーであるということもあるし)。

青いパパイヤの香り トラン夫妻.jpg 二十歳のムイを演じた女優は、実生活において監督の妻となったということで、こういうパターンは日本でも海外でもよくありますが、監督が女優を恋愛対象として見ている時は、いい映画に撮れるのかも。主人公が、永く召使い的な立場にありながらも純粋さと女性らしさを失わず、「凛として生きる」ことを貫いてきたことが分かるように描いていたように思います。

「青いパパイヤの香り」2.jpg「青いパパイヤの香り」3.jpg 但し、映画全体としてはやはり、小さな出来事を積み重ねることである家族の全体を浮き彫りにするとともに、その中における、外部からやって来た10歳の少女の精神的成長を描いた前半部分の方が優れていたように思います。

青いパパイヤの香り_.jpg「青いパパイヤの香り」●原題:Mùi du du xanh/仏:L'ODEUR DE LA PAPAYE VERTE/英:THE SCENT OF GREEN PAPAYA●制作「青いパパイヤの香り」4.jpgMùi du du xanh(1993).jpg年:1993年●制作国:フランス/ベトナム●監督・脚本:トラン・アン・ユン●製作:アドリーヌ・ルカリエ/アラン・ロッカ●撮影:アラン・ネーグル●音楽:トン=ツァ・ティエ●時間:104分●出演:トラン・ヌー・イェン・ケー/リュ・マン・サン/トルゥオン・チー・ロック/グエン・アン・ホア/ヴォン・ホア・ホイ/トラン・ゴック・トゥルン/タリスマン・バンサ/ソウヴァンナヴォング・ケオ/ネス・ガーランド●日本公開:1994/08●配給:デラ・コーポレーション(評価:★★★☆)
Mùi du du xanh(1993)

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「黄粱一炊の夢」乃至「胡蝶の夢」。自殺した妻との邂逅は「惑星ソラリス」へのオマージュか。

インセプション チラシ.jpgインセプション dvd.jpg   マトリックス dvd.jpg  惑星ソラリス dvd.jpg
インセプション [DVD]」「マトリックス 特別版 [DVD]」「惑星ソラリス [DVD]
「インセプション」チラシ

 人の夢に入り込むことでアイデアを"盗み取る"産業スパイ・コブ(レオナルド・ディカプリオ)に、大企業のトップ・サイトー(渡辺謙)が、ライバル企業の社長の息子ロバート(キリアン・マーフィー)に父親の会インセプション2.jpg社を解体させるアイデアを"植えつける(インセプション)"仕事を依頼する。自殺した妻モル(マリオン・コティヤール)殺害の容疑をかけられ子供に会えずにいたコブは、犯罪歴抹消と引き換えに仕事を引き受けることにし、コブ及びサイトーに、コブの仕事仲間のアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)、夢の世界の「設計士」アリアドネ(エレン・ペイジ)、ターゲットの思考を誘導する「偽装師」イームス(トム・ハーディ)、夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」ユスフ(ディリープ・ラオ)の4人を加えた計6人で、ロバートの夢の中に潜入する―。

Inception(2010).jpgInception.jpg 最初は6人がこれからやろうとしていることの説明(理屈)が多くてややダルかったけれども、実際に夢への潜行が始まると、「夢」から「夢の中の夢」に、更に「夢の中の夢の中の夢」に降りて行くという発想が面白く、思いつかないことでもないけれど、よくこれを「お話」にして「映像化」したものだと―。突っ込み所は多いのですが、つい先月['11年7月]発表された英国の映画誌「TOTAL FILM」の投票による"史上最高のSF映画べスト10"で、今世紀の作品として唯一8位にランクインしています。
Inception(2010)
                  
インセプション1.jpg 実際に夢の第1階層(雨のL.A.)、第2階層(ホテル)、第3階層(雪の要塞)のそれぞれで繰り広げられるのは、カーチェイスだったり銃撃戦だったりと定番のアクションなのだけれど(敵はロバートの潜在意識に既にインセプションされているライバル企業側の輩)、下の階層に行くにつれて相対的に上の層より時間の流れが遅くなり、その分だけ時間稼ぎ出来るといった着想などはなかなか秀逸ではないかと思われ(「黄粱一炊の夢」「邯鄲の夢」の"二乗"ということか)、ラストも、コブは本当に現実世界に戻ってきたのか、ちょっと気を持たせる終わり方でした(この辺りはむしろ「胡蝶の夢」か)。(2010年度・第37回「サターンSF賞」受賞作)
                      
マトリックス 映画.jpg 仮想現実世界での戦いと言えば、ウThe Matrix(1999).jpgォシャウスキー兄弟の「マトリックス」('99年/米)(1999年度・第26回「サターンSF賞」受賞作)を想起しますが、ストーリー的にはこの 「インセプション」 の方が凝っているのでは。但し、「マトリックス」は、シリーズを通してファッションの方に凝っていて、夢と現実世界を結ぶのが"公衆電話"や"黒電話"であるなどというキッチュな味付けもありましたが、それに比べると「キック」というのはやや原始的。物理的な衝撃によって眠り(夢)から覚めるというのは、オーソドオクスと言えばオーソドックスですが。

The Matrix(1999)

 全体としては、いろんなものを詰め込み過ぎた(オタク系でもあり恋愛系でもある)「マトリックス」よりも、ストレートなアクション系に近いこっちの方が好みですが、いっそのこと、"亡き妻への追慕"といったモチーフも織り込まないで、「夢の階層構造」のみを中心モチーフに据えたアクションに徹しても良かったように思います。

惑星ソラリス11.jpg 映像面でスタンリー・キューブリック惑星ソラリス12.jpgの「2001年宇宙の旅」('68年/米)や、アンドレイ・タルコフスキー作品へのオマージュが見られますが、モチーフとして特に似ているのはタルコフスキーの「惑星ソラリス」('72年/ソ連)ではないでしょうか。

惑星ソラリス1.jpg 「惑星ソラリス」の宇宙飛行士であり科学者でもある主人公(ドナタス・バニオニス)は、"意識を持つ"惑星ソラリスを調査する中で、ソラリスが主人公の記憶の中から再合成して送り出してきた「かつて自殺した妻」(ナタリア・ボンダルチュク)と邂逅し(「インセプション」も同じ)、その仮想現惑星ソラリスSOLARIS 1972.jpg実世界の虜囚となってしまうのですが、クリストファー・ノーランは、どうしてもあの作品のモチーフを使いたかったのでしょうか。

「惑星ソラリス」のナタリア・ボンダルチュク(「戦争と平和」の監督セルゲイ・ボンダルチュクの娘)とドナタス・バニオニス

Wakusei Solarisu (1972).jpg 「惑星ソラリス」はタルコフスキー監督の中でも最も有名な作品ですが(カンヌ国際映画祭で「審査員特別グランプリ」及び「FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞」を受賞)、観ているとどんどん哲学的で難解になっていくため、自分自身どこまで理解できたかやや心もとない? タルコフスキー監督の作品は晩年に向けてますます哲学的になっていき、同監督の作品の中では個人的にはどちらかと言えば抒情的な作風の「」('75年/ソ連)が好みです。「惑星ソラリス」のラストは必ずしも明確に"解"を示さない終わり方でしたが(ただし、2023年に再見してこの印象は変わった)、「インセプション」の終わり方もやや似ていて(思わせぶり?)、「インセプション」には、「惑星ソラリス」へのオマージュが相当に込められているように思われました。
Wakusei Solarisu (1972)

インセプション 富士川.jpg 「インセプション」には、700系新幹線「のぞみ」が富士川鉄橋を走る映像が出てきますが、「惑星ソラリス」では、未来都市のイメージとして、首都高速道路の赤坂惑星ソラリスSolaris-Highway-Scene-Tokyo-640x277.jpgトンネル付近を走行するクルマの車内から見た映像があり、こうした日本からの素材の抽出なども「惑星ソラリス」を意識しているのではないかと思いました。

Solaris-Highway-Scene-Tokyo
 
「インセプション」 クリストファー・ノーラン.jpgインセプション マリオン・コティヤール.jpg「イインセプション 映画.jpgンセプション」●原題:INCEPTION●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クリストファー・ノーラン●製作:エマ・トーマス/クリストファー・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス「インセプション」マイケルケイン.jpg・ジマー●時間:148分●出演:レオナルド・ディカプリオ/渡辺謙/キリアン・マーフィー/トム・ベレンジャー/マイケル・ケインマリオン・コティヤール/ジョセフ・ゴードン=レヴィッド/エレン・ペイジ/トム・ハーディー/ディリープ・ラオ/ルーカス・ハ―ス/ロバート・フィッシャー/キリアン・マーフィ●日本公開:2010/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価:

THE MATRIX title.jpgマトリックス チラシ.jpg「マトリックス」●原題:THE MATRIX●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ウォシャウスキー兄弟(アンディ・ウォシャウスキー/ラリー・ウォシャウスキー)ウォシャウスキー姉弟(アンディ・ウォシャウスキー&ラナ・ウォシャウスキー(性転換前はラリー・ウォシャウスキー))→2016年弟アンディ・ウォシャウスキーも性転換手術をしてリリー・ウォシャウスキーとなり、ウォシャウスキー姉妹に)●製作:ジョエル・シルバー●撮影:マトリックス 1999.jpgビル・ポープ●時間:136分●出演:キアヌ・リーブス/ローレンス・フィッシュバーン/キャリー=アン・モス/ヒューゴ・ウィービング/グローリア・フォスター/上野東急2.jpgジョー・パントリアーノ/マーカス・チョン/ジュリアン・アラハンガ/マット・ドーラン/ベリンダ・マクローリー/レイ・パーカー/ポール・ゴダード/ロバート・テイラー/デビッド・アストン/マーク・グレイ/エイダ・ニコデモ/ビル・ヤング/デヴィッド・オコナー●日本公開:1999/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:上野東急(99-10-11)(評価:★★☆)
上野東急 場所.jpg上野東急1.jpg上野東急閉館8.jpg上野東急 1957年1月19日「上野東急」オープン、1981年10月休館。1982年12月4日「上野とうきゅうビル」に建て替えられ、3階に「上野東急」、1階に「上野東映」(1998年3月「上野東急2」に改称)の2館体制で再オープン。2012年4月30日「上野とうきゅうビル」解体により閉館。

惑星ソラリス パンフレット.jpg惑星ソラリスs.jpg「惑星ソラリス」●原題:SOLARIS●制作年:1972年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アンドレイ・タルコフスキー/フリードリッヒ惑星ソラリス チラシ.jpg・ガレンシュテイン●撮影:ワジーム・ユーソフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●原作:スタニスワフ・レム「ソラリス」(「ソラリスの陽のもとに」)●時間:165分●出演:ナタリア・ボンダルチュク/ドナタス・バニオニス/ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー/アナトーリー・ソロニーツィン/ソス・サルキシャン/ユーリー・ヤルヴェト/ニコライ・グリニコ/タマーラ・オゴロドニコヴァ/オーリガ・キズィローヴァ●日本公開:1977/04●配給:日本海映画●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-05-29)(評価:★★★☆)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(23-07-25)(評価:★★★★☆) 「惑星ソラリス」1977年岩波ホール公開時パンフレット
 
鏡 Blu-ray.jpg鏡 パンフレット.jpg「鏡」●原題:ZERKALO●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アレクサンドル・ミシャーリン/アンドレイ・タルコフスキー●撮影:ゲオルギー・レルベルグ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●挿入詩:アルセニー・タルコフスキー●時間:108分●出演:マルガリータ・テレホワ/オレーグ・ヤンコフスキー/イグナト・ダニルツェフ/フィリップ・ヤンコフスキー/アナトーリー・ソロニーツィン●日本公開:1980/06●配給:日本海映画●最初に観た場所:岩波ホール (80-07-03) (評価:★★★★★  「鏡 Blu-ray」['13年]

「鏡」 1980年岩波ホール公開時パンフレット

《読書MEMO》
●英国の映画誌「TOTAL FILM」の投票による"史上最高のSF映画べスト10"(2011/07)
1位『ブレードランナー』('82)
2位『スター・ウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』('80)
3位『2001年宇宙の旅』('68)
4位『エイリアン』('79)
5位『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』('77)
6位『E.T.』('82)
7位『エイリアン2』(86)
8位『インセプション』('10)
9位『マトリックス』('99)
10位『ターミネーター』('84)

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共演の男優・女優を追悼。シェイクスピアを下敷きにした見所多い(?)作品「禁断の惑星」。

禁断の惑星 dvd.jpg 禁断の惑星 英語ポスター.jpg 禁断の惑星 ポスター.jpg 昆虫型ミュータントがアダムス博士を襲う.jpg
禁断の惑星 [DVD]」「禁断の惑星」輸入版ポスター/日本版ポスター 「宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg 宇宙移民が行われている2200年代、アダムス機長(レスリー・ニールセン)が率いる宇宙船は、20年前に移住して消息を絶った移民団の捜索のために、惑星第4アルテアへ着陸するが、アルテア移民団の生き残りは、モービアス博士(ウォルター・ピジョン)と、アルテアで誕生した彼の娘アルティラ(アン・フランシス)の2人と、博士が作った万能ロボット・ロビーだけだった。博士によれば、アルテアにはかつて高度に進化し、発達した科学を創り上げた先住民族が存在したが、原因不明の滅亡を遂げ、そして移民団も正体不明の怪物に襲われて自分達以外は死んでしまったという―。

アン・フランシス_3.jpgForbidden Planet2.jpgForbidden Planet.jpg アダムス機長を演じたレスリー・ニールセンが昨年('10年)11月に亡くなった(享年84)のに続いて、アルティラを演じたアン・フランシスも今年('11年)1月に亡くなり(享年80)、寂しい限りです。TV番組「ハニーにおまかせ」('56年~)の私立探偵役のアン・フランシスも、「裸の銃(ガン)を持つ男」('86年)のレスリー・ニールセンも、この映画では2人とも20代でしょうか。この作品を観ると、永遠に2人とも若いままでいるような錯覚に陥ります。

禁断の惑星 名画座ミラノ2.jpg 「禁断の惑星」がシェイクスピアの「テンペスト」を下敷きにしていることはよく知られていて、最初に劇場(名画座ミラノ、すでに「名画座料金」ではなくなっていた)で観た時も、同時期の作品「宇宙水爆戦」('55年)などに比べてよく出来ているように思いました。

宇宙水爆戦1.jpg 「宇宙水爆戦」の方は結構キッチュ趣味と言えるかも。惑星間戦争で絶滅の危機にある星の異星人の科学者が、地球の科学者に協力を依頼するが、実はその星の指導者は地球を支配して移り住むことを企んでいた―というストーリーですが、最後、事件が一見落着したかと思ったら、宇宙船内に潜んでいた宇宙昆虫人間みたいなミュータントに襲われそうになるという―このとってつけたように出現するミュータントがポスターなどではメインになっていて、それだけストーリーは印象に残らないといことでしょうか。ストーリー的にも怪物キャラクター的にも、当時流行ったSFパルプマガジンの影響を強く受けているようです(そのこともキッチュ感に繋がる要因か。でもこのキッチュ感こそが、この作品の根強い人気の秘密かも)。

宇宙家族ロビンソン3.jpg 一方、「禁断の惑星」に出てくる有名キャラクターは万能ロボット「ロビー」で、これを参照したのが60年代に作られたテレビ番組「宇宙家族ロビンソン」に出てくるロボット(愛称:フライデー)だったりし、先駆的な要素も結構あったわけです(「宇宙家族ロビンソン」には外にも「宇宙水爆戦」も参考にしている箇所が幾つかある)。

刑事コロンボ 愛情の計算2.png刑事コロンボ 愛情の計算.jpg 因みに、このロボットは、「刑事コロンボ」の第23話「愛情の計算」('74年)にも"ゲスト出演"してロビーとフライデー.jpgおり(下半身の造りが二本脚から台座型に変わっている)、人工知能研所の所長である犯人のアリバイ作りに一役買っていますが、ロボットのキー・ボードを叩く手つきの大雑把さを見ると、ちょっと所長の代役をさせるには無理な感じも。

ロビー(「禁断の惑星」)とフライデー(「宇宙家族ロビンソン」)のおもちゃ

 事件の鍵を握る天才少年の名は、スティーブン・スペルバーグで、これは勿論、コロンボ・シリーズ第3話「構想の死角」を撮ったスピルバーグ監督の名前をもじったもの。息子を庇う親心を利用して犯人を自白に追い込むというのは、後のフェイ・ダナウェイが犯人役を演じた第62話「恋におちたコロンボ」('93年)でもFaye Dunaway & Peter Falk.jpg恋におちたコロンボ2.jpg(こちらは娘を庇ってだが)使われましたが、真犯人ではないと分かっていながら拘束するのはいかがなものでしょうか(「恋におちたコロンボ」の脚本はピーター・フォーク自身が手掛けている)。但し、フェイ・ダナウェイの演技力はさすが。70年代のシリーズ作に比べ見劣りがする90年代のシリーズ作(特に後期作品)の中では、ひときわ映える名犯人役と言っていいのではないでしょうか。
Faye Dunaway & Peter Falk

アン・フランシス「死の方程式」「溶ける糸
死の方程式 アン・フランシス.jpg溶ける糸3 アン・フランシス.jpg 因みに「刑事コロンボ」シリーズに出たのはロボットだけではなく、アン・フランシスも「刑事コロンボ」の第8話「死の方程式」('72年)にロディ・マクドウォール(「猿の惑星」)演じる犯人の秘書兼愛人役で、第15話「溶ける糸」('73年)にレナード・ニモイ(「スタートレック」)演じる犯人に殺されてしまう看護婦役で出ているし、レスリー・ニールセンも、第7話の「もう一つの鍵」で、犯人である広告会社役員役のスーザン・クラークの恋人役で、第34話「仮面の男」('75年)で、元同僚のスパイに殺害される被害者役仮面の男2.jpg刑事コロンボ 仮面の男2.jpgで出ています。

レスリー・ニールセン 「仮面の男

 レスリー・ニールセンはこの頃もまだ二枚目俳優で(コメディ初出演は「フライング・ハイ」('80年))、「禁断の惑星」や「刑事コロンボ」の演技と「裸の銃(ガン)を持つ男」('88年)の演技を比べてみるのも一興でしょうか。コメディ俳優としてブレイクするきっかけとなった「裸の銃を持つ男」ではエリザベス女王裸の銃(ガン)を持つ男(1988).jpgをはじめフセイン大統領、ホメイニなど様々な人物をコケにし、「裸の銃を持つ男PART2 1/2」('88年)では当時のアメリカ大統領裸の銃(ガン)を持つ男2.jpgジョージ・ブッシュをコケにしています。「裸の銃を持つ男PART33 1/3 最後の侮辱」('94年)までプリシラ・プレスリー、ジョージ・ケネディ、O・J・シンプソンという共演トリオは変わらず和気藹々といった雰囲気でしたが、O・J・シO・J・シンプソンs.jpgンプソンは'94年に発生した元妻の殺害事件(「O・J・シンプソン事件」)の被疑者となってしまいました(刑事裁判で殺人を否定する無罪判決となったが、民事裁判では殺人を認定する判決が下った)。


Forbidden Planet3.jpg 「禁断の惑星」という作品は、ストーリーも凝っているように思われ、「テンペスト」をなぞるだけでなく、「イドの怪物」という精神分析的な味付けがされていて、ファーザー・コンプレックスがモチーフになっているように、フロイディズムの影響も濃く滲んでいます。
 また、ロボット・ロビーが博士に怪物の攻撃を止めるよう命じられても出来ないのは、アイザック・アシモフの「ロボット3原則」が下敷きになっているわけですが、この「ロボット3原則」は「ロボコップ」('87年/米)のラストなどにも援用されていたなあ。

 「禁断の惑星」も、時代ものSFパルプマガジンをそのまま映像化したような雰囲気はあるものの、それでいて結構おシャレな、レトロ・モダン感満載の"未来"像が楽しめるし、アン・フランシスがパルプマガジンの表紙そのままに超ミニで歩き回るし、この作品が実質的には映画デビュー作であるアダムス機長を演じたレスリー・ニールセンは、多分大多数の日本人がイメージしキャプテンウルトラ222.jpgている彼の演技とは全く異なる演技をしているし(昔の怪獣映画の宝田明や夏木陽介の感じ、乃至は、背景も含めると「キャプテンウルトラ」('67年)の中田博久の方がより近いか)、いろいろと見所が多い作品です(「なぜウチの中にビオトープがあるのか?」とか、突っ込み所も含めて)。

キャプテンウルトラ ハック2.jpg 尚「キャプテンウルトラ」にも、「宇宙警察パトロール隊」と共に「宇宙船シュピーゲル号」(なぜか「鏡」を意味するドイツの有名週刊誌の名前)に乗り込み、バンデル星人や怪獣たちと戦い続ける万能ロボット「ハック」が登場しますが、こちらは「ゴジラ」以来の日本の"伝統"か(この番組の制作城野ゆき.jpg会社は東映)、着ぐるみっぽいロボットでした。このシリーズは、脚本が番組放送に追いつかなくなった「ウルトラマン」と、その後継番組として構想されていた「ウルトラセブン」との間の所謂「つなぎシリーズ」だったので、書割りのような背景からも察せられる通り、番組制作予算は限られていたようです。その後ウルトラ・シリーズでお決まりとなる"紅一点"の女性隊員は、ここでは「アカネ隊員」ですが、「ウルトラマン」で桜井浩子が演じた「フジ・アキコ隊員」、「ウルトラセブン」で菱見百合子が演じた「アンヌ隊員」と並んで、この「キャプテンウルトラ」で城野ゆきが演じた「アカネ隊員」も、今も第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」.jpgって人気があるようです。いわばフジ・アキコ隊員の後輩格、アンヌ隊員の先輩格になりますが、アカネ隊員は紅一点と言うより"準主役"と言った方がいいかも。アカネ隊員は番組の最初から準主役級でいたわけでなく、レギュラーメンバーだった「キケロ星人ジョー」(演じていたのは無名時代の小林稔侍)が子供たちに不人気で12回までで降板(キケロ星に帰郷したことにされてしまった)、それと入れ替わるようにして(重なっている時期がある)レギュラーメンバーとして準主役となったものです。このアカネ隊員、もともと変装を得意とし、一度だけコスプレっぽい服を着ていたことがありましたが(第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」)、あれは一体なんだったのか(「禁断の惑星」のアン・フランシスを意識したのか)。
 

禁断の惑星 11 アンフランシス.jpg SFパルプマガジン風ファッション

禁断の惑星 21 アン・ニールセン.jpg 万能ロボット・ロビー登場

禁断の惑星 20 アン.jpg なぜウチの中にビオトープがあるのか?

禁断の惑星 04 アン・レスリー.jpg アン・フランシス/レスリー・ニールセン
Forbidden Planet(1956)
Forbidden Planet(1956).jpg
「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98しねまみらの.jpgシネマミラノ.jpg分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシスレスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス/ボブ・ディックス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
名画座ミラノ 1971年11月30日、歌舞伎町「東急ミラノビル」4Fに「名画座ミラノ」オープン、→1987年10月26日~封切館「シネマミラノ」、2006年6月1日~「新宿ミラノ3」(209席) 2014(平成26)年12月31日閉館。
新宿東急ミラノビル4館(シネマミラノ・ミラノ座・新宿東急・シネマスクエアとうきゅう)2005年8月
新宿ミラノ会館4館 20051.08.jpg

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作: レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]」 

宇宙家族ロビンソン dvd.jpg宇宙家族ロビンソン l.jpg宇宙家族ロビンソンの一コマ.jpg「宇宙家族ロビンソン」Lost in Space (CBS 1965~68) ○日本での放映チャネル:TBS(1966~68)
(全3シーズン。第1シーズンはモノクロ、第2シーズンからカラー)

宇宙家族ロビンソン ファースト・シーズン DVDコレクターズ・ボックス 通常版」 
  
刑事コロンボ 愛情の計算 vhs.bmp「刑事コロンボ/愛情の計算」●原題:MIND OVER MAYHEM●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:アルフ・ケリン●脚本:スティーブン・ボッコ/ディーン・ハーグローブ/ローランド・キビー刑事コロンボ 愛情の計算3.bmp●原案:ロバート・スペクト●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/ホセ・ファーラー/ロバート・ウォーカー/ジェシカ・ウォルター/リュー・エヤーズ/リー・H・モンゴメリー/アーサー・バタニデス/ジョン・ザレンバ/ウィリアム・ブライアント/ルー・ワグナー/バート・ホランド●日本公開:1974/08●放送:NHK総合(評価:★★★)特選 刑事コロンボ 完全版「愛情の計算」【日本語吹替版】 [VHS]

恋におちたコロンボ1.jpg「新・刑事コロンボ/恋におちたコ恋におちたコロンボ dvdブック.jpgロンボ」●原題:IT'S ALL IN THE GAME●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ビンセント・マクビーティ●製作:クリストファー・セイター●脚本:ピーター・フォーク●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/フェイ・ダナウェイ/アルマンド・プッチ/クローディア・クリスチャン/ジョン・フィネガン/ビル・メイシー/シェリー・モリソン/ブルース・E・モロー/ジョニー・ガーデラ/ダグ・シーマン/ダニエル・T・トレント/トム・ヘンシェル日本公開:1999/05●放送:NTV(評価:★★★☆)
新刑事コロンボDVDコレクション 17号 (恋におちたコロンボ) [分冊百科] (DVD付)

裸の銃(ガン)を持つ男 dvd.jpg裸の銃(ガン)を持つ男 1.jpg「裸の銃(ガン)を持つ男」●原題:THE NAKED GUN:FROM THE FILES OF POLICE SQUAD!●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・ザッカー●製作:ロバート・K・ウェイス●脚本:ジェリー・ザッカー/ジム・エイブラハムズ/デヴィッド・ザッカー/パット・プロフト●撮影:ロバート・スティーヴンス●音楽:アイラ・ニューボーン●時間:85分●出演:レスリー・ニールセン/プリシラ・プレスリー/ジョージ・ケネディ/O・J・シンプソン/リカルド・モンタルバン/ナンシー・マルシャン●配給:UIP映画配給●日本公開:1989/04(評価:★★★☆)
裸の銃(ガン)を持つ男 [DVD]

「キャプテンウルトラ」中田.jpgキャプテンウルトラ.jpg「キャプテンウルトラ」●演出:佐藤肇/田口勝彦/加島昭/竹本弘一/山田稔/富田義治ほか●制作:平山亨/植田泰治●脚本:大津皓一/高久進/長田紀生/井口達/伊上勝ほか●音楽:冨田勲●出演:中田博久/城野ゆき小林稔侍/伊沢一郎/安中滋/相馬剛三/都健二/田川恒夫●放映:1967/04~09(全24回)●放送局:TBS 「キャプテンウルトラ Vol.2 [DVD]

(第9話怪生物バンデルエッグあらわる .jpgキャプテンウルトラ」第9話42.jpg「キャプテンウルトラ(第9話)/怪生物バンデルエッグあらわる」●制作年:1967年●監督:加島昭●脚本:鈴木良武/伊東恒久●音楽:冨田勲●時間:92 分●出演:中田博久(第9話)怪生物バンデルエッグあらわる kobayasi.jpg小林稔侍城野ゆき/伊沢一郎/安中滋/佐川二郎/桐島好夫/川田信一/(以下、非レギュラー)八名信夫/三重街恒二/大槻憲/木内博之/比良元高●放送局:TBS●放送日:1967/06/11(評価:★★★)

中田博久(キャプテンウルトラ=本郷武彦)/城野ゆき(アカネ隊員)第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」
キャプテンウルトラ」9.jpg キャプテンウルトラ」第9話61PQCFU.jpg
「キャプテンウルトラ」第1話「バンデル星人襲来す」 
」第1話「バンデル星人襲来す」.jpg

キャプテンウルトラ 第1話 「バンデル星人襲来す」.jpg 城野ゆき(アカネ隊員)1_500.jpg アカネ隊員cp.jpg 城野ゆき(アカネ隊員)
小林稔侍(キケロ星人ジョー)[当時26歳]/「シュピーゲル号」プラモデル
キャプテンウルトラ 小林稔侍.jpg シュピーゲル号.jpg

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トム・クルーズとニコール・キッドマンが夫婦だった頃。「オクラホマ・ランドラッシュ」が印象深かった「遥かなる大地へ」。

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遥かなる大地へ 4.jpg 農民が地主の横暴に苦し遥かなる大地へ3.jpgめられた19世紀末のアイルランド、農夫ジョセフ(トム・クルーズ)の父も、厳しい地代の取立ての混乱で事故死する。更に地主の配下に家を焼かれ、怒ったジョセフは地主を射殺しようと地主邸に向かうが失敗、銃の暴発のため負傷し、復ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」2.jpg讐相手の邸で介抱を受けるという間抜けな結果となる。そこには、放火の張本人で地主令嬢と結婚を図るスティーブン(トーマス・ギブソン)がいて、ジョセフは彼を襲うも再度失敗し、彼と決闘させられることに。そこへ、実はスティーブンのお高くとまった性格が嫌いで、堅苦しい生活を捨てアメリカ行きを望む地主令嬢のシャノン(ニコール・キッドマン)が現れ、ジョセフを攫うように連れ去り、二人のアメリカ行きの旅が始まる―。

1889年のランドラッシュ
オクラホマ・ランドラッシュ.jpg アイルランド系移民の苦労を描いたロン・ハワード監督の'92年作品で、トム・クルーズとニコール・キッドマンが仲良かった頃、と言うか、結婚したての頃の作品ですが、映画の中に出てくる「オクラホマ・ランドラッシュ」というのが印象深かったです。ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」.jpg1889年4月22日の正午を境にオクラホマへの白人の入植が認められた。同年同月日には15ドルの入植手続き料を支払った人々がオクラホマとの境界に集まり、正午を告げる号砲が鳴ると一斉にオクラホマへと乗り込んでいった。彼らは一人当たり160エーカー(65ヘクタール)の土地を手に入れることができた――これは、新大陸のフロンティア時代の入植者に土地を無料で配るというもので、移民たちが白線に並んで「用意ドン!」で駆けっこして、ここからここまでは自分の土地だと主張した範囲の土地が与えられるというスゴイものなのですが(当然、そこで醜い争いも生じる)、お嬢さんだが気が強いシャノンと、自分の土地を得るにはこの方法しかないと考えるジョセフは、このレースに参加する―。

遥かなる大地へ 2.jpg ロン・ハワードにはアイルランド人の血が流れていて、祖先にはこのオクラホマのランド・ラッシュに実際に参加した人もいたとのことで、随分前からこの映画の構想は練っていたそうです。ニコール・キッドマンをヒロインに想定していたところに、トム・クルーズが出演の名乗りを上げたそうですが、ロン・ハワードは当時二人が交際していることを知らなかったそうです。因みに、トム・クルーズ自身にもアイルランド人の血が流れています。

ニコール・キッドマン.jpg 2人ともいい演技をしています。特に、上流意識を持ち、気位が高いながらも、ボディガード代わりに連れてきたトム・クルーズに内心では惹かれていくニコール・キッドマンの演技がいい(トム・クルーズはこの映画の随所で、状況の急な変化に振り回される、三枚目的な味を出している)。

 フランク・キャップラの「或る夜の出来事」の、寝室で男女がロープにシーツを吊るして「こちらへ先は入ってこないように」というルールを作る「ジェリコの壁」のエピソードなどがパロディ的に織り込まれているなど、細かいところでも楽しめました。

ニコール・キッドマン

ロン・ハワード.jpg 移民たちが駆けっこして奪い合っている土地は、元々は北米原住民のものであるはずという批判的な見方も出来ますが、この映画が日本でも本国でもあまりヒットしなかったことを思うと、もう少し注目されても良かったのでないかと。ロン・ハワードは両親とも俳優だったので、子役の頃から多くのテレビドラマや映画に出演していましたが(「アメリカン・グラフィティ」('73年)などに出ていた)、その後映画監督に転身し、この作品の後「アポロ13」('95年)から「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)まで多くのヒット作を飛ばし、その間「ビューティフル・マインド」('01年)でアカデミー賞監督賞を受賞したりしもして、監督として成功したと言えます。アカデミー賞に関しては、ニコール・キッドマンも「めぐりあう時間たち」('02年)で主演女優賞を獲っています。
ロン・ハワード

トップガン チラシ.jpgトップガン クルーズ.jpgトップガンR.jpg 一方のトム・クルーズは、それ以前に「トップガン」('86年)で一躍世界的なスターになっていたわけで、日本でもこの映画は大ヒットしました。まあ、米海軍が協力を惜しまない "USネイビィのリクルート戦略"の一環のような映画でした。「ハンガー」(′83年/英)のトニー・スコット監督(「エイリアン」(′79年/米)のリドリー・スコット監督の弟)はハリウッドに渡って から「スパイ・ゲーム」('01年)、「アンストッパブル」('10年)など娯楽指向にがらっと作風が変わったみたいですが、この映画に関する個人的印象としては、パターン化されたストーリーで、F-14トムキャットのみが唯々美しかった...。

アンソニー・エドワーズ.jpg ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら若手俳優の出世作としても知られ、「ER 緊急救命室」の"グリーン先生"ことアンソニー・エドワーズがトム・クルーズの同僚パイロット役で出てましたが、出ていた記憶が薄いのはまだ髪の毛が濃かったせいでしょうか。ともかく、トム・クルーズ人気を一気に高めた作品であって、その分だけ相対的に他の俳優の影が薄い? 後になって、あの人も出ていた、この人も出ていたと言われる映画です(当時まだ皆さほど名が知れてなかったということもあるが)。

 「トップガン」は日比谷スカラ座('98年に閉館)で観たのですが、この劇場は旧「東京宝塚劇場」内にあって、観に行った時はちょうど宝塚の公演がはねた後の「お見送り」で、女性ファンが劇場前に溢れていました。その合間をぬって映画館のフロアに行くと、今度はトム・クルーズのファンだと思われる女性達で一杯...。

ケリー・マクギリス7.jpg トム・クルーズの当時の人気はすさまじく、その勢いで「トップガン」と同年にマーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」('86年)に出演、翌々年にはロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」('88年)、バリー・レヴィンソン監督の「レインマン」('88年)に出演、「ハスラー2」はポール・ニカクテル01.jpgューマンに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、ダスティン・ホフマンと共演した「レインマン」は第61回アカデミー賞と第46回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、さらに第39回ベルリン国際映画祭においてそれぞれ作品賞を受賞しました。一方、トム・クルーズのスマイルと、フレアバーテンディングによるカクテル作りの派手なパフォーマンスでヒットを博した「カクテル」は、(一応"原作"はあるようだが)完全なトム・クルーズ・ファンのためのアイドル映画でした。これ、ビデオパーティで観た(90-04-01)のですが(自分で選んではいない)、当時の日本のバブリーな雰囲気にマッチしていた面もあったかも。
ケリー・マクギリス2.jpgケリー・マクギリス1.jpg  
 「トップガン」でトム・クルーズの相手役の女性教官を演じたのはケリー・マクギリスですが、トム・クルーズの身長は170cmであるのに対し、ケリー・マクギリスは身長178cmあります。このケリー・マクギリスには二度の離婚歴があり、二人の娘がいますが、2009年に自らがレズビアンであることをカミングアウトし、昨年(2010年)同性婚をしています。


刑事ジョン・ブック 目撃者  v.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス3.jpg ケリー・マクギリスは1982年に映画デビューしていますが、彼女を一躍有名にしたのは、ハリソン・フォードと共演し、アーミッシュの女性を演じた「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)でしょう(これも知人宅でのビデオパーティで観た(89-05-03))。ハリソン・フォード演じる警察の不正を知ったために警察に追われること刑事ジョン・ブック 目撃者 1.jpgになった刑事が主人公で、警察を舞台にした犯罪サスペンスかと思ったら、そのジョン・ブック刑事が匿われたアーミッシュの村の暮らしぶり(と言うより、アーミッシュの人々の考え方)が描かれていて、ある種カルチャーショック映画のようになっていました。ハリソン・フォードはアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、来日した時に、今まで出演した中で一番印象に残っている作品として、この「刑事ジョン・ブック 目撃者」を挙げていました。この作品でのハリソン・フォードの演技の延長上に、後の「フランティック」('90年)や「推定無罪」('90年)、「逃亡者」('93年)などにおける彼の演技があるともとれます。

 主人公のジョン・ブック刑事は最後、ケリー・マクギリス演じるアーミッシュの子持ち未亡人女性と互いに想い合うようになりながらも、住む世界が違うため村を去っていきますが、女性の子ども(彼が事件の「目撃者」)もジョン・ブックに馴染んでいて、ラストはちょっと「シェーン」('53年)と似ているなあと思い刑事ジョン・ブック 目撃者 4.jpgました。女性がアレクサンドル・ゴドゥノフ演じる許嫁候補(?)と仮に結婚したとしても、ずっとジョン・ブックのことを思い続けるのでしょう(「シェーン」にも同じことが言えるが、旦那または許刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス.jpg嫁は"立場ない"なあ)。それにしてもケリー・マクギリス、最初の主演作がハリソン・フォードの相手役で、次がトム・クルーズの相手役であったわけで、当時の圧倒的な美貌のせいもあってか、キャリアの最初の方がとりわけ華々しかったです。

ケリー・マクギリス

「トップガン マーベリック」2022.jpg(●2022年にジョセフ・コジンスキー監督による「トップガン マーヴェリック」('22年/米)が公開され「トップガン マーベリック」2.jpgた。「トップガン」から36年ぶりの続編で、トム・クルーズが前回同様マーヴェリック役を演じ、米海軍パイロットのエリート養成学校、通称"トップガン"に教官として戻ってくることになるも、結局、自らチームを率いて敵地へウラン濃縮施設撃破のために飛ぶことになるというもの。トム・クルーズは60歳で頑張っているなあという感じで、映画もヒットしているようだ。日本でも世代を問わず絶賛する声が多い。ただ、前作と異なり、映画評論家までが褒めていたりするのには違和感を感じる。俳優のミッキー・ロークが、トム・クルーズが「トップガン マーヴェリック」で米国「トップガン マーヴェリック」コネリー.jpgで興行収入1位になったことについてどう思うかとの質問に、「あいつは35年間あんな同じ役を演じてるんだ。尊敬に値しないね」と言っており、そちらの方がまともなマトモな見方とも言える。ヒロイン役はジェニファー・コネリー(51歳)。ケリー・マクギリスは、自分のところには出演オファーが無かったと言っている(笑)。気になったのはストーリーで、教官が部下を救い、今度は部下が教官を救うという話は美しいが、敵地に不時着して、"たまたま近くあった"敵の戦闘機を強奪して帰還するというのはあまりに話が出来過ぎているように思った。かつて、クリント・イーストウッドが監督・主演した「ファイヤーフォックス」('82年)で、イーストウ「ファイヤーフォックス」1982.jpg「ファイヤーフォックス」2.jpg「ファイヤーフォックス」3.jpgッド演じる元米空軍パイロットがNATOの秘密ミッションでソ連に潜入し、最新鋭戦闘機「MiG-31 ファイヤーフォックス」を盗み出すという映画があったが、あれは最初から周到な計画のもとに敵地に潜入しているわけであって、しかも、「ファイヤ―フォックス」 イースト.jpg当時の〈東西冷戦〉状況を背景としているとはいえ戦闘機自体はパイロットの意志を感知してオートマチックに敵を攻撃する機能を搭載しているといった半ばSF仕立てでもあった(この機能は実際に研究されているが、まだ実現していない)。苦心惨憺の末に敵戦闘機に辿り着いたイーストウッドとの比較でみると、トム・クルーズの、不時着した付近にたまたま敵の戦闘機があったというのは、あまりにご都合主義的な話だったように思う。


ヴァル・キルマー (右写真は自身のインスタグラムに投稿したもの。映画より元気そう)
『トップガン マーヴェリック』ヴァル・キルマー.jpg 「トップガン マーヴェリック」には、トム・クルーズが前作と同じ"マーヴェリック"役で出ているほかに、ヴァル・キルマーが前作と同じ"アイスマン"役で出ていて、個人的には「トゥームストーン」('93年)でドク・ホリデイ役をやって、「ワイアット・アープ リベンジー荒野の追跡―」('12年)でワイアット・アープ役をやっていたのが印象にあるが、2015年からはずっと喉頭がんの闘病生活と俳優業を並行してやっていることになる。)


FAR AND AWAY 2.jpg「遥かなる大地へ」●原題:FAR AND AWAY●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ロン・ハワード●脚本:ボブ・ドルマン●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:140分●出演:トム・クルーズ/ニコール・キッドマン/トーマス・ギブソン/バーバラ・バブコック/シリル・キューザック/ロバート・プロスキー/コルム・ミーニー/アイリーン・ポロック/ミシェル・ジョンソン/ダグラス・ジリソン/ウェイン・グレイス/バリー・マクガヴァン●日本公開:1992/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★☆)

トップガン3.jpg「トップガン」●原題:TOP GUN●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr●撮影:ジェフリー・キンボール●音楽:ハロルド・ファルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/トム・スケリット/マイケル・ アイアンサイド/ジョン・ストックウェル/リック・ロソビ旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpgッチ/メグ・ライアン/ティム・ロビンス●日本公開:1986/12●配給:UIP●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-12-14)(評価:★★)
旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

カクテル 1988.jpgカクテル02.jpg「カクテル」●原題:COCKTALEN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロジャー・ドナルドソン●製作:テッド・フィールド/ロバート・W・コート●脚本:ヘイウッド・グールド●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ピーター・ロビンソン(主題歌:ザ・ビーチ・ボーイズ「ココモ」)●原作:ヘイウッド・グールド●時間:104分●出演:トム・クルーズ/ブライアン・ブラウン/エリザベス・シュー/ケリー・リンチ●日本公開:1989/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)
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刑事ジョン・ブック 目撃者 [DVD]
刑事ジョン・ブック 目撃者 poter.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 dvd2.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者ード.jpg「刑事ジョン・ブック 目撃者」●原題:WITNESS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・ウィアー●製作:エドワード・S・フェルドマン●脚本:ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス●撮影:ジョン・シール●音楽:モーリス・ジャール●時間:113分●出演:ハリソン・フォード/ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ジョセフ・ソマー/ダニー・グローヴァー/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/パティ・ルポーン/ブレント・ジェニングス/アンガス・マッキネス/フレデリック・ロルフ/ヴィゴ・モーテンセン●日本公開:1985/06●配給:UIP(評価:★★★☆)


「トップガン マーヴェリック」3.jpg「トップガン マーヴェリック」●原題:TOP GUN: MAVERICK●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフtoho上野 ウルトラマン・トップガン.jpg・コシンスキー●製作:ジェリー・ブラッカイマー/トム・クルーズ/クリストファー・マッカリ「トップガン マーヴェリック」2.jpgー/デヴィッド・エリソン●脚本:アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー●撮影:クラウディオ・ミランダ●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー/レディー・ガガ/ハンス・ジマー●時間:131分●出演:トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/エド・ハリス/ヴァル・キルマー●日本公開:2022/05●配給:東和ピクチャーズ●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン2)(22-07-12)(評価:★★☆)

「トップガン マーヴェリック」プロモーション用オリジナルポスター 
    
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「ファイヤーフォックス」ち.jpg「ファイヤーフォックス 特別版.jpg「ファイヤーフォックス」●原題:FIREFOX●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/ウォーレン・クラーク●脚本:アレックス・ラスカー/ウェンデル・ウェルマン●撮影:ブルース・サーティース●音楽:モーリス・ジャール●原作:クレイグ・トーマス●時間:136分●出演:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/デイヴィッド・ハフマン/ウォーレン・クラーク/ロナルド・レイシー/ケネス・コリー/クラウス・ロウシュ/ナイジェル・ホーソーン/ステファン・シュナーベル/ヴォルフ・二子東急 1990.jpgカーラー/トーマス・ヒル/クライヴ・メリソン/カイ・ウルフ/ディミトラ・アーリス/オースティン・ウィリス/マイケル・カリー/二子東急.gifジェームス・ステイリー/ウォード・コステロ/アラン・ティルヴァー●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-25)(評価:★★★)●併映:「ポルターガイスト」(トビー・フーパー)

二子東急のミニチラシ.bmp二子東急 場所.jpg二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館

 
   
 
1985年3月31日 二子玉川園最終営業日(写真:フォートラベル)
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《読書MEMO》
MSN産経ニュース
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「初体験/リッジモント・ハイ」 (82年/米)2.jpg 主役を食ったロバート・デ・ニーロ、映画を食ってしまったショーン・ペン。

ミーン・ストリート dvd.jpg Mean Streets.jpg 初体験リッジモント・ハイ dvd.jpg 初体験/リッジモント・ハイ dvd.jpg
ミーン・ストリート [DVD]」Harvey Keitel(ハーヴェイ・カイテル),Robert De Niro「初体験 リッジモント・ハイ [DVD]」/「初体験リッジモント・ハイ コレクターズ・エディション [DVD]」Phoebe Katz(フィービー・ケイツ)

「ミーン・ストリート」_1.jpgMEAN STREETS 2.jpg 「ミーン・ストリート」('73年/米)は、マーティン・スコセッシ 監督の初期の映画で、しがないヤクザ者のチャーリー(ハーヴェイ・カイテル)が、組織に対する忠誠心や自分の生き方に自信を持てないでいる一方、気分によって仕事をし、酒・博打・女による借金で首が回らなくなっている親友のジョニーボーイ(ロバート・デニーロ)をかばい続けるがばかりに、共に窮地に追い詰められていく―という話。

MEAN STREETS.jpg  本来の主役はハーヴェイ・カイテルであり、親友を巡って葛藤する青年を見事に演じているのですが、それを凌いでいるのが、ジョニーボーイという無頼のキャラクターを演じているロバート・デ・ニーロ(当時29歳)の演技で、そのハチャメチャぶりと破滅型人格の底に滲む哀感には、当時スゴい役者が現れたものだと思わせるものがあったのではないでしょうか。

 ロバート・デ・ニーロはその後、「ゴッドファーザーPARTII」('74年/米)に出演し、「タクシードライバー」('76年/米)では、ハーヴェイ・カイテルと主演・助演が入れ替わっていますが、「ミーン・ストリート」の時点で、すでに主役を食っていたなあと(「タクシードライバー」の3年前に作られたこの映画の日本での公開は、「タクシードライバー」公開の4年後だった)。

RIDGEMONT HIGH.jpgフィービー・ケイツ リッチモンドハイ.bmp 「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)は(故・伊藤計劃の『虐殺器官』('07年/早川書房)を読んでいたら、この映画のことがちらっと出imagesI35HWSBZ.jpgてきた)、アメリカの高校生達の恋と青春を描いた作品で、当時人気のフィービー・ケイツ(Phoebe Cates、中初体験/リッジモント・ハイ   .jpg学生のようなルックスと大学生のような肉体の持ち主である彼女には、ロシア系、中国系などの血が混ざっている)を中心に据えたアイドル映画ですが(ストーリー上の主人公はジェニファー・ジェイソン・リーJennifer Jason Leigh)、学生になりすまして母校リッジモント・ハイに潜入し若者たちの生態を観察したキャメロン・クロウの同名原作が元になっており、高校生の実態を世の大人たちに知らしめる啓蒙的意図を持った作品でもあったようです。

グレムリン 00.jpgPhoebe Cates in Gremlins.jpgフィービー・ケイツ ロードショー.jpg フィービー・ケイツはこの作品の2年後、ジョー・ダンテ監督の「グレムリン」('84年/米)に主演し、日本でもその年(昭和59年)のクリスマス映画として公開されましたが大ヒットし(そもそも"モグワイ"という珍獣は、クリスマス・プレゼントだった。どうしてグレムリン  dvd.jpgアメリカでは6月公開だったのか)、彼女の日本での人気も一気に高まりました。あの中で、彼女演じる少女がクリスマスが嫌いだと言って、その理由が、自分の父親がクリスマスにいなくなって、1年後に煙突掃除したらサンタクロースの格好をした父親が出てきた、途中で詰まって死んじゃったんだという話を、可愛い顔してさらっとしてみせるのにはややビックリしました(ジョー・ダン監督特有のブラックユーモアだったのだろなあ)。

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RIDGEMONT HIGH 1.jpg フィービー・ケイツが日本でホントにブレイクしたのは、やはり「グレムリン」ではないでしょうか。個人的には、この「初体験/リッジモント・ハイ」を観て最も印象に残ったのは、教室内の不良少年の1人で、その悪ガキぶりは演技を超えて本物の不良に見え、しかも、本当に少しキレてしまっているような感じさえありました。この不良少年を演じたのがショーン・ペンで(Sean Penn、当時22歳と高校生役にしては結構老けていた)、ちょっと狂った若者を映画に出させたわけではなく、やはり類稀なる演技力の賜物だったのだと、後で思いました(前年の「タップス」('81年/米)にも出ていたらしいが、坊主頭のトム・クルーズ(当時19歳)の方が印象深い)。

Fast-Times-at-Ridgemont-High.jpg その後、ショーン・ペンの方は、デ・ニーロを超える2度のアカデミー主演男優賞を受賞するまでの俳優になっていますが、「リッジモント・ハイ」に関して言えば、こんなたわいもないアイドル映画(乃至は"啓蒙映画")の中に置くにはあまりに"規格外"な存在であり、作品そのものの予定調和を掻き乱し、結果として映画そのものを食ってしまったという印象があります。

FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH.jpg 映画公開時は準主役というより脇役に近かったと思いますが(ポスターの右上に小さく写真が出ているだけ)、最近のDVDカバーなどでは彼の写真が前面に使われていて、「無名時代のショーン・ペンを観ることが出来る作品」というのがウリになっているのかも(売り出し前のニコラス・ケイジフォレスト・ウィッテカー、後の「ER」のグリーン先生ことアンソニー・エドワーズなども高校生役で出ている)。

『ミーン・ストリート』(1973).jpg「ミーン・ストリート」●原題:MEAN STREETS●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マーティン・スコセッシ/ジョナサン・T・タプリン●脚本:マーティン・スコセッシ/マーディック・マーティン●撮影:ケント・ウェイクフォード●時三鷹オスカー.jpg間:115分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ハーヴェイ・カイテル/デヴィッド・プローヴァル/エイミー・ロビンソン/ロバート・キャラダイン/デヴィッド・キャラダイン/リチャード・ロマナス●日本公開:1980/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-18)(評価:★★★★)●併映「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)

初体験/リッジモント・ハイ2.jpg「初体験/リッジモント・ハイ」●原題:FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:エイミー・ヘッカーリング●製作:アート・リンソン/アーヴィング・エイゾフ●脚本:キャメロン・クロウ●撮影:マシュー・F・レオネッティ●音楽:アーヴィング・エイゾフ●原作:キャメロン・クロウ●時間:90分●出演:ジェニファー・ジェイソン・リー/フィービー・ケイツ/ショーン・ペン/ジャッジ・ラインホールド/ニコラス・コッポラ/ニコラス・ケイジ/フォレスト・ウィッテカー/ブライア初体験/リッジモント・ハイ ポスター.jpgン・ベッカー/ヴィンゼント・スキャベリ/アンソニー・エドワーズ/エリック・ストルツ●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:中中野武蔵野ホール.jpg野武蔵野館(83-07-02)(評価:★★☆)●併映「マイ・ライバル」(ロバート・タウン) 
[上左]「初体験/リッジモント・ハイ」映画公開時ポスター(ショーン・ペンの写真は右上丸囲み内)

「グレムリン」ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ
「グレムリン」ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ.jpgグレムリン000.jpg「グレムリン」●原題:GREMLINS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ジョー・ダンテ●製作:マイケル・フィネル●脚本:クリス・コロンバス●撮影:ジョン・ホラ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:106分●出演:ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ/ホイト・アクストン/フランシス・リー・マッケイン/ポリー・ホリデイ/コリー・フェルドマン●日本公開:1984/12●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(84-12-29)(評価:★★★)

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"リンカーン・ライム"シリーズ第1作。長所においても欠点においても、原点的作品。

ボーン・コレクター 単行本.jpg   ボーン・コレクター 上.jpg ボーン・コレクター下.jpg  THE BONE COLLECTOR.jpg
 『ボーン・コレクター』['99年]『ボーン・コレクター〈上〉(文春文庫)』『ボーン・コレクター〈下〉(文春文庫)』「ボーン・コレクター [DVD]
ディーヴァー 『ボーン・コレクター』.jpgボーン・コレクター 洋書.jpg 1999(平成11)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位、(2000 (平成12) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 "世界最高の犯罪学者"リンカーン・ライムは、ある事故によって四肢麻痺になり、安楽死を願っていたが、そんな彼に、不可解な誘拐殺人事件の知らせが届く。犯行現場に次の殺人の手がかりを残してゆくボーン・コレクターの挑戦に、ライムの犯罪捜査への情熱が再び目覚め、殺人現場の鑑識を嫌々引き受けていたアメリア・サックス巡査も、やがて事件解明に引き込まれてゆく―。

 1997年に発表されたジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズ第1作で、この人の小説は「ジェットコースター・サスペンス」と言われるだけに、長さを感じさせないスピード感がありますが、そもそも、全体で僅か3日の間の出来事なので(その間5人の犠牲者が"詰まって"いる)、出来るだけ一気に読んだ方がいいように思います。

 ジェフリー・ディーヴァーは1950年生まれ、弁護士資格を持ち(専門は会社法)、1990年までウォール街に勤務していたそうですが、科学的犯罪捜査に関するこの知識量は凄いなあ。
 但し、そうした蘊蓄だけでなく、女性巡査サックスが、突然上司となったライムに最初は反発しながらも、仕事を通して彼との距離を縮めていく(同時に、鑑識捜査官らしくなっていく)変化なども、丁寧に描かれています。

 犯人が意外と言うか、やや唐突であったりする欠点や、捜査陣の身内に犯人からの直接的な危害が及ぶという、やや無理がある、しかし、このシリーズでは定番化しているパターンなども含めて、シリーズの原点と言える作品。

ボーン・コレクター 映画.jpg '99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。

 原作はかなり内容が詰まっているだけに(とりわけ科学捜査の蘊蓄が)、これを2時間の映画にしてしまうことで抜け落ちる部分が多すぎて、役者陣のこともあり、映画は原作とは雰囲気的には別のものになってしまったというところでしょうか。そうした意味では、映画を既に観た人でも、原作は原作として充分楽しめると思います。

ジョリー  ヴォイドs.jpgトゥームレイダー ジョリー.jpg このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリートゥームレイダー19.jpgも役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」('08年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
 

ボーン・コレクターs.jpgボーン・コレクター dvd.jpg「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)
トゥームレイダー [DVD]

トゥームレイダー.jpgトゥームレイダー  .jpg「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100fhd001TRO_Angelina_Jolie_050.jpgア分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)
Lara Croft Tomb Raider : Jon Voight and his daughter Angelina Jolie
TOMB RAIDER Jonathan  Voight.jpg TOMB RAIDER Jonathan  Voight2.jpg

モデル時代のアンジェリーナ・ジョリー(15歳)  Angelina Jolie
アンジェリーナ・ジョリー モデル.jpgアンジェリーナ・ジョリー.jpg アンジェリーナ・ジョリー.bmp

 【2003年文庫化[文春文庫(上・下)]】 

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入門書の体裁をとりながらも、北森神学の特徴が随所に。聖書の物語の映像化は難しい?

聖書の読み方 講談社現代新書.gif 『聖書の読み方 (講談社現代新書 266)』 ['71年] 聖書の読み方 講談社学術文庫.jpg 『聖書の読み方 (講談社学術文庫)』 ['06年]

kitamori.jpg聖書の読み方 .jpg 北森嘉蔵(きたもり・かぞう、1916‐1998/享年82)は、文芸評論家であり牧師でもある佐古純一郎・二松学舎大学名誉教授の言葉を借りれば、キリスト教が日本の社会で市民権をもつために決定的な貫献をなした人物とのことで、若かりし時から天才ぶりを発揮し、30歳そこそこで発表した『神の痛みの神学』('46年発表)は教会内外に波紋を投げかけ、この人の神学は「北森神学」とも呼ばれていますが、本書は、50代半ば頃に書かれた一般向けの聖書入門書、但し、「北森神学」の入門書になっている面もあるようです。

 著者が本書で提唱している初学者向けの聖書の読み方は、「新幹線から各駅停車へ」というもので、初めて聖書を読むとわからないところばかりで、感動して立ち止まるような箇所はなかなか無いだろうけれども、そういう箇所に出会うまではノン・ストップでひたすら読んでいって構わないと。そのうち、そうした感動出来る箇所に出会うだろうから、そうした時にだけじっくり読めばよく、「あらゆる箇所で感動して停止せねばならぬ」ことはない、但し、これを繰り返すと、次第に感動出来る箇所が増え「各駅停車」の読み方になってくるといことで、そのベースにある考え方は、感動は自発的なものであって、義務ではないということです。

奇跡.jpg 日本人が聖書を読んでよく引っ掛かるのが「奇跡」に関することですが、著者は、「奇跡」と「異象(異常な現象)」とは別であり、現象として信仰の有無に関係なく、誰にも認識できるものは(現象化されたもの)は「奇跡」ではなく「異常な現象」であり、「奇跡」とは認識の対象ではなく、現象の背後にあるものに対する信仰の対象であるとしていて、こうした見方を通して、処女降臨やキリストの復活をどう読むかが、分かり易く解説されています。

 この箇所を読んで思い出すのが、カール・テオドア・ドライヤー監督のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「奇跡」('54年/デンマーク)という映画で(原題"Ordet"の意味は「言葉」)、1930年頃のデンマークという比較的現代劇に近い状況設定において、それまでの家族間の愛憎を写実的に描いた流れの中で、実際に復活の奇跡が起きるというラストは、大いに感動させられる一方で、どこか別の部分で、奇跡を真面目に映像化するのは難しいなあと思ったりもしました。

奇跡 岩波ホール.jpgドライヤー奇跡.jpg '08年にBS2でも放映されましたが、同じような印象を再度受け、映画そのものは静謐なリアリズムを湛えた、恐ろしいほどの美しさのモノクロ映画で、まさに自分の好みでしたが、最後に奇跡を映像で目の当たりに見せられると、すごい冒険をやってのけたという感じはするものの、所詮、映画ではないかという思いがどこかでちらつく面もありました(これを北森嘉蔵流に言えば、事象を見ているからだということになるのか)。

「奇跡」●原題:ORDET●制作年:1955年●制作国:デンマーク●監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー●製作:エーリク・ニールセン●撮影:ヘニング・ベンツセン●音楽:ポール・シーアベック●原作:カイ・ムンク ●時間:126分●出演:プレベン・レアドーフ・リュエ/ヘンリック・マルベア/ビアギッテ・フェザースピール/カイ・クリスチアンセン/エーミール・ハス・クリステンセン●日本公開:1979/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所:岩波ホール (79-02-27) (評価:★★★★)

 本書の本編(2章「聖書そのものへ」)では、旧約・新約の主だった"立ち止まり所"を13箇所ほど紹介していますが、その選び方に著者の特徴がよく表れていてます。
 
 例えば、創世記17章17-19節で、アブラハムが神との契約により100歳近くなって妻サラとの間に子イサクを授かる前、サラは奴隷女のハガルを夫に遣わしてイシマエルを生ませるも、ハガルがサラを敬わなくなったためにハガル親子を放逐したという話は、まるで正妻と側室の三角関係のような話ですが、アブラハムもサラも神の恩寵を最初は信じていなかった(神の言葉を虚無と感じた)ことを大きなポイントとしながらも、ハガル親子に対する見方が、旧約と新約(パウロ)で異なる点に着眼しているのが興味深く(旧約では恩寵を得ているが、新約では悪役的)、新約の律法的性格を指摘するとともに、その必然性を解説しています。

 少なくとも旧約においてハガル親子はアラビア十二族の先祖となる恩寵に浴しているわけですが、続く土師記16章のサムソンとデリラの物語の解説においても、サムソンを「無明」の者の象徴とし、そうしたスキャンダラスで、本来は聖書に登場する資格のないような者まで登場させ、且つ、その者に最終的には救いを与えたとする点に、聖書という物語の特徴を見出すと共に、ここでも旧約と新約の関係性において、サムソンをイエス・キリストの"透かし模様"と見ているのが興味深いです。

Samson-and-Delilah.jpgサムソンとデリラ.jpg この物語は、セシル・B・デミル監督により「サムソンとデリラ」('49年/米)という映画作品になっていて、ジョン・フォード監督の「荒野の決闘」('46年/米)でドク・ホリデイを演じたヴィクター・マチュア(1913-1999)が主演しました。往々にして怪力男は純粋というか単純というか、デリサムソンとデリラ-s.jpgラのような悪女にコロっと騙されるというパターナルな話であり(アブラハム、サラ、ハガルの三角関係同様に?)、全体にややダルい感じがしなくも無いけれど、ヴィクター・マチュアの"コナン時代"のアーノルド・シュワルツネッガーのようなマッチョぶりは様になっていました。最後の方で、髪を切られて怪力を失ったサムソンが囚われの身となり神に嘆願するシーンはストレートに胸をうち、ラストの神から力を得て大寺院を崩壊させるスペクタルシーンは圧巻、それまで結構だらだら観ていたのに、最後ばかりは思わず力が入り、また、泣けました(カタルシスだけで終わってはマズイいんだろうけれど・・・。と言って、勝手にストーリーを変えたりすることも出来ないだろうし、聖書の物語の映像化は案外と難しい?)
       
安藤美姫.jpg これ、オペラにもなっていて、カミーユ・サン=サーンスが作曲したテーマ曲はフィギアスケートの安藤美姫選手が以前SP(ショート・プログラム)で使っていましたが、その時の衣装もこの物語をイメージしたものなのかなあ。

「サムソンサムソン&デリラ      30dvd.jpgサムソとデリラ 20dvd.jpgとデリラ」●原題:SAMSON AND DELILAH●制作年:1949年●制作国:アメリカ●監督・製作:セシル・B・デミル●脚本:ジェシー・L・ラスキー・ジュニア/フレドリック・M・フランク●撮影:ジョージ・バーンズ●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ハロルド・ラム●時間:128分●出演:ヴィクター・マチュア/ヘディ・ラマー/ジョージ・サンダース/アンジェラ・ランズベリー/ヘンリー・ウィルコクスン●日本公開:1952/02●配給:パラマウント日本支社(評価:★★★☆) 

奇跡 岩波ホール.jpg<「奇跡」図2.jpgfont color=gray>「奇跡」●原題:ORDET●制作年:1955年●制作国:デンマーク●監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー●製作:エーリク・ニールセン●撮影:ヘニング・ベンツセン●音楽:ポール・シーアベック●原作:カイ・ムンク ●時間:126分●出演:プレベン・レアドーフ・リュエ/ヘンリック・マルベア/ビアギッテ・フェザースピール/カイ・クリスチアンセン/エーミール・ハス・クリステンセン●日本公開:1979/02●配給:フランス映画社●最初に観た場所:岩波ホール (79-02-27) (評価:★★★★)

「岩波ホール」閉館(2022.7.29)
「岩波ホール」閉館.jpg

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イデオロギー至上主義が人間性を踏みにじる様が具体的に描かれている。

私の紅衛兵時代6.jpg私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春.jpg    さらばわが愛~覇王別姫.jpg 写真集さらば、わが愛/覇王別姫.jpg
私の紅衛兵時代 ある映画監督の青春 (講談社現代新書)』['90年/'06年復刻]/「さらば、わが愛覇王別姫」中国版ポスター/写真集『さらば、わが愛覇王別姫』より

陳凱歌(チェン・カイコー).jpg 中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。

紅衛兵.jpg 著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

 無知な少年少女が続々加入して拡大を続けた紅衛兵は、毛沢東思想を権威として暴走し、かつて恩師や親友だった人達を糾弾する、一方、党は、反国家分子の粛清を続け、"危険思想"を持つ作家を謀殺し、中には自ら命を絶った「烈士」もいたとのことです。

 そしてある日、著者の父親が護送されて自宅に戻りますが、著者は自分の父親を公衆の面前で糾弾せざるを得ない場面を迎え、父を「裏切り」ます。

 共産党ですら統制不可能となった青少年たちは、農村から学ぶ必要があるとして「下放」政策がとられ、著者自身も'69年から雲南省の山間で2年間農作業に従事しますが、ここも発狂者が出るくらい思想統制は過酷で、但し、著者自身は、様々の経験や自然の中での肉体労働を通して逞しく生きることを学びます。

 語られる数多くのエピソードは、それらが抑制されたトーンであるだけに、却って1つ1つが物語性を帯びていて、「回想」ということで"物語化"されている面もあるのではないかとも思ったりしましたが、う~ん、実際あったのだろなあ、この本に書かれているようなことが。

紅いコーリャン [DVD]」張藝謀(チャン・イーモウ)監督
紅いコーリャン .jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 結果的には「農民から学んだ」とも言える著者ですが、17年後に映画撮影のため同地を再訪し、その時撮られたのが監督デビュー作である「黄色い大地」('84年)で、撮影はチャン・イーモウ(張藝謀、1950年生まれ)だったとのこと。

 個人的には、チャン・イーモウ監督の作品は「紅いコーリャン」('87年/中国)を初めて観て('89年)、これは凄い映画であり監督だなあと思いました(この作品でデビューしたコン・リー(鞏俐)も良かった。その次の作品「菊豆<チュイトウ>」('90年/日本・中国)では、不倫の愛に燃える若妻をエロチックに演じているが、この作品も佳作)。 
               
童年往事 時の流れOX.jpg童年往事 時の流れ.png童年往時5.jpg その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(侯孝賢、1947年生まれ)監督の自伝的作品でしたが(この後の作品「恋恋風塵」('87年/台湾)で日本でも有名に)、中国本土への望郷の念を抱いたまま亡くなった祖母との最期の別れの場面など、切ないノスタルジーと独特の虚無感が漂う佳作でした(ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作)。
【映画チラシ】童年往時/「童年往事 時の流れ [DVD]」 (パンフレット)

坊やの人形.jpg ホウ監督の作品を観たのは、一般公開前にパルコスペースPART3で観た「坊やの人形」('83年/台湾)に続いて2本目で、「坊やの人形」は、サンドイッチマンという顔に化粧をする商売柄(チンドン屋に近い?)、家に帰ってくるや自分の赤ん坊を抱こうとするも、赤ん坊に父親だと認識されず、却って怖がられてしまう若い男の悲喜侯孝賢.jpg劇を描いたもので、台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。

坊やの人形 [DVD]」/侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督

 両監督作とも実力派ならではのものだと思いましたが、同じ中国(または台湾)系でもチャン・イーモウ(張藝謀)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)では、「黒澤」と「小津」の違いと言うか(侯孝賢は小津安二郎を尊敬している)、随分違うなあと。

陳凱歌監督 in 第46回カンヌ映画祭 「さらば、わが愛~覇王別姫 [DVD]」 /レスリー・チャン(「欲望の翼」「ブエノスアイレス」)
覇王別姫第46回カンヌ映画祭パルムドール.jpgさらば、わが愛/覇王別姫.jpg覇王別姫.jpg「さrあばわが愛」チェン.jpg 一方、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の、1993年・第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドール並びに国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞作「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)の公開('94年)以降でしょう。米国でも評価され、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞などをを受賞しています(これも良かった。妖しい魅力のレスリー・チャン、残念なことに自殺してしまったなあ)。
さらば、わが愛/覇王別姫 4K修復版Blu-ray [Blu-ray]」(2023)
「さらば、わが愛/覇王別姫」00.jpg(●2023年10月12日、シネマート新宿にて4K修復版を鑑賞(劇場で観るのは初)。張國榮(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が一人の男を巡って恋敵となるという、ある意味"空前絶後"的映画だったと改めて思った。)

 本書も刊行されたのは'90年ですが、その頃はチェン・カイコー監督の名があまり知られていなかったせいか、一旦絶版になり、「復刊ドットコム」などで復刊要望が集まっていたのが'06年に実際に復刻し、自分自身も復刻版(著者による「復刊のためのあとがき」と訳者によるフィルモグラフィー付)で読んだのが初めてでした。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」にも「紅いコーリャン」にも「文革」の影響は色濃く滲んでいますが、前者を監督したチェン・カイコー監督は早々と米国に移住し(本書はニューヨークで書かれた)、ハリウッドにも進出、後者を監督したチャン・イーモウ監督は、かつては中国本国ではその作品が度々上映禁止になっていたのが、'08年には北京五輪の開会式の演出を任されるなど、それぞれに華々しい活躍ぶりです(体制にとり込まれたとの見方もあるが...)。


「中国問題」の内幕.jpg中国、建国60周年記念式典.jpg 中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。

 中国人がイデオロギーやスローガンに殉じ易い気質であることを、著者が歴史的な宗教意識の希薄さの点から考察しているのが興味深かったです。
 
童年往来事ド.jpg「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェンシネヴィヴァン六本木.jpg)/朱天文(ジュー・ティエンウェン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●音楽:呉楚楚(ウー・チュチュ)●時間:138分●出演:游安順(ユーアンシュ)/辛樹芬(シン・シューフェン)/田豊(ティェン・フォン)/梅芳(メイ・フアン)●日本公開:1988/12●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(89-01-15)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館

坊やの人形 <HDデジタルリマスター版> [Blu-ray]
坊やの人形 00.jpg坊やの人形 00L.jpg「坊やの人形」(「シャオチの帽子」「りんごの味」)●原題:兒子的大玩具 THE SANDWICHMAN●制作年:1983年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/曹壮祥(ゾン・ジュアンシャン)/萬仁(ワン・レン)●製作:明驥(ミン・ジー)●脚本:呉念眞(ウー・ニェンジェン)●撮影:Chen Kun Hou●原作:ホワン・チュンミン●時間:138分●出演:陳博正(チェン・ボージョン)/楊麗音(ヤン・リーイン)/曽国峯(ゾン・グオフォン)/金鼎(ジン・ディン)/方定台(ファン・ディンタイ)/卓勝利(ジュオ・シャンリー)●日本公開:1984/10●配給:ぶな企画●最初に観た場所:渋パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpg谷・PARCO SPACE PART3(84-06-16)(評価:★★★★)●併映:「少女・少女たち」(カレル・スミーチェク)
PARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。

「さらば、わが愛/覇王別姫」(写真集より)/「さらば、わが愛/覇王別姫」中国版ビデオ
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993) 2.jpgさらばわが愛~覇王別姫.jpg「さらば、わが愛/覇王別姫」●原題:覇王別姫 FAREWELL TO MY シネマート新宿2 .jpgCONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)●最初に観た場所(再見)[4K版]:シネマート新宿(23-10-12)
「さらば、わが愛/覇王別姫」0.jpg

「さらば、わが愛/覇王別姫」図1.jpg

チャン・フォンイー、コン・リー、レスリー・チャン.jpgさらば、わが愛 覇王別姫 鞏俐 コン・リー.jpg鞏俐(コン・リー)in「さらば、わが愛 覇王別姫」(1993年・二ューヨーク映画批評家協会賞 助演女優賞受賞)
   
張豊毅(チャン・フォンイー)、鞏俐(コン・リー)、張國榮(レスリー・チャン)in 第46回カンヌ国際映画祭フォトセッション

レスリー・チャン in「欲望の翼('90年)」/「ブエノスアイレス」('97年)
欲望の翼01.jpg ブエノスアイレス 00.jpg

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高評価作品が多い30年~50年代。40年~50年代の12作品の著者の評価を自分のと比べると...。

ミュージカル洋画 ぼくの500本.jpg     巴里のアメリカ人08.jpg バンド・ワゴン 映画poster.jpg 南太平洋 チラシ.jpg
ミュージカル洋画ぼくの500本 (文春新書)』 「巴里のアメリカ人」1シーン/「バンド・ワゴン」ポスター/「南太平洋」チラシ

 著者の外国映画ぼくの500本('03年4月)、『日本映画 ぼくの300本』('04年6月)、『外国映画 ハラハラドキドキぼくの500本』('05年11月)、『愛をめぐる洋画ぼくの500本』('06年10月)に続くシリーズ第5弾で、著者は1910年10月生まれですから、刊行年(西暦)の下2桁に90を足せば、刊行時の年齢になるわけですが、凄いなあ。

 本書で取り上げた500本は、必ずしもブロードウェイなどの舞台ミュージカルを映画化したものに限らず、広く音楽映画の全般から集めたとのことですが、確かに「これ、音楽映画だったっけ」というのもあるにせよ、500本も集めてくるのはこの人ならでは。何せ、洋画だけで1万数千本観ている方ですから(「たとえ500本でも、多少ともビデオやDVDを買ったり借りたりするときのご参考になれば幸甚である」とありますが、「たとえ500本」というのが何だか謙虚(?))。

天井桟敷の人々 パンフ.JPG『天井桟敷の人々』(1945).jpg 著者独自の「星」による採点は上の方が厳しくて、100点満点換算すると100点に該当する作品は無く、最高は90点で「天井桟敷の人々」('45年)と「ザッツ・エンタテインメント」('74年)の2作か(但し、個人的には、「天井桟敷の人々」は、一般的な「ミュージカル映画」というイメージからはやや外れているようにも思う)。
 85点の作品も限られており、やはり旧い映画に高評価の作品が多い感じで、70年代から85点・80点の作品は減り、85点は「アマデウス」('84年)が最後、以降はありません。
 これは、巻末の「ミュージカル洋画小史」で著者も書いているように、70年代半ばからミュージカル映画の急激な凋落が始まったためでしょう。

 逆に30年代から50年代にかけては高い評価の作品が目白押しですが、個人的に観ているのは40年代半ば以降かなあという感じで自分で、自分の採点と比べると次の通りです。(著者の☆1つは20点、★1つは5点)

①「天井桟敷の人々」 ('45年/仏)著者 ☆☆☆☆★★(90点)/自分 ★★★★(80点)
天井桟敷の人々1.jpg天井桟敷.jpg天井桟敷の人々 ポスター.jpg 著者は、「規模の雄大さ、精神の雄渾において比肩すべき映画はない」としており、いい作品には違いないが、3時間超の内容は結構「大河メロドラマ」的な要素も。占領下で作られたなどの付帯要素が、戦争を経験した人の評価に入ってくるのでは? 著者は「子供の頃に見た見世物小屋を思い出す」とのこと。実際にそうした見世物小屋を見たことは無いが(花園神社を除いて。あれは、戦前というより、本来は地方のものではないか)、戦後の闇市のカオスに通じる雰囲気も持った作品だし、ヌード女優から伯爵の愛人に成り上がる女主人公にもそれが体現されているような。

「天井桟敷の人々」●原題:LES ENFANTS DU PARADIS●制作年:1945年●制作国:フランス●監督:マルセル・カルネ●製作:フレッド・オラン●脚本:ジャック・プレヴェール●撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール●音楽:モーリス・ティリエ/ジョセフ・コズマ●時間:190分●出演:アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マルセル・エラン/ルイ・サルー/マリア・カザレス/ピエール・ルノワール●日本公開:1952/02●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)●併映:「ネオ・ファンタジア」(ブルーノ・ボセット)

②「アメリカ交響楽」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★★(70点)自分 ★★★☆(70点)
アメリカ交響楽 RHAPSODY IN BLUE.jpgアメリカ交響楽.jpg この映画の原題でもある「ラプソディー・イン・ブルー」や、「スワニー」「巴里のアメリカ人」「ボギーとベス」などの名曲で知られるガーシュウィンの生涯を描いた作品で、モノクロ画面が音楽を引き立てていると思った(著者は、主役を演じたロバート・アルダより、オスカー・レヴァント(本人役で出演)に思い入れがある模様)。因みに、日本で「ロード・ショー」と銘打って封切られた映画の第1号。

「アメリカ交響楽」 ●原題:RHAPSODY IN BLUE●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:アーヴィン・クーパー●製作:フレッド・オラン●脚本:ハワード・コッホ●撮影:ソル・ポリート●音楽ジョージ・ガーシュウィン●時間:130分●出演:ロバート・アルダ/ジョーン・レスリー/アレクシス・スミス/チャールズ・コバーン/アルバート・バッサーマン/オスカー・レヴァント/ポール・ホワイトマン/ジョージ・ホワイト/ヘイゼル・スコット/アン・ブラウン、アル・ジョルスン/ジュリー・ビショップ●日本公開:1947/03●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

③「錨を上げて」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
錨を上げて08.jpg錨を上げて2.jpg錨を上げて.jpgAnchors Aweigh.jpg 4日間の休暇を得てハリウッドへ行った2人の水夫の物語。元気のいい映画だけど、2時間20分は長かった。ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊るシーンは「ロジャー・ラビット」の先駆けか(著者も、その技術を評価。ジーン・ケリーが呼び物の映画だとも)。
錨を上げて アニメ.jpg
「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シドニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル/パメラ・ブリットン/ジョージ・シドニー●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

④「夜も昼も」 ('46年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
NIGHT AND DAY 1946.jpg夜も昼も NIGHT AND DAY.jpgNight and Day Cary Grant.jpg アメリカの作曲家コール・ポーターの伝記作品。著者の言う通り、「ポーターの佳曲の数々を聴かせ唄と踊りの総天然色場面を楽しませる」のが目的みたいな作品(曰く「その限りにおいては楽しい」と)。

「夜も昼も」●原題:NIGHT AND DAY●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・カーティズ●製作:アーサー・シュワルツ●脚本:チャールズ・ホフマン/レオ・タウンゼンド/ウィリアム・バワーズ●撮影:ペヴァレル・マーレイ/ウィリアム・V・スコール●音楽監督:レオ・F・フォーブステイン●原作:ナタリー・マーシン●時間:116分●出演:ケーリー・グラント/アレクシス・スミス/モンティ・ウーリー/ジニー・シムズ/ジェーン・ワイマン/カルロス・ラミレス●日本公開:1951/01●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑤「赤い靴」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★(60点)
赤い靴 ポスター.jpg赤い靴.jpg赤い靴2.jpg ニジンスキーとロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフとの関係がモデルといわれているバレエもの(ハーバート・ロス監督の「ニジンスキー」('79年/英)は両者の確執にフォーカスした映画だった)だが、主人公が女性になって、「仕事か恋か」という今も変わらぬ?テーマになっている感じ。著者はモイラ・シアラーの踊りを高く評価している。ヨーロッパには「名人の作った赤い靴をはいた者は踊りの名手になれるが、一生踊り続けなければモイラ・シアラー.jpgならない」という「赤い靴」の伝説があるそうだが、「赤い靴」と言えばアンデルセンが先に思い浮かぶ(一応、そこから材を得ているとのこと)。

「赤い靴」 ●原題:THE RED SHOES●制作年:1948年●制作国:イギリス●監督:エメリック・プレスバーガー●製作:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●脚本:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽演奏:ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:136分●出演:アントン・ウォルブルック/マリウス・ゴーリング/モイラ・シアラー/ロバート・ヘルプマン/レオニード・マシーン●日本公開:1950/03●配給:BCFC=NCC●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-11-10)●併映:「トリュフォーの思春期」(フランソワ・トリュフォー)
モイラ・シアラー

⑥「イースター・パレード」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
Easter Parade (1949).jpgイースター・パレード dvd.jpg ジュディ・ガーランドとフレッド・アステアのコンビで、ショー・ビズものとも言え、一旦引退したアステアが、骨折のジーン・ケリーのピンチヒッター出演で頑張っていて、著者の評価も高い(戦後、初めて輸入された総天然色ミュージカルであることも影響している?)。

「イースター・パレード」●原題:EASTER PARADE●制作年:1948年●制作国:アメリカ●監督:チャールズ・ウォルターズ●製作:アーサー・フリード●脚色:シドニー・シェルダン/フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽演奏:ジョニー・グリーン/ロジャー・イーデンス●原作:フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●時間:136分●出演:ジュディ・ガーランド/フレッド・アステア/ピーター・ローフォード/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン●日本公開:1950/02●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑦「踊る大紐育」('49年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★☆(70点)
踊る大紐育.jpg 24時間の休暇をもらった3人の水兵がニューヨークを舞台に繰り広げるミュージカル。3人が埠頭に降り立って最初に歌うのは「ニューヨーク、ニューヨーク」。振付もジーン・ケリーが担当した。著者はヴェラ=エレンの踊りが良かったと。

踊る大紐育(ニューヨーク) dvd.jpg「踊る大紐育」●原題:ON THE TOWN●制作年:1949年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハロルド・ロッソン●音楽:レナード・バーンスタイン●原作:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●時間:98分●出演:ジーン・ケリー/フランク・シナトラ/ジュールス・マンシン/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン/ベティ・ギャレット/ヴェラ・エレン●日本公開:1951/08●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

巴里のアメリカ人 ポスター.jpg⑧「巴里のアメリカ人」 ('51年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
巴里のアメリカ人2.jpg巴里のアメリカ人 dvd.jpg 音楽はジョージ・ガーシュイン。踊りもいいし、ストーリーも良く出来ている。著者の言う様に、舞台装置をユトリロやゴッホ、ロートレックなど有名画家の絵に擬えたのも楽しい。著者は「一番感心すべきはジーン・ケリー」としているが、アクロバティックな彼の踊りについていくレスリー・キャロンも中国雑伎団みたいで凄い(1951年アカデミー賞作品)。

ジーンケリーとレスリーキャロン.jpg巴里のアメリカ人09.jpg「巴里のアメリカ人」●原題:AN AMERICAN IN PARIS●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:アラン・ジェイ・ラー「巴里のアメリカ人」 .jpgナー●撮影:アルフレッド・ギルクス●音楽:ジョージ・ガーシュイン●時間:113分●出演:ジーン・ケリー/レスリー・キャロン/オスカー・レヴァント/ジョルジュ・ゲタリー/ユージン・ボーデン/ニナ・フォック●日本公開:1952/05●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)●併映:「シェルブールの雨傘」(ジャック・ドゥミ)

⑨「バンド・ワゴン」('53年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
バンド・ワゴン08.jpgバンド・ワゴン2.jpgバンド・ワゴン.jpgバンド・ワゴン 特別版 [DVD].jpgシド・チャリシー.jpg 落ち目のスター、フレッド・アステアの再起物語で、「イースター・パレード」以上にショー・ビズもの色合いが強い作品だが、コメディタッチで明るい。ストーリーは予定調和だが、本書によれば、ミッキー・スピレーンの探偵小説のパロディが織り込まれているとのことで、そうしたことも含め、通好みの作品かも。但し、アステアとシド・チャリシーの踊りだけでも十分楽しめる。シド・チャリシーの踊りも、レスリー・キャロンと双璧と言っていぐらいスゴイ。

THE BANDO WAGON.jpg「バンド・ワゴン」●原題:THE BANDO WAGON●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・コムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハリー・ジャクソン●音楽:アドルフ・ドイッチ/コンラッド・サリンジャー●時間:112分●出演:フレッド・アステア/シド・チャリシー/オスカー・レヴァント/ナネット・ファブレー●日本公開:1953/12●配給:MGM●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑩「パリの恋人」('53年/米)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
パリの恋人dvd.jpg『パリの恋人』(1957).jpgパリの恋人 映画ポスター.jpg 著者曰く「すばらしいファション・ミュージカル」であり、オードリー・ヘプバーンの魅力がたっぷり味わえると(原題の「ファニー・フェイス」はもちろんヘップバーンのことを指す)。Funny Face.jpg 衣装はジバンシー、音楽はガーシュウィンで、音楽と併せて、女性であればファッションも楽しめるのは確か。'S Wonderful.bmp ちょっと「マイ・フェア・レディ」に似た話で、「マイ・フェア・レディ」が吹替えなのに対し、こっちはオードリー・ヘプバーン本人の肉声の歌が聴ける。それにしても、一旦引退したこともあるはずのアステアが元気で、とても57才とは思えない。結局、更に20余年、「ザッツ・エンタテインメント」('74年)まで活躍したから、ある意味"超人"的。

『パリの恋人』(1957) 2.jpgパリの恋人 パンフ.jpg「パリの恋人」●原題:FUNNY FACE●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スパリの恋人 パンフ.jpgタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:レナード・ガーシェ●撮影:レイ・ジューン●音楽:ジョージ・ガーシュウィン/アドルフ・ドイッチ●時間:103分●出演:オードリー・ヘプバーン/フレッド・アステア/ケイ・トンプスン/ミシェル・オークレール●日本公開:1957/02●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(85-11-03)●併映:「リリー・マルレーン」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー) 
  
南太平洋パンフレット.jpg⑪「南太平洋」('58年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★☆(70点)
 1949年初演のブロードウェイミュージカルの監督であるジョシュア・ローガンが映画版でもそのまま監督したもので、ハワイのカウアイ島でロケが行われた(一度だけ行ったことがあるが、火山活動によって出来た島らしい、渓谷や湿地帯ジャングルなど、野趣溢「南太平洋」(自由が丘武蔵野館).jpgれる自然が満喫できる島だった)。著者は「戦時色濃厚な」作品であるため、あまり好きになれないようだが、それを言うなら、著者が高得点をつけている「シェルブールの雨傘」などは、フランス側の視点でしか描かれていないとも言えるのでは。超エスニック、大規模ロケ映画で、空も海も恐ろしいくらい青い(カラーフィルターのせいか? フィルターの色が濃すぎて技術的に失敗しているとみる人もいるようだ)。トロピカル・ナンバーの定番になった主題歌「バリ・ハイ」や「魅惑の宵」などの歌曲もいい。

「南太平洋」映画チラシ/期間限定再公開(自由が丘武蔵野館) 1987(昭和62)年7月4日~7月31日 
       
南太平洋(87R).jpg南太平洋.jpg「南太平洋」●原題:SOUTH PACIFIC●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ジョシュア・ローガン●製作:バディ・アドラー●脚本:ポール・オスボーン●撮影:レオン・シャムロイ●音楽:リチャード・ロジャース●原作:ジェームズ・A・ミッチェナー「南太平洋物語」●原作戯曲:オスカー・ハマースタイン2世/リチャード・ロジャース/ジョシュア・ローガン●時間:156分●出演:ロッサノ・ブラッツィ/ミッチ自由が丘武蔵野館.jpgー・ゲイナー/ジョン・カー/レイ・ウォルストン/フランス・ニューエン/ラス・モーガン●日本公開:1959/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:自由が丘武蔵野館(87-07-05)(リバイバル・ロードショー) 自由が丘武蔵野館 (旧・自由が丘武蔵野推理) 1951年「自由が丘武蔵野推理」オープン。1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称し再オープン。2004(平成16)年2月29日閉館。
   
⑫「黒いオルフェ」('59年/仏)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★★(80点)
黒いオルフェ2.jpg黒いオルフェ (1959).jpg黒いオルフェ dvd.jpg 娯楽作品と言うより芸術作品。ジャン・コクトーの「オルフェ」('50年)と同じギリシア神話をベースにしているとのことだが、ちょっと難解な部分も。著者も言うように、リオのカーニヴァルの描写が素晴らしい。カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー外国映画賞の受賞作。

「黒いオルフェ」●原題:ORFEO NEGRO●制作年:1959年●制作国:フランス●監督:マルセル・カミュ●製作:バディ・アドラー●脚本:マルセル・カミュ/ジャック・ヴィオ●撮影:ジャン・ブールゴワン●音楽:アントニオ・カルロス・ジョビン/ルイス・ボンファ●原作:ヴィニシウス・デ・モライス●時間:107分●出演:ブレノ・メロ/マルペッサ・ドーン/マルセル・カミュ/ファウスト・グエルゾーニ/ルルデス・デ・オリベイラ/レア・ガルシア/アデマール・ダ・シルバ●日本公開:1960/07●配給:東和●最初に観た場所:八重洲スター座(79-04-15)

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わかり易くよく纏まっている。入門書として手頃なわりには"上質"。

図説 地図とあらすじでわかる!聖書.jpg  JESUS CHRIST SUPERSTAR.jpg ジーザス・クライスト・スーパースター.jpgジーザス・クライスト・スーパースター2.jpg
図説 地図とあらすじでわかる!聖書 (青春新書INTELLIGENCE)』「ジーザス・クライスト・スーパースター [VHS]

 旧約・新約新書のあらすじや解説を新書1冊に収めるのはもともと無理があるのではないかとも思いましたが、本書を手にしてぱらぱらめくってみると、2色刷りで体系的にわかり易く纏められており、ああ、これは聖書の複雑な構成を理解するにはいいなあと感じ、また、実際に読んでみて、「あらすじ」自体が大変面白ので、すらすら読めました。

 旧約聖書の壮大な「物語性」が抜け落ちてしまうことが危惧されましたが、確かに参考書を読んでいるような感じがしなくもない面もあったものの、全体としては物語性を排除しないよう、解説とあらすじのバランスに気配りがされているような印象を受けました。

 図説もよく整理されていて、また、情報の密度も濃いと思われ、諸説ある部分については、本文とは別に表などに纏めて再整理してあり、近年の研究成果や解釈なども入れ(キリストが両親に対して親子の情が薄かったことや、磔刑の際に十字架に腰掛けがあったことなどは新たな知識だった)、全体として偏りがなく、入門書として手頃なわりには"上質"であると言えるのではないでしょうか。

 地図による図説が多用されているのも、個人的には知識ニーズに適っていたように思え、また、物語の背景にある歴史的・政治的背景にも言及されていることで、簡潔な解説の中にもシズル感がありました。


 ハリウッドにはユダヤ系の才能も資本も集まってきたため、旧約聖書に材を得た映画が盛んに作られたようで、「サムソンとデリラ」('49年/米)、「十戒」('57年/米)、「ソドムとゴモラ」('62年/伊・米)、「天地創造」('66年/米・伊)など多くがありますが、新約聖書に材を得た映画では、リチャード・バートン主演の「聖衣」('53年/米)やロックオペラの映画化作品「ジーザス・クライスト・スーパースター」('73年/米)があり、後者は、背景に現在と過去が交錯して(キリストがロックミュージックのスターみたいに描かれている)ヴィジュアル的にも時代背景をぼかした感じでしたが、ストーリー自体は聖書をきちんとなぞっていたのではないかと。

 BSの再放映('09年6月)で久しぶりに観ましたが、ローマ総督のピラトが最初はイエスに刑を科すことを躊躇するくだりなどは、聖書及び本書の解説にもある通りに描かれていいます(それはそうでしょう、本国には聖書に精通している人が一般国民の中にも多くいるわけだし)。

 監督のノーマン・ジュイソンはユダヤ人で、「屋根の上のバイオリン弾き」('71年/米)なども撮っていますが、どちらかと言うと、万人受けするような映画を作るタイプ?(音楽はブロードウェイ・ミュージカル「キャッツ」や「オペラ座の怪人」を手掛けたアンドリュー・ロイド・ウェバー)
 この作品は舞台ほど過激でないにしても(ブロードウェイの舞台では、イエスがユダと口と口でキスする場面があり物議を醸したそうだが、この映画では普通に頬にキスするだけ)、彼の作品の中では異色の方かも知れません。

ジーザス・クライスト.jpg ジーザス・クライスト1.jpg ジーザス・クライスト2.jpg ジーザス・クライスト3.jpg ジーザス・クライスト4.jpg ジーザス・クライスト5.jpg ジーザス・クライスト6.jpg ジーザス・クライスト7.jpg 

「ジーザス・クライスト・スーパースター」●原題:JESUS CHRIST SUPERSTAR●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:ノーマン・ジュイソン●製作:ノーマン・ジュイソン/ロバート・スティグウッド●脚本:ノーマン・ジュイソン/メルヴィン・ブラッグ●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:アンドリュー・ロイド・ウェバー/アンドレ・プレヴィン/ハーバート・スペンサー●原作:ティム・ライス●時間:106分●出演:テッド・ニーリー/カール・アンダーソン/イボンヌ・エリマン/バリー・デネン/ボブ・ビンガムド●日本公開:1973/12●配給:CIC●最初に観た場所:中野武蔵野館(77-10-29)(評価:★★★☆)●併映:「ブラザー・サン シスター・ムーン」(フランコ・ゼッフィレッリ)

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「裏窓」×「めまい」+α。B級と言う人も多いが、個人的には好きな「ボディ・ダブル」。

ボディ・ダブル2.jpg 『ボディ・ダブル』(1984)2.jpg  殺しのドレス.jpg めまい.jpg 
ブライアン・デ・パルマ「ボディ・ダブル [DVD]」「殺しのドレス スペシャル・エディション [DVD]」  アルフレッド・ヒッチコック「めまい (ユニバーサル・セレクション2008年第5弾) 【初回生産限定】 [DVD]

BODY DOUBLE.jpgBODY  DOUBLE.jpg B級映画俳優のジェイク(クレイグ・ワッソン)は、ドラキュラ映画の主演で棺に入るシーンで閉所恐怖症の発作を起こしてクビになり、失意のまま帰宅したところ、同棲中の恋人が男と情事にふけっているという散々な有様。家は彼女のものであり、意気消沈のまま家を出た彼は、あるオーディション会場で、サム(グレッグ・ヘンリー)という男と知り合い彼の家へ招かれる。そこはモBODY DOUBLE● 1984 3.jpgBODY DOUBLE● 1984 1.jpgダンな豪邸で、サムはジェイクに留守中の家の管理を頼むとともに、望遠鏡越しに見える魅惑的な隣人(デボラ・シェルトン)の存在を教える―。

 ヒッチコックの「裏窓」('54年)と「めまい」('58年)を足して2で割ったような作品ですが、そうしたこともあって評価の割れる作品かも。

「殺しのドレス」二重人格.jpg  ブライアン・デ・パルマ監督の同系統のサスペンス作品では「殺しのドレス」('80年)が知られてますが、確かに面白い作品で、美術館でのなめまわすようなカメラワークや、「サイコ」を意識したアDRESSED TO KILL Angie Dickinson.jpgンジー・ディキンソンのシャワーシーン(「サイコ」同様、ボディショットは代役らしい)などが印象的でしたが、但し、観ている間はすごくのめり込まされるのですが、その分、終わってみるとな〜んだみたいな面もややありました(評価は星4つ。映画全体としては決して悪くなく、むしろ佳作の部類)。
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 ただ個人的には、「ボディ・ダブル」の方が、観終わったあとの印象も含めると「殺しのドレス」より良かったように思え、他の同監督の作品と比べても、最も自分の好みに近い作品です。意図的にあまり有名ではない俳優を使って撮っていて(メラニー・グリフィスMelanie Griffith.jpgも当時デビュー10年ながらいまだに"売り出し中"の身)、エロチックなシーンもふんだんにあり、この映画全体がB級の雰囲気を醸していますが、そのキッチュ感が却ってでいいです。内容的にも、ヒッチコックへのオマージュを込めながらも、ミステリとしてのオリジナリティは十分にあるように思われ、個人的には「裏窓」×「めまい」+アルファという評価ですが、観る人によっては、最後が"マイナス"になる人もいるかもしれません。

Melanie Griffith in「ボディ・ダブル」(全米批評家協会賞「助演女優賞」受賞)

ワーキング・ガール チラシ.jpgワーキング・ガール 86米.jpgメラニー・グリフィス in  ワーキング・ガール.jpg 映画後半に出てくるポルノ女優を演じたメラニー・グリフィスは、ヒッチコック監督作品「鳥」('63年)のヒロイン役を演じたティッピ・ヘドレンの娘であり(この作品の翌年にTV番組「新・ヒッチコック劇場」で親子共演したりしている)、この「ボディ・ダブル」で彼女は演技開眼し、マイク・ニコルズ監督の「ワーキング・ガール」('88年)では、シガニー・ウィーバー、ハリソン・フォードらに伍する演技で、アカデミー主演女優賞にノミネートされています。
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ワーキング・ガール 2.jpg 「ワーキング・ガール」は、ウォール街の投資銀行のM&A部門で働く秘書(メラニー・グリフィス)が、尊大な女性上司(シガニー・ウィーバー)がスキー休暇中に骨折し職場復帰するまでの間に、上司の愛人(ハリソン・フォード)と共に進行中の合併話を期せずして進行させることになるというサクセス・ストーリーですが(当時のアメリカではM&Aの嵐が吹き荒れていたようだ)、メラニー・グリフィス、シガニー・ウィーバー共にいい味出していて、映画自体もまあまあ楽しめました。冒頭にワールドトレードセンター(WTC)の空撮が出てきますが、この作品自体WTCで撮影されています。因みに、"ワーキング・ガール"というタイトルには「キャリア・ウーマン」の他に「娼婦」という意味もあります。

ヒチコック監督「めまい」より
『めまい』.jpgKim Novak2.jpg映画「めまい」1958 より.jpg 「ボディ・ダブル」の作品ベースとなっているヒッチコックの「裏窓」('54年)「めまい」('58年)のうち「めまい」「めまい」.jpg「めまい」では、カメラワークにおいてズームアウトしながらカメラを前方へ動かすことで被写体のサイズが変わらずに広角になる映し方(逆ズーム)で墜落感を表す手法や、カメラが被写体の周りを回る映し方(360°パン)でキスシーンなどの陶酔感を表す手法などが用いられていることでも有名で、デ・パルマ監督もこの作品でそうした技法をしっかり採り入れています。キム・ノヴァクの妖しげな魅力が印象に残った映画でもありました。 
 

BODY DOUBLE● 1984 F.jpgBODY DOUBLE.jpg「ボディ・ダブル」●原題:BODY DOUBLE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・製作:ブライアン・デ・パルマ●脚本:ロバート・J・アヴレッチ/ブライアン・デ・パルマ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ピノ・ドナッジオ●時間:114分●出演:クレイグ・ワッソン/グレッグ・ヘンリー/デボラ・シェルトン/メラニー・グリフィス/ガイ・ボイド/デヴィッド・ハスケル/デニス・フランツ/アル・イズラエル/レベッカ・ スタンリー/ダグラス・ワーヒット/B・J・ジョーンズ/ラス・マリン/レーン・デイヴィース●日本公開:1985/02●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:三軒茶屋映劇 (85-09-15)(評価:★★★★☆)●併映:「聖女アフロディーテ」(ロバート・フュースト)/「ブレスレス」(ジム・マクブライド)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真左)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(上右写真中央並びに下写真)は1952年、世田谷通りの裏通り「なか三軒茶屋中央劇場0.jpg三軒茶屋中央劇場入口s.jpgみち街」にオープン。 ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ)2014(平成26)年7月20日閉館 ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り)1992(平成4)年閉館 ③三軒茶屋中劇(中央劇場))2013(平成25)年2月14日閉館


三軒茶屋中央劇場入口:桑原甲子雄の写真集より

三軒茶屋中央劇場:「東京遺産な建物たち」より


『殺しのドレス』(1980) 2.jpg「殺しのドレス」●原題:DRESSED TO KILL●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ●製作:ジョージ・リットー●撮影:ラルフ・ボード●音楽:ピノ・ドナッジオ●時間:114分●出演:マイケル・ケイン/アンジー・ディキンソン/ナンシー・アレン/キース・ゴードン/デニス・フランツ/デヴィッド・ マーグリーズ/ブランドン・マガート●日本公開:1981/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(81-04-03)●2回目:テアトル吉祥寺 (86-02-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「デストラップ 死の罠」(シドニー・ルメット)/「日曜日が待六本木駅付近.jpg六本木・俳優座シネマテン2.jpg俳優座劇場.jpgち遠しい!」(フランソワ・トリュフォー)/「ハメット」(ヴィム・ヴェンダース)
俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。

  

ワーキング・ガール .jpg「ワーキング・ガール」●原題:WORKING GIRL●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ダグラス・ウィック●脚本:ケヴィン・ウェイド●撮影:ミハエル・バルハウス●米映画監督のマイク・ニコルズ氏.jpg音楽:カーリー・サイモン●時間:115分●出演:ハリソン・フォード/シガニー・ウィーバー/メラニー・グリフィス/アレック・ボールドウィン/オリバー・プラット/ケヴィン・スペーシー/ジョーン・キューザック/フィリップ・ボスコ/ノーラ・ダン/ジェームズ・ラリー●日本公開:1989/05●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿アカデミー (89-07-08)(評価:★★★☆) 

米映画監督のマイク・ニコルズ氏(左)=2012年6月(EPA=時事) 

新宿アカデミー 1975年12月「第一東亜会館」新装に伴い2Fにオープン。2009(平成21)年11月30日閉館。
「新宿アカデミー」.gif新宿アカデミー.jpg
  

「めまい」●vertigob.jpgキム・ノヴァク4.jpgめまい パンフ.jpg「めまい」●原題:VERTIGO●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:アレック・コペル/サミュエル・テイラー●撮影:ロバート・バークス●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ピエール・ボワロー/トマ・ナルスジャック「死者の中から」●時間:128分●出演:ジェイムズ・スチュアート/キム・ノヴァク(Kim Novak)/バーバラ・ベル・ゲデス/トム・ヘルモア/ヘンリー・ジョーンズ/レイモンド・ベイリー/エレン・コービイ/リー・パトリック●日本公開:1958/10●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:歌舞伎町シネマ1(84-03-31)(評価:★★★★) 

「めまい」ヒッチ.png

ヒューマックスパビリオン 新宿歌舞伎町.jpg「ジョイシネマ3:4」.gif歌舞伎町シネマ1・歌舞伎町シネマ2 1985年、コマ劇場左(グランドオヲデオンビル隣り)「新宿ジョイパックビル」(現「ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町」)2Fにオープン→1995年7月~新宿ジョイシネマ3・新宿ジョイシネマ4。1997(平成9)年11月閉館。



《読書MEMO》
"Sight & Sound"誌映画批評家によるオールタイム・ベスト50 (The Top 50 Greatest Films of All Time)(2012年版)[姉妹版:映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)の上位100作品)
めまい_m.jpg 1.『めまい』"Vertigo"(1958/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック 191票
 2.『市民ケーン』"Citizen Kane"(1941/米) 監督:オーソン・ウェルズ 157票
 3.『東京物語』"Tokyo Story"(1953/日) 監督:小津安二郎 107票
 4.『ゲームの規則』"La Règle du jeu"(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール 100票
 5.『サンライズ』"Sunrise: A Song of Two Humans"(1927/米) 監督:F・W・ムルナウ 93票
 6.『2001年宇宙の旅』"2001: A Space Odyssey"(1968/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック 90票
 7.『捜索者』"The Searchers"(1956/米) 監督:ジョン・フォード 78票
 8.『カメラを持った男』"Man with a Movie Camera"(1929/ソ連) 監督:ジガ・ヴェルトフ 68票
 9.『裁かるゝジャンヌ』"The Passion of Joan of Arc"(1927/仏)  監督:カール・ドライヤー 65票
 10.『8½』"8½"(1963/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ 64票
 11.『戦艦ポチョムキン』"Battleship Potemkin"(1925/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン 63票
 12.『アタラント号』"L'Atalante"(1934/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ 58票
 13.『勝手にしやがれ』"Breathless"(1960/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 57票
 14.『地獄の黙示録』"Apocalypse Now"(1979/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ 53票
 15.『晩春』"Late Spring"(1949/日) 監督:小津安二郎 50票
 16.『バルタザールどこへ行く』"Au hasard Balthazar"(1966/仏・スウェーデン)監督:ロベール・ブレッソン49票
 17.『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日) 監督:黒澤明 48票
 17.『仮面/ペルソナ』"Persona"(1966/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン 48票
 19.『鏡』"Mirror"(1974/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー 47票
 20.『雨に唄えば』"Singin'in the Rain"(1951/米) 監督:スタンリー・ドーネン & ジーン・ケリー 46票
 21.『情事』"L'avventura"(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ 43票
 21.『軽蔑』"Le Mépris"(1963/仏・伊・米) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 43票
 21.『ゴッドファーザー』"The Godfather"(1972/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ 43票
 24.『奇跡』"Ordet"(1955/ベルギー・デンマーク) 監督:カール・ドライヤー 42票
 24.『花様年華』"In the Mood for Love"(2000/香港) 監督:ウォン・カーウァイ 42票
 26.『羅生門』"Rashomon"(1950/日) 監督:黒澤明 41票
 26.『アンドレイ・ルブリョフ』"Andrei Rublev"(1966/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー 41票
 28.『マルホランド・ドライブ』"Mulholland Dr."(2001/米) 監督:デイヴィッド・リンチ 40票
 29.『ストーカー』"Stalker"(1979/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー 39票
 29.『SHOAH』"Shoah"(1985/仏) 監督:クロード・ランズマン 39票
 31.『ゴッドファーザー PartⅡ』"The Godfather Part II"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ 38票
 31.『タクシー・ドライバー』"Taxi Driver"(1976/米) 監督:マーティン・スコセッシ 38票
 33.『自転車泥棒』"Bicycle Thieves"(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 37票
 34.『キートンの大列車追跡』"The General"(1926/米) 監督:バスター・キートン&クライド・ブラックマン35票
 35.『メトロポリス』"Metropolis"(1927/独) 監督:フリッツ・ラング 34票
 35.『サイコ』"Psycho"(1960/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック 34票
 35."Jeanne Dielman, 23 quai du Commerce 1080 Bruxelles"(ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマン)(1975/ベルギー・仏) 監督:シャンタル・アケルマン 34票
 35.『サタンタンゴ』"Sátántangó"(1994/ハンガリー・独・スイス) 監督:タル・ベーラ 34票
 39.『大人は判ってくれない』"The 400 Blows"(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー 33票
 39.『甘い生活』"La dolce vita"(1960/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ 33票
 41.『イタリア旅行』"Journey to Italy"(1954/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ 32票
 42.『大地のうた』"Pather Panchali"(1955/印) 監督:サタジット・レイ 31票
 42.『お熱いのがお好き』"Some Like It Hot"(1959/米) 監督:ビリー・ワイルダー 31票
 42.『ガートルード』"Gertrud"(1964/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー 31票
 42.『気狂いピエロ』"Pierrot le fou"(1965/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 31票
 42.『プレイタイム』"Play Time"(1967/仏) 監督:ジャック・タチ 31票
 42.『クローズ・アップ』"Close-Up"(1990/イラン) 監督:アッバス・キアロスタミ 31票
 48.『アルジェの戦い』"The Battle of Algiers"(1966/伊・アルジェリア) 監督:ジッロ・ポンテコルヴォ 30票
 48.『映画史』"Histoire(s) du cinéma"(1998/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール 30票
 50.『街の灯』"City Lights"(1931/米) 監督:チャーリー・チャップリン 29票
 50.『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日) 監督:溝口健二 29票
 50.『ラ・ジュテ』"La Jetée"(1962/仏) 監督:クリス・マルケル 29票

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●52位以降250位(235位)まで
 52.『北北西に進路を取れ』"North By Northwest"(1959/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 53.『裏窓』"Rear Window"(1954/) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 53.『レイジング・ブル』"Raging Bull"(1980/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 56.『M』"M"(1931/独) 監督:フリッツ・ラング
 57.『山猫』"The Leopard"(1963/伊・仏) 監督:ルキノ・ヴィスコンティ
 57.『黒い罠』"Touch Of Evil"(1958/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 59.『キートンの探偵学入門』"Sherlock Jr"(1924/米) 監督:バスター・キートン
 59.『バリー・リンドン』"Barry Lyndon"(1975/英・米) 監督:スタンリー・キューブリック
 59.『ママと娼婦』"La Maman et la putain"(1973/仏) 監督:ジャン・ユスターシュ
 59.『山椒太夫』"Sansho Dayu"(1954/日) 監督:溝口健二
 63.『野いちご』"Wild Strawberries"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 63.『モダン・タイムス』"Modern Times"(1936/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 63.『サンセット大通り』"Sunset Blvd."(1950/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 63.『狩人の夜』"The Night of the Hunter"(1955/米) 監督:チャールズ・ロートン
 63.『スリ』"Pickpocket"(1959/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 63.『リオ・ブラボー』"Rio Bravo"(1958/米) 監督:ハワード・ホークス
 69.『ブレードランナー』"Blade Runner"(1982/米) 監督:リドリー・スコット
 69.『ブルー・ベルベット』"Blue Velvet"(1986/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 69.『サン・ソレイユ』"Sans Soleil"(1982/仏) 監督:クリス・マルケル
 69.『抵抗( レジスタンス)/死刑囚の手記より』"A Man Escaped"(1956/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 73.『第三の男』"The Third Man"(1949/英) 監督:キャロル・リード
 73.『太陽はひとりぼっち』"L'eclisse"(1962/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 73.『天井桟敷の人々』"Les enfants du paradis"(1945/仏) 監督:マルセル・カルネ
 73.『大いなる幻影』"La Grande Illusion"(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 73.『ナッシュビル』"Nashville"(1975/米) 監督:ロバート・アルトマン
 78.『チャイナタウン』"Chinatown"(1974/米) 監督:ロマン・ポランスキー
 78.『美しき仕事』"Beau Travail"(1998/仏) 監督:クレール・ドゥニ
 78.『ウエスタン』"Once Upon a Time in the West"(1968/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 81.『偉大なるアンバーソン家の人々』"The Magnificent Ambersons"(1942/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 81.『アラビアのロレンス』"Lawrence Of Arabia"(1962/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 81.『ミツバチのささやき』"The Spirit of the Beehive"(1973/西) 監督:ヴィクトル・エリセ
 84.『ファニーとアレクサンデル』"Fanny and Alexander"(1984/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 84.『カサブランカ』"Casablanca"(1942/米) 監督:マイケル・カーティス
 84.『ざくろの色』"The Colour of Pomegranates"(1968/ソ連) 監督:セルゲイ・パラジャーノフ
 84.『グリード』"Greed"(1925/米) 監督:エーリッヒ・フォン・シュトロハイム
 84.『クーリンチェ少年殺人事件』"A Brighter Summer Day"(1991/台湾) 監督:エドワード・ヤン
 84.『ワイルドバンチ』"The Wild Bunch"(1969/米) 監督:サム・ペキンパー
 90.『ピクニック』"Partie de campagne"(1936/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 90.『アギーレ 神の怒り』"Aguirre, Wrath of God"(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 90.『天国への階段』"A Matter of Life and Death"(1946/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 93.『第七の封印』"The Seventh Seal"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 93.『アンダルシアの犬』"Un chien andalou"(1928/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 93.『イントレランス』"Intolerance"(1916/米) 監督:D・W・グリフィス
 93.『ヤンヤン 夏の想い出』"A One and a Two"(1999/台湾・日) 監督:エドワード・ヤン
 93.『老兵は死なず』"The Life and Death of Colonel Blimp"(1943/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 93.『トゥキ・ブゥキ / ハイエナの旅』"Touki Bouki"(1973/セネガル) 監督:ジブリル・ジオップ・マンベティ(Djibril Diop Mambéty)
 93.『不安と魂』"Fear Eats the Soul"(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 93.『悲しみは空の彼方に』"Imitation of Life"(1959/米) 監督:ダグラス・サーク
 93.『たそがれの女心』"Madame de..."(1953/仏・伊) 監督:マックス・オフュルス
 102."Wavelength"(1967/カナダ・米) 監督:マイケル・スノウ(Michael Snow)
 102.『暗殺の森』"The Conformist"(1970/伊・仏・西独) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 102.『旅芸人の記録』"The Travelling Players"(1975/ギリシャ) 監督:テオ・アンゲロプロス
 102.『午後の網目』"Meshes of the Afternoon"(1943/米) 監督:マヤ・デレン、アレクサンダー・ハミッド
 102.『彼女について私が知っている二、三の事柄』"Two or Three Things I Know About Her..."(1967/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 102.『ツリー・オブ・ライフ』"The Tree of Life"(2010/米) 監督:テレンス・マリック
 102.『イワン雷帝』"Ivan the Terrible"(1945/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
 102.『去年マリエンバードで』"Last Year At Marienbad"(1961/仏・伊) 監督:アラン・レネ
 110.『レディ・イヴ』"The Lady Eve"(1941/米) 監督:プレストン・スタージェス
 110.『忘れられた人々』"Los Olvidados"(1950/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 110.『赤ちゃん教育』"Bringing Up Baby"(1938/米) 監督:ハワード・ホークス
 110.『パフォーマンス』"Performance"(1970/英) 監督:ドナルド・キャメル、ニコラス・ローグ
 110.『さすらいの二人』"The Passenger"(1974/米) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 110.『ビリディアナ』"Viridiana"(1961/西・メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 110.『黄金時代』"L' Age d'Or"(1930/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 117."A Canterbury Tale"(1944/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 117.『少女ムシェット』"Mouchette"(1966/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 117.『博士の異常な愛情』"Dr. Strangelove"(1964/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック
 117.『吸血鬼ノスフェラトゥ』"Nosferatu"(1922/独) 監督:F・W・ムルナウ
 117.『赤い靴』"The Red Shoes"(1948/英) 監督:マイケル・パウエル & エメリック・プレスバーガー
 117.『極楽特急』"Trouble in Paradise"(1932/米) 監督:エルンスト・ルビッチ
 117.『悲情城市』"A City Of Sadness"(1989/台湾) 監督:ホウ・シャオシェン
 117.『フェリーニのアマルコルド』"Amarcord"(1973/伊・仏) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 117.『リバティ・バランスを射った男』"The Man Who Shot Liberty Valance"(1962/米) 監督:ジョン・フォード
 117.『天国の日々』"Days of Heaven (1978/米) 監督:テレンス・マリック
 127.『小城之春』"Spring in a Small Town"(1948/中) 監督:費穆(Fei Mu)
 127.『ドゥ・ザ・ライト・シング』"Do The Right Thing"(1989/米) 監督:スパイク・リー
 127.『アウト・ワン』"Out 1"(1990/仏) 監督:ジャック・リヴェット
 127.『トロピカル・マラディ』"Tropical Malady"(2004/タイ・仏・伊・独) 監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
 127.『河』"The River"(1951/米) 監督:ジャン・ルノワール
 127.『突然炎のごとく』"Jules Et Jim"(1962/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 127.『パルプ・フィクション』"Pulp Fiction"(1994/米) 監督:クエンティン・タランティーノ
 127.『若草の頃』"Meet Me In St. Louis"(1944/米) 監督:ヴィンセント・ミネリ
 127.『ラルジャン』"L' argent"(1983/仏・スイス) 監督:ロベール・ブレッソン
 127.『生きる』"Ikiru"(1952/日) 監督:黒澤明
 127.『トリコロール/青の愛』"Three Colors Blue"(1993/仏・ポーランド) 監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
 127.『赤い影』"Don't Look Now"(1973/英・伊) 監督:ニコラス・ローグ
 127.『セリーヌとジュリーは舟で行く』"Celine and Julie Go Boating"(1974/仏) 監督:ジャック・リヴェット
 127.『アニー・ホール』"Annie Hall"(1977/米) 監督:ウディ・アレン
 127.『アパートの鍵貸します』"The Apartment"(1960/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 127.『最後の人』"The Last Laugh"(1924/独) 監督:F・W・ムルナウ
 127.『二十四時間の情事』"Hiroshima Mon Amour"(1959/日・仏) 監督:アラン・レネ
 144.『欲望』"Blow Up"(1966/英) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 144.『独裁者』"The Great Dictator"(1940/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 144.『低開発の記憶 -メモリアス-』"Memories of Underdevelopment"(1968/キューバ) 監督:トマス・グティエレス・アレア
 144.『田舎司祭の日記』"Diary of a Country Priest"(1951/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 144.『恋する惑星』"Chungking Express"(1994/香港) 監督:ウォン・カーウァイ
 144.『生きるべきか死ぬべきか』"To Be Or Not To Be"(1942/米) 監督:エルンスト・ルビッチ
 144.『こわれゆく女』"A Woman Under the Influence"(1974/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 144.『ナポレオン』"Napoleon"(1927/仏) 監督:アベル・ガンス
 144.『女と男のいる舗道』"Vivre sa vie"(1962/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 144.『オズの魔法使い』"The Wizard of Oz"(1939/米) 監督:ヴィクター・フレミング
 154.『マルケータ・ラザロヴァ』"Marketa Lazarová"(1967/チェコスロヴァキア) 監督:フランチシェク・ヴラーチル
 154.『隠された記憶』"Hidden"(2004/仏・オーストリア・伊・独) 監督:ミヒャエル・ハネケ
 154.『シャイニング』"The Shining"(1980/英) 監督:スタンリー・キューブリック
 154.『惑星ソラリス』"Solaris"(1972/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 154.『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』"Chimes at Midnight"(1966/西・スイス) 監督:オーソン・ウェルズ
 154.『黄金狂時代』"The Gold Rush"(1925/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 154.『忘れじの面影』"Letter From an Unknown Woman"(1948/米) 監督:マックス・オフュルス
 154.『逢びき』"Brief Encounter"(1945/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 154.『孤独な場所で』"In a Lonely Place"(1950/米) 監督:ニコラス・レイ
 154.『黒水仙』"Black Narcissus"(1947/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 154.『となりのトトロ』"My Neighbour Totoro"(1988/日) 監督:宮崎駿
 154.『コンドル』"Only Angels Have Wings"(1939/米) 監督:ハワード・ホークス
 154.『吸血鬼』"Vampyr"(1932/仏・独) 監督:カール・ドライヤー
 154.『炎628』"Come And See"(1985/ソ連) 監督:エレム・クリモフ
 154.『遠い声、静かな暮らし』"Distant Voices, Still Lives"(1988/英) 監督:テレンス・デイヴィス
 154.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』"Once Upon A Time In America"(1984/米) 監督:セルジオ・レオーネ
 154.『叫びとささやき』"Cries and Whispers"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 171.『キング・コング』"King Kong"(1933/米) 監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シェードザック
 171.『ヴェルクマイスター・ハーモニー』"The Werckmeister Harmonies"(2000/ハンガリー・独・仏) 監督:タル・ベーラ
 171.『スター・ウォーズ』"Star Wars"(1997/米) 監督:ジョージ・ルーカス
 171.『汚名』"Notorious"(1946/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 171.『ヒズ・ガール・フライデー』"His Girl Friday"(1940/米) 監督:ハワード・ホークス
 171.『グッドフェローズ』"Goodfellas"(1990/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 171.『シェルブールの雨傘』"The Umbrellas of Cherbourg"(1964/仏・西独) 監督:ジャック・ドゥミ
 171.『月世界旅行』"A Trip to the Moon"(1902/仏) 監督:ジョルジュ・メリエス
 171.『成功の甘き香り』"Sweet Smell of Success"(1957/米) 監督:アレクサンダー・マッケンドリック
 171.『カインド・ハート』"Kind Hearts and Coronets"(1949/英) 監督:ロバート・ハーメル
 171.『タブウ』"Tabu"(1931/米) 監督:F・W・ムルナウ
 171.『大地』"Earth"(1930/ソ連) 監督:アレクサンドル・ドヴジェンコ
 183.『奇跡の海』"Breaking the Waves"(1996/デンマーク) 監督:ラース・フォン・トリアー
 183.『怒りの葡萄』"The Grapes of Wrath"(1940/米) 監督:ジョン・フォード
 183.『パリ、テキサス』"Paris, Texas"(1984/西独・仏) 監督:ヴィム・ヴェンダース
 183.『E.T.』"E.T."(1982/米) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 183.『無防備都市』"Rome Open City"(1945/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 183.『フェイシズ』"Faces"(1968/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 183.『音楽サロン』"The Music Room"(1958/インド) 監督:サタジット・レイ
 183.『残菊物語』"The Story of the Late Chrysanthemums"(1939/日) 監督:溝口健二
 183.『侠女』"A Touch of Zen"(1969/台湾) 監督:キン・フー
 183.『英国に聞け』"Listen to Britain"(1942/英) 監督:ハンフリー・ジェニングス、Stewart McAllister
 183.『怒りの日』"Day of Wrath"(1943/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 183.『シン・レッド・ライン』"The Thin Red Line"(1998/米) 監督:テレンス・マリック
 183.『イレイザーヘッド』"Eraserhead"(1976/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 183.『悪魔のいけにえ』"The Texas Chainsaw Massacre"(1974/米) 監督:トビー・フーパー
 183.『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』"The Discreet Charm Of The Bourgeoisie"(1972/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 183.『カンバセーション...盗聴...』"The Conversation"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 183.『過去を逃れて』"Out of the Past"(1947/米) 監督:ジャック・ターナー
 183.『生まれてはみたけれど』"I Was Born, But..."(1932/日) 監督:小津安二郎
 183.『うずまき』"I Know Where I'm Going!"(1945/英) 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
 202."The Death of Mr Lazarescu"(2005/ルーマニア) 監督:Cristi Puiu
 202.『赤い砂漠』"Red Desert"(1964/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 202.『チェルシー・ガールズ』"Chelsea Girls"(1966/米) 監督:アンディー・ウォーホル、ポール・モリセイ
 202.『地獄の逃避行』"Badlands"(1973/米) 監督:テレンス・マリック
 202.『さすらい』"Kings of the Road"(1976/西独) 監督:ヴィム・ヴェンダース
 202.『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』"There Will Be Blood"(2007/米) 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
 202.『ウォーリー』"WALL-E"(2008/米) 監督:アンドリュー・スタントン
 202.『ベルリン・アレクサンダー広場』"Berlin Alexanderplatz"(1980/伊・西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 202.『ヴィデオドローム』"Videodrome"(1983/カナダ) 監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
 202.『ひなぎく』"Daisies"(1966/チェコスロヴァキア) 監督:ヴェラ・ヒティロヴァ
 202.『ブンミおじさんの森』"Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives"(2010/タイ・英・仏・独・西) 監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
 202.『マンハッタン』"Manhattan"(1979/米) 監督:ウディ・アレン
 202.『5時から7時までのクレオ』"Cleo from 5 to 7"(1962/仏) 監督:アニエス・ヴァルダ
 202.『鉄西区』"West of the Tracks"(2002/中・オランダ) 監督:ワン・ビン
 202.『エルミタージュ幻想』"Russian Ark"(2002/ロシア・独) 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
 202.『話の話』"A Tale of Tales"(1979/ソ連) 監督:ユーリ・ノルシュテイン
 202.『千と千尋の神隠し』"Spirited Away"(2001/日) 監督:宮崎駿
 202.『道』"La Strada"(1954/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 202.『戦火のかなた』"Paisà"(1946/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 202.『街角/桃色(ピンク)の店』"The Shop Around the Corner"(1940/米) 監督:エルンスト・ルビッチ
 202.『三つ数えろ』"The Big Sleep"(1946/米) 監督:ハワード・ホークス
 202."Killer of Sheep"(1977/米) 監督:チャールズ・バーネット
 202.『ワンダ』"Wanda"(1970/米) 監督:バーバラ・ローデン
 202.『ドイツ零年』"Germany Year Zero"(1948/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 202.『西鶴一代女』"The Life of Oharu"(1952/日) 監督:溝口健二
 202.『影の軍隊』"Army of Shadows"(1969/仏) 監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
 202.『ソドムの市』"Salo, or The 120 Days of Sodom"(1975/伊・仏) 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
 202.『我輩はカモである』"Duck Soup"(1933/米) 監督:レオ・マッケリー
 202.『たぶん悪魔が』"The Devil Probably"(1977/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 202.『ニーチェの馬』"The Turin Horse"(2011/ハンガリー・仏・スイス・独) 監督:タル・ベーラ
 202.『ラブ・ストリームス』"Love Streams"(1984/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 202.『皆殺しの天使』"The Exterminating Angel"(1962/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 202.『浮雲』"Floating Clouds"(1955/日) 監督:成瀬巳喜男
 235.『ピアノ・レッスン』"The Piano"(1992/オーストラリア) 監督:ジェーン・カンピオン
 235.『風と共に去りぬ』"Gone with the Wind"(1939/米) 監督:ヴィクター・フレミング
 235.『メランコリア』"Melancholia"(2011/デンマーク・スウェーデン・仏・独) 監督:ラース・フォン・トリアー
 235.『あの家は黒い』"The House is Black"(1962/イラン) 監督:フォルーグ・ファッロフザード(Forough Farrokhzad)
 235.『カリガリ博士』"The Cabinet of Dr Caligari"(1919/) 監督:ローベルト・ヴィーネ
 235.『赤い河』"Red River"(1947/米) 監督:ハワード・ホークス、アーサー・ロッスン
 235.『時計じかけのオレンジ』"A Clockwork Orange"(1971/米) 監督:スタンリー・キューブリック
 235.『断絶』"Two-Lane Blacktop"(1971/米) 監督:モンテ・ヘルマン
 235.『秋刀魚の味』"An Autumn Afternoon"(1962/日) 監督:小津安二郎
 235."The Thin Blue Line"(1989/米) 監督:エロール・モリス
 235.『大樹のうた』"The World of Apu"(1958/インド) 監督:サタジット・レイ
 235.『怪人マブゼ博士』"The Testament of Dr Mabuse"(1933/独) 監督:フリッツ・ラング
 235.『荒野の決闘』"My Darling Clementine"(1946/米) 監督:ジョン・フォード
 235.『ふたりのベロニカ』"The Double Life of Veronique"(1991/仏・ポーランド) 監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
 235.『ケス』"Kes"(1969/英) 監督:ケン・ローチ
 235.『トリコロール/赤の愛』"Three Colors Red"(1994/仏・ポーランド) 監督:クシシュトフ・キェシロフス

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戦争の犠牲者に対する国を超えたレクイエムが込められていた「ひまわり」。セリフの全てを歌で表現した「シェルブールの雨傘」。  
ひまわり ポスター.bmp ひまわり.jpg シェルブールの雨傘.jpg 「ひまわり」チラシ/「ひまわり [DVD]」/「シェルブールの雨傘 [DVD]」 音楽:ミッシェル・ルグラン
ひまわり パンフレット.jpg 「ひまわり」(I Girasoli 、'70年/伊・仏・ソ連)は、最初に観た時、ジョヴァンニ(ソフィア・ローレン)が戦地で消息を絶った夫アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)を訪ねウクライナに行き、彼に再会し全てを知ったところで終わっても良かったかなと、その方がラストのひまわり畑のシーンにすんなり繋がるのではないかという気もしました。

「ひまわり」映画パンフレット/音楽:ヘンリー・マンシーニ
         
ひまわり02.jpg「ひまわり」3.jpg 後半、今度はマルチェロ・マストロヤンニがソフィア・ローレンを訪ね再会を果たすも、既に彼女は結婚もしていて子供もいることがわかり(自分にもロシア人妻リュドミラ・サヴェーリエワとの間に子供がいることも改めて想起し)、失意のうちにウクライナへ帰っていく部分は、かなり地味だし、「子は鎹(かすがい)」ということ(?)なんて思ったりしたのですが、しかしながら、最近になって観直してみると、後半も悪くないなあと思うようになりました。

「ひまわり」1.jpg「ひまわり」2.jpg 愛の"記憶"に生きると決めているジョヴァンニ。ガックリくるマストロヤンニに対し、共に痛みを感じながらも彼を包み込むような感じがラストのソフィア・ローレンにはあり、母は強しといった感じも。

I GIRASOLI(SUNFLOWER).jpg「ひまわり」4.jpg 2つの別れのシーン(出征の別れと再会後の最後の別れ)に「ミラノ中央駅」が効果的に使われていて、ひまわりが咲き誇る畑も良かったです。

Sophia Loren Marcello Mastroianni in I Girasoli

sunflower 1970s.jpg このひまわりの下に、ロシア兵もsunflower 1970  .jpgイタリア兵も戦場の屍となって埋まっているという、戦争の犠牲者に対する国を超えたレクイエムが込められていて、冷戦下でソ連側が国内でのロケを許可したのもわかります(ソフィア・ローレンはソ連のどこのロケ地へ行っても大歓迎を受けたとのこと)。

映画チラシ(1989)Catherine Deneuve in Les Parapluies De Cherbourg
シェルブールの雨傘1989チラシ.jpgシェルブールの雨傘2.jpg 同じく、戦争で運命を狂わされた男女を描いたものに、ジャック・ドゥミ(1931‐1990)監督の「シェルブールの雨傘」(Les Parapluies De Cherbourg、'64年/仏)がありますが、のっけから全ての台詞にメロディがついていて、やや面食らいました(それが最後まで続く)。音楽のミッシェル・ルグランによれば、全てのセリフを歌で表した最初の映画とのことで、オペラのアリアの技法を用いたとのことです(カンヌ国際映画祭「グランプリ」(現在の最高賞パルム・ドールに相当)及び「国際カトリック映画事務局賞」受賞作)。

シェルブールの雨傘1.jpg 石畳の舗道に雨が落ちてきて、やがて色とりシェルブールの雨傘 001.jpgどりの美しい傘の花が咲くという俯瞰のファースト・ショットはいかにもお洒落なフランス映画らしく('09年にシネセゾン渋谷で"デジタルリマスター版"が特別上映予定とのこと。自分が劇場で観た頃にはもう色が滲んでいた感じがした)、監督のジャック・ドゥミ(当時31歳)、音楽のミッシェル・ルグラン(当時30歳)も若かったですが、傘屋の娘を演じたカトリーヌ・ドヌーヴは当時20歳でした。

「シェルブールの雨傘」 仏語版ポスター/日本語パンフレット
シェルブールの雨傘 ポスター.jpgシェルブールの雨傘 パンフレット.jpg 恋人が出征する戦争は、第2次世界大戦ではなくアルジェリア戦争で(この映画からは残念ながらアルジェリア側の視点は感じられない。フランス版「ひまわり」とか言われるからつい比べてしまうのだが、戦争終結直後に作られたということもあるのだろう)、「ひまわり」みたいに一方がもう一方を訪ねて再会するのではなく、ラスト別々の家族を持つようになった2人は、母の葬儀のためシェルブールに里帰りしたカトリーヌ・ドヌーヴが、クルマの給油に寄った先が、彼が将来経営したいと言っていたガソリンスタンドだったという、偶然により再会します。

Les parapluies de Cherbourg(1964)

シェルブールの雨傘 003.jpg 2人は将来子供が出来たら付けようと恋人時代に話していた「フランソワ」「フランソワーズ」という名をそれぞれの男の子と女の子につけていたのですが、そう言えば「ひまわり」のソフィア・ローレンは、自分の子に「アントニオ」というマルチェロ・マストロヤンニが演じた前夫の名をつけていました。何れにせよこういうの、知らされた相手側の未練を増幅しそうな気がするなあ。

 個人的評価は「ひまわり」が星4つで、「シェルブールの雨傘」が星3つ半です。「シェルブールの雨傘」は、映画史的には、セリフの全てを歌で表現したというころが技法面で画期的だとして高く評価されている面もあるかと思いますが、それは考慮せずの評価です。
      
Himawari(1970)
Himawari(1970).jpg
ひまわり01.jpg「ひまわり」●原題:I GIRASOLI(SUNFLOWER)●制作年:1970年●制作国:「ひまわり」.jpgイタリア・フランス・ソ連●監督:ヴィットリオ・デ・シーカ●製作:カルロ・ポンティ/アーサー・コーン●脚本:チェザーレ・ザバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:107分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ソフィア・ローレン/リュドミラ・サベーリエsunflower 1970.jpgワ/アンナ・カレーナ/ジェルマーノ・ロンゴ/グラウコ・オノラート/カルロ・ポンティ・ジュニア●日本目黒シネマ.jpg目黒シネマ2.jpg公開:1970/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★★)●併映:「ワン・フロム・ザ・ハート」(フランシス・フォード・コッポラ) 目黒シネマ (1955年「目黒ライオン座」オープン(地下に「目黒金龍座」)を経て1975年再オープン(地下「目黒大蔵」)

Cherbourg no Amagasa (1964)
Cherbourg no Amagasa (1964).jpg
『シェルブールの雨傘』(1963).jpg「シェルブールの雨傘」●原題:LES PARA PLUIES DE CHERBOURG(英:THE UMBRELLAS OF CHERBOURG)●制作年:1964年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャック・ドゥミ●製作:マグ・ボダール●脚本:チェザーレ・ザバッティーニ/アントニオ・グエラ/ゲオルギス・ムディバニ●撮影: ジャン・ラビエ●音楽:ミシェル・ルグラン●時間:91分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーボ/マルク・ミシェル/アンヌ・ヴェルノン/エレン・ファルナー/ミレーユ・ペレー/アンドレ・ウォルフ●日本公開:1964/10●配給:東和●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)(評価:★★★☆)●併映:「巴里のアメリカ人」(ヴィンセント・ミネリ)

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文豪が大衆や子供たちに向けて贈ったクリスマス・ストーリー(寓話)。意外とコミカル。

A Christmas Carol (Bantam Classic).jpgクリスマス・カロル 新潮文庫.jpgクリスマス・カロル 新潮文庫.bmp A Christmas Carol.jpg チャールズ・ディケンズ.jpg
"A Christmas Carol (Bantam Classic)"『クリスマス・カロル (新潮文庫)』(村岡花子:訳)

 1843年12月17日に出版された英国の文豪チャールズ・ディケンズ(1812‐1970/享年58)の中編小説。ロンドンの下町近くに事務所を構える商人で、偏屈で人間嫌い、金の亡者であるスクルージは、クリスマス・イブの夜もクリスマスなど自分には関係ないとして、甥のパーティへの誘いも断り事務所にいたが、そこへかつての共同経営者であクリスマス・キャロル 新装版.jpgクリスマス・キャロル (角川文庫).jpgり7年前故人となっていたマーレイの亡霊が現れ、更に3晩続けて3人の幽霊が現れると告げる―。

 物語は吝嗇家のスクルージが3人の幽霊に導かれて自らの過去・現在・未来を見せられるという超自然的な体験を軸に展開し、その描写が、ディケンズらしい社会派リアリズムと、この寓話の特性としてのシュールさが相俟って面白かったです(もともと、マーレイの亡霊が現れるところからシュールであるとともに、時にリアルなホラーになっていて不気味だったりするのだが)。

クリスマス・キャロル (新潮文庫)』['11年/新装版](村岡花子:訳)クリスマス・キャロル (角川文庫)』['20年/越前敏弥:訳]

Scrooge & Scrooge
scrooge2.jpgSCROOGE.jpg また、スクルージと幽霊のやりとりはかなりコミカルであり、頑固で神経質なスクルージのキャラクターは、個人的には、ディズニーのドナルドダックの伯父さんであるスクルージのキャラクターとよく符合したように思います。

 超常体験を通してスクルージは改悛し、自らの価値観が誤っていたことを悟って貧者への思いやりに目覚めるというのも予定調和ですが、この結末から窺えるように、もともとスクルージは悪人ではないわけで、こうしたスクルージという人物の本質を突いたディズニーのキャラクター造型というのもなかなかのものだと思ったりもします(この作品に対しては、スクルージの描き方が漫画的であるという批判もあるようだが、もともと文学というより寓話に近いのでは)。

IMG_20201223_160122.jpg 文豪が大衆や子供たちに向けて贈ったクリスマス・ストーリーということになるのでしょうが(新潮文庫版の翻訳は『赤毛のアン』シリーズの翻訳で知られる村岡花子(1893-1968))、クリスマス・ストーリーの中では最も有名なもので、何度か映画化やミュージカル化もされていています(2020年に越前敏弥氏による新訳『クリスマス・キャロル』が角川文庫より出された。同氏の訳本では、エラリー・クイーンの『Ⅹの悲劇』('09年/角川文庫)『Yの悲劇』('10年/角川文庫)を読んで読みやすかった印象があったため、越前訳『クリスマス・キャロル』も読んでみたが、確かに読みやすかった。読みやすくて、且つ、原作の雰囲気も損なっていないのは立派。「敬体」(です・ます調)も検討したが、最終的には簡潔だと安定感を重視して従来の「常体」(だ・である調)にしたとのこと。「青い鳥文庫」のような児童文庫レーベルではないので、その選択は正しかったのではないか。)
クリスマス・キャロル (角川文庫)』['20年/越前敏弥:訳]

Scrooged (1988)
SCROOGED2.bmp3人のゴースト.jpg 自分が観たのは、話を現代に置き換えたリチャード・ドナー監督、ビル・マーレイ主演の「3人のゴースト」(Scrooged、'88年/米)で(ビル・マーレイは「ゴーストバスタゴーストバスターズ ビル・マーレイ.jpgーズ」('84 年/米)にも主演していて、幽霊繋がり?)、映画では主人公は"金の亡者"ならぬ"視聴率の亡者"であるテレビ局の若社長になっていて、登場する"ゴースト"がタクシー運転手だったり女妖精だったりとバラエティ豊かですが、一応、原作のストーリーは押さえている感じでした。

 但し、こうした古典的寓話を複雑な現代社会に置き換えても、なかなかヒューマンな部分は伝わりにくいという感じもし(主人公が最後に自分の局の番組の中で慈善演説をぶつのも、ややわざとらしい)、マイルス・ディヴィスなど有名人が顔見せ的に画面に登場するなどしていて、映画を作る側も感動させるというより、ひたすら楽しんで(やや開き直って?)作っている感じがしました。

3人のゴースト SCROOGED 1988.jpg「3人のゴースト」●原題:SCROOGED●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:リチャード・ドナー●製作:アート・リンソン/リチャード・ドナー●製作総指揮:ステファン・J・ロス/●脚本:ミッチ・グレイザー/マイケル・オドノヒュー●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:ダニー・エルフマン●原作3人のゴースト SCROOGED 1988 00.jpg:チャールス・ディッケンス「クリスマス・カロル」●時間:101分●出演:ビル・マーレイ/カレン・アレン/ジョン・フォーサイス/ボブキャット・ゴールスウェイト/デビッド・ヨハンセン/キャロル・ケイン/ロバート・ミッチャム/マイケル・J・ポラード/アルフレ・ウッダード/ジョン・グローバー●日本公開:1988/12●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:名古屋毎日ホール(88-12-30)(評価:★★☆)●併映:「星の王子ニューヨークへ行く」(ジョン・ランディス)

Disney's クリスマス・キャロル1.jpgDisney's クリスマス・キャロル 56.jpgロバート・ゼメキス (原作:チャールズ・ディケンズ)「Disney's クリスマス・キャロル」 (09年/米) ★★★☆
「Disney's クリスマス・キャロル」●原題:A CHRISTMAS CAROL●制作年:2009年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ロバート・ゼメキス●製作:ロバート・ゼメキス/スティーヴ・スターキー/ジャック・ラプケ●撮影:ロバート・プレDisney's クリスマス・キャロル  2009.jpgスリー●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:チャールズ・ディケンズ「クリスマス・キャロル」●時間:97分●出演:ジム・キャリー/ゲイリー・オールドマン/コリン・ファース/ボブ・ホスキンス/ロビン・ライト・ペン/ケイリー・エルウィズ/ダDisney's クリスマス・キャロル2 (1).jpgリル・サバラ/フェイ・マスターソン/レスリー・マンヴィル/モリー・C・クイン●日本公開:2009/11●配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ・ジャパン(評価:★★★☆)

Disney's クリスマス・キャロル [DVD]
 
【1950年文庫化[岩波文庫〕/1950年再文庫化[角川文庫〕/1952年再文庫化・2011年新装版[新潮文庫〕/1969年再文庫化[旺文社文庫〕/1984年再文庫化[講談社青い鳥文庫(『クリスマス・キャロル』)〕/1991年再文庫化[集英社文庫(『クリスマス・キャロル』)〕/2001年再文庫化[岩波少年文庫(『クリスマス・キャロル』)〕/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(『クリスマス・キャロル』)〕/2013年再文庫化[角川つばさ文庫(『クリスマス・キャロル』)〕/2020年再文庫化[角川文庫(『クリスマス・キャロル』)〕】

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シリーズ中、特に充実した内容。回答者のコメントを読むのが楽しい。

ミステリーサスペンス洋画ベスト150.jpg大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト15074.JPG  『現金(げんなま)に体を張れ』(1956).jpg
大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』['91年]表紙イラスト:安西水丸/「現金(げんなま)に体を張れ」(1956).

 映画通と言われる約400人からとったミステリー・サスペンス洋画のアンケート集計で、『洋画ベスト150』('88年)の姉妹版とも、専門ジャンル版とも言えるもの('91年の刊行)。

 1つ1つの解説と、あと、スチール写真が凄く豊富で、一応、"ベスト150"と謳っていますが、ランキング200位まで紹介しているほか、監督篇ランキングもあり、個人的に偏愛するがミステリーと言えるかどうかというものまで、「私が密かに愛した映画」として別枠で紹介しています。また、エッセイ篇として巻末にある、20人以上の映画通の人たちによる、テーマ別のランキングも、内容・写真とも充実していて、このエッセイ篇だけで150ページあり、全体では600ページを超えるボリュームで、この文春文庫の「大アンケート」シリーズの中でもとりわけ充実しているように思えます。                                                         
第三の男.gif『恐怖の報酬』(1953) 2.jpg太陽がいっぱい.jpg 栄えある1位は「第三の男」、以下、2位に「恐怖の報酬」、3位に「太陽がいっぱい」、4位「裏窓」、5位「死刑台のエレベーター」、6位「サイコ」、7位「情婦」、8位「十二人の怒れる男」...と続き、この辺りのランキングは順当過ぎるぐらい順当ですが、どんな人が票を投じ、どんなコメントを寄せているのかを読むのもこのシリーズの楽しみで、時として新たな気づきもあります。因みに、ベスト150の内、ヒッチコック作品は17で2位のシドニー・ルメット、ビリー・ワイルダーの6を大きく引き離し、監督部門でもヒッチコックは1位です。
第三の男
第三の男2.jpg第三の男 観覧車.jpg 「第三の男」1949年・第3回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作)はグレアム・グリーン原作で、大観覧車、下水道、ラストの並木道シーン等々、映画史上の名場面として語り尽くされた映画ですが、個人的にも、1位であることにとりあえず異論を挟む余地はほとんどないといった感じ。この映画のラストシーンは、映画史上に残る名シーンとされていますが、男女の考え方の違いを浮き彫りにしていて、ロマンチックとかムーディとか言うよりも、ある意味で強烈なシーンかもしれません。オーソン・ウェルズが、短い登場の間に強烈な印象を残し(とりわけ最初の暗闇に光が差してハリー・ライムの顔が浮かび上がる場面は鮮烈)、「天は二物を与えず」とは言うものの、この人には役者と映画監督の両方が備わっていたなあと。この若くして過剰なまでの才能が、映画界の先達に脅威を与え、その結果彼はハリウッドから締め出されたとも言われているぐらいだから、相当なものです。
恐怖の報酬
恐怖の報酬3.jpg『恐怖の報酬』(1953).jpg恐怖の報酬1.bmp 「恐怖の報酬」1953年・第6回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」、1953年・第3回ベルリン国際映画祭「金熊賞」受賞作)は、油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間がそのニトロの1滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点。イヴ・モンタンってディナー・ショーで歌っているイメージがあったのですが、この映画では汚れ役であり、粗野ではあるが渋い男臭さを滲ませていて、ストーリーもなかなか旨いなあと(徒然草の中にある「高名の木登り」の話を思い出させるものだった)。この作品は、'77年にロイ・シャイダー主演でアメリカ映画としてリメイクされています。
太陽がいっぱい」(音楽:ニーノ・ロータ
太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL.jpg 「太陽がいっぱい」は、原作はパトリシア・ハイスミス(1921- 1995)の「才能あるリプレイ氏」(『リプリー』(角川文庫))で、'99年にマット・デイモン主演で再映画化されています(前作のリバイバルという位置づけではない)。『太陽がいっぱい』(1960).jpgこの淀川長治2.jpg映画の解釈では、淀川長治のホモ・セクシュアル映画説が有名です(因みに、原作者のパトリシア・ハイスミスはレズビアンだった)。あの吉行淳之介も、淀川長治のディテールを引いての実証に驚愕した(吉行淳之介『恐怖対談』)と本書にありますが、ルネ・クレマンが来日した際に淀川長治自身が彼に確認したところ、そのような意図は無いとの答えだったとのことです(ルネ・クレマン自身がアラン・ドロンに"惚れて"いたとの説もあり、そんな簡単に本音を漏らすわけないか)。(●2016年にシネマブルースタジオで再見。トムがフィリップの服を着て彼の真似をしながら鏡に映った自分にキスするシーンは、ゲイ表現なのかナルシズム表現なのか。マルジュがフィリップに「私だけじゃ退屈?そうなら船をおりるわ」とすねるのは、フィリップの恋人である彼女が、男性であるトムをライバル視してのことか。再見していろいろ"気づき"があった。) 
            
 個人的に、もっと上位に来てもいいかなと思ったのは(あまり、メジャーになり過ぎてもちょっと...という気持ちも一方であるが)、"Body Heat"という原題に相応しいシズル感のある「白いドレスの女」(27位)、コミカルなタッチで味のある「マダムと泥棒」(36位)、意外な場面から始まる「サンセット大通り」(46位)、カットバックを効果的に用いた強盗劇「現金(げんなま)に体を張れ」(51位)、「大脱走」を遥かに超えていると思われる「第十七捕虜収容所」(55位)、これぞデ・パルマと言える「殺しのドレス」(70位)(個人的には「ボディ・ダブル」がランクインしていないのが残念)、チャンドラーの原作をボギーが演じた「三つ数えろ」(92位)、脚本もクリストファー・リーブの演技も良かった「デス・トラップ/死の罠」(94位)、ミステリーが脇に押しやられてしまっているため順位としてはこんなものかも知れないけれど「ディーバ」(101位)、といった感じでしょうか、勝手な見解ですが。

kathleen-turner-body-heat.jpg白いドレスの女1.jpg白いドレスの女2.jpg白いドレスの女.jpg 「白いドレスの女」は、ビリー・ワイルダーの「深夜の告白」('48年)をベースにしたサスペンスですが、共にジェイムズ・M・ケインの『殺人保険』(新潮文庫)が原作です(ジェイムズ・ケインは名画座でこの作品と併映されていた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の原作者でもある)。この映画では暑さにむせぶフロリダが舞台で、主人公の弁護士の男がある熱帯夜の晩に白いドレスの妖艶な美女に出会い、彼女の虜になった彼は次第に理性を奪われ、彼女の夫を殺害計画に加担するまでになる―という話で、ストーリーもよく出来ているし、キャスリーン・ターナーが悪女役にぴったり嵌っていました。 kathleen-turner-body-heat(1981)

マダムと泥棒1.jpgマダムと泥棒.jpg 「マダムと泥棒」は、老婦人が営む下宿に5人の楽団員の男たちが練習部屋を借りるが、実は彼らは現金輸送車を狙う強盗団だった―という話で、これもトム・ハンクス主演で'04年に"The Ladykillers"(邦題「レディ・キラーズ」)というタイトルのまま再映画化されています。イギリス人の監督と役者でないと作り得ないと思われるブラック・ユーモア満載のサスペンス・コメディですが、この作品でマダムこと老婦人を演じて、アレック・ギネスやピーター・セラーズといった名優と渡り合ったケイティ・ジョンソンは、後にも先にもこの映画にしか出演していない全くの素人というから驚き。この作品は、本書の姉妹版の『洋・邦名画ベスト150 〈中・上級篇〉』('92年/文春文庫ビジュアル版)では、洋画部門の全ジャンルを通じての1位に選ばれています。

現金に体を張れ.jpg 「現金に体を張れ」(原題:THE KILLING)は、刑務所を出た男が仲間を集めて競馬場の賭け金を奪うという、これもまた強盗チームの話ですが、綿密なはずの計画がちょっとした偶然から崩れていくその様を、同時に起きている出来事を時間を繰り返カットバック方式でそれぞれの立場から描いていて、この方式のものとしては一級品に仕上がっており、また、人間の弱さ、夢の儚さのようなものもしかっり描けています。 スタンリー・キューブリック (原作:ライオネル・ホワイト) 「現金(ゲンナマ)に体を張れ」 (56年/米) ★★★★☆

『パルプ・フィクション』(1994) 2.jpgPulp Fiction(1994) .jpg 本書刊行後の作品ですが、同じくカットバックのテクニックを用いたものとして、ボスの若い妻(ユマ・サーマン)と一晩だけデートを命じられたギャング(ジョン・トラヴォルタ)の悲喜劇を描いたクエンティン・タランティーノ監督の1994年・第47回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作「パルプ・フィクション」があり(インディペンデント・スピリット賞作品賞も受賞)、テンポのいい作品でしたが(アカデミー脚本賞受賞)、カットバック方式に限って言えば、「現金に体を張れ」の方が上だと思いました(競馬場強盗とコーヒー・ショップ強盗というスケールの違いもあるが)。

Pulp Fiction(1994)

deathtrap movie.jpgdeathtrap movie2.jpg 「デス・トラップ 死の罠」の原作は「死の接吻」「ローズマリーの赤ちゃん」のアイラ・レビンが書いたブロードウェイの大ヒット舞台劇。落ち目の劇作家(マイケル・ケイン)の許に、かつてのシナリオライター講座の生徒クリフ(クリストファー・リーヴ)が書いた台本「デストラップ」が届けられ、作家は、金持ちの妻マイラ(ダイアン・キャノン)に「この劇はクリストファー・リーブ superman.jpg傑作だ」と話し、盗作のアイデアと青年の殺害を仄めかし、青年が郊外の自宅を訪れる際に殺害の機会を狙う―(要するに自分の作品にしてしまおうと考えた)。ドンデン返しの連続は最後まで飽きさせないもので、「スーパーマン」のクリストファー・リーブが演じる劇作家志望のホモ青年も良かったです(この人、意外と演技派俳優だった)。
「デス・トラップ 死の罠」00.jpg クリストファー・リーブ/マイケル・ケイン

映画「ディーバ].jpgディーバ.jpg 「ディーバ」は、オペラを愛する18歳の郵便配達夫が、レコードを出さないオペラ歌手のコンサートを密かに録音したことから殺人事件に巻き込まれるというもので、1981年12月にユニフランス・フィルム主催の映画祭「新しいフランス映画を見るフェスティバル」での上映5作品中の1本目として初日にThe Space (Hanae Mori ビル5F)で上映されるも、その時はすぐには日本配給には結びきませんでした。しかし、'81年シカゴ国際映画祭シルヴァー・ヒューゴー賞を受賞し、'82年セザール賞で最優秀新人監督作品賞(ジャン=ジャック・ベネックス)のほかに、撮影賞(フィリップ・ルースロ)、Jean-Jacques Beineix's Diva.jpgディーバ_5455.JPG音楽賞(ウラディミール・コスマ)など4部門で受賞したことなどもあり、日本でも遅ればせながらフランス映画社配給で'83年11月にロードショーの運びとなりました('82年4月にアメリカでも公開)。個人的には'84年に名画座(大井武蔵野館)で観て、'94年に俳優座シネマテンでのリバイバル上映を観ました。デラコルタ(スイス人作家ダニエル・オディエのペンネーム)の原作は、ジグゾーパズル好きで、波を止めようと考えているゴロディッシュという不思議な男と、彼にくっついて回るアルバ(原作では13歳のフレンチガール)という少女を主人公にしたセリノアール6部作になっているそうで、「ディーバ」はその中の一篇です(この作品のみが翻訳あり)。新潮文庫に翻訳のある原作と映画を比べてみるのも面白いかと思います。


POWER PLAY OPERATION OVERTHROW.jpgパワー・プレイ.jpgPower Play by Peter O'Toole.jpg「パワー・プレイ (1978).jpg 「私が密かに愛した映画」で「パワー・プレイ」を推した橋本治氏が、「すっごく面白いんだけど、これを見たっていう人間に会ったことがない」とコメントしてますが、見ましたよ。

Power Play (1978).jpg ヨーロッパのある国でテログループによる大臣の誘拐殺人事件が起き、大統領がテロの一掃するために秘密警察を使ってテロリスト殲滅を実行に移すもののそのやり方が過酷で(名脇役ドナルド・プレザンスが秘密警察の署長役で不気味な存在感を放っている)、反発した軍部の一部が戦車部隊の隊長ゼラー(ピーター・オトゥール)を引き入れクーデターを起こします。クーデターは成功しますが、宮殿の大統領室にいたのは...。「漁夫の利」っていうやつか。最後、ピーター・オトゥールがこちらに向かってにやりと笑うのが印象的でした。

「パワー・プレイ」輸入版ポスター(上)/輸入盤DVD(右)
                            

第三の男 ポスター.jpg「第三の男」●原題:THE THIRD MAN●制作年:194日比谷映画・みゆき座.jpg日比谷映画.jpg9年●制作国:イギリス●監督:キャロル・リード●製作:キャロル・リード/デヴィッド・O・セルズニック●脚本:グレアム・グリーン●撮影:ロバート・クラスカー●音楽:アントン・カラス●原作:グレアム・グリーン●時間:104分●出演:ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/トレヴァー・ハワード/アリダ・ヴァリ/バーナード・リー/ジェフリー・キーン/エルンスト・ドイッチュ●日本公開:1952/09●配給:東和●最初に観た場所:千代田映画劇場(→日比谷映画) (84-10-15) (評価:★★★★☆)
千代田映画劇場 東京オリンピック - コピー.jpg
日比谷映画内.jpg
千代田映画劇場(日比谷映画) 1957年4月東宝会館内に「千代田映画劇場」(「日比谷映画」の前身)オープン、1984年10月、「日比谷映画劇場」(1957年オープン(1,680席))閉館に伴い「日比谷映画」に改称。2005(平成17)年4月8日閉館。

千代田劇場 「東京オリンピック」('65年/東宝)封切時
                                                     
「恐怖の報酬」.bmp恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ/ウィリアム・タッブス/ダリオ・モレノ/ジョー・デスト●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10) (評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)

太陽がいっぱい 和田誠.jpg「ポスター[左](和田 誠
太陽がいっぱい15.jpg太陽がいっぱい ポスター2.jpg太陽がいっぱい ポスター.jpg「太陽がいっぱい」●原題:PLEIN SOLEIL●制作年:1960年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●脚本:ポール・ジェゴフ/ルネ・クレマン●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:パトリシア・ハイスミス 「才能あ文芸坐.jpg文芸坐ル・ピリエ.jpgるリプレイ氏」●時間:131分●出演:アラン・ドロン/マリー・ラフォレ/モーリス・ロネ/ エルヴィール・ポペスコ/エルノ・クリサ/ビル・カーンズ/フランク・ラティモア/アヴェ・ニンチ●日本公開:1960/06●配給:新外映●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ (83-02-21)●2回目:北千住シネマブルー・スタジオ(16-02-23) (評価:★★★★)
文芸坐ル・ピリエ (11979(昭和54)年7月20日、池袋文芸坐内に演劇主体の小劇場としてオープン)1997(平成9)年3月6日閉館

「白いドレスの女」.jpg「白いドレスの女」●原題:BODY HEAT●制白いドレスの女8.jpg作年:1981年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ローレンス・カスダン●製作:フレッド・T・ガロ●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェイムズ・M・ケイン 「殺人保険」●時間:113分●出演:ウィリアム・ハート/BODY HEAT.bmpキャスリーン・ターナー/リチャード・クレンナ/テッド・ダンソン/ミッキー・ローク/J・A・プレストン/ラナ・サウンダース/キム・ジマー●日本公開:1982/02●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07) ●2回目:飯田橋ギンレイホール(86-12-13)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)

THE LADYKILLERS 1955.jpgマダムと泥棒2.jpg「マダムと泥棒」●原題:THE LADYKILLERS●制作年:1955年●制作国:イギリス●監督:アレクサンダー・マッケンドリック●製作:セス・ホルト●脚本:ウィリアム・ローズ●撮影:オットー・ヘラー●時間:97分●出演:アレック・ギネス/ピーター・セラーズ/ハーバート・ロム/ケイティ・ジョンソン/シル・パーカー/ダニー・グリーン/ジャック・ワーナー/フィリップ・スタントン/フランキー・ハワード●日本公開:1957/12●配給:東和 (評価:★★★★)

現金に体を張れ01.jpgthe killing.jpg現金に体を張れ1.jpg「現金に体を張れ」●原題:THE KILLING●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・キューブリック●製作:ジェームス・B・ハリス●脚本:スタンリー・キューブリック/ジム・トンプスン●撮影:ルシエン・バラード●音楽:ジェラルド・フリード●原作:ライオネル・ホワイト 「見事な結末」●時間:83分●出演:スターリング・ヘイドン/ジェイ・C・フリッペン/メアリ・ウィンザー/コリーン・グレイ/エライシャ・クック/マリー・ウィンザー/ヴィンス・エドワーズ●日本公開:1957/10●配給:ユニオン=映配●最初に観た場所:新宿シアターアプル (86-03-22) (評価:★★★★☆)

パルプフィクション5E.jpegパルプ・フィクション4.jpg「パルプ・フィクション」●原題:PULP FICTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダーパルプフィクション スチール.jpg●原案:クエンティン・タランティーノ/ロジャー・エイヴァリー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラットマン●時間:155分●出演:ジョン・トラヴォパルプ・フィクション ジョン トラボルタ.jpgルタ/サミュエル・L・ジャクソン/ユマ・サーマン/ハーヴェイ・カイテル/アマンダ・プラマー/ティム・ロス/クリストファー・ウォーケン/ビング・ライムス/ブルース・ウィリス/エリック・ストルツ/ロザンナ・アークエット/マリア・デ・メディロス/ビング・ライムス●日本公開:1994/09●配給:松竹富士 (評価:★★★★)
ジョン トラボルタ(1994年・第20回ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」
   
「デス・トラップ 死の罠」8.jpegDEATHTRAP 1982 2.jpg「デス・トラップ 死の罠」●原題:DEATHTRAP●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:バート・ハリス●脚本:ジェイ・プレッソン・アレン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●原作:アイラ・レヴィン●時間:117分●出演デス・トラップ 死の罠.jpg「デストラップ」ケイン.jpg:マイケル・ケイン/クリストファー・リーヴ/ダイアン・キャノン/アイリーン・ワース/ヘンリー・ジョーンズ/ジョー・シルヴァー●日本公開:1983/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (86-02-15) (評価:★★★☆)●併映「殺しのドレス」(ブライアン・デ・パルマ)


ディーバ  チラシ.jpgディーバ 1981.jpg「ディーバ」●原題:DIVA●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:ジャン=ディーバ dvd.jpgジャック・ベネックス●製作:イレーヌ・シルベルマン●脚本:ジャン=ジャック・ベネックス/セルジュ・シルベルマン●撮影:フィリップ・ルースロ●音楽:ウラディミール・コスマ●原作:デラコルタ●時間:117分●出演:フレデリック・アンドレイ/ウィルヘルメニア=ウィンギンス・フェルナンデス/リシャール・ボーランジェ/シャンタル・デリュアズ/ジャック・ファブリ/チュイ=アン・リュー●日本公開:1981/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館 (84-06-16)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(97-10-03) (評価:★★★★)●併映(1回目):「パッション」(ジャン=リュック・ゴダール)
 
「パワー・プレイ 参謀たちの夜」  .jpgPOWER PLAY OPERATION OVERTHROW 1978 .jpg「パワー・プレイ 参謀たちの夜」●原題:POWER PLAY OPERATION OVERTHROW●制作年:1978年●制作国:イギリス/カナダ●監督:マーティン・バーク●製作:クリストファー・ダルトン●撮影:オウサマ・ラーウィ●音楽:ケン・ソーン●時間:110分●出演:ピーター・オトゥール/デヴィッド・ヘミングス/バリー・モース/ドナルド・プレザンス/ジョン・グラニック/チャック・シャマタ/アルバータ・ワトソン、/マーセラ・セイント・アマント/オーガスト・シェレンバーグ●日本公開:1979/11●配給:ワールド映画●最初に観大塚駅付近.jpg大塚名画座 予定表.jpg大塚名画座4.jpg大塚名画座.jpgた場所:大塚名画座 (80-02-21) (評価:★★★☆)●併映:「Z」(コスタ・ガブラス)

大塚名画座(鈴本キネマ)(大塚名画座のあった上階は現在は居酒屋「さくら水産」) 1987(昭和62)年6月14日閉館

《読書MEMO》
- 構成 -
○座談会 それぞれのヒッチコック
○作品編 ここに史上最高最強の151の「面白い映画」がある
○監督編 人をハラハラさせた人たち
○エッセイ集-映画を見ることも、映画について読むことも楽しい(一部)
 ・原作と映画の間に (山口雅也)
 ・どんでん返しの愉楽 (筈見有弘)
 ・ぼくの採点表 (双葉十三郎)
 ・映画は見るもの、ビデオは読むもの (竹市好古)
 ・わたしの「推理映画史」 (加納一朗)
 ・法廷映画この15本- 13人目の陪審員 (南俊子)
 ・襲撃映画この15本-なにがなんでも盗み出す (小鷹信光)
 ・ユーモア・パロディ映画この20本-笑うサスペンス (結城信孝)
 ・10人のホームズ、10人のワトソン、10人のモリアティ、そして8人のハドソン夫人 (児玉数夫)
 ・世界の平和を守った10人の刑事 (浅利佳一郎)
 ・世界を震えあがらせた10人の悪党 (逢坂剛)
 ・サスペンス映画が似合う女優10人 (渡辺祥子)
 ・フランス人はなぜハドリー・チェイスが好きなのか (藤田宜永)
 ・主題曲は歌い、叫ぶ (岩波洋三)
 ・『薔薇の名前』と私を結んだ赤い糸 (北川れい子)
 ・マイケル・ケインはミステリー好き (松坂健)
 ・TV界のエラリー・クイーン (小山正)
 ・394のアンケートを読んで (赤瀬川準)

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国策的に殺人マシーンに改造された米兵たち。"べトコン"と比べて野蛮なのはどちらか。
ベトナム帰還兵の証言.jpg タイガーフォース.jpg 南ベトナム政治犯の証言.jpg ディア・ハンター.jpg ディア・ハンター ド.jpg
ベトナム帰還兵の証言 (1973年) (岩波新書)』『タイガーフォース』('07年)『南ベトナム政治犯の証言 (1974年) (岩波新書)』 映画「ディア・ハンター [DVD]
Iベトナム8.JPGvvawa.gif '71年に「戦争に反対するベトナム帰還兵の会」(VVAW=Vietnam Veterans Against the War, Inc.)が、インドシナでアメリカが実施した政策を暴露するための集会をデトロイト開き、それに参加した100人以上の帰還兵が、自由発砲、濃密爆撃、捕虜虐待、部落殲滅などの犯罪的戦術行為が"上官命令"により行われたことを証言したもので、本書はその1000ページ近い証言記録を、在野の現代アメリカ政治研究者・睦井三郎氏(故人)が抜粋・編訳したもの。

 最近では、当時の南ベトナム駐留米軍の空挺部隊小隊が、非武装の村を焼き払い、半年間で数百人の住民を殺戮したことが約35年ぶりに明るみにされ、『タイガーフォース』('07年/WAVE出版)という本になって話題を呼びましたが、本書『ベトナム帰還兵の証言』によれば、ソンミ村の虐殺程度のことはいくらでもあったらしいです。本書で語られている米兵による村落の殲滅や農地の破壊、捕虜の虐待や組織的な強姦などは凄まじいものがあり、語っている兵士たちも、自分たちがどうしてそうした残虐行為の"下手人"となり得たのか、半ば整理がつかないでいる様子が窺えます。 

 彼らの証言を通して、戦争犯罪そのものである"上官命令"は、アメリカの"政策"として設定されていたことが浮き彫りになり、そのために兵士たちは、戦場に赴く前から"殺人マシーン"となるよう訓練されていたことがわかります(冒頭の兵士たちが可愛がっていた兎を、戦場に行く前に上官が惨殺する話は実に怖い)。

 人種差別意識、女性差別意識も徹底的に吹き込まれ、普通の生活を送っていた若者や道徳的なキリスト教徒が、ベトナムの地では、捕虜を生きたまま嬲り殺し、女子供を強姦することに無感覚になる、こうした"人間の非人間化"を政策として行うアメリカという国は、本当に恐ろしい側面を持つと言えますが、こうした集会に参加して証言をする帰還兵たちは、自分たちがしたことに罪の意識を抱き、過去から逃避しようとしないだけ、"アメリカの良心"の存続に一縷の希望を抱かせる存在なのかも知れません。

ベトナム戦争-サイゴン・ソウル・東京.jpg 本書は'73年7月刊行ですが、岩波新書で同じくベトナム戦争について書かれたものでは、共同通信記者の亀山旭氏によるベトナム戦争-サイゴン・ソウル・東京』('72年5月刊)川本邦衛氏編集の『南ベトナム政治犯の証言』('74年6月刊)などがあり、前者は、政治的観点からベトナム戦争の経緯を追いながらも、やはり、米兵の民間人に対する残虐行為をとりあげ、後者は、捕虜となった北ベトナム兵士(民間人を多く含む)の証言を集めていて、「虎の檻」と呼ばれたコンソン島の監獄などで捕虜たちが受けた拷問や残虐行為が生々しく証言されています(亀山旭『ベトナム戦争』は、取材で激戦地にさしかかった際の記者の恐怖感が伝わってくる。この取材には作家の開高健が同行している)。 亀山 旭『ベトナム戦争―サイゴン・ソウル・東京 (岩波新書)』 (1972/05)

 『ベトナム帰還兵の証言』の中には、"べトコン"の捕虜となったアメリカ人の証言もありますが、彼らはアメリカ人捕虜もベトナム人(政府軍側)捕虜も丁寧に扱ったということで(マイケル・チミノ監督の「ディア・ハンター」('78年)では、極めて野蛮な人種のように描かれていたが、往々にしてハリウッド映画には政治的プロパガンダが込められる)、一方、アメリカ兵は、"べトコン"を捕らえると、ヘリコプターで搬送中にヘリから突き落としたりしていたという証言もあります(野蛮なのはどっちだ!)。
ディア・ハンター テアトル東京.jpg映画「ディア・ハンター」.png 映画「ディア・ハンター」そのものは、アカデミー賞やニューヨーク映画批評家協会賞の作品賞を受賞した一方で、以上のような観点から「ベトナム戦争を不当に正当化している」との批判もあります(橋本勝氏などもそうであり、その著書『映画の絵本』ではこの映画を全く評価していない)。しかしながら、解放戦線(映画内では「ベトコン」)の捕虜となったことがトラウマとなり、精神を病んでいく男を演じたクリストファー・ウォーケンの演技には、鬼気迫るものがあったように思います(クリストファー・ウォーケンはこの作品でアカデミー賞助演男優賞、ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞を受賞している)。当時ガンを病んディア・ハンターges.jpgMeryl Streep and John Cazale.jpgいたジョン・カザール(享年42)の遺作でもあり、ロバート・デ・ニーロが彼を説得して出演させたとのことです。因みにジョン・カザールは、舞台「尺には尺を」で共演し、この作品でも共に出演しているメリル・ストリープとの婚約中のガン死でした(メリル・ストリープにとってはこの作品が映画デビュー2作目だったが、彼女この作品高倉健G.jpgディア・ハンター 6.jpg全米映画批評家協会賞助演女優賞を受賞している)。俳優の高倉健が絶賛している映画であり、その高倉健の親友でもあるロバート・デ・ニーロが高倉健に「もう二度とあんな映画は作れない」と言ったそうです。

 因みに、ジョン・カザールは、生前に出演したすべての作品(下記5作品)がアカデミー賞の最高賞である「作品賞」にノミネートされたという稀有な俳優となりました(そのうち3作が「作品賞」を受賞した)。
・「ゴッドファーザー」(1972年、ノミネート10部門、受賞3部門)
・「カンバセーション...盗聴...」(1974年、ノミネート3部門)
・「ゴッドファーザー PART II」(1974年、ノミネート11部門、受賞6部門)
・「狼たちの午後」(1975年、ノミネート1部門、受賞1部門)
「ディア・ハンター」(1978年、ノミネート9部門、受賞5部門)
     

ディア・ハンター2.9.2.jpegディア・ハンター2.jpg「ディア・ハンター」●原題:THE DEER HUNTER●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・チミノ●製作:マイケル・チミノ/バリー・スパイキングス/マイケル・ディーリー/ジョン・リヴェラル●脚本:デリック・ウォッシュバーン●撮影:ヴィルモス・スィグモンド●音楽:スタンリー・マイヤーズ●時間:183分●出ディア・ハンター ages.jpg演:ロバート・デ・ニーロ/クリストファー・ウォーケン/ジョン・カザール/ジsマイケル・チミノed.jpgョン・サヴェージ/メリル・ストリープ/チャック・アスペグラン/ジョージ・ズンザ/ピエール・セグイ/ルタニア・アルダ●日本公開:1979/03●配給:ユニバーサル映画●最初に観た場所:銀座・テアトル東京(80-02-15)(評価:★★★★)

マイケル・チミノ&ロバート・デ・ニーロ

テアトル東京 1955 七年目の浮気3.jpgテアトル東京2.jpg

テアトル東京内.jpg
テアトル東京
1955(昭和30)年11月1日オープン (杮落とし上映:「七年目の浮気」)
1981(昭和56)年10月31日閉館 (最終上映」マイケル・チミノ監督「天国の門」)

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スペシャリストらの"技"と彼らをまとめるマロリーのリーダーシップがいい『ナヴァロンの要塞』。

ナヴァロンの要塞 カラージャケット.jpg ナヴァロン.jpg ナヴァロンの要塞.jpg    ナバロンの要塞).jpg the-guns-of-navarone-cover-3.jpg
ナバロンの要塞 (1966年)』/『ナヴァロンの要塞 (1977年) (ハヤカワ文庫―NV)』/映画「ナバロンの要塞」日本版ポスター/輸入版ポスター

 1957年にイギリスで発表されたアリステア・マクリーン(Alistair MacLean 1922-1987)の戦争冒険小説『ナヴァロンの要塞』(The Guns of Navarone)は、『荒鷲の要塞』(Where Eagles Dare)と並ぶ"要塞モノ"の傑作ですが、この作品が発表されたのは、『荒鷲』に先立つこと10年で、結構「古典」だったのなのだなあと。

 第二次世界大戦中、ナチスのエーゲ海支配の拠点である難攻不落のナヴァロン島の要塞に、英国連合国軍から要塞の破壊指令を受けた、ニュージーランド人登山家マロリーをリーダーとする少数精鋭のスペシャリストチームが潜入する―。

 映画でも知られるストーリーですが、原作もこれでもかこれでもかとチームを不測のトラブルがテンポよく(?)襲い、それを克服していくスペシャリストたちの"技"と、彼らをまとめるマロリーのリーダーシップがいいです。
 "マロリー"という名は、戦前チョモランマ登攀中に行方不明になった「そこに山があるから登るのだ」の登山家ジョージ・マロリーへのオマージュなのでしょうか。

『ナバロンの要塞』(1961) 2.jpgナバロンの要塞p.jpg J・リー・トンプソン監督(1914-2002)、グレゴリー・ペック主演の映画「ナバロンの要塞」('61年/米)も、原作のサスペンティックな緊迫感を保っている傑作ではあります。
映画「ナバロンの要塞」輸入版ポスター
『ナバロンの要塞』(1961).jpg
 ただし、彼らチームを助けるケロス島の2人の男が女性に置き換えられていて、しかもそのうちの1人を演じたギリシャ人女優イレーネ・パパスがやけに存在感があり、その上、グレゴリー・ペックはもう1人の女性に恋情のようなものを抱いたりするため、良い意味でも悪い意味でも男女物のヒューマンドラマの色合いが強まった気がしました。
   
                  
「ナバロンの要塞」1.jpg「ナバロンの要塞」2.jpg こうした"情"の部分をストレートに表現することをできるだけ避けていたのが作者の特質だったのではないだろうか? 映画自体は悪くは無いけれど(むしろ傑作の部類だと個人的にも思うが)、原作の方がより男っぽい重厚感があります。 

荒鷲の要塞.jpg荒鷲の要塞 ハヤカワ・ノヴェルズ.jpg「荒鷲の要塞」.jpg荒鷲の要塞 (1968年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)』/『荒鷲の要塞 (1977年) (ハヤカワ文庫―NV)』/映画「荒鷲の要塞」ポスター(左)

 1967年に発表された姉妹作『荒鷲の要塞』('68年/ハヤカワ・ノヴェルズ)は、ドイツ軍の捕虜となる要塞に囚われたアメリカ軍将校を救出するために、イギリス軍情報部員6名とアメリカ陸軍のレンジャー部隊員から成る救出部隊が組まれるもので、その要塞というのが専用ロープウェイでしか行けないという難攻不落のもの。しかも、味方にもスパイがいて...と、ちょっと『ナヴァロンの要塞』と似ている感じ。(小説の評価★★★☆)

映画「荒鷲の要塞」('68年/米)では、イギリス軍情報部員の一員としてリチャード・バートン、アメリカ陸軍のレンジャー部隊員にクリント・イーストウッドを配していますが、最後のロープウェイ上の格闘に象徴されるように、小説の段階で既により冒険アクション風な感じがしました。

荒鷲の要塞1.jpg 先に映画の脚本として書かれたものを、後にセリフなどを書き加えて小説化したものと後で知って納得しましたが、結果的にはこれはやはり映画の方が面白く(映画の評価★★★★)、ロープウェイを使った映画では№1ではないかと思います("ロープウェイを使った映画"なんてそう矢鱈あるものではないが)。

「ナバロンの要塞」6.jpgナバロンの要塞(61米).jpg「ナバロンの要塞」●原題:THE GUNS OF NAVARONE●制作年:1961年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン●音楽:デミトリー・ティオムキン●原作:アリステア・マクリーン「ナヴァロンの要塞」●時間:157分●出演:グレゴリー・ペック/デビッド・ニーヴン/アンソニー・クイン/スタンリー・ベイカー/アンソニー・クエイル/イレーネ・パパス/ジア・スカラ/ジェームズ・ダーレン/ブライアン・フォーブス/リチャード・ハリス●日本公開:1961/08●配給:コロムビア映画 (評価★★★★)

「荒鷲の要塞」ps.jpg荒鷲の要塞(68米、英).jpg「荒鷲の要塞」●原題:WHERE EAGLE DARE●制作年:1968年●制作国:イギリス・アメリカ●監荒鷲の要塞 2.jpg督:ブライアン・G・ハットン●音楽:ロン・グッドウィン●原作:アリステア・マクリーン「荒鷲の要塞」●時間:155分●出演:リチャード・バートン/クリント・イーストウッド/メアリー・ユーア/イングリッド・ピット/マイケル・ホーダーン/パトリック・ワイマーク/ロバート・ ビーティ/アントン・ディフリング/ダーレン・ネスビット/ファーディ・メイン●日本公開:1968/12●配給:MGM (評価★★★★)

ハヤカワノヴェルズ ヴァロンの要塞.jpg『ナヴァロンの要塞』...【1966年単行本〔早川書房(『ナバロンの要塞』)〕・新書版〔ハヤカワ・ポケット・ミステリ〕/1971年単行本[ハヤカワ・ノヴェルズ〕/1977年文庫化[ハヤカワ文庫ノヴェルズ]】

荒鷲の要塞 カバー.jpg『荒鷲の要塞』...【1968年単行本[ハヤカワ・ノヴェルズ〕/1977年文庫化[ハヤカワ文庫ノヴェルズ]】

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読んでいる間は面白いけれど、読み終えると、何だったのみたいな感じ。

ダ・ヴィンチ・コード 上.jpg ダ・ヴィンチ・コード(下).jpg ダ・ヴィンチ・コード愛蔵版.jpg ダ・ヴィンチ・コード dvd.jpg ダ・ヴィンチ・コード   .jpg ナショナル・トレジャー dvd.jpg
ダ・ヴィンチ・コード〈上〉〈下〉』〔'04年〕『ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版』〔'05年/角川書店〕「ダ・ヴィンチ・コード (1枚組) [SPE BEST] [DVD]」トム・ハンクス「ナショナル・トレジャー 特別版 [DVD]

ダ・ヴィンチ・コード4.jpg 2003年に発表されたダン・ブラウンのベストセラー小説で、2004 (平成16) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位作品であり、映画化もされたのであらすじを知る人は多いと思いますが、著者自身の説明によると―、「高名なハーヴァード大学の象徴学者が警察によってルーヴル美術館へ呼び出され、ダ・ヴィンチの作品にまつわる暗号めいた象徴を調べるよう依頼されます。その学者は暗号を解読し、史上最大の謎のひとつを解き明かす手がかりを発見するのですが...追われる身となります」ということで、実はその前に、ルーヴル美術館の館長が異様な死体で発見されるという出来事があるのですが...。

 館長の孫娘が象徴学者と協力して祖父のダイイング・メッセージを説こうとするが、そこに立ちはだかる謎の宗教団体がいて、ハラハラドキドキの展開。一度は聞いたことがあるようなキリストにまつわる有名な謎を孕んだ宗教的背景、美術館の中を探索しているような芸術の香り高い味付け。謎解きだけでもグイグイ読者を引っぱっていく上にこれだから、読者の色んな欲求を満たしてくれます。海外ではillustrated edition という「愛蔵版」が出ていましたが、日本でもすぐに出版され、小説の中に登場する美術作品や建築物、場所、象徴などを数多く収録した豪華カラー版!美術本としては楽しめるが洋書より値が高い。1冊1万2千円の皮装版まで出て、ここまでくるとちょっとスノッブではないかと...。

 ただし、作品の最大の魅力であるはずの謎解き(暗号解読)も、鍵穴の向こうにまた鍵穴がありそれを開けるとそのまた向こうに鍵穴があるような展開がずっと続くと、少し食傷気味となります。こんな複雑なダイイング・メッセージ残して、残された者が解けなかったらどうするのだろうという素朴な疑問も覚えました(娘は一応優秀な「暗号解読官」であるという設定になってはいるが)。

 著者は、小説の構築においてロバート・ラドラムの影響を受けたそうですが、言われなくともよく似ているあという感じで、読んでいる間は面白いけれど、読み終えると、何だったのみたいな感じもします。エンタテインメントはそれでいいのだという考え方もありますが...。

 冒頭の、「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述はすべて事実に基づいている」という記述も、小説の一部であると見た方がいいと思います。

Tom Hanks in "The Da Vinci Code"(2006)
ダ・ヴィンチ・コード.png「ダ・ヴィンチ・コード」 2005 トム・ハンクス.jpg ロン・ハワード監督、トム・ハンクス主演の映画「ダ・ヴィンチ・コード」('06年/米)も同じような感じで、原作のストーリーを丁寧になぞったために展開がかなりタイトになった上に(上映時間は2時間半と長いのだが)、「トンデモ学説」をホイホイ素直に信じる登場人物たちを見ていて「こんなの、あり得ない」という気持ちにさせられ、ああ、これは「インディ・ジョーンズ」などと同じで、ハナから真面目に考えてはいけなかったのかと改めて思いました(どうせ映像化するなら、ルーヴル美術館の中をもっとしっかり撮って欲しかった)。 「ダ・ヴィンチ・コード (1枚組) [DVD]

ダイアン・クルーガー/ニコラス・ケイジ in「ナショナル・トレジャー」('04年/米)
ナショナル・トレジャー dvd.jpgナショナル・トレジャー1.jpg 同じような「お宝探し」系の作品では、ジョン・タートルトーブ監督の「ナショナル・トレジャー」('04年/米)があり、これは、歴史学者にして冒険家の主人公(ニコラス・ケイジ)が、合衆国独立宣言書に署名した最後の生存者が自分の先祖に残した秘宝の謎を女性公文書館員(ダイアン・クルーガー)らとともに追うもので、こちらもフリーメイソンとかテンプル騎士団とか出てきますが、そもそもアメリカの建国来の歴史が200年そこそこであるため、「ダ・ヴィンチ・コード」ほどの重々しさがなく、しかも、予算の都合なのか、「ダ・ヴィンチ・コード」以上に殆どの展開が都会の真ん中で繰り広げられています。 「ナショナル・トレジャー 特別版 [DVD]

 但し、作っている側も敢えて大仰に構えるのではなく、謎解きとアクションに徹している感じで、娯楽映画としてはフラストレーションの残る「ダ・ヴィンチ・コード」よりは、プロセスにおいてテンポ良く、結末においてカタルシスのあるこちらの方が楽しめたかも(まあ、「ダ・ヴィンチ・コード」の方は、原作を読んで結末が分かった上で観ているわけだからその分ハンディがあり、比較にならないかも知れないが)。
 
 「ダ・ヴィンチ・コード」より公開は早く、男女が組んでのお宝探しや都会の真ん中にそのお宝の秘密があったことなど、「ダ・ヴィンチ・コード」の原作のパクリではないかとも言われたそうですが、「ダ・ヴィンチ・コード」風に変に重々しく作ってしまうと、却ってアメリカ人の歴史コンプレックスの表れみたいな作品になっていたかも。純粋娯楽映画としてはまあまあの出来でしょうか。本国でもそれなりに人気があったらしく、続編「ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記」('07年)も作られています。

ダ・ヴィンチ・コードs.jpgダ・ヴィンチ・コード09.jpg「ダ・ヴィンチ・コード」●原題:THE DA VINCI CODE●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ジョン・コーリー●脚本:ダン・ブラウン/アキヴァ・ゴールズマン●撮影:サルヴァトーレ・トチノ●音楽:ハンス・ジマー●原作:ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」●時間:150分●出演:トム・ハンクス/オドレイ・トトゥ/ジャン・レノ/イアン・マッケラン/ポール・ベタニー/アルフレッド・モリーナ/ユルゲン・プロホノフ ●日本公開:2006/05●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)

ナショナル・トレジャー』.jpg「ナショナル・トレジャー」●原題:NATIONAL TREASURE●制作年:2004年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・タートルトーブ●製作:ジェリー・ブラッカイマー/ジョン・タートナショナル・トレジャー2.jpgルトーブ●脚本:コーマック・ウィバーリー/マリアンヌ・ウィナショナル・トレジャー ジョン・ヴォイト.jpgバーリー/ジム・カウフ●撮影:キャレブ・デシャネル●音楽:トレヴァー・ラビン●時間:131分●出演:ニコラス・ケイジ/ダイアン・クルーガー/ジャスティン・バーサ/ショーン・ビーン/ハーヴェイ・カイテル/ジョン・ヴォイト/クリストファー・プラマー●日本公開:2005/03●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★☆)

ジョン・ヴォイト

ダイアン・クルーガー              「ナショナル・トレジャー」('05年/米)
ダイアン・クルーガー.jpeg ナショナル・トレジャー ダイアン・クルーガー.jpg
女は二度決断する」('17年/独)[カンヌ国際映画祭女優賞]女は二度決断する ド.jpg女は二度決断する 32 0.jpg

 【2006年文庫化[角川文庫(上・中・下)]】

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カオス・シチリア物語2.jpg 村の掟を破った息子を銃殺する父。凄まじきかな、父性原理。

エトルリヤの壷2.JPG『エトルリヤの壷 他五編』.jpg Prosper Mérimée.jpg Prosper Mérimée(1803-1870)
岩波文庫改版版/『エトルリヤの壷―他五編 (1971年)』 パオロ&ビットリオ・タヴィアーニ 「カオス・シチリア物語 [DVD]

『エトルリヤの壷 他五編』.JPG 1829年発表のフランスの作家プロスペル・メリメ(1803‐1870/享年66)の作品。メリメは『カルメン』の作者として知られる作家で、考古学者・美術史家・言語学者でもあり、元老院議員にまで出世する一方、社交界で浮名を流すなどした人で、フランス人でありながら、スペインやイタリアを舞台にした小説が多いのは、実際にそうした方面に旅行したことと、多言語を解する語学力によるところが大きいようです。

 本書『エトルリヤの壷』(岩波文庫の改版前の初版刊行は昭和3年と旧い)は、そのメリメの短篇6篇を集めたもので、うわさ話に振り回されて自分で自分を滅ぼしてしまう男を描いた表題作など、人間の心理的葛藤や人生の皮肉を端的に描いたものが多いです。

コルシカ紀行.jpg その中でも「マテオ・ファルコーネ」は、やや異彩を放つもので、19世紀のコルシカ島の村での話ですが、この話に衝撃を受けた作家の大岡昇平は、そのルーツを探るためにコルシカ島を訪れ、『コルシカ紀行』('72年/中公新書)を著しています(但し、コルシカ島の県庁所在地バスティア市の博物館で、探していた「コルシカの悲劇的歴史」に纏わる文献が、金庫が錆びていて開かなかっため閲覧できず、館長から後で贈るという約束を取り付けるも、結局は送ってこなかったなど、結構"空振り"の多い旅行になっている)。

大岡 昇平『コルシカ紀行 (中公新書 307)』['72年/中公新書]

マテオ・ファルコーネ05.jpgMateo Falcone (1829).bmp 若い頃から射撃に優れ、村人の人望もあった羊飼いマテオ・ファルコーネは、妻と3人の娘、そして最後に生まれた男の子とともに自活的な農牧生活を送っていた―。そんなある日、マテオ一家が留守中に、憲兵に追われ村に逃れてきたお尋ね者が家にやって来て、1人留守を預かっていた10歳の息子は、一旦は彼を隠すのですが(伝統的にその村には、官憲などに追われている人をかくまう「掟」があった)、憲兵の「居場所を教えれば時計をやる」という言葉に負けて、お尋ね者を隠した場所を教えてしまい、彼は捕えられます。そのとき家に戻ってきたマテオに向かって男は「ここは裏切り者の家だ!」と叫び、すべてを察したマテオは、自分の息子を窪地へ連れて行き、大きな石のそばに立たせ、お祈りするよう命じ、終わるや否や、泣いて命乞いする本人や妻の制止を振り切って息子を銃殺するという話。

 簡潔な写実と会話を連ねた飾り気のない文章ゆえにかえって凄惨な印象を受け、この話を西洋的な父性原理の象徴と見るむきもあれば(それにしても凄まじい!)、運命的悲劇との捉え方もあり、また小説とは言えないという見方もあるようですが、確かに一種の「説話」のような感じがしました(小説的良し悪しを言うのが難しい)。文庫で20ページしかない短篇のほとんどのあらすじを紹介してしまったので、ラストの父親の"決めゼリフ"だけは書かないでおきます。

カオス・シチリア物語1.jpg 尚、この短編集の表題作「エトルリアの壺」は、パオロ&ビットリオ・タヴィアーニ監督のシチリアの説話を基にしたオムニバス映画「カオス・シチリア物語」('84年/伊)の中の一話「かめ(甕)」として映画化されています(翻案:ルイジ・ピランデッロ)。

カオス・シチリア物語 甕.jpg 欲しい物は全て手に入れたはずなのに、さらに多くを欲する大地主ドン・ロロがが購入した巨大なオリーブ油を入れる瓶-それは彼の権力の象徴であったが、そんな瓶が壊れてしまい、それをどうしても直したい彼は、瓶を修理することが出来る奇跡の技を持つ老職人を雇うが、職人は修理完了後に瓶の中から出られなくなる。ロロは瓶を壊すことを拒むが、職人は稼いだ金を使って村人達を集め、瓶を囲んでの宴会を繰り広げる。皆が職人を好いているように見えるのが気に入らないロロだったが、嫉妬が頂点に達した時、彼は遂に瓶を壊してしまう-。

「カオス・シチリア物語」.JPG ロロという人物にも、マテオ・ファルコーネに通じる男性原理が感じられる一方、人は所詮は全てを独占することなど出来ず、独占するのではなく共有することがいうことに価値があることを喩えとしてを教えているようにも思える作品であり(ここでは、男性原理のある種"限界性"が描かれているとも言える)、タヴィアーニ兄弟は、このメリメ原作の物語をはじめ、シチリアの"混沌"という意のカオス村(兄弟の生まれ故郷でもあるらしい)を舞台にした素朴な人間たちのドラマを、7つの挿話にわけて美しい映像のもと描いています。

ドン・ローロのつぼ02.jpgドン・ローロのつぼ01.jpg 因みに、この映画に触発されて、絵本作家の飯野和好氏が、この「壺」の寓話を、『ドン・ローロのつぼ』('99年/福音館書店(年少版 こどものとも)という絵本にしています。

              
                          

カオスシチリア物語.jpgカオス・シチリア物語KAOS 1984.jpg 「カオス・シチリア物語」●原題:KAOS●制作年:1984年●制作国:イタリア●監督・脚本:パオロ&ビットリオ・タヴィアーニ●製作:ジュリアーニ・G・デ・ネグリ●撮影:ジュゼッペ・ランチ●音楽:ニコラ・ピオヴァーニ●原作:ルイジ・ピランデッロ●時間:187分●出演:マルガリータ・ロサーノ/オメロ・アントヌッティ/ミコル・グイデッリ/ノルマ・マルテッリ/クラウディオ・ビガリ/ミリアム・グイデッリ/レナータ・ザメンゴ/マッシモ・ボネッティ●日本公開:1985/08●配給:フランス映画社●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(87-10-03)(評価:★★★★)

高田馬場a.jpg高田馬場・稲門ビル.jpg高田馬場東映パラス 入り口.jpg高田馬場東映パラス 高田馬場・稲門ビル4階(現・居酒屋「土風炉」)1975年10月4日オープン、1997(平成9)年9月23日閉館

①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹


 【1928年文庫化・1971年改版[岩波文庫]/1960年再文庫化[角川文庫(『マテオ・ファルコーネ-他五編』)]】

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平易な言葉で"モンタージュ"技法などの「感動」させる仕組みを解き明かしている。

映画芸術への招待2.jpg  自転車泥棒.jpg 自転車泥棒b.jpg ランベルト・マジョラーニ(右)
映画芸術への招待 (1975年)』講談社現代新書「自転車泥棒 [DVD]

『自転車泥棒』(1948) 2.jpg ビットリオ・デ・シーカ監督に「自転車泥棒」('48年/伊)という名画があり、世界中の人を感動させたわけですが、実際自分がフィルムセンター(焼失前の)でこの作品を観たときも、上映が終わって映画館から出てくる客がみんな泣いていました。

zitensha.jpg この映画の主人公を演じたランベルト・マジョラーニは、演技においては全くのズブの素人だったとのことで、ではなぜ、そんな素人が演じた映画が名画たりえたかと言うと、それは"モンタージュ"によるものであるとして、著者は、その"モンタージュ"という「魔法」を、この本でわかり易く解説しています(素人の演技が何故世界中の人々を泣かせるのかという導入自体がすでに"モンタージュ"の威力を示しており、効果的なイントロだと言える)。

東京物語.jpg つまり映画とは"断片"から構成されるもので、例えば小津安二郎の映画は、1分間に平均10カットあり、役者は6秒間だけ演技を持続すればよい―、となると、役者の演技力の持続性は求められないわけです。そして、「現実」を映すだけの映画が「芸術」になりうるのは、まさにこのモンタージュにはじまる技法によるもので、本書ではそうした技法の秘密を、具体的に良く知られている内外の作品に触れながら解説しています。

 モンタージュ技法を最初に完成させたと言われるのが「戦艦ポチョムキン」('25年/ソ連)のセルゲイ・エイゼンシュテインですが、日本公開は昭和42年だったものの、作られた年代(大正14年)を考えるとスゴイ作品です。

 「戦艦ポチョムキン」.jpg 「戦艦ポチョムキン [DVD]

『戦艦ポチョムキン』(1925)2.jpg『戦艦ポチョムキン』(1925)1.jpg

イワン雷帝(DVD).jpgイワン2.jpgイワン1.jpg エイゼンシュテインは更に歌舞伎の影響を強く受け、結局「イワン雷帝」(第1部'44年/第2部'46年/ソ連)などはその影響を受け過ぎて歌舞伎っぽくなってしまったとのことですが、確かに、あまりに大時代的で自分の肌に合わなかった...(この映画、ずーっと白黒で、第2部の途中からいきなり極彩色カラーになるのでビックリした。「民衆の支持を得た独裁者」というパラドクサルな主題のため、時の独裁者スターリンによって公開禁止になった作品。第3部は未完)。そのエイゼンシュテインに影響を与えた歌舞伎は、実は人形浄瑠璃の影響を受けているというのが興味深く、まさに「自然は芸術を模倣する」(人が人形の動きを真似する)という言葉の表れかと思います。

 日本映画「白い巨塔」で、田宮二郎演じる主人公が執刀する手術の場面と教授選の場面が交互に出てくるシーンや、「砂の器」で、最後のピアノ演奏会と刑事の逮捕状請求場面と海辺をさすらう主人公の幼年時代がトリプル・ラッシュするのも、モンタージュ技法であると。三四郎.jpg八月の光.jpg更に、詩人である著者は、詩や小説にも同様の技法が用いられていることを示唆していて、フォークナーの『八月の光』と漱石の『三四郎』において、同じようなモンタージュ的表現が使われていることを指摘しています。

 難解になりがちな映像美学に関するテーマを扱いながら、終始平易な言葉で「感動」の仕組みを解き明かしていて、映画鑑賞に新たな視点を提供してくれる本だと思います。

Jitensha dorobô (1948)
Jitensha dorobô (1948).jpg
『自転車泥棒』(1948).jpg自転車泥棒2.jpg「自転車泥棒」●原題:LADRI DI BICICLETTE●制作年:1948年●制作国:イタリア●監督・製作:ビットリオ・デ・シーカ●脚本:チェーザレ・ザヴァッティーニ/オレステ・ビアンコーリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/アドルフォ・フランチ/ジェラルド・グェリエリ●撮影:カルロ・モンテュオリ●音楽:アレッサンドロ・チコニーニ●原作:ルイジフィルムセンター旧新 .jpg・ バルトリーニ●時間:93分●出演:ランベルト・マジョラーニ/エンツォ・スタヨーラ/ジーノ・サルタメレンダ/リアネッラ・カレル/ヴィットリオ・アントヌッチ/エレナ・アルティエリ●日本京橋フィルムセンター.jpg公開:1950/08●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(78-11-30) (評価:★★★★)
旧・京橋フィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター) 1970年5月オープン、1984(昭和59)年9月3日火災により焼失、1995(平成7)年5月12日リニューアル・オープン。

戦艦ポチョムキン.jpg 「戦艦ポチョムキン」●原題:IVAN THE TERRIBLE IVAN GROZNYI●制作年:1925年)●制作国:ソ連●監督:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン●脚本:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン/ニーナ・アガジャノヴァ・シュトコ●撮影:エドゥアルド・ティッセ●音楽:ニコライ・クリューコフ●時間:66分●出演:アレクサンドル・アントノーフ/グリゴーリ・アレクサンドロフ/ウラジミール・バルスキー/セルゲイ・M・エイゼンシュテイン●日本公開:1967/10●配給:東和=ATG●最初に観た場所:武蔵野推理(78-12-18)●2回目:池袋文芸坐 (79-04-11) (評価:★★★★)●併映(1回目):「兵士トーマス」(スチュアート・クーパー)●併映(2回目):「イワン雷帝」(セルゲイ・エイゼンシュタイン) 「戦艦ポチョムキン [DVD]

イワン4.jpgイワン3.jpg 「イワン雷帝」●原題:IVAN THE TERRIBLE IVAN GROZNYI●制作年:1946年(第1部・1944年)●制作国:ソ連●監督・脚本:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン●撮影:アンドレイ・モスクヴィン/エドゥアルド・ティッセ ●音楽:セルゲイ・プロコフィエフ●時間:209分●出演:ニコライ・チェルカーソフ/リュドミラ・ツェリコフスカヤ/セラフィマ・ビルマン/パーヴェル・カドチニコフ/ミハイル・ジャーロフ●日本公開:1948/11●配給:東和●最初に観た場所:池袋文芸坐 (79-04-11) (評価:★★★)●併映:「戦艦ポチョムキン」(セルゲイ・エイゼンシュタイン)

杉山平一2.jpg 杉山 平一(すぎやま へいいち、1914年11月2日 - 2012年5月19日)詩人、 映画評論家。2012年5月19日、肺炎のため死去。97歳。

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シナリオだが(一部、書き起こしあり)読んでそのままに面白く、またヴィヴィッドな印象。

ゴダール全集.jpg「スタジオ・ボイス」1994年2月号特集.jpg勝手にしやがれ.jpg 勝手にしやがれ10.jpg 
ゴダール全集〈3〉ゴダール全シナリオ集 (1970年)』/「Studio Voice」1994.02 ゴダール特集/「勝手にしやがれ」(1959)

ゴダール全集1 .jpg ゴダールの'60年代までの作品の全シナリオを収録したもので、映画が難解なイメージがあるわりには、本として読んでそのままにa bout de souffle.jpg面白いものが多く、またヴィヴィッドな印象を受けるのが意外かも知れません。よく知られているところでは、ジーン・セバーグ、ジャン=ポール・ベルモンド主演の「勝手にしやがれ」('59年)、アンナ・カリーナ、ベルモント主演の「気狂いピエロ」('65年)などの初期作品でしょうか。スチール写真が適度に配置され、読むと再度見たくなり、未見作品にも見てみたくなるものがありました。
ゴダール全集〈1〉ゴダール全シナリオ集 (1971年)
「勝手にしやがれ」('59年)/ 1978年公開時チラシ/DVD
『勝手にしやがれ』(1959).jpg勝手にしやがれ 1978年公開時チラシ.jpg勝手にしやがれ2.jpg 「勝手にしやがれ」の一応のあらすじは―、自動車泥棒のミシェル(ジャン=ポール・ベルモント)が、警官を殺してパリに逃げ、アメリカ人のパトリシア(ジーン・セバーグ)と互いに束縛しない関係を楽しんでいたところ、その『勝手にしやがれ』(1959)2.jpgパトリシアはミシェルとの愛を確認するため、ミシェルの居所をわざと警察に密告する―というもので、この不条理に満ちた話のオリジナル作者はフランソワ・トリュフォーですが、最終シナリオはゴーダルの頭の中にあったまま脚本化されずに撮影を開始したとのこと。台本無しの撮影にジャン=ポール・ベルモントは驚き、「どうせこの映画は公開されないだろうから、だったら好きなことを思い切りやってやろう」と思ったという逸話があります(1960年・第10回ベルリン国際映画祭「銀熊賞(監督賞)」受賞作)。

「気狂いピエロ」 ('65年)1983年公開時チラシ/DVD
気狂いピエロ(ポスター).jpg気狂いピエロ (1965/仏).jpg『気狂いピエロ』(1965) 2.jpg『気狂いピエロ』(1965).jpg「気狂いピエロ」 (65年/仏).jpg『気狂いピエロ』(1965) 3.jpg「気狂いピエロ」は―、フェルディナン(ジャン=ポール・ベルモント)という男が、イタリア人の妻とパーティに行くが、パーティに退屈し戻ってきた家で、昔の恋人マリアンヌ(アンナ・カリーナ)と再会し、成り行きで彼女のアパートに泊まった翌朝、殺人事件に巻き込まれて、2人は逃避行を繰り返す羽目に。フェルディナンは孤島での生活を夢見るが、お互いにズレを感じたマリアンヌが彼を裏切って情夫の元へ行ったため、フェルディナンは彼女と情夫を射殺し、彼も自殺するというもの(1965年・第26回ヴェネチア国際映画祭「新鋭評論家賞」受賞作)。

 脚本を先に読み、なかなかがいいと思いましたが、映像はほぼそれを裏切らなかったと思います(「勝手にしやがれ」よりギャング映画的な娯楽性を感じるが、前衛性はやや後退する)。これ、日本語タイトルはテレビコードにひっかかるのか、'89年テレビ放映時のタイトルは、原題のフランス語をカタカナ読みにした「ピエロ・ル・フ」になっていました。

「女と男のいる舗道」 ('62年)
「女と男のいる舗道」.jpg女と男のいる舗道2.jpg女と男のいる舗道.jpg "シナリオ"集といっても、この2つの作品やアンナ・カリーナ主演の「女と男のいる舗道」('62年)などは、蓮實重彦氏など本書の翻訳陣が映画を採録し、シナリオのスタイルに「再構成」したものです(「女と男のいる舗道」にはアドリブで撮られている箇所が幾つかある)。

ジャン=リュック・ゴダール 「女と男のいる舗道」 (62年/仏) ★★★★☆

 団地妻の売春という"予想外"の素材を扱った「彼女について私が知っている二、三の事柄」('66年)というのもありましたが、主婦が中産階級の生活を維持するためにパートタイムで売春するという話をドキュメンタリータッチで描いたもので(事実を基にしているらしい)、フランソワ・トリュフォーが共同製作ですが、それほど面白い作品でもなく、ゴダールの意図も個人的には読めませんでした。所収の作品で最後に見たのが政治的メッセージの強い「ヴェトナムから遠く離れて」('67年)あたり、本書所収以外ではローリング・ストーンズの名曲「悪魔を憐れむ歌」のレコーディング風景の記録映画「ワン・プラス・ワン」('68年)あたりまでで、更に政治的実験映画とも言える「ヒア&ゼアこことよそ」('76年)なども観ましたが(ドキュメンタリーだが、これは良かった。但し、観直す機会がなかなか無い)、その後はもう短編しか撮らないのかと思ったら、長篇劇映画「勝手に逃げろ/人生」('79年)で商業映画に復帰、80年代に入ってからも、「パッション」('82年)、「カルメンという名の女」('83年)と次々に発表し、「カルメンという名の女」ではヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲っています。

「勝手にしやがれ」p.jpg「勝手にしやがれ」●原題:A BOUT DE SOUFFLE(英:BREATHLESS)●制作年:1959年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール●製作:ジョルジュ・ド・ボールガール●原作・原案・脚本:フランソワ・トリュフォー●撮三百人劇場2.jpg三百人劇場.jpg影:ラウール・クタール●音楽:マルチアル・ソラール●時間:95分●出演:ジャン=ポール・ベルモント/ジーン・セバーグ●日本公開:1960/03●配給:新外映●最初に観た場所:三百人劇場 (78-07-25) (評価★★★★)●併映:「ヒア&ゼア・こことよそ」(ジャン=リュック・ゴダール) 三百人劇場(文京区・千石駅付近)2006(平成18)年12月31日閉館
Kichigai Piero (1965)
Kichigai Piero (1965).jpg
気狂いピエロ s.jpg「気狂いピエロ」●原題:PIERROT LE FOU●制作年:1965年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール●製作:ジョルジュ・ド・ボールガール●撮影:ラウール・クタール●音楽:アントワース・デュアメル●原作:ライオネル・ホワイト「十一時の悪魔」●時間:109気狂いピエロ Pierrot Le Fou.jpg分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/アンナ・カリーナ/サミュエル・フラー /レイモン・ドボス/グラツィエッラ・ガルヴァーニ/ダーク・サンダース/ジミー・カルービ/ジャン=ピエール・レオ/アイシャ・アバディ/ラズロ・サボ●日本公開:1967/07●配給:セントラル●最初に観た場所:有楽シネマ (83-05-28) (評価★★★★)●併映:「彼女について私が知っている二、三の事柄」(ジャン=リュック・ゴダール)

「彼女について私が知っている二、三の事柄」●原題:2 OU 3 CHOSES QUE JE SAIS D'ELLE●制作年:1966年●制彼女について私が知っている二、三の事柄.jpg作国:フランス・イタリア●監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール●撮影:ラウール・クタール●音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン●原案:カトリーヌ・ヴィムネ●時間:90分●出演:ジョゼフ・ジェラール/マリナ・ヴラディ/アニー・デュプレー/ロジェ・モンソレ/ラウール・レヴィ/彼女について私が知っている二、三の事柄01.jpgジャン・ナルボニ/イヴ・ブネトン/エレナ・ビエリシック/クリストフ・ブルセイエ/マリー・ブルセイエ/マリー・カルディナル/ロベール・シュヴァシュー/ジャン=リュック・ゴダール(ナレーション)●日本公開:1970/10●配給:フランス映画社●最初に観た場所:有楽シネマ (83-05-28) (評価★★★)●併映:「気狂いピエロ 」(ジャン=リュック・ゴダール)
マリナ・ヴラディ/アニー・デュプレー
TOP 彼女について私が知っている二、三の事柄5.jpg
  
有楽シネマ 1991頃.jpg銀座シネ・ラ・セット  .jpg銀座シネ・ラ・セット.jpg有楽シネマa.jpg有楽シネマ  (1955年11月14日オープン、1994年12月休館、1995年6月16日~シネマ有楽町(成人映画上映館)、1996年~銀座シネ・ラ・セット、159席) 2004(平成16)年1月31日閉館  跡地に建設のイトシアプラザ内に2007年10月シネカノン有楽町2丁目オープン、2009年12月4日ヒューマントラストシネマ有楽町に改称

有楽シネマ(シネ・ラ・セット)解体工事〔2004〕/イトシアプラザ内ヒューマントラストシネマ有楽町[シアター1(16有楽シネマ解体9.jpg2席)・シアター2(63席)]
ヒューマントラストシネマ有楽町.jpgヒューマントラストシネマ有楽町 sinema2.jpg 
     
ゴダール全シナリオ集2.jpg 
  
《読書MEMO》
●ゴダール全シナリオ集・収録作品
Ⅰ 水の話・シャルロットと彼女のジュール・勝手にしやがれ・小さな兵隊・女は女である・立派な詐欺師・カラビニエ
Ⅱ 怠惰の罪・女と男のいる舗道・軽蔑・恋人のいる時間・未来展望・気狂いピエロ
Ⅲ アルファヴィル・男性女性・メイドインUSA・彼女について私が知っている二三の事柄・ヴェトナムから遠く離れて・中国女・ウィークエンド
 『ゴダール全集〈2〉ゴダール全シナリオ集 (1971年)

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ストーリー部分をうまく整理。結構ドラマチックな話も含まれているものだと...。

聖書物語.JPGマンガ 聖書物語.jpg    十戒09.jpg  十戒2.gif
マンガ聖書物語 (旧約篇)』 講談社+α文庫 〔'98年〕  「十戒 [DVD]

 自分も含め一般に日本人は、聖書の内容をそれほど詳しく知っているわけではなく、旧約聖書に至ってはほとんど言っていいくらい知らないのではないかと思います。映画「十戒」などのイメージは多少あるものの、原典をパラパラめくる限りそれほど面白そうにも思えず、特に旧約聖書の場合は、原典からストーリーを抽出しにくいということが、馴染めない最大の理由かも知れません。
 本書は、そうした旧約聖書のストーリー部分をうまく整理してマンガにしていて、内容を理解するうえでの良い助けになるものであると思います。

 こうして見ると、結構泣かせるようなドラマチックな話もあるのだと...。兄たちに諮られて異国(エジプト)に売られ、その後エジプト王になったヨセフの話などは、なかなかのストーリー展開で、最後にヨセフが兄たちを許す場面は感動的です。
 今まで知らなかったことも多く知ることができ、例えばオリーブの枝を咥えた鳩が平和のシンボルとされているのは、ノアの箱舟に洪水が引き安心して暮らせることを知らせに来た鳥がそうだったからだとか(知っている人からすればごく初歩的な知識だが)、今までそんなことも知らずホント無知でした(そうすると国連のマークも旧約聖書の影響を受けているということか)。

『マンガ 聖書物語 (旧約篇)』.JPG 旧約聖書は、"人類の歴史"というものが意識されて書かれた最も古い部類の物語だと思われますが、今の聖書は後に何百年にもわたって再編集されたものらしく、聖書学者によると創世記なども後の方で書かれたものだということで、つまり終末論がまずあって、そこから遡って編纂されているようです。
 このことは、個人としての人間が自分の死を意識し、そこから遡って自らの出自を問う考え方の指向と似ていますが、山本七平などは、そうした個人の有限の人生と"完結するものであるべき"歴史といった相似的な捉え方の中に、ユダヤ教やキリスト教の歴史観の特徴を見出していたように思えます。
 日本人の場合は、「行く川の流れは絶えずして...」と言う感じで、川べりで歴史を傍観していて、どこかに始まりと終末があるわけでもなく、一方、自分の人生の始まりと終わりは意識しているが、それが歴史の始まりと終わりのどのパートにあたるかという意識は無いのではないかと。
 こうした日本人の考え方では、「救世主」とか「最後の審判」という発想は出てこないのだろうなあと思ったりもしました。

 マンガのタッチは今ひとつかな、という感じで、また、マンガにすることで宗教的な意味合いや重みが脱落してしまっている部分も大いにあるかもしれませんが、西洋キリスト教圏文化などの背景にある重要な物語のストーリーを少し知っておくのもいいのではないかと思います。

『十戒』(1956).jpg十戒.bmp 冒頭に挙げた映画「十戒」('57年/米)は、セシル・B・デミル監督が自らが手がけたサイレント大作「十誡」('23年/米)を、10年の製作期間と1350万ドル(当時)を投じて自らリメイクしたもので、製作費の10倍もの興行収入を上げ、パラマウント映画としてのそれまでの最高記録を更新しました(2020年現在、インフレーション調整版で全米全作品の歴代6位)。「出エジプト記」の話を、モーセとラメセスの「兄弟げんか話」に置き換えてしまったきらいはありますが、分かり易いと言えば分かり易い「旧約聖書入門」映画であり、聖書をベースした作品としてはやはり欠かせない1本です。

Yul Brynner in The Ten Commandments.jpg 紅海が真っ二つに割れるシーンなどのスペクタルもさることながら(滝の落下を逆さまに映している?)、モーセが杖を蛇に変えるシーンなどの細かい特殊撮影も当時にしてはなかなかのもの(CGの無い時代に頑張っている)。

十戒5.jpg モーセを演じたチャールトン・ヘストン(1924-2008/享年84)の演技は大味ですが、それがスペクタクル映画にはむしろ合っている感じで、一方、もう1人の主役ラメセスを演じたユル・ブリンナー(1920-1985/享年65)は、父親がスイス系モンゴル人で母親はルーマニア系ジプシーであるという、ファラオ(エジプト王)を演じるに相応しい(?)ユニヴァーサルな血統(「王様と私」('56年/米)ではシャム王を演じている)。更に、癖のあるキャラクターを演じるのが巧みなエドワード・G・ロビンソン(1893-1973/享年79)、「イヴの総て」('50年)のアン・バクスター(1923-1985/享年62)などの名優が脇を固めていました。何れにせよ、もう1度観るにしても、劇場などの大スクリーンで観たい作品です。

十戒2.jpg

十戒1.JPG

1十戒.jpg

2十戒.jpg

奴隷頭デイサン(エドワート・G・ロビンソン)/王女ネフレテリ(アン・バクスター)
奴隷頭デイサン(エドワート・G・ロビンソン).jpg王女ネフレテリ(アン・バクスター).jpg

  
 
 
  
「十戒」●原題:THE TEN COMMANDMENTS●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督・製作:セシル・B・デ十戒3.jpgミル●脚本:イーニアス・マッケンジー/ジェシー・L・ラスキー・Jr/ジャック・ガリス/フレドリック・M・フランク●撮影:ロイヤル・グリッグス●音楽:エルマー・バーンスタイン●時間:222分●出演:チャールトン・ヘストン/ユル・ブリンナー/アン・バクスター/エドワード・G・ロビンソン/ジョ渋谷東急.jpgン・デレク/イヴォンヌ・デ・カーロ/デブラ・パジェット●日本公開:1958/03●配給:パラマウント●最初に観た場所:渋谷東急 (77-12-08)(評価:★★★☆)

渋谷東急 (東急文化会館5F、1956年12月1日オープン) 2003(平成15)年6月30日閉館 (2003年7月12日「渋谷クロスタワー」(旧・東邦生命ビル)2階にオープンした劇場が「渋谷東急」の名を引き継ぐが、こちらも2013年5月23日閉館)

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自分にとってはストーリーよりも技巧(フラッシュフォワード)の小説だった。

『ミス・ブロウディの青春 (1973年)』.jpgミス・ブロウディの青春 (1973年).jpgミス・ブロディの青春 u.png 『ミス・ブロディの青春』3.jpg
ミス・ブロウディの青春 (1973年) 』『ミス・ブロウディの青春 (白水Uブックス 203 海外小説永遠の本棚)』['15年]『ブロディ先生の青春』['15年/河出書房新社]
映画「ミス・ブロウディの青春」.jpg「ミス・ブロディの青春」1.jpg
「ミス・ブロディの青春」('69年/英)マギー・スミス

 1930年代、エディンバラの寄宿制一貫女子学校での、風変わりな女性教師ブロウディ先生と生徒たちの物語。思い込みの激しいブロウディ先生は、自分の世界観に相応しい生徒を育てるために、サンディをはじめとす6名のブロウディ組と呼ばれる少数精鋭的生徒のグループを結成し独特の教育を進める。しかし、思春期の学生の変化は早く、かつてはブロウディに憧れた彼女らも16歳の時点では各々の道を進みたがるようになる―。、

 ミュリエル・スパーク(1918-2006)が1961年に発表した小説(原題:The Prime of Miss Jean Brodie)で、英ガーディアン紙「必読小説1000冊決定版リスト」に「運転席」などと共に入っている作品(彼女の作品は5作も入っている)。物語はブロウディ先生とそれを囲む十代前半の生徒たちの話ということで、小説からは結構ガーリームービーっぽい雰囲気も感じました。

 それにしても、このブロウディ先生はちょっとやりすぎというかエキセントリックな感じが強くて、自意識としては正義感に満ちているのでしょうが、ブロウディ組の御しやすい生徒を自分の恋愛のために利用したり、あるいはその内の1人に自身の恋愛願望を代行させたりして(その結果、その娘はスペインで爆死することになる)、結構あざとくもあり、また結果として残酷でもあって、シンパシーが湧きにくい感じです。

そもそも、思想的にファシズムに傾倒してしてしまって、これを生徒に押しつけるのもどうかしています(自身がヒトラーやムッソリーニになってしまっている)。遂には生徒の裏切りに遭い、彼女は職を失うことになるのですが、あまり気の毒な気はしませんでした。

 むしろ、彼女の自身の信念に沿った行為がどんどん危険なものとなっていくという点で結構ブラックというか、「いやミス」的でもあります。作者の本当の狙いも、実はそのあたりにあるのではないかと思われます。少なくとも、作者はブロウディ先生を突き放しているように思えます。

ただし個人的には、ストーリーよりもその構成に特徴があるように思いました。所謂フラッシュフォワードと言うか、「将来」に起きることやその結末が、「現在」進行中の物語の合間合間に語られています。そのため、ブロウディ先生がやがて生徒に裏切られ、学校を去るということも、読んでいて早い段階から分かります(先に挙げた生徒の悲惨な最期も、実際にはずっと先の話なのだが、読んでいる途中で明かされてしまう)。

 あとは、生徒の内の誰がブロウディ先生を裏切ったかということがミステリ的ですが、これもおおよそ検討はつかなくもないです。作者は、ミス・ブロウディを通して、人間の思念の暴走とその成れの果ての悲惨を描き、そこに、作者が得意とするフラシュフォワード的な手法を織り込むことで「決定論」的な世界を構築してみせたものと思われます。ただ、どちらかと言えばやはりストーリーよりも技巧の小説でした(自分にとっては)。

「ミス・ブロディの青春」3.jpg この作品は、ロナルド・ニーム監督(「ポセイドン・アドベンチャー」('72年)、「オデッサ・ファイル」('74年))、マギー・スミス(「ナイル殺人事件」('78年)、「地中海殺人事件」('82年))主演で「ミス・ブロディの青春」('69年/英)として映画化され(邦題でブロディ→ブロディに。そのブロディ組は6人から4人に圧縮されていた)、マギー・スミスが1969年・第23回「英国アカデミー賞」並びに1970年・第42回「アカデミー賞」の主演女優賞をW受賞しています。

「ミス・ブロディの青春」2.jpg 1930年頃、スコットランドの首都エジンバラ。マーシア・ブレーンという名門女子高があった。先生たちは、みな地味だったが、一人ミス・ジーン・ブロディ(マギー・スミス)だけは違っていた。派手な服装、ウィットに富んだ会話そして自分はいま、青春のただ中にいると公言してはばからなかった。彼女に反感を持った生徒もいたが、逆に、彼女に惹かれ〈ブロディ一家〉と称する生徒たちもいた。サンディ(パメラ・フランクリン)、モニカ、ジェニー、メリーの四人組である。一方ブロディは、美術教師テディ(ロバート・スティーブンス)の恋人なのだが、彼の態度が煮えきらないので、音楽教師ゴードンに心を移した。こんな一件に生徒たちが関心を持たないはずがない。加えて学校側も攻撃に出る。ブロディの立場は少しずつ悪くなっていく。やがてゴードンが離れ、テディも離れていく。だがブロディはテディのことを忘れることが出来ない。テディとて同じこと。ブロディの代りにサンディをモデルにして絵を描いていたが、顔だけはブロディになってしまう。このことはサンディの心を、いたく傷つけた。やがてブロディにとって進退きわまりない事件が持ちあがった。スペイン戦争を賛美した彼女の教えに、生徒の一人メリーが兄を訪ねて戦場に行ったのである。そして空爆に遭い死んでしまった。攻撃の矢は、いっせいにブロディに向けられ、ついに退職するところまで追いつめられた。頼みの生徒サンディも彼女に背を向ける。ここに来て初めて、ブロディは、自らの青春が終りを告げたことを知るのだった―。

「ミス・ブロディの青春」5.jpg 映画では、冒頭からマギー・スミス演じるブロディ先生は学校に新しい息吹をもたらすエースであるかのように颯爽と登場し、女性校長はそれを良く思わない頑固な守旧派のような形で始まって、この点では小説と同じですが、やがてすぐにブロウディ先生はどこかおかしいということが伝わってくるようになっています。それと、映像で見るせいか、性的抑圧が強い印象を受け(実際に複数の男性教師から誘惑される)、彼女の行動の根底にそうしたものがあることを原作以上に窺わせるものとなっていました(サンディって原作ではメガネかけていたっけ。美術教師テディの絵のヌードモデルになるのは原作と同じで、原作では愛人に)。

 映画では小説のようなフラシュフォワード的な手法は使われておらず、ブロウディ先生が生徒の裏切りに遭って学校を追われるまでが描かれていますが、学校の授業で、ムッソリー率いる黒シャツ隊の映像を生徒に見せて賛美するのはやはりマズいでしょう。ミス・ブロウディというキャラクターの歪みを分かりやすく描いていましたが、それが画一的な描かれ方にはなっておらず、一定のリアリティを保っているところは、マギー・スミスの演技力によると思われます。

「ミス・ブロディの青春」34.jpg 美術教師テディが最初ブロディの代りにサンディとは別の女生徒をモデルに絵を描くも、目がマギー・スミスになっていて女生徒とは似ておらず、彼が描く少年少女や、果ては犬までもがマギー・スミスの目になっているのがご愛敬でした(行き詰ってヌード画家に転身した?)。

ミス・ブロディの青春 [DVD]
「ミス・ブロディの青春」6.jpg「ミス・ブウディの青春」.jpg「ミス・ブロディの青春」●原題:THE PRIME OF MISS JEAN BRODIE●制作年:1969年●制作国:イギリス●監督:ロナルド・ニーム●製作:ロバート・フライアー●脚本:ジェイ・プレッソン・アレン●撮影:テッド・ムーア●音楽:ロッド・マッキューン●時間:102分●出演:マギー・スミス/ロバート・スティーブンス/パメラ・フランクリン/ゴードン・ジャクソン/ジェーン・カー/セリア・ジョンソン/シャーリー・スティードマン/ダイアン・グレイソン●日本公開:1969/11●配給:20世紀フォックス((評価:★★★☆)

【2015年叢書化[白水社Uブックス(岡 照雄:訳)/2015年単行本[河出書房新社(『ブロディ先生の青春』木村政則:訳)]】

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カタルシス効果は弱いが、デカダンスな雰囲気を醸す映像はスタイリッシュ。

「花の影」000.jpg
「花の影」張國榮(レスリー・チャン)/鞏俐(コン・リー)/林健華(リン・チェンホア)
「花の影」1.jpg「花の影」2.jpg「花の影」3.jpg 富豪に嫁いだ姉を頼り、蘇州にやってきた少年・「花の影」コンり―.jpg忠良(チョンリァン)。そこでは当主の愛娘・如意(ルーイー)を始め、皆が阿片に酔いしれていた。退廃した空気の中、最愛の姉に弄ばれ絶望した忠良は屋敷を飛びだす。時は過ぎ、1920年代の魔都・上海。心に傷を負って女性を愛せなくなった忠良(張国栄(レスリー・チャン))は、人妻を誘惑して金品を巻き上げる上海マフィア配下のジゴロとなっていた。そんな彼に、マフィアのボスが故郷の女富豪を誘惑する様に命令を下す。彼女こそ、美しく成長した如意(鞏俐(コン・リー))だった。様々な思惑を交差させながら、二人はいつしか本気で愛し合うようになるが―。
花の影 [Blu-ray]
「花の影」00.jpg「花の影」9.jpg 1996年公開作で、陳凱歌(チェン・カイコー)監督のもと、「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/中国)に続いて張国栄(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が再び組んだメロドラマ。1920年代の上海と蘇州を舞台に退廃的で破滅的な男女の愛を描いています。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」に比べ、政治が背景に後退し、恋愛メロドラマ的要素が前面に出ています。「さらば、わが愛/覇王別姫」で一人の男性を巡って愛を争ったレスリー・チャンとコン・リーが、今度は愛し合う関係になっていますが、と言っても陳凱歌なので一筋縄ではいきません。レスリー・チャン演じる忠良は、幼い頃に姉夫婦に性的虐待を受け、「心が死んでいて」人を愛せない性質になってしまっています。

 最後はコン・リー演じる如意にそのことをズバリと言われ、彼女は別の男と結婚することに。そこで忠良とった行動は―。う~ん、ちょっとやり過ぎという感じ。他人のモノになるならいっそ自分が...ということでしょうが、彼の愛が結局はエゴでしかないことをよく表していると言えばそうだけれども、後味があまりよくない(結局、姉の夫、つまり如意の父親も彼がヒ素を使って廃人にしたのか)。

「花の影」4.jpg というわけでカタルシス効果は弱いですが、デカダンスな雰囲気を醸す映像はスタイリッシュでもあります。室内シーンが多いせいか、クリストファー・ドイルっぽくはなかったかもしれませんが、この映像美を味わうだけでも価値はあるように思いました。

 考えてみれば、香港のレスリー・チャンと中国のコン・リーと、如意の家に養子に行く端午(ドァンウー)を演じた台湾の林健華(リン・チェンホア=ケビン・リン)の3か国スター"揃い踏み"。その中でも端午の変貌が興味深く、特にラストは"大変貌"を遂げていました(まさか頼りない雰囲気だった彼が最後に〇〇になるとは(苦笑)。血統主義の中国らしいと言えばそうだが)。

鞏俐 風月.jpg周迅 風月.jpg周迅(ジョウ・シュン).png 当時30歳のコン・リーが奇麗。忠良が行くナイトクラブの垢抜けない少女(アヘン中毒者?)は周迅(ジョウ・シュン)だったのかあ。婁燁(ロウ・イエ)監督の 「ふたりの人魚(蘇州河)」(1998年撮影)の2年前、20歳の頃ということになりますが、全然分からなかったです。

鞏俐(コン・リー)/周迅(ジョウ・シュン)

「花の影」1.jpg「花の影」5.jpg「花の影」●原題:風月(英:TEMPTRESS MOON)●制作年:1996年●制作国:香港・中国●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:湯君年(タン・チュンニェン)/徐楓(シュー・フォン)●脚本:舒琪(シュウ・チー)●撮影: クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽: 趙季平(チャオ・チーピン)●原案: 陳凱歌/王安憶(ワン・アンイー)●時間:128分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/鞏俐(コン・リー)/林健華(リン・チェンホア)/何賽飛(ホー・サイ新文芸坐2024年02月26日.jpgフェイ)/呉大維(デヴィッド・ウー)/謝添(シェ・ティェン)/周野芒(ジョウ・イェマン)/周潔(ジョウ・ジェ)/葛香亭(コー・シャンホン)/周迅(ジョウ・シュン)●日本公開:1996/12●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★☆)●最初に観た場所[4K版]:池袋・新文芸坐(24-02-26)
新文芸坐(2024年2月26日撮影)

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