「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2516】 サム・ペキンパー「ゲッタウェイ」
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○存続中の映画館」の インデックッスへ(丸の内ピカデリー)
オリジナルに大きく及ばない。人間ドラマを期待すると肩すかしを喰う。
大晦日、豪華客船ポセイドン号は北大西洋を航海していた。客室にいたクリスチャン(マイク・ヴォーゲル)と恋人ジェニファー(エミー・ロッサム)は、彼女の父ラムジー(カート・ラッセル)が来たため慌てて離れる。賭博師ディラン(ジョシュ・ルーカス)は、エレナ(ミア・マエストロ)という女性とぶつかるが、実はエレナは、ウエイターのヴァレンタイン(フレディ・ロドリゲス)の手引きでの密航だった。乗客はダンスホールに集まり、船長(アンドレ・ブラウアー)の挨拶でパーティーが始まる。歌手グロリア(ファーギー)がステージに登場し、バンドの演奏で歌い始めた。ラムジーやディラン、ラッキー・ラリー(ケヴィン・ディロン)といった面々は、カジノでカードに興じている。ジェニファーはクリスチャンとディスコに向かい、ディランは、シングルマザーのマギー(ジャシンダ・バレット)と息子のコナー(ジミー・ベネット)に出会う。建築家のネルソン(リチャード・ドレイファス)は仲間たちに、妻から別れ話を切り出されたことを打ち明ける。新年が訪れ、ダンスホールで乗客たちが盛り上がる中、ブリッジでは一等航海士が異変を感じ取っていた。異常波浪に気付いた彼は慌てて面舵を切らせるが、ポセイドン号は激しい揺れに見舞われ転覆、ディスコでは火災が発生して照明が消え、船は逆さまになり、大勢の犠牲者が出る。衝撃が収まると、船長は「ここに留まって助けを待っていれば安全だ」と告げるが、ディランは船長の言葉に従わず、船底から外に出るつもりだと言い、ラムジーも娘を捜すため同行を決める。ネルソンは建築家の見地から、船長の安全宣言に懐疑的だった。ラムジーはディランに、共に協力し合おうと持ち掛けるが、彼は断わる。ラムジーはヴァレンティンに乗務員出口に案内してくれたら報酬を払うと持ちかけ、ディランにも改めて協力を持ちかけるとディランは承諾し、マギー母子、ネルソンも彼らに付いていくことに。一方、ディスコではクリスチャンが瓦礫に足を挟まれて動けなくなっており、ジェニファーとエレナが救出を試みていた―。
「ポセイドン・アドベンチャー」('72年)
「ポセイドン・アドベンチャー」('72年)のリメイクであり、監督は「アウトブレイク」('95年)などのウォルフガング・ペーターゼン。期待された見所は、スペクタクルシーンを最新のCGなどを使ってどのように撮るかという点と、オリジナルの人間ドラマの部分をどのように再構成するかという点だったと思われますが、アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされたスペクタクルシーンの方はまあまあだったものの、人間ドラマの方は、批評家からは、オリジナルの「ポセイドン・アドベンチャー」で描かれていた人間ドラマ的な面は大きく省かれてしまったという評価を受け、ゴールデンラズベリー賞の最低リメイク賞にもノミネートされることになってしまいました。
話の枠組みだけは「ポセイドン・アドベンチャー」を踏襲しており、皆が留まっているダンスホールから独自に脱出を図るメンバーの数が「10名」であるのも同じです(早い段階でその内2人が犠牲になるのも同様)。序盤で彼らの出自が簡単に紹介的に描かれているだけに、それらがどう人間ドラマとして反映されるのかと思いましたが、やはり、結局はあまり深く描かれてなかったという印象でした。期待して観ると肩すかしを喰います(但し、人間ドラマより純粋スペクタクルを好む人にはそう悪くないかも)。
オリジナルではジーン・ハックマンとアーネスト・ボーグナインの2大キャラのぶつかり合いが大きな見所でしたが、この作品では、カート・ラッセルとジョシュ・ルーカスが、一旦はオリジナルのように反発し合うものの、すぐさま協力体制に入ってしまい、ジーン・ハックマンにおける、脱出行のメンバーの中に自分の考えに反発する者もいる中で(しかもメンバーの一部はそちらに靡きそうになる中で)、皆をどう導いていくかといったリーダーとしての難しい局面も出てきません。
そもそも、カート・ラッセルはジーン・ハックマンのように他の乗客に一緒に脱出しようと強く働きかけることもしないし、脱出行に出たコアメンバ-もオリジナルに比べると何となく結束力が弱い感じ。潜水で犠牲者が出るのはオリジナルと同じですが、オリジナルではジーン・ハックマンを救うためにシェリー・ウィンタース演じる中年女性が犠牲になるのだけれど、この作品でエレナ(ミア・マエストロ)の死は殆ど事故のようなもの。カート・ラッセルは最後にヒロイックな犠牲的精神を発露しますが、ジーン・ハックマンのような牧師が"神"に向かって呼びかけるといった重い感じもありません。
エミー・ロッサム/カート・ラッセル
オリジナルで淀川長治が「その背中に天使の羽根が見えた」と褒め讃えた、船底に"上がる"ために少年が巨大なクリスマスツリーをよじ登っていくシーンなども再現されていなかったなあ。折角、淀川長治がその象徴性を高く評価したほどの場面だったのに...。
一方で、オリジナルは、3人の女性がアクションシーンで何かと脚線美を披露するなど、B級映画的要素も兼ね備えていたのに、そうした部分はこのリメイクでは(慎み深く?)抑え気味で、歌手のファーギーやブエノスアイレス出身の女優ミア・マエストロ、「オペラ座の怪人」('04年)のエミー・ロッサムなども、ビジュアル面でも演技面でもやや勿体ない使われ方をしていたように思います。リチャード・ドレイファスの役も、誰が演じてもいいようなものでした(まあ、客演のようなものか)。いろいろな見方できますが、総じてオリジナルに大きく及ばなかったと言っていいのではないでしょうか(ゴールデンラズベリー賞の最低リメイク賞ノミネートは順当)。
ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ミア・マエストロ/エミー・ロッサム in「オペラ座の怪人」
「ポセイドン」●原題:POSEIDON●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:ウォルフガング・ペーターゼン●製作:ウォルフガング・ペーターゼン/アキヴァ・ゴールズマン/ダンカン・ヘンダーソン/マイク・フレイス●脚本:マーク・プロトセヴィッチ●撮影:ジョン・シール●音楽:クラウス・バデルト●原作:ポール・ギャリコ●98分●出演:カート・ラッセル/ジョシュ・ルーカス/ジャシンダ・バレット/リチャード・ドレイファス/エミー・ロッサム/ミア・マエストロ/マイク・ヴォーゲル/ジミー・ベネット/アンドレ・ブラウアー/フレディ・ロドリゲス/ケヴィン・ディロン/カーク・B・R・ウォーラー/ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ケリー・マクネア●日本公開:2006/06●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(06-07-01)(評価:★★☆)
丸の内ピカデリー1・2 1984年10月6日「有楽町マリオン」西武(現ルミネ)側9階にオープン(1957年オープン、1984年閉館の旧「丸の内ピカデリー」の後継館)
丸の内ピカデリー1・2(2019.10.7撮影)「丸の内ピカデリー1」(席数802)は、2014年12月の「新宿ミラノ1」(1,064席)閉館、2018年2月の「TOHOシネマズ日劇(スクリーン1)」(948席)閉館により、2019年時点で単一のスクリーンとしては国内最多の座席数を持つ映画館となった(その後、623席に)。
2021年11月26日リニューアルオープン(623席)
「ポセイドン・アドベンチャー」●原題:THE POSEIDON ADVENTURE●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ロナルド・ニーム●製作:アーウィン・アレン●脚本:スターリング・シリファント/ウェンデル・メイズ●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョン・ウィリアムズ/アル・カシャ/ジョエル・ハーシュホーン●原作:ポール・ギャリコ「ポセイドン・アドベンチャー」●時間:117分●出演:ジーン・ハックマン/アーネスト・ボーグナイン/レッド・バトンズ/キャロル・リンレー/ロディ・マクドウォール/ステラ・スティーヴンス/シェリー・ウィンタース/ジャック・アルバートソン/パメラ・スー・マーティン/エリック・シーア/レスリー・ニールセン/アーサー・オコンネル●日本公開:1973/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)
ウォルフガング・ペーターゼン
ドイツの映画監督。2022年8月12日、膵臓がんのため米西部ロサンゼルスの自宅で死去。81歳。「U・ボート」(1981)、「ネバーエンディング・ストーリー」(1984)、「エアフォース・ワン」(1997)などのヒット作を手掛けた。