【3236】 ○ ディーリア・オーウェンズ (友廣 純:訳) 『ザリガニの鳴くところ (2020/03 早川書房) ★★★★ (△ オリヴィア・ニューマン 「ザリガニの鳴くところ」 (22年/米) (2022/11 ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント) ★★★

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「湿地帯小説」。世間から見捨てられながらも自分の人生を歩んだ少女の生きざま。

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【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ』 映画「ザリガニの鳴くところ」(2022)

「ザリガニの鳴くところ」 0.jpg 2021(令和3)年・第18回「本屋大賞」(翻訳小説部門)第1位作品。

「ザリガニの鳴くところ」 4.jpg ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく―。

 動物学者である作者が69歳で初めて執筆した小説で、2018年8月に原著刊行。2019年、2020年と2年連続で「アメリカで最も売れた本」となり、日本でも「本屋大賞」(翻訳小説部門)受賞となりました。年末ミステリランキングでは、3年連続4冠達成のアンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』の後塵を拝するも、「このミステリーがすごい!」(宝島社)海外篇・第2位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門・第2位、「2021本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第9位、「ミステリが読みたい!」(ハヤカワ・ミステリマガジン)第3位と、各ランンクインしています。

 キャッチは「みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ」。確かに過程のプロットより結末の意外性かと思いますが、ただし、このパターンは日本でも、大岡昇平の『事件』や松本清張原作の映画「黒の奔流」など、形は少し違いますが今までもあるにはありました。

 やはり、この作品の読みどころは、‟ザリガニが鳴く"と言われる(ホントはザリガニは鳴かないらしい)湿地帯の、まさに「湿地帯小説」と言っていいくらいの美しい自然描写と、その中で世間から見捨てられながらも自分の人生を歩んだ少女の(ホタルに喩えることできる動物的な側面もある)生きざま、ということになるのではないかと思います。「本屋大賞」受賞に異存なし、といったところです。

「ザリガニの鳴くところ」 5.gif オリヴィア・ニューマン監督の起用で昨年[2022年]に映画化され、女性監督だからやはり女性映画っぽくなるのだろうと思いましたが、予想どおりでした。原作は、幼いころから事件が起きるまでの少女の歩み(ドラマ部分とも言える)と、事件が起きた後の捜査の進捗や裁判の様子(ミステリ部分とも言える)が、あざなえる縄のように交互に描かれていますが、映画はほとんど少女の生きざまと成人するまでを中心に描いていて、特に、成人してから恋愛の方に重点が置かれています。ただ、それが何だか「学園ドラマ」を観ているような感じで、深まりがないまま話がだらだらと続く印象を受けました。

「ザリガニの鳴くところ」 6.jpg ミステリ部分ももっと描いてほしかったように思います。深夜でもバスは走っているのだなあ(高速バスみたいな路線バスか)。映像で再現する必要はなですが、省き過ぎです。この監督、ミステリには関心がないのかな。

「ザリガニの鳴くところ」 7.jpg 沼地の自然は美しく撮っていて、それはそれで良かったのですが、ドラマ部分含め全体に明るすぎる印象で、少女の沼地での生活や服装、身の回りなども小綺麗すぎて、原作の重くてダークなイメージとの間にギャップを感じました。Amazonプライムで有料視聴したのですが、原作の評価★★★★に対して、映画は評価★★★となりました。

「ザリガニの鳴くところ」8.jpg「ザリガニの鳴くところ」●原題:WHERE THE CRAWDADS SING●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:オリヴィア・ニューマン●製作:リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッタ●脚本:ルーシー・アリバー●撮影:ポリー・モーガン●音楽:マイケル・ダナ●原作:ディーリア・オーウェン●時間:126分●出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr/デヴィッド・ストラザーン/ジェイソン・ワーナー・スミス/ギャレット・ディラハント/アーナ・オライリー/エリック・ラディン●日本公開:2022/11●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(評価:★★★)

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