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「双葉十三郎の解釈」に止まるか「淀川長治の解釈」まで行くかはともかく、フェミニズム映画。

幸福 ps.jpg幸福 ヴァルダ dvd.jpg 幸福  輸入盤.jpg ア二エス・ヴァルダ.jpg Agnès Varda
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幸福(しあわせ) 0.jpg 叔父が経営する内装業の店で職人をしているフランソワ(ジャン・クロード・ドルオー)には、優しい妻のテレーズ(クレール・ドルオー)と2人の幼い子どもがいる。裁縫が上手なテレーズは仕立ての内職もし、ウェディング・ドレスの注文などもある。フランソワは仕事が終われば真っ直ぐ家幸福 19.jpgに帰るし、休日には家族4人で森にピクニックに行くこともある、まさに絵に描いたような幸せな家庭だった。ある日、フランソワは出張で近くの町に行った時に、郵便局の窓口担当のエミリー(マリー=フランス・ボワイエ)と出逢い互いに惹かれるものを感じる。出張は数日にわたり、ある日幸福88.jpgフランソワはエミリーに声を掛けて一緒にランチをする。彼女の話で、近々彼女がフランソワの住む町に引っ越して来ることが分かり、エミリーは引っ越幸福(しあわせ)5.jpgし先の住所を教え、部屋に棚がほしいので付けてくれないかと言い、彼が妻子持ちであることにこだわりは無いようだった。数週間後、フランソワは越してきたエミリーの家を訪ね、2人はお互いの好意を認め、抱擁し接吻を交わす。家庭のある人でも構わないし、男性は初めてじゃないと言うエミリー。フランソワも彼女に愛を求める。ある日、フランソワは、いつもの休日の家族揃ってのピクニックで、テレーズに「最近、うれしそうね。何かあったの?」幸福(しあわせ)6.jpgと訊かれ、しばらく逡巡した後、テレーズに促され「僕たちは区切られたリンゴ畑の中にいるが、畑の外にもリンゴはあるんだ」と遠回しに浮気を告白する。テレーズは特に取り乱すこと無く、「その幸福 11 .jpg人は嫉妬しないの? でも、妻は私よ」と言う。フランソワはテレーズが許してくれたと喜び、森の中でテレーズを抱き、彼女も応える。フランソワがうたた寝から目覚めると、テレーズがいなくなっている。不安にかられながらテレーズを探すフランソワ。やがて彼女は池のほとりで水死体となって発見される―。

 1965年製作のアニエス・ヴァルダ(1928-)監督作の初期の代表作であり、ベルリン国際映画祭の銀熊賞受賞作。アニエス・ヴァルダはジャック・ドゥミ(1931-1990/享年59)の妻でもあった人です。ヌーヴェルヴァーグVarda2.jpgの作家の内、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロル、ジャック・リヴェット、エリック・ロメールなど映画批評家として活躍していた若い作家を中心とするグループを「右岸派」、アラン・レネ、ジャック・ドゥミ、アニエス・ヴァルダ、クリス・マルケル、ジャン・ルーシュなど主にドキュメンタリー(記録映画)を出自とするグループを「左岸派」と呼びますが、両派の作品の特徴はなかなか定義は難しいのでは。例えば同じ「右岸派」でも、「シェルブールの雨傘」('64年)などで知られるジャック・ドゥミは「ミュージカルとファンタジーの天才」と言われ、一方のアニエス・ヴァルダはフェミニズムの視点から語られることが多いと思われます。また、ジャック・ドゥミをロマンチスト、アニエス・ヴァルダをリアリストする対比のさせ方もあるようですが、異論もあるかもしれません。

幸福 (1).jpg この「幸福」では、物語は妻テレーズの死を以って一旦は悲劇で終わったかのように思われます。ところが妻の死後、夫フランソワは、最初は元気が無かったものの、日が経つにつれ以前の働き者に戻り、今度は愛人エミリーが子どもたちの面倒をみ、いつの間にか妻であり母である役割の女性がテレーズからエミリーに代わったというだけの平穏な日々を送るようになります。子どもたちもエミリーになつき、今度は妻テレーズにがエミリーに代わっただけの"幸福"そうな「家族」の姿が紅葉が美しい秋の森に消えてゆく―という終わり方であり、妻の側から観ればある意味"残酷"で"怖い"エンディングとも言えます。
ぼくの採点表 2―西洋シネマ大系 1960年代
ぼくの採点表 2 1960年代.jpg双葉十三郎.jpg 夫フランソワのエゴイズムを描いた作品であるとも言われています。それを男性一般に敷衍して、映画評論家の故・双葉十三郎が〈アニエス・ヴァルダが女流監督の角度から、男性のエゴイズムに一矢報いた一篇〉というように言っています(『ぼくの採点評Ⅱ』)。更には、幸福というものが、実は誰かの犠牲の上に成り立っている場合があること示したとの見方もあるようです。つまり、この映画における幸福とはカッコ付きの幸福なのだということなのでしょう。でも、個人的には「男性のエゴイズムを描いた」という解釈で充分とも思います(いわば「第1段階」の解釈として)。

 常識的に考えれば、妻テレーズの死という出来事があれば、その原因となった愛人とも罪悪感から別れそうな気もするのですが、この物語の主人公フランソワは、あまりその辺りは気にしなかったみたいでした。気にしないことの大きな要因は、フランソワがテレーズの死を「純粋な事故死」だと思ったためであり、映画の中で、「あの人は花を採幸福(しあわせ) 6.jpgろうとしたら、滑って池に落ちて溺れた」と事故直後に目撃者の証言を聞かされ、その上で妻の溺死体にしがみついています。その間、テレーズが水に溺れて木の枝に掴まろうとしては沈んでいく映像が0.5秒×2回くらい流れますが、これは夫フランソワの頭の中で作られた「誤って死んでいく妻」のフラッシュバックと言えるでしょう。しかしながら、双葉十三郎は別のところで、〈テレーズの死は自殺である〉と断じていたように思います。このイメージの作り変えこそ、「男性のエゴイズム」なのかもしれません。
私の映画の部屋―淀川長治Radio名画劇場 (1976年)
私の映画の部屋_.jpg淀川長治2.jpg テレーズの死を自殺とするならば、その死は、絶望によるもの、或いは死を以って夫に復讐したと考えるのが普通ですが、絶望によるものであろうと復讐によるものであろうと、その後、夫が次第に回復し、愛人を迎え入れて新たな「家族」が出来上がって行く様が淡々と描かれているということに違和感を覚えざるを得ません。これについて、かつてのもう一人の大御所映画評論家・淀川長治は、〈奥さんが旦那さんに打ち明けられ、自分の幸せが去ったことを知ったが、「夫の幸せは大事に守ってやろう。私は誤って死んだことにしてあげよう。これが夫への本当の命をかけた愛だろう」―と思いました〉ということなのだとしています(『私の映画の部屋』)。〈だから、旦那さんは、誤って死んだんだから自分には罪は無いと考えて〉その愛人と秋には結婚し、夫にはまた幸せが訪れたのであると。この淀川長治の解釈は、ストーリーの展開に合致しており、穿った見方のように思えます。淀川長治はこの映画から、女性の愛の美しさ、哀しさ、強さを感じたとのこと。もしそうなら、こうした女性像を描くこともフェニミズムの範疇に入るのか疑問であり、そもそもアニエス・ヴァルダを通り一遍のフェミニストという枠に括ってしまうことが誤りなのではないかという気もしなくもありません。

 但し、淀川長治の「妻は夫の幸せのために事故にみせかけて自殺した」という解釈―これは「あの人は花を採ろうとしたら...」という証言と非常に符合する(夫から不倫を告げられた女性が何のために花を採る素振りをみせたのか。それは"事故死"の目撃者を作るためとしか考えられない)―をいわば「第2段階」の解釈とするならば、それが別に双葉十三郎の「第1段階」の解釈、つまり男性のエゴイズムを描いたという見方を否定することにはならず、女性の奥の深さと男性の底の浅さを対比的に描いたとも言え、やはりこれもまたフェミニズム映画なのでしょう。

幸福 16.jpg 1966年のキネ旬ベストテンで第3位にランクインした作品ですが、その時の1位が「大地のうた」で2位が「市民ケーン」なので、かなり高く評価されたとみていいのではないでしょうか。夫フランソワ役のジャン=クロード・ドルオーは俳優で、愛人エミリー役のマリー=フランス・ボワイエは女優ですが、妻役のテレーズ役のクレール・ドルオーはジャン=クロード・ドルオーの実際の妻で演技経験は無く、子ども役も二人の実際の子どもで、叔父や姪を演じている人も皆ドルオー姓だから素人なのでしょう。初期作品で、製作上の制約があってそうなったのかもしれませんが、たいしたものだと思います。
Le bonheur (1965)
Le bonheur (1965).jpg幸福 13 .jpg「幸福(しあわせ)」●原題:LE BONHEUR●制作年:1965年●制作国:フランス●監督・脚本:幸福(しあわせ)stills.jpgアニエス・ヴァルダ●製作:マグ・ボダール●撮影:クロード・ボーソレイユ/ジャン・ラビエ●音楽:ジャン=ミシェル・ドゥファイ●時間:79分●出演:ジャン=クロード・ドルオー/クレール・ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語.jpgドルオー/マリー=フランス・ボワイエ/オリシアター・イメージフォーラム2.jpgヴィエ・ドルオー/サンドリーヌ・ドルオー/ポール・ヴェキアリ●日本公開:1966/06(リバイバル1997年)●配給:日本ヘラルド映画(リバイバル:ザジフィルムズ)●最初に観た場所:渋谷・シアター・イメージフォーラム(特集「ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語」)(17-08-03)(評価★★★★)

シアター・イメージフォーラム 2000(平成12)年9月オープン(シアター1・64席/シアター2・100席)。表参道駅から徒歩7分。青山通り渋谷方向、青山学院を過ぎ、二本目の通り左入る。

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個人的ベスト3は、①「南から来た男」、②「おとなしい凶器」、③「プールでひと泳ぎ」。

あなたに似た人Ⅰ .jpg あなたに似た人Ⅱ .jpg あなたに似た人hpm(57).jpg あなたに似た人hm(76)文庫.jpgあなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg
あなたに似た人〔新訳版〕 I 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕』『あなたに似た人〔新訳版〕 II 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕』『あなたに似た人 (1957年) (Hayakawa Pocket Mystery 371)』『あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))』(カバーイラスト・和田誠)
南から来た男 指.jpg「ヒッチコック劇場(第136話)/指」('60年)スティーブ・マックイーン/ニール・アダムス/ピーター・ローレ
「新・ヒッチコック劇場(第15話)/小指切断ゲーム」('85年)スティーヴン・バウアー/メラニー・グリフィス/ジョン・ヒューストン/ティッピ・ヘドレン

あなたに似た人Ⅰ.jpgあなたに似た人Ⅱ.jpgRoald Dahl2.jpg 『あなたに似た人(Someone Like You)』はロアルド・ダール(Roald Dahl、1916-1990/享年74)の1953年刊行の第二短編集で、因みに第一短編集は1946年刊行の『飛行士たちの話』('81年/ハヤカワ・ミステリ文庫)、第三短編集は1960年刊行の『キス・キス』('74年/早川書房)になります。また、この作家は、1964年に発表され映画化もされた『チョコレート工場の秘密』('05年/評論社)など児童小説でも知られています。

 『あなたに似た人』は、田村隆一訳で1957年にハヤカワ・ポケットミステリで刊行され、その後1976年にハヤカワ・ミステリ文庫で刊行されましたが、その際には、「味」「おとなしい兇器」「南から来た男」「兵隊」「わがいとしき妻よ、わが鳩よ」「海の中へ」「韋駄天のフォックスリイ」「皮膚」「毒」「お願い」「首」「音響捕獲機」「告別」「偉大なる自動文章製造機」「クロウドの犬」の15編を所収していました。そして、この田口俊樹氏による〔新訳版〕は、「Ⅰ」に「味」「おとなしい凶器」「南から来た男」「兵士」「わが愛しき妻、可愛い人よ」「プールでひと泳ぎ」「ギャロッピング・フォックスリー」「皮膚」「毒」「願い」「首」の11篇、「Ⅱ」に「サウンドマシン」「満たされた人生に最後の別れを」「偉大なる自動文章製造機」「クロードの犬」の4編と、更に〈特別収録〉として「ああ生命の妙なる神秘よ」「廃墟にて」の2篇を収めています。

「Ⅰ」所収分
「味」 "Taste"
 私はある晩餐会に妻を連れて参加していた。客の1人は有名な美食家リチャード・プラットで、招いた側のマイク・スコウフィールドは、銘柄を見せずにワインを出し、いつどこで作られたワインか当てられるか、プラットに尋ねる。君にも絶対わからないと自信満々のマイクに対し、プラットは絶対に当てると余裕の表情。そこで、2人は賭けをすることにし、賭けの対象となったのはマイクの娘。プラットが勝てば娘を嫁にもらい、逆にマイクが勝てば、プラットから家と別荘をもらうという約束が取り交わされる。プラットは、ワインの入ったグラスをゆっくりと持ち上げて―。面白かったですが、わりかしオーソドックスにあるパターンではないかなあ。

「おとなしい凶器」"Lamb to the Slaughter"
松本清張11.jpg 夫を殺した妻は、凶器の仔羊の冷凍腿肉を解凍して調理し、それを刑事たちにふるまい、刑事たちは何も知らずに殺人の凶器となった証拠を食べてしまう―。松本清張の短編手『黒い画集』('60年/カッパ・ノベルズ)の中に「凶器」という作品があって、殺人の容疑者は同じく女性で、結局、警察は犯人を挙げることは出来ず、女性からぜんざいをふるまわれて帰ってしまうのですが、実は凶器はカチンカチンの「なまこ餅」で、それを刑事たちが女性からぜんざいをふるまわれて食べてしまったという話があり、松本清張自身が「ダールの短篇などに感心し、あの味を日本的なものに移せないかと考えた」(渡辺剣次編『13の凶器―推理ベスト・コレクション』('76年/講談社))と創作の動機を明かしています。

「南から来た男」 "Man from the South"
ダール 南から来た男 ド.jpgダール 南から来た男.jpg プールそばのデッキチェアでのんびりしている私は、パナマ帽をかぶった小柄な老人が、やって来たのに気づく。アメリカ人の青年が、老人の葉巻に火をつけてやる。いつでも必ずライターに火がつくと知って、老人は賭けを申し出、あなたが、そのライターで続けて十回、一度もミスしないで火がつけzippo.gifられるかどうか、自分はできない方に賭けると。十回連続でライターに火がついたら、青年はキャデラックがもらえ、その代り、一度でも失敗したら、小指を切り落とすと言う。青年は迷うが―。この作品は、金原瑞人氏の訳で『南から来た男 ホラー短編集2』('12年/岩波少年文庫)にも所収されています。
 
ヒッチコック劇場「指」(1960)スティーブ・マックイーン/ピーター・ローレ/ニール・アダムス 
南から来た男.JPGダール 南から来た男es.jpg この作品は「ヒッチコック劇場」で1960年にスティーブ・マックイーンニール・アダムス(当時のマックイーンの妻)によって演じられ、監督はノーマン・ロイド(ヒッチコックの「逃走迷路」('42年)で自由の女神から落っこちる犯人を演じた俳優で、「ヒッチコック劇場」では19エピソード、「ヒッチコック・サスペンス」で3エピソードを監督している)、"南から来た男"を演じたのはジョン・ヒューストン監督の「マルタの鷹」('41年)でカイロという奇妙な男を演じたピーター・ローレでした(日本放送時のタイトルは「指」)。更に1985年に「新・ヒッチコック劇場」でスティーヴン・バウアーメラニー・グリフィス主演でリメイクされ(メラニー・グリフィスの母親ティッピ・ヘドレンも特別出演している)、"南から来た男"を演じたのは「マルタの鷹」の監督ジョン・ヒューストン、最後に出てくる"女"を演じたのは「めまい」('58年)のム・ノヴァクでした(日本放送時のタイトルは「小指切断ゲーム」)。共に舞台はカジノに改変されていますが、出来としてはマックイーン版がかなり良いと思いました。スティーブ・マックイーンはテレビシリーズ「拳銃無宿」('58-'61年)で人気が出始めた頃で、この年「荒野の七人」('60年)でブレイクしますが、この作品はアクションは無く、マックイーンは怪優ピーター・ローレを相手に純粋に演技で勝負しています。但し、マックイーンが演じるとどこかアクション映画っぽい緊迫感が出るのが興味深く、緊迫感においてスティーヴン・バウアー版を上回っているように思います(IMDbのスコアもマックイーン版は8.7とかなりのハイスコア)。この外に、BBCで1979年から放映されたドラマシリーズ「ロアルド・ダール劇場・予期せぬ出来事」の中でもホセ・フェラー主演でドラマ化されています。映新・ヒッチコック劇場 小指切断ゲーム.jpg南部から来た男 11.jpg南部から来た男 ジョン・ヒューストン.jpg画化作品では、オムニバス映画「フォー・ルームス」('95年/米の第4話「ペントハウス ハリウッドから来た男」(クエンティン・タランティーノ監督、ティム・ロス主演、ブルース・ウィリス共演)があります(内容は翻案されている)。
新・ヒッチコック劇場「小指切断ゲーム」(1985)メラニー・グリフィス/キム・ノヴァク/スティーヴン・バウアー/ジョン・ヒューストン

吉行 淳之介.jpg 吉行淳之介はこの短編の初訳者田村隆一との対談で、あのラストで不気味なのは「老人」ではなく「妻」の方であり、夫の狂気に付き合う妻の狂気がより強く出ていると指摘しています。そう考えると、結構"深い"作品と言えるかと思います。

「兵士」 "The Soldier"
 戦争で精神を病んでしまい、何もかもが無感覚になってしまった男。足を怪我しても気がつかず、物に触っても触っている感触が無い。女と暮らしているが、その女が誰なのかも分からなくなってしまう―。ホラー・ミステリですが、ミステリとしての部分は、女が妻であることはかなり明確であり、ホラーの方の色合いが濃いかもしれません。

「わが愛しき妻、可愛い人よ」 "My Lady Love, My Dove"
 私と妻はブリッジをやるためにスネープ夫妻が来るのを待っている。私も妻も夫妻のことはあまり好きではないが、ブリッジのために我慢する。妻はふと、いったい、スネープ夫妻が2人きりの時はどんな様子をしているのか、マイクを取り付けて聞いてみようと言う。そいて、それを実行に移し、聞こえてきた2人の会話は、ブリッジにおけるインチキの打ち合わせだった。それを聞いた妻は―。夫婦そろって悪事に身を染める場合、妻主導で、夫は妻の尻に敷かれていたという状況もあり得るのだなあ。

「プールでひと泳ぎ」 "Dip in the Pool"
 船旅中のミスター・ウィリアム・ボディボルは、ある時間帯までに船がどのくらいの距離を進むか賭ける懸賞(オークション・プール)に参加する。嵐が来ているので、ミスター・ボディボルは有り金全部を短い距離につぎ込むが、朝起きると嵐は収まり、船は快走していて、彼は大いに嘆く。しかし、ある作戦を思いつき、それは、船から人が落ちれば船は救助のため遅れるはずだというもので、自分が落ちた現場を目撃するのに最適な人を探し始める―。ブラックでコミカルと言うか、悲喜劇といった感じ。他人を突き落とすことを考えないで、自分で飛びこんだ分、悪い人ではないのでしょうが。

「ギャロッピング・フォックスリー」 "Galloping Foxley"
 ある日私は、電車に乗ろうとした時、ホームに知った顔を見つける。"ギャロッピング・フォックスリー"と呼ばれ少年の頃に私を苛めていた相手ブルース・でフォックスリーだった。私は彼が自分にした仕打ちを一つ一つ思い出していき、彼にどんな復讐をしてやろうかと考える―。子どもの頃に苛められた記憶って大人になっても消えないのだろうなあ。苛められたことが無い人でも、主人公の気持ちは分かるのでは。それにしても、名乗り合ったら、相手の方がより名門校(イートン校)の出身で、しかも9つも年下だったというのが可笑しいです。

「皮膚」 "Skin"
 ドリオリという老人は、ある画廊でシャイム・スーチンの絵が飾られているのを見つける。それは自分がかつて可愛がっていた、少年の描いた絵だった。画廊にいる人々から追い払われそうになったドリオリは、自分はこの絵描きのかいたものを持っていると叫ぶ―。タイトルから何となくどういうことか分かりましたが、さすがにラストはブラックで、ちょっと気持ち悪かったです。

「毒」"Poison"
 私がバンガローに戻って来ると、ベッドで寝ていたハリーの様子が変で、「音をたてないでくれ」と言い、汗びっしょり。本を読んでいたら毒蛇がやってきて、今も腹の上に乗っていると言うので、私は医者のガンデルバイを呼び、どう刺激しないように毒蛇を動かすか、万が一噛まれた時の処置はどうするか等々、様々な作戦を立てるが―。ネタバレになりますが、勘違いだったわけね。ハリーのインド人医師に対する人種差別意識と重なり、風刺っぽい皮肉が効いています。

「願い」 "The Wish"
 絨毯の上にいる少年は想像を膨らませる。絨毯の赤い所は石炭が燃えている固まりで、黒い所は毒蛇の固まり、黄色の所だけは歩いても大丈夫な所。焼かれもしないで、毒蛇に噛まれもしないで向こうへ渡れたら、明日の誕生日にはきっと仔犬がもらえるはず。少年はおそるおそる黄色の所だけを歩き始めて―。子供の他愛の無い空想遊びの話ですが、最後の一行で、本当に空想に過ぎなかったのか不安が残ります。

「首」 "Neck"
故ウィリアム・タートン卿所蔵の芸術品に興味のある私は、バシル・タートン卿の招待を受けて屋敷へ行く。執事の口ぶりから察するに、レディ・タートンとジャック・ハドック少佐はただならぬ関係らしい。庭園には様々な芸術品があるが、中でもヘンリイ・ムーアの木製の彫刻が素晴らしい。彫刻には穴がいくつかあり、レディ・タートンがふざけて穴に頭を突っ込んで抜けなくなってしまう。バジル卿は、鋸と斧を持ってくるよう執事に命じるが、彼が手にしたのは斧だった―。芸術至上主義の本分からして、実際、斧で妻の首を切落としかねない感じでしたが...。浮気妻への"心理的"復讐と言ったところだったでしょうか。

「Ⅱ」所収分 
「サウンドマシン」 "The Sound Machine"
 クロースナーは人間の耳では聞くことの出来ない音をとらえる機械を作った。早速、イヤホンをしてダイヤルを回すと、ミセス・ソーンダースの庭から、茎が切られる時のばらの叫び声が聞こえてきて―。昔、サボテンが、傍でオキアミを茹でたりすると電磁波を発信するという話がありましたが、最近は園芸店やホームセンターで、「電磁波を吸収する効果があるサボテン」というのが売られています。

「満たされた人生に最後の別れを」 "Nunc Dimittis"
 私はある婦人からジョン・ロイデンという画家の話を聞く。ロイデンは素晴らしい肖像画を描くのだが、まず裸の絵を描いて、その上に下着を描いて、さらにその上に服を重ねて描くという手法を使っているらしい。その婦人から、恋人のジャネット・デ・ペラージアが自分のことを影では嘲笑っていると聞き、ある復讐を思いつく。ロイデンにジャネットの肖像画を描かせた私は、脱脂綿に液体をつけて、少しずつドレスの絵の具をこすっていく―。旧訳のタイトルは「告別」で、原題の意はシメオンの賛歌から「今こそ主よ、僕を去らせたまわん」。陰険な独身男の主人公はキャビア大好き男でもあり、復讐相手から和解の印にキャビアを贈られて...。

「偉大なる自動文章製造機」 "The Great Automatic Grammatizator"
大型自動計算器を開発しているアドルフ・ナイプは、自分の好きな物語を作ることのできる機械を発明する。ちょっとしたアイディアだけで、素敵な文章の面白い小説を作ることができるのだ。ナイプはミスター・ボーレンと組んで小説を次々と作り、既存作家の代作まで始めることに。リストアップされた作家の7割が契約書にサインし、今も多くの作家たちがナイプと手を組もうとしている―。2016年に、AI(人工知能)が書いた小説が文学賞で選考通過というニュースがあり(「星新一文学書」だったと思う)、まったくのSFと言うより、今や近未来小説に近い感じになっているかも。

「クロードの犬」 "Claud's Dog " 
 「ねずみ捕りの男」 "The Ratcatcher"
 私とクロードのいる給油所に保健所の依頼を受けたねずみ捕りの男がやって来る。彼は、ボンネットの上に年老いたドブネズミをくくりつけ、私たちに手を使わずにねずみを殺せるということについて賭けを持ちかける―。このねずみ捕りの男、何者じゃーって感じです。
 「ラミンズ」 "Rummins"
ラミンズと息子のバードが草山を束に切っていると、ナイフの刃がなにか硬いものをこするようなガリガリいう音を立てる。ラミンズは「さあ、続けろ!そのまま切るのだ、バート!」と言う。それを見ていた私は、みんなで乾草の束を作っていた時のことを思い出す。これって、純粋に事故なのでしょうか。
 「ミスター・ホディ」 "Mr. Hoddy"
 クラリスと結婚することを決めたクロードは、クラリスの父親のミスター・ホディに会いに行きく。どうやって生計を立てて行くか聞かれたクーウドは、自信満々に、蛆虫製造工場を始める計画を語る―。こりゃ、破談になるわ。
 「ミスター・フィージィ」 "Mr. Feasey"
私とクロードは、ドッグレースで儲ける作戦を思いつく。クロードは走るのが速いジャッキーという犬を飼っているが、そのジャッキーとそっくりの走るのが全然早くない犬をも飼っていた。そこで、 参加するドッグレースに初めはその偽ジャッキーを出しておいて、レベルの低い犬として認定されるようにし、本番の大勝負では、本物のジャッキーを参加させれば大穴になり、大儲けができるという作戦だった。この作戦はうまく行ったかに見えたが―。やっぱりズルはいけないね、という感じしょうか。

 (追加収録)
「ああ生命の妙なる神秘よ」北を向いてすれは雌が生まれる? 人間にも応用できるのかあ(笑)。

「廃墟にて」食料も無くなった未来の廃墟で、自分の脚を切って食べる男。それを見つめていた少女にも分けてやるが―。何となく、どこかで読んだことがあるような気がします。

 因みに、最後の2篇は、邦訳短編集としては初収録ですが、「ああ生命の妙なる神秘よ」は「ミステリマガジン」1991年4月号、「廃墟にて」は同誌1967年3月号に掲載されたことがあるとのことです。

 個人的ベスト3は、①「南から来た男」、②「おとなしい凶器」、③「プールでひと泳ぎ」でしょうか。とりわけ「南から来た男」は、吉行淳之介の読み解きを知った影響もありますが◎(二重丸)です。「ギャロッピング・フォックスリー」「首」もまずまずでした。

「人喰いアメーバの恐怖」 [VHS]/「マックイーンの絶対の危機 デジタル・リマスター版 [DVD]
マックィーンの絶対の危機_9.jpg人喰いアメーバの恐怖 .jpgマックィーンの絶対の危機(ピンチ)dvd.jpg 因みに、スティーブ・マックイーンの初主演映画は、「ヒッチコック劇場」の「指」に出演した2年前のアービン・S・イヤワース・ジュニア監督の「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)」('58年)で、日本公開は'65年1月。日本での'72年のテレビ初放送時のタイトルは「SF人喰いアメーバの恐怖」で、'86年のビデオ発売時のタイトルも「スティーブ・マックィーンの人喰いアメーバの恐怖」だったので、「人喰いアメーバの恐怖」のタイトルの方が馴染みがある人が多いのではないでしょうか。宇宙生物マックィーンの絶対の危機_1.jpgが隕石と共にやって来たという定番SF怪物映画で、怪物は田舎町を襲い、人間を捕食して巨大化していきますが、これ、"アメーバ"と言うより"液体生物"でしょう(原題の"The Blob"はイメージ的には"スライム"に近い?)。この液体生物に立ち向かうのがマックイーン演じる(当時、クレジットはスティーブン・マックイーンで、役名の方がスティーブになっている)ティーンエマックィーンの絶対の危機_2.jpgイジャーたちで、スティーブン・マックイーンは実年齢27歳で高校生を演じています(まあ、日本でもこうしたことは時々あるが)。CGが無い時代なので手作り感はありますが、そんなに凝った特撮ではなく、B級映画であるには違いないでしょう。ただそのキッチュな味わいが一部にカルト的人気を呼んでいるようです。スティーブ・マックイーン主演ということで後に注目されるようになったことも影響しているかと思いますが、「人喰いアメーバの恐怖2」(ビデオ邦題「悪魔のエイリアン」)('72年)という続編や「ブロブ/宇宙からの不明物体」('88年)というリメイク作品が作られていますが、共に未見です。

ヒッチコック劇場 マックイーン版 南から来た男.jpgヒッチコック劇場 マックイーン版 南から来た男 2.jpg

ヒッチコック劇場「南部から来た男」(1960) "Man From The South"(日本放送時のタイトル「指」)
 

「ヒッチコック劇場(第136話)/指」●原題:MAN FROM THE SOUTH●制作年:1959年●制作国:アメリカ●本国放映:1960/01/03●監督:マっクィーン 指.jpgヒッチコック劇場 第四集.jpgノーマン・ロイド●製作:ジョーン・ハリソン●脚本:ウィリアム・フェイ●音楽:ジョセフ・ロメロ●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:26分●出演:スティーブ・マックイーンニール・アダムス/ピーター・ローレ/キャサリン・スクワイア/アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放映局:日本テレビ(評価★★★★)

ヒッチコック劇場 第四集2 【ベスト・ライブラリー 1500円:第4弾】 [DVD]」(「脱税夫人(The avon emeralds)」「悪徳の町(The crooked road)」「指(Man from the south)」「ひき逃げを見た(I saw the whole thing)」)

Alfred Hitchcock Presents.jpgヒッチコック劇場00.jpgヒッチコック劇場01.jpgヒッチコック劇場_0.jpg「ヒッチコック劇場」Alfred Hitchcock Presents (CBS 1955.10.2~62.7.3)○日本での放映チャネル:日本テレビ(1957~63)
Alfred Hitchcock Presents             
 
新・ヒッチコック劇場「南部から来た男」(1985)"Man From The South"(日本放送時のタイトル「小指切断ゲーム」)
小指切断ゲーム1.jpg

          
スティーヴン・バウアー/ティッピ・ヘドレン(特別出演)/メラニー・グリフィス/ジョン・ヒューストン
小指切断ゲーム2.jpg小指切断ゲーム3.jpg小指切断ゲーム4.jpg「新・ヒッチコック劇場(第15話)/小指切断ゲーム」●原題:MAN FROM THE SOUTH●制作年:1985年●制作国:アメリカ●本国放映:1985/05/05●監督:スティーブ・デ・ジャネット●製作:レビュー・スタジオ●脚本:スティーブ・デ・ジャネット/ウィリアム・フェイ●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●原作:ロアルド・ダール「南から来た男」●時間:24分●出演:スティーヴン・バウアー(青年)/新・ヒッチコック劇場 5.jpgメラニー・グリフィス(若い女)/ジョン・ヒューストン(カルロス老人)/キム・ノヴァク(女)/ティッピ・ヘドレン(小指切断ゲーム6.jpg小指切断ゲーム5.jpgウェートレス)/アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)●日本放映:1988/01/07●放映局:テレビ東京●日本放映(リバイバル):2007/07/08●放映局:NHK-BS2(評価★★★☆)
メラニー・グリフィス/キム・ノヴァク(特別ゲストスター)
新・ヒッチコック劇場 5 日本語吹替版 3話収録 AHP-6005 [DVD](「誕生日の劇物」「ビン詰めの魔物」「小指切断ゲーム」)

Alfred Hitchcock Presents_.jpgヒッチコック劇場86.jpg新・ヒッチコック劇場 4.jpg「新・ヒッチコック劇場(「ヒッチコック劇場'85・86・87」「新作ヒッチコック劇場」)」Alfred Hitchcock Presents (NBC 1985.4.5~89.6.22)○日本での放映チャネル:テレビ東京(1985~87)

The Blob
The Blob (1958).jpgマックィーンの絶対の危機_.jpg「マックイーンの絶対の危機(ピンチ)(人喰いアメーバの恐怖)」●原題:THE BLOB●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:アービン・S・イヤワース・ジュニア●製作:ジャック・H・ハリス●脚本:ケイト・フィリップス/セオドア・シモンソン●撮影:トーマス・スパルディング●音楽:ラルフ・カーマイケル●原案:アービン・H・ミルゲート●時間:86分●出演:スティーブ・マックイーン/アニタ・コルシオ/アール・ロウ/ジョージ・カラス/ジョン・ベンソン/スティーヴン・チェイス/ロバート・フィールズ/アンソニー・フランク/ジェームズ・ボネット/オーリン・ハウリン●日本公開:1965/01●配給:アライド・アーティスツ(評価★★★)

 【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)]/1976年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/2013年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田口俊樹:訳)(Ⅰ・Ⅱ)]】

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ジャン・ギャバンとがっぷり四つに組めたのは、アラン・ドロンではなくリノ・ヴァンチュラか。

シシリアン 1969.gif シシリアン 1969 blueray.jpg  シシリアン ギャバン・ドロン.jpg
シシリアン [Blu-ray]」(2015) ジャン・ギャバン、アラン・ドロン

シシリアン 1969 - コピー.gifシシリアン 196915b.jpg 殺し屋ロジェ・サルテ(アラン・ドロン)は、シシリアン・マフィアのボスのヴィットリオ・マナレーゼ(ジャン・ギャバン)の力を借りて刑務所から脱獄する。パリに潜伏したサルテは、マナレーゼの息子アルド(イブ・ルフェーブル)の妻ジャンヌ(イリナ・デミック)と恋仲になる。マナレーゼは、サルテが持ちかけた宝石強奪話に乗り、ニューヨーク・マフィアのボスのトニー・ニコシア(アメデオ・ナザーリ)を仲間に引き入れる。宝石展の展示物を米国への空輸中に飛行機ごと奪うという大胆な計画は、見事成功する。マナレーゼはこの仕事を最後に勇退し、シシリアン 1969 2.jpg故郷シシリー島に帰る予定だったが、サルテとジャンヌの不倫がファミリーの知るところとなる。マナレーゼはサルテをパリに呼んでシシリアン3s.jpg殺害する計画を立てるが、ジャンヌの機転でサルテは危機を逃れる。空港でサルテを待ち伏せたマナレーゼの息子たちは、情報を得たル・ゴフ警部(リノ・ヴァンチュラ)に逮捕される。一人残されたマナレーゼは、宝石強奪の分け前を渡すという口実でサルテを呼び出す―。
   
シシリアン1s.jpgシシリアン 196946.jpg 「ヘッドライト」('55年)、「地下室のメロディー」('63年)のアンリ・ヴェルヌイユ(1920-2002/享年81)監督の1969年作品で、原作は犯罪小説家オーギュスト・ル=ブルトン。アンリ・ヴェルヌイユ監督の「地下室のメロディー」('63年)と同じくジャン・ギャバンとアラン・ドロンの共演作で、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の「暗黒街のふたり」('73年)でもこの2人は共演しています(フィルム・ノワールばかりだなあ)。

シシリアン91.jpg アラン・ドロンは一匹狼が似合いますが、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の「ブーメランのように」('76年)のように純粋に一人主人公と時はいいけれども、ジャン・ギャバンと並ぶと貫禄の差が出てしまい、この二人の組み合わせは意外と難しい(?)。但し、この作品に関しては、元プロレスラーのリノ・ヴァンチュラが、出番はそう多くないもののジャン・ギャバンとがっぷり四つに組んでいて、作品全体のバランスが取れているように思いました。リノ・ヴァンチュラに関して言えば、50年代の「死刑台のエレベーター」('58年)シシリアン リノ.jpg、60年代のこの作品、70年代の「ローマに散る」('76年)が代表的な警部役でしょう。数的にはギャング役の方が多いにも関わらず、警部役のイメージが強い俳優です(アラン・ドロンと「冒険者たち」('67年、原作はジョゼ・ジョヴァンニの「生き残った者の掟」)で共演した時は、ドロンと共に宝探しをする中年男の役で、ジョアンナ・シムカスを頂点にアラン・ドロンと三角形の構図を成していて、これはこれで良かった)。

 プロット的にはそれほど凝ったものではなく、と言って悪くもないですが、当時としてはその大胆な手口から話題になったという航空機乗っ取り計画も、特撮シーンなどは今観るとどうしても安っぽい感じでを受けます。やはり、ジャン・ギャバン演じるシシリアン・マフィアのボスを軸に、時に偏狭とも思えるくらい身内のことにかまけるとでも言うか、ファミリーのプライドを重んずるシシリー気質というものを感じ取るとともに、安全や打算よりもプライドと復讐を重んじたために招いた結末の虚しさを、エンニオ・モリコーネの哀愁漂うテーマ曲と共に味わう映画でしょうか(音楽はいい。音楽だけの評価だと★★★★★)。

シシリアン 1969 1_.jpgシシリアン 1969s.jpg 個人的には、マフィアがピンボールゲーム機の製造か販売の事業をしているといのが興味深かったです(ラストでリノ・ヴァンチュラはピンボールをしながらジャン・ギャバンを待っている)。この作品はフランス語版のほかに主演俳優らによる英語吹き替え版もあって、近年わが国でリリースされていたのはDVDもBlu-rayもどういうわけか英語版ばかりでしたが、'14年2月にようやっとフランス語版のBlu-rayがリリースされています('15年12月にも再リリースされた)。やっぱり、フランス語版で観るにこしたことないでしょう。英語版で観るくらいなら、野沢那智と森山周一郎の吹き替えで観た方がまだいいかもしれません。

Shishirian (1969)
Shishirian (1969).jpgシシリアン 1969 10s.jpg「シシリアン」●原題:LE CLAN DES SICILIENS/THE SICILLIAN CLAN●制作年:1969年●制作国:フランス●監督:アンリ・ヴェルヌイユ●製作:ジャック・ストラウス●脚本:アンリ・ヴェルヌイユ /ジョゼ・ジョヴァンニ/ピエール・ペルグリ●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:オーギュスト・ル=ブルトン●時間:124分●出演:ジャン・ギャバン/アラン・ドロン/リノ・ヴァンチュラ/イリナ・デミック/アメデオ・ナザーリ/イブ・ルフェーブル/シドニー・チャップリン●日本公開:1970/04●配給:20世紀フォックス(評価★★★☆)

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他の監督の作品には見られない、この監督だけの独自の世界が味わえる。

散歩する惑星 2000.jpg 散歩する惑星o.jpg  さよなら、人類  2014.jpg さよなら、人類s.jpg
散歩する惑星 愛蔵版 [DVD]」ラース・ノルド 「さよなら、人類 [DVD]」ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム
散歩する惑a6.jpg ここはとある惑星のとある町。30年間会社を無欠勤だった男が、リストラで解雇を宣告され泣きわめき、社長にすがりついて廊下を引き摺られていく。社屋の一階では、道に迷った男が訳もなく若者たちに殴られて倒れている。社長のペレ(トルビョーン・ファルトロム)は会社のことより、折れてしまったゴルフクラブを気にしている。ディナーショーでマジシャン(ルチオ・ブチーナ)は人体切断マジックに失敗して、協力者の腹をのこぎりで切ってしまう。保険金欲しさに自分の店に火をつけた家具屋経営のカール(ラース・ノルド)が、煤だらけで満員の地下鉄に乗っていると、どこからともなく音楽が聞こえてきて、乗客らが歌い始める。焼けた家具店の表通りは渋滞していて、デモ隊が鞭打ちをしながら車の間を行く。タクシー運転手をしていたカールの長男は、人々の悩みを聞かされるうちに自分が精神を病んでしまい、誰とも話せなくなって精神病院に入院中である。今は次男シュテファン(シュテファン・ラーソン)がタクシーを運転手をしている。そのタクシーに軍人が一人乗り込んできて、今日が総司令官(ハッセ・ソーデルホルム)の100歳の誕生日で自分がその祝辞の草稿を作った言う。将軍の100歳の誕生日を祝う式典が病院内で行われ、将軍はナチ式の敬礼をする。カールが同業者を訪ねると、彼は不況下で大聖年という理由で、十字架を売って儲けしようとしていて、カールも十字架を一つ買う。駅に行くと、自殺したはずのスヴェンが自分の後ろをついてくる。不条理な出来事が次々起きて、やがて町全体が異様な雰囲気に包まれていく―。

 CF界出身でカンヌの国際広告祭で8度のグランプリに輝いているロイ・アンダーソンの2000年の作品で、同年のカンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作です(勿論CFではなく映画として)。構想に20年、撮影に4年を費やしたという不条理映画で、どこかの惑星で展開するブラックでシュールな出来事の数々(上記に書き並べた分で半分足らずか)を、CGを使わずアナログ感たっぷり描いています。たまにはこんな映画を観るのもいいかなあという感じです。

 ロイ・アンダーソン監督はこの作品が長編としては「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」('69年)以来何と31年ぶりですが、この作品で、不条理な小劇で繋いでいきながら無理にストーリーを構築しようとはせず、ブラック且つシュールな雰囲気を醸す独特のスタイルを確立したという印象で、その後も、「愛おしき隣人」('07年)、「さよなら、人類」('14年)と寡作ながらも(7年に1作かあ)このスタイルを守っているようです。

ロイ・アンダーソン.jpgさよなら、人類 3.jpg 2014年・第71回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した最近作「さよなら、人類」は(これも構想に15年、撮影に4年を費やしたという)、吸血鬼のお面や笑い袋といった面白グッズを売り歩く冴えないセールスマン・コンビのとサム(ニルス・ウェストブロム)とヨナタン(ホルガー・アンダーソン)を軸に話が展開し(これもストーリーにさほどさよなら、人類8_A04.jpg脈絡はないのだが)、2人がグッズがまるで売れずに散々な日々を送る中、フラメンコの女教師(ロッテ・トルノス)はレッスンを受けに来るお気に入りの若い男さよなら、人類ド.jpgの子の身体を指導のフリをして触りまくり、フェリーの船長(オラ・ステンソン)は船酔いが耐えられずに理容師に転職し、バーになぜか18世紀のスウェーデン国王カール12世(ヴィクトル・ギュレンバリ)が騎馬隊を率いて現われ...と、こちらも不条理の小劇のオンパレード。全39シーンというから、だんだんシーン数が多くなってきているのではないでしょうか。

さよなら、人類 2.jpg それらのシーンを主に繋いでいるのが、サムとヨナタンのセールスマン・コンビですが、この2人が面白グッズを売り歩いているのに滅茶苦茶にクラいというのがブッラクで可笑しいです。16世紀の画家ブリューゲルの「雪中の狩人」など様々な絵画からインスピレーションを受けて作られているとのことですが、低彩色のトーンは「散さよなら、人類 5.jpg歩する惑星」の時と同じであるものの、「散歩する惑星」よりも死のイメージが濃くなっているような気がしました。黒人たちがが回転する大きなドラムのようなものの中に入れられ、そのドラムが火で炙られるシーンなど、政治的なメッセージともとれるメタファーも前作よりグロテスクで直截的になっていますが、個人的には「散歩する惑星」の方がやや好みだったしょうか。

 何れの作品も、ストーリーを追い過ぎて観てしまっては楽しめないと思います。1シーン1シーンを、美術館にある絵を1枚1枚観るつもりで観たらいいのではないでしょうか。クロード・ルルーシュ、リドリー・スコット、大林宣彦、山崎貴とCMディレクター出身の映画監督は多いですが、これだけ尖がった方向で自らのスタイルを強固に貫いている監督は珍しいと思います。他の監督の作品には見られない、この監督だけの独自の世界が味わえます。

Sånger från andra våningen (2000)
Sånger från andra våningen (2000).jpg
散歩する惑星j.jpeg「散歩する惑星」●原題:SANGER FRAN ANDRA VANINGEN/SONGS FROM THE SECOND FLOOR●制作年:2000年●制作国:スウェーデン・フランス●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:フィリップ・ボバー●撮影:イストヴァン・ボルバス/イェスパー・クレーヴェンオース●音楽:ベニー・アンダーソン●時間:98分●出演:ラース・ノルド/シュテファン・ラーソン/ハッセ・ソーデルホルム/トルビョーン・ファルトロム/ルチオ・ブチーナ●日本公開:2003/05●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:恵比寿ガーデンシネマ(初代)(03-05-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(17-03-07)(評価★★★★)
恵比寿ガーデンテラス弐番館.jpg恵比寿ガーデンシネマ.jpg旧・恵比寿ガーデンシネマ 1994年(平成6年)10月8日、恵比寿ガーデンテラス弐番館内にオープン(2スクリーン)。2011年1月28日休館。2015年3月28日「YEBISU GARDEN CINEMA(正式名称「恵比寿ガーデンシネマ」)」として再オープン。


「さよなら、人類」●原題:EN DUVA SATT P A EN GREN OCH FUNDERADE PA TILLVARON/A PIGEON SAT ON A BRANCH REFLECTING ON EXISTENCE(「実存を省みる枝の上の鳩」)●制作年:2014年●制作国:スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:ペニラ・サンドストロム●撮影:イストヴァン・ボルバス●音楽:Gorm Sundberg/Hani Jazzar●時間:100分●出演:ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム/カルロッタ・ラーソン/ヴィクトル・ギュレンバリ/ロッテ・トルノス/オラ・ステンソン●日本公開:2015/08●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-02-04)(評価★★★☆)

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映画「死海殺人事件」の原作。映画は?だが、原作は本格推理として楽しめる。

死との約束 1957.jpg死との約束HM.jpg 死との約束1978(1988) .jpg 死との約束 クリスティ文庫.jpg 死海殺人事件2.jpg
ハヤカワ・ミステリ(1957)/『死との約束 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-33)』/映画タイアップカバー/『死との約束 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「MGM HollyWood Classics 死海殺人事件 [DVD]

 ポアロは中東エルサレムで休暇を過ごすが、同じく同地を訪れていたのが、世界的に有名な精神科医のテオドール・ジェラール博士、イギリスの国会議員ウエストホルム卿夫人、新米女医サラ・キング、米国人のボイントン一家らだった。ボイントン夫人は、長男のレノックスとその妻ネイディーン、次男のレイモンド、長女のキャロル、次女のジネブラの5人を従えていた。夫人はかつて刑務所で女看守として働き、偶然に大金持ちのボイントン氏と結婚し、夫が亡くなって未亡人となったが、我儘で個性が強く家族全員を拘束していた。子供達の意見や要求は殆ど無視され、いつまで経っても子供としか扱われない。ある日ジェラール博士、サラ、ウエストホルム卿夫人とその取り巻きのアマベル・ピアス、ネイディーン・ボイントンの友人のジェファーソン・コープらはペトラ遺跡の観光ツアーに参加するが、ペトラに着くとボイントン一家もそこにいた。翌日の昼食時、ボイントン夫人は子供たちに自由に散歩することを許すが、これは彼女にしては希有なことだった。ボイントンの子供たちとサラたちの一行は思い思いに遺跡に向かい、崖の上からの景色を堪能して各々帰路に着くが、ジェラール博士だけはマラリアを発病し先にキャンプに帰っていた。ボイントン夫人は暑さの中で、外に出した椅子に座って身動き一つしなかったが、やがて夕食時に夫人が現れないので召使が呼びに行くと、夫人は亡くなっていた。新米医師サラの見立てでは死亡時刻は発見の1時間以上前で、夫人の手首には注射針の跡があった。さらにジェラール博士の注射器がなくなっており、多量のジギタリスも消えていた―。

ナイルに死す2.jpg死との約束 英初版Collins 1938年 .jpg 1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『ナイルに死す』((原題:Death on the Nile))と同じく中東を舞台にした本格派推理小説です。前々年発表の『メソポタミヤの殺人』も中東・イラクが舞台でした。因みにクリスティは最初の夫アーチボルド・クリスティ大尉(彼は薬剤師の助手として勤務していたため、クリスティは彼から毒薬の知識を得たという)に裏切られて傷心旅行で訪れたメソポタミヤで14歳年下の考古学者マックス・マローワンと知り合って、彼と1930年に再婚、その後に続く"中東モノ"は、おそらく考古学者である夫の研究調査に随伴した経験が素地になっていると考えられます(但し、この作品には『メソポタミヤの殺人』のような考古学的モチーフは出てこない)。

英初版Collins 1938年

死海殺人事件_0.jpg 『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「ナイル殺人事件」('78年/英)の原作として知られていますが、この作品が マイケル・ウィナー監督(「狼よさらば」「ロサンゼルス」)の映画「死海殺人事件」('88年/米)の原作であることはあまり知られていないかもしれません。そもそもエルサレムという異国の地を舞台にしながらも原作がやや地味ですが、ポワロが関係者一人一人に事情聴取していってロジックで犯人を突き止める過程は『オリエント急行の殺人』などにも通じるものがあり、本格推理としてはよく出来ていて、結構楽しめるように思います。

映画「死海殺人事件」チラシ

死海殺人事件w.jpg 映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「地中海殺人事件」('82年/英、原作はポアロ・シリーズ『白昼の悪魔』)に続いてピーター・ユスティノフがエルキュール・ポワロを演じていますが、ピーター・ユスティノフにとっては最後のポワロ役でした。また彼は、「地中海殺人事件」と「死海殺人事件」の間にTVドラマのミニシリーズで「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」('85年/英)など3本でポワロを演じています(「エッジウェア卿殺人事件」では'89年からTⅤ版「名探偵ポアロ」でポワロを演じることになるデヴィッド・スーシェがジャップ警部を演じている)。

死海殺人事件lt.jpg死海殺人事件es.jpg 原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。

死海殺人事件48.jpg死海殺人事件_.jpg 実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った死海殺人事件(1988年5.jpgものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど死との約束 powaro .jpg(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」('09年/英)ではその辺りはどう描かれていたでしょうか。
「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」 (09年/英) (2010/09 NHK‐BS2) ★★★☆

Appointment with Death (1988)
Appointment with Death (1988).jpg死海殺人事件ド.jpg「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー死海殺人事件ges.jpgター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ死海殺人事件12.jpg死海殺人事件16.jpgイケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)

David SOUL - Appointment with death (1988)

【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】

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強く惹かれ合いながらも一線を越えることが出来ない男女。魅せる"雰囲気"と幾つかの"謎"。

花様年華 [DVD].jpg花様年華dvd.jpg 花様年華 11.jpg
花様年華 [DVD]」「花様年華 [DVD]」 トニー・レオン/マギー・チャン

花様年華 01.jpg 1962年の香港。新聞社の編集者であるチャウ(トニー・レオン〈梁朝偉〉)が夫妻でアパートに引っ越してきた日、隣の部屋にもチャン夫人(マギー・チャン〈張曼玉〉)が夫と引っ越してくる。チャン夫人は商社で社長秘書として働いている。チャウの妻とチャン夫人の夫は仕事のせいであまり家におらず、二人はそれぞれの部屋に一人でいることが多かったが、大家のスーエン夫人(レベッカ・パン)の仲立ちもあり二人は親しくなる。ある日、一緒に昼食を取った際、それぞれの配偶者の日本土産の話などから、お互いの配偶者同士が浮気しているらしいと察する。隣同士の部屋に住む孤独な男と女―。チャウは夫人により接近するため、本の好きな彼女に自らの小説執筆の手伝いを依頼する。夫人がスリッパのままチャンの部屋にやって来たある日、偶然にアパートの住民ら花様年華 02.jpgが徹夜マージャンをすることになり、自分の部屋に戻るに戻れなくなった夫人は、一夜をチャンの部屋で過ごすも機会を窺い、自分のスリッパを置き足に合わないチャウ夫人のヒール靴を履いて、さも外出先から自宅に帰ってきたかのようにチャンの部屋を出て行く。更に二人は、チャウが小説を書くために借りたホテルの部屋で何度か逢引するが、チャウが夫人が夫を問い詰めることを想定した練習台になったりするものの、二人は自分たちの配偶者のように簡単に不倫関係を結ぶことは出来ないでいる。チャウは、シンガポールでの仕事に誘われて現地へ行くことにするが、その際に夫人を誘うも彼女は一緒には来ない。しかし、1963年のある日、彼女は突然シンガポールのチャウの部屋を訪ねる。チャウは無言の電話を受け、自分の部屋の灰皿に夫人のタバコの吸い殻を見つけるが、夫人とは会えなかった。時は流れ1966年、子どもを連れたチャン夫人が香港のかつてのアパートにスーエン夫人を訪ね、アメリカに移住するというスーエン夫人からかつて住んだ部屋を借り受ける。一方のチャンもその後アパートを訪れ、新しい管理人に、隣は「お母さんと息子」が住んでいると聞く。それが誰であるかを確認することなく、その後彼は取材でアンコールワットを訪問し、古跡の壁の穴に過去の秘密を封印する―。

花様年華00.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の2000年作品で、同監督の「欲望の翼」('90年)の続編、「2046」('04年)の前編とも言われていますが、雰囲気のある映画と言うか、最初はその雰囲気だけで引っ込まれて観ました。60年代の香港の共同住宅、隘路のような廊下、屋台形式の共同炊事場兼食堂―そうした舞台を背景に、互いに強く惹かれ合いながらもどうしても一線を越えることが出来ないでいる男女をしっとりと描いていて、それはホテルで二人が密会するようになっても続いていきます。ナット・キング・コールの「キサス・キサス・キサス」などの曲がくぐもった感じで背後に流れるのもムーディでした。

花様年華 (00年/香港).jpg 一方で、観ていて大きな謎の部分もありましたが、それは後にネットなどでいろんな人の分析を読んで、ナルホドなあと思ったりもし、また、そうした中でも見方が分かれていたりして、どっちの解釈が正しいのか、それは"正解"があるのか、それとも元々が観客に解釈を委ねている作品なのか―などと考えてみる上で"面白い"作品であると思います。以下、個人的解釈―。

 チャン夫人は何故1963年になってシンガポールにチャウを訪ねたのか。これは、やはりチャウと一緒になろうと考えたのではないでしょうか(この時点でチャウの方は指輪をしておらず、シンガポール行きを契機に離婚をしている可能性が高い。勿論、離婚していなくても指輪はもうしなかったとは思うが)。夫人はそれでも、現地まで行ったにも関わらず、チャウに直接会って想いを伝えるまでには至らず、結果として訪ねた痕跡を残すに留まってしまった―ということではないか。

花様年華12.jpg 一説では、チャン夫人はスリッパを取りにシンガポールに行ったという見方もあるようですが、それは、後でチャウが部屋から無くなったものがあるとメイドに訴える、その"無くなったもの"とはスリッパであり、それは、例のマージャンの夜に夫人がチャウの部屋に置いてきたスリッパだったという。彼女がスリッパを"回収"するカットは実際にあり(スリッパが件(くだん)のものであったことそのものはまず間違いないだろう)、チャウにシンガポールでの仕事を紹介した人物がかつてのアパートの同居人でもあったことから、その人物がスリッパを見れば、どうして夫人のスリッパがここにあるのかと訝しがる、そのことを夫人は恐れたのか。仮にそうであるとしても、チャウが例のスリッパをシンガポールに持って行っていることを夫人は事前に知る由もなく、やはりここは、自分がチャウと付き合っていた「痕跡を消す」ためにスリッパを"回収"したのではなく(また、そのためにシンガポールまで行ったわけでもなく)、わざとタバコの吸い殻を残したのと同じように、チャウに想いを伝えに来たが踏み切れず、来たという「痕跡を残す」ためにスリッパを持ち帰ったと見るべきではないでしょうか。

 では、最後に出てくるチャン夫人が連れている子どもは誰との間にできた子なのか。チャン夫人が夫と縁りが戻り、男の子を儲けたと見る向きもありますが、そうすると先のスリッパ"回収"による「痕跡を消す」説と符合する面も出てくるものの、ややセコい感じも。但し、この説には一定の論拠が花様年華 06.jpgあり、チャウの妻(声のみで姿は画面には一度も出てこない)が電話で相手に対し(相手は不倫相手のチャン夫人の夫のようだが、こちらも声のみで姿は画面には一度も出てこない)、「話さないとダメよ」と言って泣いていることから(この部分も声のみ)、不倫相手に離婚を迫ったもののチャン夫人の夫が離婚を渋っているらしいことが窺え、更に、チャン夫人の夫が日本に出張中にチャン夫人の誕生日にラジオに歌のリクエストしていることで(その曲名が「花様的年華」)、これを聴いたチャン夫人が夫と和解し、結局は夫と別れなかったと解されるというもの。でも、そうだとしたら、どうしてわざわざチャウとの思い出が色濃く残るかつてのアパートに舞い戻ってくるのかが理解し難い気がします(この時、指輪はどうなっていた? 1962年時点では最後まで外さなかったようだが)。

トニー・レオン マギー・チャン1.png では、チャン夫人が連れている子どもはチャウの子なのか。だとしたら、二人はそれまでどうしても越えられなかった一線を最後に越えたことになりますが、それは何時だったのか。おそらく、夫人の夫への問い質し練習の延長としてやった、チャウとの別れの場面のロールプレイング(相手は夫を想定しているのかチャウを想定しているのか微妙)の後、夫人が泣き崩れ「今日は帰りたくない」というあの辺りでしょうか(2度目のタクシー内の場面)。その後、チャウがシンガポールに行っている間に妊娠・出産し、シンガポールにはそのことをチャウに伝えるためにも行ったとすれば、目的は果たさなかったものの行った動機としても説明がつくのではないでしょうか。

 個人的解釈としては、チャン夫人が最後、子ども連れて思い出の詰まったアパートに舞い戻ってきた割には結構さばさばして見えるのは、"思い出"に生きることで踏ん切りがついているためであって(その点でチャウとの間に生まれた子どもがい花様年華74.jpgるという意味は大きい)、一方、おそらくは隣の部屋にチャン夫人が戻って来ているのを知らないままにアンコールワットに行ったチャウは、そこまで割り切って"思い出"に生きられないからこそ(男女の生理的違いと言っていいのでは)、遺跡の壁の穴に口づけをするという行為を以って意識的に"思い出"を封印しようとしたのではないか―と考えます。

Kayô nenka(2000).jpgKayô nenka(2000)

花様年華7_jp.jpg花様年華2).jpg「花様年華」●原題:花様年華/IN THE MOOD FOR LOVE●制作年:2000年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル/リー・ピンビン(李屏賓)●音楽:マイケル・ガラッソ/梅林茂●時間:98分●出演:トニー・レオン〈梁朝偉〉/マギー・チャン〈張曼玉〉/レベッカ・パン〈藩迪華〉/ライ・チン〈雷震〉/スー・ピンラン〈蕭炳林〉●日本公開:2001/03●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ1(01-04-25)(評価:★★★★★
  
Maggie Cheung2.jpgマギー・チャン2.jpgトニー・レオン.jpgトニー・レオン マギー・チャン(hero 2002).jpg

               

マギー・チャン(張曼玉)/トニー・レオン〈梁朝偉〉/マギー・チャン&トニー・レオン in 「HERO」(2002年/中国・香港/張芸謀(チャン・イーモウ)監督)

 

Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamura ル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン


 
 
 
 
《読書MEMO》
●ポール・シュレイダー監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●市民ケーン(オーソン・ウェルズ)
 ●暗殺の森(ベルナルド・ベルトルッチ)
 ●花様年華(ウォン・カーウァイ)
 ●レディ・イヴ(プレストン・スタージェス)
 ●オルフェ(ジャン・コクトー)
 ●スリ(ロベール・ブレッソン)
 ●ゲームの規則(ジャン・ルノワール)
 ●東京物語(小津安二郎)
 ●めまい(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●ワイルドバンチ(サム・ペキンパー)

●英BBC Culture「21世紀の偉大な映画ベスト100」(2016.08.24発表)上位20位
1.「マルホランド・ドライブ」(01/デビッド・リンチ)
2.「花様年華」(00/ウォン・カーウァイ)
3.「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07/ポール・トーマス・アンダーソン)
4.「千と千尋の神隠し」(01/宮崎駿)
5.「6才のボクが、大人になるまで。」(14/リチャード・リンクレイター)
6.「エターナル・サンシャイン」(04/ミシェル・ゴンドリー)
7.「ツリー・オブ・ライフ」(11/テレンス・マリック)
8.「ヤンヤン 夏の想い出」(00/エドワード・ヤン)
9.「別離」(11/アスガー・ファルハディ)
10.「ノーカントリー」(07/ジョエル&イーサン・コーエン)
11.「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(13/ジョエル&イーサン・コーエン)
12.「ゾディアック」(07/デビッド・フィンチャー)
13.「トゥモロー・ワールド」(06/アルフォンソ・キュアロン)
14.「アクト・オブ・キリング」(12/ジョシュア・オッペンハイマー)
15.「4ヶ月、3週と2日」(07)クリスティアン・ムンジウ
16.「ホーリー・モーターズ」(12/レオス・カラックス)
17.「パンズ・ラビリンス」(06/ギレルモ・デル・トロ)
18.「白いリボン」(09/ミヒャエル・ハネケ)
19.「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15/ジョージ・ミラー)
20.「脳内ニューヨーク」(08/チャーリー・カウフマン)

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'58年ニューポート・ジャズ・フェスティバルの記録。音楽と映像のマッチングを愉しめる。

真夏の夜のジャズ(1959)ps.jpg  真夏の夜のジャズ(1959)チラシ.jpg 真夏の夜のジャズ(1959)パンフレット.jpg  真夏の夜のジャズ(1959)dvd2.jpg
映画チラシ 読売ホール「真夏の夜のジャズ」監督 バート・スターン 出演 ルイ・アームストロング、マヘリア・ジャクソン」/チラシ/パンフレット(ルイ・アームストロング/アニタ・オディ)「真夏の夜のジャズ [DVD]

真夏の夜のジャズ(1959)0.jpg 1958年に行われた第5回ニューポート・ジャズ・フェスティバルの模様を収めたドキュメンタリーフィルムで、音楽を扱ったドキュメンタリーの中でも、、映像的には最高水準にある作品とされているようです。そうと知らずに初めて観た時は、映像と音楽をただただ愉しんだという感じでしたが、初めて観た時('86年)に既に作られてから四半世紀経っていたのだなあと(これは今になって意外に思う)。

 製作・監督のバート・スターンは当時28歳の真夏の夜のジャズA5.jpgカメラマンで、この記録映画をちょっと変わった撮り方をしていて、実際にはこのフェスティバルには100人以上のミュージシャンが出演したそうですが、ルイ・アームストロング、アニタ・オデイ、マヘリア・ジャクソン、ダイナ・ワシントン、セロニアス・モンク、ゲリー・モリガン、ジョージ・シェアリングなど40人くらいに絞り込み(その結果、マイルス・デイヴィス、デューク・エリントン、ソニー・ロリンズなどの出演場面がカットされ、その演奏が収められていない)、しかも、4日間のイベントをまるで1日のイベントであったかのように撮っています。

真夏の夜のジャズ243.jpg また、演奏会場の準備風景やバックステージ、観客の様子などもしっかり撮っていて、この手法は「ウッドストック」('70年/米)などに引き継がれるわけですが、歌い手真夏の夜のジャズ(1959)  .jpgや演奏者よりも観客の方を長く撮っていたりする時間帯もあり、仕舞いには、カメラはフェスティバル会場を飛び出し、同時期に当地で行われようとしていたヨットのアメリカズ・カップの準備の様子や練習風景、アメリカズ・カップが本来のお目当だったと思われる観光客まで撮っています。

真夏の夜のジャズ5.jpg ということで、演奏の音楽が流れている間、カメラは、熱心に聴き入る観客ばかりでなく、無心にアイスクリームを食べる女性を望遠レンズでそっと撮ったり、海面を走るヨットを俯瞰で撮ったりもしているわけですが、そうした映像が音楽と不思議とフィットしていて、「聖者が街にやってくる」ではないですが、「ニューポートの街にジャズ・フェスティバルがやってきた」という雰囲気がシズル感をもって伝わってきます(そもそもこの映画は、クラシックカーに乗った楽隊がニューオリンズ風の演奏を繰り広げながら街を走るシーンから始まる)。

真夏の夜のジャズ68.jpg 出演者の中では、終盤に登場するルイ・アームストロング(1901-1971/享年69)の貫禄とエンターテイナーぶりはさすがという感じでした。それ以外では、ラストのマヘリア・ジャクソンのゴスペルも良アニタ・オディ.jpgかったですが、最初の方に出てくる、「スウィート・ジョージア・ブラウン」「二人でお茶を」の2曲真夏の夜のジャズ(1959)輸入盤dbd.jpgを歌ったアニタ・オデイ(1919-2006/享年87)が印象的でした。この後の彼女は、60年代のヘロイン中毒及びアルコールの中毒期を経て70代にカムバックを遂げますが、やはりこの頃がベストだったのではないでしょうか。

 ジャズファンにはたまらない記録フィルム。また、単なる「記録」を超えて、ちゃんとした「映画」となっている作品であるとも言えます。個人的にはこの当時のジャズ界にそれほど精通しているわけでもないし、バート・スターンらがどういった基準でミュージシャンを選んだのかも判りかねるのですが、それでも、音楽と映像のマッチングを愉しめた作品でした。映像的には、映画の前半部分は前衛的だったけれど、後半はそうでもなかったかな(ルイ・アームストロングなどは楽器演奏、歌に加えて掛け合いなどもあるわけで、その分、カメラは固定せざるを得なかったのか)。
Jazz on a Summers Day [DVD] [Import]

「真夏の夜の真夏の夜のジャズ(1959)vhs.jpgジャズ」●原題:JAZZ ON A SUMMER'S DAY●制作年:1959年●制作国:アメリカ●監督:バート・スターン/アラム・アヴァキアン●製作:ハーヴェイ・カーン/バート・スターン●脚本:アーノルド・パール●撮影:バート・スターン/コートニー・ヘィフェラ/レイ・フェアラン●音楽:ジョージ・アヴァキン●時間:86分●出演:ルイ・アームストロング/セロニアス・モンク/アニタ・オディ/ダイナ・ワシントン/チャック・ベリー/ジェリー・マリガン/マハリア・ジャクソン/チコ・ハミルトン/ジャック・ティーガーデン/ゲリー・モリガン/ジョージ・シェアリング●日本公開:1960/08●配給:東和●最初に観た場所:新宿文化シネマ2(86-08-23)(評価:★★★★)●併映:「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(ジム・ジャームッシュ) 「真夏の夜のジャズ [VHS]

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ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワールの傑作(逸失部分があるのが残念)。

黒い罠 blueray.jpg 黒い罠 dvd.jpg 黒い罠    .jpg
黒い罠 完全修復版 [Blu-ray]」「黒い罠 [DVD]」オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン

黒い罠Q1.jpg黒い罠 O.jpg 米国とメキシコの国境で、町の有力者が車に仕掛けられた爆弾によって爆死する。新婚旅行で町に来ていたメキシコ人麻薬捜査官のバルガス(チャールトン・ヘストン)は米国側の刑事クインラン(オーソン・ウェルズ)やその相棒のメンジス(ジョゼフ・キャレイア)らと協力して捜査にあたる。クインランはメキシコ人の容疑者黒い罠H.jpgを逮捕するが、証拠の品はクインランが捏造したものだった。それに気付いたバルガスはクインランの扱った過去の事件を調査すると、過去にも同様にクインラン黒い罠 ジャネット・リー.jpgによって証拠が捏造されたと思われる事件があった。バルガスは警察上層部にクインランを告発するが逆に反論され、警察もクインランに味方する。バルガスの告発に危機を抱いたクイ黒い罠3P.jpgンランは、バルガスに敵対するギャングのグランディ(エイキム・タミロフ)にバルガスの妻スーザン(ジャネット・リー)を誘拐させ、ホテルの一室に連れ込ませる。クインランはその部屋 黒い罠h-7.jpgでグランディを絞殺し、スーザンに殺人の罪を着せようとす黒い罠 9.jpgる。しかしクインランが現場に置き忘れた杖をメンジスが発見し、彼はバルガスに協力することを決意する。メンジスは無線機を身に付けてクインランとの会話を録音し、証拠をつかもうとする。しかしそれを見破ったクインランはメンジスを射殺、後を付黒い罠 オーソン・ウェルズ.jpg黒い罠-44.jpgけていたバルガスをも撃とうとする。が、メンジスが最期にクインランを撃ち、録音された証拠のテープを聞きながらクインランは息絶える。しかしその頃、クインランが捏造した証拠で逮捕されたメキシコ人は、爆弾事件の犯人であることを自白していた―。

Touch of Evil1S.jpg 1958年に作られたこの映画は、当初オーソン・ウェルズは俳優としてのみの起用で、監督は別人に依頼する予定だったのが、ユニヴァーサルがチャールトン・ヘストンと出演交渉を行った際に、ウェルズの出演を知ったチャールトン・ヘストンが、ウェルズが監督も兼ねることを会社に強く要望したためにウェルズの監督が実現したとのことです。

 当時ハリウッドでは、完璧癖のあるウェルズは映画製作に金と時間をかけ過ぎる扱いにくい監督だとされており、ウェルズはそうした風評を払拭するため、ほぼ映画会社が設定した予算と期間内で映画を撮影しましたが(約90万ドルの制作費と僅か39日の撮影期間)、ストーリーが難解すぎるとの理由で映画会社がウェルズに無断で映画の脚本変更と追加撮影、再編集を行ったとのことです(「試写会版」109分)。ウェルズは映画会社の独断専行に激怒し、58ページに及ぶ意見書を映画会社に提出しますが無視され、逆に映画会社は、試写会で出た俗悪だとの一部の苦情に応えて一部をカットして劇場公開したとのことです(「劇場公開版」96分)。

黒い罠h-21.jpg 映画は2本立ての添え物の方の一本として公開され、興行的には惨憺たる失敗で、米国内の批評家からも黙殺され、結果的にウェルズにとって本作品がアメリカにおける最後の監督作品となりますが、同年のブリュッセル万国博覧会で上映された際には審査員のジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーたちから絶賛され、万博での最高賞を与えられています。

 ウェルズ他界後13年を経た1998年に、彼の残したメモに忠実に再構成されたディレクターズ・カット版が上映され(「修復版」111分。既にウェルズは亡くなっているので正確にはディレクターズ・カットとは言えない)、今度は好評を博しますが、これまでDVDなどで観ることができたのは96分の「劇場公開Touch of Evil (1958).jpg版」でした。それが、'14年に111分の「修復版」(Blu-ray)がリリースされたとのことですが個人的には未見です。'15年にNHK-BSプレミアムで放映されたものも96分の「劇場公開版」でした(最初にカットされた部分が逸失しており、「劇場公開版」の方がオリジナルに近い方だとの見方も成り立つ。ゴダールやトリュフォーが観て絶賛したのもこの「劇場公開版」と思われる。何れにせよ、この作品の真の意味での完全版は存在しないことになる)。
Touch of Evil (1958)
 原作は1956年に出版されたホイット・マスターソンの探偵小説『黒い罠』(原題:Badge of Evil)で、原作ではクインランが「従」でメンジスが「主」と映画と逆の立場であったのを、シナリオではオーソン・ウェルズ演じる上司クインランを「主」、部下メンジスを「従」とにし、更には、爆弾事件の犯人をラストで変えています。この変更は大きいですが、単にプロットに捻りを加えるだけでなく、社会的背景と相俟って、クインランのキャラクターに深みを持たせることにもなったと思います。

Touch of EvilB.jpg黒い罠AZ.jpg 更に、オーソン・ウェルズが監督することになった段階で、原作ではメキシコ人の妻を持つアメリカ人地方検事補佐が主人公だったのを、夫婦の国籍を逆にし(つまり、チャールトン・ヘストンがメキシコ人で、ジャネット・リーがアメリカ人の妻ということにした)、物語の舞台をカリフォルニア州からアメリカとメキシコの国境地帯にするなどの様々な設定の変更をウェルズは行っています。

黒い罠0GDN.jpg黒い罠7A.jpg また更にウェルズは、実際の映画化(撮影)段階で、映画が始まってすぐの爆弾のクローズアップから爆発までの3分18秒をワンショットで見せることにし、その他にもこの作品には5分を超える長回しが複数回ありますが、とりわけ冒頭のこの長回しシーンは、作品自体の再評価を経て、今や映画史に残ると言ってもいいシークエンスとされています。

黒い罠A.jpg黒い罠 デートリッヒ.jpg それらに加えてウェルズは、当初予定していなかった2人の俳優、モーテルの夜勤係のデニス・ウィーバー(スティーヴン・スピルバーグ監督のTV映画「激突!」('71年)、TVシリーズ「警部マクロード」('70年~'77年))とジプシーで酒場の女主人のターニャを演じたマレーネ・ディートリッヒのためにシナリオを変更するなどしています。つまり、この作品には、原作、オリジナル脚本、ウェルズが改変した脚本、実際に全ての配役が決まった映画化(撮影)段階での最終シナリオという、基本的な流れを汲みながらも比較的明確な違いもある4つの段階があることになります。

 ゴダールやトリュフォーがこの作品を絶賛したのは、彼らが信奉する、芸術作品にそれぞれ「美術作家」「作曲家」「小説家」という個人作業の表現主体が存在するように、映画を、映画監督(作家)による個人の表現手段、表現物と見なすべきだとする「作家主義」の考えに合致する典型例としてこの作品を捉えたからだとされていますが、実際この作品にはこうした背景があったわけです。

黒い罠h-9.jpg 但し、作品として成功していなければ、どうにも評価のしようがないでしょう。この作品は、細部を見れば、足の悪いクインランが現場に杖を置き忘れるか?といった穴が無くもないし、作品そのものが部分的にカットされてしまったことで、ラストでの、メンジスに撃たれたクインランの死の間際の「これはおまえのために受けた2発目の銃弾だ」という言葉の意味が分かりにくくなっているということもあるかと思いますが、それでもやはり、ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワール史上に残る傑作であると思います(逸失部分があるのが残念)。

黒い罠h-43.jpg黒い罠hP.jpg マレーネ・ディートリッヒは、ウェルズとの友情からノークレジット、ノーギャラでOKという事で出演を快諾したそうですが、2日間だけの撮影参加ながら、自前の衣装を着てウェルズが彼女を想定して書き加えたジプシー女ターニャを魅力たっぷりに好演(ラッシュ・フィルムを観て大物imagesXH2OY7TG.jpg女優の出演を初めて知った黒い罠LF7E.jpgスタジオの重役たちは、ディートリッヒの名前をクレジットに出すために彼女に出演料を支払った)、最後の方のセリフで、クインラインを愛していたのは私ではなく、彼を殺した部下の男メンジスだったと言うのは、この作品のテーマの1つ(クインラインとそれを支えた部下との愛憎)を端的に言い当てているように思いました。ディートリッヒ自身は後にこの場面を、自身の女優としてのキャリアの中で最高の演技だったと述べています。
Orson Welles and Marlene Dietrich
Orson Welles and Marlene Dietrich.jpg「黒い罠」●原題:TOUCH OF EVIL●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督・脚本:オーソン・ウェルズ●製作:アルバート・ザグスミス/リック・シュミドリン(修復版)●撮影:ラッセル・メ黒い罠 ポスター.jpgティ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:ホイット・マスターソン「黒い罠」●96分(劇場公開版)/109分(試写会版)/111分(修復版)●出演:オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン/ジャネット・リー/ジョセフ・カレイア/エイキム・タミロフ/マレーネ・ディートリッヒ/デニス・ウィーヴァー/ヴァレンティン・デ・ヴァルガス/モート・ミルズ/ヴィクター・ミリアン/ジョアンナ・ムーア/ザ・ザ・ガボール/ジョセフ・コットン(ノンクレジット)●日本公開:1958/07●配給:ユニヴァーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●アントン・コービン監督(オランダ)の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●勝手にしやがれ(ジャン=リュック・ゴダール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●ぼくの伯父さん(ジャック・タチ)
 ●ウエスタン(セルジオ・レオーネ)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●裏窓(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●七人の侍(黒澤明)
 ●ストーカー(アンドレイ・タルコフスキー)
 ●道(フェデリコ・フェリーニ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)

●ポン・ジュノ監督(韓国)の選んだオールタイムベスト10[同上]
 ●悲情城市(ホウ・シャオシェン)
 ●CURE キュア(黒沢清)
 ●ファーゴ(ジョエル & イーサン・コーエン)
 ●下女(キム・ギヨン)
 ●サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
 ●レイジング・ブル(マーティン・スコセッシ)
 ●黒い罠(オーソン・ウェルズ)
 ●復讐するは我にあり(今村昌平)
 ●恐怖の報酬(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)
 ●ゾディアック(ディヴィッド・フィンチャー)

●チャールトン・ヘストン 1958年出演作
Charlton Heston 1958 Touch of Evil poster .jpgCharlton Heston 1958  the big country.jpgCharlton Heston in 1958 "Touch of Evil" (「黒い罠」)& "The Big Country "(「大いなる西部」)

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キートンが監督した初長編作。3つの時代の恋愛奮闘劇。47分の中にギャグ満載で飽きさせない。

キートンの恋愛三代記 シネマ2 - コピー.jpgkeaton the three ages.jpgキートンの恋愛三代記 dvd.jpg The Three Ages (1923) yunyubann video.jpg
キートンの恋愛三代記 [DVD]」「Three Ages [VHS] [Import]
Theatrical poster for Three Ages (1923)

キートンの恋愛三代記 0.jpg 石器時代、ローマ時代、現代の3つの時代で繰り広げられる、美しい娘を手に入れるまでの男の恋愛騒動&奮闘劇で、キートンが監督した初長編作品(1923年9月公開、47分)ということになっていますが、長編への進出に不安のあったキートンが、従来に短編を組み合わせる形で制作し、上手くいかなかった場合はそれぞれ個別の作品として公開しようと考えていたという説もあるようです。日本公開は1925(大正14)年3月で、公開時邦題は「滑稽恋愛三代記」。'74年7月に「キートンの恋愛三代記」のタイトルで「ニュー東宝シネマ2」でリバイバル上映されました(併映短編「スケアクロウ」「マイホーム」)。

Three Ages (1923).jpg 各時代それぞれシチュエーションごとに区切って、47分の間に石器時代、ローマ時代、現代の3つの時代が繰り返し出てくる展開は、キートンならではのギャグ満載で観る者を飽きさせず、しかも前半の恋占いシーンや、中盤の女性をめぐる男達の決闘シーンなど、時代ごとのモチーフを揃えているところなどから、やはり最初からから長編としての公開を意識したものと思われます(キートンの相手役のヒロインも一貫してマーガレット・リーイー(Margaret Leahy)が演じているし)。

 その決闘シーンが、石器時代は単なる格闘だったのが、ローマ時代になると「ベン・ハー」さながらのチャリオット(馬車戦車)レース対決に(但し、キートンは前日の降雪を見越して犬ぞりで参戦)、現代になるとフットボール対決といった具合に進化していきます。このチャリオットレースのシーンは、当時最大の映画会社パラマウント社で大作主義に明け暮れるキートンの恋愛三代記 ローマ.jpgセシル・B・デビル監督を皮肉ったものとも言われていますが、このキートンの「恋愛三代記」の中でもセットなどに最もお金をかけている場面のように思われました。D・W・グリフィス監督の「イントレランス」('16年)のパロディとも言われていますが、確かにセットは「イントレランス」と似ています(大掛かりなだけに、大観衆の迎える中でキートンがしょぼい犬ぞりで登場するギャップが非常に効果的なのだが)。

The Three Ages (1923)4.jpg キートンは実際に映画「ベン・ハー」を参考したのでしょうか? ウィリアム・ワイラー監督、チャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」('59年/米)はアカデミー賞11部門を獲得した大作として知られていますが、その前にフレッド・ニブロ監督が撮ったラモン・ノヴァロ主演のMGM映画「ベン・ハー」('25年/米)があり、ウィリアム・ワイラーはこの作品で助監督を務めています。この作品は、「民衆」役でジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、マリオン・デイヴィス、ダグラス・フェアバンクス、リリアン・ギッシュ、ハロルド・ロイド、メアリー・ピックフォードなど多くのスターが出演していることでも知られています。但し、これはこの「恋愛恋愛三代記」の2年後の公開作品であり、キートンが真似ようにもそれは不可能です。

フレッド・ニブロ.jpg しかしながら、フレッド・ニブロはその18年前に作られたシドニー・オルコット監督のサイレント映画「ベン・ハー」(07年/米)を参考にしたと言われており、この作品は15分の短編ながら終盤が殆どチャリオット・レースのシーンになっていることから、キートンもこの作品を参照した可能性はかなり高いように思います。後にキートンがMGMに再移籍して最初に出演した作品「キートンのエキストラ」('30年)で、フレッド・ニブロはキートンの演技に再三ダメ出しする「ニブロ監督」役で登場しています。
Fred Niblo(1874-1948)
キートンの恋愛三代記 アフリカゾウ.jpg ローマ時代だけでなく、石キートンの恋愛三代記 アメフト.jpg器時代も現代も手抜きしておらず、石器時代ではマンモスの代わりに本物のアフリカゾウを使い(ローマ時代のキートンが爪を磨いてあげることで喰われずに済んだライオンは明らかに着ぐるみだが)、現代ではフットボールの試合をスポーツ大好き人間のキートンらしくかなり本格的に撮影しています。石1923-3Ages[animated].gif器時代の岩から岩へ飛び移ってのアクションが、現代のビルからビルへ飛び移るアクションと重なるのも上手いし(それにしてもスゴいアクション)、ラストはどの時代のキートンも目出度くヒロインと結ばれ、石器時代では凄い数の子どもに恵まれ、ローマ時代もそこそこ、それが現代では夫婦の間にペットの犬が一匹というのが見る側の予想を覆して可笑しいです(少子化時代を予測した?)。

キートンの恋愛三代記 ゴルフ.jpg 派手なアクションもありますが、細かいギャグや小道具も効いていたように思います。石器時代で言えば、キートンがしている"腕時計型の日時計"とか"ゴルフセット"とか。現代においては、ジョー・ロバーツ演じる恋敵(こちらも3時代を通しての)の見せる身分証(社員証)にFirst National Bank(国立一流銀行)であるのに対し、キートンのがLast National Bank(国立三流銀行)であるというのも可笑しいです。現代版キートンの恋愛三代記 現代 クルマ.jpgにおけるキートン帽にネクタイ、ワイシャツ、チョッキ、ダブダブのズボン、ドタ靴という組み合わせは、所謂「アーバックル時代」と言われるロスコー・アーバックルとの共演時代(1917-1920)の最後の名残りかと思われますが、キートン帽など以降の作品にも暫く引き継がれていくものもあります。

キートンの恋愛三代記 大女.jpg 石器時代にキートンがアプローチする女性の一人で岩の上に寝そべっている女性―立ち上がると実は大女だった―は、ブランシ・ペイソンという人で、ニューヨーク最初の婦人警官だったそうです。

キートンの恋愛三代記 ラスト.jpg「キートンの恋愛三代記(滑稽恋愛三代記)」●原題:THE THREE AGES●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●製作:バスター・キートン/ジョセフ・M・シェンク●脚本:バスター・キートン/クライド・ブラックマン/ジョゼフ・ミッチェル/ジャン・C・ハヴェズ●撮影:エルジン・レスレー/ウィリアム・C・マクガン●時間:47分●出演:バスター・キートン/ウォーレス・ビアリー/マーガレット・リーイー/ジョー・ロバーツ/ホラス・モーガン/リリアン・ローレンス●日本公開:1925/03●配給:イリス映画(評価:★★★★)

BEN-HUR A TALE OF THE CHRIST poster.pngBEN-HUR A TALE OF THE CHRIST 2.png「ベン・ハー」●原題:BEN-HUR:A TALE OF THE CHRIST●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督:フレド・ニブロ●脚本:ジューン・メイシス/ケイリー・ウィルソン/ベス・メレディス●撮影:クライド・デ・ヴィナ/ ルネ・ガイサート/ パーシー・ヒルバーン/カール・ストラッス●音楽:ウィリアム・アクスト●原作:ルー・ウォーレス●時間:141分●出演:ラモン・ノヴァロ/フランシス・X・ブッシュマン/メイ・マカヴォイ/ベティ・ブロンソン/クレア・マクドウェル/ベン・ハー 二ブロ dvd.jpgキャスリーン・キー/カーメル・マイヤーズ/ナイジェル・ド・ブルリエ/ミッチェル・ルイス/レオ・ホワイト/フランク・カリアー/チャールズ・ベルチャー/ベティ・ブロンソン/デイル・フラー/ウィンター・ホール/(以下、エキストラ出演)レジナルド・バーカー/ジョン・バリモア/ライオネル・バリモア/クラレンス・ブラウン/ジョーン・クロフォード/マリオン・デイヴィス/ダグラス・フェアバンクス/ジョージ・フィッツモーリス/シドニー・フランクリン/ジョン・ギルバート/ドロシー・ギッシュ/リリアン・ギッシュ/サミュエル・ゴールド/ウィンシド・グローマン/ルパート・ジュリアン/ヘンリー・キング/ハロルド・ロイド/コリーン・ムーア/メアリー・ピックフォード●日本公開:1928/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:杉本保男氏邸(80-12-02)(評価:★★★☆)ベン・ハー【淀川長治解説映像付き】 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

Ben Hur [VHS] [Import] (1907).jpgBEN-HUR1907.jpgBEN-HUR 1907.jpg「ベン・ハー」●原題:BEN-HUR●制作年:1907年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・オルコット●脚本:ジーン・ゴルチエ●原作:ルー・ウォーレス●時間:15分●出演:ハーマン・レトガー/ウィリアム・S・ハート●米国公開:1907/12●最初に観た場所:杉本保男氏邸(81-09-27)(評価:★★★?)Ben Hur [VHS] [Import]

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ニューヨークという大都会を舞台にしたダスティン・ホフマン主演'69年作品2作。

ジョンとメリー [VHS].jpgジョンとメリー [DVD].jpg 真夜中のカーボーイ dvd.jpg 卒業 [DVD] L.jpg
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ジョンとメリー 1.jpg マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。

 ピーター・イエーツ(1929-2011/享年81)監督の「ジョンとメリー」('69年)は、行きずりの一夜を共にした男女の翌朝からの1日を描いたもので、男女の出会いを描いた何とはない話であり、しかも基本的に密室劇なのですが、2人のそれぞれの回想と現在の気持ちを表す独白を挟みながらストーリーが巧みに展開していき、2人の関係はどうなるのだろうかと引き込まれて観てしまう作品でした。

ジョンとメリー 4.jpg 脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。

ジョンとメリー 2.jpg 最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時大方の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。

真夜中のカーボーイ1.jpg そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの卒業 ダスティン・ホフマン .jpg主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。

卒業 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス.jpg 映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー卒業(1967).jpgファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ卒業 1967 2.jpg賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。

真夜中のカーボーイQ.jpg 3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ真夜中のカーボーイs.jpgリー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも。

ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg 「ジョンとメリー」に出てくる"Singles Bar"(独身者専門バー)を舞台としたものでは、リチャード・ブルックス(1912-1992/享年72)監督・脚本、ダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」('77年)があり、こちらはジュディス・ロスナーが1975年に発表したベストセラー小説の映画化作品です。
ミスター・グッドバーを探して [VHS]

ミスター・グッドバーを探して1.jpg ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。

恋におちて 1984.jpg 何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」('84年)

ユー・ガット・メール 01.jpg 「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
「ユー・ガット・メール」('98年)

めぐり逢えたら 映画 1.jpg トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年)にヒントを得ている作品ですが(「めぐり逢い」そのものが同じくレオ・マッケリー監督、アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ主演の「邂逅」('39年)のリメイク作品)、エンパイア・ステート・ビルの展望台で再開を約するのは「めぐり逢い」と同じ。但し、「めぐり逢い」ではケーリー・グラント演じるテリーの事故のため2人の再会は果たせませんでしたが、「めぐり逢えたら」の2人は無事に再開出来るという、こちらもオリジナルをハッピーエンドに改変しています。
「めぐり逢えたら」('93年)

 最近のものになればなるほど、男女双方または何れかに家族や恋人がいたりして話がややこしくなったりもしていますが、それでもハッピーエンド系の方が主流かな。興業的に安定性が高いというのもあるのでしょう。「恋におちて」は、古典的ストーリーをデ・ニーロ、ストリープの演技力で引っぱっている感じですが、2人とも出演時点ですでに大物俳優であるだけに、逆にストーリーの凡庸さが目立ち、やや退屈?(もっと若い時に演じて欲しかった)。但し、「恋におちて」「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の何れも役者の演技はしっかりしていて、ストーリーに多分に偶然の要素がありながらも、ディテールの演出や表現においてのリアリティはありました。しかしながら、物語の構成としては"定番の踏襲"と言うか、「ジョンとメリー」を観て感じた時のような新鮮味は感じられませんでした。

 こうして見ると、ニューヨークという街は、「真夜中のカーボーイ」や「ミスター・グッドバーを探して」に出てくる人間の孤独を浮き彫りにするような暗部は内包してはいるものの、映画における男女の出会いや再会の舞台として昔も今もサマになる街でもあるとも言えるのかもしれません(ダスティン・ホフマンは同じ年に全く異なるキャラクターで、ニューヨークを舞台に孤独な男性の「明・暗」両面を演じてみせたわけだ。これぞ名優の証!)。

ジョンとメリー [VHS]
JOHN AND MARY 1969.jpgジョンとメリーdvd3.jpg「ジョンとメリー」●原題:JOHN AND MARY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:ベン・カディッシュ●脚本:ジョン・モーティマー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:クインシー・ジョーンズ●原作:マーヴィン・ジョーンズ「ジョンとメリー」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/ミア・ファロー/マイケル・トーラン/サニー・グリフィン/スタンリー・ベック/三鷹オスカー.jpgタイン・デイリー/アリックス・エリアス●日本ジョンとメリーe.jpg公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

Dustin Hoffman and Mia Farrow/Photo from John and Mary (1969)

「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113真夜中のカーボーイ2.jpg真夜中のカーボーイ 映画dvd.jpg分●出演:ジョン・ヴォイト/ダスティン・ホフマン/シルヴィア・マイルズ/ジョン・マクギヴァー/ブレンダ・ヴァッカロ/バーナード・ヒューズ/ルース・ホワイト/ジェニファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
真夜中のカーボーイ [DVD]

「卒業」●原題:THE GRADUATE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ローレンス・ター卒業 1967 pster.jpgマン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン卒業 1967 1.jpg/デイヴ・グルーシン●原作:チャールズ・ウェッブ●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダリチャr-ド・ドレイファス 卒業.jpgニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)
卒業 [DVD]

映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」監督リチャード・ブルックス 出演ダイアン・キートン

FALLING IN LOVE 1984.jpg恋におちて 1984 dvd.jpg「恋におちて」●原題:FALLING IN LOVE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ウール・グロスバード●製作:マーヴィン・ワース●脚本:マイケル・クリストファー●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)
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YOU'VE GOT MAIL.jpgユー・ガット・メール dvd.jpg「ユー・ガット・メール」●原題:YOU'VE GOT MAIL●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ノーラ・エフロン/ローレン・シュラー・ドナー●脚本:ノーラ・エフロン/デリア・エフロン●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジョージ・フェントン●原作:ミクロス・ラズロ●時間:119分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/グレッグ・キニア/パーカー・ポージー/ジーン・ステイプルトン/スティーヴ・ザーン/ヘザー・バーンズ/ダブニー・コールマン/ジョン・ランドルフ/ハリー・ハーシュ●日本公開:1999/02●配給:ワーナー・ブラザース映画配給(評価:★★★)ユー・ガット・メール [DVD]

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

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やはり感動させられる「ロッキー」のシリーズ第1作。スタローンは自分で監督しない方がいい?

ロッキー 1976 dvd.jpg ロッキー2 dvd.jpg ロッキー3 dvd.jpg ロッキー4 dvd.jpg ステイン・アライブ dvd.jpg ランボー dvd.jpg
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ロッキー 1976 02.jpg 「ロッキー」('76年)は、シルヴェスター・スタローン(1946年生まれ)が当時、映画オーディションに50回以上落選し、ポルノ映画への出演や用心棒などをして日々の生活費を稼ぐ暮らしの中で、プロボクシングのヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリ対チャック・ウェプナー戦」をテレビで観てウェプナーの善戦に感激し、それに触発されて3日間で脚本を書き上げプロダクションに売り込んだもので、プロダクション側はその脚本に7万5千ドルという、当時としては破格の値をつけたということですから、脚本自体が良かったのでしょう。

ロッキー 1976 01.jpg プロダクション側は主演にポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、アル・パチーノなどの有名スターを想定していたのに対し(ジェームズ・カーンなども有力な主演候補だった)、スタローンはあくまで自分が主演することに固執したため、最終的に36万ドルまで高騰した脚本は、スタローンの主演と引き換え条件に2万ドルまで減額されたそうな。でも、結果的にスタローンは無名俳優から一躍スターダムに躍り出たわけで、主演に固執して良かった...(逆に言えば、窮乏生活に慣れていたので、カネには固執していなかった)。

ロッキー 03.jpg 日本でも公開当時、誰もがこの作品を観に映画館に押し掛ける状況で、アカデミー賞作品賞受賞、キネマ旬報でも年間1位と高評価。こうなると逆に事前に情報が入り過ぎてしまい、結局個人的にはロードでは観に行かなかったのですが、後で「ロッキー2」('78年)と併せて名画座に降りてきた頃になって遅ればせながら観て、筋書きは分かっていても、やはり感動させられました。

ロッキー4 01.jpg 但し、スタローン自身が監督した「ロッキー2」の方はイマイチ、更に、今度こそロードでと観に行った「ロッキー3」('82年)では、対戦相手クラバー(ミスター・T)が全然強そうに見えないのが難で、これもイマイチ。それに比べると、「ロッキー4 炎の友情」('85年)は、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)の登場で、多少シリーズ最後を盛り上げたという印象で、個人的にはまあまあ許せるかなという感じでしたが、スタローン自身はこの「ロッキー4 炎の友情」で、ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞を受賞しています。
レッド・スコルピオン 1.jpg 一方、ロッキーより強そうに見えたドラゴを演じたドルフ・ラングレンは、その後「レッド・スコルピオン」('88年/米)に主演。アフリカ南部の共産主義国家に潜入したソ連の特殊部隊兵士の活躍を描くアクション映画でしたが、何だか動きが鈍くなったような...。空手家としての実績もあり、6か国語を話すインテリでもあるそうですが、スタローンRed Scorpion -  Dolph Lundgren.jpgレッド・スコルピオン dvd.jpg同様に監督業に進出する傍ら併せて俳優業を続けているものの、B級映画ばかり出ているなあ。因みに、「レッド・スコルピオン」のプロデューサーのジャック・エイブラモフはその後共和党保守派のロビイストとなり、汚職事件でFBIに拘束されていますが、この映画自体にも当初から南アの極右派(アパルトヘイト推進派)が資金提供しているとの噂が囁かれていたとのこと、但し、映画の中にとりたてて人種差別的表現はありません。 
レッド・スコルピオン [DVD]」 ドルフ・ラングレンはローランド・エメリッヒ監督の「ユニバーサル・ソルジャー」('92年)で、べトナム戦争で戦死したものの25年後に軍の秘密兵器として甦る特殊部隊兵ユニバーサル・ソルジャー ps.jpgユニバーサル・ソルジャー 1992.jpg士を演じていますが、ジャン=クロード・ヴァン・ダム演じる同じく甦ったもう一人の兵士の方が善玉なのに対し、ドルフ・ラングレンの方はヒール役(悪玉)というのが相変わらずでした(まあ、ドルフ・ラングレンの方が見た目が強そうだというのもあるかもしれないが、妥当な配役か)。観た時は可もなく不可もない娯楽作品という印象でしたがそこそこ人気があったのか、その後「ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン」('99年)、「ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション」('09年)が作られ、ジャン=クロード・ヴァン・ダムは両方に主演、ドルフ・ラングレンは'09年の方に出ています(2人とも中年にして頑張っている?)。

 スタローンについても、シリーズ最後と謳った「ロッキー4」でロッキー・シリーズは実際には終わらず、「ロッキー5 最後のドラマ」(Rocky V、'90年)、そして更に16年後の「ロッキー・ザ・ファイナル」(Rocky Balboa、'06年)と続いたわけで(「ロッキー5」はスタローン自身が失敗作であったことを認め、だから"ザ・ファイナル"を作ったとのこと)、最後60歳でボクサー役でリングに上がったスタローンはすごいと言えばすごいけれど、やはり無理があったと言わざるを得ないのではないでしょうか(ボクシング関係者の一部には、ボクシングを冒涜しているとの声もあった)。

スタローン&シュワルツェネッガー.jpg 「ロッキー2」以降はスタローン自身が監督しているのですが、ボディビルダーから俳優に転じ、更には州知事も務めたアーノルド・シュワルツェネッガー(1947年生まれ)と比べると、スタローンという人は根っから映画が好きなんだなあという気がします。二人が本格共演を果たした「大脱出」('13年)のプレミアで、スタローンは シュワルツェネッガーについて「20年間、本当に互いを激しく嫌い合っていたんだ」と告白していますが、とはいえ、「それはいいライバルはなかなか見つからないということの証。次第にその存在に感謝するようになる。そうやって競い合ってきたから、こうして二人ここにいるのかも」と今は互いの存在を 認め合っていることを明かしています。個人的には、そもそも映画への関わり方が二人は違うのではないかと。シュワルツェネッガーが「俳優」であるのに対し、スタローンは「映画人」という印象であり、脚本を書くか書かないかの違いは大きいように思います。

ステイン・アライブ01.jpg 但し、スタローンの映画監督としての力量はどうなのかはやや疑問符も...。作品への思い入れが先行しているような感じもあり、ついていけない人もいるのではないでしょうか。「ロッキー」に関しては、シリーズを通しての熱烈なファンが多くいるようですが、「ロッキー3」と「ロッキー4」の間の時期に、「サタデー・ナイト・フィーバー」('77年)の続編としてスタローンが監督した「ステイン・アライブ」('83年、脚本もスタローン)は特に見るべきものの無い作品で、この映画に主演したジョン・トラボルタの長期低迷のきっかけになった作品とも言えるのではないかと思います。

ランボー ちらし.jpgランボー 01.jpg 因みに「ランボー」('82年)のシリーズ作も、全4作全てスタローンの脚本または彼が脚本参加しているものでしたが、第1作(「ロッキー3」と同じ年に作られている)の「ランボー1人 vs. 警官千人」に始まり、「ランボー/怒りの脱出」('85年)では「ランボー1人vs.ベトナム軍」、ランボー3/怒りのアフガン dvd.jpg「ランボー3/怒りのアフガン」('88年)では「ランボー1人vs.ソ連軍10万人」とスケール・アップするにつれて、当初のランボーのアウトローの孤独と哀しみは消え、すっかり超人ヒーローになってしまい、「ランボー3/怒りのアフガン」などは、見ていてちっともハラハラしない...。しかも、今思えば皮肉なことに、この作品は、ランボーがアフガン・ゲリラと協力してソ連軍と戦う内容になっていて、当時のアフガン・ゲリラの一派が後のタリバン内の過激武装勢力になっていくわけです。

 「ランボー3/怒りのアフガン」ではスタローン自身も'88年ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞に選ばれてしまったぐらいで(実は'85年にも「ランボー/怒りの脱出」と「ロッキー4 炎の友情」の"合わせ技"で同賞の最低主演男優賞を受賞している)、20年ぶりの続編「ランボー/最後の戦場」('08年)でその汚名返上を図ったのか、このシリーズで初めて自らメガホンをとりますが、こちらは個人的には未見。でも、この人、あんまり自分で監督しないほうが...。

ロッキー パンフ.jpgrocky 1976 poster.jpg「ロッキー」●原題:ROCKY●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・G・アヴィルドセン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ジェームズ・グレイブ●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/バージェス・メレディス/カール・ウェザース●日本公開:1977/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★★★)●併映:「ロッキー2」(シルヴェスター・スタローン)
「ロッキー」パンフレット

ROCKY2 1979.jpg「ロッキー2」●原題:ROCKYⅡ●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:119分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/バージェス・メレディス●日本公開:1979/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸坐(81-01-22)(評価:★★)●併映:「ロッキー」(シルヴェスター・スタローン)

ロッキー3 02.jpg「ロッキー3」●原題:ROCKYⅢ●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:99分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/ミスター・T/ハルク・ホーガン/バージェス・メレディス/トニー・バートン/イアン・フリード/ウォーリー・テイラー/ジム・ヒル/ドン・シャーマン●日本公開:1982/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:有楽町・丸の内松竹(82-10-22)(評価:★★)
marunouti syotiku.jpg旧丸の内松竹1.jpg旧丸の内松竹2.jpg丸の内松竹(初代).jpg旧・丸の内松竹 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手に「丸の内ピカデリー」オープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。1984年10月2日閉館。1987年10月3日 有楽町マリオン新館5階に後継館として新生「丸の内松竹」(現:丸の内ピカデリー3)がオープン。


「ロッキー4 炎の友情」●原題:ROCKY1977年8月6日 新宿京王 京王地下.jpg京王新宿ビル3.jpg京王三丁目ビル - 2.jpgⅣ●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ●脚本:シルヴェスター・スタローン●撮影:ビル・バトラー●音楽:ビル・コンティ●時間:91分●出演:シルヴェスター・スタローン/タリア・シャイア/バート・ヤング/カール・ウェザース/ドルフ・ラングレン/ブリジット・ニールセン/ジェームス・ブラウン●日本公開:1986/06●配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー/UA=UIP●最初に観た場所:新宿・京王2(86-06-07)(評価:★★★) 新宿京王・京王地下(京王2)新宿3丁目伊勢丹はす向い京王新宿ビル(現・京王三丁目ビルの場所)。1980年代後半に閉館。

レッド・スコルピオン bl.jpgレッド・スコルピオン  映画前売半券.jpg「レッド・スコルピオン」●原題:RED SCORPION●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ジトー●製作:ジャック・エイブラモフ●脚本:アーン・オルセン●撮影:ホアオ・フェルナンデス●音楽:ジェイ・チャタウェイ●時間:106分●出演:ドルフ・ラングレン/M・エメット・ウォルシュ、アル・ホワイト/T・P・マッケンナ/カーメン・アルジェンツィアノ/ブライオン・ジェームズ/ジョセフ・ビッグウッド/ジェイ・チャタウエイ●日本公開:1989/01●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三軒茶屋映劇(89-07-01)(評価:★★)●併映:「ダイ・ハード」(ジョン・マクティアナン)レッド・スコルピオン HDマスター版(Blu-ray Disc)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(右写真中央)は1952年、世田谷通りの裏通り「なかみち街」にオープン。(「三軒茶屋中央劇場」も2013年2月14日閉館)  ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ) ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り) ③三軒茶屋中劇(中央劇場)

ユニバーサル・ソルジャー dvd 1992.jpgユニバーサル・ソルジャー1992 1.jpg「ユニバーサル・ソルジャー」●原題:UNIVERSAL SOLDIER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●製作:アレン・シャピロ/クレイグ・ボームガーテン/ジョエル・B・マイケルズ●脚本:リチャード・ロススタイン/クリストファー・レイッチ/ディーン・デヴリン●撮影:カール・W・リンデンローブ●音楽:クリストファー・フランケ●時間:102分●出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム/ドルフ・ラングレン/アリー・ウォーカー/ジョセフ・マローン/エド・オロス/ジーン・デイヴィス/レオン・リッピー/ランス・ハワード/リリアン・ショウバン/チコ・ウェルズ/ジェリー・オーバック●日本公開:1992/11●配給:東宝東和(評価:★★★)
ユニバーサル・ソルジャー [DVD]

ステイン・アライブ dvd.jpgSTAYING ALIVE.jpg「ステイン・アライブ」●原題:STAYING ALIVE●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:シルヴェスター・スタローン●製作:シルヴェスター・スタローン/ロバート・スティグウッド●脚本:シルヴェスター・スタローン/ノーマン・ウェクスラー●撮影:ニック・マクリーン●音楽:ビージーズ/フランク・スタローン●時間:96分●出演:ジョン・トラボルタ/シンシア・ローズ/フィノラ・ヒューズ/スティーヴ・新宿ジョイシネマ .jpgインウッド/ジュリー・ボヴァッソ/チャールズ・ウォード●日本公開:1983/12●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:新宿ジョイシネマ(84-04-07)(評価:★★★)
新宿ジョイシネマ さよならフェスティバル.jpg新宿ジョイシネマ.jpg新宿ジョイシネマ 1947年12月「新宿地球座」としてオープン。1958(昭和33)年12月「地球会館」新築・落成、「新宿座」オープン。1984年1月「新宿ジョイシネマ」と改称。1995年7月~「新宿ジョイシネマ1」。(新宿ジョイシネマ2 1958年12月「新宿地球座」→1983年~「歌舞伎町松竹」→1995年7月~「新宿ジョイシネマ2」) 2009年5月31日(新宿ジョイシネマ1・2(地球会館)・3(中台ビル))閉館。[中写真:新宿劇場(1970年閉館)]

ランボー 82.jpgランボー1982.jpg「ランボー」●原題:FIRST BLOOD●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コッチェフ●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:マイケル・コゾル/ウィリアム・サックハイム/シルヴェスター・スタローン●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル「一人だけの軍隊」●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/ブライアン・デネヒー/デビッド・カルーソ/ジャック・スターレット/マイケル・タルボット/デビッド・クロウレイ●日本公開:1982/10●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿ローヤル(84-09-24)(評価:★★★)一人だけの軍隊 ランボー (ハヤカワ文庫)
新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg
新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手) 1988年11月28日閉館[カラー写真:「フォト蔵」より/モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)より]
新宿ローヤル劇場「悪魔の棲む家」(1982/8/17-1982/8/23)

rambo 3 1988 movie.jpgランボー3/怒りのアフガン チラシ.jpg「ランボー3/怒りのアフガン」●原題:RAMBO 3●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・マクドナルド●製作:バズ・フェイシャンズ●脚本:シルヴェスター・スタローン/シェルドン・レティック●撮影:ジョン・スタニアー●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:ディヴィッド・マレル●時間:97分●出演:シルヴェスター・スタローン/リチャード・クレンナ/カートウッド・スミス●日本公開:1988/06●配給:東宝東和●最初に観た場所:歌舞伎町・新宿プラザ(88-07-10)(評価:★★)
新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg新宿プラザ劇場内.jpg 新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、コマ劇場隣り (1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館

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囚人チーム対看守チームのフットボール試合。男臭い映画を観たい人にお薦め。

The Longest Yard(1974).jpgBurt Reynolds THE LONGEST YARD.jpg ロンゲスト・ヤード.jpg 『ロンゲスト・ヤード』(1974).jpg
ロンゲスト・ヤード [DVD]
The Longest Yard(1974)
 元プロ・フットボール選手で今は女性のヒモ暮らしというポール・クルー(バート・レイノルズ)は、そんな生活から抜け出そうと彼女の高級車を奪って逃げ出し、警察とのカーチェイスの末にパトカーを壊して逮捕されて懲役3年の刑でテキサス州の刑務所に入る。刑務所のヘイズン所長(エディ・アルバート)はポールをフットボールの看守チームの強化に利用しようと考えるが、チームリーダーのクナウア看守長(エド・ローター)にはポールの存在が面白くない。所長は、囚人チームを作り、看守チームと八百長試合をやって看守チームに勝たさせようと計画、堂々と看守を殴れるとあって囚人チームには怪力のメンバーが集まるが、所長は試合の途中でポールに21点差で負けろと指ロンゲスト・ヤード58.jpg示、反抗すれば密告屋アンガー(チャールズ・タイナー)の便利屋(ジム・ハンプトン)殺人事件の共犯にして20年は刑務所を出られないようにすると脅す。前半互角だった囚人チームは、ポールの手抜きプレーで次第に負けていって21点差がつき、それ以降は看守チームが囚人チームへ暴力を振るわないというのがポールが所長と交わした約束だったのに、所長は看守長に逆の指示を出し、堂々と戦うつもりだったは看守長も、鼻白みながらも所長の指示には逆らえない。そんな中、囚人『ロンゲスト・ヤード』(1974)2.jpgチームのチームメイト、グランヴィル(ハリー・シーザー)が退場する際に吐いた「お前を信用したのが間違いだった」との捨てゼリフがポールを目覚めさせる―。

 ロバート・アルドリッチ監督の看守対囚人のフットボールの試合を描いた作品であり(主演のバート・レイノルズはフットボール選手出身)、観終わった後の印象も爽やか。個人的には、三鷹オスカーでバート・レイノルズ主演の3本立ての内の1本として観ましたが、この作品の役が一番ハマっていたように思います(併映は、ハル・ニーダム監督の「トランザム7000」('77年)とジョージ・G・アビルドセン監督の「デキシー・ダンスキングス」('74年))。

 公開当時、興業的にも成功し、2005年にはピーター・シーガル監督によりリメイクされ、ボブ・サップなどの元NFL選手やプロレスラーが囚人および看守役で多数出演しており(バート・レイノルズもコーチ役で出演)、"コメディ仕様"とのことですが、こちらは未見です。

Ed Lauter.jpg オリジナル版の魅力は、主演のバート・レイノルズの男臭さもさることながら、やはり脇役陣が充実していることでしょうか。刑務所長役のエディ・アルバート、看守長役のエド・ローターをはじめ、個性的な役者が勢揃いし(007の"ジョーズ"ことリチャード・キールなども出ている。選手探しをするところが「七人の侍」みたいで面白い)、最後に看守長がポールに対して男同士の友情のような気持ちを抱くようになるところまで含め、定番的なストーリーとの予測がつくにしても、やっぱりぐいぐい引き込まれて観てしまいます。

勝利への脱出 .jpg 似たような状況でのスポーツの試合を題材にした作品では、ジョン・ヒューストン監督、シルヴェスター・スタローン主演の「勝利への脱出」('81年/米)という、第二次世界大戦最中のドイツの捕虜収容所で、ドイツ軍の将校(マックス・フォン・シドー)の発案のもと、連合国軍捕虜たちとドイツ代表がサッカー試合をするという作品がありましたが、並行して脱走計画の話があり、最後、成功するというもの(実話に基づくものとのこと)。こうした作品に比べると、この「ロンゲスト・ヤード」の結末は、この後の囚人たちに待ち構えるもののことを思うとややほろ苦いものと言えるかも。
「勝利への脱出」('81年/米)

 所長を殴って30年服役しているオヤジ(ジョー・カップ)が、ポールの「所長を殴るだけのことはあったか? 30年でも」という問いに「後悔はしてないよ」と答え、二人が肩を組んで競技場を去る後ろ姿がストップ・モーションになってエンディング・ロール。う~ん、今こうして観ると、アメリカン・ニューシネマの香りもするなあ。「勝利への脱出」よりはこちらの方が個人的には好みであり、男臭い映画を観たい人にお薦めの作品です。
 
「ロンゲスト・ヤード」●原三鷹オスカー予定表.jpg題:THE MEAN MACHINE (THE LONGEST YARD)●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ロ三鷹オスカー  復活.jpg三鷹オスカー.jpgバート・アルドリッチ●製作:ロバートエヴァンスほか●撮影:ジョセフ・F・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォル●原案:アルバート・S・ラディ ●時間:121分●出演:バート・レイノルズ/エディ・アルバート/マイケル・コンラッド/リチャード・キール/エド・ローター/ジム・ハンプトン/ハリー・シーザー/ジョン・スティードマン/アルバート・S・ラディ/トレイシー・キーナン・ウィン/バーナデット・ピーターズ●日本公開:1975/05●配三鷹オスカー  (2).jpg三鷹オスカー ー.jpg給:パラマウント映画●最初に観た場所:三鷹オスカー (78-07-20) (評価:★★★★☆)●併映:「トランザム7000」(ハル・ニーダム)/「デキシー・ダンスキングス」(ジョージ・G・アビルドセン) 三鷹オスカー 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

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ベン・アフレック才気煥発。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した作品か。

映画アルゴ dvd.jpg映画アルゴ2.jpg 映画アルゴ1.jpg
アルゴ [DVD]

 第85回アカデミー賞の作品賞、脚色賞、編集賞受賞作で、その前にゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞と監督賞も受賞しており、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の作品賞が重なることは、もう珍しいことではなくなったなあ。

映画アルゴ0.jpg イラン革命真っ最中の1979年、イスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られたが、占拠される直前に6人のアメリカ人外交官が大使館から脱出、カナダ大使公邸に匿われる。CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)は6人をイランから救出するため、「アルゴ」という架空のSF映画をでっち上げて6人をそのロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦を立てる―。

 あの池上彰氏が試写会で、「すべて史実に基づいていると念頭に置いて楽しんでほしい」とアピールしたそうですが、ラストの脱出劇、テヘランの空港のカウンターで、一旦取り消された搭乗券の予約が土壇場で復活する場面から滑走路での軍のジープと飛行機のチェイス・シーンまでは殆どがフィクションだそうで、物理的にも、離陸直前ボーイング747の後をジープで追っかけたりすれば、追いつく前にエンジン排気によってジープはぶっ飛ばされてしまうことになるとの話もあります。

映画アルゴ3.jpg 個人的には、こうした映画の娯楽性を高めるための演出はあってもいいかなとは思います。池上彰氏の言う「史実」には、こうした"細部"の表現は含まれないのでしょう。ベースになっているのは、CIAが17年間公表を控えていた事実であることには違いないし、タイトルにもなっているニセ映画「アルゴ」をでっち上げるという奇抜なアイデアが実行されたのも事実だし、概ね「事実」だと思って観るからこそハラハラし、面白くもあるわけで、そう思って観る方が確かに楽しめるかと思います(仮に全てが創作だとして、それが事前に分かって観ているとすれば、ハラハラ度はずっと低下するに違いない)。

アルゴ6.jpg 監督兼主演のベン・アフレックって才人だなあと思いました。本人の抑制された演技だけでなく、演出面でも、俳優6人に事前に合宿生活を送らせ、潜伏生活を疑似体験させたという効果は出ているし、エンドロールのサービスカットで、場面ごとにディテールまで忠実に再現したことをアピールするなどの技はなかなかのものです(これで、映画の「全ての場面」が事実通りであると錯覚してしまう?)。

 但し、これまで「カナダの策謀」と呼ばれてきたこの救出劇において(CIAの関与が公表されたのは1997年)、CIAの果たした役割を強調するあまり、カナダの果たした役割が相対的に軽んじられているキライもあるようです。

映画アルゴ 05.jpg CIAから送り込まれたのは、映画のように主人公1人ではなく2人だったのを、トニー(アントニオ)・メンデス1人に集約させているといったヒロイズム的効果を狙っての改変は許せるとしても、ビザの日付にミスがあって危ういところだったのをカナダ大使館員の1人が気づいて指摘した事実は割愛されているし、非常事態に備えて色々と奔走したカナダ大使が、映画では、いきなりもうこれ以上匿えないからといって6人に緊急出国を余儀なくさせたように描かれているのは、元カナダ大使本人は一応はアメリカから表彰されているせいか苦言を呈さなかったようですが、カナダ側からすれば不満が出て当然の作りのように思えます。
George Clooney: 'Argo' Premiere with Stacy Keibler
George Clooney ARGO.jpg まあ、この作品を観て一番頭にくるだろうと思われるのは、イランの人たちだろうなあ。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した"愛国"作品と言えるのでは。この作戦が実行された時、アメリカはジミー・カーター大統領の民主党政権で、ベン・アフレックも、この映画のプロデューサーの1人ジョージ・クルーニーも共に民主党及びバラク・オバマ大統領支持者。因みに、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス両監督やロバート・デ・ニーロ、トム・ハンクス、ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、ウィル・スミスらも民主党支持者であり、一方、クリント・イーストウッド、アーノルド・シュワルツェネッガーら政治家経験者や、ブルース・ウィリス、シルベスター・スタローンらは共和党支持者。支持政党によって、作る映画、出る映画に傾向の違いはあるかも。

アルゴ73.jpg「アルゴ」●原題:ARGO●制作年:2012年●制作国:アメリカ●監督:ベン・アフレック●製作:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ/ベン・アフレック●脚本:クリス・テリオ●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:アレクサンドル・デスプラ●原作:アントニオ・J・メンデス「The Master of Disguise」/ジョシュア・バーマン「The Great Escape」●時間:124分●出演:ベン・アフレック/ブライアン・クランストン/クレア・デュヴァル/ジョン・グッドマン/マイケル・パークス/テイラー・シリング/カイル・チャンドラー/アラン・アーキン/ケリー・ビシェ/ロリー・コクレーン/クリストファー・デナム/テイト・ドノヴァン/ヴィクター・ガーバー/ジェリコ・イヴァネク/リチャード・カインド/スクート・マクネイリー/クリス・メッシーナ●日本公開:2012/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2076】 吉田 修一 『愛に乱暴
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ストーリーが巧みでテンポも良いい。敢えて通俗、通俗だから面白いのでは。

太陽は動かない 吉田修一.jpg吉田修一氏.jpg エントラップメント01.jpg ラストエンペラー02.jpg
 吉田 修一 氏  「エントラップメント [DVD]」 「ラストエンペラー ディレクターズ・カット (初回生産限定版) [DVD]

太陽は動かない』(2012/04 幻冬舎)

『太陽は動かない』5.JPG 表向きはアジア各地のファッションやリゾート情報などを扱う小さなニュース通信社だが、裏では「産業スパイ」としての顔を持つAN(アジアネット)通信情報部の鷹野一彦は、油田開発利権にまつわる機密情報を入手し高値で売り飛ばすというミッションのもと、部下の田岡と共にアジア各国企業の新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件の背後関係を探っていた。鷹野は、企業間の提携交渉の妨害を意図したウイグル反政府組織による天津スタジアム爆破計画情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団天津スタジアム.jpg団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

天津スタジアム

 スパイ小説ですが、その舞台が「ポスト原発」と呼べる状況にある国際的なエネルギー市場であるところが現代風で、油田開発の利権争いの一方で、日本の無名の技術者が、従来のものとは比較にならない高性能の太陽光発電のパネルを開発した―というのが、何となく夢があっていいなあと。

 お膳立てが揃ってしまえば、後は、政治家、日本企業、中国多国籍企業、CIAなどの様々な組織の利害関係が複雑に絡み合ってのノンストップ・アクション風―ということで、ストーリー・テイリングも巧みだし、実際にテンポも良くて428ページ一気に読めました。

 作者は文芸作家としてデビューし、芥川賞も受賞していますが、『パレード』にはミステリの要素もあったし、『悪人』もエンタテイメント要素はあったように思います。

 この作品に対しては、『悪人』など比べると人物の描き方に深みが無いとの批評も多くありますが、"純粋エンタテイメント"として読めば、それでいいのではないかと思いました。『悪人』とは根本的にテーマもモチーフも異なる作品。敢えて通俗、通俗だから面白いのではないかと。

 日本が"スパイ天国"であるとは、随分と以前から言われていることですが、「スパイ小説」となると、劇画に出てくるような怪しげな外国人が大勢登場して何となく胡散臭いものになりがちという気もし、この作品についてもそのことが言えなくもないけれど、筆の運びの上手さで(さすが芥川賞作家?)、あまりそうしたことに疑念を挟まずにどんどん読めてしまいました。

 最後まで日本人中心であるというのもよく、産業スパイという設定は、日本人を主人公とするのに適しているのかも―と思ったりもしました。

「エントラップメント」1.gifエントラップメント03.jpg アクション風ということで、「ミッション:インポッシブル」 ('96年/米)など想起させられる映画が幾つかありましたが、金だけのために敵になったり味方になったりし、それが鷹野とAYAKOという男女間で展開するところは、個人的にはジョン・アミエル監督の「エントラップメント」('99年/米)を想起しました(この系統は「泥棒成金」('55年/米)や「華麗なる賭け」('68年/米)以来、連綿とあるが)。

「エントラップメント」3.gif AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。

峰不二子.jpg キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。

 「金だけのために」とか言いつつ、主要な登場人物たちがそれぞれに"貸し借り"に律義で(反政府組織の女性指導者までもが)、ラストのデイビッド・キムの登場などには友情めいたものさえ感じられるという、何だか綺麗に出来過ぎた話ですが、カタルシス効果はあったように思います("カタルシス効果"と言うより"読後感の爽やかさ"か)。

 それにしても、作者に関しては、芸域、広いなあという感じ。普段からエスピオナージをよく読み、その分野を読みつけている人から見れば突っ込みどころの多い作品かも知れないし、従来の作者の作品の世界に馴染んだ人から見れば、人物の描き方がステレオタイプだとかいった評価になるのかも知れないけれど、個人的には、とにかく面白く読めたため、そのことを素直に認めてのほぼ5つ星評価―ミステリ界でどういった評価になるのか気になります(「文芸作家は自分たちの領域に立ち入らんでくれ」と言うほど閉鎖的ではないとは思うが)。

 因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅を訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれてなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。

ラストエンペラー01.jpg ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。

『ラストエンペラー』(1987).jpg 2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。

 同監督作品では、「1900年」('76年)の方が質的に上のように感じましたが、こちらは、5時間16分の完全版を観ることが出来たというのも影響しているかもしれません(普段3本立の「三鷹オスカー」で1本のみ上映)。

エントラップメント dvd.jpg「エントラップメント」2.gif「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:ショーン・コネリー/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ヴィング・レイムス/ウィル・ パットン/モーリー・チェイキン/ケヴィン・マクナリー/テリー・オニール/マッドハヴ・ シャーマ/デヴィッド・イップ/ティム・ポッター/エリック・メイヤーズ/アーロン・スウォーツ●日本公開:1999/08●配給:20世紀フォックス(評価★★★)
The Last Emperor(1987)
The Last Emperor(1987).jpgラストエンペラーdvd.png「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
丸の内ルーブル.jpg丸の内ルーブル シャンデリア.jpg丸の内ピカデリー3の看板.jpg 丸の内ルーブル 1987年10月3日「有楽町サロンパスルーブル.jpgマリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) 

丸の内ピカデリー3.jpg 丸の内ルーブル 閉館最終日の巨大シャンデリアの点灯

【2014年文庫化[幻冬舎文庫]】

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1783】 江藤 努/中村 勝則 『映画イヤーブック 1997
「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 

見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG アマゾンの半漁人.JPG
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"

 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター)。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ていてコングについ感情移入してしまいますが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]

紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
     
one million years b.c. poster.jpg この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのにラクェル・ウェルチ   .jpg彼女はバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしている)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)

 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督により「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。

the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 後者「遊星からの...」は、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかも。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。

フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラングも「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。
 因みに、ボブ・ラフェルソン監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg (キングコングについては2017年に新進気鋭の監督ジョーダン・ヴォート=ロバーツによる「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られ、シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)へのオマージュが見られる)。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などは何だかアニメっぽかったように思えた(日本のアニメへのオマージュもキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加したジョーダン・ヴォート=ロバーツ、樋口真嗣。.jpgシン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと語したそうだが、おそらくモーション・キャプチャを使っているせいだろう。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のよう新奇性もなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い。)

キング・コング [DVD]
キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

恐竜100万年 [DVD]
恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
キャット・ピープル [DVD]」/チラシ

禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作: レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
遊星よりの物体X [DVD]

遊星からの物体X.jpg遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「エイリアン」(リドリー・スコット)
遊星からの物体X [DVD]
遊星からの物体X(復刻版)(初回限定生産) [DVD]

音楽:エンニオ・モリコーネ
    
King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

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謎多き生涯を、多くの証言等から再構築。映画の方はフーヴァーに寄り添っている感じだが...。

大統領たちが恐れた男 上.jpg 大統領たちが恐れた男 下.jpg 大統領たちが恐れた男.jpg  大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd.jpg 
大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈上〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈下〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯』「J・エドガー [DVD]
大統領たちが恐れた男 フーヴァー.jpg 1924年にFBI長官に任命され、1972年に亡くなるまで長官職にとどまったジョン・エドガー・フーヴァー(John Edgar Hoover, 1895 - 1972/享年77)の人と生涯の記録ですが、謎の多い彼の長官時代の実態を、多くの証言と資料から立体的に再構築しているように思われました。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー.jpg 折しも、クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演によるフーヴァーの伝記映画「J・エドガー」('11年/米)が公開され、この映画に対する評価は割れているそうですが、本書を読む限り、分かっている範囲での事実関係、或いはフーヴァーのセクシュアリティ(同性愛、異性装)など、ほぼ事実とされている事柄については、比較的漏らさずに描かれていたように思います。

・エドガー3.jpg 映画では、フーヴァーの、FBIの機能・権力を整備・改革・拡大していく才気に溢れた青年時代を、マザコンのために女性と上手く付き合うことが出来なかったその性癖と併せて描く共に、ケネディ兄弟に対する脅迫など自分の地位を守るために手段を選ばなかった最盛期、老いて権力にしがみつく亡霊のようになった晩年期が、ほぼ同じような比重で描かれていたように思います。

 しかし本書を読むと、政治家に対する脅しに関しては、映画で中心的に描かれていたロバート・ケネディ司法長官との対立に限らず、フーヴァーがケネディ兄弟の以前から、歴代大統領の私生活のスキャンダルも含めた極秘情報を使っていかに彼らを恫喝していたかが、様々な証言や資料を基に最も詳しく描かれていて、圧倒的なボリュームを占めています。

 例えば、映画では、ニクソンがフーヴァーの恫喝が通じにくい新しいタイプの大統領であったかのように描かれていますが、本書を読むと、ウォーターゲート事件の先駆けとなるニクソンの政敵への盗聴工作について、自らが実行部隊の責任者でありながら、それがホワイトハウス・マターであることの証拠を確保しておいて、後に自分を長官の座から追い落とそうとするニクソンを恫喝するネタにしていたことが分かります。

 さらに、映画では殆ど描かれていなかったマフィアとの黒い交際(フーヴァーは大好きな競馬で勝ち馬をマフィア関係者から事前に教えてもらうなどの優遇を受け、マフィアを取り締まることはFBIの管轄ではないとしていた)や、映画の方では控え目にしか描かれていなかった同性愛癖についても、様々な事実関係や証言を基に、かなり詳しく検証しています。

J・エドガー1.png 自らがFBIの副長官に任じたクライド・トールソンとの同性愛は、映画ではキス・シーンが1回ある程度で、あとは、フーヴァーのトールソンに贈った詩や、彼が異性との交際の意思をトールソンに伝えた際にトールソンが激昂する―といった象徴的な表現に抑えられていますが、二人が老齢に達して両者の肉体関係は終わったものの、その後もフーヴァー自身は若いゲイなどを相手に同性愛に耽り、女装癖も保持し続けていたことが、本書からは窺えます。

 映画の方は、脚本のダスティン・ランス・ブラックが「J・エドガーのような人物を映画に描くとき、その人物の衷心にあるものを読み取ろうとしないなどということは、私の脚本にはありえない」と述べているように、この女装癖についても、彼の最愛の母が亡くなった際に母親の服を纏うというセンチメンタルなトーンで描かれていましたが、これが老醜の男がベビードールを纏って少年愛に耽っているとなると、かなり一般のイメージが違ってくるのでは。

 本書では、彼のこうした性癖についても最後に簡潔に成育歴からみた精神分析学的な分析を行っていますが、それに加えて、彼が有名人のスキャンダルなどを執拗に追いかけた背景には、相手の弱みを握るためだけでなく、そうしたことをはじめ風紀に関する厳しい取り締まりを行うことが、自分の秘密を守ることに繋がると彼は考えたのだとの分析も示しています。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー3.jpg 「犯罪とスキャンダルの摘発」「権力者への恫喝」「自らの性癖の隠蔽」の3つがトライアングルのような関係になっていたことを暗示している分、心理学的にみても本書の方が読みが深いと言え、また、このような人物が国の機関の最高権力者として居続けたことに対する問題提起もされています。

 こうしてみると、映画の方は、むしろフーヴァーに寄り添っている感じですが、とても寄り添えるような人物ではないような...。イーストウッドが撮ると、こうなるのだろうなあ。

 映画でフーヴァーを演じることを切望したというディカプリオの演技は、確かに頑張っているなあという印象はありますが、元々ブルドッグ顔で知られるフーヴァーをディカプリオが演じること自体が視覚的にハードルが高く、晩年期はメイクが濃すぎてゾンビのようで、かなりギャップを感じました(自伝のウソの部分を先に映像にしてしまっている点も気になった。これ、"禁じ手"ではないか)。

J・エドガー2.jpg 本書の原題 "Official and Confidential(公式かつ機密)"は、フーヴァーが収録したファイルの名前で、所謂この「フーヴァー・ファイル」には、有名人に対する恐喝や政治的迫害が記録されているとのことですが、本書にも映画にもあるように、長年にわたって彼の秘書を務めた女性(映画でナオミ・ワッツが演じた、フーヴァーが初めて女性に想いを打ち明け、結婚を断られた相手)が、フーヴァーの死後に、訃報に触れたニクソンがファイル回収のために配下をフーヴァーの屋敷に送り込む前に持ち出し、密かに処分したとのことです。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd2.jpgナオミ・ワッツ.jpg「J・エドガー」●原題:J. EDG「J・エドガー」01.jpgAR●制作年:2011年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/ ブライアン・グレイザー/ロバート・ロレンツ●脚本:ダスティン・ランス・ブラック●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●時間:137分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ ナオミ・ワッツ/アーミー・ハマー/ジョシュ・ルーカス/ジュディ・デンチ/エド・ウェストウィック●日本公開:2012/01●配給/ワーナー・ブラザーズ(評価★★★☆)
ナオミ・ワッツ(1968- )[2012年]

 【1998年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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'95年はトム・ハンクスが洋画界を牽引? 「フォレスト・ガンプ」の底にある「愛国心」。

映画イヤーブック 1996.JPG   フォレスト・ガンプ 一期一会  ポスター.jpg フォレスト・ガンプ dvd.jpg  フォレスト・ガンプ 一期一会 スコア.jpg
映画イヤーブック〈1996〉 (現代教養文庫)』「フォレスト・ガンプ 一期一会」ポスター「フォレスト・ガンプ 一期一会 スペシャル・コレクターズ・エデション [DVD]」(2008)「フォレスト・ガンプ~一期一会 オリジナル・スコア集

 1995年に公開された洋画330本、邦画184本、計518本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「フォレスト・ガンプ/一期一会」「クイズ・ショウ」「レオン」「ショーシャンクの空に」「ブロードウェイと銃弾」「アポロ13」「恋する惑星」「エドワード・ヤンの恋愛時代」「エド・ウッド」「マディソン郡の橋」「スモーク」の11作品、一方邦画は、「東京兄妹」(市川準監督)「ガメラ」(金子修介監督)「Love Letter」(岩井俊二監督)「KAMIKAZE TAXI」(原田眞人監督)「午後の遺言状」(新藤兼人監督)「幻の光」(是枝裕和監督)の6作品と、比較的邦画も頑張った年でしたが、編者の江藤努氏に言わせれば、邦画は洋画に比べて作品の質が興行成績に繋がらなかったとのことで、確かに、ややマイナー感はあるラインアップ。

Sally Field FORREST GUMP.jpg ロバート・ゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ/一期一会」('94年)はアカデミー賞6部門(作品・監督・主演男優・脚色・視覚効果・編集)独フォレスト・ガンプ 一期一会01.jpg占で、トム・ハンクスは「フィラデルフィア」('93年)に続いてアカデミー賞主演男優賞2年連続受賞、さらにこの年公開の「アポロ13」('95年)にも出演していて、当時は洋画界を一人で牽引しているような勢いがありましたが、アカデミー俳優トム・ハンクス主演ということで、これらの作品を観に映画館に足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。

フォレスト・ガンプ 一期一会02.jpg 「フォレスト・ガンプ」は50年代から80年代にかけてのアメリカ現代史を駆け抜けていったIQが人並みに至らない男ガンプの話ですが、彼は俊足を買われて大学で全米アメフト代表選手となってケネディ大統領に祝福され、ベトナム戦争では戦友の命を救ってジョンソン大統領から栄誉を授かる一方、全米卓球チームのメンバーになって「ピンポン外交」特使としてジョン・レノンとテレビ共演するほど有名になり、さらにエビの事業で成功して大金持ちになるといった具合に、アメリカン・ドリームを絵に描いたような道を歩みます。

フォレスト・ガンプ 一期一会03.jpg 但し、そうした"お目出度い"話ばかりでなく、彼の人生と交錯する人びとの挫折や苦悩も描いており、ガンプ自身も幼馴染みの恋人に何度か去られ、最後にやっと愛を成就できたかと思ったら、その彼女に死なれてしまうなどして人生の寂寥感を味わい、それでも彼女が遺した自分の息子に出会うことで未来への希望を抱くという、ラストシーンで空を舞う羽根のように、ふわ~っと心に滲み入る作品でした。

フォレスト・ガンプ 一期一会04.jpg 原作は、1985年にウィンストン・グルームが発表した小説 Forrest Gumpで、ガンプのモーレツぶりは、ジョン・アービング原作、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ロビン・ウィリアムズ主演の「ガープの世界」('82年)の登場人物らに通じるものを感じましたが、「ガープの世界」がアービングの自伝的小説であるのに対し、グルームの原作では、主人公のガンプは宇宙飛行士やプロレスラー、チェスのチャンピオンになるといったエピソードもあるとのことで、映画においても、「ガンプ」はシンボライズされたキャラクターと見るのがスジでしょう。

 では、アメリカ現代史を駆け抜けたガンプは何の象徴なのかと言うと、やはりアメリカ国民そのものの象徴であり、見方によってはアメリカという国そのものの象徴ということにもなるのかもしれません。

Forrest Gump (1994).bmp 映画ではアメリカ現代史の様々な映像が合成SFXでガンプの物語に織り込まれており(ゼメキス監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも見せたとおり、特撮が持ち味。ガンプがケネディ大統領と握手し、「おしっこしたい」と言うシーンは笑える)、それもこの作品の一つの見所ですが、個人的には、ウォーターゲート事件にしてもベトナム反戦運動にしても、ガンプの純粋さを媒介としてある種戯画化されて描かれているように思いました。

 この映画がアメリカで「ガンプ現象」と言われるほどのブームになったのは、アメリカ人のヒーローに対する愛着、純粋無垢なモーレツさへの憧憬だけでなく、いろんなことを乗り越えてもアメリカ人は前を向いて走り続けることができる国民なのだという「愛国心」(本書でこの作品の解説を担当している東敬一氏もこの言葉を用いているが)の裏返しのようなものが、作品の底にあるためであるように思いました(すごく自己肯定的だけど、所謂ナショナリズムとは少し違うんだよなあ)。

チャンス.jpg この作品を観て思い出すのは、ハル・アシュビー監督の「チャンス」('79年/米)で、知的障害がある庭師のチャンスが、余命いくばくも無い財界大物を夫に持つ美しい貴婦人が乗る高級車に轢かれ、屋敷に招かれることになったのをきっかけに、その言葉に実は深い意味があると周囲から勝手に解釈されて、世間の注目を集めテレビ出演までするようになり、国民的な人気を得ることになりますが、彼自身は全くそんなことには無頓着でいるというもの。この作品で、ピーター・セラーズ(1925-1980)が演じるチャンスは次期大統領候補にまでなる一方で、ラストはチャンスの死を暗示させて終わりますが、ピーター・セラーズ本人もこの映画の日本公開前に心臓発作で急逝、彼の遺作となった作品であるということでも知られています。

チャンス ラスト.jpg ジャージ・コジンスキーの脚本のベースになっているのはニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』であり、原題の"Being There"は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの未完の主著『存在と時間』からきているとのことで、「ただそこにある(もの)」という意味ですが、「チャンス」という主人公の名前を邦題にしてしまったため、「どんなハンディキャップがある人にもチャンスがある」という話と捉えられている向きがあるように思います。

 個人的には、そうした解釈でもいいと思うし、実際、「アメリカとはそういう(誰にでもチャンスのある)国だ」という意図のもとに作られた作品ととれなくもないですが、ちょっと違うような気がする。。。だからと言って、正しい解釈はこうだと言い切れるものが自分としてもイマイチ明確にないのですが。

Forrest Gump(1994).jpg 「フォレスト・ガンプ/一期一会」の「一期一会」は要らなかったように思いますが、内容的にはこちらの方がスンナリ受け止めることができました。「チャンス」は、コメディとしては秀逸であることは間違いないですが("脇を固めている"のがシャーリー・マクレーンなど一流の演技達者というのがスゴイ)、原題通り「ビーイング・ゼア」としてくれた方が、この作品の象徴性について(自分も世間も)より深く考える契機になったような気がします。最近、かなり再評価されているようですが、当時としては、そんなタイトルでは観客受けしないと思われたのでしょうか。もともと、本国公開から日本公開までの間に1年以上もの間隔があった作品でした。

Forrest Gump(1994)[IMDbスコア 8.8]

サリー・フィールド(ミセス・ガンプ) 
Sally Field in FORREST GUMP.jpgフォレスト・ガンプ 一期一会 dvd.jpg「フォレスト・ガンプ/一期一会」●原題:FORREST GUMP●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:ウェンディ・フィネルマン/スティーヴ・ティッシュ/スティーヴ・スターキー●脚本:エリック・ロス●撮影:アーサー・シュミット●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ウィンストン・グルーム●時間:142分●出演:トム・ハンクス/ロビン・ライト/サリー・フィールド/ゲイリー・シニーズ/ミケルティ・ウィリアムソン/ハーレイ・ジョエル・オスメント●日本公開:1995/02●最初に観た場フォレスト・ガンプ  トム・ハンクス.jpgアポロ13 トム・ハンクスapollo13.jpg所:有楽町・日本劇場(95-03-12)●配給:UIP(評価:★★★★)
フォレスト・ガンプ 一期一会 ― スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]」(2001)
トム・ハンクス in「フォレスト・ガンプ 一期一会」('94年)/「アポロ13」('95年)

チャンス dvd.jpg「チャンス」●原題:FORREST GUMP●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ハル・アシュビー●製作:アンドリュー・ブラウンズバーグ●脚本:ジャージ・コジンスキー●撮影:キャレブ・デシャネル●音楽:ジョニー・マンデル●原作:ジャージ・コジンスキー●時間:130分●出演: ピーター・セラーズ/シャーリー・マクレーン/メルヴィン・ダグラス/ジャック・ウォーデン/リチャード・ダイサート/リチャード・ベースハート/ルス・アタウェイ●旧丸の内ピカデリー  .jpg日本公開:1981/01●最初に観た場所:有楽町・丸の内ピカデリー(81-02-09)●配給:松竹=富士映画配給(評価:★★★★)
チャンス [DVD]」(2005)
丸の内松竹(初代).jpg
旧・丸の内ピカデリー 前身は1925年オープンの「邦楽座」(後の「丸の内松竹」)。1957年7月、旧朝日新聞社裏手にオープン(地下に「丸の内松竹」再オープン)。 1984年10月1日閉館。1984年10月6日後継館「丸の内ピカデリー1・2」が有楽町センタービル(有楽町マリオン)西武側9階にオープン。

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'93年は「ジュラシック・パーク」の年か。アイロニカルだった「ザ・プレイヤー」。

イヤーブック1994.JPG映画イヤーブック1994.jpg    ザ・プレイヤー.jpg  ザ・プレイヤー  dvd.jpg
映画イヤーブック〈1994〉 (現代教養文庫)』/「ザ・プレイヤー」チラシ/「ザ・プレイヤー デラックス版 [DVD]

 1993年に公開された洋画328本、邦画151本、計479本の全作品データと解説を収録、更に映画祭、映画賞の記録、オリジナル・ビデオ・ムービー、未公開ビデオのデータなども網羅しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「ザ・プレイヤー」「愛の風景」「マルコムX」「許されざる者」「クライング・ゲーム」「秋菊の物語」「ジュラシック・パーク」「アラジン」「リバー・ランズ・スルー・イット」「ザ・シークレット・サービス」「タンゴ」「友だちのうちはどこ?」など10作品、一方邦画は、「お引越し」(相米慎二監督)「病院で死ぬということ」(市川準監督)「月はどっちに出ている」(崔洋一監督)「ヌードの夜」(石井隆監督)の4作品と、依然やや寂しいか。

 映画館の年間入場者数は、それまでの史上最低を記録した'92年よりやや上向いて1億3千万人台に戻りましたが、これは偏に「ジュラシック・パーク」の大ヒットのお陰、邦画は、前年の「シコふんじゃった。」に続いて、今度は「月はどっちに出ている」が映画賞を総ナメするという、表面的にはやや偏った状況でした。

ザ・プレイヤー  vhs.jpg でも、前出の通り、ピレ・アウグスト監督の「愛の風景」(スウェーデン他9カ国)、チャン・イーモウ監督の「秋菊の物語」(中国)、パトリス・ルコント監督の「タンゴ」(仏)、アッバス・キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」(イラン)といったハリウッド映画以外の作品も一部で注目された年であり、また、ハリウッド映画の中にも、ロバート・アルトマン監督がハリウッドの映画製作の内幕を描いた「ザ・プレーヤー」('92年/米)などの変わった作品もありました。

ザ・プレイヤー 1.jpg 原作・脚本はマイケル・トルキンで、ハリウッド映画界の権力者"プレイヤー"を目指す若手プロデューサーのグリフィン(ティム・ロビンス)が、脚本を没にされた脚本家から脅迫を受けるが、逆に脅迫者とおぼしき脚本家を殺害し、その恋人(グレタ・スカッキ)をも自分の女にしてしまう―「えーつ、これで終わり!?」という感じで、皮肉を込めたピカレスク・ロマンだったわけね。
 
THE PLAYER 1992 movie.jpg ラスト近く、グリフィンはウケだけを狙ったどうしょうもない通俗映画を作っていて、それに主演しているのが、ジュリア・ロバーツ、ブルース・ウィリスの二人で、更にバート・レイノルズ、アンジェリカ・ヒューストン、ジョン・キューザック、ジャック・レモン、アンディ・マクダウェル、シェール、ピーター・フォーク、スーザン・サランドンなどが映画内映画にカメオ出演している―この辺りはやはりロバート・アルトマンの名の下に―という感じでしょうか。

 ロバート・アルトマンは「M★A★S★H」(70年/米)、「ナッシュビル」(75年/米)以来、時々こうした"仲間内"感覚の作品を撮っていたなあ。この作品も、アイロニカルだけれど、みんなんで楽しみながら映画を作っている感じもあって、その分「毒」が中和されている印象も。

"THE PLAYER"(1992)輸入版DVD
THE PLAYER 1992.jpg「ザ・プレイヤー」●原題:THE PLAYER●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:デヴィッド・ブラウン/マイケル・トルキン/ニック・ウェクスラー●脚本・原作:マイケル・トルキン●撮影:ジャン・ルピーヌ●音楽:トーマス・ニューマン●時間:124分●出演:ティム・ロビンス/グレタ・スカッキ/フレッド・ウォード/ウーピー・ゴールドバーグ/ピーター・ギャラガー/ブライオン・ジェームズ/ヴィンセント・ドノフリオ/ディーン・ストックウェル/リチャード・E・グラント/シドニー・ポラック/シンシア・スティーヴンソン/ダイナ・メリル/ジーナ・ガーション/ジェレミー・ピヴェン/リーア・エアーズ●カメオ出演ジュリア・ロバーツ/ブルース・ウィリス/バート・レイノルズ/アンジェリカ・ヒューストン/ジョン・キューザック/ジャック・レモン/アンディ・マクダウェル/The-Player.jpgシェール/ピーター・フォーク/スーザン・サランドン/ジル・セント・ジョン/リリー・トムリン/ジョン・アンダーソン/ミミ・ロジャース/ジョエル・グレイ/ハリー・ベラフォンテ/ゲイリー・ビューシイ/ジェームズ・コバーン/ルイーズ・フレッチャー/スコット・グレン/ジェフ・ゴールドブラム/エリオット・グールド/サリー・カークランド/マーリー・マトリン/マルコム・マクダウェル/ニック・ノルティ/ロッド・スタイガー/パトリック・スウェイジ●日本公開:1993/01●配給:大映(評価:★★★☆) Julia Roberts, Bruce Willis and may others for The Player

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'92年公開作品はバブル崩壊"効果"? ちょっと変わった感じの映画が目立った年。

映画イヤーブック 1993.jpg   バートン・フィンク vhs1.jpg フライド・グリーン・トマト vhs.jpg
映画イヤーブック〈1993〉 (現代教養文庫)』/「バートン・フィンク」(VHS)/「フライド・グリーン・トマト」(VHS)  

プリティ・リーグ dvd.jpg 1992年に公開された洋画317本、邦画133本、計450本の全作品データと解説を収録していますが、この数字、本書の前年版によれば、前年の1991年に劇場公開された洋画は413本、邦画は151本、計564本となっていましたから、前年の2割減(洋画は2割5分減)ということになり、バブル崩壊の影響がこの辺りにも出たなあと。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「バートン・フィンク」「JFK」「美しき諍い女」「フライド・グリーン・トマト」「仕立て屋の恋」「プリティ・リーグ」など10作品、邦画は、「シコふんじゃった。」「いつかギラギラする日」「青春デンデケデケデケ」など4作品とやや寂しいか。
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バートン・フィンク0.jpg 結局、邦画界は1月に公開された周防正行監督の「シコふんじゃった。」がその年の映画賞を総ナメした形になりましたが、これ、意外と穴だったと言うか、実際に面白く(個人的にもこの年のナンバー1作品。但し、これだけ賞を獲ると、日本映画は他にいい作品がないのかという気も)、一方、洋画も例年の大作とは一味違ったものがじわじわ人気を呼んだりして、その典型がジョエル・コーエン監督の「バートン・フィンク」('91年/米)ではなかったでしょうか。

バートン・フィンク1.jpg 1941年、場末の安ホテルに籠って脚本を書いていた劇作家バートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)は、隣室のセールス男メドウズ(ジョン・グッドマン)と親しくなるが、フィンク自身は脚本が書けなくなるスランプに陥り、更には自分の部屋で殺人事件が起きて、メドウズが死体を片付けてくれたものの、彼は完全に神経症に陥る―。

 幾つもの解釈ができる面白い作品で、結局、フィンク自身が現実と空想の区別がつかなくなっているようです。ラストのホテルの部屋の壁に架かった絵画のアップが1つの謎解きと言えるかも(バートン・フィンクのモデルはフォークナーだそうだ)
 カンヌ映画祭で史上初の三冠(グランプリ・監督賞・主演男優賞)を成し遂げた作品とのことで、ストーリーの巧さもあるけれども、脚本執筆という創造の苦しみが描かれているのが、同業者の共感を呼んだ?

フライド・グリーン・トマト1.jpg もう一つ、同じく'92年公開のジョン・アヴネット監督の「フライド・グリーン・トマト」('91年/米)は、「ドライビング・ミス・デージー」のジェシカ・タンディが演じる元カフェ経営者の昔話を、「ミザリー」のキャシー・ベイツ演じる夫に愛想をつかされた女性が聴くという展開でしたが(アカデミー主演賞女優同士!)、ジェシカ婆さんが淡々と語る話の内容が、ある種、女性たちの人間として生きる権利を求めての闘いの軌跡というか、感動ストーリーでありながらも、合間に入るエピソードがグリム童話みたいに残酷(猟奇的)だったりして、この取り合わせの妙が何とも言えない作品でした。
    
プリティ・リーグ 2.png 女流監督ペニー・マーシャルが「レナードの朝」('90年)の次に撮った「プリティ・リーグ」('91年/米)のあらすじは―、1943年、男たちが戦争に駆り出され、プロ野球閉鎖の危機が訪れる中、全米女子プロ野球リーグが結成され、最強チーム"ピーチズ"のメンバーは、田舎の主婦からホール・ダンサーまで、野球を愛する男顔負けのスーパー・レディースで構成さMadonna A League of Their Own.jpgれていたが、汗と埃にまみれて白球を追う彼女たちの力強く美しい姿には全米が拍手を贈った―という感動もので、一見すると漫画的題材ですが、実話がベースになっているというのはやはり強いなあと。監督役のトム・ハンクスの演技が冴え、痛快スポーツ・ドラマとなっていますが、最後の同窓会的にかつてのメンバーが集う場面は、賛否があるものの個人的には良かったです。スーパースターのマドンナがナインの一員として(エース役のジーナ・デイビスの助演として)しっかり演技しているという点で興味深い作品でもあります。マドンナはハマリ役でした。 

Madonna in A League of Their Own

バートン・フィンク dvd.jpg 好き嫌いが分かれそうな作品もありますが、バブル崩壊"効果"ではないでしょうが、がんがん力で押していくタイプの大作より、こうしたちょっと変わった感じの映画が目立った年でした。

「バートン・フィンク」●原題:BARTON FINK●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・コーエン●製作:イーサン・コーエン●脚本:ジョエル&イーサン・コーエン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:カーター・パウエル●時間:116分●出演:ジョン・タトゥーロ/ジョン・グッドマン/ジュディ・デイヴィス/マイケル・ラーナー/ジョン・マホーニー/トニー・シャルーブ●日本公開:1992/03●配給:KUZUIエンタープライズ(評価:★★★★)
バートン・フィンク [DVD]

「フライド・グリーン・トマト」 (91年/米).jpgフライド・グリーン・トマト dvd.jpg「フライド・グリーン・トマト」●原題:FRIED GREEN TOMATO●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アヴネット●製作:ジョン・アヴネット/ジョーダン・カーナー●脚本:キャロル・ソビエスキー/ファニー・フラッグ●撮影:ジェフリー・シンプソン●音楽:トーマス・ニューマン●原作:ファニー・フラッグ「フライド・グリーン・トマト・アット・ザ・ホイッスル・ストップ・カフェ」●時間:130分●出演:キャシー・ベイツ/ジェシカ・タンディ/メアリー・スチュアート・マスターソン/メアリー=ルイーズ・パーカー/スタン・ショウ/シシリー・タイソン●日本公開:199206●配給:アスキー映画(評価:★★★★)
フライド・グリーン・トマト [DVD]

プリティ・リーグ [DVD].jpgプリティ・リーグ 1.png「プリティ・リーグ」●原題:A LEAGUE OF THEIR OWN●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ロバート・グリーンハット/エリオット・アボット●脚本:ババルー・マンデル/ローウェル・ガンツ●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ハンス・ジマー●時間:116分●出演:トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/ マドンナ/ロリー・ペティ/ロージー・オドネル/ジョン・ロビッツ●日本公開:1992/10●配給:コロンビア・トライスター映画社(評価:★★★★)

トム・ハンクス/ジーナ・デイヴィス/ マドンナ

Madonna - 1992 Steven Meisel
Madonna - 1992 Steven Meisel.jpg

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事実にフィクションを織り交ぜることで、長編としての完成度が高まった 『総員玉砕せよ!』。

総員玉砕せよ! 1973.jpg 総員玉砕せよ!.jpg    硫黄島からの手紙 dvd.jpg 硫黄島からの手紙   00.jpg
『総員玉砕せよ!!―聖ジョージ岬・哀歌』『総員玉砕せよ! (講談社文庫)』「硫黄島からの手紙 [DVD]

 '73(昭和48)年8月に講談社より刊行された書き下ろし長編戦記漫画(刊行時タイトルは『総員玉砕せよ!!―聖ジョージ岬・哀歌』、原型は初期の絵巻風作品『ラバウル戦記』)で、作者の戦記モノには、『敗走記』など自らの従軍体験に基づくものと、『白い旗』など戦争史料に基づくものがありますが、ニューブリテン島を舞台に「ラバウル玉砕」を描いたこの作品は、作者自身は'91 年版のあとがきで「90%以上は事実」としています。

 但し、『ラバウル戦記』が殆ど作者の実体験に基づいた記録風の作品であるのに対し、講談社文庫版解説の足立倫行氏によると、この物語で描かれている1回目の"不完全な"玉砕と2回目の玉砕の内、2回目の玉砕は現実には無く、1回目の玉砕を果たせなかった責任を負って将校2名が自決させられたのは事実だそうですが(これは、この作品でも描かれている)、残った将校たちは次の戦闘が無かったために生き延びたとのこと。更には、作者自身は、マラリアで寝込んでいた時に空爆を受け、左腕を失って後方に退き、ラバウル近郊の傷病兵部隊で療養していたため、不完全に終わった最初の玉砕の際にも現地にはいなかったとのことです。

 しかし、この長編作品を書き下ろすに際し(作者の戦記マンガの殆どは短編)、作品中の丸山二等兵に自身を仮託し、自らが所属した部隊の日常と非日常を描くとともに(仲間が鰐に食べられたり、魚が口に飛び込んで死んだりしたというのは"日常"と解すべか"非日常"と解すべきか、ともかく尋常では無い日常なのだが)、その丸山二等兵を"幻の"2回目の玉砕に登場させるなどのフィクションを織り込んでいることは、足立氏が指摘するように、この作品の長編としての成功に繋がっているように思いました。

 結局、当時の南方の島で追い詰められた日本兵達は、悪化する戦況の中で「精神論」を最大の拠り所に戦っていたように思われ、そのため敵前逃走や玉砕の失敗に過敏になり、自らの部隊の士気を維持するために仲間内で処刑を行ったりして"裏切り者"を排除しようとしたのだなあ。「そうしないと示しがつかない」という意識から「示しをつける」ということ自体が目的化してしまうところが日本的であるように思われました。

 責任をとらされて腹を切らされる将校も辛いけれど、兵隊は兵隊で大変。作者は「将校、下士官、馬、兵隊といわれる順位の軍隊で兵隊というのは"人間"ではなく馬以下の生物と思われていた」とし、その実態が作品中にも描かれていますが、「玉砕で生き残るというのは卑怯ではなく、"人間"としての最後の抵抗ではなかったか」と書いています。

水木しげる「総員玉砕せよ」.jpg そもそも、「ラバウルの場合、後方に十万の兵隊が、ぬくぬく生活しているのに、その前線で五百人の兵隊に死ねと言われても、とても兵隊全体の同意は得られるものではない」とも書いており、物語の中で、部下に突入を命じながら「君達の玉砕を見届ける義務がある」といって自身はそこに留まろうとしている内に流れ弾に当たって死んだ参謀も、実際には「テキトウな時に上手に逃げた」とのこと(この部分は事実の改変部分であると作者自身が書いている)。

「総員玉砕せよ!」より

 日本において戦争が映画化され、その悲惨さが描かれることがあっても、こうした部隊内の矛盾が描かれることはあまり無く、国家のために命を落とした人達を英霊として尊ばなければならないという意識の方が優先された描き方になっていることが多いように思います(最近その傾向が強まってきているし、また、そうした意識の強い人が映画を撮っている)。

硫黄島からの手紙2.jpg 最近の映画の中では強いて言えば、太平洋戦争末期の硫黄島攻防の際の日本側最高司令官であった栗林忠道陸軍中将を主人公にした「硫黄島からの手紙」('06年)の中で、そうした軍隊の内部粛清などの非人間的な面も比較的きっちり描いていたように思われますが、これはクリント・イーストウッドが監督した「アメリカ映画」です。

 栗林忠道が人格者であったことは間違いないと思われ、映画での描かれ方においても、その"悲劇のヒーロー"ぶりが強調され、これもある種ハリウッド・スタイルの作品と言えますが、一方で、軍隊というものを美化せずに、その組織内部の矛盾をも描いている点は、さすがクリントイーストウッド、とも言えるのかも。

鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争.jpg 尚、『総員玉砕せよ!』は、NHKスペシャルで'07 年 8 月 12 日に「鬼太郎が見た玉砕」というタイトルで香川照之主演でドラマ化されたものが放映されていますが個人的には未見です。

鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~ [DVD]

「鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~」●演出:柳川強●作:西岡琢也弘●撮影:毛利康裕●音楽:大友良英●原作:水木 しげる●出演:香川照之/田畑智子/塩見三省/嶋田久作/榎木孝明/北村有起哉/石橋蓮司/神戸浩/壌晴/瑳川哲朗/木村彰吾/今村雅美/高田聖子/(声)野沢雅子/田の中勇/大塚周夫●放映:2007/8/12(全1回)●放送局:NHK

硫黄島からの手紙1.jpg「硫黄島からの手紙」●原題:LETTERS FROM IWO JIMA●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/スティーヴン・スピルバーグ/ロバート・ロレンツ●脚本:アイリス・ヤマシタ●撮影:トム・スターン●音楽:カイル・イーストウッド/マイケル・スティーヴンス●時間:141分●出演:渡辺謙/二宮和也/伊原剛志/加瀬亮/中村獅童/渡辺広/坂東工/松崎悠希/山口貴史/尾崎英二郎/裕木奈江/阪上伸正/安東生馬/サニー斉藤/安部義広/県敏哉/戸田年治/ケン・ケンセイ/長土居政史/志摩明子/諸澤和之●日本公開:2006/12●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)      中村獅童 in「硫黄島からの手紙」

【1985年単行本[ほるぷ平和漫画シリーズ(25)(『総員玉砕せよ―聖ジョージ岬・哀歌』)]/1991年単行本[講談社・水木しげる戦記ドキュメンタリー(1)]/1995年文庫化[講談社文庫]/2007年ムック版[集英社(SHUEISHA HOME REMIX)』)(『総員玉砕せよ!―戦記ドキュメント』]】

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娼婦たちの田舎行「メゾン テリエ」もいいが、「他三編」も短い中に人生を投影させていていい。

メゾン・テリエ モーパッサン 岩波文庫旧版.jpg メゾン テリエ.JPGメゾン・テリエ モーパッサン 岩波文庫 新版.jpg 快楽 Le plaisir.jpg
『メゾン テリエ―他三編』[岩波文庫・旧版]『メゾンテリエ 他3編 改版 (岩波文庫)』 「メゾン テリエ」―「快楽」(マックス・オフィルス監督)ジャン・ギャバン(中央)

 ノルマンディーの田舎町フェカンで、メゾンテリエ(テリエの家)というのは、つまりテリエ夫人が5人の女を使って営む娼家である。町の名士たちも毎晩のように通うという繁盛ぶり。ところがある晩のこと、「初聖体のため休業仕候」と貼り紙を出して突然の休業―。数あるモーパッサン(1850‐93)の中短篇小説のうち屈指の名作(「岩波ブックサーチャー」より抜粋).

 「メゾン テリエ」は1881年にモーパッサンが発表した中編小説で、娼家が閉まっていたのは、張り紙にあった通り、マダムが弟の娘で彼女が名付け親になっている少女の初聖礼拝受式に参席するため、家の女達を連れて故郷ルール県の村ヴィルヴィルへ出かけてしまったためです。

 フェカンも田舎町だが、ヴィルヴィルは田園地帯にある更なるド田舎。村の教会に突然の美しい(?)女達が現れたために、素朴な村人達は都会の貴婦人が参列したのかと勘違いし、一方、式において清楚な少女の姿を見た娼婦達は、過ぎし日を思い起して思わず泣き出してしまい、教会は、異様な感動に包まれ、それがまた、村人達の感激を引き起こすという―もともと、女達に店を任せておけないから、やむなく全員を引き連れて式に出ることになったのが、彼女らにとっても想い出深いイベントになったという展開がいいです。

 村人はマダムが町で成功していることは噂に知っていても、それが娼家の経営によるものとは知らず、また娼婦らを"貴婦人"と思い込んでしまったのは、現代以上に都会と田舎の情報格差が大きかったせいもあるのではないかと、再読して思いました(現代でも、田舎に帰れば実態とは異なり、「一流企業のOL」をしていることになっているというのはあるかもしれないが)。

 岩波文庫版はこの他に、「聖水授与者」「ジュール伯父」「クロシェット」の3篇の短篇を収めていますが(4篇とも挿絵入り)、「聖水授与者」は、5歳で行方不明になった息子を探す老夫婦を描いた話、「ジュール伯父」は、アメリカに渡った叔父が成功して戻って来ることに全ての希望を託す家族の話で、共に"邂逅"がモチーフになっているものの、結末は明暗を分けています。

 大人になった語り手が少年の頃の思い出を語るというスタイルで「ジュール伯父」と共通する「クロシェット」は、「私」に優しくしてくれていた"ばあや"が亡くなった直後に医師から聞かされた、彼女の若い頃の恋愛事件の話で、壮絶と言っていいくらいに純真な話ですが、何れも極々少ない紙数の中に、家族や個人の人生がくっきり投影されているのが素晴らしいです。

Le plaisir (1952)L_.jpg 訳者の河盛好蔵は「メゾン テリエ」に通底するものがあるということからこの3篇を選んだとのことですが、感動やペーソスある一方で「ジョゼフ・ダヴランシュが貧しい施しを求める老人に5フラン銀貨を恵む理由」といったエスプリも効いていて、河盛好蔵らしい選び方のように思いました。

快楽 輸入版dvd.jpg 表題作「メゾン テリエ」は、マックス・オフュルス「快楽(Le Plaisir)」('52年/仏)という映画の中で映像化しており、娼婦達が田園地帯を行く様を撮った光と影の交錯する映像は、ジャン・ルノワール(印象派の画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの次男)の「ピクニック」('36年/仏)の"中産階級版"ならぬ"娼婦版"という感じ(因みに、「ピクニック」の原作もモーパッサンの短篇(「野あそび」)。

メゾン テリエ 快楽 .jpgメゾン テリエ 快楽.jpg 「メゾン テリエ」では、唯一、一行の正体が娼婦達であることに気付いているっぽい馬丁をジャン・ギャバンが演じていますが、ギャバンのフォルム・ノワールのイメージとは裏腹に、小説以上に気のいい男として描かれています。

LE PLAISIR 1952 仮面の男.jpg 「快楽」は、「メゾン テリエ」の他に、「仮面」と「モデル快楽 モーパッサン.jpg」という、同じくモーパッサンの短篇を原作とした作品から成るオムニバス映画であり、「仮面(の男)」は、美男の仮面を付けてまでも終生女を漁ってきた老人と、この女好きの夫に一生を捧げてきた妻の話、「モデル」は、画家がモデル快楽 仮面4.jpgと深い仲になるも彼女に飽きてきて別れようとすると、モデルの方は自殺を仄めかし、その結果――(ここでも"脚を折る"までの一途の恋という「クロシェット」と同じモチーフが使われている)。
マックス・オフュルス「快楽」('52年/仏)

 「快楽」は'79年に日仏会館で、「ピクニック」は'80年に京橋フィルムセンターでそれぞれ観て(「快楽」は当時"東京日仏学院"でもやっていたかもしれない)、「快楽」に関して言えば、べルイマンの艶笑喜劇に通じるものを感じましたが、むしろ、ベルイマンよりモーパッサンの方が本家でしょうか。「メゾン テリエ」などのイメージが掴めたのは良かったのですが、本当はもっと綺麗な映像であるはずなのが、フィルムがやや劣化状態だったのが残念でした。

ジャン・ルノワール「ピクニック」.jpg 一方の「ピクニック」は、DVD版の冒頭には「1860年の夏の日曜日、パリの金物商デュフール氏は妻と義母と娘と未来の婿養子アナトールを連れて隣の牛乳屋から借りた馬車でピクニックに出かけた」というのが字幕が出ますが、これは未完の作品だから、説明的にこうした字幕が付いているのでしょう(DVD版は、40分(内、オリジナルは35分)の本編に86分の「NG集」と15分の「リハーサル」が付いている)。

ジャン・ルノワール「ピクニック」('36年/仏)

ジャン・ルノワール「ピクニック」2.jpg レストランを見つけた金物商(アンドレ・ガブリエロ)の一行は、そこでピクニックを楽しむことにし、レストランにはボート遊びに来たアンリ(ジョルジュ・ダルヌー)とルドルフ(ジャック・B・ブリピクニックqN.jpgュニウス)がいて、アンリはブランコをこぐ娘アンリエット(シルヴィア・バタイユ)に魅了され、父親と婿養子が釣りに行っている間に、ルドルフと共にアンリエットとその母親(ジャーヌ・マルカン)をそれぞれボートに誘い出して別々のボートで川に漕ぎ出し、陸に上がってそれぞれが関係を持つ―。

ルノワール「ピクニック」.jpg 数年後、アンリが思い出の場所を訪れるとアンリエットがいて、その傍らには夫となったアナトールが寝ている。二人は、お互いを忘れたことがないという短い会話を交わすが、アナトールが起きたために別れる―。

 映画では、夫婦であるアンリエットとアナトールが最後ボートで去っていく時に、ボートを漕いでいるのが女性であるアンリエットの方であったりと(逞しいアンリに比べアナトールはヤサ男)、原作のアイロニーを更に強めている感もありますが、一方で、映像化するピクニックain.jpgことによってどろっとしてしまいそうな話(考えてみれば結構エロチックな話でもある)を、父オーギュスト・ルノワールの印象派絵画をそのまモノクロ映像したような光と影の映像美で包み込み、美しく仕上げています(ヒロインのアンリエットを演じたシルヴィア・バタイユは哲学者で『眼球譚』の作者でもあるジョルジュ・バタイユの妻)。

ジャン・ルノワール「ピクニック」タイトル.bmp 映画にしてしまうとストーリーにはやや物足りなさもありますが(これでも短編である原作を相当膨らませてはいる)、ジャン・ルノワール自身、自伝の中でこの作品について、「私にとって理想は、まったく主題のない、ひとえに監督の感覚に基づく、その感覚を俳優たちが一般公衆にわかる形に表現してみせた、そんな映画であった」と述べているように(「水」抜きの映画など、私には考えられないとも言っている)、こうした映像美の追求ががこの作品の最大の狙いだったのかも知れません。
Le Plaisir/Le Plaisir (DVD, 2008, Criterion Collection)
Le Plaisir.jpgLE PLAISIR 1952.jpg快楽 ポスター.jpg「快楽」●原題:LE PLAISIR●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:マックス・オフュルス●脚本:ジャック・ナタンソン/マックス・オフュルス●撮影:クリスチャン・マトラ/フィリップ・アゴスティニ●音楽:ジョエ・エイオス●原作:ギ・ド・モーパッサン「仮面」「メゾン テリエ」「モデル」●時間:99分●出演:クロード・ドーファン/ガビ・モルレ/マドレーヌ・ルノー/ジネット・ルクレール/ダニエル・ダリュー/ピエール・ブラッスール/ジャン・ギャバン/ジャン・セルヴェ/ダニエル・ジェラン/シモーヌ・日仏会館03.png日仏会館 旧建物 お茶の水 1960~1995.jpg池坊お茶の水学院.jpgシモン●日本公開:1953/01●配給:東宝●最初に観た場所:御茶ノ水・日仏会館(79-04-26)(評価:★★★) 旧・日仏会館 1960(昭和45)年、現JRお茶の水駅付近に竣工、1995(平成7)年閉館(現、池坊お茶の水学院)、恵比寿へ移転
 
ジャン・ルノワール「ピクニック」dvd.jpgピクニックelle.jpg「ピクニック」●原題:PARTIE DE CAMPAGNE●制作年:1952年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン・ルノワール●製作:ピエール・ブロンベルジェ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:ジョゼフ・コスマ●原作:ギ・ド・モーパッサ「野あそび」●時間40分●出演:シルヴィア・バタイユ/ジョルジュ・ダルヌー(ジョルジュ・サン=サーンス)/ジャック・B・ブリュニウス/アンドレ・ガブリエロ/ジャーヌ・マルカン/ガブリエル・ファンタン/ポール・タン●日本公開:1977/03●配給:フランス映画社●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(80-02-15)(評価:★★★★)●併映:「素晴しき放浪者」(ジャン・ルノワール)
ジャン・ルノワール「ピクニック [DVD]

【1940年文庫化・1976年改版[岩波文庫(『メゾン テリエ 他三編』(河盛好蔵:訳))]/1951年再文庫化[新潮文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(青柳瑞穂:訳))]/1955年再文庫化[角川文庫(『メーゾン・テリエ―他三篇』(木村庄三郎:訳))]/1971年再文庫化[講談社文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(新庄嘉章:訳))]】

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「黄粱一炊の夢」乃至「胡蝶の夢」。自殺した妻との邂逅は「惑星ソラリス」へのオマージュか。

インセプション チラシ.jpg インセプション dvd.jpg       マトリックス dvd.jpg      惑星ソラリス dvd.jpg
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インセプション2.jpg 人の夢に入り込むことでアイデアを"盗み取る"産業スパイ・コブ(レオナルド・ディカプリオ)に、大企業のトップ・サイトー(渡辺謙)が、ライバル企業の社長の息子ロバート(キリアン・マーフィー)に父親の会社を解体させるアイデアを"植えつける(インセプション)"仕事を依頼する。自殺した妻モル(マリオン・コティヤール)殺害の容疑をかけられ子供に会えずにいたコブは、犯罪歴抹消と引き換えに仕事を引き受けることにし、コブ及びサイトーに、コブの仕事仲間のアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)、夢の世界の「設計士」アリアドネ(エレン・ペイジ)、ターゲットの思考を誘導する「偽装師」イームス(トム・ハーディ)、夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」ユスフ(ディリープ・ラオ)の4人を加えた計6人で、ロバートの夢の中に潜入する―。

Inception(2010).jpgInception.jpg 最初は6人がこれからやろうとしていることの説明(理屈)が多くてややダルかったけれども、実際に夢への潜行が始まると、「夢」から「夢の中の夢」に、更に「夢の中の夢の中の夢」に降りて行くという発想が面白く、思いつかないことでもないけれど、よくこれを「お話」にして「映像化」したものだと―(突っ込み所は多いのだが)。
Inception(2010)
                  
インセプション1.jpg 実際に夢の第1階層(雨のL.A.)、第2階層(ホテル)、第3階層(雪の要塞)のそれぞれで繰り広げられるのは、カーチェイスだったり銃撃戦だったりと定番のアクションなのだけれど(敵はロバートの潜在意識に既にインセプションされているライバル企業側の輩)、下の階層に行くにつれて相対的に上の層より時間の流れが遅くなり、その分だけ時間稼ぎ出来るといった着想などはなかなか秀逸ではないかと思われ(「黄粱一炊の夢」「邯鄲の夢」の"二乗"ということか)、ラストも、コブは本当に現実世界に戻ってきたのか、ちょっと気を持たせる終わり方でした(この辺りはむしろ「胡蝶の夢」か)。
                  
マトリックス 映画.jpg 仮想現実世界での戦いと言えば、ウThe Matrix(1999).jpgォシャウスキー兄弟の「マトリックス」('99年/米)を想起しますが、ストーリー的にはこっちの方が凝っているのでは。但し、「マトリックス」は、シリーズを通してファッションの方に凝っていて、夢と現実世界を結ぶのが"公衆電話"や"黒電話"であるなどというキッチュな味付けもありましたが、それに比べると「キック」というのはやや原始的。物理的な衝撃によって眠り(夢)から覚めるというのは、オーソドオクスと言えばオーソドオクスなんだけど。
The Matrix(1999)

 全体としては、いろんなものを詰め込み過ぎた(オタク系でもあり恋愛系でもある)「マトリックス」よりも、ストレートなアクション系に近いこっちの方が好みですが、いっそのこと、"亡き妻への追慕"といったモチーフも織り込まないで、「夢の階層構造」のみを中心モチーフに据えたアクションに徹しても良かったように思います。

惑星ソラリス1.jpg 映像面でスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」('68年/米)や、アンドレイ・タルコフスキー作品へのオマージュが見られますが、モチーフとして特に似ているのはタルコフスキーの「惑星ソラリス」('72年/ソ連)ではないでしょうか。

「惑星ソラリス」のナタリア・ボンダルチュク(「戦争と平和」の監督セルゲイ・ボンダルチュクの娘)とドナタス・バニオニス

 「惑星ソラリス」の宇宙飛行士であり科学者でもある主人公(ドナタス・バニオニス)は、"意識を持つ"惑星ソラリスを調査する中で、ソラリス惑星ソラリスSOLARIS 1972.jpgが主人公の記憶の中から再合成して送り出してきた「かつて自殺した妻」(ナタリア・ボンダルチュク)と邂逅し(「インセプション」も同じ)、その仮想現実世界の虜囚とWakusei Solarisu (1972).jpgなってしまうのですが、クリストファー・ノーランは、どうしてもあの作品のモチーフを使いたかったのでしょうか。

 「惑星ソラリス」はタルコフスキーの中でも最も有名な作品ですが、観る前の期待が大きかったのに反して、前半は何となく通俗ドラマ調で、後半になると哲学的で難解なためやや退屈しました(自分には合わなかった作品? 個人的には「鏡」('75年/ソ連)の方が好み)。ラストもイマイチあっけないものでしたが("解"を示さない終わり方)、そうした思わせぶりも「インセプション」と似ていて、「インセプション」には、「惑星ソラリス」へのオマージュが相当に込められているように思われました。

Wakusei Solarisu (1972)

インセプション 富士川.jpg 「インセプション」には、700系新幹線「のぞみ」が富士川鉄橋を走る映像が出てきますが、「惑星ソラリス」では、未来都市のイメ惑星ソラリスSolaris-Highway-Scene-Tokyo-640x277.jpgージとして、首都高速道路の赤坂トンネル付近を走行するクルマの車内から見た映像があり、こうした日本からの素材の抽出なども「惑星ソラリス」を意識しているのではないかと思いました。
Solaris-Highway-Scene-Tokyo
 
「インセプション」 クリストファー・ノーラン.jpgインセプション マリオン・コティヤール.jpg「インセプション」●原題:INCEPTION●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クリストファー・ノーラン●製作:エマ・トーマス/クリストファー・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスインセプション 映画.jpgター●音楽:ハンス・ジマー●時間:148分●出演:レオナルド・ディカプリオ/渡辺謙/キリアン・マーフィー/トム・ベレンジャー/マイケル・ケイン/マリオン・コティヤール/ジョセフ・ゴードン=レヴィッド/エレン・ペイジ/トム・ハーディー/ディリープ・ラオ/ルーカス・ハ―ス/ロバート・フィッシャー/キリアン・マーフィ●日本公開:2010/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)
             
THE MATRIX title.jpgマトリックス チラシ.jpg「マトリックス」●原題:THE MATRIX●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ウォシャウスキー兄弟(アンディ・ウォシャウスキー/ラリー・ウォシャウスキー)→ウォシャウスキー姉弟(アンディ&ラナ(性転換前はラリー)・ウォシャウスキー)●製作:ジョエル・シルバー●撮影:ビル・ポープ●時間:136分●出演:キアヌ・リーブス/ローレンス・フィッシュバーン/キャリー=アン・モス/ヒューゴ・ウィービング/グローリア・フォスター/ジョー・パントリアーノ/マーカス・チョン/ジュリアン・アラハンガ上野東急 場所.jpg上野東急1.jpg上野東急2.jpg/マット・ドーラン/ベリンダ・マクローリー/レイ・パーカー●日本公開:1999/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:上野東急(99-10-11)(評価:★★☆)
上野東急 1957年1月19日「上野東急」オープン、1981年10月休館。1982年12月4日「上野とうきゅうビル」に建て替えられ、3階に「上野東急」、1階に「上野東映」(1998年3月「上野東急2」に改称)の2館体制で再オープン。2012年4月30日「上野とうきゅうビル」解体により閉館。

惑星ソラリス パンフレット.jpg惑星ソラリスs.jpg「惑星ソラリス」●原題:SOLARIS●制作年:1972年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アンドレイ・タルコフスキー/フリードリッヒ惑星ソラリス チラシ.jpg・ガレンシュテイン●撮影:ワジーム・ユーソフ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●原作:スタニスワフ・レム「ソラリス」(「ソラリスの陽のもとに」)●時間:165分●出演:ナタリア・ボンダルチュク/ドナタス・バニオニス/ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー/アナトーリー・ソロニーツィン/ソス・サルキシャン/ユーリー・ヤルヴェト/ニコライ・グリニコ/タマーラ・オゴロドニコヴァ/オーリガ・キズィローヴァ●日本公開:1977/04●配給:日本海映画●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-05-29)(評価:★★★) 「惑星ソラリス」1977年岩波ホール公開時パンフレット

鏡 Blu-ray.jpg鏡 パンフレット.jpg「鏡」●原題:ZERKALO●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:アンドレイ・タルコフスキー●脚本:アレクサンドル・ミシャーリン/アンドレイ・タルコフスキー●撮影:ゲオルギー・レルベルグ●音楽:エドゥアルド・アルテミエフ●挿入詩:アルセニー・タルコフスキー●時間:108分●出演:マルガリータ・テレホワ/オレーグ・ヤンコフスキー/イグナト・ダニルツェフ/フィリップ・ヤンコフスキー/アナトーリー・ソロニーツィン●日本公開:1980/06●配給:日本海映画●最初に観た場所:岩波ホール (80-07-03) (評価:★★★★★  「鏡 Blu-ray」['13年]

「鏡」 1980年岩波ホール公開時パンフレット

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テーマ曲「コーリング・ユー」がよく、"情"の世界を描いているのにカラっと乾いている。

バグダッド・カフェ.jpg バグダッド・カフェ dvd.jpg  バグダッド・カフェ blueray.jpg    『バグダッド・カフェ』(1987).jpg
バグダッド・カフェ 完全版 [DVD]」「バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版 Blu-ray

バグダッド・カフェ1.jpg 独ローゼンハイムから米国に旅行に来ていた中年夫婦はラスベガス近郊でケンカとなり、夫(ハンス・シュタードルバウアー)は妻ジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)をハイウェイの途中に置いて行ってしまう。ジャスミンは大きなトランクを抱えて砂漠を歩き、寂れたモーテル兼カフェ兼ガソリンスタンド「バグダッド・カフェ」に辿り着くが、カフェの女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)も夫婦ゲンカをして夫を追い出したばかりで、息子や娘は勝手気ままで母親を手伝おうともしない。そこにステイすることにしたジャスミンは、勝手に店を掃除してしまうなどし、そうした彼女の振る舞いが気に入らないブレンダは最初の内は彼女を嫌うが―。

 '87年の西ドイツ映画ですが、'89年に渋谷のシネマライズで公開され、じわじわとヒット、'94年には完全版がリヴァイバル上映され、更に'08年に、パーシー・アドロン監督が全てのカットの色と構図を調整し直した「バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版」が製作され、日本でも'09年にユーロスペースなどで公開、'10年にはそのブルーレイ版が販売されるなど、根強い人気の作品です。

 先ず、ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」がよく、砂漠に佇むカフェという一見無機質に思えるような設定とマッチしていて、更に、その中で繰り拡げられる緩やかな流れの人間ドラマともマッチしています。

バグダッド・カフェ3.jpg 「バグダッド・カフェ」(奇妙な名前だが、ルート66沿いに実在するモーテルの名)には、女主人ブレンダ(CCH・パウンダーが好演。ギアナ出身の英国育ちで、今でこそ米国の映画やTVドラマなどでお馴染だが、当時はこれが映画での初の大役)のほかに、日々虚無的に夜遊びに明け暮れる娘、カウボーイ気取りの売れない画家、ピアノの弾けないピアニストなどが集い、そこはまるで社会の吹きだまりのような場所です(ローザ・フォン・プラウンハイムの「ベルリンブルース」('86年/西独)にも通じる"西ドイツ"映画っぽい雰囲気)。

「バグダッド・カフェ」.jpg そこにある時から滞在することになった太っちょの外国人女性ジャスミンによってそうした人々皆が癒されていく過程が、劇的な出来事を挿入しているわけでもないのに、旨く描かれています(ジャスミンを演じるマリアンネ・ゼーゲブレヒトはあまり喋らないが、存在感があってその印象は強烈)。そしてやがては、ジャスミンに皆の人気が集まるのを嫉妬していた女主人ブレンダも―。

バグダッド・カフェ2.jpg 労働許可証を持っていないため強制送還されたジャスミンが、再びこの地を訪れブレンダと再会する場面は感動的ですが、老画家ルディのジャスミンによせる恋心(「シェーン」の敵役、故ジャック・パランスが好演)もほのぼのとしたタッチで描かれていて、最後はロマンチックな方法で彼女の労働許可証の問題を解決します。

 "友情"や"愛情"など色々な意味での"情"の世界を描いたという点では日本的な雰囲気もあり、その辺りが日本でも大いに受けた理由かも知れませんが、バックグランドが、まさにこの映画に出てくる砂漠や突き抜けるような青空のようにカラッとしていて、この透明感がまたいいのでしょう(日本映画に通じるものがあっても、日本ではこういう作品は撮れないだろうなあ)。

BAGDAD CAFE 1.jpg『バグダッド・カフェ』(1987)2.jpg "ロード・ムービー"ならぬ"ロードサイド・ムービー"。その"ロードサイド"にあったのは、"血縁"に拠らない「心の家」「アナザー・マイホーム」だったといった感じでしょうか。癒されたい気分の時に観るのにお奨めです。
Out of Rosenheim(1987)
Out of Rosenheim(1987).jpg
バグダッドカフェ.jpg「バグダッド・カフェ」●原題:BAGDAD CAFE(OUT OF ROSENHEIM)●制作年:1987年●制作国:西ドイツ●監督:パーシー・アドロン●製作・脚本:パーシー・アドロン/エレオノーレ・アドロン●撮影:ベルント・ハインル●音楽:ベルント・ハインル●時間:91分●出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー/ジャック・パランス/クリスティーネ・カウフマン/モニカ・カローン/ダロン・フラッグ/ジョージ・アキラー/G・スモーキー・キャンベル/ハンス・シュタードル●日本公開:1989/03●配給:KUZUIエンタープライズ●最初に観た場所:シネマライズ渋谷(地階) (89-03-05) ●2回目:シネマライズ 渋谷(地階)(89-03-12) (評価★★★★☆)
シネマライズ2.jpgシナマライズ 地図.jpgシネマライズ渋谷1986年6月、渋谷スペイン坂上「ライズビル」地下1階に1スクリーン(220席)でオープン。1996年、2階の飲食店となっていた場所に2スクリーン目を増設。「シネマライズBF館」「シネマライズシアター1(後のシネマライズ(2F))(303席)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「(元)シネマライズ渋谷」2010年6月20日閉館(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館、地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館

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B級っぽい単純明快さ、血沸き肉躍り、かつホロリとさせる「カリフォルニア・ドールズ」。

「カリフォルニア・ドールズ」.jpgTHE CALIFORNIA DOLLS.jpg  カリフォルニア・ドールス.jpg   ベルリン・天使の詩.png
「カリフォルニア・ドールズ」[VHS](廃版)/チラシ「ベルリン・天使の詩【字幕ワイド版】[VHS]

ピーター・フォーク.jpg ピーター・フォークが今月('11年6月)23日、ロサンゼルス近郊ビバリーヒルズの自宅で亡くなったという報に接しました。83歳だったとのことですが、以前からアルツハイマー症であることが伝えられており、心配していたのですが...。

ピーター・フォーク2.jpgカリフォルニア・ドールズ 00.jpg ピーター・フォークと言えば、70年代と90年代の2期にわたっての「刑事コロンボ」のTVシリーズが代表作でしょうが、一部の新聞の訃報で、代表的な出演映画にロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)とヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン/天使の詩」('87年/西独・仏)が並んで紹介されていました。 「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)

カリフォルニア・ドールズ4.jpg 「カリフォルニア・ドールズ」(原題:...All the Marbles)は、アメリカの女子プロレスの世界を描いた作品で、さえない女子プロレスのタッグである、黒髪のアイリス(ヴィッキー・フレデリック)と金髪のモリー(ローレン・ランドン)の「カリフォルニア・ドールズ」のプロモーター、エディ役をピーター・フォークが好演。「ドールズ」はアウェイでの負けが仕組まれた試合で勝ってしまい、世間からも興行界からも批判に晒されるが、そこへ一発逆転をもたらすようなチャンスが巡って来る―。

カルフォルニア・ドールズ1.jpgカリフォルニア・ドールズ」.jpg ピーター・フォーク演じるプロモーターと「ドールズ」との心の通い合いが結構泣けて、こてこてのアメリカ映画でありながら、どことなく日本の人情噺的な雰囲気もある作品です。

 因みに、ラストミミ萩原 カリフォルニア・ドールズ.jpgのクライマックスで使われる大技ローリング・クラッチ・ホールド(回転エビ固め)は、2人が日本人レスラーとの対戦で、ミミ萩原(女子レスラー役で出演)の得意技を倣って自分らの決め技にしたものです(実際の日本での試合のテレビ中継では、ミミ萩原がこの技を繰り出すと、アナウンサーの志生野温夫が「ミミの十八番!!」と叫びながら実況していた)。

ミミ萩原 in「カリフォルニア・ドールズ」

 プロモーターのエディもレフェリーを買収していたりとか、ドールズの応援歌を作ってオルガン奏者を買収して演奏させたりとか、何でもありの世界なのですが、ラストの大一番に敗れた敵役の相手方のタッグもドールズの勝利を讃えるなど、基本的に根っからの悪い人は主要登場人物の中にはいなかったという印象で、後味は爽やかでした。

 この作品がアルドリッチの遺作になってしまいましたが、 「ロンゲスト・ヤード」(' 74年/米)などで男臭い世界を描いて定評のあったアルドリッチ監督の遺作が、若い女子プロレスラーたちが主人公の作品であるというのも、意外と言えば意外かもしれないし、スポ根っぽい点がアルドリッチらしいと言えばらしいかもしれません。。

ピーター・フォーク ベルリン・天使.jpgベルリン・天使の詩1.jpg ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン/天使の詩」は、人間になりたがっている天使ダミエル(ブルーノ・ガンツ)がサーカスの舞姫に恋をするというファンタジックなストーリーでしたが、映画俳優のピーター・フォーク(本人役を演じている)がベルリンに撮影のためやって来ていて、子供にしか見えないはずの天使が、どういうわけか彼には見えるらしい―。

東京画toukyouga 04.jpgヴィム・ヴェンダース.jpg 映画は、「全てのかつての天使、特に小津安二郎、フランソワ、アンドレイに捧ぐ」というクレジットで締め括られており(ヴェンダースは'85年に小津安二郎へのオマージュとも言えるドキュメンタリー映画「東京画」を撮っている。また、'07年のインタビューで「今ならロベール・ブレッソンとサタジット・レイを必ず加える」と述べている)、日比谷シャンテ・シネの興業記録をうちたてたほどブームになった映画でしたが、ヴェンダースのファンが日本にそんなにいたのかと、当時はやや不思議に思いました。ピーター・フォークという親しみのある俳優が出ていて、ユーモアと芸術映画っぽい雰囲気を兼ね備えた作品であることに加えて、映画公開の半年前の'87年10月にオープンした日比谷シャンテが、デート・スポットとして新鮮かつ手頃だったという要因もあったのではないかと思います。

パリ、テキサス  .jpg 「ベルリンの壁」崩壊の数年前に作られた作品で、「壁」がロケ地にも使われ、映画の中でも象徴的な役割を果たしていますが、やや高踏的かなあ。個人的には、ナスターシャ・キンスキーを使った「パリ、テキサス」('84年/仏・西独)の方が好みでした。「ベルリン/天使の詩」は芸術作品として国際的評価も高かったですが、「パリ、テキサス」のナスターシャ・キンスキー以上に、この作品のピーター・フォークは、"客演"という感じがあり、彼の"正体"にもやや唐突感を覚えました。

 ピーター・フォークの代表的出演作として「ベルリン・天使の詩」を紹介していて、「カリフォルニア・ドールズ」を紹介していない新聞もありましたが、追悼作品として観るのであれば、B級作品っぽい単純明快さ、カリフォルニア・ドールズ シアターN.jpg血沸き肉躍り、かつホロリとさせる場面もある「カリフォルニア・ドールズ」の方が、自分としてはお薦め。但し、本邦においては楽曲の著作権関係によりDVD化されていないのが難でしょうか(2012年に吉祥寺バウスシアター、渋谷シアターNでリバイバル上映され(シアターNはクロージング上映)、2015年にDVD化された)

「カリフォルニア・ドールズ」予告

...All the Marbles(1981)
All the Marbles(1981).jpgカリフォルニア・ドールズ 00.jpg「カリフォルニア・ドールズ」●原題:...All THE MARBLES a.k.a. THE CALIFORNIA DOLLS●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:ウィリアム・アルドリッチ●脚本:メル・フローマン●撮影中野武蔵野ホール.jpg:ジョセフ・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォール●時間:113分●出演:ピーター・フォーク/ヴィッキー・フレデリック/ローレン・ランドン/バート・ヤング/クライド・クサツ/ミミ萩原●日本公開:1982/06●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(83-02-06)(評価:★★★★)●併映「ベストフレンズ」(ジョージ・キューカー)

TOHOシネマズ・シャンテ.jpg日比谷シャンテ・ シネ.jpg 「ベルリン/天使の詩」●原題:DER HIMMEL UBER BERLIN●制作年:1987年●制作国:西ドイツ/フランス●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作:ヴィム・ヴェンダース/アナトール・ドーマン●脚本:ヴィム・ヴェンダース/ペーター・ハントケ●撮影:アンリ・アルカン●音楽:ユルゲン・クニーパー●時間:127分●出演:ブルーノ・ガンツ/ソルヴェーグ・ドマルタン/オットー・サンダー/クルト・ボイス/ピーター・フォーク●日本公開:1988/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:日比谷シャンテ・ シネ2(88-05-05)(評価:★★★)
日比谷シャンテ・シネ 1987年10月3日、日比谷映画跡地に2スクリーンで開館。1995年~3スクリーン。2009年2月~「TOHOシネマズ シャンテ」に館名変更。

日比谷映画劇場5.jpg日比谷シャンテ03.jpg日比谷映画劇場(日比谷映劇)(1984年10月31日閉館)と日比谷シャンテ入口(日比谷映劇のデザインを一部模している)

 

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「外套・鼻」ともに先駆的。「外套」はロシアでは映画やアニメに。「鼻」もアニメやオペラに。

外套・鼻 岩波文庫.gif外套 岩波文庫 2.jpg 外套 ポスター.png 外套 バターロフ 1シーン.jpg アレクセイエフ 鼻.jpg 
外套・鼻 (岩波文庫)』/ソ連映画アレクセイ・バターロフ「外套」チラシ・1シーン/アレクサンドル・アレクセイエフ「鼻」

 下級官吏アカーキイ・アカーキエヴィッチ・バシマチキンは、出世栄達に無関係の世界で、周囲から蔑まれながらも役所仕事(文書の清書)に精を出す男で、傍から見れば冴えないその服装や外見も自身は気にとめていない。そんな彼がある日、着古した外套を新調せざるを得なくなり、最初は面倒に思った彼だったが、一念発起して新しい外套を手に入れた時からその人生観は変わり、それまで関心のなかった役所以外のニコラーイ・ヴァシーリヴィチ・ゴーゴリ(Nikolai Gogol).jpg世界も、外套と同様にきらきら輝いたものに見えてきたのだった。ところがその矢先―。

 「外套」はニコライ・ゴーゴリ(1809- 1852)の中編小説で、1840年に書かれ1842年に発表された作品。ある種"怪奇譚"でもあるこの作品の結末を知る人は多いと思います。

ニコラーイ・ヴァシーリヴィチ・ゴーゴリ(Nikolai Gogol)

 うだつの上がらない九等書記官を主人公に、疎外された人間の哀しみをペーソスたっぷりに、時にユーモアと怪奇を交えて描いていますが、やはり、それまで貴族社会を舞台にした小説が多かったロシアで、既存の小説の主人公のイメージとは程遠い、平々凡々たる下級官吏を主人公に据えたところが画期的だと思います。

 ドストエフスキーがこの作品に大きな影響を受けたとされており、処女作「貧しき人々」の発表は1846年、主人公のマカールは同じく九等書記官の小役人ですが、「外套」発表時、ドストエフスキーは既に「貧しき人々」に着手しており、「貧しき人々」の直後に発表した「二重人格」(「分身」)の方が、より強くゴーゴリの「外套」の影響を受けているように思えます(「二重人格」の主人公は九等文官、人間疎外から狂気に陥る)。

 また、トルストイも影響を受けているように思います。黒澤明監督が映画「生きる」の着想を得たとされている「イワン・イリッチの死」の主人公は、比較的裕福な出自のロシアの裁判官で、順調に出世していた中で突然の病に臥すという、設定はやや異なりますが、アカーキイと同じく公務員であることには違いありません。

 この「イワン・イリッチ」という名前は、「イワン・イリイチ」と呼ぶのが原語の発音に近いらしく(光文社古典新訳文庫の望月哲男氏の訳はそうなっている)、韻を踏んでいるのは役人のルーティン・ワークを象徴しているとされていますが、ならば、同じようなことを先にやったのは、この作品の主人公に「アカーキイ・アカーキエヴィッチ」と名付けたゴーゴリではなかったかと思われます。

 併録の「鼻」(1836年発表)のシュール且つナンセンスな感覚も面白く、今で言えば安部公房や筒井康隆がやっていたようなことを、150年も前にやってしまっているというのは、考えてみればスゴイことかも。

外套 輸入盤dvd.jpg外套 02.png 「外套」の方は、本国で何度か映画化されていて、「小犬を連れた貴婦人」('59年/ソ連)に俳優として出演していたアレクセイ・バターロフ(1928年生まれ)監督の作品('60年/ソ連)を観ましたが、原作に沿ってきっちり作られていて、作品全体としては悪くない出来だと思いました。但し、一方で、バシマチキン(アカーキイ)の人物造型はやや"戯画的"に描かれ過ぎていてるようにも思いました(一番劇画チックなのは、彼が幽霊になってからだが)。

「外套」輸入盤DVD

外套01.jpg まあ、原作がそもそも"戯画的"な性格を持っているというのはあるのですが、ペーソスより滑稽と怪奇の方が勝ち過ぎている気もしました。主演のロラン・ブイコフの演技の評価は高「外套」(実写版).jpgいですが、「名演技」であることには違いないですが、個人的印象としては「怪演」であるとも言えるように思います。ベタなウェット感を拭い去ることによって、最終的には逆にペーソスを引き出そうというのが狙いだったのかもしれませんが。

「外套」(実写版)●原題:Шинель(SHINELI)●制作年:1959年(公開:1960年)●制作国:ソ連●監督:アレクセイ・バターロフ●脚本:L・ソロヴィヨフ●撮影:ゲンリフ・マランジャン●音楽:ニコライ・シレリニコフ●原作:ニコライ・ゴーゴリ「外套」●時間:75分●出演:ロラン・ブイコフ/ユーリー・トルベーエフ/A・エジキナ●日本公開:1974/03●配給:日本海映画●最初に観た場所:池袋・文芸坐 (79-11-14)(評価:★★★☆)●併映:「開かれた処女地」(アレクサンドル・イワノフ)

外套(制作中)2.jpg外套(制作中)1.jpg外套 ノルシュテイン 作業風景.jpg この作品はまた、「霧の中のハリネズミ」「話の話」などで知られ、アレクセイ・バターロフとも親交のあるアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン(Yuriy Norshteyn、1941年生まれ)によってアニメ化もされています。
外套 ノルシュテイン 原画展ポスター 2009年10月 .jpg ユーリー・ノルシュテインは「老人と海」のアニメーションでアカデミー賞を受賞したアレクサンドル・ペトロフ(Alexander Petrov 、1957年生まれ)とは師弟関係にあり、気が遠くなるような手作業で原画を描くことで両者は共通しています(「外套」は30年かけて未だ制作中!)。

 ユーリー・ノルシュテインのアニメ「外套 (YouTube)」もアレクサンドル・ペトロフのアニメ「老人の海 (YouTube)」も共にウェブで視聴可能です。ノルシュテインの「外套」は出来上がっているところまでですが、日本語字幕がついています。アカーキイが文書を清書するところを、書いている文字まで丹念に描いており、これを手作りでやっていれば確かに時間がかかるのも無理ないと思います(他の作品の制作の合間をぬっての作業のようであるし)。

ユーリー・ノルシュテイン「外套」原画展ポスター(2009年10月)

アレクサンドル・アレクセイエフ「鼻」(ゴーリキー原作).jpg 「鼻」の方は、「禿山の一夜」「展覧会の絵」で知られるアニメーション界の巨人アレクサンドル・アレクセイエフ(Alexandre Alexeieff、1901-1982)が短編アニメ映画化していて(「鼻」(1963))、この人の作品はピンスクリーンという手法で知られています(これまた、ボードに立てた「25万本の針」を出したり引っ込めたりして光を当てながら1コマ1コマ撮っていくという、気の遠くなるような時間のかかかる技法)。このアレクセイエフの「鼻」もウェブで視聴可能、音楽のみでセリフは無く、最後はややブラックなオチになっています。

 アレクサンドル・アレクセイエフは17歳でロシアを離れ、二度と戻ることがなかったロシアに対する憧憬や情念を抱えながらアメリカやフランスで制作活動を続けた人で、実際、制作した作品のうち3作品がムソルグスキーの音楽を題材にしたものであり、1作品がゴーゴリの小説を題材にしたこの作品となっています。
 この作品はまず、メトロノームの速度に合わせて映像を制作し、次に、映像に合うように音楽を制作したそうで、冒頭の太陽の光の変化により時間の流れを表現したり、空間や場面が変化していく様子など、ピンスクリーンでなければ描けない、独特のシュールな映像世界を作り上げています。

アレクサンドル・アレクセイエフ「鼻」(ゴーリキー原作)2.jpgアレクサンドル・アレクセイエフ作品集.jpg鼻 アニメ アレクセイエフ.jpg「鼻」(アニメ版)●原題:Le Nez (The Nose)●制作年:1963年●制作国:フランス●監督:アレクサンドル・アレクセイエフ●共同監督:クレア・パーカー●原作:ニコライ・ゴーゴリ「鼻」●時間:11分●DVD発売:2006/03●発売元:ジェネオン エンタテインメント(評価:★★★★)
ニュー・アニメーション・アニメーションシリーズ アレクサンドル・アレクセイエフ作品集 [DVD]
(33年制作「禿山の一夜」、63年制作「鼻」、72年制作「展覧会の絵」ほか全5編)

 実写版でも映画化されているのかなあ。教会で"鼻"が何食わぬ様子でお祈りしていたり、その鼻に向かって持主が自分の顔に戻るよう説得するというぶっ飛んだ場面などは(アレクセイエフのアニメは、その時ですら主人公が鼻の無い顔を隠しているのが可笑しい)、少なくとも実写では無理だと思うけれど...と思っていたら、ショスタコーヴィチが作曲家自身及びエヴゲーニイ・ザミャーチン、ゲオルギー・イヨーニン、アレクサンドル・プレイスの台本でオペラにしていることを知りました(タイトルはそのものずばり「鼻」)。
ショスタコーヴィチのオペラ「鼻」.jpg これまでにロシアやヨーロッパのオペラハウスでは何度も上演されているようです(初演は1930年1月18日、レニングラード、マールイ劇場) 。

オペラ「鼻」(チューリッヒ歌劇場の公式サイトより)


【1933年文庫化[岩波文庫(『外套―他二篇』)]/1938年再文庫化・1965年・2006年改版[岩波文庫(平井肇:訳)]/1999年再文庫化[講談社文芸文庫(吉川宏人:訳)]/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(『鼻/外套/検察官』浦雅春:訳)]】

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3監督のオムニバス。コアなファンがいてもおかしくない雰囲気はある。

世にも怪奇な物語 dvd.jpg  世にも怪奇な物語 ポスター.jpg  世にも怪奇な物語 輸入版dvd.jpg
世にも怪奇な物語 HDニューマスター版 [DVD]」/ポスター/輸入版DVD 
世にも怪奇な物語 1-1.jpg世にも怪奇な物語 ジェーン・フォンダ.jpg エドガー・アラン・ポーの怪奇小説3作を基に、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニの3監督が共作したオムニバス映画。一応、全体のトーンはゴチック・ホラーですが...。

 第1話「黒馬の哭く館」(ロジェ・ヴァディム監督) 若くして莫大な財産を相続し、我儘放題に暮らす伯爵家の娘フレデリック(ジェーン・フォンダ)は、ある日、親族で唯一彼女を批判して憚らない男爵ウィルヘルム(ピーター・フォンダ)に偶然助けられたことで彼に一目惚れし、彼を誘惑しようとするが、男爵は彼女の誘い世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)2.jpgには乗らず、プライドを傷つけられた彼女は家臣に命じて男爵の厩に火をつけさせる。愛馬を助けようとした男爵は焼死し、ショックを受けた彼女は、火事の後にどこからともなく現れた黒馬に癒しを求める―。

ロジェ・ヴァディム.gif ロジェ・ヴァディム監督による第1話は、ゴチックホラー調と次回作「バーバレラ」にも通じるセクシー&サイケデリック調の入り混じった感じで、詰まる所、ヴァディムが妻の美貌と伸びやかな肢体を獲りたかっただけのことかとも勘繰りたくなるくらいジェーン・フォンダがセックス・アピールしており、これ、純粋な意味での"ゴチック調"とはちょっと違うかも...。

第2話「影を殺した男」.jpg世にも怪奇な物語 影を殺した男1.jpg 第2話「影を殺した男」(ルイ・マル監督) 暴力で他の生徒らを支配する残忍な少年ウィリアム・ウィルソンが、ある時他の少年を苛めていると1人の転校生が近付いてきて、その少年もウィリアム・ウィルソンと名乗るが、彼は全てにおいてウィルソンより優れていた。ある夜、寝ていたその転校生をウィルソンは絞め殺そうとするが、途中で気付かれ放校処分に。数年後、医大に進んだウィルソン(アラン・ドロン)は若い女性を誘拐し、解剖を始めようとしていた―。

「影を殺した男」02.jpg世にも怪奇な物語 2.jpg アラン・ドロンがベッドに縛りつけた全裸女性を解剖しようとするシーンをルイ・マル監督が撮っているというのも驚きですが、むしろ、この第2話「影を殺した男」の方が、ポーの作品の雰囲気は出ていたかも知れず、青年になったウィルソンの、優(やさ)男の裏側に残忍さを秘めた二重人格者ぶりは、TV番組「デクスター」のよう。この場合、"二重人格"と言うより完全に"分身"(ドッペルゲンガー?)だけど。
 ウィルソン(アラン・ドロン)は、イカサマ賭博で手に入れた女(ブリジット・バルドー)を鞭打ち残酷な快楽に浸るというスゴい設定ながも、ドロンは好演しており、ドロン相手にトランプの賭けをする女賭博師ブリジット・バルドー(ロジェ・ヴァディムの元妻!)の演技も良くて、ジェーン・フォンダよりは演技しているという感じでした。

世にも怪奇な物語 悪魔の首飾り1.jpg 第3話「悪魔の首飾」(フェデリコ・フェリーニ監督) 落ちぶれたイギリス人俳優トビー(テレンス・スタンプ)は撮影のためイタリアへ飛ぶが、酒と麻薬で意識は混濁。そのトビーの前に度々現れるのは、少女の姿をした死神だった―。

世にも怪奇な物語 3.gif 第3話は、ストーリーよりも、フェリーニ監督の映像美が(美的と言うより意匠的なのだが)堪能できる作品。主人公の妄想に出てくる少女(死神)が、なぜ白い服を着て白いボールを持っているのかよく解りませんが、まあ、理屈よりも映像美...。
 テレンス・スタンプの出ようとしている映画が、キリストが西部の草原に降臨するという「カトリック西部劇」なるわけのわからない映画であることや、マスコミの取材攻勢を描いたところなどは「甘い生活」('59年)の雰囲気に繋がりますが、3作品の共通テーマが「死」であることからすると、締め括りに最も相応しい作品かも知れません。
世にも怪奇な物語 輸入版ポスター.jpg 一方で、これだけが時代背景が「現代」であることもあって、前2作とはトーンが異なる感じも(イタリア人監督ということもあるか)。
 ただ、神経質そうな主人公を演じるテレンス・スタンプの演技は悪くない、と言うか、かなり良かったように思います(アラン・ドロンより上か)。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ.jpg和田 誠 氏2.jpg 何れも「怪奇」な話であるけれども怖くはないという感じ。和田誠氏は『お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』('75年/文藝春秋)の中で、ロジェ・ヴァディムのパートは「耽美主義的映像が逆に小細工のようでいけなかった」とし、「通俗的にはルイ・マルが面白く、怖さや不思議さではフェリーニが圧巻」としています。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ

高田馬場東映パラス 入り口.jpg「世にも怪奇な物語」.jpg 高田馬場東映パラス(時々変わった作品を上映していた)で観て以来、10年以上もビデオにもならなかったので、もう見(まみ)えることはないと思っていたら、'99年にTV放映されビデオも発売、最近はCS放送で放映されたり、DVDにもなったりしていて、昨年('10年)は遂にデジタル・リマスター版が新宿武蔵野館で公開されました。

 3作とも、コアなファンがいてもおかしくない、カルトというか独特な雰囲気は確かにありました。考えてみれば、作風はマイナーでありながらも一応エドガー・アラン・ポーの原作に忠実に作られているわけだし、何よりも贅沢過ぎると言っていいくらい豪華な配役でもあることだし、実際そうなったから言うわけではないですが、リバイバル上映されてもおかしくない作品でした。

世にも怪奇な物語」 pos.jpg世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)1.jpg


「世にも怪奇な物語」●原題:HISTOIRES EXTRAORDINAIRES(TRE PASSI NEL DELIRIO)●制作年:1967年●制作国:フランス/イタリア●監督:ロジェ・ヴァディム(1話)/ルイ・マル(2話)/フェデリコ・フェリーニ(3話)●脚本:ロジェ・ヴァディム(1話)/パスカル・カズン(1話)/ルイ・マル(2話)/クレマン・ビドル・ウッド(2話)/ダニエル・ブーランジェ(1話、2話)/フェデリコ・フェリーニ(3話)/ベルナルディーノ・ザッポーニ(3話)●撮影:クロード・ルノワール(1話)/トニーノ・デリ・コリ(2話)/ジュゼッペ・ロトゥンノ(3話)●音楽:ジャン・プロドロミデス世にも怪奇な物語 1-2.jpg(1話)/ディエゴ・マ悪魔のような恋人2.jpgッソン(2話)/ニーノ・ロータ(3話)●原作:エドガー・アラン・ポー「メッツェンゲルシュタイン」(1話)/「ウィリアム・ウィルソン」(2話)/「悪魔に首を賭ける勿れ」(3話)●時間:121分●出演:ジェーン・フォンダ(1話)/ピーター・フォンダ(1話)/アラン・ドロン(2話)/ブリジット・バルドー(2話)/世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)0.jpgテレンス・スタンプ(3話)/サルヴォ・ランドーネ(3話)●日本公開:1969/07●配給:MGM●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(86-11-30)(評価:★★★☆)●併映:「白夜」(ルキノ・ヴィスコンティ)

高田馬場a.jpg高田馬場・稲門ビル.jpg高田馬場東映パラス 入り口.jpg高田馬場東映パラス 高田馬場・稲門ビル4階(現・居酒屋「土風炉」)1999年頃閉館

①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹 

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共演の男優・女優を追悼。シェイクスピアを下敷きにした見所多い(?)作品「禁断の惑星」。

禁断の惑星 dvd.jpg 禁断の惑星 英語ポスター.jpg 禁断の惑星 ポスター.jpg 昆虫型ミュータントがアダムス博士を襲う.jpg
禁断の惑星 [DVD]」「禁断の惑星」輸入版ポスター/日本版ポスター 「宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]
 
禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg 宇宙移民が行われている2200年代、アダムス機長が率いる宇宙船は、20年前に移住して消息を絶った移民団の捜索のために、惑星第4アルテアへ着陸するが、アルテア移民団の生き残りは、モービアス博士と、アルテアで誕生した彼の娘アルティラの2人と、博士が作った万能ロボット・ロビーだけだった。博士によれば、アルテアにはかつて高度に進化し、発達した科学を創り上げた先住民族が存在したが、原因不明の滅亡を遂げ、そして移民団も正体不明の怪物に襲われて自分達以外は死んでしまったという―。

「禁断の惑星」パンフレット

アン・フランシス_3.jpgForbidden Planet2.jpgForbidden Planet.jpg アダムス機長を演じたレスリー・ニールセンが昨年('10年)11月に亡くなった(享年84)のに続いて、アルティラを演じたアン・フランシスも今年('11年)1月に亡くなり(享年80)、寂しい限りです。TV番組「ハニーにおまかせ」('56年~)の私立探偵役のアン・フランシスも、「裸の銃(ガン)を持つ男」('86年)のレスリー・ニールセンも、この映画では2人とも20代でしょうか。この作品を観ると、永遠に2人とも若いままでいるような錯覚に陥ります。

禁断の惑星 名画座ミラノ2.jpg 「禁断の惑星」がシェイクスピアの「テンペスト」を下敷きにしていることはよく知られていて、最初に劇場(名画座ミラノ、すでに「名画座料金」ではなくなっていた)で観た時も、同時期の作品「宇宙水爆戦」('55年)などに比べてよく出来ているように思いました。

宇宙水爆戦1.jpg 「宇宙水爆戦」の方は結構キッチュ趣味と言えるかも。惑星間戦争で絶滅の危機にある星の異星人の科学者が、地球の科学者に協力を依頼するが、実はその星の指導者は地球を支配して移り住むことを企んでいた―というストーリーですが、最後、事件が一見落着したかと思ったら、宇宙船内に潜んでいた宇宙昆虫人間みたいなミュータントに襲われそうになるという―このとってつけたように出現するミュータントがポスターなどではメインになっていて、それだけストーリーは印象に残らないといことでしょうか。ストーリー的にも怪物キャラクター的にも、当時流行ったSFパルプマガジンの影響を強く受けているようです(そのこともキッチュ感に繋がる要因か。でもこのキッチュ感こそが、この作品の根強い人気の秘密かも)。

宇宙家族ロビンソン3.jpg 一方、「禁断の惑星」に出てくる有名キャラクターは万能ロボット「ロビー」で、これを参照したのが60年代に作られたテレビ番組「宇宙家族ロビンソン」に出てくるロボット(愛称:フライデー)だったりし、先駆的な要素も結構あったわけです(「宇宙家族ロビンソン」には外にも「宇宙水爆戦」も参考にしている箇所が幾つかある)。

刑事コロンボ 愛情の計算2.png刑事コロンボ 愛情の計算.jpg 因みに、このロボットは、「刑事コロンボ」の第23話「愛情の計算」('74年)にも"ゲスト出演"してロビーとフライデー.jpgおり(下半身の造りが二本脚から台座型に変わっている)、人工知能研所の所長である犯人のアリバイ作りに一役買っていますが、ロボットのキー・ボードを叩く手つきの大雑把さを見ると、ちょっと所長の代役をさせるには無理な感じも。

ロビー(「禁断の惑星」)とフライデー(「宇宙家族ロビンソン」)

 事件の鍵を握る天才少年の名は、スティーブン・スペルバーグで、これは勿論、コロンボ・シリーズ第3話「構想の死角」を撮ったスピルバーグ監督の名前をもじったもの。息子を庇う親心を利用して犯人を自白に追い込むというのは、後のフェイ・ダナウェイが犯人役を演じた第62話「恋におちたコロンボ」('93年)でもFaye Dunaway & Peter Falk.jpg恋におちたコロンボ2.jpg(こちらは娘を庇ってだが)使われましたが、真犯人ではないと分かっていながら拘束するのはいかがなものでしょうか(「恋におちたコロンボ」の脚本はピーター・フォーク自身が手掛けている)。但し、フェイ・ダナウェイの演技力はさすが。70年代のシリーズ作に比べ見劣りがする90年代のシリーズ作(特に後期作品)の中では、ひときわ映える名犯人役と言っていいのではないでしょうか。 Faye Dunaway & Peter Falk

アン・フランシス「死の方程式」「溶ける糸
死の方程式 アン・フランシス.jpg溶ける糸3 アン・フランシス.jpg 因みに「刑事コロンボ」シリーズに出たのはロボットだけではなく、アン・フランシスも「刑事コロンボ」の第8話「死の方程式」('72年)にロディ・マクドウォール(「猿の惑星」)演じる犯人の秘書兼愛人役で、第15話「溶ける糸」('73年)にレナード・ニモイ(「スタートレック」)演じる犯人に殺されてしまう看護婦役で出ているし、レスリー・ニールセンも、第7話の「もう一つの鍵」で、犯人である広告会社役員役のスーザン・クラークの恋人役で、第34話「仮面の男」('75年)で、元同僚のスパイに殺害される被害者役仮面の男2.jpg刑事コロンボ 仮面の男2.jpgで出ています。

レスリー・ニールセン 「仮面の男

 レスリー・ニールセンはこの頃もまだ二枚目俳優で(コメディ初出演は「フライング・ハイ」('80年))、「禁断の惑星」や「刑事コロンボ」の演技と「裸の銃(ガン)を持つ男」('88年)の演技を比べてみるのも一興でしょうか。コメディ俳優としてブレイクするきっかけとなった「裸の銃を持つ男」ではエリザベス女王裸の銃(ガン)を持つ男(1988).jpgをはじめフセイン大統領、ホメイニなど様々な人物をコケにし、「裸の銃を持つ男PART2 1/2」('88年)では当時のアメリカ大統領裸の銃(ガン)を持つ男2.jpgジョージ・ブッシュをコケにしています。「裸の銃を持つ男PART33 1/3 最後の侮辱」('94年)までプリシラ・プレスリー、ジョージ・ケネディ、O・J・シンプソンという共演トリオは変わらず和気藹々といった雰囲気でしたが、O・J・シO・J・シンプソンs.jpgンプソンは'94年に発生した元妻の殺害事件(「O・J・シンプソン事件」)の被疑者となってしまいました(刑事裁判で殺人を否定する無罪判決となったが、民事裁判では殺人を認定する判決が下った)。


Forbidden Planet3.jpg 「禁断の惑星」という作品は、ストーリーも凝っているように思われ、「テンペスト」をなぞるだけでなく、「イドの怪物」という精神分析的な味付けがされていて、ファーザー・コンプレックスがモチーフになっているように、フロイディズムの影響も濃く滲んでいます。
 また、ロボット・ロビーが博士に怪物の攻撃を止めるよう命じられても出来ないのは、アイザック・アシモフの「ロボット3原則」が下敷きになっているわけですが、この「ロボット3原則」は「ロボコップ」('87年/米)のラストなどにも援用されていたなあ。

 「禁断の惑星」も、時代ものSFパルプマガジンをそのまま映像化したような雰囲気はあるものの、それでいて結構おシャレな、レトロ・モダン感満載の"未来"像が楽しめるし、アン・フランシスがパルプマガジンの表紙そのままに超ミニで歩き回るし、この作品が実質的には映画デビュー作であるアダムス機長を演じたレスリー・ニールセンは、多分大多数の日本人がイメージしキャプテンウルトラ222.jpgている彼の演技とは全く異なる演技をしているし(昔の怪獣映画の宝田明や夏木陽介の感じ、乃至は、背景も含めると「キャプテンウルトラ」('67年)の中田博久の方がより近いか)、いろいろと見所が多い作品です(「なぜウチの中にビオトープがあるのか?」とか、突っ込み所も含めて)。

キャプテンウルトラ ハック2.jpg 尚「キャプテンウルトラ」にも、「宇宙警察パトロール隊」と共に「宇宙船シュピーゲル号」(なぜかドイツっぽい名前)に乗り込み、バンデル星人や怪獣たちと戦い続ける万能ロボット「ハック」が登場しますが、こちらは「ゴジラ」以来の日本の"伝統"か(この番組の制作城野ゆき.jpg会社は東映)、着ぐるみっぽいロボットでした。このシリーズは、脚本が番組放送に追いつかなくなった「ウルトラQ」と、その後継番組として構想されていた「ウルトラマン」との間の所謂「つなぎシリーズ」だったので、書割りのような背景からも察せられる通り、番組制作予算は限られていたようです。その後ウルトラ・シリーズでお決まりとなる"紅一点"の女性隊員は、ここでは「アカネ隊員」ですが、「ウルトラマン」で桜井浩子が演じた「フジ・アキコ隊員」、「ウルトラセブン」で菱見百合子が演じた「アンヌ隊員」と並んで、この「キャプテンウルトラ」で城野ゆきが演じた「アカネ隊員」キャプテンウルトラ」第9話42.jpgアカネ隊員s.jpgアカネ隊員3s.jpgアカネ隊員5s.jpgも、今もって人気があるようです(フジ・アキコ隊員、アンヌ隊員のいわば先輩格になるわけだが、1度だけコスプレっぽい服を着ていたことがある。「禁断の惑星」のアン・フランシスを意識したのか)。

「キャプテンウルトラ」第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」
 

禁断の惑星 11 アンフランシス.jpg SFパルプマガジン風ファッション

禁断の惑星 21 アン・ニールセン.jpg 万能ロボット・ロビー登場

禁断の惑星 20 アン.jpg なぜウチの中にビオトープがあるのか?

禁断の惑星 04 アン・レスリー.jpg アン・フランシス/レスリー・ニールセン
Forbidden Planet(1956)
Forbidden Planet(1956).jpg
「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98しねまみらの.jpgシネマミラノ 劇場内.jpgシネマミラノ.jpg分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシスレスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス/ボブ・ディックス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
名画座ミラノ 1971年11月、歌舞伎町「東急ミラノビル」4Fにオープン、→「シネマミラノ」(写真)、2006年6月1日~「新宿ミラノ3」 2014(平成26)年12月31日閉館。

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作: レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]」 

宇宙家族ロビンソン dvd.jpg宇宙家族ロビンソン l.jpg「宇宙家族ロビンソン」Lost in Space (CBS 1965~68) ○日本での放映チャネル:TBS(1966~68)
(全3シーズン。第1シーズンはモノクロ、第2シーズンからカラー)

宇宙家族ロビンソン ファースト・シーズン DVDコレクターズ・ボックス 通常版」 

  

刑事コロンボ 愛情の計算 vhs.bmp「刑事コロンボ/愛情の計算」●原題:MIND OVER MAYHEM●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:アルフ・ケリン●脚本:スティーブン・ボッコ/ディーン・ハーグローブ/ローランド・キビー刑事コロンボ 愛情の計算3.bmp●原案:ロバート・スペクト●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/ホセ・ファーラー/ロバート・ウォーカー/ジェシカ・ウォルター/リュー・エヤーズ/リー・H・モンゴメリー/アーサー・バタニデス/ジョン・ザレンバ/ウィリアム・ブライアント/ルー・ワグナー/バート・ホランド●日本公開:1974/08●放送:NHK総合(評価:★★★)特選 刑事コロンボ 完全版「愛情の計算」【日本語吹替版】 [VHS]

恋におちたコロンボ1.jpg「新・刑事コロンボ/恋におちたコ恋におちたコロンボ dvdブック.jpgロンボ」●原題:IT'S ALL IN THE GAME●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ビンセント・マクビーティ●製作:クリストファー・セイター●脚本:ピーター・フォーク●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:74分●出演:ピーター・フォーク/フェイ・ダナウェイ/アルマンド・プッチ/クローディア・クリスチャン/ジョン・フィネガン/ビル・メイシー/シェリー・モリソン/ブルース・E・モロー/ジョニー・ガーデラ/ダグ・シーマン/ダニエル・T・トレント/トム・ヘンシェル日本公開:1999/05●放送:NTV(評価:★★★☆)
新刑事コロンボDVDコレクション 17号 (恋におちたコロンボ) [分冊百科] (DVD付)

裸の銃(ガン)を持つ男 dvd.jpg裸の銃(ガン)を持つ男 1.jpg「裸の銃(ガン)を持つ男」●原題:THE NAKED GUN:FROM THE FILES OF POLICE SQUAD!●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・ザッカー●製作:ロバート・K・ウェイス●脚本:ジェリー・ザッカー/ジム・エイブラハムズ/デヴィッド・ザッカー/パット・プロフト●撮影:ロバート・スティーヴンス●音楽:アイラ・ニューボーン●時間:85分●出演:レスリー・ニールセン/プリシラ・プレスリー/ジョージ・ケネディ/O・J・シンプソン/リカルド・モンタルバン/ナンシー・マルシャン●配給:UIP映画配給●日本公開:1989/04(評価:★★★☆)
裸の銃(ガン)を持つ男 [DVD]

「キャプテンウルトラ」中田.jpgキャプテンウルトラ.jpg「キャプテンウルトラ」●演出:佐藤肇、田口勝彦/加島昭/竹本弘一/山田稔/富田義治●制作:平山亨/植田泰治●脚本:大津皓一/高久進/長田紀生/井口達/伊上勝●音楽:冨田勲●出演:中田博久/城野ゆき小林稔侍/伊沢一郎/安中滋/相馬剛三/都健二/田川恒夫●放映:1967/04~09(全24回)●放送局:TBキャプテンウルトラ」9.jpgキャプテンウルトラ」第9話61PQCFU.jpg 「キャプテンウルトラ Vol.2 [DVD]
中田博久(キャプテンウルトラ=本郷武彦)/城野ゆき(アカネ隊員)
 

「キャプテンウルトラ」第9話「怪生物バンデルエッグあらわる」 
城野ゆき(アカネ隊員)1_500.jpgアカネ隊員cp.jpg城野ゆき(アカネ隊員)










小林稔侍(キケロ星人ジョー)[当時26歳]/「シュピーゲル号」プラモデル
キャプテンウルトラ 小林稔侍.jpgシュピーゲル号.jpg

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「集団主人公」映画。「アメリカン・アイドル」の地方予選を想起させる「ナッシュビル」。

グランドホテル(GRAND HOTEL)パンフレット.jpg
ナッシュビル Nashville.jpg ナッシュビル チラシ.jpg   グランド・ホテル ポスター.jpg
Nashville [DVD] [Import]」(輸入盤)/チラシ  「グランド・ホテル[DVD]」/「グランド・ホテル」米国版パンフレット(1932)

ナッシュビル 映画.jpg カントリー音楽のメッカ、ナッシュビルで、ある大統領候補のキャンペーンのためにコナッシュビル 1場面.jpgンサートが行われる準備が進められていて、町には、イベント関係者や働き口を求める者、野次馬、音楽ファンなど、多くの人間が集まってきていた。その中には、自分がカントリー歌手であることに疑問を感じている黒人や、芸能界で生きることを夢見る運転手、歌手希望の音痴のウエイトレス、家出してきたノイローゼ青年、カントリー歌手になりたくて田舎の農家の夫から逃れきた女など、様々な人間がいた―。

 ロバート・アルトマン(Robert Altman、1925-2006)監督の1975年の作品で(Nashville)、主人公が24人もいるという所謂「グランド・ホテル」形式の映画ですが、最初に観た時はむしろ、「主人公がいない映画」という印象だったように思います。

グランドホテル オールキャスト.jpg エドマンド・グールディング監督の元祖「グランド・ホテル」('32年/米)を後に観ましたが、ベルリンの一流ホテルのそれぞれの部屋で1日の間に起きる人間ドラマを描いた映画で、旧い映画のわりには面白かったです。
 但し、この"元祖"作品よりも、新「グランド・ホテル」形式とも言われた「ナッシュビル」の方がより面白かったと言うか、インパクトありました。

マンハッタン乗換駅.jpg こうした試みは、文学では既に先行して行われていて、例えば、ジョン・ドス=パソスが1925年に発表した『マンハッタン乗換駅(Manhattan Transfer)』(中央公論社「世界の文学36」)は、ニューヨークの一画に住み、同じ乗換駅を利用する何人もの人々の、彼らの意識を1つ1つ切り取るように描いた作品ですが、これもある種「グランド・ホテル」的形式と言えるのではないでしょうか(コーラスグループ「マンハッタン・トランスファー」の名は、この小説に由来する。「マンハッタン乗換駅」とは要するに「グランド・セントラル駅」なのだが)。

『グランド・ホテル』.jpg 「グランド・ホテル」は、オーストリアの作家ヴィッキー・バウム(Vicki Baum、1888-1960)の小説『ホテルの人びと』を、アメリカで舞台化した戯曲に基づき映画化したもので、バウムはこの小説を書くために実際にホテルでメイド(客室係)として働いたそうな(実際にあった有名企業経営者と速記者とのスキャンダルがストーリーに使われているが、ホテル従業員としての守秘義務違反にならないのか?)。映画はアカデミー作品賞(第5回)を受賞しましたが、作品賞でしか候補に挙がらずに受賞を果たした珍しいケースです(主演○○賞とか言われても、誰が主演で誰が助演なのか判別しにいくいとうのもあるのか)。
ジョーン・クロフォード & ウォーレス・ビアリー in 「グランド・ホテル」

 映画化作品の出演者には有名スターが名を連ねていて、彼らが演じている役柄が中心的登場人物ということになり、こっちの方は「集団」と言うより「複数主人公」というイメージに近いかも。その中でもグレタ・ガルボとジョーン・クロフォードが目を引きますが、今思い起こしても、"共演"していたという印象はあまりないです(その辺りが、まさに「グランド・ホテル」形式と言えるかもしれないが)。
Joan Crawford
ジョーン・クロフォード.jpg これ、実は、『淀川長治究極の映画ベスト100』('03年/河出文庫)によれば、撮影初日、ホテルのセットが出来上がって、ガルボが一段高い所に立っていた、そこにクロフォードが入ってきて、ガルボの所へ行って「お早うございます」と言ったら、ガルボは上から見下ろして、「ご苦労さん」と言ったもので、クロフォードはかんかんに怒って、「私だって主役よ。何がご苦労さんなの。絶対にこんな映画になんか出ません」淀川長治究極の映画ベスト100_1.jpgと言い出す騒ぎになり、それで二人が一緒に映る場面がこの映画には無いそうです(クロフォードはこの悔しさから、ハリウッドの第一級プロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンに泣きついて、生涯最高の作品に出演させて欲しいと頼み込み、そこでゴールドウィンはサマセット・モームの小説の映画化作品「」('32年/米)の主演の娼婦の役を与えたとのこと)。
淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)
 
Nashville (1975).jpg 一方、「ナッシュビル」はどのようにして作られたかと言うと、アルトマン監督がスタッフをナッシュビルに滞在させて毎日日記を書かせ、それを繋ぎ合せてストーリーを作り上げたのだそうで、ナッシュビルでの撮影期間中も、スタッフやキャストは全員同じモーテルに泊まっていたそうです(出演者のギャラは均一だった)。

 そのためか、観ていてアドリブ感があると言うか、撮りながら作り、作りながら撮っていったという感じがします(カレン・ブラックが"カントリーの女王"という役どころで自作の歌を歌うなど)。
アメリカン・アイドル.bmp 当時としては抜きん出て有名なスター俳優は(カメオ出演以外は)使っていないということもあって(当時無名で、後に有名になる役者も多く出ているが)、結果として「集団主人公」という映画の特質がよく出ているように思いました。

 アルトマンは「M★A★S★H マッシュ」('70年/米)の監督でもあり、ある意味、ベトナム戦争終結当時の「病めるアメリカ社会」の断片像ともとれますが、オーデション歌番組「アメリカン・アイドル」の地方予選などは、いまだにこの「ナッシュビル」とう映画の雰囲気と重なる部分があるような気もします。

M★A★S★H マッシュ ポスター.jpg★A★S★H マッシュ 3.jpg 「M★A★S★H」は、朝鮮戦争を舞台にしたブラック・コメディで、野戦病院(マッシュ)に派遣されたドナルド・サザーランド、エリオット・グールド、トム・スケリット演じる3人の医師が、軍規を無視して婦長の尻を追いかけたり、女性将校(サリー・ケラーマン)をからかったりとやりたい放題をやる話。でも、この3人、実は「M☆A☆S☆H」.jpg極めて優秀な外科医であって、負傷して血だらけの患者を面白可笑しく冗談を言いながら手術するけれど、結局は治してしまうし、いたずらや悪事を企んだりはするけれど、人情味もあるということで、ちょっと憎めない...コメディ部分にもやや毒気のある鬼才ロバート・アルトマンらしい作品でしたが(1970年の第23回カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞)、個人的には「ナッシュビル」の方がやや上でしょうか(「ナッシュビル」は全米映画批評家協会賞・作品賞&監督賞受賞)。両作品について言えることですが、アルトマンの社会批判精神はストレートな表され方をするのはでなく、ユーモアを介するなどして屈折した形で表現されるので、背景が掴めていないと、ただ面白かったで終わってしまうこともあるかもしれません(その面白さにもクセがあって、人や作品によって評価が分かれるが)。
Nashville(1975)
Nashville(1975).jpg「ナッシュビル」●原題:NASHVILLE●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・製作:ロバート・アルトマン●脚本:ジョーン・テューケスベリー●撮影:ポール・ローマン●音楽:リチャード・バスキン/キース・キャラダイン●時間:160分●出演:ヘンリー・ギブソン/カレン・ブラック/アレン・ガーフィールド/ネッド・ビーティー/マイケル・マーフィー/ジェフ・ゴールドブラム/リリー・トムリン/ジェラルディン・チャップリン/キース・キャラダイン/ロニー・ブレイクリー/グウェン・ウェルズ/バーバラ・ハリス/スコット・グレン/エリオット・グールド/ジュディー・クリスティー/デイヴィッド・アーキン/バーバラ・バクスレイ/ティモシー・ブラウン/ロバート・ドキ/シェリー・デュヴァル/アラン・ニコルズ/デイヴィッド・ピール/バート・レムゼン/キーナン・ウィン●日本公開:1976/04●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:新宿西口・新宿(西口)パレス(78-02-08)(評新宿西口パレス3.jpg新宿三葉ビル.bmp価:★★★★)●併映:「バーブラ・ストライサンド スター誕生」(フランク・ピアスン) 

新宿(西口)パレス 新宿西口小田急ハルクそば「新宿三葉ビル(三葉興行ビル(現・三葉興業本社ビル))」内。1986(昭和61)年11月閉館。


有楽座(旧)3.bmpみゆき座.jpg「グランド・ホテル」●原題:GRAND HOTEL●制作年:1932年●制作国:アメリカ●監督:エドマンド・グールディング●製作:ポール・バーン/アーヴィング・G・サルバーグ●脚本:ウィリアム・A・ドレイク●撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ●音楽:ウィリアム・アックスト/グランド・ホテル dvd ivc.jpgチャールズ・マックスウエル●原作:ヴィッキー・バウム●時間:112分●出演:グレタ・ガルボ/ジョン・バリモア/ジョーン・クロフォード/ウォーレス・ビアリー/ライオネル・バリモア/ ロバート・テイラー/ジョージ・キューカー●日本公開:1933/10●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(86-11-18)(評価:★★★)●併映:「暗黒街の顔役」(ハワード・ホークス)グランド・ホテル《IVC BEST SELECTION》 [DVD]
旧・みゆき座 1957(昭和32)年、東宝会館ビル(東宝本社ビル)竣工に伴い、同年4月、1階に邦画の「千代田劇場」、地下1階に洋画の「みゆき座」オープン。2005(平成17)年3月31日閉館(同年4月1日「日比谷スカラ座2」が「みゆき座」の名を引き継ぐ)。[写真]千代田劇場・みゆき座[1984(昭和59)年9月]「ぼくの近代建築コレクション」より

マッシュ [DVD]
★A★S★H マッシュ dvd.jpgM★A★S★H マッシュ ケラーマン.jpg「M★A★S★H マッシュ」●原題:M*A*S*H●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルトマン●製作:インゴ・プレミンジャー●脚本:リング・ランドナーJr.●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョニー・マンデル●時間:116分●出演:ドナルド・サザーランド/トム・スケリット/エリオット・グールド/ロバート・デュヴァル/サリー・ケラーマン●日本公開:1970/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹オスカー(79-05-13)(評価:★★★★)●併映:「まぼろしの市街戦」(フィリプド・ロカ)/「博士の異常な愛情」(スタンリー・キューブリック)

ドナルド・サザーランド(ホークアイ・ピアース大尉)/ロバート・デュヴァル(フランク・バーンズ少佐)
M★A★S★H マッシュ サザーランド.jpg M★A★S★H マッシュ  .jpg

アメリカン・アイドル1.jpgアメリカン・アイドル2.bmp「アメリカン・アイドル」American Idol (FOX 2002/06~ ) ○日本での放映チャネル:FOX(2006~)

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「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」

継母礼讃 (中公文庫).jpg継母礼讃 リョサ.jpg  Emmanuelle video.jpg 夜明けのマルジュ チラシ2.jpg 夜明けのマルジュ dvd.jpg
継母礼讃 (モダン・ノヴェラ)』「エマニエル夫人 [DVD]」「夜明けのマルジュ [DVD]
継母礼讃 (中公文庫)

Elogio de La Madrastra.jpg バルガス=リョサが1988年に発表した作品で(原題:Elogio de La Madrastra)、父親と息子、そして継母という3人家族が、息子であるアルフォンソ少年が継母のルクレシアに性愛の念を抱いたことで崩壊していく、ある種アブノーマル且つ"悲劇"的なストーリーの話。

candaules.jpg 当時からガルシア=マルケス、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、フリオ・コルタサルと並んでラテンアメリカ文学の四天王とでもいうべき位置づけにあった作家が、こうしたタブーに満ちた一見ポルノチックともとれる作品を書いたことで、発表時は相当に物議を醸したそうですが、バルガス=リョサの描く官能の世界は、その高尚な文学的表現のため、どことなく宗教的な崇高ささえ漂っており、「神話の世界」の話のようでもあります。そのことは、現在の家族の物語と並行して、ヘロドトスの『史記』にある、自分の妻の裸を自慢したいがために家臣に覗き見をさせ、そのことが引き金となって家臣に殺され、妻を奪われた、リディア王カンダウレスの物語や、ギリシャ神話の「狩りの女神」の物語が挿入されていることでより強まっており、更に、物語の展開の最中に、関連する古典絵画を解説的に挿入していることによっても補強されているように思いました。

Candaules, rey de Lidia, muestra su mujer al primer ministro Giges, de Jacob Jordaens(「カンダウレス王室のギゲス」ヤコブ・ヨルダーエンス(1648)本書より)

Mario Vargas Llosa Julia Urquidi.jpg ただ、個人的には、バルガス=リョサの他の作品にもこうした熟女がしばしば登場し、また、彼自身、19歳の時に義理の叔母と結婚しているという経歴などから、この人の"熟女指向"が色濃く出た作品のようにも思いました。それがあまりにストレートだと辟易してしまうのでしょうが、「現代の物語」の方は、ルクレシアの視点を中心に、第三者の視点など幾つかに視点をばらして描いていて、少年自身の視点は無く、少年はあくまでも無垢の存在として描かれており、この手法が、「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」というモチーフを構成することに繋がっているように思いました。

Mario Vargas Llosa y Julia Urquid Illanes,París, 7 de junio de 1964

 しかし、帯には「無垢な天使か、好色な小悪魔か!?」ともあり、父親にとってこの息子は、好色な小悪魔であるに違いなく、また、継母が去った後、今度は召使を誘惑しようとするところなど、ますます悪魔的ではないかと...。「現代の物語」と、挿入されている「リディア王の話」(家臣に自分の眼の前で妻と交情するよう命じ、これを拒んだ家臣の首を刎ねた)とは、それぞれ異質の性愛を描いているように思えました。

 強いて言えば、「現代の物語」の方は、エディプス・コンプレックスの変型であり(バルガス=リョサ型コンプレックス?)、「リディア王の話」は、エマニュエル・アルサン(1932-2005)原作、ジュスト・ジャカン監督の「エマニエル夫人」('74年/仏)のアラン・キュニーが演じた老紳士マリオの"間接的性愛"のスタンスに近いと言えるでしょうか。性に対してある種の哲学(「セックスから文明社会の意味を取り除いた部分にしか、性の真理はない」という)を持つマリオにとって、エマニエルはそうした哲学を実践するにまたとない素材だった―。

エマニエル夫人 アラン・キュニ―.jpg エマニエル夫人 チラシ.jpg 華麗な関係.jpg 夜明けのマルジュ チラシ.jpg
「エマニエル夫人」の一場面(A・キュニー)/「エマニエル夫人」/「華麗な関係」/「夜明けのマルジュ」各チラシ

エマニエル夫人の一場面.jpg 「エマニエル夫人」はいかにもファッション写真家から転身した監督(ジュスト・ジャカン)の作品という感じで、モデル出身のシルヴィア・クリステルが、演技は素人であるにしても、もう少し上手ければなあと思われる凡作でしたが、フランシス・ジャコベッティが監督した「続エマニュエル夫人」('75年)になっても彼女の演技力は上がらず、結局は上手くならないまま、シリーズ2作目、3作目(「さよならエマニュエル夫人」('77年))と駄作化していきました。内容的にも、第1作にみられた性に対する哲学的な考察姿勢は第2作、第3作となるにつれて影を潜めていきます。その間に舞台はタイ → 香港・ジャワ → セイシェルと変わり「観光映画」としては楽しめるかも知れないけれども...。でもあのシリーズがある年代の(男女問わず)日本人の性意識にかなりの影響を及ぼした作品であることも事実なのでしょう。

華麗な関係 1976ド.jpg華麗な関係lt.jpg 同じくシルヴィア・クリステル主演の、ロジェ・ヴァディムが監督した「華麗な関係」('76年/仏)も、かつてジェラール・フィリップ、ジャンヌ・モロー、ジャン=ルイ・トランティニャンを配したロジェ・ヴァディム自身の「危険な関係」('59年/仏)のリメイクでしたが、原作者のラクロが墓の下で嘆きそうな出来でした。

「華麗な関係」('76年/仏)

夜明けのマルジュの一場面.jpg 同じ年にシルヴィア・クリステルは、ヴァレリアン・ボロヴズィック監督の「夜明けのマルジュ」('76年/仏)にも出演していて(実はこれを最初に観たのだが)、アンドレイ・ピエール・マンディアルグ(1909 -1991)のゴンクール賞受賞作「余白の街」が原作で、1人のセールスマンが、出張先のパリで娼婦と一夜を共にした翌朝、妻と息子の急死の知らせを受け自殺するというストーリー。メランコリックな脚本やしっとりしたカメラワーク自体は悪くないのですが、「世界一美しい娼婦」という触れ込みのシルヴィア・クリステルが、残念ながら演技し切れていない...。

「エマニエル夫人」●1.jpg「エマニエル夫人」●2.jpg 何故この女優が日本で受けたのかよく解らない...と言いつつ、自分自身もブームからやや遅れながらもシルヴィア・クリステルの作品を5本ぐらい観ているわけですが、個人的には公開から3年以上経って観た「エマニエル夫人」に関して言えば、シルヴィア・クリステルという女優そのものが受けたと言うより、ピエール・バシュレの甘い音楽とか(「続エマニュエル夫人」ではフランシス・レイ、さよならエマニュエル夫人」ではセルジュ・ゲンズブールが音楽を担当、セルジュ・ゲンズブールは主題歌歌唱も担当)、女性でも観ることが出来るポルノであるとか、商業映画として受ける付加価値的な要素が背景にあったように思います(合計320万人の観客のうち女性が8割を占めたという(『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』('91年/文春文庫ビジュアル版)より))。
「続エマニュエル夫人」('75年/仏) 音楽:フランシス・レイ

A Man for Emmanuelle (1969) L.jpg バルガス=リョサの熟女指向から始まって、殆どシルヴィア・クリステル談義になってしまいましたが、シルヴィア・クリステルの「エマニュエル夫人」はエマニュエル・シリーズの初映像化ではなく、実際はこの作品の5年前にイタリアで作られたチェザーレ・カネバリ監督、エリカ・ブラン主演の「アマン・フォー・エマニュエル(A Man for Emmanuelle)」('69年/伊)が最初の映画化作品です(日本未公開)。
A Man for Emmanuelle(1969)

 因みに、「エマニュエル夫人」「続エマニュエル夫人」はエマニュエル・アルサンが原作者ですが、最後エマニュエルが男性依存から抜け出して自立することを示唆した終わり方になっている「さよならエマニュエル夫人」は、オリジナル脚本です。一方で、エマニュエル・アルサン原作の他の映画化作品では、女流監督ネリー・カプランの「シビルの部屋」('76年/仏)というのもありました。

シビルの部屋 旧.jpgシビルの部屋 pabnnhu.jpg 「シビルの部屋」のストーリーは、シビルという16歳の少女がポルノ小説を書こうと思い立って、憧れの中年男に性の手ほどきを受け、その体験を本にしたところベストセラーになってしまい、執筆に協力してくれた男を真剣に愛するようになった彼女は、今度は手を切ろうとする男に巧妙な罠をしかけて陥落させようとする...というもので、原作はエマニュエル・アルサンの半自伝的小説であり、アルサンは実際にこの作品に出てくる「ネア」という小説も書いている-と言うより、この映画の原作が「ネア」であるという、ちょっとした入れ子構造。映画化作品は、少女の情感がしっとりと描かれている反面、目的のために手段を選ばないやり方には共感しにくかったように思います。

エマニエル夫人00.jpg「エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE●制作年:1974年●制作国:フランス●監督:ジュスト・ジャカン●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:ジャン=ルイ・リシャール●撮影:リシャール・スズキ●音楽:ピエール・バシュレ●原作:エマニュエル・アルサン「エマニュエル」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/アラン・キューリー/ダニエル・サーキー/クリスティーヌ・ボワッソン/マリカ・グリーン●日本公開:1974/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★★)●併映:「続・エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)

続エマニエル夫人 ド.jpg続エマニエル夫人 vhs.jpg「続エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE, L'ANTI VIERGE/EMMANUELLE: THE JOYS OF A WOMAN●制作年:1975年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジャコベッティ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:フランシス・ジャコベッティ/ロベール・エリア/ジェラール・ブラッシュ●撮影:ロベール・フレース●音楽:フランシス・レイ●原作:エマニュエル・アルサン●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/カトリーヌ・リヴェ/カロライン・ローレンス/フレデリック・ラガーシュ/ラウラ・ジェムサー●日本公開:1975/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)
続エマニエル夫人 [DVD]

さよならエマニエル夫人1977.jpg「さよならエマニエル夫人」●原題:GOOD-BYE, EMMANUELLE●制作年:1977年●制作国:フランス●監督:フランソワ・ルテリエ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:さよならエマニエル夫人 dvd .jpgフランソワ・ルテリエ/モニク・ランジェ●撮影:ジャン・バダル●音楽:セルジュ・ゲンズブール●時間:98分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/アレクサンドラ・スチュワルト/ジャン=ピエール・ブーヴィエ/ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ/オルガ・ジョルジュ=ピコ/シャルロット・アレクサンドラ●日本公開:1977/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「続エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)
さよならエマニエル夫人 [DVD]

UNE FEMME FIDELE 1976.jpgUNE FEMME FIDELE.jpg華麗な関係 チラシ2.jpg「華麗な関係」●原題:UNE FEMME FIDELE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:フランシス・コーヌ/レイモン・エジェ●脚本:ロジェ・ヴァディム/ダニエル・ブーランジェル●撮影:クロード・ルノワ●音楽:モルト・シューマン/ピエール・ポルト●原作:ピエール・コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョン・フィンチ/ナタリー・ドロン/ジゼール・カサドジュ/ジャック・ベルティエ/アンヌ・マリー・デスコット/セルジュ・マルカン●日本公開:1977/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-16)(評価:★☆)●併映:「エーゲ海の旅情」(ミルトン・カトセラス)/「しのび逢い」(ケビン・ビリングトン)

夜明けのマルジュの一場面2.jpg「夜明けのマルジュ」●原題:LA MARGE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ヴァレリアン・ボロヴズィック●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●撮影:ベルナール・ダイレ夜明けのマルジュ 09.jpgンコー●音楽:ロベール・アキム●原作:アンドレイ・ピエール・ド・マンディアルグ「余白の町」●時間:93分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョー・ダレッサンドロ/ミレーユ・オーディベル/アンドレ・ファルコン/ドニス・マニュエル/ノルマ・ピカデリー/ルィーズ・シュヴァリエ/ドミニク・マルカス/カミーユ・ラリヴィエール●日本公開:1976/10●配給:富士映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(77-12-15)(評価:★★☆)●併映:「続 個人教授」(ジャン・バチスト・ロッシ)

NEA 1976_01.jpgシビルの部屋 新.jpg「シビルの部屋」●原題:NEA●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ネリー・カプラン ●製作:ギー・アッジ●脚本:ネリー・カプラン/ジャン・シャポー●撮影:アンドレアス・ヴァインディング●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:エマニュエル・アルサン「少女ネア」●時間:106分●出演:アン・ザカリアス/サミー・フレイ/ミシュリーヌ・プレール/フランソワーズ・ブリオン/ハインツ・ベネント/マルタン・プロボスト●日本公開:1977/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(77-12-24)(評価:★★☆)●併映:「さすらいの航海」(スチュアート・ローゼンバーグ)シビルの部屋 [DVD]

【2012年文庫化[中公文庫]】

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「仮に地球人の姿をしている宇宙人」を演じるデヴィッド・ボウイが、かなり宇宙人っぽい。

地球に落ちてきた男.jpg 地球に落ちてきた男 dvd.jpg THE MAN WHO FELL TO EARTH.jpg Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981) .jpg Senjô no merî Kurisumasu (1983) .jpg
「地球に落ちて来た男」パンフレット「地球に落ちて来た男 [DVD]Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981)  Senjô no merî Kurisumasu (1983)

地球に1.JPG 砂漠化した故郷の星に妻子を残し、地球にやってきたニュートン(デヴィッド・ボウイ)は、発明家として巨万の富を築き、ロケットを建造して家族の待つ星に帰ろうとするが、地球で知り合い、愛し合うようになったメリー・ルー(キャンディ・クラーク)を残して宇宙に飛び立とうとする直前、政府組織に捕らえら、拷問じみた人体実験と軟禁生活の中で、数十年を過ごす―。

 「ブレードランナー」の原作者であるフィリップ・K・ディックらに影響を与えたSF映画ですが、特撮(と言えるほどのものでもない)部分は、ニュートンが回想する故郷の星の家族が"着ぐるみ"みいたいだったりして(しかも、お決まりの"キャット・アイ")、むしろ、地球人の姿を借りている主人公の宇宙人を演じているデヴィッド・ボウイ自身の方が、表情や立ち振る舞いがよほど宇宙人っぽく見えました(相当な集中力を要求される演技だと思う)。

地球に2.JPG 世間がニュートンを忘れた頃、彼は拘禁状態を解かれ(依然、軟禁状態にはある)外界に戻りますが、もはや誰も彼を覚えておらず、メリー・ルーとの再会も、お互いの心の中に無力感を刻むだけのものとなり、故郷の星に戻ることもできず、巨万の富を抱えたままでひっそりと生きて行くしかない―(ラストでは、軟禁状態をも解かれ、ニュートンにとっての次なる世界が展開されるかのような終わり方になっているが...)。

地球に3.JPG パンフレットの解説によれば、これはSFと言うよりも愛の物語であるとありましたが、メリー・ルーがニュートンとの数十年ぶりの再会で心を開くことが出来なかったのは、彼女が年齢を加えているのに、ニュートンの方は一向に年をとっていないという隔たりのためで、時を共有するというのは、一緒に年齢を重ねていくということなのだなあと。「時」というのも、この作品のテーマの1つであると言えるかもしれません。

地球に落ちて来た男 深夜の告白1.jpg地球に落ちて来た男 深夜の告白2.jpg 富を得れば得るほど孤独になり、何のために地球に来たのかもだんだんわからなくなり、酒に溺れていく(宇宙人もアル中になる!)ニュートン―。人間の疎外というものを描いた作品でもあるように思いました。

アメリカン・グラフィティAmericani.jpg デヴィッド・ボウイの日本初公演は1973年ですが、映画「地球に落ちて来た男」では、「アメリカン・グラフィティ」('73年/米)でデヴィッド・ボウイより先に日本に"映画お目見え"したキャンディ・クラークも、本作メリー・ルー役で、カントリー・ガール風にいい味出しています(2人でピンポンをするシーンなんか、良かったなあ)。

デヴィッド・ボウイs.jpg デヴィッド・ボウイは、本作が映画では日本初お目見えでしたが、この作品の前後に「ジギー・スターダスト」('73年/英、ボウイのステージと素顔を追ったドキュメンタリー。日本での公開は'84年)、「ジャスト・ア・ジゴロ」('81年/西独、未見)に出ていて、その後「クリスチーネ・F」('83年/西独、ドイツの麻薬中毒少女をドキュメンタリー風に扱った映画)、「ハンガー」('83年/英、カトリーヌ・ドヌーヴが吸血鬼女、デヴィッド・ボウイがその伴侶という設定)、大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス」('83年/日・英)と続きます。因みに、「ジギー・スターダスト」は1972年にデヴィッド・ボウイがリリースしたアルバム名であり、異星からやってきた架空のスーパースター「ジギー」の成功からその没落までを描いたというそのコンセプトは、3年後に作られた「地球に落ちて来た男」にほぼ反映されたとみていいのではないでしょうか。
ジギー・スターダスト dvd.bmp  ジギー・スターダスト パンフ.gif ジギー・スターダスト パンフ3.jpg ジギー・スターダスト パンフ2.jpg ジギー・スターダスト アルバム.jpgジギー・スターダスト [DVD]」/「ジギー・スターダスト」パンフレット/「ジギー・スターダスト発売30周年記念アニヴァーサリー・エディション

クリスチーネ・F [DVD]
クリスチーネ・F dvd.jpg映画「クリスチーネF」.jpg 「クリスチーネ・F」は、西ベルリンの実在のヘ麻薬中毒の少女(当時14歳)の手記『かなしみのクリスチアーネ』(原題: "Wir Kinder vom Bahnhof Zoo", 「われらツォー駅の子供たち」)をベースに作られ映画ですが、主人公のクリスチーネも、同じ14歳の女友達も、共に薬代を稼ぐために売春していて(この女友達はヘロインの過剰摂取で死んでしまう)、更に、男友達も男娼として身体を売っているという結構すごい話で、クリスチーネをはじめ、素人を役者として使っていますが、演技も真に迫っていて、衝撃的でした(因みに、手記を書いたクリスチアーネ・フェルシェリノヴ(1962年生まれ)は、2010年現在生きていて、一旦は更生したものの、最近また麻薬に手を出しているという)。

CHRISTINE F.jpg この頃の「西ドイツ」映画には、日本に入ってくるものが所謂"芸術作品"っぽかったり(「ノスフェラトゥ」('78年)、「ブリキの太鼓」('79年)、「メフィスト」('81年))、歴史・社会派の作品だったり(「リリー・マルレーン」('81年)、「マリア・ブラウンの結婚」('79年))、重厚でやや暗めのものが多く、また、娯楽映画の中にもアナーキーな部分があったりして(「ベルリン・ブルース」('86年)、「ベルリン忠臣蔵」('85年))、共通して独特の暗さがありましたが、この作品は、テーマの暗さがそれに輪をかけているような感もあります。

 デヴィッド・ボウイは、クリスチーネが訪れるベルリンのコンサートシーンOriginal Soundtrack.jpgに出てくるだけですが、元々デヴィッド・ボウイとドイツの縁は深く、70年代半ばに長年の薬物使用による中毒で精神面での疲労が頂点に達し、更にドイツでのライブがナチズムを強く意識したステージ構成になっていたため世間のバッシングを浴びたりもした彼でしたが、ツアー終了後、薬物からの更生という目的も兼ねてそのままベルリンに移住し創作活動を行っていた時期があります。映画ではデヴィッド・ボウイが音楽でクリスチーネを元気づけ、立ち直りに向かわせるような位置づけになっていて、当時(80年代初め)はまだデヴィッド・ボウイに対してどことなく反社会的なイメージがあったために、やや意外な印象を受けました(実はいい人なんだあ、みたいな)。
Christine」Original Soundtrack CD (2001年)
 
ハンガー 映画.bmp リドリー・スコット監督の弟トニー・スコットの初監督作品でもある「ハンガー」では、デヴィッド・ボウイは、「地球に落ちてきた男」で演じた「歳を取らない」宇宙人役とは真逆で、吸血鬼に若さを奪われ「急速に老いていく男」を演じています。

 この他にも、スーザン・サランドンとカトリーヌ・ドヌーヴとのラヴシーンといったのもありましたが、個人的には、全体的にイマイチ入り込めなかった...。日本でもそんなにヒットしなかったように思いますが、ガラッと作風を変えた次回作「トップガン」('86年/米)がヒットして、もう、トニー・スコットがこのような映画を撮らなくなったということもあってか、この作品自体はカルト的な人気はあるようですトニー・スコットは2012年に病気を苦に橋から飛び降り自殺した)

戦場のメリークリスマス ブルーレイ.jpg デヴィッド・ボウイが日本で再びブレイクすることになったのは、「ハンガー」より先に公開された大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」('83年/日・英)によってであって、音楽の方は、同じく役者として出演していた坂本龍一が担当していました。

 ヴァン・デル・ポストが日本軍俘虜収容所での体験を描いた小説がベースになっていて、日英の文化的相克のようなものが描かれている作品ですが(「戦場にかける橋」などとは違った意味で、それぞれの良いところ、悪いところが描かれているのには好感を持てた)、両者の溝を超えるものとしての人間と人間の繋がりが、ヒューマニズムと言うよりはホモ・セクシュアルを匂わせるようなものになっているところが大島監督らしいところ(役者名で言えば、トム・コンティとビートたけしの関係、デヴィッド・ボウイと坂本龍一との関係。ボウイが坂本龍一にキスするシーンが話題になったが、それは、映画の文脈の中でまた異なる意味を持つ)。但し、何か"日本的"と言うか"ウェット"な感じがするかなあと(大島渚監督は後の作品「御法度」(司馬遼太郎原作)でもホモ・セクシュアルを扱っている)。

 作家の小林信彦氏によれば、デヴィッド・ボウイの役は、はじめ大島監督は、ローバート・レッドフォードを考えていたのが、レッドフォードは「オーシマを尊敬している」が、脚本が自分向きでないとして断ったとこと、日本人側の俳優も、滝田栄と緒方拳でやるつもりだったが2人とも大河ドラマ出演のため出られず、勝新太郎、若山富三郎、菅原文太、三浦友和...と"口説いて"、結局、坂本龍一とビートたけしになったとのことです。坂本龍一は勿論、ビートたけしも当時は役者としてのキャリアは殆ど無く(監督としても、デビュー作「その男、凶暴につき」を撮るのは6年後)、大島渚監督の前で硬くなっている感さえあり、その点、デヴィッド・ボウイの演技面は貫禄充分でした(但し、個人的には、この作品にあまり合っているように思えない)。

 それにしてもデヴィッド・ボウイは、アメリカ、西ドイツ、イギリス、日本と、様々な国の監督のもとで映画に出演してるなあ。

ハンガー dvd.jpgハンガー パンフ.jpg    戦場のメリークリスマス dvd.jpg戦場のメリークリスマス パン.jpg 戦場のメリークリスマス 6.jpg 
ハンガー [DVD]」パンフレット 「戦場のメリークリスマス [DVD]」/パンフレット

「地球に落ちて来た男」●原題:THE MAN WHO FELL TO EARTH●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・ローグ●製作:マイケル・ディーリー/バリー・スパイキングス●脚本:ポール・メイヤーズバーグ●撮影: アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ジョン・フィリップス●原作:ウォルター・テヴィス●時中野武蔵野ホール.jpg間:119分●出演:デヴィッド・ボウイ/キャンディ・クラーク/リップ・トーン/バック・ヘンリー/バーニー・ケイシー●日本公開:1977/02●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館 (78-02-24)●2回目:中野武蔵野館 (78-02-24)●3回目:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★★)●併映(1回目):「魚が出てきた日」(ミカエル・カコヤニス)併映(2回目):「ハンガー」(トニー・スコット)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー) 中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館 

david-bowie-1973.jpgZIGGY STARDUST movie.jpg「ジギー・スターダスト」●原題:ZIGGY STARDUST●制作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ドン・アラン・ペネベイカー●撮影:ジェームズ・デズモンド/マイク・デイヴィス/ニック・ドーブ/ランディ・フランケン/ドン・アラン・ペネベーカー●音楽:デヴィッド・ボウイ●衣装デザイン:フレディ・パレッティ/山本寛斎●時間:90分●出演:デヴィッド・ボウイ/リンゴ・スター(ノンクレジット)●日本公開:1984/12●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ハンガー」(トニー・スコット)

クリスチーネ・Fes.jpg「クリスチーネ・F」●原題:CHRISTINE F●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ウルリッヒ・エーデル●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ヘルマン・ヴァイゲル/カイ・ヘルマン/ホルスト・リーク●撮影:ユストゥス・パンカウ●音楽:ユルゲン・クニーパー/デヴィッド・ボウイ●原作:クリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴ「かなしみのクリスチアーネ(われらツォー駅の子供たち)」●時間:138分●出演:ウルリッヒ・エーデル/ナーチャ・ブルンクホルスト/トーマス・ハウシュタイン/イェンス・クーパル/ヘルマン・ヴァイゲル/デヴィッド・ボウイ●日本公開:1982/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:荻窪オデヲン座(82-12-11)(評価:★★★☆)●併映:「グローイング・アップ ラスト・バージン荻窪オデオン座 - 2.jpg荻窪駅付近.jpg荻窪オデヲン.jpg荻窪東亜会館.jpg」(ボアズ・デビッドソン)
荻窪オデヲン座・荻窪劇場 1972年7月、荻窪駅西口北「荻窪東亜会館」B1にオープン。1991(平成3)年4月7日閉館。(パンフレット「世にも怪奇な物語
菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より

三鷹オスカー  復活.jpg三鷹オスカー2.jpg「ハンガー」●原題:THE HUNGER●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督:トニー・スコット●製作:リチャード・シェファード●脚本:ジェームズ・コスティガン/アイヴァン・デイヴィス/マイケル・トーマス●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:デニー・ジャガー/デヴィッド・ローソン/ミシェル・ルビーニ●時間:119分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/デヴィッド・ボウイ/スーザン・サランドン/クリフ・デ・ヤング/ダン・ヘダヤ/ウィレム・デフォー●日本公開:1984/04●配給:MGM●最初に観た場所:三鷹オスカー (86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー)

「戦場のメリークリスマス」●制作年:1983年●制作国:日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド●監督:大島渚●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:大島渚/ポール・メイヤーズバーグ●撮影:杉村博松竹セントラル123.jpg章●音楽:坂本龍一●原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影さす牢格子」「種子と蒔く者」●時間:123分●出演:デヴィッド・ボウイ/坂本龍一/ビ松竹セントラル123.jpg松竹セントラル.jpgートたけし/トム・コンティ/ジャック・トンプソン/内田裕也/三上寛/ジョニー大倉/室田日出男/戸浦六宏/金田龍之介/内藤剛志/三上博史●日本公開:1983/05●配給:松竹松竹セントトラル 銀座ロキシー.jpg富士=日本ヘラルド●最初に観た場所:銀座・松竹セントラル(83-06-04)(評価:★★★)
松竹セントラル・銀座松竹・銀座ロキシ-(→松竹セントラル1・2・3) 1952年9月、築地・松竹会館にオープン。1999年2月11日閉館。

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"リンカーン・ライム"シリーズ第1作。長所においても欠点においても、原点的作品。

ボーン・コレクター 単行本.jpg   ボーン・コレクター 上.jpg ボーン・コレクター下.jpg  THE BONE COLLECTOR.jpg
 『ボーン・コレクター』['99年]  『ボーン・コレクター〈上〉 (文春文庫)』『ボーン・コレクター〈下〉 (文春文庫)』 「ボーン・コレクター [DVD]

ボーン・コレクター 洋書.jpg 1999(平成11)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位、(2000 (平成12) 年「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 "世界最高の犯罪学者"リンカーン・ライムは、ある事故によって四肢麻痺になり、安楽死を願っていたが、そんな彼に、不可解な誘拐殺人事件の知らせが届く。犯行現場に次の殺人の手がかりを残してゆくボーン・コレクターの挑戦に、ライムの犯罪捜査への情熱が再び目覚め、殺人現場の鑑識を嫌々引き受けていたアメリア・サックス巡査も、やがて事件解明に引き込まれてゆく―。

 1997年に発表されたジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズ第1作で、この人の小説は「ジェットコースター・サスペンス」と言われるだけに、長さを感じさせないスピード感がありますが、そもそも、全体で僅か3日の間の出来事なので(その間5人の犠牲者が"詰まって"いる)、出来るだけ一気に読んだ方がいいように思います。

 ジェフリー・ディーヴァーは1950年生まれ、弁護士資格を持ち(専門は会社法)、1990年までウォール街に勤務していたそうですが、科学的犯罪捜査に関するこの知識量は凄いなあ。
 但し、そうした蘊蓄だけでなく、女性巡査サックスが、突然上司となったライムに最初は反発しながらも、仕事を通して彼との距離を縮めていく(同時に、鑑識捜査官らしくなっていく)変化なども、丁寧に描かれています。

 犯人が意外と言うか、やや唐突であったりする欠点や、捜査陣の身内に犯人からの直接的な危害が及ぶという、やや無理がある、しかし、このシリーズでは定番化しているパターンなども含めて、シリーズの原点と言える作品。

ボーン・コレクター 映画.jpg '99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。

 原作はかなり内容が詰まっているだけに(とりわけ科学捜査の蘊蓄が)、これを2時間の映画にしてしまうことで抜け落ちる部分が多すぎて、役者陣のこともあり、映画は原作とは雰囲気的には別のものになってしまったというところでしょうか。そうした意味では、映画を既に観た人でも、原作は原作として充分楽しめると思います。

ジョリー  ヴォイドs.jpgトゥームレイダー ジョリー.jpg このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリートゥームレイダー19.jpgも役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、アカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
 

ボーン・コレクターs.jpgボーン・コレクター dvd.jpg「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)

トゥームレイダー  .jpg「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィfhd001TRO_Angelina_Jolie_050.jpgルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イアン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)

トゥームレイダー.jpg  アンジェリーナ・ジョリー.jpg アンジェリーナ・ジョリー.bmp angelina-jolie「トゥームレイダー [DVD]

 【2003年文庫化[文春文庫(上・下)]】 

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高評価作品が多い30年~50年代。40年~50年代の12作品の著者の評価を自分のと比べると...。

ミュージカル洋画 ぼくの500本.jpg     巴里のアメリカ人08.jpg バンド・ワゴン 映画poster.jpg 南太平洋 チラシ.jpg
ミュージカル洋画ぼくの500本 (文春新書)』 「巴里のアメリカ人」1シーン/「バンド・ワゴン」ポスター/「南太平洋」チラシ

 著者の外国映画ぼくの500本('03年4月)、『日本映画 ぼくの300本』('04年6月)、『外国映画 ハラハラドキドキぼくの500本』('05年11月)、『愛をめぐる洋画ぼくの500本』('06年10月)に続くシリーズ第5弾で、著者は1910年10月生まれですから、刊行年(西暦)の下2桁に90を足せば、刊行時の年齢になるわけですが、凄いなあ。

 本書で取り上げた500本は、必ずしもブロードウェイなどの舞台ミュージカルを映画化したものに限らず、広く音楽映画の全般から集めたとのことですが、確かに「これ、音楽映画だったっけ」というのもあるにせよ、500本も集めてくるのはこの人ならでは。何せ、洋画だけで1万数千本観ている方ですから(「たとえ500本でも、多少ともビデオやDVDを買ったり借りたりするときのご参考になれば幸甚である」とありますが、「たとえ500本」というのが何だか謙虚(?))。

天井桟敷の人々 パンフ.JPG『天井桟敷の人々』(1945).jpg 著者独自の「星」による採点は上の方が厳しくて、100点満点換算すると100点に該当する作品は無く、最高は90点で「天井桟敷の人々」('45年)と「ザッツ・エンタテインメント」('74年)の2作か(但し、個人的には、「天井桟敷の人々」は、一般的な「ミュージカル映画」というイメージからはやや外れているようにも思う)。
 85点の作品も限られており、やはり旧い映画に高評価の作品が多い感じで、70年代から85点・80点の作品は減り、85点は「アマデウス」('84年)が最後、以降はありません。
 これは、巻末の「ミュージカル洋画小史」で著者も書いているように、70年代半ばからミュージカル映画の急激な凋落が始まったためでしょう。

 逆に30年代から50年代にかけては高い評価の作品が目白押しですが、個人的に観ているのは40年代半ば以降かなあという感じで自分で、自分の採点と比べると次の通りです。(著者の☆1つは20点、★1つは5点)

①「天井桟敷の人々」 ('45年/仏)著者 ☆☆☆☆★★(90点)/自分 ★★★★(80点)
天井桟敷の人々1.jpg天井桟敷.jpg天井桟敷の人々 ポスター.jpg 著者は、「規模の雄大さ、精神の雄渾において比肩すべき映画はない」としており、いい作品には違いないが、3時間超の内容は結構「大河メロドラマ」的な要素も。占領下で作られたなどの付帯要素が、戦争を経験した人の評価に入ってくるのでは? 著者は「子供の頃に見た見世物小屋を思い出す」とのこと。実際にそうした見世物小屋を見たことは無いが(花園神社を除いて。あれは、戦前というより、本来は地方のものではないか)、戦後の闇市のカオスに通じる雰囲気も持った作品だし、ヌード女優から伯爵の愛人に成り上がる女主人公にもそれが体現されているような。

「天井桟敷の人々」●原題:LES ENFANTS DU PARADIS●制作年:1945年●制作国:フランス●監督:マルセル・カルネ●製作:フレッド・オラン●脚本:ジャック・プレヴェール●撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール●音楽:モーリス・ティリエ/ジョセフ・コズマ●時間:190分●出演:アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マルセル・エラン/ルイ・サルー/マリア・カザレス/ピエール・ルノワール●日本公開:1952/02●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)●併映:「ネオ・ファンタジア」(ブルーノ・ボセット)

②「アメリカ交響楽」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★★(70点)自分 ★★★☆(70点)
アメリカ交響楽 RHAPSODY IN BLUE.jpgアメリカ交響楽.jpg この映画の原題でもある「ラプソディー・イン・ブルー」や、「スワニー」「巴里のアメリカ人」「ボギーとベス」などの名曲で知られるガーシュウィンの生涯を描いた作品で、モノクロ画面が音楽を引き立てていると思った(著者は、主役を演じたロバート・アルダより、オスカー・レヴァント(本人役で出演)に思い入れがある模様)。因みに、日本で「ロード・ショー」と銘打って封切られた映画の第1号。

「アメリカ交響楽」 ●原題:RHAPSODY IN BLUE●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:アーヴィン・クーパー●製作:フレッド・オラン●脚本:ハワード・コッホ●撮影:ソル・ポリート●音楽ジョージ・ガーシュウィン●時間:130分●出演:ロバート・アルダ/ジョーン・レスリー/アレクシス・スミス/チャールズ・コバーン/アルバート・バッサーマン/オスカー・レヴァント/ポール・ホワイトマン/ジョージ・ホワイト/ヘイゼル・スコット/アン・ブラウン、アル・ジョルスン/ジュリー・ビショップ●日本公開:1947/03●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

③「錨を上げて」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
錨を上げて08.jpg錨を上げて2.jpg錨を上げて.jpgAnchors Aweigh.jpg 4日間の休暇を得てハリウッドへ行った2人の水夫の物語。元気のいい映画だけど、2時間20分は長かった。ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊るシーンは「ロジャー・ラビット」の先駆けか(著者も、その技術を評価。ジーン・ケリーが呼び物の映画だとも)。
錨を上げて アニメ.jpg
「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シドニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル/パメラ・ブリットン/ジョージ・シドニー●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

④「夜も昼も」 ('46年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
NIGHT AND DAY 1946.jpg夜も昼も NIGHT AND DAY.jpgNight and Day Cary Grant.jpg アメリカの作曲家コール・ポーターの伝記作品。著者の言う通り、「ポーターの佳曲の数々を聴かせ唄と踊りの総天然色場面を楽しませる」のが目的みたいな作品(曰く「その限りにおいては楽しい」と)。

「夜も昼も」●原題:NIGHT AND DAY●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・カーティズ●製作:アーサー・シュワルツ●脚本:チャールズ・ホフマン/レオ・タウンゼンド/ウィリアム・バワーズ●撮影:ペヴァレル・マーレイ/ウィリアム・V・スコール●音楽監督:レオ・F・フォーブステイン●原作:ナタリー・マーシン●時間:116分●出演:ケーリー・グラント/アレクシス・スミス/モンティ・ウーリー/ジニー・シムズ/ジェーン・ワイマン/カルロス・ラミレス●日本公開:1951/01●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑤「赤い靴」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★(60点)
赤い靴 ポスター.jpg赤い靴.jpg赤い靴2.jpg ニジンスキーとロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフとの関係がモデルといわれているバレエもの(ハーバート・ロス監督の「ニジンスキー」('79年/英)は両者の確執にフォーカスした映画だった)だが、主人公が女性になって、「仕事か恋か」という今も変わらぬ?テーマになっている感じ。著者はモイラ・シアラーの踊りを高く評価している。ヨーロッパには「名人の作った赤い靴をはいた者は踊りの名手になれるが、一生踊り続けなければモイラ・シアラー.jpgならない」という「赤い靴」の伝説があるそうだが、「赤い靴」と言えばアンデルセンが先に思い浮かぶ(一応、そこから材を得ているとのこと)。

「赤い靴」 ●原題:THE RED SHOES●制作年:1948年●制作国:イギリス●監督:エメリック・プレスバーガー●製作:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●脚本:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽演奏:ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:136分●出演:アントン・ウォルブルック/マリウス・ゴーリング/モイラ・シアラー/ロバート・ヘルプマン/レオニード・マシーン●日本公開:1950/03●配給:BCFC=NCC●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-11-10)●併映:「トリュフォーの思春期」(フランソワ・トリュフォー)
モイラ・シアラー

⑥「イースター・パレード」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
Easter Parade (1949).jpgイースター・パレード dvd.jpg ジュディ・ガーランドとフレッド・アステアのコンビで、ショー・ビズものとも言え、一旦引退したアステアが、骨折のジーン・ケリーのピンチヒッター出演で頑張っていて、著者の評価も高い(戦後、初めて輸入された総天然色ミュージカルであることも影響している?)。

「イースター・パレード」●原題:EASTER PARADE●制作年:1948年●制作国:アメリカ●監督:チャールズ・ウォルターズ●製作:アーサー・フリード●脚色:シドニー・シェルダン/フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽演奏:ジョニー・グリーン/ロジャー・イーデンス●原作:フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●時間:136分●出演:ジュディ・ガーランド/フレッド・アステア/ピーター・ローフォード/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン●日本公開:1950/02●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑦「踊る大紐育」('49年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★☆(70点)
踊る大紐育.jpg 24時間の休暇をもらった3人の水兵がニューヨークを舞台に繰り広げるミュージカル。3人が埠頭に降り立って最初に歌うのは「ニューヨーク、ニューヨーク」。振付もジーン・ケリーが担当した。著者はヴェラ=エレンの踊りが良かったと。

踊る大紐育(ニューヨーク) dvd.jpg「踊る大紐育」●原題:ON THE TOWN●制作年:1949年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハロルド・ロッソン●音楽:レナード・バーンスタイン●原作:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●時間:98分●出演:ジーン・ケリー/フランク・シナトラ/ジュールス・マンシン/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン/ベティ・ギャレット/ヴェラ・エレン●日本公開:1951/08●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

巴里のアメリカ人 ポスター.jpg⑧「巴里のアメリカ人」 ('51年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
巴里のアメリカ人2.jpg巴里のアメリカ人 dvd.jpg 音楽はジョージ・ガーシュイン。踊りもいいし、ストーリーも良く出来ている。著者の言う様に、舞台装置をユトリロやゴッホ、ロートレックなど有名画家の絵に擬えたのも楽しい。著者は「一番感心すべきはジーン・ケリー」としているが、アクロバティックな彼の踊りについていくレスリー・キャロンも中国雑伎団みたいで凄い(1951年アカデミー賞作品)。

ジーンケリーとレスリーキャロン.jpg巴里のアメリカ人09.jpg「巴里のアメリカ人」●原題:AN AMERICAN IN PARIS●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:アラン・ジェイ・ラーナー●撮影:アルフレッド・ギルクス●音楽:ジョージ・ガーシュイン●時間:113分●出演:ジーン・ケリー/レスリー・キャロン/オスカー・レヴァント/ジョルジュ・ゲタリー/ユージン・ボーデン/ニナ・フォック●日本公開:1952/05●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)●併映:「シェルブールの雨傘」(ジャック・ドゥミ)

⑨「バンド・ワゴン」('53年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
バンド・ワゴン08.jpgバンド・ワゴン2.jpgバンド・ワゴン.jpgバンド・ワゴン 特別版 [DVD].jpgシド・チャリシー.jpg 落ち目のスター、フレッド・アステアの再起物語で、「イースター・パレード」以上にショー・ビズもの色合いが強い作品だが、コメディタッチで明るい。ストーリーは予定調和だが、本書によれば、ミッキー・スピレーンの探偵小説のパロディが織り込まれているとのことで、そうしたことも含め、通好みの作品かも。但し、アステアとシド・チャリシーの踊りだけでも十分楽しめる。シド・チャリシーの踊りも、レスリー・キャロンと双璧と言っていぐらいスゴイ。

THE BANDO WAGON.jpg「バンド・ワゴン」●原題:THE BANDO WAGON●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・コムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハリー・ジャクソン●音楽:アドルフ・ドイッチ/コンラッド・サリンジャー●時間:112分●出演:フレッド・アステア/シド・チャリシー/オスカー・レヴァント/ナネット・ファブレー●日本公開:1953/12●配給:MGM●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑩「パリの恋人」('53年/米)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
パリの恋人dvd.jpg『パリの恋人』(1957).jpgパリの恋人 映画ポスター.jpg 著者曰く「すばらしいファション・ミュージカル」であり、オードリー・ヘプバーンの魅力がたっぷり味わえると(原題の「ファニー・フェイス」はもちろんヘップバーンのことを指す)。
Funny Face.jpg 衣装はジバンシー、音楽はガーシュウィンで、音楽と併せて、女性であればファッションも楽しめるのは確か。
'S Wonderful.bmp ちょっと「マイ・フェア・レディ」に似た話で、「マイ・フェア・レディ」が吹替えなのに対し、こっちはオードリー・ヘプバーン本人の肉声の歌が聴ける。それにしても、一旦引退したこともあるはずのアステアが元気で、とても57才とは思えない。結局、更に20余年、「ザッツ・エンタテインメント」('74年)まで活躍したから、ある意味"超人"的。

『パリの恋人』(1957) 2.jpgパリの恋人 パンフ.jpg「パリの恋人」●原題:FUNNY FACE●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スパリの恋人 パンフ.jpgタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:レナード・ガーシェ●撮影:レイ・ジューン●音楽:ジョージ・ガーシュウィン/アドルフ・ドイッチ●時間:103分●出演:オードリー・ヘプバーン/フレッド・アステア/ケイ・トンプスン/ミシェル・オークレール●日本公開:1957/02●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(85-11-03)●併映:「リリー・マルレーン」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー) 
南太平洋パンフレット.jpg
⑪「南太平洋」('58年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★☆(70点)
  1949年初演のブロードウェイ版の監督であるジョシュア・ローガンが映画版でもそのまま監督したもので、ハワイのカウアイ島でロケが行われた(一度だけ行ったことがあるが、火山活動によって出来た島らしい、渓谷や湿地帯ジャングルなど、野趣溢れる自然が満喫できる島だった)。
 著者は「戦時色濃厚な」作品であるため、あまり好きになれないようだが、それを言うなら、著者が高得点をつけている「シェルブールの雨傘」などは、フランス側の視点でしか描かれていないとも言えるのでは。超エスニック、大規模ロケ映画で、空も海も恐ろ「南太平洋」(自由が丘武蔵野館).jpgしいくらい青い(カラーフィルターのせいか?)。トロピカル・ナンバーの定番になった主題歌「バリ・ハイ」や「魅惑の宵」などの歌曲もいい。

「南太平洋」映画チラシ/期間限定再公開(自由が丘武蔵野館) 1987(昭和62)年7月4日~7月31日 
       
                                             
南太平洋(87R).jpg南太平洋.jpg「南太平洋」●原題:SOUTH PACIFIC●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ジョシュア・ローガン●製作:バディ・アドラー●脚本:ポール・オスボーン●撮影:レオン・シャムロイ●音楽:リチャード・ロジャース●原作:ジェームズ・A・ミッチェナー ●原作戯曲:オス自由が丘武蔵野館.jpgカー・ハマースタイン2世/リチャード・ロジャース/ジョシュア・ローガン●時間:156分●出演:ロッサノ・ブラッツィ/ミッチー・ゲイナー/ジョン・カー/レイ・ウォルストン/フランス・ニューエン/ラス・モーガン●日本公開:1959/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:自由が丘武蔵野館(87-07-05)(リバイバル・ロードショー) 自由が丘武蔵野館 (旧・自由が丘武蔵野推理) 1951年「自由が丘武蔵野推理」オープン。1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称し再オープン。2004(平成16)年2月29日閉館。

⑫「黒いオルフェ」('59年/仏)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★★(80点)
黒いオルフェ2.jpg黒いオルフェ (1959).jpg黒いオルフェ dvd.jpg 娯楽作品と言うより芸術作品。ジャン・コクトーの「オルフェ」('50年)と同じギリシア神話をベースにしているとのことだが、ちょっと難解な部分も。著者も言うように、リオのカーニヴァルの描写が素晴らしい。

「黒いオルフェ」●原題:ORFEO NEGRO●制作年:1959年●制作国:フランス●監督:マルセル・カミュ●製作:バディ・アドラー●脚本:マルセル・カミュ/ジャック・ヴィオ●撮影:ジャン・ブールゴワン●音楽:アントニオ・カルロス・ジョビン/ルイス・ボンファ●原作:ヴィニシウス・デ・モライス●時間:107分●出演:ブレノ・メロ/マルペッサ・ドーン/マルセル・カミュ/ファウスト・グエルゾーニ/ルルデス・デ・オリベイラ/レア・ガルシア/アデマール・ダ・シルバ●日本公開:1960/07●配給:東和●最初に観た場所:八重洲スター座(79-04-15)

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原作は、マリリン・モンローと自分自身を念頭に置いて描いているように思える。

ティファニーで朝食を.jpg ティファニーで朝食を 文庫.jpg  ティファニーで朝食を パンフレット.jpg
ティファニーで朝食を』['08年]/『ティファニーで朝食を (新潮文庫)』['08年]/Breakfast at Tiffany's(1961) - Moon River
First edition cover (1958)
Breakfast at Tiffany's 1958.jpgティファニーで朝食を(カポーティ).jpg 1958年春に出版された米国の作家トルーマン・カポーティ(Truman Capote, 1924-1984/享年59)の34歳の時の作品(原題は"Breakfast at Tiffany's")ですが、村上春樹氏の翻訳は新潮文庫旧版('68年)の龍口直太郎訳と比べるとかなり読みやすいのではないかと思いました。

 カポーティが小説家として一番ピークにあった頃の作品であるというのがよくわかり、駆け出し作家である「僕」が、捉えどころの無い奔放さを持ったホリー・ゴライトリーという女性に引き摺られていく感じが絶妙のタッチで描かれていて、いよいよホリーが去っていくといったやや気の滅入る場面でも、「彼女の出発する土曜日には、街はスコール顔負けの激しい雨にみまわれた。鮫が空中を泳げそうなぐらいだったが、飛行機が同じことをするのは無理だろう」なんて面白い表現があったりして、都会的というか、才気煥発というか、この辺りも村上氏と波長が合う部分なのだろうなあという気がします。

「ティファニーで朝食を」1.jpg  '61年にブレイク・エドワーズ監督により、オードリー・ヘプバーン主演で映画化されたため、お洒落な都会劇というイメージが強いように思いますが(「麗しのサブリナ」ではまだ控えめだったジバンシーとの衣装提携が、この作品ではまさに"全開"という感じだったし)、そうしたファッション面でのお洒落というのと、この原作のセンスはちょっと違うような...。

Marilyn Monroe and Truman Capote
Marilyn Monroe and Truman Capote.jpg 映画化に際してトルーマン・カポーティは、主人公のホリーをマリリン・モンローが演じるのが理想と考え、またモンローを想定して脚本を書くように脚本家にも依頼したものの、モンローの起用は彼女の演技顧問だったポーラ・ストラスバーグに反対されて見送られ、結局、ヘプバーンがホリーを演じることになったというのはよく知られている話です。
 個人的印象としては、この小説を書き始めた段階からカポーティはモンローと自分自身を念頭に置いて書いているように思え、モンローの気質を想定して読むと、スッキリとホリーのキャラクターに嵌るような気がします。

「ティファニーで朝食を」 3.jpg「ティファニーで朝食を」2.jpg 実際、ヘップバーンがティファニーの前でパンを食べるという映画の冒頭シーンで(タイトルのままだなあ)、観ていたカポーティが思わず椅子からずり落ちてしまったという逸話があるぐらいですから、相当イメージ違ったのだろうなあ。
 トルーマン・カポーティは、ノーマン・メイラーと並んで、モンローに袖にされた"片思い組"で、彼は背が低くて、モンローの好みの対象外だったし、しかもバイ・セクシュアル、本質的にはホモ・セクシュアルだったとも言われています。

 この作品でトルーマン・カポーティは、世間の常識に囚われない天真爛漫な女性(若干、双極性障害(躁うつ気質)乃至境界性人格障害気味?)を生き生きと描く一方、その相手をする作家である男(要するに自分自身)を、彼女に振り回されるばかりの情けない存在として、やや自嘲的、乃至は被虐的と思えるまでに描いていますが、この点も、村上春樹氏が指摘するように、映画でジョージ・ペパードが演じた作家が、しっかりとホリーを受け止めているのとは異なり、映画化において改変された点と言えます。

BREAKFAST AT TIFFANY'S.jpgティファニーで朝食を dvd.jpg 結局、小説のホリーは最後ブラジルかどこかへ行ってしまうのですが、この結末はむしろモンローに相応しく、映画では、名無しの飼い猫を一旦放してまた引き戻す点はほぼ同じですが、海外への高飛びは無く、それまで自我むき出しで尖がっていたホリーが、最後は人間の優しさを感じるちょっと普通の女性になったかなあという、オードリー・ヘプバーンに相応しい結末に改変されていたように思います。

映画『ティファニーで朝食を(POSTER)《PPC009》』ポスター/ヘップバーン主演(輸入版)/「ティファニーで朝食を [DVD]

 「ムーン・リバー」はヘンリー・マンシーニの最大のヒット曲と言ってよく、映画としてはいい作品だと思いますが(ミッキー・ルーニー演じるユニオシなる奇妙な日本人大家はいただけないが)、もしかして、カポーティはモンローが、この映画のヘプバーンのように自分の懐へ飛び込んでくることを夢想していたのではないかとも思ったりして。

 村上氏も「映画は映画として面白かった」としながらも、新訳の刊行にあたって、表紙に映画のスチールだけは使わないで欲しいと要望したそうですが(新潮文庫旧版ではモロ、映画スチールを使っている)、映画と切り離して読んで欲しいというのはよくわかるし賛成ですが、だからといって"ティファニーブルー"のカバーにするというのもどうなのでしょうか(出版社側の意向だと思うが)。この、言わば"高級コールガール"を主人公にした小説及び映画が、"高級宝石店"ティファニーの知名度アップに大いに寄与したことは間違いないと思うのですが、それはもう過去の事。今回の場合は出版社側がタイアップ効果を狙っているということなのか。

ティファニーで朝食を 01.jpgティファニーで朝食を 00.jpg「ティファニーで朝食を」●原題:BREAKFAST AT TIFFANY'S●制作年:1961年●制作国:アメリカ●監督:ブレイク・エドワーズ●製作:マーティン・ジュロー/リチャード・シェパード●脚本:ジョージ・アクセルロッド●撮影:フランツ・プラナー●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:トルーマン・カポーティ●時間:114分●出演:オードリー・ヘプバーン/ジョージ・ペパード/パトリシア・ニール/バディ・イブセン/マーティン・バルサム/ホゼ・ルイス・デ・ビラロニア/ミッキー・ルーニー●日本公開:1961/11●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(85-11-03) (評価:★★★☆)●併映:「めぐり逢い」(レオ・マッケリー)

fred.jpg cat.jpg

HIM: Holly (Jenovia), I'm in love with you.
ME: So what?
HIM: So WHAT? SO PLENTY! I love you. You belong to me.
ME: No. People don't belong to people.
HIM: Of course they do.
ME: Nobody is going to put me in a cage..
HIM: I want to love you.
ME: IT'S THE SAME THING.
HIM: No, it's not Holly! (Jenovia)
ME: I'm not Holly, I'm not Lulamae either. I don't know who I am.
I'm like cat here. A no name slob. We belong to nobody and nobody belongs to us. We don't even belong to each other.
Stop the cab.
What do you think?
This ought to be the right place.
For a tough guy like you--Garbage cans, rats galore.
(MEOW)
SCRAM!
I SAID TAKE OFF! BEAT IT!
Lets go.
(Thunder)
HIM: Driver, pull over here.
You know whats wrong with you, Miss Whoever-You-Are?
You're CHICKEN. YOU GOT NO GUTS. You're afraid to say "O.K. life's a fact."
People DO fall in love. PEOPLE DO BELONG TO EACH OTHER, BECAUSE THATS THE ONLY CHANCE ANYBODY'S GOT FOR REAL HAPPINESS.
IMG_4917.JPGYou call yourself a free spirit, a wild thing.
You're terrified someone is going to stick you in a cage.
Well Baby, you're already in that cage.
You built it yourself.
And it's not bounded by Tulip, Texas or Somaliland.
It's wherever you go.
Because no matter where you run, you just end up running into yourself.
END SCENE.

【1968年文庫化[新潮文庫(龍口直太郎訳)]/2008年再文庫化[新潮文庫(村上春樹訳)]】

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イギリス映画らしい上品さを保ちつつ、階級間の価値観の対立を抉った「眺めのいい部屋」。

眺めのいい部屋 room_with_view.jpg眺めのいい部屋.jpg   モーリス チラシ.jpg    日の名残り.jpg 「眺めのいい部屋」('86年)チラシ/「眺めのいい部屋 完全版 [DVD]」/「モーリス」('87年)チラシ/「日の名残り [DVD]

眺めのいい部屋 A Room with a View.jpg ヒロイン・ルーシー(ヘレナ・ボナム・カーター)は、年配の従姉(マギー・スミス)に付き添われイタリアを旅行する中、フィレンツェの宿で景色の良くない部屋に当たってしまうが、風変わりなエマソン父子と知り合い、眺めいい部屋と交換してもらうことになる。言葉数は少ないが自分の気持ちに正眺めのいい部屋2.jpg直な青年ジョージ・エマソン(ジュリアン・サンズ)はルーシーに恋をし、ピクニック先の草原でルーシーに情熱的なキスをする。従姉によって引き離されるように帰途についたルRoom with a View, A (1986).jpgーシーは、イギリスでの日常生活に戻ると上流階級のインテリのシシル(ダニエル・デイ・ルイス)と婚約をし、彼女にとってジョージとの出来事は旅の思い出に留まるはずだったのが、何とエマソン父子が近所に越してきてしまう―。

 「眺めのいい部屋」('86年/英)は、イギリス映画らしい上品さに溢れた映画でありながら、中流に属する女性の恋と結婚を通して、階級間の価値観の対立という構図を抉ってみせています。主人公の婚約者が最上流ということになるのでしょうが、ダニエル・ディ・ルイスがそのスノッブぶりを好演していて、主人公の年配の従姉は上流を気取る中流といったところでしょうか。その年配の従姉を演じるマギー・スミスは、最近はハリー・ポッター・シリーズでお馴染みですが、この頃から今みたいな感じ。一方のヘレナ・ボナム・カーターは、こちらはハリー・ポッター・シリーズに出るようになって魔女づいてすっかりイメージ変わってしまいましたが、彼女の曾祖父は第一次世界大戦開戦時のイギリス首相というマギー・スミス 眺めのいい部屋.jpg「眺めのいい部屋」5.jpgヘレナ・ボナム=カーター ハリー・ポッター.jpg血筋あり、彼女自身ケンブリッジ大学に合格したインテリです。

マギー・スミス in 「眺めのいい部屋」/ヘレナ・ボナム・カーター in 「眺めのいい部屋」「ハリー・ポッターと死の秘宝」

 彼らの対極にいるのが、階級では彼らより下層の自由主義者のエマソン父子で、主人公が、父子の息子への恋を通して、自らを覆っていた欺瞞の皮を1枚ずつ剥いでいく様が、丹念に描かれているように思えました。そんなにストーリー的にインパクトがあるものではないのですが、格調高いセットや衣装と透明感あふれる映像はまさにイギリス映画を見たという感じ、但し、監督のジェームズ・アイヴォリーはアメリカ人、製作のイスマイール・マーチャントはインド人です(米アカデミー賞の脚色賞、衣装賞、美術賞の3部門を受賞)。 

「モーリス」('87年)
Film Stills from Maurice.bmp 原作はE・M・フォースター(1879-1970)の同名小説で、ジェームズ・アイヴォリー監督の作品では、「インドへの道」('84年)、「モーリス」('87年)、「ハワーズ・エンド」('92年)もフォースターの原作ですが、いかにもイギリス映画という感じでありながら、異文化要素が織り込まれており(「モーリス」は、地理的な異文化ではなく、ホモ・セクシュアルという異文化だが)、いずれの作品も複数の文化を相対化する視点のもと、貴族社会(即ち"世俗的なもの")に対する批判や皮肉が込められているように思います(因みに、E・M・フォースター自身ゲイだったそうで、「モーリス」を観ると彼自身がそのことで苦悩したことが窺える)。

 「モーリス」でヒュー・グラントが演じた、主人公とは対照的な生き方をする若者の演技は絶品でした(人を"その道"に引き摺り込んでおいて、自分は...)。彼が演じた政治家が現実の誰かと重なったのかどうかは知りませんが、この作品社会問題にもなったそうです。ヒュー・グラントが「フォー・ウェディング」('94年)のようなロマンティック・コメディに出ているのは、「モーリス」のイメージを払拭するためではないかと思ったぐらい。 

「日の名残り」('93年)
村上春樹 09.jpgRemains of the Day.gif カズオ・イシグロ(あの村上春樹も「カズオ・イシグロのような同時代作家を持つこと」を幸せだとインタビューで述べている)原作の「日の名残り」('93年)も含め、撮る作品にあまりハズレがないように思われ、この作品でのダニエル・ディ・ルイスや「モーリス」でのヒュー・グラント、「日の名残り」でのアンソニー・ホプキンスなど、既に良く知られている役者の使い方も、この監督の手にかかるとまた別な味が出てくるという気がします。

 とりわけ、イギリスの名門家に仕えてきた老執事が自分の半生を回想し、仕事のために犠牲にしてしまった愛を確かめる様を描いた「日の名残り」においては、アンソニー・ホプキンスを老執事に配し、その演技の魅力を大いに引き出していたように思います(この執事を見ていると『葉隠』の"忍ぶ羊たちの沈黙 アンソニー・ホプキンスs.jpg恋"を想起させられる)。尤も、アンソニー・ホプキンス(「羊たちの沈黙」('91年/米)でハンニバル・レクターを演じアカデミー賞主演男優賞を受賞した)という俳優は、「台本至上主義」「台本絶対主義」で知られる役者で、撮影に入る前にはもう台本上の役の人物になり切っているそうですが。

アンソニー・ホプキンス in「羊たちの沈黙」('91年/米)

「眺めのいい部屋」.jpg「眺めのいい部屋」●原題:A ROOM WITH A VIEW●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:114分●出演:ヘレナ・ボナム・カーター/ジュリアン・サンズ/マギー・スミス/ダニエル・ディ・ルイス/デナム・エリオット●日本公開:1987/07●配給:シネマテン●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「モーリス」(ジェームズ・アイヴォリー)
文芸坐2-1.jpg文芸坐2 (池袋文芸地下) 1988年に「文芸地下」を「文芸坐2」と名称変更。1997(平成9)年3月6日閉館
モーリス.jpg「モーリス」●原題:MAURICE●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:イスマイール・マーチャント●脚本:キット・ヘスケス・ハーヴェイ/ジェームズ・アイヴォリー●撮影:ピエール・ロム●音楽:リチャード・ロビンズ●原作:E・M・フォースター●時間:140分●出演:ジェームズ・ウィルビー/ヒュー・グラント/ルパート・グレイヴス/デンホルム・エリオット/サイモン・カロウ●日本公開:1988/01●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋文芸坐2 (88-09-15)(評価:★★★★)●併映:「眺めのいい部屋」(ジェームズ・アイヴォリー)

日の名残り07.jpg「日の名残り」●原題:REMAINS OF THE DAY●制作年:1993年●制作国:イギリス●監督: ジェームズ・アイヴォリー●製作:マイク・ニコルズ/ジョン・キャリー/イスマイール・マーチャント●脚色:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:リチャード・ロビンス●原作:カズオ・イシグロ 「日の名残り」●時間:134分●出演:アンソニー・ホプキンズ/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ/ヒュー・グラント●日本公開:1994/03●配給:コロムビア映画(評価:★★★★)

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大人の男女3人の宝探し。甘いけれど許せる甘さの"青春映画"。
冒険者たち.jpg 冒険者たち2.jpg 冒険者たち1.jpg Les aventuriers(1967).jpg
冒険者たち [DVD]」 Lino Ventura,Alain Delon,Joanna Shimkus in "LES AVENTURIERS" Les aventuriers(1967)
LES AVENTURIERS.jpg パリ郊外の飛行クラブでインストラクターをしているパイロットのマヌー(アラン・ドロン)と新型エンジンの開発に熱中する元エンジニアのローラン(リノ・ヴァンチュラ)のもとに、芸術家の卵である前衛彫刻家レティシア(ジョアンナ・シムカス)が現れ、2人とも彼女に恋心を抱くが、やがて3人はアフリカの海底に5億フランの財宝が眠っているとの話を聞き、共にコンゴの海に旅立つことに―。

 大の大人3人が宝探しをするという、何だか甘い青春ドラマみたいな設定なのですが、ジョゼ・ジョヴァンニの原作を大幅に脚色したロベール・アンリコ監督の演出が巧みで、話のテンポも良く、この中では一番おっさん臭いリノ・ヴァンチュラ(当時48歳)の演技さえも許せてしまうものでした(この人、刑事役とかギャング役が十八番なのだが)。

Joanna Shimkus.jpg やはり、ちょっと胴長のジョアンナ・シムカス(当時24歳)の明るさが効いていて、周囲を巻き込んでしまう―それだけに、彼女が演じるレティシアが亡くなってしまうのが哀しく、そこから本来のリノ・ヴァンチュラとアラン・ドロン(当時32歳)の哀愁を帯びたギャング映画みたいなトーンになるといったところでしょうか。それでも、この映画は最後まで映像的には光に満ちているように思え、最後の方に出てくる銃撃戦の舞台となる軍艦みたいな島も良かったです。

「冒険者たち」doronn.jpg アラン・ドロンを軸に見れば「太陽がいっぱい」系の雰囲気かとも思えますが、結末から逆算的に見ると、リノ・ヴァンチュラの視点での物語ということになるのかもしれません(アラン・ドロンというのは常に「見られる側」の存在であって、「見る側」にはならないような気がする)。因みに、ジョゼ・ジョヴァンニの原作のタイトルは「生き残った者の掟」です。

「冒険者たち」リノ」.jpg冒険者たち 1977年公開時チラシ.jpg リノ・ヴァンチュラ(1919-1987)は、俳優になる前はレスリングのヨーロッパ・チャンピオンだったそうですが、この映画での彼は、最近の俳優で言うと、ジャン・レノなどに通じるものがあるなあと勝手に思ったりしました。

冒険者たち6.jpg ドロンの歌うテーマ曲「愛しのレティシア」は、口笛の伴奏がホンダシビックのCFなどで使われましたが、サワリの部分を聞くだけで、レティシアを水葬に付す場面など、映画の様々なシーンが甦ってきます。甘いけれど、許せる甘さの"青春映画"です。


Les aventuriers (1967)
Les aventuriers (1967).jpgジョアンナ・シムカス.jpg「冒険者たち」●原題:LES AVENTURIERS●制作年:1967年●制作国:フランス●監督:ロベール・アンリコ●脚本:ロベール・アンリコほか●撮影:ジャン・ボフティ●音楽:フランソワ・ド・ルーベ●原作:ジョゼ・ジョヴァンニ「生き残った者の掟」●時間:112分●出演:アラン・ドロン/リノ・ヴァンチュラ/ジョアンナ・シムカス/セルジュ・レジニア●日本公開:1967/05●配給:大映●最初にロベール・アンリコ(Robert Enrico).jpg観た場所:有楽町・ニュー東宝シネマ1(77-11-24)●2回目:テアトル池袋(84-11-11) (評価:★★★★☆) ●併映(2回目):「カリブの熱い夜」(テイラー・ハックフォード)
ロベール・アンリコ(Robert Enrico)

「冒険者たち」 パンフレット 1977年/1989年
冒険者たち 1977.png  冒険者たち 1989.png

ニュー東宝シネマ1.jpgニュー東宝1.JPGニュー東宝シネマ1・2 チケット入れ.jpgニュー東宝シネマ1
1957年5月5日、有楽町ニュートーキョービル3Fに「ニュー東宝シネマ」オープン。TOHOシネマズ 有楽座.jpg1972年5月~「ニュー東宝シネマ1」、2005年4月~新生「有楽座」、2009年2月10日~「TOHOシネマズ有楽座」(右) 2015年2月27日閉館
    
「テアトル池袋 LAST ALLNIGHT」チラシ-1.gif「テアトル池袋_1.jpgテアトル池袋2.JPGテアトル池袋 劇場内.jpgテアトル池袋 1980年南池袋1丁目「南池袋共同ビル」の8階にオープン。1981年池袋東口60階通りに移転。2006(平成18)年8月31日閉館

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途中までヒューマニズム溢れるものだったが、ラストが解せない「フリークス」。

フリークス dvd.jpg フリークス.jpg 「フリークス [DVD]フリークス ポスター.jpg ポスター

フリークス 輸入版.jpg サーカス小屋の小人のハンス(ハリー・アールズ)は、空中ブランコ乗りのクレオパトラ(オルガ・バクラノヴァ)に夢中だが、彼女は気のある振りをして彼を弄んでいるだけで、ところがある日ハンスが莫大な遺産を相続したことがわかると、今度は、強欲な彼女は怪力男ヘラクレス(ヘンリー・ヴィクター)と謀ってハンスを騙して結婚し、彼を殺して財産を奪おうと毒を盛る。しかし、ハンスの仲間達がそれを見破り、ハンスは仲間達と共に2人への復讐に立ち上がる―。

フリークス2.jpg フリーク(畸形)のオンパレードで、シャム双生児、ガリガリの「生きる屍」男、髭女、半陰陽(ふたなり)、鳥のような顔をした男、小頭症の姉妹、下半身のない男、手足がない男...etc.と次から次へと出てきて、この作品はアートシアター新宿(ジュク)の定番プログラムだったのですが、近所の花園神社の大酉祭の見世物小屋の(ここで"牛女"と"蛇女"なるものを見たことがあるが)レベルどころではない凄さ。ロードにはかからない作品だと思っていましたが、'05年に渋谷シネマライズ(ライズX)で単館ながら上映されました(30年ぶりのロード上映とのこと)。

 ヨーロッパ映画だと、フェデリコ・フェリーニ「サテリコン」('69年/伊)フォルカー・シュレンドルフ「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏)といった映画においても畸形や小人が出てくるけれども、アメリカ映画では、こうした人たちをスクリーンに登場させなくなって久しいようです。

 最初は不気味さもありますが、そうした見世物小屋でしか生きる術の無いような人たちを、この映画の監督は非常に温かい眼差しで描いているように思え、ヒューマニズム溢れるものであり、最後にハンスが仲間たちと復讐に立ち上がる場面では、観ていて「よし、行け」という気持ちになるまで感情移入させられていました。

「エレファント・マン」 ポスター/パンフレット
エレファント・マン ポスター.jpgエレファント・マン パンフ.jpgエレファント・マン2.jpg デヴィッド・リンチ「エレファント・マン」('80年/英)を観た時も、最後は大いに感動しました。しかし、「エレファント・マン」は見方によっては、ヒューマニズムを装いながらもその裏側で、人々の怖いもの見たさの俗物心理を暴いてみせているような感じもあり、何となくスッキリしない...。

 「お化け屋敷」に行く時のような"期待感"で映画館に行った人も少なからずいたように思え、デヴィッド・リンチはその部分での観客の期待にも応えようとしていたような気がします(実際、十分に応えていた)。その点では、この映画でのトッド・ブラウニングの畸形に対する温かい眼差しは、むしろ対照的かも。

オルガ・バクラノヴァ.jpg この作品「フリークス」の監督であるトッド・ブラウニング(1880‐1962)は、映画の世界に入る前はサーカス小屋の呼び込みをしていたそうですが、この作品では徹底して畸形を擁護しています。そして、畸形たちが結束して立ち上がった結果、ヘラクレスが畸形たちに殺されるばかりでなく、クレオパトラに至っては、不具にされて「ガチョウ女」として見世物小屋に売られてしまうというエンディングをもってきています。

「ガチョウ女」になったクレオパトラ(オルガ・バクラノヴァ(Olga Baclanova)」) in 「フリークス」

ザ・フライ2 二世誕生.bmp ここまでやるかという感じもしなくもないですが、クリス・ウェイラスの「ザ・フライ2 二世誕生」('89年/米)で、ハエ男の遺伝子を引く主人公を「実験標本」として育てていた研究所長が、主人公の復讐に遭い、最後に主人公がハエ男から人間の姿に戻るのと引き換えに所長は醜い生き物に姿を変えられてしまうという結末が、この作品のエンディングとちょっと似ているなあと思いました。

THE FLY II 2.jpg 「ザ・フライ2」のラストも、因果応報と言えば因果応報なのですが、所長は這うことしか出来ず喋ることも出来ない(ある意味ハエ男より悲惨な)ドロドロの化物となり、研究所の中でコンクリートの檻の中で生かされ続けるという、ちょっと現代モノとしてはあり得ない非人道的結末設定のように思われ、あっさり殺されていた方が映画としての後味を損ねずに済んだのではないかという気がしました。
     
 「フリークス」にしても、人を外見で判断してはいけないというのがトッド・ブラウニングの言いたかったことだったとしたら、勧善懲悪のカタルシスのみを狙ったようなこのエンディングは、本来の彼の考えに沿ったものとは思われず、いささか解せません(MGMのプロデューサー側からの圧力で、こうした結末にせざるを得なかったという話もある)。
 深読みすれば、「ガチョウ女」になったクレオパトラを見て、自分でなくて良かったと思わなかったかを観客に問うているともとれるのですが...。

ピンクフラミンゴ/フリークス.png「フリ-クス 神の子ら (怪物団)」●原題:FREAKS●制作年:1932年●制作国:アメリカ●監督・製作:トッド・ブラウニング●製作:MGMスタジオ●脚本:ウィリス・ゴールドベック/レオン・ゴードン/エドガー・アラン・ウルフ/アル・ボーアズバーグ●撮影:メリット・B・ゲルスタッド●原作:トッド・ロビンズ●時間:100分●出演:ハリー・アールズ/オルガ・バクラノヴァ(バクラーナ)/ハーリー・アールズ/ヘンリー・ヴィクター●日本公開:1932/11●最初に観た場所:アートシアター新宿 (84-08-01)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(96-08-23) (評価★★★)●併映(1回目):「ピンク・フラミンゴ」(ジョン・ウォーターズ)
アートシアター新宿 (新宿厚生年金会館付近。1980年より黙壺子フィルム・アーカイブの活動拠点) 1980年代後半(1988年頃)活動停止

エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督: デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)

ザ・フライ2 二世誕生 dvd.jpg「ザ・フライ2 二世誕生」●原題:THE FLY II●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:クリス・ウェイラス●製作:スティーヴン=チャールズ・ジャッフェ●製作総指揮:スチュアート・コーンフェルド●原案:ミック・ギャリスTHE FLY II 3.jpg●脚本:ミック・ギャリス/ジム・ウィート、ケン・ウィート/フランク・ダラボン●撮影:ロビン・ヴィジョン●音楽:クリストファー・ヤング●時間:105分●出演:エリック・ストルツ/ダフネ・ズニーガ/リー・リチャードソン/ジョン・ゲッツ/フランク・C・ターナー/アン・マリー・リー/ゲイリー・チョーク/サフロン・ヘンダーソン●日本公開:1989/05●配給:20世紀フォックス(評価:★★)

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邦題より原題が相応しいシビアな内容。ジェーン・フォンダの演技には鬼気迫るものがある。

ひとりぼっちの青春.jpg  彼らは廃馬を撃つ.jpg ホレス・マッコイ「彼らは廃馬を撃つ」.jpg    .映画「バーバレラ」(1968).jpg   追憶パンフ.jpg 
ひとりぼっちの青春 [DVD]」 「彼らは廃馬を撃つ」['70年/角川文庫]['88年/王国社]「バーバレラ」「追憶

『ひとりぼっちの青春』(1969)2.jpgひとりぼっちの青春1.png 1932年、不況下にハリウッドで行われた「マラソン・ダンス」の会場には、賞金を狙って多くの男女が集まっていた。ロバート(マイケル・サラザン)もその1人で、彼は、大会のプロモーター兼司会者(ギグ・ヤング)の手配により、グロリア(ジェーン・フォンダ)と組んで踊ることになるのだが―。

『ひとりぼっちの青春』(1969).jpg 不況時のアメリカの世相と、一攫千金を願ってコンテストに参加し、ぼろぼろになっていく男女を通して、世相の退廃と人生の孤独や狂気を描いた作品で、 甘ちょろい感じのする邦題タイトルですが、原題は"They Shoot Horses, Don't They?"(「廃馬は撃つべし」とでも訳すところか)というシビアなもの(オープニングで馬が撃たれるイメージ映像が流れる)。

By Jeffrey Ressner.jpg 余興で行われた二人三脚競走で足がつって踊れなくなったロバートを、今までの苦労が水の泡になるとして無理やり引きずって踊ろうとするグロリアを演じたジェーン・フォンダの演技には、鬼気迫るものがありました。

 グロリアは、もはや賞金のためではなく、自らの尊厳のために踊り続けようとする。しかし、このダンス・コンテスト自体がある種のヤラセ興行であることに気づいたとき、彼女はロバートに自殺幇助を頼み果てる―。"They Shoot Horses Don't They?"は、ロバートが子供の頃、父親から言い聞かされていた言葉だったというのが、強烈な皮肉として効いています。 

バーバレラ 1993.jpg 雑誌モデル出身のジェーン・フォンダは、この映画に出るまではセクシーさが売りの女優で、ピンク・コメディのようなものによく出演しており、この映画の前の出演作は、ロジェ・ヴァディム監督の「バーバレラ」('68年/伊・仏)というSFコミックの実写版でした。偶々テレビで観たという作品だったため、相対的に印象が薄かったのですが、この作品のオープニング、今観ると凄いね。 ジェーン・フォンダ「バーバレラ」1968年 オープニング

 そんな彼女が演技開眼したのが、この「ひとりぼっちの青春」であったことは本人も後に語っているところであり、その後2度もアカデミー主演女優賞を獲得しています。しかも、「黄昏」("On Golden Pond")の映画化権を買取り、父ヘンリー・フォンダに初のアカデミー主演男優賞をもたらす契機を作ってさえいます。一方、映画でアクの強いプロモーターを演じたギグ・ヤングは、この映画の8年後に、妻を射殺して自らも命を絶っています。シドニー・ポラック.jpg この作品は、今年('08年)5月に亡くなったシドニー・ポラック(1934‐2008/享年73)監督作で、この人の代表作には、「追憶」や「愛と哀しみの果て」などの大物俳優の組み合わせ作品や「トッツィー」('82年、アカデミー助演女優賞)などがあります。
 

『追憶』(1973) 3.jpg 「追憶」('73年)は、やはりあくまでもバーブラ・ストライサンドの映画という感じで、バーブラ・ストライサンドが政治活動に熱心な苦学生を、ロバート・レッドフォードがノンポリの学生を演じていますが、2人の20年後の再会から自分たちの歩んできた道を振り返る構成になっていて、よって「追憶(THE WAY WE WER)」というタイトルになるわけです。

『追憶』(1973) 1.jpg 何事にもひたむきにしか生きられない、不器用だが一途な女性をバーブラ・ストライサンドが好演、人間ってそう簡単には変われないのかもと...。

 テーマ曲もバーブラ・ストライザンドが歌っているわけで、これだけの歌唱力と演技力を兼ね備えているというのは考えてみれば凄い才能。コーヒーのCMソングが流れる度に思い出す映画ですが、この映画のお陰で暫くはロバート・レッドフォード自体にノンポリのイメージを抱いてしまった。

The way we were

愛と哀しみの果て  0.jpg そのロバート・レッドフォードがメリル・ストリープと共演したのが「愛と哀しみの果て」('85年)ですが、アカデミー監督賞を獲ったにしては中身はハーレクイン・ロマンスではないかと...(メリル・ストリープってコンプレックスを持った女性を演じるのが上手い。でも、映画自体は全く自分の好みに合わなかった)。

トッツィー1.jpg 「トッツィー」('82年)は、女装のダスティン・ホフマンがアカデミー主演男優賞(女優賞?)を獲るかと言われた映画ですが、むしろ共演のジェシカ・ラングの方が進境著しく、個人的には、ソープオペラって収録が間に合わなくなると"生撮り"するというのが興味深かった...(日本でも昔のNHKの「お笑い三人組」や民放の「てなもんや三度笠」などは公開録画だったようだが)。

 こうして見ると、男優よりもむしろ女優の方の魅力を引き出しているものが並び、「ひとりぼっちの青春」もその類ということになるのかも知れませんが、「ひとりぼっちの青春」に関しては、これらの作品の前に忘れてはならない作品だと個人的には思っています。

「ひとりぼっちの青春」米国版 ポスター&ビデオカバー
ひとりぼっちの青春09.jpgThey Shoot Horses Don't They? video.jpgThey Shoot Horses Don't They?.jpg「ひとりぼっちの青春」●原題:THEY SHOOT HOURSES,DON'T THEY?●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・グリーン●原作:ホレース・マッコイ 「彼らは廃馬を撃つ」●時間:133分●出演:ジェーン・フォンダ/マイケル・サラザン/スザンナ・ヨーク/ギグ・ヤ三鷹オスカー.jpgング/ボニー・ベデリア/マイケル・コンラッド/ブルース・ダーン/アル・ルイス/セヴァン・ダーデン/ロバート・フィールズ/アリン・アン・マクレリー/マッジ・ケネディ/レッド・バトンズ●日本公開:1970/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17) (評価★★★★☆)●併映:「草原の輝き」(エリア・カザン)/「ジョンとメリー」(ピーター・イェイツ) 三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

バーバレラ [DVD].jpgBARBARELLA.jpg「バーバレラ」●原題:BARBARELLA●制作年:1968年●制作国:イタリア/フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ジャン=クロード・フォレ/クロード・ブリュレ/クレメント・ウッド/テリー・サザーン/ロジェ・ヴァディム/ヴィットーリオ・ボニチェッリ/ブライアン・デガス/テューダー・ゲイツ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:チャールズ・フォックス●原作:ジャン=クロード・フォレスト 「バーバレラ」●時間:98分●出演:ジェーン・フォンダ/ジョン・フィリップ・ロー/アニタ・パレンバーグ/ミロ・オーシャ●日本公開:1968/10●発売元:パラマウント(評価★★★) 「バーバレラ [DVD]


追憶 dvd.jpgThe way we were.gif「追憶」●原題:THE WAY WE WER●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:マービン・ハムリッシュ●原作:アーサー・ローレンツ●時間:118分●出演:バーブラ・ストライサンド/ロバート・レッドフォード渋谷文化劇場.png/ブラッドフォード・ディルマン/ロイス・チャイルズ/パトリック・オニール/ヴィヴェカ・リンドフォース●日本公開:1974/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23) (評価★★★☆)●併映:「明日に向かって撃て!」(ジョージ・ロイ・ヒル)
 渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)

愛と哀しみの果てdvd.jpg愛と哀しみの果て パンフ.jpg愛と哀しみの果てs.jpg「愛と哀しみの果て」●原題:OUT OF AFRICA●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・バリー●原作:アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセン) 「アフリカの日々」●時間:161分●出演:メリル・ストリープ/ロバート・レッドフォード/クラウス・マリア・ブランダウアーマイケル・キッチン/マリック・ボーウェンズ●日本公開:1986/03●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12) (評価★★)●併映:「恋におちて」(ウール・グロスバード)

トッツィー ジェシカ・ラング.jpgトッツィー.jpg「トッツィー」●原題:TOOTSIE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:デイブ・グルーシン●時間:113分●出演:ダスティン・ホフマン/ジェシカ・ラング/ビル・マーレイ/テリー・ガー/ダブニー・コールマン/チャールズ・ダーニング●日本公開:1983/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理 (85-07-14) (評価★★★)●併映:「プレイス・イン・ザ・ハート」(ロバート・ベントン) ダスティン・ホフマン/ジェシカ・ラング in「トッツィー」

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「シェーン」.jpg 「父親は強い男でなければならない」ということか。アラン・ラッドが降りて役を得たジェームズ・ディーン。
ジャイアンツ.jpg ジャイアンツ3.jpg エドナ・ファーバー「ジャイアンツ(上・下)」早川書房.jpg
ジャイアンツ [DVD]」/エドナ・ファーバー『ジャイアンツ(上・下)』 [56年/早川書房]/「シェーン [DVD]

ジャイアンツ パンフ.jpgジャイアンツ ポスター.jpg  「ジャイアンツ」('56年)はエドナ・ファーバー女史のベストセラー小説の映画化作品ですが、完成3日後にジェームズ・ディーンが事故死するという不幸もあって話題を呼び、当時アメリカでも日本でも大ヒットしたとのこと。
GIANT 1956.jpg ジェームズ・ディーンの老け役の演技には批評家の間で賛否があったものの、ディーンのスタニフラフスキー流演技が、ロック・ハドソンの古典派演技と好対照を成している点でも興味深い作品です。

 その他にも実に色々な見方ができる映画です。以前観た際には、アメリカン・ドリームの光と影を体現したジェームズ・ディーン演じるところのジェット・リンクにばかり目がいっていましたが、実はこの作品は、ロック・ハドソン、エリザベス・テーラーが夫婦役を演じる家族ドラマだったのだと思いました(当初は夫役をウイリアム・ホールディンがやる予定だったが、監督の気が変ってロック・ハドソンに。妻役も、グレース・ケリーに決めていたが、彼女がモナコ大公と結婚したために、オードリー・ヘップバーンなどが候補としてあがり、最終的にエリザベス・テーラーに決まった。一方、ジェームズ・ディーンは、ジョージ・スティーブンス監督にこのジェット・リンク役をやらせてほしいと直訴していた)。

シェーン.jpgSHANE.jpg ある家族の前に突然現れた流れ者という設定は、同じジョージ・スティーブンス監督の前作「シェーン」('53年)と似ていますが、流れ者の"シェーン"を演じたアラン・ラッドが、実は「ジャイアンツ」の同じく"流れ者"であるジェット・リンク役に予定されていたのが、アラン・ラッドが役を降りたために、監督に直訴していたジェームズ・ディーンの願いが叶い、ジェット・リンク役が彼に回ってきたという経緯があります。

Shane (1953).jpg 「シェーン」に出てくる家族の父親は、シェーンに一方的に助けられ何とか悪徳牧畜業者から家族を守りますが、これでは家長としての面目は丸つぶれではないでしょうか。奥さんはシェーンに惹かれ、シェーンも奥さんに惹かれている―その想いを断ち切るかのようにシェーンは去っていきますが、この後の夫婦の関係という観点から考えると、ハッピーエンドとは言い切れないモヤモヤしたものが残ります。

 但し、この映画、日本で西部劇の人気投票をすると必ず上位にくるだけでなく、しばしばトップに選ばれる作品で、映画評論家に言わせれば、日本の股旅物のストーリーと見事に重なるため、日本人の心情に合いやすい作品であるとのこと。

 一方、この「ジャイアンツ」の一家の父親(ロック・ハドソン)は、流れ者(ジェームズ・ディーン)に対し、家長としての威厳を賭して対抗し、ジェット・リンクに惹かれそうになる奥さん(エリザベス・テーラー)の気持ちを自らの元に繋ぎとめているように思えます。

 ジョージ・スティーブンス監督には幼い頃に母親喪失の不安感があったそうですが、自身の不安の克服が「父親は母親を守ることができる強い男でなければならない」というアメリカ的な信条に沿った内容に結実したということなのでしょうか。

 撮影中にジェームズ・ディーンは、自分の役の影が薄いことをジョージ・スティーブンス監督に何度も抗議したものの、監督にことごとく却下されたそうです。

Jaiantsu(1956).jpg 何よりも、タイトルに表される舞台スケールの大きさ(「ジャイアンツ」はテキサス州のことを表すと同時に、原題「ジャイアント」は巨大油田を表す)に惹かれます。ここが日本の家族ドラマと一番違うところであり、あの石油が噴き出すシーンなどはマネできない。なにせ、テキサス1州だけで日本の国土の総面積の1.8倍ぐらいの広さがありますから、まさに"ジャイアンツ"。

Jaiantsu(1956)

 ところで、「シェーン」で主役を演じたアラン・ラッド(1913-1964)は、それまでも二枚目俳優としてそこそこ人気はありましたが、ダシール・ハメット原作、スチュアート・ヘイスラー監督の「ガラスの鍵」('42年)などにアラン・ラッド.jpgシェーン002.jpgおいても、原作における主人公の役を演じているのに映画の中では準主役級にされてしまっていたように、大スターと言えるほどの俳優ではなかったのが、この「シェーン」1作で一気にハリウッドの大スターとなります。ところが、その後は大した作品に出ておらず、60年代を過ぎて人気にも陰りが出てからはノイローゼになり、最後は睡眠薬の多用が原因で亡くなっています(享年50)

Alan Ladd in SHANE(1953) 

Jack Palance  in SHANE(1953)/in Bagdad Cafe(1987)
ジャック・パランス1.jpgOUT OF ROSENHEIM.jpg 一方のシェーンの敵役の殺し屋のウィルソン(酒場でコーヒーしか飲まないところが却って凄味があった)を演じたジャック・パランス(1919-2006)は、その後も性格俳優として活躍し、どちらかと言うと相変わらず悪役が多かったですが、パーシー・アドロン監督のバグダッド・カフェ」('87年/西独)で"老い楽の恋"に静かな情念を燃やす老画家役を好演し、個人的には、あの映画では、ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」と並んで最も印象に残りました(「あのジャック・パランスが」という想いで観たということもあるが)。

 しかし、その後も娯楽映画で"しっかり"悪役を演じ続け(「デッドフォール」('89年)でシルヴェスター・スタローン、カート・ラッセルを相手に犯罪組織のボスを演じていた)、一方、コメディ映画「シティ・スリッカーズ」('91年)ではアカデミー賞助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞 をダブル受賞しています。「シティ・スシティ・スリッカーズ dvd.jpgリッカーズ」は、ビリー・クリスタルらが演じる3人の中年男シティ・スリッカーズ パランス.jpgが「カウボーイ体験ツアー」に軽い気持ちで参加し、予期せずにもそこで自らを見つめ直し、自己を取り戻していくという話で(当時のアメリカの不況を反映している面もあったのかも)、「カウボーイ体験ツアー」なるものがあるのを初めて知りましたが、ジャック・パランスはツアーの教官役の老齢のカウボーイを演じ、当時72歳でしたが、老境に達していい味を出していました。「シティ・スリッカーズ [DVD]」Jack Palance & Billy Crystal in City Slickers(1991)
ジャック・パランス.jpg 映画の中でジャック・パランス演じるベテラン・カウボーイは心臓病で急死し、残された3人は、素人のまま「牛追い」の旅をすることになるわけですが(ジョン・ウェインの「赤い河」を意識したかのような牛追いシーンがあった)、実際のジャック・パランス本人は'06年に87歳で老衰のため亡くなっています。

 「役者」としての足跡はアラン・ラッドの方が大きいのかもしれないけれど、「人生」としてはジャック・パランスの方が恵まれていたかも。

Elizabeth_Taylor_in_Giant.jpgRock_Hudson_in_Giant.jpgGiant is best known as Dean's last film.jpg「ジャイアンツ」●原題:GIANT●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・スティーブンス●製作:ジョージ・スティーヴンス/ヘンリー・ジンスバーグ●脚本:フレッド・ジュイオル/アイヴァン・モファット●撮影:ウィリアム・C・メラー/エドウィン・デュパー●音楽:デミトリー・ティオムキン/レイ・ハインドーフ●原作:エドナ・ファーバー「ジャイアンツ」●時間:201分●出演:ジェームズ・ディーン/エリザベス・テーラー/ロック・ハドソン/ジェーDennis Hopper Giant (1956).jpgン・ウィザース/キャロル・ベイカー/チル・ウィリス/メーセデス・マッキャンブリッジ/サル・ミネオ/ロッド・テイラー/ナポレオン・ホワイティング/ジュディス・エヴリン/ポール・フィックス/エルザ・カルデナス/フラン・ベネット/デニス・ホッパー/マーセデス・マッケンブリッジ●日本公開:1956/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:早稲田松竹(77-12-21) (評価★★★★)●併映:「理由なき反抗」(ニコラス・レイ)

デニス・ホッパー(ジョーダン3世)[中央]

シェーン001.jpgシェーン jパランス.jpg「シェーン」●原題:SHANE●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・スティーブンス●製作:ジョージ・スティーヴンス●脚本:A・B・ガスリー・Jr●撮影:ロイヤル・グリグス●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ジャック・シェーファー「シェーン」●時間:118分●出演:アラン・ラッド/ヴァン・ヘフリン/ジーン・アーサー/ブランドン・デ・ワイルド/ジャック・パランス/ペン・ジョンスン/エドガー・ブキャナン/エミール・メイヤー/エリシャ・クック・Jr./ダグラス・スペンサー/ジョン・ディエルケス●日本公開:1953/10●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-12-20) (評価★★★☆)●併映:「駅馬車」(ジョン・フォード)          
パール座入口(写真共有サイト「フォト蔵」)①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス ③高田馬場パール座 ④早稲田松竹
高田馬場パール座2.jpg高田馬場パール座 地図.pngパール座.jpg高田馬場パール座4.JPGパール座1.jpg高田馬場パール座(高田馬場駅西口、早稲田通り・スーパー西友地下) 1951(昭和26) 年封切館としてオープン。1963(昭和38)年の西友ストアー開店後、同店の地下へ。1989(平成元)年6月30日閉館。


「シティ・スリッカーズ」●原題:CIシティ・スリッカーズ 2.jpgTY SLICKERS●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ロン・アンダーウッド●製作:アービー・スミス●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ディーン・セムラー●音楽:マーク・シェイマン●時間:112分●出演:ビリー・クリスタル/ダニエル・スターン/ブルーノ・カービー/ヘレン・スレイター/ジャック・パランス●日本公開:1992/03●配給:東宝東和 (評価★★★)

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映像美、スケールの大きさ、ジグソーパズルのような構成の謎解きを堪能できる「旅芸人の記録」。

旅芸人の記録.jpgO thiasos(1975).jpg旅芸人の記録 dvd.jpg  旅芸人の記録パンフ2.jpg 旅芸人の記録(映画パンフレット).jpg テオ・アンゲロプロス.jpg
「岩波ホール」公開時ポスター(1979.08) O thiasos(1975)テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX I」/映画パンフレット2種/Theo Angelopoulos(1935-2012

旅芸人の記録5.jpg テオ・アンゲロプロス監督には、「ギリシャ現代史3部作」、「国境3三部作」、「20世紀3部作」(第1作「エレニの旅」('04年)のみ公開済み)などのシリーズがあり、70年代に発表された「旅芸人の記録」は「ギリシャ現代史3部作」の1つ。カンヌ映画祭で寺山修司の「田園に死す」と競い、国際映画批評家賞を受賞しました(当時の映画情報誌「シティロード」に両監督の対談が載った)。

 新作「エレニの旅」では個人史的色合いが強くなっていますが、「旅芸人の記録」を観れば、この監督がもともとは、歴史とそれに巻き込まれる人民の関係をダイナミックに描く映像作家であることがわかります。劇中劇としての「エレクトラ」の神話(娘が父親を愛し母親を憎むという精神分析用語"エレクトラ・コンプレックス"の由縁となっている話)と登場人物たちの相関関係との相似構造、同じ場所で年代差のある複数の事件が継ぎ目なく現れるなどの複雑なカットバック(これスゴイ!)が今見ても斬新です。

アレクサンダー大王 アンゲロプロス1.jpg アンゲロプロス監督の次の作品「アレキサンダー大王」('80年)にも期待しましたが、これは実在のアレキサンダー大を扱ったものではなく、義賊の頭領となった男をギリシャ歌劇「アレキサンダー大王」に重ねて描いたもの。

アレクサンダー大王 アンゲロプロス vhs1.jpg 1900年の大晦日、手下の手引きで刑務所を脱獄した義賊の頭は、貴族と英国人を人質にとって故郷の北ギリシアに帰還し、彼は元々は本名も知られていない孤児だったが、このことにより「アレクサンダー大王」と呼ばれるようになる。アレクサンダーは人質を盾に、政府の密使と交渉し、仲間の釈放と身代金、更に村の解放を要求する―。

 この作品の"アレクサンダー大王"は癇癪持ちで、自分の育ての母と結婚するも彼女を射殺し、交渉相手の密使も殺し、仕舞には英国人の人質らも殺してしまうという―。そこに至るまでに、複雑な政治背景が重層的に描かれていますが、その描かれ方が象徴的であったりして分かりにくかったです(併せて、カットバックで彼の子ども時代が描かれていて、現在と過去が同じフレームで併行する手法などは「旅芸人の記録」にもあった)。

 「長回し」もこの人の特徴で、その分、映画自体も長くなるわけですが、「アレキサンー大王」では「長回し」が更に昂じたような気もして、「旅芸人の記録」の3時間52分に対して「アレキサンダー大王」の方が3時間28分とやや短いのに、観ていて「旅芸人の記録」より長く感じました(ロード館と大井武蔵野館の椅子のクッションの違いだけのためではないだろう)。

 何よりも、この作品でアンゲロプロスが、エイゼンシュタインが「イワン雷帝」で、黒澤明が「乱」で陥ったような、あたかも歌舞伎でも見せられているような様式美へ傾斜し過ぎたのでないかという気がしました(映像的には「イワン雷帝」に迫る壮大さだけど、観客は置き去りにされているような...)。


 個人的にはやはり「旅芸人の記録」が、映像美、スケールの大きさ、ストーリー構築などあらゆる点からみて一番。劇場で鑑賞したいところですが、ジグソーパズルのような構成に謎解きを挑むつもりで、自宅で冷静に鑑賞するというスタンスでも充分堪能できます。

「旅芸人の記録」
旅芸人の記録1.jpg 旅芸人の記録2.jpg
旅芸人の記録3.jpg 旅芸人の記録4.jpg
旅芸人の記録5.jpg Tabi geinin no Kiroku (1975).jpg Tabi geinin no Kiroku (1975)
劇中で右翼の男達に暴行され捨てられた後、いきなり立ち上がって「血の日曜日」事件などのギリシャへの侵略戦争史について滔々と語り始めるエヴァ・コタマニドゥ

「旅芸人の記録」●原題:O THIASSOS(THE TRAVELLING PLAYERS)●制作年:1975年●制作国:ギリシャ●監督・脚本:テオ・アンゲロプロス●撮影:ヨルゴス・アルヴァニティス●音楽:ルキアノス・キライドニス●時間:232分●出演:エヴァ・コタマニドゥ/ペトロス・ザルカディス/ストラト・スパキス/アリキ・ヨルグリ/マリア・ヴァシリウ/ヨルゴス・クティリス/キリアトス・カトリヴァノス新宿文化シネマ.jpg新宿文化シネマ1劇場内.jpg/グレゴリス・エヴァンゲラドス/アレコス・ブビス/ニナ・パパザフィロプル/ヤニス・フィリオス/ヴァンゲリス・カザン●日本公開:1979/08●配給:フランス映画社●最初に観た場所:新宿文化シネマ1(80‐02‐11) (評価★★★★★
新宿文化シネマ1 文化シネマ1〜4・2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン

アレクサンダー大王 アンゲロプロス2.jpg「アレクサンダー大王」●原題:O MEGALEXANDROS(ALEXANDER THE GREAT)●制作年:1975年●制作国:ギリシャ/イタリア/西ドイツ●監督:テオ・アンゲロプロス●製作:ニコス・アンゲロプロス●脚本:テオ・アンゲロプロス/ペトロス・マルカリス●撮影:ジョルゴス・アルヴァニティス●音楽:クリストドゥス・ハラリス●時間:208分●出演:オメロ・アントヌッティ/エヴァ・コタマニドゥ/グリゴリス・エバンゲラトス●日本公開:1982/03●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-11-13) (評価★★★)

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著者の手づくりへのこだわり。手づくりアニメは純粋芸術化していくのか?
アニメーションの世界へようこそ.jpg Atama Yama (Mt. Head).jpg 頭山」山村浩二作品集 1.jpg  雪の女王 dvd.jpg  水玉の幻想 INSPIRACE.jpg
アニメーションの世界へようこそ (岩波ジュニア新書)』「「頭山」山村浩二作品集 [DVD]」「雪の女王 [DVD]」「カレル・ゼーマン作品集 [DVD]

アニメ「頭山」.jpg ケチな男が拾ったサクランボを種ごと食べてしまったため、種が男の頭から芽を出して大きな桜の木になる。近所の人たちは大喜びで男の頭に上って、その頭を「頭山」と名づけて花見で大騒ぎ、男は頭の上がうるさくて苛立ちのあまり桜の木を引き抜き、頭に大穴が開く。この穴に雨水がたまって大きな池になり、近所の人たちが船で魚釣りを始め出し、釣り針をまぶたや鼻の穴に引っ掛けられた男は怒り心頭に発し、自分で自分の頭の穴に身を投げて死んでしまう―。
 
ほら吹き男爵の冒険 サクランボ.jpg落語 頭山.jpg 江戸落語「頭山」(上方落語では「さくらんぼ」)を基にした短編アニメ「頭山」('02年)、シュールな展開が面白かったです。このタイプのナンセンスは個人的好みでもありました。徒然草の「堀池の僧正」が元ネタであるという説があるそうですが、西洋でも、ビュルガー原作の小説「ほら吹き男爵の冒険」の中に、男爵が大鹿めがけて撃ったサクランボの種が鹿の額に命中し、後日、男爵はあたま山 アニメ.jpg頭からサクランボの木を生やしたその鹿と遭遇してこれを射止め、シカ肉とサクランボソースの両方を堪能する―という話があり、サクランボという点で符合しているのが興味深いです。ユーリー・ノルシュテインなどの影響も感じられ、一方で語りは浪曲師の国本武春が弁士を務めているジャパネスク風というこのアニメ作品、世界4大アニメーション映画祭(アヌシー・ザグレブ・オタワ・広島)のうちアヌシー、ザグレブ、広島でグランプリを獲得し、第75回アカデミー賞短編アニメーション部門にもノミネートされ、内外23の映画祭で受賞・入賞を果たしたそうです。

 本書は、その「頭山」の作者であるアニメーション作家・山村浩二氏が、ジュニア向けに書き下ろしたアニメーション入門書(山村氏は今年['07年]、「カフカ 田舎医者」('07年)で、オタワ国際アニメーション映画祭で日本人初のグランプリを獲得し、これで4大アニメーション映画祭のすべてにグランプリを獲得したことになる)。

アルタミラ洞窟画.jpg アニメーションの誕生から現代に至るまでの歴史を辿り、「頭山」のメーキングから、アニメーションの作り方までを、編集・録音、発表・公開まで含めて(この辺りは職業ガイド的)紹介しています。

 アニメーションの発想が、アルタミラの洞窟画の牛の絵などにも見られるというのが面白く(疾走感を表すために前脚が3本描かれているものがある)、法隆寺の玉虫厨子(日本橋高島屋に立派なレプリカがありましたが、今どうなったか?)の「捨身飼虎図」(しゃしんしこのず)なども、ナルホド、アニメーションの発想なのだなあ。  
 
雪の女王.jpg アニメの歴史は映画の歴史とほぼ同時に始まっていて、東欧圏とかに結構いい作品があるのを知りました。

 ロシアン・アニメはレフ・アタマノフ監督の「雪の女王」('57年/ソ連)(アンデルセン原作)など、何本か観たことがありましたが、ディズニーのものとはまた違った趣きがあって良かったです(「三鷹の森ジブリ美術館」の館主・宮崎駿監督が監修した新訳版が来月('07年12月)公開予定)。

水玉の幻想1.jpg 本書はカラー版なので写真が美しく、カレル・ゼマン(或いはカレル・ゼーマン)(KAREL ZEMAN 1910-1989/チェコ)「水玉の幻想」(Inspiration 1948年)などは、動いているところをまた見たくなります(これも手づくり作品の極致)。物語は、ガラス細工職人が、創作にちょっと行き詰ったある日、窓の外の雨の中に見た幻想という形をとっており、木の葉を伝う雨の一雫の中に幻想の世界が広がり、踊り子とピエロの儚い愛の物語が展開するガラス人形アニメーションで、人や動物、草や木、湖や海まで全てガラスで作られており、それらをコマ撮りしてここまでの高度な芸術世界を創り上げているのは、ボヘミアンガラスのお膝元とは言え、驚嘆させられるものがあります。長さ10分強の短編ですが、ゼマンにはこの他に、ジュール・ヴェルヌの小説などを映像化した長編作品もあります(代表作は「盗まれた飛行船(Ukradená vzducholoď)」(原作『十五少年漂流記』 88分、1966年))。 

 本書の全編を通じて、著者の手づくりへのこだわりが感じられます。「頭山」も長さ10分ほどの作品ですが、原画は1万6千枚だそうで、構想から完成までの期間は6年! アニメの作り方も「霧の中のハリネズミ」('75年/ソ連)のユーリー・ノルシュテインなどに似ています。作者(著者)は、自分が今生きているとはどういううことなのか、という哲学を、この作品で描きたいと思ったそうです。

 '06年にディズニーがCGアニメのピクサー社の買収を発表しましたが(ピクサーCEOスティーブ・ジョブズはディズニーの筆頭株主に)、今後ますます世界の商業アニメのCG化は進むだろうと思われ、こうした手づくりアニメは純粋芸術化していくような気もしました。

頭山es.jpg 「頭山」●英題:MT. HEAD●制作年:2002年●監督・演出・アニメーション・編集・製作:山村浩二●脚本:米村正二 ●原作:落語「頭山」●時間:10分●声の出演:国本武春/ブルーノ・メッカー●公開:2003/04●配給:スローラーナー=ヤマムラアニメーション(評価:★★★★)

雪の女王es.jpg雪の女王ド.jpg 「雪の女王」●原題:Снежная королев(スニェージナヤ・カラリェバ)●制作年:1957年●制作国:ソ連●監督:レフ・アタマノフ●脚本:レフ・アタマノフ/G・グレブネル/N・エルドマン●音楽:A.アイヴァジャン●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:63分●声の出演:Y.ジェイモー/A.カマローワ/M.ババノーワ/G.コナーヒナ/V.グリプコーフ●公開:1960/01/1993/08 ●配給:NHK/日本海映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)

カレル・ゼマン 水玉の幻想 dvd.jpgカレル・ゼマン 水玉の幻想 .jpg mizutama.jpg 「水玉の幻想」●原題:INSPIRACE●制作年:1948年●制作国:チェコスロバキア●監督:カレル・ゼマン(ゼーマン)●時間:12分●公開:1955/06●配給:独立映画(評価:★★★★)
  
 
幻想の魔術師 カレル・ゼマン コレクターズBOX [DVD]」所収作品:「クラバート」「彗星に乗って」「鳥の島の財宝」「前世紀探検」「シンドバッドの冒険」「狂気のクロニクル」「ホンジークとマジェンカ」「クリスマスの夢」「プロコウク氏 映画製作の巻」「プロコウク氏 家作りの巻」「プロコウク氏 靴屋はいやだの巻」「プロコウク氏 発明の巻」「王様の耳はロバの耳」「ハムスター」「幸運の蹉跌」

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