【275】 ○ ウィリアム・デイビス (位高八穂:訳) 『ベスト・ワン事典 (1982/05 社会思想社・現代教養文庫) ★★★☆(○ 銭谷 功 「エベレスト大滑降」 (1970/07 松竹) ★★★☆)

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ベストに選んだ理由に選者の思い入れや機知があり、楽しく読めた。

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ベスト・ワン事典 (現代教養文庫)』教養文庫 〔'82年〕「エベレスト大滑降」('70年/松竹)英語版「Man Who Skied Down Everest [DVD] [Import]」(1975)
    
 動物、美術、ビジネス、映画、犯罪から文学、医療、軍事、スポーツ、音楽、娯楽、政治まで、20余りの分野の「ベスト」を、分野ごとの専門家にその専門家自身の「独断と偏見」で選んでもらったものです(原題:The Best of Everything:A Guide To Quality For Those Who Know How To Appreciate It,1980)。
    
The Best of Everything2.jpgThe Best of Everything.jpg 「ギネス・ブック」の客観的・量的ベストに対し、本書は主観的・質的ベストを追求していて、「絵画のベスト」とか「病院のベスト」などマトモなものから、「死体を強奪する方法のべスト」「上流階級に仲間入りできる場所のベスト」といったものまで何でもありなのが楽しいです。

 原著は'80年に英国で出版されたもので、少し古くかつ英国贔屓で、ビジネスや法律に関わる分野などはほとんど英米から選ばれていますが、「中央銀行のベスト」にオイルショックによるインフレ後も、円を最強通貨とした「日本銀行」が、「赤ちゃんを産むのによい場所のベスト」に赤ちゃんの死亡率が1%の「日本」(2位はオランダの1.03%)、「汽車のベスト」に「東京-大阪間を走る超特急」(当然のことながら"新幹線"を指している)、「ホテルマッサージのベスト」に「東京のニューオータニ」などが選ばれています(ニューオータニは、「下の方の階のどこかでマッサージ室を経営007は二度死ぬ  nihon.jpgしていて、そこで働いている女性たちは魔法のような指を持っています」と書いてある。この日本のマッサージ技術への憧憬は映画「007は二度死ぬ」('67年/英)でジェームズ・ボンドが浴槽つきのマッサージルームでリラックスするシーンなどにも反映されていたように思う)。

羅生門4.bmp北斎ド.jpg  芸術関連もヨーロッパ中心に「ベスト」が選出されている傾向はありますが、その中で「挿絵画家のベスト」に「北斎」が、「フラッシュバック映画のベスト」に「羅生門」が選ばれています(「日本の小説のベスト」には谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』が選ばれているが、「古今東西の小説のベスト」にはジェイムス・ジョイスの『ユリシーズ』が選ばれている)。

 それとスポーツの分野で日本人が2人選ばれていて、「滑降スキーヤーのベスト」にジャン・クロード・キリー、フランツ・クラマーを抑えて、エベレストを滑降した「無茶苦茶な日本人」三浦雄一郎が、「レスリング選手のベスト」に、「186戦無敗のキャリアを持つ獰猛なフェザー級選手」渡辺長武(おさむ)が選ばれています(「無茶苦茶な」とか「獰猛な」という修辞が面白い)。

The Man Who Skied Down Everest.jpg 三浦雄一郎がエベレスト滑降に挑んだのは'70年5月6日で、「エベレスト大滑降」('70年/松竹)という記録映画になりましたが(昔、学校の課外授業で観た)、これを観ると、当初エベレスト8000メートルのサウスコルから(そもそもここまで来るのが大変。シェルパ6名が遭難死している)3000メートルを滑走する予定だったのが、2000メートルぐらい滑って転倒したままアイスバーンに突入(何せスタートから5秒で時速150キロに達したという)、パラシュートの抑止力が効かないまま150メートルほど滑落し、露岩に激突して止まっています。

エベレスト大滑走2.jpg 3000メートル滑るところを2000メートルで転倒してこれを「成功」と言えるかどうか分かりませんが、標高6000メートルの急斜面でアイスバーンに突っ込んで転倒して更に露岩にぶつかって死ななかったのは「奇跡」とも言えます。この「エベレスト大滑降」を再編集した英語版作品"The Man Who Skied Down Everest"('75年/石原プロ・米→カナダ)は、カナダの映画会社が石原プロから版権を買い取り台本・音楽等を再編三浦雄一郎03.jpgしたもので、'75年に米アエベレスト大滑降 pamhu .jpgカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞していて、これがカナダ映画史上初のオスカー受賞作品となっています。三浦雄一郎氏の狂気染みた挑戦に外国人もたまげたのか?
三浦雄一郎氏(2002年)
映画パンフレット 「エベレスト大滑降」 製作/監修 銭谷功 スキー探検隊 石原慎太郎/三浦雄一郎/藤島泰輔/加藤幸彦/安間荘 語り手 芥川隆行

186戦無敗の渡辺長武
渡 辺 長 武.jpg 一方、渡辺長武の「186戦無敗」はギネスブックにも掲載されたことがあり(ウィキペディアでは189戦189勝となっている)、無敗記録としてみれば、後に柔道において、山下泰裕の「203戦無敗」という記録が生まれますが、山下泰裕の「203戦無敗」には7つの引き分けが吉田沙保里.jpg含まれているため、渡辺長武の記録はそれ以上に価値があるかも。世界選手権を連覇し('62年・'63年)、東京オリンピック('64年)でも金メダルを獲得しています(後に、女子レスリングで吉田沙保里の、2016年のリオ五輪決勝で敗れるまでの206連勝、オリンピック・世界選手権16連覇という記録が生まれることになるが)。

朱里エイ子.jpg その渡辺長武は『アニマル1』(アニマルワン)というレスリング・アニメのモデルになりました(原作は「川崎のぼる」のコミック)。アニメ主題歌を、一昨年('04年)亡くなった朱里エイコが歌っていましたが、歌唱力のある人でした。「あの鐘を鳴らすのはあなた」を歌うと、このヒトがイチバン、相良直美が2番か3番、和田アキ子はそれらより落ちるという感じでした(個人的には)。

朱里エイコ(1948-2004/享年56)

 版元が倒産しているため古書市場でしか入手できない本で、また、特に人に薦めるという類の本でもないのですが、ベストに選んだ理由に選者の思い入れや機知があり、読んで楽しく、個人的には暇つぶしや気分転換に重宝しました。 

Yuichiro Miura The Man Who Skied Down Everest.jpgThe Man Who Skied Down Everest5.jpg「エベレスト大滑降」●制作年:1970年●監督:銭谷功●製作:中井景/銭谷功●撮影:金宇満司●音楽:団伊玖磨●時間:119分●公開:1970/07●配給:松竹(評価:★★★☆)

"Yuichiro Miura The Man Who Skied Down Everest"

アニマル1 アニメ.jpg「アニマル1(アニマルワン)」●演出:杉山卓●脚本:山崎忠昭/雪室俊一/辻真先/川崎泰民●音楽:玉木宏樹(主題歌:朱里エイコ「アニマル1の歌」)●原作:川崎のぼる●出演(声):竹尾智晴/富山敬/北川智恵子/北村弘一/田の中勇/山本嘉子/栗葉子/雨森雅司/松尾佳子/神山卓三/小林修/鎗田順吉/野沢那智●放映:1968/04~09(全27回)●放送局:フジテレビ

《読書MEMO》
●レスリング・柔道(男女)日本人選手連勝記録
・吉田沙保里 206戦206勝(個人戦のみ。五輪・世界選手権16連覇。2016年のリオ五輪決勝で敗れる)
・山下 泰裕 203戦196勝7分け(1977年の日ソ親善試合から1985年の全日本選手権まで。継続したまま引退)
・渡辺 長武 189戦189勝(1987年の全日本社会人選手権で終了)
・伊調  馨  189戦189勝(2007年5月の不戦敗を除く試合でのもの。不戦敗以降は108連勝。2003年~2016年)
・吉田沙保里 119戦119勝(団体戦も含む。全日本女子選手権で山本聖子に判定負けして以来、公式戦119連勝。2001年~2008年)
・田村 亮子 84戦84勝(1996年のアトランタ五輪決勝で敗れる)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月25日 01:12.

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【276】 △ 立花 隆 『ぼくはこんな本を読んできた―立花式読書論、読書術、書斎論』 (1995/12 文藝春秋) ★★★ is the next entry in this blog.

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