【1346】 ◎ 東野 圭吾 『幻夜 (2004/01 集英社) ★★★★☆

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『白夜行』かこの作品で直木賞をあげるべきじゃなかったのかな。

幻夜 東野圭吾.jpg 『幻夜』 [単行本/'04年] 幻夜 東野圭吾 文庫1.jpg 『幻夜 (集英社文庫 (ひ15-7))』 [' 07年]

東野 圭吾 『幻夜』文庫.JPG 雅也は工場の資金繰りに窮し首を吊った父親の通夜の翌朝、阪神淡路大震災に遭遇し、工場の瓦礫の中で父の借金の借用書を持っている叔父俊郎を発見、俊郎の頭の上に石を振り下ろして殺害し、懐から借用書を抜き去るが、その一部始終を、新海美冬という娘が見ていたようだ。美冬は両親をたまたま訪れていたが、2人とも死んだと言い、雅也の犯罪に口をつぐみ一緒に東京へ行こうと誘う―。

 阪神淡路大震災の2カ月後に起きた地下鉄サリン事件の衝撃が収まらない中、銀座の宝飾店「華屋」で異臭事件が発生し、美冬たち従業員へのストーカー行為と関連があると疑われた上司が失脚するが、これは美冬が上司の宝石デザインを自分のものにするために仕組んだことだった。その後カリスマ美容師を発掘し美容院の経営に乗り出し成功した美冬は、手に入れたデザインをもとに雅也が加工した指輪を利用して「華屋」の社長夫人の座に。雅也は美冬と結ばれることを信じて美冬に協力していく―。

白夜行.jpg 『白夜行』の続編という気持ちで読んでしまうためか、美冬が登場したとたんに、ああ、何か色々悪事をやりそうだなあと―、しかし、そうと分かっていても、読んでいて飽きることはなく、よくまあ次から次へと利用できるものを利用し、自分にとって害となる人間を陥弄する計略を思いつくものだなあと、半ば感心させられます。

 『白夜行』で亮司が魔性の女性・雪穂の指示に沿って動くのと同じパターンですが、『白夜行』では亮司と雪穂が接触する場面の描写は無く、2人の話が別々に進行しながらも、亮司が雪穂の手先となって動いていることが示唆されているという形だったのに対し、この作品では、美冬と雅也の2人が打ち合わせをする場面が頻繁に出てきて、その手口が分かり易いといえば分かり易いですが、女性主人公の方の神秘性は弱まったと思われます。

 『白夜行』における雪穂のトラウマ体験のようなものは、この作品の美冬については描かれておらず、彼女の過去が殆ど明かされていないために、『白夜行』のような重厚さは感じられません。
 一方で、もしかして美冬=雪穂(或いは、雪穂の経営する高級品店「ホワイトナイト」に勤務し、雪穂を尊敬していた女性)なのかという、もう1つの"推理"を巡らせる楽しみが、読む側に提供されています。

 この作品は直木賞候補になりましたが、『白夜行』が候補になった時に強く推した田辺聖子氏でさえ、「推理小説としての出だしは、快調」であるものの、「複雑な伏線、期待も昂まるのだが、ヒロインの印象がどんどん変ってゆき、最後に到って作品自体も変調する。読者は深い混乱のまま、うっちゃられる...という、印象だった」と"竜頭蛇尾"を指摘していて、確かにそうした面もあるかも知れません。

 個人的には、同じく直木賞に推さなかった理由であるにしても、平岩弓枝氏が、「主人公が何故、本当の自分を抹殺し、他人に化けて生きねばならなかったかという主人公の過去が殆んど書かれていない。その理由はこの作品がすでに作者が発表されているもう1つの作品の続篇の要素を強く持っているからで、ならば2作をまとめて候補にしなければ作品の評価は出来ないと思う」としてるのが、2作の関係性をよく把握していて、しっくりきました。

幻夜 テレビ.jpg  しかしながら、直木賞を獲った『容疑者χの献身』もシリーズものの中の1作であり、選考委員の多くがこの作品を絶賛しましたが、この受賞は何となく、それまでの候補作が東野作品の中での相対評価になってしまっていた("東野作品"馴れしてしまっため、結果として「決定打」となり得ないとかいった厳しめの評価が続いた)ことの反動のようなものを感じました。

 個人的にはこの作品『幻夜』は、『白夜行』に及ばずともピカレスク・ロマンとして一級品であることには変りが無いように思え、今年('10年)で刊行され6年になりますが、WOWOWでのテレビドラマ化が決定してします(全8話、主演:深田恭子)。
 『容疑者χの献身』よりはどう見ても上であり、やはり『白夜行』か『幻夜』で直木賞をあげるべきじゃなかったのかなと思うけれど...。

 【2007年文庫化[集英社文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2010年3月18日 23:38.

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