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O・ヘンリーの代表的短編5編のオムニバスで映画化。安心して観られる。

「人生模様」1952.jpg「人生模様」00.jpg  「人生模様」01スタインベック.jpg
人生模様 [DVD]」O'Henry's Full House (1952) 進行役:ジョン・スタインベック

 「最後の一葉」「賢者の贈物」など、O・ヘンリーの代表的短編5編を原作とする、5人の監督による全5話のオムニバス映画で、進行役を作家のジョン・スタインベックが務めてます。

第1話「警官と聖歌」
「人生模様」10ロートン.jpg 紳士気取りで人の善いルンペン男ソーピイ(チャールズ・ロートン)は、夏は涼しいセントラル・パークで、冬は暖かい留置所で暮らすことにしていた。ある年の冬、彼は仲間のホレス(デイヴィッド・ウェイン)に、留置所に入る秘術を伝授しようとしたが、どうも「人生模様」11モンロー.jpgうまく警官に捕まらない。ソーピイは街の女(マリリン・モンロー)に声を掛けたが、かえって彼女に好意を寄せられ面喰らって逃げ出す始末。ある教会に入り、オルガンの響きに心打たれて、ルンペン渡世から足を洗おうと決心したが―。

 主演のチャールズ・ロートン(「情婦」('57年))がさすがに旨い。レストランでたらふく食べて、食後の葉巻のサービスに堂々と応えているところなどは、偽紳士役が似合う。マリリン・モンローはまだ「グラマーなだけの女優」というイメージしか持たれていなかった頃だが、こうして観るとその演技は悪くない。

第2話「クラリオン・コール新聞」
「人生模様」20.jpg 刑事のバーニイ(デール・ロバートソン)は、迷宮入り殺人事件の犯人をヤクザ者のジョニイ(リチャード・ウィドマーク)だと睨んだ。バーニイとジョニイは幼な友達で、2人は十数年ぶりで再会したのだ。バーニイはジョニイに証拠を突きつけ迫るが、ジョニイはバーニイに昔千ドル貸したことを持ち出した。バーニイはジョニイを一応見逃し、千ドルの工面を考えた。すると町の新聞「クラリオン・コール」が、犯人の名前を通告した者に千ドル出すという懸賞を―。

「人生模様」21.jpg 最後の格闘シーンは要らなかったが、新聞記事で見せる終わり方は旨かった。リチャード・ウィドマークのヤクザ者の役が嵌っている。晩年は大御所的存在だったが、若い頃は、冷やかな笑顔をトレードマークに、murder victims, Richard Widmark2.jpg〈スカンク草井〉.jpgギャング映画の非情な殺し屋、戦争映画の冷徹で人望のない指揮官役などで持ち味を発揮していた人だ。「オリエント急行殺人事件」('74年)で殺人事件の被害者役をやっていた(殺害されても致し方のない男の役なのだが)。手塚治虫の作品にしばしば登場する冷酷な悪役キャラクター〈スカンク草井〉のモデルでもある。

第3話「最後の一葉」
「人生模様」30.jpg 恋人に捨てられた若い女画学生ジョアンナ(アン・バクスター)は、失望し、寒いニューヨークの街を彷徨った末、姉スーザン(ジーンン・ピータース)と一緒に住むアパートに辿り着くと、そのまま病の床に伏す。医師は肺炎と診断し、ジョアンナが生きる希望を取り戻さなければ助からないと言った。彼女は自分の部屋の窓ぎわに生えている蔦にある21枚の葉が、その1枚ごとに彼女の1年間の生命を意味し、最後に残った葉が風に吹き落とされたら、自分は死ぬと思い込んでいる。容態は悪化し、ある朝、蔦も葉も最後の1枚になっ「人生模様」31.jpgた。途方にくれたスーザンは、バーマン(グレゴリー・ラトフ)という自分の才能に自信を失った画家に悩みを訴える―。

 何度も映像化されている話だが、このジーン・ネグレスコ監督作は美術が王女ネフレテリ(アン・バクスター).jpgアン・バクスター3.jpg評価されているようだ。他のカラー作品も観たが、「葉っぱ」がダメなものが多い。白黒が幸いしたかも。アン・バクスターと言えば「イブの総て」('50年)だが、「十戒」('56年)の王女ネフレテリ役や「刑事コロンボ/偶像のレクイエム」('73年)の犯人役も懐かしい。

第4話「酋長の身代金」
「人生模様」40.jpg「人生模様」41.jpg サム(フレッド・アレン)と相棒のビル(オスカー・レヴァント)は、金持ちの子を誘拐して身代金を稼ごうとアラバマの村へやって来た。2人はうまく少年を誘拐する「人生模様」42.jpgことに成功、身代金請求の手紙を少年の両親宛てに出した。ところが、この少年、インディアンの酋長気どりの腕白小僧で2人はほとほと手を焼く。そのうち、両親から手紙が来たが、それには身代金を払わないと言うばかりか、どうしても少年を返したいなら250ドルよこせと書いてあった―。

 元祖「ホーム・アローン」('90年/米)みたいなテイスト。監督はハンフリー・ボガート主演の「脱出」('44年)、「三つ数えろ」('46年)のハワード・ホークスなのだが、あんなハードボイルドを撮っている監督が、こんな喜劇も撮っているのかといういう感じ(でも、この作品の翌年にマリリン・モンローが主演してブレイクした「紳士は金髪がお好き」('53年)やロック・ハドソン主演「男性の好きなスポーツ」('64年)のようなコメディもあったか)。二人組が「ホーム・アローン」調のどたばた喜劇で(「ホーム・アローン」の方がこの作品からヒントを得た?)、これって、このオムニバス映画全体の流れの中でどうなのか(ただし、チャールズ・ロートン主演の第1話も喜劇調ではあった)。

第5話「賢者の贈物」
「人生模様」50.jpg 愛し合う若夫婦デラ(ジーン・クレイン)とジム(ファーリー・グレンジャー)は、貧乏なのでクリマス・イヴが来るのにお互いの贈物を買うことができなかった。デラは出勤するジムを送りながら一緒に街に出、途中で2人はある宝「人生模様」51.jpg石商のウィンドウの前に立ち止まる。ジムは素敵な櫛に目をつけ、これがデラのふさふさした金髪を飾ったらさぞ美くしかろうと考えた。一方デラはプラチナの時計入れを見て、これはジムの骨董的な金の懐中時計を入れるのにふさわしいと思った―。

 役者はそう有名ではないが、ヘンリー・キング監督の演出が旨くいっているのではないか。結末は分かっていても、ラストは泣かせる(ヘンリー・キングは「慕情」('55年/米)など情話ものを得意とする監督だった)。


 演出は多少ムラがあるものの、全体としてはまずますで、これは原作の良さに助けられている部分もあると思います。ただ、原作のテイストをよく伝えているのは役者のお陰かもしれず、昔の俳優は演技が旨かったなあとも思います。「最後の一葉」にしても「賢者の贈物」にしても、ちょっとでも下手な俳優が演じると逆に白けてしまうところ、個々の演技ではしっかり見せて(魅せて)いたように思います。5編とも楽しく、と言うか、原作を読んだ者としては安心して観られました。

「人生模様」ポSU.jpg「人生模様」DVD.jpg「人生模様」●原題:O. HENRY'S FULL HOUSE●制作年:1952年●制作国:アメリカ●監督:(第1話)ヘンリー・コスター/(第2話)ヘンリー・ハサウェイ/(第3話)ジーン・ネグレスコ/(第4話)/ハワード・ホークス/(第5話)ヘンリー・キング●脚本:(第1話)ラマー・トロッティ/(第2話)リチャード・L・ブリーン/(第3話)アイヴァン・ゴッフ/ベン・ロバーツ/(第4話)チャールズ・レデラー/ベン・ヘクト/ナナリー・ジョンソン/(第5話)ヘンリー・キング/ウォルター・バロック/フィリップ・ダン●撮影:(第1話)ロイド・エイハーン/(第2話)ルシアン・バラード/(第3話)ジョセフ・マクドナルド/(第4話)ミルトン・R・クラスナー/(第5話)ジョセフ・マクドナルド●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:原作:О・ヘンリー●時間:117分●出演:(第1話)チャールズ・ロートン/マリリン・モンロー/デヴィッド・ウェイン/(第2話)デイル・ロバートソン/リチャード・ウィドマーク/(第3話)アン・バクスター/ジーン・ピーターズ/グレゴリー・ラトフ/(第4話)フレッド・アレン/オスカー・レヴァント/リー・アーカー/(第5話)ジーン・クレイン/ファーリー・グレンジャー/(進行役)ジョン・スタインベック●日本公開:1953/06●配給:20世紀フォックス(評価:★★★★)

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"母と娘"の物語としては新しいかもしれないが、作者の作品としては"定番"か。

『母性』wカバー.jpg母性.jpg
母性』['12年/新潮社]
母性 (新潮文庫)』(映画タイアップカバーとの二重カバー)戸田恵梨香/永野芽郁

 ある日、女子高生が自宅の中庭で倒れているところを母親が発見する。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。事故か自殺か、真相は不明。遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも―。

 「イヤミスの女王」とも呼ばれている作者の作品ですが、この作品もそれなりに"イヤミス"感を漂わせていました。一人称告白形式で綴っていくのも『告白』などと同じ。だから、コアなファンがいるのだろうなあと。

 今回は、「能うる限りの愛情」を母親より授けられてきたと信じる娘がいて、その娘が母となり、自分の娘に同様の愛を与えようとするものの思うように伝わらず、一方で、娘は娘で母親から愛されていないと感じている、その両者の葛藤がモチーフとなっています。両者の食い違いを、一つひとつの出来事に対する母と娘の捉え方の違いという形で端的に浮き彫りにしています。

 この辺りは上手いなあと。ただ、この「信頼できない語り手」という枠組み手法も『告白』などこれまでの作者の作品の中で用いれてきたものであり、本書の惹句「圧倒的に新しい"母と娘"の物語(ミステリー)」というほどには目新しいとは思いませんでした。いや、"母と娘"の物語としてはニュータイプなのかもしれないけれど、この作者の作品としては"定番"ではないかなあ(この作者は、なかなか『告白』を超えられないでいる印象を受ける)。

 今月['22年11月]、廣木隆一監督による映画化作品が公開される予定で、母親を戸田恵梨香、娘を永野芽郁が演じているようですが、どちらかと言うとエキセントリックなのは母親の方でしょう。「愛着障害」と言ってもいいくらい。これを女優はどう演じるのかなあ。

「母性」.jpg
(●2002年11月、廣木隆一監督による映画化作品公開。

「母性」soukan.jpg 女子高生が転落死する事件が発生。その原因を探っていた教師の清佳(永野芽郁)は、自身の過去を振り返っていく。彼女は母親・ルミ子(戸田恵梨香)の愛を受けられず、人知れず悩みを抱えた少女時代を過ごしてきた。一方、別の場所ではルミ子が娘との関係について、神父(吹越満)に告白する。ルミ子は、自身の母(大地真央)から受けてきた無償の愛を、そのまま清佳に注いできたと証言。しかし、両者の回想は徐々に食い違いが生じていき、日常に潜んだ壮絶な過去が明らかになっていく―。

「母性」2.jpg 母親・ルミ子役に戸田恵梨香、娘・清佳役に永野芽郁と、共に子役時代から活躍する演技派の二人をもってきていたが、戸田恵梨香が1988年生まれ、永野芽郁が1999年生まれと実年齢で10歳程度しか違わないので、あまり親子に見えなかったし、また、敢えてそうしたプロモーションのやり方をしていた(因みに、NHKの「連続テレビ小説」では、永野芽郁が2018年度前期の「半分、青い」でヒロインの発明家を、戸田恵梨香が2019年度後期の「スカーレット」でヒロインの陶芸家を演じていて、ヒ「母性」takahata.jpgロイン役は永野芽郁が先。永野芽郁はオーディション初参加ながら応募者2,366人の中から選出)。母親・ルミ子はかなりエキセントリックなキャラクターで、これを演じるのは難しいと思ったが、戸田恵梨香はまずます。ただし、ルミ子を苛める義母役の高畑淳子の演技ぶりが凄すぎて、主役の二人を喰ってしまった印象(演技過剰?)。高畑淳子は内田伸輝監督の「女たち」('21年/シネメディア=チームオクヤマ)で娘に苛立ちをぶつける半身不随の母親を演じていて、そこまでではないが、その時の演技の流れできている感じ。評価は原作と同じく★★★。)

「母性」2022.gif「母性」[.jpg「母性」●制作年:2022年●監督:廣木隆一●製作:谷口達彦/古賀俊輔/湊谷恭史●脚本:堀泉杏●撮影:鍋島淳裕●音楽:コトリンゴ●原作:湊かなえ●時間:116分●出演:戸田恵梨香/永野芽郁/三浦誠己/中村ゆり/山下リオ/高畑淳子/大地真央●公開:2022/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:有楽町・丸の内ピカデリー2(2階席)(22-12-20)(評価:★★★)

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【2015年文庫化[新潮文庫]】

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旧作には及ばない。"鬼才"にはリメイク作品は向かない?

「ナイル殺人事件」r1.jpg 「ナイル殺人事件」r2.jpg 「ナイル殺人事件」r3.jpg
「ナイル殺人事件」('22年/米) アーミー・ハマー/ガル・ガドット/ケネス・ブラナー
「ナイル殺人事件」p.JPG.gif 新婚旅行中の夫婦、そして彼らの招待客たちを乗せた豪華客船がナイル川を進んでいた。そんな中、船内で乗客が次々と何者かによって殺されていく。偶然船に乗っていた名探偵・ポアロは、謎に包まれたこの事件を解明し、犯人を探し出そうと奔走する―。

DEATH ON THE NILE  .jpg「ナイル殺人事件」1354.JPG 先に取り上げた「ウエスト・サイド・ストーリー」('21年/米)と同じくリメイク作品。ジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年/英)のリメイク作に当たりますが、ケネス・ブラナーとしては、「オリエント急行殺人事件」('17年/米)に続いてアガサ・クリスティ原作の映画を監督し、またエルキュール・ポアロを演じたリメイク作になります。

 冒頭、1914年の第1次世界大戦時、ベルギーの部隊に所属していた若き兵士のポアロがいて、そこで上官を爆発トラップで失い、自分も爆発で顔面を怪我し、この顔の傷を隠すため、そして亡き上司への敬意として、ポアロは口髭を持つことにしたというバックグラウンドがプロローグ的にありますが、ポアロの人物像をかなりアレンジしていることになり、英国の「アガサ・クリスティ財団」などはどう思っているのでしょうか、気になります。

「ナイル殺人事件」1355.JPG 登場人物もかなりアレンジしているみたい。旧作でアンジェラ・ランズベリーが演じたサロメ・オッタボーンは作家からソフィー・オコネドー演じる黒人ブルース歌手に、したがって旧作でオリヴィア・ハッセーが演じたサロメの姪ロザリー・オッタボーンも、黒人女優レティーシャ・ライトに。この辺りは人種的多様性であるとしても、彼女と恋仲にあり、また、ポアロの親友でもあるトム・ベイトマン演じるブークは「オリエント急行殺人事件」より続投であるものの、旧作にはないキャラクターで、しいて言えばデヴィッド・ニーヴンが演じたジョニー・レイス大佐でしょうか。

「ナイル殺人事件」1500.JPG レティーシャ・ライトは「アベンジャーズ」シリーズの"シュリ"役の女優だけど、莫大な財産を相続した若き女性リネット・リッジウェイを演じたガル・ガドットも、「ワンダーウーマン」シリーズで、イスラエルでの兵役時代の経験が"ワンダーウーマン"の役作りに役立ったと語っていた女優で、ケネス・ブラナーはその系統の女優が好きなのでしょうか。旧作でリネット・リッジウェイを演じたロイス・チャイルズが醸す富豪の鼻もちならなさや危うさが、今回のガル・ガドットには感じられないと、朝日新聞の編集委員も書いていました。

 ただ、この映画が旧作に比べて最も弱いのは、リネットの旧知の友人でサイモンの元婚約者であるジャクリーン・ド・ベルフォール:を演じたエマ・マッキーで、なぜこの重要な役に駆け出しのような女優を使ったのかよくわかりません。旧作がミア・ファローだけに差が大きいです。また、ミア・ファロー演じるジャクリーンがどこか病的な雰囲気を持っていて、とても男性に好かれそうなタイプには見えないからこそ、ラストのどんでん返しが効くわけで、エマ・マッキーはあまりに美人で魅力的過ぎる気がしました。

「ナイル殺人事件」1359.JPG ケネス・ブラナーが演じるポアロが、被疑者(乗客ほぼ全員だが)に対して強い詰問口調なのも気になりました。挙句の果ては、犯人の前に親友を晒して第三の殺人の犠牲者にしてしまい(原作でも第三の殺人はあるが)、乗客の誰かがポワロを"疫病神"だと非難したけれども、実際その通りになってしまっている印象も受けます。

 旧作の個人的評価○(★★★☆)に対してこの作品の評価は△(★★★)。いろいろケチをつけましたが、ケネス・ブラナーという人は才人だと思います(本作の1つ前の監督作である「ベルファスト」('21年/アイルランド・英)がアカデミー賞作品賞にノミネートされている)。朝日新聞の映画評では彼は"鬼才"となっていて、"鬼才"にはリメイク作品は向かないのではないかとも。確かに、「ウエスト・サイド物語」をリメイクしたスピルバーグ監督のような"職人"の方が向いているのかもしれません。

 ただし、この作品も、原作も読んでおらず、旧作も観ていない人は充分楽しめるのではないでしょうか。しかしながら、それは原作の良さに負うところが大きいのではないかと思います。

朝日新聞(夕刊)2022年3月4日
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「ナイル殺人事件」1356.JPG「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:2022年●制作202203032.jpg国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:ケネス・ブラナー/サイモン・キンバーグ/リドリー・スコット/マーク・ゴードン/ジュディ・ホフランド●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:パトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ●時間:127分●出演:トム・ベイトマン/アネット・ベニング/ケネス・ブラナー/ラッセル・ブランド/アリ・ファザル/ドーン・フレンチ/ガル・ガドット/アーミー・ハマー/ローズ・レスリー/エマ・マッキー/ソフィー・オコネドー/ジェニファー・ソーンダース/レティーシャ・ライト●日本公開:2022/02●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン●最初に観た場所:上野・TOHOシネマズ上野(シアター3)(22-03-03)(評価:★★★)
TOHOシネマズ上野.jpgTOHOシネマズ上野2.jpgTOHOシネマズ上野3.jpgTOHOシネマズ上野
総座席数1,424席(車椅子席16席)。
スクリーン 座席数 スクリーンサイズ
1 97席 7.7×3.2m
2 250席 12.0×5.0m
3 333席 14.4×6.0m
4 95席 8.0×3.3m
5 112席 9.7×4.0m
6 103席 10.0×4.2m
7 235席 13.9×5.8m
8 199席 12.0×5.0m
 
   
ガル・ガドット in「ナイル殺人事件」(2022)/レティーシャ・ライト in「ナイル殺人事件」(2022) 
ガル・ガドット in 「ナイル殺人事件」(2022) .jpg レティーシャ・ライト ナイル.jpg
ガル・ガドット in「ワンダーウーマン」(2017)/レティーシャ・ライト in「ブラックパンサー」(2018)
ガル・ガドット  ワンダーウーマン 2017.jpg レティーシャ・ライト「ブラックパンサー」.jpg


ミア・ファロー_3.jpgナイル殺人事件 べティ・デイヴィス.jpgナイル殺人事件 オリヴィア・ハッセー.jpg「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:アガサ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファローベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネディ/オリヴィア・ハッセー/ジkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612353.jpgkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612358.jpgョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズサイモン・マッコーキンデール/ジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)

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ベラ・ルゴシの演技が作品全体を「雰囲気」のあるものにしている。

「魔人ドラキュラ」1931 1.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 2.png  「魔人ドラキュラ」1931 3.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 4.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 5.jpg
魔人ドラキュラ [DVD]」['98年]/「魔人ドラキュラ [DVD]」['04年]/「魔人ドラキュラ(AR Oリング仕様)(初回生産限定) [DVD]」['12年]/「魔人ドラキュラ [Blu-ray]」['16年]/「魔人ドラキュラ 4K Ultra HD+ブルーレイ[4K ULTRA HD + Blu-ray]」['21年]
「魔人ドラキュラ」2.jpg 英国の事務弁護士レンフィールド(ドワイト・フライ)は、トランシルヴァニアの貴族ドラキュラ伯爵(ベラ・ルゴシ)に招かれてドラキュラ城を訪れる。ドラキュラはロンドンでの土地の購入を希望していた。しかし、ドラキュラの正体は伝説上の存在とされていた吸血鬼「魔人ドラキュラ」3.png.jpgであり、レンフィールドは下僕にされてしまう。ドラキュラはレンフィールドに手引きさせて船を占拠して英国に渡り、レンフィールドは「精神を病んだ」としてセワード精神病院に搬送される。修道院を棲家とすると、東欧から移住してきた高貴な伯爵として社交界に現れ、修道院の隣に居住するセワード博士(ハーバート・バーンストン)一家に接触する。セワードの娘ミーナ(ヘレン・チャンドラー)の友人ルーシー(フランシス・デイド)はドラキュラの虜になり、血を吸われて死んでしま「魔人ドラキュラ」1.jpgう。セワードの元を恩師のヴァン・ヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)が訪れ、レンフィールドが吸血鬼になっていることを告げるが、セワードは吸血鬼の存在を信じようとはしない。レンフィールドも「自分を病院から遠ざけろ」と訴えるが、セワードは聞き入れずに病室に戻してしまう「魔人ドラキュラ」4.jpg。その夜、ドラキュラはセワード邸に忍び込み、ミーナを襲い吸血する。その日以来、ミーナは悪夢にうなされるようになり、ヘルシングは彼女の婚約者ハーカー(デヴィッド・マナーズ)と共に屋敷を訪れるが、そこにドラキュラが見舞いに訪れる。ミーナはドラキュラの来訪を喜ぶが、ドラキュラの姿が鏡に映らないのを見たヘルシングは、ドラキュラこそが吸血鬼であると確信する。ヘルシングは、ドラキュラを寄せつけないためにミーナの部屋をトリカブトで埋め尽くすが、吸血鬼の血が入ったミナはそれを嫌がり、彼女の身を案じるハーカーもヘルシングに反発する。ドラキュラは再びセワード邸に忍び込み、ミーナを連れ去ってしまう。同じ頃、レンフィールドが精神病院から脱走してドラキュラの元に向かい、ヘルシングとハーカーは彼を尾行する。これによってドラキュラが隠れ家にしていた修道院まで二人が来てしまい、ドラキュラはレンフィールドを裏切ったと見なし殺害するも、夜明けが近付いてきていたためミーナを連れて慌てて地下墓所の棺に逃げ込む。地下墓所で二人は棺で眠るドラキュラを発見、ヘルシングはそばにあった棒を折ってドラキュラの心臓にその尖った先端を刺して彼を殺し、ハーカーはミーナを取り戻す―。

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg「魔人ドラキュラ」 11.jpg トッド・ブラウニング監督の1931年2月公開作で、ブラム・ストーカー原作『吸血鬼ドラキュラ』の初の正規映画化作品(先行するF・W・ムルナウ監督の「吸血鬼ノスフェラトゥ」('22年/独)は非公式に映画化された作品)。世界的にヒットし、戦前のホラー映画ブームを巻き起こすとともにユニバーサルは怪奇メーカーとして名を馳せ、ドラキュラ役で主演したベラ・ルゴシはこの1作で世界に知られる怪奇スターとなりました。ドラキュラ役は当初「オペラ座の怪人」('25年/米)のロン・チェイニーに内定していましたが、チェイニーが1930年に47歳で急死し 、ブロードウェイ版舞台でドラキュラを演じたハンガリー出身の俳優ベラ・ルゴシ(日本などと同じくハンガリー語圏では名前を「姓・名」の順で表記するため、母国ハンガリーでは映画監督のタル・ベーラなどと同様、ルゴシ・ベーラとなる)が、たまたま別の舞台に出演するためにロサンゼルスを訪れていたこともあって、役が回ってきたのです。ベラ・ルゴシはそれまで、俳優として長いキャリアがありながら、ハンガリー訛りが強く英語下手のため、米国では役に恵まれずにいましたが、この後はエドガー・アラン・ポー原作の「モルグ街の殺人」('32年/米)でのマッドサイエンティスト役(原作にない、ほとんどベラ・ルゴシのために作ったような役)、ボリス・カーロフ(ベラ・ルMurders in the Rue Morgue 1932 1.jpegThe Black Cat. (1934).jpgゴシが「フランケンシュタイン」('31年/米)への出演を台詞のない厚いメイクの怪物役を拒否して降りために脇役俳優だった彼に役が回ってきて、彼の当たり役となった)と共演した「黒猫」('32年/米)など、怪奇映画の出演オファーが次々来るようになります。
ベラ・ルゴシ in「モルグ街の殺人」('32年/米)/「黒猫」('32年/米)with ボリス・カーロフ

「魔人ドラキュラ」 7.jpg 原作との違いは幾つもありますが、まず、ドラキュラ城を訪れるのが弁護士のジョナサン・ハーカーではなく、原作において精神病院の院長のジョン・セワード博士の患者であるレンフィールドになっていて(ドラキュラ伯爵のロンドンでの土地購入手続きのために赴くのは原作と同じ。そして映画でも結局ドラキュラ伯爵にやられて結果的には原作のようにセワードの患者になるのだが、原作では最初からセワードの精神病院にいる患者となっている)、ハーカーの方はずっとロンドンにいることになっています。ミーナがセワード博士の娘であるというのも映画のオリジナルで、原作では、ハーカーとセワードはかつてはミーナを巡っての恋のライバルで、今は友人みたいな関係でさほど年齢差が無いのですが、映画ではセワードはミーナの父親であるため、初老の医師となっています。

「魔人ドラキュラ」 8.jpg それと、これが一番原作と異なる点かもしれませんが、原作ではドラキュラ伯爵はロンドンにおいては影の如く行動し、作「魔人ドラキュラ」 6.jpg中の主要登場人物の前に姿を見せないのに対し、このベラ・ルゴシ演じるドラキュラ伯爵は、社交好きなのか(笑)社交の場も含め主要登場人物の前によく姿を現し、わざわざミーナのお見舞いにまで来たりして、そこで鏡に映らないことで自らが吸血鬼であることがヘルシング教授にバレてしまったりしています。

「魔人ドラキュラ」9.jpg このように物語は序盤はドラキュラ城で、中盤以降はほとんどセワード邸の中で話が進んでいきますが、セワード邸ではドラキュラ伯爵vs. セワード博士の"直接対決"があったりして、互いに"ガンの飛ばし合い"をしたりします(ヤンキーではない。ドラキュラ伯爵がセワード博士に催眠術をかけようとして失敗する、といった場面などがあったりするということなのだが)。

「魔人ドラキュラ」 5.jpg でも、夜会服をまとったドラキュラ伯爵の妖しく、不遜で、優雅な姿や立ち振る舞いは厳かかつ華麗であり(時折ユーモラスに見えるチャーミングさも)、作品全体を「雰囲気」のあるものとしており、当時49歳だったベラ・ルゴシの演技がその時代「映画の中で最もユニークで強力な役」と称賛されたのも頷けます。

 古典に対する好みは人さまざまだと思いますが、ドラキュラ映画ファンならずとも一度観ておいて損はない作品かと思います。

「魔人ドラキュラ」 105.jpg「魔人ドラキュラ」●原題:DRACULA●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:トッド・ブラウニング●製作:トッド・ブラウニング/カール・レムリ・jr●脚本:ギャレット・フォート●撮影:カール・フロイント●音楽:フィリップ・グラス (1999年)●原作:ブラム・ストーカー●時間:75分●出演:ベラ・ルゴシ/ヘレン・チャンドラー/デヴィッド・マナーズ/ドワイト・フライ/エドワード・ヴァン・スローン/ハーバート・バーンストン/フランシス・デイド/ジョアン・スタンディング/チャールズ・ジェラード●日本公開:1931/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)

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フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた「ラ・ブーム」。少女が大人になるのは早い。

「ラ・ブーム」 dvd.jpg デサント・オ・ザンファー3.jpg デサント・オ・ザンファー5.jpg 「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」1999.jpg THE WORLD IS NOT ENOUGH2.jpg
ソフィー・マルソー 「ラ・ブーム」 [DVD]」「ソフィー・マルソー 地獄に堕ちて ヘア無修正版【レンタル落ち】」「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ アルティメット・エディション [DVD]

ラ・ブーム マルソー dvd.jpgラ・ブーム マルソー2.jpg 「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。

「ラ・ブーム」1.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpg 「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「禁じられた遊び」('52年/仏)に出ていたブリジッド・フォッセー(1946年生まれ)の大人になった姿と相まみえることができました。「禁じられた遊び」のラストが切ないだけに、何となく良かったというか、ほっとした感じでした。この作品は当時13歳のソフィー・マルソー「ラ・ブーム ブリジット・フォッセー」.jpg(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。

LA BOUM 1980 ed.jpg 娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を襟川クロ.jpgも描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論ラ・ブーム 1982a20.jpg家の小藤田千栄子(1939-2018/79歳没)が、「何を着て行こうかと、あれこれ迷う若いヒロインの、カット重ねによるファッションの見せ方は、こちらも心がはずむ」「(ヒロインの曾祖母が)いかにもフランスらしい人生の練達者に見える。この人が、影に日向に、若いヒロインの先導者となるのである。この豊かさは、他の国の映画では、ちょっと見あたらない」「両親が、娘の初めてのブームの、送りむかえをするところなど、気の使い方がしのばれて、描写はユーモラスにも細かい。別居から、離婚寸前までいく(中略)親のいざこざに遭遇する、現代の子供という、世界共通のテーマを提示してくる」と褒めています。ソフィー・マルソー自身は後年、「とりたててどうということもないリセエンヌの淡い初恋物語だったり、友情物語だったり。社会現象をともなったあのヒットぶりは、一体何だったのか」と半自伝的小説『うそをつく女』(2000年/草思社)の中で振り返っていますが、個人的には、映画がヒットしたベースには、ブリジッド・フォッセーやその夫役を演じたクロード・ブラッスール(1936-2020/84歳没)の演技力があったように思います。

「スクリーン 」'83(昭和58)年10月号表紙/'84(昭和59)年7月号付録
sukur-n.jpg この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の「パラダイス」.jpgデビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人「プリティ・ベイビー」.jpgと同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)(評価★★☆)や「グレムリン」('84年/米)(評価★★★)も観ました。

フィービー・ケイツ/ソフィー・マルソー/ブルック・シールズ
アイドル3人.jpg 結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。

『デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて』★.jpgデサント・オ・ザンファー2.jpg 「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」.jpg さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。

 「禁じられた遊び」の少女ブリジッド・フォッセーがソフィー・マルソーの母親役になり、そのソフィー・マルソーがボンドガールに。そして今や映画監督として活躍―。子役(少女)が大人になるのは早い。でも、それは他人事ではなく、自分もその間に歳をとったということなのだろうなあ。
 

禁じられた遊び  .jpg禁じられた遊び3.jpg「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

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「ラ・ブーム」1980.jpg「ラ・ブーム」2.jpg「ラ・ブーム」3.jpg「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)

「パラダイス」1.gif「パラダイス」2.jpg「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)

「プリティ・ベビー」1.jpg「プリティ・ベビー」2.jpg「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)
        
DESCENTE AUX ENFERS3.jpgデサント・オ・ザンファー4.jpg「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ池袋 文化会館.jpgサンシャイン劇場.jpgレア /ジェラール・リナルディ/シディキ・バカダ/マリー・デュボア/ユスタシュ/イポリット・ジラルド●日本公開:1986/11●配給:TAMT●最初に観た場所:池袋:サンシャイン劇場(88-07-17)(評価:★★☆)

池袋:サンシャイン劇場(1978年10月、池袋文化会館4Fに開館)
         
「007 ソフィー・マルソー2.jpg「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
ソフィー・マルソー
「007 ソフィー・マルソー1.jpg


すべてうまくいきますように●原題:TOUT S'EST BIEN PASSÉ (英:EVERYTHING WENT FINE)●制作年: 2021年●制作国:フランス/ベルギー●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製「すべてうまくいきますように」1.jpg作:エリッ「すべてうまくいきますように」2021.jpgク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー「すべてうまくいきますように」2.jpg/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)

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アクションは楽しめるが、ドタバタ喜劇調のきらいも。「アジアの嵐」の俳優が出ていた。
「カトマンズの男」DVD.jpg カトマンズの男00.jpg リオの男dvd - コピー.jpg アジアの嵐 1928.jpg
カトマンズの男(1965) [DVD]」ジャン=ポール・ベルモンド「リオの男(1964)」「アジアの嵐(1928) [DVD]
「カトマンズの男」-.jpg 莫大な父の遺産があり、あらゆる快楽に飽き果てて、生きている意義も見出せないという30歳の男アルチュール・ランプルール(ジャン=ポール・ベルモンド)は退屈の余り自殺したがるが、その試みは全て失敗する。そこで、フィアンセのアリス(ヴァレリー・ラグランジュ)とその小姓のレオン(ジャン・ロシュフォール)、アリスの母親スージー(マリア・パコム)とその恋人コルネリウス(ジェス・ハーン)、元後見人でもあった古くからの中国人の友人ミスター・ゴーことゴー氏(ヴァレリー・インキジノフ)と船旅に出る。ランプルールの法定代理人ビスコトン(ダリー・コール)が香港までアルチュールを探しにやってきて、アルチュールの破産を知らせる。これで自殺の名目ができたと喜んだアルチュールは自殺の試みを続けカトマンズの男08.jpg、フィアンセの母親スージーは婚約解消を要求する。ゴー氏のアイデアで、スージーにアルチュールの生死を委ねることになる。アルチュールは婚約者アリスとゴー氏を受取人に有効期間1か月の生命保険に署名する。ゴー氏は殺し屋を手配し、そうなると自殺志願のアルテュールも生命の危険を感じて懸カトマンズの男07.jpg命に逃げまわるという奇妙な状況になる。港のバーに逃げこんだ時、ストリッパーのアレキサンドリーヌ(ウルスラ・アンドレス)に匿ってもらった。彼女は考古学者の卵で、アルバイトにストリッパーをしていたのだ。彼は一目で好意を抱くが、恋を語っている余裕はない。ゴー氏ともう一度話し合おうと、彼を追ってネパールへ行く。例によって二人の尾行者がついてくるが、実は彼らは保険会社がつけたボディ・ガードだった。ところが今度は、保険金の一部をもらう約束になっている香港ギャングのボス、フォリンスター(ジョー・セイド)の命を狙われることに―。

「カトマンズの男」01.jpg 「リオの男」('64年)のフィリップ・ド・ブロカ監督の1965年作(日本では'65年に初公開。今年['21年]、ベルモンド主演作をHDリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」(5月14日~、東京・新宿武蔵野館ほか)で公開)。「リオの男」のヒットを受けて作られたアクション映画ですが、ジャン=ポール・ベルモンド演じる主人公の名前はアドリアンからアルチュールになっています。ブラジルでロケした「リオの男」同様に異国趣味の路線であり、ネパールの首都カトマンズだけでなく、香港、マレーシアなどでも撮影されています。

「カトマンズの男」-poster.jpg ジュール・ヴェルヌの1879年刊行の小説『中国での中国人カトマンズの男03.jpgの苦難』(Les Tribulations d'un chinois en Chine)が原作とのことですが、大幅に翻案されているようです。自殺志願の男(原作では中国系)が自分に生命保険を懸けられたのを機に考え方が変わるというのは同$_1カトマンズの男.jpgじようですが、原作では主人公は最後、婚約者と結婚するようです(映画でもアリスは最後、結婚するのだが...)。ウルスラ・アンドレス演じるストリッパーは、映画のオリジナルかと思われます。

 殆どのスタントをベルモントが自分でこなしているのは「リオの男」「カトマンズの男」ges.jpgと同じで、むしろヒートアップした感じさえあります。なので、ベルモントのアクションは楽しめますが、ストーリーが「リオの男」以上にぶっ飛んでいて、アクションとの両方が相俟って、ややドタバタ喜劇調になったきらいもあります(同じ大金持ちの役でも、ベルモントのアクションが無いフィリップ・ラブロ監督の「相続人」('73年)よりは楽しめたが)。

カトマンズの男01.jpg 舞台出身のジャン・ロシュフォール(フィリップ・ド・ブロカ監督の「大盗賊」('62年)や「相続人」でもベルモントと共演しカトマンズの男09.jpgていた)が「小姓」(御屋敷付きの「執事」というよりは、どこでも主人に付いて行って面倒を見る「フットマン」という感じか)の役で脇を固めていて、いい味出していました(最後まで主人に付いて行くので出演場面が多い)。ただ、それよりも、ゴー氏を演じたヴァレリー・インキジノが、フセボロド・プドフキン監督の「カトマンズの男」ヴァレリー・インキジノフ.jpg「アジアの嵐」('28年/ソ連)で、主人公のモンゴル人を演じたあの俳優だったと後で知って少し驚きました。ヴァレリー・インキジノフはロシア・ブリヤート出身のフランス人俳優ですが、血統的にはモンゴル人のようです。「モンパルナスの夜」('33年/仏)に、金持ちに怨念を抱くチェコ人の挫折した元医学生という、まるで「天国と地獄」の山崎努を連想させるような役で出演していますが、60年代のこの「カトマンズの男」では好々爺の役でした。

ヴァレリー・インキジノフ(右)(ミスター・ゴーことゴー氏)

ヴァレリー・インキジノフ in 「アジアの嵐」(1928)/「モンパルナスの夜」('33年)
アジアの嵐 02.jpg『モンパルナスの夜』(1933).jpg 「アジアの嵐」は、1920年代、イギリス統治のモンゴルを舞台に、〈チンギス・ハーンの後裔〉に祭り上げられたモンゴルの青年(ワレリー・インキジノフ)が,やがて民族の自覚に燃えてイギリス帝国主義に闘いを挑むという、モンゴル解放闘争の黎明期を描いたものですが、その主人公を"覚醒"させ、英国の軛(くびき)からの解放を手助けしたのがソ連であるという、ロシア革命と「共産主義」運動を美化するプロパンガンダ映画でもあります。

Storm Over Asia.jpg それゆえに評価をするのは難しいのですが、エイゼンシテインと並ぶとされるフセヴォロド・プドフキン監督でさえ、ソ連の映画監督である限り、当時はそうした映画を撮らざるを得なかったのでしょう(「戦艦ポチョムキン」('25年/ソ連)にしても共産主義的プロパガンダ映画であり、日本でも終戦から22年が経った1967年にようやく一般公開された)。演出的には、主人公が自らが"傀儡"であることに気づいて驚愕する場面などは強く印象に残るものであり、技術的には、ラストの騎馬シーンはまさに「アジアの嵐」と呼ぶに相応しい、迫力ある出来栄えでした(この映画は1930年に日本で公開されている)。

Storm Over Asia (Potomok Chingis-Khana) (1928)


007 ドクター・ノオes.jpgウルスラ・アンドレス.jpg 出演者でもう一人の注目は、やはり007シリーズ第1作「007 ドクター・ノオ (007は殺しの番号)」('62年/英)で初代ボンドガールを務めたウルスラ・アンドレス(以カトマンズの男05.jpg前はアーシュラ・アンドレスと表記されていた)でしょうか。スイス出身で両親はドイツ人。「ドクター・ノオ」出演時は英語がおぼつかなく、彼女のセリフはすべて吹き替えでしたが、それでも「ゴールデングローブ賞」のカトマンズの男06.jpg新人賞を受賞しています。その後は、ドイツ語、イタリア語、フランス語、さらにはマスターした英語の4カ国を操る語学力を活かして、ハリウッド映画にもヨーロッパ映画にも多数出演しています(出演はB級娯楽映画が多いが)。因みに、この映画出演時にはジョン・デレクと結婚していましたが、ジャン=ポール・ベルモンドと恋仲になり、1966年にはジョン・デレクと離婚しています。その後もライアン・オニールらと浮名を流したりしましたが、1980年の「タイタンの戦い」で共演したハリー・ハムリンとの間に男児を生んだものの、再婚はしていません(この手の"肉食系"女優に結婚は似合わない?)。

2up to his ears.jpg ソ連映画「アジアの嵐」のモンゴル系俳優と、アメリカ映画「007 ドクター・ノオ」のドイツ系女優が同じフランス映画に出ているというのが何となく面白いです。それにしても、映画の原題が原作の原題と同じなのですが、一体この映画のどこが「中国での中国人(CHINOIS)の苦難(TRIBULATIONS)」なのでしょうか? (ジュール・ヴェルヌの原作に敬意を表したということか。英語タイトルは"Up to His Ears"で、「足元から耳のところまで」→「トラブルにどっぷり浸かって」という感じか)。
ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2.jpg
   
   
   
   
ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2.jpgジャン=ポール・ベルモンド傑作選2 Blu-ray BOXI ド・ブロカ大活劇編(初回限定版)」(2022)

「リオの男」 原題:L' HOMME DE RIO
「カトマンズの男」 原題:LES TRIBULATIONS D' UN CHINOIS EN CHINE
「アマゾンの男」 原題:AMAZONE


 2021年05月25日 新宿武蔵野館.jpg

ベルモント特集2-2.jpg「カトマンズの男」ur.jpg「カトマンズの男」●原題:LES TRIBULATIONS D'UN CHINOIS EN CHINE(英:UP TO HIS EARS)●制「カトマンズの男」ps.jpg作年:1965年●制作国:フランス・イタリア●監督:フィリップ・ド・ブロカ●製作:アレクサンドル・ムヌーシュキン/ジョルジュ・ダンシジェール●脚本:ダニエル・ブーランジェ●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:ジュール・ヴェルヌ「中国での中国相続人 ベルモント.jpg人の苦難」●時間:110分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/ウルスラ・アンドレス/ヴァレリー・ラグランジュ/マリア・パコム/ジェス・ハーン/ヴァレリー・インキジノフ/マリオ・ダヴィッド/ポール・プレボワ/ダリー・コール/ジョー・セイド●日本公開:1966/05●配給:エデン●最初に観た場所:新宿武蔵野館(21-05-25)(評価:★★★)●併映(同日上映):「相続人」(フィリップ・ラブロ)
「相続人」('73年)

アジアの嵐 01.jpg「アジアの嵐」●原題:Потомок Чингис-хана(STORM OVER ASIA POTOMOK CHINGIS-KHANA)●制作年:1928年●制作国:ソ連●監督:フセ2019「アジアの嵐」.jpgヴォロド・プドフキン●脚本:オシップ・ブリーク/レフ・スラヴィン/ウラジーミル・ゴンチュコフ●撮影アナトーリー・ゴロヴニャ●音楽:セルゲイ・コズロフスキー/ M・アロンソン/(サウンド版音楽)ニコライ・クリューコフ●原作:イワン・ノヴォクショーノフ「ジンギス汗の末喬」●時間:87分●出演:ワレーリー(ヴァレリー)・インキジーノフ/アナトーリー・デジンツェフ/リュドミラ・ベリンスカヤ/アネリ・スダケーヴィチ/ボリス・バルネット●日本公開:1930/10●配給:三映社(評価:★★★☆)

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「恋愛はバスを待っているようなもので、一台のバスを逃しても、また次のバスが来る」。

シングルマン 2009.jpg シングルマン01.jpg シングルマン02.jpg
シングルマン [DVD]」コリン・ファース/ジュリアン・ムーア  ニコラス・ホルト
「シングルマン」4.jpg 1962年11月30日の朝。LAの大学で英文学を教えている内省的でシニカルなジョージ(コリン・ファース)にとって、この8ヶ月間は苦痛に満ちた日々だった。16年間共に暮らした建築家のジム(マシュー・グード)が交通事故で亡くなって以来、その悲しみは癒えるどころか、日に日に深くなっていた。だが、彼は自らの手でこの悲しみを終わらせようと決意する。大学のデスクを片付け、銀行の貸金庫の中身をカラにし、新しい銃弾を購入。着々と準備「シングルマン」0.jpgを進めるジョージだったが、一方で、今日が最後の日だと思って世界を眺めると、些細なことが少しずつ違って見えてくる。最後の授業ではいつになく自らの信条を熱く語り、講義に触発された教え子ケニー(ニコラス・ホルト)が、学校の「シングルマン」ages.jpg外で話したいと追いかけてくる。彼の誘いを断って銀行に行くと、いつも騒がしい隣家の少女と偶然出会う。ジョージは少女の可憐さに始めて気付き、彼女との正直な会話に喜びさえ感じる。だが、帰宅したジョージは、遺書、保険証書、各種のカギ、「ネクタイはウインザーノットで」のメモを添えた死装束......全てを几帳面にテーブルに並べる。そし「シングルマン」81.jpgて銃、とその時、かつての恋人で今は親友のチャーリー(ジュリアン・ムーア)から電話が入り、ジョージは破るつもりだった約束を守って彼女の家を訪れる。夫と子供に去られ「シングルマン」l.jpgて孤独な彼女の身勝手な言動に振り回されながらも、未熟で奔放だった青春時代を共にロンドンで過ごした彼女と心から笑い合うジョージ。そして、一日の終わりには、彼の決意を見抜いていたケニーの思いがけない行動にジョージは心を揺さぶられる―。

「シングルマン」ヴェネチア3.jpg 原作はクリストファー・イシャーウッドの同名小説で、ファッションデザイナーとして知られるトム・フォードの監督の2009年の監督デビュー作です。この作品でコリン・ファースに第66回Venice filmfest honors.jpgヴェネツィア国際映画祭の男優賞をもたらしたほか、続く「ノクターナル・アニマルズ」('16年)で監督第2作にして、第73回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)に輝いています。
トム・フォード監督、ジュリアン・ムーア、コリン・ファース(第66回ヴェネチア国際映画祭)

「シングルマン」cf.jpg イギリスとイタリアの国籍を持つコリン・ファースは、同性愛者である大学教諭を演じたこの作品で、前述の第66回ヴェネツィア国際映画祭男優賞のほか、英国アカデミー賞主演男優賞受賞など多くの賞を受賞しています(2年後の「裏切りのサーカス」 ('11年/英・仏・独)でも同性愛者のスパイを演じた)。また、この映画の翌年の「英国王のスピーチ」('10年/英・豪・米)で吃音に悩まされたイギリス王ジョージ6世を演じて、第83回アカデミー賞の主演男優賞と第68回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)をダブル受賞しています。

「シングルマン」ew.jpg 一方、ジュリアン・ムーアは、この時すでに「エデンより彼方に」('02年/米)でヴェネツィア国際映画祭女優賞、「めぐりあう時間たち」('03年/米)でベルリン国際映画祭女優賞を受賞していましたが、その後「マップ・トゥ・ザ・スターズ」('14年/米)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したため、ジュリエット・ビノシュに次いで世界三大国際映画祭すべての女優賞を制覇した二人目の女優となり、さらに「アリスのままで」('14年/米)でゴールデングローブ賞とアカデミー賞の各主演女優賞をダブル受賞と、この二人のその後の活躍には進境著しいものがありました。

「シングルマン」a ges.jpg 映画はというと、ジョ「シングルマン」ニコラス・ホルト.jpgージの元恋人で親友のチャーリーの母の言葉「恋愛はバスを待っているようなもので、一台のバスを逃しても、また次のバスが来る」という、まさにその通りの内容でしたが、その言葉どおりのことががゲイの登場人物に起きるというのがこの映画であり、男同士の恋愛(マイノリティの恋愛)も男女の恋愛(マジョリティの袁愛)と基本的に同じであるということが言いたかったのではないでしょうか。

「シングルマン」la.jpg 冷戦下の緊張が高まる1962年のアメリカが舞台で、キューバ危機への社会不安、経済成長の影で崩壊する中産階級、ヒッピー文化の幕開け(荒廃した若者のモラルと相俟って、主人公はこれを嫌悪する)等々―そうした時代の波が押し寄せる中、主人公のジョージは、学問と孤独な精神性に魂の救いと安息を求める、いわば保守的な人間であるわけですが、そうした保守的な(しかもインテリ)人間がゲイであるという設定も、この作品の注目すべきポイントかもしれません(LGBTは文化人類学上の必然であるという近年の思潮に沿っていると言える)。

 ジョージが死を意識することで、今まで見ていた景色が色づき、自分が思っていたよりずっと愛おしいものだと気づいていく、その彼が改めて世界の素晴らしさを発見する過程が明快に描かれていて、その上で、「次のバスが来る」という結末に繋がっていくのが自然でした。この自然さは、かなりの部分、コリン・ファースとジュリアン・ムーアの演技力に負うのではないかと思われました。

「シングルマン」ges.jpg「シングルマン」●原題:A SINGLE MAN●制作年:2009年●制作国:アメリカ●監督:トム・フォード●製作:トム・フォード/アンドリュー・ミアノ/ロバート・サレルノ/クリス・ワイツ●脚本:トム・フォード/デヴィッド・スケアス●撮影:エドゥアルド・グラウ●音楽:アベエル・コジェニオウスキ/梅林茂●原作:クリストファー・イシャーウッド●時間:128分●出演:コリン・ファース/ジュリアン・ムーア/マシュー・グード/ニコラス・ホルト/ジョン・コルタジャレナ/ジニファー・グッドウィン/テディ・シアーズ/ライアン・シンプキンス/リー・ペイス/エリン・ダニエルズ/アリーン・ウェバー/ジョン・ハム(声のみ)●日本公開:2010/10●配給:ギャガ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-03-12)(評価:★★★★)

「英国王のスピーチ」('10年/英・豪・米)/「裏切りのサーカス」 ('11年/英・仏・独) 
英国王のスピーチ.jpg 裏切りのサーカス02.jpg

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現代の様々な組織にも通用する普遍性があるが、発表当時は政治利用され、その点は看過された?

2015 ジョージ オーウェル 動物農場 角川.jpg 2009 ジョージ オーウェル 動物農場 岩波.jpg 2013 ジョージ オーウェル 動物農場 ちくま.jpg 2017 ジョージ オーウェル 動物農場 ハヤカワ.jpg
動物農場 (角川文庫)』['72年]『動物農場-おとぎばなし (岩波文庫)』['08年]『動物農場: 付「G・オーウェルをめぐって」開高健 (ちくま文庫)』['13年]『動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)』['17年]
IMG_20210328_115159.jpg動物農場 [DVD].jpg アニマル・ファーム図1.jpg ジョージ・オーウェル.jpg
角川文庫(併録:「象を撃つ」「絞首刑」「貧しいものの最期」)/「動物農場 [DVD]」/石ノ森 章太郎『アニマル・ファーム (ちくま文庫)』['18年]/ジョージ・オーウェル(1903-1950)
Animal Farm (Baker Street Readers) (2021/08)
Animal Farm (Baker Street Readers).jpg マナー農場の動物たちは自分たちをこき使う人間の横暴に怒っていた。飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは決起して反乱を起こし、すべての動物は平等という理想を実現するべく「動物農場」を設立、守るべき戒律を定め、動物主義の実践に励んだ。農場は共和国となり、知力に優れたブタがリーダーとなったが、指導者となったブタのナポレオンは、反乱の先導者だった同じブタのスノーボールを追放し、手に入れた特権を徐々に拡大していく。それにより、「理想の農場」は次第に変質してゆく―。

 1945年8月に出版されたジョージ・オーウェル(1903-1950/46歳没)の作品で(原題には岩波文庫訳のように「おとぎばなし」というサブタイトルが付く)、実際に書かれたのは'43年11月から'44年2月までの間でしたが、その内容は、当時は理想の社会と見られていたソ連をあからさまに皮肉った内容であったため、出版社数社に出版を断られたという逸話があります。具体的には、ブタのメージャーはレーニン、ナポレオンはスターリン、スノーボールはトロツキーがモデルであり、当時の人から見ればすぐにピンとくるものであったようです。
ハヤカワepi文庫(2017/01)
IMG_20210328_115145.jpg また、こうしたストーリーの背景には、作者自身が、民兵(伍長)としてファシスト政権と戦うべく戦線へ赴いたスペイン内戦において、人民戦線の兵士たちの勇敢さに感銘を受ける一方で、ソ連からの援助を受けた共産党軍のスターリニストの欺瞞に義憤を抱いたことがあります。作者が入隊したPOUMはトロツキー系の軍隊組織で、ある時期からソ連にとってファシスト軍以上に危険で「粛清」に値する対象とみなされるようになったとのこと(川端康雄『ジョージ・オーウェル』('20年/岩波新書))、要するに、戦争に行ったら後ろ(味方)から弾が飛んできたといった状況だったようです。

 ただし、第二次世界大戦中はソ連は連合国側であったため、英国において批判の対象とするのはタブーだったのが(作者はジャーナリストでもあったが、本書はスターリン体制下のソ連を直接的に取材して書いたものではないことも弱点とされた)、戦後、米ソ冷戦時代に入ってからは、「共産主義は全然ユートピアなんかじゃないよ」という反共キャンペーンに利用されるような形で全面解禁されたとのこと。従って、本はよく売れたものの、それは政治的な絡みで売れているのであって、そうした時期が過ぎれば忘れ去られるだろうとも思われていて、現代の様々な組織にも通用する普遍性があるにも関わらず、その当時はその点は看過されたようです(国際情勢に振り回された作品とも言える)。

ジョン・ハラス&ジョイ・バチュラー
動物農場 アニメ1.jpgジョン・ハラス.jpgジョイ・バチュラー.jpg 反共キャンペーンに利用された一例として、ジョン・ハラス(1912-1995)&ジョイ・バチュラー(1914-1991)監督により1954年にアニメ映画化されていますが(「ハラス&バチュラー」は1940~70年代にかけて、ヨーロッパで最大、かつ最も影響力のあるアニメーションスタジオだった)、この製作をCIAが支援していたことが後に明らかになっています。アニメ「動物農場」は結末が原作と異なっていて、原作では最後まで「非政治的」な「静観主義者」だったロバのベンジャミンが、ここでは親友のウマのボクサーがブタのナポレオンの陰謀によって悲惨な最期を遂げたのを契機に目覚め、リーダーとなって、外部の動物たちの援軍を得て反乱を起こし、ブタたちを退治するというハッピーエンドになっています。

動物農場 アニメ2.jpg動物農場 アニメ4.jpg ハッピーエンドにするのはいいのですが、やや全体的に粗かったかなあという印象で、明らかに大人向けの内容なのに、子どもに受けようとしたのか、動物たちが愛らしい動きを描いた場面がしばしば挿入されていて、そのわざとさしさから逆にCIAが背後にいるのを意識したりしてしまいます(笑)。ただし、宮崎駿監督などはその技術を高く評価していて、'08年、日本でのDVDの発売に先行して「三鷹ジブリ美術館」として配給し、全国各地で上映しています。また、ジョン・ハラスにはアニメーション技法についての多くの著作があり、宮崎駿監督もそれを参考書として読んだとのことです。

『アニマル・ファーム』.jpg)『アニマル・ファーム』obi.png また、漫画家の石ノ森章太郎(1938-1998)がこれを漫画化していて(『アニマル・ファーム』(「週刊少年マガジン」1970年8月23日第35号~9月13日第38号)、'70年初刊)、'18年にちくま文庫に収められています。文庫版は字が小さくて読みにくいとの声もありますが、原作の登場人物のセリフをそのまま引いてきているため、文字数が多くなってしまうことによるもので、原作へのリスペクトが感じられ、また、原作の雰囲気を掴む上でもこのセリフの活かし方は良いと思いました。

石ノ森 章太郎 『アニマル・ファーム』.jpg 最後の方だけ、ちょっと端折った感があったでしょうか。ちくま文庫同録の短編2編(「くだんのはは」「カラーン・コローン」)は要らなかったです。「アニマル・ファーム」のみ最後までしっかり描き切ってほしかったけれど、売れっ子漫画家がいくつか抱えている連載のうちの1つとして描いているので、なかなかそうはいかなかった事情があったのかもしれません。5回の連載でここまで盛り込めれば上出来とみなすべきなのかもしれません(アニメより密度が濃い)。

動物農場 (1954).jpg動物農場 アニメ3.jpg「動物農場」●原題:ANIMAL FARM●制作年:1954年●制作国:イギリス●監督・製作:ジョン・ハラス/ジョイ・バチュラー●製作製作プロデューサー:ルイ・ド・ロシュモン●脚本:ジョン・ハラス/ジョイ・バチュラー/フィリップ・スタップ/ロサー・ウォルフ●撮影:ディーン・カンディ●音楽:マティアス・サイバー●アニメーション:ジョン・F・リード●原作:ジョージ・オーウェル●時間:74分●日本公開:2008/12●配給:三鷹の森ジブリ美術館(評価:★★★)

【1972年文庫化[角川文庫(高畠文夫:訳)]/2009年再文庫化[岩波文庫(『動物農場: おとぎばなし』 川端康雄:訳)/2013年再文庫化[ちくま文庫(開高 健:訳)]/2017年再文庫化[ハヤカワepi文庫(山形浩生:訳)]】

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ヒューマンドラマ感動作。カマキリの暗喩と"What's Eating Gilbert Grape"というタイトル。

ギルバート・グレイプ vhs_.jpgギルバート・グレイプ dvd.jpg ギルバート・グレイプ h.jpg
ギルバート・グレイプ(字幕スーパー版) [VHS]」「ギルバート・グレイプ [DVD]」ジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス『ギルバート・グレイプ』二見書房

ギルバート・グレイプ  9.jpg アイオワ州の田舎町。24歳のギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は、大型スーパーの進出ではやらなくなった食料品店に勤め、日々の生活は退屈だが、彼には町を離れられない理由がある。知的障害を持つ弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)は彼が身の回りの世話を焼き、常に監視していないと給水塔に登るなどの大騒ぎを起こす。母親ボニーギルバート・グレイプages.jpg(ダーレーン・ケイツ)は夫が17年前に突然首吊り自殺を遂げて以来、外出もせず一日中食べ続け、鯨のように太っている。ギルバートはそんな彼らの面倒を、姉のエイミー(ローラ・ハリントン)、妹のエレン(メリー・ケイト・シェルバート)と共に見なければなれなかった。彼は店のお客で、2人の子持ちの人妻のベティ(メアリー・スティーンバージェン)と不倫を重ねていたが、彼ギルバート・グレイプges.jpg女の夫(ケヴィン・タイ)が気づいているかどうかは不明。ある日、ギルバートは、旅の途中でトレーラーが故障したため母親と沿道にキャンプを張っている女性ベッキー(ジュリエット・ルイスギルバート・グレイプes.jpg)と知り合い、2人の仲は急速に深まるも、彼は家族を捨てて彼女と町を出ていくことは出来ない。そんな折、ベティの夫が急死し、人妻は町を出る。一方、アーニーの18歳の誕生パーティの前日、ギルバートは弟を風呂へ入れようとして、苛立ちが爆発し暴力を振るってしまう。居たたまれなくなり家を飛び出した彼の足は、自然にベッキーの元へと向かう。その夜、彼は美しい水辺でベッキーに優しく抱きしめられて眠る。翌日、トレーラーの故障が直ったベッキーは出発する―。

What's Eating Gilbert Grape paperback 0.jpgWhat's Eating Gilbert Grape paperback200_.jpg 「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」('85年/スウェーデン)のラッセ・ハルストレム監督の1993年公開作。原作は。劇作家ピーター・ヘッジス初の小説『ギルバート・グレイプ』で、脚本も担当しています。ヒューマンドラマとして感動作に仕上がっているのは、原作の良さに拠ギルバート・グレイプs.jpgる部分も大きいかと思いますが、この監督は家族物を撮るのが上手いと思います。加えて、役者たちも好演しており、公開当時はレオナルド・ディカプリオの演技が話題になりましたが(彼はこの演技で19歳にしてアカデミー助演男優賞にノミネートされた)、主人公ギルバート・グレイプ役のジョニー・デップも、彼と不倫する人妻役のメアギルバート・グレイプ  .jpgギルバート・グレイプ ges.jpgリー・スティーンバージェンも、ベッキー役のジュリエット・ルイスも母親役のダーレン・ケイツ(1947-2017)もみんな良く、更には、この映画が映画初出演だったり、それこそワン・アンド・オンリーの出演者もいるようで、それでいて不自然さを感じさせないのは、監督の演出力の賜物かもしれません。

ベティ(メアリー・スティーンバージェン)/ベッキー(ジュリエット・ルイス)

ギルバート・グレイプ kuruma.jpg ネタバレになりますが、母親ボニーはアーニーが再度給水塔に登り警察に身柄を拘束されたのに怒って、家を出てギルバートの運転するクルマで警察へ出向き息子を奪還するも、その太った姿を人々から奇異の目で見られ、再び引き籠り状態となり、アーニーの誕生パーティが終わった後、自ら歩いて階段を登り、2階のベッドで眠るように息を引き取ります。そして、母親の巨体と葬儀のことを思ったギルバートは(クレーンでも使わないと遺体を2階から運び出せない状況だが、そうすれば多くの野次馬が見に来ることが予想される)、母親を「笑い者にはさせない」と決心し、家に火を放ちます。一年後、姉や妹も自分の人生を歩き出していて、ギルバートはアーニーと、町を訪れたベッキーのトレーラーに乗り込み、アーニーが「僕らはどこへ?」と尋ねると、彼は「どこへでも、どこへでも」と答えます。

 ギルバートがそれまで田舎町から出られなかったのは、知的障害を持つ弟ばかりでなく、母親の面倒も見なければならなかったためであり、その意味では、母親の死はギルバートにとって哀しみでしたが、それによって彼は呪縛から解放されたと言えます。さらに、その前に、人妻ベティとの関係もありました。結局、ギルバートは「人のために」生きるのに精一杯で、自分が本当はどうしたいのか考えるところまで行っていなかったという感じでしょうか。

ギルバート・グレイプ 102.jpg 彼に「自分のこと」を考えるように促したのが、母親とトレーラーで旅する生活を送っているベッキーで、彼に何がしたいのか、どういう人になりたいのかを訊き、ギルバートは「いい人に」なりたいと答えますが、これはそれまでのギルバートの犠牲的な生き方を象徴しているとともに、彼が自分というものを見つめ直し、人妻との関係にピリオドを打つ契機にもなったように思います。

ギルバート・グレイプ ages.jpg 一方で、このベッキーという女性は面白くて、自分を訪ねて来たギルバートに、洗濯物なんか干しながらさらっと、「(カマキリが)どう交尾するか知ってる? オスがメスに忍び寄ると、メスはオスの頭を噛みちぎるの。オスの体は交尾を続けるんだけど、交尾が終わるとメスは残りの体も食べちゃうのよ」というようなことを言います。

 この映画の原題は"What's Eating Gilbert Grape"で、この場合の"eat"は「不安や苛立ちを引き起こす」という意味であり。一見すると障害のためトラブルばかり起こすアニーがギルバートを一番苛立たせているように見えますが、ベッキーのカマキリの話をギルバート・グレイプード.jpgギルバートが置かれている状況のメタファーだと解釈すると、"eat"はそのまま「食い尽くす」という意味にもなり、更に、メス=女性とすれば、ギルバートを喰いつす"メスカマキリ"は人妻のベティであると言えます。ベッキーはギルバートが"メスカマキリに喰われるオスカマキリ"のようだと示唆しているわけですが、ベッキーがギルバートから人妻ベティを引き剥すだけのためにこうした暗喩を用いたというのはやや狭い見方のように思われ、ベッキーはギルバートが自分自身の人生を生きるために、自分が置かれている状況を安易に受容したり、あるいは意識的に見ないようにするのではなく、まず危機感を持って自らを見つめ直すよう促したように思います。

ギルバート・グレイプ indou.jpg ただし、この考えで行くと、ギルバートが愛した彼の母親にもメスカマキリの話が当て嵌まるように思われ(自殺した夫は"オスカマキリ"か?)、その辺りがなかなかこの映画の微妙なところです。でも実際、知的障害を持つ弟アーニーは18歳になったからといって何か特別に改善が見られるわけではなく、大人になって今後ますます大変そうな感じがするにも関わらず、人妻が去った代わりにベッキーという恋人が出来、さらにギルバートにとって大きな負担となっていた母親は亡くなったことで、つまり"メス"の呪縛から解放されたことで、ギルバートは自分の人生に対してもアニーに対しても、これまでよりずっと前向きになれたのではないかと思われます(ベッキーはギルバートの母親のことを偉いと思っているが、彼女がギルバートに母親との面会を求めたことは、結果として彼女が母親にある種"最後通牒"を突きつけたのと同じことになったようにも思える)。

 この映画については他にも幾つかのメタフファーが取り沙汰されていて興味深いのですが(例えばアニーがいつも飼っていいる数匹のバッタの意味とか...)、先のベッキーのカマキリの話は一番分かりやすい暗喩ではないかと思います。母親の死についても自殺なのか事故死なのかと人によって見方が分かれ(この映画を観た専門家の話によれば、あの状態でベッドに寝れば気管が脂肪の重みで潰れ、無呼吸症で死に至ってもおかしくないそうだが、それが自分の意思だったかどうかということ)、ベティの夫は妻の不倫を知っていたのか知らなかったのか(その死は心臓発作によるものと思われるが、彼も言わば"オスカマキリ"か?)といった細かいことまで含め、感動した後で同じ映画を観た人と議論もできるという、なかなかスグレモノの映画です。

「ギルバート・グレイプ」●原題:WHAT'S EATING GILBERT GRAPE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ラッセ・ハルストレム●製作:メイア・テペル/バーティル・オールソン/デヴィッド・マタロン●脚本:ピーター・ヘッジス●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:アラン・パーカー/ビギルバート・グレイプ ダーレン・ケイツ.jpgョルン・イスファルト●原作:ピーター・ヘッジス●時間:118分●出演:シネマブルースタジオ ギルバート・グレイプ.jpgジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス/ダーレン・ケイツ/ローラ・ハリントン/メアリー・ケイト・シェルハート/ジョン・C・ライリー/クリスピン・グローヴァー/メアリー・スティーンバージェン/ケヴィン・タイ/ ペネロープ・ブランニング●日本公開:1994/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-07-23)(評価:★★★★☆)
ダーレン・ケイツ(1947-2017)/レオナルド・ディカプリオ

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精神的"終活映画"「ラッキー」。ハリー・ディーン・スタントンへのオマージュ。

ラッキー 映画 2017.jpgラッキー 映画s.jpg パリ、テキサス dvd.jpg エイリアン DVD.jpg
「ラッキー」ハリー・ディーン・スタントン(撮影時90歳)/「パリ、テキサス デジタルニューマスター版 [DVD]」「エイリアン [AmazonDVDコレクション]

ラッキー 映画.jpg 90歳の通称"ラッキー"(ハリー・ディーン・スタントン)は、今日も一人で住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガをこなしたあと、テンガロンハットを被って行きつけのダイナーに行き、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)と無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)が注いだミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解く。夜はバーでブラッディ・マリーを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中で、ある朝突然気を失ったラッキーは、人生の終わりが近いことを思い知らされ、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、逃げた100歳の亀、"生餌"として売られるコオロギ―小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく―。

ジョン・キャロル・リンチ監督.jpgファウンダーe s.jpg 昨年[2017年]9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン主演のジョン・キャロル・リンチ監督作品で、ハリー・ディーン・スタントンの遺作となりました。ジョン・キャロル・リンチは本来は俳優で(最近では「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」('16年/米)で「マクドナルドラッキー 映画02.jpg」の創始者マクドナルド兄弟の兄モーリスを演じていた)、この「ラッキー」が初監督作品になります。一方、2017年のTV版「ツイン・ピークス」でハリー・ディーン・スタントンを使ったデヴィッド・リンチ監督が、主人公ラッキーの友人で、逃げてしまったペットの100歳の陸ガメ"ルーズベルト"に遺産相続させようとしとする変な男ハワード役で出演しています(役者として目いっぱい演技している)。

デヴィッド・リンチ(ペットの陸ガメ"ルーズベルト"の失踪を嘆く白い帽子の男)/ハリー・ディーン・スタントン(ブラッディ・マリーを手にする男)

 主人公のラッキーは、ハリー・ディーン・スタントン自身を擬えたと思われますが(存命中だったが、彼へのオマージュになっている? スタラッキー 映画01.jpgントンは太平洋戦争時に、映画の中でダイナーの客が語る沖縄戦に実際に従軍している)、映画では少々偏屈で気難しいところのあるキャラクターとして描かれています。自分の言いたいことを言い、そのため周囲の人々と小さな衝突をすることもありますが、でも、ラッキーは周囲の人々から気に掛けられ、愛されていて、彼を受け容れる友人・知人・コミニュティもあるといったラッキー 映画03.jpg具合で、むしろこれって"ラッキー"な老人の話なのかもと思いました。但し、彼自身はウェット感はなく、どうやら無神論者らしいですが、そう遠くないであろう自らの死に、自らの信念である"リアリズム"(ニヒリズムとも言える)を保ちつつ向き合おうしています。ある意味、精神的"終活映画"と言えるでしょうか。その姿が、ハリー・ディーン・スタントン自身と重なるのですが、孤独でドライな生き方や考え方と、それでも他者と関わりを持ち続ける態度の、その両者のバランスがなかなか微妙と言うか絶妙かと思いました。

ラッキー .jpg ハリー・ディーン・スタントンはこの映画撮影時は90歳で、「八月の鯨」('87年/米)で主演したリリアン・ギッシュ(1893-1993)が撮影当時93歳であったのには及びませんが、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のクリストファー・プラマーが「手紙は憶えている」('15年/カナダ・ドイツ)で主演した際の年齢85歳を5歳上回っています(クリストファー・プラマーはその後「ゲティ家の身代金」('17年/米)で第90回アカデミー賞助演男優賞に88歳でノミネートされ、アカデミー賞の演技部門でのノミネート最高齢記録を更新した)。

ラッキー 映画p.jpg ハリー・ディーン・スタントンがこれまでの出演した作品と言えば、SF映画の傑作「エイリアン」や、準主役の「レポマン」、主役を演じた「パリ、テキサス」など多数ありますが、第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」が特に印象深いでしょうか。この「ラッキー」のエンディング・ロールで流れる彼に捧げる歌の歌詞に「レポマン」「パリ、テキサス」と出てきます。また、米国中西部らしい舞台背景は「パリ、テキサス」を想起させます(ジョン・キャロル・リンチ監督はジョン・フォードの作品なども参考にしたと言っているが、確かにそう思えるシーンもある)。

パリ,テキサス コレクターズ・エディション_.jpgパリ、テキサス01.jpgパリ、テキサス03.jpgパリ、テキサス02.jpg 「パリ、テキサス」('84年/独・仏)は、失踪した妻を探し求めテキサス州の町パリをめざす男(スタントン)が、4年間置き去りにしていた幼い息子と再会して親子の情を取り戻し、やがて巡り会った妻(ナスターシャ・キンスキー)に愛するがゆえの苦悩を打ち明ける―というロード・ムービーであり、当時まだアイドルっぽいイメージの残っていたナスターシャ・キンスキーに、「のぞき部屋」で働いている生活疲れした人妻を演じさせ新境地を開拓させたヴィム・ヴェンダース監督もさることながら、ハリー・ディーン・スタントンの静かな存在感も作品を根底で支えていたように思いまワン・フロム・ザ・ハート nキンスキー.jpgす。ヴィム・ヴェンダース監督は、ロマン・ポランスキー監督が文豪トマス・ハーディの文芸大作を忠実に映画化した作品「テス」('79年/英)でナスターシャ・キンスキーの演技力を引き出したのに匹敵する演出力で、フランシス・フォード・コッポラがオール・セットで撮影した「ワン・フロム・ザ・ハート」('82年/米)で彼女を"お人形さん"のように撮って失敗した(少なくとも個人的には成功作に思えない)のと対照的でした(まあ、ナスターシャ・キンスキーが主役の映画ではなく、彼女は準主役なのだが。因みに、この「ワン・フロム・ザ・ハート」には、ハリー・ディーン・スタントンも準主役で出演している)。

エイリアン スタントン.jpg ハリー・ディーン・スタントンは、主役だった「パリ、テキサス」に比べると、リドリー・スコット監督の「エイリアン」('79年/米)では、"怪物"に「繭」にされてしまい、最後は味方に火炎放射器で焼かれてエイリアン ジョンハート.jpgしまう役だったからなあ(それもディレクターズ・カット版の話で、劇場公開版ではその部分さえカットされている)。ただ、あの映画は、英国の名優ジョン・ハートでさえも、エイリアンの幼生(チェスト・バスター)に胸を食い破られるというエグい役でした。最初に観た時はストレートに怖かったですが、最後に生き残るのはシガニー・ウィーバー演じるリプリーのみという、振り返ればある意味「女性映画」だったかも。シリーズ第1作では男性に置き換えられていますが、チェスト・バスターが躰を食い破って出て来るというのは、哲学者・内田樹氏の「街場の映画論」等での指摘もありましたが、女性の出産に対する不安(恐怖、拒絶感)を表象しているのでしょうか。

エイリアン2s.jpgエイリアン2ド.jpg この恐れは、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが完全に主人公となったシリーズ第2作以降、リプリー自身の見る「悪夢」として継承されていきます。「エイリアン2」('86年/米)の監督は、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン。ラストでエイリアンと戦うリプリーが突如「機動戦士ガンダム」風に変身する場面に象徴されるように、SF映画というよりは戦争アクション映エイリアン3ド.jpg画風で、「1」に比べ大味になったように思います(海兵隊のバスケスという男まさりの女兵士は良かった)。デヴィッド・フィンチャー監督の「エイリアン3」('92年/米)になると、リドリー・スコット監督がシンプルな怖さを前面に押し出した第1作に比べてそう恐ろしくもないし(馴れた?)、ジェームズ・キャメロン監督がエイリアンを次々と繰り出した第2作に較べても出てくるエイリアンは1匹で物足りないし、ラストの宗教的結末も、このシリーズに似合わない感じがしました(「エイリアン」「エイリアン2」は共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF映画賞」を受賞している)。

ジョン・ハート(31歳当時)/in 「エレファント・マン」('80年/英・仏)
ジョンハート.jpgエレファントマン ジョンハート.jpg チェスト・バスターの出現がシリーズを象徴する場面として印象に残るという意味では、「エイリアン」でのジョン・ハートの役は、エグいけれどもオイシイ役だったかも。この人、「エレファント・マン」('80年/英・仏)で"エレファント・マン"ことジョゼフ・メリック役もやってるしなあ。あれも、普通の二枚目出身俳優なら受けない役だったかも。

ジョン・ハート .jpgハリーディーンスタントン.jpg そのジョン・ハートも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」('17年/英)のチェンバレン役を降板したと思ったら、昨年['17年]1月に膵臓ガンで77歳で亡くなっています。「ウィンストン・チャーチル」ではゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優層を受賞していますが、そのゲイリー・オールドマンと、第22回「サテライト・アワード」(エンターテインメント記者が所属する国際プレス・アカデミが選ぶ映画賞)の主演男優賞を分け合ったのがハリー・ディーン・スタントンです。但し、スタントンは"死後受賞"でした。遅ればせながらこれを機に、ジョン・ハートとハリー・ディーン・スタントンに追悼の意を捧げます(「冥福を祈る」と言うと、"ラッキー"から「冥土なんて存在しない」と言われそう)。

20170918211045e91s.jpg そう言えば、ハリー・ディーン・スタントンは生前、"The Harry Dean Stanton Band"というバンドで歌とギターも担当していて、2016年に第1回「ハリー・ディーン・スタントン・アウォード」というイベントが開催され、ホストが今回の作品にも出ているデヴィッド・リンチで、ゲストが「沈黙の断崖」('97年)でハリー・ディーン・スタントンと共演したクリス・クリストファーソンや、「ラスベガスをやっつけろ」('98年)などで共演経験のあるジョニー・デップでしたが(ジョニー・デップの登場はハリー・ディーン・スタントンにとってはサプラズ演出だったようだ)、この「ハリー・ディーン・スタントン賞」って誰か"受賞者"いたのかなあ。
 
Harry Dean Stanton performs 'Everybody's Talkin' with Johnny Depp & Kris Kristofferson.('Everybody's Talkin'は映画「真夜中のカーボーイ」の主題歌」)

Lucky (2017)
Lucky (2017).jpg
「ラッキー」●原題:LUCKY●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・キャロル・リンチ●製作:ダニエル・レンフルー・ベアレンズ/アイラ・スティーブン・ベール/リチャード・カーハン/ローガン・スパークス●脚本:ローガン・スパークス/ドラゴ・スモンジャ●撮影:ティム・サーステッド●音楽:エルビス・キーン●時間:88分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/デヴィッド・リンチ/ロン・リヴィングストン/エド・ベグリー・Jr/トム・スケリット/ジェームズ・ダーレン/バリー・シャバカ・ヘンリー/ベス・グラント/イヴォンヌ・ハフ・リー/ヒューゴ・アームストロングス●日本ヒューマントラストシネマ有楽町.jpgヒューマントラストシネマ有楽町 sinema2.jpg公開:2018/03●配給:アップリンク●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(18-04-13)(評価:★★★★)
ヒューマントラストシネマ有楽町(2007年10月13日「シネカノン有楽町2丁目」が有楽町マリオン裏・イトシアプラザ4Fにオープン。経営がシネカノンから東京テアトルに変わり、2009年12月4日現在の館名に改称)[シアター1(162席)・シアター2(63席)]

Pari, Tekisasu (1984)
Pari, Tekisasu (1984).jpg
「パリ、テキサス」●原題:PARIS,TEXAS●制作年:1984年●制作国:西ドイツ・フランス●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作: クリス・ジーヴァニッヒ/ドン・ゲスト●脚本:L・M・キット・カーソン/サム・シェパード●撮影:ロビー・ミューラー●音楽:ライ・クーダー●時間:147分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/サム・ベリー/ベルンハルト・ヴィッキ/ディーン・ストックウェル/オーロール・クレマン/クラッシー・モビリー /ハンター・カーソン/ヴィヴァ/ソコロ・ヴァンデス/エドワード・フェイトン/ジャスティン・ホッグ/ナスターシャ・キンスキー/トム・ファレル/ジョン・ルーリー/ジェニ・ヴィシ●日本公開:1985/09●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(86-03-30)(評価:★★★★)●併映:「田舎の日曜日」(ベルトラン・タヴェルニエ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
ワン・フロム・ザ・ハート dvd.jpgワン・フロム・ザ・ハート ちらし.jpg「ワン・フロム・ザ・ハート」●原題:ONE FROM THE Heart●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:アーミアン・バーンスタイン/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ロナルド・V・ガーシア/ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:トム・ウェイツ●時間:107分●出演:フレデリック・フォレスト/テリー・ガー/ラウル・ジュリア/ナスターシャ・キンスキー/レイニー・カザン/ハリー・ディーン・スタントン /アレン・ガーフィールド/カーマイン・コッポラ/イタリア・コッポラ/レベッカ・デモーネイ●日本公開:1982/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★)●併映:「ひまわり」(ビットリオ・デ・シーカ)

エイリアン 1979.jpgエイリアン スタントン.jpg「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)

エイリアン2.jpgエイリアン2 .jpgエイリアン2 DVD.jpg「エイリアン2」●原題:ALIENS●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間: 137分(劇場公開版)/154分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/マイケル・ビーン/ポール・ライザー/ランス・ヘンリクセン/シンシア・デイル・スコット/ビル・パクストン/ウィリアム・ホープ/リッコ・ロス/キャリー・ヘン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1986/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:日本劇場(86-10-05)(評価:★★★)
エイリアン2 (完全版) [AmazonDVDコレクション]

エイリアン3.jpgエイリアン3 DVD.jpg「エイリアン3」●原題:ALIENS³●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・フィンチャー●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル/ラリー・ファーガソン●撮影:アレックス・トムソン●音楽:エリオット・ゴールデンサール●時間:114分(劇場公開版)/145分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/チャールズ・S・ダットン/チャールズ・ダンス/ポール・マッギャン/ブライアン・グローバー/ラルフ・ブラウン/ダニー・ウェブ/クリストファー・ジョン・フィールズ/ホルト・マッキャラニー/ランス・ヘンリクセン/ピート・ポスルスウェイト●日本公開:1992/08●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
エイリアン3 [DVD]

エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)

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テンポが良いサクセス・ストーリー。成功の裏側も描いていて楽しめた。

ファウンダー tirasi.jpg 
「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」チラシ

ファウンダー01.jpgファウンダー02.jpg 1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)に8台もの注文が飛び込む。注文先はマック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟が経営するカファウンダー04.jpgリフォルニア州南部にあるバーガー・ショップ「マクドナルド」だった。合ファウンダー05.jpg理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう―。

マクドナルド セミナー資料.jpg ジョン・リー・ハンコック監督の2016年製作映画(本国公開2016年12月7日、日本公開2017年7月29日)で、「マクドナルド」の"創業者"(founder)"レイ・クロックの成功とその裏側を描いた実話風ビジネスドラマです。レイ・クロックの「マクドナルド」に纏わる話は、本で読んだり(自伝『成功はゴミ箱の中に』成功はゴミ箱の中に 01.jpgは有名)、或いは、マクドナルドで教育研修を担当していた人の講演セミナーを聴いたりすることがあり知っていましたが(元社員の人は大体セミナーの冒頭にレイ・クロックの話をする)、映画はテンポが良くて、しかも内容がサクセス・ストーリーなので(成功の裏側も描いていて)楽しめました。『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)

マクドナルド兄弟の店.jpg    マクドナルド兄弟の店 ファウンダ―.jpg
マクドナルド兄弟の店(1940年カリフォルニア州サンバーナーディノにオープン)実物/映画

マクドナルド フランチャイズ1号店.jpg 壮大なフランチャイズ・ビジネスで利益を追求しようとするレイ・クロックと、小規模でも堅実な道を歩もうとするマクドナルド兄弟との確執に焦点を当てていて、フェイスブックの創業者間の対立を描いた「ソーシャル・ネットワーク」('10年)と似ている部分もありますが、本国の批評家の間では2010年ゴールデングローブ賞の作品賞を獲得した「ソーシャル・ネットワーク」ほどには(今のところ)評価されていないようです。ただ、個人的には「ソーシャル・ネットワーク」より面白かったです。
マクドナルド フランチャイズ1号店(1955年4月シカゴ郊外にオープン、現在はMcDonald's Corporation Museum)

ファウンダー 09.jpg この映画の日本版のキャッチ・コピーの1つに「英雄か。怪物か。」というのがありますが、本国版のキャッチ・コピーは"He took someone else's idea and America ate it up."で、「他人のアイデア」とあるように、30秒以内に注文客に商品を渡すといったマクドナルドのコンセプト自体は、レイ・クロックの独創ではないことをより明確に打ち出しています。この映画はマクドナルド社の協力無しに作られているわけですが、それでもレイ・クロックという人物を、アクの強さがあるにせよ、進取の気性に富み、スモール・ビジネスをビッグ・ビジネスに変えた傑物として描いている部分が大きいように思いました。

ファウンダー09.jpg 中盤でレイ・クロックが、人から"創業"はいつか聞かれて答えに窮する場面があったのが印象に残りました(創業したのはマクドナルド兄弟だから)。それが、ビジネスが拡張すると、彼自身が"ファウンダ―(創業者)"を名乗るようになり、終いにはマクドナルド兄弟から経営権を全面的に買い取って、兄弟には「マクドナルド」という名を使わせないようにします。マクドナルド兄弟に「マクドナルド」という名を使わせないというのもスゴイですが、兄弟が交換条件として求めた「永続的に利益の1%」を支払うという件については、契約書には記さず"紳士協定"ということにして、必ず守ると言いながら反故にし、兄弟の店はやがて閉店することになったことを映画は最後に伝えています。

ファウンダー 08.jpg こうした「目的のためには手段を選ばず」的な面はあるものの、52歳のうだつの上がらないシェイクミキサーのセールスマンだった男が、あれよあれよという間に外食産業の帝国を築いてしまうというのは、まさにアメリカン・ドリームを象徴するような話であるには違いありません。成功の条件は、ひたすら「根気強く」ということでしょうか。但し、映画で描かれる彼は、人の能力(やる気と言うべきか)を見抜く才能があり、そうして得た人材を適材を適所に配置することに長け、また、いいタイミングで自身の右腕となる参謀的な人物と出会えたという運もあったようです。

 マクドナルド兄弟が革新的な"スピード・サービス・システム"を編み出したプロセスが描かれているのが興味深かったです。まさに、テーラーの"科学的管理法"であり、映画の中でも言われているように、ヘンリー・フォードの"フォード・システム"です。但し、外食産業で一番最初にフォード・システムを取り入れたのは1930年創業のKFC(ケンタッキーフライドチキン)であり、1940年に最初のマクドナルドを開いたマクドナルド兄弟が考えたようなことを、当時は既に組織的に導入していたのではないかと思われます。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 07.jpg KFCはフランチャイズ・ビジネスという点でもマクドナルドのずっと先輩格にあたるわけですが、マクドナルドもフランチャイズ・ビジネス抜きには考えられないわけで、そうした観点から見ればレイ・クロックも"ファウンダ―(創業者)"と言えなくはないと思います。彼は「マクドナルド」という商標にこだわったため、マクドナルド兄弟との対立が深まったという気もします。なぜ、「クロック」とせず「マクドナルド」にこだわったのかが、映画の中でも、また本物のレイ・クロックが登場する記録映像の中でも明かされていたのが興味深かったです(両親はチェコ系ユダヤ人であり、クロックという姓は当時の米国ではマイノリティ=被差別層を想起させる姓ということになる)。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡).jpgバードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)01.jpg 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」('14年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートンがレイ・クロックを好演しています。マイケル・キートン主演のビジネス・ムービーとガンホーdvd.jpg言えば、ロン・ハワード監督の米国に進出した日本の自動車メーカーを舞台とした「ガン・ホー」('86年)がありましたが、あれから30年経っているのかあ(髪の毛が薄くなるのも無理はない)。「バードマン」で、かつてのスーパーヒーロー、バードマン役で人気があったが今は落ち目の中年俳優を演じて、一気に"演技派"の評価を得ましたが("中年以降の人生の逆転劇"という点ではこの「ファウンダー」も同様)、マイケル・キートン自身もかつてはティム・バートン監督の「バットマン」('89年)と「バットマン・リターンズ」('89年)にバットマンことブルース・ウェイン役で出演していました。

バットマン BATMAN 1989.jpgバットマン マイケル・キートン.jpg 「バットマン」で彼が演じたバットマンはとにかく暗く、映画自体が暗かったです。ロビンも出てこないし、昔テレビでやっていた実写版の「怪鳥人間バットマン」('66‐'67年)とは随分違う感じがしました。映画は米国ではヒットしたようですが、日本では宣伝の割りにはイマイチだったように思います。"ジョーカー"を演じたジャック・ニコルソンのギャラの高さが話題になった記憶があります。

バットマン・リターンズ 02.jpgバットマン・リターンズ .jpg シリーズ第2作の「バットマン・リターンズ」は、ペンギン男にダニー・デヴィート、新登場のキャット・ウーマンにミシェル・ファイファーを配しましたが、共に主役のマイケル・キートンを完全に喰ってしまう怪演を見せ、第1作よりちょっとだけ面白かったかも。何れにせよ、マイケル・キートンは、主演であるのに第1作でジャック・ニコルソンに喰われ、第2作でダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファーに喰われるという損な役回りだったようにも思います。

 マイケル・キートンはシリーズ3作目で、ティム・バートンの監督降板と共にバットマン役(二代目)をヴァル・キルマー(「トゥームストーン」('93年))に譲っています。ただし、ヴァル・キルマーのバットマン役はシリーズ第3作「バットマン フォーエヴァー」('95年)だけで、バットマン役はその後、第4作「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」('97年)ではジョージ・クルーニー、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイトトリロジー三部作」と言われる第5作「バットマン ビギンズ」('05年)、第6作「ダークナイト」('08年)、第7作「ダークナイト ライジング」('12年)ではクリスチャン・ベール(「ザ・ファイター」('11年))、第8作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」('16年)、第9作「ジャスティス・リーグ」('17年)ではベン・アフレック(「アルゴ」('12年))と変遷していきます。ただし、第8作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」、第9作「ジャスティス・リーグ」は、DCコミックスの実写化映画作品を、同一の世界のクロスオーバー作品群として扱った「DCエクステンデッド・ユニバース」シリーズのそれぞれ第2作と第5作という位置づけにあり、純正なバットマン映画とは言い難い気もします。最初に演じたマイケル・キートンが最も嵌り役だった思いますが、次に挙げるとすれば、最多の3作出演のクリスチャン・ベールだったでしょうか。ただし、彼も、「ダークナイト」ではジョーカーを演じたヒース・レジャー(1979-2008(28歳没))( 「ブロークバック・マウンテン」('05年/米))に喰われ気味でした。


ファウンダー00.jpg「ファウンダー ハンバーファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ  .jpgガー帝国のヒミツ」●原題:THE FOUNDER●制作年:2016年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・リー・ハンコック●製作:ドン・ハンドフィールド/ジェレミー・レナー/アーロン・ライダー●脚本:ロバート・シーゲル●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:カーター・バーウェル●時間:115分●出演:マイケル・ファウンダーes.jpgキートン/ニック・オローラ・ダーン ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ.jpgファーマン/ジョン・キャロル・リンチ/リンダ・カーデリニ/パトリック・ウィルソン/B・J・ノバク/ローラ・ダーン/ジャスティン・ランデル・ブルック/ケイト・ニーランド●日本公開:2017/07●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷シネパレス(旧渋谷パレス座)(17-07-30)(評価★★★☆)

ジョン・キャロル・リンチ TV「ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言」('11年~'13年)/「ラッキー」('17年/米)監督
1ボディ・オブ・プルーフ 死体の証言 (2).jpg  ラッキー 映画 2017.jpg ジョン・キャロル・リンチ監督.jpg

渋谷シネパレス3.jpg渋谷パレス座.jpg渋谷シネパレス.jpgシネパレス シネクイント.jpg渋谷パレス座 1948年渋谷パレス座オープン。1990年6月閉館。1992年3月14日「渋谷シネパレス」として改築オープン。2003年6月~2館体制(スクリーン1:182席/スクリーン2:115席)。上写真「ハイローリング」('77年/米)(1978/12 公開)/「恋人たちの予感」('89年/米)(1989/12 公開)2018年5月28日「渋谷シネパレス」閉館。2018年7月2日「シネクイント」(旧PARCO SPACE PART3)(2016年8月7日閉館)の後継館として再オープン(スクリーン1:162席、スクリーン2:115席)。

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:11ガン・ホー01.jpg1分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャース/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)

バットマン 1989.jpgバットマン 1989 dvd.jpg「バットマン」●原題:BATMAN●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:ジョン・ピータース/ピーター・グーバー●脚本:サム・ハム/ウォーレン・スカーレン●撮影:ロジャー・プラット●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:プリンス)●原作:サム・ハム●時間:127分●出演:マイケル・キートンジャック・ニコルソン/キム・ベイシンガー/ロバート・ウール/パット・ヒングル/ビリー・ディー・ウィリアムス/マイケル・ガウ/ジャック・パランス/リー・ウォーレス●日本公開:1989/12●配給:ワーナー・ブラザース(評価★★☆)
バットマン [DVD]

バットマン・リターンズ 1992 .jpgバットマン・リターンズ 1992 dvd.jpg「バットマン・リターンズ」●原題:BATMAN RETURNS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:デニーズ・ディ・ノヴィ/ティム・バートン●脚本:ダニエル・ウォーターズ●撮影:ステファン・チャプスキー●音楽:ダニー・エルフマン(主題歌:スージー・アンド・ザ・バンシーズ)●原作:ボブ・ケイン●時間:126分●出演:マイケル・キートンダニー・デヴィートミシェル・ファイファー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ガウ/パット・ヒングル/マイケル・マーフィー/ヴィンセント・スキャベリ●日本公開:1992/07●配給:ワーナー・ブラザース(評価★★★)
バットマン リターンズ [DVD]

クリスチャン・ベール in「ダークナイト」('98年)
ダークナイト dvd.jpgダークナイト2.jpg「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジダークナイト ヒースレジャー.jpgョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベールヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)
怪鳥人間バットマン.jpg怪鳥人間バットマン dvd.jpg怪鳥人間バットマン3_0.jpg「怪鳥人間バットマン」(Batman) (ABC 1966~1968) ○日本での放映チャネル:フジテレビ(1966~1967)/WOWOW


《読書MEMO》
●「エスクァイア」編集部による歴代バットマン映画俳優ランキング(「バットマン」オリジナル・ムービー('66年)を含む)
第1位: マイケル・キートン/「バットマン」(1989年)、「バットマン リターンズ」(1992年)
第2位: クリスチャン・ベール/「バットマン ビギンズ」(2005年)、「ダークナイト」(2008年)、「ダークナイト ライジング」(2012年)
第3位: アダム・ウェスト/「バットマン」(1966年)
第4位: ヴァル・キルマー/「バットマン・フォーエヴァー」(1995年)
第5位: ジョージ・クルーニー/「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」(1997年)
第6位: ベン・アフレック/「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」(2016年)、「ジャスティス・リーグ」(2017年)
バットマン 歴代.jpg

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リゾート感溢れるし、ラストはラストで楽しめたが、原作を超えるには至っていない。

地中海殺人事件  pannhu .jpg地中海殺人事件 1982 poster.jpg地中海殺人事件 DVD.jpg 地中海殺人事件-  Ustinov.jpg
地中海殺人事件 デジタル・リマスター版 [DVD]
映画パンフレット 「地中海殺人事件」監督 ガイ・ハミルトン 出演 ピーター・ユスチノフ」「【映画チラシ】地中海殺人事件 ガイ・ハミルトン ピーター・ユスティノフ [映画チラシ]
マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/シルヴィア・マイルズ/ジェームズ・メイソン
地中海殺人事件- smith mcdowell mason.jpg ロンドンの保険会社で、ポアロ(ピーター・ユスティノフ)が模造宝石に保険をかけようとしたホレス・ブラット(コリン・ブレークリー)の調査を依頼される。ポアロは彼に会い、「結婚の約束をした女優のアリーナ・マーシャル(ダイアナ・リグ)に20万ドルの宝石を与えたが、彼女が他の男と結婚したので、宝石を取り戻したところ模造品だった」と聞かされる。当のアリーナはアドレア海の孤島のホテルで休暇を過ごす予定であり、ポアロもそこへ赴く。ホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)はタイラニア国王の元愛人で、手切れ金代りにこのホテルを貰ったのだった。アリーナとは昔一緒に舞台に出たことがあり、二人は再会すると互いに笑いながら嫌味を言い合う。アリーナが新夫ケネス・マーシャル(デニス・クイリー)、ケネスと前妻との間の子リンダ(エミリー・ホーン)と共に着いたホテルには、彼女を再び舞台に復帰させようというプロデューサーのオーデル・ガードナ地中海殺人事件 - balloon.jpgー(ジェームズ・メイソン)と妻の地中海殺人事件- roddy.jpgEvil Under the Sun (1982)_AL_.jpgマイラ(シルヴィア・マイルズ)、彼女の伝記を執筆したジャーナリストのレックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)が待っていたが、彼女は女優業への復帰も伝記の出版も拒否する。そして、ホテル客のハンサムなラテン語教師パトリック・レッドファン(ニコラス・クレイ)と大っ地中海殺人事件276.jpgぴらにいちゃつき、人々の非難の目を浴びる。アリーナのことでパトリックが妻クリスティン(ジェーン・バーキン)と喧嘩しているのを、多くの人が聞きつける。ある日、ホテルを一人で出たアリーナは、ホテルと反対側の海岸の浜辺で日光浴をしていた。パトリックとマイラがボ地中海殺人事件s.jpgートでその浜辺へ。パトリックが横になっている彼女の所へ行くと彼女の死を発見。マイラの知らせを受けたダフネの依頼でポワロが捜査にあたる。皆それぞれに犯行動機があったが、ポアロは死亡推定時刻の11時半から12時までの全員のアリバイ地中海殺人事件b6.jpgを訊くと、誰にとってもアリーナ殺害は不可能だった。リンダとクリスティンは死体発見現場とは反対側の海辺で海水浴とスケッチをしていたし、ケネスは部屋でタイプを打っていたし、レックスはボートで別の海上にいて、ダフニネは従業員とミーティングをし、窓からオーデルが庭で読書しているのを目撃していた。皆がホテルを去る日、ポワロは皆を集めて犯人を指摘する―。

白昼の悪魔  cb.jpg白昼の悪魔 (ハヤカワ・ミステリ文庫2.jpg 1982年公開の昨年['16年]亡くなったガイ・ハミルトン(1922-2016/享年93)による監督、ピーター・ユスティノフ(1921-2004/享年82)の主演作で、原作はクリスティが1941年に発表した『白昼の悪魔』であり、映画の原題も"Evil Under the Sun"。ピーター・ユスティノフにとっては、同じくポワロを演じたジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年)とマイケル・ウィナー監督の「死海殺人事件」('88年)の間の作品であり、ガイ・ハミルトンにとっては、ミス・マープル物の『鏡は横にひび割れて』が原作である「クリスタル殺人事件」('80年)に続くクリスティ原作作品の監督作です(因みにこの「地中海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」とプロデューサー、脚本及びが同じであり、「クリスタル殺人事件」ともプロデューサをはじめ主要スタッフが同じである)。

地中海殺人事件 - smith mcdowell.jpg 原作の登場人物の内、ミリー・ブルースターが男性に変更され、レックス・ブルースター(ロディ・マクドウォール)になっているほか、ブルースターがパトリック・レッドファンと共にアリーナの遺体を発見する部分は、オーデル・ガードナーの妻マイラ(シルヴィア・マイルズ)にその役割を置き換えられています。更に、ケネス・マーシャルのことを心配する有名ドレスメーカーのロザモンド・ダーンリーは登場せず、その役割は一部、原作には無いホテルの女主人ダフネ(マギー・スミス)に置き換えられているといった感じです。
マギー・スミス/ロディ・マクドウォール

地中海殺人事件- sea.jpg 原作の舞台は英国内ですが、それをアドリア海にあるティラニア島(架空の島)に改変しています。実際のロケ地はスペインのマヨルカ島付近のドラゴネーラ島であり(ホテル内の壁にかかっている島の地図(文庫カバー図と同じ)と島の空撮映像で見る形とが一致していない(笑))、美しい風景をバックにコール・ポーターの名曲が地中海殺人事件 - island real.jpg流れ、陽光に満ちたリゾート感、優雅な贅沢感が溢れる作品になっています。一方、一部登場人物の改変はあるものの、プロットはほぼ原作に沿っています(原作が精緻なプロットであるため、基本的には殆どいじりようがないのだが)。

ロケ地のスペイン・ドラゴネーラ島

 映画「ナイル殺人事件」の時もそうでしたが、最後ややバタバタバタっとポワロが謎解きしてしまう感じで、観る者に推理する暇をあまり与えていないような印象があり、こうした点はデビッド・スーシェ主演のドラマ版である「名探偵ポワロ(第48話)/白昼の悪魔」('01年)の方が丁寧で分かり易いかもしれません。

地中海殺人事件e4.jpg そのことを意識してか、最後にポワロが犯人だと名指して推理を展開した容疑者が、話としては面白いが証拠がどこにもないと反駁し、悠々とその場を立ち去ろうとするという映画オリジナルの場面があって、それに対してポワロがどう対処したかという独自の"捻り"が加えられています。イギリス映画であって、多くの観客がクリスティの原作の結末を知っているため、敢えてこうしたシークエンスを加えたのではないかとも思われ、また、「タワーリング・インフェルノ」('74年)などアクションアドベンチャー大作が得意のジョン・ギラーミン監督と、「007死ぬのは奴らだ」('73年)などスパイ物やサスペンス物を多く手掛けたガイ・ハミルトン監督の作風の違いの表れでもあるかもしれません。ラストはラストで楽しめましたが、やはり原作を超えるには至っていないように思います。

地中海殺人事件 - last.jpg地中海殺人事件 - rigg smoth.jpg アリーナ・マーシャルを演じたダイアナ・リグ(Diana Rigg)は、「女王陛下の007」('69年)のボンドガールで、娘のレイチェル・スターリング('77年生まれ)も女優であり、「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」('03年)、「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)などに出演しています。

地中海殺人事件ジェーン・バーキン19.jpg地中海殺人事件a18.jpg パトリック・レッドファンの妻クリスティンを演じたジェーン・バーキン(Jane Birkin)は、「ジェーン・バーキン22.jpgナイル殺人事件」に続いての出演で、10代で既にミケランジェロ・アントニオーニ監督の「欲望」('66年/英・伊)などに出ていますが、エルメスのカゴバッグ"バーキン"誕生の契機となるエルメスの社長と航空機で乗り合わエルメスのバーキン.jpgジェーン・バーキン ファッション.jpgせたという出来事は'84年のこと。以降、女優業、歌手業をこなしながらカジュアル系のファッション・リーダーとしても今日まで活躍し続けていますが、この映画の頃はまだ"着せ替え人形"みたいな感じ。夫パトリック役のニコラス・クレイはシルビア・クリステル主演の「チャタレイ夫人の恋人」('81年/英・仏)で重要な役どころの森番役を演じるなどしましたが、残念ながら2000年に肝癌で亡くなっています。

ジェーン・バーキン

  
Evil Under the Sun (1982)
Evil Under the Sun (1982).jpg地中海殺人事件 - hercule swim.jpg「地中海殺人事件」●原題:EVIL UNDER THE SUN●制作年:1982年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:コール・ポーター●原作:アガサ・クリスティ「白昼の悪魔」●時間:117分●出演:ピーター・ユスティノフ/コリン・ブレイクリー/ジェーン・バーキン/ニコラス・クレイ/マギー・スミス/ロディ・マクドウォール/ジェームズ・メイソン/ダイアナ・リグ/シルヴィア・マイルズ/デニス・クイリー/エミリー・ホーン●日本公開:1982/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:有楽座(82-12-28)(評価★★★☆)
ナイル殺人事件」('78年)   「地中海殺人事件」('82年)   「死海殺人事件」('88年)
ナイル殺人事件 スチール2.jpg 地中海殺人事件 es.jpg 死海殺人事件 w.jpg
《読書MEMO》
●原作の評価                
・『ナイルに死す』......★★★★
・『白昼の悪魔』......★★★★
・『死との約束』......★★★★
●映画化作品の評価
・「ナイル殺人事件」......★★★☆
・「地中海殺人事件」......★★★☆
・「死海殺人事件」......★★★

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次第に狂人化していくヒトラーと、どうすることも出来ない取り巻き将校たち。

ヒトラー 最期の12日間 2005.jpg  ヒトラー 最期の12日間  .jpg ヒトラー 最期の12日間 011.jpg
ヒトラー ~最期の12日間~ ロング・バージョン(2枚組) [DVD]」 ブルーノ・ガンツ(アドルフ・ヒトラー)

ヒトラー 最期の12日間  12.jpg 1942年、トラウドゥル・ユンゲ(アレクサンドラ・マリア・ララ)は数人の候補の中からヒトラー総統(ブルーノ・ガンツ)の個人秘書に抜擢された。1945年4月20日、ベルリン。第二次大戦は佳境を迎え、ドイツ軍は連合軍に追い詰められつつあった。ヒトラーは身内や側近と共に首相官邸の地下要塞へ潜り、ユンゲもあとに続く。そこで彼女は、冷静さを失い狂人化していくヒトラーを目の当たりにするのだった。ベルリン市内も混乱を極め、民兵は武器も持たずに立ち向かい、戦争に参加しない市民は親衛隊に射殺されていく。そして側近たちも次々と逃亡する中、ヒトラーは敗北を認めず最終決戦を決意するが―。

ヒトラー 最期の12日間02.jpg オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の2004年作品で、ヨアヒム・フェストによる同名の研究書『ヒトラー 最期の12日間』('05年/岩波書店)、およびヒトラーの個人秘書官を務めたトラウドゥル・ユンゲの証言と回想録『私はヒトラーの秘書だった』('04年/草思社)が本作の土台となっています。映画はヒトラーが地下の要塞で過ごした最期の12日間に焦点を当て、トラウドゥル・ユンゲの目を通して、歴史的独裁者の知られざる側面を浮き彫りにしていくほか、混乱の中で国防軍の軍人やSS(親衛隊)隊員らが迎える終末、宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルス一家の最期、老若男女を問わず戦火に巻き込まれるベルリン市民の姿にも焦点が置かれています。

ヒトラー 最期の12日間 11.jpg この映画の圧巻は、ブルーノ・ガンツ(1941-2019)が演じる、次第に冷静さを失い狂人化していくヒトラーではないでしょうか。その演技は話題になり、動画投稿サイトにおいて台詞パロディの題ヒトラー 最期の12日間 12.jpg材として広く用いられています(日本では「総統閣下シリーズ」と銘打たれている)。ただ、ブルーノ・ガンツの演技ばかりでなく、ヒトラーが総統官邸地下壕から出てきてヒトラー・ユーゲントを激励するシーンなどは、実際の記録映像を忠実に再現していて(元になった記録映像は生前のヒトラー最後の映像として残っているもの)、作りの細かさからリアリティを感じさせるものとなっています(ゲッペルスの6人の子供達も本モノそっくりしのようだ)。

ヒトラー 最期の12日間 32.jpg しかし、この映画に描かれていることが全て真実かと言うと、例えば、地下要塞の最後の生き残りだった(この映画にも登場する)親衛隊曹長で地下壕の電話交換手ローフス・ミッシュ(1917-2013/享年96)は、映画は全く事実と異なっていると言い、ヒトラーが映画みたいに怒鳴ってばかりいたというのは誇張で、また、将校らが地下壕内で乱痴気パーティのようなことをしたことも無かったとのことです(ルキノ・ヴィスコンティ監督の「地獄に堕ちた勇者ども」('69年/伊)の影響?)

アレクサンドラ・マリア・ララ(トラウデル・ユンゲ)/トラウデル・ユンゲ
トラウデル・ユンゲ 1.jpgトラウデル・ユンゲ.jpg そもそもこの映画の原作者の一人、ヒトラーの秘書だったトラウデル・ユンゲ(1920-2002/享年81)の父は積極的なナチス協力者であり、また、彼女の夫は親衛隊将校だったとのことで、その証言の中立性に疑問を挟む向きもあるようです。彼女は、出版社の勧めで1947 - 48年に本を執筆しましたが「このような本は関心を持たれない」という理由で出版されなかったのが、『アンネの伝記』の著者メリッサ・ミュラーと2000年に知り合い、その協力を得て2002年に初の回顧録『最期の時まで―ヒトラーの秘書が語るその人生』を出版したとのこと。その回顧録の内容に関するインタビューの様子がドキュメンタリー映画に収められ(ベルリン映画祭観客賞)、2002年2月、この映画の公開数日後に死去しています(この「ヒトラー~最期の12日間~」でも、冒頭と最後にも生前の彼女のインタビューが出てくる)。

ハインリヒ・シュミーダー(ローフス・ミッシュ)
ヒトラー 最期の12日間 ローフス・ミッシュ1.jpg トラウデル・ユンゲは戦後比較的早くからヒトラーの最期について証言していますが、ローフス・ミッシュは彼女がそうした証言によって金を稼いだと批判しています。そのローフス・ミッシュ自身も1970年代からドキュメンタリー映画に登場するようになり、特に1990年代以降、ヒトラーや第二次世界大戦に関する番組によく登場していたとのことです。2006年にも「最後の証人―ロフス・ミシュ」と題するテレビ・ドキュメンタリー番組に出演、『ヒトラーの死を見とどけたローフス・ミッシュ.jpgヒトラーの死を見とどけた男.jpg男―地下壕最後の生き残りの証言』('06年/草思社)という本も書いています。また、映画製作にあたって、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督が自分の所へ全く取材に来なかったことに不満を呈しています。

ローフス・ミッシュ『ヒトラーの死を見とどけた男―地下壕最後の生き残りの証言』('06年/草思社)

私はヒトラーの秘書だった.jpg この映画でのヒトラーの描かれ方の特徴として、ヒトラーが(特にユンゲが秘書に採用された1942年頃は)人間味もちゃんと持ち併せている人物として描かれている点で、ユンゲの著書でヒトラーが、もともとは紳士的で寛大で親切な側面があり、ユーモアのセンスさえあったように描かれていることの影響を若干反映しているように思います。こうしたユンゲのヒトラーの描き方に、彼女が直接政治には関与しなかったもののあまりに無自覚だという批判があるわけですが、それが映画にも少し反映されていることで、この映画が批判される一因ともなっているようです(彼女自身はレニ・リーフェンシュタールなどと同様、自身はナチズムやホロコーストと無関係であると生涯主張し続けたとされているが、この映画の中のインタビューでは無関係では済まされないと"懺悔"している)。 トラウデル・ユンゲ『私はヒトラーの秘書だった』('04年/草思社)

ヒトラー 最期の12日間 33.jpg 全体としては概ね事実に忠実だという評価のようですが、細部においては何が真実なのか、証言者の数だけ"真実"があって分からないということなのかもしれないです(歴史とはそういうものか)。但し、映画としては、最初はまともだったのが次第におかしくなり、最後はすっかり狂人化していくヒトラーと、最初はヒトラーに忠誠を誓っていたものの次第にその行いに疑問を感じるようになり、それでも従来の"忠誠パターン"から抜け出せないまま、最後はその異様な変貌ぶりに驚きつつ、どうにもすることも出来ずにいる取り巻き将校たちという構図が、一つの大きな見せ所となっているように思いました(ゲッペルス夫妻のように狂的に最後までヒトラーに追従して行く者もいたが、これはごく一握りか)。

ヒトラー 最期の12日間 21.jpg 今どきのビジネス書風に言えば、上司を諌めるフォロワーシップが働かなかったということでしょうか。たとえ合理的な観点から或いは良心の呵責からヒトラーに物申す将校がいたとしても、それを撥ねつヒトラー 最期の12日間 441.jpgけて二度と自分に口答えさせないだけの迫力ある(?)狂人と化したヒトラーを、ブルーノ・ガンツは力演していたように思います。普通ならば"浮いて"しまうようなオーバーアクションなのですが(パロディ化されるだけのことはある?)、オーバーアクションであればあるほど風刺や皮肉が効いてくる映画でした。

クリスチャン・ベルケル(エルンスト=ギュンター・シェンク)
ヒトラー 最期の12日間 エルンスト=ギュンター・シェンク.jpg 但し、この映画で良心的な人物として描かれている医官のエルンスト=ギュンター・シェンク親衛隊大佐(クリスチャン・ベルケル)は、強制収容所で人体実験を行って多数の犠牲者を出したとされており、民間人の犠牲者を回避するよう繰り返し訴えるヴィルヘルム・モーンケ親衛隊少将(アンドレ・ヘンニック)は、史実においては少なくとも2度に渡り彼の指揮下の部隊が戦争捕虜を虐殺した疑いが持たれているとのことです。同監督の「ヒトラー暗殺、13分の誤算」('15年/独)でも、ヒトラー暗殺計画の手引きをしたとしてヒトラーに処刑される秘密警察のアルトゥール・ネーベを「いい人」のように描いていますが、ネーベはモスクワ戦線進軍中、ユダヤ人やパルチザンと目される人々大勢の殺害を命令した人物で、ネーベの隊だけで4万5,467人の処刑が報告されています。人にはそれぞれの顔があるわけで、映画的に分かり易くするためにその一面だけを描く傾向がこの監督にはあるのかも。一つの映画的手法だとは思いますが、対象がナチスであるだけに、これもまた異議を唱える人が出てくる原因になるのでしょう。アカデミー外国語映画賞にノミネートされましたが、受賞はアレハンドロ・アメナバル監督の「海を飛ぶ夢」に持っていかれています。

Hitorâ: Saigo no 12nichi kan (2004)
Hitora Saigo no 12nichi kan (2004).jpg
「ヒトラー~最期の12日間~」●原題:DER UNTERGANG(英:DOWNFALL)●制作年:2004年●制作国:ドイツ・オーストリア・イタリア●監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ベルント・アイヒンガー●撮影:ライナー・クラウスマン●音楽:ステファン・ツァハリアス●原作:ヨアヒム・フェスト「ヒトラー 最期の12日間」/トラウデル・ユンゲ「私はヒトラーヒトラー 最期の12日間 55.jpgの秘書だった Bis zur letzten Stunde」●時間:156分●出演:ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/ユリアーネ・ケーラー/トーマス・クレッチマン/コリンナ・ハルフォーフ/ウルリッヒ・マテス/ハイノ・フェルヒ/ウルリッヒ・ヌーテン/クリスチャン・ベルケル/アレクサンダー・ヘルト/ハインリヒ・シュミーダー/トーマス・ティーメ●日本公開:2005/07●配給:ギャガ●最初に観た場所:渋谷・シネマライズ(05-09-24)(評価:★★★★) ウルリッヒ・マテス(ヨーゼフ・ゲッベルス)・ブルーノ・ガンツ(アドルフ・ヒトラー)

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ニューシネマの中ではラストに救いがある「ゲッタウェイ」。メディアミックスの先駆「ある愛の詩」。

ゲッタウェイ 1972 .jpgゲッタウェイ dvd.jpg ゲッタウェイ05.jpg  ある愛の詩 1970.jpg
ゲッタウェイ デジタル・リマスター版 [DVD]」スティーブ・マックィーン/アリ・マックグロー/ 「【映画パンフ】ある愛の詩 アーサー・ヒラー アリ・マッグロー リバイバル判 1976年」ライアン・オニール

ゲッタウェイs.jpg 刑務所を裏取引で出所したドク・マッコイ(スティーブ・マックイーン)は、引き換えに、取引相手のテキサスの政界実力者ベニヨン(ベン・ジョンソン)の要求で、妻キャロル(アリ・マッグロー)と銀行強ゲッタウェイ01.jpg盗に手を染める。ベニヨンからはルディ(アル・レッティエリ)とジャクソン(ボー・ホプキンズ)が助手兼ドクの監視役として送り込まれ、綿密な計画の末に強盗は何とか成功するが、ジャクソンが銀行の守衛を射殺してしまう。ルディは目撃者に面が割れたジャクソンを車内で射殺し、今度はドクに銃を向けるが、ドクの銃が先に火を吹く。ドクは、銀行から奪った金を約束通りベニヨンの元に運び込ぶが、キャロルの様子がおかしく、実はベニヨンとキャロルは男女の関係にあり、当初はドクゲッタウェイ02.jpgを裏切って消す考えだったのだ。しかし、キャロルはドクではなくベニヨンを射殺する。ドクは逃走中に車を止め、嫉妬と怒りからキャロルを殴り倒す。一方のルディは、防弾チョッキゲッタウェイ03.jpgのお蔭で死んでおらず、獣医の家に押し入り、ドクに撃たれた肩の治療をしていたが、ベニヨンの死を知り、ドクの追跡を開始する。ドクは町で自分が指名手配になっているのを知ってショットガンをゲッタウェイ04.jpg買い求め、警察に追われながらも逃げて、エルパソのホテルに辿り着く。だが、そこへはルディが先回りしていて、ベニヨンの手下も向かっていた。ルディがホテルに現れ、ドグが彼を殴り倒した時に今度はベニヨンの手下が現れて大銃撃戦が始まるが、ドクのショットガンで全員が倒され、ルディも射殺される。ドクはホテルからメキシコ人の老人のトラックに乗り込み、国境を越えたところで老人からトラックを買取り、夫婦はメキシコ側へ消えていく―。

 サム・ペキンパー監督の1972年作品で、原作は『鬼警部アイアンサイド』などで知られるジム・トンプスン、脚本は、後に「48時間」「ストリート・オブ・ファイアー」を監督するウォルター・ヒルが手掛けています。追手からの逃避行を続けるうちに、主人公2人の間に夫婦愛が甦ってきて、激しく血生臭い銃撃戦を乗り越えて2人は新たな世界へ逃げ延びる―というニューシネマの中では珍しく(?)ラストに救いがあるタイプです。アーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」('67年)にしても、銀行強盗の末路は警官から一斉射撃を浴びての"蜂の巣状態"でしたから。

ゲッタウェイ  .jpgゲッタウェイ 淀川.jpg しかしながら故・淀川長治は、必ずしも2人の未来は明るいと示唆されているわけではないと言っており、これは、原作にこの続きがあって、バッドエンディンが待ち受けていることを指していたのでしょうか。但し、原作における主人公のキャラクターは極悪人に近く、取引上やむなく銀行強盗をする映画の主人公とはかなり異なるようです。個人的には、この映画のラストには、やはり何となくほっとさせられます。

 一方、この映画の方には、もう1つのエンディングがあったこともよく知られており、最後は2人が警官に撃たれて「俺たちに明日はない」のボニーとクライドのように"蜂の巣状態"になるものだったそうです(実際に撮影された?)。これは、サム・ペキンパー監督が「俺たちに明日はない」に非常に感化されていたということもあったようですが、スティーブ・マックイーンが反対したようです。

 元々この映画は、ピーター・ボグダノビッチ監督、シビル・シェパード主演、原作者のジム・トンプスン脚本で進められていたのが、スティーブ・マックイーンが監督も主演女優も脚本家も変えてしまったみたいで、マックイーンがこうも口を挟む背景には、彼が実質的な製作者になっていったことがあるようです。音楽は、ペキンパー作品の常連ジェリー・フィールディングが担当することになったのが、これまたマックィーンの主張でクインシー・ジョーンズのジャズ音楽に差し替えられています。

 このように、様々な場面でサム・ペキンパー監督とも意見が対立し、マックイーンが押し切った部分もあれば譲歩した部分もあるようです。ペキンパーは破滅的な結末を望んだのかと思いましたが、実はこの映画を風刺のきいたコメディにしたかったらしいとも言われています。そうしたこともあってか、ペキンパー本人はこの作品に不満を持っていたとされていますが、結果として彼の作品の中では最大のヒット作となりました。

ゲッタウェイ  マックグロー.jpgある愛の詩05.jpg 妻役のアリ・マックグローは銃を扱ったことがなく、マックイーンが銃の撃ち方を教えて銃に慣れさせたりもしたそうですアリ・マックグロー 2.jpgが、「ある愛の詩」('70年)の白血病で死んでいく女子大生よりは、こちらの方が"演技開眼"している印象です。でも、この作品での共演をきっかけにマックイーンと結婚し、この後2本だけ映画に出て実質的に映画界を引退してしまいました。6年後に離婚してしまったことを考えると惜しい気もしますが、2006年に68歳で Festen(映画「セレブレーション」の舞台化)でブロードウェイ・デビューを果たしています。

ファラ・フォーセット オニール.jpgある愛の詩021.jpg 一方、「ある愛の詩」で共演したライアン・オニールは、その後「ペーパー・ムーン」('73年)、「バリー・リンドン」('73年)などに主演するなどして活躍しましたが、2001年に慢性白血病に冒されていることが判明し、また、パートナーであったファラ・フォーセットのガンによる死(2009年6月25日、マイケル・ジャクソンと同じ日に亡くなった)を看取るとともに、自身も前立腺がんであることが公表(2012年)されていて、こちらはかなりタイヘンそうだなあと。

love story eric.jpg 「ある愛の詩」は、エリック・シーガルによる同名の小説が原作ですが、未完の小説を原作として映画の製作が始まり、先に映画が完成し、映画の脚本を基に小説が執筆された部分もあるそうです。先に小説が刊行され、その数週間後に映画が公開されており、今で言う"メディアミックス"のはしりでした。ペーパーバックを読みましたが、初めて英語で読んだ小説の割には読み易かったのは、ある種ノベライゼーションに近かったせいもあるかもしれないし、ストーリーが古典的で結末が見えているせいもあったかもしれません。この映画のヒットの後、難病モノの映画が幾つか続いた記憶があります(アメリカ人は白血病モノが好きなのか?)。

大林宣彦2.jpg この映画がアメリカでヒットしたことについて、映画監督の大林宣彦氏はアメリカで封切り時にこの作品を現地で観ていて、ベトナム戦争で疲弊したアメリカが、本音ではこのような純愛ドラマを求めている時代感覚を肌で感じていたとのこと。但し、この映画の作られた1970年と言えばまだベトナム戦争の最中ですが、映画内にその影は一切見えません(最初観た時は"ノンポリ"恋愛映画だと思ったが、今思えば意図的にそうしていたのか)。日本でもヒットしたのは、古典的なストーリーに加えて、フランシス・レイの甘い音楽の効果もあったかと思います(日本ではフランシス・レイ来日記念盤として1971年3月に発売されたアンディ・ウイリアムス盤が、1月に発売されていたフランシス・レイ盤の先を越してトップ10にランクされた)。

love story Tommy Lee Jones.jpg 因みに、主人公のオリバー・バレット4世(ライアン・オニール)のルームメイト役で無名時代のトミー・リー・ジョーンズ(当時24歳)が出演していますが、その後3年間は映画の仕事がなく、彼の無名時代は長く続き、オリバー・ストーン監督の「JFK」('91年)出演でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからようやっと注目されるようになり、ハリソン・フォード主演の「逃亡者」('93年)でアカデミー助演男優賞を獲得しています。オリバーやそのルームメイトが通うのは名門ハーバード大学ですが、トミー・リー・ジョーンズは実人生においてもハーバード大学の出身で、当時のルームメイトに後の副大統領となるアル・ゴアがいたとのことです。


raiann.jpg ライアン・オニール 2023年12月8日逝去。(82歳没)

「ペーパー・ムーン」1973.jpg「ペーパー・ムーン」11.jpg(●ライアン・オニールが亡くなった。「ある愛の愛の詩」('70年)の興行的成功や「ザ・ドライバー」('78年)といった渋い作品もあるが、代表作はと言うとやはり「ペーパー・ムーン」('73年)と「バリー・リンドン」('73年)になるのではないか。「ペーパー・ムーン」は泣けた。原作はジョー・デヴィッド・ブラウンの小説『アディ・プレイ』だが、日本では『ペーパームーン』の題名でハヤカワ文庫 から刊行された。ライアン・オニールとテータム・オニールの父娘共演で話題になり、本国では年間トップの興行収入を得、1973年の第46回アカデミー賞ではテータム・オニールが史上最年少で助演女優賞を受賞したが、その後、彼女が思ったほど伸びなかったことを思うと、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の演出力がやはり大きかったか、または、父親ライアンの導き方が上手かったのか(個人的評価は、初見の時の感動に沿って★★★★☆)。「バリー・リンドン」1975.jpg「バリー・リンドン」11.jpg「バリー・リンドン」は、スタンリー・キューブリック監督が、18世紀のヨーロッパを舞台とし、ウィリアム・メイクピース・サッカレーによる小説"The Luck of Barry Lyndon"(1844年)を原作としたもので、アカデミー賞の撮影賞、歌曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞を受賞した。世評は「ペーパー・ムーン」よりむしろ「バリー・リンドン」の方が上か。ただ、"ライアン・オニール"に目線を合わせると、主人公でを演じる彼が抑制を効かせた演技をすることで回りを浮き立たせているので、彼自身はやや背景に埋没している印象も受けなくもない。ラストの決闘シーンにおいてさえそう感じる。そこがキューブリック監督の演出のやり方なのだろうが(個人的評価は★★★★)。)


The Getaway (1972) .jpgゲッタウェイ 09.jpg「ゲッタウェイ」●原題:THE GETAWAY●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:サム・ペキンパー●製作:デヴィッド・フォスター/ミッチェル・ブロウアー●脚本:ウォルター・ヒル●撮影:ルシアン・バラード●音楽:デイヴ・グルーシン●原作:ジム・トンプスン●時間:122分●出演:スティーブ・マックィーン/アリ・マックグロー/ベン・ジョンソン/アル・レッティエリン/スリム・ピケンズ/リチャード・ブライト/ジャック・ダドスン/ボー・ホプキンス/ダブ・テイラー●日本公開:1973/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:高田馬場パール坐(77-12-10)●2回目:自由が丘・武蔵野推理(84-09-23)(評価★★★★)●併映(1回目):「パピヨン」(フランクリン・J・シャフナー)●併映(2回目):「48時間」(ウォルター・ヒル)

ある愛の詩 01.jpgある愛の詩01.jpg「ある愛の詩」●原題:LOVE STORY●制作年:1970年●制作国:アメリカ●監督:アーサー・ヒラー●製作:ハワード・ミンスキー●脚本:エリック・シーガル●撮影:リチャード・クラディナ●音楽:フランシス・レイ●原作:エリック・シーガル●時間:99分●出演:ライアン・オニール/アリ・マックグロー/ジョン・マーレー/レイ・ミランド/キャサリン・バルフォー/シドニー・ウォーカー/ロバート・モディカ/ラッセル・ナイプ/トミー・リー・ジョーンズ ●日本公開:1971/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-11-03)(評価★★★)●併映:「おもいでの夏」(ロバート・マリガン)/「フォロー・ミー」(キャロル・リード)
ある愛の詩 [ラリアン・オニール/アリ・マッグロー] [レンタル落ち]

ペーパー・ムーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
「ペーパー・ムーン」dvd.jpg「ペーパー・ムーン」22.jpg「ペーパー・ムーン」●原題:PAPER MOON●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督・製作:ピーター・ボグダノヴィッチ●脚本:アルヴィン・サージェント●撮影:ラズロ・コヴァックス●原作:ジョー・デヴィッド・ブラウン●時間:103分●出演:ラ「ペーパー・ムーン」21.jpgイアン・オニール/テータム・オニール/マデリーン・カーン/ジョン・ヒラーマン/P・J・ジョンソン/ジェシー・リー・フルトン/ェームズ・N・ハレル/リラ・ウォーターズ/ノーブル・ウィリンガム/ジャック・ソーンダース/ジョディ・ウィルバー/リズ・ロス/エド・リード/ドロシー・プライス/ドロシー・フォースター/バートン・ギリアム/ランディ・クエイド●日本公開:1974/03●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:名画座ミラノ(77-12-18)●2回目:名画座ミラノ(77-12-18)(評価★★★★☆)

バリー リンドン [DVD]
「バリー・リンドン」dvd.jpg「バリー・リンドン」22.jpg「バリー・リンドン」●原題:BARRY LYNDON●制作年:1975年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●撮影:ジョン・オルコット●音楽: レナード・ローゼンマン●原作:ウィリアム・メイクピース・サッカレー●時間:185分●出演:ライアン・オニール/マリサ・ベレンソン/ハーディ・クリューガー/ゲイ・ハミルトン/レオナルド・ロッシーター/アーサー・オサリヴァン/ゴッドフリー・クイグリー/パトリック・マギー/フランク・ミドルマス●日本公開:1976/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(79-02-05)(評価★★★★)

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ブニュエルのコメディ(?)。次から次へと出てくる「常識破壊」を楽しむ作品か。

自由の幻想 poster.jpg自由の幻想 pannhu .png 自由の幻想 dvd 2001.jpg 自由の幻想 dvd 2012_.jpg
自由の幻想 [DVD]」「自由の幻想(1974) [DVD]
「自由の幻想」ポスター
「自由の幻想」パンフレット
ジャン=クロード・ブリアリ/モニカ・ビッティ
自由の幻想 01.jpg 1808年、スペイン・トレド。ナポレオン占領下の地で、抵抗するスペイン人が処刑される。「自由くたばれ!」という彼らの叫び。場面は変わり現代のパリ。少女がある紳士より絵葉書を貰い、母親のフーコー夫人(モニカ・ヴィッティ)にそれを見せる。「いやらしい!」という夫人と夫のフーコー氏(ジャン=クロード・ブリアリ)はやがて興奮していく。絵葉書は風景物である。翌朝、不眠症自由の幻想 12.jpgが昂じて寝室をダチョウが歩き回るのが見えてしまったフーコー氏は医者(アドルフォ・チェリ)の所へ。すると看護婦(ミレナ・ヴコティッチ)が休暇を願っている。1泊2日の休みに彼女は父の家へ向かうが、途中で宿屋に1泊。主人(ポール・フランクール)の自由の幻想 05.jpg案内でチェック・インしたが、伯母(エレーヌ・ペルドリエール)と甥の恋人達やマゾ男などが泊まっていた。看護婦は賭博好きの牧師らとトランプをしている。早朝、彼女は車で出発。同乗した教授(フランソワ・メーストル)は街で降り、憲兵隊本部で講義する。訓練、事故発生等で生徒は減って2人だけ。「習俗の変化」と題し、教授は友人の家での出来事を話す。食事はトイレで、トイレはテーブルの前の椅子=便器で、という話。講義を終え街へ出た2人の生徒=警官は、ルジャンドル(ジャン・ロシュフォール)をスピード違反で捕まえた。彼はガンで、1人娘が行方不明。早速彼は娘をつれて警察へ行き、この娘が誘拐されたと訴える。捜査は開始され、ライフル乱射魔が捕まり、死刑自由の幻想 03.jpg宣告後に釈放されヒーローになる。ルジャンドルは警視総監(ジュリアン・ベルトー)に娘が発見されたと聞かされ、妻(パスカル・オードレ)の連れてきた娘と再会。総監は墓地へ行き、死んだ妹(アドリアーナ・アスティ)の棺桶を開けようとして逮捕される。そして警察でもう1人の総監(ミシェル・ピッコリ)と対面、酒を飲む2人は、動物園へ入っていく。そして動物達にダブって、あの「自由くたばれ!」の叫びがこだましてくる―。

自由の幻想76l.jpg 1974年製作・公開のルイス・ブニュエル(1900-1983)監督作で、非日常的なブラック・ユーモアの世界をオムニバス形式で描いた作品です。それぞれのエピソードは緩やかに繋がっていますが(主役が)バトンタッチするかのように変わっていく)、全体として纏まった体系的ストーリーがるわけではありません。加えて、何れのエピソードにおいても設定が不条理であるため、ストーリーを書いたところで、「何のこっちゃ分からん」ということになるかも。例えば、娘が行方不明だというルジャンドルは、娘を連れて警察に行き、この娘が誘拐されたと説明する訳で、その訴えを訊いて警察が捜査に乗り出すというストーリー自体がナンセンスであり、完全に不条理です。

自由の幻想ド.jpg それでもブニュエル作品の中では分かり易い方の部類とされているようで、確かにシュールでブラックですが、現代ではそれほど刺激的でもなかったりする面もあります。ただ、最初に観た時は、風刺の意味を読み解こうとして、逆にあまり楽しめなかったかも。1度観に行ってよく分からなくて再度観に行ったりしましたが、強いて言えば、世間で言われる「常識」や「モラル」といったものも一つの囚われでに過ぎないことを示唆しているのでしょうか。ブニュエル自身が、この作品は「『アンダルシアの犬』('28年/仏)と同様、不条理に湧き出たものだ。意味など無い」と言ったとか。

自由の幻想5.jpg あまり深く考えず、ブニュエルのコメディ(ナンセンス・コメディ?)と割り切って、次から次へと出てくる「常識破壊」を、ジャン=クロード・ブリアリ、モニカ・ヴィッティ、ミシェル・ピコリらの真面目くさった演技と、ピエール・ギュフロワ(1926-2010)の美術的映像美とともに楽しめばいいのかも。「女は女である」('61年/伊・仏)のジャン=クロード・ブリアリと「太陽はひとりぼっち」('62年/伊・仏)のモニカ・ヴィッティが夫婦役で、風景絵葉書を見て興奮している図なんて、ブニュエルの映画でしか観ることが出来ないと思います。

自由の幻想 bunyueru.jpg「自由の幻想」●原題:LE FANTOME DE LA LIBERTE(英:THE PHANTOM OF LIBERTY)●制作年:1974年●制作国:フランス●監督:ルイス・ブニュエル●脚本:ルイス・ブニュエル/ジャン=クロード・カリエール●製作:セルジュ・シルベルマン●撮影:エドモン・リシャール●時間:104分●出演:ジャン=クロード・ブリアリ/モニカ・ビッティ/ミシェル・ピコリ/ジャン・ロシュフォール/パスカル・オードレ/ポール・フランクール/アドリアーナ・アスティ/ベルナール・ベルレー/アドルフォ・チェリ●日本公開:1977/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-10-28)●2回目:大塚名画座(78-11-07)(評価★★★☆)●併映(1回目):「サテリコン」(フェデリコ・フェリーニ)●併映(2回目):「最後の晩餐」(マルコ・フェレーリ)/「糧なき土地」(ルイス・ブニュエル)

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最後まで高いテンションが維持されているのは、アン・ハサウェイの勢いある「助走」のお蔭。

レ・ミゼラブル ps.jpgレ・ミゼラブル dvd.jpg レ・ミゼラブル バルジャンとコゼットX.jpg
レ・ミゼラブル [DVD]」 ヒュー・ジャックマン

レ・ミゼラブル 冒頭.jpg 1815年、フランス革命後の王政復古下、飢えた姪のためにパンを1つ盗み20年の刑に受けていたジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、19年目で仮釈放となるも、身分レ・ミゼラブル 燭台.jpg証の危険人物の烙印のため仕事につけずにいた。飢え、暴行を受けたバルジャンが教会の前で倒れていると、司祭が彼を客人として迎え入れ、暖かい食事とベッドを与えるが、バルジャンは夜中に教会の銀の食器を盗み逃亡する。すぐに捕まったバルジャンだったが、司祭は「食器は彼に与えたものだ」と警官に告げ、更に銀の蜀台をバルジャンへ与える。バルジャンは己(おのれ)の恥を知り、生まれ変わることを決意、身分証を破り捨て、仮釈放に伴う毎月の出頭も止める―。

レ・ミゼラブル バルジャンとジャベール.jpg 1823年、バルジャンは、貧者の味方と尊敬されレ・ミゼラブル ファンテーヌ1.jpgる市長になっていた。新任の署長ジャベール(ラッセル・クロウ)が挨拶にやってくるが、バルジャンの面影から彼の過去に疑惑を抱く。バルジャンの作業所で働く娘・ファンテーヌ(アン・ハサウェイ)は、男に捨てられ幼い娘コゼットを宿屋レ・ミゼラブル ファンテーヌ.jpgの夫婦に預けていたが、そのことで職場で騒動となり、バルジャンから穏便に収めるよう命じられた工場長により解雇されてしまう。ファンテーヌは、髪の毛、奥歯を売り、娼婦に身を窶(やつ)すが、娼婦街で彼女をからかった男を突き飛ばしたところへ警官隊が通りかかり、男は彼女レ・ミゼラブル バルジャンとファンテーヌ.jpgに襲われたと主張、ジャベールはファンテーヌを逮捕しようとするが、バルジャンが庇い病院へ運ぶ。ジャベールはバルジャンを逃亡犯として告発するが、別人が誤認逮捕される。バルジャンは苦悶し、法廷に乗り込んで事実を明らかにするが、法廷は取り合わない。バルジャンは病院にファンテーヌを訪ねるが、彼女はコゼットの幻を見ながら亡くなる。バルジャンはファンテーヌにコゼットの保護を約束し、ジャベールから逃げながら、宿屋で使用人の扱いを受けていた幼いコゼットを引き取る―。

レ・ミゼラブルABC.R.jpg 1832年、バルジャンは、美しい娘に成長したコゼット(アマンダ・サイフリッド)を連れ、貧民街で施しをしていた。そこにジャベールが現れる。パリでは革命気炎が高まり、特権階級の青年マリウス(エディ・レッドメイン)は、家を出て貧民街で革命運動に身を投じていた。宿屋夫婦の娘で、かつてコゼットと同じ家に暮らしてレ・ミゼラブル マリウスとエポニーヌ.jpgいた娘エポニーヌ(サマンサ・バークス)は、マリウスに恋をしていたが、マリウスはそれに気づかずコゼットに一目惚れし、コレ・ミゼラブル05.jpgゼットも同じく恋に落ちる。ジャベールに見つかったバルジャンは、家を引き払い、英国へ出発するとコゼットに告げる。マリウスは、エポニーヌにコゼットを探してくれと頼む。コゼLES MISERABLES.jpgットは、マリウスへの手紙を門に残し、エポニーヌが手紙を取る。民衆に慕われていた将軍の葬列の日、学生運動家たちは革命を決意、コゼットに恋していたマリウスも革命を選ぶ。王政側の兵から被弾し倒れたエポニーヌは、マリウスへコゼットの手紙を渡す。一方で、マリウスからコゼットへの手紙を受け取ったバルジャンは、彼を死なすまいとバリケード内部に侵入、そこにはジャベールが居た。彼は志願兵を名乗って偽情報を流していたが、正体を看破され拘束されていた。バルジャンはレ・ミゼラブル 7.jpgジャベールを逃す。翌朝、大砲でバリケードが粉砕され革命軍は全員が死亡したが、バルジャンが負傷したマリウスを抱えて下水道から逃亡し、2人だけが無事だった。その途中でジャベールに遭遇するも、ジャベールは彼らを捕えずに自殺する。マリウスはコゼットと結婚、父代わりだったバルジャンは、マリウスに自らの過去を明かし、その事実が明らかにされればコゼットを苦しませることになるとし、隠遁する。結婚式の日、宿屋夫婦からバルジャンが修道院にいることを明らかにされたマリウスは、コゼットとともに修道院へと向う。愛しいコゼットに見守られながら、ファンテーヌの幻に導かれ、バルジャンは天に召される―。

トム・フーパー監督.jpgレ・ミゼラブル 岩波.jpg 「英国王のスピーチ」('10年/英)でアカデミー作品賞を受賞したトム・フーパー監督の2012年作で、原作はもちろんヴィクトル・ユゴーですが(1862年発表)、1980年代にロンドンで上演され、以後、ブロードウェイを含む世界各地でロングランされていた同名のミュージカルの映画化作品であるとのことで、オリジナルのミュージカルの脚本家も原作者に名を連ねています。
レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)

レミゼラブル ブロードウェイ.jpg ミュージカルとしては、1985年のロンドン初演から史上最長ロングランを誇り、ブロードウェイでは1987年から2003年まで6,680回に渡ってロングラン上演されており、終了時点では第3位の連続公演(劇団四季のような"断続"公演ではない)回数でした。大体、バブル期後半の頃ニューヨークに行った日本人観光客が観るブロードウェイ・ミュージカルと言えば、この「レ・ミゼラブル」か、「キャッツ」(1982年~2000年、公演数7,485回)か、「オペラ座の怪人」(1988年~、公演数11,000回超)が定番でした。

 ゴールデングローブ賞でミュージカル・コメディ部門の作品賞を受賞したこの映画化作品の方は、波乱万丈のストーリーに、スケールの大きさと背景や細部のリアリティが加わり、更には、登場人物の表情がよく分かるという映画の特長がよく生かされていたように思います。それまでの多くのミュージカル映画が、歌の部分を事前にスタジオで収録してから、その音に合わせて演じる姿を撮影するのが一般的であったのに対し、この作品では、撮影時にピアニストを常駐させて仮の伴奏をする中で、俳優たちがその場で歌い、演技をしたため、よりリアルな感情表現を追求できたということです。

 イギリス映画ですが、ジャン・バルジャンを演じたヒュー・ジャックマンはオーストラリア出身、ジャベールを演じたラッセル・クロウはレ・ミゼラブル 2012 カーター ・コーエン.jpgレ・ミゼラブル  宿屋夫婦.jpgニュージーランド出身、ファンティーヌを演じたアン・ハサウェイとその娘コゼットを演じたアマンダ・サイフリッドが米国女優で、マリウスを演じたエディ・レッドメインが英国俳優です。欲深な宿屋夫婦を演じたサシャ・バロン・コーエンとヘレナ・ボナム=カーターも英国(ヘレナ・ボナム=カーターは「英国王のスピーチ」('10年/英)でエリザベス妃を演じ、英国アカデミー賞 助演女優賞を受賞している)。ヘレナ・ボナム=カーターはハリー・ポッター・シリーズ('10年~)のベラトリックス・レストレンジ役以来どんどんスゴイ役になっていきますが、幼い子供までが凶弾に倒れるというヘビーな物語の中で、彼女とサシャ・バロン・コーエンの2人は、ある種ピエロ的なユーモアを醸していました。

レ・ミゼラブルハザウェイX.jpg この中ではバルジャンを演じたヒュー・ジャックマンもいいのですが、個人的"圧巻"は薄幸の女性ファンテーヌを演じたアン・ハサウェイでした。ファンテーヌは映画の前半3分の1くらいのところで死んでしまいますが、疾走するような集中力の高い演技で、う~ん、こんなスゴイ女優だったのかとビックリ。ミュージカルにおける俳優の演技ってパターン化しがちなのに対し(ラッセル・クロウなどがややそれ気味か)、彼女の演技はミュージカルの枠を超えてリアリティがありました。髪を売るために切るシーンでは自前の髪をばっさり切ったそうで、役者魂を感じます。彼女はこの作品で、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の両方で助演女優賞を獲得しています(英国アカデミー賞、放送映画批評家協会賞の各助演女優賞も獲得)。

 2時間半以上の大作ですが、ミュージカル版の場合は第1幕・第2幕の間に途中で休憩があります。一方、一般にはミュージカルが映画化された作品の場合は休憩がない場合が多いので、どこか圧縮するケースと、舞台同様に全部やるケースがあり、後者の場合は観客の集中力を維持するのが一つ課題となる気がします。この作品はオリジナル・ミュージカルの"完全映画化"版を謳っており、ストーリーを端折ることは出来るだけしていないわけで、それでも初めから最後まで高いテンションが維持されていて、また、観ていてそれについていけるのは、やはり最初にアン・ハサウェイが勢いのある「助走」をつけてくれたからではないでしょうか。ヴィクトル・ユゴーの"ストーリーテラー"ぶりも再認識しましたが、ストーリーの面白さだけでなく、泣ける映画でもあります。

レ・ミゼラブル 2012.jpgレ・ミゼラブル 05.jpg「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:2012年●制作国:イギリス●監督:トム・フーパー●製作:ティム・ビーヴァン/エリック・フェルナー/デブラ・ヘイワード/キャメロン・マッキントッシュ●脚本:ウィリアム・ニコルソン/アラン・ブーブリル/クロード=ミシェル・シェーンベルク/ハーバート・クレッツマー●撮影:アン・ハサウェイ2.jpgアン・ハサウェイ.jpgダニー・コーエン●音楽:クロード・ミシェル・シェーンベルク●原作:(小説)ヴィクトル・ユゴー/(ミュージカル)アラン・ブーブリル/クロード・ミシェル・シェーンベルク●時間:158分●出演:ヒュー・ジャックマン/ラッセル・クロウ/アン・ハサウェイ/アマンダ・サイフリッド/エディ・レッドメイン/ヘレナ・ボナム=カーター/サシャ・バロン・コーエン/サマンサ・バークス/ダニエル・ハトルストーン/アーロン・トヴェイト/キリアン・ドネリー/フラ・フィー/アリスター・ブラマー●日本公開:2012/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(15-07-29)(評価:★★★★☆)

レ・ミゼラブル3本.jpg
【2438】◎ ジャン=ポール・ル・シャノワ 「レ・ミゼラブル
」 (57年/仏・伊)  ★★★★☆
(ジャン・ギャバン主演)

 
 
  
   
【2440】○ ビレ・アウグスト 「レ・ミゼラブル
」 (98年/米)  ★★★☆
(リーアム・ニーソン主演)


 
  
  
【2439】 ◎ トム・フーパー 「レ・ミゼラブル
」 (12年/英)  ★★★★☆
(ヒュー・ジャックマン主演)

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重くのしかかってくる作品ではあるが、"謎"の残る作品でもあった。

ヒトラー暗殺、13分の誤算ps.jpg ヒトラー暗殺、13分の誤算 .jpg ヒトラー暗殺、13分の誤算0.jpg
「ヒトラー暗殺、13分の誤算」('15年/独)
ヒトラー暗殺、13分の誤算es.jpgヒトラー暗殺、13分の誤算 cast.jpg 1939年11月8日、ミュンヘンのビアホールで恒例の記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く退席するが、その僅か13分後ホールに仕掛けられていた爆弾が爆発する。当日のヒトラーの予定を徹底的に調べあげたその計画は緻密かつ大胆、更に時限装置付きの爆弾は精密かつ確実なものだった。ドイツ秘密警察ゲシュタポは、単独犯はあり得ないと考え、英国諜報部の関与を疑うが、逮捕されたのはゲオルク・エルザー(クリスティアン・フリーデル)という36歳の平凡な家具職人だった。彼はスパイどころか所属する政党もなく、すべて自分一人で実行したと供述。それを知ったヒトラーは、犯行日までの彼の人生を徹底的に調べるよう命じる。やがて、人妻エルザ(カタリーナ・シュットラー)との恋、音楽、そして自由を謳歌していた"普通の男"の信念が明らかになっていく―。

 監督は、「ヒトラー~最期の12日間~」('04年/独・墺・伊)でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督で、ヒトラーの暗殺計画は幾つもあったゲオルク・エルザー.jpgようですが、この作品の中で取り上げられているものはその中でもマイナーなもののようであり、このゲオルク・エルザーは、小林信彦氏によれば、戦後ドイツが東西に分断されていた時は、西ドイツでは共産主義者と見做され、東ドイツでは無視されて、彼が見直されたのは1990年のドイツ再統一以降のことであり、復権署名運動が始まったのは1993年になってとのことだそうです。
ゲオルク・エルザー

ヒトラー暗殺、13分の誤算11.jpg そうした意味では、戦後70年を迎え、ドイツにおいても過去を振り返る戦争映画が多く作られている、その流れの中で作られた作品であるとも言えるし、裏を返せば、エルザーのことはまだドイツでも詳しくは知られてはおらず、彼の復権運動は現在進行形であるとも言え、ドイツ国民に彼のことを知らしめる目的で作られた、何よりも先ず国内向け映画であるとも言えます。

ブルクハルト・クラウスナー(アルトゥール・ネーベ)/ヨハン・フォン・ビュロー(ハインリッヒ・ミュラー)/クリスティアン・フリーデル(ゲオルク・エルザー)

 そのことは、ドイツ国民が知っているようなことは説明が端折られている点にも現れており、例えば、エルザーを尋問していた秘密警察のアルトゥール・ネーベ(ブルクハルト・クラウスナー)が終盤では自らが処刑されてしまうシーンがありますが、これはヒトラー暗殺計画の中でも最も有名な1944年7月20日の暗殺計画が失敗に終わった後、その首謀者らと通じていたネーベの謀反も発覚し(映画でその誘因が仄めかされているように彼は途中からゲシュタポのやり方に疑問を感じて反ヒトラーに転じた)、ネーベは逃亡するも1945年1月にゲシュタポに捕まって死刑を宣告され、その年の3月にヒトラー自身の望みによりピアノ線による絞首刑が行わヒトラー 〜最期の12日間〜b.jpgれたことに符合しています。そして、この(大掛かりな方の)暗殺未遂事件の関係者の摘発と逮捕を担当しヒトラー暗殺、13分の誤算FJ.jpgたのが、映画でヨハン・フォン・ビュローが演じているハインリッヒ・ミュラーです(ナチ党指導者で逮捕されず、死亡も確認されていない唯一の人物でもある)。但し、そうした事実をある程度知らないと、なぜネーベがミュラーの目の前で絞首刑に処されるのか、また、なぜ、そうした処刑方法がとられるのかが解らない。因みに、この作アルトゥール・ネーベ.jpg品では、ネーベは根はいい人だったようにもとれますが、彼は1941年にアインザッツグルッペンが組織された際のB隊司令官となり、モスクワ戦線への進軍中、ユダヤ人やパルチザンと目される人々大勢の殺害を指揮命令した人物で、ネーベのB隊だけで4万5,467人の処刑が報告されています。
アルトゥール・ネーベ

ヒトラー暗殺、13分の誤算02.jpg 一方、エルザーの回想として描かれる彼の私生活の部分は、一部フィクションが混ざっているそうですが、どの程度なのか。人妻に恋をし(件の人妻が夫のDVに遭っているといった設定は何となくフィクションっぽいが)、友を思い遣り、音楽を愛するヒトラー暗殺、13分の誤算01.jpg彼のキャラクターはなかなか人間味があっていいし、そうした自由な雰囲気が少しずつ奪われていく中で彼がヒトラーの暗殺計画を思い立つという流れは解らなくもないですが、他の人の中にもヒトラーに盲目的に追従する人ばかりではなく、そうした風潮に危惧を抱いていた人はいたはずであるのに(実際この映画にもパルチザンが登場するが)、なぜ彼だけが、こうした勇気と根気、大胆さと綿密さを要する計画をその実施にまで漕ぎ着けることが出来たのか、その辺りが今一つ見えにくく、"あの時代にこんな人もいたんだよ"的なところで終わってしまっているようにも思えなくもありませんでした。

ヒトラー暗殺、13分の誤算12.jpg ゲオルク・エルザーの背後に英国諜報部の関与があると疑ったのは、映画にある通りヒトラー自身であり、その背後関係を調べるよう命を受けたハインリヒ・ヒムラーが直接エルザーを取り調べ、エルザーに罵声を浴びせながら足蹴にし、ゲシュタポの一人にエルザーを鞭で苦痛で悲鳴をあげるまで打ちすえたというから、映画ではヒムラーの人物像がミュラーに置き換えられていると見ることもできますが、そんなことより、エルザーがそうした拷問に耐え抜いたことが不思議な気も。彼は1945年4月9日にダッハウ強制収容所内で処刑されますが、ヒットラーが自殺を遂げたのはその3週間後。ネーベなどが既に処刑されているのに、その5年前に事件を起こしたエルザーがそこまで生かされていたというのも不思議。ドイツ人に非ずとも重くのしかかってくる作品ではありますが、個人的には、"謎"の残る作品でもありました。
Elser (2015)
Elser (2015).jpgヒトラー暗殺、13分の誤算 es.jpgヒトラー暗殺、13分の誤算s.jpg「ヒトラー暗殺、13分の誤算」●原題:ELSER/13 MINUTES●制作年:2015年●制作国:ドイツ●監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル●製作:ボリス・アウサラー/オリバー・シュンドラー/フレート・ブライナースドーファー●脚本:レオニー=クレア・ブライナースドファー●撮影:ユーディット・カウフマン●音楽:デヴィッド・ホームズ●114分●出演:クリスティアン・フリーデル/カタリーナ・シュットラー/ブルクハルト・クラウスナー/ヨハン・フォン・ビュロー●日本公開:2015/10●配給:ギャガ●最初に観た場所:渋谷・シネマライズ(15-11-26)(評価:★★★☆)

シネマライス31.JPGシネマライス9.JPGシナマライズ 地図.jpgシネマライズ 1986年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階に1スクリーン(220席)で「シネマライズ渋谷」オープン。1996年、2階の飲食店となっていた場所(1986年6月から1991年6月まで「渋谷ピカデリー」だった)に2スクリーン目を増設。「シネマライズシネマライズ220.jpgBF館」「シネマライズシアター1(2階)(303席)(後のシネマライズ)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「シネマライズBF館(旧シネマライズ渋谷)」2010年6月20日閉館(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館)。2011年、編成をパルコエンタテインメントに業務委託。地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館。[写真:2015年11月26日/ラストショー「黄金のアデーレ 名画の帰還」封切前日]
渋谷シネマライズ 1986年~2016年 上映作品ラインナップ
渋谷シネマライズ 1986~201 上映作品.jpg【1986年】
『プレンティ』 Plenty
『ホテル・ニューハンプシャー』 The Hotel New Hanpshire
『ポリエステル』 polyester
『ドリーム・チャイルド』 DREAMCHILD
『クロスオーバー・ドリーム』 CROSSOVER DREAMS

【1987年】
『恋は魔術師』 EL AMOR DRUJO
『男と女II』 A MAN AND A WOMAN:20 Years Later
『モナリザ』 MONA LISA
『ブルー・ベルベット』 Blue Velvet
『カラヴァッジオ』 CARAVAGGIO
『悪の華・パッショネイト』 VILLAGE DREAMS
『アリア』 ARIA

【1988年】
『汚れた血』 MAUVAIS SANG
『私は人魚の歌を聞いた』 I'VE HEARD THE MERMAIDS SINGING
『バーフライ』 BARFLY
『ロッキー・ホラー・ショー』 THE ROCKY HORROR PICTURE SHOW
『フランスの思い出』 LE GRAND CHEMIN
『セプテンバー』 September
『ファントム・オブ・パラダイス』 PFANTOM OF THE PARADISE
『ア・マン・イン・ラブ』 a man in love
『ストーミー・ウェザー』 STORMY WEATHER

【1989年】
『シエスタ』 SIESTA
『ワッツタックス』 WATTSTAX
『パスカリの島』 PASCALI'S ISLAND
『バグダッド・カフェ』 BAGDAD CAFE
『ハンドフル・オブ・ダスト』 A HANDFUL OF DUST
『サマーストーリー』 A Summer Story
『神経衰弱ぎりぎりの女たち』 WOMEN ON THE VERGE OF A NERVOUS BREAKDOWN

【1990年】
『二十世紀少年読本』
『サンタ・サングレ』 SANTA SANGRE
『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』 Rosalie Goes Shopping
『マイ・レフトフット』 MY LEFT FOOT
『夫たち、妻たち、恋人たち』 LES MARIS LES FEMMES LES AMANTS
『コックと泥棒、その妻と愛人』 "THE COOK,THE CHIEF,HIS WIFE & HER LOVER"
『キャンディ・マウンテン』 CANDY MOUNTAIN

【1991年】
『ドラッグストア・カウボーイ』 DRUGSTORE COWBOY
『侍女の物語』 THE HANDOMAID'S TALE
『エマ』 EMMA
『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』 ROSENCRANTZ AND GUILDENSTERN ARE DEAD
『メルシー・ラ・ヴィ』 MERCi LA ViE
『グリフターズ』 THE GRIFTERS
『ボイジャー』 VOYGER

【1992年】
『プロスペローの本』 PROSPERO'S BOOKS
『レイジ・イン・ハーレム』 a rage in harlem
『ポンヌフの恋人』 Les Amants du Pont-Neuf
『ヨーロッパ』 EUROPA
『鉄男II/BODY HAMMER』 TETSUO II BODY HAMMER
『エドワードⅡ』 EDWARD Ⅱ

【1993年】
『ハイヒール』 HIGHHEELS
『ポイズン』 Poison
『ジョニー・スエード』 JOHNNY SUEDE
『レザボアドッグス』 RESERVOIR DOGS
『野性の夜に』 LES NUITS FAUVES
『イレイザーヘッド[完全版]』 ERASERHEAD

【1994年】
『ベイビー・オブ・マコン』 THE BABY OF MACON
『春にして君を想う』 Children of Nature
『ディーバ』 DIVA
『時の翼にのって』 FARAWAY.SO CLOSE!
『アリゾナ・ドリーム』 Arizona Dream
『エンジェル・ダスト』 Angel Dust
『カウガール・ブルース』 COWGIRL BLUES

【1995年】
『ミナ』 mina TANNENBAUM
『うたかたの日々』 l'ecume des jours
『地球交響曲 ガイアシンフォニー第二番』
『カストラート』 IL CASTRATO farinelli

【1996年】
『ジェリコー・マゼッパ伝説』 GRAND PRIX DE LA COMMISSION SUPERIEURE TECHNIQUE
『バスケットボール・ダイアリーズ』 The Basketball Diaries
『ロスト・チルドレン』 La Cite des Enfants Perdus
『アンダーグラウンド』 UNDERGROUND
『天使の涙 Fallen Angels』 Fallen Angels
『小便小僧の恋物語』 Manneken Pis
『シクロ』 Cyclo
『ミュリエルの結婚』 muriel's Wedding

【1997年】
『トレインスポッティング』 Trainspotting
『ファーゴ』 FARGO
『ラブ・セレナーデ』 Love Serenade
『奇跡の海』 Breaking the Waves
『シド・アンド・ナンシー』 SID AND NANCY
『ピーター・グリーナウェイの枕草子』 THE RILLOW BOOK
『ラリー・フリント』 THE PEOPLE vs. LARRY FLYNT
『ブエノスアイレス』 happy together

【1998年】
『地球交響曲 ガイアシンフォニー 第三番』
『モハメド・アリ かけがえのない日々』 MUHAMMAD ALI "WHEN WE WERE KINFUS"
『ラブetc.』 Love etc.
『シーズ・ソー・ラヴリー』 She's So Lovely
『ブレイブ』 THE BRAVE
『ツイン・タウン』 TWIN TOWN
『ムトゥ 踊るマハラジャ』 MUTHU
『スウィート・ヒアアフター』 THE SWEET HEREAFTER
『イヤー・オブ・ザ・ホース』 YEAR OF THE HORSE
『ガンモ』 GUMMO

【1999年】
『ビッグ・リボウスキ』 The Big Lebowski
『ベルベット・ゴールドマイン』 VELVET goldmine
『愛の悪魔 フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』 LOVE IS THE DEVIL STUDY FOR A PORTRAIT OF FRANCIS BACON
『ワンダフルライフ』 AFTER LIFE
『グッバイ・モロッコ』 HIDEOUS KINKY
『ハイ・アート』 high art
『ムーンライト・ドライブ』 CLAY PIGEONS
『ラン・ローラ・ラン』 LOLA RENNT
『π』 Pi
『アナザー・デイ・イン・パラダイス』 ANOTHER DAY IN PARADISE
『ホール』 Hole

【2000年】
『ポーラX』 PolaX
『ハイロー・カントリー』 THE HI-LO COUNTRY
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』 BUENA VISTA SOCIAL CLUB
『ミフネ』 MIFUNES SIDSTE SANG
『フェリシアの旅』 FELICIA'S JOURNEY
『ヴァージン・スーサイズ』 the Virgin Suicides
『ボーイズ・ドント・クライ』 Boys Don't Cry
『オルフェ』 Orfeu
『黒いオルフェ』 ORFEU NEGRO
『カノン』 SEUL CONTRE TOUS
『ブラッド・シンプル/ザ・スリラー』 BLOOD SIMPLE the thriller

【2001年】
『キャラバン』 Himalaya-L'enfance D'un Chef
『ジュリアン』 Julien donkey-boy
『ファストフード・ファストウーマン』 Fast Food Fast Women
『キング・イズ・アライヴ』 The King is Alive
『ドッグ・ショウ!』 BEST in SHOW
『ベーゼ・モア』 BAISE-MOI
『DOWNTOWN81』 DOWNTOWN81
『ベンゴ』 Vengo
『ディスタンス』 DISTANCE
『王は踊る』 Le Roi Danse
『ELECTRIC DRAGON 80000V』 ELECTRIC DRAGON 80000V
『チアーズ!』 Bring It On
『ビヨンド・ザ・マット』 Beyond The Mat
『夜になるまえに』 Before Night Falls

【2002年】
『リリイ・シュシュのすべて』 All About Lily Chou-Chou
『アメリ』 Le FABULEUX DESTIN D'AMELIE POULAIN
『あのころ僕らは』 Don's Plum
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』 HEDWIG AND THE ANGRYINCH
『青い春』 Blue Spring
『ピンポン』 PING PONG
『DOGTOWN & Z-BOYS』 DOGTOWN & Z-BOYS
『まぼろし』 Sous le Sable
『水の女』 WOMAN OF WATER
『8人の女たち』 8 Femmes
『マシュー・バーニー』 Matthew Barney "The CREMASTER Film Cycle"

【2003年】
『僕のスウィング』 swing
『歓楽通り』 RUE DES PLAISIRS
『モーヴァン』 MORVERN CALLAR
『少女の髪どめ』 BARAN
『ギャングスター・ナンバー1』 GANGSTER NUMBER1
『ホテル・ハイビスカス』 HOTEL HIBISCUS
『エデンより彼方に』 Far From Heaven
『キャンディ』 CANDY
『アダプテーション』 Adaptation.
『インターステラ 5555』 INTERSTELLA 5555
『リード・マイ・リップス』 sur mes levres
『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』 KISARAZU CAT'S EYE
『ブラウン・バニー』 the brown bunny

【2004年】
『クリビアにおまかせ!』 Ja Zuster Nee Zuster
『ドッグヴィル』 DOGVILLE
『メイキング・オブ・ドッグヴィル~告白~』 DOGVILL CONFESSIONS
『モンスター』 Party Monster
『パーティ』
『こまねこ』
『ロスト・イン・トランスレーション』 Lost In Translation
『スイミング・プール』 SWIMMING POOL
『茶の味』 The Taste Of Tea
『ステップ・ イントゥ・ リキッド』 Step Into Liquid
『リヴ・フォーエヴァー』 LIVE FOREVER
『赤線』 AKA-SEN
『モンスター』 MONSTER
『恋の門』 KOI NO MON
『ジェリー』 Gerry
『雲のむこう、約束の場所』 The place promised in our early days
『スーパーサイズ・ミー』 SUPER SIZE ME
『ジャッカス・ザ・ムービー 日本特別版』 jackass the movie
『バッドサンタ』 BAD SANTA
『アマレット』 amoretto

【2005年】
『真夜中の弥次さん喜多さん』
『ライトニング・イン・ア・ボトル』 Lightning in a bottle
『レイ』 Ray
『アラキメンタリ』 ARAKIMENTARI
『緑玉紳士』 MONSIEUR GREENPEAS
『サラ、いつわりの祈り』 The Heart is Deceitful Above All Things
『おわらない物語-アビバの場合-』 Palindromes
『メゾン・ド・ヒミコ』 La Maison de HIMIKO
『ヒトラー ~最後の12日間~』 DOWNFALL
『カクレンボ』 KAKURENBO
『バス174』 BUS174
『埋もれ木』 BURIED FOREST
『スプラウト』 Sprout
『トゥルーへの手紙』 A LETTER TO TRUE
『テレビマンユニオン レトロスペクティブ Part1』
『プライマー』 Primer
『<絶対恐怖 NEW GENERATION THRILLER>』 Pray
『<絶対恐怖 NEW GENERATION THRILLER>』 Booth
『ロード・オブ・ドッグタウン』 LORDS OF DOGTOWN
『ミリオンズ』 MILLIONS
『フリークス デジタルリマスター版』 FREAKS
『TABOO』 タブー
『ダウン・イン・ザ・バレー』 Down in the Valley

【2006年
『RIZE』 ライズ
『HAZE』 ヘイズ オリジナル・ロング・バージョン
『「スキージャンプ・ペア」』 SKI JUMPING PAIRS -Road to TORINO-
『ラストデイズ』 Last Days
『マシュー・バニー「拘束のドローイング9」』 Matthew Barney Drawing Restraint 9
『たべるきしない』
『変態村』 CALVAIRE
『ブロークバック・マウンテン』 BROKEBACK MOUNTAIN
『ブロークン・フラワーズ』 BROKEN FLOWERS
『アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶』 Henri Cartier-Bresson Biographie d'un regard
『ハチミツとクローバー』 honey and clover
『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』 GET RICH or DIE TRYIN'
『≒天明屋尚』 near equal tenmyouya hisashi
『フーリガン』 HOOLIGANS
『ハード キャンディ』 Hard candy
『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』 KISARAZU CAT'S EYE
『ビースティ・ボーイズ 撮られっぱなし天国』 AWESOME; I FUCKIN'SHOT THAT!
『サムサッカー』 THUMBSUCKER
『ファントマ映画祭2006』 Trilogie de FANTOMAS
『悪魔とダニエル・ジョンストン』 THE DEVIL AND DANIEL JOHNSTON
『こま撮りえいが こまねこ』
『ダーウィンの悪夢』 Darwin's Nightmare
『エコール』 INNOCENCE
『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』 ENRON THE SMARTEST GUYS IN THE ROOM

【2007年】
『連作短編アニメーション秒速5センチメートル』 a chain of short stories about their distance
『NARA:奈良美智との旅の記録』
『星影のワルツ』
『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』 BROTHERS OF THE HEAD
『善き人のためのソナタ』 Das Leben der Anderen
『マジシャンズ』 Magicians
『恋愛睡眠のすすめ』 THE SCIENCE OF SLEEP
『神童』
『それでも生きる子供たちへ』 All the Invisible Children
『ダフト・パンク エレクトロマ』 DAFT PUNK'S ELECTROMA
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ FUNUKE』 Show Some Love, You Fools!
『100万ドルのホームランボール』 Up For Grabs
『クワイエットルームにようこそ』 Welcome to The Quiet Room
『ショートバス』 SHORTBUS
『ブラインドサイト~小さな登山者たち~』 blindsight
『マラノーチェ』 MALA NOCHE
『サッドヴァケイション』 sad vacation
『アフロサムライ』 AFRO SAMURAI
『バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び』 BALLETS RUSSES
『ヴォイス・オブ・ヘドウィグ』 voice of hedwig
『レディ・チャタレー』 Lady Chatterley
『ペルセポリス』 PERSEPOLIS
『ベティ・ペイジ』 The Notorious Bettie Page
『ニュー・アニメ・クリエイターズ』

【2008年】
『ミスター・ロンリー』 MISTER LONELY
『≒草間彌生~わたし大好き~』 NEAR EQUAL KUSAMA YAYOI
『潜水服は蝶の夢を見る』 Le Scaphandre et le Papillon
『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』 IN THE REALMS OF THE UNREAL : THE MYSTERY OF HENRY DARGER
『コントロール』 CONTROL
『アイム・ノット・ゼア』 I'M NOT THERE
『ファクトリー・ガール』 Factry Girl
『ぐるりのこと。』
『屋敷女』 A L' INTEIEUR
『リボルバー』 REVOLVER
『TOKYO!』
『ビューティフル・ルーザーズ』 BEAUTIFUL LOSERS
『闇の子供たち』
『闘茶 tea fight』 tea fight
『グーグーだって猫である』
『僕らのミライへ逆回転』 Be Kind Rewind
『マシュー・バーニー:拘束ナシ』 Matthew Barney: No Restraint
『七夜待』
『ファニーゲーム U.S.A.』 FUNNY GAMES US
『大丈夫であるように ─Cocco 終らない旅─』
『バンク・ジョブ』 THE BANK JOB
『その男ヴァン・ダム』 JCVD

【2009年】
『天使の眼、野獣の街』 EYE IN THE SKY
『ヘブンズ・ドア』 HEAVEN'S DOOR
『罪とか罰とか』
『デイヴィッド・リンチ・ワールド』 DAVID LYNCH WORLD
『REPO! レポ』 Repo! The Genetic Opera
『A SHADED VIEW ON FASHION FILM』
『メイプルソープとコレクター』 Black White + Gray A Portrait Of Sam Wagstaff + Robert Mapplethorpe
『ミルク』 MILK
『ウェディング・ベルを鳴らせ!』 Promets Moi
『USB』
『奥秀太郎 クラシックス』
『レスラー』 THE WRESTLER
『選挙』 CAMPAIGN
『蟹工船』
リバイバル上映『蟹工船』(1953年)
『悔恨のミュージック』 The Music of Regret
『バーダー・マインホフ 理想の果てに』 THE BAADER MEINHOF:COMPLEX
『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 ISAMU KATAYAMA=ARTISANAL LIFE
『ノーボーイズ、ノークライ』 No Boys, No Cry
『リミッツ・オブ・コントロール』 THE LIMITS OF CONTROL
『ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション』 RYAN LARKIN and his animations
『空気人形』 Air Doll
『母なる証明』 mother
『こま撮りえいが』
『オール・トゥモローズ・パーティーズ』 ALL TOMORROW'S PARTIES
『脳内ニューヨーク』 SYNECDOCHE, NEW YORK
『アフロサムライ:レザレクション』 AFRO SAMURAI RESURRECTION
『誰がため』 Flammen og Citronen
『牛の鈴音』 Old Partner

【2010年】
『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』 Millennium The Girl with the Dragon Tattoo
『フローズン・リバー』 FROZEN RIVER
『金瓶梅』
『ルド and クルシ』 Rudo y Cursi
『スイートリトルライズ』 SWEET LITTLE LIES
『息もできない』 Breathless
『名画座ライズ』 Presented by CINEMARISE × myシアター
『プレシャス』 Precious: based on the novel by Sapphire
『ホームレス・ワールドカップ』 KICKING IT
『鉄男 THE BULLET MAN』 TETSUO THE BULLET MAN
『ガールフレンド・エクスペリエンス』 GIRLFRIEND EXPERIENCE
『Bubble/バブル』 Bubble
『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』 L' affaire Farewell
『ミレニアム2 火と戯れる女』 Millennium2 The Girl Who Played with Fire
『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』 Millennium3 The Girl Who Kicked the Hornet's Nest
『スプリング・フィーバー』 SPRING FEVER
こま撮りえいが『こまねこのクリスマス』
『バスキアのすべて』 JEAN-MICHEL BASQUIAT:THE RADIANT CHILD

【2011年】
『ソウル・キッチン』 Soul Kitchen
『エグザイル・プライド』 EXILE PRIDE
『ブンミおじさんの森』 UNCLE BOONMEE WHO CAN RECALL HIS PAST LIVES
『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』 SCOTT PILGRIM VS. THE WORLD
『奇跡』
『英国王のスピーチ』 THE KING'S SPEECH
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』 EXIT THROUGH THE GIFT SHOP
『未来を生きる君たちへ』 IN A BETTER WORLD
『女と銃と荒野の麺屋』 A Woman, A Gun, and A Noodle Shop
『ウォーリアー&ウルフ 狼災記』 THE WARRIOR AND THE WOLF
『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』
『The Rolling Stones: Some Girls - Live in Texas'78』
『マイティ・ウクレレ』 MIGHTY UKE
『ドワーフのアニメ映画まつり』
『永遠の僕たち』 Restless

【2012年】
『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』
『ヒミズ』
『映画 桜蘭高校ホスト部』 Ouran High School Host Club
『ドラゴン・タトゥーの女』
『アーティスト』 The ARTIST
『容疑者、ホアキン・フェニックス』 I'M STILL HERE
『ブレーキ』 BRAKE
『私が、生きる肌』 THE SKIN I LIVE IN
『きっと ここが帰る場所』 THIS MUST BE THE PLACE
『ヘルタースケルター』
『ゴッド・ブレス・アメリカ』 GOD BLESS AMERICA
『トガニ 幼き瞳の告発』
『岩井俊二を予習せよ 【レトロスペクティブ上映】』
『ヴァンパイア』 VAMPIRE
『ザ・レイド』 THE RAID
『ボーンズ・ブリゲード』 BONES BRIGADE:AN AUTOBIOGRAPHY
『EXILE PRIDE 2』
『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』 Diana Vreeland: The Eye Has to Travel

【2013年
『ムーンライズ・キングダム』 Moonrise Kingdom
『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』 Om Shanti Om
『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 BEASTS OF THE SOUTHERN WILD
『君と歩く世界』 DE ROUILLE ET D'OS
『アンチヴァイラル』 Antiviral
『スプリング・ブレイカーズ』 SPRING BREAKERS
『アート・オブ・ラップ』 Something from Nothing: The Art of Rap
『スヌープ・ドッグ/ロード・トゥ・ライオン』 Reincarnated
『上京ものがたり』
『さよなら渓谷』
『TRASHED ~ゴミ地球の代償~』 Trashed
『ムード・インディゴ うたかたの日々』 L'écume des jours
『フィルス』 FILTH
『ゲバルト』
『風俗行ったら人生変わったwww』 FU-ZOKU CHANGES MY LIFE
『トレインスポッティング』 Trainspotting
『トランス』 TRANCE
『キューティー&ボクサー』 CUTIE AND THE BOXER

【2014年】
『メイジーの瞳』 WHAT MAISIE KNEW
『鑑定士と顔のない依頼人』 La migliore offerta(The Best Offer)
『トリック ─劇場版─ ラストステージ』
『5つ数えれば君の夢』
『ドン・ジョン』 DON JON
『土竜(モグラ)の唄 潜入捜査官 REIJI』
『パンドラの約束』 PANDORA'S PROMISE
『100,000年後の安全』 Into Eternity
『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え! No.1!!』 Student Of the Year
『ミスターGO!』 Mr.GO
『SHAME-シェイム-』 Shame
『それでも夜は明ける』 12 YEARS A SLAVE
『アデル、ブルーは熱い色』 LA VIE D'ADELE CHAPITRES 1 ET 2
『マドモアゼルC』 Mademoiselle C
『her/世界でひとつの彼女』 HER
『ぼくを探しに』 ATTILA MARCEL
『イヴ・サンローラン』 YVES SAINT LAURENT
『アバウト・タイム 』 ABOUT TIME
『嗤う分身』 THE DOUBLE
『アオハライド』

【2015年】
『ハルサーエイカー THE MOVIE エイカーズ』
『hide ALIVE THE MOVIE  hide Indian Summer Special 2015 Edition』
『グランド・ブダペスト・ホテル』 THE GRAND BUDAPEST HOTEL
『フォックスキャッチャー』 Foxcatcher
『地球交響曲 第八番』 GAIA SYMPHONY No.8
『マリア・カラス 伝説のオペラ座ライブ Maria Callas』 La grande nuit de l'opéra
『ワイルド・スタイル』 WILD STYLE
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』BIRDMAN or (The Unexpected Virtue of Ignorance)
『hide 50th anniversary FILM 「JUNK STORY」』
『しあわせはどこにある』 Hector & the Search for Happiness
『ピッチ・パーフェクト』 Pitch Perfect
『人生スイッチ』 WILD TALES
『ピース オブ ケイク』
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』 Elser
『黄金のアデーレ 名画の帰還』 WOMAN IN GOLD

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2345】千葉 伸夫 『原節子―伝説の女優』
「●わ 和田 誠」の インデックッスへ 「●か 川本 三郎」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●山村 聰 出演作品」の インデックッスへ(「ガン・ホー」)「●ビリー・ワイルダー監督作品」の インデックッスへ「●「ヴェネツィア国際映画祭 女優賞」受賞作」の インデックッスへ(シャーリー・マクレーン)「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「アパートの鍵貸します」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○存続中の映画館」の インデックッスへ(銀座文化2(シネスイッチ銀座2))

A級、B級問わず映画を語る楽しくて充実した内容の鼎談。瀬戸川氏への哀悼の意が感じられる。

今日も映画日和 単行本2.jpg今日も映画日和 単行本.jpg  今日も映画日和 文庫.jpg
今日も映画日和』['99年] 『今日も映画日和 (文春文庫)』['02年]

 心から映画を愛する3人が、SF、法廷劇、スポーツものなど、12のテーマに沿って語り尽くした楽しい鼎談集です。「カピタン」1997年7月号から1998年6月号にかけて連載された際にページの都合で割愛された部分も、きちんと再録したロング・バージョンであるとのことで、脚注・写真も充実しています(文庫版は脚注のみ、写真無し)。

 単行本の刊行は、鼎談者の一人・瀬戸川猛資(1948 -1999/享年50)がその年の3月に肝臓がんで亡くなっていて氏の存命中に刊行を間に合わせられなかったのですが、脚注では話中に出てきた映画の情報の他に、川本三郎氏、和田誠氏が自らの発言内容に独自に補足するばかりでなく、瀬戸川氏の発言に関係するコメントを瀬戸川氏の著書の中から引用するなどしており、両人のこの鼎談集への思い入れと、瀬戸川氏への哀悼の意が感じられます。

 和田氏が1936年生まれ、川本氏が1944年生まれ、瀬戸川氏が1948年生まれで、和田氏によれば、川本氏は昭和の庶民を描く日本映画や映画のファッションに強く、瀬戸川氏はミステリに強いというようにお互いの守備範囲があるようですが、一方で、映画を、A級とかB級とか関係なく、分け隔てなく観てきたという点で共通するとのことで、それは本書を読めばよく分かります。

 取り上げているテーマは、まず「映画館」から始まって、SF、夏休み(ボーイズライフ)、サラリー★激しい季節(1959)2.jpgマン、野球、クリスマス、酒場、スポーツ、法廷、良妻・悪妻、あの町この町、大スターと続きますが、それらをモチーフとした映画がぽんぽん出てきて、もう誰が話しているのかあまり区別がつかないくらいです。

おもいでの夏 dvd.bmp 3人が若い頃に観た映画の話がかなりあって、「夏休み(ボーイズライフ)」のところで、川本三郎氏が、「激しい季節」('59年/伊)のエレオノラ・ロッシ・ドラゴがオッパイを見せていたのにショックを受けたとかあったりして、当時のアメリカ映画とイタリア映画の倫理コードの違いもあるのだろうなあ。「おもいでの夏」('71年/米)を瀬戸川氏はともかく和田氏も観ておらず(新しすぎるのか?)、川本氏の講釈を受けるという展開は意外でした。
ガン・ホー [DVD]
ガンホーdvd.jpg 「サラリーマン」の章のところで、瀬戸川氏がアメリカでヒットしたのに日本では未公開だった「ガン・ホー」('86年/米)について取り上げると、川本氏が「日本の企業をバカにしたやつですね」と言ったのに対し、「全然バカにしていないですよ。あの通りなんだから」と応えているのが興味深いです。アメリカ地方都市の日本資本の自動車会社("アッサン自動車"。漢字で「圧惨自動車」と表記する)の工場を舞台に、日米自動車経済摩擦を描いた作品ですが、アメリカ側のキャストに後に「バットマン」に出演することになるマイケル・キートンや、演技達者のジョン・タトゥーロまで出ているけれど、ケディ・ワタナベ演じる日本側主人公も好人物に描かれていて、最後、日系の自動車会社側の重役の山村聡が出てきて貫禄で問題を解決し、日米の企業人のカルチャーギャップを解消しているから、軽いノリの映画ではありますが、日本人をバカにした映画とまでは言えないでしょう。日本の企業経営を皮肉ったシーンガン・ホー1986 03.pngガン・ホー1986 01.jpgがあり、これを日本人をバカにしていると観客がとれば日本では受けないとして配給会社が配給を見送ったようですが、ちょっと世に出るのが早すぎたでしょうか。監督は後に「アポロ13」('95年)や「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)を監督することになるロン・ハワードです(観た時の評価は星3つだが、グローバル人材がどうのこうの言われる今日において観直すと面白いかも―という観点から星半分プラス)。

黒い画集 あるサラリーマンの証言[1].jpg サラリーマン映画では、「失楽園」も川本氏しか観てなかったなあ。その川本氏が堀川弘通監督の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝、原作:松本清張)を傑作としていますが、当時の方が今よりも不倫に対する風当たりは強かったというのが川本氏の見方のようです。確かに小林桂樹、電話で不倫相手の原知佐子に向かって「はい、承りました」ってやっていたけれど。また、瀬戸川氏が、ワイルダーってアメリカ映画の中で異色なくらい会社を舞台にした作品が多いと指摘していますが(和田誠氏でなく瀬戸川氏が指摘しているのが興味深い)、「アパートの鍵貸します」は勿論のこと、「麗しのサブリナ」('54年/米)なども、確かに言われてみればそうだなあと。
「アパートの鍵貸します」パンフレット
「アパートの鍵貸します」パンフ.jpgアパートの鍵貸します2.jpg 「アパートの鍵貸します」('60年/米)は、アカデミー賞の作品賞、監督賞など5部門受賞した作品で、和田誠氏が『お楽しみはこれからだ』シリーズなどで何度も取り上げている作品でもあります。出世の足掛かりにと、上役の情事のためにせっせと自分のアパートを貸している会社員バドことC・C・バクスター(ジャック・レモン)でしたが、人事部長のJ・D・シェルドレイク(アパートの鍵貸します3.jpgフレッド・マクマレイ)が自分の部屋に連れ込んで来たのが、何と自身の意中の人であるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だったというよく知られたApâto no kagi kashimasu (1960).jpgストーリーで、宮仕えのサラリーマンの哀愁を描く中で、ラストの急転は実に爽やかでした(こうした急展開は「麗しのサブリナ」などでも見られるが、こちらの方が洒落ている)。テニス・ラケットでパスタをすくったり、マテーニのオリーブを1つずつ時計のように並べたり、小道具をさりげなく使ったシーンにも旨さを感じられ、そもそも役者陣で下手な人は誰も出ていないような演出の見事さ。その中でもやはり、ジャック・レモンの演技が光ったし、シャーリー・マクレーンも良かったです(シャーリー・マクレーンはこの作品でヴェネツィア国際映画祭女優賞を獲得)。
Apâto no kagi kashimasu (1960)

野良犬 野球場.jpg 「野球」のところで、黒澤明の「野良犬」('49年/東宝)で後楽園球場が出てきて巨人の川上や青田がちゃんとプレーしているのが良かったと和田氏が言った野良犬 ビール.bmpのに対し、あの試合は巨人対南海線で、日本シリーズではなく1リーグ制の時の試合だと川本氏が指摘しているのがマニアックです。志村喬が野球監督を演じた「男ありて」('55年/東宝)を取り上げると、川本氏が「素晴らしい映画」だとすかさずフォローするのが嬉しいです。

「野良犬」の話は、続く「酒場」のところでも出てきて、川本氏が、志村喬が部下の三船敏郎を自分の家に連小津安二郎 秋刀魚の味 トリスバー.jpgれてきて飲ませるビールは"配給"だったとか(そう言えば、今日はたまたまビールが手に入ったようなことを志村喬が言ってたっけ)、一方、小津安二郎はサントリーと提携してい秋刀魚の味 東野2.jpgて、「秋刀魚の味」('62年/松竹)では、恩師の東野英治郎を教え子の笠智衆や中村伸郎たちが招待するシーンで、わざわざサントリー・オールドを映して「おいしいね、小津安二郎 秋刀魚の味 サッポロビール.jpgこのウィスキーは」と言わせているとか、岸田今日子がやっている店がトリスバーだとか。なるほどで。それでいて、冒頭の川崎球場の照明塔のシーンでサッポロビールとあるから、川本氏が言うように両方から金もらっていたのか(因みに、サントリーがビール事業に再進出したのは1963(昭和38)年で、この映画が公開された翌年)。小津映画では酒好きの中村伸郎のために、飲むシーンは実際に酒を飲ませ、肴もウニだったりしたというからスゴイね。笠智衆は下戸だったけれど、東野英治郎は本当に酔っぱらっていたわけかあ。

女競輪王00.jpg A級、B級問わずと言うことで、黒澤や小津といった巨匠ばかりでなく、前田葉子主演の「女競輪王」('56年/新東宝)なんて作品なんかも取り上げているのが何だか嬉しいです。

 鼎談の持ち味が出ていただけに、もう1冊分ぐらいやって欲しかった企画であり、瀬戸川氏の逝去が惜しまれます。

                   
Estate Violenta.jpgヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg「激しい季節」●原題:ESTATE VIOLENTA●制作年:1959年●制作国:イタリア●監督:ヴァレリオ・ズルリーニ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジョ・プロスペリ●撮影:ティノ・サントーニ●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:93分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャクリーヌ・ササール/ラフ・マッティオーリ/フェデリカ・ランキ/リラ・ブリナン●日本公開:1960/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(84-11-17)(評価:★★★★)

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:111分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャースガン・ホー02.jpgガン・ホー01.jpg/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)     
証言2.bmp黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif証言0.bmp「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)
黒い画集 あるサラリーマンの証言 [DVD]
                    「アパートの鍵貸します [DVD]
アパートの鍵貸します8.jpgアパートの鍵貸しますdvd.jpgアパートの鍵貸します1.bmp 「アパートの鍵貸します」●原題:THE APARTMENT●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:ビリー・ワイルダー●脚本:ビリー・ワイルダー/I・A・Lアパートの鍵貸します4.jpg・ダイアモンド●撮影:ジョセフ・ラシェル●音楽:アドルフ・ドイッチ●時間:120分●出演:ジャック・レモン/シャーリー・マクレーン/フレッド・マクマレイ/レイ・ウォルストン/ジャック・クラスチェン/デイビット・ホワイト/ホープ・ホリデイ/デイビット・ルイス/ジョアン・ショウリイ/エディ・アダムス/ナオミ・スティーブンス●日本公開:1960/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:銀座文化2(86-06-13) (評価:★★★★)
「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpg銀座文化2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」
                       
野良犬 1949  ポスター0.jpg野良犬 1949 0.jpg「野良犬」●制作年:1949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/淡路恵子/三好栄子/千石規子/本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋実/山本礼三郎●公開:1949/10●配給:東宝(評価:★★★★)

秋刀魚の味 チラシ.jpg秋刀魚の味 加東.jpg「秋刀魚の味」●制作年:1962年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:113分●出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子/中村伸郎/東野英治郎/北竜二/杉村春子/加東大介/吉田輝雄/三宅邦子/高橋とよ/牧紀子/環三千世/岸田今日子/浅茅しのぶ/須賀不二男/菅原通済●公開:1962/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★☆)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「彼岸花」(小津安二郎)

【2002年文庫化[文春文庫]】

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映画化で再注目された面もあるが、個人的には原作も映画も(特にそこに込められた毒が)好き。

チョコレート工場の秘密 yanase.jpg チョコレート工場の秘密 tamura1.jpg チョコレート工場の秘密 tamura 2.jpg  チャーリーとチョコレート工場 dvd.jpg Roald Dahl.png
チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)』柳瀬 尚紀:訳 クェンティン・ブレイク(イラスト)/田村 隆一:訳 J.シンデルマン(イラスト)(1972/09 評論社)/『チョコレート工場の秘密 (児童図書館・文学の部屋)』 田村 隆一:訳 J.シンデルマン(イラスト)(評論社・改訂版)/「チャーリーとチョコレート工場 [DVD]

Charlie and the Chocolate Factory1.jpgCharlie and the Chocolate Factory2.jpgCharlie and the Chocolate Factory.jpg 外界から隔離された巨大なチョコレート工場がある大きな町の片隅で、貧乏な暮らしを余儀なくされている少年チャーリーとその一家。ある日、チョコレート工場の工場主ウィリー・ワンカ氏が、自社のチョコレートの中に5枚のゴールデンチケットを隠し、チケットを引き当てた5人の子供を工場見学に招待すると発表する―。

Roald Dahl(著), Quentin Blake(イラスト)

 1964年にロアルド・ダール(Roald Dahl、1916-1990/享年74)が発表した児童小説(原題:Charlie and the Chocolate Factory)で、個人的には、子どもの頃に心と響き合う読書案内.jpg何となく見聞きした覚えがある気もしますが、最近ではまずティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の映画化作品「チャーリーとチョコレート工場」('05年/米)を観て、作者名と併せて再認識したのは小川洋子氏の『心と響き合う読書案内』('09年/PHP新書)で紹介されていたことによるものでした(周囲にも大人になって原作を読んだ人が多くいるような気がするが、映画の影響か)。

 子どもの頃のチョコレートが目一杯食べられたらいいなあという願望を投影した作品とも言えますが、小川氏の場合は、社会科の工場見学にわくわくした記憶が甦ったようで、その気持ちも分かる気がします。一方で、この作品の中にはちょっと怖い場面もありますが、これも童話につき物の「毒」のようなものとみることができるのではないでしょうか(この「毒」がいいのだが)。

 チャーリー以外の4人の悪ガキのうち、デブの男の子がチョコレートの川に落ちて吸い上げられたパイプに詰まったり、女の子が巨大なブルーベリーに変身させられたりするため、発表時はこんなものは子どもに読み聞かせ出来ないとの批判もあったそうですが、作者は毎晩自分の子どもたちに読み聞かせしているとして批判をかわしたそうな。但し、最初の草稿では、面白がって悪ガキを15人も登場させたら、さすがに試しに読んでもらった甥に「このお話は不愉快で嫌だ」と言われて書き直したそうです(「チョコレート工場の秘密の秘密」―『まるごと一冊ロアルド・ダール』より)。

 また、この作品の邦訳は、柳瀬尚紀氏の訳の前に田村隆一氏の訳がありますが(柳瀬尚紀氏の訳は映画化に合わせたものか)、田村隆一氏の訳では主人公の名前がチャーリー・バケットとなっているのに対し、柳瀬尚紀氏の訳ではチャーリー・バケツとなっているなど、登場人物名に作者が込めた意味が分かるようになっています(例えば、肥満の子どもだったら「ブクブトリー」とか)。この訳し方にも賛否両論があるようですが(小川洋子氏は、柳瀬訳は「手がこんでいる」としている)、既にオーソドックスな翻訳(田村訳)があることを前提にすれば、こうした訳もあっていいのではないかという気もします。個人的にはどちらも好きですが。

まるごと一冊ロアルド・ダール.jpgクェンティン・ブレイク.jpg 但し、挿絵は、柳瀬訳のクウェンティン・ブレイク(Quentin Blake、1932年生まれ)のものが良く、大型本である『まるごと一冊ロアルド・ダール』('00年/評論社)によるとロアルド・ダールは何人かの画家と組んで仕事をしているようですが、クウェンティン・ブレイクとのコンビでの仕事が最も多く、また、クウェンティン・ブレイクの絵は、ちょっとシュールな話の内容よくマッチしたタッチであるように思います。
まるごと一冊 ロアルド・ダール (児童図書館・文学の部屋)
         
チャーリーとチョコレート工場o.jpg このお話は、メル・スチュアート監督(「夢のチョコレート工場」('71年/米)ジーン・ワイルダー主演)と、先に述べたティム・バートン監督(「チャーリーとチョコレート工場」('05年/米))によってそれぞれ映画化されていますが、ジョニー・デップがチョコレート工場の工場主ワンカ氏に扮した後者「チャーリーとチョコレート工場」は比較的記憶に新しいところで、ジョニー・デップの演技力というより、演CHARLIE & CHOCOLATE FACTORYI.jpg出に「バットマン」シリーズのティム・バートン色を感じましたが、ストーリー的には原作を忠実になぞっています。男の子がパイプに詰まったり、女の子が巨大なブルーベリーに変身してしまったりするのもCGを使って再現していますが(映画館で近くに座った男の子が「CGだ、CGだ」といちいち口にしていた)、庭園のモニュメントや芝生はパティシェによって作られた本物の菓子だったそうです。

チャーリーとチョコレート工場 set.jpgティム・バートン「チャーリーとチョコレート工場」('05年/米)

チャーリーとチョコレート工場1.jpg 但し、ジョニー・デップ扮するワンカ氏が、幼少時代に歯科医である厳格な父親に半ば虐待に近い躾を受けたことがトラウマになっている"アダルトチルドレン"として描かれているのは映画のオリジナルで、これに原作の続編である『ガラスのCHARLIE & CHOCOLATE FACTORYR.jpg大エレベーター』('05年/評論社)の話をミックスさせて、ラストはワンカ氏がチャーリーとその家族を通して新たな「家族」に回帰的に出会う(トラウマを克服する)というオチになっており、やや予定調和的である気もしますが、プロセスにおいて悪ガキが散々な目に遭い、一方のワンカ氏はケロッとしている(或いはふりをしている)という結構サディスティックな「毒」を孕んでいるため、こうしたオチにすることでバランスを保ったのではないでしょうか(映画はそこそこヒットし、映画館はロード終盤でも週末はほぼ満席。結構口コミで観に行った人が多かったのか)。結局は「家族愛」に搦め捕られてしまったワンカ氏といった感じで、個人的には、折角の「毒」を弱めてしまった印象が無くもありません。

チャーリーとチョコレート工場 uppa.jpg 「2001年宇宙の旅」「サタデー・ナイト・フィーバー」「鳥」「サイコ」「ベン・ハー」「水着の女王」「アフリカの女王」「アダムス・ファミリー」「スター・ウォーズ」といった映画作品へのオマージュも込められていて、後でまた観直してみるのも良し。音楽面でもクイーンやビートルズ、キッスへのオマージュが込められています。こうした味付けもさることながら、ビジュアル面で原作の(クウェンティン・ブレイクの絵の)イメージと一番違ったのは、チョコレート工場で働くウンパ・ルンパ人(柳瀬訳は「ウンパッパ・ルンパッパ人」)でしょうか。ワンカ氏がアフリカの何処かと思しきジャングルの地から連れてきた小人たちですが、色黒のオッサンになっていたなあ。演じたのはディープ・ロイというケニア生まれのインド人俳優で、インドで26代続くマハラジャの家系だそうですが、この映画で165人のウンパルンパ役をこなしたとのことです。個人的には原作も映画も(特にそこに込められた毒が)好きですが、映画は子どもも楽しんでいたのでは。

Roald Dahl2.jpg単独飛行2.jpg ロアルド・ダールは学校を卒業して、まず石油会社に入社して最初の勤務地が東アフリカで、第二次世界大戦では空軍パイロットとして活躍したとのことですが、乗Roald Dahl going solo.jpgった飛行機が燃料切れを起こして墜落、九死に一生を得たとのこと。その後、文筆家として活動するようになり、まずアフリカで聞いた話やパイロット時代の経験を生かして短編小説を書き始め、やがて児童文学の方へ進んだとのことです。初期の作品は、自伝的短編集『単独飛行』('00年/早川書房)に収められているほか、『まるごと一冊ロアルド・ダール』('00年シンバ.JPG/評論社)でもその一部を読むことが出来ますが、最初に原稿料を貰ったのが、アフリカでライオンに咥えられ連れ去れたけれども無事だった女性を実際に目撃した話の記事だったというからスゴイね(「シンバ」―『単独飛行』より)。

『まるごと一冊ロアルド・ダール』('00年/評論社)

サン=テグジュペリ2.png宮崎駿2.jpg 自らの飛行機が墜落して生還するまでのドキュメントも記していますが、『夜間飛行』のサン=テグジュペリ(1900-1944)と、同じ飛行機乗りであって遭難も経験している点で似ており(サン=テグジュペリは第二次世界大戦中に撃墜されて結局不帰の人となったが)、あの宮崎駿監督は、サン=テグジュペリ同様にロアルド・ダールをも敬愛していて、自らの作品においてオマージュをささげたり、共に文庫本の作品の解説を書いたりしています(サン=テグジュペリ『人間の土地』(新潮文庫)とロアルド・ダール『単独飛行』(ハヤカワ・ミステリ文庫))。

007は二度死ぬ チラシ.jpgチキ・チキ・バン・バン 01.jpg 因みに、ロアルド・ダールは「007シリーズ」のイアン・フレミング(1908-1964)と親交があり、映画007は二度死ぬ」('67年/英)と「チキ・チキ・バン・バン」('68年/英)の脚本も手掛けています(イアン・フレミングが「チキ・チキ・バン・バン」の原作者と知った時は今一つぴんとこなかったが、間に児童文学作家ロアルド・ダールが噛んでいたのか)。

チャーリーとチョコレート工場 dvd2.jpg「チャーリーとチョコレート工場」●原題:CHARLIE & CHOCOLATE FACTORY●制作年:2005年●制作国:アメリカ●監督:ティム・バートン●製作:ブラッド・グレイ/リチャード・D・ザナック●脚本:ジョン・オーガスト●撮アナソフィア・ロブ.jpg影:フィリップ・ルースロ●音楽:ダニー・エルフマン●原作:ロアルド・ダール●時間:115分●出演:ジョニー・デップ/フレディ・ハイモア/デヴィッド・ケリー/ヘレナ・ボナム=カーター/ノア・テイラ/ミッシー・パイル/ジェームズ・フォックス/アナソフィア・ロブ/アダム・ゴドリー/アダム・ゴドリー/ディープ・ロイ/クリストファー・リー/ジュリア・ウィンター/ジョーダン・フライ/フィリップ・ウィーグラッツ/リズ・スミス●日本公開:2005/09●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:丸の内TOEI2(05-10-23)(評価:★★★☆) アナソフィア・ロブ(AnnaSophia Robb) in 「ソウル・サーファー」('11年)/「チャーリーとチョコレート工場」('05年)
丸の内東映.jpg丸の内toei.jpg丸の内TOEI2(銀座3丁目・東映会館) 1960年丸の内東映、丸の内東映パラスオープン(1992年~丸の内シャンゼリゼ)→2004年10月~丸の内TOEI1・2

【1972年単行本[評論社(児童図書館・文学の部屋)/田村隆一:訳(『チョコレート工場の秘密』)]/2005年単行本[評論社(ロアルド・ダールコレクション)/柳瀬尚紀:訳(『チョコレート工場の秘密』)]】

丸の内TOEI1・2(2022年12月20日撮影)
IMG_20221220_130353.jpg

「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1452】 ジム・ジャームッシュ 「ストレンジャー・ザン・パラダイス
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観客参加型ムービー「ロッキー・ホラー・ショー」。同じくアナーキーな雰囲気を醸す「ベルリンブルース」。

ロッキー・ホラー・ショー チラシ.jpg THE ROCKY HORROR SHOW 1975.jpg   ベルリンブルース 英字.jpg Stadt der Verlorenen Seelen 0.jpg
ロッキー・ホラー・ショー [DVD]」ティム・カリー(左)/スーザン・サランドン(右手前) 「ベルリンブルース」STAD DER VERLORENEN SEELEN, BERLIN BLUES(CITY OF LOST SOULS)

THE ROCKY HORROR SHOW 1975.jpg  恩師スコット博士に婚約の報告に出かけた恋人同士のブラッド(バリー・ボストウィック)とジャネット(スーザン・サランドン)は、嵐の中で道に迷った末に山中で車がパンクしてしまい、電話を借りようと近くの古城を訪ねるが、そこでは奇怪なパーティーが開かれていた。城主フランクン・フルター(ティム・カリー)は変わった人物で、彼自身が作った人造人間、ブロンドで筋肉質の美男子「ロッキー」を披露する。そしてフルターとロッキーは、結婚するような演出でベッドのある部屋へと向かうが、ジャネットがロッキーの虜になってしまう。さらに、バイセクシュアルのフルターは、ジャネットとブラッドの両方と関係を持ってしまう―。

ロッキー・ホラー・ショー.jpg ジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)は、最初に名画座で観た時はロック・オペラってこんなのもあるのかという感じで(元々はロンドンで初演された劇場ミュージカル)、併映のロマン・ポランスキーの「ファントム・オブ・パラダイス」('74年/米)の方がミュージカル調の場面は少ないにも関わらずそれらしく感じられ、この作品はよく分らんという印象でした。

シネマライズd.JPG それが2度目に渋谷のシネマライズ渋谷(当時、地下1階にあったスクリーン)で観た時には、米国からシネセゾンが招聘したと思われるコスプレ軍団が来日していて(日本でもパフォーマンス参加者を募集した)、映画館の最前列で映画に合わせて踊ったり、紙吹雪や米を撒いたり、雨のシーンでは如雨露で水を撒いたりして観客も大ノリでした。その時初めて、ああ、これ、こうやってパーティ形式で観るものなんだと初めて知りました。本国でも公開当初は不評だったのですが、深夜興行されるようになって「観客体験型」ムービーとしてカルト化したようです。日本でもシネマライズ渋谷での上映期間中に自発的にパフォーマンスに参加する人がどんどん増えていったとのことですが、それ以前から、英字新聞にパブなどでの深夜興行の広告が出ていた記憶があります(今はAmazonでコスプレ衣裳が買える)。

ベルリンブルース 1.gif ベルリンにあるハンバベルリンブルース03.jpgーガー・ショップ「バーガー・クイーン」は、NYのハーレム出身ダンサーでトランスベイター(性転換者)のアンジー・スターダストが経営する店であり、類が友を呼んで世間のはみ出し者の米国人たちの溜まり場になっている。"バーガー・クイーン・ブルース"を歌うライラは、売春街から東ドイツへ渡って成功したパンク・スター、エロチックな空中ブランコ・ショウを見せるためにやって来たジュディスとパートナーのトロンは、アンジーの"スターダスト・ペンション"に棲むことになるが、隣部屋の売れない黒人ダンサーのゲイリーが魔術や妖術に凝っていて、自室に火をつけてしまう。ストリッパーのタラもトランスベイター(日本流に言えばニューハーフ)で、夜毎、違う男をベッドに連れ込んで同居人のロレッタを困らせる。「バーガー・クイーン」の店員ヨアキンも、ショービジネスのスターをめざす両性具有者(アンドロギュヌス)である―。

ベルリンブルース 0.jpg 「ベルリンブルース」('83年/西独)は、公開された時に「ロッキー・ホラー・ショー」の再来と言われた、西ドイツの異色監督ローザ・フォン・ブラウンハイムの1986年作品で、ドイツらしいアナーキーな雰囲気に満ちたカルト・ムービーですが、不快感とかは無く最後まで楽しめました(むしろ最後の大合唱は、マイノリティの人たちが誇り高く生き続けることを宣言しているようで感動させられた)。ブラウンハイム監督自身もホモセクシュアルであることを公言し、同性愛者や性的倒錯をテーマに撮りまくっていて、出演者たちも実在のベルリン在住アメリカ人グループで、実名で出ていて現実の仕事と同じ役どころを演じています(つまり皆、本人役で出ているということ)。

BAGDAD CAFE 2.jpg 後にパーシー・アドロン監督の「バグダッド・カフェ」('87年/西独)を観た時、ドイツから米国に旅行に来た女性が、様々な人々がいる多国籍風カフェの周辺に棲み込んでしまうという点で、この米国人がドイツのバーガー・ショップ付近に棲みつく「ベルリンブルース」と丁度真逆だなあと思ったことがありますが、「バグダッド・カフェ」も「バーガー・クイーン」ほどお下劣ではないですが、そこに暮らす人たちがショーみたいなことをやっていて、それが無国籍風と言うか、ややアナーキーな雰囲気も醸していました。
BAGDAD CAFE

 この作品「ベルリンブルース」が公開された時は、ライザ・ミネリの「キャバレー」('72年/米)のベルリン版とも言われましたが、もっとキッチュな感じのパンク系ミュージカル(仕立て)と言うか、雰囲気的にやはり「ロッキー・ホラー・ショー」に近いように思われます。

ロッキー・ホラー・ショー_1.jpgロッキー・ホラー・ショーs.jpgロッキー・ホラー・ショー (1976).jpg「ロッキー・ホラー・ショー」●原題:THE ROCKY HORROR SHOW●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:ジム・シャーマン●製作:作 マイケル・ホワイト●脚本:ジム・シャーマン/リチャード・オブライエン●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:リチャード・ハートレイ●時間:99分●出演:ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/パトリシア・クイン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ●日本公開:1978/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)●2回目:シネマライズ渋谷(地下1階)(88-07-17)(評価:★★★?)●併映(1回目):「ファントム・オブ・パラダイス」(ブライアン・デ・パルマ)
『ロッキー・ホラー・ショー』 1988リバイバル.jpg

シネマライズ2.jpgシネマライズ.bmpシナマライズ 地図.jpgシネマライズ渋谷1986年6月、渋谷 スペイン坂上「ライズビル」地下1階に1スクリーン(220席)でオープン。1996年、2階の飲食店となっていた場所に2スクリーン目を増設。「シネマライズBF館」「シネマライズシアター1(後のシネマライズ(2シネマライズ BF.jpgF))(303席)」になる。2004年、3スクリーン目、デジタル上映劇場「ライズX(38席)」を地下のバースペースに増設。地下1階スクリーン「(元)シネマライズ渋谷」2010年6月20日閉館、跡地はライブハウス「WWW」に(地下2階「ライズⅩ」2010年6月18日閉館、地上2階「シネマライズ」2016年1月7日閉館

シネマライズBF館(前・シネマライズ渋谷)
        
「ベルリンブルース」●原題:STAD DER VERLORENEN SEELEN, BERLIN BLUES(CITY OF LOST SOULS)●制ベルリンブルース vhs.jpgベルリンブルース 輸入.jpg作年:1983年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ローザ・フォン・ブラウンハイム●撮影:シュテファン・ケスター●音楽:ホルガー・ミュンツァー/アレクサンダー・クロート●美術:インゲ・スティボルスキー●時間:91分●出演:レアンジー・スターダスト/ジェイン・カウンティ/ジュディス・フレックス/ロン・フォン・ハリウッド●日本公開:1986/10●配給:ユーロスぺース●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(86-12-06)(評価:★★★★)ベルリン・ブルース [VHS]

《読書MEMO》
絶対に見たほうがいいカルト映画30選 コタク・ジャパン
1.『ロッキー・ホラー・ショー』
2.『ドニー・ダーコ』
3.『イレイザーヘッド』
4.『ゴーストハンターズ』
5.『ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたり』
6.『地球に落ちてきた男』
7.『裸のランチ』
8.『プライマー』
9.『ゼイリブ』
10.『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』
11.『レポマン』
12.『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』
13.『チェリー2000』
14.『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』
15.『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』
16.『死霊のはらわたll』
17.『バンデットQ』
18.『バカルー・バンザイの8次元ギャラクシー 』
19.『スリザー』
20.『ダーク・スター』
21.『プラン9・フロム・アウタースペース』
22.『ハンガー』
23.『デス・レース2000年』
24.『Tales from the Hood』
25.『シャークトパス』
26.『Born in Flames』
27.『ロストボーイ』
28.『ウォリアーズ』
29.『トレマーズ』
30.『未来惑星ザルドス』

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冬の寒い日は、自宅でサーフィン映画を...か。意外と乙かも。

ビッグ・ウェンズデー dvd.jpg BIG WENSDAY 1978.jpg カリフォルニア・ドリーミング dvd.jpg 
ビッグ ウェンズデー [DVD]」/「Big Wednesday」(CD, Soundtrack, Import)/「魅惑の女優シリーズ カリフォルニア・ドリーミング [DVD]」/AMERICA - California Dreaming - Music From The Motion Picture Soundtrack

ビッグ・ウェンズデー 1.jpg 60年代初め、カリフォルニアの海辺の町で、マット(ジャン=マイケル・ヴィンセント)、ジャック(ウィリアム・カット)、リロイ(ゲイリー・ビジー)を中心とする若者たちで作るサーフィン・グループは、水曜日にやって来るという世界最大の波"ビッグ・ウェンズデー"に挑戦することを夢見ていた。そんな頃、彼らにもベトナム戦争の徴兵令状がきた。グループの大半が懲兵を免れようとしている中で、優等生だったジャックは懲兵検査を受けて、ベトナムへと出征していった―。

Big Wednesday (1978 Warner Bros).jpg サーファーの一部には、夏の天気がいい日は海辺でサーフィンに勤しみ、冬の寒い日や海が時化たりした日などには、自宅でサーフィン映画を観たりする習慣があるそうな(サーファーでなくとも、意外と乙かも)。「ビッグ・ウェンズデー」('78年/米)は、そうした際の定番映画らしく、ジョン・ミリアス監督が35歳の頃に「自分たちの青春時代を思い出して作った」そうですが、青春の悩み、暴走、反発、落胆、挫折、恋などを盛り込んだ青春映画であるとともに、ベトナム戦争への若者の複雑な思いも反映されています。

ビッグ・ウェンズデー 2.jpg ジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」('73年)では、ラストシーン(エピローグ)で、青春時代の仲間たちの一人がベトナムで戦死(行方不明)したことを伝えていましたが、この映画では、ベトナムへ行った仲間の戦死を悼む場面はあるものの、ジャックは生きて戻ってきます。そのジャックを2人が迎えるシーン、更に3人で颯爽と"ビッグ・ウェンズデー"へ向かうシーンがいいです。「生きていて良かった」という実感があり、アメリカ中心的と言えばそう言えなくもないですが、そうした見方に対しては、アメリカ側からすれば「戦争をやっていない国の人間が何を言うか」という感じになるのかも(因みに、ジョン・ミリアスはアーノルド・シュワルツェネッガー主演の「コナン・ザ・グレート」('82年)の監督でもあり、共和党支持者であると共に反共主義者としても知られている)。

ジャン=マイケル・ヴィンセント.jpgジャン=マイケル・ヴィンセント big wednesday.jpg この映画を観て、ジャン=ウィリアム・カット2.jpgマイケル・ヴィンセント(Jan-Michael Vincent)は、結構スター性があるように思ったけれど、意外と伸びなかったなあ(「アメリカン・グラフィティ」のポール・ル・マットなどもそうだったが)。ジャン=マイケル・ヴィンセントは菜食主義者だそうゲイリー・ビジー.jpgで、自分の私生活を大切にするタイプだったのかと思ったら、アルコール依存症とドラッグの問題で映画界から消えていきました(ゲイリー・ビジーの方がまだ、アクション映画に悪役としてよく出演している)。

ウイリアムカット.jpgウィリアム・カット ビッグ・ウェンズデイ4.jpg 徴兵に応じたジャックを演じたウィリアム・カット(William Katt)は、80年代に入って「新・弁護士ペリー・メイスン」で腕利き調査員ポール・ドレイク・ジュニア役でその姿を見られたのが嬉しかったです。この役どころは約30年前の旧シリーズ(日本ではフジテレビが1959年3月の開局時に放映)での調査員の息子役。当時の調査員ポール・ドレイク役のウィリアム・ホッパーが既に亡くなっていたためで、一方、レイモンド・バーと秘書デラ役のバーバラ・ヘイルは30年ぶりのシリーズ共演でした。


カリフォルニア・ドリーミング_2.jpgカリフォルニア・ドリーミング 映画パンフ.jpg ハイスクールを卒業し、大学入学までの夏期休暇を憧れのカリフォルニアで過ごすためシカゴからやってきたTT(デニス・クリストファー)は、初老のデューク(シーモア・カッセル)の家に泊まることになる。そこの娘コーキー(グリニス・オコナー)は最初はTTのことを田舎者として疎んじていたが―。
『カリフォルニア・ドリーミング』映画パンフレット
 「カリフォルニア・ドリーミング」('79年/米)は、サーフィン映画とまで言えるかどうか分かりませんが、「ビッグ・ウェンズデー」と同じ頃の青春映画で、シカゴから憧れの地カリフォルニアにやってきた少年が体験するビーチ・ライフを描いた作品でした。

カリフォルニア・ドリーミング 2_2.jpg 結局、"ひと夏の体験"物語という感じで、デュークが昔サーフィンの世界チャンピオンだったのは、実は法螺話では無かったというサイドストーリーがありますが、そもそも主人公は女の子をゲットしたくてカリフォルニアに来ただけだったのか、そこのところがよく分からない。様々な男女の恋愛模様を見せつつも、やや薄っぺらい印象も

カリフォルニア・ドリーミング 1.jpg ママス&パパスのデビュー・シングルにして最大のヒット曲となった「夢のカリフォルニア」(映画内ではアメリカがカバー)が耳に心地よいですが、このオールディーズ・ナンバーだけが強く耳に残ったかな。あとはグリニス・オコナー(Glynnis O'Connor/右)の当時の豊胸か(最近では「LAW & ORDER ロー&オーダー」に出ている)。後に「チャーリーズ・エンジェル」のレギュラーメンバーとなり(シーズン5/'80年--'81年)、ボンド・ガールにもなるタニア・ロバーツ カリフォルニア・ドリーミング.jpgタニア・ロバーツ(Tanya Roberts/左)も出ていました(「007 美しき獲物たち」('85年/英)に出る前に、「ミラクルマスター 七つの大冒険」('82年/米)や「シーナ」('84年/米)にも出ていた)。この「カリフォルニア・ドリーミング」は、個人的評価は別にして、それなりに固定ファンがいるはずなのに、永らくDVD化されず今年['13年]になってやっとリリースされたのは、カバー曲の著作権関係が複雑なためなのでしょうか?(VHS及びこれまでのCS放映版では、「CALIFORNIA DREAMIN」の歌が無くて別のインストルメンタルの曲になっている)、それともB級青春映画として近年になって再評価されたためなのか?
グリニス・オコンナー/デニス・クリストファー
CALIFORNIA DREAMING2.jpgCALIFORNIA DREAMING1.jpg 「カリフォルニア・ドリーミング」の主人公の、見ている方が気恥ずかしくなるような青臭さと対比すると、「ビッグ・ウェンズデー」の男同士の強固な友情からは(精神的な)ホモセクシュアルの雰囲気すら感じられるというのは穿った見方でしょうか。


ビッグ・ウェンズデー  ps.jpgBig Wednesday (1978).jpgBIG WEDNESDAY .jpg「ビッグ・ウェンズデー」●原題:BIG WENSDAY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ミリアス●製作:バズ・フェイトシャンズ/アレクサンドラ・ローズ●脚本:ジョン・ミリアス/デニス・アーバーグ●撮影:ブルース・サーティース●音楽:ベイBIG WEDNESDAY.jpgジル・ポールドゥリス●時間:119分●出演:ジャン=マイケル・ヴィンセント/ウィリアム・カットBIG WEDNESDAY   .jpg/ゲイリー・ビジー/リー・パーセル/サム・メルヴィル/パティ・ダーバンヴィル/ダレル・フェティ/ジェフ・パークス/レブ・ブラウン/デニス・アーバーグ/リック・ダノ/バーバラ・ヘイル/ジョー・スピネル/ロバート・イングランド●日本公開:1979/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82吉祥寺パーキングプラザ.jpg-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「カッコーの巣の上で」(ミロシュ・フォアマン)           
吉祥寺ピカデリー.jpgテアトル吉祥寺.jpgテアトル吉祥寺 (1999年〜吉祥寺ピカデリー) 1979年、吉祥寺パーキングプラザ(右写真・現)地下1階にオープン。2000(平成12)年5月22日閉館
        

PERRY MASON katt.jpgペリー・メイスン ウィリアム・カット.jpg
ペリー・メイスン.jpg
「新・弁護士ペリー・メイスン」(原作:E・S・ガードナー)PERRY MASON (CBS 1985~1988) ○日本での放映チャネル:NHK‐BS2

出演:レイモンド・バー/バーバラ・ヘイル/ウィリアム・カット

         
        
      
CALIFORNIA  DREAMING 1979.jpg「カリフォルニア・ドリーミング」●原題:CALIFORNIA DREAMING●制作年:1979年●制作国:●アメリカ●監督:ジョン・ハンコック●製作:クリス・ウィテカリフォルニア・ドリーミング グリニス・オコナー.jpgィカー●脚本:ネッド・ウィン●撮影:ボビー・バーン●音楽:フレッド・カーリン(主題歌「カリフォルニア・ドリーミング」(アメリカ) )●時間:93分●出演:デニス・クリストファーグリニス・オコナー/シーモア・カッセル/ドロシー・トリスタンパール座2.jpgパール座1.jpgジョン・カルヴィン/トッド・サスマン/アリス・プレイトン/ネッド・ウィン/ジェームズ・ヴァン・パタン/ヴィヴィアン・ボネル/ジェームズ・ステイリー/ ボニー・バートレット●日本公開:1979/06●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場カリフォルニア・ドリーミング タニア・ロバーツ.jpg/ネッド・ウィーン/ジョン・カルビン/タニア・ロバーツTanya Roberts.jpgパール座(83-02-27)(評価:★★☆)●併映:「さらば青春の光」(フランク・ロダム)カリフォルニア・ドリーミング タニア・ロバーツ1.jpg
      
          
 
 
      
 
             
      
タニア・ロバーツ2.jpgタニア・ロバーツ27.jpg
タニア・ロバーツ(「007 美しき獲物たち」('85年/英))
    
    
  
1976 年のチャーリーズエンジェル.jpgチャーリーズ・エンジェル シーズン5.jpg「地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル」 CHARLIE'S ANGELS (ABC 1976~1981) ○日本での放映チャネル:日本テレビ(1977~1982)
「チャーリーズ・エンジェル シーズン5(1980-81)」ジャクリーン・スミス/タニア・ロバーツ/シェリル・ラッド
「チャーリーズ・エンジェル シーズン1(1976-77)」ケイト・ジャクソン/ファラ・フォーセット・メジャーズ/ジャクリーン・スミス

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ノン・シリーズものの原作を改変して原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていない。

007 死ぬのは奴らだps.jpgミス・マープル3 無実はさいなむ dvd.jpg ミス・マープル3 無実はさいなむ 4人兄弟.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3」「007 死ぬのは奴らだ アルティメット・エディション [DVD]

ミス・マープル3 無実はさいなむ グェンダ.jpg ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、昔マープル家で奉公していたグェンダ(ジュリエット・スティーヴンソンが、自分が秘書を勤める歴史家リオ・アーガイル(デニス・ローソン)と婚約したため、その結婚祝に招待される。リオの妻レイミス・マープル3 無実はさいなむ シーモア.jpgチェル(ジェーン・シーモアは2年前に書斎で殺害されていて、犯人とされた養子のジャッコ(バーン・ゴーマン)は日頃から問題児で、その日もグェンダに金の無心をしに来てと口論になり、彼女に掴 ミス・マープル3 無実はさいなむ キャルガリ.jpgみかかっていた。彼は殺害時刻には他人の車に乗っていたとアリバイを主張するも、証人が現れず死刑になっていた。ケンブリッジ大学の動物学者アーサー・キャルガリ(ジュリアン・リンド・タットは、南極探検で英国を離れていて帰国してから古い新聞記事で、自分が処刑されたジャッコの証言にある人物であることに思い当り、ジャッコの無実を告げにアーガイルの邸サニー・ポイントに駆けつける―。

ミス・マープル3 無実はさいなむ キャルガリの訪問.jpg 邸にはリオ家族である、長女メアリ(リサ・スタンスフィールド)、長男ミッキー(ブライアン・ディック)、次女ヘスター(ステファニー・レオニダス)、ジャッコの双生児ボビー(トム・ライリー)、末女で混血児のティナ(グーグー・ムバサ・ロー)がいて、ジャッコと同様、皆レイチミス・マープル3 無実はさいなむ フィリップ.jpgェルの養子だった。リオ、グェンダ、養子の兄弟姉妹の外には、メアリの夫で車椅子生活のフィリップ・デュラント(リチャード・アーミテージと、家政婦のカーステン・リカーステン・リンツトロム(<font color=deeppink>アリソン・ステッドマン</font>).jpgンツトロム(アリソン・ステッドマンがいた。キャルガリがもたらしたジャッコ冤罪の知らせは皆を喜ばせることはなく、むしろ家族の間で疑心暗鬼が深まる。ミス・マープルが家政婦カーステンから家族の事情を聞くと、レイチェルの葬儀の日に、ジャッコが密かに結婚していた妻モーリーン(アンドリア・ロウ)が家を訪ねて来たと言う。翌日、ヒュイッシ警部補(リース・シェアスミス)が到着して捜査を始めると、家族間の疑心暗鬼は更に深まり、カーステンは、リオの妻の座を狙った秘書のグェンダが犯人だと糾弾する。そのグェンダが、何者かによってレター・オープナーで刺殺される―。

無実はさいなむ ハヤカワ・ミステリ文庫 .bmpMiss Marple & Lisa Stansfield as Mary Durrant.jpg 2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年から翌年にかけて作られたシーズン3全4話の内の第2話(通算第10話)であり、日本ではNHK‐BS2で2010年3月24日に初放映。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1958年に発表された作品で(原題:Ordeal by Innocence)、で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものでで、クリスティはマイベスト10に選んでいますが、巷では評価が割れている作品です。

Miss Marple & Lisa Stansfield as Mary Durrant

 原作はミス・マープルものではないため、グェンダがミス・マープルの元奉公人という話は当然のことながら無く、ジャッコは刑死ではなく無期懲役で獄中で病死しており、キャルガリの専門は動物学ではなく地理学、彼を除く養子の兄弟姉妹は、長女メアリ・デュラント、長男ミッキー、次女ヘスター、末娘ティナの4人で、ジャッコの双子の兄弟ボビーというのは登場しません(グェンダがミス・マープルの元奉公人ということで視聴者目線では容疑者から外れるため、容疑者の人数合わせで一人足した?)。

ヒュイッシ警部補.jpgMiss Marple and Gwenda Vaughan.jpg 前半部分は、ほぼそれ以外は原作通りに進行しますが、原作では、キャルガリが真相究明に燃えるほか、フィリップも真実の解明に乗り出しますが、この映像化作品では、キャルガリの推理は冴えず、フィリップは推理することすらしないし、原作のヒュイッシ警視は、原作より年齢が下の"警部補"になっていて、あまり冴えないメガネ男に変えられている―要するに、オイシイ箇所は全てミス・マープルが持って行ってしまった感じです。
Miss Marple and Juliet Stevenson as Gwenda Vaughan

 後半部分になると急に改変が目立つようになり、グェンダは刺殺されるわ、ボビーは溺死するわで、これみんな原作には無い話です(原作では、真相に近づき過ぎたフィリップが殺害され、事件当日の不審な出来事を思い出したティナも刺される)。特に、グェンダを殺してしまったのは、ちょっとねえという感じ。「ポケットにライ麦を」でも、ミス・マープルの元奉公人が殺害されますが、あれは原作通りだからいいとして、わざわざ改変してまで殺さなければならなかったのかなあ。容疑を掛けられたまま殺されたグェンダが気の毒過ぎました。

キャルガリ.jpg 原作では、事件解決後に、キャルガリとヘスターとの間に恋が芽生えるのですが、これも無し(それ以前に、ヘスターの恋人で医師のドナルドというのが登場するが、これも出てこない)。まあ、ラストのヘスターの新たな恋の目覚めは、原作においても唐突感があるため端折ってもいいかなという気はするし、さすがに真犯人までは変えていなかったけれど、様々な改変によって原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていないため、自分としてはイマイチでした。
Julian Rhind-Tutt as Dr Arthur Calgary

Jane Seymour
Jane Seymour 007.pngJane Seymour 3.jpg  グェンダ役のジェーン・シーモアは、"007シリーズ"第8作、ガイ・ハミルトン監督、ロジャー・ムーア主演「007死ぬのは奴らだ」('73年/英)のボンドガールであり、自分が初めて映画館で見た007作品であるため懐かしかったです。この作品も、"007シリーズ"の中で評価が割れている作品ですが、個人的にはそう嫌いではないです(懐かしさもあって)。

ジョアンナ・ラムレイ .jpgティモシー・ダルトン.jpg この"ミス・マープル"シリーズの第8話「シタフォードの謎」('06年)では、ロジャー・ムーアの次にボンド役を演じたティモシー・ダルトンが登場し、また、第1話「書斎の死体」('04年)第20話「鏡は横にひび割れて」('10年)には、「女王陛下の007」('69年/英)のボンドガール、ジョアンナ・ラムレイが登場しています。

  
ミス・マープル3 無実はさいなむ title.pngミス・マープル3 無実はさいなむ 食卓.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第10話)/無実はさいなむ」●原題:ORDEAL BY INNOCENCE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:モイラ・アームストロング●脚本:スチュアート・ハーコート●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ジュリエット・スティーヴンソン/デニス・ローソン/アリソン・ステッドマン/リチャード・アーミテージ/ステファニー・レオニダス/リサ・スタンスフィールド/バーン・ゴーマン/ジェーン・シーモア/トム・ライリー/リース・シェアスミス/ジュリアン・リンド・タット/ブライアン・ディック/グーグー・ムバサ・ロー/マイケル・フィースト/ピッパ・ヘイウッド/カミーユ・コドゥリ●日本放送:2010/03/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)

ジェーン・シーモアロジャー・ムーア「007 死ぬのは奴らだ」0.jpg
クレオパトラ=ジェーン・シーモア.jpgJane Seymour2.jpg「007 死ぬのは奴らだ」●原題:LIVE AND LET DIE●制007 死ぬのは奴らだ dvd.jpg作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ハリー・サルツマン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:テッド・ムーア●音楽:ジョージ・マーティン● 原作:イアン・フレミング●時間:121分●出演:ロジャー・ムーア/ヤフェット・コットー/ジェーン・シーモア/クリフトン・ジェームズ/ジュリアス・W・ハリス/ジェフリー・ホールダー/デイヴィッド・ヘディソン/グロリア・ヘンドリー/バーナード・リー/ロイス・マクスウェル●日本公開:1973/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆) 
死ぬのは奴らだ (アルティメット・エディション) [DVD]

「●TV-M (バーナビー警部)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1988】 「バーナビー警部(第4話)/誠実すぎた殺人
「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「アマデウス」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●音楽・ミュージシャン」の インデックッスへ

プロット的には物足りない。関係者ほぼ全員が劇団員であるのが最大のミソか。

バーナビー警部/劇的なる死 dvd 輸入盤.jpgバーナビー警部/劇的なる死 dvd.jpg 劇的なる死00.jpg  アマデウス dvd.jpg
バーナビー警部~劇的なる死~ [DVD]」 Death of a Hollow Man' 「アマデウス [DVD]
ハロルド・ウィンスタンリー(Bernard Hepton)/エスリン(Nicholas Le Prevost)
ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン).gifエスリン(ニコラス・レプレボ).gif ミッドサマー地区で中年女性アグネス・グレイ(デニーズ・アレクサンダー)が何者かに殺された。アグネスは不治の病に冒されており、「とてつもない過ちを犯したのでそれを正したい」と漏らし、意外なほどの大金を動物保護団体に寄付していた。一方、ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン)が舞台監督を務めるコーストン・アマチュア劇団による舞台劇「アマデウス」の初日が近づいていたが、バーナビー(ジョン・ネトルズ)の妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)も端役で出演する、サリエリ役で主演する会計士のエスリン(ニコラス・ラ・ブレボスト)はアグネスのいとこで唯一の親族だった。
バーナビー警部/劇的なる死01.jpgキティ(Debra Stephenson)/ローザ(Sarah Badel)
キティ(デブラ・スティーブンソン).gifローザ(サラ・バデル).gif エスリンの妻キティ(デブラ・スティーブンソン)は(舞台ではモーツァルトの恋人役)は不倫をしており、そのことを同じ劇団員のエスリンの元妻のローザ(サラ・バデル)がエスリンに示唆したことで、エスリンはローザに離婚話を切り出す。人々の愛憎が錯綜する中で初日の幕は上がるが、クライマックスでエスリンは、何者かによってテープが剥がされた剃刀で喉を切ってしまい死亡。バーナビーの調べで劇団員兼大道具係デービッド(イアン・フィッツギボン)の父で大道具係のコリン(ジェフリー・ハッチングス)が「自分が殺した」と自供するが、それは息子を庇ってのことで息子も無実が明らかになり、となると、アグネスとエスリンを殺した真犯人は別にいることになる―。

うつろな男の死.jpg この1998年3月本国イギリスでの放映の第3話「劇的なる死」(Death of a Hollow Man)は、日本初放映は2002年5月で、前後編(第7話・第8話)に分けて放映され、当時のタイトルは「開演ベルは死の予告」。キャロライン・グレアムによる原作は、1989年に発表されたバーナビー警部シリーズ第2作『うつろな男の死』(Death of a Hollow Man)であり、1993年に創元推理文庫で翻訳が刊行されています。
うつろな男の死 (創元推理文庫)

バーナビー警部/劇的なる死 03.jpg アマチュア劇団を舞台にした演出家と俳優の確執をモチーフにした作品ですが、ちゃんと原作者の著作がある作品で、しかも、今回は珍しく原作者本人が脚本を担当しているにしては、第1話「謎のアナベラ」、第2話「血ぬられた秀作」と比べると、人間関係の入り組み具合もさほどではなく、プロットも単純で、分かりやすけれど物足りないと言うか、ミステリとしてはややランク落ちの印象を受けます。

 ミッドサマー地区は、アマチュア作家のサークルとかアマチュア劇団とか、アマチュアの文化活動が盛んだなあと。しかし、芝居の小道具で、テープを張るにしろ本物の剃刀を使うかなあ。

デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー).gif プロットは物足りないけれども、今回も怪しい人物、奇妙な人々には事欠きません。エスリンの妻の不倫相手は、ゲイの書店主アベリーの本屋で働いていた"ゲイ友"の書店員ティムだったんだなあ(舞台では2人は舞台美術係と照明係)。ハロルドのお手伝い(舞台では進行係兼小道具係)デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー)が、ハロルドが劇の評判を聞くよう彼女に頼んだのに、彼女は事件のことを記者たちに話したくて仕方がない様子がおかしいです(でも、これが"マトモな感覚"なんだろなあ)。

バーナビー警部/劇的なる死02.jpg トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が初めて警部の娘カリー(ローラ・ハワード)に出会って一目惚れするのはこの回だったんだなあと。彼女は、役者の卵ニコラス(エド・ウォーターズ)の方と仲良くなってしまいましたが、このプロの役者を目指している青年も書店員。バーナビーも、舞台美術の手伝いで書割の絵をかいているし、今回は、関係者ほぼ全員が劇団員であるか何らかの形で舞台に関係しているという中で事件が起きるというのが、最大のミソと言えるのでしょう。

劇的なる死 劇場.jpg しかし、「アマデウス」とはねえ。田舎のアマチュア劇団にしては随分難しそうな演目を選んだものだと思いますが、わざとそうした設定にしたのでしょう。原作は、サリエリが喉を搔き切る場面で"血糊"を見せるかどうかを演出家らが議論している場面から始まり、シェークスピア劇をはじめ演劇に関する薀蓄がてんこ盛りです。

The Summer house used for an illicit affair in 'Death of a Stranger'

 「アマデウス」(Amadeus)は、チェコスロヴァキア出身のミロス・フォアマン監督の映画「アマデウス」('84年/米)が知られていますが、元々は英国の劇作家ピーター・シェーファー原作の戯曲で、初演もロンドン(1979年)。それが翌年に米国に渡り、ブロードウェイで上演され、1981年には戯曲部門でトニー賞を受賞したもので、日本でも舞台化されましたが、個人的には映画化作品しか観ていません(旧「新宿ピカデリー」で観たが、ここ、いつの間にか、館名は変えないまま「二番舘」から「ロード館」になっていた)。

アマデウス 1.jpg 映画の方は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門を獲得した作品で、双葉十三郎(1910-2009/享年99)の『ミュージカル洋画ぼくの500本』('07年/文春新書)をみると、年代別に見て85点(著者流に表せば☆☆☆☆★)以上の評点を付けている最後の作品が「アマデウス」で、それ以降はありません。

アマデウス モーツアルト.jpgアマデウス サリエリ.jpg 個人的にも大作であるとは思いましたが、モーツァルト像がややデフォルメされ過ぎている印象もありました。アカデミー賞の「主演男優賞」には、"ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト"を演じたトム・ハルスと、"サリエリ"を演じたF・マーリー・エイブラハムの両方がノミネートされましたが、F・マーリー・エイブラハムが受賞したのは順当と言えるかと思います(F・マーリー・エイブラハムはゴールデングローブ賞「主演男優賞」(ドラマ部門)、ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」も受賞)。モーツァルトのオペラは、少年少女合唱団レベルでもドイツ語で歌われているのに、映画の中では全て英語になっているのもやや気になりましたが、アメリカ映画ですからこれはまあ仕方がないか。

「バーナビー警部(第3話)/劇的なる死(開演ベルは死の予告)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A HOLLOW MAN●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/03/29●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:キャロライン・グラハム●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライン・グレアム●時間:101分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/バーナード・ヘプトン/デニース・アレクサンダー/ニコラス・ラ・ブレボスト/ジャンニ・ドュヴィッキ/イアン・フィッツギボン/サラ・バデル/エド・ウォーターズ●日本放映:2002/05●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

アマデウス 0.jpg「アマデウス」●原新宿ピカデリー.jpg題:AMADEUS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ミロス・フォアマン●製作:ソウル・ゼインツ●脚本:ピーター・シェーファー●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ジョン・ストラウス●原作:ピーター・シェーファー●時間:160分(ディレクターズカット180分)●原作:ピーター・シェーファー●出演:F・マーリー・エイブラハム/トム・ハルス/エリザベス・ベリッジ/サイモン・カロウ/ロイ・ドトリス/クリスティン・エバソール/ジェフリー・ジョーンズ/シンシア・ニクソン●日本公開:1985/02●配給:松竹富士●最初に観た場所:新宿ピカデリー(85-05-19)(評価:★★★☆)

「●TV-M (刑事コロンボ)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1537】「刑事コロンボ/祝砲の挽歌
「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●た ロアルド・ダール」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「Dr.マーク・スローン」)

凝った逆トリックによる鮮やかな結末。作品全体としては何となく楽しい雰囲気。

刑事コロンボ/逆転の構図 vhs.jpg
逆転の構図02.jpg 刑事コロンボ/逆転の構図00.jpg
特選「刑事コロンボ」完全版~逆転の構図~【日本語吹替版】 [VHS]」 ディック・バン・ダイク(Dick Van Dyke) 

ディック・バン・ダイク / アントワネット・バウアー
NEGATIVE REACTION title.jpg逆転の構図01.jpg逆転の構図03.jpg 口やかましい妻との生活に心底嫌気がさした著名な写真家ポール・ガレスコ(ディック・バン・ダイク)は、誘拐事件を偽装して妻フランセス(アントワネット・バウアー)を殺害し、以前から手なずけていた前科者のダシュラー(ドン・ゴードン)を廃車置き場に呼び出し、椅子に縛り付けた妻を写した写真と脅迫状に指紋を付けさせた後に彼を射殺、自分の足も撃ち抜き、身代金の受け渡しの際に犯人に撃たれたように装った―。
ドン・ゴードン / ジョアンナ・キャメロン
コロンボ 逆転の構図.jpg逆転の構図04.jpg シリーズ第27話。犯人のポールは「この世からお前が消えてくれれば良いのと何度も願った」ほど、妻のフランシスを憎んでいたとのことで、元々のシナリオには、コロンボの聞き込みに対し、写真集出版社の社長が、「もともとポールは財産を彼女に半分渡していたんだが、数年前、彼は神経衰弱になってね、フランシスはそれを利用して裁判所に彼の管理能力の喪失を訴え、財産のすべてを自分の管理下に置いてしまったんだ。それにナイーブな彼には、フランシスと争うだけのガッツはない」とのセリフがあったそうです。

逆転の構図07.jpg ナルホドね。助手のローナ(ジョアンナ・キャメロン)の美脚の魅力に駆られて犯行を決意したのかな。でも、かなり冷徹というか、完全犯罪に近い線、いっていたように思います。それが、コロンボに纏わりつかれているうちに、だんだん表情が曇ってくる...。

imagesCA8E9UTV.jpg 犯人役のディック・バン・ダイクは、「メリー・ポピンズ」('64年)よりも、主役だった「チキ・チキ・バン・バン」('68年、原作は007シリーズで知られるイアン・フレミングが唯一著した童話)の方が、学校の課外授業でリアルタイムで観たということもあって印象に残っています(当時、主題歌のソノシートを買って「チュリ・バンバン」とか英語で歌っていた。山本リンダのカバー・ヴァージョンもあったなあ)。

 犯人は2人も殺害している悪い奴であり、ディック・バン・ダイクはこの作品においては渋味のある二枚目キャラクターで通しているのですが、そうした映画のイメージもあって、しかも、何と言ってもこの作品の白眉とも言える、コロンボが犯人に仕掛けた証拠写真を裏焼きしての逆トリックの妙もあって(凝っているし、大胆な手法でもある)、作品全体としては何となく楽しい雰囲気。

VitoScotti2.jpg コロンボが救済所のシスター(ジョイス・バン・パタン、第39話「黄金のバックル」では犯人役を演じる)にホームレスと間違えられたり、たまたまポールの第二の犯行現場に居合わせた「貧乏は恥にあらず」とのたまう浮浪紳士トーマス(ヴィット・スコッティ、またまた登場。第19話「別れのワイン」のレストランの支配人役、第20話「野望の果て」でテーラーの主人役、第24話「白鳥の歌」の葬儀屋に続いて、今度はとうとう"職無し"に)との遣り取りがあったりと、鮮やかな結末だけでなく、その外の部分も楽しめます。

 ディック・バン・ダイク(1925年生まれ)は、TVドラマシリーズ「Dr.マーク・スローン」で再び見(まみ)えることができて、懐かしかったなあ。事件ものでしたが(本業の医師より探偵業の方が忙しそう)、やはり、何となくほのぼのとしたキャラクターでした。

刑事コロンボ(第27話)/逆転の構図.jpg刑事コロンボ(第27話)/逆転の構図 0.jpg「刑事コロンボ(第27話)/逆転の構図」●原題:NEGATIVE REACTION●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:アルフ・ケリン●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/ディック・バン・ダイク/アントワネット・バウアー/ジョイス・バン・パタン/マイケル・ストロング/ドン・ゴードン/ジョアンナ・キャメロン/ヴィット・スコッティ●日本公開:1975/12●放送:NHK(評価:★★★★) 

チキ・チキ・バン・バン チラシ.jpgチキ・チキ・バン・バン2.jpgチキ・チキ・バン・バン3.png「チキ・チキ・バン・バン」●原題:CHITTY CHITTY BANG BANG制作年:1968年●制作国:イギリス●監督:チキ・チキ・バン・バン 01.jpgケン・ヒューズ●製作:アルバート・R・ブロッコリス●脚本:ロアルド・ダール/ケン・ヒューズ●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:リチャード・M・シャーマン/ロバート・M・シャーマン●原作:イアン・フレミング●時間:143分●出演:ディック・バン・ダイク●/サリー・アン・ハウズ/アドリアン・ホール/ヘザー・リプリー/ゲルト・フレーベ/アンナ・クエイル/ロバート・ヘルプマン/ライオネル・ジェフリーズ/ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス●日本公開:1968/12●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)

Dr.マーク・スローン00.pngDr.マーク・スローン1.pngDr.マーク・スローン2.jpg「Dr.マーク・スローン」 Diagnosis: Murder (CBS 1993~2001) ○日本での放映チャネル:NHK(1995-1999)/スーパーチャンネル(2003-2005)

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ディズニーにおける「夢と愛の物語」「アメリカの新たな民話」の作り方が窺えた。

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 メディア論が専門の著者が、ディズニーの名作アニメについて原作の物語とアニメとの違いを分析することで、ディズニー・アニメというものが、「本当は怖い」話をいかにして「夢と愛の物語」に変え、「アメリカの新たな民話」を作り上げていったかを探るとともに、その背後にあるディズニーの思想とでもいうべきものを探った本であり、面白い試みだと思いました。

 取り上げられているのは以下の長編アニメーション6作。
・「白雪姫(白雪姫と七人の小人」('37年)/原作:『グリム童話』収録「白雪姫」(1812)
・「ピノキオ」('40年)/原作:コッローディ作の童話『ピノッキオの冒険』(1883)
・「シンデレラ」('50年)/原作:シャルル・ペロー『過ぎし昔の物語ならびに教訓』収録「サンドリヨン」(1697)、『グリム童話』収録「灰かぶり姫」
・「眠れる森の美女」('59年)/原作:シャルル・ペロー『過ぎし昔の物語ならびに教訓』収録「眠れる森の美女」(1697)、『グリム童話』収録「いばら姫」
・「リトル・マーメイド」('89年)/原作:アンデルセン『お話と物語』収録「人魚姫」(1837年)
・「美女と野獣」('91年)/原作:ボーモン夫人『美女と野獣』(1758年)

 これらについて、まず原作のあらすじを紹介し、続いてディズニーはどのようにオリジナルを作り変えたかを解説する形式で統一されているため読み易く、改変点に関する、これまで知らなかった知識が得られること自体が楽しいです。

 原作となった古典童話は、桐生操氏の『本当は恐ろしいグリム童話』('98年/ベストセラーズ)シリーズで広く知られるようになったオリジナルのグリム童話をはじめ、残酷で暴力的で、しばしば猟奇的、倒錯的でもあり、例えば「白雪姫」は最後に継母に残酷な仕返しをするし、『ピノッキオの冒険』では「喋るコオロギ」はピノッキオに木槌で叩き殺され、グリムの「灰かぶり姫」では、意地悪な連れ子姉妹が「金の靴」を無理に足に押し込むため、それぞれ足先と踵を切り落として歩けなくなる―。

 ペローの「眠れる森の美女」では、美女は100年以上も眠っていたため年齢も100歳以上になっているはずであり(王子は生きた白雪姫ではなくその死体と恋に落ちている)、アンデルセンの「人魚姫」は人間との恋を実らせることが出来ずに海の泡になってしまい、ボーモン夫人の『美女と野獣』に登場する「野獣」は、こちらはむしろディズニー版のそれより思慮深く優しいとのこと。

 まあ、原作のままのストーリーではファミリー向けにならないものが殆どであり、改変はしかるべくして行われたようにも思いますが、さらに突っ込んで、その背景にある当時のアメリカ社会の状況やディズニー文化の指向性などを社会学・文化学的に考察しており、但し、あまり堅くなり過ぎず、制作や改変の経緯にまつわるエピソードなども織り交ぜ(その部分はビジネス・ストーリー風とも言える)、改変点に関するトリビアな知識と併せて、コンパクトな新書の中に裏話が満載といった感じの本でもあります。

 ディズニーは、原作を改変することでそこに愛と感動、夢と希望を込め、当時の観客に合ったものに作り変えていったわけで、それを、ドロドロした原作のキレイな上澄み液だけを掬って換骨脱胎したと批判しても仕方がない気がしますが、ディズニー作品を契機にそれらの原作に触れることで、原作の持つグロテスクな雰囲気を味わってみるのもいいのでは(実態としては原作もディズニー作品の内容そのものであると思われているフシがあるが)。

白雪姫 1937.jpg 個人的には、映画「白雪姫」を観て、これがディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと。白雪姫や継母である后の登場する場面は実際に俳優を使って撮影し、その動作を分解して絵を描くという手法はこの頃からやっていたわけです。因みに、7人の小人は、原作ではゴブリン(ドラクエのキャラにもある小鬼風悪魔)であるのに対し、ディズニーによって、サンタクロースのイメージに変えられたとのことです。

白雪姫 1937 2.jpg 原作では、王子が初めて白雪姫に合った時、姫は死んでいたため、本書では、王子はネクロフィリア(死体に性的興奮を感じる異常性欲)であるとしています(半分冗談を込めてか?)。ディズニー版では王子を最初から登場させることで純愛物語に変えていますが、原作の基調にあるのは、白雪姫の后に対する復讐物語であり(結婚式で、継母=魔女は真っ赤に焼けた鋼鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊り続けさせられた)、ヒロインが自分の婚礼の席で、自分を苛め続けてきた義姉妹の両眼を潰して復讐する「シンデレラ」の原作「灰かぶり姫」にも通じるものがあります。

 「この映画をディズニーが実写でリメイクするという話がある」と本書にあるのが、ルパート・サンダーズ監督によるシャーリーズ・セロンが継母の后を演じた「スノーホワイト」('12年)ですが、ダーク・ファンタジーを指向しながらも、やはりディズニー・アニメの枠内に収まっているのではないかな(評判がイマイチで観ていないけれど、白雪姫より継母の方が美女であるというのは、シャーリーズ・セロンの注文か?)。

snowwhite 1997 3.jpgsnowwhite 1997  1.jpg むしろ、本書にも紹介されている、シガーニー・ウィーヴァーが継母の后を演じたTV実写版「スノーホワイト」('97年)が比較的オリジナルに忠実に作られている分だけ、よりホラー仕立てであり、'99年の年末の深夜にテレビで何気なく見て、そのダークさについつい引き込まれて最後まで観てしまいました。これ、継母が完全に主人公っぽい。ホラー風だがそんなに怖くなく、但し、雰囲気的には完全に大人向きか(昨年('12年)テレビ東京「午後のロードショー」で再放映された)。

 著者は、「ビートルジュース」「バットマン」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のティム・バートン監督がディズニーで働いていたことがあるので、彼に頼めばいいものができるだろうと―(ティム・バートンは、本書刊行後に、ジョニー・デップ主演でロアルド・ダール原作の「チャーリーとチョコレート工場」('05年)を撮った。やや不気味な場面がありながらもコミカル調で、原作(続編を含めた)通りハッピーエンド)。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の脚本家キャロライン・トンプソンが監督したTV版「スノーホワイト/白雪姫」もあり('01年/米)、こちらもちょっと観てみたい気も。

ガストン.jpg美女と野獣 01.jpg 本書の最後に取り上げられている「美女と野獣」は、個人的には90年代のディズニー・アニメの頂点を成している作品だと思うのですが、原作では、ヒロインであるベルは妬み深い二人の姉に苛められていて、グリムの「灰かぶり姫」のような状況だったみたいです。ディズニー・アニメでは、この姉たちは出てこず、代わりに、強引にベルに言い寄るガストンなる自信過剰のマッチョ男が出てきますが、これは、グリムのオリジナルには全く無いディズニー独自のキャラクター。

美女と野獣 02.jpg 本書によれば、オリジナルは、ベルの成長物語であるのに対し、ディズニー版ではベースト(野獣)の成長物語になっているとのことで、「美女と野獣」ではなく「野獣と美女」であると。そう考えれば、「悔い改めたセクシスト」であるビスーストと対比させるための「悔い改めざるセクシスト」ガストンという配置は、確かにぴったり嵌る気もしました。

 ストーリー構成もさることながら、絵がキレイ。大広間でのダンスのシークエンスでは、台頭しつつあったピクサーが作ったCGを背景に使っています(ピクサーはディズニーとの関係を構築しようとしていた(『世界アニメーション歴史事典』('12年/ゆまに書房)より))。

 本書では触れられていませんが、ディズニーはこの作品以降、グローバル戦略乃至ダイバーシティ戦略と言うか、「アラジン」('92年)、「ポカホンタス」('95年)、「ムーラン」('98年)など非白人系主人公の作品も作ったりしていますが、90年代半ば以降はスティーブ・ジョブズのピクサー社のCGアニメに押され気味で、「ポカホンタス」は「トイ・ストーリー」('95年)に、「ムーラン」は「バグズ・ライフ」('98年)に興業面で完敗し、今世紀に入っても「アトランティス 失われた帝国」('01年)は「モンスターズ・インク」('01年)に、「ホーム・オン・ザ・レンジ」('04年)は「Mr.インクレディブル」('04年)に完敗、それぞれピクサー提供作品の3分の1程度の興業収入に止まりました(ピクサー制作の「トイ・ストーリー」から「Mr.インクレディブル」まで、劇場公開は何れもディズニーによる配給ではあるが)。

スティーブ・ジョブズ 2.jpg '05年にディズニーのアイズナー会長は経営責任をとって退任し、'06年にはディズニーとの交渉不調からディズニーへのピクサー作品提供を打ち切るかに思われていたスティーブ・ジョブズが一転してピクサーをディズニーに売却し、同社はディズニーの完全子会社となり、ジョブズはディズニーの筆頭株主に。「トイ・ストーリー」などを監督したピクサーのジョン・ラセターは、ディズニーに請われ、ピクサーとディズニー・アニメーション・スタジオの両方のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼任することに。'06年にピクサー制作の「カーズ」('06年)を監督するなどしながらも、「ルイスと未来泥棒」('07年)などの以降のディズニー・アニメの制作総指揮にあたっています(ディズニー作品も3D化が進むと、ディズニー・アニメのピクサー・アニメ化が進むのではないかなあ)。

Snow white 1937.jpg白雪姫 dvd.jpg「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)

スノーホワイト 1997 vhs.jpg「スノーホワイト(グリム・ブラザーズ スノーホワイト)」snowwhite 1997.jpg●原題:SNOW WHITE: A TALE OF TERROR(THE GRIMM BROTHERS' SNOW WHITE)●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・コーン●製作:トム・エンゲルマン●脚本:トム・スゾロッシ/デボラ・セラズ●撮影:マイク・サウソン●音楽:ジョン・オットマン●原作:グリム兄弟●時間:100分●出演:シガーニー・ウィーヴァー/サム・ニール/モニカ・キーナ/ギル・ベローズ/デヴィッド・コンラッド/ジョアンナ・ロス/タリン・デイヴィス/ブライアン・プリングル●日本公開:1997/10●配給:ギャガ=ヒューマックス(評価:★★★)

「美女と野獣」03.jpg美女と野獣 dvd.jpg「美女と野獣」●原題:BEAUTY AND THE BEAST●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ゲーリー・トゥルースデイル/カーク・ワイズ●製作:ドン・ハーン●脚本:リンダ・ウールヴァートン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・メンケン●原作:ジャンヌ・マリー・ルプランス・ド・ボーモン●時間:84分●声の出演:ペイジ・オハラ/ロビー・ベンソン/リチャード・ホワイト/レックス・エヴァーハート/ジェリー・オーバック/アンジェラ・ランズベリー/デイヴィッド・オグデン・スティアーズ●日本公開:1992/09●配給:ブエナ・ビスタ(評価:★★★★)

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見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG 1『怪奇SF映画大全』アマゾンの半魚人.jpg
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"
 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」('31年)ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター。原著の表紙はロバート・フローリー監督、ベラ・ルゴシ主演の「モルグ街の殺人」('32年))。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、最近のリメイクのようにすぐにコングが出てくるのではなく、結構ドラマ部分で引っ張っていて、コングが出てくるまでにかなり時間がかかったけれど、これはこれで良かったのでは。当のコングは、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ている不思議と慣れてきて、ティラノサウルスっぽい「暴君竜」との死闘はまるでプロレスを観ているよう(コマ撮りでよくここまでやるなあ)。比較的自然にコングに感情移入してしまいましたが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]

紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
     
one million years b.c. poster.jpg この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのにラクェル・ウェルチ   .jpgラクェル・ウェルチがバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしているのはある種"お約束ごと"か)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)や「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)、「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)各ポスター

「遊星よりの物体X」('51年)/「遊星からの物体X」('82年)
the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督によりカート・ラッセル主演で「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

「キャット・ピープル」('42年)/「キャット・ピープル」('81年)
cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者「キャット・ピープル」は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日テス 0.jpg「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、むしろ構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。ナスターシャ・キンスキー自身は、「テス」('79年)で"演技開眼"した後の作品であるため、「肌を出し過ぎた」発言に至っているのではないでしょうか。「テス」は、19世紀のイギリスの片田舎を舞台に2人の男の間で揺れ動きながらも愛を貫く女性を描いた、文豪トマス・ハーディの文芸大作をロマン・ポランスキーが忠実に映画化した作品で、ナスターシャ・キンスキーの演技が冴え短く感じた3時間でした(ナスターシャ・キンスキーはこの作品でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞)。一方、「テス」に出る前年にナスターシャ・キンスキーは、スイスの全寮制寄宿学校を舞台に、そこにやって来たアメリカ人少女というレッスンC  poster.jpg「レッスンc」.jpg設定の青春ラブ・コメディ「レッスンC」('78年)に出演していて、そこでは結構「しっかり肌を出して」いたように思います。「レッスンC」は音楽はフランシス・レイでありながらもB級というよりC級映画に近いですが(まあ、フランシス・レイは「続エマニュエル夫人」('75年)といった作品の音楽も手掛けているわけだが)、16歳のナスターシャ・キンスキーのキュートでお茶目なぶりがいやらしさを感じさせず、ある種ガーリームービーとして後にカルト的人気となった作品です。それにつられた訳ではないが、個人的評価も当初×(★★)だったのを△(★★☆)にしました(音楽も今聴くと懐かしい)。

 後者「遊星からの...」はカート・ラッセル主演で、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるでしょうか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかもしれません。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。エンニオ・モリコーネの音楽も効いていました。

インベーダー1st Season DVD-BOX
インベーダー1st Season DVD-BOX.jpg リメイク版「遊星からの物体X」がオリジナルの「遊星よりの物体X」と大きく異なるのは、あらゆる生物を同化する「物体」の姿を、ありふれたモンスター的なデザインとはせず、動物や人間の姿に置き換えるようにしていることで、「誰が人間ではないのか、自分が獲り込まれたのかすらも分からない緊迫した状況」を生み出している点です。そう言えば、エイリアンが人間に獲りついたり人間の姿を借りているため、一見して普通の人間と見分けがつかないというのは、米国のテレビドラマ「インベーダー」('67年~'68年)年の頃からありました。建築家デビッド・ビンセントは深夜に空飛ぶ円盤が着陸するのを目撃し、宇宙からの侵略者(=インベーダー)の存在を知るが、その事実を誰にも信じてもらえず、ビンセントはインベーダーの陰謀を追って全米各地を飛び回るというもので、テレビドラマ「逃亡者」('68年~'67年)と同じクイン・マーチン・プロダクションの制作。そのためか、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人を探し求めて全米を旅するという「逃亡者」とちょっと似ています。ロズウェル dvd.jpg「インベーダー」は日本でも一時ブームになりましたが、米国でのUFOブームに便乗した企画だったのが、ブームが下火になったため2シーズンで終了しています(インベーダーの本当の姿が分からないまま終わった)。インベーダーは外見は地球人と同じだが、手の小指が動かないという設定でした(これじゃ見分けつかないね)。その後、人間の姿をした宇宙人が出てくるドラマは、「ロズウェル/星の恋人たち」('99年~'02年)など幾つか作られました。「ロズウェル」は、普通の高校生たちが、自分たちの特殊な能力に気づき、実は自分たちは宇宙人だったということを知るというもので、恋あり友情ありの青春ドラマにSFの味付けをしたという感じ。NHKで放映されましたが、本国の方で視聴率が伸び悩み、こちらも3シーズンで終了しました(ラストでちらっと彼らの本当の姿が見られる)。

ロズウェル/星の恋人たち シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

「インベーダー」(The Invaders) (ABC 1967.01~1968.01) ○日本での放映チャネル:NETテレビ(現テレビ朝日)(1967.10~1970.07)
「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)


フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラング「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。

 因みに、ボブ・ラフェルソン(1933-2022/89歳没)監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg(●2017年に32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られた。シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)へのオマージュが見られる)。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などはアニメっぽかったように思えた(日本のアニメへのオマージュもキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加したジョーダン・ヴォート=ロバーツ、樋口真嗣。.jpgシン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと述べたが、モーション・キャプチャを使っているせいではないか。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のようなインパクトもなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い。)
「キングコング」('76年)/「キングコング:髑髏島の巨神」('17年)
キングコング 新旧.jpg


キング・コング [DVD]
キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★☆)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

恐竜100万年 [DVD]
恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作:レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

シモーヌ・シモン in 「快楽」('52年/仏)監督:マックス・オフュルス 原作:ギ・ド・モーパッサン「モデル」
LE PLAISIR 1952.jpg
        
「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
キャット・ピープル [DVD]」/チラシ

テス Blu-ray スペシャルエディション
テス  0.jpgテス   00.jpg「テス」●原題:TESS●制作年:1979年●制作国:フランス・イギリス●監督:ロマン・ポランスキー●製作:クロード・ベリ●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ジョン・ブラウンジョン●撮影:ギスラン・クロケ/ジェフリー・アンスワース●音楽:フィリップ・サルド●原作:トーマス・ハーディ「ダーバヴィル家のテス」●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ピーター・ファース/リー・ローソン/ジョン・コリン/デイヴィッド・マーカム/ローズマリー・マーティン/リチャード・ピアソン/キャロリン・ピックルズ/パスカル・ド・ボワッソン●日本公開:1980/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(81-03-18)(評価:★★★★)

レッスンC [DVD]」 音楽:フランシス・レイ
レッスンC dvd.jpg「レッスンC」●原題:LEIDENSCHAFTLICHE BLUMCHEN/PASSION FLOWER HOTEL●制作年:1977年●制作国:西ドイツ・フランス・アメリカ●監督:アンドレ・ファルワジ●製作:アルツール・ブラウナー●脚本:ポール・ニコラス●撮影:リチャード・スズキ●音楽:フランシス・レイ●原作:ロザリンド・アースキン●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ゲリー・サンドクイスト/キャロリン・オーナー/マリオン・クラット/ヴェロニク・デルバーグ●日本公開:1982/05●配給:ジョイパックフィルム●最初に観た場所:中野武蔵野館(82-10-03)(評価:★★☆)●併映:「グローイング・アップ3 恋のチューインガム」(ボアズ・デビッドソン)

遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
遊星よりの物体X [DVD]

遊星からの物体X.jpg遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)●2回目:三軒茶屋東映(84-12-22)(評価:★★★★)●併映(1回目):「エイリアン」(リドリー・スコット)●併映(2回目):「ブレードランナー」(リドリー・スコット) 
遊星からの物体X [DVD]
遊星からの物体X(復刻版)(初回限定生産) [DVD]

音楽:エンニオ・モリコーネ
    
King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

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見てるだけで楽しい。圧倒的に多いフランケンシュタイン物。パロディ映画にも楽しいものが。

図説ホラー・シネマ.jpg  図説 ホラー・シネマ2.jpg      怪奇SF映画大全.jpg
図説 ホラー・シネマ―銀幕の怪奇と幻想 (ふくろうの本)』('01年/河出書房新社、123ページ(21.4x16.4x1.2cm)) 『怪奇SF映画大全』('97年/国書刊行会、239ぺージ(30x23x2.4cm))
フランケンシュタイン dvd.jpg フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg ヤング・フランケンシュタイン.gif ノスフェラトゥ dvd.jpg ドラキュラ都へ行く dvd.jpg 5時30分の目撃者 vhs 5.jpg
フランケンシュタイン[DVD]」「フランケンシュタインの花嫁[DVD]」「ヤング・フランケンシュタイン〈特別編〉 [DVD]」「ノスフェラトゥ [DVD]」「ドラキュラ都へ行く[VHS]」「特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」
下右ページはトッド・ブラウニング 監督、ベラ・ルゴシ主演「魔人ドラキュラ」('31年/米)のポスター
IMG_20220204_052826.jpg 同著者による『図説 モンスター―映画の空想生物たち』('01年/河出書房新社)に続くシリーズ第2段で、草創期(サイレント時代~1930年代)、繁栄と低迷(1940~1950年代)、復興と世代交代(1960年代以降)という流れで、各時代の名作を紹介、製作にまつわる裏話やエピソードなども交え解説しています。

 何よりもポスターやスチール写真が豊富で、よくこれだけ揃えたなあと。見ているだけで楽しく、表紙には「狼男」がきていますが、圧倒的に多いのはフランケンシュタインもので、次にドラキュラものがきて、狼男は3番目といったところでしょうか。映画会社IMG_20220204_134630.jpgでみると、戦前はボリス・カーロフ、ベラ・ルゴシ(上右)をホラー・スターに育てたユニヴァーサル、戦後はピーター・カッシングとクリストファー・リー(右上)をホラー・キングに育てたハマー・プロが中心なっています。

 それにしても、こんなにも多くのフランケンシュタイン映画、ドラキュラ映画が作られてきたのかと改めて驚かされ、そうした数多くの作品群の中でも、フランケンシュタイン映画に占めるボリス・カーロフと、ドラキュラ映画に占めるクリストファー・リーの重みは、それぞれの活躍した時代は異なるものの、圧倒的であるように思いました。

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)2010.jpg イギリスの詩人シェリーの夫人メアリー・シェリー(1797-1851)原作の『フランケンシュタイン』は、文学史上でも最もよく知られた作品でありながら、原作は殆ど読まれていないということでも有名な作品ですが、「フランケンシュタイン」は怪物(クリーチャー)の名前ではなく、怪物を生み出したマッド・サイエンティストの名前です。

フランケンシュタイン 1931 ポスター.pngフランケンシュタイン 1931 01.jpg 現代のホラー映画をすっかり観慣れてしまうと、ジェームズ・ホエール(1889-1957)監督、ボリス・カーロフ主演の「フランケンシュタイン(FRANKENSTEIN)」('31年/米)に出てくる怪物も、漫画「怪物くん」のフランケンのようにどこか可愛いかったりもし、湖のほとりで少女と触れ合うシーンは、ビクトル・セリエ監督の「ミツバチのささやき」('73年/スペイン)でも、主人公の少年が観る映画の1シーンで使われました。

「フランケンシュタインの花嫁」.jpg   FRANKENSTEIN and old man.jpg フランケンシュタインの花嫁 1935 01.jpg
 本編で風車小屋に追い詰められて焼き殺された怪物を復活させて作った続編の「フランケンシュタインの花嫁」('35年)は、本編以上に面白くてBride of Frankenstein _.jpg笑えますが、但し、ラストは異性(と言っても、かなりキツイ感じの女フランケンシュタインなのだが)に愛されない男の悲哀を表していて、しんみりさせられます(これ、傑作)。因みに、監督のジェームズ・ホエールは、自らが同性愛者であることを早くから公表していました(女性嫌いだった?)。Bride of Frankenstein (1935)

 フランケンシュタイン映画では、フランシス・フォード・コッポラが「ドラキュラ」('92年/米、ドラキュラ伯爵役はゲイリー・オールドマン。石岡瑛子がこの作品でアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞)に続きフランケンシュタイン (1994年).jpg製作した、ケネス・ブラナー監督の「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)などもありましたが、フランケンシュタイン (1994年) dvd.jpgロバート・デ・ニーロが演じたクリーチャー(被造物)は、見かけは醜怪だけれど心性的には子どものようであるという設定でした(フランシス・フォード・コッポラは妖怪好きなのか? 一方のケネス・ブラナーの方は、この作品ではヴィクター・フランケンシュタイン博士役での主演も兼ねている)。クリーチャーが元々はセンシティブで知的な存在として描かれているなど、原作に忠実に作られているようですが、原作って結構混み入ったスト-リーだったのだなあと。2時間で収まりきらず、個人的には消化不良感あり。更にデ・ニーロのメイクに懲りすぎて、単なるホラー映画になってしまった印象も。「フランケンシュタイン Hi-Bit Edition [DVD]

YOUNG%20FRANKENSTEN2.jpgメル・ブルックス『ヤング・フランケンシュタイン』(1974).jpg フランケンシュタインのパロディ映画では、メル・ブルックス(1926- )監督のヤング・フランケンシュタイン」('74年/米)が通好みのコメディであり、ギョロ目の怪優マーティー・フェルドYOUNG FRANKENSTEIN.jpgマン(せむし男)やピーター・ボイル(怪物)など、脇役がいいです。オリジナルの「フランケンシュタインの花嫁」にも出てくる山小屋に住む盲目の老人役はジーン・ハックマン、ラストに小さくクレジットされていました。

「ヤング・フランケンシュタイン」マーティ・フェルドマン/ジーン・ワイルダー/テリー・ガー
  
ヘルツォーク「ノスフェラトゥ」1.jpgヘルツォーク「ノスフェラトゥ」2.jpg ドラキュラ映画の古典的作品で劇場で観たものは記憶にありませんが、70年代の作品でヴェルナー・ヘルツォーク監督の「ノスフェラトゥ」('79年/西独)は、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ監督の吸血鬼映画の古典的作品「吸血鬼ノスフェラトゥ(不死人)」('22年/独、無声映画)のリメイク作品であり、「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)などヘルツォーク作品でお馴染みの怪優クラウス・キンスキーが主人公のドラキュラ伯爵を演じていました。
ノスフェラトゥ [DVD]

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg ムルナウは、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』を原作に映画化するつもりが映画化権を得られず、それで「ドラキュラ伯爵」を「オルロック伯爵」に変えて19世紀初頭のドイツの小都市に吸血鬼が出現するという設定にし、その容貌も禿頭の特異なものとしたわけですが、イザベル・アジャーニ.jpgヘルツォーク/キンスキー版は、「ドラキュラ伯爵」に戻しながらも設定はムルナウ版を踏襲。全体として透明感のある映像で、ペストで住民が死滅した村の描写などは絶妙でしたが、それら以上に、クラウス・キンスキーの怪演ぶり、「キモさ」が際立っていた印象です(彼に噛まれる女性役は美貌のイザベル・アジャーニ。トリュフォーの「アデルの恋の物語」('75年/仏)で知られるフランスの人気女優だが、この作品でドイツ語で話しているのは、父親がアルジェリア人であるのに対し、母親はドイツ人であるため。「ノスフェラトゥ」の前年作のウォルター・ヒル監督のアクション映画「ザ・ドライバー」('78年/米)でみせたように英語も堪能)。

ドラキュラ都へ行く  映画宝庫.jpgドラキュラ都へ行く02.jpg ドラキュラのパロディでは(クリストファー・リーが「エアポート'77/バミューダからの脱出」('77年/米)で土左衛門姿で出てきた際に見せていた苦悶の表情も、ドラキュラのパロディと言えばパロディだったけれど)、たまたま「ノスフェラトゥ」と同じ年に作られたもので、本書にも紹介されている「ドラキュラ都へ行く」('79年/米、原題:Love at First Bite)という5時30分の目撃者.jpgジョージ・ハミルトンが主演し製作総指揮もした作品もありました(ジョージ・ハミルトンは「刑事コロンボ」の第31話「5時30分の目撃者」('75年)で犯人の精神分析医役を演じていた二枚目俳優で、ハリウッド社交界でもプレイボーイで鳴らした彼らしく、愛人が絡むエピソードだが、計画殺人ではなく衝動殺人になっているのがややプロット的には弱点か。ハミルトンは、「刑事コロンボ」の新シリーズ(通算第57話)「犯罪警報」('91年)でも人気テレビ番組のホストである犯人役を演じた)。
 「ドラキュラ都へ行く」という邦題タイトルは、フランク・キャップラの「スミス都へ行く」をもじったものですが、内容は無関係。楽屋ネタのギャグ満載の身内で楽しみながら作った感じの映画で、一緒に観に行った外国人女性にはすごく受けていましたが、字幕頼りの自分にとっては残念ながらさほどでも(映画字幕はセリフが相当端折られていたように思うが、DVD化はされていないようだ)。

 SFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」では、ロナルド・V・ボーストの怪奇SF映画大全('97年/国書刊行会)という大型本があり、こちらは本書よりも更にポスター中心であるため、これも見て楽しめます。


FRANKENSTEIN 1931 poster.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:アーサー・エジソン●音楽:バーンハルド・カウン●原作:メアリー・シェリーFRANKENSTEIN 1931.jpg●時間:71分●出演:コリン・クライヴ/ボリス・カーロフ/メイ・クラークメイ・クラーク.jpgエドワード・ヴァン・スローン/ドワイト・フライ/ジョン・ポールズ/フレデリック・カー/ライオネル・ベルモア●日本公開:1932/04●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★☆)●併映:「フランケンシュタインの花嫁」(ジェイムズ・ホエール)
メイ・クラーク

BRIDE OF FRANKENSTEIN2.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制フランケンシュタインの花嫁 1935 poster.jpg作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
「フランケンシュタインの花嫁」公開時ポスター。「カーロフ」の苗字が冠のように載っている。(本書より)

FRANKENSTEIN 1994 2.jpgFRANKENSTEIN 1994.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1994年●制作国:イギリス・日本・アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ジェームズ・V・ハート/ジョン・ヴィーチ/ケネス・ブラナー/デビッド・パーフィット●脚本:ステフ・レイディ/フランク・ダラボン●撮影:ロジャー・プラット●音楽パトリック・ドイル●原作:メアリー・シェリー●時間:123分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ケネス・ブラナー/トム・ハルス/ヘレナ・ボナム=カーター/エイダン・クイン/イアン・ホルム/ジョン・クリーズ/シェリー・ルンギ/リチャード・ブライアーズ/アレックス・ロー●日本公開:1995/01●配給:トライスター・ピクチャーズ(評価:★★★)

ジーン・ワイルダー/マデリン・カーン
「ヤング・フランケンシュタイン」マデリンカーン.jpg「ヤング・フランケンシュタイン」2.jpgヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/マデリーン・カーン/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)

「ノスフェラトゥ」2.jpg「ノスフェラトゥ」01.jpg「ノスフェラトゥ」●原題:NOSTERTU. PHANTOM DER NACHT●制作年:1979年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ヴェルナー・ヘルツォーク●撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァノスフェラトゥ(1978)[A4判].jpgイン●音楽:ポポル・ヴー●時間:107分●出演:クラウス・キンスキー/イザベル・アジャーニ/ブルーノ・ガンツ/ロラント・トーポー/ワルター・ラーデンガスト/ダン・ヴァン・ハッセン/ヤン・グロート/カールステン・ボディヌス●日本公開:1984/10●配給:ドイツ文化センター●最初に観た場ドイツ文化センター 青山.jpgドイツ文化センター 2.jpg所:青山・ドイツ文化センター(84-10-07)(評価:★★★☆)●併映:「ヴォイツェック」「カスパーハウザーの謎」(ヴェルナー・ヘルツォーク) 「映画パンフレット ノスフェラトゥ(1978作品) 発行:㈱パルコ(A4) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 出演:イザベル・アジャーニ

ドイツ文化センター 1962年、青山通り付近にオープン

ドラキュラ都へ行く01.jpg「ドラキュラ都へ行く」●原LOVE AT FIRST BITE.jpg題:LOVE AT FIRST BITE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:スタン・ドラゴッティ●製作・脚本:ロバート・カウフマン●撮影:エドワード・ロッソン●音楽チャールズ・バーンスタイン●時間:96分●出演:ジョージ・ハミルトン/スーザン・セント・ジェームズ/ディック・ショーン/アート・ジョンソン/リチャード・ベンジャミン/シャーマン・ヘムズリー●日本公開:1979/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(79-12-15)(評価:★★★)

5時30分の目撃者 vhs.jpg刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者.jpg「刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者」●原題:A DEADLY STATE OF MIND●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ジョージ・ハミルトン/レスリー・ウォーレン/スティーブン・エリオット/カレン・マックホン/ブルース・カービー/ライアン・マクドナルド/ジャック・マニング/フレッド・ドレイパー/ウィリアム・ウィンターソウル/ヴァンス・デイヴィス/レッドモンド・グリーソン/グローリー・カウフマン●日本公開:1976/12●放送:NHK(評価:★★★☆)特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」【日本語吹替版】 [VHS]

《読書MEMO》
是枝裕和監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●ラルジャン(ロベール・ブレッソン)
 ●恋恋風塵(ホウ・シャオシェン)
 ●浮雲(成瀬巳喜男)
 ●フランケンシュタイン(ジェームズ・ホエール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●旅芸人の記録(テオ・アンゲロプロス)
 ●カビリアの夜(フェデリコ・フェリーニ)
 ●シークレット・サンシャイン(イ・チャンドン)
 ●シェルブールの雨傘(ジャック・ドゥミ)
 ●こわれゆく女(ジョン・カサヴェテス)

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【917】『大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150
「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ「●マーティン・スコセッシ監督作品」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●「ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞」受賞作」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ドライビング Miss デイジー」)「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「全米映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「ドゥ・ザ・ライト・シング」「グッドフェローズ」)「●モーガン・フリーマン 出演作品」の インデックッスへ(「ドライビング Miss デイジー」「ショーシャンクの空に」) 「●ロバート・デ・ニーロ 出演作品」の インデックッスへ(「グッドフェローズ」)「●「サターンSF映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「トータル・リコール」「ロボコップ」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●ま行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●浅野 忠信 出演作品」の インデックッスへ(「バタアシ金魚」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

'90年公開作品で個人的◎は「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ドライビング Miss デイジー」。

映画イヤーブック 1991 3298.JPG映画イヤーブック1991 教養文庫.jpg  ドゥ・ザ・ライト・シング0.bmp DRIVING MISS DASIY.bmp
映画イヤーブック〈1991〉 (現代教養文庫)』「ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]」「ドライビングMissデイジー [DVD]
 
 90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』の1991年版で、1990年に劇場公開された洋画406本、邦画146本、計552本のデータを収めています。ストーリー紹介だけでなく、主だった作品は、映画評論家が分担して執筆し、それぞれ批評を織り込んでいて、後でDVDなどで観賞する際の参考になりました(本書評価は★★★★→必見、★★★→ぜひ見る価値アリ、★★→見て損はしない、★→ヒマつぶしにはなるかも)。本書における四つ星評価(「必見」)作品から幾つか拾うと―。

ドゥ・ザ・ライト・シング1.bmp '90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞しています。(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

ドライビング miss デイジー.bmp 続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部ジェシカ・タンディ アカデミー賞.jpg門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

「ショーシャンクの空に」03.jpg モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男「ショーシャンクの空に」02.jpg優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)でアカ「ショーシャンクの空に」1994.jpg「ショーシャンクの空に」モーガン.jpgデミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、IMDb Top 250 Moviesの第1位[スコア9.3])
ショーシャンクの空に (4K ULTRA HD & HDデジタル・リマスター ブルーレイセット)(2枚組) [4K ULTRA HD + Blu-ray]

 自分としては「ショーシャンクの空に」よりも「ドライビング Miss デイジー」に感動してしまったクチなのですが、アメリカの黒人コミュニティーの間では「ドライビング Miss デイジー」は白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、評判は良くないようです。確かにハリウッド映画の伝統的な黒人の描かれ方の枠を出ていないかも(でも、個人的には名作だと思う)。その対極にあるのが、「ドゥ・ザ・ライト・シング」でもあると言え、アカデミー賞授賞式のプレゼンターとして舞台に立ったキム・ベイシンガーは、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、「ドゥアカデミー賞 キム・ベイシンガー1.jpgアカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

Guddoferozu(1990).jpgグッドフェロー1.bmp マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
Guddoferozu(1990)

トータル・リコール 12.jpg 「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍シャロン・ストーン12.jpgります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。

フィリップ・K・ディック原作映画 「ブレードランナー」 ('82年/米)/「マイノリティ・リポート」('02年/米)
ブレードランナー チラシ.jpg ブレードランナー.jpg    マイノリティ・リポート01.jpg マイノリティ・リポート 02.jpg 


ロボコップ 警官.jpg 因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったとロボコップ 1987 pw.jpgか。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。

  
バタアシ金魚ド.jpgバタアシ金魚 dvd2.bmp 洋画ばかり挙げましたが、邦画では「バタアシ金魚」('90年/シネセゾン)なんてあったなあ。個人的には自主制作時代の作品も何本か観たことのある松岡錠司監督の劇場用映画デビュー作、主演の筒井道隆(坊主「バタアシ金魚」.bmp頭で出演)・高岡早紀にとっても共にデビュー作ということで、新鮮味はありました。コミックが原作ながらも、インディペンデント系の雰囲気を残してしてまあまあ面白かったけれど、ストーリーとしては中途半端だった印象も。過食症でブタのように太った主人公も高岡早紀が演じたのだろうか。顔があまり映っていなかったが...(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。 


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ドゥ・ザ・ライト・シング dvd.jpg「ドゥ・ザ・ライト・シング」●原題:DO THE RIGHT THING●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:スパイク・リー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:ビル・リー●時間:120分●出演:スパイク・リー/ダニー・アイエロ/ルビー・ディー/サミュエル・L・ジャクソン/オジー・デイヴィス/リチャード・エドソン/ジョン・タトゥーロ/ビル・ナン/ロージー・ペレス/ ジョイ・リー/ジャンカルロ・エスポジート/ジョン・サベージ/ロビン・ハリス●日本公開:1990/04●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★☆)ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]
ドライビング miss デイジー dvd.bmp
ドライビング miss デイジー ちらし.jpg「ドライビング Miss デイジー」●原題:DRIVING MISS DASIY●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ブルース・ベレスフォード●製作:リチャード・D・ザナック/リリ・フィニー・ザナック●原作・脚本:アルフレッド・ウーリー●撮影:ピーター・ジェームズ●音楽:ハンス・ジマー●時間:99分●出演:ジェシカ・タンディ/モーガン・フリーマン/ダン・エイクロイド/パティ・ルポーン/エスター・ローレ/ジョアン・ハヴリラ/ウィリアム・ホール・Jr.●日本公開:1990/05●配給:東宝東和(評価:★★★★☆)ドライビングMissデイジー [DVD]

「ショーシャンクの空に」d.jpg「ショーシャンクの空に」01.jpg「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)ショーシャンクの空に [DVD]

「グッドフェローズ」.jpg「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/グッドフェローズ dvd.jpgマイク・スター/フランク・ヴィンセント/チャック・ロー/フランク・ディレオ/サミュエル・L・ジャクソン/クリストファー・セロ/スザンヌ・シェパード/キャサリン・スコセッシ/チャールズ・スコセッシ●日本公開:1990/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★★)グッドフェローズ スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

トータル・リコール [DVD]
トータル・リコール003.jpgトータル・リコール dvd.jpg「トータル・リコール」●原題:TOTAL RECALL●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:バズ・フェイシャンズ/ロナルド・シュゼット●脚本:ロナルド・シュゼット/ダン・オバノン/ゲイリー・ゴールドマン●撮影:ヨスト・ヴァカーノ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:フィリップ・K・ディック「記憶売ります」●時間:113分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/レイチェル・ティコトータル・リコール シャロン・ストーン.jpgティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

ロボコップ 1987.jpgロボコップ pw.jpg「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)
ロボコップ/ディレクターズ・カット [DVD]

高岡早紀(17歳)(テレフォンカード)/「バタアシ金魚 [DVD]
バタアシ金魚 1990.jpg「バタアシ金魚」2.bmpバタアシ金魚 dvd.jpg「バタアシ金魚」●制作年:1990年●監督・脚本:松岡錠司●製作:日本ビクター●撮影:笠松則通●音楽:茂野雅道●原作:望月峯太郎●時間:95分●出演:高岡早紀/筒井道隆/白川和子/伊武雅刀/東幹久/土屋久美子/浅野忠信/大寶智子/橋本真由子/いしかわじゅん/桜金造/山村美智子/佐藤オリエ/安原麗子●公開:1990/06●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネパトス新宿 (90-06-16)(評価:★★★☆)

筒井道隆(19歳)・浅野忠信(16歳)共に映画デビュー作
「バタアシ金魚」筒井・浅野.jpg「バタアシ金魚」浅野.jpg  
 「バタアシ金魚」で、浅野忠信は丸刈りで牛川工業高校水泳部の主将ウシを演じた。 
 浅野忠信は、自身のSNSのプロフィールとコメントが書かれたページで、「バタアシ金魚」について「撮影の時はあまり楽しくなかったです。撮影以外の時も楽しくなかったです」とコメント。他の部員役は床屋でカットしたが、「僕だけ八王子まで行って、そこから車でちょっと行ったふつうの家に連れてかれ、牛のフンくさい太陽がギラギラ照っている外で、とても暑い思いをしてバリカンの試し刈りとしか思えない断髪式をやった事がとてもムカムカ」したとし、さらに「人の頭を刈るだけ刈って長さメチャクチャ」「あとはメイクさん、向こうで切ってと言って、端の方で頭刈られて、極めつけは、さっきまで僕が頭を刈られてた所でロケをやっているんですから、もうバクハツ寸前でした」と。しかし最後は「でも泳ぎがうまくなったし、世の中の厳しさが分かったし電車にも詳しくなったし、友達ができたのでよかったです。スタッフの人はいい人ばかりでした」としている(引用:「浅野忠信」インスタグラム(@tadanobu_asano))

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「このミス」第1位作品の映画化だが、大味のアクションに終始してしまった感じ。

Shooter (2007).jpgザ・シューター/極大射程 dvd.jpg 極大射程 新潮文庫 上下.jpg 極大射程 上.jpg 極大射程 新潮文庫 下.jpg
マーク・ウォールバーグ「ザ・シューター/極大射程 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]」『極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)』『極大射程〈下巻〉 (新潮文庫)
Shooter (2007)
ザ・シューター/極大射程 4.jpg ボブ・リー・スワガー(マーク・ウォールバーグ)は軍の元狙撃手で、アフリカでの任務で観測手の友人を失い、今で退役して山中で犬と暮らしているが、そんな彼にある依頼が来て、それは、何者かが大統領の狙撃暗殺を企てているので、その実行プランを見抜いて欲しいというもの。愛国心から引き受けた彼は、フィラデルフィアで狙撃が行われると確信、大統領演説の当日に現場で監視にあたるが、いきなりアドバイザーの制服警官に撃たれ、その間に狙撃が行われて弾は大統領を外れてエチオピア大司教の命を奪う。負傷しながらも何とかその場を離れたスワガーは、自分が罠にはめられたことに気付き、そこから彼の復讐が始まる―。

 原作は1993年にスティーヴン・ハンターが発表した「ボブ・リー・スワガー三部作」の第1作『極大射程(上・下)』(原題:Point of Impact、'98年/新潮文庫(上・下))で、2000(平成12)年「このミステリーがすごい!」(海外編)第1位作品。当時の新潮文庫の帯に「キアヌ・リーブス主演で映画化!」とあったので、直ぐに映画されるのかと思ったら、マーク・ウォールバーグ主演で2006年になって映画化され(発表から映画化まで結局13年かかった)、原作はそこそこ面白かったけれども、予告を観て原作と雰囲気が違う気がしたため、DVD化されても暫く観ないでいました。

ザ・シューター/極大射程 1.jpg つい最近になって観てみたら、やっぱり違う! 原作の、ちょうど『レッド・オクトーバーを追え(上・下)』('85年/文春文庫)のトム・クランシーが潜水艦や兵器に拘(こだわ)るのと似たような、銃へのマニアックな拘りが無いのはいいけれど、マーク・ウォールバーグ(元不良青年で服役囚だったこともあるようだが)は原作のボブ・スワガーよりやや線が細い感じか。

 少しロバート・ラドラムの『暗殺者(上・下)』('83年/新潮文庫)と似たところもある話なのですが、その映画化作品「ボーン・アイデンティティ」('02年、こちらも発表から映画化まで22年と時間がかかっている)で主人公のジェイソン・ボーンを演マーク・ウォールバーグ.jpgマット・デイモン.jpgじたマット・デイモンが原作より線が細く見えたのと似た印象を持ちました'(この二人、よく似ている)。

マーク・ウォールバーグ(1971年生まれ)/マット・デイモン(1970年生まれ)

ザ・シューター/極大射程 2.jpg スワガーが今は亡き親友の恋人サラ(ケイト・マーラ、「ソーシャル・ネットワーク」 ('10年/米)に出ていたルーニー・マーラの姉)に助けを求め、最初は拒まれるも結局スワガ―の力となるのはいいが、彼女自身、敵方の人質になってしまうというのは、ある意味"定番"。途中からサスペンスと言うより殆どアクション映画になっていて、ラストに行くまでに銃撃戦や爆殺で人がバタバタ死んでいき、一方、原作でのヤマ場である最後の法廷闘争は、映画ではその部分はさらっと流してその代り、法の裁きを逃れた"悪い奴ら"を最後は主人公が自ら...。

ザ・シューター/極大射程 3.jpg カタルシス効果に重きを置いたと思われますが、やや安直に結末だけ修正したような感じもし、原作スト―リーだけでは観客を惹きつけ切れないという自信の無さか。"悪い奴ら"である大佐と上院議員を演じるのが「リーサル・ウェポン」('87年)のダニー・グローヴァーやコメディ作品にも出演の多いネッド・ビーティで、両者とも気のいいオッサンに見えてしまうのも難かも。

 原作の主人公は、ベトナム戦争で狙撃手として鳴らし、2300メートルという狙撃の「最大射程距離」(所謂「極大射程」)記録を保持していた実在の狙撃手カルロス・ハスコックをモチーフとしていて(カール・ヒッチコックという名の伝説の狙撃手として原作にも出てくる)、主人公のボブもハスコック同様にベトナム帰りの元海兵隊員でしたが、映画では、さすがに時間を経てしまったため、ソマリア帰りに置き換えられています(狙撃兵って戦争や内戦には欠かせないのか)。

極大射程 扶桑社 上.png極大射程 扶桑社 下.png 原作は「このミステリーがすごい」第1位作品だけあって(「週刊文春ミステリー ベスト10」で第2位、「IN★POCKET」の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」でも第2位)、読んでいる時は面白かったけれども、時間を経るとあまり記憶に残らないような気もし、映画はその忘れかけた面白さを喚起してくれるかと思いきや、大味のアクションに終始してしまった感じでした(元々、プロットを生かすタイプの監督ではなかったということか)。

極大射程(上)」[Kindle版]  「極大射程 下 (扶桑社ミステリー)」[文庫]


tvドラマ ザ・シューター極大射程 axn  (1).jpgtvドラマ ザ・シューター極大射程 axn (1).jpg (●2016年に映画でボブ・リー・スワガーを演じたマーク・ウォールバーグの製作指揮によって、ライアン・フィリップ主演でTVドラマ化された。シーズン1はスティーヴン・ハンターの原作『極大射程』に基づき、ボブ・リーは狙撃能力を買われて大統領暗殺阻止のチームに加わるが、罠にはまり追われる身となるという展開。シーズン2は同じスティーヴン・ハンターの『狩りのとき』をベースにしているが、ドラマ独自のストーリーで、シーズン3も『ブラックライト』をベースにした独自ストーリーになっている。日本ではNetflixが"Netflixオリジナル"「ザ・シューター」として、本国放送直後に週に1エピソードずつ独占配信し、その後、2020年1月からAXNでシーズン1が「ザ・シューター/極大射程」として放送された。)

「ザ・シューター/極大射程」Shooter (USAネットワーク 2016~2018) ○日本での放映チャネル:AXN(2020~)


マーク・ウォールバーグ in「ザ・ファイター」('10年/米)
ザ・ファイター01.jpg ザ・ファイター12.jpg

ケイト・マーラ(マーラ姉妹・姉) (→
ケイト・マーラ.jpgケイト・マーラ2.jpg「ザ・シューター/極大射程」●原題:SHOOTER●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:アントワーン・フークア●製作:ロレンツォ・ディボナヴェンチュラ/リック・キドニー●脚本:ジョナサン・レムキン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:マーク・マンシーナ●原作:スティーヴン・ハンター「極大射程」●時間:124分●出演:マーク・ウォールバーグ/マイケル・ペーニャ/ダニー・グローヴァー/ケイト・マーラ/イライアス・コティーズ/ローナ・ミトラ/ネッド・ビーティ/ラデ・シェルベッジア/ジャスティン・ルイス/テイト・ドノヴァン/レイン・ギャリソン/ブライアン・マーキンソン/アラン・C・ピーターソン●日本公開:2007/06●配給:UIP(評価:★★☆)


【2013年文庫化[扶桑社ミステリ-]】

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必ずしもハッピーエンドとは言えない現在が予め示されている「成功物語」。

ソーシャル・ネットワーク dvd.jpg  
ソーシャル・ネットワーク 【デラックス・コレクターズ・エディション】(2枚組) [DVD]
ルーニー・マーラ/ジェシー・アイゼンバーグ
『ソーシャル・ネットワーク』(2010).jpg 2010年ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)受賞作。

 2003年、ハーバード大の19歳の学生マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、親友のエドゥアルド・サヴェリン(アンドリュー・ガーフィールド)と共に、大学内で友達を増やすため、大学内の出来事を自由に語りあえるサイトを作ろうというある計画を立てる。2人で始めたこの計画は瞬く間に学生間に広がり、ナップスター創設者のショーン・パーカー(ジャスティン・ティンバーレイク)との出会いなどを経て、社会現象を巻き起こすほどの巨大サイトへと成長を遂げるが、ザッカーバーグ自身はその裏で、カネと裏切りの渦に巻き込まれていく―。

『ソーシャル・ネットワーク』(2010) 2.jpg 全世界で5億人以上のユーザーが登録しているFacebookの創業にまつわる物語で、一躍時代の寵児となったザッカーバーグは、若くして億万長者へと成り上がっていくのですが、この映画によれば、Facebookの前身が、ザッカーバーグがガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ、「ザ・シューター/極大射程」 ('06年/米)に出ていたケイト・マーラの妹)にフラれた腹いせで作った女の子の顔の格付けサイト「フェイスマッシュ」であり、大学の風紀を乱すとしてそのサイトが閉ソーシャル・ネットワーク 映画1.jpg鎖されると、やはり女の子との出会いを目的としたハーバード大生専用のコミュニティサイト「ハーバード・コネクション」の制作に協力して、そこからヒントを得て、「ザ・フェイスブック」が誕生し、それがエドゥアルドの所属する大学一のファイナル・クラブである「フェニックス」の人脈を利用して瞬く間に広まっていったという―真偽のほどはともかく、その過程が興味深かったです。

『ソーシャル・ネットワーク』(2010) 3.jpg 結局、ザッカーバーグは、「ハーバード・コネクション」の創設者ウィンクルボス兄弟と、彼が共同設立した会社のCEOとなったエドゥアルド(ショーン・パーカーを巡って2人の意見が対立し、結局彼はザッカーバーグに設立会社の重役を降ろされてしまう)の両者から訴えられていて、映画は、ザッカーバーグが抱える2つの訴訟場面を現在とし、過去を時系列で顧みる形で物語が展開されていくため、必ずしもハッピーエンドとは言えない現在が予め観客に提示されている「成功物語」ということになります。

Sôsharu nettowâku (2010).jpg 全米・ニューヨーク・ロサンゼルス・ボストンの各映画批評家協会賞作品賞を受賞するなど、米国では評論家から高い評価を得た作品のようですが(因みにロンドン映画批評家協会賞作品賞も受賞している)、訴訟場面を現在とし、過去を顧みるこの構成が果たして良かったのか、それとも、係争中であるため、消去法的にこうした作りにならざるを得なかったのか。英語版のキャッチコピーにも"You Don't Get To 500 Million Friends Without Making A Few Enemies"とあり、観る前から結末が暗示されています(どっちかと言うと、"500 Million Friends"ではなく"10 billion dollar"ではないか。フォーブス誌によれば、ザッカーバーグの資産は2011年現在で約174億ドルで全米長者番付第14位。前年からの増加は106億ドルで最も大きかった。因みに、日本語版のキャッチは「天才・裏切り者・危ない奴・億万長者」)。
Sôsharu nettowâku (2010)

ソーシャル・ネットワーク 映画2.jpg IT業界の裏側を覗き見ると言うより、Facebookがどのようにして生まれたか自体に関心があって観ましたましたが、意外だったのは、最初は極端にオタクっぽく見えたザッカーバーグ(この人、アスペルガー症候群?)が、後半になると随所で経営者才覚を発揮する点で、ビル・ゲイツなどもこのプロセスを経てきているのだろうけれど、前半及び裁判シーンでザッカーバーグの"KY(空気読めない)ぶり"がやや強調され過ぎている感じもしました(映画として面白くするため?)。
ジェシー・アイゼンバーグ(放送映画批評家協会賞「主演男優賞」受賞)

 この作品の制作に際してFacebook側の協力は得らておらず、結局どこまでが事実で、どこからが創作なのかは不明ですが(この点が個人的には最も不満)、ザッカーバーグ自身はこの作品を公開初日にFacebookの社員全員で観に行ったそうで、「事実とそうでない部分が混ざっていて面白かった。映画の中で着ているTシャツは完全に正しい。全部僕が持ってる服と同じだったよ。サンダルのメーカーまで完璧に合ってる(笑)。でも、基本的な部分で間違っているところが多い。例アンドリュー・ガーフィールド.jpgえば、Facebookを作った理由が"女の子にモテたいから"ってなってたけど、僕と彼女はFacebookを作る前から付き合っているし、別れたこともないんだよ(実際にザッカーバーグは'12年5月、このハーバード時代の同窓生である東洋系の彼女と結婚式を挙げた)。ただ、映画を観た多くのFacebookユーザーから"感激しました!"という反応があった。この映画を観て、コンピューターの分野に進むことを決意する人が出てきたり、そういう影響を与えたことは最高に凄いと思う。その部分だけはね」とコメントしており、割合マトモな談話ではないかなあ(元々はマトモな人物なのか、それとも財界人になって社会的協調性を身につけたのか?)。

ジェシー・アイゼンバーグ/ブレンダ・ソング/アンドリュー・ガーフィールド(「わたしを離さないで」('10年/英)/「沈黙 -サイレンス-」('16年/米))
わたしを離さないで ガーフィールド.jpg沈黙%E3%80%80サイレンス.jpg

ルーニー・マーラ(マーラ姉妹・妹) (→
Rooney Mara2.jpgルーニー・マーラ.png「ソーシャル・ネットワーク」●原題:THE SOCIAL NETWORK●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・フィンチャー●製作:スコット・ルーディン/マイケル・デ・ルカ/シーアン・チャフィン●脚本:アーロン・ソーキン●撮影:ジェフ・クローネンウェス●音楽:トレント・レズナー/アッティカス・ロス●原作:ベン・メズリック「facebook」●時間:121分●出演:ジェシー・アイゼンバーグ/アンドリュー・ガーフィールド/ジャスティン・ティンバーレイク/ブレンダ・ソング/ラシダ・ジョーンズ/ジョゼフ・マゼロ/マックス・ミンゲラ/ルーニー・マーラ/アーミー・ハマー/ダグラス・アーバンスキ/ダコタ・ジョンソン/トレヴァー・ライト/ウォレス・ランガム●日本公開:2011/01●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(評価:★★★)

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社会的偏見と人間のエゴイズムをシンプルに凝縮。岩波文庫版(特に旧版)は挿絵が豊富。

脂肪の塊 モーパッサン 岩波2 (1).jpg2『脂肪の塊』.jpg 脂肪の塊 モーパッサン 岩波1.jpg マリヤのお雪 1935.jpg 駅馬車 dvd.jpg
脂肪の塊 (1957年) (岩波文庫)』水野 亮:訳 『脂肪のかたまり (岩波文庫)』高山鉄男:訳 「マリアのお雪」(主演:山田五十鈴(当時18歳))VHS 「駅馬車(デジタルリマスター版) [DVD]」[下]"Boule de Suif" (仏・2000年)
脂肪の塊 モーパッサン 岩波4.jpgboule de suif poche (仏・2000年).jpg プロシア占領下の北仏ルーアンからの脱出行を図る馬車に乗り合わせたのは、互いに見知らぬブルジョア階級の夫婦3組、修道女2人、民主主義者の男1人、そして「脂肪の塊」と綽名される娼婦が1人―。大雪で移動に時間を要し、腹が減った彼らは、娼婦が自分の弁当を一同に快く分け与えたおかげで飢えを凌ぐことが出来、一旦は、普段は軽蔑している彼女に親和的態度を見せる。しかし途中の町宿で、占領者であるプロシアの士官が娼婦との関係が持てるまでは彼らの出発を許可しないと言っていると知ると、愛国心ゆえ嫌がる娼婦を無理矢理説き伏せ,士官の相手をさせようとする。そして再び出発の時、皆のために泣く泣く士官の相手をした娼婦を迎えた彼らの態度は、汚れた女を見るように冷たく、娼婦は憤慨し悲嘆にくれる―。

Maupassant  Boule de suif.jpgBoule_de_Suif.jpg 1880年にギ・ド・モーパッサン(1850-1893)が30歳で発表した彼の出世作であり、馬車に乗り合わせた少数の人々が繰り広げるシンプルな出来事の中に、社会的偏見と人間のエゴイズムを凝縮させた、風刺文学の傑作と言えます(皮肉屋モーパッサンの面目躍如といった感じか)。

 それにしてもひどいね、このブルジョア達は。自分達が無事にフランス軍の所に行くことこそ愛国主義に適うことであるとして娼婦を説得したのに、娼婦の犠牲によって足止めが解かれた途端にその行為を「非愛国的」として非難しているわけで、これぐらい分かりやすい"身勝手"ぶりは無く、娼婦の立場を考えれば"残酷"と言っていいくらい(「民主主義者」(注:水野亮訳)のコルニュデのみ沈鬱な様子を見せているのが救いか)。

五木寛之00jpg.jpg 普仏戦争(1870‐71)の戦時下という状況設定ですが、そう言えば五木寛之氏のエッセイにも、五木氏自らが子供の頃に朝鮮で体験した、(占領側に女性を人身御供として差し出すという)同じようなエピソードがありました。但し、この作品のブルジョワ達が、ある種、閉ざされたグループ内での"ノリ"で行動しているように見える点は、わざわざ戦争や階級差別を持ちださなくとも、現代の学校のいじめ問題などにも通じるところがあって、怖いように思えました。

「絵のある」岩波文庫への招待.jpg 作品中、娼婦の呼び名は「ブール・ド・シュイフ(Boule de Suif)」で通されていますが、「脂肪の塊」というのは直訳であり、実際は「おデブちゃん」といったところでしょうか。以前、講談社文庫(新庄嘉章:訳『脂肪の塊・テリエ観』)で読んで、今回、岩波文庫の旧版(水野亮:訳・昭和32年改版版)で再読しましたが、岩波文庫は挿絵入りで、それを見ると、実際丸々太って描かれています。その他にも90ページそこそこの中に挿絵(1930年代のもの)が15点ぐらいあり、状況がイメージしやすくなっています(ブール・ド・シュイフが持っていた弁当がどのようなものであったかとかまで分かってしまう)。

 岩波文庫(の特に旧版)は挿絵が多くて楽しめるものが海外文学、日本文学ともに何点かあり、これもその1冊と言えるでしょう(新版にすべて移植されているとは限らないみたい。岩波文庫の新版『脂肪のかたまり』には挿画あり)。岩波文庫の挿絵に注目した坂崎重盛氏の『「絵のある」岩波文庫への招待』('11年/芸術新聞社)の表紙にも、この「ブール・ド・シュイフ」が中央やや右下に描かれています(文庫の挿絵と比べ反転しているが、表紙の絵は山本容子氏の版画)。

「絵のある」岩波文庫への招待
フランス映画 "Boule de suif" (1945)     ソ連映画 "Pyshka" (1934)
Boule de suif (1945).jpgPyshka (1934).jpg この作品は、旧ソ連(Pyshka (1934))とフランス(Boule de suif (1945))でそれぞれ映画化されていますが(ソ連版はミハイル・ロンム監督、ガリーナ・セルゲーエワ主演、フランス版はクリスチャン=ジャック監督、ミシュリーヌ・プレール主演)、何れも日本ではOyuki the Virgin 1935.jpgなかなか観られないようです(フランス版は輸入版DVD有り)。また、この作品をモチーフに舞台を日本に置き換えた溝口健二(1898-1956)監督の「マリアのお雪 (1935)」(出演:山田五十鈴(当時18歳))という作品もあります。

マリヤのお雪 1935.jpgマリアのお雪 (1935)title.jpg モーパッサンの「脂肪の塊」を川口松太郎(1899-1985)が翻案したもので、西南戦争のさなか、町を出るため名士を乗せた馬車には酌婦の山田五十鈴演じるお雪や原駒子演じるおきんたちも乗り合わせていたが、身分の卑しい彼女らと同席することを士族一家や豪商夫婦は嫌がり「けがらわしいから馬車から降りろ」となじる、そんな折、悪路のために馬車は転倒・大破して立ち往生、一行は身動きとれなくなって官軍により全員足止めを喰らい、そこでお雪が宥和策として官軍将校への人身御供的な立場に―とこの辺りまでは原作に近いですが、ここマリアのお雪 (1935).jpgからなんと、官軍の将校・朝倉晋吾(夏川大二郎)とお雪は惚れ合ってしまい、一方、お雪の代わりに自ら"人身御供"を申し出たおきんは女のメンツを潰された形に川口 松太郎.jpgなり、朝倉を憎みながらも実は彼女もまた朝倉に恋心を抱くという、恋愛・三角関係ドラマになっています。川口松太郎は第1回「直木賞」受賞作家ですが、「愛染かつら」の川口松太郎だから恋愛メロドラマになってしまうのでしょうか(因みに川口松太郎と溝口健二とは小学校時代の同級生で、川口松太郎は溝口監督の「雨月物語」('53年/大映)の脚本なども書いている)。
川口松太郎

駅馬車 dvd.jpg駅馬車 Stagecoach 1939 2.jpg 因みに、ジョン・フォード監督の「駅馬車」('39年/米)は、、1937年発表のアーネスト・ヘイコックスの短編小説「ローズバーグ行き駅馬車」(ハヤカワ文庫『駅馬車』/井上一夫訳)ですが、後にジョン・フォード監督は「この映画の発想源はギ・ド・モーパッサンの小説『脂肪の塊』だ」と語っています(主役のジョン・ウェインは当時ほとんど無名だった)。映画「駅馬車」の大まかなあらすじは、トント発ニューメキシコ州のローズバーグ行駅馬車に様々な身分の乗客が乗り合わせ、その中には婦人会から追い出された娼婦ダラス(クレア・トレヴァー)もいて他の乗客から蔑視される一方、途中から、父と兄を殺され敵討ちのため脱獄したリンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)が乗車し、駅馬車は最初の停車場に到着、ジェロ駅馬車 Stagecoach 03.jpgニモがアパッチ族を率いて襲撃に来ると言う情報があったため護衛の騎兵隊の到着を待つものの、騎兵隊は一向に姿を見せず、このままま進むかトントに戻るか乗客の間で合議した結果、このまま目的地ローズバーグへ進むこととなって、ローズバーグ近くまで襲撃に遭わずに来て、これで無事到着出来ると安堵した矢先、アパッチ族が放った一本の矢が乗客の胸に突き刺さる―というもの。以降、有名なアクションシーンが展開され、さらにリンゴ・キッドの敵討ちの話へと続きますが(このリンゴ・キッドにはジョニー・リンゴというモデルになった実在の人物がいて、3人の無法者に兄を殺され、たった3発の銃弾で兄の敵を討ったという逸話がある)、映画の前半から中盤部分は駅馬車の車内で展開される、差し詰め「移動舞台劇」といった感じでしょうか。その点で確かに「脂肪の塊」と似ています。

駅馬車 Stagecoach 1939 1.jpg 小説「脂肪の塊」での乗り合わせた乗客は、ワイン問屋を経営する夫妻、工場経営者の上流階級夫妻、伯爵とその夫人、二人の修道女と民主党員、それに娼婦エリザベート・ルーセの合わせて10人、一方の映画「駅馬車」の乗客は、当初、娼婦ダラスのほかに騎兵隊夫人、保安官、飲んだくれの医師、酒商人、賭博淀川長治 駅馬車.png屋の計6人で、途中、銀行の金を横領した銀行家が加わり、最後にリンゴ・キッドが乗り込むので合わせて8人ということになります。「脂肪の塊」より2人少ないですが、「脂肪の塊」の方は夫婦連れなども含まれていることから「6組10人」とも言え、「脂肪の塊」では、当時のフランスを象徴する階級を乗り合わさせ、「駅馬車」では当時のアメリカ西部を象徴する代表的な層を乗り合わさせていると言われていますが、「脂肪の塊」の方がブルジョア層の中で娼婦が孤立する図式が強いでしょうか。「駅馬車」は、淀川長治がユナイテッド・アーティスツ日本支社の宣伝部勤務になって最初に担当した作品であり、「駅馬車」という邦題を考えたのも淀川長治淀川長治2.jpgです(右の広告のデザインも淀川長治)。雑誌「キネマ旬報」発表の「映画人が選ぶオールタイムベスト100・外国映画編」で、1999年(キネ旬創刊80周年記念)第7位、2009年(キネ旬創刊90周年記念)第10位と高ランクを維持して日本でも評価されている一方、米国では、70年代ぐらいから騎兵隊 vs.インディアン的な映画はインディアン軽視だとされ制作されなくなり、この「駅馬車」もインディアンに対する差別的な描写があるとして上映・放送は難しくなっているそうです(傑作だけれどもポリティカル・コレクトネス上の問題があるということか)。

img1021マリヤのお雪.jpg山田五十鈴(当時18歳)

img1021マリヤのお雪 - コピー.jpgマリヤのお雪B4.jpgマリヤのお雪 yamadaisuzu.jpg「マリアのお雪」●制作年:1935年●監督:溝口健二●脚色:高島達之助●撮影:三木稔●音楽:高木孝一●原作:川口松太郎「乗合馬車」(原案:モーパッサン「脂肪の塊」)●時間:80分●出演:山田五十鈴/原駒子/夏川大二郎/中野英治/歌川絹枝/大泉慶治/根岸東一郎/滝沢静子/小泉嘉輔/鳥居正/芝田新/梅村蓉子●公開:1935/05●配給:松竹キネマ(評価:★★★)
        
       
駅馬車 Stagecoach 02.jpg「駅馬車」●原題:STAGECOACH●制作年:1939年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジョン・フォード●脚本:ダドリー・ニコルズ●撮影:バート・グレノン/レイ・ビンガー●音楽:ボリス・モロース●原作:アーネスト・ヘイコックス「ローズバーグ行き駅馬車」●時間:99分●出演:ジョン・ウェイン/クレア・トレヴァー/トーマス・ミッチェル/ジョージ・バンクロフト/アンディ・ディバイン/ルイーズ・プラッ/ジョン・キャラダイン/ドナルド・ミーク/バートン・チャーチル/トム・タイラー/ティム・ホルト●日本公開:1940/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-12-28)(評価★★★★)●併映:「シェーン」(ジョージ・スティーブンス)

脂肪のかたまり_7834.JPG脂肪の塊・テリエ館.jpg【1938年文庫化・1957年改版[岩波文庫(『脂肪の塊』(水野亮:訳)]/1951年再文庫化[新潮文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(青柳瑞穂:訳))]/1954年再文庫化[角川文庫(『脂肪の塊―他二編』(丸山熊雄:訳))]/1955年再文庫化[河出文庫(『脂肪の塊』( 田辺貞之助:訳))]/1971年再文庫化[講談社文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(新庄嘉章:訳))]/2004年再文庫化[岩波文庫(『脂肪のかたまり』(高山 鉄男:訳)]/2016年再文庫化[光文社古典新訳文庫(『脂肪の塊/ロンドリ姉妹―モーパッサン傑作選』(太田浩一:訳)]】

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よくまあ18歳でこんなの書いたなあという感じはする。新訳は朝吹訳のトーンを継承?

悲しみよこんにちは 新潮文庫.jpg 悲しみよこんにちは 新潮文庫 河野.jpg悲しみよこんにちは 映画0.bmp フランソワーズ・サガン 1.jpg
悲しみよこんにちは (新潮文庫)』(朝吹登水子:訳)『悲しみよこんにちは (新潮文庫)』(河野万里子:訳)/映画「悲しみよこんにちは」(1957)/Françoise Sagan (photographed above by Sabine Weiss, 1954)

悲しみよこんにちはbonjour-tristesse.jpg 主人公のセシルは、寡(やもめ)の父レーモンとコート・ダジュールの別荘で17歳の夏を過ごしていたが、その別荘に亡き母の友人のアンヌがやって来る。セシルも最初は聡明で美しいアンヌを慕うが、アンヌが父と結婚する気配を見せ始め、母親然としてセシルに勉強のことやボーイフレンドとのことを厳しく言い始めると、父との気楽な生活が続かなくなり、父をアンヌに取られるのではないかという懸念から、彼女はアンヌに反感を抱くようになる。やがて彼女は父とアンヌの再婚を阻止する計画を思いつく―。

 フランソワーズ・サガン(1935-2004)が1954年、18歳で発表したデビュー作で、父親と聡明で魅力的な女性との再婚を、父の愛人と自分の恋人を使って妨害し、最後はその相手の女性を死に追いやってしまうという、何だか陰湿な話であるようにも思えますが、ドロドロした恋愛小説と言うより、しゃれた青春小説のように読めた印象があります。

 新潮文庫の朝吹登水子(1917‐2005)の名訳で知られますが、2009年に河野万里子氏(1959- )の新訳が新潮文庫に加わり、これを読むと確かに現代的で読み易く、やはり朝吹訳はやや古風な感じがすることは否めないものの、それでも45年もの時間差はあまり感じられず、それだけ朝吹訳が当時としては"今風"にこなれていたということでしょうか(河野訳自体が朝吹訳のトーンを意識して継承しているようにも思えた)。

 今回読み直してみて、よくまあ18歳でこんなの書けるなあと改めて感心しました。大人の世界の出来事が子供から大人になりかけている少女に与える影響を描いているわけですが、大人たちの心理の内面には直接踏み込んでいないのが成功している理由かも。それにしても、18歳にして17歳の少女をここまで対象化して描いているのはやはり並の資質ではなかった...。

悲しみよこんにちは 映画 1957.jpg悲しみよこんにちは ちらし.jpg サスペンスフルであるとも言えるストーリーは、オットー・プレミンジャー監督の「天使の顔」(' 52年/仏)と似ているという話がありますが、そのオットー・プレミンジャー監督によって1957年にアメリカ映画化されています。
 映画は、現在の部分がモノクロで回想部分がカラーという作りなっていますが、南仏ニースの風景がたいん美しい(まるで観光映画)。監督が見出した新人ジーン・セバーグが主演、映画もヒットし、"セシルカット"と呼ばれるボーイッシュな髪形が流行したりもしました(その後ゴダール作品などで活躍したJ・セバーグだったが、1979年に自殺とみられる死を遂げている)。

「悲しみよこんにちは」1976年リバイバル公開時チラシ
Bonjour Tristesse [VHS] [Import]

ミレーヌ・ドモンジョ.jpg 映画では、恋多き父親をデイヴィッド・ニーヴン(戦争映画などとは違ったいい味出している。1983年に筋萎縮性側索硬化症で亡くなった)、前の愛人をミレーヌ・ドモンジョ(右写真:アメリカ映画にはこれが初出演)、新しい恋人をデボラ・カー(物語の結末上、個人的には、1982年にコート・ダジュールで自動車事故死したグレイス・ケリーと何となくダブる)が演じていますが、う~ん、役者は皆いいのですが、何となく原作悲しみよこんにちは r.jpgの雰囲気と違うような...(フランソワ・トリュフォーは、「映画がサガンを裏切っているかどうかなんて問題じゃない。プレミンジャーやセバーグにサガンが値するかどうかが問題なのだ」として、一方的に映画の方の肩を持っているが)。
デビッド・ニーブン/ミレーヌ・ドモンジョ/ジーン・セバーグ/デボラ・カー

フランソワーズ・サガン 2.jpg サガン自身はその後も佳作を産み出すものの、セレブとのパーティ三昧、生死を彷徨うスポーツカー事故、ドラッグ所持での有罪判決、ミッテラン元大統領との親密な交際、晩年の貧困の原因となったギャンブル等々、むしろゴシップ・メーカーとして目立った存在でした。

 そのサガンの人生を描いた「サガン―悲しみよこんにちは」('08年/仏)がディアーヌ・キュリス監督によって撮られ、個人的には観ていませんが、主演のシルヴィー・テステューは、サガンに雰囲気が似ていると評判のようです。

映画「悲しみよこんにちは」(1957)より
悲しみよこんにちは 映画10.bmp悲しみよこんにちは 映画3.jpg悲しみよこんにちは 映画4.jpg悲しみよこんにちは 映画5.jpg悲しみよこんにちは 映画6.jpg悲しみよこんにちは 映画7.jpg悲しみよこんにちは 映画8.jpg悲しみよこんにちは 映画2.jpg悲しみよこんにちは 映画1.jpg

悲しみよこんにちは 海外版ポスター.jpg悲しみよこんにちは 映画 1957 dvd.jpg「悲しみよこんにちは」●原題:BONJOUR TRISTESSE●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督・製作:オットー・プレミンジャー●脚本:アーサー・ローレンツ●撮影:ジョルジュ・ペリナール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:フランソワーズ・サガン●時間:90分●出演:デボラ・カー/デイヴィッド・ニーヴン/ジーン・セバーグ/ミレーヌ・ドモンジョ/ジェフリー・ホーン/ジュリエット・グレコ/ワルター・キアーリ/ジーン・ケント●日本公開:1958/04●配給:コロムビア●最初に観た場所:有楽町・スバル座(80-06-06)(評価:★★★)●併映:「シベールの日曜日」(セルジュ・ブールギニョン)悲しみよこんにちは [DVD]

サガン 悲しみよこんにちは.jpg 「サガン―悲しみよこんにちは」(2008)

【2008年再文庫化(新潮文庫)】

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シリーズ中でもかなり手強い犯人像を演じたレナード・ニモイ。アン・フランシスも懐かしい。

溶ける糸 vhs.jpg 刑事コロンボ 溶ける糸.jpg 刑事コロンボ38 ルーサン警部の犯罪.jpg スタートレック 1979 dvd.jpg ギャラクシー・クエスト.jpg
特選「刑事コロンボ」完全版~溶ける糸~【日本語吹替版】 [VHS]」「刑事コロンボ 完全版 Vol.8 [DVD]」レナード・ニモイ「刑事コロンボDVDコレクション~第38話~ルーサン警部の犯罪」「スター・トレック ディレクターズ・エディション 特別完全版 (本編ディスクのみ) [DVD]」「ギャラクシー・クエスト」(ティム・アレン/シガニー・ウィーバー/アラン・リックマン)
溶ける糸 タイトル.jpg溶ける糸 2.jpg 胸部外科医のメイフィールド(レナード・ニモイ)は、上司のハイデマン博士(ウィル・ギア)との心臓移植の拒絶反応を抑える新技術の共同研究の成果を、他の研究グループが発表する前に先手を打って発表すべきだと考えていたが、ハイデマン博士はもっと治験が必要だとして発表を認めない。そんな折、博士が心臓の病に倒れ、博士の主治医でもあるメイフィールドが手術をすることになるが、手術を補佐した看護婦のシャロン(アン・フランシス)は、メイフィールドが縫合糸に何か細工をしたことに気づく。真面目な彼女は自分の疑問を確認しようとするが、その最中にメイフィールドに殺されてしまう―。

「刑事コロンボ溶ける糸」1.jpg溶ける糸2.jpg 「刑事コロンボ」第15話で、レナード・ニモイの冷静な犯人役が際立っている作品。むしろ、コロンボの方がメイフィールドのデスクを叩いて激昂するという珍しい場面(台詞上は「ハイデマン博士の面倒をよくみることだ。もし死んだら、当然われわれは検死解剖を要求する。そして、単なる心臓発作による死亡なのか、糸のためなのかを確認するからな」―言葉使いも荒い)があったりするので、ますますメイフィールドの冷静さが浮き彫りにされるわけですが、この「冷静さ」がコロンボによる事件解決の伏線になっていたわけだなあ(実はコロンボの「激昂」そのものも、メイフィールドを窮地に追い詰め、彼に次の行動を起こさせてボロを出させるための演技だったわけだが)。

ニモイ.bmpニモイ2.jpg 犯人だとは分かっているけれど、証拠が出ない―それが最後の最後で閃いた、土壇場の逆転劇であるとするならば、その直前にコロンボがメイフィールドに対し表向きは負けを認めて一旦引き下がったのは、まだ逆転の可能性はあるという思いを裡に秘めた演技半分、悔しいという本音半分だったのでしょうか。とにかく、それぐらい手強い相手だったということなのでしょう。それにしても、ミスター・スポックことレナード・ニモイ、昔からああいう独特のマスクだったんだなあ。

startrek-1.gif 但し、TV版「宇宙大作戦/スタートレック」は1966年から1969年に全米で放映されており、このコロンボ出演('73年)の前のこと(従って、彼が「コロンボ」に出演していた時には既に「レナード・ニモイ=スポック博士」のイメージが浸透していたことになる)、TV版が映画「スタートレック」になったのが'79年で、その後、「スタートレックⅥ」まで作られましたが(新シリーズを含めると2009年までに11作映画化されている)、「Ⅲ・Ⅳ」をレナード・ニモイ、「Ⅴ」をカーク船長ことウィリアム・シャトナーが監督しています。

刑事コロンボ ルーサン警部の犯罪1.bmp 因みに、宇宙艦エンタープライズ号のカーク船長役のウィリアム・シャトナーも、'76年に「刑事コロンボ」の第38話「ルーサン警部の犯罪」に犯人役で出演しています(第63話「4時02分の銃声」でも再び犯人役を演じている)。

刑事コロンボ ルーサン警部の犯罪2.jpg その「ルーサン警部の犯罪」は、本物の警部が犯罪を犯すわけではなく、テレビの人気ミステリ・シリーズで名警部役を演じている俳優が犯人であるという、あたかも「刑事コロンボ」を意識したかのような背景で、ウィリアム・シャトナー演じるところの犯人が「ルーサン警部」の立場からコロンボと一緒に事件の謎を解いていくという凝った設定ですが、事件そのものは余りに状況証拠が多すぎて、コロンボにとってはあまり難事件とは言えなかったかも。

ウィリアム・シャトナー2.jpg 最後に決め手となる物的証拠も、犯人の指紋の拭き忘れという凡ミスに拠るもので、強いて言えば、犯人が殺人を犯した自分自身とルーサン警部という架空のキャラクターとの区別がつかなくなっている(?)のが、スタートレック」0.jpg犯罪心理面での見所でしょうか。そうしたことも含め、レナード・ニモイの冷静な犯人像に比べると、ウィリアム・シャトナーのこのエピソードにおける犯人像はかなり弱々しく思えました(それにしても、ウィリアム・シャトナー、若いなあ)。

スタートレック」1.jpg 個人的には、「スタートレック」シリーズを劇場で観たのは「Ⅲ」くらいまでかなあ。「新スタートレック」 「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」といったTV版も一部ビデオで観たので、もう、どれがどれだか分らなくなってしまいましたが、作品の出来不出来はともかく、やはり最初に観たのが印象に残りました(「ヴィジャー」って何かと思ったら、そういうことだったのか)。

ギャラクシー・クエストド.jpg いずれにせよ、このTVシリーズと映画化作品が全米で絶大な人気を得たのは事実で、トレッキーまたはトレッカーと呼ばれる熱心なファンがアメリカのみならず世界中の宇宙関連事業関係者にも多いと言われています。そうした現象を逆手に取ってパロディ化したディーン・パリソット監督、ティム・アレン主演の「ギャラクシー・クエスト」('99年/米)というのもありました。20年前TVシリーズ「ギャラクシー・クエスト」で宇宙の英雄である「エンタープライズ号」ならぬ「プロテクター号」乗組員を演じてギャラクシークエストes.jpg人気を博すも、今は売れずにファンへのサイン会ギャラクシークエストード.jpgやイベントを糧にして生活を送っていた俳優たちが、他の星の宇宙人の侵略に苦しむ中「ギャラクシー・クエスト」の電波を自星で受信し、架空のドラマだとは思わずに歴史ドキュメンタリーと信じて助けを求めてきた宇宙人たちによって実際の宇宙戦争に巻き込まれるという二重構造に、「スタートレック」のパロディを絡ませた三重構造の形を取っていて、なんだかオリジナルより面白かったような...。今思えば、当時「エイリアン4」('97年)までの出ギャラクシー・クエスト ド.jpg演を終えたシガニー・ウィーバー(「エイリアン」('79年))、アラン・リックマン(「ダイ・ハード」('88年))、トニー・シャルーブ(「名探偵モンク」)となかなかの配役でしたが、コメディのツボを押さえた作品で、コメディだからといってセットやSFXなどで手抜きをしていないのも良かったです(シガニー・ウィーバーの役のキャラは、「エイリアン」でのリプリー役の"強い女性"から、一応「マディソン中尉」という劇中役ではあるが、伝統的なアメリカン・コミック風のセクシーキャラになっている。彼女自身、とても50歳には見えない肢体を披露したかったのではないか)。

Anne Francis
Anne Francis.jpg溶ける糸 アン・フランシス.jpg 因みに、「溶ける糸」でメイフィールドに殺されてしまう優しく真面目な看護婦役のアン・フランシス(1930-2011)は、ロープウェイでのラストシーンが印象的な「刑事コロンボ」シリーズ第8話「死の方程式」にも秘書役で出ていました。TV番組「ハニーにおまかせ」で人気を得た女優ですが、こちらも「禁断の惑星」('56年)という"宇宙モノ"SF映画に出演していました('11年1月に死去、享年80)。「禁断の惑星」での共演レスリー・ニールセン.bmpは、「裸の銃(ガン)を持つ男」シリーズでコメディ俳優になる前のレスリー・ニールセン('10年11月に死去、享年84)、レスリー・ニールセンは「刑事コロンボ」シリーズ第7話の「もう一つの鍵」で、犯人である広告会社役員役のスーザン・クラークの恋人役で、第34話「仮面の男」で、元同僚のスパイに殺害される被害者役ででも出ています。

 アン・フランシスはレナード・ニモイより半年早い生まれですが、"宇宙モノ"では10年先輩だったのか。

禁断の惑星 20 アン.jpg 禁断の惑星 04 アン・レスリー.jpg アン・フランシス&レスリー・ニールセン 「禁断の惑星」(1956)

「刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸」 s.jpg刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸.bmp「刑事コロンボ(第15話)/溶ける糸」●原題:A STITCH IN CRIME●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:ハイ・アヴァバック●製作:ディーン・ハーグローヴ●脚本:シャール・ヘンドリックス●ストーリー監修:ジャクソン・ギリス●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/レナード・ニモイ/ウィル・ギア/アン・フランシス/ニナ・タルボット/ジャレッド・マーティ/ヴィクター・ミラン/アニタ・コルシオ●日本公開:1973/10●放送:NHK-UHF(評価:★★★★)

刑事コロンボ ルーサン警部の犯罪 vhs.jpg「刑事コロンボ(第38話)/ルーサン警部の犯罪」●原題:FADE IN TO MURDER●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:バーナード・コワルスキー●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ルー・ショウ/ピーター・フィーブルマン●ストーリー監修:ウィリアム・ドリスキル●原案:ヘンリー・ガルソン●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ウィリアム・シャトナー/ローラ・オルブライト/バート・レムゼン/アラン・マンソン/ウォルター・ケーニッグ/ティモシー・ケリー/シェラ・デニス/フランク・エメット・バクスター/ダニー・デイトン/ヴィクター・イザイ/ジョン・フィネガン/フレッド・ドレイパー●日本公開:1977/12●放送:NHK総合(評価:★★★)  「特選 刑事コロンボ 完全版「ルーサン警部の犯罪」【日本語吹替版】 [VHS]


スタートレック8.jpgstartrek 1979.bmp「スタートレック」●原題:STAR TRECK●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ワイズ●製作:ジーン・ロッデンベリー●脚本:ハロルド・リヴィングストン/レナード・ニモイ●撮影:リチャード・H・クライン渋谷パンテオン.jpg●音楽: ジェリー・ゴールドスミス●時間:132分●出演:ウィリアム・シャトナー/レナード・ニモイ/デフォレスト・ケリー/ジェームズ・ドゥーパーシス・カンバータ.jpgハン/ウォルター・ ケーニッグ/ジョージ・タケイ/パーシス・カンバータ/スティーブン・コリンズ/メイジェル・バレット/ニシェル・ニコラス●日本公開:1980/07●配給:パラマウント映画=CIC●最初に観た場所:渋谷パンテオン(80-07-14)●2回目:大井ロマン(85-02-09)(評価:★★★☆)●併映(2回目):「スター・トレック2 カーンの逆襲」(ニコラス・メイヤー)/「スター・トレック3 ミスター・スポックを探せ!」(レナード・ニモイ) 渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年12月1日オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。


宇宙大作戦/スタートレック.jpgStar Trek tv0.jpg「宇宙大作戦/スタートレック」Star Trek (NBC 1966~1969)○日本での放映チャネル:日本テレビ(1969~70)/フジテレビ(1972~74)/NHK-BS2(2007)/スーパー!ドラマTV(2008~)



スタートレック DAGGER OF THE MIND.jpg


   
    
(左端)Marinna Hill as Dr. Helen Noel from Dagger Of The Mind|Star Trek (マリアンナ・ヒル in「宇宙大作戦」第10話「悪魔島から来た狂人」(1966年11月3日本国放映送・1969年日本放映(日本テレビ))、2007年10月13日リマスター版放映(NHK-BS2))

  
          ティム・アレン/アラン・リックマン/シガニー・ウィーバー
ギャラクシークエスト dvd.jpgギャラクシークエスト 2.jpg「ギャラクシー・クエスト」●原題:GALAXY QUEST●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ディーン・パリソット●製作:マーク・ジョンソン/チャールズ・ニューワース●脚本:デビッド・ハワード/ロバート・ゴードン●撮影:イェジー・ジェリンスキー●音楽:デヴィッド・ニューマン●時間:102分●出演:ティム・アレン/シガニー・ウィーバー/アラン・リックマン/トニー・シャルーブ/サム・ロックウェル/ダリル・ミッチェル/エンリコ・コラントーニ/パトリック・ブリーン/ミッシー・パイル/ジャスティン・ロング/ロビン・サックス/ジェド・リース/ジェレミー・ハワード/ケイトリン・カラム/ジョナサン・フェイヤー●日本公開:2000/01●配給:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ(評価:★★★★)
ギャラクシー★クエスト [DVD]
シガニー・ウィーバー in「ギャラクシー・クエスト」
ギャラクシークエスト シガニーウィーバー1.jpgギャラクシークエスト シガニーウィーバー2.jpgギャラクシークエスト シガニーウィーバー3.jpg

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「外套・鼻」ともに先駆的。「外套」はロシアでは映画やアニメに。「鼻」もアニメやオペラに。

外套・鼻 岩波文庫.gif外套 岩波文庫 2.jpg 外套 ポスター.png 外套 バターロフ 1シーン.jpg アレクセイエフ 鼻.jpg 
外套・鼻 (岩波文庫)』/ソ連映画アレクセイ・バターロフ「外套」チラシ・1シーン/アレクサンドル・アレクセイエフ「鼻」

 下級官吏アカーキイ・アカーキエヴィッチ・バシマチキンは、出世栄達に無関係の世界で、周囲から蔑まれながらも役所仕事(文書の清書)に精を出す男で、傍から見れば冴えないその服装や外見も自身は気にとめていない。そんな彼がある日、着古した外套を新調せざるを得なくなり、最初は面倒に思った彼だったが、一念発起して新しい外套を手に入れた時からその人生観は変わり、それまで関心のなかった役所以外のニコラーイ・ヴァシーリヴィチ・ゴーゴリ(Nikolai Gogol).jpg世界も、外套と同様にきらきら輝いたものに見えてきたのだった。ところがその矢先―。

 「外套」はニコライ・ゴーゴリ(1809- 1852)の中編小説で、1840年に書かれ1842年に発表された作品。ある種"怪奇譚"でもあるこの作品の結末を知る人は多いと思います。

ニコラーイ・ヴァシーリヴィチ・ゴーゴリ(Nikolai Gogol)

 うだつの上がらない九等書記官を主人公に、疎外された人間の哀しみをペーソスたっぷりに、時にユーモアと怪奇を交えて描いていますが、やはり、それまで貴族社会を舞台にした小説が多かったロシアで、既存の小説の主人公のイメージとは程遠い、平々凡々たる下級官吏を主人公に据えたところが画期的だと思います(官吏を主人公とした作品としては、先行して同じ作者が1934年に発表した「狂人日記」があるが)。

●官吏を主人公とした作品
・ゴーゴリ「狂人日記」[1834年発表]主人公:アクセンチイ・ イワーノヴィッチ・ ポプリシチン(九等官)
・ゴーゴリ「外套」[1842年発表]主人公:アカーキイ・アカーキエウィッチ(九等官)
・ゴーゴリ「鼻」[1846年発表]主人公:コワリョーフ(八等官)
・ドストエフスキー「貧しき人びと」[1846年発表]主人公:マカール・ジェーヴシキン(九等官)
・ドストエフスキー「二重人格(分身)」[1846年発表]主人公:ゴリャートキン(九等官)
・トルストイ「イワン・イリッチの死」[1846年発表]主人公:イワン・イリッチ(九等官)

 ドストエフスキーがこの作品に大きな影響を受けたとされており、処女作「貧しき人々」の発表は1846年、主人公のマカールは同じく九等書記官の小役人ですが、「外套」発表時、ドストエフスキーは既に「貧しき人々」に着手しており、「貧しき人々」の直後に発表した「二重人格」(「分身」)の方が、より強くゴーゴリの「外套」の影響を受けているように思えます(「二重人格」の主人公は九等文官、人間疎外から狂気に陥る)。

 また、トルストイも影響を受けているように思います。黒澤明監督が映画「生きる」の着想を得たとされている「イワン・イリッチの死」の主人公は、比較的裕福な出自のロシアの裁判官で、順調に出世していた中で突然の病に臥すという、設定はやや異なりますが、アカーキイと同じく公務員であることには違いありません。

 この「イワン・イリッチ」という名前は、「イワン・イリイチ」と呼ぶのが原語の発音に近いらしく(光文社古典新訳文庫の望月哲男氏の訳はそうなっている)、韻を踏んでいるのは役人のルーティン・ワークを象徴しているとされていますが、ならば、同じようなことを先にやったのは、この作品の主人公に「アカーキイ・アカーキエヴィッチ」と名付けたゴーゴリではなかったかと思われます。

 併録の「鼻」(1833年から1835年にかけて執筆されて1836年に発表)のシュール且つナンセンスな感覚も面白く、今で言えば安部公房(「壁―S・カルマ氏の犯罪」など)や筒井康隆がやっていたようなことを、150年も前にやってしまっているというのは、考えてみればスゴイことかも。

外套 輸入盤dvd.jpg外套 02.png 「外套」の方は、本国で何度か映画化されていて、「小犬を連れた貴婦人」('59年/ソ連)に俳優として出演していたアレクセイ・バターロフ(1928年生まれ)監督の作品('60年/ソ連)を観ましたが、原作に沿ってきっちり作られていて、作品全体としては悪くない出来だと思いました。但し、一方で、バシマチキン(アカーキイ)の人物造型はやや"戯画的"に描かれ過ぎていてるようにも思いました(一番劇画チックなのは、彼が幽霊になってからだが)。

「外套」輸入盤DVD

外套01.jpg まあ、原作がそもそも"戯画的"な性格を持っているというのはあるのですが、ペーソスより滑稽と怪奇の方が勝ち過ぎている気もしました。主演のロラン・ブイコフの演技の評価は高[外套.jpgいですが、「名演技」であることには違いないですが、個人的印象としては「怪演」であるとも言えるように思います。ベタなウェット感を拭い去ることによって、最終的には逆にペーソスを引き出そうというのが狙いだったのかもしれませんが。

「外套」(実写版)●原題:Шинель(SHINELI)●制作年:1959年(公開:1960年)●制作国:ソ連●監督:アレクセイ・バターロフ●脚本:L・ソロヴィヨフ●撮影:ゲンリフ・マランジャン●音楽:ニコライ・シレリニコフ●原作:ニコライ・ゴーゴリ「外套」●時間:75分●出演:ロラン・ブイコフ/ユーリー・トルベーエフ/A・エジキナ●日本公開:1974/03●配給:日本海映画●最初に観た場所:池袋・文芸坐 (79-11-14)(評価:★★★☆)●併映:「開かれた処女地」(アレクサンドル・イワノフ)

外套(制作中)2.jpg外套(制作中)1.jpg外套 ノルシュテイン 作業風景.jpg この作品はまた、「霧の中のハリネズミ」「話の話」などで知られ、アレクセイ・バターロフとも親交のあるアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン(Yuriy Norshteyn、1941年生まれ)によってアニメ化もされています。
外套 ノルシュテイン 原画展ポスター 2009年10月 .jpg ユーリー・ノルシュテインは「老人と海」のアニメーションでアカデミー賞を受賞したアレクサンドル・ペトロフ(Alexander Petrov 、1957年生まれ)とは師弟関係にあり、気が遠くなるような手作業で原画を描くことで両者は共通しています(「外套」は30年かけて未だ制作中!)。

 ユーリー・ノルシュテインのアニメ「外套 (YouTube)」もアレクサンドル・ペトロフのアニメ「老人の海 (YouTube)」も共にウェブで視聴可能です。ノルシュテインの「外套」は出来上がっているところまでですが、日本語字幕がついています。アカーキイが文書を清書するところを、書いている文字まで丹念に描いており、これを手作りでやっていれば確かに時間がかかるのも無理ないと思います(他の作品の制作の合間をぬっての作業のようであるし)。

ユーリー・ノルシュテイン「外套」原画展ポスター(2009年10月)

アレクサンドル・アレクセイエフ「鼻」(ゴーリキー原作).jpg 「鼻」の方は、「禿山の一夜」「展覧会の絵」で知られるアニメーション界の巨人アレクサンドル・アレクセイエフ(Alexandre Alexeieff、1901-1982)が短編アニメ映画化していて(「鼻」(1963))、この人の作品はピンスクリーンという手法で知られています(これまた、ボードに立てた「25万本の針」を出したり引っ込めたりして光を当てながら1コマ1コマ撮っていくという、気の遠くなるような時間のかかかる技法)。このアレクセイエフの「鼻」もウェブで視聴可能、音楽のみでセリフは無く、最後はややブラックなオチになっています。

 アレクサンドル・アレクセイエフは17歳でロシアを離れ、二度と戻ることがなかったロシアに対する憧憬や情念を抱えながらアメリカやフランスで制作活動を続けた人で、実際、制作した作品のうち3作品がムソルグスキーの音楽を題材にしたものであり、1作品がゴーゴリの小説を題材にしたこの作品となっています。この作品はまず、メトロノームの速度に合わせて映像を制作し、次に、映像に合うように音楽を制作したそうで、冒頭の太陽の光の変化により時間の流れを表現したり、空間や場面が変化していく様子など、ピンスクリーンでなければ描けない、独特のシュールな映像世界を作り上げています。

アレクサンドル・アレクセイエフ「鼻」(ゴーリキー原作)2.jpgアレクサンドル・アレクセイエフ作品集.jpg鼻 アニメ アレクセイエフ2.jpg「鼻」(アニメ版)●原題:Le Nez (The Nose)●制作年:1963年●制作国:フランス●監督:アレクサンドル・アレクセイエフ●共同監督:クレア・パーカー●原作:ニコライ・ゴーゴリ「鼻」●時間:11分●DVD発売:2006/03●発売元:ジェネオン エンタテインメント(評価:★★★★)
ニュー・アニメーション・アニメーションシリーズ アレクサンドル・アレクセイエフ作品集 [DVD]
(33年制作「禿山の一夜」、63年制作「鼻」、72年制作「展覧会の絵」ほか全5編)

 実写版でも映画化されているのかなあ。教会で"鼻"が何食わぬ様子でお祈りしていたり、その鼻に向かって持主が自分の顔に戻るよう説得するというぶっ飛んだ場面などは(アレクセイエフのアニメは、その時ですら主人公が鼻の無い顔を隠しているのが可笑しい)、少なくとも実写では無理だと思うけれど...と思っていたら、ショスタコーヴィチが作曲家自身及びエヴゲーニイ・ザミャーチン、ゲオルギー・イヨーニン、アレクサンドル・プレイスの台本でオペラにしていることを知りました(タイトルはそのものずばり「鼻」)。これまでにロシアやヨーロッパのオペラハウスでは何度も上演されているようです(初演は1930年1月18日、レニングラード、マールイ劇場) 。

オペラ「鼻」(チューリッヒ歌劇場の公式サイトより)
ショスタコーヴィチのオペラ「鼻」2.jpg オペラ「鼻」.jpg

外套・鼻 岩波 .jpg外套・鼻 (講談社文芸文庫).jpg外套・鼻 (講談社文芸文庫)
(「外套」「鼻」「狂人日記」「ヴィイ」)

【1933年文庫化[岩波文庫(『外套―他二篇』)]/1938年再文庫化・1965年・2006年改版[岩波文庫(平井肇:訳)]/1999年再文庫化[講談社文芸文庫(吉川宏人:訳)]/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(『鼻/外套/検察官』浦雅春:訳)]】

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一気に読ませるエンタテインメント性と、陪審制度の脆弱性批判を兼ね添えた佳作。

陪審評決 単行本.jpg 陪審評決 文庫 上.jpg 陪審評決 文庫下.jpg  ニューオーリンズ・トライアル dvd.jpg ジ―ン・ハックマン.jpg
陪審評決』『陪審評決〈上〉 (新潮文庫)』『陪審評決〈下〉 (新潮文庫)』「ニューオーリンズ・トライアル/陪審評決 プレミアム・エディション [DVD]

The Runaway Jury.jpg 夫が肺癌で死んだのは、長年の喫煙が原因だとして、タバコ会社を相手どって未亡人が訴訟を起すが、結果次第では同様の訴訟が続発する可能性もあり、原告・被告双方の陪審コンサルタントによる各陪審員へのアプローチが開始される。そうした中、選任手続きを巧みにすり抜け、陪審団に入り込んだ青年がいた―

 1996年発表のジョン・グリシャムのリーガル・サスペンスで、この"陪審団に入り込んだ青年"の意図はある程度読み進む内に明らかになりますが、いかにもエンタテイナーの作者らしい設定―但し、現実にこうしたことがあるかと言うとやや疑問で、ただ可能性として、やろうと思えば出来なくもないという意味での、陪審制度の脆弱性の批判になっているように思えました。

 但し、陪審制度への批判の眼目はむしろ、陪審員の選任に関与する陪審コンサルタントの暗躍に対して向けられているように思われ、こちらもかなりサスペンスフルな味付けはされていますが、実際問題として、大企業が陪審コンサルを雇って企業訴訟を有利に導いたり(タバコが肺癌の原因になったという製造物責任訴訟では、タバコ会社側が多額の裁判費用をつぎ込んで敗訴を免れているとの批判が米国法曹界にある)、或いはO・J・シンプソン裁判ではないですが、資力のある被告が自らに同情的な考えを持つであろうと思われる陪審員を揃えることがあったりするようです(シンプソン事件の刑事裁判では"ドリームチーム"と呼ばれた弁護団が結成され、陪審員12人のうち9人が黒人だった)。

 振り返ってわが国の裁判員制度を見れば、裁判員の除外要件は限定列挙的にあるものの、最終的にどういった人を適任としてスクリーニングしているのかよく分からず、なぜ裁判の当事者や一般の国民がそのあたりを突っ込まないのか不思議な気もします(陪審コンサルが暗躍するよりはいいと思うが)。

 結末が『法律事務所』(映画ではなく原作の方)とやや似てはいますが、グリシャムらしい一気に読ませるエンタテインメント性と、制度の脆弱性批判を兼ね添えた佳作だと思います。

 グリシャム作品は、デビュー作の『評決のとき(A Time to Kill)』 ('89年発表) から『ザ・ファーム/法律事務所(The Firm)』 ('91年発表)、『ペリカン文書 (The Pelican Brief)』('92年発表)、『依頼人(The Client)』 ('93年発表)あたりまでは、原題・邦題と映画化作品の原題・邦題がほぼ同じですが、『処刑室(The Chamber)』 ('94年発表) や『原告側弁護人(The Rainmaker)』 ('95年発表)は、映画化作品の邦題は小説の原題をそのまま使用しており、この『陪審評決(The Runaway Jury)』は、映画化作品の原題が"The Runaway Jury"と小説の原題通りであるのに対し、邦題は「ニューオーリンズ・トライアル」となっています。

ニューオーリンズ・トライアル(はっくまん).bmp トライアルは日本における刑事事件の公判に近いものですが、米国では刑事事件・民事事件共通の手続きであり、陪審トライアルだけでなく、陪審無しの裁判官によるトライアルもあり、そもそも刑事・民事ともそこに進む前に司法取引がなされたり和解が成立したりすることが多いため、トライアルにまでいく裁判は少ないとのこと―従って、陪審制(陪審トライアル)の下で行われる事件は実は全体のほんの一部に限られているということですが、映画邦題にこの言葉を選んだのは、リーガル・サスペンスの邦訳タイトルに似たものが多く、とは言え、原題の"The Runaway Jury"(「暴走した陪審員」と「楽勝の陪審員」の二重の意味?)を邦題にしても、日本人にはぴんと来にくいためでしょうか(映画が公開された時、原作がグリシャムとは気付かなかった自分としては「陪審評決」のままでも良かったと思う。「トライアル」でもぴんと来にくいことには変わりない)。

ニューオーリンズ・トライアル(ホフマン).bmp 映画化作品は(タバコ訴訟ではなく、銃乱射事件の被害者が銃器製造会社を訴えるという設定に改変されている)、陪審員に潜り込んだ男にジョン・キューザック、陪審コンサルにジーン・ハックマン、正義を貫こうとする原告側弁護士にダスティン・ホフマンという取り合わせで、映レイチェル・ワイズ ニューオーリンズ・トライアル.jpg画だと三者の細かい遣り取りはどうしても端折りがちにならざるを得ず、むしろ陪審員のプロファイリングに際してFBI顔負けのハイテク機器をも駆使するジーン・ハックマンのやり手ぶりが強調されていたように思います。

評決の値段を"交渉"する2人。ジーン・ハックマンとレイチェル・ワイズ
     
ニューオーリンズ・トライアル(トイレシーン).bmp ダスティン・ホフマンはやや脇に回った感がありますが、ジーン・ハックマンとはお互いの無名時代に、ホフマン夫妻がハックマン夫妻のアパートに転がり込み居候していた時期があったという古い友人同士で、この作品が初共演。一旦クランクアップした後に、そのことに思い当たったゲイリー・フレダー監督が2人を再度召喚し、裁判所のトイレで2人が本音でやり合うシーンを撮ったとのことですが、2人がサシで言葉を交わすのはこの場面しかなく、迫力ある2人の衝突はまさに"共演"と言うより"競演"、レイチェル・ワイズ、ジョアンナ・ゴーイングといった個性派美女も出演している作品ですが、やはりこの二大俳優の激突シーンの迫力が一番印象に残りました(この場面、原作には無いわけだが)。

レイチェル・ワイズ/ジョアンナ・ゴーイング
レイチェル・ワイズ.jpgジョアンナ・ゴーイング.jpg「ニューオーリンズ・トライアル」●原題:THE RUNAWAY JURY●制作年:2003年●制作国:アメリカ●監督:ゲイリー・フレダー●製作:ゲイリー・フレダー/クリストファー・マンキウィッツ/アーノン・ミルチャン/スティーヴン・ブラウン●脚本:ブライアン・コッペルマン/デヴィッド・レヴィーン/マシュー・チャップマン/リック・クリーヴランド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:クリストファー・ヤング●原作:ジョン・グリシャム「陪審評決」●時間:128分●出演:ジョン・キューザック/ジーン・ハックマン/ダスティン・ホフマン/レイチェル・ワイズ/ブルース・デイヴィソン/ジェレミー・ピヴェン/ブルース・マッギル/ジョアンナ・ゴーイング/ヘンリー・ジャンクル/ニック・サーシー/セリア・ウェストン/ディラン・マクダーモット●日本公開:2004/01●配給:東宝東和)(評価:★★★☆)

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ヘンリー・フォンダ、ヴィクター・マチュアが良く、モノクロの味わいがある「荒野の決闘」。

my-darling-clementine.jpg 荒野の決闘 dvd.jpg     GUNFIGHT AT THE O.K. CORRAL.jpg OK牧場の決斗 dvd.jpg
「荒野の決闘」輸入版ポスター/「荒野の決闘 [DVD] ヘンリー・フォンダ/「OK牧場の決斗」輸入版ポスター/「OK牧場の決斗 [DVD]」バート・ランカスター/カーク・ダグラス

Henry Fonda in My Darling Clementine.bmp 牛追いの旅の途中で逗留した墓場の町トゥームストーンで、牛を盗まれ末弟を殺されたワイアット・アープ(ヘンリー・フォンダ)ら兄弟は、犯人を捜すべく町に留まり保安官職を引き受けるが、町には賭博師ドク・ホリディ(ヴィクター・マチュア)がいた。ワイアットは根っからの悪人ではないドクに一目置き、友情を抱く。やがてドクを追って東部からクレメンタイン(リンダ・ダーネル)という女性が来て、ワイアットは密かに恋心を抱くも彼女のドクへの想いを知り、その希望を叶えるためにも酒浸りのドクに酒を控えるよう忠告するが、は自らが病気であることを悟るドク、彼女につれない態度をとる―。
ヘンリー・フォンダ/リンダ・ダーネル

my darling clementine.jpg『荒野の決闘』(1946).jpg 「荒野の決闘」は1946年のジョン・フォード作品ですが、ヘンリー・フォンダの映画と言ってもいいかも(そもそも、ジョン・フォードがジョン・ウェインを使わずヘンリー・フォンダを起用している点が興味深い)。もの静かながらも正義感と責任感を裡に秘め、武骨ながらも時にユーモアも見せるヘンリー・フォンダ独特のワイアット・アープ像が印象的でした。

 '82年リヴァイバル公開時の「いとしのクレメンタイン」というタイトル(実はこれが原題)からしても、メロドラマ的要素の強い作品のように思われていますが、ワイアット・アープとドク・ホリディの男の友情(精神的なホモ・セクシュアルに近い感じも)が軸となっている作品であるとも言えるのでは。

 弟を殺した犯人がクラントン一家と分かり、残されたアープ3兄弟はドク・ホリディと共に、牧場主クラントンと4人の息子兄弟を相手に戦うことになりますが、これが有名な「OK牧場の決闘」―。

My Darling Clementine (1946).jpg この作品の他にも「OK牧場の決斗」('57年/ジョン・スタージェス監督、バート・ランカスター、カーク・ダグラス主演)をはじめ何度か映画の素材になっており、90年代に入ってもトゥームストーン('93年/ジョージ・P・コスマトス監督、カート・ラッセル、ヴァル・キルマー主演)、ワイアット・アープ('94年/ローレンス・カスダン監督、ケヴィン・コスナー、デニス・クエイド主演)と続きましたが、比べると細部においてそれぞれ筋立てが異なる部分があって興味深いです。

 実際には「決闘」ではなく、保安官が銃所持者を武装解除しようとした際に牧舎付近で発生した突発的な銃撃戦だったそうですが(タイトル的には「OK牧場の決斗」の原題(Gunfight at the O.K. Corral)が正しく、僅か2分間で決着したという点は「トゥームストーン」が史実に忠実に作られている)、但し、それまでにアープ兄弟やドク・ホリディとクライトン一家の間で様々な確執があったのは事実のようです。

ビクター・マチュア.jpg 「荒野の決闘」では、ワイアット・アープとドグ・ホリディは酒場で出会って意気投合し、ドク・ホリディに惚れていた酒場の女が銃で撃たれる事件が起きて、ドクがその時に彼女の手術をしたために、彼が元医者であることが初めて皆に知れるというようになっていますが、「OK牧場の決斗」「トゥームストーン」「ワイアット・アープ」では2人は以前から親友だったことになっています。

ビクター・マチュア

 この他に、「荒野の決闘」では、町の酒場で酒ですっかりダメになった役者が荒くれ男たちに絡まれて無理矢理「演劇芸」をさせられるものの「ハムレット」の台詞を忘れて絶句したところ、ドグ・ホリディがつぶやくように後を続けるという場面があり、彼が東部で教育を受けたインテリであることが示唆されています(西部育ちの武骨なワイアット・アープは、只々茫然とそれを見遣る)。

 「荒野の決闘」のワイアット・アープが憧憬を抱いたクレメンタインのような清楚なキャラクターの女性は、「トゥームストーン」でもドグに寄り添う恋人が一応は登場しますが「OK牧場の決斗」には登場せず、代わりに「OK牧場の決斗」ではドグ・ホリディの"情婦"ケイト(ジョー・ヴァン・フリート)が登場し、これはかなりのあばずれ女(「荒野の決闘」の酒場女がこれに該当か)、一方のワイアット・アープの方も、「OK牧場の決斗」では美貌の女賭博師ローラ(ロンダ・フレミング)と、「トゥームストーン」では聡明な舞台女優と、「ワイアット・アープ」では町の美しい踊子と結ばれており、この辺りにくるとどれが本当の話かよく分かりませんが、少なくともドグ・ホリディの恋人に想いを馳せるといった三角関係のようなことは他の3作にはありません。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ.jpg 何よりも「荒野の決闘」が他の作品と異なるのは、この決闘でドク・ホリディが自らの命をあっさり投げ出してしまうことで(ジョン・フォードによって美化されている?)、実在の彼は21歳で肺結核に罹り、医師から余命数カ月と宣告されていたため"死に場所"を探していた可能性は高いですが、ホントは「決闘」 後6年間生きていて、享年は36歳、と言うことは、「決闘」時は30歳。一方ワイアット・アープは、「決闘」時は33歳で、80歳まで生きています。

和田 誠 氏3.jpg 和田誠氏は『お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』('75年/文藝春秋)の中で「OKコラルの決闘は明治14年、ドグ・ホリディが死んだのは明治20年、ワイアット・アープが死んだのは昭和4年だそうである」と、いつ頃のことか想像し易いよう和暦に置き換えて書いています。
お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ

「OK牧場の決闘」チラシ
OK牧場の決闘 チラシ.jpgGunfight at the O.K. Corral2.jpg 「OK牧場の決斗」も西部劇の傑作には違いなく、アクション味やカタルシスの度合いは「荒野の決闘」より上かも知れませんが、個人的には「荒野の決闘」の静かな雰囲気の方が好きかなあ(モノクロームの味わいもある)。

バート・ランカスター/カーク・ダグラス

OK牧場の決斗09.jpg "娯楽作品"vs."文芸作品"という感じで、比較するのにOK牧場の決斗7.jpg無理があるかも知れませんが、ワイアット・アープ像は、保安官然とした「OK牧場の決斗」のバ―ト・ランカスターよりも、じわっと人間味が出ている「荒野の決闘」のヘンリー・フォンダの方Dennis Hopper  in Gunfight at the O.K. Corral .jpgカーク・ダグラス.jpgが上、ドグ・ホリディは誰が演じても受ける"映画向き"のキャラクターという気はしますが、これもヴィクター・マチュアの存在感が、カーク・ダグラス(これも、この作品でのバ―ト・ランカスターと比べると悪くはないが)を上回っているように思います(但し、先に挙げた和田誠氏の『お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』によると、この「荒野の決闘」でのヴィクター・マチュアの一般的評価はあまり高くないようだ)。
カーク・ダグラス(1916-2020/103歳没

デニス・ホッパー/バート・ランカスター

 因みにワイアット・アープは晩年ジョン・フォードと親交を持ち、そのことがフォードの映画作りにも影響しているようであり(結局、「荒野の決闘」が最も創意を含んでいる?)、この作品のワイアット・アープ、と言うよりヘンリー・フォンダは、「アメリカ的騎士道」の体現者といった感じがしました(「駅馬車」('39年)のジョン・ウェインにもそれが当て嵌まる。タイプは"動"のジョン・ウェインと"静"のヘンリー・フォンダで異なるが)。

OK牧場の決闘 ディミトリ・ティオムキン.jpg 「荒野の決闘」のテーマ曲「いとしのクレメンタイン」は、歌詞に"a miner, forty-niner"とあるように、ゴールドラッシュ時代を回顧したアメリカ民謡で、"Clementine"は亡くなった恋人(抗夫の娘)の名、日本では探検・登山家の西堀栄三郎が作詞した「雪山讃歌」として知られています。

 一方の「OK牧場の決斗」のテーマ曲も、同じくジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」('60年)のテーマ曲などと並んで、西部劇のテーマ曲としては超有名で、フランキー・レイン(連続TVドラマ「ローハイド」のテーマもこの人が歌っていた)の歌が作中の場面の変わり目に何度か挿入され、歌詞がドラマの語り手のような役割を果たして効果をあげています。
Frankie Laine :Gunfight At The OK Corral 

墓石と決闘d.jpg墓石と決闘1.jpg ジョン・スタージェス監督自身は「OK牧場の決斗」の内容に不満であったと言われ、この10年後、「OK牧場の決斗」の後日譚をより史実に近い形で描いた「墓石と決闘(Hour of the Gun)」('67年)を撮っていますが、配役はワイアット・アープがジェームズ・ガーナー、ドク・ホリデイがジェイソン・ロバーズに変わっています(OK牧場での決斗シーンから映画が始まるので、正続で描かれ方を比べてみるのもいい)。
墓石と決闘 [Blu-ray]

「荒野の決闘」パンフレット
リンダ・ダーネル.jpg荒野の決闘 パンフレット.jpgMY DARLING CLEMENTINE.jpg「荒野の決闘(いとしのクレメンタイン)」●原題:MY DARLING CLEMENTINE●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・フォード●製作:サミュエル・G・エンゲル●脚本:サミュエル・G・エンゲル/ウィンストン・ミラー●撮影:ジョー・マクドナルド●音楽:シリル・モックリッジ/アルフレッド・ニューマン●原作:サム・ヘルマン/スチュアート・N・レイク●時間:97分●自由ヶ丘劇場2.jpgヒューマックスパビリオン自由が丘.jpg出演:ヘンリー・フォンダ/ヴィクター・マチュア/リンダ・ダーネル/キャシー・ダウンズ/ ウォルター・ブレナン/ウォード・ボンド/ティム・ホルト/ジョン・アイアランド/ジェーン・ダーウェル/アラン・モーブレイ/ラッセル・シンプソン/メエ・マーシュ/フランシス・フォード●日本公開:1947/08●配給:20世紀フォックス=セントラル●最初に観た場所:自由が丘・自由が丘劇場(85-02-17)(評価:★★★★)●併映「わが谷は緑なりき」(ジョン・フォード)
自由が丘劇場 自由が丘駅北口徒歩1分・ヒューマックスパビリオン自由が丘(現在1・2Fはパチンコ「プレゴ」)1986(昭和61)年6月閉館

「OK牧場の決闘」パンフレット
ロンダ・フレミング1.jpgOK牧場の決斗 パンフレット.jpg「OK牧場の決斗」●原題:GUNFIGHT AT THE O.K. CORRAL●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・スタージェス●製作:ハル・B・ウォリス●脚本:レオン・ウーリス●撮影:チャールズ・ラング・Jr●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原案:ジョージ・スカリン●時間:122分●出演:バート・ランカスター/カーク・ダグラス/ロンダ・フレミング/ライル・ベトガー/ジョン・アイアランド/ジョー・ヴァン・フリート/リー・ヴァン・クリーフ/アール・ホリマン/デニス・ホッパ/ケネス・トビー/デフォレスト・ケリGunfight at the O.K. Corral(1957).jpgー/「OK牧場の決斗」ホッパー.jpgジャック・イーラム/ブライアン・ハットン/フランク・フェイレン/マーティン・ミルナー/オリーヴ・ケリー/テッド・デ・コルシア●日本公開:1957/07●配給:パラマウント映画(評価:★★★☆)

Gunfight at the O.K. Corral(1957) 

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アメリカン・ニューシネマ代表作2本。もし配役が当初の予定通りだったら違った作品に?。

俺たちに明日はない dvd.jpg 俺たちに明日はない1シーン.jpg    明日に向かって撃て dvd.jpg 明日に向かって撃て! チラシ 1975.jpg
俺たちに明日はない [DVD]」ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ「明日に向って撃て! (特別編) [DVD]

俺たちに明日はない パンフ 73年リバイバル版.gif俺たちに明日はない 3.jpg 60年代アメリカン・ニューシネマの代表的な作品と言えば、'67年の「俺たちに明日はない」「卒業」、'68年の「ワイルドバンチ」、'69年の「イージー・ライダー」「明日に向って撃て!」「真夜中のカーボーイ」あたりでしょうか。

「俺たちに明日はない」パンフレット(1973年リバイバル版)

アメリカン・ニューシネマ '60~70 別冊太陽.jpg アメリカン・ニューシネマを最も象徴する作品を1つ挙げるとすれば、メッセージ性という点から「イージー・ライダー」を挙げる人もいるかも知れませんが、やはり、"アメリカン・ニューシネマ第1号作品"とも言えるアーサー・ペン(Arthur Penn、1922 -2010)監督の「俺たちに明日はない」(Bonnie and Clyde)がそれに該当するとするのが大方の見方ではないかという気がします(何せ、この作品、当初の監督候補には、フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールといったヌーヴェルヴァーグの担い手の名が挙がっていたぐらいだし)。

アメリカン・ニューシネマ '60~70 別冊太陽 (構成=川本三郎・小藤田千栄子)

「俺たちに明日はない」1.jpg「俺たちに明日はない」2.jpg 名画座で初めて観た時には、既に公開から10年を経ており、それまでにリヴァイバル上映もされていて、おおよその展開を知ってはいましたが、それでも「死のバレエ」と言われるラスト・シーンを観た際の衝撃は大きく、併映の「真夜中のカーボーイ」(これもいい作品)を観終わった後で、また最初から見直しました(その後も何度かリヴァイバル・ロードショーなどで観た)。
俺たちに明日はない1.gif
俺たちに明日はない     .jpg デヴィッド・ニューマンとロバート・ベントンの脚本に共感したウォーレン・ベイティが製作者として関わっていますが、当初は製作に専念する予定だったそうで、一方、彼の姉であるシャーリー・マクレーンが強くボニーの役を願っていたのが、ウォーレン・ベイティがクライド役に決定したためマクレーンは役から降り(脚本の原案では、クライドはバイセクシャルとして扱われていて、これが映画化が難航する原因となったが、映画化のために改変された脚本でもクライドの"不能"がモチーフとして使われているため、何れにせよ、実姉であるマクレーンは降りざるを得なかった)、その結果フェイ・ダナウェイに白羽の矢が立ったとのこと。フェイ・ダナウェイはこの作品で一躍知名度を上げました。

 冒頭の方にある、着替えをするフェイ・ダナウェイの背中を舐めるようなショットが印象的でしたが、ウォーレン・ベイティがクライドを演じなければ、あれも無かったか、または別の女優が演じていた?(この映画の雰囲気は殆どフェイ・ダナウェイが作っているとも言え、フェイ・ダナウェイとシャーリー・マクレーンとでは随分イメージが違うような気がする)

明日に向かって撃て/バート・バカラック 1969.bmp明日に向かって撃て パンフ 75年リバイバル版.jpg ジョージ・ロイ・ヒル(George Roy Hill、1922 -2002)監督の「明日に向って撃て!」(Butch Cassidy and the Sundance Kid)も思い出深い作品であり、「俺たちに明日はない」の約半年前に観たため、自分の中ではある意味、"ニューシネマ"というとこちらの作品になるという面もあります。

「明日に向かって撃て!」パンフレット(1975年リバイバル版)(左)/バート・バカラック・オリジナル・サウンドトラック版CD(右)

明日に向って撃て 1シーン.jpg 「俺たちに明日はない」と同様に実在の人物をベースとしたギャング・ストーリーであり、アメリカン・ニューシネマに特徴的な悲劇的結末を迎えますが、多分この作品で最も印象に残るのは、バート・バカラックの「雨にぬれても」が流れる中、ポール・ニューマン(Paul Newman、1925 - 2008)がキャサリン・ロスを自転車に乗せて走るシーンではないかと思われ、イメージとしては「俺たちに明日はない」より明るいというか、ソフィストケートされて和田 誠 氏.jpgいる印象を受けます。

 この「雨に濡れても」の自転車のシーンは、その後TVコマーシャルで随分マネものが作られましたが、和田誠氏は、このシーンを初めて観た時に「CMみたい」と思ったそうで(『お楽しみはこれからだ PART2―映画の名セリフ』('76年/文藝春秋))、その感覚は分かる気がします。

 当初予定されていた配役は、ポール・ニューマンと共同で脚本を買い取ったスティーブ・マックイーン(Steve McQueen、1930-1980)がブッチ役で、ポール・ニューマンがサンダンス役だったそうですが、マックイーンが都合により出演しなくなったため、ポール・ニューマンがブッチ役に回り、当時無名のロバート・レッドフォード(Robert Redford、1936-)がサンダンス役に抜擢されたとのこと。

明日に向かって撃て 01.jpg しかも、いきなりロバート・レッドフォードに白羽の矢が立ったわけではなく、最初はマーロン・ブランド(Marlon Brando、1924-2004)がポール・ニューマンの共演者としてサンダンス役をやることになっていたのが、キング牧師の暗殺事件にショックを受けた(本当に?)マーロン・ブランドが役を断った結果、ロバート・レッドフォードに初の大役が回ってきたというから、世の中わからないものです。もし、マックイーンとポール・ニューマンの組み合わせだったとすれば、或いはポール・ニューマンとマーロン・ブランドの組み合わせだったら、これも違った雰囲気の作品になっていたように思います。当初予定配役の変更により、結果として、「俺たちに明日はない」はフェイ・ダナウェイを、「明日に向って撃て!」はロバート・レッドフォードを、それぞれスターダムに押し上げた作品になったわけだなあと。
                        
ジーン・ハックマン(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)
俺たちに明日はない ジーン・ハックマン.jpg俺たちに明日はない」.jpg「俺たちに明日はない」●原題:BONNIE AND CLYDE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:アーサー・ペン●製作:ウォーレン・ベイティ●脚本:デヴィッド・ニューマン/ロバート・ベントン/ロバート・タウン●撮影:バーネット・ガフィ●音楽:チャールズ・ストラウス●時間:122分●出演:ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ/ジーン・ハックマン/マイケル・J・ポラード銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg/エステル・パーソンズ/デンヴァー・パイル/ダブ・テイラー/エヴァンス・エヴァンス/ジーン・ワイルダー●日本公開:1968/02●配給:ワーナー・ブラザーズ=セブン・アーツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)●2回目:早稲田松竹(78-05-20)●3回目:銀座文化(88-06-18)(評価:★★★★)●併映(1回目):「真夜中のカーボーイ」(ジョン・シュレジンジャー)
ウォーレン・ベイティ フェイ・ダナウェイ.jpg2017年第89回アカデミー賞作品賞プレゼンター/フェイ・ダナウェイ(76歳)・ウォーレン・ベイティ(79際)
早稲田松竹.jpg高田馬場a.jpg早稲田松竹 1951年封切館としてオープン、1975年からいわゆる「名画座」に
①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹

「スクリーン」1972年 10月号 表紙=キャサリン・ロス
スクリーン 1972年 10月号 表紙=キャサリン・ロス.jpg明日に向って撃て! ロス.jpgbutch_cassidy_and_the_sundance_kid1.jpg「明日に向って撃て!」●原題:BUTCH CASSIDY AND THESUNDANCE KID●制作年:1969●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・ロイ・ヒル●製作:ジョン・フォアマン●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:コンラッド・L・ホール●音楽:バート・バカラック●時間:110分●出演:ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/キャサリン・ロス/ストローザー・マーティン/ジェフ・コーリー/ジョージ・ファース/クロリス・リーチマン/ドネリー・ローズ/ケネス・マース/ヘンリー・ジョーンズ●日本公開:1970/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23)(評価:★渋谷文化劇場.png★★★)●併映:「追憶」(シドニー・ポラック)
渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)

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トム・クルーズとニコール・キッドマンが夫婦だった頃。「オクラホマ・ランドラッシュ」が印象深かった「遥かなる大地へ」。

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遥かなる大地へ 4.jpg 農民が地主の横暴に苦し遥かなる大地へ3.jpgめられた19世紀末のアイルランド、農夫ジョセフ(トム・クルーズ)の父も、厳しい地代の取立ての混乱で事故死する。更に地主の配下に家を焼かれ、怒ったジョセフは地主を射殺しようと地主邸に向かうが失敗、銃の暴発のため負傷し、復ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」2.jpg讐相手の邸で介抱を受けるという間抜けな結果となる。そこには、放火の張本人で地主令嬢と結婚を図るスティーブン(トーマス・ギブソン)がいて、ジョセフは彼を襲うも再度失敗し、彼と決闘させられることに。そこへ、実はスティーブンのお高くとまった性格が嫌いで、堅苦しい生活を捨てアメリカ行きを望む地主令嬢のシャノン(ニコール・キッドマン)が現れ、ジョセフを攫うように連れ去り、二人のアメリカ行きの旅が始まる―。

1889年のランドラッシュ
オクラホマ・ランドラッシュ.jpg アイルランド系移民の苦労を描いたロン・ハワード監督の'92年作品で、トム・クルーズとニコール・キッドマンが仲良かった頃、と言うか、結婚したての頃の作品ですが、映画の中に出てくる「オクラホマ・ランドラッシュ」というのが印象深かったです。ロン・ハワード 「遥かなる大地へ」.jpg1889年4月22日の正午を境にオクラホマへの白人の入植が認められた。同年同月日には15ドルの入植手続き料を支払った人々がオクラホマとの境界に集まり、正午を告げる号砲が鳴ると一斉にオクラホマへと乗り込んでいった。彼らは一人当たり160エーカー(65ヘクタール)の土地を手に入れることができた――これは、新大陸のフロンティア時代の入植者に土地を無料で配るというもので、移民たちが白線に並んで「用意ドン!」で駆けっこして、ここからここまでは自分の土地だと主張した範囲の土地が与えられるというスゴイものなのですが(当然、そこで醜い争いも生じる)、お嬢さんだが気が強いシャノンと、自分の土地を得るにはこの方法しかないと考えるジョセフは、このレースに参加する―。

遥かなる大地へ 2.jpg ロン・ハワードにはアイルランド人の血が流れていて、祖先にはこのオクラホマのランド・ラッシュに実際に参加した人もいたとのことで、随分前からこの映画の構想は練っていたそうです。ニコール・キッドマンをヒロインに想定していたところに、トム・クルーズが出演の名乗りを上げたそうですが、ロン・ハワードは当時二人が交際していることを知らなかったそうです。因みに、トム・クルーズ自身にもアイルランド人の血が流れています。

ニコール・キッドマン.jpg 2人ともいい演技をしています。特に、上流意識を持ち、気位が高いながらも、ボディガード代わりに連れてきたトム・クルーズに内心では惹かれていくニコール・キッドマンの演技がいい(トム・クルーズはこの映画の随所で、状況の急な変化に振り回される、三枚目的な味を出している)。

 フランク・キャップラの「或る夜の出来事」の、寝室で男女がロープにシーツを吊るして「こちらへ先は入ってこないように」というルールを作る「ジェリコの壁」のエピソードなどがパロディ的に織り込まれているなど、細かいところでも楽しめました。

ニコール・キッドマン

ロン・ハワード.jpg 移民たちが駆けっこして奪い合っている土地は、元々は北米原住民のものであるはずという批判的な見方も出来ますが、この映画が日本でも本国でもあまりヒットしなかったことを思うと、もう少し注目されても良かったのでないかと。ロン・ハワードは両親とも俳優だったので、子役の頃から多くのテレビドラマや映画に出演していましたが(「アメリカン・グラフィティ」('73年)などに出ていた)、その後映画監督に転身し、この作品の後「アポロ13」('95年)から「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)まで多くのヒット作を飛ばし、その間「ビューティフル・マインド」('01年)でアカデミー賞監督賞を受賞したりしもして、監督として成功したと言えます。アカデミー賞に関しては、ニコール・キッドマンも「めぐりあう時間たち」('02年)で主演女優賞を獲っています。
ロン・ハワード

トップガン チラシ.jpgトップガン クルーズ.jpgトップガンR.jpg 一方のトム・クルーズは、それ以前に「トップガン」('86年)で一躍世界的なスターになっていたわけで、日本でもこの映画は大ヒットしました。まあ、米海軍が協力を惜しまない "USネイビィのリクルート戦略"の一環のような映画でした。「ハンガー」(′83年/英)のトニー・スコット監督(「エイリアン」(′79年/米)のリドリー・スコット監督の弟)はハリウッドに渡って から「スパイ・ゲーム」('01年)、「アンストッパブル」('10年)など娯楽指向にがらっと作風が変わったみたいですが、この映画に関する個人的印象としては、パターン化されたストーリーで、F-14トムキャットのみが唯々美しかった...。

アンソニー・エドワーズ.jpg ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、ティム・ロビンスら若手俳優の出世作としても知られ、「ER 緊急救命室」の"グリーン先生"ことアンソニー・エドワーズがトム・クルーズの同僚パイロット役で出てましたが、出ていた記憶が薄いのはまだ髪の毛が濃かったせいでしょうか。ともかく、トム・クルーズ人気を一気に高めた作品であって、その分だけ相対的に他の俳優の影が薄い? 後になって、あの人も出ていた、この人も出ていたと言われる映画です(当時まだ皆さほど名が知れてなかったということもあるが)。

 「トップガン」は日比谷スカラ座('98年に閉館)で観たのですが、この劇場は旧「東京宝塚劇場」内にあって、観に行った時はちょうど宝塚の公演がはねた後の「お見送り」で、女性ファンが劇場前に溢れていました。その合間をぬって映画館のフロアに行くと、今度はトム・クルーズのファンだと思われる女性達で一杯...。

ケリー・マクギリス7.jpg トム・クルーズの当時の人気はすさまじく、その勢いで「トップガン」と同年にマーティン・スコセッシ監督の「ハスラー2」('86年)に出演、翌々年にはロジャー・ドナルドソン監督の「カクテル」('88年)、バリー・レヴィンソン監督の「レインマン」('88年)に出演、「ハスラー2」はポール・ニカクテル01.jpgューマンに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、ダスティン・ホフマンと共演した「レインマン」は第61回アカデミー賞と第46回ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、さらに第39回ベルリン国際映画祭においてそれぞれ作品賞を受賞しました。一方、トム・クルーズのスマイルと、フレアバーテンディングによるカクテル作りの派手なパフォーマンスでヒットを博した「カクテル」は、(一応"原作"はあるようだが)完全なトム・クルーズ・ファンのためのアイドル映画でした。これ、ビデオパーティで観た(90-04-01)のですが(自分で選んではいない)、当時の日本のバブリーな雰囲気にマッチしていた面もあったかも。
ケリー・マクギリス2.jpgケリー・マクギリス1.jpg  
 「トップガン」でトム・クルーズの相手役の女性教官を演じたのはケリー・マクギリスですが、トム・クルーズの身長は170cmであるのに対し、ケリー・マクギリスは身長178cmあります。このケリー・マクギリスには二度の離婚歴があり、二人の娘がいますが、2009年に自らがレズビアンであることをカミングアウトし、昨年(2010年)同性婚をしています。


刑事ジョン・ブック 目撃者  v.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス3.jpg ケリー・マクギリスは1982年に映画デビューしていますが、彼女を一躍有名にしたのは、ハリソン・フォードと共演し、アーミッシュの女性を演じた「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)でしょう(これも知人宅でのビデオパーティで観た(89-05-03))。ハリソン・フォード演じる警察の不正を知ったために警察に追われること刑事ジョン・ブック 目撃者 1.jpgになった刑事が主人公で、警察を舞台にした犯罪サスペンスかと思ったら、そのジョン・ブック刑事が匿われたアーミッシュの村の暮らしぶり(と言うより、アーミッシュの人々の考え方)が描かれていて、ある種カルチャーショック映画のようになっていました。ハリソン・フォードはアカデミー主演男優賞にノミネートされましたが、来日した時に、今まで出演した中で一番印象に残っている作品として、この「刑事ジョン・ブック 目撃者」を挙げていました。この作品でのハリソン・フォードの演技の延長上に、後の「フランティック」('90年)や「推定無罪」('90年)、「逃亡者」('93年)などにおける彼の演技があるともとれます。

 主人公のジョン・ブック刑事は最後、ケリー・マクギリス演じるアーミッシュの子持ち未亡人女性と互いに想い合うようになりながらも、住む世界が違うため村を去っていきますが、女性の子ども(彼が事件の「目撃者」)もジョン・ブックに馴染んでいて、ラストはちょっと「シェーン」('53年)と似ているなあと思い刑事ジョン・ブック 目撃者 4.jpgました。女性がアレクサンドル・ゴドゥノフ演じる許嫁候補(?)と仮に結婚したとしても、ずっとジョン・ブックのことを思い続けるのでしょう(「シェーン」にも同じことが言えるが、旦那または許刑事ジョン・ブック 目撃者 ケリー・マクギリス.jpg嫁は"立場ない"なあ)。それにしてもケリー・マクギリス、最初の主演作がハリソン・フォードの相手役で、次がトム・クルーズの相手役であったわけで、当時の圧倒的な美貌のせいもあってか、キャリアの最初の方がとりわけ華々しかったです。

ケリー・マクギリス

「トップガン マーベリック」2022.jpg(●2022年にジョセフ・コジンスキー監督による「トップガン マーヴェリック」('22年/米)が公開され「トップガン マーベリック」2.jpgた。「トップガン」から36年ぶりの続編で、トム・クルーズが前回同様マーヴェリック役を演じ、米海軍パイロットのエリート養成学校、通称"トップガン"に教官として戻ってくることになるも、結局、自らチームを率いて敵地へウラン濃縮施設撃破のために飛ぶことになるというもの。トム・クルーズは60歳で頑張っているなあという感じで、映画もヒットしているようだ。日本でも世代を問わず絶賛する声が多い。ただ、前作と異なり、映画評論家までが褒めていたりするのには違和感を感じる。俳優のミッキー・ロークが、トム・クルーズが「トップガン マーヴェリック」で米国「トップガン マーヴェリック」コネリー.jpgで興行収入1位になったことについてどう思うかとの質問に、「あいつは35年間あんな同じ役を演じてるんだ。尊敬に値しないね」と言っており、そちらの方がまともなマトモな見方とも言える。ヒロイン役はジェニファー・コネリー(51歳)。ケリー・マクギリスは、自分のところには出演オファーが無かったと言っている(笑)。気になったのはストーリーで、教官が部下を救い、今度は部下が教官を救うという話は美しいが、敵地に不時着して、"たまたま近くあった"敵の戦闘機を強奪して帰還するというのはあまりに話が出来過ぎているように思った。かつて、クリント・イーストウッドが監督・主演した「ファイヤーフォックス」('82年)で、イーストウ「ファイヤーフォックス」1982.jpg「ファイヤーフォックス」2.jpg「ファイヤーフォックス」3.jpgッド演じる元米空軍パイロットがNATOの秘密ミッションでソ連に潜入し、最新鋭戦闘機「MiG-31 ファイヤーフォックス」を盗み出すという映画があったが、あれは最初から周到な計画のもとに敵地に潜入しているわけであって、しかも、「ファイヤ―フォックス」 イースト.jpg当時の〈東西冷戦〉状況を背景としているとはいえ戦闘機自体はパイロットの意志を感知してオートマチックに敵を攻撃する機能を搭載しているといった半ばSF仕立てでもあった(この機能は実際に研究されているが、まだ実現していない)。苦心惨憺の末に敵戦闘機に辿り着いたイーストウッドとの比較でみると、トム・クルーズの、不時着した付近にたまたま敵の戦闘機があったというのは、あまりにご都合主義的な話だったように思う。


ヴァル・キルマー (右写真は自身のインスタグラムに投稿したもの。映画より元気そう)
『トップガン マーヴェリック』ヴァル・キルマー.jpg 「トップガン マーヴェリック」には、トム・クルーズが前作と同じ"マーヴェリック"役で出ているほかに、ヴァル・キルマーが前作と同じ"アイスマン"役で出ていて、個人的には「トゥームストーン」('93年)でドク・ホリデイ役をやって、「ワイアット・アープ リベンジー荒野の追跡―」('12年)でワイアット・アープ役をやっていたのが印象にあるが、2015年からはずっと喉頭がんの闘病生活と俳優業を並行してやっていることになる。)


FAR AND AWAY 2.jpg「遥かなる大地へ」●原題:FAR AND AWAY●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー/ロン・ハワード●脚本:ボブ・ドルマン●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:140分●出演:トム・クルーズ/ニコール・キッドマン/トーマス・ギブソン/バーバラ・バブコック/シリル・キューザック/ロバート・プロスキー/コルム・ミーニー/アイリーン・ポロック/ミシェル・ジョンソン/ダグラス・ジリソン/ウェイン・グレイス/バリー・マクガヴァン●日本公開:1992/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★☆)

トップガン3.jpg「トップガン」●原題:TOP GUN●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ドン・シンプソン/ジェリー・ブラッカイマー●脚本:ジム・キャッシュ/ジャック・エップス・Jr●撮影:ジェフリー・キンボール●音楽:ハロルド・ファルターメイヤー/ジョルジオ・モロダー●時間:110分●出演:トム・クルーズ/ケリー・マクギリス/ヴァル・キルマー/アンソニー・エドワーズ/トム・スケリット/マイケル・ アイアンサイド/ジョン・ストックウェル/リック・ロソビ旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpgッチ/メグ・ライアン/ティム・ロビンス●日本公開:1986/12●配給:UIP●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-12-14)(評価:★★)
旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

カクテル 1988.jpgカクテル02.jpg「カクテル」●原題:COCKTALEN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロジャー・ドナルドソン●製作:テッド・フィールド/ロバート・W・コート●脚本:ヘイウッド・グールド●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ピーター・ロビンソン(主題歌:ザ・ビーチ・ボーイズ「ココモ」)●原作:ヘイウッド・グールド●時間:104分●出演:トム・クルーズ/ブライアン・ブラウン/エリザベス・シュー/ケリー・リンチ●日本公開:1989/03●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)
カクテル [DVD]

刑事ジョン・ブック 目撃者 [DVD]
刑事ジョン・ブック 目撃者 poter.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者 dvd2.jpg刑事ジョン・ブック 目撃者ード.jpg「刑事ジョン・ブック 目撃者」●原題:WITNESS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・ウィアー●製作:エドワード・S・フェルドマン●脚本:ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス●撮影:ジョン・シール●音楽:モーリス・ジャール●時間:113分●出演:ハリソン・フォード/ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ジョセフ・ソマー/ダニー・グローヴァー/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/パティ・ルポーン/ブレント・ジェニングス/アンガス・マッキネス/フレデリック・ロルフ/ヴィゴ・モーテンセン●日本公開:1985/06●配給:UIP(評価:★★★☆)


「トップガン マーヴェリック」3.jpg「トップガン マーヴェリック」●原題:TOP GUN: MAVERICK●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフtoho上野 ウルトラマン・トップガン.jpg・コシンスキー●製作:ジェリー・ブラッカイマー/トム・クルーズ/クリストファー・マッカリ「トップガン マーヴェリック」2.jpgー/デヴィッド・エリソン●脚本:アーレン・クルーガー/エリック・ウォーレン・シンガー/クリストファー・マッカリー●撮影:クラウディオ・ミランダ●音楽:ハロルド・フォルターメイヤー/レディー・ガガ/ハンス・ジマー●時間:131分●出演:トム・クルーズ/マイルズ・テラー/ジェニファー・コネリー/ジョン・ハム/グレン・パウエル/ルイス・プルマン/エド・ハリス/ヴァル・キルマー●日本公開:2022/05●配給:東和ピクチャーズ●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン2)(22-07-12)(評価:★★☆)

「トップガン マーヴェリック」プロモーション用オリジナルポスター 
    
ファイヤーフォックス 特別版 [DVD]
「ファイヤーフォックス」ち.jpg「ファイヤーフォックス 特別版.jpg「ファイヤーフォックス」●原題:FIREFOX●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/ウォーレン・クラーク●脚本:アレックス・ラスカー/ウェンデル・ウェルマン●撮影:ブルース・サーティース●音楽:モーリス・ジャール●原作:クレイグ・トーマス●時間:136分●出演:クリント・イーストウッド/フレディ・ジョーンズ/デイヴィッド・ハフマン/ウォーレン・クラーク/ロナルド・レイシー/ケネス・コリー/クラウス・ロウシュ/ナイジェル・ホーソーン/ステファン・シュナーベル/ヴォルフ・二子東急 1990.jpgカーラー/トーマス・ヒル/クライヴ・メリソン/カイ・ウルフ/ディミトラ・アーリス/オースティン・ウィリス/マイケル・カリー/二子東急.gifジェームス・ステイリー/ウォード・コステロ/アラン・ティルヴァー●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-25)(評価:★★★)●併映:「ポルターガイスト」(トビー・フーパー)

二子東急のミニチラシ.bmp二子東急 場所.jpg二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館

 
   
 
1985年3月31日 二子玉川園最終営業日(写真:フォートラベル)
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《読書MEMO》
MSN産経ニュース
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ミス・マープルのシリーズの中でも傑作。ラストの哀しい余韻がいい。

鏡は横にひび割れて ハ―パーコリンズ版.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 鏡は横にひび割れてクリスティー文庫.jpg クリスタル殺人事件 ポスター.jpg 鏡は横にひび割れてdvd.jpg
"The Mirror Crack'd from Side to Side" ハ―パーコリンズ版『鏡は横にひび割れて (1964年) 』『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ・ミステリ文庫)』(カバーイラスト:真鍋博)『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「クリスタル殺人事件」ポスター/「ミス・マープル 第11巻 鏡は横にひび割れて [DVD]

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964.jpg ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964

 アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1962年、72歳で発表した作品で(原題"The Mirror Crack'd from Side to Side")、犯人の動機やラストの余韻が忘れ得ない作品、ミス・マープルのシリーズの中でも傑作中の傑作ではないかと思います。

 タイトルの「鏡は横にひび割れて」は、マリーナがパーティでミセス・パドコックと言葉を交わした直後に見せた、凍りついたような謎の表情が、ヴィクトリア朝の詩人テニスンの「シャロット姫」の中で、鏡が横にひび割れ、シャロット姫が、呪いが我が身にふりかかったことを知った時の表情にも思えたところからきています。

 この後にミセス・パドコックは、誰かにぶつかって飲み物をこぼし、代わりにマリーナから渡されたグラスを飲み干して死ぬ、ということで、犯人はもともとマリーナを狙っていたのか、それとも...。

鏡は横にひび割れて 1971.jpg やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。

 最後に犯人は睡眠薬で自殺を遂げますが、本当に自殺だったのか、それとも、犯人のことを想う身内が裁いたのかという謎が残り、ミス・マープルの推論は後者のようですが、哀しいなあ、この結末。マープルもそれ以上のことは追及しないような終わり方です。
       
英国・Fontana版 (1971) (Cover Illustration By Tom Adams)
      
「クリスタル殺人事件」('80年/英)キム・ノヴァク/エリザベス・テーラー
クリスタル殺人事件1.jpgクリスタル殺人事件2.jpg ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているというクリスタル殺人事件3.jpg感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『白昼の悪魔』を原作とするガイクリスタル殺人事件es.jpg・ハミルトン監督の次回作「地中海殺人事件」('82年)の方がスペインで海外ロケをしている分、舞台に金をかけている)、しかも第三の殺人は省いてしまったりもしています。ラストでマリーナの最期に原作には無いオリジナルのひねり(空のベッド!)を加えていますが、これはまずまず。一方、BBCのテレビ版('92年)も見ましたが、むしろこちらの方が、役者の派手さは無いものの、3時間を超える長さで、且つかなり原作に忠実に作られていて"本格派"のように思いました。
 
TVドラマ「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」 ('92年/英)
The Mirror Crack'd 1992 01.jpgThe Mirror Crack'd 1992 03.jpg 導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。

The Mirror Crack'd  07.jpgThe Mirror Crack'd 1992 02.jpg テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。

The Mirror Crack'd 1992 Joan Hickson.jpgThe Mirror Crack'd 1992 スラック警部.jpg この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「第3話/予告殺人」で捜査に当たったクラドック警部(ジョン・キャッスルが、原作に沿って再び登場し(どうやらやり手であるがために逆に出世が遅れているらしい)、いつも登場するスラック警部(デヴィッド・ホロヴィッチ)は「警視」に昇進しています(スラック警視はクラドック警部の有能さを買っている)。

 シリーズを通してミス・マープルに対抗心を抱きながらいつも先を越され、苦虫を噛み潰してきたスラック警部が、「警視」に昇進して自らが直接捜査に当たる必要がなくなった余裕からか、これまでのミス・マープルを無視しようとする姿勢を全面的に改め、クラドック警部にミス・マープルに相談するようアドバイスする場面が個人的には愉快でした(実はクラドック警部はミス・マープルの甥で、彼女の卓抜した推理力については上司に言われるまでもなく知っている)。スラック警部は、ミス・マープルのおかげで昇進できたということでしょうか。そして、本人にもその自覚がある? シリーズ最終話らしいオチでした。

ミス・マープル 鏡は横にひび割れて BBC.jpg 本作はビデオ('98年)にもDVD('02年)にもなっているし、最近ではAXNで観ました(ジョーン・ヒクソンの吹き替えを担当している山岡久乃(1926‐1999)もいい)。ビデオ化される以前にテレビ東京「午後のロードショー」で放映されています('97年)。(いずれも短縮版) 

ミス・マープル 完全版 DVD-BOX.jpg '98年リリースのVHS版では第12話、DVD版は第11話になっていますが、本国での放映年からみると第12話(最終話)。最初に出されたDVDがシリーズ全12話中11話収録(「ポケットにライ麦を」が欠落)だった関係でしょうか?その後出された完全版DVD‐BOX1とBOX2で全12話がフォローされているが最終話ではなく第11話のまま。ビデオ・DVDの収録順は全体を通して本国でのドラマ版制作順と一致していないようです。 「ミス・マープル[完全版]VOL.11 [DVD]

ミス・マープル[完全版]DVD-BOX 2

Disc 7:「ポケットにライ麦を」(A Pocket Full of Rye)
Disc 8:「牧師館の殺人」(The Murder at the Vicarage)
Disc 9:「動く指」(The Moving Finger)
Disc 10:「魔術の殺人」(They Do It with Mirrors)
Disc 11:「鏡は横にひび割れて」(The Mirror Crack'd)
Disc 12:「予告殺人」(A Murder Is Announced)

クリスタル殺人事件 dvd.jpgクリスタル殺人事件4.jpg「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
クリスタル殺人事件 [DVD]

The Mirror Crack'd from Side to Side 1992.jpg「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 
ミス・マープルbbc.jpgミス・マープル jh.jpgミス・マープル bbc.jpg「ミス・マープル」Miss Murple (BBC 1984~1992) ○日本での放映チャネル:テレビ東京/NHK‐BS2/FOXチャンネル

鏡は横にひび割れて dvd.jpg鏡は横にひび割れて 01.jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第20話)/鏡は横にひび割れて」 (10年/英・米) ★★★★

 【1964年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(橋本福夫:訳)]/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(橋本福夫:訳]/2004年再文庫化[早川書房・クリスティー文庫(橋本福夫:訳)]】

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高評価作品が多い30年~50年代。40年~50年代の12作品の著者の評価を自分のと比べると...。

ミュージカル洋画 ぼくの500本.jpg     巴里のアメリカ人08.jpg バンド・ワゴン 映画poster.jpg 南太平洋 チラシ.jpg
ミュージカル洋画ぼくの500本 (文春新書)』 「巴里のアメリカ人」1シーン/「バンド・ワゴン」ポスター/「南太平洋」チラシ

 著者の外国映画ぼくの500本('03年4月)、『日本映画 ぼくの300本』('04年6月)、『外国映画 ハラハラドキドキぼくの500本』('05年11月)、『愛をめぐる洋画ぼくの500本』('06年10月)に続くシリーズ第5弾で、著者は1910年10月生まれですから、刊行年(西暦)の下2桁に90を足せば、刊行時の年齢になるわけですが、凄いなあ。

 本書で取り上げた500本は、必ずしもブロードウェイなどの舞台ミュージカルを映画化したものに限らず、広く音楽映画の全般から集めたとのことですが、確かに「これ、音楽映画だったっけ」というのもあるにせよ、500本も集めてくるのはこの人ならでは。何せ、洋画だけで1万数千本観ている方ですから(「たとえ500本でも、多少ともビデオやDVDを買ったり借りたりするときのご参考になれば幸甚である」とありますが、「たとえ500本」というのが何だか謙虚(?))。

天井桟敷の人々 パンフ.JPG『天井桟敷の人々』(1945).jpg 著者独自の「星」による採点は上の方が厳しくて、100点満点換算すると100点に該当する作品は無く、最高は90点で「天井桟敷の人々」('45年)と「ザッツ・エンタテインメント」('74年)の2作か(但し、個人的には、「天井桟敷の人々」は、一般的な「ミュージカル映画」というイメージからはやや外れているようにも思う)。
 85点の作品も限られており、やはり旧い映画に高評価の作品が多い感じで、70年代から85点・80点の作品は減り、85点は「アマデウス」('84年)が最後、以降はありません。
 これは、巻末の「ミュージカル洋画小史」で著者も書いているように、70年代半ばからミュージカル映画の急激な凋落が始まったためでしょう。

 逆に30年代から50年代にかけては高い評価の作品が目白押しですが、個人的に観ているのは40年代半ば以降かなあという感じで自分で、自分の採点と比べると次の通りです。(著者の☆1つは20点、★1つは5点)

①「天井桟敷の人々」 ('45年/仏)著者 ☆☆☆☆★★(90点)/自分 ★★★★(80点)
天井桟敷の人々1.jpg天井桟敷.jpg天井桟敷の人々 ポスター.jpg 著者は、「規模の雄大さ、精神の雄渾において比肩すべき映画はない」としており、いい作品には違いないが、3時間超の内容は結構「大河メロドラマ」的な要素も。占領下で作られたなどの付帯要素が、戦争を経験した人の評価に入ってくるのでは? 著者は「子供の頃に見た見世物小屋を思い出す」とのこと。実際にそうした見世物小屋を見たことは無いが(花園神社を除いて。あれは、戦前というより、本来は地方のものではないか)、戦後の闇市のカオスに通じる雰囲気も持った作品だし、ヌード女優から伯爵の愛人に成り上がる女主人公にもそれが体現されているような。

「天井桟敷の人々」●原題:LES ENFANTS DU PARADIS●制作年:1945年●制作国:フランス●監督:マルセル・カルネ●製作:フレッド・オラン●脚本:ジャック・プレヴェール●撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール●音楽:モーリス・ティリエ/ジョセフ・コズマ●時間:190分●出演:アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マルセル・エラン/ルイ・サルー/マリア・カザレス/ピエール・ルノワール●日本公開:1952/02●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)●併映:「ネオ・ファンタジア」(ブルーノ・ボセット)

②「アメリカ交響楽」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★★(70点)自分 ★★★☆(70点)
アメリカ交響楽 RHAPSODY IN BLUE.jpgアメリカ交響楽.jpg この映画の原題でもある「ラプソディー・イン・ブルー」や、「スワニー」「巴里のアメリカ人」「ボギーとベス」などの名曲で知られるガーシュウィンの生涯を描いた作品で、モノクロ画面が音楽を引き立てていると思った(著者は、主役を演じたロバート・アルダより、オスカー・レヴァント(本人役で出演)に思い入れがある模様)。因みに、日本で「ロード・ショー」と銘打って封切られた映画の第1号。

「アメリカ交響楽」 ●原題:RHAPSODY IN BLUE●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:アーヴィン・クーパー●製作:フレッド・オラン●脚本:ハワード・コッホ●撮影:ソル・ポリート●音楽ジョージ・ガーシュウィン●時間:130分●出演:ロバート・アルダ/ジョーン・レスリー/アレクシス・スミス/チャールズ・コバーン/アルバート・バッサーマン/オスカー・レヴァント/ポール・ホワイトマン/ジョージ・ホワイト/ヘイゼル・スコット/アン・ブラウン、アル・ジョルスン/ジュリー・ビショップ●日本公開:1947/03●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

③「錨を上げて」 ('45年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
錨を上げて08.jpg錨を上げて2.jpg錨を上げて.jpgAnchors Aweigh.jpg 4日間の休暇を得てハリウッドへ行った2人の水夫の物語。元気のいい映画だけど、2時間20分は長かった。ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊るシーンは「ロジャー・ラビット」の先駆けか(著者も、その技術を評価。ジーン・ケリーが呼び物の映画だとも)。
錨を上げて アニメ.jpg
「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シドニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル/パメラ・ブリットン/ジョージ・シドニー●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

④「夜も昼も」 ('46年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★(60点)
NIGHT AND DAY 1946.jpg夜も昼も NIGHT AND DAY.jpgNight and Day Cary Grant.jpg アメリカの作曲家コール・ポーターの伝記作品。著者の言う通り、「ポーターの佳曲の数々を聴かせ唄と踊りの総天然色場面を楽しませる」のが目的みたいな作品(曰く「その限りにおいては楽しい」と)。

「夜も昼も」●原題:NIGHT AND DAY●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・カーティズ●製作:アーサー・シュワルツ●脚本:チャールズ・ホフマン/レオ・タウンゼンド/ウィリアム・バワーズ●撮影:ペヴァレル・マーレイ/ウィリアム・V・スコール●音楽監督:レオ・F・フォーブステイン●原作:ナタリー・マーシン●時間:116分●出演:ケーリー・グラント/アレクシス・スミス/モンティ・ウーリー/ジニー・シムズ/ジェーン・ワイマン/カルロス・ラミレス●日本公開:1951/01●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑤「赤い靴」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★(60点)
赤い靴 ポスター.jpg赤い靴.jpg赤い靴2.jpg ニジンスキーとロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフとの関係がモデルといわれているバレエもの(ハーバート・ロス監督の「ニジンスキー」('79年/英)は両者の確執にフォーカスした映画だった)だが、主人公が女性になって、「仕事か恋か」という今も変わらぬ?テーマになっている感じ。著者はモイラ・シアラーの踊りを高く評価している。ヨーロッパには「名人の作った赤い靴をはいた者は踊りの名手になれるが、一生踊り続けなければモイラ・シアラー.jpgならない」という「赤い靴」の伝説があるそうだが、「赤い靴」と言えばアンデルセンが先に思い浮かぶ(一応、そこから材を得ているとのこと)。

「赤い靴」 ●原題:THE RED SHOES●制作年:1948年●制作国:イギリス●監督:エメリック・プレスバーガー●製作:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●脚本:マイケル・パウエル/エメリック・プレスバーガー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽演奏:ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:136分●出演:アントン・ウォルブルック/マリウス・ゴーリング/モイラ・シアラー/ロバート・ヘルプマン/レオニード・マシーン●日本公開:1950/03●配給:BCFC=NCC●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-11-10)●併映:「トリュフォーの思春期」(フランソワ・トリュフォー)
モイラ・シアラー

⑥「イースター・パレード」('48年/英)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
Easter Parade (1949).jpgイースター・パレード dvd.jpg ジュディ・ガーランドとフレッド・アステアのコンビで、ショー・ビズものとも言え、一旦引退したアステアが、骨折のジーン・ケリーのピンチヒッター出演で頑張っていて、著者の評価も高い(戦後、初めて輸入された総天然色ミュージカルであることも影響している?)。

「イースター・パレード」●原題:EASTER PARADE●制作年:1948年●制作国:アメリカ●監督:チャールズ・ウォルターズ●製作:アーサー・フリード●脚色:シドニー・シェルダン/フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●撮影:ハリー・ストラドリング●音楽演奏:ジョニー・グリーン/ロジャー・イーデンス●原作:フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット●時間:136分●出演:ジュディ・ガーランド/フレッド・アステア/ピーター・ローフォード/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン●日本公開:1950/02●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑦「踊る大紐育」('49年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★☆(70点)
踊る大紐育.jpg 24時間の休暇をもらった3人の水兵がニューヨークを舞台に繰り広げるミュージカル。3人が埠頭に降り立って最初に歌うのは「ニューヨーク、ニューヨーク」。振付もジーン・ケリーが担当した。著者はヴェラ=エレンの踊りが良かったと。

踊る大紐育(ニューヨーク) dvd.jpg「踊る大紐育」●原題:ON THE TOWN●制作年:1949年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハロルド・ロッソン●音楽:レナード・バーンスタイン●原作:ベティ・カムデン/アドルフ・グリーン●時間:98分●出演:ジーン・ケリー/フランク・シナトラ/ジュールス・マンシン/アン・ミラー/ジュールス・マンシュイン/ベティ・ギャレット/ヴェラ・エレン●日本公開:1951/08●配給:セントラル●最初に観た場所:テアトル新宿(85-09-23)

巴里のアメリカ人 ポスター.jpg⑧「巴里のアメリカ人」 ('51年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
巴里のアメリカ人2.jpg巴里のアメリカ人 dvd.jpg 音楽はジョージ・ガーシュイン。踊りもいいし、ストーリーも良く出来ている。著者の言う様に、舞台装置をユトリロやゴッホ、ロートレックなど有名画家の絵に擬えたのも楽しい。著者は「一番感心すべきはジーン・ケリー」としているが、アクロバティックな彼の踊りについていくレスリー・キャロンも中国雑伎団みたいで凄い(1951年アカデミー賞作品)。

ジーンケリーとレスリーキャロン.jpg巴里のアメリカ人09.jpg「巴里のアメリカ人」●原題:AN AMERICAN IN PARIS●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:アラン・ジェイ・ラー「巴里のアメリカ人」 .jpgナー●撮影:アルフレッド・ギルクス●音楽:ジョージ・ガーシュイン●時間:113分●出演:ジーン・ケリー/レスリー・キャロン/オスカー・レヴァント/ジョルジュ・ゲタリー/ユージン・ボーデン/ニナ・フォック●日本公開:1952/05●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-05-27)●併映:「シェルブールの雨傘」(ジャック・ドゥミ)

⑨「バンド・ワゴン」('53年/米)著者 ☆☆☆☆★(85点)自分 ★★★★(80点)
バンド・ワゴン08.jpgバンド・ワゴン2.jpgバンド・ワゴン.jpgバンド・ワゴン 特別版 [DVD].jpgシド・チャリシー.jpg 落ち目のスター、フレッド・アステアの再起物語で、「イースター・パレード」以上にショー・ビズもの色合いが強い作品だが、コメディタッチで明るい。ストーリーは予定調和だが、本書によれば、ミッキー・スピレーンの探偵小説のパロディが織り込まれているとのことで、そうしたことも含め、通好みの作品かも。但し、アステアとシド・チャリシーの踊りだけでも十分楽しめる。シド・チャリシーの踊りも、レスリー・キャロンと双璧と言っていぐらいスゴイ。

THE BANDO WAGON.jpg「バンド・ワゴン」●原題:THE BANDO WAGON●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ヴィンセント・ミネリ●製作:アーサー・フリード●脚本:ベティ・コムデン/アドルフ・グリーン●撮影:ハリー・ジャクソン●音楽:アドルフ・ドイッチ/コンラッド・サリンジャー●時間:112分●出演:フレッド・アステア/シド・チャリシー/オスカー・レヴァント/ナネット・ファブレー●日本公開:1953/12●配給:MGM●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

⑩「パリの恋人」('53年/米)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★☆(70点)
パリの恋人dvd.jpg『パリの恋人』(1957).jpgパリの恋人 映画ポスター.jpg 著者曰く「すばらしいファション・ミュージカル」であり、オードリー・ヘプバーンの魅力がたっぷり味わえると(原題の「ファニー・フェイス」はもちろんヘップバーンのことを指す)。Funny Face.jpg 衣装はジバンシー、音楽はガーシュウィンで、音楽と併せて、女性であればファッションも楽しめるのは確か。'S Wonderful.bmp ちょっと「マイ・フェア・レディ」に似た話で、「マイ・フェア・レディ」が吹替えなのに対し、こっちはオードリー・ヘプバーン本人の肉声の歌が聴ける。それにしても、一旦引退したこともあるはずのアステアが元気で、とても57才とは思えない。結局、更に20余年、「ザッツ・エンタテインメント」('74年)まで活躍したから、ある意味"超人"的。

『パリの恋人』(1957) 2.jpgパリの恋人 パンフ.jpg「パリの恋人」●原題:FUNNY FACE●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スパリの恋人 パンフ.jpgタンリー・ドーネン●製作:アーサー・フリード●脚本:レナード・ガーシェ●撮影:レイ・ジューン●音楽:ジョージ・ガーシュウィン/アドルフ・ドイッチ●時間:103分●出演:オードリー・ヘプバーン/フレッド・アステア/ケイ・トンプスン/ミシェル・オークレール●日本公開:1957/02●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(85-11-03)●併映:「リリー・マルレーン」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー) 
  
南太平洋パンフレット.jpg⑪「南太平洋」('58年/米)著者 ☆☆☆★(65点)自分 ★★★☆(70点)
 1949年初演のブロードウェイミュージカルの監督であるジョシュア・ローガンが映画版でもそのまま監督したもので、ハワイのカウアイ島でロケが行われた(一度だけ行ったことがあるが、火山活動によって出来た島らしい、渓谷や湿地帯ジャングルなど、野趣溢「南太平洋」(自由が丘武蔵野館).jpgれる自然が満喫できる島だった)。著者は「戦時色濃厚な」作品であるため、あまり好きになれないようだが、それを言うなら、著者が高得点をつけている「シェルブールの雨傘」などは、フランス側の視点でしか描かれていないとも言えるのでは。超エスニック、大規模ロケ映画で、空も海も恐ろしいくらい青い(カラーフィルターのせいか? フィルターの色が濃すぎて技術的に失敗しているとみる人もいるようだ)。トロピカル・ナンバーの定番になった主題歌「バリ・ハイ」や「魅惑の宵」などの歌曲もいい。

「南太平洋」映画チラシ/期間限定再公開(自由が丘武蔵野館) 1987(昭和62)年7月4日~7月31日 
       
南太平洋(87R).jpg南太平洋.jpg「南太平洋」●原題:SOUTH PACIFIC●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ジョシュア・ローガン●製作:バディ・アドラー●脚本:ポール・オスボーン●撮影:レオン・シャムロイ●音楽:リチャード・ロジャース●原作:ジェームズ・A・ミッチェナー「南太平洋物語」●原作戯曲:オスカー・ハマースタイン2世/リチャード・ロジャース/ジョシュア・ローガン●時間:156分●出演:ロッサノ・ブラッツィ/ミッチ自由が丘武蔵野館.jpgー・ゲイナー/ジョン・カー/レイ・ウォルストン/フランス・ニューエン/ラス・モーガン●日本公開:1959/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:自由が丘武蔵野館(87-07-05)(リバイバル・ロードショー) 自由が丘武蔵野館 (旧・自由が丘武蔵野推理) 1951年「自由が丘武蔵野推理」オープン。1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称し再オープン。2004(平成16)年2月29日閉館。
   
⑫「黒いオルフェ」('59年/仏)著者 ☆☆☆☆(80点)自分 ★★★★(80点)
黒いオルフェ2.jpg黒いオルフェ (1959).jpg黒いオルフェ dvd.jpg 娯楽作品と言うより芸術作品。ジャン・コクトーの「オルフェ」('50年)と同じギリシア神話をベースにしているとのことだが、ちょっと難解な部分も。著者も言うように、リオのカーニヴァルの描写が素晴らしい。カンヌ国際映画祭パルム・ドール、アカデミー外国映画賞の受賞作。

「黒いオルフェ」●原題:ORFEO NEGRO●制作年:1959年●制作国:フランス●監督:マルセル・カミュ●製作:バディ・アドラー●脚本:マルセル・カミュ/ジャック・ヴィオ●撮影:ジャン・ブールゴワン●音楽:アントニオ・カルロス・ジョビン/ルイス・ボンファ●原作:ヴィニシウス・デ・モライス●時間:107分●出演:ブレノ・メロ/マルペッサ・ドーン/マルセル・カミュ/ファウスト・グエルゾーニ/ルルデス・デ・オリベイラ/レア・ガルシア/アデマール・ダ・シルバ●日本公開:1960/07●配給:東和●最初に観た場所:八重洲スター座(79-04-15)

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世に出るのが早過ぎた(?)エコロジー映画。
ローカル・ヒーロー/夢に生きた男3.jpgローカル・ヒーロー/LOCAL HERO .jpgローカル・ヒーロー夢に生きた男1.jpg ローカル・ヒーロー夢に生きた男2.jpg 
ローカル・ヒーロー 夢に生きた男 [DVD]」「ローカル・ヒーロー [DVD]
バート・ランカスター/ピーター・リガート

ローカル・ヒーローLOCAL HERO.jpg テキサスに本拠を置くアメリカ最大の石油会社のエリート社員マッキンタイヤ(ピーター・リガート)は、石油コンツェルンの会長(バート・ランカスター)から石油コンビナートの土地買収を命じられて、スコットランドの漁村へ派遣されるが、地元住民の反対に合うかと思われた土地買収は、村人の方が「金が入るなら」と意外と積極的で、ところがいよいよ契約という段階で、ベン(フルトン・マッケイ)という入江の小屋に住む老人が所有地を手放すことに強く抵抗していることが判り、交渉が難航し始める―.

local hero 1983 2.jpg 一応はビジネスドラマみたいな体裁で話は進みますが、まさかラストがこうなるとは―。エリート社員マッキンタイヤの趣味は天体観測で、石油コンツェルン会長からは土地買収の交渉状況と併せてスコットランドの星空の模様を電話で知らせることも命じられていたのですが、そしたら、偶然に大流星群を発見することになり、会長はそれを見るため現地へ飛びますが、その前にベン老人との交渉を片付けてしまおうと彼の小屋に寄ることになります。
バート・ランカスター
ビル・フォーサイス 「ローカル・ヒーロー/夢に生きた男」.jpg マッキンタイヤと村人の間で土地買収に向けて親和的基調で話が進むなか、老人との直接交渉のために出向いたバート・ランカスター演じる会長、いかにも強面(こわもて)の石油王と、村の頑固老人の、絶対に「他人の言いなりにはならなさそうな者」同士の一騎打ちの結末はどうなるのか、これは本編を観てのお楽しみといったところでしょうか。

LOCAL HERO3.jpg 英国風ユーモア、スコットランド美しい自然と純朴な人々、心地良い音楽―振り返ればどれもが旨く調和していて、しかも最後に観る側を満たされた気分にしてくれる作品だったと思うのですが、ロードの際もロード終了後も一部でしか評判にならなかったのは、ビジネスドラマなのか、ある種のメルヘンなのか、規定の仕様が無かったという面があるためではないでしょうか(誰をターゲットに告知してよいのかが難しい)。今ならば、「エコロジー映画」ということでドーンと打ち出せるのだろうけれども...。そうした意味では、ちょっと世に出るのが早過ぎた作品です。

「大井武蔵野館」ぼうすの小部屋 - おでかけ写真展より/大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館
大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館2.jpg大井武蔵野館.jpg「ローカル・ヒーロー/夢に生きた男」●原題:LOCAL HERO●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督・脚本:ビル・フォーサイス●製作:デイヴィッド・パトナム●撮影:クリス・メンゲス●音楽:マーク・ノップラー●時LOCAL HERO 1983.jpg間:112分●出演:バート・ランカスター/ピーター・リガート/デニス・ローソン/ピータ大井武蔵野館 閉館日.jpgー・キャパルディ/フルトン・マッケイ/ジェニー・シーグローヴ/ノーマン・チャンサー/クリス・ロジツキー●日本公開:1986/04●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:大井武蔵野館 (87-11-03)(評価:★★★★☆)●併映:注目すべき人々との出会い」(ピーター・ブルック)
大井武蔵野館 時代屋の女房.jpg大井武蔵野館 閉館日(1999(平成11)年1月31日)

大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)
大井武蔵野館・大井ロマン.jpg

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スティーブ・オベット、セバスチャン・コー、ジョナサン・エドワーズなどを想起させられた。

炎のランナー1.jpg 「炎のランナー[DVD]」 炎のランナー0.jpg

炎のランナー.jpg 裕福な家庭の出ではあるがユダヤの血をひくために差別と偏見を受け、走ることによって栄光を獲て真のイギリス人になろうとするハロルド・エイブラハムスと、スコットランド人宣教師の家に生まれ、自身も神のために走る宣教師であるエリック・リデルという、1924年のパリ・オリンピックで祖国イギリスに金メダルをもたらした2人の陸上短距離ランナーの友情を描く―。

『炎のランナー』(1981).jpg 米アカデミー賞と英国アカデミー賞の両方で作品賞を受賞した作品(トロント国際映画祭の最高賞である「観客賞」、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞「作品賞」、ゴールデングローブ賞外国映画賞、ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」なども受賞)。ヴァンゲリス・O・パパサナシュー(最近は"ヴァンゲリス"としか表記しないがギリシャ人)作曲の「タイトルズ(Chariots of Fire)」が陸上競技の美しい映像にマッチして耳にも心地良く、スポ根・ライバル物でもイギリス人が撮るとこんなに優雅なものになるのかと。

 冒頭のランナー達が浜辺を走るシーンなどは音楽効果も相俟って陶然とするほど美しく、さらにはまた、芝の庭に並べたハードル1台1台の上にシャンパンを満たしたグラスをいくつも並べてそれを飛び越えていく、そんな練習風景のシーンには、うっとりする前に唖然としてしまいまいましたが、でもやはり美しかった―。


     
Steve Ovett & Sebastian Coe in the 1980 Moscow Olympics.jpg 実在の2人の陸上選手がモデルになっているそうですが、映画公開当時は、70年代から80年代にかけて活躍したイギリスの陸上選手スティーブ・オベットセバスチャン・コーをすぐに想起しました。'80年のモスクワ五輪でオベットはコーの得意とする800mで、コーはオベットの得意とする1500mでそれぞれ金メダルを獲っていますが(コーは4年後のロス五輪でも金)、2種目でメダルをわけ合った点も似ているし、コーが優等生タイプでオベットがコーの敵役と見られていた点も似ています。
Steve Ovett & Sebastian Coe in the 1980 Moscow Olympics

ジョナサン・エドワーズ.jpg オリンピックの100m競技が日曜日に行われることになっていたのを、リデルが"安息日"であるためとして出場を拒否し、代わりに走ったエイブラハムスが出場し金メダルを獲得したというのは史実であり、このことは、より近年の話ですが、三段跳びの'00年シドニー五輪の金メダリストで、現世界記録保持者であるジョナサン・エドワーズ(彼も敬虔なクリスチャンだが)が、'91年の世界陸上東京大会で、競技日が日曜日だったため「神の定めた安息日に競技を行うことはできない」として欠場したことを想起させます(その後、彼は考えを変えたが)。アメリカの陸上選手は黒人ばかり。一方イギリスは、陸上スポーツの世界にも、こうしたエスタブリッシュな伝統が受け継がれているのだなあと。
Jonathan Edwards

 リデルは後に宣教師として家族とともに中国に渡り、満州事変の後も1人滞在しましたが、日本軍に拘留され、収容所で病のため亡くなっています(このことは映画の最後でもテロップ紹介されていて、彼の死に際してはイギリス全土が喪に服したとのこと)。スポーツの"中"の世界は同じでも、"外"の世界(時代背景)はやはり違う。

 因みに、この作品を観た「新宿プラザ劇場」は1,044席の大型劇場でしたが、昨年(´08年)11月に閉館し、それにより都内で座席数1,000以上の劇場は、同じ歌舞伎町の「新宿ミラノ1」だけとなりました。2014年閉館

【オープン順】
  旧「日本劇場」 1933年オープン時 2,063席 → 1981年閉館
 「日比谷映画劇場」1934年オープン時 1,680席 → 1984年閉館
 「渋谷東宝」(東横映画劇場)1936年オープン時 1,401席 → 1989年閉館(閉館時1,026席)
  旧「有楽座」  1949年~ロード館 1,572席 → 1984年閉館
 「松竹セントラル」1952年オープン時 1,156席 → 1999年閉館
 「テアトル東京」 1955年オープン時 1,248席 → 1981年閉館
 「日比谷スカラ座」1955年オープン時 1,197席 → 1998年閉館
 「新宿ミラノ座」 1956年オープン時 1,288席 → 2006年「新宿ミラノ1」に改修 1,064席 → 2014年閉館
 「渋谷パンテオン」1956年オープン時 1,119席 → 2003年閉館
 「新宿ピカデリー」1962年オープン時 1,044席 → 2001年「ピカデリー1」に改修 820席 → 2006年閉館
 「新宿プラザ劇場」1969年オープン時 1,119席 → 2008年閉館(閉館時1,044席)
 「日本劇場」   1984年オープン時 1,008席 → 2002年「日劇1」に改修 948席 → 2018年閉館

「炎のランナー」●原題:CHARIOTS OF FIRE●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:ヒュー・ハドソン●製作:デヴィッド・パットナム●製作指揮:ドディ・フェイド●脚本:コリン・ウェランド●撮影:デヴィッド・ワトキン●音楽:ヴァンゲリス●時間:123分●出演:ベン・クロス/イアン・チャールソン/イアン・ホルム/コリン・ウェランド/ナイジェル・ヘイバース/アリス・クリーグ/シェリル・キャンベル/ニコラス・ファレル/ナイジェル・ヘイヴァース /ジョン・ギールグッド●日本公開:1982/08●配新宿プラザ 閉館上映チラシ.jpg新宿プラザ劇場 タイタニック.jpg新宿プラザ劇場200611.jpg新宿プラザ劇場内.jpg給:コロムビア映画●最初に観た場所:新宿プラザ(82-08-28)●2回目:新宿プラザ(82-08-28)(評価:★★★★)

歌舞伎町・新宿プラザ劇場 1969年10月31日オープン、コマ劇場隣り (1,044席) 2008(平成20)年11月7日閉館

新宿コマ劇場前「シネシティMAP」
新宿「シネシティMAP」.jpg

2012年ロンドン・オリンピック開会式/「ミスター・ビーン」ことローワン・アトキンソンによるパロディ

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食べ過ぎによる自殺を図る4人の男たちを描いた怪作「最後の晩餐」。インパクトあった。

最後の晩餐/ニュー東宝シネマ2.jpg 最後の晩餐.jpg 最後の晩餐 パンフレット.jpg 「最後の晩餐」4.jpg ありきたりな狂気の物語 dvd.jpg
「最後の晩餐」ポスター(ニュー東宝シネマ2)/「最後の晩餐 [DVD]」「最後の晩餐」パンフレット/マルチェロ・マストロヤンニ  「ありきたりな狂気の物語 [DVD]

「最後の晩餐」1.jpg もしも、美味しいものを食べられるだけ食べて、食「最後の晩餐」1.jpgべられなくなってもとにかく食べ続け、最期は食べ過ぎによる自殺死を遂げる人がいたとしたら、その所為はかなり狂気に近いと言わざるを得ないだろうが、この映画に登場する4人の男たちはそれをやってのける―。

「最後の晩餐」輸入版ポスター

「最後の晩餐」2.jpg 「最後の晩餐」はパリの郊外の邸宅に、料理家ウーゴ(ウーゴ・トニャッツィ)、国際線パイロット・マルチェロ(マルチェロ・マストロヤンニ)、裁判官フィリップ(フィリップ・ノワレ)、俳優ミシェル(ミシェル・ピッコリ)の4人の食通仲間が集い、贅沢を極めた料理を食べ続け、ついでに性欲もフルに満たしながらの饗宴(狂宴?)を繰り広げ、1人ずつ順番に、最後は4人とも、目的通り"食べ過ぎ"により死んでいくというもの。この映画はイタリア・フランス合作映画で、主演の4人も伊・仏混成となっていますが、監督はイタリアの奇才マルコ・フェレーリ(1928 ‐1997)です(カンヌ国際映画祭「FIPRESCI賞(国際映画批評家連盟賞)」受賞作)。

「最後の晩餐」3.jpg そう言えば、同じイタリア人監督フェデリコ・フェリーニの「サテリコン」('70年/伊)にも、ローマ貴族の酒池肉林の宴を描いたシーンがあり、スケールの大きさでは「サテリコン」の方が上だったかもしれません。但しこの「最後の饗宴」は、男4人の酒池肉林の如き宴の(この作品の場合「肉」には色欲の意味も加わるか)、その部分のみを延々と追って1本の作品として撮り切っていて、そうした意味では他に類を見ないものと言え、何れにせよ、日本人の発想からは作られないだろうと思われる作品です。

「最後の晩餐」4.jpg この映画の中での4人は明るい―しかし、そこには何か底知れない虚無も感じられ(自殺しようとしているわけだから当然か)、生きることの最終目的は食欲と性欲の充足であるとの割り切りも感じられます。考えてみれば、ヒトは端的に言えばこの4人と似たような生き方をしているのかも知れず、但し、"次の機会"を期待して今死なないだけで、そうこうしながら緩慢に死に向かっていると言えなくもありません。「ひきしお」('71年/仏・伊)の監督でもありますが、面白い映画を撮る人だと思いました。


 この作品以降のマルコ・フェレーリ監督の代表作では「ありきたりな狂気の物語」('81年/伊・仏)「未来は女のものである」('84年/伊・仏・西独)などがありました。

ありきたりな狂気の物語 パンフ.JPG 「ありきたりな狂気の物語」は、アルコール中毒の老詩人と中年の娼婦が恋に落ち、破滅的な結末へと向かっていくという話で、チャールズ・ブコウスキーの自伝的短編の映画化作品。

ありきたりな狂気の物語1.jpgありきたりな狂気の物語2.jpg 自分のインスピレーションが枯渇してしまったと思っていた、ロスに住む主人公の詩人(ベン・ギャザラ)が、街一番の美女である高級娼婦(オルネッラ・ムーティ)と知り合うことで創造力を取り戻し、また、彼女のおかげで破滅指向から生還するも、詩の創作活動を再開しようと、彼女の反対を押し切って張り切ってニューヨークに行って挫折し、戻ってきたら彼女は自殺していた-というもので、イタリア人監督がアメリカ人を主人公に撮っているわけですが、オルネッラ・ムーティをはじめ、醸している雰囲気はヨーロッパ風といったところでしょうか。多くの賞を受賞した作品ですが、個人的にはやや肌に合わなかった面も...。但し、この頃のオルネッラ・ムーティは、こうした物語に相応しい魅力を備えていたように思います。

未来は女のものである03.jpg未来は女のものである.jpg 「未来は女のものである」は、同棲生活を送る男女の間に一人の妊娠した女が入り込むという奇妙な人間関係を描いたもので、妊婦役のオルネッラ・ムーティが詰め物なし(実際に妊娠中だった)で出ていたのにはちょっと驚きましたが、結局のところ、この作品も「最後の晩餐」を超えるほどのインパクトは無かったように思います。
映画チラシ 「未来は女のものである」監督 マルコ・フェレーリ 出演 オルネラ・ムーティ、ハンナ・シグラ、ニエルス・P・アレストラップ
 
「最後の晩餐」5.jpg「最後の晩餐」●原題:LA GRANDE BOUFFE●制作年:1973年●制作国:イタ「最後の晩餐」2.jpgリア・フランス●監督・脚本:マルコ・フェレーリ●製作:ヴァンサン・マル/ジャン=ピエール・ラッサム●撮影:マリオ・ヴルピアーニ●音楽:フィリップ・サルド●時間:130分●出演:マルチェロ・マストロヤンニ/ウーゴ・トニャッツィ/フィリップ・ノワレ/ミシェル・ピッコリ/アンドレア・フェレオル●日本公開:1974/11●最初に観た場所:大塚名画座 (78-11-07) (評価★★★★☆)●併映:「糧なき土地」(ルイス・ブニュエル)/「自由の幻想」(ルイス・ブニュエル)

ありきたりな狂気の物語3.jpg「ありきたりな狂気の物語」●原題:STORIE DI ORDINRIA FOLLIA(TALES OF ORDINALY MADNESS)●1981年●制作国:イタリア・フランス●監督:マルコ・フェレーリ●製作:ジャクリーヌ・フェレーリ●脚本:マルコ・フェレーリ/ありきたりの狂気の物語 shintyou.jpgセルジオ・アミディ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:フィ銀座文化1・2.pngリップ・サルド●原作:チャールズ・ブコウスキー「ありきたりな狂気の物語」●時間:107分●出演:ベン・ギャザラ/オルネラ・ムーティ/タニヤ・ロペール/スーザン・ティレル/ロイ・ブロックスミス/カティア・バーガー●日本公開:1984/10●配給:イタリア会館●最初に観た場所:銀座文化1 (84-10-05) (評価★★★☆)

チャールズ・ブコウスキー『ありきたりの狂気の物語』['94年/新潮社](短編集)

未来は女のものである01.jpgIL FUTURO E DONNA 1984.jpg「未来は女のものである」●原題:IL FUTUPO E DONNA●1984年●制作国:イタリア・フランス・西ド未来は女のものである 9.jpgイツ●監督:マルコ・フェレーリ●脚本:マルコ・フェレーリ/ダーチャ・マライーニ/ピエラ・デッリ・エスポスティ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:カルロ・サヴィーナ●時間:100分●出演:オルネラ・ムーティ/ハンナ・シグラ/ニエル・アレストラップ●日本公開:1986/03●配給:ヘラルド・エース●最初に観た場所:新宿シネマスクウェア東急 (86-03-22) (評価★★★)
ハンナ・シグラ/オルネラ・ムーティ

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佐々木倫子の部分が星3.5で、綾辻行人の部分が星2.5。『オリエント急行の殺人』へのオマージュか。
月館の殺人.jpg 佐々木 倫子 (原作:綾辻行人) 『月館の殺人』.jpg   オリエント急行殺人事件  1974 dvd.jpg オリエント急行殺人事件01.jpg
月館の殺人 上 IKKI COMICS』 『月館の殺人 (下) 』「オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
月館の殺人3.jpg 沖縄育ちの雁ヶ谷空海は、鉄道嫌いの母の影響もあり、未だかつて電車に乗ったことがなかったが、母の死後、弁護士に「母方の祖父が生きていて、財産相続の件でぜひ北海道まで来てほしい」と伝えられ、祖父の待つ月館へ列車で向かうことになり、そのSL《幻夜号》には、祖父の招待客らしい6人の鉄道マニアも乗っていたが、そこで密室殺人事件が―。

 '04(平成16)年12月から翌年にかけて「月刊IKKI」('05年2月号〜'06年6月号)に連載された、『おたんこナース』の佐々木倫子の作画による本格ミステリの漫画化作品(原作・綾辻行人)で、上巻を読んでから下巻にいく間に随分間が空いてしまい(下巻は上巻刊行の約1年後の'06年7月刊行)、そうしたら、下巻に入って状況が随分違っているではないかとやや唖然とさせられました(雑誌連載は読んでないんで)。

 鉄道ミステリと言えば、本書にも出てくる『オリエント急行殺人事件』や『Xの悲劇』が有名ですが、「オリエント急行」とは車両だけ同じでストーリーは違うだろうことは予想に難くないのですが、『Xの悲劇』と似たようなことになるのかなと、一瞬思ったりもして...。

 結局それなりにオリジナリティはあったけれども、前提状況にかなり無理があり、相当「空海」という主人公がボケっとしていないと成り立たないような話にも思えました(雪の中で停止している列車というのは、クリスティの『オリエント急行の殺人』へのオマージュだろうが)。むしろ、鉄道マニアの類型が鉄道に関するマニアックな薀蓄に絡めて面白く描き分けられていて、その部分では最後まで楽しめた感じです。

 Amzon.comかどこかの評で、佐々木倫子の部分が星3.5で、綾辻行人の部分が星2.5という評価があったように思いますが、個人的には全く同感で、装丁などは立派ですが、内容的には、息抜き程度には悪くないといったところでしょうか(『おたんこナース』の単行本同様、大判で読み易いし)。

オリエント急行殺人事件 映画 アルバート・フィニー.jpg コミックであるせいか、読んでいる間ずっとクリスティの原作『オリエント急行の殺人』でなく、シドニー・ルメット監督の映画「オリエント急行殺人事件」('74年/オリエント急行殺人事件 snow.jpg英・米)の方が頭に浮かんでいました(原作を読んだ時はあまり雪のシーンをイメージしなかった?)。アルバート・フィニー(1936-2019)がポワロを演じたほか(アカデミー主演男優賞にノミネートされたが、彼のポアロ役はこの一作きりで、以後、アガサ・クリスティ原作の映画化は「ナイル殺人事件」('78年)、「地中海殺人事件」('82年)、「死海殺人事件」('88年)と全てピーター・ユスティノフがポアロを演じている)、被害者役のリチャード・ウィドマークをはじめ、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギーオリエント急行殺人事件 バーグマン.jpgルグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ウェンディ・ヒラー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエール・カッセル等々が出演したオールスターキャスト映画でしたが、神経質で少しエキセントリックなところがある中年のスウェーデン人宣教師を演じたイングリッド・バーグマンが印象的でした。イングリッド・バーグマンは事件の中心人物的な公爵夫人役を打診されたけれども、この地味な宣教師役を強く希望したそうで、その演技でアカデミー助演女優賞を獲得しています。


オリエント急行殺人事件 2017 00.jpg(●2017年にケネス・ブラナー監督・主演のリメイク作品「オリエント急行殺人事件」('17年/米)が作られた。Amazon.comのレビューなどを見ても評価が割れているが、本国でも賛否両論だったようだ。映画批評集サイトのRotten Tomatoesのサイト側によオリエント急行殺人事件 201700.jpgる批評家の見解の要約は「映画史の古典となった1974年版に何一つ新しいものを付け足せていないとしても、スタイリッシュなセットとオールスターキャストのお陰で、『オリエント急行殺人事件』は脱線せずに済んでいる」となっている。個人的感想も概ねオリエント急行殺人事件 2017 1.jpgそんな感じだが、セットは悪くないけれど、列車が雪中を行くシーンなどにCGを使った分、新作の方が軽い感じがした。旧作にも原作にもないポワロのアクションシーンなどもあったりしたが、最も異なるのは終盤であり、ポワロが事件にどう片を付けるか悩む部分が強調されていて、ラストの謎解きもダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模した構図の中でケネス・ブラナーの演劇的な芝居が続く重いものとなっている。旧作は、監督であるオリエント急行殺人事件 2017 l.jpgシドニー・ルメットが、「スフレのような陽気な映画」を目指したとのことで、ポワロの事件解決後、ラストにカーテンコールの意味合いで、乗客たちがワインで乾杯を行うシーンを入れたりしているので、今回のケネス・ブラナー版、その部分は敢えて反対方向を目指したのかもしれない。ただ、もやっとした終わり方でややケネス・ブラナー監督の意図がやや伝わりにくいものだった気もする。)


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オリエント急行殺人事件  1974 dvd.jpgオリエント急行殺人事件02.jpg「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:1974年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ポール・デーン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:リチャード・ロドニー・ベネット●原作:アガサ・クオリエント急行殺人事件03.jpgリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:128分●出演:アルバート・フィニー/リチャード・ウィドマーク/アンソニー・パーキンス/ジョン・ギールグッド/ショーオリエント急行殺人事件 ショーン・コネリー.jpgオリエント急行殺人事件 バコール.jpgン・コネリー/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ウェンディ・ヒラー/ローレン・バコール/イングリッド・バーグマン/マイケル・ヨーク/ジャクリーン・ビセット/ジャン=ピエール・カッセル●日本公開:1975/05●配給:パラマウント=CIC(評価:★★★☆)
Richard Widmark/Jacqueline Bisset
murder victims, Richard Widmark.jpg Jacqueline Bisset、Murder on the Orient Express.jpg
   
オリエント急行殺人事件 [DVD]」Kenneth Branagh
オリエント急行殺人事件 2017 dvd.jpgオリエント急行殺人事件 20172.jpg「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:リドリー・スコット/マーク・ゴードン/サイモン・キンバーグ/ケネス・ブラナー/ジュディ・ホフランド/マイケル・シェイファー●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:リパトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:114分●出演:ケネス・ブラナー/ペネロペ・クルス/ウィレム・デフォー/ジュディ・デンチ/ジョニー・デッ/ジョシュ・ギャッド/デレク・ジャコビ/レスリー・オドム・Jrオリエント急行殺人事件 2017michelle-pfeiffer.jpgミシェル・ファイファー/デイジー・リドリー/トム・ベイトマン/オリヴィア・コールマン/ルーシー・ボイントン/マーワン・ケンザリ/マオリエント急行殺人事件 2017 deppu.jpgヌエル・ガルシア=ルルフォ/セルゲイ・ポルーニン/ミランダ・レーゾン●日本公開:2017/12●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)

Johnny Depp

Michelle Pfeiffer
 
 

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○ノーベル文学賞受賞者(ジョン・スタインベック) 「○海外文学・随筆など 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「怒りの葡萄」) 「●「ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「怒りの葡萄」) 「●か行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

"quick read but strong "。スタインベックに「文学の神様」が宿った時期の作品。

『ハツカネズミと人間』.JPGハツカネズミと人間.jpg 二十日鼠と人間 新潮文庫.jpg  二十日鼠と人間.jpg ジョン・スタインベック.jpg
ハツカネズミと人間 (新潮文庫)』['94年/'53年]/映画「二十日鼠と人間 [DVD]」ジョン・スタインベック(1902-1968)

Of Mice and Men.jpg 小さな家と農場を持ち、そこでウサギを飼い、土地のくれる一番いいものを食べて暮らすこと夢見るジョージとレニーは、共に農場を渡り歩く期間労働者で、ジョージは小柄ながら知恵者、一方のレニーは巨漢だがちょっと頭が鈍いという具合に対照的ながらも、いつも助け合って生きてきた―この2人がある日また新たな農場にたどり着くが、そこには思わぬ悲劇が待ち受けていた―。

 1937年に出版された米国人作家ジョン・スタインベック(John Steinbeck、1902‐1968/享年66)の中編小説で、以前読んだ大門一男訳に対し、入れ替わりで新潮文庫に入った大浦暁生訳は題名の「二十日鼠」の表記がカタカナになっているなどの違いはありますが、文庫で約150ページと再読するにも手頃で、それでいて、初読の際の時の衝撃が甦ってくるものでした(洋書の書評に"quick read but strong "とあったが、まさにその通り)。

『二十日鼠と人間』 .JPG 1930年代の大恐慌時代のカリフォルニア州が舞台なのですが、スタインベック自身の季節労働者として働いた際の経験がベースになっており、寓話的でありながらも細部にリアリティがあるし、ラマ使いの名人で農場労働者のリーダー格のスリムや厩に住む黒人クルックスなど、短い物語の中に極めて印象に残る人物が見事に配置されているように思いました(特にスリム、このキャラクターは渋い!)。

 ラストのジョージの苦渋の行動は、知恵遅れのレニーがいつも問題を起こすための2人で農場を転々としてきた過去の経緯があり、その上で、今度こそはもう手の打ちようがないという判断の末でのことでしょう。

 キャンディという老人が、自らが可愛がっていた老犬の処分を他人に委ね、後で「あの犬は自分で撃てばよかった」と悔いるエピソードが、伏線として効いています。
  
『怒りの葡萄』(1940).jpg怒りの葡萄 ポスター.jpg怒りの葡萄.gif スタインベックはこの作品でその名を知られるようなり、2年後に発表した、旱魃と耕作機械によって土地を奪われた農民たちのカリフォルニアへの旅を描いた『怒りの葡萄』('39年)でピューリツァー賞を受賞しますが、「二十日鼠と人間」「怒りの葡萄」の両方とも映画化されており、「二十日鼠と人間」は'39年と'92年に映画化されていますが、ゲイリー・シニーズが監督・主演した「二十日鼠と人間」('92年)をビデオで観ました。ジョン・フォード監督の「怒りの葡萄」('40年/米)は吉祥寺の「ジャヴ50」で深夜に観ましたが、電車の座席みたいな長椅子の客席に集った客の半分が外国人でした(同劇場でその少し前に「わが谷は緑なりき」('41年/米)を観た時もそうだった)。

 「怒りの葡萄」は、刑務所帰りの貧農の息子をヘンリー・フォンダが好演しており(彼はこの作品で"もの静かに不正に向かって闘う男"というイメージを確立)、母親とまた別れなければならないという結末のやるせなさが「Red River Valley」のテーマと共に心に残りましたが、アメリカ人は、こうした作品に日本人以上に郷愁を感じるのでしょう(個人的には、小津安二郎や山田洋次の家族モノに通じるものを感じたりもしたのだが)。

EAST OF EDEN 1955 dvd.bmpエデンの東ポスター.jpgEast of Eden.jpg ジェームズ・ディーンがその演技への評価を確立したとされるエリア・カザン監督の「エデンの東」('55年)も、スタインベックの『エデンの東』('50年)がベースになっているのですが、原作が南北戦争から第1次世界大戦までの60年間の2つの家族の3代にわたる歴史を綴った4巻56章から成る膨大な物語であるのに対し、映画の中で描かれているのは最後のほんの一時期のみで1家族2世代の話に圧縮されており、実質的には、父に好かれたいがそれが叶わないケイレブ(キャル)・トラスク (ジェームズ・ディーン)の苦悩の物語となっています。「エデンの東」の原作は読んでいませんが、スタインベックは後期作品ほど大味の嫌いがあるらしく(エリア・カザンの翻案は当然の選択だったのだろう)、そうした意味では『二十日鼠と人間』は、スタインベックに「文学の神様」が宿った時期の作品であると言えるかと思います。

二十日鼠と人間(1992)es.jpg「二十日鼠と人間」●原題:OF MICE AND MEN●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:ゲイリー・シニーズ●製作:ゲイリー・シニーズ /ラス・スミス●脚本:ホートン・フート●撮影:ケネス・マクミラン●音楽:マーク・アイシャム●原作:ジョン・スタインベック●時間:115分●出演:ゲイリー・シニーズ/ジョン・マルコヴィッチ/レイ・ウォルストン/シェリリン・フェン/ジョー・モートン/アレクシス・アークエット/ジョン・テリー/モイラ・ハリス●日本公開:1992/12●配給:MGM映画=UIP(評価:★★★★)
【2608】 ○ ゲイリー・シニーズ 「二十日鼠と人間」 (92年/米) (1992/12 MGM映画=UIP) ★★★★

「怒りの葡萄」ポスター(和田 誠
THE GRAPES OF WRATH 1940.jpg怒りの葡萄 和田誠ポスター1.jpg「怒りの葡萄」●原題:THE GRAPES OF WRATH●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・フォード●製作:ダリル・F・ザナック●脚本:ナナリー・ジョンソン●撮影:グレッグ・トーランド●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:ジョン・スタインベック●時間:128分●出演:ヘンリー・フォンダ/ジェーン・ダーウェル/ジョン・キャラダイン/チャーリー・グレイプウィン/ドリス・ボードン/ラッセル・シンプソン/メエ・マーシュ/ウォード・ボンド●日本公開:1963/01●配給:昭映フィルム●最初に観た場所:吉祥寺ジャヴ50(84-07-14)(評価:★★★★)  
「エデンの東」 公開時ポスター/1977年公開時チラシ
east of eden  1955.jpg「エデンの東」ps.jpgエデンの東 1977年公開時チラシ.bmp「エデンの東」●原題:EAST OF EDEN●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督・製作:エリア・カザン●脚本:ポール・オスボーン●撮影:テッド・マッコード●音楽:レナード・ローゼンマン●原作:ジョン・スタインベック●時間:115分●出演:ジェームズ・ディーン/ジュリー・ハリス/レイモンド・マッセイ/バール・アイヴス/リチャード・ダヴァロス/ジュー・ヴェン・フリート/エデンの東<サントラ盤>.jpgEAST OF EDEN3.jpgアルバート・デッカー/ロイス・スミス/バール・アイヴス●日本公開:1955/10●配給:ワーナジュリー・ハリス_3.jpgー・ブラザース●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-02-18)●2回目:テアトル吉祥寺(82-09-23)(評価:★★★★)●併映(1回目):「理由なき反抗」(ニコラス・レイ)●併映(2回目):「ウェストサイド物語」(ロバート・ワイズ)

Julie Harris(1925-2013)
           
"Of Mice and Men" from Iron Age Theatre(舞台劇「二十日鼠と人間」)
Of Mice and Men 1.jpgOf Mice and Men 3.jpg【1952年文庫化[三笠文庫(大門一男:訳)]/1953年文庫化[新潮文庫(大門一男:訳)]/1955年文庫化[河出文庫(石川信夫:訳)]/1960年文庫化[角川文庫(杉木喬:訳)]/1970年文庫化[旺文社文庫(繁尾久:訳)]/1994年再文庫化[新潮文庫(『ハツカネズミと人間』(大浦暁生;訳)]】

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途中までヒューマニズム溢れるものだったが、ラストが解せない「フリークス」。
フリークス dvd.jpg フリークス.jpg フリークス2.jpg
フリークス [DVD]」ハリー・アールズ/オルガ・バクラノヴァ
ポスター(1932)
Freaks_(1932_film_poster).jpgフリークス 輸入版.jpg サーカス小屋の小人のハンス(ハリー・アールズ)は、空中ブランコ乗りのクレオパトラ(オルガ・バクラノヴァ)に夢中だが、彼女は気のフリークス ポスター.jpgある振りをして彼を弄んでいるだけであった。ところがある日、ハンスが莫大な遺産を相続したことがわかると、今度は、強欲な彼女は怪力男ヘラクレス(ヘンリー・ヴィクター)と謀ってハンスを騙して結婚し、彼を殺して財産を奪おうと毒を盛る。しかし、ハンスの仲間達がそれを見破り、ハンスは仲間達と共に2人への復讐に立ち上がる―。

フリークス 001.jpg フリーク(畸形)のオンパレードで、シャム双生児、ガリガリの「生きる屍」男、髭女、半陰陽(ふたなり)、鳥のような顔をした男、小頭症の姉妹、下半身のない男、手足がない男...etc.と次から次へと出てきて、この作品はアートシアター新宿(ジュク)の定番プログラムだったのですが、近所の花園神社の大酉祭の見世物小屋の(ここで"牛女"と"蛇女"なるものを見たことがあるが)レベルどころではない凄さ。ロードにはかからない作品だと思っていましたが、'05年に渋谷シネマライズ(ライズX)で単館ながら上映されました(30年ぶりのロード上映とのこと)。

 ヨーロッパ映画だと、フェデリコ・フェリーニ「サテリコン」('69年/伊)フォルカー・シュレンドルフ「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏)といった映画においても畸形や小人が出てくるけれども、アメリカ映画では、こうした人たちをスクリーンに登場させなくなって久しいようです。

 最初は不気味さもありますが、そうした見世物小屋でしか生きる術の無いような人たちを、この映画の監督は非常に温かい眼差しで描いているように思え、ヒューマニズム溢れるものであり、最後にハンスが仲間たちと復讐に立ち上がる場面では、観ていて「よし、行け」という気持ちになるまで感情移入させられていました。

「エレファント・マン」 ポスター/パンフレット
エレファント・マン ポスター.jpgエレファント・マン パンフ.jpgエレファント・マン2.jpg デヴィッド・リンチ「エレファント・マン」('80年/英)を観た時も、最後は大いに感動しました。しかし、「エレファント・マン」は見方によっては、ヒューマニズムを装いながらもその裏側で、人々の怖いもの見たさの俗物心理を暴いてみせているような感じもあり、何となくスッキリしない...。

 「お化け屋敷」に行く時のような"期待感"で映画館に行った人も少なからずいたように思え、デヴィッド・リンチはその部分での観客の期待にも応えようとしていたような気がします(実際、十分に応えていた)。その点では、この映画でのトッド・ブラウニングの畸形に対する温かい眼差しは、むしろ対照的かも。

オルガ・バクラノヴァ.jpg この作品「フリークス」の監督であるトッド・ブラウニング(1880‐1962)は、映画の世界に入る前はサーカス小屋の呼び込みをしていたそうですが、この作品では徹底して畸形を擁護しています。そして、畸形たちが結束して立ち上がった結果、ヘラクレスが畸形たちに殺されるばかりでなく、クレオパトラに至っては、不具にされて「ガチョウ女」として見世物小屋に売られてしまうというエンディングをもってきています。

「ガチョウ女」になったクレオパトラ(オルガ・バクラノヴァ(Olga Baclanova)」) in 「フリークス」

ザ・フライ2 二世誕生.bmp ここまでやるかという感じもしなくもないですが、クリス・ウェイラスの「ザ・フライ2 二世誕生」('89年/米)で、ハエ男の遺伝子を引く主人公を「実験標本」として育てていた研究所長が、主人公の復讐に遭い、最後に主人公がハエ男から人間の姿に戻るのと引き換えに所長は醜い生き物に姿を変えられてしまうという結末が、この作品のエンディングとちょっと似ているなあと思いました。

THE FLY II 2.jpg 「ザ・フライ2」のラストも、因果応報と言えば因果応報なのですが、所長は這うことしか出来ず喋ることも出来ない(ある意味ハエ男より悲惨な)ドロドロの化物となり、研究所の中でコンクリートの檻の中で生かされ続けるという、ちょっと現代モノとしてはあり得ない非人道的結末設定のように思われ、あっさり殺されていた方が映画としての後味を損ねずに済んだのではないかという気がしました。
     
 「フリークス」にしても、人を外見で判断してはいけないというのがトッド・ブラウニングの言いたかったことだったとしたら、勧善懲悪のカタルシスのみを狙ったようなこのエンディングは、本来の彼の考えに沿ったものとは思われず、いささか解せません(MGMのプロデューサー側からの圧力で、こうした結末にせざるを得なかったという話もある)。
 深読みすれば、「ガチョウ女」になったクレオパトラを見て、自分でなくて良かったと思わなかったかを観客に問うているともとれるのですが...。

フリークス 002.jpg「フリ-クス 神の子ら (怪物団)」●原題:FREAKS●制作年:1932年●制作国:アメリカ●監督・製作:トッド・ブラウニング●製作:MGMスタピンクフラミンゴ/フリークス.pngジオ●脚本:ウィリス・ゴールドベック/レオン・ゴードン/エドガー・アラン・ウルフ/アル・ボーアズバーグ●撮影:メリット・B・ゲルスタッド●原作:トッド・ロビンズ●時間:100分●出演:ハリー・アールズ/オルガ・バクラノヴァ(バクラーナ)/ハーリー・アールズ/ヘンリー・ヴィクター●日本公開:1932/11●最黙壺子フィルム・アーカイブ.jpg初に観た場所:アートシアター新宿 (84-08-01)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(96-08-23) (評価★★★)●併映(1回目):「ピンク・フラミンゴ」(ジョン・ウォーターズ)
アートシアター新宿 黙壺子フィルム・アーカイブ.jpg
アートシアター新宿 (新宿5丁目・旧新宿厚生年金会館付近。1978年4月オープン、1980年より黙壺子フィルム・アーカイブの活動拠点) 1980年代後半(1988年頃)映画上映館としての活動は停止。                      
         
           
エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督: デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)
        
ザ・フライ2 二世誕生 dvd.jpg「ザ・フライ2 二世誕生」●原題:THE FLY II●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:クリス・ウェイラス●製作:スティーヴン=チャールズ・ジャッフェ●製作総指揮:スチュアート・コーンフェルド●原案:ミック・ギャリスTHE FLY II 3.jpg●脚本:ミック・ギャリス/ジム・ウィート、ケン・ウィート/フランク・ダラボン●撮影:ロビン・ヴィジョン●音楽:クリストファー・ヤング●時間:105分●出演:エリック・ストルツ/ダフネ・ズニーガ/リー・リチャードソン/ジョン・ゲッツ/フランク・C・ターナー/アン・マリー・リー/ゲイリー・チョーク/サフロン・ヘンダーソン●日本公開:1989/05●配給:20世紀フォックス(評価:★★)

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「キートン・ライズ・アゲイン」でレール・テクニックが体に染み付いたものだったことを知る。

キートンの大列車追跡.jpg世界名作映画全集 99 キートンの大列車追跡.jpg 『キートンの大列車追跡』(1926) 21.jpg Buster Keaton.jpg
世界名作映画全集99 キートンの大列車追跡 [DVD]
「キートンの大列車追跡」1977年リバイバル公開時チラシ

THE GENERAL  Buster Keaton.jpg アメリカ南北戦争を舞台にした機関車追跡劇。キートンが機関士を務める蒸気機関車の名が「将軍(General)」。愛する機関車を北軍に奪われ、彼は別の機関車で追走するが、その奪われた機関車には彼の恋人も乗っていた―。


キートン将軍 vhs.jpg キートン黄金期の代表作で、日本初公開時のタイトルは「キートン将軍」で、後に「キートンの大列車強盗」となり、70年代のリバイバル上映時に「キートンの大列車追跡」という邦題になっていますが、その方が内容に沿ったタイトルと言『キートンの大列車追跡』(1926) .jpgえるかも(80年代の渋谷ユーロスペースでの自主上映では「キートンの大列車強盗」のタイトルを使用し、最近のフィルムセンターでの上映は「キートン将軍」、シネマヴェーラ渋谷での上映では「キートンの大列車強盗」を使用している)。

 最後の方で本物の機関車を鉄橋ごと川に落下させるシーンがあり、この場面だけで映画製作予算42万ドルの大半を使っているとのことです。そうしたスケールの大きさもさることながら、とにかく、機関車の線路の切り替えのテクニックを使ったアクション描写が巧みな映画でした。今でこそキートン映画の上映会の定番作品ですが、公開当時の評価は「かつての労作より遥かに劣る」(NYタイムズ)など惨憺たるもので、興行収入も「拳闘屋キートン」('26年)の77万ドルに対して47万ドルに止まったということです。

 キートンは、MGM解雇、離婚やアルコール中毒などによる没落期を経て、50代半ば頃から映画界に復帰しましたが(「サンセット大通り」('50年)に"かつての大物俳優"役で出演している)、70歳近くなった晩年にも「線路工夫(The Railrodder)」('65年/カナダ、ジェラルド・ポタートン監督)という25分ほどの小品を撮っています。

The Railrodder dvd.jpg これは、カナダ観光局がキートンを招聘して作った作品で、ロンドンにいたキートンがふとした思いつきでカナダに渡り(泳いで!)、偶々休息をとったトロッコ(カナディアン・ナショナル鉄道の「CN」のロゴ入り)が動き出して、結局それに乗って風光明媚なカナダの各地を旅するという、いわば「レイルロード・ムービー」。背景的に登場する人はいるものの、出演者は実質、終始The Railrodder 11.jpgトロッコに乗りカナダ各地を駆け抜ける(その間トロッコに乗ったまま、料理したり洗濯したり鳥撃ちしたり編み物したりする)キートンのみで、カラー作品ではあるもののセリフ無しという無声映画のスタイルを踏襲しています。「大列車強盗」と同趣の、つまり"レール・テクニック"を前面に押し出したものとなっており、高齢となったキートンが自らアクションっぽいこともやっていれば、随所でしっかり笑いもとっています。人生に浮き沈みのあったキートンが、晩年にこうした原点回帰的な作品を撮っているというのは嬉しいことであり、それがドラマなどでなく、純粋にテクニカルな要素を前面に出した、スピード感溢れる乾いたコメディになっている点が尚のこと良いです。爆笑コメディと言うより、キートンが次々と繰り出す懐かしいギャグやクスッと笑える妙技を(サイレント時代と同じく笑わないが、"無表情"ではなく表情豊かになっている点に注目)、カナダの美しい風景と共に楽しめる作品で、キートンを招聘したカナダ観光局にも一票を投じたく思います。
                     "Buster Keaton Rides Again / The Railrodder "(輸入版)
BUSTER KEATON RIDES AGAIN1.jpgRailrodder & Buster Keaton Rides Again.jpg その「線路工夫」もさることながら、「線路工夫」のメイキング・ムービーである「キートン・ライズ・アゲイン」('65年/カナダ)というのがこれまた興味深く、70歳に間近いキートンが、自ら線路の切り替えテクニックの指導をし、しばしばとり憑かれたように自分で機械の調整や操作をしています。この記録映画の中で老優の日常の生活ぶりも紹介されていますが、個人的には、「線路工夫」の撮影の様子が、失った何かを取り戻そうとしている老人に見えて、切ないような印象も受けました。でも、「線路工夫」の見事な出来映えからするに、70歳間際であれだけのものを作ろうとするならば、やはり、とてつもない集中力(気力・体力)が必要なのだろなあとも思いました。

 共にキートンが亡くなる1年前の映像ですが、とりわけ「キートン・ライズ・アゲイン」により、老優の映画と機関車への執着を感じさせるとともに、「大列車強盗」におけるレール・テクニックが彼の体の真底に染み付いたものであったことを、改めて思い知りました。

キートンの大列車強盗 vhs.jpgBUSTER KEATON THE GENERAL.jpg「キートンの大列車強盗 (将軍)」●原題:THE GENERAL●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/クライド・ブラックマン●製作:ジョセフ・M・シェンク●撮影:デヴラクス・ジェニングス/バート・ヘインズ●音楽:コンラッド・エルファース●時間:106分●出演:バスター・キートン/マリオン・マック/グレン・キャベンダー/チャールズ・スミス●日本公開:1926/12●配給:東和●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-21)●2回目:池袋文芸座ル・ピリエ(86-02-01)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「キートンのカレッジ・ライフ(大学生)」(バスター・キートン)/「キートンの線路工夫」(ジェラルド・ポタートン)●併映(2回目):「我輩はカモである」(マルクス兄弟)

BUSTER KEATON The Railrodder1.jpgBUSTER KEATON The Railrodder01.jpg「キートンの線路工夫」●原題:THE RAILRODDER●制作年:1965年●制作国:カナダ●監督・脚本:ジェラルド・パッタートン●製作:ジュリアン・ビッグス/ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ作品●撮影:ロバート・ハンブル●音楽:エルドン・ラスバーン●時間:25分●出演:バスター・キートン●日本公開:1980/02●配給:有楽シネマ●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-21)(評価:★★★☆)●併映:「キートンの大列車強盗 (将軍)」(バスター・キートン)/「キートンのカレッジ・ライフ(大学生)」(バスター・キートン)

BUSTER KEATON RIDES AGAIN 2.jpgBUSTER KEATON RIDES AGAIN2.jpg「キートン・ライズ・アゲイン」●原題:BUSTER KEATON RIDES AGAIN●制作年:1965年●制作国:カナダ●監督・撮影:ジョン・スポットン●製作:ジュリアン・ビッグス/ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ作品●時間:61分●出演:バスター・キートン/エレノア・キートン/ジェラルド・ポタートン●日本公開:1980/02●配給:有楽シネマ●最初に観た場所:アートシアター新宿 (84-05-27)(評価:★★★☆)●併映:「キートンの文化生活一週間」(バースター・キートン)/「デブ君の浜遊び」(バースター・キートン)/「デブ君の自動車屋」(ロスコー・アーバックル)

「荒武者キートン」チラシ(1977(昭和52)年/日劇文化)
キートンの大列車強盗13-0.jpg 

キートンの大列車強盗13-1.jpg
 
爆笑コメディ劇場1.png爆笑コメディ劇場 DVD10枚組 キートン将軍 我輩はカモである マルクス兄弟オペラは踊る キートンの蒸気船 猛進ロイド キートンの大学生 ロイドの牛乳屋 チャップリンの拳闘 チャップリンの舞台裏 チャップリンの駈落 BCP-047

バスター・キートン Talking KEATON DVD-BOX.jpgバスター・キートン Talking KEATON DVD-BOX
【収録作品】
1「キートンのエキストラ」FREE AND EASY 1930年 90分
監督:エドワード・セジウィック 出演:アニタ・ペイジ/ロバート・モンゴメリー
2 「キートンの決死隊」 DOUGHBOYS 1930年 79分
監督:エドワード・セジウィック 出演:クリフ・エドワーズ/サリー・アイラース
3「キートンの恋愛指南番」PARLOR, BEDROOM AND BATH 1931年 72分
監督:エドワード・セジウィック 出演:シャーロット・グリーンウッド/レジナルド・デニー
4 「紐育(ニューヨーク)の歩道」SIDEWALKS OF NEW YORK 1931年 73分
監督:ジュールス・ホワイト/ジオン・マイヤーズ 出演アニタ・ペイジ/クリフ・エドワーズ
5 「キートンの決闘狂」 THE PASSIONATE PLUMBER 1932年 74分
監督:エドワード・セジウィック 出演:オーギュスト・トレール/アイリン・パーセル
6「キートンの歌劇王」SPEAK EASILY 1932年 82分
監督:エドワード・セジウィック 出演:ルース・セルウィン/セルマ・トッド
7「キートンの麦酒王」 WHAT NO BEER? 1933年 66分
監督:エドワード・セジウィック 出演:フェリス・バリー/ジミー・デュランテ
【特典ディスク】「キートンの大列車追跡」 THE GENERAL 1926年 106分
監督:バスター・キートン/クライド・ブラックマン 出演:マリアン・マック/グレン・キャベンダー

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徳川無声に弁士としてついて欲しかったところ。

狂った一頁 03.jpg狂った一頁/十字路.jpg 狂った一頁/十字路(パンフレット).jpg  Kurutta Ippeji, 1926.jpg
岩波ホール公開時ポスター・パンフレット (1975)   Kurutta Ippeji, A Page of Madness (Kinugasa, 1926)

A Page of Madness.jpg狂った一頁1.jpg 川端康成や横光利一ら、当時「新感覚派」と呼ばれた若い才人たちが脚本に参加して生みだした実験的無声映画。主人公の元船乗りの男は、かつて自分のせいで妻を追い詰めて狂人にしてしまったことに対する自責の念から、今は妻の入院する精神病院の小間使いをしているのだが、そこに玉の輿の結婚話を控えた娘がやって来て、母親が狂人であるために結婚できないと言う。小間使いは妻を精神病院から逃がそうとするが失敗する―。

狂った一頁0.jpg狂った一頁3.jpg というのが話の前段部なのですが、冒頭からいきなり踊り狂う女性の断片的なモンタージュが入り、無声映画なのに狂った一頁53.jpg字幕も無く、しかも、主人公の空想の場面と現実の場面が錯綜するので、筋自体はわかりにくく、「ACTミニシアター」のスタッフの解説がなければ何のことやらという感じ(このミニシアターでは、黒澤明の「羅生門」上映時狂った一頁2.jpgにも、ドナルド・リチーによる読み解きをスタッフが解説してくれた)。主人公の小間使いは宝くじで一等賞が当たった空想し、また、娘の結婚式を空想する。そして、最後に患者たちがオタフクなどのお面をつけることを空想する―(これは、主人公の空想だと思うのだが、よく分からない...。公開時には徳川無声などが弁士としてついて、この辺りの解説をしたらしい。それって別録りされていないのかなあ)。

  
マラー/サド2.jpg 精神病院という限定された状況設定は、ピーター・ブルック監督の「マラー/サド」('67年/英)とちょっと似ているなあと思いました(正式邦題は「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」という長いもの。原題もギネスに世界最長大映画タイトルとして登録されている)。

MARAT SADE (1967).jpg 「マラー/サド」の舞台は19世紀はじめのフランスの精神病院で、ここでは治療の一環として演劇がプログラムに採り入れられており、そこへ収監されていたサド侯爵(1740-1814)が、フランス革命で活躍し後に暗殺されたマラーのドラマを患者達を使って演出するというもの(マルキ・ド・サド自身はナポレオン体制下で筆禍を招き、死ぬまでシャラントン精神病院に監禁されていたという説もあるが、実際には持病の皮膚病が悪化し、自宅に籠って一日中入浴して療養するような生活をする中でに政敵一派に暗殺されたようだ。暗殺後、現場で画家ジャック=ルイ・ダヴィッドが有名な「マラーの死」を描いている)。

MARAT SADE (1967) 2.jpg 檻に入れられた患者たちが、看守により度々中断させられながらも演じる劇は、異様な雰囲気と張り詰めた緊張感に覆われていますが、物語劇というより前衛劇に近い印象を個人的には受けました。

マラー・サド.jpg その劇を檻の外から観る観客がいて、劇中劇の様相を呈していますが、演じているのは皆役者だったんだなあ(半分ぐらい、本当の患者が混ざっているのかと一瞬思ったが、そんなわけないか)。Glenda Jackson 2.jpgマラーを暗殺する女性シャルロット・コルデー を演じているのは、後に名女優としてその名を馳せるグレンダ・ジャクソンであるし(煉瓦職人の家庭に生まれ、ロンドンの王立演劇学校で学んだ彼女は'92年のイギリス総選挙に労働党から立候補して当選、運輸大臣も務めた)、その他患者らを演じているのは殆どが英国王立シェークスピア劇団のメンバーです。

Glenda Jackson in Marat/ Sade 1967

 「マラー/サド」「狂った一頁」共に個人的には(自身の概念化能力の欠如により)評価不能に近い作品ですが、「狂った一頁」は「マラー/サド」より40年ほど前に作られている! サイレント末期にこのような前衛的な作品が日本にあったこと自体、驚くべきことかもしれません(この作品は大正時代の最後の年、つまり大正15年に公開された)。「狂った一頁」を監督した衣笠貞之助(1896-1982)は、後に「雪之丞変化」('35~'36年/松竹キネマ)のような娯楽時代劇も撮っていて、松竹に黄金時代をもたらした監督の1人でもあります。
 
「狂った一頁」●制作年:1926年●監督:衣笠貞之助●脚本:川端康成/横光利一/衣笠貞之助/犬塚稔/沢田晩紅●撮影:杉山公平●撮影助手:円谷英二●原作:川端康成●時早稲田通りビル.jpgACTミニ・シアター.jpgACTミニ・シアター2.jpg間:70分(現存59分)●出演:井上正夫/中川芳江/飯島綾子/根本弘/関操/高勢実乗/高松恭助/坪井哲/南栄子●公開:1926/09●配給:衣笠映画連盟(新感覚派映画連盟)●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-10-28)(評価:★★★?)●併映:「十字路」(衣笠貞之助)


「マラー/サド」(「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントレ精神病院の患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」)●原題:MARAT/SADE(The Persecution and Assassination of Jean-paul Marat as Performed by the Inmates of the Asylum of Charenton Under the Direction of the Marquis De Sade)●制作年:1967年●制作国:イギリス●監督:ピーター・ブルック●脚本:ペーター・ヴァイス/エイドリアン・ミ三鷹オスカー.jpgッチェル/ジェフリー・スケルトン●撮影:デヴィッド・ワトキン●音楽:リチャード・ピアスリー●原作:ペーター・ヴァイスマラー/サド.bmp●時間:119分●出演:パトリック・マギー/グレンダ・ジャクソン/イアン・リチャードソン/マイケル・ウィリアムズ/クリフォード・ローズ/フレディ・ジョーンズ/ヒュー・サリバン/ジョン・ハッシー/ウィリアム・モーガン・シェパード/ジョナサン・バーン/ジャネット・ランディス●日本公開:1968/11●配給:ユナイト=ATG●最初に観た場所:三鷹オスカー(79-04-08)(評価:★★★?)●併映:「叫びとささやき」(イングマル・ベルイマン)
輸入盤DVD
Glenda Jackson       
グレンダ・ジャクソン.jpg Glenda Jackson brilliant as Charlotte Corday in the Peter Brooke production of Peter Weis's Marat Sade

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パルプマガジン作家らしい作品。"レナード・タッチ"より、むしろストーリー自体が楽しめる。

五万二千ドルの罠 ノヴェルズ.jpg 52 pickup.jpg 五万二千ドルの罠 エルモア・レナード.jpg  キャット・チェイサー.jpg stick.jpg  ラム・パンチ.jpg
五万二千ドルの罠 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』/「デス・ポイント/非情の罠(52 PICK-UP)」輸入版DVDカバー/『五万二千ドルの罠 (1979年) (ハヤカワ・ノヴェルズ) 』/映画「キャット・チェイサー」チラシ/「スティック」ペーパーバック /『ラム・パンチ (角川文庫)
『五万二千ドルの罠』(1979/12 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ・ノヴェルズ『五万二千ドルの罠』.jpgFifty-Two Pickup.jpgElmore Leonard.jpg 1974年に発表されたアメリカの人気ハードボイルド作家、エルモア・レナード Elmore Leonard(1925‐) のベストセラー作品で原題は"52 Pickup"

 鉄鋼会社経営の中年実業家の主人公は、浮気現場をビデオに撮られて犯人グループから恐喝され、妻も真実を知って困惑するが、犯人を見つけるため夫に協力する。浮気相手の友人から得た情報で、犯人はポルノ映画館支配人の男ら3人とわかり、主人公は犯人らに年間5万2000ドル払うと申し出て、彼らの仲間割れを図る―。

 エルモア・レナードは、先に『キャット・チェイサー(Cat Chaser 1982)』('86年/サンケイ文庫)や『スティック(Stick 1983)』('86年/文春文庫)を読んで、ストーリーよりも、所謂"レナード・タッチ"と言われるハードボイルドな文体やフロリダなどを舞台にしたスタイリッシュな雰囲気に惹かれました(とりわけ『スティック』の高見浩氏の訳は鮮烈。この人、ヘミングウェイなども翻訳している)。

 それらに比べると、本書は文体もさることながら、むしろストーリー展開自体が楽しめ、読んだ後も印象に残る―、と言っても、エルモア・レナード自身が西部劇の脚本家からスタートして、パルプマガジンで支持を得てきた人なので、話は大いに通俗的であり、また、その展開にはかなりハチャメチャな部分はありますが...(主人公は戦争で戦闘機パイロットだった時に、敵機を撃墜しただけでなく、誤襲してきた味方機まで撃墜したというかなり血の気の多い人物という設定)。映画「レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」の監督クエンティン・タランティーノが敬愛する作家であるというのはよくわかります。

 「5万2千ドル」ぐらいでこんな殺し合いになるのかという気もしますが、70年代初頭は1ドル=360円だったわけで、しかも主人公が提示したのは、それを「毎年」支払うということだったことを考えると、そう不自然な設定ではないかも(どこから5万2千ドルという数字が出てくるのかと思ったら、1週千ドルというわけだ)。

デス・ポイント 歌舞伎町シネマ2.jpg レナード作品は幾つか映画化されていますが、『スティック』はバート・レイノルズ主演で'85年に映画化されているものの、原作を捻じ曲げて却って拙い仕上がりになっているとの評だったので未見、ピーター・ウェラー、ケリー・マクギリス主演の「キャット・チェイサー」('86年)も映画館では観る機会がなかったのですが、テレビで途中から観て、まあまあこんなものかなと。

52 PICK-UP.jpg 『五万二千ドルの罠』は、映画化された作品('86年、邦題 「デス・ポイント/非情の罠」)を、B級映画専門の準ロード館歌舞伎町シネマ2で観ましたが、かなり原作に忠実に作られているように思いました。 「歌舞伎町シネマ2」上映作品ギャラリー HOME PAGE「映画の時間ですよっ!!」

Roy Scheider, Ann-Margret

 今年['08年]2月に亡くなったロイ・シャイダーの主演で、主人公の粗暴な面と脅迫に脅える面が両方出ていて、ロイ・シャイダーは、「ブルーサンダー」('83年)でベトナム帰りの攻撃ヘリコプターのやたら砲弾を撃ちまくるパイロットを演じていましたが、この作品では、「ジョーズ」('75年)の警察署長役に繋がる(サメならぬ)脅迫者に脅えた感じの演技がハマっているような気がし、但しその分、原作よりもやや線の細い人物造型になったように思います。

ゲット・ショーティ [DVD].jpgアウト・オブ・サイト.jpgビッグ・バウンス.jpg レナードの作品は1990年代後半に、「ジャッキー・ブラウン」('97年)(原作:『ラム・パンチ』)、「ゲット・ショーティ」('98年)、「アウト・オブ・サイト」('98年)など映画化が続き、今世紀に入っても「ビッグ・バウンス」('04年)、「Be Cool ビー・クール」('05年)などが映画化されています。(「3時10分、決断のとき」('09年)(原作:『決断の3時10分』(1957))然り。)

ゲット・ショーティ [DVD]」(ジョン・トラボルタ主演)/「アウト・オブ・サイト [DVD]」(ジョージ・クルーニー主演)/「ビッグ・バウンス 特別版 [DVD]」(モーガン・フリーマン主演)

52 PICK-UP m.jpg「デス・ポイント/非情の罠」●原題:52 PICK-UP●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・フランケンハイマー●音楽:ゲイリー・チャン●原作:エルモア・レナード「五万二千52 Pick-Up Bl4.jpgドルの罠」●時間:112分●出演:ロイ・シャイダーアン=マーグレット/クラレンス・ウィリアムズ3世/ジョン・グローヴァー/ロバート・トレボア/ケリー・プレスト/ダグ・マクルーア/ヴァニティ/ロニー・チャップマン●日本公開:1987/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:歌舞伎町シネマ2 (88-01-30)(評価★★★)●併映:「第27囚人戦車部隊」(ゴードン・ヘスラー)

ヒューマックスパビリオン 新宿歌舞伎町.jpg「ジョイシネマ3:4」.gif歌舞伎町シネマ1・歌舞伎町シネマ2 1985年、コマ劇場左(グランドオヲデオンビル隣り)「新宿ジョイパックビル」(現「ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町」)2Fにオープン→1995年7月~新宿ジョイシネマ3・新宿ジョイシネマ4。1997(平成9)年頃閉館。

 【1979年ノヴェルズ化〔ハヤカワ・ノヴェルズ]/1986年文庫化〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕】

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In the Name of the Father.jpg 壮大なプロットもさることながら、主人公がトラウマから立ち直り男気に目覚めるプロセスがいい『スナップ・ショット』。

スナップ・ショット 新潮文庫.jpg スナップ・ショット(集英社文庫).jpg A J Quinnell.jpg A J Quinnell ヴァチカンからの暗殺者.jpg
スナップ・ショット(新潮文庫)』 〔'84年〕『スナップ・ショット(集英社文庫)』 〔'00年〕『ヴァチカンからの暗殺者 (新潮文庫)』['78年] "In the Name of the Father"(1978)

Snap Shot.jpg 1982年に発表された冒険小説作家A・J・クィネル(A. J. Quinnell 1940-2005)の小説で、 『燃える男』Man on Fire (1980)、『メッカを撃て』The Mahdi (1981)に続くもの。

 天才カメラマンのマンガーは、ベトナム戦争でのトラウマから性的不能となりカメラも捨てていたが、ある女性と出会い、カメラマンとしての腕と男としての自信をも取り戻すことが出来た。その頃、イラクではサダム・フセインが原発の建設に取り組んでいたが、イスラエルでは、それが原発に名を借りた核兵器工場と疑っており、空爆による破壊工作を策していた。しかし、フセインの陰謀を立証するためには、証拠写真が必要であり、そこでマンガーに白羽の矢が立つ―。

In the Name of the Father (1987).jpg クィネルの作品は『燃える男』のような元傭兵クリーシーが主人公として活躍する「クリーシーシリーズ」と(『燃える男』は'04年に「マイ・ボディガード」としてトニー・スコット監督、デンゼル・ワシントン主演で映画化された)、『メッカを撃て』のような"独立系"の話がありますが、これは独立系なので単独で楽しめ、出来もいいと思いました(個人的には、1987年に発表された『ヴァチカンからの暗殺者』 In the Name of the Fatherなど"独立系"の話の方が、この人の作品は面白いと思う)。

 何よりも、その当時何気なくなく読んでいたプロットが、この作品発表の前年にイスラエル空軍機がイラクの原子炉を急襲し破壊した事実をベースにしており、更にその後の湾岸戦争、イラク戦争に繋がる政治背景をしっかり取材して書かかれていたものであったことに気づかされ、今更のように驚かされます。

 それでもって、かなり自由にフィクションを織り込み、話を壮大かつ面白くしているというのが、この人の作品の特徴でしょうか。『ヴァチカンからの暗殺者』なんて、ローマ法王を守るためにソ連の書記長―しかも実在の(アンドロポフ)―を暗殺しようとする話ですから、スケールは大きいし、実際この物語のプロットも、現実にあったとされるヨハネ・パウロ2世の暗殺未遂事件に着想を得ているとのことです。

 ただ、主人公である西側へ亡命したポーランド秘密保安機関のエリート少佐と、潜入作戦のために妻役を装って彼を助けることになる信仰心厚い修道女の関係がどうなっていくかというサイドストーリーの絡ませ方が上手く、そっちの方への関心からぐいぐい引き込まれます。

 同様に、『スナップ・ショット』においても、個人的にはプロットの壮大さよりも、戦争で心的トラウマを負った主人公のマンガーが、鬱屈から立ち直って男気に目覚めていくプロセスが好きです。

2シベールの日曜日.jpgシベールの日曜日1.jpgシベールの日曜日.jpg 前半部はセルジュ・ブールギニョン監督の「シベールの日曜日」('62年/仏)を思い出しました。あの映画でハーディ・クリューガー演じる元パイロットの主人公は、インドシナ戦争でベトナム人少女を空爆で殺したのでないかというトラウマから記憶喪失となりますが、孤独な少女との触れ合いを通して癒されていく―、しかし、2人が出会う日曜日、彼のことを変質者だと決め込んだ医師の通報で駆けつけた警官により...。

シベールの日曜日」.jpgシベールの日曜日2.jpg この映画を観てパトリシア・ゴッジの愛くるしさにハマった人も多いのでは。そこががこの映画の微妙な点でもあり、主人公がトラウマから反動的にロリコン化して最終的には立ち直れなかったともとれなくはないかなあ(少しひねくれ過ぎ? しかし実際、この映画は"ロリコン映画の傑作"という評価のされ方もしている)。
「シベールの日曜日」●原題:CYBELE OU LES DIMACHES DE VILLE D'AVRAY●制作年:1962年●制作国:フランス●監督:セルジュ・ブールギニョン●脚本:セルジュ・ブールギニョン/アントワーヌ・チュダル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:モーリス・ジャール●原作:ベルナール・エシャスリオー「ビル・ダヴレイの日曜日」●時間:110分●出演:ハーディ・クリューガー/パトリシア・ゴッジ/ニコール・クールセ/ダニエル・イヴェルネル,/アンドレ・ウマンスキー●日本公開:1963/06●配給:東和●最初に観た場所:有楽町スバル座(80-06-06)(評価:★★★☆)●併映「悲しみこんにちは」(オットー・プレミンジャー)

 まあ、『スナップ・ショット』の天才カメラマンのマンガーの場合は再びヒーローに返り咲き、トラウマを克服するわけですが、クリーシィシリーズより主人公がやや屈折している点が個人的には好みでしょうか(『ヴァチカンからの暗殺者』でも、クールなはずのスナイパーが恋に落ちていくという展開が面白い)。

ゴゾ島 地図.pngA.J.クイネル氏.jpg クィネルは長年覆面作家で通してイタリア・シチリア島の南に位置するマルタ共和国の小島であるゴゾ島(マルタ島自体が淡路島ほどの小さな島国なのだが、ゴゾ島はその中のさらなる島)に住んでいましたが、その地で日本人の青年に「あなた、クィネルさんでしょ?」と言われて観念して覆面を脱いだとか(世界中どこへでも行く日本人!)。タンザニア生まれで、イギリスで教育を受け、作家になる前は世界を駆け回るビジネスマンだったというその経歴が初めて世に知られたのは1999年のこと。『ヴァチカンからの暗殺者』が発表年である1978年に翻訳されていることから、既に日本での人気も定着していたかに思えますが(その年の「週刊文春ミステリーベスト10」の3位にランクインしている)、その頃から数えても更に20年余り「覆面作家」で通していたわけかあ。

A・J・クィネル A. J. Quinnell (1940-2005/享年65)
クイネルが描いたマルタの世界を.jpgゴゾへの追悼の旅.jpg その後、日本にも講演に来ていますが、すごくシャイな人で、講演では滅茶苦茶緊張していたそうです(前述の日本人の青年に正体を見破られた話はこの時にした。その日本人青年も講演会場に来ていたというから、事実に近い話なのだろう)。残念ながら2005年に亡くなっていますが、旅行会社が「クイネル追悼ツアー」を企画していました。

「A・J・クィネル追悼ツアー」パンフレット〔'06年〕

 『スナップ・ショット』...【1984年文庫化[新潮文庫]/2000年再文庫化[集英社文庫]】

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素材(話題)は古いが、"ケータイ"カメラ時代に考えさえられる点も。

映像のトリック2.jpg映像のトリック.jpg  秋葉原通り魔事件.jpg
映像のトリック (講談社現代新書)』['86年] 秋葉原通り魔事件 NHKスペシャル「追跡・秋葉原通り魔事件」(2008.6.20)より

 『写真のワナ』('94年/情報センター出版局)や『疑惑のアングル』('06年/平凡社)などの著書がある"告発系"(?)フォトジャーナリストである著者が、まだ共同通信社の写真部に在籍していた頃の著書で、'86年2月刊。

心霊写真.jpg 報道写真のウソを、太平洋戦争時から直近までの事例で以って説明していて、新書にしては写真が豊富です。但し、戦争中の報道写真なんてウソの報道ばかりであることは想像に難くなく、写真合成のひどさ(いい加減という意味も含めて)は、最近読んだ、小池壮彦氏の『心霊写真』('02年/ 宝島社新書)を髣髴させるものがありました("心霊写真"は世間を騒がせただけだが、本書にある"戦争報道写真"などは当時の日本国民を欺いたわけで、ずっと罪は重いと言えるが)。

『カプリコン・1』(1977).jpgCapricorn One.jpgCapricorn 1.jpg アメリカなどの戦勝国も、朝鮮戦争やベトナム戦争を含め、同じようなこと(報道統制・映像による虚偽行為)をしていたことがわかり、そう言えば、スタジオの中でいかにも火星着陸に成功したかのように演出してみせる、ピーター・ハイアムズ原作・脚本・監督、エリオット・グルード主演の「カプリコン・1」というSF映画(と言うより、完全な政治映画)などもあったなあと思い出したりもしました(この映画は米英両国の合作製作で、NASAは当初協力的だったが、試写で内容を知ってから協力を拒否した。アメリカ本国での公開は日本での公開より半年遅かった)。
"Capricorn One" (1977)

 "直近"の出来事では、日航機墜落事故'85年8月)で遺族に頭を下げている日航社長の姿勢が、実はカメラマンを意識したものであったとか、そのほか、グリコ・森永事件'84年)でのCGによる捜査写真の問題点などを扱っていますが、この頃が、CG写真やデジタルカメラ(本書では「電子カメラ」)の草創期だったのだなあ、と事件と共に思い出すとともに、今となっては話題(素材)が古すぎて、昔の新聞を読んでいるみたいな感じも。

豊田商事事件.jpg  本書は"トリック"というテーマには限定せず、ロス疑惑事件の三浦和義"疑惑人"逮捕('85年9月)前後の過熱報道など様々なケースを取り上げていますが、多くの報道陣の目の前で殺人が為された豊田商事事件(永野会長刺殺事件)('85年6月-何だか、事件が続いた時期だった)について、現場に居合わせたカメラマンの、夢中でシャッターだけ切り、急に身の危険を感じて逃げるべきかその場に居るべきか、という考えが一瞬頭の中をよぎったものの、後は冷静さを失い、結局自らはどうすることも出来なかったという証言を載せているのが関心を引きました。

豊田商事・永野会長刺殺事件 (本書より) 1985.6.19 毎日新聞(朝刊)

 これは、カメラマンだからこそ、撮るべきだったか、止(と)めるべきだったか、結局、後で悩むわけで(悲惨な戦争の報道でカメラマンが被写体に対して、撮影するしない以前の問題として何かしてやれなかったのかとよく非難されるパターンと同じ)、最近は一般の人が常に"ケータイ"というカメラを持っており、駅のホームで落下事故や飛び込みがあると、助けるわけでも人を呼びにいくわけでもなく、一斉に"ケータイ"で写真を撮り始めるという―(その写真を早速友人たちに転送している彼らは、後で思い悩むことがあるのだろうか)。

秋葉原通り魔事件 ケータイ.jpg 何だか現代社会の疎外を象徴する殺伐とした「お話」だと思っていたら、秋葉原通り魔事件が今月('08年6月8日)に起き、その際に居合わせた群集の一部が、一斉に"ケータイ"カメラを現場に向けているという光景が見られ、「現実」のこととしておぞましく感じられました。そんな中、ある30代の男性が、倒れた被害者を救助すべく、素手で口に手をこじ入れ気道確保をしたうえで、他の通行人と協力して心臓マッサージや人工呼吸を試み、到着した救急隊に被害者を引き渡したが、この人は写真が趣味で、当日も首からカメラをぶら下げていたにも関わらず、「目の前に倒れている人を救助したい一心」で、事件の写真は1枚も撮らなかった―という記事が読売新聞にあり、多少救われたような気持ちになりました。

カプリコン1.jpg「カプリコン・1」●原題:CAPRICORN ONE●制作年:1977年●制作国:アメリカ/イギリス●監督・脚本・原作:ピーター・ハイアムズ●製作:ポール・N・ラザルス3世●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●出演:エリオット・グールド/ジェームズ・ブローリン/ブレンダ・バッカロ/サム・ウォーターストーン/O・J・シンプソン/ハル・ホルブルック/カレン・ブラック/テリー・サバラス●時間:124分●日本公開:1977/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐 (78-12-13) (評価:★★★)●併映「ネットワーク」(シドニー・ルメット)

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ノンフィクションをスパイ小説タッチで書く手腕に感心。当時より、今の方が身近な問題に。

カッコウはコンピュータに卵を産む 上.bmp カッコウはコンピュータに卵を産む 下.bmp   WarGames.jpg "Wargames" [1983]
カッコウはコンピュータに卵を産む〈上〉』 『カッコウはコンピュータに卵を産む〈下〉

 天文学研究の傍ら、研究所のシステム管理の責を負うことになった主人公が、システムの使用料金合計が僅かに合わないことの原因の究明に当たるうちに、コンピュータにハッカーが侵入していることが判明、このハッカー、研究所のコンピュータを足場に、国防総省のネットワークを経由して各地軍事施設やCIAのコンピュータに侵入していて、どうやらドイツが発信元らしいことは判ったが、当局はまだ調査に動かない。その間にもハッカーは、米国の軍事施設やドイツ駐留米軍基地に侵入するなど世界を自在に駆け巡ってスパイ活動していて、そこで主人公は、ハッカーの正確な居場所を突き止めるために一計を案じる―と、まるで手に汗握るスパイ小説のような話ですが、本書は実際にあった国際ハッカー事件の記録であり、そのハッカー相手に奮闘した天文学者が'89年に自ら書き下ろしたものです(原題:The Cuckoo's Egg: Tracking a Spy Through the Maze of Computer Espionage)。

ウォー・ゲーム.jpg かつて、80年代前半に、「ウォー・ゲーム」('83年)という映画がありました。

映画 「ウォー・ゲーム

 パソコン少年が偶然繋がった正体不明の相手とネット上で米ソ核戦争ゲームをするのですが、実はその相手は、北米防空司令部が核攻撃を自動化したコンピュータであり、相手は仮想のソ連の攻撃を演出しているのに、少年の攻撃は、実際の作戦命令として実行されようとしていたというもの。
 ハラハラさせられる一方で展開に少しご都合主義な点もあり、映画としての出来はイマイチ、そのバックグラウンドも当時はやや荒唐無稽に思えたのですが、後にその背景モチーフは予見的なものだったとして再評価され、映画全体の評価も併せて上昇するに至りました。
 本書などは、まさに「ウォー・ゲーム」再評価の原動力の1つになったかも(セキュリティ・システムは20年前と今では全然違うだろうが、それでも、国の関係機関が運用するサイトがハッカー攻撃に遭ったりしているではないか)。

 実際にあった"電子スパイ事件"という、読者を惹きつけるソース(元ネタ)ではあるにしても、どうして小説家でもない若者がノンフィクションをこう小説のようなタッチで書けるのか、上下2巻約600ページを飽きさせずに読ませる手腕には関心させられます(翻訳もこなれている。本書は草思社の代表的ベストセラーの1つとなった)。

 ハッカーに狙われるほどのものではないにしても、フィッシングなどのネット被害は珍しいものではなくなっており、自分自身、クレジット・カードを持ち歩いてもいないのに、盗まれたのと同じような状況になっていることをカード会社から知らされた経験があり(要するに勝手に使われている)、金融機関やプロバイダから個人情報が流出することもある昨今、個人の情報リテラシーの問題だけでは片付けられない気がします。
 オークションなどのネット商取引で、色々なサイトを行き来している人は、そのサイトの作成者自身に悪意が無くとも被害に遭うことがあり、ご用心、ご用心というところでしょうか(何だか、本の出来に感心している場合ではなくなってくる)。

「ウォー・ゲーム」.jpgウォー・ゲーム ちらし.bmp「ウォー・ゲーム」●原題:WAR GAMES●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・バダム●製作総指揮:レオナード・ゴールドバーグ●製作:ハロルド・シュナイダー●脚本:ウォルター・F・パークス/ローレンス・ ラスカー●音楽:アーサー・B・ルービンスタイン ●時間:114分●出演:マシュー・ブロデリック/ダブニー・コールマン/ジョン・ウッド●日本公開:1983/12●配給:MGM/UA●最初に観た場所:テアトル新宿 (84-09-16) (評価:★★★)●併映:「大逆転」(ジョン・ランディス)

"Wargames" [1983]

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シリーズ中、特に充実した内容。回答者のコメントを読むのが楽しい。

ミステリーサスペンス洋画ベスト150.jpg大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト15074.JPG  『現金(げんなま)に体を張れ』(1956).jpg
大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』['91年]表紙イラスト:安西水丸/「現金(げんなま)に体を張れ」(1956).

 映画通と言われる約400人からとったミステリー・サスペンス洋画のアンケート集計で、『洋画ベスト150』('88年)の姉妹版とも、専門ジャンル版とも言えるもの('91年の刊行)。

 1つ1つの解説と、あと、スチール写真が凄く豊富で、一応、"ベスト150"と謳っていますが、ランキング200位まで紹介しているほか、監督篇ランキングもあり、個人的に偏愛するがミステリーと言えるかどうかというものまで、「私が密かに愛した映画」として別枠で紹介しています。また、エッセイ篇として巻末にある、20人以上の映画通の人たちによる、テーマ別のランキングも、内容・写真とも充実していて、このエッセイ篇だけで150ページあり、全体では600ページを超えるボリュームで、この文春文庫の「大アンケート」シリーズの中でもとりわけ充実しているように思えます。                                                         
第三の男.gif『恐怖の報酬』(1953) 2.jpg太陽がいっぱい.jpg 栄えある1位は「第三の男」、以下、2位に「恐怖の報酬」、3位に「太陽がいっぱい」、4位「裏窓」、5位「死刑台のエレベーター」、6位「サイコ」、7位「情婦」、8位「十二人の怒れる男」...と続き、この辺りのランキングは順当過ぎるぐらい順当ですが、どんな人が票を投じ、どんなコメントを寄せているのかを読むのもこのシリーズの楽しみで、時として新たな気づきもあります。因みに、ベスト150の内、ヒッチコック作品は17で2位のシドニー・ルメット、ビリー・ワイルダーの6を大きく引き離し、監督部門でもヒッチコックは1位です。
第三の男
第三の男2.jpg第三の男 観覧車.jpg 「第三の男」1949年・第3回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作)はグレアム・グリーン原作で、大観覧車、下水道、ラストの並木道シーン等々、映画史上の名場面として語り尽くされた映画ですが、個人的にも、1位であることにとりあえず異論を挟む余地はほとんどないといった感じ。この映画のラストシーンは、映画史上に残る名シーンとされていますが、男女の考え方の違いを浮き彫りにしていて、ロマンチックとかムーディとか言うよりも、ある意味で強烈なシーンかもしれません。オーソン・ウェルズが、短い登場の間に強烈な印象を残し(とりわけ最初の暗闇に光が差してハリー・ライムの顔が浮かび上がる場面は鮮烈)、「天は二物を与えず」とは言うものの、この人には役者と映画監督の両方が備わっていたなあと。この若くして過剰なまでの才能が、映画界の先達に脅威を与え、その結果彼はハリウッドから締め出されたとも言われているぐらいだから、相当なものです。
恐怖の報酬
恐怖の報酬3.jpg『恐怖の報酬』(1953).jpg恐怖の報酬1.bmp 「恐怖の報酬」1953年・第6回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」、1953年・第3回ベルリン国際映画祭「金熊賞」受賞作)は、油田火災を消火するためにニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事を請け負った男たちの話ですが、男たちの目の前で石油会社の人間がそのニトロの1滴を岩の上に垂らしてみせると岩が粉微塵になってしまうという、導入部の演出が効果満点。イヴ・モンタンってディナー・ショーで歌っているイメージがあったのですが、この映画では汚れ役であり、粗野ではあるが渋い男臭さを滲ませていて、ストーリーもなかなか旨いなあと(徒然草の中にある「高名の木登り」の話を思い出させるものだった)。この作品は、'77年にロイ・シャイダー主演でアメリカ映画としてリメイクされています。
太陽がいっぱい」(音楽:ニーノ・ロータ
太陽がいっぱい PLEIN SOLEIL.jpg 「太陽がいっぱい」は、原作はパトリシア・ハイスミス(1921- 1995)の「才能あるリプレイ氏」(『リプリー』(角川文庫))で、'99年にマット・デイモン主演で再映画化されています(前作のリバイバルという位置づけではない)。『太陽がいっぱい』(1960).jpgこの淀川長治2.jpg映画の解釈では、淀川長治のホモ・セクシュアル映画説が有名です(因みに、原作者のパトリシア・ハイスミスはレズビアンだった)。あの吉行淳之介も、淀川長治のディテールを引いての実証に驚愕した(吉行淳之介『恐怖対談』)と本書にありますが、ルネ・クレマンが来日した際に淀川長治自身が彼に確認したところ、そのような意図は無いとの答えだったとのことです(ルネ・クレマン自身がアラン・ドロンに"惚れて"いたとの説もあり、そんな簡単に本音を漏らすわけないか)。(●2016年にシネマブルースタジオで再見。トムがフィリップの服を着て彼の真似をしながら鏡に映った自分にキスするシーンは、ゲイ表現なのかナルシズム表現なのか。マルジュがフィリップに「私だけじゃ退屈?そうなら船をおりるわ」とすねるのは、フィリップの恋人である彼女が、男性であるトムをライバル視してのことか。再見していろいろ"気づき"があった。) 
            
 個人的に、もっと上位に来てもいいかなと思ったのは(あまり、メジャーになり過ぎてもちょっと...という気持ちも一方であるが)、"Body Heat"という原題に相応しいシズル感のある「白いドレスの女」(27位)、コミカルなタッチで味のある「マダムと泥棒」(36位)、意外な場面から始まる「サンセット大通り」(46位)、カットバックを効果的に用いた強盗劇「現金(げんなま)に体を張れ」(51位)、「大脱走」を遥かに超えていると思われる「第十七捕虜収容所」(55位)、これぞデ・パルマと言える「殺しのドレス」(70位)(個人的には「ボディ・ダブル」がランクインしていないのが残念)、チャンドラーの原作をボギーが演じた「三つ数えろ」(92位)、脚本もクリストファー・リーブの演技も良かった「デス・トラップ/死の罠」(94位)、ミステリーが脇に押しやられてしまっているため順位としてはこんなものかも知れないけれど「ディーバ」(101位)、といった感じでしょうか、勝手な見解ですが。

kathleen-turner-body-heat.jpg白いドレスの女1.jpg白いドレスの女2.jpg白いドレスの女.jpg 「白いドレスの女」は、ビリー・ワイルダーの「深夜の告白」('48年)をベースにしたサスペンスですが、共にジェイムズ・M・ケインの『殺人保険』(新潮文庫)が原作です(ジェイムズ・ケインは名画座でこの作品と併映されていた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の原作者でもある)。この映画では暑さにむせぶフロリダが舞台で、主人公の弁護士の男がある熱帯夜の晩に白いドレスの妖艶な美女に出会い、彼女の虜になった彼は次第に理性を奪われ、彼女の夫を殺害計画に加担するまでになる―という話で、ストーリーもよく出来ているし、キャスリーン・ターナーが悪女役にぴったり嵌っていました。 kathleen-turner-body-heat(1981)

マダムと泥棒1.jpgマダムと泥棒.jpg 「マダムと泥棒」は、老婦人が営む下宿に5人の楽団員の男たちが練習部屋を借りるが、実は彼らは現金輸送車を狙う強盗団だった―という話で、これもトム・ハンクス主演で'04年に"The Ladykillers"(邦題「レディ・キラーズ」)というタイトルのまま再映画化されています。イギリス人の監督と役者でないと作り得ないと思われるブラック・ユーモア満載のサスペンス・コメディですが、この作品でマダムこと老婦人を演じて、アレック・ギネスやピーター・セラーズといった名優と渡り合ったケイティ・ジョンソンは、後にも先にもこの映画にしか出演していない全くの素人というから驚き。この作品は、本書の姉妹版の『洋・邦名画ベスト150 〈中・上級篇〉』('92年/文春文庫ビジュアル版)では、洋画部門の全ジャンルを通じての1位に選ばれています。

現金に体を張れ.jpg 「現金に体を張れ」(原題:THE KILLING)は、刑務所を出た男が仲間を集めて競馬場の賭け金を奪うという、これもまた強盗チームの話ですが、綿密なはずの計画がちょっとした偶然から崩れていくその様を、同時に起きている出来事を時間を繰り返カットバック方式でそれぞれの立場から描いていて、この方式のものとしては一級品に仕上がっており、また、人間の弱さ、夢の儚さのようなものもしかっり描けています。 スタンリー・キューブリック (原作:ライオネル・ホワイト) 「現金(ゲンナマ)に体を張れ」 (56年/米) ★★★★☆

『パルプ・フィクション』(1994) 2.jpgPulp Fiction(1994) .jpg 本書刊行後の作品ですが、同じくカットバックのテクニックを用いたものとして、ボスの若い妻(ユマ・サーマン)と一晩だけデートを命じられたギャング(ジョン・トラヴォルタ)の悲喜劇を描いたクエンティン・タランティーノ監督の1994年・第47回カンヌ国際映画祭「パルム・ドール」受賞作「パルプ・フィクション」があり(インディペンデント・スピリット賞作品賞も受賞)、テンポのいい作品でしたが(アカデミー脚本賞受賞)、カットバック方式に限って言えば、「現金に体を張れ」の方が上だと思いました(競馬場強盗とコーヒー・ショップ強盗というスケールの違いもあるが)。

Pulp Fiction(1994)

deathtrap movie.jpgdeathtrap movie2.jpg 「デス・トラップ 死の罠」の原作は「死の接吻」「ローズマリーの赤ちゃん」のアイラ・レビンが書いたブロードウェイの大ヒット舞台劇。落ち目の劇作家(マイケル・ケイン)の許に、かつてのシナリオライター講座の生徒クリフ(クリストファー・リーヴ)が書いた台本「デストラップ」が届けられ、作家は、金持ちの妻マイラ(ダイアン・キャノン)に「この劇はクリストファー・リーブ superman.jpg傑作だ」と話し、盗作のアイデアと青年の殺害を仄めかし、青年が郊外の自宅を訪れる際に殺害の機会を狙う―(要するに自分の作品にしてしまおうと考えた)。ドンデン返しの連続は最後まで飽きさせないもので、「スーパーマン」のクリストファー・リーブが演じる劇作家志望のホモ青年も良かったです(この人、意外と演技派俳優だった)。
「デス・トラップ 死の罠」00.jpg クリストファー・リーブ/マイケル・ケイン

映画「ディーバ].jpgディーバ.jpg 「ディーバ」は、オペラを愛する18歳の郵便配達夫が、レコードを出さないオペラ歌手のコンサートを密かに録音したことから殺人事件に巻き込まれるというもので、1981年12月にユニフランス・フィルム主催の映画祭「新しいフランス映画を見るフェスティバル」での上映5作品中の1本目として初日にThe Space (Hanae Mori ビル5F)で上映されるも、その時はすぐには日本配給には結びきませんでした。しかし、'81年シカゴ国際映画祭シルヴァー・ヒューゴー賞を受賞し、'82年セザール賞で最優秀新人監督作品賞(ジャン=ジャック・ベネックス)のほかに、撮影賞(フィリップ・ルースロ)、Jean-Jacques Beineix's Diva.jpgディーバ_5455.JPG音楽賞(ウラディミール・コスマ)など4部門で受賞したことなどもあり、日本でも遅ればせながらフランス映画社配給で'83年11月にロードショーの運びとなりました('82年4月にアメリカでも公開)。個人的には'84年に名画座(大井武蔵野館)で観て、'94年に俳優座シネマテンでのリバイバル上映を観ました。デラコルタ(スイス人作家ダニエル・オディエのペンネーム)の原作は、ジグゾーパズル好きで、波を止めようと考えているゴロディッシュという不思議な男と、彼にくっついて回るアルバ(原作では13歳のフレンチガール)という少女を主人公にしたセリノアール6部作になっているそうで、「ディーバ」はその中の一篇です(この作品のみが翻訳あり)。新潮文庫に翻訳のある原作と映画を比べてみるのも面白いかと思います。


POWER PLAY OPERATION OVERTHROW.jpgパワー・プレイ.jpgPower Play by Peter O'Toole.jpg「パワー・プレイ (1978).jpg 「私が密かに愛した映画」で「パワー・プレイ」を推した橋本治氏が、「すっごく面白いんだけど、これを見たっていう人間に会ったことがない」とコメントしてますが、見ましたよ。

Power Play (1978).jpg ヨーロッパのある国でテログループによる大臣の誘拐殺人事件が起き、大統領がテロの一掃するために秘密警察を使ってテロリスト殲滅を実行に移すもののそのやり方が過酷で(名脇役ドナルド・プレザンスが秘密警察の署長役で不気味な存在感を放っている)、反発した軍部の一部が戦車部隊の隊長ゼラー(ピーター・オトゥール)を引き入れクーデターを起こします。クーデターは成功しますが、宮殿の大統領室にいたのは...。「漁夫の利」っていうやつか。最後、ピーター・オトゥールがこちらに向かってにやりと笑うのが印象的でした。

「パワー・プレイ」輸入版ポスター(上)/輸入盤DVD(右)
                            

第三の男 ポスター.jpg「第三の男」●原題:THE THIRD MAN●制作年:194日比谷映画・みゆき座.jpg日比谷映画.jpg9年●制作国:イギリス●監督:キャロル・リード●製作:キャロル・リード/デヴィッド・O・セルズニック●脚本:グレアム・グリーン●撮影:ロバート・クラスカー●音楽:アントン・カラス●原作:グレアム・グリーン●時間:104分●出演:ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/トレヴァー・ハワード/アリダ・ヴァリ/バーナード・リー/ジェフリー・キーン/エルンスト・ドイッチュ●日本公開:1952/09●配給:東和●最初に観た場所:千代田映画劇場(→日比谷映画) (84-10-15) (評価:★★★★☆)
千代田映画劇場 東京オリンピック - コピー.jpg
日比谷映画内.jpg
千代田映画劇場(日比谷映画) 1957年4月東宝会館内に「千代田映画劇場」(「日比谷映画」の前身)オープン、1984年10月、「日比谷映画劇場」(1957年オープン(1,680席))閉館に伴い「日比谷映画」に改称。2005(平成17)年4月8日閉館。

千代田劇場 「東京オリンピック」('65年/東宝)封切時
                                                     
「恐怖の報酬」.bmp恐怖の報酬.jpg恐怖の報酬3.jpg「恐怖の報酬」●原題:LE SALAIRE DELA PEUR●制作年:1953年●制作国:フランス●監督・脚本:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー●撮影:アルマン・ティラール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:ジョルジュ・アルノー●時間:131分●出演:イヴ・モンタン/シャルル・ヴァネル/ヴェラ・クルーゾー/フォルコ・ルリ/ウィリアム・タッブス/ダリオ・モレノ/ジョー・デスト●日本公開:1954/07●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10) (評価:★★★★)●併映:「死刑台のエレベーター」(ルイ・マル)

太陽がいっぱい 和田誠.jpg「ポスター[左](和田 誠
太陽がいっぱい15.jpg太陽がいっぱい ポスター2.jpg太陽がいっぱい ポスター.jpg「太陽がいっぱい」●原題:PLEIN SOLEIL●制作年:1960年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●脚本:ポール・ジェゴフ/ルネ・クレマン●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:パトリシア・ハイスミス 「才能あ文芸坐.jpg文芸坐ル・ピリエ.jpgるリプレイ氏」●時間:131分●出演:アラン・ドロン/マリー・ラフォレ/モーリス・ロネ/ エルヴィール・ポペスコ/エルノ・クリサ/ビル・カーンズ/フランク・ラティモア/アヴェ・ニンチ●日本公開:1960/06●配給:新外映●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ (83-02-21)●2回目:北千住シネマブルー・スタジオ(16-02-23) (評価:★★★★)
文芸坐ル・ピリエ (11979(昭和54)年7月20日、池袋文芸坐内に演劇主体の小劇場としてオープン)1997(平成9)年3月6日閉館

「白いドレスの女」.jpg「白いドレスの女」●原題:BODY HEAT●制白いドレスの女8.jpg作年:1981年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ローレンス・カスダン●製作:フレッド・T・ガロ●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェイムズ・M・ケイン 「殺人保険」●時間:113分●出演:ウィリアム・ハート/BODY HEAT.bmpキャスリーン・ターナー/リチャード・クレンナ/テッド・ダンソン/ミッキー・ローク/J・A・プレストン/ラナ・サウンダース/キム・ジマー●日本公開:1982/02●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07) ●2回目:飯田橋ギンレイホール(86-12-13)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ボブ・ラフェルソン)

THE LADYKILLERS 1955.jpgマダムと泥棒2.jpg「マダムと泥棒」●原題:THE LADYKILLERS●制作年:1955年●制作国:イギリス●監督:アレクサンダー・マッケンドリック●製作:セス・ホルト●脚本:ウィリアム・ローズ●撮影:オットー・ヘラー●時間:97分●出演:アレック・ギネス/ピーター・セラーズ/ハーバート・ロム/ケイティ・ジョンソン/シル・パーカー/ダニー・グリーン/ジャック・ワーナー/フィリップ・スタントン/フランキー・ハワード●日本公開:1957/12●配給:東和 (評価:★★★★)

現金に体を張れ01.jpgthe killing.jpg現金に体を張れ1.jpg「現金に体を張れ」●原題:THE KILLING●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:スタンリー・キューブリック●製作:ジェームス・B・ハリス●脚本:スタンリー・キューブリック/ジム・トンプスン●撮影:ルシエン・バラード●音楽:ジェラルド・フリード●原作:ライオネル・ホワイト 「見事な結末」●時間:83分●出演:スターリング・ヘイドン/ジェイ・C・フリッペン/メアリ・ウィンザー/コリーン・グレイ/エライシャ・クック/マリー・ウィンザー/ヴィンス・エドワーズ●日本公開:1957/10●配給:ユニオン=映配●最初に観た場所:新宿シアターアプル (86-03-22) (評価:★★★★☆)

パルプフィクション5E.jpegパルプ・フィクション4.jpg「パルプ・フィクション」●原題:PULP FICTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:クエンティン・タランティーノ●製作:ローレンス・ベンダーパルプフィクション スチール.jpg●原案:クエンティン・タランティーノ/ロジャー・エイヴァリー●撮影:アンジェイ・セクラ●音楽:カリン・ラットマン●時間:155分●出演:ジョン・トラヴォパルプ・フィクション ジョン トラボルタ.jpgルタ/サミュエル・L・ジャクソン/ユマ・サーマン/ハーヴェイ・カイテル/アマンダ・プラマー/ティム・ロス/クリストファー・ウォーケン/ビング・ライムス/ブルース・ウィリス/エリック・ストルツ/ロザンナ・アークエット/マリア・デ・メディロス/ビング・ライムス●日本公開:1994/09●配給:松竹富士 (評価:★★★★)
ジョン トラボルタ(1994年・第20回ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」
   
「デス・トラップ 死の罠」8.jpegDEATHTRAP 1982 2.jpg「デス・トラップ 死の罠」●原題:DEATHTRAP●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:バート・ハリス●脚本:ジェイ・プレッソン・アレン●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●原作:アイラ・レヴィン●時間:117分●出演デス・トラップ 死の罠.jpg「デストラップ」ケイン.jpg:マイケル・ケイン/クリストファー・リーヴ/ダイアン・キャノン/アイリーン・ワース/ヘンリー・ジョーンズ/ジョー・シルヴァー●日本公開:1983/09●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (86-02-15) (評価:★★★☆)●併映「殺しのドレス」(ブライアン・デ・パルマ)


ディーバ  チラシ.jpgディーバ 1981.jpg「ディーバ」●原題:DIVA●制作年:1981年●制作国:フランス●監督:ジャン=ディーバ dvd.jpgジャック・ベネックス●製作:イレーヌ・シルベルマン●脚本:ジャン=ジャック・ベネックス/セルジュ・シルベルマン●撮影:フィリップ・ルースロ●音楽:ウラディミール・コスマ●原作:デラコルタ●時間:117分●出演:フレデリック・アンドレイ/ウィルヘルメニア=ウィンギンス・フェルナンデス/リシャール・ボーランジェ/シャンタル・デリュアズ/ジャック・ファブリ/チュイ=アン・リュー●日本公開:1981/12●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館 (84-06-16)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(97-10-03) (評価:★★★★)●併映(1回目):「パッション」(ジャン=リュック・ゴダール)
 
「パワー・プレイ 参謀たちの夜」  .jpgPOWER PLAY OPERATION OVERTHROW 1978 .jpg「パワー・プレイ 参謀たちの夜」●原題:POWER PLAY OPERATION OVERTHROW●制作年:1978年●制作国:イギリス/カナダ●監督:マーティン・バーク●製作:クリストファー・ダルトン●撮影:オウサマ・ラーウィ●音楽:ケン・ソーン●時間:110分●出演:ピーター・オトゥール/デヴィッド・ヘミングス/バリー・モース/ドナルド・プレザンス/ジョン・グラニック/チャック・シャマタ/アルバータ・ワトソン、/マーセラ・セイント・アマント/オーガスト・シェレンバーグ●日本公開:1979/11●配給:ワールド映画●最初に観大塚駅付近.jpg大塚名画座 予定表.jpg大塚名画座4.jpg大塚名画座.jpgた場所:大塚名画座 (80-02-21) (評価:★★★☆)●併映:「Z」(コスタ・ガブラス)

大塚名画座(鈴本キネマ)(大塚名画座のあった上階は現在は居酒屋「さくら水産」) 1987(昭和62)年6月14日閉館

《読書MEMO》
- 構成 -
○座談会 それぞれのヒッチコック
○作品編 ここに史上最高最強の151の「面白い映画」がある
○監督編 人をハラハラさせた人たち
○エッセイ集-映画を見ることも、映画について読むことも楽しい(一部)
 ・原作と映画の間に (山口雅也)
 ・どんでん返しの愉楽 (筈見有弘)
 ・ぼくの採点表 (双葉十三郎)
 ・映画は見るもの、ビデオは読むもの (竹市好古)
 ・わたしの「推理映画史」 (加納一朗)
 ・法廷映画この15本- 13人目の陪審員 (南俊子)
 ・襲撃映画この15本-なにがなんでも盗み出す (小鷹信光)
 ・ユーモア・パロディ映画この20本-笑うサスペンス (結城信孝)
 ・10人のホームズ、10人のワトソン、10人のモリアティ、そして8人のハドソン夫人 (児玉数夫)
 ・世界の平和を守った10人の刑事 (浅利佳一郎)
 ・世界を震えあがらせた10人の悪党 (逢坂剛)
 ・サスペンス映画が似合う女優10人 (渡辺祥子)
 ・フランス人はなぜハドリー・チェイスが好きなのか (藤田宜永)
 ・主題曲は歌い、叫ぶ (岩波洋三)
 ・『薔薇の名前』と私を結んだ赤い糸 (北川れい子)
 ・マイケル・ケインはミステリー好き (松坂健)
 ・TV界のエラリー・クイーン (小山正)
 ・394のアンケートを読んで (赤瀬川準)

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【825】 毎日新聞社 『昭和外国映画史
「●か 川本 三郎」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●シドニー・ルメット監督作品」の インデックッスへ 「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「狼たちの午後」) 「●ジーン・ハックマン 出演作品」の インデックッスへ(「ヤング・フランケンシュタイン」) 「●ハリソン・フォード 出演作品」の インデックッスへ(「アメリカン・グラフィティ」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「ボストン・リーガル」)

名脇役たちを通して'60‐'70年代が一気に甦ってくる本。

傍役グラフィティ.jpg傍役グラフィティ2.gif Roy Scheider.jpg Peter Boyle.jpg Marty Feldman.jpg John Cazale.jpg Ed Lauter.jpg Charles Martin Smith.jpg
傍役グラフィティ―現代アメリカ映画傍役事典 (1977年)』/Roy Scheider /Peter Boyle/Marty Feldman/John Cazale/Ed Lauter/Charles Martin Smith

JAWS/ジョーズ5.bmpJAWS/ジョーズ4.bmp 今年('08年)2月に「JAWS/ジョーズ」でお馴染みのロイ・シャイダーが亡くなりましたが、TVドラマ「サード・ウォッチ」にロシア・マフィア役で出ていて、何だか凄みが増した感じだったけれども、既にその時はガン闘病中だったのか。エルモア・レナード原作の「デス・ポイント/非情の罠」(『五万二千ドルの罠』)に主演していますが、「ジョーズ」とか「デス・ポイント」みたいに、ちょっとビクついている感じの役の方が似合っていた気もします。

 ロイ・シャイダーを思い出したついでに、「ニューシネマ以降10年のアメリカ映画に登場した愛すべきバイプレーヤー200人」をとりあげたという本書を取り出してパラパラめくっていると、旧知に再会したような感じで、結構ノスタルジックな気分になりました。 個人的に"好み"のところでは―、           

YOUNG FRANKENSTEN.jpg『ヤング・フランケンシュタイン』(1974) 2.jpg『ヤング・フランケンシュタイン』(1974).jpg ピーター・ボイルは、「タクシードライバー」('76年/米)でトラビス(デ・ニーロ)を気遣う先輩タクシー運ちゃんぶりが良かったけれど(この映画にはハーヴェイ・カイテルもポン引き役で出ていた)、その前のメル・ブルックジーン・ワイルダー1.jpgス監督、ジーン・ワイルダー主演(脚本も務めた)の「ヤング・フランケンシュタイン」でボイルが演じたのは、何とボリス・カーロフ顔負けのフランケンシュタイン(この映画の奇妙な執事、ギョロ目のマーティ・フェルドマンの怪演も印象的)。ボイルは、「X‐ファイル」にもゲスト出演していましたが、この人も最近亡くなった...。

「ヤング・フランケンシュタイン」2.jpg この映画はシェリイ夫人の原作及び古典的ホラー映画のパロディですが、アインシュタインに似た博士(ジーン・ワイルダー)やその助手(テリー・ガー)も快演(怪演)しているほか、オリジナルの「フランケンシュタイン」にも出てくる小屋に住む盲ヤング・フランケンシュタイン ジーン・ハックマン.jpg目の老人役は、ラストに小さくクレジットされているだけで大概の人は気づかないのですがジーン・ハックマンであるという遊びもありました。

ジーン・ハックマン(右)
ジーン・ワイルダー/マデリン・カーン
「ヤング・フランケンシュタイン」マデリンカーン.jpgヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/マデリーン・カーン/クロリス・リーチマン/リチャード・ヘイドン/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)

狼たちの午後7.bmp狼たちの午後8.bmp狼たちの午後 ポスター.gifDog Day Afternoon.jpg狼たちの午後2.jpg "おでこのジョン"ことジョン・カザール「狼たちの午後」での鬱々とした演技が良く(アル・パチーノが上手いのはさすがだが、この映画でのチャールズ・ダーニングもいい)、「ディア・ハンター」('78Meryl Streep and John Cazale 2.jpg年)に起用された際に、彼がガン宣告を受けたため出演させることを渋った製作側に対し、降板に反対するロバート・デ・ニーロらに口説かれ、治療を受けながら演じたという、その「ディア・ハンター」が彼の遺作となりました(無名時代に共演したメリル・ストリープと婚約中だった)。

dog_day_afternoon_9.png狼たちの午後.jpg この「狼たちの午後」は、実際にあった銀行強盗をモチーフに作られた作品ですが、撮影のかなりの部分はアドリブで撮られていて、アル・パチーノの演技の旨さもさることながら、その"妻"を演じたクリス・サランドンは、冒頭の僅か10分そこそこの登場で(銀行に押し入ったとたんに怖くなって逃げ出してしまう)アカデミー助演男優賞候補になったというオマケも付きました(犯人の内2人が同性婚していたのは事実らしい)。

アル・パチーノ(第1回ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演男優賞」受賞)
「狼たちの午後」●原題:DOG DAY AFTERNOON●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:マーティン・ブレグマンほか●脚本:「狼たちの午後」.jpgフランク・ピアソン●撮影:ジヴィクター・J・ケンパー●時間:125分●出演:アル・パチーノ/ジョン・カザール/チャールズ・ダーニング/クリス・サランドン/キャロル・ケイン/ランス・ヘンリクセン/ジェームズ・ブロデリック/ペニー・アレン/サリー・ボイヤー●日本公開:1976/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:池袋文芸坐 (77-12-14) (評価:★★★★)●併映:「セルピコ」(シドニー・ルメット)

『ロンゲスト・ヤード』(1974).jpg『ロンゲスト・ヤード』(1974)2.jpgEd Lauter.jpg ド・ローターは「ロンゲスト・ヤードの鬼看守役で、バート・レイノルズと拮抗した演技を見せていましたが(「X‐ファイル」にも出ていた)、この人や「十二人の怒れる男」のリー・J・コップなどは、"脇役"の域を超えているかも。ジャック・ウォーデンも、「十二人」の1人でしたが、「ジャスティス」で判事役をやったほか、「評決」でポール・ニューマンと組む弁護士役をやるなど、裁判絡みの役が結構あったなあと。

Burt Reynolds THE LONGEST YARD.jpgロンゲスト・ヤード.jpg 「ロンゲスト・ヤード」は看守対囚人のフットボールの試合を描いた男臭い映画でしたが(主演のバート・レイノルズはフットボール選手出身。三鷹オスカーで観たレイノルズ主演の3本立てでは、この作品の役が一番ハマっていた)、007の敵役ジョーズ役リチャード・キールなんていうのも出ていました(この作品は'05年にリメイクされた)。

「ロンゲスト・ヤード」●原題:THE MEAN MACHINE (THE LONGEST YARD)●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:ロバートエヴァンスほか●撮影:ジョセフ・F・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォル●原案:アルバート・S・ラディ ●時間:121分●出演:バート・レイノルズ/エディ・アルバート/マイケル・コンラッド/リチャード・キール/エド・ローター/ジム・ハンプトン/ハリー・シーザー/ジョン・スティードマン/アルバート・S・ラディ/トレイシー・キーナン・ウィン/バーナデット・ピーターズ●日本公開:1975/05●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:三鷹オスカー (78-07-20) (評価:★★★★)●併映:「トランザム7000」(ハル・ニーダム)/「デキシー・ダンスキングス」(ジョージ・G・アビルドセン)

アメリカン・グラフィティ.jpg  ボー・ホプキンスなどは、ジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」のファラオ団のリーダーでしたが、すでに「ワイルドバンチ」で、ペキンパー一家の1人だったわけか。

アメリカン・グラフィティ [DVD]

 「アメリカン・グラフィティ」では、少しひ弱な感じのチャールズ・マーティン・スミスも印象に残りました。
アメリカン・グラフィティAmerican Graffiti.jpgアメリカン・グラフィティ チラシ.jpgCharles Martin Smith.jpgCharles Martin Smith

 彼はラストで、ベトナムで戦死したことになっていたなあ。リチャード・ドレイファスら演じた4人組の内の1人、ロン・ハワードが演じたスティーヴは"事故死"になっていましたが、ロン・ハワード自身は後に監督となり「アポロ13」「ダビンチ・コード」を撮ります。この映画撮影当時、プロの役者として活動しいたのは実はロン・ハワードのみで、但し、当時はまだ無名です。リチャード・ドレイファス、ハリソン・フォード、チャールズ・マーティン・スミスらは、役者としての実績すら殆どありませんでした。チャールズ・マーティン・スミスは、「アンタッチャブル」でも死んでいく役で、どこまでも"脇"でした。

『ワイルドバンチ』(1969).jpgワイルドバンチ.jpg 因みに「ワイルドバンチ」は、本書が最も注目する脇役"宝庫"の映画であり、主役級のウィリアム・ホールデンのほかに、アーネスト・ボーグナイン、ローバート・ライアン、ウォーレン・オーツ、エドモンド・オブライエン、ベン・ジョンソン、ジェイミー・サンチェス、エミリオ・フェルナンデスらが、プロデューサーとの衝突でハリウッドを干されていたサム・ペキンパーのもとに集結して作った西部劇作品(これだけ出ていれば、ボー・ホプキンスが出ていたことをすぐに思い出せないのも無理ない)。無法者たちの織り成す殺戮劇はヤクザ映画に通じるところがありますが、ペキンパーは本来は「滅びの美学」というより「暴力の虚しさ」を説きたかったのではないかと思います(深作欣二の「仁義なき戦い」も一応はそういうことになっているのだが)。

アメリカン・グラフィティ図1.jpgチャーリー・マーチン・スミス2.jpg「アメリカン・グラフィティ」●原題:AMERICAN GRAFFITI●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:ジョーハリソン・フォード アメリカン・グラフィティ.jpgジ・ルーカス●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ゲイリー・カーツ●脚本:ジョージ・ルーカス/グロリア・カッツ/ウィラード・ハイク●撮影:ロン・イヴスレイジ/ジョン・ダルクイン ●時間:110分●出演:リチャード・ドレイファス/ロン・ハワード/チャーリー・マーチン・スミス/キャンディ・クラーク/ポール・ル・マット/シンディ・ウィリアムズ/ ウルフマン・ジャック/ボー・ホプキンス/ハリソン・フォード/ケイ・レンツ/マッケンジー・フィリップス/キャスリーン・クインラン●日本公開:1974/12●配給:ユニバーサル●最初に観た場所:早稲田松竹 (77-11-05) (評価:★★★★)●併映:「タクシードライバー」(マーチン・スコセッシ)

THE WILD BUNCH_02.jpgTHE WILD BUNCH.jpg「ワイルドバンチ」●原題:THE WILD BUNCH●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:サム・ペキンパー●製作:フィル・フェルドマン●脚本:ウォロン・グリーン/サム・ペキンパー/ロイ・N・シックナー●撮影:ルシアン・バラード●音楽:ジェリー・フィールディング●時間:110分●出演:アーネスト・ボーグナイン/ローバート・ライアン/ウォーレン・オーツ/エドモンド・オブライエン/ベン・ジョンソン/ジェイミー・サンチェス/エミリオ・フェルナンデス/ストローザー・マーティン/L・Q・ジョーンズ/アルバート・デッカー/ボー・ホプキンス●日本公開:1969/08●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:池袋文芸坐 (88-03-13) (評価:★★★★)●併映:「リオ・ブラボー」(ハワード・ホークス)

William Shatner&Candice Bergen in Boston Legal.jpgボストン・リーガル1.jpgウィリアム・シャトナー.jpg 挙げていくとキリがありませんが、脇役から主役級になった人、TVドラマで活躍している人もいるし、映画からテレビに移って役柄のイメージが変わった人もいます。

ウィリアム・シャトナー2.jpgWilliam Shatner&Candice Bergen in Boston Legal

 何せ、「スター・トレック」(元々はテレビシリーズだったわけだが)のカーク船長、ウィリアム・シャトナーが「ボストン・リーガル」で法律事務所長をコメディタッチで演じているぐらいだから...(共演は、キャンディス・バーゲン!それと、ジェームズ・スペイダー演じるアラン・ショアが役どころとしてはいい。彼はこのシリーズで、プライムタイム・エミー賞の最優秀主演男優賞を2度獲っている)。

「ボストン・リーガル」 Boston Legal (ABC 2004~2008) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME(2007~2011)

 亡くなった人もいれば、まだまだ頑張っている人もいるし、ロン・ハワードのように監督になった人も...。'60年-'70年代が一気に甦ってくる本です。

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スチールが豊富でレイアウトがダイナミック。

昭和外国映画史0.JPG昭和外国映画史.jpg 昭和外国映画史2.jpg
昭和外国映画史―「月世界探検」から「スター・ウォーズ」まで (1978年)

 「1億人の昭和史」という毎日新聞社の雑誌の別冊シリーズ(今で言う"ムック")として刊行されたものです。

「月世界探検」(1902)
月世界探検.jpg 一応「昭和」とタイトルにありますが、1908(明治41)年公開の「月世界探検(月世界旅行)」('02年/仏)から取り上げていて(これ、8mmフィルムで観たことがあるが、"大掛かりな学芸会"みたいな作品だった)、日本で公開された外国映画をスチールで紹介する「全史」となっています。10年単位で均等に作品を取り上げているため、20世紀初期の多くの無声映画が紹介されているなど、類書に比べ相対的に古典的作品が詳しく紹介されていることになっています。

IMG_2849.JPG 本書自体が'78(昭和53)年の刊行なので、昭和を10年残したところで終わっていますが、掲載されているスチールの総数は千枚近いのではないかと思われます。大胆でダイナミックなレイアウトにより、外国映画の持つスケールと迫力、豊かな情感が伝わってきて、まだ観ていない映画も見たくなってきます。

 1枚のスチール写真で1ページ、更には見開きページを使っている作品もあり、因みに見開き掲載となっているのは、「未完成交響曲」(昭和10年公開)、「駅馬車」(昭和15年公開)、「風とともに去りぬ」(昭和27年公開)、「スター誕生」、「旅情」(共に昭和30年公開)、「荒野の七人」(昭和36年公開)、「ゴッドファーザー」(昭和47年公開)等々。

IMG_2848.JPG あくまでも日本での公開順に昭和を10年単位で区切り(「戦艦ポチョムキン」('25年/ソ連)などは昭和40年代のグループにある)、併せて時代風潮と映画業界の動向を総括していますが、例えば、昭和30年代の冒頭には、日本初の"シネラマ劇場"「テアトル東京」の写真があり、当時1日1万人近い観客が押しかけたのこと(現在の京橋駅近くの「ル・テアトル銀座」の場所にあった)。

 自分も'81年の閉館直前の頃ですが、ここで「地獄の黙示録」「天国の門」などを観た思い出があり、その頃にはもうガラガラに空いていましたが(ロードの終わりの頃だったのかなあ)、初体験の2チャンネル・サウンドや湾曲したスクリーンの記憶は消えません。

「風と共に去りぬ」」パンフレット(1975年リバイバル公開版)
「風と共に去りぬ」」1」.jpg オールド・ムービーについて知る手引きとして楽しませてもらい、今も手元に置いていますが、「1枚のスチールは10の解説よりも雄弁」という思いを強く抱かされます。

 「風とともに去りぬ」('39年/米)が本書のちょうど真ん中にくるぐらいでしょうか(前の方には、自分の知らない古典的作品がいっぱいある)。1930年代に「風と共に去りぬ」のようなスケールの大きな映画がアメリカで作られ、それを日本人が1950年代になって初めて観て驚き、こんな映画を作った国と戦争しても勝てるはずがなかったのだと改めて思ったわけだなあ(小津安二郎や徳川夢声は戦時中に日本軍の被占領地(シンガポール)でこの映画を観ている)。

風と共に去りぬ パンフ01.JPG アカデミー賞の作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞・脚色賞・撮影賞・室内装置賞・編集賞・制作賞・特別賞受賞(主演女優賞のヴィヴィアン・リーは、1939年(第5回)ニューヨーク映画批評家協会賞の主演女優賞も受賞)。アメリカ国内での興行収入は、チケット価格のインフレ調整計算すると歴代1位になり、日本でも高度成長期を中心に10回以上リバイバル上映され、今日も世界中のどこかの映画館で必ず上映されていると言われるスゴイ映画です。因みに、世界で初めてテレビ放映されたのも日本においてです(1975年/日本テレビ系列)。

「風と共に去りぬ」」2.jpg「風と共に去りぬ」●原題:GONE WITH THE WIND●制作年:1939年●制作国:アメリカ●監督:ビクター・フレミング●製作:デヴィッド・O・セルズニック●脚本:シドニー・ハワード●撮影:アーネスト・ホーラー/レイ・レナハン●音楽:マックス・スタイナー●原作:マーガレット・ミッチェル●時間:231分●出演:ヴィヴィアン・リー/クラーク・ゲーブル/レスリー・ハワード/オリヴィア・デ・ハヴィランド/トーマス・ミッチェル/バーバラ・オニール/ハティ・マクダニエル/イヴリン・キース/アン・ラザフォード/ハリー・ダベンボート/ローラ・ホープ・クルーズ/キャロル・ナイ/オナ・マンスン/カミー・キング●日本公開:1952/09●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-06-03)(評価:★★★★)

月世界旅行 dvd.jpg月世界旅行1.jpg月世界旅行2.jpg 「月世界旅行」(げつせかいりょこう)●原題:THE TRIP TO THE MOON(Le Voyage dans la Lune)●制作年:1902年●制作国:フランス●監督・製作・脚本:ジョルジュ・メリエス●原作:ジュール・ヴェルヌ/H・G・ウェルズ●時間:14分●出演:ジョルジュ・メリエス/ブリュエット・ベルノン/ ジュアンヌ・ダルシー/ヴィクター・アンドレ/アンリ・デラヌー●日本公開:1905/08●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:杉本保男氏邸(81-01-31)(評価:★★★?)
月世界旅行&メリエスの素晴らしき映画魔術 Blu-ray」['12年] 2010年彩色版

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日本の法科大学院とは似て非なるもの。エリート生成過程を通して見えるアメリカ社会。

Iアメリカン・ロイヤーの誕生―7.JPGアメリカン・ロイヤーの誕生.jpgアメリカン・ロイヤーの誕生 2.jpg 阿川尚之.jpgThe Paper Chase (1973).jpg 
アメリカン・ロイヤーの誕生―ジョージタウン・ロー・スクール留学記 (中公新書)』 〔'86年〕阿川 尚之 氏(慶應義塾大学教授)/映画「ペーパーチェイス」('73年/米)

 著者は、大学を卒業してソニーに入社後、アメリカでの弁護士資格取得を思い立ち、休職願いを会社に受け入れてもらってジョージタウン・ロー・スクールに入学する―、本書はその留学3年間('81-'84年)の奮闘記。

 文章が生き生きしていて旨いのは、さすが作家・阿川弘之の息子だけあるということか(著者は、慶應義塾大学を中退、ジョージタウン大学の外国人枠で外交政策学部卒業した後、ソニーに入社したというのがそれまでの経歴)。

 アメリカでは、学部は専門教育の場とは考えられていないようで、ビジネス・スクール(履修期間2年)、ロー・スクール(同3年)、メディカル・スクール(同4年)などが別に設けられていて、'04年からスタートした日本の法科大学院は、ロー・スクールを参考に制度作りしたのは明らかですが(日本の場合、法学"未修"者は3年、"既修"者は2年)、あちらでは、そもそも"既修"という概念が無いし(全員が"未修"ということ)、"本家"のものは多くの面で日本のものとは似て非なるものという感じがしました。

 入学試験は一斉テストで、論理パズルのような問題。著者はハーバードなど8校に出願し4勝4敗、結局、高校時代に留学経験のあるジョージタウン大学のロー・スクールを選びますが、入ってからが大変です。

ペーパー・チェイス poster.jpgぺ―パーチェイス.jpg 本書でも引き合いにされてリンゼイ・ワグナーes.jpgいますが、まさにジェームズ・ブリッジス監督の映画「ペーパーチェイス」('73年/米)の世界です(原作('70年)はジョン・ジェイ・オズボーン・ジュニアが自らの体験を綴った同名小説、主演は「ジョニーは戦場へ行った」のティモシー・ボトムズと、後にTV番組「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」の主役となるリンゼイ・ワグナー)。
ペーパー・チェイス [DVD]

 アメリカの司法は徹底した判例主義だけれど、州によって法律が違ったりするので尚更のこと大変そう。それと、映画同様、先生のタイプは様々ですが、全体としては実戦に近い形でのカリキュラムが多く組まれているようです。

 本書では、1年次の学年末試験と2年次のサマー・アソシエイト(事務所実習)が重点的に描かれていますが、それらの過程において学生たちは厳しい評価を受け、卒業後にどのランクのファームから引き合いがあるかが大体決まってしまうらしく、一方、卒業後に受ける司法試験は形式的なものに近いようです。

 学校の試験を受けるのに"ウェーバー"カードを提出しなければならなかったり(大リーグの選手移籍契約の時によく聞くが、要するに"訴権放棄"条項。落第しても文句がつけられない)、どの自主学習グループに入れるかが勝ち組・負け組となる重要な分かれ目だったりし、著者自身も「競争病」の徴候を自覚し、難所とされる最初の学年末試験を終えるまでは、出所を待つ刑務所の囚人のような気持ちだったとしています。

 著者がロー・スクールのJ.D.(法律博士)コースに入った'81年に比べれば、最近ではMBAブームほどでないにしても、あちらで弁護士資格を取る人も増えているようですし、日本にある外資系の法律事務所から留学している日本人弁護士もいますが、こうした場合はLL.M.と呼ばれる法学修士コース(履修期間1年)だったりすることが多いようで、やはり、ネイティブと同じ条件で3年学んだ体験は今でも貴重かも。

 単に"アメリカン・ロイヤーの誕生"と言うより、"アメリカン・エリートの生成"過程を通して、アメリカ社会が垣間見える好著ですが、自分自身が日本の法科大学院の実情をもっと知っていれば、より楽しめたかも。

ペーパーチェイス9.jpgTHE PAPER CHASE.jpg「ペーパーチェイス」●原題:THE PAPER CHASE●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・ブリッジス●製作:ロバート・C・トンLindsay-Wagner-and-Timothy-Bottoms-300x225.jpgプソン/ロドニック・ポール●撮影:ゴードン・ウィリス●音楽:ジョン・ウィリアムス●時間:118分●出演:ティモシー・ボトムズ/リンゼイ・ワグナー/ジョン・ハウスマン/グラハム・ベケル/エドワード・ハーマン/ボブ・リディアード/クレイグ・リチャード・ネルソン/ジェームズ・ノートン/レジーナ・バフ●日本公開:1974/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)

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スペシャリストらの"技"と彼らをまとめるマロリーのリーダーシップがいい『ナヴァロンの要塞』。

ナヴァロンの要塞 カラージャケット.jpg ナヴァロン.jpg ナヴァロンの要塞.jpg    ナバロンの要塞).jpg the-guns-of-navarone-cover-3.jpg
ナバロンの要塞 (1966年)』/『ナヴァロンの要塞 (1977年) (ハヤカワ文庫―NV)』/映画「ナバロンの要塞」日本版ポスター/輸入版ポスター

 1957年にイギリスで発表されたアリステア・マクリーン(Alistair MacLean 1922-1987)の戦争冒険小説『ナヴァロンの要塞』(The Guns of Navarone)は、『荒鷲の要塞』(Where Eagles Dare)と並ぶ"要塞モノ"の傑作ですが、この作品が発表されたのは、『荒鷲』に先立つこと10年で、結構「古典」だったのなのだなあと。

 第二次世界大戦中、ナチスのエーゲ海支配の拠点である難攻不落のナヴァロン島の要塞に、英国連合国軍から要塞の破壊指令を受けた、ニュージーランド人登山家マロリーをリーダーとする少数精鋭のスペシャリストチームが潜入する―。

 映画でも知られるストーリーですが、原作もこれでもかこれでもかとチームを不測のトラブルがテンポよく(?)襲い、それを克服していくスペシャリストたちの"技"と、彼らをまとめるマロリーのリーダーシップがいいです。
 "マロリー"という名は、戦前チョモランマ登攀中に行方不明になった「そこに山があるから登るのだ」の登山家ジョージ・マロリーへのオマージュなのでしょうか。

『ナバロンの要塞』(1961) 2.jpgナバロンの要塞p.jpg J・リー・トンプソン監督(1914-2002)、グレゴリー・ペック主演の映画「ナバロンの要塞」('61年/米)も、原作のサスペンティックな緊迫感を保っている傑作ではあります。
映画「ナバロンの要塞」輸入版ポスター
『ナバロンの要塞』(1961).jpg
 ただし、彼らチームを助けるケロス島の2人の男が女性に置き換えられていて、しかもそのうちの1人を演じたギリシャ人女優イレーネ・パパスがやけに存在感があり、その上、グレゴリー・ペックはもう1人の女性に恋情のようなものを抱いたりするため、良い意味でも悪い意味でも男女物のヒューマンドラマの色合いが強まった気がしました。
   
                  
「ナバロンの要塞」1.jpg「ナバロンの要塞」2.jpg こうした"情"の部分をストレートに表現することをできるだけ避けていたのが作者の特質だったのではないだろうか? 映画自体は悪くは無いけれど(むしろ傑作の部類だと個人的にも思うが)、原作の方がより男っぽい重厚感があります。 

荒鷲の要塞.jpg荒鷲の要塞 ハヤカワ・ノヴェルズ.jpg「荒鷲の要塞」.jpg荒鷲の要塞 (1968年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)』/『荒鷲の要塞 (1977年) (ハヤカワ文庫―NV)』/映画「荒鷲の要塞」ポスター(左)

 1967年に発表された姉妹作『荒鷲の要塞』('68年/ハヤカワ・ノヴェルズ)は、ドイツ軍の捕虜となる要塞に囚われたアメリカ軍将校を救出するために、イギリス軍情報部員6名とアメリカ陸軍のレンジャー部隊員から成る救出部隊が組まれるもので、その要塞というのが専用ロープウェイでしか行けないという難攻不落のもの。しかも、味方にもスパイがいて...と、ちょっと『ナヴァロンの要塞』と似ている感じ。(小説の評価★★★☆)

映画「荒鷲の要塞」('68年/米)では、イギリス軍情報部員の一員としてリチャード・バートン、アメリカ陸軍のレンジャー部隊員にクリント・イーストウッドを配していますが、最後のロープウェイ上の格闘に象徴されるように、小説の段階で既により冒険アクション風な感じがしました。

荒鷲の要塞1.jpg 先に映画の脚本として書かれたものを、後にセリフなどを書き加えて小説化したものと後で知って納得しましたが、結果的にはこれはやはり映画の方が面白く(映画の評価★★★★)、ロープウェイを使った映画では№1ではないかと思います("ロープウェイを使った映画"なんてそう矢鱈あるものではないが)。

「ナバロンの要塞」6.jpgナバロンの要塞(61米).jpg「ナバロンの要塞」●原題:THE GUNS OF NAVARONE●制作年:1961年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン●音楽:デミトリー・ティオムキン●原作:アリステア・マクリーン「ナヴァロンの要塞」●時間:157分●出演:グレゴリー・ペック/デビッド・ニーヴン/アンソニー・クイン/スタンリー・ベイカー/アンソニー・クエイル/イレーネ・パパス/ジア・スカラ/ジェームズ・ダーレン/ブライアン・フォーブス/リチャード・ハリス●日本公開:1961/08●配給:コロムビア映画 (評価★★★★)

「荒鷲の要塞」ps.jpg荒鷲の要塞(68米、英).jpg「荒鷲の要塞」●原題:WHERE EAGLE DARE●制作年:1968年●制作国:イギリス・アメリカ●監荒鷲の要塞 2.jpg督:ブライアン・G・ハットン●音楽:ロン・グッドウィン●原作:アリステア・マクリーン「荒鷲の要塞」●時間:155分●出演:リチャード・バートン/クリント・イーストウッド/メアリー・ユーア/イングリッド・ピット/マイケル・ホーダーン/パトリック・ワイマーク/ロバート・ ビーティ/アントン・ディフリング/ダーレン・ネスビット/ファーディ・メイン●日本公開:1968/12●配給:MGM (評価★★★★)

ハヤカワノヴェルズ ヴァロンの要塞.jpg『ナヴァロンの要塞』...【1966年単行本〔早川書房(『ナバロンの要塞』)〕・新書版〔ハヤカワ・ポケット・ミステリ〕/1971年単行本[ハヤカワ・ノヴェルズ〕/1977年文庫化[ハヤカワ文庫ノヴェルズ]】

荒鷲の要塞 カバー.jpg『荒鷲の要塞』...【1968年単行本[ハヤカワ・ノヴェルズ〕/1977年文庫化[ハヤカワ文庫ノヴェルズ]】

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かなり怖い心理小説であると同時に、何だか予言的な作品。

『コレクター』 (196609 白水社).jpgコレクター(収集狂).jpg コレクター 上.jpg コレクター下.jpg ウィリアム・ワイラー 「コレクター」.jpg
新しい世界の文学〈第40〉コレクター (1966年)』白水社『コレクター (上)(下)』白水Uブックス/映画「コレクター」(1956) 「カンヌ国際映画祭 男優賞(テレンス・スタンプ)」 カンヌ国際映画祭 女優賞(サマンサ・エッガー)

「フランス軍中尉の女」.bmpフランス軍中尉の女.jpgThe Collector John Fowles.jpg 1963年発表のイギリスの小説家ジョン・ファウルズ(1916‐2005)『コレクター』 (The Collector)は、映画化作品('65年、テレンス・スタンプ主演)でも有名ですが、イギリス人女性とフランス人男性の不倫を描いたカレル・ライス監督の「フランス軍中尉の女」('81年、メリル・ストリープ主演、メリル・ストリープはこの作品でゴールデングローブ賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞の各「主演女優賞」を受賞)の原作者もジョン・ファウルズであることを知り、サイコスリラーからメロドラマまで芸域が広い?という印象を持ちました。但し、映画「フランス軍中尉の女」は一昨年['05年]ノーベルハロルド・ピンター1.jpg文学賞を受賞した脚本家ハロルド・ピンターの脚色であり、現代の役者が19世紀を舞台とした『フランス軍中尉の女』という小説の映画化作品を撮影する間、小説と同じような事態が役者達の間で進行するという入れ子構造になっていることからもわかるように(そのため個人的にはやや入り込みにくかった)、映画はほぼハロルド・ピンターのオリジナル作品になっているとも言え、映画は映画として見るべきでしょう。
ハロルド・ピンター(1930-2008

the collector 1965.jpg 『コレクター』の方のストーリーは、蝶の採集が趣味の孤独な若い銀行員の男が、賭博で大金を得たのを機に仕事をやめて田舎に一軒家を買い、自分が崇拝的な思慕を寄せていた美術大学に通う女性を誘拐し、地下室にに監禁する―というもの。
"The Collector " ('65/UK)
The Collector.jpg 日本でも女児を9年も監禁していたという「新潟少女監禁事件」(1990年発生・2000年発覚)とかもあったりして、何だか今日の日本にとって予言的な作品ですが、原作は、独白と日記から成る心理小説と言ってよく、人とうまくコミュニケーション出来ない(当然女性を口説くなどという行為には至らない)社会的不適応の男が、自分の思念の中で自己の行為を正当化し、さらに一緒にいれば監禁女性は自分のことを好きになると思い込んでいるところがかなり怖い。

the collector 1965 2.jpg しかし、性的略奪が彼の目的でないことを知った女性が彼に抱いたのは「哀れみ」の感情で、彼女の日記からそのことを知った男はかえって混乱する―。
サマンサ・エッガー
サマンサ・エッガー_2.jpg 文芸・社会評論家の長山靖生氏は、この作品の主人公について「宮崎勤事件」との類似性を指摘し、共に「女性の正しいつかまえ方」を知らず、実犯行に及んだことで、正しくは"コレクター"とは言えないと書いてましたが、確かにビデオや蝶の「収集」はともかく、この主人公に関して言えば女性はまだ1人しか"集めて"いないわけです。しかし、作品のラストを読めば...。

「コレクター」7.jpg 映画化作品の方も、男が監禁女性を標本のように愛でるのは同じですが、彼女に対する感情がより恋愛感情に近いものとして描かれていて、結婚が目的となっているような感じがして、ちょっと原作と違うのではと...。

 テレンス・スタンプの代表作として知られているものの(カンヌ国際映画祭男優賞受賞)、ヒロインを演じたサマンサ・エッガーの演技も悪くなかったです(カンヌ国際映画祭女優賞受賞。ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)も受賞している)。結構SMっぽい場面もあったりして、「ローマの休日」を撮ったウィリアム・ワイラーの監督作品だと思うと少し意外かもしれません。
    
萌える男.jpg 「萌え」評論家?の本田透氏は、「恋愛」を追い求めるという点で(レイプ犯とは異なり)主人公はストーカー的であると言っていて(『萌える男』('05年/ちくま新書))、これは原作ではなく映画を観ての感想のようですが、確かに「娼婦ならロンドンに行けばいくらでも買える」だけの大金を主人公が持っていたことは、本作品を読み解くうえで留意しておいた方がいいかもしれません。但し、映画での主人公が異常性愛者っぽいのに対し、原作での主人公は何かセックス・レスに近いとも言えるような気がしました。
      
「ソフィーの選択」1982.jpg.gif 因みに、冒頭に挙げた「フランス軍中尉の女」('81年)のメリル・ストリープは、前述の通りこの作品でゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞しましたが、アカデミー賞の主演女優賞はノミネート止まりで、翌年の「ソフィーの選択」('82年)で主演女優賞を、2年連続となるゴールデングローブ賞主演女優賞と併せて受賞しました(ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞の各主演女優賞も受賞)。ただし、アカデミー賞の"助演"女優賞の方は、「ディア・ハンター」('78年)でノミネートされ、「クレイマー、クレイマー」('79年)ですでに受賞しており、この時にゴールデングローブ賞"助演"女優賞も受賞しているので、この頃はほとんど出る作品ごとに大きな賞を受賞していたことになります。

「ソフィーの選択」1.jpg「ソフィーの選択」2.jpg アラン・J・パクラの「ソフィーの選択」('82年)は、昨年['06年]亡くなったウィリアム・スタイロン(1925-2006)が1979年に発表しベストセラーとなった小説が原作です。駆け出し作家のスティンゴ( ピーター・マクニコル )が、ソフィー(メリル・ストリープ)というポーランド人女性と知り合うのですが、彼女には誰にも語ることの出来ない恐るべき過去があり、それは、彼女の人生を大きく左右する選択であった...という話で、ネ「ソフィーの選択」3.jpgタバレになりますが、自分の幼い娘と息子のどちらを生きながらえさせるか選択しろとドイツ将校に求められるシーンが壮絶でした。この作品でメリル・ストリープは役作りのためにロシア語訛りのポーランド語、ドイツ語及びポーランド語訛りのある英語を自在に操るなど、作品の背景や役柄に応じてアメリカ各地域のイントネーションを巧みに使い分けており、そのため「訛りの女王」と呼ばれてその才能は高く評価されることになります。「恋におちて」('84年)で共演したロバート・デ・ニーロは、メリル・ストリープのことを自分と最も息の合う女優と言っています。
 

the collector 1965 3.jpg「コレクター」●原題:THE COLLECTOR●制作年:1965年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ウィリアム・ワイラー●製作:ジョン・コーン/ジャド・キンバーグ●脚本:スタンリー・マン/ジョン・コーン/テリー・サザーン●撮影:ロバート・サーティース/ロバート・クラスカー●音楽:モーリス・ジャール●原作:ジョン・ファウルズ●時間:119分●出演:テレンス・スタンプ/サマンサ・エッガー/モナ・ウォッシュボーン/モーリス・ダリモア●日本公開:1965/08●配給:コロムビア映画(評価:★★★☆)

フランス軍中尉の女04.jpg「フランス軍中尉の女」●原題:THE FRENCH LIEUTENANT'S WOMAN●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:カレル・ライス●製作:レオン・クロア ●脚本:ハロルド・ピンター●撮影:フレディ・フランシス●音楽:カール・デイヴィス●原作:ジョン・ファウルズ●時間:123分●出演:メリル・ストリープ/ジェレミー・アイアンズ/レオ・マッカーン/リンジー・バクスター/ヒルトン・マクレー●日本公開:1982/02●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(82-05-06)●2回目:三鷹文化(82-11-06)(評価:★★☆)●併映(2回目):「情事」(ミケランジェロ・アントニオーニ)

ソフィーの選択 [DVD]
「ソフィーの選択」d1.jpg「ソフィーの選択」4.jpg「ソフィーの選択」●原題:SOPHIE'S CHOICE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督・脚本:アラン・J・パクラ●製作:キース・バリッシュ/アラン・J・パクラ●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:マーヴィン・ハムリッシュ●原作:ウィリアム・スタイロン●時間:150分●出演:メリル・ストリープ/ケヴィン・クライン/ピーター二子東急 1990.jpg・マクニコル/リタ・カリン/スティーヴン・D・ニューマン/グレタ・ターケン/ジョシュ・モステル/ロビン・バートレット/ギュンター・マリア・ハルマー/(ナレーター)ジョセフ・ソマー●日二子東急.gif本公開:1982/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:二子東急(86-07-05)(評価:★★★☆)●併映:「愛と追憶の日々」(ジェイムズ・L・ブルックス)

二子東急のミニチラシ.bmp二子東急 場所.jpg二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館

 
 【1984年新書化[白水Uブックス(上・下)]】

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"実務寄り?"のリーガル・サスペンス。興味深い「司法取引」の様。

推定無罪 上.jpg  推定無罪下.jpg     推定無罪 ポスター.jpg Presumed Innocent m.jpg  映画「推定無罪」
推定無罪〈上〉 (文春文庫)』『推定無罪〈下〉 (文春文庫)』〔'91年〕

Presumed Innocent.jpg 1987年「英国推理作家協会(CWA)賞」シルバー・ダガー賞受賞作。1988 (昭和63) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位(同年度「このミステリーがすごい」(海外編)第2位)。

 1987年発表の本作品『推定無罪-プリジュームド・イノセント』(Presumed Innocent)は、もともと連邦検察局の検事補だったスコット・トゥローが在職中に執筆したもので、彼の処女作。

 作家になった後も彼は弁護士として活動していて、死刑廃止論者でもあり、何度か法廷で死刑判決をひっくり返しているヤり手だそうです(同じ弁護士作家のジョン・グリシャムが、作家になるまでは地方で傷害事件訴訟などに主に関与していたのに比べると、法律家としてのキャリアの華々しさはこちらの方が圧倒的に上)。

 女性検事補が自宅で全裸の絞殺死体となって発見され、優秀で堅物の首席検事補として知られていた主人公は、地方検事の命令でこの事件を担当することになるが、実は事件の被害者が、自分の部下で愛人の女性だと知って驚く―。

 疑惑が自分に向けられてくる主人公の"追い詰められ感"がうまく描けていて(検察官だった人間が被告人の立場に追いやられていく訳だから、焦るのは当然だが)、面白く読めました。事件に潜む政治的な背景はともかくとして、何よりも作者が、バリバリの弁護士ということで、並みのリーガル・サスペンスよりずっと"実務寄り"な印象を受けます(自分が実務に使うわけではないけれど)。

 興味深かったのは、「公判前の評議」において「有罪答弁取引」をして公判によらない解決を図るというシステムで、所謂「司法取引」というものがどのように行われるのかが分ります(アメリカにおける刑事事件裁判の9割は司法取引で処理され、純粋に陪審員制度によって判決が下されるのは5%ぐらいだという)。日本の司法制度とか日本人の感覚とは随分違うなあという感じです。

推定無罪04.jpg '90年にシドニー・ポラック製作、アラン・J・パクラ監督で映画化され、検察官を演じたハリソン・フォードは、女性に助けられるちょっと情けない男って感じで、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジ作にもなりました。既に「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年/米)や「フランティック」('88年/米)などに出演しており、このimages「推定無罪.jpg作品以降、「逃亡者」('93年/米)などサスペンス物への出演がますますPRESUMED INNOCENT 1990   .jpg多くなるハリソン・フォードですが、この作品ではラウル・ジュリアほか女優陣の方が元気がいいです。

 司法取引の場面だけはキッチリと描かれていて、そこは気に入りましたが、とは言え原作はかなり長くて専門的な記述も多く、映画にするとどうしても細部は端折らざるを得ない...。原作はジョン・グリシャムよりは通好みの作風だと思うけれども、映画で見ると「ああ、これもまた映画的なストーリーなのだなあ」という気がしてしまうのは、その辺りに原因があるのかも。

THE BURDEN OF PROOF 1991  .jpgTHE BURDEN OF PROOF 1991.jpg '91年には『推定無罪』の続編とも言える『立証責任』(The Burden of Proof,1990)がTV映画化(ミニ・シリーズ)されていて(日本でも'93年にビデオ販売された)、『推定無罪』の主人公ラスティ・サビッチの弁護をつとめた弁護士サンディ・スターンが原作でも映画でも前作からのスピンオフの形をとって主人公になっています。シカゴへの2日間の出張からスターンが帰宅すると妻のクララがガレージの車の中で自殺していて、31年間も連れ添った愛妻がなぜ自殺したのか、さっぱり理由がわからないスターンは、妻宛の病院からの請求書を手がかりにクララの死の真相を探り始めるというもの。おそらく原作は面白いのだろうけれど、ドラマは162分の長尺ながらもやや物足りなかったでしょうか。主人公スターンは56歳で、演じたのはヘクター・エリゾンド(「刑事コロンボ(第33話)/ハッサン・サラーの反逆」('75年)の犯人役だった)、共演は「推定無罪」にも出ていたブライアン・デネヒーで、共演者の方が存在感があったかも(ブライアン・デネヒーはこの作品でエミー賞最優秀助演男優賞にノミネートされた)。スコット・トゥローらしい法律の専門知識は生かされているように思いましたが、ややマニアックか。加えてこうした中年期の危機みたいなものを描いた作品となると、やはり映画よりもテレビドラマになってしまうのでしょうか。

推定無罪09.jpgPresumed Innocent (1990)  推定無罪.jpg「推定無罪」●原題:PRESUMED INNOCENT●制作年:1990年●制作国:アメリカ●製作:シドニー・ポラック/マーク・ローゼンバーグ●監督:アラン・J・パクラ●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:スコット・トゥロー「推定無罪-プリジュームド・イノセント」●時間:127分●出演:ハリソン・フォード/ラウル・ジュリア/ブライアン・デネヒー/ボニー・ベデリア/グレタ・スカッキ/ジョン・スペンサー/ポール・ウィンフィールド●日本公開:1991/06●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

立証責任 1993 tv 映画.jpg01立証責任.jpg「立証責任」●原題:THE BURDEN OF PROOF●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ローブ●製作:ジョン・ペリン・フリン●脚本:ジョン・ゲイ●撮影:キース・ヴァン・オーストラム●音楽:クレイグ・セイファン●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作: スコット・トゥロー「立証責任」●時間:162分●出演:ヘクター・エリゾンド/ブライアン・デネヒー/メル・ハリス/エイドリアン・バーボー/ステファニー・パワーズ/アン・ボビー/ヴィクトリア・プリンシパル/ゲイル・ストリックランド/ジェフリー・タンバー/コンチータ・トメイ●VHS日本発売:1993/04●販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ (評価★★★) 「立証責任 [VHS]

 【1991年文庫化・2012年新装改定版[文春文庫(上・下)]】

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ラストは、トム・クルーズの映画より原作の方がスカッとした。

法律事務所 - THE FIRM.jpg    法律事務所 上下.jpg  法律事務所2.jpg  ザ・ファーム / 法律事務所 1993.jpg
法律事務所』 単行本〔'92年〕/『法律事務所〈上〉〈下〉』 新潮文庫〔'94年〕/『法律事務所 (小学館文庫)』全1冊〔'03年〕/「ザ・ファーム 法律事務所 [DVD]」ジーン・ハックマン/トム・クルーズ
"The Firm"ペーパーバック(1992)
the firm john grisham.jpg 1991年発表のジョン・グリシャム(John Grisham)『法律事務所』(The Firm)は、アメリカの法律事務所を舞台にしたリーガル・サスペンスですが、ロー・ファームについてあまり知らなかったこともあり、興味深く読めました。
 アソシエイトとパートナーの違いとか付与される非金銭的報酬の種類、弁護士費用の計算方法と多分にリアリティのある水増し請求の方法、タックス・ヘイブンに持株会社を作る節税方法(主人公は言わば節税部門に配属されている)まで、具体的に書かれています。そして事件の核心となる事務所の裏稼業の実態が―。

 名門大学を優等で卒業した野心家が、そんな無名の事務所に招かれて、報酬だけに釣られて行くかなという気もしましたが、主人公は充分に裕福であると言えるような家庭の出身ではなく、しかも結婚して扶養家族がいるという設定なので、そうした条件下での"イソ弁"暮らしはどこの国も同じように結構キツイものなのかなと思いました。
 
 小説の前半の、ファーム内の"なんだか不自然な"人や出来事、雰囲気というのに引き込まれますし、パートナーになって金銭的報酬、非金銭的報酬の両面で充足し生活を拡げてしまったら、もう悪事から身を引けないというのは、人間心理としてはリアリティがありました。後半の、不正を暴こうとする主人公と追っ手たちとの知恵比べでもいいです。

「ザ・ファーム/法律事務所」.jpg この作品は「ザ・ファーム/法律事務所」('93年/米)としてシドニー・ポラック監督、トム・クルーズ主演で映画化され、グリシャム作品は『ペリカン文書』(The Pelican Brief '92年発表)、『依頼人』(The Client '93年発表)、そして処女作の『評決のとき』(A Time to Kill '89年発表)も映画になりました。

 シドニー・ポラック監督の「ザ・ファーム/法律事務所」('93年/米)について言えば、"知恵比べ"の妙味が薄まりアクション映画みたいになってしまったのもさることながら、原作では主人公が法を犯してでも組織への〈リベンジ〉と〈実利獲得〉の両方を果たすのに、映画では法を守る兄思いのいい子になってしまっています(映画の方がより大衆向けなので、違法行為を肯定するような表現はマズイのか?)。原作の方がスカッとする結末でした。
      
ペリカン文書1.jpg アラン・J・パクラ監督の「ペリカン文書」('93年/米)は、のジュリア・ロバーツ演じる法学部の学生とデンゼル・ワシントン演じるワシントン・ヘラルド紙の敏腕記者という取り合わせでありながら、今一つ、印象が弱かったような感じもしました(この作品はデンゼル・ワシントンの出世作の1つとなるが、以来、デンゼル・ワシントンが出てくると、もう予定調和が見えてしまうような...)。

 複雑な原作の中核の部分だけ取り出して、テンポ良く描こうとするやり方は、「大統領の陰謀」('76年/米)からのアラン・J・パクラ監督のスタイルで、スコット・トゥロー原作の「推定無罪」('90年/米)でも同じことをやり、この作品でもそうなのですが、そのことによって、リーガル・サスペンスの「サスペンス」の部分は生きるけれども「リーガル」の部分が弱くなってしまっているような気がし、そのことが、印象の弱さに繋がっているのかも(原作をしっかり読んだ人にはかなり不満足な映画では?)。

「依頼人」'94年1.jpg ジョエル・シュマッカー監督の「依頼人」('94年/米)の方は、スーザン・サランドンが夫の裏切りにより家族を失うという傷を抱えた中年女性弁護士役で、自分が1ドルで依頼人を引き受けた子供を守るため、トミー・リー・ジョーンズ演じる野心家の検事ロイ・フォルトリッグと対決するもので、女性弁護士のアルコール中毒からの再起という点では、バリー・リード原作でポール・ニューマンが同じくアル中からの復活を遂げる弁護士を演じた「評決」('92年/米)とダブりました(アル中弁護士が男性から女性になっているところが時代の変化か)。

 これも、2時間に収めるために原作を相当改変していますが、芸達者スーザン・サランドンの演技が効いていて、ジョン・グリシャムもこの映画の出来に大いに満足したらしく、「評決のとき」('96年/米)もジョエル・シュマッカーに撮らせています。

 スーザン・サランドンはこの作品で、アカデミー主演女優賞にノミネートされ、但し、受賞は翌年の「デッドマン・ウォーキング」まで持ち越し。この作品でアカデミー賞を獲っていたら、「評決」のポール・ニューマンがなぜ獲れなかったのかという話になってしまうからではないかと思うのは穿ち過ぎた見方かなあ。


The Firm.jpgザ・ファーム/法律事務所.jpg「ザ・ファーム/法律事務所」4.jpg「ザ・ファーム/法律事務所」●原題:THE FIRM●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●製作:シドニー・ポラック/ジョン・デイヴィス/スコット・ルーディン●脚本:デヴィッド・レイフィール/ロバート・タウン●撮影:ジョン・シール●音楽:デーブ・グルーシン●原作: ジョン・グリシャム 「法律事務所」●時間:155分●出演:トム・クルーズ/ジーン・ハックマン/エド・ハリス/ジーン・トリプルホーン/ジョン・ビール/ウィルフォード・ブリム丸の内ピカデリー1・2.jpg丸の内ピカデリー     .jpgリー/ゲイリー・ビジー/ジェリー・ハーディン/エド・ハリス/ホル・ブルック/ホリー・ハンター/テリー・キニー/デイヴィッド・ストラザーン●日本公開:1993/07●配給:UIP(ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ)●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(93-09-12) (評価★★★)
丸の内ピカデリー1・2 1984年10月6日「有楽町マリオン」西武(現ルミネ)側9階にオープン(1957年オープン、1984年閉館の旧「丸の内ピカデリー」の後継館) 

丸の内ピカデリー1・2(2019.10.7撮影)「丸の内ピカデリー1」(席数802)は、2014年12月の「新宿ミラノ1」(1,064席)閉館、2018年2月の「TOHOシネマズ日劇(スクリーン1)」(948席)閉館により、2019年時点で単一のスクリーンとしては国内最多の座席数を持つ映画館となった(その後、623席に)。
7丸の内ピカデリー.jpg
2021年11月26日リニューアルオープン(623席)
2丸の内ピカデリー1.jpg

ペリカン文書 dvd.jpg「ペリカン文書」●原題:THE PELICAN BRIEF●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督・脚本:アラン・J・パクラ●製作:ピーター・ヤン・ブルッジ/アラン・J・パクラ●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作: ジョン・グリシャム●時間:141分●出演:ジュリア・ロバーツ,/デンゼル・ワシントン/サム・シェパード/ジョン・ハード/トニー・ゴールドウィン●日本公開:1994/04●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価★★☆)
ペリカン文書 [DVD]


「依頼人」'94年 dvd.jpg「依頼人」●原題:THE CLIENT●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・シュマッカー●製作:アーノン・ミルチャン/スティーヴン・ルーサー●脚本:アキヴァ・ゴールズマン/ロバート・ゲッチェル●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:ハワード・ショア●原作: ジョン・グリシャム●時間:119分●出演:スーザン・サランドン/トミー・リー・ジョーンズ/ブラッド・レンフロ/メアリー・ルイーズ・パーカー●日本公開:1994/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価★★★)
ザ・クライアント 依頼人 [DVD]

 【1994年文庫化[新潮文庫(上・下)]/2003年再文庫化[小学館文庫(全1巻)]】

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19世紀後半のフランス炭坑労働者の悲惨な実態を、一筋縄でなく描く。
「居酒屋」(1956).jpg ジェルミナール.gif 19801571_1.jpg ジェルミナルGerminal.jpg  「地下水道」 dvd.jpg
ルネ・クレマン映画「居酒屋 HDマスター DVD」(マリア・シェル)/『ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)』 岩波文庫 (全3冊)〔旧版/改版版〕/ 映画 「ジェルミナルGerminal」/アンジェイ・ワイダ映画「地下水道 [DVD]

世界の文学23 ゾラ ジェルミナール.jpgジェルミナールfolio版.jpgエミール・ゾラ.jpg 1885年の原著発表のフランスの作家エミール・ゾラ(Emile Zola、1840‐1902)による作品で、彼の膨大な小説群「ルーゴン・マッカール双書」の中では『居酒屋』(1877年発表)、『ナナ』(1879年発表)と並ぶ代表作。

ルーゴン・マッカール双書 folio版
世界の文学〈第23〉ゾラ (1964年)ジェルミナール

 舞台は1860年代の北フランスの炭鉱町で、主人公のエチエンヌは、元は機械工だったが職を失ってここに移り住み、そこで坑夫の娘で自身も炭坑で働くカトリーヌに恋をし、自分も坑夫として働くようになる。過酷な炭坑の労働、採鉱会社と労働者の対立、資本家の搾取、ロシアから亡命してきたアナーキストの影響などを通して彼は社会主義思想に目覚めるが、長期ストライキの末の反乱は軍隊によって制圧され、アナーキストの破壊工作で地下水脈が破裂して、エチエンヌはカトリーヌとともに坑内に閉じ込められてしまう―。

映画「居酒屋」パンフ.jpg映画「居酒屋」.jpg ゾラと言えば、『居酒屋』で知られる自然主義の作家ですが(ルネ・クレマン監督(1913-1996)の映画もいい)、『ジェルミナール』の主人公エチエンヌはジェルヴェーズの三男です(と言うことは『居酒屋』に出てくるジェルヴェーズの娘で将来の女優「ナナ」の弟にあたるということか)。

 「居酒屋」でマリア・シェルが演じた洗濯女ジェルヴェーズは、一度は夫に逃げられた女性ですが、今度は真面目な屋根職人と結婚します。しかし、その亭主である男はある日屋根から落ちて大ケガをし、彼はやがて酒びたりになる―、それでも彼女はダメ亭主にもめげず懸命に働き、なんとか自分の店を持つものの、更に重なる不運があって、やがて自身が酒に溺れ破滅するという、きつい話(マリア・シェルはkの作品の演技により1956年・第17回ヴェネツィア国際映画祭「女優賞」を受賞)。

GERVAISE maria schell.gif 美人でも男運の悪い女はいるもんだと、マリア・シェルに感情移入して同情し、またリアリズムに徹した佳作だと思いましたが、原作の背後には、ゾラの「運命決定論」のようなものがあったみたいです。

 『ジェルミナール』は出世作の『居酒屋』よりも社会派的色彩が強く、労働者リーダーとして成長していくエチエンヌを描いていますが、一方で、酒を飲むと人を殺したくなるという遺伝的(?)性格の持ち主としても描いているところが一筋縄でないところ、つまりは社会的・生物学的環境で人生は決定づけられているというのがゾラの考え方のようです。

 労働者のストライキや反乱などのクライマックスもさることながら、物語の半分は炭坑の中での描写なので(炭坑の中で殺人も起きれば愛の成就もある)、自分も坑内にいるような気分になり、重苦しい緊張感があります(閉所恐怖症の人は最後まで読めないかも)。

わが谷は緑なりき」('41年/米).jpgHOW GREEN WAS MY VALLEY2.jpgわが谷は緑なりき2.gif 映画において、英国ウェールズの、やはり炭坑労働者のストライキを描いたジョン・フォード監督(1894-1973)の「わが谷は緑なりき」('41年/米)という1941 年にアカデミー作品賞を受賞している作品がありましたが、そこには影の部分もあれば(悲惨な炭鉱事故の場面)、また光の部分もありわが谷は緑なりき.jpg(家族愛がテーマだとも言える)、ノスタルジーにより美化された部分もありました(全体が当時少年だった語り手の想い出として設定されている。モーリーン・オハラって、昔のアメリカ映画にみる典型的な美人だなあ)。

「地下水道」 Kanal(1957).jpg地下水道.png しかしゾラのこの小説は、労働運動の萌芽を象徴する「芽生えの月(ジェルミナール)」という題ながらも、炭坑労働者の悲惨な実態を描いた"影"の部分の重苦しさが全体を圧倒していて、エチエンヌとカトリーヌが坑内に閉じ込められて絶望となるところは、背景は異なりますが、アンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/「地下水道」 vhs.jpgポーランド)において、ナチスドイツに対して勝ち目のない戦いを挑むポーランドの地下組織の男女が地下水道に追い込まれ、やっと見つけた出口が鉄格子で閉ざされていた―という、これもまた絶望的な場面を想起したりもしました(どちらも「閉所恐怖症」の人にはお薦めできない)。「ジェルミナール」も'93年にクロード・ベリ監督、 ジェラール・ドパルデュー、ミウ・ミウ主演で映画化もされているようなので、そちらも機会があれば観たいと思います。
地下水道 [VHS]」(カバーイラスト:安西水丸


GERVAISE 1956.jpg「居酒屋」●原題:GERVAISE●制作年:1956年●制作国:フランス●監督・:ルネ・クレマン●製作:アニー・ドルフマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロベール・ジュイヤール●音楽:ジョルジュ・オーリック居酒屋 HDマスター DVD.jpg●原作:エミール・ゾラ 「居酒屋」●時間:102分●出演:マリア・シェル/フランソワ・ペリエ/シュジ・ドレール/マチルド・カサドジュ/アルマン・メストラル●日本公開:1956/10●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-04-15)●2回目:高田馬場ACTミニシアター(83-09-15) (評価:★★★★)●併映(1回目):「嘆きのテレーズ」(マルセル・カルネ)●併映(2回目):「禁じられた遊び」(ルネ・クレマン)
居酒屋 HDマスター DVD


わが谷は緑なりき45.jpg「わが谷は緑なりき」●原題:HOW GREEN WAS MY VALLEY●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督:ジHow Green Was My Valley.jpgHOW GREEN WAS MY VALLEY.gifョン・フォード●製作:ダリル・F・ザナック●脚本:フィリップ・ダン●撮影:アーサー・ミラー●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:リチャード・レウェリン(How Green Was My Valley)●時間:118分●出演:ウォルター・ピジョン/モーリーン・オハラ/ドナルド・クリスプ/アンナ・リー/ロディ・マクドウォール●日本公開:1950/12●配給:セントラル●最初に観た場所:吉祥寺ジャヴ50 (84-06-30)●2回目:自由が丘劇場 (85-02-17) (評価:★★★★)●併映(2回目)「いとしのクレメンタイン 荒野の決闘」(ジョン・フォード)
吉祥寺バウスシアター2(旧ジャヴ50)
じゃv50.jpgバウスシアター.jpg.png吉祥寺バウスシアター.jpg吉祥寺ジャヴ(JAⅤ)50 1951年~「ムサシノ映画劇場」、1984年3月~「吉祥寺バウスシアター」(現・シアター1/218席)と「ジャヴ50」(現・シアター2/50席)の2館体制でリニューアルオープン。2000年4月29日~シアター3を新設し3館体制に。 2014(平成26)年5月31日閉館。
じゃv 50.jpg


自由が丘劇場  .jpg自由ヶ丘劇場2.jpg自由が丘劇場5.jpgヒューマックスパビリオン自由が丘.jpg自由が丘劇場 自由が丘駅北口徒歩1分・ヒューマックスパビリオン自由が丘(現在1・2Fはパチンコ「プレゴ」)1986(昭和61)年6月閉館 ①自由ヶ丘武蔵野推理劇場 ②自由が丘劇場 ③自由ヶ丘ヒカリ座(1970年代~80年代) 


Chika suidou(1957)
Chika suidou(1957).jpg「地下水道」●原題:KANAL●制作年:1956年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:ダリル・F・ザナック●脚本:イェジー・ステファン・スタウィニュスキー●撮影:イェジー・リップマン●音楽:ヤン・クレンズ●原作:イェジー・ステファン・スタウィニュスキー●時地下水道(米国版DVD).jpg間:96分●出演:タデウシュ・ヤンツァー/テレサ・イジェフスカ地下水道.jpg/エミール・カレヴィッチ/ヴラデク・シェイバル/ヤン・エングレルト●日本公開:1958/01(1979/12(リバイバル))●配給:東映洋画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-04-10) (評価:★★★★☆) ●併映:「灰とダイヤモンド」(アンジェイ・ワイダ)「地下水道」の一場面/「Kanal [DVD] [Import] (2003)米国版DVD

灰とダイヤモンド  .jpg 「灰とダイヤモンド」(1958)

 
ジェルミナール (全3冊).jpg【1954年文庫化・1994年改版[岩波文庫(上・中・下)]/1994年再文庫化[中公文庫(上・下)]】

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最初のうちは楽しく読めたが...。"ナンセンスもの"って意外と書くのが難しい?

どすこい(仮).jpgどすこい(仮)2.jpg   ベルリン忠臣蔵0.jpg ベルリン忠臣蔵 12.jpg
どすこい(仮)』('00年/集英社/装画:しりあがり寿/装丁:祖父江慎)「ベルリン忠臣蔵 [VHS]

 「力士」をネタに、それに関連づけて推理小説の有名作品ばかり7作を次々とパロディ化したアンソロジーで、全編ナンセンス・ギャグだらけ、ストーリー自体もハチャメチャです。
 "ナンセンスもの"を読むのは時間の無駄だと思っている人にはまずお薦めできないし、「京極堂シリーズ」とは対極にあるような "バカバカしさ"オンリーの作品なので、著者のファンの間でも評価は割れるかも。

 個人的には"ナンセンスもの"が嫌いではないので(気分転換になるし、ものによっては、イマジネーションを刺激される)、最初のうちは楽しく読みました。
 池宮彰一郎の『四十七人の刺客』や瀬名秀明の『パラサイト・イブ』のパロディは、相撲の決まり手の「四十八手」を「四十七士」や染色体数「46」を絡めて"落ち"にしているのが上手く、この後どう続くのかと期待させました。

 しかし、だんだん(最初から?)原作から離れてパロディとは言えないものばかりになり、編集者とのやりとりなど楽屋ネタが多くなって、最後は推理作家が集っての座談になってしまうという、モロ"身内ネタ"(この部分が面白いと思う読者もいるかも知れないですが)。

 「(仮)」って何かと思ったら、後に『どすこい(安)』という新書版と『どすこい。』という文庫版が出ていて、途中で多少の書き加えはあったものの、「。」は、これで打ち止めということらしいです。
 "ナンセンスもの"っていうのは多くの作家にとって、結構書いてみると難しいのかも知れないと思いました。

ベルリン忠臣蔵 3.jpgベルリン忠臣蔵1.jpg 因みに、個人的にこれまでに接した「四十七士」モノ(忠臣蔵)のパロディで、一番ぶっ飛んじゃっていると思ったのは、小説ではなく外国映画で、「ベルリン忠臣蔵」('85年/西独)というもの。
 ハンブルグ(ベルリンではない?)で権力者や金持ちばかり狙われる事件が次々起こりますが、それらの犯行は、大石内蔵助を名乗る男を首謀者とする日本人ギャング団で、犯行後に日本語で書かれた「近松」「木村」「赤植」といった謎の文字を残していく...彼等の目的はを探るため、女性事件記者が立ち上がるというストーリーです。
 「ワタシハオーイシクラノスケダ」と片言の日本語を操る大石蔵之助の正ベルリン忠臣蔵2.jpg体は、実は日本で柔道の修行したドイツ人で(なんだ、留学生みたいなものか。マスクをつけていても、見れば日本人でないことはすぐわかってしまうのだが)、最後には、日本からやってきた忍者と戦います(かなり強引な展開)。

ベルリン忠臣蔵 1.jpg 監督はすごく日本贔屓の人だそうですが、ストーリーも衣装も殺陣もメチャクチャなのに(しかも時折ヘン何な日本語が出てくる)、監督自身は大真面目、本気でヒーロー物を撮っているつもりみたいで、そのギャップで笑えるという珍品。

ベルリン忠臣蔵 中野武蔵野ホール ポスター.gif ロードの上映館は中野武蔵野ホール、カルトムービーとしかジャンル区分のしようがありませんが(そのカルト的価値をオマケしたうえで「評価不能」)、べルリンの壁が崩壊した際の記念番組としてNHK-BSで放映されました。NHKも何を間違ったのか...。

「ベルリン忠臣蔵」●原題:SUMMER OF SAMURAI●制作年:1985年●制作国:西ドイツ●監督:ハンス・クリストフ・ブルーメンベルグ●脚本:ウォルフガング・ディクマン●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:ヒューベルト・バルトローメ●時間:115分●出演:ベルリン忠臣蔵5.jpgヴォジェックス・プュショナック/ユルネリア・フロー中野武蔵野ホール内.jpg中野武蔵野ホール.jpgボッシュ/ハンス・ペーター・ハルヴァクス/トーヨー・タナカ●日本公開:1987/12●配給:ギャガ・コミュニケーションズ●最初に観た場所:中野武蔵野ホール (87-12-22)(評価:★★★?)ベルリン忠臣蔵 [VHS]
中野武蔵野ホール 1987年8月、中野駅北口方面「中野武蔵野館」跡地にオープン 2004(平成16)年5月7日閉館

 【2002年新書版[集英社ノベルズ(『どすこい(安)』)]/2004年文庫化[集英社文庫(『どすこい。』)]】

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初めは「アンダルシアの犬」と同じ狙いかと...。後半がっかり。

金原 ひとみ 『蛇にピアス』1.JPG蛇にピアス.jpg 0映画「蛇にピアス」.jpg  アンダルシアの犬.jpg
蛇にピアス』['04年/集英社]映画「蛇にピアス」(2008)監督:蜷川幸雄アンダルシアの犬 [DVD]

 2003(平成15)年・第27回「すばる文学賞」、2003(平成15)年下半期・第130回「芥川賞」受賞作。

 主人公の19歳のルイは、刺青やピアス、更には少しずつ舌を裂いていくスプリットタンなどの身体改造に興味を示し、自分の舌にもピアスを入れる―。

 著者はお酒を飲みながらこの小説を書いたそうですが、それは、この小説の全編に漂う現実からの浮遊感みたいなものと関係しているでしょうか。ただし文章はうまいのではないかと思いました。かなり刺激的な場面を抑制の効いた、というか他人事のような冷静な筆致で綴ることで、逆に舌にピアスの穴を空ける痛みとかがよく伝わってきます。

 芥川賞の選考委員で最も強くこの作品を推したのは村上龍氏と宮本輝氏で、村上龍氏は「推そうと思い、反対意見が多くあるはずだと、良いところを箇条書きにして選考会に臨んだが、あっさりと受賞が決まってしまった」とのこと。宮本輝氏の推挙はやや意外に思えますが、「作品全体がある哀しみを抽象化している。そのような小説を書けるのは才能というしかない。私はそう思って(中略)受賞作に推した」とのことです。因みに、最も強く反発したのは石原慎太郎氏でした(「私には現代の若もののピアスや入れ墨といった肉体に付着する装飾への執着の意味合いが本質的に理解出来ない。選者の誰かは、肉体の毀損による家族への反逆などと説明していたが、私にはただ浅薄な表現衝動としか感じられない」と)。

Buñuel.jpgアンダルシアの犬s.jpg 読んでいて初めのうちは、目玉を剃刀で切るシーンで有名なルイス・ブニュエル監督の「アンダルシアの犬」('28年/仏)と同じ狙いかと思いました(選考委員の池澤夏樹氏も「なにしろ痛そうな話なので、ちょっとひるんだ」と言っている)。

The opening scene, just before Buñuel slits the woman's eye with a razor.

アンダルシアの犬(1928 仏).jpgアンダルシアの犬」 ['90年/大陸書房](絶版)

アンダルシアの犬4.jpg 「アンダルシアの犬」は、ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリの共同脚本からなるシュールレアリズムの世界を端的に描いた実験映画ですが、女性が目を切られるシーンの他にも掌を蟻が食い破るシーンや子供が人間の手首を転がしているシーンなどショッキングな場面が続き(目を切るシーンはブニュエルの見た夢が、掌を食い破る蟻のシーンはダリの夢がもとになっているらしい)、ストーリーや表現自体に意味があるかと言えば、意味があるとも思えず(シュールレアリズムってそんなものかも)、むしろ、たかがスクリーンに映し出されているに過ぎないものに、人間の心理アンダルシアの犬3.jpgがどこまで感応するかを試しているような作品に思えました(イングマール・ベルイマン監督の「野いちご」('57年)で主人公の老教授が見る悪夢のシーンにこの映画の影響が見られる)。因みに目玉が切られ水晶体が流れ出すシーンは、、死んだ牛の目玉を使ったとのこと。これが女性のシーンと繋がって観る者を驚かせるというのは、まさにモンタージュ技法の典型効果と言えます。

 『蛇にピアス』の場合、映像ではなく活字でどこまで感覚を伝えることが可能かという実験のようにも思えたのですが、勝手な解釈ながらも仮にそうであるとするならば、この作品は途中までは成功しているのではないかと思いました。

 ただ、「アンダルシアの犬」が、モンタージュなどの技法により最後まで実験的姿勢を保持しているのに対し、この小説は、後半は何だかショボくれた恋愛ドラマみたいになってしまい(選考委員の山田詠美氏も「ラストが甘いようにも思う」と言っている)、少しがっかりしました(後半はお酒を飲まずシラフで書いた?)。作者は以前、父親に「もっと恥ずかしいものを書け」と言われたそうですが(これってある種の英才教育なのか)、父親に言われている間はこのあたりが限界ではないかと思います。

アンダルシアの犬ges.jpg「アンダルシアの犬」●原題:UN CHIEN ANDALOU●制作年:1928年●制作国:フランス●監督・製作:ルイス・ブニュエル●脚本:ルイス・ブニュエル/サルバドール・ダリ●時間:17分●出演:ピエール・バチェフ/シモーヌ・マルイヌ/ルイス・ブニュエル/サルバドール・ダリ●公開(パリ):1929/06●最初に観た場所:アートビレッジ新宿 (79-03-02)●2回目:カトル・ド・シネマ上映会 (81-05-23)●3回目:カトル・ド・シネマ上映会 (81-09-05) (評価:★★★?)●併映:(1回目)「詩人の血」(ジャン・コクトー)/「忘れられた人々」(ルイス・ブニュエル)/(2回目):「去年マリエンバートで」(アラン・ㇾネ)/(3回目):「ワン・プラス・ワン」(ジャン=リュック・ゴダール)

2008年映画化「蛇にピアス」
蛇にピアス  吉高由里子V.jpg監督:蜷川幸雄
原作:金原ひとみ
脚本:宮脇卓也 蜷川幸雄
音楽:茂野雅道
出演:吉高由里子/高良健吾/ ARATA(井浦新) /あびる優
あらすじ:
蛇にピアス  吉高由里子/高良健吾.jpg 生きている実感もなく、あてもなく渋谷をふらつく19歳のルイ。ある日の訪れたクラブで赤毛のモヒカン、眉と唇にピアス、背中に龍の刺青、蛇のようなスプリット・タンを持つ「アマ」と出会い人生が一変する。アマの刺青とスプリット・タンに興味を持ったルイは、シバと呼ばれる男が施術を行なっている怪しげな店を訪ね、舌にピアスを開けた。その時感じた痛み、ピアスを拡張していく過程に恍惚を感じるルイは次第に人体改造へとのめり込んでいくことになる。「女の方が痛みに強い」「粘膜に穴を開けると失神する奴がいる」という店長のシバも全身に刺青、顔中にピアスという特異な風貌の彫り師で、自らを他人が苦しむ顔に興奮するサディストだと語った。舌にピアスを開けて数日後、ルイとルイの友人は夜道で暴力団風の男に絡まれる。それに激昂したアマは相手の男に激しく暴力を振るい、男から二本の歯を奪い取って「愛の証」だと言ってルイに手渡す。アマやシバと出会う中でルイは自身にも刺青を刻みたいという思いが強くなり、シバに依頼して背中一面に龍と麒麟の絡み合うデザインの刺青を彫ることを決めた。画竜点睛の諺に従って、「キリンと龍が飛んでいかないように」という願いを込め、ルイはシバに二匹の瞳を入れないでおいて欲しいと頼む。刺青の代償としてシバはルイに体を求め、二人は刺青を入れていくたびに体を重ねるようになる―。

 【2006年文庫化[集英社文庫]】

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罪と罰 1970 ちらし.jpgミステリとしても味わえ、現代に繋がるテーマもふんだんに。

パンフレット.jpgカラマーゾフの兄弟.jpg カラマーゾフの兄弟 中巻.jpg カラマーゾフの兄弟 下巻.jpg
カラマーゾフの兄弟 上 新潮文庫 ト 1-9』『カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)』『カラマーゾフの兄弟 下  新潮文庫 ト 1-11』「罪と罰(1970) [DVD]」 ('70年/ソ連)チラシ

映画「カラマーゾフの兄弟 [DVD]」('68年/ソ連)パンフレット['07年]                                    

Братья Карамазовы.jpg  1880年、ドストエフスキーが59歳の時に完結したこの小説は、ドストエフスキー作品自体が最近の若者に読まれなくなったとよく言われる中、かつて作家の村上春樹 09.jpg村上春樹氏が自らのサイトフォーラムで「全日本『カラマーゾフの兄弟』読了クラブ」(後にバー「スメルジャコフ」と改称)なるものを立ち上げ、読了者に〈会員番号〉を発行しますと宣言すると若い人のレスポンスが結構たくさんあって、そういうのを見ると結構読まれているのかなあという気もします(寄せられた感想が『海辺のカフカ』などの感想文と同じトーンなのがちょっと面白かった)。[右:ロシア語版ペーパーバックス]

 しかし、村上氏自身は結構真面目なのかも。 と言うのは、読者からの、オウム真理教に入るような人達も『カラマーゾフの兄弟』を一度読んでいたらオウムに入らなかったかもという感想に対し、「『カラマーゾフ』を読み通せる人の数は極めて限られている。一度でも読めば確かにオウムに入ろうとする人たちの大部分を阻止することはできるだろうけれど、とにかく『カラマーゾフ』は難しすぎるし長すぎる。自分がいつか成し遂げたいと思っていることは、もっとやさしくて読みやすい現代の『カラマーゾフ』を書くことだ。それは途方もなく難しいのだが」と答えていたから。

電子書籍版(グーテンベルグ21)
karamazov1.jpg 個人的には、ミステリの要素があり、しかも最後は泣ける(?)ので、精神的に構えて読む必要は全然ないのではとも思うのですが、時間的・体力的には準備が必要かもしれません。

 この大長編小説の前半3分の2ぐらいまでが僅か数日の間に起きた出来事であり、それは従来の歴年的文学長編と異なる特徴の1つだと思うのですが、加えて、挿話やカットバックが多く、それらが1つ1つの物語になっています(ほとんど"爆発的"に脇道へ逸れていく)。
 神の不在を問うた「大審問官」もその1つと見ることができますが、同時に主テーマの1つでもあり、また、その中に幼児虐待の問題が出てくるなど、常に現代と繋がる何かがあります。
 '06年からは亀山郁夫氏による新訳の刊行も始まり、まだまだ読まれ続けられるであろう作品だと思います。

 この作品は、作者であるドストエフスキーが時間(締め切り)に追われつつ書いた雑誌連載小説であり、確か、妻アンナ・ドストエフスカヤの回想記に書いてあったのではないかと思いますが、原稿を出版社に渡した後でストーリーが破綻していることに気づいて、慌てて印刷のストップをかけるなどし(間に合わないこともあった)、ドストエフスキーは自らを何度も罵倒したりしていたそうです。

カラマーゾフの兄弟 ロシア版ポスター.jpg 映画や芝居でも観ましたが、イワン・プィリエフ(Ivan Pyryev)監督の「カラマーゾフの兄弟」('68年)は堂々たる本場モノで、4時間近い上映時間の長さを感じさせないものでした。
 リチャード・ブルックス監督のアメリカ版「カラマーゾフの兄弟」('57年)もあり、テレビで一部だけ観ましたが、ユル・ブリンナーがドミートリイ、マリア・シェルがグルーシェニカという異色の取り合わせで、何だか国籍不明映画みたいな感じでした。

 但し、本場物であればいいというものではなく、トルストイの小説の映画化作品である「復活」('61年・ミハイル・シヴァイツェル監督)「アンア・カレーニナ」('67年・アレクサンドル・ザルヒ監督)は、何となくメロドラマみたいになってしまっています(「アンア・カレーニナ」のタチアナ・サモイロワはいい女優なのだが...)。
映画「カラマーゾフの兄弟」輸入版ポスター

THE BRATYA KARAMAZOVY 1968 1.jpg プィリエフの「カラマーゾフ」にもそのキライが無いわけではないですが、「復活」や「アンナ...」と比べると骨太であると思いました。ストーリー的には原作を読んでいないとキツイかもしれませんが、ミステリとしても成立していて、キャスティングも原作のイメージにほぼ沿ったものでした(この映画の撮影中にプィリエフ監督は急死し、ドミトリ役のミハエル・ウリャーノフらが監督の遺志を引き継いで映画を完成させた)。

THE BRATYA KARAMAZOVY 1968 2.jpgカラマーゾフの兄弟  dvd.jpg ただ1つ難を言えば、ドミートリーなどを演じている俳優が若干老けて見えることで、ロシア人が髭などのせいで大体そう見えてしまうのか、それとも、この物語で主役級を演じようとすると、相当に役者としての年季を踏まなければならないということだったのかなどと、色々憶測していますが、それも許容範囲内か。
Directed by: Ivan Pyr'ev, Mikhail Ulyanov, Kirill Lavrov Cast: Mikhail Ulyanov, Kirill Lavrov, Andrei Myagkov Mark Prudkin, Olga Kobeleva, Viktor Kolpakov
カラマーゾフの兄弟 [DVD]」 ['07年]

罪と罰 1970 dvd.jpg 因みに、ドストエフスキー作品を映画化したもの中で原作の雰囲気をよく伝えているものと言えば、個人的にはレフ・クリジャーノフ 脚本・監督のソビエト映画「罪と罰」('70年)ではないかと思います。こちらも3時間40分もの長尺ですが、その分本格的です。倒叙型ミステリとも言え(ドストエフスキーの長編は全て現代に繋がるテーマを孕むとともに、ミステリの形態を模しているとも言われる)、ゲPRESTUPLENIE I NAKAZANIE 1.jpgオルギー・タラトルキン(当時新人)のラスコーリニコもタチアナ・ベドーワのソーニャも良かったように思います(ソーニャはマルメラードフ老人の前妻の子で、家計を助けるために躰を売っているのだが、どう見ても娼婦には見えない。それだけに痛々しさはある)。
罪と罰(1970) [DVD]

 ラスコーリニコフと、老婆殺人事件担当の予審判事ポルフィーリ(インノケンティ・スモクトノフスキー)との神の存在めぐる論戦は、舌鋒鋭い禿頭ポルフィーリが優勢でしょうか。漠然とした神学論争ではなく、ちゃんと事件に被せた議論になっています。ラスコーリニコフの妹PRESTUPLENIE I NAKAZANIE 2.jpgドゥーニャ(ヴィクトリア・フョードロワ)に執拗に迫るスビドリガイロフ(エフィム・コベリヤン)のぎらついた感じも生々しく、最後にドゥーニャが涙を流しながらスビドリガイロフに拳銃を向ける場面はややメロドラマ調ですが(この2人の話のウェイトが2部構成の第2部のかなりを占め、原作より比重が重い)、これもまあヴィクトリア・フョードロワの美しさで許してしまおうかという感じ。
 公開されて暫くのうちに観て、その後ずっと記憶の上ではかなり古い映画だと勘違いしていたのですが、その割にはスローモーションとか使って映像が洗練されていたなあと思ったら、意外と新しい作品でした。この作品の場合、敢えてモノクロで撮っているのが成功しているように思えます。

i「カラマーゾフの兄弟」.jpgTHE BRATYA KARAMAZOVY 1968 iwan.jpg『カラマーゾフの兄弟・完全版』.jpg「カラマーゾフの兄弟」●原題:THE BRATYA KARAMAZOVY●制作年:1968年●制作国:ソ連●監督:イワン・プィリエフ●撮影:セルゲイ・ウルセフスキー●原作:: フェードル・M・ドストエフスキー●時間:227分●出演:ミハエル・ウリャーノフ/リオネラ・プイリエフ/マルク・プルードキン/ワレンチン・ニクーリン/スベトラーナ・コルコーシコ ●日本公開:1969/07●配給:東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-21) (評価★★★★☆)

復活 トルストイ dvd.jpgVoskresenie(復活).jpg「復活」●原題:VOSKRESENIE(Resurrection)●制作年:1961年●制作国:ソ連●監督:ミハイル・シヴァイツェル●撮影:エラ・サベリエフ/セルゲイ・ポルヤノフ●音楽:G・スビリドフ●原作:レフ・トルストイ●時間:208分●出演:タマーラ・ショーミナ/エフゲニー・マトベェフ/パウエル・マッサリスキー/ヴィ・クラコフ●日本公開:1965/03●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸坐(86-04-20) (評価★★★)●併映:「アンア・カレーニナ」(アレクサンドル・ザルヒ)復活 [DVD]」 ['03年]

アンナ・カレーニナ dvd.jpgアンナ・カレーニナ スチール.jpg「アンナ・カレーニナ」●原題:ANNA KARENINA●制作年:1967年●制作国:ソ連●監督・脚本:アレクサンドル・ザルヒ●撮影:レオニード・カラーシニコフ●音楽:ロジオン・シチェドリン/モスクワ室内オーケストラ●原作:レフ・トルストイ●時間:144分●出演:タチアナ・サモイロワ/ワシリー・ラノボイ/ニコライ・グリツェンコ/アナスタシア・ヴェルチンスカヤ/イヤ・サーヴィナ●日本公開:1968/05●配給:東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(86-04-20) (評価★★★)●併映:「復活」(ミハイル・シヴァイツェル)アンナ・カレーニナ [DVD]」 ['04年]

「罪と罰」●原題:ПРЕСТУПЛЕНИЕ и НАКАЗАНИЕ(PRESTUPLENIE I NAKAZANIE)●制作年:1970年●制作国:ソ連●監督:レフ・クリジャーノフ●脚本:レフ・クリジャーノフ/ニコライ・フィグロフスキ罪と罰 tirasi.jpgー●撮影:ヴァチェスラフ・シュムスキー●音楽:ミハイル・ジフ ●原作:フョードル・ドストエフスキー●時間:219分●出演:ゲオル罪と罰 [DVD] 2.jpgギー・タラトルキン/タチアナ・ベドーワ/インノケンティ・スモクトゥノフスキー/ヴィクトリア・フョードロワ/アレクサンドル・パブロフ/エフィム・コベリヤン/エフゲニー・レベチェフ/ウラジミール・バソフ●日本公開:1971/03●配給:東和●最初に観た場所(再見):池袋文芸坐(79-11-11) (評価★★★★)●併映:「貴族の巣」(アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー)

罪と罰 [DVD]」 ['98年]

 【1927年文庫化・1957年改版版[岩波文庫(全4巻)(米川正夫:訳)]/1961年再文庫化[新潮文庫(『カラマアゾフの兄弟』(全5冊))(原久一郎:訳)]/1972年再文庫化[講談社文庫(全3冊))(北垣信行:訳)]/1978年再文庫化[新潮文庫(全3冊))(原卓也:訳)]/1978年再文庫化[中公文庫(『カラマゾフの兄弟』(全5冊))(池田健太郎:訳)]/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(全4分冊)(亀山郁夫:訳)]】 

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トップは自分の考えと同意見の参謀の声しか聞かず。

『司令官たち』.jpg 司令官たち .jpg   大統領の陰謀100_.jpg大統領の陰謀 [Blu-ray]
司令官たち―湾岸戦争突入にいたる"決断"のプロセス』['91年/文藝春秋]

大統領の陰謀.jpg大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日.jpg 『大統領の陰謀』(映画にもなった)で、カール・バーンスタインとともにニクソンを追いつめて名を馳せたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードによる湾岸戦争の〈軍事上の意思決定〉の記録-と言っThe Commanders_.jpgても、'88年11月のジョージ・ブッシュ大統領就任から'91年1月の湾岸戦争突入までの話ですが、同年3月の停戦協定の2ヵ月後には本国出版されていて、短期間に(しかも戦争中に)よくこれだけの証言をまとめたなあと驚かされます。

Colin Powell.gif  戦争に対して様々な考えを持った司令官たちの、彼らの会話や心理を再現する構成になっていて、小説のように面白く読めてしまいますが、大統領制とは言え、戦争がごく少数の人間の考えで実施に移されることも思い知らされ、その意味ではゾッとします。

Colin Powell

 パパ・ブッシュは、直下のチェイニー国防長官や慎重派のコリン・パウエルよりも、好戦的なスコウクロフトの主戦論になびいた―。トップが自分の考えと同意見の参謀の声しか聞かず、逆に反対派の参謀には事前相談もしなくなるというのはどこにでもあることなのだけど、この場合その結果が〈戦争〉突入ということになるわけで、穏やかではありません。

 個人的に興味深かったのは、「砂漠の嵐」作戦の指揮官シュワルツコフが、部下が悪い話を持ってきただけでその部下に怒鳴り散らすタイプだったのに対し、彼の部下のパウエルは、自分の部下の話をじっくり聞くタイプだったということで、戦後、両者の地位の上下は逆転しています。

Colin Luther Powell.jpg とは言え本書は、コリン・パウエルをカッコ良く書き過ぎている傾向もあり、一軍人としてキャリアを全うするという彼の内心の決意が描かれているものの、実際には彼はその後、国務長官という政治的ポストに就いています("初の黒人大統領"待望の過熱ぶりを本書によって少し冷まそうとした?)。 

Condoleezza Rice2.jpg また、本書で主戦派として描かれているスコウクロフトは、イラク戦争ではパウエルと協調し、息子の方のジョージ・ブッシュ(父親と同じ名前)の強硬姿勢にブレーキをかける立場に回っています。しかし、息子ブッシュは、パウエルの後任として自身が国務長官に指名したコンドリーザ・ライスの"攻撃的現実主義"になびいた―。最初から戦争するつもりでタカ派の彼女を登用したともとれますが...。
 

大統領の陰謀1.jpg 因みに、映画「大統領の陰謀」('76年/米)は、以前にテレビで観たのを最近またBS放送で再見したのですが(カール・バーンスタイン役のダスティン・ホフマンもボブ・ウッドワード役のロバート・レッドフォードも若い!)、複雑なウォーターゲート事件の全体像をかなり端折って、事件が明るみになる端緒となった共和党工作員の民主党本部への不法侵入の部分だけを取り上げており、侵入した5人組の工作員は誰かということと、それが分らないと事件を記事として公表できず、そのうち新聞社への政治的圧力も強まってきて、取材のために残された時間は限られているがあと1人がわからない―という、その辺りの葛藤、鬩ぎ合いの1点に絞って作られているように思いました。それなりに面白く、再度見入ってしまったこの作品の監督は、後に「推定無罪」などを撮るアラン・J・パクラで、やはりこの監督は、政治系ではなく、この頃からサスペンス系だと。「ディープ・スロート」という2人の記者に情報提供した人物が、後に実在かつ生存中の政府高官だと分った、その上で観るとまた興味深いです。

大統領の陰謀 ジェイソン・ロバーズ .jpgジェイソン・ロバーズin「大統領の陰謀」[ワシントン・ポスト紙編集主幹ベン・ブラッドリー](1976年ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞、全米映画批評家協会賞助演男優賞、1977年アカデミー賞助演男優賞受賞

「大統領の陰謀」●原題:All THE PRESIDENT'S MEN●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:アラン・J・パクラ ●製作:ウォルター・コブレンツ●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:ゴードン・ウィリス●音楽:デヴィッド・シャイア●時間:138分●出演:ダスティン・ホフマン/ロバート・レッドフォード/ジャック・ウォーデン/マーティン・バルサム/ジェイソン・ロバーズ/ジェーン・アレクサンダー/ハル・ホルブルック/ネッド・ビーティ/スティーヴン・コリンズ/リンゼイ・クローズ/F・マーリー・エイブラハム/ジェームズ・カレン●日本公開:1976/08●配給:ワーナーブラザーズ (評価:★★★★)

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