【1387】 ○ エルケ・ハイデンライヒ(作)/クヴィント・ブーフホルツ(絵) (畔上 司:訳) 『黒猫ネロの帰郷 (1997/01 文藝春秋) ★★★★

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「児童文学」と言うよりは「大人の絵本」という感じか。しみじみとした味わい。

黒猫ネロの帰郷.jpg 『黒猫ネロの帰郷』['97年]Elke Heidenreich trifft Tomi Ungerer.jpg エルケ・ハイデンライヒ&トミー・ウンゲラー

Nero Corleone.jpg イタリアの農家で生まれた黒猫ネロは生まれた時から悪ガキで野心家。ドイツ人夫婦に気に入られて、貧しい農家からの脱出に成功、ドイツでもやりたい放題、妹ローザと共に贅沢な暮らしを満喫する。だが、年をとってローザに死なれ、寂しくなったネロは、15年ぶりに懐かしい生まれ故郷に帰ってくる―。

 1995年にドイツの作家エルケ・ハイデンライヒ(Elke Heidenreich)が発表した作品で、彼女はドイツでは、文芸作家としてのほか、テレビ・ラジオ向けのドラマ作家や司会者としても活躍してきた人であるとのこと、本書はドイツでは発表後すぐに大ベストセラーになったそうです。
 今やドイツでは、トミー・ウンゲラーと並ぶ児童文学の大御所とみていいのでは。

"Nero Corleone. Die ' Ich denk an Dich' Box"

 タイトル通りの内容ですが、異郷の地で暮らした後の15年ぶりの帰郷ということは、人間で言えば、若い頃にウチを飛び出して、年老いてから郷里に戻ってきたということになり、まさに「放蕩息子の帰還」の物語です。

 訳本は90ページ余りですが、黒猫ネロの生涯を通して、人間の一生を照射したような内容で、クヴィント・ブーフホルツの柔らかいタッチの絵も相俟って、「児童文学」と言うよりは「大人の絵本」という感じではないでしょうか。

 舞台の始まりがイタリアの農家で、終わりもそこで終わっていることから、作者のイタリアへの思い入れが感じられますが、それがドイツ人のイタリアへの憧憬とも重なったのかも知れません。

 ネロの渾名は「ドン・コルレオーネ」というマフィアのボスの名前からとったものであり、ハイデンライヒとブーフホルツのコンビによる第2作『ペンギンの音楽会』では、三大テノールの一人、ホセ・カレーラスが登場しますが、渾名としてではなく、"本人"として登場するという―ホントにイタリア好きだなあと。

 黒猫ネロは、ある意味ヒロイックであるけれども、決してスーパーヒローではなく、そして、年老いた今は、彼のことを多くの者は昔話としてしか知らない―ありがちだなあ、こんな人生(しみじみ...)。

 子供に読ませようと思って、結局、自分が読んで終わってしまったのですが、多分ドイツでも、子供より大人に読まれたのではないでしょうか

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