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長官狙撃犯がなぜ逮捕されないのかを軸に警察組織内の確執を抉る。
『警察が狙撃された日―そして「偽り」の媒介者たちは』 ('98年/三一書房)/『警察が狙撃された日―国松長官狙撃事件の闇』 講談社+α文庫
'95年に起きた国松孝次警察庁長官狙撃事件は、オウム信者の現職警官・小杉敏行が書類送検されたものの結果的に証拠不十分で立件できず、今や事件そのものが風化しようとしています。本書は、国松長官はなぜ狙撃されたのか、なぜ犯人は逮捕されないのかを検証していますが、その過程で警察庁vs.警視庁、刑事部門vs.公安部門の確執を明らかにし、〈チヨダ〉なる警察内の闇組織の存在をあぶりだしています。複雑な警察組織の概要と権力抗争のダイナミズムがわかり面白く読めますが、警察内の権力闘争や組織防衛が、捜査ミスや事実の隠蔽に繋がっていると思うとやり切れない気持ちにもさせられます。
結局、事件そのものは何も解決されておらず、本書自体も「小杉問題」(つまり小杉はなぜ逮捕されないのかということ)を軸に警察組織のあり方の問題に終始するように思われ、警察小説を読んでいるような感じでした(公安が絡んでいるのでスパイ小説のようでもある)。
しかし終盤にきて本書なりの事件に対する見解を示し、そこでは、「小杉犯行説」が濃厚視されることをベースに、現職警察官を実行者に選んだオウムの意図を推察するとともに、その場で捕まる「予定」だった犯人がなぜ逃げることが出来たかという大胆な想像的考察も行っています。
秀逸なのは、小杉供述の現場状況の説明に事件当時の状況と時間差があるところから、事後の違法捜査的な実地検証によって刷り込まれた面が多々あることを示している点で、小杉をマインドコントロールしたオウムと同じように、警察が小杉を洗脳しようとしたとすれば、皮肉と言うより怖い話です。
警察による現場検証の様子(左手前から右先の人物の位置に向けて狙撃がなされたと推定されている)
警察幹部からの非公式情報も含めた緻密な取材からなる本書は、おそらく複数の社会部記者の合作であろうと考えられていて、警察側も一時それが誰かを突き止めようと躍起になったらしい。それぐらいの内容でありながら、中盤に纏まりを欠き("合作"であるため?)、文章にも原因があると思いますが、タブロイド紙の連載をまとめ読みしているような印象を受けるのが残念です。
【2002年文庫化[講談社+α文庫(『警察が狙撃された日―国松長官狙撃事件の闇』)]】