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1世紀以上も前にこのような作品が作られていたことに驚かされる。

「死神の谷」1921.jpg「死神の谷」000.jpg
死神の谷
「死滅の谷」0 0.jpg 愛し合うカップルである彼女(リル・ダゴファー)とその婚約者(ワルター・ヤンセン)は、村に向かう途中、一人の黒衣の男(ベルンハルト・ゲッケ)を馬車に乗せる。2人は知らないが、その男は死神(死神)だった。村に着いた死神は墓地の近くの土地を借り受け、ドアも門もない高い壁に囲まれた館を建てる。恋人たちが居酒屋で睦まじく語らっているところに死神が現れる。彼女が席を外し、戻ってくると彼の姿が消えていた。彼女は恋人を探して村中を彷徨「死滅の谷」01.jpgう。死神の館の近くにきて、幽霊の行列に出くわす。そこに彼の姿もあった「死滅の谷」02.jpg。幽霊たちは壁の向こうに消える。彼女は毒を呷って死のうととる。その瞬間、彼女は死神の館へ運ばれる。彼女は恋人に会わせてほしいと死神に頼む。死神は彼女を蝋燭が無数にある部屋へ連れて行く。蝋燭は人の一生を表していて、灯火が消えるとその人間の運命は尽きる。死神は3本の蝋燭のうち1つでも救うことができれば恋人を返そうと約束する。1本目の蝋燭は、中東バグダッドの恋人たち、ソベイデと西欧人。2本目の「死滅の谷」03.jpg蝋燭は、17世紀ヴェネチアの恋人たち、フィアメッタとジョヴァン・フランチェスコ。3本目の蝋燭は、古代中国の恋人たち、チャオ・チェンとリャン。それぞれの物語が語られるが、すべては悲劇で幕を閉じ、蝋燭は3本とも消えてしまう。しかし、死神は最後の提案を持ちかける。1時間のうちに誰か別の人間の魂を差し出せば恋人を生き返らせようと。彼女は死期が近い老人たちに死んでくれるよう頼むが断られる。そこに火事が起きる。彼女は置き去りにされた赤ちゃんを彼の身代わりにしようとするが、悲しむ母親を見て思いとどまる。赤ちゃんを母親に手渡し、自分は燃え盛る炎の中に消える。死神の館で再会を遂げた恋人たちはともに死後の世界に旅立つ―。

「死滅の谷」死神.jpg 新宿武蔵野館での「カツベン映画祭」で鑑賞(弁士:澤登翠氏、ギター&フルート演奏付き)。フリッツ・ラング監督最初期の作品で、"現代"を含め4つの時代に渡ってオムニバス形式で描かれる雄大な幻想映画。「死滅の谷」という邦題は今一つピンと来ませんが、原題は「疲れ果てた死神」という意味だそうです(ヒロインの粘りに死神の方も結構疲れたということ? ヒロインが最後に死神に勝利したという解釈か)。すべてのエピソードで死神をベルンハルト・ゲッケ、恋人たちをリル・ダゴファーとワルター・ヤンセンが演じています。

 リル・ダゴファー演じるヒロインが死神と駆け引きするところは、後のイングマール・ベルイマン監督の「第七の封印」('57年/スウェーデン0第七の封印.jpg)を想起させられました。そして、「第七の封印」同様、人は死神に出し抜かれ、勝つことができません。この作品でも、ヒロインはそれぞれの時代で恋人を失います。「第七の封印」の救いは純朴な旅芸人でしたが、この映画ではラストでヒロインが自ら命を差し出すところが救いになっています(このヒロイン、直前まで死期が近い老人たちに死んでくれと頼んだり、赤ちゃんを身代わりにしようとしたりしているため、かなりの急転換のがやや唐突だが)。

「死滅の谷」05.jpg「死滅の谷」絨毯.jpg 時代を違え、アラブ、イタリア、中国で展開されるが3のエピソードのすべてで、恋人たちと死神を同じ俳優が演じているため、古代中国を舞台とした3つ目のエピソードでもドイツ人俳優が中国人に扮しているのが奇妙で、しかも、魔術師が空飛ぶ絨毯に乗って移動したりして、アラビアン・ナイト風であったりするのが可笑しいです(男女を象と
寺院に変えてしまうなど、どこかインドっぽいイメージも。象が寺院をしょっているというのがスゴイね)。

 ただ、幻想的な物語の中に命の尊さを浮かび上がらせていく手法が見事で、死神の与えた最後の試練は重く、それでいて、全体にユーモラスでもあるという(どこまでが計算なのかよく分からないが)1世紀以上も前にこのような作品が作られていたことに驚かされます(ウィキペディアを見たら「ファンタジー映画・ロマンス映画・ホラー映画にカテゴライズされる」とあった)。89分(オリジナルは99分)の中に3つのエピソード("現代"を含め4つ)が織り込まれていて、観ていて飽きる隙が無かったという印象です。

「死滅の谷」09.jpg「死滅の谷」04.jpg「死滅の谷(死神の谷)」●原題:LE DER MUDE TOD/(英)THE WEARY DEATH/BETWEEN TWO WORLDS/DESTINY●制作年:1921年●制作国:ドイツ●監督:フリッツ・ラング●製作:エーリッヒ・ポマー●脚本:テア・フォン・ハルボウ/フリッツ・ラング●撮影:フリッツ・アルノ・ヴァグナー/エーリッヒ・ニッチェマン/ヘルマン・サールフランク●時間:89分(オリジナル99分)●出演:リル・ダゴファー(彼女/ゾベイデ/フィアメッタ/チャオ・チェン)/ヴァルター・ヤンセン(彼/西欧人/ジョヴァン・フランチェスコ/リヤン)/ベルンハルト・ゲッケ(死神/エル・モット/ムーア人/皇帝の射手)/ルドルフ・クライン=ロッゲ/カール・リュッケルト/マックス・アダルベルト/ヴィルヘルム・ディーゲルマン/エーリヒ・パブスト/カール・プラーテン/ヘルマン・ピヒャ/パウル・レーコッフ/マックス・フェイファー/ゲオルク・ヨーン/リディア・ポテキナ/グレーテ・ベルガー/エドゥアルト・フォン・ヴィンターシュタイン/エリカ・ウンルー/ルドルフ・クライン=ロッゲ/ルイス・/フザール・パフィー/パウル・ビーンスフェルト/パウル・ノイマン●日本公開:1923/03●配給:松竹●最初に観た場所:新宿武蔵野館(スクリーン1)(新宿東口映画祭2023提携企画「第三回カツベン映画祭」弁士:澤登翠/演奏:カラード・モノトーン・デュオ(作曲・編曲、ギター:湯浅ジョウイチ/フルート:鈴木真紀子))(23-06-02)((評価:★★★★)

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リアリズム映画であると同時にファンタジー映画に。ほろ苦い結末。

「小さき麦の花」2022.jpg 「小さき麦の花」2.jpg「小さき麦の花」(2022)

「小さき麦の花」3.jpg 2011年、中国西北地方の農村。貧しい農家の四男・ヨウティエ(ウー・レンリン)は、三男ヨウトン(チャオ・トンピン)から厄介者として扱われながら兄の家で暮らしていた。働き者だが未だ独身で、兄は自分の息子の縁談話の前に(世間体を気にして「小さき麦の花」10.jpg)彼に縁談話を持ち掛ける。相手の女性クイイン(ハイ・チン)は、体「小さき麦の花」00.jpgに障碍があり、すぐ小便をもらしてしまい、左半身も不自由である。今まで結婚相手もなく、兄夫婦にいじめられて生きてきた。「どう?二人はお似合いよね」と仲介者は兄たちから200元の金を受け取り、本人たちが何も言わないまま、二人の結婚は決まる。村には空き家が目立ち、耕地は荒れていた。ロバ1頭が唯一の財産の新婚夫婦は、空き家に居を構える。農地を耕し、小麦の種を蒔き、野菜を育て、そうして不器用ながらも互いに思いやって慎ましく生きるが、やがて農村改革によって住んでいた空き家を追い出されることになる。立ち退きの補償金を元手にするなどして、二人だけで自分たちの家を建てるが―。

「小さき麦の花」12.jpg 「僕たちの家(うち)に帰ろう」('14年/中国)のリー・ルイジュン(李睿珺)監督による2022年作品で、家族から厄介者扱いされていた男女が夫婦となり、社会の変革などに翻弄されながらも絆を深めていく、第72回「ベルリン国際映画祭」のコンペティション部門に出品されたドラマ映画です(原題は「隐入尘烟」で「埃の中に隠れる」という意味、英題「Return to Dust」は「埃に還る」なので、ほぼ原題に近い)。

 時代設定は2011年だそうですが、ほんの10年ほど前とは思えないほどの貧しさ。中国の国内の「格差問題」を如実に示した作品で、ひと昔前なら国家の検閲が入って上映禁止にでもなりそうな内容ですが、ベルリン国際映画祭で絶賛され、中国国内でもレビューサイト「豆瓣(ドウバン)」では平均8.5(10点満点)という高い評価を獲得し、このスター不在の低予算映画映画が、社会現象となるほどの大ヒットを記録したとのこと、特撮の愛国ヒーローものアクションやコメディがヒットの定石になっていた中国映画市場に起きた「奇跡」と言われているどうです。

「小さき麦の花」8.gif「小さき麦の花」1.jpg とにかく徹底したリアリズム。ノーメイク(汚れメイク?)でクイインを演じたハイ・チン(海清)は、もう女優には見えず、このあたりが張藝謀(チャン・イーモウ)の「紅いコーリャン」 ('87年/中国)のコン・リー(鞏俐)などとは異なるところ(コン・リーは"中国版山口百恵"と言われた)。

「小さき麦の花」11.jpg 武仁林(ウー・レンリン)/海清(ハイ・チン)

「小さき麦の花」9.jpg ヨウティエを演じたウー・レンリン(武仁林)に至っては、映画の舞台となった甘粛省の村で実際に農業に従事している人物だそうで、そのため、一挙手一投足に芝居ではないリアルさがありました。クイイン役のハイ・チンは、本作の出演に当たってウー・レンリンの家に10カ月滞在し役作りに励んだことで、こちらも農民の動作が体にしみ込んでいました。

「小さき麦の花」7.jpg 季節が移って麦が成長し、卵が孵(かえ)り、ヨウティエ、クイインの夫婦の関係も深化していきます。最初はぎこちなかった二人の心の距離が徐々に縮んでいく様が、繊細に描き出されていました。

「小さき麦の花」6.jpg 映像美的にも、先祖に結婚を報告した後、砂丘の頂上に並んで座った二人が会話を交わすシーンや、卵を孵化させる段ボール箱から発せられる光がイルミネーションのように二人の顔を照らすシーン、屋根の上で二人が体を結んで寝るシーンなど、美しい場面をいくつもあり、リアリズム映画であると同時にファンタジー映画にもなっていると思います。

 ただし、夫婦を突然襲った悲運を経ての結末はほろ苦いものでした。二人の手作りの家が(日干し煉「小さき麦の花」4.jpg「小さき麦の花」5.jpg瓦造りから始めて、手作りで家を建てるというのもスゴいが)ブルドーザーであっけなく壊され、 補償金の1万5000元が支払われますが、それを受け取ったのはヨウティエではなかった―。

 何もかも失ったヨウティエはどうなるのかと思ったら、街の文化住宅みたいなアパートでで暮らすことになったみたいで(当局の検閲が入った?)、生きててくれて良かったと思う一方、金よりもロバを欲しがったようなヨウティエが、街で暮らして幸せになれるとはあまり思えませんでした(このあたりも含めての風刺か?)。

 特に中国の若者の間でヒットしたようですが、この結末を彼らがどう捉えたのか知りたい気がします。

海清(ハイ・チン)
「小さき麦の花」ハイチン.jpg「小さき麦の花」●原題:隐入尘烟/RETURN TO DUST●制作年: 2022年●制作国:中国●監督・脚本:リー・ルイジュン(李睿珺)●撮影:ワン・ウェイホア●音楽:ペイマン・ヤザニアン●時間:133分●出演:ウー・レンリン(武仁林)/ハイ・チン(海清)/ヤン・クアンルイ(杨光锐)/チャオ・トンピン/ワン・ツァイラン/ワン・ツイラン/シュー・ツァイシャ/リウ・イーフー/チャン・チンハイ/リー・ツォンクオ/ワン・チールー●日本公開:2023/02●配給:マジックアワー=ムヴィオラムヴィオラ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)((評価:★★★★)

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70年代のアニメーションだが、しっかり"SF"していた("通俗SF"ではなく"本格SF")。

「ファンタスティック・プラネット」1973.jpg「ファンタスティック・プラネット」00.jpg
ファンタスティック・プラネット [DVD]

「ファンタスティック・プラネット」01.png 宇宙のどこかにある惑星イガムには、ドラーグ族とオム族が暮らしている。ドラーグ族は、オム族の十倍以上の身長、青い皮膚、魚のヒレの様な耳、真っ赤な目を持ち、その惑星の生態系の頂点に立つ存在である。一方のオム族は原始的な生活を営んでおり、ドラーグ族はオム族をペット、おもちゃ、そして奴隷にしてその命を弄んでいた。また、ドラーグ族は、オム族が高度な知能を持っている可能性を懸念しており、自分たちの優位を守るために、「害虫駆除」感覚で定期的にオム族大量虐殺していた。そんな中、オム族のテールという少年は、母を殺されたのちに、ドラーグ族の少女ティバに拾われてペットになるが、ある日、彼らが知能を高めるために用いている「学習器」を持って逃亡する。この「学習器」によって、オム族はこれまで持っていなかった知能を手にすることになり、そうして生き残りをかけたドラーグ族とオム族の闘いが始まる―。

「ファンタスティック・プラネット」cb.jpg シネマブルースタジオの2022年「異世界へようこそ vol.2」特集のテリー・ギリアム監督の「Dr.パルナサスの鏡」に続く2作目、ルネ・ラルー監督が1973年に映画化したもので、原作は、フランスのSF作家ステファン・ウルの小説「オム族がいっぱい」。映画の方は70年代のアニメーションですが(原題 仏: La Planète sauvage、「未開の惑星」の意)、しっかり"SF"していたという感じ。スペースファンタジー的な"通俗SF"ではなく、人間の根源的イマジネーションンに訴えかける"本格SF"でした。

「ファンタスティック・プラネット」 (73年.jpg 本作は第26回カンヌ国際映画祭で特別賞を受賞し(アニメ作品としては初)、「ハリウッド・リポーター」誌の映画批評家ジョン・デフォー選出の「大人向けアニメ映画ベスト10」(2016年)において10位にランクイン、日本でも1985年の劇場初公開以来カルト的な人気を誇り、『世界と日本のアニメーションベスト150』('03年/ ふゅーじょんぷろだくと)で27位にランクインしています。2020年12月に東京・渋谷で行われた1週間限定上映でも満席回が続出したとのことで、作品誕生から半世紀を迎える今なお人気があるようです。

「ファンタスティック・プラネット」03.jpg ネタバレになりますが、イガムの近くには「野性の惑星」と呼ばれる未開の惑星があり、オム族の隠れ都市はドラーグ族の偵察機械に発見され、自動駆除装置の襲撃を受けますが、テールたちは「学習器」により開発したロケットで脱出に成功し、「野性の惑星」に到達、そこは、男女一対の首のない巨大な像が無数にあるだけの荒野で、像の首の上に、瞑想したドラーグ族の「意識」が頭部があり、これこそがドラーグ族にとっての生命維持活動であり、生殖でもあったため、ロケットからビームを発射して像を破壊すると、惑星イガムにいるドラーグ族本体が次々と死ぬことに。ドラーグ族の議会は紛糾し、知事が「このままでは二つの種族はお互いを破壊し尽くし全滅する。和平を結び、ドラーグ族とオム族が共存する方法を見つけよう」と提案、戦いは終結し、オム族はドラーグ族が用意した新しい人工衛星に移住することに。その星は「テール(地球)」と名づけられた―。

「ファンタスティック・プラネット」es.jpg 「猿の惑星」のラストと似た印象もあるストーリーもなかなかですが、アニメーションも今まで見たことのないようなそれで、奇妙な巨大生物やマシーンの描写などは、宮崎駿の漫画・アニメ『風の谷のナウシカ』に影響を与えたと指摘されているようです。当人は、本作を鑑賞した際「ヒエロニムス・ボッシュの絵みたいな」「美しくもおぞましい」キリスト教ベースの美術に辟易しつつも「面白い」と思い、翻って風土を念頭におかない作品を描く通俗的な日本のアニメの現状を、「美術が不在」という表現で反省したとのこと(風土を反映させたのが「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」ということか)。個人的にも、正直、地球人に相当するオム族も含め、そのタッチに"気色悪さ"を覚えたのは確かです(確かにヒエロニムス・ボスに代表されるルネサンス期風の描画とも言える)。

「ファンタスティック・プラネット」04.jpg たまたま「学習器」の恩恵を受けたオム族のテールが、支配者であるドラーグ族のティバより早く学習器によって惑星イガムの地理や文化を吸収することができたのは、ドラーグ族の1週間はオム族の1年に相当するためであり、テールに感化され、「墓場」にあった学習器で学習したオム族が、ドラーグ族時間で僅か3季でドラーグ族に劣らない高い科学技術を有するに文明都市を築けたのは、ドラーグ族の3季がオム族時間で15年にあたるためです。このあたりは一応チェックしておいた方がいいかも。

 好みはありますが(個人的にはやはり「絵」がちょっと苦手)、それでも、観ておいて損はない作品。そう言えば、2020年の再上映の際には、アニメ映画監督の湯浅政明氏とイラストレーターのみうらじゅん氏が絶賛コメントを寄せていました。

「ファンタスティック・プラネット」ges.jpg「ファンタスティック・プラネット」●原題:LA PLANETE SAUVAGE●制作年: 1973年●制作国:フランス・チェコスロバキア●監督:ルネ・ラルー●製作:サイモン・ダミアーニ/アンドレ・ヴァロ=カヴァグリオーネ●脚本:ローラン・トポール/ルネ・ラルー/スティーヴ・ヘイズ●撮影:ハポミル・レイタール/ボリス・パロミキン●音楽:アラン・ゴラゲール●原作:ステファン・ウル「オム族がいっぱい」●時間:72分●日本公開:1985/06●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-23)(評価:★★★☆)

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海外で映画化することで、ポップなハリウッドらしいアクション映画に。

「ブレット・トレイン」00.jpg
「ブレット・トレイン」(2022)ブラッド・ピット/真田広之
『ブレット・トレイン』p12.gif 東京。殺し屋の木村雄一(アンドリュー・小路)は、何者かに息子の渉(ケヴィン・アキヨシ・チン)を屋上から突き落とされ意識不明の重体になり、見舞いにやって来た父のエルダー(真田広之)に復讐する旨を伝える。一方、復帰したばかりの殺し屋のレディバグ(ブラッド・ピット)は引退したいと考えていたが、ハンドラーのマリア・ビートル(サンドラ・ブロック)により引き戻され東京発・京都行の高速列車(東海道新幹線)にあるブリーフケースを回収する任務を遂行するために乗り込むこととなる。一方、木村は、犯人であるプリンス(ジョーイ・キング)を殺そうとするも返り討ちに遭い、脅される形で彼女とブリーフケースを奪う協力をするハメになってしまう。中国マフィアから、誘拐されたホワイト・デス(マイケル・シャノン)の息子(ローガン・ラーマン)を救出したタンジェリン(アーロン・テイラー=ジョンソン)とレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)は終点の京都まで彼の護衛と身代金の入ったブリーフケースの見張りをしていた。ところがレディバグがそれをこっそり盗み出し、降りようとしたところに彼に恨みを持つウルフ(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)が乗り込んで来てしまい、戦闘に発展するも何とか彼を退けたが、この襲撃はブリーフケースとそれぞれの私情が絡む大騒動の始まりに過ぎなかった―。

『ブレット・トレイン』p22.jpg『マリアビートル』t.jpg 2022年公開のデヴィッド・リーチ監督作で、伊坂幸太郎の原作は、『グラスホッパー』('04年)、『マリアビートル』('10年)、『AX(アックス)』('17年)から成る作者の「殺し屋シリーズ」の第2作『マリアビートル』。先に映画化された作品「グラスホッパー」('15年/松竹)がイマイチだったことから、作者自身は国内での映画化は絶対にしないと決めて、映画化の話を断っていたところ、エージェントが海外に紹介したら(2022年「英国推理作家協会・インターナショナル・ダガー賞(外国語作品賞)」の候補作になった)ハリウッドで映画化したいということになって、それではということだったようです。

『ブレット・トレイン』3.jpg『ブレット・トレイン』4.jpg 原作の東北新幹線が東海道新幹線に変わったり、原作で中学生の男の子だった〈王子〉が少女に変わったり、原作では二人組の殺し屋の両方が死ぬのに映画では片方が生き残ったりしていますが、何よりも全体の雰囲気がポップなハリウッド調のアクション映画になっていて、ハリウッドスタイルに改変するとこうなるのか、という見方で鑑賞できて興味深かったです。

 監督がスタントマン出身ということもあって、アクションの9割をスタントマンを使わず、役者自らが監督の指導のもと演技していて、58歳のブラッド・ピットも頑張っていました(真田広之はさらにその3つ年上なのだが)。

 ただ、終盤、原作のストーリーから外れてくるとともに、CGを多用するようになって、作品全体大味になったように思われ、それまでせっかく身体を張って演技していた俳優陣の努力が霞んでしまった感じもあります。

『ブレット・トレイン』d.gif.jpg 観終わった瞬間はまあそれでも面白かったなあという印象でしたが、時間の経過とともに印象が薄れていく映画(要するに"残らない映画")でもあるように思いました。でも、こうした映画は、観る側も、観ているときに楽しいかどうかで観に来ていると思うので、本来ならば星3つくらい(△評価)ですが、オマケで星3つ半(何とか○)にしました(子どもと一緒に観に行ったというのもある)。

 現地の批評家の一致した見解は「『ブレット・トレイン』のカラフルなキャストとハイスピードなアクションは、物語の脱線後もほぼ十分に場を持たせている」となっているそうです。まあ、そんなところでしょう(物語が脱線してているというのは共通認識だった(笑))。

『ブレット・トレイン』真田.jpg 因みに、原作では登場人物は全て日本人ですが、この映画では、木村の家族以外の登場人物は全て外国人で、米国では、所謂「ホワイトウォッシング」であるとの批判が出たそうです。背景は原作通り日本であるという設定を維持しつつ、登場人物は外国人ばかりで主要な配役を占めていることがそうした非難を強めたようで、配役一つとっても、米国ではなかなか難しい問題があるのだなあと思いました(この映画を観た日本人の多くは、真田広之とかが出ているので、むしろ一定の配慮がされていると思うのではないか)。


ブラッド・ピット/サンドラ・ブロック
『ブレット・トレイン』5.jpg「ブレット・トレイン」●原題:BULLET TRAIN●制作年: 2022年●制作国:アメリカ・日本・スペイン●監督:デヴィッド・リーチ●製作:ケリー・マコーミック/デヴィッド・リーチ/アントワーン・フークア●撮影: ジョナサン・セラ●音楽:ドミニク・ルイス●時間:126分●出演:ブラッド・ピット/ジョーイ・キング/アーロン・テイラー=ジョンソン/ブライアン・タイリー・ヘンリー/アンドリュー・小路/真田広之/マイケル・シャノン/サンドラ・ブロック/ベニート・A・マルティネス・オカシオ/ローガン・ラーマン/ザジー・ビーツ/マシ・オカ/福原かれん●日本公開:2022/09●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:TOHOシネマズ日比谷(22-09-26)(評価:★★★☆)

TOHOシネマズ日比谷.jpgTOHOシネマズ日比谷(2018年オープン)
スクリーン 座席数(車椅子用) スクリーンサイズ デジタル音響
SCREEN 1 456+(3) 19.8×8.3m TCX® カスタムオーダーメイドスピーカー
SCREEN 2 98+(2) 8.2×3.4m デジタル5.1ch
SCREEN 3 98+(2) 8.1×3.4m デジタル5.1ch
SCREEN 4 339+(2) IMAX®レーザー イマーシブ・サウンド
SCREEN 5 395+(2) 16.5×6.9m TCX® DOLBY ATMOS(対応作品のみ) VIVEオーディオ
SCREEN 6 98+(2) 6.3×2.6m スカルプトサウンド
TOHOシネマズ日比谷2.jpgSCREEN 7 151+(2) 11.8×4.9m VIVEオーディオ
SCREEN 8 120+(2) 8.8×3.7m VIVEオーディオ
SCREEN 9 257+(2) 12.9×5.4m スカルプトサウンド
SCREEN 10 98+(2) 8.5×3.6m デジタル5.1ch
SCREEN 11 98+(2) 9.1×3.8m デジタル5.1ch
SCREEN 12 489+(2) 15.0×6.2m VIVEオーディオ
SCREEN 13 106+(2) 7.1×4.1m デジタル5.1ch
13スクリーン 2,803+(27)

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47年ぶりの劇場公開。ベルモンドが野心溢れるスタビスキーを熱演。

「薔薇のスタビスキー」00.jpg
薔薇のスタビスキー HDマスターDVD」ジャン=ポール・ベルモンド/アニー・デュプレー

「薔薇のスタビスキー」1974.jpg「薔薇のスタビスキー」01.jpg 1930年のはじめの、アレクサンドル・スタビスキー(ジャン=ポール・ベルモンド)は、クラリッジ・ホテルの一室で、友人であり共同の事業経営者であるラオール男爵(シャルル・ボワイエ)、弁護士のボレリ(フランソワ・ペリエ)と共にお茶を飲んでいた。実は彼は生まれながらの野心家で、詐欺のような行為で大金を稼いでいたのだ。彼は政財界の大物と仲良くなり、妻アルレッテ(アニー・デュプレー)と優雅な生活「薔薇のスタビスキー」02.jpgを送っていた。その彼女に献身的な愛を捧げる男がいた。スペイン人のモンタルボ(ロベルト・ビサッコ)だ。モンタルボはフランコ側につく地主の息子で、人民戦線を叩きつぶす目的でムッソリーニから武器を買いつけるためにマルセーユに来ていた。その頃、スタビスキーの身辺が騒がしくなる。彼の前歴を怪しんだボニー(クロード・リッシュ)という検察官の調べで、スタビスキーが偽公債を発行していたことがばれてしまい、スタビスキーはスイスの山荘へ逃亡することになる―。
  
「薔薇のスタビスキー」vhs.jpg アラン・レネ監督の1974年5月公開作で(日本公開は1975年5月)、ジャン=ポール・ベルモンドを主演に迎え、1930年代にフランス政財界を揺るがした「スタビスキー事件」を映画化した実録サスペンス。シャルル・ボワイエがラオール男爵を演じ、1974年・第27回「カンヌ国際映画祭」で特別表彰を受けたほか、「ニューヨーク映画批評家協会賞」の最優秀助演俳優賞を受賞しています(若き日のジェラール・ドパルデューが少しだけ出ている)。今月['22年9月]、ベルモンド主演作をリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」(東京・新宿武蔵野館ほか)で47年ぶりに劇場公開されました。
  
「相続人」1973.jpg「相続人」1.jpg 本作の前年のフィリップ・ラブロ監督「相続人」('73年/仏・伊)で、ベルモンドは、ダンディな三つ揃いをりゅうと着こなすコンツェルンのサラブレッドにして、全ヨーロッパの資産家20位に入るセレブの後継者を演じています。ベルモンドの半分つぶれたような鼻が、どういうわけかハーバード大卒という、主人公のインテリジェンスに相応しく見えるのが不思議。ただし、「相続人」は、後にベルモンド主演で「危険を買う男」('76年/仏)を撮るフィリップ・ラブロ監督なのにアクションが無くてイマイチでした。ベルモンドに美女を絡ませれば何とかなる―みたいな感じ。フィリップ・ド・ブロカ 監督、ジュール・ヴェルヌ原作の 「カトマンズの男」('65年/伊・仏)などもそのきらいはありましたが、まだあっちは派手なアクションがあった...。

 一方、この「薔薇のスタビスキー」は、あの難解な作品で知られるアラン・レネ監督の「去年マリエンバードで」('61年/仏・伊)などに比べればまだ解りやすいです(笑)。当「傑作選」プロデューサーの江戸木純氏がトークショーで「『怪盗二十面相』と『薔薇のスタビスキー』はベルモンドが全編嘘をつきまくる嘘とホラ吹きのスペクタクル」と言っていましたが確かに。

「「薔薇のスタビスキー」5.jpg ただし、主人公のスタビスキーは次第に追い詰められていき、実際には一文無し同然であるのに、それでもスイスの銀行口座があると言って当面を凌ぎ、政界の汚職スキャンダルにも巻き込まれていきます。従って、実際のスタビスキーも、パリを脱出後、警察による捜索の結果、スイス国境のシャモニーにある別荘にて、頭に銃弾を受けて倒れているのを発見され、病院に搬送されたが2時間後に死亡したそうで、警察当局は「警官隊に包囲され逃げられないと悟ったスタビスキーが、自ら命を絶った」と発表したそうですが、射殺説もあるようです(映画もどちらともとれる終わり方になっていた)。

「薔薇のスタビスキー」ボ.jpg ベルモンドは野心溢れるスタビスキーの栄枯盛衰を熱演(自分がやりたかった役のようだ)していたように思います。また彼に騙され財産を失う男爵役のシャルル・ボワイエがハマリ役で、人生の深みを感じさせる演技をしていました。さらには、美術は豪勢で、最近の映画には「「薔薇のスタビスキー」1.jpg無い"本物感"がありました。ただ難点を言えば、アラン・レネ監督の他の作品に比べればわかり易いですが、それでも展開が複雑で(疑獄事件を扱った作品にありがち。この間観たダニエル・シュミット 監督の「ベレジーナ」('99年/スイス・独・墺)もそうだった)、カットバックで時空が飛ぶのでなおさら分かりづらくなったように思います。

「ベルモンド特集3」.jpg[薔薇のスタビスキ.jpg「薔薇のスタビスキー」●原題:STAVISKY●制作年:1974年●制作国:フランス●監督:アラン・レネ●製作:ジャン=ポール・ベルモンド●脚本:ホルヘ・センプラン●撮影:サ「「薔薇のスタビスキー」アニー・デュプレー.jpgッシャ・ヴィエルニー●音楽:ステファン・ソンダイム●時間:118分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/シャルル・ボワイエ/フランソワ・ペリエ/アニー・デュプレー/クロード・リッシュ/ジジ・バーリスタ/ジェラール・ドパルデュー●日本公開:1975/05●配給:エデン●最初に観た場所:新宿武蔵野館(22-09-14)(評価:★★★☆)

ジャン=リュック・ゴダール監督「彼女について私が知っている二、三の事柄」('66年/仏・伊)マリナ・ヴラディ/アニー・デュプレー
TOP 彼女について私が知っている二、三の事柄5.jpg

「相続人」2.jpg「相続人」d.jpg「相続人」●原題:L'HÉRITIER●制作年:1973年●制作国:フランス・イタリア●監督:フィリップ・ラブロ●製作:ジャック=エリック・ストラウス●脚本:フィリップ・ラブロ/ジャック・ランツマン●撮影:ジャン・パンゼ●音楽:ミシェル・コロンビエ●●時間:112分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/モーリーン・カーウィン/カルラ・グラヴィーナ/ジャン・ロシュフォール/シャルル・デネ●日本公開:1973/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿武蔵野館(21-05-25)(評価:★★☆)
相続人 DVD

ジョゼ・ジョヴァンニ監督「ブーメランのように」('76年/仏)/アンリ・ヴェルヌイユ監督「恐怖に襲われた街」('75年/伊・仏)
ブーメランのように 40.jpg恐怖に襲われた街 aibo.jpg

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ポール・ニューマンがインディアンに育てられた寡黙な白人青年を演じた異色西部劇。

太陽の中の対決 p.jpg太陽の中の対決 dvd.jpg太陽の中の対決0 - 3.jpg 太陽の中の対決1 - 2.jpg 

太陽の中の対決 [DVD]」ポール・ニューマン/ダイアン・シレント
「太陽の中の対決」2g.jpg 1880年代の東部アリゾナ。ここは元アパッチの地だったが、白人に奪われてから、彼らは保護地に移り住んだ。その中のひとりジョン・ラッセル(ポール・ニューマン)はアパッチに育てられた白人だ。彼は養父からの遺産の下宿屋を売り払い、コンテンションという地で馬を買う計画を立てていて、数日後、南へ行く小型馬車をやっとのことで見つけることができた。というのは、この地方にも鉄道が敷かれ、駅馬車が影を潜める時代が来たのだ。南へ行く馬車の同乗者は、ジョンのほかに、下宿屋のマネージャーだったジェシー(ダイアン・シレント)、ビリー・リー(ピーター・ラザー)とドリス(マギー・ブライ)の新婚夫婦、そして60がらみのフェーバー(フレドリック・マーチ)と若い妻オードラ(バーバラ・ラッシュ)たちだった。馬「太陽の中の対決」5.jpg車が出る間際にグライムス(リチャード・ブーン)と名のる男が強引に乗り込んだ。馬車がけわしい山を越えると、突如行手に3人のガンマンが現れた。ひとりはジョンの下宿屋にいたブレイトンという元保安官。この3人に、一人のメキシコ人が加わりさらにグライムスが合流して、その頭に。5人のガンマンの目的はフェーバーだった。彼はインディアン用の食肉を横流しして儲けていた極悪人。5人はフェーバーの金を奪い若妻オードラを人質にして逃げる。後を追ったジョンは2人を射殺し、金だけは無事に取り戻す。その金を、フェーバーは持ち逃げしようとしたが、逆にジョンに身ひとつで追放された。生き残ったグライムスは、オードラと金を交換しようと言ってきたがジョンは拒絶。するとグライムスは、オードラを強い太陽の下で縛りつける。このままでは、渇きと日射病で死んでしまう。この頃、追放されたフェーバーも戻ってきていたが、なすすべもない。結局はジョンが"(夫フェーバーが)インディアンにひもじい思いをさせた報いだ"と呟きながらも助ける。しかし、金と交換せずにオードラを助けたジョンは、グライムスとメキシコ人の2人を射殺したが、5人のガンマンの最後の一人に倒されてしまう。復讐はビリー・リーがした。そしてジョンの遺体は、かつて彼の下宿屋で働いていたジェシーが町へ持って行き弔うという―。

「太陽の中の対決」原作.jpg村上春樹 09.jpg 1967年公開のマーティン・リット監督、ポール・ニューマン主演の異色西部劇で、両コンビの「ハッド」('63年)、「暴行」('64年)に続く3部作の第3作。原作はエルモア・レナード(1915-2013/87歳没)による1961年の小説「オンブレ」です(村上春樹訳で新潮文庫『オンブレ』に収められている)。エルモア・レナードって西部劇小説がデビュー作だったのだなあ。

オンブレ (新潮文庫)
「太陽の中の対決」pm.jpg.png.jpg ポール・ニューマンがインディアンに育てられた白人青年を演じていて、公金を横領した悪玉と同じ馬車に乗り合わせたために強盗に襲われるという、しかも、インディアンに対して加害者であった白人たちを救い、その一方で、自分は悪者に撃たれて死んでしまうという、なんだかすごくやるせない話でした。

「太陽の中の対決」09.jpg「太陽の中の対決」15.jpg 駅馬車にいろいろな人物が乗り合わせ、それが外部から敵に襲われる(リチャード・ブーン演じる悪党面の男グライムスが敵の側だったのはやっぱりという感じだった)というのは、ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演の「駅馬車」('39年/米)を想起させます。ただ、その流れでいくと最後強いヒーローが敵を倒して自らは生き延びるわけですが、そうはならないところがミソです。

「太陽の中の対決」3.jpg ポール・ニューマンが演じる主人公のジョンが寡黙で(これも珍しいのでは)、最初は駅馬車の客たちにも不愛想。でも、馬車が外敵に襲われると、その冷静な行動から、自然と皆のリーダーになっていきます。それでも、ずっと不愛想なのは、彼は別にバーバラ・ラッシュ .jpg駅馬車の客たちに義理があるわけでもなく、むしろ白人に迫害された側にあるからでしょう。敵方によって強い太陽の下で縛りつけられた美しい人妻オードラ(バーバラ・ラッシュ)がどんなに泣き叫んでも助けにに行かない。正義感に溢れる勇敢な女性ジェシー(ダイアン・シレント)にそのことを非難されてもなお動かない。それが最後の最後に―(やはりジェシーに心動かされたか)。

荒野のストレンジャー.jpg すぐに動かなかったのは、白人たちに反省させるためだったのかな。今までさんざん差別しておいて、今は縛られた女性の夫ですら何も出来ずにいるところ、皆が彼に頼り切っているという状態になっているわけですから、皮肉と言えば皮肉なことです(クリント・イーストウッド監督・主演の「荒野のストレンジャー」('73年/米)で、人々を無法者から守るはずの主人公が、無法者が攻めてきても最初は相手のやり放題にさせていたのを思い出した。実はこの主人公は、かつて無法者にリンチされながら住民の誰からも助けがなく亡くなった保安官の生まれ変わり?だったので、住民に少しは反省してもらうためにそうしたのではないか)。

「太陽の中の対決」pn1967.jpg しかし、ポール・ニューマン演じるこの寡黙な主人公の"勇敢さ"は、これではいくら命があっても足りないというもので、ほとんど白人たちのために命を投げ出したに近く、原作がエルモア・レナードだから、陳腐なカタルシス効果を排してリアルな心理劇になっているのはある程度頷けますが、結果としてジョンは"神"のような存在になっていたように思います。

 ポール・ニューマンがインディアンに育てられた寡黙な男を演じているのも異色であるし、一般的なハリウッド型ヒーローとはやや趣の異なる、こうした完全に自己犠牲的な役を、大仰ではなくさらりと演じているのも珍しいように思いました。

「シャラコ」.jpg「太陽の中の対決」6.jpg.png「太陽の中の対決」pg.jpg 主人公の心に大きな影響を与える役どころで要所で物語を転がすヒロイン・ジェシーを演じたのは当時ショーン・コネリーの妻だったダイアン・シレント(「太陽の中の対決」と同年公開の「007は二度死ぬ」('67年/英)の撮影時、海女の役なのに海に潜れないことが判明した浜美枝の代わりに、たまたま夫に同伴していた彼女が急遽スタントとして潜った。彼女は子供の頃から泳ぎが得意で潜水も長時間できた)。ショーン・コネリーがこの「太陽の中の対決」が大のお気に入りで、翌年、本作とそっくりな設定の西部劇「シャラコ」('68年)に主演しています(気丈な女性の役どころはブリジット・バルドー)。

「太陽の中の対決」●原題:HOMBRE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・リット●製作:マーティン・リット/アーヴィング・ラヴェッチ●脚本:アーヴィング・ラヴェッチ/ハリエット・フランク・Jr●撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ●音楽:デヴィッド・ローズ●原作:エ「太陽の中の対決」4.jpg.png.jpgルモア・レナード●時間:111分●出演:ポール・ニューマン/フレデリック・マーチ/リチャード・ブーン/ダイアン・シレント/キャメロン・ミッチェル/バーバラ・ラッシュ/ピーター・ラザー/マギー・ブライ/マーティン・バルサム/スキップ・ウォード/フランク・シルヴェラ●日本公開:1967/10●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)
リチャード・ブーン

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復活したショーン・コネリーほか俳優陣だけ見ていてもまずます愉しめる。レトロ感も。

ネバーセイ・ネバーアゲイン.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン b1.jpg メフィスト vhs.jpg ナインハーフ.jpg
ネバーセイ・ネバーアゲイン [DVD]」(バーニー・ケイシー/ショーン・コネリー/キム・ベイシンガー)/「メフィスト」VHS(クラウス・マリア・ブランダウアー)/「ナインハーフ [DVD]」(ミッキー・ローク/キム・ベイシンガー)
ネバーセイ・ネバーアゲイン  c.jpg 時は冷戦最中、元英国秘密情報部MI6の諜報員ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)は、スパイ活動を一時引退していが、新たな上司のM(エドワード・フォックス)から新たに命令を受ける。国際的犯罪組織"スペクター"のNo.1メンバー、マキシミリアン・ラルゴ(クラウス・マリア・ブランダウアー)が、2つの核弾頭を強奪したのだ。これは、スペクターの首領で、No.2のブロフェルド(マックス・フォン・シドー)の新ネバーセイ・ネバーアゲイン  12c.jpgたな作戦「アラーの涙」の一環だった。核弾頭を取り戻す命令を受けたボンドは、ラルゴを追ってバハマへ向かうことに。バハマに到着したボンドは、ラルゴの部下で殺し屋ファティマ(バーバラ・カレラ)に殺されそうになる。しかし、2度の暗殺の危機を切り抜けて、なんとか生き残る。さらに、ニースのカジノでドミノ(キム・ベイシンガー)という女性に出会ったボンドは、ドミノの兄ジャック(ギャヴァン・オハーリー)が、核弾頭を手に入れるためにラルゴに殺されたことを明かす。その後、ミサイルの一つがワシントンの大統領のもとにあると知ったボンドは本部に通報、引き続きもう一つのミサイルの行方を追うが―。

ネバーセイ・ネバーアゲイン b0.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン b3.png 1983年公開のアーヴィン・カーシュナー監督作で、ジェームズ・ボンドの映画の制作会社イーオン・プロダクションズとは別の会社の制作であるため。007シリーズとしては番外編になります。初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリー(1930 - 2020/90歳没)が「007 ダイヤモンドは永遠に」('71年/英・米)から12年ぶりの復活、7回目にして最後のボンド役を演じました(原題の意味は「ボンド、やめるなんて言わないで」ということらしい)。内容は1965年に公開された4作目「007 サンダーボール作戦」のリメイクですが、使用権の問題のためか、いつものシリーズとオープニングが違ったり(ガンバレル(銃口)のシークエンスが無い)、音楽がミシェル・ルグラン(1932 - 2019/86歳没)だったりして、少しだけ雰囲気が違います。でも、53歳のショーン・コネリーがアクションも含め頑張っていて(後ろから見ると髪が薄いのが分かるが)悪くなかったと思います。階段を軽快に上り下りするところがややわざとらしかったが(笑)、上半身裸になって落ちない肉体美を見せたりしています。

ネバーセイ・ネバーアゲイン f1.jpgクラウス・マリア・ブランダウアー2.jpg 敵のラルゴ役のクラウス・マリア・ブランダウアは、主演作であるイシュトバーン・サボー監督の「メフィスト」('81年/西独・ハンガリー)を新宿のシネマスクウェア東急で'82年に観ました。ナチス政権下で権力に翻弄される実在した「ファウスト」の名優グリュントゲンスをモデルにしたクラウスクラウス・マリア・ブランダウアー メフィスト.jpg・マンの小説の映画化作品(第34回カンヌ国際映画祭「脚本賞」受賞作)でしたが、そうした芸術色の強い映画(個人的評価は★★★☆)に出ていた俳優が、まさかその後すぐジェームズ・ボンド映画に出るとは思ってもみませんでした(言語も違ったし)。ただし、この作品では、彼、クラウス・マリア・ブランダウアーとショーン・コネリーとの心理戦的演技が、当時の典型的なボンド映画よりも感情に訴えかけるものがあると評価されて好評を博し、映画の商業的な成功にも繋がっています。クラウス・マリア・ブランダウアーはその後も活躍を続け、シドニー・ポラック監督の「愛と哀しみの果て」('85年/米)で双子の役を1人で演じてゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞するなど、ハリウッドで成功を収めた数少ないオーストリア人俳優とされています。

ネバーセイ・ネバーアゲイン sd.jpgマックス・フォン・シドー 2.jpg スペクターの首領ブロフェルドにマックス・フォン・シドー(1929 - 2020/90歳没)で、ドナルド・プレザンス(「007は二度死ぬ」('67年))、テリー・007ブロフェルド.jpgサバラス(「女王陛下の007」)('69年))、チャールズ・グレイ(「ダイヤモンドは永遠に」('71年))に続いての配役。マックス・フォンシドーも「第七の封印」('57年)などイングマール・ベルイマン監督の映画で常連だった名優ですが、この頃は既に「フラッシュ・ゴードン」('80年/米)の「悪の帝王」ミン皇帝を演じていたりしました。以降もハリウッド映画でのこの手の役が多くなり、ジョン・ミリアス監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「コナン・ザ・グレート」('82年/米)では邪フォンシドー.jpg教の王と対峙する善の王オズリック王の役でしたが、スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」('02年/米)では、主人公の上司にあたる犯罪予防局の局長でありながら、実は陰謀の"黒幕"だったという役でした。ショーン・コネリーが亡くなったのが昨年['20年]10月にでしたが、マックス・フォンシドーも昨年3月に、ショーン・コネリーと同じく90歳で亡くなっています。

ネバーセイ・ネバーアゲイン  かれら.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン c1.jpg ボンドガールの一人は、スペクターの女殺し屋(スペクターNo.12)ファティマを演じたバーバラ・カレラ(1951年生まれ)。ファティマは最後までボンドを追い回して危機に落とし入れるネバーセイ・ネバーアゲイン c2.jpgも、Q(アレック・マッコーエン)が開発した万年筆型ロケットで爆殺されます。ボンドを追いつめた際に、自分が最高の女だったとボンドに書き付けを要求すエンブリヨ.jpgドクター・モローの島7.jpgるシーンが見せ場でしたが、結局それが仇となった(笑)。バーバラ・カレラはこの「ネバーセイ・ネバーアゲイン」の出演が一番のキャリアとされていますが、「エンブリヨ」('76年)、「ドクター・モローの島」('77年)といった作品の彼女に思い入れがある人もいるかと思います。
エンブリヨ [DVD]」('76年)、「ドクター・モローの島」('77年)

ネバーセイ・ネバーアゲイン k1.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン k22.jpg もう一人は、ラルゴの愛人でどうやらラルゴに殺害されたジャックの妹ドミノを演じたキム・ベイシンガ(1953年生まれ)で、こちらは敵側からボンド側に寝返る(これはシリーズのいつものお約束通り)言わlaコンフィデンシャル.jpgばヒロイン役です。当時はバーバラ・カレラに比べれば小娘みたいな感じですが、その後、「ナインハーフ」('85年)で大胆な演技が話題を呼んでスターの仲間入りを果たし、「バットマン」('89年)でヒロイン役に抜擢され、「L.A.コンフィデンシャル」('97年)で往年の女優ヴェロニカ・レイクを彷彿とさせる役柄でアカデミー助演女優賞受賞と著しい活躍ぶりを見せました。
L.A.コンフィデンシャル [AmazonDVDコレクション]」('97年)

「ナインハーフ.jpgナインハーフes.jpg 個人的には「ナインハーフ」はイマイチだったかも。原題は「9週間半」。監督は「フラッシュダンス」('83年)のエイドリアン・ラインで、相変わらず映像には凝っていて、哲学的な語り口を装っていますが、本質はエンターテイメントではなかったかなあ(キム・ベイシンガーのボディにばかり目が行く。この頃のミッキー・ロークってなぜか好きになれない)。

あの日、欲望の大地で dvd.jpgあの日、欲望の大地で 574_01.jpg キム・ベイシンガーはその25年後、ギジェルモ・アリアガ監督の「あの日、欲望の大地で」('08年/米)でも、ジェニファー・ローレンス演じるマリアーナの母親役で、隣町に住むメキシコ人との不倫に溺れる女性を演じてスレンダーな背中&お尻を見せていますが、当時55歳でスクリーンでヌードを見せることができたというのはたいしたものかも。

アカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg そう言えばキム・ベイシンガーは、アカデミー賞の授賞式でのプレゼンターとして舞台に立った際に(その年の作品賞は「ドライビング・ミス・デイジー」('89年)だった)、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年)を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング・ミス・デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

ネバーせい え」.jpgジャッカルの日 73米.jpg この「ネバーセイ・ネバーアゲイン」では、これら準主役級のほかに、Mの役が「ジャッカルの日」('73年)の"ジャッカル"ことエドワード・フォックスであったり、ボンドの同僚スパイ(と言っても事務方か)のナイジェル・スモール=フォーセット役で"ミスタービーン"ことローワン・アトキンソン2012年ロンドン・オリンピック開会式の「炎のランナー」のパロディは最高だった)が登場していたりと(アトキンソンはこの時が映画初出演、ラストでボンドにプールに投げ込まれるというオチがある)、俳優陣だけ見ていてもまずます愉しめる作品でした(評価★★★★は、レトロ感も含めて星半分おまけしての評価)。
ネバーセイ・ネバーアゲイン la1.jpg ネバーセイ・ネバーアゲイン la2.jpg

「ネバーセイ・ネバーアゲイン」 g.jpgネバーセイ・ネバーアゲイン  tj.jpg「ネバーセイ・ネバーアゲイン」●原題:NEVER SAY NEVER AGAIN●制作年:1983年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:アーヴィン・カーシュナー●製作:ジャック・シュワルツマン●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ミシェル・ルグラン●原作:イアン・フレミング●時間:134分●出演:ショーン・コネリー/クラウス・マリア・ブランダウアー/マックス・フォン・シドー/バーバラ・カレラ/キム・ベイシンガー/バーニー・ケイシー/アレック・マッコーエン/エドワード・フォックス/ギャヴァン・オハーリー/ローワン・アトキンソン/ロナルド・ピックアップ/ヴァレリー・レオン/ミロス・キレク/パット・ローチ/アンソニー・シャープ/プルネラ・ジー●日本公開:1983/12●配給:松竹富士=ヘラルド●最初に観た場新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg所:新宿ローヤル(84-09-04)(評価:★★★★)
新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)/カラー写真:「フォト蔵」より]

メフィスト 2.jpgメフィスト3.jpg「メフィスト」●原題:MEPHISTO●制作年:1981年●制作国:西独・ハンガリー●監督:イシュトバン・サボー●脚本:イシュトバン・サボー/ペーテル・ドバイ●撮影:ラホス・コルタイ●音楽:ゼンコ・タルナシ●原作:クラウス・マン●「メフィスト」09.jpg時間:145 分●出演:クラウス・マリア・ブランダウアー/クリスティナ・ヤンダ/イルディコ・バンシャーギィ/カーリン・ボイド/ロルフ・ホッペ/ペーター・アンドライ/クリスティーネ・ハルボルト●日本公開:1982/04●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:新宿・シネマスクウェア東急(82-05-01)(評価:★★★☆)
シネマスクエアとうきゅうMILANO2L.jpgシネマスクエアとうきゆう.jpgシネマスクウエアとうきゅう 内部.jpgシネマスクエアとうきゅう 1981年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン。2014年12月31日閉館。
 
ナインハーフ 3.jpgナインハーフ2.jpg「ナインハーフ」●原題:NINE 1/2 WEEKS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:アンソニー・ルーファス・アイザック/キース・バリッシュ●脚本:パトリシア・ノップ/ザルマン・キング●撮影:ピーター・ビジウ●音楽:ジャック・ニッチェ●原作:エリザベス・マクニール●時間:117分●出演:ミッキー・ロー/キム・ベイシンガー/マーガレット・ホイットンン/ドワイト・ワイスト/クリスティーン・バランスキー/カレン・ヤング/ロン・ウッド●日本公開:1986/04●配給:日本ヘラルド(評価:★★★)

Charlize Theron/Kim Basinger/Jennifer Lawrence
あの日、欲望の大地で 8.jpgキム・ベイシンガー欲望の大地.jpg「あの日、欲望の大地で」●原題:THE BURNING PLAIN●制作年:2008年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ●製作:ウォルター・パークス/ローリー・マクドナルド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:ハンス・ジマー/オマール・ロドリゲス=ロペス●時間:106分●出演:シャーリーズ・セロン/キム・ベイシンガー/ジェニファー・ローレンス/ホセ・マリア・ヤスピク/ジョン・コーベット/ダニー・ピノ/テッサ・イア/ジョアキム・デ・アルメイダ/J・D・パルド/ブレット・カレン●日本公開:2009/09●配給:東北新社●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-09-07)(評価:★★★★)
 

「●こ 小林 信彦」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【579】 小林 信彦 『人生は五十一から
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読みやすいし、楽しく読めるコラム集。甦る70年代後半の洋画全盛期の息吹。

地獄の観光船 (1981年).jpg地獄の観光船 (集英社文庫).jpg1『地獄の観光船』.jpg コラムは踊る―エンタテインメント評判記.jpg
地獄の観光船―コラム101 (集英社文庫)』['84年](装丁:平野甲賀+小島武)/『コラムは踊る―エンタテインメント評判記 1977~81 (ちくま文庫)』['89年](カバーイラスト:和田誠)
地獄の観光船―コラム101 (1981年)』['81年](装丁:平野甲賀(1938-2021.03)+小林泰彦)

 本書は、著者が1977年から1981年春まで「キネマ旬報」に連載した「小林信彦のコラム」をまとめたもので、単行本にする際に70年代後半のクロニクル的側面を打ち出すため、相倉久人氏の「大洪水のあとの70年代はビートルズの解散に始まり、地獄の観光船となって80年代に向かう」というエッセイのタイトルから引いて、このタイトルに改めたとのこと。1984年に集英社文庫で文庫化された後、1989年にちくま文庫で『コラムは踊る―エンタテインメント評判記 1977~81』と改題されて再文庫化されました。

 夥しい数の洋画と邦画(巻末に題名索引が付されている)を紹介し、日活アクション、ヒチコック、マルクス兄弟(単行本表紙)、B級映画などを論じるとともに、漫才ブームやタモリといったタレントにも言及していて、娯楽メディア全般を対象としているので、改題後のサブタイトルがむしろ内容紹介的には分かりやすいかもしれません(ただ、インパクトは「地獄の観光船」の方がある)。年代別に印象に残ったところを一部拾っていくと―(以下、#はコラムの通し番号。ページ数は集英社文庫)。

1977年
タクシードライバー パンフレット.jpgタクシードライバー 映画館.jpg#2.タクシードライバーで、主人公のトラヴィスが初デートでポルノ映画を観に行く件りがあり、あれは日本ではトラヴィスが非常識だということで片付けられるが、映画に出てくるポルノ映画ををやっていた小屋は、高級な映画館なのだそうです(17p)。トラヴィスなりに奮発したということか。そんなの、予備知識なしにフツーに観ている分には分からなかったなあ。単にこの男"狂っている"と思ってしまう。

ネットワーク 1976 ちらし.jpgネットワーク ロバート・デュヴァル.jpg#9.ネットワークを、わくわくするほど面白い設定なのに、ラストの一発で、すべてが嘘くさくなったケースであり「惜しい」としています(35p)。フェイ・ダナウェイが、テレビ番組の視聴率アップのためにテロリストを利用したことを指しているのでしょう。確かにあのラストでリアリティが無くなったようにも思えますが、個人的には、ある種の"寓話"として敢えてリアリティを度外視して、ああいう風なラストにしたのではないかと思います。

ROLLERCOASTER 1977.jpgROLLERCOASTER 19772.jpg#16.「ジェット・ローラー・コースター」は集団捜査劇めかしているが、保安基準局役人のジョージ・シーガルと爆発狂のティモシイ・ボトムズの対決であるとしています(53p)。この点においては「真昼の決闘」や「ジャッカルの日」などと同系譜で、特徴的なのは、敵味方がモノマニアックである点だと。なるほど。アメリカ人は大体「個対組織」より「個対個」の対決が好きなのかも。著者はこの映画のジョージ・シーガルの演技を絶賛しています。個人的には、パニック映画としては懐かしい作品ですが、「ポセイドンアドベンチャー」のような先行する巨大スケールのパニック映画があるので、スケール面でどうしても弱いかなあというのはありました。因みに、この映画の脚本は、「刑事コロンボ」でお馴染みのリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクでした。リチャード・ウィドマーク、ハリー・ガーディノ、スーザン・ストラスバーグなども出ていて、(観た当時の評価は★★★だが)これをB級パニック映画なんて言うと失礼にあたる?

アニー・ホール poster.jpgANNIE HALL.jpg#24.アニー・ホールは、ウディ・アレンとダイアン・キートンの実生活がベースになっているらしいとし(アニー・ホールがダイアン・キートンの本名であることには触れていない)、ウディ・アレンの映画を観ることは、「日本語のよく気きとれない外人さんが寅さん映画を観るようなもの」だとしています(72p)。個人的には、有楽町の「ニュー東宝シネマ2」というマイナーなロードショー館に観に行った際に、外国人の観客が結構多く来ていて、笑いの起こるタイミングが字幕を読んでいる日本人はやや遅れがちで、しまいには外国人しか笑わないところもあったりした記憶があります。また、会話が早すぎて、訳を端折っている感じもしました。当時は"入れ替え制"というものが無かったので、同じ劇場で2度観ました(個人的には当時、英会話学校に通っていた)。
          
1978年
ミスター・グッドバーを探して1.jpg#32.ミスター・グッドバーを探して(これもダイアン・キートンだが)を著者は大力作であると絶賛し、ショックで体調がおかしくなったくらいだとしています(93p)。当時の日本人の批評は、男が描けていないとかボロクソだったようで、著者は作品の魂が分かっていないと憤慨し、「リチャード・ブルックス老にこれほどの現代性とスタミナがあるとは、思ってもみなかった」とまで述べていますが、自分の評価も実はそう高くはなかったです(作品の魂が分からなかった?)。 そう言えば、同じ英会話学校に通っていたアメリカ帰りの友人が、この「ミスター・グッドバーを探して」を、「アニー・ホール」と共に絶賛し、ペーパーバックを読んでいました(自分も買ったと思うが、読み終えた記憶はない)。

スター・ウォーズ エピソード4.jpgスター・ウォーズ 1977 sabaku.jpg#32.「スター・ウォーズ」で、「二つのロボットが砂漠をとぼとぼ行く場面で、こんなシーンを観たことがあったな、と思った。黒澤明の「隠し砦の三悪人」のオープニング―千秋実と藤原釜足が腹をへらして歩いているシーンと同じ撮り方だ、とすぐに気づいた」とのこと(94p)。後にジョージ・ルーカス自身が黒澤明からの"頂き"だと白状しており、著者は1998年のエッセイ(『人生は五十一から』)でも「ぼくが見つけた」と書いています(自慢?)。個人的にはこの映画、周りが大騒ぎした分あまり乗り切れず、だいぶ遅れて'82年に飯田橋の佳作座で「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」との併映で、日本語吹き替え版を観ました(ハン・ソロ役の森本レオは雰スター・ウォーズ 1977 ハンソロ2.jpg囲気出ていた。ルーク役は奥田瑛二!)。悪くはないけれど、十分満足したかと言うとイマイチだったというのが当時の印象で(評価★★★☆)、前年公開の「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」とどっこいどっこいか、やや「レーダース」の方が面白かったくらいでしょうか。やっぱりこういうのは中身云々もさることながら、"旬"の内に観ないと気分的に"乗れない"のかもしれません。そう言えば、ハリソン・フォード来日の際の記者会見で、質疑応答の際に「インディー・ショーンズ」のことは訊いてもいいけれど、「スター・ウォーズ」のことに触れるのはご法度であったとか。ハリソン・フォードの中では、ジョーンズ博士はインテリで、ハン・ソロはお馬鹿キャラとの意識があるようです。

1979年「二人でヒッチコック映画の魅力を語ろう」―和田誠氏との対談
引き裂かれたカーテン1.jpg引き裂かれたカーテン2.jpg 「引き裂かれたカーテン」('66年)を、著者は、作品は失敗だったけれど、ヒッチコック好みの俳優を使ったという意味では、この作品のポール・ニューマンがそうだとしているのに対し、和田誠は、この作品を好きだとし、ポール・ニューマンには「逆転」('63年)などのようにスリラーが似合うと言っています(143p)(「動く標的」('66年)などもそうかも。2011年にやっとDVD化された作品だが)。「引き裂かれたカーテン」の日本での低評価は、ポール・ニューマンに理論物理学者の役は似合わないという先入観によるところが大きいのではないかと思われます(東側の物理学者の前で黒板に物理方程式を書いてみせる場面がある)。また、和田誠が、ヒッチコック映画のヒロインでは「北北西に進路を取れ」('59年)のエヴァ・マリー・セイントが印象的だったと言うと、著者も、「あれは最高です」と。著者が、「引き裂かれたカーテン」のジュリー・アンドリュースを指し、色っぽくない女優を色っぽく見せることにおいてヒッチコックの独壇場だと(笑)。一方で、ファッションモデルみたいな美人も好んで使うと言っているのは確かに。その代表格が「裏窓」('54年)のグレース・ケリーということになるのでしょう(144p)。
      
1979年
ナイル殺人事件 DVD.jpgナイル殺人事件 スチール.jpg#49.ナイル殺人事件」のピーター・ユスチノフのポワロは良かったと。身体がでか過ぎるのが次第に気にならなくなったのは、彼の演技力の賜物だとしています(ピーター・ユスティノフ はその後「地中海殺人事件」('82年)、「死海殺人事件」 ('88年)でもポアロを演じることになる)。クリスティが自作「カーテン」でポワロを殺してしまったのは、こうすれば誰かが著作権者に金を払ってポワロ物の続きを書くといったことが出来ないからだということで、なるほどなあ。007が登場する小説を書こうと思ったら著作権者に金を払わなければならないわけだ(164p)。これがジェフリー・ディーバーやアンソニー・ホロヴィッツぐらいになるとと、逆にイアン・フレミング・エステートからのオファーを受けて書くことになるわけか。

麦秋 dvd V.jpg麦秋 sugimura.jpg#52.麦秋('51年、小津安二郎監督)を正月にNHKで観て(この辺りからテレビで観たものも入ってくる。今の著者の「週刊文春」の連載のエッセイ「本音を申せば」(旧題は「生は五十一から」)がこのパターンだなあ)、石堂淑朗(1932年生まれ「怪奇大作戦/呪いの壷呪いのツボ」('69年)の脚本)、笠原和夫(1927年生まれ・「仁義なき戦い」('73年)の脚本)など著者の多くの知人がしゅんとしたそうな(173p)。著者自身、「封切当時は、古い映画、死ね、とった気持ちで観ていた」とのことで、それを今観て粛然とした気持ちになるのは、「要するに、ぼくらの世代はトシをとったのだ、ということでしょうがねえ」と。これを書いている時点で著者は45歳くらいのはずですが...。

ビッグ・ウェンズデー dvd.jpgビッグ・ウェンズデー 1.jpg#53.ビッグ・ウェンズデーを、脚本・監督のジョン・ミリアスの、自伝的と言うより、私小説ならぬ私映画の秀作としていて、なるほどね。日本ではサーフィン・ブームが始まったところなので、「若い観客を動員できれば、アタると思うのですが」と(実際、そこそこヒットしたのでは)。「これは、もう、浦山桐郎さんの世界ですね」と言っているのが面白いです(176p)。「アメリカン・グラフィティ」などと同じノスタルジー映画の系譜ということでしょうか。

エノケンの近藤勇2.bmp#55.エノケンの近藤勇 「エノケンの頑張り戦術」などエノケン映画を、久々に上京してきた筒井康隆氏と二日間にわたり4本観たと(179p)(この辺りからエノケンの頑張り戦術 1.jpg日記風の話も多くなり、この様式も「週刊文春」の連載のエッセイ「本音を申せば」に受け継がれている)。二日目から色川武大氏が加わったというからスゴイ面子。それにしても「エノケンの頑張り戦術」を「博覧強記の色川さんが、題名さえも知らなかった」とは意外。そう言う著者も、「頑張り戦術」は知らなかったとのこと。按摩に化けたエノケンが如月寛多を「もみくちゃ」にし、取っ組み合いになるところを、カメラ据えっぱなしのワンショットで撮っているいるところが飛びぬけて面白かったとしていますが、「エノケンの近藤勇」にもそうした撮り方をしている場面があります。

料理長殿、ご用心 p1.jpg料理長シェフ殿、ご用心 02.jpg#58.料理長(シェフ)殿、ご用心を「さいきん、数少ない〈小品佳作〉であった」と。〈小品佳作〉というのは、戦前から戦後にかけてよく使用された言葉で、出演者のランクを認めた上での言葉で、「料理長殿、ご用心」で言えば、ジャクリーン・ビセットが素晴らしく、一人で全編を支えているとしています。そう言えば、和田誠も『お楽しみはこれからだ PART3―映画の名セリフ』('80年)でこの映画を評価していましたが、あれもこのコラムと同時期の「キネマ旬報」の連載コラムでした。

復讐するは我にあり dvd7.jpg復讐するは我にあり  04 .jpg#61.復讐するは我にありを、面白かったとして取り上げています(193p)。「前半の屋外場面は冴えないが、後半、浜松の旅館に移ってから、今村昌平調の屋内ドラマが溌溂とする。緒形拳がシャニムニという力演で、よろしかった」と。但し、「犯罪者の〈内面の追究〉というのは、あまり、意味がないと思う」とも。著者は邦画も数多く観ていますが、かなり厳しめの評価になるのは、常に洋画と比較しているからではないかと思ったりもしました。

エイリアン DVD.jpgエイリアン ジョンハート.jpg#62.エイリアンをFOXで観せてもらった(195p)とのことで、試写会でしょうか。「宇宙船内のわりにリアルな描写」を良いとし、着陸する変な惑星は、1950年代の「禁断の惑星」風であると。そっかあ。この映画を観た時、「禁断の惑星」はまだ観ていなかったので気がつきませんでした。「要するに、これは、SFに形を借りた恐怖映画」なのだと。そう言えば、内田樹氏が『映画の構造分析』(晶文社)の中で、妊娠と出産に対する女性の側の恐怖の暗喩だと言っていたのを思い出しました。

人情紙風船2.jpg人情紙風船 dvd1.jpg #63.人情紙風船('37年・山中貞雄監督)を、機会があって観たとあります(200p)。邦画に厳しいと書きましたが、この映画に関しては「もう、よくって、よくって。だまされたと思って、観てごらんなさい。こんな映画も、めったにないよ」とべた褒めです。でも、実際、いい映画なのです(かなり暗い話だけれど)。

 
 
1980年
二百三高地 dvd.jpg#90.二百三高地を、「もっとも不足しているのは〈ふつうの描写〉である」と(267p)。「人間がメシを食うとか、そういう描写が下手、というより、まるで無い」のがだめで、観客は大戦争とかを常に観たいと思うのではなく、ときどき〈ふつうの描写〉も眺めたいと思うもので、「クレーマー、クレーマー」などは、その欲求にぴしりとはまったからヒットしたのだと。個人的にも、「二百三高地」はいいと思わなかったけれど、それは乃木希典の描き方に不満を感じたりしたからで、一方で、こうした見方もあるのだなあと。著者は、「小津安二郎的なものに、心を惹かれるきょうこのごろで、要するに、トシですわな」とも言ってはいますが。

殺しのドレス.jpgDRESSED TO KILL Angie Dickinson.jpg#95.殺しのドレス(ブライアン・デ・パルマ監督)を絶賛(279p)。「二度見た。あまりに面白かったからだが、とにかく、アタマが白紙の状態だったからこそ、最高に楽しめたのだ」と。こういうのは、「いっさい、何も知らないみなければならない」とし、リポーター(しばしば映画評論家という肩書がつく)が映画の内容をばらしてしまう風潮を痛烈に批判しています。思うに、最近の日本映画などは、もう観る前に大体の内容はわかっていて、若い人などは、描かれ方を確認するような鑑賞スタイルになってきているのではないでしょうか。
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 先にも書いた通り、連載の後の方では、漫才ブームやタレントの話もあって、映画に限っても、話題は、作品観賞から、映画館について、字幕の話など多岐にわたり、80年代に入ってからは、すでに世に出始めたビデオで映画を観るということについても触れています(まだVHSとベータがシェア争いをしていた頃だが)。

 この著者のコラムは、読みやすいし、また楽しく読めますが、著者のあとがきによれば、「キネマ旬報」という映画専門誌に連載しながら(「だからこそ」とも言えるが)、敢えて映画評とはなるべく離れた内容の方がいいと言う編集部の意向に、著者自身も沿ったものだとのこと。個人的は、70年代後半の洋画全盛期の息吹がリアルタイムで甦ってくるようなコラム集であったし、当時の自分の評価の振り返りにもなりました。「ジェット・ローラー・コースター」などは、観た当時は「B級」と思いましたが(これ、著者に言わせれば差別用語になるらしい)、著者が言うところの〈小品佳作〉だったかもしれないと思います。観直していないので評価は★★★のまま修正はしませんでしたが、機会があれば観直してみたいと思います(2017年にHDリマスター版Blu-rayがリリーズされている)。

    
タクシードライバー」01.jpgタクシー・ドライバー チラシ.jpg「タクシードライバー」●原題:TAXI DRIVER●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マイケル・フィリップス/ジュリア・フィリップス●脚本:ポール・シュレイダー●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:バーナード・ハーマン●時間:114分●出演:ロバート・デ・ニーロ/シビル・シェパード/ジョディ・フォスター/ハーヴェイ・カイテル/ピーター・ボイル/アルバート・ブルックス/マーティン・スコセッシ/ジョー・スピネル/ダイアン・アボット/レナード・ハリス/ヴィクター・アルゴ/ガース・エイヴァリー/リチャード・ヒッグス/ロバート・マルコフ、/ハリー・ノーサップ/スティーブン・TAXI DRIVER.PETER BOYLE AND ROBERT DE NIRO.jpgプリンス●日本公開:1976/09●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:早稲田松竹(77-11-05)●2回目:池袋文芸坐(79-02-11)●3回目:三鷹オスカー(81-03-18)●4回目:早稲田松竹(85-03-23)(評価:★★★★★)●併映(1回目):「アメリカングラフィティ」(ジョージ・ルーカス)●併映(2回目):「ローリング・サンダー」(ジョン・フリン)●併映(3回目):「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)/「ミーン・ストリート」(マーティン・スコセッシ)●併映(4回目):「ミッドナイト・エクスプレス」(アラン・パーカー)


ネットワーク 1976 11.jpgネットワーク [DVD].jpg「ネットワーク」●原題:NETWORK●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ハワード・ゴットフリード●脚本:パディ・チャイエフスキー●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:エリオット・ローレンス●時間:121分●出演:フェイ・ダナウェイ/ウィリアム・ホールデン/ピーター・フィンチ/ロバート・デュヴァル/ベアトリス・ストレイト/ウェズリー・アディ/ネッド・ビーティ/ジョーダン・チャーニー/コンチャータ・フェレル/レイン・スミス/マーリーン・ウォーフィールド●日本公開:1977/01●配給:ユナイト映画●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-12-13)(評価:★★★★)●併映:「カプリコン・1」(ピーター・ハイアムズ)
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ジェット・ローラー・コースター -HDリマスター版- [Blu-ray]
ジェット・ローラー・コースター dvd.jpg「ジェット・ローラー・コースター」●原題:ROLLERCOASTER●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・ゴールドストーン●製作:ジェニングス・ラング●脚本:リチャード・レヴィンソン/ウィリアム・リンク●撮影:デヴィッド・M・ウォルシュ●音楽:ラロ・シフリン●時間:119分●出演:ジョージ・シーガル/ヘンリー・フォンダ/リチャード・ウィドマーク/ティモシー・ボトムズ/ハリー・ガーディノ/ハリー・デイビス/スーザン・ストラスバーグ/ヘレン・ハント/スティーヴ・グッテンバーグ●日本公開:1977/06●配給:CIC●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(78-01-21)(評価:★★★)●併映:「新・猿の惑星」(ドン・テイラー)/「ローラーボール」(ノーマン・ジュイソン)/「世界が燃えつきる日」(ジャック・スマイト)(オールナイト)

ANNIE HALL .jpg「アニー・ホール」●原題:ANNIE HALL●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ウディ・アレン●製作:チャールズ・ジョフィ/ジャック・ローリンズ●脚本:ウディ・アレン/マーシャル・ブリックマン●撮影:ゴードン・ウィリス ●時間:94分●出演:ウディ・アレン/ダイアン・キートン/トニー・ロバーツ/シェリー・デュバル/ポール・サイモン/シガニー・ウィーバー/クリストファー・ウォーケン/ジェフ・ゴールドブラム/ジョン・グローヴァー/トルーマン・カポーティ(ノンクレジット)●日本公開:1978/01●配給:オライオン映画●最初に観た場所:有楽町・ニュー東宝シネマ2(78-01-18)●2回目:有楽町・ニュー東宝シネマ2 (78-01-18)(評価:★★★★)


映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」出演ダイアン・キートン


昭和外国映画史―「月世界探検」から「スター・ウォーズ」まで「別冊1億人の昭和史」』('78年6月/毎日新聞社)
0昭和外国映画史.jpgスター・ウォーズ 1977 ハンソロ1.jpg「スター・ウォーズ(「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」)」●原題:THE STAR WARS●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョージ・ルーカス●製作: ゲイリー・カーツ●撮影:ギルバート・テイラー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:121分(特別編:125分)●出演:マーク・ハミル/ハリソン・フォード/キャリー・フィッシャー/デヴィッド・プラウズ/ジェームズ・アール・ジョーンズ(声)/アレック・ギネス/アンソニー・ダニエルズ/ケニー・ベイカー/ピーター・メイヒュー/ピーター・カッシング/フィル・ブラウン/シラー・フレイザー/ジェレミー・ブロック/ポール・ブレイク/ローリー・グード/アンソニー・フォレスト/ドリュー・ヘンレイ/アンガス・マッキネ/デニス・ローソン/ギャリック・ヘイゴン/ローリー・グード/パム・ローズ/リチャード・ルパルメンティエ/デレック・ライオンズ●日本公開:1978/06●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(82-07-11)(評価:★★★☆)●併映:「レイダース 失われた《聖櫃》」(スティーブン・スピルバーグ)


引き裂かれたカーテン 1966.jpg引き裂かれたカーテン5.jpg「引き裂かれたカーテン」●原題:TORN CURTAIN●制作年:1966年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●ジェニングス・ラング●脚本:ブライアン・ムーア/ウィリス・ホール/キース・ウォーターハウス●撮影:ジョン・F・ウォーレン●音楽:ジョン・アディソン●時間:128分●出演:ポール・ニューマン /ジュリー・アンドリュース/ハンスイェルク・フェルミー/ギュンター・シュトラック/ルドウィヒ・ドナート/ヴォルフガン「引き裂かれたカーテン」ヒッチカメオ.pngグ・キーリング/リラ・ケドロヴ/モート・ミルズ/ギゼラ・フィッシャー/デヴィッド・オパトッシュ/タマラ・トゥマノワ/モーリス・ドナー/ロバート・ブーン/ノーバート・シラー/ハロルド・ディレンフォース/アーサー・グールド=ポーター/ピーター・ローレ・Jr/アンドレア・ダルビー/エリック・ホランド/レスター・フレッチャー●日本公開:1966/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ.(評価:★★★★)
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「ナイル殺人事件」映画パンフレット
ナイル殺人事件 パンフレット.jpgナイル殺人事件 オリヴィア・ハッセー.jpgナイル殺人事件 べティ・デイヴィス.jpgミア・ファロー_3.jpg「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:アガサ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファローベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612353.jpgディ/オリヴィア・ハッセー/ジョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612358.jpgン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズサイモン・マッコーキンデール/ジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)

  

麦秋 1.jpg「麦秋」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田麦秋 1951  .jpg雄春●音楽:伊藤宣二●時間:124分●出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛/佐野周二/村瀬禪/城澤勇夫/高堂国典/高橋とよ/宮内精二/井川邦子/志賀真津子/伊藤和代/山本多美/谷よしの/寺田佳世子/長谷部朋香/山田英子/田代芳子/谷崎純●公開:1951/03●配給:松竹(評価:★★★★☆)


ビッグ・ウェンズデー  ps.jpgBig Wednesday (1978).jpgBIG WEDNESDAY .jpg「ビッグ・ウェンズデー」●原題:BIG WENSDAY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ミリアス●製作:バズ・フェイトシャンズ/アレクサンドラ・ローズ●脚本:ジョン・ミリアス/デニス・アーバーグ●撮影:ブルース・サーティース●音楽:ベイBIG WEDNESDAY.jpgジル・ポールドゥリス●時間:119分●出演:ジャン=マイケル・ヴィンセント/ウィリアム・カットBIG WEDNESDAY   .jpg/ゲイリー・ビジー/リー・パーセル/サム・メルヴィル/パティ・ダーバンヴィル/ダレル・フェティ/ジェフ・パークス/レブ・ブラウン/デニス・アーバーグ/リック・ダノ/バーバラ・ヘイル/ジョー・スピネル/ロバート・イングランド●日本公開:1979/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82>-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「カッコーの巣の上で」(ミロシュ・フォアマン)


エノケンの近藤勇1.jpg「エノケンの近藤勇」●制作年:1935年●監督:山本嘉次郎●脚本・原作:ピエル・ブリヤント/P.C.L.文芸部●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●時間:81分●出演:榎本健一/二村定一/中村是好/柳田貞一/如月寛多/田島辰夫/丸山定夫/伊藤薫/花島喜世子/宏川光子/北村季佐江/エノケンの頑張り戦術 vhs.jpg千川輝美/高尾光子/夏目初子●公開:1935/10●配給:P.C.L.(評価:★★★)
「エノケンの頑張り戦術」●制作年:1939年●監督:中川信夫●脚本・原作:小国英雄●撮影:伊藤武夫●音楽:栗原重一●時間:74分●出演:榎本健一/宏川光子/小高たかし/如月寛多/渋谷正代/川童/柳田貞一/柳文代/音羽久米子/北村武夫 /金井俊夫/南光司●公開:1939.09●配給:東宝東京(評価:★★★)


01料理長(シェフ)殿.jpg02料理長(シェフ)殿1.jpg「料理長(シェフ)殿、ご用心」●原題:SOMEONE IS KILLING THE GREAT CHEFS OF EUROPE●制作年:ヴァン・ライアンズ/ナン・ラ1978年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コチェフ●脚本:ピーター・ストーン●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:アイヴァン・ライアンズ/03料理長(シェフ)殿.pngナン・ライアンズ●時間:112分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ/ジャン=ピエール・カッセル/フィリップ・ノワレ/ジャン・ロシュフォール/ルイージ・プロイェッティ/ステファノ・サッタ・フロレス●日本公開:1979/05●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18)(評価:★★★)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「クリスチーヌの性愛記」(アロイス・ブルマー)

Fukushû suru wa ware ni ari (1979)
Fukushû suru wa ware ni ari (1979) .jpg復讐するは我にありC2.jpg「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美小川真由美 復讐するは我にあり2.jpg清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)


エイリアン 1979.jpgエイリアン スタントン.jpg「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)


人情紙風船 kawarazaki.jpg人情紙風船 01.jpg「人情紙風船」●制作年:1937年●監督:山中貞雄●製作:P.C.L.●脚本:三村伸太郎●撮影:三村明●音楽:太田忠郎●美術考証:岩田専太郎●原作:河竹黙阿弥(『梅雨小袖昔八丈』、通称『髪結新三』)●時間:86分●出演:河原崎長十郎(海野又十郎)/中村翫右衛門(髪結新三)/山岸しづ江(又十郎の女房おたき)/霧立のぼる(白子屋の娘お駒)/助高屋助蔵(家主長兵衛)/市川笑太朗(弥太五郎源七)/中村鶴蔵 (金魚売源公)/市川莚司[加東大介])(猪助)/橘小三郎[藤川八蔵](毛利三左衛門)/御橋公(白子屋久左衛門)/瀬川菊乃丞(忠七)/市川扇升(長松)/原緋紗子(源公の女房おてつ)/坂東調右衛門/市川樂三郎/市川菊之助/岬たか子●公開:1937/08●配給:東宝映画●最初に観た場所:早稲田松竹(07-08-12)(評価:★★★★☆)●併映:「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」(山中貞雄)


7二百三高地 丹波哲郎 dvdジャケット1.jpg「二百三高地」●制作年:1980年●監督:舛田利雄●脚本:笠原和夫●撮影:飯村雅彦●音楽:山本直純●主題曲:さだまさし●時間:181分●出演:仲代達矢/あおい輝彦/新沼謙治/湯原昌幸/佐藤允/永島敏行/長谷川明男/稲葉義男/新克利/矢吹二朗/船戸順/浜田寅彦/近藤宏/伊沢一郎/玉川伊佐男/名和宏/横森久/武藤章生/浜田晃/三南道郎/二百三高地 丹波哲郎.jpg北村晃一/木村四郎/中田博久/南廣/河原崎次郎/市川好朗/山田光一/磯村健治/相馬剛三/高月忠/亀山達也/清水照夫/桐原信介/原田力/久地明/秋山敏/金子吉延/森繁久彌/天知茂/神山繁/平田昭彦/若林豪/野口元夫/土山登士幸/川合伸旺/久遠利三/須藤健/吉原正皓/愛川欽也/夏目雅子/野際陽子/桑山正一/赤木春恵/原田清人/北林早苗/土方弘/小畠絹子/河合絃司/須賀良/石橋雅史/村井国夫/早川純一/尾形伸之介/青木義朗/三船敏郎/松尾嘉代/内藤武敏/丹波哲郎●公開:1980/08●配給:東映●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★★)●併映:「将軍 SHOGUN」(ジェリー・ロンドン)


『殺しのドレス』(1980) 2.jpg「殺しのドレス」●原題:DRESSED TO KILL●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ●製作:ジョージ・リットー●撮影:ラルフ・ボード●音楽:ピノ・ドナッジオ●時間:114分●出演:マイケル・ケイン/アンジー・ディキンソン/ナンシー・アレン/キース・ゴードン/デニス・フランツ/デヴィッド・ マーグリーズ/ブランドン・マガート●日本公開:1981/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(81-04-03)●2回目:テアトル吉祥寺 (86-02-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「デストラップ 死の罠」(シドニー・ルメット)/「日曜日が待ち遠しい!」(フランソワ・トリュフォー)/「ハメット」(ヴィム・ヴェンダース)

【1984年文庫化[集英社文庫]/1989年再文庫化[ちくま文庫(『コラムは踊る―エンタテインメント評判記 1977~81』)]】


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ラストの踊りのシーンは圧巻だが、細かいプロットもよく出来ている。

フレンチ・カンカン 1954 dvd.jpg フレンチ・カンカン 1954 1.jpg フレンチ・カンカン160.jpg フレンチ・カンカン61.jpg
フレンチ・カンカン HDマスター [DVD]」ジャン・ギャバン/フランソワーズ・アルヌール
maria-felix-french-cancan-1954.jpgフレンチ・カンカン74.jpg 1888年のパリ。上流向けクラブ「パラヴァン・シノワ(シナの屏風)」のオーナー・ダングラール(ジャン・ギャバン)は、モデルをしていたところを自身が発掘したローラ(マリア・フェリックス)をベリーダンサーとしてクラブのスターに据え、同時に彼女を自身の愛人にしていた。ローラもダFRENCH CANCAN 1954ages.jpgングラールを愛していたが、彼の事業の出資者であるヴァルテル男爵(ジャン=ロジェ・コシモン)が彼女につきまとっていた。ある晩モンマルトルに行ったダングラールは、「白い女王」というキャバレーで恋人のパン職人のポーロ(フランコ・パストリーノ)とカンカン踊りに興じる洗濯女の娘ニニ(フランソワーズ・アルヌーFRENCH CANCAN 1954 3.jpgル)の新鮮さに驚嘆し、カンカン踊りを新しいショーとして興行することを決心、「パラヴァン・シノワ」フレンチ・カンカン 1954 1.jpgを売却して「白い女王」を買い取り、カンカン踊りに「フレンチ・カンカン」という名称を与え、「白い女王」を取り壊してニニを中心に大勢の踊り子がカンカンを踊るショーを上演するキャバレー「ムーラン・ルージュ」を立ち上げることにする。棟上式の日、ニニに嫉妬したローラが喧嘩を仕掛けて乱闘となり、さらにダングラールに嫉妬したポーロが工事中の穴にダングラールを突き落とし、彼は大ケガを負う。彼が退院した日、ローラに唆されてヴフレンチ・カンカン  2.jpgァルテル男爵が出資を取りやめたことを知ったダングラールは絶望するが、その晩ニニと初めて結ばれる。かねてからニニに思いを寄せていた某国のアレクサンドル王子(ジャンニ・エスポジート)が新たな支援者となり、フレンチ・カンカン3852.jpgムーラン・ルージュの工事は進むが、嫉妬に燃えるローラは、王子を連れ「ムーラン・ルージュに押しかけ、皆の面前でニニにダングラールの情婦であることを告白させる。王子はピストル自殺をするが未遂に終わり、ダングラール名義に書き換えたムーラン・ルージュの権利書を残して去る。後悔したローラも協力を約し、ムーラン・ルージュはなんとか開店にこぎつける。しかし ショーの本番直前、新人歌手のエステル(アンナ・アメンドーラ)に囁きかけるダングラールを見かけたニニは楽屋に籠ってしまい、観客たちは騒ぎ出す―。

フレンチ・カンカン 1954 2.jpg ジャン・ルノワール監督の1954年制作、1955年フランス公開作で、1880年代のパリを舞台に、フレンチ・カンカンとムーラン・ルージュの誕生を虚実取り混ぜて描いたものです。キャバレー"ムーラン・ルージュ"を舞台にした映画は数多く、アメフレンチ・カンカン133a.jpgリカでは、ムーラン・ルージュに通い詰めた画家ロートレックの生涯を描いたジョン・ヒューストン監督の「赤い風車」('52年)や、共にミュージカル映画で、シャーリー・マクレーン主演「カンカン」('60年)、ニコール・キッドマン主演「ムーランルージュ」('01年)などがあります。この作品のヒロイン・ニニを演じた当時23歳のフランソワーズ・アルヌールは一気にスターとなりり、その後、アンリ・ヴェルヌイユ監督の「ヘッドライト」('56年)で再びジャン・ギャバンと共演することになります。

 この作品は、厳密にはミュージカル映画ではないものの、エディット・ピアフをはじめとして多くの歌手も出演しているため、雰囲気的にはミュージカル映画っぽい印象を受けます(たまたま隣家で洗濯物を干しながら鼻歌を歌っていた主婦がピアフ級だったというのがスゴイ設定だが)。基本的に俳優陣は台詞を普通に喋りますが、時に歌い出すことのあり、主演のジャン・ギャバンも1曲だけ歌っています。ジャン・ギャバンというとギャング映画のイメージが強いですが、実はジャン・ギャバンの父はミュージック・ホールの役者で、母は歌手であり、ジャン・ギャバン自身も〈俳優〉兼〈歌手〉であったことを改めて想起しました。

FRENCH CANCAN 1954 5.jpg ラストの、ムーラン・ルージュの客席のあちこちからフレンチ・カンカンのダンサーが沸いて出てきて、クライマックスのフレンチ・カンカンの大演舞に繋がっていくシーンは、美しいカラー映像と相俟って圧巻です。さすが画家ルノワールの次男! 「ピクニック」('36年)ではモノクロで印象派の世界を再現してみせましたが、カラーで豊かな色彩表現を見せています(ただし、映画の中ではロートレックの絵が多用されている)。

 細かいプロットもよく出来ていました。去っていった王子はいい人だったなあ。王子には気の毒だったけれども、最後は、残された人はみんな幸せになれそうな雰囲気で、ラストシーンはみんなカップルになっていました。ただ笑わせるだけの役回りだと思っていたダングラールの部下の長身の芸人ガジミール(フィリップ・クレイ)の隣にも彼女と思しき女性がいるし、恋人ニニをダングラールに持っていかれ嫉妬心の抑制がきかなかったポーロ(フランコ・パストリーノ)の傍らにも、ニニのかつての同僚で、「ムーラン・ルージュ」の踊子の採用試験に落ちて今も洗濯女をしているテレーズ(アニック・モーリス)が傍にいました。なんだか、気配りの行き届いた映画のように思えました。

フレンチ・カンカン ジャン・ギャバン.jpg 裏を返せば、王子が去った後に結ばれないのはダングラールとニニだけであり、ダングラールは楽屋に籠ってしまったニニに、「オレは籠の鳥にはなれない」と言っていましたが(説得するつもりが開き直りになっていた(笑))、これが一般的な家庭というものを持ち得ないダングラールの性(さが)であると同時に、興行に人生を賭けた人間の厳しさということなのかもしれません(この厳しさは、踊りにすべてを賭けることにしたニニにも当てはまる)。

フレンチ・カンカン156.jpg この映画は、公開時には興行的に成功しましたが、やがて1950年代末にフランスで始まったにヌーヴェルバーグが隆盛となり、後の批評家たちによって退屈な映画だとして無視されてしまったようです。それがまた最近になって、「ベル・エポック」と呼ばれる時代に、大衆芸能の世界にも新しい現実感覚を示すような創造性豊かな表現方法の革新があったことを、興行の世界だけでなく町の様子や人々の風俗と併せて色彩豊かに描いた作品として再注目されています。

 個人的にも、昔はこんな映画は観に行かなかったでしょうが、だんだんこうした映画が快く、また何となく懐かしく感じられるようになった昨今です(やはり年齢のせいか?)。そう言えばジャン・ギャバンって「レ・ミゼラブル」('57年)のような文芸大作にも出演していて、今まで数多く映画化されたその作品でも「歴代最高」との評価を得ています。

ジャン・ギャバンフランソワーズ・アルヌール in「ヘッドライト」('56年)/ジャン・ギャバン in「レ・ミゼラブル」('57年)
「ヘッドライト」('56年)ジャン・ギャバン.jpg les_miserables01jw.jpg 

フランソワーズ・アルヌール1958.jpgフレンチ・カンカン0.jpg「フレンチ・カンカン」●原題:FRENCH CANCAN●制作年:1954年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン・ルノワール●製作:ミシェル・ケルベ●撮影:ルッツ・ライテマイヤー●音楽:ジョルジュ・ヴァン・パリス●時間:102分●出演:ジャン・ギャバン/フランソワーズ・アルヌール/マリア・フェリックス/アンナ・アメンドーラ/ヴァルテジャン=ロジェ・コシモン/ジャンニ・エスポジート/フランコ・パストリーノ/アニック・モーリス/ミシェル・ピッコリ/エディット・ピアフ●日本公開:1955/08●配給:東和●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-12-16)(評価:★★★★)

フランソワーズ・アルヌール 

Francoise Arnoul (1958)


 

フランソワーズ・アルヌール in「グランド・カナル 大運河」(1957)/「女猫」(1958)
グランド・カナル 大運河.jpg La_Chatte.jpg

fgフランソワーズ・アルヌール.jpg009フランソワーズ・アルヌール.jpg フランソワーズ・アルヌール(「サイボーグ009」のキャラクター)

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ものすごくマニアックというほどでもなく、気軽に愉しめる1冊。

カルト映画館 SF.jpgカルト映画館 ホラー.jpg  ローラーボール [DVD].jpg ローラーボール 映画0.jpg
カルト映画館 SF (現代教養文庫)』『カルト映画館 ホラー (現代教養文庫)』(共に表紙イラスト:永野寿彦(シネマ・イラストライター))「ローラーボール [DVD]」ジェームズ・カーン

 『カルト映画館 ホラー』('95年/教養文庫)の4名の執筆者に永野寿彦氏を新たに加えた執筆陣が、SF映画100作品を、「名作SF館」「シリーズSF館」「日本SF館」の3篇に分けて紹介したものです。「名作SF館」は、さらに、➀1900~1950年代、②1960年代、③1970年~1990年代に分かれ、「日本SF館」はさらに➀1950年代、②1960年から1996年に分かれています。

キング・コング 02.jpgキング・コング 1933 dvd.jpg 「名作SF館」の➀1900~1950年代では、やはり「キング・コング」('33年)は外せないところでしょう。本書によれば、コングは、上半身だけの巨大なメカニカル操作の物と、ウィリス・H・オブライエンの人形アニメによって創造されているとのこと。人形アニメのキャラが主役で登場した最初で最後の映画であるとのことで、そう言われてもちょっとぴんとこない面もありますが、要するにあのコマ撮りが「人形アニメ」ということになるのだろうなあと。

宇宙水爆戦1.jpg宇宙水爆戦 dvd.jpg 「宇宙水爆戦」('55年)は、ストーリーにあまり関係ないところで登場するミュータントがいなければ、さほど印象には残らなかったであろうとしていますが、確かに。これに対し、「禁断の惑星」('56年)は、「全編が見どころ。50年代に製作されたSF映画の最高傑作であり、今もって映画史に残る至宝として知られる」としています。「裸の銃を持つ男」シリーズで知られるレスリー・ニールセンが正当な二枚目俳優として出演していること、シェイクスピアの「テンペスト」をSFに翻案したものであることなどに触れているのが嬉しいです。

2001 space odyssey22.jpg2001年宇宙の旅2.jpg ②1960年代には、60年代がSF映画の黄金時代であったことを物語るかのように、「博士の異常な愛情」('64年)や「2001年宇宙の旅」('68年)などの名作があり、それが、③1970年~1990年代で、まず70年代の前半、世界の破滅を描いた映画が出回り、70年後半にはスペースオペラが復権、80年代のSFX映画時代の到来、90年代のSF映画不毛の時代を経て今('96年)に至っているとのことです。

惑星ソラリスSOLARIS 1972.jpg惑星ソラリス dvd.jpg そう言えば、ハリウッド映画に限らず、アンドレ・タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」('73年)や「ストーカー」('80年)なども、どこかディストピア的な雰囲気があったかも。ただし、「惑星ソラリス」については、従来のSF作品では取り上げられなかった哲学の世界にまで昇華し、「2001年宇宙の旅」と並び称される傑作としています。

「ローラーボール」('76年)映画.jpg アメリカ映画では、B級映画と言えばB級映画ですが、ノーマン・ジュイソン監督作でジェームズ・カーン主演の「ローラーボール」('76年)を取り上げているのが懐かしいです。これもある意味ディストピア映画で、優れたSF・ファンタジー・ホラー映画に与えられる「サターン賞」の、創設間もない'75年度第3回のサターンSF映画賞、サターン主演男優賞を受賞しています。想定されている年代は2018年です。ジェームズ・カーンの役どころは、古代ローマの見世物としての闘技会のグラディエーターの未来版といったところでしょうか。デスマッチ式のローラーボール・ゲームを戦うのは、ニューヨーク・チームvs.東京チームで、そう言えば70年代に「ローラーゲーム」というスポーツがあり、「東京ボンバーズ」というチームがあったなあ(この作品は2002年、「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン監督によりリメイクされたが、リメイク版は製作費7,000万ドルに対し興行収入2,585万ドルと振るわず、2009年にハリウッド・レポーター誌が発表した過去10年間に全米公開され、大コケした失敗作の8位にランクインした)。
James Caan (1976)
James_Caan_(1976).jpg ジェームズ・カーンは「ゴッドファーザー」('72年)、「ゴッドファーザーPARTⅡ」('74年)でアル・パチーノ演じるマイケルの兄ソニー・コルレオーネ役に抜擢された後の出演作になり、同じ年にサム・ペキンパー監督のアクション映画「キラー・エリート」('75年)にも出てたりして、やっぱりこの人は肉体派でしょうか(シルヴェスター・スタローン脚本・主演の「ロッキー」('66年)の当初の主演候補でもあった)。ただし、スティーヴン・キング原作、ロブ・ライナー監督のサスペンスホラー映画「ミザリー」('90年)では、キャシー・ベイツ演じる狂気的女性ファンに監禁されるベストセラー作家を演じて、演技派の一面も見せています。90年代以降はコメディ映画の出演も多いですが、個人的には、「イレーザー」('96年)で、主演のアーノルド・シュワルツェネッガー演じるクルーガーの師でありながら実は黒幕でもあったというアクの強い役を演じていたのが印象に残っています(2022年7月6日、82歳で逝去)
ジェームズ・カーン in「ゴッドファーザー」('72年)/「ミザリー」('90年)with キャシー・ベイツ/「イレーザー」('96年)with アーノルド・シュワルツェネッガー
ジェームズ・カーン.jpg

カプリコン1.jpgCapricorn 1.jpg エリオット・グールド主演の「カプリコン・1」('77年)は、アメリカ政府が人類初の有人火星着陸の試みが失敗したのを隠蔽し、"成功"を偽装するという内容で、現実性はともかく、著者が言うように、権力に追い詰められる者の恐怖はよく描けていたかも。何事にも疑いの目を向けよという批判精神が評価された作品ではないかと思います。

Close Encounters of the Third Kind (1977).jpg未知との遭遇-特別編.jpg 本書によれば、「カプリコン・1」と同年公開の「未知との遭遇」('77年)にも、「実はアメリカ政府が人類支配をもくろむエイリアンと既に契約を取り交わしていて、その事実を隠蔽するために宇宙人は平和の使者であるというイメージを大衆に与えようと本作が作られた...」という説があったとのことです。主人公がいかにも"純粋無垢"そうな宇宙人たちに宇宙船内に招き入れられる〈特別編〉まで作られ公開されていることから、そのような説が出てきたりするのではないでしょうか。

ブレードランナー.jpg『ブレードランナー』4.jpgブレードランナー パンフ.jpg 「ブレードランナー」('82年)は一時代を画したといってもいい傑作。「ルトガー・ハウガーがレプリカントを圧倒的な存在感で演じ切っている」とする著者に同感ですが、著者によれば、ルトガー・ハウガーはその後どルトガー・ハウアー.jpgんな映画にも出過ぎて、映画ファンには"どうも仕事を選ばないおじさん"という印象があるそうな。いずれにせよ、この「ブレードランナー」という作品は、公開前及び公開直後はそれほど話題にもなっておらず、時を経て評価が高まった作品で、同年の第7回「サターンSF映画賞」も、候補にはなったものの「E.T.」('82年)に持っていかれています。(ルトガー・ハウガーは、この文章をアップした18日後の 2019年7月19日に出身地のオランダにて75歳で亡くなった。)

WarGames.jpgウォー・ゲーム.jpg 「ウォー・ゲーム」('83年)は、パソコン好きの高校生が遊び心から侵入したコンピュータで戦争ゲームをやっていたのが、実はそれは軍の核戦略プログラムで、現実に第三次世界大戦勃発の危機を招いてしまうというもの。"人間が作り出した機械によって起こりうる危機"を上手く描き出していました。こうしたモチーフは「ダイハード4.0(フォー)」('07年)などに継承されていることを考えると、結構先駆的な作品だったかも。

トータル・リコール 1.jpgトータル・リコール dvd.jpg 「トータル・リコール」('90年)も「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック原作(短編SF小説「記憶売ります」)とのことで、まずまず面白かったのでは。原作にはない火星のシーンを映像化できたのも、その頃急速に進化していたCG技術のお陰でしょうか。
   
 以上が「名作SF館」で、「シリーズSF館」では、「物体X」シリーズから「ロボコップ」シリーズまで13のSFシリーズが取り上げられ、「日本SF館」では、「ゴジラ」('54年)から始まって18作品が紹介されています。その中では、永野寿彦氏が「モスラ」('61年)を高く評価しているのが印象に残りました。

 こちらも、『カルト映画館 ホラー』同様、ものすごくマニアックというほどでもなく、馴染みのある作品が多くて、気軽に愉しめる1冊でした。

ローラーボール (特別編) [DVD]
ローラーボール (特別編).jpgローラーボール 映画1.jpg「ローラーボール」●原題:ROLLERBALL●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・製作:ノーマン・ジュイソン●脚本:ウィリアム・ハリソン●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:アンドレ・プレヴィン●原作:ウィリアム・ハリソン●時間:125分●出演:ジェームズ・カーン/ジョン・ハウスマン/モード・アダムス/ジョン・ベック/モーゼス・ガン/パメラ・ヘンズリー/シェーン・リマー/バート・クウォーク/ロバート・イトー/ラルフ・リチャードソン●日本公開:1975/07●配給:ユナイテッド・アーテ池袋テアトルダイア s.jpg池袋テアトルダイア  .jpgテアトルダイア5.jpgィスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(78-01-21)(評価:★★★)●併映:「新・猿の惑星」(ドン・テイラー)/「ジェット・ローラーコースター」(ジェームズ・ゴールドストーン)/「世界が燃えつきる日」(ジャック・スマイト)(オールナイト)
池袋テアトルダイア  1956(昭和31)年12月26日池袋東口60階通り「池袋ビル」地下にオープン(地上は「テアトル池袋」)、1981(昭和56)年2月29日閉館、1982(昭和57)年12月テアトル池袋跡地「池袋テアトルホテル」地下に再オープン、2009年8月~2スクリーン。2011(平成23)年5月29日閉館。

イレイザー [DVD]」アーノルド・シュワルツェネッガー/ヴァネッサ・ウィリアムズ
「イレイザー」1996.jpg「イレイザー」1.jpg「イレイザー」●原題:ERASER●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:チャック・ラッセル●製作:アーノルド・コペルソン/アン・コペルソン●脚本:トニー・パーイヤー/ウォロン・グリーン●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:アラン・シルヴェスト「イレイザー」syuwarutunegga-.jpgリ(主題歌:「Where Do We Go From Here(愛のゆくえ))」ヴァネッサ・ウィリアムズ)●原案:トニー・パーイヤー/ウォロン・グリーン/マイケル・S・チャヌーチン●時間:115分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェームズ・カーン/ヴァネッサ・ウィリアムズ/ジェームズ・コバーン/ロバート・パストレリ/ジェームズ・クロムウェル/ダニー・ヌッチ/ニック・チンランド/ジョー・ヴィテレリ/マーク・ロルストン/ジョン・スラッテリー/ローマ・「イレイザー」ジェームズ・カーン.jpg「イレイザー」ジェームズ・コバーン.jpgマフィア/オレク・クルパ/パトリック・キルパトリック●日本公開:1996/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

    

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精神的"終活映画"「ラッキー」。ハリー・ディーン・スタントンへのオマージュ。

ラッキー 映画 2017.jpgラッキー 映画s.jpg パリ、テキサス dvd.jpg エイリアン DVD.jpg
「ラッキー」ハリー・ディーン・スタントン(撮影時90歳)/「パリ、テキサス デジタルニューマスター版 [DVD]」「エイリアン [AmazonDVDコレクション]

ラッキー 映画.jpg 90歳の通称"ラッキー"(ハリー・ディーン・スタントン)は、今日も一人で住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガをこなしたあと、テンガロンハットを被って行きつけのダイナーに行き、店主のジョー(バリー・シャバカ・ヘンリー)と無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタ(イヴォンヌ・ハフ・リー)が注いだミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解く。夜はバーでブラッディ・マリーを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中で、ある朝突然気を失ったラッキーは、人生の終わりが近いことを思い知らされ、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、逃げた100歳の亀、"生餌"として売られるコオロギ―小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく―。

ジョン・キャロル・リンチ監督.jpgファウンダーe s.jpg 昨年[2017年]9月に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントン主演のジョン・キャロル・リンチ監督作品で、ハリー・ディーン・スタントンの遺作となりました。ジョン・キャロル・リンチは本来は俳優で(最近では「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」('16年/米)で「マクドナルドラッキー 映画02.jpg」の創始者マクドナルド兄弟の兄モーリスを演じていた)、この「ラッキー」が初監督作品になります。一方、2017年のTV版「ツイン・ピークス」でハリー・ディーン・スタントンを使ったデヴィッド・リンチ監督が、主人公ラッキーの友人で、逃げてしまったペットの100歳の陸ガメ"ルーズベルト"に遺産相続させようとしとする変な男ハワード役で出演しています(役者として目いっぱい演技している)。

デヴィッド・リンチ(ペットの陸ガメ"ルーズベルト"の失踪を嘆く白い帽子の男)/ハリー・ディーン・スタントン(ブラッディ・マリーを手にする男)

 主人公のラッキーは、ハリー・ディーン・スタントン自身を擬えたと思われますが(存命中だったが、彼へのオマージュになっている? スタラッキー 映画01.jpgントンは太平洋戦争時に、映画の中でダイナーの客が語る沖縄戦に実際に従軍している)、映画では少々偏屈で気難しいところのあるキャラクターとして描かれています。自分の言いたいことを言い、そのため周囲の人々と小さな衝突をすることもありますが、でも、ラッキーは周囲の人々から気に掛けられ、愛されていて、彼を受け容れる友人・知人・コミニュティもあるといったラッキー 映画03.jpg具合で、むしろこれって"ラッキー"な老人の話なのかもと思いました。但し、彼自身はウェット感はなく、どうやら無神論者らしいですが、そう遠くないであろう自らの死に、自らの信念である"リアリズム"(ニヒリズムとも言える)を保ちつつ向き合おうしています。ある意味、精神的"終活映画"と言えるでしょうか。その姿が、ハリー・ディーン・スタントン自身と重なるのですが、孤独でドライな生き方や考え方と、それでも他者と関わりを持ち続ける態度の、その両者のバランスがなかなか微妙と言うか絶妙かと思いました。

ラッキー .jpg ハリー・ディーン・スタントンはこの映画撮影時は90歳で、「八月の鯨」('87年/米)で主演したリリアン・ギッシュ(1893-1993)が撮影当時93歳であったのには及びませんが、「サウンド・オブ・ミュージック」('65年/米)のクリストファー・プラマーが「手紙は憶えている」('15年/カナダ・ドイツ)で主演した際の年齢85歳を5歳上回っています(クリストファー・プラマーはその後「ゲティ家の身代金」('17年/米)で第90回アカデミー賞助演男優賞に88歳でノミネートされ、アカデミー賞の演技部門でのノミネート最高齢記録を更新した)。

ラッキー 映画p.jpg ハリー・ディーン・スタントンがこれまでの出演した作品と言えば、SF映画の傑作「エイリアン」や、準主役の「レポマン」、主役を演じた「パリ、テキサス」など多数ありますが、第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」が特に印象深いでしょうか。この「ラッキー」のエンディング・ロールで流れる彼に捧げる歌の歌詞に「レポマン」「パリ、テキサス」と出てきます。また、米国中西部らしい舞台背景は「パリ、テキサス」を想起させます(ジョン・キャロル・リンチ監督はジョン・フォードの作品なども参考にしたと言っているが、確かにそう思えるシーンもある)。

パリ,テキサス コレクターズ・エディション_.jpgパリ、テキサス01.jpgパリ、テキサス03.jpgパリ、テキサス02.jpg 「パリ、テキサス」('84年/独・仏)は、失踪した妻を探し求めテキサス州の町パリをめざす男(スタントン)が、4年間置き去りにしていた幼い息子と再会して親子の情を取り戻し、やがて巡り会った妻(ナスターシャ・キンスキー)に愛するがゆえの苦悩を打ち明ける―というロード・ムービーであり、当時まだアイドルっぽいイメージの残っていたナスターシャ・キンスキーに、「のぞき部屋」で働いている生活疲れした人妻を演じさせ新境地を開拓させたヴィム・ヴェンダース監督もさることながら、ハリー・ディーン・スタントンの静かな存在感も作品を根底で支えていたように思いまワン・フロム・ザ・ハート nキンスキー.jpgす。ヴィム・ヴェンダース監督は、ロマン・ポランスキー監督が文豪トマス・ハーディの文芸大作を忠実に映画化した作品「テス」('79年/英)でナスターシャ・キンスキーの演技力を引き出したのに匹敵する演出力で、フランシス・フォード・コッポラがオール・セットで撮影した「ワン・フロム・ザ・ハート」('82年/米)で彼女を"お人形さん"のように撮って失敗した(少なくとも個人的には成功作に思えない)のと対照的でした(まあ、ナスターシャ・キンスキーが主役の映画ではなく、彼女は準主役なのだが。因みに、この「ワン・フロム・ザ・ハート」には、ハリー・ディーン・スタントンも準主役で出演している)。

エイリアン スタントン.jpg ハリー・ディーン・スタントンは、主役だった「パリ、テキサス」に比べると、リドリー・スコット監督の「エイリアン」('79年/米)では、"怪物"に「繭」にされてしまい、最後は味方に火炎放射器で焼かれてエイリアン ジョンハート.jpgしまう役だったからなあ(それもディレクターズ・カット版の話で、劇場公開版ではその部分さえカットされている)。ただ、あの映画は、英国の名優ジョン・ハートでさえも、エイリアンの幼生(チェスト・バスター)に胸を食い破られるというエグい役でした。最初に観た時はストレートに怖かったですが、最後に生き残るのはシガニー・ウィーバー演じるリプリーのみという、振り返ればある意味「女性映画」だったかも。シリーズ第1作では男性に置き換えられていますが、チェスト・バスターが躰を食い破って出て来るというのは、哲学者・内田樹氏の「街場の映画論」等での指摘もありましたが、女性の出産に対する不安(恐怖、拒絶感)を表象しているのでしょうか。

エイリアン2s.jpgエイリアン2ド.jpg この恐れは、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが完全に主人公となったシリーズ第2作以降、リプリー自身の見る「悪夢」として継承されていきます。「エイリアン2」('86年/米)の監督は、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン。ラストでエイリアンと戦うリプリーが突如「機動戦士ガンダム」風に変身する場面に象徴されるように、SF映画というよりは戦争アクション映エイリアン3ド.jpg画風で、「1」に比べ大味になったように思います(海兵隊のバスケスという男まさりの女兵士は良かった)。デヴィッド・フィンチャー監督の「エイリアン3」('92年/米)になると、リドリー・スコット監督がシンプルな怖さを前面に押し出した第1作に比べてそう恐ろしくもないし(馴れた?)、ジェームズ・キャメロン監督がエイリアンを次々と繰り出した第2作に較べても出てくるエイリアンは1匹で物足りないし、ラストの宗教的結末も、このシリーズに似合わない感じがしました(「エイリアン」「エイリアン2」は共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF映画賞」を受賞している)。

ジョン・ハート(31歳当時)/in 「エレファント・マン」('80年/英・仏)
ジョンハート.jpgエレファントマン ジョンハート.jpg チェスト・バスターの出現がシリーズを象徴する場面として印象に残るという意味では、「エイリアン」でのジョン・ハートの役は、エグいけれどもオイシイ役だったかも。この人、「エレファント・マン」('80年/英・仏)で"エレファント・マン"ことジョゼフ・メリック役もやってるしなあ。あれも、普通の二枚目出身俳優なら受けない役だったかも。

ジョン・ハート .jpgハリーディーンスタントン.jpg そのジョン・ハートも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」('17年/英)のチェンバレン役を降板したと思ったら、昨年['17年]1月に膵臓ガンで77歳で亡くなっています。「ウィンストン・チャーチル」ではゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優層を受賞していますが、そのゲイリー・オールドマンと、第22回「サテライト・アワード」(エンターテインメント記者が所属する国際プレス・アカデミが選ぶ映画賞)の主演男優賞を分け合ったのがハリー・ディーン・スタントンです。但し、スタントンは"死後受賞"でした。遅ればせながらこれを機に、ジョン・ハートとハリー・ディーン・スタントンに追悼の意を捧げます(「冥福を祈る」と言うと、"ラッキー"から「冥土なんて存在しない」と言われそう)。

20170918211045e91s.jpg そう言えば、ハリー・ディーン・スタントンは生前、"The Harry Dean Stanton Band"というバンドで歌とギターも担当していて、2016年に第1回「ハリー・ディーン・スタントン・アウォード」というイベントが開催され、ホストが今回の作品にも出ているデヴィッド・リンチで、ゲストが「沈黙の断崖」('97年)でハリー・ディーン・スタントンと共演したクリス・クリストファーソンや、「ラスベガスをやっつけろ」('98年)などで共演経験のあるジョニー・デップでしたが(ジョニー・デップの登場はハリー・ディーン・スタントンにとってはサプラズ演出だったようだ)、この「ハリー・ディーン・スタントン賞」って誰か"受賞者"いたのかなあ。
 
Harry Dean Stanton performs 'Everybody's Talkin' with Johnny Depp & Kris Kristofferson.('Everybody's Talkin'は映画「真夜中のカーボーイ」の主題歌」)

Lucky (2017)
Lucky (2017).jpg
「ラッキー」●原題:LUCKY●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・キャロル・リンチ●製作:ダニエル・レンフルー・ベアレンズ/アイラ・スティーブン・ベール/リチャード・カーハン/ローガン・スパークス●脚本:ローガン・スパークス/ドラゴ・スモンジャ●撮影:ティム・サーステッド●音楽:エルビス・キーン●時間:88分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/デヴィッド・リンチ/ロン・リヴィングストン/エド・ベグリー・Jr/トム・スケリット/ジェームズ・ダーレン/バリー・シャバカ・ヘンリー/ベス・グラント/イヴォンヌ・ハフ・リー/ヒューゴ・アームストロングス●日本ヒューマントラストシネマ有楽町.jpgヒューマントラストシネマ有楽町 sinema2.jpg公開:2018/03●配給:アップリンク●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(18-04-13)(評価:★★★★)
ヒューマントラストシネマ有楽町(2007年10月13日「シネカノン有楽町2丁目」が有楽町マリオン裏・イトシアプラザ4Fにオープン。経営がシネカノンから東京テアトルに変わり、2009年12月4日現在の館名に改称)[シアター1(162席)・シアター2(63席)]

Pari, Tekisasu (1984)
Pari, Tekisasu (1984).jpg
「パリ、テキサス」●原題:PARIS,TEXAS●制作年:1984年●制作国:西ドイツ・フランス●監督:ヴィム・ヴェンダース●製作: クリス・ジーヴァニッヒ/ドン・ゲスト●脚本:L・M・キット・カーソン/サム・シェパード●撮影:ロビー・ミューラー●音楽:ライ・クーダー●時間:147分●出演:ハリー・ディーン・スタントン/サム・ベリー/ベルンハルト・ヴィッキ/ディーン・ストックウェル/オーロール・クレマン/クラッシー・モビリー /ハンター・カーソン/ヴィヴァ/ソコロ・ヴァンデス/エドワード・フェイトン/ジャスティン・ホッグ/ナスターシャ・キンスキー/トム・ファレル/ジョン・ルーリー/ジェニ・ヴィシ●日本公開:1985/09●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(86-03-30)(評価:★★★★)●併映:「田舎の日曜日」(ベルトラン・タヴェルニエ)

ワン・フロム・ザ・ハート 【2003年レストア・バージョン】 [DVD]
ワン・フロム・ザ・ハート dvd.jpgワン・フロム・ザ・ハート ちらし.jpg「ワン・フロム・ザ・ハート」●原題:ONE FROM THE Heart●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:フランシス・フォード・コッポラ●製作:グレイ・フレデリクソン/フレッド・ルース●脚本:アーミアン・バーンスタイン/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ロナルド・V・ガーシア/ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:トム・ウェイツ●時間:107分●出演:フレデリック・フォレスト/テリー・ガー/ラウル・ジュリア/ナスターシャ・キンスキー/レイニー・カザン/ハリー・ディーン・スタントン /アレン・ガーフィールド/カーマイン・コッポラ/イタリア・コッポラ/レベッカ・デモーネイ●日本公開:1982/08●配給:東宝東和●最初に観た場所:目黒シネマ(83-05-01)(評価:★★★)●併映:「ひまわり」(ビットリオ・デ・シーカ)

エイリアン 1979.jpgエイリアン スタントン.jpg「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)

エイリアン2.jpgエイリアン2 .jpgエイリアン2 DVD.jpg「エイリアン2」●原題:ALIENS●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間: 137分(劇場公開版)/154分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/マイケル・ビーン/ポール・ライザー/ランス・ヘンリクセン/シンシア・デイル・スコット/ビル・パクストン/ウィリアム・ホープ/リッコ・ロス/キャリー・ヘン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1986/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:日本劇場(86-10-05)(評価:★★★)
エイリアン2 (完全版) [AmazonDVDコレクション]

エイリアン3.jpgエイリアン3 DVD.jpg「エイリアン3」●原題:ALIENS³●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・フィンチャー●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル/ラリー・ファーガソン●撮影:アレックス・トムソン●音楽:エリオット・ゴールデンサール●時間:114分(劇場公開版)/145分(完全版)●出演:シガニー・ウィーバー/チャールズ・S・ダットン/チャールズ・ダンス/ポール・マッギャン/ブライアン・グローバー/ラルフ・ブラウン/ダニー・ウェブ/クリストファー・ジョン・フィールズ/ホルト・マッキャラニー/ランス・ヘンリクセン/ピート・ポスルスウェイト●日本公開:1992/08●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
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エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)

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静かに訪れる世界の終り。タルコフスキーの「サクリファイス」より骨太で重かった。

ニーチェの馬 dvd.jpgニーチェの馬es.jpg  サクリファイス タルコフスキー dvd.jpg
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ニーチェの馬_04.jpg 1日目・・・農夫(デルジ・ヤーノシュ)は馬車に乗り、風の中人里離れた家に戻る。娘(ボーク・エリカ)は彼を出迎え、農夫は馬と車を小屋に戻す。娘は農夫の服を着替えさせ、2人で茹でたジャガイモ1個の食事を貪る。寝る段になって、農夫は58年鳴き続けた木食い虫が鳴いていないことに気付く。外は暴風が吹き荒れている。2日目・・・娘は井戸に水を汲みに行く。パーリンカ(焼酎)を飲んだ後、農夫はいつもの通り、馬車に乗って外へ出ようとするが、馬は動こうとしない。諦めた農夫は家に戻って薪を割り、娘は洗濯をする。ジャガイモを貪ったところへ男(ミハーイ・コルモス)が現れ、パーリンカを分けてくれるように頼む。町は風で駄目になったという男は、世界についてのニヒリズム的持論を延々述べるが、農夫はくだらないと一蹴、男はパーリンカを受け取って出て行く。3日目・・・娘は井戸で水を汲む。パーリンカを飲み、農夫と娘は馬小屋の掃除をする。新たな飼い葉を与えても馬は食べない。ジャガイモニーチェの馬 nagare.jpgを食べていた時外を見ると、馬車に乗った数人の流れ者が現れ、勝手に井戸を使い出す。2人は外へ飛び出して流れ者を追い払い、流れ者は2人を罵って去る。食器を片付けた後、娘は流れ者の一人が水の礼として渡した本を読むと、教会における悪徳について書かれていた。未だ風は激しく吹き続けている。4日目・・・娘が水を汲みに行くと、井戸が干上がっていた。馬は相変わらず飼い葉を食べず、水ニーチェの馬ド.jpgも飲まない。農夫はここにはもう住めないと、家を引き払う決心をする。荷物を纏めて馬を連れ、今度は自分らで車を引いて農夫と娘は家を出るが、丘を越えたところで戻ってくる。娘は窓から外を何も言わず見続ける。5日目・・・娘は農夫を着替えさせ、農夫は小屋に行き馬の縄を外してやる。2人はジャガイモを貪るも力なく、農夫は殆どを残してしまう。夜になったが、ランプに火が付かなくなり、火種も尽きる。嵐は去っていた。6日目・・・農夫と娘が食卓についている。農夫はジャガイモを生のまま口にするが、すぐ諦める。2人を沈黙が支配する―。

ニーチェの馬 uma2.jpg ハンガリーのタル・ベーラ監督(1955年生まれ)の2011年の作品で、第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞61st Berlin Film Festival - 'A Torinoi Lo' Premiere.jpg(審査員グランプリ)、国際批評家連盟賞(コンペティション部門)を受賞した作品ですが、タル・ベーラ監督はこの作品を監督としての最後の作品と表明しています。それぞれ農夫と娘を演じたデルジ・ヤーノシュ、ボーク・エリカ,ミハーイ・コルモス共、前作「倫敦から来た男」('07年/ハンガリー)に続いての出演で、音楽、撮影、編集も同じスタッフです。
Actor Mihaly Kormos, actress Erika Bok, actor Janos Derzsi and director Bela Tarr in 61st Berlin Film Festival

ニーチェの馬 uma.jpg 強烈な印象を残す馬は、本当に働かなくてその日に売り手がつかなかったらソーセージになるところだった馬を、タル・ベーラ監督がこれだと思って"スカウト"したそうです。冒頭に「1889年1月3日。哲学者ニーチェはトリノの広場で鞭打たれる馬に出会うと、駆け寄り、その首をかき抱いて涙した。そのまま精神は崩壊し、彼は最期の10年間を看取られて穏やかに過ごしたという。 馬のその後は誰も知らない」とナレーションが流れます。この馬は、そのニーチェの馬を象徴的に指しているのでしょうか(原題は「トリノの馬」)。

ニーチェの馬 te.jpg 農夫と娘が強風の中家に閉じ込められ、2日目にはその馬は動かなくなり、4日目には水を失い、5日目には火を失うといった具合に生きていく上で欠かせないものを順番に失っていくわけで、旧約聖書における神が6日間で世界を作った「天地創造」とは逆に、6日で世界が静かに崩壊していく様が、農夫と娘の生活の変化を通して間接的に描かれているとも言えます(タル・ベーラ監督はこの作品について、「本当の終末というのはもっと静かな物であると思う。死に近い沈黙、孤独をもって終わっていくことを伝えたかった」と語っている)。

サクリファイス タルコフスキーga.bmpサクリファイス4.jpg 長回しという点で、アンドレイ・タルコフスキー監督やテオ・アンゲロプロス監督の作品と似ているように思われ、また、世界の終わりを間接的に描いたのであるならば、タルコフスキー監督が第39回カンヌ国際映画祭で、カンヌ映画祭史上初の4賞(審査員特別グランプリ、国際映画批評家賞、エキュメニック賞、芸術特別貢献賞)を受賞した「サクリファイス」('86年/スウェーデン・英・仏)を思い出させます。「サクリファイス」はタルコフスキー監督の遺作で、この監督は晩年になればなるほど作品の哲学的な色合いが濃くなっていったように思いますが、但し「サクリファイス」では、世界の終りの危機が核戦争勃発によってもたらされたことが、登場人物がテレビでそのニュースを聴く場面があることから具体的に示されているのに対し、この「ニーチェの馬」では、2日にパーリンカを分けて欲しいと立ち寄った男が、「町は風で駄目になった」と言うだけです。

ニーチェの馬 po.jpg ほぼ全編に渡って吹きすさぶ風(人工の風だそうだが)―この風によって世界が滅ぶという抽象性がある意味この映画の"重み"になっているように思います。加えて、農夫を演じたデルジ・ヤーノシュの哲学者のような顔つき。殆どセリフがないのも"重さ"に繋がっているし、モノクロ映画であることも効果を増しているように感じられ、個人的には「サクリファイス」より骨太感があるように思いました。長回しが多く、観るのにある程度覚悟のいる作品ですが、他にあまり類を見ない作品であると思います(ジャガイモがこれほど印象に残る映画も無い)。

 因みにハンガリー語圏では名前を「姓・名」の順で表記するため、タル・ベーラ監督は「タル」が姓で「ベーラ」が名前です(女優ボーク・エリカは「エリカ」が名前と言えば分かりやすいか)。印欧語族風にベーラ・タルと表記することもあり(テニスプレーヤーのモニカ・セレシュなども「名・姓」の順)、同じハンガリーの映画監督で、「密告の砦」('65年/密告の砦 0.jpg密告の砦 01.jpgハンガリー)の監督ヤンチョー・ミクローシュ(1921-2014)なども「ミクローシュ・ヤンチョー」と「名・姓」の順で長年通ってしまっているのでややこしいです。1869年、オーストリアとハンガリーの二重帝国治下に入って3年目のハンガリーの、農民と義賊の群れが狩りこまれた荒野の砦を舞台にした「密告の砦」は、ハンガリー人将校たちが仕組んだ"密告"の罠にはまり、次々と倒れていく義賊集団のゲリラたちが悲惨でした。農民が義賊ゲリラ狩りに駆り出されるというのは皮肉ですが、コレ、すべて史実とのことです(1966年度ハンガリー批評家選出最優秀映画賞、1967年度英国批評家協会優秀外国映画賞受賞作品)。「密告の砦」と「ニーチェの馬」の2本だけで、ハンガリー映画って"重い"なあという印象になってしまいがちですが、とりあえず「ヤンチョー」と「タル」が姓であることを憶えておきましょう。

ニーチェの馬 ges.jpg「ニーチェの馬」●原題:A TORINOI LO/THE TURIN HORSE●制作年:2011年●制作国:ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ●監督:タル・ベーラ(苗字・名前順、以下同じ)●製作:テーニ・ガーボル●脚本:タル・ベーラ/クラスナホルカイ・ラースロー●撮影:フレッド・ケレメン●音楽:ヴィーグ・ミハーイ●時間:154分●出演:デルジ・ヤーノシュ/ボーク・エリカ/コルモス・ミハリー●日本公開:2012/02●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-25)(評価:★★★★)

サクリファイス タルコフスキー 00.jpgサクリファイス 000.jpg「サクリファイス」●原題:OFFRET●制作年:1986年●制作国:スウェーデン・イギリス・フランス●監督・脚本:アンドレイ・タルコフスキー●製作:カティンカ・ファラゴ●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ●時間:149分●出演:エルランド・ヨセフソン/スーザン・フリートウッド/オットーアラン・エドヴァル/グドルン・ギスラドッティル/スヴェン・ヴォルテル/ヴァレリー・メレッス/フィリッパ・フランセーン/トミー・チェルクヴィスト●日本公開:1987/04●配給:フランス映画社●最初に観た場所:テアトル新宿(87-10-17)(評価:★★★☆)

密告の砦 00.jpg密告の砦 02.jpg「密告の砦」●原題:SZEGENYLEGENYEK●制作年:1965年●制作国:ハンガリー●監督:ミクローシュ・ヤンチョー(名前・苗字順、以下同じ)●脚本:ジュラ・ヘルナーディ●撮影:タマーシュ・ショムロー●時間:149分●出演:ヤーノシュ・ゲルベ/ティボル・モルナール/アンドラーシュ・コザーク/ガーボル・アガールディ/ゾルタン・ラティノヴィッチ●日本公開:1977/06●配給:フランス映画社●最初に観た場所:千石・三百人劇場(80-01-23)(評価:★★★★)●併映:「オーソン・ウェルズのフェイク」(オーソン・ウェルズ)

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これも予定調和だが、俳優陣の演技力のお蔭で感情移入できた。オチも効いている。

世界にひとつのプレイブック 2012.jpg世界にひとつのプレイブック 00.jpg 世界にひとつのプレイブック デ・ニーロ2.jpg
ジェニファー・ローレンス/ブラッドレイ・クーパー  ロバート・デ・ニーロ
世界にひとつのプレイブック DVDコレクターズ・エディション(2枚組)
 躁うつ病のパット(ブラッドレイ・クーパー)は、8カ月で精神病院を退院した。高校の歴史教師だったパットは、自宅で妻のニッキ(ブレア・ビー)と同僚教師との浮気現場に遭遇、その浮気相手に暴行したことから入院を命じられ、さらに裁判所からニッキへの接近禁止を言い渡されていた。今は実家で両親(ロバート・デ・ニーロ/ジャッキー・ウィーヴァー)と暮らし療養をする日々だったが、『武器よさらば』などに激しく動揺して毎日のように騒ぎを起こしても、自分は正常だと信じ、復縁のため元妻に連絡を取ろうとし続けた。そんな折、友人ロニー(ジョン・オーティス)夫妻との食事会で、ロニーの妻の世界にひとつのプレイブックf.jpg妹ティファニー(ジェニファー・ローレンス)と知り合う。夫と死別したティファニーは、ショックで混乱し、性依存症となって女性を含む同僚全員と肉体関係を持ったことからトラブルとなり失職、今は心理療法を受ける身だった。二人は薬物療法の話題から意気投合し、食事に行くが、最終的には不調に終わる。パットは元妻との連絡方法として、元妻の友人であるティファニー姉妹を通じて手紙を渡してもらおうと考え、ティファニーは元妻との連絡の橋渡しを条件に、パットに社交ダンスの特訓を始める。ダンスが得意なティファニーは、自分を取り戻すためにダンスコンテストへの出場を決意し、初心者のパットをパートナーに選んだのだ。ダンスを通じて、パットは自分が回復する手応えを感じ、ティファニーとも打ち解ける。パットの父親はアメフトのノミ屋をやっていて、アメフトの話題を通じて息子のパットと親子の溝を埋めようとしていたが、そんな父親がついに全財産を賭けて負けてしまう。それを知ったティファニーは、負けを取り戻すために、アメフトの勝敗に加え、ダンスコンテストの自分たちの得点を対象にした起死回生の賭けをセッティングする―。

 2012年公開の、デヴィッド・O・ラッセル監督による「ザ・ファイター」('10年)に続く作品で、これも予定調和ですが、俳優陣の演技力のお蔭で感情移入できました。第37回トロント国際映画祭観客賞(最高賞)受賞作で、第28回インディペンデント・スピリット賞作品賞・監督賞・主演女優賞も受賞。「ザ・ファイター」は米アカデミー賞6部門7ノミネートされ、助演男優賞と助演女優賞を獲っていますが、この「世界にひとつのプレイブック」の方は、アカデミー賞8部門にノミネートさジェニファー・ローレンス『世界にひとつのプレイブック』.jpgれ、17歳で「あの日、欲望の大地で」('08年)に出演しヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞しているジェニファー・ローレンスが、この作品のティファニー役でアカデミー主演女優賞を受賞しています(他に、ブラッドレイ・クーパーが主演男優賞、父親役のロバート・デ・ニーロが助演男優賞、母親役のジャッキー・ウィーヴァーが助演女優賞のそれぞれ候補だった)。夫と死別した30代半ばのティファニーの役は当初は当時30歳だったアン・ハサウェイがキャスティングされていましたが、「ダークナイト ライジング」('12年)とのスケジュール競合のために降板し(クリエイティブ面での意見の相違により役を降りたとも)、複数の30代女優の候補者がいた中で、21歳のジェニファー・ローレンスが演じることになりました。但しアン・ハサウェイの方は、同年の「レ・ミゼラブル」('12年)でアカデミー助演女優賞を受賞しています。

第85回アカデミー賞 主演女優賞・ジェニファー・ローレンス(「世界にひとつのプレイブック」)/助演女優賞・アン・ハサウェイ(「レ・ミゼラブル」)

世界にひとつのプレイブック06.jpg 主人公たちの一発逆転を狙った策がもしも上手くいかなかったら悲劇的な状況になってしまうわけですが、予めコメディがあること(予定調和)が前提となっている感じで、そこはあまり突っ込むべきではないのかも。ティファニーとパットは息の合ったダンスを披露するものの素人ぶりは隠せず(この辺りはある程度リアルか)、他のダンサー達から失笑や慰めを受けますが、結果的には賭けの目標をクリアしてパットは大喜び。パットはニッキの元に歩み寄って会話を交わし、それを見たティファニーは会場を後にする―。

 ネタバレになりますが、ティファニーがパットとダンスの練習を続ける中、パットが元妻のニッキに書いた手紙に対するニッキからの返事をティファニーからパットに渡す場面があり、その内容は、まだ直接会うことはできないが、今後に期待が持てる前向きな内容であり、それでパットは元気を出したかのように見えるわけですが、最後にその手紙は実はニッキが書いたものではないことが明かされ(つまりティファニーが書いたということ)、更にそのことをパット自身も知っていたというのが、なかなか洒落たオチになっているように思いました。

 一方で、そうであるならば、そんな手紙など書いていないニッキがなぜダンス大会の会場に来たのかがよく分かりませんが、ただ純粋にダンスを見に来たのでしょうか。何れにせよ、パットの元妻ニッキへの未練は既に断ち切れていて、パットはニッキと言葉を交わした後はティファニーを追います。このシーンだけでも泣けますが、(繰り返しネタバレになるが)ティファニーがパットを励ますためにニッキを装って手紙を書いて、パットもそのことを知っていて言わなかったとういうオチが、やはり一番効いているように思いました。

世界にひとつのプレイブック デ・ニーロ1.jpg 母親役のオーストラリア出身の女優ジャッキー・ウィーヴァーは、「アニマル・キングダム」('10年)以来2年ぶり2度目のアカデミー助演女優賞ノミネート、父親役の大御所ロバート・デ・ニーロは「ケープ・フィアー」('91年)以来21年ぶり7度目のオスカ―・ノミネートでした(デ・ニーロは、「ケープ・フィアー」の時の怖~い役柄に比べると、打って変わって今回はすっかり好々爺だが)。

 この映画はアメリカでも結構ヒットしたようですが、主人公が生きる自信を取り戻す人生の復活劇である上に家族愛が絡んでいる点が、今日のアメリカ人に受けた要因ではないでしょうか。勿論、そうした心性は日本人にも通じる部分はありますが、"Silver Linings Playbook"という原題を「世界にひとつのプレイブック」という「プレイブック」のところだけを残した邦題にしたことで(プレイブックって日本人には馴染みが薄いのでは)、日本人からは却って敬遠される原因となってしまい、損したようにも思います。

ジェニファー・ローレンス in「アメリカン・ハッスル」(2013)(デヴィッド・O・ラッセル監督)/「パッセンジャー」(2016)
ジェニファー・ローレンス アメリカン・ハッスル.jpg ジェニファー・ローレンス パッセンジャー.jpg

ジェニファー・ローレンス in「世界にひとつのプレイブック」(2012年・第38回ロサンゼルス映画批評家協会賞「主演女優賞」受賞)
Silver Linings Playbook (2012).jpg世界にひとつのプレイブックs.jpg「世界にひとつのプレイブック」●原題:SILVER LININGS PLAYBOOK●制作年:2012年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル●製作:ブルース・コーエン/ドナ・ジグリオッティ/ジョナサン・ゴードン●撮影:マサノブ・タカヤナギ●音楽:ダニー・エルフマン●原作:マシュー・クイック「世界にひとつのプレイブック」●時間:122分●出演:ブラッドレイ・クーパー/ジェニファー・ローレンス/ロバート・デ・ニーロ/ジャッキー・ウィーヴァ/クリス・タッカー/アヌパム・カー/ジョン・オーティス/シェー・ウィガム/ジュリア・スタイルズ/ポール・ハーマン/ダッシュ・ミホク/ブレア・ビー●日本公開:2013/02●配給:ギャガ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-12-05)(評価★★★★)
Silver Linings Playbook (2012)

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実話がベース。予定調和だが、俳優陣の演技力のお蔭で感情移入できた。

ザ・ファイター dvd .jpg 
「ザ・ファイター」クリスチャン・ベイル/マーク・ウォールバーグ
ザ・ファイター01.jpg ミッキー・ウォード(マーク・ウォールバーグ)の異父兄のディッキー・エクランド(クリスチャン・ベイル)は、かつてシュガー・レイ・レナードをダウンさせたことがあり(実はスリップダウンだったようだが)、地元ではローウェルの誇りと呼ばれているが、試合に敗れた落胆から麻薬依存症になってしまった上に、その短気で怠惰な性格から破綻した日々を送っている。一方、弟であるミッキーは才能に恵まれず、世界チャンピオンなどは遠い夢である。それでもミッキーに過度の期待を寄せる過保護の母親アリザ・ファイター02.jpgス(メリッサ・レオ)と、かつて名ボクサーだった兄のディッキーに言われるがままに試合を重ねるが、一度も勝利を収めることが出来ず、次第に家族の絆もボロボロになっていく。そんな中、薬物中毒の兄ザ・ファイター クリスチャン・ベール .jpgディッキーが警官を殴る騒ぎを起こして監獄送りに。人生のどん底まで落ちた兄を見て、ミッキーは彼と縁を切る決断をする。ミッキーを支え続けるガールフレンドのシャーリーン(エイミー・アダムス)と共に再起をかけてトレーニングを重ねるが、そんなミッキーに、ディッキーは監獄の中からもアドバイスを送り続ける。どんなに弟に拒否されても、弟を応援し続ける兄ザ・ファイター05.jpg。そして、兄の出所の日、ミッキーはディッキーをふたたびコーチに迎え、二人三脚で再度世界の頂点を目指し始める―。

 2010年公開のデヴィッド・O・ラッセル監督作で、実話に基づいた話であるとのこと。第83回アカデミー賞で作品賞など6部門にノミネートされ、助クリスチャン・ベール メリッサ・レオ.jpg演男優賞(クリスチャン・ベール)、助演女優賞(メリッサ・レオ)の2冠を獲得しています(ゴールデングローブ賞でも5部門にノミネートされ、同じく助演男優賞、助演女優賞の2冠を獲得、第16回放送映画批評家協会賞でも助演男優賞、助演女優賞を受賞し、更にメリッサ・レオは2010年・第76回ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞も受賞している)。

第83回アカデミー賞 助演男優賞・クリスチャン・ベール(「ザ・ファイター」)、主演女優賞・ナタリー・ポートマン(「ブラック・スワン」)、助演女優賞・メリッサ・レオ(「ザ・ファイター」)、主演男優賞・コリン・ファース(「英国王のスピーチ」)

ザ・ファイター11.jpgザ・ファイター03.jpg クリスチャン・ベール(「ダークナイト」('08年))が演じた、かつては天才と言われたボクサーだったが今は自堕落な生活を送り、それでも弟ミッキーのボクサー人生に何とか関わろうとする兄ディッキーのキャラが立っていました。加えて、メリッサ・レオ演じる過干渉の母親のキツさも。この兄と母親と彼女の7人の娘(何れもバカっぽい異父姉妹軍団)に対抗するのがエイミー・アダザ・ファイター04.jpgザ・ファイター9.jpgムス演じるミッキーの恋人シャーリーンで、エイミー・アダムスも、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の両方で助演女優賞にノミネートされています。息子と家族の分断に悩まされ、しかもすべてにおいて主導権を妻に握ザ・ファイター12.jpgられ、それでも息子の将来に心を砕く父親役のジョージ・ウォードも良かったし、こうなると、一番キャラが立っていないのが、マーク・ウォールバーグ(「ザ・シューター/極大射程」('06年))がペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金.jpg演じた主人公のミッキーのような気もしますが、彼は肉体で勝負といったところでしょうか。出演料よりも肉体改造のためにトレーナーに払った費用の方が高かったとのことですが、演技そのものはそう悪くなかったように思います(マーク・ウォールバーグはその後「ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金」('13年)でジムトレーナー役を演じることになり、更に筋肉を増量することに。共演は「スコーピオン・キング」('02年)のドウェイン・ジョンソン)。

 ストーリーは、実話ベースとは言え、定番と言えば定番であり、こうした予定調和的な話では俳優の演技力が感情移入できるかどうかにかかってきますが、主要な役柄で下手な人はいなくて(むしろ上等。何せ、内2人はアカデミー賞の演技)、感情移入できる、いい映画でした(最後、ディッキーがそれまでのトラブルメーカー的な彼から変貌を遂げるのは、感動的だった)。重要なウェイトを占めるボクシングの試合シーンもよく撮れていたように思います(普通のシーンでもハンディカメラを多用している。慣れるまでちょっと時間がかかったが、リズム感のある小気味の良い映画を撮る監督だと思った)。

マーク・ウォールバーグ.jpgマット・デイモン.jpg 当初ディッキーはマット・デイモン(「ボーン・アイデンティティー」('02年))が演じる予定だったがスケジュールの都合で降板し、次の候補となったブラッド・ピットもまた他作品の出演を理由に降板、最終的にクリスチャン・ベールが務めることになりましたが、それでアカデミー賞獲得(!)かあ。因みに、クリスチャン・ベールは英国ウェールズ出身です。

マーク・ウォールバーグ(1971年生まれ)/マット・デイモン(1970年生まれ)

 主演のマーク・ウォールバーグはスウェーデン、アイルランド、イングランド、フランス系カナダ人の血を引くそうで、マット・デイモンと見た目が似ていますが(マット・デイモンもイングランド、スコットランド、フィンランド、スウェーデンの血を引く)、二人が兄弟役だったら、区別がつかなかった? また、シュガー・レイ・レナードが本人役で出演しているほか、警官兼トレーナーのミッキー・オキーフは本人が自分自身を演じています。

 因みに、ミッキー・ウォードが1997年にアルフォンソ・サンチェスを破ってライトウェルター級のチャンピオンとなったWBUは、ボクシング主要4団体(WBA・WBO・WBC・IBF)に比べ影の薄いマイナーな団体で、ミッキー・ウォードがWBU王者になったところで誰も彼には注目していなかったのが、その後、2002年から2003年にかけて"稲妻"アルツロ・ガッティと繰り広げた3連戦の死闘(1勝1敗となったためラバーマッチが行われた)で、その名を広く知られるようになりました。3戦とも激しい打ち合いの試合で、ボクシング史に残る"伝説の試合"と呼ばれています。

 兄ディッキー・エクランドがシュガー・レイ・レナードと闘った試合は、映画では実際の映像を使っているようでした。ネットで観ることができるので、スリップダウンかどうか、自分の目で確認してみるのもいいです。ミッキー・ウォードがアルフォンソ・サンチェスからタイトルを奪い、予想外の展開に実況が「アンビリーバブル!」と叫ぶ試合も、ウォードとアルツロ・ガッティとの歴史に残る名勝負と言われる3連戦の試合も、何れもクライマックスシーンをネットで観ることができます。

ディッキー・エクランド vs.シュガー・レイ・レナード  ミッキー・ウォード vs.アルフォンソ・サンチェス
 

ザ・ファイター0.jpg「ザ・ファイター」●原題:THE FIGHTER●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・O・ラッセル●製作:デイヴィッド・ホバーマン/トッド・リーバーマン/ライアン・カヴァノー/マーク・ウォールバーグ/ドロシー・オーフィエロ/ポール・タマシー●脚本:スコット・シルヴァー/ポール・タマシー/エリック・ジョンソン●撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ●音楽:マイケル・ブルック●時間:115分●出演:マーク・ウォールバーグ/クリスチャン・ベール/エイミー・アダムス/メリッサ・レオ/ミッキー・オキーフ/シュガー・レイ・レナード●日本公開:2011/03●配給:ギャガ●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-11-20)(評価★★★★)
The Fighter (2010)

マーク・ウォールバーグ in「ザ・シューター/極大射程」('06年/米)/クリスチャン・ベール in「ダークナイト」('08年/米・英)
ザ・シューター/極大射程 1.jpg ダークナイト2.jpg

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一見型破りながらも原作のホームズ像に忠実な一面もあったか。ラストがやや大味になった。

シャーロック・ホームズ 2009 dvd.jpgシャーロック・ホームズ 2009 dvd.jpgシャーロック・ホームズ 映画 2009 2.jpg
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シャーロック・ホームズ 映画 2009 00.jpg シャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr)と相棒で同居人のジョン・ワトスン博士(ジュード・ロウ)は、5人の女性を儀式で殺害したブラックウッド卿(マーク・ストロング)の新たな殺人を阻止し、ブラックウッドは警察に捕まる。ホームズは死刑宣告されたブラックウッドに刑務所で面会、ブラックウッドは更に3人が死に世界が変化するだろうと言い遺して絞首刑になり、ワトスンが死亡を確認する。3日後、プロの泥棒でであるアイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダ シャーロック・ホームズ 2009s.jpgムス)がホームズのもとを訪れ、リオドンという男の捜索を依頼、ホームズは彼女を尾行し、顔の隠れた謎の雇い主に会うところを目撃する。ブラックウッドの墓が壊され棺からはリオドンの死体が現れ、リオドンの家でホームズとワトスンは、科学と魔術の融合を目的とした実験の痕跡シャーロック・ホームズ 映画 2009 03.jpgを発見、ここでブラックウッドの手先と戦った後、修道会の寺院でそのリーダーたちに会い、ブラックウッドを止めるよう依頼される。ホームズはブラックウッドは修道会のトマス卿(ジェームズ・フォックス)の息子であると言い当てるが、彼はブラックウッドによって殺され、ブラックウッドが修道会を支配する。ブラックウッドの目的は英国政府転覆と世界征服だった。ブラックウッドはホームズへの囮としてアドラーを使い、彼女は倉庫で肉切りマシンで斬られそうになったのをホームズに助けられるが、仕掛けられた爆弾でワトスンが負傷する。ホームズはブラックウッドの次の標的は議会であると結論し、ウェストミンスターSHERLOCK HOLMES 2009 london towerロード.jpg宮殿でリオドンの実験に基づいて作られた議会室にシアン化水素を流す装置を発見する。議会室に現れたブラックウッドは事前に支持者に解毒剤を飲ませており、「自分の味方にならない者は全員死ぬだろう」と宣言、ホームズとワトスンはブラックウッドの手先と戦い、アドラーは装置からシアン化化合物を盗み出して逃げる。ホームズは未完成のタワーブリッジまで逃げたアドラーを追うが、そこに計画が失敗したことに気づいたブラックウッドも現れる―。
Guy Ritchie
シャーロック・ホームズ 2009  .jpgガイ・リッチー.jpg 2009年公開の英米合作映画で、監督は、読字障害のため15歳で学校を辞めて働き始めたというガイ・リッチー(1968年生まれ)、ホームズ役は、長年の薬物依存から脱却し、2008年公開の「アイアンマン」で復活を果たしたロバート・ダウニー・Jr(1965年生まれ)です(ロバート・ダウニー・Jrは本作のホームズ役で、ゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞)。

シャーロック・ホームズ 映画 2009 01.jpg 「東洋武術で闘うホームズ」など、今までにないアクションスタイルのホームズ像ですが、一見型破りながらも原作の記述に忠実であるとのことで、但し、これまでに映像化されてこなかった部分を重点的に映像化しているようです。確かにそうした面はあったように思われ、最初はこんなのホームズじゃないと思っていましたが、観ているうちにだんだん馴染んでくる感じがするのもそのせいでしょうか。

シャーロック・ホームズges.jpg 闘いを事前に頭の中でシミュレーションする〈ホームズ・ビジョン〉など、ベネディクト・カンバーバッチ主演のBBCのドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」にも通じるSFXなどもあって、「SHERLOCK」がスタートしたのがこの映画の公開の翌年ですから、多少はドラマが先行した映画の影響を受けたということがあるのではないかという気もし、そうでなくともなかなか先駆的です。

SHERLOCK HOLMES 2009 london tower.jpg ストーリーもそれなりに凝っているし、1890年という時代の雰囲気を出すために実写・CGの両面に渡って細かい描写が施されており、この辺りも英国がシャーロック・ホームズTower-Bridge.jpg製作に噛んでいる映画らしいという感じがしました。但し、最後の建設中のタワーブリッジ(1894年開通)でのホームズとブラックウッドの対決は、CGが勝りすぎてやや大味になった印象も受けました(米国風になった?)。娯楽映画としては悪くないですが、結果として逆に印象が弱くなったかも。

 アイリーンを雇った男はホームズの宿敵であるモリアーティ教授で、この作品では顔は見せませんが、続編があるような終わり方をしています。そして、実際(映画の興業的成功もあって)続編「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」('11年)が作られていますが、こちらはキャラクター造型だけでなく実際のコナン・ドイルの作品『最後の事件』を下敷きにしており、モリアーティも出てくるようですが個人的には未見、独立した話になっているようなので、急いで観る必要もないかなという感じでしょうか。

シャーロック・ホームズ 映画 2009  01.jpg「シャーロック・ホームズ」●原題:SHERLOCK HOLMES●制作年:2009年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ガイ・リッチー●製作:ジョエル・シルバー/ライオネル・ウィグラム/スーザン・ダウニー/ダン・リン●脚本:マイケル・ロバート・ジョンソン/アンソニー・ペッカム/サイモン・キンバーグ●撮影:フィリップ・ルースロ●音楽:ハンス・ジマー●原作(キャラクター創造):アーサー・コナン・ドイル●128分●出演:ロバート・ダウニー・Jr/ジュード・ロウ/レイチェル・マクアダムス/マーク・ストロング/エディ・マーサン/ケリー・ライリー/ジェラルディン・ジェームズ/ウィリアム・ヒューストン/ジェームズ・フォックス●日本公開:2010/03●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

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原作に忠実な文芸大作であるとともに、ジャン・ギャバンが圧倒的存在感を見せる。

レ・ミゼラブル 映画パンフレット.jpgレ・ミゼラブルdvd.jpg レ・ミゼラブル ニューマスター.jpg レ・ミゼラブル ニューマスター2.jpg
レ・ミゼラブル [DVD]」〔'02年〕/「レ・ミゼラブル ニューマスター版 [DVD]」〔'12年〕/「レ・ミゼラブルニューマスター版DVD ジャン・ギャバン主演」〔'15年〕
「レ・ミゼラブル」映画パンフレット(1959年6月1日)
les_miserables01jw.jpg 1815年のある日、ミリエル司教(フェルナン・ルドゥー)の司教館をジャン・バルジャン(ジャン・ギャバン)という名の男が訪れる。彼は、貧困からたった1本のパンを盗んだ罪で服役し、脱獄すること4回、都合19年の刑期を終え、ようやっと出所したばかりだった。行く先々で冷遇された彼を、司教は暖かく迎え入れる。しかし、その夜、大切にしていた銀の食器をバルジャンに盗まれてしまうles_miserables03jw.jpg。翌朝、彼を捕らえた憲兵に対して司教は「食器は私が与えたもの」だと告げて彼を放免させたうえに、2本の銀の燭台をも彼に差し出す。それまで人間不信と憎悪の塊だったバルジャンの魂は司教の信念に打ち砕かれ、迷いあぐねているうちに、サヴォワの少年の持っていた銀貨を結果的に奪ってしまうが、それを悔いて、正直な人間として生きていくことを誓う―。
les_miserables05jw.jpg 1819年、バルジャンはマドレーヌと名乗り、黒いガラス玉および模造宝石の事業で成功を収め、更に、その善良な人柄と言動が人々に高く評価されて町の市長になっていた。彼の営む工場でファンティーヌ(ダニエル・ドロルム)という女性が、3歳になる娘をモンフェルメイユのテナルディエ夫妻(ブールヴィル、エルフリード・フローリン)に預け女工として働にles_miserables05tw.jpgいていていたが、その後売春婦に身を落とし、あるいざこざが契機でバルジャン救われる。病に倒れた彼女の窮状を知ったバルジャンは、彼女の娘コゼットを連れて帰ることを約束する。テナルディエは養育費と称し、様々な理由をつけてはファンティーヌから金をせびっていた。モンフェルメイユへ行こうとした矢先、バルジャンは、自分と間違えられて逮捕された男のことをジャベール警部(ベルナール・ブリエ)から聞かされ、葛les_miserables06w.jpg藤の末、彼を救うことを優先し、自身の正体を公表して逮捕されるが、通算5度目となる脱獄を図る。1823年、亡きファンティーヌとの約束を果たすためモンフェルメイユにやって来たバルジャンは、村はずれの泉でコゼット(マーティン・ハーヴェット)に出会う。彼女は8歳で、テナルディエ夫妻の営む宿屋で女中としてただ働きさせられていた。バルジャンはテナルディエの要求どおり金を払い、コゼットを奪還してそのままパリへ逃亡、パリに赴任していたジャベールら警察の追っ手をかいくぐり、修道院で暮らし始める―。
les_miserables09jw.jpg パリのプリュメ通りにある邸宅に落ち着いたバルジャンとコゼット(ベアトリス・アルタリバ)は、よくリュクサンブール公園に散歩に来ていた。そんなふたりの姿をマリユスles_miserables05mw.jpg(ジャンニ・エスポジト)というの若者が見ていた。共和派の秘密結社ABC(ア・ベ・セー)に所属する貧乏な学生である。ブルジョワ出身の彼は幼い頃に母を亡くし祖父に育てられたが、ナポレオン1世のもとで働いていた父の死がきっかけでボナパルティズムに傾倒し、王政復古賛成の祖父と対立、家出していた。マリユスは美しく成長したコゼットに一目惚れする。テナルディエの長女エポニーヌ(シルヴィア・モンフォール)の助けを得て彼女の住まいを見つけ、同じころ彼に惚れていたコゼットに、ようやく出逢うことが出来、互いを深く愛し合うようになるが、les_miserables07mw.jpgles_miserables01pw.jpgコゼットはバルジャンから、1週間後にイギリスへ渡ることを聞かされる。コゼットとジャン・バルジャンとマリユスの3人を中心とした運命の渦は、ジャベール、テナルディエ一家、マリユスの家族や親しい人々、ABCの友のメンバーまで巻き込んで大きくなっていき、七月革命の混沌にあるパリを駆け回り、やがて1832年の六月暴動へと向かって行く―。

les_miserables11jw.jpg 1957年のジャン=ポール・ル・シャノワ監督作で、原作は勿論ヴィクトル・ユゴーの同名小説。Wikipediaには、「数々の映画化作品の中で、最も原作を忠実に再現された作品として高く評価されており、約10億フランの巨額を賭けて製作された巨編映画である。今日でも、古典映画の中でも特に最高傑作として評価されており、根強いファンも少なくない」とあり、実際、Amazon.comのレビューなどを見てもそれは窺えます。レビューの中には、「他の映画化作品は、2012年のミュージカル映画も含めて、興業上の理由から短く話を端折って、その代わりに、脚本家や監督、俳優の"色"を濃く打ち出して独自の商品価値を出すスタイルと考えてよく、ユーゴーの作品に着想を得た"何か別のもの"だと考えたほうが良い」といったような"通"っぽいコメントもありました。

レ・ミゼラブル ps.jpg 個人的には、トム・フーパー監督によるミュージカル映画「レ・ミゼラブル」('12年/英)も良かったように思われ、原作を忠実に映画化しているとされる本作と、ミュージカルのオリジナル脚本を忠実に映画化しているとされるトム・フーパー版を観比べてみるのも面白いかもしれません。

 確かにトム・フーパー版は、バルジャンがサヴォワの少年の持っていた銀貨を奪うエピソードが無かったりしますが(原作では、元囚人である事を明かしたバルジャンは、少年の銀貨を奪った罪で逮捕される)、全体としてものすごく改変されて"何か別のもの"になっているというまでの印象は受けませんでした。

レ・ミゼラブルO.jpg 一方、このル・シャノワ版は、約3時間の大作ですが、派手な演出や作為的な盛り上げもなく、文芸作品路線とでも言うか、物語を淡々と読み進めていくように話が進んでいき、それでいて感動を惹き起こすのは、やはり原作の力でしょうか。それともう一つ大きいのは、やはり、ジャン・バルジャンを演じたジャン・ギャバン(当時53歳)の圧倒的な存在感でしょう。トム・フーパー監督のミュージカル映画「レ・ミゼラブル」が群像劇という印象を受けるのに対し、このル・シャノワ版「レ・ミゼラブル」はジャン・ギャバン演じるジャン・バルジャンを中心とした、まさに"ジャン・ギャバン版"といった印象を受けました。

レ・ミゼラブル vhs.jpg 過去4回脱獄を繰り返した囚人で、市長になった後に再び囚われの身となるもあっさり5回の脱獄を成し遂げるとか、犯罪者集団を相手に凄んでみせて逆に連中をビビらせるとかいった役どころは、ギャング映画で鳴らしたジャン・ギャバン向き(?)。一方で、幼い少女コゼットとの取り合わせなどは、前年作「へッドライト」('56年)を彷彿させ、これはこれで絵になるという、観る前に抱いていたイメージよりもずっと"はまり役"であったよレ・ミゼラブル ポスター.jpgうな気がします(バルジャンと間違えられて逮捕された男までジャン・ギャバンが演じているのは、ちょっとした"お遊び"的要素か。ビデオジャケットにもなっているけれど、この時の役どころはジャン・バルジャンではなく"ジャン・バルジャンに間違えられた男"である)。

 1957年公開という古い映画だけに、以前のDVD(2002年アイ・ヴィー・シー版)には画質にやや難がありましたが、2012年のトム・フーパー版「レ・ミゼラブル」の公開に合わせてか、同年にデジタルニューマスター版DVDが発売されており、更に今年['15年]5月にもデジタルニューマスター版DVDが発売されています。ミュージカル乃至ミュージカル映画を観る際の予習(または復習)として観るのもいいのではないでしょうか(2020年にHDマスター版がリリースされた)

レ・ミゼラブルギャバン主演 HDマスター.jpgレ・ミゼラブル-2.jpg「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:1957年●制作国:フランス・イタリア●監督・製作:ジャン=ポール・ル・シャノワ●脚本:ルネ・バジャベル/ミシェル・オーディアール/ジャン=ポール・ル・シャノワ●撮影:ジャック・ナトー●音楽:ジョルジュ・バン・パリス●原作:ヴィクトル・ユゴー●時間:186分●出演:ジャン・ギャバン/ダニエル・ドロルム/ベルナール・ブリエ/セルジュ・レジアニ/ブールヴィル/エルフリード・フローリン/シルヴィア・モンフォール/ジャンニ・エスポジート/ベアトリス・アリタリバ/フェルナン・ルドゥー/マーティン・ハーヴェット●日本公開:1959/06●配給:中央映画社(評価:★★★★☆)

レ・ミゼラブル ジャン・ギャバン主演 HDマスター [DVD]」(2020)
レ・ミゼラブルギャバン主演 HDマスター2.jpg

レ・ミゼラブル3本.jpg
【2438】◎ ジャン=ポール・ル・シャノワ 「レ・ミゼラブル
」 (57年/仏・伊)  ★★★★☆
(ジャン・ギャバン主演)

 
 
  
   
【2440】○ ビレ・アウグスト 「レ・ミゼラブル
」 (98年/米)  ★★★☆
(リーアム・ニーソン主演)


 
  
  
【2439】 ◎ トム・フーパー 「レ・ミゼラブル
」 (12年/英)  ★★★★☆
(ヒュー・ジャックマン主演)

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今まで観たシリーズ作品の中では一番。"リップサービス"がそのままタイトルに?

007_ロシアより愛をこめてps.jpg007_ロシアより愛をこめてdvd601_.jpg 007_ロシアより愛をこめてdvd60_.jpg 007_ロシアより愛をこめてdvd_.jpg ダニエラ・ビアンキ.jpg
ロシアより愛をこめて (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]」「ロシアより愛をこめて (アルティメット・エディション) [DVD]」「ロシアより愛をこめて(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]」 ダニエラ・ビアンキ

007_ロシアより愛をこめて es.jpg 犯罪組織「スペクター」は、クラブ諸島の領主ノオ博士の秘密基地を破壊し、アメリカ月ロケットの軌道妨害を阻止した英国海外情報局の諜報員007ことジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)への復讐、それもソビエト情報局の美人女性情報員と暗号解読機「レクター」を餌にボンドを「辱めて殺す」ことで両国に泥を塗り外交関係を悪化させ、さらにその機に乗じて解読機を強奪するという、一石三鳥の計画を立案した。実はスペクターの女性幹部であるソビエト情報局のローザ・クレッ007_ロシアより愛をこめて0ges.jpgブ大佐(ロッテ・レーニャ)は、真相を知らない部下の情報員タチアナ・ロマノヴァ(ダニエラ・ビアンキ)を騙し、暗号解読機を持ってイギリスに亡命する様、また亡命時にはボンドが連行することが条件だロシアから愛をこめて.JPGと言うように命令する。英国海外情報局のトルコ支局長・ケリム(ペドロ・アルメンダリス)からタチアナの亡命要請を受けたボンドは、罠の匂いを感じつつも、トルコのイスタンブルに赴いた。しかし、そこにはスペクターの刺客・グラント(ロバート・ショウ)が待っていた―。

007_ロシアより愛をこめて700.jpg 1963年公開の007シリーズ第2作で、監督は第1作と同じくテレンス・ヤング(1915-1994)。1964年4月日本初公開時の邦題は「007/危機一発」で007/危機一発3.JPGした(意図的に誤字を使った)。1972年のリバイバル公開時に、タイトルを小説の題名に近い「007 ロシアより愛をこめて」に変えていますが、手元にある『大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150』('91年/文春文庫ビジュアル版)にもまだ「007/危機一発」とあり、但し、「ロシアより愛をこめて」と小さくカッコ付きであります(初公開時から主題歌の邦題は「ロシアより愛をこめて」だった)。この本では、ミステリーサスペンス洋画全体の中で15位に入っており、007シリーズの中では最上位にきていますが、個人的にも、今まで観たシリーズ作品の中では一番良かったかと思います。

 イアン・フレミングの原作では、英国情報部vs,ソ連情報部という構図になっているのを、映画の方は脱イデオロギー化と言うか、秘密組織スペクターを敵役にして、ソ連、英国、スぺクターの三つ巴に改変していますが、それでも、当時のソ連にとって好ましくない描写もあったため、同国ではその後007シリーズは御法度とされていたようです。一方、日本国内では、配給収入は約2億4千万円と、前作「007は殺しの番号」に比べ4倍の収入増でした。

007_ロシアより愛をこめて dv.jpg ボンドガールはダニエラ・ビアンキで、ロシアではなくイタリア出身の女優です。知的な雰囲気を醸す美形であり、彼女が演じる秘密情報員タチアナ・ロマノヴァは、偽上司クレッブ大佐(ロッテ・レーニャ)の計略で「祖国のために」ボンドを籠絡すべくスパイとして彼の下へ遣わされて、結局、ボンドのことを好きになってしまうわけで、このパターンは後のボンドガールにも多くみられるタイプであり、また彼女は、その頂点に立つと言っていいかもしれません。

ロシアより愛をこめて1.jpg 前作「007 ドクター・ノオ」('62年)のシルビア・トレンチもこれに近いですが、殺されもしなければ、ボンドとよろしくやるにも至らず、結局ボンドに追い返されてしまう脇役のボンドガールでした。そのシルビア・トレンチを演じたユーニス・ゲイソンが、この「ロシアより愛をこめて」では冒頭、ボンドとハイキングを楽しむガールフレンド役で出ていて、役名クレジットは同じくシルビア・トレンチとなっており、この辺りのお遊びは楽しいです(ボンドは結局、呼び出し指令でハイキングを途中できり上げることになるのだが)。

007_ロシアより愛をこめてq.jpg レギュラー・キャラクターは、第1作から出ていたボンドの上司にあたるM(バーナード・リー)やその秘書マネーペニー(ロイス・マクスウェル)に加えて、秘密兵器担当のQ(デスモンド・リュウェリン)が登場してコマが揃った感じです。例によって、ボンドが最初はやや珍奇で使うことはあるまいと見ていたようなアタッシュケースに仕込まれたその秘密兵器が、いざという時にボンドの窮地を救うことに...(武器以外に金貨が仕組まれていたのも計算づくだったのか)。

007_ロシアより愛をこめて8es.jpg お話の舞台は殆どイスタンブールで、ボンドがタチアナの持ち出したソ連領事館の青写真を入手する場所が聖ソフィア寺院だったりと、異国情緒充分です。ボンド・カーはまだ出てきませんが、オリエント急行からトラックへ、トラックからモーターボートと乗り継いでヴェネツィアへ向かうという流れで、世界の景勝地を飛びまわる豪華観光映画的絵作りがここに出来上がったとも言えます。

From Russia with Love .jpg オリエント急行内でのグラント(ロバート・ショウ)との対決が1つヤマ場なのですが、それまでにもボンドは、ロマの女性同士の男を奪い合っての決闘に巻き込まれたり、ラストでも、全て終わって一安心と思ったら、ホテルのメイドに化けていたクレッブに襲われたりと盛り沢山で、ノン・ストップ007_ロシアより愛をこめてls.jpg・ムービーと言っていいかも。但し、格闘アクションに関しては、ボンドとグラントの殴り合いさえも今観ると何となくやや地味で(列車内で狭い)、最後のクレッブなどは、ボンドに立ち向かうにしても靴先に忍ばせた毒針が武器とホント地味、しかも教え子のタチアナに寝返られてやや気の毒ささえも漂いました(でも、こうした手作り感にに加え、スパイの哀切感もあって悪くないか)。

007_ロシアより愛をこめてss.jpg 「ロシアより愛をこめて」の邦題は、 "From Russia with Love"の原題の意に、「ロシアを愛する以上にあなたを愛する」というタチアナの気持ちを懸けたとの説もありますが、やや無理があるのでは。この作品では、これから任務に就くボンドからマネーペニーへの書き置きとして、この"From Russia with Love"というフレーズが登場します。ボンドに恋愛感情を持つマネーペニーが色々な方法でボンドにアピールするもののボンドにその気はなく、いつも"リップサービス"のみで返すのがシリーズのお決まりとなりますが、その"リップサービス"がそのままタイトルになっているというのはちょっと面白い気がします。

007_ロシアより愛をこめて6.jpg「007 ロシアより愛をこめて(007/危機一発)」●原題:007 FROM RUSSIA WITH LOVE●制作年:1963年●制作国:イギリス●監督:テレンス・ヤング●製作: ハリー・サルツマン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャ007 ロシアより愛をこめて.2.jpegード・メイボーム●撮影:テッド・ムーア●音楽:ジョン・バリー●原作:イアン・フレミング●110分●出演:ショーン・コネリー/ダニエラ・ビアンキ/ペドロ・アルメンダリス/ロッテ・レーニャロバート・ショウ/バーナード・リー/ロイス・マクスウェル/デスモンド・リュウェ007_ロシアより愛をこめてges.jpgリン/マルティーヌ・ベズウィック/ユーニス・ゲイソン/ヴラデク・シェイバル/ヴラディク・シェイバル●日本公開:1964/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★★)
Robert Shaw(1927-78/享年51)/Lotte Lenya(1898-1981/享年83)
ロバート・ショウ in 「007 ロシアより愛をこめて」('63年)/「スティング」('73年)/「ジョーズ」('75年)
ロバート・ショー007.jpgロバート・ショー スティング.jpgロバート・ショー jaws.jpg

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敵の要塞のすぐそばでビキニ美女が貝殻採りをしているという、この緩さ(ノー天気)がいい?

007 ドクター・ノオ ps5.jpg007 ドクター・ノオ ps.jpg007 ドクター・ノオ [DVD].jpg  007 ドクター・ノオes.jpg
007 ドクター・ノオ アルティメット・エディション [DVD]」ウルスラ・アンドレス

007 ドクター・ノオ ps6.jpg アメリカの要請で、月面ロケット発射を妨害する不正電波を防ぐ工作をしていたジャマイカ駐在の英国諜報部員ジョン・ストラングウェイズ(ティム・モクソン)とその新人助手メアリー(ドロレス・キーター)が消息を絶つ。英国情報部「MI6」に所属する諜報員「007」こと、ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)はM(バーナード・リー)から、その捜査を命じられる。CIA007は殺しの番号.JPGのフィリックス・ライター(ジャック・ロード)や、クォレル(ジョン・キッツミラー)らと協力し、ボンドはリモコンによってジャイロスコープコントロールを狂わせる装置が使用され、その発信地がジャマイカ付近であることを突き止める。アメリカの月面ロケット打ち上げを目前に控え、ボンドはその妨害者の発見と危機回避のため、近づく者は一人として無事に帰ったことのない「ドラゴン」の伝説がある「クラブ・キー」のノオ博士(ジョセフ・ワイズマン)の秘密基地へ乗り込む―。

 1962 年公開の007シリーズ第1作で、1963年6月日本初公開時の邦題は「007は殺しの番号」でした(手元にある『大アンケートによるミステリーサスペンス洋画ベスト150』('91年/文春文庫ビジュアル版)にもまだ「007は殺しの番号」とある)。事前の評価はさほど高いとは言えず、同年公開された1963年度の外国映画配給収入でもベスト10にも入りませんでしたが、シリーズが続くにつれて次第に評価が高まり、同シリーズ作品の人気ランキングで上位にくることも多いようです。

007 ドクター・ノオ2.jpg そう思って観ると、第1作にしてタイトルデザイン、テーマ音楽、ヒーロー像などが確立されていると007 ドクター・ノオ 05.jpgいうのは、今思えばやはりスゴイことかも。ボンドの上司にあたる〈M〉やその秘書〈マネーペニー〉などシリーズのレギュラー・キャラクターが既に登場するしており、はっきりと名乗る形で出ていないのは、秘密兵器担当の〈Q〉ぐらいでしょうか。

ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)/マネーペニー(ロイス・マクスウェル)

 米ソの宇宙開発競争をバックにしたストーリーですが、背景そのものがやや荒唐無稽? そうした荒唐無稽さもシリーズ初期作品にほぼ連なる特徴で、例えばシリーズ第5作で若林映子、浜美枝らがボンドガールを務めた「007は二度死ぬ」('67年)でも、アメリカとソ連の宇宙船が謎の飛行物体に捉えられるという事件が起こり、米ソ間が一触即発の状態になるというのがイントロでした(殆ど円谷プロ特撮の子供向け番組のような宇宙シーンが冒頭ある)。

007 ドクター・ノオ16.jpg ボンドガールに関しては、ウルスラ・アンドレス(以前はアーシュラ・アンドレスと表記されていた)演ずるハニー・ライダーが白いビキニ姿で海から上がってくるシーンは、シリーズを通しても有名なシーンの一つとなりましたが(ウルスラ・アンドレスは007 ドクター・ノオ72.jpgスイス出身で両親はドイツ人。英語がおぼつかなく、彼女の声のみ吹き替え)、考えてみれば、「近づく者は一人として無事に帰ったことのない」と言われるクラブ島で、ビキニの美女が呑気に貝殻採りをしているというのがあまりにいい加減?(この緩さと言うか、いい加減さがいいともとれるが)。それを偶々見つけたボンドはニンマリしてしまいますが、これは、プレイボーイとしてのボンド像を早く定着させようという狙いか。

007 ドクター・ノオges.jpg007 ドクター・ノオ02.jpg 以降のシリーズ作のボンドガールは、ボンドの敵役のガールフレンドや敵国の女性スパイなど、ボンドと対立する立場からプレイボーイのボンドの手練にかかって寝返るパターンが多いため、むしろ、作戦上ボンドを誘惑しようとして、ボンドの住まいに勝手に押しかけてきて、ボンドが帰ってくる間ワイシャツ1枚でゴルフのパターの練習をしていたシルビア・トレンチ(ユーニス・ゲイソン)の方が正統派ボンドガールと言えるかも(最後はボンドに追い返されてしまうけれど、シリーズ第2作「007 ロシアより愛をこめて」('63年)にボンドのガールフレンド役で再登場する)。

 この考え方でいくと、「007は二度死ぬ」の若林映子と浜美枝は本筋のボンドガールではなく、ヘルガ・ブラントを演じたカリン・ドールがそれに該当するのか(最後、気の毒に、スペクターの秘密基地で裏切り者としてピラニアのいる人工川に落とされてしまう)。007   ドクター・ノオes.jpg但し、ボンドガールには、MI6から派遣されたボンドの助手や同一の敵を追う別の諜報機関の女性エージェントがボンドに手を貸したりボンドを出し抜いたりしながら最後はボンドとよろしくやるというパターンもあり、若林映子などはこれに該当します(日本の公安のエージェント役)。でも、敵の要塞がある島で、生活のためとは007 ドクター・ノオ(1).jpg言え法螺貝など探しているノー天気なボンドガールというのはさすがにそうしたパターンを後のシリーズ作に見出すのは難しく、そうした意味でもユニークと言えばユニークだったかもしれません(結果的には彼女も、泥川の中ボンドらを導いたり、ボンドと共にスペクターに捉えられたりと、結構頑張ったり散々な目に逢ったりするのだが、体力勝負には自信ありそうなボンドガールだった)。

007 ドクター・ノオ s.jpgdoctor no.jpg「007 ドクター・ノオ(007は殺しの番号)」●原題:007 DR. NO●制作年:1962年●制作国:イギリス●監督:テレンス・ヤング●製作: ハリー・サルツマン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/ジョアンナ・ハーウッド/バークレイ・マーサー●撮影:テッド・ムーア●音楽:モンティ・ノーマン●原作:イアン・フレミング●105分●出演:ショーン・コネリ007 ドクター・ノオ 9.2.jpeg007 ドクター・ノオw.jpgー/ジョセフ・ワイズマン/ウルスラ・アンドレス/バーナード・リー/ピーター・バートン/ジョン・キッツミラー/ゼナ・マーシャル/ユーニス・ゲイソン/007 ドクター・ノオes.jpg007 ドクター・ノオ69.jpgロイス・マクスウェル/ジャック・ロード/アンソニー・ドーソン/ティム・モクソン/ドロレス・キーター●日本公開:1963/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)

Joseph Wiseman(1918-2009/享年91)

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同じ屋根の下に夫が2人。劉暁慶、姜文らの演技力と凌子風の演出力が光る。

春桃 中文版.jpg春桃(1988) vhs  劉暁慶 姜文1.jpg 劉暁慶(1950-)61歳時.jpg  凌子風.jpg 
春桃【字幕版】 [VHS]」 劉暁慶(リウ・シャオチン、1950-)[61歳]/凌子風(リン・ツーフォン、1917-1999)
春桃01.jpg 1930年代の北京の街角。春桃(チュンタオ)(劉暁慶〈リウ・シャオチン〉)は毎日、大きな籠を背負って屑拾いに精を出していた。家では、売り物の絵を整理しながら、劉向高(リウ・シアンカオ)(姜文〈チアン・ウェン〉)が彼女の帰りを待っていた。春桃は、匪族に追われ、新婚の夫と離れ離れになって逃げてきたのだ。春桃と向高は愛し合っていたが、彼女は向高が妻と呼ぶことは許さなかった。3年後のある日、籠をChun Tao(1989).jpg背負って春桃が市場の前で、軍服を着た両足のない乞食男に呼び止められる。それは、婚礼の夜に生き別れとなった春桃の夫・李茂(リー・マオ)(曹前明〈ツァオ・チェンミン〉)だった。彼女は李茂を我が家に連れて帰り、戸惑う2人の"夫"に対し、"3人で生きていこう"と励まし慰めるのだが、この生活では当然様々な問題が噴出し、その結果、向高は家出をし、李茂は自殺を図る―。

Chun Tao(1989)

春桃04.jpg 昔の北京の下層の人々の暮らしを描くことにこだわった凌子風(リン・ツーフォン、1917-1999)監督の1988年作品で(英:A WOMAN FOR TWO)、主演の劉暁慶(リウ・シャオチン)と姜文(チアン・ウェン)は、謝晋(シエ・チン)監督の「芙蓉鎮」('86年)でも名コンビぶりを見せたほか、姜文は張姜文2.jpg藝謀(チャン・イーモウ)監督の「紅いコーリャン」('87年)での主演、劉暁慶は李翰祥(リー・ハンシャン)監督の「西太后」('84年)での主演でも知られます。因みに、劉暁慶は中国国内における最高レベルの国家第一級演員に認定されていますが、2002年に脱税容疑で逮捕され当局に日本円にして1億5000万円支払ったという過去があり、一方の姜文は、1994年に監督業に進出し、太平洋戦争中の中国の農村を舞台に村人と日本人兵士の触れ合いや過酷な運命を描いた作品「鬼が来た」('00年)でカンヌ国際映画祭のグランプリを受賞、しかしながら、当局の検閲を受けない無断出品であったことと、その後出された修正要求にも応じなかったことで、この作品は中国国内で上映禁止になった上、自身も7年間にわたる映画製作・出演禁止処分を受けたという、そんな経歴の持ち主です。

春桃 1988 o1.jpg春桃03.jpg このように、後にそれぞれかなり違った道を辿る女優と男優ですが、この作品での演技の息はぴったり合っていて、家事や仕事をしながらの淀みない流れるような掛け合いは見事です。とりわけ、2人の男たちを引っ張っていく春桃を演じる劉暁慶(リウ・シャオチン)の演技は上手いです。この作品での彼女は、後に"整形美人"とまで噂されるようになった美人スター・イメージでは無く、ちょうど鞏俐(コン・リー)が「紅いコーリャン」でデビューしたばかりの時のような素朴な逞しさと内面から来る輝きがあります。

春桃 1988 00.jpg ストーリーの方は、同じ家での女1人男2人の生活が始まるわけですが、何しろ1930年代の中国の話なので、周囲の覗き趣味的な関心や嘲りは尋常ではないものがあり、これに対し春桃ではなく男2人の方が参ってしまいます(2人ともいい人なんだけどねえ)。男2人も真剣に先のことを考えるのですが、相手を思い遣りながら且つメンツにもこだわってしまうため(相手のメンツにまで思い遣ってしまう)、結果、自己犠牲の精神と言えば美しいのかもしれませんが、実質的にはどんどんネガティブ思考になっていきます。

春桃(チュンタオ)02.jpg春桃(チュンタオ)01.jpg この辺りの、世間の目を気にせず、目の前のことだけを考えて生きている、それでいて、世間を恨むわけでもなく、困っている隣人を助けたりもする春桃の生き方と、既成の観念に囚われ、陋習的規範から抜け出せない男たちの対比が、この作品の見処ではないでしょうか。ラストに至るプロセスは重いですが、随所にユーモアも散りばめられていて、娯楽性も備えた作品であると言えます。そうしたこの作品の魅力の多くは、劉暁慶、姜文らの演技力と凌子風の演出力に支えられているのでしょう。

 最後に、「電影時報」に掲載された羅雪蛍(映画評論家)の「『春桃』について」より一部抜粋―
凌子風のキャスティングと演技への把握の確実な腕前は、中国映画界では良く知られているが、彼は俳優の才能と厳粛なる創作態度に非常な賞賛を送る。劉暁慶が10本の指の爪を真っ黒なほこりまみれにし、化粧もせず眉を描くこともせず、はじめから終わりまで白黒二通りの夷小で一言の文句を言わなかった事を賞賛する。姜文が聡明な上努力家で、全てのシ-ンの芝居を彼自身が創造した上、北京っぽい台詞まわしに非常な才能があったと賞賛する。俳優との協力関係がこのような暗黙の信頼にまで達しているのは、おそらく凌子風の、相手の身になって思いやる気配りの結果によるものだろう。

春桃02.jpg「春桃(チュンタオ)」●原題:春桃/A WOMAN FOR TWO●制作年:1988年●制作国:中国・香港●監督:凌子風(リン・ツーフォン)●脚本:韓蘭芳(シュイ・ティーシャン)●撮影:梁子勇(リャン・ツーヨン)●音楽:瞿希賢(チュイ・シーシエン)●原作:許地山●時間:94分●出演:劉暁慶(リウ・シャオチン)/姜文(チアン・ウェン)/曹前明(ツァオ・チェンミン)/馮漢元(フォン・ハンユアン)●日本公開:1994/12●配給:TJC東光徳間(評価:★★★★)

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五月革命に翻弄される田舎のブルジョワたちの人間模様。フランスの田舎を美しく撮っている。

五月のミル dvd.jpg 五月のミル MILOU EN MAI DVD.jpg 五月のミル ピクニック.jpg  美しき諍い女 _.jpg
「五月のミル」[DVD]「五月のミル【HDニューマスター版】 [DVD]」ミシェル・ピコリ主演「美しき諍い女 無修正版 [HDリマスター版] Blu-ray
五月のミル 母の死.jpg 1968年5月のパリ五月革命の最中、南五月のミル 0.jpg仏ジェール県の当主ヴューザック家夫人(ポーレット・デュボー)が突然の発作で死ぬ。長男のミル(ミシェル・ピコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝えようとするがストで電話が繋がらない。ようやく駆け付けたミルの娘カミーユ(ミュウミュウ)と五月のミル ザリガニ.jpgフランソワーズたち3人の子、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とそのレズビアン友達マリー=ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショーソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちの話題は革命と遺産分配のことばかり。立派な邸宅を売ったらゴルフ場にもできるというカミーユとジョルジュにミルは怒りを爆発させ、小川へザリガニ捕りに行く。カミーユと幼馴染みの公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、小間使いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知って一同は驚くが、気のあるミルだけは喜ぶ。パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール五月のミル milou-en-mai.jpg=アラン(ルノー・ダネール)が共産党嫌いのグリマルディ(ブルーノ・カレット)のトラックに乗せてもらって屋敷に現われる。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じる。その夜、屋敷に現われた村の工場主夫妻から、ド・ゴール大統領が姿を消していて、ブルジョワは殺されると知らされた一同は、森の洞窟へと逃げる。疲労と空腹で一夜を過ごした彼らのもとにアデルがやって来て、ストが終ったことを知らせる。いつしか彼らの心の中には、屋敷を売る考えはなくなっていた。無事に葬儀は終わり、人々も帰るべき場所へと帰って行き、屋敷には再びミルだけが残される―。

田舎の日曜日 1984 dvd.jpgお葬式 映画 dvd.jpg ルイ・マル監督の1989年作品(公開は1990年)。ミルが住む美しい田舎へ娘や孫たちがやって来てまた慌ただしく去っていくという設定は、ベルトラン・タヴェルニエ監督の「田舎の日曜日」('84年/仏)を想起させますが、ストのため埋葬できない遺体を差し置いて、遺産相続の話で親族同士が揉め、更に、久しぶりに、或いは新たに出会った男女が急速に接近するなどといった色恋も交えた展開は、伊丹十三監督の「お葬式」('84年/ATG)に近いかも。

田舎の日曜日[デジタルリマスター版] [DVD]」「伊丹十三DVDコレクション お葬式

五月のミル3.jpg ブルジョワ階級出身のルイ・マル監督が五月革命に翻弄されるブルジョワを風刺と皮肉を込めて描いた作品ととれますが、アイロニカルな部分がことさらに強調されているわけではなく、その点において自然であるとともにやや中途半端か。むしろ、政治的なことは抜きにして、単純に集団劇として見た場合に結構面白いのではないでしょうか(ルイ・マルの頭にはアントン・チェーホフの『桜の園』があったという。また、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」的な作りをも意識しているらしい)。

五月のミル pikori.jpg ミルは母親の死に一度慟哭しますが、その後は親族たちのドタバタに振り回され、そうした中で弟の後妻リリーと急速に接近(それまでも小間使いのアデルと恋人関係にあったようだが)、娘のカミーユは幼馴染みの公証人のダニエルとの関係が再燃したようで、レズビアンだったはずのマリー=ロールはピエール=アランと親密になり、それに対抗するようにクレールもトラック運転手のグリマルディと親しくなります(何だか、親戚と他人が入り混じった乱交状態みたいになってくるね)。

五月のミル ピクニック2.jpg こうした人同士の関係の化学変化が、ミルの突然思い立ったザリガニ捕りや(これも相続争い対する嫌気から逃れたい気持ちからの行動だと思うが)、関係者総出でのピクニックを通して描かれ、美しい自然の中で人々の気持ちが解放され、行動が大胆になっていく一方、屋敷を売ってどうのこうのといった考えは消えていき、また、それは同時に、屋敷を売りたくないミルの思惑に沿ったものになっているというのは、観ていてまずますスムーズな流れです。

五月のミル rasuto.jpg しかし、ミル自身は、屋敷は売らずに済んだものの、最後は小間使い兼恋人のアデルにも婚約者がいて彼女も去っていくという目に遭います(意外としたたかな女性だった)。リリーも去ってアデルも去り、残されたミルは、もう誰もいない屋敷で亡き母の幻影とダンスを踊る―ミルの老境の孤独を感じさせるエンディングで、初黒澤明が選んだ100本の映画 (文春新書).jpg黒澤明         .jpgめ「田舎の日曜日」→中ほど「お葬式」→ラスト再び「田舎の日曜日」といった感じの作品ですが、「田舎の日曜日」同様にフランスの田舎を美しく撮っている作品でもあります。黒澤明(1910-1998)監督の娘である黒澤和子氏によれば、黒澤明が生前評価していた作品でもあるようです(黒澤和子『黒澤明が選んだ100本の映画』('14年/文春新書))。

 この作品、オリジナルタイトルは Milou en mai(「5月のミル」) だけれども、英文タイトルだと May Fools(「5月の愚か者たち」) になっているなあ。

                               ミシェル・ピコリ/エマニュエル・ベアール
美しき諍い女 poster .jpgジャック・リヴェット.jpg美しい諍い女41.jpg ミシェル・ピコリ(1925-2020/享年94)は「最後の晩餐」('73年/伊・仏)や「自由の幻想」('74年/仏)にも出ていた俳優ですが、この映画の翌年、今年['16年]1月に亡くなったジャ美しい諍い女051.jpgック・リヴェット(1928-2016/享年87)監督(この人もヌーヴェルヴァーグの中心的人物である)の「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年)に出演しています。高名であるが世捨て人の画>家(ミシェル・ピコリ)が、もともとモデルだった妻(ジェーン・バーキン)とプロヴァンスの片田舎にある古城で静かに暮らしているところへ、一人の若い画家が恋人(エマニュエル・ベアール)を連れて彼のもとを訪れると、画家は彼女をモデルにする事で、自分が長い間打ち捨てていた作品「美しき諍い女」の制作を再開する気になるというものです。ノーカット版は3時間57分ですが、当時['93年]VHS版(1時間31分)で観てしまいました(ジャック・リヴェット監督が別撮りのフィルムでテレビ用にシー美しい諍い女03.jpgンを変更した2時間5分の別バージョン「美しき諍い女ディヴェルティメント」が1993年に劇場公開されているが、現在は約4時間のオリジナル完全版がEmmanuelle Béart Mission:Impossible (1).jpgDVD・Blu-ray化されている)。エマニュエル・ベアールは作中を通じてほとんど全裸であり、「ワイセツか芸術か」の物議をかもした問題作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています(エマニュエル・ベアールはブライアン・デ・パルマ監督の「ミッション:インポッシブル」('96年/米)でトム・クルーズの相手役に抜擢された)。個人的には、画家のアトリエのある古城の別荘がヨーロッパ的でいい感じでした(ウラヤマシイ)。

『知られざる傑作 他五編』.jpg知られざる傑作.JPG 原作は1831年発表のオノレ・ド・バルザック(1799-1850/51歳没)の代表的短編(バルザック自身は1932年2月と記しているがこれはおそらく誤り)とされる「知られざる傑作」であり、岩波文庫『知られざる傑作 他五編』に収められています。カバー(旧版だと帯)に結末が書いてあることからも窺えるように、あくまでも文学作品ですが、リヴェット監督は文庫で50ページ足らずのこの作品を4時間の映画にしたことになります。映画の個人的の評価は★★★★、原作の個人的評価も★★★★。岩波文庫収録の短編の中ではこれが一番よく、個人的には「抽象画の誕生」というタイトルを付けたい内容でした。
知られざる傑作―他5篇 (1948年) (岩波文庫)

知られざる傑作 他五編 (岩波文庫)
1928年11月初版
1965年1月第33刷改版
2015年4月第88刷
水野 亮:訳



ミシェル・ピコリ in「最後の晩餐」('73年/伊・仏) with マルチェロ・マストロヤンニ
「最後の晩餐」4.jpg 「最後の晩餐」2.jpg

五月のミル  .jpg五月のミル シネヴィヴァン 1990.jpgMay Fools (1990).jpg「五月のミル」●原題:MILOU EN MAI●制作年:1989年(公開年:1990年)●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:ルイ・マル/ヴィン・セントマル●脚五月のミル 06.jpg本:ジャン=クロード・カリエール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:ステファン・グラッペリ●時間:107分●出演:ミュウミュウ/ミシェル・ピコリ/ミシェル・デュショーソワ/ブルーノ・カレット/ポーレット・デュボー/ハリエット•ウォルター/マルティーヌ・ゴーティエ/ドミニク・ブラン/ロゼン・ル・タレク/フランソワ・ベルレアン/ルノー・ダネール●日本公開:1990/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(90-10-10)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-04-18)(評価:★★★☆)
「五月のミル」テーマ(ステファン・グラッペリ)


美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組).jpgミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン  「美しき諍い女(いさかいめ)」●原美しき諍い女  ジェーン・バーキン.jpg題:LA BELLE NOISEUSE(英:BEAUTIFUL TROUBLEMAKER)●制作年:1991年●制作国:フランス●監督:ジャック・リヴェット●製作:マルティーヌ・マリニャック●脚本:パスカル・ポニツェール/クリスティーヌ・ロラン/ジャック・リヴェット●撮影:ウィリアム・リュプチャンスキー●音楽:イゴール・ストラヴィンスキー●原作:「バルザック 知られざる傑作」●時間:91分(VHS版)・131分(2時間編集版)・237分(ノーカット版)●出演:ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ/マリー・ベリュック/マリー=クロード・ロジェ●日本公開:1992/05●配給:コムストック(評価:★★★★) 
美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組) [DVD]」[237分]

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戦争の悲劇を描いたマルグリット・デュラス原作(脚本)の映画化作。DVD化されていない名作。

かくも長き不在 ポスター.jpgかくも長き不在 vhs.jpg かくも長き不在 01.jpg かくも長き不在 ちくま.jpg
輸入版ポスター/「かくも長き不在」VHS/『かくも長き不在 (ちくま文庫)

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE.jpg パリ郊外でカフェを営むテレーズ(アリダ・ヴァリ)はある日、店の前を通る浮浪者に目を止める。その男(ジョルジュ・ウィルソン)は16年前に行方不明になった彼女の夫アルベールにそっくりであった。テレーズはその男とコンタクトをとるが、その男は記憶喪失だった―。

 アンリ・コルピ(1921-2006/享年84)監督の1961年公開の作品で、この人は映画監督の他に雑誌編集者、脚本家、音楽家、編集技師として幅広く活動した人ですが、逆に単独監督した作品として有名なのはこの一作くらいではないでしょうか。但し、この作品でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しています。

 この作品もある種"企画"的側面があり、原作者のマルグリット・デュラス(1914-1996/享年81)は1960年にこの物語を、同じくデュラスマルグリット・デュラス.jpgの小説『モデラートカンタービレ』(原題:Moderato Cantabile, 1958年)を原作としジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルモンドが主演した「雨のしのび逢い」('60年/仏・伊)の脚本家ジェラール・ジャルロと共同でいきなり脚本から書き起こしていて、それは「ちくま文庫」に所収されています。
Marguerite Duras(1914 - 1996)
かくも長き不在 02.jpg
 戦争の悲劇を描いた感動作ですが、マルグリット・デュラスの作品の中でも分かり易く、また、件(くだん)の浮浪者は果たしてテレーズの夫であるのかどうかという関心から引き込まれます。そして、事実は結末で意外な形で示唆されますが(テレーズの呼んだ夫の名を街の人が次々と伝えていき、それに反応する形で浮浪者が降参するかのように両手を上げるのが悲しい)、その前のテレーズと浮浪者のダンスシーンなども、ぎこちなく二人が抱き合うところなどは逆にリアルで感動させられ、定番的な作り物にしてしまわない脚本と演出の上手さが感じられました。

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE aridabari.jpg アリダ・ヴァリはキャロル・リード監督の「第三の男」('49年/英)が有名ですが、この作品を観ると、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「さすらい」('57年/伊)で夫と別れて暮らすことになった妻を演じていたのを思い出します。「さすらい」において、夫は疲弊して妻の元に戻りますが、アリダ・ヴァリ演じる妻は既に新たな生活を築いており、夫は妻の目の前で自死を遂げます。

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE 1.jpg この「かくも長き不在」においても、アリダ・ヴァリ演じるテレーズには日常においては暗さは無く、16年前にゲシュタポに捕えられたまま消息を絶った夫の帰りを待ちながらも店を営んで逞しく生活しており、若い恋人までいるような様子であって、そこへ抜け殻のようになって現れた"夫かもしれない男"との対比が、逆に男の心的外傷によるトラウマの闇の深さを際立たせています。テレーズが男とぎこちないダンスをした際に、男の頭部の傷に気づく場面はぞっとさせられますが、一方で、そのことにより"夫かもしれない男"に憐れみと慈しみを覚えるテレーズの表情は、まさにアリダ・ヴァリにしか出来ないような演技であり、この作品の白眉と言えます。

 因みに、この映画を観て、いくら心的外傷を負ったとは言え、自分の夫と他人の区別がつかないものだろうかという慰問を抱く人がいますが、心的外傷だけでなく記憶中枢である海馬を損傷するなど脳に器質的障害を負った場合、その人の顔つきまでも全く変わってしまうことが見受けられるようで、個人的にもそうしたケースに接したことがあります。

「二十四時間の情事」1.jpg マルグリット・デュラスは多くの作品を残しながら自身も監督業を手掛けていますが、どちらかと言うと原作や脚本を書いたものを別の映画監督が映画化したものの方が知られており、有名なものでは原作・脚本を書き、アラン・レネが監督してカンヌ国際映画祭FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞を受賞した「二十四時間の情事」('59年/仏・日)がありますが、こちらもモチーフとしてナチの収容所体験を持つ女性が出てきます。ヌーヴェル・ヴァーグの色合いを感じる作品で、観念的な原作の文脈でそのまま映像化するとこんな感じかなという作品ですが、これもオリジナルよりは分かり易くなっています。同じアラン・レネ監督の、後にノーベル文学賞を受去年マリエンバートで 01.jpg賞する作家アラン・ロブ=グリエ(1922-2008/享年85)原作の「去年マリエンバートで」('61年/仏)ほどには前衛的ではなく、デュラスの小説の映画化作品は、小説より分かり易くなる傾向にあるように思います(それでもまだ難解な面もあるが、「去年マリエンバートで」のように観ていて眠くなる(?)ことはない)。デュラスの小説『ジブラルタルから来た水夫』を原作とするトニー・リチャードソン監督の「ジブラルタルの追想」('67年/英)なども、えーっ、原作ってこんなラブロマンスなの、というようなハーレクイン風の仕上がりで、ここまで噛み砕いてしまうとどうかなというのはありますが、さすがにこの作品は自身で脚本までは書いていないようです。

UNE AUSSI LONGUE ABSENCE 7.jpg 「かくも長き不在」のちくま文庫版の原作脚本を読むと、自身で監督したものに有名な作品は無いけれど、(脚本家の協力・示唆はあったにせよ)小説的効果と映画的効果の違いはわかっていた人ではないかという気がします。特に、この映画のラストの男を呼ぶ声が伝言のように街中を伝わっていく場面は、映画的シチュエーションの極致と言ってよいかと思います。

 しかし、この「かくも長き不在」、以前はビデオとLD(レーザーディスク)で発売されていたけれど、2014年現在DVD化はされていないようです。どうして?(2015年完成の4Kスキャン→2K修復画質により2018年に初めてDVD&Blu-ray化された)

かくも長き不在 シアターアプル.jpgUNE AUSSI LONGUE ABSENCE 3.jpg「かくも長き不在」●原題:UNE AUSSI LONGUE ABSENCE●制作年:1960年●制作国:フランス●監督:アンリ・コルピ●脚本:マルグリット・デュラス/ジェラール・ジャルロ●撮影:マルセル・ウェイス●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:98分●出演:アリダ・ヴァリ/ジョルジュ・ウィルソン/シャルル・ブラヴェット/ジャック・アルダン/アナ・レペグリエ●日本公開:1964/08●配給:東和●最初に観た場所:新宿シアターアプル(85-04-21)(評価:★★★★)
ポスター(イラスト:和田 誠

二十四時間の情事 02.jpg「二十四時間の情事」●原題:HIROSHIMA 二十四時間の情事_.jpgMON AMOUR●制作年:1959年●制作国:フランス・日本●監督:アラン・レネ●脚本:マルグリット・デュラス●撮影:サッシャ・ヴィエルニ/高橋通夫●音楽:ジョヴァンニ・フスコ(イタリア語版)/ジョルジュ・ドルリュー●時間:90分●出演:エマニュエル・リヴァ/岡田英次/ステラ・ダサス/ピエール・バルボー/ベルナール・フレッソン●日本公開:1959/06●配給:大映●最初に観た場所:京橋・フィルムセンター(80-07-15)(評価:★★★★)
二十四時間の情事 [DVD]

去年マリエンバートで  チラシ.jpg去年マリエンバートでes.jpg「去年マリエンバートで」●原題:L'ANNEE DERNIERE A MARIENBAT●制作年:1961年●制作国:フランス・イタリア●監督:アラン・レネ●製作:ピエール・クーロー/レイモン・フロマン●脚本:アラン・ロブ=グリエ●撮影:サッシャ・ヴィエルニ●音楽:フランシス・セイリグ●時間:94分●出演:デルフィー去年マリエンバートで ce.jpgヌ・セイリグ/ ジョルジュ・アルベルタッツィ(ジョルジョ・アルベルタッツィ)/ サッシャ・ピトエフ/(淑女たち)フランソワーズ・ベルタン/ルーチェ・ガルシア=ヴィレ/エレナ・コルネル/フランソワーズ・スピラ/カリン・トゥーシュ=ミトラー/(紳士たち)ピエール・バルボー/ヴィルヘルム・フォン・デーク/ジャン・ラニエ/ジェラール・ロラン/ダビデ・モンテムーリ/ジル・ケアン/ガブリエル・ヴェルナー/アルフレッド・ヒッチコック●日本公開:1964/05●配給:東和●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会(81-05-23)(評価★★★?)●併映:「アンダルシアの犬」(ルイス・ブニュエル)

THE SAILOR FROM GIBRALTAR PERFORMER.jpg「ジブラルタルの追想」●原題:THE SAILOR FROM GIBRALTAR PERFORMER●制作年:1967年●制作国:イギリス●監督:トニー・リチャードソン●製作:オスカー・リュウェンスティン●脚本:クリストファー・イシャーウッド/ドン・マグナー/ジブラルタルの水夫.jpgトニー・リチャードソン●撮影:ラウール・クタール●音楽:アントワーヌ・デュアメル●原作:マルグリット・デュラス「ジブラルタルから来た水夫(ジブラルタルの水夫)」●時間:90分●出演:ジャンヌ・モロー/イアン・バネン/オーソン・ウェルズ/ヴァネッサ・レッドグレーヴ●日本公開:1967/11●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-12)(評価:★★☆)●併映:「悪魔のような恋人」(トニー・リチャードソン)(原作:ウラジミール・ナボコフ)
ジブラルタルの水夫

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ジョン・ネトルズが主役を演じた最後のエピソード。長らくの間お疲れ様でした。

第81話「安らぎのスパ殺人」dvd.jpg 第81話「安らぎのスパ殺人」.jpg Midsomer Murders Fit for Murder 2.jpg
"Midsomer Murders" Fit for Murder(安らぎのスパ殺人)

Midsomer Murders Fit for Murder 1.jpg ルーク・アーチボルド(ジェイソン・デュール)の経営するスパ&ホテルに、ジョイスとバーナビーは休みを利用して滞在することにする。バーナビーは、性に合わないので、文句を言い続けるばかりだった。やがて来るバーナビーの誕生日も何やら気掛かりな様子だった―。

Midsomer Murders Fit for Murder 0.jpg シーズン13の第8話(最終話)で、これまで通算81話に渡ってトム・バーナビー警部をを演じてきたジョン・ネトルズの最後の主演作ということで、本筋のミステリと併せて、バーナビーが引退を決意するという図太いサイドストーリーがあります。

 でも、ミステリの方も、いつもながらにジョイスの行くところに事件ありで、スパの客の女性キティが殺害され、スパの経営者ルーク・アーチボルドが殺害され、更に、先に殺された女性客の夫ケニーは行方不明で...と、相変わらずの複数殺人やら行方不明者やらで、一応は手を抜かず展開されていたように思います。

第81話「安らぎのスパ殺人」02.png 並行して、バーナビーの気掛かりの元が少しずつ明かされてきて、それは誕生日と同じ日に亡くなった父親に対する思いと(その日に限って、いつもの父親の誕生日と同じように一緒に釣りに行くことをしなかった自分に対する悔恨)、自分も父親と同じ年齢の誕生日、つまり間近に迫っている次の誕生日に死ぬのではないかという不安であったようです(既に誕生日が近づくつれて体調に変調をきたしていた)。

第81話「安らぎのスパ殺人」01.jpg ミステリの方は、サイドストーリーに圧迫されて、スパ経営者の妻と小説を書いているという女性の2人とそれを取り巻く男達の確執の経緯や、犯人の犯行動機とかが分かりにくかったかな。一応、このシリーズではここのところ、犯人が捕まった後、自らの殺人を丁寧に振り返ってくれる傾向にはあるのだけれど。

 突然、瞑想用の庭の噴水が噴き出して、びっくりして逃げ帰るトレーナーと、そこから行方不明者を突き止めるバーナビー(重傷を負ったままバルブに寄り掛かっていたわけか)、バーナビーが瞑想トレーナーの娘の透視術のインチキを見破ったかと思ったら、誰にも話していない自分の不安の源を言い当てられ、彼女の透視能力はホンモノだったとか、細部に見所はありました。

第81話「安らぎのスパ殺人」引退発表.jpg 事件解決後のエピローグに多い目に時間を割き、無事に誕生日を迎えたバーナビーが誕生パーティの席で突然の引退発表、唖然とするジョーンズも、事件現場からの呼び出し電話に当地に転任してきた従兄弟のジョン・バーナビー警部(ニール・ダジョン Neil Dudgeon)を電話口に出させる彼の姿を見て上司の引退を既定の事実として受け入れたのか、事件現場へ向かうために辞去する前に思わずバーナビーにハグ(いい場面!)、残されたジョイスのほっとしたような表情から、バーナビーの引退決意の理由はここにあったのだなあと。

第81話/安らぎのスパ殺人 誕生パーティー.jpg 引退はちょっと勿体ない気もしましたが(ジョーンズは今回も思い込みから誤認逮捕Midsomer Murders Fit for Murder 3.jpgしそうな感じでやや頼りなかったし)、あちらでは自分で引退をする時期を決め、後はリタイア後の人生を楽しむというのがむしろ普通なのかも。バーナビー警部を演じるジョン・ネトルズは1943年生まれで、1997年(54歳)から13年間主役張っており、67歳と言えばかなりいい歳ではありますが。

 ジョン・ネトルズ自身は「(引退するのは)とても悲しいが、(バーナビーは)約200件もの事件を解決した。目標は達成したと思う」と話しているそうです。正確には15シーズンで208件の殺人事件があったそうで、1話当たり概ね2.5人殺害されているわけか)。バーナビーもジョン・ネトルズも長らくの間お疲れ様でした。

アイソレーションタンク2.jpgアイソレーションタンク1.jpg 因みに、このエピソードの中でジョイスがスパで試そうとしたしたフローティングタンクは「アイソレーションタンク」と呼ばれるもので、都内にも利用可能なエステや「癒しのスペース」のようなものがあるみたいですが、装置は外国製のものを使っているようです。海外では、複数人数で浸かれるような大きなタンクもあるようです。アルタード・ステーツ tirasi.jpgアルタード・ステーツ2.jpg一度利用してみたい気もするけれど、このタンク見ると、ケン・ラッセル監督の「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」('79年/米)を思い出して、ちょっと怖い気もしないでもない(少なくとも閉所恐怖症の気がある人は無理だろうなあ)。パディ・チャイエフスキーのSFが原案の映画では、感覚遮断実験のための装置として使われていましたが、タンクそのものの原理はほぼ同じだろうなあ(当時アメリカで、「タンキング」と呼ばれるこの種の瞑想法が流行っていた)。ウィリアム・ハート演じる科学者が、タンクを使って自らを実験台にし、人類進化の過程を意識面で遡っていくが、それが身体にまで影響を及ぼすというものでした(まあ、映画を観ていても、いくら何でもこれはあり得ないとは思いましたが)。

Church End seen in 'Fit for Murder'.jpg「バーナビー警部(第81話)/安らぎのスパ殺人」●原題:MIDSOMER MURDERS:FIT FOR MURDER●制作年:2011年●制作国:イギリス●本国上映:2011/11/15●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:アンドリュー・ペイン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ•ディロン/ローラ・ハワード/ニール・ダジョン/ジェイソン・デュール●日本放映:2013/10/25●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)
Church End seen in 'Fit for Murder'

ALTERED STATES.jpgアルタード・ステーツa.gif「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」●原題:ALTERD STATES●制作年:1979年(米国公開1980年)●制作国:アメリカ●アルタード・ステーツ b.gif監督:ケン・ラッセル●製作:ハワード・ゴットフリード●脚本:シドニー・アーロン●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ジョン・コリリアーノアルタード・ステーツ dvd.png●原作:パディ・チャイエフスキー●時間:101分●出演:ウィリアム・ハート/ドリュー・バリモア/ブレア・ブラウン/ボブ・バラバン/チャールズ・ヘイド●日本公開:1981/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿・京王地下(81-05-17)(評価:★★★)「アルタード・ステーツ 未知への挑戦 [DVD]

1977年8月6日 新宿京王 京王地下.jpg京王新宿ビル3.jpg京王三丁目ビル - 2.jpg 新宿京王・京王地下(京王2)新宿3丁目伊勢丹はす向い京王新宿ビル(現・京王三丁目ビルの場所)。1980年代後半に閉館。

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ロシアン・ゴチック・ミステリー。プロットはともかく、独特の雰囲気を持った作品。
Savage Hunt of King Stakh (1979).jpg
スタフ王の野蛮な狩り ポスター.jpgスタフ王の野蛮な狩り スタフ王.jpg スタフ王の野蛮な狩り4.jpg
"ДИКАЯ ОХОТА КОРОЛЯ СТАХА"「The Savage Hunt of King Stakh / Dikaya Okhota Korolya Stakha [Import] [DVD]

スタフ王 主人公.jpgスタフ王2.jpg 1899年、ベロルシアのポレーシエ村に、ペテルスブルグートニコフの大学生アンドレイ・ベロレツキー(ボリス・プロ)が、民俗学研究として民話の取材にやって来た。彼が雨やどりをした古い館には、美しい女性ナジェージタ(エレン・ディミートロワ)が住んでいた。17世紀始めのポレーシエには、「スタフ王」と呼ばれる農奴制の改革を訴えて決起した農民らにとっての英雄がいたが、反目する金持の貴族ロマン・ヤノフスキーによってスタフは狩猟中に殺害され、今際の際(いまわのきわ)に、ヤノフスキー家の一族を呪い殺すことを誓ったという。その最初の儀牲者となったのがロマン・ヤノフスキーで、ナジェージタはヤノフスキーの最後の血縁者だった―。

スタフ王 儀式.jpgスタフ王の野蛮な狩り 小人.jpg アンドレイはこの家で、ナジェージダが全裸で羽毛に包まれ召使いの老婆が呪文を唱えていたり、執事が怪しげな行動をとったりするなど、不思議なことを目撃する。ナジェージタの誕生パーティが開かれ、彼女の伯父ドゥボトフク(ロマン・フィリッポフ)が、高価な贈り物をする。やがて執事が殺され、彼の弟の小人の存在が明らかになる。そのころ村では、スタフ王の亡霊が出没し、人々を恐怖の底に陥れていた。アンドレイは村人たちを励ましてスタフ王と騎士たちに挑み、その正体を明らかにする―。

King Stakhs Wild Hunt.jpgスタフ王9.jpg ロシアン・ゴチック・ミステリーいう感じでしょうか。「ベロルシア」は「ベラルーシ」のことで(従って今のロシアには含れない)、ポレーシエは湿地帯の多い地方のようです(コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』の舞台になった英国のダートムアみたいな感じか)。ベラルーシの作家ウラジミール・コロトケヴィチの作品を基に映画化されたそうで、この作家がどういう作品を書いているのかよく分からないのですが、スタフ王伝説というのは実際にあるそうです。

King Stakh's Wild Hunt [NOOK Book(USA)]
スタフ王1.jpg
 冒頭からおどろおどろしい雰囲気に満ちていて、古城や貴族の邸などもホンモノらしいスケールを感じさせましたが、観終わってみれば「な~んだ」という感じがしなくもないプロットでした。でも、それは観終わってから思うことであって、民話的・幻想的な雰囲気は、観る側を引き込むものがあったと思います。「ソ連」のミステリ映画ってそれまで観たことが無かったし、そもそも最初に観た時はミステリ映画だとは知らないで観たので、展開の予測がつかなかったというのもあったと思います。

 ラストが、"スタフ王"をやっつけて目出度し目出度しではなく、アンチカタルシス気味の作りになっているため、この辺りで作品への"評価"と言うより"好み"が分かれるかも。個人的には、冒頭勢いがあっただけに、その分、中盤がやや緩慢に感じられました。まあ、他にあまり類の無い、独特の雰囲気を持った作品であることは間違いないです。

スタフ王の野蛮な狩り 5.jpg「スタフ王の野蛮な狩り」●原題:ДИКАЯ ОХОТА КОРОЛЯ СТАХА(THE SAVAGE HUNT OF KING STACH)●制作年:1979年●制作国:ベロルシア共和国(ベラルーシ共和国)●監督:ワレーリー・ルビンチク●脚本:ウラジミール・コロトケヴィチスタフ王の野蛮な狩り 娘.png/ワレーリー・ルビンチク●撮影:タチャーナ・ロギーノワ●音楽:エフゲニー・グレボフ●原作:ウラジミール・コロトケヴィチ"King Stakh's Wild Hunt"(Belarusian: Дзікае паляванне караля Стаха)●時間:109分●出演:草月ホール.jpgボリス・プロートニコフ/エレン・ディミートロワ/ワレンチナ・シェンドリコワ/アルベルト・フィローゾフ/ロマン・フィリッポフ●日本公開:1983/05●配給:日本海映画●最初に観た場所:赤坂・草月ホール(83-06-11)(評価:★★★☆)●併映(同日上映):「戦火を越えて」(レーゾ・テヘイゼ)/「七発目の銃弾」(アリ・ハムラーエフ)/「ジプシーは空に消える」(エミーリ・ロチャヌー)/「狩場の悲劇」(エミーリ・ロチャヌー)
草月ホール 赤坂・草月会館(1958年竣工・1977(昭和52)年建て替え)内

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逆トリックに乗った犯人に疑問が残るが、船旅というシチュエーションは楽しめた。

歌声の消えた海 vhs.jpg 刑事コロンボ 歌声の消えた海 ヴォーン.jpg アドベンチャー・ファミリー 01.jpg スーパーマンIII 電子の要塞 [Blu-ray].jpg
特選 刑事コロンボ 完全版「歌声の消えた海」【日本語吹替版】 [VHS]」Robert Vaughn「アドベンチャー・ファミリー [DVD]」「スーパーマンIII 電子の要塞 [Blu-ray]

刑事コロンボ 歌声の消えた海 title.jpg メキシコ・アカプルコへ向かう豪華客船で、中古車ディーラーのヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン)は、不倫関係にあり、不倫をネタに恐喝されていた、船専属のショー歌手ロザンナ(プーピー・ボッカー)を殺害、ロザンナに言い寄っていPoupée Bocar.jpgDean Stockwell.jpgたピアニスト、ロイド(ディーン・ストックウェル)に容疑がかかるよう工作を行う。船長は、たまたま缶詰の懸賞に当選し、夫婦で観光で船に乗り込んでいたコロンボを呼び出し、非公式に捜査を依頼することにする―(結局、"カミさん"は映像上一度も出てこないのだが..)。
Poupée Bocar(プーピー・ボッカー)/ Dean Stockwell(ディーン・ストックウェル)

刑事コロンボ 歌声の消えた海 02.jpg 第29話であり、テレビシリーズ「0011/ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーン演じる犯人は、第24話「白鳥の歌」のジョニー・キャッシュが演じたカントリー&ウェスタン歌手、第25話「権力の墓穴」のリチャード・カイリーが演じたロス市警次長、第27話の「逆転の構図」のディック・バン・ダイクが演じた写真家に続く、「恐妻家」乃至「資産家の奥さんの尻に敷かれている旦那」といったところですが、こっちはこれまでの彼らのように奥さんを殺すのではなく、愛人の方を殺してしまいます。
刑事コロンボ 歌声の消えた海 01.jpg
 犯行現場となった船に最初からコロンボが乗り合わせていたというところからいつもと違って楽しく、大体このシリーズ、あまり定型パターンを外れると意外と面白くなくなるのですが(特に新シリーズにそういうのが多い)、この作品は船内のシチューションや小道具などが上手く謎解きに活かされていて楽しめました(コロンボがいつものよれよれのコートで登場するのは、出航の直前に職場から船に駆け付けたことが冒頭に示唆されている)。

刑事コロンボ 歌声の消えた海3.jpg 撮影には随分費用がかかっているのではないかなあと思いましたが、実際にメキシコのマサトラン経由でアカプルコに向かうクルーズ(出港地はサンフランシスコ)を利用して行なわれ、エキストラは本当の乗船客だったそうです。

 ロバート・ヴォーンの落ち着いた犯行ぶりは様になっていて、一方のコロンボは、船酔いに遭いながらも捜査のためvあちこち走り回っている感じで、船に鑑識係がいるでもなく、指紋、硝煙反応のチェックなども自分でやっている―しかし、意外と犯人は証拠を残していて、最後はコロンボの方が鼻歌を歌いつつ...。

 犯行に使われた使い捨てのゴム手袋さえ見つかればロイドを挙げることが出来るとダンジガーに意図的に漏らして、コロンボの方から犯人の次の行動を促す典型的な逆トリックですが、ゴム手袋の在庫数をコロンボが確認していたことをダンジガーも聞いていたはずではないかと、その一点のみが疑問として引っ掛かりました。

TROUBLED WATERS 1975 01.jpgTROUBLED WATERS 1975 02.jpg 患者として寝ていたはずのダンジガーに後ろをすり抜けられてしまう看護婦メリッサ役のスーザン・ダマンテは、この作品では脇役ですが、この頃、スチュワート・ラフィル監督の「アドベンチャー・ファミリー」('75年)にロバート・ローガンと共に主人公の夫婦役で出演していて、人柄の良さそうな典型的な70年代美女でした。
Susan Damante(スーザン・ダマンテ)
アドベンチャー・ファミリー 1.jpgアドベンチャー・ファミリー 2.jpg ロスの大都会からロッキーの山奥へ移住した家族を描いた「アドベンチャー・ファミリー」は実話がヒントになっているそうですが、佳作ではあるものの、ロッキーでの自給自足生活は、"グリズリー"の襲来などもあって大変そうだなあと(娘の健康を考えての移住なのに、万一子供が羆に襲われたりしたら元も子もない)。クマに襲われたところを家族が助けたクマに救われるという、今思うとちょっと作り話っぽかったかな。

倉本聰.bmp 因みに、脚本家の倉本聰氏は、テレビドラマ「北の国から」の脚本を書く際に制作サイドから、この「アドベンチャー・ファミリー」のようにしてくれと言われたそうです(あと一つ、参考にしてくれと言われたのが映画「キタキツネ物語」だった)(倉本聰『獨白 2011年3月』フラノ・クリエイティブ・シンジケート、2011年)。

0011ナポレオン・ソロ.jpg 一方、知的な悪役が似合うロバート・ヴォーンは、「荒野の七人」('60年)の時からお馴染みですが、グッと人気が出たのはアメリカNBC系列で1964年から1968年まで4シーズンにわたり放送されたTVシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」からではないでしょうか。ロバート・ヴォーン演じるナポレオン・ソロとデヴィッド・マッカラム演じるイリヤ・クリヤキンのコンビが活躍するスパイもので、日本では、1966年から1970年まで、日本テレビ系列で放送されました(当初モノクロで、途中からカラーになった。最近またAXNミステリーで再放映されたりしている)。

スーパーマンⅢ/電子の要塞 dvd2.jpgスーパーマンⅢ/電子の要塞 4.jpgRobert Vaughn superman3.jpg ロバート・ヴォーンはその後も渋い脇役や悪役として活躍し、80年代では個人的には「スーパーマンⅢ/電子の要塞」('83年/米)に出ていたのが印象に残っています。リチャード・プライヤー演じる"小物"のワルを背後から操る"大物"のワルといった役どころ。クリストファー・リーヴ演じるスーパーマンをスーパー・コンピュータで打ちのめそうとするコンピュータ会社の悪徳社長の役ですが、現場に送り込まれるのはいつもリチャード・プライヤーで、作品全体のトーンもコメディ調。リチャード・プライヤーって、日本ではマイナーだけど、アメリカではかなり有名なコメディアンだったんだなあ(2005年没)。この作品は、ロバート・ヴォーン自身にとっても、その後の相次ぐコメディ映画出演への転機となった作品でした。因みに、テレビシリーズ「スーパーマン」(1952‐1958年)は日本では1956年からTBSで放映が開始され、最高視聴率74.2%を記録したそうな。スゴイ数字!

華麗なるペテン師たち2.jpg華麗なるペテン師たち01.jpg 「荒野の七人」のメンバー"7人"の中でも、2013年時点で存命しているのはロバート・ヴォーンだけという状況であり、しかも、イギリスのTVドラマシリーズ「華麗なるペテン師たち」で今もバリバリに頑張っている...。AXNでシーズン3をやっているのを見ましたが(本国放映は2010年)、ドラマで見る限り、この人、きびきびしていて、78歳(1932年生まれ)にしてはホント若いなあ(2016年11月11日、急性白血病のため逝去。満83歳。これで「荒野の七人」にガンマン役で出演した7人の男優全員がこの世を去ったことになった)

Bernard Fox(バーナード・フォックス)
刑事コロンボ(第29話)/歌声の消えた海 .jpgBernard Fox.jpg「刑事コロンボ(第29話)/歌声の消えた海」●原題:TROUBLED WATERS●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ベン・ギャザラ●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ウィリアム・ドリスキル●音楽:ディック・デ・ベネディクティス●時間:95分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・ヴォーン/ジェーン・グリア/ディーン・ストックウェル/バーナード・フォックス/ロバート・ダグラス/パトリック・マクニー/プーピー・ボッカー/スーザン・ダマンテ/ピーター・マローニー●日本公開:1976/01●放送:NHK(評価:★★★★)
The Adventures of the Wilderness Family (1975)
The Adventures of the Wilderness Family (1975).jpg
「アドベンチャー・ファミリー」●原題:THE ADVENTURES OF THE WILDERNESS FAMILY●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督・脚本:スチュワート・ラフィアドベンチャー・ファミリー 02.jpgル●製作:アーサー・R・ダブス●撮影:ジェラルド・アルカン●音楽:ジーン・カウアー/ダグラス・M・ラッキー●原作:アーサアドベンチャー・ファミリー sanntora.jpgー・R・ダブス●時間:99分●出演:ロバート・ローガン/スーザン・ダマンテ/ホリー・ホルムズ/ハム・ラーセン/ジョージ・"バック"・フラワー/スーザン・ダマンテ・ショウ●日本公開:1977/02●配給:東宝東和●最初に観た場所:中野武蔵野館 (78-01-12)(評価:★★★☆)●併映:「ベンジーの愛」(ジョー・キャンプ)
     「アドベンチャー・ファミリー [EPレコード 7inch]」サントラ盤カバー   
「ぴあ」1978年1月号
ぴあ 中野武蔵野館.jpg
 
0011ナポレオン・ソロ2.jpg0011ナポレオン・ソロ4.jpg0011ナポレオン・ソロ3.jpg「0011ナポレオン・ソロ」 The Man from U.N.C.L.E. (NBC 1964~1968) ○日本での放映チャネル:日本テレビ(1966-1970)/AXNミステリー
0011ナポレオン・ソロ(The Man From U.N.C.L.E )」(CD)  

スーパーマンIII 電子の要塞 [DVD]
スーパーマンⅢ/電子の要塞 dvd.jpgスーパーマンⅢ/電子の要塞5.jpg「スーパーマンⅢ/電子の要塞」●原題:SUPERMANⅢ●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督リチャード・レスター●製作:ピエール・スペングラー●脚本:デイヴィッド・ニューマン/レスリー・ニューマン ●撮影:ロバート・ペインター ●音楽:ケン・ソーン●時間:123分●出演: クリストファー・リーヴ/リチャード・プライアー/アネット・オトゥール/マーゴット・キダー/ジャッキー・クーパー/マーク・マクルーア/ロバート・ヴォーン/アニー・ロス/パメラ・スティーヴンソン/ギャヴァン・オハーリヒー●日本公開:1983/07●配給:ワーナー・ブラザーズ●最東京劇場(1940年).jpg銀座 東劇.jpg銀座・東劇2.jpg東劇 劇場内.jpg初に観た場所:銀座・東劇 (83-07-24)(評価:★★★) 
銀座・東劇 1930年4月、歌舞伎などの演劇の劇場として「東京劇場」オープン(左写真1940年「民族の祭典」公開時)。1950年ロードショー館として再オープン。1972(昭和47)年12月、老朽化につき閉館。1975(昭和50)年7月4日、東劇ビル落成。東劇開場。

華麗なるペテン師たち3.jpg「華麗なるペテン師たち」 Hustle (BBC 2004~2012) ○日本での放映チャネル:NHK‐BS2(2006-)/AXN
Hustle (BBC).jpg

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1783】 江藤 努/中村 勝則 『映画イヤーブック 1997
「●ロマン・ポランスキー監督作品」の インデックッスへ「●あ行外国映画の監督」の インデックッスへ「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●た‐な行の外国映画の監督」の インデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●は行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ「●「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「テス」)「●フランシス・レイ音楽作品」の インデックッスへ(「レッスンC」)「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ(「遊星からの物体X」)「●ナスターシャ・キンスキー 出演作品」の インデックッスへ(「キャット・ピープル」「テス」「レッスンC」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「インベーダー」「ロズウェル/星の恋人たち」) 

見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG 1『怪奇SF映画大全』アマゾンの半魚人.jpg
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"
 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」('31年)ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター。原著の表紙はロバート・フローリー監督、ベラ・ルゴシ主演の「モルグ街の殺人」('32年))。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受けました。個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと思いました。映画の方は、最近のリメイクのようにすぐにコングが出てくるのではなく、結構ドラマ部分で引っ張っていて、コングが出てくるまでにかなり時間がかかったけれど、これはこれで良かったのでは。当のコングは、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないものであるにも関わらず、観ている不思議と慣れてきて、ティラノサウルスっぽい「暴君竜」との死闘はまるでプロレスを観ているよう(コマ撮りでよくここまでやるなあ)。比較的自然にコングに感情移入してしまいましたが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのは1点[左上]のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。 「コングの復讐」('33年)[上]

紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。
     
one million years b.c. poster.jpg この作品のリメイク作品が「恐竜100万年」('66年)で、"全身整形美女"などと言われたラクエル・ウェルチが主演でしたが(100万年前なのにラクェル・ウェルチ   .jpgラクェル・ウェルチがバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしているのはある種"お約束ごと"か)、やはりここでも模型を使っています。結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受けて、すごく昔の映画のように見えてしまいます(CGの出始めの頃の映画とも言え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)や「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)、「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)各ポスター

「遊星よりの物体X」('51年)/「遊星からの物体X」('82年)
the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督によりカート・ラッセル主演で「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

「キャット・ピープル」('42年)/「キャット・ピープル」('81年)
cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者「キャット・ピープル」は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日テス 0.jpg「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、むしろ構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。ナスターシャ・キンスキー自身は、「テス」('79年)で"演技開眼"した後の作品であるため、「肌を出し過ぎた」発言に至っているのではないでしょうか。「テス」は、19世紀のイギリスの片田舎を舞台に2人の男の間で揺れ動きながらも愛を貫く女性を描いた、文豪トマス・ハーディの文芸大作をロマン・ポランスキーが忠実に映画化した作品で、ナスターシャ・キンスキーの演技が冴え短く感じた3時間でした(ナスターシャ・キンスキーはこの作品でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞)。一方、「テス」に出る前年にナスターシャ・キンスキーは、スイスの全寮制寄宿学校を舞台に、そこにやって来たアメリカ人少女というレッスンC  poster.jpg「レッスンc」.jpg設定の青春ラブ・コメディ「レッスンC」('78年)に出演していて、そこでは結構「しっかり肌を出して」いたように思います。「レッスンC」は音楽はフランシス・レイでありながらもB級というよりC級映画に近いですが(まあ、フランシス・レイは「続エマニュエル夫人」('75年)といった作品の音楽も手掛けているわけだが)、16歳のナスターシャ・キンスキーのキュートでお茶目なぶりがいやらしさを感じさせず、ある種ガーリームービーとして後にカルト的人気となった作品です。それにつられた訳ではないが、個人的評価も当初×(★★)だったのを△(★★☆)にしました(音楽も今聴くと懐かしい)。

 後者「遊星からの...」はカート・ラッセル主演で、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるでしょうか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかもしれません。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。エンニオ・モリコーネの音楽も効いていました。

インベーダー1st Season DVD-BOX
インベーダー1st Season DVD-BOX.jpg リメイク版「遊星からの物体X」がオリジナルの「遊星よりの物体X」と大きく異なるのは、あらゆる生物を同化する「物体」の姿を、ありふれたモンスター的なデザインとはせず、動物や人間の姿に置き換えるようにしていることで、「誰が人間ではないのか、自分が獲り込まれたのかすらも分からない緊迫した状況」を生み出している点です。そう言えば、エイリアンが人間に獲りついたり人間の姿を借りているため、一見して普通の人間と見分けがつかないというのは、米国のテレビドラマ「インベーダー」('67年~'68年)年の頃からありました。建築家デビッド・ビンセントは深夜に空飛ぶ円盤が着陸するのを目撃し、宇宙からの侵略者(=インベーダー)の存在を知るが、その事実を誰にも信じてもらえず、ビンセントはインベーダーの陰謀を追って全米各地を飛び回るというもので、テレビドラマ「逃亡者」('68年~'67年)と同じクイン・マーチン・プロダクションの制作。そのためか、妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人を探し求めて全米を旅するという「逃亡者」とちょっと似ています。ロズウェル dvd.jpg「インベーダー」は日本でも一時ブームになりましたが、米国でのUFOブームに便乗した企画だったのが、ブームが下火になったため2シーズンで終了しています(インベーダーの本当の姿が分からないまま終わった)。インベーダーは外見は地球人と同じだが、手の小指が動かないという設定でした(これじゃ見分けつかないね)。その後、人間の姿をした宇宙人が出てくるドラマは、「ロズウェル/星の恋人たち」('99年~'02年)など幾つか作られました。「ロズウェル」は、普通の高校生たちが、自分たちの特殊な能力に気づき、実は自分たちは宇宙人だったということを知るというもので、恋あり友情ありの青春ドラマにSFの味付けをしたという感じ。NHKで放映されましたが、本国の方で視聴率が伸び悩み、こちらも3シーズンで終了しました(ラストでちらっと彼らの本当の姿が見られる)。

ロズウェル/星の恋人たち シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

「インベーダー」(The Invaders) (ABC 1967.01~1968.01) ○日本での放映チャネル:NETテレビ(現テレビ朝日)(1967.10~1970.07)
「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)


フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラング「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。

 因みに、ボブ・ラフェルソン(1933-2022/89歳没)監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg(●2017年に32歳のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督による「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られた。シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している(一方で、随所にフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」('79年/米)へのオマージュが見られる)。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などはアニメっぽかったように思えた(日本のアニメへのオマージュもキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。ヴォート=ロバーツ監督自らが来日して行われた本作のプレゼンテーションに参加したジョーダン・ヴォート=ロバーツ、樋口真嗣。.jpgシン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと述べたが、モーション・キャプチャを使っているせいではないか。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のようなインパクトもなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い。)
「キングコング」('76年)/「キングコング:髑髏島の巨神」('17年)
キングコング 新旧.jpg


キング・コング [DVD]
キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★☆)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

恐竜100万年 [DVD]
恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作:レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
宇宙水爆戦 -HDリマスター版- [DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

シモーヌ・シモン in 「快楽」('52年/仏)監督:マックス・オフュルス 原作:ギ・ド・モーパッサン「モデル」
LE PLAISIR 1952.jpg
        
「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
キャット・ピープル [DVD]」/チラシ

テス Blu-ray スペシャルエディション
テス  0.jpgテス   00.jpg「テス」●原題:TESS●制作年:1979年●制作国:フランス・イギリス●監督:ロマン・ポランスキー●製作:クロード・ベリ●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ジョン・ブラウンジョン●撮影:ギスラン・クロケ/ジェフリー・アンスワース●音楽:フィリップ・サルド●原作:トーマス・ハーディ「ダーバヴィル家のテス」●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ピーター・ファース/リー・ローソン/ジョン・コリン/デイヴィッド・マーカム/ローズマリー・マーティン/リチャード・ピアソン/キャロリン・ピックルズ/パスカル・ド・ボワッソン●日本公開:1980/10●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(81-03-18)(評価:★★★★)

レッスンC [DVD]」 音楽:フランシス・レイ
レッスンC dvd.jpg「レッスンC」●原題:LEIDENSCHAFTLICHE BLUMCHEN/PASSION FLOWER HOTEL●制作年:1977年●制作国:西ドイツ・フランス・アメリカ●監督:アンドレ・ファルワジ●製作:アルツール・ブラウナー●脚本:ポール・ニコラス●撮影:リチャード・スズキ●音楽:フランシス・レイ●原作:ロザリンド・アースキン●時間:171分●出演:ナスターシャ・キンスキー/ゲリー・サンドクイスト/キャロリン・オーナー/マリオン・クラット/ヴェロニク・デルバーグ●日本公開:1982/05●配給:ジョイパックフィルム●最初に観た場所:中野武蔵野館(82-10-03)(評価:★★☆)●併映:「グローイング・アップ3 恋のチューインガム」(ボアズ・デビッドソン)

遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
遊星よりの物体X [DVD]

遊星からの物体X.jpg遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)●2回目:三軒茶屋東映(84-12-22)(評価:★★★★)●併映(1回目):「エイリアン」(リドリー・スコット)●併映(2回目):「ブレードランナー」(リドリー・スコット) 
遊星からの物体X [DVD]
遊星からの物体X(復刻版)(初回限定生産) [DVD]

音楽:エンニオ・モリコーネ
    
King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1779】 江藤 努 (編) 『映画イヤーブック 1993
「●さ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ 「●か行外国映画の監督」の インデックッスへ 「●や‐わ行の外国映画の監督①」の インデックッスへ 「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「テルマ&ルイーズ」)「●「サターンSF映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「ターミネーター」「ターミネーター2」)「●スーザン・サランドン 出演作品」の インデックッスへ(「テルマ&ルイーズ」)「●ブラッド・ピット 出演作品」の インデックッスへ(「テルマ&ルイーズ」) 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ (「ツイン・ピークス」) 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(文化シネマ2)

'91年公開作品で個人的◎は「テルマ&ルイーズ」。この年は「ツイン・ピークス」の年だった。

映画イヤーブック 1992 1.JPG映画イヤーブック 1992.jpg  テルマ&ルイーズ dvd.jpg ターミネーター2 dvd.jpg ツイン・ピークス dvd.jpg映画イヤーブック〈1992〉 (現代教養文庫)』「テルマ&ルイーズ (スペシャル・エディション) [DVD]」「ターミネーター2 特別編 [DVD]」「ツイン・ピークス ファーストシーズン [DVD]

 現代教養文庫の『映画イヤーブック』の1992年版で、1991年に劇場公開された洋画413本、邦画151本。計564本のデータを収めるほか、映画祭、映画賞の記録、オリジナル・ビデオムービー、未公開ビデオデータなども網羅しています(付録の部分が充実して、前年版より約50ページ増の470ページに)。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「わが心のボルチモア」「ワイルド・アット・ハート」「ニキータ」「マッチ工場の少女」「ダンス・ウィズ・ウルブス」「羊たちの沈黙」「エンジェル・アット・マイ・テーブル」「ターミネーター2」「コルチャック先生」「テルマ&ルイーズ」「真実の瞬間(とき)」「ボイジャー」「髪結いの亭主」「トト・ザ・ヒーロー」など、一方、邦画で四つ星は、大林宣彦監督の「ふたり」、山田洋次監督の「息子」、北野武監督の「あの夏、いちばん静かな海」、竹中直人監督の「無能の人」の4本だけで、分母数が違うけれどこの頃は概ね「洋高邦低」が続いた時期だったのかもしれません。

テルマ&ルイーズ ジーナ・デイビス.jpgテルマ&ルイーズ1.bmp 個人的なイチオシは、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」('91年/米)で、専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)とレストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズ(スーザン・サランドン)の親友同士が週末旅行に出掛けた先で、自分たちをレイプしようとした男を射殺したことから、転じて逃走劇になるという話(ロンドン映画批評家協会賞「作品賞」「女優賞(スーザン・サランドン)」受賞作)。

テルマ&ルイーズ2.bmp リドリー・スコットが女性映画を撮ったという意外性もありましたが、ジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンが、どんどん破局に向かいつつも、その過程においてこれまでの束縛や因習から解放され自由になっていく女性を好演し、彼女ら追いつつも彼女らの心情を理解し、何とか連れ戻したいとテルマ&ルイーズ ハーヴェイ・カイテル.jpgテルマ&ルイーズ ブラッド・ピット.jpg思う警部役のハーベイ・カイテルの演技も良かったです(まださほど知られていない頃のブラッド・ピットが、彼女らの金を持ち逃げするヒッチハイカー役で出ていたりもした)。
ハーヴェイ・カイテル(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)/ブラッド・ピット

 逃避行の背景となる西部の大自然を、映像に凝るリドリー・スコット監督らしく美しく撮っていて、最後は何台ものパトカーによりグランドキャニオンの絶壁に2人は追いつめられるのですが、こうなると結末は見えてしまうものの(「明日に向かって撃て!」の現代女性版だね)、からっとした爽快感があって、ある種、日常生活や夫の面倒にかまけ、生きることに飽いている女性の「夢」を描いた作品と言えるかも(アメリカの女性ってそんなに鬱々とした日常を生きているのか?―でも、ある層はそうかもしれないなあ)。


ターミネーター2 01.jpg 「ダンス・ウィズ・ウルブス」といったアカデミー賞受賞作品と並んで「羊たちの沈黙」や「ターミネーター2」が星4つの評価を得ているというのがこの年の特徴でしょうか。

ターミネーター2L.jpg ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」('91年/米)は、形状記憶疑似合金でできたT1000型ターミネーターが登場したものでしたが、この作品の前に「アビス」('89年)を撮り、ずっと後に「アバター」('09年)を撮ることになるターミネーター2 t1000.jpgジェームズ・キャメロン監督らしい特撮CGが冴えていたように思われ、T1000型を演じるロバート・パトリックも、華奢なところがかえって凄味がありました。一方、アーノルド・シュワルツネッガーが演じる旧タイプのT800型ターミネーターを善玉にまわしてヒューマンにした分、前作「ターミネーター」に比べ甘さがあるように思いました(これ、本書において山口猛氏が書いている批評とほぼ同じなのだが、山口氏の評価は最高評価になる星4つ)。IMDb評価は、「ターミネーター」が[8.1]、「ターミネーター2」が[8.6]で、「2」が上になっています。後からまとめて観た人は「2」の方がいいのかもしれないけれど、それぞれリルタイムで観た自分の場合、「1」のインパクトが大きかったです。

 「ターミネーター」('84年/米・英)はアーノルド・シュワルツネッガーを一気にスターダムに押し上げた作品でしたが、ジェームズ・キャメロン監督にとっても監ターミネーター14.png督デビュー作「殺人魚ターミネーター00.jpgフライング・キラー」(81年)に続く監督2作目であり、彼の出世作と言えます。ジェームズ・キャメロン監督はシュワルツネッガーと1度会食をしただけで、キャリアが浅く当初脇役で出演の予定だった彼をT800型ターミネーター役に抜擢することを決めたそうですが、シュワルツネッガーの全裸での登場シーンから始まって、そのストロングタイプのヒールぶりは今振り返ってもターミネーター    .jpg強烈なインパクトがあったように思います。ただ、この作品の後、「ターミネーター2」との間の7年間の間隔があり(ヒットしたB級映画にありがちだが、すぐにでも続編を撮りたいところが版権が複数社に跨っており、撮ろうにもなかなか撮れなかった)、その間にターミネーター01.pngシュワルツネッガーは「レッドソニア」「コマンドー」「ゴリラ」「プレデター」「バトルランナー」「レッドブル」「ツインズ」「トータル・リコール」「キンダガートン・コップ」といった作品に主演しており、こうなるともう悪役には戻れない...。特に「ツインズ」や「キンダガートン・コップ」といったコメディもそつなくこなしているのが大きいと思われ、人気面だけでなく演技面でも、「コナン・ザ・グレート」('82/米)でラジー賞の"最低男優賞"になってしまった人とは思えない成長ぶりでした(このことが「ターミネーター2」の"ヒューマンなターミネーター"役につながっていくわけか)。 

ツイン・ピークス1.jpg 因みに、91年は、これも映像表現に特徴のあるデイヴィッド・リンチ監督のテレビ・シリーズ「ツイン・ピークス」のビデオが日本でリリースされた年で、日本中のレンタルビデオ店が「ツイン・ピークス」入荷&予約待ち状態になるという大ブームになりましたが、この作品もある意味「脱日常」的な作品だったなあと(まあ、「Xファイル」にしろ「LOST」にしろ、どれもみんな「脱日常」なのだが)。

ツイン・ピークス2.jpg ビデオ14巻、全29話(パイロット版を含めると30話)、24時間強のサスペンス・ミステリーですが、毎回毎回いつもいいところで終わるので、続きを観るまで禁断症状になるという(あの村上春樹も米国でリアルタイムでハマったという)―ラストは腑に落ちなかったけれども(「えーっ、これが結末?」という感じか)、そのことを割り引いてもテレビ・ムービーの金字塔とツイン・ピークス3.jpg言えるのでは(デイヴィッド・リンチによると、このラストはあくまでも第2シーズンの最終話に過ぎず、「ツイン・ピークス」という物語そのものの結末ではないとのことだが、続編は未だ作られていない)。

 この作品のパイロット版は、もともとTVシリーズの第1話として作られたものですが、ヨーロッパへの輸出用に作られた、それ自体で映画として完結するインターナショナル・ヴァージョンが当時リリースされており、本編の「謎とき」とまではいかないですが、背景の説明としてガイド的役割を果たしています。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間.jpg また、'92年に「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」という劇場版が作られ、本編との矛盾もあるものの、こちらも本編の解説的役割を果たしています(と言っても、到底一筋縄で解るといったものではないけれど)。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間 [DVD]

 TV版の雰囲気をしっかり引き継いでいるし(むしろデイヴィッド・リンチ的な雰囲気はより前面に出ている)、"壊れゆくローラ"を演じたシェリル・リーの演技も悪くない。ある意味、TV版の結末よりも正統派的な展開なのかもしれないけれど、メタファーの大部分が理解不能だったなあ。《ツイン・ピークス・フリークス》と言われる人のサイトを見て、なるほどそういうことなのかと理解した次第(登場人物そのものがメタファーだったりしてるわけだ)。まあ、TVシリーズを最後まで観てから映画を観た方がいいに違いはありません(それでも、よく解らないところが多かったのだが)。

THELMA & LOUISE 2.jpgTHELMA & LOUISE.jpg「テルマ&ルイーズ」●原題:THELMA & LOUISE●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:リドリー・スコット/ミミ・ポーク●脚本:カーリー・クーリ●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:ハンス・ジマー●時間:129分●出演:スーザン・サランドン/ジーナ・デイヴィス/ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ブラッド・ピット●日本公開:1991/10●配給:松竹富士(評価:★★★★☆)

ターミネーター2-15.jpg「ターミネーター2」●原題:TERMINATOR2:JUDGMENT DAY●制作年:1991ターミネーター2 02.jpg年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジェームズ・キャメロン●脚本ジェームズ・キャメロン/ウィリアム・ウィッシャー●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:137分(公開版)/154分(完全版)●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/リンダ・ハミルトン/エドワード・ファーロング/ロバート・パトリック/アール・ボーエン/ジョー・モートン/ジャネット・ゴールドスタイン●日本公開:1991/08●配給:東宝東和(評価:★★★)

ターミネーター ps.jpgターミネーター25.jpg「ターミネーター」●原題:THE TERMINATOR●制作年:1984年●制作国:アメリカ/イギリス●監督:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●脚本:ジェームズ・キャメロン/ゲイル・アン・ハードターミネーター03.png●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ブラッド・フィーデル●時間:108分●出演:新宿文化シネマ2.jpgアーノルド・シュワルツェネッガー/マイケル・ビーン/リンダ・ハミルトン/ポール・ウィンフィールド/ランス・ヘンリクセン/リック・ロッソヴィッチ/ベス・マータ/ディック・ミラー●日本公開:1985/05●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿・文化シネマ2 (85-05-26) (評価:★★★☆)
新宿文化シネマ2 2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン

Twin Peaks (1990)
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Twin Peaks (ABC 1990).jpgツイン・ピークス.jpg「ツイン・ピークス」 Twin Peaks (ABC 1990/04~1991/06) ○日本での放映チャネル: WOWWOW(1991)
                                   
ツイン・ピークス4.bmp
カイル・マクラクラン
      
「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間」●原題:TWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER(Twin Peaks:Fire Walk With Me)●制作年:1TWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER2.jpgTWIN PEAKS THE LUST SEVEN DAYS OF LAURA PALMER.jpg992年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・リンチ●製作:グレッグ・ファインバーグ●脚本:デイヴィッド・リンチ/ロバート・エンゲルス●撮影:ロン・ガルシア●音楽:アンジェロ・バダラメンティ●時間:135分●出演:シェリル・リー/レイ・ワイズ/カイル・マクラクラン/デヴィッド・ボウイ/キーファー・サザーランド●日本公開:1992/05●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★?)

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'90年公開作品で個人的◎は「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ドライビング Miss デイジー」。

映画イヤーブック 1991 3298.JPG映画イヤーブック1991 教養文庫.jpg  ドゥ・ザ・ライト・シング0.bmp DRIVING MISS DASIY.bmp
映画イヤーブック〈1991〉 (現代教養文庫)』「ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]」「ドライビングMissデイジー [DVD]
 
 90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』の1991年版で、1990年に劇場公開された洋画406本、邦画146本、計552本のデータを収めています。ストーリー紹介だけでなく、主だった作品は、映画評論家が分担して執筆し、それぞれ批評を織り込んでいて、後でDVDなどで観賞する際の参考になりました(本書評価は★★★★→必見、★★★→ぜひ見る価値アリ、★★→見て損はしない、★→ヒマつぶしにはなるかも)。本書における四つ星評価(「必見」)作品から幾つか拾うと―。

ドゥ・ザ・ライト・シング1.bmp '90年公開の洋画で先ず個人的に良かったのは、スパイク・リー監督の「ドゥ・ザ・ライト・シング」('89年/米)で、ブルックリンの黒人街でピザ屋を営むイタリア系父子と店員のムーキーやその周辺の黒人たちの暑い夏の1日を、毒々しい色彩感覚とラップのリズムにのせて描いたものですが、まだメジャーになる前のスパイク・リー監督自身がピザ屋の店員のムーキー役で主演しており、作品の根柢には人種差別問題があるのですが、予定調和に終わらない結末にスパイク・リーの鋭さが窺えました。ダニー・アイエロは「ゴッドファーザーPart II」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」にもちょこっと出ていた俳優ですが、この作品で1989年・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞しています。(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

ドライビング miss デイジー.bmp 続いて良かったのがブルース・ベレスフォード監督の「ドライビング Miss デイジー」('89年/米)で、90年度アカデミー賞優秀作品賞・主演女優賞などの最多4部ジェシカ・タンディ アカデミー賞.jpg門に輝いた秀作(ジェシカ・タンディは歴代最高齢(80歳)でのアカデミー主演女優賞受賞)。1948年のアトランタを舞台に70歳過ぎのユダヤ人の元教師(ジェシカ・タンディ)と黒人運転手(モーガン・フリーマン)の交流を描いたもので、ラストの老人ホームでの二人の再会シーンは感動的。こうした"感動ストーリー"仕立てを好まない人もいますが、個人的には入れ込んでしまいました。dジェシカ・タンディの名演もさることながら、この頃のモーガン・フリーマンもいいです(本書評価★★★★/個人的評価★★★★☆)。

「ショーシャンクの空に」03.jpg モーガン・フリーマンが映画俳優として知られるようになったのは50歳の時、ジェリー・シャッツバーグ監督の「NYストリート・スマート」('87年/米)でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからで、この「ドライビング Miss デイジー」でアカデミー主演演男「ショーシャンクの空に」02.jpg優賞にノミネートされたのは52歳の時。さらにフランク・ダラボン監督の「ショーシャンクの空に」('94年/米)でティム・ロビンスと共に主役レッドを演じて最高の評価を得、前作に続いてアカデミー主演演男優賞にノミネートされますが受賞はならず、その10年後に、クリント・イーストウッドが監督した「ミリオンダラー・ベイビー」('04年/米)でアカ「ショーシャンクの空に」1994.jpg「ショーシャンクの空に」モーガン.jpgデミー助演男優賞受賞を受賞し、4回目のノミネートでアカデミー俳優となります。(●2023年10月9日、「ショーシャンクの空に」を「TOHOシネマズ錦糸町オリナス」にて「午前十時の映画祭13」で4K版にて再鑑賞(劇評で観るのは初)。モーガン・フリーマンの堂々たる演技が、レッドを単なる"観察者"ではなくより強い存在していることを再認識した。一方で、アカデミー賞を獲れなかった理由も、主人公と異なりレッドが"行動者"ではなく"観察者"に留まっているという役柄設定のせいもあったのではないかと思った。原作は スティーヴン・キングの『刑務所のリタ・ヘイワース』。壁に貼られた女優のポスターリタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わっていくのが時の流れを表していた。2023年時点で、IMDb Top 250 Moviesの第1位[スコア9.3])
ショーシャンクの空に (4K ULTRA HD & HDデジタル・リマスター ブルーレイセット)(2枚組) [4K ULTRA HD + Blu-ray]

 自分としては「ショーシャンクの空に」よりも「ドライビング Miss デイジー」に感動してしまったクチなのですが、アメリカの黒人コミュニティーの間では「ドライビング Miss デイジー」は白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、評判は良くないようです。確かにハリウッド映画の伝統的な黒人の描かれ方の枠を出ていないかも(でも、個人的には名作だと思う)。その対極にあるのが、「ドゥ・ザ・ライト・シング」でもあると言え、アカデミー賞授賞式のプレゼンターとして舞台に立ったキム・ベイシンガーは、「今年のノミネート作品ほど素晴らしい作品が揃った年はない。しかし一つだけ最高の傑作をアカデミーは忘れている」と発言して、「ドゥアカデミー賞 キム・ベイシンガー1.jpgアカデミー賞 キム・ベイシンガー.jpg・ザ・ライト・シング」を取り上げ、「この映画には真実がある」と訴えています(キム・ベイシンガーも「ドライビング Miss デイジー」が良くないとは言っていない。しかしながら、この頃からアカデミーのある種"偏向"を見抜いていたとも言える)。

Guddoferozu(1990).jpgグッドフェロー1.bmp マーティン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」('90年/米)は、実在の人物をモデルにギャングたちの生き様を描いた作品で、ヴェネツィア国際映画祭「銀獅子賞」受賞作。ロバート・デ・ニーロが口封じのために仲間を次々と殺していく様子や、ジョー・ペシがギャングの幹部に呼ばれて昇格かと思い出向いたところ、逆に殺されてしまうところなどオソロシイ。「グッドフェローズ」って、反語的意味合いを含んでいるわけね(本書評価★★★★/個人的評価★★★★)。
Guddoferozu(1990)

トータル・リコール 12.jpg 「トータル・リコール」('90年/米)は、フィリップ・K・ディック(1928-1982/享年53)の短編SF小説「記憶倍シャロン・ストーン12.jpgります」をポール・バーホーベンが監督したもので、シュワルツェネッガー演じる主人公の偽(ニセ)の妻役に、後に同じくポール・バーホーベン監督の「氷の微笑」('92年/米)に主演するシャロン・ストーンが出ていました。優れたSF映画に贈られる「サターンSF映画賞」の第17回受賞作。この作品、最近リメイクされています(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。

フィリップ・K・ディック原作映画 「ブレードランナー」 ('82年/米)/「マイノリティ・リポート」('02年/米)
ブレードランナー チラシ.jpg ブレードランナー.jpg    マイノリティ・リポート01.jpg マイノリティ・リポート 02.jpg 


ロボコップ 警官.jpg 因みに、ポール・バーホーベン監督は「ロボコップ」('87年/米)で米映画界に進出して成功を収めたオランダ人です。「ロボコップ」は、殉職した警官の遺体を利用したサイボーグ警官が活躍するバイオレンスSFアクション映画で低予算で作られながらもヒットし、「ロボコップ2」「ロボコップ3」やテレビドラマシリーズも作られました(2014年にリメイクされた)。サイボーグ警官を演じたのはピーター・ウェラーでしたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも候補だったとロボコップ 1987 pw.jpgか。犯罪多発都市としてデトロイト市を舞台としていますが、デトロイトは当時から既に自動車産業の衰退で荒廃していたため、ロケのほとんどはダラスで行われたそうです。暴力シーンも多いですが、一方で、ピーター・ウェラーの演じる哀愁を帯びた主人公と、そのロボット歩き(ピーター・ウェラーしかできなかったので彼がスタントも演じた)はなかなかのものでした。ラストで、悪人がオム二社(ロボコップを造った会社)の会長を人質にして逃走を図りますが、悪人はオムニ社の役人で、ロボコップに内蔵されていた「オムニ社役員には危害を加えない」というプログラムがあって手を出せないでいたところ、会長が悪人に「お前はクビだ!」と叫んだことでプログラムの規定が消滅し、ロボコップは悪人を射殺するという、そうしたコミカルな面もありました(これも「サターンSF映画賞」の受賞作)。

  
バタアシ金魚ド.jpgバタアシ金魚 dvd2.bmp 洋画ばかり挙げましたが、邦画では「バタアシ金魚」('90年/シネセゾン)なんてあったなあ。個人的には自主制作時代の作品も何本か観たことのある松岡錠司監督の劇場用映画デビュー作、主演の筒井道隆(坊主「バタアシ金魚」.bmp頭で出演)・高岡早紀にとっても共にデビュー作ということで、新鮮味はありました。コミックが原作ながらも、インディペンデント系の雰囲気を残してしてまあまあ面白かったけれど、ストーリーとしては中途半端だった印象も。過食症でブタのように太った主人公も高岡早紀が演じたのだろうか。顔があまり映っていなかったが...(本書評価★★★★/個人的評価★★★☆)。 


ドゥ・ザ・ライト・シング 03.jpg

ドゥ・ザ・ライト・シング dvd.jpg「ドゥ・ザ・ライト・シング」●原題:DO THE RIGHT THING●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:スパイク・リー●撮影:アーネスト・ディッカーソン●音楽:ビル・リー●時間:120分●出演:スパイク・リー/ダニー・アイエロ/ルビー・ディー/サミュエル・L・ジャクソン/オジー・デイヴィス/リチャード・エドソン/ジョン・タトゥーロ/ビル・ナン/ロージー・ペレス/ ジョイ・リー/ジャンカルロ・エスポジート/ジョン・サベージ/ロビン・ハリス●日本公開:1990/04●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★☆)ドゥ・ザ・ライト・シング [DVD]
ドライビング miss デイジー dvd.bmp
ドライビング miss デイジー ちらし.jpg「ドライビング Miss デイジー」●原題:DRIVING MISS DASIY●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ブルース・ベレスフォード●製作:リチャード・D・ザナック/リリ・フィニー・ザナック●原作・脚本:アルフレッド・ウーリー●撮影:ピーター・ジェームズ●音楽:ハンス・ジマー●時間:99分●出演:ジェシカ・タンディ/モーガン・フリーマン/ダン・エイクロイド/パティ・ルポーン/エスター・ローレ/ジョアン・ハヴリラ/ウィリアム・ホール・Jr.●日本公開:1990/05●配給:東宝東和(評価:★★★★☆)ドライビングMissデイジー [DVD]

「ショーシャンクの空に」d.jpg「ショーシャンクの空に」01.jpg「ショーシャンクの空に」●原題:THE SHAWSHANK REDEMPTION●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フランク・ダラボン●製作:ニキ・マーヴィン●撮影:ロジャー・ディーキンス●音楽:トーマス・ニューマン●原作:スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」●時間:142分●出演:ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン/ボブ・ガントン/ウィリアム・サドラー/クランシー・ブラウン/ギル・ベローズ/ジェームズ・ホイットモア●日本公開:1995/06●配給:松竹富士(評価:★★★★)ショーシャンクの空に [DVD]

「グッドフェローズ」.jpg「グッドフェローズ」●原題:GOODFELLAS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:アーウィン・ウィンクラー●脚本:ニコラス・ピレッジ/マーティン・スコセッシ●撮影:ミヒャエル・バルハウス●時間:145分●出演:レイ・リオッタ/ロバート・デ・ニーロ/ジョー・ペシ/ロレイン・ブラッコ/ポール・ソルヴィノフランク・シベロ/グッドフェローズ dvd.jpgマイク・スター/フランク・ヴィンセント/チャック・ロー/フランク・ディレオ/サミュエル・L・ジャクソン/クリストファー・セロ/スザンヌ・シェパード/キャサリン・スコセッシ/チャールズ・スコセッシ●日本公開:1990/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★★)グッドフェローズ スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

トータル・リコール [DVD]
トータル・リコール003.jpgトータル・リコール dvd.jpg「トータル・リコール」●原題:TOTAL RECALL●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:バズ・フェイシャンズ/ロナルド・シュゼット●脚本:ロナルド・シュゼット/ダン・オバノン/ゲイリー・ゴールドマン●撮影:ヨスト・ヴァカーノ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●原作:フィリップ・K・ディック「記憶売ります」●時間:113分●出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/レイチェル・ティコトータル・リコール シャロン・ストーン.jpgティン/シャロン・ストーン/ロニー・コックス/マイケル・アイアンサイド/マーシャル・ベル/メル・ジョンソン・Jr/ ロイ・ブロックスミス/レイ・ベイカー/マイケル・チャンピオン/デビッド・ネル●日本公開:1990/06●配給:東宝東和(評価:★★★☆)

ロボコップ 1987.jpgロボコップ pw.jpg「ロボコップ」●原題:RoboCop●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:ポール・バーホーベン●製作:アーン・L・シュミット●脚本:エドワード・ニューマイヤー/マイケル・マイナー●撮影:ヨスト・ヴァカーノ/ソル・ネグリン●音楽:ベイジル・ポールドゥリス●時間:103分●出演:ピーター・ウェラー/ナンシー・アレン/ロニー・コックス/カートウッド・スミス/ダン・オハーリー/ミゲル・フェラー/ロバート・ドクィ/フェルトン・ペリー/レイ・ワイズ/ポール・マクレーン●日本公開:1988/02●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)
ロボコップ/ディレクターズ・カット [DVD]

高岡早紀(17歳)(テレフォンカード)/「バタアシ金魚 [DVD]
バタアシ金魚 1990.jpg「バタアシ金魚」2.bmpバタアシ金魚 dvd.jpg「バタアシ金魚」●制作年:1990年●監督・脚本:松岡錠司●製作:日本ビクター●撮影:笠松則通●音楽:茂野雅道●原作:望月峯太郎●時間:95分●出演:高岡早紀/筒井道隆/白川和子/伊武雅刀/東幹久/土屋久美子/浅野忠信/大寶智子/橋本真由子/いしかわじゅん/桜金造/山村美智子/佐藤オリエ/安原麗子●公開:1990/06●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネパトス新宿 (90-06-16)(評価:★★★☆)

筒井道隆(19歳)・浅野忠信(16歳)共に映画デビュー作
「バタアシ金魚」筒井・浅野.jpg「バタアシ金魚」浅野.jpg  
 「バタアシ金魚」で、浅野忠信は丸刈りで牛川工業高校水泳部の主将ウシを演じた。 
 浅野忠信は、自身のSNSのプロフィールとコメントが書かれたページで、「バタアシ金魚」について「撮影の時はあまり楽しくなかったです。撮影以外の時も楽しくなかったです」とコメント。他の部員役は床屋でカットしたが、「僕だけ八王子まで行って、そこから車でちょっと行ったふつうの家に連れてかれ、牛のフンくさい太陽がギラギラ照っている外で、とても暑い思いをしてバリカンの試し刈りとしか思えない断髪式をやった事がとてもムカムカ」したとし、さらに「人の頭を刈るだけ刈って長さメチャクチャ」「あとはメイクさん、向こうで切ってと言って、端の方で頭刈られて、極めつけは、さっきまで僕が頭を刈られてた所でロケをやっているんですから、もうバクハツ寸前でした」と。しかし最後は「でも泳ぎがうまくなったし、世の中の厳しさが分かったし電車にも詳しくなったし、友達ができたのでよかったです。スタッフの人はいい人ばかりでした」としている(引用:「浅野忠信」インスタグラム(@tadanobu_asano))

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ジョブズの多面性をそのままに描く。こんな劇的な話があっていいのかと思うくらい面白かった。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活.jpgスティーブ・ジョブズ 偶像復活2.bmp スティーブ・ジョブズ 1977.jpg Steve Jobs.jpg S. Jobs
スティーブ・ジョブズ-偶像復活』['05年/東洋経済新報社] AppleⅡを発表するスティーブ・ジョブズ(1977)本書より

ウォルター・アイザックソン スティーブ・ジョブズ.jpg アップル創業者スティーブ・ジョブズ(1955-2011/享年56)の半生記であり、ジョブズの伝記はこれまでも多く刊行されていますが、昨年['11年]10月にジョブズが亡くなったことで、ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年10月/講談社)をはじめ、多くのジョブズ関連本がベストセラーにランクインすることとなりました。

 アイザックソン版は絶妙のタイミングでの邦訳刊行でしたが、取材嫌いのスティーブ・ジョブズが唯一全面協力した「本人公認の決定版評伝」とのことで、スティーブ・ジョブズという人の評伝を読むに際し、彼のキャラクターからみて果たしてそのことがいいのかどうか。上下巻に渡る長さということもあり、翻訳の方もかなり急ぎ足だったことが窺えるようで、同じ井口耕一氏の翻訳によるものですが、本書の方を読むことにしました。

 本書は、原著も'05年刊行であり、ジョブズの生い立ちから始まって、一度はアップルを去った彼が倒産寸前のアップルに復帰し、iPod等で成功を収めるまでが描かれていますが、翻訳はこなれていて読み易く、ジョブズの歩んできた道が成功―挫折―復活の繰り返しであったこともあって、とにかく内容そのものが波瀾万丈、こんな劇的な話があっていいのかというくらい面白かったです。

ジョブズ nhk.bmp 個人的には、ちょうどNHKスペシャルで「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」('11年12月24日放送)を見たところでしたが、それと照らしても、偏りの少ない伝記と言えるのではないでしょうか。元々が毀誉褒貶の激しいジョブズですが、そのスゴイ面、人を強烈に引きつける面と、ヒドイ面、友人や上司にはしたくないなあと思わせる面の両方が書かれていて、それでいて、ジョブズに対する畏敬と愛着が感じられました。

 単巻ながらも約500ページの大著ですが、アップル創業時代を描いた第1部(21歳でアップルを創業し、僅か4年で「フォーチュン500」に名を連ねる企業にするも、経営予測を誤り'85年に同社を追われる)、追放時代を描いた第2部(NeXT社を設立する一方、ルーカス・フィルムの子会社を買収して設立したピクサーで成功を収め、表舞台に復帰する)、アップル復帰以降の第3部(13年ぶりにアップルに復帰するやiMac('98年)をヒットさせ、更にiPod('01年)、iTunesなどのヒットをも飛ばす)とバランスよく配分されています。

「マッキントッシュ」新発売コマーシャルと発表するジョブズ(1983)
steve jobs 1983.jpg アップルの共同創業者や自らが引き抜いた経営陣との確執のほかに、同年代のライバルであるビル・ゲイツとの出会いや彼との交渉、Windowsの牙城を切り崩そうするジョブズの攻勢なども描かれていますが、ピクサーでの仕事におけるディズニー・アイズナー会長との様々な権利を巡るビジネス面での交渉が特に詳しく描かれており、アメリカのコンピュータ業界の内幕を描いた本であると同時に、映画ビジネス界を内側から描いたドキュメントにもなっています。
   
Luxo Jr.(1986)
Luxo Jr.jpg NHKスペシャルの「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ」を見て、彼の人生には幾つかの印象的な場面が印象的な映像と共にあったように思われ、とりわけ、'84年のマッキントッシュ発売の際のジョージ・オーエルの『1984』をモチーフとしたコマーシャル(CM監督は「ブレードランナー」('82年)のリドリー・スコット)や、'86年のCGの可能性を如実に示した"電気ランプ"の親子が主人公の短篇映画「ルクソーJr.」(Luxo Jr.)、'95年の「世界初のフル3DCGによる長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」などが個人的には脳裡に残りました。

「トイ・ストーリー」(1995)
トイ・ストーリー1.jpg 「トイ・ストーリー」以外は番組で初めて見ましたが、そうした映像のイメージもあって本書を比較的身近に感じながら読むことができ、「トイ・ストーリー」も、初めて観た時はCGが進化したなあと思っただけでしたが、ジョブズが買収も含め個人資産を10数年も注ぎこむも全く利益を生まなかったピクサーが、土壇場で放った"大逆転ホームラン"だったと思うと、また違った感慨も湧きます(この作品だけでも公開までの4年間の投資額は5千万ドルに及び、「こんなに金がかかるなら投資しなかった」とジョブズは語っているが、本作のヒットでピクサー株は高騰し、結果的にジョブスの資産は4億ドル増えた)。

 そもそも、ジョブズのアップル復帰そのものが、次世代マッキントッシュの開発に失敗したジョブズ無き後のアップルが、次世代OSを求め、その開発に当たっていたNeXT社を買収、それに伴いジョブズの非常勤顧問という形でのアップル復帰が決まったわけで、それを機にジョブズは経営の実権を握るべくポリティックな画策をするわけですが、この「トイ・ストーリー」のヒットが、ジョブズの立場を押し上げ強固なものとする追い風になったのは確かでしょう。

 「トイ・ストーリー」に続くピクサー作品も、興行記録を次々塗り変えるヒットで、その生み出す利益があまりに膨大であるため、本書にあるようなディズニー・アイズナー会長との確執ということに繋がっていったのでしょうが、その後アイズナーの方は会長職を追われ、ジョブズはピクサーをディズニーに売却すると共に、ディズニーの筆頭株主に収まるという決着となっています。

iMacを発表するジョブズ(1998)
iMac 1998.jpg 人々を惹き付ける素晴らしいプレゼンテーションをする一方で、傲慢な人柄で平気で人を傷つけ、また、類まれなイノベーターとして製品のデザインや性能への完璧主義的なこだわりを持つ一方で、相手の弱みに付け込む政治的画策も厭わない冷酷な経営者という一面も持つ―こうしたジョブズの多面性が、本書では充分に描かれているように思いました。

 彼の次の視野には、マイクロソフトからコンピュータ業界の覇権を奪回すべく、Windows及びOfficeに匹敵するようなOSやアプリの開発があることが本書では示唆されていますが、実際に彼が'07年1月のMacworld 初日の基調講演で発表した新製品は、次世代携帯端末のiPhoneだった―徹底した秘密主義というのもあるかと思いますが、ほんの1年か2年後にどんな(しかもメガヒットとなる)製品を出すのか、誰も予測がつかなかったということなのでしょうか。

トイ・ストーリー17.jpgトイ・ストーリー dvd.jpg「トイ・ストーリー」●原題:TOY STORY●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ラセター●製作:ラルフ・グッジェンハイム/ボニー・アーノルドズ●脚本:ジョス・ウィードン/アンドリュー・スタントン/ジョエル・コーエン/アレック・ソコロウ●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:ランディ・ニューマン●時間:81分●出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/ドン・リックルズ/ジョン・モリス/ウォーレス・ショーン/ジョン・ラッツェンバーガー/ジム・バーニー●日本公開:1996/03●配給/ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン(評価★★★☆)
トイ・ストーリー [DVD]

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スティーヴ・マーティン、キャスリーン・ターナーが芸達者ぶりを発揮「2つの頭脳を持つ男」。

2つの頭脳を持つ男 dvd.jpg 02つの頭脳を持つ男5.jpg   ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 dvd.jpg  ローズ家の戦争 dvd.jpg
2つの頭脳を持つ男 [DVD]」Kathleen Turner & Steve Martin 「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 [DVD]」「ローズ家の戦争 [DVD]

The Man with Two Brains.jpg マイケル・ハフハール(スティーヴ・マーティン)は世界的に有名な脳外科医だが、亡き愛妻の思い出に胸締め付けられる日々を送っていた。ある日、車を運転中、目の前を横切ったドロレス(キャスリーン・ターナー)を跳ね飛ばしてしまうが、駆け寄って見た彼女の美しさに参ってしまう。美貌のドロレスは、実は遺産目当てで年老いた男に近寄り、結婚後に夫を死に追いやる悪女だったが、そうと知らずにドロレスの脳外科手術を買って2つの頭脳を持つ男4.jpg出たハフハールは、手術を成功させ、意識を取り戻したドロレスにアタックをかけ結婚へ。しかし、新婚生活を送るうちにドロレスの傲慢さが目につくようになり、その上夜の営みを拒み続けるドロレスに欲求不満気味、上司の勧めで仕事とハネムーンを兼ねてオーストリアへ行き、脳移植の権威ネセシスター博士(デビッド・ワーナー)に出会い、彼の研究室で、"アン・アールメヘイ"と名乗る頭脳(声:シシー・スペイセク)とテレパシーで意思疎通出来ることを知る。意思疎通を図るうちに、次第にアールメヘイの持つ優しさに惹かれて、挙句の果てには、横行していた"エレベーター・キラー"にかこつけて、彼女に見合う女性を殺害してその肉体を手に入れようとまでし始める―。

The Man with Two Brains2.jpg '85年の第1回「東京国際映画祭」の一環としての「ファンタスティック映画祭」で上映された、カール・ライナー監督、スティーヴ・マーティン(1945‐)主演のホラー・コメディで、"脳"に不倫心を抱いてしてしまう男という奇抜な設定。その流れで、その男は、"脳"のために肉体を探し、"脳移植"手術をしようとするという、ハチャメチャながらも、SF風のドタバタ喜劇であることを踏まえて観れば結構良く出来たストーリーであったように思え、意外と面白かったです。

2つの頭脳.JPG オチにも何となく人生の皮肉が込められていて、同じドタバタコメディでも、レスリー・ニールセン(1926-2010)の「裸の銃(ガン)を持つ男」('88年)などよりはこっちの方が個人的には好みです(日本人の感覚にも合っているような気がするが、実際のところは日本でも評価が割れているみたい。好みに左右される作品か)。 
2つの頭脳を持つ男.jpg スティーヴ・マーティンにしてもレスリー・ニールセンにしても、銀髪のダンディな男が途方も無くバカバカしいことをやるという点で似ているかも。両者共に日本にはあまりいないタイプの喜劇役者でしょうが、そもそも洋モノコメディ軽視の日本では、当時スティーヴ・マーティンの名は殆ど知られていなかったように思われ、自分自身この作品で初めて知り、なかなかの芸達者だと思いました。この作品も日本ではロードにかかっておらず(映画祭出品後にビデオ化はされた)、「愛しのロクサーヌ」('87年)などでやっと日本でも彼の名知られるようになりましたが、その後も出演作品数は多く、バイプレイヤーだったりシリアスな役もこなしたりしているようで、最近では、2010年に、自身3回目となるアカデミー賞授賞式の司会をしています。
Steve Martin and Kathleen Turner in "The Man with Two Brains"

 この作品について言えば、キャスリーン・ターナーの好演も見逃せず、ローレンス・カスダン監督の「白いドレスの女」('81年、原作はジェームズ・M・ケインの「倍額保険」)で男を破滅させる女"ファムファタール"を演じ、この作品でも妖婦的悪女を演じた彼女は、「白いドレスの女」公開の際の来日記者会見で"コミカルな役をやりたい"と言っていましたが、それがこれだったのだなあと(サスペンスからコメディへと、演じる"ファムファタール"のバリエーションが広い、こちらも芸達者)。

ロマンシング・ストーン 秘宝の谷 dvd j.pngロマンシング・ストーン 秘宝の谷.jpg キャスリーン・ターナーはこの後、ロバート・ゼメキス監督の「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」('84年)にマイケル・ダグラスとの共演で出演しています。 「2つの頭脳...」がロードにかからなかったため、こちらを「東京国際映画祭」の1か月前に先に観ることになったのですが、ロマンス作家が否応なしに自分の書く小説張りの恋と冒険に巻き込まれていくという「インディ・ジョーンズ」と「ハーレクイン・ロマンス」を足して2で割り、それにコメディの味付けをしたような"盛り沢山"の作品でした。 "Romancing the Stone"DVDジャケットより

ナイルの宝石 マイケルダグラス/キャスリーンターナー.jpg「ナイルの宝石」1985.jpg この「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」は1984年のゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)で作品賞を受賞し、キャスリーン・ターナーは同賞主演女優賞のほかロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞も受賞しており(コメディでも演技賞を獲ってしまうというのはまさに演技力の証しか)、同じくマイケル・ダグラスとのコンビで続編「ナイルの宝石」('85年)という作品も作られています。

(左)映画パンフレット 「ナイルの宝石」 出演 マイケル・ダグラス/キャスリーン・ターナー


 これらとよく似た冒険活劇風娯楽映画で、「ナバロンの要塞」「恐怖の岬」「セント・アイブス」のJ・リー・トンプソン監督の「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」('85年)という、これもまた「インディ・ジョーンズ」の亜流色の強い作品キング・ソロモンの秘宝 ps.jpgキング・ソロモンの秘宝 ps2.jpgキング・ソロモンの秘宝 映画1.jpgもありました。「タワーリング・インフェルノ」「将軍 SHOGUN」のリチャード・チェンバレン主演で、お相手はまだそれほど有名でない頃のシャロン・ストーン...ということもあってか、一部でマニアックなファンがいるようですが、キング・ソロモンの秘宝_12.jpgコメディタッチでテンポはそう悪くなかったように思います。ただ、個人的にはそんなに熱くなるほどの映画かなあとも。配役がある種ノスタルジーを醸すのかなあ。リチャード・チェンバレンは同じく主役を演じた「将軍 SHOGUN」(ジェームズ・クラベルの小説『Shōgun』を原作としてテレビドラマとして5話放映されたものを再編集して映画化したもの)よりはずっと活き活きしていました。こちらも翌年に同じ主演コンビで続編(「キング・ソロモンの秘宝2/幻の黄金都市を求めて」)が作られています。

 この手の映画を何本か見ていると、ストーリーの区別がつかなくなるなあ。その点でも「インディ・ジョーンズ」シリーズや「ハーレクイン・ロマンス」に通じるかも。

 キャスリーン・ターナーとマイケル・ダグラスの2人はよほど相性が良かったのか、更に、「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」で二人と共演したダニー・デヴィート(「バットマン・リターンズ」('92年)で悪役のペンギン男を演じた人)が監督した、夫婦の離婚を巡るブラックコメディ映画「ローズ家の戦争」('89年)でも共演しています。

ローズ家の戦争2.jpg 結婚17年目を迎えたローズ夫妻の泥沼の離婚戦争をブラック・ユーモアで描いたコメディで(タイトルはイングランドの「バラ戦争」に準えている)、家庭間で領域を二分し、車をぶつけ合い、装飾品を投げ合って、生きるか死ぬかの闘いを繰り広げる様は、コメディというよりは恐怖映画に近く、寒気を覚えるくらい...。マイケル・ダグラスがシャンデリアにつかまっている場面が印象的でした。

マイケル・ダグラス キャサリン・ゼタ=ジョーンズ.bmp ちょっとやり過ぎの感もありましたが、マイケル・ダグラス自身はこの作品を気に入っているようで(グレン・クローズに苛められる「危険な情事」('87年)といいデミ・ムーアに苛められる「ディスクロージャー」('94年)といい、女性に苛められる役が好きなのか?)、リメイクして妻であるキャサリン・ゼタ=ジョーンズと共演しようと企画しているという話が何年か前にありましたが、どうなったのかな?

マイケル・ダグラス/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
 

2つの頭脳を持つ男3.jpg渋谷パンテオン.jpg「2つの頭脳を持つ男」●原題:THE MAN WITH TWO BRAINS●制作年:1983年●制作国:アメリカ●監督:カール・ライナー●製作:デイヴィッド・V・ピッカー/ウィリアム・E・マッキューン●脚本:カール・ライナー/スティーヴ・マーティン/ジョージ・ガイプ●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:ジョエル・ゴールドスミス●時間:93分●出演:スティーヴ・マーティン/キャスリーン・ターナー/シシー・スペイセク(声の出演)/デビッド・ワーナー/リチャード・ブレストフ/ジェームズ・クロムウェル/ジェフリー・コムズ/ポール・ベネディクト/マーヴ・グリフィン:マーヴ・グリフィン●日本公開:1985/06●配給/ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:渋谷パンテオン(85-06-02) (評価★★★★)

ROMANCING THE STONE 4.jpg「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」●原題:ROMANCING THE STONE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●製作:マイケル・ダグラス●脚本:ダイアン・トーマス●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:106分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/ザック・ノーマン/アルフォンソ・アラウ/マヌエル・オヘイダ/ホランド・テイラー/メアリー・エレン・トレイナー/エヴァ・スミス●日本公開:1984/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿ローヤル(85-05-06) (評価★★★)
新宿ローヤル 地図.jpg新宿ローヤル.jpg新宿ローヤル劇場 88年11月閉館 .jpg新宿ローヤル劇場(丸井新宿店裏手)1955年「サンニュース」オープン、1956年11月~ローヤル劇場、1988年11月28日閉館[カラー写真:「フォト蔵」より/モノクロ写真:高野進 『想い出の映画館』('04年/冬青社)より]
 
キング・ソロモンの秘宝 99.jpg「キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー」●原題:KING SOLOMON'S MINES●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:J・リー・トンプソン ●製作:メナヘム・ゴーラン/ヨーラム・グローブス●脚本:ジーン・クインターノ/ジェームズ・R・シルク●撮影:アレックスキング・ソロモンの秘宝dvd.jpgキング・ソロモンの秘宝 映画2.jpg・フィリップス●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:100分●出演:リチャード・チェンバレン/シャロン・ストーン/ハーバート・ロム/ジョン・ライス=デイヴィス/ケン・ガンプ/ジューン・ブゼレッジ●日本公開:1986/06●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:日比谷スカラ座(86-06-29) (評価★★★)キング・ソロモンの秘宝/ロマンシング・アドベンチャー [DVD]
旧東京宝塚劇場.jpg旧日比谷スカラ座8.jpg

旧・日比谷スカラ座 1940年4月東京宝塚劇場ビル4階にオープン(当初の呼称は「東宝四階劇場」)、1955年7月改装 (1,197席)。1998(平成10)年1月18日閉館。

 

0blog_import_5c81472add086.jpeg「ローズ家の戦争」●原題:THE WAR OF THE ROSES●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:0ローズ家の戦争02.jpgダニー・デヴィート●製作:ジェームズ・L・ブルックス/アーノン・ミルチャン●脚本:マイケル・リースン●撮影:スティーヴン・H・ブラム●音楽:デヴィッド・ニューマン●原作:ウォーレン・アドラー「ローズ家の戦争」●時間:116分●出演:キャスリーン・ターナー/マイケル・ダグラス/ダニー・デヴィート/マ新宿プラザ劇場200611.jpgリアンネ・ゼーゲブレヒト/ショーン・アスティン/ヘザー・フェアフィールド●日本公開:1990/05●配給/20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿プラザ(90-06-02) (評価★★★)

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娼婦たちの田舎行「メゾン テリエ」もいいが、「他三編」も短い中に人生を投影させていていい。

メゾン・テリエ モーパッサン 岩波文庫旧版.jpg 2『メゾン テリエ』.jpgメゾン・テリエ モーパッサン 岩波文庫 新版.jpg 快楽 Le plaisir.jpg
『メゾン テリエ―他三編』[岩波文庫・旧版]『メゾンテリエ 他3編 改版 (岩波文庫)』 「メゾン テリエ」―「快楽」(マックス・オフィルス監督)ジャン・ギャバン(中央)
「快楽」('57年/仏)(第1話「仮面」、第2話「メゾン テリエ」、第3話「モデル」)
ジャン・ギャバン/ダニエル・ダリューほか
 ノルマンディーの田舎町フェカンで、メゾンテリエ(テリエの家)というのは、つまりテリエ夫人が5人の女を使って営む娼家である。町の名士たちも毎晩のように通うという繁盛ぶり。ところがある晩のこと、「初聖体のため休業仕候」と貼り紙を出して突然の休業―。数あるモーパッサン(1850‐93)の中短篇小説のうち屈指の名作(「岩波ブックサーチャー」より抜粋).

 「メゾン テリエ」は1881年にモーパッサンが発表した中編小説で、娼家が閉まっていたのは、張り紙にあった通り、マダムが弟の娘で彼女が名付け親になっている少女の初聖礼拝受式に参席するため、家の女達を連れて故郷ルール県の村ヴィルヴィルへ出かけてしまったためです。

 フェカンも田舎町だが、ヴィルヴィルは田園地帯にある更なるド田舎。村の教会に突然の美しい(?)女達が現れたために、素朴な村人達は都会の貴婦人が参列したのかと勘違いし、一方、式において清楚な少女の姿を見た娼婦達は、過ぎし日を思い起して思わず泣き出してしまい、教会は、異様な感動に包まれ、それがまた、村人達の感激を引き起こすという―もともと、女達に店を任せておけないから、やむなく全員を引き連れて式に出ることになったのが、彼女らにとっても想い出深いイベントになったという展開がいいです。

 村人はマダムが町で成功していることは噂に知っていても、それが娼家の経営によるものとは知らず、また娼婦らを"貴婦人"と思い込んでしまったのは、現代以上に都会と田舎の情報格差が大きかったせいもあるのではないかと、再読して思いました(現代でも、田舎に帰れば実態とは異なり、「一流企業のOL」をしていることになっているというのはあるかもしれないが)。

 岩波文庫版はこの他に、「聖水授与者」「ジュール伯父」「クロシェット」の3篇の短篇を収めていますが(4篇とも挿絵入り)、「聖水授与者」は、5歳で行方不明になった息子を探す老夫婦を描いた話、「ジュール伯父」は、アメリカに渡った叔父が成功して戻って来ることに全ての希望を託す家族の話で、共に"邂逅"がモチーフになっているものの、結末は明暗を分けています。

 大人になった語り手が少年の頃の思い出を語るというスタイルで「ジュール伯父」と共通する「クロシェット」は、「私」に優しくしてくれていた"ばあや"が亡くなった直後に医師から聞かされた、彼女の若い頃の恋愛事件の話で、壮絶と言っていいくらいに純真な話ですが、何れも極々少ない紙数の中に、家族や個人の人生がくっきり投影されているのが素晴らしいです。

Le plaisir (1952)L_.jpg 訳者の河盛好蔵は「メゾン テリエ」に通底するものがあるということからこの3篇を選んだとのことですが、感動やペーソスある一方で「ジョゼフ・ダヴランシュが貧しい施しを求める老人に5フラン銀貨を恵む理由」といったエスプリも効いていて、河盛好蔵らしい選び方のように思いました。

快楽 輸入版dvd.jpg 表題作「メゾン テリエ」は、マックス・オフュルス「快楽(Le Plaisir)」('52年/仏)という映画の中で映像化しており、娼婦達が田園地帯を行く様を撮った光と影の交錯する映像は、ジャン・ルノワール(印象派の画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの次男)の「ピクニック」('36年/仏)の"中産階級版"ならぬ"娼婦版"という感じ(因みに、「ピクニック」の原作もモーパッサンの短篇(「野あそび」)。「Le Plaisir」「LE PLAISIR

メゾン テリエ 快楽 .jpgiメゾン テリエ.jpg 「メゾン テリエ」では、唯一、一行の正体が娼婦達であることに気付いているっぽい馬丁をジャン・ギャバンが演じていますが、ギャバンのフォルム・ノワールのイメージとは裏腹に、小説以上に気のいい男として描かれています。

Le-plaisir-1952-4 (1).jpgLa Maison Tellier 1952 1.jpg  また、テリエ夫人が使っている5人の女の中で最も肉感的な女(「丸々と太った、全体が腹だけでできているような女」)であるローザをダニエル・ダリューが演じていますが、このローザは「脂肪の塊」の娼婦エリザベットと同じく、モーパッサンの小説における「ソーセージのように

Le Plaisir (1952).1 from rod.delarue on Vimeo.

丸々と太った女」=「聖性または敬虔さの象徴」という図式の上に成り立っているかと思われますが、ダニエル・ダリューが全然太ってはいないし、ちょっと美しすぎるか(そのためか、わざわざ"つけぼくろ"をしているが)。いつも何2ダニエル・ダリュー 赤と黒.jpgか食べるかお喋りしているか、そのどちらかといった女性のはずですが、映画でそんなことはなく、しっとりと歌を歌ったりもします(ダニエル・ダリューはクロード・オータン=ララ監督の「赤と黒」('54年/伊・仏)で、ジェラール・フィリップ演じるジュリアン・ソレルと不倫関係に陥る貴婦人を演じている)。

LE PLAISIR 1952 仮面の男.jpg 「快楽」は、「メゾン テリエ」の他に、「仮面」と「モデル」という、同じくモーパッサンの短篇を原作とした作品から成るオムニバス映画であり、「仮面(の男)」は、美男の仮面を付けてまでも終生女を漁ってきた老人(ジャン・ガラン)と、こ快楽 モーパッサン.jpgの女好きの夫に一生を捧げてきた妻(ガビ・モルレ)の話、「モデル」は、画家(ダニエル・ジェラン)がモデル(シモーヌ・シモン)快楽 仮面4.jpgと深い仲になるも彼女に飽きてきて別れようとすると、モデルの方は自殺を仄めかし、その結果――(ここでも"脚を折る"までの一途の恋という「クロシェット」と同じモチーフが使われている)。ラストは、そっか、こういうことになるのか、といった感じ。シモーヌ・シモンはジャック・ターナー監督の「キャット・ピープル」('42年/米)に出ていました(後にナスターシャ・キンスキーが演じる役)。

シモーヌ・シモン in マックス・オフュルス監督「快楽」('52年/仏)第3話「モデル」
 「快楽」は'79年に日仏会館で、「ピクニック」は'80年に京橋フィルムセンターでそれぞれ観て(「快楽」は当時"東京日仏学院"でもやっていたかもしれない)、「快楽」に関して言えば、べルイマンの艶笑喜劇に通じるものを感じましたが、むしろ、ベルイマンよりモーパッサンの方が本家でしょうか。「メゾン テリエ」などのイメージが掴めたのは良かったのですが、本当はもっと綺麗な映像であるはずなのが、フィルムがやや劣化状態だったのが残念でした(国内では2012年にDVDが発売されたため、おそらくそのあたりは補正されていると思われる)

ジャン・ルノワール「ピクニック」.jpg 一方の「ピクニック」は、DVD版の冒頭には「1860年の夏の日曜日、パリの金物商デュフール氏は妻と義母と娘と未来の婿養子アナトールを連れて隣の牛乳屋から借りた馬車でピクニックに出かけた」というのが字幕が出ますが、これは未完の作品だから、説明的にこうした字幕が付いているのでしょう(DVD版は、40分(内、オリジナルは35分)の本編に86分の「NG集」と15分の「リハーサル」が付いている)。

ジャン・ルノワール「ピクニック」('36年/仏)

ジャン・ルノワール「ピクニック」2.jpg レストランを見つけた金物商(アンドレ・ガブリエロ)の一行は、そこでピクニックを楽しむことにし、レストランにはボート遊びに来たアンリ(ジョルジュ・ダルヌー)とルドルフ(ジャック・B・ブリピクニックqN.jpgュニウス)がいて、アンリはブランコをこぐ娘アンリエット(シルヴィア・バタイユ)に魅了され、父親と婿養子が釣りに行っている間に、ルドルフと共にアンリエットとその母親(ジャーヌ・マルカン)をそれぞれボートに誘い出して別々のボートで川に漕ぎ出し、陸に上がってそれぞれが関係を持つ―。

ルノワール「ピクニック」.jpg 数年後、アンリが思い出の場所を訪れるとアンリエットがいて、その傍らには夫となったアナトールが寝ている。二人は、お互いを忘れたことがないという短い会話を交わすが、アナトールが目覚めたために別れる―。

 映画では、夫婦であるアンリエットとアナトールが最後ボートで去っていく時に、ボートを漕いでいるのが女性であるアンリエットの方であったりと(逞しいアンリに比べアナトールはヤサ男)、原作のアイロニーを更に強めている感もありますが、一方で、映像化するピクニックain.jpgことによってどろっとしてしまいそうな話(考えてみれば結構エロチックな話でもある)を、父オーギュスト・ルノワールの印象派絵画をそのまモノクロ映像したような光と影の映像美で包み込み、美しく仕上げています(ヒロインのアンリエットを演じたシルヴィア・バタイユは哲学者で『眼球譚』の作者でもあるジョルジュ・バタイユの妻)。

ジャン・ルノワール「ピクニック」タイトル.bmp 映画にしてしまうとストーリーにはやや物足りなさもありますが(これでも短編である原作を相当膨らませてはいる)、ジャン・ルノワール自身、自伝の中でこの作品について、「私にとって理想は、まったく主題のない、ひとえに監督の感覚に基づく、その感覚を俳優たちが一般公衆にわかる形に表現してみせた、そんな映画であった」と述べているように(「水」抜きの映画など、私には考えられないとも言っている)、こうした映像美の追求ががこの作品の最大の狙いだったのかも知れません。

Le Plaisir (DVD, 2008) シモーヌ・シモン
Le Plaisir.jpgLE PLAISIR 1952.jpg快楽 ポスター.jpg「快楽」(「仮面」「メゾン テリエ」「モデル」)●原題:LE PLAISIR(Le Masque、La Maison Tellier、Le Modèle)●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:マックス・オフュルス●脚本:ジャック・ナタンソン/マックス・オフュルス●撮影:クリスチャン・マトラ/フィリップ・アゴスティニ●音楽:ジョエ・エイオス●原作:ギ・ド・モーパッサン「仮面」「メゾン テリエ」「モデル」●時間:99分●出演:(第1話「仮面」)ジャン・ガラン/クロード・ドーファン/ガビ・モルレ/(第2話「メゾン テリエ」)マドレーヌ・ルノー/ジネット・ルクレール/ダニエル・ダリュー/ピエール・ブラッスール/ジャン・ギャバン/(第3話「モデル」)ジャン・セルヴCAT PEOPLE 1942 .jpgcat people 1942 01.jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpgェ/ダニエル・ジェラン/シモーヌ・シモン●日本公開:1953/01●配給:東宝●最初に観た場所:御茶ノ水・日仏会館(79-04-26)(評価:★★★★)
シモーヌ・シモン(1910-2005)in「キャット・ピープル」('42年/米)/「キャット・ピープル [DVD]


日仏会館03.png日仏会館 旧建物 お茶の水 1960~1995.jpg池坊お茶の水学院.jpg 旧・日仏会館 1960(昭和45)年、現JRお茶の水駅付近に竣工、1995(平成7)年閉館(現、池坊お茶の水学院)、恵比寿へ移転

   
   
   
  

ジャン・ルノワール「ピクニック」dvd.jpgピクニックelle.jpg「ピクニック」●原題:PARTIE DE CAMPAGNE●制作年:1936年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン・ルノワール●製作:ピエール・ブロンベルジェ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:ジョゼフ・コスマ●原作:ギ・ド・モーパッサ「野あそび」●時間40分●出演:シルヴィア・バタイユ/ジョルジュ・ダルヌー(ジョルジュ・サン=サーンス)/ジャック・B・ブリュニウス/アンドレ・ガブリエロ/ジャーヌ・マルカン/ガブリエル・ファンタン/ポール・タン●日本公開:1977/03●配給:フランス映画社●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(80-02-15)(評価:★★★★)●併映:「素晴しき放浪者」(ジャン・ルノワール)
ジャン・ルノワール「ピクニック [DVD]

【1940年文庫化・1976年改版[岩波文庫(『メゾン テリエ 他三編』(河盛好蔵:訳))]/1951年再文庫化[新潮文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(青柳瑞穂:訳))]/1955年再文庫化[角川文庫(『メーゾン・テリエ―他三篇』(木村庄三郎:訳))]/1971年再文庫化[講談社文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(新庄嘉章:訳))]】

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『評決』の続編。本格リーガル・サスペンスだが、エンタメ要素もふんだんに。

決断 バリー・リード.jpg  評決 dvd.jpg 評決 ニューマン チラシ.jpg 『評決』(1982)3.jpg
決断 (ハヤカワ文庫NV)』['97年]/「評決 [DVD]」/映画「評決」チラシ/「評決」の1シーン
"The Choice" Barry C. Reed (Paperback 1992)『決断 (ハヤカワ・ノヴェルズ)』['94年]
『決断』ハヤカワ・ノヴェルズ.jpg アル中から立ち直った弁護士フランク・ギャルヴィンは、今や一流法律事務所で出世街道をひた走っていたが、ある日、若い女性弁護士ティナから巨大製薬会社の薬害訴訟の被害者側の弁護を依頼される。しかし、その訴訟は勝目が無い上に、その製薬会社はギャルヴィンの所属事務所の大手顧客であったため、彼は弁護を断わり、代わりに恩師の老弁護士モウ・カッツを紹介する。訴訟は提訴され、ギャルヴィンは図らずも製薬会社側の弁護を命じられ、恩師と女性弁護士、更には事務所を辞めたかつての部下らと対峙することになる―。

 1980年にデビュー作『評決』(原題:The Verdict、'83年/ハヤカワ・ミステリ文庫)を発表したバリー・リード(Barry C. Reed 1927-2002)が、11年後の1991年に発表した、『評決』の続編で(原題:The Choice)、医療ミスに関する訴訟を扱った前作の『評決』は、「十二人の怒れる男」のシドニー・ルメット監督、「明日に向かって撃て!」のポール・ニューマン(1925-2008)主演で映画化('82年/米)され、アル中のため人生のどん底にあった中年弁護士ギャルヴィンの、甦った使命感と自らの再起を賭けた法廷での闘いが描かれていました。

 本作『決断』では、弁護士として功名を成したギャルヴィンは、専ら大企業の弁護をするボストンの一流法律事務所のパートナー弁護士になっていて、その分刻みでのビジネスライクな仕事ぶりに、最初はすっかり人が変わってしまったみたいな印象を受けますが、やはりギャルヴィンはあくまでギャルヴィンであり、最後どうなるか大方の予想がつかなくもありませんでした。

 中盤までは、法律事務所の仕事ぶりや裁判の経緯がこと細かく描かれていて、バリー・リード自身が医療ミス事件としては史上最高額の評決を勝ち取ったことがある法律事務所に属していた辣腕弁護士であっただけに、本格的なリーガル・サスペンスという感じで、同じ弁護士出身の作家でも、『法律事務所』(1991年発表、'92年/文藝春秋)のジョン・グリシャムのよりも、弁護士としての実績では遥かにそれを上回る『推定無罪』(1987年発表、'88年/文藝春秋)のスコット・トゥローの作風に近い感じがしました。

 結末の方向性は大体見えているし、審理の過程を楽しむ"通好み"のタイプの作品かなと思って読んでいたら、『評決』同様乃至はそれ以上に終盤は緊迫したドンデン返しの連続で、一時は法廷を飛び出してスパイ・ミステリみたいになってきて、相変わらず女性との絡みもあり、大いに楽しませてくれました。

 映画化されたら「評決」と同じかそれ以上に面白い作品になるのではないかとも思いましたが、やはり、主人公がどん底から這い上がって来て、人生の逆転劇を演じるような作品の方がウケルのかなあ(『決断』は映画化されていない)。

 但し、こうした作品が映画化される場合、「評決」の時もカルテの書き換えとそれに関する偽証に焦点が当てられていたように、細かい箇所は端折って、どこか一点に絞ってクローズアップされる傾向にあり、リーガル・サスペンスとしての醍醐味は、やはり原作の方が味わえるのではないかと思います。

 振り返れば、女性の使われ方が『評決』とやや似かよっていて、また、証人の証言に比重がかかり過ぎているようにも思えましたが、後半からラストまでは息つく間もなく一気に読める作品でした(読んでいて、どうしてもギャルヴィンにポール・ニューマンを重ねてイメージしてしまう。映画化されていないのは、続編が出るのが遅すぎて、ポール・ニューマンが歳をとりすぎてしまっていたこともあるのか?)。

評決 ペーパーバック.jpg評決 ポール・ニューマン.jpg 映画「評決」は、当初アーサー・ヒラー監督、ロバート・レッドフォード主演で制作が予定されていたのが、アーサー・ヒラーが創作上の意見不一致を理由に降板、ロバート・レッドフォードもアル中の役は彼のイメージにそぐわないとの理由で見送られ、企画は頓挫し、脚本も途中で何回も書き直されることになったそうです。

 結局、監督はシドニー・ルメットに(彼が選んだ脚本は一番最初に没になったものだった)、主演は「明日に向かって撃て!」でレッドフォードと共演した評決 新宿ロマン1.jpg評決 新宿ロマン2.jpgポール・ニューマンになり、そのポール・ニューマン自身、「自分の長いキャリアの中で初めてポール・ニューマン以外の人物を演じた」と述べたそうですが、そうした彼の熱演もあって、リーガル・サスペンスと言うより人間ドラマに近い感じに仕上がっているように思いました。

評決 ニューマン.jpg ちょうどアカデミー賞の受賞式を日本のテレビ局で放映するようになった頃で、ポール・ニューマンの初受賞は堅いと思われていましたが、「ガンジー」のベン・キングズレーにさらわれ、4年後の「ハスラー2」での受賞まで持ち越しになりました。映画の内容の方は、より一般向けに原作をやや改変している部分もありますが、ポール・ニューマンの演技そのものにはアカデミー賞をあげてもよかったのではないかと思いました。

The Verdict (1982).jpgThe Verdict (1982)
評決」●原題:THE VERDICT●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:リチャード・D・ザナック/デイヴィッド・ブラウン●脚本:デイヴィッド・マメット●撮影:アンジェイ・バートコウィアク●音楽:ジョニー・マンデル●時間:129分●出演:ポール・ニューマン/シャーロット・ランプリング/ジャック・ウォーデン/「評決」 シャーロット・ランプリング.jpg評決 ジェームズ・メイソン.jpg評決 ブルース・ウィリス2.jpgジェームズ・メイスン/ミロ・オシア/エドワード・ビンズ/ジュリー・ボヴァッソ/リンゼイ・クルーズ/ロクサン・ハート/ルイス・J・スタドレン/ウェズリー・アディ/ジェームズ・ハンディ/ジョー・セネカケント・ブロードハースト/コリン・スティントン/バート・ハリス/ブルース・ウィリス(ノンクレジット)(傍聴人)●日本公開:1983/03●配給:20世紀フォックス●最初に観新宿ロマン.png新宿ロマン劇場2.jpgた場所:新宿ロマン劇場(83-05-03)(評価:★★★☆) 
    
新宿ロマン劇場 明治通り・伊勢丹向かい。1924(大正13)年「新宿松竹館」→1948(昭和23)年「新宿大映」→1971(昭和46)年「新宿ロマン劇場」 1989(平成元)年1月16日閉館

「新宿ロマン劇場閉館―FNNスーパータイム」1989(平成元)年1月17日放送(アンカーマン 逸見政孝・安藤優子)
新宿ロマン劇場閉館.jpg

【1997年文庫化[ハヤカワ文庫NV]】

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「チャンプ」に比べリアリティがある分、カタルシス効果は弱い。佳作だが地味か。

TABLE FOR FIVE 1982 5人のテーブル.jpg5人のテーブル チラシ.png 5人のテーブル ビデオ.jpg    飯野ビル.jpg
「5人のテーブル」輸入版VHS・チラシ/「5人のテーブル [VHS]」/内幸町・旧飯野ビル(手前中央)

Table For Five movie poster2.jpg5人のテーブル 輸入版dvd.jpg もとプロゴルファーで現在は不動産屋のタネン(ジョン・ヴォイト)は、別れた妻(ミリー・パーキンス)のもとで育てられている3人の子供たちと年に一度過ごす期間に、夏の地中海を豪華客船で旅をするというプランを立てる。それは子供達の愛情を取り戻し、妻との復縁の為に無理をして実行した旅行だったが―。

 父親と息子の絆を描いた「チャンプ」('79年)で父親のプロボクサー役を演じたジョン・ヴォイトが、3年後のこの作品でもまた、自堕落により離婚し、今は何とか家族との絆を回復したいと考えている父親を演じています(この映画の製作も兼ねたジョン・ヴォイトの実生活における父親もプロゴルファーだった。娘は女優のアンジェリーナ・ジョリー)。

 主人公の父親が、酒などで身を持ち崩した離婚男であるのは「チャンプ」のボクサーと同じですが、いきなりエジプト旅行とかを思い立ったりして、性格的にもやや破綻気味なのが「チャンプ」とは異なる点で、"性格俳優"のジョン・ヴォイトが演じるにより相応しいキャラクターだったかも知れません。

 3人の子供(内1人はベトナム系養子)を連れての旅の最中にも、元妻以外の新たな相手女性を探し求めたりしていて、レストランでの食事で"5人席"を予約した腹の内を子供達に見透かされるなど、子供の方も「チャンプ」よりスレてきていていますが、そうしたことも含め、脚本にはリアリティがあったのでは。

5人のテーブル 1.jpg 別れた妻の再婚相手は弁護士であり、普通にエンタメ系ならば、こうした社会的地位のある強力なライバルとダメ男だった主人公が競い合って、最後は主人公が再び家族を取り戻すという風になりがちなのですが、この作品は必ずしもそうはなりません。

 「チャンプ」のような"大円団"的な終わり方にはならないので、「チャンプ」と同じくらい"泣ける映画"との触れ込みでロードにかかりましたが、カタルシス効果は弱いと思います。

TABLE FOR FIVE3.jpg 「父親とは何か」を考えさせる映画であり、但し、ここで求められている父親像は、ハリウッド映画の伝統的な「強い父親」像ともやや異なり、アメリカ映画というよりヨーロッパ映画を観ているみたいな感じでした("新たな相手女性?"役でマリー・クリスチーヌ・バローとか出てくるし)。

 70年代後半から80年代にかけては、日本の経済は安定成長期でしたが(その後、バブル経済に突入する)、片やアメリカは、景気が低迷して企業の生産性は落ち込み、リストラが横行して多くの労働者が失業に喘いでいました。

5人のテーブル2.jpg 「チャンプ」('79年)と「5人のテーブル」('82年)の2作品だけの比較で見るのは乱暴かもしれませんが、不況の時は「一発逆転」的なドリーミィな作品がウケるかも知れないけれども、あまりに不況が長引くと、そんな"夢物語"のような話は次第に受け容れられにくくなり、こうしたリアルな脚本になったのではないかとも。

 豪華客船での地中海クルーズという見た目の派手さとは逆に、作品そのものの印象が、"佳作"ではあるが地味ということになるのはそのせいでしょう。世の景気は映画の作風に影響するのかも(ビデオ化はされているが、DVDは見当たらない。"バブル直前の日本"向きの作品ではなかった?)。

 霞が関(内幸町)・飯野ビル内「イイノホール」での試写会で鑑賞しました(試写会で映画を観るというのは個人的には滅多にないことなのだが、たまたま勤め先の近くだったので)。霞が関のど真ん中、地下鉄「霞が関」駅の真上に、これだけの敷地を使って9階建とは勿体ないと常々思っていたら(隣の日比谷中日ビルも10階建とそう高くはないが)、この度、約半世紀ぶりに建て替えられることになりました(新ビルは27階建、ホールの席数は600超→500席に減る)。

「5人のテーブル」●原題:TABLE FOR FIVE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・リーバーマン●製作: ロバート・シャッフェル/ジョン・ヴォイト●脚本:デイヴィッド・セルツァー●撮影:ヴィルモス・ ジグモンド●音楽:ジョン・モリス●時間:122分●出演:ジョン・ヴォイト/リチャード・クレンナ/ミリー・パーキンス/マリー・クリスチーヌ・バロー/ロクサーナ・ザル/ロビー・カイガー/ソン・ホアン・ブイ/ケヴィン・コスナー●日本公開:1983/03●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:霞が関・イイノホール(83-03-01)(評価:★★★☆)

新イイノホール.jpg飯野ビル3.jpgイイノホール地図.jpg旧イイノホール 1960年10月霞が関・飯野ビル内に、試写会、舞踊・演劇・落語公演、会議・セミナー用多目的ホールとしてオープン。2007(平成19)年10月30日閉館。2011(平成23)年11月再オープン予定。

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「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」

継母礼讃 (中公文庫).jpg継母礼讃 リョサ.jpg  Emmanuelle video.jpg 夜明けのマルジュ チラシ2.jpg 夜明けのマルジュ dvd.jpg
継母礼讃 (モダン・ノヴェラ)』「エマニエル夫人 [DVD]」「夜明けのマルジュ [DVD]
継母礼讃 (中公文庫)

Elogio de La Madrastra.jpg バルガス=リョサが1988年に発表した作品で(原題:Elogio de La Madrastra)、父親と息子、そして継母という3人家族が、息子であるアルフォンソ少年が継母のルクレシアに性愛の念を抱いたことで崩壊していく、ある種アブノーマル且つ"悲劇"的なストーリーの話。

candaules.jpg 当時からガルシア=マルケス、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、フリオ・コルタサルと並んでラテンアメリカ文学の四天王とでもいうべき位置づけにあった作家が、こうしたタブーに満ちた一見ポルノチックともとれる作品を書いたことで、発表時は相当に物議を醸したそうですが、バルガス=リョサの描く官能の世界は、その高尚な文学的表現のため、どことなく宗教的な崇高ささえ漂っており、「神話の世界」の話のようでもあります。そのことは、現在の家族の物語と並行して、ヘロドトスの『史記』にある、自分の妻の裸を自慢したいがために家臣に覗き見をさせ、そのことが引き金となって家臣に殺され、妻を奪われた、リディア王カンダウレスの物語や、ギリシャ神話の「狩りの女神」の物語が挿入されていることでより強まっており、更に、物語の展開の最中に、関連する古典絵画を解説的に挿入していることによっても補強されているように思いました。

Candaules, rey de Lidia, muestra su mujer al primer ministro Giges, de Jacob Jordaens(「カンダウレス王室のギゲス」ヤコブ・ヨルダーエンス(1648)本書より)

Mario Vargas Llosa Julia Urquidi.jpg ただ、個人的には、バルガス=リョサの他の作品にもこうした熟女がしばしば登場し、また、彼自身、19歳の時に義理の叔母と結婚しているという経歴などから、この人の"熟女指向"が色濃く出た作品のようにも思いました。それがあまりにストレートだと辟易してしまうのでしょうが、「現代の物語」の方は、ルクレシアの視点を中心に、第三者の視点など幾つかに視点をばらして描いていて、少年自身の視点は無く、少年はあくまでも無垢の存在として描かれており、この手法が、「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」というモチーフを構成することに繋がっているように思いました。

Mario Vargas Llosa y Julia Urquid Illanes,París, 7 de junio de 1964

 しかし、帯には「無垢な天使か、好色な小悪魔か!?」ともあり、父親にとってこの息子は、好色な小悪魔であるに違いなく、また、継母が去った後、今度は召使を誘惑しようとするところなど、ますます悪魔的ではないかと...。「現代の物語」と、挿入されている「リディア王の話」(家臣に自分の眼の前で妻と交情するよう命じ、これを拒んだ家臣の首を刎ねた)とは、それぞれ異質の性愛を描いているように思えました。

 強いて言えば、「現代の物語」の方は、エディプス・コンプレックスの変型であり(バルガス=リョサ型コンプレックス?)、「リディア王の話」は、エマニュエル・アルサン(1932-2005)原作、ジュスト・ジャカン(1940-2022/82歳没)監督の「エマニエル夫人」('74年/仏)のアラン・キュニーが演じた老紳士マリオの"間接的性愛"のスタンスに近いと言えるでしょうか。性に対してある種の哲学(「セックスから文明社会の意味を取り除いた部分にしか、性の真理はない」という)を持つマリオにとって、エマニエルはそうした哲学を実践するにまたとない素材だった―。

エマニエル夫人 アラン・キュニ―2.jpg エマニエル夫人 チラシ.jpg 華麗な関係.jpg 夜明けのマルジュ チラシ.jpg
「エマニエル夫人」の一場面(A・キュニー)/「エマニエル夫人」/「華麗な関係」/「夜明けのマルジュ」各チラシ

エマニエル夫人の一場面.jpg 「エマニエル夫人」はいかにもファッション写真家から転身した監督(ジュスト・ジャカン)の作品という感じで、モデル出身のシルヴィア・クリステル(1952-2012/60歳没)が、演技は素人であるにしても、もう少し上手ければなあと思われる凡作でしたが、フランシス・ジャコベッティが監督した「続エマニュエル夫人」('75年)になっても彼女の演技力は上がらず、結局は上手くならないまま、シリーズ2作目、3作目(「さよならエマニュエル夫人」('77年))と駄作化していきました。内容的にも、第1作にみられた性に対する哲学的な考察姿勢は第2作、第3作となるにつれて影を潜めていきます。その間に舞台はタイ → 香港・ジャワ → セイシェルと変わり「観光映画」としては楽しめるかも知れないけれども...。でもあのシリーズがある年代の(男女問わず)日本人の性意識にかなりの影響を及ぼした作品であることも事実なのでしょう。

華麗な関係 1976ド.jpg華麗な関係lt.jpg 同じくシルヴィア・クリステル主演の、ロジェ・ヴァディムが監督した「華麗な関係」('76年/仏)も、かつてジェラール・フィリップ、ジャンヌ・モロー、ジャン=ルイ・トランティニャンを配したロジェ・ヴァディム自身の「危険な関係」('59年/仏)のリメイクでしたが、原作者のラクロが墓の下で嘆きそうな出来でした。

「華麗な関係」('76年/仏)

夜明けのマルジュの一場面.jpg 同じ年にシルヴィア・クリステルは、ヴァレリアン・ボロヴズィック監督の「夜明けのマルジュ」('76年/仏)にも出演していて(実はこれを最初に観たのだが)、アンドレイ・ピエール・マンディアルグ(1909 -1991)のゴンクール賞受賞作「余白の街」が原作で、1人のセールスマンが、出張先のパリで娼婦と一夜を共にした翌朝、妻と息子の急死の知らせを受け自殺するというストーリー。メランコリックな脚本やしっとりしたカメラワーク自体は悪くないのですが、「世界一美しい娼婦」という触れ込みのシルヴィア・クリステルが、残念ながら演技し切れていない...。

「エマニエル夫人」●1.jpg「エマニエル夫人」●2.jpg 何故この女優が日本で受けたのかよく解らない...と言いつつ、自分自身もシルヴィア・クリステルの出演作品を5本以上観ているわけですが、個人的には公開から3年以上経って観た「エマニエル夫人」に関して言えば、シルヴィア・クリステルという女優そのものが受けたと言うより、ピエール・バシュレの甘い音楽とか(「続エマニュエル夫人」ではフランシス・レイ、「さよならエマニュエル夫人」ではセルジュ・ゲンズブールが音楽を担当、セルジュ・ゲンズブールは主題歌歌唱も担当)、女性でも観ることが出来るポルノであるとか、商業映画として受ける付加価値的な要素が背景にあったように思います(合計320万人の観客のうち女性が8割を占めたという(『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』('91年/文春文庫ビジュアル版)より))。
「続エマニュエル夫人」('75年/仏) 音楽:フランシス・レイ

A Man for Emmanuelle(1969)
A Man for Emmanuelle (1969) L.jpg バルガス=リョサの熟女指向から始まって、殆どシルヴィア・クリステル談義になってしまいましたが、シルヴィア・クリステルの「エマニュエル夫人」はエマニュエル・シリーズの初映像化ではなく、実際はこの作品の5年前にイタリアで作られたチェザーレ・カネバリ監督、エリカ・ブラン主演の「アマン・フォー・エマニュエル(A Man for Emmanuelle)」('69年/伊)が最初の映画化作品です(日本未公開)。

 因みに、「エマニュエル夫人」「続エマニュエル夫人」はエマニュエル・アルサンが原作者ですが、最後エマニュエルが男性依存から抜け出して自立することを示唆した終わり方になっている「さよならエマニュエル夫人」は、オリジナル脚本です。一方で、エマニュエル・アルサン原作の他の映画化作品では、女流監督ネリー・カプランの「シビルの部屋」('76年/仏)というのもありました。

シビルの部屋 旧.jpgシビルの部屋 pabnnhu.jpg 「シビルの部屋」のストーリーは、シビルという16歳の少女がポルノ小説を書こうと思い立って、憧れの中年男に性の手ほどきを受け、その体験を本にしたところベストセラーになってしまい、執筆に協力してくれた男を真剣に愛するようになった彼女は、今度は手を切ろうとする男に巧妙な罠をしかけて陥落させようとする...というもので、原作はエマニュエル・アルサンの半自伝的小説であり、アルサンは実際にこの作品に出てくる「ネア」という小説も書いている-と言うより、この映画の原作が「ネア」であるという、ちょっとした入れ子構造。映画化作品は、少女の情感がしっとりと描かれている反面、目的のために手段を選ばないやり方には共感しにくかったように思います。

「O嬢の物語」vjsヌ.jpg「O嬢の物語」 .jpg 「エマニエル夫人」のジュスト・ジャカン監督は、ポーリーヌ・レアージュのポルノグラフィー文学として名高い、SM文学小説『O嬢の物語』の映画化していて(「O嬢の物語」('75年/仏))、ヒロインO(コリンヌ・クレリー)が、恋人のルネ(ウド・キア)と、ロワッシー館に入り、そこで、Oは全裸になり皮手錠と首輪をはめられ、着衣の男の愛撫を受けて鞭を打たれ、ルネはただ見守るだけ。あるとき全裸のままのOが紅茶を飲んでいる最中に、ルネと一緒に見知らぬ男がやってきて3人で―と、裸のヒロインと着衣の男姓とが絡むCMNFシーンが目立った作品でした(焼きゴテが熱そうで、あまり文学の香りはしなかった(笑))。

「ホテル」 コリンヌ・クレリー.jpg「ホテル」 コリンヌ・クレリー2.jpg O嬢を演じたコリンヌ・クレリーが出た映画では、「ホテル」('77年/伊・西独)というものがあり、あらすじは以下の通り。

 裕福な人妻パスカル(コリンヌ・クレリー)は、郊外に別荘があるベルリンから、出張に出る夫を空港で見送り、自分はパリの自宅へ戻るはずだったが、飛行機に乗り遅れ、ひとりで市内に留まることになる。彼女は、かつて夫と初めて情を交わしたクラインホフ・ホテルを思い出し、久々に泊まろうと思い立つ。通された部屋で彼女は、隣室の光が隙間から漏れており、覗けることに気づく。そこにいた男は、やがて娼婦を呼び入れ情交するが、パスカルは一部始終を隣室から覗き見し、その男がカール(ブルース・ロビンソン:)という名で、地下組織のメンバーであり、裏切者を殺す手筈にある事を知る―。

 こうしてストーリーを紹介すると、エロチックではらはらドキドキもしそうな感じですが、全然そうじゃなかった(笑)。公開時、この映画はほとんど肯定的な批評を得られず、近年の評価でも、「カルロ・リッツァーニの最高傑作のひとつ」との再評価もありますが(日本では2018年に「O嬢の物語」のHDリマスター版DVDが発売されたのに合わせて、こちらもノーカット完全版DVDが発売された)、それは部分的なものでしかないようです(コリンヌ・クレリーの相手役を演じたブルース・ロビンソンは、後のインタビューで、本作につい「007ムーンレイカー」コリンヌ・クレリー.jpgて「僕は観てないよ。要は、高級なポルノグラフィさ」と述べている)。全体の暗い雰囲気はいかにもドイツという感じ。これを観た「新橋文化」は山手線のガード下にあり、列車が通る度にガタガタうるさい音がするのが記憶に残っています。コリンヌ・クレリーは、この作品の後「007 ムーンレイカー」('79年/英)にも出演し、ロイス・チャイルズに次ぐ"第2のボンド・ガール"となりますが、歴代で最もセクシーなボンド・ガールだったとの声も一部にあるようです。

「007/ムーンレイカー」コリンヌ.jpg
「007/ムーンレイカー」コリンヌ・クレリー/ロジャー・ムーア

エマニエル夫人00.jpg「エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE●制作年:1974年●制作国:フランス●監督:ジュスト・ジャカン●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:ジャン=ルイ・リシャール●撮影:リシャール・スズキ●音楽:ピエール・バシュレ●原作:エマニュエル・アルサン「エマニュエル」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/アラン・キューリー/ダニエル・サーキー/クリスティーヌ・ボワッソン/マリカ・グリーン●日本公開:1974/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★★)●併映:「続・エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)

続エマニエル夫人 ド.jpg続エマニエル夫人 vhs.jpg「続エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE, L'ANTI VIERGE/EMMANUELLE: THE JOYS OF A WOMAN●制作年:1975年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジャコベッティ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:フランシス・ジャコベッティ/ロベール・エリア/ジェラール・ブラッシュ●撮影:ロベール・フレース●音楽:フランシス・レイ●原作:エマニュエル・アルサン●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/カトリーヌ・リヴェ/カロライン・ローレンス/フレデリック・ラガーシュ/ラウラ・ジェムサー●日本公開:1975/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)
続エマニエル夫人 [DVD]

さよならエマニエル夫人1977.jpg「さよならエマニエル夫人」●原題:GOOD-BYE, EMMANUELLE●制作年:1977年●制作国:フランス●監督:フランソワ・ルテリエ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:さよならエマニエル夫人 dvd .jpgフランソワ・ルテリエ/モニク・ランジェ●撮影:ジャン・バダル●音楽:セルジュ・ゲンズブール●時間:98分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/アレクサンドラ・スチュワルト/ジャン=ピエール・ブーヴィエ/ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ/オルガ・ジョルジュ=ピコ/シャルロット・アレクサンドラ●日本公開:1977/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「続エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)
さよならエマニエル夫人 [DVD]

UNE FEMME FIDELE 1976.jpgUNE FEMME FIDELE.jpg華麗な関係 チラシ2.jpg「華麗な関係」●原題:UNE FEMME FIDELE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:フランシス・コーヌ/レイモン・エジェ●脚本:ロジェ・ヴァディム/ダニエル・ブーランジェル●撮影:クロード・ルノワ●音楽:モルト・シューマン/ピエール・ポルト●原作:ピエール・コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョン・フィンチ/ナタリー・ドロン/ジゼール・カサドジュ/ジャック・ベルティエ/アンヌ・マリー・デスコット/セルジュ・マルカン●日本公開:1977/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-16)(評価:★☆)●併映:「エーゲ海の旅情」(ミルトン・カトセラス)/「しのび逢い」(ケビン・ビリングトン)
「ぴあ」1978年1月号
ぴあ 三鷹東映 (2).jpg

夜明けのマルジュの一場面2.jpg「夜明けのマルジュ」●原題:LA MARGE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ヴァレリアン・ボロヴズィック●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●撮影:ベルナール・ダイレ夜明けのマルジュ 09.jpgンコー●音楽:ロベール・アキム●原作:アンドレイ・ピエール・ド・マンディアルグ「余白の町」●時間:93分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョー・ダレッサンドロ/ミレーユ・オーディベル/アンドレ・ファルコン/ドニス・マニュエル/ノルマ・ピカデリー/ルィーズ・シュヴァリエ/ドミニク・マルカス/カミーユ・ラリヴィエール●日本公開:1976/10●配給:富士映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(77-12-15)(評価:★★☆)●併映:「続 個人教授」(ジャン・バチスト・ロッシ)

NEA 1976_01.jpgシビルの部屋 新.jpg「シビルの部屋」●原題:NEA●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ネリー・カプラン ●製作:ギー・アッジ●脚本:ネリー・カプラン/ジャン・シャポー●撮影:アンドレアス・ヴァインディング●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:エマニュエル・アルサン「少女ネア」●時間:106分●出演:アン・ザカリアス/サミー・フレイ/ミシュリーヌ・プレール/フランソワーズ・ブリオン/ハインツ・ベネント/マルタン・プロボスト●日本公開:1977/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(77-12-24)(評価:★★☆)●併映:「さすらいの航海」(スチュアート・ローゼンバーグ)シビルの部屋 [DVD]

O嬢の物語 劇場版 ヘア完全解禁 HDリマスター版 [DVD]
「O嬢の物語」1975.jpg「O嬢の物語」コリンヌ.jpg「O嬢の物語」●原題:HISTOIRE D'O●制作年:1975年●制作国:フランス●監督:ジュスト・ジャカン●製作:エリック・ローシャ●脚本:セバスチャン・ジャプリゾ●撮影:ロベール・フレース●音楽:ピエール・バシュレ●原作:ポーリーヌ・レアージュ●時間:105分●出演:コリンヌ・クレリー/ウド・キア/アンソニー・スティール/ジャン・ギャバン/クリスチアーヌ・ミナッツォリ/マルティーヌ・ケリー/リ・セルグリーン/アラン・ヌーリー●日本公開:1976/03●配給:東宝東和●最初に観た場所:三鷹東映(78-02-04)(評価:★★)●併映:「ラストタンゴ・イン・パリ」(ベルナルド・ベルトリッチ)/「スキャンダル」(サルバトーレ・サンペリ)

ホテル <ノーカット完全版> ブルーレイ [Blu-ray]
「ホテル」1975.jpgKLEINHOFF HOTEL.jpg「ホテル」●原題:KLEINHOFF HOTEL●制作年:1975年●制作国:イタリア・西ドイツ●監督:カルロ・リッツァーニ●製作:ジュゼッペ・ベッツァーニ●脚本:セバスチャン・ジャプリゾ●撮影:ガボール・ポガニー●音楽:ジョルジオ・ガスリーニ●原案:バレンティーノ・オルシーニ●時間:105分●出演:コリンヌ・クレリー/ブルース・ロビンソン/ケイチャ・ルペ/ウェルナー・ポチャス/ペーター・カーン/ミケーレ・プラチド - ペドロ ●日本公開:1981/05●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:新橋文0新橋文化劇場.jpgimagesCA9GCJE5.jpg化劇場(83-09-17)(評価:★☆)●併映:「ラストタンゴ・イン・パリ」(ベルナルド・ベルトリッチ)/「スキャンダル」(サルバトーレ・サンペリ)

新橋文化劇場(2014(平成26)年8月31日閉館)

【2012年文庫化[中公文庫]】

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初読では中だるみ感があったが、映画を観てもう一度読み返してみたら、無駄の無い傑作だった。
グレート・ギャツビー.jpg グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー) 和田誠.jpg グレート・ギャツビー 野崎訳.jpgグレート・ギャツビー 新潮文庫2.jpg 翻訳夜話.jpg
愛蔵版グレート・ギャツビー』 『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(新書)/『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(新書)(以上、装幀・カバーイラスト:和田 誠)/『グレート・ギャツビー (新潮文庫)』(野崎孝:訳)/村上 春樹・柴田 元幸『翻訳夜話 (文春新書)
First edition cover (1925)
The Great Gatsby.jpg 1920年代初頭、米国中西部出身のニック・キャラウェイは、戦争に従軍したのち故郷へ帰るも孤独感に苛まれ、証券会社でフランシス・スコット・フィッツジェラルド.jpg働くためにニューヨーク郊外ロング・アイランドにある高級住宅地ウェスト・エッグへと引っ越してくるが、隣の大邸宅では日々豪華なパーティが開かれていて、その庭園には華麗な装いの男女が夜毎に集まっており、彼は否応無くその屋敷の主ジェイ・ギャツビーという人物に興味を抱くが、ある日、そのギャツビー氏にパーティに招かれる。ニックがパーティに出てみると、参加者の殆どがギャツビーについて正確なことを知らず、ニックには主催者のギャツビーがパーティの場のどこにいるかさえわからない、しかし、たまたま自分の隣にいた青年が実は―。

The Great Gatsby: The Graphic Novel(2020)
The Great Gatsb The Graphic Novel.jpg 1925年に出版された米国の作家フランシス・スコット・フィッツジェラルド(Francis Scott Fitzgerald、1896‐1940/享年44)の超有名作品ですが(原題:The Great Gatsby)、上記のようなところから、ニックとギャツビーの交遊が始まるという初めの方の展開が単純に面白かったです。

 しかし、この小説、初読の際は中間部分は今一つ波に乗れなかったというか、自分が最初に読んだのは野崎孝(1917‐1995)訳『偉大なるギャツビー』でしたが、今回、翻訳のリズムがいいと評判の村上春樹氏の訳を読んで、それでもやや中だるみ感があったかなあと(金持ち同士の恋の鞘当てみたいな話が続き、その俗っぽさがこの作品の持つ1つの批判的テーマであると言えるのだが...)。ただし、ギャツビーという人物の来歴と、彼の自らの心の空洞を埋めようとするための壮大な計画が明かされていく過程は、やはり面白いなあと―。そしてラスト、畳み掛けるようなカタストロフィ―と、小説としての体裁もきっちりしていることはきっちりしていると思いました。更に、最近リアルタイムでは観られなかったジャック・クレイトン監督、ロバート・レッドフォー華麗なるギャツビー 1974 dvd.jpg華麗なるギャツビー 1974.jpgド主演の映画化作品「華麗なるギャツビー」('74年/米)をテレビで観る機会があって、その上でもう一度、野崎訳及び村上訳を読み返してみると、起きているごたごたの全部が終盤への伏線となっていたことが再認識でき、村上春樹氏が「過不足のない要を得た人物描写、ところどころに現れる深い内省、ヴィジュアルで生々しい動感、良質なセンチメンタリズムと、どれをとっても古典と呼ぶにふさわしい優れた作品となっている」と絶賛しているのが分かる気がしました。
華麗なるギャツビー [DVD]

 ギャツビーにはモデルがいるそうですが、ニックとギャツビーのそれぞれがフィッツジェラルドの分身であり(ついでに言えば、妻に浮気されるトム・ブキャナンも)、そしてフィッツジェラルド自身が美人妻ゼルダ(後に発狂する)と高級住宅地に住まいを借りてパーティ漬けの派手な暮らしをしながら、やがて才能を枯渇させてしまうという、華々しさとその後の凋落ぶりも含めギャツビーと重なるのが興味深いですが、これはむしろ小説の外の話で、ニックの眼から見た"ギャツビー"の描写は、こうした実生活での作者自身との相似に反して極めて冷静な筆致で描かれていると言ってよいでしょう。

『グレート・ギャツビー』 (2006).JPG村上春樹 09.jpg 新訳というのは大体読みやすいものですが、村上訳は、ギャツビーがニックを呼ぶ際の「親友」という言葉を「オールド・スポート」とそのまま訳したりしていて(訳していることにならない?)、日本語でしっくりくる言葉がなければ、無理して訳さないということみたいです(柴田元幸氏との対談『翻訳夜話』('00年/文春新書)でもそうした"ポリシー"が語られていた)。ただし、個人的には、「オールド・スポート」を敢えて「親友」と訳さなかったことは、うまく作用しているように思いました(映画を観るとギャツビーは「オールド・スポート」と言う言葉を様々な局面で使っていて、その意味合いがそれぞれ違っていることが分かる。それらを日本語に訳してしまうと、同じ言葉を使い分けているということが今度は分からなくなる)。

『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(2006)(装幀・カバーイラスト:和田 誠

グレート・ギャツビー』1.JPG そうした意味では、タイトルを『グレート・ギャツビー』としたこともまた村上氏らしいと思いました。ただし、野崎孝訳も'89年の「新潮文庫」改訂時に『グレート・ギャツビー』に改題していて、故・野崎孝氏に言わせれば、フィッツジェラルドは、親から受け継いだ資産の上に安住している金持ち階級を嫌悪し(作中のブキャナン夫妻がその典型)、自らの才覚と努力によって財を成した金持ち(ギャツビーがこれに該当)には好意と尊敬の念を抱いていたとのこと('74年版「新潮文庫」解説)。だから、"グレート"という言葉には敬意も込められていると見るべきなのでしょう。
   
日はまた昇る.jpg 村上氏はこの作品を"生涯の1冊"に挙げており、同じ"ロスト・ジェネレーション"の作家ヘミングウェイ『日はまた昇る』(この作品とシチュエーションが似ている面がある)より上に置いていますが、個人的には『日はまた昇る』も傑作であると思翻訳夜話2.jpgっており、どちらが上かは決めかねます。 

 因みに、先に挙げた『翻訳夜話』は、柴田氏と村上氏が、東京大学の柴田教室と翻訳学校の生徒、さらに6人の中堅翻訳家という、それぞれ異なる聴衆に向けて行った3回のフォーラム対談の記録で、村上氏は翻訳に際して「大事なのは偏見のある愛情」であると言い、柴田氏は「召使のようにひたすら主人の声に耳を澄ます」と言っています。レイモンド・カーバーとポール・オースターの短編小説を二人がそれぞれ「競訳」したものが掲載されていて、カーバーの方は村上氏の方が訳文が長めになり、オースターの方は柴田氏の方が長めになっているのが、両者のそれぞれの作家に対する思い入れの度合いを反映しているようで興味深かったです。

「グレート・ギャツビー」人物相関.jpg

0華麗なるギャツビー レッドフォード.jpg(●2013年にバズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演で再映画化された。1974年のジャック・クレイトン監督のロバート・レッドフォード、ミア・ファロー版は、当初はスティーブ・マックィーン、アリ・マックグロー主演で計画されていて、それがこの二人に落ち着いたのだが、村上春樹氏などは「落ち着きが悪い」としていた(ただし、フランシス・フォード・コッポラの脚本を評価していた)。個人的には、デイジー役のミア・ファローは登場するなり心身症的なイメージで、一方、ロバート・レッドフォードは健全すぎたのでアンバランスに感じた。レオナルド・ディカプリオ版におけるディカプリオの方が主人公のイメージに合っていたが(ディカプリオが家系0華麗なるギャツビー  ディカプリオ .jpg的に4分の3ドイツ系であるというのもあるか)、キャリー・マリガン演じるデイジーが、完全にギャツビーを取り巻く俗人たちの1人として埋没していた。セットや衣装はレッドフォード版の方がお金をかけていた。ディカプリオ版も金はかけていたが、CGできらびやかさを出そうとしたりしていて、それが華やかと言うより騒々しい感じがした。目まぐるしく移り変わる映像は、バズ・ラーマン監督の「ムーラン・ルージュ」('01年)あたりからの手法だろう。ディカプリオだから何とか持っているが、「ムーラン・ルージュ」ではユアン・マクレガーもニコール・キッドマンもセット(CG含む)の中に埋もれていた。)

華麗なるギャツビー r2.jpg 華麗なるギャツビー d2.jpg

華麗なるギャツビー dvd.jpg
   
グレート・ギャツビー (愛蔵版).jpgグレート・ギャツビー 村上春樹翻訳ライブラリー2.jpg【1957年文庫化[角川文庫(大貫三郎訳『華麗なるギャツビー』)]/1974年再文庫化[早川文庫(橋本福夫訳『華麗なるギャツビー』)]/1974年再文庫化[新潮文庫(野崎孝訳『偉大なるギャツビー』)・1989年改版(野崎孝訳『グレート・ギャツビー』)]/1978年再文庫化[旺文社文庫(橋本福夫訳『華麗なるギャツビー』)]/1978年再文庫化[集英社文庫(野崎孝訳『偉大なギャツビー』]/2006年新書化[中央公論新社・村上春樹翻訳ライブラリー(『グレート・ギャツビー』]/2009年再文庫化[光文社古典新訳文庫(小川高義訳『グレート・ギャツビー』)】[左]『愛蔵版グレート・ギャツビー』(2006/11 中央公論新社)/[右]『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(2006/11 中央公論新社)(共に装幀・カバーイラスト:和田 誠


新潮文庫(野崎孝訳)映画タイアップ・カバー(レッドフォード版)
グレート・ギャツビー 新潮文庫im.jpg華麗なるギャツビー 1974  .jpg「華麗なるギャツビー」●原題:THE GREAT GATSBY●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・クレイトン●製作:オデヴィッド・メリック●脚本:フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ネルソン・リドル●原作:スコット・フィッツジェラルド●時間:144分●出演:ロバート・レッドフォード/ミア・ファロー/ブルース・ダーン/ サム・ウォーターストン/スコット・ウィルソン/ カレン・ブラック/ロイス・チャイルズ/パッツィ・ケンジット/ハワード・ダ・シルバ/ロバーツ・ブロッサム/キャスリン・リー・スコット●日本公開:1974/08●配給:パラマウント映画(評価:★★★☆)

新潮文庫(野崎孝訳)映画タイアップ・カバー(ディカプリオ版)
グレート・ギャツビー 新潮文庫2.jpg華麗なるギャツビー d1.jpg「華麗なるギャツビー」●原題:THE GREAT GATSBY●制作年:2013年●制作国:アメリカ●監督:バズ・ラーマン●製作:ダグラス・ウィック/バズ・ラーマン/ルーシー・フィッシャー/キャサリン・ナップマン/キャサリン・マーティン●脚本:バズ・ラーマン/クレイグ・ピアース●撮影:サイモン・ダガン●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:スコット・フィッツジェラルド●時間華麗なるギャツビー 2013 _1.jpg:143分●出演:レオナルド・ディカプリオ/トビー・マグワイア/キャリー・マリガン/ジョエル・エドガートン/アイラ・フィッシャー/ジェイソン・クラーク/エリザベス・デビッキ/ジャック・トンプソン/アミターブ・バッチャン●日本公開:2013/06●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

「華麗なるギャツビー」d版.jpg
  

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女を憎むことができない男の純情が切ない。

MONSIEUR HIRE.jpg仕立て屋の恋0.jpg 仕立て屋の恋.jpg Patrice Leconte.jpg Patrice Leconte
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仕立て屋の恋2.jpg ある青年が殺害される事件が起き、以前に強制わいせつ罪で捕まったことのある仕立て屋の中年男イール(ミシェル・ブラン)が疑われる。イールは極端に几帳面で人嫌いな性格だった。彼は、向かいに住むアリス(サンドリーヌ・ボネール)という美しい女性に恋い焦がれていたが、彼女にエミール(リュック・テュイリエ)という恋人がいることを知っていた。イールは、彼女に言い寄るわけでもなく、彼女の生活を夜毎、自分の部屋から覗き見するのを生きがいとしていた。そしてイールは、エミールが殺人事件の真犯人であり、アリスがその隠蔽工作をしたことも知っていた―。

Monsieur Hire(1989).jpg仕立て屋の恋35.jpg パトリス・ルコント監督が「髪結いの亭主」('90年/仏)の前年に撮った作品で、フランス映画批評家協会賞のジョルジュ・メリエス賞(その年の最高のフランス映画に贈られる賞)受賞作。日本での公開は「髪結いの亭主」の方が先でした。「メグレ警部シリーズ」のジョルジュ・シムノンが原作(「イール氏の犯罪」)ですが、推理モノというよりは恋愛モノという印象の方が強かったです。
Monsieur Hire(1989)

仕立て屋の恋3.bmp 最初のうちは、ハゲで根暗で孤独な独身中年男であるイール氏にあまり感情移入できなかったけれども、終わりの方ではかなり入り込んでしまって、最後、女を憎むことができない男の純情が何だか切なかったなあ。

 イール氏は元来、所謂"脳内恋愛"を至上とするタイプで、その行動は"ストーカー"的でもあったかとのですが、その対象物である"理想の彼女"の方から自分の所へ来てしまったわけです(彼女がイール氏を好いたわけではなく、自分が犯人であることを彼が知っているかどうか探りを入れにきたのだが)。

仕立て屋の恋1.jpg そこから彼の恋愛観は変わってしまい、"脳内恋愛"から本当の恋愛になってしまって、そのことが最終的に彼に悲劇をもたらすわけで、但し、彼はその体験を悔いておらず、その「潔さ」がいいです(常識的には"愚かしさ"ともとれるものだが)。

仕立て屋の恋2.jpg "オタク道"から見れば、仮想現実から一歩踏み出したところに彼の誤りがあったとも言えるのかも知れませんが、イール氏は本質的には"オタク"でも"ストーカー"でもなかったということになるのかも知れません。悲劇的な話の中にも、イール氏の自己発見と、それに基づく信念が貫かれている点での救いがありました。

 イール氏を演じるミシェル・ブランの演技もさることながら、ドニ・ルノワールのカメラ、マイケル・ナイマンのクラシックを織り込んだ音楽も良く、特に前半はフランス映画らしいフランス映画という感じ。

 フランス映画でも最近はアメリカのテレビドラマみたいな作品が多くなり、'80年代から'90年代にかけてはまだ、この作品や、ジャン=ジャック・ベネックス監督の「ディーバ」('81年)、リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」('88年)、レオス・カラックス監督の「ポンヌフの恋人」('91年)などもあったことはあったけれども、最近はこの類の映画はあっても映画祭での上映に止まり、あまりロードにかからないし、なかなかDVD化もされないような気がします。

サンドリーヌ・ボネール/ミシェル・ブラン in「仕立て屋の恋」

仕立て屋の恋02.jpg仕立て屋の恋 シネスク.jpg 「仕立て屋の恋」●原題:MONSIEUR HIRE●制作年:1989年●制作国:フランス●監督:パトリス・ルコント●製作:フィリップ・カルカッソンヌ/ルネ・クレトマン●脚本:パトリス・ルコント/パトリック・ドヴォルフ●撮影:ドニ・ルノワール●音楽:マイケル・ナイマン●原作:ジョルジュ・シムノン 「イール氏の犯罪」●時間:80分●出演:ミシェル・ブラン/サンドリーヌ・ボネール/リュック・テュイリエ/アンドレ・ウィルムス/フィリップ・ドルモワ●日本公開:1992/07●配給:デラ・コーポレーション(評価:★★★★)
「シネマスクエアマガジンNo.98」 

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トランティニャン未亡人相手2作。ロッシ・ドラゴが"凄い"「激しい季節」とCFを観ているような「男と女」。
激しい季節 ポスター 2.jpg ヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg Estate Violenta2.jpg 男と女 DVD.jpg 「男と女」2.jpg
「激しい季節」ポスター/ビデオ(絶版)/「ESTATE VIOLENTA(激しい季節)」 ビデオ(輸入版)/「男と女 [DVD]」/輸入版ポスター

「激しい季節」2.jpgEstate Violenta.jpg 「激しい季節」(Estate Violenta、'59年/伊)の舞台は1943年のアドリア海に面した高級避暑地。別荘に滞在する上流階級の娘(ジャクリーヌ・ササール)が、パーティーの場に現れたファシスト党高官の息子(ジャン・ルイ・トランティニャン)に恋をするが、彼の方は浜辺で知り合った海軍将校の未亡人(エレオノラ・ロッシ・ドラゴ)に惹かれ、2人は深い関係に―。

Jean-Louis Trintignant & Eleonora Rossi Drago

「激しい季節」1.jpg それを知った娘ジャクリーヌ・ササールは泣きながら去り、後半は、ムッソリーニ政権の崩壊、新政権の誕生、イタリアの降伏という動乱の戦局の下、刹那的な恋に激しく燃える高官の息子トランティニャンと未亡人ロッシ・ドラゴの愛と別離が描かれています。

 とにかく、未亡人役のエレオノラ・ロッシ・ドラゴの魅力(色香)がその眼差しからボディに至るまで凄く、それまであまり脱がない女優だったそうですが、この映画に関しては、検閲でカットされている部分もあるぐらいで、彼女は'07年12月に82歳で亡くなっており、考えてみれば相当旧い映画なのですが、何か"今風"のセクシーさを醸す女優でした(この映画に出演した時は33、4歳ぐらい)。

Valerio Zurlini Estate violenta 2.jpgValerio Zurlini Estate violenta.jpg 2人の「出会い」は海岸で、独軍機の威嚇飛行に人々が怯え逃げる際に、転んで泣いていた幼子をトランティニャンが助けたのが、ロッシ・ドラゴの娘だったというもの、「別れ」は、トランティニャンが兵役逃れを図りロッシ・ドラゴと逃避行を図る際に、列車が米軍機の爆撃を受け大勢の死者が出て、その中にその娘の亡骸を見つけて、彼女が現実に(乃至"罪の意識"に)目覚めるという、「出会い」も「別れ」も共に「爆撃機」と「娘」が絡んだものです。双葉十三郎氏は、「後半になって愛国モラルが顔を出すと、凡庸化していしまう」とsていますが、これは兵役を嫌がっていたトランティニャンが列車の被爆事故を機に女性と別れ、戦線に加わるというストーリーがいかにもという感じがするからでしょう。

激しい季節 dvd _.jpg 戦時下の恋の物語ですが、当時のイタリアの上流階級の一部は、そうした戦局の最中に合コンみたいなパーティーをやったり、海水浴に興じたりしていたというのは、実際の話なのだろうなあと。ある種、集団的な"刹那主義"的傾向?(その反動で、或いはバランスをとるために、トランティニャンを兵役に行かせた?)。

 この作品は日本ではビデオが絶版になってから長らくDVD化されていないないけれど、なぜだろう(2017年にDVD化された)

激しい季節 HDリマスター [DVD]

「男と女」(1966年) ポスター/パンフレット①/パンフレット②
男と女 ポスター.bmp男と女 パンフ.jpg男と女 パンフレット.png「男と女」(Un homme et une femme、'66年/仏)もジャン・ルイ・トランティニャンが未亡人(スタントマンの夫を目の前で失った女アヌーク・エーメ)に絡むもので、こちらはトランティニャン自身も妻に自殺された男寡のカーレーサーという設定で、2人が知り合ったのは互いの子供が通う寄宿学校の送り迎えの場という、「激しい季節」同様に子供絡みです(カンヌ国際映画祭「グランプリ」(現在の最高賞パルム・ドールに相当)及び「国際カトリック映画事務局賞」、米国「アカデミー外国映画賞」「ゴールデングローブ賞外国語映画賞」受賞作)。

「男と女」3.bmp「男と女」4.jpg 一作品の中でモノクロ、カラ―、セピア調などを使い分けるといった凝った映像のつくりです。但し、ストーリーそのものは個人的には結構俗っぽく感じられ、トランティニャンが鬱々として煮えたぎらずしょぼい恋愛モノという印象しか受けないのフランシス・レイ.jpgですが、フランシス・レイ(1932- )のボサノバ調のテーマ曲と共に間に挿入されるイメージフィルムのような映像が美しいです。クロード・ルルーシュ(1937-2018)はコマーシャルフィルムのカメラマンから映画監督に転身した人ですが、この作品自体がプロモーションフィルムまたはコマーシャルフィルムであるような印象も受けました。当時としては非常に斬新だったのだと思いますが、今観るとそれほどでないと思われるかも。しかし、そのことは、それだけ後の多くの映像作家がこの映画から様々な技法を吸収したということの証であるのかもしれません(でもやっぱり音楽は今でもいい。音楽だけの評価だと★★★★★)。

男と女24.jpg 最初から映像美と音楽を調和させることが最大の狙いで、ストーリーの方は意図的に通俗であることを図っていたのかも。ルイ・マル監督の「恋人たち」('58年/仏)などがその典型例ですが、「通俗」を繊細かつ美しく撮るのも映画監督の技量の1つでしょう。でも、この監督、この後に大した作品がないんだよなあ(一応、知られているところでは「愛と哀しみのボレロ」('81年)があるが)。仮に「男と女」だけ撮って夭折していたらフランス映画史上の天才と呼ばれていたに違いないとの声もある監督です。

 「激しい季節」「男と女」共にジャン・ルイ・トランティニャン主演の作品ですが、トランティニャン自身は、繊細な演技が出来る、日本人が感情移入しやすい俳優であるとは思うものの、この2作については、片や相方のエレオノラ・ロッシ・ドラゴの突き刺すような魅力が圧倒的で、片や映像美と音楽の魅力が圧倒的な作品であるような気がしました。

「激しい季節」ポスター(1960年劇場用初版)/VHSカバー
激しい季節 ポスター.jpgヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg
                    
 
Estate violenta(1959) エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャン・ルイ・トランティニャン ジャクリーヌ・ササール
Estate violenta(1959).jpg激しい季節001.jpg激しい季節002.jpg「激しい季節」●原題:ESTATE VIOLENTA●制作年:1959年●制作国:イタリア●監督:ヴァレリオ・ズルリーニ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●激しい季節 パンフ.jpg脚本:ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジョ・プロスペリ●撮影:ティノ・サントーニ●音楽:マリオ・ナシンベ六本木駅付近.jpg六本木・俳優座シネマテン2.jpg俳優座劇場.jpgーネ●時間:93分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャクリーヌ・ササール/ラフ・マッティオーリ/フェデリカ・ランキ/リラ・ブリナン●日本公開:1960/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(84-11-17)(評価:★★★★)
俳優座シネマテン(六本木・俳優座劇場内) 1981年3月20日オープン。2003年2月1日休映(後半期は「俳優座トーキーナイト」として不定期上映)。  

フランシス・レイ 003.jpg「男と女」1.jpg男と女  66仏.jpg「男と女」●原題:UN HOMME ET UNE FEMME(英:A MAN AND A WOMAN)●制作年:1966年●制作国:フランス●監督・製作:クロード・ルルーシュ●脚本:クロード・ルルーシュ/ピエール・ユイッテルヘーヴェン●撮影:クロード・ルルーシュ●音楽:フランシス・レイ●時間:103分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/アヌーク・エーメ/エヴリーヌ・ブイックス/マリー・ソフィー・ポシャ/リチャード・ベリー/ロベール・オッセン●日本公開:1966/10●配給: ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座(78-10-02)(評価:★★★☆)●併映:「さよならの微笑」(ジャン・シャルル・タッシェラ)

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"熟年女優"ぶりが印象的だったリザ・ガストーニとヴィルナ・リージ。

「スキャンダル」.jpg スキャンダル ポスター.jpg スキャンダル.jpg  スキャンドール ポスター.jpg LA CICALA 1.jpg
スキャンダル [DVD]」       「スキャンドール ~禁じられた体験~ [VHS]」 
「スキャンダル」(監督:サルバトーレ・サンペリ/出演:リザ・ガストーニ)チラシ
Lisa Gastoni LO SCANDALO.jpgLisa Gastoni & Franco Nero in Lo Scandalo
Lisa Gastoni & Franco Nero in Lo Scandalo.jpg「スキャンダル」('76年/伊)は(イタリア映画なのだが)第2次大戦下の南フランス・プロヴァンスが舞台で、大学教授の妻エリアーヌ(リザ・ガストーニ)が、自らが営む薬局で働く雑役夫アルマン(フランコ・ネロ)に、女店員と間違えられて抱きつかれたことを契機に、彼と性交渉を持つようになり、上流階級への怨念を抱く雑役夫のもと、彼の肉体の奴隷となっていくというもの。雑役夫は、女店主の15歳の娘ジュスティーヌ(クラウディオ・マルサーニ)にも手を出すが、大学教授の妻はむしろそれに嫉妬する有様で、雑役夫の命令でどんな辱めも受けるという完全な主従逆転状態に陥る―。

●リザ・ガストーニ Lisa Gastoni
Lisa Gastoni2.jpgLisa Gastoni2.jpgLisa Gastoni.jpg サルヴァトーレ・サンペリの演出と「暗殺の森」(70年/伊・仏・西独)のヴィットリオ・ストラーロのカメラは「青い体験」('73年/伊)と同じコンビで、主演のリザ・ガストーニ(Lisa Gastoni 、1935年生まれ)が美しく高貴な人妻が堕ちていく様を身体を張って演じており、マカロニ・ウェスタンの俳優というイメージがあったフランコ・ネロもネクラかつサディステックな雑役夫をしっかり演じていて、"イタリアン・エロス"映画とか言われるけれども、ある種、家族の崩壊を描いた文芸作品と言えるかもしれません。

クラウディオ・マルサーニ5375.jpg 女店主エリアーヌは、彼女の15歳の娘まで雑役夫アルマンに差し出してしまい、しかもその2人に嫉妬するといった有様で、最後には絶望の淵に追い込まれるわけですが、雑役夫との関係がスキャンダルにクラウディア・マルサーニ 家族の肖像.jpgなろうとも性愛の道を突き進むその姿は、一時のこととは言え、退屈なインテリである夫からの束縛を逃れ、自らの解放を果たしたというふうにもとれるかと思います。一方の雑役夫アルマンは、母だけでなく娘も籠絡したわけですが、そこには階級克服的な動機も色濃くあるように思われました(因みに、15歳の娘ジュスティーヌを演じたクラウディオ・マルサーニは、本作の2年前、ルキノ・ヴィスコンティの「家族の肖像」('74年/伊)にもシルヴァーナ・マンガーノの娘役で出ていた)。

●クラウディア・マルサーニ Claudia Marsani /with シルヴァーナ・マンガーノ in 「家族の肖像」('74年/伊) by ルキノ・ヴィスコンティ

 サルヴァトーレ・サンペリは"ネオ・レジスタ"グループの代表格ともされており、この作品には上流階級の脆弱・崩壊というものがバックテーマとしてあるようです。妻のすべての告白を聞いてもただ涙を流すしかない大学教授の夫(そのくせ、自分のコレクションを妻が誤って壊すと怒る)には、"知識人階級"への批判も込められているように思えました。

●クリオ・ゴールドスミス Clio Goldsmith 「スキャンドール(LA CICALA)」
LA CICALA 2.jpgLa Cicala2.jpgLA CICALA.jpg "イタリアン・エロス"系では、少し似たようなタイトルで「スキャンドール」('80年/伊)というものもあり、行きずりの少女チカラ(クリオ・ゴールドスミス)と共に旅していた歌手(ヴィルナ・リージ)が、旅先で知り合ったレストラン経営者と結婚しガソリンスタンドをLA CICALA2.jpg切り盛りするようになLA CICALA1.jpgり、そこに呼び寄せた娘(バーバラ・デ・ロッシ)と共に男1人女3人の生活を始めるが、やがて男を巡って娘と骨肉の争いをするというもので、「スキャンダル」と少し似ているかもしれません。この映画も、エロチックですが、演出はしっかりしています。
●バーバラ・デ・ロッシ Barbara De Rossi
"La cicala" - Regia Alberto Lattuada - 1980 - Barbara De Rossi

LA CICALA3.jpg クリオ・ゴールドスミスとバーバラ・デ・ロッシの同性愛的関係もあって、ストーリー的にはもうこの家族は一体どうなってるのという感じです。まあ、とことんやってくれる点がイタリアっぽくていいとも言えるのですが...。

 原題"チカラ"はイタリア語で「セミ(蝉)」の意。クリオ・ゴールドスミス演じるところの、ガソリンスタンドの住み込み店員となって、こうした出来事の推移を目の当たりにし、自らもその異常事態に巻き込まれている少女チカラですが、この映画に出てくる「男1人女3人」の中では唯一ノーマルな存在と言えるかも。最後は彼女が、セミが木から飛び立つように店から逃げ出すところで終わります。

●ヴィルナ・リージ Virna Lisi
ヴィルナ・リージ.bmpVirna Lisi2.jpgVirna Lisi 1937.jpg 主演のヴィルナ・リージ(Virna Lisi、1937年生まれ)は、若い頃はジャック・レモン主演の「女房の殺し方教えます」('64年/米)などにも出たりしましたが、演技派指向なのに英語の話せないイタリア人の役をあてがわれ、結局、自分をセクシー女優としてしか見ないハリウッドに見切りをつけ、主にヨーロッパで"演技派"兼"セクシー女優"として活躍した人。

 ヴィルナ・リージは「スキャンドール」にはノーメークで出ていますが、当時43歳だったけれども美貌は健在で(役柄上、少し怖さもあったが)、「スキャンダル」に出た時41歳だったリザ・ガストーニと並び、強烈な印象を抱かされたイタリア"熟年"女優でした。実はエヴァの匂い_2.jpgこの2人はもっと若い新人時代の頃に、ジョセフ・ロージー監督の「エヴァの匂い」('62年/仏)に共に出演しています。主役はジャンヌ・モロー(1928年生まれ)で、モローが演じる女性主人公のエヴァが男を惑わすファム・ファタール役で、ヴィルナ・リージはスタンリー・ベイカー演じる男性主人公である自分の恋人をエヴァに奪われ自殺する女性というかなり重要な役回りで、一方のリザ・ガストー二の方はパーティに出ていた女性たちの一人といった端役っぽい役だったように記憶してします。

ヴィルナ・リージ (Virna Lisi,1936-2014)in「エヴァの匂い」('62年/仏)
 
LO SCANDALO 1976.jpg「スキャンダル」●原題:LO SCANDALO(SCANDAL/SUBMISSION)●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督:サルヴァトーレ・サンペリ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:オッタヴィオ・ジェンマ/サルヴァトーレ・サンペリ●撮影:ヴィットリオ・ストラーロLisa Gastoni (Scandalo, 1976).jpgスキャンダル [DVD] リザ.png●音楽:リズ・オルトラーニ●時間:107分●出演:リザ・ガストーニフランコ・ネロ/レイモン・ペルグラン/ク三鷹オスカー.jpgラウディオ・マルサーニ/アンドレア・フェレオル●日本公開:1977/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹東映(78-02-04)●2回目:五反田TOEIシネマ(83-09-18)(評価:★★★★)●併映(1回目):「ラストタンゴ・イン・パリ」(ベルナルド・ベルトリッチ)/「O嬢の物語」(ジュスト・ジャキャン)
Lisa Gastoni (Scandalo, 1976) 「スキャンダル [DVD]
三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

スキャンドール ポスター2.jpg「スキャンドール 禁じられた体験」●原題:LA CICALA●制作年:1980年●制作国:イタリア●監督・脚本:アルベルト・ラットゥアーダ●製作:イブラヒム・ムーサ●撮影:フレッド・ボンガスト●音楽:ダニロ・デジデリ●原作:ナターレ・プリネット/マリナ・デ・レオ●時間:99分●出演:アンソニー・フランシオーサ/ヴィルナ・リージ/レナート・サルSet del film ヴァトーリ/クリオ・ゴールドスミスバーバラ・デ・ロッシ/マイケル・コビー●日本公開:1982/02●配給:ジョイパックフィルム●最初に観た場所:池袋日勝地下劇場(82-05-03)●2回目:新橋文化劇場(83-09-17)(評価:★★★☆)●併映(2回目):「ホテル」(カルロ・リッツァーニ)
「スキャンドール」撮影風景 "La cicala" - Alberto Lattuada - 1980 - le attrici Clio Goldsmith e Barbara De Rossi

日勝地下.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋.jpg池袋スカラ座・日勝地下.jpg池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場・池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場(現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近)1995(平成7)年6月25日閉館
③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場

池袋スカラ座/池袋日勝文化 菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より  
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg 池袋日勝.jpg 
青木 圭一郎 『昭和の東京 映画は名画座』(2016/03 ワイズ出版)より
昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg

日勝映画.png・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館

imagesCA9GCJE5.jpg新橋文化劇場 内.jpg新橋文化劇場.jpg新橋文化劇場・新橋ロマン劇場 1957年ニュース映画の専門館として新橋駅烏森口JR浜松町方向ガード下にオープン、1958年に洋画の「新橋文化劇場」と邦画の「新橋第三劇場」が新設、1979年~洋画の「新橋文化劇場」邦画の「新橋ロマン劇場」に。
2014(平成26)年8月31日閉館

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途中までヒューマニズム溢れるものだったが、ラストが解せない「フリークス」。
フリークス dvd.jpg フリークス.jpg フリークス2.jpg
フリークス [DVD]」ハリー・アールズ/オルガ・バクラノヴァ
ポスター(1932)
Freaks_(1932_film_poster).jpgフリークス 輸入版.jpg サーカス小屋の小人のハンス(ハリー・アールズ)は、空中ブランコ乗りのクレオパトラ(オルガ・バクラノヴァ)に夢中だが、彼女は気のフリークス ポスター.jpgある振りをして彼を弄んでいるだけであった。ところがある日、ハンスが莫大な遺産を相続したことがわかると、今度は、強欲な彼女は怪力男ヘラクレス(ヘンリー・ヴィクター)と謀ってハンスを騙して結婚し、彼を殺して財産を奪おうと毒を盛る。しかし、ハンスの仲間達がそれを見破り、ハンスは仲間達と共に2人への復讐に立ち上がる―。

フリークス 001.jpg フリーク(畸形)のオンパレードで、シャム双生児、ガリガリの「生きる屍」男、髭女、半陰陽(ふたなり)、鳥のような顔をした男、小頭症の姉妹、下半身のない男、手足がない男...etc.と次から次へと出てきて、この作品はアートシアター新宿(ジュク)の定番プログラムだったのですが、近所の花園神社の大酉祭の見世物小屋の(ここで"牛女"と"蛇女"なるものを見たことがあるが)レベルどころではない凄さ。ロードにはかからない作品だと思っていましたが、'05年に渋谷シネマライズ(ライズX)で単館ながら上映されました(30年ぶりのロード上映とのこと)。

 ヨーロッパ映画だと、フェデリコ・フェリーニ「サテリコン」('69年/伊)フォルカー・シュレンドルフ「ブリキの太鼓」('79年/西独・仏)といった映画においても畸形や小人が出てくるけれども、アメリカ映画では、こうした人たちをスクリーンに登場させなくなって久しいようです。

 最初は不気味さもありますが、そうした見世物小屋でしか生きる術の無いような人たちを、この映画の監督は非常に温かい眼差しで描いているように思え、ヒューマニズム溢れるものであり、最後にハンスが仲間たちと復讐に立ち上がる場面では、観ていて「よし、行け」という気持ちになるまで感情移入させられていました。

「エレファント・マン」 ポスター/パンフレット
エレファント・マン ポスター.jpgエレファント・マン パンフ.jpgエレファント・マン2.jpg デヴィッド・リンチ「エレファント・マン」('80年/英)を観た時も、最後は大いに感動しました。しかし、「エレファント・マン」は見方によっては、ヒューマニズムを装いながらもその裏側で、人々の怖いもの見たさの俗物心理を暴いてみせているような感じもあり、何となくスッキリしない...。

 「お化け屋敷」に行く時のような"期待感"で映画館に行った人も少なからずいたように思え、デヴィッド・リンチはその部分での観客の期待にも応えようとしていたような気がします(実際、十分に応えていた)。その点では、この映画でのトッド・ブラウニングの畸形に対する温かい眼差しは、むしろ対照的かも。

オルガ・バクラノヴァ.jpg この作品「フリークス」の監督であるトッド・ブラウニング(1880‐1962)は、映画の世界に入る前はサーカス小屋の呼び込みをしていたそうですが、この作品では徹底して畸形を擁護しています。そして、畸形たちが結束して立ち上がった結果、ヘラクレスが畸形たちに殺されるばかりでなく、クレオパトラに至っては、不具にされて「ガチョウ女」として見世物小屋に売られてしまうというエンディングをもってきています。

「ガチョウ女」になったクレオパトラ(オルガ・バクラノヴァ(Olga Baclanova)」) in 「フリークス」

ザ・フライ2 二世誕生.bmp ここまでやるかという感じもしなくもないですが、クリス・ウェイラスの「ザ・フライ2 二世誕生」('89年/米)で、ハエ男の遺伝子を引く主人公を「実験標本」として育てていた研究所長が、主人公の復讐に遭い、最後に主人公がハエ男から人間の姿に戻るのと引き換えに所長は醜い生き物に姿を変えられてしまうという結末が、この作品のエンディングとちょっと似ているなあと思いました。

THE FLY II 2.jpg 「ザ・フライ2」のラストも、因果応報と言えば因果応報なのですが、所長は這うことしか出来ず喋ることも出来ない(ある意味ハエ男より悲惨な)ドロドロの化物となり、研究所の中でコンクリートの檻の中で生かされ続けるという、ちょっと現代モノとしてはあり得ない非人道的結末設定のように思われ、あっさり殺されていた方が映画としての後味を損ねずに済んだのではないかという気がしました。
     
 「フリークス」にしても、人を外見で判断してはいけないというのがトッド・ブラウニングの言いたかったことだったとしたら、勧善懲悪のカタルシスのみを狙ったようなこのエンディングは、本来の彼の考えに沿ったものとは思われず、いささか解せません(MGMのプロデューサー側からの圧力で、こうした結末にせざるを得なかったという話もある)。
 深読みすれば、「ガチョウ女」になったクレオパトラを見て、自分でなくて良かったと思わなかったかを観客に問うているともとれるのですが...。

フリークス 002.jpg「フリ-クス 神の子ら (怪物団)」●原題:FREAKS●制作年:1932年●制作国:アメリカ●監督・製作:トッド・ブラウニング●製作:MGMスタピンクフラミンゴ/フリークス.pngジオ●脚本:ウィリス・ゴールドベック/レオン・ゴードン/エドガー・アラン・ウルフ/アル・ボーアズバーグ●撮影:メリット・B・ゲルスタッド●原作:トッド・ロビンズ●時間:100分●出演:ハリー・アールズ/オルガ・バクラノヴァ(バクラーナ)/ハーリー・アールズ/ヘンリー・ヴィクター●日本公開:1932/11●最黙壺子フィルム・アーカイブ.jpg初に観た場所:アートシアター新宿 (84-08-01)●2回目:六本木・俳優座シネマテン(96-08-23) (評価★★★)●併映(1回目):「ピンク・フラミンゴ」(ジョン・ウォーターズ)
アートシアター新宿 黙壺子フィルム・アーカイブ.jpg
アートシアター新宿 (新宿5丁目・旧新宿厚生年金会館付近。1978年4月オープン、1980年より黙壺子フィルム・アーカイブの活動拠点) 1980年代後半(1988年頃)映画上映館としての活動は停止。                      
         
           
エレファント・マン3.jpg「エレファント・マン」●原題:THE ELEPHANT MAN●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督: デヴィッド・リンチ●製作:ジョナサン・サンガー●脚色:クリストファー・デヴォア/エリック・バーグレン/デヴィッド・リンチ●撮影:フレディ・フランシス●音楽:ジョン・モリス●時間:124分●出演:ジョン・ハート/アンソニー・ホプキンス/ジョン・ギールグッド/アン・バンクロフト●日本公開:1981/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:不明 (82-10-04)(評価:★★★☆)
        
ザ・フライ2 二世誕生 dvd.jpg「ザ・フライ2 二世誕生」●原題:THE FLY II●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:クリス・ウェイラス●製作:スティーヴン=チャールズ・ジャッフェ●製作総指揮:スチュアート・コーンフェルド●原案:ミック・ギャリスTHE FLY II 3.jpg●脚本:ミック・ギャリス/ジム・ウィート、ケン・ウィート/フランク・ダラボン●撮影:ロビン・ヴィジョン●音楽:クリストファー・ヤング●時間:105分●出演:エリック・ストルツ/ダフネ・ズニーガ/リー・リチャードソン/ジョン・ゲッツ/フランク・C・ターナー/アン・マリー・リー/ゲイリー・チョーク/サフロン・ヘンダーソン●日本公開:1989/05●配給:20世紀フォックス(評価:★★)

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下層社会に暮らす少年の鬱屈と抵抗を、自体験に近いところで描くリアリティ。

『長距離走者の孤独』  .JPG長距離走者の孤独.jpg  長距離ランナーの孤独.jpg Alan Sillitoe.jpg Alan Sillitoe
長距離走者の孤独 (新潮文庫)』/映画「長距ランナーの孤独」('62年)
カバー:池田満寿夫

「長距離走者の孤独」.jpg 新潮文庫版は、1958年に発表された「長距離走者の孤独」(The Loneliness of the Long Distance Runner)をはじめ、アラン・シリトー(Alan Sillitoe、1928‐2010の8編の中短編を収めていますが、貧しい家庭で育ち、盗みを働いて感化院に送られた少年の独白体で綴られた表題作が、内容的にも表現的にも群を抜いています。

 アラン・シリトーにはこの他にも、『土曜の夜と日曜の朝』といった代表作がありますが、それらと比べても印象に残LonelinessLongRunner.jpg長距離ランナーの孤独1.jpgっているし、トニー・リチャードソン(Tony Richardson、1928-1991)監督の映画化作品「長距離ランナーの孤独」('62年/英)も有名です。主人公を演じたのはトム・コートネイで、舞台出身ですが、映画はこの作品が実質初出演で初主演でした(後に、「魚が出てきた日」('67年)、「イワン・デニーソヴィチの一日」('74年)などで主演することになる)。

"Loneliness of Long Distance Runner" (1962/UK)/日本版VHS(絶版)

 もともと原作が手記形式なので、映画で主人公が長距離走において遅れてゴールした後ニヤリと笑うなど、映像での表現上やや説明的にならざるを得ないのはいたし方ないか(原作では、他人からは泣きそうになっているように見えるだろうが、実はこれ、"勝利の嬉し泣き"をこらえていたのだ、ということになっている。映画脚本はシリトー自身)。

ホテル・ニューハンプシャー 1.jpgホテル・ニューハンプシャー 0.jpg トニー・リチャードソンは、文芸作品の映画化の名手で、ジョン・アーヴィング原作の映画化作品「ホテル・ニューハンプシャー」('84年/米・英・カナダ) もこの監督によるものであり、これはホテルを経営する家族の物語ですが、ジョディーフォスター、ロブ・ロウ、ナスターシャ・キンスキーという取り合わせが今思ホテル・ニューハンプシャー 01.jpgえば豪華。少なくとも1人(J・フォスター演じるフラニー)乃至2人(N・キンスキー演じる"熊のスージー")の女性登場人物がレイプされて心の傷を負っており、また家族が次々と死んでいく話なのに、観終わった印象は暗くないという、不思議な映画でした(「ガープの世界」もそうだが、ジョン・アーヴィング作品の登場人物は、何かにつけてモーレツと言うか極端な人が多い)。

マドモアゼル [DVD]」Tony Richardson
マドモアゼル DVD2.jpgトニー・リチャードソン.jpg トニー・リチャードソンは、女優のヴァネッサ・レッドグレイヴと結婚し、2人の娘がいましたが、ジャン・ジュネ原案で、「二十四時間の情事」('59年/日・仏)、「かくも長き不在」('61年/仏)の原作者でもあるマルグリット・デュラス原作の「マドモアゼル」('66年/仏)の撮影でジャンヌ・モローと恋に落ち、1967年にレッドグレイヴと離婚しています。彼はバイセクシュアルで、1991年、エイズによる合併症のため亡くなっていますが、その死を看取ったのはジャンヌ・モローでした。シーラ・ディレーニーの『蜜の味』などの文芸作品も映画化していますが、「マドモアゼル」の翌年に撮られたマルグリット・デュラス原作の「ジブラルタルの追想」('67年/英)と、ウラジミール・ナボコフが原作の「悪魔のような恋人」('69年/英)を名画座ジブラルタルの追想2.pngで二本立てで観ました。

映画プレスシート/ジャンヌ・モロー「ジブラルタルの追想」

「ジブラルタルの追想」.jpgジャンヌ・モロー2.png マルグリット・デュラスTHE SAILOR FROM GIBRALTAR PERFORMER.jpg原作の「ジブラルタルの追想」は、イタリア旅行中の青年がジブラルタルででアンナ(ジャンヌ・モロー)という女性と出会い、アランの方は彼女を真剣に愛し始めるが、アンナは楽しさだけでアランに身を任せている印象で、そんなジブラルタルの追想o.jpg折、アンナの行方知らずとなっていた恋人が現われたというニュースが飛び込んでくる-というストーリー。一部ミュージカル仕立てで、唄っているジャンヌ・モローが綺麗ですが映画自体は凡庸で(あくまでも個人的印象であって、女性映画の傑作とする人もいる)、やはり文学作品を映画化してその本質を損なわないようにするのは往々にして難しいのかと思いました(因みにジブラルタルはヨーロッパ大陸で唯一今も残る英国植民地で、ここからアフリカ大陸が見渡せるが、自分が旅行した頃は軍事基地があるという理由で近づけなかった。但し、今は観光地化して旅行者に比較的オープンになっている。アフリカ大陸はジブラルタルの手前からでも見渡せた)。
映画プレスシート ジャンヌ・モロー「ジブラルタルの追想」」 ('67年/英)

映画プレスシート/アンナ・カリーナ「悪魔のような恋人」
悪魔のような恋人3.jpg悪魔のような恋人9.jpg「悪魔のような恋人」 vhs.png 一方、ナボコフ原作の「悪魔のような恋人」は、金持ちの画商が小悪のような少「悪魔のような恋人」 カリーナ.jpg 女に破滅させられていく話なのですが、アンナ・カリーナの蠱惑的魅力を十分に引き出して佳作に仕上げており(この作品のアンナ・カリーナが演じる女性はかなり残忍でもある)、「ホテル・ニューハンプシャー」の成功に繋がる"文芸監督"の素地がこの頃からあったと―。

Alan Sillitoe
Alan Sillitoe2.jpg アラン・シリトー原作の『長距離走者の孤独』のストーリー自体はシンプルで、書けば"ネタばれ"になってしまうのですが(もう一部書いてしまったが、と言っても、広く知られているラストだが)、ラスト以外でのこの作品の優れた点は、主人公の少年コリンが友人と共にパン屋に強盗に入ったために捕まる場面で、刑事が自宅に捜索に来た時の主人公の心理などは、作者の体験談ではないかと思われるぐらい目いっぱいの臨場感があります。

 アラン・シリトーは、50年代に登場し偽善的な体制や権力者を糾弾した《怒れる若者たち》と呼ばれる作家グループの1人ですが、このグループに属するとされる『怒りをこめてふりかえれ』のジョン・オズボーンや『急いで駆け降りよ』のジョン・ウェインなどは、概ね一流大学出身で大学に教職を得た知識人であるのに対し、シリトーは、工場労働者の家庭の出身で、自らも熟練工員でした。

 結局、《怒れる若者たち》の作家達の作品群で、今世紀になっても最も読み継がれている作品を1つ挙げるとすれば『長距離走者の孤独』になるわけで、その理由として、シンプルだが象徴的な結末と併せて、下層社会に暮らす少年の鬱屈と抵抗を、自らの体験に近いところで描いていることからくるリアリティが挙げられるのではないかと思います。

長距離ランナーの孤独  .jpg「長距離ランナーの孤独」.jpg「長距離ランナーの孤独」●原題:THE LONELINESS OF THE LONG DISTANCE RUNNER●制作年:1962年●制作国:イギリス●監督・製作:トニー・リチャードソン●脚本:スタンリー・ワイザー/アラン・シリトー●撮影:ウォルター・ラサリー●音楽:ジョン・アディソン●原作:アラン・シリトー●時間:104分●出演:トム・コートネイ/マイケル・レッドグレイヴ/ピーター・マッデン/ウィリアム・フォックス/トプシー・ジェーン/ジュリア・フォスター/フランク・フィンレイ●日本公開:1964/06●配給:昭映(評価:★★★)

イワン・デニーソヴィチの一日0.jpgイワン・デニーソヴィチの一日 チラシ.jpg「イワン・デニーソヴィチの一日」●原題:ONE DAY IN THE LIFE OF IWAN DENISOVICH●制作年:1971年●制作国:イギリス●製作・監督:キャスパー・リード●音楽:アーン・ノーディム●原作:アレクサンドル・ソルジェニーツィン●時間:100分●出演:トム・コートネイ/アルフレッド・バーク/ジェームズ・マックスウェル/エリック・トンプソン/エスペン・スクジョンバーグ●日本公開:1974/06●配給:NCC●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-16) (評価★★★)●併映「エゴール・ブルイチョフ」(セルゲイ・ソロビヨフ)

「魚が出てきた日」●原題:THE DAY THE FISH COME OUT●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:マイケル・カコヤニス●撮影:ウォルター・ラサリー●音楽:ミキス・テオドラキス●時魚が出てきた日ps3.jpgTHE DAY THE FISH COME OUT 1967 .jpgキャンディス・バーゲンM23.jpg間:110分●出演:トム・コートネイキャンディス・バーゲン/サム・ワナメーカー/コリン・ブレークリー/アイヴァン・オグルヴィ/ディミトリス・ニコライデス/ニコラス・アレクション●日本公開:1968/06●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:中野武蔵野館(78-02-24)(評価:★★★☆)●併映:「地球に落ちてきた男」(ニコラス・ローグ)

ホテル・ニューハンプシャー dvd.jpgホテル・ニューハンプシャー02.jpg「ホテル・ニューハンプシャー」●原題:THE HOTEL NEW HAMPSHIRE●制作年:1984年●制作国:アメリカ・イギリス・カナダ●監督:トニー・リチャードソン●製作:ニール・ハートレイ/ピーター・クルーネンバーグ/デヴィッド・J・パターソン●脚本:トニー・リチャードソン●撮影:デイヴィッド・ワトキン●音楽:レイモンド・レッパード●原作:ジョン・アーヴィング「ホテル・ニューハンプシャー」●時間:109分●出演:ジョディーフォスタ/ロブ・ロウ/ボー・ブリッジス/ナスターシャ・キンスキー/フィルフォード・ブリムリー/ポール・マクレーン/マシュー・モディン●日本公開:1986/07●配給:松竹富士●最初に観た場所:三軒茶屋東映(87-01-25)(評価:★★★★)●併映:「プレンティ」(フレッド・スケピシ)ホテル・ニューハンプシャー [DVD]

ジブラルタルの追想ド.jpgジブラルタルの追想-orson-welles-ジブラルタルの追想.jpg「ジブラルタルの追想」●原題:THE SAILOR FROM GIBRALTAR●制作年:1967年●制作国:イギリス●監督:トニー・リチャードソン●製作:オスカー・リュウェンスティン●脚本:クリストファー・イシャーウッド/ドン・マグナー/トニー・リチャードソン●撮影:ラウール・クタール●音楽:アントワーヌ・デュアメル●原ジブラルタルの水夫 (ハヤカワ文庫 NV 16).jpgジブラルタルの水夫.jpg作:マルグリット・デュラス「ジブラルタルから来た水夫(ジブラルタルの水夫)」●時間:90分●出演:ジャンヌ・モロー/イアン・バネン/オーソン・ウェルズ/ヴァネッサ・レッドグレーヴ●日本公開:1967/11●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-12)(評価:★★☆)●併映:「悪魔のような恋人」(トニー・リチャードソン)
    
ジブラルタルの水夫 (ハヤカワ文庫 NV 16)』『ジブラルタルの水夫』[Kindle版]

「悪魔のような恋人」●原題:LAUGHTER IN THE DARK●制作年:1969年●制作国:イギリス●監督:トニー・リチャードソン●製作:ニール・ハートリー/エリオット・カストナー●脚本:エドワード・ボンド●撮影:ディック・ブッシュ●音楽:レイモンド・レパード●原作:ウラジミール・ナボコフ「欲望」●時間:104分●出演:ニコル・ウィリアムソ悪魔のような恋人8.jpgLaughter in the Dark2.jpgン/アンナ・カリーナジャン=クロード・ドルオ/ピーター・ボウルズ/シアン・フィリップス/セバスチャン・ブレイク/ケイト・オトゥール/エドワード・ガードナー/シーラ・バーレル/ウィロビー・ゴダード/バジル・ディグナム/フィリッパ・ウルクハート(●日本公開:1969/05●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:大塚名画座(78-12-12)(評価:★★★★)●併映:「ジブラルタルの追想」(トニー・リチャードソ大塚駅付近.jpg大塚名画座 予定表.jpg大塚名画座4.jpg大塚名画座.jpgン)
大塚名画座(鈴本キネマ)(大塚名画座のあった上階は現在は居酒屋「さくら水産」) 1987(昭和62)年6月14日閉館


『長距離走者の孤独』.JPG【1973年文庫化[新潮文庫]/1978年再文庫化[集英社文庫]】

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インディ・ジョーンズ的自伝から、目立ちたがりと内向性の並立した複雑な性格をあぶり出す。

アラビアのロレンス37.JPG アラビアのロレンス 岩波改版版.jpg  『知恵の七柱』(全3巻).jpg アラビアのロレンス.jpg
アラビアのロレンス (1963年)』/『知恵の七柱 (1) (東洋文庫)』(全3巻)/映画「アラビアのロレンス」(1962)

アラビアのロレンス奥.JPG トーマス・エドワード・ロレンス(1888-1935)が第1次大戦後に書いた自伝『知恵の七柱(全3巻)』('68年/平凡社東洋文庫)の新訳の刊行が'08年8月からスタートしており、今もって根強い人気があるのかなあと。映画 「アラビアのロレンス」で知られるT・E・ロレンスは、第1次世界大戦中、トルコの圧政に抵抗して蜂起したアラブ人を率いて戦い、生涯で9回の戦傷、7回の航空機事故、33回の骨折に遭うなど何度もインディ・ジョーンズ   .jpg死地を脱してきた軍人で、考古学者でもあり、ちょっとインディ・ジョーンズっぽい感じもします(実際、インディアナ・ジョーンズの創造に影響を与えたモデルの一人に挙げられているが、ジョージ・ルーカスとスティーヴン・スピルバーグがそれを認めたわけではない)。それにしても、7回も航空機事故に遭えば、普通はその何れかで事故死しているのではないでしょうか。「知恵の七柱」というのも何だか冒険映画のサブタイトルみたいです(映画「アラビアのロレンス」自体、その「知恵の七柱」を翻案したものなのだが)。

旧版(1940年初版)  映画ポスター (1963年日本公開)
アラビアのロレンス1.jpgアラビアのロレンス 映画ポスター.jpg 英文学者・中野好夫(1903-1985)による本書は、ロレンスの死後5年を経た'40年に初版刊行、'63年に同名の映画の公開に合わせ23年ぶりに改訂・補筆されています(自分が読んだのは改訂版の方で、著者が改訂版を書いた1963年時点でも、『知恵の七柱』の日本語訳は未刊だった)。

 ロレンスの生い立ちから活動の変遷とその時代背景の推移、自身の華やかな過去の名声からの隠遁とオートバイ事故によって死に至るまでを描いており、政治史的な背景についての説明もなされていますが、記述の大部分は、『知恵の七柱』を参照しており、文学書の読み解きといった感じもします。

 修辞的表現が多いからと言って『知恵の七柱』を"創作"と言ってしまったらロレンスに悪いのだろうけれど、著者自身は、書かれていることの真偽を考察しながらも、概ね事実とみなしているようです。デヴィッド・リーンの映画がそもそも、この"砂漠の冒険譚"的要素に満ちた『知恵の七柱』をベースにしており、そのため、本書と映画との相性はバッチリといったところで、しいて言えば著者の訳が古風すぎるのが難点でしょうか。

Lawrence of Arabia - Thomas Edward Lawence.jpg ロレンスを神格化しているという批判もあって(彼は実は英国の国益ためだけに行動したという説もある)、そうだったのかなと思って読み返しましたが、政治的動機はともかく、軍事的な天才であったことは確かで、とりわけ、アラブ人を組織化して戦闘ゲリラ部隊を創り上げてしまう才能は卓越しています。

 また、中野好夫は文学者らしく、ロレンスの目立ちたがり屋と内向性の並立した極端かつ複雑な性格を、自伝や書簡、逸話などからよくあぶり出しているように思えました。女性との交わりが無かったこと(一生を通じて偏見的なまでの女性憎悪を抱いていた)、同性愛者と言うより性癖としてはマゾヒストだった可能性がある(そう思わせる記述が『知恵の七柱』にある)としていますが、このことは映画でも、敵に囚われ拷問されるシーンでウットリした表情を見せることで示唆されています。

Thomas Edward Lawence (1888-1935)
 
 映画と実人物の違いで、最も差があるのは身長かも知れません(長身のピーター・オトゥールに比べ、ロレンスは身長165cmと英国人にしては低かった)。でも、生来のスタイリストで、顔つきも鋭く、アラブ服を着ると映画のピーター・オトゥールと同じように見え、やはりカッコいいです。

Arabia no Rorensu(1962)
アラビアのロレンス 62.jpgArabia no Rorensu(1962).jpg
「アラビアのロレンス」●原題:LAWRENCE OF ARABIA●制作年:1962年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・リーン●製作:サム・スピーゲル●脚本:ロバート・ボルト●撮影:フレデリック・A・ヤング/ニコラス・ローグ ●音楽:モーリス・ジャール●原作:T・E・ロレンス 「知恵の七柱」●時間:207分●出演:ピーター・オトゥール/アレック・ギネス/アンソニー・クイン/オマー・シャリフ/ジャック・ホーキンス/アーサー・ケネディ /アンソニー・クエイル/ホセ・ファーラー/クロード・レインズ/ドナルド・ウォルフィット/マイケル・レイ/ジョン・ディメック●日本公開:1963/12●配給:コロムビアラビアのロレンス(洋画ポスター).jpgアラビアのロレンス 1971.bmpアラビアのロレンス 1970.bmpア映画 ●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「七年目の浮気」(ビリー・ワイルダー)/「フロント・ページ」(ビリー・ワイルダー)/「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)/「雪の女王」(レフ・アタマノフ)
映画チラシ (1970年/1971年/1980年 各リヴァイバル公開時) 
 

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さらっと読める現代「インド入門」。多民族・多宗教・多言語国家であることを再認識。

インドビジネス.jpgインドビジネス3.jpg 島田 卓 (インド・ビジネス・センター代表取締役社長).jpg
インドビジネス―驚異の潜在力 (祥伝社新書)』島田 卓(たかし)氏(インド・ビジネス・センター代表取締役社長)

india it.jpg 本書によれば、11億の人口を抱えるインドは、その平均年齢がたいへん若く、毎年1200万人の新たな労働人口が生じているとのこと(高齢化の進む日本とは違いすぎ!)、しかも、彼らの多くが英語を能くし、数学に強く、IT(情報技術)力が高い―。

 60年代から始まった米国へのインド人の頭脳流出が、80年代からの米シリコンバレーのIT革命の原動力になったことは知られていますが、その頭脳がインドに還流し、今、インドITの発展に貢献しているそうで、教育熱も盛んで、インド工科大学は、「IIT(インド工科大学)に落ちたらMIT(マサチューセッツ工科大学)へ行け」と言われるぐらい難関だそうです(中国にも、清華大学という理科系分野の殆ど全てにおいて国内最高のレベルを占める特異な大学があるが、国内需要と教育熱が難易度を高めるという点で似ていると思った)。          

 本書は、インドでのビジネスを経験した著者(現在、インド・ビジネス・センター代表取締役社長)が、インドビジネス・コンサルタントの立場から、インドの政治・経済・産業の現況やインド人のビジネスの考え方を示したもので、このタイトルで〈日経文庫〉などから刊行されていれば、経済主体の解説で終わってしまっていたかも知れませんが、一般向け新書として刊行された本書では、歴史・民族・文化から社会・宗教・慣習等まで、幅広い話題をとり上げ、インドというものを多角的に捉える助けになるとともに、読み物としても読みやすいものになっています。

 とりわけ、前半部分のインド人のビジネス場面で見られる国民的特徴を紹介した部分が面白く、インド人が日本人と接するときは、最初は低姿勢で従順だが、実は彼らは大変プライドが高く、また論議好きで(インドでは「沈黙は金」ではなく「死」であるとのこと)理屈っぽいというのが元々のところであるようで、第一印象で甘く見ると後で痛い目に逢う?

 多少、著者個人の体験から来る主観もあるでしょうが、本書は後半に行けば行くほどデータブック的になってくるだけに、この前半部分の、やや放言的?なトーンは、読者を引きつけ、読後にインド及びインド人についての何らかイメージを読者に持ってもらう意図としては悪くないと思い、日本はインドのソフトパワー(人材)への投資(企業でのインターン受け入れなど)をすべきだなどの提言が盛り込まれているのもいいです。

インド紙幣.jpg 本書を読んで、インドという大国の今後の台頭を予感させられましたが、この国が多民族・多宗教・多言語国家であることも再認識させられたことの1つで、言語で言えば、地方言語を含めると300近くあるとのこと、国会議員が議場では同時通訳のヘッドフォンをしていて、紙幣には17の言語で金額が表記されているというのにはビックリしました。
  
 インドは映画大国でもありますが、サタジット・レイの「大地のうた」3部作みたいな"教養映画"は少数で、殆どがミュジカール映画とのことです。日本でもヒットした「踊るマハラジャ」などはまだストーリーが凝っている方で、2時間ぶっ続けで踊っているシーンばかりのもあるようです(一応その中に典型的な勧善懲悪ストーリーなどが組み込まれていたりはするが)。

アイシュワリヤ・ラーイ
アイシュワリヤ・ラーイ2.jpgアイシュワリヤ・ラーイ.jpg しかし映画女優は美人が多く、例えば本書でも紹介されている1994年ミス・ワールドのアイシュワリヤー・ラーイ(1973年年生まれ)という女優は、いつまでも奇麗だと思います(ニックネームはアイシュ。ロレアルのLUX Super Rich のCMに出ていた。ダンスも上手い)。過去に出演している映画はともかく("ボリウッド"系娯楽映画が殆ど)、ビジュアル的にはインドの自信とプライドを体現しているような女優だと思います。

シュリヤー・サラン.bmpヴァルシャ.bmpプリヤンカー・チョープラー.jpg この他にもインド映画界には、シュリヤ・サラン(1982年生まれ)、ヴァルシャといった美人女優が数多くいて、この辺りの女優は"ボリウッド"だけでなく"ハリウッド"にも進出していて、最近では20世紀最後のミス・ワールド優勝者女優のプリヤンカー・チョープラー(1982年生まれ)のハリウッド進出が見込まれているそうです。

左からシュリヤ・サラン/ヴァルシャ/プリヤンカー・チョープラー

「RRR」シュリヤ・サラン01.jpg シュリヤ・サラン

RRR」[Prime Video]
「RRR」2022.jpg「RRR」01.jpg(●2022年のS・S・ラージャマウリ監督のインド・テルグ語叙事詩的ミュージカルアクション映画「RRR」が、「ムトゥ 踊るマハラジャ」(1995年)が保持していた記録を塗り替え、日本で公開されたインド映画の中で最も高い興行収入を記録し、第46回「日本アカデミー賞」で優秀外国作品賞も受賞した。映画そのものは娯楽映画として大いに楽しめた。

「RRR」02.jpg 舞台は1900年代前半のインド。当時のインドは大英帝国の植民地であり、現地の人々は白人の権力者から差別的な扱いを受けていた。そんなインドに生きるビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)は、インド総督のバクストン(レイ・スティーヴンソン)に誘拐された少女・マッリを救うため、大英帝国の本拠地・デリーに潜入する。しかし、バクストンが住む総督公邸は警備が固く、安易に侵入できなかった。ビームは総督公邸に侵入するべく、スコットの姪・ジェニー(オリヴィア・モリス)に接近していく。一方、大英帝国に忠誠を誓うインド人の警察官・ラーマ(ラーム・チャラン)は、デリーのどこかに潜んでいるビームを追っていた。思想も立場も異なるふたりが出会うとき、インドの歴史が大きく動き出す―。

Shriya-Saran-To-Be-A-Part-Of-RRR.jpg「RRR」シュリヤ・サラン02.jpg 1920年の英領インド帝国が舞台で、大英帝国が悪者になっているが、背後にあるのは政治的なものより宗教的なものだろう。この映画に、「RRR」arison.jpg上記のシュリヤ・サランが主人公の母親役で出ていた。女優として大成して良かったと思う。因みに、大英帝国側の総督夫人をアリソン・ドゥーディ(「007 美しき獲物たち」('85年)、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」('89年))が演じていた。「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」と同じ悪役だが、こちらも相変わらずの美貌で何より。エンディングはヒーローもヒロインも、悪者である提督らも出てきて長々と踊る。これぞインド娯楽映画という感じだった。)

アリソン・ドゥーディ in 「007 美しき獲物たち」(1985)/「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(1989)/「RRR」(2022)

  
「RRR」03.jpg「RRR」●原題:RRR●制作年:2022年●制作国:インド●監督:S・S・ラージャマウリ●製作:D・V・V・ダナイヤー●脚本:S・S・ラージャマウリ/サーイ・マーダヴ・ブッラー●撮影:K・K・センティル・クマール●音楽:M・M・キーラヴァーニ●時間:182分●出演:N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア/ラーム・チャラン/アジャイ・デーヴガン/アーリヤー・バット/シュリヤ・サラン/サムドラカニ/レイ・スティーヴンソン/アリソン・ドゥーディ/オリヴィア・モリス●日本公開:2022/10●配給:ツイン●最初に観た場所:シネマート新宿(23-10-24)(評価:★★★★)

シネマート新宿
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自己暗示も記憶喪失も嘘の類型であると―。印象に残った記憶喪失者の話。

『うその心理学』相場均(講談社現代新書).jpgうその心理学.jpg 『うその心理学』相場均(談社現代新書)2.jpg 異常の心理学.jpg
うその心理学』 講談社現代新書〔'65年〕/『異常の心理学』〔'69年〕/『うその心理学』本文イラスト:真鍋博

うその心理学』18.JPG 本書でも紹介されている、子犬を絞め殺した夢を見た女性のフロイトによる分析の話は有名ですが、こうした憎しみの「転移」は、夢の中で自分に嘘をついているとも言え、本書を読むと、人間というのは、夢に限らず現実においても嘘をつくようにできているということになります。但し、自己中心的な嘘をつき続ける人は、やはり虚言症と呼ばれる病気であり、クレペリンの調べでは、虚言症者の43%は自殺を図っているそうです(周囲の誰かが病気だということに気づいてあげないと危険な状況になるかも)。

 自己暗示などは意識的に自分を騙すような要素もあるわけで、一方、記憶喪失の場合は、無意識のうちに(自己防衛的に)自分に嘘をつく(自分を欺く)ものと言えるようです。同じ著者の『 異常の心理学』('69年/講談社現代新書)を読んだ時に記憶喪失の症例が印象に残りましたが、本書でも、特に印象に残ったのは、ルーという記憶喪失者の話(124p)。

West Country Gallery web site.jpg ルーは貧しい若者だった。母と2人、とある町に住み、小さな店で働いていた。仕事は単調で、生活は苦しく味気なかった。彼の楽しみといえば、場末の酒場に集まる船員たちに混じって、彼らの冒険談に聞き入ることだった。危険とスリルに富んだ海の男の生活。熱帯の陽光に輝く紺碧の海。遠い国々の風景。ルーは夢み、そして憧れた。しかし、彼には養わねばならない母がある...。

 ある日、ルーは突然姿を消した。年老いた母親の嘆き。探索。ルーはあちこちの家の手伝いをしたりして僅かな路銀を稼ぎながら、海辺の町へと旅をしたのだった。初めて、運河をゆき過ぎる荷船で働き、辛い労働によく耐えた。やがて、あちこちを流れ歩く鋳掛屋の徒弟になった。海への憧れは満たされたとは言えないが、それでも変化のある生活が送れた。

 数ヵ月たったある日、親方は徒弟たちに酒を振舞った。「今日はちょっとお目出度いことがあるのでな。祝杯でもやってくれ。」ルーは親方に今日は何日ですかと聞いた。親方が日を教えたとき、突然ルーは叫んだ。「今日は母さんの誕生日だ。」若者は、はっとわれにかえった。ここはどこだろう。今まで僕は何をしていたのだろう。いつも行く場末の酒場で船乗りたちと酒を飲み、彼らの話を聞き、そして酒場を出た―彼の頭の中にあるのは、それだけだった。そこからは空白なのだ。今まで何をしていたのか全然記憶が無い。びっくりして彼を見つめている親方の顔も、ルーには全く見知らぬ人の顔だった―。これって、今で言うところの「解離性遁走」に近いのではないだろうか。

Ronald Colman, Greer Garson in Random Harvest
『心の旅路』グリア・ガースン、ロナルド・コールマン.bmp こうした記憶喪失は映画などのモチーフしても扱われており、よく知られているのがマーヴィン・ルロイ監督の「心の旅路」(原題:Random Harvest、'42年/米)です(原作は『チップス先生、さようなら』『失われた地平線』などの作者ジェームズ・ヒルトン)。

心の旅路ド.jpg 第1次世界大戦の後遺症で記憶を失ったスミシィ(仮称)という男が、入院先を逃げ出し彷徨っているところを、踊り子ポーラにに助けられ、2人は結婚し田舎で安穏と暮らすが、出張先で転倒したスミシィは、自分がレイナーという実業家の息子であった記憶喪失以前の記憶を取り戻し、逆に、ポーラと過ごした記憶喪失以後の3年間のことは忘れてしまう―。

 かなりご都合主義的な展開ととれなくもありませんが、「コールマン髭」のロナルド・コールマンが記憶喪失になった男を好演していて(共演はグリア・ガーソン)、同じマーヴィン・ルロイ監督の"メロドラマ"「哀愁」よりも、こちらの"メロドラマ"の方が素直に感動してしまいました("記憶喪失"というモチーフの面白さもあったが)。

「心の旅路」パンフレット
心の旅路 パンフレット.jpg「心の旅路」.jpg「心の旅路」●原題:RANDOM HARVEST●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:マーヴィン・ルロイ●製作:シドニー・フランクリン ●脚本:クローディン・ウェスト/ジョージ・フローシェル/アーサー・ウィンペリス●撮影:ジョセフ・ルッテンバーグ ●音楽:ハーバート・ストサート●原作:ジェームズ・ヒルトン「心の旅路」●時間:124分●出演: ロナルド・コールマン/グリア・ガーソン/フィリップ・ドーン/スーザン・ピータース/ヘンリー・トラヴァース/レジナルド・オーウェン/ライス・オコナー●日本公開:1947/07●配給:MGM=セントラル●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-12-23)(評価:★★★★)●併映「舞踏会の手帖」(ジュリアン・デュビビエ)

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「自分探し」がサスペンス気分を盛り上げ、ラドラムの作品では一押し。

暗殺者 上.jpg 暗殺者下.jpg THE BOURNE IDENTITY3.bmp ボーン・アイデンティティー.jpg  lラドラム.jpg
暗殺者 (上) (新潮文庫)』『暗殺者 (下) (新潮文庫)』「ボーン・アイデンティティー [DVD]」Robert Ludlum

Thebourne Identity.jpg 1980年に発表されたアメリカの作家ロバート・ラドラム(Robert Ludlum)の作品で、彼の作品ではこの『暗殺者』 (The Bourne Identity)と『狂気のモザイク』 (The Parsifal Mosaic '82年発表)が一押しです(共に日本語訳は新潮文庫)(『暗殺者』は1984(昭和59)年・第3回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作)。

 発表は海外でも国内(邦訳)でも、『スカーラッチ家の遺産』 (The Scarlatti Inheritance '71年発表)、『ホルクロフトの盟約』 (The Holcroft Covenant '78年発表)、『マタレーズ暗殺集団』 (The Matarese Circle '79年発表)の方が先ですが、それらの作品もかなり面白いです(この3作品は何れも日本語訳は角川文庫)。

 あの松岡正剛氏も、自身のサイト「千冊千話」の中で、「ともかく力作が目白押しに発表されるので、これは駄作だろうとおもってもみるのだが、つい読まされ、興奮してしまっている」「ぼくを十冊以上にわたってハメつづけたのだから、その手腕は並大抵ではないということなのだろう」と書いています。

 実際、アメリカの週刊誌パブリッシャーズ・ウィークリー(Publishers Weekly)のアメリカ・ベストセラー書籍(小説/フィクション)の年間トップ10ランキングを見ると、『ホルクロフトの盟約』が'78年の5位、『マタレーズ暗殺集団』は'79年の1位となっています(『暗殺者』は'80年の2位)。

 "エスピオナージュの旗手"ともてはやされたこと自体は、自分も読んでみて大いに頷けましたが、角川文庫にあるものは、内容がやや荒唐無稽、謀略・策略何でもありという印象も、一部拭えませんでした(はまるとクセになるが、あまり続けて読むとやや食傷気味になる)。

 それに対して本作は、、松岡正剛氏も「千冊千話」の中で『暗殺者』を取り上げ、「傑作は、やはりこの『暗殺者』である。文庫本で2冊にわたる長編だが、読みだしたら、絶対にやめられない」としているように、ジェイソン・ボーンという主人公のキャラクターがいいのと、最初に彼が記憶喪失者として登場するという設定がうまいと思います。

 「自分」は誰なのか、「自分」を見つけなければ生きられないという切実な「自分探し」が、サスペンス気分を盛り上げていて、米ソ冷戦という今となっては古い時代背景であるにも関わらず古さを感じさせません。
 
マット・デイモン.jpgthe-bourne-identity.jpg 原題の「ボーン・アイデンティティー」そのままのタイトルで映画化('02年/米)されました(発表から映画化まで22年かあ)。悪い映画ではなかったのですが、物語の細部が端折られてしまったのと、主人公がキャラクター的に少しズレてしまった感じがして、どうなのかなという印象でした。主役のマット・デイモン自体が少し線が細いと言うか優し過ぎるイメージかな(この人、米国の有名俳優の中では数少ないハーバード大学出身者、但し、中退)。さらに"暗殺者"であるカルロス、これが原作ではある種のサイコ的凄みがあるのですが、アクション映画にしてしまうと怖くなくなるのが痛い。

The Bourne Identity21.jpgボーン・アイデンティティー  .jpg「ボーン・アイデンティティー」●原題:THE BOURNE IDENTITY●制作年:2002年●制作国:アメリカ●監督:ダグ・リーマン●製作総指揮:フランク・マーシャル/ロバート・ラドラム●音楽:ジョン・パウエル●原作:ロバート・ラドラム「暗殺者」(The Bourne Identity)●時間:119分●出演:マット・デイモン/フランカ・ポテンテ/クリス・クーパー/クライヴ・オーウェン/ブライアン・コックス/アドウェール・アキノエ・アグバエ/ダグ・リーマン/ジュリア・スタイルズ●日本公開:2003/01●配給:UPI (評価★★★)

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かなり怖い心理小説であると同時に、何だか予言的な作品。

『コレクター』 (196609 白水社).jpgコレクター(収集狂).jpg コレクター 上.jpg コレクター下.jpg ウィリアム・ワイラー 「コレクター」.jpg
新しい世界の文学〈第40〉コレクター (1966年)』白水社『コレクター (上)(下)』白水Uブックス/映画「コレクター」(1956) 「カンヌ国際映画祭 男優賞(テレンス・スタンプ)」 カンヌ国際映画祭 女優賞(サマンサ・エッガー)

「フランス軍中尉の女」.bmpフランス軍中尉の女.jpgThe Collector John Fowles.jpg 1963年発表のイギリスの小説家ジョン・ファウルズ(1916‐2005)『コレクター』 (The Collector)は、映画化作品('65年、テレンス・スタンプ主演)でも有名ですが、イギリス人女性とフランス人男性の不倫を描いたカレル・ライス監督の「フランス軍中尉の女」('81年、メリル・ストリープ主演、メリル・ストリープはこの作品でゴールデングローブ賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞の各「主演女優賞」を受賞)の原作者もジョン・ファウルズであることを知り、サイコスリラーからメロドラマまで芸域が広い?という印象を持ちました。但し、映画「フランス軍中尉の女」は一昨年['05年]ノーベルハロルド・ピンター1.jpg文学賞を受賞した脚本家ハロルド・ピンターの脚色であり、現代の役者が19世紀を舞台とした『フランス軍中尉の女』という小説の映画化作品を撮影する間、小説と同じような事態が役者達の間で進行するという入れ子構造になっていることからもわかるように(そのため個人的にはやや入り込みにくかった)、映画はほぼハロルド・ピンターのオリジナル作品になっているとも言え、映画は映画として見るべきでしょう。
ハロルド・ピンター(1930-2008

the collector 1965.jpg 『コレクター』の方のストーリーは、蝶の採集が趣味の孤独な若い銀行員の男が、賭博で大金を得たのを機に仕事をやめて田舎に一軒家を買い、自分が崇拝的な思慕を寄せていた美術大学に通う女性を誘拐し、地下室にに監禁する―というもの。
"The Collector " ('65/UK)
The Collector.jpg 日本でも女児を9年も監禁していたという「新潟少女監禁事件」(1990年発生・2000年発覚)とかもあったりして、何だか今日の日本にとって予言的な作品ですが、原作は、独白と日記から成る心理小説と言ってよく、人とうまくコミュニケーション出来ない(当然女性を口説くなどという行為には至らない)社会的不適応の男が、自分の思念の中で自己の行為を正当化し、さらに一緒にいれば監禁女性は自分のことを好きになると思い込んでいるところがかなり怖い。

the collector 1965 2.jpg しかし、性的略奪が彼の目的でないことを知った女性が彼に抱いたのは「哀れみ」の感情で、彼女の日記からそのことを知った男はかえって混乱する―。
サマンサ・エッガー
サマンサ・エッガー_2.jpg 文芸・社会評論家の長山靖生氏は、この作品の主人公について「宮崎勤事件」との類似性を指摘し、共に「女性の正しいつかまえ方」を知らず、実犯行に及んだことで、正しくは"コレクター"とは言えないと書いてましたが、確かにビデオや蝶の「収集」はともかく、この主人公に関して言えば女性はまだ1人しか"集めて"いないわけです。しかし、作品のラストを読めば...。

「コレクター」7.jpg 映画化作品の方も、男が監禁女性を標本のように愛でるのは同じですが、彼女に対する感情がより恋愛感情に近いものとして描かれていて、結婚が目的となっているような感じがして、ちょっと原作と違うのではと...。

 テレンス・スタンプの代表作として知られているものの(カンヌ国際映画祭男優賞受賞)、ヒロインを演じたサマンサ・エッガーの演技も悪くなかったです(カンヌ国際映画祭女優賞受賞。ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)も受賞している)。結構SMっぽい場面もあったりして、「ローマの休日」を撮ったウィリアム・ワイラーの監督作品だと思うと少し意外かもしれません。
    
萌える男.jpg 「萌え」評論家?の本田透氏は、「恋愛」を追い求めるという点で(レイプ犯とは異なり)主人公はストーカー的であると言っていて(『萌える男』('05年/ちくま新書))、これは原作ではなく映画を観ての感想のようですが、確かに「娼婦ならロンドンに行けばいくらでも買える」だけの大金を主人公が持っていたことは、本作品を読み解くうえで留意しておいた方がいいかもしれません。但し、映画での主人公が異常性愛者っぽいのに対し、原作での主人公は何かセックス・レスに近いとも言えるような気がしました。
      
「ソフィーの選択」1982.jpg.gif 因みに、冒頭に挙げた「フランス軍中尉の女」('81年)のメリル・ストリープは、前述の通りこの作品でゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞しましたが、アカデミー賞の主演女優賞はノミネート止まりで、翌年の「ソフィーの選択」('82年)で主演女優賞を、2年連続となるゴールデングローブ賞主演女優賞と併せて受賞しました(ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞の各主演女優賞も受賞)。ただし、アカデミー賞の"助演"女優賞の方は、「ディア・ハンター」('78年)でノミネートされ、「クレイマー、クレイマー」('79年)ですでに受賞しており、この時にゴールデングローブ賞"助演"女優賞も受賞しているので、この頃はほとんど出る作品ごとに大きな賞を受賞していたことになります。

「ソフィーの選択」1.jpg「ソフィーの選択」2.jpg アラン・J・パクラの「ソフィーの選択」('82年)は、昨年['06年]亡くなったウィリアム・スタイロン(1925-2006)が1979年に発表しベストセラーとなった小説が原作です。駆け出し作家のスティンゴ( ピーター・マクニコル )が、ソフィー(メリル・ストリープ)というポーランド人女性と知り合うのですが、彼女には誰にも語ることの出来ない恐るべき過去があり、それは、彼女の人生を大きく左右する選択であった...という話で、ネ「ソフィーの選択」3.jpgタバレになりますが、自分の幼い娘と息子のどちらを生きながらえさせるか選択しろとドイツ将校に求められるシーンが壮絶でした。この作品でメリル・ストリープは役作りのためにロシア語訛りのポーランド語、ドイツ語及びポーランド語訛りのある英語を自在に操るなど、作品の背景や役柄に応じてアメリカ各地域のイントネーションを巧みに使い分けており、そのため「訛りの女王」と呼ばれてその才能は高く評価されることになります。「恋におちて」('84年)で共演したロバート・デ・ニーロは、メリル・ストリープのことを自分と最も息の合う女優と言っています。
 

the collector 1965 3.jpg「コレクター」●原題:THE COLLECTOR●制作年:1965年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ウィリアム・ワイラー●製作:ジョン・コーン/ジャド・キンバーグ●脚本:スタンリー・マン/ジョン・コーン/テリー・サザーン●撮影:ロバート・サーティース/ロバート・クラスカー●音楽:モーリス・ジャール●原作:ジョン・ファウルズ●時間:119分●出演:テレンス・スタンプ/サマンサ・エッガー/モナ・ウォッシュボーン/モーリス・ダリモア●日本公開:1965/08●配給:コロムビア映画(評価:★★★☆)

フランス軍中尉の女04.jpg「フランス軍中尉の女」●原題:THE FRENCH LIEUTENANT'S WOMAN●制作年:1981年●制作国:イギリス●監督:カレル・ライス●製作:レオン・クロア ●脚本:ハロルド・ピンター●撮影:フレディ・フランシス●音楽:カール・デイヴィス●原作:ジョン・ファウルズ●時間:123分●出演:メリル・ストリープ/ジェレミー・アイアンズ/レオ・マッカーン/リンジー・バクスター/ヒルトン・マクレー●日本公開:1982/02●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(82-05-06)●2回目:三鷹文化(82-11-06)(評価:★★☆)●併映(2回目):「情事」(ミケランジェロ・アントニオーニ)

ソフィーの選択 [DVD]
「ソフィーの選択」d1.jpg「ソフィーの選択」4.jpg「ソフィーの選択」●原題:SOPHIE'S CHOICE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督・脚本:アラン・J・パクラ●製作:キース・バリッシュ/アラン・J・パクラ●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:マーヴィン・ハムリッシュ●原作:ウィリアム・スタイロン●時間:150分●出演:メリル・ストリープ/ケヴィン・クライン/ピーター二子東急 1990.jpg・マクニコル/リタ・カリン/スティーヴン・D・ニューマン/グレタ・ターケン/ジョシュ・モステル/ロビン・バートレット/ギュンター・マリア・ハルマー/(ナレーター)ジョセフ・ソマー●日二子東急.gif本公開:1982/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:二子東急(86-07-05)(評価:★★★☆)●併映:「愛と追憶の日々」(ジェイムズ・L・ブルックス)

二子東急のミニチラシ.bmp二子東急 場所.jpg二子東急 1957年9月30日 開館(「二子玉川園」(1985年3月閉園)そば) 1991(平成3)年1月15日閉館

 
 【1984年新書化[白水Uブックス(上・下)]】

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反体制文学だが、「人間」と「労働」の関係を考えさせられた。
Один день Ивана Денисовича.jpgイワン・デニーソヴィチの一日〔旧〕.jpg イワン・デニーソヴィチの一日.jpg イワン・デニーソヴィチの一日 チラシ.jpg 『イワン・デニーソヴィチの一日』.jpg アレクサンドル・ソルジェニーツィン.jpg
"Ivan Denisovich"/『イワン・デニーソヴィチの一日』 新潮文庫〔旧版/新版〕/「イワン・デニーソヴィチの一日」チラシ・ビデオ/アレクサンドル・ソルジェニーツィン

ONE DAY IN THE LIFE OF IWAN DENISOVICH.jpg 1962年に発表されたロシアの作家アレクサンドル・ソルジェニーツィン(Александр Исаевич Солженицын)の処女作『イワン・デニーソヴィチの一日』(Оди́н день Ива́на Дени́совича Odin den' Ivana Denisovicha、英語 One Day in the Life of Ivan Denisovich)は、自らの収容所体験を基に、旧ソビエトのラーゲル(収容所)で強制労働に従事する主人公の1日を描いた作品で、世界的ベストセラーになりました。
"One Day in the Life of Ivan Denisovich"

 主人公は普通の農民でしたが、大戦中にドイツ軍のスパイと疑われて、10年の強制労働を命じられてラーゲル送りとなり、小説はその8年目のある日(と言っても特別な1日ではない)を描いています。

 妻子と離れ極寒の地で、名前ではなく番号で呼ばれ、有刺鉄線に囲まれ警察犬と看守に見張られながら、ひたすらブロック積みの作業に従事する―こうした端的な"使役される状況"の中で、主人公が、ブロック作業を効率的かつ完璧に行うことにいつしか没頭し、その出来ばえに達成感を感じる場面には、「人間」と「労働」の関係を考えさせられました。

 「人はパンのみにて生きるにあらず」という言葉がありますが、一方でこの小説には"パン"の有難さが滲み出ていて、主人公も、作業場のコックをごまかして昼食の雑炊を1人前多くせしめたことに、大いなる満足感を得ています。そして、営倉にも入れられずに済んだ、「ほとんど幸福とさえ言える一日」を終える―。

 反体制文学なのですが、この小説を21世紀に読むことがアナクロニズムだとは思いません。過酷な境遇を自分の中で"日常化"してしまうことで生き続ける「人間」を描いていて、それを"麻痺"として捉えるのではなく、人間の根源的な生命力として捉えている点に、普遍性(または普遍的な問題の提起)があるように思えます。

イワン・デニーソヴィチの一日0.jpgOne Day In The Life Of Ivan Denisovich.jpg '71年に英国で「長距離ランナーの孤独」('62/英)のトム・コートネイ主演で映画化されましたが、原作に忠実である分少し地味にならざるを得ず(劇的な変化がないことがテーマの1つ)、個人的に注目した「労働」に関する部分よりも、1日を終えた安らぎのようなものにウェイトが置かれて描かれていたような気がしました。文芸座の「ソビエト映画祭」のような企画で観ましたが、スタッフもキャストもほぼ全員イギリス人なので(当然、英語で喋っている)、本場モノに混じるとやはり見劣りがするような...(それを言うと、「ドクトル・ジバコ」なども「所詮アメリカ映画じゃないか」ということになってしまうのだが)。
One Day In The Life Of Ivan Denisovich (1971/UK)
「イワン・デニーソヴィチの一日」●原題:ONE DAY IN THE LIFE OF IWAN DENISOVICH●制作年:1971年●制作国:イギリス●製作・監督:キャスパー・リード●音楽:アーン・ノーディム●原作:アレクサンドル・ソルジェニーツィン●時間:100分●出演:トム・コートネイ/アルフレッド・バーク/ジェームズ・マックスウェル/エリック・トンプソン/エスペン・スクジョンバーグ●日本公開:1974/06●配給:NCC●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-16) (評価★★★)●併映「エゴール・ブルイチョフ」(セルゲイ・ソロビヨフ)

1970年にノーベル文学賞を受賞し、報道陣に語るアレクサンドル・ソルジェニーツィン氏(AP通信).jpg

1970年にノーベル文学賞を受賞し、報道陣に語るアレクサンドル・ソルジェニーツィン氏。スウェーデン、ストックホルム。(AP通信)

 【1963年文庫化・2005年改訂版[新潮文庫]/1971年再文庫化[岩波文庫]】

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映画の分析などに、元アーティストとしての性が感じられる。
みんなの精神科.jpg みんなの精神科.JPG みんなの精神科2.jpg 危険な情事 (扶桑社ミステリー).jpg  レナードの朝 dvd.png
みんなの精神科-心とからだのカウンセリング38』 〔'97年〕『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38 (講談社プラスアルファ文庫)』〔'00年〕 H・B・ギルモア『危険な情事 (扶桑社ミステリー)』(ノベライゼーション) 「レナードの朝 [DVD]

 タイトルからも察せられる通り、趣旨としては、精神科医に対して抱く一般の心理的な垣根を低くし、〈橋渡し機能〉としてもっと活用してもらいたいというものです。

 "一億総精神科受診時代"が来ることで、むしろ自分は正常で他人のことをおかしいとする単純な〈排除〉の論理を排除できるのでは、という考えはわかりますが、全体のトーンとしては文化論、社会論を含むエッセイ風読み物で、本当に書きたかったことが何なのか、今ひとつ見えにくい部分もあります。

 一方、尾崎豊の破綻に至る心理分析や、映画「レインマン」('88年/米)の作り方に対する言及、「危険な情事」('87年/米)に見る隠されたメッセージの解釈には、精神科医としてだけでなく元アーティストとしての性も感じられ、すべてには賛同できないまでも、なかなか面白く読めました。

Fatal Attraction.bmp とりわけ個人的に興味深かったのは、映画「危険な情事」(Fatal Attraction)(邦題が凡庸ではないか? 原題は「死にいたる吸引力」)の主人公のマイケル・ダグラス演じる、軽い気持ちで一夜を共にした女性からのストーカー行為に苦しめられる男性を、彼自身がパラノイア、妄想性人格障害であると見ている点です(これ、知人宅でのビデオパーティで観た)。普通ならば、主人公を執拗にストーキングするグレン・クローズ演じる女性の方を、典型的な境界性人格障害であると見そうな気がしますけれども、精神科医だからこそ、ちょっと視点を変えた見方ができるのでしょうか。
     
危険な情事 dvd.jpgFATAL ATTRACTION.jpg 個人的には、グレン・クローズの鬼気迫る演技に感服!(彼女の演じたアレックスは2003年にAFIによって選ばれた「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」で悪役の第7位となっていて、「時計じかけのオレンジ」でマルコム・マクダウェルが演じた主人公アレックス(12位)などより上にきている)、ただし、ペットのウサギを鍋で煮たのは映画とは言え後味が悪く、最後の湯舟からガバッと起き上がるところでこれはあり得ないと思い、この映画に対する評価はあまり高くなかったのですが、そっか、主人公の被害妄想だったのか、ナルホド。
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 穿った見方をすれば、こうした独特の作品分析などが、本当に書きたかったことではないかと...。 但し、「レナードの朝」(Awakenings、'90年/米)に関する記述などは、当時の精神医療の在り方がどのようなものであったかを、専門医の立場からきちんと解説しています。

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レナードの朝 dvd.jpgオリバー・サックス.jpg この作品のベースになっているのは、英国の医師で神経学者のオリバー・サックス(ダスティン・ホフマンが「レインマン」('88年/米)で自閉症者を演じることになった際にこの人にアドバイスを求めている)の著作である医療ノンフィクションで、英国で昨年['05年]ノーベル文学賞を受賞したハロルド・ピンターが戯曲化していますが、今度は米国でペニー・マーシャル監督が内容を再構成したフィクションという形で映画化したものです。

 ブロンクスの慢性神経病患者専門の病院に赴任してきたマルコム・セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、30年間眠り続けた患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に対し、未認可のパーキンソン病の新薬を使うことで彼の意識を呼び戻し、レナードが女性に恋をするまでに回復させるが、やがて...。

レナードの朝 0.jpg 著者はここで、精神病の症状の多様性と、多くの医師が異なった精神病観を持っていることを強調したうえで、セイヤー医師の処方を評価しています。一方、ここからまたやや映画ネタになりますが、この作品でアカデミー賞にノミネートされたのがロバート・デ・ニーロだけだったのに対し、ロビン・ウィリアムズの方が演技が上だったという意見が多くあったことを指摘し、実は2人の関係が作品の中で対になっているとしています。これは、医師中心に描いた「逃亡者」や患者中心に描いた「レインマン」など映画が医師・患者のどちらか一方の視点から描いているのが通常でレナードの朝02.jpgあるのに対して珍しく、更に、医師と患者が相互に補完し合って共に治療法を見つけていくという意味で、医師に患者性があること(セイヤー医師はネズミ相手の実験ばかりして他者とのコミュニケーションが苦手な独身男として描かれている)の重要性を説いています(スゴイ見方!)。

レナードの朝 2.jpg 個人的には、女流監督らしいヒューマンなテーマの中で、やはり、障害者を演じるロバート・デ・ニーロの演技のエキセントリックぶりが突出しているという印象を受けました。この作品で、ロバート・デ・ニーロがセイヤー医師の役のオファーがあったのにも関わらずレナードの役を強く希望し、ロビン・ウィリアムズと役を交換したというのは本書にある通りで、著者はそのことも含め「どちらが患者でどちらが医師であってもおかしくない作品」としているのが興味深いです。おそらく著者はセイヤー医師に十二分に肩入れしてこの作品を観たのではないでしょうか(同業者の役柄に感情移入するのはごく普通のことだろう)。その上で、ロビン・ウィリアムズの演技は著者の期待に沿ったものだったのかもしれません(デ・ニーロもさることながら、ロビン・ウィリアムズも名優である)。
   
危険な情事 9.jpg 「危険な情事」●原題:FATAL ATTRACTION●制作年:1987年●制作国:アメリカ●監督:エイドリアン・ライン●製作:スタンリー・R・ジャッフェ/シェリー・ランシング●脚本:ジェームズ・ディアデン ほか●撮影:ハワード・アザートン●音楽:モーリス・ジャール ●原作:●時間:119分●出演:マイケル・ダグラス/グレン・クローズ/アン・アーチャー/スチュアート・パンキン/エレン・ハミルトン・ラッツェン/エレン・フォーリイ/フレッド・グウィン/メグ・マンディ●日本公開:1988/02●配給:パラマウント映画 ●最初に観た場所:有楽町・日劇日劇プラザ・日劇東宝.jpg日劇プラザ   .jpg有楽町マリオン 阪急.jpgプラザ (88-04-10)(評価:★★★)
日劇プラザ 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側9階にオープン、2002年~「日劇3」、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇3」、2009年3月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン3」2018年2月4日閉館


レナードの朝03.jpg「レナードの朝」●原題:AWAKENINGS●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ペニー・マーシャル●製作:ウォルター・F・パークス/ローレンス・ロビン・ウィリアムズ  1.jpgラスカー●脚本:スティーヴン・ザイリアン●撮影:ミロスラフ・オンドリチェク●音楽:ランディ・ニューマン●原作:オリヴァー・サックス●時間:121分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ロビン・ウィリアムズ/ジュリー・カブナー/ルー・ネルソン/ジョン・ハード/ペネロープ・アン・ミラー/マックス・フォン・シドー/アリス・ドラモンド/ジュディス・マリナ●日本公開:1991/04●配給:コロムビア・トライスター映画(評価:スレナードの朝 マックスフォンシドー .jpg★★★☆)

Robin Williams (1951-2014(63歳没「自殺」))as Dr. Malcolm Sayer/Max Von Sydow(1929-2020(90歳没))as Dr. Peter Ingham in Awakenings

ロビン・ウィリアムズ[上](マルコム・セイヤー医師...話すことも動くこともできない患者たちに反射神経が残っていることに気づき、訓練によって彼らの生気を取り戻すことに成功する(原作者オリバー・サックス自身がモデル)
マックス・フォン・シドー[右](ピーター・インガム医師...嗜眠性脳炎の患者は考える能力を失ったと考えている)

 【2000年文庫化[講談社+α文庫]】

《読書MEMO》
●『レインマン』に出てくる面白いエピソードは20人の自閉症患者と20年付き合ってやっと得られるもの
●『レナードの朝』で当初デ・ニーロがセイヤー博士をやる予定だったが、彼はレナード役(嗜眠性脳炎の患者)を欲し、ロビン・ウィリアムスが博士役になった
●『危険な情事』=道成寺と同じ、パラノイア・妄想(実は男の方が狂っている)だという解釈

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古典重視でマニアックな選択傾向に見えるが、なかなかの"本物志向"。

映画の魅惑・ジャンル別ベスト1000.jpg  ジャンル別映画ベスト1000.jpg      ダークマン.jpg 今宵限りは  シュミット.jpg
映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000』「リテレール」別冊『ジャンル別映画ベスト1000』(学研M文庫)/サム・ライミ監督「ダークマン」/ダニエル・シュミッ監督「今宵かぎりは...」

 スーパーエディターと呼ばれ、'03年にガン死したヤスケンこと安原顕の編集からなる本書は、彼が編集長をしていた雑誌リテレールの別冊の1つ。文芸映画、青春映画、音楽映画など20ジャンルの映画のベスト50を、蓮實重彦、辻邦生など大家や曲者(?)20人が分担して選び評しています。
 ただし担当ジャンルの定義は担当した執筆者に任されているようで(ある意味、読者に対しては不親切ですが)、読者におもねることなく、執筆者はみな本当に好きな映画、見てもらいたい映画について真摯に語っています。

アンドレイ・タルコフスキー/鏡.jpgルシアンの青春2.jpg鬼火.jpgラルジャン1.jpg白夜2.jpg 個人的には、ブレッソンの「白夜」「ラルジャン」、ルイ・マルの「鬼火」「ルシアンの青春」、タルコフスキーの「鏡」などの評があるのが嬉しい。キューブリックの「現金に体を張れ」「バリー・リンドン」、ヴィスコンティの「夏の嵐」「若者のすべて」、ヘルツォークの「アギーレ・神の怒り」「フィッツカラルド」が入っているのもいい。

イワン雷帝(DVD).jpg世界名作映画全集 99 キートンの大列車追跡.jpgグリード.jpg若者のすべて DVD.jpg現金(ゲンナマ)に体を張れ.jpg シュトロンハイムの「グリード」、キートンの「将軍」、エイゼンシュタインの「イワン雷帝」などの古典もあれば、ホークスの「脱出」「三つ数えろ」、ヒューストンの「キー・ラーゴ」といったハードボイルドやオルドリッチの「ロンゲスト・ヤード」「カリフォルニア・ドールズ」、サム・ライミの「ダークマン」などB級アクション映画もあります。

フリークス dvd.jpgアフター・アワーズ.jpgBurt Reynolds THE LONGEST YARD.jpg三つ数えろ.jpg脱出2.jpg スコセッシは「アフター・アワーズ」がミステリー部門にあります。「フリークス」「快楽殿の創造」などは"アートシアター新宿"の定番カルトでした。「ロッキー・ホラー・ショー」は楽しい参加型カルト(映画館でびしょ濡れになった思い出がある)。'06年に亡くなったダニエル・シュミットの「今宵限りは...」は、音楽映画とアヴァンギャルドの2部門に登場。ファスビンダーの「ケレル」っていうのもジャン・ジュネ原作で結構アブナイ映画...。

 これらの中で「B級」作品で自分の好みは、 ロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)と、サム・ライミ監督の「ダークマン」('90年/米)でしょうか。

カリフォルニア・ドールス.jpg 「カリフォルニア・ドールズ」は、男臭い世界を描いて定評のあるアルドリッチが女子プロレスの世界を描いた作品で、さえない女子プロのタッグ「カリフォルニア・ドールズ」のプロモーターを「刑事コロンボ」 のピーター・フォーク が好演しており、彼と2人の女性選手との心の通い合いが結構泣けます。

「カリフォルニア・ドールズ」●原題:...All THE MARBLES a.k.a. THE CALIFORNIA DOLLS●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:ウィリアム・アルドリッチ●脚本:メル・フローマン●撮影中野武蔵野ホール.jpg:ジョセフ・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォール●時間:113分●出演:ピーター・フォーク/ヴィッキー・フレデリック/ローレン・ランドン/バート・ヤング/クライド・クサツ/ミミ萩原●日本公開:1982/06●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(83-02-06)(評価:★★★★)●併映「ベストフレンズ」(ジョージ・キューカー)

THE DARKMAN 1990.jpgダークマン.jpg 「ダークマン」は、「死霊のはらわた」('81年/米)などのスプラッター映画で知られ、後に「スパイダーマン」('02年/米)を撮るサム・ライミ監督が、事故で全身に大やけどを負った男の復讐を描いたもので、「神経を切られているため痛覚は無く、怒りによって超人的な力を発揮し、人工皮膚を駆使して他人に変身する、黒マントに身を包んだ"異形のヒーロー"」というコミック調ですが、悪を倒しても元の自分には結局戻れないわけで、その孤独と哀しみが切々と伝わってきました。

ダークマン 1990.jpg「ダークマン」●原題:THE DARKMAN●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督・原作:サム・ライミ●製作:ロバート・タパート●脚本:チャック・ファーラー/サム・ライミ/アイヴァン・ライミ/ダニエル・ゴールディン/ジョシュア・ゴールディン●撮影:ビル・ポープ●音楽: ダニー・エルフマン●時間:96分●出演:リーアム・ニーソン/フランシス・マクドーマンド/ラリー・ドレイク/コリン・フリールズ/ネルソン・マシタ/ジェシー・ローレンス・ファーガソン/ラファエル・H・ロブレド/ダン・ヒックス/テッド・ライミ/ジョン・ランディス/ブルース・キャンベル●日本公開:1991/03●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★)
 
 変わった映画というか、最初観た時はよく分らなかった映画と言えば、 ジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)と、ダニエル・シュミット監督の「今宵かぎりは...」('72年/スイス)でしょうか。

 「ロッキー・ホラー・ショー」は、最初に名画座で観た時は、ロック・オペラってこんなのもあるのかという感じで(スーザン・サランドンが出てたなあ)よく分らんという印象だったのですが、2度目に渋谷のシネマライズ渋谷(地下1階スクリーン)で観た時には、アメリカからシネセゾンが招聘したと思われるコスプレ軍団が来日していて、映画館の最前列で映画に合わせて踊ったり、紙吹雪や米を撒いたり、雨のシーンでは如雨露で水を撒いたりして観客も大ノリ、ああ、これ、こうやってパーティ形式で観るものなんだと初めて知りました。

ロッキー・ホラー・ショー (1976).jpg「ロッキー・ホラー・ショー」●原題:THE ROCKY HORROR SHOW●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:ジム・シャーマン●製作:マイケル・ホワイト●脚本:ジム・シャーマン/リチャード・オブライエン●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:リチャード・ハートレイ●時間:99分●出演:ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/パトリシア・クイン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ●日本公開:1978/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)●2回目:シネマライズ渋谷(地下1階)(88-07-17)(評価:★★★?)●併映(1回目):「ファントム・オブ・パラダイス」(ブライアン・デ・パルマ)

今宵限りは  シュミット.jpg今宵限りは.jpg 「今宵かぎりは...」は、つい先だって('06年8月5日)亡くなった「ラ・パロマ」や「ヘカテ」の監督ダニエル・シュミットの最初の長編映画ですが(この人、大分の湯布院に行った時、自分と同じ旅館「亀の井別荘」に泊まっていた)、日本公開は制作の14年後でした。大きな屋敷の広間で夜中に宴会が行われていて、クラシック音楽が流れる中、殆ど台詞もなく淡々と、赤外線カメラで撮ったような粗い映像でその模様が映し出されているのですが、宴会の客たち以上にそれに仕える召使の方が陶然としている―実はこれ、年に一夜だけ、主人と召使たちが入れ替わる宴で、召使いのために主人が旅芸人たちと芝居などの余興を披露していたのだったという、そのことを映画を観た後で知り、しかしその後はなかなか観直す機会がない作品です。

今宵かぎりは .jpgHeute nacht oder nie (1972).jpg「今宵かぎりは...」●原題:HEUTE HACHT ODER NIE●制作年:1972年●制作国:スイス●監督・脚本:ダニエル・シュミット●製作:イングリット・カーフェン●脚本:メル・フローマン●撮影:レナート・ベルタ ●時間:90分●出演:ペーター・カーダニエル・シュミット.jpgン/イングリット・カーフェン/フォリ・ガイラー/ローズマリー・ハイニケル●日本公開:1986/11●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-12-01)(評価:★★★?)
Daniel Schmid(1941- 2006/享年65)

 もちろん、もっと最近の映画や(といっても本書が'93年の刊行ですが)メジャーな映画(「スター・ウォーズ」など)も入っていますが、全体としてはいい意味で"本物志向" だけど古典重視でマニアックにも見えるかも。教養主義的な雑誌リテレールもほどなく廃刊となりましたが、この別冊のスタイルは'96年に学研から出た同じ編者の『ジャンル別映画ベスト1000』に引き継がれ、その後文庫にもなっています(学研M文庫)。

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「マイベスト10にはヨーロッパ映画が似合い、最初テレビで見たものは入れにくい」に納得。
大アンケートによる洋画ベスト150.jpg    『禁じられた遊び』(1952).jpg 大地のうた3部作.jpg
大アンケートによる洋画ベスト150』(表紙イラスト:安西水丸)「禁じられた遊び」「大地のうた3部作」

 1988年の出版で、映画通366人の選んだベスト10を集計しています。年齢の高い選者が多く(今や物故者となった人も多い)、個々の選択も結構まっとうという感じですが、映画産業に限らず様々な分野の人が「マイベスト10」を寄せているので、それはそれで面白いです。

天井桟敷の人々 パンフ.JPG天井桟敷の人々.jpg 総合ベスト10も、「天井桟敷の人々」「第三の男」「市民ケーン」「風と共に去りぬ」「大いなる幻影」「ウェストサイド物語」「2001年宇宙の旅」「カサブランカ」「駅馬車」「戦艦ポチョムキン」と"一昔前のオーソドックス"といった感じでしょうか(今でも名画であることには違いありませんが)。

風と共に去りぬ パンフ.JPG 間に挿入されている赤瀬川準、長部日出雄、中野翠の3氏の座談がいいです。

 自分のベスト10に赤瀬川氏、長部氏は「天井桟敷の人々」を入れていますが、戦後生まれの中野氏には入れていません。それを彼女は、「最初にテレビで見た負い目」と説明していますが、その気持ち何だかわかるな〜(「天井桟敷の人々」は自分は劇場で観たが、個人的なベスト10には入ってこない)。
 テレビで観たものがベスト10に入りにくいのは、観ている時は感動していても、その後すぐに日常生活に戻ってしまうからではないかなあ(映画館で観終わった後、余韻を胸に抱きながら帰路につく時間というのは結構大事なのかも)。中野氏が、好きなアメリカ映画がいっぱいあるのに、「ヨーロッパ映画がどうしてもベスト10に似合っちゃう」と言っているのも何となくわかります。

 映画と音楽(奏者と楽器)の不可分な、他に置き換えようがない繋がりというのも感じます。「第三の男」(2位)のアントン・カラスのチター、「禁じられた遊び」(11位)のナルシソ・イエペスのギター、「大地のうた」(39位)のラヴィ・シャンカールのシタール、「死刑台のエレベーター」(48位)のマイルス・デイヴィスのトランペット。
ナルシソ・イエペス/禁じられた遊び.jpg  禁じれた遊び パンフ.jpg 「禁じられた遊び」
禁じられた遊び2.jpg ルネ・クレマン監督の「禁じられた遊び」('52年/仏)は戦争孤児の物語ですが、テーマ曲の効果も相俟って本当にストレートに泣けました(原曲はスペイン民謡「愛のロマンス」)。ヴェネツィア国際映画祭の「金獅子賞」米国「アカデミー国際長編映画賞」などを受賞しています。
 「第三の男」の"ハリー・ライムのテーマ"を奏でたアントン・カラスは、ハンガリー系オーストリア人で、これは映画の舞台がウィーンであるということもあるかと思いますが、「禁じられた遊び」の舞台はフランス郊外なのに、(同じラテン系ではあるが)スペイン人のギター奏者ナルシソ・イエペス(ロドリーゴのアランフェス協奏曲の演奏でも知られる)を起用していて、撮影に金を使い過ぎてオーケストラ演奏する費用が無くなってしまったため、全編を通して彼のギターだけで通したということですが、逆にそれがいい結果となっているように思えます。

フランスの思い出.jpg「フランスの思い出」.jpg 本書刊行の頃の公開作品ですが、田舎での少年と少女の交流という点では、ジャン・ルー・ユベール監督の「フランスの思い出」('87年/仏)なども、パリ育ちの少年が夏休みに田舎で過ごした経験を描いたもので、ちょっとこの作品を意識したような雰囲気がありました。

「フランスの思い出」

 「フランスの思い出」は、主演のリシャール・ボーランジェととアネモーネが1988年(第13回)セザール賞(フランスにおける映画賞で、同国における米アカデミー賞にあたる)の最優秀男優賞と最優秀女優賞をそれぞれ受賞していますが、子役も良くて、とりわけ、田舎育ちの少女役のヴァネッサ・グジがいいです。そのお転婆ぶりは、「禁じられた遊び」でブリジッド・フォッセーが演じた都会の少女ポーレットとは対照的ですが、ポーレットも一面においては、動物のお墓作りをリードしている部分があったと言えるかも。

 小さな悪の華 チラシ.jpg「小さな悪の華」チラシ
Mais ne nous délivrez pas du mal (1971)
「小さな悪の華」 映画ード.jpgMais ne nous délivrez pas du mal (1971).jpg小さな悪の華 ポスター.jpg 一方、ジョエル・セリア監督の「小さな悪の華」('70年/仏)という作品は、早熟で魔性を持つ2人の15歳の少女が、ボードレールの「悪の華」を耽読し、農夫に裸を見せつけ、行きずりの男を誘拐して殺し、最後に焼身自殺するという衝撃的なものでしたが、祭壇作りにハマる少女たちには、「禁じられた遊び」の"十字架マニア"の少女ポーレットの"裏ヴァージョン"的なものを感じました。この作品は、"少女ポルノ"的描写であるともとれる場面があるため、製作当時、フランス本国では上映禁止となったとのことです。
                                    
「大地のうた」 (1955)
「大地のうた」 (1955).jpg大地のうた2.jpg『大地のうた』 (1955).jpg 「大地のうた」('55年/インド)はサタジット・レイ監督の「オプー3部作」の第1作で、ベンガル地方の貧しい家庭の少年オプーの幼少期が描かれ、何と言っても、貧困のため雨中に肺炎で斃れたオプーの姉の挿話が哀しかったです。

 第2作の「大河のうた」('56年)では、学業に優れたオプーが故郷を捨てカルカッタへ向かうところで終わりますが、これは家族(親族)離散の結末であり、インドの人はハッピーエンドでないと満足しない?ということでもないと思いますが、インド国内での興行成績は第1作ほど良くはなかったとのことです。
大地のうた 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

黒澤明 .jpg しかし、「大河のうた」は世界的には前作を上回る評価を得、1957年・第18回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞、サタジット・レイは黒澤明を尊敬していましたが、同年にコンペティション部門に出品されていた黒澤明の「蜘蛛巣城」('57年/東宝)をコンペで破ったことになります。その黒澤明は、「サタジット・レイに会ったらあの人の作品が判ったね。眼光炯炯としていて、本当に立派な人なんだ。『蜘蛛巣城』がヴェネチア国際映画祭で『大河のうた』に負けた時、これはあたりまえだと思ったよ」と語っています。世界から喝采を浴びたサタジット・レイは、この作品を3部作とすることを決意、第3作「大樹のうた」('58年)は、青年となったオプーと、亡き妻の間に生まれ郷里に置いてきた息子との再会の物語になっています。

「大河のうた」(1956)/「大樹のうた」(1958)
『大河のうた』 (1956).jpg 『大樹のうた』 (1955).jpgアヌーシュカ・シャンカール.jpgノラ・ジョーンズ.jpg 3作を通じて音楽にラヴィ・シャンカールのシタールが使われていることが、3部作に統一性を持たせることに繋がっていてるように思います。因みに、ラヴィ・シャンカールの2人の娘は、姉がジャズ歌手のノラ・ジョーンズ、妹がシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカールで、この2人は異母姉妹です。なお、ラヴィ・シャンカールの演奏は、ジョージ・ハリスンの呼びかけで行われた飢饉救済コンサートのドキュメンタリー映画「バングラデシュ・コンサート」 ('71年/米)のコンサートのオープニングで見ることができます(ラヴィ・シャンカールはジョージ・ハリスンのシタールの師匠だった)。

死刑台のエレベーター2.jpg 「死刑台のエレベーター」('57年/仏)は、ルイ・マル25歳の時の実質的な監督デビュー作で、主人公のモーリス・ロネとジャンヌ・モローが不倫関係の末、殺人を犯すというもので、サスペンス映画としても良く出来ていると思いますが、恋人モーリス・ロネからの連絡が無く、不安の裡にパリの街を彷徨うジャンヌ・モローの姿にマイルス・デイヴィスのトランペットが被り、何とも言えないムードを醸しています。同じルイ・マル監督の「鬼火」における、エリック・サティのピアノも良く(この作品はベスト150には入ってませんが)、映像と音楽を結びつける才能があった監督でした。


禁じられた遊び  .jpg禁じられた遊び3.jpg「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

フランスの思い出  7.jpg「フランスの思い出」 00_.jpg「フランスの思い出」●原題:LE GRAND CHEMIN●制作年:1987年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン=ルー・ユベール●製作:パスカル・オメ/ジャン・フランソワ・ルプティ ●撮影:クロード・ルコント●音楽:ジョルジュ・グラニエ●時間:91分●出演:アネモーネ/リシャール・ボーランジェ/アントワーヌ・ユベール/ヴァネッサ・グジ/クリスチーヌ・パスカル/ラウール・ビイレー●日本公開:1988/08●配給:巴里映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ (89-08-26)(評価:★★★★)●併映:「人生は長く静かな河」(エティエンヌ・シャティリエ)
五反田TOEIシネマ 2.jpg五反田TOEIシネマ79.jpg五反田TOEIシネマ.jpg五反田TOEIシネマ 3.jpg五反田TOEIシネマ/(跡地=右岸)「五反田東映」をを分割して1977(昭和52)年12月3日オープン、1990(平成2)年9月30日「五反田TOEIシネマ」閉館(1995年3月21日「五反田東映」閉館)

「小さな悪の華」 映画.jpg小さな悪の華.jpg小さな悪の華2.jpg「小さな悪の華」●原題:MAIS NE NOUS DELIVREZ PAS DU MAL●制作年:1970年●制作国:フランス●監督・脚本:ジョエル・セリア●撮影:マルセル・コンブ●音楽:ドミニク・ネイ●時間:103分●出演:ジャンヌ・グーピル/カトリーヌ・ワグナー/ベルナール・デラン/ミシェル・ロバン●日本公開:1972/03●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:中野武蔵野館 (77-12-12)(評価:★★★☆)●併映:「ザ・チャイルド」(ナルシソ・イバネ・セッラドール)
中野武蔵野ホール.jpg中野武蔵野ホール 地図.jpg中野武蔵野ホール内.jpg中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館
           
           
Pather Panchali(1955)
Pather Panchali(1955).jpg大地のうた3部作 dvd.jpg「大地のうた」●原題:PATHER PANCHALI●制大地のうた 1955.jpg作年:1955年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●撮影:スブラタ・ミットラ●音楽:ラヴィ・シャンカール●原作:ビブーティ・ブーション・バナージ●時間:125分●出演:カヌ・バナールジ/コルナ・バナールジ/スピール・バナールジ●日本公開:1966/10●配給ATG●最初に観た場フィルムセンター旧新 .jpg京橋フィルムセンター.jpg:所:京橋フィルムセンター (80-07-08)●2回目:池袋テアトルダイヤ (85-11-30)(評価:★★★★☆)●併映(2回目)「大河のうた」「大樹のうた」(サタジット・レイ)

旧・京橋フィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター) 1970年5月オープン、1984(昭和59)年9月3日火災により焼失、1995(平成7)年5月12日リニューアル・オープン。 
        
「大河のうた」.jpg大河のうた.jpg大河のうた   .jpg「大河のうた」●原題:APARAJITO●制作年:1956年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●撮影:スブラタ・ミットラ●音楽:ラヴィ・シャンカール●原作:ビブーティ・ブーション・バナージ●時間:110分●出演:ピナキ・セン・グプタ/スマラン・ゴシャール/カヌ・バナールジ/コルナ・バナールジ ●日本公開:1970/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋テア大樹のうた p.jpgトルダイヤ (85-11-30)(評価:★★★★☆)●併映「大地のうた」「大樹のうた」(サタジット・レイ)

大樹のうた.jpg大樹のうた        .jpg「大樹のうた」●原題:APUR SANSAR●制作年:1958年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●撮影:スブラタ・ミットラ●音楽:ラヴィ・シャンカール●原作:ビブーティ・ブーション・バナージ●時間:105分●出演::ショウミットロ・チャテルジー /シャルミラ・タゴール/スワパン・ムカージ/アロク・チャクラバルティ●日本公開:1974/02●配給:ATG●最初に観た場所:池袋テアトルダイヤ (85-11-30)(評価:★★★★☆)●併映「大地のうた」「大河のうた」(サタジット・レイ)

「死刑台のエレベーター」『死刑台のエレベーター』 CD
死刑台のエレベーター パンフ.jpg死刑台のエレベーター.jpg「死刑台のエレベーター」●原題:ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD●制作年:1957年●制作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:ジャン・スイリエール●脚本: ロジェ・ニミエ/ルイ・マル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:マイルス・デイヴィス●原作:ノエル・カレフ●時間:95分●出演:モーリス・ロネ/ジャンヌ・モロー/ジョルジュ・プージュリー/リノ・ヴァンチュラ/ヨリ・ヴェルタン/ジャン=クロード・ブリアリ/シャルル・デネ●日本公開:1958/09●配給:ユニオン●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター(82-10-03)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「大人は判ってくれない」(トリュフォー) 

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ゴチック・ムービー×フェミニズム映画。エマ・ストーンの熱演&怪演に尽きる。

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「哀れなるものたち」エマ・ストーン

哀れなるものたち3.jpg 医学生のマックス・マッキャンドルス(ラミー・ユセフ)は、外科医で研究者のゴドウィン・バクスター(通称ゴッド)(ウィレム・デフォー)の助手に選ばれる。ゴッドはベラ・バクスター(エマ・ストーン)という知能が未発達の成人女性の研究をしてお哀れなるものたち2.jpgり、マックスはベラが覚えた言葉や食べた物を記録する仕事を引き受ける。ベラはゴッドの家の中に閉じ込められ、日々多くの語彙や感情を覚え、次第には性の歓びをも覚えていく。マックスは近くで観察する時間を過ごす中で、ベラに好意を抱くようになる。ベラの正体をゴッドに問い詰めたマックスは、次のよ哀れなるものたち5.jpgうな事実を知らされる。ある時、ヴィクトリア(エマ・ストーン、二役)という妊婦が橋から飛哀れなるものたち4.jpgび降り自殺をし、その遺体を発見したゴッドが、生存していた胎児の脳を妊婦に移殖して生き返らせたのだという。ゴッドの励ましを受け、マックスはベラに結婚を申し込み、ベラもそれを受け入れた。しかし、知性が急速に発達していったベラは自然と外の世界に興味を持ち始め、結婚の契約のために家に上がり込んだ放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく―。

哀れなるものたち1.jpg ヨルゴス・ランティモス監督の2023年作で、「女王陛下のお気に入り」('18年/英・アイルランド・米)の時のエマ・ストーンと再びタッグを組み、スコットランドの作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説を映画化したもの。2023年・第80回「ベネチア国際映画祭 金獅子賞」を受賞し、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞ほか計11部門にノミネートされ、主演女優賞、衣装デザイン賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門で受賞しました。

 2023年10月28日には全世界での劇場公開に先駆け東京国際映画祭で上映され、2024年1月、R18+指定作品としては異例の約330スクリーンという大規模で公開、Dolby Atmos版も同時上映され、個人的にはそれを観ました。

哀れなるものたち (ハヤカワepi文庫 ク 7-1 epi111)』['23年9月]カバーイラスト:アラスター・グレイ
哀れなるものたち表紙絵.jpg哀れなるものたち (ハヤカワepi文庫).jpg 原作は1992年に発表されたアラスター・グレイ(自作の挿画や表紙絵を自分で手掛けることで知られる)の同名小説('23年/ハヤカワepi文庫)で、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(1818年)などをルーツとするゴチック小説並びにゴチック・ムービーの系譜と見ていいのではないでしょうか(最近自分が観た中では、テリー・ギリアム監督の「Dr.パルナサスの鏡」 ('09年/英・カナダ)などもゴチック・ムービーと言えるか)。同時に、ポジティブで、パワフルなフェミニズム映画にもなっています。

哀れなるものたち6.jpg哀れなるものたち7.jpg 「ラ・ラ・ランド」('16年/米)で2016年・第73回「ベネチア国際映画祭 女優賞」、第74回「ゴールデングローブ賞 主演女優賞(ミュージカル・コメデアカデミー賞 2024 エマ・ストーン.jpgィ部門)」、第89回「アカデミー賞アカデミー主演女優賞」受賞のエマ・ストーンが、この作品でも2024年・第81回「ゴールデングローブ賞 主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)」、第96回「アカデミー主演女優賞」を受賞しました。

 「アカデミー主演女優賞」では、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」('23年/米)のリリー・グラッドストーンが対抗馬とされていましたが、リリー・グラッドストーンは受け身的な演技が多かったため、ここまでエマ・ストーンに熱演&怪演されると、エマ・ストーンに賞を持っていかれるのは仕方がないかなという感じです。

[哀れなるものたちp.jpg 最後に、ベラが母であるヴィクトリアの自殺の原因が暴力的で残虐な夫・アルフィー(クリストファー・アボット)にあったことを突き止め、医者としてゴッドの研究を引き継ぐことを決意したベラが、(手始めに?)アルフィーにヤギの脳を移殖したという、言わば復讐劇的なオチでした。

 ただし、ベラ=ヴィクトリアの関係において、母ヴィクトリアの躰に胎児ベラの脳を移植した場合、ベラがヴィクトリアの身体を支配するという、それが可能かどうかはともかく、至極"科学的"な前提で物語が進んでいるのに、最後にアルフィーがヤギになったような終わり方(クリス・ウェイラス監督の「ザ・フライ2 二世誕生」 ('88年/米)がこのパターンだった)になっていて、そこに矛盾を感じました。

 「ザ・フライ2 二世誕生」の場合は、悪玉の科学者がハエ男にされてしまうという"因果応報"的結末でしたが、この映画では、ベラ=ヴィクトリアの関係に準じれば、ヤギがアルフィーの躰を支配していることになり、アルフィーとしての意識は無いため、"因果応報"になっていないように思います。面白かったし、衣装や美術、特撮も見応えがあっただけに、そこのみ残念でした。

 原作はもっと凝った枠組みのメタ物語の構成になっているようですが、映画のラストに相当する部分はどうなっていたでしょうか。

「哀れなるものたち」●原題:POOR THINGS●制作年:2023年●制作国:イギリス・アメリカ・アイルランド●監督:ヨルゴス・ランティモス●製作:エド・ギニー/アンドリュー・ロウ/ヨルゴス・ランティモス/エマ・ストーン●脚本:トニー・マクナマラ●撮影:ロビー・ライアン●音楽:イェルスキン・フェンドリックス●時間:141分●出演:エマ・ストーン/マーク・ラファロ/ウィレム・デフォー/ラミー・ユセフ/クリストファー・アボット/キャサリン・ハンター/ジェロッド・カーマイケル/マーガレット・クアリー●日本公開:2024/01●配給:ディズニー●最初に観た場所:TOHOシネマズ日比谷(スクリーン5・デジタルTCX DOLBYATMOS上映)(23-02-08)((評価:★★★★)
TOHOシネマズ日比谷 スクリーン5.jpg

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