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著者の「週刊文春」連載エッセイのスタート年の分。この頃の方が良かったかも。
小林 信彦 氏
『人生は五十一から』 ['99年] 『人生は五十一から (文春文庫)』 〔'02年〕 (カバー装画:小林泰彦)
先月['06年10月]に「菊池寛賞」の受賞が決まった著者ですが、受賞理由は「純文学、エンターテイメント、評伝、映画研究、コラムなど多方面にわたってすぐれた作品を発表し、その文業の円熟と変わらぬ実験精神によって『うらなり』を完成させた。」とのことです。因みに『うらなり』は、夏目漱石の『坊つちやん』の登場人物の英語教師「うらなり」を語り手にして夏目漱石の小説の後日談を書くというある種実験小説だそうです。
その著者の「週刊文春」に連載のエッセイが「本音を申せば」というタイトルでリニューアルされる前の連載「人生は五十一から」は、'98年1月1日号からスタートし、'02年掲載分まで1年ごとにまとめて6冊の単行本シリーズとなっていますが(すべて文庫化もされている)、本書はその1年目('98年)分をまとめたものです。
「人生は五十一から」とは自分を励ますつもりでつけたタイトルだそうですが、著者は'32年生まれで、連載開始時点で既に65歳だったということに改めて気づいた次第(エンタツ・アチャコの主演映画「人生は六十一から」('41年/東宝= 吉本映画)をもじったものであるとも思われ、映画通らしいネーミング)。
サッカーW杯('98年フランス大会)の熱狂報道を第二次世界大戦中の新聞報道になぞらえるなどは、疎開を経験した戦中派ならではの視点で、世相や言葉の乱れに対する批判は、"山本夏彦"を彷彿させますが(このころの著者にはやや憂鬱傾向も感じられる)、65歳だったんだなあ、となんだかしっくりきてしまいました。
「本音を申せば」などはかなり広く時事問題や政治問題を取り上げていますが、拡げすぎてピントがぼやけている感じもするのに対し、このころは、映画・演劇・テレビ・ラジオなど著者の専門領域の話題が多く、ジャンル的な偏りはあるものの、今より舌鋒が鋭いのではという気がします(最近の「本音を申せば」は、また映画の話題の比重が高くなった。個人的にはその方がいい)。
シリーズ全体として安定感はあるものの、後の方にいくと少しトンチンカンな政治的発言も出てくるのは、政治は先を読むのが難しいから仕方ないのかも。但し、「人生は五十一から」シリーズの中でどれか1年分を読むならば、先ずこの1冊ではないでしょうか。
映画ファンには、映画ネタが多い分、楽しめます。「隠し砦の三悪人」が「スター・ウォーズ」に与えた影響を指摘したのもこの人ですが(ジョージ・ルーカスが後に「隠し砦の三悪人」を参考にしたことを認めた)、本書にある「ユージュアル・サスペクツ」で登場人物が口にする虚偽を映像にしているのはアンフェアであるという議論も、発端はこの人なのかなあ。個人的には、「ユージュアル・サスペクツ」という映画を評価するに際してかなり影響を受けた議論でした。
因みに、「週刊文春」の長期連載ということでいうと、'83年8月4日号よりスタートした林真理子氏の「夜ふけのなわとび」が20年以上続いており、最も長いものとなっています。
【2002年文庫化[文春文庫]】