2024年2月 Archives

「●キャリア行動」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●キャリア・カウンセリング」【181】 横山 哲夫/他 『事例キャリア・カウンセリング

スタートアップの事業戦略は人生(キャリア)戦略に応用できると説く。

スタートアップ的人生(キャリア)戦略1.jpgスタートアップ的人生(キャリア)戦略.jpg   『スタートアップ!.jpg
スタートアップ的人生(キャリア)戦略』['23年]『スタートアップ! シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』['12年]

 起業家らによって書かれた本書では、成長著しいスタートアップの事業戦略と、個人の人生(キャリア)戦略は驚くほど似通っているとし、変化に対応できるスタートアップ的人生戦略とはどのようなものかを説いています(因みに本書は、『スタートアップ! ―シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』('12年/日経BP)を底本とし、2022年における原著の大幅アップデートを反映させた上で改題した改訂新版である。著者らには、『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』('15年/ダイヤモンド社)などの著書もある)。

 第1章では、情熱のみでキャリアを検討するのは問題があり、自分の競争上の強みを、大志、市場環境、資産の3つの歯車の組み合わせによって考え、自分のキャリア資本を築くのにふさわしい、歯車がうまく噛み合う場所を見つけ、そこから、情熱のほとばしる方向へと方向転換すべきだとしています。また、成長ループに乗っている分野、もしくは競争の少ない隙間(ニッチ)分野に参入すべきだとしています。

 第2章では、21世紀の人生(キャリア)は、スタートアップと同様に、準備万端になることなどないが、変化に適応できるよう、うまく方向転換できるプランニングが必要であるとしています。そこで、「ABZプランニング」というものを提唱し、それは現状プラン(A)のほかに、目標や目的、そこにたどり着くルートが変わった場合にとるプラン(B)を考えておき、さらに、いざというときの備え、救命ボート的なプラン(Z)も考えておくべきだが、二手先を考えても、それ以上先(C、D、E...)は考える必要はないというものです。

 第3章では、誰かが独力で成功したという「神話」を信じてはならず、事業やキャリアを切り拓いてきた人は、人との縁を何より大切にしてきたとし、仕事上で大き意味を持つ人間関係には、信頼できる盟友、弱いつながり、ソーシャルメディアのフォロワーの3種類があるとしています。また、人とのつながりを大事にするには、まず相手の立場に立って尽くすことであるとしています。

 第4章では、偶然の幸運(セレンディピティ)をどう引き寄せるかについて、好奇心を発揮し、情熱を注げるのを見つけること、周りとのつながりを大切にし、機転を利かせ、活動を絶やさずにいることなどを説いています。

 第5書では、リスクへの対応について、リスクを賢く見極めることは大事で、不確実性とリスクを同一視してはならず、正確にリスクを評価すべきだとしています。また、年齢と仕事のステージによってリスクは異なり、短期的なリスクも、長い目で見れば安定性を高めることになるというパラドックスが、事業にもキャリアにもあてはまるとしています。

 第6章では、よりよい機会を探し、キャリアについてのこれまで以上に優れた判断を下すには、周りの人とのつながりを知恵袋とすることで、さまざまの難問が解けるとし、他人とのつながりがあっても使いこなせなければ意味がないため、必要な情報を人と分かち合うこと、幅広い専門家にアドバイスを求めることを推奨しています。

 スタートアップの事業戦略は人生(キャリア)戦略に類似しており、応用できるというのが本書の趣旨ですが、起業家らによって語られていることで説得力があると受け止める人と、ちょっと自分たちとは遠い世界だと思ってしまう人がいるかもしれません。

 しかしながら、読んでいくと、事実やデータを基に論じていることもあってオーソドックスであり、一方で、「職種ではなく業界を選ぶ」「スキル・情熱と市場環境を組みあわせる」といったスタートアップの発想も活かされていて、さらに「ポートフォリオ・キャリア」「永遠のβ版」といった興味深い考え方も紹介されており、人事パーソンにとっても、啓発される要素が少なからずある本でした。

「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【097】 黒井 千次 『働くということ

なぜ辞める? 若手社員のワーク・エンゲージメントに必要な「キャリア安全性」。

『ゆるい職場』2.jpg『ゆるい職場』.jpg
ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由 (中公新書ラクレ 781) 』['22年]

 本書によれば、2010年代後半からの法改革などにより、日本企業の労働環境は「働きやすい」ものへと変わりつつある一方で、若手社員の離職率はむしろ上がっているとのことです。本書は、若者はなぜ「働きやすい会社」を辞めてしまうのか、企業や日本社会が抱えるこの課題と解決策について、データと実例を示しながら解説したものです。

 第1章、第2章では、職場環境改善のための法整備などによって、負荷も高くなく、叱られることもない、居心地のいい職場、いわば「ゆるい職場」が登場したが、若年層の会社への意識や退職に関するデータを分析した結果、会社のことは好きだが、キャリアが不安で辞めるという、つまり「職場がゆるくて辞める」という若者が増えていることが明らかになったとしています。

 第3章では、最近の若者たちの変化を分析し、仕事志向かプライベート志向かといった志向性が多様化しているとのこと、さらに入社前の社会的経験の量の差により"大人化"している若者とそうでない若者がいて、前者は入社後も活躍するが離職率が高く、後者は、辞めないが成長できにくくなっている傾向があるとしています。

 第4章では、若者のキャリア観の中には、「ありのままの自分でいたい」という意識と、「何者かになりたい」というそれとは矛盾する意識があり、両者の間にある無数のグラデーションの中で、自分の最適解を見つけるために情報過多に陥っているのではないかとしています。その上で、情報だけ多くても展望は開けず、行動することが自律的キャリアをつくるとし、「小さな行動」(スモールステップ)というものを起こすことを提唱しています。

 第5章では、これからの若者と職場の関係について考察し、「人材の囲い込み」的なリテンション施策に疑念を呈し、社外活動の効用を説くとともに、若者側の新しいキャリアチェンジ方法として、A社からB社へすぱっと「転職」するのではなく、現在の所属組織に対するコミットメント比率を下げて別の活動にコミットし、その後にコミットの割合を移す、「コミットメントシフト」とでも呼ぶべきものを提唱し、そのメリットを説いています。

 第6章では、「ゆるい職場」時代の2つの難問を論じています。1つは、人間関係の負荷を上げずに質的負荷を上げるにはどうすればよいか、もう1つは、自律的でパフォーマンスの高い若者ほど辞めていくのにはどう対処すればよいかということです。前者については、若手のみのチームを作るなど、横の関係で育てることを、後者については、社内・職場内だけでなく「外側の世界」を経験させることなどを提唱しています。

 第7章では、社会人生活の助走としての学校生活の在り方に言及し、学校を変えなくては優秀な若者は採用できないとしています。第8章では、ゆるい職場とこれからの日本の関係について考察し、これまでは大企業が若手人材を育てていたが、ジョブ型雇用が進んだ場合に今後直面する課題として、「誰が若手を育てるのか」問題があるとしています。

 若者たちは「不満」により会社を辞めるのではなく、「不安」により会社を辞めるのだという指摘は興味深いものでした。「心理的安全性」が高い企業ほど、優秀な若手の社員の早期離職率が高くなる"皮肉"ととれなくもないですが、むしろ、その職場で働いていて、自分のキャリアの選択権を持ち続けられるかという「キャリア安全性」が、心理的安全性と同様に若手社員のワーク・エンゲージメントに影響を与えるというように捉えるべきなのでしょう。

 個人的には、最近読んだ浜田敬子氏の『男性中心企業の終焉』('22年/文春新書)で、多くの企業が女性社員を対象に導入した両立支援施策が逆に女性にマミートラックと呼ばれる道を歩ませ、性別役割分業を固定化させたという指摘を思い出しました。「両立支援」だけでもダメ(均等待遇促進が必要)、「心理的安全性」だけでもダメ
(「キャリア安全性」が必要)、結構難しいです。

《読書MEMO》
●目次
はじめに――若者はなぜ会社を辞めるのか。古くて、全く新しい問題
第一章 注目すべきは「若者のゆるさ」ではなく「ゆるい職場」
1 若者の早期離職状況 
日本の若者就労の特徴/3割の退職者/大手企業だけが上がっている
2 これだけ変わった日本の職場運営ルール
「職場運営法」改革/すべてはブラック企業批判から始まった/若者が求める職場環境の条件/日本の職場を変えた3本の法律/ほかにもある職場運営法改革/後押しするマーケット/「ゆるい職場」の登場
第二章 若者はなぜ会社を辞めるのか
1 グレートリセットされた日本の職場
不可逆的な変化/新卒社員の労働時間/負荷の低下/叱責されたことがない/職場環境の好転/リアリティショックの縮小
2 好きなのになぜ辞めるのか
高まる若者の不安/転職できなくなるんじゃないか
3 若者の「不安」の正体
なぜ職場環境が良くなっているのに不安なのか/不満型転職から不安型転職へ/不安をどうマネジメントするか/ロールモデルになりえない上司・先輩/世界でも起こる若者と職場の関係変化
第三章 「ゆるい職場」時代の若者たち
1 二層化する若者
「最近の若者」論の限界/コスパ志向/異なる2つの姿勢
2 "白紙"でなくなる新入社員たち
入社時点ですでに違う/学生時代の活動/社会的経験の量/世代間での大きな差/「社会的経験」がもたらすもの/「不安」を感じる新入社員/新入社員の"大人化"
3 「過去の育て方が通用しない」を科学する
10年前の新卒社員と比べる/2016年卒という転機/難問の浮上
第四章 「ありのままで」、でも「なにものか」になりたい。入社後の若者に起こること
1 "優秀な若者"の研究
若者の悩みと希望/矛盾する2つのキャリア観/情報だけが多くても展望は開けない/行動がキャリアをつくる/4つの実像
2 スモールステップで動き出す若者たち
育成の主語の転換/小さな行動から始める/スモールステップの特徴/アクションと性質/実践5要素/ゆるい職場とスモールステップ
第五章 若者と職場の新たな関係
1 定着させることが本当の目的なのか
離れ小島に囲い込む/社外活動の効用/転職がなくなるとき
2 「コミットメントシフト」がもたらす新しい関係
関係社員を増やす/新しい関係の成立/ハイパー・メンバーシップ型
第六章 若手育成最大の難問への対処
1「ゆるい職場」時代の解決不能な問題
2つの難問/成長した若手ほど辞める
2 第一の難問に対処する
いかに関係負荷なくストレッチな仕事をさせるか/横の関係で育てる
3 第二の難問に対処する
自律的でパフォーマンスの高い若者/仕事外の新たな使い方/社内・職場内の「外側の世界」/開示しやすい空気/不安をマネジメントする
第七章 助走としての学校生活
1 若者を育てるスタートライン
学校を変えなくては優秀な若者は採用できない/動機なき学校選択
2 学びの動機はどうつくられるか
外側にしか学校生活の動機は存在しない/学びの選択が自由な国
第八章 ゆるい職場と新しい日本
1 キャリア選択が世界一自由な国をつくる
自由の二重奏/行動と動機の好循環を巻き起こす/企業の新しいメンバーシップ/余白を活かすキャリアづくり/あらゆる経験が活きる
2 日本が今後直面する課題「誰が若手を育てるのか」問題/自律なき自由/はびこるパターナリズム/遅い選択の問題
おわりに

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「●文春新書」の インデックッスへ


両立支援が性別役割分業を固定化、「変わらない」企業はフリーライドしている。

男性中心企業の終焉2.jpg男性中心企業の終焉.jpg    浜田敬子氏.jpg
男性中心企業の終焉 (文春新書 1383)』['22年] 浜田 敬子 氏

 朝日新聞で『AERA』で女性初の編集長を務め、今は報道番組のコメンテーターとしても活躍する著者が、自身が長年にわたり取り組んできたジェンダーギャップの問題について、現状とその解消策を論じた本です。

 第1章では、男子的なテクノロジー業界でD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)企業に舵を切ったメルカリの事例が紹介されています。経営者が私財30億円を投じて理科系女子向け奨学金制度をつくるなど、むしろⅠT企業ならではないかとも思わせられましたが、2021年の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と言った森喜朗東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の発言問題が、逆に追い風になったというのはナルホドと思いました。

 第2章では、均等法施行以降の30年を振り返りながら、依然ジェンダー指数が万年最下位にある日本の現況を掘り下げています。興味深かったのは、資生堂やベネッセといった両立支援の先進企業が企業内保育や育休期間の延長を実施し、また多くの企業が短時間勤務制度などを導入したが、こうした施策が逆に女性にマミートラックと呼ばれる道を歩ませ、性別役割分業を固定化させることにも繋がったとしている点です。2014年の"資生堂ショック"などもその延長線上にあることになります。

 第3章では、新型コロナによるリモートワークの普及により、女性たちの発言は活発化し、働き方への満足度も上がったものの、企業によって取り組みに差があるため、企業間の「オンライン格差」は拡大しており、また一方で企業内でも、ハイブリッド型の職場で出社している人とリモートを続ける人との間で格差が生じてきているとしています。

 第4章では、政府が2003年から、政治家や企業の経営層・管理職など指導的立場における女性の比率を30%にする 「202030」という目標を掲げていたものの、 2020年になってもその目標は一向に達成されず、あっさりと達成時期は 「2020年代のできるだけ早い時期に」と延期されたこと取り上げ、なぜうまくいかなかったのか、こうした数値目標は逆差別なのか、「女性優遇」という反発にどう挑戦していくべきかを論じています。

 第5章では、経営戦略としてダイバーシティを進める経営者たちを紹介し、第6章では、女性たちの間で世代間のギャップがあることからくる「ロールモデル不在」問題にどう向き合うべきかを提言しています。第7章では、最後の壁は家庭にあり、コロナによって家庭での男性と女性の家事育児時間の格差はむしろ拡大しており、今後は、男性育休の段階的な義務化が、この問題を解くカギになるとしています。

 第7章の最後に、ジェンダーギャップが解消しない背景には、先進的な取り組みをする企業がある一方で、「変わることを拒んでいる企業」があるためだとし、改革を進める企業は「変わらない」企業にフリーライドされていて、「変わらない」企業はいずれ若い世代から見放されていくにしても、フリーライドが続いている期間、タダ乗りされている職場は楽ではないとしている点は、個人的には新たな視点でした。

 取材で得た証言や事例などだけでなく、著者自身の経験も(ずっと正社員として好きな仕事をやってこられたことを恵まれていたと自覚しながらも)盛り込まれていて、読みやすいです。個人的には、分析に啓発的な視点が見られ(両立支援が性別役割分業を固定化、にはナルホドと、「変わらない」企業がフリーライドしているというのは、「ブラック企業」問題と相似形だと思った)、やや漠たる面はあるもののの、解決策も提言されていてよかったと思います。
《読書MEMO》
●目次
第1章 男子的なテクノロジー業界でD&I企業に舵を切ったメルカリ
第2章 日本の「ジェンダー失われた30年」と加速する世界の動き
第3章 リモートワークが変えた意識。阻んでいた「出社マスト」
第4章 数値目標は逆差別か。「女性優遇」という反発への挑戦
第5章 経営戦略として本気でダイバーシティを進める経営者たち
第6章 ロールモデル不在と女性たちの世代間ギャップ
第7章 最後の壁は家庭と夫の家事育児進出

「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3445】 浜 矩子 『人が働くのはお金のためか
○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・グラットン)

新しい働き方を再設計(リデザイン)する前提となるコンセプトと手順を説く。

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リデザイン・ワーク 新しい働き方』['22年]

 共著『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(2016年/東洋経済新報社)で人生100年時代の生き方を問うた著者が、単著である本書では、コロナ禍で普及したテレワークは働き手の自由度を高める一方で、人的交流を減らしイノベーションを停滞させる可能性もあるとした上で、社員の幸福と企業の競争力向上を両立するには、仕事のあり方を根本から設計し直す(リデザインする)必要があると説いています。

 第1章では、仕事をリデザインするためのプロセスには、①理解する、②新たに構想する、③モデルを作り検証する、④行動して創造する、の4段階があるとして、以下の各章でそれぞれ解説しています。

 第2章「理解する」では、自社における生産性を支える行動と能力は何か、知識の流れと人的ネットワークの仕組みはどうなっているか、社員が仕事と会社に期待することは何か、現場で何が起きているか、を理解する必要があるとしています。

 第3章では「新たに構想する」では、「働く場所」と「働く時間」について新たに構想するべきであり、場所についは、オフィスは「協力」の場となるように、自宅は「活力」のもとになるようにすべきであり、時間については、課題に「集中」する時間を設ける一方で、よりよい「連携」(バーチャルな連携も含め)のための時間の設け方も検討すべきであるとしています。

 第4章「モデルをつくり検証する」では、自社の仕事の在り方を設計し直して、社員がいつ、どこで、どのように働くかというモデルを作った際には、新しいデザインは未来にも通用するか、テクノロジーの変化に即しているか、公平で正義にかなうものかの3点を検証せよとしています。

 第5章「行動して創造する」では、優れたマネジャーの果たす役割を考察し、リーダー層が大きな視点と戦略を示し、それを全社の知見やエネルギーを組み合わせる「コ・クリエーション」のプロセスを試してみることを推奨し、さらに、リーダーがストーリーを描くことで人を動かす「語り力」の重要性を説いています。そして、戦略上の「パーパス」の強化に向けて、これまで述べてきた4つのステップを実践した企業例を紹介しています。


 長引くコロナ禍で、人々の働き方や働くということへの意識に変化が見られるのは間違いなく、企業も今「新しい働き方」を模索しているところではないかと思います。本書の場合、これを仕事の在り方を設計し直す絶好のチャンスと捉えている点が特徴的です。

 また、働き方の再設計の前提となるコンセプトとして、働く人を大切にする職場こそ人は集まり、人間的な豊かさが成果につながるという考えに立ち、その上で、仕事というものを再設計する際の手順を示した本であると言えます。

 かなりコンセプチュアルな説明となっている部分も多いですが、一方で、企業事例も多く紹介されています。また、第2章から第5章までの4章は、各章4節、全16節から成り、それぞれの節の末尾に「新しい働き方のアクション」がまとめられています。そのため、啓発書ではありますが、同時に実践の書とも言えるものになっています。

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「●労働法・就業規則」の インデックッスへ

すべての過去問が、初版で取り上げた過去問と重複しないかたちで抽出されている。

ビジネス・キャリア過去問題【第2版】.jpgビジネス・キャリア®検定試験 過去問題集(解説付き)「人事・人材開発 2級・3級」【第2版】』['22年]

 「ビジネス・キャリア検定試験」は、事務系職種のビジネス・パーソンを対象に平成6年(1994年)にスタートした、中央職業能力開発協会(JAVADA=ジャバダ)が実施する公的資格試験で、事務系職業の労働者に求められる能力の高度化に対処するために、段階的・計画的に自らの職業能力の習得を支援し、キャリアアップのための職業能力の客観的な証明を行うことを目的としています。

 分かりやすく言えば、同じくJAVADAが実施する「技能検定」のホワイトカラー版といったところでしょうか。検定分野は「人事・人材開発・労務管理」「企業法務・総務」など8分野に区分され、その中に「人事・人材開発」「労務管理」「企業法務」「総務」など18部門(2級)があり、2級と3級の試験がそれぞれ年2回実施されています(それとは別に、論述式の1級の試験が年1回実施されている)。

本書は「人事・人材開発」部門の2級(部長補佐・課長級)・3級(課長補佐・係長級)の過去問題集です。一部、労働法関連の問題も含まれていますが、当然のことながら、労働法分野も「人事」の出題範囲内です。「人事・人材開発」部門の出題傾向としては、2級・3級とも新規問題よりも過去問題をそのまま乃至は一部改変して出題するケースの方が、出題数に占めるウェイトとしては圧倒的に高いため、この過去問題集を読み込めば、試験において40問のうち何問かは、読まない人より上乗せできると思います。

 JAVADAは以前から過去問をウェブサイトで公表し、新たに実施された試験も同じように試験後それほど日を置かずに公表していますが、正答の公表のみで解説が無かったため、これだけでは今一つ、過去問を検証する動機づけが弱いように思います。この過去問題集を読むと(一度自分で解いてみるのが理想だが)、どうしてそのような答えになるのか納得することが出来、作問者の意図を嗅ぎ取るセンスのようなものが身につくのではないかと思います。

 そのうえで、(本書にすべての過去問が出ているわけではないので)その他の過去問をウェブサイトでチェックすれば、試験対策効果としては大きいと思います。もちろん、2級・3級についてはそれぞれ公式テキストがあるので、学習効果全体を向上させるためにはテキストの読み込みも欠かせないと思います。ただし、ほとんどの公的資格試験に当てはまることですが、より確実に合格ライン(当検定の場合は6割以上の正答率)を確保しようとするならば、過去問をやらない手はないと思われます。

 本書は第2版ですが、初版をすでに所持している人にもお薦めです。なぜならば、この第2版では、すべての過去問が初版で取り上げた過去問と重複しないかたちで抽出されているからです。したがって、初版に加えてこの第2版も読み込めば、過去問対策としてはより盤石になるかと思います。

 このように、活用すればしただけ試験で有利になるかと思いますが、ただ試験に合格するためというだけでなく、自らの人事的な知識・センスをチェックし、それをより一層磨きたいと思っている人にもお薦めです。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3441】 クリスティーン・ポラス 『Think COMMUNITY
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

組織改革の7領域(戦略、DX、リストラ、組織文化、Ⅿ&A、アジリティ、社会変革)を論じる。
CHANGE 組織はなぜ変われないのか.jpgCHANGE 組織はなぜ変われないのか2022.jpg  実行する組織図1.jpg
CHANGE 組織はなぜ変われないのか』['22年]/『ジョン・P・コッター 実行する組織―大企業がベンチャーのスピードで動く(Harvard Business Review Press)』['15年]

 本書は、組織論・リーダーシップ論で著名な著者が、そもそも組織がなぜ変化に適応することが苦手なのかについて解説し、その対処法を紹介したものです。

 全3部構成の第1部「序論」(第1章・第2章)では、第1章で、人類の進化の過程で何千年も昔に確立された人間の性質と、19世紀後半から20世紀前半に形づくられた現代型組織の基本設計は共に、迅速に容易に賢明に変化を遂げることに適しておらず、人と組織は主として、生き延びるために効率性と安定性を確保することを得意としている(21p)ため、人や組織は成熟するにつれて、安定と目先の安全を重んじるメカニズムが強化されていくが、そのため、新たな脅威を察知しても、試練を乗り越えるために十分な規模の変化を十分なスピードで実行できない場合が多いとしています(22p)。今日の世界では、変化に素早く適応しないことほど大きなリスク要因はなく、変化を積極的に追求する姿勢こそが大切であり、今日の企業が生き延びるにはもっと多くの変化が必要であるとしています。

 第2章では、「人間の性質」に組み込まれている生存本能は非常に強く、生き延びようとする本能が働く結果、新しいチャンスを素早く察知し、イノベーションを推進し、変化に適応し、適切なリーダーシップを振るい、好ましい変革を成し遂げる能力が意図せずして押さえ込まれてしまう場合がしばしばあるとのこと(33p)。現代社会では、脅威が極めて手強かったり、脅威を素早く回避もしくは除去する現実的な手立てがなかったりし、この場合、生存チャネルが活性化して緊張が高まった状態が長引きかねず、すると、人は疲弊し、動転して、問題にうまく対処できなくなり、の状態になると、チャンスに気づいたり、冷静に、そして創造的に物事を考えたりする能力が低下する場合が多いとしています(36p)。

人間は生存チャネルの他にもう1つ「繁栄チャネル」というメカニズムを持っていて、これは生存チャネルと異なり、これにより、脅威ではなく機会に目を光らせ、このレーダーが新しいチャンスを察知すると、不安や怒りよりも情熱や興奮が高まり、視野が狭まるのではなく、逆にチャンスへの好奇心により、視野が広がることが多いと。自らの当面の生き残りに関して不安を感じず、ポジティブな感情が高まると、人はコラボレーションに前向きになり、創造性とイノベーションが活発になると(39p)。

 今日の組織が十分なスピードで賢明な変化を実現するためには、多くのメンバーの生存チャネルが過熱することを防ぎ、逆に繁栄チャネルを活性化させる必要があり、しかし、これは簡単ではなく(39p)、現在は昔に比べてデータの入手と活用が容易になったことで、生存チャネルが簡単に過熱しかねず、生存チャネルが過熱すると、繁栄チャネルはあっさり抑え込まれてしまうとしています(42p)。人間本来の性質と現代のピラミッド型組織は、安定性と効率性を重視するため、変化の激しい時代には不向きであり(45p)、そうした現組織に対する学術研究に加え、変革のリーダーシップが求められるとしています。

 そして、適応や変革を早めるにどうすればよいかを、第2部(第3章~第9章)で、戦略、デジタル・トランスインフォメーション(DX)、リストラ、組織文化、M&A、アジリティ、社会変革の推進という組織の7つの領域について述べています。

 第2部「本論」の第3章では、戦略を通じて人々の行動を引き出し成果を上げるためには、マネジメント中心ではなく、リーダーシップ中心のアプローチの方が、変化の速い時代には適しているとしています。

 第4章では、DX成功のカギは、幅広い層の社員に切迫感を持たせ、変革に本腰を入れさせ、行動とリーダーシップを引き出すことであるとしています。

 第5章では、リストラクチャリングは旧来のやり方では弊害は大きくなるばかりであるとして、成功の確率を高めるための方法論を説いています。

 第6章では、組織文化と業績の関係を紐解き、企業文化が好業績を生むとの考えのもと、深く根を張った文化を変え、はるかに良い結果を生み出すにはどうすればよいかを解説しています。

 第7章では、M&Aについて、Ⅿ&A後の統合でしばしば見られる失敗を指摘し、統合にまつわる問題とその解決策や、事業売却や会社分割を見送ってよい場合について述べています。

 第8章では、「アジャイル」な組織として、ピラミッド型組織とネットワーク型組織を併存させた「デュアル・システム」が適しているとしています(著者らが2012年頃にこれに気づいたとしいるように、この部分については、『ジョン・P・コッター 実行する組織―大企業がベンチャーのスピードで動く』 (2015年/ダイヤモンド社)に詳しい)。

 第9章では、社会変革と企業変革の共通点は何かを考察し、社会運動と企業変革は互いに学べることが多く、共に、変革の成否はリーダーシップの在り方にかかっているとしています。

 第3部「結論」(第10章・第11章)では、第10章で、より多くの人に、より多くのリーダーシップを発揮してもらうにはどうすればよいかを説いています。

 第11章では、現代型組織の在り方を捨てずに変える方法として「デュアル・システム」を改めて推奨し、社内のあらゆる部署や組織階層の人たちのリーダーシップを引き出しやすい環境づくりが重要であるとしています。

 コッターの前著『実行する組織』が「デュアル・システム」に的を絞った組織論であったのに対し、コッター社の研究プロジェクトの成果物である本書は、脳科学(「人間の性質」)、現代型組織の限界、変革のリーダーシップの3種類の研究をベースに、戦略、DX、リストラ、組織文化、Ⅿ&A、アジリティ、社会変革の推進という組織改革の7つの領域について論じている点で集大成的であり(著者らは第2部については、自らが関心のある個所から読めばよいとしている)、より幅広い観点から啓発される組織論となっているように思います。

「●ビジネス一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●仕事術・整理術」【1189】 梅棹 忠夫 『知的生産の技術
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パワハラする人、される人について分析した人生訓的エッセイ。人事パーソンには物足りないか。

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「人生相談50年」―心理学者で早稲田大学名誉教授の加藤諦三先生(撮影/山田智絵)(フムフムニュース )

パワハラ依存症 (PHP新書)』['22年]

番組を始めて10年頃、1980年代前半の加藤氏
加藤諦三 j.jpg 本書は、社会学者であり、ニッポン放送のラジオ番組「テレフォン人生相談」のパーソナリティを半世紀にわたり務める著者が、パワー・ハラスメント(パワハラ)をやめられない人、いつもパワハラされる人について解説したものです(懐かしいけれど「まだおやりになっていたのか」という印象もある。大和書房に70年代から80年代にかけて「加藤諦三文庫」というのがあったし、『青春をどう生きるか』('81年/光文社カッパ・ブックス)といった類の著書も多くある。PHP研究所にも70年代「加藤諦三青春文庫」というのがあって、こちらは2020年代に入って復刻されており、PHP新書には本書以外も10冊ばかり著作があって、版元とのつながりは深いようだ)。

 第1章では、パワハラが起きる理由を考察し、パワハラは「観客のいる前で」(みんなの前で)行なわれるという点が重要であり、パワハラをする人は自分の無意識にある失望を部下に投射し、部下を声高に侮辱することで自分の心の傷を癒しているため、観客は多いほど気持ちが落ち着くのだとのことです。

 そして、パワハラが多い職場に共通するのは、コミュニケーションがうまくいってないことであり、そうした職場では、それぞれの個人が心の底にマイナスの感情を溜め込むため、どうしても心を病んだ人が多くなるとしています。

 第2章では、パワハラの深層を分析し、パワハラをする人は、社会心理学者のフロムが唱えた、死を愛好するネクロフィラスな傾向、悪質なナルシズム傾向、近親相姦願望が統合された「衰退の症候群」の病理にあるとしています。

 また、心理学者のアドラーは、「共同体感情をもっている人によってのみ人生の諸問題は解決できる」としており、共同体感情の反対は劣等感、ナルシズム、ネクロフィラスであって、パワハラをする人は、人生の問題を解決できないままに生きているが、無意識では自分の人生が行き詰っていることを感じていても、意識の領域では認めていないといいます。

 第3章では、パワハラされるのは、危機的な状況に陥っても他人にお願いをすることができない人であり、そうした人がうつ病になったり過労死するとしています。パワハラされる人は、世俗には質の悪い人がいることを知り、人を見る目を養わない限り、何度立ち直っても、またそうした人物に利用されて燃え尽きるとしています。

 一方、パワハラをする人は、あらゆる方法で自分が優越していることを確認しようとし、それは強迫性を帯びていて、したくてパワハラをしているわけではないが、そうしないと自分自身では生きられないためサディストになるのだと。つまり、パワハラをするのは善人を装ったサディストであり、彼らには苦しむ部下を見るのが快感であるとのことです。

 第4章では、パワハラする人は、子供の頃に抑圧されて悔しかった思いを、大人になって弱い立場の相手にぶつけているのであり、パワハラする上司への従順は、火に油を注ぐことになるとしています。パワハラされないようにするには、狼の餌食にならない人間関係を築くことであり、心が触れ合う仲間をつくるなどの助言をしています。

 心理学の知見をベースとする一方で、人生訓的エッセイ風でもあり、読んでみて合う人、合わない人がいるかと思いますが、パワハラは依存症であると言い切っている点は明快でした。ただし、パワハラする側の人は、本書にもある通り自分でその意識がないため、きっとこうした本も読まないでしょう(パワハラされる側の人にとっては、状況改善のヒントとなる点があると思った)。

 この本の通りならば、パワハラする上司は詰まるところ、独りで仕事するか辞めてもらうしかないようにも思いますが、企業としては、この点が最も難しいところではないでしょうか。ただし、そうしたマネジメント的な対処策は、本書で扱う範疇には含めないことを前提に書かれている本であり、その点は人事パーソンには物足りないのではないかと思います。

 ただ、冒頭に「まだおやりになっていたのか」と書きましたが、心理学の知見は仕事や生活における対人関係で応用可能な普遍性があり、また「人生相談」などはベテランが活躍できる場でもあるので、続けられること自体は良いことだと思います(最近週刊誌などで散見する、自分の過去の経験を滔々と述べるタイプの人生相談よりはいいのではないか)。


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ウェルビーイングを高める5要素。内、キャリア・ウェルビーイングが最重要であると。

職場のウェルビーイングを高める 2022.jpg Jim Clifton.jpg Jim Clifton(Chairman and CEO, Gallup)『ザ・マネジャー』2022.jpg
職場のウェルビーイングを高める 1億人のデータが導く「しなやかなチーム」の共通項』['22年]/『ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』['22年]

 本書は、次にくるグローバル危機はメンタル・パンデミックかもしれないとの危機感のもと、「ウェルビーイング(充実度)」という切り口から、しなやかで永続する組織やチームの共通項を、長年にわたるギャラップの調査を基に導き出したものです。

 第1章では、「想像しうる最高の生活」とは何かを考察し、ギャラップの調査から、エンゲージできる「よい仕事」に就くことが、生き生きした暮らしを送る、まさしくその基盤になることが判明したとしています。そして、ウェルビーイングに欠かせない5つの要素を挙げています。、

 第2章では、第1章で述べた5つのウェルビーイングについて、それぞれ解説しています。その5つとは、①キャリア・ウェルビーイング(日々していることが好き)、②人間関係ウェルビーイング(人生を豊かにする友がいる)、③経済的ウェルビーイング(上手にお金を管理する)、④身体的ウェルビーイング(やり遂げるエネルギーがある)、⑤コミュニティ・ウェルビーイング(住んでいるところが好き)になりますが、この中でキャリア・ウェルビーイングが最も重要であり、他の4つの基盤となるとしています。

 第3章では、生き生きした組織文化を生み出そうとするに際して、社内外にありがちな4つのリスクを挙げています。それは、①従業員のメンタルヘルス、②明確さと目的の欠如、③指針やプログラム、特典への過度の依存、④スキルの浅いマネジャーの4つであるとして、それらへの対処法を述べています。さらに、ウェルビーイングとレジリエンスの高い文化は、危機の時も優れたパフォーマンスを上げるとしてレジリエンスの重要性を説くとともに、危機においてフォロワーが必要としているのは、希望、安心感、信頼、思いやりであるとしています。

 第4章では、キャリアのエンゲージメントからウェルビーイングは始まるとし、ウェルビーイングの実践法を身につけるための今すぐ使えるシンプルな洞察方法として、自らの①期待値、②強み、③能力開発、④意見、⑤ミッションや目的の5つのエンゲージメント項目を見つめ直すことを説いています。また、マネジャーはこのエンゲージメント項目に沿って、従業員が何を必要としているかを考えた上で彼らに接し、彼らにとって仕事を意味あるものにする役割を担うとして、その具体的方法を示しています。

 第5章では、ウェルビーイングを高めるにはどうすればよいかを考察し、従業員の強みを特定できれば、それを活かして職場のウェルビーイングを高めることができ、それは直ちにレジリエンスとメンタルヘルスの向上にもつながるとしています。

 巻末に付録として、①5つのウェルビーイング要素に関する強みの洞察とアクション項目、②マネジャー・リソース・ガイド――ウェルビーイングの5つの要素、③テクニカルレポート――ギャラップのウェルビーイング5つの要素の研究と開発、④従業員エンゲージメントと組織的成果の関係、といったメソッド集や調査の概要が付されています。

 このようにギャラップの調査がベースになっているということもあり、何か突飛なことが書かれているわけではないですが、ウェルビーイングというやや一般には漠然とした概念をわかりやすく整理・要素分解し、キャリア・ウェルビーイングこそが最も重要であると結論づけている点が、主張が明確だったように思います。

 同著者の前著『ザ・マネジャー―人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』(2022年/日本経済新聞出版)では、社員の熱意とやる気を高めるためにマネジャーは何をすべきかということを説いていましたが、本書も、部下コミュケーションやリーダーシップについて述べた本として読めます。前著同様に、テーマごとにポイントが整理されていて、意識の面、実践の面から改めて振り返ってみるのにいい本であると思います。

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人的資本時代のリーダー論。組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけるという点で啓発的。

the heart of business ハート オブ ビジネス.jpg
THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』['22年]『The Heart of Business: Leadership Principles for the Next Era of Capitalism』['00年]ユベール・ジョリー
ベスト・バイ(Best Buy)米ミネソタ州ミネアポリスに本社を置く世界最大の家電量販店
ベスト・バイ.jpg 「人」を大事にする、「パーパス」を大切にするといったことは最近よく聞かれますが、「パーパス経営」と言われても今一つ漠たるイメージしかなかったりすることも多いかと思います。本書は、マッキンゼーのコンサルタント出身で数々の企業の再生を行なってきた元ベスト・バイのCEOが、企業経営がどん底の中、リストラでも事業縮小でもインセンティブでもなく、目の前の人とパーパスでつながることを選んで会社を立て直した自身の実体験をもとに、これからの時代のリーダーシップについて述べたものです。本書では、パーパスを明らかにし、人々の深いつながりとパーパスを基軸に経営することが、ビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)だと述べています。

働く意味.jpg 第1部(第1章~第3章)では、人にとっての仕事の意味について考察しています。仕事は生きる意味の探究の一部であり、「人間らしく生きるのに欠かせないもの」「自分の生きる意味を探すための鍵」「人生に充実感を見いだす手段」だと捉えることで、経営者と従業員の関係がよくなり、ビジョンを達成できるようになるとしています。また、自分のパーパスを探るには、
  ① 愛していること、
  ② 得意なこと、
  ③ 世界が必要としていること、
  ④ お金を得られること
の4つの要素が重なるところに自分のパーパスがあるとしています。

 第2部(第4章~第7章)では、企業は利益ばかりに目を向けていると、顧客や従業員を敵に回すことになり、企業におけるパーパス(その企業が存在する意義)と人を重視すべきであって、「ノーブル・パーパス(大いなる存在意義)」を会社の戦略の要とし、それに沿った経営慣行を作るべきであるとしています。そして、どんなときも人から始め人が最後になるとし、人のエネルギーを生むにはどうすればよいかを説いています。

 第3部(第8章~第13章)では、時代遅れとなった「アメとムチ」による経営手法に代わるアプローチの鍵となるものを「ヒューマン・マジック(人に備わる魔法のような力)」と呼び、経営者が以下の5つの要素を意識し従業員への接し方を変えることで、彼らの働き方が変わるとしています。
  ① 個人の夢と会社のパーパスを結びつける
  ② 人と人とのつながりを育む
  ③ 自律性を育む
  ④ マスタリー(熟達)を追究する
  ⑤ 追い風に乗る(成長できる環境を作る)

 第4部(第14章~第15章)では、パーパスフルなリーダーになるために大切なことを挙げ、パーパスフル・リーダーの5つの「あり方」として、以下を挙げています。
  ① 自分と周囲の人々のパーパスを理解し、それらと企業のパーパスの結びつきを明確にする
  ② リーダーとしての役割を明確にする
  ③ 誰に仕えているかを明確にする
  ④ 価値観を原動力にする
  ⑤ 偽りのない自分になる

 本書は、経営者自らがパーパスについて語った最初の本であるとのことです。個人的には、一人ひとりにとってのパーパスというものを、企業にとってのノーブル・パーパスに敷衍している点が興味深かったです。個々にものすごく目新しいことが書いてあるわけではありませんが、リーダーは完璧である必要はなく、リーダーにとって重要なのは自分らしくあることであり、また、最善を求めて努力し続け、周りの人とコミュケーションをとり、組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけ、彼らがのびのびと働ける環境づくりをすることこそが求められるということを、改めて教唆してくれる本でした。

世界の家電量販店業界.jpg

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人的資本時代のリーダー論。啓発的でありながらも、どことなくもやっとした印象も。

人的資本の活かしかた1.jpg人的資本の活かしかた2022.jpg
人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書 単行本』['22年]

 本書では、日本にアップルやアマゾンがような企業が生まれないのは、かつて製造業を世界一に押し上げた日本的な組織のあり方からなかなか脱却できず、人的資本への投資が進んでいないからであるとしています。日本企業の持つ資産の多くは、設備や建物、現金などの有形資産に偏っており、今、日本の企業も「人的資本経営」へと大きく変革する必要があるとしています。本書は、これから企業にとって「人的資本経営」は避けられない課題になるとし、ではその「人的資本経営」とは何なのか、 今までのマネジメントとどう異なるのか、これからのリーダーにはどのような能力が求められるのかを解説しています。

 第1章で、「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方であると定義し、今、人的資本経営が注目される理由は3つあり、1つは社会からの要請、1つは企業の戦略的必要性、1つは価値観の変化であるとしています。

 第2章では、人的資本時代における管理職を「チーム経営責任者(TMO=Team Management Officer)」と定義し、チーム経営責任者に求められる能力として、①キャリア支援力、②強み発見力、③仕事アサイン力、④チームビルディング力、⑤人材獲得力、⑥オンボーディング力、⑦全体俯瞰力の7つを挙げ、以下、第3章から第9章までの各章でそれぞれについて解説しています。

 まず、第3章と第4章では、人的資本を伸ばす能力としての「キャリア支援力」と「強み発見力」について述べています。「キャリア支援力」は、ポジションを重視した組織内キャリアではなく、人的資本に注目した個人のキャリアを支援するものであり、「強み発見力」は、自分のコピーをつくる育成ではなく、それぞれのメンバーの強みを引き出す能力であるとしています。

 第5章と第6章では、人的資本を活躍させる能力としての「仕事アサイン力」と「チームビルディング力」について解説しています。「仕事アサイン力」は、メンバーに対して画一的に関わるのではなく、それぞれの強みにフォーカスした個別アプローチがベースになるとし、「チームビルディング力」は、かつてのような上意下達ではなく、メンバーの力がスムーズに発揮できるフラットなチームづくりのために必要であるとしています。

 第7章と第8章では、チームに人的資本を投入する能力としての「人材獲得力」と「オンボーディング力」について述べています。「人材獲得力」の前提にあるのは、人材は受け身的に与えられるものではなく、管理職が自分から獲得していくものであるという考え方であるとし、「オンボーディング力」は、新しく受け入れたメンバーをチームに当てはめるのではなく、新しいメンバーの強みを活かして新たなチームを作っていくということが基本となるとしています。

 さらに、第9章で、チームの人的資本と経営戦略をつなぐ能力としての「全体俯瞰力」について、近視眼的に自分のチームだけを見るのではなく、経営戦略との連携を重視するということであるとしています。そして最後に、第10章で、人的資本経営にありがちな「5つの罠」を挙げ、罠に陥らないために人事部門や経営者が行うべきことを説いています。

 人的資本は、人的資本情報の「開示」という面で注目を集めていますが、将来的に企業価値向上につなげるという意味では、実際のアクション部分である人的資本の「最大化」を行うことが、組織を強くする上で大事であり、その中核を担うのが中間管理職であるという本書の趣旨は、その通りであると思います。

 「組織を変えるリーダーの教科書」とサブタイトルにあるように、人的資本時代における「チーム経営責任者」としての管理職やリーダーに求められる能力とそれを発揮するためのスキルが、よくまとめられていると思いました。

 一方で、啓発的な内容でありながらも、どことなくもやっとした印象にとどまる面もあり、読みやすい本ですが、書かれていることを実践しようとしたら、何度か読み返しが必要な本でもあるように思いました。

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「転身力」を身につける方法をエッセイ風に論考・解説。味わい深かった。

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転身力-「新しい自分」の見つけ方、育て方 (中公新書 2704) 』['22年]

 本書では、人生100年時代とも言われ、誰もが人生二毛作、三毛作を楽しめる可能性のある時代において求められるのは、自分を変えるための「転身力」を身につけることであるとし、自らの道筋を変えるポイントやその際の課題について、豊富な実例をもとにエッセイ風に論考しています。

 第1章では、俳優として何度も復活した藤田まことなどを例に挙げて、複数の世界を経験することで人生は豊かになるとしています。また、著者自身が取材した多くの事例から、転身にはさまざまなキャリアチェンジのパターンがあり、中高年以降の転身は、年齢と自己実現との関係からますます注目されるようになっているとしています。

 第2章では、転身の条件として、①実行、行動できる、②自分を語ることができる、③大義名分を持つ、の3つを挙げ、それらは具体的にはどういうことなのかを解説しています。

 第3章では、企業に在籍しながら取材・執筆・講演をしていた著者自身の経験などを踏まえ、転身においてはそこに至るプロセスが大切であり、会社勤めにもメリットはあるし、会社に勤務する傍ら、起業だけではなく趣味も含め、自分なりの本業を"予行演習"的に育てていく道もあるとしています。

 第4章では、転身の際には個人事業主としての商売感覚、自分にとっての幸せの定義づけ、自分の顧客は誰かという見極めが必要であるということを、著者自身の失敗した例、うまくいった例を引き合いにしながら説いています。

 第5章では、野球選手の「再生工場」と言われた野村克也監督や、月亭八方にに弟子入りして芸人から落語家・月亭邦正に転じた山崎邦正の例を引くなどして、転身においては師匠やメンターの存在が大きな役割を果たすとし、ではどうすれば師匠やメンターが見つかるのか、そのポイントを解説しています。

 第6章では、カメラマンから作家になり、さらに時代小説に特化した佐伯泰英の例などを紹介し、人間万事塞翁が馬と言われるように、挫折や不遇は実はチャンスなのだとしています。

 第7章では、伊能忠敬の生き方を例に引くなどして、好きを極めてこそ人生であり、好奇心が転身を支えるとしています。また、移住という転身もあれば、地元愛や故郷愛を全うし、地域に貢献するという転身もあるとしています。

 多くの転身の事例が紹介されており(ここに挙げたのはごく一部)、その中には著者自身が取材したものも多く、また、自身の経験も織り込まれていて、味わい深く、説得力もありました。自分自身の転身を考える上でも、読んでみる価値はあるかと思います(本書によれば、人事パーソンはあまり転身しないようだが)。

 かつて企業がキャリア研修などで中高年社員に転身を呼びかけるときには、どこかに中高年社員に会社を辞めて欲しいという気持ちが見え隠れしたこともあったように思います。今後は、社員のキャリアに真に寄り添うことが、企業に求められる役割になってくると思われ、社員が「新しい自分」を見つけたり育てたりすることを企業がサポートでできれば、それがベストなのだろうと思いました。

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「3つのトレード・オン」「レジリエント・カンパニー」「トリプルA」を提唱。抽象レベル?

しなやかで強い組織のつくりかた.jpgしなやかで強い組織のつくりかた 3.jpg 
しなやかで強い組織のつくりかた ―21世紀のマネジメント・イノベーション』['22年]

 長年にわたり日本企業を観察してきた著者は、日本の組織には、個人のパッションの炎を消してしまう「もったいない」力が働いているといいます。この状況を変えていかなければ「望ましい未来」は訪れないとし、目指すはしなやかで強い人間集団「レジリエント・カンパニー」であり、その実現のためには「マネジメント・イノベーション」が必要であるとしています。

 そして、「望ましい未来」を迎えるには、「3つのトレード・オン」の実現が求められ、 1つ目は、企業の発展と、健全な社会および自然環境の間のトレード・オン、2つ目は、組織の発展と働き手個人の充実感、やりがい、いきがいの間のトレード・オン、3つ目は、業績・ワークと家族と暮らしの幸福度の間のトレード・オンであるとしています。

 第1章では、これまでの人びとの働き方を振り返り、働き手の「暮らし」「幸福度」「人間性の解放」が軽視されてきたとしています。

 第2章では、日本的組織のこれまでの強みであったまじめさ、継続力、一体性は、20世紀には適していたが、こうした光(強み)に部分から生まれた、枠組みの重視と個の軽視、均質化、前例主義といった影(弱み)の部分もあるとしています、

 第3章では、これからの企業が「レジリエント・カンパニー」にならねならない理由を、人口統計学的な変化や、経済と成長市場のグローバルシフトなど、企業と組織を変えるメガトレンドとしての5つの「未来の種」を挙げて、それらの観点から解説しています。

 第4章では、日本企業はこれまでどうしてマネジメント・イノベーションを起こしにくかったのかを考察し、組織運営に必要な要素と、それらの21世紀に必要とされる実践スタイルを示しています。

 第5章では、「しなやかで強い組織体質」を実現する原理原則として、「トリプルA」、すなわちアンカリング(Anchoring)、自己変革力(Adaptiveness)、社会性(Alignment)の"3のA"と、それを強化する"9つの行動"を提唱し、その狙いを解説しています。

 第6章では、日本の上場企業に勤める社員2千人以上に対してトリプルA経営の観点から行った調査の結果から、日本企業におけるその現状と経営効果を、個別項目、性別、織級、業種別ごとに分析しています。

 第7章では、マネジメント・イノベータにとって必要な心構えとして、「主体性」「建設的思考」「行動重視」の3つが出発点となるとしています。

 第8章では、トリプルA(アンカリング、自己変革力、社会性)の原則、現場での行動、期待できる効果をより詳しく解説し、マネジメント・イノベーションの具体的なアクションを「カード」にして示しています。

 終章では、冒頭に述べた「3つのトレード・オン」を実現し、しなやかで強い組織「レジリエント・カンパニー」となることが最終ゴールであることを改めて説き、本書を締めくくっています。

 マネジメントのあり方や、組織運営そのものに革新を起こすことが日本企業にとっての最重要課題であるという趣旨であり、目指すは「しなやかで強い人間集団」=レジリエント・カンパニーであるという方向性もしっかりしているように思いました。マネジャーでなくともマネジメント・イノベータになり得るというのも啓発的でした。

 ただし、トリプルAとは何か、それを「現場での行動」にまで落とし込んだとしながらも、例えばそれが「強い信頼感の醸成」といった抽象レベルにとどまっており(もし自分で書いているとすればスゴイ日本語能力!)、全体としては"実践書"としてより、"啓発書"としてのの色合いが濃かったように思います。

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この世には遺伝子的に決まる「才能」というものはなく、すべては努力であると。

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才能の科学;人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法』['22年]『非才!: あなたの子どもを勝者にする成功の科学』['10年]『Bounce: Mozart, Federer, Picasso, Beckham, and the Science of Success』['10年]

 ビジネス、学問、スポーツ、芸術...。能力は後天的に伸ばせる! 元オックスフォード大学主席のアスリートが科学的に導き出した成長の法則を、スポーツ選手らのエピソードを交えつつ紹介する―。(版元口上)

 著者マシュー・サイドの『非才!―あなたの子どもを勝者にする成功の科学(Bounce: Mozart, Federer, Picasso, Beckham, and the science of success(2010)』('10年/柏書房)を改題の上、復刊したもの。したがって、同著者の近著『失敗の科学―失敗から学習する組織、学習できない組織(Black Box Thinking: Why Most People Never Learn from Their Mistakes(2015)』('16年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『多様性の科学―画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織(Rebel Ideas: The Power of Diverse Thinking(2019)』('21年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より前に書かれた本になります。

 3部構成の第1部「才能という幻想」(第1~4章)では、芸術や学問、スポーツ、ビジネスなど、あらゆる分野で見られる、生まれながらの才能という考え方に疑問を呈し、批判的に考察しています。

 まず、英国代表の卓球選手として2度オリンピックに出場した著者自身についての考察から始まり、著者がすぐれた卓球選手になれたのは、訓練内容や恵まれた環境が要因であったとしています。さらに、"天才"と言われたチェスプレーヤーのガルリ・カスパロフがIBMのディープブルーに勝てたのは"経験"の差であり、"神童"と言われたモーツァルトの場合も、優秀なバイオリニストと練習時間の間には密接な相関関係があり、幼くして英才教育を受けた彼のケースは、そのことの例外と言うよりむしろ証左であると。

 さらには、ゴルフのタイガー・ウッズやテニスのウィリアムズ姉妹の過酷なトレーニング、幼少期から傑出したチェスプレーヤーになるために英才教育を受け、実際にそうなったポルガー3姉妹の話など、さまざまな例から、才能ではなく目的性のある訓練と成長への気構えによって傑出した人物が生まれるとし、人を褒めるときは知性より努力を褒めた方が効果的でり、企業における才能至上主義は良い結果を招かないとしています。

 第2部「パフォーマンスの心理学」(第5~7章)では、プラシーボ効果(偽薬を本物の薬と思い込み、服用することで得られる心理効果)のようなものがスポーツのパフォーマンスにおいて大きな役割を果たすことを、ボクシングのモハメド・アリや三段跳びのジョナサン・エドワーズにとっての宗教、タイガー・ウッズにおける強固な自信などから説明し、「信条」という言葉で表される脳の状態が、高いパフォーマンスを生むとしています(第5章)。

 さらに、「あがり」のメカニズムについて考察し、熟練者だけがあがる能力を持っているとして、それを回避する方法を説くとともに(第6章)、儀式(所謂「ルーティーン」というもの)がなぜスポーツのパフォーマンスを向上せるのか、また、大会で優勝するなどして目標を達成したあと憂鬱になるのはなぜか、考察しています(第7章)。

 第3部「能力にまつわる考察」(第8~10章)では、知覚というものの構造はつくり変わるものであり、意識的な処理ができる帯域幅は誰も同じようなものだが、熟練者はその幅を広げられるとし(第8章)、さらに、ドーピングや遺伝子改良について、強化手段のすべてが人類の将来にマイナスとなるのかどうか考察、最後に、陸上競技において黒人は、短距離(西アフリカ)においても長距離(東アフリカ)においても遺伝子的に優れた走者であるというのが必ずしも正しくないことを実証し、改めて、能力は生得的なものではなく後天的に伸ばせるものであるとして本書を締めくくっています。

 基本的には、この世には遺伝子的に決まる「才能」というものはなく、すべては努力であるという主張の本ですが、著者自身がアスリート出身であることもあってスポーツに関連した事例が多く、説得力をもって楽しく読めます(環境論である点でマルコム・グラッドウェルの『天才! ―成功する人々の法則』('09年/講談社)に近いが、解説でも述べられているように、グラッドウェルの方が「1万時間の練習で何でも習熟」説を安易にぶち上げている分、通俗的か)。

 『失敗の科学』(原著2015年、邦訳2016年)は、なぜ人や組織が失敗をしてしまうのか、そしてそれ以上になぜその失敗から学べずに落とし穴にはまり続けるのかをまとめたもの、『多様性の科学』(原著2019年、邦訳2021年)は、画一的な集団はみな同じ事しか考えず、同じ見落としをしてしまうし、別のフレームで物事が考えられず、大失敗を引き起こすとし、本当の多様性をつくり活用するにはどうすればよいかを説いた本です。未読であれば、本書に次いでこれらに読み進むのもいいかと思います。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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ギャラップ調査に基づくマネジャー論。優れたマネジャーは「優れたコーチ」であると。

『ザ・マネジャー』.jpg『ザ・マネジャー』2022.jpg 『ザ・マネジャー』原著.jpg  さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 最新版.jpg
ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』['22年]『It's the Manager: Moving From Boss to Coach』['19年]ジム・クリフトン/ギャラップ 『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 最新版 ストレングス・ファインダー2.0

 本書は、ベストセラーシリーズ『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』の著者ジム・クリフトンらが、数十年にわたるギャラップの調査をもとに、「人の力を最大化する組織」をつくるための問題解決の糸口となる突破口を、50項目以上(全52章)にわたり解説したものです。それぞれをテーマごとに5つの部に分けて取り上げ、従業員エンゲージメントを高めるための方法や、従業員の「才能」を開花させる方法、そのためにマネジャーがとるべき会話やアクションなどを詳説しています。

 第Ⅰ部「戦略を立てる」(第1章~第5章)では、職場で求められているものが「給料」→「目的」、「満足度」→「成長」、「ボス」→「コーチ」、「年次評価」→「継続的な会話」と変化してきているとした上で、リーダーに欠かせない特性について述べています。

 第Ⅱ部「組織文化をつくる」(第6章~第8章)では、なぜ組織文化が重要であるのか、また、それを変革するには何が必要かを述べています。

 第Ⅲ部「採用のためのブランドを確立する」(第9章~第19章)では、新世代の労働力を惹きつけ、スター社員を採用するにはどうすればよいか説くとともに、新入社員のキャリアを方向づける「オンボーディング(入社後施策)」プログラムや、能力開発への近道となる「強みに基づく会話」、成功するために必要な「7つの期待値―コンピテンシー2.0」を紹介しています。また、「サクセッションプラン(後継者育成計画)」を科学的に行うための4つのステップや、成功する退職とはどのようなものかについても述べています。

 第Ⅳ部「ボスからコーチへ」(第20章~第31章)では、コーチングを成功させるための「3つの条件」と「5つの会話」を紹介するとともに、給与や昇進の正しい在り方、レーティング(評価)における「バイアスの罠」とその補正方法、従業員の定着を高めるキャリアアップの3要素、チームを成功に導く12の要素などを列挙しています。また、なぜ従業員は仕事に対して「エンゲージしていない」のか考察し、「能力開発を重視する組織文化」をつくるのに必要な4つの要素や、優れたマネジャーが持つ5つの特性を挙げ、どのようにしてマネジャーを育てるかを論じています。

 第Ⅴ部「これからの働き方」(第32章~第52章)では、ダイバーシティ&インクルージョンの3要件や働く女性が直面する3つの課題について述べるとともに、年配社員の活かし方、福利厚生、フレックスタイム、イノベーション、アジャイル、ギグワーカー、AIテクノロジーなどについて論じ、最後に、ビジネスの成果には「人間の本質」が果たす役割が大きく、マネジャーこそが成功のカギであるとして、本書を締めくくっています。

 巻末に100ページ以上に及ぶ調査資料が付されているように、ギャラップの調査がベースになっているということもあり、何か突飛なことが書かれているわけではないですが、幅広く、かつオーソドックスな内容であるように思いました。

 それでいて、時代の変化に沿った内容にもなっていて、その中で特に強調されていたのは、「ボスからコーチへ」ということ、つまり、優れたマネジャーとは「優れたコーチ」であるということではなかったかと思います。

 テーマごとにポイントが整理されていて、社員の熱意とやる気を高めるためにマネジャーは何をすべきかということを、意識の面、実践の面から改めて振り返ってみるのにいい本であると思います。

《読書MEMO》
●オンボーディングのための5つの質問(第13章)
1「皆が信じているものは何か」
2「私の強みは何か」
3「私の役割は何か」
4「私のパートナーは誰か」
5「ここでの自分の未来はどうなるか」
●7つの期待値―コンピテンシー2.0(第17章)
・人間関係を築く
・人を育てる
・変化を導く
・人に意欲を吹き込む
・批判的に考える
・明確なコミュニケーションをとる
・アカウンタビリティを生み出す
●サクセッションプランを科学的に行うための4つのステップ(第18章)
1 客観的なパフォーマンス評価から始める
2 カギとなる成功体験を分析する
3 生来の傾向を活かす
4 個別にリーダーシップ開発を設計する
●退職を成功させる(第19章)
 1 授業員は「自分の話を聞いてもらえた」と感じている
 2 従業員は自分の貢献に誇りを感じて退職する
 3 退職者をブランド大使にする
●コーチングの3つの条件(第20章)
1 期待値を設定する
2 継続的なコーチングを行う
3 アカウンタビリティを生み出す
●パフォーマンスを向上させる5つの会話(第21章)
1 職務の明確化と人間関係の構築
2 クイックコネクト
3 チェックイン
4 育成型コーチング
5 進捗レビュー
●従業員の定着率を高めるキャリアアップの3要素(第25章)
1 変化をもたらす機会
2 成功
3 希望するキャリアとの適合性
●「能力開発を重視する組織文化」をつくるのに必要な4点(第29章)
1 CEOや取締役会が取り組みを開始している
2 マネジャーに新しいマネジメント方法を教えている
3 全社的なコミュニケーションが行われている
4 マネジャーにアカンタビリティを持たせている
●優れたマネジャーが持つ5つの特性(第30章)
1 モチベーション(チームにやる気をもたらす)
2 ワークスタイル(目標を設定し、リソースを配置する)
3 イニシエーション(周囲に影響を与えて、逆境や抵抗を乗り越える)
4 コラボレーション(深い絆で結ばれた信頼できるチームをつくる)
5 思考プロセス(戦略や意思決定のために分析的アプローチ)
●ダイバーシティ&インクルージョンの3要件(第33章)
 ・「私に敬意を払って」
 ・「私の強みを大事にして」
 ・「リーダーは正しいことをする」
●働く女性が直面する3つの課題(第37章)
 ・職場での不当な扱い
 ・賃金格差
 ・ワークライフの柔軟性

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「再考」することの大切さを説く。相手と意見が対立した際の対処法も。

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THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』['22年]『Think Again: The Power of Knowing What You Don't Know』['21年] Adam Grant
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 組織心理学者で、ベストセラーとなった『GIVE & TAKE―「与える人」こそ成功する時代』('14年/三笠書房)の著者による本書では、人はその心理的な特性から思い込みを捨てて考え直すことが苦手であり、既存の考えにとらわれず考えを見直すことは、思考の柔軟性を取り戻し正しい判断を促すとして、その原理と対処法を紹介しています。

 パート1では、私たちの思考様式は、考えたり話をしたりする時、無意識に3つの職業の思考モードに切り替わり、その3つとは、「牧師」(理想を守り確固としたものにするために説教する)、「検察官」(相手の間違いを明らかにするために論拠を並べる)、「政治家」(支持層の是認を獲得するためにキャンペーンやロビー活動を行う)であるとしています。

 そして、それらとは別に私たちが持つべきは「科学者」の思考モードであり、科学者は自分の知っていることを疑い、知らないことを深掘りする力が要求され、真実を追求する時、私たちは科学者の思考モードに入り、仮説を検証するために実験を行い、新しい知識を発見するとしています。

 科学者のように考えるとは、単に偏見のない心で物事に対応することではなく、それは能動的に偏見を持たないことをいい、なぜ自分の見解が「間違っているかもしれない」のか、その理由を探し、わかったことに基づいて見解を改めることが必要であり、大抵の場合、多くの人は偏見を捨てて、様々な観点から物事を見つけることによって恩恵を受けるはずであって、私たちの思考の敏捷性が向上するのは、科学者の思考モードにいる時だからだとしています(第1章)。

 私たちの知識や考えには「盲点」があり、思考の盲点は、人を「見えていないことが見えていない」状態にし、結果として自分の判断力に誤った自信を持つようになり、自分の考えが間違っているかもしれないと考えることさえしなくなるが、対処法はあり、私たちは正しい種類の自信を持っていれば、曇りのない目で自分を見つめ、考え方を改善するよう学ことができるとしています。

人は、ある特定の分野における能力が低ければ低いほど、同分野での自己能力を過大評価する傾向にあり、これが原因で、人は自己を正しく認識できず、多くの場面で自分で自分の足を引っ張り、また、人は自分の知識に確信を持っていると、知識の隙間や誤認を探そうとしないし、当然ながら隙間を埋めたり修正したりしないとしています。

 一方で、経験不足が明らかである時は自らを過小評価するもので、人が自信過剰になりやすいのは、ド素人からワンステップ進み、アマチュアになった時であり、ほんの少しの知識が危険になり得、人は経験を積むにつれて、謙虚さを失うものだとしています。

私たちが手に入れるべきは、バランスの取れた自信と謙虚さであり、つまり、自己の能力を信じながら、自分の解決方法が正しくない可能性、あるいは問題自体を正しく理解していない可能性を認めること、そこから疑問が生まれれば、既存の知識を再評価するようになり、ほどほどの自信があれば、新しい見識を追い求めることができるとしています(第2章)。

 そして、実は、「自分の間違い」を発見することは喜びであり、「愚かなこだわり」から自由になるには、個人的感情に流されず、固定観念を捨て、「外からはいいてくる情報」に心を開くことであり、「ミスを潔く認める人」ほど評価が上がるとしています(第3章)。

 また、「熱い論戦」(グッド・ファイト)は怖れてはならず、「対立を避けてしまう心理」が革新を妨げ、「挑戦的なネットワーク」(耳の痛い意見)を避けるべきではなく、意見が合わない時に感情に流されず「理性的に反論」できるかがカギになるとしています(第4章)。

 パート2では、相手に再考を促す方法を説いています。まず。議論の場で相手の心を動かすには、相手を「敵」と見なすのではなく「ダンスの相手」だと思うことであるとして(第5章)、相手の「先入観」「偏見」とどう向き合うかを説くとともに(第6章)、「穏やかな傾聴」こそ人の心を開くとしています(第7章)。

 パート3では、学び、再考し続ける社会・組織を創造する方法を説いています。分断された社会の「溝」を埋めるために「平行線の対話」を打開していくにはどうすればよいか(第8章)、健全な懐疑心と探究心を育み、生涯にわたり「学び続ける力」を培うにはどうすればよいか(第9章)、「学びの文化」を職場で醸成しさせ、「いつものやり方」を変革し続けるにはどうすればよいか(第10章)を説いています。

 パート4では、結論として、「意義ある人生」をおくるために、視野を広げて自らの「人生プラン」を再考することを推奨しています(第11章)。

 出来るようでなかなか出来ないのが「再考」であり、自分の考えを疑うことをせず、誤った考えに気づきもしないことが多い中で、本書では「再考」することの大切さが組織論にまで落とし込んで書かれています。仕事上の相手と意見が対立した際の対処法や、建設的な議論を通して自らの思考の質を高める方法についても書かれており、ビジネスパーソンには啓発される要素の多い本であると思います。

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資産を減らすという真逆の発想はユニーク。批判もあるが、啓発的。

DIE WITH ZERO.jpgDIE WITH ZERO2020.jpg DIE WITH ZERO2.jpg Bill Perkins.jpg Bill Perkins
DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』['20年] 『Die with Zero: Getting All You Can from Your Money and Your Life』['20年]

 本書タイトルが示すところは「ゼロで死ね」、つまり「死ぬ時までにお金はすべて使いきってしまおう」ということで、人生を豊かにするためにお金を使い切るという考え方を、9つのルールにして提案しています。版元の口上も「お金の"貯め方"ではなく"使い切り方"に焦点を当てた、これまでにない"お金の教科書"」とのことで、確かにその点ではユニークであり、アメリカではベストセラーになったようです。

 ルール1は、「"今しかできないこと"に投資する」こと。今しかできないことに金を使うべきで、金を無駄にするのを恐れて機会を逃すのはナンセンスだとしています。人生の充実度を高めるのは、"そのときどきにふさわしい経験"であり、節約ばかりしていると、その時にしかできない経験をするチャンスを失うとしています

 ルール2は、「一刻も早く経験に金を使う」こと。人生で一番大切な仕事は「思い出づくり」であり、思い出を通して人生の出来事を再体験でき、「思い出の配当」はバカにはできず、年齢を重ねるごとに多くのリターンが得られるとしています。

 ルール3は、「ゼロで死ぬ」こと。莫大な時間を費やして働いても、稼いだ金をすべて使わずに死んでしまえば、人生の貴重な時間を無駄に働いて過ごしたことになるし、仕事に情熱を捧げる人であっても、稼いだ金を使うことをおろそかにすべきではないとしています。

 ルール4は、「人生最後の日を意識する」こと。人は死が迫ってこないと、合理的な判断ができないが、人生の残り時間を意識することは、現在の行動に大きな影響を与えるはずだとしています。

 ルール5「子どもには死ぬ「前」に与える」こと。死んでから与えるのは遅すぎ、死ぬ「前」に財産を与えるべきであるとしています。なぜならば、一般的に相続人の相続時の年齢は「60歳前後」であるのに対し、金の価値を最大化できる年齢は「26~35歳」であるから。親が財産を分け与えるのは、子どもが26~35歳のときが最善としています。

 ルール6「年齢にあわせて"金、健康、時間"を最適化する」こと。資質と貯蓄のバランスを最適化し、経験から価値を引き出しやすい年代に、貯蓄を抑えて金を多めに使うことを推奨し、「金」「健康」「時間」のバランスが人生の満足度を高めるとしています。また、若い頃に健康に投資した人ほど得をするとも述べています。

 ルール7は、「やりたいことの"賞味期限"を意識する」こと。どんな経験でも、いつか自分にとって人生最後のタイミングがやってくるものであり、もうじき失われてしまう何かについて考えると、人生の幸福度は高まることがあると。つまり、人生の終わりを意識すると、その時間を最大限に活用しようとすう意欲が高まるとしています。

 ルール8は、「45~60歳に資産を取り崩し始める」こと。老後のために過度に貯蓄するのではなく、金をもっと早い段階で有効に活用することを計画すべきだとしています。

 ルール9は、「大胆にリスクを取る」こと。失うものが極めて小さく、メリットが極めて大きい場合、大胆な行動をとらないほうがリスクになるとしています。

 資産を増やすことばかり励んでいる人が多い中で、資産を減らすという真逆の発想はユニークで、そのバックに、金ではなく人生の価値を最大化するためにはどうすればようかという発想があるのが共感できました。

 本書でも紹介されている『Your Money or Your Life: 9 Steps to Transforming Your Relationship with Money and Achieving Financial Independence』(邦訳『お金か人生か―給料がなくても豊かになれる9ステップ』('21年/ダイヤモンド社))で提唱された「FIRE」(Financial Independence, Retire Early movement、経済的自立と早期退職を目標とするライフスタイル)という考え方とも重なる部分があるように思いました。

 ただし、「FIRE」とは、経済的に独立して、早期に引退することであり、そのために収入増や支出減を模索しながら、意図的に貯蓄率を最大化することであって(その目的は、FIRE達成後の生涯の支出を賄うのに十分な不労所得を得ること)、一定年齢までに充分な貯蓄を得ることが前提条件になるのでないでしょうか。

 そう考えると、著者はトレーダーとして成功を収めたからこそ言える部分もあるのではないかという気もしなくはないです。40代とか50代といったら、子どもの教育費などで結構お金が必要な時期であるし、今の日本だと、子どもがいない人でも、非正規雇用のまま中年期を迎え(そのために子どもを持てなかったというのもあるかも)生活が楽ではない人も結構いるのでは。

 そうした現実問題はオミットされているため、この本には、自己中心的だという批判的な評価もあるようです。ただ、時間とお金の使い方を再考し、より豊かな人生を送るためのフレームワークを提供している点では啓発的であり、評価していいと思います(読んだ直後の評価は★★★★だったが、時間が経つにつれて日常生活で本書の趣旨について考えさせれる局面がしばしばあり、★★★★☆に評価を修正した)。

《読書MEMO》
●目次
ルール1 「今しかできないこと」に投資する
ルール2 一刻も早く経験に金を使う
ルール3 ゼロで死ぬ
ルール4 人生最後の日を意識する
ルール5 子どもには死ぬ「前」に与える
ルール6 年齢にあわせて「金、健康、時間」を最適化する
ルール7 やりたいことの「賞味期限」を意識する
ルール8 45~60歳に資産を取り崩し始める
ルール9 大胆にリスクを取る

《読書会》
■2023年06月09日 第60回「人事の名著を読む会」ビル・パーキンス 『DIE WITH ZERO』
(読書会後の懇親会)
『DIE WITH ZERO』懇親会.jpg


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コンサルティングファームの手を借りることになる前の準備として読む?

戦略的人事制度のつくりかた.jpg図解でわかる! 戦略的人事制度のつくりかた』['22年]

 経営コンサルティングファームによる本書は、人事制度自体を俯瞰した上で、人材ビジョン、等級、評価、報酬という人事制度の重要な要素を統合的に説明できるような「フレームワーク」の提示を目指したものです。そのフレームワークは、大手企業からの数多くの引き合いを通して、経営コンサルティングファームが生み出した「人事フレーム」をもとに作成したとのことです。

 一般に、学術書であると抽象的すぎて実務で活用しにくく、一方、実務書であれば、報酬制度や評価方法など、個々の論点についてのノウハウは詳しく書いてあるものの、人事の全体像とはリンクしていないタイプのものが多い中、本書は理念と実務を統合的に説明している点が特徴であり、その点において「フレームワーク」という言い方をしているようです。

 要となるフレームワークは全体で5+1のステップで構成されており、ステップ1が「現状分析・改定の方向性」、ステップ2が「人材ビジョン・人事制度改定コンセプト」、ステップ3が「等級制度」、ステップ4が「評価制度」、ステップ5が「報酬制度」、ラストステップが「導入・運用」となっています。

 ステップ1からステップ2にかけては、人材マネジメントのあるべき姿とその企業の現状とのギャップをどのように測り、人事制度改定の判断軸をどう作っていくかを解説しています。主として理念的・概念的な内容となりますが、図解で解説し、ポイントを整理しているため、とっつきにくいという印象は緩和されていると思います。

 ステップ3からステップ5にかけて解説されている等級制度、評価制度、報酬制度については、比較的オーソドックスな解説がなされていますが、この制度しかない、これがベストであるという示し方ではなく、あくまでも制度策定のフレームとなる考え方を示すことに主眼が置かれている印象を受けました。

 ラストステップでは、「制度3割、運用7割」であるということを踏まえた上で、人事制度が活用される運用基盤をどう整えるか、制度導入説明会の注意点や評価者トレーニングの実施ポイントなどを具体的に解説しています。

 全体を通して、例えば評価制度であれば、評価制度の役割や種類、行動評価、目標管理、評価段階・ウエイト等をひと通り解説した上で、制度の概要設計や詳細設計等について具体策の検討フレームを空欄で示すとともに、併せてそれぞれの記載例も示すというかたちをとっています。そのため、記載例を見ながら、自社の場合、検討フレームを埋めるとすればどうなるかを考えさせる、ワークブック的なつくりになっていると言えます。

 現実には、人事制度改定プロジェクトのリーダーまたはメンバーにでもならない限り、なかなかこうしたことは学習したり考えたりしないものであるし、また実践の場を経ないと、こうした知識は本当に身にはつかないという面はどうしてもあるかと思います。人事ビギナーには、本書の各検討フレームを埋めるのは結構ハードルが高いようにも思いました。

 ただし、人事パーソンには社内コンサルタント的な素養も求められると思われることから、こうしたコンサルティングファームの切り口や手法に触れておくのもいいのではないかと思います。それは、制度改定を内製的に実施することになった際にも役立つと思います。また、仮にコンサルティングファームの手を借りることになったとしても、自社最適の制度への道は自らが選択しなければならないわけです。そうしたことをイメージしながら読むといいのではないでしょうか。

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モチベーションから組織運営まで、職場で役立つ心理学を学べる。

職場の人事心理学.jpg職場の人事心理学2022.jpg職場の"人事心理学"』['22年]

 本書は、「人事心理学」を標榜する現時点での唯一の書籍として、人事心理学を体得するのに必須となる基礎知識を、モチベーションから組織運営まで9ジャンル100項目にわたって解説したものであるとのことです。確かに、人事用語についての辞典や解説書はこれまでもありましたが、「人事心理学」にフォーカスした本は意外と無かったように思います。

 ジャンル区分は、モチベーション、人材育成、キャリア開発、人事評価、ストレス対処、人間関係、交渉・説得、リーダーシップ、組織運営の9つで、例えば第1章のモチベーションであれば、X理論・Y理論、欲求の変化を踏まえた対応など、第2章の人材育成であれば、学習性無力感やアイデンティ拡散、防衛的悲観主義など、第3章のキャリア開発であれば、職業適性、職業興味やワークバリュー、キャリアアンカーなどといった用語やテーマが取り上げられています。

 第4章の人事評価で、ポジティブ・イリュージョンやダニング=クルーガー効果といったことを取り上げているのも心理学という観点から特徴的ですが、第5章がストレス対処、第6章が人間関係、第7章が交渉・説得というように、こうしたジャンル区分のもとに用語やテーマが集約されていること自体が目新しいと同時に、本来的であるように思いました。人間関係管理などは人事の職務領域かと思いますが、そうした認識があまりない人もいたりする昨今です。また、個人や他部門に対して説得的コミュニケーションができることは、営業職などに限らず、人事パーソンにも求められる資質であると言えます。

 書かれていることはいずれも、人事パーソンに限らず、管理職や経営者は知っておいて、リーダーシップの発揮や組織運営に役立てたい知識ばかりですが、「人事の仕事は、まさに心理学の守備範囲にあるといってよい」と著者も述べているように、その前にまず人事パーソンとしての自分自身が押さえておきたいところです。

 これまで多くの職場心理学に関する本を著している著者だけに、それぞれの解説が具体例を挙げるなどしてわかりやすく解説されています。書店で見かける組織心理学などの入門書的な解説本の中には、図解を多用してぱっと見て概要が理解できるようにしたものもあり、確かにそれはそれで分かりよいのですが、「何となくわかった気になっている」だけという面もあるかもしれません。

 本書の場合、著者自身の言葉でしっかり解説されていて、また、100項目ある各項の前半は用語などの基本解説となっているのに対し、後半は実践のためのヒントが示されている構成となっているため、読み込みことによって理解が深まり、実践へのより強固な足掛かりにもなると思われます。

 改めて「人事心理学」というものが関わる範囲が広範であることに思い当たり、本書の100項でそのすべてをカバーしているとは言えないと思います。しかしながら、書かれていることは知っておきたいことばかりです。

 どの章からでも読め、それでいて、各項は読み物を読むように読めます(もちろんその際には自分の経験に引き付けて読むべきですが)。人事パーソンとして、職場で役立つ心理学を学ぶ上での"すぐれもの"ではないかと思います。

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越境学習によって得られる「冒険する力」が「変革」を成し遂げると。

越境学習入門2.jpg越境学習入門3.jpg
越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』['22年]

 本書は、長年にわたり越境学習について研究してきた著者らが、越境学習によって得られる「冒険する力」が、「新しいこと」「変革」を成し遂げる原動力になるとして、その全体像を解説するとともに、企業と個人が越境学習を開始・実践する方法を提案したものです。

 第1章では、越境学習とは、個人にとって居心地のよい慣れた場所であるホームと、居心地が悪く慣れない場所だがその分刺激に満ちているアウェイとを往還する(行き来する)ことによる学びのことであると定義し、その学問的成り立ちや、なぜ「越境」が働く人にとっての「学習」につながるのか、その背景となる理論を解説しています。

 第2章では、なぜ今、働く人の学びとしての越境学習が注目されるようになってきたのかを、働き方改革、キャリア自律のベースとなる「ニューキャリア理論」、イノベーション人材の育成、新しいタイプのリーダーシップ開発などとの関係で述べるとともに、個人における越境学習のポイントと、企業主導の越境学習の試みがどのような形で広がっているのかを紹介しています。

 第3章では、越境学習のプロセスを「越境前」「越境中」「越境後」の3段階に分け、各段階で越境学習がどのように行われるかを解説しています。また、この中で、インタビュー調査の結果、「越境中」(アウェイにいるとき)以上に「越境後」(ホームに戻ってから)の葛藤と衝撃が大きいことが判明したとして、それぞれの葛藤が本人にどのような変化をもたらすか考察しています。

 第4章では、どうすれば「越境の学び」を企業における人材育成の一部に位置づけていけるのか、そのための人事部門や上司の役割や導入と運用の手順を解説するとともに、越境先から戻ってからの「迫害」や「風化」を避けるにはどうすればよいかを説いています。

 第5章では、ケーススタディとして、海外出張から戻ってからの違和感が主体的な行動発揮の原動力になった例や、ベンチャー企業への"レンタル移籍"によって、経営目線で会社全体の成果を考えるようになったり、リスクマネジメント志向からリスクテイキング志向へ変わった事例など、4つの例を紹介しています。


 越境学習を推進する上で人事部門に求められることは、「経営者、現場の事業部門、越境学習者本人、越境学習事業者のハブとなり、その調整を行う」ことだとしています。可能なら人事部門担当者にも越境学習を自ら体験してもらうことが肝要だとしていて、それはいいことだと思いました。

 4つの事例紹介のうち3つが"レンタル移籍"という越境学習プログラムによるもので、そうしたプログラムが会社にあるに越したことはないですが、著者もあとがきで述べているように、これによって越境学習の考え方を限定的にとらえない方がいいように思います。

 本書冒頭の「人は誰もが越境学習者」という考えに立ち返れば、すべての人にとって啓発的な本であるかもしれません。第3章の「越境学習のプロセス」の部分は越境学習者のいわば心理的ステップですが、会社主導の人事異動であれポスティング型の人事異動であれ、実施後の経過と成果を検証し、その人材の活用を検討する上で、人事パーソンには参考になるように思いました。

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「コーアクティブ・コーチング」を提唱。プロに限らず活かせるのでは。

コーチング・バイブル 第2版.jpgコーチング・バイブル 第2版2008.jpg コーチ1.jpg  Co-Active Coaching.jpg Laura Lynn Whitworth.jpg 
コーチング・バイブル 第2版: 人と組織の本領発揮を支援する協働的コミュニケーション』['08年]『コーチング・バイブル―人がよりよく生きるための新しいコミュニケーション手法』['02年]"Co-Active Coaching: New Skills for Coaching People Toward Success in Work And Life"(2007) Laura Lynn Whitworth (1947-2007)
Laura  Whitworth.jpg 本書はコーチングのプロを目指す人のための入門書であり、「コーアクティブ・コーチング」というものが提唱されているように、コーチとクライアントが協働してコーチングを進めていくことを重視し、「クライアントはもともと完全な存在であり、自らが答えを見つける力を持っている」ということを鍵(前提)にしています。個人的には初版(2002年邦訳刊行)を読んで以来となります(2020年に『コーチング・バイブル(第4版)』が刊行されているが、主たる執筆者でコーアクティブ・コーチングの提唱者であるローラ・ウィットワースが2007年2月に肺がんで亡くなったため(59歳没)、2012年邦訳刊行の第3版から執筆陣の名前から外れている)。

 第Ⅰ部では、コーアクティブ・コーチングの全体像が紹介されています。第1章では、コーアクティブ・コーチングでコーチに求められる「5つの資質」(傾聴、直感、好奇心、行動と学習、自己管理)の各要素について概要を説明するとともに、クライアントの主題を形成する「3つの指針」(フルフィルメント、バランス、プロセス)について触れ、第2章では、コーチングの土台となるコーチとクライアントの協働関係をいかに築くかを解説しています。

 第Ⅱ部では、「5つの資質」についてさらに詳しく述べるとともに、それぞれの資質と関係の深いコーチング・スキルについて、実例を交えながら解説しています。第3章では「傾聴」について、意識の焦点のレベルと各レベルごとの相手に与える影響を解説しています。第4章では「直観」について、直観は強い武器になるとし、それをどこで感じるかを、第5章では「好奇心」について、好奇心は信頼関係を築くとし、それを意図に活用するための鍛錬法を、それぞれ説いています。第6章では「行動と学習」について、「ありのまま」「つながり」「生き生き感」「思い切り」という4つの領域で、コーチが力を出し切ることの重要性を説いています。第7章では「自己管理」について、コーチがクライアントから意識が離れそうになったき、そこから立ち直ってクライアントとの関係を取り戻すにはどうするかを述べています。

 第Ⅲ部では、「3つの指針」についてさらに詳しく説明し、その実践方法を説いています。第8章では「フルフィルメント(充実感)」について、クライアントが描く「充実した人生」とはどのようなものかを明確にするよう支援することの重要性を、「人生の輪」というツールと併せて解説しています。第9章では「バランス」について、行き詰まり感から可能性へ、可能性から行動へとクライアントを導くバランス・コーチングにおける、①視点、②選択、③計画、④決意、⑤実行の5つのステップから成る公式を紹介しています。第10章では「プロセス」について、コーチングにおけるクライアントの変化のプロセスを、同じく5つのステップに分けて解説しています。最終第11章では、これら3つの指針をいかに統合し、コーチングを芸術の域にまで高めるにはどうすればよいかについて解説しています。そして、巻末に、コーチがクライアントに対して使うことができる「ツールキット」が収録されています。

 冒頭に、「コーチングのプロを目指す人のための入門書」と書きましたが、前回は初版を読んだときは、プロのコーチを目指す人にはいいけれども、一般のビジネスパーソンにはどうかと思ったりもしましたが、改めて読んでみて、プロのコーチを目指す人のためだけでなく、日常のコミュニケーションに「コーアクティブ・コーチング」の考え方やスキルは活かせるものであり(前に拠んだときは形式的な枠組みに囚われすぎた?)、コーチを目指す人にとどまらず、ビジネスパーソンに広くお薦めできるのではないかと思います(初版を読んだ際の評価 ★★★☆ → 今回第2版を読んでの評価 ★★★★。2022年現在、第4版まで刊行されている)。

《読書MEMO》
「5つの資質」(第3章~第7章)
「傾聴」(第3章)
 レベル1―クライアントの発言を受けた上での自分の考えや気持ち、意見・判断など自分自身に意識が向いている状態。
 レベル2―声色や表情など、クライアントから読み取れるあらゆることに意識が向かっている状態。このレベルでは,コーチは常に,自分の聴き方がクライアントにどのように影響を与えているかを認識する必要がある。これは、監視のように意識的に行うのではなく、ただ相手に与えている影響に気づいているという無意識的な状態で行わなければならない。
 レベル3―肌で感じるものや感情的なものなど、クライアントの言動以外の全てのことも認識する状態。これは「環境的傾聴」とも言う。
「直感」(第4章)
 直観がコーチングにおいては有益なものになるのは、それが正しいかどうかではなく、それがクライアントの行動を前に進め,学びを深めることに繋がったかどうかで評価されるから。
「好奇心」(第5章)
 質問を投げかけることで簡単に意識の方向を換えることができる。質問する際はクローズドクエスチョンを避け、尋問調にならないようにする必要がある。加えて、質問によってクライアントの意識が向かう方向を自覚しながらも、クライアントがどこに向かおうとそれに拘ってはいけない。
「行動と学習」(第6章)
 クライアントは「行動」「学習」を、コーチは「進める」「深める」ことに重点を置く。そしてクライアントがその経験から学んだ内容に着目しなければならない。行動を進め,学習を深めるためのスキルとして「目標設定のスキル」がある。良い目標は具体的かつ測定可能で、その結果を何らかの形で記録し評価することができるという特徴を持つ。
「自己管理」(第7章)
 例えばクライアントとの会話で自分の専門分野を扱っている場合に,「コーチとしての意見」と「専門家としてのアドバイス」を明確に区別しなければならない。

「バランス・コーチング」の5つのステップ(第9章)
  (1) 有りうる視点を列挙する。
 (2) 挙げられた視点からある視点を選択し、それを通して自身に選択力があることを自覚してもらう。
 (3) 選択した視点であり得る行動を列挙してから絞り込み、行動を計画する。
  (4) 計画した行動をやり切る決意を固めてもらう。
  (5) 実行してもらい、進捗確認とフィードバックを行う。

「プロセス・コーチング」の5つのステップ(第10章)
  (1) クライアントの「心のうねり」を聴き取り、それを言葉にする。
 (2) クライアントとそれを探求する。
 (3) クライアントがそれを深く経験する。
  (4) クライアントのエネルギーに変化が起きる。
  (5) 新たな動きが起きる。

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「できる」上司が「できない」部下をつくってしまう「失敗おぜん立て症候群」を指摘。

よい上司ほど部下をダメにするド.jpgよい上司ほど部下をダメにする.jpg  ジャン=フランソワ・マンゾーニ.jpg ジャン=フランソワ・マンゾーニ(2017年よりIMD学長)
よい上司ほど部下をダメにする』〔'05年〕

 スイスのローザンヌに拠点を置く世界トップクラスのビジネススクールIMDの教授らによる本書の英題は"The Set-Up-To-Fail Syndrome"で、本文では「失敗おぜん立て症候群」と訳されていますが、この方がタイトルの「よい上司ほど部下をダメにする」よりも内容を分かりやすく端的に表しているかと思います。本書は個人的には18年前に読んだものの再読・再整理になります。

 第1章では、上司は知らず知らずのうちに一部の部下に「できないヤツ」というレッテルを貼り、その部下の失敗を導く仕組みを作り出していることがあるとし、この現象を著者らは「失敗おぜん立て症候群」と呼んでいます。第2章では、部下の成績が悪いとき、上司は「自分たちの努力にもかかわらず」そうなっていると考えるが、実際には「上司の努力ゆえに」部下の成績が悪いというケースが多いとしています。

 第3章では、部下が「できない」のは上司のせいであり、そのことに多くの上司が気づいていないとしています。上司には、「できない部下」に対してどこかで「できないままでいて欲しい」という願望があり、自分が下してきた評価を今さら変えたくないので、「できない」部下がたまに「できた」行動を取っても認めようとせず、「できない」部下が「できない」行動を取ることで予想と一致してその考えは確信に変わり、ますます自分に責任があるとは思わなくなる悪循環になるとしています。

 第4章では、上司は「できる部下」と「できない部下」とでは異なる見方をしてしまい、こうした色メガネで部下を見ることが、「失敗おぜん立て症候群」をさらに悪化させるとしています。第5章では、部下の側からも上司にレッテルを貼ることで上司をダメにしてしまうことがあることを解説しています。第6章では、以上のことから、上司と部下がいっしょになって生み出している巨大なコストの中身を検証しています。

 第7章では、症候群の具体的な治療法を提示し、上司が症候群を理解するには、まず自分の考え方を変える必要があることを説いています。第8章では、「できない部下」とうまく付き合うための枠組みを紹介し、第9章では、症候群の「予防法」を考えています。第10章では、予防につながる行動を取りやすくするには、上司自身が変わらなければならないと論じています。

 「できない部下」をそのままにしておくことは、これからの人材難の時代に業務効率に多大のマイナスを及ぼすに違いないと思います。本書で示されている解決の方法は、やはり部下とのコミュニケーションを密にするということです。事例が数多くとり上げられているので、過去の経験を想起しつつ、自分に言い聞かせるように熟読すれば、上司にとっての自己変革(自省)効果は大きいと思います。それにしても、上司とは色メガネで部下を見てしまいがちなものであるということは、日本も海外も同じなんだなあ。

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リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」。

トータル・リーダーシップ.jpgトータル・リーダーシップ.jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman).jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman)
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』['13年]

Work and Life The Four-Way View.jpg 著者は、リーダーシップ開発とワーク・ライフ・バランスに関する第一人者であり、本書はそうした著者が唱えるところの、リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」の強化ステップやその内容等について、著者がペンシルバニア大学で実際に行っている講義に沿ってテキスト化したものです。個人的には、10年前に読んだものの再読・再整理になります(翻訳者の塩崎彰久氏は弁護士で、父は塩崎恭久元厚生労働大臣。2021年10月衆議院議員総選挙にて初当選して自身も国会議員となり、2023年9月、岸田改造内閣で厚生労働大臣政務官に就任している)。

 第1章「トータル・リーダーシップへの旅」では、「トータル・リーダーシップ」とは、「リーダーシップ」と「ワーク・ライフ・バランス」というこれまで直接関連しないと考えられてきた概念を融合する新たな概念であり、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の四つの領域に調和をもたらすことで、リーダーシップにも磨きをかけるものであるとしています。「トータル・リーダーシップ」の目的は、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の四つの領域における「四面勝利」であり、一般にはレード・オフと思われがちなこれら四領域が実は相互連関しているとの新発見から、新たな人生は始まるとして、以下、そのためのエクササイズを紹介しています。

 よきリーダーは自らの価値観に沿った明確なビジョンを持つとし、第2章、第3章では、ビジョンを描くために、何が最も大事なのかを見極めていくエクササイズになっています。第4章、第5章では、自分のビジョンにまわりの人を巻き込んでいく前提として、自分にとって誰が本当に大切なのかを探っていきます。第6章、第7章では、創造力を発揮して、人生の四つの領域のすべてに成果を上げるための「実験」を計画し、実行に移していくことになります。そして最後には、実験がパフォーマンスにどう影響したかを分析して、うまくいった理由、いかなかった理由を挙げ、そこから卓越したリーダーとしての人生を送るための知見を得るところとなります。

 第2章「あなたにとって本当に大切なものは何ですか」では、まず、自分はどんな人間か、どういう人間になりたいのかを問い直し、どんなリーダーになりたいか、自身の中核的な価値観は何かを見つめ直すことを説いています。

Wharton, Total Leadership.jpg 第3章「4つの領域を定義する」では、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の四つの領域の自分にとっての関心度をチャート化し、さらにそれらが調和しているかを四つの円で表してみることで、人生の四の領域を調和させるために、自分に何ができるかを考えてみることを推奨しています。

 第4章「人生の大事なステークスホルダーは誰ですか」では、自分にとってカギとなるステークスホルダーを特定すること、そのステークスホルダーは自分に何を求め、自分はステークスホルダーに何を期待しているかを考えてみることを勧めています。

 第5章「大事なステークスホルダーと心から繋がるためには」では、ステークスホルダーとの関係を掘り下げるためにダイアログ(対話)について解説し、相手の視点に立って新たな可能性を見つけるにはどうすればよいか、ステークスホルダーの気持ちを探るにはどうすればよいかを説いています。

 第6章「ビジョンに近づく「実験」を計画してみよう」では、自分を頼りにしている人々の期待にうまく応えられる人間になるために、知恵を絞った「実験」を計画・実行してみようとして、実験のアイデアの生み出し方やプランの立て方についてアドバイスしています。

 第7章「ステークスホルダーと力を合わせてビジョンを実現しよう」では、前進への決意をさらに固めるためのアドバイスとして、行動を開始すること、利他に貢献すること、現在の人的ネットワークの隙間を見つけてそれを広げ、身近な人々の輪を超えて変化を起こすことを説いています。

 第8章「「リーダーシップの終わらぬ旅」では、実験の結果やステークスホルダーの期待を振り返り、さらには「四面勝利」の視点を振り返ることで、自分にとって何が大事なのか、第3章の関心度チャートと四つの円を新たに書き直してみることを勧めています。そして、ここまでのエクササイズを通して、リーダーシップの教訓をどう導き出すか、学習者・指導者として成長するための次のステップは何かを説いています。

 仕事、家庭、コミュニティ、自分自身で各「円」を描かせて、その大きさや重なり具合から、その人の人生における比重の置き方や価値観の一致度をみるやりかたは興味深いです。これは、キャリアカウンセリングなどでは以前から用いられている手法ではないかと思いますが、それをリーダーシップ理論にまとめあげているところが画期的と言えるでしょう。

 因みに、翻訳者の塩崎彰久氏は元厚生労働大臣・塩崎恭久氏の長男。本書刊行時点で長島・大野・常松法律事務所パートナー・弁護士でしたが、2021年10月31日の第49回衆議院議員総選挙にて初当選し、現在衆議院議員です。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

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LEAN IN: 女性、仕事、リーダーへの意欲』['18年/日経ビジネス人文庫]

 本書の著者は、財務省で首席補佐官、グーグルでオペレーション担当副社長を歴任した後、現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人です。こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、常人には真似できないようなことを書いた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読むと、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています(本書は2013年刊行の単行本の文庫化で、個人的には再読になる)。

 まず、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性はもっと「怖がらなければできること」をやるべきであり(第1章)、男性に自分の意見を無視されようとも、まず「同じテーブルにつく」ことが大事だと。「できる女性は嫌われる」という風潮はまだ根強くあるが(第3章)、そうした中で、アドバイスとして、キャリアを梯子ではなくジャングルジムにように考えること(第4章)、良きメンターを見つけること(第5章)、建前でなく本音でコミュニケーションすること(第6章)、どうしても辞めなければならないときまで会社を辞めないこと(第7章)、男性パートナーがもっと家庭のことに積極的に参加するよう仕向けること(第8章)、完全無欠のスーパーママ神話を捨てること(第9章)を挙げています。また、より平等な環境をつくるために皆が声をあげること(第10章)女性同士が力を合わせること(第11章)を提唱し、「対話を続けよう」として本書を締めくくっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

 単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

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コンプライアンスの取り組みが逆に組織の非倫理的な行動を助長してしまうことがある‼

倫理の死角2.jpg   Max H. Bazerman.jpg Max H. Bazerman
倫理の死角ーなぜ人と企業は判断を誤るのか

 本書は、企業不祥事を防ぐにはどうしたらよいか、人や組織はなぜ無責任で、非倫理的な行動を起こすのか―この問題を考えるに際して、「人間」の行動に焦点を当てた「行動倫理学」という行動心理学・行動経済学的アプローチにより、いわばミクロの視点から人や組織の行動メカニズムを読み解きながら、意思決定プロセスに潜むさまざまな落とし穴を浮き彫りにした本です。個人的には2014年に読み、今回が約10年ぶりの再読及び選評になります・。

 第1章では、たいがいの人はおおむね倫理的に行動しているが、ときには自分が非倫理的行動をとっていると自覚している場合もあり、いちばん危険なのは、自分も気づかずに非倫理的な行動をとるケースであるとしています。

 第2章では、人は概して、自分の倫理上の判断がバイアスの影響を受けていても気づかずに非倫理的決定を下しがちで、そうした人間の認知能力の限界(「倫理の死角」)を前提に物事を考えるのが「行動倫理学」であるとしています。

 第3章では、無意識のうちに非倫理的行動を取ってしまう心理的プロセスについて述べており、そこには、内集団びいき、日常的偏見、自己中心主義のバイアス、未来の過剰な割引の4つがその要因としてあるとして分析しています。

 第4章では、聡明な人たちがどうして意思決定の際に問題の倫理的側面を見落としてしまうのかについて、意思決定の「事前」の予測の誤り(自分の倫理的行動能力を過大評価し、倫理問題を度外視した判断(直感的行動)をしがち)、意思決定の「最中」の「したい」の自己と「すべき」の自己のせめぎ合い、意思決定の「事後」の回想のバイアス(自分の判断を正当化したり、倫理性の判断基準をすり替えたりして、自己イメージを守りがち)の3点から分析しています。

 第5章では、どうして多くの人が他人の非倫理的行動を見落としたり、阻止できなかったりするのかについて、動機づけられた見落とし(非倫理的行動を黙認する方が自分の得になるという)、間接性による見落とし、段階的エスカレートの罠、結果偏重のバイアスの4点から分析しています。

 以下の三章では、そうしたバイアスが組織と社会に及ぼす影響と、問題のある行動パターンを改めるための道筋について論じています。

 第6章では、なぜ倫理的な組織を築けないのかを考察し、報酬システムのゆがみ、制裁システムの思わぬ副作用、善行の「免罪符効果」、目に見えない組織文化の影響の4点から分析しています。

 第7章では、なぜ改革が実現しないのか、どのような組織がどうやって非倫理的行動を増幅させているのかを、たばこ産業、(経営破綻したエンロンの)会計事務所、エネルギー産業を例に見ていっています。

 第8章では、読者が自分の「倫理の死角」をなくし、人生でぶつかる倫理上のジレンマを明確に認識できるように、個人、組織、社会の各レベルでのアドバイスを記して、本書を締めくくっています。

 興味深いのは、コンプライアンスの取り組みを進めても、逆にそのことがバイアスとなって、組織の暗黙の文化が非倫理的な行動を助長してしまうことがあることを指摘している点で、制度化の圧力が強まると、人は制度や目標に合わせることばかり考え、内面からの動機や自らの言葉で倫理問題について考えなくなる傾向にあるという指摘は、非常にブラインド・スポットを突いているように思いました。

 制度化を進めるだけでは非倫理的行動を防ぐという期待通り効果を生むとは限らず、一つの意思決定が組織内・外にどういった倫理的影響を与えるか、一人一人が考えることが大事であり、企業側も、形式的な取り組みではなく、自社が抱える問題を明確にし、自らの言葉で説明し、それに応える制度を作っていかない限り、経営基盤の強化にも繋がらないということなのでしょう。

 今回読み直して(翻訳者も同じですが)改めて考えさせられる面があり、評価を★★★★から★★★★☆に変更しました。

【2772】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『企業変革の名著を読む』 (2016/12 日経文庫)

《読書MEMO》
企業変革の名著を読む.jpg● 『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)で取り上げている本
1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角』
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』


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オプティミストの優位性を説くが、企業には職業的ペシミストも必要であると。

オプティミストはなぜ成功するか2.jpgオプティミストはなぜ成功するか2013.jpg
オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)』['13年]

 ポジティブ心理学を創始した心理学者マーティン・セリグマン((Martin E. P. Seligman、1942年- )の本(英題"Learned Optimizm")で、楽観主義者(オプティミスト)はうつ病になりにくく、諦めが悪く粘り強いので、悲観主義者(ペシミスト)よりもいい結果を残すことが多いとしています。3部構成の第1部はセリグマンの学習性無力感の研究の経緯やチェックリストがあり、第2部はオプティミストの利点、第3部はオプティミストになるための方法が書かれています。

 第1部「オプティミズムとは何か」では、人生にはペシミズム(悲観主義)とオプティミズム(楽観主義)という2つの見方があり(第1章)、困難を前にして無力状態に陥りやすい者とそうでない者がいて(第2章)、両者の違いは、不幸な出来事をどう自分に説明するかにあるとしています(第3章)。さらに、悲観主義の行きつくところはうつ病であるが(第4章)、物事の考え方。、感じ方で人生は変わるとして、認知療法によりうつ病を克服した例などを紹介しています(第5章)。

 第2部「オプティミズムが持つ力」では、どんな(説明スタイルの)人が成功するか、大手生保会社での実証的研究をもとに考察しています(第6章)。さらに、楽観主義は親から子に遺伝するのか(第7章)、学校で良い成績をあげるのはどんな子か(第8章)、偉大な記録を打ち立てたスポーツ選手やチームはどうであったか(第9章)、人の寿命という面で、楽観主義と健康的人生とは関係があるのか(第10章)、政治家の選挙戦ではどうか(第11章)を実証的に考察し、いずれについても概ねオプティミストの優位性を説いています。

 ただし、第6章では、会社で研究開発や企画に携わる人々は夢を追うタイプでなければならないが、社員全員がオプティミストだと会社は破綻するとし、財務管理や安全管理などの面では、現在の状況をしっかり把握している職業的ペシミストが必要であるとして、ある分野では悲観主義者の方が優れていることを指摘しています。

 第3部「変身―ペシミストからオプティミストへ」では、自分が楽観的な人生を送るにはどうすればよいか(第12章)、子どもを悲観主義から守るにはどうすればよいか(第13章)、楽観主義は仕事や会社にどういった影響を与えるか(第14章)をそれぞれ考察し、最後に、楽観主義は人々が設定した目標を達成するための道具であり、この目標選択自体にこそ意味があるとし、やみくもな楽観主義ではなく、しっかりと目を見開いた柔軟な楽観主義が望まれるとしています(第15章)。

 このうち、第14章では、企業の職場における楽観主義が必須条件である分野と、慎重を期する悲観主義が長所となる分野を列挙していて(「人事」は後者に属している)、その人の楽観度に適した仕事に配置することが大切だが、現在就いている仕事に悲観的でいる人も、楽観主義を習得することはできるとして、認知療法の考えを生かしたテクニックを示しています。

 自己啓発書であり(ただし科学実証的根拠による)、人によって読みどころは違ってくると思いますが、自分はどのタイプであり、どうすればオプティミストになれるか知りたい人は、チェックリストのある章と第3部を読むといいと思います。また、人事パーソンにとっては、第6章、第14章が読みどころかと思います。

 著者は、ポジティブ心理学と学習性無力感で有名ですが、意外とその詳細は知られておらず、本書を読むことで、ポジティブ心理学とは何かが理解出来るのではないかと思われます。

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企業内でキャリア研修に携わる人だけでなく、人事パーソン全般にお薦め。

トランジション 2.jpgトランジション.jpg トランジション 人生の転機.jpg
トランジション ――人生の転機を活かすために (フェニックスシリーズ) 』['00年]/『トランジション: 人生の転機』['94年]

 人生で訪れる転機をどのように乗り越え、変化に適応していくか―本書では、キャリアや生涯での節目をトランジションと呼び、キャリアや生涯での節目にあたるトランジションには、何かが終わるとき(終わり)、混乱や苦悩のとき(ニュートラルゾーン)、新しい何かが始まるとき(始まり)の3つの段階があるとし、人生で訪れる転機をどのように乗り越えるかを説いています。第Ⅰ部(第1章~第4章)では、人生の発達過程としてのトランジションが、人間関係や職業生活にどう影響するかを考察し、第Ⅱ部(第5章~第7章)では、トランジションの3つ段階についてそれぞれ解説しています。

 第1章では、すべてのトランジションは何かの「終わり」から始まり、「終わり」の後に「始まり」があるが、その間に重要な空白ないし休養期間が入るとしています。そして、トランジションの過程で、人は「死と再生」を経験するとしています。

 第2章では、人生はトランジションの連続であり、それは人生の発達過程としてとらえることができるとし、子ども時代の終わり、30代、「中年の危機」、それ以降のヒンドゥー教で言うところの「林住期」のそれぞれにおけるトランジションについて述べています。

 第3章では、人間関係にもトランジションがあり、たとえば夫婦関係とは、相手の物語に組み込まれた役割を演じることであり、危機の中で二人の関係をどう育むかが大切であるとし、人間関係がトランジションを迎えている人が留意すべきチェックリストを示しています。

 第4章では、トランジションは「終わり」から始まり、「ニュートラルゾーン」「始まり」という3つの局面があるが、人間関係と同様に、職業生活にも人生のステージごとにトランジションのリズムがあるとし、トランジションに直面した際にその意味を見い出し、自分自身のために「もはやふさわしいとは言えなくなった」ことが何であるかとしっかりと捉える必要があると説いています。

 第5章では、トランジションの最初の局面としての「終わり」には、離脱・解体・アイデンティティの喪失・覚醒・方向感覚の喪失の5つの側面があるとし、また、トランジションが変化と異なる点は、自分にふさわしくなくなったものを手放すことから始めることにあるとしています。

 第6章では、「ニュートラルゾーン」は経験したことのない不思議な体験であり、深刻な虚無感を伴うものであるが、そこに意味を見い出し、この時期をできるだけ短く切り上げるにはどうすればよいか、そのヒントを挙げています。

 第7章では、「始まり」について、それは印象に残らない形で生じるが、「始まり」を知らせるヒントはどのように現れるか、また、「始まり」において留意すべきことは何かを述べています。

 人材不足の時代、企業は、社員のトランジションをサポートする仕組み作りをすることが、人材定着率の中長期的な向上に繋がるのではないでしょうか。キャリア研修の担当者に限らず、広く人事パーソンにお薦めです。もちろん、自分自身に引き寄せて読んでみるのもいいと思います。

《読書MEMO》
●ニュートラルゾーンの中で、その意味を見いだすためのヒント(第6章・207p)
 (1) ニュートラルゾーンで過ごす時間の必要性を認める
 (2) 一人になれる特定の時間と場所を確保する
 (3) ニュートラルゾーンの体験を記録する
 (4) 自叙伝を書くために、ひと休みする
 (5) この機会に、本当にしたいことを見いだす
 (6) もし今死んだら、心残りは何かを考える
     人生を後悔しないための重要な質問が「今自分の人生が終わったら心残りになることは何か?」。
     日々この質問を自分にすることで、やり残すことがないように生きる。
 (7) 数日間、あなたなりの通過儀礼を体験する
●「始まり」において留意すべきこと(第7章:244p)
 第一:あまり準備せずに行動する
 第二:「始まり」がもたらした結果を確認する
 第三:目標よりもプロセスを重視する
     大切なのは何か目標を達成するのではなく、人生の過程そのもの。
     何を得たのではなく、何を経験し、どのように生きたか?本当に大切にすべきなのは生きていく過程そのもの。
     目標が達成された or 失敗したで物事の価値を決めてはいけない。行動したことは間違いではないから。

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企業内でキャリア研修に携わる人事パーソン、キャリアの入り口にある人にお薦め。

その幸運は偶然ではないんです1.jpgその幸運は偶然ではないんです2005.jpg J.D.クランボルツ.jpg J.D.クランボルツ(1928-2019)
その幸運は偶然ではないんです! 』['05年]

 何か事が上手くいった人が、「偶然だよ。たまたま運が良かっただけ」だと言ったりもしますが、心理学者でキャリアカウンセラーでもある著者らによる本書では、想定外の出来事が本物のチャンスに変わる時、全くの偶然など存在せず、そこには、必ずその人自身が果たした「いくつかの行動」があり、そこから新しいチャンスを創り出せた人が人生を変えられるとして、45人のキャリアをめぐるケースを紹介しています。

 第1章では、人生の目標を決め、将来のキャリア設計を考え、自分の性格やタイプを分析したからといって、自分の望む仕事を見つけることができるわけではなく、人生には予測不可能なことのほうが多いが、結果がわからないときでも、行動を起こしてチャンスを切り開くこと、想定外の出来事を最大限に活用することが大事であるとしています。

 第2章では、自分自身も環境も変化していくなかで、自分の将来を今決めるよりも、選択肢はいつもオープンにしているほうがずっとよいとしています。

 第3章では、夢が計画どおり実現しなかったとしても、「夢は消えてしまった」と考えるのではなく、「状況が変わった。さらに自分にとってよいチャンスを探すにはどうしたらいいだろう!」と考えるべきであるとして、「夢から覚める方法」を指南しています。

 第4章では、新しいことをやるときにはリスクがあり、結果がどうなるかわからないが、結果が見えなくてもやってみることが重要であり、失敗を恐れて何もしなければ、どんな幸運も訪れてはくれないとしています。

 第5章では、新しいことに挑戦することは、時として失敗という結果につながることがあるが、間違えるかもしれないという恐怖から何もしないことよりも、間違いから学ぶことこそ成功につながるとしています。

 第6章では、過去の自分をひきずったり、意にそわない現在の仕事にこだわる必要はなく、将来に向かって自分の環境を変えていくための行動を起こすことが大切であるとして、それではどうすればよいかを述べています。

 第7章では、まず仕事に就いて、それからスキルを学べばよいとしています。スキルやキャリアを身につけるための「学ぶ意欲」こそが重要であり、逆に、要求されるスキルがあったとしても、それですべての仕事がうまくいくと限らず、変化の激しい時代には「学び続けること」こそが最も大切であるとしています。

 第8章では、行動を起こすことが重要なのに、それが時として難しいのは、自分の中にある心理的な障害によることが多く、まずはそうした心の壁を克服することに焦点を当ててみることを勧めています。

 45人のキャリアをめぐるエピソードの中は、自分のキャリアを変えられなかった人の話もあり、何が自分の望む仕事に就くことの障害になるかを知る上でも参考になります。また、各章の末尾に、章ごとのテーマに沿った「練習問題」があり、書かれていることを自分に当てはめた場合どうであるかチェックできるようになっています。

因みに、著者らの提唱するプランドハプンスタンス理論=計画的偶発性理論(本書そのものにこの言葉は出てこない)のキーファクターは大きく次の5つになるとされています。

 1.好奇心(Curiosity) 絶えず新しい学習の機会を模索し続ける
  「おもしろそうだ、やってみよう」
 2.持続性(Persistence) 失敗してもあきらめず、努力し続ける
  「同じ失敗はくり返さないぞ」
 3.楽観性(Optimism) 予期せぬ出来事を否定的に受け止めるのではなく、新しい成長をもたらす機会ととらえる
  「この異動にも意味があるはずだ」
 4.冒険心(Risk Taking) 結果が不確実でも、リスクを冒して行動する
  「先は見えないけど挑戦することに意味がある」
 5.柔軟性(Flexibility) 過去に固執せず、信念・概念・態度・行動を変える
  「過去は過去。新しい方法でやってみよう」

 上記に照らすと、本書の第2章は柔軟性、第3章は楽観性・柔軟性、第4章・第5章は冒険心、第6章は柔軟性、第7章は持続性、第8章は柔軟性について言っているともいえるのではないでしょうか。


 本書に書かれていること並びにプランドハプンスタンス理論に沿って言えば、計画や人生の目標は変わってよいものであり、道をひとつに決めずにオープンマインドでいることが重要であって、ただし、失敗を恐れて行動しなければ、何も起こらないのは確かなことであるということです。そして、キャリアの多くは予期しない偶然の出来事により形成されるが、その偶然は、自分の行動や考え方によって産み出しているといってもよいということでしょう。

 キャリアプランを立てることが重要視され、一貫性のあるキャリアばかりが評価される風潮にある中で、企業内でキャリア研修に携わるような人事パーソンは、そうした考え方へのアンチテーゼとして、このプランドハプンスタンス理論を意識しておく必要があるように思います。

 また。日本では、キャリア研修というのは中高年になったから実施されることが多いように思いますが(中高年人材をリリースするために行っている印象もある)、本書はキャリアの入り口にあるような人たちにむしろお薦めの本であり、本来であれば、キャリア研修も若手社員のうちからやるべきものなのだろなあとも思わされました(若手人材囲い込みのために敢えて行っていない気もする)。

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リーダーの在り方と併せ、リーダーシップ研修を行う際の気づきを促してくれる。

次世代型リーダーの基準1.jpg次世代型リーダーの基準.jpg
次世代型リーダーの基準 世界基準で「話す」「導く」「考える」 (角川新書)』['22年]

 GE(ゼネラル・エレクトリック)のリーダー育成機関「クロトンビル」でマスター・トレーナーを務めた著者が、GEの幹部研修で語られる「リーダーに求められる考え方」「リーダーシップを発揮するために必要なスキル」を紹介した本です。

 第1部「仕事の基本」では、序章で、誰もが今よりも「自分を進化」させることができるとし、第1章で、自分を「知る」ための方法を「ジョハリの窓」などを用いて紹介、第2章で、自分で「考える」とはどういうことかを述べています。第3章では、自分を「鍛える」にはどうすればよいか、そのために心掛けるべきことを説き、「学ぶことをやめたら、会社を去れ」とまで言い切っています。第4章では、自分を「変える」ステップを「守・破・離」という考え方などと併せて解説し、第5章では、自分をより高みに「導く」ためには、自分の運命を自分でコントロールすることを意識せよと述べています。

 第2部「部下の育て方」では、序章で、なぜ部下を育てなければならないのかを説き、第1章で、部下を"エンゲージ"させるにはどうすればよいか、第2章で、部下の"人生の価値観"を把握するにはどうすればよいかを、それぞれ解説しています。第3章では、GEにおいてOJD(On the Job Development)と呼ばれる仕事を通じた人材育成について、フィードバックやコーチングの在り方と併せてそのポイントを紹介しています。第4章では、部下の基本能力をアップデートし、単なる「権限移譲」を超えた「エンパワーメント」をするための実践方法を説き、仮に「今日から100日で部下を育てよ」と言われたら何から着手すべきかを述べています。

 第3部「プレゼンの基本」では、序章で、なぜGEにおけるプレゼンが簡潔であることを旨としているのか解説しています。第1章で、優れた人は事前に「聞き手を知ろう」として情報を集めて整理するとし、第2章では、なぜ「構造がシンプル」な話は効果的なのか、プレゼンの全体構造の在り方について述べています。第3章では、なぜ簡潔な資料が「人を動かす」のか、第4章では、なぜ短く「15秒で話す」と記憶に残るのか、聞き手にとって印象的なプレゼンにするための技法を紹介し、第5章では、質問・反論は「歓迎すべき」ものであるとしてその理由を述べています。

 著者の前著『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本』(2014年)、『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』(2017年)、『世界基準の「部下の育て方」』(2019年)の3冊を合本・再編集したものであるため内容的には盛りだくさんです。ただし、図などの使用は最小限に抑え、ちょうど研修の場で講師が語るようなトーンで書かれていて、また、著者自身の経験に近いところで書かれていることあり、比較的読みやすかったです。

 GEでトップ15%の社員が受けられる幹部研修で語られる内容というだけあって、強い上昇志向が前提となっているように感じられます。また、GEという一企業の研修内容を紹介して「次世代型」「世界基準」と言い切る自信はスゴイいと思いました。しかしながら、ものすごく目新しいこと書かれているわけではなく、普段そこまで考えなかったり見落としがちであったりするけれども、本来は基本として押さえていくべきことが多く書かれていると思いました。

 自分の価値観を知る人は成長が早く、ではそれをどうやって知るかといったマインドセット的なことことから、プレゼンの後「ご質問はありませんか?」ではなく「ご質問をお願いします」と言うのがよいといったテクニカルなことまで、まさに「考え方」から「スキル」まで幅広くかつ体系的に網羅されていて、人事パーソンにとっては、リーダーの在り方を考える上でもそうですが、リーダーシップ研修を行う際のさまざまな気づきを促してくれる本でもあるかと思います。

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指図や命令なしに人を動かす力こそが本物のリーダーシップ。その鍛え上げ方を説く。

あなたがリーダーに生まれ変わるとき.jpgあなたがリーダーに生まれ変わるとき2006.jpg developing the leader within you.jpg ジョン・C・マクスウェル2.jpg ジョン・C・マクスウェル 『あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発する』 〔'06年〕『Developing the Leader within you

 あとがきによると、著者は、アメリカでリーダーシップと言えば、知らない人がいないほどの権威であり、さらに、Wikipediaによれば、2014年に、「Inc.」誌による世界のリーダーシップ、経営の専門家のランキングで第1位となったそうです(二十数年にわたり教会の主任牧師を務めた経験も持つ)。そうした著者の古典的名著とされる本書(原題:Developing the Leader Within You, 1993 (Repackaged 2001))は、指図や命令なしに人を動かす力こそが本物のリーダーシップであるとし、誰もが持っている本物のリーダーになるための資質を鍛え上げるにはどうすればよいかを説いた本です。

 第1章では、リーダーシップとは影響力のことであり、それは身につけられるものだとしています。さらに、リーダーシップには、低次から高次にかけて、①地位、②相互理解、③成果、④人材育成、⑤人間性の5つのレベルがあるとしています。

 第2章では、リーダーシップ発揮のカギは、ものごとの優先順位を見きわめることであるとし、パレートの法則(80:20の法則)を紹介するとともに、その優先順位に見られるいくつかの法則を解説しています。

 第3章では、リーダーシップの最も重要な構成要素は誠実さであるとし、誠実さが信頼感を育てること、誠実さは大きな影響力があることなど、誠実さが重要な理由を7つ挙げています。

 第4章では、リーダーシップの究極の試練は、徹底した変革を生み出せるかどうかであり、なぜ人は変化に抵抗するのか、変化を起こす前にチェックすべきことは何か、変化に向かう空気をつくり出すにはそうすればよいかを説いています。

 第5章では、リーダーシップを手に入れる最速の方法は、みなが抱えている問題を解決することであり、優れたリーダーは先回りして問題を認識する能力を有し、立ち向かっている問題の大きさを評価でき、正しい心構えのもと、しっかりした行動計画を立て、問題解決へのプロセスを過たないとしています。

 第6章では、リーダーシップにとりわけ大切なものはその心構えであり、リーダーの心構えが部下の心構えをも左右するとして、自分の心構えを変えるにはどのようなステップを踏めばよいか解説しています。

 第7章では、周りの人たちまでをリーダーに育て上げるだけの影響力があるリーダーには限界がないとし、人材育成の成功のカギをとして、①人について適切な仮説を立てる、②人について適切な質問をぶつける、③人に対して適切な支援をする、の3つを挙げています。

 第8章では、リーダーシップになくてはならない資質として、ビジョンを挙げています。そして、ビジョンを企業に根づかせるには、①認知(現実的な目で現状をみつめる)、②先見性(洞察力のある目でこらから先のことを見通す)、③可能性(ビジョンのある目で起こりそうなことを見通す)の3つのレベルがあるとしています。

 第9章では、本物のリーダーはみな、自分自身を律して初めて、周りの人たちを動かせることを知っているとして、リーダーにとっての自己規律の重要性を説くとともに、自分の生活にめりはりをつけるために実践すべき10のこと、誠実さを育むために意識すべき5つにことを挙げています。

 第10章では、リーダーシップの最も重要な課題はスタッフの育成であるとしています。常勝チームには本物のリーダーがいて、財務・人事・計画立案の三大分野をコントロールし、優秀な人材を選抜し、メンバーの実力を向上させているとしています。

 極めてオーソドックスなことが書かれており、「リーダーシップ」について俯瞰するのに適切な本です。本書によれば、最も内向的な人でも一生の間に1万人の人たちに影響を与えるという社会学者の説があるとのこと。そして本書では、リーダーシップとは影響力のことであると言っているわけです。他の人に影響を与える可能性のある人間としての心構えを持ち、自分のリーダーシップの潜在能力を開発することは、充実した人生を送るためには、誰にとっても必要なことかもしれないと、改めて思わされる内容でした。

多くの事例を引いていますが、それで終わらせず、その都度、ポイントを3つや5つ、或いは10程度にとまとめているのが分かりやすいです。以前に著者の『伸びる会社には必ず理想のリーダーがいる』('11年/辰巳出版)を読みましたが、著者のこれまでの著作から著者自身がエッセイを130篇抜粋して、26週間の月曜から金曜まで毎週5日、それぞれ1日1頁に収まるような形で割り振ったもので、本来ならば、26週間かけてじっくり内省を深めながら読むべきなのだろうけれど、これを一気に読んでしまったので、何だか"お腹一杯"であまり頭に残らなかった感じでした。こっちを先に読んでおけば、先に「体系」が理解出来てよかったかもしれないと思った次第です。

《読書MEMO》
●【目次】
はじめに
第1章 リーダーシップとは影響力のこと
第2章 リーダーシップ発揮のカギ 優先順位の見きわめ
第3章 リーダーシップの最も重要な構成要素 誠実さ
第4章 リーダーシップ究極のテスト 徹底した変革を生み出せるか
第5章 リーダーシップを手に入れる最速の方法 問題の解決
第6章 リーダーシップにとりわけ大切なもの 心構え
第7章 最も大切な資産を育てる 人材の育成
第8章 リーダーシップになくてはならない資質 ビジョン
第9章 リーダーシップにつける価格 自己規律
第10章 リーダーシップの最も重要な課題 スタッフの育成
エピローグ
訳者あとがき
●リーダーシップの5つのレベル(第1章)
・第一レベル:地位
・第二レベル:相互理解
・第三レベル:成果
・第四レベル:人材育成
●優先順位の法則(第2章)
・優先順位は決して"不変不動"ではない
・どんなに重要そうに見えても、無視できないものはない
・"そこそこの出来"は"最高の出来"の敵
・すべてを手に入れることは不可能
・優先順位の高いものがあまりにも多いと、立ち往生の原因になる
・優先順位の低いものが過大な負担になると大きな問題が生まれる
・期限と緊急度が私たちに優先順位の設定を迫る
・本当に重要なものがわかったときには手遅れ、という場合が多すぎる
●誠実さはなぜ重要か、7つの理由(第3章)
①誠実さが信頼感を育てる
②誠実さには大きな影響力がある
③誠実さは志の高い規範を生み出す力となる
④誠実さが生み出すのはイメージではなく確かな評判
⑤誠実さとは人を動かす前に自分時自身が日々誠実に生きること
⑥誠実さは、リーダがただ賢くなるのではなく信頼できる人物になるための力になる
⑦誠実さは必死で身につけるもの
●心構えを変えるための6段階(第6章)
①問題のある感情を見きわめる
②問題のある行動を見きわめる
③問題のある考えからを見きわめる
④真っ当な考えを見きわめる
⑤組織全体が真っ当な考えにこだわるようにする
⑥真っ当な考えを実現する計画を練る
●人材育成の成功のカギをと(第7章)
①人について適切な仮説を立てる
②人について適切な質問をぶつける
③人に対して適切な支援をする
●ビジョンを企業に根づかせるには(第8章で)
①認知(現実的な目で現状をみつめる)
②先見性(洞察力のある目でこらから先のことを見通す)
③可能性(ビジョンのある目で起こりそうなことを見通す)
●自分の生活にめりはりをつける(第9章)
①自分の優先順位を定める
②自分のカレンダーに優先順位を書き込む
③予期しない案件に少しばかり時間を割く
④仕事への取り組みはひとつずつ
⑤仕事のスペースを整える
⑥自分の気質と相談しながら仕事をする
⑦通勤時間を簡単な仕事や自己啓発に活用する
⑧自分のために役立つシステムを開発する
⑨会議と会議の合間の分秒を活用するプランを常に用意する
⑩活動ではなく、成果にこだわる

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○経営思想家トップ50 ランクイン(バーバラ・ケラーマン)

すぐれたリーダーの34の資質。自ら「強み」に沿った「人の動かし方」を伝授。

ストレングス・リーダーシップ.jpgストレングス・リーダーシップ2013.jpg ストレングス・リーダーシップ2.jpg
『ストレングス・リーダーシップ さあ、リーダーの才能に目覚めよう』['13年] ギャラップ著『ストレングス・リーダーシップ<新装版> さあ、リーダーの才能に目覚めよう』['22年]

 本書は、すぐれたリーダーの条件とは何か、それを34の資質に分類し、その強みを活かした「人の動かし方」を伝授しています('22年に著者らが所属した調査会社ギャラップの著作として新装版が刊行されている)。

 本文は4つの章に分かれ、それぞれ、「強みに集中する大切さ」「強みを活かしたチーム力の発揮」「人がついてくる理由」「強みを活かして人を率いる方法」を説いています。

 第1章「自分の強みに投資する」では、リーダーにとっての自らの強みに集中することの大切さを説いています。あらゆることに秀でようとすると傑出した存在にはなれず、他の素晴らしいリーダーを真似ても人はついてこないとし、取り組むべきことは「自分ならでは強みを知り、発揮すること」であるとしています。

 第2章「チームの力を最大限に活かす」では、すぐれたチームが備える4つの条件を挙げています。すぐれたチームには「実行力」「影響力」「人間関係構築力」「戦略的思考力」の4つの条件が揃っているとし、さらにそれらを34の資質に分類しています。また、強固なチームの特徴として、「結果を重視する」、「組織にとって最善のことを優先し、行動を起こす」、「チームのメンバーは、仕事と同じように私生活にも真剣にかかわる」、「多様性を受け入れる」、「才能を引きつける」の5つを挙げています。

 第3章「『なぜ人がついてくるか』を理解する」では、人がついてくる4つの理由として、「信頼」(正直さ、誠実さ、尊敬により育まれる人間関係)、「思いやり」(親密でいたわりのある、ポジティブなコミュニケーション)、「安定」(必要なときにいつでも頼れる人であること)、「希望」(組織に成長をもたらす新たな取り組みに着手していること)を挙げています。

 第4章「実践編・強みを活かして人の率いる」では、ウェブ上のテストである「ストレングス・ファインダー」の質問を受けて、先に挙げた人を率いるための34の資質のどれが自分の強みになるかを理解することを推奨するとともに、この34のリーダーの強みについて、それぞれに即した「信頼」「思いやり」「安定」「希望」の発揮の仕方はどのようなものになるかを解説してします。

 たとえば、自身が〈最上志向〉を持っているなら、それを活かしてどうリーダーシップを発揮するか、具体的には、どう信頼を築くか、どう思いやりを示すか、どう安定をもたらすか、どう希望を生み出すかを伝授しています。さらには、その強みを持つ部下やメンバーに対して、リーダーとしてどうふるまえばよいかについてもアドバイスしています。

 すぐれたリーダーは、常に自身の「強み」に投資をし、また、周囲に適切な人材を配置して、メンバーごとの強みにあわせて仕事を任せることで、チームの力を最大限に引き出しているということを説いた本です。マネジャーが自分自身の強みとは何か、メンバーの強みは何か、それらをどう活かすかを考えるのにお薦めの1冊です。

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成功するリーダーの特性は、教育、学習とIdea、Value、Energy、Edge、Story。

リーダーシップ・エンジン.jpg リーダーシップ・エンジン1999.jpg
リーダーシップ・エンジン: 持続する企業成長の秘密』['99年]

 企業におけるリーダーシップを長年研究してきたビジネススクールの教授による本書は、勝ち続ける企業にはリーダーを生み出す仕組みがあるとし、成功するリーダーの特性を探究したリーダーシップ論となっています。

 第1章「リーダーが率いる組織」では、勝利する組織にはリーダーがいて、勝利するリーダーは教育を行い、また、過去を省みて、経験から貪欲に学習するとしています。さらに、リーダーには、アイデア、バリュー(価値観)、エネルギー、エッジ(大胆な意志決定力)、ストーリーが備わっているとしています。この教育、学習、アイデア、バリュー、エネルギー、エッジ、ストーリーの重要性については、後に第3章から第9章の各章でそれぞれ詳説されることになります。

 第2章「なぜリーダーが重要なのか」では、リーダーは変革のときを乗り切り、カルチャーを形成し、現実に直面して適切な対処を示し、他者も同様に行動するよう激励するとしています。

 第3章「リーダーシップおよび教育的見地」では、優れたリーダーは優れた教師であり、成功するリーダーは、教えることを第一義と捉え、あらゆる機会を逃さず学び、教えるとしています。また、リーダーとは「教育的見地」を持ち、他者をリーダーになるべく教える人のことであると述べています。

 第4章「プロローグとしての過去」では、成功するリーダーは自分の過去から教訓を得るが、誰にも役立つ過去があり、リーダーはそれを上手に活用するにすぎないとしています。また、リーダーのストーリーは、彼らの教育的見地を明らかにするとしています。

第5章「リーダーシップの神髄」では、勝利する組織は明確なアイデアの上に作られ、リーダーはアイデアを現実に即した適切なものにし、また、アイデアは、組織の全階層で行動の枠組みとなるとしています。

 第6章「価値観」では、勝利する組織にはしっかりした価値観があり、リーダーたちはその価値観を自ら実践するが、そうした価値観こそが競争力を強化する重要なツールになるとしています。

 第7章「実現する」では、勝利するリーダーは精力的な人間で、チャレンジを好み、自分の仕事を楽しむと同時に、従業員の中にエネルギーを創出し、野心に満ちた努力を促すとしています。

 第8章「エッジ」では、エッジとは、現実を直視し、それに基づいて行動する勇気であり、勝利するリーダーは決して楽な道をとらないとしています。また、エッジとは、残酷であることではなく正直であることであり、エッジがなければご都合主義が勝利を収めてしまうとも述べています。

 第9章「皆で一緒にトライする」では、リーダーにとって自身のリーダーシップ・ストーリーを描くことの重要性を説いています。勝利するリーダーは未来を展開中のドラマとして描き出し、そのダイナミックなストーリーは人々を動機づける成功へのシナリオとなるとしています。

 第10章「結び」では、これまでの総括として、勝利するリーダーシップとは未来を作ることであり、成功は他のリーダーを育成することで達成されるとしています。そして最後に、最高のリーダーは去るべきときを知っているとしています。

 本書におけるリーダーシップ・エンジンとは、組織の全階層でリーダーを生み出し続ける仕組みであり、優れたリーダーとは、わが身を削って後継者の育成を行う人々のことであるというのが本書の趣旨であるともいえます。

ジャック・ウェルチわが経営 下.jpgジャック・ウェルチわが経営.jpgジャック・ウェルチ.jpg GEのジャック・ウェルチなどがこの考え方に影響を受けており、また本書の中でもその実践者としてウェルチが登場します。そう言えば、『ジャック・ウェルチ わが経営』('01年/日本経済新聞社)の中で、A(評価)プレイヤーの4つのEとして、ウェルチは以下を挙げていました(ほぼ本書に重なる)。
 ・活力(Energy)
 ・周囲の活力を引き出す(Energize)
 ・決断力(Edge)
 ・実行力(Execute))

 後継者を育てないと自分が上に行けないという、米国流のプロモーション(昇進)の仕組みも関係しているとは思ますが、リーダーが忙しさにかまけて後継を育てないとき、そのリーダーが去ったあとの組織はどうなるだろうかということを考えてみれば、どこにでも当て嵌まる帰結であるとも言えます。

 だだ、日本の企業で、われわれの日常で、そうしたことが日々どれほど真剣に行われているか、どれだけの経営者がこの考えに沿って実践しているかを考えると、(反省も込めて)改めて啓発される本であるように思いました。

《読書MEMO》
●アイデア、バリュー(価値観)、エネルギー、エッジ、ストーリー
(1)アイデア(Idea):仕事を成功させるためのアイデアを確立せよ。アイデアは組織としての目標を明確に述べるもの。これを明示することによって組織は大きく変わる。
(2)バリュー(Value)(価値観):目的を達成するために必要な価値基準バリューを組織に浸透させよ。バリューは望ましい行動様式を規定する。いかにして目標を達するかという方法に関わる。いわば日々の判断に際しての倫理的指針。リーダーはこれを体現せよ。そして組織に浸透させよ。ジョンソン&ジョンソン社の「タイラノル事件」(鎮痛剤のビンに毒を入れられた事件)の際の見事な行動は、その直前に会社のバリューを全社的に見直したことによる。組織としてバリュー を持つだけでは不十分で人々に徹底しておく必要がある。
(3)エネルギー(Energy):部下にエネルギーを注入せよ。そもそもリーダーはエネルギッシュな人。仕事に価値を見出しているから、ほかを犠牲にしているという意識なくして仕事に勢力を注ぎ込む。かくして部下のエネルギーをかき立てよ。やる気にさせよ。方法はさまざまある。パーソナルタッチもよい。より高い目標を設定することでもよい。
(4)エッジ(Edge):リーダーは厳しい決断をせよ。エッジ とは、現実を直視する能力、今後発展の望めない分野からきっぱりと手を引く能力、組織にとってプラスでない人物を取り除く能力を意味する。いずれにせよ、個人的にはつらい厳しい決断をしなくてはならない。
(5)ストーリー(Story):以上の全ての要素を盛り込んだ生き生きとしたストーリーを語れ。物語を語れ。そうすることによって部下は全てを理解する。

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オーソドックスかつ普遍的な内容。読み流すのではなく実践の書として読むべき本。

ベイシック・マネジャー.jpgベイシック・マネジャー1984.jpg ベイシック・マネジャー2.jpg
ベイシック・マネジャー: 部下の動きを働きに変えるリーダーシップ』['84年]

 1983年原著(Back-to-basics Management: Lost Craft of Leadership)刊行の本書の訳者はしがきによれば、80年代後半にアメリカ経済を蘇らせた、この自信と回復のポイントは、一時的な流行を追いかけることに狂奔せず、温故知新を真面目に行い、基本に立ち戻る精神の作興であり、こうしたアメリカのマネジメントを蘇生させた原点回帰運動の基本的宣言であり、実践的指南書が本書『ベイシック・マネジャー』であるとのことです。本書は、コミュニケーションを基軸としたリーダーシップの復活を熱っぽく説いて、マネジメントとして古くて新しい真理の現実的展開法と領域の第一歩を丁寧に手ほどきしたものであるとのことです。

 第1章では、ベイシック・マネジメントとは何か、ベイシック・マネジャーの特質を述べています。そして、その特質は以下のようになるとしています。
 1.自分自身を知っている。
 2.物事をやり遂げることに関してエキスパートである。
 3.時間の管理と自己管理にたけている。
 4.管理の最高の用具としてのコミュニケーションの利用価値を理解している。
 5.対人関係技術に優れている。
 6.創造的かつ革新的である。そしてグループ全体のやる気を盛り上げ、その創造的成果を活用する法を知っている。
 7.仕事を委譲して成功させる法を心得ている。
 8.影響力のある監督者になる法を知っている。

 第2章では、ベイシック・マネジメントに必要不可欠なものとして、人の話を創造的に聴く技術を挙げ、人の話を効果的に聴く能力をアップする方法や、話し手に対して注意を払ったり、相手の話の方向づけをする技術について解説し、さらに、相手への質問は控えめにすべきだとして、話し手の言い分を反映し、話し手に反応を示す技術や、反映的な聴き方以外の方法を紹介しています。

 第3章では、意思決定のしかたについて述べています。意思決定においてはまず「現地に見合った地図をつくる」ことが重要であるとし、「現地」とは何か、「地図」とは何か、判断のルールはどのようなもので、意思決定の実行はどのようになされるべきか、上司、他のマネジャー、部下に対するコミュニケーションはどうすればうまくいくかをそれぞれ解説しています。

 第4章では、変革を管理するための鍵となることについて述べています。また、マネジャー・リーダーはまず自分が変革を試みなければならないとし、変革に部下を巻き込むにはどうすればよいかを解説しています。

 第5章では、部下にやる気を起こさせるにはどうすればよいかを述べています。ここではマズローの欲求段階説を引いて欲求とモチベーションについて解説し、部下をやる気をさせる言葉や、やる気を起させるタイミング、「相手からいちばん良いものを引き出す」ためのマネジメントなどについて述べています。

 第6章では、時間をどう管理すべきかを述べています。ここでは、集中力を増すためのヒントや知識と経験の力、自己の時間管理法を高める方法について述べています。

 第7章では、権限移譲をどうマネジメントするかを述べています。権限移譲における"すべきこと""してはならないこと"は何か、権限移譲のやり方の計画や、権限移譲を成功させる要素などについて解説しています。

 第8章では、リーダーシップについて述べています。社会状況の変化に応じて、リーダーシップのあり方も変化するとして、その趨勢を分析し、これからの時代にどのようなリーダーシップが求められるかを考察しています。

 第9章では、コミュニケーションにおけるボディ・ランゲージの役割について述べ、基本的なボディ・ランゲージの数々について解説しています。

 第10章では、効果的に部下に指導するにはどうすればよいか、部下を訓練・指導する際のプロセスと障害、コミュニケーションと学習の方法などについて解説しています。

 第11章では、コミュニケーションの技術について述べています。コミュニケーションの技術に磨きをかけ、相手を言葉で説得できるようにするにはどうすればよいか、書く技術として求められるものは何か、ミーティングをもっとうまく利用するにはどうすればよいか、ディスカッションの進め方などについて述べています。

 第12章では、目標設定のマネジメントについて述べています。ここでは、目標設定の重要性を説くとともに、効果をあげる目標を立て、部下たちが従うことのできる計画を立てるこにはどうすればよいかを指南しています。

 ベイシック・マネジメントとは何か。著者らは、
・それは第一に「マネジメントを一つの手腕として掌握することである。実践とと現場で鍛え磨くアートとしてとらえることである」
・そして第二に、「人間各個人こそ、いかなる組織においても最も貴重な資産であるという人間尊重の理念をトコトンからだで認識することである」としています。

 このような発想を起点として、創造的な積極的傾聴法から意思決定へ、変化の先取りと計画変革の実現へ、動機づけのマネジメントへ、時間という貴重な資源の管理へ、権限移譲の適切な行使のしかたへと、部下コーチと教育訓練のあり方と手続きへ、コミュニケーション・スキルの向上へ、目標設定の的確な技術へと、冒頭に述べたように、マネジメントとして古くて新しい真理の現実的展開法と領域の第一歩を丁寧に手ほどきしているのが本書です。

 オーソドックスかつ普遍的な内容であり、平易でもありますが、訳者も述べているように、読み流しの書としてではなく、実践の書として読まれることで価値が増す本であると思います。

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リーダーシップは学んで得られ、仕事を成就するグループにより発揮される。

not boss nut leader John Adair.jpg『最良の指導者(リーダー)とは何か。』.jpg  ジョン・アデア.jpg ジョン・アデア
最良の指導者とは何か』['89年]

Not Bosses But Leaders: How to Lead the Way to Success』['87年]

 本書は、英国のリーダーシップ論の権威が、若きマネジャーが経営者として成長する課程を通して、具体的・合理的・実践的なリーダーシップ論を展開した本です(原題:Not Bosses But Leaders: How to Lead the Way to Success)。

 第1章では、リーダーシップ研究の3つのアプローチとして、リーダーに共通する特性があるとの前提に立つ方法、リーダーは資質ではなく状況によって誰がリーダーになるのかが決まるという前提に立つ方法、グループを構成する仕事、個人、チームという3つの要素こそがリーダーシップを発揮する対象であるとの前提に立つ方法を挙げています。以下、本書は、この3番目の方法を軸とするリーダーシップモデルを展開していきます。

 第2章では、チーム作りと意思決定について、仕事、個人、チームを3つの重なり合う円とし、その相互関係を述べています。仕事を達成することで、チームがまとまり、個人も満足するが、チームが満足なものでなければ、つまり、チームが結束に欠けていれば、仕事の達成度が悪くなり、個人の満足も減少するし、また、個人の要求が満たされなければ、チームの団結力が薄れ、仕事の達成度も悪くなるとしています。

 第3章では、リーダーシップとマネジメントの概念について整理しています。リーダーは変革を好み、リーダーシップとはインスピレーションであるとしています。さらに、マネジャーは必要だが、リーダーは不可欠であるとしています。

 第4章では、リーダーの力量を判断するチェックポイントを列挙するとともに、リーダーシップとは学んで得られるものであり、そのための訓練が必要であるとしています。

 第5章では、ビジネスの成功の鍵は戦略的思考のプロセスにあり、善良さと知性と経験こそがリーダーとしての英知を生み出すとしています。また、リーダーに不可欠な要素として、相手の言うことを「聴く」ことができなければならないとしています。

 第6章では、戦略的リーダーシップの原則として、計画だけでな部下をく行動させるために必要なことは何か述べています。

 第7章では、リーダーは惜しみなく与える存在であり、部下への気配りは最も重要であるとしています。

 第8章では、リーダーシップと権力(パワー)の行使の関係について、リーダーシップとは、賢明で鋭敏な感覚をもってする権力の行使であるとしています。また、リーダーとは、同等者の中の第一人者であり、まず部下や同僚に敬意を表せとしています。

 第9章では、上からではなく内側からのリーダーシップこそ最高の指導力であるとし、また、リーダーは人々に方向感覚を与えるとしています。

最良の指導者(リーダー)とは何か。 .jpg 著者は、組織におけるリーダーシップ論とリーダーシップ開発では世界的権威として認知されていますが、その理由は、自らが作り上げた機能的リーダーシップモデルによって、古代ギリシャ時代から定説であった「リーダーシップは生まれながらに持った先天性のもの」という認識から、「リーダーシップは訓練と経験によって後天的に誰もが身に付けられるもの」という自身の主張を裏付け、これまでの常識を覆したためであるとされています。

 本書では、本書に登場する若いマネジャーが実証しているように、ほんの少しばかりよけいに考え実践することにより、誰でもリーダーシップを大きく向上しうるとしています。そして、これからの社会に必要なのはボスではなくリーダーであると言っています。

 リーダーシップは学んで得られるもので、仕事を成就するグループを通して発揮されることを説いた、読みやすく、説得力もある内容であり、人事パーソンにお薦めできる本です。

 しかし、この頃の小林薫って、『1分間マネジャー』『1分間リーダーシップ』をはじめ、いっぱい翻訳してたなあ。

《読書MEMO》
Wikipediaより抜粋
●アデアの最大の功績は、はるか昔から主流であった「リーダーシップは生まれながらの資質によるものである」というそれまでの定説であったリーダー偉人説から、「リーダーシップは後天的なものであり、訓練と経験によって誰もが身に付けることができるもの」とし、それまでの常識を覆したことにある。
●彼はリーダーシップとマネジメントを明確に区別しており、マネジメントが力学、統制、システムに根差しているのに対し、リーダーシップは人に根ざしており、その発揮する対象は仕事、チーム、個人という3つの要素が重なり合った領域に働きかけるものとした。
●彼の思想は実用的であり、働く環境に関わらずすべてのマネジャーに当てはまる。また自著についても実際に現場で働くマネジャーやリーダーのために書かれたものが多く、その内容は緻密な分析に基づき慎重に書かれている。一部のリーダーシップ論者が書くような研究や学問のための著書ではないことも彼が現場や実用性を重視していることがうかがえる。また意思決定、イノベーション、モチベーション、コミュニケーションといったリーダーシップの実務的側面についても研究対象としており、彼の考えの多くは当時の時代を先取りしたもので、現在でも広く教えられ利用されている。

●優れたリーダーとなるために必要な7つの品格
リーダーシップにおいてパーソナリティやキャラクターを切り離すことはできないように、彼が提唱するリーダーが持つべき一定の資質というものが存在する。
 1.熱意:すべきことを一生懸命にする
 2.誠実さ:信頼関係を作り出す資質。また善や真実といった外部の価値観を固守するという意味も含まれる
 3.タフネス:リーダーはしばしば人々への要求者であり、ときにその水準が高いがゆえに周囲は不満を持つ。リーダーは立ち直りが早く、また粘り強い。
 4.公明正大:リーダーはお気に入りをつくらず、成果に対しては公平に報酬と罰を与える。
 5.温かさ:リーダーシップは感情をも包含するものだ。人々のために実践し、人に気を配り思いやる心は不可欠である。
 6.謙虚さ:最上級のリーダーたちが持つ特質でもある。優れたリーダーのしるしは、進んで傾聴し、うぬぼれたエゴを排除することである。
 7.信頼:不可欠な基本的要素である。

●リーダーシップを発揮する3つの対象領域(スリーサークル)
これらの欲求に対し、彼は仕事、チーム、個人、この3つこそがリーダーシップを発揮する対象であるとする。 すなわちチームメンバーは自分のリーダーに、
 ・「職務を遂行する手助けをしてほしい」
 ・「チームワークのシナジーを生んでほしい」
 ・「個人の要求に応えてほしい」
と期待するというものである。
この理論は、比喩的に3つの重なり合う円(スリーサークル)で描かれている。 この3つの円はそれぞれ
 ・仕事(Task)
 ・チーム(Team)
 ・個人(Individual)
を示しており、グループの欲求に対して、リーダーが取るべき基本的な行動の対象を表している。
仕事は1人の力だけでは達成できない。チームは職務を全うしたい欲求を持っている。チームが成功するには、絶えずグループの結束を高め、維持することが不可欠であり、団結したい欲求が備わっている。チームは団結すれば成功し、分裂すれば失敗する。個人の要求は、物質的なもの(給料・報酬など)と精神的なもの(評価、達成感、地位、仕事上での他者との関わりなど)がある。
また「仕事」「チーム」「個人」、3つの欲求は部分的に重なり合う必要がある。
 ・仕事を達成することで、チームがまとまり、個人も満足する。
 ・チームが満足なものでなければ、つまり、チームが結束に欠けていれば、仕事の達成度が悪くなり、個人の満足も減少する。
 ・個人の要求が満たされなければ、チームの団結力が薄れ、仕事の達成度も悪くなる。

●リーダーシップを発揮する目的、リーダーの役割
仕事・チーム・個人のバランスを俯瞰的に捉え、ニーズを満たすことがリーダーシップの発揮となり、リーダーシップを発揮する目的は下記の3つとも捉えることができる。
 1.タスクや目標を達成すること
 2.チームを作り、団結を維持すること
 3.個人の能力を開発すること

●7つのリーダーシップの実践行動(7 core Functions)
3つの領域において、期待に応えるために実践する7つの機能が存在する。これらの行動を起こすことがリーダーシップを発揮することになり、リーダーに求められる核となる行動と主張する。
 1.リスクを明確にする
 2,計画する
 3.統制する
 4.支援する
 5.評価する
 6.動機づけする
 7.模範となる

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ダイバシティ経営の推進に際してどこからどのように実践すべきかを示唆。

多様な人材のマネジメント』.jpg多様な人材のマネジメント.jpg
多様な人材のマネジメント (シリーズダイバーシティ経営)』['22年]

 ダイバーシティ経営の推進が必要とされる今日、日本企業が直面している課題を踏まえ、多様な人材の能力発揮を経営価値の向上につなげるために必要な人事管理、求められる社員像やそれに関連する取組みを紹介した本です。

 序章で、「理念共有経営」の実現推進、多様な「人材像」を想定した人事管理システムの構築など、ダイバーシティ経営を支える5つの柱を挙げています。第1章では、ダイバーシティ経営の推進における経営戦略との整合性の重要性を説き、経営戦略においてどのような人材戦略をとるのかを明確にして進める必要があるとしています。

 第2章では、職場の人材の多様性が増すことは、生産性や創造性の向上など多くの成果が期待される一方、職場のコンフリクトや不公平感の増大につながるリスクもあるとし、そうした効果やリスクを左右する、①企業を取り巻く環境、②施策を運用する管理職、③施策を受け止める社員、などの要因を視野に入れて施策を推進する必要があると説いています。

 第3章では、「ワーク・ワーク社員」(無限定社員)が減り、「ワーク・ライフ社員」(限定社員)など多様な就業ニーズを持つ社員が増え、企業も勤務地限定制度などの導入を進めてきているが、真に多様な社員を前提とした人事管理システムに日本企業が転換するためには、従来の「無限定雇用」(いわゆる正社員制度)を改革すべきであり、それとは別に多様な正社員制度を導入しても、正社員制度を本流、多様な正社員制度を傍流とする階層化が生じるだけであると述べています。

 第4章では、多様な人材が活躍できる柔軟な「働き方」に転換するために、時間意識の高い働き方への転換、働く場所の柔軟化に加えて、仕事と仕事以外の生活の境界管理が重要であり、自由時間に「心理的資本」を回復する「リカバリー体験」を実現することで、社員が仕事にエンゲージメントを感じたり、仕事でのパフォーマンスが向上するという好循環が生まれるとしています。

 第5章では、ダイバーシティ経営の前提となる労働者モデルは「自律的なキャリア形成」を行う個人ということができるとし、ダイバーシティ経営で重要な役割を担う社員の意識や行動の在り方、それを支援する企業のキャリア支援について述べています。

 第6章では、欧州企業におけるダイバーシティ経営の現況について事例分析し、その特徴から日本企業への示唆を読み取っています。欧州企業も人材の多様性を重視する経営に円滑に移行できているわけではないが、現場の管理職に人事権を委ねており、日本に比べてダイバーシティを阻む壁は低いとのことです。

 個人的な読みどころは第3章で、「メンバーシップ型雇用」と特徴づけられる日本型の従来の人事管理システムの改革の鍵は、職務記述書などの導入による「ジョブ型雇用」(そもそもこの用語の理解に混乱があるとしている)への転換ではなく、日本企業がこれまで堅持してきた、社員の異動・配置に関する包括的な人事権の見直し(「企業主導型キャリア管理」→「企業・社員調整型キャリア管理」)にあるとしている点でした。

 全体としてテキストというより論考集であり、ダイバシティ経営の推進に向けて、どこからどのようにに実践すべきかという示唆や提言があるのがいいと思いました。欧州企業の事例を紹介しながらも、日本企業の置かれた環境や実情を分析し、それらを踏まえた適合を図っていく姿勢が見られ、一読の価値があると思います。

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総花的ではなく、「組織モデル」を絞り込んで解説していて分かりやすい。

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図解 組織開発入門 組織づくりの基礎をイチから学びたい人のための「理論と実践」100のツボ』['22年]

 本書は、前著『図解 人材マネジメント入門』(2020年)に続く第2弾であり、「組織開発」の入門書になります。著者は本書で、人事担当者にとって組織開発とは「人事として取り組まなければならないことはわかっているが、正体のわからない不安なもの」なのではないかと述べていますが、確かにそうした面はあるように思います。そこで本書では、組織開発を「体系的にわかりやすく」理解できることを企図したとのことです。

 タイトルに「100のツボ」とあるように、全部で10のChapter(章)から成り、1つのChapterは10のツボ(ポイント)からできています。1つのツボは見開き2ページで完結した内容となっていて、見開き上部にQ&Aがあって、左ページに解説、右ページに図解があり、右下にはツボを理解し実践するためのヒントが記載されているという構成であるため、どこからでも読めるものとなっています。

 まず、「組織開発」とはそもそも何か、その目的、歴史、哲学の解説(第1章)から始まって、チェンジエージェント(第2章)、サーベイ・フィードバック(第3章)、対話型組織開発(第4章)など「組織開発のやり方・あり方」を解説していきます。第4章では、ホールシステム・アプローチ、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、フューチャーサーチ、オープンスペーステクノロジー、ワールドカフェといった具体的方法が紹介されています。

 第5章以降は「組織モデル」の解説となり、ピーター・センゲの提唱する「学習する組織」(第5章)、フレデリック・ラルーの「ティール組織」(第6章)、ジム・コリンズらの「ビジョナリー・カンパニー」(第7章)をそれぞれ取り上げて解説し、さらにザッポス社が実践している「デリバリング・ハピネス」という考え方(第8章)、リクルート社が実践してきた「心理学的経営」(第9章)を紹介し、最後に、野中郁次郎氏らの『知的創造企業』の続編『ワイズカンパニー』で提唱された考え方(第10章)について解説しています。

 入門書でありながら、総花的になっていないのがいいと思いました。特に「組織モデル」については、以上のように6つの考え方に絞り込んだ上でそれぞれ10のツボを紹介しているため、読者に考えながら読ませる、丁寧で多角的な解説となっています。また、各章末に「次の1歩」として原典や関連する書籍を6冊ずつ紹介しているため、より深耕したい読者にとってはいい手引きになるかと思います。

 また、組織モデルの説明として、「個・組織」を縦軸に、「内的(幸せ・充足)・外的(成功・上昇)」を横軸に置いたマトリクス図を設定し、図中に、ティール組織論における三つの発展段階「オレンジ達成型」(組織・外的)、「グリーン多元型」(組織・内的)、「ティール進化型」(個・外的)という組織の3つの発展段階の位置づけを示した上で、、さらに、「学習する組織」「ビジョナリー・カンパニー」「デリバリング・ハピネス」「心理学的経営」「ワイズカンパニー」がその図のどこに位置して、それらがどのような相関関係にあるかを示しているのも、「体系的にわかりやすく」という謳(うた)い文句どおりであったように思います。

 対話型組織開発の方法や組織モデルも含め、コンセプチュアルな要素の多い分野ですが、その点においては「図解」の助けを借りながら読み進むことができるのが有り難いです。読後に時間を経て読み直してみたいと思った際も、ページを開きやすいのではないかと思います。人事パーソンに広くお薦めします。

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テレワークが生み出すたくさんのメリット(啓発的)。テレワーク課題の克服法(実践的)。

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テレワーク本質論 企業・働く人・社会が幸せであり続ける「日本型テレワーク」のあり方』['22年]

 テレワーク専門のコンサルティング会社の設立者である著者によれば、感染防止のために多くの企業がテレワークを実施し、企業も働く側もそのメリットを実感したものの、コミュニケーションやマネジメント、生産性の低下などの課題にぶつかり、後戻りする企業が増え始めていて、一方で、課題を克服し、さらにテレワークを推し進め、大きく成長していく企業もあり、テレワーク推進はいま岐路にあるとのことです。

 第1章では、会社のテレワークが、コミュニケーションが取れない、マネジメントができない、生産性が上がらないといった課題にぶつかっているのならば、それは、テレワークに対する先入観や思い込みから「間違ったテレワーク」を実施したためであるとして、12の「間違ったテレワーク」の類型とその問題点を挙げ、この問題に向き合わずしてテレワークの成功はないとしています。

 第2章では、テレワークは、企業にとっては生産性向上、人材確保、働く人にとってはワーク・ライフ・バランス向上、さらには日本における労働力確保、少子化対策、地方創生など、数多くのメリットを生み出すものであるとしています。さらに、そうしたテレワークがなぜ日本では普及しにくいのか、その理由を考察し、欧米の真似でない日本型のテレワークの実現を訴えています。

 第3章では、適切なテレワークを導入するための考え方や方向性を、「仕事が限られると思い込むなかれ」「一緒に仕事をしている感を大切にせよ」「雑談してしまう〈場〉をつくれ」「ホウレンソウをデジタル化せよ」など「テレワークを成功に導く心得十か条」としてまとめ、それぞれを解説しています。

 第4章では、テレワークのコミュニケーションをよりリアルに近づけるための重要な要素として、①リアルタイムの会話、②話しかけるきっかけ、③チームの業務遂行、④インフォーマルな会話、⑤チームの一体感、の5つを挙げています。また、オンライン会議を活性化したり、オンラインとオフラインの人が混在する ハイブリッド会議をフェアに行うためのヒントや、雑談しやすい「場」と「雰囲気」のつくり方、「ホウレンソウ」をデジタル化する際のコツなどを説いています。

 第5章では、テ レワークでのマネジメント実践のポイントとして、通常の労働時間制度、フレックスタイム制、みなし労働時間制などのパターンを示し、テレワーク時の労働時間管理の方法と就業規則・運用ルールについて解説するとともに、自社で開発した、社員が「いつ」「どこで」「どんな仕事」をしているかを確認できるツールを紹介し、時間あたりの成果をどう把握するかを解説しています。

 第6章では、テレワークの広がりによるオフィスの変化やワーケーションへの関心の高まり、まちづくりへの活用や障がい者雇用の促進などの可能性を挙げ、日本型テレワークが企業・働く人・社会全体のウェルビーイングを実現するとして、本書を締めくくっています。

 テレワークは単なる「感染防止のための在宅勤務」ではなく、企業にとっても、働く人にとっても多くのメリットとがあるものであり、さらに社会にとっても、労働力確保、少子化対策、地方創生など多くのメリットを生み出すものであって、企業、働く人、社会全体を幸せにするとしている点が啓発的です。

 一方で、第4章における「テレワークでのコミュニケーション実践のポイント」などはたいへん具体的であり、オンライン会議を企画したりファシリテーターを務める人にはすぐにでも使える配慮や工夫などもあって、参考になるかと思います。

そうした人に限らず、テレワークに課題を抱える人やテレワークを進めたい人にお薦めですが、著者が本当に読んでほしいのは、テレワークの必要性に疑問を感じている人なのもしれません。


労働問題・人事マネジメント・仕事術

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ビジネスの本質は小さなチーム、小さな会社のやり方にこそあり。

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕.png小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕2012.jpg 小さなチーム、大きな仕事.jpg
小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則』['12年] 『小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則 (ハヤカワ新書juice)』['10年]

小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕2.jpg シカゴに本社を置く非上場企業でウェブアプリケーションを手がけているIT企業「37シグナルズ」(旧社名37signals、現社名Basecamp)の共同経営者らによる本書は、ビジネスの本質は小さなチーム、小さな会社のやり方にこそあり、大企業における資本のやり取りや体制変革ばかりに目を奪われていると、本当に大切なことを見失うことが多いと説いています。

 「見直す」の章では、失敗から学ぶな、計画は予想にすぎない(予想を頼りにしてはいけない。今年ではなく、今週することを決めよ)、会社の規模を気にするなとし、また、仕事依存症は(ワーカーホリック)は馬鹿げているとしています。

 「先に進む」の章では、他人の問題を解決しようとするのは、暗闇の中を無闇に進むのと同じで、自分にほしいものを作るべきだ、「時間がない」は言い訳にならない、また、ミッションステートメントについて。何かを信じるということを書くだけでは駄目で、本当にそれを信じ、そのとおりに人生を送ることだとしています。また、外部の資金はできるだけ少なくすべきだ、人も資金も必要なものは思ったより少ない、会社は身軽でいるべきで、身軽さをなくすものとして、長期契約、過剰人員、固定した決定、会議、鈍重なプロセス、在庫、オフィスの政治などを挙げています。

 「進展」の章では、しばらくの間は細かいことは気にしないこと、初期の段階ではディテールから得られるものはない、実際に始めてからディテールに気づく、そのときに目をむければよいとし、やることを減らし、変わらないことに着目すべきで、それはいま、始めるべきだとしています。

 「生産性」の章では、やめたほうがいいものを考えるべきで、邪魔が入る環境では生産性が上がらず、何よりも最悪な邪魔者は会議であると。解決策はそこそこのもので構わず、小さな勝利がモチベーションにつながるしています。また、睡眠はしっかりとるべきで、たまに徹夜仕事をしてもいいが、それが定期的になると、多くの代償を積み重ねることになるとしています。

 「競争相手」の章では、商品をありふれたものにしないためには、競争相手の真似をしてはならず、むしろ競合相手よりひとつ下回るようにする(簡単さ、単純さを武器にする)、そもそも競争相手が何をしているしているのか気にしないことだと述べています。

 「進化」の章では、作る製品への正しい態度とは、基本的に「ノー」と言うことであり、「顧客は常に正しい」と信じてはならず、顧客を自分たちよりも成長させようと言っています。

 「プロモーション」の章では、マーケティングとは独立した業務ではなく、何かコミュニケーションの手段があるならば、マーケティングは可能だとしています。

 そして、いよい人事に関する「人を雇う」の章に入りますが、まずは自分自身でやってみるまで人は雇わないこと、人を雇うタイミングは、自分の限界を超えた仕事があるときに限り、無用な人は雇わなようにすること、会社を「知り合いのいないパーティ」にしてはならないと。また、履歴書よりも自身の直観を信じ、経験年数は意味が無く、学歴は忘れることだとしています。また、「自分マネジャー」(自分をマネジメントできる人)、文章力のある人を雇うべきであるとも言っています。文章がはっきりしているということは、考え方がはっきりしている、コミュニケーションのコツもわかっている、ものごとを他人に理解しやすいようにする、他の人の立場に立って考えられる、何をしなくてもよいかもわかっている、ということであり、こんな能力こそ必要であると。

 最後に「文化」の章で、文化はつくるものではなく、自然に発達するものであり、スター社員が環境を作るが、そのスターが育つ環境とは信頼と自律と責任から生まれるものであるとし、従業員は子供扱いすれば、子供のような仕事しかしないとしています。また、仕事が人生のすべてであってはならず、社員は5時に帰宅させるようにしよう、「なるたけ早く」を連呼することは毒にしかならないとしています。

 ベンチャー企業やスタートアップ段階の小さな会社だけでなく、一般企業やその中のチームや個人にも適用できる考え方が多く含まれています。自分の会社が「大企業病」に陥っていないか、自らがそうした価値観に縛られていないかを振り返ってみるうえで、人事パーソンにもお薦めです。

【2010年新書刊行[(ハヤカワ新書juice『小さなチーム、大きな仕事―37シグナルズ成功の法則』]/2016年文庫化[ハヤカワ文庫NF(『小さなチーム、大きな仕事―働き方の新しいスタンダード』)]】

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「従業員を団結させ、競争力を高める」実践的リーダー論。「社員第一主義」で貫かれている。

逆境を生き抜くリーダーシップ0.jpg逆境を生き抜くリーダーシップ.jpg
逆境を生き抜くリーダーシップ』['11年]

 本書は、80年代において鉄鋼業がマメリカ国内で構造不況に陥る中、倒産寸前の片田舎の製鉄所(ニューコア)を、全米有数の鉄鋼メーカーに押し上げ(本書刊行時点で全米第3位、2016年時点で粗鋼生産量全米第1位)、フォーチュン500社のCEO(最高経営責任者)の中で最も所得が低いと書かれたことを勲章とする著者が明かす、「従業員を団結させ、競争力を高める」実践的リーダー論です。

 第1章「『長期の』利益を全員の目標に」では、経営者は「長期の」利益を社員全員の目標としなければならないとし、そのために社員とつながる4つの原則として、以下を挙げています。
(1)経営陣は、従業員が生産性に応じた報酬をえられるように会社を経営する義務がある
(2)従業員は、職務をきちんとはたしていれば明日も仕事があると安心できなくてはならない
(3)従業員は公平に扱われる権利があり、また、当然そのように扱われると確信できなければならない
(4)従業員には、不公平な扱いを受けていると思った場合に申し立てる手段がなければならない

 第2章「意思決定は現場にまかせろ」では、経営者は自分の直感を信じるべきだが、総合的な方針以外の決定はすべて、現場の管理職と従業員に任せるべきで、従業員とつながる方法としては、①対話、②意識調査、③ミーティングの3つを効果的に行うべきであるとしています。

 第3章「社員はすべて平等だ」では、社員をすべて平等に扱うことが経営を助けるとし、また、マネジメント階層はできるだけ少なくするべきであるとしています(ニューコアには4階層しかない)。そして、情報はすべて共有すべきであるとしています。平等と自由こそがやる気を生み、企業の成功は文化で決まるとしています。

 第4章「進歩は従業員から生まれる」では、会社の功績は社員の功績であり、社員の職場環境は重要であり、責任の大部分を部下に委譲し、社員が自力で答えを見つけられるような職場環境の形勢に専念すべきだとしています。本気で社員を活かしたいなら、「経営者が企業の成功のカギを握っている」といった考えは変えるべきだとし、管理職に求められる6つの変化として、以下を挙げています。
 ①ふさわしい人材を選ぶ。
 ②管理職の時間配分を見直す。
 ③社員がみずから成長できるようにする。
 ④社員に情報を提供する
 ⑤テクノロジーへの投資は社員にまかせる。
 ⑥合併と買収は社員の視点から検討する

 第5章「やる気を生む給料とは」では、ニューコアが業界最高の給与を払える理由は、作業効率が良く、生産性が高いからで、「生産量に応じた」ボーナスがチームワークを高めているとしています。報酬体系を改善するカギは、個人の貢献よりもチームワークに報いるようにすることであり、給与体系の違いが競争力の差になるとしています。

 第6章「小さいことはいいことだ」では、「大きな本社」は無駄そのものであり、大企業にとって最善のやり方は、必要最低限の階層の数を設定して、なるべく早く構造のスリム化に取りかかることだとしています。

 第7章「リスクをとれ!」では、アイデアはすべて試させるべきで、経営者や管理職は、社員が持ってくるアイデアを受けいれるよう努め、その革新性とリスクを引き受けるべきであるとしています。賭けに出てこそ成功するのであって、攻めの姿勢を保ち、勝つことだけを考えるべきだとしています。

 第8章「『ビジネス』と『倫理』の関係」では、倫理の問題は棚上げにすべきではなく、また、ビジネス界での倫理の基準は常に変化するとしています。

 第9章「成功は『シンプル』の先に」では、シンプルこそ成功のカギであり、事業をシンプルに保てば、顧客にも正直になれるとしています。成長を促す単純な原理として、また、これまで述べてきたことのまとめとして、以下の5つを挙げています。
 ・長期的な存続を短期的な収益より重視すること。
 ・重役のふところを潤わせるのではなく、痛みを分かち合うこと。
 ・意思決定の権限を現場の労働者に与えること。
 ・管理職と従業員の差を最小限にすること。
 ・社員には生産性に応じた報酬を支払うこと。

 従業員の信頼と忠誠心を獲得するにはどうすればよいかという問題は、どこの企業でも悩むことですが、著者は、そのためのリーダーシップの在り方として、長期視点での意思決定、現場との適切なコミュニケーションや現場への意思決定権限の委譲、アクティブリスリングを身につけること、権力の危険性を理解すること、必要な情報が従業員に公平公正に開示されていること、など多くの考え方や方法を挙げています。また、それらを実践することで著者自身が、組合の必要性を従業員が一切提起しないほど満足度の高い経営を実現してきたことになり、とても説得力があるように思いました。

 特に従業員第一を心掛けている点が印象的で、典型的なアメリカ型の経営者というより、むしろ日本の経営者(松下幸之助や本田宗一郎)に近い空気も感じさせなくもない点が興味深かったです。従業員の能力を最大限発揮させるには、彼らを「人間らしく扱う」ことであるといったようなことは、当たり前の原則なのかもしれませんが、こうした「社員第一主義」を貫いている企業が実際どれほどあるかと思うと、改めて示唆に富む内容であったと思います。

《読書MEMO》
●目次
序文(ウォレン・ベニス)
はじめに
1 「長期の」利益を全員の目標に
2 意思決定は現場にまかせろ
3 社員はすべて平等だ
4 進歩は従業員から生まれる
5 やる気を生む給料とは
6 小さいことはいいことだ
7 リスクをとれ!
8 「ビジネス」と「倫理」の関係
9 成功は「シンプル」の先に
エピローグ ビジネススクールへの提言

「●マネジメント」の インデックッスへ 【1657】 望月 護 『ドラッカーの実践経営哲学

従業員の夢の実現を支援する会社、部下が個人としても伸びていけるようにする管理職こそ理想。

ザ・ドリーム・マネジャー0.jpgthe dream manager.jpg マシュー・ケリー.jpg
The Dream Manager』['07年]マシュー・ケリー
ザ・ドリーム・マネジャー モチベーションがみるみる上がる「夢」のマネジメント』['08年] 

 本書は、働く者全員が「やりがい」と「愛着」を感じる会社を作るにはどうすればよいか、そのためのシンプルで楽しいアイデアを示した本であり、第Ⅰ部が「物語」形式のビジネスストーリーに、第Ⅱ部が「実践ガイド」になっています。

 第Ⅰ部「物語」の第1章「変化のきざし」では、物語の舞台である清掃会社の総務担当取締役のサイモンと創業社長のグレッグが、年400%にもなる離職率に頭を悩ませています。サイモンは、「離職率の高さは士気や作業効率、顧客の満足度の低下にもつながります」「現場の従業員はビジネスについて、われわれの知らないことを知っているんです」と言って、従業員にアンケートをとることを進言します。そして、アンケートをとってみると、社員が辞めていく最大の理由は、通勤の足だったことが判明、つまり、交通手段がないことによる通勤問題でした。そこでサイモンはシャトルバスの運行を提案しますが、グレックはいくら費用がかかるのか心配します。それに対しサイモンは、「問題は、いくらかかるかではなく、いくら無駄にせずにすむかです」と言い、グレッグもシャトルバスの導入を認め、結果として離職率は大幅に下がります。

 第2章「夢はかなう!」では、サイモンが離職問題をめぐる幹部会議において、従業員が今やっている仕事と、彼らが夢見ている豊かな未来とを結びつけない限り、この問題は永遠に解決しないとし、「ここで働くことが自分の望む未来につながると具体的に示すことこそ、唯一の方法だ」と発言、アシスタントのサンドラの助けを借りながら、社員に「あなたの夢は何か」を訊くアンケートを実施する準備にかかるとともに、社長のグレッグに、社員の夢を実現できる手助けをする「ドリーム・マネジャー」の必要を説きます。グレッグは、悩んだ末に、サイモンの「マネジメントの方法自体を革命的に変えられる」との言葉に後押しされるように、ドリーム・マネジャーを探すことにOKを出します。サイモンとサンドラはあらゆるところに求人広告を手配し、ひきもきらない応募者の中から最終的にショーンという人物をドリーム・マネジャーに迎えます。

 まず管理職がショーンとのセッションを設けることになり、最初にセッションを受けたジェフは、当初この試みに懐疑的だったものの、大陸横断旅行という自分の夢の実現にむけて一歩踏み出します。さらに、「部下が具体的な夢を持てるようになり、それが実現したら、彼らは顧客に対しても同じことをするようになる」とサイモンは説き、セッションは一般社員にも行われ、ドリーム・マネジャーのショーン自身が、人は、ただ夢を語るだけで自然とその実現に向かうようになるという事実に驚かされたように、リタはドリーム・マネージャーと会った132日後に夢だったマイホームの取得を実現し、そのほかにも多くの社員が夢によって人生を取り戻します。

 第3章「ハッピーエンド」では、その後も、夢が現実となる文化のなかでは、仕事への情熱と、やってやれないということないという自信とが無限に生みだされることが次第に明らかになったとしています。グレッグ自身も、「ビジネスが失敗するときにはたいてい、少ない戦力に大きな間接部門がぶらさがっている。逆に成功する企業では、全員が戦力と化すものだ」と痛感するようになります。また、サイモンは、「わが社では物足らなくなった人がいた場合に、外の働き口を探してやることが仕事になります」と言います。離職率ゼロが、組織の目標ではないということです。サンドラは、「ドリーム・マネジャーは忠誠心をも生む」と言い、ミッシェルは。「人は人生の多くの時間を働いて過ごすわけですから、仕事は楽しいものであるべき」だとし、サイモンはさらに、「夢は、あなたがどんな人間かだけでなく、明日のあなたがどうなりたいと願っているかも教えてくれる」と言います。

 第Ⅱ部の「実践ガイド」では、まず、自分の夢の実現に向けたステップとして何をやっていくべきか、また、夢のカテゴリーとしてどのようなものがあるかを示して、このドリーム・マネジャー・プログラムというものが広い応用範囲があることを強調するとともに、これからの時代の「忠誠心」とは、社員と会社が互いに「自分の理想を実現する」という目標を理解することがその土台となり、21世紀の管理職がなすべきことは、会社を発展させる方法を見つけるとともに、部下が仕事上でも個人としても伸びていけるよう手を貸せる人ということになるとしています。

 いいことづくめの夢のような「物語」に思えるかもしれませんが、本書のモデルとなった清掃会社が実在します。社員は「会社が自分を思ってくれている、だからその会社のために働きたい」と考えるという、実にシンプルな思想のもと、その実践例を示した本であると言えます。「社員満足向上には、給料を上げ、労働時間を減らすのが最善で唯一の方法」「個人の夢は個人でなんとかすべきである」といった考えに見直しを迫る本でもあり、一読をお勧めします。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
・組織を動かす1人ひとりが理想の自分になろうと懸命に努力すれば、その組織は理想の状態に近づく
・「ビジネスウィーク」は今後10年間に、あらゆる分野、地域、産業で役員クラスの21パーセント、一般管理職の24パーセントのポストが空席になるだろうと報じている。
・人は会社のために存在しているわけではない。会社が人間のために存在する。
第Ⅰ部・物語
1.変化のきざし
・現場の従業員はビジネスについて、われわれの知らないことを知っている
・問題は、コストがいくらかかるかではなく、いくら無駄にせずにすむかです。
2.夢はかなう
・人間を特別な存在にしているものは、豊かな未来を想像し、未来に希望を託し、その未来に向かって歩む能力です。
・これからふたりでやりたいこと、行ってみたい場所、ほしいもの、大切にしたい人間関係、それぞれの夢を紙に書き出すこと
・人を仕事に引き止めるものは、「やりがい」と「進歩し成長している実感」。
・「この中で、これから半年以内でかなえたい夢はなんですか?」
・大切なのは完璧さを求めることではなく、"自分が進歩していることに注意を向ける"ということです。
・『偉大な書物を読もうとしない人間は、字が読めない人間と得るものになんら変わりはない』
・部下が具体的な夢を持てるようになり、それが実現したら、彼らは顧客に対しても同じことをするようになる
・人は、ただ夢を語るだけで自然とその実現に向かうようになる
・希望は計画から生まれる
・相手の夢を理解しようとすること、その夢の追求や実現に手を貸すことが、いかに人間関係を変える力強い原動力になりうるか。
・お互いの夢に関心を払うとき、あらゆる人間関係は必ずよりよいものになる。
・ビジネスマンのほとんどにとって、ビジネスとはお金を稼ぐことで、金をかけて問題を解決するという発想がないからです。
・社員は、認められたいんです。
・プロセスへの全員参加
3.ハッピーエンド
・本当の貧しさとは、機会が与えられないこと。
・ビジネスが失敗するときにはたいてい、少ない戦力に大きな間接部門がぶらさがっている。
・逆に成功する企業では、全員が戦力と化す。
・離職率ゼロが、組織の目標ではない。
・人間を人間らしく扱えば、相手もまた人間として応えてくれる。
・企業活動においては、ビジネスを動かすのも組織を動かすのも人。
第Ⅱ部・実践ガイド
・計画を立てることは1人でもできる。大変なのは、最後までやりぬく意志を持ち続けることだ。
・新時代の忠誠心は、「たがいの価値を高めあう」ことで築かれる。
・社員が自分自身のためにやらないことを、会社のためにやってくれると期待するのはまちがっている。
・夢の実現に向けて
 (1)ドリーム・ブックを用意する
 (2)夢を書きはじめる
 (3)夢に制限を設けない 
 (4)ドリーム・ブックに書き込むときには日付を入れる
 (5)夢が実現したら、その日付も加える
・勇気の言葉
・大きな一歩を踏み出すことを恐れるな 
・リスクをとる勇気のないものは、人生で何も成し遂げることができない
・時宣を得たアイデアほど力強いものはない
・勇気をもて。そうすれば偉大な力が助けてくれる
・人生の大きさは、勇気の大きさに等しい
・車を運転するのにもお金を使うにも歳をとりすぎ、ついに思い出と思索だけの日々が訪れたとき、はたして世の中のために出来ることがあるだろうか
・夢の種類
 (1)肉体(2)感動(3)知性(4)精神世界(5)心理(6)物質(7)仕事(8)経済(9)創造性(10)冒険(11)後世に残すもの(12)性格
・夢実現ステップ
  ステップ(1):夢リストを作る(12カテゴリ、100リスト)
  ステップ(2):毎朝30分。部下(パートナー)と話す。心から関心をもつ。
  ステップ(3):部下を集めてドリームセッションを行う。
  ステップ(4):人事面接を利用し、各人の夢のなかからあなたが力になれる夢をひとつ選び、1年以内に達成できるよう励ます。

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組織重視指向の日本企業、市場重視指向の米国企業。今後、人事部の目指すべきは?

日本の人事部・アメリカの人事部2.jpg日本の人事部・アメリカの人事部.jpg日本の人事部・アメリカの人事部: 日米企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係』['05年]

 本書は、日米両国の大企業の事例研究および大規模調査をもとに、日本企業の人事部とアメリカ企業の人事部の、企業におけるその役割や位置づけの違いを検証したものです。

 第1章では、日米の大企業における雇用構造とガバナンス構造を比べています。日本企業は相対的に組織志向的であり、長期雇用、低い離職率、広範な教育訓練、平等、年功といった組織内配慮が、賃金や採用・昇進・異動の決定に大きな影響を与え、ステークスホルダー型ガバナンスと企業別組合がその組織志向性を支え、これらが日本企業の人事機能の高い集権的性格を補強してきたとし、一方、アメリカは、雇用慣行はより市場志向的になる傾向があり、短期雇用、高離職率、少ない教育訓練、市場水準など外部基準に基づいて決める賃金や採用・昇進・異動が特徴で、コーポレートガバナンスは株主を特権的に扱い、人事機能は日本のような集権性と影響力を欠いていたとしています。

 第2章では、巨大日本企業の人事部のこれまでの実態を探っています。アメリカの企業と比べ、日本企業はこれまでも現在も集権的であり、人事部は「影の実力者」としての地位と権力を有し、それは、組織志向の雇用の雇用政策、集権的な組織、企業別組合、ステークスホルダー型のガバナンスによってもたらされたとしています。

 第3章では、現代日本企業の内実を、6つの業界の代表的企業7社を通して見ていきます。そして、本社機能の縮小、株主志向のコーポ―レートガバナンス、雇用調整の実施など様々な変化が見られるものの、本社人事部の役割にはかなり安定性が残っているとしています。つまり、人事部は60~70年代に比べれば力を失っているが、依然として特権的な地位を占めているとしています。

 第4章では、アメリカにおける人事管理のこれまでを振り返っています。アメリカ企業の人事管理者の立場は、これまで強弱の揺れ幅はあったにせよ日本企業ほど強くはないままできたとしています。ただし、現在は、人事担当役員の権力強化に向けた2つのアプローチがあり、1つは、ビジネスパートナー・モデル(人的資源管理担当役員は役員室にいる財務担当者やそれ以外の分野を担当する役員と連携し、市場への配慮によって雇用政策は左右されるものの、分権化した事業部にオン・デマンドでサービスを提供)、もう1つは、資源ベース・アプローチ(高い熟練を持つ従業員が競争上の優位をもたらし、雇用政策は比較的組織志向で、人的資源管理は雇用に関して全社規模で同時に進行する特有のアプローチに基づきつつ、戦略的な結果を確保する役割を演じるもので、知的資本の重要性の増大などにより登場)で、敵対的買収の危険が小さい企業は、資源を従業員に向ける傾向が強くなるとしています。

 第5章では、二つのモデルがアメリカ企業の内部でどのような役割を果たしているか、5つの業界の5社を通して見ていき、アメリカでは人事担当役員の役割や本社人事部機能が多様であり、標準的なパターンは存在しないとしています。

 第6章では、(第3・5章がケース・スタディであったのに対し)日米両国の人事担当役員を対象とした大規模調査の結果を分析しています。調査データ比較による結論は、①アメリカでは、ステークホルダー志向の人事担当役員と株主志向人事担当役員との間には明確な隔たりがあり、後者は強い影響力を持つ、②日本の人事担当役員は、株主志向であっても見返りがあまり期待されず、この事実がアメリカへの収斂プロセスを遅らせる、③取締役構成などコーポレート・ガバナンスと人事政策のありようとの間には関係がある、としています。

 第7章では、日本では、近年市場重視への移行、株主重視のコーポレート・ガバナンス、上級人事管理者の役割の縮小が起きているが、経路依存性からその移行は緩慢であり、アメリカもまた、市場志向の極へ向かって移動しており、その変化はより広範囲で、二国間の格差はより拡大しているとしています。

 アメリカ企業の人事部と日本企業の人事部を、その歴史的推移から最近の傾向まで独自のアプローチにより分析したものでした。結論的には、人事戦略の面でも企業統治の面でも、日本企業が組織重視指向なのに対し、米国企業はより市場重視指向であり、日本企業にも市場重視指向の動きはあるがそれは遅いものであり、この傾向の差は広がりつつあるということになります。しかしながら、人事管理には、財務基準を重視して従業員をコストとみなす考え方だけではなく、知識社会化の進展の下、人的資本の高度化が競争上の優位性をもたらすとする資源ベース・アプローチがあるとし、このような側面をより強く持つ日本的経営を必ずしも否定的に評価していない点が興味深いところです。今後の日本企業の人事部の役割(今のままでいいのか)を考える上で、一読をお勧めします。

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最強チームをつくるカギは「安全な環境をつくる、弱さを共有する、共通の目標を持つ」こと。

THE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法0.jpgTHE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法.jpg
THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』['18年]

 本書では、グーグルやピクサーなど、仕事への熟達やヒットを生む創造力の強さが世界的にも証明されている「最強のチーム」を実際に訪ねて分析した結果、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあり、成功しているチームには共通する3つのスキルがあることが判明したとしています。その3つのスキルとは、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」であるとし、以下、3部構成で各スキルを解説しています。

 第1部(スキル1「安全な環境をつくる」)では、チームのパフォーマンスを決めるのは、「ここは安全な場所だ。そして私たちはつながっている」という心理的安全性と帰属意識であり(第1章)、安全な社内環境が信頼を生んで、それが帰属意識につながり(第2章)、その帰属意識がチームの結束を強めるとしています(第3章)。さらに、帰属意識を育てるにはどうすればよいか(第4章)、帰属意識の高いチームをつくるにはどうすればよいか(第5章)、そのためにリーダーはどのような行動をとるべきか(第6章)を解説しています。

 第2部(スキル2「弱さを共有する」)では、帰属意識がチームをくっつける「接着剤」だとするなら、弱さを共有することは「筋肉」であるとしています(第7章)。「自分には弱点があり、助けが必要だ」という弱さの開示は「弱さのループ」を生み、それによってチームの親密さと信頼が深まり(第8章)、チームのパフォーマンスは最大化されるとしています(第9章)。また、小さなチームで協力関係を築くには、シンプルな質問を何度もするのが効果的であり(第10章)、個人間の協力関係を築くには、相手の話を本当に聞き、相手に全神経を集中させることだとし(第11章)、最後に、リーダーが弱さを見せられるようになる方法を指南しています(第12章)。

 第3部(スキル3「共通の目標を持つ」)では、成功しているチームでは、共通の価値観や目的が明確であり、目標達成のメリットと障害が理解されていて、「現実と理想をつなぐ物語」が存在するとし(第13章)、目的意識の高い環境のチームを、実例で紹介しています(第14章)。その上で、「熟達したチーム」をつくるには価値を言葉にして伝え続けることが重要であり(第15章)、「創造的なチーム」をつくるには、創造的な人たちへのサポートが必要であるとしています(第16章)。そして最後に、価値や目標を共有するためにリーダーが何をすべきか、行動のためのアイデアを示しています(第17章)。

 本書の特徴の一つは、事例を引いて、3つのスキルそれぞれの有効性を説くとともに、どうすればそれを実践できるかという、具体的な行動提案が書かれている点にあります。環境変化が激しく、企業が抱える問題の複雑さも増す今日、一人のカリスマに依存するのはリスクであり、チームの力を最大化することが、より大きな困難や逆境を乗り越える原動力となるということであると思います。本書を通してチームビルディングの新しい形を知ることができ、リーダーが読むべき本であると言えます。

 本書では、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあるとし、一見すると普通とも思えるような行動を習慣化することによって、チームの力は大きく変わっていくとしています。最強チームをつくるカギは、「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標」の3つのスキルに集約されるとし、これらのスキルはなぜ重要で、具体的にはどのように行動すればよいのかを説いています。

 良いチームに最も必要なのは、強いリーダーシップや優秀な人材ではないということです。本書を通して提案される行動は、シンプルでポジティブな人間観に基づいており、極々「普通」に思えますが、だからこそ誰でも、いつでも行うことができ、こうした些細な行動によって強いチームが育まれるならば、一読の上、試してみる価値は大いにあると思われます。

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リーダーシップ行動のあり方が具体的・実践的に書かれていて、軍隊を超えた普遍性も高い。

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リーダーシップ―アメリカ海軍士官候補生読本』['81年]『リーダーシップ 新装版―アメリカ海軍士官候補生読本』['09年]
 
 本書は、アメリカ海軍兵学校の生徒、幹部候補生、見習士官のリーダーシップ教育のために作成されたものであり、原書は1959年に発行され、本邦では、野中郁次郎氏らの共訳で1981年に訳書が刊行され、35刷を重ねています(2009年に新装版が刊行された)。

 2部構成の第Ⅰ部「基礎編」では、まず第1章で、リーダーシップとは「一人の人間がほかの人間の心からの服従、信頼、尊敬、忠実な協力を与えるようなやり方で、人間の思考、計画、行為を指揮できかつそのような栄誉を与えうる技術、科学、ないし天分」であると定義し、このリーダーシップを理解し、身につけるうえで、フォロアーシップを身につけることが必要であり、フォロアーシップとは、チームメンバーとして必要となる要素であり、フォロアーシップとして習得すべき態度は、リーダーに対して服従、信頼、尊敬、忠実な協力の4つであるとしています。

 そして、リーダーシップを理解するためには、心理学、行動分析学の要素を理解しておく必要があるとし、第2章で、心理学的研究の歴史的背景を述べています。そして、第3章では、人間行動の科学的研究について述べ、科学的行動は、健全な懐疑主義、客観性、変化への即応性の3つを基本的なアプローチとするとしています。さらに、第4章では、集団の構造と機能について書かれており、リーダーが集団の成員に配慮すべきこととして、集団における安定した満足すべき社会的関係、集団内部における身分感情、集団内のメンバーシップによる地位感情、現時点で重要かつ多様な個人的欲求の充足の4つを挙げています。

 第Ⅱ部「実践編」では、第5章で、道義的リーダーシップとは何かを説き、それは、第一は、リーダーが自己を誠実にするのに必要な高い水準の徳性を伸ばすことであり、第二は、リーダーが道徳的価値を部下に率先垂範によって分け与えることであるとし、与えられた使命を達成するための責任を受け入れる覚悟が求められるとしています。第6章では、士官の役割や、リーダーとしての品位を保った言動、立ち居振る舞いと話し方などについて述べています。

 第7章では、バーク大将がリーダーの人格的特性として①自信、②知識、③熱意、④力強く明確に表現する能力、⑤無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気、⑥大義のために何かをしようとする意思の6つを挙げたことを引き、有能なリーダーの人格的特性として組織に対する「忠誠」や行動・判断する「勇気」、「謙虚」「自信」など挙げて、それぞれ解説しています。第8章では、リーダーシップを日々行使することで得られるダイナミックな(体得可能な)特性(目標設定、熱意と快活、配慮、専門知識など)を挙げ、さらに第9章では、その他重要なリーダーシップを増強する特性、リーダーとしての成功要因(部下を名前で呼ぶ能力、寛容、話し振りなど)を挙げて、それぞれ解説しています。

 第10章では、リーダーとして人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴を列挙し、どうすればリーダーとしてよい人間関係をフォロワーとの間に築けるか、また、組織化された制度上のリーダーシップの概念においては、フォロワーの役割が一番大切であることを脳裡に刻むべきであるとし、よいフォロワーの特性とは何かを述べています。

 第11章では、部下との人間関係を維持し、部下を認めてあげるための効果的な技術としては、個人面接とカウンセリングに勝る方法はないとして、よいカウンセリング(面接)の一般原則を説き、第12章では、規律の重要性と、部下の士気を高める方法を説いています。第13章では、組織、管理、および指揮リーダーシップは、相互に結びついて切り離せないものであるとし、最後の第14章にアメリカ合衆国の戦闘要員の行動要領(部分訳)を付けています。

 興味深いのは、リーダーシップの基礎として「人間心理を客観的に分析する」という科学的方法を重視していること(本書第Ⅰ部)と、科学的合理主義のみならず、それと同時に、リーダーたり得るかどうかの基準である部下や上司、同僚の信頼をいかに獲得するかということについて、自分の視点ではなく、他者の評価が重要であると強調されている点です。

 さらに、リーダーシップ行動のあり方が、きわめて具体的かつ実践的に書かれているのが本書の特徴であり、例えば、飲酒に関する注意点について、①絶対な一人飲みをするな、②絶対に就業中および勤務時間中に飲むな、③絶対に空腹時に飲むな、④とくに、疲労時に飲みすぎに注意せよ、⑤絶対に早飲みするな、⑥絶対に毎日飲む習慣をつけるな、⑦飲みすぎの気がしたら、たえず動いたり、ダンスをしたり、食事したり、談話したりすること―そして、次回にはひと飲み減らすこと―といった具合です。

 アメリカ海軍兵学校の士官候補生を対象としたリーダーシップの教科書でありながら、軍事組織の範囲を超えて、リーダーシップ一般に共通する(敷衍できる)視点を展開していることが、60年以上前に書かれて、いまだに読みつがれている理由ではないかと思います(勿論アメリカ海軍の理想的なリーダー像も見えてくるわけだが、同時に現代ビジネス社会に応用可能な普遍的要素を多く含むということ)。

《読書MEMO》
●集団に関する要素(第4章:49p~70p)
・集団の性質:規模・構造・密度・集団となった経緯によって決定される
・集団の特徴:排他性・一体感・ポテンシャル・目的の統一性・安定性によって決定される
・個人と集団:集団との一体感・組織内の位置づけ・参加の度合い・リーダーへの依存度により関係性が決定される
・集団の構成員の欲求:集団との関係性の安全、集団内での地位、集団による地位、評価、報酬、組織の士気により変化する
●バーク大将の「海軍のリーダーシップの実践」における有能なリーダーの人格的特性(第7章:115p)
(1) 自信
(2) 知識
(3) 熱意
(4) 力強く明確に表現する能力
(5) 無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気
(6) 大義のために何かをしようとする意思
●リーダーに必要な特性(第7章)
・組織に対する「忠誠」
・行動・判断する「勇気」
・名誉・正直・真実
・信義
・宗教的信仰
・謙虚
・自信
・常識とよい判断
・健康、エネルギー、楽観主義
●リーダーのダイナミックな特性(第8章)
・目標の設定
・熱意と快活
・協力
・敏速、信頼性
・如才なさ
・配慮
・公正
・自制
・専門知識、準備、余暇の利用
・率先。計画能力、想像力
・決断力
・勝つ意志
●その他重要な成功要因(第9章)
・部下を名前で呼ぶ能力
・寛容
・よい聞き手であれ
・節制
・弁説の力
・話し振り
・口頭による命令
・集団の前で話すこと
・会話
・書き言葉対話し言葉
・有効な文書
●人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴(第10章:160p)
(1) 自分勝手な善意の規準を設けようとすること。
(2) 他人の楽しみを自分自身の物差しで測ろうとすること。
(3) 世間の意見の画一性を期待すること。
(4) 無経験を酌量しないこと。
(5) すべての気質を同じ型につくり上げようとすること。
(6) 重要でない、ささいなことがらについて譲歩しないこと。
(7) 自分自身の行動に完全を求めること。
(8) つまらぬことに自分自身また他人についてくよくよ思い悩むこと
(9) 場所のいかんを問わず、助けることができるときにだれも助けないこと。
(10) 自分自身が実行できないことを不可能と考えること。
(11) われわれ有限の心で捉えうるものだけしか信じないこと。
(12) 他人の弱点を斟酌しないこと。
(13) その人をつくり上げるのが内部の質的基準であるのに、外部の質的基準で評価すること。
●フォロワーのリーダーに対する責任(第10章:178p)
(1)自己の仕事とそれがいかに部隊の使命達成に寄与しているかを知っている。
(2)リーダーの特性を知っている。
(3)インスピレーションを与える能力をもっている。
(4)上司および部下に対して忠誠をつくす。
(5)能力に見合うイニシアチブを発揮する。
(6)権限と責任の委譲を容易に受諾し、かつまた受諾する用意がある。
(7)リーダーの決定を受諾し、全幅的にこの決定を実施するために最善をつくす。
(8)リーダーの部下のために配慮する能力と限界を十分に知り、不当な期待をかけることによって、上司のリーダーシップの負担をふやさない
●団結心の達成と維持のためにリーダーが克服すべきこと(第12章:212p)
(1)リーダーに対する信頼の欠如
(2)チームメンバーの葛藤
(3)成果に対する非協力者の存在
(4)リーダー・チームメンバーの急な異動
(5)正当な評価の欠如
●組織を成果に向かわせるために(第13章:212p)
・成果に必要なミッションを組織内に全て割り当てる
・チームメンバーが自分の責任・ミッションを明確に理解できるようにする(簡潔に整理し、何をすべきかを明確にする)
・チームメンバーの特性・職位にあったミッションを与え、必要な権限を最大限委譲する(責任に相応)
・矛盾や重複した責任・ミッションの分担は行わない
・組織全体の構造に一貫性と正当性を持たせる
・複数のリーダーを一つのチーム、または一人の個人に置かない(上長1に対し、チームメンバーNとする)
・リーダーがコントロールできないチームメンバーをおかない
・指揮系統の安定を図る(他による侵食を防ぐ)
・上位にいるリーダー(複数のチームリーダーをまとめるリーダー、会社で言う部長など)は、方針によって組織を統制する
・組織内で相互に監視が行われ、統制機能が働く関係性を作る

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『オプティミストはなぜ成功するか』の"裏返し"のようなアプローチの本に思えた。

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会社ではネガティブな人を活かしなさい (集英社新書) 』['21年] マーティン・セリグマン 『オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)

 本書では、巷に流布する「従業員が幸せ(ポジティブ)になれば会社の業績が上がる」という言説に疑念を呈し、会社はもっとネガティブな人を活かすべきだとしています。第1章から第3章では、「幸せな従業員が業績を上げる」というのは事実かどうかを検証し、ネガティブな従業員が組織にもたらす恩恵もあると分析、第4章では、これからの組織の在り方を念頭に、テレワークやeリーダーシップ(オンライン上のリーダー論)に言及しています。

 第1章では、幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるかどうかをさまざな実験結果から検証しています。従業員の気分が良くなって生産性が向上するのは一時的なものであって、従業員あたりの売上高は仕事の満足度とは無関係であり、従業員を幸せにする労務管理は、費用対効果から推奨できない可能性が高いとしています。

 第2章では、不幸せ(ネガティブ)な従業員こそ重要であるとしています。ネガティブな従業員は、現状に問題があるととらえ、より体系的かつ合理的に考えるし、ここ一番では協調的であるとして、金融業などでは心配性の方が有利であるとしています。

 第3章では、最近その重要性が唱えられているマインドフルネスについて言及しています。ストレスが多い職場では、マインドフルな従業員ほどよい成績を上げるとそています。マインドフルネスの訓練は、ストレスからの回復力(レジリエンス)を向上させ、また、上司がマインドフルであれば、部下の疲弊度は低く、業務評価は高い傾向にあるとしています。

 第4章では、在宅勤務により、従業員のパフォーマンスが向上する傾向にある一方、在宅勤務に向かない従業員もいて、キャリア形成面での悪影響も懸念されるとしています。また、テレワーク時代に成果を出す上司とはどのような上司かを分析し、オンライン上での感情表現の重要性について述べています。

 最後に第5章で、企業は従業員に「幸せ」を押しつけない方がよいとし、ネガティブな人間が創造性を発揮しやすい環境を作れば、ネガティブ社員はいざという時に会社のピンチを救うことになるとしています。

本書を読んで、ポジティブ心理学の創始者セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するか』という本を思い出しました。楽観主義者は悲観主義者よりも物事において良い結果を残すことが多いとした本ですが、会社で社員全員がオプティミストだと会社は破綻するとしています。財務管理や安全管理などの面では、現在の状況をしっかり把握する職業的ペシミストが必要であるとし、分野によっては悲観主義者の方が優れていることを指摘していました(人事はこの分野に該当するとされていました)。

 本書は、ポジティブ心理学を批判した本のように見えますが、結局、ネガティブだからといってがすべて悪いわけではなければ、ポジティブだからといってすべて良いとも限らず、状況によって活躍する人材は異なってくるということを意識すべきであるといっているのだと思います。その意味では、むしろ『オプティミストはなぜ成功するか』に書かれていることに通じる部分があったように感じました(この本の"裏返し"のようなアプローチ)。

 「幸福学から考えた組織論」であり、マインドフルネスの本質と訓練方法や職場への影響、オンライン上のリーダーの「怒り」の表現の効用などについても書かれていて、そうした新たな知見に触れたい人にはお薦めです。

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職場の問題点だけでなく、人事についての自分の意識のセルフチェックにいいかも。

なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか0.jpgなぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか.png  沢渡 あまね.jpg
なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか (SB新書)』['21年]沢渡あまね氏

 本書では、日本の職場は、国際調査を見ると、人間関係、生産性、やりがい、満足度などの点で「世界一」ギスギスした職場とされているとした上で、日本の職場のどこに問題があるのか、働きやすい職場に生まれ変わるにはどうしたらよいかを、そのアイデアを提案しています。

 はじめに、日本の職場がギスギスする3つの主な要因として、①旧態依然のマネジメントや働き方、②旧態依然の職場環境、③ジェネレーションギャップを挙げ、職場のギスギスを解消させる3つのシフトとして、マインドシフト、マネジメントシフト、スキルシフトを挙げています。その上で、以下、ケースごとに職場のギスギスを生む要因を紐解き、それをどう解決していくか、3つのシフトをどう仕掛けていくかを、本文3章にわたってまとめています。

 第1章では、環境によるギスギスについて取り上げています。ここでは、職場環境によるギスギスとして、人が辞めていく、情報が共有できない、管理職・上司が現場を知らない、相談や提案がしにくい一方通行のコミュニケーション、誰に何を訊けばいいのか分からない、部門間の連携が取りにくい、といった6つの問題を、さらに、労働環境によるギスギスとして、公平すぎて不公平な働き方、テレワークで仕事がはかどらない、物理的環境がよくない、という3つ問題を挙げて、それぞれの原因と問題解決のヒントを示しています。

 第2章では、スキルやメンタリティによるギスギスについて取り上げています。スキルとキャリアによるギスギスとして、組織は集団主義だが行動は個人主義であること、雑用が多くてスキルが伸びないこと、日本特有の採用ミスマッチ、待遇で区別される非正規社員と働かなくても大丈夫な正社員、の4つの問題を、メンタリティによるギスギスとして、新しいことへの挑戦を拒む「5教科主義」「減点評価主義」、いまだに目立つ根性論、確認が多くてイライラの部下としっかり仕事しているか不安の上司、という3つの問題を挙げて、それぞれの問題解消のためのポイントを示しています。

 第3章では、制度によるギスギスについて取り上げています。ここでは、毎日出社しなければいけない、条件が厳しくて働けない、自分が動いても何も変わらない、終身雇用がモチベーションを下げるといった、制度に起因する問題を取り上げ、問題解決の道筋を示唆 しています。

 読んでいて、自分の職場も同じような問題を抱えていると思われる読者は多いのではないでしょうか。そうした問題の特効薬的な解決方法を示すというよりは、マインドシフト、マネジメントシフト等を促すことを主眼として、解決のためのアプローチを示しているように思えました。

 帯に「こんな職場は危険信号」とあって「コロナ禍依然と働き方が変わらい」とありますが、「テレワークで仕事がはかどらない」という問題については、テレワーク以前の仕事のプロセスに問題があるとしていて、なるほどと思いました。すごく斬新なことが書かれているわけではありませんが、自分の職場の問題点のセルフチェックにはいいかと思います。

 本文の最後で「終身雇用がモチベーションを下げる」と言い切って、企業として人材に投資する一方、成長しない人たちには厳しい人事制度に変えていくべきであるとし、おわりには、「気合・根性主義の体育会系カルチャー、そろそろおやすみなさい」とあります。これからのあるべき人事についての自分の意識のセルフチェックにもいいかもしれません。

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これからの組織変革の方向と実行のための知的ヒント、組織論の「今」を知る。

だから僕たちは、組織を変えていける0.jpgだから僕たちは、組織を変えていける1.jpg だから僕たちは、組織を変えていける2.jpg
だから僕たちは、組織を変えていける --やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた【ビジネス書グランプリ2023「マネジメント部門賞」受賞!】

 本書は、「組織を変える」ことを目的に、社会のパラダイムシフト、これからの組織の在り方、リーダーの在り方、チームを動かす原動力、やる気のあるチームの作り方、組織を変えるための影響の輪の広げ方などについて書かれた本です。

 第1章では、「時代」ということについて、21世紀に入り人類は、テクノロジーによる「デジタルシフト」、リーマンショックによる「ソーシャルシフト」、そして新型コロナウイルス流行による「ライフシフト」という3つのパラダイムシフトを経験し、これらの変化により、ビジネスにおいては「場所や情報よりも、アイデア」「個人の努力よりも、人とのつながり」「ワークライフバランスよりも、ワークとライフをともに楽しむこと」が重要になったが、こうした時代や価値観の変化があったにもかかわらず、多くの企業は、いまだに旧態依然とした仕組みのままだとしています。

 第2章では、「組織」ということについて、この3つのパラダイムシフトによって、知識社会に必要となる組織特性として、①環境から学び続ける「学習する組織」、②社会とのつながりを大切にする「共感する組織」、③メンバーが自ら考え、共創する「自走する組織」を挙げて、3つ組織を実現するためのエッセンスや、組織を変えるリーダ像(「学習する組織」→サーバント・リーダーシップ、「共感する組織」→オーセンティック・リーダーシップ、「自走する組織」→シェアド・リーダーシップ)を示しています。

 第3章では、「関係」ということについて、「心理的安全性」こそがチームを変えていくとし、心理的に安全な場をつくるためのプロセスとして、①共感デザインと②価値デザインの2つを挙げて解説し、心理的安全性のためにリーダーがやるべきことや留意すべきことを挙げ、リーダーは強がりの仮面をはずし、安全に対話できる場をつくるべきで、「関係性」は組織の土壌であるとしています。

 第4章では、「思考」ということについて、サイモン・シネックを引いて、すべてはWHYからはじまるとし、社会にとっての「仕事の意味」、自分にとっての「仕事の意味」を考え、仕事を楽しむことからはじめよう、チームを動かす北極星(目的)を見つけよう訴えています。

 第5章では、「行動」ということについて、組織のモチベーションをアップデートすべきだとし、メンバーの「自律性」をとりもどし、「有能感」を満たし、「関係性」を育むにことが、「内発的な動機」を生むことになるとして、やる気のあるチームをつくるにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、「変革」ということについて、変革のアクションを7段階に分けて解説し、まず一歩を踏み出すことからはじめ、共感をつなぎ「影響の輪」を広げていくまでを具体的に解説しています。

 リーダーシップは肩書ではなく行動であり、組織変革は現場最前線にいるスタッフ一人からでもはじめられるとして、そうした行動への勇気を促し、また実行する際の知的なヒントを与えてくれる本であるように思いました。

 多くのリーダーシップ論、経営論、組織論が、最新のものも含めて紹介されていて、普通であれば読んでいて"お腹いっぱい"になりそうなところですが、イラストと図解を多用することで、無理なく理解できるよう工夫されています。人事パーソン、ビジネスパーソンとして知っておきたいものが多く、組織論の「今」を知るという意味でもお薦めです。

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前著『LIFE SHIFT』を深堀りした実践編。キーワードは物語・探索・関係。

LIFE SHIFT2 100年時代の行動戦略.jpg  2LIFE SHIFT2 .jpg
LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』['21年]

 本書は、『LIFE SHIFT』(2016年/東洋新報社)の著者らによる、前著の"実践編"であるとのことです。前著では、これまでは「教育→仕事→引退」という人生だったのが、長寿化によって、これからは多くのステージへの移行を繰り返し、多様な経験とスキルなどを育んでいくマルチステージの時代になっていくと説いていました。

 本書は、第1部で、テクノロジーの進化と長寿化がどのような変化を生み出し、私たちはそれにどう向き合い、どのような要素を重んじるべきなのかを論じ、第2部では、その要素を軸に、長寿の時代に適応するためにひとりひとりがとるべき行動について論じ、第3部では、企業や教育機関、政府の仕組みがどのような転換を遂げるべきかを指摘しています。

 第1部の第1章では、人工知能(AI)やロボットについて論じ、テクノロジーの進化と長寿化の進展は私たちの生活を改善し得るが、どうすれば長く働き続けられるか、どうすれば建設的な世代間関係を築けるかといった人間的問題は、最終的には人間だけが解決できるものであるとしています。

 第2章では、人生の在り方を再設計し、人間としての可能性を開花させる上で重んじるべき要素として、物語(自分のストーリーを歩む)、探索(学習と変身を実践する)、関係(深い絆をはぐくむ)の3つを挙げ、この3要素に注目することで有効な対処法を導き出せるとして、以下、第2部でそれを実践するための具体的方法を論じています。

 第2部の第3章「物語」では、社会の変化に伴い、自分の人生に意味を与えられる新しいストーリーを紡ぐ必要が出てくるが、それは、年齢や時間、仕事に対する自分の考え方を再検討し、長期化する職業人生や余暇時間の増加などを前提に、人生で様々な選択を行う際の手引きとなるようなストーリーでなければならないとしています。

 第4章「探索」では、いくつもの移行を繰り返しながら長い職業人生を送るためには学び続ける必要があるとして、移行を成功させる方法をどう学ぶか、新しいタイプの移行はそのようなものか、中年期の移行や高齢期の移行を成功させるにはどうすればよいかを説いています。

 第5章「関係」では、長寿化により家族の在り方も多様化し、同時期にいくつもの世代が共存するようになるが、そうした中で純粋な人間関係を構築するにはどうすればよいか、コミュニティとどう関わるべきかを説いています。

 第3部の第6章では、これからの企業の課題は、社員のマルチステージの生き方や幸せで健康的な家庭生活を支援し、学習を促す環境を整備し、年齢差別をなくして高齢の働き手の生産性を維持することであるとしています。

 前著『LIFE SHIFT』を深堀りした本であり、長寿化の進展とテクノロジーの進化の中、個人と社会はどのように行動すればよいのかを説いているとともに、そうした社会の変化に対して企業はどうあるべきかをも説いており、人事パーソンにも薦めです。

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「中央集権」から「分権」への組織論の新たな視点(旧訳の方が読み易かった?)。

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ヒトデ型組織はなぜ強いのか 絶対的なリーダーをつくらない組織が未来をつくる The Starfish and the spider』['21年]『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』['07年]

 本書では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みています(本書は、'07年刊行の『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』(日経BP社)の14年ぶりの新訳となる)。

 第1章では、MGMなどのレコード会社が違法なダウンロードをユーザーにさせるP2Pサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型組織は攻撃を受けると、より一層開かれた状態となり、さらに分権化の度合いを強める」(第1の法則)としています。

 第2章では、インターネット登場時に初めてそれに接した人が、インターネットの社長は誰かと問うたように、「ヒトデはクモと間違えやすい」(第2の法則)ものであり、「開かれた組織では、情報は中央に集中せず、組織全体に分散している」(第3の法則)、「開かれた組織は容易に変化させられる」(第4の法則)、「分権型組織はこっそり近づいてくる」(第5の法則)、「業界内で分権化が進むと、業界全体の利益が減少する」(第6の法則)としています。

 第3章では、ウィキペディアを例に、「人は開かれたシステムの中に身を置くと、無意識のうちに貢献しようという気になる」(第7の法則)とし、第4章では、分権型組織の5本の足(基本要素)は、①サークル、②触媒、③イデオロギー、④既存のネットワーク、⑤推進者であるとし、第5章では、そのうちの「触媒」に必要なものを挙げています。第6章では、「中央集権型組織は、攻撃されると、より一層集権化する傾向にある」(第8の法則)がこれはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略を挙げています。

 第7章では、純粋にヒトデ型でもクモ型でもない、ハイブリッド型組織というものもあり、ハイブリッド型組織には、①カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を分権化させた中央集権型企業、②中央集権型企業が事業の内部構造を分権化するというパターンの2種類があるとしています。第8章では、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきだとしています。第9章では、これまでのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果など10のルールを挙げています。

ヒトデ型組織はなぜ強いのか3.jpg 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くが、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であり、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読をお薦めします。

 ただ、個人的には、重要箇所が太字ゴシックになっていた旧訳の方が読み易かったかもしれません。例えば、第7章でのハイブリッド型組織の2タイプの紹介で、1種類目と1種類目の紹介の間に15ページ近く間隔がありますが、要約部分が特に太字ゴシックになっているわけでもなく、これでは2タイプの説明の位置関係が分かりにくいのではないかという気がしました。ハードカバーからソフトカバーになったのはともかく、そうしたところは手を抜かないで欲しかったように思います(旧訳★★★★☆に対して、新訳★★★★)

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本書で言う「日本型ジョブ型雇用」は「職務等級制度」と同じではないか。

日本的ジョブ型雇用2.jpg日本的ジョブ型雇用.jpg 『日本的ジョブ型雇用』['21年]

 ジョブ型雇用の本質とは何であり、日本の企業風土・雇用慣行と親和性の高いジョブ型の仕組みとはどのようなものか、転換へのさまざまなハードルをどう克服するかなどを説いた本です。第Ⅰ部がョブ型の制度に関する理論編、第Ⅱ部が有識者と執筆陣のディスカッション、第3部が企業事例編になっていますが、やはり読みどころは第Ⅰ部になるかと思います。

 第1部の第1章では、いま、なぜ、ジョブ型雇用なのか、導入の目的と何が期待されるかを述べるとともに、メンバーシップ型の利点を残すなどした「日本型ジョブ型雇用」を提唱し、移行に向けた課題を整理しています。

 第2章では、ジョブ型を巡る議論の混沌はなぜ生まれるのかを考察し、ジョブ型人材マネジメントのエッセンスとして、①事業とポジションの連動、②職責と処遇の連動、③職務とキャリパスの連動、④国内とグローバルの連動の5つを挙げて、日本企業のジョブ型人材マネジメントの「基本形」を示しています。

 第3章では、著者らの研究所が行ったアンケート調査の結果を定量分析することで、ジョブ型導入企業についての企業行動や業績との関連を分析しています。

 第4章では、企業内でジョブ型人材マネジメントを構築する際に、経営理念から事業戦略、人材戦略、さらに具体的な運用をどう進めるか、そのプロセスを解説するとともに、富士通、リクルート、トヨタ自動車といった大企業の導入事例を紹介しています。

 第5章では、ジョブ型人材マネジメントを構築した後の運用面について述べ、転換後に起こり得る事象を具体的に指摘しながら、制度運用を誤らないようにするにはどういった施策が効果的であるかを解説しています。

 第6章では、人材マネジメント改革における経営と人事の役割を説き、第7章では、社員側から見て「ジョブ型雇用」の時代に個人はどう働くべきか、また、企業側から見た教育と人材育成の在り方を提言しています。

 本書では、「日本型ジョブ型雇用」に移行する際の最初の課題は、ジョブ型職種の職務価値を定め、その価値の大きさ(ジョブサイズ)に応じてグレード分けすることであるとしています。これは、職務主義、職務等級制度とほぼ同じ意味であり、「ジョブ型」というのはキャッチフレーズであるように思いました。したがって、それに続く「報酬の見直し」も、職務給制度の導入ということと同じであるように思います。

 かつて職務等級制度を導入しようとして、せっかく作成した職務記述書(ジョブディスクリプション)が仕事の変化に追いつけず柔軟性に欠けたために、柔軟な運用が可能な「役割等級制度」を選択した企業も多かったように思います。一方で、従前の「職能資格制度」及び職能給を維持する選択をしたところもあるかと思います。

 職能資格制度のままであったり、役割等級制度における役割の定義が曖昧であったりしたために年功的な処遇から脱し切れていない企業の人事担当者にとっては、もう一度、職務主義の原点に立ち返るという意味で、本書を読んでみるものよいかと思います。

 ただし、個人的な感想を言わせてもらえば、これは職務等級制度、職務記述書の復活を説いた本であり、それほど新しいことを述べているものではないように思いました。その割には、かつて日本企業でジョブディスクリプションが機能しなかったことへの言及が(事例などでは一部触れられているが)やや弱いように感じられました。

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ブラック企業を辞められない人に再考を促す本だが、人事パーソンにとっても極めて啓発的。

ブラック職場があなたを殺す.jpg ブラック職場があなたを殺す2.jpg  社員が病む職場、幸せになる職場.jpg   Dying for a Paycheck.jpg
ブラック職場があなたを殺す』['19年]『社員が病む職場、幸せになる職場 スタンフォードMBA教授の警告』['21年]『Dying for a Paycheck: How Modern Management Harms Employee Health and Company Performance―and What We Can Do About It』['18年]
社員が病む職場、幸せになる職場3.jpg 本書は、スタンフォード大学ビジネススクール教授で、『人材を活かす企業』などの著作で知られる著者が、職場のストレスはどうやって解決できるかという問題に取り組んだものです(原題:Dying for a Paycheck「給料のために死ぬ」)。2021年には『社員が病む職場、幸せになる職場―スタンフォードMBA教授の警告』と改題されて文庫化されました。

 第1章では、健康な行動は健康な職場から生まれるとし、経営者には選択肢があって、それは、従業員の心身の健康と幸福を重視する方針を掲げ、それによって従業員の医療費、欠勤、労災を減らし、労働意欲や生産性を高める選択肢と、従業員を病気や死に追いやる職場環境を、意図的または無知ゆえに創出または放置すろ選択肢だとしています。

 第2章では、解雇、無保険、シフト勤務、長時間労働、雇用の不安定など10種類の職場ストレス要因を挙げるとともに、それらストレス要因が超過死亡数や医療費に及ぼす影響を統計的に分析しています。この中で「無保険」が、解雇や雇用不安定を上回って超過死亡数の最重要要因となっているのは、米国ならではでしょう。

 第3章では、解雇や雇用不安定が健康に及ぼす影響を分析し、人員削減で企業業績が上向くという統計的証拠はなく、企業は安易に人員削減やレイオフをするべきではないとしており、このあたりの著者の主張は、『人材を活かす企業』から一貫しています。

 第4章では、長時間労働、仕事と家庭の両立困難などについて考察しています。ここでは、日本における「過労死」に言及し、長時間労働が起きる要因を労働者側と企業側の双方から分析しています。また、仕事と家庭の両立が困難となる原因を分析する一方、ワーク・ライフ・バランスに配慮している企業例を紹介しています(米国は日本より両立のプレッシャーが強いのかも)。

 第5章では、健康な職場を支える二大要素として、「仕事の裁量性」と「ソーシャルサポート(困ったときに周囲の助けを得られること)」を挙げています。仕事の裁量性が健康に影響するのは、それが仕事満足度に繋がるためであるとし、また、ソーシャルサポートが自然に生まれる環境づくりをしている企業は、社員を大切にする文化を育んでいるとして、その事例を紹介しています。

第6章では、健康によくない職場で働く人々が、そうとわかっていて辞められない理由を分析し、生計維持のため、有名企業であること、辞める気力が残っていないこと、力不足だと思われたくないことなどを挙げており、 そうしているうちに異常がいつしか正常になってしまう危険性を説いています。

 第7章では、まとめとして、変えられること、変えるべきことは何かを考察し、企業や社会は産業心理学などの手法を活用して従業員の健康と幸福を計測し、社会は「社会的公害企業」を公表する一方、好ましい企業は表彰するなどすべきであるとしています。

 本書に一貫しているのは、従業員の健康と企業の利益は両立するという考えであり、人間の健康と幸福は企業経営においても最も重視されるべきものであるという主張です。直接的には、ブラックな職場だとわかっていながら会社を辞められない人に再考を促す本と言えますが、実証的・理論的であり(とりわけ心理学的側面からの分析に説得力がある)、人事パーソンにとっても少なからず啓発される要素の多い本だと思います。

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「ジョブ型雇用」について理解でき、「同一労働同一賃金ガイドライン」の謎も解明。

ジョブ型雇用社会とは何か1.jpgジョブ型雇用社会とは何か0.jpgジョブ型雇用社会とは何か.jpg
ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)』['21年]

 著者の前著『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』(2009年/岩波新書)で提起された「ジョブ型」という言葉は、今や世に広く使われるようになりました。しかしながら著者は、昨今きわめていい加減な「ジョブ型」論がはびこっているとして、本書では、改めて「ジョブ型」「メンバーシップ型」とは何かを解説するとともに、日本の雇用システムの問題点を浮かび上がらせています

 序章で、世に氾濫するおかしなジョブ型論を取り上げ、とりわけ、ジョブ型を成果主義と結びつける考え方の誤りを指摘しています。第1章では、ジョブ型とメンバーシップ型の「基礎の基礎」を解説し、続いて第2章から第6章にかけて、採用と退職、賃金、労働時間、非正規雇用、集団的労使関係という各領域ごとに、メンバーシップ型の矛盾がどのように現れているかを分析し、解決の方向性を探っています。

 特に印象に残ったのは、第2章の「採用」のところで、日本型雇用システムにおいて採用差別という概念が成立しにくいのは、それだけメンバーシップ型の採用が自由度が高いためであり、それをジョブ型の採用にすると日本型の採用の自由を捨てることになるが、ジョブ型をもてはやしている人の中に、その覚悟がある人がいるようには思えないとしている点でした。

 また、第3章の「賃金」のところで、1990年代から2000年代にかけてブームになったものの失敗に終わった成果主義を、もう一度今度は成果を測定するジョブを明確化することで再チャレンジしようとしているのが2020年以来の日本版ジョブ型ブームではないかとし、その目的は成果主義によって中高年の不当な高給を是正することにあり、本来のジョブ型を実践する気は毛頭ないのだとしているのもナルホドと思わされました。

 さらに著者は、同一労働同一賃金の政策過程の裏側を探り、日本版同一労働同一賃金を"虚構"であると言い切っています。安倍政権の政策に携わる中で、それを日本でも可能だとした労働法学者・水町勇一郎氏(東大教授)の真意は、正社員の職能給をすべて職務給に入れ替えるのではなく(それにはかなり困難)、せめて非正規労働者の(職務給的)賃金を正社員の職能給に統一しようとしたのではないかとしています(確かに「同一労働同一賃金ガイドライン」は能力給、成果給、年功給のケースを書いているが、職務給については触れていない)。

 しかし、結局は、ガイドライン策定の過程段階で、基本給の項の最後に、雇用形態によって賃金制度が異なることを前提とした「注」付け加えられることになり、実はこの「注」の部分こそが、圧倒的多数の企業に関わりがあるとしています。この点については、学習院大学の今野浩一郎名誉教授も、『同一労働同一賃金を活かす人事管理>』(2012年/日本経済新聞出版)の中で、ガイドラインの中で最も重要なのはこの「注」であり、先にこれをもってくるべだとしていました。

 今野教授は「ジョブ型雇用の亡霊」がまた現れたといった表現をしていましたが、本書はどちらかというと「ジョブ型」を正しく読者に理解してもらうことに注力しているように思いました。「ジョブ型」というものに対して人事の現場が何となく抱いている疑念を整理し、すっきりさせてくれる本であり(ついでに「同一労働同一賃金ガイドライン」の「謎」(笑)も解明してくれる)、人事パーソンにお薦めします。


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