2024年3月 Archives

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人間性の研究結果として生まれた「動機づけ―衛生理論」とその実証的裏討ちを示す。

『仕事と人間性』2.jpg『仕事と人間性』.jpg ハーズバーグ.jpg フレデリック・ハーズバーグ(1923 - 2000)
仕事と人間性: 動機づけ-衛生理論の新展開』['68年]
 1966年にフレデリック・ハーズバーグ(Frederick Herzberg、1923 - 2000)による原著(Work and the Nature of Man)の初版が刊行された本書は、仕事における動機づけの心理学的調査研究の結果から、人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする「動機づけ―衛生理論」という考え方を実証的に提唱し、経営や組織、社会に新しい人間観を持ち込んだことで知られる本です。

 「1.ビジネス―現代の支配的制度」で、ビジネス組織が今日の社会の支配的制度となっているとし、「2.アダムとアブラハム」では、人間はアダム的要素とアブラハム要素の両方を基本的性質として持っているとしています。エデンの園を追われたアダムは、人間の回避的性質の象徴であり、不快さの回避に関する欲求を持っている(後に述べる衛生要因につながる)のに対し、神から「完全なものになれ」といわれたアブラハムは、人間が有能で生得の潜在能力があることの象徴であり、成長、自己実現の欲求を持っている(同じく動機づけ要因につながる)としています。

 「3.産業界の人間概念」では、産業界における人間の概念が、プロテスタント倫理、テーラーの科学的管理法、ホーソン工場の実験と人間関係論などを経て「経済的人間」から「社会的人間」「情緒的人間」へと変遷してきたと振り返り、「4.人間の基本的欲求」では、人間はアダム的人間としての欲求とエブラハム的人間としての欲求の二組の欲求を有するとしています。「5.精神的成長」では、精神成長とはなにか、その6つの要点(より多く知ること、知識内の関係づけが増えること、創造性、あいまいさの中での効率、個別化、現実的成長)を挙げています。

 そして「6.動機づけ―衛生理論」において、仕事の満足に関わるもの(動機づけ要因)は、「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などで、これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではなく、一方、仕事の不満足に関わるもの(衛生要因)は「会社の政策と経営」「監督技術」「給与」「対人関係」「作業条件」などで、これらが不足すると職務不満足を引き起こすが、満たしたからといっても満足感につながるわけではなく、単に不満足を予防する意味しか持たないとしています。「7.動機づけ―衛生理論の実証」「8.動機づけ―衛生理論の追加実証」で、そのことがさまざまな職種における調査から実証できることを証明し、「9.どうすればいいか」で、この理論を現実にどう活かすべきかを説いています。

 本書の前半のかなりの部分が人間性をめぐる解釈と変遷の記述で占められているのは、「動機づけ―衛生理論」が人間性の研究結果として生まれた理論であることを示しており、同時に、実証研究による理論の裏打ちもされています。それらが、この理論が今なおビジネスの現場で活きている理由であると考えます。

ハーズバーグ2」.jpg 因みに、フレデリック・ハーズバーグはユダヤ系アメリカ人の臨床心理学者であり、こうしたモチベーションの性質と人をやる気にさせる最も効果的な方法の研究によって影響力のある経営思想家となりましたが、彼を最初に心理学の道に進ませた「メンタルヘルスに対する一方ならぬ関心」は、「メンタルヘルスはわれわれの時代の中核的な課題である」という信念から生じているそうで、この信念は、第2次世界大戦で解放直後のダッハウ強制収容所に配属された従軍体験によって刺激を受け、形成されたと言われています(収容所にいた多くの同胞ユダヤ人を見たものと思われる)。アメリカに戻ると公衆衛生局で働き、その後は学究生活に入って、「動機づけ―衛生理論」は1959年に刊行された『作業動機の心理学』(The Motivation to Work)で初めて発表されています(衛生局に勤めていたから「衛生要因」になった? 普通だったら「環境要因」とかになった可能性もあったのでは)。

Frederick Irving Herzberg

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自己啓発本の名著。成功の方法やリーダーシップについて実践的・現実的に書かれている。。

『完訳 7つの習慣』00.jpg『完訳 7つの習慣』.jpg完訳 7つの習慣 人格主義の回復』['13年]

 1989年に原著の初版が刊行された本書は、自己啓発本の名著とされる本であり、成功の方法やリーダーシップについて実践的・現実的に書かれたビジネス書でもあります。

 第1部「パラダイムと原則」では、「個性主義」なものはあくまで二次的なものであって、まずは「人格」を磨かなければ真の成功は得られないとするとともに、問題の見方を「自分が変わらなければ周囲も変化しない」という「インサイド・アウト」という考え方にパラダイム・シフトすべきであるとしています。そして、「7つの習慣」は人格を磨くための基本的な原則を具体的なかたちにしたものであり、その原則を守ることで、自らが変わり結果を引き寄せていく、という新しいパラダイムを手に入れることができるとしています。

 また、「7つの習慣」とは、「依存」から「自立」、「相互依存」へと至る、成長の連続体を導くプロセスでもあり、そのプロセスは3段階に分類できるとして、以下、第2部で私的成功の習慣(第1〜第3の習慣)、第3部で公的成功の習慣(第4〜第6の習慣)、第4部で再新再生の習慣(第7の習慣)についてそれぞれを解説しています。

 第1の習慣として「主体的であること」を挙げています。主体的であるということは、「今の自分の人生は自分の選択の結果だ」と考え、「それゆえにこれからの人生も自分で選択していくことができる」という考えであり、私たちは人間に与えられた「想像、良心、意思、自覚」という能力によって、何が自分の身に降りかかってこようとも、それが自分に与える影響を自分自身で決定することができるとしています。

 第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」です。何事においても「終わりをイメージ」しておくことはとても重要であり、なぜなら「終わりをイメージ」しておくことによって、「最終的に自分がどこに辿り着きたいか」が自ずと見えてくるからで、この習慣を身につけるためには、個人のミッションステートメントを書くのが効果的で、どのような人間になりたいか(人格)、何をしたいか(貢献・功績)、自分の根底にあるもの(価値観)を羅列していくとよいとしています。

 第3の習慣「最優先事項を優先する」です。自分のミッション・ステートメントに照らし合わせて自ら行うことを決め、最優先事項から優先的に行動せよと述べています。具体的には物事を①緊急で重要なこと、②緊急ではないけれど重要なこと、③緊急だが重要ではないこと、④緊急ではなく重要でもないことの4つに分け、そして「緊急ではないけれど重要なこと」を優先して行うことが自分自身の成長につながるとしています。

 第4の習慣「Win-Winを考える」であり、第1〜第3の習慣が身につくと、人と協力しながらより大きな成功を目指せるようになるが、「Win-Winを考える」とは、全ての人間関係で自分も相手も利益になることを考えるということであり、この習慣が身につくと、競争よりも協力することに眼が向くようになり、関わった人との間に信頼が積み重なり、協力を得やすくなるとしています。

 第5の習慣は、「まず理解に徹し、そして理解される」です。より深い信頼関係を構築するためにはお互いに理解し合う必要があり、高度な信頼関係を構築するためにも、自分を理解してもらおうとする前に相手を理解することに徹することが重要で、話を聞く時も、相手の身になって親身に話を聴き、相手の言葉にしっかりと耳を傾けていることが伝われば、その後で自分のことも理解してもらいやすくなるとしています。

 第6の習慣「シナジーを創り出す」です。シナジー(相乗効果)とは、全体の合計が個々の総和より大きくなることを指し、バラバラに仕事をしている人が協力し合うことで、個人では達成できない大きな結果を生み出せるとしています。

 第7の習慣「刃を砥ぐ」です。これは、自分自身の価値をより高めていく習慣です。人間には、肉体・精神・知性・社会・情緒という5つの刃があるとし、これら5つの刃を日頃からバランスよく磨いていくことで、自分自身の価値をより高めることが可能であるとしています。

 本書は、人事パーソンの間でも推す人の多い本。「7つの習慣」は生きている限りいくらでも高めることができるものと言えるものであり、本書は定期的に読み返したい本の一冊です。


【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

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自己啓発の名著。リーダーシップ論、マネジメント論としても読める。

『自助論』.jpg自助論』['03年]
『自助論』2.jpg
・竹内 均:訳『自助論―人生を最高に生きぬく知恵』(1985年/三笠書房)
・竹内 均:訳『自助論―人生を最高に生きぬく知恵』(2002年/三笠書房・知的生きかた文庫)
・竹内 均:訳『スマイルズの世界的名著 自助論』(2012年/三笠書房・知的生きかた文庫)
・竹内 均:訳『自助論』(2003年/三笠書房)
・竹内 均:訳『自助論:「こんな素晴らしい生き方ができたら!」を実現する本』(2013年/三笠書房)
『自助論』3.jpg
・久保美代子:訳『新・完訳 自助論』(2016年/アチーブメント出版)
・夏川賀央:訳『今度こそ読み通せる名著 スマイルズの「自助論」』(2016年/ウェッジ)
・三輪裕範:訳『超訳 自助論 自分を磨く言葉 エッセンシャル版』(2023年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・竹内 均:訳『自助論:「まんがで人生が変わる! 自助論: 感動的に面白い世界的名著!!』(2013年/三笠書房)
・『マンガでわかる サミュエル・スマイルズの自助論~成功する「考え方」と「習慣」』(2017年/マイナビ出版)

 原著が1858年に刊行された本書は、多くの偉人の成功談を集め、自助の精神を説いた自己啓発の古典的名著であり、冒頭の「天は自ら助くる者を助く」という言葉は特に有名です。

 第1章「自助の精神」では、「天は自ら助くる者を助く」とし、外部からの援助は人間を弱くし、自分で自分を助けようとする精神こそ、その人間をいつまでも励まし元気づけるとしています。そして、最高の教育は日々の生活と仕事の中にあるとしています。

 第2章「忍耐」では、何をするにしても、常識や集中力、勤勉、忍耐のような平凡な資質がいちばん役に立ち、天賦の才は不要であり、天才と称される人物ほど、必ずといっていいくらい、粘り強い努力家であったとしています。ニュートンは業績の秘訣を問われた際「いつもその問題を考えつづけていたからだ」と答え、フランスの博物学者ビュフォンは「天才とは、一つの問題に深く没頭した結果、生まれるものだ」と言ったと。

 第3章「好機は二度ない」では、勤勉の中にこそ「ひらめき」は生まれるものであり、ありふれた事物の背後にある本質を理解する観察力は、人間に大きな差をつけるとしています。ニュートンにしてもガリレオにしても、膨大な科学的知識を土台に、常に本質を探求する観察力や洞察力で、大きな功績を残したと。そして、チャンスをとらえ、偶然を何かの目的に利用していくところに成功の大きな秘密が隠されているとしています。

 第4章「仕事」では、割に合わない仕事にも注意深く心をこめて取り組むべきで、常に最善をつくし、前の仕事より一歩でも二歩でも前進しようと努力することが大切であるとしています。成功を決意し、努力の結果に自信を持つことが大事で、仕事は自分の才能を伸ばす最高の"栄養剤"であると。

 第5章「意志と活力」では、「世間」という学校にしっかり学ぶことが大事で、意志の力さえあれば、人は自分の決めた通りの目標を果たし、自分がかくありたいと思った通りの人間になることができるとしています。自分を方向づけるのはまさに「意志の力」であり、それによって"何も生まない生活"と訣別すべきであると。また、誠実に生きることの大切さを説くとともに、旺盛な活力と不屈の決意さえあれば、この世に不可能なことはないとしています。

 第6章「時間の知恵」では、どんなビジネスにも、それを効率よく運営するのに欠かせない原則が6つあり、それは、注意力、勤勉、正確さ、手際のよさ、時間厳守、そして迅速さであるとしています。また、今日の仕事を明日に延ばすと、二倍時間がかかるとしています。時間を正しく活用すれば、自己を啓発し、人格を向上させられるが、仕事に身を入れず、怠惰な時間を過ごしていると、心に雑草をはびこらせると。1日15分の使い方が人生の明暗を分け、時間にルーズな人は成功のバスに乗り遅れるとも言っています。

 第7章「お金の知恵」では、金を人間生活の第一の目的だなどと考えるべきではないが、聖人ぶってお金を軽蔑するのも正しくないとしています。実際、人間の優れた資質のいくつかは、金の正しい使い方と密接な関係があり、寛容、誠実、自己犠牲などはもとより、倹約や将来への配慮といった間の美徳と密接に関わっているとしています。いちばん大切なのは、正直な手段で金を得て、それを倹約しながら使うことであり、身の丈を超える借金は絶対にしてはいけないとしています。財産を相続した若者は、安易な生活に流されがちであり、望むものが何でも手に入るため、かえって生活に飽き飽きしはじめ、彼のモラルや精神力は、いつまでも眠りから覚めることがないと。

 第8章「自己修養」では、最良の教育とは、人が自分自身に与える教育であり、確固たる目的や目標を持っていれば、勉強も実り多いものとなると。また、仕事を通してしか生まれない実践的「知的素養」というものがあり、"自学自習"で勝ち取った知識は応用がきくとしています。人間は、困難や失敗を克服することで、自己を高めていくものであり、困難に立ち向かわなくても済むようになるのは、人生が終わり、修養の必要もなくなった時だけだと。

 第9章「出会い」では、よき師、よき友は人生の最大の宝であり、人間性を育てる際の成否は、誰を模範にするかによって決まり、われわれの人格は、周囲の人間の性格や態度、習慣、意見などによって無意識のうちに形づくられるとしています。また、「人生を変える一冊」「自分を奮い立たせる一冊」を持つことも大切であり、特に真の人生を生きた人の伝記は、現在に通ずる優れた知恵であるとしています。

 第10章「信頼される人」では、立派な人格は人間の最良の特性であり、人格者は社会の良心であり、同時に国家の原動力となるとしています。教養や能力に乏しく財産の少ない人間でも、立派な人格さえ持ち合わせていれば他人に大きな影響を与えられると。また、言行一致は、立派な人格のバックボーンを成すとしています。真の人格者は、力や才能に驕らず、成功しても有頂天にならず、失敗にもそれほど落胆せず、他人に自説を無理に押しつけたりせず、求められた時にだけ自分の考えを堂々と披瀝し、人の役に立とうという場合でも、恩着せがましいそぶりは微塵も見せないものだと。

 本書はキャリアの入り口にいる若い人向けの自己啓発本と思われている面もありますが、どの世代にも通用する普遍的な自己管理論で、リーダーシップ論、マネジメント論として読める要素も多くあり、中堅・ベテランの人事パーソンの教養書としてもお薦めできる内容です。当ブログには「自己啓発書」というカテゴリーが無いため、リーダーシップ論、マネジメント論として扱いました。


【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

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自己啓発の名著であるとともに、リーダーシップの名著でもある。

『人を動かす【新装版】 』.jpg『人を動かす【文庫版】』 .jpg    『人を動かす【改訂新装版】』 .jpg 『人を動かす【改訂文庫版】』 .jpg
人を動かす 新装版』['99年]『人を動かす 文庫版』['16年]『人を動かす 改訂新装版』['23年]『人を動かす 改訂文庫版』['23年]
1937年10月30日・日本語抄訳版初版(加藤直士:訳)/1958年5月20日・第20版/1958年11月1日・全訳版初版(山口 博:訳)/1982年12月1日・第2版
『人を動かす』[旧版].jpg 本書は、社会人として身につけるべき「人間関係の原則」を具体的に明示した、自己啓発本の古典としてよく知られている本です。1936年に刊行(日本語版は抄訳版が1937(昭和12)年創元社刊)されて以降、全世界で1500万部以上売れてたベストセラーであり、タイトルだけは聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。もちろん、すでに読んだという人も多いかと思います。

 PART1では、「人を動かす3原則」として、①盗人にも五分の理を認める、②重要感を持たせる、③人の立場に身を置く――を挙げています。どんな相手であっても非難せずに相手を認めること、相手に心からの賛辞を示して自己重要感を満たすこと、自分のことではなく相手の立場に立ってその望みは何なのかを考え、そこに自分の望みの標準を合わせることが、人を動かすための重要な点であるとしています。

 PART2では、「人に好かれる6原則」として、①誠実な関心を寄せる、②笑顔を忘れない、③名前を覚える、④聞き手にまわる、⑤関心のありかを見抜く、⑥心からほめる――を挙げています。どんな人でも、自分に関心があって、常に笑顔で、自分の話をよく聞き、自己重要感を高めてくれる相手に対しては、けっして無下に扱うようなことはしないとしています。自然と人に好かれ、行動を促すための、簡単なようでなかなかできている人が少ない人間関係の基礎を説いています。

 PART3では、「人を説得する12原則」として、①議論を避ける、②誤りを指摘しない、③誤りを認める、④穏やかに話す、⑤"イエス"と答えられる問題を選ぶ、⑥しゃべらせる、⑦思いつかせる、⑧人の身になる、⑨同情を寄せる、⑩美しい心情に呼びかける、⑪演出を考える、⑫対抗意識を刺激する――を挙げています。人を説得する12原則では、人を動かす3原則、人に好かれる6原則をベースに具体的な方法が書かれています。自分の意見を相手に受け入れてもらい、説得するためにはまず相手を尊重する必要があるとし、対立することを避け、相手の立場と考えを尊重し穏やかな言動で接することで、相手はこちらの意見を受け入れやすくなるとしています。その上で相手の良心に訴え、相手が興味を引き楽しめるような演出をすることで、結果的に相手がこちらの望む行動をとるようになるとしています。

 PART4では、「人を変える9原則」として、①まずほめる、②遠まわしに注意を与える、③自分の過ちを話す、④命令をしない、⑤顔をつぶさない、⑥わずかなことでもほめる、⑦期待をかける、⑧激励する、⑨喜んで協力させる――を挙げています。人を変える9原則では、相手へ影響を与えるための原則が書かれています。人を変えるには、まず相手を褒め、自尊心を満たし、期待をかけ自分は変われるという自信を持たせること、そして実際以上の評価を相手に伝えることで理想とする指針を示し、やる気を刺激する「肩書き」を与えることで、相手の自発的な行動が促されるとしています。

 「時代が変わっても、人の性質は変わらない」という著者の言葉があります。豊富な事例から抽出される原則が的確で、まさに原則としての普遍性を湛えており、それが、今日もなお本書がベストセラーの上位にある所以でしょう。

 自己啓発の名著であるとともに、リーダーシップの名著でもあります。全部で30の「人間関係の原則」が記されていることになりますが、一つ一つの原則を自分が理解できるまで何度も繰り返し読み、何度も実践しすることで、自分のものへと落とし込んでいくことになるかと思います。

人を動かす 完全版.jpg 創元社の単行本【新装版】(1999年刊)と【文庫版】(2016年刊)の違いは、単行本版には「付」として「幸福な家庭をつくる7原則」というのが掲載されていますが、文庫版にはありません(昨年['23年]、【改訂新装版】の単行本が6月に、文庫が9月に刊行されたが、どこが"改訂"なのか、個人的には未確認。目次を見る限りそれぞれ同じに見えるが...)。また、新潮社より『人を動かす 完全版』(2016年刊)が東条健一訳で刊行されており、こちらは著者の未亡人が編纂に関わり、著者の死後に加えられたエピソードを排し、失われていた「本書を書いた理由」など多くの原稿を復活させたものです(ただし、個人的には創元社版の方が読みつけているせいか読みやすい)。

人を動かす 完全版』['16年]

【1999年新装版[創元社]/2016年新装版文庫化[創元社]/2016年完全版[新潮社]/2023年改訂新装版[創元社]/2023年改訂新装版文庫化[創元社]】

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

蔵書用(単行本)と携帯用(文庫)
『人を動かす【新装版】』1.jpg

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OODAを回すのに必要なリーダーシップとは何か、組織文化の属性は何かを説く。

OODA式リーダーシップ.jpgOODA式リーダーシップ20223.jpg   アーロン・ズー.jpg アーロン・ズー((株)電通 BXCC事業開発プロデューサー)
OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン』['23年]

OODA式リーダーシップ2.jpg 本書によれば、PDCAよりも環境変化に柔軟に対応でき、変化が激しい昨今のビジネスをハンドリングしていくフレームワーク概念として「OODAループ」というものがあり、それは「Observe(観察)」「Orient(状況判断)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」に分かれていて、意思決定から行動までを網羅しているとのことです。

 OODAは米国空軍で戦闘機パイロットだったジョン・ボイド大佐が提唱したもので、米国ではすでに確立されており、民間でも一般的であるとのことです。ただし、PDCAが当たり前になってしまっている日本人がOODAを使いこなすには、日本人が苦手とするリーダーシップが必要であるとし、軍事戦略をベースにしたOODAの基礎知識と、求められるリーダーシップについて解説しています。

OODA式リーダーシップ1-2.jpg 第1章では、マネジャーの役割は複雑さに対応することであるのに対し、リーダーの重要な役割は「変化に対応する」ことであるとしています。その上で、真のリーダーに必要な5つの基本要素(①意義を共有する、②与える人になる、③メンバーの強みを見つける、④フィードバック上手になる、⑤成果を明確にする)を掲げています。また、OODAとPDCAの決定的な違いとして、OODAは目指すべき結果を想定しておらず、評価のプロセスもなく、そもそも意思決定のためのものであり、業務改善のためのものであるPDCAとは役割が異なるとしています。

 第2章では、OODAが持つ軍事的エッセンスについて、軍事戦略の基礎である「ランチェスOODA式リーダーシップ2-2.jpgターの法則」から説き起こしています(弱者のための「一次法則(=機動戦)」と「強者のための二次法則(=消耗戦)」)。そして、PDCAが「消耗戦」でいく"正策"であるのに対し、OODAは「機動戦」に可能性を見出した"奇策"であり、本当の戦争よりもビジネスにおいて、その実力を発揮できるとしています。また、一般に知られているOODAの図は、正確なOODAではなく、実際の現場では「明示的な決定」は必要とされず、「判断(Orient)」が直接「行動(Act)」を統制することで、スピーディーな意思決定のプロセスが踏め、これこそがOODAの「速さの正体」だとしています。

 第3章では、ビジネスにおけるOODAの存在意義として、今後「パラダイムシフト」によってビジネスの根本が変化する中、スピーディーに状況を観察(Observe)し、方向性(Orient)を決め、迅速な決定(Decide)により行動(Act)することは不可欠だとしています。また、OODAを回すために必要な組織文化の属性として、信頼、直観、任務、方向性の4つを挙げ、さらに、すべての経営者(リーダー)は、奇策を生み出せるクリエイターであるべきだとしています。

 第4章では、日本でOODAを高速回転させるための手法として、「イシュー・セリング(Issue Selling)」と呼ばれる「問題を課題として経営層に認識してもらうためのプロセス(提案、根回し、協力者探しなど)」を紹介し、その4つのステップ(①前準備、②パッケージング活動、③巻き込み活動、④セリング活動)について解説しています。

 日本では、PDCAは仕事の基本であると言われ続けてきたように思います。一方で、変化の激しい今の時代において、当初の計画通りに事が運ばないことは少なからずあるかと思います。こうした状況において、OODAというフレームワークは、非常に興味深いと思われます。

 ただし、やや漠たる印象もあり、それを日本の企業や職場においてどう回していけばいいのか、具体的なイメージが把握しにくい面もあるように思います。本書も、読んでみてまだ難しく思われる箇所もあるかもしれませんが、OODAを回すのに必要なリーダーシップとは何か、組織文化の属性は何かにフォーカスして書かれている分、「では、どうすればよいのか」をイメージしやすい内容になっているように思います。

 「OODAループ」についてより知りたい人は、本書にも紹介されている本で、OODAの提唱者であるジョン・ボイド大佐の弟子だった企業コンサルタントのチェット・リチャーズ氏の著書『OODA LOOP(ウーダループ)』('19年/東洋経済新報社)を読んでみるのもいいかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第一章 科学的に考えるリーダーシップの定義
第二章 軍事戦略から紐解く「戦略」の要素
第三章 ビジネスにおけるOODAの存在意義
第四章 日本でOODAを活かすための変革とは
●「人生で偽りのリーダーに出会うほど無駄なことはない。」(31p)
●ランチェスターの法則
・ランチェスターの1次法則(弱者戦略)
「一騎打ちの法則」 純粋な白兵戦、一対一の戦闘を前提とすると、戦闘力が優勢な方が勝利し、勝利側の損害は劣勢の戦闘力と等しくなる。
・ランチェスターの2次法則(強者戦略)
30人と50人が同じ能力の武器を使って戦う場合、兵士数はそれぞれ2乗になると考え、50人の軍が、40人を残して勝つことになる。 公式は「戦闘力=(兵士数の2乗)×武器効率」。

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21世紀の資本による、21世紀の労働者に対する「搾取と疎外」。

人が働くのはお金のためか.jpg人が働くのはお金のためか2023.jpg
人が働くのはお金のためか (青春新書インテリジェンス) 』['23年]

 本書において著者は、「21世紀の労働」という名のミステリーゾーンを旅するとして、ブームを引き起こした経済学者トマ・ピケティの著作『21世紀の資本』(2014年/みすず書房)などに着目しながら、「21世紀の労働」の有り様と実態に迫りつつ、そもそも「人はなぜ働くのか」という考察を進めています。

 『21世紀の資本』で言われていることを著者なりに要約すると、グローバル化の進展とともに富の偏在は進み、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、暴利をむさぼり、富裕層の不労所得が増大と集中をする一方で、経済格差は広がり、「使い捨て型」雇用は増え、働く人々に貧困が忍び寄る―ということになります。

 第1章では「人はなぜ働くのか」をテーマにした文献を14冊挙げ、それらのアマゾンのサイトにおける「読者のブック・レビュー」を分析しています。そして、そこから、自分たちは「21世紀を生きる労働者」だということを意識しつつも、知的創造活動の成果に見合う待遇(お金)を受けていない、「疎外された労働」の立場に置かれていると感じていることが読み取れるとしています。

 一方で、「若者向けの就活支援サイト」に目を向けると、21世紀の労働者の多くが「お金を得るために働く」と言っている現実を踏まえつつも、彼らに「カネのために働くのか」と問いかけ、企業の採用面接で「なぜ働くの?」と聞かれた際の対応例としては、「自己実現」と「社会貢献」を模範解答として挙げているとのことです。

 第2章では、この文献レビュアーの感覚と就活サポーターの呼びかけを、労働観の変遷、働く理由としての金銭動機、自己実現、承認欲求、社会貢献の5つ対比ポイントから分析しています。そして、それらは正反対の傾向を示していて、就活サポーターは文献レビュアーたちの感覚と真逆の、「21世紀の資本」が求める「21世紀の労働」のイメージを押し付けているように見えるとしています。

 第3章では、以上、述べたように、21世紀の資本は、それが欲している21世紀の労働の鋳型の中に、21世紀の労働者たちを押し込もうとしているという観点から、安倍政権が推し進めた「働き方改革」を批判的に検証しています。その中にはフリーランス絶賛論もありましたが、日本のフリーランスがどこまで自由なのか、実際には高齢者が多く、低収入で不安定なのが実態であり、ギグワーカーなども同様であるとしています。

 第4章では労働観の歴史的変遷を辿り、終章ではアダム・スミスとカール・マルクスにフォーカスして、この偉大なる二人の偉人の労働観から、21世紀の資本による「21世紀の労働」の呪縛から逃れる方法を探っています。そして、そこから「共感」と「覚醒」というキーワードを引き出しています。

 また、ここでは、21世紀の資本による、21世紀の労働者に対する「搾取と疎外」について、「21世紀型ステルス搾取」が端的に集約されているのが「やりがい詐欺」であり、仕事の成果によって承認欲求が満たされるなどして、搾取されているのに疎外感が実感できないのが「ステルス疎外」だとしています。

 本書によれば、アマゾンのサイトにおける文献レビュアーは、金銭的動機を第一に挙げ、やりがい詐欺を警戒しているといいます。企業の採用面接で、自己実現や社会貢献を志望理由とせよとの就活サポーターのアドバイスに従ったとしても、それは「面接での受け答え」と割り切っのてことではないでしょうか。

 考察を進めていく過程は興味深く読めましたが、やや政策批判が先にありきの印象も。本書のタイトルについては、著者自身も「やりがい詐欺の道具立てにされかねず不本意」だそうです。

《読書MEMO》
●目次
序章 ―――「21世紀の労働」に目を向けるわけ
第1章―――湧き上がる「人はなぜ働くのか」論
第2章―――2つの「人はなぜ働くのか」論を比べてみれば
第3章―――日本の21世紀の労働者たちが当面している状況
第4章―――かつて人々はどう働いていたのか
終章 ―――「21世紀の労働」を呪縛から解き放つために


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「表層的なパーパス」とは異なる「深層的なパーパス(ディープ・パーパス)」を提唱。

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DEEP PURPOSE 傑出する企業、その心と魂』['23年]

ハーバード大学ビジネス・スクール教授による本書では、高業績を上げる企業は利潤よりもパーパスに導かれているとしています。パーパスは、その会社の従業員、顧客、パートナー、株主などあらゆるステークホルダーをまとめるビジョンを作り出し、倫理的な行動を動かし、ステークホルダーの最善の利益に反する行動に対する本質的な抑制を作り出すものであり、また、文化の強力な原動力であり、組織の内部すべてで一貫性を持つ意思決定の枠組みを提供し、最終的には、会社の株主のために長期的な収益を維持するのに役立つとしています。

最初の3章は、ディープ・パーパス・リーダーがパーパスについて考える強力なやり方を検討しています。

第1章「そもそもパーパスとは何か?」では、一般の多くのリーダーは、パーパスを機能または道具として考え、ツールだと思っているが、ディープ・パーパス・リーダーはそれを、より根源的な企業の存在理由そのものを表現するものと考え、彼らにとっては、パーパスは意思決定を形成し、ステークホルダーたちをお互いに結びつける組織原理となるとしています。

第2章「かみそりの刃の上を歩く」では、ディープ・パーパス・リーダーは、商業主義と社会倫理のトレードオフの調整に取り組み、ステークホルダー間の利害を調整して、ときには彼らが短期的には「不満足」と思うが、やがて万人に利益をもたらすつらい決断をすることもあるとしています。

第3章「すぐれた業績の四つのレバー」では、ディープ・パーパス・リーダーは企業の成長を導くレバーとして、①戦略立案の焦点を定める能力、②顧客との関係構築、③外部ステークスホルダーへの対応、④従業員の啓発、の四つ便益を指摘しているとしています。

第4章から第7章は、存在理由(パーパス)を定義して企業に根づかせ、それが本当に業績を改善するようにするために、リーダーたちが実施すべき鍵となるアクションを検討しています。

第4章「パーパスの真の源:前を見ながら振り返る」では、ディープ・パーパス・リーダーは過去を振り返り、創業者や初期の従業員たちの意図に入り込んで企業の不滅の魂や本質を捉えるため、結果的に感情的なつながりが深まって、存在理由への献身が高まるとしています。

第5章「あなたは詩人? それともただの作業員?」では、ディープ・パーパス・リーダーがパーパスを伝える際には、壮大な基盤となる物語を語り、会社に深みと意義と、詩情さえももたらすとしています。

第6章「パーパスの中の「自分」」では、ディープ・パーパス・リーダーは、組織のパーパスをチームメンバーの個人的な発展と成長に結びつけ、内在的動機に火をつけ、高水準の献身と業績を実現するとしています。

第7章「鉄の檻を逃れる」では、パーパスを深く追求するリーダーは、伝統的な官僚主義的やり方を破壊し、自社をイノベーション、アジャイル性、成長に向かわせようとするとしています。

最後に、第8章「思いつきから理想へ:未来に湛えるパーパス」で、パーパスを次第に空疎化させてしまういくつかの罠を述べ、ディープ・パーパス・リーダーが会社を正しい方向に維持するために使う手法を紹介しています。

昨今「パーパス経営」という言葉がよく使われますが、本書では、「ディープ・パーパス(深層的なパーパス)」という概念を初めて提唱し、パーパスには「表層的なパーパス」と「深層的なパーパス」があって、両者は異なるとしています。

パーパスステートメントを書くのは簡単だが、出来上がった美辞麗句を社員に伝えただけではパーパス経営が行なわれているとは言えず、深層的なパーパスは、経営者が中心となり、経営者と社員が長い時間を掛けて真剣に検討し何度も議論する中で生まれてくるものであるとしています。

さらには、経営者自らが社員一人ひとりに、パーパスを浸透させるために、自ら実践する必要があり、戦略立案、人材採用、新規事業開発など、どのような仕事を行なう際にも、経営者を始め管理者層がパーパスを実践し、それを下へと伝えていくことが肝要あるとしています。

ペプシコやレゴ社、リクルートなど、パーパス経営を実現しているとされる18の企業例が紹介されていますが、解説の鵜澤慎一氏が、伊藤忠商事が近江商人の「三方よし」の精神を企業理念に掲げていることを例に、「パーパス経営は実は日本の経営観に近い」と述べており、このことを念頭に置くと、身近な印象を抱きながら読み進めることができるのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
序文
はじめに
第1章 そもそもパーパスとは何か
都合のいいパーパス
パーパスの別のパラダイム
会社の魂とのつながり
第2章 かみそりの刃の上を歩く
「同時解決策」の誘惑
かみそりの刃の上を歩く
実務的理想主義の心構え
実務的理想主義の勇敢な追求
トレードオフの妙技
第3章 優れた業績の四つのレバー
成長を導く「北極星」(パーパスのレバーその1:方向的)
緊密なエコシステム(パーパスのレバーその2:関係的)
顧客への評判強化(パーパスのレバーその3:評判的)
従業員を惹きつけ啓発(パーパスのレバーその4:動機的)
第4章 パーパスの真の源:前を見ながら振り返る
道徳的コミュニティとしてのビジネス企業
過去に見出す聖なるもの
未来を見つつ振り返る
戦略その1:過去の美化と邪悪化の緊張に特に注目
戦略その2:過去についての批判的対話を育む
戦略その3:パーパスをストレステストにかけよう
第5章 あなたは詩人? それともただの作業員?
ただのエピソードではない――大きな物語
業績はパーパスとともに
ペプシコの大きな物語を語る
「大きな物語」の背後の物語
自分/我々/今
大きな物語を具象化する
第6章 パーパスの中の「自分」
「自分」を解き放つ
「自分らしく、率直に、親切に」
何のために会社にくるのか?
会社はあなたのために何ができる?
人生のパーパスの力を解き放つ
第7章 鉄の檻を逃れる
「醜悪な一大惨状」
パーパスとのつながり
「船頭が多すぎる」問題の解決
パーパス=自律性=信頼のつながり
「根深いタコツボ」問題の解決
パーパス=信頼=協働のつながり
第8章 思いつきから理想へ:未来に湛えるパーパス
コース逸脱
脱線要因その1:属人化のパラドックス
脱線要因その2:(不適切な)計測による死
脱線要因その3:善行者のジレンマ
脱線要因その4:パーパスと戦略の分裂

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CEは、新規事業を立ち上げ推進するだけでなく、既存組織の変革も両立して行うリーダー。

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コーポレート・エクスプローラー――新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則』['23年]

 本書は、企業の中から新しい探索事業を立ち上げるリーダー(コーポレート・エクスプローラー、CE)に焦点を当てています。CEはスタート・アップの起業家とは異なり、成熟した企業の内側からイノベーションを起こしつつ、既存事業の変革も担うリーダーであり、本書では、実際に存在するCEの事例にフォーカスし、新規事業を立ち上げ、既存組織も変革する「両利きの経営」を実現するための4つの原則を提示しています。

 第Ⅰ部では、調査の結果、創造的破壊を起こす企業には、「戦略的抱負」「イノベーションの原則」「両利きの組織」「探索事業のリーダーシップ」の4つの特徴(原則)があったとしています(第1章)。

 まず、自社の資産を活用して破壊的イノベーションを起こした企業が生まれた経緯とその方法を分析し、CEが社内イノベーションに果たした役割を紹介、CEこそが新規事業は起こすと結論づけています(第2章)。さらに、CEの成功を左右するCEOや経営陣の役割は、企業の成長意欲と直結する「戦略的抱負」を定め、探索事業にお墨付きを与えることだとしています(第3章)。

 第Ⅱ部では、CEが知っておくべき「イノベーション」の原則――着想、育成、量産化――について述べています。着想はただ案を出すだけではなく、解決すべき顧客の問題を突き止め、顧客を惹きつける力のある解決策を出すという二段階があるとし(第4章)、育成は、新規事業の軸となる最重要仮説を検証し、そこから学ぶことであって(第5章)、さらにCEは新規事業のために資産(顧客、組織能力、経営資源)を集めることで、新規事業の成功に欠かせない量産化を実現するとしています(第6章)。

 第Ⅲ部では、探索事業とコア事業を分離する「両利きの経営」について扱っています。探索事業の組織形態としてのフォーカス型、ボトムアップ型、トップダウン型の3つの選択肢を紹介し(第7章)、探索事業システムとしてのチーム構成などについて解説(第8章)、さらに、CEが直面する社員のモチベーション問題や、CE個人のモチベーション問題などのリスクについて述べています(第9章)。

 第Ⅳ部では、経営陣とCEの両面から、リーダーシップについて考察しています。まず、探索事業を妨げる抵抗(「サイレントキラー」)はコア事業システムから生じるとして(第10章)、イノベーションと組織変革を「両立する」リーダーが求められるとし、そうした"二重らせん"型のリーダーの特質を述べ(第11章)、最終章で、新規事業を成功させる最後の要素は「リーダーとして実行する覚悟だ」としています(第12章)。

 著者らの前著『両利きの経営』(2019年/東洋経済新報社)の実践版とのことで、まだ全体的に概念的な記述が多いものの、今回は事例も多く紹介されて、内容をイメージしながら読み進むことができます。ここで言うCEとは、新規事業を立ち上げ推進するだけでなく、既存組織の変革も両立して行うリーダーということになるかと思います。

 CEOに実行する覚悟を持たせるのもCEの役割であると。また、イノベーションの原則、両利きの経営などの要素はすべて成功への地固めであり、最終的にはリーダーとしての勇気が不可欠なのだとしています。個人的には、創造的破壊に向けて、実務者にエールを送っている本であるように思いました(前著が経営論、組織論の色合いが強かったのに対し、今回はリーダーシップ論の色合いが濃い)。

《読書MEMO》
●目次
Part1 戦略的抱負
1 社内イノベーションの利点
2 新規事業はCEが動かす
3 戦略的抱負の条件
Part2 イノベーションの原則
4 着想―新規事業のアイデアを出す
5 育成―検証を通して学ぶ
6 量産化―新規事業のための資産を集める
Part3 両利きの組織
7 探索事業部
8 探索事業システム
9 CEのリスクと報酬
Part4 探索事業のリーダーシップ
10 探索事業を妨げる「サイレントキラー」
11 二重らせん―イノベーションと組織変革を「両立する」リーダー
12 行動する覚悟―新規事業の量産化を決断するリーダー

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優れたリーダーは「脇役」。エンパワーメント・リーダーシップを提唱。

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世界最高のリーダーシップ 「個の力」を最大化し、組織を成功に向かわせる技術』['23年]

 本書は、実際に多くの企業の再生に携わったハーバード・ビジネススクールの教授が、エンパワーメント・リーダーシップについて唱えたものです。

 1章では、一般的なリーダーシップ論ではリーダーにとって最も大切な仕事が隠されてしまうとし、その仕事とは、他者(メンバー)を育てることであって、エンパワーメント・リーダーシップとは、自分の存在によって他者をエンパワーメントし、その影響力が、自分が不在の状況でも続くようにすることであると定義しています。

 そして、「エンパワーメント・リーダーシップの輪」というものを示し、円の中心に「信頼」があり(第2章)、そこから外に向かうにつれて、エンパワーできる他者も増えていき、まず「愛」を通して個人をエンパワーし(第3章)、「帰属」を通してチーム(第4章)、「戦略」を通して組織(第5章)、そして「文化」を通してさらにその影響の範囲を拡げる(第6章)としています。

 つまり、信頼、愛、帰属の3つがエンパワーメント・リーダーシップのコア・コンピタンス(核となる強み)であるが、この段階ではリーダー現場に姿を見せることを前提とした「存在のリーダーシップ」であり、さらにその外側に、組織に対する「戦略」と、組織およびその先のコミュニティに対する「文化」という、「不在のリーダーシップ」の領域があるということです。

 第1部(第1章~第4章)では、「存在のリーダーシップ」について述べています。第2章で「信頼」について、人が信頼するのは、本当の自分を出していると感じられる人(オーセンティシティ)、判断や能力があてにできる人(ロジック)、自分を気にかけてくれると感じられる人(共感)であるとしています。

 第3章では「愛」について、高い基準と献身を両立させた「正義のリーダーシップ」により他者をエンパワーメントできるとし、他者が確実に能力を発揮できる状況をつくるための枠組みを示しています。

 第4章では「帰属」について、多様な組織を構成・維持する4つのステップとして、①多様な才能を引き寄せて選別する、②成功するチャンスを平等に与える、③厳密で透明なシステムを通して最高の人材を昇格させる、④最高の人材を維持する、を掲げています。

 第2部(第5章~第6章)では、「不在のリーダーシップ」について書かれています。第5章で「戦略」について、自分がいない状況でも組織の隅々までリーダーシップを浸透させるにはどのような戦略が効果的であるかを、多くの事例で紹介しています。

 第6章では「文化」について、文化は組織の隅々まで届いてこそ行動指針となるとして、文化を変えるための「プレイブック」として、①懐疑的なデータを集める、②情報を(まだ)誰にも話さない、③厳密で、楽観的な実験プランを作成する、④解決策に全員を巻き込む、の4つのステップを示しています。

 書かれていることは、これまで多くのリーダシップ本で言われてきたようなことも多いです。ただし、帯に「優れたリーダーは『脇役』」とあるように、「リーダーシップの主役はリーダー本人ではない」と言い切っている点や、自分が不在の状況でも続くような「不在のリーダーシップ」というものを提唱している点がユニークでしょうか。事例が多く紹介されていて、方法論・技術論的なこと――例えば「スマホを置き、目の前にいる相手の話を聴く」といったこと――まで細かく書かれており、誰が読んでも啓発される箇所は少なからずあるかと思います。

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コミュニティこそ最強。企業やリーダーが最善のコミュニティを構築する方法を説く。

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Think COMMUNITY「つながり」こそ最強の生存戦略である』['22年]

 前著『Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』(2019年/東洋経済新報社)がベストセラーとなった著者の最新作です。本書では、パンデミック後に常態化した在宅勤務などより急速に人と人との交流が減り、ビジネスやメンタル面での弊害が大きくなる中、「コミュニティ」(本書では、「互いの幸福に配慮し合う個人の集まりである」と定義されている)こそが、この状況を打開するとしています。

 第1部(第1章~第6章)では、企業やリーダーが最善のコミュニティを構築するためには、①情報を共有し、②人を解き放ち、③尊重し合える環境を作り、④率直さを実践し、⑤意義を与え、⑥メンバーの幸福度を高めることだとし、以下、章ごとにそれぞれ解説しています。

 第1章「団結する」では、コミュニティの潜在能力を開花させたいならば、経験や情報を共有すべきであり、連帯感は危機によって育まれるとしています。第2章「解放する」では、コントロールからの解放はコミュニティの潜在能力を開花させるとし、その際には、絶対に譲れない部分を明確にすること、従業員を信じること、ミスを学びの機会と捉えることなどがポイントになるとしています。第3章「尊敬する」では「礼儀正しさ」こそがより強く、高いパフォーマンスのコミュニティを作るとしていて、これは、前著でも強調されていたことです。

 第4章「「徹底した率直さ」を実践する」では、部下へのフィードバックは、ポジティブなものもネガティブなものもコミュニティを育み、パフォーマンスを向上させるとしています。第5章「意義を与える」では、コミュニティとそのメンバーに、その仕事の意義を感じさせる方法を解説し、第6章「ウェルビーイングを活性化する」では、思いやりのカルチャーを作ることのメリットとその方法を説いています。

 第2部(第7章~第10章)では、一人ひとりが最善の自分を発揮することでコミュニティに貢献できるとし、自己認識、運動と栄養、回復、マインドセットなどの基本を探っています。

 第7章「自己認識」では、自己を正しく認識することは成功の基本であるとし、自己認識が人々やコミュニティにもたらすメリットや、自己認識を促進するにはどうすればよいか述べています。第8章「身体的なウェルビーイング」では、エクササイズは心と体に効く万能療法であり、また、食物は体と脳の燃料となり、それはコミュニティの栄養にもなるとして、従業員が共に食事をすることのメリットを説いています。

 第9章「リカバリー」では、睡眠は健康の鍵であり、それはコミュニティを結びつけることにつながるとし、休息と再生はチーム全体の課題であり、それを企業が後押しするにはどのような方法があるか解説しています。第10章「マインドセット」では、批判的になることなく、問題を評価し危機を分析するニュートラルな思考が重要であるとして、「成長型マインドセット」という考えを提唱しています。

 職場のコミュニティづくりに焦点をあて、リーダー層がコミュニティ意識を向上する方法を提案するとともに、個人がコミュニティを構成する一人としての貢献を高める方法も紹介している本です。ビジネスやスポーツなど、多くの分野にわたるケーススタディが紹介されていて、職場や会社がコミュニティとして結束し、発展していくためのヒントを与えてくれるかと思います。

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