【3393】 △ 湯元 健治/パーソル総合研究所 『日本的ジョブ型雇用 (2021/11 日本経済新聞出版) ★★★

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3398】 友原 章典 『会社ではネガティブな人を活かしなさい

本書で言う「日本型ジョブ型雇用」は「職務等級制度」と同じではないか。

日本的ジョブ型雇用2.jpg日本的ジョブ型雇用.jpg 『日本的ジョブ型雇用』['21年]

 ジョブ型雇用の本質とは何であり、日本の企業風土・雇用慣行と親和性の高いジョブ型の仕組みとはどのようなものか、転換へのさまざまなハードルをどう克服するかなどを説いた本です。第Ⅰ部がョブ型の制度に関する理論編、第Ⅱ部が有識者と執筆陣のディスカッション、第3部が企業事例編になっていますが、やはり読みどころは第Ⅰ部になるかと思います。

 第1部の第1章では、いま、なぜ、ジョブ型雇用なのか、導入の目的と何が期待されるかを述べるとともに、メンバーシップ型の利点を残すなどした「日本型ジョブ型雇用」を提唱し、移行に向けた課題を整理しています。

 第2章では、ジョブ型を巡る議論の混沌はなぜ生まれるのかを考察し、ジョブ型人材マネジメントのエッセンスとして、①事業とポジションの連動、②職責と処遇の連動、③職務とキャリパスの連動、④国内とグローバルの連動の5つを挙げて、日本企業のジョブ型人材マネジメントの「基本形」を示しています。

 第3章では、著者らの研究所が行ったアンケート調査の結果を定量分析することで、ジョブ型導入企業についての企業行動や業績との関連を分析しています。

 第4章では、企業内でジョブ型人材マネジメントを構築する際に、経営理念から事業戦略、人材戦略、さらに具体的な運用をどう進めるか、そのプロセスを解説するとともに、富士通、リクルート、トヨタ自動車といった大企業の導入事例を紹介しています。

 第5章では、ジョブ型人材マネジメントを構築した後の運用面について述べ、転換後に起こり得る事象を具体的に指摘しながら、制度運用を誤らないようにするにはどういった施策が効果的であるかを解説しています。

 第6章では、人材マネジメント改革における経営と人事の役割を説き、第7章では、社員側から見て「ジョブ型雇用」の時代に個人はどう働くべきか、また、企業側から見た教育と人材育成の在り方を提言しています。

 本書では、「日本型ジョブ型雇用」に移行する際の最初の課題は、ジョブ型職種の職務価値を定め、その価値の大きさ(ジョブサイズ)に応じてグレード分けすることであるとしています。これは、職務主義、職務等級制度とほぼ同じ意味であり、「ジョブ型」というのはキャッチフレーズであるように思いました。したがって、それに続く「報酬の見直し」も、職務給制度の導入ということと同じであるように思います。

 かつて職務等級制度を導入しようとして、せっかく作成した職務記述書(ジョブディスクリプション)が仕事の変化に追いつけず柔軟性に欠けたために、柔軟な運用が可能な「役割等級制度」を選択した企業も多かったように思います。一方で、従前の「職能資格制度」及び職能給を維持する選択をしたところもあるかと思います。

 職能資格制度のままであったり、役割等級制度における役割の定義が曖昧であったりしたために年功的な処遇から脱し切れていない企業の人事担当者にとっては、もう一度、職務主義の原点に立ち返るという意味で、本書を読んでみるものよいかと思います。

 ただし、個人的な感想を言わせてもらえば、これは職務等級制度、職務記述書の復活を説いた本であり、それほど新しいことを述べているものではないように思いました。その割には、かつて日本企業でジョブディスクリプションが機能しなかったことへの言及が(事例などでは一部触れられているが)やや弱いように感じられました。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1