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映画的終わり方にしてしまい小説に比べインパクトが弱かったが、傑作には違いない。

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神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、一年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子(松坂慶子)だった。数日後、警察は19歳の造船所工員・上田宏(永島敏行)を犯人として逮捕する。宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。警察の調べによると、宏はハツ子の妹・ヨシ子(大竹しのぶ)と恋仲であり、彼女はすでに妊娠3ヵ月であった。宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、二十歳になってから結婚しようと計画していた。しかし、ハツ子はこの秘密を知り、子供を中絶するようにと二人に迫った。ハツ子は宏を愛し、ヨシ子に嫉妬していた。その頃ハツ子には宮内(渡瀬恒彦)というやくざのヒモがいた。彼女は宮内と別れて、宏と結婚し、自分を立ち直らせたいと思っていたのだった。ハツ子が親に言いつけると宏に迫った時、彼はとっさに登山ナイフをかまえて彼女を威嚇した。宏が一瞬の悪夢から覚めて気がついた時、ハツ子は血まみれになって倒れていた。上田宏は逮捕され、検察側の殺人、死体遺棄の冒頭陳述から裁判が開始された―。
大岡昇平による原作を野村芳太郎監督、新藤兼人脚本で映画した1978年公開作。日本アカデミー賞「作品賞」、毎日映画コンクール「日本映画大賞」、「文化庁芸術選奨」(野村芳太郎、「鬼畜」とセット受賞)受賞。
進行する裁判のシーンに回想が断片的に挿入され真実が明らかになると同時に、事件に潜む人間の虚実や姉妹の葛藤を浮き彫りにしていくという構図。ただし、奇を衒うような実験的表現は無く、いい意味で大衆目線の作り方になっています。

清楚なイメージが定着していた松坂慶子が汚れ役に挑戦しているほ
か、野村芳太郎監督をして天才と言わしめた大竹しのぶの演技も見もの(同年のドラマ版(1978/04 NHK)で同じ役を演じていた)。ヒモ男を演じた渡瀬恒彦や、そのほかの演技陣も充実しており、弁護人の丹波哲郎の、証言台に立つ北林谷栄や森繁久彌といった芸達者との掛け合いも愉しめます。その丹波哲郎演じる弁護士と芦田伸介演じる検事を前に、裁判長としての威厳と貫録を見せた佐分利信の演技はさすがでした。
原作も映画も、つまりは「殺人」か「傷害致死」かを争うだけの話なので、裁判ものと言っても、E.S.ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズ及びそのドラマ化作品のようなミステリとはまったく趣を異にしますが、原作にはラストで思わぬ被告人の告白、言わば「大どんでん返し」があります(これは大岡昇平がラストを当初の構想から変えたことにより生まれたという)。
映画は映像表現なので、「殺人」か「傷害致死」かということについてはどちらともとれる見せ方になっています。そして、ラスト。原作と同じく、永島敏行演じる元被告人はある告白をしますが、丹波哲郎演じる弁護士はそれを「罪悪感からくる思い込み」とあっさり片付けてしまっています。これは所謂「映画的」「検閲的」修正なのでしょうか。ここの所が原作の肝(キモ)ではなかったかと思うのですが。
新藤兼人(1912年生まれ)は自分の脚本を勝手に直されると怒る脚本家として有名でしたが、野村芳太郎(1919年生まれ)だけには任せていたようです。よって、最後の丹波哲郎の軽いあしらい方はどちらの考えなのか分かりません。こうした終わり方となっているため、小説に比べインパクトが弱かったですが、映画としても傑作であるには違いないと思います。



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「事件」●制作年:1978年●監督: 野村芳太郎●製作:野村芳太郎/織田明●脚本:新藤兼人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●原作:大岡昇平●時間:138分●出演:丹波哲郎/芦田伸介/大竹しのぶ/
永島敏行/
松坂慶子/渡瀬恒彦/山本圭/夏純子/佐野浅夫/北林谷栄/乙羽信子/西村晃/佐分利信/森繁久彌/中野誠也/磯部勉/浜田寅彦/丹
古母鬼馬二/早川雄二/穂積隆信/山本一郎●公開:1978/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):神田・神保町シアター(23-06-30)(評価:★★★★) 芦田伸介(岡部検事)

ファッションモデルの芽衣子(古川琴音)は、撮影スタッフの一人で親友のへアメイクアーティストつぐみ(玄理)と、都心での撮影が終わって一緒にタクシーに乗る。つぐみは最近出会った運命の相手との夜を話し始める。その相手は、若くしてビジネスで成功したハンサムな起業家で、ふとしたことで出会い、話し始めると趣味や価値観がことごとく一致していることに二人は驚喜し、どれだけ長く話しても飽きるということがく、会ったその日の夜に、これがずっと探していた運命の相手だとお互いに確信、その確信はあまりに揺るぎなかったので、肉体的な接触も要らず、目を見ているだけで満ち足りた時間を過ごすことができたと。芽衣子はこの話に喜んで耳を傾け、つぐみを羨んでみせ、幸運を祝福する。しかし幸福に顔を輝かせているつぐみを家の前で降ろすと、芽衣子は運転手に、いま来た道を後戻りするよう伝え、あるビルの前で降りる。オフィスに入ると、青年が一人残って働いている。青年と芽衣子は、旧知の仲らしい。しばらく言葉を交わしたのち、なぜか芽衣子はいま聞いたばかりのつぐみの体験を語り始める。その男は、つぐみの元恋人の和明(中島歩)だった―。
大学生の佐々木(甲斐翔真)は、フランス文学教授の瀬川(渋川清彦)を深く憎んでいた。瀬川の授業で単位が足りず、佐々木は必死になって瀬川の前で土下座までしてみせたのだが、謹厳な瀬川は頑として聞き入れず、佐々木は決まっていた大手企業への就職を棒に振ってしまったのだった。佐々木は、同じ大学に通っている奈緒と(森郁月)いう人妻との情事に溺れるようになったが、奈緒と抱き合っているとき、あの瀬川が書いた小説で芥川賞を受賞したというTVニュースを目にする。佐々木は瀬川へ復讐するため、奈緒を使って瀬川にハニートラップを仕掛けることを企てる。瀬川の研究室を訪ねた奈緒は、自分は瀬川の大ファンなのだと告げ、今回の受賞作を朗読させてほしいと申し出る。あくまで冷ややかに応じる瀬川だったが、その小説には過激なセックスシーンが含まれており、朗読がその場面にさしかかって淫猥な言葉を奈緒が淡々と読み上げ始めると―。
2019年、未知の強力なコンピュータ・ウィルスが大発生し、インターネットは遮断され、世界は郵便と電話をつかった古いシステムへ逆戻りしていた。女子校の同窓会に参加するため故郷の仙台市にやってきた夏子(占部房子)は、20年ぶりに会った顔ぶれとは全く話が噛み合わず、若干の落胆を覚えつつ東京へ戻ろうとして、仙台駅のエスカレーターで同世代の女(河井青葉)とすれちがう。夏子が驚いて駆け寄ると、女も思わぬ再会に驚いている。夏子が同窓会のために仙台に来たのだというと、女は招待状を受け取っていないという。あの社会の大混乱が原因かもしれない。女は、どこかでゆっくり話そうと近くの自宅へ夏子を招く。自宅に着いて、二人は高校時代の思い出を少しずつ語り始める。しかし細かなところで話は噛み合わず、話を続けるうちにその齟齬はどんどん大きくなってくる―。
濱口竜介監督の2021年に公開された3つの短編からなるオムニバス映画で、2021年(3月)、第71回「ベルリン国際映画祭」に出品され、最高賞に次ぐ銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した作品(「ロカルノ国際映画祭」で濱口竜介監督の「
第1話「魔法(よりもっと不確か)」は、「偶然と想像」というタイトルに最も沿っていたように思います。親友の"おのろけ"に近い打ち明け話に出てくる男が実は自分の元カレだったという偶然。そこからの主人公・芽衣子の行動がちょっとエグくて、最後、「ああ、とうとうやっちゃったなあ」と思って観ていたら―。タクシーの中でのろけ話を話すつぐみとそれを聴く芽衣子のやり取りの演出が巧みで、本当にプライベートな会話のようであり、この作品の中で最も"濱口調"が冴えている箇所かも。このリアティが後の展開に効いているのだと思いました。
第2話「扉は開けたままで」は、瀬川と瀬川を色仕掛けで陥れようとする奈緒のやり取りが、緊迫感の中にもちょっとユーモラスなところもあって良かったです。性に奔放だった奈緒と(彼女が佐々木のハニートラップの企てに乗ったのも、佐々木のためと言うよりそのあたりに動機があるのでは)、後日譚に現れる彼女のやつれた感じのギャップが良く出ていたなあ。メールの誤送信がすべてを変えてしまったということでしょう。あの時、ヤマトだか佐川だかの宅急便が来なければ...。
第3話「もう一度」は、夏子が出会って家まで行って羊羹まで呼ばれた女性はあやという名で、夏子が思っていた相手とは別人だったという、互いに20年前の級友に出会ったと思ったら、互いに勘違いしていたという話。でも、そこからの展開がなかなか楽しかったです。演技性を排した演出をする濱口監督作ですが、その中で、夏子とあやは、互いに相手が思っていた人物を演じようとするという、濱口マジックの"上級編"という印象を受けました。第2話がちょっとやるせない結末だっただけに、第3話でほんわかした感じにしたのでしょうか。こうなると、並べ方も重要になってきます。コンピュータ・ウィルス云々の話は要らなかったのでは。
3話ともそれぞれに違った味があって、話としても面白かったです。主に、フツーに生きている人に起こりうることを映画にしているわけで、この映画に着眼した「ベルリン国際映画祭」の審査員のセンスもいい。濱口監督は昨年['21年]銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞したばかりですが、今年['21年]2月開催の第72回「ベルリン国際映画祭」のコンペティション部門の国際審査員団の一人に抜擢されています。




舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)は、妻・音(霧島れいか)と穏やかに暮らしていた。そんなある日、思いつめた様子の妻がくも膜下出血で倒れ、帰らぬ人となる。2年後、演劇祭に参加するため広島に向かっていた彼は、寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会い、これまで目を向けることのなかったことに気づかされていく―。
村上春樹の短編集『
映画は、原作では具体的内容が書かれていないワークショップ演劇に関する描写が多く、そこで演じられるアントン・チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」の台詞を織り交ぜた新しい物語として構成されていて、村上春樹作品がモチーフではあるけれど、もう一つの原作は「ワーニャ叔父さん」であると言っていいくらいかもしれません。
テーマ的にも、喪失感を抱きながらも人は生きていかねばならないという意味で、「ワーニャ叔父さん」に重なるものがあります。原作は短編であるためか、家福が、妻・音の内面を知り得なかったことに対して、みさきが「女の人にはそういうところがあるのです」と解題的な(示唆的な)言葉を投げかけて終わりますが、映画ではこのセリフはなく、より突っ込んだ家福の心の探究の旅が続きます。
北海道へ向かう車中で、家福とみさきは、これまでお互いに語らなかった互いの秘密を明かしますが、何だか実はみさきの方が家福より大きな秘密を追っていたような気がしました。それを淡々と語るだけに、重かったです。母親の中にいた8歳の別人格って、「解離性同一性障害」(かつては「多重人格性障害」と呼ばれた)だったということか...。
いアプローチか)。言わば、ブレークスルー映画として分かりやすく、ラストのみさきが韓国で赤いSAABに乗って買い物にきているシーンなどは、彼女もブレークスルーしたのだなと思わせる一方で、映画を観終わった後、「あれはどういうこと?」と考えさせる謎解き的な余韻も残していて巧みです。
第74回「カンヌ国際映画祭」で脚本賞などを受賞、第87回「
「ドライブ・マイ・カー」●英題:DRIVE MY CAR●制作年:2021年●監督:濱口竜介●製作:山本晃久●脚本:濱口竜介/大江崇允●撮影:四宮秀俊●音楽:石橋英子●原作:村上春樹●時間:179分●出演:西島秀俊/三浦透子/霧島れいか/岡田将生/パク・ユリム/ジン・デヨン/ソニア・ユアン(袁子芸)/ペリー・ディゾン/アン・フィテ/安部聡子●公開:2021/08●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン7)(22-03-17)(評価:★★★★☆)

◇第一章 昭和7年、上海事変の頃、阿蘇谷の大地主・小清水平左衛門(永田靖)の小作人・草二郎(加藤嘉)の娘・さだ子(高峰秀子)には川南隆(佐田啓二)という親兄弟も許した恋人がいた。隆と、平左衛門の息子・平兵衛(仲代達矢)は共に戦争に行っていたが、平兵衛は足に負傷、除隊となって帰郷する。平兵衛の歓迎会の数日後、平兵衛はさだ子を犯す。さだ子は川に身を投げるが、隆の兄・力造(野々村潔)に助けられる。やがて隆が凱旋、事情を知った彼は、さだ子と村を出奔しようと決心するが、当日になって幸せになってくれと置手紙を残し行方をくらます。
◇第二章 昭和19年。さだ子は平兵衛と結婚、栄一、守人、直子の三人の子をもうけていた。太平洋戦争も末期、隆も力造も応召していた。隆はすでに結婚、妻の友子(乙羽信子)は幼い息子・豊と力造の家にいたが、平兵衛の申し出で小清水家に手伝いにいくことになる。隆を忘れないさだ子に苦しめられる平兵衛と、さだ子の面影を追う隆に傷つけられた友子。ある日、平兵衛は友子に挑み、さだ子は"ケダモノ"と面罵する。騒ぎの中、長い間病床に伏していた平左衛門が死去、翌日、友子は暇をとり郷里へ帰る。
◇第三章 昭和24年。隆は胸を冒されて帰郷。一方、さだ子が平兵衛に犯された時に姙った栄一(田村正和)は高校生になっていたが、ある日、自分の出生の秘密を知り、阿蘇火口に投身自殺する。さだ子と平兵衛は一層憎み合うようになる。
木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1961(昭和36)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。1962年に米国の第34回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品でもあります。前年「旗本愚連隊」にて顔見せ出演した田村正和は、この作品が本格的デビューとなりました。
ラスト、平兵衛はさだ子の頼みを最初はきかなかったけれども、やがて頑なだった彼の心も砕けます。ただ、これで30年間も憎み、苦しんできた二人にようやく平和が訪れたという、所謂メロドラマ的筋書きなのでしようが、高峰秀子と仲代達矢のそれまでの憎しみ合う演技がスゴ過ぎて、結末がやや安易に思えてしまうほどでした。
「永遠の人」●制作年:1961年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:107分●出演:高峰秀子/佐田啓二/仲代達矢/加藤嘉/野々村潔/永田靖/浜田寅彦/乙羽信子/田村正和/戸塚雅哉/藤由紀子/石濱朗/東野英治郎●公開:1961/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-20)(評価:★★★★)







ピンク映画のキャメラマンであるべーやんこと小田辺子之助(西田敏行)は、妻で主演女優の奈津子(大楠道代)が自殺未遂し、撮影がストップし困り果てていた。たまたまロケ現場として借りた連れ込み宿の掃除婦・笑子(美保純)を強引に主演女優の代役に仕立てて、撮影を続行させる。しかし撮影中、監督(加藤武)は病気で倒れ、笑子は自分の田舎に墓参りに帰るので撮影は降りると言い出す。笑子の帰郷を逆手にとり、ロケ場所を笑子の故郷である福島の湯本に代え、その場その場で脚本を変えながら撮影していく―。(「ロケーション」)
「ロケーション」('84年)は、ピンク映画のスチールマンだった津田一郎の『ザ・ロケーション』('80年/晩声社)を原作に、ピンク映画づくりの現場を描き出したもので、森崎東監督は、映画作りの参考にするため、滝田洋二郎監督(あの、第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作「
まず、西田敏行演じるキャメラマンと、大楠道代演じるその女房の女優と、柄本明演じる脚本家の三角関係があり、映画の撮影が始まるや、主役の彼女が降りてしまい、やっと見つけた代役も逃げ出し、監督は入院するという始末で、カメラマンと竹中直人演じる助監督が中心になり、美保純演じる連れ込み旅館の掃除婦をヒロインに仕立てて撮影を続けるも、彼女が福島へ墓参りに帰ると言い出し、それを追ってロケに行くと、彼女の過去が一家心中、父親殺し、母親殺しと錯綜し、ロケ隊一行は映画の内容を変更して、彼女と母親(大楠道代・二役)の愛僧劇をドキュメンタリーのように撮影することになるといった具合。映画内映画のもともとのストーリーは、3人の男に襲われ海で溺死した母親の娘が男たちに復讐する設定だったので、随分と話が違っていきますが、これもこの映画の脚本の内なのでしょうか。
美保純が演じる笑子が、、最初の内は幼児体験の影響で
無口だったのが、ラストの方では大楠道代演じる母親と拮抗して互いの情念をぶつけあっており、美保純としては最高傑作ではないでしょうか。美保純と同様にそれまで主にピンク映画に出ていた竹中直人が、最初に一般映画に出演した作品でもあります。作品全体としても、「喜劇 女は男のふるさとヨ」('71年)などよりは上ではないでしょうか。
竹中直人/西田敏行/美保純
バーバラ(倍賞美津子)は15年前、19歳の時にコザ暴動で沖縄を離れたヌードダンサー。恋人の宮里(原田芳雄)は、原子力発電所の定期検査に携わる、所謂"原発ジプシー"だが、今は暴力団の手先に。バーバラは、元教師の野呂(平田満)と一緒に旅に出て、福井県で昔馴染み
のアイコ(上原由恵)と再会、彼女は頭の弱い娼婦で、足抜けを図ったためにヤクザに追われている。そんなアイコには、原発で働く安次
(泉谷しげる)という恋人がいたが、死んだという。ところが安次の墓に出向いたバーバラと野呂は、実は安次が生きていることを知る。安次は、原発事故で放射能を浴び、原発での事故のことを知っていることがばれるのを恐れ、死んだ
ふりをしていたのだ。アイコと安次は、"じゃぱゆきさん"マリア(ジュビー・シバリオス)と一緒に逃亡するが、暴力団
に見つかって殺されてしまう。アイコ殺しの罪を着せられそうになった宮里は、暴力団の戸張(小林稔侍)を猟銃で射殺、バーバラたちは、マリアをフィリピンに帰してやろうと密航を企て、それを阻止しようと、暴力団や悪徳刑事の鎧(梅宮辰夫)が港にやってくる。撃たれて息を引き取った宮里に代わって、バーバラは猟銃をぶっ放して追っ手を撃退。結局マリアの乗った船は、船長(殿山泰司)が油を積み忘れ止まってしまうが、最終的に彼女はフィリピンに送還されることに。移送される船上からバーバラの姿を見

つけたマリアは、アイコと安次のスローガンの言葉「溢れる情熱、みなぎる若さ、協同一致団結、ファイト!」と呼び掛ける―。(「党宣言」)
「ローケーション」の翌年に撮られたのが「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」('85年)ですが、森崎東監督のインタビューによれば、この作品の最初の構想では、原発内部の実態を暴露しようと教師ら多数の人質とともに立て籠もる男(原発ジプシー)の物語で、彼の要求で現場からの生中継が実現しそうになった時、突然天皇崩御の情報が入り、現場からの生中継が吹っ飛んでしまうという展開で、物語のオープニングでは犯人である主人公がトイレに入りながら天皇陛下の遺体を運ぶパレードがテレビで放映されている場面を見るという場面が用意されていたそうです(この映画の公開は1985(昭和60)年)。そして、その物語の主人公で立て籠もり犯のモデルは金嬉老だったそうです。
この映画の配役も、当初は平田満が演じた教師の役を原田芳雄が演じる予定だったといいます。しかし、原田芳雄が「俺に先生役は無理です」と監督に直訴し宮里を演じることになり、そのキャラクターも彼に合わせて変わっていったそうです。もちろん、野呂の役も平田に合わせて変えられたのでしょう。こうした、行き当たりばったり的な映画作りの手法は、完成度の高い作品を生み出すのには向いていないかもしれませんが、完成された芸術作品にはない、見るものを元気にするエネルギーを持つことあるとも思いました。

舞鶴に住む養護学校中学部3年生のサムこと大浜勇(浜上竜也)は重度の知的障害をもちながらも意外な記憶力を持つ。在日朝鮮人のハハこと金子澄子(倍賞美津子)は潜水夫のチチこと大浜守(原田芳雄)とサムの教育方針をめぐって対立し、現在は小学生の妹・チャルこと金子千春(守山玲愛)を連れて別居中である。そんなある日、サムとチャルが暴力団に拉致されてしまう。養護学校でサムを担任する桜井直子(肘井美佳)がサムたちの行方を追う―。(「ニワトリはハダシだ」)
森崎東監督の'04(平成16年)年度「芸術選奨」受賞対象となったこの作品においても、現代日本が抱える社会問題を詰め込められるだけ詰め込んで、その混沌とした中での猥雑で骨太な笑いから庶民の逞しさを描く構図になっています。20年近く経てもまったく枯れていないと言えば枯れていないと言えますが、相変わらずのごった煮感にはやや胃もたれがしそう(笑)。ただ、倍賞美津子、原田芳雄など森崎映画ならではの常連キャストの演技は安定感があってさすがであり、また養護学校教師役の肘井美佳の初々しい快活さも印象的でした(「時代屋の女房」の夏目雅子へのオマージュと思われる演技シーンがあった)。
「ロケーション」●制作年:1984年●監督:森崎東●製作:中川滋弘/赤司学文●脚本:近藤昭二/森崎東●撮影:水野征樹●音楽:佐藤允彦●原作:津田一郎●時間:99分●出演:西田敏
行/大楠道代/美保純/柄本明/加藤武/竹中直人/アパッチけん/大木正司/草見潤平/イヴ/パルコ/河原さぶ/殿山泰司/初井言榮/愛川欽也/乙羽信子/根岸明美/花王おさむ/和由布子/矢崎滋●公開:1984/09●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-12-23)(評価:★★★★) 


「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」●制作年:1985年●監督:森崎東●製作:木下茂三郎●脚本:近藤昭二/森崎東/大原清秀●撮影:浜田毅●音楽:宇崎竜童●時間:105分●出演:倍賞美津子/原田芳雄/平田満/片石隆弘/竹本幸恵/久野真平/上原由恵/泉谷しげる/梅宮辰夫/河原さぶ/小林稔侍/唐沢民賢/左とん平/水上功治/小林トシエ/殿山泰司/ジュビー・シバリオス●公開:1985/05●配給:ATG●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-01-12)(評価:★★★★) 
美子/浜上竜也/守山玲愛/加瀬亮/李麗仙/岸部一徳/塩見三省/笑福亭松之助/柄本明/河原さぶ/不破万作/三林京子/露の五郎/眞島秀和●公開:2004/11●配給:ザナドゥー●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-01-27)(評価:★★★★) 

(●西田敏行は、「ロケーション」もそうだが、2011年公開の三谷幸喜脚本・監督作品第5作で深津絵里とW主演した「ステキな金縛り」(東宝)も懐かしい。落ち武者の幽霊が裁判の証言台に立つというシュールな設定だが、西田敏行の演技に深津絵里の演技達者ぶりが重なって、二人の掛け合いが愉しかった。相乗効果とはこういうことなのだろうと
思った。三谷幸喜監督作の中ではかなり面白い方ではないか。阿部寛、市村正親、唐沢寿明、中井貴一などオールキャスト。佐藤浩市は前作「ザ・マジックアワー」で演じた売れない役者の役で、篠原涼子は『THE有頂天ホテル」で演じたコールガール役でそれぞれカメオ出演。大泉洋に
至っては「勝訴を持つ男」としてエンドロールのみの出演という遊びがあった。西田敏行はもっと年齢がいってからの演技も見たかった。)
「ステキな金縛り」●制作年:2011年●監督・脚本:三谷幸喜●製作:前田久閑/土屋健/和田倉和利●撮影:山本英夫●音楽:佐藤允彦●時間:142分●出演:深津絵里/西田敏行/阿部寛/竹内結子/浅野忠信/草彅剛/市村正親/小日向文世/小林隆/KAN/木下隆行/山本亘/山本耕史/戸田恵子/浅野和之/生瀬勝久/梶原善/阿南健治/近藤芳正/佐藤浩市/深田恭子/篠原涼子/唐沢寿明/中井貴一/大泉洋(※エンドロールのみ出演)●公開:2011/10●配給:東宝(評価:★★★★)


北の館(きたのたち)の主・藤巻の謀反を鎮圧した武将、鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千秋実)は、喜ぶ主君・都築国春(佐々木孝丸)に召喚され、蜘蛛巣城へ馬を走らせるが、霧深い「蜘蛛手の森」で道に迷い、奇妙な老婆(浪花千栄子)と出会う。老婆は、武時はやがて北の館の主、そして蜘蛛巣城の城主になり、義明は一の砦の大将となり、やがて子が蜘蛛巣城の城主なると告げる。二人は一笑に
付すが、主君が与えた褒賞は、武時を北の館の主に、義明を一の砦<の大将に任ずるものだった。武時から一部始終を聞いた妻・浅茅(山田五十鈴)は、老婆の予言を国春が知ればこちらが危ないと謀反を唆し、武時の心は揺れ動く。折りしも、国春が、藤
巻の謀反の黒幕、隣国の乾を討つために北の館へ来た。その夜、浅茅は見張りの兵士らを痺れ薬入りの酒で眠らせ、武時は、国春を殺す。主君殺しの濡れ衣をかけられた臣下・小田倉則安(志村喬)は国春の嫡男・国丸(太刀川洋一)と蜘蛛巣城に至るが、蜘蛛巣城
の留守を預かっていた義明は開門せず、弓矢で攻撃してきたため逃亡する。義明の推挙もあり、蜘蛛巣城の城主となった武時だったが、子が無いために義明の嫡男・義照(久保明)を養子に迎えようとする。だが浅茅はこれを拒み、加えて懐妊を告げたため、武時も心変わりする。義明親子が姿を見せないまま養子縁組の宴が始まるが、その中で武時は、死装束に身を包んだ義明の幻を見て、抜刀して錯乱する。浅茅が客を引き上げさせると、郎党の武者から、義明は殺害したが、義照は取り逃がしたとの報が入る。嵐の夜、浅茅は
死産し、国丸、則安、義照を擁した乾の軍勢が攻め込んでくる。無策の家臣らに苛立った武時は、森の老婆を思い出し、蜘蛛手の森へ馬を走らせる。現れた老婆は「蜘蛛手の森が城に寄せて来ぬ限り、お前様は戦に敗れることはない」と予言する。蜘蛛巣城を包囲され動揺する将兵に、武時は老婆の予言を語って聞かせ、士気を高めるが、野鳥の群れが城に飛び込むなどした不穏な夜が明けると浅茅は発狂し、手を「血が取れぬ」と洗い続ける。そして蜘蛛手の森は寄せ来る。恐慌をきたす兵士らに持ち場に戻れと怒鳴る武時めがけ、味方側から無数の矢が放たれる―。
1956年10月16日、第1回ロンドン映画祭のオープニング作品として上映され、黒澤明もこれに出席、その直後にローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リーの夫妻と会食し、ローレンス・オリヴィエは本作について、浅茅を妊娠させ、死産で発狂させたことや、森が動き出す前夜、森を荒らされた鳥たちが城に飛んでくるところ、最後に武時が味方の矢で殺されるところなどを評価し、ヴィヴィアン・リーも山田五十鈴の演技に興味を持ち、動きの少ない演技や発狂するときのメーキャップについて熱心に質問したそうです。
原作にはマクベスの妻の妊娠は無く、こうしたオリジナリティから黒澤自身がこの作品を「マクベス」のリメイクとしては公表しなかった言われていま
す。また、最後に武時が味方の無数の矢で殺される部分は、原作ではマクベスは、「女(訳本によっては「女の股」)から生まれた者には殺されない」と魔女に告げられ慢心していたのが、「母の腹を破って出てきた」(要するに「帝王切開」で生まれた)マクダフという男に殺されます(映画では、「バーナムの森がダーネンの丘に向かってこない限りはマクベスは滅びない」との予言の方だけ採用されている。娯楽性を重視する黒澤明がわかりやすい方のみを選択したのではないか)。
また、山田五十鈴演じる浅茅が狂気に陥る場面では、山田五十鈴は、凄まじい形相で手を洗う仕草をくり返す演技を自分で組み立て、自宅で水道の水を流して自己リハーサルをくり返したといい、この演技は、黒澤にして「このカットほど満足したカットはない」と言わせましたが、黒澤明の方でも、山田五十鈴の白眼に金箔を張るなど、「
ヴィヴィアン・リーも関心を持った山田五十鈴演じる浅茅の演技は、黒澤明自
身が好きだったという能の所作を取り入れたもので、モノクロ画面の印影と相俟って強烈な印象を残しますが、この作品が「七人の侍」や「
クスピアの「リア王」を翻案した作品だが)などに見られる能の様式美をすでに体現していることが興味深いです。しかし。山田五十鈴という女優は、同じ年に小津安二郎監督の「
、大学の弓道部の学生を大勢動員して実際に三船に向けて
矢を放ったという、まさに命懸けの撮影だったわけですが、三船は本作の撮影終了後も、自宅で酒を飲んでいると矢を射かけられたラストシーンを思い出し、あまりにも危険な撮影をさせた黒澤にだんだんと腹が立ち、酒に酔った勢いで散弾銃を持って黒澤の自宅に押しかけ、自宅前で「こら〜!出て来い!」と叫んだというエピソードがあります。これはある意味、将来の黒澤と三船の関係の終焉の予兆を感じさせるような話のように思えます。
伝令の男が城門を叩くシーンは、当初は鷲津の郎党の一人の役の土屋嘉男が推薦した俳優が演じていましたが、「演技が嘘っぽい」として黒澤が気に入らず数日を費やしたため、監督直々の頼みで土屋嘉男が吹き替えをすることとなり、また、鷲津武時に騎馬の伝令が敵情を緊急報告する場面では、ベテランの馬術スタッフが急に「役が重すぎる」と怖気づいたため、乗馬の心得のある土屋嘉男が再び黒澤監督から直々の頼みを受け、この伝令の役を演じています。土屋嘉男は自身にとって会心のテイクが3度目にあったものの、黒澤監督から馬の動きに注文を出され、何度もテイクを重ねることになり、堪りかねてわざと黒澤監督めがけて馬を走らせて、逃げる監督を追いかけ回し、3度目のテイクにOKを出させたとか。土屋嘉男は「隠し砦の三悪人」でも騎馬侍を演じ、馬上で三船敏郎と会い交える派手な騎乗シーンを見せてくれています。


「蜘蛛巣城」●制作年:1957 年●監督:黒澤明●製作:藤本真澄/黒澤明●脚本:小国英雄/橋本忍/菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:佐藤勝●原作:ウィリアム・シェイクスピア「マクベス」(クレジット無し)●時間:110分●出演:三船敏郎/山田五十鈴/志村喬/久保明/太刀川洋一/千秋実/佐々木孝丸/清水元/高堂国典/上田吉二郎/三好栄子/浪花千栄子/富田仲次郎/藤木悠/堺左千夫/大友伸/土屋嘉男/稲葉義男/笈川武夫/谷晃/沢村いき雄/佐田豊/恩田清二郎/高木新平/増田正雄/浅野光雄/井上昭文/小池朝雄/加藤武/高木均/樋口廸也/大村千吉/櫻井巨郎/土屋詩朗/松下猛夫/大友純/坪野鎌之/大橋史典/木村功(特別出演)/宮口精二(特別出演)/中村伸郎(特別出演)●公開:1957/01●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-09-21)(評価:★★★★☆)


京烏丸四条の大経師内匠は、宮中の経巻表装を職とし、町人ながら名字帯刀も許されていて、傍ら毎年の暦の刊行権を持ちその収入も大きかった。当代の以春(進藤英太郎)はその地位格式財力を鼻にかけて傲岸不遜の振舞が多かった。その二度目の若い妻おさん(香川京子)は、外見幸福そうだったが何とか物足らぬ気持で日を送っていた。おさんの兄・道喜(田中春男)は借金の利子の支払いに困ってその始末をおさんに泣きつく。金銭に関しては厳しい以春に断わられ、止むなくおさんは手代・茂兵衛(長谷川一夫)に相談、彼は内証で主人の印判を用い、取引先から暫く借りておこうとしたが、それが主手代の助右衛門(小沢栄太郎)に見つかる。彼は潔く以春に詫びるが、以春の厳しい追及
にもおさんのことは口に出さない。ところがかねがね茂兵衛に思いを寄せていた女中のお玉(南田洋子)が心中立に罪を買って出る。以前からお玉を口説いていた以春の怒りは倍加して、茂兵衛を空屋に檻禁する。お玉はおさんに以春が夜になると屋根伝いに寝所へ通ってくることを打明ける。憤慨
したおさんは、一策を案じて、その夜お玉と寝所を取り替えて寝る。ところがその夜その部屋にやって来たのは茂兵衛だった。彼はお玉へ一言礼を言いに来たのだが、思いがけずそこにおさんを見出し、しかも運悪く助右衛門に見つけられて不義密通だと騒がれる。遂に二人はそこを逃げ出す。琵琶湖畔で茂兵衛はおさんに思慕を打明けて二人は強く結ばれ、以後役人の手を逃れつつも愛情を深めていく―。
1954年公開の溝口健二監督作で、近松門左衛門作の「大経師昔暦」を川口松太郎が劇化(オール読物所載「おさん茂兵衛」)し、それをもとに依田義賢が脚色したもの。近松門左衛門作は30年以上前に起きた京都四条烏丸の大経師の妻おさんが手代の茂兵衛と不義に陥り処刑された事件をベースに(この事件は井原西鶴も「好色五人女」で近松に先駆けて元ネタにしている)、処刑された男女の三十三回忌に合わせてその事件の顛末を世話浄瑠璃に仕立てたとのことですが、観ていて、江戸時代の人って、今われわれがこの映画を観るような感じで浄瑠璃を愉しんだのだろうなあと思わせる作品です。
一方で、映画は原作から改変されている部分もあり(川口松太郎によるものと思われるが)、近松の「大経師昔暦」では、茂兵衛がお玉の親切に報いるために、かねてから自分を慕っていたお玉の気持ちに応えようとお玉の寝所に忍び込み、その時、お玉の代わりに控えていたおさんは、以春が忍んできたと思い込み、暗闇のなかでそのまま茂兵衛と実際に交情を交わしてしまい、これが二人の結びつく契機となったことになっています。それを映画では、その場で交情に至らなかったものの以春にその関係を疑われ、不義の濡れ衣を被せられたように改変
されていてます。こうして二人が逃避行に至るまでがテンポ良く描かれ、更に、二人のプラトニックな関係を中盤以降に引っ張る作りとなって、その分観る者の感情移入を促すし、香川京子という女優のイメージとも合致していて良かったのではないかと思います(これが当初予定されていた小暮実千代や京マチ子だとまた違った展開になったのか?)。
「西鶴一代女」('52年/新東宝)で1952年・第13回ヴェネツィア国際映画祭の「国際賞」を受賞し、それに続いて翌年、翌々年と「
最後にはおさんと茂兵衛は捕らえられ、磔となる前の市中引き回しで、二人は馬上に背中合わせに縛られ、大経師屋の前を通りますが、その様を見た大経師屋の奉公人が、「おさんさんのあんな明るいお顔は見たことがない。茂兵衛さんも晴れ晴れとした顔色で、ほんまにこれから死なはんのやろか・...」と言います。しかし、実際にはおさんは晴れ晴れとした表情をしているものの、茂兵衛はどことなく浮かない顔をしていると言っていいのでは。これは愛する人と共に処刑されることを恋の成就と見做しているおさんにとって、市中引き回しは心中の「道行」を皆に見てもらっているようなものでどこか晴れがましさがあり、一方の茂兵衛にとっては、自らを犠牲にしてもおさんの命だけは助けようとしたのにこのような結果になってしまったことへの慙愧の念があるためではないかと思います。セリフと演技が整合していないとも言えますが、長谷川一夫の演技の方が"正解"でしょうか? この辺りにも、溝口健二監督と長谷川一夫の考え方の違いが表れたのかなとも思ってしまいました。でも、「雨月物語」と並ぶ溝口健二監督の傑作だと思います。
「進藤英太郎映画祭」中野武蔵野ホール
「近松物語」●制作年:1954年●監督:溝口健二●製作:永田雅一●脚本:依田義賢●撮影:宮川一夫●音楽:早坂文雄●原作:近松門左衛門●劇化:川口松太郎●時間:102分●出演:茂兵衛:長谷川一夫/香川京子/南田洋子/進藤英太郎/小沢栄太郎/菅井一郎/田中春男/石黒達也/浪花千栄子/十朱久雄/荒木忍/東良之助/葛木香一/水野浩/天野一郎/橘公子/金剛麗子/小松みどり/小林加奈枝/仲上小夜子/小柳圭子/伊達三郎/石原須磨男/横山文彦/藤川準/玉置一恵●公開:1954/11●配給:大映(評価:★★★★☆)


桜島を望む鹿児島県知覧町で、元特攻隊員の生き残りの山岡(高倉健)はこの日も漁船「とも丸」から養殖カンパチの生簀に餌を撒いていた。それを見守る妻の知子(田中裕子)と二人の間には子はなく、「とも丸」を我が子のように大事に乗りこなしてきた。知子が14年前に腎臓を患い人工透析が必要になったのを機に、沖合漁をやめカンパチの養殖を始めたのだった。昭和が終わり、平成が始まった頃、山岡は同じ特攻隊の生き残りだった藤枝(井川比佐志)が自殺したという知らせを聞き、青森に住む藤枝が
毎年のように山岡にリンゴを送っていただけに衝撃を受ける。数日後、藤枝の孫・真実(水橋貴己)が山岡の元を訪れる。真美(水橋貴己)が携えた藤枝の遺品のノートには、山岡から「生きろ」と励まされているように感じたこと、昭和が終わり自分の役目は終わったと感じることなど、その想いが綴られていた。数日後、山岡はかつて特攻隊員らから「知覧の母」と呼ばれて慕われていた富屋食堂の店主・山本富子(奈良岡朋子)から、特攻で命を落とした金山文隆少尉こと
キム・ソンジェ(小澤征悦)の遺品である面飾りのついた財布を韓国の実家に届けてほしいと託される。折しも医師(中井貴一)から知子の余命が僅か1年半と宣告されており、山岡は最後の思い出にと知子との韓国行きを決める。戦争時、知子(戦時中:笛木優子)は金山と婚約していて、当時は遺言さえ検閲される時代であり、山岡(戦時中:高杉瑞穂)は金山から口頭で、自分は大日本
帝国のためではなく、知子や実家の家族、そして朝鮮民族の誇りのために死ぬのだという言葉を託されていた。山岡と知子は韓国の金山の実家を訪ねるが、遺族はなぜ金山が死に日本人の山岡が生き残ったのかと山岡を責める。しかし、山岡が金山の遺言を伝えると遺族は山岡を責めるのを止め、遺品を受け取る。山岡は知子に、今まで金山の遺言を伝えなかったことを謝罪すると、知子は「ありがとう」と泣きながら寄り添う。月日が流れ、21世紀のある日、老いた山岡は海辺で、役目を終えた「とも丸」が炎に包まれるのを見つめていた―。
2001年公開の降旗康男監督作で、その2年前に高倉健(1931-2014)が鹿児島県知覧町の「特攻平和祈念館」を訪ね、同行していた降旗康男監督に自ら映画化を持ちかけた作品で(高倉健が自ら製作を持ちかけたのは初めて)、降旗康男監督はこの作品で2001 年度・第52回「芸術選奨」を受賞しています。日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、70歳で203本目の出演映画となった高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退、富屋食堂の店主・山本富子を演じた奈良岡朋子がブルーリボン賞助演女優賞を受賞しています。
さくに応じ、気を使う番組スタッフに「あまり準備しない方がいいんだ」というようなことを言っていたのが印象的でした。同時期の「クローズアップ現代」の高倉健特集の中では、降旗康男監督が高倉健のことを、「涙を流すようなことが出来る俳優ではなかったのが最近変わった」というようなことを述べています。また、高倉健本人へのインタビューで国谷裕子キャスターが、「俳優・高倉健は、ご自身・小田剛一(高倉健の本名)に近づいているのではありませんか」と問うたところ、「小田剛一よりも高倉健の方が遥かに長くなりましたから、どちらが本当の自分なのか分からなくなってきています」と答えています。
映画の方は、「卓庚鉉」と「宮川三郎」を「金山文隆」ということで一緒にしてしまったのはともかく、金山に許婚がいて、それが主人公である山岡の今の妻の知子であり、その知子は不治の病に冒されていて余命いくばくもなく、最期に金山の遺言を伝えるため遺族のいる韓国へ夫婦で向かう―という、やや作りすぎというか、前半部分には同じ特攻隊の生き残りだった藤枝
の自殺もあったりして、それでその娘(水橋貴己)が山岡を訪ねてくるわけですが、こうなると盛り込み過ぎという感じで、何
れの話も中途半端になってしまった印象を拭えません。個人的評価としては本来は△ですが、「知覧の母」を演じた奈良岡朋子の、まさに「ホタル」のエピソードを語る部分の演技が光っていて(舞台劇風でありながらも映画向けの演技をしている)、星半個加点して○にしました。舞台出身俳優の中でも上手いです、この人。「
高倉健はこの映画においてもカッコいいにはカッコいいですが、ヤクザ映画ならともかく「
が「ホタル」のエピソードを語るシーンが前半部にあって、終盤それを超えるシーンが無いのも、"盛りだくさん"なのに"もの足りなさ"を感じる一因かもしれません。










漆場レンコ(田畑智子)は京都鴨川近くに住む小学6年生。両親が離婚を前提に別居することになり、父親のケンイチ(中井貴一)が家を出て行き、母・ナズナ(桜田淳子)との二人暮らしとなる。離婚というものが最初は実感としてピンとこなかったレンコだったが、新生活を始めようと契約書を作るナズナや、独り暮らしで寂しそうなケンイチを見て、その意味が少しずつ理解できてくるともに、そんな両親に挟まれ、彼女の心はざわついてくる。クラスの転校生"サリー"こと橘理佐(青木秋美〔現・遠野なぎこ〕)は関東から引っ越して来た少女で、レンコたち関西弁と言葉が異なり、級友たちはサリーを遠巻きにしていた。
を立てるが、実行前にナズナに露見して失敗する。ケンイチとナズナを元通り仲直りさせたいレンコは、去年も行った琵琶湖畔への家族旅行を今年も実行しようと、クレジットカードを使って電車の切符とホテルの手配を自力でする。現地のホテルに現れたケンイチは、ナズナに復縁を求めるが、ナズナは拒否する。レンコはその場を逃げ出し、子どもを亡くした砂原という老夫婦(森秀人・千原しのぶ)に会う。それでも仲良くやっている夫婦に力を得たレンコは、祭りの中を彷徨する。琵琶湖畔に辿り着いたレンコは、祭りの山車とかつて仲良しだった自分たち家族の幻影を見る。やがて山車は燃え、家族は水に沈み、それを見たレンコは、「おめでとうございます!」と何度も叫ぶ―。
1993年公開の相米慎二(1948‐2001/享年53)監督作で、相米慎二監督はこの作品で1993年度・第44回「芸術選奨」を受賞しています。原作は、1991年・第1回「椋鳩十児童文学賞」を受賞したひこ・田中の『
終盤のレンコが見る湖での幻影シーン(原作には琵琶湖行きの話そのものが無い)での、彼女の「おめでとうございます」という連呼に、監督の思いが込められていたように思いました。レンコはもう自分たち家族は修復できないと悟り、過去と決別するために、また新たな自分を得た自分自身に対して「おめでとうございます!」と言ったのでしょう。エンドロールでは、小学生のレンコがいつの間にか中学生の制服姿に変わり、さっぱりとした表情で街中を人々や家族と接しながら跳ねるように歩いています。相米監督のもう1本の佳作「台風クラブ」('85年)と同じような印象のラストで、作品そのものが少女の成長物語であったことを裏付けるものとなっています。
相米慎二監督は、当時17歳の薬師丸ひろ子主演の「セーラー服と機関銃」('81年)、当時19歳の斉藤由貴主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)、当時14歳の工藤夕貴主演の「
田畑智子の演技は、相米監督の長回しによく耐えていて、良かったと思います。特に前半部分の自然な演技が良く、逆に後半部分は「女優」であることを意識した演技になってしまった印象も受けました。後半部分に相米監督のオリジナルな考えが込められていることを考えると、彼女の演技力が相米監督の演出に耐えられるのを見て、相米監督がそうした演出をしたようにも思いました。後半の演技の方を高く評価する人もいておかしくないかもしれませんが、個人的には前半部分の彼女の演技の方がやっぱり良かったという印象です(彼女がやがて映画(「
人賞、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞しましたが、母・ナズナ役の桜田淳子も、キネマ旬報助演女優賞、報知映画賞助演女優賞、毎日映画コンクール助演女優賞を受賞しています。桜田淳子の方は、歌手から女優に転向して、この時までに既に芸術選奨新人賞(大衆芸能部門)('86年)や菊田一夫演劇賞('87年)など数多くの賞を受賞しており、更なる飛躍をという矢先に統一教会の合同結婚式絡みの問題が報道され、この「お引越し」が最後の映画出演となり、芸能界からも身を引くことになりました。この作品での彼女の演技を見ると、惜しい気がします。
その他、助演として、父・ケンイチ役の中井貴一や先生役の笑福亭鶴瓶が出演していますが、中井貴一は田畑智子と桜田淳子の好演に隠れてやや影が薄かったでしょうか。中井貴一と笑福亭鶴瓶は「お引越し」の3年前の相米慎二監督作
品「東京上空いらっしゃいませ」('90年)にも出ていましたが、ストーリーがメルヘンチックで、相米慎二独特の粘り強いシーンの構成が見られない作品であった上に、当時の中井貴一は大根で、笑福亭鶴瓶も映画向きの配役とは思えませんでした。牧瀬里穂のみ
がやたら元気に演技していて、映画としては相米監督はこんな凡作も撮るのかと思わされましたが、前年(1989年)当時17歳でJR東海・クリスマス・エクスプレスのCM(第1作)で脚光を浴び、映画初出演で主役を演じた牧瀬里穂は、その後宮沢りえ・観月ありさと共に「3M」と呼ばれるまでに女優として開花しました(中井貴一は開花するのに時間がかかった?)。相米慎二監督の演出は厳しかったそうです。「若手女優育成型」監督といった感じだったのでしょうか。
「お引越し」●制作年:1993年●監督:相米慎二●脚本:奥寺佐
渡子/小此木聡●撮影:栗田豊通●音楽:三枝成彰●原作:ひこ・田中「お引越し」●時間:124分●出演:中井貴一/田畑智子/桜田淳子/須藤真里子/田中太郎/茂山逸平/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶/青木秋美(現:遠野なぎこ)●公開:1993/03●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-07-19)(評価:★★★★)

「東京上空いらっしゃいませ」●制作年:1990年●監督:相米慎二●脚本:榎祐平●撮影:稲垣涌三●音楽:村田陽一/小笠原みゆき(主題歌:井上陽水「帰れない二人」)●時間:109分●出演:中井貴一/牧瀬里穂/笑福亭鶴瓶/毬谷友子/出門英/竹田高利/藤村俊二/工藤正貴/谷啓/三浦友和/河内桃子/木之元亮/遠藤美佐子/斉藤暁/岸野一彦/モロ師岡/佐山雅弘/上野哲郎/礒見博/楠本卓司●公開:1990/06●配給:松竹(評価:★★☆)




チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻・美香(広末涼子)を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、"旅のお手伝い"という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、"旅立ち"をお手伝いする"納棺師"というものだった。社長の佐々木生栄(山崎努)に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが―。
2008年公開の滝田洋二郎監督作で、脚本は映画脚本初挑戦だった放送作家の小山薫堂。第32回「日本アカデミー賞」の作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(本木雅弘)・助演男優賞(山崎努)・助演女優賞(余貴美子)・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞の10部門をを独占するなど多くの賞を受賞しましたが(第63回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第33回「報知映画賞 作品賞」、第21回「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」も受賞)、その前に第32回モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞しており、更に日本アカデミー賞発表後に第81回米アカデミー賞外国語映画賞の受賞が決まり、ロードショーが一旦終わっていたのが再ロードにかかったのを観に行きました(2009年(2008年度)「芸術選奨」受賞作。脚本の小山薫堂は第60回(2008年)「読売文学賞」(戯曲・シナリオ賞)、本木雅弘と映画製作スタッフは第57回(2009年)「菊池寛賞」を受賞している)。
主演の本木雅弘のこの映画にかけた執念はよく知られていますが、"原作者"に直接掛け合ったものの、原作者から自分の宗教観が反映されていないとして「やるなら、全く別の作品としてやってほしい」と言われたようです。もともとは、本木雅弘が20歳代後半に藤原新也の『メメント・モリ―死を想え』('83年/情報センター出版局)を読み、インドを旅して、いつか死をテーマにしたいと考えていたとのことで、まさに「メメント・モリ」映画と言うか、いい作品に仕上がったように思います(結局、原作者も一定の評価をしているという)。
特に、前半部分で主人公が"納棺師"の仕事の求人広告を旅行代理店の求人と勘違いして面接に行くなどコメディタッチになっているのが、重いテーマでありながら却って良かったです(逆に後半はややベタか)。技術的な面や宗教性の部分で原作者に限らず他の同業者からも批判があったようですが、それら全部に応えていたら映画にならないのではないかと思います。こうした仕事に注目したことだけでも意義があるのではないかと思いますが(ジャンル的には"お仕事映画"とも言える)、米アカデミー賞の選考などでは、同時にそれが作品としてのニッチ効果にも繋がったのではないでしょうか(アカデミーの外国語映画賞が、前3年ほど政治的なテーマや背景の映画の受賞が続いていたことなどラッキーな要素もあったかも)。
Wikipediaに「地上波での初放送は2009年9月21日で21.7%の高視聴率を記録したが、2012年1月4日の2回目の放送は3.4%の低視聴率」とありましたが、2回目の放送は日時が良くなかったのかなあ。こうした映画って、ブームの時は皆こぞって観に行くけれど、時間が経つとあまり観られなくなるというか、《無意識的に忌避される》ことがあるような気がしなくもありません。そうした傾向に反発するわけではないですが、個人的には、最初観た時は星4つ評価(○評価)であったものを、最近観直して星4つ半評価(◎評価)に修正しました(ブームの最中には◎つけにくいというのが何となくある?)。「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っているかもしれません。
滝田洋二郎監督は元々は新東宝で成人映画を撮っていた監督で、初めて一般映画の監督を務めた「コミック雑誌なんかいらない!」('86年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ)でメジャーになった人です。個人的には、鹿賀丈史、桃井かおり主演の夫婦で金儲けに精を出す家族を描いた「木村家の人びと」('88年/ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画)を最初
に観て、部分部分は面白いものの、全体として何が言いたいのかよく分からなかったという感じでした(ぶっ飛び度で言えば、石井聰互監督の「
また、滝田洋二郎(1955年生まれ)監督は、'81(昭和56)年、「痴漢女教師」で監督デビュー後、'82(昭和57)年2本、'83(昭和58)年4本、'84(昭和59)年8本と倍のペースでメガホンを取り、"邦ピン・ニューエンタテイメントの旗手"などと称され(「ニューエンタテイメントの旗手としてピンクの枠を超える29歳」「シティロード」1985年4月号)、成人映画の監督として話題作を連発し耳目を集めましたが(森崎東監督はピンク映画の撮影現場を舞台にした「
寂れたポルノ映画館で自身が犯した強姦殺人事件の時効を待ちつつ映写技師として働く勝三(大杉漣)は、都会の人混みに紛れることで気付かれないようにしていた。ある日、上映中の映画「密写 連続暴姦」の中に、過去自分が起こした強姦殺人事件とそっくりな場面が写っていた。何故だ! 一方、自分が7歳の時に目の前で殺された姉(織本かおる)の復讐をするために犯人の男を必死に捜す妹・冬子(織本かおる、二役)。犯人の手掛かりは現場に落ちていた映画のフィルムを繋げる特殊なテープであり、きっと映画関係者に違いないと思い、シナリオを勉強して姉の殺害シーンを盛り込んだシナリオを書き、同僚の山崎千代子(竹村祐佳)の名で発表、それが映画化されたらきっと犯人の目に止まると考えていた。そして、その目論見は当たり―。
個人的には、自由が丘の「自由ヶ丘劇場」で観ましたが、仄聞していた通りピンク映画と言うよりサスペンス映画でした(勿論ピンク映画でもあるが)。凝った構成と人物描写、脚本に緻密に伏線を張り巡らせていて(ただし、張り巡らせている割には長さが60分しかないため説明不足の箇所があり、評価は△。今や"滝田洋二郎研究"ための作品か)、本作は第5回「ズームアップ映画祭」作品賞と監督賞、第5回「ピンクリボン賞主演」男優賞(大杉漣)を受賞しています(もちろん、当時は大杉漣(1951-2018/66歳没)はまだ一部の人しか知らない無名俳優)。滝田洋二郎監督に限らず、
「おくりびと」●制作年:2009年●監督:滝田洋二郎●製作:中沢敏明/渡井敏久●脚本:小山薫堂●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:130分●出演:本木雅弘/広末涼子/山崎努/杉本哲太/峰岸徹/余貴美子/吉行和子/笹野高史/山田辰夫/橘ユキコ/飯森範親/橘ゆかり/石田太郎/岸博之/大谷亮介/諏訪太郎/星野光代/小柳友貴美/飯塚百花/宮田早苗/白井小百合●公開:2008/09●配給:松竹●最初に観た場所:丸の内ピカデリー3(09-03-12)(評価:★★★★☆)




丸の内松竹(丸の内ピカデリー3) 1987年10月3日「有楽町マリオン」新館5階に「丸の内松竹」として、同館7階「
ン、1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) (「丸の内ルーブル」は2014年8月3日閉館)
「木村家の人びと」●制作年:1988年●監督:滝田洋二郎●脚本:一色伸幸●撮影:志賀葉一●音楽:大野克夫●原作:
谷俊彦●時間:113分●出演:鹿賀丈史/桃井かおり/岩崎ひろみ/伊崎充則/柄本明/木内みどり/風見章子/小西博之/清水ミチコ/中野慎/加藤嘉/木田三千雄/奥村公延/多々良純/露
原千草/辻伊万里/今井和子/酒井敏也/鳥越マリ/池島ゆたか/上田耕一/江森陽弘/津村鷹志/竹中
直人/螢雪次朗/ルパン鈴木/山口晃史/三輝みきこ/小林憲二/野坂きいち/江崎和代/橘雪子/ベンガル●劇場公開:1988/05●配給:東宝 (評価★★★)
「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆).jpg)
「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)
「連続暴姦」●制作年:1983年●監督:滝田洋二郎●脚本:高木功●撮影:佐々木原保志●時間:60分●出演:織本かおる/大杉漣/麻生うさぎ/螢雪次朗/佐々木裕美/伊藤正彦/末次真三郎/竹村祐佳/早川祥一●公開:1983/10●配給:新東宝●最初に観た場所:自由ヶ丘劇場(84-04-15)(評価:★★★)●併映:「神田川淫乱戦争」(黒沢清)/「女子大生・教師の目の前で」(水谷俊之)

ゴジラシリーズの第29作で、『ゴジラ FINAL WARS』('04年/東宝)以来約12年ぶりの日本製作のゴジラシリーズ作。公開前は、コアな映画ファン、ゴジラファンの間ではともかく、一般にはそれほど話題にもなっていなかったのが、7月29日の公開後にネットや口コミでどんどん客足を伸ばし、前作で目標としていたものの果たせなかった'54年からスタートしたシリーズの累計観客動員数1億人突破を公開4日で果たし、公開1か月で累計動員360万人、累計興行収入53億円を突破、11月16日までの公開111日間で、観客動員551万人、興行収入が80億167万円を記録するなど、興行面で成功を収めています(2017年(2016年度)「芸術選奨」受賞作)。
映画がヒットした要因としてまず挙げられることは、完璧とまでは言えないもののゴジラ映画の原点に回帰した点であり、観る前は全編CGでどうなのかなと思いましたが、観てみたら、ゴジラならではの重々しさや生々しさ、無敵の暴れん坊ぶりはなかなかのものでした。ゴジラのテーマや自衛隊のテーマなどお馴染みの伊福部BGMも使われていて、シリーズのオールドファンには懐かしいのではないでしょうか。個人的には、「
庵野秀明監督は、脚本の執筆段階から防衛省・自衛隊に協力を依頼し、「実際にゴジラが現れた場合、自衛隊はどのように対処するのか」「ゴジラに対して武器の使用が認められるのか」などミーティングを繰り返し行い、事実に即した脚本に仕上げていったとのことで、それが怪獣映画にしては比較的豪勢な役者陣の演技と相俟って、緊迫感とテンポの良さを生み出しています(時にコミカルな風刺も効かせていて、これもまたいい)。この映画から、自衛隊の強みと弱みが窺えるという人もいるくらいで、「機能的」脚本とでも言うか、こうした映画に挿入されがちな、恋人がどうしたとか妻子がどうしたといった人情ドラマは殆ど混ざり込む余地のない作りになっているのがいいです(石原さとみの"バイリンガルの米国大統領特使"だけが浮いていた)。
ここまで殆ど褒めっ放しで、では欠点は無いのかと言うと、概ねゴジラ映画の原点に回帰したとは言え、ゴジラ自体が核開発の犠牲者であるという悲劇的要素がやや
抜け落ちた印象も受けました(従って、ゴジラの雄叫びにオリジナルのような悲壮感があまり感じられない)。加えて、ゴジラが1個体で4段階もの変態を繰り返すというのは、本当に必要なアレンジだったのかやや疑問に思いました(CGで出来るからやったという印象も)。
特に第2変態の段階で、最初に上陸してその顔が正面から捉えられたと思ったら、ウーパールーパーみたいな顔に見えたのが拍子抜けしたと言うか、オリジナル特有の悲壮感から更に遠くなり残念に思いました(深海サメの一種「ラブカ」をモチーフにしたらしいが、ラブカはあんなピンポン玉みたいな目ではない。ほとんどぬいぐるみの世界)。
ゴジラを倒すための血液凝固剤って結局何だったのか、単なる液体窒素だったのか、それならば、牧悟郎(岡本喜八が写真のみの出演)博士の「ゴジラの元素変換機能を阻害する極限環境微生物の分子式」を解読する作業なんてあまり意味が無さそうにも思えるし、そもそも博士がなぜ資料をわざわざ暗号化したのかも、分かった人には分かったのかもしれないけれど、自分にはイマイチぴんときませんでした。この辺りについては、「シン・ゴジラを読み解くこと」がある種ブームのようになっていて、一般的な映画ファンだけでなく、例えば朝日新聞などは論説委員が新聞に読み解きを書いており、興味がある人はそうした記事も読んだ覚えがあるかも(政治の無能に対して行政の有能、日本型組織の強みがある種「美談」として描かれている一方、初代ゴジラに見られたような、ゴジラを生み出した文明のありように対する疑念や苦悩は殆ど描かれていないという指摘は的を射ていると思った)。
ゴジラを倒しておいて、取り敢えず首都は大阪に移して、ゴジラは凍らせたまま東京駅傍に放置しておくなんてあり得るのかなあという気がしますが、おそらく、ゴジラは「原発」のメタファーであり、ゴジラ(原発)を管理し続けるという宿命を負った日本の未来を表しているのでしょう。ならば、博士の「好きにしろ」という「遺言」の意味は何なのか?-とか、ラストのゴジラの尾に蠢く人影は何を意味するのか?-とか、確かにいろいろ読み解きを促す作りにはなっています。
今度ゴジラが動き出したら、熱核攻撃のカウントダウンが再開するということで、次回作は東京駅から始まるのでしょうか。都心を汚染したゴジラの放射性物質は半減期が短く、2、3年で影響がなくなるとの設定なので、やがて避難先から360万人の住民が帰還することになったとして、スカイツリーじゃないのだから、立ち尽くすゴジラを見ながら半恒久的に生活を送るというのはちょっと考えにくく、やはり次回作を想定した終わり方なのでしょう(これで、次回作でゴジラがまたいきなり海の中から出てきたら、あの東京駅傍のゴジラはどうなったと突っ込みたくもなるだろう)。

「シン・ゴジラ」●制作年:2016年●総監督・脚本:庵野秀明●監督・特
技監督:樋口真嗣●撮影:山田康介●音楽:鷺巣詩郎/伊福部昭●時間:119分●出演:長谷川博己/竹野内豊/石原さとみ/高良健吾/大杉漣/柄本明/余貴美子/國村隼/市川実日子/ピエール瀧/斎藤工/小出恵介/古田新太/前田敦子/犬童一心/緒方明/片桐はいり/神尾佑/KREVA/黒田大輔/小出恵介/小林隆/嶋田久作/諏訪太朗/高橋
一生/塚本晋也/津田寛治/鶴見辰吾/手塚とおる/中村育二/野間口徹/橋本じゅん/浜田晃/原一男/平泉成/藤木孝/松尾諭/松尾ス
ズキ/三浦貴大/光石研/森廉/モロ師岡/矢島健一/渡辺哲/(ゴジラのモーションキャプチャ)野村萬斎●公開:2016/07●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ新宿(16-08-29)(評価:★★★☆)
スクリーン 座席数(車椅子用) スクリーンサイズ
SCREEN 1 86+(2) 3.2×7.6m
映画「ゴジラ」シリーズ全29作
(●2023年、「
出来ていた(最後、「アルマゲドン」みたいにならなくて良かった)。主演の神木隆之介・浜辺美波は「
「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」●英題:GODZILLA MINUS ONE●制作年:2023年●監督・脚本:山崎貴●監督・特技監督:山田兼司/岸田一晃/阿部豪/守屋圭一郎●撮影:柴崎幸三●音楽:佐藤直紀/伊福部昭●時間:125分●出演:神木隆之介/浜辺美波/山田裕貴/田中美央/遠藤雄弥/飯田基祐/永谷咲笑/須田邦裕/谷口翔太/鰐渕将市/三濃川陽介/日下部千太郎/赤妻洋貴/千葉誠太郎/持永雄恵/市川大貴/吉岡秀隆/藤田啓介/苅田裕介/松本誠/伊藤亜斗武/保里ゴメス/阿部翔平/仲城煎時/青木崇高/安藤サクラ/佐々木蔵之介●公開:2023/11●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ日本橋(23-12-20)(評価:★★★★)



山下拓郎(役所広司)の元に拓郎が夜釣りに行っている間、妻恵美子(寺田千穂)が浮気しているという手紙が届く。ある夜釣りを早めに切り上げて家に帰って、妻の浮気現場を目撃する。拓郎は怒りを抑えきれず妻を刺殺し、そのまま自首、そして8年後に仮出所する、労役で外に出た時に捕まえたうなぎと共に外の
世界に出た拓郎は、服役中に資格をとった理髪店をひっそりと開き、身元引受人のである寺の住職(常田富士男)とその妻(倍賞美津子)に見守られ、隣家の船大工・高田重吉(佐藤允)をはじめ次第に町の人との交流も増えていく。ある日、うなぎの餌を探しに川へ行くと、川原の茂みで倒れている女を発見。女は殺した妻に瓜二つで、戸惑いながらも警察に通報し、女は睡眠薬を飲んでいたが、一命を取り留める。後日、その女・服部桂子(清水美砂)が礼に訪れ、拓郎の理髪店で働きたいと言い出す。拓郎は渋々女を受け入れ、町の住民はそれを歓迎する。しかし、桂子には何か秘密があるらしい―。
1997年の今村昌平(1926-2006)監督作で、
拓郎が出所する際に、身元引受人の寺の住職(常田富士夫)が「どうしてうなぎなんだ?」と訊く場面があり、「話を聞いてくれるんです」「それに余計なことをしゃべりませんから」と答え、その時の役所広司の演技が自然であり、また、主人公の外界との接触を避けようとする心理状況をよく表しているように思いました。但し、原作では、うなぎを飼う話などは無く、主人公(名前は原作では"昌平")の開業する店が床屋ではなくて鰻屋ということになっています(そのためにうなぎ採りの名手に師事するが、そのうなぎ採りの場面だけ、モチーフとして活かされている)。
全体の構成としては、原作は、主人公が女(名前は原作でも"桂子")に自分の過去の前科を告白すると(原作では妻を刺したが、妻は死んではいない)、女が実は知っていたというところで終わりますが、映画では、そのあと、桂子を巡るいろいろなトラブル話があって、それに拓郎は巻き込まれ、最後は桂子のために積極的にトラブルに関与していきます。
映画では、町の住民の中に、原作には無い、宇宙人との交流を夢見る"UFO青年"(小林健)がいて、その青年に対して拓郎が「ホントは、人と付き合うのが恐いんじゃないのか」と言っており、この時点で拓郎には、今のところうなぎを"話し相手"にしているという自分が抱えている問題が十分に把握できているように思われました。押しかけ気味に登場した桂子のお蔭で、いずれ拓郎はその問題を乗り越えることが出来るだろうということは観ていて想像に難くなく、ラストでうなぎを川に放すシーンに自然に繋がっていきます。
そうした意味では上手い作りだと思うし、原作のテーマを発展的に活かしているとも言えます(モチーフは、「うなぎを採る」ことから「うなぎを飼う」ことに変わっているが)。役所広司も清水美砂も好演、脇を固める俳優陣もまずまずですが、前半はともかく、後半がやや通俗に流れたかなあという印象もありました。ラストシーンなどもいいシーンですが、パターンと言えばパターン。短編を膨らませるって、意外と難しいことなのかも。
製作発表の直前まで「闇にひらめく」というタイトルでいく予定だったのが、発表の場で、今村監督の意向で「うなぎ」というタイトルになったとのこと。原作以外に、同じく吉村昭の作品である『

:今村昌平/天願大介/冨川元文●撮影:小松原茂●音楽:池辺晋一郎●原作:吉村昭「闇にひらめく」「仮釈放」●時間:117分(劇場公開版)/134分(完全版)●出演:役所広司/清水美砂/常田富士男/倍賞美津子/佐藤允/哀川翔/小林健/寺田千穂/柄本明/平泉成/中丸新将/上田耕一/光石研/深水三章/小西博之/小沢昭一/田口トモロヲ/市原悦子●公開:1997/05●配給:松竹(評価:★★★☆)







川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作
った。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす
地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝ている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅
は残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り
にし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で
助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。
まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての
押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。
それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜
劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。
その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし(お梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するのを「よせよ」と遠巻きに言うだけで何もできない夫・宗吉に代わって毅然と赤ん坊を取り上げ、「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」と言うという、いい人のキャラだった)、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。
要する地方にあるS市という原作の設定から埼玉県の川越市に改変され、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、映画では同じ埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。
宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食
べさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。
原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが(脚本の井手雅人は「父親を拒否した」を意図したが、野村芳太郎監督が「父親を庇った」ととれる演出に変えたと言われている)、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。
(●2025年に池袋・新文芸坐で15年ぶりに再見(映画館で観るのは4回目)。父・宗吉は息子・利一を連れて東尋坊に行き、ただしそこでは決心がつかず、能登半島まで行って「福浦」の旅館に泊まり、今度はバスでその先の「関野鼻」のバス停で降り、ヤセの断崖に辿り着いたのだったことを思い出した。ラストで利一少年は父親を「拒否した」のか、或いは「庇った」のかという議論が、映画を何度か観直した人の間でもあるようだが、やはり「庇った」説をとりたい。
因みに、竹中宗吉が3人の子供と訪れる「川越ピープルランド」という遊園地は、川越の蓮馨寺境内にあった遊園地であることを、'25年3月刊の『砂の器 映画の魔性―監督野村芳太郎と松本清張映
画』刊行記念トークショーで登壇した著者の映画評論家の樋口尚文氏が、現地を取材し自ら撮った写真で説明してくれた。ただし、今は、更地になっていて、その痕跡も無い。また、冒頭シーンで小川真由美が子ども3人らと入ったラーメンを食べるシーンは、川越のラーメン屋「勝山」がロケ地だが、こちらは「
過去に1度だけテレビドラマ化されていて、'02年10月15日に日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場('81年~'95年)1000回突破記念作品」として「松本清張スペシャル・鬼畜」のタイトルで放送されています(監督は「
ぎて、映画の岩下志麻ほどの凄味もやつれ感も無かったように思います。映画では岩下志麻演じるお梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するところが、ドラマでは食事が美味しくないと言う子どもに腹を立てた黒木瞳演じる春江が玉子焼きを取り上げて捨てるぐらいで(テレビコードのせいもあるか)、後の方で保夫が長男を連れて行った上野動物園そばの不忍池で、長男に妻が毒を入れたおにぎりを無理やり食べさせようとするシーンなどがあり(前述の通り原作は最中(もなか)、映画はアンパン)、黒木瞳がやるはずの汚れ役の一部をビートたけしが肩代わりしている印象もありました。全体として、夫婦を突き放すのではなく、寄り添うような感じだったでしょうか。

「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:





「松本清張スペシャル・鬼畜」●監督:田中登●企画:酒井浩至●脚本:佐伯俊道●音楽:大谷和夫(エンディング:安全地帯「出逢い」)●原作:松本清張●時間:141分(放送分)●出演:ビートたけし/黒木瞳/室井滋/片岡涼/佐藤愛美/諸岡真尋/小野武彦/奥村公延/石倉三郎/日野陽仁/渡辺哲/波乃久里子/斉藤暁/大林丈史/津田三七子/井田國彦/斎藤歩/酒井敏也/水田啓太郎/斉藤実紀●放映:2002/10/15(全1回)●放送局:日本テレビ

【感想】脚本・竹山洋(「
を超えるのは難しいと思って観ているが、演出はまずまず手堅かったように思う。映画では、終盤で子どもが父親を庇ったのか拒絶したのか解釈が分かれるような作りだが、このドラマでは婦警が「この子は親を庇っている」と言ってしまっている。ラストは原作と異なり、妻に贖罪させたような感じで、男の方は刑務所に入り、刑期を終えて出てきて墓参り。モデルとなった人物は獄中で狂死したことを思うと、やや甘い。妻に贖罪させたことも含め、テレビ的な改変であったように思う。しかし、ネットでいちばん話題になっていたのは、なぜこれをクリスマスイブに放映するのか謎であるということだった(笑)。
「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」●監督:和泉聖治●プロデューサー:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:吉川清之●原作:松本清張●時間:138分(放送分)●出演:玉木宏/常盤貴子/木村多江/余貴美子/南岐佐(菊代の長男で7歳)/稲谷実恩(菊代の長女で4歳)/今中陸人(菊代の次男で2歳)/前田亜季/近藤芳正/羽場裕一/片桐竜次/河西健司/萩原悠/嘉門洋子/平泉成/柳葉敏郎/橋爪功●放映:2017/12/24(全1回)●放送局:テレビ朝日





成島出監督、永作博美(希和子)、井上真央(恵理菜)主演で映画化され、第35回「日本アカデミー賞」の最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演女優賞(井上真央)・最優秀助演女優賞(永作博美)・最優秀脚本賞など「10冠」を獲得しました。さらに、「芸術選奨文部科学大臣賞」も受賞、第66回「日本放送映画藝術大賞」でも、最優秀作品賞・最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞(小池栄子=安藤千草役)など「7冠」を獲得しています。井上真央の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞は"ぶっちぎりの前評判通り"だったものと記憶し、永作博美と小池栄子はそれぞれ第85回「キネマ旬報ベスト・テン」主演女優賞と助演女優賞も受賞していて、「女性の映画」らしく女優陣が賞を総なめした感じでした。
原作のラストで、そうとは知らずに恵理菜と希和子の2人が偶然フェリー乗り場で居合わせるのは、ちょっと話が出来過ぎな気もしますが、映像化した場合の効果まで狙っているのかと思ったら、映画では「互いに相手を認識しない偶然のすれ違い」はカットされていました。全体として、[2章]が"現在"で、そこへ[1章]の"過去"の話をカットバック的に挟むという構成で、フェリー乗り場の"現在"と"過去"も、そういう重ね方をしています。
原作が[1章]の方が量的なウェイトが大きいのに対し、映画の方は[2章]のウェイトが大きくなっています。その分、小池栄子演じる安藤千草の存在の比重が大きくなっていて、恵理菜と2人で島に渡って過去を巡る(但し、エンジェルホームは廃墟になっている)といった原作にない展開がありますが、そもそも、最初の2人の出会いから最後のそこに至るまでの2人のやりとりは殆ど全て原作に無いオリジナルの脚本(セリフ)であり、結果的に、映画全体がオリジナル色が濃かったという印象です(登場人物によっては原作のままのセリフもあるが)。
」('10年)に続く4年連続4度目の映画主演とあって、安定した演技という感じでした。昨年['15年]のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」でも主役の杉文(吉田松陰(伊勢谷友介)の妹で久坂玄瑞(東出昌大)の妻、後に楫取素彦(大沢たかお)の妻)を演じていますが、歴史的にマイナーな人物だったためか、最終回の視聴率は「平清盛」('12年)と並ぶ12.0%という過去最低でした(個人的には、応援するような気持で観ていたのだが)。千草役の小池栄子(1980年生まれ)は頑張って演技していたという感じでしょうか(彼女も後にNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」('22年)で北条政子という準主役級の役を得ることになった)。
「八日目の蝉」●制作年:2011年●監督:成島出●製作総指揮:佐藤直樹●脚本:奥寺佐渡子●撮影:藤澤順一●音楽:安川午朗●時間:147分●原作:角田
光代「八日目の蝉」●出演:井上真央/永作博美/小池栄子/森口瑤子/田中哲司/渡邉このみ/吉本菜穂子/市川実和子/余貴美子/平田満/風吹ジュン/劇団ひとり/田中泯/相築あきこ/別府あゆみ/安藤玉恵/安澤千草/ぼくもとさきこ/畠山彩奈/宮田早苗/徳井優/吉田羊/瀬木一将/広澤草勲●公開:2011/04●配給:松竹(評価:★★★☆)

「花燃ゆ」●脚本:大島里美/宮村優子/金子ありさ/小松江里子●演出:渡邊良雄 ほか●音楽:川井憲次●出演:井上真央/(以下五十音順)相島一之/麻生祐未/井川遥/石原良純/石丸幹二/伊勢谷友介/板垣李光人/伊原剛志/上杉祥三/江口のりこ/江守徹/大野拓朗/尾上寛之/大沢たかお/奥田瑛二/音尾琢真/賀来賢人/かたせ梨乃/香音/要潤/
/銀粉蝶/劇団ひとり/黒島結菜/佐藤二朗/佐藤隆太/春風亭昇太/鈴木杏/瀬戸康史/大東駿介/高橋英樹/高橋由美子/高良健吾/宅間孝行/田中要次/田中麗奈/檀ふみ/津田寛治/内藤剛志/長塚京三/羽場裕一/浜田学/原田泰造/東出昌大/東山紀之/平田満/堀井新太/本田博太郎/


和田 誠
このシリーズは、映画の中の名セリフを取り上げて、リレー方式というか連想方式的に一定サイクル話を繋いでいっていますが(それと、勿論のことだが、イラストとの組み合わせ)、著者によれば、日本映画の方がセリフに関する記憶が少なく、洋画においてスパーインポーズで読んだものの方が記憶に残っているとのことです(そういうものかもしれないなあ)。

その代りのお楽しみとして、毎回違った"マドンナ"が登場するパターンになったということなのでしょう。初代マドンナは昨年['13年]食道癌で亡くなった光本幸子でした。また、著者が矛盾を指摘する「俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ」という主題歌の歌詞はもともとTV版用に作られたものですが、映画版の第2作からは別の歌詞に差し替えられています。
第1作は、黒澤明監督映画の重鎮俳優・志村喬(諏訪飈一郎役)が出演し、さくらの披露宴のシーンで小津映画の重要俳優・笠智衆(御前様役)と同じ画面に収まっているというのが珍しいかもしれません(黒澤監督の「
第1作がヒットして、山田洋次監督が松竹
「


「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」●制作年:1935年●監督:山中貞雄●脚本:三村伸太郎●潤色:三神三太郎●撮影:安本淳●音楽:西梧郎●原作:林不忘●時間:92分●出演:大河内傳次郎/喜代三/沢村国太郎/山本礼三郎/鬼頭善一郎/阪東勝太郎/磯川勝彦/清川荘司/高勢実乗/鳥羽陽之助/宗春太郎/花井蘭子/伊村理江子/達美心子/深水藤子●公開:1935/06●配給:日活(評価:★★★★☆)
「男はつらいよ 〈シリーズ第1作〉」●制作年:1969年●監督・原作:山田洋次●脚本:山田
洋次/森崎東●製作:上村力●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:91分●出演:渥美清/倍賞千恵子/光本幸子/笠智衆/志村喬(特別出演)/森川信/前田吟/津坂匡章/佐藤蛾次郎/関敬六

志賀真津子/津路清子/村上記代/石井愃一/市山達己/北竜介/川島照満/水木涼子/谷よしの/●公開:1969/08●配給:松竹(評価:★★★★)










是枝裕和監督の「そして父になる」('13年/ギャガ)は、夫(福山雅治)と妻(尾野真千子)の間にいる6歳の一人息子が、実は出生時に子どもの取り違えがあって実の息子ではなかったことが判明し、そこから始まるその夫婦の苦悩と、取り違えられた子を育ててきたもう1つの夫婦(リリー・フランキー・真木よう子)とのやり取りを描いた作品(2014年「芸術選奨」受賞作)。
子どもの取り違えが判明してからその次にどういう手順になるのかがきっちり取材されていて、加えて、河瀬直美監督に見出され「萌の朱雀」('97年)でデビューしたd尾野真千子、「無名塾」出身の真木よう子、スピルバーグがその演技を絶賛したリリー・フランキーなど、演技陣も充実していました。
員賞(パルムドール、(審査員特別)グランプリに次ぐ賞)を受賞した作品ですが、国内では、尾野真千子、真木よう子の2人はそれぞれ第37回「日本アカデミー賞」の優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞を受賞、福山雅治、リリー・フランキーもそれぞれ優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞を受賞しています(電気屋夫婦の方が「最優秀」を獲っていることになる。因みに真木よう子は、同年の「さよなら渓谷」での最優秀主演女優賞とのW受賞)。
(●是枝裕和監督の「万引き家族」('18年)が、
ヌ国際映画祭
ったかあ。でも彼は「そして父になる」以上の演技だった。この映画、Amazon.comのレビューなどでみると「どこがおもしろいのか、わからない」という人も結構多いようだが、個人的には良かったと思った。「お父さん」「お母さん」と呼んでほしいと願う主人公の想いが核になっていて、終わり方も良
かった。家族っていなくなると切ないものである。これで、是枝監督にとって「家族」というのが大きなテーマであることがよく分かった。それでは小津安二郎や山田洋次と変わらないと思われるフシもあるかもしれないが、ステップファミリーを通して「家族」というものを描いているのが大きな特徴であり、「そして父になる
」からの流れで見ると繋がっている。ハッピーエンドにせず、問題投げかけ型で終わるのも同じ。今回は中流家庭ではなく、下流家庭(疑似家族)を描いている点で、明らかに小津安二郎の後期作品とも異なる。何となく是枝監督のスタンスが見えてきた気がする。パルム・ドールは、ベルギー移民の少女や若者の貧困を描いたダルデンヌ兄弟の作品が2度受賞しているなど、格差社
会を描いたものが近年では賞を獲り易い傾向にあり、「万引き家族」の受賞も意外性はなかった(「万引き家族」の翌年2019年には、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がパルム・ドール受賞。やっぱりという感じ)。因みに本作は、2019年・第13回アジア・フィルム・アワードも作品賞と作曲賞(細野晴臣)を受賞しているほか(この賞の作品賞受賞は日本映画では初)、
犬童一心、樋口真嗣共同監督の「のぼうの城」('12年/東宝)は、北条氏の支城で、周囲を湖に囲まれ浮城とも呼ばれる忍城(おしじょう)の領主・成田氏一門の成田長親(野村萬斎)と、その城を攻め落とそうとする豊臣方・石田三成(上地雄輔)の攻防を描いた作品で、2時間超ですがあまり長さを感じさせず、予想以上に面白かったです(この面白さは、和田竜氏の直木賞候補となった原作の面白さによるものではないかとも思うが、原作を読んでいないので、素直に「面白かった」としておきたい。台詞が一部、「○○的」など現代語になっているのが気になったが、脚本も原作者によるもの)。
歌舞伎や狂言の俳優が、日頃その世界で伝統芸能の継承・研鑽に励みつつも、現代劇や時代劇に出てすんなりそれにフィットした演技が出来てしまうのにはいつも感心させられますが、この映画の野村萬斎の場合、狂言の演技をそのまま成田長親のキャラに活かしていることにより、映画を自分の作品にしている点で、起用に充分応えているように思いました。また、近習の正木丹波守利英を演じた佐藤浩市の演技がオーソドックスな映画的演技であることも、対比的な効果を醸しているように思われます。この2人はそれぞれ第36回「日本アカデミー賞」の優秀主演男優賞、優秀助演男優賞を受賞しています。
ストーリー的には、最後は、北条氏の本城である小田原城が落城してしまうことから、支城を巡って争う理由がなくなり、これ以上は戦わずして成田氏は忍城を豊臣方・石田三成に明け渡すことになってしまうという点では、これもまた、アンチ・カタルシス的な作品と言えるかもしれません(M&Aで大企業に吸収される関係会社みたい)。それでも「こういう武将もいたのだ」という面白さによってさほどカタルシス不全を感じさせないのは、これはやはり、原作の目の付け所の良さに拠るものかと思われます。
僅か500の兵で2万の大軍から城を守り和議に持ち込んだというのはやはりスゴイことだと思われ、今までほとんど時代小説の素材になっていないのが不思議なくらい(風野真知雄の『水の城 いまだ落城せず』では主人公の成田長親は、際立った武勇や才覚はなく、捉えどころのない人物として描かれているそうだ)。近年の研究では、もともと水攻めに向かない城に対して水攻めに固執した秀吉のミスだったとの説が有力なようで、実戦経験の乏しい石田三成に配慮した作戦が裏目に出たのか。逆に三成が書状の中で「諸将は完全に水攻めと決め込んで全く攻め寄せる気がない」と嘆く事態となったわけですが、水攻めの決定に三成軍の武将たちのモチベーションががたんと低下する場面はこの作品の中でも描かれています。
敢えて長年二番館として営業してきた三茶シネマらしいラインアップを選んだらしい)。ラストショーと思って思い入れを込めて観た分、評価はやや甘くなっているかもしれません。昨年['13年]5月に亡くなった夏八木勲(1939-2013/享年73)が両方の作品に脇役で出ています('12年の秋から膵癌を患い、闘病を続けていた)。

「そして父になる」●英題:LIKE FATHER,LIKE SON●制作年:2013年●監督・脚本:是枝裕和●製作:亀山千広/畠中達郎/依田翼●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松
原毅●時間:120分●出演:福山雅治/尾野真千子/真木よう子/リリー・フランキー/二宮慶多/黄升炫/中村ゆり/高橋和也/田中哲司/井浦新/ピエール瀧/大河内浩/風吹ジュン/國村隼/樹木希林/夏八木勲●公開:2013/09●配給:ギャガ●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「のぼうの城」(犬童一心/樋口真嗣)
風吹ジュン(野々宮のぶ子(良多の義母)) 
「万引き家族」●英題:SHOPLIFTERS●制作年:2018年●監督・脚本・原案:是枝裕和●製作:石原隆/依田巽/中江康人●撮影:近藤龍人●音楽:細野晴臣●美術:三ツ松けいこ●衣裳デザイン:黒澤和子●時間:120分●出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林/緒形直人/森口瑤子/山田裕貴/片山萌美/柄本明/笠井信輔(ニュースキャスター)/三上真奈(ニュースキャスター)●公開:2018/06●配給:ギャガ(評価:★★★★☆)



「のぼうの城」●制作年:2012年●監督:犬童一心/樋口真嗣●製作:久保田修●脚本:和田竜●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松原毅●時間:145分●出演:野村萬斎/榮倉奈々/成宮寛貴/佐藤浩市/山口智充/上地雄輔/前田吟/中尾明慶/尾野真千子/ピエール瀧/前田吟/山田孝之/平岳大/市村正親/西村雅彦/鈴木保奈美/平泉成/夏八木勲●公開:2012/11●配給:東宝●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「そして父になる」(是枝裕和)




亡き友・三輪の七回忌に集まった間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)の3人は、未亡人の秋子(原節子)とその娘アヤ子(司葉子)と談笑するうち、年頃のアヤ子の結婚に話が至る。
3人は何とかアヤ子を結婚させようと動き始めるが、アヤ子は母親が一人になることが気がかりでなかなか結婚に踏み切れない。間宮の会社の後藤(佐田啓二)がアヤ子に似合いだと考えた3人は、アヤ子が嫁ぐ気になるためにはまず母親が再婚することが先決と考え、平山を再婚相手の候補として画策する。
その動きを察したアヤ子は同僚の佐々木百合子(岡田茉莉子)に相談し、それを聞いて憤慨した百合子は間宮らを一堂に会させてやり込めるが、彼らの説明を聞いて百合子も納得し、母娘の結婚話が進むことになる。しかし秋子は娘と二人で出かけた伊香保温泉の宿で、自分は一人で生きていく決意だと伝え、娘の背中を押す―。
原節子は当時実年齢40歳にして45歳の未亡人秋子役で、娘役の司葉子は実年齢26歳で24歳のアヤ子を演じていますが、実年齢では14歳差ということになります。当時56歳の笠智衆が秋子の義兄(59歳)という設定であるため、「晩春」と比べると原節子が1世代上にスライドしたことになります。
但し、「晩春」のラストで笠智衆は、娘を嫁にやった後に家で独りになって林檎の皮を剥きながら深くうなだれますが、この作品の原節子演じる秋子は、娘の結婚式を終えてアパートに戻った後、独り静かに微笑を浮かべます。原節子が母親役を演じていることに注目が行きがちな作品ですが、「晩春」と比べるとこの点が大きく異なるように思います。
また、「晩春」にも「秋刀魚の味」にも無い結婚式の場面がこの作品にあるのは(新郎新婦そろっての式当日の記念撮影シーンなど)、このアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)の結婚のみが、小津映画ではごく例外的に"幸せな結婚"として暗示されているためとの説もあるようです。個人的には、「
名匠・小津の作品として気負って観たところで、話としては何てことない話のような気もしますが、主人公のアヤ子を演じた司葉子を美しく撮っているほか、アヤ子は同僚の佐々木百合子を演じた小津映画初出演の岡田茉莉子(当時27歳)の活き活きとした演技も印象的であり、特に百合子が秋子に会いに行く場面は、昭和前期型(原節子)と昭和後期型(岡田茉莉子)の異なる演出パターンが1つの場面に収まっているという点が興味深かったです。
小津安二郎監督の映画と言えば、鉄道の駅や走っている列車を映すところから始まるものが多いのですが(或いは作中に必ず駅や列車が出てくる)、この作品は2年前に完成した東京タワーが冒頭に映し出されています。では列車
は出てこないかというと、アヤ子や百合子が
勤めるオフィスの屋上から東海道線が映し出されていました(その列車には、新婚旅行に向かう二人のかつての同僚が乗っていて、二人は列車に向かって手を振る)。
「秋日和」●制作年:1960年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:128分●出演:原節子/司葉子/佐分利信/岡田茉莉子/佐田啓二/中村伸郎/北竜二/桑野みゆき/三宅邦子/沢村貞子/三上真一郎/渡辺文雄/高橋とよ/十朱久雄/南美江/須

賀不二男/桜むつ子/笠智衆/田代百合子/設楽幸嗣/千之赫子/岩下志麻●公開:1960/11●配給:松竹●最初に観た場所(デジタルリマスター版):神保町シアター(13-12-21)●2回目:(デジタルリマスター版):北千住・シネマブルースタジオ(19-06-04)(評価:★★★★)
桑野みゆき(宗一(佐分利信)の娘・間宮路子)
渡辺文雄(アヤ子(司葉子)の同僚で遊び仲間・杉山常男)


世間一般でもこうした「ビデオで観る」派が増えて、'96年の映画館の入場者数が1億1,957万人と史上最低だったわけですが、翌年は、この年'97年7月公開の「もののけ姫」('97年/東宝)のヒットを受けて、邦画の映画館入場者数は前年比2千万人増、さらに12月公開のジェームズ・キャメロン監督の「
「もののけ姫」は、それまでの宮崎駿監督の作品の集大成とも言える大作で、作画枚数は14万枚以上に及び、これは後の「千と千尋の神隠し」の11.2万枚をも上回る枚数です。時代の特定は難しいですが、室町後期あたりのようで、室町時代にしたのはこれ以上遡ると現実感が希薄になって自分自身もイメージが湧きにくくなるためだというようなことを、宮崎監督が養老孟司氏との対談で言っていました(『虫眼とアニ眼』 ('08年/新潮文庫))。自然と人間の対決というテーマは「風の谷のナウシカ」('84年)にも見られましたが、こちらはより深刻かつ現実的に描かれているような気もします。バックボーンになっているのは明らかに網野善彦(1928-2004)の展開する非農業民に注目した日本史観であり、映画全編を通して様々な要素が入っていて、その解釈となると結構難解
な世界とも言え、歴史学の知識に疎
い身としては、その辺りが今一つ解らなかったもどかしさもありました(その網野善彦からは、当時の女性は皆ポニーテールだったとの指摘を受けている)。「となりのトトロ」('88年)みたいに、深く考えないで観た方が良かったのかも。


「千と千尋の神隠し」が記録的な興行成績となったのは、第75回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、海外でも評価されたということで、普段アニメを観ない人も映画館に行ったという事情もあったのではないで
しょうか。但し、米国アカデミー賞受賞は、先に第52回ベルリン国際映画祭で「
「風の谷のナウシカ」が出たての頃、この作品にすごく注目していた友人がいて、薦められてその友人の家でレーザーディスクで観たことがありますが(彼は当時パイオニアに勤務していた)、彼は先見の明があったのかもしれません。また、「となりのトトロ」については、この作品が出た時期に限らず、その後もビデオやDVDの普及で繰り返し多くの家庭で観られ、幅広い世代の幼年期の記憶に残ったのではないでしょうか(個人的には「となりのトトロ」がスタジオジブリの最高傑作だと思っている)。こうした初期作品の方が好きな人も結構いるように思います。
「もののけ姫」●制作年:1997年●監督・脚本:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:米良美一「もののけ姫」)●時間:133分●声の出演:松田洋治/石田ゆり子/美輪明宏/渡辺哲/小林薫/森繁久彌/田中裕子/佐藤允/森光子/上條
恒彦/島本須美/名古屋章/近藤芳正/飯沼慧●公開:1997/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)
ジコ坊(声:
乙事主(おっことぬし)(声:




「千と千尋の神隠し」●制作年:2001年●監督・脚本・原案・原作:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:木村弓「いつも何度でも」)●時間:124分●声の出演:柊瑠美
/入野自由/夏木マリ/中村彰男/玉井夕海/内藤剛志/沢口靖子/神木隆之介/我修院達也/大泉洋/小野武彦/上條恒彦/菅原文太●公開:2001/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)
●森卓也(映画評論家)の推すアニメーションベスト10(『

長崎沖・伊王島の炭鉱労働者・風見精一(30歳)(井川比佐志)は、炭鉱閉山で転職を余儀なくされ、自らの夢であった北海道での牧場経営に乗り出したいと願う。妻の民子(25歳)(倍賞千恵子)は当初反対するが、長男(3歳)長女(1歳)の子供2人を連れて一緒に入植することに。精一の父である源蔵(65歳)(笠智衆)を広島県福山市に住む次男の力(前田吟)と同居させる予定だったが、訪ねてみると力の家は源蔵を同居させる状態になく、民子が精一と源蔵を説得し一緒に北海道へ向かうことに。家族5人はまず大阪へ向かい、そこで開催直後の大阪万博を見物に出かけ、その日の内に新幹線に乗り込み東京へ。
東京駅から上野駅に移動し、更に青森行きの夜行に乗る予定だったが、子2人のうち赤ん坊の方の様子が急変、上野の旅館に入り病院を探すが手遅れで死んでしまう。荼毘に付すために東京に2泊し、精一と民子が夫婦喧嘩をする険悪なムードの中、家族は夜行で青森に向かい、青函連絡船で函館に、それからまた長い列車の旅を経てやっと中標津に辿り着く。翌日、近所の人達が歓迎会を開いてくれた時、「炭坑節」を気持ちよく歌った源蔵は、その夜布団の中で静かに息を引き取る―。
え、その中で消えていく命もあれば新たに生まれる命もあるという、今思えばそういう作品だったのだなあと(年齢がいって観ると、段々いい作品に思えてくる...)。
全体にドキュメンタリータッチで撮られていて、演技陣は難しい演技を強いられていたのではないかと思いましたが、この夫婦は旅程でしばしば険悪な雰囲気になる(これだけツライ目に合えば愚痴も出るか)その加減にリアリティがあり、その中でも倍賞千恵子の演技は秀逸。
この作品を見ていると、倍賞千恵子は「男がつらいよ」シリーズがあんなに長く続かなければ、もっと違った作品に出る機会もあったのではないかという気もしましたが、「故郷」('72年)、「同胞(はらから)」('75年)、「遙かなる山の呼び声」('80年)などシリーズの合間に撮られた山田洋次作品に主演しています。この内、「家族」「故郷」「遙かなる山の呼び声」での役名は同じ"民子"であるため、小津安二郎監督が原節子を"紀子"という役名で起用した紀子3部作(「晩春」('49年)、「麦秋」('51年)、「東京物語」('53年))に対して「民子3部作」と呼ばれ(「遙かなる山の呼び声」の舞台は"家族"が目指した中標津)、また、漢字2文字の作品とし
て「家族」「故郷」「同胞」を山田・倍賞コンビの3部作と呼ぶこともあるようです。
「家族」●制作年:1970年●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/宮崎晃●撮影:高羽哲夫●音楽:佐藤勝●時間:106分●出演:井川比佐志/倍賞千恵子/木下剛志/瀬尾千亜紀/笠智衆/前田吟/富山真沙子/竹田一博/池田秀一/塚本信夫/松田友絵/花沢徳衛/森川信/ハナ肇とクレージーキャッツ/渥美清/松田友絵/春川ますみ/太宰久雄/梅野泰靖/三崎千恵子●公開:1970/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):京橋・フィルムセンター(10-01-21)(評価:★★★★)





(●2010年9月に「
りの二人の演技派女優の演技の狭間で、主人公である妻夫木聡が演じる祐一の存在が霞んだ。さらに後半、柄本明が演じる佳乃の父や樹木希林が演じる祐一の祖母が原作以上にクローズアップされたため、祐一の影がますます弱くなった。原作者
はインタビューで「やっぱり樹木さん、柄本さんのシーンは画として強かったと思いますね。シナリオも最初は祐一と光代が中心でしたが、最終的に、樹木さんのおばあちゃんと、柄本さんのお父さんが入ってきて、全体に占める割合が大きくなったんですよね。あれは、僕らが最初に考えていたときよりも分量的にはかなり増えていて、自分たちでは逆に上手くいったと思っているんです」と語っている。柄本明は助演でありながら芸術選奨も受賞している(助演では過去に例が無いのでは)。この作品の主人公は祐一なのである。本当にそれでいいのだろうか。李相日監督は6年後、同作者原作の「
「悪人」●制作年:2010年●監督:李相日(リ・サンイル)●製作:島谷能成/服部洋/町田智子/北川直樹/宮路敬久/堀義貴/畠中達郎/喜多埜裕明/大宮敏靖/宇留間和基●脚本:吉田修一/李相日●撮影:笠松則通●音楽:
将生/光石研/満島ひかり/樹木希林/柄本明/井川比佐志/
余貴美子/宮崎美子/中村絢香/韓英恵/塩見三省/池内万作/永山絢斗/山田キヌヲ/松尾スズキ/河原さぶ/広岡由里子/二階堂智/モロ師岡/でんでん/山中崇●公開:2010/09








検分役が立ち会うような格式ばった「かたき討ち」を描いた映画で思い出す作品に、今井正監督、橋本忍脚本、中村錦之助(萬屋錦之介)主演の「仇討(あだうち)」('64年/東映)がありますが、些細な諍いから起きた決闘で上役を殺してしまった下級武士が主人公で、封建社会における家名尊重の理不尽を描いた今井正監督ならではの作りになっています(昔ビデオ化されていたが、どういうわけかその後、国内ではDVD化されていない)。
4月号(文藝春秋刊)に発表されたものを基に、1969年にオムニバスドラマの一編としてテレビドラマ化され、2002年に真田広之主演で映画化されたものです。同監督の「
倉梅太郎役で出てきて、検分役のはずの岸部一徳が鉄砲をぶっ放して仲代はあっさり討ち死してしまうというかなり乱暴な流れ。これはあくまで助六を演じた真田広之の映画だったのだなあ。梅太郎が生き別れた実父だったことを知った助六は親の
仇を討とうとしますが、岸部一徳が演じる御検分役曰く「仇討の仇討」は御法度であるということで、ならばこれは助太刀であるとの助六の言い分も強引。真田広之演じる助六が24歳、鈴木京香演じるお仙はそれより若い「おぼこ」の役という設定もかなりきついです。でも、まあ肩の凝らない娯楽作ではありました。
「助太刀屋助六」●制作年:2001年●監督:岡本喜八●製作:豊忠雄/宮内正喜●脚本:生田大作(岡本喜八)●撮影:加藤雄大●音楽:山下洋
輔●原作:生田大作(岡本喜八)●時間:88分●出演:真田広之/鈴木京香/村田雄浩/鶴見辰吾/風間トオル/本田博太郎/友居達彦/山本奈々/岸部一徳/岸田今日子(ナレーションも)/小林桂樹/仲代達矢/竹中直人/宇仁貫三/嶋田久作/田村奈巳/長森雅人/滝藤賢一/伊佐山ひろ子/佐藤允/天本英世●公開:2002/02●配給:東宝(評価:★★★☆)
小林桂樹(棺桶屋)





昭和22年秋、台風のため青函連絡船・層雲丸の転覆事故が起き、必死の救助活動が行われる中、3人の復員服姿の男が台風で不通になった列車から飛び降り、転覆事故の混乱に紛れ、本土へ向けて夜の海峡を船を漕いでいた。台風が去った後、転覆した層雲丸の乗客の遺体が次々と収容されるが、引取り人のいない遺体があり、収容遺体は実際の乗客数より2体多かった。一方、同じ台風の中、函館市内て質屋が全焼する火事があり、焼け跡から質屋一家の他殺体が発見され、質屋一家強盗殺人事件と、転覆事故の乗船者数より多い2体の遺体が結びついた―。
[映画]函館署のベテラン刑事の弓坂(伴淳三郎)は、亡くなった男2人と行動を共にしていた犬飼太吉なる大男の行方を粘りつよく捜索を続け、その男・犬飼太吉(三國連太郎)と思われる男と一夜を共にした女郎・杉戸八重(左幸子)の存在を突き止める―。

主人公・犬飼役の三國連太郎の生涯最高の演技に加えて、刑事役の高倉健の演技もいいですが、高倉健と共に捜査にあたる元
刑事役の伴淳三郎と、堅気になろうとしてなれない薄幸の女性・八重(ひたすら犬飼を思いながら生き続ける哀しさ)を演じた左幸子の演技が、この二人もまた生涯最高の演技と言っていいくらいに、とてもいいです。
とりわけ伴淳三郎については、内田吐夢監督がロケで、大勢の見物人の前で彼を罵倒して何十回もNGを出し、喜劇王伴淳のプライドをズタズタに傷つけ、すっかり意気消沈させたとのことで、実はそれこそが内田吐夢の狙いであり、伴淳がいつもの喜劇と場が違って巨匠の撮る大作にシリアスな大役ということで、いいところを見せようと肩に力が入り過ぎるのを、監督が伴淳を怒鳴りつける事で意図的に元気をなくさせ、それが作品が求めるところの人生に疲弊している老刑事像に繋がったというから、恐ろしいまでの演出です。



「飢餓海峡」●制作年:1965年●制作:東映●監督:内田吐夢●脚本:鈴木尚之●撮影:仲沢半次郎●音楽:冨田勲●時間:183分●出演:三國連太郎(樽見京一郎/犬飼多吉)、左幸子(杉戸八重/千鶴)/伴淳三郎(弓坂吉太郎刑事、函館)/高倉健(味
村時雄刑事、東舞鶴)/加藤嘉(杉戸長左衛門、八重の父)/三井弘次(本島進市、亀戸の女郎屋「梨花」の主人)/沢村貞子(本島妙子)/藤田進(東舞鶴警察署長、味村の上司)/風見章子(樽見敏子、樽見の妻)/山本麟一(和尚、弓坂
の読経を褒める)/最上逸馬(沼田八郎、岩内の強盗犯)/安藤三男(木島忠吉、岩内の強盗犯)/沢彰謙(来間末吉)/関山耕司(堀口刑事、東舞鶴)/亀石征一郎(小川、チンピラ)/八名信夫(町田、チンピラ)/菅沼正(佐藤刑事、函館)/曽根秀介(八重が大湊で働いていた娼館、"花や"の主人)/牧野内とみ子(朝日館女中)/志摩栄(岩内署長)/岡野耕作(戸波刑事、函館)/鈴木昭生(唐木刑事、東舞鶴)/八木貞男(岩田刑事、東舞鶴)/外山高士(田島清之助、岩内署巡査部長)/安城百合子(葛城時子、八重が東京で訪ねる)/河村久子(煙草屋のおかみ)/高須準之助(竹中誠一、樽見家の書生)/河合絃司(巣本虎次郎、網走刑務所所長)/加藤忠(刈田>治助)/須賀良(鉄、チンピラ)/大久保正信(漁師の辰次)/西村淳二(下北の巡査)/田村錦人(大湊の




表題作である「岬」のほか、「黄金比の朝」「浄徳寺ツアー」など3篇を収めていますが、作者の小説は郷里の紀州を舞台にしたものが多い中、表題作はまさに出身都市である新宮市を舞台に、家族と共に土方仕事をしながら、逃れられない血のしがらみに喘ぐ青年を描いたものです。作者は本作により、戦後生まれとしては初めての芥川賞作家となりましたが、近年の芥川賞作品に比べると、ずっと「骨太」感があると思いました。






しき大地」('82年/群狼プロ)
愛しき大地」にも出演している。そして、「さらば愛しき大地」でもいい演技をしている)が扮していて、この蟹江
敬三と、自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦を演じた沖山秀子(1945-2011)(ジャズ・ヴォーカリストでもあり、中上健次は彼女の大ファンだった)の濡れ場シーンの何と暗いこと! とにかく暗い暗い作品でしたが、その暗さを通して、青年の意志のようなものがじわーっと伝わってくる(ある意味「前向き」な)不思議な仕上がりになっていました。

)を島の区長(加藤嘉)が引き取って愛人にし、区長が亡くなった後、兄は妹を取り戻して逃避行を図るものの、息子(河原崎長一郎)を含む村人達に殴殺されてしまうというストーリーにみられるように、また、語り部によって語られる説話的な構成という点から
も、個と家族、共同体の関係性に重きを置いた作品という印象を受けました。沖山秀子の演じたのは、息子の妹で、開発業者の社員(北村和夫)に政略的に与えられる白痴の娘の役でした。
彼女が北村和夫演じる開発会社の社員を好きになったことが悲恋の結末に繋がり、最後は「岩」になってしまったという、説話または神話と呼ぶにはあまりにドロドロした話で、キネマ旬報ベストテンの'68年の第1位作品ですが、観た当時はあまり好きになれなかった作品でした(沖山秀子は良かった。と言うより、スゴかったが)。しかしながら、後に観直すうちに、だんだん良く思えるようになってきた...(抵抗力がついた?)。
因みに、沖山秀子は関西学院の女子大生時に今村昌平監督に見い出されてこの映画に出演し、これを機に今村昌平監督の愛人となり、その関係が破局した後は、カメラマン恐喝のかどで逮捕され(留置場では全裸になって男性受刑者を歓喜させ、「みんな何日も女の体を見てないからね。私はブタ箱をパラダイスにしてやったんだよ」と言ったという逸話がある)、出所後は精神病院に入院、退院後マンションの7階から投身自殺をするも未遂に終わり、「十九歳の地図」出演時の「自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦」役をほぼそのまま地で演っているというスゴさでした。(2011年3月21日死去)
「十九歳の地図」●制作年:1979年●監督・脚本:柳町光
男●製作:柳町光男/中村賢一●撮影:榊原勝己●音楽:板橋文夫●原作:中上健次「十九歳の地図」●時
間:109分●出演:本間優二/蟹江敬三/沖山秀子/山谷初男/原知佐子/西塚肇/うすみ竜/鈴木弘一/白川和子/豊川潤/友部正人/津山登志子/中島葵/川島めぐ /竹田かほり/中丸忠雄/清川虹子/柳家小三治/楠侑子●公開:1979/12●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)(評価:★★★★)●併映:「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(柳町光男) 
「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」●制作年:1976年●製作・監督:柳町光男●撮影:岩永勝敏/横山吉文/塚本公雄/杉浦誠●時間:91分●出演:ブラックエンペラー新宿支部の少年たち/本間優二●公開:1976/07●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★)●併映(1回目):「十九歳の地図」(柳町光男)●併映(1回目):「さらば愛しき大地」(柳町光男)
「神々の深き欲望」●制作年:1968年●監督:今村昌平●製作:山野井正則●脚本:今村昌平/長谷部慶司●撮影:栃沢正夫●音楽:黛敏郎●時間:175分●出演:三國連太郎/河原崎長一郎/沖山秀子/嵐寛寿郎/松井康子/原泉/浜村純/中村たつ/水島晋/北村和夫/小松方正
/殿山泰司/徳川清/石津康彦/細川ちか子/扇千景/加藤嘉/長谷川和彦●公開:1968/11●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(83-07-30)●2回目:池袋・新文芸坐(24-06-23)(評価:★★★★→★★★★☆)
沖山秀子 in「喜劇・女は度胸」('69年/松竹)with 渥美清
竹中労著『鞍馬天狗のおじさんは』(ちくま文庫)において、嵐寛寿郎がこの作品の撮影の過酷さを吐露している。今村が本作とは別に撮っていた映画『東シナ海』のロケで沖縄にいた嵐寛寿郎は「たったの1時間で石垣島までいける、もう1本撮りましょうや」と監督の今村に口説かれて首を縦に振ったところ、「1時間やったら、ギャラかせいでもええなあ。これが間ちがいのもとや、何が1時間ですか、南大東島まで持っていかれた。誘拐ですわゆうたら、1時間のはずが3カ月、半年、1年ちかく撮影かかりました。もうむちゃくちゃダ、暑いの何のムシ風呂でおます南大東島。」と語り、撮影に入る経緯
を語っている。また、「おまけに今村昌平、自分ばかり女抱いとる。あの沖山秀子。これが頭おかしゅうなった、ビルから跳びましたやろ。7階も上から。ほてから生命たすかった、バケモノや。」「男優かて三国連太郎、破傷風にかかって、足1本なくすところでおましたんやで。それでも、まだこりずに、ゼニもらわんと、自費でやってきよりますのや。変なのばっかり。沖山秀子、監督と毎日オメコしとる、かくし立てしまへん。」等といった告白もしており、嵐自身も何度か撮影が嫌になって逃げ出したことがあったという。この映画の出来自体は「これほど印象深い作品はおまへんな。ブルーリボンの助演男優賞とった。本番18回のおかげや。ゆうたらまあ芸術映画ダ、キネマ旬報のベストワン。娯楽作品としても立派な出来やった」と述懐している。
久世光彦(1935-2006/享年70) 

坪内祐三氏の解説が興味深く、百閒が住んだことのないはずの小田原を舞台にしている理由の1つに、鈴木清順監督の映画「ツィゴイネルワイゼン」('80年/シネマ・プラセット)のイメージが久世氏にあったのではないかとしています(確かに映画の中に砂浜のシーンがあった)。
「ツィゴイネルワイゼン」は黒澤明監督の「影武者」('80年/東宝)を押さえてその年のキネ旬ベストワンを獲得した作品ですが、実際いい映画でした。大楠道代が「桃は
腐りかけているときがおいしいの」と言いながら、水蜜桃を舌で妖しく舐めまわすシーンが印象的であり、またこの映画に漂う死のイメージを象徴していた場面でもありました。


「ツィゴイネルワイゼン」●制作年:1980年●監督:鈴木清順●製作:荒戸源次郎●脚本:田中陽造●撮
影:永塚一栄●音楽:河内紀●原作:内田百閒 (「サラサーテの盤」(ノンクレジット))●時間:144分●出演:原田芳雄/大谷直子/大楠道代/藤田敏八/真喜志きさ子/麿赤児/山谷初男/玉川伊佐男/樹木希林/佐々木すみ江/木村有希/玉寄
長政/夢村四郎/江の島ルビ/中沢青六/相倉久人●公開:1980/04●配給:シネマ・プラセット●最初に観た場所:有

藤田敏八に演技をつける鈴木清順監督




「たそがれ清兵衛」は2002年に山田洋次監督によって映画化され、同監督初の時代劇でしたが、第76回キネマ旬報ベスト・テンの第1位に選ばれるなど多くの賞を受賞しました(「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「ブルーリボン賞 作品賞」「報知映画賞 作品賞」「山路ふみ子映画賞」「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」など作品賞を総嘗めした)。
清兵衛と朋江の相互の切ない想いの描き方は感動的でしたが、原作はもっと軽い感じだったという印象。但し、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうというのは原作通りで、真田広之と田中泯の殺陣シーンはなかなかリアリティがありました。こうした、テレビ時代劇などにある従来のお決まりの殺陣シーンとは違った演出ばかりでなく、時代考証も細部に行き届いているようで、山田洋次監督の初時代劇作品への意気込みが感じられ、真田広之、宮沢りえの演技も悪くなかったです(真田広之、宮沢りえそれぞれ日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞・女優賞を受賞。映画デビュー作の田中泯は最優秀助演男優賞、新人俳優賞のW受賞)。
でも、恋愛を描いたことで、完全に原作とは別物の作品になった印象もありました。話の枠組みを岸恵子(壮齢となった清兵衛の娘)の語りにする必要もなかったし(岸恵子は「男はつらいよ 私の寅さん」('73年/松竹)以来の山田洋次監督作品への出演)、その語りによるエピローグで清兵衛を戊辰戦争で死なせる必要も無かった―更に言えば、どうせここまで改変するならば、2人を結婚させず悲恋物語にしても良かったように思います。
「たそがれ清兵衛」●制作年:2002年●製作:大谷信義/萩原敏雄/岡素之/宮川
人助八」●時間:129分●出演:真田広之/宮沢りえ/田中泯/小林稔侍/大杉漣/吹越満/深浦加奈子/神戸浩/伊藤未希/橋口恵莉奈/草村礼子/嵐圭史/岸惠子/中村梅雀/赤塚真人/佐藤正宏/桜井センリ/北山雅康/尾美としのり/中村信二郎/丹波哲郎
/佐藤正宏/水野貴以●劇場公開:2002/11●配給:松竹(評価★★★☆)
[右写真]小林稔侍/宮沢りえ/山田洋次監督/真田広之/丹波哲郎




1962(昭和37)年に『燃えよ剣』を発表した司馬遼太郎が、同年5月から12月にかけて「小説中央公論」に発表した新選組を題材とした15編の短編で、これらの中に新選組の厳しい内部粛清を扱ったものが結構あり、間者(スパイ)同士で斬り合いをさせる話などは、戦争スパイ映画のような緊迫感があります。
「燃えよ剣」よりも創作の入る余地は大きいはずですが(加納惣三郎も架空の人物だが、沖田総司の幼名が惣次郎)、鉄の掟に背いた者に待ち受ける粛清、隊士の間に流行した男色といった生々しいテーマを扱っているせいか、新選組の"内実"に触れたようなリアリティがあります。
映画「御法度」は、大島渚(1932-2013/80歳没)監督の13年ぶりの監督作品でしたが、結局この作品が遺作となりました。加納惣三郎を演じた松田龍平はこの作品が映画デビュー作であり、六番組組長・井上源三郎が中心となる「三条蹟乱刃」もストーリーに組み込まれ、原作の国枝大二郎の役回りを加納惣三郎が代わりに務めています。近藤勇に映画監督の崔洋一(1949-2022/73歳没)、土方歳三にビートたけし(土方歳三は美男子ではなかったのか?近藤が二人いる感じ)、沖田総司に武田真治、加納惣三郎と出
来てしまう田代彪蔵に浅野忠信。音楽は坂本龍一(1952-2023/71歳没)、美術は西岡善信(1922-2019/97歳没)、衣装はワダエミ(1937-2021/84歳没)。原作のラスト、惣三郎が田代を討ったのを見届け、土方と沖田が現場を離れる時に、沖田が「用を思い出した」と引き返したのはなぜか、映画では明け透けでない程度にその謎解きにはなっていたように思われ、「○」としました(第42回「ブルーリボン賞 作品賞」、第50回「芸術選奨」(大島渚監督)、第9回「淀川長治賞」、第1回「文化庁優秀映画賞」受賞、キネマ旬報ベスト・テン第3位)。
「御法度」●制作年:1999年●監督・脚本:大島渚●撮影:栗田豊通●音楽:坂本龍一●原作:司馬遼太郎(「前髪の惣三郎」「三条磧乱刃」)●時間:100分●出演:ビートたけし/松田龍平/武田真治/浅野忠信/崔洋一/坂上二郎/トミーズ雅/的場浩司/伊武雅刀/田口トモロヲ/神田うの/桂ざこば/吉行和子/田中要次/飯島大介/ 伊藤洋三郎/藤原喜明/菅田俊/寺島進梅/梅垣義明/青山知可子(ナレーター)佐藤慶●公開:1999/12●配給:松竹(評価:★★★☆)




松田道雄(1908‐1998/享年89)

因みに、映画「私は二歳」は、船越英二と山本富士子が演じる夫婦が子育てをする様が描かれていて、前半部分は新興団地が舞台で、後半は父方の祖母(浦辺粂子)と同居するために一軒家に移りますが、やがて祖母が亡くなるというもの。子育てを巡ってごく普通にありそうな夫婦の衝突などがテンポよく描かれていますが、とりたてて珍しい話はなく、1962年・第36回「キネマ旬報ベストテン」の日本映画第1位に選ばれてはいますが(1962年度「芸術選奨」受賞作でもあるのだが)、まあどうってことない映画でしょうか。ただ、こうして子育てする夫婦の日常を観察日記風に描いた作品はそうなく、また、今観ると昭和30年代の本格的な核家族社会に入った頃の家庭育児の風景として、風俗記録的な価値は年月とともに加わってきているようにも思われ、星半個プラスしました(因みに「核家族」という言葉は1963年の流行語だった)。
「婦人画報」'64年1月号(表紙:山本富士子)

「私は二歳」●制作年:1962年●監督:市川崑●製作:永田秀雅/市川崑●脚本:和田夏十●撮影:小林節雄●音
楽:芥川也寸志●アニメーション:横山隆一●原作:松田道雄「私は二歳」●時間:88分●出演:船越英二/山本富士子/鈴木博雄/浦辺粂子/京塚昌子/渡辺美佐子/岸田今日子/倉田マユミ/大辻伺郎/浜村純/夏木章/潮
万太郎/(ぼくの声)中村メイ子●公開:1962/11●配給:大映(評価:★★★☆) 

米国留学を終えた吉見藍子(岡田茉莉子)は、帰国してから国際社会福祉協会に勤め社会事業に打ちこんでいた。その関係から彼女は、旋盤工の兼藤良晴(宗方勝巳)を補導しながらその更生を願っていたが、良晴は彼女に一途な思いを寄せていた。しかし藍子には、米国で結ばれた電力会社の有能な技師・立花研一(三橋達也)という恋人があった。藍子の母・克代(乙羽信子)は家政婦紹介所を営み、妹の紅子(桑野みゆき)は高校に通っていた。勝気な克代は子供達に父親は戦死したといっているが、夫の周三(山村聡)は杉電気の社長として実業界の大立物であった。藍子と紅子はふとしたことから父のことを知った。二十年前、克代の父に望まれ彼女と結婚して吉見農場の養子となった周三は、老人の死後、老母や兄夫婦の冷たい仕打ちに家を飛び出してしまった。杉を愛する克代は彼を追って復縁を迫ったが断わられ、克代は無理心中を図った。だが、二人とも生命をとりとめたのであった。藍子は自分の体の中に母と同じ血が流れていることを知った。その頃、立花には縁談が進められていた、化粧品会社を経営する未亡人・香月藤尾(高峰三枝子)の一人娘・苑子(牧紀子)との話である。ある日良晴は、藍子が自分に寄せる好意を、男女の愛情と勘違いして藍子に迫るが、藍子に突放されてしまう。それからの良晴の生活は荒れ、遂には夜の女を殺害するという事態に陥る。一方、立花は苑子との結婚のために藍子との関係を清算しようとしていた。立花のアパートを訪れた藍子は、眠っている立花の枕元からの手紙でそのことを知り、立花を殺そうとするが、どうしても殺すことができなかった。傷心の藍子は、父のところに飛び込む。翌朝、杉の知らせで克代も駆けつけて来た―。
五所平之助監督の1961年11月公開作で、原作は円地文子の『愛情の系譜』('61年5月刊/新潮社)。原作を比較的忠実に映像化していますが、結果として「てんこ盛り」的になったという感じです。原作のイメージを視覚的に確認するのにはいいですが、ややストーリー全体のテンポが鈍くなってしまいました(例えば、原作では、藍子が父親の存命や母親との過去の経緯を知るのは前半部分のかなり早い段階だが、映画では後半に入ってから)。
映画は、主人公・藍子が外人のガイドをして鷺山を見学している場面から始まり、そこへ、鷺を撮影している一人の中年の男性が話しかけます。藍子はガイド以外に罪を犯した青少年を更生させたりする仕事もしていて、その仕事に生き甲斐を感じていますが、結婚直前まで進んでいる恋人の立花はあまり評価していない様子。妹の紅子は最近派手な行動が目立ってきて母・克代は心配していますが、実は紅子が会っていたのは死んだと聞いていた父で、今は杉周三という名で事業を成功させおり、それが、藍子が鷺山で出会った紳士でした。杉は北海道で克代と結婚していたものの確執があり、克代からは離れようとした際に克代が杉をナイフで刺して怪我を負わせてしまい、克代は今も杉を恨み関わることを嫌っています。一方、立花は取引先の実業家の娘との縁談が持ち上がり、はっきり藍子に話せずにいて、藍子の方は、面倒を見ていた不良少年が殺人を犯してしまい、原因は藍子にそっけなくされて自暴自棄になったためらしい―と、やっぱり今一度振り返っても"盛り沢山"過ぎます(笑)。
同じく乙羽信子が母親、岡田茉莉子が娘を演じた映画に、木下惠介監督の「香華」('64年/松竹)があり、原作は有吉佐和子ですが、こちらの方が良かったです(原作を読んでいないせいか)。母娘の確執を描いたものでは、今村昌平監督の「
乙羽信子演じる母・郁代が実に身勝手そのものの性格で、その淫蕩な生活
がたたって岡田茉莉子演じる娘・朋子は芸者に売られることになりますが、それから暫くして借金苦のため、郁代自身も芸者となり、芸者として成功する娘に対して母の方はすっかり落ちぶれ、それでもあれやこれやで娘に迷惑をかけるという展開の話です(同じ置屋に母と娘がいるというのが凄まじい)。
原作と比べてしまうと、そういった評価になってしまうのでしょうか。「香華」の原作も「婦人公論読者賞」や「小説新潮賞」を受賞しており、映画を観てから原作を読みましたが、これがまた傑作。ただし、映画は原作を上手く映像化しており、そこには岡田茉莉子をはじめとする俳優陣の果たしている役割も大きいように思いました。もし、原作を先に読んで映画を観ていたら、物足りなさを感じたでしょうか。自分でも分かりません。今回映画「愛憎の系譜」の方が、先に原作を読んでしまった(それで映画化作品に物足りななさを感じる結果となった)こととの関係で、ちょっと考えさられました。
「愛情の系譜」●制作年:1961年●監督:五所平之助●製作:月森仙之助/五所平之助●脚本:八住利雄●撮影:木塚誠一●音楽:芥川也寸志●原作:円地文子●時間:108分●出演:岡田茉莉子/三橋達也/桑野みゆき/山村聡/園井啓介/牧紀子/乙羽信子/高峰三枝子/宗方勝巳/市川翠扇/千石規子/殿山泰司/陶隆/十朱久雄●公開:1961/11●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★)<.font>
「香華(こうげ)」●制作年:1964年●監督・脚本:木下惠介●製作:白井昌夫/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:有吉佐和子●時間:201分●出演:岡田茉莉子/乙羽信子/田中絹代/北村和夫/岡田英次/宇佐美淳也/加藤剛/三木のり平/村上冬樹/桂小金治/柳永二郎/市川翠扇/杉村春子/菅原文太/内藤武敏/奈良岡朋子/岩崎加根子●公開:1964/05●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-27)(評価:★★★★☆)
文(加藤剛)を知ったのは、この頃のことだった。一本気で真面目な朋子と江崎の恋は、許されぬ環境の中で激しく燃えた。江崎の「芸者をやめて欲しい」という言葉に、朋子は自分を賭けてやがて神波伯爵の世話で"花津川"という芸者の置屋を始め独立した。