【2574】 ◎ 宮本 輝 「螢川」―『螢川』 (1978/02 筑摩書房) ★★★★☆ (○ 須川 栄三 (原作:宮本 輝) 「螢川(1987/02 松竹) ★★★★)

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「泥の河」と同様に傑作。抒情派であり、ストーリーテラーでもあるということか。

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螢川』(筑摩書房) 『蛍川 (角川文庫)』新版・旧版(「泥の河」収録) 「蛍川 [DVD]

泥の河・螢川・道頓堀川 (ちくま文庫)00_.jpg 1977(昭和52)年下半期・第78回「芥川賞」受賞作。

 昭和37年富山。14歳の少年竜夫は近所の銀蔵爺さんから螢の大群を見たという話を幼いころに聞いて、自分もいつか見てみたいと思っていた。その螢の大群は4月に大雪が降るような年でないと見られるという。竜夫は幼馴染みの同級生・英子と一緒に螢を見に行こうと約束をしていたが、中学生になってからは英子とまともに会話をしたことがなかった。ある日、父親の重竜が病気で倒れ入院する。重竜はかつて春枝という妻がありながら、竜夫の母千代と駆け落ちし、二人の間に出来た子が竜夫だった。父の死が近いことを知る竜夫。父は事業に失敗し、多額の借金があった。父の死が近づいた4月のある日大雪は降り、あの螢の大群を見ることができる条件が揃うのだった...。

川三部作 泥の河・螢川・道頓堀川 (ちくま文庫)

 「泥の河」を併録して1978年に筑摩書房より刊行され、「泥の河」、「道頓堀川」とともに作者の「川三部作」をなす作品です。「泥の河」、よりも早くから構想されたものの、「泥の河」の方が先に発表されて「太宰治賞」を受賞し、後から発表されたこの「螢川」が、初の芥川賞候補で、そのまま受賞となっています。

 最初に読んだ時は、抒情的な色合いの濃い「泥の河」の方が好みで、「螢川」の方は、これも傑作には違いないものの、途中まで結構どろどろしていて最後できなり抒情的になった印象があっため、ラストの螢の大群で表象されるロマンチシズムがやや浮いた感じがしていましたが、読み直してみて、やはりこれはこれで傑作だと思いました。

 芥川賞の選考では、すんなり決まったわけではなく混戦だったようですが、選考委員の中では大江健三郎が否定的だったほかは、井上靖が「久しぶりの抒情小説といった感じで、実にうまい読みものである。読みものであっても、これだけ達者に書いてあれば、芥川賞作品として採りたくなる」と述べるなど、概ね肯定的吉行 淳之介.jpgだったようです。個人的には、吉行淳之介の「前作『泥の河』の後半が良い意味での抽象的なものに達していた趣は、この作品にはなかった。しかし、全体としての完成度は、前作よりも高い。抒情が浮き上らずに、物自体に沁みこんでいるところが良い」という評が、前作との対比を上手く言い表しているように思いました。

 前作「泥の河」は昭和30年の大阪が舞台で、主人公の貴一少年は小学校の低学年という感じでしょうか。作者自身。昭和22年生まれで、作者の一家は9歳の時に大阪から富山に移転したということで、更に高校に進学したのも昭和37年とのことで、「螢川」の主人公・竜夫と重なりますが、富山に移住して1年後には兵庫県の尼崎に移っており、父親が事業に失敗して借財を残して死んだのも実際の作者の経験ですが、その時作者は22歳で大学在学中だったそうです。ですから、1年しか住まなかった富山を舞台に、自らの経験をいろいろ反映させてストーリーを構築したということになるかと思います。抒情派であり、ストーリーテラーでもあるということでしょうか。

螢川_02.jpg螢川es.jpg 小栗康平監督による映画化作品「泥の河」('81年)はよく知られていますが、「螢川」も1987年に須川栄三(1930-1998/享年68)監督におって映画化されています。須川栄三監督は1953年、東京大学経済学部を卒業し東宝に入社、どちらかというと「野獣死すべし」('59年)のようなハードボイルド・タッチの作品を得意としており、文芸作品というイメージはそれほど無かったのではないでしょうか。ただ、この作品は俳優陣がしっかりしており、三國連太郎の重竜、十朱幸代の千代も良く(十朱幸代はやや綺麗すぎか)、奈良岡朋子(泣かせる演技!)、大滝秀治、殿山泰司らが脇をしっかり支え、子役の演技も悪くなかったです(英子役は前年に歌手デビューした沢田玉恵で、歌も演技も高い評価を得ながらも映画公開時にはすでに引退していた"幻のアイドル")。

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螢川_01.jpg螢川ges.jpg 映画は、原作のどろどろした部分をやや抑えて、一方で、竜夫の学校生活をやや重点的に取り上げ、この年の文部省選定作品になっています。但し、教育映画風とかではなく、原作にもある話ですが、英子に思いを寄せている親友の関根圭太の死なども通して、「死」(関根・重竜)と「生(性)」(英子)というコントラストを上手く描いていたように思います。その「生(性)」の象徴である、ラストの無数の螢が乱舞するクライマックスシーンで特殊効果を担当したのが、円谷英二の最後の弟子で光学合成の匠・川北紘一であり、今でこそ「ウルトラマン」シリーズか何かを想起してしまいそうな特撮ですが、当時リアルタイムで劇場で観た人は結構圧倒されたのではないでしょうか。
螢川1bg.jpg 螢川2es.jpg 奈良岡朋子
螢川s.jpg  「螢川」 富山.jpg ロケ地:富山市
Hotaru-gawa (1987)
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螢川-p.jpg「螢川」●制作年:1984年●監督:須川栄三●製作:高橋松男/加藤博明●脚本:中岡京平/須川栄三●撮影:姫田真佐久●特技監督:川北紘一●音楽:篠崎正嗣●原作:宮本輝●時間:84分●出演:三國連太郎/十朱幸代/坂詰貴之/沢田玉恵/川谷拓三/奈良岡朋子/大滝秀治/河原崎長一郎/寺泉憲/殿山泰司/利根川龍二/早川勝也/粟津號/江幡高志/小林トシ江/斉藤林子/岩倉高子/伊藤敏博/飯島大介/勇静華●公開:1987/02●配給:松竹(評価★★★★)

【1978年単行本[筑摩書房(『螢川』)]/1980年文庫化[角川文庫(『螢川』)]/1986年再文庫化[ちくま文庫(『泥の河・螢川・道頓堀川』)]/1994年再文庫化・2005年改版[新潮文庫(『螢川・泥の河』)]】

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