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精神的な動機の犯罪(?)。人間のどろっとした欲望も関係していて面白かった。

『ハロウィーン・パーティー(ハヤカワ・ミステリ) 』['71年(中村能三:訳)]『ハロウィーン・パーティ (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-26)』['77年(中村能三:訳)]『ハロウィーン・パーティー (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['03年(中村能三:訳)]『ハロウィーン・パーティ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫)』['23年(山本やよい:訳)]
ペーパーバック(2003・2015・2018)
ウドリー・コモンの「リンゴの木荘」でハロウィーン・パーティの飾りつけの準備中に殺人を目撃したことがあると言い出した13歳の少女、ジョイスが翌日、パーティ用に用意された水の入ったバケツに首を押し込まれて溺死しているのが見つかった。パーティに出席していたアリアドニ・オリヴァ夫人は、ただちにエルキュール・ポアロに助けを求める。ジョイス殺しと彼女が見たという殺人の謎を解き明かすため、ポアロはウドリー・コモンに住む旧友、スペンス元警視を訪ね、捜査に乗り出す―。
アガサ・クリスティの1969年に発表された作品で、クリスティが生涯に遺した66作の長編ミステリのうち、発表順で60番目にあたり、『親指のうずき』('68年)と『フランクフルトへの乗客』('70年)の間になり、66作の長編のうちポワロが登場するのは33作で、その中では31作目ということになります。ただし、65番目のポワロものの最終作『カーテン』('75年)と最後66番目のミス・マープルものの最終作『スリーピング・マーダー』('76年)はともに1943年に執筆されているので、実際の執筆順で言えば、全体で終わりから5番目、ポワロもので終わりから2番目となります。
ということで作者晩年期の作品で、本作にも少し出てきますが、英国は1965年11月から死刑執行を5年間停止する時限立法が可決されており(その後、1969年12月に死刑廃止を決定)、犯人は今の日本の量刑相場だと死刑でしょうが、結局、死刑にはならないのだろなあと思ったりしました。
一方、60年代はビートルズの活動期でもあり(1970年に事実上の解散)、本作でも長髪の若者とか出てきます。時代を反映してかどうか分かりませんが、登場人物がESP(超能力)を話題にするかと思えば、ポアロをコンピュータに喩える場面もあります。
いろいろな意味で精神的な動機の犯罪(?)でした。でも、人間のどろっとした欲望も関係していて、その両者が絡み合っていたということで、結果的には面白かったです。
初めて読んだとき、途中で、論理的な根拠も無いまま感覚的に犯人が判ったかなと思いましたが、やっぱり外れていました。やや後出しジャンケン的なきらいもありましたが、愉しめました。ミステリ半分、ブラックメルヘン乃至サイコ的な要素半分といったところでしょうか。

デビッド・スーシェ主演のテレビシリーズの「ハロウィーン・パーティ」(第63話)では、原作のプロットを活かしながら、サブエピソードや脇役のキャラクターを整理していて、魔女伝説などもプラスされていますが、総じて、超自然的ムードにはいささか乏しく、むしろ子供たちが躊躇ない悪意の手にかかる筋立てや、犯人の動機と心理の身勝手さにおぞましさが感じられるものとなっています。あくまでミステリ部分に焦点を当て、丁寧に物語を作らられていた分、神秘的だったりメルヘンチックな部分は抑えられ、説明的であったとも言えます(この作品に限らず、映像化するとそうなる傾向はある)。
ラストで、エルキュール・ポワロ(デビッド・スーシェ)とジュディス・バトラー(アメリア・ブルモア)とオリヴァ夫人(ゾーイ・ワナメイカー、「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第4話)/予告殺人」 ('05年/英))の3人が森の中を散策しながら会話するシーンがあり、ジュディスが娘ミ
ランダ(アリー・ヒギンズ)の「亡き父親」について作り話していたのは、娘には「強い父親」像が必要だったからと、ちゃんとその理由をジュディス本人に言わせていました。脚本家の1つの解釈かもしれませんが、原作より丁寧とも言えるか? 彼女は「女」から娘の将来を想う「母親」になっていったということでしょうか(「どろっと」感を抑えた?)。

原作が同じく『ハロウィーン・パーティー』であるケネス・ブラナー監督・主演の映画化作品「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」('23年/米)はどのような作りになっているのか観てみたいと思いました。ケネス・ブラナーが「オリエント急行殺人事件」('17年)、「ナイル殺人事件」('22年)の次にこの作品を選んだというのも興味深いです(ただし、舞台をベネチアにするなど、かなり設定を変えている?)。
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メアリー・ヒギンズ(ミランダ・バトラー)
「名探偵ポワロ(第63話)/ハロウィーン・パーティ」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON11:HALLOWE'EN PARTY●制作年:2010年●制作国:イギリス●本国放映:2010/10/27●監督:チャールズ・パーマー●脚本:マーク・ゲイティス●時間:89分●出演:デビッド・スーシェ/ゾーイ・ワナメイカー(アリアドニ・オリヴァ)/デビッド・イェラ
ンド(ジョージ)/アメリア・ブルモア(ジュディス・バトラー)/デボラ・フィンドレイ(ロウィーナ・ドレイク)/メアリー・ヒギンズ(ミランダ・バトラー)/ソフィー・トンプソン(レイノルズ夫人)/ジョージア・キング(フランシス・ドレイク)/イアン・ハラード(エドムンド・ドレイク)/フィネラ・ウールガー(ウィチカー先生)●日本放映:2012/02/08●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)
ジョージア・キング(フランシス・ドレイク)/デボラ・フィンドレイ(ロウィーナ・ドレイク)
【1971年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(中村能三:訳)]/1977 年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(中村能三:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫〔新訳版〕(山本やよい:訳)]】




中東での仕事を終えたポアロが連絡船で移動し、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行へ。新しい事件のために急遽帰途に就くことになったのだが、一等寝台
車は満室で、列車は混み合っていた。やがて、車内でアメリカ人の大富豪ラチェットが計12回刺されて殺害される。事件の容疑者は、1人の車掌と12人の一等客室の乗客たち。ユーゴスラビアで積雪により立ち往生する列車内で、ポアロは謎解きに乗り出す―。
デビッド・スーシェがポアロを演じる英ITV制作の「名探偵ポワロ」(1989~2013)の第64話(第12シリーズ第3話)で103分の長尺版。原作は、アガサ・クリスティが1934年に発表した、あまりに有名な作品です。原作出版から75年を記念して制作にとりかかり、本国放映は2010年12月25日、本邦初放映は2012年2月9日(NHK-BSプレミアム)です。
1974年のシドニー・ルメット監督による「
ート・フィニー(1936-2019)がポワロを演じ、チャード・ウィドマーク、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギールグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ウェンディ・ヒラー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエー
ル・カッセルら豪華俳優陣を配したものでしたが、ラストで皆が乾杯するシーンがあるなど(目出度し目出度しといったところか)、原作より明るい雰囲気でした。シドニー・ルメット監督自身が「スフレのような陽気な映画」を目指したと述べています(評価:★★★☆)。
その43年後に作られた、2017年のケネス・ブラナー監督・主演のリメイク作品「
その前に、2015年に三谷幸喜脚本で「オリエント急行殺人事件」('15年/フジテレビ)としてドラマ化されていて、野村萬斎がポアロに相当する名探偵・勝呂武尊を演じましたが、他の俳優陣が普通に演技している中で一人だけ狂言チックな演技をしています。ただ、これは彼の主演映画「
そしてこの2010年のデヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」の1話としてのドラマ化作品ですが、「罪と罰」―人は神に代わって人を裁けるかというテーマを前面に出していて、これが一番(ケネス・ブラナーの映画版などを超えて)重かったように思いました。
こうした前振りがあると、物語の結末を知った上で観ていて、最後どうなるのだろうと思いましたが、案の定、ポワロは自分の考えを曲げず、今回の事件を起こしたことについては、事に至った思いを訴える人たちに対し、「そんな権利はどこにもない」「何様のつもりか」といった具合です。そして、警察が現場に到着し、いよいよポワロが事件の説明をする場面がやってきます。もちろん、物語の結末は変わりません。ポワロは結局、「外部犯行」であったと説明します。その時のポワロの苦渋に満ちた表情―。「これほど誇らしいことはない」と言った三谷幸喜・野村萬斎版のドラマと真逆と言えます。日本版ドラマの明るさもいいですが、この本国版ドラマの暗さの方が本筋でしょう。本エピソードが「名探偵ポワロ」全70話の中でベストエピソードに選ばれることが多いというのも分かる気がします(評価:★★★★☆)。
「名探偵ポワロ(第64話)/オリエント急行の殺人」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅫ:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作国:イギリス●本国放映:2010/12/25●演出:フィリップ・マーティン●脚本:スチュワート・ハーコート●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/トビー・ジョーンズ(サミュエル・ラチェット)/バーバラ・ハーシー(ハバード夫人)/ブライアン・J・スミス(ヘクター・マックイーン)/ジェシカ・チャステイン(メアリー・デベナム)/セルジュ・アザナヴィシウス(ザビエル・ブーク)/アイリーン・アトキンス(ナターリア・ドラゴミノフ)/ヒュー・ボネヴィル/デヴィッド・モリッシー/ズザンネ・ロータ/マリ=ジョゼ・クローズ/スタンレイ・ウェーバー/エレナ・サチン/ジョゼフ・マウル/ドゥニ・メノーシェ/サミュエル・ウェスト●日本放映:2012/02/09●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★★☆)
「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:1974年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ポール・デーン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:リチャード・ロドニー・ベネット●原作:アガサ・ク
リスティ「オリエント急行の殺人」●時間:128分●出演:アルバート・フィニー/リチャード・ウィドマーク/アンソニー・パーキンス/ジョン・ギールグッド/ショーン・コネリ
ー/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ウェンディ・ヒラー/ローレン・バコール/イングリッド・バーグマン/マイケル・ヨーク/ジャクリーン・ビセット/ジャン=ピエール・カッセル●日本公開:1975/05●配給:パラマウント=CIC(評価:★★★☆)
「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:リドリー・スコット/マーク・ゴードン/サイモン・キンバーグ/ケネス・ブラナー/ジュディ・ホフランド/マイケル・シェイファー●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:リパトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:114分●出演:ケネス・ブラナー/ペネロペ・クルス/ウィレム・デフォー/ジュディ・デンチ/ジョニー・デップ/ジョシュ・ギャッド/デレク・ジャコビ/レスリー・オドム・Jr
/ミシェル・ファイファー/デイジー・リドリー/トム・ベイトマン/オリヴィア・コールマン/ルーシー・ボイントン/マーワン・ケンザリ/マ
ヌエル・ガルシア=ルルフォ/セルゲイ・ポルーニン/ミランダ・レーゾン●日本公開:2017/12●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)
「オリエント急行殺人事件」●脚本:三谷幸喜●監督:河野圭太●音楽:住友紀人●原作:アガサ・クリスティ●時間:333分●出演:野村萬斎/松嶋菜々子/二宮和也/杏/玉木宏/沢村一樹/吉瀬美智子/石丸幹二/池松壮亮/黒木華/八木亜希子/青木さやか/藤本隆宏/小林隆/高橋克実/笹野高史/富司純子/草笛光子/西田敏行/佐藤浩市●放映:2015/01(全2回)●放送局:フジテレビ
野村萬斎(名探偵・勝呂武尊(すぐろ たける))



新婚旅行中の夫婦、そして彼らの招待客たちを乗せた豪華客船がナイル川を進んでいた。そんな中、船内で乗客が次々と何者かによって殺されていく。偶然船に乗っていた名探偵・ポアロは、謎に包まれたこの事件を解明し、犯人を探し出そうと奔走する―。

国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:ケネス・ブラナー/サイモン・キンバーグ/リドリー・スコット/マーク・ゴードン/ジュディ・ホフランド●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:パトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ●時間:127分●出演:トム・ベイトマン/アネット・ベニング/ケネス・ブラナー/ラッセル・ブランド/アリ・ファザル/ドーン・フレンチ/ガル・ガドット/アーミー・ハマー/ローズ・レスリー/エマ・マッキー/ソフィー・オコネドー/ジェニファー・ソーンダース/レティーシャ・ライト●日本公開:2022/02●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン●最初に観た場所:上野・TOHOシネマズ上野(シアター3)(22-03-03)(評価:★★★)

TOHOシネマズ上野




「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:アガサ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファロー/ベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネディ/オリヴィア・ハッセー/ジ
ョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズ/サイモン・マッコーキンデール/ジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)







の約束があったので、昼前に一人ホテルに戻って行く。ボートのパトリックとブルースターは、ビクシー湾の入江で、砂浜に寝そべるアリーナと思われる女性を見つける。パトリックは大声で呼びかけたが返事がないため不審に思い、ボートを降りて彼女のそばに向かうが、その脈を取って震えて囁く―「死んでいる」「首をしめられている...殺されたんだ」。パトリックはブルースターにホテルに戻って知らせるよう頼み、ブルースターはボートで海水浴場に戻る。ポアロと共に連絡を受けた地元の警察がやって来て、アリーナ・マーシャルを絞殺した犯人の捜査が始まる。アリーナに対して最も強い動機を持つ夫のケネスに容疑がかかるが、ケネスは部屋でその朝届いた手紙の返事をタイプしていたというアリバイがあった。浮気相手のパトリックもブルースターと一緒に行動していたし、その妻のクリスチンも動機がありそうだが、リンダと一緒にいたというアリバイがある。アリーナを殺したのは誰か、そして動機とそのチャンスは?
1941年にアガサ・クリスティが発表した長編推理小説で(原題:Evil Under the Sun)、ガイ・ハミルトン監督、ピーター・ユスティノフ主演の「
読み終えてみて、これは所謂"叙述トリック"ではなかったかと思いましたが、肝腎な箇所を読み返してみると、傍点が振ってありました。その時はなぜ傍点が振られているのか全然考えなかったけれども、後になってみてなるほど、そういうことだったのかと...。










小緑荘の女主人エミリイ・アランデルが5月1日に亡くなる。彼女には、甥のチャールズ、姪のテリーザ、ベラ・タニオスの3人の親族がいた。エミリイの巨額の遺産は彼らにいくはずだったが、エミリイは死の10日前に遺言を書き改め、遺産は全て家政婦のロウスンに遺される。遊び人のチャールズ、浪費家のテリーザ、ギリシャ人医師の夫ジュイコブが投機に失敗したベラと3人とも金を必要としており、エミリイの遺産をあてにしていた矢先だった。エミリイが遺言を書き改めたのは、4月14日深夜に起きた彼女の階段からの転落事件が原因で、その夜は3人の親族とベラの夫ジェイコブが小緑荘に泊まっていた。事故はエミリイが可愛がっていた飼い犬の白いテリア犬ボブが、お気に入りのボールを階段の上に置きっ放しにし、そのボールをエミリイが踏んだことにより起きたと思われたが、その夜ボブは外で夜遊びをして締め出されていたことを後に知った彼女は、親族の誰かが事故を装い自分を殺そうしたのだと考え、弁護士を呼び遺言を書き換えたのだ。更に彼女はポアロに調査依頼の手紙を書くが、その手紙は投函されずに忘れられ、彼女が肝臓病の悪化で5月1日に亡くなった後、家政婦による遺品整理の際に見つかり、投函されてポアロの元に届いたのは6月28日だった。ポアロがヘイスティングスと小緑荘を訪ねると邸は売りに出ていて、そこで初めてポアロはエミリイの死を知るが、死亡前後の様子を聞くうちに不自然さを感じ、依頼者死亡のまま探偵活動を開始する。エミリイの階段転落事故を調べると、階段の上の壁に釘が打たれており、階段の手摺柱と釘の間に紐を渡し、深夜に起きる癖のあった彼女が躓くように細工をしたようだ。殺人未遂の犯人は、当時の遺言では遺産をもらえることになっていた親族3人のう
文庫で500ページ超とやや長めですが、主要な容疑者は甥のチャールズと姪のテリーザ、ベラの親族3人で、あとは遺産を相続した家政婦ロウスンと、相続できなかった2人の姪、テリーザの恋人である医師とベラの夫である医師の3人の全部で6人とクリスティにしては特別多いわけでもないので、読んでいて分かり易かったです(一応、容疑者は使用人も入れて8人となっているが、使用人2人はすぐに容疑者から外されている)。







ポワロの秘書ミス・レモンの姉ハバード夫人が管理人を務めるヒッコリー・ロードにある学生寮で奇妙なものが盗まれる事件が頻発し、ミス・レモンはポワロに相談する。学生寮のオーナーのニコレティスは気難しい女性で、学生たちへの犯罪学の講演名目で寮ににやった来たポワロを歓迎していない様子。寮
にいる学生は、医学生のレオナルド、アメリカからフルブライト留学生で英文学専攻のサリー、考古学・中世史専攻のナイジェル、政治学専攻のパトリシア、心理学専攻のコリン、化学専攻のシーリア、服飾デザイン専攻のヴァレリーら7人。盗まれた品物の内訳は、聴診器、指
輪、ライター、ホウ酸、夜会靴の片方、リュックサック、電球などで、被害は大したものではないが、それを見たポワロは盗みの陰に潜む危険を察知する。程なくして盗
みの犯人が盗癖持ちだったという女子学生シーリアと判明するが、彼女は一部の品については盗んでいないと言う。ポワロが事件の予感を覚えた直後にシーリアが毒殺される事件が起き、医学生のレオナルドへの容疑が強まるが、次いで学生寮のオーナー女性ニコレティスが何者かに刺殺される―。
「名探偵ポワロ」の第43話(第6シーズン第2話)でロング・バージョン。本国放映は1995年2月12日、本邦初放映は1996年12月30日(NHK)で、第42話「ポワロのクリスマス」より1年早く放映されています。原作はクリスティが1955年に発表したポアロシリーズ第26作。映像化作品としては、戦後発表されたものの中では(戦前に発表した短編を戦後に中篇に拡張した「盗まれたロイヤル・ルビー」「スペイン櫃の秘密」を除いて)シリーズ初登場とのことですが、時代設定は他のシリーズ作品同様1930年代半ばにしています。
原作は、学生寮にいて様々な出身国の学生が集い自由に議論したりする様は印象深かったですが、登場人物が多すぎて(文庫巻頭の登場人物一覧表に記載されている寮生だけでも11人、全部で16人か)、しかもその中で殺害された者を除いて全員容疑者とあって、もう最後は犯人が誰だっていいや的な気分になりそうでしたが、推理通に言わせれば、ロジックで辿っていくと犯人は判るようになっているとのことです(個人的には全然判らなかった)。
この映像化作品では、さすがに100分の話の中に寮生十数人を全部詰め込むのは無理と考えたのか7人に絞っていて、原作では、ジャマイカからの黒人の留学生エリザベス、西アフリカ人の黒人の留学生アキンボ、その他インド人の学生など有色人種の学生も結構いましたが、全部白人になっています。これは別に人種差別ということでもなく(フランス人の留学生なども省かれている)、時代設定を戦前にしたことに関係しているのではないかと思います。
まあ、その前に、登場人物を減らしてスッキリさせるという狙いがあったかと思いますが、それが成功しているように思います。品物が盗まれる事件に複数の人物の動機が絡んでいて、それだけでも複雑であるため、これで容疑者が10人も15人もいたら何が何だか分からなくなるところでしたが(原作を読んだ時はその印象に近かった)、この映像化作品を観て腑に落ちたという感じでしょうか。
「名探偵ポワロ(第43話)/ヒッコリー・ロードの殺人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:HICKORY DICKORY DOCK●制作年:1995年●制作国:イギリス●本国放映:1995/02/12●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ)/ ポーリン・モラン(ミス・レモン)/パリス・ジェファーソン(サリー・フィンチ)/ナイジェル・チャップマン(ジョナサン・ファース)/ダミアン・ルイス(レナード・ベイトソン)/ギルバート・マーティン(コリン・マクナブ)/エリナー・モリストン(バレリー・ホブハウス)/ポリー・ケンプ(パトリシア・レーン)/ジェシカ・ロイド(シーリア・オースティン)/サラ・ベデル(ハバード夫人)/レーチェル・ベル(ニコレティス夫人)/グランヴィル・サクストン(キャスタマン氏)/デビッド・バーク(サー・アーサー・スタンリー)●日本放映:1996/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)




1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『
『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「
映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「
演じていますが(共演者に「
原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。
実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った
ものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど
(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「


ける)が事件解決に臨む。ストーリーは概ね原作通りで、原作に対するリスペクトが感じられる。ただし、時代設定を昭和30年に置き換え、舞台を"巡礼の道"として世界遺産にも登録されている熊野古道および和歌山県天狗村にある「黒門ホテル」にしているため、作品の雰囲気はかなり違ったも
のとなっている。熊野本宮大社は本物の現地ロケ、熊野古道ツアーのスタート地点「発心門王子」には浜松市にある「方広寺」が使われ(2018年に行った。参道が長い山道になっている)、黒門ホテルの外観
の概観は「蒲郡クラシックホテル」が使われたが、内観はセット撮影であるとのこと。全体に三谷幸喜らしいコメディタッチで、殺害される金持ちの未亡人(松坂慶子)さえもユーモラスでどこか憎めない(松坂慶子はコメディ専門になったのか?)。映画でローレンン・バコールが演じた女性代議士(鈴木京香)が、勝呂と旧知であるというのはドラマのオリジナル。でも、プロットは原作をそのまま活かしていることもあって愉しめた。
「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー
ター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ
イケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)


【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】




ポアロが歯科検診のため歯科医ヘンリイ・モーリイの所に行って自宅に帰ると、ジャップ警部からモーリイが死んでいるのが見つかったとの連絡がある。ポアロがさっきまでいた歯科医院に駆けつけると、診療室の床にモーリイの死体があり、こめかみをピストルで撃ち、足元のピストルからはモーリイの指紋のみが検出される。ポアロの診察は11時で、診察名簿によればポアロの後に治療を受けたのは、11時半に英国の経済を一人で動かしているともいわれる銀行家のアリステア・ブラント、その後に元女優ミス・セインズバリイ・シールが続いた。セインズバリイ・シールは痛みが我慢できないとの電話をかけてきてこの時間にモーリイが割り込ませた急患だった。そして12時にはサヴォイ・ホテル滞在の新患アムバライオティス氏、12時半にミス・ガービイの順だった。ジャップ警部がサヴォイ・ホテルに電話したところ、アムバライオティス氏は12時25分に診療を終え、その時には歯科医は元気だったという。アムバライオティス氏の診療が終わったが、モーリイが次の患者を診療室に入れるように合図するブザーがいつまでも鳴らず、ミス・ガービイは待ちくたびれて怒って帰ってしまっていた。その後で、患者を案内するボーイが診療室を覗いてみてモーリイの死体を発見したのだった。 検死の結果、死亡推定時刻は1時より前であることは間違いなく、歯科医の死はアムバライオティス氏の診療が終わった12時25分から1時の間に起きたと考えられた。ジャップは自殺を主張したが、ポアロは納得しない。自殺か殺人か決めかねるポアロとジャップは、最後の患者アムバライオティス氏をサヴォイ・ホテルに訪ねると、氏は30分ほど前に死亡していた。死因は歯科医が局部麻酔として歯肉に注射するアドレナリンとプロカインの過
剰投与で、氏の診療の際に薬の分量を間違え、後でそれに気づいたモーレイが過失を苦に自殺したとジャップは自説を述べる。ポアロはあくまで殺人を主張し捜査を始めるが、今度はミス・セインズバリイ・シールがホテルを出たままどこかに消えてしまう。セインズバリー・シールの行方不明から1カ月経過し、捜査が完全に停滞してしまった頃に、彼女の死体が発見される。チャップマン夫人と名乗る女性のマンションの部屋のなかの、毛皮保管用の衣装箱に死体は詰め込まれていた。死後約1カ月で顔は故意に潰されていた。腐敗も激しく死体の身元の確認はできなかったが、服装や管理人の証言からセインズバリイ・シールと思われた。ところが、モーリイの診療所にあったカルテで歯型を確認すると、死体はセインズバリー・シールではなくチャップマン夫人であることが判明、夫人もモーリイの患者だった。では、ミス・セインズバリー・シールはどこに消えたのか? モーリイ、アムバライオティスの死は他殺なのか?
1940年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(『杉の柩』の次)で、原題はマザーグースに由来する"One, Two, Buckle My Shoe"ですが(各章ごと、マザーグースの歌詞に沿って話が展開する)、邦
訳タイトルは、米国版タイトルの"The Patriotic Murders" に拠っています(その後、米国版は"An Overdose of Death"に改題)。「愛国殺人」の方が、内容にしっくりくるタイトルでしょうか(何故「愛国殺人」というタイトルなのかを詳しく言ってしまうと、イコール犯人は誰かを言ってしまうことになってしまうとも言えるのだが)。






1959年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で、原題「Cat among the Pigeons」は、女生徒(鳩)達の園である学園に殺人者(猫)が紛れ込んでいるという意。ポワロ物ですが、ポワロが登場するのは、メドウバンクの生徒で知人の娘であるジュリアが彼に相談を持ち込んできてからで、これが全体の3分の2を過ぎてからということもあって、今一つポワロ物という印象が薄かった作品でした(作家の浅暮三文氏もハヤカワ・クリスティー文庫の解説で、ポワロは「友情出演」の感が強いとしている)。でも今回読み直してみて、ラストの畳み掛け感は素晴らしく、やはりポワロ物らしい傑作ではないかと感じました。
英国LWT(London Weekend Television)制作・デヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズで、第59話(本国放映2008年)として映像化されていますが、ポワロがなかなか登場しないのではマズイと思ったのか、原作の冒頭にあるメドウバンクの新学期が始まる場面からポワロが登場します(引退を考えている校長オノリアが、自分の後継者の人選にあたり、人間洞察に優れたポワロの助言を求めたという設定。原作ではポアロは、女生徒ジュリアの母親を介して学園と繋がるが、校長のオノリアとは直接面識がなく、初めて会う直前はやや警戒気味。但し、会ってから後はオノリアの人格者ぶりに感心する)。
ポワロが女生徒らの只中にいたりする場面は原作には無く、また、第2の殺人事件の被害者ヴァンシッタートをカットし、被害者を別の人物に変更しています(但し、結末の整合性は保っている)。更には、宝石の1つがジュリアに贈られることになったエピローグで、ポアロがわざわざキャンディドロップに混ぜて、この中に1つだけ固いキャンディがある、なんて言って彼女に贈るのも、原作でのポワロの登場時間の少なさを補うTVドラマ版のオリジナル。但し、時間を遡ったりしてはいるけれども、大筋では原作のプロットに忠実であり、原作の持ち味は活かしていたと思います(「





登場人物のお互いの腹の探り合いは、『そして誰もいなくなった』にも通じる面白さがありますが、それでもやはりミステリとして読むと、全般を通してその部分がやや弱いのと、キャルガリの「冤罪を晴らす」という当初の意気込みからするとある種アンチ・カタルシスの結末ため、読後感がイマイチすっきりしなかったというのもあります。








1931年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が41歳の時に刊行された作品で(原題:The Sittaford Mystery (米 Murder at Hazelmoor))で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズもの。オカルトっぽい雰囲気は、後の同じくノン・シリーズ物の
捜査責任者のナラコット警部は、事件当日近くの旅館に現れて金の無心をしに大佐を訪ねた後、翌朝の列車で去った大佐の甥ジェイムズ・ピアソンを逮捕しますが、この逮捕を不服としたジェイムズの婚約者エミリー・トレファシスが、記者のチャールズ・エンダビーとともに独自の捜査を開始するとともに、ナラコット警部もジェイムズの犯行であるとの見方に疑念を抱き、捜査を続ける―。
すが(「江戸川乱歩が選んだクリスティ作品ベスト8」 に入っている)、動機がやや弱いし、連続殺人事件でもないし、クリスティ作品の中では比較的軽めの方でしょうか。その分、ややもの足りなさの残るものでした。













1932年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポワロシリーズの長編第6作で(原題:Peril at End House)、『牧師館の殺人』(1930)、『シタフォードの秘密』(1931)に続く「館物」でもあり、タイトルの邦訳は、ハヤカワ・ミステリ文庫・クリスティー文庫(共に田村隆一:訳、クリスティー文庫新訳版は真崎義博:訳)では「邪悪の家」ですが、創元推理文庫(厚木淳:訳)では「エンド・ハウスの怪事件」、新潮文庫(中村妙子:訳)では「エンド・ハウス殺人事件」などとなっています。
犯人がポワロの謎解きをミスリードさせる張本人である作品ですが、ポワロに対する読者の、彼がどんな状況においても超人的な名探偵であるという思い込みがある種トラップになっている作品とも言え、そう言えばこの作品はポワロとヘイスティングスとの謎解きを巡る会話が多く、振り返ってみれば、2人して読者をミスリードする役割を果たしていた感じもします。
デヴィッド・スーシェ(David Suchet)の主演TⅤ版(London Weekend Television)「名探偵ポワロ」でも、吹替えの熊倉一雄(1917-2015)の独特の声の抑揚のもと、ポワロはヘイスティングスに対しても「です・ます調」で語りかけ、それが固定的イメージになっていますが、考えてみれば、ポワロがヘイスティングスに対して「です・ます調」で話すのは、あくまでも翻訳者の選択であると言えるのでないかと思います。
そのデヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」ですが、英国LWT(London Weekend Television)が主体となって制作、1989年1月放映分から2014年1月放映予定分まで70作品作られており、この『邪悪の家』は、第2シーズン第1話(通算第11話)「エンドハウスの怪事件」として、1990年1月にシリーズ初の拡大版(ロング・バージョン)で放映されました。日本でも1990年8月11日、NHKがこのシリーズの放映を始めた年に放映されており、このシリーズで最初に観たポワロ物がコレという人も多いのではないかと思われます。
ほぼ原作に忠実に作られていますが、田舎に来て、誰も自分が有名な探偵であることを知らないことに不満なポワロのご機嫌斜めぶりが強調されているのが可笑しいです。それと、原作には出てこないミス・レモンが登場し、謎解きのヒントはヘイスティングスと彼女の言葉遊び的な遣り取りから生まれることになっています。更に、ラストのポワロが仕組んだ降霊会で、無理やり霊能力者の役割を演じさせられるのは、原作ではヘイスティングスのところが、この映像化作品ではミス・レモンになっています。
「名探偵ポワロ(第11話)/エンドハウスの怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT II:PERIL AT END HOUSE●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/07●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ポリー・ウォーカー(ニック・バックリー) /ジョン・ハーディング/ジェレミー・ヤング/メアリー・カニンガム/ポール・ジェフリー/アリソン・スターリング/クリストファー・ベインズ/キャロル・マクレディ/エリザベス・ダウンズ●日本放映:1990/08/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)





ロンドン郊外の片田舎ウォームズリイに住むクロード一族は、億万長者ゴードン・クロードの庇護下で金に不自由しない生活を送っていたが、ゴードンがニューヨークで孫のような年の娘ロザリーンと結婚、ロンドンに戻ってきて数ヵ月後に空襲で亡くなったことから、一族の歯車が狂いだす。空襲では3人の使用人とゴードンは死んだが、ロザリーンと、一緒にいた彼女の兄デイヴィッド・ハンターは助かる。ゴードンは莫大な遺産をロザリーンが相続させるよう遺言状を書き換えていた。彼女は再婚で、最初の夫ロバート・アンダーヘイはナイジェリアの行政官だったが、現地で熱病にかかって死亡していた。教養に乏しいロザリーンに全てを持っていかれるのがクロード一族の人々には耐え難かったが、粗野で下品なロザリーンの兄のデイヴィッド・ハンターは、一族の者が金に困ってロザリーンに無心に行くと、頼みを断れないロザリーンの代わって断り追い返していたため、ロザリーン以上に嫌われていたー。
1948年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロシリーズの長編第23作で(原題:Taken at the Flood (米 There Is a Tide))、戦争が生んだ一族の心の闇をポアロが暴くもの。前半部で一族の関係を丁寧に描いていますが、傍らに家系図のメモが必要かも。ポワロが本格登場するのは第2部からで、前半部分を冗長と感じるか、伏線として後半の展開を楽しみにしながら読めるかで評価は分かれそうです(個人的には愉しめた)。







1933年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロシリーズの長編第7作で(原題:Lord Edgware Dies)、ヘイスティングスが事件の顛末を語るスタイルのものですが、結構プロットは複雑な方ではないかと思います。
「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」 (85年/米) ★★★☆ David Suchet/Peter Ustinov
「クリスティのフレンチ・ミステリー(第11話)/エッジウェア卿の死」 (12年/仏) ★★★







1939年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Ten Little Niggers (米 Ten Little Indians) (改題:And Then There Were None))で、1982年実施の日本クリスティ・ファンクラブ員の投票による「クリスティ・ベストテン」で第1位になっているほか、早川書房主催の作家・評論家・書店員などの識者へのアンケートによる「ミステリが読みたい!」の2010年オールタイムベスト100の第1位、2012年実施の推理作家や推理小説の愛好者ら約500名によるアンケート「
この作品がよく読まれる理由の一つとして、10人もの人間が亡くなる話なのに長さ的には他の作品と同じかやや短いくらいで、テンポよく読めるというのもあるのではないでしょうか(しかも、後半にいくほど殺人の間隔が短くなる)。その分、登場人物の性格の描写などは極力簡潔にとどめ、心理描写も他の作品に比べると抑制しているように思います。まあ、あまり"心理描写"してしまうと「叙述トリック」になってしまうからでしょう。
ところが、これは実は一部に訳者の清水俊二(1906-1988)の誤訳があって、正しく訳せば、例えば残り5名になった時の5人の心理描写の内の問題の1つは、当事者それなりのあることを警戒する心理を描いたと解することができるものであり、クリスティが巧妙に(アンフェアにはならないように)仕掛けた「叙述トリック」に訳者の清水俊二自身が嵌ってしまったとする見方があります(但し、清水俊二訳は誤訳には当たらないという見方もある)。
トリックを通り越して読者をミスリードするものになっているという指摘であり、後の清水俊二訳('03年・クリスティー文庫版)ではこの部分は「娘...」のみに修正されています(この時点で清水俊二は15年前に亡くなっているわけだが)。因みに、2010年に清水俊二訳と入れ替わりにクリスティー文庫に収められた青木久恵氏の訳(表紙はハヤカワ・ミステリ文庫の1976年4月初版の真鍋博のイラストを復刻)では、この部分は「あの娘だな...」となっています。何れにせよ、"娘"のことを「次は自分の命を奪うかもしれない犯人ではないか」と怪しんでいるのではなく、「自分の計画を失敗に終わらせる原因となるのではないか」と警戒を強めているといった解釈に変更されているのが最近の翻訳のようです。



(●2015年制作の英BBC版テレビドラマは、時代が現代に置き換えられていて、10人のうち数人の属性(過去に犯した殺人の方法や動機など)が微妙に改変されているが、ラストは「戯曲」に沿ったこれまでの映画化作品と違って、原作「小説」の通り全員が"いなくなる"ものだった。)


「アガサ・クリスティー そして誰もいなくなった」(全3回)●原
題:& Then There Were None●制作年:2015年●制作国:イギリス●本国放送:2015/12/26~28●演出:
クレイグ・ヴィヴェイロス●製作:ダミアン・ティマー/マシュー・リード/サラ・フェ
トビー・スティーヴンス/ダグラス・ブース/バーン・ゴーマン/ミランダ・リチャードソン/ノア・テイラー/アンナ・マックスウェル・マーティン●日本放送:2016/11/27●放送局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★☆)
去に犯した殺人の方法、動機も変更されているが、BBC版と同じく、最後は原作「小説」の通り全員が"いなくなる"。そうなると、上述の通り、謎解きをする人がいなくなり、この問題をクリアするため、最終盤で沢村一樹演じる警視庁捜査一課警部・相国寺竜也が登場、彼がリードして捜査し(この部分はややコミカルに描かれている)、犯人が残した手紙ならぬ映像メッセージに辿りついて事件の全容が明らかになるという流れ。

2017年3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、エンディングで「このドラマは2016年12月20日から2017年2月13日に掛けて撮影されました。渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」と流れる。クランクアップの1ヵ月後に亡くなった渡瀬恒彦は、実際に自らが末期がんの身でありながらドラマの中で末期がん患者を演じており、その演技には鬼気迫るものがあった。警部役の沢村一樹の演技をコミカルなものにしたのは、全体として"重く"なり過ぎないようにしたのではないかと思ってしまったほど。同じく和泉聖治監督により2018年には「







16年前に画家である夫エイミアス・クレイルを殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母キャロラインの無実を訴える遺書を読んだカーラ・ルマルションは、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる。彼女の話に興味を覚えたポアロは、あたかも「五匹の子豚」の如き5人の関係者との会話を手掛かりに過去へと遡る―。
1943年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Five Little Pigs(米:Murder in Retrospect))で、同じ頃に書かれ、作者の遺言により没後に発表された『スリーピング・マーダー』と同じ、所謂"回想の殺人"物です。また、この作品については1960年初演の戯曲版もあり(『殺人をもう一度』)、こちらは『ナイルに死す』の戯曲版などと同様、ポワロが登場しません。『五匹の子豚』は2010年に早川文庫の「クリスティー文庫」で山本やよい氏による新訳が出ましたが、活字も大きくなり読み易いものでした(「クリスティー
文庫」に所収の従来ものは、「ハヤカワ・ポケットミステリ」「ハヤカワ・ミステリ文庫」以来の桑原千恵子訳)。尚、「クリスティー文庫」新訳版のカバーイラストは、「ハヤカワ・ミステリ文庫」の真鍋博のものを復刻させています。
カーラがポアロを訪ねて父であるエイミアス・クレイルの死の真相の究明を依頼する前置きがあって、その後が3部構成になっていて、ポアロが、かつて事件が起きた際の関係者に一人ひとり会って話を聞き、更に当時の事を手記に書くよう依頼する第1部、その関係者5人からポアロのもとへ寄せられた当時の状況を回想した手記から成る第2部、ポアロが5人の関係者に一人ずつ最後の質問を行い、最後に全員を集めて謎を解く第3部―となっています。































ロンドンにあるバートラム・ホテルは、今でもエドワード王朝時代の佇まいを保っていたが、ミス・マープルも少女時代に一度このホテルに宿泊した思い出があり、今また甥レイモンドの親切により一週間の予約で宿泊し、昔を懐かしんでいた。ホテルには老年の聖職者や引退した将軍や提督、老貴族の夫婦、判事や弁護士、海外からの本物の英国を求める観光客などが訪れ、贔屓客はいつも決まった部屋に泊まり、ロビーでは本物のお茶と本物のマフィンが給仕ヘンリーの完璧な指示で供されていた。ミス・マープルがホテルの宿泊客を観察するうちに、その中には、退役軍人のデリク・ラスコム大佐や、彼が後見人を務め21歳になったら莫大な財産を引き継ぐことになっているエルヴァイラ・ブレイク嬢、何度も結婚しているらしい女流冒険家のべス・セジウイックらがいることが分かり、更に、ホテルに出入りするレーサーのマリノスキーがエルヴァイラとセジウイックの両方と付き合っていることを見抜いたりする。彼女は何となくホテルに違和感を覚えるようになっていくが、そんな中、ホテルの宿泊客のベニファーザー牧師が失踪するという事件が発生、このところ頻発する強盗事件の捜査において事件とバートラム・ホテルの関係に目を付けていたフレッド・デイビー主任警部は、牧師失踪事件にかこつけて、強盗事件との関連を調べにバートラム・ホテルに乗り込んで来る―。









甥のレイモンドに勧められ西インド諸島に一人で療養に来たミス・マープル。そこには多種多様の人々がカリブ海でのリゾートを楽しみに来ていた。お喋り好きで会う人ごとに自慢話や体験談を吹聴していたパルグレイヴ少佐が、ある殺人の話をマープルにしていて、その犯人の顔写真を見せようとした瞬間、突然少佐の顔がこわばった。ミス・マープルの肩越しに誰かを見たらしいのだが、マープルにはそれが誰だか判らなかった。そして次の日、少佐が亡くなった。周囲の話から高血圧が原因の死と判断されたが、納得できないミス・マープルは、問題の写真が大佐の持ち物から消えていることを探り当て、次なる殺人の予兆に焦る。そんな中、第二の殺人が発生した―。
怪しい人物はいっぱいいますが、犯人は意外な人物でした。直接的な伏線が無いため、個人的には最後ぎりぎりまで誰が犯人か判らず、ある種"禁じ手"のようにも思われましたが、ミステリ通に言わせると、犯人から除外できる人を一人ずつ除いていくとちゃんと犯人に行きつけるとのこと。むしろ、最後にマープルが「最初からわかっていなければならなかったんです。こんな簡単なことなのに」と言っているように、先入観のトリックと言えるかも。






歴史学者のマーク・イースターブルックは、ムガール建築に関して本の執筆のためにチェルシーに部屋を借りていたが、ある日、執筆の息抜きに入ったカフェで女の子同士の喧嘩に遭遇し、喧嘩騒ぎの後に一方が他方の髪の毛をごっそり引き抜いた束が落ちていたのを見る。喧嘩の後に店員から彼女らの名を聞いていた彼は、その1週間後に髪の毛を引き抜かれた方の娘が死んだことを新聞で知る。彼は教会の募金活動への協力を依頼に推理作家のオリヴァ夫人のもとを訪れた折にこの話をする。
1961年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Pale Horse)、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズもの。謎解きそのものものさることながら、オカルトっぽい雰囲気が独特の



展開であるとは言え、この作品についてはあまりにそれが著しく、そこがどうかなとも。犯人の事件への絡み方も、やや説明不足のような感じがしました。






マクギリカディ夫人は、ミス・マープルに会いにいくため乗り込んだパディントン発4時50分の列車の窓から、たまたま並走する別の列車内で一人の男性が女性の首を絞めていた殺人現場を目撃する。マクギリカディ夫人はマープルの助言を得て警察に通報するが、警察は、犯人も被害者も発見することができない。マクギリカディ夫人の言葉を信じたミス・マープルは、犯人は車外に死体を放り投げたと確信し、その地点は列車が速度を緩めて走るカーブであろうと推理、才能豊かな女性ルーシー・アイレスバロウを雇って、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのラザフォード・ホールと言われるクラッケンソープ邸に、彼女を家政婦として送り込む―。
結局、事件の謎を解くのはミス・マープルですが、この作品では現場の捜査はルーシー・アイレスバロウに任せ、自分は安楽椅子探偵的な位置づけになっていて、プロット的に見て不満があるとすれば、マープルはマープルでその間いろいろ調べたのでしょうが、読者に示された情報だけでは犯人を探し当てることは難しいということでしょうか(犯行動機に至っては不可能)。
ミス・マープルの依頼をその旺盛な好奇心から請けたルーシー・アイルズバロウが、この作品の言わば"ヒロイン"でしょう。オックスフォード大学数学科を優秀な成績で卒業、将来を嘱望されながらも、家事労働の世界に入り、家政婦として英国中に名が知られるまでになり、3年くらい先まで予約を入れることも可能であるにも関わらず、余暇を楽しむために長期の予定は入れないでいる―という設定が興味深く、今で言えば、「カリスマ主婦マーサ・スチュワート」とか「スーパー主婦・栗原はるみ」みたいなものか?
「ミス・マープル/夜行特急の殺人」 (61年/英) ★★★
「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」 (87年/英) ★★★★


「アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜」 (08年/仏) ★★★☆


はミス・マープルの友人マクギリカディ夫人だが、それが草笛光子演じる天瞳子の母親が事件の目撃者ということになっている。意外と原作に沿って作られていたが、屋敷に送り込まれるスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが前田敦子演じる
中村彩になっていて、その前田敦子がスーパー家政婦に見えないのがやや難点か。草笛光子がミス・マープルに相当する役で、天海祐希が家政婦役だった方が、原作に近い雰囲気になったと思う(このシリーズの'18年版の第2夜放送は「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」、'19年には通算第4弾「





投資信託会社の社長レックス・フォーテスキューが、オフィスで紅茶を飲んだ後に苦しんで死ぬが、彼の上着のポケットにはなぜかライ麦の粒がたくさん入っていた。死因は自宅の庭に植えられているイチイの木から取れる毒による毒殺であり、捜査に当たったニール警部は、自宅での朝食時に毒物を盛られた可能性を調べる。やがて浮気をしていたレックスの若い後妻アデールが死体で見つかり、メイドのグラディスまでも殺される。グラディスを女中として教育したことのあるミス・マープルは、彼女の無念を晴らすために邸へ赴き、3人の殺害のされ方がマザー・グースの歌詞になぞらえられていることを警部に示唆する―。
Sing a Song of sixpence, (6ペンスの唄を歌おう)










ミス・マープルはロンドンで米国在住の旧友のルースと親交を温めていた。ルースとキャリイ(キャロライン)の姉妹は、ミス・マープルの女学校時代の親友であり、ルースは最近会った妹の周辺に、明確な根拠は無いが何か嫌な雰囲気を感じたとひどく心配していた。そしてミス・マープルに、彼女の所へ行って調べてほしいと依頼、ミス・マープルは、ルースの言い伝手でキャロラインの住む屋敷に招かれ、潜入捜査を開始する。
1952年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第5作で(原題:They Do It with Mirrors、米 Murder with Mirrors)、クリスティ作品の中で必ずしも評価の高い方ではない作品かもしれませんが、全体の人物関係の構図が掴めれば結構面白いのではないかと。
キャリイ・ルイズの命を狙っている人物がいるらしいという疑惑が浮かぶ中、クリスチャン・グルブランドセンが殺害され、殺された彼以外は全員、その殺害の容疑者になり得るという展開はやはり上手いと思われ、全体としては、ハウダニット(どうやって殺したか)がフーダニット(誰が犯人か)への手掛かりとなる展開。但し、ホワイダニット(なぜ殺したか)が最後に明かされるまで読めないため、ミス・マープルにお付き合いして読者もミスリードされる―といった感じでしょうか。







男を虜にせずにはおかない美女ローズマリー・バートンが、ロンドン市内にの高級レストランで催された自身の誕生パーティーの席上で、青酸が入ったシャンペンを飲んで死亡してから1年が経つ。その時に同席していたのは、ローズマリーの夫のジョージ・バートン、ローズマリーの妹のアイリス・マール、ジョージの有能な女性秘書ルース・レシング、バートン家の隣人で将来を嘱望された若手下院議員スティーヴン・ファラデーとその妻アレクサンドラ、ローズマリーの友人のアンソニー・ブラウンの6人。警察の捜査の結果、ローズマリーが誕生日前にインフルエンザに罹り、病み上がりでふさぎこんでいた事や、彼女のバックの中から青酸を包んでいた紙が発見されたことなどから、事件は自殺として処理された。だが夫のジョージは、彼女に自殺する動機もければその素振りもなかったことから、その死に疑惑を抱いていた。
ローズマリーの死から半年後、ジョージは彼女の死は自殺ではないと記された匿名の手紙を受け取った。その半年後、ローズマリーの死から1年になる万霊節の夜に、ジョージはローズマリーが死んだときにパーティーに参加していた人々を集め、同じレストランでパーティーを催すことにした。彼はこのパーティでローズマリーの死の真相を明らかにしようとしていた。席は1年前と同様に7つ用意されたが、余った席には当然誰も座っていない。参加者はまず主賓アイリスの誕生日と健康を祝って乾杯をし、フロアショーを見た後でダンスに興じるが、ダンスが終わりテーブルに戻った一同を前に、ジョージがローズマリーを偲んで乾杯をした直後、彼は倒れてそのまま死んでしまう。1年前のローズマリーと同じく青酸による中毒死だった―。
す。元が短編だったということもあってか、クリスティの長編にしては登場人物がそれほど多くない方ではないでしょうか。
でも、警察に協力する形で、『ナイルに死す』などにも登場する、元陸軍情報部部長のジョニー・レイス大佐が捜査に乗り出してからぐっとテンポが良くなり、若手下院議員、その妻などもやはり怪しかったけれど、ルシーラの不良息子ヴィクターがやはり一つのカギかと...。但しこれも、女性秘書ルース・レシングとの関係が早くから示されており、推理小説としては分かり易い方でしょう。
「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」 (03年/英) ★★★☆



ある朝バントリー元大佐の書斎で若い女性の死体が発見され、バントリー夫人はミス・マープルに調査を依頼する。警察が行方不明者を調べたところ、ガール・ガイド団員のパメラ・リーヴスと、ホテル・ダンサーのルビー・キーンの2人の若い女性が浮上する。ルビーはホテル専属ホステスで、ホテルに滞在中の大金持ちコンウェイ・ジェファソンに実の娘のように気に入られていて、コンウェイの遺言状でルビーに多額の遺産が遺されることになっていた。警察はルビーのいとこのジョセフィン・ターナーに死体を確認してもらい、死体はルビーであると―。一方、ミス・マープルがバントリー夫人とともに当のホテルに滞在して事件の謎解き始める中、ホテルから数キロはなれた石切場で車が炎上する事件が発生、中にはパメラ・リーヴスと思われる黒焦げの死体が―。
警察の捜査で挙がった容疑者は、映画の仕事をして生活が派手で、いつも自宅で騒がしいパーティを開いているバジル・ブレイク、コンウェイの事故死した息子フランクの嫁アデレード・ジェファソン、同じ事故で死んだコンウェイの娘の婿でギャンブル好きで破産寸前のマーク・ギャスケル、ホテル・ダンサー兼テニスのコーチのハンサム男レイモンド・スター、マジェスティックホテルの客でルビーが行方不明になる直前に一緒にダンスを踊っていたジョージ・バートレット...(容疑者の人数に事欠かないね)。 









ークは状況を探るために、友人のいとこブリジェット・コンウェイが、村に住む週刊紙の経営者ホイットフィールド卿の秘書をしているのを頼りに、民族学者を装って村に調査に赴く。ピンカートン婦人の話にあった死んだ3人とは、飲んだくれの居酒屋亭主ハリー・カーター 、だらしないお手伝いエイミー・ギブズ、嫌われ者のいたずら小僧トミー・ピアスで、ハリーはある晩に橋で足を滑らせて川に落ち、エイミーは染料の壜と薬の壜を間違えて染料を飲んで死に、トミーは博物館の窓を拭いているときに墜死、これにピンカートン婦人の自動車事故死とハンブルビー医師の敗血症による死が加わる。ルークが調べていくと村のもう一人の開業医ジョフリー・トーマス、事務弁護士のアボット、退役軍人のホートン少佐、骨董屋の主人エルズワージーらが容疑者として浮かび、聡明なブリジェットと共に調査を続けるうちに、更に思いもかけない容疑者が―。
主人公は探偵役のルークですが、ブリジェットの方が聡明という印象もあり、ポアロやミス・マープルのような"スーパー探偵"でないことは確か。最後は"キレ"と言うより"閃き"で事件を解決したようでもあり、一方で、すでにホイットフィールド卿の婚約者となっているブリジェットへの恋の鞘当もあって、この2人のロマンスの行方がどうなるかという部分で読者を楽しませてくれるものとなっています。





村の牧師の息子ボビイ・ジョーンズは、トーマス医師と海沿いでゴルフのプレイ中に地面の割れ目に男が倒れているのを発見、トーマスが応援を求める間、男は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と言い遺して死ね。ボビイは男のポケットからハンカチを取り出し顔にかけてやるが、その際に美しい女性が写った写真が出てきて、すぐにその写真を元に戻す。牧師館に戻らねばならなかったボビイだが、そこにロジャー・パッシントン-フレンチと名乗る男が通りかり、事情を聞くとボビイの代わりに付き添うことを申し出てくれる。
フランキーはロジャーの住むパッシントン-フレンチの屋敷の傍で故意に自動車事故を起こし、怪我をして屋敷に担ぎ込まれることでパッシントン-フレンチ家の客となって事件を探るうちに、屋敷の当主ヘンリイがモルヒネ中毒であること、写真の女性が屋敷の近くで麻薬中毒患者の療養所を営んでいるニコルソン博士の妻のモイラであること、死んだ男はアレックス・プリチャードなどではなく探検家のアラン・カーステアズであったことなどが判ってきた。![Why Didn't They Ask Evans? [1980] [VHS].jpg](http://hurec.bz/book-movie/Why%20Didn%27t%20They%20Ask%20Evans%EF%BC%9F%20%5B1980%5D%20%5BVHS%5D.jpg)
犯人は誰か(フーダニット)ということと、犯行の動機は何か(ホワイダニット)ということの両方のバランスがとれていますが、よく読むと犯人が複数であることは早い段階で明かされており、また、犯行の目的もやっぱり遺産目当てかということで、むしろこの作品での白眉は、ハウダニット(どうやって犯行を成し遂げたか)にあるかもしれません。










小さな田舎村セント・メアリ・ミードにある牧師館の書斎で治安判事のプロズロー大佐が銃殺されているのが発見された。牧師館の住人であるレオナルドド・クレメント牧師とその妻グリゼルダが共に外出している時を狙って行われた犯行らしく、現場には被害者が6時20分に書いたと思われる手紙と、6時22分で止まった時計があった。しかしその時計は牧師が常日頃から15分進めていたもので、警察は犯行時間の特定に苦慮する。そうした中、プロズロー大佐の妻と恋仲に押し入っていた画家のローレンス・レディングが自首してくるが、らにその直後、今度は大佐の妻が自首してきた―。(First Edition Cover (1930)/Fontana (1961・1963))
1930年に刊行されたアガサ・クリスティ(1890‐1976)の作品で(原題:The Murder at the Vicarage)、ミス・マープルの長編初登場作品(短編では「火曜クラブ」(1928年)に先に登場。但し、『火曜クラブ』が短編集として刊行されたのは1932年)で本作の2年後)。








旅行会社の社員として南アフリカで旅行案内人を務めるアンソニー・ケイドは、再会した友人のジェイムズ・マグラスから「おいしい話」を持ちかけられる。ジェイムズは以前、町で見かけた喧嘩から老人を救い出したが、それが大変な富豪であったと判ったのだという。しかし、先ごろその老人
1925年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Secret of Chimneys)、クリスティの作品の中で『殺人は容易だ』(1939)、『ゼロ時間へ』(1944)など5作あるバトル警視ものの第1作であるとともに、おしどり探偵トミーとタペンスの『秘密機関』(1922)など8作ある冒険ミステリの内の1作。
主人公アンソニー・ケイドと共に事件に巻き込まれていくヴァージニア・レヴェルも、ヒロインとしての魅力を十分に備えているし、初登場のバトル警視のヤリ手ぶりもいいです。強いてこの作品の難点を挙げれば、アンソニー・ケイドの視点から物語が描かれているにも関わらず、彼自身が大きな秘密を有していることで、それが最後になって読者に明かされるという点では、善意に解釈すれば"叙述トリック"ですが、見方によっては"後出しジャンケン"の印象も受ける点です。
最初から"冒険ミステリ"と割り切って、あまり現代スミステリの基準でのリアリティを求めない方が、素直に作品を楽しめるかも。個人的にはクリスティ作品の中でも傑作だと思っています。






エリノアは幼馴染みの義理の従兄ロディーと婚約して幸せに浸っていたが、その二人の前にメアリイが現れ、彼女の出現でロディーが心変わりをし、婚約は解消され、激しい憎悪がエリノアの心に湧き上がる。そしてある日、彼女の作ったサンドイッチを食べたメアリイが死んだ。「犯人は私ではない!」と心の中で叫ぶエリノアの声が通じたかのように、名探偵ポワロが調査を開始する―。
殺害されたメアリイは、門番の娘でありながら、野性の薔薇のように美しい女性であり、性格も素直。しかし、こうなってみると、その美しさも素直さも結果的には罪つくりであったといえ、そうしたこともあってか、彼女の心理には敢えて必要以上には踏み込んでいないように思いました。










この小説の最初の事件トリックは、クリスティが隣家を使わせてもらって実地検証したそうで、作品全体を通しても、論理的に精緻な構成であり、江戸川乱歩もこの点を高く評価したのではないかと思います(作中で話題となるダシ―ル・ハメットの作品にも、類似したトリックがあるが)。



●2018年ドラマ化 【感想】 2019年テレビ朝日でドラマ化(3年目のアガサ・クリスティシリーズで第4弾)。監督は「
列車の乗客としてカメオ出演)。因みに、オリジナルは『パディントン発4時50分』『鏡は横にひび割れて」ともこの『予告殺人』と同様ミス・マープルものなので、沢村一樹がミス・マープルの役どころを演じるのはこれが2回目となる(『パディントン発4時50分』は天海祐希がミス・マープルに該当の役)。大地真央は「アガサ・クリ
スティ そして誰もいなくなった」にも容疑者の一人として出演していたが、その時の主役級は渡瀬恒彦で、今回は彼女が主役級。「大女優殺人事件~鏡は横にひび割れて~」の容疑者の主役級が黒木瞳だったので、天海祐希(探偵役)、黒木瞳(容疑者役)、大地真央(同)と宝塚出身者が続いたことになる。沢村一樹の相国寺竜也警部役のコミカルな演技は板についた印象で、恋愛を絡ませた"お遊び"的要素も。但し、「そして誰もいなくなった」の時と同じく、本筋のストーリーは比較的原作に忠実であったのが良かった。難点は、複雑な登場人物相関を分かりやすくする狙いで容疑者全員にカタカナのにニックネームを付けたのだろうが、レーリィとかローリィとか観ていいる側までも混乱してしまいそうになったことか。




ハ―パーコリンズ版
金持ちの老婦人の住む河口の避暑地ソルトクリークの別荘に夏休み滞在することになったのは、プロテニス選手の甥とその新妻及び前妻、更にその2人の女性にそれぞれ恋心を抱く2人の男たち―嫉妬や恨みが渦巻く一触即発の雰囲気の中で、老婦人が惨殺されるという事件が起きる―。
実際、この作品では殺人事件は物語の中盤過ぎに起こりますが(なかなか起きないので、最後に起きるかとも思ってしまった)、それまでに、主要登場人物の誰が犯人でああっても不思議ではないような状況が見事と言っていいまでに出来上がっていて、まず、かなり明白な状況証拠から、テニス選手の甥が第一容疑者として浮かび上がる―。
事件の捜査にあたったのは、ポアロもので脇役登場していたバトル警視で、彼はこの作品でしか本領を発揮していないようですが、ポアロがいてくれればとか言ってボヤきながらも頑張っています。但し、本当に事件解明に繋がる鋭い閃きを見せたのは、冒頭と最後の方にしか登場しない、たまたま当地に滞在していた自殺未遂の心の傷を克服しつつある男ではなかったのかなあと。
2007年にフランス映画としてパスカル・トマ監督により映画化されていますが(邦題「ゼロ時間の謎」)、舞台(ブルターニュ地方に改変)も登場人物も現代のフランスに置き換わっていて、90歳のダニエル・ダリューが老婦人役を、カトリーヌ・ドヌーヴとマルチェロ・マストロヤンニの娘キアラ・マストロヤンニが、テニス選手の前妻を演じています。







戦時中の飛行機事故で傷を負って傷痍軍人となったジェリー・バートは、療養のため妹ジョアナとともにリムストックの外れの村のリトル・ファーズ邸に住むことになり、弁護士のディック・シミントンの妻のモナ、医師オーエン・グリフィスの妹のエメ、カルスロップ牧師の妻のデインらと知り合うが、間もなく、悪意と中傷に満ちた匿名の手紙が住民に無差別に届けられるようになり、陰口、噂話、疑心暗鬼が村全体を覆うようになる。
そうした中、シミントン弁護士の妻のモナが、手紙が原因の服毒自殺と思われる死を遂げる。シミントン家にはモナと前夫との娘のミーガン・ハンター、現在の夫ディックとの間の2人の子とその家庭教師のエリシー・ホーランド、お手伝いのアグネスとコックのローズが住んでいたが、事件当日はモナ以外全員が外出し、モナ一人の時に匿名の手紙が配達されて来たらしい。自殺現場には「生きていけなくなりました」とのメモがあった。そして今度は、お手伝いのアグネスの行方がわからなくなった。アグネスは行方不明になる少し前に、前の奉公先であるリトル・ファーズ邸のお手伝いパトリッジに相談があると電話していたが、約束の時間に現れず、翌朝シミントン家の階段下物置で死体となって発見される。解決を見ない事件の成り行きに、ミス・マープルに声が掛かる―。 
1943年に刊行された(米版は1942年に刊行)アガサ・クリスティのミステリ長編で(原題:The Moving Finger)、ミス・マープルものですが、ミス・マープルが登場するのはかなり後の方になったから。それも、挨拶がてら登場したかと思いきや、次に登場するのはラストで、その時には事件は解決しているけれども、その謎を解いたのはミス・マープルだったというような、「事後的説明」的な作りになっています。

田舎町でブラック・メールの飛び交うという、暗っぽい話のようでありながらそうでもないのは、主人公のジェリーとジョアナ兄妹の気の置けない遣り取りによってその暗さが中和されていて、その上更にそれぞれの恋愛が絡んでいたりするからでもあり、読み終えてみれば、結構ハートウォーミングな話だとも思えたりしました(この作品は、作者自身のマイベスト10に入っている)。
この「動く指」は、ジョーン・ヒクソンがミス・マープルを演じた〈BBC〉のTVシリーズの1作として'85年にドラマ化されていますが、最近では、「シャーロック・ホームズの冒険」や「名探偵ポワロ」で定評のある英国〈グラナダTV〉が「新ミス・マープル」シリーズの1作として'06年ドラマ化しており(マープル役はジェラルンディン・マッキーワン)、更に'09年フランスで、「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「エンドハウスの怪事件」と併せた4作が〈France2〉でドラマ化され、このフランス版は日本でも〈AXNミステリー〉で「クリスティのフレンチ・ミステリー」として今年('10年)9月に放映されました。
最近のものになればなるほど原作からの改変が著しく、「クリスティのフレンチ・ミステリー」ではポワロやマープルは登場せず、彼らに代わって事件を解決していくのは、ラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)とランピオン刑事(マリ
ウス・ コルッチ)のコンビ、その中でも「動く指」は、アル中の医者に、色情狂のその妹、偽男色家の自称美術品収集家に...といった具合に、キャラクター改変が著しいばかりでなくやや暗い方向に向かっていて、一方で、随所にエスプリやユーモアが効いたりもし(この「暗さ」と「軽妙さ」の取り合わせがフランス風なのか)、また、結構エロチックな場面もあったりして(こういうのを暗示で済まさず、実際に映像化するのがフランス風なのか)、少なくとも一家団欒で鑑賞するような内容にはなっていません(この辺りが、NHKで放映されない理由なのか)。







ある日ポアロの元へABCと名乗る人物から殺人予告とも取れる一通の手紙が届き、そして予告通り、アンドーヴァの地で小売店のアッシャー夫人が撲殺され、更に2通目、3通目の予告状も届き、ベクスヒルで若い女性バーナードが、更にチャーストンでクラーク卿が殺される。この連続殺人には、殺人が行われた地名と被害者の頭文字がAとA、BとBのように一致していることと、死体のそばに必ず「ABC鉄道案内」が置かれているという2つの共通点があった―。 米国版(表紙イラスト Tom Adams)
1935年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題:The ABC Murders)、一見無関係な殺人事件が連続して起きる「ミッシング・リンク・テーマ」の決定版とされている作品であり、更には、サイコ・スリラーという点でも、80年代のトマス・ハリスや90年代のジェフリー・ディーバーの諸作品の先駆け的要素を持った作品であると言えます。
一方で、その「どんでん返し」を振り返って思うに、捜査を攪乱させるためとは言え、ここまでやるかなあ犯人は、という印象はあり、先に挙げたジェフリー・ディーバーの『








1926年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題" The Murder of Roger Ackroyd")、クリスティの6作目の長編で、エルキュール・ポアロ・シリーズでは3作目ですが、シリーズの中でも傑作とされており、個人的にもそう思います。
これ、映像化に際しては、原作がある種の叙述トリックであるため、工夫が必要にあります。デビッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」の第46話(第6シーズン第5話)で2000年にテレビドラマ化されており(製作は1999年。99分の長尺版)、その時もやはり少しアレンジされていました、ただし、トリックそのものは概ね生かされており、まずまずの出来ではなかったかと思います。
因みに、ドラマでは、ポワロが廃業後、隠居したキングス・アボットの村で野菜園作りなどしていた折に遭遇する事件という設定になっており(ただし、ロンドンのホワイトヘヴン・マンションはまだキープし続けて
いる)、本ドラマシリーズ中期の後半といったことでそうした設定になっているのでしょう(原作は、ポワロの長編としては『ゴルフ場殺人事件』の次に書かれた3作目に当たるのだが)。したがって、ジャップ警部が引退したポワロと偶然にも再会を果たし、快哉を叫ぶというシーンもあったりします(因みに、ジャップ警部の本ドラマシリーズ登場回数は、全70話中40回と、ヘイスティングスの43回と僅か3回しか差がない。最初はポワロのことを煙たがっていたジャップ警部だが、これだけポワロに事件を解決してもらえれば、確かに再会を喜び合う関係になってもおかしくない)。
「名探偵ポワロ(第46話)/アクロイド殺人事件」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:THE MURDER OF ROGER ACKROYD●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国放映:2000/01●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ主任警部)/オリヴァー・フォード・デヴィース(シェパード医師)/マルコム・テリス(ロジャー・アクロイド)/セリーナ・キャデル(キャロライン・シェパード)/デイジー・ボウモント(アーシュラ・ボーン)/フローラ・モントゴメリー(フローラ・アクロイド)/ナイジェル・クック(ジェフリー・レイモンド)/ ジェイミー・バンバー(ラルフ・ペイトン)/ロジャー・フロスト(パーカー)/ヴィヴィアン・ハイルブロン(ヴェラ・アクロイド)/グレガー・トラター(デイビス警部)●日本放映:2000/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)
【1955年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(松本恵子:訳『アクロイド殺し』)]/1957年文庫化[角川文庫(松本恵子:訳『アクロイド殺人事件』)/1958年再文庫化・1987年改版[新潮文庫(中村能三:訳『アクロイド殺人事件』)/1959年再文庫化・1975年・2004年改版[創元推理文庫(大久保康雄:訳『アクロイド殺害事件』)/1979年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『アクロイド殺し』)]/1998年再文庫化[偕成社文庫(茅野美ど里:訳『アクロイド殺人事件』)]/1998年再文庫化[集英社文庫(雨沢泰:訳『アクロイド殺人事件―乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(6)』)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(羽田詩津子:訳『アクロイド殺し』)]/2004年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎:訳『アクロイド殺害事件』)]/2005年再文庫化[講談社青い鳥文庫(花上かつみ:訳『アクロイド氏殺害事件』)]】




ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。
やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。
ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているという
感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『
・ハミルトン監督の次回作「
導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。
テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。
この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「


「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 







ハネムーンをエジプトに決めた大富豪の娘リンネットは、ナイル河で遊覧船の旅を楽しんでいたが、そこには夫のかつての婚約者ジャクリーンの不気味な影が...果たして、乗り合わせたポワロの目の前でリンネットは殺され、さらに続く殺人の連鎖反応が起きるが、ジャクリーンには文句無しのアリバイが―。
"Death on the Nile" ハ―パーコリンズ版
「
'78年の公開時に、今は無きマンモス映画館「日比谷映画劇場」で観て、90年代初めにビデオでも観ましたが、映画は、原作をやや端折ったような部分もあり、最後はちょっとドタバタのうちにポアロの謎解きが始まって、原作との間に多少距離を感じました。
また、この映画に関して言えば、本場エジプトでのオールロケで撮影されているため(同じナイル川でも原作の場所とはやや違っているようだが)、ある種"観光映画"(?)としても楽しめたというのがメリットでしょうか。行ってみたいね、ナイル川クルーズ。雪中で止まってしまった「オリエント急行」と違って、ナイルの川面を船が「動いている」という実感もあるし、途中で下船していろいろ観光もするし...。
ベティ・デイヴィスなんて往年の名女優も出ていたりして名優揃いの作品ですが、やはり何と言ってもオリジナルがいいんだろうなあ。この意外性のあるパターン、男女の関係なんて、傍目ではワカラナイ...。クリスティが最初の考案者かどうかは別として、この手の「人間関係トリック」は、その後も英国ミステリで何度か使われているみたいです。
「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作









ルグッド、ショーン・コネリー(かつらを外して出
る批評家の見解の要約は「映画史の古典となった1974年版に何一つ新しいものを付け足せていないとしても、スタイリッシュなセットとオールスターキャストのお陰で、『オリエント急行殺人事件』は脱線せずに済んでいる」となっている。個人的感想も概ね
そんな感じだが、セットは悪くないけれど、列車が雪中を行くシーンなどにCGを使った分、新作の方が軽い感じがした。旧作にも原作にもないポワロのアクションシーンなどもあったりしたが、最も異なるのは終盤であり、ポワロが事件にどう片を付けるか悩む部分が強調されていて、ラストの謎解きもダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模した構図の中でケネス・ブラナーの演劇的な芝居が続く重いものとなっている。旧作は、監督である
シドニー・ルメットが、「スフレのような陽気な映画」を目指したとのことで、ポワロの事件解決後、ラストにカーテンコールの意味合いで、乗客たちがワインで乾杯を行うシーンを入れたりしているので、今回のケネス・ブラナー版、その部分は敢えて反対方向を目指したのかもしれない。ただ、もやっとした終わり方でややケネス・ブラナー監督の意図がやや伝わりにくいものだった気もする。)
リー/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ウェンディ・ヒラー/ローレン・バコール/イングリッド・バーグマン/マイケル・ヨーク/ジャクリーン・ビセット/ジャン=ピエール・カッセル/レイチェル・ロバーツ/コリン・ブレイクリー/デニス・クイリー/ジョージ・クールリス/マーティン・バルサム●日本公開:1975/05●配給:パラマウント=CIC(評価:★★★☆)







Agatha Christie
金持ちの老婦人がある晩撲殺され、彼女と親しくし金銭的事務を任されていたことから嫌疑をかけられた青年レナードを腕利きの老弁護士ウィルフリッドロバーツ卿は弁護することになるが、金目当てだとすれば動機も充分な上に状況証拠は青年に不利なものばかり。しかも、彼を救えるはずの外国人妻ローマインが、あろうことか"検察側の証人"として出廷し、夫の犯行を裏付ける証言を―。
自分自身が接した順番は、映画→戯曲→短編という逆時系列であり、戯曲と短編ではトリックそのものは同じなのですが、戯曲の方が法廷劇としてのテンポの良さや愛憎劇としての深みに勝っていて面白く、何よりも短編の最後のドンデン返しに加えて、戯曲の方は更にもう1回どんでん返しがあります(短編を訳している茅野美ど里氏は、「クリスティ作品で原作以上に映画の方が面白いと思ったのはこれひとつ」と述べている)。
映画は戯曲にほぼ忠実に作られており、初めて観たときにはすっかりトリックに騙されましたが、短編→映画と進んだ人の中には、2回目のドンデン返しは、ストリーテラーであるビリー・ワイルダー監督の創意であると思った人もいたようです(実はクリスティ自身のアイデア)。
映画では、弁護士役の舞台出身俳優チャルールズ・ロートンの演技が高く評価されたようですが、外国人妻ローマイン役のマレーネ・デートリッヒも良かったと思います(演技もさることながら、当時56歳ですから、あの美貌と脚線美には脱帽)。
短編と戯曲と映画をそれぞれ比べると、短編では外国人妻はオーストリア人になっているのに、戯曲と映画ではドイツ人になっている(デートリッヒを想定した?)といった細かい違いもさることながら、戯曲では老弁護士はあまり事の急進展に疑問を感じておらず、裁判に勝つことしか眼中に無いのに対し、映画でのチャルールズ・ロートンは、「何だかおかしい」感を抱き続けているように見え、短編では具体的に、外国人妻の仕草の癖から老弁護士がある時出会った女性を想起するまでに至っています。
映画の圧巻の1つは、デートリッヒが老弁護士チャルールズ・ロートンに(かなり高飛車に)謎解きをする場面で、あの太っちょのチャルールズ・ロートンが冷や汗を流して縮み上がる―にも関わらず、第2のドンデン返しの後で、彼女のためにこの老弁護士はある決心をするのですが、この"決意表明"は短編にも戯曲にも無いため、ビリー・ワイルダーの創意なのではないかと思います。
マレーネ・ディートリッヒ(1901-1992)

「情婦」●原題:WITNESS FOR THE PROSECUTION●制作年:1957年●制
作国:アメリカ●監督:ビリー・ワイルダー●製作:アーサー・ホーンブロウ・ジュニア●脚本:ビリー・ワイルダー/ハリー・カーニッツ●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:マティ・マルネック/ラルフ・アーサー・ロバーツ●原作戯曲:アガサ・クリスティ●

